IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオ−オン エス.ピー.エイの特許一覧

特表2022-534592喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセス
<>
  • 特表-喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-02
(54)【発明の名称】喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   A24D 3/06 20060101AFI20220726BHJP
   A24D 3/02 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A24D3/06
A24D3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570539
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 IB2020055029
(87)【国際公開番号】W WO2020240439
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】16/428,507
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519100354
【氏名又は名称】バイオ-オン エス.ピー.エイ
【氏名又は名称原語表記】BIO-ON S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】パオロ サエットネ
(72)【発明者】
【氏名】イラリア モナコ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エム ホールセン
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド アリファ ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ケイ ホプケ
(72)【発明者】
【氏名】マウロ コメス フランチーニ
【テーマコード(参考)】
4B045
【Fターム(参考)】
4B045BA08
4B045BB05
4B045BC06
4B045BD08
4B045BD21
4B045BD35
4B045BD50
4B045BD54
(57)【要約】
喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセスに関する。フィルター要素は、酢酸セルロース繊維を囲むポリヒドロキシアルカノエート(PHA)によって結合された酢酸セルロース繊維を含む。PHAは、トリアセチンまたは他の結合剤の代わりに、酢酸セルロース繊維の結合剤として使用され、繊維表面に付与した場合、酢酸セルロース繊維を結合できる高度な生分解性ポリマーであり、ランダムな接続点の形成を引き起こし、喫煙中の正しい圧力降下に適した繊維間の一定のスペースを保持し、かつフィルター要素に適切な硬度を与える。さらに、PHAは融点が比較的高く、水に対して実質的に不溶性であるため、紙巻きタバコの喫煙時に発生する暖かく湿った煙にさらされても軟化したり溶けたりしないため、喫煙中のフィルター要素の軟化および崩壊を防ぐこととなる。さらに、フィルター要素を形成する酢酸セルロース繊維の表面にPHAが存在することにより、特に活性酸素種(ROS)に関して、紙巻きタバコの煙中の有毒物質が著しく減少する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロース繊維を囲むポリヒドロキシアルカノエート(PHA)によって結合された該酢酸セルロース繊維を含む、喫煙物品における使用に適したフィルター要素。
【請求項2】
前記PHAが、下記式(I)
-O-CHR1-(CH2)n-CO-・・・式(I)
[式中、Rは、C1~C12アルキル、C4~C16シクロアルキル、C2~C12アルケニルから選択され、ハロゲン(F、Cl、Br)、-CN、-OH、-OOH、-OR、-COOR(R=C1~C4アルキル、ベンジル)から選択される少なくとも1つの基で任意に置換され、
nは、ゼロであるか、1~6の整数であり、好ましくは1または2である]の繰り返し単位を含有するポリマーである、請求項1に記載のフィルター要素。
【請求項3】
前記PHAが、ポリヒドロキシブチレート(PHB)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)から選択される、請求項2に記載のフィルター要素。
【請求項4】
