(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(54)【発明の名称】細菌を改変するための最適化された遺伝子ツール
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220721BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220721BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220721BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220721BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220721BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20220721BHJP
C12R 1/145 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/11 Z
C12N1/20 A
C12N1/20 Z
C12N1/21
C12N1/00 U
C12N15/09 110
C12N15/55
C12M1/00 A
C12N15/63 Z
C12R1:145
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569371
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 FR2020050853
(87)【国際公開番号】W WO2020240122
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521268923
【氏名又は名称】イエフペ・エネルジ・ヌーヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP Energies nouvelles
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ロペス フェレイラ,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】オック,レミ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァゼル,フランソワ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB02
4B029CC01
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B065AA23X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA02
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、ファーミキューテス門に属する細菌の形質転換および遺伝子改変に関するものである。特に、細菌の形質転換を促進するために用いられる核酸配列であって、i)配列番号126の全部または一部と、ii)細菌の遺伝子の改変および/または該細菌内で、細菌の野生型内に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする配列とを含む核酸配列を含む、かかる遺伝子改変を可能にする方法、ツールおよびキットに関する。また、本発明の記載は、得られた遺伝子組換え細菌およびその用途、特に、好ましくは工業的規模での溶媒の生産に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2019年2月20日に寄託番号LMG P-31277でBCCM-LMGコレクションに登録された細菌クロストリジウム・ベイジェリンキイ(Clostridium beijerinckii)またはその遺伝子組換え体。
【請求項2】
i)配列番号126の全部または一部と、ii)細菌の遺伝子の改変および/または該細菌において、該細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする配列とを含む、核酸。
【請求項3】
前記細菌の遺伝子の改変を可能にする配列が、相同組換え機序により、該細菌の遺伝子の一部を目的の配列に置換することを可能にする改変マトリックスであることを特徴とする、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
iii)DNAエンドヌクレアーゼをコード化する配列、および/またはiv)1以上のガイドRNA(gRNA)をさらに含み、各gRNAは、DNAエンドヌクレアーゼに固定するためのRNA構造と、細菌の遺伝子の標的化部分の相補的配列とを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の核酸。
【請求項5】
前記核酸が、発現カセットおよびベクターから選択され、好ましくはプラスミドであり、例えば、配列番号119、配列番号123、配列番号124および配列番号125から選択される配列を有するプラスミドであることを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項6】
細菌を形質転換し、遺伝子改変するための遺伝子ツールであって、少なくとも
-少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼをコードする第1の核酸であって、該DNAエンドヌクレアーゼをコードする配列がプロモーターの制御下に置かれている、第1の核酸、および
-請求項2から5のいずれか一項に記載の第2の核酸
を含むことを特徴とし、ここで、遺伝子ツールの該核酸の少なくとも1つが、好ましくは、誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含むか、または、遺伝子ツールが、誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする第3の核酸をさらに含む、
遺伝子ツール。
【請求項7】
前記第1の核酸が1以上のガイドRNA(gRNA)をさらにコードすること、または前記遺伝子ツールが1以上のgRNAをさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の遺伝子ツール。
【請求項8】
細菌を形質転換し、かつ所望により細菌を遺伝子改変するための、請求項2から6のいずれか一項に記載の核酸の使用、あるいは請求項6または7に記載の遺伝子ツールの使用。
【請求項9】
請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸を該細菌に導入することにより、該細菌を形質転換する工程を含むことを特徴とする、遺伝子組換えのためのツールを用いて細菌を形質転換し、好ましくは遺伝子改変する、方法。
【請求項10】
前記細菌が、ファーミキューテス門(Firmicutes)に属し、好ましくはクロストリジウム属(Clostridium)、バチルス属(Bacillus)またはラクトバチルス属(Lactobacillus)に属することを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸、請求項6または7に記載の遺伝子ツール、請求項8に記載の使用、あるいは請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細菌がクロストリジウム属の細菌であり、好ましくは、C. acetobutylicum, C. cellulolyticum, C. phytofermentans, C. beijerinckii, C. saccharobutylicum, C. saccharoperbutylacetonicum, C. sporogenes, C. butyricum, C. aurantibutyricum, C. tyrobutyricumから選択される溶媒生成細菌であるか、またはC. aceticum, C. thermoaceticum, C. ljungdahlii, C. autoethanogenum, C. difficile, C. scatologenes およびC. carboxydivoransから選択されるアセテート生成細菌であることを特徴とする、請求項10に記載の核酸、遺伝子ツール、使用または方法。
【請求項12】
前記細菌が、プラスミドpNF2を欠く細菌C.beijerinckiiであり、好ましくは、DSM 6423、LMG 7814、LMG 7815、NRRL B-593、NCCB 27006から選択されるサブクレード、およびDSM 6423株と少なくとも95%、好ましくは97%の同一性を有するサブクレードであることを特徴とする、請求項10または11に記載の核酸、遺伝子ツール、使用または方法。
【請求項13】
細菌を形質転換し、好ましくは遺伝子組み換えするためのキット、または細菌を用いて少なくとも1つの溶媒を製造するためのキットであって、ここで、請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸と、請求項6または7に記載の遺伝子ツールで使用される、選択された抗CRISPRタンパク質の発現の誘導性プロモーターに適した少なくとも1つの誘導剤とを含む、キット。
【請求項14】
工業的規模での溶媒または溶媒の混合物、好ましくはアセトン、ブタノール、エタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物、一般的にはイソプロパノール/ブタノール混合物の製造を可能にするための、請求項2から5のいずれか一項に記載の核酸の使用、請求項6または7に記載の遺伝子ツールの使用、請求項9に記載の方法の使用あるいは請求項13に記載のキットの使用。
【請求項15】
請求項9から12の一項に記載の方法によって得られる細菌C.beijerinckiiであって、該細菌が配列番号18のcatB遺伝子およびプラスミドpNF2を欠くことを特徴とする、細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の形質転換および遺伝子改変に関し、特にファーミキューテス門(phylum Firmicutes)に属する細菌、一般的には、例えばクロストリジウム属(genus Clostridium)の溶媒生成(solventogenic)細菌、好ましくは、野生状態で細菌の染色体および該染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子(または天然プラスミド)の両方を有する細菌の形質転換および遺伝子改変に関する。従って、本発明は、このような遺伝子改変を可能にする方法、ツールおよびキットに関し、特に、細菌の形質転換を促進するために用いられる核酸配列であって、該配列が、i)配列番号126の全部または一部と、ii)細菌の遺伝子の改変および/または前記細菌の野生型内に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の該細菌内での発現を可能にする配列とを含む、核酸配列を含む、方法、ツールおよびキットに関する。また、本発明は、得られた遺伝子組換え細菌およびその使用、特に、好ましくは工業的規模での溶媒の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
クロストリジウム属は、グラム陽性であり、かつ厳密に嫌気性であり、かつ胞子を形成する細菌であり、かつファーミキューテス門に属している。クロストリジウム属細菌は、いくつかの理由で科学界にとって重要な細菌群である。第一に、いくつかの重篤な疾患(例えば、破傷風、ボツリヌス菌感染)の原因が、この科の病原菌メンバーによる感染であるからである(John & Wood, 1986; Gonzales et al., 2014)。第二に、いわゆる酸生成細菌株(acidogenic strain)または溶媒生成細菌株(solventogenic strain)をバイオテクノロジーで用いる可能性があるからである(Moon et al., 2016)。これらの非病原性クロストリジウム綱(Clostridia)は、ABE発酵と称されるプロセスにおいて、多種多様な糖を変換して目的の化合物、より具体的にはアセトン、ブタノール、エタノールを生産する能力を自然に有している(John & Wood, 1986)。同様に、特定の種ではIBE発酵も可能であり、これらの株のゲノムに二級アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(s-ADH; Ismael et al., 1993, Hiu et al., 1987)が存在するため、アセトンは、イソプロパノール生成に比例して還元される(Chen et al., 1986、George et al., 1983)。
【0003】
クロストリジウム綱の溶媒生成種には重要な表現型の類似性があり、最新の配列決定技術が登場するまでは分類が困難であった(Rogers et al. 2006)。現在では、これらの細菌の完全なゲノムの配列決定が可能になったことで、この細菌属を4つの主要な種に分類することができる:C. acetobutylicum, C. saccharoperbutylacetonicum, C. saccharobutylicum, C. beijerinckii。最近の論文では、30株の完全なゲノムを比較解析した結果、これらの溶媒生成クロストリジウム綱を4つの主要な群(clade)に分類することが提案されている(
図1)。
【0004】
特に、これらの群は、C. acetobutylicumおよびC. beijerinckiiの2種を、それぞれ対照株C. acetobutylicum ATCC 824 (DSM 792またはLMG 5710とも称される)およびC. beijerinckii NCIMB 8052に分けている。後者は、ABE発酵を研究するためのモデル株である。
【0005】
IBE発酵をもたらし得る天然のクロストリジウム株は数が少なく、主にクロストリジウム・ベイジェリンキイ種に属する(Zhang et al., 2018, 表1参照)。これらの菌株は、一般的には、C. butylicum LMD 27.6株、C. aurantibutylicum NCIB 10659株、C. beijerinckii LMD 27.6株、C. beijerinckii VPI2968株、C. beijerinckii NRRL B-593株、C. beijerinckii ATCC 6014、C. beijerinckii McClung 3081、C. isopropylicum IAM 19239、C. beijerinckii DSM 6423、C. sp. A1424、C. beijerinckii optinoii、およびC. beijerinckii BGS1から選択される。
【0006】
細菌は1世紀以上にわたって産業界で利用されてきたが、特にクロストリジウム属に属する細菌については、それらを遺伝的に改変することが困難なため、長い間、知識が限られていた。近年、クロストリジウム属の菌株を最適化するためのさまざまな遺伝学的ツールが開発されているが、中でもCRISPR(クラスター化等間隔短鎖回分リピート;Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Cas(CRISPR関連タンパク質)技術を用いたものが最新のものである。この方法は、ヌクレアーゼと呼ばれる酵素(CRISPR/Cas遺伝学的ツールの場合、一般的にはCasタイプのヌクレアーゼ、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のタンパク質Cas9)を用いることに基づいており、ヌクレアーゼは、RNA分子に導かれて、DNA分子(目的の標的配列)内で二本鎖切断を行い得る。ガイドRNA(gRNA)の配列は、ヌクレアーゼの切断部位を決定し、顕著に高い特異性を与える(
図1)。
【0007】
生物にとって必須のDNA分子内の二本鎖切断は致命的であるため、二本鎖切断後の生存はその修復能力に依存する(例えば、Cui & Bikard, 2016)。クロストリジウム属の細菌では、二本鎖切断の修復は、切断された配列の無傷のコピーを必要とする相同組換え機序に依存する。この修復を可能にするDNA断片を細菌に供給し、元の配列を改変することで、微生物に望ましい変化をそのゲノムに挿入することができる。行われた改変は、標的配列またはPAM部位の改変により、Cas9-gRNAリボ核タンパク質複合体によるゲノムDNAの標的化をその後は不可能にする(
図2)。
【0008】
この遺伝学的ツールをクロストリジウム属の細菌で機能させるための様々なアプローチが既に報告されている。実際に、これらの微生物は、形質転換および相同組換えの頻度が低いため、遺伝的な改変が難しいことが知られている。いくつかのアプローチは、C.beijerinckiiおよびC.ljungdahliiでは構成的に発現されるか(Wang et al., 2015; Huang et al., 2016)、またはC.beijerinckii、C.saccharoperbutylacetonicumおよびC.authoethanogenumでは誘導性プロモーターの制御下で発現される、Cas9の使用に基づいている(Wang et al., 2016; Nagaraju et al., 2016; Wang et al., 2017)。他の文献は、ゲノム内で二本鎖切断の代わりに一本鎖切断を行う、ヌクレアーゼの改変バージョンであるCas9nの使用について記載している(Xu et al., 2015; Li et al., 2016Xuら、2015;Liら、2016)。この選択は、試験された実験条件下でクロストリジウム属の細菌に用いられるには、Cas9の毒性が高すぎるという観察結果によるものである。上記のツールのほとんどは、単一プラスミドの使用に基づいている。最終的には、例えばC. pasteurianumのように、微生物のゲノム内でCRISPR/Casシステムが同定されている場合には、内生のCRISPR/Casシステムを用いることも可能とされている(Pyne et al., 2016)
【0009】
(上記の最終ケースのように)改変されるべき株の内生機序を用いる場合を除き、CRISPR技術に基づくツールは、細菌ゲノムに挿入され得る目的の核酸のサイズ(従って、コーディング配列または遺伝子の数)が大幅に制限されるという大きな欠点がある(Xu et al., 2015によれば、せいぜい約1.8kb)。
【0010】
本発明者らは、2つの異なる核酸、一般的には2つのプラスミドの使用に基づいて、クロストリジウム属の細菌に適した、細菌改変のためのより強力な遺伝学的ツールを開発し、公開しており(WO2017064439、Wasels et al., 2017、
図3)、これは特にこの問題を解決する。特定の態様において、このツールの第1の核酸は、cas9の発現を可能にし、達成されるべき修飾に特異的な第2の核酸は、1以上のgRNA発現カセットならびにCas9によって標的とされる細菌DNAの一部を目的の配列で置換することを可能にする修復マトリックスを含む。このシステムの毒性は、Cas9および/またはgRNA発現カセットを誘導可能なプロモーターの制御下に置くことで制限される。本発明者らは、最近、このツールを改良し、形質転換効率を顕著に大きく向上させ、その結果、(特に、工業規模での生産のためのロバスト株の選択について)有用な数および量の目的の遺伝子組換え細菌を得ることができた(FR18/548356参照)。この改良型ツールでは、少なくとも1つの核酸が、誘導可能なプロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質(“acr”)をコードする配列を含む。この抗CRISPRタンパク質は、DNAエンドヌクレアーゼ/ガイドRNA複合体の活性を抑制することを可能にする。このタンパク質の発現は、細菌の形質転換の段階でのみ発現できるように調節されている。
【0011】
本発明者らはまた、ごく最近、野生状態で1以上の抗生物質に耐性を有する遺伝子を含む細菌を、前記抗生物質に感受性を持つように遺伝子組換えすることに成功し、少なくとも2つの核酸を用いた遺伝子ツールを容易に使用できるようになった。その結果、イソプロパノールを天然に生産するC. beijerinckii DSM6423株を遺伝子組換えすることに成功した。特に、本明細書中“pNF2”と記載されている、この菌株に必須ではない天然プラスミドを、この菌株から取り除くことに成功した(FR18/73492参照)。
【0012】
その後、本発明者らは、このプラスミドpNF2を除去することにより、遺伝子の導入効率(すなわち形質転換効率)が約101から5×103倍に向上した細菌C. beijerinckii DSM6423を得ることができることを発見し、本明細書で初めて開示する。以下に説明するように、本発明者らは、プラスミドpNF2の一部を用いて、細菌の遺伝子を改変することを可能にする、および/または細菌において、該細菌の野生型に存在する遺伝物質には存在しないDNA配列の発現を可能にする、配列を有する特定の核酸を設計することにより、少なくとも2つの核酸の使用に基づく遺伝子ツールを、再び非常に大きく改良することにも成功した。これらの核酸および新しいツールは、細菌の形質転換効率、特に、これまで野生状態で含有する天然プラスミドまたはプラスミドが枯渇していた細菌の形質転換効率を有益に改善する。
