(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞からのミクログリアの迅速かつ確定的な作製
(51)【国際特許分類】
C12N 5/079 20100101AFI20220721BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220721BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20220721BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220721BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20220721BHJP
A61P 37/06 20060101ALN20220721BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20220721BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220721BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20220721BHJP
A61P 21/00 20060101ALN20220721BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20220721BHJP
A61P 25/16 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C12N5/079 ZNA
C12N5/10
A61K35/30
C12N15/12
A61P25/28
A61P37/06
A61P31/00
A61P35/00
A61P25/00
A61P21/00
A61K35/545
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570365
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020064649
(87)【国際公開番号】W WO2020239807
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514070764
【氏名又は名称】ヴェストファーリッシュ ヴィルヘルム-ユニバーシテート ミュンスター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ポロウスキー マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュパイヒャー アナ マルティナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB40
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB45
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA94
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB31
(57)【要約】
本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびに増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を模倣する、培養。さらに本発明は、本発明の方法によって得られるミクログリア、およびそのさまざまな用途に関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、幹細胞からミクログリアを作製するための方法:
(a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびに
(b) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびに
(c) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階(a)および(b)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【請求項2】
増殖因子または小分子の少なくとも1種が以下からなる群より選択される、請求項1に記載の方法:アクチビンA(SEQ ID NO: 7)、BMP4(SEQ ID NO: 8)、FGF(SEQ ID NO: 9)、VEGF-A(SEQ ID NO: 10)、LY294002、CHIR99021、SCF(SEQ ID NO: 11)、IL-3(SEQ ID NO: 12)、IL-6(SEQ ID NO: 13)、CSF1(SEQ ID NO: 14)、IL-34(SEQ ID NO: 15)、CSF2(SEQ ID NO: 16)、CD200(SEQ ID NO: 17)、CX3CL1(SEQ ID NO: 18)、TGFβ1(SEQ ID NO: 19)、およびIDE1。
【請求項3】
増殖因子の少なくとも1種がCSF1(SEQ ID NO: 14)またはIL-34(SEQ ID NO: 15)である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
小分子の少なくとも1種がCHIR99021、LY294002、またはIDE1である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位が異なる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
転写因子CEBPBの遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 3)の挿入およびその発現をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
転写因子RUNX1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 4)の挿入およびその発現をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
転写因子IRF8の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 5)の挿入およびその発現をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
転写因子SALL1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 6)の挿入およびその発現をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
転写調節因子タンパク質がリバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)(SEQ ID NO: 20)であり、かつその活性がドキシサイクリンまたはテトラサイクリンによって制御される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
誘導性プロモーターがTet応答性エレメント(TRE)(SEQ ID NO: 21)を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位が以下からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法:hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)、AAVS1座位(SEQ ID NO: 23)、CLYBL遺伝子(SEQ ID NO: 24)、CCR5遺伝子(SEQ ID NO. 25)、HPRT遺伝子(SEQ ID NO. 26)、または第8染色体上の部位ID 325(SEQ ID NO: 27)を有する遺伝子、第1染色体上の部位ID 227(SEQ ID NO: 28)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 229(SEQ ID NO: 29)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 255(SEQ ID NO: 30)を有する遺伝子、第14染色体上の部位ID 259(SEQ ID NO: 31)を有する遺伝子、X染色体上の部位ID 263(SEQ ID NO: 32)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 303(SEQ ID NO: 33)を有する遺伝子、第4染色体上の部位ID 231(SEQ ID NO: 34)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 315(SEQ ID NO: 35)を有する遺伝子、第16染色体上の部位ID 307(SEQ ID NO: 36)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 285(SEQ ID NO: 37)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 233(SEQ ID NO: 38)を有する遺伝子、第134染色体上の部位ID 311(SEQ ID NO: 39)を有する遺伝子、第7染色体上の部位ID 301(SEQ ID NO: 40)を有する遺伝子、第8染色体上の部位ID 293(SEQ ID NO: 41)を有する遺伝子、第11染色体上の部位ID 319(SEQ ID NO: 42)を有する遺伝子、第12染色体上の部位ID 329(SEQ ID NO: 43)を有する遺伝子、およびX染色体上の部位ID 313(SEQ ID NO: 44)を有する遺伝子。
【請求項13】
幹細胞が、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、神経前駆細胞、造血幹細胞、または胚性幹細胞(ESC)である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
幹細胞がヒトまたはマウスの幹細胞である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られるミクログリアであって、好ましくは、以下からなる群より選択されるミクログリア表面タンパク質のうち少なくとも1種を発現する、ミクログリア:ITGAM (CD11B)(SEQ ID NO: 45)、ITGAX(CD11C)(SEQ ID NO: 46)、CD14(SEQ ID NO: 47)、CD16(SEQ ID NO: 48)、ENTPD1(CD39)(SEQ ID NO: 49)、PTPRC(CD45)(SEQ ID NO: 50)、CD68(SEQ ID NO: 51)、CSF1R(CD115)(SEQ ID NO: 52)、CD163(SEQ ID NO: 53)、CX3CR1(SEQ ID NO: 54)、TREM2(SEQ ID NO: 55)、P2RY12(SEQ ID NO: 56)、TMEM119(SEQ ID NO: 57)、およびHLA-DR(SEQ ID NO: 58)。
【請求項16】
治療に使用するための、請求項15に記載のミクログリア。
【請求項17】
疾患のインビトロ診断のための、請求項15または16に記載のミクログリアの使用。
【請求項18】
疾患が以下からなる群より選択される、請求項17に記載のミクログリアの使用:中枢神経系の疾患、好ましくは神経変性疾患;より好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、もしくは筋萎縮性側索硬化症;神経炎症性疾患または自己免疫疾患、好ましくは多発性硬化症、自己抗体介在性脳炎、もしくは感染性疾患、神経血管疾患;好ましくは脳卒中、血管炎;外傷性脳損傷、およびがん。
【請求項19】
脳オルガノイドと共にインビトロ培養するための、請求項15または16に記載のミクログリアの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびに転写因子PU.1のコーディング配列の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1の発現;ならびに増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。さらに本発明は、本発明の方法によって得られるミクログリア、およびそのさまざまな用途に関連する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ミクログリアは、中枢神経系(CNS)における常在性免疫細胞である [Schafer et al., 2015]。それらは、初期胚発生における一次造血の第一波の間に生じる初期卵黄嚢マクロファージに、起源を有する。原始卵黄嚢マクロファージは、循環系が確立するとすぐに、血流に乗って広がり、発達中のCNSに定着する。他の臓器における組織常在性マクロファージとは対照的に、ミクログリアは、胚発生の後期のステージの間に、胎仔単球によって置き換えられることはない [McGrath et al., 303; Ginhoux et al., 2010; Gomez Perdiguero et al., 2015]。初期胚発生の間にミクログリア集団が確立した後で、ミクログリアは生涯にわたり、局所での増殖によって自己を維持し、骨髄に由来する細胞によって置き換えられることはない [Reu et al., 2017]。ミクログリアは脳および脊髄全体に均一に分布しており、かつCNSの発達、維持、可塑性、および防御において重要な役割を果たす [Schafer et al., 2015]。健康なCNSにおいて、「静止型」の恒常的なミクログリアは、小さな細胞体および細い細胞突起を有する、高度に分岐した(highly ramified)細胞である。ミクログリアのこれらの突起は、内部または外部の危険のシグナル(たとえば、進入しつつある病原体、または損傷を受けたもしくは死につつある細胞によって局所的に産生されるシグナルなど)をスキャンするために、運動性かつ継続的にそれらの環境をサンプリングしている。そのようなシグナルの検出は、ミクログリアの形態、遺伝子発現、および機能における完全な変化を含む、ミクログリア活性化を引き起こす。活性化すると、ミクログリアはそれらの突起を引っ込め、そしてアメボイド様の外観に転じる。それらは、ケモタキシス勾配にしたがって、CNS損傷へと活発に遊走し、そして炎症性サイトカインを分泌する。
【0003】
神経伝達物質の、およびサイトカインの受容体を含む、細胞表面受容体の幅広いレパートリーを通じて、ミクログリアは、ニューロン、他のグリア細胞、および末梢免疫系細胞と通信する [Kettenmann et al., 2011]。健康なCNSにおける代表的な免疫系としての、その多様な機能およびその独特な位置付けから見れば、ミクログリアが多くの神経学的疾患の発症および進行に関与していることは、驚くべきことではない [Ransohoff et al., 2016]。
【0004】
ごく最近、アルツハイマー病(AD)のマウスモデル、および加齢、筋萎縮性側索硬化症、またはタウオパチー関連前頭側頭葉変性症(tauopathy-related frontotemporal lobar degeneration)(FTLD-tau)を含む他の神経変性疾患のマウスモデルにおける、ミクログリアの単一細胞トランスクリプトームプロファイリングにより、ミクログリア神経変性表現型(microglial neurodegenerative phenotype)(MGnD) [Krasemann et al., 2017]と呼ばれる、または疾患関連ミクログリア(disease-associated microglia)(DAM) [Keren-Saul et al., 2017]と呼ばれるミクログリアの小サブセットにおける、炎症誘発性(pro-inflammatory)のトランスクリプトーム・シグネチャーが明らかにされた。恒常的な表現型から疾患関連表現型へのミクログリアの転換は、神経変性における脳の恒常性の変化への応答として生じると考えられており、かつ時間的かつ空間的に制御された、独特な転写プログラムにしたがっている [Krasemann et al., 2017; Keren-Shaul et al., 2017; Butovsky et al., 1998]。ほとんどの場合、これら細胞が保護的機能を有するかどうか、または疾患を誘導する/悪化させる機能を有するかどうかは、不明瞭なままである。インビトロおよびインビボにおける、健全なヒトミクログリアおよび疾患のヒトミクログリアの入手は、それらの有益な機能および有害な機能の両方に関与する因子の同定を促進し得、かつ恒常的なミクログリア・シグネチャーを修復するか、またはDAMミクログリア・シグネチャーを誘導する戦略の開発を促進し得る。この点は、神経変性疾患の処置のために本発明者らがミクログリアを標的とすることを導き得るものであった。
