(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(54)【発明の名称】プリフォームを成形するための制御された剪断真空成形
(51)【国際特許分類】
B29C 70/44 20060101AFI20220722BHJP
B29C 43/12 20060101ALI20220722BHJP
B29C 70/16 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
B29C70/44
B29C43/12
B29C70/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570140
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 US2020032893
(87)【国際公開番号】W WO2020242777
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パーキンソン, ロバート
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG28
4F204AJ03
4F204AM28
4F204AR02
4F204FA01
4F204FA13
4F204FA15
4F204FB01
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG28
4F205AJ03
4F205AM28
4F205AR02
4F205HA09
4F205HA23
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HC02
4F205HC05
4F205HF30
4F205HG01
4F205HK03
4F205HK04
(57)【要約】
シワが生じるのを防ぐために抑止装置を真空引き中に使用して成形型上でプリフォーム材料から3次元構造体を成形することを含む、制御された剪断真空成形方法。真空引き中に抑止装置を離脱させることにより、プリフォーム材料を成形型の側壁と徐々に接触させることができる。このような成形方法は、屈曲セクション及び/又は湾曲した外形を有する翼桁を成形するのに特に適している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元プリフォームを製造するための剪断真空成形方法であって、前記方法が、
(a)長さと、凸状屈曲セクションを有する、前記長さに沿ったウェブ表面と、フランジを形成するために前記ウェブ表面から延びる2つの連続した側壁とを有する成形型を設けることと、
(b)可撓性ダイヤフラム上にプリフォーム材料を配置することと、
(c)前記成形型の前記ウェブ表面が前記プリフォーム材料の一部分と接触するように、前記プリフォーム材料の上方に前記成形型を配置することと、
(d)前記成形型の各側壁の隣に少なくとも2つの可動式内側抑止装置を配置して、各内側抑止装置の一端が前記ウェブ表面の前記屈曲セクションに隣接するようにすることと、
(f)前記可撓性ダイヤフラム及び前記成形型によって画定された真空密閉チャンバを形成することであって、前記真空密閉チャンバが前記内側抑止装置及び前記プリフォーム材料を封入する、ことと、
(g)部分真空に到達するまで前記真空密閉チャンバから空気を排気して、前記可撓性ダイヤフラムが前記成形型に引き寄せられるようにすることと、
(h)前記真空密閉チャンバの排気中に、前記成形型の前記側壁に沿って各内側抑止装置を前記屈曲セクションから離れる方向に離脱させて、少なくとも2つの内側抑止装置が前記成形型の各側壁に沿って反対方向に移動し、それにより前記プリフォーム材料が前記成形型の前記側壁に徐々に接触できるようにすることと、
(i)前記抑止装置が離脱され、前記プリフォーム材料が前記成形型に適合した後に真空圧を上昇させ、それにより成形プリフォームを成形することであって、前記真空圧が前記成形プリフォームを固めるのに十分であり、
(g)において空気を排気する前に、又は(i)において前記成形プリフォームが成形された後に、前記プリフォーム材料を加熱するために加熱することが施される、ことと、
を含む、剪断真空成形方法。
【請求項2】
前記内側抑止装置が管状バルーンであり、好ましくは、各管状バルーンが、前記バルーンの中心に窄まり得る外側表面を有するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(d)において、前記内側抑止装置に隣接して外側抑止装置を配置して、各外側抑止装置が内側抑止装置に隣接するが、前記型に接触しないようにすることと、(h)において、前記内側抑止装置と連動して前記外側抑止装置を離脱させて、各外側抑止装置が前記隣接する内側抑止装置と同じ方向に移動するが、前記隣接する内側抑止装置がある初期時間だけ移動を開始した後にのみ移動するようにすることであって、
