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  • 特表-超高精度ウイルスベクターアッセイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-01
(54)【発明の名称】超高精度ウイルスベクターアッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20220725BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220725BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220725BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20220725BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220725BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20220725BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
A61K35/761
C12N5/10
C12Q1/6876 Z
C12N15/12
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569884
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 US2020034146
(87)【国際公開番号】W WO2020242913
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】16/426,124
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519162156
【氏名又は名称】トライゼル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ミュッカネン, イェンニ
(72)【発明者】
【氏名】ペルトネン, ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】ハッシネン, ミンナ
(72)【発明者】
【氏名】イラ-ヘルットゥアラ, セッポ
(72)【発明者】
【氏名】パーカー, ナイジェル
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR77
4B063QR79
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA06
4C087NA07
(57)【要約】
複製欠損ウイルス遺伝子治療ベクターの製造中に、ランダム変異または他の事象が、望ましくない複製能力のあるウイルス(「RCV」)を生成する場合がある。したがって、ウイルス遺伝子治療ベクターの製造業者は、連続感染をアッセイすることにより、すなわち、標的細胞にウイルスベクターを形質導入し、次いで形質導入した細胞を溶解し、次いで溶解物を生存アッセイ細胞と混合し、次いで顕微鏡で観察して、アッセイ細胞がウイルスに感染しているかどうかを視覚的に判定することによって、混入RCVの存在に関してアッセイする。様々な代替アプローチを試験したが、驚くべきことに、液滴デジタルPCRは、従来技術のアプローチよりも高速であるだけでなく、1桁以上感度が高く、例えば3×1010個のアッセイ細胞中のわずか7個の複製能力のあるアデノウイルス(「RC」)を検出することができることが見出された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常なヒト細胞で複製することができないウイルス遺伝子治療ベクターを含む試料中の正常なヒト細胞で複製することができるウイルスの同定方法であって、前記方法が:
a.正常なヒト細胞で複製することができないウイルス遺伝子治療ベクターを含む試料を取得することを含み、前記ウイルスベクターが、導入遺伝子と、正常なヒト細胞内でのウイルスの複製に不可欠な野生型ウイルスゲノムの領域に改変または欠失を有することによって前記野生型ウイルスゲノムから遺伝子改変されたウイルスゲノムを含み、それにより、得られるウイルス遺伝子治療ベクターが、正常なヒト細胞で複製することができないことが意図され、前記方法がまた、次いで、
b)前記試料を、前記ウイルス遺伝子治療ベクターによって形質導入することができる標的生細胞と混合して、形質導入混合物を作製し、次いで、
c)前記ウイルス遺伝子治療ベクターが前記標的細胞を形質導入することを可能にするのに十分な時間及び条件下で、前記形質導入混合物を維持し、次いで、
d)任意の残留試料から前記標的細胞を分離し、次いで、
e)前記標的細胞を溶解して細胞内内容物を放出させ、次いで、
f)前記溶解した標的細胞の前記細胞内内容物を、前記ウイルスに感染し得る生存アッセイ細胞と混合して、感染混合物を作成し、次いで、
g)前記ウイルス(もし存在すれば)が前記アッセイ細胞に感染するのを可能にするのに十分な時間及び条件下で、前記感染混合物を維持し、次いで、
h)前記アッセイ細胞を溶解してその細胞内内容物を放出させ、次いで、
i)前記アッセイ細胞の細胞内内容物から核酸を単離し、次いで、
j)前記単離された核酸を、改変または欠失している、前記ウイルスゲノムのウイルス複製に不可欠な前記領域にハイブリダイズするプローブを使用して、デジタルPCRによって評価し、
それにより、正常なヒト細胞で複製することができるウイルスのおおよその量を前記試料中で測定することを含む、前記同定方法。
【請求項2】
