(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-01
(54)【発明の名称】急性骨髄性白血病(AML)における、IL-1RAPを標的とするCAR-T細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220725BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220725BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220725BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220725BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220725BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220725BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20220725BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220725BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N5/10
C12N5/0783
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570800
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2020064636
(87)【国際公開番号】W WO2020239801
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512217400
【氏名又は名称】エタブリスマン フランセ デュ サン
(71)【出願人】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(71)【出願人】
【識別番号】520180817
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ドゥ ブザンソン
(71)【出願人】
【識別番号】515100581
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド フランシューコンテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE FRANCHE-COMTE
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デシャン, マリーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェラン, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラロザ, ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】ワルダ, ワリド
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA42
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】急性骨髄性白血病(AML)における、IL-1RAPを標的とするCAR-T細胞及びその使用の提供。
【解決手段】本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を含む細胞であって、上記CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有する細胞に関する。
【選択図】
図12B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を、その膜で発現する細胞であって、該CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有し、該抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する、細胞。
【請求項2】
前記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも95%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する、請求項1又は2に記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞は、T細胞であり、好ましくはCD8+T細胞である、請求項1~3のいずれかに記載の細胞。
【請求項5】
前記IL-1RAP結合領域は、抗体、Fv、scFv、Fab、又は他の抗体断片からなる群より選択され、好ましくはscFvである、請求項1~4のいずれかに記載の細胞。
【請求項6】
前記膜貫通領域は、T細胞受容体のα、β、又は、ζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及び、CD154からなる群より選択されるタンパク質の膜貫通領域であり、好ましくはCD28の膜貫通領域である、請求項1~5のいずれかに記載の細胞。
【請求項7】
前記抗IL-1RAP結合領域は、ヒンジ領域によって前記膜貫通領域と接続しており、好ましくは、該ヒンジ領域は、IgG1のヒンジ配列又はその同一性が95~99%である配列を有する、請求項1~6のいずれかに記載の細胞。
【請求項8】
前記細胞内シグナル伝達領域は、少なくとも1つの共刺激領域を有し、好ましくは、前記機能的細胞内シグナル伝達領域の該少なくとも1つの共刺激領域は、OX40、CD2、CD27、CD28、CDS、CD3ζ、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、及び、4-1BB(CD137)からなる群より選択される1種以上のタンパク質から得られ、好ましくは4-1BB(CD137)から得られ、且つ/又は、CD3ζから得られる、請求項1~7のいずれかに記載の細胞。
【請求項9】
前記AMLは、(i)難治性/再発性のAMLであるか、又は、(ii)複雑な細胞遺伝学的異常を有するAML及び/又はTP53変異を有するAMLである、請求項1~8のいずれかに記載の細胞。
【請求項10】
前記AMLは、難治性/再発性のIL1-RAP発現AML等のIL1-RAP発現AMLである、請求項1~9のいずれかに記載の細胞。
【請求項11】
抗チェックポイント阻害剤などの少なくとも1つのモノクローナル抗体と結合している、請求項1~10のいずれかに記載の細胞。
【請求項12】
前記治療は、自家移植(autologous)治療である、請求項1~11のいずれかに記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を含む細胞であって、上記CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を含む細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有する細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML。“acute myeloid leukemia”、“acute myelocytic leukemia”、“ acute myeloblastic leukemia”、“acute granulocytic leukemia”、及び、“acute nonlymphocytic leukemia”としても知られる。)は、骨髄、末梢血、時には他の組織での白血病芽球の無秩序な増殖と蓄積を特徴とする壊滅的なクローン性造血幹細胞新生物である。これらの細胞は正常な造血を阻害し、急速に骨髄不全や死を引き起こす。AMLは成人の急性白血病の中で最も一般的なタイプであり、白血病による年間死亡者数の最大の原因となっている。AMLは急速に進行し、治療せずに放置すると数週間から数ヶ月以内に命を落とすのが一般的である。米国では2015年に約20,830人のAMLの新規症例があり、10,460人の患者がこの病気で亡くなった。診断時の年齢の中央値は約70歳である。60歳未満の患者の全体的な5年生存率は約30~40%、60歳以上の患者では10%未満にとどまる。
【0003】
現在、AMLの標準的な治療法は、高用量の化学療法又は高線量の放射線療法による寛解導入療法に続いて、同種幹細胞移植と必要に応じた化学療法の追加コースからなる強化療法である。この方法で治療を受けたほとんどの患者は、一過性ではあるが、完全な寛解を得ることができる。再発すると、この病気はさらなる治療に対してますます抵抗性となる。
【0004】
過去30年間で、若い患者の治療成績は多少改善されたが、高齢の患者の治療成績は基本的に変わっていない。残念ながら、初期の完全寛解を達成した患者を含め、AMLの患者の大部分は病気の再発を経験する。第二寛解期の同種造血幹細胞移植は、長期生存の唯一の可能性を秘めているが、第二寛解が得られないか、移植に耐えられないため、ほとんどの再発AMLの患者はこの選択肢を利用できない。
【0005】
再発したAMLに対しては、MEC(ミトキサントロン、エトポシド、シタラビン)及びFLAG-IDA(フルダラビン、シタラビン、イダルビシン、顆粒球コロニー刺激因子)など、複数の多剤併用化学療法によるサルベージレジメンがある。しかし、これらのレジメンはいずれも他のレジメンよりも優れておらず、長期的な生存率が得られないため、受け入れられる標準治療ではない。NCCN(米国立総合癌情報ネットワーク)などのガイドラインでは臨床試験が推奨されており、再発AMLは緊急性のある未充足の医療ニーズであることが広く認識されている。
【0006】
現在、AML、特に再発AMLを治療するために、抗体-薬物二重特異性T細胞誘導抗体(AMG330)やCAR-T細胞(CART-33細胞又はCART-123細胞)など、多くの新規アプローチが研究されている。しかし、いくつかの新しいアプローチは、臨床的な毒性及び/又は有効性の欠如のために保留されている。そのため、許容できる毒性プロファイルを持つ効率的な新しい治療法が必要とされている。
【0007】
AMLにおいて、遺伝子発現のプロファイリング研究、細胞表面染色研究、ウェスタンブロッティング研究により、正常なCD34+/CD38-造血幹細胞では発現されないが白血病性のものでは発現される細胞表面バイオマーカー(IL-1RAP、IL-1R3、C3orf13、又は、IL-1RAcP)が明らかとなった。また、IL-1RAPの発現は、腫瘍量やAML疾患の臨床相と相関している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
IL-1RAP(インターロイキン-1受容体アクセサリータンパク質、Genbankアクセッション番号AAB4059)は、IL-1シグナル伝達に関与するIL-1及びIL33受容体の共受容体であり、炎症及び増殖に関わるMAPキナーゼ、p38、NF-κB等の遺伝子等、各種のシグナル伝達経路を活性化する。このタンパク質は腫瘍細胞表面で発現される。従って、IL-1RAPは有望な腫瘍関連抗原である。
【0009】
本出願人は、このCART-IL-1RAP細胞を用いることで、AMLの患者を治療しうることを見出した。
【0010】
従って、本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を、その膜で発現する細胞であって、該CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有し、該抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖と
を有する細胞に関する。
【0011】
本明細書では、CARを発現するT細胞を「CAR T細胞」又は「CAR改変T細胞」と呼ぶ。本明細書では、IL1-RAPを標的とするCARを発現するT細胞を「CART-IL1-RAP細胞」又は「CART-IL1-RAP改変T細胞」と呼ぶ。
【0012】
