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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(54)【発明の名称】還元型酸化グラフェン
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20220721BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20220721BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20220721BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20220721BHJP
【FI】
C01B32/198
C01B32/184
H01G11/36
H01G11/62
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569357
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 AU2020050507
(87)【国際公開番号】W WO2020237289
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】2019901781
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】シャリフザデー,メイサム
(72)【発明者】
【氏名】マジュムダー,マイナク
(72)【発明者】
【氏名】バナジー,パラマ チャクラボルティ
(72)【発明者】
【氏名】シャイバニ,マードクト
(72)【発明者】
【氏名】クーレイ,ディルーシャ
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC20B
4G146AC27B
4G146AD23
4G146AD24
4G146BA01
4G146CB10
4G146CB13
4G146CB40
4G146DA03
5E078AA15
5E078AB01
5E078BA15
5E078DA05
5E078DA06
(57)【要約】
酸化グラフェン(GO)を還元する方法であって、液体媒体にてGOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させて、それによって、溶解したヨウ化物がGOを部分的に還元して、部分的に還元されたGO(prGO)および溶解したヨウ化物を含む液体組成物を得る工程、液体組成物から液体媒体を除去して、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層を形成する工程、およびグラファイト層に紫外線を照射して、prGOを更に還元し、還元型酸化グラフェンを提供する工程を含む方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェン(GO)を還元する方法であって、
液体媒体にてGOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させて、それによって、溶解したヨウ化物がGOを部分的に還元して、部分的に還元されたGO(prGO)および溶解したヨウ化物を含む液体組成物を得る工程、
液体組成物から液体媒体を除去して、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層を形成する工程、および
グラファイト層に紫外線を照射して、prGOを更に還元し、還元型酸化グラフェンを提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記GOおよび前記ヨウ化物が、約1:2~約4:1のGO:ヨウ化物の重量比で、前記液体媒体に提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記GOが、約0.1g/L~約500g/Lの濃度で前記液体媒体にて懸濁している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体媒体が水を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体組成物から前記液体媒体を除去する前に、基材に前記液体組成物を付着させる工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記液体組成物を基材に付着させる工程が、前記基材の表面に前記液体組成物をドロップキャスト、スピンコート、ディップコート、スプレーコーティング、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、ロッドコーティング、テープキャスト、またはスロットダイキャストすることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記基材が、ポリマー基材、セラミック基材、および金属基材から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記基材が電極用集電体である、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記紫外線がUVC範囲内の波長を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記紫外線が単色紫外線である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記単色紫外線が約254nmの波長を有する、請求項10の方法。
【請求項12】
前記紫外線が約1~約100mW/cmの強度を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
prGOおよびヨウ化物を含む前記グラファイト層が、約10分~約24時間照射される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヨウ化物が、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびそれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属ヨウ化物である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法で得られた還元型の酸化グラフェン。
【請求項16】
請求項15に記載の還元型の酸化グラフェンを含む電極。
【請求項17】
ヨウ化物をインターカレートした還元型酸化グラフェンのシートを含むグラファイト材料。
【請求項18】
請求項17に記載のグラファイト材料を含む電極。
【請求項19】
請求項16または18に記載の電極を含むスーパーキャパシタ。
【請求項20】
リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、およびそれらの組み合わせから選択される塩を含む電解質を有する、請求項19に記載のスーパーキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン(GO)を還元するための方法、特に還元型GOを提供するための方法、および対応する還元型GOに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化グラフェン(GO)は、グラフェンの酸化形態であり、酸素含有基がグラフェン構造を形成するグラファイト基底面に結合している。グラフェンに比べて、GOは電気伝導性が低い。しかし、GOを還元してその構造から酸素含有基を取り除くことで、GOの電気伝導特性を改善することができる。GOを還元することでπ共役が復元され、その結果、熱伝導性や電気伝導性が向上する。現在、一般的には、GOの熱的、化学的、または光化学的な還元方法を含む、多数の利用可能なGOの還元方法がある。
【0003】
GOの熱的還元には、GOを熱にさらす必要がある。手順は簡単だが、GOの熱的還元は、還元されたGOの構造内に強いπ‐π相互作用が形成されるため、グラフェンシートの不要な再積層を促進する。再積層を防ぐために、さまざまな対応策が提案されているが、この問題はまだ解決されていない。更に、熱的還元されたGOの製造にはエネルギーが必要であり、還元されたGOの大規模な製造には持続性がないと考えられる。
【0004】
化学的還元法では、GOを強力な還元剤の溶液にさらする。従来の方法では、このような還元剤には、NaBH、ヨウ化水素酸(HI)、ヒドロキノン、硫黄化合物、ヒドラジン、およびヒドラジン誘導体が含まれる。しかし、これらの還元剤には毒性や爆発性があるため、GOの化学的還元は小規模な実験室での使用に限定される。
【0005】
また、熱的還元、化学的還元ともに、還元されたGOを乾燥した状態で基材上に大量に供給することは本質的に不向きである。また、従来の方法では、高温や反応性のある化学薬品に対応できる基材材料が非常に限られていた。
【0006】
光化学的還元では、GOに放射線を照射する。一般的には、光電子源および還元補助剤として光触媒添加剤をGOに加え、放射線による酸素含有基の除去を促進する必要がある。しかし、この添加剤は、還元されたGOに汚染物質として残留する傾向があり、電気・電子デバイスへの適用性を著しく低下させていた。
