(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(54)【発明の名称】角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220722BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220722BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0775
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021516585
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(85)【翻訳文提出日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2020092071
(87)【国際公開番号】W WO2021212592
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】202010310198.9
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520514780
【氏名又は名称】青島瑞思徳生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【氏名又は名称】大上 寛
(72)【発明者】
【氏名】張炳強
(72)【発明者】
【氏名】陳梦梦
(72)【発明者】
【氏名】鄒偉
(72)【発明者】
【氏名】付学奇
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB05
4B065BB06
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB40
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は幹細胞の分化誘導の分野に関し、特に角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地に関し、以下の方法で製造される:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール5-10μmol、イカリイン2-4μmol、アスピリン1-3nmol、副甲状腺ホルモン1-3nmol、ヒドロコルチゾン5-10nmol、ラパマイシン1-3mg、テストステロン2-10μg、EPO 2-10μg、LIF 2-10μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよい。本発明の角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地は、漢方薬成分であるレスベラトロール、イカリインをアスピリン、副甲状腺ホルモン、ヒドロコルチゾール、ラパマイシン、成長因子と併用して、相乗的的に間葉系幹細胞から角膜上皮細胞への定方向分化を誘導し、選択した誘導成分はすべて毒性がなく、誘導効率が高く、誘導時間が短く、しかも、誘導で得られた角膜上皮細胞は活性が良好であり、細胞移植後に拒絶反応がなく、倫理問題がなく、安全性が高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の方法で製造される:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール5-10μmol、イカリイン2-4μmol、アスピリン1-3nmol、副甲状腺ホルモン1-3nmol、ヒドロコルチゾン5-10nmol、ラパマイシン1-3mg、テストステロン2-10μg、EPO 2-10μg、LIF 2-10μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである、
ことを特徴とする角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地。
【請求項2】
角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の方法で製造される:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール8μmol、イカリイン3μmol、アスピリン2nmol、副甲状腺ホルモン2nmol、ヒドロコルチゾン7nmol、ラパマイシン2mg、テストステロン7μg、EPO 7μg、LIF 7μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである、
ことを特徴とする角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幹細胞の分化誘導の分野に関し、特に角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜上皮細胞層は角膜外表面に位置する。角膜の上層細胞は5~6層あり、各層は極めて整然とした緊密な配列をしており、最深層には単層の円柱状の基底細胞があり、深層の上部には2~3層の多角形の翼細胞があり、最上部には2~3層の多角形の表層細胞がある。表層細胞の最も浅い層は角化しない扁平細胞であり、表皮細胞の間の隙間ははっきりしておらず、表層の細胞膜は非常に平滑であり、細胞質ははっきりして透明で、細胞質突起は互いに結合して橋になって、核は依然として存在している。この細胞は透過性が非常に強い。角膜上皮細胞は抵抗力や、再生能力に強く、深層細胞は有糸分裂が可能である。角膜上皮は外傷と感染を受けた後は、一般は迅速に回復できる。
