(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-02
(54)【発明の名称】胸腺再生およびT細胞再構成のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/44 20150101AFI20220726BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220726BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220726BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20220726BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220726BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220726BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20220726BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20220726BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20220726BHJP
A61K 35/42 20150101ALI20220726BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220726BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20220726BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220726BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220726BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20220726BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
A61K35/44
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
A61K35/51
A61P43/00 101
A61P37/04
A61P31/18
A61K35/35
A61K35/36
A61K35/42
A61K35/34
A61K35/22
A61K35/28
A61P43/00 121
C12N15/12
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570514
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 US2020034932
(87)【国際公開番号】W WO2020243310
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516389363
【氏名又は名称】アンジオクライン・バイオサイエンス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Angiocrine Bioscience, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】フィネガン,ポール ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ノーラン,ダニエル ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】クハロバ,カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ギンズバーグ,マイケル ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス,ケネス エヌ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB41
4C087BB44
4C087BB47
4C087BB48
4C087BB55
4C087BB59
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA20
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZC52
4C087ZC55
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、アデノウイルスE4ORF1および/またはBMP4を発現するように遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)、ならびにそのように遺伝子操作されたntECsを含む組成物を提供する。本発明は、例えば、それを必要とする対象の胸腺再生(例えば、T細胞の再構成)を増強するために、治療における前記ntECsを使用する方法も提供する。このような対象には、損傷した胸腺、胸腺機能の欠陥、不十分なT細胞産生および/または免疫不全の患者が含まれ、例えば、加齢、感染(例えば、HIV感染)、放射線療法による治療、化学療法による治療または臓器/組織移植に備えるための骨髄破壊前処理を有する患者が含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸腺再生を増強する方法であって、胸腺再生を必要とする対象に、有効量の遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)を含む治療用組成物を投与することにより、対象における胸腺再生を増強することを特徴とし、該遺伝子操作されたntECsがE4ORF1
+またはBMP4
+E4ORF1
+である、方法。
【請求項2】
胸腺再生が、CD45
-胸腺間質細胞およびCD45
+T細胞の中から少なくとも1つの細胞型の回復を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
胸腺再生が、CD45
-胸腺間質細胞およびCD45
+T細胞の両方の回復を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CD45
-胸腺間質細胞が、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、胸腺皮質上皮細胞(cTECs)および胸腺髄質上皮細胞(mTECs)からなる群から選択される、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項5】
CD45
+T細胞が、CD3
+T細胞、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、ダブルポジティブT細胞(DP)、ダブルネガティブT細胞(DN)、ダブルネガティブ1型(DN1)T細胞、ダブルネガティブ2型(DN2)T細胞、ダブルネガティブ3型(DN3)T細胞およびダブルネガティブ4型(DN4)T細胞からなる群より選択される、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項6】
ntECが、臍帯静脈内皮細胞(UVEC)、脂肪内皮細胞、皮膚内皮細胞、肺内皮細胞、心臓内皮細胞、腎臓内皮細胞および骨髄内皮細胞からなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
対象がヒトである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ntECsが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ntECsが、対象の自己由来である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ntECsが、対象に対して同種異系である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ntECsが、対象に対してMHC/HLA適合性である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
対象が、化学療法、放射線療法、移植前処理レジメンまたは骨髄破壊的前処理レジメンにより以前に治療されている、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
対象が免疫不全を有する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
対象がHIV感染を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象が、胸腺組織量、胸腺機能またはT細胞産生における加齢に関連した欠乏を有する、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
遺伝子操作されたntECsが、静脈内注入により対象に投与される、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
遺伝子操作されたntECが、数日または数週間の期間にわたり、複数回の静脈内注入で対象に投与される、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
造血幹細胞(HSCs)を含む治療用組成物を、対象に投与することをさらに特徴とする、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
遺伝子操作されたntECsおよびHSCsが、同時に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
遺伝子操作されたntECsおよびHSCsが、同一の静脈内注入で対象に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ntECを対象に投与する前に、E4ORF1をコードする核酸分子および所望によりBMP4をコードする核酸分子で、ntECをex vivoにてトランスダクションまたはトランスフェクトすることにより、ntECを遺伝的に改変する最初のステップをさらに含む、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
自己のntECsを対象に投与する前に、E4ORF1をコードする核酸分子および所望によりBMP4をコードする核酸分子で、ntECsをex vivoにて形質導入またはトランスフェクトすることにより、対象からの自己のntECsを遺伝的に修飾する最初のステップをさらに含む、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
BMP4
+E4ORF1
+非胸腺内皮細胞(ntECs)の単離された集団。
【請求項24】
集団が、実質的に純粋な集団である、請求項23に記載の遺伝子操作されたntECsの集団。
【請求項25】
ntECsが、BMP4をコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子を含む、請求項23に記載の遺伝子操作されたntECsの集団。
【請求項26】
BMP4をコードするヌクレオチド配列が、異種プロモーターに作動可能に連結されている、請求項25に記載のntECsの集団。
【請求項27】
ntECが、E4ORF1をコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子を含む、請求項25に記載のntECsの集団。
【請求項28】
E4ORF1をコードするヌクレオチド配列が、異種プロモーターに作動可能に連結されている、請求項27に記載のntECsの集団。
【請求項29】
組換え核酸分子が発現ベクターである、請求項25~28のいずれかに記載のntECsの集団。
【請求項30】
発現ベクターがウイルスベクターである、請求項29に記載のntECsの集団。
【請求項31】
発現ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項29に記載のntECsの集団。
【請求項32】
発現ベクターがレトロウイルスベクターである、請求項29に記載のntECsの集団。
【請求項33】
ntECsが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)、脂肪内皮細胞、皮膚内皮細胞、肺内皮細胞、心臓内皮細胞、腎臓内皮細胞および骨髄内皮細胞からなる群から選択される、請求項23~32のいずれかに記載のntECsの集団。
【請求項34】
ntECsが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)である、請求項23~32のいずれかに記載のntECsの集団。
【請求項35】
請求項23~34のいずれかに記載のntECsの集団を含む、組成物。
【請求項36】
請求項23~34のいずれかに記載のntECsの集団、および対象に投与するために適切な溶液を含む、治療用組成物。
【請求項37】
請求項23~34のいずれかに記載のntECsの集団、および生体適合性マトリックス材料を含む、治療用組成物。
【請求項38】
生体適合性マトリックス材料が液体である、請求項37に記載の治療用組成物。
【請求項39】
生体適合性マトリックス材料が固体である、請求項37に記載の治療用組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年5月28日に出願した米国仮特許出願第62/853,452号の権利を受けることを請求する。
【0002】
(配列表)
本出願は、ASCIIフォーマットにてコンピュータ可読形式で提出された配列表を含んでおり、その全てを参照により本明細書に組み込む。前記ASCIIのコピーは、配列表は、2020年5月28日に作成され、サイズは約5,546バイトである。
【0003】
(参照による組み込み)
参照による組み込みを許可する管轄区域のみを対象として、本明細書で引用された全ての文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに、本明細書で引用または言及されたあらゆる製品に関する製造者の指示書またはカタログも、参照により組み込まれる。本文中に参照により組み込まれた文書、または文書中のあらゆる教示は、本発明の実施に使用され得る。米国特許第8,465,732号に提供される一般的な教示の多くは、本発明と組み合わせて用いることができるか、または本発明と共に使用するために変更することができる。従って、米国特許第8,465,732号の全内容は、出典明示により本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
