(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】新規の抗B型肝炎ウイルス抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220720BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20220720BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220720BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220720BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220720BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220720BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220720BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220720BHJP
C40B 40/10 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/08 ZNA
C12P21/08
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/15
A61P31/20
A61K39/395 N
C40B40/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569886
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 CN2020091739
(87)【国際公開番号】W WO2020233695
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】201910432602.7
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519326323
【氏名又は名称】シァメン・ユニヴァーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】517173983
【氏名又は名称】ヤン シェン ターン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ルオ、ウェンシン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、キャン
(72)【発明者】
【氏名】シァン、シンチュ
(72)【発明者】
【氏名】タン、ジシァン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、ヤンタオ
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン、ティアニン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、キュアン
(72)【発明者】
【氏名】シア、ニンシャオ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC12
4B064CC15
4B064CC24
4B064CE03
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA21
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC26
4B065BD15
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BA90
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗B型肝炎表面抗原(HBsAg)抗体(特にヒト化抗体)、それをコードする核酸分子、それを作製する方法及びそれを含有する医薬組成物を開示する。抗体は、HBsAgに対して酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性を有することで、ウイルスクリアランス効率を大幅に高め、ウイルス阻害時間を延ばす。抗体及び医薬組成物は、HBV感染若しくはHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)を予防及び/又は治療するため、被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体の体内のHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、又はHBVに対する被験体(例えば、慢性HBV感染患者又は慢性B型肝炎患者)の液性免疫応答を活性化するために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HBsAgに特異的に結合することが可能な抗体又はその抗原結合フラグメントであって、酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性でHBsAgに結合し、
(a)以下の3つのCDRを含む重鎖可変領域(VH):
(i)GGSIX
1X
2NFW(配列番号50)(ここで、X
1はT又はHから選択され、X
2はS又はHから選択される)の配列を有するHCDR1、
(ii)X
3GX
4X
5X
6X
7T(配列番号51)(ここで、X
3はS又はHから選択され、X
4はP、S又はYから選択され、X
5はG又はDから選択され、X
6はT又はHから選択され、X
7はY又はHから選択される)の配列を有するHCDR2、及び、
(iii)ARSHX
8YGX
9X
10DYAFDF(配列番号52)(ここで、X
8はD又はHから選択され、X
9はS又はHから選択され、X
10はH又はNから選択される)の配列を有するHCDR3、
及び/又は、
(b)以下の3つのCDRを含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)QDIX
11X
12S(配列番号53)(ここで、X
11はS又はHから選択され、X
12はS、Y又はHから選択される)の配列を有するLCDR1、
(v)YAN(配列番号12)の配列を有するLCDR2、及び、
(vi)QQYHX
13LPLT(配列番号54)(ここで、X
13はS又はYから選択される)の配列を有するLCDR3、
を含む、抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
(a)以下の3つのCDRを含む重鎖可変領域(VH):
(i)配列番号8、14、17、20から選択される配列からなるHCDR1、
(ii)配列番号9、15、21、18から選択される配列からなるHCDR2、及び、
(iii)配列番号10、16、22から選択される配列からなるHCDR3、
及び/又は、
(b)以下の3つのCDRを含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)配列番号11、19、23から選択される配列からなるLCDR1、
(v)配列番号12に示される配列からなるLCDR2、及び、
(vi)配列番号13に示される配列からなるLCDR3、
を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
(1)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号8に示されるHCDR1、配列番号9に示されるHCDR2、配列番号10に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号11に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
(2)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号14に示されるHCDR1、配列番号15に示されるHCDR2、配列番号16に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号11に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
(3)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号20に示されるHCDR1、配列番号21に示されるHCDR2、配列番号22に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号23に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、又は、
(4)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号17に示されるHCDR1、配列番号18に示されるHCDR2、配列番号10に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号19に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(例えば、ヒト生殖細胞系列抗体遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれるフレームワーク領域)を更に含み、該フレームワーク領域が、任意にヒト残基からマウス残基への1個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個)の復帰突然変異を含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、ヒト重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域、及び/又はヒト軽鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、IGHV4-4
*08によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域及びIGKV1-39
*01によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含み、該重鎖フレームワーク領域及び/又は該軽鎖フレームワーク領域が、任意にヒト残基からマウス残基への1個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個)の復帰突然変異を含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントのVHが、配列番号24に示されるVH FR1、配列番号25に示されるVH FR2、配列番号26に示されるVH FR3及び配列番号27に示されるVH FR4を含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントのVLが、配列番号28に示されるVL FR1、配列番号29に示されるVL FR2、配列番号30に示されるVL FR3及び配列番号31に示されるVL FR4を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、
(a)以下から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH):
(i)配列番号1、3、4及び6のいずれか1つに示される配列、
(ii)配列番号1、3、4、6のいずれか1つに示される配列と比較して1個若しくは幾つかのアミノ酸の置換、欠失若しくは付加(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸の置換、欠失又は付加)を有する配列、又は、
(iii)配列番号1、3、4、6のいずれか1つに示される配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは100%の配列同一性を有する配列、
並びに、
(b)以下から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)配列番号2、5及び7のいずれか1つに示される配列、
(v)配列番号2、5、7のいずれか1つに示される配列と比較して1個若しくは幾つかのアミノ酸の置換、欠失若しくは付加(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸の置換、欠失又は付加)を有する配列、又は、
(vi)配列番号2、5、7のいずれか1つに示される配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは100%の配列同一性を有する配列、
を含み、好ましくは、(ii)又は(v)に記載される置換が保存的置換である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
(1)配列番号1に示される配列を有するVH及び配列番号2に示される配列を有するVL、
(2)配列番号3に示される配列を有するVH及び配列番号2に示される配列を有するVL、
(3)配列番号4に示される配列を有するVH及び配列番号5に示される配列を有するVL、又は、
(4)配列番号6に示される配列を有するVH及び配列番号7に示される配列を有するVL、
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントがヒト免疫グロブリンに由来する定常領域を更に含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖がヒト免疫グロブリン(例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)に由来する重鎖定常領域を含み、前記抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖がヒト免疫グロブリン(例えばκ又はλ)に由来する軽鎖定常領域を含み、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが配列番号58に示される軽鎖定常領域(CL)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントがヒトIgG1重鎖定常領域の変異体を含み、該変異体が、それが由来する野生型配列と比較して以下の置換:(i)M252Y、N286E、N434Y、又は(ii)K326D、L328Yを有し、ここで、上述のアミノ酸位置は、Kabatナンバリングシステムに従う位置であり、
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが配列番号47又は48に示される重鎖定常領域(CH)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
配列番号57に示される重鎖定常領域(CH)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
(1)配列番号1に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(2)配列番号1に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(3)配列番号1に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(4)配列番号3に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(5)配列番号3に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(6)配列番号3に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(7)配列番号4に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(8)配列番号4に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(9)配列番号4に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(10)配列番号6に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(11)配列番号6に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、又は、
(12)配列番号6に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントがscFv、Fab、Fab’、(Fab’)
2、Fvフラグメント、ダイアボディ、二重特異性抗体、多重特異性抗体、プロボディ、キメラ抗体又はヒト化抗体からなる群から選択され、好ましくは、該抗体がキメラ抗体又はヒト化抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
HBsAgに特異的に結合し、HBVの毒性を中和し、並びに/又は被験体におけるHBV DNA及び/若しくはHBsAgの血清レベルを低下させることが可能である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又はその重鎖可変領域及び/若しくは軽鎖可変領域をコードする単離核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸分子を含み、好ましくはクローニングベクター又は発現ベクターである、ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の核酸分子又は請求項14に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
抗体又はその抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で請求項15に記載の宿主細胞を培養することと、培養された宿主細胞培養物から前記抗体又はその抗原結合フラグメントを回収することとを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを作製する方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントと、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項18】
被験体(例えばヒト)におけるHBV感染若しくはHBV感染関連疾患(例えばB型肝炎)の予防及び/又は治療のため、in vitro若しくは被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、並びに/又は被験体(例えば、慢性HBV感染者又は慢性B型肝炎患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するための薬剤の製造への請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は請求項17に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