前記内側抑止装置及び前記外側抑止装置が管状バルーンの形態であり、好ましくは、各管状バルーンが、前記バルーンの中心に窄まり得る外側表面を有するように構成される、ことと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記内側抑止装置がキャタピラ軌道であり、各キャタピラ軌道が相互に連結されたリンクと板状のシューとを備えて、循環調帯を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記可撓性ダイヤフラムが弾性材料、好ましくは、ゴム、シリコーン、又はナイロンから作られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プリフォーム材料が無機繊維又は有機繊維、好ましくは、炭素繊維、ガラス繊維、及びポリマー繊維から選択される繊維を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プリフォーム材料が、一方向繊維又は織布の形態の強化繊維を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プリフォーム材料が、結合剤で処理された液体透過性のファブリックプライの組立体を含み、
前記プリフォーム材料を加熱することが、(i)において前記成形プリフォームが形成された後に行われて、前記結合剤を軟化させ、前記プリフォームの形状を硬化する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加熱することの後に、前記成形プリフォームを冷却することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プリフォーム材料が、複数のプリプレグプライのレイアップを積層構成で含み、各プリプレグプライが、熱硬化性樹脂マトリックス又は熱可塑性マトリックスに埋め込まれた強化繊維を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各プリプレグプライが、硬化可能な熱硬化性樹脂マトリックスに埋め込まれた強化繊維を含み、前記マトリックスが、1種以上のエポキシ樹脂及び硬化剤を含み、
前記プリフォーム材料を加熱することが、(g)において空気を排気する前に、前記熱硬化性樹脂マトリックスの前記硬化温度未満の温度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)の後に前記成形プリフォームを冷却することを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
各プリプレグプライが、熱可塑性ポリマーマトリックスに埋め込まれた強化繊維を含み、
前記プリフォーム材料を加熱することが、(i)において前記成形プリフォームが形成された後に行われて、前記熱可塑性ポリマー材料を軟化させ、前記プリフォームの形状を硬化する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
加熱することの後に、前記成形プリフォームを冷却することを更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プリフォーム材料が、2つ以上の液体透過性の繊維層を積層構成で含み、
各繊維層が、自動配置プロセスにおいて、複数の細長い又は連続した繊維材料のテープを並べて堆積することによって形成され、
各細長い又は連続した繊維材料のテープが、一方向繊維の層の少なくとも片側に積層された不織布ベールと、前記不織布ベール及び前記一方向繊維を一緒に保持するのに十分な量の結合剤であって、好ましくは、結合剤の前記量が、前記テープの総重量を基準にして15重量%以下である、結合剤とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各細長い又は連続した繊維材料のテープの前記不織布ベールが、不規則に配置された炭素繊維又は熱可塑性繊維を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、繊維強化複合材部品の製造に関する。
【図面の簡単な説明】
【0002】
【
図1】翼桁セクションを成形するための湾曲した表面を有する成形型を示す。
【
図4】本開示の一実施形態による、制御された剪断真空成形方法の初期構成の断面図を示す。
【
図5】桁セクションを成形するための成形型の側方視プロファイルを示す。
【
図6】管状バルーンを抑止装置として使用する、制御された剪断真空成形のための構成の断面図を示す。