前記ウイルスがアデノウイルスであり、前記プローブが、配列番号1、配列番号2及び配列番号3から選択される配列を含む配列を有するDNAプローブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができるわずか25個のウイルスを検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができるわずか7個のウイルスを検出する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記導入遺伝子が、インターフェロン及びp53からなる群から選択されるポリペプチドを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬学的に許容される賦形剤と、正常なヒト細胞で複製することができず、導入遺伝子を含むウイルス遺伝子治療ベクターを含む、医薬完成剤形であって、前記剤形が、正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができる約25個以下のウイルス粒子を含む、前記医薬完成剤形。
【請求項7】
正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができる約7個以下のウイルス粒子を含む、請求項6に記載の医薬完成剤形。
【請求項8】
前記ウイルスがアデノウイルスである、請求項6に記載の医薬完成剤形。
【請求項9】
前記導入遺伝子が、インターフェロン及びp53からなる群から選択されるポリペプチドを発現する、請求項6に記載の医薬完成剤形。
【請求項10】
前記導入遺伝子が、インターフェロンを発現する、請求項9に記載の医薬完成剤形。
【請求項11】
正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができる約7個以下のウイルス粒子を含む、請求項10に記載の医薬完成剤形。
【請求項12】
前記導入遺伝子が、p53を発現する、請求項9に記載の医薬完成剤形。
【請求項13】
正常なヒト細胞で複製することができない3×1010個のウイルス粒子あたり、正常なヒト細胞で複製することができる約7個以下のウイルス粒子を含む、請求項12に記載の医薬完成剤形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照:
本出願は、2019年5月30日に出願され、参照により本明細書に援用される米国実用新案特許出願シリアル番号16/426124の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載:
該当なし
【0003】
共同研究契約の当事者名:
該当なし
【0004】
配列表の参照:
本出願は、本出願中にPatentIn(商標)記録ファイルを含み、参照により援用する。
【0005】
発明者または共同発明者による事前の開示に関する声明:
該当なし
【背景技術】
【0006】
特定のウイルス遺伝子治療ベクターは、設計上、患者内で複製することができない。例えば、正常なヒト細胞で複製するには、アデノウイルスは、機能するE1a、E1b、及びE3ゲノム領域を必要とする。これらの領域を欠失または変異させることにより、ウイルス遺伝子治療ベクターは、複製が欠損し得る。
【0007】
それにもかかわらず、ウイルス遺伝子治療ベクターの製造中に、ランダムな変異または他の事象のために、望ましくない複製能力のあるウイルス(「RCV」)が形成される可能性がある。例えば、E1a欠失アデノウイルスベクターは、機能的なE1a領域を含むHEK293細胞で製造され得る。自発的組換えは、理論的には機能的なE1a領域をアデノウイルスに戻し、複製能力のあるアデノウイルス(「RCA」)を作り出す可能性がある。
【0008】
したがって、ウイルス遺伝子治療ベクターの製造業者は、混入RCVの存在に関して、複製欠損ウイルスベクターをアッセイする。規制当局、すなわち、欧州医薬品庁及びアメリカ合衆国食品医薬品局は、これを、一般的に「ローラーボトル」アッセイと呼ばれるものを使用して、連続感染についてアッセイすることによって行うことを要求している。
【0009】
この方法では、標的細胞(例えば、HEK細胞)を培地中で増殖させる。次いで、ウイルスベクターの試料を加えて標的細胞を形質導入し、形質導入が完了するのに十分な時間、細胞を培養する。次いで、標的細胞をペレット化し、すすいで、培地に残留しているウイルスベクターをすべて除去する。次いで、標的細胞を溶解し、溶解物をアッセイ細胞(例えば、HeLa細胞)の培養物に加える。次いで、感染性ウイルス(もしあれば)がアッセイ細胞の目に見える感染を引き起こすことを可能にするのに十分長い時間、アッセイ細胞を培地中で増殖させる。任意選択で、これらのアッセイ細胞を再びペレット化し、すすぎ、溶解し、溶解物をアッセイ細胞の第2の培養物に加えてもよく、これを次に培地で増殖させる。目に見える感染は顕微鏡で測定し、アッセイ細胞を観察して、ウイルスに感染しているかどうかを視覚的に判定する。その目視検査は、目に見える細胞ストレスの評価であり;感染細胞は目に見えて変形し、見栄えが悪くなるが、一方、感染性ウイルスがない場合、アッセイ細胞は正常に見える。アッセイ細胞を通常、ローラーボトル内で培養することから、この試験は多くの場合、「ローラーボトル」試験と呼ばれる。
【0010】
ローラーボトルアッセイは、3×1010ウイルス粒子中に1つ未満のRCAを検出するのに十分な感度があると理解されている。ローラーボトル試験は、アッセイ細胞の形態の顕微鏡観察に依存しているため、ある程度主観的である。より客観的なアッセイを見出すために、様々な代替アプローチを試験した。代替アッセイを業界標準のローラーボトルアッセイと比較したところ、驚くべきことに、当技術分野の教示に反して、ローラーボトルアッセイは、3×1010ウイルス粒子中に1つ未満のRCAを検出するのに十分な感度がないことがわかった。それどころか、ローラーボトルアッセイでは、3×1010ウイルス粒子中に75個以上のRCAを検出することができるに過ぎないことがわかった。
【0011】