胸腺は、骨髄から移動してくる造血前駆細胞由来のT細胞の成長をサポートする。Legrand ら(2007);"Human thymus regeneration and T cell reconstitution;" Seminars in Immunology; Vol. 19; No. 5; pp 280-288に記載されている。胸腺の活動は、加齢とともに徐々に低下し、その結果、T細胞の産生量が減少し、免疫機能が損なわれる。また、胸腺は、傷害に対して非常に敏感である-様々な状況において、例えば、化学療法、放射線照射、臓器移植(例えば、骨髄移植など)の前に行う移植前処置、感染(例えば、HIV感染など)の際に、T細胞の産生の低下および免疫不全に至る損傷を受けやすい。胸腺組織の再生により、T細胞コンパートメントを補充し、免疫機能を回復させることができる。胸腺は、ある程度の再生能力を有しているが、この胸腺再生の程度およびスピードは、不十分であることが多く、患者は、重度の免疫不全へと至り、生命を脅かす可能性のある感染症の危険にさらされる。このように、胸腺再生およびT細胞再構成の両方を、増強することができる組成物および方法に対する必要性が当分野に存在する。本発明は、これらの要求を解決するものである。
【0005】
(発明の要約)
本発明は、アデノウイルスE4ORF1ポリペプチドを発現するか、またはアデノウイルスE4ORF1ポリペプチドとBMP4の両方を発現するように遺伝子組換えを行った非胸腺内皮細胞(「ntECs」)を生存対象に投与することによって、胸腺の再生をin vivoで誘導できるという驚くべき発見に一部基づくものである。本明細書の実施例に示す通りに、E4ORF1単独、またはE4ORF1およびBMP4の両方を発現する遺伝子操作されたntECを、生存対象に投与すると、胸腺再生およびT細胞再構成が促進される。内皮細胞を投与すると胸腺の再生が促進されるが、この効果は胸腺内皮細胞を使用した場合にのみ達成されることが、以前に発表された研究で実証されていたことを考えると、これらの効果は特に驚くべきことである。Wertheimerら(2018);"Production of BMP4 by endothelial cells is crucial for endogenous thymic regeneration;" Sci. Immunol. 3, 2736を参照されたい。これらの過去の研究において、胸腺の再生は、胸腺以外の内皮細胞が使用された場合には観察されなかった(同上)。E4ORF1単独、またはBMP4とE4ORF1の両方を発現する遺伝子操作されたntECを使用して、インビボで胸腺再生およびT細胞再構成を誘導できるという発見は、いくつかの重要な実用的意味を持つ。その1つは、患者の胸腺から内皮細胞を取得して、培養するための複雑かつ侵襲的な手順を行う必要がなくなることである。その代わりに、胸腺再生およびT細胞再構成のプロトコルに使用する内皮細胞は、脂肪組織、皮膚組織または臍帯組織などのより入手しやすいものから得ることが可能であり、胸腺の再生に対する内皮細胞治療の適用性を大幅に簡素化することができる。
【0006】
即ち、本発明は、様々な新規組成物および方法を提供するものである。
【0007】
一実施形態では、本発明は、BMP4を発現する遺伝子操作されたntECの集団(すなわち、BMP4+ntECs)を提供する。別の実施形態では、本発明は、アデノウイルスE4ORF1ポリペプチドを発現する遺伝子操作されたntECの集団(すなわち、E4ORF1+ntECs)を提供する。別の実施形態では、本発明は、BMP4およびアデノウイルスE4ORF1ポリペプチドを発現する遺伝子操作されたntECの集団(すなわち、BMP4+E4ORF1+ntECs)を提供する。いくつかの実施形態では、これらの遺伝子操作されたntECの集団は、単離された細胞集団である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団は、実質的に純粋な細胞集団である。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団は、in vitroで、例えば細胞培養物中に存在する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団は、ex vivoで存在する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団は、in vivoで存在する。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団は、生存対象への投与に適した治療用組成物などの組成物中に存在する。例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子操作されたntECの集団と、生存対象への投与に適した生理食塩水を含む治療用組成物を提供する。同様に、いくつかの実施形態において、本発明は、遺伝子操作されたntECの集団と、液体生体適合性マトリックス材料(例えば、マトリゲル)または固体生体適合性マトリックス材料などの生体適合性マトリックス材料を含む治療用組成物を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される遺伝子操作されたntECs、および/またはこれらの遺伝子操作されたntECsを含む組成物は、胸腺組織量、胸腺機能もしくはT細胞産生の欠損を有する対象、またはその他の免疫低下状態にある対象などの生体対象において胸腺再生および/またはT細胞再構成を増強する方法、などの種々の治療用途に使用することができる。いくつかの実施形態では、そのような対象は、高齢であるか、ウイルス感染(例えば、HIV感染)を有するか、放射線(例えば、放射線療法)に曝露されているか、化学療法を受けるか、または骨髄または造血幹細胞移植(HSCT)などの臓器移植に備えるために、例えば骨髄破壊的前処理剤で治療されている。
【0009】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明は、対象における胸腺再生および/またはT細胞再構成を増強する方法を提供し、この方法は、E4ORF1またはE4ORF1とBMP4の両方を発現するように遺伝子操作されたntECs、またはそのようなntECsを含む治療組成物の有効量を、それを必要としている対象に投与し、それによって対象における胸腺再生および/またはT細胞再構成を刺激することを特徴とする。
【0010】
内皮細胞(ECs)は、任意の非胸腺源から得ることができる。EC(ntECs)の好適な供給源の例としては、脂肪組織(すなわち、脂肪ECs)、皮膚組織(すなわち、皮膚ECs)、心臓組織(すなわち、心臓ECs)、腎臓組織(すなわち、腎臓ECs)、肺組織(すなわち肺EC)、肝臓組織(すなわち、肝臓ECs)、骨髄組織(すなわち、骨髄ECs)、臍帯静脈(すなわち臍帯静脈ECs-または「UVECs」)等が挙げられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、ntECsは成人のECsである。いくつかの実施形態では、ntECsは小児のECsである。いくつかの実施形態では、ntECsは、胎児のECsである。いくつかの実施形態では、ntECsは胚性ECsである。いくつかの実施形態では、ntECsは分化したECsである。いくつかの実施形態では、ntECsは、内皮前駆細胞から得られる。いくつかの実施形態では、ntECsは、幹細胞から得られる。いくつかの実施形態では、ntECsは、初代組織培養物から得られる。いくつかの実施形態では、ntECsは、内皮細胞株のECsである。ntECsが本明細書に記載の治療方法において使用されるべき場合、いくつかの実施形態では、ntECsは、細胞が投与されるべき対象に対して自己由来であり、他の実施形態では、ntECsは、細胞が投与されるべき対象に対して同種異系である。
【0012】
いくつかの実施形態では、ntECsは、所定の分子または複数の分子-例えば、BMP4をコードするヌクレオチド配列および/またはアデノウイルスE4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子を含んでいる。BMP4およびE4ORF1の両方を使用する実施形態では、BMP4をコードするヌクレオチド配列およびE4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、同じ組換え核酸分子中に提供されてもよいし、別々の組換え核酸分子において提供されてもよい。いくつかの実施形態では、BMP4をコードするヌクレオチド配列および/またはE4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、異種プロモーターに作動可能に結合されている。いくつかの実施形態では、組換え核酸分子は、プラスミドベクターである。いくつかの実施形態では、組換え核酸分子は、発現ベクターである。いくつかの実施形態では、組換え核酸分子は、例えば、レンチウイルスベクターのようなウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、E4ORF1および/またはBMP4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ntECsにおいて一過的に発現される。いくつかの実施形態では、BMP4および/またはE4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ntECsにおいて安定的に発現される。いくつかの実施形態では、E4ORF1および/またはBMP4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ntECsのゲノムに組み込まれる。
【0013】
いくつかの実施形態において、E4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子が使用される場合、その組換え核酸分子はアデノウイルスゲノムでない。いくつかの実施形態では、E4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子が使用される場合、その組換え核酸分子は、天然に存在するアデノウイルスゲノムでない。いくつかの実施形態では、E4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子が使用される場合、その組換え核酸分子は、アデノウイルスベクターでない。
【0014】
本発明のこれらの実施形態および他の実施形態は、本明細書のその他のセクションでさらに説明される。さらに、当業者には理解されるであろうが、本明細書に記載された様々な実施形態の特定の改変および組み合わせは、本発明の範囲内に入る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】同じ臍帯から得られた4つの細胞株のin vitro増殖アッセイ。初日に25cm
2の小さなフラスコに、各々の細胞株500,000個を播種した。増殖細胞株は、全て血清の存在下で増殖させた。E4ORF1
+ HUVECおよびBMP4
+ E4ORF1
+HUVECは、15日以内に表面積225cm
2のフラスコ4本を覆ったが(4xT225)、HUVECおよびBMP4
+HUVECは、16日でT225フラスコ1本(1xT225)のみを覆い尽くした。
【
図2】
図2A-C.BMP4
+ E4ORF1
+ntECsは、胸腺の再生を刺激する。実験の結果は、実施例2に記載される。各グラフは、以下の処理群:(1) Rad無し, ECs無し;(2) Rad無し、ECs;(3)Rad、Mu 胸腺ECs;(4)Rad Mu BMEC;および(5)Rad. Mu BMEC/BMP4についての、生存胸腺細胞(
図2.A)、生存髄質上皮細胞(mTEC)(
図2B)および回復した生存皮質上皮細胞(cTEC)(
図2C)の数を示す。y軸は、各個体動物の胸腺から単離された全細胞数を示す。治療群間の有意差は、*がP値<0.05、**がP値<0.01、**がP値<0.001を示す星印に示されている。Mu=ネズミ科(すなわち、マウス)。BMECは、骨髄内皮細胞である。Mu BMEC/BMP4細胞は、E4ORF1およびBMP4の両方を発現している。
【
図3】
図3A-F.BMP4
+E4ORF1
+ntECsは、胸腺の再生を刺激する。実験の結果は、実施例2に記載される。各々の動物の胸腺から単離された所定の型の細胞数を示すグラフである。
図3A-CD45
-EpCam
+細胞数によって測定した全体の胸腺上皮含有量。
図3B-CD45
-EpCam
+ Ki67
+細胞数によって測定した生存している増殖胸腺上皮細胞含有量。
図3C-EpCam
+ α6インテグリン
+Sca1+細胞数によって測定した胸腺上皮前駆細胞(TEPC)の含有量。
図3D-EpCam
+α6インテグリン
+Sca1
+Ki67
+細胞数によって測定した活発に増殖しているTPECの含有量。
図3E-CD45
-K5
+K8
+細胞数によって測定した胸腺上皮前駆細胞(TEPC)含有量。
図3F-CD45
-K5
+K8
+Ki67
+細胞数によって測定した活発に増殖しているTEPCの含有量。各ケースにおいて、2つの処理群から得たデータが示されている。ECを含まない対照("650cGy No ECs")およびBMP4
+E4ORF1
+ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)で処理した群("650cGy 500K AB245細胞")。対照群と治療群の有意差は、そのP値で示した。
【
図4】移植3週間後の全胸腺細胞数。致死量(100cGy)の全身照射および細胞移植を行った3週間後(3W)の胸腺の全細胞含有量。レスキューマウスの骨髄(骨髄単独)とBMP4
+E4ORF1
+HUVEC(E4/BMP4)との同時注射は、E4ORF1
+HUVEC(E4)、BMP4を発現していない親よりも胸腺細胞の回復に数値上顕著な効果を示す傾向にあった。群間の統計学的有意性は、骨髄単独のグループを別の照射群、即ちヒト細胞で処理した群と比較した場合に、Kruskal Wallis One Way ANOVAおよびDunnの多重比較検定で検定した。
【
図5】
図5.胸腺中のドナーCD45
+細胞の数。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図6】
図6A-B.胸腺中のCD3
+細胞の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図7】
図7A-B.CD4またはCD8のいずれかを発現するTリンパ球の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図8】
図8A-B.全CD3
+細胞数に対するCD4+細胞およびCD8+細胞の相対的な寄与。この図のデータの更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図9】
図9.T-リンパ球の成熟-模式的表現。この図の情報に関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図10】
図10A-B.1000cGYのTBIの3週間後の、生存しているCD3
+ドナーのダブルポジティブ(DP)T細胞の数(
図10A)および割合(
図10B)。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図11】
図11A-B.1000cGY TBIの3週間後の、生存しているダブルネガティブ(DN)ドナーCD45
+細胞の数(
図11A)および割合(
図11B)。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図12】
図12のA~D.回復した胸腺におけるDN下位集団の細胞数。
図12A-DN1細胞。
図12B-DN2細胞。
図12C-DN3細胞。
図12D-DN4細胞。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図13】