前記PHAが、10,000~1,000,000Daの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載のフィルター要素。
【請求項5】
前記PHAが、前記フィルター要素の総重量に対して、5~30重量%、好ましくは10~20重量%の量で存在する、請求項1に記載のフィルター要素。
【請求項6】
前記酢酸セルロース繊維の、フィラメントあたりのデニール(dpf)として表される直径が、1~15、より好ましくは5~10である、請求項1に記載のフィルター要素。
【請求項7】
請求項1に係る喫煙物品における使用に適したフィルター要素を製造するプロセスであって、
酢酸セルロース繊維の束をPHAの水性懸濁液で包埋し、該PHA懸濁液で覆われた酢酸セルロース繊維の湿潤した束を得るステップと、
連続した長尺の要素の形態に前記湿潤した束を成形するステップと、
前記連続した長尺の要素を、140℃~180℃の温度に十分な時間加熱して、前記PHAを溶融させ、かつ、水を蒸発させるステップと、
前記加熱された連続した長尺の要素を冷却して、前記PHAを結晶化させるステップと、
得られた前記連続した長尺の要素を所定の長さのセグメントに切断するステップと、を含むプロセス。
【請求項8】
前記酢酸セルロース繊維の束が、20,000デニール~80,000デニールの範囲、好ましくは30,000デニール~60,000デニールの範囲の総デニールを有する、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
喫煙物品によって生成される煙中の活性酸素種(ROS)の抑制方法であって、喫煙物品に請求項1に記載のフィルター要素を提供することを含む、抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセスに関する。より具体的には、本発明は、生分解性材料、特にポリヒドロキシアルカノエート(PHA)によって結合された繊維の束を含む、喫煙物品における使用に適したフィルター要素およびその製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
紙巻きタバコなどの喫煙物品は、通常、実質的に円柱形のロッド状構造を有し、包装紙により包まれた刻みタバコ等の喫煙可能な材料のロールを含み、それによっていわゆる「喫煙可能なロッド」を形成する。通常、紙巻きタバコは、喫煙可能なロッドと端部同士が対向した関係で一直線になるように整列された、円柱形のフィルター要素を有する。典型的に、フィルター要素は、紙材料によって外接する酢酸セルロース繊維の束を含み、また、該フィルター要素は、「チッピング材料」として知られる外接包装材料を使用して、喫煙可能なロッドの一端に取り付けられている。従来の酢酸セルロース繊維(「トウ」としても知られる束の形で製造されるもの)は、適切な可塑剤、通常はグリセリルトリアセテート(トリアセチン)で結合され、これは、ステープル繊維を互いに結合して、喫煙中に軟化または崩壊しない比較的堅固で剛性のある構造を生み出すことができる。
【0003】
環境的な持続可能性に関して、フィルター要素を形成するために現在使用可能なフィルター技術は、いくつかの欠点を有する。例えば、トリアセチンによって結合された酢酸セルロース繊維を含む従来のフィルター要素は、実際に生分解するために望ましくないほど長い時間(通常は2年~10年のオーダー)を必要とする。使用後のフィルター要素の生分解を促進し得る材料を含有する、紙巻きタバコ用の特定のフィルター要素が開発されてきた。例えば、分解性を高めるためにフィルター材料に添加することができる特定の添加剤が注目されている(例えば、US5,913,311、US5,947,126、US5,970,988およびUS6,571,802を参照)。
【0004】
US2017/0354179は、異なる物理的特性を有する2つ以上の繊維状材料(fibrous inputs)から形成されたフィルター要素を含む喫煙物品を開示している。第1の複数のステープル酢酸セルロース繊維および第2の複数の分解性ポリマーステープル繊維がブレンドされて繊維混合物が得られ、繊維混合物のステープル繊維は、ランダムに配向されている。分解性ポリマーステープル繊維は、疎水性を高めるように処理することができる。次いで、繊維混合物のステープル繊維を結合して、フィルター要素に組み込むことができる繊維束を形成することができる。分解性ステープル繊維の例示的な生分解性材料として、脂肪族ポリエステル、デンプン粒子が埋め込まれた酢酸セルロース、アセチル基でコーティングされたセルロース、ポリビニルアルコール、デンプン、コハク酸ポリブチレン、タンパク質、多糖類(例えば、セルロースおよび/またはアルギン酸カルシウム)、並びに、それらのコポリマーおよびブレンドが挙げられる。例示的な脂肪族ポリエステルは、-[C(O)-R-O]n-構造(式中、nは、ポリマー鎖中のモノマー単位の数を表す整数であり、Rは、脂肪族炭化水素、好ましくはC1-C10アルキレン、より好ましくはC1-C6アルキレンであり、直鎖または分枝鎖を有する)を有する。