【0005】
多くのヒト細胞型の単離、またはインビトロでの誘導は、難題かつ非効率なままである。とりわけ、ミクログリアを含むヒトCNSの細胞は、得ることが特に困難である。以前は、神経外科的試料からの、または死後の脳組織からの低効率な単離が、唯一の入手手段であった。ヒト多能性幹細胞(hPSC)は、理論上、それからヒト生物のすべての細胞型を作り出せるという、無制限でかつ再生可能な供給源である [Thomson et al., 1998]。ヒト皮膚線維芽細胞を、胚性幹細胞と同じ特性を示すヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に容易に変換できるという、この革新的な発見は、再生医療に適用するための自家性およびオーダーメイドの細胞型の作製を、可能にする。疾患モデリング、創薬、および細胞移植を含む、いくつかの重要な適用に関しては、hPSCからの成熟ヒト細胞型の、大規模な製造が必要とされる。最近、ミクログリアの作製のための、最初のhPSC分化プロトコルが発表された。これは、インターロイキン(lL)-34およびコロニー刺激因子1(CSF-1)を添加された、同じ、「その成分の濃度が、ヒト脳脊髄液のそれと一致するように調整された、ニューログリア分化培地(neuroglial differentiation medium, the component concentrations of which were adjusted to match those of human cerebrospinal fluid)」において数か月間にわたり培養される胚様体(EB)を、最初に形成することに基づいていた [Muffat et al., 2016]。将来性を有するこの発表は、ヒトミクログリアの最終的な成熟および維持のための、精巧な培地組成物を提供した。しかしながら、プロトコルの継続期間が長いこと、分化の初期段階が不適切に定義されていること(すなわち、EBベースの中間体の段階は、胚としての原理にはほとんどしたがっていない)、および細胞精製のためのいくつかの機械的な操作段階を必要とすることにより、このプロトコルの幅広い適用は妨げられているようである。続いて、いくつかの他のグループが、同様ではあるが異なっている、古典的な分化アプローチによって、hPSCからのミクログリア様細胞の作製を実証した [Abud et al., 2017; Takata et al., 2017; Haenseler et al., 2017; Pandya et al., 2017; Douvaras et al., 2017]。それにもかかわらず、ミクログリアを含む特定のヒト細胞型の、下流での適用に必要とされる量および純度でのインビトロにおける誘導は、難題のままであり、かつ代替の方法が現在探索されている [Cohen et al., 2011]。古典的な分化と対比される、より最近の製造戦略は、細胞のダイレクト・リプログラミングである [Ladewig et al., 2013]。これは、多能性中間体を経由して進行することなく、任意の細胞型(典型的には皮膚線維芽細胞)を別の細胞型へと直接的に変換することを指す。容易に利用可能な細胞型からの細胞作製のための、迅速な経路が提供されてはいるが、所望の細胞集団の収量および純度は、低くかつ不十分なままである [Zhang et al., 2013]。最近、「フォワードプログラミング」と呼ばれる第3の経路が、前例のない速度と効率とで成熟ヒト細胞型を製造するとして提案された [Zhang et al., 2013]。
【0006】
hPSCを含む多能性幹細胞を、成熟細胞型へと直接的に変換する方法としてのフォワードプログラミングは、ヒト細胞を誘導するための強力な戦略として認識されている。これは、幹細胞を特定の成熟細胞型へと変換するために、重要な系列転写因子(または、IncRNAおよびマイクロRNAを含む、ノンコーディングRNA)の強制発現を伴う。現在利用可能なフォワードプログラミングプロトコルは、細胞へのレンチウイルス形質導入に主に基づいており、これは、ランダムに挿入された誘導性カセットの、不規則な発現または完全なサイレンシングを引き起こす。これは、必要とする転写因子を発現するサブ集団を単離するために、追加の精製段階が必要になる状況を生じさせる。したがって、これらの方法のさらなる改善が、明らかに必要とされている。
【0007】
記述された方法のいかなる改善も、誘導性カセット内に含まれる遺伝学的物質、たとえば導入遺伝子などの安定な転写が、サイレンシングに対して、および組み込み部位に関連する他の負の影響に対して耐性であることが確実でなければならない。サイレンシングは、DNAのメチル化、またはヒストンの修飾を含む、複数のエピジェネティックなメカニズムによって引き起こされ得る。レンチウイルス形質導入に基づく先行技術の方法を用いると、得られる細胞は、完全に発現しているか、部分的に発現しているか、またはサイレンシングされている導入遺伝子を有する、不均一な集団である。これは明らかに、多くの用途にとって望ましいものではない。ウイルスベクターは、それらの遺伝学的物質を、ゲノムの転写的に活性なエリアに組み込む傾向が証明されており、したがって、挿入での変異導入に起因する、潜在的な発がん性イベントを増加させる。多くの用途にとって、誘導性カセットが必要に応じて開始され得、そして高レベルを含む、特定のレベルで転写され得るように、細胞において、挿入された遺伝学的物質の転写を制御することが望ましい。これは、ゲノムにおいて、誘導性カセットの挿入がランダムである場合には、達成することができない。
【0008】
ミクログリアが、いくつかの深刻な疾患に関与しつつ、かつ生きている組織からのそれらの単離が難しい状態で脳組織に関わってもいる、という問題は、いくつかの発表において対処されている。この問題を克服するため、たとえば、定義された培養条件によって [Muffat et al., 2016]、または幹細胞に由来するニューロンと共培養することによって [Haenseler et al., 2017; Takata et al., 2017]、ミクログリアまたはミクログリア様細胞を作製するために、ヒト幹細胞が使用される。これらの方法は、幹細胞をミクログリアへと分化させるために、増殖因子およびサイトカインへの曝露のみに依存している。
【0009】
さらに、神経変性疾患、神経炎症性疾患または自己免疫疾患、自己抗体介在性脳炎もしくは感染性疾患、神経血管疾患、脳卒中、外傷性脳損傷、およびがんを含む、中枢神経系の疾患の事実上すべてにおいて、ミクログリアは重要な役割を果たしているが、さまざまな疾患におけるその役割の根底にある、正確なメカニズムは不明なままであるため、この特別な細胞型に対する必要性は巨大である。先行技術は、幹細胞に由来するミクログリアが、元の患者の疾患表現型を実際に再現しているという点で一致している [Muffat et al., 2016; Abud et al., 2017; Takata et al., 2017]。この知見を踏まえると、いくつかの疾患におけるミクログリアの関与についての、巨大な科学的ギャップは、幹細胞からミクログリアを作製することによって克服され得る。しかしながら、幹細胞を分化させるための古典的なプロトコルは非常に時間がかかり、かつ結果は納得のいくものではない。
【0010】
したがって、本発明の発明者らは、幹細胞のゲノムへの、誘導性カセットの安定的な導入を用い、さらに、該誘導性カセットおよびそれにより挿入された転写因子の転写を制御可能にすることによって、幹細胞からミクログリアを作製するための迅速な方法を開発した。これらの転写因子が、ミクログリア作製のためのリプログラミング因子として機能する潜在性は、以前には知られておらず、かつこれは、本発明者らの独自の知見である。これは、天然のミクログリア集団において観察される表面マーカーおよびRNAのすべてを発現する純粋なミクログリア集団を人々が作製することを、可能にする。さらにこの方法は、神経変性疾患の患者のヒトiPS細胞から、ミクログリアを分化させるために使用することができ、かつしたがって、そうでなければ医学的検査でまったく利用できないままであった細胞集団を分析することを、可能にする。このように、容易に入手可能な供給源から成熟ヒトミクログリアを製造するための、強い必要性が存在する。したがって、本出願の根底にある技術的課題は、これらの必要性に応じることである。該技術的課題は、以下に提供される、特許請求の範囲に反映されており、説明において記載されており、かつ実施例および図面において例示されている、態様を提供することによって、解決される。
【発明の概要】
【0011】
本発明の発明者らは、幹細胞からミクログリアを作製するための方法を開発した。
【0012】
本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0013】
本発明の方法の1つの態様において、増殖因子または小分子の少なくとも1種は、以下からなる群より選択される:アクチビンA(SEQ ID NO: 7)、BMP4(SEQ ID NO: 8)、FGF(SEQ ID NO: 9)、VEGF-A(SEQ ID NO: 10)、LY294002、CHIR99021、SCF(SEQ ID NO: 11)、IL-3(SEQ ID NO: 12)、IL-6(SEQ ID NO: 13)、CSF1(SEQ ID NO: 14)、IL-34(SEQ ID NO: 15)、CSF2(SEQ ID NO: 16)、CD200(SEQ ID NO: 17)、CX3CL1(SEQ ID NO: 18)、TGFβ1(SEQ ID NO: 19)、およびIDE1。
【0014】
本発明の方法のさらなる態様において、増殖因子の少なくとも1種は、CSF1(SEQ ID NO: 14)またはIL-34(SEQ ID NO: 15)である。
【0015】
本発明の方法の追加の態様において、小分子の少なくとも1種は、CHIR99021、LY294002、またはIDE1である。
【0016】
本発明の方法の別の態様において、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は異なる。
【0017】
本発明の方法のさらなる態様において、方法は、転写因子CEBPBの遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 3)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0018】
本発明の方法の別の態様において、方法は、転写因子RUNX1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 4)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0019】
本発明の方法のさらなる態様において、方法は、転写因子IRF8の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 5)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0020】
本発明の方法の別の態様において、方法は、転写因子SALL1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 6)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0021】
本発明の方法の追加の態様において、転写調節因子タンパク質は、リバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)(SEQ ID NO: 20)であり、かつその活性は、ドキシサイクリンまたはテトラサイクリンによって制御される。
【0022】
本発明の方法の別の態様において、誘導性プロモーターは、Tet応答性エレメント(TRE)(SEQ ID NO: 21)を含む。
【0023】
本発明の方法のさらなる態様において、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は、以下からなる群より選択される:hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)、AAVS1座位(SEQ ID NO: 23)、CLYBL遺伝子(SEQ ID NO: 24)、CCR5遺伝子(SEQ ID NO: 25)、HPRT遺伝子(SEQ ID NO: 26)、または第8染色体上の部位ID 325(SEQ ID NO: 27)を有する遺伝子、第1染色体上の部位ID 227(SEQ ID NO: 28)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 229(SEQ ID NO: 29)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 255(SEQ ID NO: 30)を有する遺伝子、第14染色体上の部位ID 259(SEQ ID NO: 31)を有する遺伝子、X染色体上の部位ID 263(SEQ ID NO: 32)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 303(SEQ ID NO: 33)を有する遺伝子、第4染色体上の部位ID 231(SEQ ID NO: 34)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 315(SEQ ID NO: 35)を有する遺伝子、第16染色体上の部位ID 307(SEQ ID NO: 36)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 285(SEQ ID NO: 37)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 233(SEQ ID NO: 38)を有する遺伝子、第134染色体上の部位ID 311(SEQ ID NO: 39)を有する遺伝子、第7染色体上の部位ID 301(SEQ ID NO: 40)を有する遺伝子、第8染色体上の部位ID 293(SEQ ID NO: 41)を有する遺伝子、第11染色体上の部位ID 319(SEQ ID NO: 42)を有する遺伝子、第12染色体上の部位ID 329(SEQ ID NO: 43)を有する遺伝子、X染色体上の部位ID 313(SEQ ID NO: 44)を有する遺伝子。
【0024】
本発明の方法の別の態様において、幹細胞は、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、神経前駆細胞、造血幹細胞、または胚性幹細胞(ESC)である。
【0025】
本発明の方法のさらなる態様において、幹細胞は、ヒトまたはマウスの幹細胞である。
【0026】
本発明はまた、本発明による方法のいずれかによって得られるミクログリア細胞にも関連し、ここで好ましくはミクログリアは、以下からなる群より選択されるミクログリア表面タンパク質のうち少なくとも1種を発現する:ITGAM(CD11B)(SEQ ID NO: 45)、ITGAX(CD11C)(SEQ ID NO: 46)、CD14(SEQ ID NO: 47)、CD16(SEQ ID NO: 48)、ENTPD1(CD39)(SEQ ID NO: 49)、PTPRC(CD45)(SEQ ID NO: 50)、CD68(SEQ ID NO: 51)、CSF1R(CD115)(SEQ ID NO: 52)、CD163(SEQ ID NO: 53)、CX3CR1(SEQ ID NO: 54)、TREM2(SEQ ID NO: 55)、P2RY12(SEQ ID NO: 56)、TMEM119(SEQ ID NO: 57)、およびHLA-DR(SEQ ID NO: 58)。
