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特表2022-534440生体分子のデジタルマルチプレックス検出および/または定量化の方法ならびにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(54)【発明の名称】生体分子のデジタルマルチプレックス検出および/または定量化の方法ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/682 20180101AFI20220722BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220722BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220722BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
C12Q1/682 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571454
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2020064773
(87)【国際公開番号】W WO2020239876
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19305670.2
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】504301959
【氏名又は名称】インスティテュート ナティオナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】517124642
【氏名又は名称】エコール シュペリュール ドゥ フィジーク エ ドゥ シミ アンドゥストゥリエール ドゥ ラ ヴィーユ ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】521520968
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レトゥル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ギネス ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ロンデレーズ ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】ジェ トマ
(72)【発明者】
【氏名】タリー ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR83
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS40
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、試料中の複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法であって、前記生体分子は、DNA、RNA、およびタンパク質から選択される、デジタルマルチプレックス方法に関する。本発明は、デジタルマルチプレックス方法の様々な応用およびキットにさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法であって、以下のステップ、
a)粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物を、変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化するステップ、
b)ステップa)で官能化された粒子に、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードを追加するステップ、
c)ステップb)で得られた粒子を試験試料と接触させて、前記複数種の標的生体分子を捕捉するステップ、
d)前記標的生体分子を捕捉したかまたは捕捉しなかった前記粒子を、緩衝液、酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、および任意にオリゴヌクレオチドを含む共通の増幅混合物に再懸濁するステップ、
e)各粒子が独立して反応し得るように、ステップd)で得られた懸濁物中の前記粒子を互いに分離するステップ、
f)各標的生体分子が、前記標的を担持する前記粒子上に増幅シグナルを生成する増幅反応を誘発するように、前記粒子を一定の温度でインキュベートするステップ、および
g)各粒子のバーコードシグナルおよび増幅シグナルを含む、前記粒子のシグナルを検出および/または測定するステップ
を含む、デジタルマルチプレックス方法。
【請求項2】
ステップa)における粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物の官能化は、前記第1のオリゴヌクレオチドおよび前記第2のオリゴヌクレオチドを用いて実施され、
前記第3のオリゴヌクレオチドおよび前記第4のオリゴヌクレオチドは、ステップd)にて増幅混合物に添加される、
請求項1に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項3】
ステップa)およびb)は同時に実施される、請求項1または2に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項4】
前記粒子を回収するステップe1)をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項5】
ステップd)で使用される酵素は、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項6】
ステップd)で得られる懸濁物は、ステップe)にて、0.001~100pL、好ましくは0.01~10pL、より好ましくは0.1~5pLの間に含まれる液滴サイズを好ましくは有する液滴、好ましくは油中水型エマルジョン液滴へと分離される、請求項1~5のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項7】
ステップf)における一定の温度は、30~55℃、好ましくは37~52℃、より好ましくは45~50℃の間に含まれる、請求項1~6のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項8】
前記官能化された粒子は、10nm~500μm、好ましくは100nm~100μm、より好ましくは50nm~10μmの間に含まれるサイズを有する多孔性または非多孔性粒子およびヒドロゲル粒子から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項9】
前記バーコードシグナルを検出および/または測定するステップg)は、前記標的生体分子に付随する各粒子のバーコードシグナルおよび前記増幅に起因するシグナルを検出および/または測定することを含み、前記バーコードシグナルは、好ましくは蛍光シグナルである、請求項1~8のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項10】
前記標的生体分子は、同じ種類または異なる種類であり、前記生体分子は核酸またはタンパク質である、請求項1~9のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項11】
前記標的生体分子は、核酸であり、好ましくは、DNA、cDNA、RNA、mRNA、およびマイクロRNAを含む群から選択され、より好ましくは、前記核酸はマイクロRNAである、請求項10に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項12】
前記標的生体分子は、バイオマーカーとして使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法。
【請求項13】
がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患の診断のためのin vitro方法であって、請求項1~12のいずれか1項に記載のデジタルマルチプレックス方法を使用することを含む、in vitro方法。
【請求項14】
- 生物的ストレス、好ましくは感染性および/もしくは寄生性起源により引き起こされる疾患、または
- 非生物的ストレス、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患の農学的診断のためのin vitro方法であって、
請求項1~12のいずれか1項に記載のマルチプレックスデジタル方法を使用することを含む、in vitro方法。
【請求項15】
複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化されており、様々な生体分子を標的とする粒子の識別を可能にする様々なバーコードが付加されている粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物、
b)ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から好ましくは選択される酵素の混合物、および
c)分離剤
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的分子設計を有する等温増幅に基づき、試料中のDNA、RNA、およびタンパク質などの複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法に関する。本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患の診断のための方法、ならびに農学的診断のための方法にさらに関する。また、本発明は、食品農業食品分野のおよび環境中のバイオマーカー(生体分子)を検出するための方法にも関する。こうした診断および検出方法はすべて、本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することを含む。また、本発明は、複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、オリゴヌクレオチドで官能化された粒子、酵素、および分離剤を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNA、またはタンパク質などの幾つかの生体分子は、魅力的な診断、予後、または予測バイオマーカーとして使用される。こうした分子および特に核酸は、種々の疾患(がん、神経または心血管疾患、糖尿病など)に密接に関連するという臨床的証拠が蓄積されている。さらに、こうした分子および特に核酸は、体液中に存在するため、低侵襲性液体生検(血清、血漿、尿)を介してアクセス可能である。循環バイオマーカーは繰り返して評価することができるため、治療および再発の定期的な経過観察、大規模集団スクリーニング、または早期診断が可能になる。
しかしながら、循環中の核酸、特にRNA、より具体的にはmiRNAを臨床マーカーとして使用することは、複雑な生物流体中に高度に希釈されている標的分子の定量化を必要とするため、依然として困難である。さらに、多くの場合では、診断を確立するために1種よりも多くの標的を測定する必要がある。そのため、1セットの核酸バイオマーカーを精密に測定することが重大なボトルネックになっており、高感度で定量的なマルチプレックス検出技術の開発が促されている。
幾つかのタンパク質の高感度検出に最もよく使用される技法は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であり、核酸の場合は、DNAを検出するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびRNAを検出するための逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)である。こうした手法はすべて、特異的で高感度な検出を可能にするが、幾つかの欠点があり、特に高感度で定量的なマルチプレックス検出のために強化される必要がある。
【0003】
例えば、現在、PCRによるADNの定量化には、標的核酸の増幅が伴う。これにより持ち越し夾雑が誘導され、検出方法の特異性および感度の減少を招く可能性がある。
RNA、特にmiRNAを検出するための古典的な方法としては、DNA(またはLNA-ロックド核酸)マイクロアレイ([1]~[5])およびPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)ベース技法(RT qPCR-逆転写定量的PCRまたはRT dPCR-RTデジタルPCR、[6]~[9])が挙げられる。マイクロアレイは、大きなマルチプレックス容量(最大で数百種の標的)を提供する。しかしながら、マイクロアレイには、感度および特異性が不良であるという問題がある。さらに、こうした方法では、結果は実験条件に大きく依存するため、効率的な定量化が可能ではない。逆に、PCRベースの方法は良好な感度を示すが、同時に検出される標的は最良の場合でも少数種に制限される。加えて、PCRベースの方法は、多段階手順、データ正規化、および/または標準較正を必要とし、これらはすべて著しいバイアスを導入する。まとめると、両技法は、高度に希釈された標的のマルチプレックスで定量的な検出および/または測定に最適なものではない。
上記で言及した欠点は、デジタル手順を使用して克服することができる。デジタル技法は、反応試料を数多くの小さな区画、例えば微視的液滴に分配することを含み、それらの中にある個々の分子の存在が報告され、直接的な計数が可能である。デジタル技法には、幾つかの利点がある:特に、i)エンドポイントアッセイと適合性であり、反応を継続的にモニターする必要がないこと;ii)較正標準物を用いずに絶対的定量化を提供すること;iii)究極的な感度を提供すること;iv)特に複雑なバックグラウンド内の稀少標的の場合、アッセイの感度および特異性も向上すること。
【0004】
例えば、デジタルPCR(dPCR([19]、[20]))は、マイクロ区画内の個々の標的の単離および増幅に基づくものであり、デジタル単一分子計数により絶対的定量化を可能にする。デジタル読出しは、アッセイ較正を必要とせずに絶対的定量化を提供する。これには、シグナル増幅前の単一標的分子の区画化が活用される。その結果、標的を受け取っている区画のみが増幅され、陽性(1)シグナルを表示することになり、他の区画は陰性(0)のままである(したがって、「デジタル」という用語がふさわしい)。ポアソンの法則を適用することにより、標準較正に基づくアナログ読出しよりもはるかに高い精度で正確な濃度を算出することができる。
しかしながら、デジタルPCRには、プロトコール最適化が面倒であること、阻害剤に対して感受性であること、および核酸検出、特にマイクロRNA検出に必要な逆転写ステップにより定量化にバイアスがかかることに関するPCR増幅化学の欠点が残る([10]~[13])。その上、マルチプレックス化された形式のデジタルアッセイは十分に検討されておらず、それぞれプライマー対間にクロストーク反応があることおよびスペクトル分解蛍光プローブの選択が限定されることにより、3~5種のバイオマーカーの組合せに制限されている([14]~[16])。
【0005】