したがって、本発明者らは、デジタルPCRを使用した代替アプローチの開発に時間を費やした。これは、従来技術のアプローチに比べて、より高速であり得、より客観的なデータを提供し、驚くべきことに、10倍の高感度で、例えば、3×1010ウイルス粒子中に7個のRCAを検出することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)を用いて、複製能力のあるウイルス(「RCV」)、例えば、複製能力のあるアデノウイルス(「RCA」)を検出するためのアッセイを記載する。好ましくは、装置が容易に入手可能であることから、液滴デジタルPCR(ddPCR)を使用してもよい。本発明者らのアッセイには、細胞培養物中のRCAの複数の増幅サイクルと、ddPCR法による増幅されたRCAの検出が含まれる。
【0013】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。図面(複数可)を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要請かつ必要な料金の支払いにより特許庁より提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アッセイのフローチャートの概要を示す。
図2】QuantaSoftソフトウェアのユーザーインターフェイスのカラー写真または別刷りである。
【0015】
本特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数可)を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要請かつ必要な料金の支払いにより特許庁より提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
アッセイの概要を図1に示す。図1では、浮遊培養したHeLa細胞を使用して潜在するRCAを増幅している。細胞を7.5×10細胞/フラスコの密度で、500ml振盪フラスコに播種する。各フラスコに、3×1010ウイルス粒子(vp)の被験試料(TS)を加える。3日間のインキュベーション(+37℃、5%CO、122rpm)後、細胞を回収し、3回の凍結融解サイクルで溶解する。溶解物を遠心分離により清澄化する。
【0017】
次いで、溶解物を、125ml振盪フラスコの新鮮なアッセイ細胞(2×10細胞/フラスコ)に加える。これらの第1のアッセイ培養フラスコを、標的細胞培養と同じ方法で取り扱う。
【0018】
次いで、第1のアッセイ培養由来の溶解物を、第2のアッセイ培養(2×10細胞/フラスコ)に加える。3日間のインキュベーション後、第2のアッセイ培養細胞を回収して溶解する。溶解物を遠心分離により清澄化し、超低温冷凍庫に保存する。複数のRCA増幅サイクルを実行して、治療用タンパク質(例えば、インターフェロン(インターフェロン感受性アッセイ細胞の増殖を妨げる)をコードするウイルスベクター内の導入遺伝子)の干渉効果を最小限に抑え、RCAの収率を最大化する。
【0019】
溶解物中のRCAを、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)法によって検出する。本発明者らはddPCRの使用を推奨しており、そのため、以下でこれを説明するが、他のdPCR法を使用してもよい。
【0020】
溶解物をプロテイナーゼKで前処理して、ウイルス粒子内にカプセル化されているウイルスDNAを放出させる。
【0021】
前処理した溶解物をddPCR分析における試料として、ウイルスから欠失させた(複製不能とするために)ウイルスゲノム領域の一部に特異的なPCRプライマー及びプローブ(例えば、TaqManプローブ)と共に使用する。例えば、E1領域を欠失させたアデノウイルスを、この方法を使用してアッセイした。E1領域は、アデノウイルスの複製に不可欠であるため、様々なアデノウイルス遺伝子治療ベクターのゲノムからは欠失させるが、野生型(感染性)ゲノムには存在する。
【0022】
ddPCR分析では、スーパーミックス、プライマー及びプローブを含む混合物を調製し、次いで96ウェルプレートの3つのウェルにピペットで移した。溶解物試料(上記由来の)を各ウェルに加える。次いで、自動液滴ジェネレーターを使用して、数千の小さな液滴を生成した。試料DNAはランダムに液滴間に分割される。液滴内のDNAをPCRによって増幅させる。液滴を、陽性及び陰性の液滴をカウントするリーダーを使用して読み取る。結果を、ポアソン分布を使用して計算し、コピー数/μlで取得する。
【0023】
本発明者らは、このプロトコルを複製欠損アデノウイルス遺伝子治療ベクターに使用したが、概念的にはPCR分析に適したゲノムを有する他の複製欠損ウイルスに使用してもよい。同様に、本発明者らは、血管内皮成長因子D(「VEGF-D」)の導入遺伝子を含むウイルスベクターでこの系を試験したが、別の導入遺伝子を有するベクターで使用してもよい。
【0024】
アッセイ用の参照標準(RS)として、第I相臨床グレードの物質を1.77×1011vp/mlの濃度で使用した。RSは被験試料(TS)と同様に扱う。2つ組のRSフラスコを用意した。TSの結果を、参照標準に対して報告する。
【0025】
増幅は、陰性対照(NC)によって調節する。NCは、細胞を細胞培養培地で「模擬感染」させることによって調製する。期待される結果がわかっているため、NCは単一のフラスコとして調製する。
【0026】
標的細胞を100vpの野生型(複製能力のある)アデノウイルス参照物質(「ARM」)(ATCCカタログ番号VR-1516)で感染させることによって調製した陽性対照(PC)を使用した。PCは傾向分析の目的でのみ使用し、PCを2つ組で調製する。
【0027】
ddPCRは、テンプレートなしの対照(NTC)によって制御する。NTCでは、試料を、試料、及び陽性対照の精製ARM DNA(ARM物質から抽出した無細胞DNAを試料として使用する)の希釈に使用した培地と同じ細胞培養培地に置き換える。ARM DNAは、元の濃度である322.1ng/μlを使用した。次いで、ARM DNAを10ng/μlに希釈し、12μl/チューブのアリコートに分注した。アリコートを-20℃で保存した。DNAの凍結融解による損傷を最小限に抑えるために、各アリコートの解凍は5回以内までとすべきである。解凍したチューブの各解凍を記憶または記録し、5回目の解凍後に廃棄して分注することを推奨する。
