(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(54)【発明の名称】単球前駆細胞を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0786 20100101AFI20220721BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C12N5/0786
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570293
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020064481
(87)【国際公開番号】W WO2020239714
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ダーム ナディン
(72)【発明者】
【氏名】グートビア サイモン
(72)【発明者】
【氏名】パチ クリストフ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB19
4B065CA44
(57)【要約】
本出願は、単球前駆細胞の生成ならびにそれらのマクロファージおよびミクログリアへの分化のための方法、ならびに単球前駆細胞を産生するための大規模細胞培養物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単球前駆細胞を産生するための方法であって、
a)ラミニンでコーティングされた細胞培養支持体に、多能性培地中の多能性幹細胞を播種する工程と、
b)多能性幹細胞を採取し、多能性幹細胞を懸濁培養物中の中胚葉誘導培地と接触させる工程と、
c)細胞を、細胞の付着に好適な細胞培養支持体に播種する工程と、
d)細胞培養上清から単球前駆細胞を採取する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程a)におけるラミニンが、ラミニンサブユニットアルファ-5を含み、特に、工程a)におけるラミニンが、ラミニンサブユニットアルファ-5、ベータ-2、およびガンマ-1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)において、細胞を、BMP4を含む規定培地と接触させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、細胞を、VEGFを含む規定培地と接触させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において、細胞を、SCFを含む規定培地と接触させる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)における細胞が、胚葉体(EB)を形成する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)における細胞培養支持体が、基底膜生体材料でコーティングされている、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程c)における細胞を骨髄系成熟培地と接触させる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
骨髄系成熟培地が、M-CSFを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
骨髄系成熟培地が、IL-3を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
e)採取した単球前駆細胞をマクロファージに分化させる工程
をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程e)における細胞を、コーティングされていない組織培養支持体に播種する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
e)採取した単球前駆細胞をミクログリアに分化させる工程
をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
単球前駆細胞を産生するための接着性大規模細胞培養物であって、接着性細胞培養物が、1週間につき、細胞培養面積1cm
2当たり少なくとも約100,000個の単球前駆細胞を産生することができる、接着性大規模細胞培養物。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法の工程a)からc)によって産生される、請求項14に記載の接着性大規模細胞培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本出願は、単球前駆細胞の生成ならびにそれらのマクロファージおよびミクログリアへの分化のための方法、ならびに単球前駆細胞を産生するための大規模細胞培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
単球およびマクロファージは、炎症プロセスにおいて重要な役割を果たすものであり、それらの活性化および機能性は、健康および疾患において極めて重要である(Biswas et al.2012、Mantovani et al.2013、Sica et al.2008、Wynn et al.2013)。マクロファージの関与が確認されている疾患には、代謝性疾患、アレルギー障害、自己免疫性、がん、神経変性疾患、ならびに細菌、ウイルス、寄生虫、および真菌の感染症が包含される。疾患の状況における急性免疫防御の媒介の他に、組織全体に広く分布しているマクロファージは、周囲組織の修復およびホメオスタシスに必須である。したがって、マクロファージの機能性の損傷、およびそれに続くホメオスタシスの喪失は、変性疾患の発生機序と密接に関連している。
【0003】
ホメオスタシスおよび疾患防御における重要なマクロファージ機能としては、食作用(病原体、デブリ、および死細胞)、遊走(損傷側への)、ならびにさらなる炎症応答をトリガーするかまたは周囲組織に栄養支持を与えるためのサイトカイン放出が挙げられる。(Biswas et al.2012、Mantovani et al.2013、Sica et al.2008、Wynn et al.2013)。この理由のため、単球/マクロファージ機能のモジュレーションは、多くの疾患を解決する可能性のある治療的戦略を表す。マクロファージが関与する広範な疾患領域およびマクロファージの機能特性により、可能性のある標的は非常に多様である(Tiwari et al.2008)。これにより、薬物の開発およびスクリーニングのために単球およびマクロファージに高い需要が生じる。
【0004】
これまで、マクロファージの研究は、関連する細胞の生成に関する制限によって、複雑で時間のかかるものであった。過去に主に使用されていたマクロファージを得る1つの手段は、献血から濃縮したPBMC(末梢血単核細胞)から単球を単離することである(
図1)。しかしながら、ドナー当たりの細胞数が限られていること、ドナーごとの変動、および遺伝子操作の可能性の制限により、これらの初代細胞の使用は制限される。
【0005】
最近の研究では、iPS細胞から単球前駆細胞およびマクロファージを誘導することに成功している(Ackermann et al.2018、Hong et al.2018、Karlsson et al.2008、Senju et al.2011、Takamatsu et al.2014、van Wilgenburg et al.2013)。このアプローチは、初代単球の単離と比較していくつかの利点を有する(
図1)。これは、疾患関連の遺伝子バックグラウンドを有する細胞の使用、遺伝子操作(すなわち、多能性状態における疾患の素因となる突然変異の補正)を可能にし、必要な場合にはドナーの変動性を制限する。iPS技術により、一定のジェノタイプおよび機能の単球/マクロファージの実質的に無制限の供給がもたらされる。
【0006】
ミクログリアは、組織定住マクロファージの特別なサブタイプである。胚発生中に、卵黄嚢の血島において、2つのマクロファージの波が生じる。これらの卵黄嚢に由来するマクロファージは、Myb非依存性であるが、増殖に関してPU.1およびIRF8依存性であり(Haenseler et al.2016)、組織定住マクロファージを発生させる。多くの組織において、この初期マクロファージ集団は、骨髄由来のマクロファージによって部分的または完全に置き換えられるが、脳定住マクロファージ集団、すなわちミクログリアは、依然としてその起源単独のものである。
【0007】
ミクログリアは、ミスフォールディングされたタンパク質および死細胞のクリアランス、シナプスの刈り込み、および神経栄養因子の放出など、重要なホメオスタシス機能を有する。さらに、炎症性刺激の際には、それらが活性化され、有害となる可能性のあるサイトカインを放出し、活性酸素種を産生し得る。慢性炎症性活性化、および神経変性疾患のいくつかの遺伝的危険因子(例えば、LRRK2、TREM2、ASYN、およびCD33)の高いレベルの発現により、神経変性疾患および神経炎症におけるミクログリアの役割に対して高い関心が生じている。
【0008】
これまで、ヒト初代ミクログリアおよび関連するヒト細胞モデルの入手可能性が低いことに起因して、ミクログリアの研究は、初代げっ歯類細胞に限定されていた。iPS細胞から単球およびマクロファージを生成する最近のプロトコール(Abud et al.2017、Ackermann et al.2018、Brownjohn et al.2018、Douvaras et al.2017、Haenseler et al.2017a、Haenseler et al.2017b、Hong et al.2018、Karlsson et al.2008、Muffat et al.2016、Senju et al.2011、Takamatsu et al.2014、van Wilgenburg et al.2013)は、正しい個体発生マーカーを示しており、神経細胞共培養物におけるその前駆体からのミクログリア様細胞の生成が、最近説明されている(Haenseler et al.2017a)。
【0009】
しかしながら、参考文献によって提供されるプロトコールは、細胞培養物のスループットおよび安定性が限定され、したがって、例えば、創薬および開発において、ハイスループットのアッセイに必要とされる量の細胞を、定性的にも定量的にも提供することができない。
【0010】
したがって、ハイスループット様式で、iPS細胞から多量の単球前駆細胞を生成するための改善されたプロトコールの必要性が残っている。
【発明の概要】
【0011】
単球前駆細胞を産生するための方法であって、
a)ラミニンでコーティングされた細胞培養支持体に、多能性培地中の多能性幹細胞を播種する工程と、
b)多能性幹細胞を採取し、多能性幹細胞を懸濁培養物中の中胚葉誘導培地と接触させる工程と、
c)細胞を、細胞の付着に好適な細胞培養支持体に播種する工程と、
d)細胞培養上清から単球前駆細胞を採取する工程と
を含む、方法が、提供される。
【0012】
