(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220720BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220720BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220720BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220720BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220720BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220720BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220720BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20220720BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
H01M4/88 K
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J33/00 C
B01J31/28 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569216
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 KR2020008323
(87)【国際公開番号】W WO2020263004
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0078272
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(71)【出願人】
【識別番号】514074957
【氏名又は名称】コリア・アドバンスト・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(72)【発明者】
【氏名】キム チョンヨン
(72)【発明者】
【氏名】コン ナウォン
(72)【発明者】
【氏名】ソン カヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒタク
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンウク
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA21C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC22A
4G169BC33A
4G169BC40A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BC75C
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD01C
4G169BD02A
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD04C
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD05C
4G169BD07A
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169BD08C
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE21C
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169BE32C
4G169CC32
4G169EA02X
4G169EB19
4G169EC22X
4G169EE01
4G169FA01
4G169FB06
4G169FB29
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC08
4G169FC10
5H018AA06
5H018BB00
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018DD10
5H018EE03
5H018EE10
5H018EE16
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分のみを保護層で選択的にコートすることにより、触媒活性の低下を最小化しながらも燃料電池の長時間運転による劣化を効果的に防止することができる燃料電池用触媒、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体が開示される。本発明の燃料電池用触媒は、白金を含むナノ粒子、及び前記ナノ粒子の表面の一部のみに選択的にコートされ、前記ナノ粒子との電子相互作用(electronic interaction)によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金を含むナノ粒子と、
前記ナノ粒子の表面の一部のみに選択的にコートされ、前記ナノ粒子との電子相互作用(electronic interaction)によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層と、
を含む、燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記保護層で選択的にコートされた前記ナノ粒子の表面の一部は低配位サイトを含む、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