【0028】
このアッセイでは、10%FBS/Pen/Strep/L-グルタミンを添加したDMEMで培養したHeLa QCWCB2細胞を使用する。細胞を、例えば、シェーカープラットフォームを備えたCOインキュベーターまたはNew Brunswick S41i(商標)インキュベーターシェーカー内で、異なるサイズの懸濁振盪フラスコ中で培養する。
【0029】
このプロセスは、第1の感染、第2の感染及び第3の感染の日に2人のオペレーターが実行した場合に最も効率的であることがわかった。1人のオペレーターがアッセイ用にHeLa浮遊細胞を播種する(感染用に7~15フラスコ、さらに培養用に1~5フラスコ)。もう1人のオペレーターは、第1の感染のためにウイルス希釈液を調製するか、または第2及び第3の感染中に感染細胞を溶解する。回収及びdPCR分析に必要なオペレーターは1人だけである。
【0030】
細胞培養
細胞培養は無菌操作に従って実施する。HeLa QCWCB2細胞を浮遊培養した。RCAアッセイに必要な細胞フラスコの数は、分析するTSの数によって異なる。1つのフラスコをNC用に、2つのフラスコをRS用に、そして2つのフラスコをPC用に確保する。各TSは2つ組として分析する。1回のアッセイで最大5つのTSを分析することができる(合計15フラスコ)。
【0031】
必要な数のフラスコを確保するには、培養物を適切にスケールアップする必要がある。表Iは、様々な数の被験試料(TS)でアッセイを開始するための、播種するフラスコの推奨最小数を示している。250ml及び500mlの振盪フラスコは交換可能であるため、1つの500mlフラスコは2つの250mlフラスコに対応する。必要な量の細胞を取得するには、スケールアップを十分に早く開始する必要があることに注意されたい:4~5種のTSを用いてアッセイする場合、これはアッセイ開始の約2週間前を意味し、1~3種のTSを用いてアッセイする場合は前週を意味する。
【表1】

様々な数の被験試料(TS)でアッセイを開始するための、播種するフラスコの推奨最小数を示す。スケールアップは、アッセイの1~2週間前に開始すべきである。平日は例示的なものであり、必要に応じて調整することができる。アッセイに必要なフラスコを示し;また、同時にさらに培養するために、複数のフラスコに播種する必要がある。
【0032】
RCAアッセイのために細胞を播種する前に、培養物の増殖をモニタリングし、細胞をカウントする。細胞には以下のシステム適合基準(SSC)を使用することを推奨する:細胞生存率≧80%、及び細胞カウント数のRSD%(相対標準偏差)≦20%。
【0033】
RCAアッセイで感染させる細胞を播種する場合、表IIに示す播種パラメーターを使用することを推奨する。
【表2】
【0034】
第1の感染を、500mlフラスコ中で、1×10細胞/フラスコで実施することを推奨する。この細胞量を100mlの培地に播種する。感染後、100mlの培地を加える。フラスコ中の最終細胞密度は5×10細胞/mlである。1フラスコあたりの被験物質の用量は3x1010vpである。細胞あたりの用量は300vp/細胞である。第2及び第3の感染は、125mlのフラスコ中で、40mlの培地中に2×10細胞/フラスコで実施する。細胞密度は5×10細胞/mlである。播種した細胞は、同じ日に感染させる。
【0035】
第1の感染/形質導入:
第1の感染(すなわち導入遺伝子を含む組換えウイルスを使用する「形質導入」)では、ウイルスベクター希釈液を冷培地(冷蔵庫から取り出した)中で調製する。プロトコル全体を通して、相互汚染を回避する。ウイルス試料は、以下の該当する順序で処理する:1)NC、2)TS、3)RS、4)PC。
【0036】
a) ウイルス力価(vp/ml)を記録する。
b) ウイルスの希釈率を計算する。
c) ウイルス希釈液及び感染させる細胞がほぼ同時に準備できるように、細胞を播種するオペレーターと作業を同期させる。
d) 冷蔵庫内のRS、ARM及びTSを解凍し、使用直前まで冷却したままとする。
e) 必要量の冷培地を50mlチューブに入れる。必要量は以下のとおりである:PCの予備希釈の場合はおよそ7.0ml、NC、RS及びPCフラスコの最終希釈の場合はおよそ8.5ml、各TSの場合はおよそ4.5mlである。(結果として、1つのTSに対しておよそ20ml、5つのTSではおよそ40mlが必要である)。
f) 表IIIに従って、PC(ARM)の予備希釈液を調製する。適切な量で所望の用量を達成するには、ARMを希釈系列で大幅に希釈する必要があることがわかった。次の希釈液の調製に使用する前に、各希釈液を完全に混合する必要がある。
【表3】

g) 最終希釈液を調製する。最初にすべてのチューブに培地をピペッティングして入れ、次いで被験物質、最後にRS及びPCのみを入れる。RS、PC及び各TSに対して2つ組の希釈液を調製することに留意されたい。調製から90分以内に希釈液を使用する。
h) 500ml振盪フラスコを、100mlの培地中の1×10細胞で、培地で(NC)、及び最終希釈液で感染させる。感染には全希釈液(2ml)を使用する。
i) 感染後およそ90分(±10分)で、感染細胞の入ったフラスコに100mlの新鮮な予熱培地を加える。
j) 感染させた細胞を含むフラスコを3日間インキュベートする(+37℃、5%CO、122rpm)。
【0037】
第1の感染後、アッセイを一時停止できることに留意されたい。上記の手順a)~h)に従う。上清をクリーンな15mlの滅菌遠心チューブに移す。チューブを液体窒素ですばやく凍結し、超低温冷凍庫で最大2か月間保管する。第2の感染の日に、冷蔵庫内で冷凍されている上清を解凍し、すべての上清を使用して新鮮な細胞に感染させる。
【0038】
第2の感染:
第2の感染では、細胞を再懸濁するために培地(冷蔵庫から取り出した)が必要である。ウイルス試料は、以下の該当する順序で処理する:1)NC、2)TS、3)RS、4)PC。
【0039】
a) 感染用の上清及び感染させる細胞がほぼ同時に準備できるように、細胞を播種するオペレーターと作業を同期させる。