被験体(例えばヒト)におけるHBV感染若しくはHBV感染関連疾患(例えばB型肝炎)の予防及び/又は治療に使用され、in vitro若しくは被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するために使用され、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるために使用され、並びに/又は被験体(例えば、慢性HBV感染者又は慢性B型肝炎患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するために使用される、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は請求項17に記載の医薬組成物を、それを必要とする被験体に有効量投与することを含む、被験体におけるHBV感染若しくはHBV感染関連疾患(例えばB型肝炎)の予防及び/又は治療のため、被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、並びに/又は被験体(例えば、慢性HBV感染者又は慢性B型肝炎患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するために用いられる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子ウイルス学及び免疫学の分野、特にB型肝炎ウイルス(HBV)感染の治療の分野に関する。具体的には、本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)に対する抗体及び該抗体をコードする核酸、並びにそれらの使用に関する。本発明の抗HBsAg抗体は、HBsAgに対して酸性pHよりも中性pHにおいて高い結合親和性を有する。この新規の抗体は、HBV感染又はHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)を予防及び/又は治療するため、被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、又は被験体におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるために使用することができる。したがって、本発明は、HBV感染若しくはHBV感染に関係する疾患(例えばB型肝炎)を予防及び/又は治療するため、被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、又は被験体(例えば、慢性HBV感染者又は慢性B型肝炎患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するための医薬組成物の製造における抗体及びその変異体の使用に更に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス感染、特に慢性HBV感染は、世界的に最も重要な公衆衛生問題の1つである(非特許文献1)。慢性HBV感染は、慢性B型肝炎(CHB)、肝硬変(LC)及び原発性肝細胞癌(HCC)等の一連の肝疾患を引き起こす恐れがある(非特許文献2)。報告によると、現在、全世界で約20億人がHBVに感染しており、現時点で約3億5000万人が慢性B型肝炎ウイルス感染を有し、これらの感染者がHBV感染に関連する肝疾患によって最終的に死亡するリスクは、15%~25%に達する可能性があり、毎年全世界で100万人超がかかる疾患によって死亡している(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0003】
現在の慢性HBV感染の治療薬は、インターフェロン(IFN)とヌクレオシド又はヌクレオチド類似体(NA)とに分けることができる(非特許文献1、非特許文献3及び非特許文献2)。しかしながら、単独又は組合せでの上述の薬物による治療は、感染者におけるHBVウイルスを完全に除去することができず、それによるHBsAg陰性化又はHBsAgセロコンバージョン(感染者における完全なHBVウイルスクリアランスの証拠)の奏効率は、通常は5%未満である(非特許文献3)。
【0004】
免疫学的手段に基づく慢性HBV感染の治療のための新薬の開発は、この分野における重要な研究の方向の1つである。慢性HBV感染の免疫療法は、通常は能動免疫療法(ワクチン等を含むその対応する薬物形態)及び受動免疫療法(抗体等を含むその対応する薬物形態)の2つの方法で行われる。能動免疫療法とは、慢性HBV感染者の身体を刺激して、細胞性免疫応答(CTL効果等)及び/又はHBVに対する液性免疫応答(抗体等)を能動的に引き起こし、HBVを阻害又は除去する目的を達成するための治療ワクチン(タンパク質ワクチン、ペプチドワクチン、核酸ワクチン等を含む)の投与を指す。現在、慢性HBV感染の治療に使用することができる明らかに重要かつ効果的な能動免疫療法薬/ワクチンはない。受動免疫療法(抗体を例として挙げる)とは、HBV感染者に対する治療特性を有する抗体の投与を指し、治療効果は、HBVが新生児の肝細胞に感染するのを阻止する抗体を介したウイルス中和、又はウイルス及び感染した肝細胞を身体から除去する抗体を介した免疫クリアランスによって達成することができる。現在、予防B型肝炎ワクチンに応答を示した患者又はHBV感染から回復した患者の血清/血漿から精製された抗HBsポリクローナル抗体、すなわち高力価B型肝炎免疫グロブリン(HBIG)が、HBVの母子垂直感染を阻止し、慢性HBV感染患者における肝移植後のHBV再感染を予防し、偶然にHBVに曝露された人々の感染を防ぐために広く使用されている。しかしながら、HBV感染患者(例えばCHB患者)の治療にHBIGを直接適用することは、明白な効果がなく、高力価血漿の供給源の少なさ、高価格、不安定な性質及び潜在的な安全性の問題等の多くの制限を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dienstag JL. Hepatitis B virus infection. N Engl J Med 2008 Oct 2;359(14):1486-1500
【非特許文献2】Liaw YF, Chu CM. Hepatitis B virus infection. Lancet 2009 Feb 14;373(9663): 582-592
【非特許文献3】Kwon H, Lok AS. Hepatitis B therapy. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2011 May;8(5): 275-284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、HBVウイルス、特にHBsAgをより効果的に除去することができるHBV感染者に対する革新的な治療方法及び薬物を開発することが緊急であり、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、in vivoでHBVの毒性を中和し、HBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させることができる、優れた特性を有する抗HBsAgヒト化抗体を以前に開発している。本発明者らは、以前の研究に基づき、多くの創造的な作業を行い、ヒト化抗体の徹底的な研究及び改変を行うことで、pH依存抗原結合能を有する抗HBsAg抗体を開発した。本発明の抗HBsAg抗体は、HBsAgに対して酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性を有するため、抗体の再利用が実現され、抗体の半減期が大幅に延長され、HBVクリアランスの効率が高まる。さらに、本発明者らは、上述の抗体のFc領域に突然変異を導入し、中性条件下でのhFcRn又はmFcγRIIに対するその親和性を高めることによって、スカベンジャー抗体を得て、抗体の半減期を更に延長する。
【0008】
本発明の抗体は、HBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させる活性を保持するだけでなく、抗原抑制時間がより長いために治療の注射量及び投与頻度が大幅に低減され、大きな臨床的価値を有することから極めて有利である。
【0009】
本発明の抗体
したがって、一態様において、本発明は、HBsAgに特異的に結合することが可能な抗体又はその抗原結合フラグメントであって、酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性でHBsAgに結合する、抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0010】
或る特定の実施の形態においては、中性pHはpH6.7~pH7.5、例えばpH7.4である。
【0011】
或る特定の実施の形態においては、酸性pHはpH4.0~pH6.5、例えばpH6.0である。
【0012】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントの酸性pH(例えばpH6.0)でのHBsAgへの結合のKDと中性pH(例えばpH7.4)でのHBsAgへの結合のKDとの比率(すなわち、KD(酸性pH)/KD(中性pH)の値)は、1超、例えば1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、300以上、500以上、800以上、1000以上、2000以上、5000以上又は10000以上である。幾つかの実施の形態においては、KD(酸性pH)/KD(中性pH)の値は、1超かつ10000以下、例えば5000以下、2000以下、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、300以下、200以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下又は10以下である。KDは、当該技術分野で既知の手法、例えばSPR技法(例えばBiacore)によって測定することができる。
【0013】
幾つかの実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントのpH6.0でのHBsAgへの結合のKDとpH7.4でのHBsAgへの結合のKDとの比率は、1超、例えば1.5以上、2以上である。或る特定の実施の形態においては、中性pHでの抗体又はその抗原結合フラグメントのKD値は、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12M以下であり得る。幾つかの実施の形態においては、酸性pHでの本発明の抗体のKD値は、10-9M、10-8M、10-7M、10-6M以上であり得る。
【0014】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントの酸性pH(例えばpH6.0)でのHBsAgへの結合のEC50と中性pH(例えばpH7.4)でのHBsAgへの結合のEC50との比率(すなわち、EC50(酸性pH)/EC50(中性pH)の値)は、1超、例えば1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、300以上、500以上、800以上、1000以上、2000以上、5000以上又は10000以上である。幾つかの実施の形態においては、EC50(酸性pH)/EC50(中性pH)の値は、1超かつ10000以下、例えば5000以下、2000以下、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、300以下、200以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下又は10以下である。幾つかの実施の形態においては、EC50は、ELISA法によって測定され、例えばELISA法によって作成された用量応答曲線の回帰分析によって算出される。
【0015】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントのpH6.0でのHBsAgへの結合のEC50とpH7.4でのHBsAgへの結合のEC50との比率は、1超、例えば1.5以上、又は2以上である。
【0016】
或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、抗HBVヒト化抗体M1Dに由来する(中国特許出願第201810307136.5号に詳細に記載されている)。
【0017】
或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、HBsAgのaa118~124に対して酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性で結合する。
【0018】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下の特徴の1つ以上を有する、HCDR1、HCDR2及びHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)を含む:
(i)HCDR1が、配列番号20に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する;
(ii)HCDR2が、配列番号21に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する;及び/又は、
(iii)HCDR2が、配列番号16に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する。
【0019】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下の特徴の1つ以上を有するLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む重鎖可変領域(VL)を含む:
(i)LCDR1が、配列番号11に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する;
(ii)LCDR2が、配列番号12に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する;及び/又は、
(iii)LCDR2が、配列番号46に示される配列と比較してヒスチジンに置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸)を有する。
【0020】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(a)以下の3つのCDRを含む重鎖可変領域(VH):
(i)GGSIX1X2NFW(配列番号50)(ここで、X1はT又はHから選択され、X2はS又はHから選択される)の配列を有するHCDR1、
(ii)X3GX4X5X6X7T(配列番号51)(ここで、X3はS又はHから選択され、X4はP、S又はYから選択され、X5はG又はDから選択され、X6はT又はHから選択され、X7はY又はHから選択される)の配列を有するHCDR2、及び、
(iii)ARSHX8YGX9X10DYAFDF(配列番号52)(ここで、X8はD又はHから選択され、X9はS又はHから選択され、X10はH又はNから選択される)の配列を有するHCDR3、
及び/又は、
(b)以下の3つのCDRを含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)QDIX11X12S(配列番号53)(ここで、X11はS又はHから選択され、X12はS、Y又はHから選択される)の配列を有するLCDR1、
(v)YAN(配列番号12)の配列を有するLCDR2、及び、
(vi)QQYHX13LPLT(配列番号54)(ここで、X13はS又はYから選択される)の配列を有するLCDR3、
を含む。
【0021】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(a)以下の3つのCDRを含む重鎖可変領域(VH):
(i)配列番号8、14、17、20から選択される配列から構成されるHCDR1、
(ii)配列番号9、15、21、18から選択される配列から構成されるHCDR2、及び、
(iii)配列番号10、16、22から選択される配列から構成されるHCDR3、
及び/又は、
(b)以下の3つのCDRを含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)配列番号11、19、23から選択される配列から構成されるLCDR1、
(v)配列番号12に示される配列から構成されるLCDR2、及び、
(vi)配列番号13に示される配列から構成されるLCDR3、
を含む。
【0022】
或る特定の実施の形態においては、X1はT又はHから選択され、X2はSから選択され、X3はSから選択され、X4はP又はSから選択され、X5はGから選択され、X6はT又はHから選択され、X7はY又はHから選択され、X8はD又はHから選択され、X9はS又はHから選択され、X10はH又はNから選択され、X11はSから選択され、X12はS又はYから選択され、X13はYから選択される。
【0023】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(a)以下の3つのCDRを含む重鎖可変領域(VH):
(i)配列番号8、20から選択される配列から構成されるHCDR1、
(ii)配列番号9、21から選択される配列から構成されるHCDR2、及び、
(iii)配列番号10、22から選択される配列から構成されるHCDR3、
及び/又は、
(b)以下の3つのCDRを含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)配列番号11、23から選択される配列から構成されるLCDR1、
(v)配列番号12に示される配列から構成されるLCDR2、及び、
(vi)配列番号13に示される配列から構成されるLCDR3、
を含む。
【0024】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(1)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号8に示されるHCDR1、配列番号9に示されるHCDR2、配列番号10に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号11に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
(2)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号14に示されるHCDR1、配列番号15に示されるHCDR2、配列番号16に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号11に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
(3)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号20に示されるHCDR1、配列番号21に示されるHCDR2、配列番号22に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号23に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、又は、
(4)以下の3つのCDRを含むVH:配列番号17に示されるHCDR1、配列番号18に示されるHCDR2、配列番号10に示されるHCDR3、及び以下の3つのCDRを含むVL:配列番号19に示されるLCDR1、配列番号12に示されるLCDR2、配列番号13に示されるLCDR3、
を含む。
【0025】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(例えば、ヒト生殖細胞系列抗体遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれるフレームワーク領域)を更に含み、該フレームワーク領域は、任意にヒト残基からマウス残基への1個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個)の復帰突然変異を含む。
【0026】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域、及び/又はヒト軽鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含む。