一実施形態において、工程a)におけるラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-5を含み、具体的には、工程a)におけるラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-5、ベータ-2、およびガンマ-1を含む。
【0013】
一実施形態において、細胞を、工程b)において、BMP4を含む規定培地と接触させる。
【0014】
一実施形態において、細胞を、工程b)において、VEGFを含む規定培地と接触させる。
【0015】
一実施形態において、細胞を、工程b)において、SCFを含む規定培地と接触させる。
【0016】
一実施形態において、工程b)における細胞は、胚葉体(EB)を形成する。
【0017】
一実施形態において、工程c)における細胞培養支持体は、基底膜生体材料でコーティングされている。
【0018】
一実施形態において、工程c)における細胞を、骨髄系成熟培地と接触させる。
【0019】
一実施形態において、骨髄系成熟培地は、M-CSFを含む。
【0020】
一実施形態において、骨髄系成熟培地は、IL-3を含む。
【0021】
一実施形態において、本方法は、e)採取した単球前駆細胞をマクロファージに分化させる工程をさらに含む。
【0022】
一実施形態において、工程e)における細胞を、コーティングされていない組織培養支持体に播種する。
【0023】
一実施形態において、本方法は、e)採取した単球前駆細胞をミクログリアに分化させる工程をさらに含む。
【0024】
単球前駆細胞を産生するための接着性大規模細胞培養物であって、接着性細胞培養物が、1週間につき、細胞培養面積1cm2当たり少なくとも約100,000個の単球前駆細胞を産生することができる、接着性大規模細胞培養物が、さらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】人工多能性幹細胞(iPSC)から単球前駆体およびマクロファージを誘導するための方法の概略図である。成体ドナー細胞は、iPSCを生成するように再プログラミングすることができる。分化キュー(サイトカイン、モルフォゲン、増殖因子、および小分子)の正しい組合せを使用して、細胞系統発生を、in vitroで誘導し、所望される細胞型(すなわち、マクロファージ)を生成するために使用することができる。この手法は、単一のドナーからの細胞の無制限な供給を提供し、疾患特異的な遺伝子バックグラウンドを有するドナーに由来する細胞の使用を可能にする。さらに、iPSCは、自己複製する多能性状態で、遺伝子的に改変し、クローン的に選択することができる。この技法は、同系iPSC株の生成を可能にし、その細胞誘導体(例えば、マクロファージ)を、それぞれの健常であるかまたは罹患した親iPSCクローンと直接的に比較することができる。単球およびマクロファージを得るための代替的な手段は、ヒト献血からの単離である。この手段で得られた細胞は、ドナー当たりのその個数が限定され、それらの有糸分裂後状態に起因して、遺伝子改変されたクローン株の生成は、実現可能ではない。献血以前の感染など、様々なドナー状態(生理学的状態)により、さらなる変動が生じ得る。
【
図2】iPSC由来のマクロファージの生成プロセスにおける逐次的分化工程の概略図である。iPSCを培養し、多能性状態で維持する(工程1)。維持培養物を継代するときに、2~1000万個のiPSCを使用して、胚葉体(EB)形成を開始する(工程2)。4日間のEB形成後に、事前分化させたEBを、細胞培養皿に播種し、その後の期間で造血工場を形成する(工程3)。造血工場は、分化の開始後14日ほどの早さで、第1の単球前駆体の産生および放出を開始する。これらの前駆体は、最大で100日間を上回って、1週間に2回、上清から採取することができる。単球前駆体は、7日間でマクロファージへとさらに分化し(工程4)、実験の必要条件に応じて、これらのマクロファージは、サイトカインの添加によって、特定の炎症性または制御性のサブタイプを発生させるようにさらに分極化することができる(工程5)。
【
図3】分化の時系列の概略図である。5つの逐次的分化工程(工程1~5)において使用されるサイトカイン、増殖因子、モルフォゲン、培地、およびコーティングは、示される通りである。
【
図4】新規な培養条件と、これまでに公開されているWilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、増殖因子を低減させたマトリゲルまたはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、分化の21日目に比較した。
【
図4A】ラミニン-521において培養したiPSCに由来する造血工場(接着性細胞)が、分化の21日目時点ですでに単球前駆体を産生することを示す。
【
図4B】分化の21日目時点における、ラミニン-521において培養したiPSCに由来する造血工場の上清中の単球前駆体(非接着性細胞)である。
【
図4C】マトリゲルにおいて培養したiPSCに由来する造血工場(接着性細胞)は、分化の21日目時点で単球を産生しないことを示す。
【
図4D】分化の21日目時点における、マトリゲルにおいて培養したiPSCに由来する造血工場の上清中に単球前駆体(非接着性細胞)がほとんどないことを示す。
【
図5】新規な培養条件と、これまでに公開されているWilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、マトリゲルまたはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、分化の21日目に比較した。ラミニン-521において培養したiPSCに由来する単球前駆体を、骨髄系マーカーCD14およびCD11bについて、フローサイトメーターによって分析した。
【
図5A】ラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD11b表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。複数のピークは、不均一なCD11b陽性細胞集団を示す。
【
図5B】ラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD14表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。複数のピークは、不均一なCD14陽性細胞集団を示す。
【
図6】新規な培養条件と、これまでに公開されているWilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、マトリゲルまたはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、単球前駆体を、上清から採取し、分化の34日目に比較した。ラミニン-521またはマトリゲルのいずれかで培養したiPSCに由来する単球前駆体を、フローサイトメーターによって、骨髄系マーカーCD14、CD11b、CD68、および増殖マーカーKi67について分析した。B10培養皿からの平均収率は、ラミニン-521由来の培養物については、36.5×10
6個の生細胞であり、マトリゲル由来培養物については、1.2×10
6個の生細胞であった。
【
図6A】34日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD11b表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD11b陽性細胞集団を示す。
【
図6B】34日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD14表面染色のフローサイトメータードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD14陽性細胞集団を示す。
【
図6C】34日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD68染色のフローサイトメータードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD68陽性細胞集団を示す。
【
図6D】34日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のKi67増殖マーカーのフローサイトメトリードットプロット分析である。アイソタイプ対照の強度における単一のピークは、細胞集団における低い増殖活性を示す。
【
図6E】34日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD11b表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD11b陽性細胞集団を示す。
【
図6F】34日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD14表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD14陽性細胞集団を示す。
【
図6G】34日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD68染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD68陽性細胞集団を示す。
【
図6H】34日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のKi67増殖マーカーのフローサイトメトリードットプロット分析である。アイソタイプ対照の強度における単一のピークは、細胞集団における低い増殖活性を示す。
【
図7】新規な培養条件と、これまでに公開されているWilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、マトリゲルまたはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、単球前駆体を、上清から回収し、分化の41日目に比較した。ラミニン-521またはマトリゲルのいずれかで培養したiPSCに由来する単球前駆体を、FACS分析によって、骨髄系マーカーCD14、CD11b、CD68、および増殖マーカーKi67について分析した。B10培養皿からの平均収率は、ラミニン-521由来の培養物については、30×10
6個の生細胞であり、マトリゲル由来培養物については、8.5×10
6個の生細胞であった。
【
図7A】41日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD11b表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD11b陽性細胞集団を示す。
【
図7B】41日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD14表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD14陽性細胞集団を示す。
【