b) 液体窒素容器に液体窒素を満たす。
c) 感染させた細胞懸濁液(200ml)を、各振盪フラスコから50ml滅菌チューブに移す(4チューブ/試料)。
d) 細胞を、+4℃、1000×gで10分間遠心分離する。
e) 上清を除去する。
f) 1つの試料の細胞ペレットを5mlの新鮮な冷培地で再懸濁する。1つのチューブに培地を加え、ピペッティングによってペレットを再懸濁し、懸濁液を同じ試料の第2のチューブに移し、再度懸濁し、試料の4つのチューブすべてを処理するまで繰り返す。
g) 懸濁液を15mlの滅菌遠心チューブに移す(1チューブ/試料)。
h) 液体窒素で3サイクル凍結し(およそ5分)、水浴中で+37℃にて(およそ10分間)解凍して細胞を溶解する。チューブを、液体窒素及び温水に一列に浸すことができる金属製のケージに配置する。凍結するたびに、チューブが損傷していないことを確認してから、温水に入れる。解凍するたびに、チューブに亀裂がないことを再度確認し、チューブを低速でボルテックスする。凍結ステップの1ステップで、作業を一時停止することができる。続行する準備ができるまで試料を凍結したままにしておく(液体窒素/-80℃)。
i) 溶解した細胞を2000×gで+4℃にて20分間遠心分離して、細胞の破片を取り除く。上清を保持する。
j) 感染させるHeLa浮遊細胞の準備ができていない場合は、上清をクリーンなチューブに移し、細胞の準備ができるまで冷温に保持する(冷蔵庫)。
k) 40ml中に2×10個の細胞を含む125ml振盪フラスコに上清を感染させる。感染にはすべての上清(およそ5ml)を使用する。
l) 感染させた細胞を含むフラスコを3日間インキュベートする(+37℃、5%CO、122rpm)。
【0040】
第2の感染後、アッセイを一時停止することができる。上記の手順a)~h)に従う。上清をクリーンな15mlの滅菌遠心チューブに移す。チューブを液体窒素ですばやく凍結し、超低温冷凍庫で最大2か月間保管する。第3の感染の日に、冷蔵庫内で冷凍されている上清を解凍し、すべての上清を使用して新鮮な細胞に感染させる。
【0041】
第3の感染:
第3の感染では、細胞を再懸濁するために冷培地(冷蔵庫から取り出した)を使用する。ウイルス試料は、以下の該当する順序で処理する:1)NC、2)TS、3)RS、4)PC。
a) 感染用の上清及び感染させる細胞がほぼ同時に準備できるように、細胞を播種するオペレーターと作業を同期させる。
b) 液体窒素容器に液体窒素を満たす。
c) 感染させた細胞懸濁液(40ml)を、各振盪フラスコから50ml滅菌チューブに移す(1チューブ/試料)。
d) 細胞を、+4℃、1000×gで10分間遠心分離する。
e) 上清を除去する。
f) 1つの試料の細胞ペレットを2mlの新鮮な冷培地で再懸濁する。ペレットが非常に密度が高く、再懸濁が難しい場合は、再懸濁量を増やすことができる。
g) 懸濁液を15mlの滅菌遠心チューブに移す(1チューブ/試料)。
h) 液体窒素で3サイクル凍結し(およそ5分)、水浴中で+37℃にて(およそ10分間)解凍して細胞を溶解する。チューブを、液体窒素及び温水に一列に浸すことができる金属製のケージに配置する。凍結するたびに、チューブが損傷していないことを確認してから、温水に入れる。解凍するたびに、チューブに亀裂がないことを再度確認し、チューブを低速でボルテックスする。凍結ステップの1ステップで、作業を一時停止することができる。続行する準備ができるまで試料を凍結したままにしておく(液体窒素/-80℃)。
i) 溶解した細胞を2000×gで+4℃にて20分間遠心分離して、細胞の破片を取り除く。上清を保管する。
j) 感染させるHeLa浮遊細胞の準備ができていない場合は、上清をクリーンなチューブに移し、細胞の準備ができるまで冷温に保持する(冷蔵庫)。
k) 40ml中に2×10個の細胞を含む125ml振盪フラスコに上清を感染させる。感染にはすべての上清(およそ2ml)を使用する。
l) 感染させた細胞を含むフラスコを3日間インキュベートする(+37℃、5%CO、122rpm)。
【0042】
回収:
回収するために、試料のラベルを、表IVに従って印刷してもよい。感染させた細胞の各フラスコには4つのラベルが必要であり:110μlのアリコートサイズの2種及び<1000μlの2種である。
【表4】
【0043】
細胞を再懸濁するには、冷培地(冷蔵庫から取り出した)が必要である。ウイルス試料は、以下の該当する順序で処理する:1)NC、2)TS、3)RS、4)PC。
a) 液体窒素容器に液体窒素を満たす。
b) 回収アリコート用に1mlクライオチューブにラベルを付ける。
c) 感染させた細胞懸濁液(40ml)を、各振盪フラスコから50ml滅菌チューブに移す(1チューブ/試料)。
d) 細胞を、+4℃、1000×gで10分間遠心分離する。
e) 上清を除去する。
f) 1つの試料の細胞ペレットを2mlの新鮮な冷培地で再懸濁する。ペレットが非常に密度が高く、再懸濁が難しい場合は、再懸濁量を増やすことができる。
g) 懸濁液を15mlの滅菌遠心チューブに移す(1チューブ/試料)。
h) 液体窒素で3サイクル凍結し(およそ5分)、水浴中で+37℃にて(およそ10分間)解凍して細胞を溶解する。チューブを、液体窒素及び温水に一列に浸すことができる金属製のケージに配置する。凍結するたびに、チューブが損傷していないことを確認してから、温水に入れる。解凍するたびに、チューブに亀裂がないことを再度確認し、チューブを低速でボルテックスする。凍結ステップの1ステップで、作業を一時停止してもよい。続行する準備ができるまで試料を凍結したままにしておく(液体窒素/-80℃)。
i) 溶解した細胞を2000×gで+4℃にて20分間遠心分離して、細胞の破片を取り除く。上清を保管する。
j) 上清を新しいクリーンなチューブに移して混合する。
k) 各試料の上清を事前にラベル付けした1mlクライオチューブに分注する:2×110μl;2×<1000μl。
l) アリコートを液体窒素ですばやく凍結し、分析するまで冷凍庫に保管する。
【0044】