【0027】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、IGHV4-4*08によってコードされるアミノ酸配列(配列番号55)に含まれる重鎖フレームワーク領域及びIGKV1-39*01によってコードされるアミノ酸配列(配列番号56)に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含み、該重鎖フレームワーク領域及び/又は該軽鎖フレームワーク領域は、任意にヒト残基からマウス残基への1個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個)の復帰突然変異を含む。
【0028】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントのVHは、配列番号24に示されるVH FR1、配列番号25に示されるVH FR2、配列番号26に示されるVH FR3及び配列番号27に示されるVH FR4を含む。
【0029】
幾つかの実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントのVLは、配列番号28に示されるVL FR1、配列番号29に示されるVL FR2、配列番号30に示されるVL FR3及び配列番号31に示されるVL FR4を含む。
【0030】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(a)以下から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH):
(i)配列番号1、3、4及び6のいずれか1つに示される配列、
(ii)配列番号1、3、4、6のいずれか1つに示される配列と比較して1個若しくは幾つかのアミノ酸の置換、欠失若しくは付加(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸の置換、欠失又は付加)を有する配列、又は、
(iii)配列番号1、3、4、6のいずれか1つに示される配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは100%の配列同一性を有する配列、
並びに、
(b)以下から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL):
(iv)配列番号2、5及び7のいずれか1つに示される配列、
(v)配列番号2、5、7のいずれか1つに示される配列と比較して1個若しくは幾つかのアミノ酸の置換、欠失若しくは付加(例えば1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸の置換、欠失又は付加)を有する配列、又は、
(vi)配列番号2、5、7のいずれか1つに示される配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは100%の配列同一性を有する配列、
を含む。
【0031】
或る特定の実施の形態においては、(ii)又は(v)に記載される置換は、保存的置換である。
【0032】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(1)配列番号1に示される配列を有するVH及び配列番号2に示される配列を有するVL、
(2)配列番号3に示される配列を有するVH及び配列番号2に示される配列を有するVL、
(3)配列番号4に示される配列を有するVH及び配列番号5に示される配列を有するVL、又は、
(4)配列番号6に示される配列を有するVH及び配列番号7に示される配列を有するVL、
を含む。
【0033】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンに由来する定常領域を更に含む。
【0034】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖は、ヒト免疫グロブリン(例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)に由来する重鎖定常領域を含み、抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖は、ヒト免疫グロブリン(例えばκ又はλ)に由来する軽鎖定常領域を含む。
【0035】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(a)ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)若しくはその変異体であって、該変異体が、それが由来する野生型配列と比較して1個以上のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、若しくはそれらの任意の組合せ(例えば、多くとも20個、多くとも15個、多くとも10個若しくは多くとも5個のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、又はそれらの任意の組合せ;例えば1個、2個、3個、4個若しくは5個のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、又はそれらの任意の組合せ)を有する、及び/又は、
(b)ヒト免疫グロブリンの軽鎖定常領域(CL)若しくはその変異体であって、該変異体が、それが由来する野生型配列と比較して1個以上のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、若しくはそれらの任意の組合せ(例えば、多くとも20個、多くとも15個、多くとも10個若しくは多くとも5個のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、又はそれらの任意の組合せ;例えば1個、2個、3個、4個若しくは5個のアミノ酸の置換、欠失若しくは付加、又はそれらの任意の組合せ)を有する、
を含む。
【0036】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトIgG1又はIgG4重鎖定常領域を含む。或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号57に示される重鎖定常領域(CH)を含む。
【0037】
或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)の変異体を含み、該変異体は、hFcRn又はmFcγRIIに対して中性pH(例えばpH7.4)で、それが由来する野生型配列と比較して増強された親和性を有する。かかる実施の形態においては、変異体は概して、それが由来する野生型配列と比較して少なくとも1個のアミノ酸の置換を有する。
【0038】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトIgG1重鎖定常領域の変異体を含み、該変異体が、それが由来する野生型配列と比較して以下の置換:(i)M252Y、N286E、N434Y、又は(ii)K326D、L328Yを有し、ここで、上述のアミノ酸位置は、Kabatナンバリングシステムに従う位置である。或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号47又は48に示される重鎖定常領域(CH)を含む。
【0039】
或る特定の実施の形態においては、軽鎖定常領域はκ軽鎖定常領域である。或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号58に示される軽鎖定常領域(CL)を含む。
【0040】
或る特定の実施の形態においては、抗体又はその抗原結合フラグメントは、
(1)配列番号1に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(2)配列番号1に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(3)配列番号1に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(4)配列番号3に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(5)配列番号3に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(6)配列番号3に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号2に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(7)配列番号4に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(8)配列番号4に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(9)配列番号4に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号5に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(10)配列番号6に示されるVHと配列番号57に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
(11)配列番号6に示されるVHと配列番号47に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、又は、
(12)配列番号6に示されるVHと配列番号48に示されるCHとを含む重鎖及び配列番号7に示されるVLと配列番号58に示されるCLとを含む軽鎖、
を含む。
【0041】
抗体の作製
本発明の抗体は、当該技術分野で既知の様々な方法によって作製することができ、例えば遺伝子工学的組み換え技術によって得ることができる。例えば、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖遺伝子をコードするDNA分子は、化学合成又はPCR増幅によって得られる。得られたDNA分子を発現ベクターに挿入した後、宿主細胞にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトされた宿主細胞を特定の条件下で培養し、本発明の抗体を発現させる。
【0042】
本発明の抗原結合フラグメントは、完全な抗体分子を加水分解することによって得ることができる(Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan et al., Science 229:81 (1985)を参照されたい)。加えて、これらの抗原結合フラグメントは、組み換え宿主細胞によって直接産生させることもできる(Hudson, Curr. Opin. Immunol. 11: 548-557 (1999)、Little et al., Immunol. Today, 21: 364-370 (2000)に概説される)。例えば、Fab’フラグメントを宿主細胞から直接得ることができ、Fab’フラグメントを化学的に結合して、F(ab’)2フラグメントを形成することができる(Carter et al., Bio/Technology, 10: 163-167 (1992))。加えて、Fv、Fab又はF(ab’)2フラグメントを組み換え宿主細胞培養培地から直接単離することもできる。当業者は、これらの抗原結合フラグメントを作製する他の手法を十分認識している。
【0043】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又はその重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸分子を提供する。或る特定の好ましい実施の形態においては、単離核酸分子は、本発明の抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又はその重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする。
【0044】
別の態様において、本発明は、本発明の単離核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクター又は発現ベクター)を提供する。或る特定の好ましい実施の形態においては、本発明のベクターは、例えばプラスミド、コスミド、バクテリオファージ等である。
【0045】
別の態様において、本発明は、本発明の単離核酸分子又は本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。かかる宿主細胞としては、大腸菌(E. coli)細胞等の原核細胞、並びに酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞及び動物細胞(例えばマウス細胞、ヒト細胞等の哺乳動物細胞等)等の真核細胞が挙げられるが、これらに限定されない。或る特定の好ましい実施の形態においては、本発明の宿主細胞は、CHO(例えばCHO-K1、CHO-S、CHO DG44)等の哺乳動物細胞である。
【0046】
別の態様において、抗体又はその抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養することと、培養された宿主細胞培養物から抗体又はその抗原結合フラグメントを回収することとを含む、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを作製する方法が提供される。
【0047】
誘導抗体
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えば別の分子(例えば、別のポリペプチド又はタンパク質)に連結して誘導体化することができる。概して、抗体又はその抗原結合フラグメントの誘導体化(例えば標識化)は、HBsAgとの結合に悪影響を与えない。したがって、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、かかる誘導体化形態を含むことも意図される。例えば、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、別の抗体(例えば、二重特異性抗体を形成するため)、検出試薬、医薬試薬、及び/又は抗体若しくは抗原結合フラグメントと別の分子(例えば、アビジン又はポリヒスチジンタグ)との結合を媒介することが可能なタンパク質若しくはポリペプチド等の1つ以上の他の分子群と機能的に連結することができる(化学的結合、遺伝子融合、非共有結合又は他の手段による)。
【0048】
したがって、或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは標識されている。幾つかの実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、酵素、放射性核種、蛍光色素、発光性物質(例えば化学発光物質)又はビオチン等の検出可能な標識を有する。本発明の検出可能な標識は、蛍光、分光法、光化学、生化学、免疫学、電気的、光学的又は化学的手段によって検出することができる任意の物質であり得る。かかる標識は、当該技術分野で既知であり、その例としては、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等)、放射性核種(例えば3H、125I、35S、14C又は32P)、蛍光色素(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセイン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ローダミン、量子ドット又はシアニン染料誘導体(例えばCy7、Alexa 750))、発光性物質(例えば、アクリジンエステル化合物等の化学発光物質)、磁性ビーズ(例えばDynabeads(商標))、コロイド金又は着色ガラス又はプラスチック(例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス、等)ビーズ等の熱量測定マーカー、及び上述のマーカーで修飾されたアビジン(例えばストレプトアビジン)をライゲートするために使用されるビオチンが挙げられるが、これらに限定されない。或る特定の実施の形態においては、かかる標識は、免疫学的検出(例えば酵素結合免疫測定、放射免疫測定、蛍光免疫測定、化学発光免疫測定等)に適したものであり得る。或る特定の実施の形態においては、潜在的な立体障害を低減するために、上記の検出可能な標識を異なる長さのリンカーによって本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントにライゲートしてもよい。
【0049】
医薬組成物及び治療用途
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、被験体(例えばヒト)におけるHBV感染又はHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)を予防又は治療するため、in vitro又は被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、被験体(例えば、慢性HBV感染又は慢性B型肝炎の患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するために使用することができる。
【0050】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントと、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、付加的な薬学的活性剤を含んでいてもよい。或る特定の実施の形態においては、付加的な薬学的活性剤は、HBV感染又はHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)の予防又は治療に使用される薬物、例えばインターフェロン又はペグ化インターフェロン等のインターフェロン薬である。
【0051】
別の態様において、本発明は、被験体におけるHBV感染(例えばヒト)若しくはHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)の予防及び/又は治療のため、in vitro若しくは被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和するため、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させるため、及び/又は被験体(例えば、慢性HBV感染又は慢性B型肝炎の患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化するための薬剤の製造への本発明の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は本発明の医薬組成物の使用を提供する。
【0052】
別の態様において、本発明は、本発明による抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は本発明による医薬組成物を、それを必要とする被験体に有効量投与することを含む、被験体(例えばヒト)におけるHBV感染若しくはHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)を予防若しくは治療し、in vivo若しくは被験体(例えばヒト)におけるHBVの毒性を中和し、被験体(例えばヒト)におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させ、及び/又は被験体(例えば、慢性HBV感染又は慢性B型肝炎の患者)におけるHBVに対する液性免疫応答を活性化する方法を提供する。
【0053】
本発明によって提供される薬物及び医薬組成物は、単独又は組合せで使用することができ、他の薬学的活性剤(例えば他の抗ウイルス剤、例えばインターフェロン又はペグ化インターフェロン等のインターフェロン薬)と組み合わせて使用することもできる。
【0054】
