IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システムの特許一覧

<>
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図1
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図2
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図3
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図4
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図5
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図6
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図7
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図8
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図9
  • 特表-pH応答性組成物およびその使用法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-01
(54)【発明の名称】pH応答性組成物およびその使用法
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20220725BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C08F293/00
A61K49/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570290
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 US2020034783
(87)【国際公開番号】W WO2020243217
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】62/853,593
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ガオ ジンミン
(72)【発明者】
【氏名】スマー バラン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ティアン
(72)【発明者】
【氏名】ベネット ザチャリー ティー.
【テーマコード(参考)】
4C085
4J026
【Fターム(参考)】
4C085HH11
4C085JJ03
4C085KA27
4C085KB68
4C085LL01
4C085LL18
4J026HA11
4J026HA29
4J026HA32
4J026HA38
4J026HA45
4J026HB11
4J026HB29
4J026HB32
4J026HB38
4J026HE01
(57)【要約】
原発腫瘍組織および転移腫瘍組織を検出するために有用な、pH応答性化合物、ミセル、および組成物が本明細書において記載される。本明細書に記載される化合物は、原発腫瘍組織および転移腫瘍組織(リンパ節を含む)を検出するために有用なイメージング剤である。手術中のリアルタイム蛍光イメージングは、ネガティブマージンと腫瘍の完全な切除とを達成することを目的として、転移リンパ節の検出に関して外科医を補助するか、または正常組織に対比させて腫瘍組織を描画する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のブロックコポリマーであって、
式中、
nは113であり;
xは60~150であり;
yは0.5~1.5であり;かつ
R'はハロゲン、-COH、もしくは-C(O)OHである、
該ブロックコポリマー、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、もしくはその同位体バリアント。
【請求項2】
請求項1に記載のブロックコポリマーを1種類または複数種類含む、ミセル。
【請求項3】
請求項2に記載のミセルを含み、該ミセルがpH遷移点および発光スペクトルを有する、pH応答性組成物。
【請求項4】
前記pH遷移点が6~7.5である、請求項3に記載のpH応答性組成物。
【請求項5】
前記pH遷移点が約4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、または5.5である、請求項3に記載のpH応答性組成物。
【請求項6】
前記発光スペクトルが700~850 nmである、請求項3~5のいずれか一項に記載のpH応答性組成物。
【請求項7】
1 pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)を有する、請求項3~6のいずれか一項に記載のpH応答性組成物。
【請求項8】
前記pH遷移域が0.25 pH単位未満である、請求項7に記載のpH応答性組成物。
【請求項9】
前記pH遷移域が0.15 pH単位未満である、請求項7に記載のpH応答性組成物。
【請求項10】
25より大きい蛍光活性化比を有する、請求項3~9のいずれか一項に記載のpH応答性組成物。
【請求項11】
50より大きい蛍光活性化比を有する、請求項3~10のいずれか一項に記載のpH応答性組成物。
【請求項12】
50より大きい平均コントラスト比を有する、請求項3~11のいずれか一項に記載のpH応答性組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のブロックコポリマーを1種類または複数種類含む、イメージング剤。
【請求項14】
ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(ジブチルアミノエチルメタクリラート)コポリマーインドシアニングリーンコンジュゲートを含む、請求項13に記載のイメージング剤。
【請求項15】
親水性のポリマーセグメントと疎水性のポリマーセグメントとを含むブロックコポリマーであって、該親水性のポリマーセグメントがポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含み、かつ該疎水性のポリマーセグメントが
を含み、ここで、xが全部で約20~約200である、該ブロックコポリマー。
【請求項16】
xが60~150である、請求項15に記載のブロックコポリマー。
【請求項17】
細胞内環境または細胞外環境のpHをイメージングする方法であって、
(a)請求項3~12のいずれか一項に記載のpH応答性組成物を該環境に接触させる段階;および
(b)該環境から1種類または複数種類の光学シグナルを検出する段階であって、該光学シグナルの検出によって、ミセルがそのpH遷移点に達しかつ解離したことが示される、該段階
を含む、該方法。
【請求項18】
前記光学シグナルが蛍光シグナルである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞内環境がイメージングされる場合、前記pH応答性組成物の取り込みを引き起こすのに適した条件下で細胞が該pH応答性組成物と接触する、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞内環境が細胞の一部である、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞外環境が腫瘍のものまたは血管細胞のものである、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞外環境が血管内または血管外である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍ががんである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記がんが、前記がんが、s 乳がん、頭頸部扁平上皮がん(NHSCC)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、尿管がん、食道がん、大腸がん、脳がん、または皮膚がんである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記腫瘍が転移腫瘍細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記転移腫瘍細胞がリンパ節に位置する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年5月28日に提出された米国特許仮出願第62/853,593号の恩典を主張するものであり、該仮出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の助成を受けた研究についての声明
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によるR01 EB 013149およびCA 192221のもとで、アメリカ合衆国政府の支援を受けてなされた。
【背景技術】
【0003】
背景
2019年には、がんの新規症例がおよそ170万件診断されると見込まれ、かつおよそ610,000人のアメリカ人ががんのために死亡すると見込まれる。原発腫瘍組織および転移腫瘍組織を検出するのに有効なイメージング剤が必要とされている。
【0004】