デジタルPCR分析:
DNA作業は、ヌクレアーゼフリー条件下で実施すべきである。滅菌ヌクレアーゼフリー溶液及びプラスチック製品を使用しなければならない。DNA試料を取り扱う際は、常に手袋を着用しなければならない。DNA-ExitusPlus(商標)を使用して、作業後に潜在するDNA残留物を取り除いてもよい。DNA試料専用のラミナーフローフード(「LFH」)を洗浄した後、LFHをUV照射により一晩、不活化してもよい。
【0045】
回収試料を前処理するために、回収試料を室温で最大1時間解凍する。試料を96ウェルプレート上でピペッティングする(100μl/ウェル):NCをウェルA4へ。RS_1、RS_2、PC_1、PC_2、TS1_1及びTS1_2をウェルB1~G1の列1へ。残りのTSを、ウェルA6~H6の列6へ。使用済みのウェルにプロテイナーゼK(1μl/ウェル)を添加する。プレートを光学粘着カバーでしっかりと密封する。穏やかにボルテックスし、短時間、回転させる。Applied Biosystems7500リアルタイムPCRシステムで、最新バージョンのSDSテンプレートドキュメント「Prot K」を使用して、プレートを実行する。実行プログラムは以下のとおりである:+50℃で60分間インキュベートする。+95℃で20分間インキュベートする。試料を+4℃まで冷却する。試料の希釈を直接続けない場合は、プレートを冷蔵庫に保管する。
【0046】
試料を希釈する場合、ddPCR分析のダイナミックレンジに収まるように試料を希釈する必要がある。1:1000及び1:10000の希釈を分析に使用する。これらの希釈のいずれも許容されない場合は、より高いか、またはより低い希釈を試験することができる。前処理した回収試料を含む、96ウェルプレートのウェルB2~G5上の細胞培養培地(90μl/ウェル)をピペッティングする。ウェルA7~H10上の細胞培養培地(90μl/ウェル)をピペッティングする。ウェルH4上の細胞培養培地(90μl/ウェル)をピペッティングする。このウェルは、ddPCR分析用のNTCを調製するために使用する。列1及び6上の前処理した試料をピペッティングにより完全に混合させる。列1~列5、及び列6~列10の希釈系列を調製する。列1~列2まで10μlをピペッティングし、調製した希釈液をピペッティングして完全に混合させる。列2~列3まで10μlをピペッティングし、混合する。列5の準備ができて混合させるまで続ける。列6~10についても同じことを繰り返す。ddPCR分析を直接続行しない場合は、プレートを冷蔵庫に保管する。
【0047】
ddPCRプレートの調製:
ddPCRプレートを調製するために、新鮮な1pg/μl希釈のARM DNAを、製品のリリースを目的とした各RCAアッセイの10ng/μlアリコートから調製する。ARM DNAの希釈系列については、表Vを参照されたい。
【表5】
【0048】
次の希釈液の調製に使用する前に、各希釈液をピペッティングにより完全に混合する必要がある。希釈液はDNA LFHで調製する。ARM DNA(1pg/μl)という名前の最後の希釈液は、ddPCRの実行に使用する。使用する容量は5μl、すなわち、各反応で5pgのARM DNAを使用する。
【0049】
RCA用のフォワードプライマー、リバースプライマー及びTaqManプローブの新鮮な希釈液を、製品のリリースを目的とした各RCAアッセイ用に調製する。本発明者らの実験では、E1を欠失させたアデノウイルスを使用したため、RCA用のフォワードプライマーとして、5’-AAC CAG TTG CCG TGA GAG TTG-3’;RCAのリバースプライマーとして、5’-CTC GTT AAG CAA GTC CTC GAT ACA-3’及びRCAのTaqManプローブとして、5’-TGG GCG TCG CCA GGC TGT G-3’を使用した。
【0050】
試薬は室温で解凍し、混合し、スピンダウンする(例えば、遠心分離/ボルテックサーにより)。希釈手順については、表VIを参照されたい。
【表6】
【0051】
希釈液は、マスターミックス層流中で調製する。プライマー(6000nM)及びプローブ(2500nM)の最終濃度を、ddPCRの実行において使用する。各試薬2.5μlを、総量25μlの反応混合物に加える。反応混合物中の濃度は、プライマーで600nM、プローブで250nMである。分析開発、インプロセス試料及び特性評価を目的として、以前に調製し、-20℃で保存した希釈液を使用することができる。マスターミックスは、マスターミックスの調製専用のLFHで調製する。試料をDNA LFHのプレートに加える。マスターミックス及びDNA作業のための別個の材料、ピペット及び遠心分離/ボルテックサーを使用する。必要なウェル量及びマスターミックスの必要な総量を計算する。プローブ用のddPCRスーパーミックスを室温で解凍し、解凍したら高速でボルテックスする。RCA用の希釈したフォワードプライマー、リバースプライマー及びTaqManプローブを混合し、試薬をスピンダウンする。本発明者らは、遠心分離/ボルテックサーが、混合及び回転に便利に使用することができることを見出した。表VIIに従ってddPCRのマスターミックスを調製し、高速でボルテックスする。
【表7】
【0052】
96ウェルプレートのウェル上でマスターミックスをピペッティングする(20μl/ウェル)。任意選択で、マスターミックスを試薬リザーバーに注ぐことができ、マルチチャネルピペットを使用してプレート上で混合物をピペッティングすることができる。ウェルH4~H6及び試料を必要としないウェル上にddPCR Buffer Controlキット(BC、25μl/ウェル)を加える。被験試料の最大数については、各列のすべてのウェルを充填する必要があることに留意されたい。ddPCR Buffer Controlキット(「BC」)は、試料を必要としないウェル上で使用する。例えば、1:1000及び1:10000希釈でウェルを使用することを推奨する。
【0053】