図7C】41日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD68染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD68陽性細胞集団を示す。
【
図7D】41日目におけるラミニン-521由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のKi67増殖マーカーのフローサイトメトリードットプロット分析である。アイソタイプ対照の強度における単一のピークは、細胞集団における低い増殖活性を示す。
【
図7E】41日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD11b表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD11b陽性細胞集団を示す。
【
図7F】41日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD14表面染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD14陽性細胞集団を示す。
【
図7G】41日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のCD68染色のフローサイトメトリードットプロット分析である。単一のピークは、均一なCD68陽性細胞集団を示す。
【
図7H】41日目におけるマトリゲル由来の培養物およびアイソタイプ対照から採取した単球前駆体のKi67増殖マーカーのフローサイトメトリードットプロット分析である。アイソタイプ対照の強度における単一のピークは、細胞集団における低い増殖活性を示す。
【
図8】新規な培養条件と、これまでに公開されているvan Wilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、マトリゲル(van Wilgenburg et al.2013)またはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、単球前駆体を、上清から回収し、分化の21日目、35日目、41日目に比較した。異なる採取日の単球収率およびマーカー発現を、要約する。ラミニン-521において成長させたiPSCに由来する造血工場は、成熟し、単球前駆体を産生し、上清中に放出するのがより高速かつより高収率であった。
【
図9】新規な培養条件と、これまでに公開されているWilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。iPSCを、マトリゲル(van Wilgenburg et al.2013)またはラミニン-521のいずれかにおいて培養し、造血工場を、
図2および3に示されるように分化させ、単球前駆体を、上清から回収し、分化の27日目に開始して、最大で分化の111日目まで、7日ごとに比較した。ラミニン-521(9A)またはマトリゲル(9B)のいずれかで培養したiPSCに由来する単球前駆体を、FACS分析によって、骨髄系マーカーCD14、CD11b、CD68、および増殖マーカーKi67について分析した。
【
図10】iPSCに由来する単球と、PBMCから単離したCD14+単球との比較である。両方の源から得られた単球を、FACS分析によって、骨髄系マーカーCD14、CD11b、CD68、および増殖マーカーKi67について分析した。いずれの源に由来する細胞型も、CD14、CD11b、CD68を発現し、Ki67は陰性である。マーカーの強度は、2つの源から得られた細胞間で異なり、それぞれ、CD14、CD11b、およびCD68の量におけるわずかな差を示す。
【
図11】iPSCに由来するマクロファージと、PBMCに由来するマクロファージから単離したCD14+単球との比較である。両方の源から得られた単球を、材料および方法に記載されるように分化させ、マクロファージ分化の7日目に、FACS分析によって、骨髄系マーカーCD14、CD11b、CD68、および増殖マーカーKi67について分析した。いずれの源に由来する細胞型も、CD14、CD11b、CD68を発現し、Ki67は陰性である。マーカーの強度は、2つの源から得られた細胞間で異なり、それぞれ、CD14、CD11b、およびCD68の量におけるわずかな差を示す。
【
図12】新規な培養条件と、これまでに公開されているvan Wilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。3つの異なるiPSC株、SFC840(
図12AおよびD)、Gibcoエピソーム(
図12BおよびE)、ならびにSA001(
図12CおよびF)から生成した胚葉体を、コーティングされていない細胞培養皿(12A~C)または増殖因子を低減させた(GFR)マトリゲルでコーティングされた培養皿(12D~F)のいずれかに播種した。胚葉体の接着および細胞増殖は、試験した3つすべての細胞株について、GFRマトリゲルの方が良好であり、より強い培養物の発達が確保された。細胞の層は、単球前駆体が組織培養皿の表面に接着するのを防止し、上清中の単球前駆体の数をさらに増加させる。
【
図13】新規な培養条件と、これまでに公開されているvan Wilgenburg et al.(2013)の方法との比較である。3つの異なるiPSC株、SFC840(
図13AおよびD)、Gibcoエピソーム(
図13BおよびE)、ならびにSA001(
図13CおよびF)から生成した胚葉体を、コーティングされていない細胞培養皿(13A~C)または増殖因子を低減させた(GFR)マトリゲルでコーティングされた培養皿(13D~F)のいずれかに播種した。分化の21日目の時点ですでに、GFRマトリゲルにおいて増殖させた胚葉体によって生成された造血工場によって、コーティングされていない皿と比較してより多くの単球前駆体が、上清中に放出されている。
【
図14】3つの異なる細胞株(SFC840-03-01、SA001、およびGibcoエピソーム)を起源とする単球前駆体を、材料および方法に記載されるように、7日間、マクロファージに分化させた。Alexa488で標識したザイモサン粒子を、3つの異なるiPSC由来のマクロファージ株に供給することによって、食作用アッセイを行った。1時間の食作用の後、細胞を剥離し、Alexa488陽性細胞を、フローサイトメーターによって測定した。すべての源を起源とするマクロファージが、強力な食作用能力を呈し、1時間後で50%~70%の陽性細胞の範囲に及んだ。
【
図15】ニューロン-ミクログリア共培養物において、ミクログリア様細胞を得るための分化レジメンの図を示す。iPSC由来のニューロンを、21日間事前分化させ、この分化段階で、凍結保存することができる。共培養を開始するために、ニューロンを、単球前駆体を播種する少なくとも1週間前に、解凍した。ミクログリアの発達、移動、および形態特性をより良好に可視化するために、GFP陽性iPS細胞を、造血工場および単球前駆体の生成に使用した。ミクログリア様分化のために、GFP陽性単球前駆体を、事前分化させたニューロン培養物の上に播種し、2週間成熟させた。
【
図16】共培養物におけるミクログリアの分布および形態学を、ミクログリア様細胞によって発現されるGFP(
図16A)および抗ベータIII-チューブリン(Tuj)抗体で標識したニューロン(
図16B)について、蛍光顕微鏡によって観察した。1週間の分化の後に、単球ミクログリア様細胞は、共培養物中に均一に拡がり、分岐した形態学を呈する。
【
図17】LPS刺激の際のマクロファージおよびミクログリアのサイトカイン放出を示す。マクロファージおよびミクログリアの1つの機能特性は、炎症性刺激、例えば、LPSに応答して、サイトカインを放出する能力である。マクロファージ、ミクログリア、ならびにベースラインの間の差を試験するために、神経系共培養物のベースラインサイトカインレベル、未刺激細胞および100ng/mlのLPSで刺激した細胞のIL1b(
図17A)、IL6(
図17B)、MCP1(
図17C)、IL 10(
図17D)、IL8(
図17E)、IL12p40(
図17F)、MIP1a(
図17G)、およびTNFa(
図17H)のサイトカインレベルを、CBAによって測定した。ミクログリアは、マクロファージと比較して、IL1b、IL6、Il10、TNFa、IL12p40、およびMIP1aのより多くの放出、ならびにIL8のより少ない放出を示す。神経系単一培養物は、TNFa、MCP1、MIP1a、およびIL8の放出を示し、共培養物における炎症性応答に対する星状細胞の寄与を示した。
【
図18】食作用は、骨髄起源の細胞の重要な機能特性である。異なる培養条件、例えば、マクロファージまたはミクログリアにおいて、このプロセスをモニタリングするために、pH感受性色素pHrodoで標識した異なる基質(例えば、ザイモサン、Abetaでコーティングされたビーツ、またはアポトーシス細胞)を、使用することができる。これらの基質は、骨髄細胞によって認識され、エンドソームに飲み込まれ、リソソーム成熟中にpHが低下すると蛍光性となる。ミクログリア(
図18AおよびB)またはマクロファージ(
図18CおよびD)のいずれかによって取り込まれたpHrodoで標識したザイモサンの代表的な画像である。
【
図19】食作用活性は、pHrodo技術を用いた薬物スクリーニングおよび画像に基づく読み取りに使用され得る。細胞骨格の機能性に干渉することにより、食作用活性の減少が引き起こされ得(
図19A)、一方で、血清(FCS)との共インキュベーションまたは事前処置により、ザイモサン取り込み活性に濃度依存的増加が生じ得る(
図19B)。
【
図20】単球前駆体の中期保管および大型バッチの生成のために、造血工場から採取した単球は、懸濁培養(「スピナー」)において培養することができる。保管した単球前駆体からマクロファージへの分化は、任意の時点で開始することができる(
図20A)。懸濁培養(「スピナー」)で培養した単球前駆体は、少なくとも6週間、生存したままであり(
図20B)、それらのマーカープロファイルを保持する(
図20C)。懸濁培養(「スピナー」)で保持されている単球前駆体から分化したマクロファージは、採取後に直接分化させたマクロファージと比較して、類似のマーカー発現を有する(
図20D)。
【
図21】懸濁培養物中の単球前駆体から分化させたマクロファージ(「スピナー」)は、採取後に直接的に細胞から分化させたマクロファージ(「採取物」)と区別できない機能特性を呈し、それらは、類似の食作用能力(
図21A)および遊走能力(
図21B)を有する。
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
本明細書において使用されるとき、「規定培地」または「化学的規定培地」という用語は、すべての個々の構成要素およびそれらのそれぞれの濃度が既知である細胞培養培地を指す。規定培地は、組換えおよび化学的に定義される構成要素を含有し得る。
【0028】
本明細書において使用されるとき、「分化すること」、「分化」、および「分化する」という用語は、分化度の低い細胞を体細胞に変換する、例えば、多能性幹細胞を単球に変換するか、または単球をマクロファージに変換する、1つまたは複数の工程を指す。分化は、当該技術分野において公知であり本明細書においても記載される方法によって達成される。