すべてのステージの固形がんのための処置ガイドラインは、原発腫瘍の外科的除去とともに、リスクを有するかまたは関連するリンパ節の外科的除去も、確実に含んでいる。これらの腫瘍タイプの間の生物学的および解剖学的差異にもかかわらず、術後のマージンの状態は、局所での腫瘍の制御にとって最も重要な予後因子の1つであり、かつしたがって、疾患再発のまたは腫瘍転移の危険性にとって最も重要な予後因子の1つである。固形腫瘍の外科的切除とは、腫瘍学上の有効性と正常組織切除の最小化との間のバランスであり、かつしたがって、死亡率と相関性がある。これはまた、原発がんの除去と同時にしばしば実施される、診断目的および治療目的でのリンパ節郭清においてもあてはまる。リンパ節転移の存在または非存在は、多くの固形がんに関する生存率の、最も重要な決定因子である。
【0005】
細胞イメージング、天然の自家蛍光、およびラマン散乱に基づいて術中に組織をイメージングすることへの、光学イメージング戦略の適合が、急速に進んでいる。光学イメージングの潜在能力には、リアルタイムのフィードバック、および手術野を広範囲に提供するカメラシステムの利用可能性が、含まれる。手術の間に遭遇する、がん遺伝子型および組織学的表現型の多様性に起因する複雑性を克服するための戦略の1つは、がんに普遍的な、代謝上の脆弱性を標的とすることである。がん細胞が選択的にグルコースを取り込み、そしてそれを乳酸へと変換するという、ワールブルク効果として知られる好気的解糖は、すべての固形がんにおいて生じる。
【0006】
したがって、がん、特にリンパ系におけるがん転移(cancer metathesis)の存在を判定するための組成物および方法を確立する必要性が残されている。
【発明の概要】
【0007】
概要
本明細書において提示されるブロックコポリマーは、がん性の組織と正常な組織との間の、この普遍的なpHの差異を活用し、そして細胞によって取り込まれた後で、高感度かつ高特異度の蛍光応答をもたらし、これにより、腫瘍組織の、腫瘍マージンの、およびリンパ節を含む転移腫瘍の検出を、可能にする。
【0008】
本明細書に記載される化合物は、原発腫瘍組織および転移腫瘍組織(リンパ節を含む)を検出するために有用なイメージング剤である。手術中のリアルタイム蛍光イメージングは、ネガティブマージンと腫瘍の完全な切除とを達成することを目的として、転移リンパ節の検出に関して外科医を補助するか、または正常組織に対比させて腫瘍組織を描画する。手術アウトカムの改善からの臨床的恩恵は、たとえば、腫瘍再発の減少および再手術率の減少、不必要な手術の回避、ならびに処置計画について患者に情報提供することなどを含む。
【0009】
ある態様において、本明細書において提供されるのは、以下の式(I)のブロックコポリマー、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、
式中、nは113であり;xは60~150であり;yは0.5~1.5であり、かつR'はハロゲン、-OH、または-C(O)OHである。
【0010】
ある態様において、本明細書において提供されるのは、式(I)のブロックコポリマー、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、もしくは同位体バリアントを1種類または複数種類含む、ミセルである。
【0011】
ある態様において、本明細書において提供されるのは、式(I)のブロックコポリマーのミセルを含む、pH応答性組成物であり、ここでミセルは、pH遷移点および発光スペクトルを有する。いくつかの態様において、pH遷移点は4~8である。いくつかの態様において、pH遷移点は6~7.5である。いくつかの態様において、pH遷移点は、約4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、または5.5である。いくつかの態様において、1 pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)。いくつかの態様において、発光スペクトルは700~850 nmである。いくつかの態様において、0.25 pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)。いくつかの態様において、発光スペクトルは700~850 nmである。いくつかの態様において、0.15 pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)。
【0012】
ある態様において、本明細書において提供されるのは、細胞内環境または細胞外環境のpHをイメージングする方法の方法であり、該方法は、(a)本開示のpH応答性組成物を該環境に接触させる段階;および(b)該環境から1種類または複数種類の光学シグナルを検出する段階であって、光学シグナルの検出によって、ミセルがそのpH遷移点に達しかつ解離したことが示される、段階を含む。いくつかの態様において、光学シグナルは蛍光シグナルである。いくつかの態様において、細胞内環境がイメージングされ、pH応答性組成物の取り込みを引き起こすのに適した条件下で細胞はpH応答性組成物と接触する。いくつかの態様において、細胞内環境は、細胞の一部である。いくつかの態様において、細胞外環境は、腫瘍のもの、または血管細胞のものである。いくつかの態様において、細胞外環境は、血管内または血管外である。いくつかの態様において、腫瘍はがんのものであり、ここでがんは、がんは、s 乳がん、頭頸部扁平上皮がん(NHSCC)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、尿管がん、食道がん、大腸がん、脳がん、または皮膚がんである。いくつかの態様において、腫瘍は転移腫瘍細胞である。いくつかの態様において、転移腫瘍細胞はリンパ節に位置する。
【0013】
本明細書に記載される化合物、方法、および組成物の、他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるだろう。しかしながら、この詳細な説明から、本開示の精神および範囲の範囲内での様々な変更および改変が当業者には明らかとなることから、詳細な説明および具体的な実施例は、具体的な態様を示すものである一方で、例示のみを目的として提供されていることが、理解されるべきである。
【0014】
参照による組み入れ
本明細書において言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願がそれぞれ、参照により組み入れられるように具体的にかつ個々に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1A~1Dは、超pH感受性(UPS)ポリマーミセルプローブの、二元性の蛍光応答を示す。(図1A)UPSミセルは自己集合したナノ粒子であり、これは閾値のプロトン濃度に応答して、ユニマーへと分解する。(図1B)両親媒性ブロックコポリマーの構造は、特定のpKaにおける協調的なpH応答を可能にする。(図1C)動的光散乱法は、USP6.1についての、ユニマーの異なるサイズ集団(pKa未満のpH)を示す。(図1D)蛍光強度の非直線的な増幅は、環境のpHシグナルに対する超pH感受性応答を示す。挿入図のチューブは、pHとの相関としての、UPS5.3-ICG(上段)、UPS6.1-ICG(中段)、およびUPS6.9-ICG(下段)の近赤外線での可視化を示す。
図2図2A~2Cは、UPS-ICGナノ粒子のインビトロでの特徴決定を示す。(図2A)UPS-ICGナノ粒子は、788 nmのλmaxで近赤外光を吸収する。(図2B)LI-COR Pearlによって800 nmのチャンネルにおいて測定された、UPS-ICGナノ粒子の生の平均蛍光強度。(図2C)動的光散乱法によって測定された、UPS-ICGナノ粒子の直径の平均数。
図3図3A~3Dは、解剖された腫瘍非担持BALB/cjマウスの全身近赤外蛍光イメージングが、リアルタイムでの、画像によるガイド下でのLNの切除を可能にすることを示す。(図3A)UPS5.3-ICGおよび(図3B)UPS6.1-ICGはすべての表在LNを描画し、イメージングによるガイド下での切除を可能にする。(図3C)UPS6.9-ICG蛍光は、ほとんどが肝臓に封鎖されている。イメージングによるガイド下でのLNの切除は、可能ではない。(図3D)LNの蛍光強度の中央値は、骨格筋(Mu)のそれに対して正規化される。解剖学的LN群のCR中央値は、ポリマーミセルのpKaへの依存性を示す。UPS5.3は、LNの解剖学的群のそれぞれの中で、最大の強度を示す。
図4図4A~4Cは、Balb/cjマウスにおける、UPSナノ粒子の薬物動態および臓器分布を示す。(図4A)採取された血漿における、UPS-ICG蛍光の薬物動態。血漿は、ナノ粒子の「オン」状態を示すために酸性化される。血漿の蛍光は、0時間の時点での蛍光に対して正規化され、UPS組成物間での差異を調節する。(図4B)酸性化された血漿の蛍光は、採取された血漿に対して正規化され、これは「オン/オフ比」を示す。(図4C)UPSナノ粒子を24時間循環させた後での、臓器のエクスビボイメージング。
図5図5A~5Cは、UPSナノ粒子の、マクロファージサブ集団との共局在を示し、リンパ節常在性マクロファージによるミセルの取り込みを示す。(図5A)UPS5.3-ICGは、CD169(左)、F4/80(中央)、およびCD11b(右)と共局在するが、該共局在は、リンパ節内に限定されている。白色の矢印は、陽性細胞とICG蛍光との共局在を示す。薄灰色の矢印は、ICG蛍光の非存在下での、F4/80細胞の染色を示す。(図5B)UPS6.1-ICGの、マクロファージとの共局在パターンは、UPS5.3-ICGのものと類似している。(図5C)UPS6.9-ICGの蛍光強度は、UPS5.3-ICGおよびUPS6.1-ICGよりもはるかに低い。すべてのパネルは、リンパ節における、マクロファージによるナノ粒子の貪食作用を示すが、周辺の組織においてはそれらは示されない。スケールバーは200 μmである。