前処理した試料及び希釈液を含む96ウェルプレートをボルテックスにより混合し、試料をスピンダウンすることを推奨する。マスターミックス(20μl/ウェル)を含むddPCRプレートに試料(5μl/ウェル)を加える。使用後は試料プレートを冷蔵庫に保管する。試料を使用して、ddPCR分析を繰り返すことができる。
【0054】
対照のために、ピペッティングによりARM DNA希釈液を混合し、ddPCRプレート(ウェルA4、A5及びA6)に加える(5μl/ウェル)。
【0055】
プレートシーラーを+180℃で5秒間使用して、プレートをヒートフォイルで密封する。プレートを短時間ボルテックスし、試料混合物をスピンダウンする。液滴の生成及びPCRの実行に進む。
【0056】
液滴生成、PCR読み取り及び液滴読み取り:
AutoDG(商標)装置を使用して自動液滴生成を実行することを推奨する。そのために、本発明者らは、プレートシーラーを+180℃で5秒間使用して、液滴を含むプレートをヒートフォイルで密封する。次いで、PCRの実行を続行する。表VIIIに示すPCR条件でC1000(商標)Touch Thermal Cyclerを使用してプレートを実行することを推奨する。
【表8】
【0057】
PCRの実行後、液滴は安定である。プレートは冷蔵庫で一晩保存することができる。最新バージョンのQuantaSoftテンプレート「RCA ddPCR」を備えたDroplet Readerで液滴を読み取る。QuantaSoftソフトウェアは、実行用のフォルダーを自動的に作成し、実行結果をQuantaSoftプレートドキュメントとして保存する。実行後、以下のようにすべてのウェルの閾値を手動で2000に設定する:左側のメニューの「Analyze」ボタンをクリックし;右上隅のプレートレイアウトからすべてのウェルを選択し;「1D Amplitude」表示を選択し;左側のメニューの下部で、黄色のマークが付いたボタン(マルチウェルツール)をアクティブにする。これにより、すべてのウェルの閾値を同時に設定することができる。閾値の設定ボックスに2000と入力して、閾値を設定する(Enterキーを押す)。閾値設定の視覚化及びソフトウェアユーザーインターフェイスの詳細については、図2を参照されたい。QuantaSoftソフトウェアを閉じ、ソフトウェアが「プレート情報を保存しますか?」を選択するように要求するため、「Yes」をクリックする。作成したフォルダーをサーバーにコピーし、フォルダー名としてアッセイ実行番号が含まれていることを確認する。
【0058】
ddPCR実行データはQuantaSoftソフトウェアによって自動的に分析される。SSCの履行が評価され、結果がソフトウェアで読み取られる。
【0059】
データ分析:
ddPCR技術では、試料DNAを数千の液滴にランダムに分割する。分析の精度は、より多くの液滴が存在するほど良好である。QX200 ddPCRシステムは、ウェルあたり20000を超える液滴を生成し、読み取ることができる。所望の精度を確保するために、分析するウェルごとに8000以上の許容液滴の基準を設定する。ただし、個々のウェルがこの基準を満たしていない場合でも、アッセイは失敗しない。基準を満たさなかったウェルは、以降の分析から除外する。各試料を、ddPCR分析において3つのウェルで分析する。試料の結果は、3つのウェルのうち少なくとも2つに8000以上の許容液滴がある場合に読み取ることができる。許容液滴の数を確認するには、以下の手順に従う:サーバーに保存されているプレートドキュメント(閾値2000)を開く。左側のメニューの「分析」ボタンをクリックする。右上隅のプレートレイアウトからすべてのウェルを選択する。「イベント」表示を選択する。右側の「合計」ボックスにチェックマークを付ける。明確にするために、他のボックス(pos/neg)はチェックすべきでない。ヒストグラムの値から、各ウェルに8000以上の許容液滴があることを確認する。
【0060】
NC、NTC及びARM DNAのシステム適合基準は、3つのウェルのうち少なくとも2つに8000以上の許容液滴があることである。基準に合格するかどうかを確認する。基準が満たされない場合は、ddPCR分析を繰り返す必要がある。さらにSSCを検討する場合、許容液滴が8000以上のウェルのみを考慮する。
【0061】
ddPCR分析では、陽性液滴を5個以下しか含まない試料は陰性とみなされる。6~34個の陽性液滴を含む試料は陰性とはみなされないが、汚染されているか、標的DNAの量が非常に少ない可能性がある。35個以上の陽性液滴を有する試料は、明確に陽性とみなされる。上記の手順a)~e)によって各ウェルの陽性及び陰性の液滴の数をチェックするが、合計ではなく陽性または陰性のボックスにチェックマークを付ける。
【0062】
NC、NTC及びARM DNAのアッセイSSCは以下のとおりである:NC試料の許容ウェルのいずれかが5個以下の陽性液滴を有するか、またはNTCの許容ウェルのいずれかが5個以下の陽性液滴を有するか、またはARM DNAの3つ組のウェルの少なくとも2つが35個以上の陽性液滴を示す。
【0063】
これらのSSCが基準を満たさない場合は、ddPCRを繰り返すことを推奨する。それでもNCが基準を満たさない場合は、第1の感染から始まるRCAアッセイ全体を繰り返すことを推奨する。基準を満たさない理由がNTCまたはARM DNAである場合、RCA増幅は成功している可能性があるが、ddPCR分析に何らかの問題がある。NTCまたはARM DNAが繰り返し基準を満たさない場合は、基準を満たさない理由を調査する必要がある。
【0064】
特定の試料の結果を読み取るには、試料に陽性と陰性の両方の液滴が必要である。陰性の液滴の量が少ないと、分析の精度が低下する。ウェルは、100個超の陰性の液滴を示すべきである。それ以外の場合、ウェルは「飽和」とみなされ、そのウェルの結果を読み取ることができない。
【0065】
ddPCR分析のダイナミックレンジは狭い。RS及びTSは、2つの希釈:1:1000及び1:10000として分析される。希釈の少なくとも1つは範囲内にある必要がある。許容可能なRS希釈の基準は、3つのウェルのうち少なくとも2つが8000以上の許容液滴を示し、100個超の陰性の液滴を示し(ウェルが非飽和である)、35個以上の陽性の液滴を示す(ウェルが陽性の結果を示す)ことである。