【
図8-10】様々な段階における制御された剪断真空成形プロセスを示す。
【
図11】剪断真空成形プロセスの結果として型表面に適合している成形プリフォームを示す。
【
図12】管状バルーンを抑止装置として使用する、制御された剪断真空成形のための代替的な実施形態を示す。
【
図13】キャタピラ軌道を使用する、制御された剪断真空成形のための代替的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0003】
航空宇宙産業及び自動車産業において、構造部品の作製に繊維強化複合材料が使用されてきた。繊維強化複合材料は、ポリマーマトリックスに埋め込まれた強化繊維を含む。繊維強化複合材料の軽量性は、金属から構成された同様の部品と比較した場合に特に有利である。平坦な2次元(2D)プリフォームブランクを成形型上で成形することにより、3次元(3D)複合部品を製造することができる。プリフォームブランクは、積層構成の複数のプリプレグプライから構成され得る。各プリプレグプライは、エポキシ系樹脂又は熱可塑性ポリマーなどの硬化性マトリックス樹脂を含浸させた、連続した強化繊維から構成される。プリプレグの複数のプライは、積層するための大きさに切断された後、組み立てられて成形型上で成形され得る。任意選択で、成形面の形状へと徐々に変形させるためにプリプレグに加熱が施されてもよい。或いは、2Dプリフォームブランクは、樹脂又はポリマーマトリックスを十分に含浸させていない複数の乾燥繊維層又はファブリックプライから構成され得る。このような繊維プリフォームブランクが、成形型上で熱及び圧力を用いて成形された後、レジントランスファー成形(RTM)又は真空支援レジントランスファー成形(VARTM)などの樹脂注入プロセスにおいて、成形プリフォームに液状樹脂が注入され得る。
【0004】
翼桁など、特定の航空機部品のための成形プリフォームを成形するために、
図1に示すような型表面に対して2D材料又は「ブランク」を適合させると、この材料が、間違った場所にあるプリフォームに存在することになり得る。
図1では、型の湾曲した上面S(又は「ウェブ表面」)に沿った2本の接線があり、これらの接線が交差して角度αを形成する。湾曲した上面Sは、型の側面Wと別の角度βを形成する。αは、そこで、シワが生じるほどの余分な材料が側面Wにあるほど大きくなくてもよい。型のウェブ表面S及び側面Wに対して2D材料を押し当ててサイドフランジを形成すると、角度α及び角度βの存在により、サイドフランジに余分な材料が存在することになり、そこにシワが生じる。
【0005】
複合材料の繊維強化材は、長さが塑性変形変化しにくいというその能力のために選ばれることが多いため、余分な材料は、プライ内又はプライ間で剪断することにより移動されなければならない。繊維は、固体マトリックスに支持されるまでは、座屈にあまり強くない。ファブリックプライから構成されたプリフォームは、可撓性ダイヤフラムでプリフォームを封入し、真空引きを施すことによって成形され得る。このような真空ダイヤフラム成形の際、プリフォーム内のファブリックプライの一部が座屈する時点に到達するのは、他のファブリックプライが剪断する時点よりも先であることが多い。このような問題は、L字形又はU字形の断面と桁の長さに沿った屈曲セクションとを有する翼桁用にプリフォームが作られる場合に特に起こりやすい。このような長い部分では、座屈への抵抗は厚さの増加によってのみ大きくなる一方で、同時に剪断しなければならない材料の量が長さ及び厚さに応じて増加するため、難しさが増す。
【0006】
本明細書では、シワが生じるのを防ぐために真空引き中に抑止装置を使用して成形型上でプリフォーム材料から3次元(3D)構造体を成形することを含む、制御された剪断真空成形方法が開示される。プリフォーム材料は、緩く積層されたファブリックプライとすることができ、緩く積層されたファブリックプライには、積層前又は積層中に結合剤が施される。また、プリフォーム材料は、結合剤によって予め接着されている繊維層の積層体であってもよい。このようなファブリックプライ及び繊維層は、多孔質であり液体透過性である。また、プリフォーム材料は、プリプレグプライのレイアップとすることもでき、各プリプレグプライは、ポリマー又は樹脂マトリックスに埋め込まれた繊維補強材を含む。このような成形方法は、屈曲セクション及び/又は湾曲した外形を有する翼桁を成形するのに特に適している。
【0007】
本開示の制御された剪断真空成形方法は、
(a)長さと、凸状屈曲セクションを有する、長さ次元に沿ったウェブ表面と、フランジを形成するためにウェブ表面から延びる2つの連続した側壁とを有する成形型を設けることと、
(b)可撓性ダイヤフラム上にプリフォーム材料(本明細書では「ブランク」と呼ばれる)を配置することと、