本発明の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は本発明の医薬組成物は、経口、口腔内、舌下、眼内、局所、非経口、直腸、髄腔内、小胞体内(intracytoplasmic reticulum)、鼠径部、膀胱内、局所(例えば粉末、軟膏又は点滴剤)、又は経鼻経路を含むが、これらに限定されない従来の投与経路によって投与することができる。本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、当該技術分野で既知の様々な方法によって投与することができる。しかしながら、多くの治療用途について好ましい投与経路/投与方法は、非経口投与(例えば静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射)である。当業者であれば、投与経路及び/又は投与方法が意図される目的に応じて異なることを理解するはずである。好ましい実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、静脈内注入又は注射によって投与される。
【0055】
本発明の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は本発明の医薬組成物は、様々な剤形、例えば液体、半固体及び固体形態、例えば溶液(例えば注射剤)、分散液又は懸濁液、錠剤、粉末、顆粒、エマルション、丸薬、シロップ、粉末、リポソーム、カプセル及び坐剤に製剤化することができる。好ましい剤形は、意図される投与方法及び治療用途によって異なる。
【0056】
例えば、好ましい剤形の1つは注射剤である。かかる注射剤は、滅菌注射液であってもよい。例えば、滅菌注射液は、以下の方法によって調製することができる:必要量の本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントを好適な溶媒に組み込み、任意に他の期待される成分(pH調節剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張剤、防腐剤、希釈剤又はそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない)を同時に組み込んだ後、濾過減菌を行う。加えて、滅菌注射液は、簡便な保存及び使用のために滅菌粉末に調製することができる(例えば、真空乾燥又は凍結乾燥による)。かかる滅菌粉末を使用前に滅菌パイロジェンフリー水等の好適なビヒクルに分散させることができる。
【0057】
別の好ましい剤形は、分散液である。分散液は、以下の方法によって調製することができる:本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントを、基本分散媒及び任意に他の期待される成分(pH調節剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張剤、防腐剤、希釈剤又はそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない)を含む滅菌ビヒクルに組み込む。加えて、期待される薬物動態特性を得るために、モノステアリン酸塩及びゼラチン等の吸収遅延剤を分散液に組み込んでもよい。
【0058】
別の好ましい剤形は、カプセル、錠剤、粉末、顆粒等を含む経口固形剤形である。かかる固形剤形は概して、(a)クエン酸ナトリウム及びリン酸カルシウム等の不活性の薬物賦形剤(又はビヒクル)、(b)デンプン、ラクトース、スクロース、マンノース及びケイ酸等の充填剤、(c)カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及びアラビアゴム等の結合剤、(d)グリセロール等の湿潤剤、(e)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン等の崩壊剤、(f)オレフィン等の遅延剤、(g)第四級アンモニウム化合物等の吸収促進剤、(h)セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセリル等の保湿剤、(i)カオリン及びベントナイト等の吸着剤、(j)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、又はそれらの任意の組合せの少なくとも1つを含む。錠剤及びカプセルの剤形の場合、緩衝剤が含まれることもある。
【0059】
加えて、放出調節又はパルス放出剤形を得るために、放出速度調整剤(すなわち、薬物放出速度を変化させることが可能な作用物質)を経口固形剤形に添加してもよい。かかる放出速度調整剤としては、カルボキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンオキシド、キサンタンガム、イソアクリル(isoacrylic)アミノコポリマー、水素添加芳香油、カルナウバワックス、パラフィン、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマー又はそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。放出調節又はパルス放出剤形は、1つ又は一群の放出速度調整剤を含み得る。
【0060】
別の好ましい剤形は、エマルション、溶液、懸濁液、シロップ等を含む経口液体剤形である。かかる経口液体剤形は、活性成分に加えて、当該技術分野で一般に使用される不活性溶媒、例えば水又は他の溶媒、例えばエチルアルコール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、オリーブ油、芳香油及びゴマ油等)、グリセロール、ポリエチレングリコール及びソルビタン脂肪酸エステル及びそれらの任意の組合せを更に含み得る。かかる経口液体剤形は、これらの不活性溶媒に加えて、保湿剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤、香料等を更に含み得る。
【0061】
加えて、本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントは、簡便な投与のために医薬組成物中の単位剤形で存在していてもよい。本発明による医薬組成物は、滅菌されており、製造条件及び保存条件下で安定しているのが望ましい。
【0062】
本発明において提供される薬剤及び医薬組成物は、単独若しくは組合せで使用することができ、又は付加的な薬学的活性剤(例えば、他の抗ウイルス剤、例えばインターフェロン又はペグ化インターフェロン等のインターフェロン型剤)と組み合わせて使用してもよい。幾つかの好ましい実施の形態においては、本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントは、HBV感染に関連する疾患を予防及び/又は治療するために他の抗ウイルス剤(複数の場合もある)と組み合わせて使用される。本発明による抗体又はその抗原結合フラグメント及びかかる抗ウイルス剤(複数の場合もある)は同時、別個又は順次に投与することができる。かかる抗ウイルス剤(複数の場合もある)としては、インターフェロン型剤、リバビリン、アダマンタン、ヒドロキシウレア、IL-2、L-12及びペンタカルボキシサイトゾル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明による医薬組成物は、「治療有効量」又は「予防有効量」の本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントを含み得る。「予防有効量」は、疾患(HBV感染又はHBV感染に関連する疾患等)を予防するか、抑制するか、又はその進行を遅らせるのに十分な量を指す。「治療有効量」は、疾患を有する患者において疾患及びその合併症を治癒するか又は少なくとも部分的に抑制するのに十分な量を指す。本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントの治療有効量は、以下の要因:治療すべき疾患の重症度、患者の免疫系の全体的な状態、年齢、体重及び性別等の患者の一般条件、薬物の投与方法、同時に用いられる付加的な療法等に応じて異なる場合がある。
【0064】
投与計画は、最適な所望の効果(例えば、治療効果又は予防効果)が得られるように調整することができる。例えば、単回投与を行っても、又は一定期間内に複数回投与を行っても、又は治療状況の要件によって指定されるように用量を比例的に減少若しくは増加させてもよい。
【0065】
本発明による抗体又はその抗原結合フラグメントについて、治療有効量又は予防有効量の例示的かつ非限定的な範囲は、0.025mg/kg~50mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg~50mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg~25mg/kg、0.1mg/kg~10mg/kgである。治療すべき疾患のタイプ及び重症度に応じて用量が変わり得ることに注目すべきである。加えて、任意の特定の患者について、患者のニーズ及び医師による専門的な評価に応じて特定の投与計画を経時的に調整する必要があり、本明細書に提示される用量範囲が、本発明による医薬組成物の用途又は範囲を定義するのではなく、例示目的でのみ与えられることが当業者には理解される。
【0066】
キット及び検出用途
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、HBsAgに特異的に結合することができるため、サンプル中のHBsAgの存在又はレベルの検出に使用することができる。
【0067】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを含むキットを提供する。幾つかの実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、検出可能な標識を有する。他の実施の形態においては、キットは、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを特異的に認識する第2の抗体を更に含む。第2の抗体が検出可能な標識を更に含むのが好ましい。かかる検出可能な標識は、当業者に既知であり、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、着色物質及び酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
別の態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを使用することを含む、サンプル中のHBsAgタンパク質の存在又はレベルを検出する方法を提供する。幾つかの実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、検出可能な標識を更に含む。他の実施の形態においては、方法は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを検出するために検出可能な標識を有する第2の抗体を使用することを更に含む。方法を診断目的又は非診断目的(例えば、サンプルが患者に由来するサンプルではなく、細胞サンプルである)で用いることができる。
【0069】
幾つかの実施の形態においては、方法は、(1)サンプルと本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントとを接触させることと、(2)抗体若しくはその抗原結合フラグメントとHBsAgタンパク質との間の複合体の形成を検出するか、又は複合体の量を検出することとを含む。複合体の形成は、HBsAgタンパク質及び/又はHBVの存在を示す。
【0070】
別の態様において、本発明は、被験体に由来するサンプル中のHBsAgタンパク質の存在を検出するために本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを使用することを含む、被験体がHBVに感染しているかを診断する方法を提供する。幾つかの実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、検出可能な標識を更に含む。他の実施の形態においては、方法は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを検出するために検出可能な標識を有する第2の抗体を使用することを更に含む。
【0071】
別の態様において、サンプル中のHBsAgタンパク質の存在又はレベルを検出するため、又は被験体がHBVに感染しているかを診断するためのキットの製造への本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントの使用が提供される。
【0072】
用語の定義
本発明において、他に規定のない限り、本明細書において使用される科学用語及び技術用語は、当業者に一般に理解される意味を有する。さらに、細胞培養、生化学、核酸化学、免疫学の研究室及び本書において用いられる他の操作工程は全て、対応する分野において広く用いられる日常的な工程である。加えて、本発明をより良好に理解するために、関連用語の定義及び説明を下に提示する。
【0073】
本明細書において使用される場合、「抗体」という用語は、通例、2対のポリペプチド鎖から構成され、各対が軽鎖(LC)及び重鎖(HC)を有する免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖は、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)軽鎖に分類することができる。重鎖はμ、δ、γ、α又はεに分類され、抗体のアイソタイプは、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義される。軽鎖及び重鎖において、可変領域及び定常領域は、約12アミノ酸以上の「J」領域によって連結され、重鎖は約3アミノ酸以上の「D」領域も含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)から構成される。軽鎖定常領域は、ドメインCLから構成される。定常ドメインは、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合の媒介等の様々なエフェクター機能を示す。また、VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的保存された領域が組み入れられた超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)に細分することができる。VH及びVLは各々、以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRから構成される:アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VH及びVL)は、それぞれ抗原結合部位を形成する。各領域又はドメインにおけるアミノ酸の割当ては、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987 and 1991))又はChothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196 :901-917、Chothia et al. (1989) Nature 342:878-883の定義に従うものであり得る。
【0074】
本明細書において使用される場合、「相補性決定領域」又は「CDR」という用語は、抗原結合に関与する抗体の可変領域中のアミノ酸残基を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々がCDR1、CDR2及びCDR3と名付けられた3つのCDRを含む。これらのCDRの正確な境界は、当該技術分野で既知の様々なナンバリングシステム、例えばKabatナンバリングシステム(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991)、Chothiaナンバリングシステム(Chothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917、Chothia et al. (1989) Nature 342:878-883)又はIMGTナンバリングシステム(Lefranc et al., Dev. Comparat. Immunol. 27:55-77, 2003)に従って定義することができる。所与の抗体について、各ナンバリングシステムによって定義されたCDRが当業者には容易に特定される。さらに、異なるナンバリングシステム間の対応は、当業者には既知である(例えば、Lefranc et al., Dev. Comparat. Immunol. 27:55-77, 2003を参照されたい)。
【0075】
本発明において、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントに含まれるCDRは、当該技術分野で既知の様々なナンバリングシステムに従って決定することができる。或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントに含まれるCDRは、Kabat、Chothia又はIMGTナンバリングシステムによって決定されることが好ましい。或る特定の実施の形態においては、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントに含まれるCDRは、Kabatナンバリングシステムによって決定されることが好ましい。
【0076】
本明細書において使用される場合、「フレームワーク領域」又は「FR」残基という用語は、上で定義されたCDR残基以外の抗体の可変領域中のアミノ酸残基を指す。
【0077】
「抗体」という用語は、抗体を作製する任意の特定の方法によって限定されない。例えば、組み換え抗体、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。抗体は種々のアイソタイプの抗体、例えばIgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE又はIgM抗体であり得る。
【0078】
本明細書において使用される場合、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、完全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力を保持し、及び/又は抗原に特異的に結合するために完全長抗体と競合する、完全長抗体のフラグメントを含むポリペプチドを指し、「抗原結合部分」とも呼ばれる。概して、Fundamental Immunology, Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd edition, Raven Press, NY (1989)(その全体があらゆる目的で引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。抗体の抗原結合フラグメントは、組み換えDNA技術又は無傷抗体の酵素的若しくは化学的切断によって作製することができる。抗原結合フラグメントの非限定的な例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、相補性決定領域(CDR)フラグメント、scFv、ダイアボディ、シングルドメイン抗体、キメラ抗体、線状抗体、ナノボディ(Domantisの技術)、プロボディ(probody)、及びポリペプチドに対して特異的な抗原結合能を与えるのに十分な抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドが挙げられる。改変抗体変異体は、Holliger et al., 2005; Nat Biotechnol, 23: 1126-1136に概説されている。
【0079】