前記ナノ粒子は面心立方(Face Centered Cubic:FCC)構造を有し、前記低配位サイトは(110)結晶面である、請求項2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
前記ナノ粒子の前記低配位サイトのみが前記保護層でコートされた、請求項2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項5】
前記保護層は、前記ナノ粒子の表面の一部に吸着可能な硫黄(S)原子を含む、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項6】
前記保護層は、チオール基(thiol group)(-SH)を有する前駆体の架橋によって形成されることによって架橋構造を有する、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項7】
前記チオール基を有する前駆体は、(i)チオール基を有する炭素前駆体、(ii)チオール基を有する珪素酸化物前駆体、(iii)チオール基を有する金属前駆体、(iv)チオール基を有する金属酸化物前駆体、又は(v)これらの中で2種以上の混合物である、請求項6に記載の燃料電池用触媒。
【請求項8】
前記チオール基を有する前駆体は、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(MPTES)、(3-メルカプトプロピル)トリモトキシシラン(MPTMS)、又はこれらの混合物である、請求項6に記載の燃料電池用触媒。
【請求項9】
前記ナノ粒子は、白金ナノ粒子又は白金系合金ナノ粒子である、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項10】
前記白金系合金ナノ粒子は、Pt-Pd、Pt-Mn、Pt-Sn、Pt-Mo、Pt-Cr、Pt-W、Pt-Ru、Pt-Ni、Pt-Ru-W、Pt-Ru-Ir、Pt-Ru-Ni、Pt-Ru-Mo、Pt-Ru-Rh-Ni、Pt-Ru-Sn-W、Pt-Ru-Ir-Ni、Pt-Ru-Ir-Y、Pt-Co、Pt-Co-Mn、Pt-Co-Ni、Pt-Co-Fe、Pt-Co-Ir、Pt-Co-S、Pt-Co-P、Pt-Fe、Pt-Fe-Ir、Pt-Fe-S、Pt-Fe-P、Pt-Au-Co、Pt-Au-Fe、Pt-Au-Ni、Pt-Ni、Pt-Ni-Ir、Pt-Cr、又はPt-Cr-Irである、請求項9に記載の燃料電池用触媒。
【請求項11】
前記ナノ粒子を担持している担体をさらに含む、請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項12】
白金を含むナノ粒子を準備する段階と、
前記ナノ粒子との電子相互作用によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層を前記ナノ粒子の表面の一部のみに選択的にコートする段階と、
を含む、燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子は担体に担持されている、請求項12に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項14】
前記コート段階は、
チオール基を有する前駆体を含む保護層形成液(protective layer-forming liquid)を準備する段階と、
前記保護層形成液に前記ナノ粒子を分散させることにより、前記前駆体が前記ナノ粒子の各表面の一部のみに選択的に吸着されるようにする段階と、
前記前駆体が選択的に吸着されている前記ナノ粒子を前記保護層形成液から分離する段階と、
前記分離されたナノ粒子を乾燥させる段階と、
前記乾燥されたナノ粒子を熱処理することにより前記前駆体を架橋させる段階と、
を含む、請求項12に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項15】
前記保護層形成液は、
エタノール、蒸留水、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、及びこれらの中で2種以上の混合溶媒からなる群から選択される溶媒と、
前記溶媒に溶解されている前記前駆体と、
を含む、請求項14に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項16】
前記保護層形成液内の前記前駆体のモル濃度は0.25~2mMである、請求項15に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項17】
前記保護層形成液に分散される前記ナノ粒子の重量に対する前記保護層形成液に含有されている前記前駆体の重量の比は2.5~20%である、請求項14に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子の分離段階は遠心分離を用いて遂行する、請求項14に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項19】
酸化極と、
還元極と、
前記酸化極と前記還元極との間の高分子電解質膜と、
を含み、