例示的な脂肪族ポリエステルとして、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)(例えば、ポリ(L-乳酸)またはポリ(DL-乳酸))、ポリヒドロキシプロピオネート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシヘキサノエート、およびポリヒドロキシオクタノエートなどのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、およびそれらのコポリマー(例えば、ポリヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシバレレート(PHBV))が挙げられる。
【0005】
紙巻きタバコ製造者が長い間直面してきた他の課題は、紙巻きタバコの煙の有毒成分をより効果的に吸収するフィルター要素を提供して、多環芳香族炭化水素(PAH)、重金属、活性酸素種(ROS)など、タバコや紙の燃焼によって生成されるいくつかの副産物によって引き起こされる人の健康に対する周知のリスクを低減することである。
【0006】
例えば、US2012/0160255は、生体高分子、複数の添加剤、溶媒および許容可能なポリマー担体を含む、紙巻きタバコの煙から有毒な化合物を除去するための電界紡糸繊維マットの紙巻きタバコフィルターを開示している。生体高分子は、多金属イオンおよびそれらの組み合わせとの多核錯体を含む。多核錯体は、ポリポルフィリン環であり、多金属イオンは、第一鉄イオン、第一銅イオン、マンガンイオンおよび亜鉛イオンを含む。生体高分子は、改変されたポリヘモグロビンおよび/またはクロロフィルからなる群から選択される。
【0007】
US9,032,970は、紙巻きタバコの煙中のPo210、多環芳香族炭化水素(PAH)、重金属元素、およびフリーラジカルの量を減らすための紙巻きタバコフィルターを開示しており、該フィルターは、既知の紙巻きタバコフィルターの一般的な成分に加えて、AlOOH・HO、および/またはAl、および/またはシリコアルミネート、ならびにブドウの種と皮の粗粉を抗酸化剤として含有し、任意で、アスタキサンチンおよび/またはクランベリーをさらなる抗酸化剤として含有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
出願人は、工業生産にとって許容できない方法による製造プロセスの修正を必要とせず、かつ、従来の紙巻きたばこフィルターに関わる望ましい味および濾過特性を提供しながらも高速で作動するプラントでのフィルター要素の製造中の機械的耐性、および喫煙中における加熱に対する耐性に関して適切な特性を保証する生分解性材料を使用することにより、喫煙物品、特に紙巻きタバコに用いられるフィルター要素の生分解性を改善するという課題に直面してきた。
【0009】
出願人は、トリアセチンまたは他の結合剤の代わりに、酢酸セルロース繊維の結合剤としてポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を使用することによって、本明細書で詳述する上記の技術的課題および他の課題を解決できることを見出した。ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、繊維表面に付与した場合、酢酸セルロース繊維を結合でき、それにより、ランダムな接続点の形成を引き起こして、喫煙中の正しい圧力降下に適した繊維間の一定のスペースを保持し、かつフィルター要素に適切な硬度を与える生分解性ポリマーである。さらに、PHAは融点が比較的高く、水に対して実質的に不溶性であるため、紙巻きタバコの喫煙時に発生する暖かく湿った煙にさらされても軟化したり溶けたりせず、喫煙中のフィルター要素の軟化および崩壊を防ぐ。
【0010】
さらに、出願人は、フィルター要素を形成する酢酸セルロース繊維の表面にPHAが存在することにより、特に活性酸素種(ROS)に関して、紙巻きタバコの煙中の有毒物質が著しく減少することを見出した。したがって、本発明に係るフィルター要素は、従来のフィルター要素より生分解性であることに加えて、紙巻きタバコの煙に存在するROSを抑制することによって喫煙者の健康へのリスクを低減するのに特に効果的である。
【0011】
ROSが細胞に対して毒性があり、酸化ストレスの原因となることはよく知られている。糖尿病、炎症性免疫損傷、自己免疫性全身性疾患、失血や癌に起因する組織的損傷など、100を超える疾患がROSに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、酢酸セルロース繊維を囲むポリヒドロキシアルカノエート(PHA)によって結合された酢酸セルロース繊維を含む、喫煙物品における使用に適したフィルター要素に関する。