【0013】
本発明は、このようにして、形質転換効率を顕著に有利にし、したがって、特に工業的規模での細菌の利用を容易にする。
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
本発明者らは、本明細書中、初めて、細菌の形質転換を容易にする(導入された遺伝子のすべての前記細菌内での維持を改善する)核酸(本明細書では核酸“OPT”とも呼ばれる)を記載している。核酸OPTは、i)配列番号126の全部または一部と、ii)細菌の遺伝子の改変、および/または、前記細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の前記細菌内での発現を可能にする配列とを含む。配列番号126の配列は、本明細書中、核酸“OREP”とも称される。
【0015】
本発明者らは、特にC.beijerinckii DSM6423菌内の配列OREPを抑制することにより、該菌内の核酸の形質転換の頻度を向上させることに成功し、また、この配列OREPの全部または一部を、菌の遺伝子の改変、および/または前記菌の野生型バージョンに存在する遺伝子から一部または全部が欠落したDNA配列の前記菌内での発現を可能にする、核酸および/または遺伝子ツールの構築に有利に使用することができる。
【0016】
配列OREPは、目的の核酸OPTの複製に関与するタンパク質をコードするヌクレオチド配列(配列番号127)を含む。この複製に関与するタンパク質はまた、本明細書中、タンパク質“REP”としても記載されている(配列番号128は“MNNNNTESEELKEQSQLLLDKCTKKKKKNPKFSSYIEPLVSKKLSERIKECGDFLQMLSDLNLENSKLHRASFCGNRFCPMCSWRIACKDSLEISILMEHLRKEESKEFIFLTLTTPNVKGADLDNSIKAYNKAFKKLMERKEVKSIVKGYIRKLEVTYNLDKSSKSYNTYHPHFHVVLAVNRSYFKKQNLYINHHRWLSLWQESTGDYSITQVDVRKAKINDYKEVYELAKYSAKDSDYLINREVFTVFYKSLKGKQVLVFSGLFKDAHKMYKNGELDLYKKLDTIEYAYMVSYNWLKKKYDTSNIRELTEEEKQKFNKNLIEDVDIE”)である。タンパク質REPは、配列番号129の“COG 5655”(Plasmid rolling circle replication initiator protein REP)と呼ばれるファーミキューテス門の保存されたドメインを有する。
【0017】
細菌の遺伝物質を最適化して形質転換し、その後相同組換えにより改変することができる遺伝子ツール、および/またはファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌の物質に部分的または完全に存在しないDNA配列を前記細菌で発現させることができる遺伝子ツールも記載されている(Hidalgo-Cantabrana, C. et al.; Yadav, R. et al.)。
【0018】
特定の態様において、相同組換えによる改変のためのツールは、一般的には、
i)少なくとも、
-少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼ、例えば酵素Cas9をコードする“第1の”核酸であって、該DNAエンドヌクレアーゼをコードする配列がプロモーターの制御下に置かれているもの、および
-相同組換えのメカニズムによって、エンドヌクレアーゼが標的とする細菌DNAの一部を目的の配列に置き換えることを可能にする修復マトリックスを含む少なくとも1つの“第2の”核酸
を含むことを特徴とし、ここで、
ii)前記核酸の少なくとも1つが、1以上のガイドRNA(gRNA)をさらにコードしているか、または遺伝子ツールが1以上のガイドRNAをさらに含み、各ガイドRNAが、DNAエンドヌクレアーゼに固定するためのRNA構造および細菌DNAの標的化部分の相補的配列を含み、好ましくは、
iii)前記核酸の少なくとも1つが、誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含むか、または、遺伝子ツールが誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする第3の核酸をさらに含む、ことを特徴とする。
【0019】
特に、この種の遺伝子ツールは、少なくとも以下に記載されるものを含む:
-少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼをコードする“第1の”核酸であって、ここで、該DNAエンドヌクレアーゼをコードする配列がプロモーターの制御下に置かれている核酸、および
-“核酸OREP”の配列、すなわち、i)配列番号126の全部または一部、およびii)細菌の遺伝子の改変を可能にする、および/または前記細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の前記細菌における発現を可能にする配列を含む、あるいはそれらからなる“別の”核酸。
【0020】
特定の態様において、上記の“修復マトリックスを含む第2の核酸”は、この“別の核酸”を含む。
【0021】
本発明者らはまた、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属の細菌、バチルス属の細菌またはラクトバチルス属の細菌、一般的には溶媒生成細菌を形質転換し、好ましくは相同組換えにより遺伝子改変する方法、ならびに前記方法を用いて得られる(形質転換され、一般的に遺伝子改変される)バクテリアまたは細菌を記載している。この方法は、有利には、本明細書に記載の遺伝子ツール、特に、i)配列番号126の全部または一部、およびii)細菌の遺伝子の改変を可能にする、および/または前記細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする配列を含むか、またはこれらからなる核酸(“核酸OREP”)の全部または一部を前記細菌に導入することにより、前記細菌を形質転換する工程を含む。
【0022】
特定の態様において、この方法は、有利には、
a)好ましくは、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導するための薬剤の存在下で、本明細書に記載の遺伝子ツールを細菌に導入する工程、および
b)工程a)の終わりに得られた形質転換された細菌を、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導するための薬剤を含まず、一般的にはDNAエンドヌクレアーゼ/gRNAリボヌクレオタンパク質複合体、例えばCas9/gRNAの発現を可能にする培地上で、培養する工程
を含む。
【0023】
本発明者らはまた、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属の細菌、バチルス属の細菌、ラクトバチルス属の細菌を形質転換し、好ましくは遺伝子改変するためのキット、またはこのような細菌を用いて少なくとも1つの溶媒、例えば溶媒の混合物を製造するためのキットを記載している。本キットは、好ましくは、本明細書に記載の核酸と、本明細書に記載の遺伝子ツールで用いられる選択された抗CRISPRタンパク質の発現の誘導性プロモーターに適した誘導剤とを含む。特定の態様において、キットは、本明細書中に記載の遺伝子ツールの要素の全部または一部を含む。
【0024】
また、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属の細菌、バチルス属の細菌、ラクトバチルス属の細菌、好ましくは野生状態で細菌染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子(一般的には天然プラスミド)の両方を有する細菌を形質転換し、要すれば遺伝子改変するための、本明細書にて初めて開示される核酸または遺伝子ツールの使用も記載されている。
【0025】
また、好ましくは工業的規模で、溶媒または溶媒混合物、好ましくはアセトン、ブタノール、エタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物、一般的にはイソプロパノール/ブタノール、ブタノール/エタノールまたはイソプロパノール/エタノールの混合物の生産を可能にするために、核酸、遺伝子ツール、そのような細菌を形質転換し、好ましくは遺伝子的に改変する方法、この種の方法で得られた細菌、および/またはキットの使用も、本明細書において初めて記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ヌクレアーゼであるCas9を用いて、gRNAに導かれてゲノムDNAに1以上の二本鎖切断を作成する、遺伝子ツールとしてゲノム編集に用いられるCRISPR/Cas9システムを示す。gRNAはガイドRNA、PAMはProtospacer Adjacent Motifを意味する。図はJinek et al., 2012より引用した。
【
図2】
図2は、Cas9によって誘発された二本鎖切断の相同組換えによる修復を示す。PAMは、Protospacer Adjacent Motifの略である。
【
図3】
図3は、クロストリジウムにおけるCRISPR/Cas9の利用を示す。ermBは、エリスロマイシン耐性遺伝子であり、catP(配列番号70)は、チアンフェニコール/クロラムフェニコール耐性遺伝子であり、tetRは、発現産物がPcm-tetO2/1から始まる転写を抑制する遺伝子であり、Pcm-2tetO1およびPcm-tetO2/1は、アンヒドロテトラサイクリン誘導性プロモーター“aTc”(Dong et al., 2012)であり、miniPthlは、構成的プロモーター(Dong et al., 2012)である。
【
図4】
図4は、pCas9
acrプラスミドマップ(配列番号23)を示す。 ermB、エリスロマイシン耐性遺伝子;rep、大腸菌の複製起点;repH、C. acetobutylicumの複製起点;Tthl、チオラーゼターミネーター;miniPthl、構成的プロモーター(Dong et al., 2012);Pcm-tetO2/1、tetRの産物によって抑制され、かつアンヒドロテトラサイクリンによって誘導されるプロモーター“aTc”(Dong et al., 2012);Pbgal、lacRの産物によって抑制され、かつラクトースによって誘導されるプロモーター(Hartman et al., 2011);acrIIA4、抗CRISPRタンパク質AcrII14をコードする遺伝子;bgaR、その発現産物がPbgalから始まる転写を抑制する遺伝子。
【
図5】
図5は、pCas9
ind(配列番号22)またはpCas9
acr(配列番号23)を含むC. acetobutylicum DSM792の形質転換の相対的割合を示す。頻度は、pEC750C(配列番号106)の形質転換の頻度と比較して、形質転換に用いたDNA1μgあたりに得られた形質転換体の数で表し、少なくとも2回の独立した実験の平均値を示す。
【
図6】
図6は、pCas9
acrおよびbdhBを標的とするgRNAの発現プラスミドを含む菌株DSM792の形質転換体において、修復マトリックスを有する(配列番号79および配列番号80)または有さない(配列番号105)CRISPR/Cas9システムの誘導を示す。Em、エリスロマイシン;Tm、チアンフェニコール;aTc、アンヒドロテトラサイクリン;ND、希釈していない。
【
図7】
図7は、CRISPR/Cas9システムを用いた、C. acetobutylicum DSM792の遺伝子座bdhの改変を示す。
図7Aは、遺伝子座bdhの遺伝子構成を示す。修復マトリクスとゲノムDNAの間の相同性を、薄い灰色の平行四辺形で強調している。また、プライマーV1とV2のハイブリダイゼーション部位も示している。
図7Bは、プライマーV1およびV2を用いた遺伝子座bdhの増幅を示す。M、サイズ2-logのマーカー(NEB);P、プラスミドpGRNA-ΔbdhA ΔbdhB;WT、野生型株。
【0027】
【
図8】
図8は、Poehlein et al., 2017の記載に従って、Clostridiumの30の溶媒生成株の分類を示す。なお、サブクレード(subclade)のC. beijerinckii NRRL B-593はまた、文献上ではC. beijerinckii DSM6423として定義されている。
【
図9】
図9は、pCas9
ind-ΔcatBプラスミドマップを示す。
【
図10】
図10は、pCas9
acrプラスミドマップを示す。
【
図11】
図11は、pEC750S-uppHRプラスミドマップを示す。
【
図12】
図12は、pEX-A2-gRNA-uppプラスミドマップを示す。
【
図13】
図13は、pEC750S-Δuppプラスミドマップを示す。
【
図14】
図14は、pEC750C-Δuppプラスミドマップを示す。
【
図16】
図16は、C. beijerinckii DSM6423株を細菌で形質転換して得られたクローンにおける遺伝子catBのPCR増幅を示す。該株が遺伝子catBを保持している場合は約1.5kbが増幅され、該遺伝子が欠失している場合は約900bpが増幅される。
【
図17】
図17は、C. beijerinckii DSM6423株の野生型(WT)およびΔcatBを2YTG培地および2YTGチアンフェニコール選択培地上で増殖させた結果を示す。
【
図18】
図18は、pCas9
acrおよびuppを標的とするgRNAの発現プラスミドを含む菌株C. beijerinckii DSM6423の形質転換体において、修復マトリクスの有無にかかわらず、CRISPR/Cas9
acrシステムを誘導することを示す。凡例:Em、エリスロマイシン;Tm、チアンフェニコール;aTc、アンヒドロテトラサイクリン;ND、希釈しない。
【
図19】
図19は、CRISPR/Cas9システムを用いたC. beijerinckii DSM6423の遺伝子座uppの改変を示す。
図19Aは、遺伝子、gRNAの標的部位および修復マトリクスを、ゲノムDNA上の対応するホモロジー領域と関連付けて、遺伝子座uppの遺伝子構成を示す。PCRで確認するためのプライマー(RH010およびRH011)のハイブリダイゼーション部位も示される。
図19Bは、プライマーRH010およびRH011を用いた遺伝子座uppの増幅を示す。野生型遺伝子の場合は、1680bpの増幅が予想されるのに対し、改変遺伝子uppの場合は1090bpである。M、100bp-3kbサイズマーカー(Lonza);WT、野生型株。
【
図20】
図20は、C. beijerinckii 6423 ΔcatB株におけるプラスミドpCas9
indの存在を確認するPCR増幅を示す。
【
図21】
図21は、CRISPR-Cas9システムのaTcを含む培地での誘導前(陽性対照1および2)と誘導後の、天然プラスミドpNF2の存在または不存在を確認するPCR増幅(≒900bp)を示す。
【
図22】
図22は、2つのプラスミドの使用に基づく、クロストリジウム属の細菌に適した、細菌の改変のための遺伝子ツールを示す(WO2017/064439、Wasels et al., 2017参照)。
【
図23】
図23は、pCas9
ind-gRNA_catBのプラスミドマップを示す。
【0028】
【
図24】
図24は、C. beijerinckii DSM6423株におけるプラスミドpCas9
ind 20μgの形質転換効率(形質転換したDNA1μg当たりに観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは、バイオロジカルトリプリケートの平均値の標準誤差を示す。
【
図30】
図30は、C. beijerinckii DSM6423の3つの菌株におけるプラスミドpCas9
indの形質転換効率(形質転換したDNA1μg当たりに観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは、バイオロジカルデュプリケートの平均値の標準偏差に対応する。
【
図31】
図31は、C. beijerinckii DSM6423由来の2つの菌株におけるプラスミドpEC750Cの形質転換効率(形質転換したDNA1μg当たりに観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは、バイオロジカルデュプリケートの平均値の標準偏差に対応する。
【
図32】
図32は、C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2株におけるプラスミドpEC750C、pNF3C、pFW01およびpNF3Eの形質転換効率(形質転換されたDNA1μg当たりに観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは、バイオロジカルトリプリケートの平均値の標準偏差に対応する。
【
図33】
図33は、C. beijerinckii NCIMB8052株におけるプラスミドpFW01、pNF3EおよびpNF3Sの形質転換効率(形質転換されたDNA1μg当たりに観察されたコロニー数)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
溶媒生成細菌、特にクロストリジウム属の細菌は、1世紀以上に亘って産業界で利用されてきたが、遺伝子組換えが困難なため、その知識は限られている。例えば、イソプロパノールを天然に生産するクロストリジウム属の細菌は、一般的には、アセトンをイソプロパノールに還元できる一次/二次アルコール脱水素酵素をコードする遺伝子adhをゲノム中に有しているが、天然状態でのABE発酵が可能な細菌とは遺伝的にも機能的にも異なる。
【0030】
本発明者らは、本発明において有利なことに、イソプロパノールを天然に生産するクロストリジウム属の細菌、C. beijerinckii DSM6423、および対照株C. acetobutylicum DSM792を形質転換し遺伝子改変することに成功した。
【0031】
実験の部に記載された作業の一部は、IBE発酵が可能な菌株である、C. beijerinckii DSM6423株のゲノムおよびトランスクリプトームの解析が本発明者らによって最近発表された(Mate de Gerando et al., 2018)。
【0032】
この株のゲノム形成(assembly of the genome)中に、本発明者らは、特に、染色体に加えて、移動性遺伝要素(mobile genetic elements)(受託番号 PRJEB11626 - https://www.ebi.ac.uk/ena/data/view/PRJEB11626)である2つの天然プラスミド(pNF1およびpNF2)ならびに線状バクテリオファージ(Φ6423)の存在を発見した。
【0033】
C. beijerinckii DSM6423株は、天然ではエリスロマイシンに感受性であるが、チアンフェニコールに耐性である。特許出願番号FR18/73492は、チアンフェニコールに感受性にされた特定の菌株、C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB(本明細書中では、C. beijerinckii IFP962 ΔcatBとしても記載)を記載している。本発明の特定の態様において、本発明者らは、C. beijerinckii DSM6423株から、その天然プラスミドpNF2を除去することに成功し、C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB ΔpNF2株(本明細書中、C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2としても記載)を取得することに成功した。この株は、本明細書において初めて特徴づけられたものである。この株は、2019年2月20日にBCCM-LMGコレクションに受託番号LMG P-31277で登録された。この株は、配列番号18の遺伝子catBおよびプラスミドpNF2(野生型)を欠く。本明細書はまた、一般的には配列番号18の遺伝子catBおよびプラスミドpNF2(野生型)も欠く、後者の何れかの派生細菌、クローン、変異体または遺伝子改変体にも関する。また、より一般的には、野生状態で、細菌染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子(本明細書中、“非染色体(細菌)DNA”または“天然(細菌)プラスミド”として定義)の両方を有し、その非染色体DNA分子の少なくとも1つ、一般的にはその非染色体DNA分子のいくつか(例えば、2個、3個または4個の非染色体DNA分子)、好ましくはその非染色体DNA分子の全てをもはや含まないように、本明細書に記載の核酸および/または遺伝子ツールを用いて遺伝子改変された、何れかの細菌に関する。
【0034】
従って、本発明者らは、本願において、ファーミキューテス門に属する溶媒生成細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌、より具体的にはクロストリジウム属の細菌であって、天然に、イソプロパノールを生産することができ、特にIBE発酵を行う能力を有する(即ち、野生型で能力を有する)細菌であって、この細菌は遺伝子的に改変され、この遺伝子改変により、特に少なくとも1つの天然プラスミド(すなわち、前記細菌の野生型に天然に存在するプラスミド)、好ましくはその天然プラスミドの全て、ならびにそれを得ることを可能にしたツール、特に遺伝子ツールを失っているものを開示する。
