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特表2022-534513がん細胞遊走を阻害するためのIL-6Rα/IL-8R二重特異性結合剤
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  • 特表-がん細胞遊走を阻害するためのIL-6Rα/IL-8R二重特異性結合剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-01
(54)【発明の名称】がん細胞遊走を阻害するためのIL-6Rα/IL-8R二重特異性結合剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20220725BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220725BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220725BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220725BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220725BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20220725BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220725BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220725BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/04
C07K14/54
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570759
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 US2020035211
(87)【国際公開番号】W WO2020243489
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】62/855,625
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スパングラー ジェイミー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルツ デニス ガストン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン フイリン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ウェンタオ
(72)【発明者】
【氏名】カール ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する新規の形式を有する二重特異性結合剤に関する。本開示は同様に、がんの処置においてそのような二重特異性結合剤を使用する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抗体重鎖またはその部分、リンカー、および第1の抗体軽鎖またはその部分を含み、第1のリンカーが、第1の抗体重鎖またはその部分および第1の抗体軽鎖またはその部分を接続し、第1の抗体重鎖またはその部分および第1の抗体軽鎖またはその部分が、IL-6Rαに特異的な第1の結合部位を形成する、第1のポリペプチド;
第2のポリペプチド抗体重鎖またはその部分、第2のリンカー、および第2のポリペプチド抗体軽鎖またはその部分を含み、第2のリンカーが、第2の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体軽鎖またはその部分を接続し、第2の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体軽鎖またはその部分が、IL-8Rに特異的な第2の結合部位を形成する、第2のポリペプチド
を含み、
第1のポリペプチド抗体重鎖またはその部分および第2のポリペプチド抗体重鎖またはその部分が互いと選択的に会合して二重特異性結合剤を形成するように、第1の抗体重鎖またはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、第2の抗体重鎖またはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、あるいはその両方である、
二重特異性結合剤。
【請求項2】
第1の抗体重鎖またはその部分が、CH1ドメインまたはその部分、CH2ドメインまたはその部分、CH3ドメインまたはその部分、およびVHドメインまたはその部分を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項3】
第2の抗体重鎖またはその部分が、CH1ドメインまたはその部分、CH2ドメインまたはその部分、CH3ドメインまたはその部分、およびVHドメインまたはその部分を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項4】
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが、1つまたは複数のアミノ酸置換を欠く抗体重鎖を含む対応する第1のポリペプチド、1つまたは複数のアミノ酸置換を欠く第2の抗体重鎖を含む対応する第2のポリペプチド、あるいはその両方と比較して、互いと選択的に会合する、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項5】
第1の抗体軽鎖が、CLドメインまたはその部分およびVLドメインまたはその部分を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項6】
第2の抗体軽鎖が、CLドメインまたはその部分およびVLドメインまたはその部分を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項7】
第1のポリペプチドリンカーが、第1の抗体軽鎖のCLドメインを第1の抗体重鎖のVHドメインに接続する、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項8】
第2のポリペプチドリンカーが、第2の抗体軽鎖のCLドメインを第2の抗体重鎖のVHドメインに接続する、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項9】
第1のポリペプチドリンカーが、SEQ ID NO. 13に対して少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項10】
第2のポリペプチドリンカーが、SEQ ID NO. 13に対して少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項11】
第1の抗体重鎖またはその部分における1つまたは複数のアミノ酸置換が、SEQ ID NO. 9の位置645、647、および686のうちの1つまたは複数でのアミノ酸置換を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項12】
第2の抗体重鎖またはその部分における1つまたは複数のアミノ酸置換が、SEQ ID NO. 11の位置642のうちの1つまたは複数でのアミノ酸置換を含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項13】
第1の抗体重鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 16を含む重鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 17を含む重鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 18を含む重鎖CDR3ドメイン
を含むVHドメインを含み;
第1の抗体軽鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 19を含む軽鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 20を含む軽鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 21を含む軽鎖CDR3ドメイン
を含むVLドメインを含む、
請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項14】
第2の抗体重鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 22を含む重鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 23を含む重鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 24を含む重鎖CDR3ドメイン
を含むVHドメインを含み; かつ
第2の抗体軽鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 25を含む軽鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 26を含む軽鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 27を含む軽鎖CDR3ドメイン
を含むVLドメインを含む、
請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項15】
第1の抗体重鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 16を含む第1の重鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 17を含む第1の重鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 18を含む第1の重鎖CDR3ドメイン
を含むVHドメインを含み;
第1の抗体軽鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 19を含む第1の軽鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 20を含む第1の軽鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 21を含む第1の軽鎖CDR3ドメイン
を含むVLドメインを含み;
第2の抗体重鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 22を含む第2の重鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 23を含む第2の重鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 24を含む第2の重鎖CDR3ドメイン
を含むVHドメインを含み; かつ
第2の抗体軽鎖またはその部分が、
SEQ ID NO. 25を含む第2の軽鎖CDR1ドメイン、
SEQ ID NO. 26を含む第2の軽鎖CDR2ドメイン、および
SEQ ID NO. 27を含む第2の軽鎖CDR3ドメイン
を含むVLドメインを含む、
請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項16】
第1の結合部位が、SEQ ID NO. 9の残基278~396を含むVHドメイン、およびSEQ ID NO. 9の残基24~130を含むVLドメインを含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項17】
第2の結合部位が、SEQ ID NO. 11の残基280~393を含むVHドメイン、およびSEQ ID NO. 11の残基24~132を含むVLドメインを含む、請求項1記載の二重特異性結合剤。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項記載の二重特異性結合剤および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
その必要のある対象における疾患を処置する方法であって、請求項1~17のいずれか一項記載の二重特異性結合剤または請求項18記載の薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、該方法。
【請求項20】
疾患が、がんである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
がんの転移細胞遊走を阻害する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
がんが乳がんである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
がんが三重陰性乳がんである、請求項20記載の方法。
【請求項24】
がんが膵臓がんである、請求項20記載の方法。
【請求項25】
がんが膵管腺がんである、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月31日付で出願された米国特許仮出願第62/855,625号の優先権を主張する。本出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本開示は、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する新規の形式を有する二重特異性結合剤に関する。本開示は同様に、がんの処置においてそのような二重特異性結合剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
転移は、循環系またはリンパ系を通じた原発部位から遠位部位へのがんの広がりである。抗がん治療薬の従来の開発は、腫瘍成長を標的とする薬物が転移も標的とすること、または圧倒的な成長阻害を前にして転移を中断する必要がないことを前提としている。
【0004】
その結果、転移は、抗がん薬開発において腫瘍成長から明確に切り離して標的とされていないことが多い。
【0005】
モノクローナル抗体は免疫療法および疾患処置において用いることができ、製薬市場の基礎を成すものである。モノクローナル抗体は、高い親和性、正確な特異性、安定性、インビボ半減期の延長、および多層的な作用機構を保有しうる。しかしながら、モノクローナル抗体には、例えば獲得耐性または副作用など、制限がないわけではない。二つ以上のモノクローナル抗体を用いた免疫療法および疾患処置にも、投薬率の最適化が必要である。
【0006】
したがって、免疫療法および疾患処置のための改善された抗体法が必要である。
【発明の概要】
【0007】
概要
本明細書において提供されるのは、IL-6RαおよびIL-8Rに対する特異性を有する二重特異性結合剤を作出するためにノブインホール(knobs-in-holes)二量体化戦略および一本鎖Fab発現アプローチを組み合わせた新規の二重特異性結合剤である。本明細書において提供される二重特異性結合剤は、(単独でまたは他の治療薬との組み合わせで)がんの処置において、特に転移の阻害において用いることができる。本明細書において提供される二重特異性結合剤は同様に、種々のインビトロでのシステムおよびアッセイのいずれかにおいて用いることができる。
【0008】
二重特異性結合剤は、モノクローナル抗体よりも向上した親和性、結合力、効力、および選択性で2つの異なる標的に同時に結合する。本明細書において提供されるのは、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する新規の二重特異性結合剤であり、この二重特異性結合剤はノブインホールアプローチを、可動性のリンカーを有する一本鎖Fabと組み合わせて、新規の二重特異性薬剤の形式をもたらす(図1D)。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、アミノ酸置換が抗体重鎖の第3の重鎖定常ドメインに導入されるノブインホール形式を含む。そのようなノブインホールアプローチは、抗体重鎖のホモ二量体化よりも適切なヘテロ二量体化を強いることができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、可動性のリンカーで可変重(VH)鎖のN末端に軽鎖定常ドメイン(CL)のC末端をもたらす一本鎖Fab形式を含む。一本鎖Fabの構築により、適切な可変重鎖および可変軽鎖の対合が強いられる。ノブインホールアプローチと一本鎖Fab形式の組み合わせにより、従来の抗体-誘導体形式よりも改善された特徴を示す新規の二重特異性形式が得られる。
【0009】
いくつかの態様において、第1の抗体重鎖またはその部分、リンカー、および第1の抗体軽鎖またはその部分を含み、第1のリンカーが、第1の抗体重鎖またはその部分および第1の抗体軽鎖またはその部分を接続し、第1の抗体重鎖またはその部分および第1の抗体軽鎖またはその部分が、IL-6Rαに特異的な第1の結合部位を形成する、第1のポリペプチド; 第2のポリペプチド抗体重鎖またはその部分、第2のリンカー、および第2のポリペプチド抗体軽鎖またはその部分を含み、第2のリンカーが、第2の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体軽鎖またはその部分を接続し、第2の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体軽鎖またはその部分が、IL-8Rに特異的な第2の結合部位を形成する、第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチド抗体重鎖またはその部分および第2のポリペプチド抗体重鎖またはその部分が互いと選択的に会合して二重特異性結合剤を形成するように、第1の抗体重鎖またはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、第2の抗体重鎖またはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、あるいはその両方である、二重特異性結合剤が本明細書において提供される。
【0010】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第1の抗体重鎖またはその部分は、CH1ドメインまたはその部分、CH2ドメインまたはその部分、CH3ドメインまたはその部分、およびVHドメインまたはその部分を含む。いくつかの態様において、第2の抗体重鎖またはその部分は、CH1ドメインまたはその部分、CH2ドメインまたはその部分、CH3ドメインまたはその部分、およびVHドメインまたはその部分を含む。いくつかの態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸置換を欠く抗体重鎖を含む対応する第1のポリペプチド、1つまたは複数のアミノ酸置換を欠く第2の抗体重鎖を含む対応する第2のポリペプチド、あるいはその両方と比較して、互いと選択的に会合する。いくつかの態様において、第1の抗体軽鎖は、CLドメインまたはその部分およびVLドメインまたはその部分を含む。いくつかの態様において、第2の抗体軽鎖は、CLドメインまたはその部分およびVLドメインまたはその部分を含む。いくつかの態様において、第1のポリペプチドリンカーは、第1の抗体軽鎖のCLドメインを第1の抗体重鎖のVHドメインに接続する。いくつかの態様において、第2のポリペプチドリンカーは、第2の抗体軽鎖のCLドメインを第2の抗体重鎖のVHドメインに接続する。いくつかの態様において、第1のポリペプチドリンカーは、SEQ ID NO. 13に対して少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。いくつかの態様において、第2のポリペプチドリンカーは、SEQ ID NO. 13に対して少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。いくつかの態様において、第1の抗体重鎖またはその部分における1つまたは複数のアミノ酸置換は、SEQ ID NO. 9の位置645、647、および686のうちの1つまたは複数でのアミノ酸置換を含む。いくつかの態様において、第2の抗体重鎖またはその部分における1つまたは複数のアミノ酸置換は、SEQ ID NO. 11の位置642のうちの1つまたは複数でのアミノ酸置換を含む。
【0011】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第1の抗体重鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 16を含む重鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 17を含む重鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 18を含む重鎖CDR3ドメインを含む、VHドメインを含み; かつ第1の抗体軽鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 19を含む軽鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 20を含む軽鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 21を含む軽鎖CDR3ドメインを含む、VLドメインを含む。
【0012】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第2の抗体重鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 22を含む重鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 23を含む重鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 24を含む重鎖CDR3ドメインを含む、VHドメインを含み; かつ第2の抗体軽鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 25を含む軽鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 26を含む軽鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 27を含む軽鎖CDR3ドメインを含む、VLドメインを含む。
【0013】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第1の抗体重鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 16を含む重鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 17を含む重鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 18を含む重鎖CDR3ドメインを含む、VHドメインを含み; 第1の抗体軽鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 19を含む軽鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 20を含む軽鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 21を含む軽鎖CDR3ドメインを含む、VLドメインを含み; 第2の抗体重鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 22を含む重鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 23を含む重鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 24を含む重鎖CDR3ドメインを含む、VHドメインを含み; かつ第2の抗体軽鎖またはその部分は、SEQ ID NO. 25を含む軽鎖CDR1ドメイン、SEQ ID NO. 26を含む軽鎖CDR2ドメイン、およびSEQ ID NO. 27を含む軽鎖CDR3ドメインを含む、VLドメインを含む。
【0014】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第1の結合部位は、SEQ ID NO. 9の残基278~396を含むVHドメイン、およびSEQ ID NO. 9の残基24~130を含むVLドメインを含む。本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第2の結合部位は、SEQ ID NO. 11の残基280~393を含むVHドメイン、およびSEQ ID NO. 11の残基24~132を含むVLドメインを含む。
【0015】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤のいずれかを含む薬学的組成物が、本明細書において提供される。
【0016】
いくつかの態様において、本明細書において提供されるのは、本明細書において提供される二重特異性結合剤のいずれかまたは本明細書において提供される二重特異性結合剤のいずれかを含む薬学的組成物のいずれかの治療的有効量を投与する段階を含む、その必要のある対象における疾患を処置する方法である。いくつかの態様において、疾患はがんである。いくつかの態様において、本方法は、がんの転移細胞遊走を阻害する。いくつかの態様において、がんは乳がんである。いくつかの態様において、がんは三重陰性乳がんである。いくつかの態様において、がんは膵臓がんである。いくつかの態様において、がんは膵管腺がんである。
【0017】
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明で用いるための方法および材料が本明細書において記述される; 当技術分野において公知の他の、適当な方法および材料を用いることもできる。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内のさまざまな変更および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および具体例は、本発明のある種の態様を示すが、例示としてのみ与えられることが理解されるべきである。特許、公開特許公報、および科学論文を含め本明細書において言及される全ての刊行物は、参照によりその全体が組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ノブインホールアセンブリ戦略および一本鎖Fab発現アプローチを組み合わせた例示的な二重特異性結合剤の形式。A) タンデムscFvの概略図。B) scFv-IgG融合の概略図(BS2形式)。C) ノブインホールアプローチを示すscFv-Fc融合の概略図。D) 本明細書において提供される二重特異性結合剤の概略図。