【0066】
許容可能な希釈率(複数可)でアッセイSSCを評価する。RSのアッセイSSCは以下のとおりである:RS_1とRS_2の両方が、許容可能なウェル上の許容可能な希釈率(複数可)で、陽性の結果(35個以上の陽性液滴)を示す。SSCは、RS_1とRS_2の両方が少なくとも1つの許容可能な希釈率を有する場合に合格する。SSCの基準を満たさない理由は、不適切な希釈であり得る。使用した希釈率が低すぎる(ウェルが飽和している)か、または高すぎる(陰性の結果)可能性がある。この場合、ddPCRを、調整した希釈率で繰り返すことができる。前処理プレートからの希釈率1:10及び/または1:100を適切な希釈率として使用することができ、またはさらなる希釈率1:10000から調製することができる。続行方法を決定するために、専門家に相談されたい。2つ組のフラスコの1つ(RS_1またはRS_2)が、もう一方がダイナミックレンジ内にある一方で依然として陰性の結果を示す場合、第1の感染から始まるRCAアッセイ全体を繰り返す必要がある。
【0067】
許容可能なTS希釈の基準は、3つ組のウェルのうちの少なくとも2つが8000以上の許容液滴を示し、100個超の陰性の液滴を示す(ウェルは非飽和である)ことである。許容可能な希釈率(複数可)で試料SSCを評価する。TSにはRCAが含まれていない可能性があるため、TSは35個以上の陽性液滴の基準に合格する必要はないことに留意されたい。
【0068】
試料SSCは以下のとおりである:TSX_1とTSX_2の両方が、少なくとも1つの許容可能な希釈率を有する。試料がSSCの基準を満たさない場合、その結果を報告することはできず、試料を再分析する必要がある。ただし、他の試料の結果を読み取って報告することはできる。SSCの基準を満たさない理由は、不適切な希釈であり得る。使用した希釈率が低すぎる可能性がある(ウェルが飽和している)。この場合、ddPCRを、調整した希釈率で繰り返すことができる。1:10000から、さらなる希釈液を調製することができる。
【0069】
RCAアッセイの結果:
ddPCR分析の結果は、コピー数/μlとして得られる。QuantaSoftソフトウェアは、この値を各ウェルについて、左上隅の結果表に報告する。ウェルに陽性の液滴がない場合、値は0であり、ウェルに陰性の液滴がない場合、値は1000000(飽和)である。RS及びTSの結果を計算するには、各ウェルについて、QuantaSoftソフトウェアの結果表に報告されている濃度(コピー数/μl)を記録する。許容されたウェル及び希釈液の濃度のみを記録し;それ以外の場合はN/Aを記録する。次いで、報告された濃度に希釈係数を掛けることによって、調整した濃度(コピー数/μl)を計算する。次いで、調整した濃度の平均(コピー数/μl)を計算する。小数なしの整数としてこれを記録する。特定のTSの2つ組のフラスコの1つ(TSX_1またはTSX_2)が両方の希釈で陰性の結果を示す場合、陽性のフラスコから平均を計算することに留意されたい。RSの場合、RS範囲を平均±20%として計算し;範囲の下限は0.8×平均であり、範囲の上限は1.2×平均である。TSの結果を、このRS範囲と比較する。各TSについて、平均とRS範囲を比較する。平均がRS範囲を下回っている場合、結果は「RSよりもRCAが少ない」である。平均がRS範囲内にある場合、結果は「RSと同等量のRCA」である。平均がRS範囲を上回っている場合、結果は「RSよりもRCAが多い」である。
【0070】
特定のTSの2つ組のフラスコのうちの1つ(TSX_1またはTSX_2)が、両方の希釈率で陰性の結果を示し、もう一方が明確に陽性の結果を示す場合、平均(コピー数/μl)は、陽性フラスコに基づく。RS範囲との比較で「RSよりもRCAが多い」という結果が得られた場合は、ddPCR分析を繰り返す必要がある。それでも結果が同じ場合は、第1の感染から始まるRCAアッセイ全体を繰り返す必要がある。
【0071】
アッセイ結果を、Excel(商標)ファイルで傾向分析してもよい。以下のパラメーターを傾向分析することを推奨する。
・ RCAアッセイの実行番号
・ アッセイSSCの合否
・ SSC否決の考えられる理由
・ ARM DNAの結果(コピー数/μl)
・ RS及びPCで許容される希釈率
・ RS及びPCの平均(コピー数/μl)(PCの平均は傾向分析用エクセルでのみ計算されることに留意されたい。)
【0072】
本発明者らの開示に基づいて、当業者はこれを容易に変更し得る。例えば、本発明者らは、血管内皮成長因子Dの導入遺伝子を有する組換えアデノウイルスを使用した改良型アッセイを実際に開発したが、このアッセイはまた、他の導入遺伝子(例えば、p53、インターフェロンなど)を有するベクター内の複製能力のある混入ウイルスを同定することもできる。
【0073】
「感染」とは、標的細胞内で複製して子孫を形成するウイルスを指す。対照的に、「トランスフェクション」とは、外来DNAまたはRNAのウイルスベクターを介した標的細胞への送達を指す。トランスフェクションは、標的細胞内でのウイルス複製を必要としない。
【0074】
同様に、本発明者らは実際に、ヒト患者内でまったく複製されないことを目的としたウイルスベクターでアッセイを試験したが、このアッセイは、条件付きで複製されること、例えば、がん化したヒト細胞でのみ複製され、正常なヒト細胞では複製されないことを意図したウイルスベクターにおいて、容易に使用することができる。したがって、これを示すために、添付の特許請求の範囲において、語句「正常なヒト細胞で複製することができない」を使用する。
【0075】
同様に、本発明者らの実験はアデノウイルスで実施しているが、この方法は他のタイプの遺伝子治療ウイルスベクターにも容易に役立つ。
【0076】
したがって、本発明者らの特許の法的適用範囲は、上記の特定の実験室での作業ではなく、添付の特許請求の範囲及びその許容される均等物によって定義されることを意図している。
図1
図2
【配列表】
2022534483000001.app
【国際調査報告】