【0007】
つまり、GOを還元する既存の方法は、エネルギー需要、安全性、適用性などに制限があり、その結果、環境問題、高コスト、限られた拡張性、非効率性に悩まされることになる。そのため、先行技術の1つ以上の欠点や制限に対処したり改善したり、あるいは少なくとも有用な代替手段を提供する機会がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、酸化グラフェン(GO)を還元する方法を提供するものであり、この方法は、(i)液体媒体にてGOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させて、それによって、溶解したヨウ化物がGOを部分的に還元して、部分的に還元されたGO(prGO)および溶解したヨウ化物を含む液体組成物を得る工程、(ii)液体組成物から液体媒体を除去して、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層(または黒鉛層;graphitic layer)を形成する工程、および(iii)グラファイト層に紫外線を照射して、prGOを更に還元し、還元型酸化グラフェンを提供する工程を含む。
【0009】
本発明の方法における化学的還元および光還元工程の特定の順序は、GOの効率的かつ高度に制御可能な還元を提供することができる。有利なことに、ヨウ化物と紫外線を使用することで、有害・有毒な試薬や、過酷な実験条件を必要としない。その結果、提案された方法は、還元型GOの大量生産を有利に実現することができる。
【0010】
ヨウ化物の使用は、本方法の工程(i)と工程(iii)の両方において、GOの全体的な還元を促進する。また、液体媒体中では、溶解したヨウ化物がGOの部分的な還元を促進する。紫外線照射中、ヨウ化物の存在は、従来の方法で得られた還元型GOと比較して、より高い導電性を有する還元型GOをもたらすprGOの還元速度を加速すると考えられる。
【0011】
prGOとヨウ化物を含む液体組成物は、有利にも安定しています。特に、液体組成物は、長期間にわたってprGOの相分離を示さない。その結果、液体組成物は、有利には、界面活性剤などの分散剤で安定化させる必要がなく、長期間保存することができる。このことは、液体媒体が水である場合に特に有利であり、水の中に界面活性剤も混合されていない限り、prGOの懸濁液は一般に不安定であり、短時間で沈降する傾向がある。
【0012】
いくつかの実施形態では、GOとヨウ化物は、約1:2~約4:1のGO:ヨウ化物の重量比で、液体媒体に提供される。それらの特定の比率は、有利には、GOの部分的な還元を行いつつ、添加された界面活性剤の助けを借りずに長期間にわたって特に安定したprGOおよびヨウ化物の液体組成物を提供することを可能にする。言い換えれば、これらの重量比でヨウ化物を使用することで、還元の程度と懸濁液のゼータ電位の低下との間の有利な妥協が得られ、その結果、安定性が向上する。
【0013】
いくつかの実施形態では、本方法は、液体組成物から液体媒体を除去する前に、PrGOおよび溶解したヨウ化物を含む液体組成物を基材上に付着させる(deposit)工程を含む。その後、液体組成物から液体媒体を除去することで、基材上にprGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層を固化する(consolidating)ことができる。固化層の紫外線照射により、本発明の方法は、従って、デバイス用の広範な基材上に、還元型GOのグラファイト層を大量に提供することが可能となる。
【0014】
いくつかの実施形態では、基材は、電極用の集電体である。従って、本発明の方法は、広範囲の電気デバイスの電極に使用するための還元型GOのグラファイト層を大規模に製造するのに特に有利である。得られた電極は、従来の還元型GO系の電極よりも優れたイオン輸送特性を示し、スーパーキャパシタでの使用に特に適している。
【0015】
本発明の態様は、本発明の方法で得られた還元型のGO、および本発明の方法で得られた還元型の酸化グラフェンを含む電極にも関する。
【0016】
本明細書中に記載の方法で得られる酸化グラフェンの還元体は、それ自体がユニークであると考えられる。
【0017】
従って、本発明は、ヨウ化物をインターカレートした還元型酸化グラフェンのシートからなるグラファイト材料も提供する。
【0018】
いくつかの態様では、本発明は、このようなグラファイト材料を含む電極、およびこの電極を含むスーパーキャパシタにも関する。
【0019】
本発明のグラファイト材料は、ヨウ化物をインターカレートした還元型GOのシートを有することにより、従来の還元型GOに比べて有利に優れたイオン輸送特性を示し、特に電極への使用に適している。更に、それらの電極で作られたスーパーキャパシタは、従来の還元型GOで作られたスーパーキャパシタよりも大きな重量比容量(gravimetric capacitance)と、著しく改善された定格容量(rating capability)を有利に有している。複合体の特定の構造は、デバイス内に低い等価直列抵抗(ESR)を提供することを容易にし、優れた超静電容量性能および定格容量をもたらす。
【0020】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下、実施形態を、以下の非限定的な図面を参照して説明する。
図1】部分的に還元されたGOおよびKIの水懸濁液をスライドガラス上にドロップキャストし、次いで乾燥させることによって得られた部分的に還元されたGO/KIグラファイト層のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
図2】(i)乾燥したGO、(ii)部分的に還元されたGOとKIの1:2(重量比)の水懸濁液をスライドガラス上にドロップキャストし、乾燥させて得られた部分的に還元されたGO/KIグラファイト層(GO:KI(1:2)として示される)、および(iii)紫外線照射後に得られた還元されたGOの層(UV(GO:KI)(1:2)として示される)のラマンスペクトルおよび対応するI/I比を示す。
図3】(a)KI粉末および(b)乾燥GOの高分解能C1s‐X線光電子分光(XPS)スペクトルおよび対応するO/C比を示す。
図4】(a)GO:KI(1:2)グラファイト層、(b)UV(GO:KI)(1:2)グラファイト層、(c)UV光照射後の乾燥GO層(UV(GO))の高分解能C1s‐X線光電子分光(XPS)スペクトルおよび対応するO/C比を示す。
図5】GOのX線回折(XRD)パターン、スライドガラス上に形成されたGO:KI(1:2)グラファイト層、およびUV照射後の対応するグラファイト層UV(GO:KI)(1:2)を示す。
図6】GOの水懸濁液、並びにGO:KIの重量比4:1、2:1、1:1、1:2に応じて、GOとKIを水中で化合させて得られた部分還元型GOの懸濁液のゼータ電位値を示す。
図7】KI粉末、GO:KI(1:2)グラファイト層、およびUV(GO:KI)(1:2)グラファイト層の高分解能I3d‐XPSスペクトルを示す。
図8】金属集電体上にUV(GO:KI)(1:2)グラファイト層を形成して得られた電極の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真を示す。
図9】(a)異なる走査速度で測定したUV(GO:KI)(1:2)電極を有するスーパーキャパシタのサイクリックボルタモグラム(cyclic voltammogram)、(b)UV(GO:KI)(1:2)電極の比容量の走査速度依存性、および(c)電極の電気インピーダンス挙動を示すナイキスト線図(Nyquist diagram)を示す。
図10】異なる電流密度で測定したUV(GO:KI)(1:2)電極を有するスーパーキャパシタの定電流充放電曲線(galvanostatic charge‐discharge curve)を示す。
図11】(a)UV(GO:KI)(1:2)電極を有する2Vのスーパーキャパシタのサイクリックボルタモグラムと、(b)2Vのスーパーキャパシタの定電流充放電曲線、および28.8mAの電流で測定した対応する1Vのスーパーキャパシタとの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、酸化グラフェン(GO)を還元する方法を提供するものである。
【0023】
本明細書中では、「酸化グラフェン」(または「GO」)という表現は、グラファイトを酸化して得られる炭素、酸素および水素から形成される化合物であり、酸素含有基が積層グラフェンシートの基底面に結合しているものを指す。
【0024】
本明細書中でいう「グラフェン」とは、典型的なsp結合の炭素原子がハニカム状の2次元結晶格子に密集した、厚さ1原子の平面シート構造を有する炭素の同素体を指す。共有結合した炭素原子は、典型的には6員環を構成する繰り返し単位を形成するが、5員環や7員環を形成することもある。このような共有結合した炭素原子の層は、一般にグラフェン「シート」と呼ばれている。
【0025】