図2】ノブインホールアセンブリ戦略および一本鎖Fab発現アプローチをトシリズマブ(抗IL-6R)ならびに10H2 (抗IL-8R)抗体可変重鎖および軽鎖「BS1」と組み合わせた例示的な二重特異性結合剤の形式。
図3】「BS2」と称される、10H2 (抗IL-8R) IgG抗体の軽鎖に連結されたトシリズマブ(抗IL-6R) scFvによる例示的な二重特異性抗体の形式。
図4】組換え二重特異性抗体BS1およびBS2の発現。哺乳動物細胞発現系において分泌される二重特異性結合剤のFPLC精製からのサイズ排除クロマトグラフィートレース。非還元および還元SDS-PAGE分析により、該タンパク質が均一にまで精製され、予想される分子量に移動することが実証された。
図5】抗IL-6Rα抗体トシリズマブの可変重鎖および軽鎖を含む二重特異性抗体BS1およびBS2は、IL-6Rα細胞外ドメイン(ECD)に結合する。固定化されたヒトIL-6Rα ECDのトシリズマブ(抗IL-6R)、10H2 (抗IL-8R)、ならびに二重特異性抗体BS1およびBS2との平衡バイオレイヤー干渉法(BLI)による力価測定(titration)が示されている。
図6】二重特異性抗体BS1およびBS2は、IL-6/IL-6Rα結合を競合的に阻害する。フローサイトメトリーによって測定した、IL-6発現酵母での組換えIL-6Rα ECDの力価測定(titration) (A)。トシリズマブ(抗IL-6R)、10H2 (抗IL-8R)、ならびに二重特異性抗体BS1およびBS2によるIL-6/IL-6Rα相互作用の競合的阻害(B)。抗IL-8RB抗体10H2はサイトカイン/受容体結合と競合しないが、抗IL-6Rα抗体トシリズマブおよび操作されたトシリズマブ含有二重特異性抗体は、その親和性によって結合を遮断する。データは平均±標準偏差(s.d)を表す。
図7】二重特異性抗体BS1およびBS2は、IL-6RαおよびIL-8Rを発現するヒト胎児腎臓(HEK 293T)細胞株に特異的に結合する。(A) IL-6Rα+/IL-8R-、(B) IL-6Rα-/IL-8R+、(C) IL-6Rα+/IL-8R+、および(D) IL-6Rα-/IL-8R- HEK 293T細胞上でのトシリズマブ(抗IL-6R)、10H2 (抗IL-8R)、ならびに二重特異性抗体BS1およびBS2の結合力価測定(titration)。どちらの二重特異性抗体も細胞上の機能的なIL-6RαおよびIL-8Rに結合するが、その構成要素のモノクローナル抗体はIL-6RαまたはIL-8Rのいずれかにのみ結合する。細胞への抗体の結合をフローサイトメトリーによって検出した。データは平均±標準偏差を表す。
図8】二重特異性抗体BS1およびBS2は、IL-6/IL-6RαとIL-8/IL-8Rの両方の相互作用を競合的に阻害する。(A) IL-6Rα+/IL-8R- HEK 293T細胞上での可溶性IL-6サイトカインとトシリズマブ(抗IL-6R)、10H2 (抗IL-8R)、ならびに二重特異性抗体BS1およびBS2との間の細胞表面競合アッセイ。トシリズマブ、BS1、およびBS2は、IL-6RαのIL-6結合と競合する。(B) IL-6Rα-/IL-8R+ HEK 293T細胞上での可溶性IL-8サイトカインとトシリズマブ、10H2、BS1、またはBS2のいずれかとの間の細胞表面競合アッセイ。10H2、BS1、およびBS2は、IL-8RのIL-8結合と競合する。IL-6の結合をフローサイトメトリーによって測定した。データは平均±標準偏差を表す。
図9】二重特異性抗体は、IL-6シグナル伝達を競合的に阻害する。トシリズマブ(抗IL-6R)、10H2 (抗IL-8R)、ならびに二重特異性抗体BS1およびBS2の存在下におけるHepG2肺がん細胞でのSTAT3のIL-6媒介性リン酸化。トシリズマブ、BS1、およびBS2は、IL-6誘導性のシグナル伝達を阻害するが、10H2は阻害しない。シグナル伝達をフローサイトメトリーによって測定した。データは平均±標準偏差を表す。
図10】二重特異性抗体は、がん細胞の遊走を劇的に低減させる。三重陰性乳がん細胞(MDA-MB-231) (A)および線維肉腫細胞(HT-1080) (B)のランダムに選択された軌道により、二重特異性抗体(BS1およびBS2)はがん細胞の遊走の低減で極めて効果的であり、モノクローナル抗体トシリズマブおよび10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R)の組み合わせよりも効率が良く、トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)の効果と対等であるか、またはその効果を超えていることが明らかである。各色は単一細胞の軌道を表し、条件ごとに共通の原点から重なり合った16軌道がある(スケールバー = 10 μm)。
図11】二重特異性抗体は、三重陰性乳がんおよび線維肉腫細胞の遊走を強力に阻害する。未処理のMDA-MB-231三重陰性乳がん細胞およびHT-1080線維肉腫細胞 vs トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、またはBS2で処理した細胞についての運動性(平均二乗変位[MSD]によって測定) (A)+(D)、総拡散性(B)+(E)、および持続性(C)+(F)。以前に開発された高速大量処理3D細胞遊走モデルを用いて、総拡散性および持続性を計算した(Fraley, S. I.; Feng, Y.; Krishnamurthy, R.; Kim, D.-H.; Celedon, A.; Longmore, G. D.; Wirtz, D. A Distinctive Role for Focal Adhesion Proteins in Three-Dimensional Cell Motility. Nat. Cell Biol. 2010, 12 (6), 598-604. https://doi.org/10.1038/ncb2062; Giri A, Bajpai S, Trenton N, Jayatilaka H, Longmore GD, Wirtz D. The Arp2/3 complex mediates multigeneration dendritic protrusions for efficient 3-dimensional cancer cell migration. FASEB J Off Publ Fed Am Soc Exp Biol. 2013 Oct;27(10):4089-4099. PMCID: PMC4046187)。二重特異性抗体(BS1およびBS2)は、抗IL-6R + 抗IL-8Rモノクローナル抗体およびT+R抗体/低分子の組み合わせによる併用処置よりも優れた阻害を誘発する。細胞株ごと処理条件ごとに最低限3回の独立した実験を行った。全てのパネルにおいて、データは平均±平均の標準誤差(s.e.m)として表される。P<0.05; **P<0.01; ***P<0.001 (対応のないスチューデントのt検定)。
図12】二重特異性抗体は、細胞増殖に影響を与えることなく細胞遊走を標的とする。3Dモデルに埋め込まれたMDA-MB-231三重陰性乳がん細胞(A)およびHT-1080線維肉腫細胞(B)の相対的な細胞増殖を、処置投与48時間後の細胞の代謝活性に基づいて決定した。未処理の細胞を、トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、またはBS2で処理した細胞と比較した。いずれの処理条件も増殖に有意な影響を与えず、二重特異性抗体が細胞の増殖に影響を与えずに遊走を効果的に阻害することを実証するものであった。エラーバーは標準偏差を表し、対応のないスチューデントのt検定によって統計比較を実施した。
図13】二重特異性抗体は、マウスの同所性乳がん異種移植試験において転移の強力な阻害を誘導する。インビボ試験から得られた情報を最大化するために、3つのパイロット実験を完了して、二重特異性抗体の最適なタイムラインおよび用量を決定した。(A) 第1の試験は5匹のマウスで行い、そのうちの4匹に0日目に1×106個のMDA-MB-231三重陰性乳がん細胞を乳腺脂肪パッドに注射した。注射3週間後から始めて、マウス1匹から肺を毎週摘出し、ヒトのゲノム含有量について試験した。サイクル閾値により、健常対照におけるHK2のノイズレベルが最大サイクル数に非常に近く、ヒトゲノム含有量の読み取り値が本質的に0であるため、測定にノイズがほとんどないことが示される。HK2のサイクル閾値が経時的に減少する傾向が予想され、本発明者らには、35日で試験を終了すると測定可能な転移性負荷が生じるという確信が得られた。(B) 第2の試験において、各マウスに5つの異なる用量のBS1を投与し、全てのマウスを同じ期間処置した後、肺の転移性負荷を試験した。(C) 第3の試験(全ての動物を同じ処置期間に曝した)により、1 mg/kgまたはそれ以下の用量のBS1がこのモデルでの肺転移を効果的に低減させることが確認された。
図14】二重特異性抗体処置は、同所性乳がん腫瘍の増殖に影響を与えない。同所性MDA-MB-231異種移植腫瘍を担持するマウスを、未処置のままにするか、またはトシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、もしくはBS2により接種後10日目に始めて3週間3日ごとに処置し、腫瘍体積を経時的に追跡した。二重特異性抗体は、インビトロ増殖アッセイおよびトシリズマブに加えてレパリキシン(reparaxin) (T+R)の組み合わせによる過去の研究から予想されるように、腫瘍の成長に影響を及ぼさなかった。
図15】二重特異性抗体処置は、同所性乳がんの腫瘍重量に影響を与えない。同所性MDA-MB-231異種移植腫瘍を担持するマウスを、未処置のままにするか、またはトシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、もしくはBS2により接種後10日目に始めて3週間3日ごとに処置し、35日目に試験を完結し、腫瘍を摘出した。腫瘍重量から、腫瘍の成長に関して、どの処置群にも差がなかったことが確認される。データは平均±平均の標準誤差として表される。
図16】二重特異性抗体は、同所性乳がん腫瘍モデルにおける転移性負担を有意に低減する。同所性MDA-MB-231異種移植腫瘍を担持するマウスを、未処置のままにするか、またはトシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、もしくはBS2により処置した。qPCRを用いマウス肺におけるヒトゲノム含有量を定量化して、転移性負荷を決定した。二重特異性抗体(BS1およびBS2)処置は、抗IL-6R + 抗IL-8Rモノクローナル抗体、ならびに抗IL-6R + 抗IL-8RおよびT + R条件より有意に効率が良かった。データは平均±平均の標準誤差として表される。P<0.05; **P<0.01; ***P<0.001 (対応のないスチューデントのt検定)。
図17】二重特異性抗体は、組織分析によって視覚化されるように、同所性乳がん腫瘍モデルでの肺転移を大幅に減少させる。未処置のままにするか、またはトシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ + 10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R抗体)、BS1、もしくはBS2により処置した同所性MDA-MB-231異種移植腫瘍を担持するマウスからの肺組織の組織学的分析。肺組織をホルマリン中で固定し、H&Eで染色した。H&Eスライドの視覚的評価から、全条件の肺組織において識別可能な微小転移があり、二重特異性抗体条件と比較して対照、抗IL-6R + 抗IL-8Rモノクローナル抗体およびT+R条件では有意に多くの微小転移があることが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
転移は、循環系またはリンパ系を通じた原発部位から遠位部位へのがんの広がりであり、がん関連死の90%の原因である(Weinberg RA. The biology of cancer. Second edition. New York: Garland Science, Taylor & Francis Group; 2014)。抗がん治療薬の従来の開発は、腫瘍成長を標的とする薬物が転移も標的とすること、または圧倒的な成長阻害を前にして転移を中断する必要がないことを前提としている。
【0021】
その結果、転移のプロセスは通常、抗がん薬開発において腫瘍成長から明確に切り離して標的とされておらず、診療所において現在使用されている多くの治療法が実際には転移を誘発しうる(Steeg PS. Targeting metastasis. Nat Rev Cancer. 2016 Apr;16(4):201-218. PMID: 27009393; Karagiannis GS, Pastoriza JM, Wang Y, Harney AS, Entenberg D, Pignatelli J, Sharma VP, Xue EA, Cheng E, D’Alfonso TM, Jones JG, Anampa J, Rohan TE, Sparano JA, Condeelis JS, Oktay MH. Neoadjuvant chemotherapy induces breast cancer metastasis through a TMEM-mediated mechanism. Sci Transl Med. 2017 05;9(397). PMCID: PMC5592784; Obenauf AC, Zou Y, Ji AL, Vanharanta S, Shu W, Shi H, Kong X, Bosenberg MC, Wiesner T, Rosen N, Lo RS, Massague J. Therapy-induced tumour secretomes promote resistance and tumour progression. Nature. 2015 Apr 16;520(7547):368-372. PMCID: PMC4507807; Martin OA, Anderson RL, Narayan K, MacManus MP. Does the mobilization of circulating tumour cells during cancer therapy cause metastasis? Nat Rev Clin Oncol. 2017 Jan;14(1):32-44. PMID: 27550857)。
【0022】
がん転移を標的とすることは、転移機構の解明に依る。インターロイキン-6サイトカイン(IL-6)とインターロイキン-8ケモカイン(IL-8)との間の相乗的なパラ分泌シグナル伝達経路は、腫瘍形成性の転移細胞に特有である(Jayatilaka H, Tyle P, Chen JJ, Kwak M, Ju J, Kim HJ, Lee JSH, Wu P-H, Gilkes DM, Fan R, Wirtz D. Synergistic IL-6 and IL-8 paracrine signalling pathway infers a strategy to inhibit tumour cell migration. Nat Commun. 2017 26;8:15584. PMCID: PMC5458548)。この経路の根底にある機構は、局所的な腫瘍細胞密度(細胞数/単位体積)を介して、転移の2つの主要なドライバである腫瘍細胞の増殖および遊走を結び付ける。腫瘍細胞が増殖し、局所的な細胞密度が増加すると、IL-6とIL-8の両方の発現が増強され、腫瘍細胞の遊走(すなわち、細胞密度依存性の遊走)の増加を引き起こす。
【0023】
抗IL-6受容体抗体薬トシリズマブ(関節リウマチを処置するために現在使われている) (Nakashima Y, Kondo M, Fukuda T, Harada H, Horiuchi T, Ishinishi T, Jojima H, Kuroda K, Miyahara H, Maekawa M, Nishizaka H, Nagamine R, Nakashima H, Otsuka T, Shono E, Suematsu E, Shimauchi T, Tsuru T, Wada K, Yoshizawa S, Yoshizawa S, Iwamoto Y. Remission in patients with active rheumatoid arthritis by tocilizumab treatment in routine clinical practice: results from 3 years of prospectively registered data. Mod Rheumatol. 2014 Mar;24(2):258-264. PMID: 24593201)および抗IL-8受容体低分子薬レパリキシン(現在、乳がんに対する第II相臨床試験中) (Goldstein LJ, Perez RP, Yardley DA, Han LK, Reuben JM, McCanna S, Butler B, Ruffini PA, Chang JC. Abstract CT057: A single-arm, preoperative, pilot study to evaluate the safety and biological effects of orally administered reparixin in early breast cancer patients who are candidates for surgery. Cancer Res. 2016 Jul 15;76(14 Supplement):CT057-CT057; Schott AF, Goldstein LJ, Cristofanilli M, Ruffini PA, McCanna S, Reuben JM, Perez RP, Kato G, Wicha M. Phase Ib Pilot Study to Evaluate Reparixin in Combination with Weekly Paclitaxel in Patients with HER-2-Negative Metastatic Breast Cancer. Clin Cancer Res Off J Am Assoc Cancer Res. 2017 Sep 15;23(18):5358-5365. PMCID: PMC5600824)の組み合わせを用いた、IL-6およびIL-8受容体(IL-6RαおよびIL-8R)のターゲティングされた遮断によるこの相乗的経路の薬理学的阻害は、遊走3Dモデルにおいて細胞運動性を大幅に低下させる(Jayatilaka H, Tyle P, Chen JJ, Kwak M, Ju J, Kim HJ, Lee JSH, Wu P-H, Gilkes DM, Fan R, Wirtz D. Synergistic IL-6 and IL-8 paracrine signalling pathway infers a strategy to inhibit tumour cell migration. Nat Commun. 2017 26;8:15584. PMCID: PMC5458548)。さらに、マウスモデルでの前臨床試験により、トシリズマブおよびレパリキシンを用いた併用処置は、肺、肝臓、およびリンパ節への転移を著しく抑制することが明らかにされた。しかしながら、併用療法レジメンの橋渡しは、投薬比率の最適化の必要性および規制上の障害の増加によって複雑化される。さらに、レパリキシンなどの低分子薬は、特異性の観点から重大な臨床的課題に直面している。
【0024】
本明細書において提供されるのは、2つの異なる標的タンパク質: IL-6Rα(例えば、ヒトIL-6Rα細胞外ドメイン(ECD))およびIL-8R (例えば、ヒトIL-8RB ECD)の結合(engagement)を可能にするモジュール式のコンパクトな二重特異性結合剤である。二重特異性結合剤は、第1の結合部位を通じてIL-6Rαを結合する(engage)ことができる。第1の結合部位は、第1の抗原結合ドメインを含むことができる。二重特異性結合剤は、第2の結合部位を通じてIL-8Rを結合する(engage)ことができる。第2の結合部位は、第2の抗原結合ドメインを含むことができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、従来のモノクローナル抗体の結合特性を厳密に近似することができる。
【0025】
いくつかの態様において、二重特異性結合剤は、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化を促進するノブインホールアセンブリ戦略を組み合わせている。いくつかの態様において、ノブインホールアセンブリ戦略は、IL-6Rα(例えば、ヒトIL-6Rα ECD)に結合する二重特異性結合剤の第1のポリペプチドまたはその部分およびIL-8R (例えば、ヒトIL-8R ECD、例えばIL-8RAまたはIL-8RB)に結合する二重特異性結合剤の第2のポリペプチドまたはその部分の一方または両方の重鎖定常ドメインへの相補的置換を含む。いくつかの態様において、そのようなアミノ酸置換は、第1のポリペプチドもしくはその部分および第2のポリペプチドもしくはその部分が、アミノ酸置換のない対応する第1のポリペプチドもしくはその部分または第2のポリペプチドもしくはその部分あるいはその両方ではなく、互いと選択的に会合するように、第1のポリペプチドにおける1つまたは複数の空洞または「ホール」および第2のポリペプチドにおける1つまたは複数の「ノブ」または隆起をもたらす(図1D)。いくつかの態様において、アミノ酸置換は、第1のポリペプチドまたはその部分のCH3ドメインにある。いくつかの態様において、アミノ酸置換は、第2のポリペプチドまたはその部分のCH3ドメインにある。このアセンブリ戦略は、ヘテロ二量体の純度95%超を達成することが示されている(Merchant AM, Zhu Z, Yuan JQ, Goddard A, Adams CW, Presta LG, Carter P. An efficient route to human bispecific IgG. Nat Biotechnol. 1998 Jul;16(7):677)。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、長い可動性のリンカーを用いて、(例えば、抗IL-6Rα抗体の、または抗IL-8R抗体の) CLドメインまたはその部分のC末端が(例えば、抗IL-6Rα抗体の、または抗IL-8R抗体の) VHドメインまたはその部分のN末端に接続されている、一本鎖Fabデザインを含む(Koerber JT, Hornsby MJ, Wells JA. An improved single-chain Fab platform for efficient display and recombinant expression. J Mol Biol. 2015 Jan 30;427(2):576-586. PMCID: PMC4297586)。いくつかの態様において、第1のポリペプチドまたはその部分は、第1のポリペプチドまたはその部分のVHドメインに接続された第1のポリペプチドCLドメインまたはその部分のC末端からのリンカーを含む。いくつかの態様において、第2のポリペプチドまたはその部分は、第2のポリペプチドまたはその部分のVHドメインに接続された第2のポリペプチドCLドメインまたはその部分のC末端からのリンカーを含む。
【0026】
二重特異性結合剤のさまざまな非限定的な態様が本明細書において記述されており、非限定的に任意の組み合わせで用いることができる。二重特異性結合剤のさまざまな成分のさらなる局面は、当技術分野において公知である。
【0027】
本明細書において用いられる場合、名詞の前の「1つの(a)」という単語は、特定の名詞の1つまたは複数をいう。本明細書において用いられる場合、「親和性」という用語は、抗原結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原またはエピトープ)との間の非共有相互作用の合計の強さをいう。特に明記しない限り、本明細書において用いられる場合、「親和性」は、関与している抗原結合ドメイン成員と抗原またはエピトープとの間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性をいう。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離平衡定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書において記述されるものを含めて、当技術分野において公知の一般的な方法により測定することができる。親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIACORE(登録商標))またはバイオレイヤー干渉法(例えば、FORTEBIO(登録商標))を用いて決定することができる。抗原結合ドメインおよびその対応する抗原またはエピトープに対する親和性を決定するためのさらなる方法は、当技術分野において公知である。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は無傷の抗体、またはその抗原結合断片をいう。抗体は、完全な抗体分子(完全長の重鎖および/または軽鎖を有するポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化またはヒト型を含む)を含んでもよく、あるいはその抗原結合断片を含んでもよい。抗体断片は、非限定的に、F(ab')2、Fab、Fab'、Fv、Fc、およびFd断片、単一ドメイン抗体、一価抗体、一本鎖抗体、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、v-NARならびにビス-scFvを含む(例えば、Hollinger and Hudson, 2005, Nature Biotechnology, 23, 9, 1126-1136を参照のこと)。フィブロネクチンポリペプチドモノボディを含めて、抗体ポリペプチドは同様に、米国特許第6,703,199号に開示されている。他の抗体ポリペプチドは米国特許出願公開第2005/0238646号に開示されており、これは一本鎖ポリペプチドである。一価抗体断片は、米国特許出願公開第20050227324号に開示されている。
【0029】