【0027】
本発明のさらなる態様において、ミクログリア細胞は、治療に使用するためのものである。
【0028】
さらに本発明は、疾患のインビトロ診断のための、本発明によるそのようなミクログリア細胞の使用を対象とする。好ましくは疾患は、以下からなる群より選択される:中枢神経系の疾患、好ましくは神経変性疾患;より好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、もしくは筋萎縮性側索硬化症;神経炎症性疾患または自己免疫疾患、好ましくは多発性硬化症、自己抗体介在性脳炎、もしくは感染性疾患、神経血管疾患;好ましくは脳卒中、血管炎;外傷性脳損傷、およびがん。
【0029】
さらに本発明は、脳オルガノイドと共にインビトロ培養するための、本発明によるそのようなミクログリア細胞の使用を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、細胞を製造する主要な経路の概要を示しており、それら経路は以下のとおりである:確定している4種類の転写因子であるKlf4、Oct4、c-Myc、およびSox2を用いる、体細胞(線維芽細胞)の人工多能性幹細胞(iPSC)へのリプログラミング、定義された転写因子を用いて体細胞を所望の標的細胞型へと直接的に変換するダイレクト・リプログラミング、多能性幹細胞から所望の標的細胞への段階的な変換を示す古典的な分化アプローチ、ならびにhPSCを標的細胞型へと直接的に変換するフォワードプログラミング。(略称:TF = 転写因子、ESC = 胚性幹細胞、iPSC = 人工多能性幹細胞(ESCおよびiPSCはまとめて多能性幹細胞(PSC)と呼ばれる)
【
図2】
図2は、本発明において使用される、標的型戦略を示す。dox誘導性Tet-ONシステムは、hPSCの、ヒトROSA26座位(CAG-rtTA)およびAAVS1部位(TRE-EGFP)を標的としている。(略称:HAR = ホモロジーアーム、Neo = ネオマイシン耐性遺伝子、CAG = 構成的CAGプロモーター、rtTA = リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子、Puro = ピューロマイシン耐性遺伝子、TRE = 誘導性Tet応答性エレメント、EGFP = 強化型緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein)、SA = スプライスアクセプター、T2A = T2A切断部位、pA = ポリアデニル化部位)
【
図3】
図3は、リプログラミング因子の候補として選択された、ミクログリア系列の重要な転写因子、それらのコーディング配列の長さ、およびそれらの提供元の表を示す。
【
図4】
図4は、分子クローニングにより作製され、そしてROSA26 GSHまたはAAVS1 GSHのいずれかを遺伝学的に改変するために使用された、ドナープラスミドを示す。(略称:HAR = ホモロジーアーム、Neo = ネオマイシン耐性遺伝子、CAG = 構成的CAGプロモーター、rtTA = リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子、Puro = ピューロマイシン耐性遺伝子、TRE = 誘導性Tet応答性エレメント、EGFP = 強化型緑色蛍光タンパク質、SA = スプライスアクセプター、T2A = T2A切断部位、pA = ポリアデニル化部位)
【
図5A】
図5は、ミクログリアのフォワードプログラミングプロトコルの概要を示す(
図5Aを参照されたい)。フローサイトメトリーにより評価された、原始マクロファージおよびミクログリアにおいて発現する細胞表面マーカーの経時変化(n = 生物学的反復物2個)(
図5Bおよび
図5Cを参照されたい)。第20日の、ミクログリアの単培養:ミクログリア様細胞の位相差ライブイメージング、および、それについて専用の標識されたフロー抗体が利用不可能である、ミクログリア・シグネチャーの膜貫通型タンパク質TMEM119についてのICC(
図5Dを参照されたい)。第20日の、ミクログリア/ニューロンの共培養:細胞内カルシウム結合タンパク質IBA1(AIF1としても知られる)、およびニューロンマーカーであるβIII-チューブリン(TUBB3)についてのICC(
図5Eを参照されたい)。単培養における、hiPSCおよびミクログリアのQPCR(サイバーグリーン)(第20日)。すべての値は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHに対する相対値であり、かつhiPSCに対して正規化されている。SPI1およびCEBPBの転写物に関して、2種類の異なるプライマー対(SEQ ID NO: 80~87を参照されたい;SEQ ID NO: 80:SPI1全長フォワードプライマー;SEQ ID NO: 81:SPI1全長リバースプライマー;SEQ ID NO: 82:SPI1内部フォワードプライマー;SEQ ID NO: 83:SPI1内部リバースプライマー;SEQ ID NO: 84:CEBPB全長フォワードプライマー;SEQ ID NO: 85:CEBPB全長リバースプライマー;SEQ ID NO: 86:CEBPB内部フォワードプライマー;SEQ ID NO: 87:CEBPB内部リバースプライマー)が使用され、全長転写物(全長)か、または、AAVS1を標的とする導入遺伝子ではなく、それぞれの内部の遺伝子座からの転写物のみ(内部)、のいずれかが検出された。予想されたように、導入遺伝子の発現は停止していたために(プロトコルの第10日における、doxの除去による)、相対的な発現レベルにおいて差異は検出されず、したがって、細胞の表現型が導入遺伝子に非依存性であることが立証される(F)。
【
図6】
図6は、24時間にわたりドキシサイクリンを用いて誘導された二重標的型iPS細胞株の、免疫組織化学的解析を示す。細胞は、PU.1およびCEBPBに関して陽性であったが、OCT4に関しては陰性であった。
【
図7】
図7は、AAVS1座位の遺伝学的改変のための、ドナープラスミドpUC_AAVS1_p-Resp-(PU.1-CEBPB)(SEQ ID NO: 61)のマップを示し、これは、転写因子PU.1およびCEBPBのコーディング配列を含む。
【
図8】
図8は、AAVS1座位の遺伝学的改変のための、ドナープラスミドpUC_AAVS1_p-Resp-(PU.1-IRF8)(SEQ ID NO: 62)のマップを示し、これは、転写因子PU.1およびIRF8のコーディング配列を含む。
【
図9】
図9は、AAVS1座位の遺伝学的改変のための、ドナープラスミドpUC_AAVS1_p-Resp-(PU.1-RUNX1)(SEQ ID NO: 63)のマップを示し、これは、転写因子PU.1およびRUNX1のコーディング配列を含む。
【
図10】
図10は、AAVS1座位の遺伝学的改変のための、ドナープラスミドpUC_AAVS1_p-Resp-(PU.1)(SEQ ID NO: 64)のマップを示し、これは、転写因子PU.1のコーディング配列を含む。
【
図11】
図11は、AAVS1座位の遺伝学的改変のための、ドナープラスミドpUC_AAVS1_p-Resp-(PU.1-SALL1)(SEQ ID NO: 65)のマップを示し、これは、転写因子PU.1およびSALL1のコーディング配列を含む。
【
図12】
図12は、プラスミドROSA-guideA_Cas9n(SEQ ID NO: 66)のマップを示し、これは、Cas酵素およびガイドRNA Aのコーディング配列を含む。
【
図13】
図13は、プラスミドROSA-guideB_Cas9n(SEQ ID NO: 67)のマップを示し、これは、Cas酵素およびガイドRNA Bのコーディング配列を含む。
【
図14】
図14は、ドナープラスミドpUC_ROSA_n_CAG-rtTA(SEQ ID NO: 72)のマップを示し、これは、構成的CAGプロモーターおよびrtTAを含む。
【
図15】
図15は、プラスミドpZFN-AAVS1-L_ELD(SEQ ID NO: 68)のマップを示す。
【
図16】
図16は、プラスミドpZFN-AAVS1-R_KKR(SEQ ID NO: 69)のマップを示す。
【0031】
以下の略称が使用されている:T2A:T2Aペプチド(リボソームスキッピングシグナル)、puroR:ピューロマイシン耐性遺伝子、pA:ポリアデニル化シグナル、CAG:構成的CAGプロモーター、TRE3GV:Tet応答性エレメント、HA-R、HA-L:ホモロジーアーム(右、左)、AmpR:アンピシリン耐性遺伝子、オリ:複製起点、NeoR:ネオマイシン耐性遺伝子、KanR:カナマイシン耐性遺伝子。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0033】
1つの態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製する方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0034】
1つの態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製する方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0035】
1つの態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0036】
1つの態様において、本発明はまた、幹細胞からミクログリアを作製するための方法にも関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、成体型ミクログリアの分化のステージの少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0037】
1つのさらなる態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、成体型ミクログリアの極性化のステージの少なくとも1つの間のシグナル伝達を再現する、培養。
【0038】
別の態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達を再現する、培養。
【0039】
1つのさらなる態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの、または成体型ミクログリアの増殖、分化、もしくは極性化のステージの、少なくとも1つの間のシグナル伝達を模倣する、培養。
【0040】
1つのさらなる態様において、本発明は、幹細胞からミクログリアを作製するための方法に関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達のステージの少なくとも1つの間のシグナル伝達を模倣する、培養。
【0041】
1つの態様において、本発明はまた、幹細胞からミクログリアを作製するための方法にも関連し、該方法は、以下の段階を含む:a) 転写調節因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、ゲノム上の第1のセーフハーバー部位への標的型挿入;ならびにb) 転写因子PU.1のコーディング配列(SEQ ID NO: 1)の、ゲノム上の第2のセーフハーバー部位への標的型挿入であって、該遺伝子が、該転写調節因子タンパク質によって調節される誘導性プロモーターに機能的に連結されている、標的型挿入;PU.1(SEQ ID NO: 2)の発現;ならびにc) 増殖因子または小分子の少なくとも1種に曝露しながらの、段階a)およびb)から得られた幹細胞の培養であって、増殖因子または小分子の該少なくとも1種が、ミクログリアの胚型発達をインビトロで再現する、培養。
【0042】
本発明の範囲内で使用される場合、「ミクログリア」との用語は、中枢神経系における独特な細胞集団である、成熟した細胞型を意味する。Comparative Anatomy and Histologyにおいて定義されるように、「ミクログリアは、常在性であって組織球型の細胞であり、かつCNSの重要な自然免疫エフェクターである。ミクログリアは、静止型(すなわち分岐している)か、または活性型のいずれかとして、しばしば説明されるが、これらの用語は、その細い突起の動的なリモデリング、および構成的な免疫監視活性を表現できていない。 (…) 初期ミクログリアが卵黄嚢の前駆細胞に由来することが、証拠により示唆されている。(microglia is the resident histiocytic-type cell and the key innate immune effector of the CNS. They are often described as either resting (i.e., ramified) or activated, but these terms fail to convey the dynamic remodeling of their fine processes and constitutive immunosurveillance activity. (…) Evidence suggests that early microglia are derived from yolk sac progenitors.)」(Hagan et al., 2012)。意図されるミクログリアは、胚の初期ステージの間に発生し、そして成体の生涯にわたって脳に常在する。
【0043】
本発明の範囲内で使用される場合、「ミクログリアの作製」との用語は、幹細胞からの、成熟細胞(ミクログリア)の作製であって、本明細書に記載される本発明の方法のいずれかによって得られる細胞の作製を意味する。
【0044】
本発明の範囲内で使用される場合、「幹細胞」との用語は、さらなる細胞を産生するために分裂することができるか、または特定の目的を有する細胞へと発達することができる、細胞型を意味する。本発明においては、使用される幹細胞は、多能性幹細胞であり得る。多能性幹細胞は、体内のほとんどの細胞に分化する能力を有する。多能性幹細胞には、いくつかの供給源が存在する。胚性幹細胞(ES細胞)とは、初期ステージの着床前胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する、多能性幹細胞である。人工多能性幹細胞(iPSC)とは、胚性幹細胞を決定付ける特性を維持するのに重要な遺伝子および因子を強制的に発現することによって、胚性幹細胞様の状態へと遺伝学的にリプログラミングされた、成体細胞である。2006年に、転写因子をコードする4種類の特定の遺伝子を導入すると、成体細胞を多能性幹細胞へと変換できることが示された(Takahashi et al., 2006)が、それに続く研究で、必要とされる遺伝子の数は減少/変化した。Oct-3/4、およびSox遺伝子ファミリーのいくつかのメンバーは、誘導プロセスに関与する、潜在的に重要な転写調節因子として同定されている。Klfファミリーのいくつかのメンバー、Mycファミリーのいくつかのメンバー、Nanog、およびLIN28を含む、追加の遺伝子は、誘導効率を増加させ得る。リプログラミング因子に含まれ得る遺伝子の例は、Oct3/4、Sox2、Soxl、Sox3、Soxl5、Soxl7、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbxl5、ERas、ECAT15-2、Tell、β-カテニン、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3、およびGlislを含み、かつこれらのリプログラミング因子は、単独で使用してよく、またはそれらの2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
