(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】前庭状態を治療するためのシステム、装置、および方法
(51)【国際特許分類】
A61F 11/00 20220101AFI20220720BHJP
【FI】
A61F11/00 350
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568136
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 US2020032693
(87)【国際公開番号】W WO2020232135
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519167988
【氏名又は名称】オトリス サウンド,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】エイカース,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】オーウェン,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ドピロー,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルー,ロバート
(57)【要約】
前庭系に関連するものなどの生理学的状態を治療するために振動信号をユーザーに加えることができる振動装置を提供する、装置および方法が、本明細書に記載される。振動信号は、治療効果をもたらすために、標的エリアに骨を介して伝導され得る。振動装置は、バイオメトリックセンサと共に使用することができ、当該バイオメトリックセンサは、生理学的状態に関連する症状の発症を予測するため、ならびに振動装置の動作を制御する(例えば、装置の力レベルまたは周波数を変化させ、装置をパワーオンおよびパワーオフするなど)ために使用することができる。
【選択図】
図4C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
振動信号を生成して、前記振動信号を、ユーザーの頭部の一部分に、前記振動信号が前記ユーザーの前庭系に骨を介して伝導され得るように、加えるように構成されている、振動装置と、
前記ユーザーの生物学的特徴であって、前記ユーザーの前記前庭系に関連する生理学的状態の発症を示す、生物学的特徴を測定するように構成された、バイオメトリックセンサと、
前記振動装置と、前記バイオメトリックセンサと、に動作可能に結合された制御ユニットであって、前記制御ユニットが、
前記バイオメトリックセンサから、前記生物学的特徴に関連するデータを受信することと、
前記振動信号が前記生理学的状態を治療するために前記頭部の前記一部分に加えられるように、前記生物学的特徴に関連する前記データに基づいて、前記振動装置を制御して前記振動信号を生成することと、を行うように構成されている、制御ユニットと、を備える、装置。
【請求項2】
前記振動装置が、前記振動信号を生成するために使用される電気信号を生成するように構成されている、信号発生装置および回路を含み、
前記制御ユニットが、前記生物学的特徴に関連する前記データに基づいて前記生理学的状態の前記発症を検出することに応答して前記電気信号を生成するように、前記信号発生装置をアクティブ化することによって、前記振動装置を制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記振動装置が、前記振動信号を生成するために使用される電気信号を生成するように構成されている、信号発生装置および回路を含み、前記電気信号が、振幅および周波数を有し、
前記制御ユニットが、前記電気信号の前記振幅または前記周波数を調整するように、前記信号発生装置または前記回路のうちの少なくとも1つを制御することによって、前記振動装置を制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記回路が、アンプまたは電位差計のうちの少なくとも1つを含む、請求項2または3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記生物学的特徴が、皮膚コンダクタンスであり、
前記制御ユニットが、前記データに応答して前記振動装置をアクティブ化することによって、前記振動装置を制御するように構成されており、前記データが、前記皮膚コンダクタンスが閾値を上回ることを示している、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記生物学的特徴が、皮膚コンダクタンスであり、
前記制御ユニットが、前記データに応答して前記振動装置をアクティブ化することによって、前記振動装置を制御するように構成されており、前記データが、所定の量またはパーセンテージよりも大きい、前記皮膚コンダクタンスの変化を示している、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記制御ユニットが、前記振動装置をアクティブ化して前記振動信号を生成することによって、または前記振動装置に供給される電力を増加させて前記振動信号の力レベルを増加させることによって、前記振動装置を制御するように構成されている、請求項5または6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記生物学的特徴が、脳波図(EEG)データによって測定される脳波活動であり、
前記制御ユニットが、前記生理学的状態の前記発症を示す脳波活動の変化に応答して前記振動装置をアクティブ化することによって、前記振動装置を制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
脳波活動の前記変化が、前記ユーザーの前記EEGデータの多変量正規確率密度関数(MVNPDF)の出力によって表され、
前記制御ユニットが、前記生理学的状態に関連する前記MVNPDFの前記出力に応答して前記振動装置をアクティブ化するように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
脳波活動の前記変化が、前記ユーザーの前記EEGデータのMVNPDFの出力によって表され、
前記制御ユニットが、前記MVNPDFの前記出力かまたは前記MVNPDFの前記出力の時間平均かのうちの少なくとも1つに基づいて、前記振動信号の力レベルを増加させるように前記振動装置に供給される電力を調整するように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記生物学的特徴が、体温であり、
前記制御ユニットが、前記データに応答して前記振動装置をアクティブ化することによって、前記振動装置を制御するように構成されており、前記データが、前記体温が閾値を上回ることを示している、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記生物学的特徴が、前記ユーザーの眼に関連し、
前記制御ユニットが、前記生理学的状態の前記発症を示す、前記眼の瞳孔の変化、前記眼の動き、またはまぶたの運動のうちの、少なくとも1つを検出することに応答して前記振動装置をアクティブ化するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記生物学的特徴が、前記ユーザーの心拍数、または前記ユーザーの心臓波形のうちの少なくとも1つであり、
前記制御ユニットが、前記生理学的状態の前記発症を示す、前記心拍数または前記心臓波形のうちの前記少なくとも1つの変化を検出することに応答して前記振動装置をアクティブ化するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
周囲温度、前記ユーザーの運動、または前記ユーザーの動的加速度の静電気のうちの、少なくとも1つを測定するように構成された、1つ以上のセンサをさらに備え、
前記制御ユニットが、前記周囲温度、前記ユーザーの前記運動に基づいて決定される前記ユーザーの活動レベル、または前記ユーザーの前記運動に基づく前記ユーザーの活動状態のうちの、少なくとも1つに基づいて前記閾値を調整するようにさらに構成されている、請求項5または11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも1つの追加的なバイオメトリックセンサをさらに備え、前記バイオメトリックセンサおよび前記少なくとも1つの追加的なバイオメトリックセンサが、皮膚コンダクタンス、体温、周囲温度、前記ユーザーの運動、脳波活動、心臓活動、眼の特徴、血圧、酸素飽和度、神経誘発電位、汗毒性学、またはストレスホルモン産生のうちの、少なくとも1つを含む生物学的特徴の組み合わせを測定するように構成されており、
前記制御ユニットが、生物学的特徴の前記組み合わせに基づいて、前記振動装置をアクティブ化することまたは前記振動装置に供給される電力を調整することのうちの、少なくとも1つによって前記振動装置を制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記生理学的状態が、回転性めまい、浮動性めまい、動揺病、仮想現実酔い、空間的不一致、ソパイト症候群、悪心、頭痛、片頭痛、耳鳴り、前庭機能低下、または全体的な均衡異常のうちの、少なくとも1つを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
装置であって、
振動信号を生成して、前記振動信号を、ユーザーの頭部の一部分に、前記振動信号が前記ユーザーの前庭系に骨を介して伝導され得るように、加えるように構成されている、振動装置を備え、前記振動装置が、
チャンバーを画定するハウジングと、
前記チャンバー内に配置されており、かつ平衡位置の周りで前後振動して前記振動信号を生成するように構成されている、磁石と、
前記磁石を前後振動させ得る磁界を生成するように構成されている、コイルと、
前記磁石の端部に結合されており、かつ、漂遊磁束を減少させるようにかつ前記磁石の磁界を前記磁石の前後振動を可能にするための方向に向けるように構成されている、金属構成要素のセットと、
前記チャンバー内で前記磁石を、前記磁石が前記平衡位置の周りで前後振動し得るように、サスペンドするように構成されている、少なくとも1つのサスペンション構成要素と、を含む、装置。
【請求項18】
前記磁石が、前記磁石に空気を通過させて前記チャンバー内で前記磁石の側面間の圧力を等しくするように構成されている、少なくとも1つの開口部を含む、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記少なくとも1つのサスペンション構成要素が、2つのばねを含み、各ばねが、開口部を画定し、前記磁石が、前記磁石が前記平衡位置の周りで前後振動するとき、前記開口部を通して動く、請求項17または18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記磁石が、前記平衡位置の周りで主軸に沿って前後振動するように構成されており、
前記2つのばねが、前記磁石の周りでそれぞれ異なる方向にコイル状にされて前記磁石の前記主軸とは異なる方向の動きを減少させるように構成されている、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
金属構成要素の前記セットが、2つのエンドプレートを含み、前記2つのエンドプレートが、前記磁石の外径と実質的に等しい外径を有する少なくとも1つのエンドプレートを含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
金属構成要素の前記セットが、2つのエンドプレートを含み、前記2つのエンドプレートが、部分であって、前記磁石を囲み、かつ他の前記エンドプレートに向かって延在する、部分を有するエンドプレートを含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
少なくとも1つのサスペンション要素が、前記2つのエンドプレートのうちの少なくとも1つに直接結合される、請求項21または22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
少なくとも1つのサスペンション要素が、前記磁石に直接結合される、請求項17から22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
前記コイルが、前記2つのエンドプレートの間の空間を通って延在する、請求項21または22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記コイルが、前記磁石および前記2つのエンドプレートの、少なくとも一部分の周りに配置されている、請求項21または22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
前記ハウジングが、ポートであって、空気が前記チャンバー内外へ流れることを可能にするように構成されている、ポートを画定する、請求項17から26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項28】
前記ハウジングが、前記チャンバーを外部環境から流体的に密封する、請求項17から26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記ハウジングが、前記ユーザーの前記頭部の表面に当たって前記振動装置を維持するための、支持要素を受けるように構成されている、少なくとも1つの取り付け機構を含む、請求項17から28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
金属構成要素の前記セットが、前記磁石の前記磁界の磁力線を前記コイルに垂直な方向に向けることによって、前記磁石の前記磁界を方向付けるように構成されている、請求項17から29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
ユーザーの頭部の一部分上に位置付けられた振動装置に動作可能に結合された、バイオメトリックセンサから、前記ユーザーの生物学的特徴に関連するデータを受信することと、
前記データに基づいて、前記ユーザーの前庭系に関連する生理学的状態の発症を検出することと、
前記生理学的状態の前記発症を検出することに応答して、前記振動装置をアクティブ化して、前記ユーザーの前記頭部に加えられる振動信号を、前記振動信号が前記前庭系に骨を介して伝導されて前記生理学的状態に関連する症状を減少させ得るように、生成することと、を含む、方法。
【請求項32】
前記生理学的状態の前記発症を検出することが、前記生物学的特徴のレベルが所定の閾値よりも大きいことまたは前記生物学的特徴の変化が所定の量もしくは所定のパーセンテージよりも大きいことを、前記データに基づいて検出することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記振動装置をアクティブ化することが、信号発生装置をアクティブ化して、前記振動信号を生成するために使用される電気信号を生成すること、または前記信号発生装置に供給される電力を増加させて、前記振動信号を生成するために使用される前記電気信号の振幅を増加させることを含む、請求項31または32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ユーザーの頭部の一部分上に位置付けられた振動装置に動作可能に結合された、バイオメトリックセンサから、前記ユーザーの生物学的特徴に関連するデータを受信することと、
前記データに基づいて、前記ユーザーの前庭系に関連する生理学的状態の重症度の変化を検出することと、
前記生理学的状態の前記重症度の増加を検出することに応答して、振動信号であって、前記振動装置によって生成され、かつ前記ユーザーの前記頭部に加えられて、前記前庭系に骨を介して伝導される、振動信号の力レベルを増加させて、前記生理学的状態に関連する症状を減少させることと、
前記生理学的状態の前記重症度の減少を検出することに応答して、前記振動信号の前記力レベルを減少させることと、を含む、方法。
【請求項35】
前記生理学的状態の前記重症度の前記変化を検出することが、前記生物学的特徴のレベルが所定の閾値よりも大きいかもしくは小さいことまたは前記生物学的特徴の変化が所定の量もしくは所定のパーセンテージよりも大きいかもしくは小さいことを、前記データに基づいて検出することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記生物学的特徴が、皮膚コンダクタンス、体温、周囲温度、前記ユーザーの運動、脳波活動、心臓活動、眼の特徴、血圧、酸素飽和度、神経誘発電位、汗毒性学、またはストレスホルモン産生のうちの、少なくとも1つを含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記生理学的状態が、回転性めまい、浮動性めまい、動揺病、仮想現実酔い、空間的不一致、ソパイト症候群、悪心、頭痛、片頭痛、耳鳴り、前庭機能低下、または全体的な均衡異常のうちの、少なくとも1つを含む、請求項31から36のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年5月14日に出願された「SYSTEMS, DEVICES, AND METHODS FOR TREATING VESTIBULAR CONDITES」と題する米国仮特許出願第62/847,757号の優先権および利益を主張し、その開示全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
開示された実施形態は、対象者の前庭系に関連する、例えば、動揺病、回転性めまい、浮動性めまい、偏頭痛、耳鳴、および意識喪失などの状態を治療するためのシステム、装置、および方法に関する。より具体的には、本開示は、対象者の前庭系に影響を与えることができる振動信号を生成できる装置に関する。
【背景技術】
【0003】
身体の配向、平衡、位置、および動きは、目、耳、および筋肉を含めた解剖学的構造の様々な部分から受信される信号の組み合わせを介して、脳によって決定されうる。例えば、前庭系は、大部分の哺乳動物では、平衡および空間配向に関連する感覚情報を主に提供する感覚系である。対象者の前庭系は、対象者の内耳内(
図1Aに示すとおり)の、前庭迷路を形成する相互接続された区画の系内にある。
【0004】
個体の内耳は、3つの半規管に関連する三つの受容体と、前庭内の2つの斑(すなわち、卵形嚢および球形嚢)という、平衡に関連する5つの受容器を有する。卵形嚢および球形嚢は、例えば、自己運動や、一定の重力加速度による、頭部の直線加速度の測定に関与する。それぞれは、耳石膜によって覆われており、下記に
図2Aおよび2Bを参照しながら説明するとおりである。おおまかには、卵形嚢は水平面での加速度を測定し、球形嚢は垂直面での加速度を測定する。
図1Aは、対象者100の解剖学的構造の一部分を示すもので、外耳110に関連する前庭系と、頭蓋骨114の各部分と、耳116の骨状部分、外耳道111、鼓膜112、および中耳113の骨とを示す。前庭系は、内耳の骨迷路の前庭121内に収容される半規管122、124、126、および耳石器128、130を含み、また、蝸牛120と連続している。
図1Bは、
図1Aに示す前庭系をより詳細に図示したもので、前庭部121が卵形嚢128および球形嚢130を含めて描写されている。
【0005】
3つの半規管122、124、126はそれぞれ、頭部が回転または移動して、その方向の動きを検出できる3つの方向のうち一つに沿った平面に配向され、各方向とは、上下にうなずく方向、左右に首を振る方向、左右に首を傾げる方向である。内耳121の前庭内の耳石器は、前方方向および後方方向の重力および加速度を検出する。耳石器は、水平面の動きを検出する卵形嚢128と、垂直面の動きを検出する球形嚢130とを含む。半規管122、124、126、および耳石器128、130は、頭部または身体の動きに伴い移動する流体、内リンパで満たされている。
【0006】
内耳の前庭系内での内リンパの動きは、毛束を有する神経細胞によって感知されて、頭部の動きおよび配向を決定することができる。耳石器の半規管および斑の中の膨大部と呼ばれる部分は、毛細胞を含み、これが前庭系の感覚受容器として機能し、またこれは、内リンパの動きを検出して、身体の動きの信号に伝達し、その信号を脳に報告する、毛束または不動毛を含む。耳石器はまた、平衡砂の下の層の動きおよび毛束の動きにつながる加速度の変化(例えば、重力に対する動作または配向の変化)に応答してシフトする平衡砂または耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶の層を含んでいる。さらに、耳石は重力の方向に沈み込み、毛細胞の束を引っ張り(例えば、下向きから上向きなど)、方向の識別を助ける。
【0007】
図2Aおよび2Bは、耳石器(例えば、
図1Bに示す卵形嚢128および球形嚢130)および感覚受容器内の解剖学的構造の詳細図を示し、それぞれ直立状態かつ動作状態にある。
図2Aは、耳石膜132、および毛細胞134および支持細胞136を含む細胞層を含む斑示す。毛細胞134は、一つ以上のゼラチン層に延在する、突起または不動毛132のような毛髪を含む。斑の組織はまた、内リンパの動きおよび/または身体の加速に応答して移動する平衡砂または耳石138の層を含む。
図2Aは、直立構成の毛細胞134および耳石138を示し、
図2Bは、方向性の力140(例えば、重力)が耳石138に作用するとき、変位または傾斜する構成の毛細胞134および耳石138を示す。同様に、半規管122、124、126内の内リンパの動きは、身体および/または頭部の相対的動き(例えば、頭部の角加速度)を知覚し、シグナル伝達する半規管(図示せず)の膨大部内の毛細胞の移動をもたらしうる。
【0008】
前庭系からの信号に加えて、眼によって受信される水平および垂直の視覚的パターンは、配向、平衡、および位置の知覚に影響を与えうる。また、対向する首筋の差歪みは、頭部の位置および配向の知覚に影響を与えうる。これらの源からの信号が一致しない場合、個人は、動揺病を発症したり、回転性めまい、浮動性めまい、前庭性偏頭痛、意識喪失、またはその他の状態を経験したりする場合がある。不揃いな配向、平衡、位置および動きの信号は、例えば、自動車、電車、航空機、および他の輸送方式での移動中の極度または不慣れな動きの結果でありうる。不揃いの信号はまた、例えば、3次元(3D)ムービー、3Dビデオゲーム、および仮想現実デバイスの間の、知覚された動作のシミュレーションからも生じうる。したがって、対象者の前庭系、目、または他の解剖学的構造から受信される不一致のシグナルから生じる場合がある、様々な前庭状態を治療するための装置を有することが望ましいことがある。
【発明の概要】
【0009】
本明細書に記述されている器具および方法は、振動信号が、ユーザーの前庭系に骨を介して伝達され、ユーザーの乳突骨を覆う領域に適用される治療上有効な振動信号と同等の様式で前庭系の一部を移動させることができるように、振動信号をユーザーの頭部の一部に適用するように構成された振動装置を含むことができる。治療的に有効な振動信号は、(1)200Hz未満の周波数と、87~101dB re 1 dyneの力レベルを有しうる、また(2)前庭系に関連する生理的状態を治療するために治療的に有効でありうる。
【0010】