本明細書において使用される場合、「完全長抗体」という用語は、2つの「完全長重鎖」及び2つの「完全長軽鎖」から構成される抗体を指す。「完全長重鎖」は、N末端からC末端の方向に重鎖可変領域(VH)、重鎖定常領域CH1ドメイン、ヒンジ領域(HR)、重鎖定常領域CH2ドメイン及び重鎖定常領域CH3ドメインから構成されるポリペプチドを指す。また、完全長抗体がIgEアイソタイプである場合、任意に重鎖定常領域CH4ドメインも含まれる。「完全長重鎖」は、N末端からC末端の方向にVH、CH1、HR、CH2及びCH3から構成されるポリペプチド鎖であるのが好ましい。「完全長軽鎖」は、N末端からC末端の方向に軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)から構成されるポリペプチド鎖である。2対の完全長抗体鎖は、CLとCH1との間のジスルフィド結合及び2つの完全長重鎖のHRの間のジスルフィド結合によって連結される。本発明の完全長抗体は、ヒト等の単一種に由来していても、キメラ抗体又はヒト化抗体であってもよい。本発明の完全長抗体は、それぞれVH及びVL対によって形成される2つの抗原結合部位を含み、2つの抗原結合部位が同じ抗原を特異的に認識/結合する。
【0080】
本明細書において使用される場合、「Fd」という用語は、VH及びCH1ドメインから構成される抗体フラグメントを指す。「dAbフラグメント」という用語は、VHドメインから構成される抗体フラグメントを指す(Ward et al., Nature 341:544 546 (1989))。「Fabフラグメント」という用語は、VL、VH、CL及びCH1ドメインから構成される抗体フラグメントを指す。「F(ab’)2フラグメント」という用語は、ヒンジ領域上のジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントから構成される抗体フラグメントを指す。「Fab’フラグメント」という用語は、F(ab’)2フラグメント中の2つの重鎖フラグメントを連結するジスルフィド結合を還元することによって得られたフラグメントを指し、無傷軽鎖と重鎖のFdフラグメント(VH及びCH1ドメインからなる)とから構成される。
【0081】
本明細書において使用される場合、「Fv」という用語は、抗体の単一アームのVL及びVHドメインから構成される抗体フラグメントを指す。Fvフラグメントは概して、完全な抗原結合部位を形成することができる最小の抗体フラグメントとみなされる。一般に、6つのCDRによって抗体に抗原結合特異性が与えられると考えられている。しかしながら、親和性が完全な結合部位よりも低い可能性があるが、1つの可変領域(例えば、3つの抗原特異的CDRしか含まないFdフラグメント)であっても抗原を認識及び結合することができる。
【0082】
本明細書において使用される場合、「Fc」という用語は、抗体の第1の重鎖の第2、第3の定常領域と第2の重鎖の第2、第3の定常領域とをジスルフィド結合によって連結することで形成された抗体フラグメントを指す。抗体のFcフラグメントは、多くの異なる機能を有するが、抗原結合には関与しない。
【0083】
本明細書において使用される場合、「scFv」という用語は、VL及びVHドメインを含み、VL及びVHがリンカーによって連結された単一のポリペプチド鎖を指す(例えば、Bird et al., Science 242:423-426 (1988)、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883 (1988)、及びPluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Roseburg and Moore eds, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照されたい)。かかるscFv分子は、全体構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHを有し得る。好適な従来技術のリンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列又はその変異体からなる。例えば、アミノ酸配列(GGGGS)4を有するリンカーを使用することができるが、その変異体を使用してもよい(Holliger et al. (1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448)。本発明において使用することができる他のリンカーは、Alfthan et al. (1995), Protein Eng. 8:725-731、Choi et al. (2001), Eur. J. Immunol. 31: 94-106、Hu et al. (1996), Cancer Res. 56:3055-3061、Kipriyanov et al. (1999), J. Mol. Biol. 293:41-56及びRoovers et al. (2001), Cancer Immunolに記載されている。場合によっては、scFvのVH及びVLの間にもジスルフィド結合が存在し得る。
【0084】
本明細書において使用される場合、「ダイアボディ」という用語は、VH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現しているが、使用されるリンカーが、同じ鎖の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるため、1つのドメインが別の鎖の相補的なドメインと強制的に対合し、2つの抗原結合部位が生成することを指す(例えば、Holliger P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)及びPoljak RJ et al., Structure 2:1121-1123 (1994)を参照されたい)。
【0085】
上述の抗体フラグメントは各々、完全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力を維持し、及び/又は抗原に特異的に結合するために完全長抗体と競合する。
【0086】
当業者に既知の従来の手法(例えば、組み換えDNA技術又は酵素的若しくは化学的断片化)を用いて、所与の抗体(例えば、本発明によって提供される抗体)から抗体の抗原結合フラグメント(例えば、上述の抗体フラグメント)を得ることができ、無傷抗体をスクリーニングするのと同じ方法で特異性についてスクリーニングすることができる。
【0087】
本明細書において、文脈上明らかに他の指示がない限り、「抗体」という用語に言及する場合、完全な抗体だけでなく、抗体の抗原結合フラグメントも含まれる。
【0088】
本明細書において使用される場合、「モノクローナル抗体」、「McAb」及び「mAb」という用語は、同じ意味を有し、区別なく使用することができる。この用語は、高度の相同性を示す抗体分子の集団、すなわち自発的に生じる可能性がある自然突然変異を除いて完全に同一の抗体分子の集団からの抗体又は抗体のフラグメントを指す。モノクローナル抗体は、抗原の単一のエピトープに対して高い特異性を有する。ポリクローナル抗体は概して、モノクローナル抗体と比べて、概して抗原上の異なるエピトープを認識する少なくとも2つ以上の異なる抗体を含む。加えて、「モノクローナル」という修飾語は、抗体の高度に均一な集団から得られる抗体の特徴を示すにすぎず、任意の特定の方法による抗体の作製を必要とすると解釈すべきではない。
【0089】
本明細書において使用される場合、「キメラ抗体」という用語は、軽鎖又は/及び重鎖の一部が或る抗体(特定の種に由来していても、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属していてもよい)に由来し、軽鎖又は/及び重鎖の別の部分が別の抗体(同じ若しくは異なる種に由来していても、又は同じ若しくは異なる抗体クラス若しくはサブクラスに属していてもよい)に由来する抗体を指すが、いずれの場合も依然として標的抗原に対する結合活性を保持する(Cabilly et al.に対する米国特許第4,816,567号、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851 6855 (1984))。例えば、「キメラ抗体」という用語は、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域が第1の抗体(例えばマウス抗体)に由来し、抗体の重鎖及び軽鎖定常領域が第2の抗体(例えばヒト抗体)に由来する抗体(例えば、ヒト-マウスキメラ抗体)を含む場合がある。キメラ抗体を作製するためには、当該技術分野で既知の方法を用いて、免疫動物の免疫グロブリン可変領域をヒト免疫グロブリン定常領域に連結することができる(例えば、Cabilly et al.に対する米国特許第4,816,567号を参照されたい)。例えば、VHをコードするDNAを、重鎖定常領域をコードする別のDNA分子に操作可能に連結して、完全長重鎖遺伝子を得る。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は、当該技術分野で既知であり(例えば、Kabat, EA et al. (1991), Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, US Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242を参照されたい)、これらの領域を含むDNAフラグメントは、標準的なPCR増幅によって得ることができる。重鎖定常領域はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgM又はIgD定常領域であり得るが、概してIgG1又はIgG4定常領域であるのが好ましい。例えば、VLをコードするDNAを、軽鎖定常領域CLをコードする別のDNA分子に操作可能に連結して、完全長軽鎖遺伝子(及びFab軽鎖遺伝子)を得る。ヒト軽鎖定常領域遺伝子の配列は、当該技術分野で既知であり(例えば、Kabat, EA et al. (1991), Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, US Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242を参照されたい)、これらの領域を含むDNAフラグメントは、標準的なPCR増幅によって得ることができる。軽鎖定常領域は、κ又はλ定常領域であり得るが、概してκ定常領域であるのが好ましい。
【0090】
本明細書において使用される場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体の配列との相同性を高めるためにアミノ酸配列が修飾された、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。概して、ヒト化抗体のCDR領域の全部又は一部が非ヒト抗体(ドナー抗体)に由来し、非CDR領域(例えば、可変領域FR及び/又は定常領域)の全部又は一部がヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)に由来する。幾つかの実施の形態においては、ヒト化抗体のCDR領域が非ヒト抗体(ドナー抗体)に由来し、非CDR領域(例えば、可変領域FR及び/又は定常領域)の全部又は一部がヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)に由来する。ヒト化抗体は概して、抗原特異性、親和性、反応性等を含むが、これらに限定されない、ドナー抗体の期待される特性を保持する。ドナー抗体は、所望の特性(例えば抗原特異性、親和性、反応性等)を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)抗体であり得る。ヒト化抗体を作製するためには、当該技術分野で既知の方法を用いて、免疫動物のCDR領域をヒトフレームワーク配列に挿入することができる(Winterに対する米国特許第5,225,539号;Queen et al.に対する米国特許第5,530,101号;同第5,585,089号;同第5,693,762号及び同第6,180,370号;並びにLo, Benny, KC, editor, in Antibody Engineering: Methods and Protocols, volume 248, Humana Press, New Jersey, 2004を参照されたい)。
【0091】
本明細書において使用される場合、「生殖細胞系列抗体遺伝子」又は「生殖細胞系列抗体遺伝子セグメント」という用語は、特定の免疫グロブリンの発現について遺伝子再配列及び突然変異を引き起こす可能性がある成熟プロセスを経ていない、免疫グロブリンをコードする生物のゲノム中に存在する配列を指す。本発明において、「重鎖生殖細胞系列遺伝子」という表現は、V遺伝子(可変)、D遺伝子(多様性)、J遺伝子(接合)及びC遺伝子(定常)を含む、免疫グロブリン重鎖をコードする生殖細胞系列抗体遺伝子又は遺伝子フラグメントを指す。同様に、「軽鎖生殖細胞系列遺伝子」という表現は、V遺伝子(可変)、J遺伝子(接合)及びC遺伝子(定常)を含む、免疫グロブリン軽鎖をコードする生殖細胞系列抗体遺伝子又は遺伝子フラグメントを指す。本発明において、生殖細胞系列抗体遺伝子又は生殖細胞系列抗体遺伝子フラグメントによってコードされるアミノ酸配列は、「生殖細胞系列配列」とも称される。生殖細胞系列抗体遺伝子又は生殖細胞系列抗体遺伝子フラグメント及びそれらの対応する生殖細胞系列配列は、当業者に既知であり、専門データベース(例えば、IMGT、unswag、NCBI又はVBASE2)から取得又は検索することができる。
【0092】
本明細書において使用される場合、「特異的結合」という用語は、抗体とそれが対象とする抗原との間の反応等の2つの分子間の非ランダム結合反応を指す。特異的結合相互作用の強度又は親和性は、相互作用の平衡解離定数(KD)によって表すことができる。本発明において、「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、抗体と抗原との間の結合親和性を説明するために用いられる。平衡解離定数が小さいほど、抗体-抗原結合が強力となり、抗体と抗原との間の親和性が高くなる。2つの分子間の特異的結合特性は、当該技術分野で既知の方法を用いて、例えばBIACORE機器の表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて測定することができる。
【0093】
本明細書において使用される場合、「酸性pHよりも中性pHにおいて高い親和性で結合する」という表現又は「pH依存結合」という同等の表現は、本発明の抗体の酸性pHでのHBsAgへの結合についてのKD値又はEC50値が、中性pHでのHBsAgへの結合についてのKD値又はEC50値よりも高いことを指す。KDは、当該技術分野で既知の手法、例えばSPR法(例えばBiacore)によって測定することができる。本発明において、「EC50」という用語は、抗体-抗原半数影響濃度(half maximum effect concentration)、すなわち、特定の抗体-抗原間の最大結合効果の50%に達するのに必要とされる抗体濃度を指し、抗体と抗原との間の結合能を説明するために用いられる。EC50が小さいほど、抗体と抗原との間の結合能が高くなる。抗体-抗原半数影響濃度(EC50)は、当該技術分野で既知の方法を用いて、例えば抗原を固相担体に結合させ、抗体を抗原に特異的に結合させる酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて決定することができる。
【0094】
本明細書において使用される場合、「中和抗体」は、標的ウイルスの毒性(例えば、細胞に感染する能力)を大幅に低下させるか、又は完全に阻害することができる抗体又はその抗原結合フラグメントを指す。概して、中和抗体は、標的ウイルスを認識及び結合し、標的ウイルスが被験体の細胞に侵入/感染するのを防ぐことができる。本発明の抗体は、中和抗体である。
【0095】
しかしながら、本願においては、抗体のウイルス中和能が抗体のウイルス除去能と全く同等というわけではないことを理解すべきである。本明細書において使用される場合、「ウイルスを中和する」とは、標的ウイルスが被験体の細胞に侵入/感染するのを阻害することによって標的ウイルスの毒性を中和する(すなわち、標的ウイルスの毒性を大幅に低下させるか、又は完全に阻害する)ことを意味する。本明細書において使用される場合、「ウイルスを除去する」とは、標的ウイルス(細胞に感染しているか否かを問わない)が生物から除去されることで、生物がウイルスに感染する前の状態に変わる(例えば、ウイルスの血清学的検査の結果が陰性になる)ことを意味する。したがって、概して、中和抗体は、必ずしもウイルス除去能を有するわけではない。しかしながら、本願においては、本発明者は驚くべきことに、本発明による抗体がHBVを中和するだけでなく、ウイルスを除去することもでき(すなわち、HBV DNA及び/又はHBsAgをin vivoで除去し、HBV及びHBV感染細胞をin vivoで除去することができる)、したがって重要な臨床的価値を有することを見出した。
【0096】
本明細書において使用される場合、「単離された」という用語は、人工的な手段によって自然状態から得られた状態を指す。或る特定の「単離された」物質又は成分が天然に存在する場合、これは自然環境が変化するか、若しくは物質が自然環境から単離されたか、又はその両方であることから可能である。例えば、或る特定の単離されていないポリヌクレオチド又はポリペプチドが或る特定の生きている動物の体内に自然に存在する場合、かかる自然状態から高純度で単離された同じポリヌクレオチド又はポリペプチドは、単離されたポリヌクレオチド又はポリペプチドと呼ばれる。「単離された」という用語は、混入した人工又は合成物質も、単離された物質の活性に影響を及ぼさない他の不純物も排除するものではない。
【0097】
本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸ビヒクルを指す。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を可能にする場合、このベクターは、発現ベクターと称される。ベクターは、ベクターによって運ばれる遺伝物質の要素が宿主細胞において発現され得るように形質転換、形質導入又はトランスフェクションによって宿主細胞に導入することができる。ベクターは当業者に既知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)又はP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体;λファージ又はM13ファージ等のバクテリオファージ、及び動物ウイルスが含まれるが、これらに限定されない。ベクターとして使用することができる動物ウイルスとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス(例えばSV40)が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択要素及びレポーター遺伝子を含むが、これらに限定されない、発現を制御する様々な要素を含み得る。加えて、ベクターは複製開始部位を含み得る。
【0098】
本明細書において使用される場合、「宿主細胞」という用語は、ベクターを導入することができる細胞を指し、大腸菌(Escherichia coli)若しくは枯草菌(Bacillus subtilis)等の原核細胞、酵母細胞若しくはアスペルギルス等の真菌細胞、S2ショウジョウバエ細胞若しくはSf9等の昆虫細胞、又は線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK 293細胞若しくはヒト細胞等の動物細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