誘導性カセットの挿入によって改変された細胞が、ヒト患者において使用される場合、該細胞は、該個人に由来するiPSCであることが好ましい場合があり得る。そのような自家細胞の使用は、細胞をレシピエントに適合させる必要性を、排除し得る。あるいは、市販のiPSCが使用され得、これは当業者に公知である。あるいは細胞は、組織特異的幹細胞であり得、これもまた自家性であってよく、または提供されたものであってもよい。適切な細胞は、エピブラスト幹細胞、人工神経幹細胞、および他の組織特異的幹細胞を含む。
【0046】
本発明の方法のいくつかの態様において、使用される幹細胞は、胚性幹細胞または幹細胞株であることが好ましい場合があり得る。多数の胚性幹細胞株が現在利用可能であり、これはたとえば、WA01 (HI)、WA09 (H9)、KhES-1、KhES-2、およびKhES-3である。胚を破壊することなく誘導された幹細胞株が利用可能である。本発明は、ヒトの胚の破壊を伴ういかなる方法にも、拡張されることはない。
【0047】
本発明の範囲内で使用される場合、「標的型挿入」との用語は、ゲノム上のセーフハーバー(GSH)部位への挿入を意味し、これは好ましくは、他で記載しているようなGSHの配列内への、特異的な挿入である。ポリヌクレオチドを特定の配列へと挿入するための、任意の適切な技術が使用され得、かついくつかは、当技術分野において記述されている。適切な技術は、所望の位置に切断を導入し、そしてギャップ内へとベクターを再結合することを可能にする、当業者に公知の任意の方法を含む。したがって、標的部位に特異的なゲノム改変の、重要な第1の段階は、改変されようとするゲノム座位における、二本鎖DNA切断(DSB)の作製である。DSBを修復するために、および所望の配列を導入するために、細胞修復の異なるメカニズムを活用することができ、かつこれらは、誤りのより多い非相同末端結合修復(NHEJ);および誘導性カセットを挿入するために使用することができる、ドナーDNA鋳型を介在させる相同組み換え修復(HR)である。
【0048】
カスタマイズされた部位特異的なDSBの作製をゲノムにおいて可能にする、いくつかの技術が存在している。これらの多くは、カスタマイズされたエンドヌクレアーゼ、たとえば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはクラスター化し規則的に間隔のあいた短い回文配列の反復(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)/CRISPR関連タンパク質(CRISPR/Cas9)システムなどの使用を伴う(Gaj et al., 2013)。ジンクフィンガーヌクレアーゼは人工酵素であり、これは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインを、制限酵素Foklのヌクレアーゼドメインと融合することによって作製される。後者は非特異的な切断ドメインを有し、該ドメインは、DNAを切断するためには二量体化しなくてはならない。これは、Foklドメインの二量体化を可能にし、そしてDNAを切断するために、2つのZFN単量体が必要とされることを意味する。DNA結合ドメインは、関心対象の任意のゲノム配列を標的とするために設計され得、これは、そのそれぞれが標的配列中の連続した3ヌクレオチドを認識する、Cys2His2ジンクフィンガーのタンデムアレイであり得る。Foklドメインの最適な二量体化を可能にするために、2つの結合部位は5~7 bp離れている。このように該酵素は、特定の部位においてDNAを切断することができ、かつ標的特異性は、二本鎖切断を達成するには、近接した2つのDNA結合イベントが生じなければならないことを確実にすることにより、増加する。転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、つまりTALENは、二量体の転写因子/ヌクレアーゼである。これらは、TALエフェクターDNA結合ドメインを、DNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)に融合させることによって作製される。転写活性化因子様エフェクター(TALEN)は、事実上いかなる所望のDNA配列にも結合するように設計することができ、そしてヌクレアーゼと組み合わされると、DNAを特定の位置で切断することができる。TALエフェクターは、キサントモナス(Xanthomonas)細菌によって分泌されるタンパク質であり、そのDNA結合ドメインは、12番目と13番目のアミノ酸が異なっている、高度に保存された33~34アミノ酸の配列の反復を含む。該2つの位置は高度に可変性であり、かつ特定のヌクレオチドの認識に対して強い相関を示す。アミノ酸配列とDNA認識との間のこの明確な関連性は、該2つの可変位置において適切な残基を含む反復セグメントの組み合わせを選択することによって、特異的なDNA結合ドメインを設計することを可能にしている。このようにTALENは、そのそれぞれが単一のヌクレオチドを標的とする、33~35アミノ酸のモジュールのアレイから構成されている。モジュールのアレイを選択することによって、ほぼすべての配列を標的とし得る。使用されるヌクレアーゼは、Foklまたはその誘導体であり得る。
【0049】
CRISPRの機構には3タイプが同定されており、その中でタイプIIが最も研究されている。CRISPR/Cas9システム(タイプIIシステム)は、Cas9ヌクレアーゼを利用して、短鎖ガイドRNAによって決定される部位において、DNAの二本鎖切断を作り出す。CRISPR/Casシステムは、外来の遺伝学的エレメントへの耐性を付与する、原核生物の免疫システムである。CRISPRは、塩基配列の短い反復を含む、原核生物DNAのセグメントである。反復のそれぞれには、外来の遺伝学的エレメントへの以前の曝露に由来する、「プロトスペーサーDNA」の短いセグメントが続いている。CRISPRスペーサーは、RNA干渉を用いて、外来の遺伝学的エレメントを認識および切断する。CRISPR免疫応答は、以下の2つの段階によって生じる:CRISPR-RNA(crRNA)の生合成、およびcrRNAがガイドする干渉。CrRNA分子は、プロトスペーサーDNAから転写される可変配列、およびCRISPリピートから構成される。それぞれのcrRNA分子はその後、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)として知られる第2のRNAとハイブリダイズし、そして最終的に、これらの2つはともにヌクレアーゼCas9と複合体を形成する。プロトスペーサーDNAにコードされるcrRNAのセクションは、それらがプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)として知られる短い配列に隣接している場合に、Cas9に、相補的標的DNA配列を切断させる。この天然のシステムは、他の多くの適用において、ゲノムDNAの特定の部位でDSB切断を導入するために設計および活用されている。特に、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCRISPRタイプIIシステムが使用され得る。簡単に言うと、CRISPR/Cas9システムは、ゲノム編集をもたらすために細胞に送達される、2つの構成要素を含む:Cas9ヌクレアーゼそれ自体、および小さなガイドRNA(gRNA)。gRNAは、カスタマイズされた部位特異的crRNA(標的配列を指向する)、および標準化されたtracrRNAの融合物である。
【0050】
DSBが作製されると、標的座位に相同性を有するドナー鋳型が、供給される。DSBは、正確な挿入がなされることを可能にする、相同配列依存的修復(homology-directed repair)(HDR)経路によって修復され得る。このシステムからの誘導体も可能である。Cas9の変異体型が利用可能であり、これはたとえば、ニッカーゼ活性のみを有するCas9D10Aなどである。これは、該変異体型が、1本のDNA鎖のみを切断し、かつNHEJを活性化しないことを意味する。あるいは、相同修復鋳型が提供される場合には、DNA修復は、高精度HDR経路のみを介して実施される。Cas9D10Aは、隣接するDNAにニックを入れるように設計された一対のCas9複合体として、標的部位の反対の鎖において該隣接領域に相補的な2種類のsgRNAとともに、使用され得るものであり、これは特に有益であり得る。二本鎖DNA切断を作製するためのエレメントは、細胞における発現のために、ベクター、たとえばプラスミドなどの1つまたは複数において、導入され得る。したがって、ヌクレオチド配列/遺伝子/誘導性カセットの挿入を可能にするための、ゲノムにおける特異的な標的型二本鎖切断を作製するための任意の方法が、本発明の方法において使用され得る。本発明の方法は、遺伝子/誘導性カセットを挿入するために、ZFN、TALEN、および/もしくはCRISPR/Cas9システム、またはそれらの任意の誘導体の、いずれか1種または複数種を利用することが、好ましい場合があり得る。
【0051】
任意の適切な手段によってDSBが作製されたら、後述のように、挿入のための遺伝子/誘導性カセットが、任意の適切な様式において供給され得る。遺伝子/誘導性カセット、および関連する遺伝学的物質は、DSBにおいてDNAを修復するためのドナーDNAを形成し、かつこれは、標準的な細胞修復装置/経路を用いて挿入される。上述のように、損傷を修復するためにどの経路を使用するかは、どのように切断が開始されるかによって変わる。しかしながら、これもまた、当業者の知見の範囲内である。
【0052】
本発明の範囲内で使用される場合、「遺伝子」との用語は、遺伝の、基本的で物理的な単位であって、タンパク質に翻訳された場合に遺伝性の特徴の発現をもたらすRNAを合成するためのコードされた指示を与えるDNAのセグメントに沿った、ヌクレオチドの直線状の配列を意味する。
【0053】
本発明の範囲内で使用される場合、「ヌクレオチド配列」との用語は、上述のように定義される遺伝子を形成するDNAセグメントにおける、塩基の連続物を指す。
【0054】
本発明の範囲内で使用される場合、「転写調節因子タンパク質」との用語は、DNAに結合するタンパク質、好ましくは、プロモーター内またはプロモーターの近くに位置するDNA部位に、配列特異的に結合するタンパク質であって、かつ、プロモーターへの転写装置の結合を促進し、かつその結果としてDNA配列の転写を促進する(転写活性化因子)か、またはこのプロセスを妨害する(転写抑制因子)かのいずれかである、タンパク質を意味する。そのようなエンティティは、転写因子としても知られている。転写調節因子タンパク質がそれに結合するDNA配列は、転写因子結合部位または応答エレメントと呼ばれており、かつこれらは、調節されるDNA配列のプロモーター内またはプロモーターの近くに見出される。応答性エレメントは、本発明の一部である。転写活性化因子タンパク質は応答エレメントに結合し、そして遺伝子発現を促進する。そのようなタンパク質は、本発明の方法において誘導性カセットの発現を制御するために好ましい。転写抑制因子タンパク質は、応答エレメントに結合し、そして遺伝子発現を防止する。転写調節因子タンパク質は、いくつかのメカニズムによって活性化または不活性化され得、該メカニズムは、物質の結合、他の転写因子との相互作用(たとえば、ホモ二量体化もしくはヘテロ二量体化)もしくは共調節タンパク質との相互作用、リン酸化、および/またはメチル化を含む。転写調節因子は、活性化または不活性化によって制御され得る。転写調節因子タンパク質が転写活性化因子タンパク質である場合、転写活性化因子タンパク質は活性化を必要とすることが好ましい。この活性化は任意の適切な手段を介し得るが、幹細胞への外来物質の添加によって、転写調節因子タンパク質が活性化されることが好ましい。幹細胞への外来物質の供給は制御可能であり、かつしたがって、転写調節因子タンパク質の活性化は制御可能である。そのような転写調節因子タンパク質はまた、誘導性転写調節因子タンパク質とも呼ばれる。
【0055】
本発明の範囲内で使用される場合、「転写因子」との用語は、DNAに結合するタンパク質、好ましくは、プロモーター内またはプロモーターの近くに位置するDNA部位に、配列特異的に結合するタンパク質であって、かつ、プロモーターへの転写装置の結合を促進し、かつその結果としてDNA配列の転写を促進する(転写活性化因子)か、またはこのプロセスを妨害する(転写抑制因子)かのいずれかである、タンパク質を意味する。本発明の文脈において、転写因子は、所望の遺伝学的配列であり、好ましくは、誘導性カセットとともに細胞内へと移行する、DNA配列である。ゲノムへの誘導性カセットの導入は、遺伝子発現を可能にする遺伝学的配列を追加することによって、細胞の表現型を変化させる潜在性を有している。本発明の方法は、細胞における、誘導性カセット内の転写因子のセットの遺伝学的配列の、制御可能な転写を提供する。
【0056】
マスター調節因子は、以下の1種または複数種である:転写因子、転写調節因子、サイトカイン受容体、またはシグナル伝達分子等。マスター調節因子は、それを発現する細胞の系列に影響を与える、発現する遺伝子である。マスター調節因子のネットワークが、細胞の系列を決定するのに必要とされる場合があり得る。本明細書において使用される場合、発達していく系列または細胞型の開始時に発現するマスター調節因子遺伝子は、直接的か、または遺伝子発現の変化のカスケードを介してのいずれかで、複数の下流の遺伝子を調節することにより、該系列の特化に関与する。マスター調節因子が発現すると、これは、他の系列を形成するように運命づけられた細胞の運命を、再特定する能力を有する。本発明の方法において使用され得る転写因子は、PU.1(SEQ ID NO: 2)(遺伝子はSPI1、SEQ ID NO: 1)、CEBPB(SEQ ID NO: 3)、RUNX1(SEQ ID NO: 4)、IRF8(SEQ ID NO: 5)、およびSALL1(SEQ ID NO: 6)を含む。
【0057】
本発明の範囲内で使用される場合、「PU.1」との用語(SEQ ID NO: 2)は、造血転写因子PU.1、Spi-1がん原遺伝子、31 kDaトランスフォーミングタンパク質(31 kDa Transforming Protein)、転写因子PU.1、脾限局巣形成ウイルス(Spleen Focus Forming Virus)(SFFV)プロウイルス組み込みがん遺伝子Spi1、脾限局巣形成ウイルス(SFFV)プロウイルス組み込みがん遺伝子、または31 kDaトランスフォーミングタンパク質(31 kDa-Transforming Protein)、SFPI1、SPI-1、SPI-A、PU.1、またはOFとしても知られる転写因子を意味し、ここで「SPI1」とは、その遺伝子(SEQ ID NO: 1)(Spi-1がん原遺伝子)を指し、該遺伝子は、ミエロイド細胞およびBリンパ細胞の発達の間の遺伝子発現を活性化する、ETSドメイン転写因子をコードする。
【0058】
本発明の範囲内で使用される場合、「ゲノム上のセーフハーバー部位」との用語は、細胞に対する有害な影響無しに遺伝学的物質を挿入することが可能であり、かつ挿入された遺伝学的物質の転写が可能である、遺伝学的な部位を意味する。当業者は、適切なGSHを同定するために、これらの簡略化された基準、および/またはより正式な基準を使用してよい。ゲノムへのランダムな組み込みよりも、ゲノム上のセーフハーバー部位(GSH)内への特異的な挿入が好ましい、なぜならば該挿入は、より安全なゲノムの改変であると予想されるものであり、かつ、たとえば、天然の遺伝子発現をサイレンシングする、またはがん性の細胞型をもたらす変異を引き起こすといった、望まれない副次的作用をもたらす可能性が低いからである。このように、ゲノム上のセーフハーバー部位とは、ゲノム内の座位であって、遺伝子、または他の遺伝学的物質が、細胞に対する有害な影響も、挿入された遺伝学的物質に対する有害な影響も無しに挿入され得る座位である。最も有益なのは、挿入された遺伝子配列の発現が、隣接する遺伝子からのリードスルー発現、および誘導性カセットの発現のいずれによっても乱されることがなく、内在性転写プログラムへの干渉が最小限である、GSH部位である。特定の座位がGSH部位であるかどうかの決定を補助する、より正式な基準が提案されている(Pellenz et al., 2019)。これらの基準は、以下の部位を含む:(i) 全がん遺伝子リスト上のいかなるがん関連遺伝子からも> 300 kbである、(ii) いかなるmiRNA/他の機能性小RNAからも> 300 kbである、(iii) いかなる遺伝子の5'末端からも> 50 kbである、(iv) いかなる複製起点からも> 50 kb離れている、(v) いかなる超保存エレメントからも> 50 kb離れている、(vi) 低い転写活性(± 25 kbにmRNA無し)、(vii) コピー数多型領域内ではない、(viii) オープンクロマチン内である(± 1 kbにDHSシグナル)、および(ix) 独特である(ヒトゲノム上で1コピー)。すでに同定されているGSHは、これらの基準のすべてを満たすわけではないため、これらの提案される基準のすべてが、必ずしも満たされなくてもよい。適切なGSHは、これらの基準の少なくとも3、4、5、6、7、または8つを満たし得ることが好ましく、かつ最も好ましくは、これらの基準の9つを満たし得ることが好ましい。