図6図6A~6Fは、組織学的検査による検証を有する、転移リンパ節の検出を示す。(図6A)UPS5.3-ICGを投与された4T1.2担持BALB/cjマウスの代表例は、全身イメージングを用いた原発腫瘍(P.T.)のNIRF検出、ならびに良性LN(Be)、ミクロ転移LN(Mi)、およびマクロ転移LN(Ma)の描画を示し、これは、鼠径LN(In)、腋窩LN(Ax)、および頸部LN(Cr)の、画像によるガイド下での切除を可能にする。(図6B)UPS6.1-ICGを投与されたマウスのNIRFイメージングは、原発腫瘍およびLNの描画を示し、良性LNは、転移LNとほとんど同じ明るさのように見受けられる。(図6C)UPS6.9-ICGは、はるかに高い強度で肝臓(Li)内に蓄積する。いくつかのマクロ転移LNが描画されているが、多くのミクロ転移LNは検出できない。(図6D)クラス分類された組織のUPS5.3シグナルおよびCR中央値は、転移LNと良性LNとの間の有意性を示す。統計学的解析は、1元配置分散分析と、それに続くテューキーの多重比較検定を用いてなされる(*P < 0.033、**P < 0.0021、***P < 0.0002、****P < 0.0001)。(図6E)クラス分類された組織のUPS6.1シグナルおよびCR中央値は、マクロ転移LNと良性LNとの間の有意性を示すが、マクロ転移の分布における分散は大きい。(図6F)クラス分類された組織のUPS6.9シグナルおよびCR中央値は、マクロ転移LNと良性LNとの間の有意性を示す。シグナル変数は、UPS5.3およびUPS6.1と比較して、強度がはるかに低い。
図7図7Aおよび7Bは、NIR蛍光によるガイドを用いた、リアルタイムでの転移リンパ節の切除を示す。(図7A)4T1.2担持BALB/cjマウスにUPS5.3-ICGを静脈内注入し、該マウスを安楽死させ、解剖し、そして4 fpsにおいて、近赤外線カメラを用いてイメージングした。すべての表在LNおよび原発腫瘍が描画される。(図7B)解剖学的領域においてLNが視認可能である。マクロ転移LNは、増大した蛍光強度、蛍光の独特な空間的蓄積を示し、かつ他のLNより大きい。このLNは、フィードバックとして、NIR蛍光によるガイドを用いて切除される。同じ流域において、リスクを有する他のLNのサンプリングが可能である。すべてのLN病変は、組織学的検査により確認される。
図8図8A~8Cは、ICGパターンに基づく、良性リンパ節からの転移リンパ節の判別を示す。(図8A)良性LNのNIRFイメージングは、リンパ節の外縁におけるICG蛍光を示す。H&Eでの組織学的解析、および汎サイトケラチン染色陰性が、がん病巣の欠如を検証するために使用された。(図8B)ミクロ転移LNは、LNのコアにおいていくらかのUPS5.3-ICG蛍光を示す。(図8C)マクロ転移LNは、腫脹したLN組織全体にわたって、くっきりと明るいICG蛍光のパターンを示す。ICG蛍光のパターンは、サイトケラチンの濃い染色と相関する。スケールバーは、上部および下部でそれぞれ300 μmおよび50 μmである。
図9図9A~9Cは、マクロ転移リンパ節におけるUPSナノ粒子の蓄積を示す。(図9A)腋窩リンパ節のH&E染色は、腫脹したリンパ節を示す。(図9B)抗サイトケラチン免疫組織化学染色は、LNにおけるがん病巣の存在を明らかにする。(図9C)組織切片の近赤外蛍光スキャニングは、UPS5.3-ICGおよびUPS6.1-ICGが、汎サイトケラチン発現を有するエリアにおいて蓄積することを明らかにする。UPS6.9-ICGは、UPS5.3およびUPS6.1と同じ蛍光スケールにおいて、はるかに低い蛍光強度を示す。低スケールでの表示は、汎サイトケラチン陽性領域におけるUPS6.9の蓄積を示す。スケールバーは300 μmである。
図10図10Aおよび10Bは、UPSナノ粒子による転移リンパ節検出の受信者操作特性(ROC)解析を示す。(図10A)リンパ節全体のLICORシグナルを用いるマクロ転移LN検出の、感度および特異度を示すROC曲線。UPS5.3は0.96のAUCを有し、これは高い判別能力を示す。(図10B)CR変数の中央値に基づくROC解析。UPS6.9はより高い判別能力を有するが、これは、図6Cに示されるように、より低いICGシグナルを有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細な説明
本発明のブロックコポリマーは親水性のポリマーセグメントと疎水性のポリマーセグメントとを含み、ここで疎水性のポリマーセグメントは、pH感受性をもたらす、イオン化可能なアミン基を含む。これらのイオン化可能なブロックコポリマーの超分子自己集合に基づいて、ブロックコポリマーは、pHで活性化可能なミセル(pHAM)ナノ粒子を形成する。より高いpHにおいて、ブロックコポリマーはミセルへと集合し、一方でより低いpHにおいて、疎水性のポリマーセグメントにおけるアミン基のイオン化は、ミセルの解離を引き起こす、図1Aおよび1B。ミセル形成およびその熱力学的安定性は、疎水性セグメントと親水性セグメントとの間の繊細なバランスによって、駆動される。イオン化可能な基は、異なるpH値において同調可能な、親水性/疎水性のブロックとして作用し得、これは、ミセルの動的な自己集合に直接的に影響を及ぼし得る。ミセル化は、疎水性のポリマーセグメントにおけるアミンのイオン化遷移を急激なものにし得、急速かつ超感受性なpH応答をもたらす。
【0017】
I. ブロックコポリマー
本明細書において提供されるいくつかの態様は、ミセルベースの蛍光イメージング剤を記述する。いくつかの態様において、ミセルは、ポリエチレングリコール(PEG)と、インドシアニングリーン(ICG)が共有結合によりコンジュゲートされたジブチルアミノ置換ポリメチルメタクリラート(PMMA)との、ジブロックコポリマーを含む。いくつかの態様において、PEGは、安定なミセルのシェルまたは表面を構成する。いくつかの態様において、ミセルのサイズは < 100 nmである。
【0018】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、以下の式(I)のブロックコポリマー、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは水和物であり、
式中、
nは113であり;
xは60~150であり;
yは0.5~1.5であり;かつ
R'はハロゲン、-OH、または-C(O)OHである。
【0019】
いくつかの態様において、式(I)のブロックコポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)-b-ポリ(ジブチルアミノエチルメタクリラート)コポリマーインドシアニングリーンコンジュゲートである。いくつかの態様において、式(I)のブロックコポリマーは、PEO113-b-(DBA60-150-r-ICG 0.5-1.5)である。
【0020】
当技術分野において、多数の蛍光色素が公知である。本開示のある局面において、蛍光色素は、pHに非感受性の蛍光色素である。いくつかの態様において、活性化の際にシグナル変化を増大させるために、蛍光色素を蛍光消光剤とペアリングさせる。蛍光色素は、いくつかの例において、化合物に直接的にコンジュゲートされるか、またはリンカー部分を介してコンジュゲートされる。いくつかの態様において、蛍光色素は、アミド結合を介して、化合物のアミンにコンジュゲートされる。いくつかの態様において、蛍光色素は、クマリン、フルオレセイン、ローダミン、キサンテン、BODIPY(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標)、またはシアニン色素である。いくつかの態様において、蛍光色素は、インドシアニングリーン、AMCA-x、Marina Blue、PyMPO、Rhodamine Green(商標)、テトラメチルローダミン、5-カルボキシ-X-ローダミン、Bodipy493、Bodipy TMR-x、Bodipy630、Cyanine5、Cyanine5.5、およびCyanine7.5である。いくつかの態様において、蛍光色素はインドシアニングリーン(ICG)である。インドシアニングリーン(ICG)は、医学的診断においてしばしば使用される。
【0021】
いくつかの態様において、化合物は、色素にコンジュゲートされない。
【0022】
いくつかの態様において、式(I)のブロックコポリマーは化合物である。いくつかの態様において、式(I)のブロックコポリマーはジブロックコポリマーである。いくつかの態様において、ブロックコポリマーは、親水性のポリマーセグメントと疎水性のポリマーセグメントとを含む。いくつかの態様において、親水性のポリマーセグメントはポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含む。いくつかの態様において、親水性のポリマーセグメントは約2 kD~約10 kDのサイズである。いくつかの態様において、親水性のポリマーセグメントは約3 kD~約 8kDのサイズであるか、または約4 kD~約6 kDのサイズである。いくつかの態様において、親水性のポリマーセグメントは約 5kDのサイズである。
【0023】
いくつかの態様において、疎水性のポリマーセグメントは