【0029】
本明細書において使用されるとき、「単球前駆細胞」は、特異的表面マーカーCD14(分化クラスター14、骨髄系細胞特異的ロイシンリッチ糖タンパク質としても知られている、公式の符号CD14)、CD11b(分化クラスター11B、インテグリンアルファM(ITGAM)、マクロファージ-1抗原(Mac-1)、および補体受容体3(CR3/CR3A)としても知られている、公式の符号ITGAM)、CD68(分化クラスター68、GP110、マクロシアリン、スカベンジャー受容体クラスDメンバー1(SCARD1)、およびLAMP4としても知られている、公式の符号CD68)を発現し、懸濁液中にあり、接着性マクロファージおよびミクログリアを生じる能力を有する、細胞である。
【0030】
本明細書において使用されるとき、「マクロファージ」は、特異的マーカーCD14(分化クラスター14、骨髄系細胞特異的ロイシンリッチ糖タンパク質としても知られている、公式の符号CD14)、CD11b(分化クラスター11B、インテグリンアルファM(ITGAM)、マクロファージ-1抗原(Mac-1)、および補体受容体3(CR3/CR3A)としても知られている、公式の符号ITGAM)、CD68(分化クラスター68、GP110、マクロシアリン、スカベンジャー受容体クラスDメンバー1(SCARD1)、およびLAMP4としても知られている、公式の符号CD68)を発現し、接着性であり、異なる基質を貪食することができ、様々な炎症性刺激に応答し、固有のサイトカイン(例えば、IL-4およびINFg)の存在によって分極化され得る、細胞である。
【0031】
本明細書において使用されるとき、「ミクログリア」は、特異的マーカーCD14(分化クラスター14、骨髄系細胞特異的ロイシンリッチ糖タンパク質としても知られている、公式の符号CD14)、CD11b(分化クラスター11B、インテグリンアルファM(ITGAM)、マクロファージ-1抗原(Mac-1)、および補体受容体3(CR3/CR3A)としても知られている、公式の符号ITGAM)、CD68(分化クラスター68、GP110、マクロシアリン、スカベンジャー受容体クラスDメンバー1(SCARD1)、およびLAMP4としても知られている、公式の符号CD68)、IBA 1(イオン化カルシウム結合アダプター分子1、同種移植片炎症性因子1AIF1としても知られている、公式の符号AIF1)を発現し、分岐した形態を有し、異なる基質を貪食することができ、様々な炎症性刺激に応答し、少なくとも1つのさらなるマーカータンパク質、例えば、TMEM119(膜貫通タンパク質119、破骨細胞誘導因子(OBIF)としても知られている、公式の符号TMEM119)、P2RY12(P2Yプリン受容体12、ADP-グルコース受容体としても知られている、公式の符号P2RY12)、またはPROS1(プロテインS、PSA、PROS、PS21、PS22、PS23、PS24、PS25、THPH5、THPH6としても知られている、公式の符号PROS1)を発現し、かつ/または分岐した形態のものである、細胞である。
【0032】
「中胚葉誘導培地」は、本明細書において使用されるとき、多能性幹細胞における中胚葉の誘導に有用な任意の培地、好ましくは、化学的規定培地を指す。そのような培地の1つの例は、ヒト組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)、およびヒト幹細胞因子(SCF)を補充した、規定培地、例えば、MTeSR1培地である。中胚葉の誘導を判定するのに好適なマーカーは、MIXL、EOMES、およびT-ブラキウリである。
【0033】
「骨髄系成熟培地」は、本明細書において使用されるとき、骨髄系統に沿った細胞の成熟に有用な培地、好ましくは、化学的規定培地を指す。そのような培地の1つの例は、マクロファージコロニー刺激因子(M-SCF)およびインターロイキン3(IL-3)を補充した、規定培地、例えば、XVIVO15培地である。骨髄系統に沿った成熟を判定するのに好適なマーカーは、CD14、ITGAM、および/またはCD68である。
【0034】
「マクロファージ分化培地」は、本明細書において使用されるとき、単球前駆細胞からマクロファージへの分化に有用な任意の培地、好ましくは、化学的規定培地を指す。そのような培地の1つの例は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を補充した、規定培地、例えば、XVIVO15培地である。マクロファージを特定するのに好適なマクロファージマーカーは、CD14、ITGAM、および/またはCD68、ならびに細胞培養基質への接着、食作用、様々な炎症性刺激に対する応答、および例えば、IL-4および/もしくはINFgで処置した際の分極化である。
【0035】
本明細書において使用されるとき、「増殖因子」という用語は、細胞増殖を引き起こす生物学的に活性なポリペプチドまたは小分子化合物を意味し、これには、増殖因子およびそれらのアナログの両方が含まれる。
【0036】
「ハイスループットスクリーニング」は、本明細書において使用されるとき、多数の異なる疾患モデル条件および/または化学的化合物を並行して分析および比較することを意味することを理解されたい。典型的に、そのようなハイスループットスクリーニング(アッセイ)は、マルチウェルマイクロタイタープレートにおいて、例えば、96ウェルプレートまたは384ウェルプレート、または1536もしくは3456個のウェルを有するプレートにおいて行われる。
【0037】
「大規模細胞培養物」は、本明細書において使用されるとき、多量の細胞が、細胞の生存率を維持するための条件(例えば、培地供給、ガス交換、利用可能な表面積)下に拘束されており、その細胞の量が、ハイスループットスクリーニング(アッセイ)に好適である、細胞培養物(系)を指す。特定の実施形態において、大規模細胞培養物格納容器(例えば、容器、コンテナ、フラスコ)は、106個を上回る、107個を上回る、108個を上回る、109個を上回る、1010個を上回る、1011個を上回る、1012個を上回る細胞を含む。一実施形態において、大規模細胞培養物は、1つの単一細胞培養物格納容器を含む。別の実施形態において、大規模細胞培養物は、複数の細胞培養物格納容器のアセンブリを含む。さらなる実施形態において、大規模細胞培養物(格納容器)は、少なくとも100cm2、500cm2、1,000cm2、2,000cm2、5,000cm2、10,000cm2の細胞培養面積を含む。一実施形態において、大規模細胞培養物(系)には、1日目における少なくとも105個、106個、107個、108個、109個の出発細胞数に対応して、1cm2当たり少なくとも1、2、3、4、5個の胚葉体が接種される。一実施形態において、1つの胚葉体(約13,000個の細胞に対応する)が、細胞培養面積1cm2につき播種される。
【0038】
「単一層の細胞」は、本明細書において使用されるとき、細胞が、コンフルエントではない単一細胞とは対照的に、また複数の細胞が接着性基質に付着しているかまたは付着していない(複数の)三次元の層状または非層状の形式(例えば、胚葉体)を形成するのとは対照的に、実質的に1つの単一細胞層として、接着性基質(例えば、細胞培養支持体)に付着していることを意味する。
【0039】
「多能性培地」は、本明細書において使用されるとき、多能性幹細胞がそれらの多能性を維持しながら、単一細胞として単一層で付着するのに有用な任意の化学的規定培地を指す。有用な多能性培地は、当該技術分野において周知であり、本明細書にも記載されている。本明細書に記載される特定の実施形態において、多能性培地は、以下の増殖因子:塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、線維芽細胞増殖因子2、FGF2とも表記される)、およびトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)のうちの少なくとも1つを含有する。
【0040】
本明細書において使用されるとき、「再プログラミング」という用語は、体細胞を、分化度の低い細胞に変換するため、例えば、線維芽細胞、脂肪細胞、ケラチノサイト、または白血球を多能性幹細胞に変換するために必要とされる1つまたは複数の工程を指す。「再プログラミングされた」細胞は、本明細書に記載されるように体細胞を再プログラミングすることによって導出された細胞を指す。
【0041】
「小分子」、または「小化合物」、または「小分子化合物」という用語は、本明細書において使用されるとき、一般に、1モル当たり10,000グラム未満、必要に応じて1モル当たり5,000グラム未満、および必要に応じて1モル当たり2,000グラム未満の分子量を有する、合成であるかまたは天然に見出されるかのいずれかの有機または無機分子を指す。
【0042】
「体細胞」という用語は、本明細書において使用されるとき、生殖系列の細胞(例えば、それらが作られる細胞(生殖母細胞)である精子および卵子)および未分化の幹細胞ではない、生物体の身体を形成する任意の細胞を指す。
【0043】
「幹細胞」という用語は、本明細書において使用されるとき、自己複製の能力を有する細胞を指す。「未分化幹細胞」は、本明細書において使用されるとき、多様な細胞型に分化する能力を有する幹細胞を指す。本明細書において使用されるとき、「多能性幹細胞」は、複数の細胞型の細胞を生じることができる幹細胞を指す。多能性幹細胞(PSC)には、ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)が含まれる。ヒト人工多能性幹細胞は、再プログラミングされた体細胞から、例えば、当該技術分野において公知であり、本明細書にさらに記載されている方法による4つの所定の因子(Sox2、Oct4、Klf4、c-Myc)の形質導入によって、誘導することができる。このヒト体細胞は、健常な個体または患者から得ることができる。これらのドナー細胞は、任意の好適な源から得ることができる。ヒト身体への侵襲的手技を用いることなくドナー細胞の単離を可能にする源、例えば、ヒト皮膚細胞、血液細胞、または尿試料から得ることができる細胞が、本明細書では好ましい。
【0044】
「懸濁培養物」という用語は、本明細書において使用されるとき、細胞(単一細胞または細胞凝集物、例えば、胚葉体)が、細胞をインキュベートするために使用される細胞培養物格納容器の表面に実質的に付着してないか、最小限にしか付着していない、細胞培養系を指す。懸濁培養物において、細胞または細胞凝集物は、細胞培養物格納容器の表面(例えば、フラスコの組織培養支持体)との接触が最小限であるかまたは接触することなく、浮遊している。懸濁培養物の最小限に付着した細胞または細胞凝集物は、弱いかまたは中等度の物理的な力の使用によって、例えば、細胞培養物の軽い振盪、タッピング、または水平方向の移動によって、容易に剥離することができる。
【0045】
「接着性細胞培養物」という用語は、本明細書において使用されるとき、懸濁培養物とは対照的に、細胞が、細胞をインキュベートするために使用される細胞培養物格納容器の表面に付着している、細胞培養系を指す。本明細書に記載される弱いかまたは中等度の物理的な力の使用によって容易に剥離することができる、懸濁培養物の最小限に付着した細胞または細胞凝集物は、接着性細胞培養物とは見なされない。