器具および方法は、本明細書に記述され、一部の実施形態において、振動信号のセットが、前庭系に関連する生理的状態を治療するために、ユーザーの前庭系に骨を介して一連の振動信号を伝導できるように、ユーザーの頭部の一部分に一連の振動信号を適用するように構成された振動装置を含むことができる。振動装置は、200Hz未満である最低の共振周波数を含む、一連の共振周波数と関連付けられうる。一連の振動信号は、一連の共振周波数からの残りの共振周波数での電力の量よりも大きい、最低の共振周波数での電力の量を集合的に有しうる。
【0011】
一部の実施形態では、本明細書に記載の器具は、振動信号を、ユーザーの前庭系に対して、骨を介して前庭系に伝達して、前庭系に関連する生理的状態を治療することができるように、振動信号を、ユーザーの頭部の一部に印加するように構成される振動要素を含むことができる。振動要素は、チャンバーを画定するハウジング、振動信号を生成するためにチャンバー内を移動可能な磁石、チャンバー内の位置に磁石を懸架するように構成されたサスペンション要素、および磁石をその位置の周りに移動するように磁場を生成するように構成されたコイルを含むように構成されうる。
【0012】
本明細書に開示される方法は、ユーザーの頭部の領域上に振動装置を位置付けることと、位置付けた後に、振動装置に通電して、振動信号がユーザーの前庭系に骨を介して伝達できるように、その領域に振動信号を適用することと、を含む。振動信号は、(1)ユーザーの乳突骨を覆う領域に適用され、(2)200Hz未満の周波数および87~101dB re 1 dyneの力レベルを有する、振動信号のそれと同等の様式で前庭系の一部分を移動させるように構成されうる。方法は、振動装置の通電に応答して、前庭系に関連する生理的状態を治療することをさらに含んでもよい。
【0013】
一部の実施形態では、器具は、振動信号を生成し、振動信号をユーザーの前庭系に骨を介して伝達できるように、振動信号をユーザーの頭部の一部に適用するように構成された振動装置と、ユーザーの前記前庭系に関連する生理的状態の発症を示す、ユーザーの生物学的特性を測定するように構成された生体認証センサと、振動装置および生体認証センサに動作可能に結合された制御ユニットと、を含み、制御ユニットは、生物学的特性に関連付けられたデータを生体認証センサから受信し、振動装置を制御して、振動信号が生理的状態を治療する頭部の部分に適用されるように、生物学的特性に関連するデータに基づいて振動信号を生成するよう制御する。
【0014】
一部の実施形態では、器具は、振動信号を生成し、振動信号をユーザーの前庭系に骨を介して伝達できるように、振動信号をユーザーの頭部の一部に適用するように構成された振動装置を含み、振動装置は、チャンバーを画定するハウジングと、チャンバー内に配置され、平衡位置の周りを発振して振動信号を生成するように構成された磁石と、磁石を発振させうる磁場を発生するように構成されたコイルと、磁石の端部に結合され、漂遊磁束を減少させ、磁石の磁場を磁石の発振を可能にする方向に配向するように構成された一連の金属構成要素と、磁石が平衡位置の周りで発振できるように、チャンバー内に磁石を懸架するように構成された少なくとも一つのサスペンション構成要素と、を含む。
【0015】
一部の実施形態では、方法は、ユーザーの頭部の一部分上に位置付けられた振動装置に動作可能に結合された生体認証センサから、ユーザーの生物学的特性に関連するデータを受信することと、データに基づき、ユーザーの前庭系に関連する生理的状態の発症を検出することと、生理的状態の発症を検出することに応答して、振動信号を前庭系に骨を介して伝達して、生理的状態に関連する症状を減少させうるように、振動装置を活性化して、ユーザーの頭部に適用される振動信号を生成することと、を含む。
【0016】
一部の実施形態では、方法は、ユーザーの頭部の一部分上に位置付けられた振動装置に動作可能に結合された生体認証センサから、ユーザーの生物学的特性に関連するデータを受信することと、データに基づき、ユーザーの前庭系に関連する生理的状態の重症度の変化を検出することと、生理的状態の重症度の増大を検出することに応答して、振動装置によって生成され、ユーザーの頭に適用され、前庭系に骨を介して前庭系に伝達される振動信号の力レベルを増大させて、生理的状態に関連する症状を減少させることと、生理的状態の重症度の減少を検出することに応答して、振動信号の前記力レベルを減少させることと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、前庭系を収容する内耳の骨迷路を含めた、対象者の解剖学的構造を示す。
【
図2A】
図2A、直立状態であり、かつ それぞれ方向性の力を受ける状態にある、
図1Bに示す耳石器の斑部分の図である。
【
図2B】
図2Bは、直立状態であり、かつ それぞれ方向性の力を受ける状態にある、
図1Bに示す耳石器の斑部分の図である。
【
図3】
図3は、一実施形態による、振動信号を前庭系に印加するための振動装置の配置の概略図である。
【
図4A】
図4Aは、一実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するための例示的なシステムの概略図である。
【
図4B】
図4Bは、別の実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するための例示的なシステムの概略図である。
【
図4C】
図4Cは、別の実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するための例示的なシステムの概略図である。
【
図5】
図5は、実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステムの例示的な振動装置の概略図である。
【
図6】
図6は、別の実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステムの例示的な振動装置の破断概略図である。
【
図7A】
図7Aは、実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置の断面概略図である。
【
図7B】
図7Bは、一実施形態による、対象者に配置するための物理的プラットフォームに組み込まれる
図7Aの振動装置の断面概略図である。
【
図8】
図8は、別の実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置の断面概略図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置のサスペンション要素としてのばねの斜視図である。
【
図10】
図10は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図11】
図11は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図12】
図12は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図13】
図13は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図14】
図14は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図15】
図15は、様々な実施形態による、異なる支持要素を含む、および/または異なる支持要素に組み込まれる、例示的な振動装置の概略図である。
【
図16】
図16は、様々な実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステムに振動装置を配置するための例示的な位置を示す、ヒト頭蓋骨の概略図である。
【
図17A】
図17Aは、様々な実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置に通電するために使用されうる二つの波形の例を示す。
【
図17B】
図17Bは、様々な実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置に通電するために使用されうる二つの波形の例を示す。
【
図18】
図18は、実施形態による、前庭状態に関連する症状を治療するためのシステム内の振動装置を通電するために使用できる、通電プロファイルの例を示す。
【
図19】
図19は、前庭状態に関連する症状を治療するために振動装置を使用するための例示的な方法のフローチャートである。
【
図20A】
図20Aは、前庭状態に関連する症状を治療するための振動装置を試験するために実施された研究の手順のフローチャートである。
【
図20B】
図20Bは、振動装置を試験するために、
図20Aで描写した手順で使用される例示的な視覚刺激の静的概略図である。
【
図21A】
図21Aは、異なる力レベルで振動装置を試験するために、
図20Aで描写した研究手順の結果を描写したものである。
【
図21B】
図21Bは、異なる力レベルで振動装置を試験するために、
図20Aで描写した研究手順の結果を描写したものである。
【
図23A】
図23Aは、さらに別の例で、試験手順を使用して、前庭状態に関連する症状を治療するための振動装置を試験するために実施された研究の対象者によって記入された質問票に関連付けられたデータを描写する。
【
図23B】
図23Bは、さらに別の例で、試験手順を使用して、前庭状態に関連する症状を治療するための振動装置を試験するために実施された研究の対象者によって記入された質問票に関連付けられたデータを描写する。
【
図24】
図24は、さらに別の例で、試験手順を使用して、前庭状態に関連する症状を治療するための振動装置を試験するために実施された研究の結果を示す。
【
図25A】
図25Aは、一実施形態による、本明細書に記述されるように、それぞれ、振動装置の斜視図の概略図である。
【
図25B】
図25Bは、一実施形態による、本明細書に記述されるように、それぞれ、振動装置の側面図の概略図である。
【
図25C】
図25Cは、一実施形態による、本明細書に記述されるように、それぞれ、振動装置の分解図の概略図である。
【
図27A】
図27Aは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の斜視図の概略図である。
【
図27B】
図27Bは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の側面図の概略図である。
【
図27C】
図27Cは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の分解図の概略図である。
【
図30】
図30は、いくつかの実施形態による、振動装置の磁石に関連付けられた正規化された磁束密度のプロットである。
【
図31A】
図31Aは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の斜視図の概略図である。
【
図31B】
図31Bは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の側面図の概略図である。
【
図31C】
図31Cは、一実施形態による、それぞれ、振動装置の分解図の概略図である。
【
図35】
図35は、いくつかの実施形態による、振動装置の磁石に関連付けられた正規化された磁束密度のプロットである。
【
図36A】
図36Aは、3つの異なる実施形態による、振動装置の断面図の概略図である。
【
図36B】
図36Bは、3つの異なる実施形態による、振動装置の断面図の概略図である。
【
図36C】
図36Cは、3つの異なる実施形態による、振動装置の断面図の概略図である。
【
図37】
図37は、一実施形態による、振動装置の断面概略図である。
【
図38】
図38は、一実施形態による、振動装置の斜視概略図である。
【
図39】
図39は、対象者の悪心レベルに対する皮膚コンダクタンスのグラフである。
【
図40】
図40は、経時的な対象者の脳波(EEG)データの多変量正規確率密度関数(MVNPDF)のグラフであり、振動装置をオフにしたもの(青色で表示)、および振動装置をオンにしたもの(オレンジ色で表示)である。
【
図42】
図42は、様々な実施形態による、対象者の耳、外耳道、および/または額の近くに配置された統合センサを含む振動装置の例である。
【
図43】
図43は、様々な実施形態による、ヘッドバンドで実装され、統合センサを含む振動装置の例である。
【
図44】
図44は、様々な実施形態による、オーバーイヤーデバイスとして実装され、統合センサを含む振動装置の例である。
【
図45】
図45は、様々な実施形態による、センサを用いて振動装置を動作させるための例示的な方法のフローチャートである。
【
図46A】
図46Aは、様々な実施形態による、例示的な振動装置の異なる斜視図を示す。
【
図46B】
図46Bは、様々な実施形態による、例示的な振動装置の異なる斜視図を示す。
【
図49】
図49は、様々な実施形態による、例示的な振動装置の異なる斜視図を示す。
【
図53】
図53は、様々な実施形態による、補聴器および/または耳鳴りマスカーに取り付けられるかまたは組み込まれる、振動装置の例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書には、振動信号を対象者の前庭系の解剖学的構造を混乱できるように、振動信号を発生できる振動装置を使用して、振動信号を対象者の前庭系に骨伝導を介して適用することによって、前庭状態を治療するための器具および方法が記述されている。
【0019】
上述のように、対象者の前庭系からの感覚信号は、対象者の身体の配向、平衡、位置、および動きの知覚に役立つ。前庭系からの信号に加えて、眼からの視覚信号などの他の感覚様式は、配向、平衡、および位置の知覚に影響を与えうる。また、対向する首筋上の異なる緊張は、頭部位置および配向の知覚に影響を与えうる。前庭系、視覚系、および自己受容系など、これらの様々な感覚源からの信号が合致しないとき、個人は、動揺病、回転性めまい、浮動性めまい、前庭性偏頭痛、意識喪失、または他の状態などの状態を発生させることがある。例えば、不揃いな配向、平衡、位置、および動き信号は、極度または不慣れな動き(例えば、車両、電車、航空機、および他の輸送モードでの移動中)から生じるか、または仮想または拡張3D環境(3Dムービー、3Dビデオゲーム、仮想現実デバイスなど)を経験することから生じる場合がある。
【0020】
自然な適応反応では、脳は、無秩序、反復的、または新規ではない、または理解不可能な信号の知覚情報を無視することができる。例えば、音からの振動は、内耳の前庭器官に影響を与え、小脳の反応(例えば、電気信号の振幅)を減少させうることが示されている。H. Sohmer et al., “Effect of noise on the Vestibular imagulated potential studies in rats,” 2 Noise Health 41 (1999)を参照されたい。それにもかかわらず、音が前庭系に影響を及ぼすには非常に高い強度が必要とされることが同じ研究で示されている。したがって、空気中に振動信号を生成して音を生成するために使用される従来のヘッドフォン、イヤフォン、およびスピーカーが、動揺病反応、めまい、前庭性片頭痛、および他の生理学的反応などの症状を治療する能力には限界がある。これらの技術の多くは、高強度信号を伝達するようには設計されていない。さらに、こうした高強度信号は、ヒトの聴覚を傷つけたり妨害したりしうる。
【0021】
音を使用する代替として、機械的振動を使用して前庭系に影響を与えて、様々な状態を治療することができる。機械的振動を生成するために使用できる一つの技術は、表面伝導変換器または骨伝導変換器である。しかしながら、現在利用可能な骨伝導変換器は、前庭系の症状または状態の治療に関連した特定の欠点を有する。例えば、既存の装置には、多くの場合、相当量の熱および/または可聴雑音の生成などといった大きな限界があり、これは、ユーザーの皮膚と直接接触する、またはユーザーの耳に近接した使用を阻む可能性がある。また、既存の装置の多くは大きくかさばるため、例えば、旅行中、読書中、仮想現実装置の使用中など、治療効果が必要な状況下での使用にとって実用的ではない。
【0022】
表面伝導変換器または骨伝導変換器などの既存の装置は、低周波振動の生成において非効率的である。多くは高周波数で振動信号を生成するが、これは可聴であるため、気を散らせるものである。したがって、こうした装置がユーザーの耳の近くで使用される時、装置が生む雑音は破壊的かつ刺激が大きい可能性がある。多くの既存の装置は、こうした変換器によって生成される振動信号のより低い基本周波数の代わりに、より高い共振周波数に電力が向けられることを主な理由として、高周波振動を生成する。低周波振動を生成するように設計されている場合であっても、既存の骨伝導変換器は、より低い周波数が必要とされる時に広範囲の周波数スペクトル(例えば、多くの高調波での周波数)を生成するため、非効率でありうる。したがって、開示されたシステムおよび方法は、数ある特徴の中でも特に、高レベルの熱または可聴雑音を生成せず、より低い周波数の振動信号の伝達において高い効率を有する、前庭系の状態に関連する症状の治療を対象とする。
【0023】
I. 概要
図3は、対象者の外耳110の近くの振動装置200の配置を概略的に図示する。振動装置300は、対象者の前庭系に関連する一つ以上の症状または状態を治療するために骨を介して伝導される振動信号202を印加するように構成することができる。振動信号202の一部分204は、骨116を介して内耳の骨迷路および前庭系に伝導されうる。例えば、振動信号の一部分204は、骨を介して半規管122、124、126、および耳石器、卵形嚢および球形嚢を収容する前庭121に移動する。
【0024】
振動装置200は、振動信号を前庭121に印加して、前庭121内の耳石器および半規管122、124、126の有毛細胞を反復的、無秩序、または雑音の多い方法で移動させ、前庭状態に関連する症状を軽減、緩和、または治療するように位置付けられうる。一部の例の前庭の状態には、様々なタイプの動揺病(例えば、船酔い、飛行機酔い、動揺病や電車酔い、仮想現実またはシミュレーターへの曝露による酔い、ジェットコースターに乗るなどの経験による酔い、およびソパイト症候群の影響)、良性発作性頭位めまい症などのめまい、様々な原因による吐き気(例えば、熱量電気眼振計(ENG)/ビデオ眼振計(VNG)検査、ヘッドインパルス検査、頸部VEMPおよび眼VEMP検査などの前庭誘発筋電位検査(VEMP)、機能歩行評価を含む前庭系検査、または化学療法、頭蓋骨基部の放射線療法、妊娠に関連する吐き気、アルコールまたは毒物の摂取による吐き気などの状態から生じるもの)、感染、前庭神経炎、前庭神経鞘腫、メニエール病、耳鳴、偏頭痛、マル・デ・バークメント症候群、空間的不一致、ソパイト症候群、前庭機能低下、全体的な均衡異常などを含みうる。
【0025】
振動装置200はまた、本明細書に記載されるように、例えば、循環系障害(例えば、起立性低血圧(血圧低下)、心筋症による血液循環不良、心臓発作、不整脈、一過性虚血性発作)、神経学的状態(例えば、パーキンソン病、多発性硬化症)、薬剤(例えば、抗発作薬、抗うつ薬、鎮静剤、精神安定剤、降圧薬)、不安障害、鉄値低下による貧血、低血糖症(血糖低下)、過熱、脱水、外傷性脳損傷を原因とする、めまいや平衡感覚障害を含むその他の状態を治療するために、骨を介して伝導される振動信号を提供するように位置付けられうる。振動信号は、上述の状態を治療するために、治療的に有効な振動信号と同等の様式で、前庭系の一部分を移動させることができる。さらに、振動装置200は、例えば、特定の条件下で前庭系を無視または拒否するようにパイロットを訓練するべくパイロットを支援するために使用することができる。振動装置200はまた、脳卒中診断として使用することができる。
【0026】
図4Aは、前庭状態を治療するための例示的なシステム350を概略的に図示する。システム350は、振動装置300と、振動装置300の動作を起動および/または制御するための振動装置300に連結された制御ユニット360とを含む。振動装置300は、信号源からの適切な電気信号によって駆動および通電された時に振動信号を生成するように構成された電気機械式変換器であってもよい。制御ユニット360は、メモリ362、プロセッサ364、およびシステム350の他の構成要素との間で電気信号を送受信するための入力/出力(I/O)装置366を含んでもよい。振動装置300は、制御ユニット360に電気信号を送受信するように構成することができる。随意に、システム350は、電圧、電流、インピーダンス、移動、加速度、または振動装置300に関連付けられる他のデータを測定するための一つ以上のセンサ390を含みうる。別の方法としてまたは追加的に、センサ390は、対象者の前庭系VSおよび/または他の身体指標(例えば、体温、皮膚伝導率など)に関連する情報を測定するように構成することができる。センサ390は、制御ユニット360、振動装置300、および/または前庭系VSに信号を送受信することができる。例として、センサ390は、振動装置300が故障し、その結果として生成された振動により可聴音が生じたかどうかを検出するために使用できるマイクまたは他の音声センサを含むことができる。センサ390は、可聴音を検出し制御ユニット360に信号を送信するように構成されてもよく、これは、可聴音を低減するように、振動装置300、信号発生装置370、および/またはシステムの他の構成要素を停止させることができる。別の方法として、システム350は、例えば、可聴音の検出時に、振動装置300、信号発生装置370および/またはシステムの他の構成要素への電力を切断するなど、システムを自動的に停止する回路を含むことができる。停止されると、システム350は、システム350がメンテナンスおよび/または工場出荷時設定を受けるまで停止されたままとすることができる。一部の実施形態では、システム350は、
図11を参照して記載されるものなど、雑音除去機能のある構成要素を含むことができ、これはセンサ390によって検出された騒音に応答して起動することができる。
【0027】
システム350は、信号発生装置370および/またはアンプ380を含むことができる。信号発生装置370は、振動装置300を駆動して振動信号を生成するように振動する、一つ以上の信号を生成することができる。アンプ380は、信号発生装置370に動作可能に結合することができ、振動装置300を駆動するために信号が使用される前に、信号発生装置370からの信号を増幅することができる。制御ユニット360は、信号発生装置370および/またはアンプ380の動作を制御することができる。図示されていない電源は、制御ユニット360、信号発生装置370、アンプ380、センサ390、および/またはシステムのその他の構成要素のうちの一つ以上に電力を供給するように構成することができる。
【0028】
一部の実施形態では、信号発生装置370、アンプ380、および/またはセンサ390は、制御ユニット360と一体化され、および/または制御ユニット360の一部を形成することができる。別の方法として、他の実施形態では、信号発生装置370、アンプ380、および/またはセンサ390は、制御ユニット360から分離することができるが、制御ユニット360に動作可能に結合することはできる。一部の実施形態では、振動装置300は、制御ユニット360、信号発生装置370、アンプ380、またはセンサ390のうちの一つ以上を含むことができる。
【0029】
一部の実施形態では、制御ユニット360は、振動装置300を制御する特別な命令を格納するように動作可能である。こうした命令は、メモリ362内または別個のメモリ内に格納されてもよい。さらに、こうした命令は、本明細書に開示する前庭状態の治療に関連する特定の機能、方法およびプロセスを完了するために、特別な機能および特徴をコントローラに組み込むように設計することができる。一部の実施形態では、制御ユニット360は、ソフトウェア開発キットを使用した命令でプログラムされてもよい。