本明細書において使用される場合、「同一性」という用語は、2つのポリペプチド間又は2つの核酸間の一致度を指す。比較される2つの配列が、或る特定の部位に塩基又はアミノ酸の同じモノマーサブユニットを有する(例えば、2つのDNA分子の各々が或る特定の部位にアデニンを有するか、又は2つのポリペプチドの各々が或る特定の部位にリジンを有する)場合、2つの分子はその部位で同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、比較される部位の総数に対する2つの配列で共通する同一の部位の数×100の関数である。例えば、2つの配列の10個の部位のうち6個が一致している場合、これら2つの配列は、60%の同一性を有する。例えば、DNA配列:CTGACT及びCAGGTTは、50%の同一性を有する(6個の部位のうち3個が一致している)。概して、2つの配列の比較は、最大の同一性が得られるように行われる。かかるアラインメントは、Needleman, et al. (J. Mol. Biol. 48:443-453, 1970の方法に基づくAlignプログラム(DNAstar, Inc.)等のコンピュータプログラムを用いて行うことができる。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE. Meyers and W. Miller (Comput. Appl. Biosci., 4:11-17 (1988))のアルゴリズムを用い、PAM120重量残基表、ギャップ長ペナルティ12及びギャップペナルティ4を用いて決定することもできる。加えて、2つのアミノ酸配列間の同一性のパーセンテージは、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman and Wunsch (J. Mol. Biol. 48:444-453 (1970))のアルゴリズムにより、Blossum 62マトリックス又はPAM250マトリックスのいずれかを用い、ギャップ重量16、14、12、10、8、6又は4及び1、2、3、4、5又は6の長さ重量を用いて決定することができる。
【0100】
本明細書に関わる20個の従来のアミノ酸は、日常的な方法で表される。例えば、Immunology-A Synthesis (2nd Edition, E. S. Golub and D. R. Gren, Eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))(引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。本開示においては、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、同じ意味を有し、区別なく使用される。また、本開示においては、アミノ酸は概して、当該技術分野で既知の1文字及び3文字の略号によって表される。例えば、アラニンはA又はAlaによって表すことができる。加えて、本明細書において使用される場合、「モノクローナル抗体」及び「McAb」という用語は、同じ意味を有し、区別なく使用され得る。「ポリクローナル抗体」及び「PcAb」という用語は、同じ意味を有し、区別なく使用され得る。
【0101】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤」という用語は、当該技術分野で既知の被験体及び活性物質に薬理学的及び/又は生理学的に適合する担体及び/又は賦形剤を指し(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences. Edited by Gennaro AR, 19th ed. Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995を参照されたい)、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧制御剤、吸収遅延剤及び防腐剤を含むが、これらに限定されない。例えば、pH調整剤としては、リン酸緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤としては、陽イオン、陰イオン又は非イオン界面活性剤、例えばTween-80が挙げられるが、これらに限定されない。イオン強度増強剤としては、塩化ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。防腐剤としては、パラベン、クロロブタノール、フェノール及びソルビン酸等の様々な抗菌剤及び抗真菌剤が挙げられるが、これらに限定されない。浸透圧制御剤としては、糖、NaCl及びそれらの類似体が挙げられるが、これらに限定されない。吸収遅延剤としては、モノステアレート及びゼラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
本明細書において使用される場合、「予防/予防する」という用語は、被験体における疾患、障害又は症状(HBV感染又はHBV感染に関連する疾患等)の発症を抑制するか又は遅らせるために行われる方法を指す。本明細書において使用される場合、「治療/治療する」という用語は、有益な又は所望の臨床転帰を得るために行われる方法を指す。本発明の目的上、有益な又は所望の臨床転帰としては、検出可能であるか又は検出可能でないかを問わず、症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の進行の遅延又は減速、並びに症状の軽減(部分的又は完全のいずれも)が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、「治療」は、期待される生存期間(治療が認められない場合)と比較した生存期間の延長も指す。本願においては、本発明による抗体は、HBVを中和する能力を有し、したがって罹患していない被験体又はその細胞をHBVによる感染から予防/保護するために使用することができる。加えて、本発明による抗体は、HBVを除去する能力を有し(すなわち、HBV DNA及び/又はHBsAgをin vivoで除去し、HBV及びHBVに感染した細胞をin vivoで除去することができる)、したがって感染被験体においてHBV感染又はHBV感染に関連する疾患を治療するために使用することができる。
【0103】
本明細書において使用される場合、「被験体」という用語は、霊長類哺乳動物、例えばヒト等の哺乳動物を指す。
【0104】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、期待される効果を達成するか又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。例えば、疾患(HBV感染又はHBV感染と関連する疾患等)の予防に効果的な量は、疾患(HBV感染又はHBV感染と関連する疾患等)の発症を予防、抑制又は遅延させるのに効果的な量を指す。疾患の治療に効果的な量は、疾患を有する患者において疾患及びその合併症を治癒するか又は少なくとも部分的に阻止するのに効果的な量を指す。かかる有効量の決定は、当業者の能力の範囲内である。例えば、治療用途に効果的な量は、治療すべき疾患の重症度、患者の免疫系の全体的な状態、年齢、体重及び性別等の患者の一般条件、薬物の投与方法、同時に用いられる付加的な療法等に応じて異なる。
【発明の効果】
【0105】
本発明の有益な効果
本発明の抗体は、HBsAgを特異的に認識/結合することができ、HBVの毒性を中和することができ、被験体におけるHBV DNA及び/又はHBsAgの血清レベルを低下させることができ、体内のHBV及びHBV感染細胞を効果的に除去することができるだけでなく、大幅に向上した抗原クリアランス効果及び抗原抑制時間を有する。特に驚くべきことに、慢性B型肝炎患者が、体内の高レベルのHBsAgのためにHBVに対して免疫枯渇(寛容)を生じることで感染が長引く傾向があるが、本発明の抗体は、HBVに対する液性免疫応答を回復するように被験体(例えば、慢性HBV感染患者又は慢性B型肝炎患者)を活性化することで、臨床的治癒率を高めることができることが当該技術分野で既知である。したがって、本発明の抗体は、HBV感染及びHBV感染と関連する疾患(例えばB型肝炎)の予防及び治療に特に適している。加えて、本発明の抗体は、pH依存抗原結合特性を有し、抗体の単一分子が抗原の複数の分子に結合することができるため、投与頻度及び投与量を減少させることもでき、大きな臨床的価値を有する。
【0106】
本発明の実施形態を添付の図面及び実施例と併せて以下で詳細に説明する。しかしながら、以下の図面及び実施例が本発明を説明するためにのみ用いられ、本発明の範囲を限定するものではないことが当業者には理解される。添付の図面及び以下の好ましい実施形態の詳細な説明により、本発明の様々な目的及び有利な態様が当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1】pH依存抗原結合活性を有する抗体の作用原理の概要図である。ヒト血漿はpH約7.4の中性であるが、細胞内環境はpH約6.0の酸性である。pH依存抗原結合活性を有する抗体は、血漿中の抗原に結合することができ、抗原-抗体複合体が続いて細胞に内在化する。pH依存抗体は、エンドソームの酸性環境で抗原から解離する。抗原から解離した抗体は、FcRnによって捕捉され、細胞外に循環する。細胞外の中性環境においては、FcRnが抗体を放出し、血漿中に戻った抗体が再び他の抗原に結合することができるため、抗体のサイクル使用が実現される。
【
図2】M1D可変領域の三次元構造のシミュレーションを示す図である。棒状の構造はCDR領域を表し、青色はVK CDRを表し、緑色はVH CDRを表し、赤色は表面アミノ酸を表す。合計25個の表面アミノ酸をCDR領域に見ることができる。
【
図3】scFv抗体をコードする組み換えベクター(pCGMT-scFv)の概要図である。ここで、scFv抗体の構造は、NH
2-VH-リンカー-VL-COOHである。
【
図4】
図4A~
図4Cは、M1Dに由来するpH依存scFv抗体及び抗原HBsAgを提示するファージライブラリーのELISAの結果を示す図である。
図4A:3回目のスクリーニング後のM1Dに由来するpH依存scFv抗体のファージライブラリーについてのpH7.4及びpH6.0でのHBsAgへの結合の検出結果であり、横座標はファージ抗体番号又は希釈倍率を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、これらの単一クローンが全て強い抗原結合活性を有し、pH6.0で結合活性が大幅に減少することが示される。
図4B:3回目にpH7.4で高いOD
(450/630)値を有し、pH7.4及びpH6.0でのOD
(450/630)値の最も大きい差を示す6つの単一クローンについてのHBsAgへのpH依存結合の8つの勾配及び3倍希釈での検出結果であり、横座標は希釈倍率を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、pH依存抗原結合効果が勾配希釈後により良好に示され、中でもA31-73が最良の効果を示すことが示される。
図4C:4つの勾配及び5倍希釈を用いた4回目のスクリーニング後のファージscFvの24個の優れた候補についてのHBsAgへのscFv抗体ファージのpH依存結合検出の予備的結果であり、横座標は希釈倍率を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、A41-8、A42-12及びA42-23がA31-73よりも良好であり、A44-1及びA44-20がA31-73と同等であることが示される。
【
図5】A31-73、A42-13、A42-23及びA41-8の突然変異部位の概要を示す図である。
【
図6】実施例2におけるA31-73、A42-12、A42-23及びA41-8のHPLC結果を示す図である。ここで、M1D-C/Sは陽性対照であり、M1D抗体の異なるバッチを参照し、結果から4つの抗体が単一成分であることが分かる。
【
図7】実施例3におけるA31-73、A42-12、A42-23及びA41-8についてのpH7.4及びpH6.0でのHBsAgへの結合の検出結果を示す図である。ここで、横座標は抗体濃度(Log10 ng/ml)を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、4つの抗体が全て中性pHで親抗体と同等の抗原結合活性を維持することができ、いずれもpH6.0の条件下で抗原結合活性が有意に減少し、A31-73がA42-12、A42-23及びA41-8よりも良好であることが示される。
【
図8】実施例3のHBVトランスジェニック雌性マウスにおけるA31-71、A41-8、A42-12及び親M1Dの治療効果の結果を示す図である。
図8A:マウス血清中のHBsAgのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はクリアランス後のマウス血清中のHBsAgのレベル(log10 IU/ml)を表す。
図8B:マウス血清中の抗体濃度の変化であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標は抗体濃度(Log10 ng/ml)を表す。結果から、M1DのHBsAgレベルが約10日後にベースラインまで回復する一方で、本発明者らの修飾抗体が約15日後にベースラインまで回復することが示される。血清中の抗体濃度に関しては、M1Dが10日目に最低の抗体濃度を有するのに対し、3つの修飾抗体は、15日目にも依然として検出することができ、pH依存修飾抗体が親と同等のHBsAgを除去する能力を示し、親よりも長い抗原阻害時間を有し、すなわち、それらのクリアランス効果がより長時間発揮され得ることが示される。
【
図9】スカベンジャー抗体の作用原理を示す図である。pH依存抗原結合活性は、細胞内で役割を果たす。このため、細胞侵入の最初の制限要因が破られなければ、その後にpH依存抗原結合特性は適用されず、修飾の利益が大幅に低下する。Fc領域中のアミノ酸の更なる突然変異によって得られたスカベンジャー抗体は、中性pHでのhFcRn受容体への結合を増強するか、又はFcγRs受容体への結合を増強することができる。
図9に示されるように、スカベンジャー抗体は、細胞外に位置し、抗原を細胞内に相互に輸送することで抗体半減期を極度に延長し得る「輸送ヘルパー」として作用し、抗原に再び結合することができ、それにより抗原の細胞侵入効率を改善し、クリアランス効率を大幅に改善する。
【
図10】実施例4における2つの分子A31-73及びA41-8のHPLC結果を示す図である。ここで、赤色及び緑色は無関連の陽性対照を表す。結果から全ての抗体が単一成分であることが分かる。
【
図11】実施例4におけるA31-73 V4及びA41-8 V4についてのpH7.4及びpH6.0でのHBsAgへの結合の検出結果を示す図である。ここで、横座標は抗体濃度(Log10 ng/ml)を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、両方の分子が中性pHで親抗体の抗原結合活性及びpH依存抗原結合活性を維持することができ、pH依存抗原結合活性が僅かに増強されることが示される。
【
図12】実施例4におけるA31-73 V4及びA31-73(
図12A)、並びにA41-8 V4及びA41-8(
図12B)のMDCK細胞上での免疫蛍光結果を示す図である。緑色の蛍光はhFcRnを表し、青色の蛍光は核を表し、赤色の蛍光はHBsAgを表す。結果から、A31-73 V4及びA41-8 V4変異体で処理した細胞における抗原蛍光強度がA31-73及びA41-8で処理した細胞よりも顕著に高く、V4修飾を有するスカベンジャー抗体がより多くの抗原を細胞内に効率的に輸送し得ることが示される。スカベンジャー抗体におけるV4突然変異が中性条件下でのhFcRnへの抗体の結合を増強し得ることが確認される。抗原-抗体複合体が細胞内に侵入した後、僅か約6.0の細胞内pH下で抗原-抗体複合体が解離し、抗体が細胞表面に戻り、再び抗原結合機能を果たす。スカベンジャー抗体が中性条件下でhFcRnに結合する能力の増強により、その後のpH依存抗原結合特性が改善し得る。
【
図13】実施例4の安定したHBVウイルス価を有するhFcRnトランスジェニックマウスにおける20mg/kgの用量での尾静脈を介した単回注射による2つのスカベンジャー抗体A31-73 V4及びA41-8 V4、M1D並びに陰性対照16G12の治療効果を示す図である。
図13A:マウス血清中のHBsAgのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はマウス血清中のHBsAgのクリアランスレベル(log10 IU/ml)を表す。
図13B:マウス血清中のHBV DNAのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はマウス血清中のHBV DNAのクリアランスレベル(log10 IU/ml)を表す。
図13C:マウス血清中の抗体濃度の変化であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標は抗体濃度(Log10 ng/ml)を表す。結果から、スカベンジャー抗体がM1Dと同等の抗原クリアランス能力を有するが、より長い阻害時間を有することが示される。M1Dが最大の抗原クリアランス効果を発揮した後、抗原が急速に回復を開始し、M1Dが14日目に失効し始め、血清中のHBsAgはベースラインレベル(陰性対照16G12に基づく)まで戻る。しかしながら、2つのスカベンジャー抗体は、最大のクリアランス効果を発揮した後も長時間にわたって低い抗原レベルを維持し、ゆっくりと回復することができる。A41-8 V4処理群においては、HBsAgは約30日でベースラインまで回復する。A31-73 V4は、より良好な性能を示した。予定された実験の終了後も、HBsAgはベースラインレベルまで戻らず、これは血清中の抗体半減期の検出結果と一致する。
【
図14】実施例4におけるA31-73 DYのタンパク質ゲルの結果を示す図である。M1Dは陽性対照である。結果から全ての抗体が単一成分であることが分かる。
【
図15】実施例4におけるpH7.4及びpH6.0でのHBsAgへのA31-73 DY結合の検出結果を示す図である。ここで、横座標は抗体濃度(Log10 ng/ml)を表し、縦座標はOD値を表す。結果から、A31-73 DYが中性pHで親抗体の抗原結合活性及びpH依存抗原結合活性を維持することができ、pH依存抗原結合活性が僅かに増強されることが示される。
【
図16】実施例4におけるマウス初代マクロファージ上でのA31-73 DY及びA31-73についての免疫蛍光実験の結果を示す図である。ここで、緑色の蛍光はhFcRnを表し、青色の蛍光は核を表し、赤色の蛍光はHBsAgを表す。結果から、DY修飾がマウスマクロファージによる抗原-抗体複合体の食作用を増強することが示される。
【
図17】HBVトランスジェニックマウスにおける5mg/kgの用量での尾静脈を介した単回注射後の実施例4のA31-73 DYスカベンジャー抗体及びM1Dの治療効果を示す図である。
図17A:マウス血清中のHBsAgのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はクリアランス後のマウス血清中のHBsAgのレベル(log10 IU/ml)を表す。
図17B:マウス血清中のHBV DNAのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はマウス血清中のHBV DNAのクリアランスレベル(log10 IU/ml)を表す。
図17C:マウス血清中の抗体濃度の変化であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標は抗体濃度(ng/ml)を表す。結果から、DY修飾を有するスカベンジャー抗体A31-73 DYが抗原クリアランスにおいてM1Dよりも1桁超強いことが示される。A31-73 DYは、HBVトランスジェニックマウスにおいてHBsAgを急速に除去するだけでなく、マウスにおけるHBV DNA価を効果的に低下させることができ、これは血清における抗体半減期の検出結果と一致している。血清中の抗体濃度を比較すると、A31-73 DYの半減期はM1Dよりもほぼ8日長く、スカベンジャー抗体A31-73 DYが抗原を相互に結合する機能を有するため、抗原クリアランスの時間が増加することが示される。
【
図18】アデノ随伴ウイルスのトランスフェクションによって得られるHBVマウスモデルにおいて5mg/kgの用量で5回のスカベンジャー抗体の注射後の実施例4のスカベンジャー抗体A31-73 DY及び陰性対照16G12の治療効果を示す図である。