本発明で使用される細胞は、AMLの治療に使用するための、本明細書に記載されるCARを発現するように遺伝子改変されている。本明細書中、「遺伝子操作された」又は「遺伝子改変された」という語は、追加の遺伝子材料をDNA又はRNAとして細胞内の全遺伝子材料に付加することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】様々な造血性AML細胞株及びCD14+細胞で選別した単球のウェスタンブロッティングである。
【
図2】ELISA法による#E3C3mAbを用いたIL-1RAP組換えタンパク質の識別を表す(b)。BSAをネガティブコントロールとする(a)。
【
図3】患者のAML初代試料に対するフローサイトメトリー・ゲーティング戦略を示す。RFIは、芽球と単球の亜集団について示される(左)。通常の(routine)AML(全サブタイプ)患者(n=30)の群におけるAML芽球及び単球内のIL-1RAP+の割合、AML芽球内のCD123+細胞及びIL-1RAP+/CD123+細胞の割合である(右上)。RFIも示される(右下)。
【
図4】凍結組織アレイを用いた特異的な組織結合を表す。(a)IL-1RAP高発現(KU812)又は(b)ネガティブ発現(Raji)細胞株をそれぞれポジティブコントロール又はネガティブコントロールとして使用した。以下の組織を試験した。a:リンパ節、b:結腸、c:小腸、d:胎盤、e:胃、f:肺、g:脾臓、h:前立腺。
【
図5】安全カセットiCASP9、#E3C3mAbの一本鎖可変領域断片(scFv)、及び細胞表面発現マーカーΔCD19を有するSINレンチウイルスコンストラクトの設計を表す。3つの導入遺伝子は2Aペプチド切断配列で分離され、EF1プロモーター+SP163エンハンサー配列で制御されている。
【
図6】IL-1RAP形質導入T細胞の細胞内画分に対するCD3のウェスタンブロッティングを表す。a:全ライセート、b:膜、c:細胞質、d:核。(1)CD3ζと結合したCAR(55kDa)、(2)内在性CD3ζ(16kDa)、(3)CD45(147kDa)、(4)ラミン(68kDa)、(5)GAPDH(35kDa)。
【
図7】IL-1RAP CAR形質導入CEM T細胞株又は初代T細胞のいずれかのFACS分析検出を表す。ビオチン+/CD19+CEM又はT細胞のパーセンテージ(a)を、標識ビオチン組換えタンパク質の量(b)に対してプロットした。
【
図8】化学誘導二量体形成物質(10nM CID)暴露後のiCASP9/AP1903自殺系カセットの安全スイッチを表す。(a)293T細胞、(b)IL-IRAP CAR 293T細胞。
【
図9】非形質導入T細胞(C0)と比較した、24時間又は48時間CID暴露後のIL-1RAP CART細胞の除去を表す(
*** p<0.001、n=3)。
【
図10A】フローサイトメトリーCFSE色素希釈分析のゲーティング戦略を表す代表的な実験例である。
【
図10B】分裂しているCFSEポジティブ細胞の合計の割合を表す。3つの独立した試験の平均±SDである。*** p<0.001 (学生試験)。
【
図11A】細胞内IFNγサイトカイン検出のためのゲーティング戦略を表す代表的な実験例である。
【
図11B】全細胞内IFNγ産生細胞の割合を表す。CD8+細胞及びCD8-(主にCD4+)細胞についての3つの独立した試験の平均±SDである。*** p<0.001。** p<0.01(学生試験)。
【
図12A】細胞表面のIL-1RAP発現細胞を溶解するIL-1RAP CAR T細胞の有効性研究のためのゲーティング戦略を表す。
【
図12B】標的生細胞全体の割合を表す。3つの独立した試験の平均±SDである。
【
図13A】組織マイクロアレイを表す。1器官あたり3名の個々のドナーから得た90個の組織コア(30器官)(US Biomax、米国メリーランド州ロックビル)を含む、米国食品医薬品局標準の凍結組織アレイの代表的な#A3C3染色を表す。UltraView Universal DAB検出キット(Ventana、米国)を用いて免疫染色を検出した。NDP.view 2.0ソフトウェアで画像を取得し、分析した。分析した3名のうち少なくとも1名において#A3C3mAbによりある程度の染色を示した組織を表示する(スケールバー:100μm)。IL-1RAP高発現(KU812)又はネガティブ発現(Raji)細胞株をそれぞれポジティブ又はネガティブコントロールとして用いた。
【
図13B】HMEC-1皮膚内皮細胞株のIL-1RAP R&D(赤)又は#A3C3(青)染色を表す。アイソタイプIgG1(灰色)を重ねて示す。RFIを両方の染色について示す。
【
図14A】
図14は、健常造血細胞に対するIL-1RAP CAR T細胞の効果及び自殺遺伝子iCASP9安全カセットの効率を表す。
図14Aは、健常ドナー(n=5)の末梢血細胞(左)又は骨髄細胞(右)に対するIL-1RAP細胞表面発現を表す。SSC-A/CD45+により、リンパ球(低SSC-A)、単球(CD33+)、顆粒球(高SSC-A)、又は、HSC(CD33-/CD34+)として亜集団を識別できた。RFIはアイソタイプ染色から算出し、各ウインドウに示した。
【
図14B-1】全ヒト臍帯血細胞の代表的な(3つのうち1つ)IL-1RAP染色を表す。全CD34+、CD34+/CD38-、及び、CD34+/CD38+HSC臍帯血亜集団についてIL-1RAP染色を示す。
【
図14B-2】全ヒト臍帯血細胞の代表的な(3つのうち1つ)IL-1RAP染色を表す。全CD34+、CD34+/CD38-、及び、CD34+/CD38+HSC臍帯血亜集団についてIL-1RAP染色を示す。
【
図14C】健常ドナー(n=5)の臍帯血(CB、n=5)又は骨髄(BM)におけるCD34+細胞中のIL-1RAPポジティブ細胞を、CML患者のBM(n=10)又は末梢血(PB、n=10)から得たCD34+細胞と比較して表す。
【
図14D】左:各種のエフェクター:ターゲット(E:T)比の自家(autologous)非形質導入T細胞又はMock若しくはIL-1RAP CAR T細胞の存在下で培養したSSC-A/CD45+顆粒球(G)、単球(M)、及び、リンパ球(L)亜集団のドットプロットを表す。右:自家Mock T細胞(破線)又はIL-1RAP CAR T細胞(実線)とともに24時間共培養した非形質導入自家T細胞(C0)で標準化した、リンパ球(四角)、単球(円)、及び顆粒球(三角)中の生存細胞の相対パーセンテージを表す。
【
図14E】各種のE:T比のMock(黒、破線)又はIL-1RAP CAR T細胞(白、実線)の存在下、単球(四角)、KU812(円)、又は、K562(三角)亜集団中の生存細胞の相対パーセンテージを表す。パーセンテージは、5000蛍光ビーズサイトメトリー取得に基づきTrucountチューブを用いて測定した絶対細胞数により算出した。
【
図14F】左:CID AP1903誘導細胞死の絶対数に対するゲーティング戦略及び分析を表す。非形質導入(C0)又はIL-1RAP CAR T細胞を培地のみ又は培地+CID(20nM、24時間)に暴露した。5000個の蛍光ビーズを取得してから定量を行った。致死効率をコントロール細胞(未処理細胞)で標準化した。細胞致死を以下の通り算出した。死細胞%=[1-(AP1903処理細胞中の生細胞の絶対数/未処理細胞中の生細胞の絶対数)]×100。(D)死亡率の絶対パーセンテージ。C0又はIL-1RAP CAR(CD3+/CD19+でゲーティング)T細胞のCID暴露24時間又は48時間。右:結果は3つの独立した試験の平均である。
**p<0.001。
【
図14G】腹腔内AP1903(白棒)治療の24時間後の腫瘍(CML KU812、静注)異種移植NSGモデルに注射したIL-1RAP CAR T細胞の絶対定量を表す(n=3のマウス/群)。コントロールT細胞(C0)を注入したマウスをコントロールとして使用した(n=2のマウス/群)。
**p<0.01。細胞数は末梢血1mlあたりで示す。
【
図15】ヒト-CD34+臍帯血細胞生着/NOGマウスモデル(hu-NOG)において自家IL-1RAP CART細胞のHSC及び/又は免疫細胞に対する特異的な毒性を検討するための、免疫安全実験ヒトCD34+生着NOGマウスモデルを表す。簡潔に言うと、10×10E6個の自家CART細胞又はコントロールT細胞(C0)(マウスPBMC、脾臓、又は骨髄から細胞選別したヒトCD45+から得た)を注入した。注入後の各時点(5日目、8日目、及び、15日目)において、サイトメトリーにより成熟免疫細胞(hCD3+、hCD19+、hCD56+、hCD14+、hCD11b+)のモニタリングを評価した。CART細胞注入前の-7日目に取得した基準免疫表現型から倍率変化を算出し、末梢血採取時(-9日目)と比較した。非形質導入(C0、白棒)又はIL-1RAP CART細胞(黒棒)の3日目、8日目、及び、15日目の各種免疫担当細胞亜集団の倍率変化を、末梢血採取時(-9日目)と比較した。後眼窩試料から採取した末梢血で細胞数をカウントし、-7日目を基準として倍率変化を算出した。n.s:非有意。
【
図16】3つの異なる臍帯血から採取し、単独培養(白棒)、又は、それぞれの自家非形質導入(C0、灰棒)若しくはIL-1RAP CART細胞(黒棒)とともに共培養した、CD34+HSCのコロニー形成単位(CFU-GM)試験を表す。
【
図17】上図:形質導入293T細胞に対するCID効果の光学顕微鏡による評価を表す。下図:CID AP1930暴露後のIL-1RAP CART細胞のフローサイトメトリー分析を表す。IL-1RAP CARを発現する又はしないGMTC混合物及び非形質導入T細胞(C0)に対するCID暴露(20nM、24時間、濃灰色)後又は非暴露(薄灰色)でのフローサイトメトリー分析である。CD3+/CD19+染色により、CARを発現するGMTCを識別できた。
【
図18】欧州白血病ネット(ELN)の予後分類に従ったAML患者の初代試料におけるIL-1RAP mRNAの発現及び細胞表面のIL-1RAP抗原の絶対部位を表す。
【
図19A】
図19は、IL-1RAP CART細胞のAML芽球の細胞傷害性を表す。ゲーティング戦略を表す。CD34抗体を用いて標的となるAML芽球を同定した(
図19A)。IL-1RAP CART細胞の細胞傷害性を示すAML芽球のイベント数も示している(
図19A)。
【
図19B】3つの独立した試験の結果を
図19Bに示す。
図19A及び
図19Bの凡例:FSC:前方散乱(Forward Scatter)、細胞の大きさを示す。7-AAD:7-アミノアクチニマイシンD、細胞生存率のマーカー。E-Fluor:細胞膜を染色する色素。#1と#2の試験は、健常ドナーから作られた同種のIL-1RAP CART細胞を用いて行われた。#3の試験は、AML患者のT細胞から作られた同種のIL-1RAP CART細胞を用いて行われた。生存細胞とは、生存AML芽球を意味する。
【
図20A】
図20は、ヒトAMLマウス異種移植モデルにおけるIL-1RAP CAR-T細胞の有効性を表す。免疫不全NSG-Sマウスに放射線(2.5Gy)を照射し、後日(3日目)HL-60又はMolm-13又はMono-Mac-6のルシフェラーゼ発現AML細胞のいずれかを1×10
6個注射した。
図20A:AML細胞注入後の0日目に、マウスを無処置、又は、コントロールT細胞、すなわちMockT又はUNT細胞(300μLのPBS中、細胞10x10
6個)若しくはIL-1RAP CAR-T細胞(300μLのPBS中、細胞10x10
6個)で処理し、白血病発症について生物発光イメージング(BLI)を用いて記載した日数でモニターした。マウスの生物発光イメージング分析は、0日目から21日目まで異なるグループについて行われた。凡例:(×): 死亡マウス。▲:UNT又はIL-1RAP CAR T細胞の注入。
【
図20B】生物発光イメージング(BLI)を用いて採取したインビボでの生物発光信号の輝度(輝度 p/s/cm2/sr)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を含む細胞であって、上記CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有し、上記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖と
を有する、細胞に関する。
【0015】
以下の表に配列識別子をまとめる。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