核酸(DNA、RNA)の高感度検出は、主にPCRベース技法による標的増幅に基づく。その感度は非常に高いものの(単一分子まで)、この技法には、注意深いプライマーおよびプローブ設計、サーモサイクルプロトコールの最適化、および高価な機器が必要とされる。加えて、RNA検出に必要な逆転写ステップは、定量化バイアスを導入することが知られている[13]。リボ核酸の検出には、RNA配列を、PCR増幅に使用可能なDNA鎖へと変換する追加の逆転写ステップが必要であるため、定量化にバイアスがかかる。
等温代替法が提案されており、それらの一部は逆転写ステップに依存しないが、指数関数的増幅機序は、非特異的増幅の原因となるリーキー反応(leaky reaction)を起こし易い[17]。この固有な非特異的反応性により、こうした技法を日常的な分析に使用することが妨げられている。最先端のタンパク質および小型分析物検出は、抗原/抗体認識を使用するELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)手法に依存している。これには、感度の制限があり、高濃度の分析物の検出に好適であるに過ぎない。抗体認識を核酸増幅とカップリングすると、イムノアッセイ(免疫PCR[18])の特異性および感度が向上することに留意されたい。
【0006】
マルチプレックスPCRおよびマルチプレックスELISAアッセイが記載されており、これらは一般に直交性プローブおよび/または増幅化学に基づくものであり、標的の数は10種未満(一般に3~5種)に制限される。
PCRなどのマルチプレックスアッセイベース反応に関する別の一般的な問題は、検出しようとする各標的生体分子には、独立した指数関数的反応が必要とされることである。例えば、3種の標的を測定するには、3つの増幅反応が、同じ実験条件で相互に影響を及ぼすことなく作用するように最適化されている必要がある。この複数の直交増幅系の使用は、複雑な実験計画および反応条件の面倒な最適化に結び付く。
一方で、マイクロアレイは、標的の空間的分解捕捉に基づくものであり、一度に数百種のマーカー検出が可能である。そのようなアレイはマルチプレックス容量が高いにも関わらず、読出しはアナログである。つまり、試料の平均濃度は、結合した標的の数から算出され、そのため感度が制限される。加えて、データ正規化にバイアスがかかるため、測定の定量性が不良である。
【0007】
したがって、デジタルアッセイは、使い易さおよび定量化の点で明らかな利点を提供するが、より良好な診断を可能にするにはマルチプレックス化されたアプローチが必要とされている。マルチプレックス化された形式のデジタルアッセイは十分に検討されておらず、ごく少数の組合せに制限されている(最良の場合でも3~6種のバイオマーカー[16])。非DNA標的の場合、デジタルPCRには、qPCRに関連付けられる同じ問題がある(つまり、変換ステップ、複雑なプロトコール設計、サーモサイクル、酵素の阻害)。
本発明の目的は、好ましくは、生体高分子、特に核酸などの、バイオマーカーとして使用される複数種の生体分子を検出および/または定量化する際に絶対的定量化およびより高い感度を可能にするが、上述の欠点を有しないデジタルマルチプレックス検出および/または定量化方法を提供することである。また、目的は、すべての標的に単一の増幅機序を使用することにより、マルチプレックスアッセイの設計を単純化することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の発明者らは、複数種の核酸を検出するようにも構成されている、核酸を検出するためにバックグラウンド増幅を排除するためのアナログ方法を以前に開発した(国際公開第2017140815号パンフレット)。本発明の発明者らは、驚くべきことに、好ましくはバイオマーカーとして使用される複数種の生体分子の検出感度を増加させること、幾つかのアッセイの実施を必要とせずに単一の測定にてこうした生体分子を正確に定量化することを可能にするデジタルマルチプレックス方法を得るために、このアナログマルチプレックス方法をデジタル化することに成功し得ることを見出した。
【0009】
したがって、第1の態様によると、本発明は、試料中の複数種の生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法であって、
a)粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物を、変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(leak absorption oligonucleotide)(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化するステップ、
b)ステップa)で官能化された粒子に、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードを追加するステップ、
c)ステップb)で得られた粒子を試験試料と接触させて、複数種の標的生体分子を捕捉するステップ、
d)標的生体分子を捕捉したかまたは捕捉しなかった粒子を、緩衝液、酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、および任意にオリゴヌクレオチドを含む共通増幅混合物に、再懸濁するステップ、
e)各粒子が独立して反応し得るように、ステップd)で得られた懸濁物中の粒子を互いに分離するステップ、
f)各標的生体分子が、標的を担持する粒子上に増幅シグナルを生成する増幅反応を誘発するように、粒子を一定の温度でインキュベートするステップ、および
g)各粒子のバーコードシグナルおよび増幅シグナルを含む、粒子のシグナルを検出および/または測定するステップ
を含むデジタルマルチプレックス方法に関する。
【0010】
本発明の方法は、生体分子標的、特に核酸標的のマルチプレックスおよびデジタル検出を可能にし、したがって、単一アッセイで複数種の標的の絶対的濃度へのアクセスを可能にする。さらに、前記方法では、捕捉ステップc)後に粒子を洗浄することができるため、生物学的試料などの複雑な媒体から目的の生体分子標的を直接定量化することが可能になる。実際、PCRまたは他の溶液中等温増幅化学などの標準的アッセイでは、試料の混合物および増幅混合物は、通常、試料中に存在する不純物により夾雑されている。したがって、定量化する前に、核酸分子を精製しなければならない。本発明のデジタルマルチプレックス方法では、粒子が標的生体分子を不可逆的に捕捉するため、粒子を試験試料と接触させる前に追加の抽出/精製ステップを行う必要はない。
【0011】
本発明のデジタルマルチプレックス検出および/または定量化方法の別の利点は、試料中の標的生体分子の存在量に応じて、ダイナミックレンジを調整することができることである。実際、本方法の感度は、主に粒子数/標的数比(ポアソンの法則から濃度を算出するために使用される)に依存する。したがって、本発明の方法では、標的生体分子の(予想)存在量に従って粒子数を調整することが可能であり、それにより、より正確な検出および使用される物質の量の制御が可能になる。
さらに、特にRNAを検出および/または定量化する場合、RT-PCRアナログ方法と比較した本発明の方法の利点は、1)アッセイの定量性を妨げる可能性がある逆転写ステップを必要としないこと、2)PCRステップに必要な高温および温度サイクルを必要としないこと、3)等温増幅は、粗試料に見出される可能性があり、PCR反応を阻害することが示されている多数の化学物質に対してロバストであり([30]および[4])、標的生体分子が増幅されないため、交差夾雑問題が回避されることである。
【0012】
本発明のデジタルマルチプレックス方法のさらに別の利点は、あらゆる複数種の生体分子に対して単一の増幅機序を使用することによりその設計が単純化されることである。
また、本発明者らは、本発明の方法を使用して、生体分子を含む任意のタイプの試料、例えば、血液試料および他の生物学的流体から生体分子を直接検出することができることを実証した。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、医学的診断方法、特に、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患などの疾患の診断に、本方法を使用することを可能にする。
また、第2の態様によると、本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含むかまたはからなる群から選択される疾患の診断のためのin vitro方法であって、前記診断方法は、本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することを含むin vitro方法に関する。
【0013】
また、本発明のデジタルマルチプレックス方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、特に、感染性および寄生虫性疾患などの生物的ストレスにより引き起こされる疾患、または栄養欠乏もしくは不利な環境などの非生物的ストレスにより引き起こされる疾患の診断のための農学的診断方法に、本方法を使用することを可能にする。
また、第3の態様によると、本発明は、
- 生物的ストレス、好ましくは感染性および/もしくは寄生虫性起源により引き起こされる疾患、または
- 非生物的ストレス、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患の農学診断のためのin vitro方法であって、
本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することを含む、in vitro方法に関する。
本発明の方法を実施するためのキットも提供される。
【0014】
したがって、第4の態様によると、本発明は、複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化されており、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードが付加されている粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物、
b)好ましくは、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、エキソヌクレアーゼ、およびデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含む群から選択される酵素の混合物、ならびに任意にオリゴヌクレオチド、ならびに
c)分離剤
を含むキットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記に示されているように、本発明は、最近のバックグラウンドフリー増幅化学(background-free amplification chemistry)を支持体化形式(つまり化学反応の少なくとも一部が、支持体上で実施される)およびデジタル読出しに適応させ、したがって複数種の標的生体分子の絶対的定量化を提供することに関する。前記デジタル化は、幾つかのアッセイを実施する必要なく、感度および精度が向上した、複数種の生体分子、好ましくはバイオマーカーとして使用される複数種の生体分子の検出および/または定量化を可能にする。
【0016】
複数種の生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法
したがって、第1の態様によると、本発明は、試料中の複数種の生体分子を検出および/または定量化するためのデジタルマルチプレックス方法であって、
a)粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物を、変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化するステップ、
b)ステップa)で官能化された粒子に、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードを追加するステップ、
c)ステップb)で得られた粒子を試験試料と接触させて、複数種の標的生体分子を捕捉するステップ、
d)標的生体分子を捕捉したかまたは捕捉しなかった粒子を、緩衝液、酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、および任意にオリゴヌクレオチドを含む共通増幅混合物に再懸濁するステップ、
e)各粒子が独立して反応し得るように、ステップd)で得られた懸濁物中の粒子を互いに分離するステップ、
f)各標的生体分子が、標的を担持する粒子上に増幅シグナルを生成する増幅反応を誘発するように、粒子を一定の温度でインキュベートするステップ、および
g)各粒子のバーコードシグナルおよび増幅シグナルを含む、粒子のシグナルを検出および/または測定するステップ
を含むデジタルマルチプレックス方法に関する。
本発明によるデジタル方法は、複数種の生体分子を同時に検出および/または定量化することを可能にし、前記生体分子は、同じまたは異なる構造および機能を有する。そのため、本発明の方法は「マルチプレックス」方法と呼ばれる。
【0017】
本発明の状況では、「生体分子」という用語は、タンパク質、炭水化物、脂質、および核酸などの大型の巨大分子または生体高分子、ならびに一次代謝産物、二次代謝産物、および天然産物などの小型分子に関する。本発明における生体分子は、通常は内因性であるが、外因性(例えば、生物医薬薬物)であってもよい。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の1つの好ましい実施形態によると、生体分子は、タンパク質および核酸を含む群から選択される。前記タンパク質は、好ましくは酵素である。
本発明の状況では、「酵素」という用語は、触媒機能を有し、分子基質の変換を触媒することができるタンパク質を指す。本発明のデジタルマルチプレックス方法により検出および/または定量化することができる酵素の群は、ニッキング酵素、制限エンドヌクレアーゼ、ADN N-グリコシラーゼ、AP-エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼARN/ADNポリメラーゼ、リガーゼ、およびメチラーゼから選択される。より具体的には、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、ニッキング酵素および制限エンドヌクレアーゼを特定および/または定量化するために実施することができる。
【0018】
より好ましくは、本発明の生体分子標的は、DNA、cDNA、RNA、mRNA、マイクロRNAなどの核酸であり、さらにより好ましくは、それらはリボ核酸(RNA)である。
本発明の状況では、「核酸」という用語は、ヌクレオチドで構成される生体高分子または小型生体分子に関し、ヌクレオチドは、3種の成分:5炭素糖、リン酸基、および窒素含有塩基で出来ているモノマーである。糖が化合物リボースである場合、ポリマーはRNA(リボ核酸)であり、糖が、リボースに由来するデオキシリボースである場合、ポリマーはDNA(デオキシリボ核酸)である。
上記で言及されているように、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、分子をコードするDNA分子または相補的DNA(cDNA)を検出および/または定量化するために使用することができる。
さらにより好ましくは、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、メッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)から選択されるリボ核酸(RNA)分子を検出および/または定量化するために使用される。
【0019】
最も好ましい実施形態によると、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、マイクロRNA分子を検出および/または定量化するために使用することができる。