図13のA~D.DN CD3細胞におけるDN下位集団の分布。
図13A-DN1細胞。
図13B-DN2細胞。
図13C-DN3細胞。
図13D-DN4細胞。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図14】
図14.1000cGYのTBIの3週間後の生存しているCD45ネガティブ/EpCam
+細胞の数。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図15】
図15.EpCam
+/Sca1
+細胞の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図16】
図16.EpCam
+/Sca1
+/α6
+細胞の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図17】
図17.EpCam
+皮質TEC(cTECs)の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図18】
図18.増殖(Ki67
+)cTECsの回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図19】
図19.髄質TECs(mTECs)の回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図20】
図20.増殖したmTECsの回復。この図のデータに関する更なる説明については、実施例5を参照されたい。
【
図21】
図21.BMP4
+E4ORF1
+ntECsは、全身照射および骨髄移植後の生存率を向上させる。所定の処理群について、生存率(y軸)を日数(x軸)の時間に対してプロットしている。ECは、BMP4
+E4ORF1
+ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)。致死的全身照射の5週間後の動物生存率を示す。動物は、BMP4
+E4ORF1
+HUVECを含む/含まない200,000または500,000個のレスキューマウスの骨髄投与(BM)を受けた。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本明細書の「発明の概要」、「図」、「図面の簡単な説明」、「実施例」および「請求の範囲」の項目では、本発明の主要な実施形態のいくつかを説明する。この「発明の詳細な説明」の項目では、本発明の組成物および方法に関連する特定の追加的な説明を提供し、この明細書のその他全ての項目と合わせて読まれることが意図されている。さらに、当業者には明らかであろうが、本明細書全体を通して記載される様々な実施形態は、様々な方法にて組み合わせることができ、またそうすることが意図されている。本明細書に記載された特定の実施形態のそのような組み合わせは、本発明の範囲内に入ると意図される。
【0017】
特定の定義および略語を以下に提供する。その他の用語または語句は、本明細書の別の場所にて定義されるか、またはそれらが使用される文脈から明らかである意味を有し得る。本明細書において別に規定されない限り、または本明細書における文脈で、それらを使用する別の意味が明らかでない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語および略語は、本発明が関連する技術分野における通常の技術者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。例えば、The Dictionary of Cell and Molecular Biology (5th ed. J.M. Lackie ed., 2013), Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology (2d ed. R. Cammack et al. eds., 2008) and The Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology (2d ed. P-S. Juo, 2002)は、本明細書で使用されるいくつかの用語の一般定義を当業者に提供することができる。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される通り、単数形の冠詞には、別段の明確な記載が無い限り複数形の対応も包含される。用語「1つの」ならびに「1以上の」および「少なくとも1つの」は、互換的に使用することができる。
【0019】
さらに、「および/または」は、特定された2つの特徴または構成要素各々について、もう一方を含むか否かを問わず、具体的に開示されているとみなされるものとする。従って、「Aおよび/またはB」などのフレーズに使用される「および/または」という用語は、AおよびB、AまたはB、A(単独)およびB(単独)を含むことを意図している。同様に、「A、B、および/またはC」などのフレーズに使用される用語「および/または」は、A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはB;AまたはC;BまたはC;AおよびB;AおよびC;BおよびC;A(単独);B(単独);およびC(単独)などを意図するものである。
【0020】
単位、接頭辞および記号は、国際単位系(SI)で認められている形式で表記する。数値の範囲は、範囲を規定する数値を含み、本明細書で提供される個々の値は、本明細書で提供される他の個々の値を含む範囲の終点として働き得る。例えば、1、2、3、8、9および10などの値の集合は、1~10の数値の範囲でもある。
【0021】
実施形態が「含む」という文言で説明される場合は常に、「からなる」および/または「から本質的になる」の用語で説明される別の類似した実施形態が含まれる。
【0022】
本明細書で使用されるように、「約」および「およそ」という用語は、数値と関連して使用される場合、用語「約」とは、指定された値±10%の標準偏差を示す。
【0023】
本明細書で使用されるように、用語「同種」とは、そのメンバーが遺伝的に近縁であるか、遺伝的に血縁でないが遺伝子的に類似している場合、同じ種から得られること、同じ種に由来すること、または同種のメンバーであることを意味する。対象への同種異系ntECsの投与を含む実施形態では、同種異系細胞は、細胞が投与される対象(すなわち、レシピエント)と同じ種のドナーから取得される。いくつかの実施形態では、同種細胞は、細胞が投与される対象(すなわち、レシピエント)と同じMHC/HLA型を有するドナーから得られる、即ち、細胞のドナーと細胞のレシピエントは、MHC型適合またはHLA型適合である。いくつかの実施形態において、細胞(例えば、ntECs)は、以下の通りである:(a)ドナーから得られ、(b)生体外で維持および/または培養および/または増殖および/または遺伝子改変され、(c)その後、ドナーと同種の対象に投与される。例えば、いくつかの実施形態では、ntECsは、ドナーから得られ、BMP4+および/またはE4ORF1+になるように生体外で遺伝的に修飾され、その後ドナーと同種のレシピエント対象に投与される。同様に、いくつかの実施形態では、ntECは、ドナーから得られ、それらをBMP4+および/またはE4ORF1+にするために生体外で遺伝的に修飾され、その後ドナーと同種および同じMHC/HLA型のレシピエント対象に投与される。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「自己」とは、同じ対象から得られるか、または同じ対象に由来することを意味する。対象への自己ntECsの投与を含む実施形態では、自己ntECsは、ntECsが投与される対象から得られたものである(すなわち、ntECsのドナーおよびレシピエントは、同じ個体である)。いくつかの実施形態では、細胞(例えば、ntECs)は、(a)対象から得られ、(b)生体外で維持および/または培養および/または増殖および/または遺伝子改変され、および(c)その後、同じ対象に投与される。例えば、いくつかのそのような実施形態において、ntECsは、対象から得られ、BMP4+および/またはE4ORF1+となるように生体外で遺伝子改変され、その後同じ対象に投与される。
【0025】
本明細書で使用する場合、略語「BMP4」とは、骨形成タンパク質4またはそのタンパク質をコードするヌクレオチド配列を意味する-使用する文脈から明らかな場合。
【0026】
本明細書で使用する場合、略語「EC(s)」とは、内皮細胞(複数形も可)を意味する。本明細書で使用される場合、略語「ntEC(s)」とは、非胸腺内皮細胞を意味する。
【0027】
本明細書で使用する場合、略語「E4ORF1」は、アデノウイルスゲノムの初期4(E4)領域のオープンリーディングフレーム(ORF)1、またはそのORFによってコードされるポリペプチド/タンパク質を意味する-使用する文脈から明らかな場合。
【0028】
本明細書で使用される「培養」という用語は、様々な種類の培地上または培地中での細胞の増殖をいう。「共培養」とは、2つ以上の異なるタイプの細胞を、様々な種類の培地上または培地中で増殖させることをいう。
【0029】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、検出可能なレベル-例えば、治療アウトカムを測定するために本明細書の実施例のセクションに記載されたもの、または方法を使用して評価した場合に、記載の治療アウトカムを達成するのに十分なntECs、またはntECsを含む治療組成物の量をいう。治療アウトカムについては、以下でさらに説明する(「治療」の定義を参照-様々なパラメータ/治療アウトカムをいう)。任意の個々の場合における適切な「有効量」は、例えば、用量漸増試験などの当該技術分野で公知の標準的な技術を使用して経験的に決定されてもよく、計画された投与経路、所望の投与頻度などの要素を考慮して決定されてもよい。さらに、「有効量」は、本明細書の実施例のセクションに記載されているようなアッセイを使用して決定されてもよい。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約5×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約1×106~約50×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約5×106~約25×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約5×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約10×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約15×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約20×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約25×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約30×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約35×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約40×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約45×106ntECsである。いくつかの実施形態では、有効量は、対象の体重1kgあたり約50×106ntECsである。
【0030】
非胸腺内皮細胞(ntECs)に関連して用いられる「遺伝子操作された」という用語は、言及された表現型(例えば、E4ORF1発現、BMP4発現、またはE4ORF1およびBMP4発現)をもたらすように人により遺伝子操作された、あるいは言及された核酸分子またはポリペプチドを発現するntECS細胞のことを指す。用語「遺伝子操作された細胞」とは、天然に存在する細胞を包含することを意図しておらず、代わりに、例えば、組換え核酸分子を含む細胞、または他の方法で人為的に変更された細胞(例えば、以下のもの)を包含することを意図している。例えば、他の方法では発現しないポリペプチドを発現するように、または遺伝子操作されていない内皮細胞において観察されるよりも実質的に高いレベルでポリペプチドを発現するように(例えば、BMP4を過剰に発現するように)、人為的に(例えば、遺伝子改変によって)変更された細胞を包含することを意図する。
【0031】
「遺伝子改変」および/または「遺伝子的に改変」および/または「改変遺伝子」という用語は、ヌクレオチド配列または細胞のゲノムまたは細胞の遺伝物質の成分に対する任意の付加、削除、変更または破壊を意味する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の内皮細胞は、E4ORF1をコードする核酸分子および/またはBMP4をコードする核酸分子を提供するように遺伝的に修飾されることに加えて、1つ以上の別の遺伝子修飾を所望により含んでいてもよい。「遺伝子改変」という用語および上記の関連用語は、一過性および安定性の遺伝子改変の両方を包含し、当該分野でよく知られている遺伝子送達のトランスダクション(in vivoまたはin vitroいずれかでレシピエントへの核酸のウイルス媒介による導入)、トランスフェクション(単離した核酸の細胞による取り込み)、リポソーム媒介性の導入および他の手段を含むが、これらに限定されない多種多様な遺伝子送達手段および方法を使用することを包含する。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「単離された」とは、通常の状態で関連する少なくとも1つの他の細胞集団、製品、化合物または組成物から分離された細胞集団を指し、および/または生存対象の体内に存在しない細胞集団をいう。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「組換え」とは、分子生物学および遺伝子工学の方法(分子クローニングなど)を用いて、人(機械によるものを含む)により単離、生成および/または設計された核酸分子であって、これは、自然界には存在しないヌクレオチド配列を含むか、または自然界には存在しないヌクレオチド配列中に含まれているか、または自然界では関連性のあるヌクレオチド配列を伴って提供されるか、または自然界では通常関連性のあるヌクレオチド配列が存在しない状態で提供される核酸分子を指す。従って、組換え核酸分子は、自然界に存在する核酸分子、例えば、生物のゲノム中に存在する核酸分子とは区別されるべきである。例えば、対応するゲノムDNA配列に見られるようなイントロン配列が介在しない相補的DNAまたは「cDNA」mRNA配列の複製物を含む核酸分子は、組換え核酸分子とみなされるであろう。さらなる例として、組換えE4ORF1核酸分子は、天然に存在するアデノウイルスゲノムにおいてそのコード配列が通常関連しないプロモーターおよび/またはその他の遺伝的要素に作動可能に連結されたE4ORF1コード配列を含む場合がある。同様に、組換えBMP4核酸分子は、プロモーターおよび/またはそのコード化配列が生物のゲノムにおいて通常関連しない他の遺伝要素と作動可能に連結されたBMP4コード配列を含む場合がある。
【0034】