グラフェンは、その化学的性質により、非常に安定した構造、高い導電性、高い靭性、高い強度、および大きな比表面積を有しており、これらはスーパーキャパシタの電極材料として望ましい特性となり得る。しかし、グラフェンから直接電極を作るには課題や限界がある。表面積が大きいにもかかわらず、グラフェンの単層を用いて形成されたスーパーキャパシタは、体積容量が限られる可能性がある。また、グラフェンシートを積層すると高い体積容量が得られるが、シート間のスペースが小さいため、表面へのイオンのアクセスが悪くなる可能性がある。更に、水性グラフェン懸濁液(すなわちグラフェン「インク」)は、界面活性剤で安定化させないと安定せず、これが汚染物質として作用して、得られるグラフェン系の電極の導電性に影響を与える可能性がある。同様に、有機系のグラフェンインクは、通常、界面活性剤で安定化され、トルエン、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などの有害な溶剤に懸濁して提供される。更に、従来のグラフェンの製造方法は、大量のエネルギーを消費し、高コストであるため、大量生産には適していない。
【0026】
従って、実用的には、未変性グラフェンから直接電極を形成するよりも、GOを還元してグラフェンに似た構造を持つ導電層を製造することが好ましい。GOは、水などの極性溶媒に容易に懸濁するため加工が容易であり、比較的安定したインクを得ることができるため、ダイキャストやテープキャストなどの様々な成膜技術に使用することができる。更に、GOを還元することで、導電性グラフェンのような構造を提供することができる。この構造は、未変性グラフェンの直接的な適用性を制限する限られた体積容量の影響を受けない導電性特性を持っている。
【0027】
構造的な観点から、典型的にはsp結合した炭素原子の平面的なシートがハニカム状の2次元結晶格子に密集している状態を、本明細書中では「グラファイト」構造と呼ぶ。従って、グラフェン、GO、および部分的に還元されたGOを含むすべての形態の還元されたGOは、「グラファイト」構造を共有していることが理解される。
【0028】
GOは、グラフェンの基底面に垂直に結合した酸素含有官能基を有する1枚以上のグラフェン炭素シートからなる電気絶縁性グラファイト材料である。本明細書中では、「酸素含有官能基」という表現は、酸化グラフェンシートの炭素原子に共有結合している、エポキシド、カルボニル、ヒドロキシル、およびフェノールなどの官能基を示す。一般的に、このような酸素含有官能基は、グラファイト上で行われる酸化反応の結果として生じる。
【0029】
GOの典型的なFTIRスペクトルは、カルボン酸およびカルボニル部位のC‐O、C‐OH、C=C、C=Oに関連するピークの存在を示す。これらのピークは、主にグラフェンシートのエッジに沿って検出されるが、基底面でも検出される。GOの酸素含有量は、好適な技術によって測定することができる。例えば、GOの酸素含有量および酸化度は、X線光電子分光法(XPS)によって測定することができる。典型的には、GOは、約2:1~約4:1、好ましくは約2.5:1~3:1の範囲にあるXPSによって決定された炭素と酸素(C:O)の比率を有する。
【0030】
本発明で使用するのに適したGOは、当業者に知られている任意の手段で得られてもよい。例えば、GOは、グラファイト上で酸化反応を行うことによって得られてもよい。その点で利用可能な手順の一例は、modified Hummer's method(または改良ハマー法)として知られており、HSO、KMnO、H、およびHClなどの強力な酸化剤にグラファイトを順次暴露することにより、グラファイト粉末を化学的に酸化することを含む。それらの手順の詳細な説明は、Hummers、W.S.らの「Preparation of Graphitic Oxide」、J.Am. Chem. Soc.1958、Volume 80、1339頁、およびStankovich、 S.らの「Synthesis of Graphene‐Based Nanosheets via Chemical Reduction of Exfoliated Graphite Oxide」、Carbon 2007、Volume 45、1558~1565頁に記載されており、これらの内容が全体として本明細書中において援用される。
【0031】
GOは、還元できるものであれば、どのような形態で提供されてもよい。いくつかの実施形態では、GOは、マルチシートGOの形態で提供される。その形態では、GOのグラファイト基底面がマルチシート配列で積層されている。他の実施形態では、GOは、シングルシート(または単層)GOの形態で提供される。その配置では、GOのグラファイト基底面は、単一の分離したシートとして提供される。
【0032】
本発明の方法は、液体媒体にてGOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させる工程を含む。
【0033】
GOを液体媒体に「懸濁させる」とは、GOが分散相として液体媒体に提供されることを意味する。すなわち、液体媒体にて懸濁したGOは、液体媒体中で目に見えて沈んだり浮かんだりしません。ヨウ化物」とは、ヨウ素が正式な酸化状態-1の化合物を意味し、通常は塩の形で提供される。従って、ヨウ化物を液体媒体に「溶解」させることで、ヨウ化物はイオンの形で媒体に溶解することになる。
【0034】
本明細書中では、液体媒体は、GOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させることができる任意の媒体であってよい。典型的には、液体媒体は、GOの均質な懸濁およびヨウ化物の溶解を確実にするために十分な極性を有する。例えば、液体媒体は、液体媒体の総重量に対して、少なくとも約50重量%の量の水を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、液体媒体は、液体媒体の総重量に対して、50重量%~100重量%、75重量%~100重量%、または90重量%~100重量%の量の水を含む。いくつかの実施形態では、液体媒体は水である。
【0035】
当業者に知られている任意の手順に従って、GOを液体媒体に懸濁させ、ヨウ化物を溶解させてもよい。例えば、GOを粒子またはフレークの形で液体媒体に懸濁させ、ヨウ化物を媒体に溶解させることでヨウ化物と化合させてもよい。これは、2つの成分の化合をもたらす方法であれば、どのような方法でも実現可能である。
【0036】
いくつかの実施形態では、GOはまず液体媒体に懸濁され、その後、ヨウ化物が懸濁液に溶解される。いくつかの代替的な実施形態では、ヨウ化物をまず液体媒体に溶解させてヨウ化物溶液を形成し、その後、GOをヨウ化物溶液に懸濁させる。更にいくつかの代替的な実施形態では、GOおよびヨウ化物は、液体媒体の2つの別々のアリコートに懸濁/溶解され、2つのアリコートはその後に結合される。
【0037】
GOは、目に見える沈降または浮遊がない状態で液体媒体に懸濁されていれば、どのような量で液体媒体に懸濁されていてもよい。いくつかの実施形態では、GOは、少なくとも0.1g/Lの濃度に従って液体媒体に懸濁される。例えば、GOは、少なくとも約1g/L、少なくとも約10g/L、少なくとも約20g/L、少なくとも約50g/L、少なくとも約100g/L、または少なくとも約500g/Lの濃度で液体媒体に懸濁している。いくつかの実施形態では、GOは、約0.1g/Lから約500g/L、約1g/Lから約500g/L、約10g/Lから約100g/L、または約10g/Lから約50g/Lの濃度に従って液体媒体に懸濁される。例えば、GOは、約20g/Lの濃度に従って液体媒体に懸濁してもよい。
【0038】
更に、ヨウ化物は、媒体へのヨウ化物の溶解およびGOの部分的な還元を確実にする、懸濁したGOに対する任意の量で使用することができる。例えば、GOとヨウ化物は、GOとヨウ化物の重量比が約1:50~約50:1、例えば約1:25~約25:1、約10:1~約1:10、または約5:1~約1:5になるように、液体媒体中に供給されてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、GOおよびヨウ化物は、GO:ヨウ化物の重量比が約1:2~約4:1、例えば約2:1~約4:1になるように液体媒体に提供される。特に、GOとヨウ化物は、GO:ヨウ化物の重量比が約2:1または約4:1に従って、液体媒体に提供されてもよい。いくつかの実施形態では、GOとヨウ化物は、GO:ヨウ化物の重量比が約1:2になるように液体媒体に提供される。これらの実施形態の特定の比率は、有利にも、GOの部分的な還元を行うことを可能にする一方で、添加された界面活性剤の助けを借りずに長期間にわたって特に安定したGO/ヨウ化物の懸濁液を提供する。特に、これらの実施形態における重量比は、懸濁液のゼータ電位を低下させながら、GOのわずかな減少を提供し、その結果、実施例、特に実施例3に記載されたデータに示されるように、安定性が改善されることが観察された。
【0040】
ヨウ化物は、GOを化学的に還元することができる任意のヨウ化物化合物であってよい。いくつかの実施形態では、ヨウ化物は、アニオンIの金属塩である。そのような塩の好適な例には、アルカリ金属ヨウ化物が含まれる。従って、いくつかの実施形態では、ヨウ化物はアルカリ金属ヨウ化物であり、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびそれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属ヨウ化物である。