抗体に由来する抗原結合断片は、例えば、抗体のタンパク質分解加水分解、例えば、従来の方法による全抗体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。例として、抗体断片をペプシンによる抗体の酵素的切断により産生して、F(ab')2と称される5S断片を提供することができる。この断片を、チオール還元剤を用いさらに切断して、3.5S Fab'一価断片を産生することができる。任意で、切断反応は、ジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基のブロッキング基を用いて実施されてもよい。別の方法として、パパインを用いた酵素的切断により、2つの一価Fab断片およびFc断片が直接産生される。これらの方法は、例えば、Goldenberg, 米国特許第4,331,647号, Nisonoff et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230, 1960; Porter, Biochem. J. 73:119, 1959; Edelman et al., in Methods in Enzymology 1:422 (Academic Press 1967)により; ならびにAndrews, S. M. and Titus, J. A. in Current Protocols in Immunology (Coligan J. E., et al., eds), John Wiley & Sons, New York (2003), 2.8.1-2.8.10頁および2.10A.1-2.10A.5頁により記述されている。一価の軽-重鎖断片(Fd)を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、または他の酵素的、化学的もしくは遺伝的技法などの、抗体を切断するための他の方法も、無傷の抗体によって認識される抗原に断片が結合する限り、用いられうる。
【0030】
抗体断片は同様に、任意の合成タンパク質または遺伝子操作されたタンパク質でありうる。例えば、抗体断片は、非限定的に、軽鎖可変領域を含む単離された断片、重鎖および軽鎖の可変領域を含む「Fv」断片、ならびに軽鎖および重鎖可変領域がペプチドリンカー(scFvタンパク質)によって接続されている組換え一本鎖ポリペプチド分子を含む。
【0031】
抗体断片の別の形態は、抗体の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含むペプチドである。CDR (「最小認識単位」または「超可変領域」とも称される)は、関心対象のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することによって得ることができる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、鋳型として抗体産生細胞のmRNAを使いポリメラーゼ連鎖反応を用いて可変領域を合成することにより調製される(例えば、Larrick et al., Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:106, 1991; Courtenay-Luck, 「Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies」, Monoclonal Antibodies: Production, Engineering and Clinical Application中, Ritter et al. (編), 166頁 (Cambridge University Press 1995); およびWard et al., 「Genetic Manipulation and Expression of Antibodies」, Monoclonal Antibodies: Principles and Applications中, Birch et al., (編), 137頁(Wiley-Liss, Inc. 1995)を参照のこと)。
【0032】
本明細書において用いられる場合、「抗原」という用語は一般に、本明細書において記述される細胞外抗原結合ドメインによって特異的に認識される結合パートナーをいう。例示的な抗原としては、ポリペプチドおよびそのペプチド断片、低分子、脂質、炭水化物、ならびに核酸などの、異なるクラスの分子が挙げられるが、これらに限定されることはない。細胞外抗原結合ドメインのいずれかによって特異的に結合されうる抗原の非限定的な例が、本明細書において記述されている。 細胞外抗原結合ドメインのいずれかによって特異的に結合されうる抗原のさらなる例は、当技術分野において公知である。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「抗原結合ドメイン」という用語は、1つまたは複数の異なる抗原(例えば、同定している抗原および/または対照抗原)に特異的に結合することができる1つまたは複数のタンパク質ドメイン(例えば、単一のポリペプチドからのアミノ酸から形成されるか、または2つもしくはそれ以上のポリペプチド(例えば、同じもしくは異なるポリペプチド)からのアミノ酸から形成される)をいう。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、天然に存在する抗体のものと同様の特異性および親和性で抗原またはエピトープに結合することができる。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、抗体またはその断片であることができる。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、代替の足場を含むことができる。抗原結合ドメインの非限定的な例が本明細書において記述されている。抗原結合ドメインのさらなる例は当技術分野において公知である。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、単一の抗原(例えば、同定している抗原または対照抗原)に結合することができる。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、2つまたはそれ以上の抗原(例えば、同定している抗原および対照抗原)に結合することができる。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「二重特異性抗体」という用語は、同じ抗体分子内に、2つの異なるエピトープを認識する可変領域を有する抗体誘導体をいう。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原を認識する抗体、または同じ抗原上の2つの異なるエピトープを認識する抗体でありうる。
【0035】
本明細書において提供される二重特異性結合剤のいくつかの態様において、第1の結合部位、第2の結合部位、またはその両方は、以下であるか、または以下に由来することができる: 抗体、VHH-scAb、VHH-Fab、デュアル(Dual) scFab、F(ab')2、ダイアボディ、crossMab、DAF (2 in 1)、DAF (4 in 1)、DutaMab、DT-IgG、ノブインホール共通軽鎖、ノブインホールアセンブリ、電荷対、Fab-腕部交換、SEEDボディ、LUZ-Y、Fcab、κλボディ、直交Fab、DVD-IgG、IgG(H)-scFv、scFv-(H)IgG、IgG(L)-scFv、scFv-(L)IgG、IgG(L,H)-Fv、IgG(H)-V、V(H)-IgG、IgG(L)-V、V(L)-IgG、KIH IgG-scFab、2 scFv-IgG、IgG-2 scFv、scFv4-Ig、Zybody、DVI-IgG、ダイアボディ-CH3、トリプルボディ、ミニ抗体、ミニボディ、TriBiミニボディ、scFv-CH3 KIH、Fab-scFv、F(ab')2-scFv2、scFv-KIH、Fab-scFv-Fc、四価HCAb、scDiabody-Fc、ダイアボディ-Fc、タンデムscFv-Fc、イントラボディ、ドックアンドロック(dock and lock)、ImmTAC、IgG-IgGコンジュゲート、Cov-X-Body、およびscFv1-PEG-scFv2。前例は、限定するものではなく実例であることを意図している。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「接続する」という用語は、融合する、連結する、カップリングする、付着する、組み合わせる、相互接続すること、またはその他任意の同様の単語を意味し、リンカーを介して1つまたは複数のポリペプチドドメインが互いに物理的に隣接することを一般的に記述している。
【0037】
本明細書において用いられる場合、「エピトープ」という用語は、以下の間の一連の物理的相互作用を通じて抗原結合ドメインにより特異的に結合される抗原の部分をいう: (i) 抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインの部分上の全ての単量体(例えば、個々のアミノ酸残基、糖側鎖、および翻訳後修飾されたアミノ酸残基)、ならびに(ii) 抗原結合ドメインにより特異的に結合される抗原の部分上の全ての単量体(例えば、個々のアミノ酸残基、糖側鎖、翻訳後修飾されたアミノ酸残基)。エピトープは、非限定的に、表面にアクセス可能なアミノ酸残基、糖側鎖、リン酸化アミノ酸残基、メチル化アミノ酸残基、および/またはアセチル化アミノ酸残基を含むことができ、特定の三次元構造特性、および特定の電荷特性を有しうる。配座エピトープと非配座エピトープは、変性溶媒の存在下で前者への結合が失われる可能性があるが、後者への結合は失われない可能性があるという点で区別される。いくつかの態様において、エピトープは、少なくとも約3から6アミノ酸、または約10から15アミノ酸の直線的アミノ酸配列によって定義される。いくつかの態様において、エピトープは、三次元構造(例えば、タンパク質の折り畳み)によって定義される完全長タンパク質の部分またはその一部分をいう。いくつかの態様において、エピトープは、タンパク質の折り畳みを介して接合される不連続なアミノ酸配列によって定義される。いくつかの態様において、エピトープは、四次構造(例えば、2つの異なるポリペプチド鎖の相互作用によって形成される間隙)によって接合される不連続なアミノ酸配列によって定義される。エピトープを定義する残基間のアミノ酸配列は、エピトープの三次元構造にとって重要ではない可能性がある。直線状エピトープが作出されるように、抗原結合タンパク質構築体の抗原変性型への結合を比較するアッセイを用いて、配座エピトープが決定およびスクリーニングされうる。エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基、および結合に直接関与しない他のアミノ酸残基を含みうる。抗原結合ドメインが特異的に結合するエピトープを同定するための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、(例えば、抗原および/もしくは抗原-抗原結合ドメイン複合体に関しての)構造に基づいた分析(例えば、X線結晶解析、NMRおよび/もしくは電子顕微鏡法)、ならびに/または結合パートナーとの結合アッセイにおいて変異体が測定される、突然変異誘発に基づいた分析(例えば、アラニンスキャニング突然変異誘発、グリシンスキャニング突然変異誘発および相同性スキャニング突然変異誘発)があり、それらの多くは当技術分野において公知である。
【0038】
「パラトープ」という用語は、以下の間の一連の物理的相互作用を通じて抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインの部分をいう: (i) 抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインの部分上の全ての単量体(例えば、個々のアミノ酸残基、糖側鎖、および翻訳後修飾されたアミノ酸残基)、ならびに(ii) 抗原結合ドメインにより特異的に結合される抗原の部分上の全ての単量体(例えば、個々のアミノ酸残基、糖側鎖、翻訳後修飾されたアミノ酸残基)。パラトープは、非限定的に、表面にアクセス可能なアミノ酸残基を含むことができ、特定の三次元構造特性、および特定の電荷特性を有しうる。いくつかの態様において、パラトープは、三次元構造(例えば、タンパク質の折り畳み)によって定義される完全長抗原結合ドメインの部分またはその一部分をいう。いくつかの態様において、パラトープは、タンパク質の折り畳みを介して接合される不連続なアミノ酸配列によって定義される。いくつかの態様において、パラトープは、四次構造(例えば、2つの異なるポリペプチド鎖の相互作用によって形成される間隙)によって接合される不連続なアミノ酸配列によって定義される。いくつかの態様において、パラトープを定義する残基間のアミノ酸配列は、パラトープの三次元構造にとって重要ではない。パラトープは、例えば、結合に直接関与するアミノ酸残基、および結合に直接関与しない他のアミノ酸残基を含みうる。抗原結合ドメインが特異的に結合するパラトープを同定するための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、(例えば、抗原結合ドメインおよび/もしくは抗原結合ドメイン-抗原複合体に関しての)構造に基づいた分析(例えば、X線結晶解析、NMRおよび/もしくは電子顕微鏡法)、ならびに/または結合パートナーとの結合アッセイにおいて変異体が測定される、突然変異誘発に基づいた分析(例えば、アラニンスキャニング突然変異誘発、グリシンスキャニング突然変異誘発および相同性スキャニング突然変異誘発)があり、それらの多くは当技術分野において公知である。本明細書において用いられる場合、「IL-8R」という用語は、インターロイキン8受容体のアイソタイプ、例えば、IL-8RAまたはIL-8RBをいう。
【0039】
本明細書において用いられる場合、「ノブインホール」という用語は一般に、抗体アセンブリ戦略をいう。非限定的に、変異の相補的なセットをCH3ドメインに導入することができ、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化を強いることができる。例えば、一般的に用いられる置換の例示的なセットとしては、非限定的に、CH3ドメイン中のT366W置換を介して作出される「ノブ」、ならびに対応するCH3ドメイン中の置換T366S、L368A、およびY407Vを介して作出される「ホール」が挙げられる。(例えば、Ridgway et al., Protein Eng. (1996); Merchant et al., An efficient route to human bispecific IgG, Nat Biotechnol. 16:677-81 (1998); Koerber JT, Hornsby MJ, Wells JA. An improved single-chain Fab platform for efficient display and recombinant expression. J Mol Biol. 2015 Jan 30;427(2):576-586. PMCID: PMC4297586; Carter P. Bispecific human IgG by design. J Immunol Methods 2001; 248:7-15; PMID:11223065; Atwell S, Ridgway JB, Wells JA, Carter P. Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library. J Mol Biol 1997; 270:26-35; PMID:9231898; Ridgway JB, Presta LG, Carter P. 「Knobs-into-holes」 engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization. Protein Eng 1996; 9:617-21; PMID:8844834を参照のこと)。一般に、ノブインホールアセンブリアプローチでは、抗体分子のペア間の界面を操作して、ヘテロ二量体(例えば、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体)の割合を最大化することができる。いくつかの態様において、界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。いくつかの態様において、第1の抗体における1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、チロシンまたはトリプトファン)は、ノブまたは「隆起」を作出する。「代償性」の「空洞」(ホール)は、1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、アラニン、セリン、またはバリン)によって第2の抗体の界面に作出される。そのような戦略は、ホモ二量体などの他の望ましくない最終生成物よりもヘテロ二量体の収量を増加させるための機構を提供する。二重特異性抗体および/または片腕抗体および/またはイムノアドヘシンを産生する方法としてのノブインホールの使用は、当技術分野において周知である。1998年3月24日付で付与されGenentechに譲渡された米国特許第5,731,168号、2009年7月20日付で公開されAmgenに譲渡されたPCT公開番号W02009089004および2009年7月16日付で公開されNovo Nordisk A/Sに譲渡された米国特許出願公開第20090182127号を参照されたい。同様にMarvin and Zhu, Acta Pharmacologica Sincia (2005) 26(6):649-658およびKontermann (2005) Acta Pharacol. Sin., 26:1-9を参照されたい。他のヘテロ二量体化の形式は公知であり、pI変種、電荷ペア(立体的変種のサブセット、例えばノブインホール)、等配電子変種、およびSEEDボディなどのヘテロ二量体化変種を含むことができ(「strand-exchange 8 CA 02902739 2015-08-26 WO 2014/145806 PCT/US2014/030634 engineered domain」; Klein et al., mAbs 4:6 653-663 (2012)およびDavis et al, Protein Eng Des Sel 2010 23:195-202を参照のこと)、それらはヒトIgGおよびIgAのCH3ドメインが互いに結合しないという事実に依っている。
【0040】
本明細書において用いられる場合、「隆起」という用語は、第1のポリペプチドの界面から突出し、それゆえヘテロ二量体を安定化するように隣接する界面(すなわち、第2のポリペプチドの界面)の代償性の空洞に配置可能であり、それにより、例えば、ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成に有利に働く少なくとも1つのアミノ酸をいう。隆起は、元の界面に存在する場合もあれば、合成的に(例えば、界面をコードする核酸を変異させることにより)導入される場合もある。隆起の形成のためのインポート残基は、一般に天然に存在するアミノ酸残基であり、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から選択することができる。例えば、PCT 2016/144824を参照されたい。
【0041】
本明細書において用いられる場合、「空洞」という用語は、一般に、第2のポリペプチドの界面から凹んでおり、それゆえ第1のポリペプチドの隣接界面の対応する隆起を収容する少なくとも1つのアミノ酸をいう。空洞は、元の界面に存在する場合もあれば、合成的に(例えば、界面をコードする核酸を変異させることにより)導入される場合もある。空洞の形成のためのインポート残基は、通常、天然に存在するアミノ酸残基であり、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)およびバリン(V)から選択することができる。例えば、PCT 2016/144824を参照されたい。
【0042】
本明細書において用いられる場合、「リンカー」または「ポリペプチドリンカー」という用語は、単一のタンパク質中の複数のドメインを分離するアミノ酸配列をいう。リンカーは一般に、可動性、剛直性および切断可能の3群に分類することができる。Chen, X., et al., 2013, Adv. Drug Deliv. Rev., 65, 1357-1369。リンカーは天然または合成とすることができる。可動性のリンカーは、典型的には、グリシン残基に富む。Klein et al., Protein Engineering, Design & Selection Vol. 27, No. 10, pp. 325-330, 2014; Priyanka et al., Protein Sci., 2013 Feb; 22(2): 153-167。いくつかの態様において、二重特異性結合剤は合成リンカーを含む。合成リンカーは約10アミノ酸から約200アミノ酸、例えば、10から25アミノ酸、25から50アミノ酸、50から75アミノ酸、75から100アミノ酸、100から125アミノ酸、125から150アミノ酸、150から175アミノ酸、または175から200アミノ酸の長さを有することができる。合成リンカーは10から30アミノ酸、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸の長さを有することができる。合成リンカーは30から50アミノ酸、例えば30から35アミノ酸、35から40アミノ酸、40から45アミノ酸、または45から50アミノ酸の長さを有することができる。いくつかの態様において、リンカーは可動性のリンカーである。いくつかの態様において、リンカーはグリシン(GlyまたはG)残基に富む。いくつかの態様において、リンカーはセリン(SerまたはS)残基に富む。いくつかの態様において、リンカーはグリシンおよびセリン残基に富む。いくつかの態様において、リンカーは1つまたは複数のグリシン-セリン残基対(GS)、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個またはそれ以上のGS対を有する。いくつかの態様において、リンカーは1つまたは複数のGly-Gly-Gly-Ser (GGGS, SEQ ID NO: 1)配列、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個またはそれ以上のGGGS配列を有する。いくつかの態様において、リンカーは1つまたは複数のGly-Gly-Gly-Gly-Ser (GGGGS, SEQ ID NO: 2)配列、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個またはそれ以上のGGGGS配列を有する。いくつかの態様において、リンカーは1つまたは複数のGly-Gly-Ser-Gly (GGSG, SEQ ID NO: 3)配列、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個またはそれ以上のGGSG配列を有する。いくつかの態様において、リンカーはGSAAAGGSGGSGGS (SEQ ID NO: 4)であるか、またはGSAAAGGSGGSGGS (SEQ ID NO: 4)を含む。いくつかの態様において、リンカーはGGGSGGGS (SEQ ID NO: 5)であるか、またはGGGSGGGS (SEQ ID NO: 5)を含む。いくつかの態様において、リンカーは
であるか、または
を含む。
【0043】
本明細書において互換的に用いられる「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸の重合体形態をいい、これには、遺伝的にコードされたおよび非遺伝的にコードされたアミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸、および修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含めることができる。この用語は、非相同アミノ酸配列を有する融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有するまたは有しない、非相同および相同リーダー配列を有する融合タンパク質、免疫学的にタグ付けされたタンパク質などを含むが、これらに限定されない、融合タンパク質を含む。
【0044】
本明細書において用いられる場合、ポリペプチドまたはタンパク質の「部分」は、参照配列の少なくとも10個のアミノ酸、例えば、参照配列の10から200、25から300、50から400、100から500、200から600、300から700、400から800、500から900もしくは600から1000個またはそれ以上のアミノ酸をいう。いくつかの態様において、ポリペプチドまたはタンパク質の部分は機能的である。
【0045】
本明細書において用いられる場合、「一本鎖Fab断片」、「一本鎖Fabセグメント」または「一本鎖Fab」は、一般に、VHドメインまたはその部分、CH1ドメインまたはその部分、VLドメインまたはその部分、CLドメインまたはその部分、およびリンカーを含むポリペプチドをいう。一本鎖Fabは同様に、抗体のドメインを異なる方法で、任意によりリンカー配列および他のドメインおよびまたは改変、例えば置換と組み合わせて、抗体を産生することができる、発現技法をいうことができる。いくつかの態様において、一本鎖Fab断片はN末端からC末端に、VHドメインまたはその部分、リンカー、VLドメインまたはその部分、CLドメインまたはその部分、VHドメインまたはその部分、CH1ドメインまたはその部分、CH2ドメインまたはその部分、およびCH3ドメインまたはその部分を含む配列を有する。
【0046】
本明細書において用いられる場合、「一本鎖可変断片-IgG融合体」(scFv-IgG)は一般に、異なる特異性のscFv、例えば第2の抗体を、全IgG抗体につなぎ、かくして二重特異性抗体を作出する二重特異性抗体の形式をいう。
【0047】
I. 二重特異性結合剤
2つの異なる結合部位に同時に結合する(engage)ことができる二重特異性抗体は、二重特異性を介してモノクローナル抗体の限界を克服する大きな可能性を実証している。(Yang F, Wen W, Qin W. Bispecific Antibodies as a Development Platform for New Concepts and Treatment Strategies. Int J Mol Sci. 2016 Dec 28;18(1). PMCID: PMC5297683; Garber K. Bispecific antibodies rise again. Nat Rev Drug Discov. 2014 Nov;13(11):799-801)。二重特異性抗体は、2つの異なる経路を同時に遮断して堅牢な、多方面からの処置戦略を作出することにより薬剤耐性のリスクを低減しながらタンパク質に基づく治療法の親和性、結合力、効力、および選択性を高めることもできる(Cochran JR. Engineered proteins pull double duty. Sci Transl Med. 2010 Feb 3;2(17):17ps5. PMID: 20371477; Fan G, Wang Z, Hao M, Li J. Bispecific antibodies and their applications. J Hematol OncolJ Hematol Oncol. 2015 Dec 21;8:130. PMCID: PMC4687327; Kontermann RE. Recombinant bispecific antibodies for cancer therapy. Acta Pharmacol Sin. 2005 Jan;26(1):1-9. PMID: 15659107)。さらに、明確に定義された化学量論および単分子構成によって、投薬比の最適化が不要になり、これによって臨床開発を容易にすることができる(Kontermann RE. Recombinant bispecific antibodies for cancer therapy. Acta Pharmacol Sin. 2005 Jan;26(1):1-9. PMID: 15659107)。二重特異性抗体は、複数の結合部位で単一の標的(すなわちエピトープ)を結合する(engage)こともできる。
