(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ダイアフィルトレーション
(51)【国際特許分類】
C07K 1/34 20060101AFI20220720BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C07K1/34
C07K14/415
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569518
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 NL2020050336
(87)【国際公開番号】W WO2020242302
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィット・イグナシオ・ハベイッチ・ナルヴァエス
(72)【発明者】
【氏名】リーベ・フェークス・チャルマ
(72)【発明者】
【氏名】ロビン・エリック・ヤコーブス・スペルブリンク
(72)【発明者】
【氏名】マルク・クリスティアーン・ラウス
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA01
4H045GA10
(57)【要約】
本発明は、塊茎処理水の前処理及び塩溶液に対するダイアフィルトレーションを用いて未変性の塊茎タンパク質を単離する方法を提供する。この一連の工程により、タンパク質がダイアフィルトレーション中に安定化され、方法の効率、並びにタンパク質の品質及び収率が上がるという利点を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未変性の塊茎タンパク質単離物を単離する方法であって、
a)少なくとも1つの塊茎を処理して、未変性の塊茎タンパク質を含む塊茎処理水を得る工程と、
b)前記塊茎処理水を、以下:
ba)濃縮、及び/又は
bb)希釈、及び/又は
bc)pH調整、及び/又は
bd)凝結、及び/又は
be)固形分除去、及び/又は
bf)加熱処理
の工程のうちの1つ又は複数を含む前処理に供する工程であって、
前記前処理によって、未変性の塊茎タンパク質を含み、2~20mS・cm
-1の導電率を有する前処理済み塊茎処理水がもたらされる、工程と、
c)前記前処理済み塊茎処理水を、少なくとも5mS・cm
-1の導電率を有する塩溶液に対して、3~500kDaの膜を用いてダイアフィルトレーションする工程と
を含み、
これによって、ダイアフィルトレーションの保持液として前記未変性の塊茎タンパク質単離物が得られる、
方法。
【請求項2】
前記未変性の塊茎タンパク質単離物が、未変性のプロテアーゼ阻害剤及び未変性のパタチンを含む未変性の塊茎タンパク質単離物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未変性の塊茎タンパク質単離物が、未変性の形態にある全ての塊茎タンパク質を含む単離物であると定義される、未変性の総塊茎タンパク質単離物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
最大で200mg/kgのグリコアルカロイドを含む塊茎タンパク質単離物を得るために、グリコアルカロイドを除去する工程を更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコアルカロイドを除去するが、工程bの一部として又は工程cの後に実施する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
塊茎処理水を得るための前記処理が、塊茎のパルプ化、すりつぶし、やすり掛け、粉砕、押圧又は切断を含み、任意選択で水との混合を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記処理が、デンプンの除去工程、例えばデカント、遠心分離、サイクロン分離又はろ過を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの塊茎が、処理前に皮がむかれている、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固形分除去が、ろ過、遠心分離、サイクロン分離、デカント及び/又は精密ろ過の工程、好ましくは精密ろ過の工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記前処理が、限外ろ過、逆浸透及び/又は凍結濃縮、好ましくは限外ろ過から選択される濃縮の工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ダイアフィルトレーションの工程に先立って、限外ろ過の工程が行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理が、任意の順序で、限外ろ過の工程及び精密ろ過の工程を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ダイアフィルトレーションが、5~300kDa、好ましくは5~50kDa又は50~200kDaの分子量カットオフを有する膜を用いて実施される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイアフィルトレーションが、塩化物、好ましくはNaCl、KCl又はCaCl
2を含む塩溶液に対して実施される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
塩溶液の導電率が、5~20mS・cm
-1、好ましくは5~18mS・cm
-1、より好ましくは8~14mS・cm
-1、更により好ましくは9~11mS・cm
-1である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ダイアフィルトレーション中のpHが、4.0未満、又は5.5超、好ましくは6.0超である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ダイアフィルトレーションの保持液が、限外ろ過の工程に供されて、濃縮済み塊茎タンパク質単離物が得られる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
任意の限外ろ過の工程が、5~300kDa、好ましくは30~200kDa、より好ましくは40~120kDa、更により好ましくは50~100kDaの膜を用いて実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
最初のダイアフィルトレーション又は限外ろ過によって、塊茎遊離アミノ酸を含む透過水がもたらされる、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記透過水が、その後、好ましくは噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥によって乾燥されて、塊茎遊離アミノ酸組成物が得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記透過水が、乾燥前に、限外ろ過、逆浸透及び/又は凍結濃縮によって濃縮される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記塊茎タンパク質単離物のpHが、2.5超、好ましくは2.75超に調整される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記塊茎タンパク質単離物のpHが、3.5未満、好ましくは3.0未満に調整される、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記塊茎タンパク質単離物を、その後乾燥して、未変性の塊茎タンパク質粉末を得る、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記乾燥に先立って、前記塊茎タンパク質単離物を、好ましくは逆浸透、蒸発又は凍結濃縮を介した更なる濃縮の工程に供する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
乾燥前に、前記塊茎タンパク質単離物が、5.5~7.0、好ましくは6.0~7.0のpHに調整される、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記乾燥が、凍結乾燥又は噴霧乾燥によって実施される、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ダイアフィルトレーションの保持液が、乾燥物の百分率として、少なくとも75wt.%の未変性の塊茎タンパク質、最大で1.0wt.%のグルコース、フルクトース及びスクロースの総量、最大で1wt.%の塊茎遊離アミノ酸、最大で10mg/kg、好ましくは最大で5mg/kgの亜硫酸塩、最大で200mg/kg、好ましくは最大で100mg/kg、より好ましくは最大で50mg/kg、更により好ましくは最大で25mg/kgのグリコアルカロイド、及び/又は最大で5mg/kgの、カドミウム、水銀、鉛及びヒ素からなる群から選択される重金属を含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
1時間当たり少なくとも5kgのタンパク質、好ましくは1時間当たり少なくとも25kgのタンパク質をもたらすように操作される、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
乾燥物の百分率として、少なくとも75wt.%の未変性の塊茎タンパク質、最大で1wt.%の、グルコース、フルクトース及びスクロースの総量、最大で1wt.%の塊茎遊離アミノ酸、最大で10mg/kg、好ましくは最大で5mg/kgの亜硫酸塩、最大で200mg/kg、好ましくは最大で100mg/kg、より好ましくは最大で50mg/kg、更により好ましくは最大で25mg/kgのグリコアルカロイド、最大で5mg/kgの、カドミウム、水銀、鉛及びヒ素からなる群から選択される重金属、並びに最大で5%の金属塩を含む、塊茎タンパク質単離物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフィルトレーションを使用して、未変性の塊茎タンパク質を単離する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ヴェジタリアン及びヴィーガンで、何よりも肉由来の食品と共に生じる環境負荷への高まる気づきに起因して、従来の食品の類似物への需要が高まっている。しかし、様々な態様において、植物ベースのタンパク質は、依然として動物由来の製品と競うことができない。1つの理由は、植物ベースのタンパク質が、食品へと調製される前に、単離され処理されなければならないことが多いためである。
【0003】
ジャガイモタンパク質は広く入手可能であり、その理由は、ジャガイモが、デンプン及び多様なジャガイモ製品を得るために、大規模に処理されているためである。ジャガイモタンパク質はアミノ酸組成を有し、これが、ヒトの食品用途における使用のために、ジャガイモタンパク質を理想的としている。しかし、十分な品質のジャガイモタンパク質の単離は冗漫なプロセスである。
【0004】