本発明の状況では、「マイクロRNA」という用語は、遺伝子発現の転写後調節に関与する約22ヌクレオチドの長さを有する内因性短鎖非コードRNA鎖を指す。
本発明の方法を実施するためには、第1のステップ(ステップa))において、粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物を、変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化することが必要である。
一実施形態によると、粒子は、2つのオリゴヌクレオチド:変換オリゴヌクレオチド(cT)およびリポートオリゴヌクレオチド(rT)で官能化してもよい。
別の実施形態によると、粒子は、3種のオリゴヌクレオチド:変換オリゴヌクレオチド(cT)、増幅オリゴヌクレオチド(aT)、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT);変換オリゴヌクレオチド(cT)、リポートオリゴヌクレオチド(rT)、および増幅オリゴヌクレオチド(aT);変換オリゴヌクレオチド(cT)、リポートオリゴヌクレオチド(rT)、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)で官能化される。
さらに別の実施形態によると、粒子は、4種のオリゴヌクレオチド:変換オリゴヌクレオチド(cT)、リポートオリゴヌクレオチド(rT)、増幅オリゴヌクレオチド(aT)、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)で官能化される。
【0020】
本発明の状況では、「変換オリゴヌクレオチド」または「標的特異的変換オリゴヌクレオチド」または「変換鋳型」または「cT」という用語は、標的生体分子をユニバーサル短鎖オリゴヌクレオチド(または本明細書では「シグナル」もしくは「シグナル配列」とも呼ばれる)へと変換するオリゴヌクレオチドに関する。変換鋳型は、分解から保護されていてもよくまたは保護されていなくともよい。
本発明の方法の1つの好ましい実施形態によると、変換鋳型は、検出しようとする生体分子に応じて特異的な様式に設計することができる。例えば、所与のマイクロRNAを検出する場合、変換鋳型のほとんどの3’部分は、このマイクロRNA標的に相補的または部分的に相補的である。5’部分は、出力(シグナル)配列の相補的配列に相当する。こうした2つの要素の間には、マイクロRNAをプライマーとして使用して鋳型に沿って重合した鎖がニッキングされて出力配列を放出するように、ニッキング認識/切断部位が導入される。ニッキング酵素Nt.BstNBI(以下に記載の例で使用した)の場合、この配列は5’-NNNNGACTC-3’(Nは4種の標準的DNA塩基の1つ)であってもよい。
【0021】
任意に、変換鋳型を設計する場合、生体分子結合部位とニッキング認識部位との間にスペーサー配列が含まれていてもよい。スペーサー配列は、1~20ヌクレオチド、好ましくは4~12ヌクレオチド、より好ましくは5~10ヌクレオチドのオリゴデオキシリボヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、スペーサー配列は、4種のヌクレオチドの少なくとも1つを欠く配列で構成される(例えば、T、A、C、しかしながらGではない)。
特に、スペーサーはポリ(T)スペーサーである。本発明の状況では、「ポリ(T)スペーサー」という用語は、1~20ヌクレオチド、好ましくは4~12ヌクレオチド、より好ましくは5~10ヌクレオチドで構成される長さを有するポリ(T)ホモポリマースペーサーを指す。
特に好ましい実施形態によると、変換鋳型は、標的生体分子結合配列(例えば、miRNA結合配列)およびニッキング酵素(例えば、Nt.BstNBI)認識部位に、ポリ(T)スペーサーを含み、したがって、伸長およびニッキング後に得られる、プライマー上のヌクレオチドDNAの数が増加する。
変換鋳型のこの修飾設計は、非特異的増幅(バックグラウンド増幅とも呼ばれる)の著しい低減またはさらに排除をさえ可能にし、したがって、本発明の方法の感度および信頼性を増加させる。
【0022】
変換鋳型の様々な設計例を下記に示す。
【表1】
【0023】
本発明の状況では、「リポートオリゴヌクレオチド」または「リポートプローブ」または「リポート鋳型」または「rT」という用語は、トリガー(シグナル配列)配列の存在を検出可能なシグナルへと変換するオリゴヌクレオチドに関する。そのような検出可能なシグナルは、例えば、蛍光シグナル、電気化学的シグナル、粒子凝集、比色シグナル、好ましくは蛍光シグナルである。したがって、リポートプローブは、好ましくは蛍光プローブである。
一実施形態では、リポートプローブは、フルオロフォアおよび/またはクエンチャーにより両端部が修飾された自己相補的構造である。本明細書で使用される場合、「自己相補的」という用語は、同じ分子の2つの異なる部分が、塩基相補的(A-TおよびG-C)であるため互いにハイブリダイズすることができることを意味する。本発明の場合、一本鎖プローブの2つの端部(3’および5’部分にある少数のヌクレオチド)が、互いにハイブリダイズし、クエンチャーによるフルオロフォアのクエンチングを誘導することができる。
【0024】
また、リポートプローブは、ニッキング認識部位を含むループを含んでいてもよい。
各標的ごとに設計(配列)および最適化(長さ)しなければならない従来技術で使用されるPCRプローブ(検出のために使用される)と比較して、本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用されるリポートプローブはモジュール式であり、これは、適正な双安定モジュール(下記に記載の自己触媒鋳型+疑似鋳型)によるシグナル変換により、リポートプローブをあらゆる標的のために使用することができることを意味する。
本発明の状況では、「増幅オリゴヌクレオチド」または「自己触媒鋳型」または「aT」という用語は、トリガー(シグナル配列)を指数関数的に増幅することができるオリゴヌクレオチドを指す。増幅オリゴヌクレオチドとして機能することができるオリゴヌクレオチドの例は、下記の表1に示されている。
【0025】
本発明のデジタル方法の一実施形態によると、増幅オリゴヌクレオチドは、ニッキング酵素認識部位を含む部分的反復構造を含み、リーク吸収オリゴヌクレオチドは、増幅オリゴヌクレオチドに沿って、重合の産物に結合し、それらを伸長し、不活性化し、ゆっくりと放出し、それにより閾値を誘導することができる。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の一実施形態によると、増幅オリゴヌクレオチドの3’末端は、増幅された配列に対する親和性の低減を示す。
本発明の状況では、「リーク吸収オリゴヌクレオチド」または「疑似鋳型」または「pT」という用語は、自己触媒鋳型よりも強力に、増幅された配列と結合し、増幅された配列の3’における少数ヌクレオチドの付加を駆動し、したがって増幅された配列を、自己触媒鋳型に対するさらなるプライミングに関して不活性化する(不活性化された増幅された配列の3’末端が自己触媒鋳型に対してもはやミスマッチであるため)オリゴヌクレオチドに関する。リーク吸収オリゴヌクレオチドは、リーキー反応により合成されるトリガー(シグナル配列)の不活性化を駆動し、したがって、本明細書ではバックグラウンド増幅とも呼ばれる非特異的増幅(つまり、増幅されたシグナル配列の非存在下で生じる増幅)の回避を可能にする。疑似鋳型は、エキソヌクレアーゼによる分解から保護される必要がある。これは、5’末端における少数のホスホロチオエート修飾(またはビオチン-ストレプトアビジン修飾または修飾塩基などの他のエキソヌクレアーゼ遮断能力)を使用して行われる。リーク吸収オリゴヌクレオチドの例は、下記の表1に示されている。
【0026】
さらに別の実施形態では、リーク吸収オリゴヌクレオチドの3’末端は、増幅オリゴヌクレオチドにより増幅される配列と相補的であり、リーク吸収オリゴヌクレオチドの5’末端は、増幅された配列に不活性化テールを付加するための鋳型としての役目を果たす。
本デジタルマルチプレックス方法を実施するための一実施形態では、増幅およびリーク吸収オリゴヌクレオチドの濃度は、増幅オリゴヌクレオチドの反応が、高濃度の増幅された配列でのリーク吸収オリゴヌクレオチドの反応よりも速いが、リーク吸収オリゴヌクレオチドに対する反応が、低濃度の増幅された配列での増幅オリゴヌクレオチドの反応よりも速く、それにより刺激閾値を超えない限り増幅が効果的に排除されるように選択される。
【0027】
本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用される各オリゴヌクレオチドは、最終的には、標的生体分子の変換、および得られたシグナルの増幅をバックグラウンド増幅(つまり、増幅されたシグナル配列の非存在下で生じる増幅)を同時に誘導することなく可能にする特異的な機能を有する。
本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用される様々なオリゴヌクレオチド(鋳型)の例は、下記の表1に、および本出願の実施例セクションに示されている。
【0028】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0029】
上記の表1では、ビオチンおよびbiotegは、それぞれアミノエトキシ-エトキシエタノールリンカーおよびより長いトリエチレングリコールリンカーを使用したビオチン化シントンを指す。「*」は、ホスホロチオエート骨格修飾を示し、「p」は、3’リン酸修飾を示す。配列番号16~23および30では、鋳型上のシグナルの重合産物のニッキングを回避するために、チミジン(T)がデオキシウリジン(U)に置き換えられている。Atto633、FAM、Cy5、HEC、BMN3、Cy3.5は、フルオロフォアであり、BHQ2、BHQ1、およびBMNQ530は、クエンチャーである。
上記に列挙されている配列および本明細書に記載の例に基づき、種々の組合せの鋳型を使用して、本発明のデジタルマルチプレックス方法を実施することができる。当業者であれば、本明細書およびヌクレオチド設計に関する一般知識から開始して、任意の目的の標的生体分子に対して本発明の方法を実施するために、他の鋳型および他の組合せを決定することができるだろう。
【0030】
特に、鋳型の配列の選択は、作用温度、使用される酵素、特にニッカーゼの速度および特異性などの実験パラメーターに依存する。好ましくは、Nb.BsmIニッカーゼ部位を含む増幅鋳型、および/またはNt.BstNBIまたはNb.BssSIと共に作用する鋳型を使用することができる。しかしながら、数ある中でも、Nt.BspQI、Nt.CviPII、Nb.BsrDI、Nb.BtsI、Nt.AlwI、Nb.BbvCI、Nt.BbvCI、およびNt.BsmAIを含む、他のニッキング酵素を使用することができる。1種よりも多くのニッカーゼおよび1種よりも多くのニッカーゼ認識部位を、同じ混合物において使用することができる。
本発明の状況では、粒子の官能化は、オリゴヌクレオチドのいずれか1つを粒子に固定または付着させることを意味する。
したがって、本発明のデジタル方法で使用されるオリゴヌクレオチドは、粒子表面に固定されるように修飾されていてもよい。例えば、本発明の方法では、ビオチン-アビジン連結を使用してオリゴヌクレオチドを粒子に付着させることができるが、アミノカップリング、ジスルフィド結合、カルボキシルカップリング、自己組織化単層、他のチオール反応性化学、クリック化学、二重ビオチン-アビジン連結、核リンカー媒介性ハイブリダイゼーション(nucleic linker-mediated hybridization)、ならびに任意の共有結合ライゲーションおよび非共有不動化化学を含むがそれらに限定されない多数の他のグラフト化学を使用して、オリゴヌクレオチドを粒子に付着させることができる。
【0031】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、粒子表面に固定される修飾オリゴヌクレオチドは、変換オリゴヌクレオチド(cT)および/またはリポートオリゴヌクレオチド(rT)である。
一実施形態によると、粒子の表面に直接付着させる代わりに、一部のオリゴヌクレオチドは、核酸配列、またはPEGリンカーもしくは脂肪族リンカーなどの非重合性リンカー(「スペーサー」とも呼ばれる場合がある)を使用して、付着手段(またはリンカー)の遊離末端に付着させることができる。そのようなスペーサーは、例えば、核酸スペーサー(修飾または未修飾ポリヌクレオチド)、またはポリエチレングリコールスペーサーもしくは脂肪族スペーサーなどの非重合性スペーサーであってもよい。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の一実施形態では、ステップa)における、粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物の官能化は、変換オリゴヌクレオチド(cT)およびリポートオリゴヌクレオチド(rT)のみにより実施される。
【0032】
この実施形態では、この粒子をバーコードおよび試験試料と接触させる前に、変換オリゴヌクレオチド(cT)およびリポートオリゴヌクレオチド(rT)のみを粒子に固定する。第3のオリゴヌクレオチド(aT)および第4のオリゴヌクレオチド(pT)は、後にステップd)の増幅混合物に添加される。この実施形態では、ステップd)の増幅混合物は、オリゴヌクレオチドをさらに含む。好ましい実施形態では、ビオチン-(ストレプト)アビジン連結を使用して、第1および第2のオリゴヌクレオチドを粒子に付着させるが、上記に示されているように、多数の他のグラフト化学を使用して、こうしたオリゴヌクレオチドを付着させてもよい。さらに、スペーサーを使用することもできる。
本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用される粒子は、好ましくはマイクロ粒子である。
一実施形態によると、こうした粒子は多孔性であり、つまりこうした粒子は多孔性材料で出来ている。
別の実施形態によると、粒子はヒドロゲルで出来ている。そのようなヒドロゲル粒子は、例えば、Xu et al. (2005)に記載のプロトコールにより実施することができる。
さらに別の実施形態によると、粒子は、非多孔性中実粒子である。
【0033】
本発明の方法で使用される粒子のサイズは、10nm~500μm、好ましくは100nm~100μm、より好ましくは500nm~10μmの間に含まれる。1つの好ましい実施形態では、粒子は、1μmストレプトアビジンコーティング粒子である。そのような粒子は、例えば、Invitrogenから購入することができる。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の別の実施形態によると、変換オリゴヌクレオチドおよびリポートオリゴヌクレオチドは、アビジンまたはストレプトアビジン修飾粒子に付着させるためにビオチン化されていてもよい。
一実施形態によると、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、粒子を官能化するステップa)の前に、粒子を緩衝液で洗浄し、次いで洗浄した粒子を、例えば保管緩衝液に含まれる保存剤を除去するために同じ緩衝液に再懸濁するステップを含んでいてもよい。
洗浄は、ステップa)の官能化後に実施してもよい。しかしながら、本発明のマルチプレックス方法の利点は、そのような洗浄の必要がないことである。洗浄ステップを回避することにより、標的生体分子の検出および/または定量化をより迅速におよび正確に実施することが可能である。
