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2022-534151局所クエン酸塩抗凝固療法の性能モニタリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(54)【発明の名称】局所クエン酸塩抗凝固療法の性能モニタリング
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220721BHJP
   A61M 60/113 20210101ALI20220721BHJP
   A61M 60/37 20210101ALI20220721BHJP
【FI】
A61M1/16 111
A61M60/113
A61M60/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533295
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019079721
(87)【国際公開番号】W WO2020120004
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】1851551-0
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホブロ, ストゥーレ
(72)【発明者】
【氏名】オルソン, ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】フォーサル, インナス
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC03
4C077HH03
4C077HH12
4C077HH17
4C077JJ03
4C077JJ12
4C077JJ18
4C077KK04
4C077KK27
(57)【要約】
モニタリング装置は、治療期間中に透析器(11)の上流の体外血液回路(10)にクエン酸塩を投与するように構成された血液治療システム内の局所クエン酸塩抗凝固療法(RCA)をモニタリングするように動作する。治療期間中の連続する時間ステップにおいて、モニタリング装置は全身イオン化カルシウム(iCaSYS)又は全身総カルシウム(CaSYS)の現在の測定値を取得し、体外血液回路(10)内の透析器(11)の下流又は上流の選択された位置(loc2,loc3)における血液中のイオン化カルシウム(iCa,iCa)を表す現在の計算値を生成するために、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させ、局所クエン酸塩抗凝固療法の評価のために現在の計算値を提示及び/又は評価する。透析器の上流及び/又は下流で、例えばCRRT中に、従来の血液サンプリング及び血液分析の必要性は、それによって著しく低減される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者(100)の血管系(100)への接続のための血液引き出しライン(10a)及び血液戻りライン(10b)と、前記血液引き出し及び前記血液戻りライン(10a、10b)の間の透析器(11)と、を備える体外血液回路(10)を備える血液治療システム(1)のためのモニタリング装置であって、前記血液治療システム(1)が、治療期間中の前記透析器(11)の上流の前記体外血液回路(10)へのクエン酸塩の投与による、局所クエン酸塩抗凝固療法RCAのために構成され、前記モニタリング装置は、前記治療期間中の連続する時間ステップで、
全身イオン化カルシウム(iCaSYS)又は全身総カルシウム(CaSYS)の現在の測定値(402)を取得し、
前記体外血液回路(10)内の前記透析器(11)の下流又は上流の選択された位置(loc2,loc3)における血液中のイオン化カルシウム(iCa,iCa)を表す現在の計算値を生成するために、前記現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させ、
前記局所クエン酸塩抗凝固療法の評価のために前記現在の計算値を提示し、及び/又は評価するように構成される、モニタリング装置。
【請求項2】
前記血液治療システム(1)の動作パラメータ(MS)の現在の値と、任意選択で、前記血液治療システム(1)のシステム構成データ(SP)、前記血液中の物質の化学パラメータデータ(CP)、及び前記被験者(100)の生理学的パラメータデータ(PP)のうちの1つ以上とを含む入力データ(403~406)を取得するようにさらに構成され、前記モニタリング装置は、前記現在の計算値を生成するために、前記入力データ(403~406)及び前記現在の測定値に対して前記所定のアルゴリズムを動作させるように構成される、請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記所定のアルゴリズムは、前記体外血液回路(10)内の前記選択された位置(loc2、loc3)における前記血液中の前記イオン化カルシウム(iCa、iCa)を推定するように構成された第1の関数(f0,1)を含み、前記第1の関数(f0,1)は、前記選択された位置(loc2、loc3)における総カルシウム(Ca、Ca)及び前記選択された位置(loc2、loc3)における総クエン酸塩(CIT、CIT)に線形に依存する、請求項1又は2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記第1の関数(f0,1)は、総カルシウム(Ca)及び総クエン酸塩(CIT)のそれぞれに関する非線形関数の線形化によって得られ、前記非線形関数は、カルシウム及びクエン酸塩以外の他の物質の所定の量を推定しながら、遊離形態のカルシウムの化学反応と、クエン酸塩を含む血液中の他の物質に結合したカルシウムの化学反応とを表す連立方程式に対する解である、請求項3に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
前記線形化は総カルシウム及び総クエン酸塩の基準値(CaREF、CITREF)に関して実行され、前記基準値(CaREF、CITREF)は、それぞれ前記選択された位置(loc2、loc3)における総カルシウム及び総クエン酸塩の期待値に対応する、請求項4に記載のモニタリング装置。
【請求項6】
前記所定のアルゴリズムは、前記選択された位置(loc2、loc3)における前記血液中の前記総カルシウム(Ca、Ca)を推定するように構成された第2の関数(f0,2)を含む、請求項3乃至5のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項7】
前記選択された位置(loc2、loc3)は、前記透析器(11)の下流であり、前記第2の関数(f0,2)は、前記全身総カルシウム(CaSYS)に依存し、及び前記被験者(100)と前記透析器(11)の上流の前記体外血液回路(10)の中間位置(loc3)との間の前記体外血液回路(10)への流体注入を考慮しながら、前記被験者(100)から前記血液中の前記体外血液回路(10)に流入する総カルシウムと前記中間位置(loc3)における前記血液中の総カルシウムとの質量バランスを表し、前記第2の関数(f0,2)は、前記透析器(11)における前記血液からの総カルシウムの損失をさらに考慮する、請求項6に記載のモニタリング装置。
【請求項8】
前記所定のアルゴリズムは、前記体外血液回路(10)内の前記選択された位置(loc2,loc3)における前記血液中の前記総クエン酸塩(CIT,CIT)を推定するように構成された第3の関数(f0,3)を含む、請求項3乃至7のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項9】
前記選択された位置(loc2、loc3)は前記透析器(11)の下流であり、前記第3の関数(f0,3)は、全身総クエン酸塩(CITSYS)に依存し、及び前記被験者と前記透析器(11)の上流の前記体外血液回路(10)の中間位置(loc3)との間の前記体外血液回路(10)への流体注入を考慮しながら、前記被験者(100)から前記血液中の前記体外血液回路(10)に流入する総クエン酸塩と、前記中間位置(loc3)における総クエン酸塩との質量バランスを表し、前記第3の関数(f0,3)は、前記透析器(11)における前記血液からの総クエン酸塩の損失をさらに考慮する、請求項8に記載のモニタリング装置。
【請求項10】
前記所定のアルゴリズムが、前記局所クエン酸塩抗凝固療法の開始からの時間関数として全身総クエン酸塩(CITSYS)を推定するように構成された第4の関数(f0,4)をさらに含む、請求項3乃至9のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項11】
前記第4の関数(f0,4)は、前記被験者(100)におけるクエン酸塩の代謝生成速度を表し、前記透析器(11)の上流の前記体外血液回路(10)へのクエン酸塩の前記投与と前記透析器(11)における前記血液からの総クエン酸塩の損失とをさらに考慮する、請求項10に記載のモニタリング装置。
【請求項12】
前記所定のアルゴリズムは、前記透析器(11)内の前記血液からの総クエン酸塩のクリアランス(KCIT)及び総カルシウムのクリアランス(KCa)を推定するように構成された少なくとも1つの第5の関数(f0,5)をさらに含み、前記モニタリング装置は、総クエン酸塩のクリアランス(KCIT)及び前記総カルシウムのクリアランス(KCa)にそれぞれ基づいて、前記透析器(11)内の総クエン酸塩の損失及び総カルシウムの損失を計算するように構成される、請求項3乃至11のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項13】
前記所定のアルゴリズムは、前記全身イオン化カルシウム(iCaSYS)の関数として全身総カルシウム(CaSYS)を推定するように構成された第6の関数(f0,6)を含む、請求項3乃至12のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項14】
前記所定のアルゴリズムは、前記全身総カルシウム(CaSYS)の関数として前記全身イオン化カルシウム(iCaSYS)を推定するように構成された第7の関数(f0,7,f0,7 )を含む、請求項3乃至13のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項15】
前記現在の測定値は前記被験者(100)の前記血液中の前記全身イオン化カルシウム(iCaSYS)を表し、前記モニタリング装置は、前記全身総カルシウム(CaSYS)を表すさらなる現在の計算値を生成するために、前記現在の測定値に対して前記所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される、請求項1乃至13のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項16】
前記現在の測定値は前記全身総カルシウム(CaSYS)を表し、前記モニタリング装置は、前記全身イオン化カルシウム(iCaSYS)を表すさらなる現在の計算値を生成するために、前記現在の測定値に対して前記所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される、請求項1乃至12及び14のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項17】
前記モニタリング装置は、全身総クエン酸塩(CITSYS)を表すさらなる現在の計算値を生成するために、前記所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される、請求項1乃至14のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項18】
前記モニタリング装置は、前記被験者(100)におけるクエン酸塩の蓄積の評価のために、少なくとも前記さらなる現在の計算値を評価するようにさらに構成される、請求項15乃至17のいずれか1項に記載のモニタリング装置。
【請求項19】
血液分析装置(50)との信号通信のためのインターフェース(43b)をさらに備え、前記モニタリング装置は、前記連続する時間ステップそれぞれにおいて、前記血液分析装置(50)から前記インターフェース(43b)を介して受信された信号から前記測定値を取得するようにさらに構成される、請求項1乃至18のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項20】
前記現在の計算値を表示装置(45)上に提示するために出力するようにさらに構成される、請求項1乃至19のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項21】
警報状況の検出のために前記現在の計算値を評価し、前記警報状況が検出されたときに警報が生成されるようにさらに構成されている、請求項1乃至20の何れか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項22】