ジャガイモタンパク質は、従来、デンプン製造の副流から単離されており、これは、ジャガイモ全体を粉砕し又はすりつぶし、続いてデンプンを分離することによって調製されている。得られた流れはジャガイモタンパク質を含み、これが、多様な方法によって単離されて、未変性の又は凝固されたタンパク質を得ることができる。凝固されたタンパク質は、従来の方法で得ることができるが、機能性及び可溶性を欠くという欠点を有する。したがって、多くの食品用途において、未変性のタンパク質がより望ましい。
【0005】
しかし、単離された未変性のジャガイモタンパク質は、異味及び過剰な色に悩まされることが多く、これが、食品における用途を難しくしている。吸収又はクロマトグラフィー、例えば膨張床吸着、膜吸収又はイオン交換クロマトグラフィーを用いて最良の結果が得られているが、これらの方法は、一連の前処理を要するため、且つ許容される効率に達するために高濃度で操作されなければならないため、特に工業規模において高価であり手がかかる。
【0006】
未変性のタンパク質を単離する他の方法もまた適用されてきた。多様な膜の方法、例えば限外ろ過及びダイアフィルトレーションが、様々なセッティングにおいて適用されてきた。しかし、こうした方法(のみ)を用いて十分な品質を有するタンパク質を単離するという挑戦が残っており、その理由は、タンパク質が十分純粋ではないことが多いためである。加えて、膜の方法は、膜の詰まりに悩まされ、これにより大規模での用途が除外される。ダイアフィルトレーション中、タンパク質は凝集し沈降する傾向があり、これにより、商業的に実行可能な方法でのダイアフィルトレーションの用途が除外される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2017/146568
【特許文献2】WO2016/036243
【特許文献3】WO2008/056977
【特許文献4】WO2008/069651
【特許文献5】WO2016/036243 A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Laus M.C.、Klip G. & Giuseppin M.L.F. (2016) Food Anal. Methods 10(4)「Improved Extraction and Sample Cleanup of Tri-glycoalkaloids α-Solanine and α-Chaconine in Non-denatured Potato Protein Isolates」
【非特許文献2】ISO17294-2:2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ジャガイモの副流からタンパク質を単離するより多用途の方法は、ジャガイモタンパク質へのアクセシビリティーを高め、そうして機能的に理想的な植物ベースのタンパク質へのアクセシビリティーを高めることを可能にし、それによって食料供給のサステナビリティを高めると考えられる。本発明は、ダイアフィルトレーションに基づく、未変性のジャガイモタンパク質単離のための、大規模に実行され得る最適化された方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、未変性の塊茎タンパク質単離物を単離する方法であって、
a)少なくとも1つの塊茎を処理して、未変性の塊茎タンパク質を含む塊茎処理水を得る工程と、
b)前記塊茎処理水を、
ba)濃縮、及び/又は
bb)希釈、及び/又は
bc)pH調整、及び/又は
bd)凝結、及び/又は
be)加熱処理、及び/又は
bf)固形分除去
の工程のうちの1つ又は複数を含む前処理に供する工程であって、
この前処理が、未変性の塊茎タンパク質を含む、2~20mS・cm-1の導電率を有する前処理済み塊茎処理水をもたらす工程と、
c)前記前処理済み塊茎処理水を、少なくとも5mS・cm-1の導電率を有する塩溶液に対して、5~300kDaの膜を用いてダイアフィルトレーションする工程と
を含み、
これによって、ダイアフィルトレーションの保持液として前記塊茎タンパク質単離物が得られる、方法を対象とする。
【0011】
未変性の塊茎タンパク質を、多様なプロセス流から、大規模で単離することができることが、本方法の利点である。これは、高い効率、タンパク質の低い減損、小さい環境負荷、低コスト及び比較的少ない廃棄物流れで達成され、高い可溶度、高い純度及びそのままの機能上の性質を有するタンパク質がもたらされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】多様なpH及び導電率でのジャガイモタンパク質の可溶度。
【
図2】機械的ストレスに曝したときの、pH6及び7での、様々な導電率での、ジャガイモタンパク質の可溶度。
【
図3】実施例6の第1の及び第2のダイアフィルトレーション中の流束-濃度のプロット。
【
図4】多様な導電率での総ジャガイモ単離物の可溶度。
【
図5】多様な導電率での総ジャガイモ単離物の可溶度。
【
図6】塊茎中に存在する、全てのタンパク質画分を含む総タンパク質単離物(MF-PFJ)。Lタンパク質標準、レーン1: 実施例4 実験9 MF-PFJ、レーン2: 実施例4 実験10 MF-PFJ、レーン3: 実施例4 実験11 MF-PFJ、レーン4: 実施例5 MF-PFJ、レーン5: 実施例5 最終生成物(DFの保持液)、レーン6: 実施例4 実験9 最終生成物(乾燥)、レーン7: 実施例4 実験10 最終生成物(乾燥)、レーン8: 実施例4 実験11 最終生成物(乾燥)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
方法
本方法は、未変性の塊茎タンパク質の単離を対象とする。これに関する塊茎には、根とも呼ばれ得る構造体が挙げられる。塊茎は、タンパク質を本来含み、好ましいタイプの塊茎はまたデンプンにも富み、例えばデンプンの単離のために使用される塊茎のタイプである。
【0014】
好ましくは、これに関する塊茎は、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、キャッサバ(manioc、mandioca又はyucaとも呼ばれるManihot esculenta, syn. M. utilissimaを含み、及びまたyuca dulceとも呼ばれるM. palmata, syn. M. dulcisを含む)、ヤムイモ(Dioscorea spp)及び/又はタロイモ(Colocasia esculenta)を含む。より好ましくは塊茎はジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ又はヤムイモを含み、更により好ましくは塊茎はジャガイモ、サツマイモ又はキャッサバを含み、更により好ましくは塊茎はジャガイモ又はサツマイモを含み、最も好ましくは塊茎はジャガイモ(Solanum tuberosum)を含む。
【0015】
好ましい塊茎タンパク質は、ジャガイモタンパク質、サツマイモタンパク質、キャッサバタンパク質、ヤムイモタンパク質及び/又はタロイモタンパク質を含む。ジャガイモタンパク質が好ましい。ジャガイモは、植物、ジャガイモ(Solanum tuberosum)からの塊茎であり、これは多くの変種が存在する。タンパク質単離の本方法は、任意のジャガイモ変種で実施することができる。これには、デンプン工業が企図された変種(デンプン用ジャガイモ)、並びにヒトの消費が企図された変種(消費用ジャガイモ)が挙げられる。
【0016】
全ての塊茎の変種は、未変性の塊茎タンパク質を含む。未変性のジャガイモタンパク質は、例えば、3つのクラス: (i)パタチンファミリー、高度に相同の酸性43kDa糖タンパク質(ジャガイモタンパク質のうちの40~50wt.%)、(ii)塩基性5~25kDaプロテアーゼ阻害剤(ジャガイモタンパク質のうちの30~40wt.%)、及び(iii)ほとんどが高分子量タンパク質の他のタンパク質(ジャガイモタンパク質のうちの10~20wt.%)に分けることができる。
【0017】
本明細書で定義しているプロテアーゼ阻害剤は、未変性の形態においてプロテアーゼのプロテアーゼ活性を阻害することが可能である、根又は塊茎タンパク質、好ましくはジャガイモタンパク質である。その根又は塊茎タンパク質がプロテアーゼ阻害剤であると考えられることが、通常の一般知識である。プロテアーゼ阻害剤は、本発明において、全タンパク質のうちの少なくとも80wt.%、好ましくは少なくとも85wt.%、より好ましくは少なくとも90wt.%が、SDS-pageによる決定で、最大で35kDaの分子量を有する、根又は塊茎タンパク質画分を指す。
【0018】
本明細書で定義しているパタチンは、塊茎中で貯蔵タンパク質として機能する酸性糖タンパク質である、根又は塊茎タンパク質、好ましくはジャガイモタンパク質である。根及び塊茎処理工業において、根又は塊茎タンパク質のうちのどれがパタチンと考えられるかは一般に知られている。パタチンとは、本発明において、全タンパク質のうちの少なくとも80wt.%、好ましくは少なくとも85wt.%、より好ましくは少なくとも90wt.%が、SDS-pageによる決定で、35kDa超の分子量を有する、根又は塊茎タンパク質画分を指す。
【0019】
SDS-page(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)は、一般に、タンパク質の分子量を決定するための公知の技術である。
【0020】
本方法は、任意の未変性の塊茎タンパク質単離物を得ることを対象とする。一実施形態では、未変性の塊茎タンパク質単離物は、未変性のプロテアーゼ阻害剤単離物である。別の実施形態では、未変性の塊茎タンパク質単離物は、未変性のパタチン単離物である。これらの実施形態では、塊茎処理水は、ダイアフィルトレーションの工程に先立って、特定の1種のジャガイモタンパク質の除去の工程に供することができる。これは、吸収クロマトグラフィーによって、選択的沈降によって、又は別のタンパク質画分から1種のタンパク質画分を分離することで知られる任意の他の方法によって、達成することができる。このような処理中に、溶液中に残っているタンパク質画分は、その後本明細書で定義しているダイアフィルトレーションの工程に供されてもよい。
【0021】
きわめて好ましい実施形態では、塊茎タンパク質単離物は、未変性のプロテアーゼ阻害剤及び未変性のパタチンを含む単離物である。更にきわめて好ましい実施形態では、塊茎タンパク質単離物は、未変性の総塊茎タンパク質単離物である。
【0022】
総単離物は、本明細書で使用されるとき、プロテアーゼ阻害剤及びパタチン、並びに検討中の塊茎中に存在する任意の他のタンパク質を含むタンパク質単離物を指す。そのため、未変性の総塊茎タンパク質単離物は、未変性の形態にある全ての塊茎タンパク質を含む単離物であると定義することができる。
【0023】
本方法で得られるタンパク質単離物は、未変性のタンパク質単離物である。本件に関する「未変性の」とは、塊茎からのタンパク質の単離が、タンパク質に著しく影響を及ぼすことなく達成されることを意味する。そのため、未変性のタンパク質は、著しく変質されず、著しく変性されない。すなわち、アミノ酸の順序、三次元構造及び機能上の性質(例えば可溶性及び/又は乳化の性質)は、塊茎中で発生するタンパク質と比べて本質的にそのままである。
【0024】