【0030】
振動装置300を制御する電気信号は、格納された命令に基づき制御ユニット360によって生成されてもよい。これらの電気信号は、有線または無線(例えば、Bluetooth)方法を介して、制御ユニット360と振動装置300との間で通信されてもよい。電気信号は、格納された動作パターンを含んでもよく、例えば、コントローラによってアクセスされる格納された命令は、ユーザーについて収集、蓄積および保存された使用データに基づき、その特定の対象者に有利なパターンで振動装置300の電源をオン/オフさせるように振動装置300に送信される一連の電気信号を生成するために、コントローラによって使用されてもよい。一つのパターンは、ある期間(例えば、毎分)にわたり生成され対象者に印加された振動信号の数が変化しうる一連の振動信号が関与してもよく、一方で、第二のパターンは、振動信号の数の力レベルが変化しうる一連の振動信号を含んでもよい。振動装置300によって生成される振動信号の力レベルおよび周波数を制御するために使用されうる他のタイプの制御信号は、センサ(例えば、センサ390または他のセンサ)から受信したデータに基づき、制御ユニット360から振動装置300に送信されてもよい。例えば、加速度センサは、ユーザーの物理的加速度の変化を感知するために、ポータブル電子機器(例えば、携帯電話)に含まれてもよい。実施形態では、制御ユニット360は、動揺病を招く加速のタイプを示す加速度センサからのデータを受信するように動作可能であってもよい。したがって、こうしたデータを受信した後、制御ユニット360は、関連する電気信号を生成し、こうした信号を振動装置300に送信するように動作可能であってもよい。振動装置300は、次に、このような電気信号を受信し、例えば、動揺病に先制的に対応するために、骨を介して伝導され前庭系に印加されうる振動信号を生成するように動作可能であってもよい。振動信号は、治療的に有効な振動信号と同等の様式で、前庭系の一部分を移動させることができる。例えば、振動信号は、前庭系の一部(例えば、半規管および/または耳石器の受容体を形成する毛束)を、雑音の多い前庭信号または雑音の多い前庭感覚をシミュレートしつつランダムな様式で移動させてもよく、または前庭系内に何らかの形態の確率共鳴を導入してもよい。一部の実例では、このような雑音の多い前庭感覚は、他の前庭信号によって引き起こされる効果の減少、または対象者によって知覚される信号の不一致を誘発しうる。あるいは、動揺病によってユーザーが以前に酔いを経験した経路または進路を表す保存されたロードマップは、制御ユニット360またはポータブル装置に、例えば、全地球測位システム(GPS)、ガリレオ、GLONASS、または北斗衛星導航系統などの適切な測位システムと併せて保存されてもよい。一部の実施形態では、測位システムが、ユーザーが経路または進路に沿って移動しており、動揺病を誘発しうる位置に到着することを示す中で、制御ユニット360は関連する電気信号を生成し、このような信号を振動装置300に送信するように動作可能であってもよい。振動装置300は、次に、このような電気信号を受信し、例えば、ユーザーがその位置に到着する前に動揺病に先制的に対応するために、骨を介して伝導され前庭系に印加されうる振動信号を生成するように、動作可能であってもよい。
【0031】
一部の実施形態では、振動装置または骨伝導装置と、例えば、リング、腕時計、パッチ、およびブレスレットを含む一つ以上のセンサ(例えば、ウェアラブルセンサ)との間の有線通信および/または無線通信であってもよい。一部の実施形態では、振動装置とその他の接続された装置、例えば、モバイル装置(例えば、携帯電話、タブレット)、コンピュータ、またはスマートホーム装置との間の有線通信または無線通信であってもよい。
【0032】
監視される生体認証データは、使用期間および使用頻度、好ましい電力設定などの他のデータとともに、装置または接続された装置のいずれかによって記録されてもよい。このデータの履歴記録は、将来の使用のために装置設定を変更するために使用されてもよい。治療に対して情報を提供するために、データを医療従事者と共有することもできる。また、個々の装置は、その他の装置から集合的に受信されたデータに基づき更新することができるが、これは、将来の使用のための最良の設定に対する洞察を提供しうる。
【0033】
図4Bは、実施形態に従った前庭状態を治療するための別の例示的なシステム350’を概略的に図示する。システム350’は、制御ユニット360と、制御ユニット360に結合され、制御ユニット360によって通電および/または制御される振動装置300を含むという点で、システム350と類似していてもよい。さらに、システム350’は、制御ユニット360に連結された第二の振動装置300’を有してもよく、その起動は制御ユニット360によって制御することができる。制御ユニット360は、振動装置300および300’によって生成される振動信号が同時に、交互におよび/または独立して伝達できるよう振動装置300および300’を制御するように構成することができる。
図4Bには図示していないが、
図4Aに図示したシステム300と同様に、システム350’は、制御ユニット360に結合された信号発生装置(例えば、信号発生装置370)、信号発生装置に結合されたアンプ(例えば、アンプ380)、および/またはセンサ(例えば、センサ390)を随意に含むことができる。一部の実施形態では、二つの振動装置300および300’は、信号発生装置によって生成された信号を分配し、振動装置300と300’との間のアンプによって随意に増幅されるように構成される、バランス382に結合することができる。一部の実施形態では、振動装置300および300’は、互いに結合され、互いに信号を送受信するように構成することができる。二つの振動装置300および300’が
図4Bに図示されているが、当業者であれば、任意の数の振動装置を使用できることを理解するであろう。
【0034】
図4Cは、実施形態に従った前庭状態を治療するための別の例示的なシステム350’’を概略的に図示する。システム350’’は、制御ユニット360および振動装置300(例えば、変換器)を含むという点で、システム350、350’に類似していてもよい。システム350’’はまた、信号発生装置370、電位差計372’、およびアンプ380を含む。システム350’は、随意に、例えば、特定の実施形態に関して以下でさらに説明するように、振動装置300に関連する信号、周囲環境に関連する情報、および/または振動装置のユーザーに関連する生理学的データを測定するための、一つ以上のセンサ390を含むことができる。電位差計372’’は、信号発生装置によって生成される信号に関連付けられた電位を測定するように構成することができる。電位差計372’’は、振動装置300に送信されている信号の振幅を制御するために使用することができる。適切な電位差計の例としては、回転電位差計、線形電位差計、加減抵抗器、デジタル電位差計、膜電位差計などが挙げられる。電位差計372’’は、振動装置300によって生成される任意の振動が所定の許容可能なレベルを超えないようにするために使用できる。電源(図示せず)を使用して、システム350’’の一つ以上の構成要素、例えば、信号発生装置370、電位差計372’、アンプ380、および/または制御ユニット360に給電することができる。
【0035】
システム350、350’、350’’は、振動装置に加えて構成要素を含むものとして描写されているが、こうした構成要素(例えば、アンプ、センサ、電位差計、信号発生装置、制御ユニット、バランスなど)は、振動装置に組み込まれうるか、または振動装置の一部を形成できることが理解されよう。例えば、プリント回路基板(例えば、振動装置700などの以下の実施形態に関してさらに詳述されるように)は、信号発生装置、アンプ、電位差計、バランスなどのうちの一つ以上を含んでもよく、振動装置に取り付けられ、かつ/または振動装置内に組み込まれてもよい。
【0036】
II. 振動装置
図5は、実施形態に従った例示的な振動装置400の略図である。振動装置400は、一つ以上のチャンバーを画定できる本体(またはハウジング)410を含む。本体410は、振動要素423、サスペンション要素420、駆動回路440、および伝達インターフェース430を収容する。振動要素423は、サスペンション要素420によって懸架され、駆動回路440によって駆動されて、移動(例えば、前後振動または振動)して振動信号を生成するように構成される。振動要素423は、振動要素423が均衡位置の周りで振動できるように、本体内に(例えば、チャンバー内に)懸架することができる。振動要素423の移動は、本明細書に開示されるように、一つ以上の前庭状態を治療するために伝達インターフェース430を介して方向付けることができる振動信号を生成するための、振動装置400のサスペンション要素420および/または本体410に対するものでありうる。振動装置400および/または振動装置400の本体410は、振動要素423の移動によって生成される振動信号を標的領域TAに印加できるように、伝達インターフェース430を対象者の頭部上の標的領域TAに置いて位置付けられてもよく、この振動信号はその後、骨構造BSを介して、対象者の前庭系VSに伝導することができる。
【0037】
随意に、一部の実施形態では、振動装置400は、振動装置400の構成要素に給電するためのオンボード電源414、および振動装置400の一部分、前庭系VS、または本体の別の部分(例えば、生成された振動信号が、例えば、標的領域TA、または標的領域TAに近接した皮膚、および/または関連付けられた標的領域TAなどに振動信号が印加される、本体の一部分)から一つ以上の信号を感知するためのセンサ416を含むことができる。一部の実施形態では、遠隔に位置する電源(例えば、制御ユニット360に含まれる電源)を使用して、振動装置400に給電することができる。一部の実施形態では、遠隔センサ(例えば、センサ390)を使用して、振動装置400の一部分、前庭系VS、または本体の別の部分(例えば、生成された振動信号が印加される本体の一部分)からの信号を検出することができる。
【0038】
センサ416は、振動装置400および/または対象者(例えば、前庭系VS、標的領域TAなど)に関連する情報を測定および/または記録するように構成することができる。例えば、センサ416は、電流、電圧(例えば、振動要素423にわたる電気信号に関連する電圧変化)、磁場(例えば、電気信号によって生成され、振動要素423の近くで印加される方向磁場)、または移動中の振動要素423の加速度を含む、振動装置400からの情報を測定および/または記録するための一つ以上の適切な変換器を含むことができる。
【0039】
一部の実施形態では、センサ416は、振動装置400の効率を高めるために使用することができる。例えば、センサ416は、振動要素423および/または振動装置400の別の部分から来る電気信号の電流を監視するための電流計を含むことができる。振動装置400に供給される電気信号の周波数は、低電流が電流計によって測定されるまで調整することができるが、その根拠は、振動装置の共振周波数では、振動装置400のインピーダンスが他の周波数よりも高く、したがって電流が他の周波数よりも低い(定電圧と仮定して)ためである。したがって、電流計は、振動装置400が効率的に動作するように、共振周波数に電気信号の周波数をチューニングする(例えば、調整する)ために使用することができる。すなわち、一部の実施形態では、振動装置400は、センサ416から情報(例えば、電流計からの情報)を受信し、情報に基づき電気信号の周波数を調整するように構成されたプロセッサを含むことができる。例えば、プロセッサは、振動装置が還元電流かつ最低の共振周波数で動作し続けるように、経時的に電気信号の周波数を調整するように構成することができる。
【0040】
別の例として、センサ416は、定電流アンプを有する電圧センサまたは電圧計を含んでもよい。振動要素423を含む振動装置400の一部に供給される電気信号の電圧変化は、電圧計を使用して測定することができる。(例えば、適切な信号源から)振動装置400に供給される電気信号の周波数は、高電圧が電圧計によって測定されるまで調整することができるが、その根拠は、振動装置の共振周波数では、振動装置400のインピーダンスが他の周波数よりも高く、したがって電圧が他の周波数よりも高いためである。したがって、監視された電圧は、高効率を達成するために高電圧が測定されるように、電気信号の周波数をチューニングする(例えば、調整する)ために使用されうる。
【0041】
別の例として、振動要素423が変調磁場によって駆動される場合、センサ416は、磁場変動を監視するホール効果センサを含むことができる。磁場を生成するために使用される電気信号の周波数は変化するものの、電気信号の周波数が振動装置400の共振周波数となるようチューニングするために磁場変動を測定することができる。別の例として、センサ416は、共振周波数が達成された時を決定するために、振動要素423の加速度および/または速度を測定することができる移動センサ(例えば、加速度計)を含むことができる。
【0042】
センサ416はまた、対象者の骨構造、対象者の温度、対象者の配向または身体位置などに伝達された振動信号に関連する移動など、対象者から情報を受信および/または測定するように装備することができる。
【0043】
振動装置400はまた、本明細書に開示されるように、振動信号を伝達するために、対象者の標的領域TA上に振動装置400を支持または位置付ける支持要素418を含むことができる。支持要素418は、対象者に対する振動装置400の接触および位置決めを維持できる装置または締め付け機構とすることができる。例えば、支持要素418は、ヘッドバンド、眼鏡、または枕など、以下でさらに詳細に開示されるようなものであってもよい。一部の実施形態では、支持要素418は、例えば、振動装置400との接触および位置決めを維持できる接着剤パッド、粘着性ポリマーなどの接着構成要素であってもよい。
【0044】
電源414、センサ416、および/または支持要素418は、装置400の本体410内に収容され、かつ/または取り付けられることができる。
【0045】
振動信号が印加される対象者の標的領域TAは、例えば、頭部の表面であってもよい。随意に、一部の実施形態では、振動装置423は、対象者の頭部に埋め込まれてもよく、標的領域TAは、骨構造BSに近接するおよび/または骨構造BSの一部である領域であってもよい。振動装置は、標的領域TAと係合可能に構成されて、治療用振動信号を効果的に伝達することができる。例示的な例では、標的領域TAは、対象者の頭蓋骨の乳様突起(または乳様突起骨または側頭骨の乳様突起)に被さる、対象者の外耳の後ろの領域とすることができる。こうした例では、乳様突起骨は、前庭系VSを収容する内耳の骨構造を介して前庭系VSに振動信号を伝達するために使用される骨構造BSの一部を形成しうる。場合によっては、頬骨または側頭骨の頬骨突起は、振動信号を前庭系VSに伝達するために使用される骨構造BSの一部とすることができる。他の例では、標的領域TAは、頭部または額の後ろの一部であってもよく、頭蓋骨の下層領域が、振動装置400から受信された振動信号を伝導する骨構造BSとして機能する。選択された標的領域TAおよび前庭系VSからの距離に基づき、様々な力レベルを使用して、振動装置400を動作させることができる。例えば、装置が対象者の額領域または対象者の頭部の後ろなどの標的領域TAに配置される時、乳様突起よりも前庭系VSから離れている領域では、装置が対象者の乳様突起に被さって配置される時と比較して、より高い力レベルが使用されてもよい。例として、対象者の額または頭部の後ろに配置された時、振動装置400は、他の場所(例えば、乳様突起骨に被さる領域)に伝達される時の治療的に有効な振動信号の力レベルよりも最大14dB高い力レベルを有する振動信号を印加するように構成することができる。標的領域TAが、乳様突起骨に被さる領域であり、振動装置がその領域に被さって配置される場合、前庭状態を治療するための治療的に有効な力レベルは、約87~101dB re 1 dyne、および望ましくは、約90~100dB re 1 dyne、または約93~98dB re 1 dyneでありうる。あるいは、振動装置400が対象者の額または頭部の後ろに配置される時、振動装置400によって適用される振動信号は、約101dB~約115dB(すなわち、乳様突起骨に印加される振動信号の力レベルよりも14dB高い)の範囲の治療的に有効な力レベルを有してもよい。
【0046】
振動装置400の本体410は、振動装置400の様々な構成要素を収容するように構成することができる。一部の実施形態では、本体410は、電源414、センサ416、および/または支持要素418など、本体410内に収容されていない一つ以上の構成要素の結合のための接触面を提供する一方で、構成要素の一部を格納することができる。一部の実施形態では、振動装置400の本体410は、振動要素423、サスペンション要素420、駆動回路440、および/または伝達インターフェース430などの振動装置の一つ以上の構成要素を収容するための一つ以上のチャンバーまたはレセプタクルを画定することができる。本体410はまた、対象者の本体の標的領域TAに対する伝達インターフェース430の希望する位置決めのために形状が付けられ、および/または構成されうる(例えば、本体410は、曲面、または可鍛性もしくは可撓性の表面を有しうる)。一部の実施形態では、本体410および/またはそのチャンバーのうちの一つ以上は空気で充填されてもよく、または場合によっては、振動信号の生成および伝達を助けるための潤滑剤などの液体で充填されてもよい。一部の実施形態では、本体410および/またはそのチャンバーのうちの一つ以上はまた、例えば、スポンジまたは吸音材料、放熱材料などの可聴雑音減衰剤などの特性を有する材料を含んでもよい。
【0047】
装置400の振動要素423は、振動信号を生成するように前後振動または振動するように構成されてもよい。一部の実施形態では、振動要素423を本体410のチャンバー内に収容することができる。振動要素423は、サスペンション要素420によって均衡位置に懸架することができ、電気信号を使用して、振動要素423を均衡位置の周りで振動または前後振動させ、振動信号を生成することができる。材料、組成物、構造などの振動要素423および/またはサスペンション要素420の特性は、生成された振動信号(例えば、低周波数信号)の特定の要件を満たすように選択することができる。
【0048】
例えば、振動要素423は、低周波数(例えば、200Hz未満の周波数)の振動信号の高効率での生成を可能にする剛性度(例えば、ばね定数)を有するばねまたは弾性材料であってもよい。一実施形態では、振動要素423は、ばねであるサスペンション要素420によって懸架される質量であってもよい。このようなシステムの自然共鳴は、式
で表されるフックの法則に基づいて決定することができ、fは共振周波数であり、kはばね定数であり、mは質量である。共振周波数での質量およびばねシステムは、より純粋なトーン(例えば、正弦波波形)と関連付けられうるため、質量の移動の振幅は、所与の電力について、他の周波数よりも共振周波数でより大きい。したがって、振動装置400をその共振周波数で動作させることで、より強い振動信号が生成され、振動要素423および/またはサスペンション要素420の特性を選択して、特定の共振周波数を達成することができる。
【0049】
生成された振動信号に影響を与えうる、および/または決定しうる他の要因には、例えば、駆動力の機構(例えば、機械的、磁気的)、振動要素の移動の容易さ(例えば、移動における摩擦のなさ)、標的領域TAの場所(例えば、乳様突起骨、頬骨、対象者の額近くの頭蓋骨)、エネルギー散逸の二次経路または三次経路の低減(例えば、軸外移動、熱、摩擦)、外力に対する移動方向(例えば、使用中の圧力、重力)、様々な条件下での対象者による使用の容易さに関する要件(例えば、対象者の運動性、気が散るレベルに対する制限)が挙げられる。
【0050】
振動要素423は、振動装置400の軸(例えば、本体410の長手方向軸)に沿って、またはその周りで振動移動を生成するべく駆動できるように構成することができ、移動は、前庭状態を治療するための適切な特性(例えば、周波数、振幅、力レベルなど)を有する振動信号を生成する。振動装置400は、一部の実施形態では、例えば、磁場などの適切な駆動力を使用して軸に沿って移動するよう駆動されうる磁石として実装される振動要素423を含む、電気機械変換器であってもよい。こうした実施形態に関するさらなる詳細について、
図6~9Cを参照して以下に説明する。
【0051】
低周波数振動信号を生成する別の方法は、超音波信号を調節することである。一部の実施形態では、振動装置400は、電気信号によって駆動され、超音波周波数範囲で振動を生成する圧電変換器であってもよい。このより高い周波数での圧電変換器の振動は、音響放射圧を生成しうる。駆動電気信号は、より低い周波数でオン/オフに印加される圧電変換器からの圧力がより低い周波数で対応する振動信号を生成するように、200Hz(例えば、60Hz)未満のより低い周波数でクロックのオン/オフ切り替えができる。圧電変換器の使用は、圧電変換器は典型的に他のタイプの電気機械変換器よりも小さく軽量なため、振動装置400のサイズおよび重量を低減することができる。
【0052】
振動装置400が配置される場所、振動装置400の寸法制限、および/または振動装置400の構成または形状に応じて、振動装置400の特定の構成要素は、前庭状態を治療するために治療的に有効なレベルの振動信号を提供するように選択できる。一つの振動要素423が
図5に図示されているが、当業者であれば、振動装置400は、一緒におよび/または独立して動作して、前庭状態を治療するための振動信号を生成することができる、一つ以上の追加的な振動要素を含みうることを理解するであろう。
【0053】
他の振動装置またはシステムと同様に、振動装置400を、一連の共振周波数と関連付けることができる。一部の実施形態では、振動要素423は、振動装置400に関連付けられる最低共振周波数で生成された振動信号の電力量が、振動装置400に関連付けられる残りの共振周波数(例えば、より高い共振周波数)における振動信号の電力量よりも大きいように、駆動力に応答して移動するように構成されてもよい。例えば、振動装置は、約10Hz~約200Hz、約10Hz~約150Hz、約10Hz~約100Hz、約10Hzおよび約80Hz、約30Hz~約80Hz、または約50Hz~約70Hzの最低共振周波数を有し、その間の他の値および部分範囲を含むように構成されてもよい。一部の実施形態では、これらの範囲において最低共振周波数で生成される振動信号は、他の共振周波数で生成されうる振動信号よりも大きな電力量を有してもよい。一部の実施形態では、振動要素423、サスペンション要素420、および/または振動装置400のその他の要素は、振動装置400が200Hz未満の最低基本周波数で振動するように選択することができる。
【0054】
一部の実施形態では、振動要素423は、第一の軸(例えば、z方向の軸)に沿って第一の共振周波数で振動し、また第二の軸(例えば、x-y平面の軸)に沿って第二の共振周波数でも振動することができる。第二の軸に沿った振動を低減するために、振動要素423、サスペンション要素420、および/または振動装置400のその他の要素を、第一の共振周波数が第二の共振周波数の高調波ではないように選択することができ、その逆もでき(例えば、第一の共振周波数は第二の共振周波数から数ヘルツ分オフセットされた、および/または第二の共振周波数の高調波である)、第二の軸に沿った振動が、振動装置400が第一の共振周波数で刺激される時に減少されうるように、選択することができる。第二の軸に沿った振動は、例えば、振動装置400の構成要素および/または可聴音の間の内部衝突につながることがある。