【0041】
液体媒体にGOを懸濁させ、ヨウ化物を溶解させることで、GOとヨウ化物が結合し、ヨウ化物がGOを部分的に還元する。ヨウ化物がGOを「部分的に」還元する(GOがヨウ化物によって「部分的に」還元される)とは、ヨウ化物がGOの酸素含有官能基の一部を除去するように作用することを意味する。言い換えれば、GOとヨウ化物を組み合わせただけでは、GOの完全な脱酸は誘導されません。従って、ヨウ化物は、GOの酸素含有官能基の約100%未満、約75%未満、約50%未満、または約25%未満を除去することで、GOを部分的に還元することができる。
【0042】
GOの酸素含有官能基の大半は水酸基とエポキシ基である。このように、GOの効果的な部分還元を決定づけるのは、GO構造からヒドロキシル基とエポキシ基を除去することである。理論にとらわれることなく、溶液中のヨウ化物イオンがエポキシドの開環反応を触媒し、水酸基を形成すると考えられている。その結果、水酸基は脱水反応を起こして対応するオレフィンに変化し、GOのグラファイト基底面を残すと考えられる。また、ヨウ化物イオンが、GO構造を形成する炭素に直接結合している水酸基を直接置換することも排除されない。
【0043】
特に、ヨウ化物イオンは良好な求核剤として働き、水酸基とエポキシ基の両方に結合している炭素原子を攻撃すると考えられている。更なるヨウ化物イオンは、GOのC‐I結合の正電荷のヨウ素原子を攻撃して、良好な脱離基として働き、sp炭素原子をsp炭素原子に還元すると考えられる。つまり、溶解したヨウ化物によって促進されるGOの還元は、(a)水酸基を生じさせるエポキシドの開環、(b)ヨウ化物イオンによる水酸基の置換、(c)ヨウ素原子の脱離による還元されたGO、という3段階のメカニズムに従って進行すると考えられる。
【0044】
ラマン分光法は、GOがヨウ化物によって部分的に還元される程度を評価するために使用することができる。これは、約1600cm-1および約1350cm-1の波数におけるGOのラマンスペクトルのGバンド(IG)およびDバンド(ID)の強度の比率を考慮して行うことができる。1600cm-1付近のGバンドは、グラフェンのような配列に典型的な炭素環および炭素鎖中のすべてのペアのsp原子の結合伸張に関連して可能性があるが、約1350cm-1のDバンドは、特に、酸素含有官能基を含む欠陥の存在に関連する炭素環中のsp原子のブリージングモード(breathing mode)に起因する。
【0045】
これに関連して、ヨウ化物は、GOのラマンI/I比が、原始的なGO(すなわち、溶解したヨウ化物と接触する前)のI/I比に対して、50%未満、25%未満、10%未満、または5%未満に減少した場合に、GOを「部分的に」還元したと言うことができる。I/I比の減少は、グラフェンのようなハニカム構造の酸素含有官能基の除去およびC=C結合の復元に起因すると考えられる。従って、いくつかの実施形態では、本方法は、GOを懸濁させ、ヨウ化物を液体媒体に溶解させる工程を含み、ヨウ化物は、GOのI/I比が原始的なGOのI/I比に対して25%未満、例えば10%未満減少するように、GOを部分的に還元する。
【0046】
ヨウ化物は、GOの部分的な還元を確実にするのに有効な反応時間の間、GOを部分的に還元してもよい。ヨウ化物は、2つの成分が接触してから数秒以内にGOを効果的に部分的に還元すると考えられるが、液体組成物は、手順の実際の適用に適合する任意の期間、撹拌してもよい。例えば、液体組成物は、約10秒~約24時間の間、撹拌してもよい。いくつかの実施形態では、液体組成物は、約30分~約6時間の間、撹拌される。
【0047】
本方法はまた、液体媒体を除去して、部分的に還元されたGO(prGO)およびヨウ化物からなるグラファイト層を形成する工程を含む。
【0048】
液体媒体の除去は、当業者に知られている任意の手段で行うことができる。例えば、液体媒体の除去は、熱蒸発によって達成されてもよい。液体媒体が「除去される」とは、液体媒体の少なくとも75%が除去されることを意味する。いくつかの実施形態では、液体媒体の除去により、少なくとも80%、少なくとも90%、または約100%の液体媒体が排除される。
【0049】
液体媒体の除去により、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層が形成される。グラファイト層」とは、グラファイト構造を有する材料の層を意味する。この層の「グラファイト」性は、固有のグラファイト構造を有するprGOが層中に存在することによって得られる。本明細書中では、この表現は、液体媒体の除去によって生じるprGOおよびヨウ化物を含むあらゆる固化された塊(consolidated mass)を示すために使用される。このような固化された塊は、固体状形態で、prGOのグラファイトシートとヨウ化物から形成される3次元構造体として存在し、ヨウ化物は通常、シート内にインターカレートされた結晶性ヨウ化物として存在する。そのような構造体は、別々の独立した厚さ、長さ、および幅の寸法を有する。
【0050】
いくつかの実施形態では、本方法は、液体媒体を除去する前に、prGOと溶解したヨウ化物とを含む液体組成物を基材上に付着させる工程を含む。付着は、液体媒体の除去時に、基材の表面にprGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層が形成されることを条件に、当業者に知られている任意の手段に従って実行され得る。いくつかの実施形態では、液体組成物を基材に付着させることは、基材の表面に液体組成物をドロップキャスト、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、ロッドコーティング、テープキャスティング、またはスロットダイキャストすることからなる。その後、本明細書中に記載されているように、液体媒体を除去することによって、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層の形成が達成される。
【0051】
液体組成物を基材上に付着させた後、液体媒体を除去することで、基材上にprGOおよびヨウ化物を含む薄いグラファイト層を提供することができる。グラファイト層が「薄い」とは、従来のフィルムのような寸法特性が得られるように、その長さと幅の両方の寸法よりもかなり小さい厚さを有することを意味する。従って、基材上に形成される層は、層の構造的完全性に適合する任意の厚さを有することができる。例えば、層は、少なくとも約10nm、少なくとも約50nm、少なくとも約100nm、少なくとも約500nm、少なくとも約1μm、少なくとも約10μm、または少なくとも約100μmの厚さを有していてもよい。いくつかの実施形態では、層は、約10nmから約10μmの範囲の厚さを有する。
【0052】
液体組成物を付着させる基材は、液体組成物と相溶性のある任意の基材であってよい。その点、液体組成物を接触させる基材の表面の種類には特に制限はない。例えば、表面は、金属、ガラス、セラミック、複合材料、紙、ポリマー、布、またはそれらの組み合わせからなる基材の一部を形成していてもよい。表面は、平坦であっても、湾曲していても、起伏していてもよく、あるいは、液体媒体の除去によって生じるグラファイト層に付与されることを意図した定義された形状を有していてもよい。このようにして、基材の表面は、結果として得られるグラファイト層に形状および構成の特徴を付与するための型として効果的に機能することができる。
【0053】
いくつかの例では、基材は、集電体などの電極部品であってもよい。当業者であればわかるように、「集電体」とは、外部電気回路に接続されたスーパーキャパシタなどの電気デバイスとの間の電子の流れを促進する導電性の部品である。好適な集電体は、金属箔や金属グリッドなどの金属構造で構成されている。典型的には、集電体は、シートまたは薄層の形で存在し、電気を伝導するのに適した任意の材料で形成されてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、基材は、ニッケル、アルミニウム、スチール、銅、金、銀などから選択される導電性材料から形成された集電体である。いくつかの実施形態では、集電体は、透明な集電体である。例えば、集電体は、透明な導電性ポリマーまたは透明なセラミック導体から形成されていてもよい。いくつかの実施形態では、集電体は、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3、4‐エチレンジオキシチオフェン)‐ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT-PSS)コポリマー、ポリ(4、4-ジオクチルシクロペンタジチオフェン)、ポリ(3‐ヘキシルチオフェン)(P3HT)、およびこれらの組み合わせから選択される透明導電性ポリマーから形成される。いくつかの実施形態では、集電体は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、ランタンストロンチウムマンガン石(LSMO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびこれらの組み合わせから選択された透明セラミック導体から形成されている。いくつかの実施形態では、集電体は、導電性のカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト、またはカーボンナノチューブ(CNT)の層から形成されている。