タンパク質の未変性度は、可溶化実験によって試験することができる。未変性ではないタンパク質は、未変性のタンパク質よりも水中可溶度がかなり低い。タンパク質の可溶度は、水にタンパク質を分散させ、得られた液体を2つの画分に分け、1つの画分を800gにて5分間、遠心分離に暴露して非溶解材料のペレットを創製し、上清を回収することによって決定することができる。上清中で且つ未処理溶液中でタンパク質含有量を測定することによって、且つ上清のタンパク質含有量を未処理溶液中、その百分率として表すことによって、可溶度が決定される。タンパク質含有量を決定する好都合な方法は、Sprint Rapid Protein Analyser(CEM社)を介して280nmでの吸収度を測定することによる。本発明において、タンパク質の可溶度が、少なくとも55%、好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは少なくとも85%又は更には少なくとも90%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%である場合、タンパク質は未変性であると考えられる。
【0025】
単離とは、本発明において、(清浄な)溶液として又はタンパク質粉末としてのいずれかでタンパク質を得ることを意味する。粉末は、溶液を乾燥させることによって溶液から得ることができる。任意選択で、乾燥に先立って、例えば逆浸透、限外ろ過又は凍結濃縮による等の濃縮の工程が行われる。本件に関する単離は、塊茎タンパク質が、塊茎タンパク質単離物が乾燥されて未変性の塊茎タンパク質粉末を得るまで、可溶化された形態で維持されることを意味する。そのため、単離は、好ましくは、例えばアルギネートでの、沈降タンパク質画分をもたらすタンパク質沈降の工程、及びそれに続く、水性溶媒中での単離後に沈降タンパク質画分を溶解させて未変性の塊茎タンパク質をもたらすことによる等の、沈降タンパク質の再可溶化の工程を含まない。タンパク質の沈降及びそれに続く再可溶化は、わずかな変性をもたらすことがあり、したがって、沈降されて再可溶化されたタンパク質は、本発明によるタンパク質単離物ではない。
【0026】
本発明は、未変性の塊茎タンパク質単離物が、少なくとも5mS・cm-1の導電率を有する塩溶液に対するダイアフィルトレーション(DF)によって得られうることを開示している。ダイアフィルトレーションは、ダイアフィルトレーション膜を用いて、ろ液を除去しながら、保持液を希釈することによって低分子量の化合物を除去する方法であり、分子量カットオフ値(MWCO)によって特徴づけられる。10kDaのMWCO値は、膜が、供給溶液から、10kDaの分子量を有する分子のうちの90%を保持できることを意味する。未変性の塊茎タンパク質単離物は、ダイアフィルトレーションの保持液として得られる。ダイアフィルトレーションを用いると、前処理済み塊茎処理水中に存在する塩は除去され得るが、塩溶液中の塩によって置き換えられる。
【0027】
ダイアフィルトレーション膜(DF膜)は、本発明において、ダイアフィルトレーション中に用いられるような膜である。好ましくは、DF膜は、3~500kDa、好ましくは5~300kDa、より好ましくは5~200kDa、例えば好ましくは30~200kDa、より好ましくは40~120kDa、更により好ましくは50~100kDaのMWCOを有する。一実施形態では、MWCOは、3~50kDa、好ましくは5~25kDa、例えば5~15kDa又は15~25kDaとすることができる。別の実施形態では、MWCOは、50~200kDa、好ましくは50~150kDaとすることができる。
【0028】
好ましいDF膜は、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、再生セルロース及びポリプロピレン(PP)の各膜、好ましくはPES膜又はPS膜である。好ましいDF膜は、異方性のDF膜である。DF膜は、管状、渦巻形、中空繊維、平板形として、又は交差回転誘起型剪断変更ユニットとして、実行することができる。きわめて好ましいDF膜は、管状のDF膜である。これらの膜のそれぞれは、上に定義したMWCOを有することができる。
【0029】
好ましい実施形態では、ダイアフィルトレーションは、連続(交差流れ)方法として実施される。操作流束は、例えば3から300l・(h・m2)-1の間、好ましくは5から200l・(h・m2)-1の間、より好ましくは5から100l・(h・m2)-1の間、より好ましくは6~70l・(h・m2)-1の間、より好ましくは6から30l・(h・m2)-1の間、より好ましくは7から30l・(h・m2)-1の間、より好ましくは9から20l・(h・m2)-1の間とすることができる。
【0030】
塊茎タンパク質中の、詳細にはジャガイモタンパク質中の、主なタンパク質画分が、多くのpH値において逆荷電されていることが見出された。パタチンは4.8~5.2のpIを有し、その一方でプロテアーゼ阻害剤は5.8~最大9のpIを有する。可溶度のために最適化されたpH値であってさえ、特にダイアフィルトレーション中に、凝集、沈降及び詰まりを防止することができない。溶液の導電率がタンパク質の可溶度に大きく影響すること、及び低い可溶度が導電率を上げることによって相殺され得ることが見出された。これは、特にダイアフィルトレーション中に重要である。
【0031】
本明細書で定義している未変性のタンパク質単離物を含む任意の溶液にとって、単離プロセス全体中で、導電率が比較的高いことが必須であることが見出された。それに対してダイアフィルトレーションが実施される塩溶液は、少なくとも5mS・cm-1の導電率を有していなければならず、供給溶液は2~20mS・cm-1の導電率を有していなければならない。
【0032】
ダイアフィルトレーション中に、タンパク質は、膜の近傍において、高い機械的ストレスに出会う。ダイアフィルトレーション中の流れパターンは、多種のタンパク質分子を一緒にすることを強制し、これが、強制的な凝集及び沈降へ導く。その上、タンパク質は、膜と相互作用することがある。ダイアフィルトレーション中にタンパク質が出会う機械的ストレス、及び任意の膜の相互作用がこうして生じ、膜の詰まりを増加させ、これがタンパク質溶液の工業的ダイアフィルトレーションを妨害する。
【0033】
少なくとも5mS・cm-1の導電率を有する塩溶液が、ダイアフィルトレーションと共に生じる機械的ストレス中にタンパク質を安定させ、それによって機械的ストレス下でタンパク質の可溶度を維持し、高めさえすることが見出された。これは、流束安定性を向上させ、DF操作時間を増やし、更にタンパク質の減損を最小とする。したがって、ダイアフィルトレーションを塩溶液に対して実施することが必須である。これは、ダイアフィルトレーション中の溶液中のタンパク質安定性を維持するために重要である。用語「塩溶液」は、本明細書で用いられるとき、その溶液が少なくとも5mS・cm-1の導電率を有する塩を含む溶液であると定義される。
【0034】
塩溶液の導電率が、ダイアフィルトレーション中に全ての塊茎タンパク質の良好な可溶度を保持するために、少なくとも5mS・cm-1、好ましくは少なくとも8mS・cm-1、より好ましくは少なくとも15mS・cm-1でなければならないことが見出された。しかし、ダイアフィルトレーション中の過剰な塩の添加を避けるために、導電率は、好ましくは100mS・cm-1未満、より好ましくは50mS・cm-1未満、より好ましくは20mS・cm-1未満、更により好ましくは18mS・cm-1未満である。
【0035】
ダイアフィルトレーションされる溶液(ダイアフィルトレーション供給溶液又は供給物)の導電率が、2~20mS・cm-1、好ましくは5~18mS・cm-1、より好ましくは8~14mS・cm-1であることが更に必須である。これは、タンパク質がダイアフィルトレーション前に沈降しないことを確実にする。ダイアフィルトレーション供給溶液のpHは、好ましくは4.0未満又は5.5超、より好ましくは5.5~12、更により好ましくは5.5~7.0である。
【0036】
更に好ましい実施形態では、ダイアフィルトレーションは、好ましくは5~20mS・cm-1、好ましくは5~18mS・cm-1、より好ましくは8~15mS・cm-1、更により好ましくは9~14mS・cm-1、例えば9~11又は10~13mS・cm-1の、上に定義した導電率を有する塩溶液に対して実施される。
【0037】
塩溶液は、塩化物塩、例えばNaCl、KCl及び/又はCaCl2、好ましくはNaCl又はKClを好ましくは含む。塩溶液は、KClを好ましくは含むことができる。或いは、塩溶液は、NaClを好ましくは含むことができる。更に或いは、塩溶液は、NaClとKClとの混合物を含む。
【0038】
好ましくは、塩はNaClである。NaClの場合、塩溶液中の塩濃度は、0.1~5wt.%、好ましくは0.2~2wt.%とすることができる。
【0039】
当業者であれば、通常の一般知識に基づいて、他の溶質が存在しても存在しなくても、要請される導電率を質量ベースの濃度(又はモル濃度)へと転換することができる。例えば、0.33wt.%のNaCl溶液の導電率は5.3mS/cmである。
【0040】
きわめて好ましい実施形態では、塩溶液は、重金属塩、例えばカドミウム、水銀、鉛又はヒ素の各塩を含まない。更に好ましい実施形態では、塩溶液は、流束を増加させるNH4HCO3を更に含む。
【0041】
更なる好ましい実施形態では、塩溶液は、4.0未満又は5.5超、より好ましくは5.5~12、より好ましくは5.5~8.0、更により好ましくは6.0~8.0、例えば5.5~7.0又は6.0~7.0のpHを有してもよい。好ましい実施形態では、このpHは、ダイアフィルトレーションを通じて維持される。他の好ましい実施形態では、ダイアフィルトレーションの進んだ段階のために使用される塩溶液は、膜流束を更に増加させるために、より高いpH、例えばpH8.0~12.0、好ましくは9.0~11.0を有する。
【0042】
ダイアフィルトレーションは、好ましくは、5:1~1:10、好ましくは1:1~1:10、好ましくは1:1~1:5の範囲内、より好ましくは1:1~1:4の(供給物:塩溶液)の希釈率において実施される。このDFの保持液は、DFの第2の、第3の又は更なる段階に供されてもよい。
【0043】
これらの条件により、清浄な未変性の塊茎タンパク質を含むダイアフィルトレーションの保持液がもたらされる。ダイアフィルトレーションの保持液は、乾燥物の百分率として、少なくとも75wt.%、好ましくは少なくとも80wt.%、より好ましくは少なくとも85wt.%、更により好ましくは少なくとも90wt.%の未変性の塊茎タンパク質、好ましくは最大で1.0wt.%、より好ましくは最大で0.5wt.%、より好ましくは最大で0.1wt.%の、グルコース、フルクトース及びスクロースの総量、好ましくは最大で1.0wt.%の塊茎遊離アミノ酸、より好ましくは最大で0.5wt.%、より好ましくは最大で0.1wt.%の塊茎遊離アミノ酸、好ましくは最大で10mg/kg、より好ましくは最大で5mg/kgの亜硫酸塩、好ましくは最大で200mg/kg、より好ましくは最大で100mg/kg、より好ましくは最大で50mg/kg、更により好ましくは最大で25mg/kgのグリコアルカロイド、好ましくは最大で5mg/kgの、カドミウム、水銀、鉛及びヒ素からなる群から選択される重金属、並びに/又は好ましくは最大で10wt.%、より好ましくは最大で5wt.%の塩化物塩を含む。好ましくは、灰含有量は、5wt.%未満、より好ましくは3wt.%未満、より好ましくは1wt.%未満である。更に好ましくは、カリウム含有量は、4wt.%未満、好ましくは2wt.%未満、より好ましくは1wt.%未満である。きわめて好ましい実施形態では、ダイアフィルトレーションの保持液は、組み合わせた全てのこれらのパラメータの範囲に応じる。全ての量は、乾燥物の百分率として表した。