【0048】
非Fc融合構築体(図1A)およびFc融合構築体(図1Bおよび1C)に広く分類される広範囲の二重特異性抗体の形式が調査されてきた。Fc領域を含めると、新生児Fc受容体(FcRN再生利用)を通じて構築体の血清中半減期が大幅に増える(Kontermann RE. Recombinant bispecific antibodies for cancer therapy. Acta Pharmacol Sin. 2005 Jan;26(1):1-9. PMID: 15659107)。Fc融合構築体のクラス内で、二重特異性抗体は、完全なIgG重鎖および軽鎖(図1B)、または単にFc領域(図1C)を含みうる。「ノブインホール」として知られるアセンブリ戦略の開発により、(scFV)-Fc融合体の作出が可能になった(図1C)。
【0049】
ノブインホールアセンブリ戦略は95%を超えるヘテロ二量体化をもたらすが(Merchant AM, Zhu Z, Yuan JQ, Goddard A, Adams CW, Presta LG, Carter P. An efficient route to human bispecific IgG. Nat Biotechnol. 1998 Jul;16(7):677)、2つの特異的抗体間のVHドメインまたはその部分、およびVLドメインまたはその部分の誤対合は、従来のIgG形式においてもなお起こる。というのは、第1の抗体重鎖またはその部分および第1の抗体軽鎖またはその部分ならびに第2の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体軽鎖またはその部分が組換え発現スキームにおいて別々に分泌され、インビトロでアセンブリされるからである。
【0050】
ある種の態様において、本明細書において提供されるのは、適切な可変ドメイン対合(例えば、抗IL-6Rα抗体または抗IL-8R抗体の適切な可変ドメイン対合)を確実にするために一本鎖Fab発現アプローチと組み合わされるノブインホールアセンブリ戦略である。一本鎖Fab発現アプローチでは、長い可動性リンカーを用いて軽鎖定常ドメインCLのC末端を可変重鎖VHのN末端に接続することができる(Koerber JT, Hornsby MJ, Wells JA. An improved single-chain Fab platform for efficient display and recombinant expression. J Mol Biol. 2015 Jan 30;427(2):576-586. PMCID: PMC4297586)。本明細書において提供される二重特異性結合剤の一般的な形式を図1Dに示す。
【0051】
1つの例示的な態様において、二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、1) N末端からC末端の方向に第1の抗体VLドメインまたはその部分、第1の抗体CLドメインまたはその部分、第1のリンカー、第1の抗体VHドメインまたはその部分、第1の抗体CH1ドメインまたはその部分、第1の抗体CH2ドメインまたはその部分、および第1の抗体CH3ドメインまたはその部分を有する第1のポリペプチド、ならびに2) N末端からC末端の方向に、第2の抗体VLドメインまたはその部分、第2の抗体CLドメインまたはその部分、第2のリンカー、第2の抗体VHドメインまたはその部分、第2の抗体CH1ドメインまたはその部分、第2の抗体CH2ドメインまたはその部分、第2の抗体CH3ドメインを有する第2のポリペプチドを含み、ここで第1のポリペプチド抗体重鎖またはその部分および第2のポリペプチド抗体重鎖またはその部分が互いと選択的に会合して二重特異性結合剤を形成するように、第1の抗体CH3ドメインまたはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、第2の抗体CH3ドメインまたはその部分が1つまたは複数のアミノ酸置換を含むか、あるいはその両方である。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、2つのポリペプチドの各々が抗体重鎖定常ドメインを含み、かつ2つのポリペプチドが、1つまたは複数のアミノ酸置換を欠く対応する抗体重鎖定常ドメインを含む2つのポリペプチドと比較して増大された親和性で互いに結合するように、抗体重鎖定常ドメインの一方または両方が1つまたは複数の(one of more)アミノ酸置換を含む、少なくとも2つのポリペプチドを含む。いくつかの態様において、抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインに存在する。
【0053】
いくつかの態様において、第1の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインにおけるアミノ酸位置(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366、368および407に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249、251および290)のうちの1つまたは複数での置換を含む。いくつかの態様において、第1の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインにおけるアミノ酸位置(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366、368および407に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249、251および290)の各々での置換を含む。いくつかの態様において、第1の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインにおけるT249S置換、L251A置換およびY290V置換(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366、368および407に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249、251および290でのT249S置換、L251A置換および/またはY290V置換)のうちの1つまたは複数を含む。いくつかの態様において、第1の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインにおけるT249S置換、L251A置換およびY290V置換(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366、368および407に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249、251および290でのT249S置換、L251A置換およびY290V置換)の各々での置換を含む。いくつかの態様において、第1の抗体重鎖定常領域は、SEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含む。
【0054】
いくつかの態様において、第2の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメイン(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249)における置換を含む。いくつかの態様において、第2の抗体重鎖定常ドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸置換は、CH3ドメインにおけるT249W置換(例えば、RidgwayらおよびMerchantらのアミノ酸位置366に対応する、SEQ ID NO: 6のアミノ酸位置249でのT249W置換)を含む。いくつかの態様において、第2の抗体重鎖定常領域は、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含む。
【0055】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4重鎖定常ドメインである抗体重鎖定常ドメインを含む。いくつかの態様において、抗体重鎖定常ドメインはIgG1重鎖定常ドメインである。いくつかの態様において、抗体重鎖定常ドメインはIgG4重鎖定常ドメインである。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、IgG1抗体重鎖定常ドメインおよびIgG4抗体重鎖定常ドメインを含む。例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Spiess et al., J Biol Chem. 2013 Sept. 13;288(37):26583-93を参照されたい。
【0056】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、1つまたは複数のドメインにおける1つまたは複数の修飾(例えば、野生型配列と比較したアミノ酸置換) (例えば、1つまたは複数のCH2ドメインにおける修飾)を含む。いくつかの態様において、そのような修飾は、発現を増強するのに、グリコシル化を修飾するのに、またはその両方に役立ちうる。当業者は、適当な修飾を承知しており、本明細書において提供される二重特異性結合剤との関連でそのような修飾を利用することができるであろう。
【0057】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、2つのポリペプチドの各々が、リンカー(例えば、本明細書において記述される種々の「リンカー」または「ポリペプチドリンカー」のいずれか)によって接続されている抗体重鎖および抗体軽鎖を含む、少なくとも2つのポリペプチドを含む。いくつかの態様において、2つのポリペプチドは、同じ配列を有するリンカーを含む。いくつかの態様において、2つのポリペプチドは、異なる配列を有するリンカーを含む。いくつかの態様において、リンカーは、長さが約10から約100アミノ酸であることができる。例えば、リンカーは、長さが約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100もしくはそれ以上のアミノ酸、またはその間の任意の数のアミノ酸であることができる。いくつかの態様において、リンカーはアミノ酸配列
を含む。
【0058】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、第1のVHドメインが存在するまたはその部分を有するおよび第1のVLドメインまたはその部分を有する第1のポリペプチドを含み、ここで第1のVHドメインまたはその部分および第1のVLドメインまたはその部分が第1の抗原結合部位を形成する。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、第2のVHドメインが存在するまたはその部分を有するおよび第2のVLドメインまたはその部分を有する第2のポリペプチドを含み、ここで第2のVHドメインまたはその部分および第2のVLドメインまたはその部分が第2の抗原結合部位を形成する。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、第1の標的(例えば、IL-6Rα、例えば、第1の抗原結合部位を介して)および第2の標的(例えば、IL-8R、例えば、第2の抗原結合部位を介して)に結合する。
【0059】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の親和性および/または特異性に近似する親和性および/または特異性で結合する。例えば、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の親和性の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%である親和性で結合することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の親和性よりも高い親和性で結合することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の特異性の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%である特異性で結合することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の特異性よりも高い特異性で結合することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の親和性および特異性の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%である親和性および特異性の両方で結合することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、抗原特異的可変領域および/またはCDRを介してその同族抗原(例えば、IL-6Rαおよび/またはIL-8R)の1つに、対応する抗原特異的可変領域および/またはCDRを有するモノクローナル抗体の親和性および特異性よりも高い親和性および特異性の両方で結合することができる。
【0060】
治療的使用
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、対象(例えば、ヒト対象)における1つまたは複数の疾患または状態の予防、処置、および/または改善において用いられる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤は、二重特異性結合剤の2つの結合特異性の1つをそれぞれ有する2つの別個の薬剤と比較して改善された薬理学的効果および結果を提供する。
【0061】
例えば、本明細書において提供される二重特異性結合剤の対象への投与は、二重特異性結合剤の2つの結合特異性の1つをそれぞれ有する2つの別個の薬剤の投与(例えば、同時または連続投与)と比較して高い臨床効果(例えば、対象における疾患または状態の改善された予防、処置、および/または改善)をもたらすことができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤の対象への投与は、二重特異性結合剤の2つの結合特異性の1つをそれぞれ有する2つの別個の薬剤の投与(例えば、同時または連続投与)と比較して少ない副作用(例えば、非特異的な結合の結果としての)をもたらすことができる。当技術分野において理解されるように、混合剤投薬はある種の問題を提起する。いくつかの態様において、提供される二重特異性結合剤の投薬レジメン(例えば、投薬量、投薬頻度、および/または投薬の長さ)は、二重特異性結合剤の2つの結合特異性の1つをそれぞれ有する2つの別個の薬剤を含む投薬レジメンと比較して最適化するのが容易である。
【0062】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、対象(例えば、ヒト対象)におけるがんの処置において用いられる。例えば、本明細書において提供される二重特異性結合剤、例えばIL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤は、対象における原発腫瘍の転移を阻害または予防するために用いることができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、1つまたは複数の「治療的介入」と組み合わせて対象(例えば、ヒト対象)におけるがんの処置において用いられる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、1つまたは複数の治療的介入の投与と同時に対象(例えば、ヒト対象)に投与される。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、1つまたは複数の治療的介入の投与と同時に対象(例えば、ヒト対象)に投与されない。例えば、二重特異性結合剤および治療的介入は、連続的に投与することができる(例えば、二重特異性結合剤の投与と治療的介入の投与との間には、非限定的に、1分、5分、10分、20分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5、時間、6時間、7時間、8時間、12時間、24時間、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週、3週、4週、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、またはそれ以上などの期間が存在しうる)。
【0063】
治療的介入の例としては、非限定的に、アジュバント化学療法、ネオアジュバント化学療法、放射線療法、ホルモン療法、細胞毒性療法、免疫療法、養子T細胞療法(例えば、キメラ抗原受容体、および/または野生型もしくは修飾型T細胞受容体を有するT細胞)、キナーゼ阻害剤(例えば、転座もしくは変異などの、特定の遺伝子病変を標的とするキナーゼ阻害剤) (例えばキナーゼ阻害剤、抗体、二重特異性抗体)、シグナル伝達阻害剤、二重特異性抗体もしくは抗体断片(例えば、BiTE)、モノクローナル抗体、免疫チェックポイント阻害剤の投与などの標的療法、外科手術(例えば、外科的切除)、または前記の任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの態様において、治療的介入は、がんの重症度を低減し、がんの症状を低減し、および/または対象内に存在するがん細胞の数を低減しうる。
【0064】
いくつかの態様において、治療的介入は、免疫チェックポイント阻害剤を含むことができる。免疫チェックポイント阻害剤の非限定的な例としては、ニボルマブ(オプジーボ(Opdivo))、ペムブロリズマブ(キートルーダ(Keytruda))、アテゾリズマブ(テセントリック(tecentriq))、アベルマブ(バベンチオ(bavencio))、デュルバルマブ(インフィンジ(imfinzi))、イピリムマブ(ヤーボイ(yervoy))が挙げられる。例えば、Pardoll (2012) Nat. Rev Cancer 12: 252-264; Sun et al. (2017) Eur Rev Med Pharmacol Sci 21(6): 1198-1205; Hamanishi et al. (2015) J. Clin. Oncol. 33(34): 4015-22; Brahmer et al. (2012) N Engl J Med 366(26): 2455-65; Ricciuti et al. (2017) J. Thorac Oncol. 12(5): e51-e55; Ellis et al. (2017) Clin Lung Cancer pii: S1525-7304(17)30043-8; Zou and Awad (2017) Ann Oncol 28(4): 685-687; Sorscher (2017) N Engl J Med 376(10: 996-7; Hui et al. (2017) Ann Oncol 28(4): 874-881; Vansteenkiste et al. (2017) Expert Opin Biol Ther 17(6): 781-789; Hellmann et al. (2017) Lancet Oncol. 18(1): 31-41; Chen (2017) J. Chin Med Assoc 80(1): 7-14を参照されたい。
【0065】
いくつかの態様において、治療的介入は、養子T細胞療法(例えば、キメラ抗原受容体、および/または野生型もしくは修飾型T細胞受容体を有するT細胞)である。例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Rosenberg and Restifo (2015) Science 348(6230): 62-68; Chang and Chen (2017) Trends Mol Med 23(5): 430-450; Yee and Lizee (2016) Cancer J. 23(2): 144-148; Chen et al. (2016) Oncoimmunology 6(2): e1273302; US 2016/0194404; US 2014/0050788; US 2014/0271635; US 9,233,125を参照されたい。
【0066】
いくつかの態様において、治療的介入は化学療法剤である。化学療法剤の非限定的な例としては、アムサクリン、アザシチジン、アキサチオプリン、ベバシズマブ(またはその抗原結合断片)、ブレオマイシン、ブスルファン、カルボプラチン、カペシタビン、クロランブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ塩酸塩、エトポシド、フィウダラビン(fiudarabine)、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イフォスファミド、イリノテカン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート(methotrxate)、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、プロカルバジン、全トランス型レチノイン酸、ストレプトゾシン、タフルポシド、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、ウラムスチン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。抗がん療法のさらなる例は、当技術分野において公知である; 例えば、米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology; ASCO)、欧州臨床腫瘍学会(European Society for Medical Oncology; ESMO)、または全米総合がん情報ネットワーク(National Comprehensive Cancer Network; NCCN)による治療のガイドラインを参照されたい。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)および1つまたは複数の治療的介入(例えば、化学療法または本明細書において開示される他の適切な治療的介入のいずれか)は、数日から数週間の範囲の期間にわたって(別々にまたは組み合わせて)対象に1回または複数回投与することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)および1つまたは複数の治療的介入は、がんを有する対象に(別々にまたは組み合わせて)投与するために薬学的に許容される組成物中に製剤化することができる。例えば、治療的有効量の本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)および治療的介入(例えば化学療法剤または免疫療法剤)は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体(添加剤)および/または希釈剤と一緒に製剤化することができる。薬学的組成物は、非限定的に、滅菌溶液、懸濁液、徐放性製剤、錠剤、カプセル、ピル、粉末、および顆粒を含む、固体または液体の形態で投与するために製剤化することができる。
【0068】
本明細書において記述される薬学的組成物において用いられうる薬学的に許容される担体、増量剤、およびビヒクルは、非限定的に、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースに基づく物質、ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロック重合体、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂を含む。
【0069】
1つまたは複数の治療的介入を含む薬学的組成物は、経口または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、および皮内を含む)投与用にデザインすることができる。経口投与される場合、薬学的組成物は、ピル、錠剤、またはカプセルの形態であることができる。非経口投与に適した組成物は、抗酸化物質、緩衝液、静菌薬、および製剤を対象となるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有することができる水性および非水性の滅菌注射溶液を含む。製剤は、単位用量または複数用量の容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアル中で提示することができ、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用水の添加しか必要にならない凍結乾燥された(freeze dried) (凍結乾燥された(lyophilized))状態で貯蔵されうる。即時注射溶液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製されうる。
【0070】
いくつかの態様において、1つまたは複数の治療的介入を含む薬学的に許容される組成物は、局所的または全身的に投与することができる。例えば、本明細書において提供される組成物は、腫瘍への注射によって局所的に投与することができる。いくつかの態様において、本明細書において提供される組成物は、対象(例えば、ヒト)に全身的に、経口的に、または注射により投与することができる。
有効用量は、がんの重症度、投与経路、対象の年齢および一般的な健康状態、賦形剤の使用、他の薬剤の使用などの他の治療的処置との併用の可能性、ならびに処置している医師の判断に依って変化しうる。
【0071】
任意で1つまたは複数の治療的介入と組み合わせてもよい、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)を含有する組成物の有効量は、対象に重大な毒性を生じさせることなく、対象内に存在するがん細胞の転移の程度を低減する(例えば、転移を防ぐ)任意の量であることができる。特定の対象が特定の量に応答しないなら、二重特異性結合剤の量を、例えば、2倍に増やすことができる。このさらに高い量を投与した後に、対象を処置に対する応答性および毒性症状の両方についてモニタリングし、それに応じて調整を行うことができる。有効量は一定のままであってもよく、または処置に対する対象の応答に依ってスライド制または可変の用量として調整されてもよい。さまざまな要因が、特定の用途に用いられる実際の有効量に影響を与えうる。例えば、投与の頻度、処置の期間、複数の処置剤の使用、投与経路、および状態(例えば、がん)の重症度によって、投与される実施の有効量の増加または減少が必要とされうる。