【0055】
振動装置400は、対象者の頭部上の異なる領域に配置されうる。
図16は、ヒトの頭蓋骨を描写し、本明細書で開示される前庭状態を治療するための治療用振動信号を印加するために振動装置400が位置付けられうる頭蓋骨のいくつかの例示的な領域を示す。例えば、
図16に示すように、振動装置400は、一部の例では、対象者の頭蓋骨の乳様突起骨1502の上に配置することができる。
図16では左乳様突起骨1502が特定されているが、当業者であれば、振動装置400が対象者の左乳様突起骨または右乳様突起骨の上に配置されうることを理解するであろう。他の例では、振動装置400は、本明細書で開示された前庭および他の状態を治療するために、頭部の後ろの一部分(例えば、後頭骨1501の左、右、または中央部分)の上に、または額の一部分(例えば、前頭骨1504の左、右、または中央部分)の上に配置されて、振動信号を伝達することができる。振動装置400が配置された領域(例えば、装置からの振動が縫合線1503を横切る必要があるかどうかに関係なく、前庭系への近接さ)に応じて、状態を治療するための治療的に有効なレベルの振動が前庭系に伝達されるように、振動信号の力レベルが調整されてもよい。
【0056】
振動装置400が、乳様突起骨(例えば、
図16に示す乳様突起骨1502)に被さって位置付けられる時、振動装置400は、200Hz未満(例えば、約10Hz、約30Hz、約50Hz、約70Hz、約100Hz、約150Hzであり、およびその間のすべての値と部分範囲)の共振周波数、および、87~101dB re 1 dyne(または約90~100dB re 1 dyne)の間の力レベルを有する、前庭系の状態を治療するための治療的に有効な振動信号(すなわち、治療的に有効な振動信号)を印加することができる。振動装置400が、乳様突起骨よりも対象者の前庭系からさらに離れた、対象者の頭部の異なる領域に被さって位置付けられる(例えば、
図16に示す頬骨1505、または前頭骨1504または後頭骨1501)場合、次いで、振動装置400は、振動信号が、乳様突起骨の上の領域(例えば、
図16に示す1502)に印加される治療的に有効な振動信号と同等の様式で前庭系の一部分に影響を与えることができるように、より大きな力レベルを有する振動信号を生成することができる。例えば、振動装置400が対象者の前頭骨(例えば、
図16の前頭骨1504)の上に配置される場合、振動装置400は、乳様突起骨に被さる領域に印加される治療的に有効な振動信号の力レベルよりも高い力レベル(例えば、最大14dB re 1 dyne以上)を有する振動信号を生成することができる。
【0057】
本明細書に記載する実施形態では、力レベルは、骨伝導の「ラウドネス」の単位を表し、振動の振幅の増加、振動の周波数、およびシステムの質量(例えば、振動装置)に伴い増加することができる。周波数と組み合わせた力レベルは、治療的に有効な様式で前庭系を刺激することができるインパルス(運動量の変化)を生成する。運動量は力に正比例し、周波数に反比例する。したがって、例えば200Hz超の高い周波数では、前庭系を刺激するのに十分なインパルスを生成するのに必要な力も増加しなければならない。従来の骨伝導装置(例えば、骨伝導スピーカー)は、約250Hzの周波数の振動を生成するように設計されており、それゆえ、このような装置が、治療的に有効な振動を生成することができるには、望ましくないほどに大きな音を生じうる高い力レベルの振動を生成する必要がある。従来の骨伝導システムの大半は、このような高い力レベルに達するまでに過熱して故障してしまう。本明細書に記載されるシステムおよび装置では、振動装置(例えば、骨伝導装置)によって印加される周波数は低い(例えば、200Hz未満)ため、治療的に有効な振動を生成することができる。本明細書に記載されるシステムおよび装置は、知覚可能なレベルの可聴音および/またはコツコツという音の感覚の生成を回避するが、これらは両方とも、ユーザーにとって望ましくなく、気を散らせるものでありうる。
【0058】
振動装置400のサスペンション要素420は、本体410に収容され、振動要素423と相互作用する、一つ以上の構成要素を含みうる。一部の実施形態では、サスペンション要素420および/または振動要素423は、互いを収容するための適応を伴いつつ構成することができる。例えば、サスペンション要素420は、振動要素423に画定される開口部を通って延在できる構成要素を含みうる。
【0059】
一部の実施形態では、サスペンション要素420は、本体410のチャンバー内に収容されてもよく、一部の例では、潤滑剤などの流体内に配置されてもよい。サスペンション要素420は、振動要素423上に力を加え、駆動信号の印加によって移動するよう駆動されるまで、均衡位置に振動要素423を懸架、保持、または支持するように構成することができる。例えば、サスペンション要素420は、振動要素423(例えば、磁石)に結合されたばねであってもよい。別の方法としてまたは追加的に、サスペンション要素420は、振動要素423(例えば、別の磁石)と共に配置された一対の磁石を含み、それぞれが、振動要素423の間の作用する力(例えば、対抗するまたは反発する磁力)の効力によって、振動要素423を均衡位置に集合的に保持するために、反対方向(例えば、対抗するまたは反発する磁力)で振動要素423に力を加えることができる。こうした実施形態では、駆動力(例えば、特定の大きさを持つ印加された磁場、かつ特定の方向に沿って作用する)は、振動要素423(例えば、均衡位置にある磁石)を誘導して一対の磁石の間で移動させることができる。他の実施形態では、サスペンション要素420は、弾性材料または流体であってもよい。一つのサスペンション要素420が
図5に図示されているが、当業者であれば、複数のサスペンション要素420を使用して、振動要素423を支持および/または懸架できることを理解するであろう。複数のサスペンション要素420は、一つ以上の異なるタイプのサスペンション要素(例えば、磁石、ばね、弾性材料など)を含んでもよい。
【0060】
振動装置400の駆動回路440は、電気信号を生成できる一つ以上の適切な構成要素を含みうる。電気信号は、軸に沿った振動要素423の移動を誘導して治療用振動信号を生成するように力を生成させることができる。駆動回路440は、一部の実施形態では、制御ユニット(
図4Aおよび4Bの制御ユニット360など)からの電気信号を受信することができる。一部の他の実施形態では、駆動回路440自体は、電気信号を生成できるオンボードユニットを含みうる。
【0061】
駆動回路440によって生成または受信され、振動要素423の移動を誘導するために使用される電気信号は、特定の周波数および力レベルを有する振動信号を生成するのに好適な特性を有することができる。例えば、電気信号は、振動要素423に、一つ以上の特定の前庭状態を治療するための特定の周波数範囲(例えば、200Hz未満)を有する振動信号を生成させるように選択することができる。一部の実施形態では、制御ユニット(例えば、制御ユニット360)は、電気信号が振動装置400を上述したような共振周波数でセンサ416により振動させるまで、電気信号の周波数を変えることができる。
【0062】
一部の実施形態では、駆動回路440は、電気信号を生成するためのオンボード信号発生装置、信号を増幅するためのアンプ、および振動要素423を移動させる適切な手段へと電気信号を変換する一つ以上の要素を含むことができる。例えば、駆動回路440は、振動要素423を移動させる磁場を生成できる一つ以上のコイルを含むことができる。
【0063】
振動装置400の伝達インターフェース430は、振動信号が前庭系VSの下の骨構造BSを介して伝達されるように、振動要素423によって生成された振動信号を対象者の標的領域TAに伝達するように構成することができる。伝達インターフェース430は、伝達インターフェースが、治療用振動信号の伝達のための使用期間中に係合し、および/または接触を維持できるように、ユーザーの標的領域TAの構造および/または形状に合わせて、および/または適合することができる。一部の実施形態では、伝達インターフェース430は、例えば、前庭状態を軽減するための振動装置400の使用中に、ユーザーにとっての快適さおよび使いやすさを考慮して構成することができる。伝達インターフェース430はさらに、熱の生成および蓄積、可聴雑音の生成、空気循環の欠如、標的領域TAに対する圧力の印加など、望ましくない二次的効果を低減するように構成されてもよい。例えば、伝達インターフェース430は、標的領域の輪郭(例えば、乳様突起を覆う耳の後ろの領域)に適応するのを補助できる、形状記憶性材料の層を含むことができる。形状記憶性材料はまた、放熱、可聴雑音の減衰、空気循環の促進、ヘッドバンドなどの支持要素からの圧力による不快感の最小化なども助けうる。
【0064】
図6は、一実施形態に従った例示的な振動装置500の略図である。振動装置500は、管526およびエンドキャップ525a、525bを含む本体(またはハウジング)510を含む。一部の実施形態では、振動装置500の本体510は、チャンバーを画定することができる。本体510は、磁石523として実装された振動要素、および磁石520a、520bとして実装されたサスペンション要素を収容する。
図6の切取図に示すように、サスペンション要素は磁石520a、520bを含み、振動要素523は磁石523を含む。磁石520、520bは、
図6に示すように、磁石523に反発力を行使することでサスペンション要素として機能して、均衡位置で磁石523を懸架する。例えば、磁石520aは、第一の磁石523上に第一の方向に力を印加するように構成されてもよく、磁石520bは、第一の磁石523上に第二の方向(例えば、第一の方向とは180度離れた第二の方向)に、力(例えば、第二の磁石520aが磁石523に加える力と同等の力)を加えるように構成することができる。このようにして、第一の磁石523は、第二の磁石520aと第三の磁石520bが本体510内の位置(例えば、均衡位置)で集合的に第一の磁石523を懸架するように、本体510(例えば、チャンバー)内の第二の磁石520aおよび第三の磁石520bの間に配置することができる。
【0065】
磁石523は、移動(例えば、前後振動または振動)して振動信号を生成するように構成された振動要素として作用する。振動要素523を、振動要素523が均衡位置の周りで振動できるように、本体510内(例えば、チャンバー)内でサスペンション要素520a、525bによって集合的に懸架することができる。
【0066】
一部の実施形態では、振動装置500は、長手方向軸を有する細長い部材を含むことができる。細長い部材は、振動要素523が細長い部材の長手方向軸に沿って振動するように構成できるように、振動要素523の開口部を通って延在するように構成することができる。細長い部材は、長手方向軸以外の任意の軸に沿って振動要素523の前後振動または振動を低減するようにさらに構成することができる。
図6に示すように、振動装置500は、エンドキャップ525a、525bに固定されうるピン521の形態の細長い部材をさらに含む。ピン521は、振動装置500のエンドキャップ525a、525bに画定される開口部522a、522b、磁石520a、520bに画定される開口部、および磁石523に画定される開口部を通過する。ピン521は、磁石523の移動(例えば、ピン521の長手方向軸に沿った)のための軸を提供する。振動装置500は、電気信号を使用して振動装置を駆動できる磁場を生成するように構成されたコイル524を含む駆動回路をさらに含む。振動装置500は、磁石523に画定される開口部に嵌合するように構成されたブッシング522cを含み、ピン521と磁石523との間を接合するように構成され、ピン521上での磁石523の滑らかな移動を可能にする。
【0067】
動作中、振動装置500は、正弦波または別のタイプの信号波形を含む電気信号を使用して、低周波数(例えば、200Hz未満)で駆動される。コイル524は、誘導された電流で磁場を生成するように動作可能である。磁場は次に、磁石523に磁力を加える。磁力は、磁石523に印加される時、
図6に矢印「A」で示す軸に沿って磁石523を移動させる。磁石523は、磁場ベクトルの方向に応じて示される方向のいずれかに移動するように構成される。
【0068】
サスペンション要素を形成する磁石520aおよび520bは、それぞれが、一定の磁場を生成し、そのそれぞれが磁石523に印加される(すなわち、磁石520aの北側は磁石523の北側に面し、磁石520bの南側は磁石523の南側に面する)。したがって、磁石520a、520bは、磁石523上に反発力を印加する。磁石520a、520bによって生成される反発力は、磁石523が均衡位置の周りで前後振動し、一つ以上の振動信号を生成するように、均衡位置に磁石523を懸架するように動作可能である。電気信号は、磁石523を、軸Aに沿って前後振動または移動させるが、これはピン521の長手方向軸と同一であってもよく、または実質的に対応してもよい。
【0069】
一部の実施形態では、システムの効率に影響を与え、二次振動信号(例えば、ブンブンという音)を引き起こす望ましくない摩擦を増加させうる、磁石520a、520bおよび523が軸Aに沿った方向以外の方向への前後振動または移動が起きないようにするために、磁石523の移動がピン521によって制限されるように、振動装置500を構成することができる。一部の実施形態では、磁石520a、520bの各々は、接着剤、エポキシ、または別の形態の接着剤を用いて、振動装置500のエンドキャップ525a、525bに固定することができる。磁石523は、ピン526の周りにブッシング522cの界面と嵌合することができ、それによって、軸Aに沿わない任意の移動を制限する一方で、磁石523がピン521を滑らかに移動することを可能にする。接着剤、エポキシ、または任意の他の形態の接着剤も、ピン521をエンドキャップ525a、525bに開口部または穴522a、522bを通して固定するために使用されうる。
【0070】
一部の実施形態では、管526は、磁石523と管526の内表面との間の潜在的な摩擦を減少させるように構成された潤滑剤(例えば、鉄流体)または低摩擦材料(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)をその内表面上に含有および/または含んでもよい。摩擦の低減を、振動装置500のより静かな動作を確保するために構成することができる(例えば、接触による潜在的な摩擦によって生成される雑音が少ない)。また、こうした潤滑剤は、ブッシング522cとピン521の間の摩擦を低減するために使用されてもよい。
【0071】
一部の実施形態では、管526および/またはエンドキャップ525a、525bの外表面は、吸音材料で覆うことができる。さらに、一部の実施形態では、エンドキャップ525a、525bのうちの一つ以上は、摩擦低減材料(例えば、滑らかな材料)、または衝撃吸収材料または例えば、コルクなどのパッド材料で覆われてもよく、その結果、そのエンドキャップがユーザーの皮膚または本体と接触する時、エンドキャップ525a、525bがそのような材料で覆われていない場合よりも接触部の研磨性がより低い。さらに、一部の実施形態では、エンドキャップ525a、525bのうちの一つ以上は、そのエンドキャップの表面積を増加させる構造に取り付けられてもよく、その結果、そのエンドキャップがユーザーの皮膚または身体と接触する時、接触はより大きな領域にわたって広がり、エンドキャップによる皮膚または身体への圧力を減少させる。
【0072】
磁石520a、520bは、振動装置500内のサスペンション要素を形成するために使用できる弾性物体の一例であることが理解されるべきである。その他の実施形態では、磁石520a、520bは、他の弾性物体(例えば、ばね、弾性ポリマー)によって置き換えられてもよい。
【0073】
図7Aは、ばねをサスペンション要素として含む、振動装置600の実施形態を示す。振動装置600は、上述した
図6に示す振動装置500と類似していてもよい。例えば、振動装置600は、管626(例えば、ナイロン管)およびエンドキャップ625a、625bを含むハウジング610を含むことができる。振動装置600は、振動要素を形成する磁石623と、本明細書で開示された前庭状態を治療するために使用される振動信号を生成する磁石623の移動を駆動するためのコイル624を含む駆動回路をさらに含むことができる。
【0074】
図7Aの断面図に示すように、振動装置600は、
図6に示す振動装置500の磁石520a、520bの代わりに、ばね620a、620bとして実装されたサスペンション要素を含むことができる。磁石623は、電気信号によって通電された時に、磁石623が均衡位置の周りを振動できるように、ハウジング610(例えば、チャンバー内)内のばね620a、620bによって集合的に懸架することができる。
【0075】
振動装置500を参照して上述したように、一部の実施形態では、振動装置600は、長手方向軸を有する細長い部材を含むことができる。細長い部材は、磁石623が細長い部材の長手方向軸に沿って振動するよう構成されうるように、振動要素の磁石623の開口部を通って延在するように構成することができる。細長い部材は、長手方向軸以外の任意の軸に沿った磁石623の前後振動または振動を低減するようにさらに構成することができる。
【0076】
ばね620a、620bは、細長い部材、エンドキャップ625a、625bの空洞、および/または硬質および/または可撓性の構造(例えば、ピン、発泡剤、ゴム、または任意の別の材料)などのエンドキャップから延在するその他の適切な構造(
図7Aに図示せず)によって支持されてもよい。ばね620a、620bは、軸(例えば、長手方向軸)に沿って膨張および圧縮するように構成されてもよく、また、ばね620a、620bに取り付けられた磁石623は、同じ軸に沿って前後振動または振動して治療用振動信号を生成するように構成することができる。サスペンション要素を形成する弾性物体として使用されるばねは、接着剤、エポキシ、または任意の形態の接着剤を使用して、振動装置600の他の部分に(例えば、磁石623、管626、および/またはエンドキャップ625a、625bに)固定されうる。ばね620a、620bは、ばねの軸(例えば、長手方向軸)以外の任意の軸に沿った磁石の前後振動を減少させるように構成することができる。
【0077】
ばね620a、620bは、任意の適切な材料(例えば、ステンレス鋼)であってもよく、ばね定数kに対して特定の剛性を有するように選択されてもよく、それにより、電気信号によって駆動される時に矢印「B」によって示される軸に沿った磁石623の移動を可能にする。ばね620a、620bは、磁石623およびハウジング610の一部に取り付けられるように構成することができる。例えば、各ばね(620aおよび620b)は、ハウジング610の一部分に取り付けられうる第一の端部と、磁石623に取り付けられる第二の端部とを有しうる。このようにして、ばねは磁石に力を加え、磁石をチャンバー内の位置に懸架するように構成することができる。例えば、ばね620aおよび620bはそれぞれ、磁石623の移動に伴い、一つのばね(例えば、620a)が膨張するにつれて他方のばね(例えば、620b)が収縮するように、またその逆で、反対方向に等価の力を行使することができ、その結果、磁石623が軸(例えば、ばねの長手方向軸)に沿って前後振動または振動し、磁石623の移動が懸架位置(例えば、均衡位置)の周りで生じるように構成することができる。振動装置600は、ばね620a、620bおよび磁石623の間のそれぞれの結合点として、一つ以上の接着ポケット632、634を含むことができる。
【0078】
一部の実施形態では、ばね620a、620bは、磁石623と管626の内表面との間の接触を防止するように動作可能である。振動装置500を参照して上述したように、振動装置600の管626は、磁石623の移動中に、磁石623と管626の内表面との間の任意の接触からの潜在的な摩擦を低減するために、潤滑剤(例えば、鉄流体)または低摩擦材料(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)を内表面に含有および/または含むことができる。一部の実施形態では、ロッドまたはピン(
図7Aに図示せず)およびブッシング(
図7Aに図示せず)は、軸Bに沿った方向以外の方向への磁石623の移動をさらに制限するために含まれてもよい。
【0079】
図7Bは、治療用振動信号を伝達するための伝達インターフェース630に取り付けられた、
図7Aの振動装置600の切断図を示す。前述のように、磁石623は、ばね620a、620bによって懸架される振動要素として作用する。伝達インターフェース630は、振動装置600から対象者の身体に振動信号を伝達するよう構成された形状記憶性パッドであってもよい。磁石およびばねは、サスペンション要素の例として提供されているが、当業者であれば、磁石および/またはばねの代わりに、および/または追加して、他のタイプの弾性物体が使用されうることを理解するであろう。
【0080】
本明細書に開示される振動装置(例えば、振動装置400、500、600、700)は、高いQ値を有することができる(例えば、狭い周波数範囲においてより大きな振幅で前後振動できる)。一部の実施形態では、振動装置は、50~70Hzの周波数などの最低の基本周波数で動作可能であり、低電力量がより上位かつより可聴な共振周波数に向けられる。
【0081】
図8は、一実施形態による振動装置700の断面図を示す。振動装置700は、振動装置500、600と類似していてもよい。例えば、振動装置700は、ハウジング710、磁石723として実装された振動要素、ばね720として実装されたサスペンション要素、および、磁石723の移動を駆動して本明細書で開示される前庭状態を治療するために使用される振動信号を生成するコイル724を含む駆動回路を含むことができる。磁石723は、駆動回路によって伝達される電気信号によって通電された時に、磁石723が均衡位置の周りを振動できるように、ハウジング710(例えば、チャンバー内)内のばね720によって懸架することができる。
【0082】
一部の実施形態では、ばね720のばね定数を低減し、それによって振動装置700の共振周波数に影響を与えるために、ばね720の長さを延長することができ、これがより低い周波数の生成を可能にする。振動装置700のサイズを変更することなくばねの長さを変更するために、ばね720は、磁石723によって画定される開口部723aを通過するように構成することができる。
図8に示すように、ばね720は、取付プレート728に取り付けられ、磁石723の近傍に取り付けるのではなく、磁石723の向こう側に接着することができる。このようにして、ばね720の長さを磁石723の厚さと等しいかまたは実質的に等しい長さに増加できる一方で、振動装置700の長さは同じままであってもよい。一部の実施形態では、取付プレート728を有する代替として、磁石723は、その長さの一部分(例えば、その長さの約95%)を通って延在する開口部を有してもよく、ばね720は、開口部を通って延在し、ばね720が取付プレート728に取り付ける方法と同様に、磁石723の遠端に取り付けられてもよい。
【0083】
図7Bに描写した振動装置600と同様に、
図8に示す振動装置700もまた、振動信号を対象者の前庭系に伝達するために、伝達インターフェース(例えば、伝達インターフェース730)に取り付けることができる。伝達インターフェース730は、標的領域の表面に適合し、振動装置700と標的領域との間の接触面として作用して、振動信号を効果的に伝達するために、形状記憶性パッドなどのパッド材料を含むことができる。