【0035】
これらのツールは、細菌の形質転換および遺伝子改変を顕著に容易にするという利点を有する。本発明者らによって行われた実験は、細菌、特にファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌を遺伝子改変するための、本明細書に記載のツール、より一般的には技術の使用が可能であることを示した。特に、野生状態でイソプロパノールの生産、特にIBE発酵を行うことができるクロストリジウム属の細菌のうち、特に抗生物質に対する耐性を担う酵素、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンプニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を有するものである。
【0036】
特定の態様において、本発明者らは、このようにして、アンフェニコールのクラスに属する抗生物質に感受性のある細菌を作製することに成功し、当該細菌は、これらの抗生物質に対する耐性を担う酵素をコードする遺伝子を天然に有する(野生状態で有する)。
【0037】
他の好ましい細菌は、野生状態で、細菌染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子の両方を含む。
【0038】
また、好ましくは、細菌は、野生状態で、細菌染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子の両方を含み、さらに、抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子を含む。特定の態様において、この遺伝子は、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードしている。
【0039】
本発明者らによって記載された第1の目的は、前記細菌内に導入された遺伝物質の全ての維持を改善することによって細菌の形質転換を促進するために有利に使用可能な核酸(本明細書中、核酸“OPT”として特定)に関する。この核酸OPTは、i)配列番号126(配列“OREP”)または後者の機能的変異体の全部もしくは一部、およびii)細菌の遺伝子の改変および/または前記細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の前記細菌における発現を可能にする配列(本明細書中、“目的の配列”としても特定)を含む。
【0040】
配列OREP(配列番号126)は、配列番号127のヌクレオチド配列を含む。配列番号127は、好ましくは、核酸OPTの複製に関与するタンパク質をコードする配列を含む。複製に関与すると考えられるタンパク質は、本明細書中、タンパク質“REP”(配列番号128)としても記載されている。タンパク質REPは、配列番号129の“COG 5655”と称されるファーミキューテスに保存されたドメインを有する。
【0041】
特定の態様において、核酸OPTは、配列OREP(配列番号126)の一部、一般的には配列OREPの1以上のフラグメント、好ましくは少なくとも配列REP(配列番号128)をコードするタンパク質または後者の変異体もしくは機能的フラグメント(すなわち、複製に関与するフラグメント)、一般的には配列番号127またはタンパク質REP内で、核酸OPTの複製に関与するフラグメントをコードする後者の変異体もしくはフラグメントである。タンパク質REP内に存在する、核酸OPTの複製に関与するフラグメントをコードする配列OREPの機能的フラグメントは、配列番号129のドメインを含む。タンパク質REPの機能的フラグメントをコードする核酸のそのようなフラグメントの例、および後者の変異体は、当業者によって容易に調製され得る。変異体の一般例は、配列番号127と、70%から100%、好ましくは85%から99%、さらに好ましくは95%から99%、例えば70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列相同性(sequence homology)を有する。
【0042】
好ましい態様において、配列OREPのフラグメントまたは機能的変異体は、核酸OPTの複製に関与するタンパク質をコードする。
【0043】
本発明の好ましい態様において、配列OREPのフラグメントまたは機能的変異体は、核酸OPT(例えば、プラスミド型の遺伝子構築物)の複製に関与するタンパク質(例えば、タンパク質REP)または後者の変異体もしくは機能的フラグメントをコードする配列に加えて、1~150塩基の部分、好ましくは1~15塩基の部分、例えばAおよびTに富む配列(Rajewska et al.)、好ましくは配列番号118のプラスミドpNF2内に存在する部分であって、核酸OPTの複製を可能にするタンパク質の固定化を可能にする部分を含む。
【0044】
細菌の遺伝子の改変を可能にする目的の配列は、一般的に、例えば相同組換えの機序によって、例えば本明細書に記載の方法の1つに従って、細菌の遺伝子の一部を目的の配列で置き換えることを可能にする修飾マトリックスである。細菌の遺伝子の改変を可能にする目的の配列はまた、目的の細菌のゲノムにおいて、i)標的配列、ii)標的配列の転写を調節する配列、またはiii)標的配列に隣接する配列の少なくとも1本の鎖を認識(少なくとも部分的に結合)し、好ましくは標的化し、すなわち認識および切断を可能にする配列であってもよい。
【0045】
前記細菌内で、該細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする目的の配列は、一般的には、細菌が、野生状態で発現できないか、または十分な量で発現することのできない、1以上のタンパク質を発現することを可能にする。
【0046】
特定の面によれば、“核酸OPT”は、iii)DNAエンドヌクレアーゼ、例えばCas9をコードする配列、および/またはiv)1以上のガイドRNA(gRNA)をさらに含み、各gRNAは、DNAエンドヌクレアーゼに固定するためのRNA構造および細菌の遺伝子の標的部分の相補配列を含む。
【0047】
別の特定の面によれば、“核酸OPT”は、タイプDamおよびDcmのメチルトランスフェラーゼによって認識される単位のレベルでメチル化を示さない。
【0048】
好ましくは、“核酸OPT”は発現カセットおよびベクターから選択され、好ましくはプラスミド、例えば配列番号119、配列番号123、配列番号124および配列番号125から選択される配列を有するプラスミドである。
【0049】
本発明者らによって記載された別の目的は、目的の細菌、一般的にはファーミキューテス門に属する本明細書に記載の細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌、好ましくはクロストリジウム属の細菌、天然にイソプロパノールを生産することができ(すなわち、野生状態で可能)、特にIBE発酵を天然に行うことができる細菌、好ましくは1以上の抗生物質に天然に耐性を有する細菌、例えば細菌C. beijerinckiiなどを形質転換および/または遺伝子改変するために用いられ得る遺伝子ツールに関する。好ましい細菌は、野生状態で、細菌染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子の両方を有する。
【0050】
“ファーミキューテス門に属する細菌”とは、本明細書において、クロストリジア、モルキュテス、バシリーまたはトゴバクテリアのクラスに属する細菌、好ましくはクロストリジアまたはバシリーのクラスに属する細菌を意味する。
【0051】
ファーミキューテス門に属する特定の細菌は、例えば、クロストリジウム属の細菌、バチルス属の細菌またはラクトバチルス属の細菌を含む。
【0052】
“クロストリジウム属の細菌”とは、特に、産業上有用と言われているクロストリジウム種を意味し、一般的には、クロストリジウム属の溶媒生成細菌またはアセテート(acetogenic)生成細菌である。“クロストリジウム属の細菌”という表現には、野生型細菌、ならびに後者に由来し、CRISPRシステムに曝されることなく、性能を向上させる目的で遺伝子改変された(例えば、ctfA、ctfBおよびadc遺伝子を過剰発現)された菌株も含まれる。
【0053】
“産業上有用なクロストリジウム種”とは、発酵によって、糖または単糖から、一般的にはキシロース、アラビノースまたはフルクトースなどの炭素数5個を含む糖類、グルコースまたはマンノースなどの炭素数6の糖類、セルロースまたはヘミセルロースなどの多糖類、および/またはクロストリジウム属の細菌が同化して利用できる他の炭素源(例えばCO、CO2およびメタノールなど)から出発して、溶媒および酪酸または酢酸などの酸を生産することができる種を意味する。目的の溶媒生成細菌の例は、アセトン、ブタノール、エタノールおよび/またはイソプロパノールを生産するクロストリジウム属の細菌、例えば、“ABE株”[アセトン、ブタノールおよびエタノールの生産を可能にする発酵をもたらす株]および“IBE株”[(アセトンの還元により)イソプロパノール、ブタノールおよびエタノールの生産を可能にする発酵をもたらす株]として文献で定義される菌株のような細菌である。クロストリジウム属の溶媒生成細菌は、例えば、C. acetobutylicum、C. cellulolyticum、C. phytofermentans、C. beijerinckii、C. saccharobutylicum、C. saccharoperbutylacetonicum、C. sporogenes、C. butyricum、C. aurantibutyricumおよびC. tyrobutyricumから、好ましくはC. acetobutylicum、C. beijerinckii、C. butyricum、C. tyrobutyricum および C. cellulolyticumから、さらにより好ましくは C. acetobutylicum および C. beijerinckiiから選択され得る。
【0054】
野生状態でイソプロパノールを生産することができる細菌、特に野生状態でIBE発酵をもたらし得る細菌は、例えば、細菌C. beijerinckii、細菌C. diolis、細菌C. puniceum、細菌C. butyricum、細菌C. saccharoperbutylacetonicum、細菌C. botulinum、細菌C. drakei、細菌C. scatologenes、細菌C. perfringens、および細菌C. tunisienseから選択される細菌、好ましくは細菌C. beijerinckii、細菌 C. diolis、細菌C. puniceumおよび細菌C. saccharoperbutylacetonicumから選択される細菌である。イソプロパノールを天然に生産することができる特に好ましい細菌、特に野生状態でIBE発酵をもたらし得る細菌は、細菌C. beijerinckiiである。
【0055】
目的のアセテート生成細菌は、CO2およびH2から出発して酸および/または溶媒を生産する細菌である。クロストリジウム属のアセテート生成細菌は、例えば、C. aceticum、C. thermoaceticum、C. ljungdahlii、C. autoethanogenum、C. difficile、C. scatologenes およびC. carboxydivoransから選択され得る。
【0056】
特定の態様において、クロストリジウム属の細菌は、“ABE株”、好ましくは、C. acetobutylicumのDSM 792株(ATCC 824株または他のLMG 5710株とも称される)、またはC. beijerinckiiのNCIMB 8052株である。
【0057】
別の特定の態様において、クロストリジウム属の細菌は、“IBE株”、好ましくは、DSM 6423、LMG 7814、LMG 7815、NRRL B-593、NCCB 27006から選択されるC. beijerinckii のサブクレード、または細菌C. aurantibutyricum DSZM 793(Georges et al, 1983)、およびDSM6423株と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する前記細菌C. beijerinckiiまたはC. aurantibutyricumのサブクレードである。特に好ましい細菌C.bijerinckii、または特に好ましい細菌C.bijerinckiiのサブクレードは、プラスミドpNF2を欠失している。
【0058】
一方のサブクレードLMG 7814、LMG 7815、NRRL B-593およびNCCB 27006、ならびにDSZM 793のそれぞれのゲノムは、サブクレードDSM 6423のゲノムと少なくとも97%のパーセント配列同一性を有している。
【0059】
本発明者らは発酵試験を行い、サブクレードDSM 6423、LMG 7815およびNCCB 27006の細菌C. beijerinckiiが野生状態でイソプロパノールを生産できることを確認した(表1参照)。
【0060】
【0061】
イソプロパノールを天然に生産する菌株C. beijerinckii DSM6423、LMG7815およびNCCB27006を用いたグルコースの発酵試験のバランス。本発明の特に好ましい態様において、細菌C. beijerinckiiは、サブクレードDSM 6423の細菌である。
【0062】
本発明のさらに別の好ましい態様において、細菌C. beijerinckiiは、菌株C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2(2019年2月20日に受託番号LMG P-31277でBCCM-LMGコレクションに登録され、本明細書中、C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB ΔpNF2と記載される)、または後者の遺伝子組換え体である。C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2、または後者の前記遺伝子組換え体は、配列番号18の遺伝子catBおよびプラスミドpNF2を欠失している。
【0063】
“バチルス属の細菌”とは、特に B. amyloliquefaciens、B. thurigiensis、B. coagulans、B. cereus、B. anthracis またはその他のB. subtilisを意味する。
【0064】
最近の試験中、本発明者らは、天然プラスミドpNF2の除去が、天然または合成の追加の遺伝子要素(例えば、発現カセット(複数可)またはプラスミド発現ベクター(複数可))の導入および維持に顕著な利点を有することを観察した。IFP963 ΔcatB ΔpNF2株は、このように、その野生型ホモログまたはDSM6423 ΔcatB株(本明細書中、IFP962 ΔcatBとしても記載)よりも10~5x103倍高い効率で形質転換され得る。
【0065】
形質転換されることが意図され、好ましくは遺伝子改変される細菌は、好ましくは、野生状態の前記細菌中に天然に存在する染色体外DNAの少なくとも1分子(一般的には少なくとも1つのプラスミド)を除去することを可能にした本発明の核酸または遺伝子ツールを用いた形質転換の第1工程および遺伝子改変の第1工程に曝された細菌である。
【0066】
本発明者らによって記載された特定の遺伝子ツールは、
i)それが、
- 少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼ、例えば酵素Cas9をコードする少なくとも1つの“第1の”核酸であって、ここで、DNAエンドヌクレアーゼをコードする配列がプロモーターの制御下に置かれる、“第1の”核酸、および
- 相同組換え機序によって、エンドヌクレアーゼによって標的とされた細菌DNAの一部を目的の配列で置換することを可能にする修復マトリックスを含む、少なくとも1つの“第2の”核酸
を含むことを特徴とし、ここで、
ii)前記核酸の少なくとも1つが、1以上のガイドRNA(gRNA)をさらにコードするか、または遺伝子ツールが1以上のガイドRNAをさらに含み、各ガイドRNAが、DNAエンドヌクレアーゼに固定するためのRNA構造および細菌DNAの標的部分の相補配列を含む
ことを特徴とする。
【0067】
本発明者らによって記載された遺伝子ツールの一例は、CRISPR/Casシステムと同様に、2つの異なる必須要素、すなわちi)エンドヌクレアーゼ、本発明ではCRISPRシステムに関連するヌクレアーゼ(Casまたは“CRISPR関連タンパク質”)、Cas、およびii)ガイドRNAを含む。ガイドRNAは、細菌のCRISPR RNA(crRNA)およびtracrRNA(trans-activating CRISPR RNA)を組み合わせたキメラRNAの形態である(Jinek et al, Science 2012)。gRNAは、Casタンパク質のガイドとなる“スペーサー配列”に対応するcrRNAの標的特異性と、tracrRNAの立体構造特性を1つの転写産物で兼ね備えている。gRNAおよびCasタンパク質が細胞内で同時に発現されると、修復マトリックスが供給されるため、標的ゲノム配列は通常、有利なことに、永続的に改変される。
【0068】
本発明の遺伝子ツールは、好ましくは、iii)前記(“第1”および“第2”)の核酸の少なくとも1つが、誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含むこと、または遺伝子ツールが、誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする第3の核酸をさらに含むこと、を特徴とする。
【0069】
特に、少なくとも以下を含む遺伝子ツールが記載されている:
- 少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼをコードする第1の核酸(ここで、DNAエンドヌクレアーゼをコードする配列は、プロモーターの制御下に置かれている)、および
- 核酸配列“OPT”、すなわち、i) 配列番号126(“OREP”)の全部または一部、およびii)細菌の遺伝子の改変および/または前記細菌において、前記細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする配列、を含む配列、を含むかまたはそれからなる別の核酸(または“n番目の核酸”)であって、この特定の遺伝子ツールの前記核酸の少なくとも1つは好ましくは誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含んでいるか、または前記特定の遺伝子ツールは好ましくは誘導性プロモーターの制御下に配置された抗CRISPRタンパク質をコードする第3の核酸をさらに含む。
【0070】
特定の態様において、上記の“第2の”または“修復マトリックスを含むn番目の核酸”は、この“他の核酸”を含むか、またはこの“他の核酸”からなる。
【0071】
別の特定の態様において、“第1の核酸”は、1以上のガイドRNA(gRNA)をさらにコードする。
【0072】
本発明で意味するところでは、“核酸”とは、任意の天然、合成、半合成または組換えDNAもしくはRNA分子であって、任意には化学的に修飾された(すなわち、非天然塩基、例えば修飾結合を含む修飾ヌクレオチド、修飾塩基および/または修飾糖を含む)、またはコーディング配列から合成される転写物のコドンが、クロストリジウム属の細菌中でのその使用を考慮して最も頻繁に見られるコドンであるよう最適化されている、DNAまたはRNA分子を意味する。クロストリジウム属の場合、最適化されたコドンは、一般的にはアデニン塩基(“A”)およびチミン塩基(“T”)に富んだコドンである。
【0073】
本明細書に記載のペプチド配列において、アミノ酸は、以下の命名法に従って、1文字表記で示される。C:システイン;D:アスパラギン酸;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;G:グリシン;H:ヒスチジン;I:イソロイシン;K:リジン;L:ロイシン;M:メチオニン;N:アスパラギン;P:プロリン;Q:グルタミン;R:アルギニン;S:セリン;T:スレオニン;V:バリン;W:トリプトファン、およびY:チロシン。
【0074】
本明細書に記載の遺伝子ツールは、少なくとも1つのDNAエンドヌクレアーゼ(本明細書中、“ヌクレアーゼ”としても記載)、一般的にはCasタイプのヌクレアーゼ、例えばCas9またはMAD7をコードする第1の核酸を含む。
【0075】
“Cas9”は、Cas9タンパク質(CRISPR関連タンパク質9、Csn1またはCsx12とも称される)または後者の機能的タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドフラグメント、すなわちガイドRNAまたはガイドRNAと相互作用し、標的ゲノムのDNAの二本鎖切断を行うことができる酵素(ヌクレアーゼ)活性を発揮できるものを意味する。従って、“Cas9”は、タンパク質の予め定義された機能に必須でないタンパク質のドメイン、特に1つまたは複数のgRNAとの相互作用に不要なドメインを除去するために、例えば切断されるなど、改変されたタンパク質を示す場合がある。
【0076】