【0072】
本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)の投与の頻度は、対象に重大な毒性を生じさせることなく、対象内での転移の程度を低減する(例えば、転移を防ぐ)任意の頻度であることができる。例えば、二重特異性結合剤の投与の頻度は、週に約2回から約3回~月に約2回から約3回であることができる。二重特異性結合剤の投与の頻度は、一定のままであってもよく、または処置の期間中に変化してもよい。二重特異性結合剤を含有する組成物による処置の過程は、休止期間を含むことができる。例えば、二重特異性結合剤を含有する組成物は、2週間の期間にわたって毎日投与した後に、2週間の休止期間を続けることができ、そのようなレジメンを複数回繰り返すことができる。有効量と同様に、さまざまな要因が、特定の用途に用いられる実際の投与頻度に影響を与えうる。例えば、有効量、処置の期間、複数の処置剤の使用、投与経路、および状態(例えば、がん)の重症度によって、投与頻度の増加または減少が必要とされうる。
【0073】
本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)を投与するための有効期間は、対象に重大な毒性を生じさせることなく、対象内での転移の程度を低減する(例えば、転移を防ぐ)任意の期間であることができる。いくつかの態様において、有効期間は、数日から数週まで変化しうる。一般に、対象内に存在するがん細胞の転移を低減または予防するための有効期間は、約1週間から約4週間の期間に及びうる。複数の要因が、特定の処置に用いられる実際の有効期間に影響を与えうる。例えば、有効期間は、投与の頻度、有効量、複数の処置剤の使用、投与経路、および処置されている状態の重症度によって変化しうる。
【0074】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、対象に存在するがん細胞の転移の程度を低減することができる。例えば、二重特異性結合剤は、対象における転移の程度を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上だけ低減することができる。いくつかの態様において、二重特異性結合剤は、転移性がん細胞を観察できないほどに対象における転移の程度を低減することができる。いくつかの態様において、二重特異性結合剤は、対象に存在する観察可能な腫瘍の数を低減することができる。
【0075】
いくつかの態様において、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、以下のがん種のうちの1つまたは複数を処置するために用いられる: 急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎がん、副腎皮質がん腫、エイズ関連のがん、エイズ関連のリンパ腫、筋萎縮性側索硬化症またはALS、肛門がん、虫垂がん、星状細胞腫、小児小脳または大脳星状細胞腫、非定型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍、基底細胞がん腫、胆管がん、肝外胆管がん(胆管がんを参照)、膀胱がん、骨がん、骨腫瘍、骨肉腫/悪性線維性組織球腫、脳腫瘍(brain cancer)、脳幹神経膠腫、脳腫瘍(brain tumor)、脳腫瘍; 小脳星状細胞腫、脳腫瘍; 大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、脳腫瘍; 上衣腫、脳腫瘍; 髄芽腫、脳腫瘍; テント上原始神経外胚葉性腫瘍、脳腫瘍; 視覚経路および視床下部神経膠腫、脳幹神経膠腫、乳がん、気管支腺腫/カルチノイド、気管支腫瘍、細気管支肺細胞がん腫、バーキットリンパ腫、青年期のがん、カルチノイド腫瘍、小児カルチノイド腫瘍、消化管カルチノイド腫瘍、原発不明がん腫、心臓腫瘍、中枢神経系原発悪性リンパ腫、小児小脳星状細胞腫、小児大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸がん、小児がん、軟骨肉腫、脊索腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性疾患、慢性骨髄増殖性腫瘍、結腸がん、結腸直腸がん、結腸直腸がん(たとえば、転移性結腸直腸がん)、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、分化型甲状腺がん、非浸潤性乳管がん腫、胚性腫瘍、子宮内膜がん、上衣腫、類上皮血管内皮腫(EHE)、食道がん、嗅神経芽細胞腫、ユーイング腫瘍ファミリーにおけるユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、小児頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼のがん、眼のがん; 眼内黒色腫、眼のがん; 網膜芽細胞腫、卵管がん、骨の線維性組織球腫、胆嚢がん、胃腸粘膜の神経節神経腫症、胃(gastric)(胃(stomach))がん、胃(gastric)(胃(stomach))がん; 胃カルチノイド、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、胚細胞腫瘍:頭蓋外、性腺外、または卵巣、妊娠性絨毛性疾患、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫、脳幹の神経膠腫、神経膠腫; 小児大脳星細胞腫、神経膠腫; 小児視覚経路および視床下部、有毛細胞白血病、有毛細胞腫瘍、頭がんおよび頸部がん、心臓ガン、肝細胞(肝臓)がん、組織球増殖症、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、小児視床下部および視覚経路神経膠腫(hypothalamic and visual pathway glioma、childhood)、炎症性筋線維芽細胞腫瘍、眼内黒色腫、眼内黒色腫; 膵島細胞がん腫(内分泌膵臓)、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん(腎細胞がん)、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭がん、急性リンパ芽球性白血病(leukaemia, acute lymphoblastic)(急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukaemia)とも呼ばれる)、急性リンパ性白血病(leukaemia, acute myeloid)(急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)とも呼ばれる)、慢性リンパ性白血病(leukaemia, chronic lymphocytic)(慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia)とも呼ばれる)、白血病(leukemia)、慢性骨髄性白血病(leukemia, chronic myelogenous)(慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia)とも呼ばれる)、有毛細胞白血病、唇がんおよび口腔がん、脂肪肉腫、肝臓がん(例えば、原発性)、肺腺がん腫、肺がん、肺がん(例えば、小細胞肺がん腫または非小細胞肺がん腫)、リンパ腫、エイズ関連のリンパ腫、バーキットリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(ホジキンリンパ腫を除くすべてのリンパ腫の古い分類)、マクログロブリン血症、男性の乳がん、骨の悪性線維性組織球腫、骨の悪性線維性組織球腫/骨肉腫、甲状腺髄様がん、小児髄芽腫、黒色腫、眼内黒色腫(目)、眼内黒色腫(目)、メルケル細胞がん、メルケル細胞がん腫、中皮腫、成人悪性中皮腫、小児中皮腫、転移性扁平上皮がん、潜在性原発性の転移性扁平上皮がん(metastatic squamous neck cancer with occult primary)、正中線がん腫、口腔がん(mouth cancer)、小児多発性内分泌腺腫症症候群(multiple endocrine neoplasia syndrome, childhood)、多発性内分泌腺腫症症候群、多発性内分泌腺腫症2A型または2B型(それぞれMEN2AまたはMEN2B)、多発性骨髄腫、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、慢性骨髄性白血病(myelogenous leukemia、chronic)、骨髄性白血病(myeloid leukemia)、成人急性骨髄性白血病(myeloid leukemia、adult acute)、小児急性骨髄性白血病(myeloid leukemia、childhood acute)、多発性骨髄腫(骨髄のがん)、慢性骨髄増殖性疾患、骨髄増殖性腫瘍、粘液腫、鼻腔および副鼻腔がん、鼻咽頭がん腫、上咽頭がん、神経芽細胞腫、乏突起膠腫、口腔がん(oral cancer)、口腔がん(oral cavity cancer)、中咽頭がん、骨がん腫、骨肉腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣がん、卵巣上皮がん(表面上皮間質腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、膵島細胞膵臓がん、膵臓神経内分泌腫瘍、乳頭状腎細胞がん腫、甲状腺乳頭がん、乳頭腫症、傍神経節腫、副鼻腔および鼻腔がん、副甲状腺がん、副甲状腺過形成、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、葉状乳房腫瘍、松果体星状細胞腫、松果体胚細胞腫、小児松果体芽細胞腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体腺腫、下垂体がん、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、妊娠および乳がん、中枢神経系原発悪性リンパ腫、原発性腹膜がん、前立腺がん、直腸がん、再発性甲状腺がん、難治性分化型甲状腺がん、腎細胞がん、腎細胞がん腫(腎臓がん)、腎盂および尿管、移行上皮がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、小児横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、カポジ肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、皮膚がん(黒色腫)、皮膚がん(非黒色腫)、皮膚がん腫, メルケル細胞(skin carcinoma, Merkel cell)、小腸がん、軟部組織肉腫、扁平上皮がん腫、扁平上皮がん腫-皮膚がんを参照(非黒色腫)、扁平上皮がん、潜在性原発性の転移性扁平上皮がん(squamous neck cancer with occult primary、metastatic)、胃がん、小児性テント上原始神経外胚葉性腫瘍、T細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、精巣腫瘍、咽喉がん、胸腺腫および胸腺がん腫、小児胸腺腫、甲状腺がん、小児甲状腺がん、腎盂および尿管の移行上皮がん、妊娠性絨毛腫瘍、未知の原発がん腫、原発部位不明の小児がん(unknown primary site, cancer of, childhood)、原発部位不明の成人がん腫(unknown primary site, carcinoma of, adult)、尿管と腎盂、移行上皮がん、尿道がん、子宮がん、子宮内膜がん、子宮肉腫、膣がん、小児視覚経路および視床下部神経膠腫(visual pathway and hypothalamic glioma, childhood)、外陰がん、原発性マクログロブリン血症、ならびにウィルムス腫瘍(腎臓がん)。
【0076】
II. ノブインホール一本鎖二重特異性結合剤の構築および発現
ベクター構築
ある種の態様において、
第1の抗体重鎖またはその部分をコードする第1のセグメント、第1のリンカーをコードする第2のセグメント、および第1の抗体軽鎖またはその部分をコードする第3のセグメントを含む第1のポリヌクレオチド配列と; 第2の抗体重鎖またはその部分をコードする第1のセグメント、第2のリンカーをコードする第2のセグメント、および第2の抗体軽鎖またはその部分をコードする第3のセグメントを含む第2のポリヌクレオチド配列とを含む二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)を構築して発現させ;
第1の抗体重鎖またはその部分、第1のリンカー、および第1の抗体軽鎖またはその部分を含む第1のポリペプチドを、第1のポリヌクレオチド配列から作出し、
第2の抗体重鎖またはその部分、第2のリンカー、および第2の抗体軽鎖またはその部分を含む第2のポリペプチドを、第2のポリヌクレオチド配列から作出する方法であって、第1の抗体重鎖またはその部分および第2の抗体重鎖またはその部分が互いと選択的に会合して二重特異性結合剤を形成するように、第1の抗体重鎖またはその部分、第2の抗体重鎖またはその部分、あるいはその両方が、(例えば、野生型抗体重鎖と比較して) 1つまたは複数のアミノ酸置換を含む、該方法
が、本明細書において提供される。
【0077】
いくつかの態様において、第1のポリペプチドは、プロモーターに機能的に連結された第1のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供し、第1のポリヌクレオチド配列から第1のポリペプチドを発現することによって作出される。いくつかの態様において、第2のポリペプチドは、プロモーターに機能的に連結された第2のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供し、第2のポリヌクレオチド配列から第2のポリペプチドを発現することによって作出される。
【0078】
本明細書において記述されるベクターのいずれかのいくつかの態様において、本明細書において記述される二重特異性結合剤のいずれかをコードする核酸は、プロモーターおよびエンハンサーの一方または両方に機能的に連結されている。本明細書において記述されるベクターのいずれかのいくつかの態様において、プロモーターは誘導性プロモーターである。
【0079】
一般に、本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、当業者に公知の種々の方法のいずれかからの技法を用いて産生されうる。例えば、二重特異性結合剤の第1のポリペプチド(例えば、抗体軽鎖および抗体重鎖の両方を有する一本鎖ポリペプチド)、二重特異性結合剤の第2のポリペプチド(例えば、抗体軽鎖および抗体重鎖の両方を有する一本鎖ポリペプチド)、または両方をコードする核酸配列を、従来の技法にしたがって発現ベクターに挿入することができる。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドをコードする核酸配列は、第1の発現ベクターに挿入される。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第2のポリペプチドをコードする核酸配列は、第2の発現ベクターに挿入される。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドをコードする核酸配列および二重特異性結合剤の第2のポリペプチドをコードする核酸配列は、第1の発現ベクターに挿入される。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドをコードする核酸配列、二重特異性結合剤の第2のポリペプチドをコードする核酸配列、またはその両方は、発現制御領域、例えば、エンハンサーおよび/またはプロモーターの制御下で発現される。いくつかの態様において、宿主細胞は、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター、二重特異性結合剤の第2のポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター、またはその両方でトランスフェクションされる。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの両方は、同じ宿主細胞において発現される。いくつかの態様において、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、異なる宿主細胞において発現される。
【0080】
核酸、ベクター構築体、および発現系
本明細書において提供される二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)に存在するポリペプチドのいずれかをコードする核酸(例えば、DNA)配列も、操作された二重特異性結合剤を作出する方法と同様に、本発明の範囲内である。例えば、可変領域は、免疫グロブリン鎖をコードするDNA配列を改変させるためのPCR突然変異誘発法を用いて、例えば、ヒト化免疫グロブリンを作出するために利用される方法を用いて構築することができる(例えば、Kanunan, et al, Nucl. Acids Res. 12:5404,1989; Sato, et al, Cancer Research 53:851-856, 1993; Daugherty, et al, Nucleic Acids Res. 19(9):2471- 2476,1991; およびLewis and Crowe, Gene 101:297-302, 1991を参照のこと)。これらのまたはその他の適当な方法を用いて、変種を容易に産生することもできる。いくつかの態様において、クローン化された定常領域を変異誘発することができ、所望の特異性を有する変種をコードする配列(例えば、二重特異性結合剤の第1のポリペプチドに存在する定常領域、二重特異性結合剤の第2のポリペプチドに存在する定常領域、またはその両方)を、選択することができる。
【0081】
発現ベクターは抗体産生の目的に有用である。適当な発現ベクターの例としては、非限定的に、M13ベクター、pUCベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script、およびgWizが挙げられる。cDNAのサブクローニングおよび分離のために、例えば、pGEM-T、pDIRECTおよびpT7も用いられうる。
【0082】
本明細書におけるベクターにおいてDNAをクローニングまたは発現するための適当な宿主細胞は、非限定的に、本明細書において記述される原核細胞、酵母細胞、または高等真核細胞を含む。この目的に適した原核生物は、非限定的に、グラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、大腸菌属(Escherichia)などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えば、大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えば、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えば、霊菌(Serratia marcescans)、およびシゲラ属(Shigella)、ならびに枯草菌(B. subtilis)およびリケニホルミス菌(B. licheniformis)などのバシラス属(Bacilli) (例えば、1989年4月12日付で公開されたDD 266,710に開示されているリケニホルミス菌41 P)、緑膿菌(P. aeruginosa)などのシュードモナス属(Pseudomonas)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)を含む。いくつかの態様において、宿主細胞は大腸菌294 (ATCC 31,446)である。大腸菌B、大腸菌X1776 (ATCC 31,537)、および大腸菌W3110 (ATCC 27,325)などの他の菌株も適当である。
【0083】
JM109、DH5α、HB101またはXL1-Blueなどの大腸菌が宿主として用いられる態様において、発現ベクターは、大腸菌におけるポリペプチド(例えば、二重特異性結合剤のポリペプチド)の効率的な発現を駆動するプロモーター、例えば、lacZプロモーター(参照により全体が本明細書に組み入れられるWard et al., Nature (1989) 341, 544-546; FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(参照により全体が本明細書に組み入れられるBetter et al., Science (1988) 240, 1041-1043)またはT7プロモーターを含む。このタイプのベクターは、pGEX-5X-1 (Pharmacia)、QIA発現系(QIAGEN)、pEGFP、およびpET (場合によっては、宿主はT7 RNAポリメラーゼ発現BL21である)を含むこともできる。
【0084】
いくつかの態様において、非限定的に、糸状菌または酵母などの真核微生物を、本明細書において提供される種々の二重特異性結合剤のいずれかをコードするベクターのクローニングおよび/または発現宿主として用いることができる。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、または一般的なパン酵母は、下等真核生物の宿主微生物の中で最も一般的に使用されるものである。しかしながら、非限定的に、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe); 例えば、K.ラクティス(K. lactis)、K.フラギリス(K. fragilis) (ATCC 12,424)、K.ブルガリカス(K. bulgaricus) (ATCC 16,045)、K.ウィッカーラミイ(K. wickeramii) (ATCC 24,178)、K.ウォルティ(K. waltii) (ATCC 56,500)、K.ドロソフィララム(K. drosophilarum) (ATCC 36,906)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、およびK.マルシアヌス(K. marxianus)などのクリベロマイセス属(Kluyveromyces)宿主; ヤロウイア属(EP 402,226); ピキア・パストリス(Pichia pastors) (EP 183,070); カンジダ属(Candida); トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia) (EP 244,234); アカパンカビ(Neurospora crassa); シュワンニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュワンニオマイセス属(Schwanniomyces); ならびに、例えば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、偽巣性コウジ菌(A. nidulans)およびA.ニガー(A. niger)などのアスペルギルス属(Aspergillus)宿主などの糸状菌などの、いくつかの他の属、種、および菌株は一般的に利用可能であり、本明細書において提供される方法において用いることができる。
【0085】
グリコシル化されたタンパク質(例えば、二重特異性結合剤)の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物に由来することができる。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株および変種ならびにスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda) (イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti) (蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus) (蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster) (ショウジョウバエ)およびカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の、対応する感染許容性の昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための種々のウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica) NPVのL-1変種およびカイコ(Bombyx mori) NPVのBm-5株などが公的に入手可能であり、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために、そのようなウイルスが本開示によって本明細書におけるウイルスとして用いられうる。ワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、タバコ、アオウキクサ、および他の植物細胞の植物細胞培養物も宿主として利用することができる。
【0086】
いくつかの態様において、ポリペプチド(例えば、二重特異性結合剤)産生に用いられるベクターは、哺乳動物由来の発現ベクター(例えばpcDNA3 (Invitrogen)、pEGF-BOS (参照により全体が本明細書に組み入れられるNucleic acids, Res., 1990, 18(17), p. 5322)、pEF、pCDM8); 昆虫細胞由来の発現ベクター(例えばBac-toBACバキュロウイルス発現系(GIBCO BRL)、pBacPAK8); 野菜由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2); 動物ウイルス由来の発現ベクター(例えばpHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えばpZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えばPichia Expression Kit (Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えばpPL608、pKTH50)であることができる。
【0087】