を含み、ここで、xは全部で約20~約200である。いくつかの態様において、xは約60~150である。いくつかの態様において、親水性のポリマーセグメントはジブチルアミンを含む。
【0024】
いくつかの態様において、R'は末端基である。いくつかの態様において、末端キャッピング基は、原子移動ラジカル重合(ATRP)反応の産物である。いくつかの態様において、R'はハロゲンである。いくつかの態様において、R'はBrである。いくつかの態様において、R'は-OHである。いくつかの態様において、R'は-COHである。いくつかの態様において、R'は酸である。いくつかの態様において、R'は-C(O)OHである。いくつかの態様において、R'はHである。
【0025】
1つの局面において、本明細書に記載される化合物は、薬学的に許容される塩の形態である。同様に、これらの化合物の、同種の活性を有する活性代謝物もまた、本開示の範囲に含まれる。加えて、本明細書に記載される化合物は、薬学的に許容される溶媒、たとえば水、エタノール等との溶媒和型として存在することができるとともに、非溶媒和型として存在することもできる。本明細書において提示される化合物の溶媒和型もまた、本明細書において開示されているものとみなされる。
【0026】
II. ミセルおよびpH応答性組成物
本明細書に記載される、1種類または複数種類のブロックコポリマーは、pH応答性ミセルおよび/またはpH応答性ナノ粒子を形成するために使用され得る。別の局面において、本明細書において提供されるのは、式(I)のブロックコポリマーを1種または複数種含む、ミセルである。
【0027】
ミセルのサイズは、典型的にはナノメートルのスケール(すなわち、直径約1 nm~1 μm)である。いくつかの態様において、ミセルは、約10~約200 nmのサイズを有する。いくつかの態様において、ミセルは、約20~約50 nmのサイズを有する。いくつかの態様において、ミセルは、直径100 nm未満というサイズを有する。いくつかの態様において、ミセルは、直径50 nm未満というサイズを有する。
【0028】
別の局面において、本明細書において提供されるのは、式(I)のブロックコポリマーを1種類または複数種類含む、pH応答性組成物である。本明細書において開示されるpH応答性組成物は、式(I)のブロックコポリマーを含むpH応答性ミセルおよび/またはpH応答性ナノ粒子を、1種類または複数種類含む。ブロックコポリマーのそれぞれは、親水性のポリマーセグメントと疎水性のポリマーセグメントとを含み、ここで疎水性のポリマーセグメントは、pH感受性をもたらす、イオン化可能なアミン基を含む。
【0029】
いくつかの態様において、pH応答性組成物は、pH遷移点および発光スペクトルを有する。いくつかの態様において、pH遷移点は4.8~5.5である。いくつかの態様において、pH遷移点は、約4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、または5.5である。いくつかの態様において、pH応答性組成物は、750~850 nmの発光スペクトルを有する。
【0030】
別の局面において、イメージング剤は、本明細書に記載されるブロックコポリマーを1種類または複数種類含む。
【0031】
使用方法
いくつかの態様において、本明細書に記載されるブロックコポリマーおよびミセルは、原発腫瘍組織および転移腫瘍組織(リンパ節を含む)を検出するために有用であり、これは、腫瘍の再発の減少および再手術率の減少をもたらす。
【0032】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるブロックコポリマーおよびミセルは、pH応答性組成物またはpH応答性ミセルとして使用される。いくつかの態様において、pH応答性組成物は、細胞内または細胞外のpHの変化を伴う生理学的および/または病理学的プロセスをイメージングするために、使用される。
【0033】
がん細胞が選択的にグルコースを取り込み、そしてそれを乳酸へと変換するという、ワールブルク効果として知られる好気的解糖は、すべての固形がんにおいて生じる。モノカルボン酸トランスポーターにより、乳酸は細胞外間隙に選択的に蓄積する。結果的に生じる細胞外間隙の酸性化は、腫瘍のさらなる浸潤および転移のための、細胞外マトリックスのリモデリングを促進する。
【0034】
本明細書において提供されるいくつかの態様は、生理的pH(7.35~7.45)においてミセルを形成する化合物を記述する。いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物は、ICG色素にコンジュゲートされる。いくつかの態様において、ミセルは、2×107ダルトンより大きい分子量を有する。いくつかの態様において、ミセルは、約2.7×107ダルトンの分子量を有する。いくつかの態様において、ICG色素は、生理的pH(7.35~7.45)において(たとえば血液循環中において)ミセルコア内に封鎖されており、これは蛍光の消光をもたらす。いくつかの態様において、ミセルが酸性環境(たとえば腫瘍組織)に遭遇すると、ミセルは、約3.7×104ダルトンの平均分子量を有する個々の化合物に解離し、ICG色素からの蛍光シグナルの活性化が可能になって、酸性環境(たとえば腫瘍組織)が特異的に蛍光を発する状態が引き起こされる。いくつかの態様において、pH遷移点を下回るpHにおいて(たとえば腫瘍微小環境の酸性状態において)、ミセルは解離する。
【0035】
いくつかの態様において、疎水性が駆動力となるミセルの自己集合(蛍光を発しないオフ状態)と、所定の低いpHにおけるこれらミセルの協調的解離(蛍光を発するオン状態)との間で生じる、急激な相転移に起因して、蛍光応答は強力である。
【0036】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるミセルは、pH遷移点および発光スペクトルを有する。いくつかの態様において、pH遷移点は4~8である。他の態様において、pH遷移点は6~7.5である。他の態様において、pH遷移点は4.8~5.5である。ある態様において、pH遷移点は、約4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、または5.5である。いくつかの態様において、pH遷移点は約5.3である。いくつかの態様において、pH遷移点は約5.4である。いくつかの態様において、pH遷移点は約5.5である。いくつかの態様において、発光スペクトルは400~850 nmである。いくつかの態様において、発光スペクトルは700~900 nmである。いくつかの態様において、発光スペクトルは750~850 nmである。
【0037】
いくつかの例において、本明細書に記載されるpH感受性ミセル組成物は、狭いpH遷移域を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるミセルは、1 pH単位未満のpH遷移域(ΔpH10~90%)を有する。さまざまな態様において、ミセルは、約0.9 pH単位未満の、約0.8 pH単位未満の、約0.7 pH単位未満の、約0.6 pH単位未満の、約0.5 pH単位未満の、約0.4 pH単位未満の、約0.3 pH単位未満の、約0.2 pH単位未満の、約0.1 pH単位未満の、pH遷移域を有する。いくつかの態様において、ミセルは、約0.5 pH単位未満のpH遷移域を有する。いくつかの態様において、pH遷移域は0.25 pH単位未満である。いくつかの態様において、pH遷移域は0.15 pH単位未満である。
【0038】
蛍光活性化比は、ミセルのオン/オフ状態の測定値である。いくつかの態様において、蛍光活性化比(すなわち、会合したミセルと解離したミセルとの間の差)は、会合したミセルの75倍よりも大きい。いくつかの態様において、蛍光シグナルは、25より大きい蛍光活性化比を有する。いくつかの態様において、蛍光シグナルは、50より大きい蛍光活性化比を有する。
【0039】
いくつかの態様において、pH応答性ミセルは平均コントラスト比(CR)を有する。平均コントラスト比(CR)は、バックグラウンドシグナルに相対的なシグナルの量であり、かつ、以下の式1に基づいて算出される:
【0040】
いくつかの態様において、pH応答性ミセルは高いコントラスト比を有する。いくつかの態様において、コントラスト比は、約30、40、50、60、70、80、または90よりも大きい。いくつかの態様において、コントラスト比は50よりも大きい。いくつかの態様において、コントラスト比は60よりも大きい。いくつかの態様において、コントラスト比は70よりも大きい。
【0041】
いくつかの態様において、光学シグナルは蛍光シグナルである。
【0042】
いくつかの態様において、細胞内環境がイメージングされる場合、ミセルの取り込みを引き起こすのに適した条件下で細胞はミセルと接触する。いくつかの態様において、細胞内環境は、細胞の一部である。いくつかの態様において、細胞の一部は、リソソームまたはエンドソームである。いくつかの態様において、細胞外環境は、腫瘍のもの、または血管細胞のものである。いくつかの態様において、細胞外環境は、血管内または血管外である。いくつかの態様において、腫瘍環境のpHのイメージングは、単数または複数のセンチネルリンパ節のイメージングを含む。いくつかの態様において、腫瘍環境のpHのイメージングは、腫瘍のサイズおよびマージンを決定することを可能にする。いくつかの態様において、細胞は、転移腫瘍由来のがん細胞であり得る。いくつかの態様において、がん細胞はリンパ節に存在する。リンパ節中のがん細胞は、元々の腫瘍を超えて広がる転移腫瘍の存在を判定するために、使用され得る。
【0043】