(c)成形型のウェブ表面がブランクと接触するように、中間ブランクの上方に成形型を配置することと、
(d)成形型の各側壁の隣に少なくとも2つの可動式内側抑止装置を配置して、各内側抑止装置の一端がウェブ表面の屈曲セクションに隣接するようにすることと、
(f)可撓性ダイヤフラム及び成形型によって画定された真空密閉チャンバを形成することであって、上記密閉チャンバが内側抑止装置及び中間ブランクを封入する、ことと、
(g)部分真空に到達するまで密閉チャンバから空気を排気して、可撓性ダイヤフラムが成形型に引き寄せられるようにすることと、
(h)密閉チャンバの排気中に、成形型の側壁に沿って各内側抑止装置を屈曲セクションから離れる方向に離脱させて、少なくとも2つの内側抑止装置が成形型の各側壁に沿って反対方向に移動し、それによりブランクが成形型の側壁に徐々に接触できるようにすることと、
(g)抑止装置が離脱され、ブランク全体が成形型に適合した後に真空圧を上昇させ、それにより成形プリフォームを成形することであって、真空圧が成形プリフォームを固めるのに十分である、ことと、
を含む。
【0008】
次に、一例として、側面視構成が
図2に示されている桁セクション10を成形することに関連して剪断真空成形方法を説明する。本明細書で開示される剪断真空成形方法は、他の幾何学的形状を有する構造体にも適用可能であることを理解されたい。桁セクション10は、
図2に示すように、その長さに沿って凸状屈曲セクション11を有し、
図3に示すように、U字形の断面を有する。
図3に示すように、桁セクションは、ウェブセクション13からこれに直交して延びるフランジセクション12及び12’を有する。
【0009】
図4は、剪断真空成形方法の例示的な初期構成を示す。この構成は、可撓性ダイヤフラム31上に配置されたプリフォーム材料又はブランク30と、プリフォームブランク30の上方に配置された成形型32と、可撓性ダイヤフラム31と係合する硬質な蓋33とを含む。成形型32は、ブランク30と接触するウェブ表面と2つの側壁とを有する。真空引きの際、ダイヤフラム31及び成形型32によって密閉真空チャンバが画定される。
図5は、屈曲セクションを有する型32の側方視プロファイルを示す。
【0010】
ダイヤフラム31は、ゴム、シリコーン、ポリアミド(ナイロン)、又はASTM D882の規定により100%超の破断伸びを有する同様の材料などの変形可能又は可撓性のシート状の材料とすることができる。
【0011】
真空圧をかける前に、
図6に示すように、管状バルーン(1、2)の形態の膨らませた抑止装置が真空チャンバに挿入され、成形型の各側壁に隣接する空間を充たす。このようにして、内側バルーン(1)が、型の側壁と、型と接触していないブランクの部分との間のスペーサとして配置される。
図7に示すように上から見ると、4つの内側バルーン(1)及び4つの外側バルーン(2)という、管状バルーンの4つのグルーピングがある。管状バルーンは、真空引きの際に、型の屈曲セクションから離れる方向(
図7において矢印で示す)に真空チャンバから取り外し可能である。各管状バルーンは、その外側表面がバルーンの内側の管の中心に窄まり得るように構成される。バルーンが型の長さに沿って型の屈曲セクションから引き離されるとき、バルーンはダイヤフラムとの間に摩擦を生じない。このような管状バルーンは、公知のウォータースネークバルーン玩具又はウォーターウィグラー玩具と構成が同様である。
【0012】
次に、
図8で示す真空チャンバに部分真空が施される。ダイヤフラム31の厚さに応じて、部分真空は、例えば、50~90mbarとすることができる。部分真空引きの際、内側及び外側バルーン(1、2)は型の屈曲セクションから離れる方向に真空チャンバから離脱されるが、内側バルーン(1)は
図9に示すように先に退避し始める。内側バルーン(1)は、離脱している間、型の側壁との接触を維持する。内側バルーンの退避端(1)と外側バルーンの退避端(2)との間には所定の距離が維持される。バルーンは、ダイヤフラム31が型の側壁にあまりに速く引き込まれて適合するのを外側バルーン(2)が防ぐように、連携して動く。
図10を参照すると、外側バルーンが離脱すると、内側バルーンに遮られていないブランク31の部分が、ダイヤフラム31の妨げられていないセクションによって、型の側壁に適合するように接触させられる。このように、バルーンの存在によって、ブランク31全体が同時に型の側壁に適合することが妨げられる。類似の二重曲率部品と同様に、屈曲セクション又は屈曲部におけるフランジには余分な材料がある。屈曲部のいずれかの側にあるフランジのすべての材料を剪断するのに必要な力は、屈曲部において材料を座屈させる力よりも大きくなり得るが、屈曲部におけるフランジが先に形成され、形成されたフランジの縁部と形成されていないフランジの縁部との間の距離が、フランジがウェブセクションと接合する対応する位置の間の長さよりも大きいため、余分な材料は屈曲部から徐々に剪断される。