図18A:本動物実験の概要図であり、数字は日数を表し、赤色の矢印は血液採取の時点を表し、白色の矢印は投与の時点を表す。
図18B:マウス血清中のHBsAgのクリアランス効果であり、横座標は抗体注射後の日数(d)を表し、縦座標はマウス血清中のHBsAgのクリアランスレベル(log10 IU/ml)を表す。
図18C:マウス血清中の抗HBsの相対価であり、横座標は抗体名を表し、縦座標は抗HBsの相対価(log10 OD450/OD630)を表す。結果から、スカベンジャー抗体A31-73 DYが従来の抗体の限界を打ち破り、低用量、低頻度での治療を達成し、マウスにおけるHBsAg価が100IU/mL未満のレベルに長期間阻害され、治療後にマウスにおける液性免疫応答が活性化し、抗HBsの産生が可能となることが示される。
【発明を実施するための形態】
【0108】
配列情報
本発明に関わる一部の配列の情報を下記表1に提示する。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【実施例】
【0113】
ここで、以下の実施例を参照して本発明を説明するが、これらの実施例は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明を例示することを意図するものである。
【0114】
特段の指定がない限り、本発明において使用される分子生物学実験法及びイムノアッセイ法は、基本的にJ. Sambrook et al., Molecular Cloning: Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989、及びFM Ausubel et al., Compiled Molecular Biology Experiment Guide, 3rd edition, John Wiley & Sons, Inc., 1995を参照し、制限酵素は、製品の製造業者により推奨される条件に従って使用した。当業者は、実施例が本発明を例として説明し、本発明によって特許請求される保護範囲を限定することを意図しないことを理解している。
【0115】
実施例1:pH依存抗HBsAg抗体のファージスクリーニング
1.1 pH依存抗体修飾のための突然変異部位の決定
研究室において以前に開発した抗HBVヒト化抗体M1D(中国特許出願公開第201810307136.5号に詳細に記載される)を親抗体として使用し、その可変領域をpH依存抗原結合のために修飾した。
図1に示されるように、修飾M1Dは中性条件下で抗原結合活性を維持することができたが、酸性条件下での抗原結合活性が大幅に減少していた。解離した修飾M1Dは、細胞内FcRnに結合することができ、血漿中に戻り、再び抗原に結合することで、pH依存抗原結合修飾後のM1Dの1分子が抗原の複数の分子に繰り返し結合し、中和することができた。ヒスチジンは酸性条件下でプロトン化することができ、pH依存抗原結合特性をもたらす重要なアミノ酸であった。M1Dの可変領域の三次元構造をシミュレーションし(可変領域の三次元構造を可変領域のアミノ酸配列に従ってシミュレーションした)、
図2に示した。棒状の構造はCDR領域を表し、青色はVK CDRを表し、緑色はVH CDRを表し、赤色は表面アミノ酸を表すものであった。合計25個の表面アミノ酸がCDR領域に見られ、文献に開示されるアミノ酸から得られた経験と組み合わせることで、ヒスチジンについて24個のランダム置き換え部位が存在することが決定された。
【0116】
1.2 M1Dに由来するpH依存scFv抗体のファージライブラリー構築
M1D抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域を鋳型として用いて、抗体可変領域CDR中で決定された24個の部位をヒスチジンに置き換え、表2のプライマーに従って標的フラグメントを増幅して、M1Dに由来するpH依存scFv抗体をコードする遺伝子フラグメントを得た。PCR条件は、95℃、5分;95℃、30秒;57℃、30秒;72℃、30秒;72℃、10分で25回の増幅サイクルであり、SOE-PCR反応条件は、95℃、5分;95℃、30秒;57℃、30秒;72℃、30秒;72℃、10分で5回の増幅サイクルであった。増幅産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、増幅産物をDNA精製及び回収キット(TianGen、DP214-03)を用いて回収/精製することで、M1Dに由来するpH依存scFv抗体をコードする遺伝子フラグメントH~Kを得た。scFv抗体の構造はNH
2-VH-リンカー-VL-COOHであり、リンカー配列は(G
4S)
3とすることができた。遺伝子フラグメントH~Kの各々をSfiIで消化した後、10:1(遺伝子フラグメント:ベクター)のモル比でベクターpCGMT(Scripps, Making chemistry selectable by linking it to infectivityによる)にライゲートした。ライゲーション産物をエレクトロポレーション(エレクトロポレーション条件:25μF、2.5KV、200Ω)によってコンピテント大腸菌ER2738に形質転換した。形質転換した大腸菌をSOC培地中で45分間回収した後、200μLの細菌溶液をLBプレート(100g/Lアンピシリン+テトラサイクリン+2g/mLグルコースを含む)にプレーティングし、37℃で一晩静置することによってインキュベートした。プレート上の全てのコロニーが可変領域中の決定された突然変異部位を無作為にヒスチジンに突然変異させたライブラリーであり、これをその後のスクリーニングに使用した。モノクローナルコロニーをプレートから選び出し、シークエンシングして、scFv抗体をコードする組み換えベクターの配列の正確さを確認した。scFv抗体をコードする組み換えベクター(pCGMT-scFv)の概要図を
図3に示した。
【0117】
【0118】
1.3 pH依存scFv抗体のスクリーニング
先の工程において得られたライブラリーを複数回スクリーニングし、スクリーニングにおいて得られた陽性モノクローナルコロニーを、アンピシリン(100g/L)及びグルコース(2g/mL)を含む2×YT培地でOD値0.6に達するように培養した後、補助的な重複感染のためにM13KO7を添加した。2時間後に100g/Lカナマイシンを添加し、重複感染を37℃で行った。2時間後に培養物を4000rpmで10分間遠心分離し、上清を捨て、細胞ペレットを採取した。細胞ペレットを、アンピシリン及びカナマイシン(100g/L)を含む培地に再懸濁し、振盪しながら30℃で一晩培養した。続いて、培養物を12000rpmで10分間遠心分離し、細胞及び上清を採取し、試験のために4℃で保管した。
【0119】
HBsAg(200ng/mL)抗原をコーティングしたELISAプレートを取り、100μLの試験対象の上清を各ウェルに添加し、インキュベーションを37℃で1時間行った(各上清につき2つのウェル)。続いて、ELISAプレートをPBSTで1回洗浄した後、120μLのpH7.4のPBS及びpH6.0のPBSを各上清の2つのウェルにそれぞれ添加し、37℃で30分間インキュベートした。対応するpHのPBSTで5回洗浄を行い、5000倍希釈した抗M13-HRPを100μL添加し、37℃で30分間インキュベートした。続いて、ELISAプレートをPBSTで5回洗浄し、基質TMB溶液を添加した。15分間の発色後に呈色反応をH
2SO
4で停止し、読取りをOD
450/620で測定した。3回目のELISA試験の結果を
図4A~
図4Cに示した。
図4A~
図4Cの結果から、これらのscFv抗体を提示するファージが全てELISA検出において反応性を有し、pH6.0で抗原に弱く結合し得ることが示された。良好な効果を有する4株のpH依存ファージ抗体が初めに得られ、A31-73、A42-13、A42-23及びA41-8と名付けられた。
【0120】
実施例2:pH依存抗HBsAg抗体の作製
2.1 真核生物発現のための組み換えベクターの構築
本発明において、多量の抗体組換えを行う必要があることから、抗体を効率的に組み換えることができる軽鎖及び重鎖ベクターのセットを構築する必要があった。本発明において、研究室内の既存の真核生物発現ベクターpTT5を特別に修飾して、二重プラスミド同時トランスフェクションのために軽鎖及び重鎖組み換えベクターのセットを構築した。MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号49)を軽鎖及び重鎖のシグナルペプチドとして使用した。ヒト抗体の軽鎖及び重鎖の定常領域をコードする配列を別個にシグナルペプチドの下流にライゲートして、抗体組換えを容易にする一連の真核生物発現ベクターpTT5-CH、pTT5-Cκ及びpTT5-Cλを構築した。
【0121】
1.3において得られた4つのscFv抗体を用い、軽鎖及び重鎖可変領域フラグメントを表3のプライマーによって増幅した。具体的な増幅反応条件は、95℃、5分;95℃、30秒;57℃、30秒;72℃、30秒;72℃、10分で25回の増幅サイクルであった。また、増幅産物をゲルから回収した。
【0122】
研究室で作製したギブソンアセンブリ溶液を用いて、上記の構築した真核生物発現ベクターに抗体可変領域遺伝子の回収されたPCR産物をライゲートし(プライマーはベクターと相同の配列を有する)、組み換えベクターVH+pTT5-CH(配列番号57に示される重鎖定常領域を含む)及びVH+pTT5-Cκ(配列番号58に示される軽鎖定常領域を含む)を得た。組み換えベクターを大腸菌DH5α株に形質転換し、LBプレート上にプレーティングし、37℃のインキュベーター内で一晩培養した。モノクローナルコロニーをプレートから選び出し、シークエンシングし、シークエンシング結果を、MEGAを用いる配列比較に供することで、その遺伝子の正確さを確認し、情報が誤っている遺伝子を除外した。
【0123】
【0124】
2.2 抗体遺伝子の小規模及び大規模発現
構築した組み換えベクターVH+pTT5-CH及びVH+pTT5-CκをHEK293細胞に同時トランスフェクトし、小規模発現のための二重プラスミドを24ウェルプレートに1ウェル当たり500μLで同時トランスフェクトした。小規模発現の細胞上清が抗原活性を有する場合、トランスフェクションシステムを100mL(使用する抗体の量によって決まる)のFreeStyle(商標) 293F懸濁細胞(細胞密度は約2×106細胞/mlであった)まで拡大した。トランスフェクト細胞を32℃、5%CO2のインキュベーター内の振盪フラスコにおいて培養し、7日間の発現後に上清を採取した。
【0125】
2.3 抗体精製
細胞発現上清を採取し、プロテインAカラムを用い、製造業者の使用説明書に従って精製した。具体的な工程は以下の通りであった:採取した細胞培養上清を8000rpmで10分間遠心分離し、上清を保持し、乾燥粉末Na
2HPO
4でpH値を8.4に調整した後、孔径0.22μmのフィルター膜で濾過した。プロテインAを結合させたセファロース4B培地10mLをカラムに充填し、AKTA Explorer100システムに接続し、ポンプAを0.2Mリン酸水素二ナトリウム溶液に接続し、ポンプBを0.2Mクエン酸溶液に接続した。検出波長をUV280nmとし、流速を5mL/分とし、ポンプA/Bのサンプル注入比を調整した。カラムを初めに100%のB(pH2.3)で洗浄してタンパク質不純物を除去し、10%のB(pH8.0)でpHのバランスを取り、検出波長でのシグナルが安定してからゼロに戻った後にサンプルを充填した。フロースルーピークが過ぎた後に、検出波長でのシグナルがゼロまで下がり、安定するまで10%のBを使用してバランスを取り、70%のB(pH4.0)を用いて溶出を行い、溶出ピークを収集した。溶出ピークサンプルをPBSバッファーに透析し、濃度のアッセイ及びSDS-PAGE及びHPLC分析に供して、IgG抗体の純度を決定した。A31-73、A42-12、A42-23及びA41-8のHPLCの結果を
図6に示した。4つの抗体が単一成分である。
【0126】
実施例3:pH依存抗HBsAg抗体の特性分析及び機能評価
実施例1の方法による予備スクリーニングによって得られたHBsAgへのpH依存結合の特性を有する4株のファージ抗体を、それぞれA31-73、A42-13、A42-23及びA41-8と名付けた。さらに、4株のファージ抗体を実施例2の方法による真核生物発現及び精製に供した。4つの抗体のVH及びVLアミノ酸配列を下記表に示した。加えて、4つの抗体のCDR配列を決定し、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列を表5に示した。A31-73、A42-13、A42-23及びA41-8にHBsAgへのpH依存抗原結合の特性を与えた突然変異部位を表5にまとめた。
【0127】
【0128】
【0129】
3.1 異なるpHでのpH依存抗HBsAg抗体の抗原結合活性の決定
本発明者らは、A31-73、A42-12、A42-23及びA41-8のそれぞれについてHBsAgへのpH依存抗原結合の能力をELISA法によって試験した。初めに、BCAタンパク質定量キットを用いて精製抗体の濃度を決定し、抗体濃度を希釈によって1111.11ng/mLに統一した。続いて、20%NBSを用いて3倍勾配希釈による抗体濃度の勾配希釈を行い、合計8つの濃度を勾配希釈によって得た。続いて、希釈した抗体を市販のHBsAgプレート(Beijing Wantaiから購入した)に添加し、37℃で1時間インキュベートした(上清1つにつき2つのウェル)。続いて、ELISAプレートをPBSTで1回洗浄し、回転乾燥した。次いで、pH7.4及びpH6.0の120μLのPBSを各上清の2つのウェルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。プレートを対応するpHのPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した。続いて、GAH-HRP標識二次抗体を添加し、30分間インキュベートし、プレートをPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した。また、基質TMB溶液を添加した。15分間の発色後に呈色反応をH2SO4で停止し、読取りをOD450/630で測定した。
【0130】
結果を
図7に示した。pH7.4においては、A31-73、A42-12、A42-23及びA41-8の全てがM1Dと同等の抗原結合活性を有していたが、pH6.0においては、それらの抗原結合活性が有意に低下した。EC50の結果を表6にまとめた。
【0131】
【0132】
3.2 動物モデルにおけるpH依存抗HBsAg抗体の治療効果の決定
HBVトランスジェニックマウスを用いて、動物におけるHBVウイルスを除去する上述のpH依存抗HBsAg抗体の能力を評価した。pH依存抗HBsAg抗体及び親抗体M1DをHBVトランスジェニックマウス(国立台湾大学のChen Peizhe教授により提供された)に、1群当たり4匹又は5匹のHBVトランスジェニックマウスで、10mg/kgの用量での尾静脈注射によって投与した。続いて、血液サンプルをマウスの後眼窩静脈叢から採取し、マウス血清中のHBsAg及び抗体レベルの変化を検出した。
【0133】
3.2.1 HBsAgの定量的検出
(1)反応プレートの準備:マウスモノクローナル抗体HBs-45E9を20mM PBバッファー(Na2HPO4/NaH2PO4バッファー、pH7.4)で2μg/mLまで希釈し、100μLのコーティング溶液を化学発光プレートの各ウェルに添加して、2℃~8℃で16時間~24時間、続いて37℃で更に2時間コーティングを行い、プレートをPBST洗浄溶液で1回洗浄し、回転乾燥した。洗浄後に200μLのブロッキング溶液を各ウェルに添加し、37℃で2時間のブロッキングを行った。続いて、ブロッキング溶液を捨て、プレートを乾燥室内で乾燥させ、後に使用するために2℃~8℃で保管した。
(2)サンプルの希釈:採取したマウス血清を、20%NBS(新生児ウシ血清)を含むPBS溶液で希釈し、その後の定量的検出のために1:30及び1:150の2つの勾配を形成した。
(3)サンプルの変性処理:15μLの上記の希釈血清サンプルを7.5μLの変性バッファー(20mM PB7.4に溶解した15%SDS)と十分に混合し、37℃で1時間反応させた。次いで、90μLの停止バッファー(20mM PB7.4に溶解した4%CHAPS)を添加し、よく混合した。
(4)サンプルの反応:100μLの上述の変性血清サンプルを反応プレートに添加し、37℃で1時間反応させた。続いて、反応プレートをPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した。
(5)酵素標識反応:HBs-A6A7-HRP反応溶液を化学発光プレートに100μL/ウェルで添加し、37℃で1時間反応させた。次いで、プレートをPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した。
(6)発光反応及び測定:発光溶液を化学発光プレートに添加し(100μL/ウェル)、光強度検出を行った。
(7)マウス血清サンプル中のHBsAg濃度の算出:標準品を用いて並列実験を行い、標準品の測定結果に基づいて標準曲線を描いた。次いで、マウス血清サンプルの光強度測定値を標準曲線に代入し、試験対象の血清サンプル中のHBsAgの濃度を算出した。
【0134】
3.2.2 血清中の抗体の定量的検出
(1)サンプルの希釈:血清サンプルを20%NBSで1000倍、10000倍、100000倍の3つの勾配に希釈した。対応する対照抗体を最初のウェルにおいて20%NBSで20ng/mLに希釈した後、6つの勾配に3倍希釈した。
(3)サンプルの添加:100μL/ウェルの先の工程で希釈したサンプル及び対応する抗体希釈液を市販のHBsAbプレート(Beijing Wantaiから購入した)に添加し、37℃で1時間インキュベートした。
(4)洗浄:プレートをプレートウォッシャーによって300μL/ウェルのPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した;
(5)酵素標識二次抗体の添加:100μL/ウェルのGAH-HRP標識二次抗体希釈液を添加し、37℃で30分間インキュベートした;
(6)洗浄:プレートをプレートウォッシャーによって300μL/ウェルのPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した。
(7)発色:100μL/ウェルの発色溶液、37℃、10分~15分;
(8)停止及び読取り:50μL/ウェルの停止溶液を添加し、読取り値を10分以内にマイクロプレートリーダーによってOD450/630で測定した。
(9)マウス血清サンプル中の抗体濃度の算出:対応する標準抗体の測定結果に基づいて標準曲線を描いた。次いで、マウス血清サンプルの光強度測定値を標準曲線に代入し、試験対象の血清サンプル中の抗体濃度を算出した。
【0135】
抗体処理後のマウスの血清中のHBsAg及び抗体レベルの検出結果を
図8A及び
図8Bに示した。結果から、親抗体M1DのHBsAgレベルが約10日後にベースラインまで回復した一方で、pH依存抗体のHBsAgレベルが約15日後にベースラインまで回復したことが示された。血清中の抗体濃度を比較すると、M1Dが10日目に最低の抗体濃度を示したのに対し、3つのpH依存抗体は、15日目にも依然として検出することができ、pH依存抗体が親抗体と同等のHBsAgを除去する能力を維持した上で親抗体よりも長い抗原阻害時間を有し、すなわち、pH依存抗体のクリアランス効果がより長時間発揮され得ることが示された。A31-73、A42-12及びA41-8によるHBsAgのクリアランス結果を
図8Aに示し、A31-73、A42-12及びA41-8の血清濃度の結果を
図8Bに示した。動物の治療効果の結果から、A31-73、A42-12及びA41-8がHBV感染又はHBV感染に関連する疾患(例えばB型肝炎)を治療する可能性を有することが示された。
【0136】
実施例4:スカベンジャー抗体の構築及び機能評価