前記局所クエン酸塩抗凝固療法のための臨床的に証明されたプロトコル(407)に関連して前記現在の計算値を評価し、前記プロトコル(407)に基づいて前記血液治療システム(1)の動作のための推奨(408)を取得し、前記推奨(408)を表示装置(45)上に提示するために出力するように構成される、決定支援モジュール(421)をさらに備える、請求項1乃至21の何れか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項23】
前記血液治療システム(1)内のポンプ装置のセット(12、13b、14b、20b、21b、22b、23)と信号通信するためのインターフェース(43a)をさらに備え、前記モニタリング装置は、前記現在の計算値の関数として前記ポンプ装置のセット(12、13b、14b、20b、21b、22b、23)のための1つ以上の制御信号(S1~S7)を生成し、前記1つ以上の制御信号(S1~S7)のうちの1つを前記インターフェース(43a)に提供するようにさらに構成される、請求項1乃至22のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項24】
前記治療期間中に、前記被験者(100)及び/又は前記体外血液回路(10)の前記血液中のカルシウム及びクエン酸塩のうちの少なくとも1つを表す測定データ(M)を取得し、前記測定データ(M)に基づいて前記所定のアルゴリズムを調整するようにさらに構成される、請求項1乃至23のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項25】
被験者(100)の血管系に接続するための体外血液回路(10)を含み、前記体外血液回路(10)は、前記血管系との接続のための血液引き出しライン(10a)及び血液戻りライン(10b)と、前記血液引き出しライン及び前記血液戻りライン(10a、10b)の間の透析器(11)と、を含み、前記血液治療システムは、前記被験者(100)からの血液を、前記血液引き出しライン(10a)、前記透析器(11)及び前記血液戻りライン(10b)を通して前記被験者(100)に送り戻すためのポンプ装置(12)をさらに含み、前記血液治療システムは、前記体外血液回路(10)及び前記被験者(100)に関して局所クエン酸塩抗凝固療法RCAを実行するように動作可能なサブシステム(22、22a、22b)と、請求項1乃至24のいずれか1項に記載のモニタリング装置とをさらに含む、血液治療システム。
【請求項26】
被験者(100)の血管系に連結するように構成され、透析器(11)を含む体外血液回路(10)を備える血液治療システム(1)をモニタリングする方法であって、前記血液治療システム(1)は、治療期間中に前記透析器(11)の上流の前記体外血液回路(10)にクエン酸塩を投与することによる局所クエン酸塩抗凝固療法RCAのために構成され、前記方法は、前記治療期間中の連続する時間ステップにおいて、
全身イオン化カルシウム(iCaSYS)又は全身総カルシウム(CaSYS)の現在の測定値を取得し(301;301’)、
前記体外血液回路(10)内の前記透析器(11)の下流又は上流の選択された位置(loc2,loc3)において血液中のイオン化カルシウム(iCa)を表す現在の計算値を生成するために、前記現在の測定値に対する所定のアルゴリズムを動作させ(302;302’)、
前記局所クエン酸塩抗凝固療法の評価のために前記現在の計算値を提示及び/又は評価することを含む、方法。
【請求項27】
プロセッサ(41)によって実行されると、前記プロセッサ(41)に請求項26に記載の方法を実行させるコンピュータ命令を含むコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液治療中の局所クエン酸塩抗凝固療法(RCA)に関し、特に、RCA、例えば、持続的又は半持続的腎代替療法を含む、血液治療中の性能モニタリングのための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
持続的又は半持続的腎代替療法は、急性腎損傷を伴う重症患者を支援するための選択治療として確立されることとなった。持続的腎代替療法(CRRT)は典型的には24時間の治療であるが、半持続的療法は6~12時間以上の持続時間で毎日行われてもよい。CVVH (持続的静脈-静脈血液濾過)、CVVHD(持続的静脈-静脈血液透析)、CVVHDF(持続的静脈-静脈血液濾過透析)、SLEF(緩徐な拡大血液濾過)、SLED(持続的な低効率透析)、SCUF(緩徐な持続的限外濾過)を含むが、これらに限定されない、持続的又は半持続的腎代替療法の多くの異なる形態又は「モダリティ」が存在する。これらの治療に共通するのは、体外血液回路内の比較的低い血流速度、典型的には200ml/分未満でそれらが動作することである。腎代替療法は、患者の血液をプラスチック製のチューブ又は(例えば、透析器内の)膜に通すことを伴い、補体カスケードと同様に凝固を誘発する。持続的及び半持続的療法は、通常、体外血液回路内の凝固を防ぐために、ある程度の抗凝固療法を必要とする。抗凝固療法を行わないと、チューブ及び膜の残存率が低下し、治療がより非効果的になる。
【0003】
クエン酸塩又はクエン酸(C)は、他の形態の中でも、三価陰性クエン酸塩陰イオンとしてヒト血漿中に存在する。このイオンは血漿中のイオン化カルシウム(Ca2+)をキレート化し、単一の負のクエン酸カルシウム複合体及び低レベルの遊離イオン化カルシウムを生じる。凝固カスケードは最適な関数のため遊離イオン化カルシウムを必要とするので、体外血液回路の引き出し肢へのクエン酸塩の注入により、体外血液回路内の血液凝固が防止され得る。クエン酸塩は小分子であるので、クエン酸カルシウム複合体の大部分は透析器の膜を横切って移動し、透析液流出物中で失われる。失われたカルシウムを代替するために、遊離イオン化カルシウムの局所注入が体外血液回路の戻り(静脈)肢に、又は患者に直接行われる。理論的にはこの種の局所クエン酸抗凝固療法が一般的にRCA又はCRAと略記されているが、非常に強力、かつ全身(患者内)出血傾向を伴わず完全に可逆的である。
【0004】
しかし、RCAは電解質異常を引き起こす可能性を有する。RCAによる障害として報告されているものには、代謝性アルカローシス及びアシドーシス、高ナトリウム血症及び低ナトリウム血症、低カルシウム血症を含む。このような異常は適切なモニタリングによって検出され、この局所治療プロトコルは、異常を打ち消し、又は防止するために、流体の流れを異なる条件下でどのように調節するかを記述すべきである。代謝性合併症の発生率は、投与されたクエン酸塩の量、プロトコルのデザイン、ルール及び柔軟性、及びその適正使用に依存する。
【0005】
RCA中、患者の血液を表す第1の位置と凝固のリスクが最も高い第2の位置との2つの位置でカルシウムの血液状態を測定することが一般的に行われている。局所治療プロトコルに応じて、この第1の位置は、患者内にあっても体外血液回路の上流端にあってもよく、その結果、「全身」測定値が得られ、この第2の位置は体外血液回路内の透析器の上流又は下流にあってもよく、その結果、それぞれ「透析前」及び「透析後」の測定値が得られる。第2の位置におけるイオン化カルシウムの濃度は、体外血液回路における凝固の低危険性を保証するためにモニタリングされ、それに応じてクエン酸塩用量を調整するために使用されてもよい。(第1の位置における)全身イオン化カルシウムのレベルは、カルシウム注入が生理学的範囲内で全身イオン化カルシウムレベルを維持することが可能であることを確実にするためにモニタリングされ、それに応じてカルシウム注入速度を変調整するために使用されてもよい。例えば、透析後イオン化カルシウムの目標値は0.3~0.5mmol/Lの範囲であってもよく、全身イオン化カルシウムの目標値は1.1~1.25mmol/Lの範囲であってもよい。
【0006】
RCAの1つの重篤で生命を脅かす可能性のある合併症は、患者におけるクエン酸蓄積である。臨床現場では、血中クエン酸塩濃度に関する総イオン化カルシウム比(別名カルシウム比)がRCA中のクエン酸蓄積の間接的指標として一般に受け入れられている。例えば、カルシウム比≧2.5は、代謝性合併症の危険性の増加を意味してもよい。このカルシウム比の評価を可能にするために、患者中の総カルシウム(別名総全身カルシウム又は全身総カルシウム)を全身イオン化カルシウムと共にモニタリングする。
【0007】
したがって、RCAのためのプロトコルは、典型的には少なくとも3つのカルシウム値、すなわち、第1及び第2の位置でのイオン化カルシウム、並びに第1の位置での総カルシウムと、しばしば、pH、重炭酸塩、カリウム、血清ナトリウムなどの1つ以上のさらなる全身血液パラメータのモニタリングを規定する。イオン化カルシウムは、試料採取及びその後の試料分析によって、例えば血液ガス分析器によって測定することができ、この試料採取及び試料分析はRCAの開始時に20分ごとに、次いで安定な条件が達成されるときに少なくとも6時間ごとに行うことができる。全身総カルシウムは血液試料の実験室試験によって測定、少なくとも1日1回実施することができる。
【0008】
RCA及びその実施と合併症に関するさらなる詳細は、NDT Plus(2009)2:439-447に掲載されたDavenport and Tolwaniによる論文"Citrate anticoagulation for continuous renal replacement therapy (CRRT) in patients with acute kidney injury admitted to the intensive care unit"、及びCritical Care(2017)21:281に掲載されたSchneiderらの論文"Complication of regional citrate anticoagulation: accumulation or overload?"に見られる。
【0009】
RCAは、部分的にはイオン化カルシウムを含む血液パラメータの高頻度な測定の必要性のために、面倒であり、費用がかかり、複雑であることが知られている。さらに、従来の血液ガス分析器は、典型的にはポスト透析器イオン化カルシウムの典型的な濃度(例えば、0.2~0.5mmol/L)についても、高レベルのクエン酸塩を有する試料についても承認されていない。したがって、サンプリング及び血液ガス分析を実行する現在の実践は、例えば、Critical Care(2015)19:321に掲載されたSchwarzerらによる論文"Discrepant post filter ionized calcium concentrations by common blood gas analyzers in CRRT using regional citrate anticoagulation"では、測定エラーによって悩まされる可能性がある。
【0010】
簡便性、費用及び正確性の少なくとも1つに関して、腎代替療法中にRCAを使用する実践を改善する一般的な必要性がある。
【0011】
従来技術は、送達された小さな溶質クリアランスの正確な測定のためのオンラインクリアランスモニタリング(OCM)と、流出流体中のカルシウム、マグネシウム及びクエン酸塩の遊離イオン化レベルを測定するためのオンラインセンサシステム(OSS)とをインストールすることを提案するUS2008/0015487を含む。さらに、OSSによって提供される測定値を使用して、患者の血漿中の対応する値を逆計算することが提案される。これに代えて、患者の血漿クエン酸塩及び総カルシウム及びマグネシウムレベルを数学的に導出し、それによって、RCA中の患者の全身総カルシウム及びイオン化カルシウム及びマグネシウムレベルの実験室モニタリングの必要性を排除することが可能である。しかしながら、提案されているOCM及びOSSの使用は、顕著なコストを追加するだけでなく、例えばOCM及びOSSの較正及び維持に関して、その治療にかなりの複雑さを加えることになる。
【0012】
国際公開第2010/029401号は、RCAを使用する持続的透析において、実際の流量及び治療の様式に従って、血液循環における反応のモデル化に基づく演算によって、又はカルシウムクリアランスの近似によって、カルシウムの局所注入を制御するための方法を提示する。具体的には、注入されたカルシウム溶液の既知の濃度及び全身総カルシウムの固定値を推定しながら、動脈ラインに入る血液の流量、透析器からの流出流体の流量及びクエン酸塩の流量の関数としてカルシウム溶液の局所注入のためのポンプを制御することが提案される。
【0013】