【0044】
好ましい実施形態は、ダイアフィルトレーションは、全てのダイアフィルトレーションの段階を通じて、塩溶液に対して実施される。更に好ましい実施形態では、特に、塩溶液が、本明細書で特定している範囲内の比較的高い導電率において適用される場合、塩溶液に対するダイアフィルトレーションは、塩を除去して、本質的に塩を含まない未変性の塊茎タンパク質を単離するために、低い導電率における水に対する、又は通常の水に対するダイアフィルトレーションの段階へと続けることができる。
【0045】
好ましくは、ダイアフィルトレーションすべき溶液(ダイアフィルトレーション供給溶液又は供給物)の導電率は、本明細書で特定された範囲内のままである。好ましくは、この実施形態では、pHは、全てのダイアフィルトレーションの段階を通じて同じままである。そのため、膜の詰まりは、ダイアフィルトレーション後に塩を除去する必要性とバランスを取ることができる。このようにして、乾燥物に比して低い塩含有量を有する塊茎タンパク質単離物が得られる。
【0046】
或いは、ダイアフィルトレーションの保持液は、限外ろ過(UF)の工程に任意選択で供され得る。これは、ダイアフィルトレーションの保持液の濃縮をもたらし、その一方で同時にDFの工程中に添加された塩の少なくとも一部を除去する。好ましくは、導電率は、UF中、多少なりとも一定のままとなる。このようにして、乾燥物に対して低い塩含有量を有する濃縮済み塊茎タンパク質単離物が得られる。好ましくは、限外ろ過から得られた濃縮済み塊茎タンパク質単離物は、ダイアフィルトレーションの保持液について上に記載された全てのパラメータに応じるが、加えて、5wt.%未満、好ましくは3wt.%未満、更により好ましくは1wt.%未満の、灰として表される塩含有量を有する。更に好ましくは、カリウム含有量は、4wt.%未満、好ましくは2wt.%未満、より好ましくは1wt.%未満である。
【0047】
限外ろ過は、ダイアフィルトレーションのために用いられるものと同じ又は異なるセットアップを用いて実施され得る。そのため、その膜は、3~500kDa、好ましくは5~300kDa、より好ましくは5~200kDa、好ましくは30~200kDa、より好ましくは40~120kDa、更により好ましくは50~100kDaのMWCOを有し得る。一実施形態では、そのMWCOは、ダイアフィルトレーションのために用いられる膜とは独立に、3~50kDa、好ましくは5~25kDa、例えば5~15kDa又は15~25kDa、又は50~200kDa、好ましくは50~150kDaとすることができる。
【0048】
好ましいUF膜は、これもまたダイアフィルトレーションのために用いられる膜とは独立に、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、再生セルロース及びポリプロピレン(PP)の各膜、好ましくはPES膜又はPS膜である。好ましいUF膜は、異方性のUF膜である。UF膜は、管状、渦巻形、中空繊維、平板形として、又は交差回転誘起型剪断変更ユニットとして実行することができる。きわめて好ましい膜は管状のUF膜である。
【0049】
流束はまた、ダイアフィルトレーションにおいて得られるものと同じであっても異なっていてもよいが、一般には、ダイアフィルトレーション下で上に記載されたものである。UFを実施して、好ましくは、0.5~25°Bx、好ましくは5~22°Bx、より好ましくは10~18°Bx、更により好ましくは12~17°Bx、更により好ましくは14~16°Bxの溶解された固形分の総量を有する濃縮済み塊茎タンパク質単離物を得るようにする。更に好ましい実施形態では、溶解された固形分の総量は、最大で30°Bxまで、最大で40°Bxまで、又は最大で50°Bxまでとすることができる。
【0050】
好ましい実施形態では、ダイアフィルトレーションのために用いられるのと同じセットアップがまた、限外ろ過のためにも用いられる。そのため、膜、流束、並びに他の方法のパラメータ及び装置のパラメータは、好ましくは同じである。これにより、方法の操作効率が高まる。
【0051】
未変性の塊茎タンパク質単離物を、その後乾燥して、未変性の塊茎タンパク質粉末を得ることができる。乾燥は、当技術分野で公知の任意の方法、好ましくは噴霧乾燥又は凍結乾燥によって実施することができる。任意選択で、未変性の塊茎タンパク質単離物は、乾燥前に、更なる濃縮の工程、好ましくは逆浸透、蒸発又は凍結濃縮に供される。どのようにこれを達成するかは、いずれかの箇所で記載されており、それは一般に公知である。
【0052】
乾燥前に、塊茎タンパク質単離物を、5.5~7.0、好ましくは6.0~7.0のpHに調整することがきわめて好ましい。これにより、未変性の塊茎タンパク質粉末の安定性が向上し、これが保存を容易にする。
【0053】
塊茎タンパク質単離物、詳細には濃縮された水性塊茎タンパク質単離物のpHを、2.5超、好ましくは2.75超に調整することが更に好ましい。これは、タンパク質溶液の粘度を安定させるために、且つ乾燥前の保存中に溶液のゲル化を避けるために好ましい。好ましくは、このようなpH値を、塊茎プロテアーゼ阻害剤を含む塊茎タンパク質単離物のために用いる。
【0054】
加えて、濃縮済み塊茎タンパク質単離物のpHは、ここでも乾燥前の保存中のタンパク質溶液の粘度を安定させるために、4.0未満、好ましくは3.5未満、より好ましくは3.0未満に調整することができる。好ましくは、このようなpH値を、塊茎パタチンを含む塊茎タンパク質単離物のために用いる。
【0055】
本ダイアフィルトレーション方法を効率的に実施するために、本明細書で定義している未変性の塊茎タンパク質を含む比較的清浄なダイアフィルトレーション供給溶液が使用されることが重要である。本発明の清浄なダイアフィルトレーション供給溶液は、工程a及び工程bに従って得られる。
【0056】
本方法の工程aでは、少なくとも1つの塊茎を処理して、塊茎タンパク質を含む水性液体を得る。これは、塊茎処理水と呼ぶことができる。この処理は、例えば、塊茎のパルプ化、すりつぶし、やすり掛け、粉砕、押圧又は切断を含み、且つ任意選択で、未変性の塊茎タンパク質を含む前記塊茎処理水を得るための水との混合を含む。
【0057】
水性液体は、デンプンを含んでもよく、且つ好ましくは、水性液体を、例えば当技術分野で公知であるようなデンプン除去の工程、例えばデカント、サイクロン分離又はろ過にかけて、未変性の塊茎タンパク質を含む塊茎処理水を得る。この実施形態では、塊茎処理水は、好ましくはデンプン工業からの副生成物であり、例えばジャガイモ工業においてデンプンの単離後に得られるジャガイモ果汁(PFJ)である。
【0058】
他の実施形態では、塊茎は、好ましくはジャガイモから例えばチップス及びフライのような処理された塊茎製品のベースである形を形成するように、切断して処理することができる。このような切断は、水の存在下で実施されるとき、未変性の塊茎タンパク質を含む塊茎処理水をもたらす。
【0059】
このような一実施形態では、塊茎は、塊茎を切断するために、ジェット噴流水によって処理されてもよい。別の実施形態では、塊茎は、例えば水の存在下で、刃物によって処理されてもよい。このような切断方法から生じる水は、未変性の塊茎タンパク質を含み、これは、工程aの趣旨における塊茎処理水の更に好ましいタイプである。
【0060】
工程bでは、塊茎処理水は、少なくとも1つの前処理工程、例えば濃縮、希釈、pH調整、凝結、固形分除去及び/又は加熱処理に供され、未変性のタンパク質を含む前処理済み塊茎処理水をもたらす。これらの工程は、任意の順序で実施することができる。固形分除去は、溶液から少数の不溶性粒子を除去する方法に関する。これらの不溶性粒子は、脂質(の凝集物)、不溶性タンパク質、残っている細胞壁断片、デンプン細粒又はその断片、微生物及び土壌粒子を含む。前処理は、塊茎処理水がタンパク質の変質又は変性をほとんど伴わずに効率的に処理され得ることを確実にするため、フィルター及び膜の詰まり、処理装置の表面上での皮膜及びスケールの形成を防止するため、高い処理安定性及び効率を確実にするために重要である。
【0061】
塊茎処理水の濃縮は、過剰な水を除去するための当技術分野で公知の任意の方法によって達成することができる。好ましい方法は、比較的低い温度、例えば40℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、更により好ましくは25℃以下にて操作され得る方法である。更に好ましくは、濃縮の前処理は、高速の方法にて生じ得る。塊茎処理水を濃縮する好ましい方法は、限外ろ過、逆浸透及び凍結濃縮、好ましくは限外ろ過である。これらの方法は当技術分野で公知である。
【0062】
一実施形態では、濃縮は、凍結濃縮を通じて達成される。凍結濃縮は、WO2017/146568に記載されているように実施することができ、又は当技術分野で公知の他の方法によって実施することができる。
【0063】
別の実施形態では、濃縮は、逆浸透を通じて達成される。逆浸透は、当技術分野で公知の検出可能な孔を有していないRO膜を用いて行うことができる。RO膜は、当技術分野で周知であるように、膜材料中の溶質の異なる可溶度に基づいて溶質を分離する。RO流束は、一般に、DF(又はUF)流束における流速と同じであり得、例えば2~50、好ましくは5~30、より好ましくは10~25l・(h・m2)-1の流束である。
【0064】
更にきわめて好ましい実施形態では、濃縮の前処理は、限外ろ過を通じて達成される。限外ろ過は、それが高い流束において操作され得、一方で同時にコスト効率的であるという利点を有する。操作流束は、例えば3から150l・(h・m2)-1の間、好ましくは5から50l・(h・m2)-1の間、好ましくは7から30l・(h・m2)-1の間、更により好ましくは9から20l・(h・m2)-1の間とすることができる。好ましい実施形態では、限外ろ過は、連続(交差流れ)方法として実施される。
【0065】
限外ろ過の前処理における使用のための好ましい膜は、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、再生セルロース及びポリプロピレン(PP)の各膜、好ましくはPES膜及びPS膜である。好ましい膜は、3~500kDa、好ましくは5~300kDaの分子量カットオフ値(MWCO)を有する。
【0066】
比較的少量の懸濁固形分を有する塊茎処理水(例えば、少量の細胞屑を有し且つ/又は固形分除去の工程を既に受けた汁)の限外ろ過の場合、膜は、3~100kDa、例えば5~50kDa、より好ましくは5~20kDaのMWCOを好ましくは有する。
【0067】
比較的多量の懸濁固形分を有する塊茎処理水(例えば、多量の細胞屑を有し、且つ固形分除去の工程を未だ受けていない汁)の限外ろ過の場合、好ましい膜は、20~300kDa、好ましくは50~150kDaのMWCOを有する。
【0068】
前処理である限外ろ過の方法の更なる条件は、ダイアフィルトレーションのために上で定義した条件と同じであり得る。好ましい実施形態では、前処理である限外ろ過は、ダイアフィルトレーションの工程と同じセットアップを用いて実施される。すなわち、任意の限外ろ過の工程は、5~300kDa、好ましくは30~200kDa、より好ましくは40~120kDa、更により好ましくは50~100kDaの膜を用いて好ましくは実施される。「任意の限外ろ過の工程」は、限外ろ過の工程が存在する場合、限外ろ過が、上述した膜のタイプを用いて好ましくは実施されることを表すと解釈されることになる。換言すると、限外ろ過は、存在する場合、上述した膜のタイプを用いて実施される。