前記酸化極及び前記還元極の少なくとも一つは請求項1の燃料電池用触媒を含む、膜電極組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用触媒、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関し、より詳しくは、触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分のみを保護層で選択的にコートすることにより、触媒活性の低下が最小化しながらも燃料電池の長時間運転による劣化を効果的に防止することができる燃料電池用触媒、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極組立体(Membrane Electrode Assembly:MEA)とセパレーター(separator)[‘バイポーラプレート(bipolar plate)’ということもある]とからなる単位セル(unit cell)の積層構造を用いて電気を発生させる高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:PEMFC)は高いエネルギー効率性及び環境に優しい特徴によって化石エネルギーを代替することができる次世代エネルギー源として注目されている。
【0003】
前記膜電極組立体は、一般的に酸化極(anode)(‘燃料極’ともいう)、還元極(cathode)(‘空気極’ともいう)、及びこれらの間の高分子電解質膜(polymer electrolyte membrane)を含む。
【0004】
水素ガスのような燃料が酸化極に供給されれば、酸化極では水素の酸化反応によって水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を通して還元極に伝達され、生成された電子は外部回路を介して還元極に伝達される。還元極に供給される酸素が前記水素イオン及び前記電子と結合して還元することによって水が生成される。
【0005】
前記酸化極及び還元極は水素の酸化反応及び酸素の還元反応のための触媒を含み、白金ナノ粒子又は白金系合金ナノ粒子を含む触媒が一般的に用いられる。
【0006】
燃料電池が長期間駆動されれば、高電圧及び高酸性環境によって前記ナノ粒子から白金の溶出(migration)及び/又は酸化(oxidation)が引き起こされて前記触媒の劣化(degradation)が加速化する。よって、燃料電池の長期間駆動による触媒の劣化を防止することが燃料電池の耐久性及び寿命の向上に非常に重要である。
【0007】
韓国特許第1702929号及び韓国特許第1828175号は、触媒の劣化を防止するために、前記金属ナノ粒子の表面全体を炭素皮でコートすることを提案している。
【0008】
しかし、前記先行技術の炭素皮は金属触媒ナノ粒子の表面全体を覆っているから、触媒の活性面積を減少させ、燃料、空気及び生成された水のような物質の伝達を妨げて膜電極組立体の出力性能を低下させる問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明はこのような関連技術の制限及び欠点に起因する問題点を防止することができる燃料電池用触媒、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関するものである。
【0010】
本発明の一観点は、触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分のみを保護層で選択的にコートすることにより、触媒活性の低下を最小化しながらも燃料電池の長時間運転による劣化を効果的に防止することができる燃料電池用触媒を提供することである。
【0011】
本発明の他の観点は、触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分のみを保護層で選択的にコートすることにより、触媒活性の低下を最小化しながらも燃料電池の長時間運転による劣化を効果的に防止することができる燃料電池用触媒を製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の観点は、触媒活性の低下を最小化しながらも燃料電池の長時間運転による劣化を効果的に防止することができる触媒を含むことにより、燃料電池の性能を長期間維持させることができ、その寿命を向上させることができる膜電極組立体を提供することである。
【0013】
以上で言及した本発明の観点の他にも、本発明の他の特徴及び利点は以下で説明され、そのような説明から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が明確に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような本発明の一観点によって、白金を含むナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面の一部のみに選択的にコートされ、前記ナノ粒子との電子相互作用(electronic interaction)によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層とを含む、燃料電池用触媒が提供される。
【0015】
前記保護層で選択的にコートされた前記ナノ粒子の表面の一部は低配位サイトを含むことができる。
【0016】
前記ナノ粒子は面心立方構造を有し、前記低配位サイトは(110)結晶面であってもよい。
【0017】
前記ナノ粒子の前記低配位サイトを前記保護層でコートすることができる。
【0018】
前記保護層は、前記ナノ粒子の表面の一部に吸着可能な硫黄(S)原子を含むことができる。
【0019】
前記保護層は、チオール基(thiol group)(-SH)を有する前駆体の架橋によって形成されることによって架橋構造を有することができる。
【0020】
前記チオール基を有する前駆体は、(i)チオール基を有する炭素前駆体、(ii)チオール基を有する珪素酸化物前駆体、(iii)チオール基を有する金属前駆体、(iv)チオール基を有する金属酸化物前駆体、又は(v)これらの中で2種以上の混合物である。