【0059】
本発明の方法において、挿入は異なるGSHにおいて生じる。少なくとも2つのGSHが必要とされる。第1のGSHは、転写調節因子タンパク質の挿入によって改変される。第2のGSHは、誘導性カセットの挿入によって改変され、ここで該カセットは、誘導性プロモーターに機能的に連結されたコーディング配列を含む。他の遺伝学的物質もまた、これらのエレメントのいずれか、または両方に挿入され得る。誘導性カセット内の誘導性プロモーターに機能的に連結された、遺伝学的配列は、好ましくはDNA配列である。誘導性カセットの遺伝学的配列は、好ましくはRNA分子をコードし、かつしたがって、転写されることが可能である。転写は、誘導性プロモーターを用いて制御される。RNA分子は任意の配列であり得るが、好ましくは、タンパク質、shRNA、またはgRNAをコードするmRNAである。
【0060】
第1のGSHは、任意の適切なGSH部位であり得る。任意でこれは、構成的に発現する内在性プロモーターを有するGSHであり、該プロモーターは、挿入された転写調節因子を構成的に発現させる。適切なGSHは、ヒト細胞に関してhROSA26部位である。本発明のさらなる態様において、プロモーターに機能的に連結される、挿入された転写調節因子タンパク質は、構成的プロモーターに機能的に連結されている。構成的プロモーターは、たとえば、hROSA26部位における挿入の際に使用され得る。
【0061】
本発明の範囲内で使用される場合、「誘導性プロモーター」との用語は、ポリヌクレオチドの転写を開始および調節するヌクレオチド配列を意味する。「誘導性プロモーター」とは、該プロモーターに機能的に連結される遺伝学的配列の発現が、分析物、補因子、調節タンパク質等によって制御される、ヌクレオチド配列である。本発明の方法の1つの態様において、該制御は、転写調節因子タンパク質によって影響を受ける。「プロモーター」または「制御エレメント」との用語は、全長のプロモーター領域、およびこれらの領域の機能的(たとえば、転写または翻訳を制御する)セグメントを含むことが、意図される。転写調節因子タンパク質をコードする遺伝子は、構成的プロモーターに機能的に連結されることが好ましい。あるいは、第1のGSHは、それがすでに、転写調節因子タンパク質の遺伝子、および任意の関連する遺伝学的物質の発現を駆動することも可能な構成的プロモーターを有するように、選択され得る。構成的プロモーターは、持続性であってかつ高レベルな遺伝子発現を確実にもたらす。一般的に使用される構成的プロモーターは、ヒトβアクチンプロモーター(ACTB)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、伸長因子-la(EFla)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、およびユビキチンC(UbC)プロモーターを含む。CAGプロモーターは、高レベルな遺伝子発現を駆動するためにしばしば使用される、強力な合成プロモーターである。
【0062】
本発明の範囲内で使用される場合、「培養」との用語は、当業者に知られている、増殖を確実にする適切な条件下での、細菌および酵母などのような微生物、またはヒト細胞、植物細胞、もしくは動物細胞の増殖を意味する。
【0063】
本発明の範囲内で使用される場合、「増殖因子」との用語は、自己分泌性、傍分泌性、または内分泌性の様式において細胞の活性を制御する、シグナル伝達分子を意味する。本明細書において使用される場合、本発明の文脈において「増殖因子」との用語は、「サイトカイン」と互換性をもって使用され得る。増殖因子またはサイトカインは、生物のさまざまな細胞型によって産生され、そしてそれらの生物学的機能を、特定の受容体への結合、および関連する下流のシグナル伝達経路の活性化によって発揮し、またそれらは、核において遺伝子転写を調節し、そして最終的に、細胞分裂、細胞の生存、細胞の分化、接着、および遊走のような調節性の細胞プロセスを含む生物学的応答を、刺激する。
【0064】
本発明の範囲内で使用される場合、「小分子」との用語は、天然で、または人工的に産生される生物活性分子であって、かつ、細胞膜を通って拡散することができ、かつシグナル伝達経路を調節することができる、生物活性分子を意味する。本発明の範囲内で好ましく使用される小分子は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3を阻害し得、これらはそれぞれ、LY294002、およびCHIR99021のようなものである。
【0065】
本発明の範囲内で使用される場合、「シグナル伝達を再現する」との用語は、天然の環境において細胞に影響を与える分泌型分子、たとえば増殖因子および/またはケモカインの、機能を模擬するか、該機能をまねるか、または該機能に似せて、かつそれにより、これらの作用によってミクログリアを作製することを可能にすることを、意味する。
【0066】
本発明の範囲内で使用される場合、「シグナル伝達を模倣する」との用語は、天然の環境において細胞に影響を与える分泌型分子、たとえば増殖因子および/またはケモカインの、機能を模擬するか、該機能をまねるか、該機能に似せるか、または該機能を再現して、かつそれにより、これらの作用によってミクログリアを作製することを可能にすることを、意味する。
【0067】
本発明の範囲内で使用される場合、「ミクログリアの胚型発達」との用語は、着床前の胚盤胞期の胚から始まって、完全に確立しかつ自己を維持するミクログリア集団にいたるまでの、ヒトの胚、胎児、および出生後の発達の間の、ミクログリア発達時の分化の帰結にしたがった、成熟ミクログリア細胞への多能性幹細胞の段階的な移行を意味する。
【0068】
本発明の範囲内で使用される場合、「成体型ミクログリアの増殖」との用語は、成熟ミクログリア細胞をもたらす、任意の細胞分裂プロセスを意味する。
【0069】
本発明の範囲内で使用される場合、「成体型ミクログリアの分化」との用語は、ミクログリア前駆細胞の状態にある細胞の、恒常的/静止状態にあるミクログリア細胞の典型的な特徴を包含する成体型ミクログリア細胞型への、分化を意味する。
【0070】
本発明の範囲内で使用される場合、「成体型ミクログリアの極性化」との用語は、細胞外の環境、損傷を受けたニューロンやグリア細胞それぞれからのシグナル、または血液脳関門の機能不全に起因する血漿タンパク質への曝露によってもたらされる細胞外刺激への、成熟ミクログリア細胞の反応を意味する。ミクログリアのこの反応は、損傷部位へのミクログリア細胞の移動を含み、かつ該反応は、神経保護性または神経毒性のいずれかの作用を有し得る。
【0071】
さらに、本発明の方法の1つの態様において、増殖因子または小分子の少なくとも1種は、以下からなる群より選択される:アクチビンA(SEQ ID NO: 7)、BMP4(SEQ ID NO: 8)、FGF(SEQ ID NO: 9)、VEGF-A(SEQ ID NO: 10)、LY294002、CHIR99021、SCF(SEQ ID NO: 11)、IL-3(SEQ ID NO: 12)、IL-6(SEQ ID NO: 13)、CSF1(SEQ ID NO: 14)、IL-34(SEQ ID NO: 15)、CSF2(SEQ ID NO: 16)、CD200(SEQ ID NO: 17)、CX3CL1(SEQ ID NO: 18)、TGFβ1(SEQ ID NO: 19)、およびIDE1。
【0072】
アクチビンA(SEQ ID NO: 7)とは、本発明において使用される場合、アクチビンβ-A鎖、EDF、赤血球分化タンパク質、FRP、FSH放出タンパク質、INHBA、インヒビンβ-A鎖、インヒビンβ-1を意味する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、多能性幹細胞、内胚葉、および中胚葉によって産生されるタンパク質のトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)ファミリーの、メンバーである。
【0073】
BMP4(SEQ ID NO: 8)とは、本発明において使用される場合、骨形成タンパク質4を意味し、これはまた、ZYME、BMP2B、またはBMP2B1としても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、骨形成タンパク質ファミリーのメンバーであり、該ファミリーは、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーの一部である。
【0074】
FGF(SEQ ID NO: 9)とは、本発明において使用される場合、線維芽細胞増殖因子を意味する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、たとえば、Hui et al., 2018に記載されるように、細胞シグナル伝達タンパク質のファミリーのメンバーである。
【0075】
VEGF-A(SEQ ID NO: 10)とは、本発明において使用される場合、血管内皮細胞増殖因子Aを意味し、これはまた、VPF、VEGF、またはMVCD1としても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、PDGF/VEGF増殖因子ファミリーのメンバーであって、かつヘパリン結合タンパク質である。この増殖因子は、血管内皮細胞の増殖および遊走を誘導し、かつ生理的な血管新生および病的な血管新生の両方に必須である。
【0076】
LY294002とは、本発明において使用される場合、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の強力な細胞透過性阻害剤を意味し、これは、該酵素のATP結合部位に作用する(Vlahos et al., 1994)。その化学構造は、以下に示される。
【0077】
CHIR99021とは、本発明において使用される場合、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3の極めて強力な阻害剤である、アミノピリミジン誘導体を意味し、これは、GSK3βを阻害し(IC
50 = 6.7 nM)、かつGSK3αを阻害し(IC
50 = 10 nM)、かつWNT活性化因子として機能する。その化学構造は、以下に示される。
【0078】
SCF(SEQ ID NO: 11)とは、本発明において使用される場合、幹細胞因子を意味し、これはまた、Kitリガンド、マスト細胞増殖因子、またはSteel因子としても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、胚型造血および成体型造血の調節に重要な役割を果たす、初期に作用するサイトカインである。
【0079】
IL-3(SEQ ID NO: 12)とは、本発明において使用される場合、インターロイキン-3、MCGF(マスト細胞増殖因子)、マルチCSF、HCGF、P細胞刺激因子、MGC79398、またはMGC79399を意味する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、増殖を促進するサイトカインである。
【0080】
IL-6(SEQ ID NO: 13)とは、本発明において使用される場合、インターロイキン6を意味し、これはまた、B細胞刺激因子2、CTL分化因子、ハイブリドーマ増殖因子、インターフェロンβ-2、インターロイキン-6、IFN-β-2、IFNB2、BSF-2、CDF、インターフェロンのβ2、B細胞分化因子、インターフェロンのβ2、インターロイキンBSF-2、BSF2、HGF、またはHSFとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、炎症、およびB細胞の成熟において機能するサイトカインである。
【0081】
CSF1(SEQ ID NO: 14)とは、本発明において使用される場合、コロニー刺激因子1を意味し、これはまた、コロニー刺激因子1(マクロファージ)、マクロファージコロニー刺激因子1(Macrophage Colony-Stimulating Factor 1)、マクロファージコロニー刺激因子1(Macrophage Colony Stimulating Factor 1)、ラニモスチム、CSF-1、MCSF、M-CSFとしても知られており、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、マクロファージの産生、分化、および機能を制御する、サイトカインである。
【0082】
IL-34(SEQ ID NO: 15)とは、本発明において使用される場合、インターロイキン34を意味し、これはまた、C16またはf77としても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、コロニー刺激因子1受容体を通じて、単球の、およびマクロファージの分化および生存を促進する、サイトカインである。
【0083】
CSF2(SEQ ID NO: 16)とは、本発明において使用される場合、コロニー刺激因子2を意味し、これはまた、サルグラモスチム、コロニー刺激因子2(顆粒球-マクロファージ)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-Macrophage Colony-Stimulating Factor)、モルグラモスチン(Molgramostin)、モルグラモスチム、GMCSF、CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage-Colony Stimulating Factor)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-Macrophage Colony Stimulating Factor)、コロニー刺激因子、GM-CSFとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、顆粒球およびマクロファージの産生、分化、および機能を制御する、サイトカインである。
【0084】
CD200(SEQ ID NO: 17)とは、本発明において使用される場合、CD200遺伝子を意味し、これはまた、CD200分子、CD200抗原、モノクローナル抗体MRC OX-2によって同定される抗原、OX-2膜糖タンパク質、MOX1、MOX2、OX-2、またはMRCとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、2つの細胞外免疫グロブリンドメイン、1つの膜貫通ドメイン、および1つの細胞質ドメインを含む、I型膜糖タンパク質である。
【0085】
CX3CL1(SEQ ID NO: 18)とは、本発明において使用される場合、CX3CL1遺伝子を意味し、これはまた、C-X3-Cモチーフケモカインリガンド1、低分子量誘導性サイトカインサブファミリーD(Cys-X3-Cys)のメンバー1(Small Inducible Cytokine Subfamily D (Cys-X3-Cys), Member 1)(フラクタルカイン、ニューロタクチン)、ケモカイン(C-X3-Cモチーフ)リガンド1、CX3C膜アンカー型ケモカイン、低分子量誘導性サイトカインD1、C-X3-Cモチーフケモカイン1、ニューロタクチン、フラクタルカイン、またはSCYD1、NTT、低分子量誘導性サイトカインサブファミリーD(Cys-X3-Cys)のメンバー1(Small Inducible Cytokine Subfamily D (Cys-X3-Cys), Member-1)、C3Xカイン(C3Xkine)、ABCD-3、CXC3C、CXC3、NTN、またはFKNとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、ケモカインのCX3Cサブグループに属しており、ケモカインは、保存されたシステイン残基間に位置するアミノ酸の数によって特徴付けられる。