【0003】
複数種の発病要素、例えば眼外傷、手術創傷、炎症、薬物毒性などはいずれも角膜縁損傷をもたらし、角膜縁幹細胞の機能障害を招き、上皮細胞の欠損を招き、それによって角膜感染、穿孔、新生血管形成のリスクを招く。角膜移植は現在角膜盲治癒の唯一有効な手段である。統計によると、全国の角膜疾患患者は約400万~500万人おり、その中の大部分は角膜移植手術で視力回復が可能である。しかし、中国では毎年約1万例の角膜移植手術しか展開できなく、主な原因は寄付したドナー角膜の数量が深刻に不足し、手術の普及応用を制限し、多数の角膜盲患者は角膜移植で視力を回復することができないことである。そのため、体外での組織工学角膜の再構築は現在ドナー角膜材料不足を解決する重要な突破口である。
【0004】
しかし、現在、角膜組織工学ではいくつかのボトルネックとなる問題に遭遇し、例えば角膜上皮種細胞に由来する問題である。角膜上皮の研究は角膜の生理、病理特徴と角膜疾病に対して更に深い理解を人々に与えたが、分化後の角膜上皮細胞の体外成長の生命周期は非常に短く、2~3世代しか伝達できなく、獲得した細胞の数量は少なく、費用は比較的に高く、角膜組織の研究と組織工学化角膜の構築を制限した。そのため、増殖能力が強く、絶えず分裂成長する角膜上皮細胞をどのように獲得して、細胞の絶えない更新を補充することは角膜上皮種細胞を獲得する最も重要な任務になっている。角膜上皮細胞系を構築することによれば、上皮の増殖や分化、眼科用薬のテスト、角膜疾患の新しい治療法の開発など様々な研究目的に必要な細胞を長期にわたり安定的に提供することができる。
【0005】
間葉系幹細胞は由来が広範で、入手しやすく、自己移植しやすく、強い増殖能力を有し、体外長期培養過程において、常にその多分化潜在能力を保持でき、特定の条件下で骨、軟骨、腱、筋細胞、脂肪細胞、神経細胞と肝細胞などに分化でき、理想的な組織工学種細胞である。間葉系幹細胞はすでに幹細胞研究の焦点となっており、誘導された後に角膜上皮細胞に分化し、角膜損傷の修復に応用できる。
【0006】
幹細胞の分化は一部の遺伝子が選択的に活性化あるいは差異的に発現し、それによって細胞表現型と蛋白質の特異的な分布を制御する。間葉系幹細胞の特定の細胞型への分化は主に遺伝子の活性化に依存し、細胞外微小環境中の各種の因子タイプと濃度は遺伝子活性化の重要な要素である。本発明の角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地は、漢方薬成分であるレスベラトロール、イカリインをアスピリン、副甲状腺ホルモン、ヒドロコルチゾール、ラパマイシン、成長因子と併用して、相乗的に間葉系幹細胞から角膜上皮細胞への定方向分化を誘導し、選択した誘導成分はすべて毒性がなく、誘導効率が高く、誘導時間が短く、しかも、誘導で得られた角膜上皮細胞は活性が良好であり、細胞移植後に拒絶がなく、倫理問題がなく、安全性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来の誘導培地及び誘導方法における欠陥に対して、誘導効率が高く、誘導ステップが少なく、誘導時間が短く、誘導で獲得された角膜上皮細胞の活性が良く、細胞移植後に拒絶反応がなく、倫理的問題がなく、安全性の高い角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の技術的解決手段として、間葉系幹細胞から角膜上皮細胞への分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の方法で製造される:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール5-10μmol、イカリイン2-4μmol、アスピリン1-3nmol、副甲状腺ホルモン1-3nmol、ヒドロコルチゾン5-10nmol、ラパマイシン1-3mg、テストステロン2-10μg、EPO 2-10μg、LIF 2-10μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである。
【0009】
好ましくは、角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の方法で製造される:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール8μmol、イカリイン3μmol、アスピリン2nmol、副甲状腺ホルモン2nmol、ヒドロコルチゾン7nmol、ラパマイシン2mg、テストステロン7μg、EPO 7μg、LIF 7μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである。
【0010】
本発明による角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地は以下の利点を有する:
1;遺伝子トランスフェクションを必要としないので、遺伝子改変と癌のリスクがない
2;誘導ステップが少ない
3;誘導時間が短い