「#E3C3」と「#A3C3」の用語は、同一のものとして理解される。「#E3C3」を「#A3C3」を言うものとして自由に用いることができ、逆もまた同一である。
【0020】
IgG1、IgG4、CD8α、4-1BB、CD3ζ、CD28、及びICasp9遺伝子のヒンジ領域の配列は、Genbankで入手できる。
【0021】
本発明の実施においては、そうでないということが特に明示されない限り、当該技術分野の範囲内にある化学、生化学、有機化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、遺伝学、免疫学、及び細胞生物学の従来の方法が採用され、これらの多くを説明のため以下に記載する。これらの方法は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd Edition,2001);Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,updated July 2008);Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Glover,DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(IRL Press,Oxford,1985);Anand,Techniques for the Analysis of Complex Genomes(Academic Press,New York,1992);Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins,Eds.,1984);Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984);Harlow and Lane,Antibodies(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1998);Current Protocols in Immunology,Q.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach and W.Strober,eds.,1991);Annual Review of Immunology;及びAdvances in Immunology等の学術誌の論文を参照されたい。
【0022】
特に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。本発明の実施又は試験においては、本明細書で記載したのと類似又は同等の方法及び材料を使用できるが、本明細書には組成、方法、及び材料の好ましい実施形態を記載している。
【0023】
当業者に理解されるように、また本明細書のどこかで記載する通り、完全抗体は2つの重鎖と2つの軽鎖とを有する。各重鎖は可変領域と第1、第2、及び第3定常領域とで構成され、各軽鎖は可変領域と定常領域とで構成される。哺乳類の重鎖はα、δ、ε、γ、及びμに分類され、哺乳類の軽鎖はλ又はκに分類される。α、δ、ε、γ、及びμ重鎖を有する免疫グロブリンは、免疫グロブリン(Ig)A、IgD、IgE、IgG、及びIgMに分類される。完全抗体は「Y字」型を形成する。Y字の幹部は、互いに結合した2つの重鎖の第2及び第3定常領域(IgE及びIgMの場合、更に第4定常領域)で構成され、ヒンジ部で(鎖間)ジスルフィド結合が形成される。γ、α、及びδ重鎖は、3つのタンデム型(直列型)Ig領域で構成された定常領域と、柔軟性を付与するヒンジ領域とをもつ。μ及びε重鎖は、4つの免疫グロブリン領域で構成された定常領域をもつ。第2及び第3定常領域は、それぞれ「CH2領域」及び「CH3領域」ともいう。Y字の各腕部は、可変領域と、可変領域に結合した単一重鎖の第1定常領域と、単一軽鎖の定常領域とをもつ。軽鎖及び重鎖の可変領域は抗原結合を担う。
【0024】
軽鎖及び重鎖の可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」ともいわれる3つの超可変領域で分断された「フレームワーク」領域をもつ。CDRは、Kabat et al(Wu,TT and Kabat,E.A.,J Exp Med.132(2):211-50,(1970);Borden,P.and Kabat E.A.,PNAS,84:2440-2443(1987);(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991参照)の配列、又はChothia et al(Choithia,C. and Lesk,A.M.,J Mol.Biol.,196(4):901-917(1987),Choithia,C.et al,Nature,342:877-883(1989))の構造等といった従来の方法によって定義又は同定できる。
【0025】
異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、ヒト等の種内では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成する軽鎖及び重鎖の組み合わさったフレームワーク領域であり、3次元空間にCDRを配置及び配列させるよう機能する。CDRは、主に抗原のエピトープへの結合を担う。各鎖のCDRは、典型的には、N末端から順に番号が付けられてCDR1、CDR2、及びCDR3といわれ、また典型的には、個々のCDRが位置する鎖によって特定される。従って、抗体の重鎖の可変領域に位置するCDRはCDRH1、CDRH2、及びCDRH3といわれ、抗体の軽鎖の可変領域に位置するCDRはCDRL1、CDRL2、及びCDRL3といわれる。特異性の異なる(すなわち、異なる抗原に対して異なる結合部位を有する)抗体は、異なるCDRを有する。
【0026】
「VH」又は「VH」とは、免疫グロブリン重鎖の可変領域を意味しており、本明細書で開示される抗体、Fv、scFv、Fab、又は他の抗体断片のものを含む。
【0027】
「VL」又は「VL」とは、免疫グロブリン軽鎖の可変領域を意味しており、本明細書で開示される抗体、Fv、scFv、dsFv、Fab、又は他の抗体断片のものを含む。
【0028】
「モノクローナル抗体」は、Bリンパ球の単一クローンによって、又は単一抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子がトランスフェクトされた細胞によって産生される抗体である。モノクローナル抗体は、当業者に知られている方法、例えば、骨髄腫細胞を免疫脾臓細胞と融合させてハイブリッド抗体形成細胞を作製することで得られる。モノクローナル抗体はキメラモノクローナル抗体及びヒト化モノクローナル抗体を含む。
【0029】
本明細書中、「a」、「an」、及び「the」という冠詞は、当該冠詞の文法的対象が1つであること又は1つより多いこと(すなわち、少なくとも1つであること)を意味する。
【0030】
本明細書中、「約」又は「およそ」という語は、基準となる分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量、又は長さに対して30%、25%、20%、25%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%分変動する分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量、又は長さを意味する。特定の実施形態において、「約」又は「およそ」という語は、数値の前に使用した場合、その値±15%、10%、5%、又は1%の範囲であることを示す。
【0031】
本明細書を通じて、文脈上別段の解釈が必要とされない限り、「有する(comprise、comprises、及び、comprising)」という語は、記載された工程若しくは要素、又は工程若しくは要素の群を包含することを意味しており、他の任意の工程若しくは要素、又は工程若しくは要素の群を除外することは意味していないと解釈される。
【0032】
本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「ある実施形態」、「追加実施形態」、「更なる実施形態」、又はそれらの組み合わせとは、当該実施形態に関して記載された特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。
【0033】
本発明の目的のために、「同一性」又は「相同性」は、比較ウインドウ中の2つのアライメント配列を比較することで算出される。配列をアライメントすることで、比較ウインドウ中の2つの配列に共通する位置(ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を決定できる。次いで、共通する位置の数を比較ウインドウ中の全位置数で割り、100を掛けることで、相同性のパーセンテージが得られる。配列同一性のパーセンテージの決定は、手動で、又はよく知られたコンピュータープログラムを用いて実施できる。
【0034】
本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療に使用するための、細胞傷害性を腫瘍細胞へリダイレクトする遺伝子操作された受容体を発現するよう設計されたベクターで遺伝子操作された免疫エフェクター細胞を提供する。本明細書中、該遺伝子操作された受容体をキメラ抗原受容体(CAR)という。
【0035】
CARは、標的抗原(腫瘍抗原等)に対する抗体に基づいた特異性をT細胞受容体活性化細胞内領域と組み合わせることで、特異的な抗腫瘍細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を生成する分子である。本明細書中、「キメラ」という語は、由来の異なる種々のタンパク質又はDNAの一部分で構成されていることを表す。
【0036】
CARの主な特性は、免疫エフェクター細胞特異性をリダイレクトすることで、増殖、サイトカイン産生、貪食、又は主要組織適合性(MHC)とは独立して標的抗原発現細胞の細胞死を媒介し得る分子の産生を引き起こし、モノクローナル抗体、可溶性リガンド、又は細胞特異的共受容体の細胞特異的標的化能を活用することができることである。
【0037】
本明細書中、「結合領域」、「細胞外結合領域」、「抗原特異的結合領域」、及び「細胞外抗原特異的結合領域」という語は互換的に使用され、対象である標的抗原と特異的に結合できる能力をCARに付与する。結合領域は、生物学的分子(細胞表面受容体、腫瘍タンパク質、脂質、多糖等の細胞表面標的分子、又はそれらの成分等)を特異的に認識して結合できる能力を有する任意のタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、又はペプチドを有していてもよい。結合領域には、対象である生物学的分子に対する任意の天然、合成、半合成、又は組換え生成された結合パートナーが含まれる。本明細書中、「特異的結合親和性」、「特異的に結合する」、「特異的に結合した」、「特異的な結合」、又は「特異的に標的とする」という語は、バックグラウンド結合よりも結合親和性が高い分子間の結合を表す。結合領域(又は結合領域を有するCAR又は結合領域を含む融合タンパク質)は、親和性又はKa(すなわち、1/M単位の特定の結合相互作用の平衡会合定数)が例えば約105M-1以上で標的分子と結合又は会合する場合、標的分子と「特異的に結合する」。本開示に係る結合領域ポリペプチド及びCARタンパク質の親和性は、競合ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)のような従来の方法で容易に測定できる。
【0038】
上記抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、キメラ抗体、又は、ヒト化抗体である。
【0039】
ある好ましい実施形態において、上記抗体は、腫瘍細胞上の表面タンパク質と特異的に結合するキメラ抗体(キメラモノクローナル抗体等)である。「キメラ」抗体は、ヒトフレームワーク領域と、非ヒト(例えば、マウス、ラット、又は合成)免疫グロブリン由来の1種以上のCDRとを有する免疫グロブリンである。従って、恐らくはCDRを除くキメラ免疫グロブリンの全ての部分が、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応部分と実質的に同一である。キメラ又は他のモノクローナル抗体は、抗原結合又は他の免疫グロブリン機能に対して実質的に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換を追加で有することができる。キメラ抗体は、遺伝子操作によって構築できる(例えば、米国特許第5,585,089号明細書を参照)。