本発明のデジタル方法のステップb)では、ステップa)で官能化された粒子に、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードを追加する。したがって、各粒子バッチは、それを標的とする生体分子に応じてバーコード化される。
【0034】
したがって、本発明の状況では、「バーコード」という用語は、粒子に付着または付随し、様々な目的の標的生体分子を検出するために使用される様々な粒子集団間の識別を可能にする標識に関する。
例えば、参考文献[21]~[25]に記載の通り、粒子をバーコード化するための少なからぬ戦略が開発されている。一実施形態によると、蛍光色素は、量子ドットで行うことができるように、粒子をモノマー混合物と混合することにより粒子にグラフトするか(共有結合であるか否かに関わらず)または直接組み込むことができる。別の実施形態によると、ラマン分光法標識、フォトニック結晶、および/または希土類イオン組込みを使用して、粒子をバーコード化することができる。
本発明のデジタルマルチプレックス方法において粒子集団を識別するための他の手段は、異なる形状、サイズ、または粒度分布を有する粒子を使用することを含んでいてもよい。
1つの好ましい実施形態では、バーコードは蛍光バーコードである。好ましくは、前記蛍光バーコードは、蛍光記録装置で励起されると各粒子タイプに識別可能な同一性をもたらす異なるグラフト密度の蛍光分子の組合せである。
【0035】
特に、各粒子集団は、ビオチン標識蛍光オリゴヌクレオチドを共グラフト化することにより蛍光色素でバーコード化されるため、その蛍光特性を使用して区別することができる。
本発明のデジタル方法の1つの好ましい実施形態では、ステップa)の粒子官能化は、ステップb)のバーコード化と同時に実施される。つまりバーコードは、4種のオリゴヌクレオチドの1種または複数種と同時に添加される。
ステップa)およびb)において粒子をそれぞれまたは同時に官能化およびバーコード化した後、粒子を、本発明のデジタルマルチプレックス方法のステップc)にて様々な標的生体分子を捕捉するために試験試料と接触させる。
本明細書で使用される場合、「標的生体分子」または「生体分子標的」という用語は、本発明の方法により検出および/または定量化される、上記で規定の通りの生体分子に関する。
こうした標的生体分子は試料に存在する。前記試料は、任意のタイプのものであってもよい。例えば、前記試料は、試験対象から得ることができ、前記対象は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。このような試料は、生物学的試料とも呼ばれる。
【0036】
本発明の状況では、「生物学的試料」という用語は、生命体から得られる固体または流体の生物学的物質に関する。固体の生物学的試料は、細胞、組織の一部(生検)、組織全体、または臓器などであってもよい。
好ましくは、本発明の方法で使用される試料は、流体試料である。
本発明の状況では、「生物学的流体の試料」または「流体試料」という用語は、生命体により産生される生物有機流体から得られる任意の試料に関する。生物学的流体は、細胞外液、血管内液、間質液、リンパ液、および細胞透過液を含む群から選択される。
特に、生物学的流体の試料は、血液および血液成分、尿、唾液、涙、汗などを含む群から選択される。
より好ましい実施形態では、生物学的流体の試料は、血液の試料または血液成分の試料である。「血液の試料」または「血液成分の試料」は、血液全体、または特に赤血球画分、白血球画分、血小板、血漿、もしくは血清から選択されるその成分の1つを意味する。
本発明の別の実施形態では、試料は、非生命体から得ることができる。例えば、前記試料は、空気、水、土壌、消化産物などから得ることができる。試料のタイプは、本発明のデジタルマルチプレックス方法の応用に依存する。本発明によると、前記試料は、生体分子を含むかまたは含み易い。
【0037】
ステップc)では、変換オリゴヌクレオチド(cT)とのハイブリダイゼーションにより、標的生体分子がポアソン分布に従って同族粒子(cognate particle)によりランダムに捕捉される。そのため、粒子数は、ポアソン捕捉の標的生体分子数が、粒子総数の100%未満である、少なくとも1つの標的を捕捉した粒子の割合をもたらすような数でなければならない。好ましくは、この数は95%未満である。
一実施形態では、粒子を、試験試料と反応緩衝液中で混合する。インキュベーション後、粒子をペレット化し、106~1012粒子/mL、好ましくは107~1011粒子/mL、より好ましくは108~1010粒子/mLの間に含まれる濃度で保管緩衝液に再懸濁する。最も好ましい実施形態では、粒子の濃度は109粒子/mLである。本発明の方法の一実施形態によると、ステップc)の後、粒子を増幅混合物に再懸濁する次のステップd)の前に、標的生体分子を捕捉したかまたはしなかった粒子を洗浄緩衝液で洗浄してもよい。
好ましい実施形態によると、粒子上に標的生体分子を捕捉した後、粒子を洗浄してもよい。特に、クレノウポリメラーゼなどのポリメラーゼをステップd)で使用する場合は、粒子を洗浄する。この最後の場合は、粒子を洗浄緩衝液に数回再懸濁する(例えば、2~10回、好ましくは3~7回、より好ましくは4~5回)。
本発明のデジタルマルチプレックス方法のステップd)では、標的生体分子を捕捉した粒子を、緩衝液、酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、および任意にオリゴヌクレオチドを含む増幅混合物に再懸濁する。
【0038】
本発明の状況では、「増幅混合物」という用語は、標的配列の増幅を可能にする作用剤を含む反応性混合物に関する。特に、こうした作用剤は、下記で規定される通りの、緩衝液、酵素、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、および任意にオリゴヌクレオチドから選択される。
本発明のデジタルマルチプレックス方法の一実施形態によると、ステップd)で使用される酵素は、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される。ポリメラーゼ、ニッキング酵素、および制限酵素は、等温増幅を駆動し、エキソヌクレアーゼは、系の飽和を回避することができる。
特に、本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用されるポリメラーゼは、Bst2.0 DNAポリメラーゼ、Bst大型断片DNAポリメラーゼ、クレノウ断片(3’->5’exo-)(本明細書ではクレノウポリメラーゼとも呼ばれる)、Phi29 DNAポリメラーゼ、Vent(exo-)DNAポリメラーゼを含む群から選択され、より具体的には、ポリメラーゼは、Vent(exo-)DNAポリメラーゼである(New England Biolabs(NEB)から購入)。2種またはそれよりも多くのポリメラーゼの混合物も使用することができる。
【0039】
好ましい実施形態によると、ポリメラーゼVent(exo-)DNAポリメラーゼおよびクレノウ断片(3’->5’exo-)が一緒に使用される。特に、この場合、クレノウ断片(3’->5’exo)は、粒子を封入する前に、粒子の表面に対する標的生体分子の捕捉を向上させることが可能である。次いで、Vent(exo-)DNAポリメラーゼが増幅反応に使用される。
ニッキング酵素は、Nb.BbvCI、Nb.BstI、Nb.BssSI、Nb.BsrDIを含む群から選択され、特に、ニッキング酵素は、Nb.BsmIおよび/またはNt.BstNBIである(New England Biolabs(NEB)から購入)。2種またはそれよりも多くのニッカーゼの混合物も使用することができる。
本発明の方法の一実施形態によると、ニッキング酵素を制限酵素に置き換えてもよい。一本鎖のみを切断するニッキング酵素とは対照的に、制限酵素は二本鎖を切断する。したがって、ニッキング酵素の代わりに制限酵素を使用する場合、本発明の方法で使用されるオリゴヌクレオチドを保護する必要がある。この保護は、例えば、オリゴヌクレオチドの化学修飾を実施することにより実施することができる。そのような修飾は、ホスホロチオエート骨格修飾、ロックド核酸糖修飾、ペプチド核酸修飾、または1つの核酸塩基の別の核酸塩基への置き換え、例えば核酸塩基のメチル化(例えば、グアニンをO6-メチルグアニンに置き換えることまたはシトシンをメチルシトシンに置き換えること)を含む。本発明の方法でも使用することができるそのような修飾の例は、Loenen et al., (2014)に開示されている。
【0040】
本発明のデジタル方法で使用されるエキソヌクレアーゼは、例えば、RecJf、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼVIIから選択され、特に、エキソヌクレアーゼは、Yamagata(Yamagata et al., 2001)により記載のプロトコールに従って得られるttRecJエキソヌクレアーゼである。
酵素およびオリゴヌクレオチドの混合物に使用される反応緩衝液は、選択されたオリゴヌクレオチド鋳型に適合される。当業者であれば、従来の緩衝液を、特定の分子設計に適合させることができるであろう。また、本出願の実験部分には、そのような緩衝液の例が示されている。例えば、本発明の方法のステップc)およびd)の好ましい実施形態では、反応緩衝液は、20mM Tris HCl pH7.9、10mM(NH42SO4、40mM KCl、10mM NaCl、10mM MgSO4、各25μMのdNTP、0.1%(質量/容積)Synperonic F104、2μMネトロプシン、および200μg/mL BSAを含む。
【0041】
一実施形態では、捕捉ステップc)および再懸濁ステップd)は同時に実施してもよく、つまり粒子、および標的生体分子を含む試料は、増幅混合物に直接注入される。この場合、洗浄ステップを回避することができる。一般に、この実施形態は、試験試料が毒性でないかまたは増幅反応を妨害しない場合に実施される。例えば、試料にマイクロRNAの精製抽出物が含まれている場合に実施される。
標的生体分子を捕捉したかまたは捕捉しなかった粒子を再懸濁するステップd)の後、各粒子が独立して反応することができるように、懸濁物中の粒子を互いに分離するステップe)が実施される。
一実施形態によると、粒子の分離は、マイクロチャンバーアレイ、液滴マイクロ流体、または非混和性流体中の粒子分散を使用して様々な手段により得ることができる。例えば、分離ステップはマイクロ液滴で実施される(例えば、BioradのQX200システムまたはStilla TechnologiesのNaicaシステムなど)。2つの非混和性液体:試料水性相;およびウンデカン-1-オール、シリコン油、鉱物油、より好ましくは、水との非混和性が高く、生体適合性であり、低粘度であり、透明であり、PDMS製デバイスと適合性であるため、全フッ素置換油などの連続疎水性相を組み合わせることにより製作される数百万個の油中水型液滴内への分離が実施される。
【0042】
1つの好ましい実施形態によると、分離は、反応混合物中に懸濁された粒子を含む水性液滴を有する油中水型エマルジョンを生成することにより実施される。
一実施形態によると、本発明のデジタル方法で使用される液滴は、0.001pL~100pL、好ましくは0.1pL~10pL、より好ましくは0.5~5pLの間に含まれるサイズを有する。
別の実施形態では、ステップe)の分離は、使用されるエマルジョンの液滴中の粒子のポアソン分布を可能にするマイクロ流体チップを使用することにより実施してもよい。
分離がマイクロ流体液滴で実施される場合、ステップe)で分離する前の増幅混合物中の粒子濃度は、平均して少数の粒子のみが各液滴に封入されるように選択される。好ましくは、この数は1よりも小さい。
ポアソンの法則の分布を得、エマルジョンの1液滴当たり少数の粒子または単一の粒子を得、空液滴を最小限に抑えることを可能にする他のマイクロ流体法は、音響焦点法(acoustic focus)、慣性焦点法(inertial focus)、「最密充填秩序化法(close-packed ordering)」から選択される。こうした方法は、当業者に公知であり、当業者であれば、それらを実施するためのパラメーターを本発明のデジタルマルチプレックス方法に適応させることができる。
【0043】
さらに、ステップe)で粒子を分離するために、マイクロチャンバーデバイスなどの特定のデバイス(例えば、Thermofisher ScientificのSlipChipまたはQuantStudio 3Dなど)を使用することができ、粒子は、それらを互いに分離するマイクロチャンバー内に分布される。
別の実施形態によると、粒子は、非混和性流体に分散させることにより物理的に、または粒子の細孔を閉じることにより化学的に(例えば、層ごとの堆積またはポリマー架橋または媒体ゼリー化を使用して)単離される。この実施形態では、増幅反応は、粒子の細孔内で実施される。
別の実施形態では、分離工程は、非多孔性粒子を用いて実施することができる。この場合、増幅反応は、前記粒子を他の粒子から分離し得るように液体ミクロ層により囲まれている粒子に対して実施される。これにより、粒子間のシグナル拡散を制限することが可能になる。
本明細書で使用される場合、「デジタルマルチプレックス方法」という用語は、複数の標的が官能化およびバーコード化された粒子の集団によりランダムに捕捉され、各粒子タイプは標的タイプに対して特異的であり、各標的タイプは、ポアソン分布に従う粒子により捕捉される検出および/または定量化方法を指す。続いて、シグナル増幅反応を、各粒子内またはその周囲(液体ミクロ層内)で実施し、少なくとも1つの標的を捕捉した粒子のみが陽性シグナルを示す。これにより、各粒子集団の離散事象を直接計数することできるため、付随している標的生体分子の絶対的定量化が可能になる。
【0044】
PCRデジタルマルチプレックス方法(プライマーおよびプローブが、各標的生体分子に対して特異的である)と比較した本発明のデジタルマルチプレックス方法の主な利点は、例えば、粒子により捕捉された複数の標的生体分子は直接的には検出されないが、共通のシグナル配列へと変換され、続いて共通の測定可能なシグナルへと変換される。これにより、標的生体分子の直接検出による感度および特異性問題、ならびに直交増幅系の複雑な設計および実施を回避することが可能になる。
また、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、各標的生体分子が増幅反応およびリポートシグナルを誘発するように、粒子を一定の温度でインキュベートするステップf)を含む。
本明細書で使用される場合、「シグナル」または「シグナル配列」という用語は、標的生体分子、好ましくは核酸分子、より好ましくはマイクロRNAの配列を、増幅され得る配列へと変換することにより得られる核酸配列、好ましくは一本鎖DNAに関する。
【0045】
したがって、変換されたシグナル配列は、本発明のデジタルマルチプレックス方法のステップd)にて増幅される。
一実施形態によると、ステップf)での増幅は、35~60℃、より好ましくは37~55℃、さらにより好ましくは45~50℃の範囲の一定の作用温度で実施される。
一実施形態では、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、粒子を回収するステップf1)を含む。1つの好ましい実施形態では、回収は、粒子を含む区画を破壊することにより実施される。このようにして、粒子は、溶液中に、好ましくは水性媒体に回収される。粒子の回収は、粒子が乳化により、つまり非混和性(unmissable)液体中で、好ましくは油中水型エマルジョン中で互いに分離されている場合、実施される。ステップf1)における区画の破壊は、パーフルオロオクタノール処理、界面活性剤を含まない連続相による界面活性剤希釈、または静電パルス、好ましくは静電パルスガン(Zerostat 3、Milty、英国)を使用することによることから選択される手段により実施することができる。