“Cas12”または“Cpf1”としても記載されるヌクレアーゼMAD7(アミノ酸配列は配列番号72に対応する)は、当業者にこの種のヌクレアーゼに結合できることが知られている1以上のgRNAと組み合わせることによって、本発明において有利に用いられ得る(Garcia-Doval et al., 2017およびStella S. et al., 2017を参照のこと)。
【0077】
特定の態様では、ヌクレアーゼMAD7をコードする配列は、クロストリジウム菌株で容易に発現されるように最適化された配列であり、好ましくは配列番号71の配列である。
【0078】
別の特定の面によれば、ヌクレアーゼMAD7をコードする配列は、バチルス菌株で容易に発現されるように最適化された配列であり、好ましくは、配列番号132の配列である。
【0079】
本発明の可能な態様例の1つにおいて使用可能であるようなCas9(タンパク質全体またはそのフラグメント)をコードする配列は、任意の既知のCas9タンパク質から出発して得られてもよい(Makarova et al., 2011)。本発明で使用可能なCas9タンパク質の例としては、S. pyogenesのCas9タンパク質(PCT出願WO2017/064439の配列番号1およびNCBI受託番号:WP_010922251.1参照)、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Campylobacter jejuni、Pasteurella multocida、Francisella novicida、Neisseria meningitidis、Neisseria lactamicaおよびLegionella pneumophilaのCas9タンパク質(Fonfara et al., 2013;Mcarova et al., 2015参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
特定の態様において、本発明の遺伝子ツールの核酸の1つによってコードされるCas9タンパク質、またはその機能的タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドフラグメントは、配列番号75のアミノ酸配列または後者と少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%の同一性を有し、配列番号75のアミノ酸配列の10位(“D10”)および840位(“D840”)を占める2つのアスパラギン酸(“D”)を最小値として含む任意の他のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0081】
好ましい態様において、Cas9は、S. pyogenes M1 GAS株のcas9遺伝子(NCBI受託番号: NC_002737.2 SPy_1046、配列番号76) またはクロストリジウム属の細菌によって優先的に使用されるコドン、一般的にはアデニン(“A”)およびチミン(“T”)塩基に富むコドンを含む転写物の起源で最適化された後者のバージョン(“最適化バージョン”)であって、この細菌属でのCas9タンパク質の円滑な発現を可能にするもの、によってコードされるCas9タンパク質(NCBI受託番号:WP_010922251.1、配列番号75)を含むか、またはそれからなる。これらの最適化されたコドンは、当業者によってよく知られている、各細菌株に特有のコドンを用いる方法で多用される。
【0082】
特定の態様では、Cas9ドメインは、Cas9タンパク質全体、好ましくはS. pyogenesのCas9タンパク質またはその最適化バージョンからなる。
【0083】
本明細書に記載の遺伝子ツールの核酸それぞれは、一般的には、当該遺伝子ツールの“第1の”核酸および“第2の”または“n番目の”核酸は、異なる物質からなり、一般的に、例えば、目的の1以上の(コーディング)配列、例えば、発現産物が菌体内の目的の機能の遂行に寄与する目的の複数のコーディング配列を含むオペロン、または転写活性化および/または終結配列をさらに含む核酸に作動可能に(当業者によって理解される意味において)連結された少なくとも1つの転写プロモーターを含む核酸などの発現カセット(または“構築物”)の形態で、あるいは上記で定義された1以上の発現カセットを含む、例えばプラスミド、ファージ、コスミド、人工染色体または合成染色体などの、円形または線形の、一本鎖または二本鎖ベクターの形態で提供される。好ましくは、ベクターはプラスミドである。
【0084】
目的の核酸、一般的にはカセットまたは発現ベクターは、当業者によく知られている従来技術によって構築することができ、1以上のプロモーター、細菌複製起点(ORI配列)、終結配列、選択遺伝子、例えば抗生物質耐性遺伝子、およびカセットまたはベクターの標的挿入を可能にする配列(“隣接領域”)を含み得る。さらに、これらの発現カセットおよびベクターは、当業者によく知られている技術によって細菌ゲノム内に組み込まれ得る。
【0085】
目的のORI配列は、pIP404、pAMβ1、repH(C. acetobutylicumの複製起点)、ColE1またはrep(大腸菌の複製起点)、またはベクター、通常はプラスミドを細菌細胞、例えばクロストリジウムまたはバチルスの細胞内に維持することを可能にする何れか他の複製起点から選択されてよい。
【0086】
本明細書中、好ましいORI配列は、プラスミドpNF2(配列番号118)の配列OREP(配列番号126)内に存在するものである。
【0087】
目的のターミネーター配列は、遺伝子adc、thl、オペロンbcsのもの、または当業者によく知られている、細菌細胞、例えばクロストリジウムまたはバチルス細胞内で転写を停止することを可能にする任意の他のターミネーターから選択されてもよい。
【0088】
目的の選択遺伝子(耐性遺伝子)は、ermB、catP、bla、tetA、tetMおよび/あるいはアンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、または細菌、例えばClostridium属もしくはBacillus属を選択するのに用いられ得る、当業者によく知られている任意の他の抗生物質に対する耐性遺伝子から選択されてよい。
【0089】
要すれば本発明の遺伝子ツールの核酸の1つ内に存在してよい、DNAエンドヌクレアーゼ、例えばCas9をコードする配列は、プロモーターの制御下に置かれてもよい。このプロモーターは、構成的プロモーターであってもよく、誘導性プロモーターであってもよい。好ましい態様において、ヌクレアーゼの発現を制御するプロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0090】
本発明において使用可能な構成的プロモーターの例は、遺伝子thlのプロモーター、遺伝子ptbのプロモーター、遺伝子adcのプロモーター、オペロンBCSのプロモーター、またはその誘導体、好ましくは機能的誘導体であるがより短い(切断型の)、例えばC. acetobutylicumの遺伝子thlのプロモーターの“miniPthl”誘導体(Dong et al, 2012)、または当業者によく知られている、目的の細菌、例えばクロストリジウム属の細菌内でのタンパク質の発現を可能にする、任意の他のプロモーターから選択され得る。
【0091】
本発明において使用可能な誘導性プロモーターの例は、例えば、その発現が転写抑制因子TetRによって制御されるプロモーター、例えば遺伝子tetA(大腸菌のトランスポゾンTn10上にもともと存在するテトラサイクリン耐性遺伝子)のプロモーター;L-アラビノースによって発現が制御されるプロモーター、例えば、好ましくはシステムARAiを構築するようにC. acetobutylicum における発現を制御するaraRカセットと組み合わせて(Zhang et al, 2015)、遺伝子ptkのプロモーター(Zhang et al, 2015);ラミナリビオース(グルコースβ-1,3の二量体)によってその発現が制御されるプロモーター、例えば、好ましくはリプレッサー遺伝子glyR3および目的の遺伝子がすぐに続く遺伝子celCのプロモーター(Mearls et al., 2015)または遺伝子celCのプロモーター(Newcomb et al., 2011);ラクトースによってその発現が制御されるプロモーター、例えば遺伝子bgaLのプロモーター(Banerjee et al., 2014);キシロースによってその発現が制御されるプロモーター、例えば遺伝子xylBのプロモーター(Nariya et al., 2011);ならびに、紫外線(UV)への曝露によって発現が制御されるプロモーター、例えば遺伝子bcnのプロモーター(Dupuy et al., 2005)から選ばれてよい。
【0092】
上記のプロモーターの1つから誘導されたプロモーター、好ましくは、より短い(切断型の)機能的誘導体もまた、本発明において用いられ得る。
【0093】
本発明において使用可能な他の誘導性プロモーターは、例えば、Ransom et al. (2015)、Currie et al. (2013)およびHartman et al. (2011)による文献にも記載されている。
【0094】
好ましい誘導性プロモーターは、アンヒドロテトラサイクリン(aTc;テトラサイクリンよりも毒性が低く、低濃度で転写抑制因子TetRの阻害を除去できる)で誘導可能なtetA由来のプロモーターであり、Pcm-2tetO1およびPcm-2tetO2/1から選択される(Dong et al., 2012)。
【0095】
別の好ましい誘導性プロモーターは、ラクトースによって誘導可能なプロモーターであり、例えば、遺伝子bgaLのプロモーターである(Banerjee et al., 2014)。
【0096】
特定の目的の核酸、一般的には発現カセットまたはベクターは、1以上の発現カセットを含み、各カセットはgRNAをコードしている。
【0097】
本明細書中、用語“ガイドRNA”または“gRNA”は、細菌染色体の標的領域にDNAエンドヌクレアーゼを誘導するためにそれと相互作用することができるRNA分子を意味する。切断特異性はgRNAによって決定される。上記で説明したように、各gRNAは2つの領域:
- gRNAの5'末端にある、標的染色体領域と相補的であり、かつ内在性CRISPRシステムのcrRNAを模倣する、第1の領域(通称“SDS”領域)、および
- gRNAの3'末端にある、tracrRNA(“trans-activating crRNA”)と内在性CRISPRシステムのcrRNAとの間の塩基対相互作用を模倣し、かつ本質的に一本鎖配列で3'で終わる二本鎖ステムループ構造を有する、第2の領域(通称“ハンドル(handle)”領域)、を含む。この第2の領域は、gRNAをDNAエンドヌクレアーゼに結合させるために必須である。
【0098】
gRNAの第一の領域(“SDS”領域)は、標的とする染色体配列によって異なる。
【0099】
標的染色体領域と相補的なgRNAの“SDS”領域は、少なくとも1個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個または40個のヌクレオチド、一般的には1~40個のヌクレオチドを含む。好ましくは、この領域は、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長を有する。
【0100】
gRNAの第2の領域(“ハンドル”領域)は、ステムループ構造(またはヘアピン構造)を有している。様々なgRNAの“ハンドル”領域は、選択された染色体標的によって変わらない。
【0101】
特定の態様により、“ハンドル”領域は、少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、50、100、200、500および1000ヌクレオチド、一般的には1~1000ヌクレオチドの間の配列を含むか、またはそれらから構成されている。好ましくは、この領域は、40~120ヌクレオチド長を有する。
【0102】
gRNAの全長は、一般に50から1000ヌクレオチド長、好ましくは80から200ヌクレオチド長、より特に好ましくは90から120ヌクレオチド長である。特定の態様により、本発明で用いるgRNAは、95から110ヌクレオチド長の間の長さ、例えば、約100ヌクレオチド長または約110ヌクレオチド長を有する。
【0103】
当業者は、周知の技術を用いて、標的とする染色体領域に応じて、gRNAの配列および構造を容易に定義することができる(例えば、DiCarlo et al., 2013の文献を参照のこと)。
【0104】
細菌ゲノム内の、例えば細菌染色体の、標的とされるDNA領域/部分/配列は、DNAの非コーディング部分に相当してもよいか、またはDNAのコーディング部分に相当してもよい。
【0105】
所定の配列を改変することからなる特定の態様において、細菌DNAの標的部分は、該細菌の生存に必須である。それは、例えば、細菌染色体の任意の領域または非染色体DNA上に位置する任意の領域、例えば、想定される増殖条件下で細菌を抗生物質の存在下で培養する必要がある場合に該抗生物質に対する耐性マーカーを含むプラスミドなど、特定の増殖条件下での微生物の生存に不可欠な移動性遺伝子要素上に位置する領域に相当する。
【0106】
微生物の培養に関連する特定の増殖条件において必須でない遺伝子要素を除去する目的で別の特定の態様において、細菌DNAの標的部分は、前記非染色体細菌DNAの任意の領域に相当し得る。
【0107】
クロストリジウム属の細菌内で標的とされるDNA部分の特定の例は、試験部分の実施例1において用いられる配列である。それらは、例えば、遺伝子bdhA(配列番号77)およびbdhB(配列番号78)をコードする配列である。標的となるDNA領域/部分/配列には、DNAエンドヌクレアーゼとの結合に関与する配列“PAM”(“protospacer adjacent motif”)が続く。
【0108】
所定のgRNAの“SDS”領域は、細菌ゲノム、例えば細菌染色体内で標的とされるDNA領域/部分/配列と同一(100%まで)または少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であり、かつ該領域/部分/配列の全部または一部の相補配列に対して、一般的には少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40ヌクレオチド、一般的には1~40ヌクレオチドを含む配列に対して、好ましくは14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列に対して、ハイブリダイズ可能なものである。
【0109】
本発明において、目的の核酸は、配列(“標的配列”、“標的化配列”または“認識される配列”)を標的とする1以上のガイドRNA(gRNA)を含み得る。これらの様々なgRNAは、染色体領域または要すれば微生物内に存在してよい非染色体細菌DNAに属する領域(例えば、移動性遺伝子要素に属する領域)を標的としてもよく、同一でも異なってもよい。
【0110】
gRNAは、gRNAの分子(成熟または前駆体)の形態で、前駆体の形態で、または前記gRNAをコードする1以上の核酸の形態で、細菌細胞内に導入されてもよい。gRNAは、好ましくは、該gRNAをコードする1以上の核酸の形態で細菌細胞に導入される。
【0111】
1つまたは複数のgRNAがRNA分子の形態で直接細胞に導入されるとき、これらのgRNA(成熟または前駆体)は、例えば、ヌクレアーゼに対する耐性を高め、これにより細胞内での寿命を長くするのを可能にする修飾ヌクレオチドまたは化学修飾を含み得る。特に、例えば、イノシン、メチル-5-デオキシシチジン、ジメチルアミノ-5-デオキシウリジン、デオキシウリジン、ジアミノ-2,6-プリン、ブロモ-5-デオキシウリジンなどの修飾塩基、またはハイブリダイゼーションを可能にする任意の他の修飾塩基を含むヌクレオチドなどの、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドまたは非天然ヌクレオチドを含んでいてよい。本発明に従って用いられるgRNAはまた、例えばホスホロチオエート、H-ホスホネートもしくはアルキルホスホネートなどのヌクレオチド間結合のレベルで、または例えばα-オリゴヌクレオチド、2’-O-アルキルリボースもしくはPNA(ペプチド核酸)(Egholm et al., 1992)などの骨格(主鎖)レベルで修飾されてもよい。
【0112】
gRNAは、天然RNA、合成RNAまたは組換え技術によって生成されたRNAであり得る。これらのgRNAは、例えば、化学合成、インビボ転写または増幅技術など、当業者によって知られているあらゆる方法によって調製することができる。
【0113】
gRNAが1以上の核酸の形態で細菌細胞に導入されるとき、1つまたは複数のgRNAをコードする1つまたは複数の配列は、発現プロモーターの制御下に置かれる。このプロモーターは、構成的であっても誘導性であってもよい。
【0114】
いくつかのgRNAが用いられるとき、各gRNAの発現は異なるプロモーターによって制御され得る。好ましくは、用いられるプロモーターは、全てのgRNAについて同じである。特定の態様において、1つの同じプロモーターは、発現が意図されるgRNAのいくつかの、例えば、いくつかまたはすべての、発現を可能にするために用いられ得る。
【0115】
好ましい態様において、gRNA/(複数の)gRNAの発現を制御する(1つまたは複数の)プロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0116】
本発明において使用可能な構成的プロモーターの例は、遺伝子thlのプロモーター、遺伝子ptbのプロモーター、またはオペロンBCSのプロモーター、あるいはそれらの誘導体、好ましくはminiPthl、または当業者によく知られている、目的の細菌内で(コーディングまたは非コーディング)RNAの合成を可能にする任意の他のプロモーターから選択されてもよい。
【0117】
本発明において使用可能な誘導性プロモーターの例は、遺伝子tetAのプロモーター、遺伝子xylAのプロモーター、遺伝子lacIのプロモーター、または遺伝子bgaLのプロモーター、あるいはそれらの誘導体、好ましくは2tetO1またはtetO2/1、から選択され得る。好ましい誘導性プロモーターは、2tetO1である。
【0118】
DNAエンドヌクレアーゼの発現およびgRNA/(複数の)gRNAの発現を制御するプロモーターは、同一でも異なっていてもよく、かつ構成的であっても誘導的であってもよい。特定の好ましい態様において、DNAエンドヌクレアーゼまたは1つもしくは複数のgRNAの発現をそれぞれ制御するプロモーターは、異なるプロモーターであるが、同一の誘導剤によって誘導可能である。
【0119】
上記の誘導性プロモーターは、DNAエンドヌクレアーゼ/gRNAリボ核タンパク質複合体、例えばCas9/gRNAの作用を有利に制御することを可能にし、所望の遺伝子改変が施された形質転換体の選択を容易にする。
【0120】
本発明の遺伝子ツールは、有利には、少なくとも1つの抗CRISPRタンパク質、すなわちCasの作用を阻害または阻止/中和することができるタンパク質、および/またはCRISPR/Cas系、例えばヌクレアーゼがCas9型のヌクレアーゼであるとき、II型のCRISPR/Cas系の作用を阻害または阻止/中和することができるタンパク質をコードする配列をさらに含んでいてもよい。この配列は、一般的には、DNAエンドヌクレアーゼおよび/または1つもしくは複数のgRNAの発現を制御するプロモーターとは異なる誘導性プロモーターの制御下に置かれ、かつ別の誘導因子によって誘導可能である。好ましい態様において、抗CRISPRタンパク質をコードする配列は、さらに一般的には、遺伝子ツール内に存在する少なくとも2つの核酸のうちの1つに局在している。特定の態様において、抗CRISPRタンパク質をコードする配列は、最初の2つとは異なる核酸(一般的には“第3の核酸”)上に局在している。さらに別の特定の態様において、抗CRISPRタンパク質をコードする配列および当該抗CRISPRタンパク質の転写抑制因子をコードする配列の両方が、細菌染色体中に組み込まれている。
【0121】
好ましい態様において、抗CRISPRタンパク質をコードする配列は、遺伝子ツール内で、DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸(本明細書中、“第1の核酸”とも称される)上に配置される。別の態様において、抗CRISPRタンパク質をコードする配列は、遺伝子ツール内で、DNAエンドヌクレアーゼをコードするものとは異なる核酸上、例えば、本明細書中、“第2の核酸”として特定される核酸上、あるいはその他、要すれば遺伝子ツール内に含まれていてよい“n番目の”(一般的には“第3の”)核酸上に配置される。
【0122】
抗CRISPRタンパク質は、一般的には、“抗Cas9”タンパク質または“抗MAD7”タンパク質、すなわち、Cas9またはCAS7の作用を阻害もしくは阻止/中和することができるタンパク質である。
【0123】
抗CRISPRタンパク質は、有利には、例えばAcrIIA1、AcrIIA2、AcrIIA3、AcrIIA4、AcrIIA5、AcrIIC1、AcrIIC2およびAcrIIC3から選択される“抗Cas9”タンパク質である(Pawluk et al, 2018)。好ましくは、“抗Cas9”タンパク質は、AcrIIA2またはAcrIIA4である。さらにより好ましくは、“抗Cas9”タンパク質は、AcrIIA4である。前記タンパク質は、一般的には、例えば酵素Cas9に結合することによって、Cas9の作用を非常に著しく制限すること、理想的には阻止することができる(Dong et al., 2017;Rauch et al., 2017)。