用語「対象」は、哺乳類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)、ならびにその他の哺乳類(例えば、ウサギ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)を含む。いくつかの実施形態では、対象は哺乳類対象である。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は非ヒト霊長類である。
【0035】
細胞集団に関連して本明細書で使用される「実質的に純粋な」という語句は、全細胞集団を構成する細胞の内、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約95%である特定の型の細胞集団(例えば、1以上の固有の細胞マーカーの発現、形態的特性または機能特性により決定される)のことをいう。したがって、「実質的に純粋な細胞集団」とは、指定された型または種でない細胞を約50%未満、好ましくは約25%未満、より好ましくは約15%未満、最も好ましくは約5%未満含む細胞集団を指す。
【0036】
用語「治療する」および「再生する」(および、その文法的変形)ならびに関連する方法の用語(例えば、「治療方法」および「再生方法」)は、胸腺に関連して本明細書で使用される場合、指定されたパラメータまたは以下のパラメータ(a)~(t)の1以上のいずれかを検出可能な程度に増加または促進する(まとめて「増強する」)こと、または方法を指し、その各々は、本発明の遺伝子操作されたntECが生存対象に投与された場合に増加または促進(即ち、増強)することが、本明細書に示されている:(a)全胸腺細胞(CD45+胸腺細胞およびCD45-胸腺間質細胞)の数または増殖、(b)胸腺の質量、(c)自己拘束性および/または自己寛容性および/または免疫不全および/またはナイーブT細胞の産生、(d)胸腺の機能(T細胞などのリンパ系細胞のサポート)、(e)T細胞前駆細胞、未熟T細胞または成熟T細胞の数または増殖、(f)CD45+細胞の数または増殖、(g)CD3+細胞の数または増殖、(h)CD3+CD4+細胞の数または増殖、(i)CD3+CD8+細胞の数または増殖、(j)CD3+CD4+CD8+(ダブルポジティブまたは「DP」細胞)の数または増殖、(k)CD4-CD8-細胞(ダブルネガティブまたは「DN」細胞、例えば、DN1、DN2、DN3および/またはDN4細胞など)の数または増殖、(l)胸腺間質細胞の数または増殖、(m)胸腺上皮細胞の数または増殖、(n)胸腺CD45-EpCam+細胞の数または増殖、(o)胸腺CD45-EpCam+ Sca1+細胞の数または増殖(TEPC)、(p)胸腺CD45-EpCam+細胞の数または増殖(cTEC)、(q)胸腺CD45-EpCam+ Ki67+細胞の数または増殖(増殖cTEC細胞)、(r)胸腺CD45-EpCam+細胞の数または増殖(胸腺髄質上皮細胞(mTEC))、(s)胸腺CD45-EpCam+Ki67+(増殖mTEC細胞)の数または増殖および(t)表A(下記参照)に示される1つ以上の細胞型の数または増殖。特定の実施形態では、これらのパラメータ/治療アウトカムの1つ以上の永続的または一過性の増加または促進(まとめて「増強」)がある場合、対象は、胸腺または特定の胸腺細胞型または種類に関する「治療」または「再生」または「回復」が成功したことを意味する。いくつかの実施形態では、このようなパラメータ/治療アウトカムの増強(増加または促進)の量/レベルの検出および/または決定は、適切なベースラインまたは適切な対照と比較して評価される:例えば、治療方法が開始される前のパラメータのレベルと比較して、または該方法が実施されていない比較可能な対照対象におけるパラメータのレベルと比較して、または該方法がntECSの不在下で(例えば、送達ビヒクルを使用するがntECsは使用しない)実施される場合のパラメータのレベルと比較して、または該方法が、遺伝子操作されていないntECs(例えば、BMP4を発現しないntECsおよび/またはE4ORF1を発現しないntECs)を使用して実施される場合のパラメータのレベルと比較して評価される。いくつかの実施形態では、1つ以上のパラメータ/治療アウトカムの増強(増加または促進)量は、任意の検出可能な量であってよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のパラメータ/治療アウトカムの増強(増加または促進)量は、任意の統計的に有意な量であってよい。いくつかの実施形態では、パラメータの1つ以上の増強(増加または促進)量は、適切なベースラインまたは適切な対照と比較して、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、400%、500%、またはそれ以上であってよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のパラメータの増強(増加または促進)量とは、パラメータ/治療アウトカムが、対象にとってほぼ「正常」レベル、即ち、健康な個体において予想されるレベル、またはいずれの疾患もない対象において予想されるレベル、または疾患を発症する前または化学療法、放射線療法、移植前処理レジメンもしくは骨髄破壊的前処理レジメンで治療する前に対象が有するレベルであってもよい。いくつかの実施形態では、パラメータの1つ以上の増強(増加または促進)量とは、パラメータが、「正常」レベルよりも高いレベルにあるような量であってよい。いくつかの実施形態では、パラメータの1つ以上の増強(増加または促進)量は、パラメータが「正常」レベルの約50%、より好ましくは約60%、より好ましくは約70%、より好ましくは約80%、またはより好ましくは約90%となるような量であってよい。胸腺の再生を増強する方法を説明する本発明の各実施形態に関しては、胸腺の再生を増加させる対応する方法および胸腺の再生を促進する対応する方法もまた意図されていることに留意されたい。同様に、胸腺の再生を増強する方法を説明する本発明の各実施形態については、上記の特定のパラメータ/治療アウトカムのいずれか1つ以上(例えば、パラメータa~s)を増強する方法も意図されていることに留意されたい。
【0037】
本明細書で使用する場合、「胸腺細胞」という用語は、通常、胸腺の一部を形成するか、または胸腺に存在する細胞をいい、以下の表Aに記載されているものが含まれるが、これらに限定されるものではない。胸腺細胞の一般的なカテゴリーの内には、胸腺間質細胞と、少なくともある期間に、例えば胸腺内で起こるT細胞成熟およびT細胞教育プロセスの一時期に胸腺内に存在している造血細胞系由来の細胞(例えば、T細胞前駆細胞、未成熟T細胞および成熟T細胞など)の両方が含まれる。「胸腺再生」(上記に定義)という用語は、胸腺間質細胞の再生および造血器系由来細胞の再生の両方を含んでおり、「T細胞再構成」という用語も含まれる。胸腺再生プロセスの一部としておこる造血器由来の細胞への効果は、胸腺内に存在している造血器由来の細胞の評価に基づいて、および/または循環中のその細胞の評価に基づいて観察することができる-例えば、本発明の遺伝子操作されたntECの投与後の胸腺からのT細胞産生の増強は、循環中のその細胞を評価することにより検出できる。
【表1】
【0038】
核酸分子およびポリペプチド
本明細書に記載の本発明の実施形態のいくつかは、E4ORF1+、BMP4+および/またはE4ORF1+BMP4+である遺伝子操作された内皮細胞(ntECs)-即ち、E4ORF1ポリペプチドを発現する細胞、BMP4ポリペプチドを発現する細胞またはE4ORF1ポリペプチドとBMP4ポリペプチド両方を発現する細胞-を含むものである。本明細書では、これらのポリペプチドを総称して「本発明のポリペプチド」と呼ぶ。
【0039】
「本発明のポリペプチド」は、核酸分子によってコードされている。従って、いくつかの実施形態では、本発明は、アデノウイルスE4ORF1ポリペプチドをコードする核酸分子、BMP4ポリペプチドをコードする核酸分子、および/またはアデノウイルスE4ORF1ポリペプチドとBMP4ポリペプチドの両方をコードする核酸分子を含むものである。本明細書では、このような核酸分子を総称して、「本発明の核酸分子」と呼ぶ。
【0040】
本発明のポリペプチドおよび本発明の核酸分子は、本明細書に規定されているか、または当技術分野において公知であるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有していてもよく、あるいは前記アミノ酸またはヌクレオチド配列の変異体、誘導体、突然変異体または断片であるアミノ酸またはヌクレオチド配列を有していてもよい-但し、このような変異体、誘導体、突然変異体または断片は、本明細書に記載の1つ以上の機能特性(ntECにおいて発現しており、胸腺再生および/またはT細胞再構成を必要とする対象に投与された場合に、後記に限定しないが胸腺再生および/またはT細胞再構成を誘導する能力を含んでいる)を有するポリペプチドを含んでいるか、そのポリペプチドをコードしている。
【0041】
BMP4ポリペプチドを含むそれらの実施形態において、BMP4ポリペプチドは、任意の哺乳類BMP4ポリペプチド、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウサギ、ラット、マウス、ヤギまたはブタのBMP4ポリペプチドであってよい。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、ヒトBMP4ポリペプチドであってよい。そのようなポリペプチドのアミノ酸配列、およびそのポリペプチドをコードする核酸配列は、当該技術分野において周知であり、Genbankデータベースなどの周知の公開されたデータベースにて利用できる。例えば、ヒトBMP4の好適なヒトアミノ酸配列には、以下のアクセッション番号を示すものが含まれる:NP_001193.2 GI:157276593 NP_570911.2 GI:157276595、NP_570912.2 GI:157276597、NP_001334841.1 GI:1122781626、NP_001334842.1 GI:1122781519、NP_001334843.1 GI:1122780734、NP_001334844.1 GI:1122781552、NP_001334845.1 GI:1122780682およびNP_001334846.1 GI:1122781077。本明細書の実施例のセクションに記載された実験において使用されたヒトBMP4ポリペプチドは、以下のヌクレオチド配列によってコードされたものであった:
【0042】
【0043】
このヌクレオチド配列は、以下のBMP4アミノ酸配列をコードする:
。
【0044】
アデノウイルスE4ORF1ポリペプチドに関するそれらの実施形態において、使用されるポリペプチド配列は、任意の適切なアデノウイルス型または株からのもの、例えば、ヒトアデノウイルス2、3、5、7、9、11、12、14、34、35、46、50または52型などであってもよい。いくつかの好ましい実施形態では、使用されるポリペプチド配列は、ヒトアデノウイルス5型由来のものである。そのようなアデノウイルスポリペプチドのアミノ酸配列、および前記ポリペプチドをコードする核酸配列は、当技術分野では良く知られており、Genbankデータベースなどの周知の公的に利用可能なデータベースにて入手可能である。例えば、好適な配列としては、以下のものが挙げられる:ヒトアデノウイルス9型(Genbank Accession No.CAI05991)、ヒトアデノウイルス7型(Genbank Accession No.AAR89977)、ヒトアデノウイルス46型(Genbank Accession No.AX70946)、ヒトアデノウイルス52型(Genbank Accession No. ABK35065)、ヒトアデノウイルス34型(Genbank Accession No.AAW33508)、ヒトアデノウイルス14型(Genbank Accession No.AAW33146)、ヒトアデノウイルス50型(Genbank Accession No.AAW33554)、ヒトアデノウイルス2型(Genbank Accession No.AP.sub.--000196)、ヒトアデノウイルス12型(Genbank Accession No. AP.sub.--000141)、ヒトアデノウイルス35型(Genbank Accession No. AP.sub.--000607)、ヒトアデノウイルス7型(Genbank Accession No. AP.sub.--000570)、ヒトアデノウイルス1型(Genbank Accession No. AP.sub.--000533)、ヒトアデノウイルス11型(Genbank Accession No. AP.sub.--000474)、ヒトアデノウイルス3型(Genbank Accession No. ABB 17792)およびヒトアデノウイルス5型(Genbank Accession Number D12587)。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドおよび核酸分子は、本明細書に具体的に記載されているもの、または当技術分野において既知のもの(例えば、Genbankデータベースなどの公開された配列データベースにて)と同じアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有している)。いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドおよび核酸分子は、その配列の変異体、誘導体、突然変異体または断片であるアミノ酸またはヌクレオチド配列、例えばそのような配列に対して85%以上の配列同一性を有する変異体、誘導体、突然変異体または断片を有していてもよい。いくつかの実施形態では、変異体、誘導体、突然変異体または断片は、既知の配列に対して約85%の同一性、または既知の配列に対して約88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有している。いくつかの実施形態では、既知のヌクレオチド配列に対して、約50ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約35ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約28ヌクレオチド、26ヌクレオチド、24ヌクレオチド、22ヌクレオチド、20ヌクレオチド、18ヌクレオチド、16ヌクレオチド、14ヌクレオチド、12ヌクレオチド、10ヌクレオチド、9ヌクレオチド、8ヌクレオチド、7ヌクレオチド、6ヌクレオチド、5ヌクレオチド、4ヌクレオチド、3ヌクレオチド、2ヌクレオチドもしくは1ヌクレオチドの長さが異なる既知のヌクレオチド配列の変異体、誘導体、突然変異体または断片が使用される。いくつかの実施形態では、既知のアミノ酸配列に対して、約50アミノ酸、約45アミノ酸、約40アミノ酸、約35アミノ酸、約30アミノ酸、約28アミノ酸、26アミノ酸、24アミノ酸の長さが変化する、既知のアミノ酸配列の変異体、誘導体、突然変異体または断片が使用されている。既知のアミノ酸配列に対して、22アミノ酸、20アミノ酸、18アミノ酸、16アミノ酸、14アミノ酸、12アミノ酸、10アミノ酸、9アミノ酸、8アミノ酸、7アミノ酸、6アミノ酸、5アミノ酸、4アミノ酸、3アミノ酸、2アミノ酸または1アミノ酸のいずれかの長さが異なる既知のアミノ酸配列の変異体、誘導体、突然変異体または断片が使用される。
【0046】