【0046】
本発明のデジタルマルチプレックス方法の別の実施形態では、粒子が、溶液中、例えば水性溶液中で互いに分離されている場合、回収ステップf1)を実施する必要はなく、ステップg)の検出および/または定量化を直接実施することができる。
本発明のデジタルマルチプレックス方法のステップg)において、各粒子のバーコードシグナルおよび増幅シグナルを含む、粒子のシグナルを検出および/または測定するために、前記粒子をバーコード化(または標識する)必要がある。上記に示されていように、バーコード化は、本発明のデジタルマルチプレックス方法のステップb)において実施されるか、またはステップa)における粒子の官能化と同時に実行される。この目的のため、多数の異なるバーコードを使用することができる。上記に示されているように、粒子をバーコード化するための少なからぬ方法が当技術分野で開発されている。このような方法は、参考文献[28]~[32]に開示されている。例えば、そのような方法は、グラフトされていてもよく(共有結合でまたは非共有結合で)、または量子ドットで行うことができるように、粒子をモノマー混合物と混合することにより粒子に直接組み込まれていてもよい蛍光色素;フローリソグラフィー、フォトニック結晶、および希土類イオン組込みから選択することができる。当業者であれば、従来のバーコード手段を本発明のデジタル方法に適応させることができるであろう。
【0047】
本発明のデジタルマルチプレックス方法の1つの好ましい実施形態によると、使用されるバーコードは蛍光シグナルである。ステップf)においてシグナル配列を増幅するためにインキュベーションを行っている間に、粒子結合標的生体分子は増幅反応を誘発し、それによりひいてはリポート鋳型の、好ましくは蛍光プローブの活性化が誘導される。したがって、本発明のデジタルマルチプレックス方法の一実施形態によると、バーコードシグナルを検出および/または測定するステップg)は、標的生体分子に付随している各粒子のバーコードシグナル、および同時に増幅シグナルに関連するリポート鋳型のシグナルを検出および/または測定することを含み、前記シグナルは、好ましくは蛍光シグナルである。
一実施形態では、本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用して、試験される生物学的試料中の標的生体分子の絶対濃度を測定する場合、標的生体分子を捕捉した蛍光粒子および非蛍光粒子を計数し、それらの比を算出する。
【0048】
好ましくは、フローサイトメトリーによる分析は、バーコードシグナルの測定と同時に、陽性(標的の存在)/陰性(標的の非存在)粒子の計数が可能であり、したがって初期試料中の複数種の標的生体分子の正確な濃度の算出が可能である。
陽性集団は、少なくとも1つの標的生体分子を捕捉している粒子に対応する。各粒子集団により標的がポアソンランダム捕捉されていることを考慮すると、まずポアソン分布のパラメーターλを算出することにより、付随している標的生体分子の濃度を算出することが可能である。
【数1】
式中、λは、1粒子当たりの平均標的生体分子数であり、kは、1つの粒子に捕捉された標的生体分子の数であり、Fposは、陽性粒子(少なくとも1つの標的生体分子を捕捉した粒子)の割合である。この数式から、発明者らは以下を導き出した。
λ=-Ln(1-Fpos
【0049】
次いで、標的生体分子の測定濃度は、以下の式で求めることができる。
[Let7a]=[部].λ
[Let7a]=[部].ln(1-Fpos
式中、[部]は、粒子の初期濃度である。
例えば、本発明のデジタルマルチプレックス方法における計数および分析は、Attune NxT(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)でのフローサイトメトリーにより実施することができる。
別の実施形態によると、別の従来法、例えば蛍光顕微鏡法を使用して、陽性/陰性粒子を計数してもよい。
【0050】
好ましい実施形態によると、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、
a)粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物を、変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチドおよびリポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチドで官能化するステップ、
b)ステップa)で官能化された粒子に、複数種の生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードを追加するステップ、
c)ステップb)で得られた粒子を試験試料と接触させて、複数種の標的生体分子を捕捉するステップ、
d)標的生体分子を捕捉したかまたは捕捉しなかった粒子を、緩衝液、酵素、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチド、およびデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含む増幅混合物中に再懸濁するステップ、
e)各粒子が独立して反応し得るように、ステップd)で得られた懸濁物中の粒子を互いに分離するステップ、
f)各標的生体分子が、増幅反応およびバーコードシグナルを誘発するように、単離された粒子を一定の温度でインキュベートするステップ、
f1)粒子を回収するステップ、および
g)各粒子のバーコードシグナルおよび増幅シグナルを含む、粒子のシグナルを検出および/または測定するステップ
を含む。
【0051】
本発明のデジタルマルチプレックス方法のこの好ましい実施形態の原理を示す概略図は、図1に示されている。
この好ましい実施形態によるデジタルマルチプレックス方法の特定の技術的特徴は、上記で詳述されているものである。
診断目的のための本発明のデジタルマルチプレックス検出および/または定量化方法の使用
上記で言及されている生体分子は、すべてのタイプの試料に存在し得る。例えば、上記で言及されている生体分子は、非生命体から得られる試料(例えば、土壌試料、水試料、空気試料、食品試料など)または生命体から得られる試料、例えば、細胞、体液、または組織に存在してもよい。上記で言及されている生体分子は、例えば、すべての体液に存在する可能性があり、したがって、低侵襲液体生検(血清、血漿、尿)を介してアクセス可能である。
【0052】
本発明の一実施形態によると、本発明のデジタルマルチプレックス方法により検出および/または測定される標的生体分子は、バイオマーカーとして使用される。
本発明の状況では、「バイオマーカー」という用語は、天然に存在する分子、好ましくは、生体分子、タンパク質、酵素、遺伝子、核酸、またはそれにより特定の病理学的もしくは生理学的プロセス、疾患などを特定することができる特質に関する。
こうしたバイオマーカーは、植物、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトなどの生命体の疾患を検出するために使用することができる。
さらに、こうしたバイオマーカーは、1つもしくは幾つかの異常の検出に、ならびに食品および農業食品産業で、または環境において使用することができる。
バイオマーカーは、例えば、すべての体液に存在する可能性があり、したがって、低侵襲性液体生検(血清、血漿、尿、涙、唾液、汗など)を介してアクセス可能である。
【0053】
好ましくは、それらは、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を検出するためバイオマーカーとして使用することができる。
本発明の状況では、「検出」という用語は、上記で規定の通りの試料中の標的生体分子の検出を一般的な様式で規定するために使用される。
また、本明細書で使用される場合、「検出」という用語は、上記で挙げられている疾患の1つもしくは幾つかまたはそれらの症状の診断または予後に関する。また、検出は、前記疾患の1つもしくは幾つかを予測すること、または対象がこうした疾患の1つもしくは幾つかを発症するリスクを予測することを含む。
さらに、「検出」という用語は、農学的診断、つまり、植物病理、特に本発明で規定の通りの生物的または非生物的起源を有する植物病理の診断にさらに関する。
【0054】
本発明の状況では、「がん」という用語は、調節解除されたかまたは制御されていない細胞増殖により特徴付けられる悪性新生物を指す。特に、「がん細胞」は、調節解除されたかまたは制御されていない細胞増殖を示す細胞を指す。
「がん」という用語は、原発性悪性腫瘍(例えば、細胞が、元の腫瘍の部位以外の対象の体内の部位に移動していないもの)および二次性悪性腫瘍(例えば、転移、元の腫瘍の部位とは異なる二次部位へと腫瘍細胞か移動することから生じるもの)を含む。そのようながんは、特に、固形がんの群および/または造血器がんの群から選択してもよい。
【0055】
本発明の一実施形態では、がんは、以下のものから選択される:骨溶解症、骨の肉腫(骨肉腫、ユーイング肉腫、骨巨細胞腫瘍)、骨転移、神経膠芽細胞腫および脳がん、肺がん、聴神経腫、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(単球性、骨髄芽球性、腺癌、血管肉腫、星状細胞腫、骨髄性単球性、および前骨髄球性)、急性T細胞白血病、基底細胞癌、胆管癌、膀胱がん、乳がん、気管支原性癌、頸部がん、軟骨肉腫、脊索腫、絨毛癌、慢性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭癌、嚢胞腺癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、増殖異常性変化(異形成および化生)、胚性癌、子宮内膜がん、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、上衣腫、上皮癌、赤白血病、食道がん、エストロゲン受容体陽性乳がん、本態性血小板血症、線維肉腫、濾胞性リンパ腫、胚細胞精巣がん、神経膠腫、重鎖病、血管芽細胞腫、肝細胞腫、肝細胞がん、ホルモン非感受性前立腺がん、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、肺がん、リンパ管内皮肉腫(lymphagioendotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ芽球性白血病、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキン)、膀胱、乳房、結腸、肺、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、および子宮の悪性腫瘍および過剰増殖性障害、T細胞またはB細胞起源のリンパ性悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、髄質癌、髄芽細胞腫、メラノーマ、髄膜腫、中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄性白血病、メラノーマ、粘液肉腫、神経芽細胞腫、非小細胞肺がん、乏突起膠腫、口腔がん、骨形成性肉腫、卵巣がん、膵臓がん、乳頭状腺癌、乳頭癌、松果体腫、真性多血症、前立腺がん、直腸がん、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、脂腺癌、セミノーマ、皮膚がん、小細胞肺癌、固形腫瘍(癌腫および肉腫)、小細胞肺がん、胃がん、扁平上皮癌、滑膜腫、汗腺癌、甲状腺がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、精巣腫瘍、子宮がん、ならびにウィルムス腫瘍。
【0056】
本発明の状況では、「神経疾患」という用語は、脳、脊髄、脳神経、末梢神経、神経根、自律神経系、神経筋接合部、および筋肉を含む中枢神経系および末梢神経系の疾患を指す。神経疾患は、神経発達疾患、神経変性疾患、または精神疾患から選択される。神経疾患には、てんかん、アルツハイマー病および他の認知症、脳卒中、片頭痛、および他の頭痛障害を含む脳血管疾患、多発性硬化症、パーキンソン病、神経感染症、脳腫瘍、頭部外傷による神経系の外傷性障害などが挙げられる。
本明細書で使用される場合、「心血管疾患」は、冠状動脈性心疾患:心筋に供給する血管の疾患;脳血管疾患:脳に供給する血管の疾患;末梢動脈疾患:腕および脚に供給する血管の疾患;リウマチ性心疾患:連鎖球菌により引き起こされるリウマチ熱による心筋および心臓弁の損傷;先天性心疾患:出生時に存在する心臓構造の奇形、および深部静脈血栓症、および肺塞栓症:剥離して心臓および肺に移動し得る脚静脈の血栓を含む、心不全または血管不全に関する。
本明細書で使用される場合、「炎症性疾患」は、好ましくは、急性膵炎;ALS;アルツハイマー病;悪液質/食欲不振;喘息;アテローム性動脈硬化症;慢性疲労症候群、発熱;糖尿病(例えば、インスリン糖尿病);糸球体腎炎;移植片対宿主拒絶反応;出血性ショック;痛覚過敏、炎症性腸疾患;変形性関節炎、乾癬性関節炎、および関節リウマチを含む関節の炎症状態;脳虚血を含む虚血性傷害(例えば、外傷、てんかん、出血、または脳卒中の結果としての脳傷害、これらの各々は神経変性に結び付き得る);肺疾患(例えば、ARDS);多発性骨髄腫;多発性硬化症;骨髄性(例えば、AMLおよびCML)および他の白血病;ミオパチー(例えば、特に敗血症における筋タンパク質代謝);骨粗鬆症;パーキンソン病;疼痛;早期陣痛;乾癬;再灌流傷害;敗血症性ショック;放射線療法、側頭下顎関節疾患、腫瘍転移の副作用;または挫傷、捻挫、軟骨損傷、外傷、整形外科手術、感染症、もしくは他の疾患プロセスに起因する炎症状態を指す。
【0057】
本発明の状況では、「自己免疫疾患」は、対象の身体が、対象自身の組織および細胞に対する抗体を産生する状態であると規定される。自己免疫疾患の例は、I型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡などである。
ウイルス感染または細菌感染による疾患は、病原性ウイルスまたは細菌菌株により引き起こされる。そのような疾患の例は、AIDS、回虫症;水虫;細菌性赤痢、水痘;コレラ、風邪、デング熱、下痢、ジフテリア、フィラリア症、淋病、ヘルペス、鉤虫症、インフルエンザ風邪、ハンセン病、はしか、おたふく風邪、東洋瘤腫、蟯虫疾患、ペスト、肺炎、灰白髄炎、狂犬病、白癬、敗血性咽頭痛、睡眠病、天然痘、梅毒、破傷風、腸チフス、膣炎、ウイルス性脳炎、百日ぜきなどである。
【0058】
「皮膚疾患」は、例えば、にきび、脱毛症、基底細胞癌、ボーエン病、先天性赤血球生成性ポルフィリン症、接触性皮膚炎、播種性表在性光線性ポロケラトーシス、ジストロフィー性表皮水疱症、湿疹(アトピー性湿疹)、乳房外パジェット病、単純性表皮水疱症、骨髄性プロトポルフィリン症、爪の真菌感染症、ヘイリーヘイリー病、単純ヘルペス、化膿性汗腺炎、多毛症、多汗症、魚鱗癬、膿痂疹、ケロイド、毛孔性角化症、扁平苔癬、硬化性苔癬、メラノーマ、黒皮症、粘膜類天疱瘡、類天疱瘡、尋常性天疱瘡、苔癬状粃糠疹、毛孔性紅色粃糠疹、足底疣贅(疣贅)、多形日光疹、乾癬性壊疽性膿皮症、酒さ、疥癬、帯状疱疹、扁平上皮癌、スイート症候群、蕁麻疹、および血管浮腫、白斑などの皮膚に影響を及ぼす状態である。
本明細書で使用される場合、「骨格筋疾患」は、骨、筋肉(ミオパチー)、および骨格筋接合部の疾患に関する。例えば、そのような疾患は、背痛、滑液嚢炎、線維筋痛症、線維性骨異形成症、成長軟骨板傷害、遺伝性結合組織障害、マルファン症候群、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、骨パジェット病、脊柱側弯症、脊柱管狭窄症、腱炎などから選択される。
【0059】