4;誘導分化効率が高い
5;本発明の誘導剤、各成分はいずれも安全で毒性がない
6;間葉系幹細胞を膜上皮細胞に誘導分化した後、移植後に拒絶反応がなく、倫理問題がなく、安全性が高く、広い臨床応用の将来性がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の培地による間葉系幹細胞の分化誘導後の角膜上皮細胞の形態(×400)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に示す実施例の実験方法は、特に記載のない限り、一般的な方法である。実験に使用される器具や計器や試薬はすべて商業的なルートで獲得することができる。
【0013】
実施例1
本発明の角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地の各成分は以下の市販製品である:レスベラトロール、ブランドSigma、品番R5010;イカリイン、ブランド上海微晶生物,品番489-32-7;アスピリン、ブランドSigma、品番A2093-100G;副甲状腺ホルモン、ブランドSigma,品番P7036;ヒドロコルチゾン、ブランドSigma,品番H3160;ラパマイシン、ブランドTargetMol、品番T1537、テストステロン、ブランドSigma,品番T1500;EPO(エリスロポエチン)、ブランドPeproTech、品番CYT-201;LIF(白血病インヒビター因子)、ブランドPeproTech、品番96-300-05-5;角膜上皮細胞無血清培地(CEpiCM)、ブランドScienCell、品番6511。
【0014】
角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の成分を、それぞれ以下の濃度で配合してなる:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール8μmol、イカリイン3μmol、アスピリン2nmol、副甲状腺ホルモン2nmol、ヒドロコルチゾン7nmol、ラパマイシン2mg、テストステロン7μg、EPO 7μg、LIF 7μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである。
【0015】
実施例2
角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の成分を、それぞれ以下の濃度で配合してなる:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール5μmol、イカリイン2μmol、アスピリン1nmol、副甲状腺ホルモン1nmol、ヒドロコルチゾン5nmol、ラパマイシン1mg、テストステロン2μg、EPO 2μg、LIF 2μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである。
【0016】
実施例3
角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地であって、以下の成分を、それぞれ以下の濃度で配合してなる:1Lごとの前記分化誘導無血清完全培地中にレスベラトロール10μmol、イカリイン4μmol、アスピリン3nmol、副甲状腺ホルモン3nmol、ヒドロコルチゾン10nmol、ラパマイシン3mg、テストステロン10μg、EPO 10μg、LIF 10μgが含まれ、残部は角膜上皮細胞の無血清培地であり、均一に混合した後にろ過して除菌すればよいものである。
【0017】
実施例4
ヒト脂肪間葉系幹細胞を例にして、実施例1で製造された誘導培地を用いて、間葉系幹細胞に対して角膜上皮細胞への誘導分化実験を行い、ステップは以下のとおりである。
【0018】
脂肪間葉系幹細胞を角膜上皮細胞への分化を誘導する:継代3回のMSCをあらかじめポリリジン処理された消毒カバーガラスを置いた6ウェルプレートに接種し,細胞のクライミングしたスライスを製造する。細胞は80%に近く融合し、成長が旺盛な時には誘導分化を行う。実験グループ分けを表1に示す。
表1 実験グループ分け
【0019】
誘導後の細胞の同定:CK3、CK12、CK19を角膜上皮細胞のマーカーとし、免疫細胞化学法で誘導前後のCK3、CK12、CK19の発現情況を検出・測定し、ランダムに4枚のスライドガラスを選び、200倍の視野でランダムに5つの視野を選び、それぞれ陽性細胞の割合を計算する。陽性細胞が全細胞に占める割合は、均数±標準偏差(`x±s)で表す。SPSS11.0ソフトウェアを用いて統計分析を行い、実験データは(`x±s)で表し、複数グループの比較は分散分析を用いて、2グループ間比率の比較はχ
2検定を用い、P<0.05の場合は統計学的意義があると認める。3グループの誘導結果を表2に示す。3グループの誘導結果を表2に示す。
表2 3グループ誘導結果(n=20、`x±s)
【0020】
表2に示すように、本発明の誘導グループで誘導分化された後、CK3、CK12、CK19の陽性細胞率は条件培地グループと共培養グループより高く(P<0.05)、本発明の培地による誘導効率は条件培地グループと共培養グループよりも明らかに高く、90%以上に達することを示す。
【0021】
以上のように、本発明の角膜上皮細胞への間葉系幹細胞の分化を誘導する無血清完全培地は誘導効率が最も高く、誘導時間が最も短く、普及の価値を有する。
【国際調査報告】