E4ORF1の核酸またはアミノ酸配列が使用される実施形態において、いくつかの実施形態では、そのような配列は、アデノウイルスE4ORF1領域とは別の配列を含まずに使用されている-例えば、完全なE4ORF1領域の核酸配列という意味ではないか、またはこのE4ORF1領域によってコードされるその他のポリペプチドとは一体ではない。しかし、いくつかの他の実施形態では、そのような配列は、E4ORF2、E4ORF3、E4ORF4またはE4ORF5配列、またはその変異体、誘導体、突然変異体または断片などのE4ORF1領域由来の1または複数のその他の核酸またはアミノ酸配列と共に使用されてもよい。例えば、E4ORF1配列を、その他の配列、遺伝子またはコード領域(例えば、プロモーター、マーカー遺伝子、抗生物質耐性遺伝子など)を含む構築体(例えば、ウイルスベクター)中に使用することができるが、特定の実施形態では、E4ORF1配列は、完全なE4ORF1領域全体を含まない構築体、またはE4ORF2、E4ORF3、E4ORF4および/またはE4ORF5などの完全なE4ORF1領域とは別のORFを含まない構築体に使用される。
【0047】
本発明の核酸分子は、所望の用途に応じて、例えばプロモーター、エンハンサー、抗生物質耐性遺伝子、レポーター遺伝子または発現タグ(例えば、GFPをコードするヌクレオチド配列など)、または望ましいと思われるその他の任意のヌクレオチド配列または遺伝子を含む構築体またはベクター中に使用することが可能である。本発明のポリペプチドは、単独で、または融合タンパク質の一部として発現させることができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は、発現を可能にするために、1つ以上のプロモーター制御下にて存在し得る。所望の細胞型における核酸配列の発現を発動することができる任意のプロモーターを使用することができる。好適なプロモーターの例には、CMV、SV40、RSV、HIV-LtrおよびMMLプロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。プロモーターは、アデノウイルスゲノムまたはその変異体からのプロモーターでもあり得る。例えば、E4ORF1が使用されるいくつかの実施形態では、プロモーターは、アデノウイルスゲノムにおいて自然界でE4ORF1の発現を発動するプロモーターであってよい。しかし、E4ORF1が使用される別の実施形態では、プロモーターは、アデノウイルスゲノムにおいてE4ORF1の発現を自然界で発動させるものでない。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は、核酸配列の発現を、所望に応じてオンまたはオフにできるように、誘導性プロモーターの制御下に配置させることができる。任意の適切な誘導発現系を使用することができ、例えば、テトラサイクリン誘導発現系またはホルモン誘導発現系などが使用できる。例えば、本発明の核酸分子は、それらが必要な間は発現させ、所望の結果が達成されたとき、例えば内皮細胞の十分な成長または増殖があった時点で停止することができる。発現をオンまたはオフにする能力は、in vivoで適用する際に、特に有用であると考えられる。
【0050】
本発明の核酸分子は、自然界に存在するヌクレオチド、合成ヌクレオチドまたはそれらの組み合わせを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は、細胞内で安定であり、また細胞内で直接タンパク質を発現/産生させるように管理するために使用できる合成の修飾RNAなどのRNAを含むことができる。その他の実施形態では、本発明の核酸分子は、DNAを含むことができる。DNAが使用される実施形態においては、DNA配列は、細胞内での発現を可能にする(および/または促進、増強または調節する)ために1つ以上の適切なプロモーターおよび/または調節エレメントに作動可能に連結されてもよく、1つ以上の適切なベクターまたは構築体中に存在していてもよい。本発明の核酸分子は、同じ核酸構築体またはそれらは別の核酸構築体において、内皮細胞に導入することができる。
【0051】
本発明の核酸分子は、当該技術分野で公知の任意の適切なシステム(例えば、トランスフェクション技術およびウイルス媒介性の導入技術を含むが、これらに限定されない)を用いて内皮細胞に導入することができる。本発明に従って使用できるトランスフェクション法には、リポソーム媒介性トランスフェクション、ポリブレン媒介性トランスフェクション、DEAEデキストラン媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクションおよび微粒子ボンバードメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。使用できるウイルス媒介性導入法としては、レンチウイルス媒介導入法、アデノウイルス媒介導入法、レトロウイルス媒介導入法、アデノ随伴ウイルス媒介導入法、ヘルペスウイルス媒介導入法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明は、ベクター、例えば本発明の核酸分子を含有する発現ベクターも提供する。例えば、一実施形態では、本発明は、BMP4および/またはE4ORF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供する。いくつかのそのような実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかのそのような実施形態では、発現ベクターは、レンチウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、BMP4をコードするヌクレオチド配列およびE4ORF1をコードするヌクレオチド配列は、同じ構築体またはベクター内にて提供され、別々のプロモーターの制御下に置かれてもよいし、例えばBMP4およびE4ORF1配列の間に内部リボソーム侵入部位配列(IRES)を含む別のプロモーターの制御下に置かれてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、ペプチド模倣体を使用してもよい。ペプチド模倣体とは、ポリペプチドを模倣するように設計された小分子タンパク質様の鎖である。このような分子は、本発明のポリペプチドのいずれか(例えば、BMP4またはE4ORF1ポリペプチド)を模倣するように設計され得る。ペプチドを修飾してペプチド模倣体を作製するか、あるいはペプチド模倣体を設計する多種多様な方法が当技術分野で知られており、本発明のポリペプチドの1つのペプチド模倣体を作製するために使用することが可能である。
【0054】
本発明のポリペプチドおよび核酸分子の取り扱い、遺伝子操作および発現は、従来の分子生物学および細胞生物学技術を使用して行うことができる。このような技術は、当技術分野では、よく知られている。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis eds., "Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Springs Harbor Laboratory Press, 1989); the series Methods of Enzymology (Academic Press, Inc.)または任意の他の標準参考書の教示を参照して、ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を取り扱い、遺伝子操作および発現する際に用いる適切な技術に関するガイダンスを参照することができる。E4ORF1配列の取り扱いまたは発現に関わる更なる態様は、米国特許第8,465,732号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
内皮細胞
本明細書に記載される非胸腺内皮細胞(ntECs)は、当該技術分野において既知の血管内皮細胞の任意の適切な非胸腺由来であり得る。いくつかの実施形態では、ntECSは、胸腺内皮細胞に特異的である1つまたは複数のマーカー(またはマーカープロファイル)を発現しない。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、初代内皮細胞である。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、ヒトもしくは非ヒト霊長類細胞、またはウサギ、ラット、マウス、ヤギ、ブタまたは他の哺乳動物細胞などの哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、初代ヒト内皮細胞である。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)などの臍帯静脈内皮細胞(UVECs)である。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、脂肪ECsである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、皮膚ECsである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は心筋ECsである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は腎臓ECである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は、肺ECsである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は肝臓ECsである。いくつかの実施形態では、内皮細胞は骨髄ECである。使用することができる他の適切な内皮細胞には、E4ORF1-発現に適しているものとして先に記載されたものが含まれる米国特許第8,465,732号において記載されており、その内容は参照により、本明細書に援用される。
【0056】
いくつかの実施形態では、内皮細胞は、所定の分子(例えば、BMP4および/またはE4ORF1)の発現に加えて、およびそれとは別に、1以上の遺伝子修飾を含んでなるように遺伝子修飾されている。例えば、いくつかの実施形態では、内皮細胞は、ETV2を発現するように操作することもできる。実際、ntECがBMP4および/またはE4ORF1を発現する本明細書に記載されている各実施形態において、ntECは、ETV2も発現することができる。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のntECsは、内皮細胞に影響を及ぼす疾患または障害に関与することが知られているか、または関与することが疑われている遺伝子の改変したものまたはその他の遺伝子、例えば治療上有用な遺伝子を含んでおり、それは内皮細胞において提供することが望まれるか、または遺伝子操作された内皮細胞を用いて投与または送達することが望まれるであろう。
【0057】
細胞集団および組成物
本発明の内皮細胞は、内皮細胞集団またはそのような内皮細胞集団を含む組成物の形態で存在してもよいし、提供されてもよい。
【0058】
例えば、一実施形態において、本発明は、遺伝子操作されたBMP4+E4ORF1+非胸腺内皮細胞(ntECs)の集団を提供する。いくつかの実施形態では、そのような遺伝子操作されたntECの集団は、in vitroまたはex vivoで存在する。いくつかの実施形態では、そのような遺伝子操作されたntECの集団は、in vivoで存在する。いくつかの実施形態では、そのような遺伝子操作されたntECの集団は、単離された集団である。いくつかの実施形態では、そのような集団は、実質的に純粋なntECs細胞の集団である。例えば、いくつかの実施形態では、全細胞集団を構成する細胞の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約95%が、本発明の遺伝子操作されたntECであろう。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECの集団中のntECsは、臍帯静脈内皮細胞(UVECs)、脂肪内皮細胞、皮膚内皮細胞、肺内皮細胞、心臓内皮細胞、腎臓内皮細胞または骨髄内皮細胞である。いくつかの実施形態では、ntECsは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)である。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明は、上記または本明細書の他の場所に記載されたntECsの集団を含む様々な組成物を提供する。いくつかの実施形態では、そのような組成物は、生理食塩水、細胞懸濁液、細胞培養液等の担体溶液を含んでいる。いくつかの実施形態では、そのような組成物は、本明細書に記載されるntECsの集団と、生理食塩水などの対象への投与に適した溶液を含む治療用組成物である。所望により、他の治療上許容される薬剤が含まれ得る。当業者であれば、意図される用途に応じて、治療用組成物に含まれる適切な薬剤を容易に選択することができる。いくつかの実施形態では、そのような組成物および治療用組成物は、本明細書に記載のntECsの集団と、生体適合性マトリックス材料(例えば、室温または体温で液体または固体である生体適合性マトリックス材料)を含んでいてもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、追加の細胞型-例えば、ntECsの存在下において(例えば、ntECsを「フィーダー」細胞として使用して)維持、培養または増殖させることができるか、またはntECsと共に対象に投与される追加の細胞型のようなものを含んでいてよい。この追加の細胞型の例には、胸腺幹細胞または前駆細胞、造血細胞、造血幹細胞(HSCs)、造血前駆細胞(HPCs)および造血幹細胞と造血前駆細胞(HSPCs)などの幹細胞または前駆細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の内皮細胞と共に提供または使用できる細胞のその他の例は、米国特許第8,465,732号に提供されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
治療方法およびその他の適用
いくつかの実施形態では、本発明は、様々な治療方法、例えば、有効量の本発明の遺伝子操作されたntEC(または、この遺伝子操作されたntECを含む組成物)を対象に投与することによって、それを必要とする対象を治療する方法を提供する。
【0062】
例えば、一実施形態では、本発明は、胸腺の再生を増強する方法を提供するものであって、この方法は、胸腺の再生を必要とする対象に、遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)(ここで、該遺伝子操作されたntECsは、E4ORF1+またはBMP4+E4ORF1+である)を含む治療用組成物の有効量を投与することを特徴とし、それによって対象の胸腺再生が増強される。
【0063】
別の実施形態では、本発明は、対象における骨髄破壊的前処置後の生存率を高める方法を提供し、この方法は、骨髄破壊的前処置を受けた対象に、遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)を含む有効量の治療組成物を投与することを特徴とし、該遺伝子操作されたntECsはBMP4+E4ORF1+である。同様に、別の実施形態では、本発明は、対象における骨髄破壊的前処置後およびその後の造血細胞移植(HCT)(例えば、造血幹細胞移植(HSCT))後の生存率を高める方法を提供するものであって、該方法は、有効量の遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)を含む治療組成物を、骨髄破壊的前処置およびその後の造血細胞移植(HCT)(例えば、造血幹細胞移植(HSCT))を行う対象に投与することを特徴とする、該遺伝子操作されたntECsはBMP4+E4ORF1+である、方法を提供する。このような方法では、生存期間は、同じ骨髄破壊的前処置(および/またはHCT)を受けるが、遺伝子操作されたntECを受けない対象の生存期間と比較して延長される。