宿主(例えば、CHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞)での発現の場合、ベクターは、細胞内発現を駆動するプロモーター、例えば、SV40プロモーター(参照により全体が本明細書に組み入れられるMulligan et al., Nature (1979) 277, 108)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(参照により全体が本明細書に組み入れられるMizushima et al., Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CAGプロモーター(参照により全体が本明細書に組み入れられるGene (1991) 108, 193)、またはCMVプロモーターを有することができる。有用な哺乳動物宿主細胞株の例としては、非限定的に、CHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44およびチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR (CHO, Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980))を含む、チャイニーズハムスター卵巣細胞; SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7, ATCC CRL 1651); ヒト胎児腎臓株(浮遊培養での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞(Graham et al., J. Gen Virol. 36: 59, 1977); ベビーハムスター腎臓細胞(BHK, ATCC CCL 10); マウスセルトリ細胞(TM4, Mather, (Biol. Reprod. 23: 243-251, 1980); サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70); アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587); ヒト子宮頸がん細胞(HELA, ATCC CCL 2); イヌ腎臓細胞(MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット肝細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442); ヒト肺細胞(W138, ATCC CCL 75); ヒト肝細胞(Hep G2, HB 8065); マウス乳腺腫瘍(MMT 060562, ATCC CCL51); TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y Acad. Sci. 383: 44-68 (1982)); MRC 5細胞; FS4細胞; およびヒト肝細胞がん株(Hep G2)が挙げられる。ある種の態様において、2つの哺乳動物発現プラスミド(例えば、gWizバックボーン)を用いることができ、ここで各哺乳動物発現プラスミドをコードすることにより、二重特異性結合剤の少なくとも1つのポリペプチドがコードされる。上記の細胞リストは例示であり、限定するものではない。
【0088】
いくつかの態様において、ベクターは、形質転換された細胞のスクリーニングのための遺伝子(例えば、薬物によって識別されうる薬物耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン, G418))を含む。そのような特徴を有するベクターは、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13を含む。例示的な態様において、発現ベクターは、可溶性発現のためにヒト胎児腎臓(HEK 293)細胞に同時トランスフェクションすることができる。いくつかの態様において、宿主細胞は、二重特異性結合剤の産生のために上記の発現ベクターまたはクローニングベクターのいずれかで形質転換またはトランスフェクションされ、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、および/または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適切に改変された従来の栄養培地中で培養される。いくつかの態様において、選択的マーカーによって分離された転写単位の複数のコピーを有する新規のベクターおよびトランスフェクションされた細胞株を、標的に結合する抗体の発現のために用いることができる。
【0089】
組換え技法を用いる場合、二重特異性結合剤は、細胞内で、細胞膜周辺腔で産生されるか、または微生物培養物からを含めて、培地に直接分泌されることができる。二重特異性結合剤が細胞内で産生される場合、第1の段階として、宿主細胞または溶解断片のいずれかの粒子状破片を、例えば、遠心分離または限外ろ過によって除去することができる。Betterら(Science 240:1041-43, 1988; ICSU Short Reports 10:105 (1990); およびProc. Natl. Acad. Sci. USA 90:457-461 (1993)には、大腸菌の細胞膜周辺腔へ分泌される抗体を単離するための手順が記述されている。[同様に、(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992)を参照のこと]。
【0090】
微生物細胞または哺乳動物細胞から調製された二重特異性結合剤(例えば、IL-6RαおよびIL-8Rに結合する二重特異性結合剤)は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー陽イオンまたは鳥類交換(avian exchange)クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することができる。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、二重特異性結合剤に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づく二重特異性結合剤を精製するために用いることができる(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62: 1-13, 1983)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨される(Guss et al., EMBO J. 5:15671575 (1986))。アフィニティーリガンドが付着しているマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御された細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスによって、アガロースを用いて達成されうるものよりも速い流速および短い処理時間が可能となる。二重特異性結合剤がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.)は精製に有用である。イオン交換カラム、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(登録商標)でのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなどの)でのクロマトグラフィー、等電点電気泳動、SDS-PAGEおよび硫酸アンモニウム沈殿での分画などのタンパク質精製のための他の技法も、回収される二重特異性結合剤に依って利用可能である。
【0091】
ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列を含みうる。例えば、pelBシグナル配列(参照により全体が本明細書に組み入れられるLei, S. P. et al., Bacteriol. (1987) 169, 4397)が大腸菌の周辺質での産生に用いられうる。ベクターの宿主細胞への導入は、例えば、塩化カルシウム法またはエレクトロポレーション法にしたがって行われうる。発現ベクターを宿主細胞に導入するための他の適当な方法は、当技術分野において周知である。核酸配列は、配列決定によって検証することができる。配列決定は、標準的な技法を用いて実行され(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Guide, Vols 1-3, Cold Spring Harbor Press, and Sanger, F. et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467を参照のこと)、配列決定法は当業者に周知である。
【実施例
【0092】
本発明は以下の実施例においてさらに記述されており、それらは、特許請求の範囲に記述されている本発明の範囲を限定するものではない。
【0093】
実施例1: 新規の二重特異性結合剤を作出するための方法
プラスミド構築
本明細書において提供される二重特異性結合剤を検証するために、第1の結合剤である抗IL-6Rα抗体トシリズマブ(例えば、US 8,562,991参照)の重抗体鎖および軽抗体鎖を、SEQ ID NO: 9に示されるアミノ酸配列(SEQ ID NO: 9をコードするヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 10に示されている)を有する発現ベクターにクローニングした。第2の結合剤である抗IL-8RB抗体10H2 (例えば、Chuntharapai A, Lee J, Hebert CA, Kim KJ. Monoclonal antibodies detect different distribution patterns of IL-8 receptor A and IL-8 receptor B on human peripheral blood leukocytes. J Immunol. 1994 Dec 15;153(12):5682-5688. PMID: 7527448を参照のこと)の重抗体鎖および軽抗体鎖を、Genscriptが実施するRACEによって決定し(2 Frohman MA, Dush MK, Martin GR. Rapid production of full-length cDNAs from rare transcripts: amplification using a single gene-specific oligonucleotide primer. Proc Natl Acad Sci U S A. 1988 Dec;85(23):8998-9002. PMCID: PMC282649)、SEQ ID NO: 11に示されるアミノ酸配列(SEQ ID NO: 11をコードするヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 12に示されている)を有する発現ベクターにクローニングした。抗IL-6Rα(トシリズマブ)および抗IL-8RB (10H2)抗体の可変ドメインの配列を、2つのヒトIgG1に基づく二重特異性結合剤の形式にクローニングした(図2、3) (それぞれ、SEQ ID NO: 9、11、14、および15)。
【0094】
トシリズマブおよび10H2抗体の重鎖および軽鎖を含む完全構築された二重特異性結合剤は図2に示されており、本明細書のさまざまな箇所で「BS1」と表示されている。BS1形式は、ノブインホール戦略と一本鎖Fab発現を組み合わせたものである(図2)。本明細書において記述されるように、完全なBS1抗体の構築は、ノブインホール二量体化戦略によって促進された。アミノ酸置換をSEQ ID NO: 9の位置645、647、および686でトシリズマブCH3ドメインに導入し、ポリペプチド界面に空洞(ホール)を作出した。トシリズマブCH3ドメインのアミノ酸置換には、位置645、647、および686でのセリン、アラニン、およびバリン置換(T645S、L647A、およびY686V) (SEQ ID NO: 9)が含まれていた。さらに、アミノ酸置換をSEQ ID NO: 11の位置642で10H2 CH3ドメインに導入し、ペプチド界面に隆起(ノブ)を作出した。10H2 CH3ドメインアミノ酸置換には、位置642でのトリプトファン置換(T642W) (SEQ ID NO: 11)が含まれていた。ノブインホール戦略は適切なヘテロ二量体化を強化し、一本鎖Fab発現により、各抗体の重鎖および軽鎖の適切な対合が保証される。トシリズマブおよび10H2抗体重鎖の第3の定常ドメインに相補的な変異セットを導入して、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化に有利とし、定常軽鎖のC末端を可変重鎖のN末端に接続する長い可動性のリンカーを用いた(図2)。
【0095】
対照および比較の目的で、以前に検証された二重特異性結合剤も、トシリズマブおよび10H2抗体を用いて作出された(図3)。この二重特異性結合剤の形式は、IL-6Rα(トシリズマブに基づく)に特異的なscFvをIL-8RB (10H2の可変領域に基づく)に特異的な完全IgG抗体につなぐ検証済みのscFv-IgG融合体であり、「BS2」と表示されている(図3)。scFvには、可動性の(G4S)3リンカーによって接続されたトシリズマブVHおよびVLドメインが含まれていた。重鎖および軽鎖DNA構築体(それぞれSEQ ID NO: 14および15)は、既述のように構築された(Orcutt KD, Ackerman ME, Cieslewicz M, Quiroz E, Slusarczyk AL, Frangioni JV, Wittrup KD. A modular IgG-scFv bispecific antibody topology. Protein Eng Des Sel. 2010 Apr 1;23(4):221-228)。重鎖および軽鎖DNA構築体を同時トランスフェクションして、BS2二重特異性抗体を産生した。この場合も、小規模な同時トランスフェクションを用いて、大規模な発現のためにDNAプラスミド比を最適化した。さらに、完全なトシリズマブおよび10H2モノクローナルhIgG1抗体も、本明細書において提供される方法により対照としてその各重鎖および軽鎖の同時トランスフェクションを介して発現された。
【0096】
タンパク質発現および精製
2 U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補充したFreestyle 293 Expression Medium (Thermo Fisher Scientific)中でHEK 293F細胞を培養した。相補的な重鎖定常ドメイン3 (CH3)変異を含んでいた、トシリズマブおよび10H2抗体ドメイン融合体(BS1)をコードする哺乳動物発現プラスミド(gWizバックボーン)を、可溶性発現のためにHEK 293F細胞に同時トランスフェクションした。同様に、BS2を可溶性発現のために同時トランスフェクションして、二重特異性抗体を産生した。トランスフェクション試薬としてポリエチレンイミン(Polyethylenimene)を用いた(Spangler JB, Manzari MT, Rosalia EK, Chen TF, Wittrup KD. Triepitopic Antibody Fusions Inhibit Cetuximab-Resistant BRAF and KRAS Mutant Tumors via EGFR Signal Repression. J Mol Biol. 2012 Sep 28;422(4):532-544)。小規模な発現アッセイを用いトシリズマブおよび10H2融合体DNAプラスミドを漸増して、大規模なトランスフェクションに最適な比率を決定した。
【0097】
二重特異性結合剤の形式BS1およびBS2の両方とも、抗IL-6α(トシリズマブ)および抗IL-8RB (10H2)可変ドメインで発現された。プロテインGクロマトグラフィー、続いて高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)システム(GE Healthcare)でSuperdex 200カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより、BS1およびBS2を、トランスフェクションされたHEK 293F細胞の上清から精製した。
【0098】
C末端ビオチンアクセプタペプチド(BAP)-LNDIFEAQKIEWHEおよびC末端ヘキサヒスチジン配列を有するgWiz哺乳動物発現プラスミドに、成熟タンパク質の残基89~303であるヒトIL-6Rα細胞外ドメイン(ECD)をクローニングした。HEK 293F細胞での一過性発現は、トランスフェクション試薬としてポリエチレンイミン(polyethylenimene)を用いて達成された(Spangler JB, Manzari MT, Rosalia EK, Chen TF, Wittrup KD. Triepitopic Antibody Fusions Inhibit Cetuximab-Resistant BRAF and KRAS Mutant Tumors via EGFR Signal Repression. J Mol Biol. 2012 Sep 28;422(4):532-544)。IL-6Rαを、ニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)クロマトグラフィーによってトランスフェクションされたHEK 293細胞上清から抽出し、0.5 mMビシン pH 8.3、100 mM ATP、100 mM酢酸マグネシウム、および500 mMビオチン(Sigma)中の可溶性BirAリガーゼ酵素を用いてビオチン化した。ビオチン化されたIL-6Rα ECDを、FPLC機器(GE Healthcare)でSuperdex 200カラムを用いてサイズ排除クロマトグラフィーによりさらに精製した。純度(99%超)をSDS-PAGE分析によって確認した。全てのタンパク質を、HEPES緩衝生理食塩水(HBS, 10 mM HEPES pH 7.3中150 mMのNaCl)中に貯蔵した。
【0099】
バイオレイヤー干渉法結合研究
BS1およびBS2二重特異性結合剤の形式の機能性を実証するために、これらの薬剤のヒトIL-6Rα ECDへの結合をバイオレイヤー干渉法(BLI)によって定量化した。ビオチン化されたヒトIL-6Rα ECDをOctet(登録商標) Red96 BLI機器(ForteBio)で分析するために、ストレプトアビジンでコーティングされたチップに固定化した。物質移動の影響を最小限に抑えるために、5シグナル単位(nm)未満の受容体を固定化した。チップを96ウェルプレート中で抗IL-6R抗体トシリズマブ、抗IL-8R抗体10H2、BS1、またはBS2の連続希釈液に300秒間曝露し、解離を600秒間測定した。全ての相互作用の表面再生は、0.1 M グリシン pH 3.0への15秒間の曝露を用いて行った。実験は、25℃のPBSA (リン酸緩衝生理食塩水[PBS] pH 7.3に加えて0.1%ウシ血清アルブミン[BSA, Thermo])中で実行した。Octet(登録商標) Data Analysisソフトウェアバージョン7.1 (ForteBio)を用いてデータを視覚化および処理した。平衡滴定曲線の当てはめおよび平衡解離定数(KD)値の決定は、一次ロジスティックモデルを用いGraphPad Prismソフトウェアにて実施した。実験を2回再現し、同様の結果を得た。
【0100】
酵母細胞表面親和性の滴定(titrations)
前述のように、ヒトIL-6 (残基3~185)をpCT302ベクターにクローニングし、酵母の表面に提示した。(Boder ET, Wittrup KD. Yeast surface display for screening combinatorial polypeptide libraries. Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-557. PMID: 9181578を参照のこと)。ヒトIL-6を提示している酵母を、組換えIL-6Rα ECDの連続希釈液を含有するPBSA中、室温で2時間インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、PBSA中200分の1希釈のAlexa647結合ストレプトアビジン(Thermo)により4℃で15分間染色した。最後の洗浄後、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)を用いて、細胞の抗体結合を分析した。バックグラウンドを差し引いて正規化した結合曲線を一次ロジスティックモデルに適合させ、GraphPad Prismを用いてKD値を決定した。
【0101】
酵母細胞表面競合試験
1ウェルあたりおよそ1×105個のヒトIL-6提示酵母を96ウェルプレートにプレーティングし、PBSAで洗浄した。酵母細胞をPBSA中で飽和濃度のビオチン化ヒトIL-6Rα(300 nM)および非標識競合抗体(抗IL-6R抗体トシリズマブ、抗IL-8R抗体10H2、BS1、またはBS2のいずれか)の連続希釈液とともに室温で2時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、4℃で15分間、PBSA中200分の1希釈のAlexa647結合ストレプトアビジン(Thermo)で染色した。細胞を再度洗浄し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)にてヒトIL-6Rαの結合を評価した。競合抗体の非存在下での受容体サブユニット結合の割合としてのバックグラウンドを差し引いた蛍光シグナルをプロットした。曲線を一次ロジスティックモデルに適合させ、GraphPad Prismを用いて半最大阻害濃度(IC50)を計算した。アッセイは三つ組で実施し、2回繰り返し、一貫した結果を得た。
【0102】
IL-6RおよびIL-8Rを発現する細胞株の作出
IL-6RαおよびIL-8RB遺伝子をレンチウイルス発現プラスミドにクローニングし、製造元の指示にしたがってウイルスを調製した(pPACKH1 HIV Lentivector Packaging Kit, カタログ番号LV500A-1, System Bioscience)。手短に言えば、3×106個のHEK 293T細胞を10 cmディッシュにプレーティングし、10% FBS (Hyclone)、2 mM L-グルタミンおよび100 U/mLペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM, Thermo Fisher)中で終夜培養した。IL-6RαまたはIL-8Rをコードするレンチウイルス形質導入プラスミド(pCDHバックボーン) 2 μgを用いて、pPACKパッケージングプラスミドミックスでHEK 293T細胞をトランスフェクションした。GeneJuice (Sigma Aldrich)をトランスフェクション試薬として用いた。IL-6RおよびIL-8Rレンチウイルスを2日後に培地から収集し、0.45 μmフィルタでろ過した。24ウェルプレート中で培養されたおよそ0.1×106個のHEK 293T細胞に、IMDM 500 μl中8 μg/mLのポリブレン(Sigma Aldrich)とともにIL-6RもしくはIL-8RまたはIL-6RおよびIL-8Rレンチウイルスの組み合わせを形質導入した。形質導入の直後に、HEK 293T細胞を32℃で30分間800×gで遠心分離し、加湿した5% CO2インキュベータ内にて37℃で終夜インキュベートした。形質導入の翌日に培地を新鮮な完全IMDM培地と交換し、形質導入10日後にフローサイトメトリーによってIL-6RおよびIL-8Rの発現を試験するために形質導入された細胞を収集した。
【0103】
IL-6RおよびIL-8R細胞表面結合アッセイ
10% (Hyclone)、2 mM L-グルタミンおよび100 U/mLペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, Mediatech)中でHEK 293T細胞を培養した。表面結合アッセイの場合、IL-6Rα+/IL-8R-、IL-6Rα-/IL-8R+、IL-6Rα+/IL-8R+、およびIL-6Rα-/IL-8R+ HEK 293T細胞を剥離のためにトリプシン処理し、PBSAに再懸濁し、次いで96ウェルプレートに分注した(1ウェルあたり1×105個の細胞)。細胞を、抗体価測定(titration)のさまざまなモノクローナル抗体または二重特異性抗体とともに、回転させながら4℃で2時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、PBSA中50分の1希釈のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗ヒトIgG1抗体(Sigma-Aldrich, クローン8c/6-39)とともに4℃で15分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞をPBSAに再懸濁し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)にて分析した。結合等温線を一次ロジスティックモデルに適合させ、GraphPad Prismデータ分析ソフトウェアを用いてKD値を計算した。非刺激細胞の平均蛍光強度(MFI)を差し引いた。実験は三つ組で行い、2回実施して同様の結果を得た。
【0104】
IL-6およびIL-8細胞表面結合阻害アッセイ
IL-6Rα+/IL-8R-およびIL-6Rα-/IL-8R+ HEK 293T細胞を前記のように培養し、トリプシン処理し、PBSAに再懸濁し、96ウェルプレートに分注した(1ウェルあたり2×105個の細胞)。IL-6Rα+/IL-8R- 293T細胞を、飽和濃度のビオチン化IL-6 (100 nM) (Acro Biosystem, カタログ番号: IL6-H8218-25UG)の存在下で抗体価測定(titration)のさまざまなモノクローナル抗体または二重特異性抗体とともに、回転させながら4℃で2時間インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、PBSA中200分の1希釈のAlexa Fluor 647結合ストレプトアビジン(Fisher Scientific, カタログ番号: S21374)とともに4℃で15分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞をPBSAに再懸濁し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)にて分析した。曲線を一次ロジスティックモデルに適合させ、GraphPad Prismデータ分析ソフトウェアを用いてIC50値を計算した。非刺激細胞の平均蛍光強度(MFI)を差し引いた。同様に、IL-6Rα-/IL-8R+ 293T細胞を飽和濃度のHisタグ付きIL-8 (400 nM) (Sino Biological, カタログ番号: 10098-H08Y-100)とともに抗体価測定(titration)のさまざまなモノクローナル抗体または二重特異性抗体とともに、回転させながら4℃で2時間インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、PBSA中50分の1希釈のAlexa Fluor 647結合抗ペンタHis抗体(Qiagen, カタログ番号: 35370)とともに4℃で15分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞をPBSAに再懸濁し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)にて分析した。曲線を一次ロジスティックモデルに適合させ、GraphPad Prismデータ分析ソフトウェアを用いてIC50値を計算した。実験は三つ組で行い、2回実施して同様の結果を得た。