【0021】
前記チオール基を有する前駆体は、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(MPTES)、(3-メルカプトプロピル)トリモトキシシラン(MPTMS)、又はこれらの混合物である。
【0022】
前記ナノ粒子は、白金ナノ粒子又は白金系合金ナノ粒子である。
【0023】
前記白金系合金ナノ粒子は、Pt-Pd、Pt-Mn、Pt-Sn、Pt-Mo、Pt-Cr、Pt-W、Pt-Ru、Pt-Ni、Pt-Ru-W、Pt-Ru-Ir、Pt-Ru-Ni、Pt-Ru-Mo、Pt-Ru-Rh-Ni、Pt-Ru-Sn-W、Pt-Ru-Ir-Ni、Pt-Ru-Ir-Y、Pt-Co、Pt-Co-Mn、Pt-Co-Ni、Pt-Co-Fe、Pt-Co-Ir、Pt-Co-S、Pt-Co-P、Pt-Fe、Pt-Fe-Ir、Pt-Fe-S、Pt-Fe-P、Pt-Au-Co、Pt-Au-Fe、Pt-Au-Ni、Pt-Ni、Pt-Ni-Ir、Pt-Cr、又はPt-Cr-Irである。
【0024】
前記ナノ粒子を担持している担体をさらに含むことができる。
【0025】
本発明の他の観点によって、白金を含むナノ粒子を準備する段階と、前記ナノ粒子との電子相互作用によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層を前記ナノ粒子の表面の一部のみに選択的にコートする段階とを含む、燃料電池用触媒の製造方法が提供される。
【0026】
前記ナノ粒子は担体に担持され得る。
【0027】
前記コート段階は、チオール基を有する前駆体を含む保護層形成液(protective layer-forming liquid)を準備する段階と、前記保護層形成液に前記ナノ粒子を分散させることにより、前記前駆体が前記ナノ粒子の各表面の一部のみに選択的に吸着されるようにする段階と、前記前駆体が選択的に吸着されている前記ナノ粒子を前記保護層形成液から分離する段階と、前記分離されたナノ粒子を乾燥させる段階と、前記乾燥されたナノ粒子を熱処理することにより前記前駆体を架橋させる段階とを含むことができる。
【0028】
前記保護層形成液は、エタノール、蒸留水、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、及びこれらの中で2種以上の混合溶媒からなる群から選択される溶媒と、前記溶媒に溶解されている前記前駆体とを含むことができる。
【0029】
前記保護層形成液内の前記前駆体のモル濃度は0.25~2mMである。
【0030】
前記保護層形成液に分散される前記ナノ粒子の重量に対する前記保護層形成液に含有されている前記前駆体の重量の比は2.5~20%である。
【0031】
前記ナノ粒子の分離段階は遠心分離を用いて遂行することができる。
【0032】
本発明のさらに他の観点によって、酸化極と、還元極と、前記酸化極と前記還元極との間の高分子電解質膜とを含み、前記酸化極及び前記還元極の少なくとも一つは請求項1の燃料電池用触媒を含む、膜電極組立体が提供される。
【0033】
このような本発明についての一般的記述は本発明を例示するか説明するためのものであるだけで、本発明の権利範囲を制限しない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分[すなわち、低配位サイト(low-coordinated sites)]のみを保護層で選択的にコートすることにより、触媒の活性低下を最小化しながらも燃料電池の長時間運転による触媒の劣化を効果的に防止することができる。よって、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
添付図面は本発明の理解を助け、本明細書の一部を構成するためのものであり、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明とともに本発明の原理を説明する。
【
図1】本発明の一実施例による燃料電池用触媒を概略的に示す図である。
【
図2】実施例1~3及び比較例1及び2の触媒に対してサイクリックボルタンメトリー(CV)をそれぞれ実施して得た水素脱着ピークでの高配位部位特性ピーク(0.2V)に対する低配位部位特性ピーク(0.15V)の高さ比[すなわち、(低配位部位特性ピークの高さ)/(高配位部位特性ピークの高さ)]を示すグラフである。
【
図3】(a)及び(b)は実施例2及び3と比較例1及び2の触媒の電圧サイクリング(voltage cycling)の実施による電気化学的活性面積維持率(ECSA retention rate)の変化及び触媒活性維持率(catalytic activity retention rate)の変化を10,000サイクルの周期でそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。ただ、以下で説明する実施例は本発明の明確な理解を助けるための例示的目的で提示するものであるだけで、本発明の範囲を制限しない。
【0037】
図1に例示するように、本発明の燃料電池用触媒10は、白金を含むナノ粒子11、及び前記ナノ粒子11の表面の一部のみに選択的にコートされている保護層12を含む。
【0038】
本明細書で使われる用語“ナノ粒子”は1nm以上1μm未満のサイズを有する粒子を意味する。
【0039】
本発明の前記保護層12は、前記ナノ粒子11からの白金溶出及び白金酸化を物理的に抑制することができるだけではなく、前記ナノ粒子11との電子相互作用によって前記白金の酸化を化学的にも抑制することができる。
【0040】