【0064】
適切なntECS、またはntECsを含む組成物の有効量を選択するための手段は、上述したとおりである。
【0065】
遺伝子操作された非胸腺内皮細胞(ntECs)は、対象に1回(単回投与)または複数回(多回投与)、例えば2、3、または4回投与することが可能である。複数回の投与を用いる場合、投与のスケジュールは、任意の適切なスケジュールであってよい。いくつかの実施形態では、複数回の投与は、1日間隔、2日間隔、3日間隔、または5日間隔である。例えば、一実施形態では、ntECsは、0日目、3日目、および5日目に投与される。ntECsを対象に最初に投与する適切な時期(すなわち、第0日目)は、対象の特定の症状に基づいて医師が選択することができる。例えば、一実施形態においては、対象が造血細胞移植(HCT)を受ける準備として骨髄破壊的前処置を受けた場合、ntECsは、対象がHCTを受ける同日(0日目)に対象に最初に投与され、その後の日、例えばHCT後の3日目および5日目にntECsが対象に再度投与されてもよいし、されなくてもよい。いくつかの実施形態では、ntECsの有効量は、対象に1回投与-単回投与にて投与される。いくつかの実施形態では、ntECsの有効量は、対象に複数回投与-すなわち多回投与され、各々有効量のntECsが対象に送達される。いくつかの実施形態では、ntECsの有効量は、複数回の投与の間で分割される-例えば、有効量の半分が初回投与の1日目に投与され、有効量の半分が2回目の投与にて別の日に投与される。これらの投与スキームの多数のバリエーションを、適宜採用することができる。当業者であれば、特定の症状に応じて適切な投与スケジュールを選択することができるであろう。
【0066】
いくつかの実施形態では、胸腺再生とは、CD45-胸腺間質細胞およびCD45+T細胞の中から少なくとも1つの細胞タイプが回復することを含む。CD45-胸腺間質細胞は、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、胸腺皮質上皮細胞(cTECs)および胸腺髄質上皮細胞(mTECs)を含むが、これらに限定されるものではない。CD45+T細胞には、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、ダブルポジティブT細胞(DP)、ダブルネガティブT細胞(DN)、ダブルネガティブ1型(DN1)T細胞、ダブルネガティブ2型(DN2)T細胞、ダブルネガティブ3型(DN3)T細胞およびダブルネガティブ4型(DN4)T細胞などがあるが、これらに限られるものではない。いくつかの実施形態では、胸腺再生は、CD45-胸腺間質細胞およびCD45+T細胞の両方の回復を含む。いくつかの実施形態では、胸腺再生とは、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、胸腺皮質上皮細胞(cTECs)および胸腺髄質上皮細胞(mTECs)の回復を含む。いくつかの実施形態では、胸腺再生は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、ダブルポジティブT細胞(DP)、ダブルネガティブT細胞(DN)、ダブルネガティブ1型(DN1)T細胞、ダブルネガティブ2型(DN2)T細胞およびダブルネガティブ4型(DN4)T細胞の回復を含む。いくつかの実施形態では、胸腺再生は、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、胸腺皮質上皮細胞(cTECs)および胸腺髄質上皮細胞(mTECs)の回復を含む。CD4+T細胞、CD8+T細胞、ダブルポジティブT細胞(DP)、ダブルネガティブT細胞(DN)、ダブルネガティブ1型(DN1)T細胞、ダブルネガティブ2型(DN2)T細胞、ダブルネガティブ4型(DN4)T細胞などの回復を含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、ntECは、臍帯静脈内皮細胞(UVEC)、脂肪内皮細胞、皮膚内皮細胞、肺内皮細胞、心臓内皮細胞、腎臓内皮細胞および骨髄内皮細胞からなる群から選択される。
【0068】
いくつかの実施形態では、対象はヒトである。そのような実施形態のいくつかでは、ntECsは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)である。そのような実施形態のいくつかでは、ntECsは、ヒト骨髄内皮細胞である。そのような実施形態のいくつかでは、ntECsは、ヒト脂肪内皮細胞である。そのような実施形態のいくつかでは、ntECsは、ヒト皮膚内皮細胞である。
【0069】
いくつかの実施形態では、ntECsは、対象に対して自己由来のものである。いくつかの実施形態では、ntECは、対象に対して同種異系である。いくつかの実施形態では、ntECsは、対象に対してMHC/HLA適合性である。
【0070】
いくつかの実施形態では、対象は、化学療法、放射線療法、移植前処理レジメンまたは骨髄破壊的前処理レジメンにより以前に治療されている。骨髄破壊的前処理レジメンの例には、放射線(例えば、全身照射)で対象を治療すること、および/またはエトポシドおよび/またはブスルファンを対象に投与することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
一部の実施形態では、対象は、造血細胞移植(HCT)、造血幹細胞移植(HSCT)または造血幹および/または前駆細胞移植(HSPCT)により以前に治療されたことがある。
【0072】
いくつかの実施形態において、対象は、免疫不全を有する。いくつかの実施形態では、対象は、HIV感染を有する。いくつかの実施形態では、対象は、胸腺組織量、胸腺機能、またはT細胞産生における加齢関連性の欠乏を有する。
【0073】
いくつかの実施形態では、方法は、造血細胞または造血幹細胞(HSC)、もしくは造血幹および造血前駆細胞(HSPC)(例えば、造血幹細胞移植(HSCT)または造血幹および/または前駆細胞移植(HSPCT)処置を行うという文脈で)を含む治療用組成物を対象に投与することをさらに含む。そのようないくつかの実施形態では、遺伝子操作されたntECは、静脈内(IV)注入によって対象に投与される。そのような実施形態のいくつかでは、遺伝子操作されたntECおよび造血細胞(例えば、HSCs)は、同時に投与される。そのような実施形態のいくつかでは、遺伝子操作されたntECおよび造血(例えば、造血幹細胞)は、同じ注射にて対象に投与される。そのような実施形態のいくつかでは、遺伝子操作されたntECは、数日または数週間にわたり、複数回の静脈内注射にて対象に投与される。
【0074】
本明細書で提供される治療方法のいくつかの実施形態では、BMP4タンパク質が対象に投与される。例えば、いくつかのそのような実施形態では、BMP4タンパク質は、対象にそのような組成物を投与する前に、E4ORF1+またはBMP4+E4ORF1+ntECsを含む組成物に加えられる。いくつかの実施形態では、BMP4タンパク質を含む別の組成物が、治療方法の一部として対象に投与される。本明細書で提供される治療方法のいくつかの実施形態では、BMP4は、対象に投与されない。
【0075】
いくつかの実施形態では、胸腺内皮細胞も対象に投与される(即ち、非胸腺EC(ntECs)および胸腺ECの両方が投与される)。いくつかの実施形態では、胸腺内皮細胞は、対象に投与されない。
【0076】
本明細書で提供される治療方法において、ntECまたはntECを含有する組成物は、例えば注射(例えば、静脈内(IV)注射、筋肉内注射、皮下注射、局所注射)によるか、または注入(例えば、静脈注入、皮下注入、局所注入)によるか、または外科的移植により、当技術分野において既知のあらゆる適切な手段を使用して対象に投与することが可能である。いくつかの実施形態では、ntECまたはntECを含有する組成物は、IV注入によって対象に投与される。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、胸腺内またはその近傍に直接投与されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、胸腺内注射または胸腺内注入によって対象に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、下甲状腺動脈への注射または注入によって対象に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、内胸動脈への注射または注入によって対象に投与されてもよい。当業者は、特定の症状に応じて、適切な投与経路を選択することができるであろう。
【0077】
いくつかの実施形態では、胸腺は、機械的方法、磁気的方法、超音波的方法または他の刺激方法を介して、胸腺への遺伝子操作されたntECsのホーミングに対してより寛容となり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、例えば研究目的または治療用途のために、インビボで作成することができる。例えば、いくつかの態様において、本発明は、様々な治療方法、例えば、治療を必要とする対象を治療するための方法を提供するものであって、その方法は、対象に、BMP4をコードする核酸分子および/またはE4ORF1をコードする核酸分子の有効量(例えば、適切なベクター中で、および/または適切なプロモーターの制御下において)を、対象の非胸腺内皮細胞が、そのような核酸分子でトランスフェクトされるか、または形質転換されて、インビボで遺伝子操作されたntECとなるように投与することを含む。かかる方法において、ヌクレオチド分子は、当業者には既知の適切な手段を用いて、対象に投与され得る。例えば、ヌクレオチド分子(例えば、適切なベクター中の)は、所望の部位の血流または組織への注射または注入によって投与することができる。核酸分子は、単回投与または反復投与にて投与することができる。当業者は、所望の用途に応じて、それに応じた適切な投与方法および適切な投与レジメンを選択することができるであろう。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作されたntECは、それらが複製できないように、使用(例えば、治療的使用)の前に有糸分裂的に不活性化される。これは、例えば、マイトマイシンCのような化学薬剤を用いるか、または遺伝子操作された内皮細胞を照射することによって達成され得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、本発明の治療方法は、ntECを対象に投与する前に、E4ORF1をコードする核酸分子および所望によりBMP4をコードする核酸分子を用いてin vitroまたはex vivoでntECをトランスダクションまたはトランスフェクトにより遺伝子改変する最初の段階を更に含む。
【0081】
本明細書に記載した様々な治療方法のいずれかを使用して、胸腺再生を増強し(T細胞再構成を刺激することを含む)、および/または上記の「治療」の定義のセクションに列挙したパラメータまたは治療アウトカムのいずれか1つ以上を、それを必要としている生存対象において達成することが可能である。
【0082】
細胞培養方法
細胞を培養する方法は、当該技術分野において周知であり、あらゆる適切な細胞培養方法を使用することができる。例えば、本発明の遺伝子操作されたntECは、他の内皮細胞を培養するために有用であることが知られている方法、または、例えば米国特許第8,465,732号(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載のようなE4ORF1発現内皮細胞の培養に有用であることが知られている方法を用いて培養することが可能である。いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子操作された内皮細胞は、血清の非存在下で、または外来成長因子の非存在下で、または血清および外来成長因子の両方の非存在下で培養することができる。また、本発明の遺伝子操作された内皮細胞は、凍結保存することも可能である。細胞培養および細胞凍結保存のための種々の方法は当業者に知られており、例えば、Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique, 4th Edition (2000) by R. Ian Freshney ("Freshney")に記載されている方法が挙げられる(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0083】
キット
本発明は、本明細書に記載の様々な方法を実施するためのキット、または本明細書に提供される遺伝子操作された内皮細胞を産生するためのキットも提供する。そのようなキットは、本明細書に記載されるいずれかの成分を含むことができ、これには、ヌクレオチド配列(例えば、ベクター中で)、ntECs、遺伝子操作されたntECSの集団、対照の遺伝子操作されていないntECs、サンプル/標準の遺伝子操作されたntECs、遺伝子操作されたntECsまたはそこで発現するタンパク質もしくは核酸分子を検出するための手段または組成物(例えば、核酸プローブ、抗体など)、遺伝子操作されたntECを維持または増殖させるために有用な培地または組成物、遺伝子操作されたntECによって調整された培地、対象に遺伝子操作された内皮細胞を投与するための手段または組成物、またはそれらの任意の組合せである。このようなキットは全て、所望により、使用説明書、容器、培養容器などを含んでいてもよい。ラベルは、キットに添付されていてもよく、キットの内容物の使用に関する指示または他の情報を提供する電子的またはコンピュータ可読形式(例えば、ディスク、光ディスク、メモリチップ、またはテープ)であってもよい任意の書き込みまたは記録材料を含んでもよい。
【0084】
本発明の特定の態様は、以下の非限定的な実施例においてさらに説明することができる。
【実施例】
【0085】
実施例1
遺伝子操作された非胸腺内皮細胞の生成
非胸腺内皮細胞の単離
非胸腺内皮細胞(ntECs)は、所望の組織、例えば、臍帯/臍帯静脈、脂肪組織、皮膚、肺、心臓、腎臓または骨髄、あるいはその他の任意の所望の非胸腺組織源から単離される。内皮細胞は、標準的な確立されたプロトコルを用いて所望の組織から単離される。臍帯からntECSを分離するためのプロトコルの例を以下に提供する。同様のプロトコルは、その他の組織からの内皮細胞を単離するための知られており、使用することができる。
【0086】
以下は、ヒトなどの任意の所望の種からの臍帯静脈からntECSを単離するためのプロトコルの例示である。このプロトコルは、臍帯静脈内皮細胞または「UVECs」-ヒト臍帯静脈から得られる場合は「HUVECs」と呼ばれる-の集団を生成する。全てのステップは、無菌的技術と無菌材料を用いて行われる。
【0087】