いくつかの態様において、腫瘍は固形腫瘍である。いくつかの態様において、腫瘍は、がんまたは癌腫のものである。例示的ながんは以下から選択されるが、これらに限定されない:乳がん、卵巣がん、結腸がん、泌尿器がん、膀胱がん、肺がん、前立腺がん、脳がん、頭頸部がん(NHSCC)、大腸がん、および食道がん。いくつかの態様において、がんは、乳がん、頭頸部扁平上皮がん(NHSCC)、食道がん、または大腸がんである。いくつかの態様において、がんは、乳がん、頭頸部扁平上皮がん(NHSCC)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、尿管がん、食道がん、大腸がん、脳がん、または皮膚がんである。いくつかの態様において、がんは乳がんである。いくつかの態様において、がんは頭頸部扁平上皮がん(NHSCC)である。いくつかの態様において、がんは食道がんである。いくつかの態様において、がんは大腸がんである。
【0044】
特定の用語
別途明記されない限り、本出願において使用される以下の用語は、以下に示される定義を有する。「含む(including)」との用語、ならびに他の形、たとえば「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含まれる(included)」などの使用は、限定するものではない。本明細書において使用されるセクションの見出しは、系統化するという目的のためだけのものであり、かつ、記載される内容を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0045】
「薬学的に許容される」とは、本明細書において使用される場合、担体または希釈剤といった物質であって、本化合物の生物学的活性も特性も阻害せず、かつ比較的非毒性である、物質を指し、すなわち該物質は、望ましくない生物学的影響を引き起こすことも、それが含まれる組成物の任意の成分と、有害な様式で相互作用することもなく、個体に投与される。
【0046】
「薬学的に許容される塩」との用語は、適切なアニオンと組み合わせられた、治療上活性な作用物質のカチオン型からなるか、または別の態様においては、適切なカチオンと組み合わせられた、治療上活性な作用物質のアニオン型からなる、治療上活性な作用物質の型を指す。Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use。International Union of Pure and Applied Chemistry, Wiley-VCH 2002。S.M. Berge, L.D. Bighley, D.C. Monkhouse, J. Pharm. Sci. 1977, 66, 1-19。P. H. StahlおよびC. G. Wermuth編集、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zurich:Wiley-VCH/VHCA, 2002。薬学的な塩は、典型的には、胃液および腸液において、非イオン性の種と比べ、溶解性がより高く、かつより迅速に溶解性であり、かつそのため、固体の剤形として有用である。さらに、それらの溶解性はしばしばpHに相関するため、消化管の1つの部分または別の部分において選択的に溶解させることが可能であり、かつこの能力は、遅延放出的および持続放出的挙動の1局面として、操作することができる。また、塩を形成する分子は、中性型で平衡状態になることができるため、生物学的な膜の通過を調節可能である。
【0047】
いくつかの態様において、薬学的に許容される塩は、式(I)の化合物を酸と反応させることによって得られる。いくつかの態様において、式(A)の化合物(すなわち、遊離塩基型)は塩基性であり、かつ有機酸または無機酸と反応する。無機酸は以下を含むが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、およびメタリン酸。有機酸は以下を含むが、これらに限定されない:1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸;2,2-ジクロロ酢酸;2-ヒドロキシエタンスルホン酸;2-オキソグルタル酸;4-アセトアミド安息香酸;4-アミノサリチル酸;酢酸;アジピン酸;アスコルビン酸 (L);アスパラギン酸 (L);ベンゼンスルホン酸;安息香酸;カンファー酸 (+);カンファー-10-スルホン酸 (+);カプリン酸(デカン酸);カプロン酸(ヘキサン酸);カプリル酸(オクタン酸);炭酸;ケイ皮酸;クエン酸;シクラミン酸;ドデシル硫酸;エタン-1,2-ジスルホン酸;エタンスルホン酸;ギ酸;フマル酸;ガラクタル酸;ゲンチシン酸;グルコヘプトン酸 (D);グルコン酸 (D);グルクロン酸 (D);グルタミン酸;グルタル酸;グリセロリン酸;グリコール酸;馬尿酸;イソ酪酸;乳酸 (DL);ラクトビオン酸;ラウリン酸;マレイン酸;リンゴ酸 (- L);マロン酸;マンデル酸 (DL);メタンスルホン酸;ナフタレン-1,5-ジスルホン酸;ナフタレン-2-スルホン酸;ニコチン酸;オレイン酸;シュウ酸;パルミチン酸;パモ酸;リン酸;プロプリオン酸(proprionic acid);ピログルタミン酸 (- L);サリチル酸;セバシン酸;ステアリン酸;コハク酸;硫酸;酒石酸 (+ L);チオシアン酸;トルエンスルホン酸 (p);およびウンデシレン酸。
【0048】
いくつかの態様において、式(A)の化合物は、塩化物塩、硫酸塩、臭化物塩、メシル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩として調製される。
【0049】
いくつかの態様において、薬学的に許容される塩は、式(A)の化合物を塩基と反応させることによって得られる。いくつかの態様において、式(A)の化合物は酸性であり、かつ塩基と反応する。そのような状況において、式(A)の化合物の酸性プロトンは、金属イオンによって、たとえば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、またはアルミニウムイオンによって、置換される。いくつかの場合において、本明細書に記載される化合物は、有機塩基と配位結合しており、該有機塩基はたとえば以下であるが、これらに限定されない:エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、メグルミン、N-メチルグルカミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン。他の場合において、本明細書に記載される化合物は、アミノ酸と塩を形成し、ここでアミノ酸は、たとえばアルギニン、リジン等であるが、これらに限定されない。酸性プロトンを含む化合物と塩を形成するのに使用される、許容される無機塩基は、以下を含むが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、等。いくつかの態様において、本明細書において提供される化合物は、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、メラミン塩、N-メチルグルカミン塩、またはアンモニウム塩として調製される。
【0050】
薬学的に許容される塩への言及は、溶媒付加物型を含むことが理解されるべきである。いくつかの態様において、溶媒和物は、化学量論的な量または非化学量論的な量のいずれかの溶媒を含み、かつ薬学的に許容される溶媒、たとえば水、エタノール等との結晶化プロセスの間に形成される。水和物は、溶媒が水である場合に形成され、またはアルコール和物は、溶媒がアルコールである場合に形成される。本明細書に記載される化合物の溶媒和物は、本明細書に記載されるプロセスの間に、都合よく調製または形成される。加えて、本明細書において提供される化合物は、任意で、溶媒和型として存在するとともに、非溶媒和型としても存在する。
【0051】
本明細書に記載される方法および製剤は、式(A)の構造を有する化合物の、N-オキシド(適切な場合)または薬学的に許容される塩の使用とともに、同種の活性を有する、これらの化合物の活性な代謝物の使用も含む。
【0052】
別の態様において、本明細書に記載される化合物は、同位体によって(たとえば放射性同位体を用いて)標識されるか、または別の他の手段によって標識され、該別の他の手段は、発色団もしくは蛍光部分、生物発光標識、または化学発光標識の使用を含むが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書に記載される化合物は、同位体標識された化合物を含み、これは本明細書において提示されるさまざまな式および構造において挙げられるものと同一であるが、しかし実際には、1つまたは複数の原子が、天然において通常見出される原子量または質量数とは異なる原子量または質量数を有する原子によって、置き換えられている。本化合物に組み込むことができる同位体の例は、水素の、炭素の、窒素の、酸素の、硫黄の、フッ素の、塩素の、ヨウ素の、リンの、同位体を含み、これはたとえば、2H、3H、13C、14C、15N、18O、17O、35S、18F、36Cl、123I、124I、125I、131I、32P、および33Pなどである。1つの局面において、本明細書に記載される、同位体標識された化合物、たとえば3Hおよび14Cといった放射性同位体が組み込まれたものなどは、薬剤および/または基質の組織分布アッセイに有用である。1つの局面において、同位体、たとえばジュウテリウムなどを用いた置換は、代謝安定性の増大に起因する、いくつかの治療上の利点を、たとえば、インビボ半減期の増大または投薬の必要量の低減などをもたらす。