前記保護層12で選択的にコートされた前記ナノ粒子11の表面の一部は触媒活性が相対的に低く、白金溶出が一番多く発生し、白金酸化物が容易に形成される部分である低配位サイト(low-coordinated sites)である。
【0041】
すなわち、相対的に低い触媒活性を有し、白金劣化が一番ひどく発生する低配位サイトのみを本発明の保護層12で選択的にコートすることにより、活性面積の減少を最小化することができる。本発明の触媒10の活性面積は保護層を有しない既存触媒の活性面積の50~90%である。
【0042】
結果的に、本発明によれば、活性面積の減少による触媒活性の低下を最小化するとともに前記触媒10の劣化を効果的に防止することができる。よって、本発明によれば、燃料電池の優れた性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができる。
【0043】
一般に、本発明の前記ナノ粒子11は面心立方(Face Centered Cubic:FCC)構造を有し、前記低配位サイトは(110)結晶面である。よって、本発明の一実施例によれば、前記保護層12で選択的にコートされた前記ナノ粒子11の表面の一部は(110)結晶面を含むことができる。オプションで(optionally)、前記ナノ粒子11の(110)結晶面のみを前記保護層12でコートすることができる。
【0044】
前記ナノ粒子11は、FCC構造の他に、結晶格子構造(crystal lattice structure)、例えば、体心立方(Body Centered Cubic:BCC)構造を有することもできる。この場合、前記保護層12でコートされる低配位サイトは、(110)、(111)、(100)及び/又は(211)結晶面である。
【0045】
前記保護層12は、前記ナノ粒子11の前記低配位サイトに吸着可能な硫黄(S)原子を含むことができる。より具体的には、前記保護層12はチオール基(thiol group)(-SH)を有することができる。前記チオール基の硫黄(S)原子は高い電気陰性度を有するので、前記白金又は白金系合金ナノ粒子11の低配位サイト[例えば、FCC格子構造の(110)結晶面]に強く吸着される。
【0046】
本発明の一実施例によれば、前記保護層12はチオール基を有する前駆体の架橋によって形成されることによって架橋構造を有することができる。アルカンチオール(alkane thiol)のような線形構造のチオール化合物から形成された保護層12は前記チオール化合物の主鎖が易しく切れるので安全性が落ちる。すなわち、架橋構造を有する本発明の一実施例による前記保護層12は触媒劣化の防止という保護層としての本来の機能を線形構造の保護層に比べてより安定的に長く維持することができる。
【0047】
前記チオール基を有する前駆体は、(i)チオール基を有する炭素前駆体、(ii)チオール基を有する珪素酸化物前駆体、(iii)チオール基を有する金属前駆体、(iv)チオール基を有する金属酸化物前駆体、又は(v)これらの中で2種以上の混合物である。例えば、前記チオール基を有する前駆体は、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(MPTES)、(3-メルカプトプロピル)トリモトキシシラン(MPTMS)、又はこれらの混合物である。
【0048】
前記ナノ粒子11は白金ナノ粒子又は白金系合金ナノ粒子である。
【0049】
前記白金系合金ナノ粒子は、Pt-Pd、Pt-Mn、Pt-Sn、Pt-Mo、Pt-Cr、Pt-W、Pt-Ru、Pt-Ni、Pt-Ru-W、Pt-Ru-Ir、Pt-Ru-Ni、Pt-Ru-Mo、Pt-Ru-Rh-Ni、Pt-Ru-Sn-W、Pt-Ru-Ir-Ni、Pt-Ru-Ir-Y、Pt-Co、Pt-Co-Mn、Pt-Co-Ni、Pt-Co-Fe、Pt-Co-Ir、Pt-Co-S、Pt-Co-P、Pt-Fe、Pt-Fe-Ir、Pt-Fe-S、Pt-Fe-P、Pt-Au-Co、Pt-Au-Fe、Pt-Au-Ni、Pt-Ni、Pt-Ni-Ir、Pt-Cr、又はPt-Cr-Irである。
【0050】
図1に例示するように、本発明の一実施例による燃料電池用触媒10は、前記ナノ粒子11を担持している担体13をさらに含むことができる。
図1は全てのナノ粒子11が前記担体13の表面上に位置するものを例示しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、前記ナノ粒子11の少なくとも一部は前記担体13の内部に浸透して内部空隙(等)を満たすこともできる。
【0051】
前記担体13は、(i)炭素系担体、(ii)ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、及びセリアのような多孔性無機酸化物担体、又は(iii)ゼオライト担体であることができる。
【0052】
前記炭素系担体は、黒鉛、スーパーピー(super P)、炭素繊維(carbon fiber)、炭素シート(carbon sheet)、カーボンブラック(carbonblack)、ケッチェンブラック(Ketjen Black)、デンカブラック(Denka black)、アセチレンブラック(acetylene black)、カーボンナノチューブ(carbon nano tube、CNT)、炭素球体(carbon sphere)、炭素リボン(carbon ribbon)、フラーレン(fullerene)、活性炭素、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤ、カーボンナノボール、カーボンナノホーン、カーボンナノケージ、カーボンナノリング、規則性ナノ多孔性炭素(ordered nano-/meso-porous carbon)、カーボンエーロゲル、メソポーラスカーボン(mesoporous carbon)、グラフェン、安定化カーボン、活性化カーボン、及びこれらの中で2種以上の組合せからなる群から選択することができる。