国際公開2010/148194号は、慢性腎疾患(CKD)に罹患している患者のための従来の間欠的血液透析に関し、クエン酸塩の注入をクエン酸塩及びカルシウムの両方を含有する透析液の使用と組み合わせることによってRCAを実行し、それによって透析後カルシウム注入の必要性を低減又は排除することを提案する。カルシウム及びクエン酸塩の両方に影響を及ぼす、患者におけるプロセスを含む時間依存数学モデルの使用によって、透析治療中又は透析治療完了後(「透析後」)の任意の時点での全身イオン化カルシウムの濃度のブラインド予測のための方法も提案される。このブラインド予測は、全身イオン化カルシウムが、例えば透析治療の開始時の初期測定のみに基づいて、時間関数として機械的に計算されることを意味する。この初期測定で測定されるパラメータについての指示はない。ブラインド予測は、体外血液回路内の様々な位置におけるクエン酸塩及びイオン化カルシウムの予測される濃度の計算を含む。この数学モデルはカルシウムに影響する患者におけるプロセスを表すので、患者の副甲状腺ホルモン(PTH)及び/又はアルカリ性ホスファターゼ(AP)水準を考慮することにより、透析後の全身イオン化カルシウムの予測濃度を統計的に補正することをさらに提案する。この補正は、患者のPTH又はAPレベルのカテゴリー、透析治療時間及び透析後全身イオン化カルシウムの予測濃度を含む多変量線形回帰モデルを用いて決定する。対応する開示は、ThijssenらによるBlood Purif 2010; 29:197-203に掲載される論文"A Mathematical Model of Regional Citrate Anticoagulation in Hemodialysis"に見出される。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、従来技術の1つ以上の制限を少なくとも部分的に克服することである。
【0015】
さらなる目的は、簡便性、費用及び正確性の少なくとも1つに関して、腎代替療法中にRCAを使用する実践を改善することである。
【0016】
これらの目的、及び以下の説明から明らかになり得るさらなる目的のうちの1つ以上は、モニタリング装置、血液治療システム、モニタリング方法、及びコンピュータ可読媒体によって少なくとも部分的に達成され、それらの実施形態は従属請求項によって定義されてもよい。
【0017】
本発明の第1の態様は、血液治療システムのためのモニタリング装置である。この血液治療システムは、被験者の血管系への接続のための血液引き出しライン及び血液戻りラインと、この血液引き出しライン及び血液戻りラインの中間にある透析器とを備える体外血液回路を備える。血液治療システムは、治療期間中の透析器の上流の体外血液回路へのクエン酸塩の投与による、局所クエン酸塩抗凝固療法RCAのために構成される。モニタリング装置は治療期間中の連続する時間ステップにおいて、全身イオン化カルシウム又は全身総カルシウムの現在の測定値を取得し、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させて、体外血液回路内の透析器の下流又は上流の選択された位置における血液中のイオン化カルシウムを表す現在の計算値を生成し、局所クエン酸塩抗凝固の評価のために現在の計算値を提示し、かつ/又は評価するように構成される。
【0018】
第1の態様は体外血液回路内の透析器の上流及び/又は下流で血液サンプルを取り出し、分析する従来の手順の必要性を省くか、又は少なくとも大幅に低減することを可能にする。代わりに、第1の態様によって、対応する情報は、全身イオン化カルシウム又は全身総カルシウムの測定値に基づくアルゴリズム計算によって得られる。このような測定値は、従来の手法に従って得ることができる。したがって、第1の態様は、局所クエン酸塩抗凝固療法の性能をモニタリングするために取り出し分析する必要がある血液サンプルの数を減少させるのに役立つ可能性がある。これにより、RCAと組み合わせて血液治療を行うことの複雑さが低減される。さらに、血液サンプルの数を減らすことは、臨床スタッフにとって自由な時間を与え、血液サンプル分析のための費用を節約する。直観に反するように見えるかもしれないが、計算値の精度は少なくとも透析後のイオン化カルシウムを表す場合、血液サンプリング及びその後の血液サンプル分析を実行する従来のアプローチによって得られる対応する測定値の精度よりもさらに良好であるかもしれない。上述したように、従来の血液ガス分析器は体外血液回路において透析器の下流でサンプリングされる血液に対して最適化されておらず、結果として得られる測定値は正確性及び精度の両方に欠ける。他方、患者の血液中のイオン化カルシウム及び総カルシウム、すなわち全身値を高い正確性で測定するための確立された手順及び装置がある。したがって、全身イオン化カルシウム又は全身総カルシウムの比較的正確な測定値から開始することによって、第1の態様によって生成される計算値が、従来の測定値よりも正確である可能性は低い。
【0019】
十分な正確性を提供する第1の態様の能力はまた、全身イオン化カルシウム又は全身総カルシウムの現在の測定値、例えば、それぞれの時間ステップにおいて関連性があるように新たに得られる測定値に対して、所定のアルゴリズムを動作させることによって、現在の計算値が生成されるという事実による。それにより、この計算は、各時間ステップにおける被験者の血液中のイオン化又は総カルシウムの実際のレベルから開始する。体外血液回路又は被験者におけるカルシウムの予測レベルを使用することと比較して、実際のレベルの使用は、正確な結果を与える可能性がより高い。
【0020】
以下では、第1の態様の様々な実施形態が定義される。これらの実施形態は例えば、以下の詳細な説明を考慮して、当業者によって容易に理解されるように、前述の技術的効果及び利点のうちの少なくともいくつか、ならびに追加の技術的効果及び利点を提供する。
【0021】
一実施形態では、モニタリング装置が、血液治療システムの動作パラメータの現在の値と、任意選択で、血液治療システムのシステム構成データ、血液中の物質の化学パラメータデータ、及び被験者の生理学的パラメータデータのうちの1つ以上とを含む入力データを取得するようにさらに構成され、このモニタリング装置は、現在の計算値を生成するために、入力データ及び現在の計算値に対して所定のアルゴリズムを動作させるように構成される。
【0022】
一実施形態では、所定のアルゴリズムが体外血液回路内の選択された位置における血液中のイオン化カルシウムを推定するように構成された第1の関数を含み、前記第1の関数は選択された位置における総カルシウム及び選択された位置における総クエン酸塩に線形に依存する。
【0023】
一実施形態では、第1の関数は、総カルシウム及び総クエン酸塩のそれぞれに関する非線形関数の線形化によって得られ、非線形関数は、カルシウム及びクエン酸塩以外の他の物質の所定の量を推定しながら、遊離形態のカルシウムの化学反応と、クエン酸塩を含む血液中の他の物質に結合したカルシウムの化学反応とを表す連立方程式に対する解である。
【0024】
一実施形態では、線形化は総クエン酸カルシウム及び総クエン酸カルシウムの基準値に関して実行され、この基準値はそれぞれ選択された位置における総クエン酸カルシウム及び総クエン酸カルシウムの期待値に対応する。
【0025】
一実施形態では、所定のアルゴリズムは、選択された位置における血液中の総カルシウムを推定するように構成された第2の関数を含む。
【0026】
一実施形態では、選択された位置は、透析器の下流であり、第2の関数は、全身総カルシウムに依存し、及び被験者と中間位置(loc3)との間の体外血液回路(10)への流体注入を考慮しながら、被験者から血液中の体外血液回路に入る総カルシウムと透析器の上流の体外血液回路中の中間位置における血液中の総カルシウムとの質量バランスを表し、第2の関数は透析器中の血液からの総カルシウムの損失をさらに考慮する。
【0027】
一実施形態では、所定のアルゴリズムは、体外血液回路内の選択された位置における血液中の総クエン酸塩を推定するように構成された第3の関数を含む。
【0028】
一実施形態では、選択された位置は透析器の下流であり、第3の関数は、全身総クエン酸塩に依存し、及び被験者と中間位置との間の体外血液回路への流体注入を考慮しながら、被験者から血液中の体外クエン酸塩及び透析器の上流の体外血液回路中の中間位置における総クエン酸塩に入る総クエン酸塩の質量バランスを表し、第3の関数は透析器中の血液からの総クエン酸塩の損失をさらに考慮する。
【0029】
一実施形態では、所定のアルゴリズムが、局所クエン酸塩抗凝固療法の開始からの時間関数として全身総クエン酸塩を推定するように構成された第4の関数をさらに含む。
【0030】
一実施形態では、第4の関数は、被験者におけるクエン酸塩の代謝生成速度を表し、さらに、透析器の上流の体外血液回路へのクエン酸塩の投与、及び透析器における血液からの総クエン酸塩の損失を考慮する。
【0031】
一実施形態では、所定のアルゴリズムは、透析器内の血液からの総クエン酸塩のクリアランス及び総カルシウムのクリアランスを推定するように構成された少なくとも1つの第5の関数をさらに含み、モニタリング装置は総クエン酸塩のクリアランス及び総カルシウムのクリアランスにそれぞれ基づいて、透析器内の総クエン酸塩の損失及び総カルシウムの損失を計算するように構成される。
【0032】
一実施形態では、所定のアルゴリズムは、全身イオン化カルシウムの関数として全身総カルシウムを推定するように構成された第6の関数を含む。
【0033】
一実施形態では、所定のアルゴリズムは、全身総カルシウムの関数として全身イオン化カルシウムを推定するように構成された第7の関数を含む。
【0034】
一実施形態では、現在の測定値が被験者の血液中の全身イオン化カルシウムを表し、モニタリング装置は、全身総カルシウムを表すさらなる現在の計算値を生成するために、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される。
【0035】
代替の実施形態では、現在の測定値は全身総カルシウムを表し、モニタリング装置は全身イオン化カルシウムを表すさらなる現在の計算値を生成するために、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される。
【0036】
一実施形態では、モニタリング装置は、全身総クエン酸塩を表すさらなる現在の計算値を生成するために、所定のアルゴリズムを動作させるようにさらに構成される。
【0037】
一実施形態では、モニタリング装置は、被験者におけるクエン酸塩の蓄積の評価のために、少なくともさらなる現在の計算値を評価するようにさらに構成される。
【0038】
一実施形態では、モニタリングが、血液分析装置との信号通信のためのインターフェースをさらに含み、モニタリング装置は連続する時間ステップそれぞれにおいて、血液分析装置からインターフェースを介して受信された信号から測定値を取得するようにさらに構成される。
【0039】
一実施形態では、モニタリング装置が、現在の計算値を表示装置上に提示するため出力するようにさらに構成される。
【0040】
一実施形態では、モニタリング装置が、警報状況の検出のための現在の計算値を評価し、警報状況が検出されたときに警報が生成されるようにさらに構成される。
【0041】
一実施形態では、モニタリング装置が、局所クエン酸塩抗凝固療法のための臨床的に証明されたプロトコルに関連して現在の計算値を評価し、このプロトコルに基づいて血液治療システムの動作のための推奨を取得し、この推奨を表示装置上に提示するために出力するように構成された決定支援モジュールをさらに備える。
【0042】
一実施形態では、モニタリング装置が、血液治療システム内のポンプ装置のセットと信号通信するためのインターフェースをさらに備え、このモニタリング装置は、現在の計算値の関数としてポンプ装置のセットのための1つ以上の制御信号を生成し、1つ以上の制御信号をインターフェースに提供するようにさらに構成される。
【0043】
一実施形態では、モニタリング装置が、治療期間中に、被験者の血液及び/又は体外血液回路中のカルシウム及びクエン酸塩のうちの少なくとも1つを表す測定データを取得し、測定データに基づいて所定のアルゴリズムを調整するようにさらに構成される。
【0044】
第2の態様は、対象の血管系に接続するための体外血液回路を含む血液治療システムである。体外血液回路は、血管系への接続のための血液引き出しライン及び血液戻りラインと、血液引き出しラインと血液戻りラインとの中間にある透析器とを備える。血液治療システムはさらに、被験者からの血液を、血液引き出しライン、透析器、及び血液戻りラインを介して被験者に送り戻すためのポンプ装置を備える。血液治療システムはさらに、体外血液回路及び被験者に関して局所クエン酸塩抗凝固療法RCAを実行するように動作可能なサブシステムと、第1の態様又はその実施形態のいずれかによるモニタリング装置とを備える。
【0045】
本発明の第3の態様は、対象の血管系に接続するように構成され、透析器を備える体外血液回路を備える血液治療システムをモニタリングする方法であり、血液治療システムは、治療期間中に透析器の上流の体外血液回路にクエン酸塩を投与することによる、局所クエン酸塩抗凝固療法RCAのために構成される。本方法は、治療期間中の連続する時間ステップにおいて、全身イオン化カルシウム又は全身総カルシウムの現在の測定値を取得することと、体外血液回路内の透析器の下流又は上流の選択された位置において、血液中のイオン化カルシウムを表す現在の計算値を生成するために、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させることと、局所クエン酸塩抗凝固療法の評価のために、現在の計算値を提示及び/又は評価することとを含む。