【0054】
本明細書において使用される場合、「pH応答性システム」、「pH応答性組成物」、「ミセル」、「pH応答性ミセル」、「pH感受性ミセル」、「pHで活性化可能なミセル」、および「pHで活性化可能なミセル(pHAM)ナノ粒子」は、pH依存性に(たとえば、あるpHを上回るかまたは下回る場合に)解離する1種類または複数種類の化合物を含むミセルを示すために、本明細書において互換性をもって使用される。非限定的な一例として、あるpHにおいて、式(I)の化合物は、実質的にミセル型である。pHが変化すると(たとえば、低下すると)、ミセルは解離し始め、そしてpHがさらに変化すると(たとえば、さらに低下すると)、式(I)の化合物は実質的に、解離した形態(非ミセル型)で存在する。
【0055】
本明細書において使用される場合、「pH遷移域」とは、ミセルが解離するpH範囲を示す。
【0056】
本明細書において使用される場合、「pH遷移値」(pH)とは、ミセルの半分が解離するpHを示す。
【0057】
「ナノプローブ」とは、本明細書において、イメージング用の標識部分を含むpH感受性ミセルを示すために使用される。いくつかの態様において、標識部分は蛍光色素である。いくつかの態様において、蛍光色素はインドシアニングリーン(ICG)である。
【0058】
別途明記されない限り、本出願において使用される以下の用語は、以下に示される定義を有する。「含む(including)」との用語、ならびに他の形、たとえば「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含まれる(included)」などの使用は、限定するものではない。本明細書において使用されるセクションの見出しは、系統化するという目的のためだけのものであり、かつ、記載される内容を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0059】
「投与する(administer)」、「投与する(administering)」、「投与(administration)」等の用語は、本明細書において使用される場合、生物学的作用の所望の部位への化合物または組成物の送達を可能にするために使用され得る手法を指す。これらの手法は以下を含むが、これらに限定されない:経口経路、十二指腸内経路、非経口の注射(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、または注入を含む)、局所投与および直腸投与。当業者は、本明細書に記載される化合物および方法に利用可能な投与技術を熟知している。いくつかの態様において、本明細書に記載される化合物および組成物は、経口投与される。
【0060】
「共投与」等の用語は、本明細書において使用される場合、1人の患者への、選択された複数の治療薬の投与を包含することを意図し、かつ、該複数の治療薬が、同じもしくは別の投与経路によって投与されるか、または同時にまたは別の時点において投与される処置レジメンを含むことを意図する。
【0061】
「有効量」または「治療的有効量」との用語は、本明細書において使用される場合、処置される疾患または異常の症状のうちの1種類または複数種類をある程度軽減する投与される作用物質または化合物の十分な量を指す。その結果には、疾患の、徴候、症状、もしくは原因の、低減および/もしくは緩和か、または生物学的システムの任意の他の所望の変化が含まれる。たとえば、治療用途のための「有効量」とは、疾患症状の臨床的に有意な低減を提供するのに必要とされる、本明細書において開示されるような化合物を含む組成物の量である。任意の個々の症例における適切な「有効」量は、たとえば用量漸増試験などの技術を用いて、任意で決定される。
【0062】
「増強する(enhance)」または「増強する(enhancing)」との用語は、本明細書において使用される場合、所望の効果の有効性または持続期間のいずれかを、増大させるかまたは延長することを意味する。したがって、治療薬の効果の増強に関して、「増強する」との用語は、システムにおける他の治療薬の効果を、有効性または持続期間のいずれかにおいて、増大させるかまたは延長する能力を指す。「増強する有効量」とは、本明細書において使用される場合、所望のシステムにおける、別の治療薬の効果を増強するのに適切な量を指す。
【0063】
「対象」または「患者」との用語は、哺乳動物を包含する。哺乳動物の例は、哺乳綱の任意のメンバーを含むが、これらに限定されない:ヒト、非ヒト霊長類、たとえば、チンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種;家畜動物、たとえば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;飼いならされた動物、たとえば、ウサギ、イヌ、およびネコ;齧歯類、たとえばラット、マウス、およびモルモットを含む、実験動物、等。1つの局面において、哺乳動物はヒトである。
【0064】
「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、または「処置(treatment)」との用語は、本明細書において使用される場合、以下を含む:疾患もしくは異常の症状の少なくとも1種類を、緩和すること、弱めること、もしくは改善すること、追加の症状を予防すること、疾患もしくは異常を阻害すること、たとえば、疾患もしくは異常の進行を阻止すること、疾患もしくは異常を軽減すること、疾患もしくは異常の退縮を引き起こすこと、疾患もしくは異常によって引き起こされる状態を軽減すること、または、予防としておよび/もしくは治療としてのいずれかにおいて疾患もしくは異常の症状を止めること。
【0065】
特許請求の範囲における「または」との用語の使用は、選択肢のみを指すことが明確に指定されているか、または選択肢が相互排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢のみ、ならびに「および/または」を指す定義を裏付けるものである。本出願の全体を通して、「約」との用語は、値を決定する為に利用される装置または方法についての誤差の標準偏差を、値が含むことを示すために使用される。長年にわたり続く特許法にしたがい、「1つの(a)」および「1つの(an)」との単語は、本特許請求の範囲または本明細書において「含む」という単語ととともに用いられる場合、具体的に指定されない限り、1つを、または1つより多くを意味する。
【実施例
【0066】
化合物は、標準的な有機化学の技術、たとえば、March's Advanced Organic Chemistry, 6th Edition, John Wiley and Sons, Incなどに説明される技術を用いて、調製される。別途指定されない限り、質量分析法、NMR、HPLC、タンパク質化学、生化学、組み換えDNA技術、および薬理学における、慣用の手法が利用される。本明細書において使用されるいくつかの略語は、以下のとおりである。
AUC 曲線下面積
BC 乳がん
CR コントラスト比
HNSCC 頭頸部扁平上皮がん
hr 時間
ICG-OSu:インドシアニングリーンスクシンイミドエステル
IV 静脈内
kg キログラム
LN リンパ節
mg ミリグラム
mL ミリリットル
μg マイクログラム
NC 未算出
NIRF 近赤外蛍光
ROC 受信者操作特性
ROI 関心対象の領域
SLNB センチネルリンパ節生検
UPS 超pH感受性
【0067】
実施例1. 材料および方法
ブロックコポリマーの合成: 本明細書に記載される、式(I)のブロックコポリマーは、標準的な合成技術を用いて、または、当技術分野において公知の手法を、WO 2012/039741およびWO 2015/188157との番号の特許公報に記載される手法と組み合わせて用いて、合成される。
【0068】
より具体的には、原子移動ラジカル重合(ATRP)によって、ポリエチレングリコール(PEG)-ブロミドであるマクロイニシエーターから、コポリマーであるUPS6.9(PEPA-ICG)、UPS6.1(PDPA-ICG)、およびUPS5.3(PDBA-ICG)を合成するために、エチルプロピルアミノエチルメタクリラート(EPA)、ジプロピルアミノエチルメタクリラート(DPA)、およびジブチルアミノエチルメタクリラート(DBA)が、それぞれ使用された。ICG-sulfo-OSu(AAT Bioquest)は、24時間にわたりメタノール中で、ポリマー1つにつきフルオロフォア3つのモル比において、第1級アミンにコンジュゲートさせた。10 kDaの再生セルロース限外濾過ディスク(Amicon Bioseparations)を用いた、メタノール中での非連続的ダイアフィルトレーションでの精製により、コンジュゲートしていないICGを除去する。ICGのコンジュゲーションは、メタノール中で10 μg/mLのポリマー濃度において、Shimadzu UV-1800を用いて紫外可視分光法により定量される。
【0069】
ミセルを自己集合させるため、メタノール中の精製されたICGコポリマーを、超音波処理によって10倍の脱イオン水中に分散させる。100 kDaの遠心式フィルターユニット(Amicon Bioseparations)において脱イオン水で3回洗浄して、ミセルは精製される。ミセルのストック濃度は、5.0 mg/mLに維持される。ミセルナノ粒子は、Malvern Zetasizer Nano ZSを用いて、動的光散乱法(DLS)により特徴決定された。ミセルは、異なるpH(ポリマーのpKaから± 0.5 pH単位、図1D)において、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で0.1 mg/mLに希釈された。加えて、ICG蛍光強度は、pHに相関させて測定された。試料は、LI-COR Pearlを用いて、800 nmのチャンネル、85 μmの解像度においてイメージングされた。