【0013】
第2の態様によれば、本発明は、喫煙物品における使用に適したフィルター要素を製造するプロセスであって:
酢酸セルロース繊維の束をPHAの水性懸濁液で包埋し、PHA懸濁液で覆われた酢酸セルロース繊維の湿潤した束を得るステップと;
連続した長尺の要素の形態に前記湿潤した束を成形するステップと;
前記連続した長尺の要素を、140℃~180℃の温度に十分な時間加熱して、前記PHAを溶融させ、かつ、水を蒸発させるステップと;
前記加熱された連続した長尺の要素を冷却して、前記PHAを結晶化させるステップと;
得られた前記連続した長尺の要素を所定の長さのセグメントに切断するステップと、を含むプロセスに関する。
【0014】
別の態様によれば、本発明は、喫煙物品によって生成される煙中の活性酸素種(ROS)の抑制方法であって、喫煙物品に上記で定義されたフィルター要素を提供することを含む、抑制方法に関する。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、喫煙物品によって生成される煙中の活性酸素種(ROS)を抑制するための、上記で定義された喫煙物品に挿入されたフィルター要素の使用に関する。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のために、特に明記しない限り、量(amounts、quantities)、パーセンテージなどを表すすべての数字は、すべての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。さらに、すべての範囲は、開示された最大点および最小点の任意の組み合わせを含み、並びにその中の任意の中間範囲を含み、これらは、本明細書で具体的に列挙されてもされなくてもよい。
【0017】
喫煙物品に関して、本発明によれば、この用語は、高温で燃焼することによって喫煙される従来の紙巻きタバコだけでなく、タバコのロッドは燃やされずに加熱されるだけでニコチンやその他の化学物質を含有するエアロゾルを発生させる、従来より「加熱式たばこ」として知られている近年市場に出された喫煙システム(フィリップモリスのIQOS(商標)キットなど)をも含む。そのようなシステムでは、トリアセチンによって結合された酢酸セルロースフィルターから通常作成されるフィルター要素をも含む、異なる濾過手段を有するタバコロッドを含む小さな寸法の一種の紙巻きタバコが使用される。従来の紙巻きタバコでは、フィルター要素の長さは一般に約2.3cmであるのに対し、「加熱式たばこ」システムに使用される「紙巻きタバコ」では、フィルター要素の長さは一般に約0.5cmである。
【0018】
本発明に係るフィルター要素に使用できる酢酸セルロース繊維に関しては、紙巻きタバコ製造の分野でよく知られている。それらは通常、連続フィラメントの形態であり、一般にフィラメントあたりのデニール(dpf)として表される直径が1~15、より好ましくは5~10である。フィラメントあたりのデニール(dpf)は、繊維の個々のフィラメントの単位長さあたりの重量、具体的にはグラム/9000メートルの測定値である。個々のフィラメント断面の形状は変化し得、例えば、長方形、円形、横長または多葉性の形状であり得る。
【0019】
酢酸セルロース繊維の束は、通常、20,000デニール~80,000デニールの範囲、好ましくは30,000デニール~60,000デニールの範囲の総デニールを有する。
【0020】
好ましくは、本発明によるPHAは、下記式(I):
-O-CHR1-(CH2)n-CO-・・・式(I)
[式中、Rは、C1~C12アルキル、C4~C16シクロアルキル、C2~C12アルケニルから選択され、ハロゲン(F、Cl、Br)、-CN、-OH、-OOH、-OR、-COOR(R=C1~C4アルキル、ベンジル)から選択される少なくとも1つの基で任意に置換される;
nは、ゼロであるか、1~6の整数であり、好ましくは1または2である]の繰り返し単位を含有するポリマーである。
好ましくは、Rは、メチルまたはエチルであり、nは1または2である。
【0021】
PHAは、ホモポリマー、コポリマー、またはターポリマーのいずれかであり得る。コポリマーまたはターポリマーの場合、それらは、式(I)の異なる繰り返し単位からなり得るか、またはラクトンまたはラクタムのような、ヒドロキシアルカノエートと共重合することができるコモノマーに由来する少なくとも1つの繰り返し単位と組み合わせた、式(I)の少なくとも1つの繰り返し単位からなり得る。後者の場合、式(I)の繰り返し単位は、繰り返し単位の総モル数に対して、少なくとも10モル%に等しい量で存在する。
【0022】
式(I)の特に好ましい繰り返し単位は、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシウンデカ-10-エノエート、4-ヒドロキシバレレートに由来するものである。