【0069】
塊茎処理水の希釈は、希釈を達成するための、当技術分野で公知の任意の方法によって達成することができる。そのため、塊茎処理水は、(水道又は脱塩の)水、バッファ、又は酸溶液若しくは塩基溶液で希釈されてもよい。いくつかの実施形態では、希釈は、上に記載した方法論及びセットアップを用いて、前処理工程としてのダイアフィルトレーションを通じて達成することができる。
【0070】
前処理には、1種又は複数のpH調整を含み得る。pH調整は、当技術分野で公知である適当な酸又は塩基の添加によって達成することができる。好適な酸又は塩基は、例えば塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、リン酸、硫酸及び乳酸を含んでもよく、好適な塩基は、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム、カルシウム及びマグネシウムの酸化物及び水酸化物である。
【0071】
pH調整は、多様な目的に役立ち得る。pH調整は、溶液の導電率を変えるために、且つまたタンパク質の可溶性に影響を及ぼすためにも用いることができる。本発明において、pH調整は、例えばタンパク質の酸凝固におけるように、完全なタンパク質変性を起こすべきではない。しかし、塊茎処理水のpH調整は、タンパク質の部分的な沈降、又は塊茎処理水の他の構成成分の沈降をもたらすことがあり、これを、その後固形分除去の工程によって除去することができる。
【0072】
例えば、4.0~5.5へのpH調整は、より高い相対量の未変性のプロテアーゼ阻害剤を含む塊茎処理水を得るために、パタチン画分の少なくとも一部を、特に高濃度、例えば、塊茎処理水中のタンパク質5~20wt.%の濃度において沈降させるのに用いることができる。沈降タンパク質は、その後、いずれかの箇所で定義している固形分除去の工程中に除去することができる。これにより、未変性の塊茎タンパク質単離物中の未変性のプロテアーゼ阻害剤の相対量が増加する。
【0073】
凝結は、適当な凝集剤、例えばCa(OH)2、カチオン性又はアニオン性ポリアクリルアミド、キトサン又はカラゲナンを添加することによって達成することができる。これは、当技術分野で公知である。例えばWO2016/036243に記載されている方法もまた用いることができる。凝結に続いて、固形分除去の工程を、例えばデカント、ろ過、遠心分離、サイクロン分離又は精密ろ過によって、好ましくは実施する。
【0074】
加熱処理も、加熱処理が完全なタンパク質凝固をもたらさないという条件で、前処理として適用することができる。例えば40~55℃への1~120分間の加熱処理は、パタチンの大部分を除去することができ、その後固形分除去の工程によって除去することができる。また、塊茎からのプロテアーゼ阻害剤が、パタチンよりも高い熱安定性を有すること、及び加熱が、パタチンの部分的な又は完全な変性を起こし得ることが公知である。そのため、加熱の工程を、固形分除去の工程との組み合わせにおいて実施して、例えば未変性のプロテアーゼ阻害剤に富む塊茎処理水を得ることができる。例えば、60~80℃、好ましくは70~73℃における加熱処理を、パタチン画分の少なくとも一部を沈降させるのに用いることができ、固形分除去の工程に続けることによって、未変性のプロテアーゼ阻害剤に富む未変性の塊茎タンパク質を単離することができる。
【0075】
固形分除去は、本発明において、上に記載した別の前処理工程に加えて且つ好ましくはそれに続けて、実施してもよいが、唯一の前処理工程として実施してもよい。本明細書で定義している固形分除去は、本方法の別の時点に実施されてもよい。しかし、好ましくは、固形分除去は前処理中に実施される。前処理は、固形分除去の工程を好ましくは含む。
【0076】
固形分除去は、本発明において、好ましくは、ろ過、遠心分離、サイクロン分離、デカント、ナノろ過又は精密ろ過、最も好ましくは精密ろ過の工程である。これらの工程は、当技術分野で公知の方法で実施することができる。
【0077】
精密ろ過(MF)は、本実施形態のいずれにおいてもきわめて好ましい前処理であるが、特に、固形分除去が唯一の前処理工程であるところの実施形態ではきわめて好ましい前処理である。精密ろ過は、液体からの微粒子の分離を達成するために実施することができる。精密ろ過は、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)及びポリプロピレン(PP)等の多様な膜で、及び酸化ジルコニウム又は酸化チタン又は酸化アルミニウムの各膜等のセラミック膜で実施することができる。MFは、0.1~10μm、好ましくは0.2~4μm、より好ましくは0.3~1.5μmの孔径を有する膜にわたって好ましくは実施される。
【0078】
MFは、定圧で又は定流で、のいずれかで操作することができる。圧力は、1.5バールから最大で5バールの間で多様とすることができる。流束は、0から350l・(h・m2)-1の間、好ましくは45から350l・(h・m2)-1の間であってもよい。精密ろ過は、脱塩水のブランクに比して、好ましくは0.2未満、より好ましくは0.1未満となる、620nmの精密ろ過された液体における吸収度を有する塊茎処理水をもたらす。
【0079】
きわめて好ましい実施形態では、前処理は、精密ろ過の工程を含む。他のきわめて好ましい実施形態では、前処理は、限外ろ過の工程を含む。きわめて好ましい実施形態では、前処理は、精密ろ過のみを含む又はそれのみからなる。更にきわめて好ましい実施形態では、前処理は、限外ろ過及びそれに続く精密ろ過、又は精密ろ過及びそれに続く限外ろ過を含む又はそれらからなる。
【0080】
前処理により、比較的清浄な塊茎処理水がもたらされ、これが、ダイアフィルトレーション供給溶液となる。前処理は、好ましくは、脱塩水のブランクに比して、0.2未満、より好ましくは0.1未満の、620nmでの吸収度を有するダイアフィルトレーション供給溶液をもたらす。前処理は、更に好ましくは、上に定義した導電率及びpHを有するダイアフィルトレーション供給溶液をもたらす。ダイアフィルトレーション供給溶液の、溶解した総固形分は、好ましくは2~10°Bx、より好ましくは3~8°Bx、例えば4~6°Bxである。懸濁した総固形分は、0.05vol.%未満、好ましくは0.25vol.%未満、より好ましくは0.01vol.%未満である。最も好ましくは、懸濁した固形分は本質的に存在しない。懸濁した総固形分は、この点において、サンプルを遠心分離し、遠心分離後、上清に対する凝結物のvol.%を決定することによって測定される。
【0081】
更にきわめて好ましい実施形態では、方法は、最大で200mg/kgのグリコアルカロイドを含む塊茎タンパク質単離物を得るために、グリコアルカロイド除去の工程を含む。これに関するグリコアルカロイドは、ソラニン誘導体とカコニン誘導体との総量として定義されているグリコシル化アルカロイドである。この量はまた、グリコアルカロイド総含有量(TGA)と称することもでき、且つLaus M.C.、Klip G. & Giuseppin M.L.F. (2016) Food Anal. Methods 10(4)「Improved Extraction and Sample Cleanup of Tri-glycoalkaloids α-Solanine and α-Chaconine in Non-denatured Potato Protein Isolates」のLausらの方法に従って決定することができる。グリコアルカロイドは、ヒトに毒性であると知られ、その理由のために、塊茎タンパク質単離物中で、グリコアルカロイドの存在は制限されるべきである。
【0082】
グリコアルカロイド除去は本質的に公知であり、クロマトグラフィーによって、酸抽出によって、酵素転換によって又は発酵によって、活性炭素、疎水性樹脂又は多様なタイプのクレイへの吸着によって達成することができる。例示的な技術は、WO2008/056977及びWO2008/069651に記載されている。好ましくは、グリコアルカロイドは、吸着によって、例えば、活性炭素、疎水性樹脂又は多様なタイプのクレイ等の好適な吸着剤を含むカラムを通してグリコアルカロイドを含むプロセス流を流すことによって、除去される。これは、本方法におけるいずれの時点で行うこともできるが、好ましくは、前処理工程bの一部として又は工程cの後に実施される。
【0083】
更に好ましい実施形態では、方法は、少なくとも1つの塊茎が処理前に皮をむかれる初期の工程を含む。したがって、本方法は、皮をむかれた塊茎を処理に供する。これには、得られる塊茎処理水がはるかにより清浄であり、したがって本ダイアフィルトレーション方法に先立って要する前処理がより少なくてすむという利点を有する。加えて、塊茎の皮をむくことは、異なるタンパク質組成をもたらし、その結果、得られた未変性の塊茎タンパク質は、アミノ酸、アスパルギン酸及びアスパルギン、グルタミン酸及びグルタミン、チロシン、プロリン、並びにアルギニンに富む。
【0084】
きわめて好ましい実施形態では、第1のダイアフィルトレーション又は限外ろ過は、塊茎遊離アミノ酸を含む透過水を与える。そのため、第1のダイアフィルトレーション又は限外ろ過の工程の透過水は、廃棄物として廃棄されずに、別々に処理されて塊茎遊離アミノ酸を得る。このような処理は、好ましくは噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥による乾燥の工程を好ましくは含んで、塊茎遊離アミノ酸粉末をもたらす。乾燥は、いずれかの箇所で記載されているように、乾燥前の、限外ろ過、逆浸透及び/又は凍結濃縮による等の濃縮の工程の後で行われ得る。
【0085】
本方法は、好ましくは工業的規模において操作される。そのため、本方法は、好ましくは1時間当たり少なくとも5kgのタンパク質、より好ましくは1時間当たり少なくとも25kgのタンパク質、更により好ましくは1時間当たり少なくとも50kgのタンパク質、潜在的には1時間当たり最大で数トンをもたらすように操作される。好ましい実施形態では、本方法は、例えば、10~750m3/hr、好ましくは50~450m3/hr、より好ましくは80~300m3/hrの率にて操作することができる。したがって、好ましくは、該方法は、全行程が連続的に操作される(バッチ式とは逆の)方法であり、例えば当業者に公知である「連続的フィードアンドブリード構成」にある。
【0086】
塊茎処理水が1wt.%超、好ましくは1.5wt.%超等の高タンパク質濃度を有するところの実施形態では、塊茎処理水を処理する方法は、好ましくは、精密ろ過の前処理、それに続く上に記載したダイアフィルトレーションを含む。好ましくは、この方法は、精密ろ過の工程の前又は後のいずれかに、凝結の工程を更に含む。更に好ましい実施形態では、塊茎処理水は、ダイアフィルトレーションの工程に先立って、限外ろ過の工程に更に供される。この実施形態では、該方法は、第1の限外ろ過の工程を含み、ダイアフィルトレーションへと続く。更なる実施形態では、ダイアフィルトレーションの保持液が、乾燥前に、限外ろ過によって濃縮されてもよい。第1及び第2の限外ろ過の工程は、上に記載した同じ一般の方法の条件を当てはめることができるが、同一の方法の工程である必要はない。