【0046】
ヒト細胞が好ましいが、本明細書に記載される方法はまた、非ヒト細胞、例えば、霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、ウサギ)、およびイヌ細胞にも適用可能である。
【0047】
単球前駆細胞を産生するための方法が、本明細書において提供される。本発明よりも以前は、いくつかの技術的な問題により、創薬における単球およびマクロファージの使用は限定されていた。プロジェクトが納期に間に合うのを保証するために、細胞数、拡張性、再現性、および表現型関連性など因子は、必須である。本発明者らは、公開されているプロトコール(van Wilgenburg et al.2013)を修正し、分化時間を減少させながら、収率および再現性を増加させることができた。好ましい実施形態において、胚葉体(EB)は、ラミニンでコーティングされた細胞培養支持体に播種した人工多能性幹細胞(iPSC)から生成される。これらのEBは、初期の胚形成に類似し、3つの生殖系列の層(原始線条)の形成を開始する。EBは、次いで、細胞を、BMP4を含む規定培地と接触させることによって事前分化され、細胞の運命決定を中胚葉系統へと誘導する。形成され事前分化された後、EBは、播種され、骨髄系統に沿ってさらに分化して、造血工場を形成し、これが、単球前駆体を産生し上清中に放出する(
図2)。造血工場は、100日間を上回って維持することができ、単球前駆体を、培養上清から採取することができる(最大で1週間に2回)。採取した後、これらの前駆体は、1週間以内に非分極化マクロファージに分化し得るか、または炎症促進性もしくは抗炎症性のいずれかのサブタイプを促進する特定のサイトカインの添加によってさらに分極化されてもよい。造血工場の拡張性を、10から1000cm
2の培養面積に増加させることによって、本発明は、創薬および開発プロジェクトに関連する作業ならびに中規模サイズの薬物スクリーニングプログラムの必要性に合った細胞採取および取り扱い時間を達成している。別の態様において、ミクログリア様細胞の生成のための新規な共培養設定を、確立した。
【0048】
単球前駆細胞の生成
多能性幹細胞は、自己複製の特徴を有し、成体哺乳動物身体のすべての主要な細胞型に分化することができる。多能性幹細胞は、標準化された細胞培養条件下において、多量に産生することができる。したがって、好ましい実施形態において、単球前駆細胞は、多能性幹細胞から生成される、すなわち、分化する。一実施形態において、単球前駆細胞は、胚性幹細胞から生成される、すなわち、分化する。好ましい実施形態において、単球前駆細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)から生成、すなわち、分化する。一実施形態において、iPSCは、再プログラミングされた体細胞から生成される。体細胞のiPSCへの再プログラミングは、iPSC特性の維持に関与する特定の遺伝子を導入することによって達成することができる。体細胞のiPSCへの再プログラミングに好適な遺伝子としては、Oct4、Sox2、Klf4、およびC-Myc、ならびにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、再プログラミングのための遺伝子は、Oct4、Sox2、Klf4、およびC-Mycである。
【0049】
内臓、皮膚、骨、血液、および結合組織は、すべて、体細胞から作製されている。iPSCを生成するために使用される体細胞としては、線維芽細胞、脂肪細胞、およびケラチノサイトが挙げられるがこれらに限定されず、皮膚生検から得ることができる。他の好適な体細胞は、白血球、血液試料もしくは上皮細胞から得られる赤芽球、または血液もしくは尿試料から得られる他の細胞であり、当該技術分野において公知であり本明細書に記載される方法によって、iPSCに再プログラミングされる。体細胞は、健常な個体から、または罹患した個体から得ることができる。一実施形態において、体細胞は、疾患を患う対象(例えば、ヒト対象)に由来する。一実施形態において、疾患は、慢性炎症(例えば、炎症性腸疾患)、原発性もしくは後天性免疫不全(例えば、裸リンパ球症候群)、または神経変性疾患(例えば、多発性硬化症、アルツハイマー病、もしくはパーキンソン病)のいずれかと関連している。本明細書に記載される再プログラミングのための遺伝子は、当該技術分野において公知の方法、再プログラミングベクターを介した細胞への送達または小分子を介した前記遺伝子の活性化のいずれかによって、体細胞に導入される。再プログラミングのための方法は、とりわけ、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、プラスミドおよびトランスポゾン、マイクロRNA、小分子、改変されたRNA、メッセンジャーRNA、ならびに組換えタンパク質を含む。一実施形態において、レンチウイルスが、本明細書に記載される遺伝子の送達に使用される。別の実施形態において、Oct4、Sox2、Klf4、およびC-Mycは、センダイウイルス粒子を使用して体細胞に送達される。加えて、体細胞を、少なくとも1つの小分子の存在下において培養してもよい。一実施形態において、この小分子は、プロテインキナーゼのRho関連コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ(ROCK)ファミリーの阻害剤を含む。ROCK阻害剤の非限定的な例は、ファスジル(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン)、チアゾビビン(N-ベンジル-2-(ピリミジン-4-イルアミノ)チアゾール-4-カルボキサミド)、およびY-27632((+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロ-ヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド)を含む。
【0050】
多能性幹細胞の所定の単一層を提供することが、得られる培養物の再現性および効率性に好ましい。本発明者らは、驚くべきことに、幹細胞維持培養においてラミニンでコーティングされた基質を使用することによる置換が、造血工場の分化時間を減少させ、細胞培養物のスループットを増加させたことを見出した。一実施形態において、多能性幹細胞の単一層は、細胞を、単一細胞に酵素的に解離させ、それらを接着性基質、例えば、ラミニン基質でコーティングされた細胞培養物格納容器(例えば、フラスコ)に播種することによって、産生され得る。好ましい実施形態において、接着性基質(コーティング)は、ラミニンである。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-4を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-5を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットベータ-1を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットベータ-2を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットガンマ-1を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-4、ベータ-1、およびガンマ-1(ラミニン-411)を含む。一実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-5、ベータ-1、およびガンマ-1(ラミニン-511)を含む。好ましい実施形態において、ラミニンは、ラミニンサブユニットアルファ-5、ベータ-2、およびガンマ-1(ラミニン-521、例えば、BioLamina rhLaminin-521)を含む。
【0051】
単一細胞への解離に好適な酵素の例としては、Accutase(Invitrogen)、トリプシン(Invitrogen)、TrypLe Express(Invitrogen)が挙げられる。一実施形態において、1cm2当たり20,000~60,000個の細胞が、接着性基質に播種される。本明細書において使用される培地は、多能性幹細胞が単一細胞として単一層で付着および増殖するのを促進する、多能性培地である。一実施形態において、多能性培地は、プロテインキナーゼのRho関連コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ(ROCK)ファミリーの小分子阻害剤(本明細書においてROCKキナーゼ阻害剤と称される)を補充した、無血清培地である。
【0052】
したがって、一実施形態において、本明細書に記載される方法は、ラミニン基質に、多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供することを含み、ここで、この多能性培地は、ROCKキナーゼ阻害剤を補充した無血清培地である。
【0053】
多能性幹細胞の基質への付着に好適な無血清培地の例としては、Stem Cell TechnologiesからのmTeSR1もしくはTeSR2、ReproCELLからのPrimate ES/iPS細胞培地、MiliporeからのPluriSTEM、Milenyi BiotecからのStemMACS iPS-Brew、およびInvitrogenからのStemPro hESC SFM、LonzaからのX-VIVOがある。本明細書において有用なROCKキナーゼ阻害剤の例は、ファスジル(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン)、チアゾビビン(N-ベンジル-2-(ピリジン-4-イルアミノ)チアゾール-4-カルボキサミド)、およびY27632((+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロ-ヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、例えば、Tocris bioscienceのカタログ番号:1254)がある。一実施形態において、多能性培地は、約2~20μMのY27632、好ましくは約5~10μMのY27632を補充した無血清培地である。別の実施形態において、多能性培地は、約2~20μMのファスジルを補充した無血清培地である。別の実施形態において、多能性培地は、約0.2~10μMのチアゾビビンを補充した無血清培地である。
【0054】
一実施形態において、本明細書に記載される方法は、ラミニン基質に多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供すること、およびこの単一層を多能性培地において、少なくとも1日間(24時間)増殖させることを含む。別の実施形態において、本明細書に記載される方法は、多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供すること、およびこの単一層を多能性培地において、18時間~30時間、好ましくは23~25時間増殖させることを含む。さらなる実施形態において、本明細書に記載される方法は、ラミニン基質に多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供すること、およびこの単一層を多能性培地において、少なくとも2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、または10日間を上回って増殖させることを含む。