【0053】
以下では、本発明の実施例による燃料電池用触媒の製造方法について具体的に説明する。
【0054】
本発明の燃料電池用触媒の製造方法は、白金を含むナノ粒子11を準備する段階、及び前記ナノ粒子11との電子相互作用によって前記白金の酸化を抑制することができる保護層12を前記ナノ粒子11の表面の一部のみに選択的にコートする段階を含む。
【0055】
前述したように、前記ナノ粒子11は担体13、例えば炭素系担体に担持され得る。
【0056】
本発明の一実施例によれば、前記コート段階は、(i)チオール基を有する前駆体を含む保護層形成液を準備する段階、(ii)前記保護層形成液に前記ナノ粒子11を分散させることにより、前記前駆体が前記ナノ粒子11の各表面の一部のみに選択的に吸着されるようにする段階、(iii)前記前駆体が選択的に吸着されている前記ナノ粒子11を前記保護層形成液から分離する段階、(iv)前記分離したナノ粒子11を乾燥させる段階、及び(v)前記乾燥されたナノ粒子11を熱処理することにより、前記ナノ粒子11の表面の一部に選択的に吸着されていた前記前駆体を架橋させて前記保護層12を形成する段階を含むことができる。
【0057】
前記保護層形成液は、エタノール、蒸留水、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、及びこれらの中で2種以上の混合溶媒からなる群から選択される溶媒に前記前駆体を溶解させることによって得ることができる。前記チオール基を有する前駆体の具体的な例は先に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0058】
前記保護層形成液内の前記前駆体のモル濃度は0.25~2mMであることができる。
【0059】
前記保護層形成液に分散される前記ナノ粒子11の重量に対する前記保護層形成液に含有されている前記前駆体の重量の比は2.5~20%、より好ましくは5~10%である。
【0060】
前記重量比が2.5%未満であれば、ナノ粒子11の低配位サイト全体に保護層12が形成されないので、触媒10の劣化を充分に防止することができない。
【0061】
一方、前記重量比が20%を超えれば、ナノ粒子11の低配位サイト以外の部分にも保護層12がコートされて触媒活性面積が余りに減少し、その結果、触媒10の活性が深刻に低下する。すなわち、前記保護層形成液に前記ナノ粒子11を分散させれば、前記チオール基を有する前駆体が前記ナノ粒子11の低配位サイトに優先的に吸着されるが、一旦前記ナノ粒子11の低配位サイトが前記前駆体で飽和すれば高配位サイトにも前記前駆体が吸着される。よって、前記ナノ粒子11の重量に対する前記前駆体の重量の比を前記範囲に適切に調節することが本発明が目的とする効果を達成するのに何よりも重要である。
【0062】
オプションで(optionally)、前記ナノ粒子11が分散されている前記保護層形成液を一日乃至二日間撹拌することにより、前記前駆体の吸着を促進させることができる。
【0063】
前記前駆体が選択的に吸着されている前記ナノ粒子11を前記保護層形成液から分離するために遠心分離を用いることができる。
【0064】
前記保護層形成液から分離されたナノ粒子11を40~80℃で12~36時間乾燥させることにより、前記ナノ粒子11の表面一部に選択的に吸着されていた前記前駆体が架橋されて本発明の保護層12が形成される。
【0065】
このように得た本発明の燃料電池用触媒10をアイオノマーとともに分散媒に分散させて分散液を製造し、前記分散液で膜電極組立体の酸化極及び/又は還元極を形成することができる。
【0066】
本発明の膜電極組立体は、(i)前記分散液で電極を形成した後、この電極を高分子電解質膜上に転写(transfer)するか、又は(ii)前記分散液を高分子電解質膜上に直接コートして電極を形成することによって製造することができる。前記膜電極組立体は、酸化極、還元極、及びこれらの間の高分子電解質膜を含み、前記酸化極及び還元極の少なくとも一つは本発明の触媒10を含む。
【0067】
前記燃料電池用触媒10とともに分散媒に分散される前記アイオノマーは水素イオン伝達のためのものであり、電極と高分子電解質膜との間の接着力向上のためのバインダーとしての機能も果たすことができる。前記アイオノマーは、スルホン酸基、カルボキシル基、ボロン酸基、リン酸基、イミド基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、スルホン酸フルオリド基及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン交換基(proton exchange group)を有する陽イオン伝導体である。具体的に、本発明の一実施例によるアイオノマーは、(i)スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有するフッ素系陽イオン伝導体、(ii)スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有する炭化水素系陽イオン伝導体、又は(iii)これらの混合物である。
【0068】
前記触媒10の重量が電極の総重量に対して20~80重量%になるように前記分散液内の触媒10の含量を調節することが好ましい。電極内の前記触媒10の含量が20重量%未満であれば、電極に要求される触媒活性を満たすことができないことがある。一方、電極内の前記触媒10の含量が80重量%を超えれば、触媒10の凝集を引き起こして触媒10の活性面積が減少し、触媒活性がむしろ低下することがある。