【0124】
有利には、使用可能な別の抗CRISPRタンパク質は、“抗MAD7”タンパク質、例えばタンパク質AcrVA1である(Marino et al., 2018)。
【0125】
好ましい態様において、抗CRISPRタンパク質は、好ましくは、遺伝子ツールの核酸配列を目的の細菌株に導入する工程の間、DNAエンドヌクレアーゼの作用を阻害する、好ましくは中和することができる。
【0126】
抗CRISPRタンパク質をコードする配列の発現を制御するプロモーターは、好ましくは、誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターは、構成的に発現される遺伝子と結合し、一般的には、当該誘導性プロモーターを起点とする転写抑制を可能にするタンパク質の発現に関与する。このプロモーターは、例えば、遺伝子tetAのプロモーター、遺伝子xylAのプロモーター、遺伝子lacIのプロモーターまたは遺伝子bgaLのプロモーターもしくはそれらの誘導体から選択され得る。
【0127】
本発明において使用可能な誘導性プロモーターの例は、遺伝子ツール内および同じ核酸上で、構成的に発現される遺伝子bgaRと並んで存在するプロモーターPbgal(ラクトースで誘導可能)であり、その発現産物はPbgalから始まる転写抑制を可能にする。誘導因子であるラクトースの存在下では、プロモーターPbgalの転写抑制が解除され、後者の下流に配置された遺伝子の転写が可能になる。好ましくは、下流に配置された遺伝子は、本発明において、抗CRISPRタンパク質、例えばacrIIA4をコードする遺伝子に相当する。
【0128】
抗CRISPRタンパク質の発現を制御するプロモーターによって、DNAエンドヌクレアーゼ、例えば酵素Cas9の作用を有利に制御することが可能となり、その結果、細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌の形質転換を促進し、および所望の遺伝子改変が行われた形質転換体の産生を容易にできる。
【0129】
特定の態様において、本発明は、配列番号23の配列を有するプラスミドベクターを“第1の”核酸として含む遺伝子ツールに関する。
【0130】
さらに別の特定の態様において、本発明は、その配列が“第2の”または“n番目の”核酸として配列番号79、配列番号80、配列番号119、配列番号123、配列番号124および配列番号125のいずれかから選択されるプラスミドベクターを含む遺伝子ツールに関する。
【0131】
さらに別の特定の態様において、本発明は、配列が“核酸OPT”として配列番号119、配列番号123、配列番号124および配列番号125のいずれかから選択されるプラスミドベクターを含む遺伝子ツールに関する。別の特定の態様において、遺伝子ツールは、配列番号23、79、80、119、123、124および125のうちのいくつかの(例えば、少なくとも2つまたは3つの)配列を含み、該配列は互いに異なるものである。
【0132】
本発明者らは、細菌内で、該細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠落したDNA配列の発現を可能にする、目的の核酸、一般的には目的のDNA配列の例を記載する。
【0133】
特定の態様において、目的のDNA配列の発現は、細菌、例えばクロストリジウム属の細菌が、いくつかの異なる糖、例えば少なくとも2つの異なる糖、一般的には5個の炭素原子を含む糖(グルコースまたはマンノースなど)のうち少なくとも2つの異なる糖、および/または6個の炭素原子を含む糖(キシロース、アラビノースまたはフルクトースなど)のうち少なくとも2つの異なる糖、好ましくは、例えばグルコース、キシロースおよびマンノース;グルコース、アラビノースおよびマンノース;ならびにグルコース、キシロースおよびアラビノースから選択される少なくとも3つの異なる糖を発酵(通常は同時に)することを可能にする。
【0134】
別の特定の態様において、目的のDNA配列は、少なくとも1つの目的の産物、好ましくは、細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌による溶媒の生産を促進する産物、一般的には少なくとも1つの目的のタンパク質、例えば酵素;トランスポーターなどの膜タンパク質;他のタンパク質の成熟のためのタンパク質(シャペロンタンパク質);転写因子;または、それらの組合せをコードしている。
【0135】
好ましい態様において、目的のDNA配列は、溶媒の生産を促進し、一般的には、i)酵素、例えばアルデヒドのアルコールへの変換に関与する酵素、例えばアルコールデヒドロゲナーゼをコードする配列(例えば、adh、adhE、adhE1、adhE2、bdhA、bdhBおよびbdhCから選択される配列)、トランスフェラーゼをコードする配列(例えば、ctfA、ctfB、atoAおよびatoBから選択される配列)、デカルボキシラーゼをコードする配列(例えば、adc)、ヒドロゲナーゼをコードする配列(例えば、etfA、etfBおよびhydAから選択される配列)、およびこれらの組合せから選択される酵素、ii)膜タンパク質、例えば、ホスホトランスフェラーゼをコードする配列(例えば、glcG、bglC、cbe4532、cbe4533、cbe4982、cbe4983、cbe0751から選択される配列)、iii)転写因子(例えば、sigL、sigE、sigF、sigG、sigH、sigKから選択される配列)、ならびにiv)これらの組合せ、をコードする配列から選択される。
【0136】
さらに、本発明者らは、目的の核酸が、目的の細菌のゲノムにおいて、i)標的配列、ii)標的配列の転写を調節する配列、またはiii)標的配列の隣接配列、の少なくとも1つの鎖を認識(少なくとも部分的に結合)し、好ましくは標的化し、すなわち認識して切断を可能にする例を記載する。
【0137】
認識される配列は、本明細書中、“標的配列”または“標的化配列”とも記載される。
【0138】
また、前記目的の核酸を含むか、またはそれからなる遺伝子ツールも記載される。この場合、目的の核酸は、一般的には、本明細書中に記載の遺伝子ツールの“第2の”または“n番目”の核酸内に存在する。
【0139】
目的の核酸は、一般的には、本明細書中、細菌ゲノムの認識された配列を抑制するため、またはその発現を改変するため、例えばその発現を調節/制御するため、特にそれを阻害するため、好ましくは前記細菌が該配列から始まるタンパク質、特に機能タンパク質を発現できなくするようにそれを改変するために用いられる。
【0140】
標的配列が、目的の細菌がその細菌に耐性を付与する抗生物質を含む培養液中で増殖することを可能にする酵素をコードする配列、そのような配列の転写を調節する配列、またはそのような配列に隣接する配列であるとき、抗生物質は、一般的には、アンフェニコール類に属する抗生物質である。本明細書に記載のアンフェニコール類の例は、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、アジダムフェニコールおよびフロフェニコール(Schwarz S. et al., 2004)、特にクロラムフェニコールおよびチアンフェニコールである。
【0141】
特定の態様において、目的の核酸は、細菌ゲノム内で標的とされるDNA領域/部分/配列と少なくとも100%同一または80%同一、好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であり、該領域/部分/配列の相補配列の全部または一部とハイブリダイズすることができ、一般的には少なくとも1ヌクレオチドを含む配列、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、14、15、20、25、30、35または40ヌクレオチドを含む配列、一般的には、1、10または20ヌクレオチドと1000ヌクレオチドの間、例えば1、10または20ヌクレオチドと900、800、700、600、500、400、300または200ヌクレオチドの間、1、10または20ヌクレオチドと100ヌクレオチドの間、1、10または20ヌクレオチドと50ヌクレオチドの間、あるいは1、10または20ヌクレオチドと40ヌクレオチドの間、例えば10~40ヌクレオチド、10~30ヌクレオチド、10~20ヌクレオチド、20~30ヌクレオチド、15~40ヌクレオチド、15~30ヌクレオチドまたは15~20ヌクレオチド、好ましくは14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列とハイブリダイズすることができる、標的配列の少なくとも1つの相補領域を含む。目的の核酸内に存在する標的配列の相補領域は、本明細書中に記載のとおり、CRISPRツールで用いられるガイドRNA(gRNA)の“SDS”領域に相当し得る。
【0142】
記載された別の特定の態様において、目的の核酸は、細菌ゲノム内で標的とされる前記DNA領域/部分/配列と100%同一または少なくとも80%同一、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一の、標的配列に相補的な少なくとも2つの領域をそれぞれ含む。これらの領域は、前記領域/部分/配列の相補配列の全部または一部、一般的には少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、一般的には100~1000ヌクレオチドを含む上記の配列にハイブリダイズすることが可能である。目的の核酸内に存在する標的配列の相補領域は、例えば、遺伝子ツールClosTron(登録商標)、遺伝子ツールTargetron(登録商標)またはACE(登録商標)タイプの対立遺伝子交換ツールなどの、本明細書に記載の遺伝子改変用ツールにおいて、標的化配列の5’および3’隣接領域を認識し得る、好ましくは標的とし得る。
【0143】
特定の面により、標的配列は、アンフェニコール類に属する1以上の抗生物質、例えば、クロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコールを含む培地中で増殖し得る、目的の細菌の、例えばクロストリジウム属のゲノム内で、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列であり、かかる配列の転写を調節するかまたはかかる配列に隣接する配列である。
【0144】
認識される配列は、例えば、C. beijerinckii DSM6423のクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子catB(CIBE_3859)に対応する配列番号18の配列、または該クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%同一のアミノ酸配列、または配列番号18の全てまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%を含む配列である。換言すると、認識される配列は、少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40ヌクレオチド、一般的には1~40ヌクレオチド、好ましくは配列番号18の14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列であり得る。
【0145】
配列番号18によりコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも70%同一のアミノ酸配列の例は、NCBIデータベースにおいて以下の参照番号で定義される配列に対応する:WP_077843937.1、配列番号44(WP_063843219.1)、配列番号45(WP_078116092.1)、配列番号46(WP_077840383.1)、配列番号47(WP_077307770.1)、配列番号48(WP_103699368.1)、配列番号49(WP_087701812.1)、配列番号50(WP_017210112.1)、配列番号51(WP_077831818.1)、配列番号52(WP_012059398.1)、配列番号53(WP_077363893.1)、配列番号54(WP_015393553.1)、配列番号55(WP_023973814.1)、配列番号56(WP_026887895.1)、配列番号57(AWK51568.1)、配列番号58(WP_003359882.1)、配列番号59(WP_091687918.1)、配列番号60(WP_055668544.1)、配列番号61(KGK90159.1)、配列番号62(WP_032079033.1)、配列番号63(WP_029163167.1)、配列番号64(WP_017414356.1)、配列番号65(WP_073285202.1)、配列番号66(WP_063843220.1)および配列番号67(WP_021281995.1)。
【0146】
配列番号18によりコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも75%同一のアミノ酸配列の例は、配列WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1、WP_026887895.1、AWK51568.1、WP_003359882.1、WP_091687918.1、WP_055668544.1およびKGK90159.1に対応する。
【0147】
配列番号18によりコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも90%同一なアミノ酸配列の例は、配列WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1、WP_026887895.1およびAWK51568.1である。
【0148】
配列番号18によりコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも95%同一のアミノ酸配列の例は、配列WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1およびWP_026887895.1に対応する。
【0149】
配列番号18によりコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも99%同一の好ましいアミノ酸配列は、配列WP_077843937.1、配列番号44(WP_063843219.1)および配列番号45(WP_078116092.1)である。
【0150】
配列番号18と同一の特定の配列は、NCBIデータベースにおいて参照番号WP_077843937.1の下で定義される配列である。
【0151】
特定の例により、標的配列は、そのアミノ酸配列が配列番号66(WP_063843220.1)に対応するC. perfringensのクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子catQに対応する配列番号68であるか、または該クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%同一の配列、または配列番号68の全てもしくは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%を含む配列である。
【0152】
換言すると、認識される配列は、少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40ヌクレオチド、一般的には1~40ヌクレオチドを含む配列、好ましくは配列番号68の14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列で有り得る。
【0153】
さらに別の特定の例では、認識される配列は、細菌内に天然に存在するかまたは前記細菌に人工的に導入される、当業者によって知られている、核酸配列catB(配列番号18)、catQ(配列番号68)、catD(配列番号69、Schwarz S. et al., 2004)またはcatP(配列番号70、Schwarz S. et al., 2004)から選択される。
【0154】
上記のように、別の特定の例では、標的配列はまた、上記のコーディング配列(目的の細菌がそれに対する耐性を付与される抗生物質を含む培地中で増殖できるようにする酵素をコードする)の転写を調節する配列、一般的にはプロモーター配列、例えばcatB遺伝子のプロモーター配列(配列番号73)またはcatQ遺伝子のプロモーター配列(配列番号74)であり得る。
【0155】
次に、目的の核酸は、上記のコーディング配列の転写を調節する配列を認識し、したがって一般的には結合することができる。
【0156】
別の特定の例では、標的配列は、上記のコーディング配列に隣接する配列、例えば配列番号18の遺伝子catBに隣接する配列または後者と少なくとも70%同一な配列であり得る。該隣接配列は、一般的には、1、10または20および1000ヌクレオチドを、例えば、1、10もしくは20~900、800、700、600、500、400、300もしくは200ヌクレオチド、1、10もしくは20~100ヌクレオチド、1、10もしくは20~50ヌクレオチド、または1、10もしくは20~40ヌクレオチド、例えば、10~40ヌクレオチド、10~30ヌクレオチド、10~20ヌクレオチド、20~30ヌクレオチド、15~40ヌクレオチド、15~30ヌクレオチドあるいは15~20ヌクレオチドを含む。
【0157】
特定の面では、標的配列は、前記コーディング配列に隣接する一対の配列に対応し、各隣接配列は、一般的には少なくとも20ヌクレオチド、一般的には100~1000ヌクレオチド、好ましくは200~800ヌクレオチドを含む。
【0158】
本明細書中、目的の細菌を形質転換する、および/または遺伝子改変するために用いられる目的の核酸の特定の例は、細菌、例えば上記のクロストリジウム属の細菌のゲノム内に、目的の酵素、好ましくはアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼを、i)コーディング配列を認識する、ii)コーディング配列の転写を調節する、またはiii) コーディング配列に隣接する、DNAフラグメントである。
【0159】
上記の本発明の目的の核酸の一例は、細菌のゲノムの認識された配列(“標的配列”)を抑制すること、またはその発現を改変すること、例えばそれを調節すること、特にそれを阻害すること、好ましくは前記細菌が該配列から始まるタンパク質、例えばアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、特に機能タンパク質を発現できないようにそれを修飾することができる。
【0160】
酵素をコードする認識された配列が、細菌にクロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコールに対する耐性を付与する配列である特定の態様において、用いられる選択遺伝子は、クロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコールに対する耐性の遺伝子ではなく、好ましくは遺伝子catB、catQ、catDまたはcatPの何れかでもない。
【0161】
特定の態様において、目的の核酸は、目的の酵素、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列を標的とする、該コーディング配列の転写を調節する、または該コーディング配列に隣接する1以上のガイドRNA(gRNA)、および/または修飾マトリックス(本明細書中、“編集マトリックス”とも記載)、例えば、好ましくは標的配列の発現を阻害または抑制するための、標的配列のすべてまたは一部を除去または修飾することを可能にするマトリックス、一般的には、上記の標的配列の上流および下流に位置する配列と相同な配列(対応する配列)を含むマトリックスであり、一般的には、それぞれが10もしくは20塩基対から1000、1500もしくは2000塩基対の間であり、例えば100、200、300、400もしくは500塩基対から1000、1200、1300、1400もしくは1500塩基対であり、好ましくは100から1500または100から1000塩基対、さらに好ましくは500から1000または200から800塩基対を含む配列(標的配列の上流および下流に位置する該配列と相同な配列)を含むマトリックスを含む。
【0162】
特定の態様において、目的の細菌を形質転換および/または遺伝子改変するために用いられる目的の核酸は、DamおよびDcm型のメチルトランスフェラーゼ(dam-dcm-遺伝子型を有する大腸菌から調製される)によって認識されるモチーフのレベルでメチル化を有さない核酸である。
【0163】
形質転換されたおよび/または遺伝子改変された目的の細菌がC. beijerinckii細菌、特にサブクレードDSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRL B-593およびNCCB27006の1つに属している場合、遺伝子ツールとして用いられる目的の核酸、例えばプラスミドは、Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼに認識されるモチーフとなるレベルでのメチル化を有さない核酸であり、一般的には、GATCモチーフのアデノシン(“A”)および/またはCCWGGモチーフ(Wはアデノシン(“A”)またはチミン(“T”)に対応していてよい)の第2シトシン“C”は脱メチル化されている核酸である。