【0013】
すべてのバルーンが真空チャンバから離脱されると、真空度を上げて(例えば、完全真空又は1気圧の真空まで)、結果として得られる成形プリフォームの体積を減らす、すなわちプリフォームの繊維層を固める。結合剤を含み、周囲温度では可撓性である特定のプリフォーム材料については、完全に真空にした後に熱を加えてプリフォームの結合剤を固める。熱硬化性プリプレグなどの他のプリフォーム材料については、部分真空の前に熱を加えてプリプレグの樹脂マトリックスを軟化させる。プリフォーム材料が熱硬化性プリプレグから構成される場合、軟化温度は、室温(20℃~25℃)超であるが、プリプレグの樹脂マトリックスの硬化温度未満、例えば最大60℃までである。プリフォーム材料が熱可塑性プリプレグから構成される場合、非晶性熱可塑性ポリマーが使用されるならばポリマーマトリックスのガラス転移温度超の温度まで、また半結晶性熱可塑性ポリマーが使用されるならば融点超の温度まで、プリフォーム材料を加熱する。
【0014】
剪断真空成形中の加熱は、例えば、可撓性ダイヤフラムの下方と型の上方とに配置された赤外線ランプ、又は型に埋め込まれた電気ヒータ、又は型に埋め込まれた液体充填加熱パイプによって行われ得る。
【0015】
完全真空下での固化及び(完全真空の前又は後のいずれかの加熱の後、成形プリフォームを冷却する。真空圧は、プリフォームの結合剤又はマトリックス材料が冷却され、プリフォームの形状を維持するのに十分に固まるまで維持することが好ましい。成形プリフォームが冷えた後、真空チャンバの真空圧が大気への排気により解除され、蓋が持ち上げられる。
図11は成形型32の側面図を示しており、ダイヤフラム31はなく、成形型32上に成形プリフォーム30がある。
【0016】
成形プリフォームが多孔質で液体透過性の繊維層から構成される場合、成形プリフォームを型から分離した後、真空支援RTMプロセスなどの樹脂注入プロセスで液状樹脂を注入する。その後、樹脂注入したプリフォームを硬化して固化複合材構造物を形成する。
【0017】
成形プリフォームが熱硬化性プリプレグから構成される場合、成形型上で完全に硬化させることもでき、又はオーブンなどの硬化ツールに移すこともできる。任意選択で、硬化前に、より厚いプリフォームを形成するために、成形プリフォームが付加的な成形プリフォームと組み合わされる。
【0018】
本明細書で開示される剪断真空成形方法では、型の各側にあるバルーンの数を変えてもよい。例えば、
図12に示すように、3つのバルーン(1、2、3)のグループを型の側壁に隣接する空間に挿入してもよい。
図12の構成は、バルーンの数以外は
図11の構成と実質的に同じである。
【0019】
図6~
図12に示すような管状バルーンの代わりに、キャタピラ軌道が部分真空引きの際の抑止装置として使用されてもよい。自身に折り重なるキャタピラ軌道は、シワが生じるのを防止するように管状バルーンと同様に機能する。
図13は、管状バルーンの代わりに、キャタピラ軌道51、52がどのように使用され得るかを説明する側面図である。キャタピラ軌道51、52は、管状バルーンについて説明したのと同様に、プリフォームの真空成形中に型の屈曲セクションから離れるように移動する。各キャタピラ軌道は、蝶番要素によって相互に接続されたリンクの連鎖を備える。各リンクには、リンクに対して機械的又は一体的のいずれかで、一般に板状で、ゴムなどの弾性材料で作られるトラックシューが取り付けられる。略板状のトラックシューが連結されて、循環調帯を形成する。トラックシューは、平坦な外側表面を有して、軌道の重量を分散させるとともに、真空成形時に使用されるダイヤフラムの損傷を防止する。
【0020】
プリフォーム材料
プリフォーム材料を構成するファブリックプライ又は複数の繊維層としては、不織布マット、織りファブリック、編みファブリック、及び非クリンプ化ファブリックを挙げることができる。このようなプリフォームブランクは多孔質且つ液体透過性である。「マット」は、その形態を維持するために結合剤が施されているチョップド繊維フィラメント(チョップドストランドマットを生成するため)又は渦巻き状のフィラメント(連続ストランドマットを生成するため)などの、不規則に配列された繊維から作られている不織テキスタイルファブリックである。好適なファブリックとしては、メッシュ、トウ、テープ、スクリム、組みひも、及び同様のものの形態で、方向性又は非方向性整列繊維を有するものが挙げられる。
【0021】