【0070】
動物試験: 同所性4T1.2 BALB/cjモデルが、8週齢のマウスにおいて利用された。第4の右の乳腺脂肪体(mammary fat pad)における、1×106個の細胞の移植は、原発腫瘍の増殖の4~5週間後に、同側の腋窩LNへの一貫した自然LN転移をもたらし、かつ同側または対側の頸部LNおよび鼠径LNへの偶発的な転移をもたらした。UPSナノ粒子は、0.9% 生理食塩水中、1.0 mg/kgとして、4T1.2担持BALB/cjマウスへと静脈内投与された。
【0071】
蛍光イメージング: リアルタイム蛍光イメージングは、NIRFカメラを用いて実施された。発光した光を、860 ± 12 nmのバンドパスフィルター(ThorLabs)を用いてフィルタリングし、そして25 mm/F1.8の固定焦点距離レンズ(Edmund Optics)を用いてフォーカスした。フィルタリングされた発光波長は、Blackfly S USB3カメラ(FLIR)を用いて検出された。別途指定されない限り、画像は4 fpsにおいて記録された。個々のLNは、蛍光イメージングシステムと、定位固定法を用いた顕微鏡とのガイド下で切除された。
【0072】
定量的NIRFイメージングは、LI-COR Pearl小動物イメージングシステム(LI-COR Pearl Small Animal Imaging System)を用いて実施された。画像の取得は、85 μmの解像度、800 nmのチャンネルにおいて行う。定量はImage Studioソフトウェアにおいて行い、フリーハンドツールでROIを描く。ピクセル強度の中央値、およびLI-CORシグナルは、ROIのそれぞれに関してエクスポートされた。蛍光スライドは、LI-COR Odyssey imagerを用いて、21 μmの解像度においてスキャンされた。画像は、比較しやすくするため、同じフィルターにリンクさせる。
【0073】
組織学的解析: 解剖後、LN組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋し、そして、組織が尽きるまで500 μmごとに、5.0 μmの3枚のスライスを薄切した。これにより、隣接するスライド3枚の、3~4グループが得られた。第1のスライドは、自動染色装置(Dakewe)を用いて、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色される。第2のスライドは、NIRFイメージングに使用された。隣接する第3のスライドは、汎サイトケラチン免疫組織化学的解析に使用された。熱により引き起こされる抗原賦活化は、110 psiにおいて17分間、pH 9のTris中で達成された。スライドは、マウス血清(マウスオンマウスブロッキング試薬、Vector Laboratories)を用いて1時間ブロッキングされた。2.5% 正常ウマ血清(Vector Laboratories)中の抗マウス汎サイトケラチン抗体(1:10に希釈;AE1/AE3クローン;ThermoFisher)とのインキュベーションは、室温で30分間行った。一次抗体の検出は、Immpressウマ抗マウスIgGポリマー試薬(マウスオンマウスブロッキング試薬、Vector Laboratories)を用いて、室温で10分間にわたりなされた。発色するまで、DAB基質が添加された。良性のLNは、汎サイトケラチン陰性としてクラス分類される。ミクロ転移は、2 mm未満のサイズの、汎サイトケラチン陽性クラスターとして定義される。マクロ転移LNは、2 mm超のサイズの、汎サイトケラチン陽性クラスターを有するものである。
【0074】
免疫組織化学染色は、ナノ粒子とLNマクロファージとの、空間的共局在の可視化を可能にする。BALB/cjマウス(8週齢)には、0.9% 生理食塩水中の1.0 mg/kg ナノ粒子溶液が静脈内注入された。LNは、NIRFカメラシステムのガイド下で切除された。LNは、OTCメディウム中に包埋され、そして液体窒素を用いて凍結された。凍結させた切除部分は、500 μmの間隔で、12 μmに薄切された。切片は、-20度のアセトン中で10分間固定され、それに、室温での10分間の乾燥が続いた。次に切片は、1×PBS中で2回、それぞれ5分間洗浄された。ブロッキングは、正常ヤギ血清を用いて1時間行った。ブロッキング血清の吸引の後に、以下の一次抗体とのインキュベーションが続いた:FITC抗マウスCD169(1:125;クローン3D6.112;ロット番号B271952)、PE抗マウスF4/80(1:50;クローンBM8;ロット番号B199614)、およびAPC抗マウスCD11b(1:50;クローンM1/70;ロット番号B279418)。すべての抗体は、0.5% Tween含有PBS中で多重化され、そして組織切片のそれぞれに添加された。インキュベーションは、4度で一晩行った。切片は、PBS中で3回、それぞれ5分間洗浄された。カバースリップのマウントには、DAPI含有Diamond Mountを使用した。スライドは、Keyenceの自動化顕微鏡を用いてイメージングされた。
【0075】
統計学的解析: LI-CORシグナル、およびCR中央値の値は、組織学的解析の状態にしたがって群分けされた。それぞれの群(良性、ミクロ転移、およびマクロ転移)は、平均の統計学的差異に関して、1元配置分散分析を用いて解析された。テューキー多重比較により、各群の平均間の差異を評価した。判別を変数と群との間で比較するため、GraphPad Prismにおいて、「ウィルソン/ブラウン(Wilson/Brown)」法を用いる「ROC曲線(ROC Curve)」モジュールが使用された。感度および特異度についての閾値を決定するため、この統計値は最大化された。
【0076】
実施例2. pH感受性ナノ粒子は環境のpHに対して協調的な蛍光応答を示す
3種類の超pH感受性(UPS)ブロックコポリマーが合成された。ある範囲のpH応答をカバーするための、異なるpH遷移を有するコポリマー(UPS5.3、UPS6.1、およびUPS6.9;それぞれの添え字は、見かけのpKa値を示す)(図1B、表1)。具体的には、両親媒性のブロックコポリマーUPS6.1は、6.1のpKaを有する。pKaを上回るpH値において、UPS6.1は、24.0 ± 2.1 nmのミセルへと自己集合する(図1C、表1)。6.1のpH値を下回ると、ポリマー鎖のプロトン化は、4.9 ± 1.2 nmのユニマーへの、ミセルの分解を引き起こす(図1C)。UPS5.3(28.5 ± 1.5 nm)およびUPS6.9(23.4 ± 2.5 nm)もまた同様に、pH依存性の、ミセルからユニマーへの急激な遷移を有する(表1、図2C)。ミセル組成物間での、類似のナノ粒子サイズ(23~28 nm)、および同一のPEG長(5 kDa)は、LNターゲティングにおいて一貫したサイズおよび界面化学を維持するために重要であり、これは、LN転移の検出における、pH閾値の特異的な評価を可能にする。
【0077】
(表1)PEG-b-(PR-r-色素)ナノプローブの特徴決定
a 動的光散乱法により決定された数に基づくサイズ。b LI-COR Pearl Imagerを用いたICG蛍光により決定。c NaOH滴定により決定。
【0078】
局所でのpH値を知るため、各ポリマーはインドシアニングリーン(ICG)とコンジュゲートさせたが、ICGは、FDAによって承認されており、かつ臨床用の近赤外(NIRF)イメージングシステムに適合性の、フルオロフォアである。UPS-ICGナノ粒子のそれぞれは、類似した、ポリマー1つあたりの色素の数を示す(表1、図2A)。しかしながら、pH 7.4のミセル状態において、homoFRETに誘導される消光は、ICG蛍光シグナルを打ち消す。pKa未満のpHにおいて、UPSミセルは個々のユニマーへと分解し、そして0.3のpH範囲内において、蛍光強度を50倍超増幅させる(図1D、表2)。USPナノ粒子は、NIRFにより、pH閾値の二元性のコード化を示す(図1D、2A、および2B、表2)。この「デジタル」なシグナルは、異なるpH閾値における異なる値(オン = 1、オフ = 0)としての、蛍光活性化を表す。
【0079】
(表2)色素がコンジュゲートされたコポリマーの、コンジュゲーション効率および量子収率の測定
a メタノール中の遊離ICGの紫外可視分光法に基づく標準曲線により決定。
b LI-COR Pearl Imagerを用いた、1×PBS中でのICG蛍光発光により決定。
【0080】
実施例3. 腫瘍非担持マウスにおけるリアルタイム全身リンパマッピングはLNの切除をガイドする
全身リンパマッピングを評価するため、ポリマーナノ粒子製剤のそれぞれは、腫瘍非担持BALB/cjマウスに静脈内投与された。NIRFイメージングは、解剖されたマウスを可視化し、UPS5.3を投与された動物およびUPS6.1を投与された動物において、明確にLNを描画する(図3Aおよび3B)。この描画は、リアルタイムでの画像によるガイド下での、すべての表在LNの切除を容易にする。LI-COR Pearlを用いた、切除された組織のエクスビボでの定量的イメージングは、LNの異なる解剖学的群からの、類似したICGシグナルを示す。コントラスト比の中央値(CR)は、すべてのLN組織に関して算出された(式1):
。UPS5.3について63.3であり、かつUPS6.1について39.9の、全LNのCR中央値を用いて、LN蛍光は増幅された(図3D)。UPS6.9のCR中央値は、10.7という、有意により低い値であった(図3D)。