【0046】
第1の態様の実施形態のうちの任意の1つは、第3の態様の実施形態として適合され、実装されてもよい。
【0047】
本発明の第4の態様は、プロセッサによって実行されると、そのプロセッサに第3の態様及びその実施形態のいずれかの方法を実行させるコンピュータ命令を含むコンピュータ可読媒体である。
【0048】
本発明のさらに他の目的、特徴、実施形態、態様、及び利点は、以下の詳細な説明、添付の特許請求の範囲、ならびに図面から明らかになるのであろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下、本発明の実施形態が、添付図面を参照してより詳細に説明されるだろう。
【0050】
図1】RCAと共に使用するように構成されたCRRTシステムの概略図である。
【0051】
図2図1に対応し、RCAモニタリング中のカルシウム関連パラメータの測定及び計算のための装置パラメータ及び位置を示す。
【0052】
図3】RCAモニタリングの例示的な方法のフローチャートである。
【0053】
図4】RCAモニタリングのための例示的なシステムのブロック図である。
【0054】
図5】透析後イオン化カルシウムを計算するための拡張関数の線形化を示す。
【0055】
図6図4のシステムによる計算に使用するための機械設定、生理学的パラメータ、システムパラメータ及び化学的パラメータの表である。
【0056】
図7図4のシステムによって実行される例示的な計算方法のフローチャートである。
【0057】
図8A】、
図8B】それぞれ、全身イオン化カルシウム及び全身総カルシウムの同時測定に基づく、一連の時間ステップにおけるRCA関連パラメータの計算を示す。
【0058】
図9A】複数の患者についての透析後イオン化カルシウムの計算値と測定値との間の差分値の時系列のグラフである。
図9B】1人の患者についての透析後イオン化カルシウムの計算値と測定値との間の差分値の時系列のグラフである。
図9C】複数の患者の各々についての透析後イオン化カルシウムの計算値と測定値との間の差分値の時間平均のグラフである。
図9D】複数の患者の各々についての透析後イオン化カルシウムの計算値と測定値との間の差分値の標準偏差のグラフである。
【0059】
図10】RCAモニタリングにおいて使用するための所定のアルゴリズムに含まれ得る関数の概要である。
【0060】
図11】RCAモニタリングの代替方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
ここで、本発明のいくつかの、しかし全てではない実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明の実施形態を以下により完全に説明する。実際、本発明は多くの異なる形態で具体的に表現されてよく、本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすことができるように提供される。同じ参照符号は全体を通して同じ要素を指す。
【0062】
また、可能であれば、本明細書に記載及び/又は企図される本発明の実施形態のいずれかの利点、特徴、関数、装置、及び/又は動作態様のいずれかが、本明細書に記載及び/又は企図される本発明の他の実施形態のいずれかに含まれてもよく、及び/又はその逆であってもよいことが理解されるであろう。さらに、可能であれば、本明細書で単数形で表される任意の用語は特に明記しない限り、複数形を、及び/又はその逆も含むように意味付けられる。本明細書で使用されるように、「少なくとも1つの」は「1つ以上の」を意味し、これらの語句は交換可能であることが意図され、したがって、語句「a」及び/又は「an」は「少なくとも1つの」又は「1つ以上の」を意味するものとし、語句「1つ以上の」又は「少なくとも1つ」も本明細書で使用される。本明細書で使用されるように、文脈が言語又は必要な含意を表現するために別の方法で必要とする場合を除き、「備える」又は「備える」などの変形は包括的な意味で使用され、すなわち、記載された特徴の存在を指定するが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在又は追加を排除しない。
【0063】
本発明の実施形態は、背景技術の項で議論される持続的又は半持続的腎代替療法のような急性透析療法と、間欠的血液透析、血液濾過、血液濾過及び限外濾過などの慢性透析療法と、長期間欠的腎代替療法(PIRRT)、持続的低効率透析(SLED)、及び長期連日透析(EDD)などのハイブリッド透析療法とを含む、局所クエン酸抗凝固療法(RCA)と組み合わせることができる体外血液治療又はプロセスの全ての形態に適用可能である。従来、この異なる種類の透析療法は「モダリティ」と呼ばれている。
【0064】
以下において、限定されることなく、実施形態は、持続的腎代替療法(CRRT)及びそのモダリティを参照して記載される。
【0065】
図1は、以下において「患者」と表記される、ヒト被験者100に接続されたときにRCAと組み合わせてCRRTを実施するための血液治療システム1の模式図である。このシステム1は、患者100の血管系に血液引き出し端部及び血液引き出し端部で接続される体外血液回路(「EC回路」)10を備える。この接続は針又はカテーテルなどの任意の従来の装置によって実行されてもよい。血液ライン又はチューブは、EC回路10の血液引き出し経路又は肢10a及び血液戻り経路又は肢10bを画定するように配置される。本明細書において「透析器」と表記される血液濾過ユニット11は引き出しライン及び戻りライン10a、10bの間に接続される。透析器11は、透析器11を血液コンパートメントに分離するように構成された半透膜11aを備え、この血液コンパートメントは引き出し及び戻り経路10a、10b、並びに透析流体コンパートメントに流体的に接続されている。血液ポンプ12は、引き出し経路10aに配置され、患者100から血液を引き出し、透析器11の血液コンパートメントを介して、戻りライン10bを通って患者100に戻るように血液を送り出すように動作可能である。システム1は、透析流体の供給源13をさらに備える。透析流体経路又はライン13aは、供給源13を透析器11の透析流体コンパートメントに接続する。同様に、流出経路又はライン14aは、透析器11の透析流体コンパートメントを、使用済み透析流体のためのシンク14に接続する(以下では「流出物」と示される)。透析流体ポンプ13bが透析流体経路13aに配置され、流出流体ポンプ14bが流出流体経路14aに配置される。
【0066】
図示の例では、システム1は、第1の代替流体ライン20aによって血液ポンプ12と透析器11との中間の引き出し経路10aに接続される代替流体の第1の供給源20をさらに備える。第1の代替流体ポンプ20bは、第1の代替流体ライン20aに配置されている。システム1は更に、第2の代替流体ライン21aによって戻り経路11aに接続される代替流体の第2の供給源21を備える。第2の代替流体ポンプ21bは、第2の代替流体ライン21aに配置されている。
【0067】
システム1は、クエン酸塩をEC回路10内に透析前注入するための配置をさらに備える。クエン酸塩注入配列は、クエン酸塩含有流体の供給源22を含む。クエン酸塩流体ライン22aは、供給源22を血液ポンプ12の上流の引き出し経路10aに接続する。クエン酸塩ポンプ22bはクエン酸塩流体ライン22aに配置されている。
【0068】
システム1は、EC回路10内へのイオン化カルシウムの透析後注入のための配置を含む。カルシウム注入配列は、カルシウム含有流体の供給源23を含む。図示の例では、カルシウム流体ライン23aが透析器11と第2の代替流体ライン21aとの中間の戻り経路10bに供給源23を接続する。他の例では、このライン23aが第2の代替流体ライン21aの下流の戻り経路10bに接続されてもよく、又は患者100の血管系に直接接続されてもよい。図示の例では、供給源23はカルシウム含有流体を注入するように動作可能なシリンジポンプである。別の方法として、別個のカルシウムポンプがカルシウム流体ライン23a内で供給源23の下流に配置される。
【0069】
システム1は制御装置40によって動作され、この制御装置は少なくとも部分的に、コンピュータ命令を含む制御プログラムに従って、ポンプ12、13b、14b、20b、21b、22b及び23のための制御信号S1~S7を生成するように構成されている。この制御プログラムはまた、システム1内のセンサ(不図示)から制御装置40によって受信された測定信号に基づいて動作してもよい。制御装置40は、プロセッサ41とコンピュータメモリ42とを備える。この制御プログラムはメモリ42に記憶され、プロセッサ41によって実行される。この制御プログラムは、有形の(非一時的である)製品(例えば、磁気媒体、光ディスク、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリ等)であってもよく伝播信号であってもよいコンピュータ可読媒体上で制御装置40に供給されてもよい。図示の例では、制御装置40は制御信号S1~S7をシステム1内のポンプに供給するための制御信号インターフェース43aを備えている。制御装置40はまた、オペレータが制御データを入力することを可能にする1つ以上の入力デバイス44への接続のための入力インターフェース43bと、フィードバックデータをオペレータに提供するための1つ以上の出力デバイス45への接続のための出力インタフェース43cとを備える。例えば、入力デバイス44はキーボード、キーパッド、コンピュータマウス、制御ボタン、タッチスクリーン、プリンタなどを含むことができ、出力デバイス45は、表示装置、インジケータランプ、アラームデバイスなどを含むことができる。このオペレータは、医師又は看護師などの臨床経験者であってもよい。
【0070】
制御装置40は、制御プログラムに従って、EC回路10を通して血液を循環させるためにポンプ12を動作させ、透析器11に透析流体を供給するためにポンプ13bを動作させ、透析器11から流出物を除去するためにポンプ14bを動作させ、透析器11の前(「注入前」)及び透析器11の後(「注入後」)に代替流体を注入するためにポンプ20a、20bを動作させることによって、システム1において血液治療を行うように動作可能である。制御装置40はまた、制御プログラムに従って、クエン酸塩含有流体を注入するためにポンプ22bを動作させ、カルシウム含有流体を注入するためにポンプ23を動作させることによって、システム1においてRCAを行うように動作可能である。RCAならびにクエン酸塩及びカルシウムの注入の基礎となる理論的根拠は背景技術の項に記載されており、当業者には周知であり、ここでは繰り返されないであろう。
【0071】
図1のシステム1は代替流体の透析、注入前及び注入後の両方を含むモダリティについて説明されているが、システム1は例えば、代替流体の注入前及び注入後のいずれか、又は両方を控えることによって、及び/又は透析の代わりに透析器11において純粋な限外濾過を実行することによって、他のモダリティに調整されてもよい。さらに、本発明の実施形態は、透析流体、代替流体、クエン酸塩含有流体、及びカルシウム含有流体のそれぞれの任意の臨床的に証明された組成物に適用可能である。
【0072】
図1はまた、血液サンプルを得るためのシステム1の従来の構成を示す。背景技術の項に記載されるように、特定のプロトコルに従って、血液サンプルは全身総カルシウム及び全身イオン化カルシウム、ならびに透析後イオン化カルシウムのレベルを測定するために、常に引き出しされてもよい。本明細書で用いられるように、「全身」とは患者100の血液を指し、「イオン化カルシウム」とは遊離カルシウムイオンCa2+を指す。さらに、「レベル」とは濃度又は量などの任意の種類の相対的又は絶対的な尺度であってもよい。1つの非限定的な例では、ポスト透析器イオン化カルシウムは抗凝固療法の適切な性能をモニタリングするために測定されてもよく、全身イオン化カルシウムはカルシウム注入の適切な性能をモニタリングするために測定されてもよく、全身総カルシウムは患者100におけるクエン酸塩蓄積を評価するためにモニタリングされてもよい。全身イオン化カルシウム及び透析前イオン化カルシウムは、従来、それぞれのサンプリング装置30a、30bをそれぞれの指定された位置でEC回路10に接続することによって取り出される血液サンプル中で測定される。具体的には、全身イオン化カルシウムは、引き出し経路10aの上流端、すなわち、新鮮な血液がEC回路10に入る患者100への接続部の近くで測定される。透析後イオン化カルシウムは、透析器11の下流及びカルシウム注入の上流の戻り経路10bで測定される。血液試料を得るためにサンプリング装置30a、30bを動作させた場合に、サンプリング装置30a、30bは、EC回路10から切り離されて血液分析装置50に接続され、ここで血液分析装置は、システム1とは別個であり、イオン化カルシウムのレベル、場合によってはpH、重炭酸塩、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、ヘマトクリット、酸素化等の他の血液パラメータを決定するために血液試料を分析するように構成される。任意の適切な血液分析装置50、例えば、いわゆる血液ガス分析器(BGA)が使用されてもよい。