【0086】
TGFβ1(SEQ ID NO: 19)とは、本発明において使用される場合、トランスフォーミング増殖因子β1を意味し、これはまた、トランスフォーミング増殖因子β-1プロタンパク質、プレプロトランスフォーミング増殖因子β-1、TGFB、トランスフォーミング増殖因子のβ1、トランスフォーミング増殖因子β-1、潜在型関連ペプチド(Latency-Associated Peptide)、カムラティ・エンゲルマン病のTGF-β-1、IBDIMDE、TGFβ、DPD1、CED、またはLAPとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)のタンパク質スーパーファミリーの、分泌型リガンドである。
【0087】
本発明の方法のさらなる態様において、増殖因子の少なくとも1種は、CSF1(SEQ ID NO: 14)またはIL-34(SEQ ID NO: 15)である。本発明の方法のさらなる態様において、増殖因子の少なくとも1種は、CSF1(SEQ ID NO: 14)である。本発明の方法のさらなる態様において、増殖因子の少なくとも1種は、IL-34(SEQ ID NO: 15)である。
【0088】
本発明の方法の追加の態様において、小分子の少なくとも1種は、CHIR99021、LY294002、またはIDE1である。
【0089】
LY294002とは、本発明において使用される場合、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の強力な細胞透過性阻害剤を意味し、これは、該酵素のATP結合部位に作用する(Vlahos et al., 1994)。その化学構造は、以下に示される。
【0090】
CHIR99021とは、本発明において使用される場合、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3の強力な阻害剤である、アミノピリミジン誘導体を意味し、これは、GSK3βを阻害し(IC
50 = 6.7 nM)、かつGSK3αを阻害し(IC
50 = 10 nM)、かつWNT活性化因子として機能する。その化学構造は、以下に示される。
【0091】
IDE1とは、本発明において使用される場合、胚体内胚葉のインデューサー;TGF-β経路を活性化する小分子であって、かつ増殖因子TGF-βの代替物として使用され得る小分子、を意味する。その化学構造は、以下に示される。
【0092】
本発明の方法の別の態様において、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は異なる。
【0093】
本発明の方法のさらなる態様において、方法は、転写因子CEBPBの遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 3)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0094】
CEBPB(SEQ ID NO: 3)とは、本発明において使用される場合、CCAATエンハンサー結合タンパク質βを意味し、これはまた、CCAATエンハンサー結合タンパク質β、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)のβ、インターロイキン6依存性DNA結合タンパク質、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β、インターロイキン6の核内因子、転写因子5、核内因子NF-IL6、TCF5、肝臓に豊富な転写活性化因子タンパク質(Liver-Enriched Transcriptional Activator Protein)、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β、肝臓に豊富な抑制性タンパク質(Liver-Enriched Inhibitory Protein)、転写因子C/EBP β、肝臓活性化因子タンパク質(Liver Activator Protein)、C/EBP-β、C/EBP β、IL6DBP、NF-IL6、TCF-5、LAP、またはLIPとしても知られている。イントロンを有さないこの遺伝子は、塩基性ロイシンジッパー(bZIP)ドメインを含む転写因子をコードする。
【0095】
本発明の方法の別の態様において、方法は、転写因子RUNX1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 4)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0096】
RUNX1(SEQ ID NO: 4)とは、本発明において使用される場合、Runt関連転写因子1(Runt Related Transcription Factor 1)、Runt関連転写因子1(Runt-Related Transcription Factor 1)、ポリオーマウイルスエンハンサー結合タンパク質2 αBサブユニット、SL3/AKVコア結合因子 αBサブユニット、SL3-3エンハンサー因子1 αBサブユニット、急性骨髄性白血病1タンパク質、がん遺伝子AML-1、PEBP2-αB、PEA2-αB、CBFA2、AML1、コア結合因子Runtドメイン αサブユニット2 コア結合因子 サブユニットα-2、AML1-EVI-1融合タンパク質、急性骨髄性白血病のAml1がん遺伝子、CBF-α-2、AML1-EVI-1、PEBP2α、CBF2α、PEBP2aB、AMLCR1、またはEVI-1を意味する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、CBFのαサブユニットであり、かつこれは、正常な造血の進行に関与すると考えられている。
【0097】
本発明の方法のさらなる態様において、方法は、転写因子IRF8の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 5)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0098】
IRF8(SEQ ID NO: 5)とは、本発明において使用される場合、インターフェロン調節因子8を意味し、これはまた、インターフェロンコンセンサス配列結合タンパク質1、H-ICSBP、ICSBP1、ICSBP、IRF-8、インターフェロンコンセンサス配列結合タンパク質(Interferon Consensus Sequence-Binding Protein)、IMD32A、IMD32B、またはインターフェロンコンセンサス配列結合タンパク質(Interferon consensus sequence-binding protein)(ICSBP)としても知られている。これは、インターフェロン(IFN)調節因子(IRF)ファミリーの転写因子である。
【0099】
本発明の方法の別の態様において、方法は、転写因子SALL1の遺伝子のコーディング配列(SEQ ID NO: 6)の挿入およびその発現を、さらに含む。
【0100】
SALL1 (SEQ ID NO: 6)とは、本発明において使用される場合、Spalt様転写因子1(Spalt Like Transcription Factor 1)を意味し、これはまた、ジンクフィンガータンパク質Spalt-1、ジンクフィンガータンパク質SALL1、ジンクフィンガータンパク質794、Sal様タンパク質1、ZNF794、Sal-1、精巣上体分泌タンパク質Li 89、Spalt様転写因子1(Spalt-Like Transcription Factor 1)、Sal(ショウジョウバエ(Drosophila))様1、Sal様1(ショウジョウバエ)、HEL-S-89、HSAL1、HSal1、SAL1、またはTBSとしても知られている。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、ジンクフィンガー転写抑制因子であり、かつNuRDヒストン脱アセチル化酵素複合体(HDAC)の一部であり得る。
【0101】
本発明の方法の追加の態様において、転写調節因子タンパク質は、リバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)(SEQ ID NO: 20)であり、かつその活性は、ドキシサイクリンまたはテトラサイクリンによって制御される。
【0102】
本発明の範囲内で使用される場合、「リバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)」との用語は、テトラサイクリンまたはその誘導体によって誘導される、転写活性化因子タンパク質を意味する。テトラサイクリン制御性転写活性化は、遺伝子を誘導性に発現する方法であり、ここで転写は、抗生物質テトラサイクリンかまたはその誘導体の1種(たとえば、より安定なドキシサイクリン)の存在下で、可逆的に開始または停止される。このシステムにおいて、転写活性化因子タンパク質は、テトラサイクリン応答性転写活性化因子タンパク質(rtTa)、またはその誘導体であり得る。本発明の転写調節因子タンパク質は、rtTAであり得る。rtTAタンパク質は、特定のTetOオペレーター配列において、DNAに結合することができる。そのようなTetO配列の数個の反復は、最小プロモーター(たとえばCMVプロモーターなど)の上流に配置されて、ともにテトラサイクリン応答エレメント(TRE)(SEQ ID NO: 21)を形成する。このシステムには2種類の形式があり、テトラサイクリンまたは誘導体の添加が、rtTAタンパク質を活性化する(Tet-On)か、または不活性化する(Tet-Off)か、によって変わる。Tet-ONシステムにおいては、ドキシサイクリンはrtTAタンパク質を活性化し、これは、本発明の方法の1つの態様においても使用され得る。
【0103】
Tet-Onシステムは、2つの要素から構成される;(1) 構成的に発現するテトラサイクリン応答性転写活性化因子タンパク質(rtTA)、およびrtTA感受性誘導性プロモーター(Tet応答性エレメント、TRE)。これに、テトラサイクリンか、またはドキシサイクリン(dox)を含むそのより安定な誘導体が結合し得るので、rtTAの活性化を引き起こし、rtTAがTRE配列に結合することを可能にして、そしてTRE制御性遺伝子の発現を誘導する。本発明の方法においては、これを使用することが好ましい。したがって、本発明の方法の転写調節因子タンパク質は、テトラサイクリン応答性転写活性化因子タンパク質(rtTA)であり得、これは、外部から供給される、抗生物質テトラサイクリンか、またはその誘導体の1種によって、活性化または不活性化され得る。転写調節因子タンパク質がrtTAである場合、第2のGSH部位に挿入される誘導性プロモーターは、テトラサイクリン応答エレメント(TRE)を含む。外部から供給される物質は、抗生物質テトラサイクリンか、またはドキシサイクリンのようなその誘導体の1種であり得、好ましくは、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンである。
【0104】
rtTAタンパク質のバリアント、および改変されたrtTAタンパク質が、本発明の方法において使用され得る。これらは、Tet-Onアドバンスドトランス活性化因子(Tet-On Advanced transactivator)(rtTA2S-M2としても知られる)、およびTet-On 3G(rtTA-V16としても知られ、rtTA2S-S2に由来)を含み得る。
【0105】
本発明の方法の別の態様において、誘導性プロモーターは、Tet応答性エレメント(TRE)(SEQ ID NO: 21)を含む。
【0106】
本発明の範囲内で使用される場合、「Tet応答性エレメント(TRE)」との用語は、最小プロモーターもともに有する、スペーサー配列によって区切られた19 bpが7回反復する、細菌のTetO配列を意味する。最小プロモーターは任意の適切なプロモーターであってよいため、TRE配列のバリアントおよび改変が利用可能である。好ましくは最小プロモーターは、rtTA結合の非存在下では、発現を示さないか、または最小の発現レベルを示す。このように、第2のGSHに挿入される誘導性プロモーターは、TREを含み得る。本発明の根底にある基本的な遺伝学的原理は、
図2にも図解されており、該図は、異なるGSH部位(hROSA26およびAAVS1)、ならびに組み込まれるrtTA(SEQ ID NO: 20)およびTRE(SEQ ID NO: 21)を示す。
【0107】
本発明の方法のさらなる態様において、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は、以下からなる群より選択される:hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)、AAVS1座位(SEQ ID NO: 23)、CLYBL遺伝子(SEQ ID NO: 24)、CCR5遺伝子(SEQ ID NO. 25)、HPRT遺伝子(SEQ ID NO. 26)、または第8染色体上の部位ID 325(SEQ ID NO: 27)を有する遺伝子、第1染色体上の部位ID 227(SEQ ID NO: 28)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 229(SEQ ID NO: 29)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 255(SEQ ID NO: 30)を有する遺伝子、第14染色体上の部位ID 259(SEQ ID NO: 31)を有する遺伝子、X染色体上の部位ID 263(SEQ ID NO: 32)を有する遺伝子、第2染色体上の部位ID 303(SEQ ID NO: 33)を有する遺伝子、第4染色体上の部位ID 231(SEQ ID NO: 34)を有する遺伝子、第5染色体上の部位ID 315(SEQ ID NO: 35)を有する遺伝子、第16染色体上の部位ID 307(SEQ ID NO: 36)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 285(SEQ ID NO: 37)を有する遺伝子、第6染色体上の部位ID 233(SEQ ID NO: 38)を有する遺伝子、第134染色体上の部位ID 311(SEQ ID NO: 39)を有する遺伝子、第7染色体上の部位ID 301(SEQ ID NO: 40)を有する遺伝子、第8染色体上の部位ID 293(SEQ ID NO: 41)を有する遺伝子、第11染色体上の部位ID 319(SEQ ID NO: 42)を有する遺伝子、第12染色体上の部位ID 329(SEQ ID NO: 43)を有する遺伝子、X染色体上の部位ID 313(SEQ ID NO: 44)を有する遺伝子。好ましくは、本発明の方法のさらなる態様において、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は、以下からなる群より選択される:hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)、AAVS1座位(SEQ ID NO: 23)、CLYBL遺伝子(SEQ ID NO: 24)、CCR5遺伝子(SEQ ID NO. 25)、HPRT遺伝子(SEQ ID NO. 26)。より好ましくは、ゲノム上の第1および第2のセーフハーバー部位は、hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)およびAAVS1座位(SEQ ID NO: 23)からなる群より選択される。
【0108】
天然の遺伝子発現を妨害することなく、ウイルスが天然に組み込まれる部位を探索することにより、さらなる部位が同定され得る。本発明の方法に関して、いくつかのGSH部位が使用され得、これらは以下においてより詳細に説明される。
【0109】