【0040】
抗体にはその抗原結合断片が含まれ、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、F(ab)’3断片、Fv、一本鎖Fvタンパク質(「scFv」)、及び抗原結合を担う全長抗体の一部が挙げられる。また、上記用語は、ヒト化抗体、ヘテロ結合抗体(バイスペシフィック抗体等)、及びそれらの抗原結合断片等の遺伝子操作形態も含む。
【0041】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH領域及びVL領域を有し、これらの領域は単一のポリペプチド鎖中にいずれかの配向(VL-VH又はVH-VL等)で存在している。
【0042】
一本鎖抗体は、所望の標的に特異的なハイブリドーマのV領域遺伝子からクローニングしたものであってもよい。このようなハイブリドーマの作製はルーチン化されている。可変領域重鎖(VH)及び可変領域軽鎖(VL)をクローニングするのに採用される方法は、例えばOrlandi et al,PNAS,1989;86:3833-3837に記載されている。
【0043】
一般に、scFvポリペプチドは、VH及びVL領域間にポリペプチドリンカーを更に有し、これによりscFvは抗原結合に対して所望の構造を形成できる。
【0044】
本明細書で検討されるCARは、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ以上のリンカーを有していてもよい。特定の実施形態において、リンカーの長さは、約1~約25アミノ酸、約5~約20アミノ酸、約10~約20アミノ酸、又は任意の介在アミノ酸長である。いくつかの実施形態において、上記リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、又はそれ以上のアミノ酸長である。
【0045】
リンカーの具体例としては、グリシン重合体(G)n、グリシン-セリン重合体(Gi_sSi_5)n(式中、nは1、2、3、4、又は5以上の整数)、グリシン-アラニン重合体、アラニン-セリン重合体、及び当該分野で知られている他の可動性リンカーが挙げられる。グリシン及びグリシン-セリン重合体は相対的に不定形であるため、本明細書に記載したCAR等の融合タンパク質の領域間で中立テザーとして機能できる。グリシンはアラニンと比べても非常に多くのphi-psi空間にアクセスし、より長い側鎖を有する残基よりも制限がはるかに少ない(Scheraga,Rev.Computational Chem.1 1173-142(1992)を参照)。当業者に認識される通り、特定の実施形態におけるCARの設計には、可動性リンカーや、所望のCAR構造が得られるようにそれより可動性の低い構造を与える1つ以上の部分が含まれるように、全体又は一部が可動性であるリンカーが含まれていてもよい。
【0046】
特定の実施形態において、上記リンカーはVH領域とVL領域との間にある。
【0047】
特定の実施形態において、上記リンカーは、配列番号5のアミノ酸配列を有する又はそれで構成される。
【0048】
一実施形態において、上記IL-1RAP結合領域は、配列番号4の軽鎖可変領域のアミノ酸配列において1、2、又は3個以上30、20、又は10個以下の改変を有するアミノ酸配列をもつ軽鎖可変領域と、配列番号2の重鎖可変領域のアミノ酸配列において1、2、又は3個以上30、20、又は10個以下の改変を有するアミノ酸配列をもつ重鎖可変領域とを有するscFvである。
【0049】
上記IL-1RAP結合領域は、(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖可変領域と、(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖可変領域とを有するscFvであることが好ましい。
【0050】
一般に、CARの結合領域には1つ以上の「ヒンジ領域」が続いており、これが抗原結合領域をエフェクター細胞表面から離して配置することで、適切な細胞/細胞接触、抗原結合、及び活性化を可能とするという役割を果たす。CARは、一般に、結合領域と膜貫通領域との間に1つ以上のヒンジ領域を有する。ヒンジ領域は、天然、合成、半合成、又は組換え源のいずれかに由来するものであってもよい。
【0051】
上記抗IL-1RAP結合領域は、ヒンジ領域によって膜貫通領域と接続していることが好ましい。
【0052】
一実施形態において、上記ヒンジ領域は、IgG1のヒンジ配列又はその同一性が95~99%である配列を有する。IgGヒンジは、単一のエクソンによってコードされる。従って、本明細書で使用される「IgG1のヒンジ配列」という用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味、すなわち、ヒンジのためのIgG1エクソンによってコードされる15個のアミノ酸残基である(基礎免疫学(Fundamental Immunology)、第5版、第3章、免疫グロブリン(Immunoglobulins):構造及び機能(Structure and Function)-免疫グロブリンのヒンジ(The immunoglobulin Hinge))。
【0053】
更なる実施形態において、上記ヒンジ領域は、IgG4のヒンジ配列又はその同一性が95~99%である配列を有する。更なる実施形態において、上記ヒンジ領域は、IgG1若しくはIgG4のCH2-CH3領域又はその同一性が95~99%である配列を有していてもよい。
【0054】
更なる実施形態において、上記ヒンジ領域は、CD8α又はその同一性が95~99%である配列を有する。
【0055】
「膜貫通領域」は、細胞外結合部と細胞内シグナル伝達領域とを融合し、CARを免疫エフェクター細胞の細胞膜にアンカリングするCARの一部である。上記膜貫通領域は、天然、合成、半合成、又は組換え源のいずれかに由来するものであってもよい。
【0056】
コード化CARは、好ましくは、T細胞受容体のα、β、又はζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154からなる群より選択されるタンパク質、より好ましくはCD28の膜貫通領域を有する。
【0057】
特定の実施形態において、本明細書で検討されるCARは細胞内シグナル伝達領域を有する。「細胞内シグナル伝達領域」とは、標的抗原に結合している有効CARのメッセージを免疫エフェクター細胞の内部へと伝達して、エフェクター細胞機能、例えば、活性化、サイトカイン産生、増殖、及び細胞傷害活性(CAR結合標的細胞への細胞傷害性因子の放出等、細胞外CAR領域との抗原結合とともに引き起こされる細胞応答を含む)を引き起こすのに関与するCARの一部を意味する。
【0058】
「エフェクター機能」という語は、細胞の特殊化した機能を意味する。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、あるいはサイトカインの分泌を含む援助又は活性であってもよい。従って、「細胞内シグナル伝達領域」という語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、且つ細胞に特殊化した機能を実行するよう指示するタンパク質の一部を意味する。通常は細胞内シグナル伝達領域全体を使用できるが、多くの場合、領域全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達領域の切断部を使用する場合、エフェクター機能シグナルを伝達しさえすれば、そのような切断部を領域全体の代わりに使用してもよい。「細胞内シグナル伝達領域」という語は、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達領域の切断部を有することを意味する。
【0059】
TCRのみを介して生成されたシグナルは、T細胞を完全に活性化させるには不十分であり、二次又は共刺激シグナルも必要であることが知られている。従って、T細胞の活性化は、2つの異なるクラスの細胞内シグナル伝達領域、すなわち、TCR(TCR/CD3複合体等)を介して抗原依存的な一次活性化を開始する一次シグナル伝達領域と、抗原非依存的に作用して二次又は共刺激シグナルを提供する共刺激シグナル伝達領域とによって媒介されるといえる。好ましい実施形態において、本明細書で検討されるCARは、1つ以上の「共刺激シグナル伝達領域」を有する細胞内シグナル伝達領域を有する。
【0060】
実施形態において、上記単離核酸分子は、少なくとも1つの共刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域をコードしていてもよい。従って、この実施形態において、上記細胞内シグナル伝達領域は少なくとも1つの共刺激領域を有する。
【0061】
本明細書中、「共刺激シグナル伝達領域」又は「共刺激領域」という語は、共刺激分子の細胞内シグナル伝達領域を意味する。共刺激分子は、抗原受容体又はFc受容体以外の細胞表面分子であり、抗原との結合時にTリンパ球の効率的な活性化及び機能に必要な二次シグナルを提供する。
【0062】
上記機能的細胞内シグナル伝達領域の少なくとも1つの共刺激領域は、OX40、CD2、CD27、CD28、CDS、CD3ζ、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、及び4-1BB(CD137)からなる群より選択される1種以上のタンパク質から得られることが好ましい。
【0063】
4-1BB(CD137)から得られた共刺激領域は、4-1BBの共刺激領域のアミノ酸配列との同一性が95~99%である配列を有することがより好ましい。
【0064】
CD3ζから得られた共刺激領域は、CD3ζの共刺激領域のアミノ酸配列との同一性が95~99%である配列を有することがより好ましい。
【0065】
別の実施形態において、上記細胞内シグナル伝達領域は、4-1BBから得られた共刺激領域及び/又はCD3ζから得られた共刺激領域を有する。
【0066】
特定の好ましい実施形態において、CARは、CD3ζ一次シグナル伝達領域と1つ以上の共刺激シグナル伝達領域とを有する。上記細胞内一次シグナル伝達領域及び共刺激シグナル伝達領域は、膜貫通領域のカルボキシル末端に任意の順序で直列に連結していてもよい。
【0067】
本発明に従って使用できる細胞は、単離されていてもよい。「単離した細胞」とは、生体内の(in vivo)組織又は器官から得られた、細胞外マトリックスを実質的に含まない細胞をいう。
【0068】
本発明に係るAMLを治療するために用いられる細胞は、ベクターを用いて、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を宿主細胞のゲノム内に挿入することによって作製されてもよい。
【0069】
本明細書中、「ベクター」という語は、別の核酸分子を導入又は輸送できる核酸分子を意味する。導入された核酸は、一般に、ベクター核酸分子と連結(例えば、該分子に挿入)されている。ベクターは、細胞における自律増殖を指示する配列を含んでいてもよく、宿主細胞DNAへの組込みを可能とするのに十分な配列を含んでいてもよい。
【0070】
本発明に係るAMLを治療するために用いられる細胞は、本発明のCARをコードする核酸分子を有するベクターであって、該ベクターは、DNA、RNA、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はレトロウイルスベクターから選択され、好ましくはレンチウイルスベクターである、ベクターを用いて作製することができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記ベクターは、プロモーター、好ましくはEF-1αプロモーターを有する。
【0072】