【0084】
図8に示すように、振動装置の一部の実施形態は、振動装置700を起動するための信号を生成するための回路を含む集積回路706を含むことができる。集積回路706は、他の構成要素(例えば、マイクロコントローラなどの制御ユニット360)に接続するために、一つ以上のリードまたは接続点708(例えば、リード線)を含むことができる。集積回路706はまた、センサ790を含んでもよく、かつ/またはセンサ790に結合されてもよい。
【0085】
振動装置700は、高いQ値を有しうる。動作中、振動装置700を起動するために使用される信号の周波数は、振動装置700が共振周波数で動作して、所与の電源入力に対する前後振動の振幅を増加させるように選択されうる。一実施形態では、センサ790は、磁場変動を監視するように構成されるホール効果センサを含むことができる。力レベルおよび/または周波数を変えることができる信号源(例えば、信号発生装置370および/またはアンプ380)から振動装置700に供給される電気信号の周波数が、振動装置700の共振周波数と合致する場合、磁石723は、他の周波数よりもさらに(例えば、より大きな振幅で前後振動または振動する)移動することができる。したがって、磁石723の前後振動によって引き起こされる磁場変動は、電気信号の周波数が振動装置700の共振周波数と合致する時に増加しうる。この相対変動は、ホール効果センサを使用して監視することができる。
【0086】
より詳細には、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサ(例えば、制御ユニット360)は、ホール効果センサから信号を受信し、センサ読取値に基づき振動装置700に給電するために使用される電気信号の周波数を調整するように動作可能であってもよい。例えば、マイクロコントローラは、設定された周波数範囲(例えば、50~65Hz)をスキャンし、最も高いレベルの磁場変動を生成する電気信号の周波数を選択するよう動作可能であってもよい。このプロセスは、「チューニング」と呼ばれる場合がある。その後、センサ790とマイクロコントローラの組み合わせは、装置の電源投入のたびにその効率を維持するために、振動装置700に供給される電気信号の周波数をチューニングし続けてもよい。さらに、電気信号の周波数が選択された後、周波数は、温度、摩耗、または振動装置700の構成要素の特性(例えば、ばね720)の経時的な変化を起こしうる他の変数によって、時間の経過とともにピーク効率に関連する電気信号の周波数が変化するかどうかを判定するために、選択された周波数の周りで修正されてもよい。
【0087】
一部の実施形態では、センサ790は、最大効率を提供する共振周波数を選択できるように情報(例えば、電流、電圧、加速度など)を測定するために、センサ390に類似した、電流計、電圧計、加速度計、または何らかの他のタイプのセンサを含むことができる。
【0088】
集積回路706は、振動装置700のサイズをさらに減少させるエンドキャップとして機能することができる。伝達インターフェース730は、骨を介して前庭系に伝達されうるように、例えば、ユーザーの皮膚表面に適合し、振動装置700から身体に振動信号を伝達できる構造として機能する動作可能な発泡性パッドであってもよい。伝達インターフェース730は、良好な結合により振動信号を頭部に効率的に伝達できるように構成されてもよい。
【0089】
一部の実施形態では、可聴音(すなわち、雑音、ブンブンという音)を避けるために、振動装置700は、内部構造間の摩擦および/または接触を低減するように構成されてもよい。例えば、磁石723、コイル724、ハウジング710などは、様々な構成要素間の接触を低減しつつ構成要素の自然な揺れや揺動を可能にするために、互いに十分な公差をもって位置付けられてもよい。
【0090】
振動装置600の磁石623と同様に、磁石723はまた、軸Cに沿っていない方向にも揺動する場合があり、これが磁石723を振動装置700の内面に接触させる原因となりうる。この接触は、可聴音を鳴らし、および/または振動装置700の効率を低減させうる。一部のこうした実施形態では、その特性が、軸共振周波数を、揺動共振周波数またはその任意の高調波と同じではなくする、ばね720および磁石723を選択することによって、ノイズは最小化されうる。次いで、揺動共振周波数ではなく軸共振周波数に対応する周波数で、振動装置700を動作させることで、磁石723と振動装置700の他の構成要素との間の揺動および意図しない接触を低減しうる。
【0091】
振動装置700による機械的振動信号の出力レベルを調整するために、振動装置700への電気信号入力の電圧を増加させてもよい。代替的または追加的に、振動信号の出力レベルを調整するために、電気信号の周波数を共振周波数に調整してもよい。
【0092】
図9Aは、振動装置(例えば、上述した装置700のばね720)のサスペンション要素として作用しうるばね820の斜視図を示す。ばねの配向は、二次方向への磁石(例えば、磁石723)の揺動、振れ、または望ましくない移動の量を低減しうる。
図9Bおよび9C(ばね820の二つの端の図を提示する)に示すように、ばね820は、ばね820の第一の端820aが0°位置で始まり、ばね820の第二の端820bが180°位置で終わるように配向されてもよい。他の実施形態では、ばね820は、振動装置に対する重力の影響(例えば、重力の方向に対するばね820の配向)に応じて、例えば、90°、270°など、他の角度間隔であり、かつ終了することができる。一部の実施形態では、ばね820の配向は、例えば、加速度計またはホール効果センサなどのセンサの配置に基づいて選択することができる。
【0093】
図10~15は、様々な支持要素に含まれ、かつ/または様々な支持要素に組み込まれうる振動装置の様々な実施形態の図である。一つまたは二つの振動装置がこれらの図に描写されうるが、当業者であれば、任意の数の振動装置を様々な実施形態に含めることができることを認識するはずである。複数の振動装置の場合、各装置からの振動信号の力レベルは、振動信号の複合効果を、前庭状態を治療するための治療有効レベルとすることができるため、低減することができる。
【0094】
図10は、対象者のヘッドHD上で着用されるヘッドバンド918に組み込まれた本体910を有する振動装置900を示す。振動装置900は、上述の制御ユニット360と同様に、制御ユニット906を含む。ヘッドバンド918は、弾性材料、面ファスナー材料、金属材料、またはプラスチック材料、またはヘッドバンド918が対象者の頭部HD上に振動装置900を保持して、骨を介して前庭系に伝導されうる振動信号を効果的に送達することを可能にする他の材料から作製されうる。振動装置900は、制御ユニット906および/または振動装置900のその他の構成要素に給電するためのオンボード電源(例えば、電池)を含んでもよく、またはヘッドバンド918から分離した電源(例えば、バッテリーパック)にワイヤを介して取り付けてもよい。制御ユニット906は、本明細書に開示される前庭またはその他の状態を治療するために振動信号を生成するために必要な電気駆動回路を含みうる。代替的に、こうした回路および電源は、振動装置900に動作可能に接続されてもよい。一部の実施形態では、ヘッドバンド918は、ヘッドランプまたは他の適切なヘッドギアなどの追加の装置を組み込んで、対象者の様々なニーズを満たしてもよい。
【0095】
図11は、一実施形態による、ヘッドフォン1002の形態で支持要素に組み込まれる振動装置1000a、1000bの使用を示す。ヘッドフォン1002は、オーディオスピーカー1003a、1003bおよびオーディオスピーカー1003a、1003bを接続する細長い部分1018(例えば、バンド)を含みうる。一部の実施形態では、ヘッドフォン1002は、イヤーマフなどの受動的ノイズリダクションデバイスでもよく、オーディオスピーカーなどの構成要素を含まない。振動装置1000a、1000bは、本明細書に記載される任意の他の振動装置(例えば、振動装置300、400、500、600、700、800)と類似したものでもよい。ヘッドフォン1002は、振動装置1000a、1000bによって生成される振動によって引き起こされる可聴音のレベルを低減するために使用できるが、前庭系(例えば、振動装置1000a、1000bによって生成される振動信号の結果としての骨を介して)に伝導される他の振動をキャンセルしないノイズキャンセリング回路を含みうる。例えば、システム1002は、振動装置1000a、1000b(例えば、180度位相差で)によって生成される可聴信号と位相外れしている信号(または信号)を生成するノイズキャンセリング回路を含みうる。このような位相外れ信号は、対象者の前庭系によって検出されるこうした可聴信号の信号レベルを低減して、対象者に可聴音が聴こえなくしうるように作用する。
【0096】
ヘッドフォン1002と併用される場合、振動装置1000a、1000bは、オーディオスピーカー1003a、1003bが耳の上に位置付けられる時、振動装置1000a、1000bが乳突骨の上にかぶさる位置となるように、オーディオスピーカー1003a、1003bに隣接して配置されうる。代替的または追加的に、一部の実施形態では、一つ以上の振動装置1000a、1000bは、ヘッドフォン1002の装飾的な形状または輪郭が影響を受けないように、スピーカー1003a、1003bと同じ場所に位置しうるヘッドフォン1002のイヤーカップに組み込まれてもよい。
【0097】
代替的または追加的に、一部の実施形態では、振動装置1000a、1000b(または図示されていない追加の振動装置)のうちの一つ以上は、ヘッドバンド1018に沿って配置されてもよく、またはヘッドフォン1002の一部分から延びてもよい。代替的または追加的に、一部の他の実施形態では、振動装置1000a、1000b(または図示されていない追加の振動装置)のうちの一つ以上は、ユーザーが、振動装置1000a、1000bのないヘッドフォンを持つか、または振動装置1000a、1000bを有するヘッドフォンを持つかを選択できるように、ヘッドフォン1002に着脱するアタッチメントに組み込まれてもよい。
【0098】
図12は、ピロー1110(例えば、旅行用ピロー、クッションなど)に組み込まれうるか、またはそれらに接続されうる振動装置1100a、1100bのさらに別の実施形態を示す。ピロー1110上の振動装置1100a、1100bの位置は、対象者が頭をピロー1110上に置いた時、振動装置1100a、1100bが、例えば、対象者の乳突骨を覆うように構成されてもよい。他の実施形態では、振動装置1100a、1100bは、対象者の頭部の他の領域を覆うように位置付けられうる。
【0099】
図13は、シート1210(例えば、カーシート、子供用補助椅子、オフィスチェアなど)に組み込まれてもよく、またはシート1210に接続されてもよい振動装置
1200のさらに別の実施形態を示す。シート1210および振動装置1200は、例えば、対象者の頭部がシートヘッドレスト1212にあたるとき、振動装置1200が対象者の頭部の一部を覆い、振動信号を頭部に伝達することができるように構成されうる。一部の実施形態では、振動装置は、使用されていない時に取り外すことができるように、支持要素1218を使用して、シート1210に取り外し可能に取り付けられうる。一部の実施形態では、振動装置は、シートベルトまたはシートの側面に取り付けられてもよく、この場合、対象者は、頭部を側方に(例えば、振動装置と接触して)配置することによって振動を適用することができる。
【0100】
図14は、一対の眼鏡1310に組み込まれてもよく、または眼鏡1310に接続されてもよい、振動装置1300a、1300bの別の実施形態を示す。
図14には眼鏡が描写されているが、当業者であれば、他のタイプのメガネ類(例えば、ゴーグル、サングラス、安全眼鏡)も、一つ以上の振動装置を有するのに好適でありうることを認識するであろう。振動装置1300a、1300bは、眼鏡1310の使用中に対象の頭部と近位接触しうる耳部分1311a、1311b上の眼鏡1310上に位置付けられてもよい。振動装置1300a、1300bは、対象者が眼鏡1310を身に着けるとき、振動装置が頭部の一部を覆って、振動信号を頭部および前庭系上に伝達できるように配置することができる。
【0101】
図15は、仮想現実デバイス1410(例えば、仮想現実または拡張現実環境を体験するために使用できる装置)に取り付けられるか、または組み込まれる、振動装置1420の別の実施形態を示す。振動装置1400は、仮想現実デバイス1410のバンド1441上の仮想現実デバイス1410上に位置付けられることができ、仮想現実デバイス1410を対象の頭部上に固定または支持するために使用されてもよく、また仮想現実デバイス1410の使用中に頭部と近位接触してもよい。一つ以上の振動装置が、仮想現実デバイス1410のバンド1441に沿って任意の位置に取り付けられてもよい。振動装置1400は、対象者が仮想現実デバイス1410を身に着ける時、振動装置が対象者の頭部の一部を覆って、振動装置1400が振動信号を頭部および前庭系上に(例えば、伝達インターフェースを介して)伝達できるように、仮想現実デバイス1410上に位置付けられてもよい。
【0102】
図25A-25Cは、振動装置2400のハウジング2410の概略図を示す。振動装置2400は、本明細書に記載の振動装置のいずれかと構造および/または機能において類似していてもよい。例えば、振動装置2400は、上述の振動装置500、600、および/または700と類似していてもよい。
図25A-25Cで、振動装置2400は、伝達インターフェース2430および内側ハウジング2426を外側ハウジング2410内に含むことができる。一部の実施形態では、
図25Cの分解図に示すように、外側ハウジング2410は、二つの部分2410aおよび2410bを結合することによって形成されうる。
図26は、2つの部分2410aと2410bとの間の結合を示すハウジング2410の断面図を示しており、これは機械的取り付け、接着剤などを介してもよい。内側ハウジング2426は、本明細書に記載される振動装置に関連付けられた振動要素(例えば、磁石)、コイル、および/またはその他の構造を含みうる。
【0103】
図27A、27B、27Cはそれぞれ、一実施形態による、振動装置2500の斜視図、側面図、および分解図を示す。
図28Aおよび28Bはそれぞれ、振動装置2500の斜視図および断面側面図を示す。振動装置2500は、本明細書に記載の他の振動装置(例えば、振動装置500、600、および700)と構造および/または機能において実質的に類似しうる。例えば、振動装置2500は、ハウジング2510、伝達インターフェース2530、およびエンドキャップ2525を含みうる。振動装置2500は、磁石2523を移動させるために磁場を生成するように構成された電磁コイル2524aおよび2524bを含みうる。一部の実施形態では、コイル2524aおよび2524bは、例えば、対向する方向に巻き付けて、対向する極性の磁場を生成することができる。二つのコイル2524aおよび2524bを有することが図示されているが、一部の実施形態では、振動装置2500は、磁石の移動を誘発するための極性が変動する磁場を生成するように構成された単一のコイルを含みうる。単一コイルは、例えば、異なる極性の駆動信号を生成する二つの別個の駆動回路によって駆動されうる。一部の他の実施形態では、単一の駆動回路を使用して、例えば、位相切り換え回路を使用して、異なる極性の信号を生成することができる。振動装置2500は、磁石2523に結合され、かつサスペンション要素として作用するように構成されたばね2520を含みうる。振動装置2500は、取付板2528aおよび2528bを含んでもよく、磁石2523は、ばね2520が取付板2528bを介して開口部を通って延在し、磁石2523の遠端に取り付けられうるように、その長さの一部分を通って延在する開口部を有してもよく、これは、ばね720が、振動装置700内の取付板728に取り付けられるように記述される方法に類似している。
【0104】
振動装置2500の磁石2523は、金属エンドプレート2529aおよび2529bを含みうる。一実施形態では、エンドプレート2529bは、ばね2520の取付板2328bとして機能しうる。エンドプレートは、漂遊磁束を減少させるように構成されうる。例えば、振動要素として作用する磁石を有する振動装置は、磁石から遠くに漂遊する磁力線を有し、振動装置が金属物体に磁気的に誘引されてもよい。この誘引力は、望ましくない副作用を生じさせ、使用中に邪魔になりかねない。エンドプレート2529aおよび2529bは、振動装置2500が、それらの物体に同程度に誘引されることなく、他の金属物体の近くで使用されうるように、このような漂遊磁束を低減することができる。さらに、エンドプレート2529aおよび2529bは、より多くの磁力線が配向されて、振動装置2500に対する磁石の動きを可能にするように、磁場を発生するコイル2524aおよび2524bに対して垂直な(例えば、それに向かう)方向に、磁力線を配向するために使用されてもよく、一方で、コイルに平行な(例えば、コイルに向かわない)方向への磁力線の漂遊散逸または漏れが低減される。
【0105】
図38は、別の実施形態による、振動装置2600の一部分の斜視図を示す。振動装置2600は、本明細書に記載の他の振動装置(例えば、振動装置500、600、700、および2500)と、構造および/または機能のいくつかの態様で実質的に類似していてもよい。例えば、振動装置2600は、ハウジングおよび伝達インターフェース(
図38には図示せず)を含みうる。振動装置2600は、磁石2623を移動させるために磁場を生成するように構成されている電磁コイル2624aおよび2624bに結合されうるエンドキャップ2625を含んでもよい。一部の実施形態では、エンドキャップ2625は、電磁コイル2624aおよび2624bに電気信号を送達するための適切な電気的インターフェース2627を含みうる。一部の実施形態では、コイル2624aおよび2624bは、対向する方向に巻き付けられ、対向する極性の磁場を発生することができる。一部の実施形態では、コイル2624aおよび2624bは、
図38に示すように、互いに適切な距離で離間して配置されてもよく、一方で他の実施形態では(例えば、
図28Aおよび28Bに示す)によって、コイルを空間内で互いに近接して配置されてもよい。
【0106】
振動装置2600は、磁石2623に結合され、かつサスペンション要素として作用するように構成されたばね2620を含みうる。振動装置2600は、取付板(
図38には図示せず)を含んでもよく、磁石2623は、ばね2620が開口部を通って延在し、取付版を介して磁石2623の遠端に取り付けられうるように、その長さの一部分を通って延在する開口部を有してもよく、ばね2520が、振動装置2500で取付プレート2528bに取り付けられるように記述される方法と同様である。振動装置2600の磁石2623は、振動装置2500の金属エンドプレート2529aおよび2529bと実質的に類似した構造および/または機能を有する金属エンドプレート2629aおよび2629b(
図29に示す)を含みうる。エンドプレート2629aおよび2629bは、振動装置2500を参照して記載されるように、漂遊磁束を減少させるように構成されうる。エンドプレート2629aおよび2629bは、振動装置2600が、それらの物体に誘引されることなく、他の金属物体の近くで使用されうるように、任意の漂遊磁束を制限することができる。金属エンドプレート2629aおよび2629bは、より多くの磁力線が振動装置2600に対する磁石の動きを可能にするように、磁場を発生するコイル2624aおよび2624bに対して垂直な(例えば、それに向かう)方向に、磁力線を配向するために使用されてもよく、一方で、コイルに平行な(例えば、コイルに向かわない)方向への磁力線の漂遊散逸または漏れが低減される。
【0107】
金属エンドプレート2629aおよび2629bによって集束された磁力線の例示的な
図2700aを
図29 に示す。弧長さの分布にわたって測定された正規化された束密度の
図30のプロット2700bは、エンドプレート(線2702)のない振動装置の相対的な磁束漏れを、エンドプレート2629aおよび2629b(線2704)を有する振動装置2600の磁束漏れの低減と比較する。示すように、金属エンドプレート(例えば、2629aおよび2629b)の使用は、漏れ磁束の低減をもたらしうる。一部の実施形態では、より低い駆動力を使用して、磁気2623の所望の移動を誘発し、治療的に有効な振動信号を発生するように、エンドプレート2629aおよび2629bは、コイル2624aおよび2624bによって発生される磁場エネルギーのより効率的な使用を可能にすることができる。一部の実施形態では、金属エンドプレート2629aおよび2629bは、磁石の移動を駆動するためにより少ない電力が必要とされるような方法(例えば、コイルに向かうディレクトリ内)で、磁石の磁力線を集束させるために使用されうる。こうした実施形態では、より小さい磁石2623を使用して、所定の強度の振動信号を発生させ、それによって振動装置2600のサイズを小さくすることができる。金属板269aおよび2629bは、上述のように、磁力線を集束させることができる任意の適切な材料とすることができる。一実施形態では、エンドプレート2529aおよび2529b、ならびに/またはエンドプレート2629aおよび2629bは、低炭素鋼で作製することができる。
【0108】
図31A、31B、および31Cはそれぞれ、一実施形態による、振動装置2800の斜視図、側面図、および分解図を示す。
図32Aおよび32Bは、
図31A-31Cの振動装置2800の二つの断面図である。振動装置2800は、本明細書に記載の他の振動装置(例えば、振動装置500、600、700、2500および/または2600)と構造および/または機能において実質的に類似したものとしうる。例えば、振動装置2800は、ハウジング2810、伝達インターフェース2830、およびハウジング部分2825aおよび2825bを含みうる。振動装置2800は、
図32Bに示す矢印Eの方向に沿って振動要素として作用する磁石2823を移動させる磁場を生成するように構成された電磁コイル2824 を含みうる。
【0109】
磁石2823は、金属エンドプレート2829aおよび2829bを含みうる。エンドプレート2829aおよび2829bは、振動装置2500を参照して記載したエンドプレート2529aおよび2529bと実質的に類似していてもよい。一実施形態では、金属エンドプレート2829aおよび2829bは、低炭素鋼から作製することができる。金属エンドプレート2829aおよび2829bは、コイル2824に対して垂直な方向に磁石2823の磁力線を集束させながら(例えば、磁石2823の磁力線が磁石の端部をコイル2824に垂直な方向に出るようにする)、水平方向の磁場の漂遊散逸または漏洩を低減させるように構成することができる。
図33は、金属エンドプレート2829a、2829bおよびコイル2824との、磁石2823の相対的位置決めを示す。
図34は、
図33に示すように、金属エンドプレート2829aおよび2829bによって集束された磁力線の例示的な
図3000を示す。弧長さの分布にわたって測定された正規化された束密度の
図35のプロット3100は、異なる振動装置の相対的な磁束漏れを比較する。線2702は、エンドプレートのない振動装置の磁束密度であり、線2704は、上記の
図29および30を参照しながら記載した