【0087】
高濃度タンパク質を含む塊茎処理水からの未変性の塊茎タンパク質の単離のための最適化された方法は、精密ろ過、凝結、及びダイアフィルトレーションの順序での工程、又は凝結、精密ろ過、及びダイアフィルトレーションの順序での工程、又は凝結、精密ろ過、限外ろ過、及びダイアフィルトレーションの順序での工程、又は精密ろ過、限外ろ過、及びダイアフィルトレーションの順序での工程を含み又はこれらの工程からなる。きわめて好ましい実施形態では、一連の工程は、精密ろ過、限外ろ過、及びダイアフィルトレーションの工程からなる。或いは、一連の工程は、凝結、精密ろ過、限外ろ過、ダイアフィルトレーションの工程、又は凝結、限外ろ過、及びダイアフィルトレーションの工程を含み又はこれらの工程からなり、これらのそれぞれは、任意選択で限外ろ過へと続く。
【0088】
全ての列挙した工程は、本明細書のいずれの箇所で記載されているパラメータに従って実施することができる。これらの実施形態では、凝結の工程は、好ましくは、固形分除去の工程、好ましくは遠心分離へと続く。全ての実施形態は、好ましくは、該方法の任意の時点において、グリコアルカロイド除去の工程で補完される。これらの方法のうちのそれぞれは、乾燥の工程を含んでもよく、乾燥は、任意選択で、濃縮の工程に、好ましくは限外ろ過に先行される。
【0089】
塊茎処理水が1.5wt.%未満、好ましくは1wt.%未満等の低タンパク質濃度を有するところの実施形態では、該方法は、好ましくは、限外ろ過を含む前処理、それに続く上に記載したダイアフィルトレーションを含む。好ましくは、この一連の工程は、精密ろ過の工程に先行される。更に好ましくは、ダイアフィルトレーションの保持液は、続いて限外ろ過される。低濃度タンパク質を含む塊茎処理水からの未変性の塊茎タンパク質の単離の最適化された方法は、本明細書で定義した、精密ろ過、限外ろ過、ダイアフィルトレーション、及び任意選択で限外ろ過及び/又は乾燥の、続く各工程からなり、該方法の任意の時点において、グリコアルカロイド除去の工程で補完される。
【0090】
任意選択で、ダイアフィルトレーションの保持液、又はダイアフィルトレーションの保持液を限外ろ過して得た濃縮した溶液を、例えば吸着又はクロマトグラフィーによる等の分画の工程に供することができる。これらの方法は、未変性の塊茎タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤画分、パタチン画分又は総タンパク質画分へと分離することが知られている。そのため、このような方法を適用して、総塊茎タンパク質単離物を更に精製するか、又はプロテアーゼ阻害剤単離物若しくはパタチン単離物を得ることができる。
【0091】
しかし、好ましい実施形態では、タンパク質の単離は、タンパク質吸収の工程なしで達成される。本方法は、好ましくは、吸収体へのタンパク質の吸収の工程であって、(処理した液体の他の成分よりも高い親和性を有するタンパク質であると定義される)タンパク質が吸着される工程を含まない。本方法は、好ましくは、タンパク質の吸収-溶出方法又はタンパク質クロマトグラフィー、例えば拡張床吸着(EBA)法、膜吸着法、又はクロマトグラフィーの工程を含まない。
【0092】
更に、該方法は、好ましくはまた、変性の工程を含まない。きわめて好ましい実施形態では、該方法は、前処理中、ダイアフィルトレーション中、及び乾燥前の任意の他の工程中に、塊茎処理水の温度を40℃未満に保つように実施される。これは、時間内に、タンパク質溶液の粘度安定性を達成することを助け、且つまたタンパク質の変性を回避する。加えて、本方法は、好ましくは、更なる変性の工程を含まず、高剪断の工程、例えば微粒子化の工程も含まない。
【0093】
本方法を用いて単離されたタンパク質
本方法は、未変性の塊茎タンパク質単離物の単離のための公知の方法を上回るいくつかの利点を有する。タンパク質はより清浄であり、変質が少なくて変性が少なく(より未変性である)、改善された機能上の性質を有する。加えて、それは、異味を有さず、ざらざらした口当たりがない。
【0094】
本方法を用いて単離されたタンパク質は、高いタンパク質含有量を有する清浄な未変性のタンパク質である。それは、乾燥物の百分率として、少なくとも75wt.%未変性の塊茎タンパク質、好ましくは少なくとも80wt.%、より好ましくは少なくとも85wt.%、更により好ましくは少なくとも90wt.%の未変性の塊茎タンパク質を含む。
【0095】
単離したタンパク質粉末が脱塩水中で溶解する能力は、変性度についての尺度であり、変性したタンパク質粉末は水に溶解することができないが、その一方で、未変性のタンパク質粉末は水に溶解することができる。本方法を用いて単離された(且つその後乾燥された)未変性の塊茎タンパク質は、脱塩水に、本質的に完全に、溶解することができ、これは、単離されたタンパク質のうちの少なくとも55%、好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは少なくとも85%、又は更には少なくとも90%が脱塩水に再溶解できることを意味する。
【0096】
可溶度を含めた機能上の性質は、塊茎内部で自然に発生するタンパク質の性質に匹敵する。加えて、乳化の性質は、影響を受けない。
【0097】
加えて、タンパク質は、最大で1.0wt.%の、グルコースとフルクトースとスクロースとの総量、最大で1wt.%の塊茎遊離アミノ酸、最大で10mg/kg、好ましくは最大で5mg/kgの亜硫酸塩、最大で200mg/kg、好ましくは最大で100mg/kg、より好ましくは最大で50mg/kg、更により好ましくは最大で25mg/kgのグリコアルカロイド、最大で5mg/kgの、カドミウム、水銀、鉛及びヒ素からなる群から選択される重金属、及び最大で10wt.%、好ましくは最大で5wt.%の塩化物塩を含む。好ましくは、灰含有量は、5wt.%未満、好ましくは3wt.%未満、より好ましくは1wt.%未満である。
【0098】
糖が低含有量であること及び遊離アミノ酸が低含有量であることが重要であり、その理由は、グルコース、フルクトース及びスクロース等の糖が、遊離アミノ酸との反応において異味を大きく助長するピラジンを形成し得る還元糖であるためである。
【0099】
好ましくは、糖含有量は、組成物の乾燥質量に対して、1.0wt.%未満、好ましくは0.5wt.%未満、より好ましくは0.1wt.%未満、より好ましくは0.05wt.%未満である。更に好ましくは、単離物は、組成物の乾燥質量に対して、最大で1wt.%の塊茎遊離アミノ酸、より好ましくは最大で0.5wt.%、更により好ましくは最大で0.1wt.%の遊離アミノ酸、更により好ましくは最大で0.05wt.%の遊離アミノ酸を含む。
【0100】
本方法は、有利にも、糖と遊離アミノ酸との両方の量を減少させる。塩溶液に対するダイアフィルトレーションは、タンパク質が安定化されて、そのためダイアフィルトレーション中の強制的な機械的相互作用において全く又はほとんど変質しない条件を更に付与する。これは、更なる遊離アミノ酸の形成を最小にする。
【0101】
本方法は、更に、得られた塊茎タンパク質単離物中に存在する亜硫酸塩を最小にする効果を有する。亜硫酸塩は、塊茎タンパク質溶液を不安定にするが、それは、従来、塊茎処理水の酸化を防止するために、そのため色の形成を防止するために、デンプン処理中に塊茎処理水に添加されている。本方法は効果的に亜硫酸塩を除去し、したがって粘度の安定性の向上へ導く。
【0102】
好ましい実施形態では、本方法は、塊茎タンパク質単離物からの塩の除去、詳細には、塊茎に由来する塩の除去、及び/又はダイアフィルトレーションの工程中に添加された塩の除去を含む。これは、上に記載したように達成することができ、低い灰含有量、低いカリウム含有量、及びまた低い重金属の量を有するタンパク質がもたらされる。
【0103】
明解さ及び正確な記載の目的のために、特徴が、本明細書に、同じ実施形態の一部又は別々の実施形態として記載されているが、しかし、本発明の範囲が、記載された特徴のうちの全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を含んでもよいことが認められることになる。本発明は、これから、以下の非限定的な実施例によって例示されることになる。
【実施例】
【0104】
グリコアルカロイド(総グリコアルカロイド又はTGA)を、Laus及び共同研究者の、Laus M.C.、Klip G. & Giuseppin M.L.F. (2016) Food Anal. Methods 10(4)「Improved Extraction and Sample Cleanup of Tri-glycoalkaloids α-Solanine and α-Chaconine in Non-denatured Potato Protein Isolates」の方法に本質的に従って決定した。
【0105】
簡潔に記すと、サンプルを、20mMのヘプタンスルホン酸ナトリウム塩を含有する5%酢酸溶液(VWR 152783K)中で少なくとも2時間、溶解又は希釈した。不溶性材料を周囲温度にて9000gで遠心分離して除去し(Heraeus Multifuge 1 SR、rotor 75002006)、上清を、0.45μmのGHP膜を備えたGHP Acrodisc 13mm Syringe Filterにわたり、1.5mLのHPLCバイアル(VWR 548-0004)中へ直接ろ過し、アルミニウムci 11mmのゴム/ブチル/TEFキャップ(VWR 548-0010)で栓をした。サンプルをRobotlonオンラインSPEシステム(Separations)を介して、SPEカラム(Oasis HLB prospect-2 /Symbiosisカートリッジ2.0×10mm、粒径30μm)上に自動的に導入した。グリコアルカロイドを、Hypersil ODS C18(250mm×4.6mm 5μm)カラム上で溶出し、50%アセトニトリル/リン酸バッファpH7.6を用いて分離した。分析物を、Smartline UV検出器2520(Knauer社)を用いて検出し、精製したグリコアルカロイドから調製した較正曲線において定量化した(α-ソラニン、Carl Roth 4192,1、及びα-カコニン、Carl Roth 2826,1)。
【0106】
金属を、ISO17294-2:2016年に従ってInductive-Coupled Plasma Mass Spectrometry(ICP-MS)により決定した。
【0107】
元素組成を、Rigaku CG ED-XRF(Rigaku社)を介したナトリウムのものの上記の原子番号を有する全ての元素について、X線蛍光(XRF)を介して決定した。
【0108】
灰を、550℃にてサンプルを焼却し、残渣を秤量することによって、決定した。
【0109】
糖の決定を、Megazyme SuFrGキットで、製造会社の指示書に従って実施した。
【0110】
懸濁した総固形分(TSS)の量は、620nmにおいて4.5wt.%の乾燥物含有量を有する汁の
吸収度を測定することによって決定することができる。
【0111】
溶解した固形分の量は、PALアルファ手動デジタル屈折計(AT 3840、Atago社)中でそれを測定することによって決定することができる。
【0112】