【0105】
実施例2: 作出された二重特異性結合剤を試験するための方法
IL-6シグナル伝達阻害アッセイ
10% FBS (Hyclone)、2 mM L-グルタミン、100 U/mLペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)を補充した最小必須培地(MEM, Thermo Fisher)中でHepG2細胞を培養した。シグナル伝達阻害アッセイの場合、HepG2細胞を剥離のためにトリプシン処理し、PBSAに再懸濁し、次いで96ウェルプレートに分注した(1ウェルあたり2×105個の細胞)。細胞を、飽和濃度のIL-6 (10 nM) (R&D Systems, カタログ番号:206-IL-010)の存在下で抗体価測定(titration)のさまざまなモノクローナル抗体または二重特異性抗体とともに、回転させながら37℃で20分間インキュベートした。次にHepG2細胞を1.6% PFAで固定し、メタノールで透過処理し、PBSA中50分の1希釈のAlexa Fluor 647結合抗pSTAT3抗体(BD Biosciences, clone 4/P-STAT3)とともに室温で2時間インキュベートした。2回の洗浄後、細胞をPBSAに再懸濁し、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)にて分析した。GraphPad Prismデータ分析ソフトウェアにおける一次ロジスティック適合モデルを用いて、IC50値を計算した。非刺激細胞の平均蛍光強度(MFI)を差し引いた。実験は三つ組で行い、2回実施して同様の結果を得た。
【0106】
3次元遊走アッセイ
高グルコース(4.5 g/L)、L-グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムを有し、10%ウシ胎仔血清(FBS) (Corning)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(Corning)中でMDA-MB-231ヒト三重陰性乳がん細胞(ATCC)およびHT-1080ヒト線維肉腫細胞(ATCC)を培養した。MDA-MB-231培地は1% Pen/Strep (Gibco)を含有し、HT-1080培地は.05 mg/mlのゲンタマイシン(VWR)を含有していた。細胞を5% CO2とともに37℃で維持した。細胞をディッシュから剥離するために5分未満の間、トリプシン-EDTA (Sigma)とともにインキュベートした。細胞を培地で希釈し、ペレット化した。細胞を新鮮な培地に再懸濁し、トリパンブルー(TrypanBlue) (Invitrogen)を用いてカウントし、死細胞を除外した。次に、等体積比の氷冷細胞培地および緩衝剤HEPES (Acros Organics)および重炭酸ナトリウム(Gibco)を用いてラット尾部の高濃度コラーゲンタイプ1 (Corning)を2 mg/mlの濃度に希釈することにより3D遊走マトリックスを調製した。細胞をコラーゲンに加えて終濃度100細胞/ulを得た後に、NaOH (EMD Millipore)を用いて溶液を中和した。可溶性コラーゲン溶液を、37℃に設定されたヒートブロック上の細胞培養処理されたポリスチレン24ウェルプレート(Falcon)にプレーティングし、5分間部分的に固まらせた。次に、ゲルが完全に固まるまで1時間、プレートを5% CO2インキュベータにより37℃に置き、次いでさらなる培地を加える。新しい環境に慣れるまで、細胞をゲル内でインキュベートさせ、これには、MDA-MB-231細胞の場合は48時間およびHT-1080細胞の場合は24時間を要した。処理条件には、新鮮培地のみを含有する陰性対照、トシリズマブ(Genentech)に加えてレパリキシン(MedChem Express) (T+R)、組換えトシリズマブに加えて組換え10H2抗体(抗IL-6R + 抗IL-8R)、または二重特異性抗体構築体(BS1もしくはBS2)を含めた。使用した用量は、市販のトシリズマブ、組換えトシリズマブ、BS1、およびBS2では150 nMであり、2つの併用処理ではトシリズマブと1:1 (w/w)の比率でレパリキシンおよび10H2を加えた。
【0107】
Nikon TE2000顕微鏡に搭載されたORCA-ERデジタルカメラ(Hamamatsu)を用いて、10倍の対物レンズで10分ごとに16時間、単細胞コラーゲンマトリックスの位相差画像を撮影した。各実験では条件ごとに少なくとも50個の細胞を追跡し、条件ごとに最低限3つの独立した生物学的反復を行った。Metamorph (Molecular Devices)を用いて細胞を追跡し、x座標およびy座標を用いて平均二乗変位(MSD)を計算した。3次元遊走を分析するためにデザインされたカスタムモデルである異方性持続ランダムウォークモデル(Anisotropic persistent random walk model; APRW)を、MATLABを用いて実行し、x、y座標を処理し、個々の細胞の拡散性および持続性などの、さらなる情報を生成した。
【0108】
3次元増殖アッセイ
MDA-MB-231およびHT-1080細胞を、前記のように培養およびカウントした。3D可溶性コラーゲンを、遊走研究の場合と同じように調製した。単細胞懸濁液を、37℃に設定されたヒートブロック上の細胞培養処理されたポリスチレン96ウェルプレート(Falcon)に加え、5分間部分的に固まらせた。次に、ゲルが完全に固まるまで1時間、プレートを5% CO2インキュベータにより37℃に置いた。次いでさらなる培地を加えた。処理条件には、新鮮培地のみを含有する陰性対照、トシリズマブ(Genentech)に加えてレパリキシン(MedChem Express) (T+R)、組換えトシリズマブに加えて組換え10H2抗体(抗IL-6R + 抗IL-8R)、または二重特異性抗体構築体(BS1もしくはBS2)を含めた。使用した用量は、市販のトシリズマブ、組換えトシリズマブ、BS1、およびBS2では150 nMであり、2つの併用処理ではトシリズマブと1:1 (w/w)の比率でレパリキシンおよび10H2を加えた。ゲルが固まってから24時間後に処理を加えた。処理およそ45時間後に、バックグラウンド読み取り用の新鮮培地のいくつかのウェルに加えて、等量の2×PrestoBlue (Invitrogen)を各ウェルに添加し、インキュベーションを37℃で3時間進めて色素を完全に分散させた。次に、各ウェルからの培地100 ulを、細胞培養処理されたポリスチレン黒底96ウェルプレート(Costar)に移入した。SpectraMax M3マルチモードマイクロプレートリーダー(Multi-Mode Mircoplate Reader) (Molecular Devices)を用いて、600 nmの参照波長により、570 nmで吸光度を測定した。次に、バックグラウンドウェルの吸光度値の平均を実験値から差し引き、全ての条件を対照条件に対して正規化した。プレートごとの条件ごとに少なくとも4回の技術的反復を実施し、条件ごとに最低限3回の独立した生物学的反復を実施した。
【0109】
マウス同所性乳がん腫瘍異種移植モデル
行われた全ての手順は、実験動物の管理と使用に関するNIHガイドにしたがい、ジョンズホプキンス大学の動物管理および使用委員会を通じて承認された。全ての研究で、5~7週齢雌性NOD scidガンマ(NSG)マウスを、ジョンズホプキンス医療機関の内部コア施設から入手し、12時間の暗/明サイクルにより室内で維持した。MDA-MB-231三重陰性乳がん細胞は、マイコプラズマを含まないことが確認され、その後、増殖された。トリプシン処理およびFBS含有培地での中和後、細胞をダルベッコのPBS (DPBS) (Gibco)で2回洗浄し、その後、氷冷DPBSおよびマトリゲル(Corning)の1:1混合液に再懸濁した。1:1溶液100 ul中1×106個のMDA-MB-231細胞で調製された注射器を用いて、乳腺脂肪パッドに腫瘍を導入した。細胞ペレットが固形腫瘍を確立する時間を与えるために、マウスをモニタリングしたが、1週間触れなかった。腫瘍サイズは、キャリパによって行われた2つの測定値を用いて計算され、第1の測定値では最長寸法を測り、第2の測定値では最初の測定値に垂直に測った。次に、体積を球(2つの測定値の間隔がわずか1ミリメートルもしくはそれ以下の場合)または楕円体として推定した。全てのパイロットおよび全身試験の場合、処置を受けたマウスに、細胞注射10日後に始めて、3日ごとに腹腔内注射した。全てのマウスの重さを量り、処置と同じスケジュールで腫瘍を測定した。3つのパイロット試験における各群には1匹のマウスしか含まれていなかった。第1のパイロット試験の場合、微小転移を検出できた最も早い時点を決定することが目標であったため、マウスには処置を施さなかった。健常対照マウスはMDA-MB-231細胞の注射を受けず、他の4匹のマウスは腫瘍を受けた。エンドポイントとしてさまざまな時点を選択し、定量PCRを介して肺の転移性負荷を測定するためにマウスを殺処理した。35日を超える時点は、肺転移の評価に理想的であると判断された。第2のパイロット試験の場合、BS1の用量漸増を用いて有効範囲を決定した。転移性負荷分析のために、全てのマウスを単一のエンドポイントで殺処理した。第3のパイロット試験の場合、第2のパイロット試験での結果を検証するためにBS1の別の用量漸増を行った。転移性負荷の分析のために、全てのマウスを単一のエンドポイントで殺処理した。これらの結果に基づいて、1 mg/kgの二重特異性抗体の用量を、(統計的有意性を達成するために適切なサイズのコホートを含む)全試験のために選択した。個々のモノクローナル抗体の用量も各1 mg/kgに設定したが、トシリズマブおよびレパリキシンは以前に有効であることが示された用量30 mg/kgで用いた Jayatilaka H, Tyle P, Chen JJ, Kwak M, Ju J, Kim HJ, Lee JSH, Wu P-H, Gilkes DM, Fan R, Wirtz D. Synergistic IL-6 and IL-8 paracrine signalling pathway infers a strategy to inhibit tumour cell migration. Nat Commun. 2017 26;8:15584. PMCID: PMC5458548)。
【0110】
全試験の場合、MDA-MB-231細胞の注射から1週間後に、マウスの重さを量り、腫瘍サイズを測定した後、それぞれ以下の条件に相当するマウス5匹の5群にランダムに分類した: PBS (対照)、トシリズマブ(Genentech)に加えてレパリキシン(MedChem Express) (T+R)、組換えトシリズマブに加えて組換え10H2抗体(抗IL-6R + 抗IL-8R)、または二重特異性抗体構築体(BS1もしくはBS2)。マウスを3.5週間処置した。試験のために腫瘍および肺を摘出した。肺を2%アガロース(Boston BioProducts)で膨らませ、1葉の肺を10%ホルマリン(VWR)で保存し、切片作製およびH&E染色のためにジョンズホプキンス医療研究所の内部コアに送った。残りの肺組織を液体窒素で瞬間冷凍し、-80℃で貯蔵した。
【0111】
肺への転移性負担の評価
各マウスから解剖した肺組織の一部(およそ20 mg)を消化し、PureLink Genomic DNA Mini Kit (Invitrogen)を用いてDNAを抽出した。iTaq Univer SYBR Green Supermix (Bio-Rad)およびIDTによって合成されたプライマーを利用して、qPCRを実施した。ヒトHK2を用いて、二次器官に到達したヒト細胞の相対数を決定し、残りのプライマーを参照遺伝子として用いて、全体的なDNA含有量を補正し、各分析において最低限4つの参照遺伝子を用いた。3つのパイロット試験の場合、サンプルごとに3回の技術的反復を伴う最低限2回の独立したqPCRを実行したが、後続の試験の結果は、3回の技術的反復を含む3回の独立したqPCR実行の平均を表している。
【0112】
実施例3: 二重特異性結合剤の発現および生物物理学的検証
二重特異性結合剤は、哺乳動物細胞より成功裏に発現および精製された
BS1およびBS2は、一過性トランスフェクションを介してHEK 293F細胞より発現され、99%超の均一性まで精製された。代表的なFPLCトレースおよびSDS-PAGE分析を図4に示す。どちらの二重特異性結合剤も、最小の凝集でFPLC分析により別個の単分散ピークとして現れ、非還元および還元SDS-PAGE分析において予想される分子量で移動した。
【0113】
二重特異性結合剤はIL-6Rαに結合する
本発明者らの二重特異性薬剤の機能性を確認するために、BLIを介して組換えIL-6Rαに対して抗体を力価測定した。抗IL-6Rα抗体トシリズマブは28 nMの見かけの二価親和性でその標的受容体に結合したが、抗IL-8RB抗体10H2はIL-6Rαに結合しなかった。さらに、トシリズマブを含む操作された二重特異性結合剤のどちらも、IL-6Rαに結合しなかった(図5)。予想通り、BS1はIL-6Rαとのその一価の相互作用により、トシリズマブと比較して弱い結合親和性(KD=120 nM)を有していた。さらに、BS2は中程度の結合親和性を有していた。というのは、BS2はIL-8Rと二価で結合するが、しかし2つのscFv部分が軽鎖定常ドメインのC末端に融合しているため、結合トポロジーが従来のモノクローナルIgGのものとは異なるからである(図2および3)。
【0114】
二重特異性結合剤はIL-6RαのIL-6サイトカインへの結合を遮断する
トシリズマブは、IL-6Rα結合についてIL-6と競合することが知られている。したがって、トシリズマブ可変領域(BS1およびBS2)を含む二重特異性結合剤も、サイトカイン結合を妨害すると予想された。ヒトIL-6を酵母の表面に提示させ(Boder ET, Wittrup KD. Yeast surface display for screening combinatorial polypeptide libraries. Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-557. PMID: 9181578を参照のこと)、可溶性IL-6Rα ECDのKDが88 nMであると決定された(図6A)。IL-6阻害を実証するために、IL-6を提示する酵母を、一定の飽和濃度のビオチン化IL-6Rα ECD (300 nM)とともにインキュベートし、抗体価測定(titration)の抗体競合物質(抗IL-6R抗体トシリズマブ、抗IL-8R抗体10H2、BS1、またはBS2のいずれか)を加えてIL-6/IL-6Rα相互作用の妨害を評価した(図6B)。10H2はIL-6/IL-6Rα相互作用と競合しなかった。しかしながら、トシリズマブ(IC50=59 nM)、BS1 (IC50=190 nM)、およびBS2 (IC50=78 nM)は全て、IL-6/IL-6Rα結合を阻害した。特に、BS1はIL-6Rαのその一価結合によりトシリズマブよりも競合性が低いことが分かり、BS2はトシリズマブよりもIL-6/IL-6Rα相互作用の遮断で効率が低いが、BS1よりも効率が高いことが分かった。というのは、BS2はIL-6Rαに二価で結合するが、従来のモノクローナル抗体と比較して異なるトポロジーで結合するからである(図3)。
【0115】
二重特異性抗体は293T細胞上のIL-6RαおよびIL-8Rに特異的に結合する
操作された二重特異性結合剤BS1およびBS2が生理学的に関連する状況で標的抗原に特異的に結合するかどうかを決定するために、IL-6Rα+/IL-8R-、IL-6Rα-/IL-8R+、IL-6Rα+/IL-8R+、およびIL-6Rα-/IL-8R-レンチウイルス形質導入HEK 293T細胞への抗体結合をフローサイトメトリーによって測定した。BS1およびBS2は、IL-6Rα(それぞれ図7A, KD=24および19 nM)およびIL-8R (それぞれ図7B, KD=10および3.5 nM)の両方に結合した。対照的に、構成要素の抗IL-6Rモノクローナル抗体トシリズマブはIL-6Rα+細胞のみを認識し、構成要素の抗IL-8Rモノクローナル抗体10H2はIL-8R+細胞のみを認識した。IL-6Rα-/IL-8R- 293T細胞に結合した抗体はなく、標的特異性を実証するものであった。BS2はトシリズマブ(KD=3.1 nM)および10H2 (KD=4.1 nM)と比較して同様の親和性(KD=3.4 nM)でIL-6Ra+/IL-8R+ 293T細胞に結合したが、BS1は各標的のその一価結合によってBS2 (KD=14 nM)よりも弱い親和性でIL-6Ra+/IL-8R+ 293T細胞に結合した(図7C)。
【0116】
二重特異性結合剤はIL-6/IL-6RαおよびIL-8/IL-8R相互作用を遮断する
両方の二重特異性結合剤(BS1およびBS2)の二重ターゲティングを確認した後に、これらの抗体の競合的結合特性は、IL-6Rα発現またはIL-8R発現するHEK 293T細胞でも特徴付けられた。BS1およびBS2の両方がIL-6Rα+/IL-8R- 293T細胞上のIL-6RaへのIL-6の結合と競合した(それぞれIC50=120 nMおよび96 nM) (図8A)。構成要素の抗IL-6Rモノクローナル抗体トシリズマブもIL-6結合を阻害した(IC50=30 nM)が、10H2には阻害効果がなかった。結合アッセイにおいて観察された傾向と一致して、トシリズマブは、その従来の二価形式のために、二重特異性抗体と比較して強力な競争物質であった。BS2は、標準的な抗体の構築と比較して別のトポロジーではあるが、その二価性のためにBS1よりもわずかに強力であった。同様に、BS1およびBS2の両方ともIL-6Rα-/IL-8R+ HEK 293T細胞上でIL-8Rに結合するIL-8と競合した(それぞれIC50=99 nMおよび22 nM) (図8B)。構成要素の抗IL-8Rモノクローナル抗体10H2もIL-8結合を阻害した(IC50=22 nM)が、トシリズマブは阻害効果を発揮しなかった。BS2および10H2は、両方ともIL-8Rをターゲティングする完全hIgG抗体を含むため、同等の効力で阻害した。BS1は、その一価性のために、BS2および10H2と比較して弱い阻害効力を示した。
【0117】
実施例4: 二重特異性結合剤の機能検証
二重特異性抗体はHepG2細胞におけるSTAT3シグナル伝達を阻害する
IL-6/IL-6R相互作用の阻害が、IL-6を介したシグナル伝達の阻害に対応することを実証するために、本発明者らは、IL-6応答性HepG2細胞で競合シグナル伝達試験を実施した。BS1およびBS2の両ともHepG2細胞においてSTAT3リン酸化(IL-6刺激後の下流シグナル伝達事象)を阻害した(それぞれIC50=110 nMおよび220 nM) (図9)。抗IL-6R抗体トシリズマブもIL-6シグナル伝達を阻害した(IC50=76 nM)が、抗IL-8R抗体10H2は阻害をもたらさなかった。結合阻害アッセイで観察されたように、トシリズマブは、その標準的な二価抗体形式のために、二重特異性抗体よりも強力にシグナル伝達を阻害した。
【0118】
二重特異性抗体は、モノクローナル抗体および抗体/低分子の併用処置よりも効果的にがん細胞の遊走を阻害する
固形腫瘍がんでは、転移は、原発腫瘍から細胞外マトリックス(ECM)を通って移動し、時には血管またはリンパ管を通過して二次疾患部位を確立するがん細胞によって形成される。インビトロ遊走試験の場合、ECMの代わりとしてコラーゲン(タイプ1)ゲルを用い、そこにがん細胞(MDA-MB-231またはHT-1080)を、経時的にその移動を正確に追跡するため単個細胞浮遊液として分散させた。BS1およびBS2は両方ともがん細胞の遊走を、トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)の併用処置と同じくらい効果的に(図10A、B)、およびトシリズマブに加えて10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R)の併用処置よりも効果的にがん細胞の遊走を低減することができた。これらの結果は、各細胞のx座標およびy座標を処理して平均二乗変位(MSD)を得ることにより、ならびに異方性持続ランダムウォーク(APRW)モデルを用いて拡散性および持続性を得ることにより定量的に評価された(図11A~F)。BS1およびBS2は、MDA-MB-231およびHT-1080細胞の平均二乗変位を有意に低減させた(P < 0.0001)。BS2で見られたMSDの低減は、MDA-MB-231細胞(それぞれP = 0.0005およびP = 0.0003)ならびにHT-1080細胞(それぞれP = 0.0093およびP = 0.0015)の両方においてT+RおよびBS1条件により誘導されたものよりも有意に低かった。同様に、BS1およびBS2は、MDA-MB-231およびHT-1080細胞の拡散性を有意に低減した(P < 0.0001)。T+Rと比較してBS2 (BS1ではないが)により誘導された拡散性の低減は、MDA-MB-231細胞(P = 0.0087)およびHT-1080細胞(P = 0.0069)の両方において有意であった。特に、MDA-MB-231細胞ではないがHT-1080細胞においてBS1の効果よりもBS2の効果は大きかった(P = 0.0055)。BS1およびBS2はまた、細胞遊走の持続性を低減し、持続性が低いほど、より円形の軌道に対応し、持続性が高いと、より直線形の軌道に対応する。MDA-MB-231細胞の場合、BS1は未処理の対照細胞と比較して持続性を67%だけ(P < 0.0001)およびBS2は61%だけ(P = 0.0002)低減させた。HT-1080細胞の持続性は、未処理の対照細胞と比較してBS1により31% (P = 0.0037)およびBS2により53% (P < 0.0001)低減された。BS1と比較してBS2の優れた抗遊走効果は、そのより高い結合価(BS2は四価であるのに対し、BS1は二価である)に起因する可能性があり、その結果、見かけの親和性が高くなる。
【0119】
二重特異性抗体による処置に影響を受けないがん細胞増殖
抗転移能を有することが示されている圧倒的多数の抗がん処置も、細胞増殖に影響を与える。IL-6RおよびIL-8Rをターゲティングする二重特異性結合剤の1つの独特の特徴は、細胞遊走を阻害するのに必要な用量では、対照細胞と比較して細胞増殖に効果がないということである(図12A、B)。この知見と一致して、トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)およびトシリズマブ+ 10H2 (抗IL-6R +抗IL-8R)の併用処置は細胞増殖に影響を与えなかった。
【0120】
インビボでのパイロットにより、マウスにおける同所性乳房腫瘍異種移植モデルの最適なタイムラインおよび用量が明らかにされる
二重特異性結合剤の治療可能性を評価するために、本発明者らは、マウスの同所性乳房腫瘍異種移植モデルにおける転移を阻害するその能力を調べた。第1のインビボでのパイロット試験は、本発明者らの同所性三重陰性乳がんモデルにおける肺の微小転移の検出に最適な時点を決定するためにデザインされた。マウスに腫瘍細胞を接種し、肺での転移性負荷を評価するために4つの異なる時点で殺処理を行った。1匹のマウスにがん細胞を注射せず、それを健常対照として用いた。qPCRの結果に使用される標準的な比較分析では、サンプルごとに見られるサイクル閾値に大きな違いがあるため、データを誇張した。したがって、未加工のサイクル閾値は、より小さな遺伝子表現に当たるいっそう高い値で示されている(図13A)。この第1のパイロットに基づいて、35日を超える試験期間が転移性負荷の定量化に最適であると判定された。BS2は細胞遊走阻害試験においてBS1と同等またはそれ以上の性能を示したため、パイロット用量漸増試験にはBS1を用いた。市販のトシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)を用いた過去のインビボ試験は、30 mg/kg用量の抗体を用いて行われていた(Jayatilaka H, Tyle P, Chen JJ, Kwak M, Ju J, Kim HJ, Lee JSH, Wu P-H, Gilkes DM, Fan R, Wirtz D. Synergistic IL-6 and IL-8 paracrine signalling pathway infers a strategy to inhibit tumour cell migration. Nat Commun. 2017 26;8:15584. PMCID: PMC5458548)。したがって、第2のパイロットには、最大30 mg/kgの4回用量と、PBSで処置した対照マウスを含めた。非腫瘍担持マウスからの肺組織を健常対照として用いた。第2のパイロット試験の結果から、BS1が1 mg/kgという低い用量で転移を効果的に阻害したことが示された(図13B)。用量を最終決定するために、低用量に焦点を当てた第3のパイロット試験を行った。これらの結果は、第2のパイロットとの強い一致を示し、二重特異性が、T+Rの併用処置で観察された有効用量よりも300倍低い0.1 mg/kgという低い用量(図13C)で転移を遮断するのに有効であることを明らかにした(Jayatilaka H, Tyle P, Chen JJ, Kwak M, Ju J, Kim HJ, Lee JSH, Wu P-H, Gilkes DM, Fan R, Wirtz D. Synergistic IL-6 and IL-8 paracrine signalling pathway infers a strategy to inhibit tumour cell migration. Nat Commun. 2017 26;8:15584. PMCID: PMC5458548) (図13C)。1 mg/kg用量のBS1は両方のパイロットにおいて極めて効果的であったため、その用量が、(統計的有意性を達成するために適切なサイズ群を用いた)全試験のなかで両方の二重特異性結合剤に対して選択された。
【0121】
二重特異性抗体は、モノクローナル抗体および抗体/低分子の併用処置よりも効果的に、マウスの同所性乳房腫瘍異種移植モデルにおける転移を阻害する
パイロット試験に導かれて、マウスにおける完全同所性のMDA-MB-231三重陰性乳がん同所性異種移植モデルがデザインされた。処置群(コホートあたりn = 5匹のマウス)には、PBS、トシリズマブに加えてレパリキシン(T+R)、トシリズマブ+10H2 (抗IL-6R + 抗IL-8R)、BS1、およびBS2が含まれた。腫瘍増殖を5週間モニタリングし、全群において同様の傾向を示した(図14)。35日目に、試験を終結し、腫瘍および肺を切除した。予想通り、どのコホート間でも最終腫瘍重量に差は見られず(図15)、どの処置も増殖に影響を与えなかったというインビトロでの知見を裏付けている。肺での転移性負荷に関しては、二重特異性抗体はT+R併用処置および抗IL-6R +抗IL-8R併用処置よりも良好に機能し、BS1およびBS2の両方がPBSで処置した対照マウスと比較して肺での腫瘍細胞DNAをほぼ50%だけ低減させた(図16)。この有望な知見は、マウス肺組織のH&E染色によって確認された(図17)。
【0122】
SEQ ID NO: 1
例示的なリンカー
GGGS