図38に示す構成のエンドプレートを有する磁束密度であり、線3102は、エンドプレート2829aおよび2829bを有する振動装置2800の磁束密度である。図示したように、金属エンドプレート2829aおよび2829bの使用は、本明細書に記載の他の振動装置(例えば、振動装置2500または2600)のものと比較して、振動装置2800の駆動回路によって引き起こされる漏れ磁束の減少をもたらしうる。
【0110】
振動装置2800は、前述の振動装置の一部に記載されるように、ばねの代わりに、磁石2823の動きを懸架および保持するように構成されたサスペンション要素2820aおよび2820b(例えば、ばね)を含む。サスペンション要素2820aおよび2820bは、例えば、布、スパイダースプリング、または柔軟な膜などの弾性材料および/または変形可能な材料の環状片であってもよい。環状片は、コイル2824によって生成される磁場が、平衡点の周りで、磁石を矢印Eによって示される方向に移動させることができるように、磁石2823に結合され、磁石2823を平衡点に懸架するように構成される。サスペンション要素2820aおよび2820bを、磁石から長手方向に延在するのではなく、磁石から横方向に延在することによって(例えば、振動装置2500のばね2520など)、サスペンション要素2820aおよび2820bは、装置2800の合計高さの減少を可能にし、また一方で、矢印Eによって画定される軸の外側での、磁石2823の軸外の動きまたは揺動を低減する。さらに、サスペンション要素2820aおよび2820bは、サスペンション要素2820aおよび2820bが、一つ以上の方向への磁石2823の発振を減少させるように、磁石2823の移動軸に対して角度の付いた一つ以上の方向への回復力を提供するように、拡張および圧縮するように構成されうる。
【0111】
図36A、36B、および36Cはそれぞれ、上述のように、実施形態700、2500、および2800による振動装置の寸法の比較を示す。一部の実施形態では、振動装置2800の横方向寸法は、サスペンション要素2820a、2820bの折り重なりの数および/または折り重なりの横方向伸長を減少させることによって、さらに減少させることができる。本明細書に記載される一つ以上の振動装置の寸法をさらに減少させる他の方法は、構成要素を低減すること、例えば、プラスチック支持構造を除去し、振動要素および/または他の構成要素を集積回路基板に直接取り付けることでありうる。
【0112】
図37は、一実施形態による振動装置3200を示す。振動装置3200は、本明細書に記載する他の振動装置(例えば、振動装置500、600、700、2500、2600および/または2800)と構造および/または機能が実質的に類似していてもよい。例えば、振動装置3200は、ハウジング3210、伝達インターフェース3230、およびハウジング部分3225aおよび3225bを含むことができる。振動装置3200は、
図37に示す矢印Fの方向に沿って振動要素として作用する磁石3223を移動させる磁場を生成するように構成された電磁コイル3224を含みうる。
【0113】
磁石3223は、金属エンドプレート3229aおよび3229bを含むことができる。エンドプレート3229aおよび3229bは、振動装置2800を参照して記載したエンドプレート2829aおよび2829bと実質的に類似していてもよい。一実施形態では、金属エンドプレート3229aおよび3229bは、低炭素鋼から作製することができる。金属エンドプレート3229aおよび3229bは、コイル3224に対して垂直な方向に磁力線を集束させながら、水平方向の磁場の漂遊損失または漏洩を低減させるように構成することができる。
【0114】
振動装置3200は、磁石3223の移動を懸架し支持するように構成されたサスペンション要素3220(例えば、ばね)を含むことができる。サスペンション要素3220は、振動装置2800を参照して前述したサスペンション要素2820aおよび2820bと構造および/または機能が実質的に類似していてもよい。例えば、サスペンション要素3220は、一つ以上の材料の環状部片であってもよい。環状部片を、
図37に示すように、金属エンドプレート3229bを介して磁石3223に結合することができる。サスペンション要素3220は、金属エンドプレート3229bに任意の適切な様式で結合され(例えば、接着剤で接着され)、コイル3224によって発生する磁場が矢印Fに示す方向において平衡点を中心に磁石を移動させることができるように平衡点で磁石3223を懸架するように構成することができる。振動装置2800と同様に、サスペンション要素3220は、装置3200の全高を減少させると同時に、矢印Fによって画定される軸の外側での磁石3223の軸外移動または揺動を減少させるようにも構成できる。さらに、サスペンション要素3220はエンドプレート3229bとコイル3224との間に配置されるため、振動装置3200の横方向寸法も、
図32Aおよび32Bに示す振動装置2800に対して減少させることができる。例えば、サスペンション要素3220は、サスペンション要素3220が一つ以上の方向における磁石3223の前後振動を低減するように、磁石3223の移動軸に対して角度を成す一つ以上の方向で復元力を提供するように伸長および収縮するように構成することができる。
【0115】
一部の実施形態では、磁石3223の安定化を高めるために、追加の構成要素(例えば、ピン521などのポストまたはピン)を追加することができ、磁石3223は、振動装置500の磁石523と同様に、磁石3223を通して構成要素を受け入れる開口部を有するように構成することができる。
【0116】
図46A、46B、47、および48は、本明細書に開示される実施形態による、例示的な振動装置4100の異なる図を示す。
図46Aおよび46Bは、振動装置4100の異なる斜視図を示す。
図47は、振動装置4100の分解図を示す。
図48は、振動装置4100の断面図を示す。振動装置4100は、本明細書に記載する他の振動装置の構成要素と構造的および/または機能的に類似する構成要素を含むことができる。例えば、振動装置は、ハウジング4110、伝達インターフェース4130、電磁コイル4124、磁石4123として実装された振動要素、およびばね4120として実装されたサスペンション要素を含むことができる。
【0117】
ハウジング4110は、振動装置4100の一つ以上の他の構成要素を受けるための内部空間4110cを共に画定する一つ以上の部分4110a、4110bから形成されうる。例えば、磁石4123、電磁コイル4124、ばね4120などを、空間4110c内に受け入れることができる。本明細書に記載したその他の磁石(例えば、磁石723、2523)と類似した磁石4123は、ばね4120がそれを通って延在することができるくぼみまたは穴を含むことができる。一部の実施形態では、磁石4123は、その全長を貫通する穴を含むことができ、それゆえ、ばね4120は、磁石4123を貫通して延び、磁石4123の上部端部に取り付けられたプレートまたはキャップ4128に取り付けられる。あるいは、磁石4123は、磁石4123の一部の長さを通って延在するくぼみを有してもよく、ばね4120は、くぼみ内に延在し、磁石4123の一部分(例えば、磁石4123の上部)に取り付けることができる。一部の実施形態では、磁石4123は、その二つの端部で二つのエンドプレートによって境界を付けることができ、これは、振動装置2500に関して上記でより詳細に説明するように、コイル4124によって生成する磁力線を集束させるように構成することができる。磁石4123は、ばね4120によって懸架されている間、軸Gに沿って、すなわち、ばね4120の長手方向軸に平行な軸に沿って振動することができる。ばね4120の他方の端部は、ハウジング4110の一部分4110bに画定されるくぼみ4110d内に延在し、ハウジング4110に取り付けることができる。ばね4120と磁石4123および/またはハウジング4110との間の取り付けは、接着剤、溶接、摩擦、ねじ、または任意の他の適切な機構を介して行うことができる。
【0118】
コイル4124は、磁石4123を軸Gに沿って移動させる磁場を生成するように構成することができる。コイル4124を、磁石4123の少なくとも一部分の周りで空間4110c内に配置することができる。コイル4124は、磁石4123の移動を駆動する信号を生成するために、回路(例えば、集積回路4106上)に動作可能に結合することができる。一部の実施形態では、振動装置4100は、装置に(例えば、コイル4124に結合された信号発生装置に)電力を供給するための搭載バッテリまたは電源を含むことができる。
【0119】
一部の実施形態では、ハウジング4110は、図示されていないヘッドバンドまたは他の支持要素(例えば、支持要素418)の取り付けを可能にするための一つ以上のループ、ラッチ、フック、またはその他の適切な取り付け機構を含むことができる。一部の実施形態では、ハウジング4110は、ポートまたは開口部4150を画定することができる。一部の実施形態では、ポート4150は、装置内外への空気の流体連通を可能にすることができる。こうした連通によって、空気が装置に出入りし、空間4110c内で磁石4123が振動する中での、振動装置4100内での圧力および/または熱の蓄積を防止または減少させることができる。別の方法としては、一部の実施形態では、ハウジング4110を、周囲環境から流体的に分離された閉空間または密封空間4110cを画定するように構成することができる。こうした実施形態は、振動装置4110が水中、または装置4100の内部回路および構成要素を潜在的に損傷しうる他の環境で使用することができる用途に適切でありうる。一部の実施形態では、ポート4150を、例えば、プリント回路基板または他の回路および/または電子機器(例えば、制御ユニット、センサ(複数可)など)が、振動装置への有線接続を介して結合される場合に、装置内外に電気接続を通すために使用することができる。
【0120】
振動装置4100のその他の構成要素および/または機能、ならびにこうした構成要素および/または機能性の変形は、本明細書に記載される他の振動装置のものと同様であり、したがって、振動装置4100に関しては再び繰り返さない。こうした構成要素、機能、および/またはそれらの変形は、本明細書に記載される他の振動装置の関連する説明を参照することによって理解されうる。
【0121】
図49~52は、本明細書に開示される実施形態による、例示的な振動装置4200の異なる図を提供する。
図49は、振動装置4200の斜視図を示す。
図50は、振動装置4200の分解図を示す。
図51は、振動装置4200の断面図を示す。
図52は、振動装置4200の振動質量(例えば、磁石4223、エンドプレート4229a、4229b)およびサスペンション要素またはばね4220a、4220bの拡大図を示す。振動装置4200は、本明細書に記載する他の振動装置の構成要素と構造的および/または機能的に類似する構成要素を含むことができる。例えば、振動装置は、ハウジング4210、伝達インターフェース4230、電磁コイル4224、磁石4223として実装された振動要素、およびばね4120a、4120bとして実装されたサスペンション要素を含むことができる。
【0122】
本明細書に記載する他のハウジングと同様に、ハウジング4210は、振動装置4210の他の構成要素を受けるための内部空間を共に画定する一つ以上の部分4210a、4210bから形成されうる。一部の実施形態では、ハウジング4210は、振動装置4100と同様に、装置内に電気線を受け入れ、および/または装置内外への空気の流体連通を可能にすることができる開口部またはポート4250を画定することができる。あるいは、ハウジング4210は、振動装置4210のその他の構成要素をハウジングするための密封空間または区画を画定することができる。
【0123】
磁石4223は、磁石2823と構造的および機能的に類似していてもよく、磁石4223は金属エンドプレート4229a、4229bを含む。金属エンドプレート4229aは、磁石4223と実質的に類似する直径を有してもよく、一方で、金属エンドプレート4229bは、磁石4223および/または金属エンドプレート4229aを囲む一部分を含むことができる。二つのエンドプレート4229a、4229bは、コイル4224によって生成する磁力線を集束させるように構成することができる。
【0124】
サスペンション要素またはばね4220a、4220bは、磁石4223の移動を懸架および支持するように構成することができる。ばね4220a、4220bは、金属から作製され、概して平坦な構造を有することができる。ばね4220a、4220bは、金属から作製されることによって、例えば、ゴム製ばねと比較して、経時的により一貫した磁石4223の移動を維持するなど、装置4200により高い一貫性、耐久性、および寿命を提供する。ばね4220a、4220bは、磁石4223および/または金属エンドプレート4229a、4229bの周囲の周りにコイル状にする、または巻き付けることができる。磁石4223から長手方向に延在するのではなく、ばね4220aおよび4220bを磁石4223から横方向に延在させることによって、ばね4220a、4220bは、装置4200の全高の低減を可能にしつつ、矢印Hによって画定される軸の外側での磁石4223の軸外移動または揺動を減少させることができる。一部の実施形態では、ばね4220aまたは4220bを、磁石4223の横方向移動または軸外移動をさらに低減するために、反対方向に巻き付けるかコイル状にすることができる。磁石4223および/または金属エンドプレート4229a、4229bを、ばね4220a、4220bによって画定される開口部を通って移動するように構成することができる。ばね4220a、4220bと磁石4223および/またはハウジング4210との間の取り付けは、接着剤、溶接、摩擦、ねじ、または任意の他の適切な機構を介して行うことができる。
【0125】
一部の実施形態では、磁石4223および/または磁石に結合された金属エンドプレート4229a、4229bは、空気が磁石4223の側面の間を通過することを可能にする一つ以上の開口部または穴4223aを含みうる。空気が磁石4223の側面の間を通過することを可能にすることによって、振動装置4200は、例えば、磁石4223が封止されたハウジング4210内にある時に、磁石4223のいずれかの側面に蓄積される圧力を減少させることによって、より効率的に動作することができる。これらの穴がない場合、磁石4223の移動は剛性を増加させる圧力を生成することができ、これは、装置4200の共振(例えば、装置の振動周波数(例えば、基本周波数))を増加させることができる。磁石4223および/または金属エンドプレート4229a、4229bに穴を追加することによって、装置4200の剛性を減少させ、装置4200の基本共振周波数または最低共振周波数を低下させることができる。
【0126】
振動装置4200のその他の構成要素および/または機能、ならびにこうした構成要素および/または機能性の変形は、本明細書に記載される他の振動装置のものと同様であり、したがって、振動装置4200に関しては再び繰り返さない。こうした構成要素、機能、および/またはそれらの変形は、本明細書に記載される他の振動装置の関連する説明を参照することによって理解されうる。
【0127】
III. センサとフィードバック
本明細書に記載される実施形態では、対象者の前庭系に骨伝導を介して伝導されうる振動信号を印加する振動装置を、このような疾患および/またはそのような疾患に関連する症状を治療するために使用することができる。例えば、本明細書に記載される研究から、特定の頻度および力範囲内の振動装置は、回転性めまい、浮動性めまい、中毒性難聴、前庭毒性、動揺病、仮想現実酔い、空間的不一致、ソパイト症候群、および/または吐き気を含む前庭疾患および前庭神経症によってもたらされる症状の軽減において治療効果であることが示されている。これらの症状の発症は、例えば、皮膚伝導、脳波図(EEG)によって測定される脳波パターン、筋電図検査(EMG)、体温、眼の移動、心拍数、心電図(EKG)を介して測定した心臓波形(すなわち、PQRST波形)、血圧、酸素飽和(例えば、SpO2)、呼吸信号、神経誘発電位(例えば、迷走神経モニタリング)、汗毒性、ストレスホルモン値(例えば、コルチゾール値)を含む、対象者の生体認証を監視することによって予測することができる。追加的または別の方法として、これらの症状の発症は、例えば、周囲音、温度、振動/揺れ、位置、移動、加速度、位置、および周囲気圧を含む環境指標を監視することによっても予測することができる。
【0128】
一部の実施形態では、治療用振動装置または骨伝導装置を、一つ以上のセンサ(例えば、生体認証センサ、環境センサなど)と併用することもできる。センサは、振動装置に組み込まれてもよく、および/または振動装置に動作可能に結合されてもよい。プロセッサを使用して、(例えば、一つ以上のセンサによって収集されたデータを監視することによって)症状の発症または症状のサブセットを監視し、生体認証および/または環境指標フィードバックに基づき振動装置の動作(例えば、振動装置をオンまたはオフにし、振動の力レベルまたは周波数を変化させる)を制御することができる。一部の実施形態では、プロセッサはまた、例えば、生体認証および/または環境指標の監視に基づいて、前庭疾患および前庭神経症の頻度、重症度、および持続時間の過去の傾向を記録してもよい。センサおよび/またはプロセッサは、例えば、有線接続および/または無線接続を介して、振動装置と通信できる振動装置または別個の装置(複数可)の一部に、物理的に接続または結合することができる。
【0129】
図4Aを参照して上述したように、振動装置350は、一つ以上のセンサ390を含むことができる。センサ390を、対象者および/または他の生体認証の前庭系に関連する情報を測定するように構成することができる。随意で、センサ(複数可)390は、対象者を取り囲む環境に関連する情報を測定するように構成することができる。
図4Aに示すように、センサ(複数可)390は、プロセッサ364を含む制御ユニット360に動作可能に結合されうる。この結合を介したセンサ390は、一つ以上の生体認証および/または環境指標に関連する情報を制御ユニット360に伝達することができる。次に、制御ユニット360(例えば、プロセッサ364を介して)は、前庭系に関連する症状の発症および/または症状のサブセットを示しうる生体認証および/または環境指標データに基づき、振動装置(例えば、振動装置300)の動作を制御できる。例えば、症状の発症を検出すると、制御ユニット360は、信号発生装置370および/またはアンプ380を起動して、振動装置300に給電する電気信号を提供し、および/または対象者に印加される振動信号の周波数および/または力レベルを変えるように、電気信号の一つ以上のパラメータを調整することができる。
【0130】
一部の実施形態では、(例えば、センサ390によって測定される)皮膚伝導を使用して、例えば、吐き気などの生理学的状態の発症、サブセット、および/または重症度などのユーザーの生理学的状態の変化を検出することができる。例えば、吐き気はしばしば断続的に発現し、毎回により熱っぽい感覚をもたらし、発汗の増加に至る。皮膚伝導は、例えば、吐き気からの汗により皮膚の抵抗率を低下させる(すなわち、皮膚伝導を増加させる)際に、吐き気の重症度と相関する可能性がある。これらの皮膚伝導の増加は、断続的な吐き気と併せて急増加することが多い。したがって、皮膚伝導は、吐き気の発現を制御ユニットおよび/またはプロセッサに合図するために使用できる生体認証インジケータとすることができる。次に、プロセッサは、振動装置の電源を入れ(例えば、振動要素に振動信号を生成させる電気信号を供給する信号発生装置を起動する)、および/または振動装置への電力を増加させることができる。一部の実施形態では、プロセッサは、例えば、所定の時間内の一定量および/または一定率よりも大きい皮膚伝導の変化などの皮膚伝導の急激な変化などの、皮膚伝導の急増加に応答して、振動装置の電源を入れ、および/または電力を増加させることができる。一部の実施形態では、プロセッサは、特定の閾値を超える皮膚伝導の上昇に応答して、振動装置の電源を入れ、および/または電力を増加させることができる。例えば、個人のベースライン皮膚伝導として2μSと設定されている場合、皮膚伝導が6μS以上に上昇すると、変換器の力レベルを調整することができる。
【0131】
図39は、報告された吐き気の関数としての皮膚伝導の例示的な変化を示すグラフ3700である。図示されるように、皮膚伝導は、吐き気の増加とともに増加し、吐き気レベルの増加に沿って様々なポイントで皮膚伝導の急増加を伴う。
【0132】
一部の実施形態では、(例えば、センサ390によって測定される)脳波活性の変化を使用して、吐き気の発症、サブセット、および/または重症度を検出することができる。EEGによって監視される脳波の分析は、対象者が吐き気を経験する傾向に近づいているか、吐き気を経験する傾向から遠遠ざかっているかに関する予測ツールでありうる。例えば、対象者のEEGデータの多変量正規確率密度関数(MVNPDF)が0の場合、吐き気の可能性は低い。別の言い方をすれば、EEGデータのMVNPDFが1の場合、吐き気の可能性が高い。したがって、EEGデータのMVNPDFの時間平均を、吐き気の発現の生体認証指標として使用することができる。プロセッサは、この時間平均を監視し、時間平均に基づき、振動装置に供給される電力を調整することができる。例えば、MVNPDFの時間平均が増加すると、プロセッサは振動装置への電力をオンおよび/または増加させることができる。あるいは、MVNPDFの時間平均が減少する時、プロセッサは振動装置の電源を切り、および/または電力を減少させることができる。一部の実施形態では、別の生体認証指標は、(平均または瞬時の)MVNPDFが特定の所定閾値を上回るかまたは下回るかであり、この場合、振動装置への電力はそれぞれ増加または減少することができる。
【0133】
図40は、治療用振動装置または骨伝導装置を着用しつつ対象者がフライトシミュレーターに座っていた時間の関数としてのEEGデータのMVNPDFを示すグラフ3800である。より暗い線3802は、振動装置の電源を切った状態での対象者のMVNPDFを表し、より明るい線3804は、振動装置の電源を入れた状態での対象者のMVNPDFを表す。MVNPDFの傾向線はまた、点線3806、3808で示されており、装置がオフの時には右上がり(例えば、吐き気の確率の増加と関連する)、装置がオンの時には左下がり(例えば、吐き気の確率の減少と関連する)である。
【0134】
一部の実施形態では、EEGデータは、対象者の認知的負荷を測定するために使用でき、これは頭のボンヤリ感、または集中力低下を示す場合があり、そのどちらもが前庭性片頭痛および/またはめまいの症状でありうる。
【0135】
一部の実施形態では、EMGなどのセンサ(例えば、センサ390)を使用して、頸部前庭誘発筋電位(cVEMP)および眼前庭誘発筋電位(oVEMP)を測定することができる。EMGデータ(例えば、cVEMPおよび/またはoVEMP)は、例えば、前庭疾患および/または前庭神経症の診断に使用することができる。例えば、EMGデータを使用して、筋肉の痙攣、あくび、くしゃみ、および/またはそしゃくを監視することができ、これは吐き気またはめまいなどの症状の発現を示す場合がある。次に、プロセッサは、例えば、EMG指標の突然もしくは素早い変化に基づき、またはEMGデータが一つ以上の所定閾値を上回るまたは下回る場合に、振動装置への電力を調節(例えば、調整)することができる。
【0136】