【0073】
あるいは、全身イオン化カルシウムは、患者から取り出される血液サンプルのBGA解析によって測定されてもよい。
【0074】
全身総カルシウムは従来、患者から、又は患者100への接続部に近いEC回路10内の位置で、例えば、サンプリング装置30aの使用によって取り出される血液サンプルの実験室分析によって測定される。この装置50は、それぞれの血液サンプルの分析の結果を表示装置51上でオペレータに提示してもよく、ここでこのオペレータは、臨床経験及び診療に基づいて測定値を評価し、任意の設定を変更する必要があるかどうかを決定してもよい。もしそうであれば、オペレータは入力デバイス44を介して設定を変更してもよい。あるいは、図1に破線で示されるように、血液分析装置50は有線又は無線接続52を介して、その入力インターフェース43bを介して制御装置40に測定値を転送するように接続されてもよく、それによって、この制御装置40は表示部45上でオペレータに測定値を示してもよい。
【0075】
図2図1に対応し、患者からの血液が左端から入り治療された血液が右端から出るEC回路10を、直線状の輪郭で示す。図2はまた、本発明の実施形態による計算に使用され得るパラメータを示す。患者100における総カルシウムのレベルをCaSYS(「全身総カルシウム」)とし、患者100における総クエン酸のレベルをCITSYS(「総全身クエン酸」又は「全身総クエン酸」)と呼ぶ。EC回路10の上流端の第1の位置をloc1と呼び、イオン化カルシウムのレベルをiCaSYS(「全身イオン化カルシウム」)と呼ぶ。透析器11の下流の第2の位置をloc2と呼び、さらに、loc2における総クエン酸及び総カルシウムのレベルをそれぞれCIT(「透析後総クエン酸」)及びCa(「透析後総カルシウム」)と呼ぶ。透析器11の上流であり、クエン酸塩投与及び(存在する場合には)注入前の下流の第3の位置をloc3と呼ぶ。loc1及びloc2は図1のサンプリング位置に対応することが理解されるべきである。患者から取り出された血液の流量はQによって指定される。さらに、システム内のポンプの流量は、透析流体ポンプ13bに対するQ、流出流体ポンプ14bに対するQ、第1の代替流体ポンプ20bに対するQPRE、第2の代替流体ポンプ21bに対するQPOST、クエン酸塩ポンプ22bに対するQPBP、及びカルシウムポンプ23に対するQSYRによって指定される。
【0076】
総カルシウム又はイオン化カルシウムがloc1で測定される場合、測定値は例えば、動脈経路10aが血管系に接続される接続部位でのいわゆるアクセス再循環の結果として、患者における実際の値とわずかに異なり得る。この差を補償するために、補正係数を経験的又は理論的に決定し、測定値に適用してもよい。
【0077】
洞察力のある推論及び徹底的なシミュレーション及び実験によって、本発明者らは、全身総カルシウムCaSYS又は全身イオン化カルシウムiCaSYSのいずれかの測定値に基づく対応するパラメータ値の計算によって、少なくとも透析後イオン化カルシウムiCaの測定値を置き換えることが可能であることを見出した。本発明の実施形態は、この洞察に基づいている。iCaのこの計算は、血液治療中に透析器11の下流で血液サンプルを定期的に取り出す必要性を排除するか、又は少なくとも低減するので、RCAと組み合わせて血液治療を実行するコスト及び複雑さの両方を大幅に低減するであろう。保守的な推定として、臨床スタッフが手動で血液サンプルを取り出しし、サンプリング装置(図1の30b)を血液分析装置50に移送し、血液分析を待つのに少なくとも5分かかる。各血液治療機械について毎日6~10個のそのようなサンプルが取り出されると仮定すると、これは、資格のあるスタッフの時間の30~50分に相当する。さらに、装置50による血液サンプルの分析は、動作コストも伴う。したがって、RCAと組み合わされた血液治療を実行する複数の機械を動作させる診療所では、本発明の実施形態によって、時間及び動作コストの両方におけるかなりの節約が可能になる。
【0078】
図3は、一実施形態による、血液治療期間中のRCAの性能モニタリングのための方法300のフローチャートである。本明細書で使用されるように、「血液治療期間」は、後者が患者100の血管系と流体連通するように配置されている場合、EC回路11を通って血液をポンピングすることを含む。方法300は、制御装置40(図1)内の制御プログラムによって実行することができる。あるいは、装置40が専用のモニタリング装置であってもよいが、制御信号S1~S7は別個の制御装置(不図示)によって生成されてもよい。ステップ301において、全身イオン化カルシウムiCaSYS、又は全身総カルシウムCaSYSの現在の測定値が得られる。図1の装置40を参照すると、iCaSYSの現在の測定値は、通信線52を介して血液分析装置50から電子的に転送することによって、又はオペレータが入力デバイス44を使用して測定値を手動で入力することによって得ることができる。CaSYSの現在の測定値は、従来は実験室試験によって与えられているが、入力デバイス44を用いてオペレータが手動で入力してもよい。ステップ302において、loc2における、透析後イオン化カルシウムの現在の値、すなわちiCa図2)が、現在の測定値の関数として計算される。ステップ302は、現在の測定値に対して所定のアルゴリズムを動作させることを含むことができる。ステップ301は、iCaSYSとCaSYSとの両方の現在の測定値を取得することを含むことができ、ステップ302は、これらの現在の測定値の関数としてiCaの現在の値を計算することを含むことができることに留意されたい。
【0079】
ステップ303において、RCA性能の評価のために、iCaの現在の値が提示され、及び/又は評価される。例えば、ステップ303は、オペレータがRCA性能を評価し、必要と思われる場合には補正措置を講じることを可能にするために、表示装置(図1の45参照)上にiCaの現在の値を提示すること、又は他の方法を含むことができる。あるいは、又は追加的に、ステップ303はRCA性能の評価のためのiCaの現在の値の機械実装評価を含むことができ、これは、例えば、システム1の1つ以上の設定を変更するためのアラーム信号又はオペレータへの推奨をもたらすことができる。ステップ303の更なる例は、図4を参照して以下に与えられる。次いで、方法300はステップ304に進み、そこでステップ301に戻る前に待機する。例えば、ステップ304は例えば、「背景技術」の項で例示したような所定のサンプリング方式に従って、所定の期間待機することができる。あるいは、ステップ304は、方法300によりiCaSYS又はCaSYSの新たな現在の測定値が受信されるたびに、ステップ301に進んでもよい。
【0080】
図3のフローチャートから、iCaの現在の値の計算は、ステップ301~303の各繰り返しについて新たに得られる測定値に基づいていることが分かる。したがって、iCaの現在の値の計算は、時間の経過とともに投影されるために、患者又はEC回路10内のイオン化又は総カルシウムのレベルを必要としない。当業者は、計算された値の精度がそれが投影ではなく実際の測定に基づく場合に増加する可能性があることを理解する。
【0081】
図4は、一実施形態によるRCAモニタリングのためのシステムのブロック図である。ブロック400~401は、RCAモニタリングで使用される所定のアルゴリズムを決定するための準備モデリング及び分析を表す。ブロック402~407は入力データを表し、ブロック408は出力データを表す。ブロック410及び421~423は、モニタリング装置(図1図40参照)で実装され得る関数モジュール又はプロセスを表す。図4の以下の説明では、詳細な説明の最後に命名リストで定義されるパラメータに参照がなされる。
【0082】
ブロック400は、透析後イオン化カルシウムのレベルを定義するアルゴリズムを導出することを目的として、システム1及び患者100の拡張モデルを定義することを含む。このような拡張モデルは、カルシウムと血液中の他の物質との相互作用を含む、関連する血液化学のモデルを含む。この相互作用は、多くの化学反応によって定義される。これらの反応の結果はカルシウム及び他の物質の総量と共に、反応物の局所濃度及び化学平衡定数によって決定される。物質の合計は、すべての形態の合計である。総濃度は、患者100から送り出される血液の組成、EC回路10に混合される流体、及び膜11a上の物質の輸送に依存する。血液化学は、遊離形態のカルシウム及び他の物質に結合したカルシウムの両方を含む。一例では、血液化学のモデルは、遊離形態のカルシウム、クエン酸塩、アルブミン、重炭酸塩、リン酸塩、及び炭酸塩へのカルシウム結合、ならびにクエン酸塩、アルブミン、重炭酸塩、リン酸塩、及び炭酸塩への結合と競合する物質、例えばマグネシウム、ナトリウム、及び水素を含む。本発明の実施形態では、患者100中のカルシウム濃度が総濃度(CaSYS)又はイオン化(遊離)濃度(iCaSYS)として測定される。一例では、血液化学のモデルは、(図2のポンプ22bによる)抗凝固療法のためのクエン酸塩の既知の添加に基づいて治療時間にわたってモデル化されるクエン酸塩を除いて、カルシウム及びクエン酸塩以外のモデル化された物質の量/濃度が既知である(例えば、測定又は推定される)と仮定する。例えば、このカルシウム及びクエン酸塩以外のモデル化された物質は、経時的に一定であると仮定することができる。
【0083】
一例では、拡張モデルがその平衡定数(EQ)によって含まれる各反応を定量化し、式([AB])/([A]・[B])=EQを与え、ここで、複合体ABはA及びBによって形成され、[]は濃度を示す。
【0084】
この拡張モデルは各物質の物質収支を考慮することにより、EC回路10への流体の追加を説明する。したがって、loc3(図2)における物質の濃度は、loc1における物質の質量流量によって与えられ、loc3の上流のEC回路10への物質の任意の質量流量を考慮する。
【0085】
フィルター後の総カルシウムの濃度は、膜11a上の輸送のために遊離している総カルシウムの量、及び膜11aを通過できないタンパク質結合カルシウムの量に依存する。RCAを使用する場合、比較的大部分の遊離カルシウムがクエン酸塩に結合し、クエン酸塩-カルシウム複合体が膜11aを通して失われる。一例では、この拡張モデルは、透析器11内の異なる溶質のクリアランスを、透析器の一口における溶質の流量及び濃度の関数として計算することを含む。用語「クリアランス」は当業者に周知であり、溶質の物質移動速度をその血漿濃度で割ったもの、又は溶質が膜11aの両側に存在する場合は濃度勾配で割ったものとして定義される。本開示では、クリアランスと透析とは区別されない。クリアランスは、血液及び透析流体の流量、適用される限外濾過速度(QFIL)、及び膜11aの特性に依存する。純粋な拡散条件下及び膜11aを横切る有意な対流輸送の両方で、小さな非荷電水溶性物質のクリアランスを計算するための確立された方程式が存在する。一例では、この拡張モデルは、ASAIO J 51(3):246-251,2005に掲載される、Sternbyらによる論文"Diffusive-convective mass transfer rates for solutes present on both sides of a dialyzer membrane"に開示された原理に基づいてもよい。この論文の方程式は非荷電物質について与えられており、したがって、拡散及び対流のための駆動力は線形であるので、質量輸送速度は、入口濃度の線形関数であると仮定される。荷電溶質については、クリアランスの式は、膜を横切る電位も考慮してもよい。必要に応じて、このような膜電位は、電気的中性を維持するために生じる。荷電溶質の全てが一緒に作用するため、1つのイオンの輸送の計算は合理的に正確となるように、溶質中の他の関連イオンを考慮してもよい。さらに、溶質輸送の計算はまた、イオン間の複雑な結合を考慮してもよい。複合体が膜11aを横切って移動すると、その濃度は膜11aの両側で変化し、複合体とその個々の成分との間の平衡に影響を及ぼすだろう。これらの変化は、膜11aを横切るこれらの構成要素の濃度勾配及び輸送速度に影響を及ぼすため、平衡方程式が質量移動の計算に含まれてもよい。物質移動速度の計算は種々の溶質の物質移動面積係数を含み、これらはハンドブックで入手可能であるか、又は推定されてもよい。一例では、この拡張モデルは、血液の主要成分であり、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及び水素イオンのような種々の荷電溶質に結合することが知られているアルブミンと形成される複合体を考慮する。この拡張モデルはまた、各アルブミン分子が、異なる平衡定数で多数のこれらのイオンに結合し得ること、及びこの結合がpH依存性であることを考慮してもよい。さらなる例において、この拡張モデルは、カルシウム及びマグネシウムが重炭酸塩及びクエン酸塩に結合する場合に形成される複合体を考慮してもよい。
【0086】