レトロウイルスは遺伝子導入用の一般的なツールである。特定の実施形態において、レトロウイルスは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入するのに使用される。本明細書中、「レトロウイルス」という語は、そのゲノムRNAを直鎖二本鎖DNAコピーへ逆転写した後、そのゲノムDNAを宿主ゲノムへ共有結合的に組み込むRNAウイルスを意味する。ウイルスは、宿主ゲノムへ組み込まれてしまえば、「プロウイルス」と呼ばれる。プロウイルスはRNAポリメラーゼIIのテンプレートとして作用し、新しいウイルス分子を産生するのに必要な構造タンパク質及び酵素をコードするRNA分子の発現を指示する。
【0073】
従って、上記ベクターで形質導入したT細胞は、安定的な長期間持続するCAR介在性T細胞応答を引き起こすことができる。
【0074】
特定の実施形態において、上記T細胞は、上記CARをコードするレトロウイルスベクター(レンチウイルスベクター等)で形質導入される。
【0075】
本明細書中、「レンチウイルス」という語は、複雑レトロウイルスの群(又は属)を意味する。レンチウイルスの例としては、特に限定されないが、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIVタイプ1及びHIVタイプ2等)、ビスナ・マエディウイルス(VMV)、ヤギ関節炎・脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。
【0076】
「レンチウイルスベクター」という語は、構造的及び機能的遺伝要素又はその一部(主にレンチウイルスに由来するLTR等)を含むウイルスベクター若しくはプラスミドを意味する。
【0077】
「自己不活型(SIN)」ベクターとは、U3領域として知られている右側(3’)LTRエンハンサー/プロモーター領域が、1回目のウイルス複製以降のウイルス転写を妨げるように(欠失又は置換等により)改変されている複製欠損ベクター(レトロウイルス又はレンチウイルスベクター等)を意味する。
【0078】
一実施形態において、SINベクターバックボーンが好ましい。
【0079】
使用するベクターは、EF-1αプロモーター等のプロモーターを更に有することが好ましい。
【0080】
本明細書中、「プロモーター」という語は、R Aポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNA又はRNA)の認識部位を意味する。R Aポリメラーゼは、該プロモーターに作動可能に連結したポリヌクレオチドを開始及び転写する。特定の実施形態において、標的抗原を発現する細胞へT細胞をリダイレクトするのに十分なレベルで、T細胞において安定的な長期間のCAR発現を可能とするプロモーターからCARを有するポリヌクレオチドを発現することが望ましい場合がある。
【0081】
本発明に係る使用のための細胞は、ヒトT細胞等のT細胞であり、より好ましくはヒトCD8+T細胞等のCD8+T細胞である。好ましい実施形態において、本発明に係る使用のための細胞(T細胞等)は、その膜で上記CARを発現する。本明細書で使用される「その膜で」という用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者によって一般的に理解されるのと同じ意味、すなわち「細胞表面の膜で」という意味を有する。
【0082】
特定の実施形態において、本明細書に記載された免疫エフェクター細胞のインビトロ操作又は遺伝子改変に先立って、対象から細胞源を取得する。特定の実施形態において、本発明に係る使用のための細胞はT細胞を含む。T細胞は、特に限定されないが、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍等、様々な細胞源から得ることができる。ある実施形態において、T細胞は、沈降(例えばFICOLL(商標)分離)等の当業者に知られている各種方法を用いて対象から採取した血液単位から得ることができる。個体の循環血の細胞は、アフェレーシスによって得られる。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞等のリンパ球、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含む。一実施形態において、アフェレーシスによって採取した細胞は、洗浄により血漿画分を除去し、細胞を適当な緩衝液又は培地に配置して、その後の処理を実施してもよい。
【0083】
T細胞は、赤血球を溶解し、PERCOLL(商標)勾配による遠心分離等によって単球を枯渇させることで、末梢血単核細胞から単離される。ポジティブ又はネガティブ選択法によって、CD4又はCD8のようなマーカーを1つ又は複数発現するT細胞の特定の亜集団を更に単離できる。例えば、ネガティブ選択によるT細胞集団の濃縮は、ネガティブに選択された細胞に特徴的な表面マーカーに対する抗体を組み合わせることで達成できる。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を内部に有する細胞は、誘導性自殺遺伝子等の自殺遺伝子を利用して、直接毒性(すなわち、同種投与状況における移植片対宿主病)及び/又は遺伝子改変細胞の制御されない増殖のリスクを低減する。特定の態様において、上記自殺遺伝子は、上記ポリヌクレオチド又は細胞を内部に有する宿主に対して免疫原性ではない。使用できる自殺遺伝子の一例としては、誘導性カスパーゼ-9(iCASP9)、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HSV-tk)、CD20、切断型EGFR、カスパーゼ-8、又はシトシンデアミナーゼが挙げられる。カスパーゼ-9は、特定の化学誘導二量体形成物質(CID)を用いて活性化できる。他の系は、代謝プロドラッグ(ガンシクロビル)によって又は結合抗体(リツキシマブ、シツキシマブ)によって活性化できる。
【0085】
本明細書には、T細胞がCARを発現するようにエクスビボで遺伝子改変され、CAR T細胞がそれを必要とするレシピエントに注入される細胞治療の1種が開示されている。注入された細胞は、レシピエント、好ましくはヒトにおいて腫瘍細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、CAR T細胞はインビボで複製できるので、長期間持続し、腫瘍を持続的に制御できる。
【0086】
また、CARは、抗体由来受容体が結合する際にエフェクターT細胞を任意の細胞表面分子に対してリダイレクト及び活性化させることができ、MHCの制限からは独立している。
【0087】
本発明に係る使用のための遺伝子改変細胞(T細胞等)は、患者自身の細胞(自家)から構築されるが、骨髄又は末梢造血幹細胞同種移植の関係(ドナーリンパ球輸注)で同種遺伝子改変T細胞を得るために他の同種ドナーに由来するものであってもよい。CAR分子を発現する上記細胞は、哺乳類、好ましくはヒトのAMLを治療するのに有用であり、該疾患は細胞表面IL-1RAP発現と関連している。
【0088】
好ましくは、上記細胞(T細胞等)は、抗IL-1RAP結合領域を有する抗IL-1RAP scFvである抗原結合領域、CD28タンパク質の膜貫通領域、共刺激4-1BBシグナル伝達領域、及びCD3ζシグナル伝達領域を有するCAR分子を発現し、上記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する。
【0089】
AMLは、欧州白血病ネット(ELN)予後分類に従った任意のAML、及び/又は、French-American-British(FAB)分類に従った任意のサブタイプのAMLであってもよい。
【0090】
一実施形態では、AMLは再発性/難治性AMLである。
【0091】
別の実施形態では、AMLは、複雑な細胞遺伝学的異常、すなわちWHO分類に従った細胞遺伝学的異常を有する再発性/難治性AML、及び/又は、TP53変異を有するAMLである。
【0092】
TP53は、第17染色体の短腕に位置するTP53遺伝子によってコードされる腫瘍抑制タンパク質である。TP53は、DNA損傷に対するゲノムの安定性を維持する上で極めて重要な役割を果たしており、DNA修復プログラムを活性化し、細胞周期の停止を引き起こす。TP53は、ヒトの癌の半数以上で変異する。AMLでは、変異したTP53は、治療関連AMLや複雑な核型を持つ患者で主に認められる。AMLのマウスモデルを用いた研究では、ホットスポット領域での機能獲得変異が、より侵攻性の高いAMLを促進することが示されている。これまでの研究では、複雑な核型の有無にかかわらず、TP53変異の存在が患者における化学療法への反応性の低下や生存率の低下と相関することが示されている。多変量解析では、異常な細胞遺伝学的異常を伴わないTP53変異の存在は、全生存率の低下及び治療への反応性の低下を予測した。いくつかの実施形態では、AMLは、IL-1RAP発現に関連するAML(「IL1-RAP発現AML」又は「IL1-RAP+AML」としても公知である)である。
【0093】
いくつかの実施形態では、IL-1RAP発現に関連するAMLは、(i)IL1-RAP+AMLの再発性/難治性形態、又は、(ii)複雑な細胞遺伝学的異常を有するIL1-RAP+AML、及び/又は、TP53変異を有するIL1-RAP+AMLである。
【0094】
本発明による使用のための細胞は、あらゆる年齢の患者、特に60歳未満、例えば20歳未満の患者(すなわち、小児AML)、及び/又は、60歳以上の患者の治療に使用することができる。
【0095】
IL-1RAPに特異的なCAR分子を発現する細胞(T細胞等)は、ヒトのAMLを治療する方法に使用されてもよく、この場合、ヒトは、化学療法、免疫療法、又は標的療法などの少なくとも1つの治療ラインによって既に治療されている。化学療法剤は、CPX-351であってもよく、免疫療法は、モノクローナル抗体であってもよく、例えば、抗体-薬物複合体(Antibody Drug Conjugates)(ADC)(例えば、毒素に連結された抗CD33(ゲムツズマブ オゾガマイシン〔Gemtuzumab ozogamicin〕))、二重特異性抗体(Bites、例えば、抗CD33/CD3、抗CD123/CD3又は他のAML抗細胞表面マーカー/CD3)であってもよい。標的療法剤は、ミドスタウリンやクワザルチニブなどの抗変異FLT3であってもよく、IDH1阻害剤(イボシデニブ)やIDH2阻害剤(エナシデニブ)などの変異したIDH1/IDH2を標的とする薬剤であってもよい。
【0096】
従って、好ましくは、IL-1RAPに特異的なCAR分子を発現する細胞(T細胞等)は、抗チェックポイント阻害剤(すなわち、抗PD-1、抗PDL-1又は抗CTL4)などの少なくとも1つのモノクローナル抗体と結合して、哺乳動物においてAMLを治療する方法において有用である。抗PD-1、抗PDL-1又は抗CTLA4は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ又はトレメリムマブであってもよい。
【0097】
従って、IL-1RAPに特異的なCAR分子を発現する細胞(T細胞等)は、移植片対白血病、同種幹細胞移植、ドナーリンパ球輸注(DLI)、IL-1RAP CART細胞ではない以前のCART細胞療法、又は、同種もしくは自家の造血移植を既に受けたヒトにおいてAMLを治療する方法において有用である。
【0098】
本明細書中、「治療」とは、疾患の症状若しくは病理、又は病態に対して有益な又は望ましい効果を含むものであり、治療される疾患又は異常、例えばがんの1種以上の測定可能なマーカーのごくわずかな低下であってもよい。治療は、場合によっては疾患又は異常の症状の低減又は寛解のいずれかを含んでいてもよく、疾患又は異常の進行の遅延を含んでいてもよい。「治療」は、必ずしも疾患若しくは異常又はその関連症状が完全に根絶又は治癒することを指していない。
【0099】
従って、本開示は、投与を必要とする対象にキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を含む細胞を治療有効量投与することを含むAMLの治療のための方法であって、上記CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とをもつ抗体又は抗体断片を有し、上記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する、方法を提供する。
【0100】