本明細書で使用される場合、「歯科疾患」は、歯および口の問題に関する。そのような疾患の例は、歯腔、歯周(歯ぐき)疾患、口腔がん、口腔感染性疾患、傷害による外傷、および遺伝性病変などである。
本明細書で使用される場合、「出生前疾患」は、以下のものなどの妊娠または胎児発育に影響を及ぼし得る疾患に関する:AIDS、羊水、妊娠中の出血、子宮頸部障害、妊娠糖尿病、播種性血管内凝固症候群(DIC)、子宮外妊娠、胎児赤芽球症、胎児発育問題、妊娠中の高血圧、HELLP症候群、胞状奇胎、妊娠悪阻、子宮内胎児発育遅延、胎児発育過剰(LGA)、流産、胎盤早期剥離、前置胎盤、胎盤機能不全、羊水過多症、出生前検査、妊娠損失、早期陣痛および出産、風疹、胎児発育遅延(SGA)、全身性紅斑性狼瘡、トキソプラズマ症、双胎間輸血症候群、双子、三つ子、多子出産、妊娠中の膣出血。
したがって、本発明のデジタルマルチプレックス方法は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患の診断のためのin vitro診断方法に使用することができる。
したがって、第2の態様では、本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患の診断のためのin vitro方法であって、本発明によるデジタルマルチプレックス方法を使用することを含む方法に関する。
【0060】
一実施形態によると、前記診断方法は、
- 対象から得られる試料を準備するステップ、および
- 本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することにより、前記疾患の1つまたは複数の存在または非存在を検出するステップ
を含む
本発明のデジタルマルチプレックス方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、農学的診断方法、特に感染性および寄生虫性疾患などの生物的ストレスにより引き起こされる疾患、または栄養欠乏もしくは不利な環境などの非生物的ストレスにより引き起こされる疾患の診断に、本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することを可能にする。
また、第3の態様によると、本発明は、
- 生物的ストレス、好ましくは感染性および/もしくは寄生虫性起源により引き起こされる疾患、または
- 非生物的ストレス、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患を農学的診断のためのin vitro方法であって、
本発明のマルチプレックスデジタル方法を使用することを含む、in vitro方法に関する。
【0061】
一実施形態によると、前記診断方法は、
- 植物の部分のいずれか1つから得られる試料を準備するステップ、および
- 本発明のデジタルマルチプレックス方法を使用することにより、前記疾患の1つまたは複数の存在または非存在を検出するステップ
を含む。
本発明の状態では、「農学的診断」という用語は、植物病理の診断に関し、前記診断は、真菌、ウイルス、細菌、線虫、および生物的ストレスを引き起こす任意の他の生命体を特定するために、ならびに/またはそれらの存在が非生物的ストレスによる生体分子を特定するために、植物試料の分析を実施することを含む。
本発明の状況では、「植物病理」または「植物疾患」という用語は、生物的または非生物的ストレスによる植物の形態学的特徴、生理学的特徴、または挙動の変化により顕在化する植物異常に関する。
本明細書で使用される場合、「生物的ストレス」という用語は、生命体により引き起こされるストレスまたは疾患にも関する。生物的ストレスは、いかなる生命体により引き起こされるものであってもよいが、好ましくは、感染性および/または寄生虫性起源を有し、真菌、ウイルス、細菌、および線虫から選択される生物により引き起こされるものであってもよい。
【0062】
一実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、真菌により引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、炭疽病、黒節病、胴枯れ病、栗胴枯れ病(葉枯れ病など)、がん腫病、根こぶ病、立ち枯れ病、ニレ立ち枯れ病、麦角病、フサリウム萎凋病、パナマ病、葉水疱(leaf blister)、白カビ(べと病およびウドンコ病など)、カシ萎凋病、腐敗病(基部腐敗、灰色カビ腐れ、心腐れなど)、さび病(発疹さび病、シダーアップルさび病、およびコーヒーさび病)、瘡痂病(リンゴ瘡痂病など)、黒穂病、ムギ黒穂病、トウモロコシ黒穂病、雪腐れ病、すす病、およびバーティシリウム萎凋病から選択される。
別の実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、ウイルスにより引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、萎縮病、モザイク病、ソローシス、および黄化壊疽病から選択される。
さらに別の実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、細菌により引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、アスター萎黄病、青枯れ病、胴枯れ病(火傷病および米斑点細菌病など)、がん腫病、クラウンゴール、腐敗病、基部腐敗、および瘡痂病から選択される。
【0063】
また、本発明の農学的診断方法は、ネコブ線虫(メロイドギン種(Meloidogyne spp.)など)、シストセンチュウ(ヘテロデラ種(Heterodera spp.)およびグロボデラ種(Globodera spp.)など)、根病変線虫(プラチレンクス種(Pratylenchus spp.)など)穿孔線虫(ラドホルス・シミリス(Radopholus similis)など)、ジチレンクス・ジプサシ(Ditylenchus dipsaci)、マツ材線虫(ブルサフェレンクス・キシロフィルス(Bursaphelenchus xylophilus)など)、レニフォーム線虫(ロチレンクルス・レニホルミス(Rotylenchulus reniformis)など)、ブドウオオハリセンチュウ(Xiphinema index)、ニセネコブセンチュウ(Nacobbus aberrans)、およびイネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi)から選択される線虫により引き起こされる疾患の診断に使用することができる。
一実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、「非生物的ストレス」により引き起こされる疾患を診断するために使用され、「非生物的ストレス」という用語は、生命体により引き起こされるものではない疾患を規定する。こうした疾患は、好ましくは、栄養欠乏および/または不利な環境により引き起こされる。例えば、非生物的ストレスは、不適切なpH、水利用可能性(干ばつストレス)、温度(熱ストレスおよび寒冷ストレス)、酸素および/または気体利用可能性、ミネラル欠乏(塩分ストレス)、および毒性化合物(例えば、汚染物質)により引き起こされ得る。
【0064】
また、本発明のデジタル方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、食品、農業食品産業の分野のおよび環境中の生体分子を検出するための方法に、本発明のデジタル方法を使用することを可能にする。特に、本発明のデジタル方法は、食品、農業食品、および環境の異常を検出するために使用される。この検出は、前記異常のバイオマーカーであるとみなすことができる生体分子を検出するために本発明のデジタル方法を使用することにより実施される。
そのような生体分子は、例えば、生命体の一部であってもよく、または生命体の活性により産生されてもよく、または人工生体分子であってもよい。こうした生体分子(またはバイオマーカー)は、生体高分子、特に、DNA、RNA、タンパク質、および酵素を含む群から選択される。
前記生体分子は、農業食品および食品における元のおよび/または変換された産物中に存在する。
【0065】
また、生体分子は、環境中に、例えば、空気中、水中、および/または土壌中に存在してもよい。
したがって、一態様によると、本発明は、農業食品、食品産業、および/または環境中の生体分子(バイオマーカー)を検出するためのin vitro方法であって、本発明のデジタル方法を使用することを含むin vitro方法にも関する。
本発明の状況では、「食品」という用語は、工業プロセスを使用せずに、またはそのようなプロセスを使用することにより生産される、基本的なまたは変換されたすべての食品に関する。
本発明の状況では、「農業食品」という用語は、農業食品産業、つまり農業経営による食品の商業的生産に関する。
「環境」または「環境の」という用語は、自然環境、つまり、すべての植物、微生物、土壌、岩石、大気、ならびにそれらの境界および自然状態内で生じる自然現象を含む、大規模な文明化された人間の介入がない自然系として機能する生態学的単位に関する。こうした用語は、人間が作り出すことができる非天然または人工環境にも関する。一態様によると、本発明は、本発明のデジタル方法を使用して、食品および農業食品産業および/または環境中の異常を検出するためのin vitro方法にも関する。
好ましくは、前記方法は、
- 食品から、農業食品から、または環境から得られる試料を準備すること、
- 本発明のデジタル方法により、前記試料中の試験生体分子(バイオマーカー)を検出すること
を含む。
【0066】
本発明のデジタルマルチプレックス方法を実施するためのキット
また、本発明は、本発明の方法に従って複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するために使用することができるキットに関する。
したがって、第4の態様によると、本発明は、複数種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチド、リポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチド、およびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドから選択される1種または複数種のオリゴヌクレオチドで官能化されており、様々な生体分子を標的とする粒子の識別を可能にする様々なバーコードが付加されている粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物、
b)好ましくは、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される酵素の混合物、ならびに任意にオリゴヌクレオチド、ならびに
c)分離剤
を含むキットに関する。
【0067】
特定の実施形態では、本発明は、
a)変換オリゴヌクレオチド(cT)である第1のオリゴヌクレオチドおよびリポートオリゴヌクレオチド(rT)である第2のオリゴヌクレオチドで官能化されており、様々な生体分子を標的とする粒子の識別を可能にするバーコードが付加されている粒子、好ましくはマイクロ粒子の懸濁物、
b)好ましくはポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される酵素、ならびに増幅オリゴヌクレオチド(aT)である第3のオリゴヌクレオチドおよびリーク吸収オリゴヌクレオチド(pT)である第4のオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの混合物、ならびに
c)分離剤、好ましくは油中水型エマルジョン
を含むキットに関する。
【0068】
さらに別の実施形態によると、上記の項目b)の成分は別々に提供される。つまり、オリゴヌクレオチドは、酵素とは別に提供され、後に混合される。
キットの項目a)、b)、およびc)に記載の構成要素は、上記に記載の通りの本発明のデジタルマルチプレックス方法で使用されるものと同じものに相当する。
また、本発明は、本発明のデジタルマルチプレックス方法を実施するための前記キットの使用に関する。
また、本発明のキットは、使用説明書を含んでいてもよい。
本発明の特定の実施形態は、下記の例および図面から明確に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】マイクロRNAのマルチプレックスおよびデジタル検出の原理。バーコード化粒子の集団を、標的特異的変換オリゴヌクレオチドおよびリポートオリゴヌクレオチドで官能化する。粒子を試料と混合し、粒子による標的生体分子のランダム捕捉をもたらす。洗浄後、粒子を、増幅およびリーク吸収オリゴヌクレオチドならびに酵素ミックスと共に区画化する(例えば、油中水型液滴)。一定温度(例えば、50℃)でインキュベーションした後、粒子をフローサイトメトリーで分析し、各集団の陽性/陰性粒子の比から算出される各標的の絶対濃度にアクセスする。
図2-1】Let7a検出のフローサイトメトリー分析の結果。a.インキュベーション前の粒子BLet7a。b.50℃で4時間インキュベーションした後の粒子BLet7a(NC=標的なし)。
図2-2】Let7a検出のフローサイトメトリー分析の結果。c. 1pMの標的の存在下で4時間50℃にてインキュベートした後の粒子BLet7a。d.陽性粒子の比Fposから算出された測定濃度:[Let7a]=[部].ln(1-Fpos)。
図3-1】顕微鏡法読出し値対フローサイトメトリー読出し値。a.インキュベーション後の封入粒子の蛍光画像。白色点は、FAM修飾rTを有する粒子(陽性および陰性)に対応し、陽性液滴は灰色で表示されており、溶液中のAtto633修飾プローブの蛍光に対応する。マイクロRNAは、灰色液滴では検出されたが、濃灰色液滴では検出されなかった。
図3-2】顕微鏡法読出し値対フローサイトメトリー読出し値。b.フローサイトメトリー読出しのヒストグラム。ビーズ含有液滴の79%でマイクロRNAが検出された。c.顕微鏡法読出し値(250個のビーズ含有液滴から算出された統計値)およびフローサイトメトリー読出し値の比較分析。
図4】封入ミックス中の粒子濃度に応じた検出濃度。
図5】粒子上のオリゴヌクレオチドによる酵素捕集。オリゴヌクレオチドでグラフトされているかまたはされていない粒子を有するかまたは有しない酵素混合物(ポリメラーゼ、ニッカーゼ、エキソヌクレアーゼ)をインキュベートする。30℃で30分間インキュベートした後、粒子をペレット化し、上清を溶液中の分子プログラム(増幅および疑似鋳型オリゴヌクレオチド)と混合し、1pMのLet7aでスパイクする。試料を50℃でインキュベートし、rTの蛍光をリアルタイムでモニターする。a.増幅反応を示すリアルタイム蛍光曲線。b.蛍光曲線の抽出開始時間。
図6-1】偽陽性率および真陽性率に対する中性粒子の効果。a.粒子濃度に応じた、陰性対照(標的なし、上段)および陽性対照(1pM Let7a、下段)のサイトメトリー蛍光ヒストグラム。
図6-2】偽陽性率および真陽性率に対する中性粒子の効果。b.全体的粒子濃度の関数としての陽性粒子のパーセンテージ。
図6-3】偽陽性率および真陽性率に対する中性粒子の効果。c.陽性粒子中の標的生体分子濃度。
図7】中性粒子を使用したLet7a範囲検出。2×105個のBNで補完された105個のBLet7aを使用して、0、0.2、および1pMのLet7aを定量化した。a.サイトメトリー蛍光ヒストグラム。b.理論的スパイクイン濃度に応じた、測定Let7a濃度の比較。
図8-1】2標的アッセイで検出されたLet7aおよびmiR92aの濃度。a.蛍光バーコード(Atto633)による3つの粒子集団(BLet7a、B92a、BN)のサイトメトリー蛍光ヒストグラム。
図8-2】2標的アッセイで検出されたLet7aおよびmiR92aの濃度。b. B92aおよびBLet7aのサイトメトリー蛍光結果(rT蛍光)。