熱硬化性プリプレグプライから構成されたプリフォーム材料では、各プリプレグプライは、硬化すると固まる熱硬化性樹脂マトリックスに埋め込まれた強化繊維から構成される。熱硬化性樹脂マトリックスは、1種以上の熱硬化性樹脂と硬化剤とを含み得る。好ましくは、熱硬化性樹脂マトリックスは、少なくとも1種のエポキシ樹脂、好ましくは、異なるエポキシ樹脂のブレンド、及び少なくとも1種の硬化剤を含む。エポキシ樹脂と硬化剤とを組み合わせて、熱硬化性樹脂マトリックスの50重量%超、例えば、60重量%~100重量%を構成する。
【0022】
適切なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のポリグリシジル誘導体が挙げられる。適切なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールS及びビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル、並びにクレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0023】
硬化剤は適切には、公知の硬化剤、例えば、芳香族又は脂肪族アミン、又はグアニジン誘導体から選択される。
【0024】
本開示で使用される場合、「埋め込まれた」という用語は、周囲の塊にしっかりと深く固定されていることを意味し、「マトリックス」という用語は、例えば、何かが封入された又は埋め込まれたポリマーなどの、材料の塊を意味する。
【0025】
熱可塑性プリプレグプライから構成されたプリフォーム材料では、各プリプレグプライは、熱可塑性ポリマーマトリックスに埋め込まれた強化繊維から構成される。熱可塑性ポリマーマトリックスは、1種以上の熱可塑性ポリマーを含み、これは、非晶性又は半結晶性であり得る。熱可塑性ポリマーは、全体として、ポリマーマトリックスの大部分の成分を構成する、すなわち、ポリマーマトリックスの50重量%超、例えば、80~100重量%が熱可塑性ポリマーから構成される。適切な熱可塑性ポリマーとしては、これらに限定されないが、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)、特にポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(PPSU)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)などのポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー、ポリフタルアミド(PPA)、熱可塑性ポリウレタン、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、及びこれらのコポリマーが挙げられる。
【0026】
繊維層又はプリプレグ中の強化繊維は、有機若しくは無機繊維、又はこれらの混合物であってもよい。有機繊維は、強靭又は剛性のポリマー、例えば、アラミド(Kevlarを含む)、高弾性ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾビスオキサゾール(PBO)、及びこれらのハイブリッド組み合わせから選択される。無機繊維としては、炭素(グラファイトを含む)、ガラス(E-ガラス又はS-ガラス繊維を含む)、石英、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、及び他のセラミックから作られている繊維が挙げられる。高強度複合材構造物、例えば、飛行機の主部を作製するために、強化繊維は、ASTM D4018試験方法にしたがって、好ましくは≧3500MPa(又は≧500ksi)の引張り強度を有する。
【0027】
自動テープ積層(Automated Tape Laying、ATL)又は自動繊維配置(Automated Fiber Placement、AFP)などの自動配置方法が、所望の厚さの中間プリフォームブランクを1層ずつ積み上げるために使用され得る。ATL/AFPプロセスは、繊維材料(「繊維テープ」)の複数の幅狭のストリップ又はプリプレグテープを並べて型表面上に自動的に分配して、「プライ」と呼ばれる大きな寸法の層を作ることを伴う。付加的なプライを、先に配置されたプライ上に順次に積み重ねて、所望の厚さを有するレイアップを製造する。繊維テープは多孔質で、ほとんどが繊維から構成される一方で、プリプレグテープは多孔質ではなく、多量の樹脂が含浸されている。
【0028】
上述の自動配置方法において使用するための繊維テープ又はプリプレグテープは、連続的な長さ及び狭い幅を有し、例えば、幅は、1/8インチ~1.5インチ(すなわち3.17mm~38.1mm)、特に、1/4インチ~1/2インチ(すなわち6.35mm~12.77mm)であってもよく、これはAFPに典型的である。繊維テープは、より広い幅、例えば、6インチ~12インチ(すなわち152mm~305mm)を有してもよく、これはATLに典型的である。