一部の実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、体温を測定することができる。例えば、体温の上昇は、吐き気の発症を合図することができる。体温は自然に変動するが、急上昇または急上昇は吐き気の発現を示す兆候である可能性がある。したがって、吐き気の発現を示す生体認証指標は、例えば、体温の急増加(例えば、短期間内での一定量および/または一定率よりも大きい体温の変化)、所定閾値を超える体温の上昇などを含みうる。考慮すべき他の要因としては、例えば、周囲温度、対象者の運動度(例えば、対象者の活動状態またはユーザーの活動レベル)などが挙げられ、これらは他のセンサ(複数可)を使用して検出することができる。一部の実施形態では、体温の変化(または他の生物学的特性の変化)が吐き気および/または他の要因に起因するかどうかを判定するために、追加のセンサ(例えば、温度計または運動センサ)を、体温センサ(または本明細書に記載する他のセンサ、例えば、皮膚伝導センサ、心拍数センサなど)と併用してもよい。例えば、温度計を使用して周囲温度を測定することができ、運動センサ、加速度計、または他のセンサからのデータを使用して、ユーザーの活動状態(例えば、休息、運動など)および/または活動レベル(例えば、軽い運動、激しい運動)を決定することができる。一部の実施形態では、追加のセンサによって収集されるデータを使用して、体温データを評価して吐き気の発現を決定するために使用される閾値または他のパラメータを調整することができる。プロセッサは、このデータを監視し、データに基づき、その閾値を調整し、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0137】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、対象者の眼に関連する変化、例えば、眼の瞳孔の変化、眼の動き、およびまぶたの運動を測定することができる。こうしたバイオメトリクスは、例えば、回転性めまい、浮動性めまい、およびソパイト(sopite)を含む症状の指標であり得る。例えば、眼振、瞳孔の拡張および収縮、ならびに/またはまばたきの速度もしくは頻度の変化は、こうした症状の発症を示し得る。したがって、こうした症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば、眼振、瞳孔直径の突然のもしくは速い変化、瞳孔直径が1つ以上の所定の閾値を上回って上昇するかもしくはそれを下回って低下すること、まばたきの頻度の増加、(例えば、所定の閾値を下回る)まぶたの開閉の速度の減少、および/またはまぶたがより長い期間にわたって(例えば、所定の閾値よりも長く)閉じていることを観察するか、または検出することが含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0138】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、対象者の心拍数を測定することができる。心拍数は、例えば前庭疾患または前庭障害に関連する、悪心および他の症状の発症と共に上昇および下降し得る。例えば、悪心が最初に発症する場合、心拍数は、例えば悪心を測定するための視覚的アナログ尺度で対象者が10のうちの6と報告するまで、特定のレベルまで増加し得る。しかしながら、特定のレベルの悪心の発症では、対象者は、体内に毒素を拡散させることに対する予防として起こり得る、心拍数の急速な低下を経験し得る。したがって、悪心の発症のバイオメトリック指標には、例えば、心拍数の増加または上昇(例えば、所定の値よりも大きい心拍数の変化率、または所定の量またはパーセンテージよりも大きい変化の量またはパーセンテージ)、心拍数の急速な低下または減少などが含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0139】
図41Aは、悪心の関数としての心拍数のグラフ3900であり、悪心の増加と共に心拍数の初期増加を示し、その後、悪心レベルが増加し続けるにつれて心拍数の低下を示す。
【0140】
いくつかの実施形態では、EKG装置などのセンサ(例えば、センサ390)を使用して、対象者の心拍または心臓波形を測定することができる。
図41Bは、P、Q、R、S、およびT点が標識されている心拍波形4000の例を示す。心拍波形、例えば、心拍波形のPQRS点間の相対的位置は、様々な生理学的状態に関連する症状の発症と共に変化し得る。EKGを使用して、対象者の心拍波形をプロセッサによって監視することができる。したがって、症状の発症のバイオメトリック指標は、例えば心拍波形が変化するかまたはベースラインへ戻ることを、含み得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0141】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、血圧を測定することができる。血圧は、様々な生理学的状態に関連する症状の発症と共に変化し得る。したがって、症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば血圧の変化、特定の閾値を上回って上昇するかまたは下回って低下する血圧などが、含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0142】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、血液中の酸素飽和度を測定することができる。血液中の酸素飽和度は、様々な生理学的状態に関連する症状の発症と共に変化し得る。したがって、症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば酸素飽和度の急速な変化、酸素飽和度が特定の閾値を上回って上昇するかまたは下回って低下することなどが、含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0143】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、神経誘発電位(例えば、迷走神経モニタリング)を測定することができる。神経誘発電位(例えば、迷走神経モニタリング)は、様々な生理学的状態に関連する症状の発症と共に変化し得る。したがって、症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば誘発電位の急速な変化、特定の閾値を上回って上昇するかまたは下回って低下する電位化合物活性(potential compound activity)などが、含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0144】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、汗毒性学(sweat toxicology)(例えば、エタノールモニタリング)を測定することができる。症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば汗でにじみ出る測定される化学物質(例えば、代謝産物)の急速な変化、特定の閾値を上回って上昇するかまたは下回って低下する特定の測定される化学的汗毒性メトリックなどが、含まれ得る。プロセッサは、これらの指標のうちの1つ以上を監視し、指標に基づいて、振動装置に供給される電力および/または振動装置の他のパラメータを調整して、振動信号の、周波数、力レベルなどに影響を与えることができる。
【0145】
いくつかの実施形態では、センサ(例えば、センサ390)を使用して、ストレスホルモン(例えば、コルチゾール)を測定することができる。ストレスホルモン(例えば、コルチゾール)は、様々な生理学的状態に関連する症状の発症と共に変化し得る。したがって、症状の発症のバイオメトリック指標には、例えば汗でにじみ出る測定されるストレスホルモンの急速な変化、特定の閾値を上回って上昇するかまたは下回って低下する特定の測定されるホルモンメトリックなどが、含まれ得る。
【0146】
振動装置または骨伝導装置のいくつかの構成は、1つ以上のバイオメトリックセンサを、それらが正確なまたは信頼できるデータを受信できるエリアに、統合および/または結合することを可能にする。例えば、耳の周りのエリアは、心拍数、体温、および酸素飽和度を測定するのに効果的であることが見出されている。別の例として、額は、皮膚コンダクタンス(skin conductance)を測定するための効果的な場所であることが見出されている。センサを配置するのに有益であり得る追加的な位置としては、耳介、外耳道、首、乳様突起、手首、および指が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
図42は、耳または耳道の近くおよび額上に配置された、センサ3390、3394を有する振動装置または骨伝導装置3300の例である。
【0148】
図43は、ヘッドバンド3418を含む振動装置または骨伝導装置3400の例であり、ここでセンサ(複数可)はヘッドバンド3418に沿って対象者のヘッドの周りに配置することができる。
【0149】
図44は、振動装置または骨伝導装置3500の例であり、センサ(複数可)3590は、耳の周りに配置され得る。
【0150】
図53は、補聴器および/または耳鳴りマスカーに取り付けられるかまたは統合される、振動装置4300の別の例である。難聴および耳鳴りは、しばしば、回転性めまい、または例えばメニエール病などの他の前庭機能障害との併存症であるので、前庭刺激を提供するために設計された装置(例えば、本明細書に記載される振動装置など)は、他の治療法と組み合わされ得る。いくつかの実施形態では、複数の機能(例えば、補聴器、耳鳴りマスカー、前庭刺激)を同時に使用することができ、かつ互いに独立してオンおよびオフにすることができる。いくつかの実施形態では、1つ以上のセンサ4390は、補聴器に取り付けられるかまたは統合され得る。
【0151】
異なるバイオメトリックおよび/または環境メトリクスを測定するために、異なるタイプのセンサが本明細書に記載されているが、振動装置は、いくつかの異なるセンサと共に使用することができ、それらのセンサによって収集されるデータは、悪心の発症および/またはサブセットを予測するために、およびしたがって振動装置の動作を変更するためにプロセッサに信号を送るために、集合的に使用することができることが理解され得る。
【0152】
IV. 振動装置への給電のための電気信号
図17Aおよび
図17Bは、振動装置に給電するための電気信号の波形の例を示す。
図17Aは、波長1604および振幅1602を有する正弦波波形1600を示し、当該正弦波波形1600は、例えば、振動装置の振動要素を動かすために磁界ベクトルを調節するために、使用することができる。
図17Bは、方形波波形1610を示し、当該方形波波形1610は、例えば、上述のように、振動信号を生成するために振動装置内の圧電振動要素を調節するために、使用することができる。圧電装置は、方形波によってアクティブ化された時に高い周波数で振動して圧力を生成することができ、方形波は、圧力が、より低い調節の周波数(例えば、60Hz)でオンおよびオフでサイクルして低い周波数の振動信号と同様に機能するように、より低い周波数(例えば、200Hz未満)でサイクルすることができる。
【0153】
図18は、振動装置に給電して振動信号を生成するための、電気信号のランプアップおよびランプダウンを示すグラフ1700である。グラフ1700は、電気信号の振幅が経時的にどのように変化するかを示す。
図18に示すように、振幅は、オンセットフェーズ1702の間にランプアップされることができ、そこでは、振幅は、所定の速度で増加する。所定のレベルに到達すると、振幅は、定常状態フェーズ1706の間、一定に保たれ、当該定常状態フェーズ1706は、前庭状態を治療するための任意の適切な時間量の間(破線で表される)、継続してもよい。その後、振幅は、信号がオフになるまで、所定の速度でランプダウンされ得る。波形のオンセットフェーズ1702とオフセットフェーズ1704は、
図18に示すように、異なるランププロファイルを有し得る。例えば、オンセットフェーズ1702における印加電圧振幅の増加は、単位時間当たりの振幅の特定の増加率で、ランプされる増加とすることができる。そして、オフセットフェーズ1704は、増加率のものとは異なる、単位時間当たりの振幅の特定の減少率による、振幅の下向きランプ、またはランプされる減少とすることができる。いくつかの実施形態では、オンセットフェーズ1702における振幅の増加率は、異なる勾配によって示されるように、オフセットフェーズ1704における振幅の減少率よりも高いとすることができる。いくつかの実例では、オンセットフェーズ1702におけるランプされる増加および/またはオフセットフェーズ1704におけるランプされる減少はまた、変化する速度(例えば、経時的に増加および/または減少する速度)で達成することができる。
【0154】
いくつかの実例では、増加率および/または減少率は、治療される前庭状態、対象者の個人的好み、環境要因などに基づいて特定され得る。いくつかの実施形態では、振幅の増加率および/または減少率は、ユーザーによって調整され得る。いくつかの実施形態では、振幅の、速度もしくは増加および/または減少率は、センサ読取り値に基づいて、(例えば、制御ユニット360によって)自動的に調整され得る。例えば、振動装置に統合されたセンサは、振動装置がパワーオンおよび/またはパワーオフするときに身体的または生理学的状態および/または反応(例えば、発汗、温度、心拍数の変化など)を測定するように、構成され得る。身体的状態および/または反応を監視することによって、ランプアップおよび/またはランプダウン速度は、(例えば、装置のより習慣的なユーザーに対して、より感受性が高いかまたは初めてのユーザーによる)異なる反応に適応するように調整され得る。さらに、慢性状態(例えば、回転性めまい、耳鳴り)を患う対象者にとって、ランプアップおよび/またはランプダウンは、例えば前庭状態の突然の再発、および前庭状態に関連する症状のより強い発症などの、装置のオンおよび/またはオフの間の移行による不快な影響を低減するように選択され得る。
【0155】
V.方法
図19は、本明細書に開示される前庭状態に関連する症状を治療するための振動装置(例えば、振動装置300、400、500、600、700など)を使用するための方法1800を示す。1802で、振動装置は、対象者またはユーザーの、頭部上に配置される。配置は、振動信号が対象者の前庭系に効果的に伝達され得るように、適切なエリア(例えば、適切な骨構造上)上にある。
【0156】
1804で、電気信号は、振動装置に供給されて、装置を通電して振動装置内の振動要素の動きを引き起こす。1805で、振動信号は、対象者の頭部に加えられて、前庭状態を治療する。1806で、例えば電流、電圧、磁界変動などを含む、通電された振動装置に関連する情報が、監視される。1808で、対象者の生理学的状態および/または快適さレベルが、監視される。例えば、対象者の心拍数、発汗、温度、呼吸、酸素飽和度などの生理学的兆候が、監視され得る。いくつかの実例では、ユーザーによって知覚される快適さまたは不快感のレベルを報告するフィードバックなどの、対象者からのあらゆるフィードバックが、振動装置と統合された適切なセンサおよびアクチュエータを使用して監視され得る。1806および1808でのこうした監視は、1つ以上のセンサ(複数可)(例えば、センサ390、センサ416)、および/または制御ユニット(例えば、制御ユニット360)を使用して達成することができる。
【0157】
1810で、振動装置、および/または振動装置に結合された制御ユニットは、電気信号が調整または変更されるべきかどうかを決定する。電気信号を調整する必要がない場合(1810:いいえ)、振動装置は、上述のように、1805で前庭状態を治療し続け、1806で振動装置に関連する情報を監視し続け、1808で対象者に関連する情報を監視し続けることができる。
【0158】
電気信号を調整する必要がある場合(1810:はい)、上述のようにフローチャートに従って、1812で電気信号の周波数または力レベルが変化し、1804で新しい電気信号が振動装置に加えられる。振動装置を監視することによっておよび対象者を監視することによって収集される情報は、力レベルおよび/または周波数を、変更する必要があるかどうか、ならびにどのくらい、およびどんな形態で変更する必要があるかを決定するために使用することができる。例えば、測定される電圧、電流、および/または磁界変動が、現在の周波数が共振周波数ではないことを示す場合、周波数は、振動装置の効率を改善するために調整されてもよい。別の例として、前庭状態がもはや存在しない(例えば、動揺病がもはや存在しない)ことを示す信号が、ユーザーから受信される場合、振動装置は、(例えば、ランプダウンを介して)装置をオフにするために周波数を調整してもよい。別の例として、対象者による不快感の表示に応答して、力レベルは、減少させられてもよい。
【0159】
図45は、振動装置(例えば、1つ以上のセンサを含む、本明細書に記載の振動装置のうちのいずれか)に関連する1つ以上の構成要素によって実施され得る方法3600を示す。3602で、振動装置は、ユーザーまたは対象者に、例えば当該ユーザーの頭部または耳に、配置され得る。配置は、振動信号が標的エリア(例えば、前庭系)に効果的に伝達され得るように、適切なエリア(例えば、適切な骨構造上)上にあり得る。
【0160】
3604で、オンボードまたは外部のプロセッサまたは制御ユニット(例えば、制御ユニット360)は、例えば1つ以上のセンサ(複数可)(例えば、センサ(複数可)390)によって収集される、ユーザーのバイオメトリクスおよび/または環境メトリクスを監視し得る。1つ以上のセンサは、振動装置に統合され、かつ/または動作可能に結合され得る。3606で、プロセッサは、上述のように、例えばデータ中のスパイク、1つ以上の閾値を上回るおよび/または下回るデータなどの、バイオメトリクスおよび/または環境要因の変化を検出し得る。監視および検出に基づいて、プロセッサは、振動装置の動作を調整(例えば、振動装置をオンまたはオフにする;振動装置によって生成される振動信号、および/またはアクティブな振動装置に対して使用される信号の、周波数、力レベル、または電力を調整する;など)し得る。
【0161】
VI. 実験的な研究
前庭状態に関連する症状を治療するために、実験的な研究を実施して、本明細書に開示される振動装置の例と類似した実験的な振動装置を試験した。実験的な振動装置は、
図6に示す振動装置500と類似した、他の2つの磁石の間にサスペンドされた磁石として実装された振動要素を含んだ 振動装置は、4オームのインピーダンスを有する外側コイルを含んだのであり、これは、マイクロコントローラであるカスタム設計のArduinoボードによって通電された。マイクロコントローラは、外側コイルに通電して磁界を生成することができたのであり、当該磁界は、サスペンドされた磁石を振動させるために使用された。3つの磁石/ボイスコイルアセンブリが、本体またはハウジングの内側に配置され、かつ充電式電池に接続されかつそれによって給電された。振動装置は、ヒトの頭部に結合することができたのであり、かつ骨を介して前庭系に伝導され得る振動を、生成することができた。
【0162】
研究では、対象者は、装置によって生成された振動信号が骨を介して対象者の前庭系に伝導されることができるように、乳様突起骨に被さるエリアに当たって耳の後ろに配置された実験的な振動装置を着用した。対象者は、動揺病、悪心、および/または他の前庭状態を誘発するために様々な状態にさらされたのであり、振動装置の効果は、対象者によって報告された情報に基づいて評価された。
【0163】
実験については、振動装置によって生成される振動の力レベルを、B&K騒音計(No.2234)と結合された、較正されたブリュエル・ケアー(B&K)人工乳様突起(No.4930)で測定した。振動装置は、骨伝導補聴器を保持するように設計されたB&K人工乳様突起のホルダに挿入された。3.5~8ニュートンの力が、振動装置の上にかけられたのであり、当該振動装置が、B&K人工乳様突起に当てて置かれた。骨伝導レベルは、B&K騒音計で定量化されたのであり、dB re 1dyne(すなわち、力レベル)で表される。
【0164】
研究の各々に関するさらなる情報は、以下に提供される。
【0165】
実験的な研究I
図20Aは、第1の実験的な研究のための手順のフローチャート1900を示す。この第1の実験的な研究における研究参加者は、めまいを含む前庭疾患の病歴を経ていなかった。研究期間中、参加者は、オフィスチェアに着席させられ、上述の設計例に従って、Oculus Rift DK2仮想現実システムおよび振動装置を着用するよう求められた。振動装置は、頭部ストラップで定位置に保持された。
【0166】
研究は、
図20Aに概説される試験手順に従って実施された 。各参加者は、試験手順を複数回経たのであり、最初は振動装置をオフにされ、次いで振動装置をオンされた。オンにされた振動装置での試験中、振動装置の周波数および/または力レベルは、特定の周波数および/または力レベルが仮想現実装置の使用に関連する前庭状態を治療する上でより効果的であるかどうかを試験するために、変化させられた。試験中、周波数および/または力レベルの順序を参加者間で無作為化した。参加者はまた、いつでも研究を中断して、仮想現実装置の使用によって引き起こされるめまいまたは他の前庭状態から回復する機会を与えられた。
【0167】
1902で、参加者は、
図20Bに示す視覚的刺激1950を、仮想現実装置のディスプレイを介して与えられる。視覚的刺激1950は、複数の球1954を有する円盤形状の領域1956を含む。参加者は、円盤形状の領域1956内の球1954のうちの残りとは異なる色相の、中央の球1952に注意を集中するように指示された。ディスク形状の領域1956は、Oculus Riftなどの仮想現実装置を使用して見ることができる、三次元空間を表すように設計された。
【0168】
1904で、参加者は、キーボードのスペースバーを押すことによって、円盤形状の領域1956内の球1954の、中央の点(すなわち、中央の球1952)の周りの回転を開始する。1906で、スペースバーを押すと、球1954は、4度/秒/秒の比率で徐々に加速してスピンを始める。1908および1909で、参加者は、不快感またはめまいを感じたときにスペースバーを再び押すように指示されたのであり、その時点で、スピンしている球1954の角速度は、記録されて、その参加者についての「最大角速度」として記憶される。特定の参加者が、不快感またはめまいを示すためにスペースバーを押さなかった場合、球1954の角速度は、所定の角速度である90度/秒に到達するまで増加した。
【0169】
1910では、画像の角速度は、ユーザーの指定前の速度の90%(すなわち、最大角速度として記録される速度の90%)に低減されるか、または参加者がスペースバーを押さなかった場合、90度/秒の90%(すなわち、81度/秒)に低減される。球体1954は、1911で、参加者が再びスペースバーを押して不快感またはめまいの戻りを示すまで、または1912で所定の時間(例えば、120秒)が経過するまで、減速して回転する。1911で参加者が指定するか、または1912で所定の時間が経過するかのいずれかで、参加者が、減速して円盤形状の領域1956を視聴した時間を「視聴時間の長さ」として記録する。
【0170】
所与の参加者について、参加者は、まず振動装置の電源を切った状態で試験手順を実施するよう求められた。参加者は、試験手順を2回実行し、第1回は球体1954が時計回りに回転し、第2回は球体1954が反時計回りに回転する。次いで、同じことが、振動装置の電源を入れた状態で繰り返される。試験参加者は、振動装置を耳の後ろに装着し、乳様突起骨の扁平な部分に外耳道と同じ高さにするように求められた。参加者は、必要に応じて、不快感またはめまいから回復するために、時計回りと反時計回りの検査(例えば、10~60秒)の間で休息する時間を与えられた。