上記細胞(T細胞等)は、単独で投与してもよく、希釈剤及び/又は他の成分(IL-2等のサイトカインや細胞集団等)と組み合わせて医薬品組成物として投与してもよい。簡潔に言うと、医薬品組成物は、医薬的又は生理学的に許容される1種以上の担体、希釈剤、又は賦形剤と組み合わせて、本明細書に記載される標的細胞集団を含んでいてもよい。該組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトール等の炭水化物;タンパク質;ポリペプチド又はグリシン等のアミノ酸;酸化防止剤;EDTA又はグルタチオン等のキレート剤;アジュバント(水酸化アルミニウム等);及び保存料を含んでいてもよい。本明細書中、「医薬的に許容される」という表現は、適切な医学的判断の範囲内において、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題又は合併症を起こすことなく、合理的なリスク・ベネフィット比に見合った形で、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適している化合物、材料、組成物、及び/又は、剤形を意味するのに用いられる。
【0101】
本発明に係る使用のための細胞は、組成物に配合されてもよい。
【0102】
従って、本発明はまた、急性骨髄性白血病(AML)の治療に用いるためのキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子を含む細胞を含む医薬品組成物等の組成物であって、上記CARは、抗IL-1RAP結合領域と、膜貫通領域と、少なくとも刺激領域を有する細胞内シグナル伝達領域とを有する抗体又は抗体断片を有し、上記抗IL-1RAP結合領域は、
(i)配列番号6のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号8のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ軽鎖と、
(ii)配列番号12のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域1(CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域2(CDR2)、及び、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である相補性決定領域3(CDR3)をもつ重鎖とを有する、組成物に関する。
【0103】
本発明に係る使用のための組成物は、血管内(静脈内又は動脈内)、腹腔内、又は筋肉内投与等の非経口投与用に処方されることが好ましい。
【0104】
本明細書中、「非経口投与された」とは、経腸及び局所投与以外の(通常は注射による)投与方法を意味しており、特に限定されないが、血管内、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節内、眼窩内、腫瘍内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、嚢下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入を含む。
【0105】
一実施形態において、CAR改変細胞又は組成物は、腫瘍、リンパ節、体循環、又は感染部位へ直接注射することで対象に投与される。
【0106】
一実施形態において、CAR改変細胞(例えば、CAR改変T細胞)は、AMLを有すると診断された対象から免疫エフェクター細胞を除去し、本明細書で記載されるCARをコードする核酸を有するベクターで該免疫エフェクター細胞を遺伝子改変することで改変免疫エフェクター細胞の集団を得、該改変免疫エフェクター細胞の集団を同対象に投与することによって、同対象を治療するのに有用である。好ましい実施形態において、上記免疫エフェクター細胞はT細胞を含む。
【0107】
投与の分量及び頻度、並びに従来のAML治療との考えられる組合せの順序は、患者の状態、AMLの種類及び重症度等の要因により決定されるが、適当な用量は、動物モデル、最終的には臨床試験で決定してもよい。
【0108】
遺伝子改変した治療細胞の「治療有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重、並びに幹細胞及び前駆細胞が個体において所望の応答を引き起こす能力等の要因に応じて変動してもよい。また、治療有効量は、ウイルス又は形質導入治療細胞の有毒又は有害作用よりも治療上有益な効果が上回るようなものである。一般的に、本明細書に記載したT細胞を含む医薬品組成物は、細胞104~109個/kg体重、好ましくは105~106個/kg体重(これらの範囲内にある全ての整数値を含む)の用量で投与してもよいといえる。
【0109】
以下の実施例を参照して、本発明を更に詳細に説明する。これらの実施例は単なる例示に過ぎず、特に明示されない限り、限定的なものではない。
【実施例】
【0110】
<実施例1:モノクローナル抗体作製>
標準的なハイブリドーマ法により、マウス抗hIL-1RAPモノクローナル抗体を作製した。
【0111】
簡潔に言うと、IL-1RAPの細胞外部分(NM_002182.2、NCBI)及びヒトIgG1のFc部分(R&D Systems、仏国リール)で構成された組換え融合タンパク質を用いて、足蹠(n=3)又は腹腔内(n=5)のいずれかでBALB/cマウス(5週齢、Charles River)を免疫化した。リンパ節又は脾臓細胞及び血液試料を採取し、細胞をマウス骨髄腫細胞株と融合した後、IL-1RAPポジティブ細胞株(KU812)及びネガティブ細胞株(Raji、KG1)に対してFACS分析(Becton Dickinson)によりスクリーニングした。
【0112】
ハイブリドーマのスクリーニングにより、IL-1RAPポジティブ細胞株(KU812又はKG-1、それぞれAML又はPhi+p210CML)とネガティブ細胞株(Tom-1、NALM-20、Jurkat、又はRaji、それぞれPhi+ p190 B-ALL、Phi-B-ALL、T-ALL、又はバーキットリンパ腫)とを識別する5つのモノクローナル抗体サブクローンを選択することができた。
【0113】
・抗体の分子キャラクタリゼーション
Wang.Z.,et al(J.Immunol.Methods,2000;233,pp167-77)のプロトコルに従い、FR1並びに重鎖及び軽鎖の定常領域に特異的な縮重プライマーで得られたクローン化PCR増幅産物のサンガーシークエンシングによって、分子キャラクタリゼーションを実施した。Brochet X.,et al.(Nucleic Acids Res.,2008,36,pp503-8)に従い、V-QUESTオンラインツールを用いて、IMGT(登録商標)データベースに対して共通ヌクレオチド配列をアライメントすることにより、V-D-J-C遺伝子再構成及びCDR3領域を同定できた。分子サンガーシークエンシングにより、5つのモノクローナル抗体は全て同一であり、同じCDR3ヌクレオチド配列を有することが分かった。サイトメトリーによる相対蛍光強度(RFI)が最も高かったことから、モノクローナル抗体サブクローン(#E3C3)を選択した。
【0114】
ウェスタンブロッティング法、組換えIL-1RAPタンパク質に対するELISA、免疫組織化学的検査、共焦点顕微鏡観察、正常組織(FDA正常ヒト器官組織アレイ、コア99個/33部位/75症例)及びCML患者の一次試料の組織マイクロアレイ(TMA)により、選択した抗体(クローン#E3C3)を特徴付けた。
【0115】
・細胞成分画分のウェスタンブロッティング(
図1)
異なるAML又はCML(ポジティブコントロール)造血細胞株の全細胞ライセートをポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリビニリデンジフルオライド膜に電気泳動した。膜は一次IL-1RAP #A3C3(1:20で希釈)で一晩プローブした。20マイクログラムのタンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルで電気泳動し(SDS-PAGE)、超音波処理したタンパク質画分をプロテアーゼ阻害剤カクテル(complete Mini EDTA-free; Roche, Bale, Switzerland)を添加したRIPA緩衝液に懸濁した。ウェスタンブロットレーンのタンパク質負荷は、β-アクチン mAb染色(1:1000, クローンAC15、#A5441, Sigma-Aldrich)で評価した。免疫検出染色は、二次ポリクローナル抗体ヒツジ抗マウスIgG(#515-035-062、Jackson社)を用いて行った。強化された化学発光検出試薬により、カメラとBio-1Dソフトウェア(Vilber-Lourmat、仏国コレジアン)を用いて検出した。
【0116】
-IL-1RAP mRNAの相対的な発現(
図18)
相対的なIL-1RAP mRNA発現は、細胞表面タンパク質のmRNAバリアントコドンを標的としたHs_00895050_m1 Taqman qPCR遺伝子発現アッセイ(ThermoFisher Scientific)を用いたRT-qPCRにより測定した。解析は、診断時のAML患者(n=29)の全血又は骨髄試料を対象に、欧州白血病ネット(ELN)の予後分類に従って行った。K562、MonoMac-6、HEL-60のmRNAをそれぞれ陰性、高陽性、低陽性のコントロールとして使用した。
【0117】
-IL-1RAP抗原部位の絶対数(
図3)
IL-1RAP抗原部位の絶対数の決定は、サイトメトリックビーズアレイ(CBA)法に基づいて行った。細胞1.10
6個/mLの異なる白血病株を、抗IL-1RAP一次抗体(非標識#A3C3,Diaclone(登録商標))で標識し、FITC-IgG1抗マウス二次抗体(カタログ番号:55526、MP Biomedicals(登録商標))で明らかにした。実験は、Cell Quant Calibratorキット(Biocytex番号7208)を用いて、推奨事項に従って行った。コントロールとして、非連結のIgG1アイソタイプを使用した(カタログ番号:857-073-020、ダイアクローン社)。解析は、フローサイトメトリー(FACS Canto(商標) II、BD FACS DIVA V 7.0、BD Biosciences)を用いて行った。KU812及びK562をそれぞれポジティブ及びネガティブコントロールとして使用した。
【0118】
・ELISAによる組換えIL-1RAPタンパク質のインビトロ検出(
図2)
抗ヒトFc抗体をプラスチック製ELISAプレートの底に被覆した。ヒト抗体にロードしたIL-1RAPタンパク質をマウス及びヒトIL-1RAP(#E3C3)抗体でプローブした後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で被覆した抗マウスFC抗体により検出した。
【0119】
ELISAにより、#E3C3モノクローナル抗体がIL-1RAP組換えタンパク質を認識することが確認された。
【0120】
・AML患者の初代細胞に対するフローサイトメトリー分析
異なる造血性AML細胞株のIL-1RAP細胞表面の染色を、#A3C3 mAbとIL-1RAPマウスmAbを染色比較として実施した。
【0121】
IL-1RAP染色とアイソタイプの間の相対蛍光強度(RFI)を算出した。IL-1RAP+細胞株(KU812)又はIL-1RAP-細胞株(Raji)をそれぞれポジティブコントロール又はネガティブコントロールとして使用した。
【0122】
AML患者の骨髄又は末梢血の一次サンプルに対しては、マウスIL-1RAP mAb(#EЗCЗ)を、CD45、CD34、CD38、CD33、CD123、及びCD14(単球用)を検出できるパネルに含めた。染色した細胞は、CANTO IIサイトメーター(BD Biosciences、仏国ルポンドクレ)を用いて採取し、DIVA 6.1ソフトウェア(BD Biosciences、仏国ルポンドクレ)を用いて分析した。
【0123】
・インサイチュ検出
特異的又は非標的組織結合を検討するために、1器官あたり3名の個々のドナーから得た90個の組織コア(30器官)を含むFDA標準凍結組織アレイ(US Biomax、米国ロックビル)を上述した通りインキュベートした。UltraView Universal DAB Detection Kit(Ventana、米国)を用いて免疫染色を検出した。NDP.view2ソフトウェアで画像を取得し、分析した。IL-1RAP高発現(KU812)又はネガティブ発現(Raji)細胞株をそれぞれポジティブ又はネガティブコントロールとして使用した。染色強度は以下の通り等級を付けた:ネガティブ(0)、弱染色(1+)、中染色(2+)、又は強染色(3+)。IL-1RAP高発現(KU812)又はネガティブ発現(Raji)細胞株をそれぞれポジティブ又はネガティブコントロールとして使用した。