【0055】
本発明の方法はまた、prGOおよびヨウ化物を含むグラファイト層に紫外線を照射して、prGOを更に還元し、酸化グラフェンの還元形態を提供する工程を含む。
【0056】
prGOおよびヨウ化物を含む層に紫外線を照射することは、当業者に知られている任意の手段によって行うことができる。典型的には、この工程は、好適な紫外線源から発せられる紫外線に層を曝すことを含む。
【0057】
理論によって制限されることを望まないが、層のUV照射は、prGOに存在する残留酸素含有官能基の光化学的還元を促進することができると考えられる。特に、UV照射の際には、酸素含有官能基とprGOのグラファイト基底面との間の化学結合に特徴的なエネルギー境界よりも高いエネルギーを有する光子が層に照射される。これにより、prGOから酸素含有官能基が除去され、更に芳香族二重結合炭素が回復することができる。
【0058】
従って、「紫外線照射」とは、本明細書中において、prGOを更に還元するのに適したUV範囲(すなわち、10nm~400nm)内の波長の放射線を意味する。ラマン分光法を使用して、紫外線を照射した際にprGOが「更に還元される」かどうかを評価することができる。これは、約1600cm-1および約1350cm-1の波数におけるprGOのラマンスペクトルのGバンド(IG)およびDバンド(ID)の強度の間の比を考慮して行うことができる。本明細書中で説明するように、1600cm-1付近のGバンドは、グラフェンのような配列に典型的な炭素環および炭素鎖中のすべての対のsp原子の結合伸張に関連することができ、約1350cm-1のDバンドは、特に酸素含有官能基を含む欠陥の存在に関連する炭素環中のsp原子のブリージングモードに起因するものである。
【0059】
その点、紫外線を層に照射することは、照射された層のラマンI/I比が照射前の層のI/I比と比較して減少する場合、prGOを「更に還元する」と言ってもよい。例えば、層に紫外線を照射すると、照射された層のラマンI/I比が、照射前の層のI/I比に比べて、少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または約100%減少することがある。I/I比の低下は、グラフェン様ハニカム構造の酸素含有官能基が更に除去され、C=C結合が回復したことに起因すると考えられる。
【0060】
従って、いくつかの実施形態では、prGOおよびヨウ化物を含む層に紫外線を照射する工程により、照射された層のI/I比が、照射前の層のI/I比に対して約1%~約10%減少するように、prGOが更に還元される。
【0061】
紫外線の波長、紫外線の強度、および照射時間などのパラメータは、prGOが更に還元される程度に影響を与えることができる。
【0062】
UV照射は、prGOのさらなる減少を促進する任意のUV波長で行われてもよい。いくつかの実施形態では、UV照射は、UVC範囲の波長を含む。「UVC範囲」とは、約100nmから約280nmの範囲内の1つ以上の波長を意味する。
【0063】
いくつかの実施形態では、紫外線は、UVC範囲内の波長の、単色紫外線である。例えば、紫外線は、約254nmの波長の単色紫外線であってもよい。紫外線が特定の波長で「単色」であるということは、放射強度がその波長でピークになり、ピーク値の周りに10%未満の強度分布ができることを意味する。
【0064】
prGOのさらなる低減の好適な程度は、例えば、UV源の特性である放射エネルギーに基づいて選択することができる。これに関連して、UV源は、prGOのさらなる低減を促進するのに十分な放射束(パワー)を層ユニット表面で提供するように選択することができる。そのような放射束は、「イラディアンス(Irradiance)」として表され、平方センチメートルあたりのミリワット(mW/cm)で測定されてもよい。いくつかの実施形態では、紫外線は、約1~約100mW/cmの強度を有する。例えば、紫外線は、約10~約50mW/cmの強度を有してもよい。いくつかの実施形態では、UV照射は、約20~約25mW/cmの強度を有する。
【0065】
紫外線照射は、prGOのさらなる還元を促進するのに十分な時間、行われてもよい。例えば、prGOおよびヨウ化物を含む層は、約10分から約24時間、例えば約2時間から約17時間の照射時間で照射されてもよい。
【0066】
層に紫外線を照射する工程は、当業者に知られている任意の設定に従って行ってもよい。例えば、層は、外部の放射線源から密閉することができるチャンバー内に配置され、チャンバー内の唯一の放射線源としてUV源を備えていてもよい。チャンバーの内壁は、チャンバー内の紫外線の均一な分布を確保するために、それ自体が紫外線を反射するように作られていてもよい。照射中、prGOおよびヨウ化物を含む層は、prGOのさらなる還元を促進するようなUV源からの任意の距離に配置されてもよい。例えば、層は、UV源から約1cm~約25cmの距離に配置されてもよい。1つの実施形態では、prGOおよびヨウ化物を含む層の照射は、真空または窒素もしくはアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気のような実質的に酸素のない環境で行われる。
【0067】
本発明の方法は、還元された形態のGOを提供するものである。方法工程の特定の性質のために、GOの「還元形態」は、液体組成物中のprGOのそれと完全に還元されたGOのそれとの間の任意の程度まで還元されたGOを包含すると理解される。従って、いくつかの実施形態では、還元型GOは完全に還元されたGOからなる。還元型GOの還元度は、対応する非還元型GOに対する所定の試料のラマンスペクトルを特徴づけるDバンドとGバンドの強度比(I/I)に基づいて定量化することができる。具体的には、本明細書中において、GOの「還元型」という表現は、対応する未還元のGOの強度比I/Iよりも少なくとも5%小さい強度比I/Iで特徴付けられるグラファイト材料を示す。
【0068】
従って、本発明は、本明細書中に記載の方法に従って得られる還元型GOにも関する。
【0069】
本明細書中に記載されたGOの還元形態は、それ自体がユニークであると考えられる。従って、本発明は、ヨウ化物をインターカレートした還元型酸化グラフェン(GO)のシートを含むグラファイト材料にも関する。ヨウ化物は、本明細書中に記載されている任意の形態で存在してもよい。例えば、ヨウ化物は、本明細書中に記載の種類のアルカリ金属ヨウ化物であってもよい。
【0070】
還元型GOのシートは、材料の構造的完全性と互換性があり、インターカレートされたヨウ化物を有する任意の充填密度によって特徴付けられてもよい。一般に、還元型GOのシートの充填密度は、約0.05~約10g/cmの範囲となる。いくつかの実施形態では、グラファイト材料は、約0.1μg/cm~約50mg/cmの還元型GOのシート、または約10μg/cm~約50mg/cm、または約100μg/cm~約50mg/cm、または約1mg/cm~約50mg/cm、または約1mg/cm~約10mg/cm、または約7mg/cmの還元型GOのシートで構成される。
【0071】
還元型GOのシートにヨウ化物が「インターカレート」しているとは、ヨウ化物が還元型GOの少なくとも2つの隣接するグラファイトシートの間に空間的に配置されていることを意味する。少なくとも2枚のシートをインターカレートさせることができれば、ヨウ化物はどのような形で提供されてもよい。例えば、還元型GOのシートは、イオン形態のヨウ化物、または塩形態のヨウ化物でインターカレートされてもよい。いくつかの実施形態では、ヨウ化物は、その結晶塩の形態で部分的に還元されたGOのシートをインターカレートする。
【0072】
還元型GOのシートは、得られるグラファイト材料の構造的完全性に適合するような任意の量のヨウ化物でインターカレートされてもよい。例えば、グラファイト材料は、材料の総重量に対して、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約25重量%、少なくとも約50重量%、または少なくとも約75重量%のヨウ化物を含んでいてもよい。
【0073】
機能面では、グラファイト材料の特定の構造により、スーパーキャパシタの電極材料として使用するのに適している。その点、インターカレートしたヨウ化物の存在は、得られる電極の抵抗を大幅に減少させ、その定格容量を高めることができる。
【0074】
従って、本明細書中に記載のグラファイト材料は、様々な電気デバイス、特にスーパーキャパシタなどのエネルギー貯蔵デバイスの電極材料として有用な用途を見出すことができる。
【0075】
従って、本発明は、本明細書中に記載の種類のグラファイト材料からなる電極、および当該電極を備えるスーパーキャパシタにも関する。本明細書中で説明したように、電極は、例えば、好適な集電体上に還元型GOを設けることによって得ることができる。
【0076】
本明細書中では、「スーパーキャパシタ」という用語を、エネルギーの一部または全部を電荷の二重層として蓄えることができる電気エネルギー貯蔵デバイスという意味で使用している(一方の層は荷電電極材料で構成され、他方の層は隣接する電解質からのイオンの層で構成される)。一般的にスーパーキャパシタは、0.05Wh/kg以上のエネルギー密度を有し、10W/kg以上の電力密度を提供することができる。