620nmにおける吸収度を、サンプルを5.0°Bx(4.5wt.%の乾燥物に相当)に希釈して、Eppendorf遠心分離機中、14.000rpmにおいて10分間遠心分離して不溶物を除去することによって決定する。そのbrix値が5未満であるサンプルをそのままで遠心分離した。各サンプルの上清の一定分量1mLをキュベット中に導入し、BioRad SmartSpec Plus分光光度計中に置く。吸収度を、620nmにおいて、脱塩水のブランクに対して二重に読み取る。
【0113】
導電率は、当技術分野で周知であるように、HI 98312導電率メータ(Hanna Nindustries社、オランダ)によって、室温にて決定することができる。導電率はまた、当技術分野で公知であるように、適当であれば、溶質の多様な濃度に基づいて計算して決定することができる。
【0114】
タンパク質濃度は、Kjeldahl測定法によって決定することができる。次いで窒素数を、6.25を乗じることによってタンパク質含有量へと転換する。
【0115】
真のタンパク質含有量を、CEM Sprint急速タンパク質分析器を用いて決定した。この方法は、負荷電染料(iTAG)の、酸性条件下のタンパク質中に存在する、正荷電アミノ酸リジン、アルギニン及びヒスチジンとの相互作用に基づかせる。染料の疎水性の性質は、タンパク質が沈降することを引き起こし、480nmにおける染料吸着の減損は、完全に洗浄したタンパク質調製物において実施したKjeldahl分析から調製した較正曲線の使用によるタンパク質含有量へと翻訳される。単一のアミノ酸及び小さいペプチド等の窒素性化合物は、染料溶液では沈降せず、結果としてタンパク質含有量の測定値に影響を及ぼさない。
【0116】
水分含有量を乾燥減量として報告し、HG83ハロゲン乾燥器(Mettler Toledo社)中に1から10gの間のサンプルを収容している、100℃で10分間設定するアルミニウムサンプルパン(VWR 611-9000)を導入することによって決定する。
【0117】
この実験では、ダイアフィルトレーション中、以下の塩溶液を頻繁に使用した: 0.5wt.%のNaCl(導電率8.2mS/cm)、0.5wt.%のKCl(導電率8.2mS/m)、0.33wt.%のNaCl(導電率5.3mS/cm)。
【0118】
Experionによるタンパク質組成
タンパク質組成を、Experion Pro260自動電気泳動ステーション(Bio-Rad社、米国)を用いて決定する。最初に、試薬を室温に平衡させて短い間撹拌し、その後、試薬を10000×gで5分間、遠心分離機において遠心沈殿させた。この後、ゲル及びゲル着色溶液を調製し、前者は試薬の混合を必要としなかったが、後者は着色試薬20μLをゲル試薬520μLと混合して作製した。次いで両方の溶液を撹拌し、0.2μmのフィルターを備えたEppendorfカップ中、10000×gで5分間遠心沈殿させた。続いて、サンプルバッファを、サンプルバッファ30μLをβ-メルカプトエタノール1μLと混合して調製した。サンプル及びラダーを、続いて、サンプル/ラダー4μLをサンプルバッファ2μLと混合し、続いて撹拌し、10000×gで5分間遠心分離して調製した。サンプル及びラダーを続けて超純水84μLで希釈する。Experionチップをプライミングステーションにおいて、プログラムB3を走らせることによってゲル着色溶液12μLでプライミングする。続いて、ゲル着色溶液及びゲル溶液12μLをチップウェルに従ってピペットする。ラダー6μLを、Experionチップにおいて、ラダーウェル中でピペットする。続いて、各サンプル6μLをサンプルウェル1~10中に装入する。最後に、ExperionチップをExperion Pro260に装入してProtein 260分析を走らせて分析を開始する。分析後、電極を洗浄チップを用いて洗浄する。
【0119】
(実施例1)
塩濃縮の、タンパク質が凝集する及び沈降する傾向に対する効果を、多様なpH及び導電率にあるモデル溶液を使用して評価した。モデル溶液は、(クロマトグラフィーによって、及び広範にダイアライズして得た)精製したプロテアーゼ阻害剤及び精製したパタチンを含む。
【0120】
タンパク質を、精製したプロテアーゼ阻害剤と精製したパタチンとの質量比1:1で、総タンパク質濃度1wt.%において、30mMクエン酸カリウムバッファに溶解した。pHを、必要に応じて、HCl(1M)又はNaOH(1M)によって調整した。導電率を、塩化カリウムの添加を通じて2、12又は50mS・cm
-1に設定した。サンプルを周囲温度にて1時間インキュベートし、Eppendorf遠心分離機中14000rpmで10分間遠心分離して沈降タンパク質を除去した。上清を100mM NaOH溶液中、25分の1に希釈した。タンパク質濃度を、100mM NaOHブランクに対してBioRad Smartspec Plus分光光度計において280nmにおいて読み取り、可溶なタンパク質の百分率として表した。結果は、低い導電率にあるpHの関数としてのジャガイモタンパク質可溶度の強力なpH依存性を示し、その一方で、より高い導電率では、pH効果は低下する又は消失する(
図1を参照されたい)。
【0121】
(実施例2)
塩濃度の、タンパク質が機械的ストレス下で凝集する及び沈降する傾向に対する効果を、多様なpH及び導電率において、モデル溶液を使用して評価した。モデル溶液は、(クロマトグラフィーによって、及び広範にダイアライズして得た)精製したプロテアーゼ阻害剤と精製したパタチンとを1:1モル比で含む。
【0122】
タンパク質を、10mMクエン酸バッファ中、2wt.%及び6wt.%の総タンパク質濃度において溶解した。バッファをNaOH又はHCl溶液で希釈して、pHを6.0又は7.0に設定した。得られた溶液に固体KClを添加して、導電率を2、5、12及び50mS・cm-1に設定した。溶液を10.000×gにおいて5分間遠心分離して不溶性タンパク質を除去し、続いて1.5wt.%及び4wt.%の最終タンパク質濃度にセットした(PI画分に対して較正した)。タンパク質の可溶度を、各画分に対して別々に決定し、続いてジャガイモ汁における自然の多様性を反映させるために平均した。
【0123】
最終タンパク質溶液を、ダイアフィルトレーション中に生じる機械力を模倣するために、機械的撹拌機で強く撹拌しながら室温にて1時間インキュベートした。タンパク質混合物を、続いて、10.000×gにおいて5分間遠心分離し、上清中のタンパク質濃度を決定した。凝集によるタンパク質の減損を、出発タンパク質濃度と最終タンパク質濃度との差によって算出した。結果を
図2に示す。
【0124】
結果は、総ジャガイモタンパク質が、機械的ストレス下であってさえ、上昇した導電率において高度に可溶性であることを示している。導電率は、少なくとも5mS・cm-1、好ましくは少なくとも8mS・cm-1であるべきである。ダイアフィルトレーション中の過剰な塩の添加を避けるために、導電率は、好ましくは20mS・cm-1未満、より好ましくは18mS・cm-1未満である。好ましい導電率は、8~15mS・cm-1、好ましくは9~14mS・cm-1である。
【0125】
(実施例3)
デンプン及び繊維を除去した後にジャガイモ塊茎から得た塊茎処理水(ジャガイモ処理水)を、未変性の総タンパク質単離物の生成のための原材料としてパイロット規模において使用した。ジャガイモ処理水を固形分除去の前処理((a)及び(b))に供し、又は凝結の前処理、続いて固形分除去(c)に供した。全ての場合に、処理は、100から250l・h-1の間の流れにおいて生じさせた。
(a)ジャガイモ処理水を、従来の連続スタックディスク遠心分離機中で遠心分離した。粒子の更なる除去を、フィルター補助として珪藻土で備えた全量ろ過を用いて果たした。遠心分離したジャガイモ処理水を、更なる処理を待ってタンク内に保存した。
(b)ジャガイモ処理水を、0.8マイクロメートルの孔径を有するセラミック膜を用いて、且つ温度およそ23±2℃及び100l・(h・m2)-1の定流束において操作して、精密ろ過の工程に供した。精密ろ過したジャガイモ処理水を、更なる処理を待ってタンク内に保存した。
(c)ジャガイモ処理水を、WO2016/036243 A1に記載のように、カチオン性凝集剤とアニオン性凝集剤との混合物で前処理した。固形分をディスクスタック遠心分離機中でジャガイモ処理水から分離した。遠心分離機の底部においてスラッジを廃棄し、その一方で遠心分離機の上清をダイアフィルトレーションの供給物として使用した。凝結したジャガイモ処理水のサンプルを、凝結の品質が示すように、改質スラッジ容量指数(SVI)に従って取った。上清をまた、620nmにおける吸収度について検査した。凝結したジャガイモ処理水を、更なる処理を待ってタンク内に保存した。
【0126】
これらの前処理工程の特性をTable 1(表1)に示す。
【0127】
【0128】
こうして前処理したジャガイモ汁を、任意選択でTGA除去に供した。TGA除去は、顆粒状の活性化炭素(C-GRAN、Norit)を充填したカラム中で実施した。活性化炭素カラムを、TGA除去を実施する前に、脱塩水中に24時間、予浸した。前処理したジャガイモ汁を、2時間の接触時間を用いて、カラムを通して通過させた。
【0129】
全ての場合に、前処理は、ダイアフィルトレーションに先行する限外ろ過の工程から更になる。ジャガイモ処理水を、5kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する渦巻形の膜を用いて限外ろ過して、9.9から21.8°Bxの間の溶解した固形分含有量を有する濃縮したジャガイモタンパク質溶液を得た。
【0130】
【0131】
限外ろ過からの保持液を、供給物の塩溶液に対する異なる比(1:3~1:4)において、0.33wt.%又は0.66wt.%のNaClを有する塩溶液に対するダイアフィルトレーションを含む更なる処理に供した。これは、ジャガイモタンパク質単離物溶液をもたらした。限外ろ過の工程及びダイアフィルトレーションの工程中、pHは6.3±0.3のままであった。最終濃縮物を、噴霧乾燥(SD、Tin175℃、Tout75℃)によって、又は凍結乾燥によって、乾燥させた。条件の概要をTable 2(表2)に示す。
【0132】
塩溶液に対する限外ろ過及びダイアフィルトレーションから得たジャガイモタンパク質単離物を、溶解した固形分の導電率及び濃度について特徴づけした(°Bx)。乾燥した生成物を、タンパク質含有量(Kjeldhal)、水分含有量、プロテアーゼ阻害剤とTGA含有量と亜硫酸塩と重金属との相対量について分析した。
【0133】
Table 2(表2)は、タンパク質単離物の品質に対する異なる方法パラメータの影響を示す。全ての異なる前処理は、ダイアフィルトレーション前に首尾よく適用され得るが、ダイアフィルトレーションを塩溶液に対して実施するという条件において、最終の濃縮した水性タンパク質単離物又は乾燥した生成物のいずれかの、最終的な品質に対して著しい影響は有していない。TGA除去の工程が、必要とされる低いTGAレベルを有するジャガイモタンパク質を得るために必要である。
【0134】
実験5は、ジャガイモ処理水をより高い希釈係数(1:4)でダイアフィルトレーションするとき、タンパク質単離物の導電率は、希釈係数1:3が適用されたところの実験における導電率よりも低いことを示している。乾燥後、実験5からの生成物はまた、最も多いタンパク質含有量を有する。
【0135】
実験6で行ったように、塩濃度を0.33%から0.66%へ上げたとき、タンパク質単離物の導電率はより高い。しかし、実験6からの乾燥したタンパク質単離物のTGA含有量は、他の実験で得たTGA含有量よりも低い。表はまた、タンパク質単離物が、噴霧乾燥(実験1~6)又は凍結乾燥(実験7)等の多様な方法によって乾燥され得ることを示している。全ての場合で、79%~最大85.5%の高いタンパク質含有量を有する生成物を得た。