【0069】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただ、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであるだけで、これによって本発明の権利範囲が制限されてはいけない。
【0070】
実施例1~3
(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(MPTES)をエタノールに溶解させて保護層形成液を準備した後、これにPt/C触媒を分散させた。前記分散されたPt/C触媒内のPt重量に対する前記保護層形成液内のMPTES重量の比と前記保護層形成液内のMPTESのモル濃度は下記の表1の通りである。Pt/C触媒が分散された前記保護層形成液を24時間混合した後、遠心分離を3回実施してエタノール及び残余MPTESを除去した。このように得たMPTESが選択的に吸着された前記Pt/C触媒を60℃の真空オーブンで24時間乾燥させることにより、“選択的にコートされた保護層を有するPt/C触媒”を完成した。
【0071】
【0072】
比較例1
実施例で使用されたPt/C触媒と同じ触媒を保護層の形成なしにそのまま使った。
【0073】
比較例2
白金結晶面に対する選択性がないポリイミド高分子でPtナノ粒子の露出面全体をコートした触媒を製造した。具体的に、ポリイミド前駆体であるポリアミン酸を実施例で使用したPt/C触媒とともにNMP溶媒に投入してから分散させた。前記触媒に対するポリアミン酸の重量比は3重量%であった。分散された溶液を常温で24時間混合した後、残余ポリアミン酸の除去のための遠心分離を数回遂行した。このように得た触媒を300℃で3時間窒素雰囲気で熱処理することにより、前記触媒上にコートされたポリアミン酸をイミド化させた。このようにして、炭素担体上に分散されているPtナノ粒子の露出面全体がポリイミド高分子でコートされた触媒を得た。
【0074】
実験例
前記実施例及び比較例の触媒に対して、(i)保護層の吸着選択性、及び(ii)電気化学的耐久性を下記の方法でそれぞれ測定した。
【0075】
イソプロピルアルコールと水が7:3の体積比で混合された混合液に触媒を超音波分散で分散させてインクを製造した。前記混合液内の前記触媒の濃度は1.6mg/mlであった。次いで、前記インクを回転ディスク電極(Rotating Disk Electrode;RDE)にキャスティングしてから乾燥させることによって電極を製造した。このように得た電極に対して、0.1MのHClO4水溶液電解質で半電池テストを遂行した。常温でN2で飽和した0.1MのHClO4水溶液電解質でサイクリックボルタンメトリー(Cyclic Voltammetry;CV)によって得た0.05~0.4Vの水素脱着ピークを用いて触媒の電気化学的活性面積とPtに対するMPTESの選択的吸着性を調査した。その後、前記電解質をO2で飽和させた後、線形掃引ボルタンメトリー(Linear Sweep Voltammetry;LSV)によって得た0.9Vでの電流値を測定し、これから触媒の活性を計算した。また、電気化学的耐久性評価のために、O2で飽和した電解質で0.6~1.0Vの電圧サイクリング(voltage cycling)を実施して30,000サイクル後の活性面積の減少及び活性の減少をそれぞれ測定した。
【0076】
図2は実施例1~3と比較例1及び2の触媒に対してサイクリックボルタンメトリー(CV)をそれぞれ実施して得た水素脱着ピーク(hydrogen desorption peaks)での高配位部位特性ピーク(high-coordinated site peak)(0.2V)に対する低配位部位特性ピーク(low-coordinated site peak)(0.15V)の高さ比[すなわち、(低配位部位特性ピークの高さ)/(高配位部位特性ピークの高さ)]を示すグラフである。
【0077】
図2に示すように、保護層の低配位部位選択性が大きいほど前記ピーク高さ比が増加した。選択的保護層が形成されなかった比較例1が最低ピーク高さ比(0.754)を示し、ナノ粒子の露出表面全体がポリイミドでコートされた比較例2も比較例1と同様に0.756の低いピーク高さ比を示した。一方、選択的保護層が形成された実施例はいずれも前記比較例より高いピーク高さ比を示した。
【0078】
ただ、前記ピーク高さ比が実施例2で最も高く、相対的にもっと多い前駆体が使用された実施例3で相対的に低い。これは、保護層形成のための前駆体がPtの低配位部位に優先的に吸着され、一旦前記低配位部位が飽和すれば高配位部位に吸着されることを示す。すなわち、本発明の保護層はPtの低配位部位に優先的に形成されることを示す。
【0079】
図3の(a)及び(b)は実施例2及び3と比較例1及び2の触媒の電圧サイクリング(voltage cycling)の実施による電気化学的活性面積維持率(ECSA retention rate)の変化及び触媒活性維持率(catalytic activity retention rate)の変化を10,000サイクルの周期でそれぞれ示すグラフである。
【0080】
選択的保護層が形成されなかった比較例1の触媒及びナノ粒子の露出表面全体がポリイミドでコートされた比較例2の触媒は電圧サイクリングを実施することによって電気化学的活性面積及び触媒活性の両方が急激に減少したことを確認することができる。
【0081】
一方、実施例2及び3の触媒の場合、電圧サイクリングの実施による電気化学的活性面積及び触媒活性の減少率が比較例の減少率よりずっと小さいことが分かる。
【0082】
まとめると、
図2及び
図3から、本発明の選択的保護層が形成された触媒は保護層の導入による触媒活性の減少が最小化しながらも電気化学的耐久性が大きく向上することを確認することができる。
【国際調査報告】