【0077】
スーパーキャパシタは、二次電池よりも電力密度が高く、ライフサイクルが長いことから注目されている。そのため、スーパーキャパシタは、回生ブレーキ、短期エネルギー貯蔵、ハイブリッド電気自動車、大型産業機器、ポータブル機器など、急速な電力供給と充電を必要とする用途において、従来の二次電池に代わる有効な手段となり得る。
【0078】
最も基本的な構成において、スーパーキャパシタは、カソードとして機能する電極と、アノードとして機能する電極と、電極間に介在するイオン透過性のセパレータと、電極間に介在して電極と接触する電解質から構成されている。セパレータと電解液の働きにより、電極間の電気的絶縁が確保される一方で、各電極間のイオンの拡散が可能となる。その結果、電子は電極と、電極に接続された外部の電気負荷(回路)との間でのみ流れることが可能になる。「カソード」として機能する電極、すなわち「正極」は、放電時に電子がスーパーキャパシタに入る電極である。逆に、「アノード」として機能する電極は、放電時に電子がスーパーキャパシタから離れる電極である。
【0079】
有利なことに、本明細書中に記載された還元型GOを含む電極は、負極および正極の両方として機能することができる。そのため、本明細書中に記載の種類の電極を備えるスーパーキャパシタは、ハイブリッド型スーパーキャパシタまたは対称型スーパーキャパシタであってもよい。ハイブリッド型スーパーキャパシタは、本明細書中に記載された種類の1つの電極を有し、対称型スーパーキャパシタは、本明細書中に記載された種類の2つの同一の電極を有する。
【0080】
いくつかの実施形態では、スーパーキャパシタは、サンドイッチ構造を有する対称型スーパーキャパシタである。この構成では、スーパーキャパシタは、2つの同一の電極と、電極の間に挟まれたセパレータとからなる。このようなスーパーキャパシタは、当業者に知られている任意の手順に従って製造することができる。典型的には、スーパーキャパシタは、(i)好適な集電体上に形成された本明細書中に記載の種類の還元型GOの層を有する電極を提供し、(ii)好適な電解質およびセパレータを介在させることにより、サンドイッチ構造で電極を組み立てることによって製造される。
【0081】
本明細書中では、「電解質」とは、電子的には絶縁性であるがイオン的には伝導性である物質を意味する。好適な電解質が当業者には知られている。典型的には、電解質は移動性イオンを含み、電極と密接に接触し、それによって、電子に対するイオンの個別の分離された経路を提供する。典型的には、良好な電解質の要件には、広い電圧ウィンドウ、高い電気化学的安定性、高いイオン濃度および低い溶媒和イオン半径、低い抵抗率、低い粘度、低い揮発性、低い毒性、低コスト、および高純度での入手性が含まれる。
【0082】
好適な電解質の例としては、金属塩と溶媒を組み合わせて得られる電解質溶液が挙げられる。「金属塩」とは、金属イオン(カチオン)と対アニオンからなる化合物を意味し、溶液中では金属イオンを提供することができる。この点で、「対アニオン」という表現は、得られるリチウム塩の電荷中性を提供するためにカチオンと関連する負電荷のイオンを意味する。
【0083】
本発明の要件が満たされていれば、使用できる対アニオンの種類には特に制限はありません。好適な対アニオンの例としては、BF 、PF 、N(CN) 、(CFSO)、(FSO)、OCN、SCN、ジシアノメタニド、カルバモイルシアノ(ニトロソ)メタニド、(CSO)、(CFSO)、C(CN) 、B(CN) 、(C)PF 、アルキル-SO 、パーフルオロアルキル-SO 、アリール-SO 、I、HPO 、HPO 2-、スルフェート、サルファイト、ニトレート、トリフルオロメタンスルホネート、p‐トルエンスルホネート、ビス(オキサレート)ボレート、アセテート、ホルメート、ガレート、グリコレート、BF(CN)、BF(CN) 、BF(CN) 、BF(R)、BF(R) 、BF(R) (Rはアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピルである。)、環状スルホニルアミド、ビス(サリチレート)ボレート、パーフルオロアルキルトリフルオロボレート、クロライド、ブロマイド、遷移金属錯体アニオン(例えば、[Tb(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)])が挙げられる。
【0084】
カチオンは、リチウムイオンであってもよい。従って、いくつかの実施形態では、電解質は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、およびそれらの組み合わせから選択される塩の溶液である。
【0085】
好適なリチウム塩の例としては、LiSO、Li[PF(C)]、Li[SOCF]、Li[N(CFSO)]、Li[C(CFSO)]、Li[N(SO)]が挙げられる。LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiB(C)、LiB(C)、Li[B(C)]、Li[BF(C)]、またはこれらのうちの任意の2つ以上の混合物である。いくつかの実施形態では、電解質は、LiSO電解質である。
【0086】
好適なナトリウム塩の例としては、NaSO、NaClO、NaBF、NaPF、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaTFSI)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、ナトリウムビス(オキサラト)ボレート(NaBOB)、NaSCN、NaSbF、NaAsF、NaAlCl、NaSiF、NaSO、CF、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0087】
好適なカリウム塩の例としては、KSO、KClO、KBF、KPF、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)、カリウムビス(オキサラト)ボレート(KBOB)、KSCN、KSbF、KAsF、KAlCl、KSiF6、KSOCF、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0088】
電解質を得るために使用する溶媒は、金属塩を溶解することができる任意の溶媒であってよい。塩に応じて、電解質に使用する溶媒は、従って、有機溶媒または無機溶媒であってもよい。好適な無機電解質溶媒の例としては、SO、SOCl、SOClなどが挙げられ、これらの任意の2つ以上の混合物も含まれる。有機電解液としては、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジプロピル(DPC)、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネートなどが挙げられる。ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルメチルカーボネート、パーフルオロブチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルエチルカーボネート、ペンタフルオロエチルエチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルエチルカーボネート、パーフルオロブチルエチルカーボネート、フッ素系オリゴマー。プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸エチル、スルホラン、1、2‐ジメトキシエタン、1、2‐ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1、3‐ジオキソラン、4‐メチル‐1、3‐ジオキソランジメトキシエタン、トリグライム、ジメチルビニレンカーボネート、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール類、スルホン類、γ-ブチロラクトン(GBL)など。ビニレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルブチレート、エチルブチレート、酢酸エチル、γ-バレロラクトン、エチルバレレート、2‐メチルテトラヒドロフラン、3‐メチル‐2‐オキサゾリジノン、1、3‐ジオキソラン、4‐メチル‐1、3‐ジオキソラン、ビニルエチレンカーボネート、2‐メチル‐1、3‐ジオキソラン、アセトニトリル(ACN)、およびこれらのいずれか2つ以上の混合物などが挙げられる。いくつかの実施形態では、溶媒は水である。
【0089】
電解質は、スーパーキャパシタが目的に適っていることを助長する任意の量の金属イオンを含んでもよい。例えば、電解液は、少なくとも約1モル%、少なくとも約10モル%、少なくとも約15モル%、少なくとも約20モル%、少なくとも約25モル%、少なくとも約30モル%、少なくとも約35モル%、少なくとも約40モル%の濃度の金属イオンを含んでいてもよい。少なくとも約45モル%、少なくとも約50モル%、少なくとも約55モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約65モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約75モル%、少なくとも約80モル%、少なくとも約85モル%、少なくとも約90モル%、または少なくとも約95モル%である。