図8-3】2標的アッセイで検出されたLet7aおよびmiR92aの濃度。c. 2種の標的の測定濃度。
図9-1】Let7a、mir92a、およびmir203aの同時定量化のためのトリプレックスアッセイ。a.各粒子集団のバーコード(Atto633)の蛍光強度(フローサイトメトリー測定)。
図9-2】Let7a、mir92a、およびmir203aの同時定量化のためのトリプレックスアッセイ。粒子集団は、左から右に、b.中性粒子、miR92a粒子、miR203a粒子、およびLet7a粒子、ならびに試料に応じてmiR92a、miR203a、Let7a粒子のサイトメトリー蛍光シグナルである。
図9-3】Let7a、mir92a、およびmir203aの同時定量化のためのトリプレックスアッセイ。c.各マイクロRNA標的の測定濃度。
図10】2次元蛍光バーコード化を使用した10個の粒子集団のフローサイトメトリー識別。1μmストレプトアビジンコーティング粒子は、種々の比のbiot-TTTT-FAM(5レベル)およびbiot-TTTTT-DyXL510(2レベル)で官能化されている。
図11】ヒト結腸全RNA抽出物からのLet7a検出。a.Let7a粒子のサイトメトリー蛍光シグナル。b.陰性対照中のおよび10ng/μLの結腸全RNAを含む試料中のLet7aの測定濃度。
図12】粒子数の関数としてのダイナミックレンジ調整。このグラフは、種々の標的濃度の20μL試料のダイナミックレンジの推移を示す。ダイナミックレンジは、検出限界(LoD)と定量化下限(hLoQ)との間で構成される。わかりやすくするために、LoDは、仮に5%と設定したブランクの限界(LoB=偽陽性事象の平均パーセンテージ)に等しいと想定する。hLoQは、仮に陽性事象の95%であると設定する(つまり、この値を上回ると、定量化には信頼性がないとみなされる)。底部のバーは、ダイナミックレンジ内に収まるように各標的濃度で使用される適切な粒子数を表す。結果として、ダイナミックレンジを調整することが可能である。
図13】粒子に捕捉中のクレノウDNAポリメラーゼ(3’->5’exo-)の存在/非存在に応じた検出Let7a濃度。
図14】強化した「ハード」洗浄手順のバックグラウンド増幅の低減効果。
図15】ポリ(T)変換鋳型の設計。予想濃度は、0M(陰性対照)および1.00E-12M(1pM試料)である。
図16】6重化miRNA検出における予想パターンおよび測定パターンの比較。
図17】調整可能なダイナミックレンジ。
図18】ヒト全RNAからの3種のマイクロRNAの検出。
【実施例
【0070】
方法および物質
オリゴヌクレオチド
本発明で使用したオリゴヌクレオチド(鋳型および合成マイクロRNA)はすべて、Biomers(ドイツ)から購入した。オリゴヌクレオチド配列をHPLCで精製した。鋳型配列は、5’ホスホロチオエート修飾により、エキソヌクレアーゼによる分解から保護されている。cT(変換鋳型)およびrT(リポート鋳型)は、ポリチミジル酸リンカーにより修飾され、続いてビオチン部分の3’および5’がそれぞれ修飾されている。
前記オリゴヌクレオチドは、以下の表2に示されている。
【0071】
【表3】
【0072】
表2.本発明で使用したオリゴヌクレオチド配列。「*」はホスホロチオエート骨格修飾を示す。「p」は、3’リン酸修飾を示す。「ビオチン」および「bioteg」は、それぞれアミノエトキシ-エトキシエタノールリンカーおよびより長いトリエチレングリコールリンカーを使用したビオチン化シントンを指す。大文字および小文字は、それぞれデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを表す。「aT」は自己触媒鋳型に相当し、「pT」は疑似鋳型に相当し、「rT」はリポート鋳型に相当し、「cT」は変換鋳型に相当する。Atto633、FAM、DyXL510はフルオロフォアである。dTFAMは、スペーサーアームを介して6-FAM(6-カルボキシフルオレセイン)で誘導体化されたデオキシチミジンヌクレオシドである。
【0073】
粒子官能化
ストレプトアビジンコーティング1μm粒子(Dynabeads C1)は、Invitrogenから得た。官能化前に、粒子を洗浄緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.5、1M NaCl、1mM EDTA、0.2%Tween20(Sigma-Aldrich))で3回洗浄し、次いで同じ緩衝液に再懸濁した。ビオチン化オリゴヌクレオチドを粒子懸濁物に添加し、ボルテックスでよく混合し、室温で15分間インキュベートする。官能化後、粒子を洗浄緩衝液で1回、保管緩衝液(5mM Tris-HCl pH7.5、50mM NaCl、500μM EDTA、5mM MgSO4)で1回洗浄し、最後に保管緩衝液に再懸濁した。グラフトされた粒子を、使用するまで4℃で保管する。
【0074】
マイクロRNA捕捉
捕捉ミックスはすべて、200μLのPCRチューブに4℃でアセンブリした。粒子を反応緩衝液に混合する(各ビーズ集団ごとに109ビーズ/mL、20mM Tris HCl pH8.9、10mM(NH42SO4、40mM KCl、10mM NaCl、10mM MgSO4、各々25μMのdNTP、0.1%(質量/容積)Synperonic F104、2μMネトロプシン)。試料を、合成マイクロRNA標的(低DNA保持チップを使用して1×Tris-EDTA緩衝液で系列希釈した)または標的含有流体(血漿、尿、細胞抽出物、組織抽出物など)でスパイクした。試料を、ThermoMixer(Eppendorf)にて2000rpmで撹拌しながら30℃で1時間インキュベートした。次いで、粒子をペレット化し、109粒子/mLの濃度で保管緩衝液に再懸濁した。その代わり、粒子および標的を検出ミックスに直接注入することにより、捕捉ステップを省略してもよい(下記を参照)。
【0075】
反応混合物アセンブリ
反応混合物はすべて、200μLのPCRチューブに4℃でアセンブリした。鋳型(aTおよびpT)および粒子(3×108粒子/mL、中性粒子および検出粒子を含む)を、酵素(200u/mL Nb.BsmI、10u/mL Nt.BstNBI、80u/mL Vent(exo-)、および23nM ttRecJ)と共に、反応緩衝液(20mM Tris HCl pH8.9;10mM(NH42SO4、40mM KCl、10mM NaCl、10mM MgSO4、各25μMのdNTP、0.1%(質量/容積)Synperonic F104、2μMネトロプシン)およびBSA(200μg/mL)と混合した。
【0076】
液滴生成およびインキュベーション
SU-8フォトレジスト(MicroChem Corp.、マサチューセッツ州、米国)を使用して標準的なソフトリソグラフィー技法により4インチシリコンウェーハにパターン化した2インレット(1つはオイル用、もう1つは水性試料用)フローフォーカシングマイクロ流体金型(flow focusing microfluidic mold)を準備した。Sylgard 184 PDMS樹脂(40g)/架橋剤(4g)(Dow Corning、ミシガン州、米国)の10:1混合物を金型に注ぎ、真空下で脱気し、70℃で2時間焼成した。硬化後、PDMSをウェーハから剥がし、直径1.5mmの入口穴および出口穴を生検パンチ(Integra Miltex、ペンシルベニア州、米国)で打ち抜いた。酸素プラズマ処理の直後に、PDMS層を1mm厚のスライドガラス(Paul Marienfeld GmbH&Co.K.G.、ドイツ)に固定した。最後に、チップに対して200℃で5時間にわたる2回目の焼成を行って、チャネルを疎水性にした。水性試料相(増幅ミックス+粒子)および連続相(1%(質量/質量)フッ素系界面活性剤を含むフッ素化油Novec-7500、3M(Emulseo、フランス))を、圧力コントローラーMFCS-EZ(Fluigent、フランス)および直径200μmのチューブ(C.I.L.、フランス)を使用してチップ上で混合して、流体力学的フローフォーカシング(flow focusing)により0.5pLの液滴を生成した。液滴をPCRチューブに移し、50℃でインキュベートして増幅反応を起こさせた。
【0077】
粒子分析
インキュベーション後、液滴を、界面活性剤を含まないフッ素化油(Novec 7500)と混合した(1:5容積/容積)。静電パルスガン(Zerostat 3、Milty、英国)を使用してエマルジョンを破壊した。すべての水液滴が1つの水液滴に融合したら、油相を廃棄し、水液滴をシース液(Attune NxTフォーカシング液、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)に再懸濁した。試料を、Attune NxT(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)中でフローサイトメトリーにより分析した。
【0078】
(実施例1)
マイクロRNAをデジタル検出するためのDNAグラフト粒子
本発明のデジタルマルチプレックス戦略は、単一核酸標的を捕捉し、指数関数的増幅反応を誘発させ、陽性シグナルを報告することができるDNAグラフト粒子の使用に依存する。陽性粒子対陰性粒子の比により、ポアソンの法則から算出される初期試料中の標的の絶対濃度へのアクセスが得られる。本発明者らは、まず、このデジタル手法を使用して1種のマイクロRNA標的を検出する可能性を調査した。
【0079】
そのために、1μmストレプトアビジンコーティング磁気粒子を、マイクロRNA Let7aを標的とする変換鋳型(cT、配列番号65)およびリポート鋳型(rT、配列番号64)で官能化した。粒子を、増幅機構(aT、配列番号61 pT、配列番号62、酵素、緩衝液、およびdNTP)と共に、0または1pMの合成Let7a RNA配列(配列番号69)を含む試料と混合する。次いで、マイクロ流体フローフォーカシング交差部を使用して懸濁物を封入し、油中水型液滴内への個々の粒子の区画化を可能にする。50℃でインキュベートすると、少なくとも1つのマイクロRNAを捕捉した粒子は、重合/ニッキングサイクルにより複数コピーの短鎖DNA配列(シグナルと呼ばれる)の産生を開始し、それにより最終的には増幅反応が誘発される。この反応の出力鎖は、ひいては、支持されているプローブとハイブリダイズし、粒子の蛍光増加に結び付く。最終的にはエマルジョンを破壊することにより粒子を回収し、フローサイトメトリーにより分析する。その結果は図2に示されている。インキュベーションをしない場合(したがって、増幅がない場合、図2a)、支持されているプローブのバックグラウンド増幅に対応する、弱い蛍光粒子の単一集団が観察されることが留意され得る。1pMのLet7aの存在下でインキュベーションした後、高蛍光粒子の集団(31%)は、陰性集団(69%)と区別される。この陽性集団は、少なくとも1つの標的生体分子を捕捉した粒子に対応する。標的が粒子によりポアソンランダム捕捉されると仮定すると、まずポアソン分布のパラメーターλを算出することにより、アッセイで測定したLet7aの濃度を算出することが可能である。
【0080】
【数2】
式中、λは、1粒子当たりの平均標的数であり、kは、1つの粒子に捕捉された標的の数であり、Fposは、陽性粒子(少なくとも1つの標的を捕捉した粒子)の割合である。次いで、Let7aの測定濃度([Let7a])は、以下の数式で求められる。
[Let7a]=[部].λ
[Let7a]=[部].ln(1-Fpos
式中、[部]は、粒子の初期濃度である。この数式から、発明者らは以下を導き出した。
λ=-Ln(1-Fpos
【0081】
したがって、初期試料中の測定濃度は620fMであり、これは、標的希釈(100μMストック溶液からの希釈)の不確実性を考慮すると、理論濃度(1pM)と一致する。陰性対照は、2.6%の偽陽性粒子を報告する。
さらに、本発明者らは、1pMのLet7a標的を含む試料をフローサイトメトリーにより分析した。フローサイトメトリー(FAMフルオロフォアで修飾されたビーズ上のrT、配列番号64を使用)および蛍光顕微鏡法(Atto633色素で修飾された溶液中のrT、配列番号63を使用)により得られた結果を比較する。
顕微鏡画像分析(図3a)は、粒子含有液滴(白色点)の79%が標的(灰色蛍光液滴により示される)を検出したことを示す。こうした結果は、陽性事象の85%が検出されたフローサイトメトリー読出し値と良好に一致する(図3b)。
【0082】
(実施例2)
酵素捕集効果
本発明者らは、偽陽性率に対する粒子濃度の効果を調べた。2×107粒子を、0または1pMのLet7a標的(20μL)の存在下でインキュベートした。次いで、105または106粒子μLの粒子をマスターミックスに再懸濁した後、液滴マイクロ流体で乳化し、50℃で4時間インキュベートし、フローサイトメトリーで分析した(図4)。105または106粒子/μLでは、陰性対照は、それぞれ16.4%および2.6%の偽陽性事象を記録し、粒子濃度がアッセイ感度に対して著しい影響を及ぼすことが示された。本発明者らは、分配前に粒子をマスターミックス中でプレインキュベーションことにより、DNAグラフト粒子上で酵素(1つまたは幾つか)の濃縮がもたらされることを示している。その結果、酵素(例えば、DNAポリメラーゼ)の過剰濃縮は、非特異的増幅反応を加速し、最終的に偽陽性率を増加させる。
【0083】
この効果をさらに実証するため、本発明者らは、図5に示されている実験を設計した。マイクロRNA検出に使用される酵素混合物(ポリメラーゼ、ニッカーゼ、エキソヌクレアーゼ)を、i)粒子なしで、ii)未官能化粒子と共に、iii)オリゴヌクレオチド官能化粒子と共に30分間インキュベートする。次いで、粒子をペレット化し、上清を、溶液中のLet7aを検出するための酵素ミックスとして使用し、10pMのLet7aおよび分子プログラム(aT、配列番号61 pT、配列番号62 cT、配列番号68、rT、配列番号63を含む1セットのオリゴヌクレオチド)を添加し、ミックスを50℃でインキュベートしつつ、リポート鋳型の蛍光をリアルタイムでモニターする(図5a)。図5bには、3つの試料の開始時間(Cq)が比較されている。粒子なしでまたは未官能化粒子と共にプレインキュベートした混合酵素を使用した場合、Cqは非常に類似しており(約100分)、粒子自体は反応に影響を及ぼさないことが実証される。酵素およびオリゴ担持粒子を混合すると、反応が遅くなり、偽陰性を誘発する可能性がある。
【0084】
この効果に対抗し、反応速度を加速して感度を増加させるために、一定の粒子濃度で反応を実施する。さらに、粒子希釈は、粒子濃度を一定に保ちながら「中性粒子」の集団を追加することにより補償される。こうした中性粒子は、検出粒子と同じ量のレポーター鋳型を担持するが、変換鋳型は担持していない。したがって、中性粒子は検出粒子と同程度の酵素を捕集するが、マイクロRNAを捕捉して増幅を誘発することはできない。
特に、Let7aに対する一定濃度の検出粒子(105ビーズ/μLのBLet7a)を、0~2×105個の中性粒子(BN、cTがグラフトされていない)で補完して使用した。図6は、0または1pMのLet7a標的と共にインキュベートした試料の陽性BLet7aの割合を示す。本発明者らは、中性ビーズの追加は、陰性対照と比較して、偽陽性のパーセンテージを低減させるが、マイクロRNA定量化には影響を及ぼさないことを実証した。105粒子/μLでは、4時間後に反応が完了する。3×105粒子/μLでは、反応は約10時間かかり、106粒子/μLでは、反応は24時間後でも完了しない。最後に、本発明者らは、最適な粒子濃度は、約3×105粒子/μLであり得ると結論付けた。
【0085】
こうした実験条件を検証するため、本発明者らは、異なる濃度におけるLet7aのデジタル検出を実施した。図7は、偽陽性割合がわずか0.7%であることを示しており、これは、中性粒子追加の効果を証明する。陽性試料では、検出濃度は予想濃度と一致する。全体として、こうした結果は、DNA官能化粒子が、1種のマイクロRNA標的のデジタル検出に好適であることを示す。