輸送アルゴリズムについて、膜11aは、多数のシリアルセグメントから構成されると考えてもよい。各膜セグメントについて、各溶質及び各複合体の輸送は、膜電位を考慮して別々に計算されてもよい。各溶質に対する所与の入口濃度を用いて、膜セグメントに対する出口濃度がその輸送から計算されてもよい。各化合物の総濃度は、遊離濃度と、それらが出現する全ての複合体の濃度とを合計することによって計算されてもよい。総濃度から、遊離濃度と関連複合体との間の新たな分布が計算されてもよい。再計算された濃度は、次の膜セグメントへの入力として使用されてもよい。この計算は、定常状態に達するまで、膜11a全体に沿って反復的に行われる。
【0087】
当業者は、この拡張モデルが多くの異なる方法で導出されてもよく、上記は単にガイド原理とみなされるべきであることを理解する。いずれにしても、拡張モデルは式の非線形系をもたらし、これは、EC回路10内の任意の位置でのイオン化カルシウムをこの位置でのモデル化された物質の関数として与える拡張関数f_iCaextを提供するために数値的に解かれてよい。
【0088】
一例では、この拡張モデルが26の化学反応を処理するように構成され、カルシウム及び電気中性を含む関与する物質の合計のための方程式を追加した後、この拡張モデルは37の方程式の非線形系をもたらす。拡張関数f_iCaextは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、塩化物、カリウム、重炭酸塩、リン酸水素塩、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩及びアルブミンの合計などの変数の関数であってもよい。
【0089】
この拡張モデルはまた、例えば、loc1及びloc3の間の質量流量と、loc3及びloc2の間の透析器11における損失とを考慮することによって、loc2における総カルシウム、すなわちCaに関する方程式をもたらすことができる。一例では、そのような方程式が次式によって与えられる。
【数1】
【0090】
ここで、Kcaは透析器11内のカルシウムのクリアランスであり、Fcalは一定の数(例えば、0.8~1の範囲)によって近似されてもよく、
【数2】
である。
【0091】
さらに、Caは、CaPW2から単純な変換によって得ることができる。
Ca=CaPW2・fpw
ここで、
【数3】
【0092】
したがって、この例では、loc2における総カルシウムの式が、第2の関数Ca=f0,2(CaSYS,H,fpw,KCa,Fcal,Q,QPRE,Q,Q,QPBP)として与えられてもよい。
【0093】
この拡張されたモデルは、例えば、loc1及びloc3の間の質量流量バランスと、loc3及びloc2の間の透析器11における損失とを考慮することによって、総クエン酸塩、すなわちCITに関する方程式をもたらすこともできる。一例では、そのような方程式が次式によって与えられる。
【数4】
【0094】
この例では、クエン酸塩用量DCITはmmol/Lで与えられ、次式によって定義される。
【数5】
【0095】
ここで、CITPBPは供給源22中のクエン酸塩濃度である。
【0096】
CITは、CITPW2から単純な変換CIT=CITPW2・fpwよって得ることができることを理解されたい。
【0097】
したがって、この例では、loc2における総クエン酸塩の式が、第3の関数CIT=f0,3(CITSYS,H,fpw,KCIT,DCIT,Q,QPRE,Q,Q,QPBP)として与えられてもよい。
【0098】
見られるように、f0,3は患者の血液中の総クエン酸塩CITSYSに依存している。一実施形態では、CITSYSは固定値に設定されてもよい。しかしながら、改善された結果は、代わりに治療時間関数としてCITSYSをモデル化することによって達成され得ることが見出された。このようなモデリングは、多くの異なる方法で実行されてもよい。一例は、PLoS One Vol.8,6(2013).に掲載されたZhengらによる論文"Citrate Pharmacokinetics in Critically III Patients with Acute Kidney Injury"に記載されている。時間関数としての全身総クエン酸塩の方程式は、次式で与えられる。
【数6】
【0099】
ここで、CITはRCAの開始時の全身総クエン酸塩のレベルであり、予め定義された又は測定された値に設定されてもよく、tはRCAの開始からの時間であり、JCITLOAD=DCIT*Q*60*10-3である。この式はクエン酸塩の体内代謝速度(GMET)を説明し、また、EC回路10へのクエン酸塩の注入及び透析器11における総クエン酸塩の損失(クリアランス)を説明する。
【0100】
本明細書には示されていないが、このモデルは、例えばパラメータGMETを調整することによって、患者の異常な代謝速度を考慮するように調整されてもよい。
【0101】
したがって、この例では、全身総クエン酸塩の式が、第4の関数CITSYS=f0,4(CIT,V,KBODY,GMET,DCIT,Q,KCIT,t)として与えられてもよい。
【0102】
上記から理解されるように、この拡張モデルはまた、透析器内の総クエン酸塩及び総カルシウムのクリアランスの計算のための1つ以上の式を含み得る。このような方程式は当技術分野で周知であり、物質Yのクリアランスは、第5の関数K=f0,5(k,α,Q,Q,QFIL)として表されてもよい。
【0103】
この拡張モデルはまた、全身イオン化カルシウムiCaSYSを全身総カルシウムCaSYSに変換するための式を含んでもよい。このような方程式は、血漿中のカルシウムの異なる形態、例えば、iCa、CaAlb、CaHCO、CaPO4、CaCit及びCaCit2の合計としてCaSYSを考慮することによって導出されてもよい。このモデルは、その化学平衡を考慮することによって各形態を定量化することができる。例えば、CaCit=iCaSYS・iCIT・EQCaCitであり、ここでCaCit及びiCITはそれぞれCaCitとイオン化クエン酸塩との濃度であり、EQCITはCaCitの平衡会合定数である。さらに、このモデルは、アルブミンが遊離カルシウムによって占有され得る12個の結合部位を有し、占有された結合部位の数(nCaREF)がpHに依存するという事実を説明し得る。
nCaREF=1.58+0.907・(pH-7.4)
【0104】
1つの例では、全身総カルシウムの式が、以下によって与えられてもよい。
【数7】
【0105】
ここで、EQCaHCO3、EQCaCO3、EQCaPO4、EQCIT、EQCaCIT2はハンドブックから取られてもよく、以下のように計算されてもよい。
【数8】
【0106】
ここでiCaREF=1.25mmol/Lである。
【0107】
したがって、この例では、全身総カルシウムの式が第6の関数CaSYS=f0,6(iCaSYS,Alb,HCO,pH,EQCaX,iCIT,iCaREF,iP)として与えられてもよく、ここで、EQCaXは平衡会合定数EQCa,EQCaHCO3,EQCaCO3,EQCaPO4、EQCIT、EQCIT2を表す。
【0108】
ここで図4に戻ると、拡張計算関数f_iCaext及び第2~第6の計算関数f0,2、f0,3、f0,4、f0,5、f0,6がブロック401に提供され、そこで縮小モデルが決定されて、RCAモニタリングで使用するための所定のアルゴリズムが定義されることが分かる。
【0109】
ブロック401の1つの理由は、f_iCaextを完全に解くにはかなりの計算能力が必要であることである。f_iCaextの複雑さを低減する試みにおいて、本発明者らは拡張された関数がカルシウム及びクエン酸塩の合計に主要な依存性を有し、他の変数へのより小さい依存性を有することを示すコンピュータシミュレーションを行った。したがって、f_iCaextは、演算を簡単にするために、総カルシウム(Ca)及び総クエン酸塩(CIT)の変数に関して線形化されてもよく、ここで下付き文字xはEC回路10内の任意の位置を示す。
【数9】
【0110】
この線形化はさらに、この図は、この次元iCa、Ca、及びCITによって示されている三次元空間を概略的に描く図5に示されており、ここで異なる評価点pが開いた円によって示されている。各評価点pは、Ca及びCIT次元における一対の座標によって与えられる。具体的には、拡張関数f_iCaextは、総カルシウムの基準値(CaREF)及び総クエン酸塩の基準値(CITREF)によって与えられる基準点pREFの周りに選択され、基準点を含む評価点で評価される。この基準値は、透析後の位置loc2で関連するように選択され、この位置での公称(所望の)値であってもよい。図5に示すように、基準点pREFにおける次元(δf_iCaext/δCa)及び次元(δf_iCaext/δCIT)のf_iCaextの導関数は、Ca次元及びCIT次元における多数の評価点pのf_iCaextの評価値に基づいてそれぞれ推定することができる。線形化された関数f0,1は、図5に示されるpによって表される、lloc2における総クエン酸塩CIT及び総カルシウムCaの現在の値に基づいて、loc2におけるイオン化カルシウム、すなわちiCaを計算することを可能とする。この線形化は、注目領域500内で、すなわちloc2における総カルシウム及び総クエン酸塩の全ての関連する値について、十分な一致が達成されることを検証するために、f0,1及びf_iCaextの出力を比較することを含むこともできる。
【0111】
モデル化されたパラメータ以外の拡張関数f_iCaextに含まれるパラメータの値は、経験に基づいて推定されてもよく、及び/又は文献及びハンドブックから取得されてもよく、及び/又は患者の関連集団について取得されてもよい。後者の例では、パラメータ値の少なくともいくつかは例えば特定の診療所、診療所のグループなどのための、それぞれの機械設定又は測定された生理学的パラメータの平均として取得されてもよい。これにより、拡張関数を特定の環境に合わせることができる。
【0112】
要約すると、図4のブロック401に示すように、この線形化は、loc2のCa及びCITに基づいてiCaを計算するための線形関数をもたらしうる。
iCa=f0,1(Ca,CIT)=β+β・(Ca-CaREF)+β・(CIT-CITREF
【0113】
ここで、β、β、及びβは、線形化によって与えられる定数である。一例では、iCaはmmol/Lで計算され、f0,1のパラメータはβ=[0.32,0.45]、β=[0.29,0.41]、β=[-0.15,-0.05]、CaREF=[1.15,1.55]及びCITREF=[2.00,2.80]によって与えられ、ここで、括弧のそれぞれの対は開始値及び終了値を含む間隔を定義する。
【0114】
図10は、関数f0,1~f0,6の概要、及び以下でさらに説明される追加の関数を含む。
【0115】
ブロック401は、ブロック410によるアルゴリズム計算で使用される1つ以上の最終関数を定義することも含むことができる。例えば、ブロック401に示されるように、計算関数f0,1、f0,2、f0,3、f0,5、f0,6は、全身イオン化カルシウム及び全身総クエン酸塩の測定値に基づいて、透析後イオン化カルシウムiCaを直接出力する集約演算関数iCa=f(iCaSYS,CITSYS)に組み合わされてもよい。凝集関数の使用は任意選択であり、透析後イオン化カルシウムiCaは、iCaSYSの測定値に基づいて適切な順序でf0,1、f0,2、f0,3、f0,5、f0,6を評価することによって代わりに計算されてもよい。したがって、以下におけるfへの任意の基準は、凝集関数、又は関数のシーケンスf0,1、f0,2、f0,3、f0,5、f0,6、又はそれらから形成された任意の複合関数を暗示してもよい。
【0116】
ブロック401は、関連するシステム1、モダリティ、及び患者に対して有効であると推定される1つ以上の固定汎用値を、上述の関数で使用される1つ以上のパラメータに割り当てることも含んでもよい。そのようなパラメータは一定であってもよく、例えばFCAL、H、fpw、CIT、GMET、KBODY、V,k、α、Alb、HCO、pH、EQCa、iCIT、iCaREF、及びiPのうちの1つ以上を含んでもよい。ブロック401は、患者100の測定可能な特性に応じて1つ以上のパラメータを推定するための1つ以上の近似関数を定義することを含むことも考えられる。このような近似関数は例えば、GMET=0.0167・W、V=(29/72)・W、及びKBODY=7.79・W・60・10-3のうちの1つ以上を含んでもよく、ここで、Wは患者の体重である。
【0117】
図4の例では、ブロック401はまた、全身イオン化カルシウムに基づいて全身総カルシウムを計算するための最終関数CaSYS=f(iCaSYS)を(例えば、f0,6に基づいて)定義すること、及び時間関数として全身総クエン酸塩を推定するための最終関数CITSYS=f(t)を(例えば、f0,4に基づいて)定義することを含む。
【0118】
図4に示すように、ブロック401は計算モジュール410に計算関数f、f、fのセットを提供し、この関数f、f、fのセットは透析後のイオン化カルシウムiCaの計算のための所定のアルゴリズムの中心を形成し、任意選択でさらなるパラメータを形成する。図示の例では、所定のアルゴリズムが以下の関数を含む。
【数10】
【0119】