【0055】
別の実施形態において、本明細書に記載される方法は、ラミニン基質に、mTesR1培地である多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供すること、およびこの単一層を多能性培地において、少なくとも1日間(24時間)増殖させることを含む。別の実施形態において、本明細書に記載される方法は、ラミニン基質に、mTesR1である多能性培地中の多能性幹細胞の単一層を提供すること、およびこの単一層を多能性培地において、18時間~30時間、好ましくは23~25時間増殖させることを含む。
【0056】
次の工程b)において、多能性幹細胞は、採取され、懸濁培養物に移される。一実施形態において、多能性幹細胞を、中胚葉誘導培地と接触させる。一実施形態において、中胚葉誘導培地は、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)を含む。一実施形態において、中胚葉誘導培地は、約10~100ng/mlのBMP4(例えば、hBMP4)、好ましくは、約50ng/mlのBMP4を補充した無血清培地である。
【0057】
さらなる実施形態において、中胚葉誘導培地は、血管内皮増殖因子(VEGF)をさらに含む。一実施形態において、中胚葉誘導培地は、約10~100ng/mlのVEGF(例えば、hVEGF)、好ましくは、約50ng/mlのVEGFを補充した無血清培地である。
【0058】
さらなる実施形態において、中胚葉誘導培地は、幹細胞因子(SCF)をさらに含む。一実施形態において、中胚葉誘導培地は、約5~50ng/mlのSCF(例えば、hSCF)、好ましくは、約20ng/mlのSCFを補充した無血清培地である。
【0059】
好ましい実施形態において、中胚葉誘導培地は、BMP4、VEGF、およびSCF、具体的には、約10~100ng/mlのBMP4、約10~100ng/mlのVEGF、および約5~50ng/mlのSCFを含む。好ましい実施形態において、中胚葉誘導培地は、約50ng/mlのBMP4、約50ng/mlのVEGF、および約20ng/mlのSCFを含む。
【0060】
一実施形態において、多能性幹細胞を、少なくとも約1日間(24時間)、中胚葉誘導培地と接触させる。さらなる実施形態において、多能性幹細胞を、約2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、または約10日間を上回って、中胚葉誘導培地と接触させる。一実施形態において、多能性幹細胞を、約24時間~約72時間、好ましくは、約36~約60時間、中胚葉誘導培地と接触させる。
【0061】
一実施形態において、細胞は、工程c)において、中胚葉誘導後の細胞の付着に好適な細胞培養支持体に播種される。好ましい実施形態において、細胞は、基底膜生体材料、例えば、マトリゲル、Cultrex BME、Geltrex Matrixなどでコーティングされた細胞培養支持体に播種される。一実施形態において、基底膜生体材料は、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ナイドジェン-1,2を含む。好ましい実施形態において、細胞は、マトリゲルでコーティングされた細胞培養支持体に播種される。
【0062】
一実施形態において、細胞は、工程c)において、大規模細胞培養容器に播種される。特定の実施形態において、106個を上回る、107個を上回る、108個を上回る、109個を上回る、1010個を上回る、1011個を上回る、1012個を上回る細胞が、個々の大規模細胞培養物格納容器に播種される。一実施形態において、大規模細胞培養物は、1つの単一細胞培養物格納容器を含む。別の実施形態において、大規模細胞培養物は、複数の細胞培養物格納容器のアセンブリを含む。さらなる実施形態において、大規模細胞培養物(格納容器)は、少なくとも100cm2、500cm2、1,000cm2、2,000cm2、5,000cm2、10,000cm2の細胞培養面積を含む。一実施形態において、大規模細胞培養物(系)には、少なくとも106個、107個、108個、109個、1010個、1011個、1012個の細胞が接種される。
【0063】
次の工程において、大規模細胞培養物中の細胞を、骨髄系統に沿ってさらに分化させる。一実施形態において、播種した細胞を、工程c)において、骨髄系成熟培地と接触させる。好適な骨髄系成熟培地は、当該技術分野において公知であり、本明細書にも記載されている。一実施形態において、骨髄系成熟培地は、インターロイキン3(IL-3)を含む。一実施形態において、骨髄系成熟培地は、約1~50ng/mlのIL-3(例えば、hIL-3)、好ましくは、約25ng/mlのIL-3を補充した無血清培地である。一実施形態において、細胞を、約4日間(約96時間)、骨髄系成熟培地と接触させる。さらなる実施形態において、細胞を、約2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、または約10日間を上回って、骨髄系成熟培地と接触させる。一実施形態において、細胞を、約72時間~約120時間、好ましくは、約84~約108時間、骨髄系成熟培地と接触させる。骨髄系成熟の工程中に、大規模細胞培養物は、単球前駆細胞の産生を開始する。単球前駆細胞は、骨髄系成熟後に、細胞培養物の上清を回収することによって、接着性細胞培養物から採取することができる。一実施形態において、本発明による工程c)の大規模細胞培養物は、約10日間を上回って、15日間を上回って、20日間を上回って、25日間を上回って、30日間を上回って、40日間を上回って、50日間を上回って、60日間を上回って、70日間を上回って、80日間を上回って、90日間を上回って、または100日間を上回って、単球前駆細胞を産生することができる。一実施形態において、工程c)の大規模培養物は、1週間につき、細胞培養面積1cm2当たり、少なくとも約100,000個の単球前駆細胞を産生することができる。
【0064】
単球前駆細胞からマクロファージへの分化
単球前駆細胞は、当該技術分野において公知であり本明細書にも記載される方法によって、マクロファージに分化させることができる。一実施形態において、単球前駆細胞を、マクロファージ分化培地と接触させる。一実施形態において、細胞を、約1~10日間、4~8日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、または約10日間を上回って、マクロファージ分化培地と接触させる。一実施形態において、マクロファージ分化培地は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む。一実施形態において、マクロファージ分化培地は、10~200ng/mlのM-CSF(例えば、hM-CSF)、好ましくは、100ng/mlのM-CSFを補充した無血清培地である。好ましい実施形態において、細胞を、約6日間、マクロファージ分化培地と接触させる。一実施形態において、細胞をマクロファージ分化培地と接触させる前またはそれと同時に、細胞を、コーティングされていない組織培養支持体に播種する。一実施形態において、マクロファージを、コーティングされていない組織培養支持体に再播種する。一実施形態において、マクロファージを、ハイスループットプレート形式で再播種する。一実施形態において、マクロファージを、24ウェルプレート形式、96ウェルプレート形式、または384ウェルプレート形式で再播種する。
【0065】
単球前駆細胞からミクログリアへの分化
単球前駆細胞は、当該技術分野において公知であり本明細書にも記載される方法によって、ミクログリアに分化させることができる。一実施形態において、単球前駆細胞を、ニューロンと接触させる。一実施形態において、ニューロンは、国際公開第2017081250号に記載される方法を使用して生成される。いくつかの実施形態において、ニューロンを、(少なくとも)約1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、分化させる。好ましい実施形態において、ニューロンを、約2~5週間分化させる。いくつかの実施形態において、細胞を、約2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、または約10日間を上回って、ニューロンと接触させる。いくつかの実施形態において、細胞を、約5~20日間または約10~18日間、ニューロンと接触させる。一実施形態において、細胞を、共培養分化培地において、ニューロンと共培養する。一実施形態において、共培養分化培地は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および/またはインターロイキン34(IL-34)を含む。一実施形態において、共培養分化培地は、10~200ng/mlのGM-CSF(例えば、hGM-CSF)、好ましくは、100ng/mlのGM-CSFを補充した無血清培地である。一実施形態において、共培養分化培地は、1~500ng/mlのIL-34(例えば、hIL-34)、好ましくは、100ng/mlのIL-34を補充した無血清培地である。好ましい実施形態において、細胞を、10~200ng/mlのGM-CSF(例えば、hGM-CSF)および1~500ngのIL-34、好ましくは、100ng/mlのGM-CSFおよび100ng/mlのIL-34を補充した無血清培地において、約14日間、ニューロンおよび共培養分化培地と接触させる。
【0066】
例示的な実施形態:
1. 単球前駆細胞を産生するための方法であって、
a)ラミニンでコーティングされた細胞培養支持体に、多能性培地中の多能性幹細胞を播種する工程と、
b)多能性幹細胞を採取し、多能性幹細胞を懸濁培養物中の中胚葉誘導培地と接触させる工程と、
c)細胞を、細胞の付着に好適な細胞培養支持体に播種する工程と、
d)懸濁液から単球前駆細胞を採取する工程と
を含む、方法。
2. 工程a)における細胞を、少なくとも約1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、または10日間、具体的には、少なくとも約1日間、ラミニンでコーティングされた細胞培養支持体上で培養する、実施形態1に記載の方法。
3. 工程a)におけるラミニンが、ラミニンサブユニットアルファ-5を含む、特に、工程a)におけるラミニンが、ラミニンサブユニットアルファ-5、ベータ-2、およびガンマ1を含む、実施形態1または2に記載の方法。
4. 中胚葉誘導培地が、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)を含む化学的規定培地である、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
5. 培地が、約10~100ng/mlのBMP4、好ましくは、約50ng/mlのBMP4を含む、実施形態4に記載の方法。