SEQ ID NO: 2
例示的なリンカー
GGGGS

SEQ ID NO: 3
例示的なリンカー
GGSG

SEQ ID NO: 4
例示的なリンカー
GSAAAGGSGGSGGS

SEQ ID NO: 5
例示的なリンカー
GGGSGGGS

SEQ ID NO: 6
ヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメイン、野生型

SEQ ID NO: 7
「ホール」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメイン(位置249、251、および290での例示的なホール置換は太字とされ、下線が引かれている)

SEQ ID NO: 8
「ノブ」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメイン(位置249での例示的なノブ置換は太字とされ、下線が引かれている)

SEQ ID NO: 9
トシリズマブ軽鎖および重鎖ならびに「ホール」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメインを有するBS1抗体鎖1
関連するドメインを以下に示す(N末端からC末端の方向に記述)
・シグナル配列は濃い陰影で示されている
・トシリズマブ軽鎖可変領域には下線が引かれている
・トシリズマブ軽鎖定常領域は斜体で表示されている
・リンカー領域は薄い陰影で示されている
・トシリズマブ重鎖可変領域は太字テキストである
・位置645、647、および686での例示的なホール置換は、太字かつ下線付きのテキストである

SEQ ID NO: 10
トシリズマブ軽鎖および重鎖ならびに「ホール」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメインを有するBS1抗体鎖1をコードする核酸配列

SEQ ID NO: 11
10H2軽鎖および重鎖ならびに「ノブ」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメインを有するBS1抗体鎖2
関連するドメインを以下に示す(N末端からC末端の方向に記述)
・シグナル配列は濃い陰影で示されている
・10H2軽鎖可変領域には下線が引かれている
・10H2軽鎖定常領域は斜体で表示されている
・リンカー領域は薄い陰影で示されている
・10H2重鎖可変領域は太字テキストである
・位置642での例示的なノブ置換は、太字かつ下線付きのテキストである

SEQ ID NO: 12
10H2軽鎖および重鎖ならびに「ノブ」置換を有するヒトIgG1 CH1、CH2、およびCH3ドメインを有するBS1抗体鎖2をコードする核酸配列

SEQ ID NO: 13
例示的なリンカー

SEQ ID NO: 14
BS2 10H2重鎖
関連するドメインを以下に示す(N末端からC末端の方向に記述)
・シグナル配列は濃い陰影で示されている
・10H2可変重鎖領域は斜体で表示されている

SEQ ID NO: 15
BS2 10H2 + トシリズマブscFv軽鎖
関連するドメインを以下に示す(N末端からC末端の方向に記述)
・シグナル配列は濃い陰影で示されている
・10H2可変軽鎖領域には下線が引かれている
・κ定常軽鎖領域は斜体で表示されている
・リンカー領域は薄い陰影で示されている
・トシリズマブ可変重鎖領域は太字テキストである
・scFvリンカー領域は、下線付きのテキストで薄い陰影にて示されている
・トシリズマブ可変軽鎖領域は、太字かつ下線付きのテキストである

SEQ ID NO: 16
トシリズマブ重鎖可変領域CDR1
SDHAWS

SEQ ID NO: 17
トシリズマブ重鎖可変領域CDR2
YISYSGITTYNPSLKS

SEQ ID NO: 18
トシリズマブ重鎖可変領域CDR3
SLARTTAMDY

SEQ ID NO: 19
トシリズマブ軽鎖可変領域CDR1
RASQDISSYLN

SEQ ID NO: 20
トシリズマブ軽鎖可変領域CDR2
YTSRLHS

SEQ ID NO: 21
トシリズマブ軽鎖可変領域CDR3
QQGNTLPYT

SEQ ID NO: 22
10H2重鎖可変領域CDR1
GITFKTNA

SEQ ID NO: 23
10H2重鎖可変領域CDR2
IRTKSYNYAT

SEQ ID NO: 24
10H2重鎖可変領域CDR3
VREGR

SEQ ID NO: 25
10H2軽鎖可変領域CDR1
TGAVTTSNY

SEQ ID NO: 26
10H2軽鎖可変領域CDR2
GTN

SEQ ID NO: 27
10H2軽鎖可変領域CDR3
ALWYSNHLV

SEQ ID NO: 28
フォワードHK2ヒト

SEQ ID NO: 29
フォワードα-チューブリン ヒト

SEQ ID NO: 30
フォワードα-チューブリン マウス

SEQ ID NO: 31
フォワードβ-アクチン ヒト

SEQ ID NO: 32
フォワードβ-アクチン マウス

SEQ ID NO: 33
フォワードGAPDH ヒト

SEQ ID NO: 34
フォワードGAPDH マウス

SEQ ID NO: 35
フォワードRPL13A ヒト

SEQ ID NO: 36
フォワードRPL13Aマウス

SEQ ID NO: 37
フォワード18s ヒト

SEQ ID NO: 38
フォワード18s マウス

SEQ ID NO: 39
リバースHK2 ヒト

SEQ ID NO: 40
リバースα-チューブリン ヒト

SEQ ID NO: 41
リバースα-チューブリン マウス

SEQ ID NO: 42
リバースβ-アクチン ヒト

SEQ ID NO: 43
リバースβ-アクチン マウス

SEQ ID NO: 44
リバースGAPDH ヒト

SEQ ID NO: 45
リバースGAPDH マウス

SEQ ID NO: 46
リバースRPL13A ヒト

SEQ ID NO: 47
リバースRPL13A マウス

SEQ ID NO: 48
リバース18s ヒト

SEQ ID NO: 49
リバース18s マウス
【0123】
他の態様
本発明をその詳細な説明と併せて記述してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例示することを意図しており、限定するものではないことが理解されるべきである。他の局面、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022534513000001.app
【国際調査報告】