マイクロRNAのマルチプレックスおよびデジタル検出
1種の標的の検出が十分に特徴付けられた系を用いて、本発明者らは、単一アッセイにおける数種の標的検出へと進んだ。図8は、マイクロRNA Let7aおよびmir92aをそれぞれ標的とする粒子BLet7aおよびB92aの2つの集団を用いて実施したデュプレックスアッセイを示す。それらを識別することができるように、両集団は、異なる濃度のビオチン化蛍光マーカーでバーコード化されている。実験は、4つの試料で構成されていた。1つは陰性対照であり(標的なし)、2つは、2つの標的のうち一方のみを1pMで含む試料であり、もう1つは、両標的を1pMで含む試料である。
【0086】
単一標的アッセイと同様に、粒子集団は、それらの特異的標的が存在する場合にのみ有意にオンになる。陰性対照の偽陽性パーセンテージは非常に低い(BLet7aでは0.14%、B92aでは0.64%)。他の標的が存在する場合、偽陽性パーセンテージはより高いことに留意されたい。例えば、Let7aのみの試料では、B92aの7%がオンになる。これは、おそらくは共封入された粒子によるものであり、数学的に補償することができる。検出濃度は予想濃度と一致する。したがって、本発明者らは、この実験で、単一アッセイにおいて2種のmiRNAを効果的に測定することが可能であることを実証した。
次いで、本発明者らは、デジタルマルチプレックス手法の一般化をさらに実証するために、3標的アッセイ(Let7a、mir203a、およびmir92a)へと移行した。同族粒子、つまり、標的生体分子の各々に対応する粒子(つまり、対応する変換鋳型(cT)、配列番号66~68で修飾されている)および中性粒子集団を、3種の標的の1つの1pMでスパイクする。フローサイトメトリー分析の結果を図9に示す。
このマルチプレックス容量は、異なる粒子集団の数によってのみ制限されるが、こうした集団は、例えばフローサイトメトリーにより分離することができる。
このマルチプレックス容量は、異なる粒子集団の数によってのみ制限されるが、こうした集団は、例えばフローサイトメトリーにより分離することができる。
図10は、2つの蛍光バーコード(それぞれ5レベルおよび2レベルの蛍光)の組合せを使用した10個のビーズ集団の識別を示す。
【0087】
生物学的試料からのマイクロRNA検出
この実験により、本発明者らは、生物学的試料(ヒト腸細胞からのRNA抽出物)からマイクロRNA標的を検出するための現行デジタル検出手法の適合性を実証した。提案手順では、標的捕捉ステップが、シグナル増幅と非関連化される。したがって、捕捉した後、粒子を洗浄し、下流の生化学反応と適合する適切な緩衝液に再懸濁することができる。したがって、このアッセイは、複雑媒体で出来ている生物学的試料と適合性であり、洗浄ステップにて、増幅反応を妨げ得る初期マトリックスを取り除くことができる。Let7a標的の定量化へと進む前に、最終濃度10ng/μLのヒト結腸全RNAを、BLet7aと混合する。図11は、Let7aの検出濃度を示しており、検出濃度は、抽出物1ng当たりおよそ6×104コピーである。これは、本発明が、生物学的試料中の内因性マイクロRNAの検出を可能にすることを実証する。
感度およびダイナミックレンジの調整
アッセイ感度は、低存在量標的の定量化を考慮する場合、極めて重要である。デジタルアッセイの感度は、1粒子当たりの平均標的数(λ)により求められる陽性/陰性事象の比と密接に相関する。本アッセイでは、検出粒子の量を変更することによりこのパラメーターを調整した。したがって、アッセイのダイナミックレンジおよび感度は、各標的ごとに独立して調整することができる。図12に示されている図によると、粒子集団を飽和させると予想される高存在量の標的の場合(λ>5の場合、陽性粒子の予想パーセンテージは>99%である)、検出粒子の数を増加させてパラメーターλを調整することができる。反対に、発現が不良な標的を標的とする検出粒子の量は減少させることができる。その代わり、標的濃度が低い場合は、捕捉ステップ中に使用する試料の量を増加させることが可能である。その結果、標的にハイブリダイズする粒子の数が増加し、したがってλ値が上昇することになる。
【0088】
(実施例3)
核酸検出のための2種のポリメラーゼの使用
DNA合成標的の高感度定量化を可能にする(Vent(exo-))ポリメラーゼの使用に加えて、本発明者らは、マイクロRNAを定量化するための増幅反応にクレノウ(exo-)ポリメラーゼを添加する効果を評価した。まず、Let7aを検出するために、このアッセイを実施した。
捕捉ステップ
miRNA捕捉は、検出粒子、miRNA標的、25μMのdATP、dTTP、dCTP、およびdGTP、ならびにクレノウポリメラーゼを40℃で2時間インキュベートすることにより実現させた。濃度は、下記の表3に示されている。
【0089】
【表4】

表3:クレノウポリメラーゼ、粒子、およびマイクロRNAの濃度
粒子沈殿を回避するために、インキュベーション中は撹拌を行った。インキュベーション後、粒子を回収し、下記の表4に示されている組成を有する保管緩衝液で2回洗浄した。
【表5】

表4:保管緩衝液の組成
【0090】
本アッセイで使用した反応混合物AおよびBを下記の表5に示す。
【表6】

表5:反応混合物AおよびBの組成
【0091】
封入
ミックスAおよびミックスBを、二重水インレットフローフォーカシングマイクロ流体デバイス(double water inlet flow focusing microfluidic device)を使用して、50%/50%の割合で9μmの油中水型液滴に封入する。
インキュベーション
液滴を50℃で8時間インキュベートする。
粒子分析
静電ガン(Zerostat3、Milty、英国)を使用して液滴を破壊する。粒子を、AttuneNxTフォーカシング液(ThermoFisher)に再懸濁し、フローサイトメトリー(Attune NxTフローサイトメーター、ThermoFisher)により分析する。
【0092】
図13は、捕捉ステップ(つまり、粒子表面上でのmiRNA(Let7a)の捕捉)中にクレノウ(exo-)を導入すると、Let7aの検出量が明らかに増加することを示す。捕捉混合物中にクレノウ(exo-)があると450fMのLet7aが検出されたが、捕捉ステップ中にクレノウ(exo-)が存在しなかった場合は31fMしか検出さなかった。
クレノウ(exo-)ポリメラーゼの作用を最適化するために、および残留バックグラウンド増幅(非特異的増幅による)を排除するために、本発明者らは、ストリンジェントな緩衝液中で捕捉後洗浄を行う追加ステップおよび捕集されたポリメラーゼ分子を除去するために超音波処理ステップを実施することにより、上記に記載の実験プロトコールを強化した。
【0093】
捕捉ステップ
miRNA捕捉は、検出粒子、miRNA標的、およびクレノウポリメラーゼを、粒子沈殿を回避するために撹拌しながら(2000rpm)、40℃で2時間インキュベートすることにより実現させた。濃度は以下の通りである。
・粒子:109粒子/mL
・クレノウポリメラーゼ:50単位/mL
捕捉後洗浄:
「ソフト」洗浄手順:
・粒子を磁気的にプールし、捕捉ミックスの残りを破棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・上清を廃棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・上清を廃棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
「ハード」洗浄手順:
・粒子を磁気的にプールし、捕捉ミックスの残りを破棄する
・BW緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・超音波浴で30秒間超音波処理する
・上清を廃棄する
・BW緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・超音波浴で30秒間超音波処理する
・上清を廃棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・上清を廃棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
・上清を廃棄する
・保管緩衝液に再懸濁する
・30秒間ボルテックスする
【0094】
保管緩衝液は、上記の表4に示されているものと同じ組成を有する。BW緩衝液の組成を下記の表6に示す。
【表7】

表6:BW緩衝液の組成
【0095】
反応混合物AおよびBは、上記の表5に示されているものと同じ組成を有する。さらに、封入、インキュベーション、および粒子分析を、上記と同じ方法で実施する。
図14は、陰性対照(生体分子標的を有しない試料)からの検出濃度が、「ハード」洗浄手順のおかげで80%低減されたことを示す。これにより、クレノウポリメラーゼ分子が粒子に捕集されること、および「ハード」洗浄手順により非特異的増幅(バックグラウンド増幅)を排除することができることが実証される。
【0096】
(実施例4)
ポリ(T)変換鋳型としての変換鋳型の設計
上記で実証されたように、捕捉ステップにクレノウポリメラーゼを追加することにより、RNA標的の検出量が増加した。本発明者らは、本マルチプレックス法の方法の感度をさらに向上させるために、マイクロRNA結合配列とNt.BstNBI認識部位との間に、ポリ(T)スペーサーを含み、したがってプライマー上のDNAヌクレオチドの数を増加させる変換鋳型を設計した。
実験条件(捕捉ステップ、捕捉後洗浄(ハード洗浄プロトコール)、封入、インキュベーション、および粒子分析)は上記に記載の通りである。しかしながら、捕捉ステップ中はdATP(25μM)のみが導入されることに留意されたい。

図15は、T5およびT15(配列21toBc T5 T7 biot(T5の場合)および21toBc T15 T7 biot(T15の場合)に対応する5~15ヌクレオチド長のポリ(T)スペーサーに対応する);コンバーター鋳型(converter template)により、miR21の正確な定量化が可能になり、検出濃度は、それぞれ1.20pMおよび1.02pMであるが、元のT0cTでは0.28pMしか検出されないことを示す。さらに、T5コンバーターはバックグラウンド増幅を増加させない。
【0097】
(実施例5)
合成miRNAの6重検出
このセットの最適化条件(捕捉におけるクレノウポリメラーゼ、「ハード」洗浄手順、T5コンバーター鋳型)を使用して、発明者らは、水にスパイクした合成miRNAの検出を評価した。
捕捉ステップ
miRNA捕捉は、検出粒子、miRNA標的、およびクレノウポリメラーゼを40℃で2時間インキュベートすることにより実施した。濃度は以下の通りである。
・粒子:6つの部分集団の各々で2.5×108粒子/mL(合計1.5×109粒子/mL)
・クレノウポリメラーゼ:50単位/mL
【0098】
6種のmiRNAの濃度を下記の表7に示す。
【表8】

表7:miRNAの濃度
【0099】
粒子沈殿を回避するために、インキュベーション中は撹拌を行った。
他の実験条件(捕捉ステップ、捕捉後洗浄(ハード洗浄プロトコール)、封入、インキュベーション、粒子分析)は上記に記載の通りである。しかしながら、捕捉ステップ中はdATP(25μM)のみが導入されることに留意されたい。
図16は、測定パターンが予想パターンと非常に近いことを示す(1.00E-12)。新しい実験条件は、RNA標的のマルチプレックス定量化を可能にし、これは、疾患関連分子シグネチャの検出に応用することができる。
【0100】
(実施例6)
調整可能なダイナミックレンジ
マイクロRNA標的の検出濃度は下記の数式で求められる。
[マイクロRNA]=-ln(1-Fpos).[粒子]捕捉
式中、Fposは陽性粒子のパーセンテージであり、0%~100%の間に含まれる。Fposの値が極端である場合(0%または100%に近い)、測定miRNA濃度の変動性は非常に高く、そのようなFpos値での定量化は信頼性が減少する。したがって、miRNA標的を信頼性高く定量化することができるダイナミックレンジは制限される。
しかしながら、捕捉ステップ中に粒子濃度を調整することにより、ダイナミックレンジを広げることが可能である。検出粒子の濃度を下げると、より低い濃度の標的を検出することが可能になる。
【0101】
試験のダイナミックレンジを評価するために、および粒子濃度を変化させることによりダイナミックレンジを改変することができることを検証するために、2つの異なる粒子濃度を使用して種々の量のLet7aを定量化する。
捕捉ステップ
miRNA捕捉は、検出粒子、miRNA標的、およびクレノウポリメラーゼを40℃で2時間インキュベートすることにより実現させた。濃度は以下の通りである。
・クレノウポリメラーゼ:すべての試料で50単位/mL
・緩衝液:miR緩衝液1×dATPのみ
【0102】
【表9】

表8:miRNAの濃度
捕捉ステップ後、ハード洗浄を上記に記載の通り実施した。
反応混合物:
【0103】
【表10】

表9:反応混合物および濃度
【0104】
封入
ミックスAおよびミックスBを、二重水インレットフローフォーカシングマイクロ流体デバイスを使用して、9μmの油中水型液滴に50%/50%の割合で封入する。
インキュベーション
液滴を50℃で8時間インキュベートする。
粒子分析
静電「ガン」を使用して液滴を破壊する。粒子を、AttuneNxTフォーカシング液(ThermoFisher)に再懸濁し、フローサイトメトリー(Attune NxTフローサイトメーター、ThermoFisher)により分析する。
図17は、捕捉ミックス中の検出粒子の濃度が2×109粒子/mLである場合、ダイナミックレンジが、10pM~100fMの間に含まれることを示す。粒子の濃度を2×108粒子/mLに低減すると、ダイナミックレンジはおよそ1桁シフトする(1pM~10fM)。
【0105】
(実施例7)
ヒト結腸全RNAからのマルチプレックス検出
この系では、水にスパイクした合成miRNA標的に対して作業を行う。本発明者らは、この実験では、ヒト結腸全RNA中の3種のマイクロRNA標的のマルチプレックス検出を実証する。このアッセイでは、本発明者らは、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)に由来するLin4を対照として、ヒトmiRNA Let7a、miR21を検出した。
捕捉ステップ
miRNA捕捉は、検出粒子、miRNA標的、およびクレノウポリメラーゼを40℃で2時間インキュベートすることにより実現させた。濃度は以下の通りである。
・クレノウポリメラーゼ:すべての試料で50単位/mL
・粒子:3つの部分集団の各々で5×108粒子/mL(合計1.5×109粒子/mL)
・全RNA:2.5μg/mL
・Lin4:1pM(外因性スパイクイン対照)
・緩衝液:miR緩衝液1×dATPのみ
捕捉ステップ後、ハード洗浄を上記に記載の通りに実施した。
【0106】
反応混合物:
反応混合物AおよびBは、上記の表9に示されているものと同じ(同じ組成および同じ濃度)だった。
さらに、封入、インキュベーション、および粒子分析を、実施例6に記載の通り実施した。
図18は、この系が、2種の内因性標的(let7aおよびmir21)および1種の外因性標的(スパイクインlin4)を含むヒト結腸全RNAの試料から3種のマイクロRNAを検出することに成功したことを示す。対照マイクロRNA lin4の予想濃度は、1pMだった。測定濃度は0.94pMである。
【0107】
書誌参照


図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2022534440000001.app
【国際調査報告】