臍帯は、内皮細胞を単離するために、処理されるまで2~8℃に維持される。UVECは、コラゲナーゼを用いた酵素消化によって臍帯静脈から単離される。例えば、臍帯静脈を生理食塩水または生存細胞に適したその他の溶液(例えば、培養液)で洗い0.2%(w/v)コラゲナーゼ/生理食塩水または生細胞に適したその他の溶液(例えば、培養液)の溶液で満たして両端をクランプで固定することができる。臍帯を、適当な温度(例えば、室温20~25℃)で、内皮細胞が臍帯静脈から剥離するのに十分な時間(例えば、室温で約30分)インキュベートする。その時間は、インキュベーションが行われる温度に応じて、また組織固有の特性に基づいて、変更してもよい。剥離した細胞は、静脈から洗い流されて、円錐形チューブのような適切な容器内に保存される。臍帯静脈は、生理食塩水または生存細胞に適したその他の溶液(例えば、培養液)で再度洗い、洗液も、例えば同じ容器内で保存することができる。容器の内容物を、遠心分離し、上清を吸引する。UVECを含む細胞ペレットは、EC培養液に穏やかに再懸濁させる。使用できる培養液の例は、10%ウシ胎児血清、20ng/mL FGF-2、10U/mLヘパリン、5μg/mLゲンタマイシン、10mM HEPESおよび1X Glutamaxを加えたM199基本培地を含むEC培養培地である。EC培養液中のUVECを、適切な組織培養容器に移し、37℃、5%CO2のインキュベーターに入れ、インビトロ培養プロセスを開始する。当業者であれば、UVECの分離を達成するために、このプロトコルに変更を加えることが可能であることは理解するであろう。当業者であれば、その他の組織からntECsを単離するために、このプロトコルの変更を行うことができることも認識するであろう。
【0088】
遺伝子操作されたntECsを作成するためのトランスフェクションまたはトランスダクション
適当な培養期間(例えば、2日間)の後、上記のように単離されたntECs、またはその他の任意の手段によって単離または得られたntECsを、適当なプロモーター制御下において、選択可能なマーカーおよび目的とするコード配列(複数も可能)(例えば、E4ORF1コード配列(例えば、Ad5から)またはBMP4コード配列)を含む核酸分子で(例えば、発現ベクター、ウイルスベクターなどにおいて)トランスフェクトまたはトランスダクションを行う。トランスフェクションまたはトランスダクションは、標準的なトランスフェクションまたはトランスダクションプロトコルを用いて実施される。第2のコード配列がトランスフェクションまたはトランスダクションされる場合(例えば、E4ORF1コード配列(例えば、Ad5からの)またはBMP4コード配列)、適当な期間の後(例えば、翌日)、ntECを、再び標準的なトランスフェクションまたはトランスダクションプロトコルを使用して、適切なプロモーターの制御下で、選択可能なマーカーと第2のコード配列を含む第2の核酸分子(例えば、発現ベクター、ウイルスベクターなどにおいて)でトランスフェクトまたは形トランスダクションさせる。2つのトランスフェクション/トランスダクションを行う場合、トランスフェクション/トランスダクションの順番は所望の順序でよい(例えば、E4ORF1が1番目または2番目)。2つのコード配列も、同じ核酸分子内であろうと、別々の核酸分子であろうとも、同時に送達することができる。
【0089】
通常、トランスフェクションまたはトランスダクション後、ntECs細胞は、EC培養液中で数日間(例えば、3日間)維持された後、適切な選択剤または薬剤を含む適切な選択培地に切り換えられる。例えば、送達された核酸分子が、所定の抗生物質に対する耐性が付与される遺伝子を含んでいる場合、その抗生物質の適切な量-その核酸分子を含んでいない細胞は死滅し、核酸分子を含んでいる細胞は生き残るような量が、選択培地中に提供される。
【0090】
通常、ntECsは、ある期間、血清飢餓培養(E4ORF1発現により、ntECsは無血清培養で生存する能力が備わる)に供される。その後、ntECは、標準的なEC培養プロトコルを用いて、適切なEC培養液中で、所望の用途に十分な数の細胞を産生するのに十分な時間培養される。例えば、UVECの場合、14~21日の増殖期間で、1本の臍帯から約200~300x106 E4ORF1+UVECsを容易に得ることが可能である。出発物質の量および増殖期間は、所望の量のntECsを得るために適宜調整することができる。必要であれば、バイオリアクターシステムを使用して、制御された条件下で大量のntECsを産生することができる。例えば、Quantum Cell Expansion System(Quantum、Terumo BCT)バイオリアクターシステムを使用することができる。当業者であれば、所望の用途に適した遺伝子操作されたntECの集団(例えば、E4ORF1+、BMP4+またはBMP4+E4ORF1+ntECs)を生成するために、上記のプロトコルに変更を加えることができることを認識するだろう。
【0091】
遺伝子操作されたntECの凍結乾燥
上記のように生成されたか、または別の手段を用いて生成された遺伝子操作されたntECは、即時使用することができるか、または使用されるまで培養液中で維持することができるが、ある状況においては、ntECSを冷凍保存すること、および/またはntEC細胞バンクを生成することが望ましく、例えば、ntECsが後日使用できるようにすることが望ましい。内皮細胞の使用に適した様々な凍結保存プロトコルおよび凍結保存用試薬が、当技術分野で知られており、そのような方法/試薬はいずれも使用することが可能である。例えば、遺伝子操作されたntECは、所望によりヒト血清アルブミン(HSA:Griffols社製)を最終濃度約20%のHSAに加えたCryoStor CS5凍結乾燥用試薬(BioLife Solutions, Seattle, Washington)を用いて冷凍保存することが可能である。凍結保存されたntECsは、必要な時まで凍結保存することができる。通常、必要な場合にntECを解凍し、EC培養液に移して、所望の程度まで培養して増殖させる。
【0092】
遺伝子操作されたntECの品質管理
品質管理試験は、産生工程中の任意の段階および/または使用前に、必要に応じて遺伝子操作されたntECに対して実施することができる。例えば、品質管理アッセイは、細胞の生存能、汚染の有無、BMP4発現物の存在(例えば、RT PCRによる)、BMP4分泌物の存在(例えば、ELISAによる)、E4ORF1発現物の存在(例えば、RT PCRによる)などを評価および確認するために実施できる。例えば、品質管理データの評価は、ELISAによって検出される分泌されたBMP4タンパク質を検出することに基づいて行われた。BMP4+E4ORF1+HUVECsを含むウェルから調整培地を採取した。BMP4は、約60,000の平均濃度にて調整培地中で検出された(n=2つの独立したロット、二回実施)。4種類のBMP4+E4ORF1+HUVECs系統で行った別の品質管理評価では、調整用培地中のBMP4の平均濃度は、第1の系統が約29,104pg/mL、第2の系統が約4,542pg/mL、第3の系統が約1,798pg/mL、第4の系統が約3,211pg/mLであった。
【0093】
実施例2
血清飢餓に対する非胸腺内皮細胞の耐性
ヒト臍帯静脈内皮細胞を単離し、コンフルエントになるまで完全培地(20%ウシ胎児血清および線維芽細胞増殖因子-2;FGF-2を補充した培地)中で培養した。その後、細胞を6つのウェルに分け、各々100,000個の内皮細胞と共に完全な培地を入れた。ウェル1および2の細胞を、対照として使用した(トランスフェクションせず);ウェル3および4の細胞を、BMP4遺伝子を有するレトロウイルスでトランスフェクトした。ウェル5および6の細胞を、血清飢餓に対する耐性を付与することが判っているアデノウイルスのE4ORF1領域を有するレトロウイルスでトランスフェクトした。
【0094】
その後、ウェル2、4および6の全細胞を、無血清培地に切り替えて4日間維持した;ウェル1、3および5は、完全培地で4日間維持された。4日間の終了後、各ウェルを試験し、細胞増殖を判定した。結果を以下の表1にまとめた。
【0095】
【0096】
その結果、遺伝子トランスダクションがない場合には、血清飢餓では細胞は増殖しなくなった(ウェルおよび2)。BMP4による遺伝子トランスダクションをした場合には、血清飢餓に対する耐性を示さなかったが(ウェル3および4)、アデノウイルスE4ORF1による遺伝子トランスダクションにより、耐性を得た(ウェル5および6)。
【0097】
これらの試験の結果は、さらに以下の表2にまとめられており、血清の非存在下で増殖するHUVECの能力に対する、E4ORF1単独、BMP4単独、またはE4ORF1およびBMP4両方によるHUVECのトランスフェクションの効果(相対比較において)を示すものである。「-」および「+」の記号は、細胞数の目安であり、「+」記号が多いほど、細胞数が多いことを表す。
【0098】
【0099】
実施例3
血清存在下における非胸腺内皮細胞の増殖
この試験では、ヒト臍帯静脈内皮細胞を単離し、コンフルエントになるまで完全培地(20%ウシ胎児血清および線維芽細胞増殖因子-2;FGF-2を加えた培地)中で培養を行った。その後、細胞を4つのウェルに分けて、各ウェルに完全培地と共に100,000個の内皮細胞を入れた。ウェル1の細胞を対照(トランスフェクションせず)として使用し、ウェル2の細胞を、BMP4遺伝子を有するレトロウイルスでトランスフェクトし、ウェル3の細胞を、アデノウイルスE4ORF1領域を有するレトロウイルス(これは、細胞に増殖優位性を付与することが知られている)でトランスフェクトした。
【0100】
全ての細胞をコンフルエンスまで培養した後、継代して、1ウェル当たり150,000個の細胞で再度プレーティングして、15日間培養した全ての培養物を、4~6日毎に継代した。細胞数を、トリパンブルー色素排除法およびヘモサイトメーターを用いて、各継代時に決定した。
【0101】
この結果から、BMP4のみをトランスダクションされた細胞は、トランスダクションされていない細胞と比較して増殖は速く無いが、E4ORF1をトランスダクションされた細胞は、増殖の速度が有意に速いことが判った(
図1を参照されたい)。このように、ヒト臍帯静脈内皮細胞のBMP4によるトランスダクションでは、細胞への実質的な増殖速度の増加は付与されない。一方で、アデノウイルスE4ORF1領域をトランスダクションすることにより、実質的な増殖促進が得られた。これらの試験結果を、さらに以下の表3にまとめて、この表は、血清存在下で培養されたHUVECの増殖能に対して、E4ORF1単独、BMP4単独、またはE4ORF1およびBMP4の両方によるトランスフェクションの効果(相対定量の形式において)を示している。「+」の記号は、細胞数の目安であり、「+」記号が多いほど、細胞数が多いことを表す。実際の細胞数については、対応するデータを示す図を参照されたい。
【0102】
【0103】
実施例4
BMP4
+
E4ORF1
+
非胸腺内皮細胞がin Vivoでの胸腺上皮細胞の再生を刺激する
BMP4
+E4ORF1
+ntECsは、基本的には先の実施例に記載した通りに生成された。C57Bl/6マウスを、全身的な造血器および胸腺の損傷を誘発するのに十分な亜致死量である650Radsの全身照射(TBI)に暴露した。マウスに、1x10
6個のマウス胸腺内皮細胞(mutECs)またはBMP4
+E4ORF1
+骨髄内皮細胞(
図2では「muBMECs+BMP4」として示す)を、生理食塩水(リン酸緩衝塩水-「PBS」)に懸濁して、照射6時間後に注入した。また、PBSのみを注入した「EC無し」注入の対照群も存在する。TBI後の9日目に組織を採取した。生存胸腺細胞、生存胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、および回復した生存胸腺皮質上皮細胞(cTEC)の数を決定した。その結果を
図2に示す。
図2では、生存胸腺細胞(
図2A)、生存髄質上皮細胞(mTEC)(
図2B)、回復した皮質上皮生細胞(cTEC)(
図2C)の数を、各グラフ上にプロットした。このデータから、マウスBMP4
+E4ORF1
+骨髄内皮細胞が、亜致死量の放射線照射後の胸腺回復を促進することが示された。
【0104】
胸腺再生における胸腺上皮細胞(TEC)の異なるサブセット、即ちmTECおよびcTECの役割を識別するために、追加試験を行い、BMP4
+E4ORF1
+ntEC処理によって影響を受ける細胞型を識別した(
図3では、「AB245」細胞として示す)。C57Bl/6マウスに、650RadsのTBIを行い、胸腺損傷を誘発させた。対照の照射マウスを、照射後1日目および3日目にBMP4
+E4ORF1
+HUVECも投与したマウスと比較した。照射後4日目に動物を屠殺し、BMP4
+ E4ORF1
+HUVECの移植の効果を観察した。この早い時点で、移植された動物は、移植されていない動物と比較して、胸腺上皮全体の量がほぼ2倍になっていた(CD45
-EpCam
+細胞数で測定した)(
図3A)。活発に増殖するこれらの細胞(CD45
-EpCam
+Ki67
+)の合計数は、4倍近く増加した(
図3B)。EpCam
+、α6インテグリン+、Sca1+のマーカーにより識別される胸腺上皮前駆細胞(TEPC)(
図3C)およびCD45
-、K5
+、K8
+細胞(
図3E)の数は、細胞移植を受けていない動物と比較して有意に増加した。これらのTEPCの増殖集団も増加しており、BMP4
+E4ORF1
+HUVECを投与された動物では、細胞移植を受けなかった動物と比較して、2倍~4倍多いことが分かった(
図3、D、F)。
【0105】
上記の試験結果は、以下の表4Aおよび4Bにさらに要約されるが、これらの表から、亜致死量照射後の胸腺のなかで、列挙された胸腺細胞型(複数も可能)の回復を促進するという、表記のntEC型の能力(相対比較において)が示された(「治療アウトカム」の列を参照)。表4Aにまとめたデータ(
図2のデータ)は、BMP4
+E4ORF1
+骨髄ECの投与によって誘導された回復を要約したものである。表4B(
図3のデータ)にまとめたデータは、BMP4
+E4ORF1
+HUVECsの投与によって誘導された回復をまとめたものである。「+」の記号は、細胞数の目安であり、「+」記号が多いほど、細胞数が多いことを表す。実際の細胞数については、対応するデータを示す図を参照されたい。
【0106】
【0107】
実施例5
遺伝子操作された非胸腺内皮細胞が胸腺T細胞および胸腺上皮細胞の両方の回復を刺激する
マウス(C57Bl/6のマウス)造血幹細胞移植モデルを用いて、遺伝子操作されたntECのリンパ系再構成を刺激する能力を検討した。遺伝子操作されたntEC(E4ORF1+、BMP4+、またはBMP4+E4ORF1+HUVECのいずれか)を、基本的に先の実施例に記載したように生成した。動物を、以下のように、治療群および対照群に分けた。
【0108】
グループ1(対照)-16匹のマウスを対照とした;これらの動物は、放射線照射、骨髄の注入または内皮細胞の注入を受けなかった。
【0109】
グループ2~4(治療)-マウスに1,000cGyの全身照射を行った。照射後約10~16時間後に全ての照射マウスに500,000個の骨髄(BM)細胞の静脈内注入を行った。治療群は、以下の通りである:
グループ2-動物は、500,000個の合成骨髄細胞のみの輸液を投与された。
グループ3-動物は、アデノウイルスE4ORF1領域を発現するように遺伝子操作された500,000個の合成骨髄細胞および500,000個のヒト臍帯静脈内皮細胞を注入された。これらの内皮細胞500,000個の追加の静脈内注入を、初回注入の約48時間後に、さらに2回目の注入約48時間後に行った。
グループ4-動物は、各注入の時点で受容した内皮細胞がE4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションされていることを除いて、グループ3と同じ方法を受けた。