6. 中胚葉誘導培地が、血管内皮増殖因子(VEGF)をさらに含む、実施形態4または5に記載の方法。
7. 中胚葉誘導培地が、約10~100ng/mlのVEGF、好ましくは、約50ng/mlのVEGFを含む、実施形態6に記載の方法。
8. 中胚葉誘導培地が、幹細胞因子(SCF)をさらに含む、実施形態4から7のいずれか1つに記載の方法。
9. 中胚葉誘導培地が、約5~50ng/mlのSCF、好ましくは、約20ng/mlのSCFを含む、実施形態8に記載の方法。
10. 細胞を、約1~10日間、2~6日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、中胚葉誘導培地と接触させる、実施形態1から9のいずれか1つに記載の方法。
11. 細胞を、約4日間、中胚葉誘導培地と接触させる、実施形態1から10のいずれか1つに記載の方法。
12. 工程b)における細胞が、胚葉体(EB)を形成する、実施形態1から11のいずれか1つに記載の方法。
13. 工程c)における細胞培養支持体が、基底膜生体材料でコーティングされている、実施形態1から12のいずれか1つに記載の方法。
14. 基底膜生体材料が、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン/ナイドジェン-1,2を含む、実施形態13に記載の方法。
15. 工程c)における細胞を、骨髄系成熟培地と接触させる、実施形態1から14のいずれか1つに記載の方法。
16. 骨髄系成熟培地が、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む、実施形態1から15のいずれか1つに記載の方法。
17. 骨髄系成熟培地が、約20~200ng/mlのM-CSF、好ましくは、約100ng/mlのM-CSFを含む、実施形態16に記載の方法。
18. 骨髄系成熟培地が、IL-3をさらに含む、実施形態15から17のいずれか1つに記載の方法。
19. 培地が、約1~50ng/mlのIL-3、好ましくは、約25ng/mlのIL-3を含む、実施形態18に記載の方法。
20. 細胞を、約1~10日間、2~6日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、骨髄系成熟培地と接触させる、実施形態15から19のいずれか1つに記載の方法。
21. 細胞を、約4日間、骨髄系成熟培地と接触させる、実施形態15から20のいずれか1つに記載の方法。
22. 工程d)において、単球前駆細胞を、細胞培養物の上清を回収することによって、採取する、実施形態1から21のいずれか1つに記載の方法。
23. 工程d)において、単球前駆細胞を、細胞培養物の上清を回収することによって、バッチで採取する、実施形態1から22のいずれか1つに記載の方法。
24. 単球前駆細胞を規則的な間隔で、具体的には、毎日、1日おきに、3日ごとに、4日ごとに、5日ごとに、または6日ごとに、バッチで採取する、実施形態1から23のいずれか1つに記載の方法。
25. 単球前駆細胞を継続的に採取する、実施形態1から24のいずれか1つに記載の方法。
26. 工程d)において、単球前駆細胞を、細胞培養物から上清を除去し、必要に応じて、除去した上清を新しい培地と置き換えることによって、継続的に採取する、実施形態1から25のいずれか1つに記載の方法。
27. e)採取した単球前駆細胞をマクロファージに分化させる工程をさらに含む、実施形態1から26のいずれか1つに記載の方法。
28. 工程e)における細胞を、マクロファージ分化培地と接触させる、実施形態27に記載の方法。
29. マクロファージ分化培地が、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む、実施形態27に記載の方法。
30. マクロファージ分化培地が、約10~200ng/mlのM-CSF、好ましくは、約100ng/mlのM-CSFを含む、実施形態28または29に記載の方法。
31. 細胞を、約1~10日間、4~8日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、マクロファージ分化培地と接触させる、実施形態28から30のいずれか1つに記載の方法。
32. 細胞を、約6日間、マクロファージ分化培地と接触させる、実施形態28から31のいずれか1つに記載の方法。
33. 工程e)における細胞を、コーティングされていない組織培養物支持体に播種する、実施形態28から32のいずれか1つに記載の方法。
34. マクロファージを、コーティングされていない組織培養物支持体に再播種する、実施形態28から33のいずれか1つに記載の方法。
35. マクロファージを、24ウェルプレート形式、96ウェルプレート形式、または384ウェルプレート形式で再播種する、実施形態28から34のいずれか1つに記載の方法。
36. e)単球前駆細胞をミクログリアに分化させる工程をさらに含む、実施形態1から26のいずれか1つに記載の方法。
36. 工程e)における単球前駆体を神経細胞と共培養する、実施形態35に記載の方法。
37. 工程e)における細胞を共培養分化培地と接触させる、実施形態35または36に記載の方法。
38. 共培養分化培地が、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および/またはインターロイキン34(IL-34)を含む、実施形態37に記載の方法。
39. 共培養分化培地が、約10~200ng/mlのGM-CSF、好ましくは、約100ng/mlのGM-CSFを含む、実施形態38に記載の方法。
40. 共培養分化培地培地が、約1~500ng/mlのIL-34(例えば、hIL-34)、好ましくは、約100ng/mlのIL-34を含む、実施形態38または39に記載の方法。
41. 細胞を、約1~28日間、7~21日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、共培養分化培地と接触させる、実施形態38から40のいずれか1つに記載の方法。
42. 細胞を、約14日間、共培養分化培地と接触させる、実施形態38から41のいずれか1つに記載の方法。
43. 神経細胞が、多能性幹細胞に由来する、実施形態36から42のいずれか1つに記載の方法。
44. 神経細胞が、国際公開第2017/081250号に記載される均一に分配された分化したNCの標準化細胞培養物を産生するための方法に従って産生される、実施形態36から43のいずれか1つに記載の方法。
45. 多能性幹細胞が、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞である、実施形態1から44のいずれか1つに記載の方法。
46. 多能性幹細胞が、胚性幹細胞(ESC)である、実施形態1から45のいずれか1つに記載の方法。
47. 多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)である、実施形態1から45のいずれか1つに記載の方法。
48. 単球前駆細胞を産生するための接着性大規模細胞培養物であって、1週間につき、細胞培養面積1cm2当たり少なくとも約100,000個の単球前駆細胞を産生することができる、接着性大規模細胞培養物。
49. 請求項1から26のいずれか一項に記載の方法の工程a)からc)によって産生される、実施形態48に記載の接着性大規模細胞培養物。
49. 本明細書に記載される発明。
【実施例】
【0067】
以下は、本発明の組成物および方法の非限定的な例である。上記に提供されている一般的な説明を踏まえ、様々な他の実施形態を実施することができることが理解される。
【0068】
材料および方法
ヒト人工多能性幹細胞からマクロファージを生成するために、本発明者らは、公開されているプロトコール(van Wilgenburg et al.2013)を採用した。これは、
図3に示される複数工程のプロトコールをもたらした。このプロトコールは、5つの工程で構成されている:iPSC維持(工程1)、EB形成(工程2)、EBの播種(工程3)、マクロファージ分化(工程4)、およびマクロファージ分極化(工程5)。
【0069】
フィーダーフリー条件でのiPSC維持
培養皿(Corning)を、使用前に少なくとも2時間、カルシウムおよびマグネシウムを含有するPBS中12.5ug/mlのrhラミニン-521(BioLamina)でコーティングした。hiPS細胞を、5% CO2で37℃において、mTesR1培地(StemCell Technologies)に播種し、培養し、培地を毎日交換した。細胞を、90%の培養密度で継代させた。そうして、培地を除去し、細胞を、PBSで1回洗浄し、37℃で2~5分間、アキュターゼで剥離した。遠心分離によってアキュターゼを除去した後、細胞を、維持または分化の開始のいずれかに使用した。
【0070】
EBの形成および中胚葉の誘導
均質なEBを得るために、iPS細胞を、Aggrewell 800(StemCell Technologies)プレートに播種した。そうして、10μMのROCK阻害剤(Y27632、Callbiochem)を補充し、4×106個のiPS単一細胞を含有する、2mlのmTesR1を、それぞれのAggrewellに添加し、100gで3分間遠心分離して、iPS細胞がaggrewellのマイクロウェルに均一かつ高速で分配されるのを確実にした。翌日、mTeSR1培地の75%(それぞれのウェルにおいて、2mlのうちの1mlを2回交換する)を、50ng/mlのhBMP4、50ng/mlのhVEGF、および20ng/mlのhSCFを補充した新しいmTeSR1培地と交換することによって、中胚葉誘導を開始した。さらなる分化のために、これを、続いて2日間繰り返した。
【0071】
EBの播種および骨髄系統に沿った成熟の継続
分化の4日目に、aggrewellをPBSですすぐことにより、EBを緩徐に取り除くことによって、EBを採取した。EBを、40μmのストレーナーで回収し、2mMのGlutamax、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、50ug/mlのメルカプトエタノール、M-CSF(20~200ng/ml)、およびIL3(1~50ng/ml)を補充したXVIVO15培地(Lonza)からなる工場培地に移した。EBを、室温において1時間、低温DMEM F12 1:1 1×Glutamax Gibco 31331-028)中に希釈した増殖因子を低減させたマトリゲル(354230 Corning)で事前コーティングされた所望される表面積(2~2000cm2)の細胞培養容器に、0.8~1.5個のEB/cm2の密度で播種した。EBの接着を可能にするために、EBを、緩やかな動作によって均一に分配させ、培養容器を、即座に37℃で5% CO2におき、分化の最初の1週間はいずれのさらなる干渉は行わなかった。次の2週間の分化では、開始体積の50%の新しい工場培地を、1週間に1回添加した。分化の3週間目から、上清中の(CD14+)単球前駆体の産生および放出が検出可能となるまで、培地の半分の交換を行った。この時点以降、新しい工場培地との完全な培地交換を、1週間に2回行った。
【0072】
単球の採取