【0164】
Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼに認識されるモチーフのメチル化を有さない核酸は、一般的にはdam-dcm-遺伝子型を有する大腸菌(例えば、Escherichia coli INV 110, Invitrogen)から調製され得る。これと同じ核酸は、例えば、ecoKI型メチルトランスフェラーゼによって行われた他のメチル化を含み得て、後者はAAC(N6)GTGCおよびGCAC(N6)GTTモチーフのアデニン(“A”)を標的とする(Nは任意の塩基に対応し得る)。
【0165】
特定の態様において、標的化配列は、遺伝子catBなどのアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、この遺伝子の転写を調節する配列、またはこの遺伝子に隣接する配列に相当する。
【0166】
本発明者らによって記載された特定の目的の核酸は、例えばベクター、好ましくはプラスミド、例えば本明細書の実験セクションに記載された配列番号21のプラスミドpCas9ind-ΔcatBまたは配列番号38のプラスミドpCas9ind-gRNA_catB(実施例2)、特にDamおよびDcm型のメチルトランスフェラーゼによって認識されるモチーフのレベルでメチル化を有しない該配列バージョンである。
【0167】
本明細書はまた、本明細書に記載の目的の細菌を形質転換および/または遺伝子改変するための目的の核酸の使用にも関する。
【0168】
本発明者らによって記載された別の面は、本発明の遺伝子ツール、一般的には上記の本発明による目的の核酸を用いて、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバシルス属の細菌、一般的には溶媒生成細菌、特にクロストリジウム属の溶媒生成細菌を形質転換し、好ましくはさらに遺伝子改変する方法に関する。この方法は、有利には、該細菌に、本明細書に記載の遺伝子ツールの全部または一部、特に本明細書に記載の目的の核酸、好ましくは、i)配列番号126(OREP)の全部または一部、およびii)細菌の遺伝子の改変および/または該細菌において、該細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的または完全に欠失したDNA配列の発現を可能にする配列、を含むか、またはそれからなる“核酸OPT”を導入することにより、該細菌を形質転換する工程を含む。本方法は、形質転換された細菌、すなわち必要な組換えまたは組換え/改変または改変/最適化または最適化を有する細菌を得る、回収する、選択するまたは単離する工程をさらに含んでもよい。
【0169】
特定の態様において、本明細書に記載の細菌を形質転換する、好ましくは遺伝子改変する方法は、遺伝子改変のためのツール、例えばCRISPRツール、タイプIIイントロンの使用に基づくツール(例えば、Targetron(登録商標)ツールまたはClosTron(登録商標)ツール)および対立遺伝子交換ツール(例えば、ACE(登録商標)ツール)から選択される遺伝子改変のためのツールに関連し、上記のように、本発明による目的の核酸を前記細菌に導入することによって、前記細菌を形質転換する工程を含む。
【0170】
本発明は、一般的に、有利には、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属の細菌を形質転換する、好ましくは遺伝子改変するために選択された遺伝子改変ツールが、野生型において1以上の抗生物質に対する耐性を担う酵素をコードする遺伝子を有する、および/または少なくとも1つの染色体外DNA配列を野生型で有する、C. beijerinckiiなどの細菌において使用されることが意図されている場合に用いられ、かつ該遺伝子ツールの適用が、この細菌が野生型では耐性を有する抗生物質に対する耐性マーカーの発現を可能にする核酸を用いて上記細菌を形質転換する工程、および/または該抗生物質(この細菌が野生型で耐性を有する)を用いて形質転換された細菌および/または遺伝子改変された細菌を選択する工程、好ましくは該細菌のうち、該染色体外DNA配列を欠失した細菌を選択するための工程を含む。
【0171】
例えばCRISPRツール、タイプIIイントロンの使用に基づくツールおよび対立遺伝子交換ツールから選択される遺伝子改変のためのツールを用いて、本発明により有利に得られる改変は、望ましくない配列、例えば細菌に1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素をコードする配列を欠失させること、またはこの望ましくない配列を非機能的にすることからなる。本発明により有利に得られる別の改変は、細菌の性能、例えば、目的の溶媒(ソルベント)または溶媒混合物の生産におけるその性能を向上させるために細菌を遺伝子改変することからなり、該細菌は、本発明により、野生型では耐性のある抗生物質に対して感受性となるように、および/または該細菌の野生型に存在する染色体外DNA配列を除去するために、予め改変されている。
【0172】
好ましい態様において、本発明の方法は、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)技術/遺伝子ツール、特にCRISPR/Cas(CRISPR-Associated protein)遺伝子ツールの使用(採用)に基づく。
【0173】
本発明は、Wangら(2015)に記載の、ヌクレアーゼ、gRNAおよび修復マトリックスを含む単一プラスミドを用いた従来のCRISPR/Cas遺伝子ツールを用いて実施することができる。
【0174】
当業者であれば、周知の技術を用いて、標的とする染色体領域または移動性遺伝要素に応じて、gRNAの配列および構造を容易に決定することができる(例えば、DiCarlo et al., 2013の文献を参照)。
【0175】
本発明者らは、本発明でも使用可能な、細菌を改変するための、クロストリジウム属の細菌を改変するのに適する、2つのプラスミドの使用に基づく遺伝子ツールを開発し、記載している(WO2017/064439、Wasels et al., 2017、および本明細書に添付する
図15を参照)。
【0176】
特定の態様において、このツールの“第1の”プラスミドはCasヌクレアーゼの発現を可能にし、および“第2の”プラスミドは、実施されるべき改変に特異的な、1以上のgRNA発現カセット(一般的には細菌DNAの異なる領域を標的とする)、ならびに相同組換え機序によって、Casが標的とする細菌DNAの一部を目的の配列で置換することを可能にする、修復マトリックスを含む。Cas遺伝子および/またはgRNA発現カセット(複数可)は、当業者によって知られている構成的または誘導性の、好ましくは誘導性の発現プロモーター(例えば、出願WO2017/064439に記載され、引用により本明細書中に包含させる)、および好ましくは異なっているが、同一の誘導因子で誘導可能な発現プロモーター、の制御下に置かれている。
【0177】
使用可能なgRNAは、本明細書において上記のgRNAに対応する。
【0178】
本明細書に記載の細菌を形質転換する、および一般的には相同組換えによって遺伝子改変するために本発明において使用可能なCRISPR技術を伴う特定の方法は、以下の工程を含む。
a)抗CRISPRタンパク質の発現を誘導するための薬剤の存在下で、本発明者らが記載する核酸または遺伝子ツールを細菌に導入する工程、および
b)抗CRISPRタンパク質の発現誘導剤を含まない培地中で(または関連しない条件下で)工程a)の最後に得られた形質転換細菌を培養し、一般的にはDNAエンドヌクレアーゼ/gRNAリボ核タンパク質複合体の発現を可能にし、一般的にはCas/gRNA(前記抗CRISPRタンパク質の生成を停止し、エンドヌクレアーゼの作用を可能にするために)の発現を可能にする工程。
【0179】
抗CRISPRタンパク質の発現誘導剤は、前記発現を誘導するのに十分な量で存在する。プロモーターPbgalの場合、誘導剤であるラクトースにより、タンパク質BgaRの発現に関連する抗CRISPRタンパク質の発現阻害(転写抑制)を除去することが可能となる。
【0180】
抗CRISPRタンパク質の発現誘導剤は、好ましくは約1mM~約1M、好ましくは約10mM~約100mM、例えば約40mMの濃度で使用される。
【0181】
好ましい態様において、抗CRISPRタンパク質は、遺伝子ツールの核酸配列を目的の細菌株に導入する工程の間、好ましくはヌクレアーゼの作用を阻害する、好ましくは中和することが可能である。
【0182】
特定の態様において、本方法は、工程b)の間または後に、前記遺伝子ツールが前記細菌に導入されると、該細菌の目的の遺伝子改変を可能にするために、該遺伝子ツールに該プロモーター(複数可)が存在している場合には、ヌクレアーゼの発現および/または1つもしくは複数のガイドRNAの発現を制御している1つまたは複数の誘導性プロモーターの発現を誘導する工程をさらに含む。該誘導は、選択された誘導性プロモーターに関連する発現阻害を除去できる物質を用いて実行される。
【0183】
従って、誘導工程が存在する場合、該誘導工程は、本発明の方法により遺伝子ツールを標的細菌に導入した後、当業者に知られているエンドヌクレアーゼ/gRNAリボヌクレオタンパク質複合体の発現を可能にする培地上での任意の培養方法によって実施され得る。それは例えば、十分な量で存在する適切な物質と細菌を接触させるか、またはUV光に曝露することによって行われる。この物質により、選択された誘導性プロモーターに関連する発現の阻害を除去することが可能となる。選択されたプロモーターが、Pcm-2tetO1およびPcm-tetO2/1から選択されるアンヒドロテトラサイクリン(aTc)で誘導可能なプロモーターである場合、aTcは、好ましくは、約1ng/mlから約5000ng/mlの濃度、好ましくは約10ng/mlから1000ng/ml、約10ng/mlから800ng/ml、約10ng/mlから500ng/ml、100ng/mlまたは200ng/mlから約800ng/mlまたは1000ng/ml、あるいは約100ng/mlまたは200ng/mlから約500ng/ml、600ng/mlまたは700ng/ml、例えば約50ng/ml、100ng/ml、150ng/ml、200ng/ml、250ng/ml、300ng/ml、350ng/ml、400ng/ml、450ng/ml、500ng/ml、550ng/ml、600ng/ml、650ng/ml、700ng/ml、750ng/mlまたは800ng/mlの濃度で用いられる。
【0184】
別の特定の態様において、本方法は、修復マトリックスを含む核酸を除去する(その後、細菌細胞は該核酸を“除去(stripped)”されたとみなされる)、および/または、1個または複数個のガイドRNAもしくは工程a)において遺伝子ツールと共に導入された1個または複数個のガイドRNAをコードする配列、を除去する、追加の工程c)を含む。
【0185】
さらに別の特定の態様において、本方法は、工程b)または工程c)に続いて、既に導入されたそれ(それら)とは異なる修復マトリックス、および、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導する誘導剤の存在下で、細菌ゲノムの標的化ゾーンに上記の異なる修復マトリックスに含まれる目的の配列を組み込むことが可能な1以上のガイドRNA発現カセットを含む、第nの、例えば第3、第4、第5などの核酸を導入する、1以上の追加工程を含み、各追加工程の後には、このように形質転換された細菌を、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導する、一般的にはCas/gRNAリボ核タンパク質複合体の発現を可能にする誘導剤を含まない培地中で培養する工程が含まれる。
【0186】
本発明による方法の特定の態様において、上記のような核酸または遺伝子ツールを用いて、目的の標的配列の少なくとも1本の鎖の切断を担う酵素を(例えばコード化して)用いて、細菌を形質転換し、その際、特定の態様において、酵素はヌクレアーゼ、好ましくはCasタイプのヌクレアーゼ、好ましくはCas9酵素およびMAD7酵素から選択されたヌクレアーゼである。一態様例において、目的の標的配列は、例えば、catB遺伝子などの、細菌に1以上の抗生物質、好ましくはアンフェニコールの分類に属する1以上の抗生物質、一般的にはクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼなどのアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与する酵素をコードする配列であるか、コーディング配列の転写を調節する配列であるか、または上記コーディング配列に隣接する配列である。
【0187】
抗CRISPRタンパク質は、用いる場合、一般的には、上記の“抗Cas”タンパク質である。抗CRISPRタンパク質は、有利には、“抗Cas9”タンパク質または“抗MAD7”タンパク質である。
【0188】
標的とされるDNA部位(“認識される配列”)と同様に、編集/修復マトリックス自体も、天然および/または合成の、コーディング配列および/または非コーディング配列に対応する1以上の核酸配列または核酸配列部位を含み得る。マトリックスはまた、1以上の“外来”配列、すなわちファーミキューテス門、特にクロストリジウム属、バチルス属もしくはラクトバチルス属に属する細菌のゲノム、または前記属の特定の種のゲノム、から天然に欠失している配列を含み得る。マトリックスはまた、配列の組み合わせを含み得る。
【0189】
本発明で用いられる遺伝子ツールにより、修復マトリックスの、細菌ゲノム内への目的の核酸、一般的には少なくとも1塩基対(bp)、好ましくは少なくとも1bp、2bp、3bp、4bp、5bp、10bp、15bp、20bp、50bp、100bp、1000bp、10000bp、100000bpまたは1000000bp、一般的には1bpから20kb、例えば2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kbまたは13kb、あるいは1bpから10kb、好ましくは10bpから10kbまたは1kbから10kb、例えば1bpから5kb、2kbから5kb、あるいは2.5kbまたは3kbから5kbを含む配列またはDNA配列部分の組み込みを誘導することが可能である。
【0190】
特定の態様において、目的のDNA配列の発現は、ファーミキューテス門、特にクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属に属する細菌が、複数の異なる糖、例えば少なくとも2つの異なる糖、一般的には、5つの炭素原子を含む糖(例えば、グルコースまたはマンノース)の内の、および/または6つの炭素原子を含む糖(例えば、キシロース、アラビノース、またはフルクトース)の内の、少なくとも2つの異なる糖、好ましくは、例えば、グルコース、キシロースおよびマンノース;グルコース、アラビノースおよびマンノース;ならびにグルコース、キシロースおよびアラビノースの内から選択された少なくとも3つの異なる糖、の発酵(一般的には、同時に)を可能にする。
【0191】
別の特定の態様において、目的のDNA配列は、少なくとも1つの目的の産物、好ましくは、改変された細菌による溶媒の生産を促進する産物、一般的には少なくとも1つの目的のタンパク質、例えば、酵素;トランスポーターなどの膜タンパク質;他のタンパク質の成熟のためのタンパク質(シャペロンタンパク);転写因子;またはそれらの組み合わせ、をコードしている。
【0192】
遺伝子ツールの要素(核酸またはgRNA)は、当業者によって知られている直接的または間接的な任意の方法、例えば形質転換、コンジュゲーション、マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーション等によって、好ましくはエレクトロポレーション法(Mermelstein et al., 1993)によって、細菌に導入される。
【0193】
別の態様において、本発明の方法は、タイプIIイントロンの使用に基づき、例えば、ClosTron(登録商標)技術/遺伝子ツールまたはTargetron(登録商標)遺伝子ツールを用いる。
【0194】
Targetron(登録商標)技術は、リプログラム可能なグループIIのイントロン(Lactococcus lactisのイントロンLl.ltrBに基づく)の使用に基づき、細菌ゲノムを所望の遺伝子座に迅速に組み込むことができ(Chen et al., 2005、Wang et al., 2013)、通常、標的遺伝子の不活性化を目的とする。編集部位の認識およびレトロスプライシングによるゲノムへの挿入の機序は、一方ではイントロンと当該領域(ゾーン)の相同性に基づき、他方ではタンパク質(ltrA)の活性に基づいている。
【0195】
ClosTron(登録商標)技術は、同様のアプローチに基づき、イントロン配列内に選択マーカーを追加したものである(Heap et al., 2007)。このマーカーにより、イントロンのゲノムへの組み込みを選択することができ、目的の変異体の作製が容易になる。この遺伝子システムもタイプIのイントロンを利用している。実際に、選択マーカー(レトロトランスポジション活性化マーカーの略でRAMと称される)は、かかる遺伝子要素によって中断され、プラスミドからの発現が阻止される(このシステムのより正確な説明:Zhong et al.)。この遺伝的要素のスプライシングは、ゲノムに組み込まれる前に行われ、これにより耐性遺伝子の活性型を有する染色体が得られる。このシステムの最適化されたバージョンは、この遺伝子の上流および下流にFLP/FRT部位を含み、これによりリコンビナーゼFRTを用いて耐性遺伝子を除去することができる(Heap et al., 2010)。
【0196】
別の態様において、本発明による方法は、対立遺伝子交換ツールの使用に基づき、例えば、ACE(登録商標)技術/遺伝子ツールを用いる。
【0197】
ACE(登録商標)技術は、栄養素要求性変異体(C. acetobutylicum ATCC 824におけるpyrE遺伝子の欠失によるウラシル要求性であり、5-フルオロオロチン酸(5-FOA)への耐性も生じる;Heap et al., 2012)の使用に基づく。このシステムは当業者によく知られた、対立遺伝子交換機序を用いる。疑似自滅(pseudo-suicide)ベクター(非常に低コピー)の形質転換後、第1の対立遺伝子交換イベントによる細菌の染色体への後者の組み込みは、プラスミド上に最初から存在している耐性遺伝子によって確認することができる。この組み込み工程は、pyrE遺伝子座内に組み込まれる場合と、他の遺伝子座内に組み込まれる場合の2通りがある:
pyrE遺伝子座に組み込む場合、pyrE遺伝子もまた、プラスミド上に配置されるが、発現しない(機能的なプロモーターがない)。2回目の組換えによって機能的なpyrE遺伝子が復活し、その語、栄養要求性(ウラシルを含まない最小培地)によって選択され得る。非機能性pyrE遺伝子もまた、選択可能な特徴(5-FOAへの感受性)を有するため、同じモデルにおいて、pyrEの状態を機能性と非機能性の間で連続的に切り替えることにより、他の組み込みが可能である。
【0198】
他の遺伝子座に組み込む場合、組換え後に対選択マーカー(counter-selection marker)の発現を可能にするゲノム領域を標的とする(一般的には、他の遺伝子、好ましくは高発現遺伝子の後のオペロンを標的とする)。この2回目の組換えは、その後、栄養要求性(ウラシルを含まない最小培地)により選択される。
【0199】
タイプIIイントロンの使用に基づき、例えばClosTron(登録商標)技術/遺伝子ツールまたはTargetron(登録商標)遺伝子ツールの使用、または対立遺伝子交換ツールの使用に基づき、例えばACE(登録商標)技術/遺伝子ツールを用いて記載した態様において、標的とする配列は、一般的には本明細書に記載した配列のうちの1つである。
【0200】
¥
特に有利には、本発明の核酸および遺伝子ツールは、1つの工程で、すなわち単一の核酸(一般的には、本明細書に記載の“核酸OPT”またはツールの“第2”もしくは“n番目の”核酸)を用いて、またはいくつかの工程で、すなわちいくつかの核酸(一般的には、本明細書に記載の“第2”もしくは“n番目の”核酸)を用いて、好ましくは1つの工程で、目的の小さなおよび大きな配列を細菌に導入することが可能である。
【0201】
本発明の特定の態様において、本発明の核酸および遺伝子ツールは、細菌DNAの標的化部分を抑制すること、またはそれをより短い配列(例えば、少なくとも1つの塩基対を欠失した配列)および/または非機能的配列で置き換えることを可能にする。本発明の好ましい特定の態様において、本発明の核酸および遺伝子ツールは、有利には、細菌に、例えば細菌ゲノムに、少なくとも1つの塩基対、および2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、13kb、14kbまたは15kbまでを含む目的の核酸を導入することを可能にする。
【0202】
本発明はさらに、形質転換および/または遺伝子組換え細菌、一般的にはファーミキューテス門に属し、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属に属する細菌、一般的には溶媒生成細菌、好ましくは、本発明者らが本明細書にて説明したサブクレードの1つに対応する種に属する細菌、または本発明者らが本明細書で説明したような方法を用いて得られた細菌、ならびにそれに由来する細菌、クローン、変異体または遺伝子組換え体、およびそれらの使用に関する。