アデノ随伴ウイルス組み込み部位1座位(AAVS1)(SEQ ID NO: 23)は、ヒト第19染色体上のタンパク質ホスファターゼ1の調節サブユニット12C(PPP1R12C)遺伝子内に位置しており、該遺伝子は、ヒト組織において均一かつ普遍的に発現している。この部位は、AAV血清型2に特異的な組み込み座位として作用し、かつしたがって、有望なGSHとして同定された。AAVS1は、オープンクロマチン構造と、誘導性カセットをサイレンシングに対して耐性にすることができる、天然の染色体インスレーターとを含むために、転写にとって好都合な環境であることが示されている。PPP1R12C遺伝子の妨害に起因する、細胞に対する有害な影響は知られていない。さらに、この部位に挿入された誘導性カセットは、多くの多様な細胞型において、転写に関して活性であり続ける。したがってAAVS1は、GSHとしてみなされており、かつヒトゲノムにおける標的型遺伝子組み換えに広く利用されている。
【0110】
hROSA26部位(SEQ ID NO: 22)は、マウスのGSH(ROSA26 - 逆方向スプライスアクセプター部位(reverse oriented splice acceptor site)#26)に対する配列類似性に基づいて同定された。オルソログ部位がヒトにおいて同定されているが、該部位は、誘導性カセットの挿入のために一般的に使用されているわけではない。本発明の発明者らは、hROSA26部位に特異的な標的型システムを使用しており、かつしたがって、この座位に遺伝学的物質を挿入することが可能であった。hROSA26座位(SEQ ID NO: 22)は、第3染色体上にあり(3p25.3)、かつEnsemblデータベース内に見出すことができる(GenBank: CR624523)。該組み込み部位のゲノム上の正確な座標は、3:9396280-9396303である:Ensembl。該組み込み部位は、THUMPD3の長鎖ノンコーディングRNA(リバース鎖)の、オープンリーディングフレーム(ORF)内に位置する。hROSA26部位は内在性プロモーターを有するため、挿入された遺伝学的物質は、該内在性プロモーターを活用してよく、またはあるいは、プロモーターに機能的に連結されて挿入されてもよい。
【0111】
第13染色体の長腕にあるクエン酸リアーゼβ様(CLYBL)遺伝子(SEQ ID NO: 24)のイントロン2は、ファージ由来のphiC31インテグラーゼの、同定された組み込みホットスポットの1つであるために、適切なGSHとして同定されている。研究により、この座位にランダムに挿入された誘導性カセットは、安定であり、かつ発現することが実証されている。このGSHにおける誘導性カセットの挿入は、近隣の遺伝子発現を乱さないことが示されている(Cerbibi et al., 2015)。したがってCLYBLは、本発明の方法において使用され得るGSHを提供する。
【0112】
CCR5(SEQ ID NO: 25)は、第3染色体(位置3p21.31)に位置する、HIV-1の主要な共受容体をコードする遺伝子である。この部位をGSHとして使用することへの関心は、有害な作用を有さないように見受けられるが、HIV-1感染に対して耐性にさせる、という、この遺伝子におけるヌル変異から生じている。第3エキソンを標的とするジンクフィンガーヌクレアーゼが開発され、それにより、この座位に遺伝学的物質を挿入することが可能になった。CCR5の天然の機能はまだ解明されていないことを考慮すると、該部位は、推定上のGSHのままであるが、本発明の方法において使用され得る。ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子は、プリンサルベージ経路を通じたプリンヌクレオチドの産生に中心的な役割を果たす、トランスフェラーゼ酵素をコードする。これは、GSH部位として議論されている。この部位における挿入は、成熟した細胞型にとって、たとえば遺伝子療法のための改変などにとって、より適切であり得る。他の生物におけるGSHは同定されており、かつこれは、マウスにおけるROSA26、HRPT、およびHippll(Hll)座位を含む。
【0113】
哺乳動物のゲノムは、偽性attP部位に基づくGSH部位を含み得る。そのような部位に関して、ストレプトマイセスファージ(Streptomyces phage)由来リコンビナーゼであるhiC31インテグラーゼは、誘導性カセットを含む、attB部位を保持するプラスミドを、偽性attP部位へと組み込む能力を有するために、非ウイルス性の挿入ツールとして開発された。GSHはまた、植物のゲノムにも存在しており、かつ植物細胞の改変は、本発明の方法に使用され得る。GSHは、コメのゲノムにおいて同定されている(Cantos et al., 2014)。
【0114】
以下のSHS部位は、本発明の方法のいずれかにおいて使用され得る。それらはPellenz et al., 2019によって発表されており、かつ上に列挙される9つの基準のうち5つを満たしている:第8染色体:68,720,172-68,720,191における部位ID 325(SEQ ID NO: 27);第1染色体:231,999,396-231,999,415における部位ID 227(SEQ ID NO: 28);第2染色体:45,708,354-45,708,373における部位ID 229(SEQ ID NO: 29);第5染色体:19,069,307-19,069,326における部位ID 255(SEQ ID NO: 30);第14染色体:92,099,558-92,099,577における部位ID 259(SEQ ID NO: 31);X染色体:12,590,812-12,590,831における部位ID 263(SEQ ID NO: 32);第2染色体:77,263,930-77,263,949における部位ID 303(SEQ ID NO: 33);第2染色体:77,263,930-77,263,949における部位ID 317(SEQ ID NO: 60);第4染色体:58,976,613-58,976,632における部位ID 231(SEQ ID NO: 34);第5染色体:7,577,728-7,577,747における部位ID 315(SEQ ID NO: 35);第16染色体:19,323,777-19,323,796における部位ID 307(SEQ ID NO: 36);第6染色体:89,574,320-89,574,339における部位ID 285(SEQ ID NO: 37);第6染色体:114,713,905-114,713,924における部位ID 233(SEQ ID NO: 38);第6染色体:134,385,946-134,385,965における部位ID 311(SEQ ID NO: 39);第7染色体:113,327,685-113,327,704における部位ID 301(SEQ ID NO: 40);第8染色体:40,727,927-40,727,946における部位ID 293(SEQ ID NO: 41);第11染色体:32,680,546-32,680,565における部位ID 319(SEQ ID NO: 42);第12染色体:126,152,581-126,152,600における部位ID 329(SEQ ID NO: 43);X染色体:16,059,732-16,059,751における部位ID 313(SEQ ID NO: 44)。
【0115】
本発明の方法の別の態様において、幹細胞は、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、神経前駆細胞、造血幹細胞、または胚性幹細胞(ESC)である。
【0116】
本発明の範囲内において、「多能性幹細胞」との用語は、上で定義されたように使用される。
【0117】
本発明の範囲内で使用される場合、「神経前駆細胞」との用語は、多能性幹細胞と成熟体細胞との間の、複能性細胞の状態を意味する。通常、この細胞状態は、ニューロン、オリゴデンドロサイト、およびアストロサイトのような、特化した細胞型になることが決定している。
【0118】
本発明の範囲内において、「人工多能性幹細胞(iPSC)」との用語は、上で定義されたように使用される。
【0119】
本発明の範囲内で使用される場合、「造血幹細胞」との用語は、血球を作る幹細胞を意味する。複能性幹細胞のうちの、この特定の型は、血液細胞のいかなる型も作ることができるが、他の細胞型を作る能力は失っている。
【0120】
本発明の範囲内において、「胚性幹細胞(ESC)」との用語は、上で定義されたように使用される。
【0121】
本発明の方法のさらなる態様において、幹細胞は、ヒトまたはマウスの幹細胞である。
【0122】
本発明の範囲内で使用される場合、「ヒトまたはマウスの幹細胞」との用語は、ヒトまたはマウスに由来する細胞を意味する。しかしながら、本発明の方法において使用される幹細胞は、ヒトまたは動物の任意の細胞であり得る。これは、好ましくは哺乳動物細胞であり、たとえば、マウスおよびラットなどのような、齧歯類由来の細胞;カンガルーおよびコアラなどのような、有袋動物由来の細胞;ボノボ、チンパンジー、キツネザル、テナガザル、および類人猿などのような、非ヒト霊長類由来の細胞;ラクダおよびリャマなどのような、ラクダ科動物由来の細胞;ウマ、ブタ、ウシ、バッファロー、バイソン、ヤギ、ヒツジ、シカ、トナカイ、ロバ、バンテン、ヤク、ニワトリ、アヒル、およびシチメンチョウなどのような、家畜動物由来の細胞;ネコ、イヌ、ウサギ、およびモルモットなどのような、飼いならされた動物由来の細胞である。細胞は、好ましくはヒト細胞である。ある局面において、細胞は、好ましくは家畜動物由来のものである。本発明の方法において使用される細胞の型は、遺伝学的物質のGSH部位への挿入が完了した後での、細胞の用途によって変わる。
【0123】
本発明はまた、本発明による方法のいずれかによって得られるミクログリア細胞にも関連し、ここで好ましくはミクログリアは、以下からなる群より選択されるミクログリア表面タンパク質のうち少なくとも1種を発現する:ITGAM(CD11B)(SEQ ID NO: 45)、ITGAX(CD11C)(SEQ ID NO: 46)、CD14(SEQ ID NO: 47)、CD16(SEQ ID NO: 48)、ENTPD1(CD39)(SEQ ID NO: 49)、PTPRC(CD45)(SEQ ID NO: 50)、CD68(SEQ ID NO: 51)、CSF1R(CD115)(SEQ ID NO: 52)、CD163(SEQ ID NO: 53)、CX3CR1(SEQ ID NO: 54)、TREM2(SEQ ID NO: 55)、P2RY12(SEQ ID NO: 56)、TMEM119(SEQ ID NO: 57)、およびHLA-DR(SEQ ID NO: 58)。
【0124】
したがって、ミクログリアは、以下の表面タンパク質のうち少なくとも1種を発現することによって、さらに定義される:ITGAM(CD11B)(SEQ ID NO: 45)、ITGAX(CD11C)(SEQ ID NO: 46)、CD14(SEQ ID NO: 47)、CD16(SEQ ID NO: 48)、ENTPD1(CD39)(SEQ ID NO: 49)、PTPRC(CD45)(SEQ ID NO: 50)、CD68(SEQ ID NO: 51)、CSF1R(CD115)(SEQ ID NO: 52)、CD163(SEQ ID NO: 53)、CX3CR1(SEQ ID NO: 54)、TREM2(SEQ ID NO: 55)、P2RY12(SEQ ID NO: 56)、TMEM119(SEQ ID NO: 57)、およびHLA-DR(SEQ ID NO: 58)。これらのタンパク質は、以下のように定義される。
【0125】
ITGAM(CD11B)とは、本発明において使用される場合、インテグリンサブユニットαMを意味し、これは、インテグリンαM鎖をコードする遺伝子である。インテグリンは、α鎖およびβ鎖から構成される、ヘテロダイマー型の内在性膜タンパク質である。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 45に示される。
【0126】
ITGAX(CD11C)とは、本発明の範囲内で使用される場合、インテグリンサブユニットαXを意味し、かつ該遺伝子は、インテグリンαX鎖のタンパク質をコードする。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 46に示される。
【0127】
CD14とは、本発明において使用される場合、単球分化抗原CD14を意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、単球/マクロファージにおいて選択的に発現する、表面抗原である。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 47に示される。
【0128】
CD16とは、本発明において使用される場合、FCGR3A、IgG受容体IIIaのFc断片を意味し、かつこの遺伝子は、免疫グロブリンGのFc部位に対する受容体をコードしており、かつこれは、循環からの抗原抗体複合体の除去、および抗体依存性の他の応答に関与する。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 48に示される。
【0129】
ENTPD1(CD39)とは、本発明において使用される場合、エクトヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ1を意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、細胞外ATPおよびADPをAMPへと加水分解する、形質膜タンパク質である。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 49に示される。
【0130】
PTPRC(CD45)とは、本発明において使用される場合、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼのタイプCを意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのメンバーである。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 50に示される。
【0131】
CD68とは、本発明において使用される場合、CD68抗原を意味し、かつこの遺伝子は、ヒト単球および組織マクロファージが高度に発現する、110-kDの膜貫通型糖タンパク質をコードする。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 51に示される。
【0132】
CSF1R(CD115)とは、本発明において使用される場合、コロニー刺激因子1受容体を意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、マクロファージの産生、分化、および機能を制御するサイトカインであるコロニー刺激因子1の、受容体である。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 52に示される。
【0133】
CD163とは、本発明において使用される場合、CD163抗原を意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、スカベンジャー受容体システインリッチ(SRCR)スーパーファミリーのメンバーであり、かつもっぱら単球およびマクロファージにおいて発現する。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 53に示される。
【0134】
CX3CR1とは、本発明において使用される場合、C-X3-Cモチーフケモカイン受容体1を意味し、かつこの遺伝子によってコードされるタンパク質は、フラクタルカインの受容体である。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 54に示される。フラクタルカインは、膜貫通型タンパク質であり、かつ白血球の接着および遊走に関与するケモカインである。
【0135】