単球を、遠心分離(4分間、300g)によって、上清から回収し、細胞を、再懸濁させ、計数し、フローサイトメトリーによるマーカー発現の品質コントロール(CD68、Ki67、CD11b、およびCD14)を、1週間に1回行った。単球前駆体を、分化培地に移し、マクロファージに分化させたか、またはニューロンとの共培養においてミクログリアに分化させた。
【0073】
マクロファージの分化
適用要件によると、マクロファージは、必要とされるプレート形式で直接分化させたか、またはupcell(商標)プレートで6日間、事前分化させ、次いで、製造業者のプロトコールに従って、アッセイ開始の1日前に、最終的なプレート形式に再播種したかのいずれかであった。分化のために、細胞を、XVIVO 15(2mMのGlutamax、1%のPenstrep、および10~200ng/mlのM-CSFを補充)またはRPMI1640(1%のPenstrepおよび10~200ng/mlのM-CSFもしくは1~10%のウシ胎児血清を補充)のいずれかにおいて培養した。培地を、播種の3日後に交換し、細胞を、7日間分化させた。
【0074】
マクロファージの分極化
マクロファージの炎症促進性(M1)または制御性表現型(M2)への分極化のために、細胞を、それぞれ、2mMのGlutamax、1%のPenstrep、5~100ng/mlのGM-CSF、および1~100ng/mlのINFyを補充した(M1)、または2mMのGlutamax、1%のPenstrep、5~100ng/mlのM-CSF、および1~100ng/mlのIL-4を補充した(M2)、XIVIVO15培地において、所望される分極化期間、培養した。
【0075】
ニューロン共培養物におけるミクログリア様細胞の生成
単球からミクログリア様細胞への分化のために、単球を、事前分化させたニューロンに播種し、分析の前に2週間共培養した。
【0076】
ニューロンの生成
ニューロンを、国際公開第2017081250号に記載されるように分化させ、多量の原液を、21日目に凍結させた。共培養の開始の2週間前に、ニューロンを解凍し、BDNF、GDNF、cAMP、アスコルビン酸、および10μMのROCK阻害剤(Y27632、Callbiochem)を含有するN2/B27培地において、1cm2当たり50~200000個の細胞の密度で、5ug/mlの組換えヒトラミニン-521(BNioLamina)で事前コーティングされた細胞培養容器に播種した。培地を、3日ごとに交換した(ニューロン成熟のさらなる過程についてはROCK阻害剤なし)。
【0077】
共培養
新しく採取した単球前駆体を、N2培地(Advanced DMEM F-12、N2補充物質、Glutamax、50μMのメルカプトエタノール、1%のP/S、および1~100ng/mlのGM-CSF、ならびに1~500ngのIL-34からなる)において、成熟ニューロンの上に播種した。ミクログリア細胞を、14日間、1週間に2回の培地交換で、共培養物中で成熟させた。
【0078】
単球の回収および懸濁培養物における中間体の保管
新しく採取した単球前駆体を、回収し、2mMのGlutamax、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、50ug/mlのメルカプトエタノール、M-CSF(20~200ng/ml)、およびIL3(1~50ng/ml)を補充したXVIVO15培地(Lonza)において、数週間にわたって、「スピナー」と称される懸濁培養において培養した。細胞数を50~200万個/mlに調節し、培地交換を1週間に2回行い、細胞を再懸濁させ、計数し、品質コントロールを行った(CD68、Ki67)。
【0079】
実施例1
改変された幹細胞の維持により、造血工場の分化が促進され、単球の収率が増加する
人工多能性幹細胞を、上述のように、フィーダーフリー条件下において培養し、造血工場に分化させた。幹細胞維持培養物におけるラミニン-521コーティング基質によるマトリゲルの置換は、造血工場の分化時間を減少させた。ラミニン-521で培養したiPSCに由来する造血工場は、分化の21日目に単球前駆体の産生を開始したが、一方で、分化の34日目まで、マトリゲルで培養したiPSCに由来する造血工場によって上清中に放出される単球前駆体はなかった(
図4)。マクロファージの早期放出と一致して、単球のマーカー遺伝子発現もまた、分化プロセスの早期に増加し、週ごとの採取収率は、ラミニン-521で培養したiPSCに由来する造血工場において、有意に高かった(
図5~9)。この観察により、効率的な分化プロセスのためには、iPSC維持条件が高度に関連することが指摘される。
【0080】
実施例2
iPSCに由来する単球前駆体は、培養した初代ヒトマクロファージと同等のマーカーパターンを有するマクロファージに分化する。
iPSCに由来するマクロファージを、初代マクロファージと比較するために、iPS細胞に由来する単球前駆体、およびLONZAから入手したCD14陽性血中単球を、上述のようにマクロファージに分化させた。開始集団(単球/
図10)およびマクロファージ(
図11)におけるマーカー遺伝子の発現を、CD14、CD11b、CD68、およびKi67について、フローサイトメーターによって評価した。iPS細胞に由来する単球は、より高いレベルのCD14およびより低いCD11b発現を有したが、全体的に同等のマーカー発現パターンを有した(
図10)。両方の源から分化したマクロファージは、同様に類似のマーカーパターンを呈し(
図11)、iPSCに由来する単球前駆体およびマクロファージが、骨髄生物学のin vitroモデルの有効な代替源であることが示された。
【0081】
実施例3
造血工場の培養条件の強化により、EBの接着および造血工場の安定性が向上する
異なるドナーに由来する3つのiPSC株由来のEBを、上述のように生成し、増殖因子を低減したマトリゲルで事前コーティングされた培養容器または未処置の培養容器のいずれかに播種し、接着性および培養安定性を、分化期間にわたって視覚的にモニタリングした(
図12および13)。すべてのドナーに由来するEBは、増殖因子を低減したマトリゲルでコーティングされたプレートに、より良好に接着し、より多くのEBからの細胞増殖物が、コーティングプレート上で観察された。このプロトコールの変更により、培養物の安定性が増加し、それによって、長期培養成功率が増加する。
【0082】
実施例4
新しい培養プロトコールにより、異なるiPS細胞株からの機能性マクロファージの生成が可能となる。
単球前駆体およびマクロファージを、上述のように、3つの異なるiPS細胞株から導出した。マクロファージの機能性を評価するために、これらのマクロファージの食作用能力を、これらをpHrodo緑色標識ザイモサンとともに120分間インキュベートし、続いてフローサイトメトリー分析によって緑色の細胞を検出することによって、試験した(
図14)。120分間のインキュベーション後、細胞のうちの約60%が、緑色の蛍光によって測定されるように、ザイモサン粒子を取り込んでいた。3つの異なるiPSCドナー間で観察された違いは、わずかしかなく(
図14)、これにより、分化プロトコールの堅牢性が強調される。
【0083】
実施例5
ニューロンとの共培養物におけるミクログリアの分化
上述のようにiPS細胞株から導出した単球前駆体は、それらをミクログリア様細胞に分化させるために、ヒトiPSCに由来するニューロンと共培養することができる(Haenseler et al.2017a)(概要、
図15)。本明細書では、本発明者らは、公開されているプロトコールを短縮し、単球前駆体をニューロンに播種する際、分化の3週間目で再解凍した(国際公開第2017081250号)。この凍結されたニューロン原液の使用により、実験的共培養設計において、高い柔軟性およびスループットが可能となる。安定したGFPの発現を有するiPS細胞を使用することによって、GFP陽性単球前駆体およびミクログリア様細胞を生成することができ、これにより、生細胞のイメージングおよび共培養物中のミクログリアの検出が容易となる(
図15および16)。興味深いことに、LPS刺激を受けると、共培養物中のミクログリアは、単一培養のマクロファージおよびニューロン単一培養物(
図17)と比較して、サイトカイン放出パターンの違いを示し、神経炎症モデルとしての使用の可能性を示した。サイトカイン放出における変化とは対照的に、ハイコンテントイメージング設定において、pHrodo赤色ザイモサンをGFP陽性マクロファージおよびミクログリアと組み合わせて使用することによる食作用測定は、マクロファージおよびミクログリアによるザイモサン粒子の同様の取り込みを示した(
図18)。ハイコンテントイメージングを利用し、アッセイを384ウェルに小型化することにより、この設定を、マクロファージおよびミクログリアにおける食作用のモジュレーターをスクリーニングするために使用することができ(
図19)、これは、本明細書において、サイトカラシンDによる食作用の用量依存的阻害、および血清インキュベーションによる用量依存性の刺激により示される。
【0084】
実施例6
大規模スクリーニングキャンペーンのための懸濁培養物中の単球前駆体の回収
単球前駆体を、造血工場から採取し、懸濁培養物中に数週間回収した(
図20A)。単球前駆体の生存率、ならびにマーカー発現は、懸濁培養物中で少なくとも6週間、一定なままであった(
図20BおよびC)。単球を、異なる時点で懸濁培養物から取り出し、マクロファージに分化させると、得られたマクロファージのマーカー発現は、採取後に直接導出された細胞と比較して、懸濁培養物から導出された細胞間で違いを示さなかった(
図20D)。単球前駆体の大規模な均一集団の生成が可能であることは、スクリーニング用途に非常に好適であり、したがって、そのような懸濁培養物で保管されている細胞は、直接的に分化させたマクロファージと同等の機能特徴を有するマクロファージを発生させるはずである。マクロファージの機能性を評価するために、懸濁培養物に由来するマクロファージ(「スピナー」)および新しい採取物に由来するマクロファージ(「採取物」)の食作用能力を、これらをpHrodo赤色標識ザイモサンとともに120分間インキュベートして、続いてハイコンテントに基づく分析によって食作用性細胞を検出することによって、試験した(
図21A)。2つの条件の間で違いは観察されなかった(
図21A)。マクロファージの第2の機能特性は、走化性物質に向かって遊走する能力であり、本発明者らは、IncuCyte transwellアッセイ(Essen Bioscience)および走化性物質C5aを使用することによって、2つのマクロファージ集団について、これを評価した。この設定においても、懸濁培養物に由来する細胞(「スピナー」)は、新しく採取した単球前駆体から分化させた細胞(「採取物」)と比較して、それらの遊走挙動に有意な差を示さなかった(
図21B)。同等の機能特性およびマーカー発現により、大規模機能性および表現型アッセイに関して、懸濁培養物に由来する細胞の表現型および有用性が確認された。
【0085】
前述の発明は、理解の明確性のために、例示および実施例を用いていくらか詳細に記載されているが、説明および実施例は、本発明の範囲を制限すると解釈されるものではない。本明細書において引用されるすべての特許および科学文献の開示は、参照によりそれらの全体が明示的に組み込まれる。
【国際調査報告】