【0090】
スーパーキャパシタに使用するのに適したセパレータは、当業者には知られており、電極間に介在するイオン透過性層の形態で提供されるであろう。このようなイオン透過性層の機能は、各電極間にイオンを拡散させながら、電極間の電気的絶縁を提供することである。従って、セパレータは、電極間の(i)電気絶縁性と(ii)イオン伝導性を確保できる材料であれば、どのような材料であってもよい。例えば、セパレータは、ポリマー材料やセラミックポリマー複合材料、例えばセルガード膜やガラス繊維などから形成されていてもよい。後者の複合セパレータは、火災リスクを大幅に低減しながら熱安定性を確保できるという点で有利である。従って、好適なセパレータの例としては、不織布繊維(例えば、綿、ナイロン、ポリエステル、ガラス)やポリマーフィルム(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレンなどのポリ、ポリ塩化ビニル)で作られた層が挙げられる。
【0091】
本明細書中に記載のスーパーキャパシタは、幅広い電圧で動作可能である。いくつかの実施形態では、スーパーキャパシタは、約0.01V~約9V、約0.01V~約4.5V、約0.01V~約3V、または約0.01V~約2.5Vの電圧で動作することができる。
【0092】
更に、スーパーキャパシタは、従来のデバイスよりも顕著なエネルギーおよび電力密度を示すことができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、スーパーキャパシタは、少なくとも約1Wh/kg、少なくとも約10Wh/kg、または少なくとも約50Wh/kgのエネルギー密度を有する。例えば、スーパーキャパシタは、約1Wh/kg~約400Wh/kgのエネルギー密度、または約1Wh/kg~約50Wh/kgのエネルギー密度を有していてもよい。
【0094】
また、スーパーキャパシタは、少なくとも約100W/kgの電力密度を有していてもよい。いくつかの実施形態では、スーパーキャパシタは、約100W/kg~約15,000W/kg、約250W/kg~約15,000W/kg、約500W/kg~約15,000W/kg、約500W/kg~約10,000W/kg、または約750W/kg~約10,000W/kgの電力密度を有する。例えば、スーパーキャパシタは、約1,500W/kg~約3,500W/kgの電力密度を有してもよい。
【実施例
【0095】
次に、本発明の具体的な実施形態について、以下の非限定的な例を参照して説明する。
【0096】
(実施例1)
水中でのprGO懸濁液の作製
まず、逆浸透膜で精製した水(RO水)中で、脱塩した酸化グラファイト(GtO)粉末(Sixth Element社から供給されたもの)を剥離することにより、濃度が約20g/リットルの酸化グラフェン(GO)懸濁液を作製した。その後、適量のヨウ化カリウム(KI)を、GO:KIの重量比が1:2から4:1になるように、懸濁したGOに加えた。この混合物を室温で厳密に撹拌して、水に懸濁したprGOからなる均一で安定した液体組成物を得た。
【0097】
KIの添加がGOの酸素含有官能基に及ぼす影響を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)で調べた。この目的のために、GOとKIの重量比を変えた懸濁液のアリコートをスライドグラスにコーティングし、真空オーブンで乾燥させて水分を除去した。次に、乾燥した層のFTIRスペクトルを、減衰全反射フーリエ変換赤外分光計(ATR‐FTIR)(PerkinElmer社、米国)を用いて、950~4000cm-1の波数範囲、2cm-1の分解能で、平均32スキャンで記録した。
【0098】
(実施例2)
FTIRスペクトル
図1に示すように、GOフィルムのFTIRスペクトルには、カルボン酸やカルボニル部分のC‐O、C‐OH、C=C、C=Oに関連するピークが存在する。これらのピークは、主にシートエッジに沿って存在するが、グラフェンシートの基底面にも存在し、幅広いO‐Hピークも存在する。興味深いことに、C‐O、C‐O‐H、C=Oの各官能基に対応するピークは、KIの量を増やすと大幅に減少し、GOとKIの重量比が1:2になるとほぼ完全に消失した。このことから、水中に懸濁したGOと溶解したKIを組み合わせるだけで、GOの化学的還元が促進され、得られた懸濁液は主にprGOで構成されていることがわかった。
【0099】
ラマン分光法
KIとGOの相互作用を更に理解するために、ラマン分光測定を行った。10%出力のHeNe(632.8nm)レーザーを装備した「Renishaw Confocal micro‐Raman Spectrometer」を用いて、水を除去して得られたprGOおよびKI膜の液体組成物から得られた乾燥層のラマンスペクトルを得た。レーザーのスポットサイズは1μmで、100~3200の波数で10秒間の延長スキャンを行った。バックグラウンドを除去した後、データを最大強度で割ってスペクトルの強度を正規化した。PeakFitソフトウェアパッケージを用いてピークフィッティングを行い、フィッティングされた曲線を用いて、主要なGバンドとDバンドの強度比(I/I)を決定した。その結果を図2にまとめた。
【0100】
各スペクトルには、1600cm-1付近に、GO構造のグラファイト化の指標である、炭素環および炭素鎖のすべてのペアのsp原子の結合伸張に対応するGバンドと、1350cm-1付近に、活性化に欠陥/無秩序を必要とする炭素環のsp原子のブリージングモードに起因するDバンドが存在した。KIとGOを組み合わせることで、I/I比(試料の少なくとも5つの異なる領域で測定し平均化したもの)は1.21から1.13に減少した。この比率の低下は、官能基の除去とC=C結合の回復によるものと考えられる。これらの結果は、KIによってGOが部分的に還元されてprGOになったことを示唆するFTIR分析結果と一致する。
【0101】
X線光電子分光法(XPS)
XPSは、FTIRとラマン分光法の観察結果を裏付けるものである。試料のO/C比は、サーベイスペクトル(survey spectra)から決定した。GO、prGO、および紫外線照射によって生じたGOの還元体のシグナルを分離するため、XPS分析の前にKIを含む試料を十分に洗浄した。図3および図4は、各試料の高分解能C1sスペクトルである。
【0102】
ピークが近接しているため、KIのC1sスペクトルにはK2pダブレットも含まれている。洗浄後にこのダブレットが除去されていることから、洗浄プロセスとKイオンの除去が有効であることがわかる。GO層のO/C比は0.407で、そのC1sスペクトルには、グラフで示したようにC=O、C‐O、C‐C/C=C基に属するピークが含まれていた。溶解したKIと懸濁したGOを組み合わせるだけでO/C比が0.341まで低下することがわかり、このプロセスがエポキシや水酸基のようなC‐O基を主に除去することでGOを還元していることがわかる。
【0103】
X線回折(XRD)
Bruker D2 phaser 回折計を用いて、30kV、10mAの電圧でCu‐Kα線を照射し、走査速度2°/分、工程サイズ0.02°で、乾燥層のX線回折(XRD)分析を行い、KIによるGOの還元を更に確認した。未変性(pristine)GOは、GOの(001)面に起因する約10.7°の2θのピークを1つだけ示した(図5)。これは、GOの(001)面の間にKまたはIイオンがインターカレートし、層間距離が長くなったためと考えられる。更に、約24~25°に小さなこぶが現れたが、これは特徴的なrGO(002)ピークであると考えられる。残りのピークは、未反応のKI結晶に属するものであることがわかった。
【0104】
電気シート抵抗
電気シート抵抗の測定は、1mm幅の4点プローブを用い、Keithley電位計(モデル2400、米国)で行った。その結果、KIの添加によりシート抵抗が大幅に減少していることがわかった。乾燥したGO層のシート抵抗は約1.4GΩ/sq.であったが、GO:KI(1:2)のシート抵抗は約24.7MΩ/sq.以下低下した。測定における残留KIの影響を排除するため、フィルムをRO水で広範囲に洗浄し、真空オーブンで乾燥させた。洗浄したフィルムのシート抵抗値は約25.5MΩ/sq.で、未洗浄のフィルムと非常に近い値であった。これらの結果は、KIとの組み合わせによるprGOの形成とC=C結合の回復を示すさらなる証拠である。
【0105】
(実施例3)
液体組成物の偏光顕微鏡検査
prGOおよびヨウ化物を含む液体組成物は、液晶の光学特性を示している。懸濁液の液状地殻性を証明するために、CRI社のAbrio偏光イメージングシステムを装着した倒立型Leica DM IRB顕微鏡を用いて偏光顕微鏡検査を行った。画像は、従来のコンペンセーターの代わりに、直線偏光子、アナライザー、2枚の可変電気光学リターダープレートからなる複屈折セットアップモードで撮影した。試料を透過した偏光は、従来の顕微鏡用スライドガラスにセットされ、アナライザーを通過した後、高感度CCDカメラに取り込まれる。撮影された信号は、デジタル画像処理システムを用いて順次処理されて、光遅延を生じ、異方性材料の軸方向の画像を遅らせた。1:2のGO:KI比を有するrGO懸濁液をこの目的のために使用した。