TREM2とは、本発明において使用される場合、ミエロイド細胞において発現するトリガー受容体2(Triggering Receptor Expressed On Myeloid Cells 2)を意味し、かつこの遺伝子は、TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質とともに受容体シグナル伝達複合体を形成する膜タンパク質を、コードする。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 55に示される。
【0136】
P2RY12とは、本発明において使用される場合、プリン作動性受容体P2Y12を意味し、かつこの遺伝子の産物は、Gタンパク質共役型受容体のファミリーに属する。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 56に示される。
【0137】
TMEM119とは、本発明において使用される場合、タンパク質をコードする遺伝子である、膜貫通型タンパク質119を意味する。その関連する経路には、神経炎症の間のミクログリア活性化が含まれる。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 57に示される。
【0138】
HLA-DRとは、本発明において使用される場合、主要組織適合遺伝子複合体のクラスIIのDRαおよびDRβを意味し、かつHLA-DRAおよびHLA-DRB1の両方は、HLAクラスII α鎖のパラログである。そのタンパク質配列は、SEQ ID NO: 58に示される。
【0139】
さらなる態様において、本発明はまた、治療に使用するための、本発明によるミクログリア細胞をも含む。
【0140】
本発明において使用される場合、「治療」との用語は、生物、動物、またはヒトの、疾患または望まれない健康状態を処置する、任意の形を意味する。これはまた、遺伝子治療をも含み得る。これは、治療目的で外来DNAを細胞の核へと意図的に挿入することとして、定義され得る。そのような定義は、以下を含む:欠陥のある遺伝子の野生型バージョンを提供するための、細胞への単数または複数の遺伝子の供給、標的遺伝子の発現(欠陥を有し得る)に干渉するRNA分子に関する遺伝子の追加、自殺遺伝子(たとえば、無害なプロドラッグであるガンシクロビル(GCV)を細胞毒性薬剤に変換する、単純ヘルペスウイルスの酵素であるチミジンキナーゼ(HSV-tk)、およびシトシンデアミナーゼ(CD)など、の供給、免疫感作またはがん治療のためのDNAワクチン(養子細胞免疫療法を含む)、および治療目的での、細胞への遺伝子の任意の他の供給。加えて成熟ミクログリアは、ヒトまたは動物の体内への移植のために、直接使用され得る。あるいはミクログリアは、研究用の試験材料としてもよく、該研究には、遺伝子発現に対する薬剤の影響、および特定の遺伝子との薬剤の相互作用が含まれる。研究用のミクログリアは、機能が未知の遺伝学的配列を有する誘導性カセットを、該遺伝学的配列の制御可能な発現を研究する目的で使用することに、関連し得る。加えてこれは、大量の所望の物質、たとえば増殖因子またはサイトカインなどを産生させるためにミクログリアを使用することを、可能にし得る。
【0141】
さらに本発明はまた、1つの態様において、疾患のインビトロ診断のための、本発明によるそのようなミクログリア細胞の使用も対象とする。好ましくは疾患は、以下からなる群より選択される:中枢神経系の疾患、好ましくは神経変性疾患;より好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、もしくは筋萎縮性側索硬化症;神経炎症性疾患または自己免疫疾患、好ましくは多発性硬化症、自己抗体介在性脳炎、もしくは感染性疾患、神経血管疾患;好ましくは脳卒中、血管炎;外傷性脳損傷、およびがん。
【0142】
さらに本発明は、脳オルガノイドと共にインビトロ培養するための、本発明によるそのようなミクログリア細胞の使用を対象とする。
【0143】
本発明の範囲内で使用される場合、「オルガノイド」との用語は、細胞(主に幹細胞)に由来するインビトロ3D臓器モデルを意味し、かつこれは、本発明によって作製されるミクログリアと組み合わせられて、ミクログリアの、脳の他の細胞への関与、および該他の細胞との相互作用を試験する医学的診断のための、強力なツールとなる。
【0144】
本明細書において使用される場合、単数形の、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」とは、文脈が明確に他を示していない限り、複数形の指示対象を含むことが理解される。したがって、たとえば、「試薬」への言及は、そのようなさまざまな試薬の1種または複数種を含み、かつ「方法」への言及は、本明細書に記載される方法に関して改変または置換され得ることが当業者に公知の、等価な段階および方法への言及を含む。
【0145】
別途指定されない限り、連続した要素に先行する「少なくとも」との用語は、該連続物におけるすべての要素を指すことが理解される。「少なくとも1つ」との用語は、別途具体的に定義されていない場合、1つまたは複数を指し、これはたとえば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個であるか、またはそれより多い。当業者は、本明細書に記載される本発明の特定の態様の、多くの等価物を認識するか、または慣例の実験だけを用いてこれらを確認することができる。そのような等価物が本発明に包含されることが、意図される。
【0146】
本明細書において使用される場合にはどこであっても、「および/または」との用語は、「および」、「または」、および「該用語によって接続された要素のすべて、または任意の他の組み合わせ」との意味を含む。
【0147】
「未満」との用語、またはその反対で「超」との用語は、名数を含まない。
【0148】
たとえば、20未満とは、指定される該数値よりも少ないことを意味する。同様に、「超」または「超える」とは、指定される数よりも多いかまたは大きいことを意味し、たとえば、80%超とは、指定される数である80%よりも多いかまたは大きいことを意味する。
【0149】
本明細書、およびそれに添付される特許請求の範囲の全体を通して、文脈が他を必要としない限り、「含む(comprise)」との単語、ならびに、たとえば「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、指定される整数もしくは段階か、または整数もしくは段階の群を含むことを意味するが、いかなる他の整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群も、排除することを意味するわけではないことが理解される。本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」との用語は、「含む(containing)」もしくは「含む(including)」との用語と置き換えることが可能であり、または本明細書において使用される場合、ときおり、「有する」との用語と置き換えることも可能である。本明細書において使用される場合、「からなる」とは、特定されていない、要素、段階、または成分を、一切含まない。
【0150】
「含む」との用語は、「含むが、これに限定されない」ことを意味する。「含む」と、「含むが、これに限定されない」とは、互換性をもって使用される。
【0151】
「約」との用語は、プラスまたはマイナス10%を意味し、これは、好ましくはプラスまたはマイナス5%、より好ましくはプラスまたはマイナス2%、最も好ましくはプラスまたはマイナス1%である。
【0152】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文脈が他を必要としない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈が他を必要としない限り、本明細書は複数形および単数形を企図するものとして、理解される。
【0153】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、および物質等に限定されるものではなく、かつしたがって変更可能であることが、理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の態様を記述する目的のみのためのものであって、かつ本発明の発明を限定することを意図するものではなく、該範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0154】
本明細書の本文中で引用される刊行物のすべて(特許、特許出願、科学的刊行物、使用説明書等のすべてを含む)は、前述のものも後述のものも、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。先行発明のため、本発明がそのような開示に先行する資格を有さないことを容認している、と解釈されるべきものは、本明細書には存在しない。本明細書と相反するかまたは矛盾する、参照により組み入れられる事柄の範囲については、そのような事柄のどれよりも、本明細書が優先される。
【0155】
本明細書において引用される文献および特許文献のすべての内容は、それらの全体が参照により組み入れられる。
【0156】
本発明のより良い理解、およびその利点は、例示目的のためのみに提供される、以下の実施例から得られる。該実施例は、いかなる形においても、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0157】
発明の実施例
以下の実施例は本発明を例示するが、該実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0158】
実施例1
材料および方法
最初のスクリーニング実験のため、最初のhROSA-CAG-rtTA hiPSC株が作製され(CAS9ニッカーゼ、2種類のhROSA26特異的ガイドRNA(SEQ ID NO: 66およびSEQ ID NO: 67)、ならびに
図2Aおよび
図4Aに示されるCAG-rtTA発現カセットを有するドナープラスミドを発現する、3種類のプラスミドのヌクレオフェクション;抗生物質による選択、クローン性の拡大、ならびにクローン性の個々のhiPSCコロニーの特徴付け)、そしてそれに続き、AAVS1を標的とする4種類のベクター(SEQ ID NO: 61~SEQ ID NO: 64)(
図4B~4Eもまた参照されたい)の一過性のトランスフェクションが実施されて、PU.1(SEQ ID NO: 2)単独での迅速な過剰発現か、またはバイシストロン性の発現カセット(
図4B~4E)(SEQ ID NO: 61~SEQ ID NO. 64)の形式での、PU.1(SEQ ID NO: 2)と、RUNX1(SEQ ID NO: 4)、CEBPB(SEQ ID NO: 3)、もしくはIRF8(SEQ ID NO: 5)という3種類の他の転写因子のいずれかとの組み合わせにおける迅速な過剰発現の、いずれかを可能にした。スクリーニング目的のため、標的とされた細胞は、クローン性の拡大は行わず、細胞のサブセットにおいて過剰発現のみを引き起こさせた。
【0159】
驚くべきことに、最初のスクリーニング実験は、PU.1(SEQ ID NO: 2)に加えて他の3種類の候補リプログラミング因子のいずれかを発現する、3種類の細胞株すべてにおいては、ミエロイドおよびミクログリアの系列マーカーが迅速に誘導されるが、野生型の対照hiPSCや、PU.1(SEQ ID NO: 2)を単独で発現する細胞においてはそうではないことを、実証した。
【0160】
説明
プロトタイプのプロトコルを開発し、そして適切なリードアウトパラメーターを確立するため、本発明者らは、PU.1(SEQ ID NO: 2)およびCEBPB(SEQ ID NO: 3)の組み合わせ過剰発現に焦点を当てることを決定した。したがって、完全に検証された、二重GSH標的型の誘導性PU.1 + CEBPB hiPSCが作製され、そしてクローン性に拡大された。
【0161】
観察
ドキシサイクリンの添加は、すべての細胞において、多能性マーカーであるOCT4(SEQ ID NO: 78)およびNANOG(SEQ ID NO: 79)の発現、ならびに両導入遺伝子の誘導の、迅速な喪失をもたらした (
図6を参照されたい)。
【0162】
実施例2
材料および方法
手短に述べると、hiPSCは単一細胞として、多能性維持培地においてマトリゲル上にプレーティングされた。2日後、培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12に交換され、ここで該培地には、導入遺伝子の誘導のためのdoxに加えて、上で概説した一連の胚型イベントを模倣する小分子および増殖因子が、添加される。誘導の3日後、接着細胞は、組織培養プレートから剥離し始め、そして上清において、浮遊する単一細胞として見出された。
【0163】
説明
続いて本発明者らは、培地組成の最適化のため、細胞が最大で20日間にわたり誘導される、より長いスクリーニング実験を実施した。多色フローサイトメトリーは、原始マクロファージおよび/またはミクログリアの誘導のためのスクリーニングパネルとして選択された、ミエロイド細胞の表面マーカー(CD11b(SEQ ID NO: 45)、CD14(SEQ ID NO: 47)、CD45(SEQ ID NO: 50)、CD163(SEQ ID NO: 53)、CX3CR1(SEQ ID NO: 54))の、著しく堅固かつ迅速な誘導を証明した。本発明者らはまた、培養条件に依存性の、重要な差異を見出した:転写因子の過剰発現が、以下の一連の胚型発達を模倣する細胞外キュー(小分子、増殖因子)への時限的な曝露とともに実施された場合に、誘導は最も迅速にかつ効率良く生じた:(1) (後部原始線条の)胚体外中胚葉および血球血管芽細胞へと向かう、多能性エピブラスト(hiPSC)のパターニング、(2) 一次造血の、および初期マクロファージ前駆細胞の誘導、(3) 原始卵黄嚢マクロファージへの分化、(4) ミクログリアへの分化(
図5を参照されたい)。
【0164】
観察
フローサイトメトリーによって証明されたように、細胞は、CD45(SEQ ID NO: 50)(PTPRCとしても知られる)、CD11b(SEQ ID NO: 45)(ITGAMとしても知られる)、CD14(SEQ ID NO: 47)、およびCX3CR1(SEQ ID NO: 54)を含む、典型的なミエロイド表面タンパク質の発現を、迅速に開始した(
図5B~5Cを参照されたい)。すべての細胞は、第10日までに上清内に移行し、そしてMuffat et al., 2016による、化学的に定義された、ミクログリアの分化および維持のための最終的な培地中において、ポリ-L-リジン(PLL)コートされた組織培養皿上にプレーティングされた。興味深いことに、誘導プロトコルの第10日にドキシサイクリンが除去された後で、ミクログリアへの分化はよりいっそう効率良く生じた、したがってこれは、細胞の表現型が、持続的な導入遺伝子の発現に対して非依存性であることを、明確に証明する。
【0165】
フローサイトメトリーによって定量されたように(
図5cを参照されたい)、または免疫組織化学的解析によって証明されたように(
図5Dを参照されたい)、接着培養における、導入遺伝子無しの分化および成熟の6~10日後、事実上すべての細胞は、CD39(SEQ ID NO: 49)、P2RY12(SEQ ID NO: 56)、TREM2(SEQ ID NO: 55)、およびTMEM119 (SEQ ID NO: 57)を含む、ミエロイドに共通する、およびミクログリアにより特異的な、広範囲なタンパク質を発現した。次に共培養実験が実施され、該実験において本発明者らは、ミクログリア前駆細胞を、Zhang et al., 2013およびPawlowski et al., 2017により以前に発表されたプロトコルにしたがって作製された、アイソジェニックなhiPSCに由来する皮質ニューロンの純粋な集団上に、プレーティングした。ミクログリア細胞は、単培養における細胞と比較して、より分岐した(すなわち、より不活性な)形態をとっていた(
図5Eを参照されたい)。単培養における、hiPSCおよびミクログリアのリアルタイムqPCR分析は、多能性因子の下方制御、MYB非依存性(原始卵黄嚢マクロファージ起源のミクログリアと一致する)、ならびに、ミクログリアのコア転写因子、古典的な表面マーカー、および最近示唆された、ミクログリアの独特なシグネチャー遺伝子の、高発現を実証した(
図5Fを参照されたい)。
【0166】
【配列表】
【国際調査報告】