【0136】
(実施例4)
デンプン及び繊維を除去した後にジャガイモ塊茎から得た塊茎処理水(ジャガイモ処理水)を、未変性の総ジャガイモタンパク質単離物の生成のための原材料として、パイロット規模において使用した。ジャガイモ処理水を、0.8マイクロメートルの孔径を有するセラミック膜を用いて、且つ温度およそ23±2℃及び100l・(h・m2)-1の定流束において操作して、精密ろ過の固形分除去の前処理工程に供した。精密ろ過したジャガイモ処理水(MF-PFJ)を、更なる処理を待ってタンク内に保存した。
【0137】
全ての場合に、5kDa又は50kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有するポリエーテルスルホン膜を用いて、精密ろ過したPFJ(4.2~5.0°Bx及び12mS/cm)を限外ろ過に供し、10.5から28.2°Bxの間の溶解した固形分含有量、及び10から16mS/cmの間の範囲の導電率を有する保持液をもたらす。
【0138】
限外ろ過したPFJの保持液を、続いてTGA除去に供した。任意選択で、保持液を、TGA除去前に軟水で希釈して、10.5から12.9°Bxの間、及び6から13mS/cmの間の溶解した固形分含有量を有するタンパク質溶液を得た。疎水性樹脂で充填した4つのカラムを用いて、室温にて、6~6.5のpHでTGA除去を実施した。TGA除去後、8~13mS/cmの導電率を有するタンパク質溶液を得、これを任意選択で、12から18°Bxの間の範囲の固形分含有量に濃縮した。
【0139】
限外ろ過からの保持液を、0.5wt.%のNaCl又はKClを有し、導電率が8.2mS/cmの塩溶液に対して、供給物(VPJ)対塩溶液(VDF)(1:1~1:2)の異なる比での複数のダイアフィルトレーションの工程を含む更なる処理に供した。これは、ジャガイモタンパク質単離物溶液をもたらした。最終濃縮物を、噴霧乾燥(SD、Tin175℃、Tout75℃)によって任意選択で乾燥させた。各ダイアフィルトレーションの工程は、タンパク質溶液体積VPJの、ダイアフィルトレーション体積VDFとの、示した範囲内の比における希釈、及び限外ろ過によって元の体積に戻った、希釈したタンパク質溶液を濃縮することを必要とする。条件の概観をTable 3(表3)に示す。
【0140】
塩溶液に対する限外ろ過及びダイアフィルトレーションから得たジャガイモタンパク質単離物を、溶解した固形分の濃度(°Bx)について特徴づけした。最終生成物を、タンパク質含有量、水分含有量、プロテアーゼ阻害剤とTGA含有量と亜硫酸塩と重金属との相対量について分析した。
【0141】
Table 3(表3)は、様々な方法パラメータの、タンパク質単離物の品質に対する影響を示す。全ての様々な前処理が、ダイアフィルトレーション前に首尾よく適用され得る。更に、様々なダイアフィルトレーション条件を試験し、良好な品質のタンパク質単離物が、様々な塩溶液を使用して得られることを示した。
【0142】
実験8及び9は、0.5%のNaClの塩濃度での、及びタンパク質溶液のダイアフィルトレートに対する比がそれぞれ1:1又は1:2及び1:1でのダイアフィルトレーションを、良好な品質(84~86%)のジャガイモタンパク質単離物を得るのに用いることができることを示している。
図6は、総タンパク質単離物が、出発材料中にも存在している全てのタンパク質画分を含んで得られることを示している。
【0143】
実験10では、精密ろ過して限外ろ過したPFJを、5つの別々のダイアフィルトレーションの工程(TGA除去前に2つ、及びTGA除去後に3つ)に、0.5%のKClを使用して供した。これらの条件は、NaClをダイアフィルトレーション中に塩として使用したときと比べて類似の品質のタンパク質単離物をもたらす。
図6も参照されたい。
【0144】
更に、実験11は、5kDaの代わりに50kDaのMWCOを有するUF膜及びDF膜を用いたときに、未変性のタンパク質単離物の品質を著しく改善できることを明示している。このような条件は、5kDaのMWCOを有する膜を用いたときのおよそ84%と比べて、94%の真のタンパク質含有量を有するタンパク質単離物をもたらす(実験8及び9を参照されたい)。
図6は、総タンパク質単離物が、出発材料(MF-PFJ)中にも存在する全てのタンパク質画分を含んで得られることを示している。
【0145】
【0146】
(実施例5)
デンプン及び繊維を除去した後にジャガイモ塊茎から得た塊茎処理水(ジャガイモ処理水)を、未変性のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害剤単離物の生成のための原材料として、パイロット規模において使用した。ジャガイモ処理水を、0.8マイクロメートルの孔径を有するセラミック膜を用いて、且つ温度およそ23±2℃及び100l・(h・m2)-1の定流束において操作して、精密ろ過の固形分除去の前処理工程に供した。精密ろ過したジャガイモ処理水(MF-PFJ)を、更なる処理を待ってタンク内に保存した。
【0147】
精密ろ過したPFJを、5kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有するポリエーテルスルホン膜を用いて限外ろ過に供して、19.2°Bxの溶解した固形分含有量を有するジャガイモタンパク質溶液を得た。
【0148】
限外ろ過したPFJのpHを、続いて、撹拌しながら1M HCl溶液の滴下添加によって3.0に設定して、PFJのパタチン画分の沈降に起因するスラリーを形成した。スラリーを4200RPMにて10分間遠心分離し、デカントした。上清を、疎水性樹脂を充填した4つのカラムを用いて、室温にて、およそ3.5のpHでTGA除去に供し、続いて濃縮した。濃縮物を、pH3.5のクエン酸バッファを3回使用し、続いて0.5%KCl溶液を3回使用して(濃縮物対ダイアフィルトレートの比5:3)、6kDaの膜に対してダイアフィルトレートして、5.3°Bx及び90%プロテアーゼ阻害剤含有量のタンパク質溶液を得た(これもまた
図6を参照されたい)。
【0149】
結果をTable 4(表4)にまとめる。ダイアフィルトレーション前のpH調整が、タンパク質単離物に、真のタンパク質含有量81.4%に反映された良好な品質を与えることを示している。この方法により、ジャガイモプロテアーゼ阻害剤画分に富む未変性のジャガイモタンパク質単離物を得ることが可能になることを更に明示している。
【0150】
【0151】
(実施例6)
精密ろ過したPFJ(300L)を、5kDaの膜を有する限外ろ過に供して、濃縮したタンパク質溶液(35L、22.7°Bx)を得た。濃縮したタンパク質溶液を、水50Lを添加してダイアフィルトレーションに供した(濃縮物対ダイアフィルトレートの比7:10)。導電率は、12mS/cm(水を添加する前)から6.2mS/cm(水を添加した後)に低下した。ダイアフィルトレーションした溶液を再度濃縮し(35L)、別の水50Lに供して、3.5mS/cmへの導電率の更なる低下をもたらした。水の添加の際に、白色の沈降物が形成し、溶液は透明及びオレンジ色から白色及び乳白色に転じ、これは、タンパク質の沈降を示している。NaCl(250g)を添加して、再度、透明なオレンジ色の溶液を得て、8mS/cmへの導電率の上昇をもたらした。
【0152】
流束濃度プロットを
図3に示す。このプロットから、流束が、水の第2の体積の添加の際に50%減少したことがわかる。流束のこの減少は、膜の詰まりを示す。流束は、NaClの添加時に回復し、タンパク質が再度可溶化したことを示している。
【0153】
これらの結果は、タンパク質の減損と、膜の詰まり及び汚損との両方に導くタンパク質の沈降を回避するために、タンパク質溶液の導電率を、少なくとも5mS/cm超、好ましくは少なくとも8mS/cm超に維持することが必須であることを明示している。これは、前処理済み塊茎処理水の導電率を監視することによって、且つ/又は塩溶液の導電率を監視することによって、達成することができる。
【0154】
(実施例7)
デンプン及び繊維を除去した後のサツマイモ及び皮をむいたキャッサバ塊茎から得た塊茎処理水(サツマイモ及びキャッサバ処理水)を、未変性の総タンパク質単離物の生成のための原材料として使用した。処理水を、10kDaのMWCO膜を備えたAmicon M-2000限外ろ過セルを用いて、限外ろ過の固形分除去の前処理工程に供した。
【0155】
限外ろ過したサツマイモ汁を、続いて0.5%のNaCl溶液を使用して、10kDaのMWCO膜に対してダイアフィルトレートした(濃縮物対ダイアフィルトレートの比1:5)。濃縮物を、0.5%のNaCl溶液(濃縮物対ダイアフィルトレートの比1:2及び1:1)を用いて更に2つのダイアフィルトレーションの工程に供して、タンパク質溶液を得た。
【0156】
皮をむいた、限外ろ過したキャッサバ汁を、0.5%のNaCl溶液を使用して、10kDaのMWCO膜に対してダイアフィルトレーションに供して(濃縮物対ダイアフィルトレートの比1:1.5)、タンパク質溶液を得た。
【0157】
処理した塊茎汁の化学的組成を表に示し、未処理の汁と比較する。
【0158】
【0159】
結果は、本方法が、未変性のタンパク質の高い含有量を有する未変性の塊茎汁を首尾よく与えることを示している。両方の場合で、真のタンパク質含有量における著しい増加を観察し、その一方で、糖及び遊離アミノ酸等の汚染物の存在が実質的に減少した。
【0160】
(実施例8)
自然なpH(6~6.3)における、且つ多様な導電率におけるタンパク質の可溶度を試験するために、プロテアーゼ阻害剤及びパタチンを含む総ジャガイモタンパク質を使用した。ジャガイモタンパク質を、ジャガイモ汁の精密ろ過、元の体積の10%までの限外ろ過、及び実施例4、実験8のプロトコルを用いた、噴霧乾燥なしの且つ純水を使用した、保持液の導電率が8mS/cmとなるまでのダイアフィルトレーションによって得た。
【0161】
得られた水性ジャガイモタンパク質を、導電率3.7、5.3、6.7、9.2及び14mS/cmにおけるNaClの水溶液中で希釈して、1.3wt.%のタンパク質濃度を有する溶液を得た。加えて、純水で希釈して、1.3mS/cmの導電率、及び1.3wt.%のタンパク質濃度にあるジャガイモタンパク質溶液を産生した。
【0162】
続いて、該溶液を1時間撹拌したままにし、その後、遠心分離した。上清中のタンパク質濃度をSprintによって決定し、元のタンパク質濃縮物と比較した。結果を
図4に示す。
【0163】
この実験は、プロテアーゼ阻害剤及びパタチンを含む水性混合物中のタンパク質沈降が、導電率が5mS/cm未満に落ちた場合に許容できないことを示している。ダイアフィルトレーション中の導電率は、常に、5mS/cm超、より好ましくは8mS/cm超を維持しなければならない。
【0164】
(実施例9)
実施例8で記載したタンパク質単離物を、1.34、3.65、4.72、5.25、6.72、8.72、9.2、12、14及び49.5mS/cmの導電率を有するNaCl溶液に対する溶液を使用してダイアフィルトレーションに供した。
【0165】
結果を
図5に示す。5mS/cm未満の導電率を有する塩溶液に対するダイアフィルトレーションは、許容されない沈降をもたらす。5mS/cm超、好ましくは8mS/cm超に導電率を上げると、好都合なタンパク質の単離が可能となり、これにより、改善したタンパク質製品がもたらされる。
【国際調査報告】