【0124】
#E3C3モノクローナル抗体を用いてIL-1RAP発現を検討した。リンパ節、結腸、小腸、胎盤、胃、及び前立腺という6組織のみの主に上皮又は内皮細胞において、様々な強度の染色が検出された(
図4)。
【0125】
・結果
#A3C3は、IL-1RAPを細胞表面に発現している様々なAML細胞株を染色することができる。そこで、#A3C3を用いたウェスタンブロッティングにより、異なる細胞株の細胞表面にIL-1RAPが発現していることを、異なる強度レベルのシグナルで確認した。興味深いことに、CD14+単球の亜集団もIL-1RAPを発現していた。AML(すべてのサブタイプ、n=30)の患者コホートをフローサイトメトリーで分析したところ、先行技術で示されているように、単球の発現レベルは安定しているものの、AMLの芽球にIL-1RAPが様々な割合(84.27±17.4%)と細胞表面の発現レベルで存在していることが確認された。この結果は、欧州白血病ネット(ELN)の予後分類に基づいて分類されたAML患者のIL-1RAP抗原部位の絶対数によっても確認された。これらの結果をもとに、細胞表面の発現レベルを低、中、高の3段階に定義した。これらの発現レベルは、さらなる研究のために細胞株でモデル化した。
【0126】
<実施例2:レンチウイルスコンストラクト>
VDJ又はVJ再構成の分子シークエンシング及びCDR3ヌクレオチド配列決定に基づき、実施例1の#E3C3 IL-1RAPハイブリドーマ由来の合成的に作製された一本鎖可変領域断片(scFv)をSIN-pSDYバックボーンにクローニングして、CARレンチウイルスコンストラクト(pSDY-iC9-IL-1RAPCAR-dCD19)を調製した(Rossolillo P,Winter F,Simon-Loriere E,Gallois-Montbrun S,Negroni M.,Retrovolution:HIV-driven evolution of cellular genes and improvement of anticancer drug activation.,PLoS Genet.,2012;8(8):e1002904)。
【0127】
簡潔に言うと、安全カセットiCASP9と、#E3C3モノクローナル抗体の一本鎖可変領域断片と、モニタリング及び有望な細胞選択のための細胞表面発現マーカーΔCD19とを有するSINレンチウイルスコンストラクトを構築した。これら3種の導入遺伝子はいずれも、EF1プロモーター及びSP163エンハンサー配列(マウスVEGF遺伝子の5’UTRの一部、GenBankアクセッション番号#U41383)の制御下、2Aペプチド切断配列で隔てられている。
【0128】
図5に示す通り、上記コンストラクトは、自殺安全カセットiCASP9(化学誘導性カスパーゼ9)、IL-1RAP CAR、及び細胞表面選択マーカーΔCD19(シグナル伝達しない細胞内部を切断したCD19)という3つの異なる部分を有し、これらはSP163エンハンサーに付加されたEF1a(伸長因子1プロモーターα)プロモーターの制御下、2つの異なる2Aリボソームスキップ配列(P2A及びT2A)で隔てられている。EF1aプロモーター及びSP163エンハンサーの制御下、CD28-4.1BB-CD3zシグナル伝達鎖を用いて、#E3C3免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)配列の可変領域で構成されたscFvをインフレームでクローニングする。IL-1RAP CARは一本鎖可変領域断片(scFv)を有し、この断片は、リーダー配列(L)と結合し、ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA)でタグ付けされ、2つの共刺激領域(改変膜貫通及び細胞内シグナル伝達CD28及び4-1BB)とCD3z細胞内シグナル伝達領域とで構成されたT細胞活性化領域にヒンジ領域を介して接続されている。Mock Tは、IL-1RAP scFvを含まない同様のコンストラクトで構成されている。
【0129】
<実施例3:IL-1RAP CART細胞の作製>
製造業者の指示書に従い、抗CD3/CD28ビーズ(Life Technologies、仏国)を用いて、健常ドナーの末梢血単核細胞から得たCD3+Tリンパ球を活性化した後、磁気カラム(MACS、Miltenyi Biotec、仏国パリ)で単離した。2日目に、活性化したT細胞を上清(SN)と接触させて、実施例2のレンチウイルスベクターを使用して、2000g、10℃で90分間スピノキュレーション(spinoculation)して形質導入した。フローサイトメトリー分析によって形質導入効率を測定して、ΔCD19細胞表面マーカー発現を同定した。形質導入から4日後、CD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、仏国パリ)で標識したCD19ポジティブ細胞をMACSカラムで磁気的に分離した。単離したCD19発現細胞を、8%ヒト血清を添加した500UI/mLのrhIL-2(プロロイキン、Novartis)を含むX-vivo完全培地(Lonza、スイス国バーゼル)で増殖させ、凍結保存した。実験的には、TransAct T Cell試薬と、ヒトIL-2、IL-7、IL-15、又はIL-7+IL-15を添加したTexMACS培地(Miltenyi Biotec、仏国パリ)とを使用した。
【0130】
<実施例4:ドナーT細胞のレンチウイルス形質導入>
水疱性口内炎ウイルス(VSV)エンベロープ(pMDG)をコードするヘルパープラスミドと、GAG/POL(psPAX2)パッケージングプラスミド(Addgene、それぞれ#12259及び#12260、Trono et al、スイス国ローザンヌ)とを用いたCaCl2法でサブコンフルエントな293T細胞の一過性同時導入を行うことによって、実施例2のレンチウイルスベクター上清ストックを作製した。48時間及び72時間後にウイルス上清を回収し、PEG及び低速遠心分離(3000g、一晩)により濃縮してから、使用するまで-80℃で保管した。IL-1RAP scFvを含まない同レンチウイルスコンストラクト(Mock)をコントロールとして使用した。SNの段階希釈液を用いた293T許容細胞の形質導入により、レンチウイルス上清の力価測定を確立した。
【0131】
フローサイトメトリーで形質導入効率を測定した。開始細胞数に応じて上清力価測定から感染多重度(MOI)を差し引いた。
【0132】
レンチウイルス上清を用いたインビトロ作製プロセスによって、Mock又はCAR IL-1RAP上清についてそれぞれMOI=2で初代T細胞を形質導入することができる。
【0133】
・IL-1RAP CAR発現のウェスタンブロット分析
IL-1RAP形質導入T細胞の膜又は細胞質細胞亜画分(超遠心後に得られたもの)から抽出したタンパク質又は全タンパク質ライセートを、マウス抗ヒトCD3z抗体でプローブした。細胞成分画分へのウェスタンブロッティングにより、IL-1RAP CARがCD3zシグナル伝達(予測される内在性CD3zシグナルが16KDaであるのに対して、55KDaのシグナル)と関連することが分かった(
図6)。
【0134】
・フローサイトメトリーによる分析
T細胞表面でのCAR発現について、組換えIL-1RAPビオチン化タンパク質を用いて分析し、二次抗ビオチン抗体(Miltenyi Biotec、クローン#Bio3-18E7)を用いたフローサイトメトリーにより検出した。Mock又はCAR IL-1RAPのいずれかでCEM細胞株又は初代T細胞を形質導入した。次いで、ビオチンで標識した組換えIL-1RAPの量を増やしながら、各量の存在下で細胞をインキュベートした。抗ビオチン蛍光抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーで分析した。ビオチン+/CD19+CEM又はT細胞のパーセンテージを標識ビオチン組換えタンパク質の量に対してプロットした。サイトメトリー分析のドットプロットは、最大値を含む代表的な染色に対して示した。非形質導入細胞(C0)又はMock T細胞をコントロールとして使用した。
【0135】
ビオチン化IL-1RAPタンパク質の段階希釈液(20ng~2.4pg/ml)を用いた追加分析及びFACS分析によって、IL-1RAP CAR形質導入CEM T細胞株又は初代T細胞のいずれかを検出できる。1回の実験から、最大のCEM(85.8%)又は初代(68.5%)GMTCを動員するためには、それぞれ1.25ng及び0.15ngという異なる量の組換えタンパク質が必要であることを示すことができる(
図7)。
【0136】
CEMの細胞表面では初代T細胞よりも多くのCARが発現される。また、E:T共培養系に多量(1000倍>血漿濃度)の非標識組換えIL-1RAPタンパク質を添加すると、エフェクター細胞傷害性が顕著に阻害される。
【0137】
これらの実験は、CARは細胞表面にアドレッシングされること、及びIL-1RAPタンパク質のCAR特異的な認識及び結合が起こることを確認するものである。
【0138】
<実施例5:自殺遺伝子iCASP9カセットの効率>
形質導入細胞(IL-1RAP CAR293T)又は非形質導入細胞(293T)を、培地のみ(-化学誘導二量体形成物質(CID))又は20nMのCID AP1903を含む培地で24時間培養した。光学顕微鏡観察によって、培養液中の生細胞又は死細胞の存在及び構造を画像化できる(×40)。
【0139】
光学顕微鏡観察により、IL-1RAP CARで形質導入した293T細胞培養液はCIDに対して感受性を有することが分かる(
図8)。
【0140】
IL-1RAP CARを発現する又はしないGMTC細胞混合物及び非形質導入T細胞(C0)に対するCID暴露(20nM、24時間)後又は非暴露(薄灰色)でのフローサイトメトリー分析。CD3+/CD19+染色により、CARを発現するGMTCをそれ以外から識別できる。
【0141】
非形質導入T細胞(C0)又はIL-1RAP CART細胞をいずれも培地のみ又は培地+CIDに暴露した(20nM、24時間)。
【0142】
正確な細胞死は、まず、製造業者の指示書(Beckman Coulter、IM3614)に従い、アネキシン-V/7-AADゲーティング後にフローサイトメトリーで評価した。蛍光分析は、CD3
+/CD19
+ポジティブ細胞に対してゲーティングした。5000個の蛍光ビーズを取得してから定量化した。致死効率をコントロール細胞(未処理細胞)に対して標準化した。細胞致死を以下の通り算出した。死細胞%=[1-(AP1903処理細胞中の生細胞の絶対数/未処理細胞中の生細胞の絶対数)]×100。C0又はIL-1RAP CART(CD3+/CD19+でゲーティング)細胞のCID暴露24時間又は48時間。結果を3つの独立した試験の平均±SDで表す。
***:p<0.001(
図9)。
【0143】
サイトメトリー分析から、IL-1RAP CARを発現する(CD19+)又はしない(CD19-)T細胞の混合集団を24時間CID暴露した後、CD19-CD3+細胞のみが存続したことが分かる26。より正確には、アポトーシスの定量的AnnV/7AADアッセイにより、非形質導入T細胞(C0)(24時間又は48時間でそれぞれ1.28%及び6.13%)と比較して、それぞれ24時間又は48時間CID暴露後に84.11%及び88.93%のIL-1RAP CART細胞が除去されることが分かった(p<0.001、n=3)。
【0144】
<実施例6:IL-1RAP CART細胞の増殖能力>
材料と方法
非形質導入T細胞(C0)、Mock T細胞(MockT)又はIL-1RAP CAR(IL-1RAP CART)を、エフェクター:ターゲット(E:T)比が1:3となるように、培地のみ(標的なし)か、IL-1RAPネガティブ細胞(K562)と接触させるか、又は、細胞表面発現標的細胞(KU812、 CML、ポジティブコントロール)及び細胞表面発現のIL-1RAPレベルが異なるAML細胞株(低:HL-60、中:MOLM-13、高:EOL-1)と接触させるかのいずれかで3日間培養した。エフェクターはあらかじめIL-2を添加せずに0.5M CFSEで標識した。IL-2を添加せずに72時間共培養した後、生きているCD3+/CD19-(C0)とCD3+/CD19+ゲート細胞(MOCKT-又はIL-1 RAP CART細胞)の分裂をフローサイトメトリーで評価し、CFSE色素の希釈率を測定した。