ここで、Rcaは、背景技術の項で説明したように、RCA中のクエン酸塩蓄積を評価するために従来使用されているカルシウム比である。様々なパラメータに対するそれぞれの関数の依存性は、網羅的ではないことに留意されたい。例えば、上記から理解されるように、この関数fは、流量、クリアランス等のようないくつかの追加のパラメータに依存する。同様に、関数fは、患者の血液中のアルブミン及び重炭酸塩の濃度、患者の血液のpHなどのいくつかの追加のパラメータ。
【0120】
計算モジュール401は、現在の測定データ402に対して所定のアルゴリズムを動作させる。図示の例では測定データ402がiCaSYSの測定値であり、典型的には図2のloc1で測定される。計算ブロック410はまた、血液治療システム1の機械設定(MS)403の1つ以上の現在値を含み、患者100の1つ以上の生理学的パラメータ(PP)404、システム1の構成に関する1つ以上のシステムパラメータ(SP)405、及び1つ以上の化学的パラメータ(CP)406を含み得る、さらなる入力データに対して動作する。このようなパラメータの例を図6のテーブルに示す。本明細書で使用されるように、「機械設定」は血液治療システム1の動作パラメータの現在の値であり、「生理学的パラメータ」は患者100又は代表的な患者のグループの生理学的状態を定義し、「システムパラメータ」は血液治療システム1の現在の構造構成を定義し、「化学的パラメータ」は、血液の化学的特性を定義する。
【0121】
図6のパラメータのいくつかは、定数と見なすことができる。このような定数の一般的な値は、モジュール410による検索のために、メモリ(図1の42参照)に予め記憶されていてもよい。あるいは、上述したように、1つ以上の定数の一般的な値は、関数f、f、fのセットに代わりに埋め込まれてもよい。
【0122】
図6のパラメータの少なくともいくつかの値は、血液治療期間の開始前にシステム1のオペレータによって入力されてもよく、又は実装に応じて、血液治療期間の前及び/又は血液治療期間中に制御装置(図1の40)によって計算されてもよい。そのようなパラメータは、1つ以上のマシン設定(MS)、例えば治療時間のうちの1つ以上、患者から除去されるべき総流体、血液流量(Q)、透析流体流量(Q)、流出流量(Q)、透析器の上流の代替流体の流量(QPRE)、透析器の下流の代替流体の流量(QPOST)、限外濾過流量(QFIL)、クエン酸塩含有流体の流量(QPBP)、クエン酸塩用量(DCIT)など)を含んでもよい。ブロック410がシステム1内のセンサ、例えば、流量センサ、ポンプ速度センサなどから1つ以上のマシン設定を取得することも考えられる。マシン設定(MS)のうちの1つ以上は、オペレータ又は制御装置によって治療期間中に変更することができ、計算ブロック410は、変更されたパラメータ値を事前定義された計算アルゴリズムに入力することによって、そのような変更を考慮するように構成されることに留意されたい。
【0123】
このオペレータはまた、ヘマトクリット(H)、アルブミン濃度(Alb)、重炭酸塩濃度(HCO)、重量(W)、血液pH(pH)等のような患者パラメータ(PP)の現在の値を入力してもよい。濃度値及びpHは、患者の血液の実験室分析によって与えられてもよく、あるいは後の検索のためにメモリ(図1の42)に予め格納されてもよい。
【0124】
図6のシステムパラメータ(SP)の例に関して、クリアランスパラメータKCa、KCITは、関数f0,5によって計算されるのではなく、固定値である限り、入力データに含まれてもよいことに留意されたい。図6のパラメータ例に加えて、オペレータはまた、流体源13、20、21、22、23(図2)のうちの1つ以上の中の流体のタイプを示してもよく、その結果、この流体の組成はブロック410に知られる。例えば、所定のアルゴリズムは、流体のいずれかにおいて存在する場合、カルシウム又はクエン酸塩の濃度を考慮するように構成されてもよい。
【0125】
図4のシステムは、図3のRCAモニタリング300を実装してもよい。したがって、計算モジュール410は、ステップ301に従って全身イオン化カルシウム(iCaSYS)の現在の測定値を表す現在の測定データ402を取得するように構成されてもよい。モジュール410はさらに、測定データ402及びさらなる入力データ403~406に対して所定のアルゴリズムを動作させることによって、透析後イオン化カルシウム(iCa)の現在の値を含む1つ以上の現在の計算値を計算し、出力するように構成され得る。図4に示されるように、モジュール410からの出力データは、全身総カルシウム(CaSYS)の現在値、全身総クエン酸塩(CITSYS)の現在値、カルシウム比(RCa)の現在値、及び全身イオン化カルシウム(iCaSYS)の現在測定値のうちの1つ以上をさらに含んでもよい。
【0126】
図4のシステムは、計算モジュール410から出力データを受け取り、それに基づいて、例えば図3のステップ303に従って、1つ以上のモニタリング動作を実行するように構成されたモニタリングモジュール420をさらに備える。図示の例では、モニタリングモジュール420が決定支援サブモジュール421、提示サブモジュール422、及び安全チェックモジュール423を備える。
【0127】
決定支援モジュール421は、RCAと組み合わされた血液治療のための、予め定義され、臨床的に証明されたプロトコル407を取得するように構成される。プロトコル407はその様式及び流体の組成など、現在の血液治療システム1に合わせて調整することができ、使用することができる透析器のタイプ、個々の機械設定の許容範囲などが定義されてもよい。さらに、プロトコル407は、モジュール410からの出力データの許容範囲と、出力データが許容範囲の外にあるときにとられるべき補正措置とを定義してもよい。RCAと組み合わせた血液治療のプロトコルは、経験と広範な検査に基づいて定義される。例えばInt J Crit Care Emerg Med 2018、4:054に掲載されたDaga-Ruizらの論文"Regional Citrate Anticoagulation in Continuous Renal Replacement Therapies"に記載されている、いわゆるKalmarプロトコル、又は特定のクリニック又はクリニックプロバイダのためのローカルプロトコルなど、ユニバーサルプロトコルを含む多くの利用可能な治療プロトコルがある。決定支援モジュール421は、プロトコル407を処理して、iCa、CaSYS、iCaSYS、RCa、及びCITSYSのうちの1つ以上などの出力値の範囲を、取られるべき補正措置と関連付けるルールのセットを定義するように構成されたロジックを備える。このロジックはさらに、モジュール410からの出力データを規則のセットと比較し、その比較に基づいて、システム1の任意の設定がRCAの性能を改善するために変更されるべきかどうか、及びどのように変更されるべきかを決定するように構成される。それに基づいて、モジュール421は、オペレータに提示するための1つ以上の動作推奨408を、たとえば表示装置45上に出力することができる。推奨408は例えば、変更されるべき1つ以上の機械設定及び所望の方向又は変化量を示してもよい。
【0128】
提示サブモジュール422は、表示装置45上での提示のために出力データをフォーマットし、提供するように構成される。例えば、出力データは、現在の値及び/又は傾向をオペレータに示すために提示されてもよい。
【0129】
安全チェックモジュール423は、出力データを、予め定義されメモリに格納されるか、又はプロトコル407によって与えられる1つ以上の動作限界と比較し、出力データと動作限界との間の偏差が検出されるときはいつでも、警報デバイス430に可聴及び/又は可視警報信号を生成させるように構成される。同時に、安全チェックモジュール423は、システム1に患者の健康を保護するように構成された安全動作モードに入らせてもよい。
【0130】
また、モニタリングモジュール420を制御モジュールと組み合わせて、図4のシステムが例えばプロトコル407を考慮して、出力データに基づいて機械設定に対する適切な変更を自動的に決定し、それに応じて血液治療システム1のための1つ以上の制御信号(図1の信号S1~S7参照)を調整するように構成され、場合によっては、入力デバイス44の使用を介してオペレータによる確認を受けるようにすることも考えられる。
【0131】
図7は例えば、図1の装置40上に実装された場合に、図4の計算モジュール410によって実行され得る計算方法のフローチャートである。ステップ701~704において、化学パラメータCP、生理学的パラメータPP、システムパラメータSP、及び機械設定MSが初期化され、対応する変数がインスタンス化され、値が割り当てられる。図示の例では、この値は入力デバイス44を介して入力され、メモリ42に記憶され、そこから値が手順701~704で読み出される。前述の議論から理解されるように、いくつかの値は例えば、デバイス40の構成中に、血液治療のかなり前に入力され得、一方、他の値は、特定の治療期間のための準備において、オペレータによって入力され得る。ステップ705において、カルシウム及びクエン酸塩のクリアランス(KCa、KCIT)が、例えば関数f0,5又は任意の同等の関数の使用によって計算される。変形例では、これらのクリアランスは等しく設定され、カルシウム及びクエン酸塩の一方について計算される。さらに別の変形例では、システムパラメータの中にKca、KCITの固定値が含まれる。ステップ706において、全身総クエン酸塩CITSYSはCITに設定される。ここで、この計算方法は、血液治療期間中のRCAモニタリングの一部として計算を実行するために準備される。
【0132】
RCAが開始したことを通知された後(ステップ707)、ステップ708で治療時間(t)のカウンタをゼロに設定する。ステップ709において、この計算方法は、治療時間がサンプリング時点(t)に等しくなるまで待機する。この時点で、本方法はステップ710に進み、ここで、t=tでの関数fを評価することによって、サンプリング時点での全身総クエン酸塩の予測値を計算する。ステップ711では、全身イオン化カルシウムiCaSYSの測定値が、入力デバイス44を介したユーザ入力によって、又はコネクション52(図1)を介した血液分析装置50から得られる。ステップ712では、測定値及び予測値(ステップ710によって与えられる)に対する関数fを動作させることによって、透析後イオン化カルシウムiCaの値が計算される。ステップ713において、全身総カルシウムCaSYSの現在値が、測定されたiCaSYSの値に対する計算関数fを動作させることによって計算される。ステップ714において、カルシウム比RCaは、iCaSYS及びCITSYSの現在の値に基づいて計算される。ステップ715において、iCaSYS、iCa、CaSYS、RCa、及びCITSYSの現在の値が出力され、その後、本方法はステップ709に戻り、次のサンプリング時点を待機する。一実施形態では、このサンプリング時点が予め定義され、例えば、メモリ42に格納されたデータ構造によって与えられる。あるいは又は追加的に、次のサンプリング時点は、測定されたiCaSYSの値が得られるときはいつでも暗示されてもよい(ステップ711参照)。
【0133】
図8Aは、図7の計算方法の実行中に実行され得る計算のシーケンスをグラフで示す。白丸は測定値を表し、黒丸は計算値を表し、矢印はそれぞれの計算に用いた値を表す。図7Aのグラフは、最初の3時間は1時間毎に、次に4時間毎に測定が行われると仮定している。このような各測定(サンプリング時点)において、iCaの現在の値を計算するために、iCaSYSの測定値とともに、CITSYSの現在の値が投影され使用される。iCaSYSの測定値はさらに、CaSYSの現在の値を計算するために使用され、その現在値はiCaSYSの測定値と共に、CaSYSの現在の値を計算するために使用される。図示された例では、CITSYSの現在の値が、CITSYSの以前の値に基づいて投影されると仮定される。別の例では、関数fを使用して、t=tにおけるCITSYSの値(CIT)に基づいて、CITSYSの現在の値が投影される。
【0134】
図3を参照して説明したように、ステップ301~302は代替的に、全身総カルシウムCaSYSの測定値を取得し、そのCaSYSの測定値に基づいて、透析後イオン化カルシウムiCaの現在の値を計算することができる。そのような実施形態は、図4のシステムの調整によって実装されてもよく、そこで測定データ402は、iCaSYSに代わってCaSYSである。CaSYSの測定値に基づくiCaの現在値の計算は、異なる方法で実装されてもよい。いくつかの非限定的な例を以下に示す。
【0135】
第1の例では、第7の関数f0,7が、関数f0,6内の変数の単純な再配置によって、CaSYSの関数としてiCaSYSを生成するために提供される。
iCaSYS=f0,7(CaSYS、Alb、HCO、pH、EQCaX、iCIT、iCaREF、iP)
【0136】