【0203】
このようにして本発明において形質転換および/または遺伝子改変された細菌の一例は、1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素をもはや発現しない細菌、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをもはや発現しない細菌、例えば野生状態では遺伝子catBを発現し、本発明において形質転換および/または遺伝子改変すると前記遺伝子catBが欠失されるかまたは発現不能となる細菌、である。従って、本発明において形質転換および/または遺伝子改変された細菌は、アンフェニコール、例えば本明細書に記載のアンフェニコール、特にクロラムフェニコールまたはチアンフェニコールに対して感受性とされる。
【0204】
本発明における好ましい遺伝子組換え細菌の特定の例は、2018年12月6日にBelgian Co-ordinated Collections of Microorganisms (“BCCM”, K.L. Ledeganckstraat 35, B-9000 Ghent - Belgium) に寄託番号LMG P-31151で登録された、C. beijerinckii IFP962 ΔcatBとしても特定される細菌である。
【0205】
本発明における好ましい遺伝子組換え細菌の別の特定の例では、本明細書においてC. beijerinckiiとして定義される細菌が、2019年2月20日にcollection BCCM-LMに寄託番号LMG P-31277で登録された株C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2である。
【0206】
本明細書はまた、前記細菌の1つの任意の派生細菌、クローン、変異体または遺伝子改変バージョンに関し、例えば、チアンフェニコールおよび/またはクロラムフェニコールなどのアンフェニコールに感受性を有する、前記任意の派生細菌、クローン、変異体または遺伝子改変バージョンであって、一般的には配列番号18の遺伝子catBおよびプラスミドpNF2を欠く細菌に関する。
【0207】
特定の態様では、本発明による形質転換および/または遺伝子組換え細菌であり、例えば細菌C. beijerinckii IFP962 ΔcatBまたは細菌C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2は、依然として形質転換ができ、好ましくは遺伝子改変されている。これは、核酸、例えば、本明細書の、例えば実験部分に記載のプラスミドを用いて行うことができる。有利に使用できる核酸の例は、配列番号23の配列のプラスミドpCas9acr(本明細書の実験部分に記載)であり、あるいはpCas9ind(配列番号22)、pCas9cond(配列番号133)およびpMAD7(配列番号134)から選択されるプラスミドである。
【0208】
本発明の特定の面は、実際には、本明細書に記載の遺伝子組換え細菌、好ましくは、受託番号LMG P-31151で寄託された細菌C. beijerinckii IFP962 ΔcatB(本明細書中、C. beijerinckii DSM 6423 ΔcatBとしても記載される)、さらに好ましくは受託番号LMG P-31277で寄託された細菌 C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2、または後者の1つの遺伝子組換え体の使用、例えば本明細書に記載の核酸、遺伝子ツールもしくは方法の1つを用いて、自発的にそのゲノムに導入された1つまたは複数の目的の核酸の発現により、好ましくは工業規模で、1以上の溶媒、少なくともイソプロパノールを生産するための使用に関する。
【0209】
本発明はまた、(i)本明細書に記載の核酸、例えば、“核酸OPT”または本明細書に記載のファーミキューテス門に属する細菌中の標的配列を認識するDNAフラグメント、および(ii)この種の細菌の改良型変異体を生産するために、該細菌を形質転換する、および一般的には遺伝子改変するための、以下の遺伝子改変ツールの要素から選択された少なくとも1つのツール、好ましくはいくつかのツール;gRNAである核酸;修復マトリックスである核酸;“核酸OPT”;少なくとも1つのプライマーペア、例えば、本明細書に記載のプライマーペア;および、上記ツールによってコードされるタンパク質の、例えば、Cas9またはMAD7型ヌクレアーゼの発現を可能にする誘導剤、を含むキットに関する。
【0210】
本明細書に記載のファーミキューテス門に属する細菌を形質転換し、一般的には遺伝子改変するための遺伝子改変ツールは、例えば、上記に説明したように、“核酸OPT”、CRISPRツール、タイプIIのイントロンの使用に基づくツールおよび対立遺伝子交換ツールから選択することができる。
【0211】
特定の態様において、キットは、本明細書に記載の遺伝子ツールの要素の一部または全部を含む。
【0212】
本明細書に記載のファーミキューテス門に属する細菌を形質転換し、好ましくは遺伝子改変するための、またはこの種の細菌を使用して少なくとも1つの溶媒、例えば溶媒混合物を生産するための特定のキットは、i)配列番号126の配列の全部または一部、およびii)細菌の遺伝子の改変および/または該細菌の野生型に存在する遺伝物質から部分的もしくは完全に欠失されたDNA配列の、前記細菌における発現を可能にする配列、を含む、またはこれらからなる核酸を含み;並びに、本明細書に記載の遺伝子ツールにおいて用いられる、選択した抗CRISPRタンパク質の発現の誘導性プロモーターに適した少なくとも1つの誘導剤を含む。
【0213】
キットは、用いられるヌクレアーゼおよび/または1以上のガイドRNAの発現を調節するために遺伝子ツールにおいて要すれば用いられよい選択された誘導性プロモーター(複数可)に適した1以上の誘導剤をさらに含んでもよい。
【0214】
本発明の特定のキットは、標識(または“タグ”)を含むヌクレアーゼの発現を可能にする。
【0215】
本発明のキットは、培養液、本明細書に記載のファーミキューテス門に属する少なくとも1つのコンピテントな細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌(すなわち、形質転換を考慮して)、少なくとも1つのgRNA、ヌクレアーゼ、1以上の選択分子、または説明リーフレットなども含む、1つまたは複数の消耗品(consumable)をさらに含み得る。
【0216】
本明細書はまた、本発明のキット、またはこのキットの1以上の要素の使用に関し、ファーミキューテス門に属する細菌、例えばクロストリジウム属、バチルス属またはラクトバチルス属の細菌(例えば、細菌C. beijerinckii IFP962 ΔcatBは、受託番号LMG P-31151で寄託されている)、好ましくは、野生状態で、細菌染色体と染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子(通常は、天然プラスミド)の両方を保有する細菌、最も好ましくは細菌C. beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2(受託番号LMG P-31277で寄託)、の形質転換および理想的な遺伝子改変の方法を実行するため、および/または該細菌を用いて、溶媒(複数可)またはバイオ燃料(複数可)、またはそれらの混合物を、好ましくは工業規模で製造するための、本明細書に記載のキットの使用に関する。
【0217】
生産され得る溶媒は、一般的にはアセトン、ブタノール、エタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物、一般的にはエタノール/イソプロパノール、ブタノール/イソプロパノール、またはエタノール/ブタノール混合物、好ましくはイソプロパノール/ブタノール混合物である。
【0218】
本発明における形質転換された細菌の使用は、一般的には、少なくとも100トンのアセトン、少なくとも100トンのエタノール、少なくとも1000トンのイソプロパノール、少なくとも1800トンのブタノール、または少なくとも40000トンのそれらの混合物の工業規模での年間生産を可能にする。
【0219】
以下の実施例は、発明の範囲を限定することなく、本発明をより十分に説明するためのものである。
【実施例】
【0220】
実施例1
材料および方法
培養条件
C.acetobutylicum DSM792を2YTG培地(トリプトン16g.l-1、酵母エキス10g.l-1、グルコース5g.l-1、NaCl4g.l-1)中で培養した。E.coli NEB10BをLB培地(トリプトン10g.l-1、酵母エキス5g.l-1、NaCl5g.l-1)で培養した。固体培地は15g.l-1のアガロースを液体培地に添加することで調製した。エリスロマイシン(2YTGまたはLB培地にそれぞれに、40mgまたは500mg.l-1の濃度)、クロラムフェニコール(固体または液体LB培地それぞれに25mgまたは12.5mg.l-1)、およびチアンフェニコール(2YTG培地に15mg.l-1)を、必要な場合には用いた。
【0221】
核酸の取り扱い
用いた全ての酵素およびキットは、供給業者の推奨に従って用いた。
【0222】
プラスミドの構築
図4に示すプラスミドpCas9
acr(配列番号23)を、Eurofins Genomicsが合成したプロモーターPbgalの制御下にbgaRおよびacrIIA4を含むフラグメント(配列番号81)をベクターpCas9
indのSacI部位のレベルでクローニングすることにより構築した(Wasels et al., 2017)。
【0223】
プラスミドpGRNAind(配列番号82)を、Eurofins Genomicsが合成したプロモーターPcm-2tetO1(Dong et al., 2012)の制御下にgRNAの発現カセット(配列番号83)をベクターpEC750C(配列番号106)のSacI部位にクローニングすることにより構築した(Wasels et al., 2017)。
【0224】
プラスミドpGRNA-xylB(配列番号102)、pGRNA-xylR(配列番号103)、pGRNA-glcG(配列番号104)およびpGRNA-bdhB(配列番号105)を、それぞれのプライマーペア5’-TCATGATTTCTCCATATTAGCTAG-’および5’-AAACCTAGCTAATATGGAGAAATC-3’、5’-TCATGTTACACTTGGAACAGGCGT-3’および5’-AAACACGCCTGTTCCAAGTGTAAC-3’、5’-TCATTTCCGGCAGTAGGATCCCCA-3’および5’-AAACTGGGGATCCTACTGCCGGAA-3’、5’-TCATGCTTATTACGACATAACACA-3’および5’-AAACTGTGTTATGTCGTAATAAGC-3’で、BsaIで消化したプラスミドpGRNAind(配列番号82)内にクローニングすることにより構築した。
【0225】
プラスミドpGRNA-ΔbdhB(配列番号79)を、一方はプライマー5’-ATGCATGGATCCAAACGAACCCAAAAAGAAAGTTTC-3’および5’-GGTTGATTTCAAATCTGTGTAAACCTACCG-3’を、他方は5’-ACACAGATTTGAAATCAACCACTTTAACCC-3’および5’-ATGCATGTCGACTCTTAAGAACATGTATAAAGTATGG-3’を用いて得られたPCR産物のPCRアセンブリのオーバーラップによって得られたDNAフラグメントを、BamHIおよびSacIで消化したベクターpGRNA-bdhB内にクローニングして構築した。
【0226】
プラスミドpGRNA-ΔbdhA ΔbdhB(配列番号80)を、一方はプライマー5’-ATGCATGGATCCAAACGAACCCAAAAAGAAAGTTTC-3’および5’-GCTAAGTTTTAAATCTGTGTAAACCTACCG-3’を、他方は5’-ACACAGATTTAAAACTTAGCATACTTCTTACC-3’および5’-ATGCATGTCGACCTTCTAATCTCCTCTACTATTTTAG-3’を用いて得られたPCR産物のPCRアセンブリのオーバーラップによって得られたDNAフラグメントを、BamHIおよびSacIで消化したベクターpGRNA-bdhB中にクローニングすることで構築した。
【0227】
形質転換
C.acetobutylicum DSM792をMermelstein et al., 1993に記載のプロトコルに従って形質転換した。gRNA発現カセットを含むプラスミドで形質転換され、Cas9発現プラスミド(pCas9indまたはpCas9acr)をすでに含む、C.acetobutylicum DSM792形質転換体の選択を、エリスロマイシン(40mg.l-1)、チアンフェニコール(15mg.l-1)およびラクトース(40nM)を含む固体2YTG培地で行った。
【0228】
cas9発現の誘導
得られた形質転換体の増殖過程において、エリスロマイシン(40mg.l-1)、チアンフェニコール(15mg.l-1)ならびにcas9およびgRNA発現誘導剤、aTc(1mg.l-1)を含む固体2YTG培地でcas9の発現の誘導を行った。
【0229】
bdh遺伝子座の増幅
bdhA遺伝子およびbdhB遺伝子の遺伝子座におけるC.acetobutylicum DSM792のゲノム編集の制御は、Q5(登録商標)High-Fidelity DNAポリメラーゼ酵素(NEB)とプライマーV1(5’-ACACATTGAAGGGAGCTTTT-3’)およびプライマーV2(5’-GGCAACAACATCAGGCCTTT-3’)を用いたPCRによって実施された。
【0230】
結果
形質転換効率
acrIIA4 遺伝子の挿入がCas9発現プラスミドの形質転換頻度に与える影響を評価するために、pCas9
ind(配列番号22)またはpCas9
acr(配列番号23)を含むDSM792菌株に、種々のgRNA発現プラスミドを形質転換し、その形質転換体をラクトース補充培地で選択した。得られた形質転換頻度を
図5に示す。
【0231】
ΔbdhBおよびΔbdhAΔbdhB変異体の作成
bdhB(pGRNA-bdhB-配列番号105)を標的とするgRNA発現カセットを含む標的プラスミド、ならびにbdhB遺伝子単独(pGRNA-ΔbdhB-配列番号79)またはbdhAおよびbdhB遺伝子(pGRNA-ΔbdhAΔbdhB-配列番号80)の欠失を可能にする修復マトリックスを含む2つの派生プラスミドを、pCas9ind(配列番号22)またはpCas9acr(配列番号23)を含むDSM792菌株に形質転換した。得られた形質転換頻度を表2に示す。
【0232】
【0233】
pCas9indまたはpCas9acrを含むDSM792菌株における、bdhBを標的とするプラスミドの形質転換頻度。頻度は、形質転換に用いたDNA1μgあたりの得られた形質転換体の数で示し、少なくとも2つの独立した実験の平均値で示す。
【0234】
得られた形質転換体に、アンヒドロテトラサイクリン、aTcを補充した培地上で培養することによってCRISPR/Cas9システムの発現を誘導する工程を行った(
図6)。
【0235】
所望の改変を、2つのaTc耐性コロニーのゲノムDNAのPCRにより確認した(
図7)。
【0236】
結論
Wasels et al. (2017)に記載のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子ツールは、以下の2つのプラスミドを用いる:
-第1のプラスミド、pCas9indは、aTc誘導性プロモーターの制御下にあるCas9を含む、および
-pEC750Cに由来する第2のプラスミドは、gRNA発現カセット(第2のaTc誘導性プロモーターの制御下にある)およびこのシステムによって誘導された2本鎖切断を修復するための編集マトリックスを含む。
【0237】
しかしながら、本発明者らはaTc誘導性プロモーターを用いてCas9の発現制御と同様にgRNAの発現を制御したにも関わらず、特定のgRNAが依然として毒性が高いことを確認したため、その結果遺伝子ツールによる細菌の形質転換効率を制限し、よって染色体の改変が制限されることを観察した。
【0238】
この遺伝子ツールを改良するため、抗CRISPR遺伝子、acrIIA4を、ラクトース誘導性プロモーターの制御下に配置されるように挿入することによりcas9発現プラスミドを改変した。これにより、異なるgRNA発現プラスミドの形質転換効率を顕著に向上させ、試験した全てのプラスミドについて形質転換体を得ることができた。
【0239】
pCas9indを含むDSM792菌株に導入できなかったプラスミドを用いて、C.acetobutylicum DSM792ゲノム内のbdhB遺伝子座の編集もまた行うことができた。観察された改変頻度は以前の観察(Wasels et al., 2017)と同様であり、試験したコロニーの100%が改変されていた。
【0240】
結論として、cas9発現プラスミドの改変は、Cas9-gRNAリボ核タンパク質複合体のより良い制御を可能にし、目的の変異体を得るためにCas9の作用が誘発され得る形質転換体の生産を有利に促進する。
【0241】
実施例2
材料および方法
培養条件
C.beijerinckii DSM6423を2YTG培地(トリプトン16g.L-1、酵母エキス10g.L-1、グルコース5g.L-1、NaCl4g.L-1)で培養した。E.coli NEB10-βおよびINV110をLB培地(トリプトン10g.L-1、酵母エキス5g.L-1、NaCl5g.L-1)で培養した。固体培地を15g.L-1のアガロースを液体培地に添加することで調製した。エリスロマイシン(2YTGまたはLB培地中に、それぞれ20mgまたは500mg.L-1の濃度)、クロラムフェニコール(固体または液体LB培地中に、それぞれ25mgまたは12.5mg.L-1)、チアンフェニコール(2YTG培地中に15mg.L-1)またはスペクチノマイシン(LBまたは2YTG培地中に、それぞれ100mgまたは650mg.L-1の濃度)を、必要な場合には用いた。
【0242】
核酸およびプラスミドベクター
全ての酵素およびキットは、提供業者の推奨に従って用いた。
【0243】
コロニーPCRアッセイを以下のプロトコルで観察した:
C. beijerinckii DSM 6423の単離したコロニーを、100μLのTris 10mM pH7.5 EDTA 5mMに再懸濁させた。この溶液を98℃で10分間、撹拌せずに加熱した。次いで、0.5μLのこの細菌溶解物を、Phire(Thermo Scientific)、Phusion(Thermo Scientific)、Q5(NEB)またはKAPA2G Robust(Sigma-Aldrich)ポリメラーゼを含む10μLの反応系において、PCRマトリックスとして用い得る。
【0244】
全ての構築物において用いたプライマーのリスト(名称/DNA配列)を以下に詳述する:
ΔcatB_fwd : TGTTATGGATTATAAGCGGCTCGAGGACGTCAAACCATGTTAATCATTGC
ΔcatB_rev : AATCTATCACTGATAGGGACTCGAGCAATTTCACCAAAGAATTCGCTAGC
ΔcatB_gRNA_rev : AATCTATCACTGATAGGGACTCGAGGGGCAAAAGTGTAAAGACAAGCTTC
RH076 : CATATAATAAAAGGAAACCTCTTGATCG
RH077 : ATTGCCAGCCTAACACTTGG
RH001 : ATCTCCATGGACGCGTGACGTCGACATAAGGTACCAGGAATTAGAGCAGC
RH002 : TCTATCTCCAGCTCTAGACCATTATTATTCCTCCAAGTTTGCT
RH003 : ATAATGGTCTAGAGCTGGAGATAGATTATTTGGTACTAAG
RH004 : TATGACCATGATTACGAATTCGAGCTCGAAGCGCTTATTATTGCATTAGC
pEX-fwd : CAGATTGTACTGAGAGTGCACC
pEX-rev : GTGAGCGGATAACAATTTCACAC
pEC750C-fwd : CAATATTCCACAATATTATATTATAAGCTAGC
M13-rev : CAGGAAACAGCTATGAC
RH010 : CGGATATTGCATTACCAGTAGC
RH011 : TTATCAATCTCTTACACATGGAGC
RH025 : TAGTATGCCGCCATTATTACGACA
RH134 : GTCGACGTGGAATTGTGAGC
pNF2_fwd : GGGCGCACTTATACACCACC
pNF2_rev : TGCTACGCACCCCCTAAAGG
RH021 : ACTTGGGTCGACCACGATAAAACAAGGTTTTAAGG
RH022 : TACCAGGGATCCGTATTAATGTAACTATGATATCAATTCTTG
aad9-fwd2 : ATGCATGGTCCCAATGAATAGGTTTACACTTACTTTAGTTTTATGG
aad9-rev : ATGCGAGTTAACAACTTCTAAAATCTGATTACCAATTAG
RH031 : ATGCATGGATCCCAATGAATAGGTTTACACTTACTTTAGTTTTATGG