【0106】
偏光顕微鏡の顕微鏡写真(図示せず)からわかったように、prGOおよびヨウ化物を含む液体組成物は光遅延を示す。この遅延は、異方性材料の特徴である面内および面外の光学的位相差により発生する。更に、prGOのプレートレットは好ましい方向に配向しており、その好ましい方向は試料全体で空間的に変化し、典型的なネマティック液晶ドメインを形成していた。この分析結果は、液体組成物の液晶性を示している。
【0107】
(実施例4)
液状組成物の安定性
GOは水に非常に安定した懸濁液を作るが、安定した水性のprGO懸濁液を得ることは困難である。そのため、prGOを含む液体組成物の安定性を調べることが重要である。安定性の指標として、液体組成物のゼータ電位をBrookhaven Nanobrook Omni Zeta Potential Analyzerを用いて測定した。各試料の5回の測定からの平均値で、25℃で20回の相サイクルからなる各測定値を取った。測定には、気泡ができないようにポリスチレン製のキュベットにパラジウム電極を浸した。ポリスチレン製キュベットの経路長を1.0cmとし、Smoluchowski(スモルフコフスキー)近似法:
(式中、uは電気泳動移動度、θは電気泳動速度、Eは電界強度、εは誘電率、ηは媒体の粘度である。)
を用いてゼータ電位ζを求めた。
【0108】
GOにKIを添加すると、最初にゼータ電位が上昇した(図6)。これは、最初に懸濁液の安定性を低下させるいくつかのprGOが形成されたことに起因すると考えられる。KIの添加量を更に増やすと、ゼータ電位は低下し始め、純粋なGO懸濁液のそれよりも低くなり、安定性が向上したことを示している。KIの添加と官能基のさらなる除去により、高い静電的負電荷は、Kイオンの存在による正味の正電荷によって遮蔽される可能性がある。一方、Iイオンによる静電的な反発は、水相中のprGOの効果的な分散を助け、ゼータ電位の低下と懸濁液の安定性の向上につながると考えられる。
【0109】
懸濁液の安定性は、更に長期間の保存によって物理的に評価された。GO:KIの重量比が1:2のprGO液体組成物を、好適な量のRO水を加えて10-2g/リットルの濃度になるように異なる範囲で希釈した。懸濁液は4ヶ月間安定しており、prGOの目に見える浮遊または沈降は示さなかった。
【0110】
(実施例5)
紫外線照射
prGO(GO:KI 1:2)層を更に還元するために、乾燥したコーティング剤をUVランプ(55W、Philips、TUV PL-L 55W/4P)を用いて254nmのUV光に22.4mW/cmの強度で17時間照射した。
【0111】
紫外線照射による還元後、XRDパターンのGOピークは完全に消失し(図5)、ラマンスペクトルの特徴的なI/I比は1.07まで更に減少した(図2)。更に、XPS分析では、C‐O基が除去され、O/C比が0.177に減少したことで、GOのUV還元が確認されました(図4(b))。注目すべきは、XPS分析の結果、UVC光で還元された純粋なGO膜の方が、より大きなO/C比(0.233)を示したことである(図4(c))。これらの結果は、GOにKIを添加することでGOが部分的に還元され、UV照射による還元効率が向上したことを示している。更に、試料の高分解能I 3d XPSスキャン(図7)から、Iは特に紫外線還元時にprGOと結合を形成し、IドープprGOを形成していることがわかった。図7aでは、右側のピークの半値全幅(FWHM)は1.0983eVである。図7bでは、右側のピークは、半値幅が1.3262(面積77.03%)と1.4(面積22.97%)の2つのピークに分解できる。図7cでは、右側のピークは、FWHMが1.2408(89.04%の面積)と1.3861(10.96%の面積)の2つのピークに分解される。図7a、図7b、図7cのx軸は結合エネルギー(eV)である。
【0112】
また、UV処理したrGOフィルムのシート抵抗は、~24.7MΩ/sq.から~1.1MΩ/sq.へと、約22分の1に大幅に減少した。
【0113】
(実施例6)
スーパーキャパシタの作製
上記の実施例に記載された手順で得られた形態の還元型GOを使用して、二重層スーパーキャパシタデバイスを作製した。最初の還元型GOを金属集電体にロッドコートして電極を作製した。作製した電極の面荷重は、10μgの加重精度を持つマイクロ天秤を用いて測定したところ、約7mg/cmであり、これは2.3mg/cmのグラファイト面荷重に相当する。この電極は、17時間のUV照射によって更に還元され、一般的なパウチセルの構成でパッケージングされた。この構成では、一対の折り畳まれた電極が、周囲の条件でLiSO電解液に浸されたセパレータによって分離されている。
【0114】
走査型電子顕微鏡(SEM、FEI Nova NanoSEM 450 FEG)を用いて、電極の形態とrGO内の残留KI結晶の分布を調べた。断面のSEM顕微鏡写真から、KI結晶(丸い粒子)が、ラザニア型構造を形成するrGOのグラファイト層の間に分布していることが明らかになった(図8)。このようにグラファイトシートの間にヨウ化物が分布していると、電極の抵抗が大幅に減少し、定格容量が向上することが期待される。
【0115】
(実施例7)
スーパーキャパシタデバイスの性能を、BioLogic社のポテンショスタットで評価した。開放電位(OCP)を少なくとも1時間モニターし、経時的な安定性を確認した。OCPの変動が1000秒間で10mV以内であれば、電気化学的測定を行う前に安定した電位とみなした。電極のサイクリックボルタモグラム(CV曲線)は、さまざまな走査速度(5mV/s~100mV/s)で、試験電位範囲内で記録した。測定は、各走査速度で50サイクル繰り返した。異なる走査速度でのスーパーキャパシタデバイスのCVボルタモグラムを図9に示す。
【0116】
このボルタモグラムは、走査速度100mV/秒まで長方形を呈しており、これは電極の典型的な二重層容量の挙動と、その優れた評価能力を示している(図9(a))。この電極の5mV/秒での比誘電率は約83F/gであった。図9(b)は、電極の走査速度依存性比容量をまとめたものである。この電極は、走査速度の増加に伴って良好な容量維持率を示し、容量維持率は約70%であった。更に、この電極は、パウチセル構成において、11.5Wh/kgという高いエネルギー密度と2800W/kgという大きな電力密度を示した。
【0117】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)試験は、開回路電位に10mVの振幅で正弦波の電位摂動を加えて行った。インピーダンス応答は、1MHzから10MHzの間の周波数で測定し、周波数の10年ごとに6点を記録した。電気化学データの再現性を調べるため、すべての電気化学実験を少なくとも3回繰り返した。図9(c)は、電極のナイキストプロットを示している。このプロットは、高周波の小さな半円と、低周波領域の高傾斜の直線から構成されている。高周波の小さな半円は、非常に小さな電荷移動抵抗を表し、低周波の高い傾きの直線は、電極の容量性を表している。ナイキストプロットとインピーダンスの実部(x軸)との交点から推定される電極の抵抗値は非常に小さく、約60MΩであることがわかった。
【0118】
さまざまな電流密度(0.2A/g、0.5A/g、1A/g、2A/g)で測定した電極の定電流充放電曲線を図10に示す。すべての電流密度において、全電位範囲にわたって一定の傾きを持つ対称的で直線的な充放電プロファイルが得られ、ほぼ完全な二重層容量性の挙動を示している。更に、充放電曲線では非常に小さなIRドロップが観察され、デバイスの等価直列抵抗(ESR)が小さい(約400MΩ)ことを示しており、インピーダンス測定(~300MΩ、Nyquist(ナイキスト)線図の低周波領域の接線とインピーダンスの実部(x軸)との交点から推定)と一致していた。
【0119】
(実施例8)
1Vおよび2Vのスーパーキャパシタデバイスを作製し、後者は2つの1Vデバイスを直列に接続して得た。図11は、2VのデバイスのCV曲線と充放電挙動をまとめたもので、同じ電流28.8mAで測定した1VのスーパーキャパシタのCV曲線と比較している。2Vのスーパーキャパシタは、1Vのスーパーキャパシタと同様の特性、すなわち、長方形のCVカーブと対称的で直線的な充放電プロファイルを示した。
【0120】
本明細書中および請求項において、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「~を含む(comprise)」という語、および「comprises」や「comprising」などの変化形は、記載された完全体(integer)または工程、または完全体または工程のグループを含むことを意味するが、他の完全体または工程、または完全体または工程のグループを除外することを意味しないと理解される。
【0121】
本明細書中では、先行刊行物(またはそれから派生した情報)または既知の事項を参照しているが、その先行刊行物物(またはそれから派生した情報)または既知の事項が、本明細書が関連する技術分野における一般常識の一部を形成していることを認めたり、承認したり、何らかの形で示唆したりするものではなく、かつそうすべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】