【0029】
従来の予備含浸テープ(又はプリプレグテープ)と異なり、プリフォーム材料を形成するための繊維テープは、繊維を一緒に保持するために十分である少量の結合剤を除いては樹脂を実質的に含有しない。繊維テープ内の結合剤の全含有量は、繊維テープの全重量に基づいて約15重量%以下、例えば、0.1~15重量%の間であってもよい。繊維は、繊維テープの主成分を構成し、例えば、繊維テープの全重量に基づいて80重量%超を占める。
【0030】
一実施形態において、繊維テープは、不織布ベールに少なくとも片面に積層される一方向繊維の層から構成される。「一方向繊維」は、同じ方向に互いに平行に整列する繊維を意味する。一方向繊維は、例えば炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、及びアラミド繊維などの高強度強化繊維である。不織布ベールは、熱可塑性繊維、炭素繊維、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。ベールの繊維は、ベールの製造プロセス条件に応じて、不規則に配置されても不規則に配向されてもよい。或いは、不織布ベールは、熱可塑性グリッド又は制御された開口パターンを有する多孔質熱可塑性膜の形態であってもよい。不織布ベール(不規則繊維、グリッド又は多孔性膜の形態であるかに関わらない)の多孔性は、樹脂注入プロセスの間の空気の除去及び樹脂流れを容易にするために重要である。熱可塑性ベールが使用されるとき、それはまた、一方向繊維を所定の位置に保持するための結合剤として機能し、本明細書に開示される自動配置方法の間に加熱することによって軟化する。いくつかの実施形態において、不織布ベールの面積重量は10gsm以下、例えば1~10gsmである。
【0031】
一実施形態において、繊維テープは、一方向炭素繊維の層の片面に積層される不織布炭素ベールから構成され、ベールと一方向繊維とを所定の位置に保持するために十分な量において結合剤組成物を含有する。
【0032】
結合剤
プリフォームブランクにおける、緩く積層されたファブリックプライ又は繊維層を結合するための結合剤は、粉末、スプレー、液体、ペースト、フィルム、繊維、及び不織布ベールを含む様々な形態であってもよい。結合剤材料は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性樹脂、及びこれらの組み合わせから選択されてもよい。特定の実施形態においては、結合剤は、熱可塑性材料、又は熱硬化性材料、又は熱可塑性材料と熱硬化性材料とをブレンドしたものから形成されたポリマー繊維の形態をとっていてもよい、他の実施形態においては、結合剤は熱可塑性繊維(すなわち熱可塑性材料から形成された繊維)と熱硬化性繊維(すなわち熱硬化性材料から形成された繊維)との混合物である。そのようなポリマー繊維は、プリフォームの繊維層間に挿入するために、不規則に配置されたポリマー繊維から構成される不織布ベールとしてプリフォームブランクの中に組み込まれてもよい。
【0033】
一例として、結合剤材料は、粉末状のエポキシ樹脂であってもよい。別の例として、結合剤材料は、1種類以上の熱可塑性ポリマーと1種類以上の熱硬化性樹脂とを粉末状にしてブレンドしたものであってもよい。別の例として、結合剤材料は熱可塑性繊維から構成された不織布ベールである。
【0034】
スプレー形態で施す場合、結合剤材料は適切には、ジクロロメタンなどの溶媒に溶解され得る。溶媒が使用される場合、その後で溶媒を除去することが必要である。フィルム形態では、結合剤樹脂組成物は、フィルムを形成するために剥離紙の上に成膜(例えばキャスティングにより)され、これがその後にプリフォームの繊維層に移動されてもよい。結合剤は、粉末形態の場合、繊維層上に分散されてもよい。結合剤材料としてポリマー繊維の不織布ベールを使用した場合、各ベールは、プリフォームのレイアップ時に隣接する繊維層の間に挿入される。
【0035】
好ましくは、プリフォームの結合剤の量は、プリフォームの総重量を基準にして、約20重量%以下、好ましくは、0.5重量%~10重量%、より好ましくは、0.5重量%~6重量%である。
【0036】
プリフォームの結合剤は、RTMなどの液状樹脂注入技法によってプリフォームに注入される多種多様なマトリックス樹脂との使用に適している。更に、結合剤は、プリフォームに注入されるマトリックス樹脂と化学的且つ物理的に適合するように選択される。
【0037】
乾燥プリフォームをRTMなどの樹脂注入プロセスで使用する場合、結合剤が繊維層の表面に不透過性の膜を形成しないことが好ましく、膜が形成されると、樹脂注入サイクル中にマトリックス樹脂がプリフォーム材料の厚さを十分に貫通することを阻止する可能性がある。
【国際調査報告】