【0081】
LNターゲティングにおける、ミセル組成物間の差異の理由を明らかにするため、静脈内注入後の腫瘍非担持BALB/cjの血漿における蛍光を評価する、薬物動態試験が実施された(図4A)。UPS5.3およびUSP6.1と比較して、UPS6.9はより迅速に血液から消失した(図4A)。加えてUPS6.9-ICGは、血漿の酸性化後に低いオン/オフ比を有し、これはUPS6.9が、静脈内注入後の24時間で分解することを示す(図4B)。高いオン/オフ比を有するすべてのナノ粒子は、正常マウス血清中でのインキュベーションの間、24時間を超えて安定である。UPS6.9の低いオン/オフ比は、肝臓におけるナノプローブの迅速なクリアランスに起因しており(図4C)、これは、血清濃度をより低下させ、そして分解しやすい熱力学的傾向を増大させる。
【0082】
LNへのミセルの体内分布は、転移LNの判別のための、重大なパラメーターであると考えられる。腫瘍担持マウスおよび腫瘍非担持マウスの両方の肝臓における蓄積の増大によって示されるように、UPS6.9は、UPS6.1およびUPS5.3よりも短い血中半減期を有する。LN転移の検出に対する、体内分布および循環時間の影響をさらに調査するため、UPS5.3ナノ粒子の静脈内投与後6時間および72時間という、追加の循環時間が含められた。6時間の群からのLNにおいて「ハロー」現象が存在しているため、類洞マクロファージは、ナノ粒子を迅速に取り込む。しかしながら、循環時間がより長いとLN転移の判別を増大させることが可能になるようには見えない。全体的に見て、UPS5.3の増大した半減期は、リンパ節転移微小環境内において、ICG蛍光の比較的優れた「捕捉および組み込み」を可能にする。
【0083】
実施例4. LN常在性マクロファージはUPSポリマーミセルを内部移行させる
NIRFイメージングは、すべての表在LNを描画するが、リンパ向性の送達機構は不明瞭である。貪食細胞を含有する細網内皮系(たとえば肝臓、脾臓)は増大した蛍光強度を有することから、LN常在性マクロファージがUPSミセルの取り込みに役割を有しており、ICG蛍光シグナルの増幅をもたらす、との理論が立てられる。異なるマクロファージ集団の、多重化された免疫組織化学(IHC)染色が、UPSナノ粒子取り込みの可視化とともに利用された。UPS5.3-ICGおよびUPS6.1-ICGの蛍光シグナルは、LNにおいて異なる領域に出現した(図5Aおよび5B)。これらの領域は特異的に、LN常在性マクロファージとの有意なオーバーラップを示し、CD169+/F4/80+/CD11b+マクロファージは、UPS5.3-ICG蛍光と共局在する。これらの細胞は、LN常在性マクロファージと同じバイオマーカーを有している。加えて、ICG蛍光は、LN周辺の隣接組織中のF4/80+マクロファージとはオーバーラップせず、これは、LN特異的送達との想定を裏付け(図5Aおよび5B)、LN常在性マクロファージのみがUPSナノ粒子を封鎖することを示す。
【0084】
実施例5. 腫瘍担持マウスにおける転移LNの検出
良性LNと比較しての、転移LNの蛍光強度における差異が、シンジェニック4T1.2-BALB/cjマウスモデルを用いて定量された。LN転移の全身での検出のため、UPS5.3、UPS6.1、またはUPS6.9のナノ粒子は、同用量(1.0 mg/kg)で静脈内投与された。24時間の循環後の、LICOR Pearlによる生体マウスのNIRFイメージングは、原発腫瘍内での蛍光の発光を示したが、転移LN内ではそうではなかった(図6A~6Cの上段、左パネル)。対照的に、解剖されたマウスのNIRFイメージングは、原発腫瘍に加えて、LNにおける蓄積を示す(図6A~6Cの上段、右パネル)。UPS5.3を投与された動物およびUPS6.1を投与された動物は、すべての表在LNにおいて強い蛍光蛍光シグナルを示す(図6Aおよび6B)。UPS6.9を投与された動物は、腫脹したLNにおいてミセルの蓄積を示す(図6C)。リアルタイム蛍光イメージングは、すべてのLNの、ガイド下での切除を可能にした(図7Aおよび7B)。マクロ転移LNは、蛍光強度、空間的パターン、およびサイズにおいて、他のLNとはしばしば異なっており、これらのLNの正確な切除を可能にする(図7B)。
【0085】
コントラスト比中央値は、切除されたすべての組織に関して定量された(式1)。加えてLI-CORシグナルが、関心対象の領域(ROI)からの総蛍光強度を定量するために使用された。それぞれの変数は異なる情報をもたらす。CR中央値は、LNの、ピクセルベースの蛍光強度中央値を評価するものであり、一方でLI-CORシグナルは、LN組織の合計された蛍光強度を伝えるものである。両方の変数は、群分けされた組織の統計学的解析において評価された。LNの組織学的検査は、病変に基づく、組織の群分けを可能にした。LNは、良性、ミクロ転移(がん病巣が < 2 mm)、またはマクロ転移(がん病巣が > 2 mm)のいずれかとしてクラス分類された。それにしたがって、CR中央値およびLI-CORシグナルの値が群分けされた(図5D~5F)。良性群とマクロ転移群との間には、有意な差異が存在する(図5D~5F)。しかしながら、良性とミクロ転移との間で、有意な差異を示すミセル群はなかった。
【0086】
実施例6. UPSナノ粒子は転移LNのがん病巣内に蓄積する
蛍光強度の差異に加えて、良性LNとマクロ転移LNとの間で、蛍光シグナルの異なるパターンが同定された。良性のLNは、リアルタイムイメージング、エクスビボイメージングの両方によって、UPS5.3-ICGの「ハロー」という強度を示す(図7A、7B、および8A)。組織学的解析は、このLNサブセットにおいて汎サイトケラチンクラスターが存在しないことを裏付ける(図8A)。さらに、顕微鏡でのイメージングは、LN組織の縁における、UPSナノ粒子の蓄積を裏付ける(図8A)。このパターンは、UPS6.1を投与された動物およびUPS6.9を投与された動物でも明らかである。良性LNにおける、UPS5.3ナノ粒子の外縁での分布は、LN類洞においてLN常在性マクロファージと共局在している。これらの結果は、腫瘍非担持LNにおける蛍光の局在性と一致する(図4)。しかしながら、腫瘍担持マウスからの良性LNにおいて、CD11b+マクロファージは、腫瘍非担持マウスにおける同じ集団と比較して、周辺組織内においてより運動性であるように見受けられる。
【0087】
ミクロ転移LNは、蛍光シグネチャーのスペクトルを示す。蛍光は、LNの縁に局在し得、または小さながん病巣の全体にわたって、均一な蛍光を示し得る。縁における蛍光局在および汎サイトケラチンクラスター内の蛍光局在の、両者の混合型パターンは、最も典型的なシグネチャーである(図8B)。対照的に、マクロ転移LNは、くっきりと明るい蛍光強度のパターンを示す(図8C)。顕微鏡による解析は、ICGシグナルが、抗サイトケラチン染色とほぼオーバーラップすることを示し(図8C)、これはがんに特異的な、UPSユニマーの蓄積を示す。UPS6.1を投与された群でも、同様の結果が観察された。さらに、UPS6.9群からの転移LN組織の蛍光強度は、UPS6.1およびUPS5.3と比較して低下する(図9)。
【0088】
全3種類のミセルは、汎サイトケラチン陽性のがん病巣における蓄積を示し、これは、検出可能な蛍光シグナルをもたらす。蛍光強度の定量は、LICORシグナルが、特にUPS5.3群において、LN転移の判別を達成するために適切な測定基準であることを、明らかにする。LN常在性マクロファージのUPSナノ粒子の取り込みは、バックグラウンド蛍光の原因となるが、結果として生じる蛍光強度は、転移LNとは、定量可能に区別される。マクロファージは、LNへの送達の際にミセルを内部移行させ、そしてその酸性オルガネラ内において蛍光を増幅させる。逆に言えば、転移LNは、がん病巣に対応するLN皮質全体で、くっきりと明るい蛍光のパターンを示す。活性化のこのパターンは、切除中に、外科医が検出可能であり得る。転移LNのより優れた判別を達成するために、蛍光の強度および空間的な局在性の両方を利用することが可能であり得る。
【0089】
実施例7. 良性LNからの転移LNのROC判別
マクロ転移LN検出の受信者操作特性(ROC)が定量された(表3)。サイズ依存性のLI-CORシグナルを有する組織の定量は、UPS5.3が、良性LNに対する、マクロ転移LNの高い判別力(AUC = 0.96;感度 = 92.3%、および特異度 = 88.2%)を有することを明らかにする (図10A)。各ポリマーについてのCR中央値を用いた、マクロ転移LNからの良性LNの判別もまた、実行可能である(図10B)。データは、CR中央値またはLICORシグナルのいずれを用いた場合も、良性LNに対するミクロ転移LNの判別の欠如を示す。
【0090】
(表3)UPSナノ粒子についての良性LN 対 ミクロ転移LNの受信者操作特性解析
UPS = 超pH感受性;CR:コントラスト比;AUC =曲線下面積。
【0091】
本開示の好ましい態様は本明細書において示されかつ記載されているが、そのような態様が単なる例として提供されていることは、当業者には明らかである。無数の変更、改変、および置き換えが、本開示から逸脱することなく、今や当業者に想起されるであろう。本明細書において記載される本開示の態様のさまざまな代替物が、本開示を実践する際に利用され得ることが、理解されるべきである。添付の特許請求の範囲は、本開示の範囲を定義し、かつこの特許請求の範囲内の方法および構成、ならびにそれらの等価物がそれにより包含されることを定義することを、意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】