RH032 : ATGCGAGAGCTCAACTTCTAAAATCTGATTACCAATTAG
RH138 : ATGCATGGATCCGTCTGACAGTTACCAGGTCC
RH139 : ATGCGAGAGCTCCAATTGTTCAAAAAAATAATGGCGGAG
RH140 : ATGCATGGATCCCGGCAGTTTTTCTTTTTCGG
RH141 : ATGCGAGAGCTCGGTTAAATACTAGTTTTTAGTTACAGAC
【0245】
以下のプラスミドベクターを調製した:
-プラスミド番号1:pEX-A258-ΔcatB(配列番号17)
これは、プラスミドpEX-A258にクローニングした合成DNAフラグメントΔcatBを含む。このΔcatBフラグメントは、i)アンヒドロテトラサイクリン誘導性プロモーター(発現カセット:配列番号19)の制御下にあるC.beijerinckii DSM6423のcatB遺伝子(クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードするクロラムフェニコール耐性遺伝子-配列番号18)を標的とするガイドRNA発現カセット、およびii)catB遺伝子の上流および下流に位置する相同な400bpを含む編集マトリックス(配列番号20)、を含む。
【0246】
-プラスミド番号2:pCas9
ind-ΔcatB(
図9および配列番号21参照)
これは、PCRで増幅され(プライマーΔcatB_fwdおよびΔcatB_rev)、かつXhoI制限酵素によって種々のDNAを消化した後にpCas9
ind(特許出願WO2017/064439に記載-配列番号22)にクローニングされた、ΔcatBフラグメントを含む。
【0247】
-プラスミド番号3:pCas9
acr(
図10および配列番号23参照)
【0248】
-プラスミド番号4:pEC750S-uppHR(
図11および配列番号24参照)
これは、upp遺伝子の欠失に用いる修復マトリックス(配列番号25)を含み、かつupp遺伝子の上流および下流と相同な2つのDNAフラグメント(それぞれのサイズ:500bp(配列番号26)および377bp(配列番号27))からなる。このアセンブリを、ギブソンクローニングシステム(New England Biolabs, Gibson assembly Master Mix2X)を用いて得た。この目的のために、上流および下流部分を、それぞれのプライマーRH001/RH002およびRH003/RH004を用いて、DSM6423菌株(Mate de Gerando et al., 2018および受託番号PRJEB11626(https://www.ebi.ac.uk/ena/data/view/PRJEB11626)を参照)のゲノムDNAから、PCRによって増幅させた。次いで、これら2つのフラグメントは予め制限酵素(SalIおよびSacI制限酵素)によって線状化されたpEC750Sにアセンブリされた。
【0249】
-プラスミド番号5:pEX-A2-gRNA-upp(
図12および配列番号28参照)
このプラスミドは、pEX-A2と称される複製用プラスミドに挿入された、構成的プロモーター(配列番号30の配列の非コーディングRNA)の制御下でupp遺伝子(uppを標的とするプロトスペーサー(配列番号31))を標的とするgRNAの発現カセット(配列番号29)に対応するgRNA-uppDNAフラグメントを含む。
【0250】
-プラスミド番号6:pEC750S-Δupp(
図13および配列番号32参照)
これは、プラスミドpEC750S-uppHR(配列番号24)をベースとして、追加で、構成的プロモーターの制御下でupp遺伝子を標的とするガイドRNA発現カセットを含む、DNAフラグメントを含む。
このフラグメントはpEX-A2に挿入され、pEX-A2-gRNA-uppと称された。次いで、挿入物をプライマーpEX-fwdおよびpEX-revを用いてPCRで増幅し、制限酵素XhoIおよびNcoIで切断した。最終的に、このフラグメントを、予め同じ制限酵素で切断していたpEC750S-uppHRにライゲーションすることでクローニングし、pEC750S-Δuppを得た。
【0251】
-プラスミド番号7:pEC750C-Δupp(
図14および配列番号33参照)
このガイドRNAならびに修復マトリックスを含むカセットを、プライマーpEC750C-fwdおよびM13-revを用いて増幅させた。増幅産物をXhoIおよびSacI酵素の制限酵素によって切断し、そしてpEC750Cに酵素的ライゲーションすることでクローニングし、pEC750C-Δuppを得た。
【0252】
-プラスミド番号8:pGRNA-pNF2(
図15および配列番号34参照)
このプラスミドは、pEC750Cをベースとし、プラスミドpNF2(配列番号118)を標的とするガイドRNA発現カセットを含む。
【0253】
-プラスミド番号9:pCas9
ind-gRNAcatB(
図23および配列番号38参照)
これは、PCR(プライマーΔcatB_fwdおよびΔcatB_gRNA_rev)によって増幅されたcatB遺伝子座を標的とするガイドRNA配列をコードする配列であって、pCas9
ind(特許出願WO2017/064439に記載)に、XhoI制限酵素による種々のDNAの切断およびライゲーションの後でクローニングされた配列を含む。
【0254】
-プラスミド番号10:pNF3(
図25および配列番号119参照)
これは、プライマーRH021およびRH022で増幅させた、特に複製起点およびプラスミド複製タンパク質をコードする遺伝子(CIBE_p20001)を含むpNF2の一部を含む。次いで、このPCR産物を、プラスミドpUC19(配列番号117)の制限部位SalIおよびBamHIのレベルでクローニングした。
【0255】
-プラスミド番号11:pEC751S(
図26および配列番号121参照)
クロラムフェニコール耐性遺伝子catP(配列番号70)を除き、pEC750C(配列番号106)のすべてのエレメントを含む。前記catPは、スペクチノマイシン耐性を付与するEnterococcus faecalisの遺伝子aad9(配列番号130)に置換された。この要素は、プラスミドpMTL007S-E1(配列番号120)から出発するプライマーaad9-fwd2およびaad9-revで増幅され、pEC750Cの部位AvaIIおよびHpaIに、遺伝子catP(配列番号70)の代わりにクローニングされた。
【0256】
-プラスミド番号12:pNF3S(
図27および配列番号123参照)
これは、pNF3のすべての要素を含み、部位BamHIとSacIの間に遺伝子aad9(pEC751Sから始まるプライマーRH031およびRH032で増幅)を挿入したものである。
【0257】
-プラスミド番号13:pNF3E(
図28および配列番号124参照)
これは、pNF3のすべての要素を含み、プロモーターminiPthlの制御下にClostridium difficileの遺伝子ermB(配列番号131)の挿入を有する。この要素は、プライマーRH138およびRH139を用いてpFW01から開始して増幅され、pNF3Eの部位BamHIとSacIの間にクローニングされた。
【0258】
-プラスミド番号14:pNF3C(
図29および配列番号125参照)
これはpNF3のすべての要素を含み、Clostridium perfringensの遺伝子catP(配列番号70)の挿入を有する。この要素は、プライマーRH140およびRH141を用いてpEC750Cから出発して増幅され、pNF3Eの部位BamHIとSacIの間にクローニングされた。
【0259】
結果No. 1
C. beijerinckii DSM6423株の形質転換
プラスミドを大腸菌dam- dcm-株(INV110, Invitrogen)に導入し、複製した。これにより、Mermelstein et al. (1993)に記載されたプロトコルに従ってDSM6423株に形質転換により導入する前に、プラスミドpCas9ind-ΔcatB上のDam型およびDcm型のメチル化を除去することが可能になるが、以下の修正を加えた:菌株をより大量のプラスミド(20μg)、OD600=0.8で、100Ω、25μF、1400Vの電気穿孔パラメータで形質転換する。エリスロマイシン(20μg/mL)を含むシャーレ上に増殖させることにより、プラスミドpCas9ind-ΔcatBを含むC. beijerinckii DSM6423の形質転換体を得ることできた。
【0260】
cas9の発現誘導およびC. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株(C. beijerinckii IFP962 ΔcatB)の産生
次いで、エリスロマイシン耐性コロニー数個を100μLの培養液(2YTG)に取り込み、培養液で希釈倍率10
4倍まで連続希釈した。各コロニーについて、各希釈液8μLをエリスロマイシンおよびアンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含むシャーレに添加して、ヌクレアーゼCas9をコードする遺伝子の発現を誘導できるようにした。
ゲノムDNAを抽出後、プライマーRH076およびRH077を用いたPCRにより、このディッシュ上で増殖したクローン内の遺伝子catBの欠失を確認した(
図16参照)。
【0261】
C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株のチアンフェニコールに対する感受性の検証
遺伝子catBの欠失が実際に新たなチアンフェニコール感受性を付与することを確認するため、寒天培地を用いた比較解析を行った。C. beijerinckii DSM6423およびC. beijerinckii DSM6423 ΔcatBの前培養を2YTG培地で行い、この培養液100μLを濃度15mg/Lのチアンフェニコール添加または無添加の2YTG寒天培地に播種した。
図17から、初期株であるC. beijerinckii DSM6423のみがチアンフェニコール添加培地上で生育可能であることが分かる。
【0262】
C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株におけるCRISPR-Cas9ツールによる遺伝子uppの欠失
C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株のクローンを、dam型およびdcm型のメチルトランスフェラーゼが認識するモチーフのレベルでメチル化されていないベクターpCas9acr(dam- dcm-遺伝子型を有する大腸菌から調製)で予め形質転換した。C. beijerinckii DSM6423株で維持されているプラスミドpCas9acrの存在は、プライマーRH025およびRH134を用いてコロニーでのPCRによって確認した。
【0263】
次いで、エリスロマイシン耐性クローンを、予め脱メチル化したpEC750C-Δuppで形質転換した。こうして得られたコロニーを、エリスロマイシン(20μg/mL)、チアンフェニコール(15μg/mL)、ラクトース(40mM)を含む培地で選択した。
【0264】
次いで、これらのクローン数個を100μLの培養液(2YTG)に再懸濁し、その後、培養液で(希釈倍率10
4倍まで)連続希釈した。各希釈液5μLを、エリスロマイシン、チアンフェニコール、アンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含むシャーレに添加した(
図18参照)。
【0265】
各クローンについて、aTcに耐性の2つのコロニーを、遺伝子座uppの増幅を意図したプライマーを用いたコロニーPCRによって試験した(
図19参照)。
【0266】
C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株におけるCRISPR-Cas9ツールによる天然プラスミドpNF2の欠失
Dam型およびDcm型のメチルトランスフェラーゼが認識するモチーフのレベルでメチル化されていないベクターpCas9
ind(dam
- dcm遺伝子型を有する大腸菌から調製)で、C. beijerinckii DSM6423 ΔcatB株のクローンを予め形質転換した。C. beijerinckii DSM6423株内のプラスミドpCas9
indの存在を、プライマーpCas9
ind_fwd(配列番号42)およびpCas9
ind_rev(配列番号43)によるPCRで確認した(
図20参照)。
【0267】
次いで、エリスロマイシン耐性クローンを用いて、dam- dcm-遺伝子型を有する大腸菌から調製したpGRNA-pNF2の形質転換を行った。
【0268】
エリスロマイシン(20μg/mL)およびチアンフェニコール(15μg/mL)を含む培地で得られたいくつかのコロニーを培養液に再懸濁し、希釈倍率104倍まで連続希釈した。各希釈液の8μL(Height μL)を、CRISPR/Cas9システムの発現を誘導するために、エリスロマイシン、チアンフェニコール、アンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含むシャーレに添加した。
【0269】
天然プラスミドpNF2の不在を、プライマーpNF2_fwd(配列番号39)およびpNF2_rev(配列番号40)を用いたPCRによって確認した(
図21参照)。
【0270】
結論
この試験過程で、本発明者らは、Clostridium beijerinckii DSM6423株内に種々のプラスミドを導入し、維持することに成功した。また、単一プラスミドを用いることを基本としたCRISPR-Cas9ツールを用いて、遺伝子catBを抑制することに成功した。得られた組換え株のチアンフェニコール感受性は、寒天培地でのアッセイで確認した。
【0271】
この欠失により、特許出願FR1854835に記載された2つのプラスミドを必要とするCRISPR-Cas9ツールをより効率的に用いることが可能となった。本願発明の有益性を示す2つの例として、遺伝子uppの欠失と、Clostridium beijerinckii DSM6423株にとって必須ではない天然プラスミドの除去を実施した。
【0272】
結果No.2
C. beijerinckii株の形質転換
大腸菌NEB 10-β株で調製したプラスミドを、C. beijerinckii NCIMB8052株の形質転換にも用いた。しかしながら、C. beijerinckii DSM6423については、予めプラスミドを導入し、大腸菌dam- dcm- (INV110, Invitrogen) 株に複製しておく。これにより、DSM6423株に形質転換により導入する前に、目的のプラスミド上のDam型およびDcm型のメチル化を除去することが可能となる。
【0273】
形質転換は、それ以外は各株について同様に、すなわちMermelstein et al. 1992に記載されたプロトコルにしたがって、以下の修正を加えて行われる:菌株を、より多量のプラスミド(5~20μg)、OD600=0.6~0.8で、電気穿孔パラメータが100Ω、25μF、1400Vで形質転換される。2YTG中で3時間再生した後、所望の抗生物質(エリスロマイシン:20~40μg/mL、チアンフェニコール15μg/mL、スペクチノマイシン650μg/mL)を含むペトリ皿(2YTG寒天)上に播種する。
【0274】
C. beijerinckii DSM6423菌株の形質転換効率の比較
C. beijerinckii菌株:DSM 6423野生型、DSM6423 ΔcatBおよびDSM6423 ΔcatB ΔpNF2で、生物学的デュプリケートで形質転換を行った。(
図30)。これには、特に形質転換効率が悪く、細菌の改変に用いることが困難なベクターpCas9
indを用いた。このベクターは、3株が感受性である抗生物質エリスロマイシンに対する耐性を付与する遺伝子もさらに含む。
【0275】
結果は、天然プラスミドpNF2が消失したことにより、形質転換効率が約15~20倍向上したことを示す。
【0276】
また、チアンフェニコール耐性を付与したプラスミドpEC750Cについても、野生型株はこの抗生物質に対して耐性を有するため、DSM6423 ΔcatB(IFP962 ΔcatB)およびDSM6423 ΔcatB ΔpNF2(IFP963 ΔcatB ΔpNF2)のみで形質転換効率の検証を行った(
図31)。このプラスミドでは、形質転換効率の向上はさらに顕著である(約2000倍の向上)。
【0277】
プラスミドpNF3の形質転換効率と他のプラスミドのそれの比較
天然プラスミドpNF2の複製起点を含むプラスミドの形質転換効率を調べるため、プラスミドpNF3EおよびpNF3CをC. beijerinckii DSM6423 ΔcatB ΔpNF2株に導入した。エリスロマイシン耐性遺伝子またはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むベクターを用いることで、耐性遺伝子の性質に応じた該ベクターの形質転換効率の比較が可能となる。また、プラスミドpFW01およびpEC750Cを形質転換した。これら2つのプラスミドは、異なる抗生物質(それぞれエリスロマイシンおよびチアンフェニコール)に対する耐性遺伝子を含んでおり、C. beijerinckiiおよびC. acetobutylicumの形質転換によく用いられるものである。
【0278】
図32に示すように、pNF3に基づくベクターは、優れた形質転換効率を有し、特にC. beijerinckii DSM6423 ΔcatB ΔpNF2において使用可能である。特に、pNF3E(エリスロマイシン耐性遺伝子を含む)は、同じ耐性遺伝子を含むpFW01よりもはるかに高い形質転換効率を示している。この同じプラスミドを野生型株C. beijerinckii DSM6423に導入することはできず(5μgのプラスミドを生物学的デュプリケートに形質転換して得られたコロニーは0)、天然プラスミドpNF2の存在の影響を実証している。
【0279】
他の株/種におけるプラスミドpNF3の形質転換可能性の検証
本発明者らは、この新規プラスミドを他の溶媒原性クロストリジウム株で使用する可能性を示すために、ABE株C. beijerinckii NCIMB8052におけるプラスミドpFW01、pNF3EおよびpNF3Sの形質転換効率の比較分析を行った(
図33)。NCIMB 8052株はもともとチアンフェニコールに耐性であるため、pNF3Cの代わりにスペクチノマイシン耐性を付与したpNF3Sを用いた。
【0280】
この結果は、NCIMB 8052株がpNF3に基づくプラスミドで形質転換可能であることを示しており、これらのベクターが広義のC. beijerinckii種に適用可能であることを証明するものであった。
【0281】
pNF3に基づく一連の合成ベクターの適用性は、C. acetobutylicumの参照株DSM792でも試験した。形質転換試験の結果、プラスミドpNF3Cによってこの株を形質転換できることが示された(形質転換効率は、プラスミドpEC750Cの120コロニー/μgに対して、形質転換したDNA1μgあたり3コロニーを観察した)。
【0282】
プラスミドpNF3と出願番号FR18/73492に記載の遺伝子ツールとの適合性の検証
特許出願FR18/73492には、ΔcatB株、ならびにエリスロマイシン耐性遺伝子およびチアンフェニコール耐性遺伝子の使用を必要とする2つのプラスミドを用いたCRISPR/Cas9システムの使用について記載されている。新しいプラスミド群pNF3の利点を示すために、ベクターpNF3Cを、プラスミドpCas9acrを既に含むΔcatB株に形質転換した。この形質転換はデュプリケートで行われ、0.625±0.125コロニー/DNA(μg)(平均±標準誤差)の形質転換効率を示し、このことはpNF3CをベースにしたベクターをpCas9acrと組み合わせてΔcatB株に用い得ることを証明している。
【0283】
これらの結果と並行して、その複製起点を含むプラスミドpNF2の一部(配列番号118)は、任意に変更可能であり、特に大腸菌株での複製ならびにC. beijerinckii DSM6423での再導入を可能にする、新しい一連のシャトルベクター(配列番号119、123、124および125)の作製に成功裏に再利用され得ることが示された。これらの新規ベクターは、特に2つの異なる核酸を含むCRISPR/Cas9ツールを用いて、例えばC. beijerinckii DSM6423およびその誘導体において遺伝子編集を実施するのに有利な形質転換効率を有する。
【0284】
これらの新規ベクターは、C. beijerinckiiの別の株(NCIMB 8052)およびクロストリジウム種(特に、C. acetobutylicum)でも正常に試験され、ファーミキューテス門の他の生物におけるその適用性を実証することができた。また、Bacillus属についても試験が行われた。
【0285】
結論
これらの結果は、天然プラスミドpNF2を抑制することで、それを含む細菌の形質転換頻度が大幅に増加することを実証している(pFW01で約15倍、pEC750Cで約2000倍)。この結果は、形質転換が困難であることが知られているクロストリジウム属の細菌の場合、特に、天然の形質転換効率が低い(5コロニー/プラスミド(μg)以下)C. beijerinckii DSM6423株にとって興味深いものであった。
【0286】
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【配列表】
【国際調査報告】