pH依存抗体は、そのpH依存抗原結合活性を発揮するために細胞内に侵入する必要がある。したがって、細胞侵入の最初の制限要因が破られなければ、その後のpH依存抗原結合特性が「作用」する機会はない。したがって、本実施例においては、中性pHでのhFcRn受容体への結合を増強するか、又はFcγRs受容体への結合を増強することができるスカベンジャー抗体をFc領域中のアミノ酸の更なる突然変異によって得た。
図9に示されるように、スカベンジャー抗体は、細胞外に位置し、抗原を細胞内に相互に輸送することで抗体半減期を極度に延長する「輸送ヘルパー」の役割を果たし、抗原に再び結合することができ、それにより抗原の細胞侵入の効率を改善し、クリアランス効率を大幅に改善した。
【0137】
4.1 hFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体
4.1.1 hFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体の構築、発現及び精製
実施例3のHBVトランスジェニックマウスにおいて最高の性能を有するA31-73及びA41-8を、中性条件下でのhFcRnに対する親和性を高めるためにFc領域中のV4(M252Y、N286E、N434Y)突然変異に供した(この作業はGeneral Biologyに委託した;注文番号:G120460)。2つのスカベンジャー抗体A31-73 V4及びA41-8 V4が得られ、突然変異後の重鎖定常領域を配列番号47に示した。上記の2つの抗体を大規模真核生物発現及び精製に供し、その具体的な操作工程を実施例2.2及び2.3に示した。A31-73 V4及びA41-8 V4のHPLC結果を
図10に示し、結果から抗体が単一成分であることが示された。
【0138】
4.1.2 hFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体のin vitro活性検出
4.1.2.1 異なるpHでのhFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体の抗原結合活性の決定
pH7.4及びpH6.0でのA31-73 V4及びA41-8 V4の抗原結合活性をそれぞれ検出し、その具体的な操作工程を実施例3.1に示した。結果を
図11に示した。結果から、A31-73 V4及びA41-8 V4の両方が中性pHで親と同等の抗原結合活性を維持することができ、酸性pHでの抗原結合活性が更に弱まったことが示され、A31-73 V4及びA41-8 V4のpH依存抗原結合活性が或る程度増強されたことが示された。
【0139】
4.1.2.2 hFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体の細胞レベルでの機能検証
4.1.2.2.1 488蛍光によるHBsAgの標識
1mgのHBsAgの標識を例とし、プロセス全体を光から保護した。
(1)1mLの1mg/mL HBsAgをホウ酸塩緩衝剤(PH8.5、500mL)に4℃で4時間透析した;
(2)HBsAgと488標識とのモル比を1:5とし、算出により0.1988mgの488蛍光が必要とされた;
(3)10mg/mLの488蛍光溶液をDMFで調製し、よく混合した;
(4)19.88μLの488蛍光を1mLの透析HBsAgに添加し、よく混合し、室温で1時間インキュベートした;
(5)インキュベーション混合物をPBSに4℃で一晩透析した。
【0140】
4.1.2.2.2 MDCK細胞に基づく免疫蛍光実験
(蛍光標識サンプルを用いる全ての工程を暗環境で操作した)
(1)細胞プレーティング:2×105細胞/mLの密度の細胞を細胞イメージング用の24ウェルガラス底培養プレートにおいて250μL/ウェルで一晩培養した;
(2)対応する蛍光で標識した抗体及び抗原を無血清培地で希釈した:抗原については800ng/mL、抗体については2μg/mL;
(3)各125μLの抗原及び抗体を均一に混合した後、37℃のCO2インキュベーター内で1時間静置した;
(4)細胞イメージング培養プレート内の細胞上清を捨て、抗原-抗体複合体を添加し、均一に振盪し、CO2インキュベーターにおいて37℃で2時間静置した;
(5)上清を捨て、予め37℃でインキュベートした1mLの滅菌PBSを用いて細胞表面を3回~5回「洗浄」し、ピペッティングによって除去した;
(6)1mLの10%パラホルムアルデヒドを添加し、光から保護した37℃のCO2インキュベーター内で0.5時間静置した;
(7)パラホルムアルデヒドを捨て、予め37℃でインキュベートした1mLの滅菌PBSを用いて細胞表面を3回~5回「洗浄」し、ピペッティングによって除去した;
(8)0.5mLのDAPI(滅菌PBSで1000倍希釈した)を添加し、光から保護した37℃のCO2インキュベーター内で15分間静置した;
(9)DAPI希釈液を捨て、予め37℃でインキュベートした1mLの滅菌PBSを用いて細胞表面を3回~5回「洗浄」し、ピペッティングによって除去し、0.5mLのPBSを添加し、イメージングのためにハイコンテントイメージャーに入れた。
【0141】
実験結果を
図12A及び
図12Bに示した。結果から、A31-73 V4及びA41-8 V4で処理した細胞における抗原蛍光強度がA31-73及びA41-8で処理した細胞よりも顕著に高いことが示され、上記のスカベンジャー抗体がより多くの抗原を細胞内に効率的に輸送し得ることが示された。この結果から、スカベンジャー抗体におけるV4突然変異が中性条件下でのhFcRnへの抗体の結合を増強し得ることが確認された。抗原-抗体複合体が細胞内に侵入した後、細胞内pHは僅か約6.0であり、抗体が抗原-抗体複合体から解離し、細胞表面に戻り、再び抗原結合機能を果たした。スカベンジャー抗体が中性条件下でhFcRnに結合する能力の増強により、その後のpH依存抗原結合特性の「利便性の扉」が開かれ得る。
【0142】
4.1.3 動物モデルにおけるhFcRnに結合することが可能なスカベンジャー抗体の治療効果の決定
V4修飾は、hFcRn受容体を対象とするものであった。HBVトランスジェニックマウスの受容体は、修飾の効果の評価に用いることができないmFcRnであった。したがって、rAAV-HBV adrを感染させたhFcRnトランスジェニックマウスのモデルを採用した。6週齢~8週齢のhFcRnトランスジェニックマウス(Biosaituから購入した)を、尾静脈を介した適切な用量のrAAV-HBV adr(Beijing Wujiahe Molecular Medicine Institute Co., Ltd.から購入した)の単回注射に供した。マウスにおけるHBVウイルス価を4週間続けてモニタリングした。ウイルス価が安定した後、HBVウイルス価が安定したhFcRnトランスジェニックマウス(各群4匹)に、尾静脈を介して2つのスカベンジャー抗体M1D及び陰性対照16G12をそれぞれ20mg/kgの単回用量で注射し、液性免疫応答を抑制するために抗CD4抗体の腹腔内注射で補助した。次いで、血清中のHBsAg、抗体及びHBV DNAの濃度を測定し、スカベンジャー抗体のin vivo抗原クリアランス速度及び抗体半減期を分析した。
【0143】
4.1.3.1 HBsAgの定量的検出
具体的な工程を実施例3.2.1に示し、A31-73 V4及びA41-8 V4の検出結果を
図13Aに示した。
【0144】
4.1.3.2 血清中の抗体の定量的検出
具体的な工程を実施例3.2.2に示し、A31-73 V4及びA41-8 V4の検出結果を
図13Bに示した。
【0145】
4.1.3.3 HBV DNAの定量的検出
HBV DNAの定量的検出をHBV DNAリアルタイム蛍光定量的検出キットの使用説明書に従って行った(キットはBeijing Jinmaige Biotechnology Co., Ltd.から購入した)。
【0146】
本実施例においては、動物におけるA31-73 V4、A41-8 V4及び参照抗体M1Dのウイルスクリアランス能力を決定した。実験結果を
図13Cに示した。
【0147】
図13A~
図13Cの結果から、スカベンジャー抗体A31-73 V4及びA41-8 V4がM1Dと同等の抗原クリアランス能を有するが、より長い阻害時間を有することが示された。M1Dが最大の抗原クリアランス効果を発揮した後、抗原の回復が急速に開始し、M1Dが14日目に失効し始め、血清中のHBsAgはベースラインレベル(陰性対照16G12に基づく)まで戻った。しかしながら、2つのスカベンジャー抗体は、最大のクリアランス効果を発揮した後も長期にわたってより低い抗原レベルを維持し、ゆっくりと回復することができた。A41-8 V4処理群においては、HBsAgは約30日でベースラインまで回復した。A31-73 V4処理群においては、予定された実験の終了後もベースラインレベルまで戻らなかった。これらは、血清中の抗体半減期の検出結果と一致していた。かかる技術的効果は注目すべき、予期せぬものである。
【0148】
4.2 mFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体
4.2.1 mFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体の構築、発現及び精製
実施例3のHBVトランスジェニックマウスにおいて最高の性能を有するA31-73及びA41-8をFc領域上のDY(K326D、L328Y)突然変異に供し(この作業はGeneral Biologyに委託した;注文番号:G120460)、それぞれA31-73 DY及びA41-8 DYが得られ、突然変異後の重鎖定常領域を配列番号48に示した。抗体を大規模真核生物発現及び精製に供し、その具体的な操作工程を実施例2.2及び2.3に示した。A31-73 DYのタンパク質ゲルの結果を
図14に示した。結果から抗体が単一成分であることが示された。
【0149】
4.2.2 mFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体のin vitro活性検出
4.2.2.1 異なるpHでmFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体の抗原結合活性の決定
pH7.4及びpH6.0でのA31-73 DYの抗原結合活性をそれぞれ検出した。その具体的な操作工程を実施例3.1に示す。結果を
図15に示した。A31-73 DYは、中性pHで親抗体と同等の抗原結合活性及びpH依存抗原結合活性を維持することができ、酸性pHでの抗原結合活性が更に弱まり、A31-73 DYのpH依存抗原結合活性が或る程度増強されたことが示された。
【0150】
4.2.2.2 mFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体の細胞レベルでの機能検証
4.2.2.2.1 488蛍光によるHBsAgの標識
具体的な工程を4.1.2.2.1に示した。
【0151】
4.2.2.2.2 マウス初代マクロファージに基づく免疫蛍光実験
(1)実験の4日前に、1.5mLの3%チオグリコール酸ナトリウム溶液を各マウスの腹腔内に注射したが、腸内には注射しなかった;
(2)2匹のマウスを屠殺し、75%アルコールに3分間浸漬した;
(3)マウスを発泡ボード上に水平固定し、腹部を露出させた。腹部皮膚を組織用ハサミで切り、腹膜を消毒し、切開して腹腔を露出させ、左手に持った2本の有鉤攝子で腹部切開部の皮膚を引っ張って固定し、右手に持ったパスツールピペットによって1640培養培地をピペッティングし、4mL/回で計2回の腹腔洗浄を行った。洗浄をより完全かつ徹底的にするために、ピペットを用いて腹腔内を静かにかつ十分にかき回した。約2分かけて十分に撹拌し、約5分間静置してマクロファージを十分に単離した後、洗浄溶液をピペッティングし、遠心分離管に移した;
(4)4℃、1100g、5分間;
(5)上清を慎重に捨て、細胞を1640培地で2回洗浄し、4℃、1100gで5分間遠心分離し、上清を捨て、細胞をRPM1640に再懸濁した;
(6)細胞を計数した後、106細胞/mLの密度を有するように細胞を調整し、24ウェルガラス底細胞イメージング培養プレート上にて250μL/ウェルで培養し、2時間後に培地を交換し、RPM1640で1回洗浄を行い、非接着性細胞を捨てた後、インキュベーションを37℃のCO2インキュベーター内で一晩行った;
(7)対応する蛍光で標識した抗体及び抗原を無血清培地で、抗原については800ng/mL、抗体については20μg/mLまで希釈した;
(8)各125μLの抗原及び抗体を均一に混合した後、37℃のCO2インキュベーター内で1時間静置した;
(9)細胞イメージング培養プレート内の細胞上清を捨て、抗原-抗体複合体を添加し、均一に振盪し、CO2インキュベーターにおいて37℃で2時間静置した;
(10)上清を捨て、予め37℃でインキュベートした1mLの滅菌PBSを用いて細胞表面を3回~5回「洗浄」し、ピペッティングによって除去した;
(11)Dioを2000倍希釈し、細胞が隠れるような量で添加し、室温で20分間静置した;
(12)上清を捨て、予め37℃でインキュベートした1mLの滅菌PBSを用いて細胞表面を3回~5回「洗浄」し、ピペッティングによって除去した;
(13)生細胞核色素(1mL容量に2滴添加した)を添加し、室温で20分間静置し、イメージングのためにハイコンテントイメージャーに入れた。
【0152】
実験の結果を
図16に示した。結果から、マウスマクロファージによる抗原-抗体複合体の食作用がDY修飾によって増強され、より多くの抗原分解がもたらされることが分かった。
【0153】
4.2.3 動物モデルにおけるmFcγRIIに結合することが可能なスカベンジャー抗体の治療効果の決定
4.2.3.1 トランスジェニックマウスにおけるスカベンジャー抗体の治療効果の評価
6週齢~8週齢のHBVトランスジェニックマウスを選択し、尾静脈を介してA31-73 DYスカベンジャー抗体及びM1Dを5mg/kgの単回用量で注射した(1群当たり4匹のマウス)。血清中のHBsAg、抗体及びHBV DNAの濃度を検出することによって、スカベンジャー抗体のin vivo抗原クリアランス速度及び抗体半減期を分析した。
【0154】
4.2.3.1.1 HBsAgの定量的検出
具体的な工程を実施例3.2.1に示し、A31-73 DYの検出結果を
図17Aに示した。
【0155】
4.2.3.1.2 HBV DNAの定量的検出
HBV DNAの定量的検出をHBV DNAリアルタイム蛍光定量的検出キットの使用説明書に従って行った(キットはBeijing Jinmaige Biotechnology Co., Ltd.から購入した)。
【0156】
本実施例においては、動物におけるA31-73 DY及び参照抗体M1Dのウイルスクリアランス能力を決定した。実験結果を
図17Bに示した。
【0157】
4.2.3.1.3 血清中の抗体の定量的検出
具体的な工程を実施例3.2.2に示し、A31-73 DYの検出結果を
図17Cに示した。
【0158】
図17A~
図17Cの結果から、DY修飾を有するスカベンジャー抗体A31-73 DYの抗原クリアランス能力がM1Dよりも1桁超強いことが示された。A31-73 DYは、HBVトランスジェニックマウスにおいてHBsAgを急速に除去するだけでなく(
図17A)、マウスにおけるHBV DNA価を効果的に低下させることができ(
図17B)、これは血清における抗体半減期の検出結果と一致していた(
図17C)。血清中の抗体濃度を比較すると、A31-73 DYの半減期はM1Dよりもほぼ12日長く、スカベンジャー抗体A31-73 DYが抗原を相互に結合する機能を有するため、抗原クリアランスの時間が増加することが示された。
【0159】
4.2.3.2 アデノ随伴ウイルスをトランスフェクトしたHBVマウスモデルにおけるスカベンジャー抗体の治療効果の評価
図18Aに示されるように、4週齢~6週齢のC57マウスに1×10
11のrAAV8-1.3HBV adrを注射し、アデノ随伴ウイルスのトランスフェクションによって得られるHBVマウスモデルを確立し(-28日目)、マウスウイルス価を連続的にモニタリングした。ウイルス価が安定した後、マウスにおけるベースラインHBsAgレベルを検出し、マウスを群に分けた(-1日目)。スカベンジャー抗体A31-73 DY(略して73 DY)及び陰性対照16G12を5mg/kgの用量で5回注射した。5回目の処理の2週間後に全てのマウスを屠殺し、マウス血清を採取し、血清HBsAg及び抗HBsレベルを分析した。
【0160】
4.2.3.2.1 HBsAgの定量的検出
具体的な工程を実施例3.2.1に示し、A31-73 DYの検出結果を
図18Bに示した。
【0161】
4.2.3.2.2 抗HBsの定性的検出
(1)サンプルの希釈:血清サンプルを20%NBSで100倍、500倍、2500倍、12500倍及び62500倍の5つの勾配に希釈した;
(3)サンプルの添加:100μL/ウェルの先の工程で希釈したサンプル及び対応する抗体希釈液を市販のHBsAbプレート(Beijing Wantaiから購入した)に添加し、37℃で1時間インキュベートした。
(4)洗浄:プレートをプレートウォッシャーによって300μL/ウェルのPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した;
(5)酵素標識二次抗体の添加:100μL/ウェルのGAM-HRP標識二次抗体希釈液を添加し、37℃で30分間インキュベートした;
(6)洗浄:プレートをプレートウォッシャーによって300μL/ウェルのPBSTで5回洗浄し、回転乾燥した;
(7)発色:100μL/ウェルの発色溶液、37℃、10分~15分;
(8)停止及び読取り:50μL/ウェルの停止溶液を添加し、読取り値を10分以内にマイクロプレートリーダーによってOD450/630で測定した。
(9)マウス血清サンプル中の抗HBs濃度の算出:0.1~1の間の読取り値に希釈倍率を乗算し、その対数値(log10)を取った。
【0162】
抗体処理後のマウス血清中の抗HBsレベルの検出結果を
図18Cに示した。
【0163】
図18Bの結果から、スカベンジャー抗体A31-73 DYが、アデノ随伴ウイルスによって得られるHBVマウスモデルにおいてHBsAgレベルを5mg/kgの用量及び15日/注射の投与頻度にて長時間にわたって100IU/ml未満に制御し得ることが示された。
図18Cの結果は0日目、7日目、37日目、52日目、67日目及び82日目のマウスにおける抗HBsレベルを示し、A31-73 DY抗体で処理したマウスがより高い抗HBsレベルを有し、4匹のマウスのうち3匹が明らかな抗HBsを産生した(最後まで処理を継続したマウスのみを計数した)ことが分かり、抗HBsの産生がHBsAgの連続的阻害と関連し得ることが示された。これにより、スカベンジャー抗体A31-73 DYが従来の抗体の限界を打ち破り、低用量、低頻度での治療を達成し、より重要なことには、長期治療後にマウスにおける液性免疫応答が活性化し、抗HBsの産生が可能となることが示された。
【0164】
実施例5:M1D、A31-73及びA41-8の親和性決定
HBsAgを酢酸ナトリウム(pH4.5)に5μg/mLで溶解し、チップコーティングプログラムをBiacore 3000装置で実行し、HBsAgをCM5チップにコーティングした。HBsAgのコーティング量を2400RUとした。分析物を100nMから2倍希釈して、7つの濃度のサンプルを調製した。親和性決定プログラムをBiacore 3000装置で実行し、流速を50μl/分に設定し、結合時間を90秒に設定し、解離時間を600秒に設定し、サンプルチャンバーの温度を10℃に設定し、再生溶液を50mM NaOHとし、再生流速を50μL/分に設定し、再生時間を60秒に設定した。結果を表7にまとめた。
【0165】
【0166】
本発明の特定の実施形態を詳細に説明したが、開示した全ての教示に従い、細部に様々な修正及び変更を加えることができ、これらの変更が本発明の保護範囲内であることが当業者には理解される。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲及びその任意の均等物によって与えられる。
【配列表】
【誤訳訂正書】
【提出日】2022-01-27
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】図面
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【国際調査報告】