【0171】
振動装置を使用している間に、参加者は、異なる力レベルのセットまたは異なる周波数のセットのいずれかを試験するように求められた。異なる力レベルを試験した参加者については、振動信号の 周波数を一定に保ち(すなわち、50Hz)、力レベルを87、92、94、96、98、99、100、および101dB re 1 dyneに設定した。異なる周波数を試験した参加者については、振動信号のパワーレベルを一定レベルに設定し(すなわち、96.5dB re 1 dyne)、周波数を30~75Hzの間で変化させた。
【0172】
18名の参加者が研究に参加した。この研究にボランティアで参加したこれらの参加者の約3分の1は、実験による動揺病を経験していない。これらの参加者は、提示された視覚刺激(
図20B)を、回転する球体1954が90度/秒になるまで見た後、減速して120秒間視覚刺激を見続けた。これらの動揺病を起こしにくい参加者には、振動装置の振動が動揺病を引き起こすかどうかを調べるために、振動装置の電源を入れた状態で視覚刺激の暴露を繰り返すよう指示した。これらの参加者のいずれも、振動装置の振動を97dB re 1 dyne以下に設定した振動装置の使用中および使用後に、何ら悪影響を受けたとは報告しなかった。
【0173】
残りの11人の参加者(すなわち、実験研究中のある時点で動揺病やめまいを経験したと答えた参加者)の実験データを、
図21A、
図21B、
図22A、および
図22Bに示す。
図21A、
図21B、
図22A、および
図22Bに描かれたグラフのデータポイントについては、各試験条件で各参加者の時計回りと反時計回りの「最大角速度」と「視聴時間」を平均し、「振動装置あり」のデータを「振動装置なし」のデータ(すなわち、振動装置を使用しているときに参加者が収集したデータ)に基づいてベースラインで正規化した。各参加者に対してこれらの比率を計算した後、11人の参加者の比率を平均して、
図21A、
図21B、
図22A、および
図22Bに示す。
【0174】
図21Aは、異なる力レベルの範囲にわたる11人の参加者の平均「視聴時間」比のグラフ2000を示す。1より大きな値は、振動装置を使用しているときに不快感を起こすまでの視聴時間が、振動装置を使用していないときよりも長くなることを示す。
図21Bは、異なる力レベルの範囲にわたる11人の参加者の平均「最大角速度」比のグラフ2002を示す。
図21Bで1より大きな値は、振動装置を使用しているときに、振動装置を使用していないときと比較して、不快感を起こさない角速度の増加を示す。実験データによると、11人の参加者において、振動装置の振動の力レベルを96dB re 1 dyneに設定したときに、振動装置の効果が最も大きくなることがわかった。データを補間してフィットさせた結果、「視聴時間」と「最大角速度」の比率は96.5dB re 1 dyneでピークに達した。93dB~98dBの範囲の力レベルの「視聴時間」と「最大角速度」の比率は、統計的に有意な差があり、1よりも大きかったことから、これらの力レベルに設定された振動装置は前庭疾患の治療に有効であることが示された。
【0175】
87dB re 1 dyneでは、比は1と統計的に異なっておらず、前庭状態の治療にデバイスは有効でないことを示した。100dB re 1 dyne以上のレベルで、多くの参加者が、振動装置の電源がオンになった時に、具合が悪くなったと報告した。これらの高い力レベルの不快感の閾値は参加者間でわずかに異なり、99dBという低いレベルの不快感を報告する者もいたが、特定の参加者がその閾値に達すると、参加者は振動によりほぼすぐに不快感を起こしたと報告した。102dBで試験した参加者は、仮想現実システムを使用しているかどうかに関わらず、振動装置からの振動だけで不快感を起こしたと報告している。
【0176】
図22Aおよび
図22Bは、11人の参加者の「視聴時間」と「最大角速度」の比率を、周波数の範囲で正規化し、平均化したものである。図示のように、これらの結果は、仮想現実酔いの発症の軽減または遅延における実験用振動装置の有効性は、振動信号の頻度に依存していないようであると示唆した。それにもかかわらず、グラフ2100および2102は、45~65Hzのより大きな比の値を示している。
【0177】
この最初の実験研究の結果は、特定の要因によって制限されている可能性がある。例えば、円盤形状の領域1956の球体1954の角速度は、視覚的表示システムによって制限された。具体的には、Oculus DK2画面のリフレッシュレートは90Hzである。デバイスのパネルは有機LED(OLED)で、持続性は2ミリ秒である。これらの要因は、円盤形状の領域1956の球体1954の回転速度が、約90度/秒を超えて回転することを妨げた。回転速度が90度/秒を超えると、仮想現実ディスプレイが点滅し始めた。多くの試験参加者が振動装置を装着したままこの上限に達したため、測定値に天井効果が生じた。
【0178】
同様に、減速している回転球体1954を見る間、数人の被検者は、不快感または悪心を訴えることなく、目の疲れを訴えた。したがって、参加者は、回転するディスクをどのくらいの時間見ることができるかも制限され、これは、仮想現実酔いの発症を遅らせる実験的振動の有効性の測定における天井効果をもたらした別の要因であった。
【0179】
これらの要因を考慮に入れて、この最初の実験研究は、振動装置が、統計的に有意なレベルで仮想現実酔いを治療するのに有効であることを示した。
図20Aおよび
図20Bのグラフに示すデータから、力レベルの変動が振動装置の有効性に統計的に有意な効果を有することが示された。具体的には、93dB re 1 dyne未満の力レベルは前庭疾患の治療にあまり効果的ではなく、100dBを超える力レベルは特定の患者に不快感やめまいを引き起こし、前庭疾患を悪化させることが示され、したがって93dB~98dB re 1 dyneの力レベルが前庭疾患の治療に有効であることがデータから示された。一方、
図21Aおよび
図21Bのグラフに示すデータは、振動装置の有効性が45Hz~65Hzの間の明確な傾向またはピークを有していなかったため、振動周波数の変動が、前庭状態を治療する際の振動装置の有効性に対してより小さな影響を有することを示した。
【0180】
実験研究II
第2の実験研究では、上記の第1の実験研究で得られた結果を用いて、仮想現実ゲーム「EVE:Valkyrie」のユーザーが経験する動揺病を緩和または防止する実験用振動装置の効果を測定した。
【0181】
「EVE:Valkyrie」は、Xbox 360の携帯コントローラを使用して、プレーヤが宇宙船と宇宙石のフィールド内を移動する、一人称による宇宙船シューティングゲームである。このゲームは、多くのプレーヤに動揺病を引き起こすことが知られている。このゲームでは、小惑星および宇宙船のフィールドに配置されたゲートを飛び回る。3次元の空間寸法における動きに加えて、ほとんどの「ゲート」は、プレーヤが3次元回転軸(例えば、ロール軸、ピッチ軸、またはヨー軸)の周りを回転することを必要とする。
【0182】
この研究では、被験者は仮想現実ゲーム「EVE:Valkyrie」を、Oculus Rift CV1システムを使用して最大15分間使用する。試験については、参加者は、上述の実験用振動装置を使用する場合と使用しない場合とで、2つのセッションにおいて2日間連続でゲームをプレーするよう指示された。実験の1日目に、参加者は、実験振動装置を使用することなく、仮想現実ゲームのトレーニングミッション部分を最大15分間プレーするように求められた。参加者は、15分間の終点の前に吐き気を感じ始めたら、中止するように指示された。経験豊富なゲーマは、トレーニングミッションをバイパスし、仮想現実空間の戦いに直接参入して、ミッションに直接行くことができた。2日目には、同じ実験手順に従ったが、60Hzの周波数と96.5dBの力レベルに設定された実験振動装置を装着した参加者では、第1の実験研究の結果によると有効であることが分かった。デバイスは、頭蓋骨、右耳の後ろ、および外耳道と水平に、また乳様突起の扁平部分に適用され、適用された力は約3.5~8ニュートンであった。試験中、めまいや不快感を起こした参加者は、いつでも中止することができた。
【0183】
参加者は、ゲームを中止してから約10分後に、動揺病評価質問票(MSAQ)に回答するよう求められた。MSAQは、16の記述または症状を含み、それらは、(1)胃腸系、(2)中枢神経系、(3)末梢神経系、および(4)眠気関連の4つの動揺病のカテゴリに分類することによって、動揺病の独立した記述子を識別および分類するのに役立つ。MSAQスコアは、動揺病の16の症状の可能性について、1(全くない)から9(重度)まで幅がある。表1は、参加者が経験した動揺病を評価するために使用されたMSAQの16の記述を示す。
【0184】
実験研究IIで説明したOculus Riftのプレー体験終了10分後に実施した動揺病評価質問票。
【0185】
【0186】
参加者が、1日目に実験的な振動装置を装着せずに15分間プレーするよう求められたとき、17人中11人の参加者が15分間最後までプレーすることができた。残り6人のプレー時間は、4:05~14:50分の範囲であった。平均プレー時間は13分25秒であった。対照的に、参加者がプレー中に実験用振動装置を装着すると、17人の参加者全員が15分間にわたってプレーを行うことができた。MSAQからデータを収集し、表1に示す。MSAQのスコアは、1(全くない)から9(重度)の範囲である。
【0187】
MSAQの結果は、
図23Aおよび
図23Bにグラフ形式で示されている。各グラフは、デバイスを装着している間に取得されたMSAQスコアに対する、デバイスを装着していない間に取得されたMSAQスコアの比率を示す。
図23Aは、動揺病の4つのカテゴリすべてにわたるMSAQからの平均スコアを示すプロット2200を描写し、
図23Bは、MSAQによって定義される4つのカテゴリ、すなわち、(1)胃腸系、(2)中枢神経系、(3)末梢神経系、および(4)眠気関連のスコアを示す、4つのサブプロット2202、2204、2206、2208を示す。各グラフを通る線2250は、振動装置を使用した場合と使用しない場合のMSAQスコアが同じであることを表しており、したがって、振動装置が動揺病に影響を与えないことを表す線である。
【0188】
図23Aおよび
図23Bに示すように、すべてのデータポイントが線2250の下に位置していることから、データは、振動装置が動揺病の治療に有効であることを示す。データポイントは、MSAQスコアの9(重度)から1(全くない)への有意な減少を示した。
図23Bのプロット2202、2204、2206、2208に示すように、動揺病の異なるカテゴリに分けた場合でも、振動装置は、動揺病を治療する際に各カテゴリで有意に有効であった。
【0189】
実験研究III
第3の実験研究では、参加者は4ドアのセダンで後部座席の乗客になるよう依頼され、固定された20分の旅程に基づいて一区間の道路を走行した。この設定経路で、同日に3回の道路試験を実施した。各ドライブ中、参加者はスマートフォンまたはその他の小型携帯デバイスを使って記事を読むように求められた。開始時刻を記録し、各参加者は、動揺病の最初の症状を最初に感じた時刻を報告した。
【0190】
各参加者について、動揺病のベースライン測定は、いかなるタイプの補助器具を装着することなく、参加者がドライブを行い、スマートフォン上の記事を読むことによって確立された。最初のドライブの後、各参加者は、(1)右乳様骨の上に配置された本明細書に記載の実験用振動装置、または(2)外側に向けられ、ゴムパッドによって参加者の頭部から隔離され、実験用振動装置と同等の聴覚レベルを提供する低周波音を発する音声発生装置を装着するよう求められた。各デバイスを装着する順番は、各参加者に対して無作為化された。
【0191】
走行経路は、中間地点(すなわち、約10分)に1つの停止標識のみを有し、信号灯のない、固定の環状経路であった。固定経路は約20分かかり、ドライブ間変動は10%未満であった。被験者は、走行の前半でのみ、ストップサインまで試験された。被験者には、セッション間に休息を与えた。
【0192】
参加者からのフィードバックによると、参加者は継続的に動揺病を経験しているわけではなく、一般的には車両が加速、減速、またはターンしたときに動揺病を経験していることがわかった。参加者は、動揺病を累積的な効果として報告しており、最初のターンで軽い不快感を起こし、2回目のターンで最初のターンの効果が追加され、閾値に達するまで繰り返された。実験用振動装置を使用している間、参加者は、加速およびターンの際に不快感を起こしたが、車が一定の速度に戻ると不快感はすぐにゼロに戻り、車の加速度が連続的に変化する間、蓄積された吐き気の影響はなかったと報告した。
【0193】
図24は、第3の実験研究中に参加者によって経験された、動揺病の初回発症までの秒を示す。バー2302は、デバイスを使用しない場合の動揺病の初期発症までの秒を表し、バー2304は、音声発生装置を使用した場合の動揺病の初期発症までの秒を表し、バー2306は、実験用振動装置を使用した場合の動揺病の初期発症までの秒を表す。図示のように、本明細書に記載の実験用振動装置の使用は、バー2306で、動揺病の発症までの秒数の有意な増加をもたらした。具体的には、実験用振動装置は、デバイスを装着していない場合(バー2302)と音声発生装置を装着している場合(バー2304)と比較して、動揺病の発症までの時間が2倍を超えるという効果があることがわかった。本研究のデータは、車の後部座席に助手として乗りながら読書をするという実社会の状況を模擬した場合に、実験用振動装置の動揺病防止効果を示すものである。実験的振動装置を使用した被験者のいずれも、車から降りた後の不快感は報告しなかった。
【0194】
実験研究および他の指標の概要
上述の実験研究からの結果は、本明細書に開示する例示的な振動装置などの振動装置が、様々な前庭状態の症状の治療に有効であり得ることを示す。かかるデバイスは、小さな輪郭を有し、振動が被験者の前庭系に骨(例えば、頭蓋骨)を介して伝導され得るように、対象の頭部の表面に結合することができる。3つの実験研究で使用された実験用振動装置は、動揺病および/または仮想現実による動揺病を緩和、軽減するのに有効であることが示されている。記載される実験および結果は、動揺病の低減における開示された振動装置の有効性が、明白な有害な副作用を伴わず、実質的に瞬時であることを示す。
【0195】
その後の実験は、本明細書において有効であることが見出された力レベルおよび頻度レベルも、医療施設で実施されたカロリー試験によってもたらされためまいおよび吐き気を軽減するのに効果的であることを示した。例えば、めまいについては、慢性的または頻繁なめまいエピソードを患った個人に、実験用振動装置を装着し、デバイスを装着することの影響を報告するように依頼した。概して、個人は、デバイスの使用時にめまいに関連する症状が少ないと報告した。もう1つの例として、カロリー試験のために、耳鼻咽喉科(「ENT」)の医師が、実験振動装置を装着している、および装着していない5人の被験者に対してカロリー試験を実施した。初日にデバイスを装着しなかった場合、すべての被験者に吐き気が生じ、1人の被験者は激しい吐き気のためにテストを終えることができなかった。翌日にデバイスを装着したところ、5人の被験者全員が、吐き気がないことを含め、吐き気が大幅に減少し、初日に試験を完了できなかった被験者は、2日目にデバイスを装着してテストを完了することができた。両日の試験では、振動装置を装着した場合としない場合で、前庭機能が同程度であることが示された。
【0196】
病気を誘発する前庭系から送られてくる信号を、骨伝導の振動信号を応用してマスクすることは、前庭マスキングとも呼ばれ、数多くの前庭症状の緩和に有効であり得る。例えば、損傷した前庭系によってもたらされためまいは、適用された骨伝導性振動信号で治療することができる。しかしながら、時として、印加された振動信号が突然除去された場合(例えば、振動装置がオフのとき)、振動信号は有害反応を有し得る。上述のものなど、いくつかの実施形態において、これらの有害反応は、デバイスを突然オフにする代わりに、ある期間にわたって印加された振動の電力を徐々に減少させること(すなわち、電力のランプダウンを有する)によって最小化することができる。
【0197】
別の例として、前庭マスキングは、個人が本明細書に開示されるものなどの仮想現実デバイスを使用するときに発生する動揺病の軽減に有効であり得る。仮想現実デバイスは常に動揺病を引き起こすわけではないため、一実施形態では、本明細書に開示されているような振動装置は、酔いを誘発することに関連する特定の条件および/または状況が仮想現実デバイスのユーザーに表示および/または提示されたときに、前庭系をマスキングするための振動を生成するように動作可能である。振動装置は、例えば、振動素子を制御するための特別な命令を記憶するように動作可能なマイクロコントローラによって制御されてもよい。かかる命令は、オンボードメモリまたは別個のメモリに記憶されてもよい。さらに、こうした命令は、特別な機能および特徴をコントローラに統合して、前庭系の状態の治療に関連する特定の機能、方法およびプロセスを実行するように設計される。一実施形態では、マイクロコントローラは、ソフトウェア開発キット(SDK)を使用して命令をプログラムすることができる。
【0198】
振動信号の生成を制御および/または駆動するための電気信号は、記憶された命令に基づいてマイクロコントローラによって生成されてもよいことが理解されるべきである。これら電気信号は、マイクロコントローラと振動装置との間で、有線または無線(例えば、Bluetooth)の方法を介して通信されてもよい。さらに、電気信号は、記憶された動作パターンを含んでもよい。例えば、マイクロコントローラによってアクセスされる記憶された命令は、マイクロコントローラおよび振動要素を含む装置に蓄積および記憶されている、使用データに基づき、特定のユーザーに有利なパターンで振動要素が「オン」または「オフ」にされることを引き起こすために振動要素に送信される一連の電気信号を生成するために、マイクロコントローラによって使用されてもよい。1つのパターンは、期間にわたって(例えば、毎分)生成されて対象者に加えられる振動の数が変化し得る、一連の振動を伴ってもよく、一方、第2のパターンは、いくつかの振動における力レベルが変化し得る、一連の振動を含んでもよい。振動要素によって生成される振動の力レベルおよび周波数を制御するために使用され得るものなどの、他のタイプの電気信号は、センサから受信したデータに基づいて、マイクロコントローラから振動装置に送信されてもよい。例えば、加速度センサは、ユーザーの物理的加速度の変化を感知するために、ポータブル電子機器(例えば、携帯電話)に含まれてもよい。実施形態では、マイクロコントローラは、動揺病を招き得る加速のタイプを示す加速度センサからのデータを受信するように動作可能であってもよい。したがって、こうしたデータを受信した後、マイクロコントローラは、関連する制御信号を生成し、こうした信号を振動要素に送信するように動作可能であってもよい。振動要素は、次に、こうした制御信号を受信し、例えば動揺病を先制的に最小化するために、固有受容の前庭系にリアルタイムで適用できる振動を生成するように、動作可能であってもよい。あるいは、ユーザーが動揺病によって具合が悪くなる結果となり得る経路または進路を表す、記憶されたロードマップは、マイクロコントローラまたはポータブル機器内にGPS回路と併せて記憶されてもよい。実施形態では、GPS回路が、ユーザーが経路または進路に沿って動いており動揺病を誘導し得る位置に到着することを示すとき、マイクロコントローラは、関連する制御信号を生成し、こうした信号を振動要素に送信するように動作可能であってもよい。振動要素は、次に、こうした制御信号を受信し、例えばユーザーが位置に到達する前に動揺病の可能性に対して責任をもつために、前庭系に適用できる振動を生成するように動作可能であってもよい。
【0199】
熱量検査(caloric test)、VNG検査、およびENG検査を含むいくつかの異なるタイプの医学的検査が、対象者の前庭機能を検査するために、聴覚訓練士(audiologist)および耳鼻咽喉科医(otolaryngologist)によって施行されることに留意すべきである。検査の一部として、悪心を引き起こす不利な副作用を有し得る形態の回転性めまいが、患者に誘発され得る。これらの検査を受けている間にこうした患者が経験する、悪心を低減するために前庭マスキングを使用することができる。したがって、本明細書に記載の装置は、こうした医療的検査を完了するために使用される医学的検査システムに含まれてもよく、または代替的に、こうした不利な副作用を軽減または低減するために、こうした医学的検査システムと併せて使用(例えば着用)されてもよい。
【0200】
いくつかの実施形態では、記載される装置および方法は、前庭状態の治療に関連しない用途に使用することができる。例えば、振動装置のいくつかの実施形態は、適切な通信チャネルを使用して触覚通信(haptic communication)を実施するための装置として、使用することができる。いくつかの実例では、無音でありかつ触覚感覚に基づく通信方法は、軍隊または監視の条件などにおいて有用であり得る。振動装置の実施形態は、見えないおよび聞こえないという使用条件などの、低減された検出可能性の適切な適合を伴って、諜報員(operative)などの対象者間の触覚通信を可能にするために使用することができる。
【0201】
様々な発明の実施形態が本明細書で説明され例解されてきたが、当業者は、本明細書に記載する機能を実行し、ならびに/または結果および/もしくは利点のうちの1つ以上を得るための、様々な他の手段および/または構造を容易に想到するであろうし、こうした変形および/または修正は各々、本明細書に記載する発明の実施形態の範囲内であるとみなされる。より一般に、本明細書に記載するすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が、例示的であることを意図していることと、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が、本発明の教示が使用される、特定の適用(複数可)に依存するであろうことを、当業者は、容易に理解するだろう。当業者は、日常的な実験のみを用いて、本明細書に記載する特定の発明の実施形態に対する、多数の同等なものを認識するまたは確認できるだろう。そのため、前述の実施形態が、例としてのみ提示されることと、添付の特許請求の範囲およびその同等なものの範囲内において、本発明の実施形態が、特に記載、および請求の範囲に記載された以外の別の方法で実施され得ることが、理解されるだろう。本開示の発明の実施形態は、本明細書に記載する各個別の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法を対象とする。加えて、こうした特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾したものでない場合、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせが、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0202】
また、様々な発明概念が、1つ以上の方法として具体化され得るし、その例を提供してきた。方法の一部として実施される行為は、任意の好適なやり方で順序付けることができる。従って、実施形態は、例示と異なる順序で行為が実施されるように構築されてもよく、これには、例示の実施形態で連続した行為として示されているにもかかわらず、一部の行為を同時に実施することが含まれ得る。
【国際調査報告】