【0145】
結果
非形質導入T細胞(C0)又はMOCK形質導入T細胞(MockT)とは逆に、IL-1RAP CART細胞は、標的細胞のIL-1RAP細胞表面発現が何であれ、AML細胞株の存在下で特異的に活性化され、分裂することができた(
図10A及び10B)。
【0146】
<実施例7:IFNγの細胞内での発現>
材料と方法
非形質導入T細胞(C0)、Mock導入T細胞(MockT)又はIL-1RAP CAR(IL-1RAP CART)を、エフェクター:ターゲット(E:T)比が1:5となるように、培地のみ(標的なし)、IL-1RAPネガティブ細胞(K562)、又は、細胞表面発現標的細胞(KU812、CML、ポジティブコントロール)及び細胞表面発現のIL-1RAPレベルが異なるAML細胞株(低:HL-60、中:MOLM-13、高:EOL-1)と接触させて6時間培養した。サイトカイン産生のポジティブコントロールとして、10ng/mLのホルボールミリスタートアセタート(PMA)及び1μg/mLのイオノマイシン(Sigma-Aldrich)で刺激した細胞を用いた。IFNγの標識は、ブレフェルディンA処理及び細胞の透過処理後に行った。蛍光IFNγシグナルは、CD8+細胞とCD4+(旧CD8-)細胞を区別するために、CD8染色に加えて、CD3+/CD19+(CARポジティブ細胞)にゲーティングした後検出した。
【0147】
結果
非形質導入T細胞(C0)又はMOCK導入T細胞(MockT)とは逆に、CD8+又はCD4+のIL-1RAP CART細胞は、IL-1RAP細胞表面が何であれAML細胞株の存在下で、細胞内IFNγを特異的に発現することができる(
図11A及び11B)。
【0148】
<実施例8:AML細胞株に対するIL-1RAP CART細胞の細胞傷害性(cytoxicity)>
材料と方法
共培養の前にエフェクター細胞をe-Fluorで標識した。非形質導入T細胞(C0)、Mock導入T細胞(MockT)又はIL-1RAP CAR(IL-1RAP CART)を、様々なエフェクター:ターゲット(E:T)比で、培地のみで(標的なし)、IL-1RAPネガティブ細胞(K562)と接触させて、又は、細胞表面発現標的細胞(KU812、CML、ポジティブコントロール)及び細胞表面発現のIL-1RAPレベルの異なるAML細胞株(低:HL-60、中:MOLM-13、高:EOL-1)と接触させて24時間培養した。FSC及び7-AAD標識に対する細胞のゲーティングにより、標的細胞とエフェクター及び生細胞との識別が可能となった。FSC+/7-AAD-のゲートでは、エフェクター細胞が存在してもしなくても、持続する標的細胞の割合が測定された。コントロールとして、非形質導入T細胞(C0)又はMock形質導入T細胞(MockT)を用いた。
【0149】
結果
MOCK形質導入T細胞(MockT)とは逆に、エフェクターCART細胞はIL-1RAPポジティブ標的(AML)と様々なE:T比で共培養することで、腫瘍抗原の発現レベルに関わらず、IL-1RAPを発現する標的AML細胞株を同じ効率で死滅することができる(
図12A及び12B)。
【0150】
<実施例9:iCASP9安全スイッチで保護されたIL-1RAP-CART細胞は健常造血細胞に対して大きな有害作用は示さない>
オフターゲット毒性を予測するために、#A3C3mAbを使用して、30個の正常ヒト組織の組織マクロアッセイ(TMA)によりIL-1RAP発現を検討した。染色は、リンパ節、前立腺、骨格筋、胃、結腸及び小腸、並びに膵臓という6組織のみにおいて、炎症性又は壊死性要素を除いて様々な強度レベルで検出された(
図13A及び表2)。興味深いことに、微小血管HMEC-1内皮細胞株は、我々の#A3C3 IL-1RAP mAbでは認識されず(
図13B)、R&D IL-1RAP mAb(R&D Systems、Ref#89412)では細胞表面発現が明確に検出されるため、異なるエピトープが認識されたものと思われる。
【0151】
健常造血系の標的化に関して、mAb#A3C3では健常ドナーの骨髄(
図14A、C)又は正常臍帯血(
図14B、C)においてHSCは検出されないとして(RFI<1.2、n=5)、健常ドナーの末梢血の2/5及び骨髄の3/5において、単球亜集団の弱い染色(RFI<2)が確認された(
図14A)。次いで、PBMC及び自家CART細胞を様々なE:T比で共培養することで、単球のインビトロ感受性を検討した。E:T比=1:1では、単球の一部のみが標的とされ、41.45%の単球が生存したままであったが(
図14D、右、表3)、リンパ球、顆粒球、及びK562 IL-1RAPネガティブ細胞株は、高いE:T比でも、影響を受けなかった(
図13D)。興味深いことに、上記E:T比では、白血病細胞の94.77%が死滅した(
図14E)。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
これらの結果はhCD34生着(engrafted)マウスモデル(hu-NOG)においてインビボで確認され、単球は15日目で減少したが(41±25%、n=3、p=n.s)、hCD34+細胞由来の他のヒト免疫担当細胞はCART細胞の影響を受けないことが明らかとなった(
図15)。健常CD34+臍帯血HSCと自家CART細胞とのインビトロ共培養後に造血幹細胞培養アッセイを実施したところ(n=3)、HSCは影響を受けないことが確認された(
図16)。これらの結果は、造血系に対するわずかな副作用を伴うIL-1RAP CART細胞免疫療法と一致する。
【0157】
潜在毒性を制限するために、化学誘導二量体形成物質(CID、10nM)に暴露してからiCASP9/AP1903自殺系カセットの安全スイッチの機能性を評価した。まず、光学顕微鏡を用いて、IL-1RAP CARで形質導入した293T細胞培養はCIDに感受性があることを示した(
図17、上)。サイトメトリー分析から、CD19+及びCD19-IL-1RAP CART細胞の混合集団において、CID暴露24時間後にCD19-CD3+細胞のみが存続していた(
図17、下)。より正確には、アポトーシスの定量アッセイにおいて、CID暴露24時間又は48時間後にそれぞれIL-1RAP CART細胞の84.11%及び88.93%が除去されたのに対して、非形質導入T細胞(C0)では、24時間又は48時間でそれぞれ1.28%及び6.13%であった(p<0.001、n=3、
図14F)。最後に、NSGマウスモデルでの安全スイッチのインビボ評価から、AP1903の腹腔内投与後にIL-1RAP CART細胞の87±7.32%(p<0.01、n=3)が除去されるが、PBS投与後には影響を受けず、コントロール非形質導入T細胞(C0)ではいずれの治療の影響も受けないことが分かった(
図14G)。
【0158】
<実施例10:AML患者由来のAML芽球に対するIL-1RAP CART細胞のインビトロでの細胞傷害性(cytoxicity)>
材料及び方法
非形質導入T細胞(UNT細胞)、MockT細胞(すなわち、CART細胞に使用するものと同じベクターを形質導入した細胞であるが、ベクターはCARを有しない)、及びIL-1RAP CART細胞(健常ドナー又はAML患者のT細胞から生成)を遠心分離し、1mlのPBS 1Xに再懸濁した後、1/1000に希釈したe-fluor-V450溶液(Cell Proliferation Dye)(eBioscience)を1ml加えた。室温で20分間、細胞を暗所でインキュベートした。次に、8mlのX-Vivo 15完全培地(Lonza)、10%の糞便子牛血清(GIBCO、米国)、1%のペニシリン-ストレプトマイシンPS(GIBCO社、米国)を加えた後、+4℃で5分間インキュベートし、1500rpmで5分間遠心分離した。この細胞を同じ培地で2回洗浄し、インターロイキン2を含むX-Vivo 15完全培地、10%ヒト血清、1%PBSに懸濁した。これらの細胞と、AML患者の血液試料から採取した100x103個の初代細胞(同種又は自家移植)との共培養を、種々のエフェクター:ターゲット比(E:T比)で、96ウェルプレート(丸底)内で行った。最終容量/ウェル=200μl。共培養24時間後、3μlの7-AAD-PerCP-Cy5.5(BD Bioscience)による生存率標識と、抗CD34-アロフィコシアニン(APC)(BD Bioscience)による膜染色により、AML芽球に関するUNT細胞、MockT細胞及びIL-1RAP CART細胞の細胞傷害性を評価した。必要に応じて、エフェクター細胞(MockT又はIL-1RAP CART細胞)からAML芽球を染色、検出、識別するために、以下の抗体(Abs)を使用した:1μlの抗CD3-フィコエリスリン(PE)(Miltenyi Biotec、独国)及び1μlの抗CD19-アロフィコシアニン(APC)(Miltenyi Biotec、独国)。エフェクター細胞は、e-fluor標識によって標的細胞から識別された。結果は、フローサイトメトリーで得られ、FACS Divaソフトウェアで解析した。IL-1RAP CART細胞の異質性殺傷力(Allogenicity killing)は、コントロールの非形質導入T細胞(UNT)の細胞傷害性を差し引いたものとした。
【0159】
AML患者からIL-1RAP T細胞を作製した実験では、T細胞を分離した後に予めAML芽球の標識を行い、T細胞とB細胞の有無を確認した。
【0160】
結果
結果を
図19に示す。細胞傷害性が認められなかったMOCKT細胞やUNT細胞と比較して、様々なE:T比のIL-1RAP CART細胞との共培養では、AML患者の初代細胞であるAML芽球(フローサイトメトリー(図示せず)で事前に同定された低・中IL-1RAP発現者)を、腫瘍抗原の発現レベルに関わらず同じ効率で死滅させることができた。
【0161】
興味深いことに、AML患者のT細胞から作製したIL-1RAP CART細胞も、AML芽球を同じ効率で死滅させることができた。これは、CART細胞がAML患者から生成され、自家移植で使用することができることを確かめるものである。
【0162】
<実施例11:AML患者由来のAML芽球に対するIL-1RAP CART細胞のインビボでの細胞傷害性(cytoxicity)>
材料及び方法
HL-60、Molm-13、Mono-Mac-6 AMLのそれぞれ低、中(int)、高IL-1RAP発現細胞株を、ルシフェラーゼレンチウイルスベクター(pLenti CMV V5-Luc Blast vector,Addgene)で形質導入した。ルシフェラーゼポジティブ細胞はブラスチジン(ThermoFisher Scientific)への耐性により選択した。
【0163】
6~8週齢のNSGマウス(Jackson Laboratory、米国カリフォルニア州サクラメント)に4日目に腹腔下照射(25Gy)を行った。3日目、各マウスに、300μLのPBSに懸濁した1x106個のHL-60又はMolm-13又はMono-Mac-6ルシフェラーゼ発現AML細胞を尾静脈から注入した。AML細胞注入後の0日目に、マウスを無処置(UT)、又は未形質導入T細胞(UNT)(300μLのPBS中、10×106個)、又はIL-1RAP CAR-T細胞(300μLのPBS中、10×106個)を尾静脈から投与し、3日目、5日目、10日目、14日目、17日目、21日目にIVIS(登録商標) lumina IIIシステム(PerkinElmer)を用いて白血病発症をモニターした。
【0164】
動物プロトコルは、ブザンソン大学の動物管理・使用委員会の管理下で行われた。マウスは、未処置群の動物が衰弱した健康状態になり、白血病の兆候が現れるまで追跡した(すなわち、体重減少15%超、活動性の低下、及び/又は後肢の麻痺)。マウス実験は、現地の倫理委員会(NSG-Sモデルについては、CELEAG及びプロトコル11007R(Veterinary Services for Animal Health & Protection))の承認を得た。
【0165】
結果
結果を
図20に示す。IL-1RAP CART細胞は、白血病細胞のIL-1RAP細胞表面発現とは無関係に、インビボでのAML異種移植マウスモデルの白血病負担を有意に減少させることが、未処理又はUNT処理T細胞マウス群と比較して示されている。
【配列表】
【国際調査報告】