第1の例では、図4を参照すると、ブロック401は、全身総カルシウムに基づいて全身イオン化カルシウムを計算するための最終関数iCaSYS=f(CaSYS)をf0,7に基づいて定義し、関数f、f、fのセットを計算モジュール410に提供することを含むことが分かる。したがって、図7の計算方法は、CaSYSの測定値を取得するステップ711、CaSYSの測定値において関数fを動作させることによってiCaSYSの値を計算するステップ712、iCaの値を計算し、iCaSYSの計算値及びCITSYSの予測値(ステップS710により得られる)において関数fを動作させるステップ713によって調整されてもよい。図8Bは、そのような調整された計算方法の実行中に実行され得る計算のシーケンスをグラフで示す。
【0137】
第2の例では、図4を参照すると、ブロック401は、全身総カルシウム及び全身総クエン酸塩に基づいて透析後イオン化カルシウムを計算するための最終関数iCa=f (CaSYS,CITSYS)に関数f0,1、f0,2、f0,3、f0,5を組み合わせること、及び計算モジュール410に関数f 、f、fのセットを提供することを含むことがわかってもよい。
【0138】
第3の例では、ブロック401は、全身Ca及び全身CITに基づいて全身iCaを計算するための線形関数f0,7 を導出するための関数f_iCaextのさらなる線形化を含むことがわかってもよい。この線形化は、図5を参照して例示されるように、患者の血液中の総カルシウム(CaREF_2)及び総クエン酸塩(CITREF_2)についての基準値値によって与えられる基準点pREF_2で実行されてもよい。このような線形関数は、次式で与えられる。
【数11】
【0139】
ここで、β0_2、β1_2、及びβ2_2は、線形化によって与えられる定数である。関数fとの類推により、関数f0,2、f0,3、f0,4、f0,5、f0,7 は、最終関数iCaSYS=f (CaSYS,CITSYS)を形成することがわかってもよい。したがって、第3の例では、ブロック401が関数f、f、f のセット、又はf 、f、f のセットを計算モジュール410に提供してもよい。
【0140】
図7の計算方法の有用性は、ST150セットを備えた、主にモダリティCVVHDFで動作するCRRTマシン(バクスター社のPrismaflex(登録商標))による血液治療を施した場合の、複数の患者について得られる測定データに基づいて評価された。透析後イオン化カルシウムiCaの値は、全身イオン化カルシウムiCaSYSの測定値に基づいて計算され、透析後イオン化カルシウムの測定値と比較された。この測定値は、図1を参照して説明したように、血液サンプリング及びBGA解析によって得た。図9Aは計算されたiCa値平均対測定されたiCa値平均の比較であり、図9Aの各データ点は、それぞれの患者についての計算値及び測定値の時間平均をそれぞれ表す。図9Bは、治療期間中の個々の計算されたiCa値と測定されたiCa値との間の差の一例を示す。図9Cは、複数の患者について計算されたiCa値と測定されたiCa値との間の平均差のグラフである。図9Cのデータ点の平均値は0.013mmol/Lであり、標準偏差は0.019mmol/Lである。図9Dは、図9Cにおける複数の患者について計算されたiCa値と測定されたiCa値との間の差の標準偏差のグラフである。標準BGAが典型的に±7.5%の公称精度を有し、BGAが0.2~0.5mmol/Lの範囲のイオン化カルシウムの測定について、又は高濃度のクエン酸塩を有する血液サンプルについて認証されていないことを考慮すると、図9A~9Dの結果は、その計算方法がRCAを伴う血液治療のためのシステムにおける透析後イオン化カルシウムの測定を置き換えるために有用であることを示す。
【0141】
本発明は現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものに関連して説明されてきたが、本発明は開示された実施形態に限定されるべきではなく、反対に、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれる種々の変形及び同等の構成を包含することが意図されることを理解されたい。
【0142】
さらに、図面には動作が特定の順序で示されているが、これは、望ましい結果を達成するために、そのような動作が示された特定の順序で、又は連続的な順序で実行されること、又は示されたすべての動作が実行されることを必要とするものとして理解されるべきではない。特定の状況では、マルチタスキング及び並列処理が都合がよい場合がある。さらに、上述の実施形態における様々なシステム構成要素の分離は、すべての実施形態においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではない。図4に戻ると、ブロック400は、拡張モデルを定義するための準備段階を表すだけでなく、図4に破線で示されるように、測定データが入力データ402よりもかなり低い速度で得られる、測定データに基づいて拡張モデルを適応させるように構成される動作モジュールであってもよい。この測定データMは、患者の血液中及び/又はEC回路10内の任意の位置における血液中のカルシウム、総カルシウム、又は総クエン酸塩のうちの1つ以上の形態の測定量を含んでもよい。一例では、この測定データMが測定値を含むことができ、ブロック400は、測定されたCaSYS値を、測定されたiCaSYS値(入力データ402を参照)においてf0,6を動作させることによって得られる計算されたCaSYS値と比較することによって、関数f0,6を調整してもよい。別の例では、この測定データMは測定されたCITSYS値を含んでよく、ブロック400は、この測定されたCITSYS値を、治療時間関数としてのf0,4によって与えられる計算されたCaSYS値と比較することによって、関数f0,4を調整してよい。さらに別の例では、測定データMは測定されたiCa値及び測定されたCa値を含んでよく、ブロック400は、この測定されたiCa値を、測定されたCa値においてF_iCaextを動作させることによって得られる計算されたiCa値と比較することによって、拡張関数f_iCaextを調整してよい。
【0143】
これに対応して、図4にも示すように、ブロック401は、例えば関数f、f 、f、f、f、f のいずれか1つを調整することによって、測定データMに基づいて縮小モデルを適応させるように構成された動作モジュールであってもよい。
【0144】
線形関数f0,1は、ブロック401において、システム1の理論的モデル化によって与えられる拡張関数の線形化によって導出される必要はなく、代わりにのiCa、Ca、及びCITの時間座標測定値の線形回帰分析によって導出されてもよいことに留意されたい。これに対応して、線形関数f0,7 は、iCaSYS、CaSYS、及びCITSYSの時間座標測定値の線形回帰分析によって導出されてもよい。さらなる変形形態では、拡張モデルがイオン化カルシウムと、CaAlb、CaHCO、CaPO4、CaCit、及びCaCit2のうちの1つ以上とを含む、血液中のカルシウムの各関連形態についてのそれぞれの拡張関数を含む。これに対応して、縮小モデルは各関連形式についてそれぞれの線形関数を含んでよく、それぞれの線形関数は、変数Ca及びCIT(図5を参照)に関するそれぞれの拡張関数の線形化によって得られる。この縮小モデルはまた、loc1とloc3との間の質量流量バランスを考慮することによって、loc3(図2)における総カルシウム及び総クエン酸塩を計算するための関数を含んでもよい。この縮小モデルは、透析膜を通るカルシウムのそれぞれの形態の損失(クリアランス)を計算するための1つ以上の関数、ならびに患者におけるCITSYSを予測するための関数(fを参照)をさらに含んでもよい。線形関数に基づいて、計算モジュール410は、CaSYSの測定値に基づいて、患者の血液中のカルシウムのそれぞれの形態の量を計算するように構成されてもよい。さらに、モジュール410は、loc2における総カルシウム、すなわちCaを得るために、loc3におけるそれぞれの形態のカルシウムの量を計算し、透析膜を通るそれぞれの損失を計算及び除去し、異なる形態のカルシウムの残りの量を合計するように構成されてもよい。モジュール410はまた、loc2における総クエン酸塩、すなわちCITを得るために、全身総クエン酸塩(CITSYS)の現在値を計算し、loc3における対応する総クエン酸塩を計算し、透析膜を通る総クエン酸塩の損失を計算及び除去するように構成されてもよい。次いで、モジュール410は、iCaを得るためにCa及びCITにおけるイオン化カルシウムについての線形関数を動作させるように構成されてもよい。測定値(402)が代わりにiCaSYSを表す場合、モジュール410はさらなる計算に使用するための計算されたCaSYS値を取得するために、測定されたiCaSYS値において関数fを動作させるように構成されてもよい。
【0145】
前述の説明は、治療プロトコルが図2のloc2において透析器の下流のイオン化カルシウム(透析後イオン化カルシウム)のモニタリングを規定するという仮定に基づいている。背景技術の項で述べたように、治療プロトコルは代替的に又は追加的に、イオン化カルシウムを、図2のloc3において透析器の上流でモニタリングすべき(透析前イオン化カルシウム)であると規定してもよい。上述のブロック400(図4)の説明から理解されるように、loc3と関連する計算関数を得るための分析は、loc2と関連する計算関数を得るための分析のサブセットである。したがって、前述の教示は、例えば図2の破線のボックスによって示されるように、総カルシウムCa及び総クエン酸塩CITに基づいて、血液中のイオン化カルシウムiCaを表す計算値を生むために、(計算ブロック410で使用される)所定のアルゴリズムを当業者が容易に修正することを可能にする。例えば、図10を参照すると、f0,1はiCaとCaとの間の関数関係を定義するように調整されてもよく、f0,2はCaとCaSYSとの間の関数関係を定義するように調整されてもよく、f0,3はCITとCIYSYSとの間の関数関係を定義するように調整されてもよい。図11は、透析前イオン化カルシウムに基づく血液治療期間中のRCAの性能モニタリングのための例示的な方法300’のフローチャートである。ステップ301’~304’は図3のステップ301~304に対応し、さらに詳細に説明する必要はない。
【0146】
[命名リスト]
Alb:アルブミン濃度(mmol/L)
HCO:重炭酸塩濃度(mmol/L)
CaREF:loc2での線形化基準点における総カルシウム濃度(mmol/L)
CaREF_2:loc1での線形化基準点における総カルシウム濃度(mmol/l)
Ca:位置xにおける総カルシウム濃度(mmol/L)
CaSYS:患者の血中総カルシウム濃度(mmol/L)
Ca:loc2における血中総カルシウム濃度(mmol/L)
Ca:loc3における血中総カルシウム濃度(mmol/L)
CaPW2:loc2における血漿中総カルシウム濃度(mmol/L)
CITREF:loc2での線形化基準点におけるクエン酸塩の総濃度(mmol/L)
CITREF_2:loc1での線形化基準点におけるクエン酸塩の総濃度(mmol/L)
CIT:位置xの血中総クエン酸塩濃度(mmol/L)
CIT:loc2における血中総クエン酸塩濃度(mmol/L)
CIT:loc3における血中総クエン酸塩濃度(mmol/L)
CITPBP:クエン酸塩含有流体中のクエン酸塩濃度(mmol/L)
CITPW2:loc2における血漿水中の総クエン酸塩濃度(mmol/L)
iCaSYS:患者の血中イオン化カルシウム濃度(mmol/L)
iCa:loc2における血中イオン化カルシウム濃度(mmol/L)
iCa:loc3における血中イオン化カルシウム濃度(mmol/L)
iCIT:患者の血中イオン化クエン酸塩濃度(mmol/L)
iP:患者の血中イオン化リン酸濃度(mmol/L)
CIT:クエン酸塩用量(mmol/L血液)
EQCaHCO3:CaHCO3の平衡会合定数(L/mmol)
EQCaCO3:CaCO3の平衡会合定数(L/mmol)
EQCaP:CaPの平衡会合定数(L/mmol)
EQCIT: CaCitの平衡会合定数(L/mmol)
EQCIT2:CaCit2の平衡会合定数(L/mmol
fwp:血漿水分画
DIL:透析器到達時の血漿水希釈率
CAL:クエン酸塩注入後、透析膜を通して移すために、血漿水中で利用可能になった患者の総血漿カルシウムの画分
MET:患者の体内におけるクエン酸塩の代謝生成(mmol/時)
H:患者血液のヘマトクリット値1
:物質Yの透析装置の物質移動面積係数(mL/h)
BODY:患者の体内クエン酸塩クリアランス(L/h)
:透析器内の物質Yの血漿クリアランス(L/h)
Ca:透析器内のカルシウムの血漿クリアランス(L/h)
CIT:透析器中のクエン酸塩の血漿クリアランス(L/h)
:患者の血流量(mL/min)
:透析液流量(mL/h)
:流出液流量(mL/h)
PW:血漿水流量(mL/h)
PW1:透析器入口血漿水流量(mL/h)
POST:透析器下流の代替液流量(mL/h)
PRE:透析器上流代替液流量(mL/h)
PBP:クエン酸塩含有液の流量(mL/h)
FIL:限外ろ過速度(mL/h)
t:RCA開始からの時間(h)
:クエン酸塩分布量(L)
W:患者の体重(kg)
α:ドナン係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
【国際調査報告】