【0110】
照射から3週間後、すべての動物を安楽死させた。各動物の胸腺を摘出し、小さな断片に解剖し、コラゲナーゼ消化に供して、胸腺の細胞成分からなる単一細胞懸濁液を放出した。これらの細胞をフローサイトメトリー分析に供し、存在する主要な造血系および上皮系細胞型を特徴づけた。その結果は次の通りであった。
【0111】
A. 再細胞化-全体の細胞回復
骨髄注入単独を受容した照射された動物では、有核胸腺細胞数は90%以上減少した(
図4)。非照射動物と比較して依然として有意に低いが、E4ORF1単独でトランスダクションされたntEC、またはE4ORF1およびBMP4でトランスダクションされたntECの共投与により、骨髄単独注入に比べて全体の細胞数は、有意に改善された(
図4;E4ORF1単独でトランスダクションされたntECとの差はp<0.05であり、E4ORF1およびBMP4両方でトランスダクションされたntECとの差はp<0.01であった)。
【0112】
E4ORF1およびBMP4の組み合わせでトランスダクションされたntECを受容した動物の全細胞数は、E4ORF1単独でトランスダクションされたntECを受容した動物よりも高い数値であった-しかし、この差は、統計的に有意ではなかった。
【0113】
全ての細胞ロットのうちで、BM単独、E4ORF1
+ntECs、またはE4ORF1
+BMP4
+ntECsで処理したグループからのデータをプールし、一元配置分散分析のKruskal-Wallis ANOVA検定により分析して、Dunnの多重比較分析検定を用いてフォローアップした。Dunn検定では、各グループの平均値を、対照の骨髄単独処理したグループの平均値と比較した。データを、
図4に示す。
【0114】
B. 造血器系細胞および胸腺間質細胞の回復
Tリンパ球の発生に重要な一次リンパ系臓器である胸腺の細胞は、造血器系由来の細胞(CD45+骨髄造血幹細胞由来のもの)と胸腺間質(上皮)細胞に分けられる場合がある。この2つの集団、および各亜集団の回復を個別に評価したところ、以下のように要約される。
【0115】
C. CD45
+
細胞回復
CD45.1アイソフォームを発現するC57Bl/6マウスから得られたドナー骨髄およびCD45.2アイソフォームを発現する宿主マウスを用いることで、ドナー由来および宿主由来のCD45+細胞を区別することが可能である。
【0116】
照射3週間後の胸腺内のドナーCD45
+細胞数(
図5)は、全般に全細胞数を反映していた(
図4)。全細胞数と同様に、ntEC処理を行った動物の胸腺におけるCD45
+細胞数は、骨髄注入単独を投与された動物の細胞数よりも有意に高かった。E4ORF1およびBMP4の両方をトランスダクションされたntECの注入により、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECで見られるよりも、CD45
+細胞の回復の程度は増大した。この差は、統計学的に有意であった(
図5)。
【0117】
D. CD3
+
細胞回復
T-リンパ球は、CD3表面マーカーの発現によって特徴付けられる。CD45.1
+/CD3
+T細胞集団の回復は、CD45の回復と同じパターンをたどった(
図6)。胸腺のCD45
+細胞の大部分が、T細胞であることを考えると、CD45の回復と関連する事実は驚くに当たらない(
図6B)。CD45
+細胞と同様に、T細胞の数は、E4ORF1およびBMP4の両方をトランスダクションしたntECで処理したグループで最大であった。このグループのT細胞の数は、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECにより処理したグループの細胞数よりも統計的に有意に大きかった。
【0118】
重要なことは、CD3も発現しているCD45+細胞の割合において、群間の差異が顕著ではなかったことである。このことは、両方の形態のntECで見られる差が、CD45亜集団の偏りではなく、むしろCD3の回復が促進された事によるものであることを示唆している。
【0119】
E. CD3
+/
CD4
+
およびCD3
+/
CD8
+
の細胞回復
CD4またはCD8のいずれかを発現するCD3
+細胞の数は、ntEC-処理後に増加した(
図7)。その他の集団と同様に、E4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションされたntECでの処理後の回復は、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECでの処理後の回復よりも高い数値であることが示された。
【0120】
これら2つの集団の相対的な表示(CD3
+細胞全体に占める各々のパーセンテージ)から、照射された動物において、CD8細胞の相対的増加に伴いCD4細胞が低下するという変化が示された(
図8)。E4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションされたntECを投与した動物の両集団の平均的な相対関与率は、ntECを投与しなかった動物またはE4ORF1単独でトランスダクションしたntECを投与した動物よりも非照射動物に類似した傾向を示した。
【0121】
F. 胸腺成熟マーカー
胸腺内でのTリンパ球の分化成長は、表面マーカーのよく知られた発現パターンに従う(
図9)。これらのマーカーを用いて、以下に記述する通りに、Tリンパ球の分化成長に対するntEC処理の効果を評価することが可能と。
【0122】
G. CD4およびCD8を発現するCD3細胞の回復(ダブルポジティブ細胞)
ダブルポジティブ(DP)細胞の数は、両方形態のntECで処理することにより増加したが、その他のパラメータと同様に、骨髄単独よりもE4ORF1およびBMP4の両方をトランスダクションしたntECの方が、E4ORF1単独でトランスダクションした場合よりも数値上大きく改善した(
図10A)。ダブルポジティブ細胞の相対数(全CD3陽性細胞に対する割合)は、全てのグループで同一であって、ntEC処理は、胸腺T細胞の回復を促進するが、偏りはないことを示唆している(
図10B)。
【0123】
H. CD4およびCD8に対してネガティブな(ダブルネガティブ細胞)CD3細胞の回復
ダブルネガティブ(DN)細胞の数は、両方の形態のntECで処置することにより増加したが、その他のパラメータと同様に、骨髄単独よりもE4ORF1およびBMP4の両方をトランスダクションしたntECの方が、E4ORF1単独でトランスダクションした場合よりも数値上大きく改善した(
図11)。DN細胞の平均相対数(全CD3陽性細胞に対する割合)は、E4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションしたntECで処理した動物にて僅かに低かった(正常に近い)(
図11B)。
【0124】
図9に示すように、ダブルネガティブCD3
+DN細胞を、インターロイキン2(IL-2)受容体のα鎖であるCD25の発現と、リンパ球活性化、再循環ホーミング、造血器などの広範な細胞機能に関与する接着分子であるCD44の発現に基づいて、さらに4つのタイプの細胞に細分化することが可能である。これらの4つの型は、DN1、DN2、DN3、DN4と言われ、数字が大きいほどT細胞の分化成長が後期の細胞であることを示している。
【0125】
図12に示すように、各DN亜集団の数は、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECsで処理した動物またはE4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションしたntECsで処理した動物においてより高かった。その他の集団と同様に、E4ORF1とBMP4の両方をトランスダクションしたntECで処理した動物は、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECで処理した動物よりも高い数値を示したが、この差は、いずれのDN亜集団についても統計的に有意でなかった。
【0126】
図13に示す通りに、DN1、DN2、およびDN4細胞/亜集団の相対量は、E4ORF1単独でトランスダクションされたntECで処理した動物、またはBMP4およびE4ORF1の両方で遺伝子導入されたntECで処理した動物においてより高かった。その増加に伴い、DN3細胞の割合は低下した。最大の相対的差異は、最も初期にて、かつ最も少ない亜集団(DN1およびDN2)であり、E4ORF1およびBMP4の両方でトランスダクションされたntECが投与された動物における増加は、統計的に有意であった。
【0127】
これらのデータは、胸腺T細胞の再増殖が、ntECsで治療した動物において大きく改善されており、またBMP4およびE4ORF1の両方でトランスダクションしたntECsを投与された動物が、E4ORF1単独でトランスダクションしたntECsを投与された動物よりも大きな利益を示しているという一貫したパターンを示している。この回復の増加は、評価された最も初期のT細胞前駆細胞(DN1)から、最も成熟したシングルポジティブのCD3/CD4およびCD4/CD8細胞にわたり明白である。
【0128】
I. 胸腺間質細胞の回復
胸腺上皮細胞は、EpCAMの発現とCD45を発現しない事を特徴とする。アウト結果は、胸腺T細胞集団に関しては、ntECsを同時注入された動物は、骨髄単独を投与された動物よりも多くのEpCam
+細胞の数を示した(
図14)。興味深いことに、骨髄単独が投与された動物の前記細胞の平均数は、インタクトな動物よりも低いが、ntECが投与された動物の細胞平均数は、インタクトな動物の数と同じか(E4ORF1単独)、またはその数を上回った(E4+BMP4)(
図14)。少数の動物がEpCAMポジティブ細胞の数を非常に多く有している理由も大きいが、この事は、オーバーシュート現象を示唆している(
図14)。胸腺ストーマ細胞の様々なサブセットの回復に関するデータを以下に示す。
【0129】
J. 胸腺上皮前駆細胞(TEPC)の回復
Sca1
+(
図15)およびSca1
+/α6
+(
図16)の胸腺上皮前駆細胞の分析により、非胸腺内皮細胞で処理すると、両方の集団が増加すること、またその効果は、BMP4(E4ORF1およびE4/BMP4各々)で形質転換した非胸腺内皮細胞によって大きく増強されることが示された。
【0130】
K. 胸腺皮質上皮細胞(cTEC)の回復
成熟した胸腺皮質上皮細胞(cTEC,
図17)の分析より、骨髄単独投与の群と比較して、E4/BMP4で処理された動物群では多くの細胞が有意に認められた。また、増殖しているKi67
+ cTECの分析でも同様の傾向が見られた(
図18)。
【0131】
L. 胸腺髄質上皮細胞(mTEC)の回復
成熟した胸腺髄質上皮細胞(mTEC,
図19)の分析より、骨髄単独投与の群と比較して、E4/BMP4で処理した動物群では多くの細胞が有意に認められた。また、増殖しているKi67
+mTECの分析でも同様の傾向が見られた(
図20)
【0132】
上記の試験結果は、さらに以下の表5に要約されるが、この表から、HUVEC、E4ORF1+ HUVEC、BMP4+HUVEC、またはE4ORF1+HUVECが、亜致死量照射後の胸腺において、列挙された細胞型(複数も可能)の回復を促進する能力(相対比較において)が示された(「治療アウトカム」の列を参照)。「+」の記号は、細胞数の目安であり、「+」記号が多いほど、細胞数が多いことを表す。実際の細胞数については、対応するデータを示す図を参照されたい。
【0133】
【0134】
実施例6
BMP4
+
E4ORF1
+
ntECsは全身照射および骨髄移植後の生存率を増強する
BMP4
+およびE4ORF1
+ntECsを、基本的に実施例1に記載したように生成した。C57Bl6マウスに、1,000cG(致死量)の全身照射(TBI)を行い骨髄破壊し、合成マウスからの200,000個または500,000個の全骨髄細胞(WBM)いずれかを投与した。一部の動物コホート(
図21では「+EC」として示す)には、TBI後にBMP4
+E4ORF1
+HUVEC(1、3、5日目に500,000個の細胞)も投与した。
【0135】
生存率を、
図21に示した時点で評価した。
図5に示したように、BMP4
+E4ORF1
+ HUVECs(
図5においては、BMP4 ntECsと示す)および低用量のWBMで処理された動物は、ntECs非処理動物と比較して、死亡率の低下を示した(死亡率は64%低下した、P<0.05)。BMP4
+E4ORF1
+ntECsおよび高用量のWBMで処理した動物では、劇的に死亡率が解消された(生存率100%、P<0.05)(
図21)。このように、両方のWBM投与において、BMP4
+E4ORF1
+ntECsによる処理は、生存率の劇的かつ統計的に有意な増加をもたらした。
【0136】
上記の研究の結果について、さらに、致死量の放射線への曝露後の生存に対するBMP4
+E4ORF1
+ntECsの効果を、相対比較形式において以下の表6に要約した。「+」の記号は、生存率の近似値を示しており、より多くの「+」記号は、より高い生存率を表す。生存率の数値については、対応するデータを示す図を参照されたい。なお、HUVECおよびBMP4
+ HUVEC(E4ORF1無し)は、このin vivo試験で使用するのに十分量の細胞数を培養することができなかった(
図1を参照)。
【0137】
【0138】
実施例7
BMP4
+
E4ORF1
+
ntECsのヒトの臨床試験
BMP4+ E4ORF1+ ntECsに関する第1相のオープンラベル多施設共同の用量漸増前向き試験を、骨髄切除条件付け(MAC)および適合型の血縁または非血縁ドナー(MRDまたはMUD)同種造血細胞移植(HCT)を受ける血液悪性腫瘍の成人ヒト対象に実施した。本試験では、標準治療である成人同種造血幹細胞移植後のBMP4+ E4ORF1+ntECsによる治療の安全性と予備的有効性を評価するものである。
【0139】
様々な臓器から得るntECsを使用する(脂肪組織、皮膚、肺、心臓、腎臓および/または骨髄からのHUVECsおよびEC)。BMP4+E4ORF1+ntECsは、実施例1に記載した通りに生成される。
【0140】
登録された対象は、以下のMACレジメンのうちの1つ-腫瘍治療医師が選択する-を用いて、審査機関の基準に従って計画されたHCTを受ける:
全身照射(>1000cGY)(TBI)およびシクロホスファミド(120mg/kg)(Cy/TBI)。
エトポシド120mg/kgおよびTBI(>1000cGY)、ブスルファン(経口16mg/kgまたは静脈内12.8mg/kg)およびシクロホスファミド(120mg/kg)(Bu/Cy)。
ブスルファン(16mg/kg経口または12.8mg/kg静注)およびフルダラビン(120~180mg/m2)(Bu/Flu)。
【0141】
上記以外のMACレジメンは、試験メディカルモニターが承認した場合に使用される。移植後の免疫抑制剤および対症療法は、施設のガイドラインに従って実施される。
【0142】
BMP4+ E4ORF1+ntECsを、幹細胞注入に関連した急性反応が発生していないことを確認した上で、0日目の同種(MRDまたはMUD)HCT注入完了2時間後に静脈内投与した。HCT輸注中に急性輸注関連反応が発生した場合は、その反応を治療して、治験を中断する。
【0143】
BMP4+ E4ORF1+ntECsを、用量漸増方式で投与されるが、これには以下の表7に示すように、4つのコホート(各々少なくとも6人の患者)を含む。
【0144】
【0145】
本発明は、さらに以下の請求項によって説明される。
【配列表】
【国際調査報告】