【0023】
特に好ましいPHAは、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ-3-ヒドロキシバレレート(PHV)、ポリ-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHH)、ポリ-3-ヒドロキシオクタノエート(PHO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート-co-3-ヒドロキシウンデセン-10-エノエート)(PHOU)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-4-ヒドロキシバレレート)(PHBVV)、ポリヒドロキシブチレート-ヒドロキシバレレートコポリマー、またはそれらの混合物である。
【0024】
本発明の目的によれば、特に好ましいPHAは、ポリヒドロキシブチレート(PHB)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)である。
【0025】
好ましくは、PHAは、10,000~1,000,000Daの範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0026】
PHAの生成に関しては、好ましくは、PHAを生成することができる微生物株を介した有機基質(例えば、炭水化物またはグリセロールなどの他の発酵性基質)の微生物発酵、およびその後の細胞塊からのPHAの回収によって達成される。詳細については、例えば、特許出願WO99/23146、WO2011/045625およびWO2015/015315を参照されたい。発酵によるPHAの生成に適した基質は、特に野菜の加工から得ることができ、例えば、テンサイやサトウキビの加工から得られたジュース、糖蜜、果肉である。これらの基質は、一般に、スクロースおよび他の炭水化物に加えて、有機成長因子、窒素、リン、および/または細胞成長のための栄養素として有用な他のミネラルを含有する。代替案は、バイオディーゼル生成の副産物である低コストの有機炭素源であるグリセロールであり、レブリン酸との混合物で任意に使用することができる(例えば、US8 956 835 B2を参照)。
【0027】
本発明に係るフィルター要素の製造プロセスに関しては、酢酸セルロース繊維がトリアセチンで結合される場合の紙巻きタバコの製造に一般的に使用される機械によって実施することができる。最初に、酢酸セルロース繊維の束をPHAの水性懸濁液で包埋する。環境に有害であり、酢酸セルロース繊維に対して攻撃的すぎる場合がある塩素化有機溶媒(通常はクロロホルム)などの有機溶媒をPHAに使用することが避けられるため、PHAの水性懸濁液を使用することが有利である。
【0028】
束の包埋は、既知の技術に従って、例えば、束にPHA懸濁液を噴霧することによって、または、束をPHA懸濁液に浸漬することによって実施することができる。酢酸セルロース繊維をPHAで規則的に結合するためには、束をPHA懸濁液で完全かつ均一に包埋することが重要である。懸濁液中のPHAの濃度は、好ましくは1%~20%w/v、より好ましくは5%~15%w/vである。
【0029】
次いで、湿潤した束は、通常は実質的に円柱形状の連続した長尺の要素の形態に成形される。上記成形は、紙巻きタバコ製造業者によく知られている従来の機械によって実施することができる。
【0030】
続いて、連続した長尺の要素を、140℃~180℃の温度に十分な時間加熱して、PHAを溶融し、かつ、PHA懸濁液に由来する水を蒸発させる。上記ステップにより、酢酸セルロース繊維をPHAでコーティングして、PHAが結晶状態に戻ったときに繊維間の堅固な結合を実現できる。
【0031】
したがって、加熱された連続した長尺の要素は、PHAを結晶化させるために冷却される。上記のようにして得られた長尺の要素は、PHAによって結合された酢酸セルロース繊維によって形成され、紙巻きタバコ製造の工業プロセスで使用されるフィルター要素を製造するのに適した比較的堅固で剛性のある構造を有する。最終的な長尺の要素の切断は、紙巻きタバコ製造の分野でよく知られている技術に従って実施することができる。
【0032】
最終的な長尺の要素に存在するPHAの量は、フィルター要素に所望の硬度を与え、かつ、喫煙中の正しい圧力降下に適した繊維間の一定のスペースを保持するように選択される。好ましくは、フィルター要素中のPHAの量は、フィルター要素の総重量に対して、5~30重量%、好ましくは10~20重量%である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】コンピュータ制御の単一紙巻きタバコ喫煙機を使用した、主流煙のサンプリングシステムの模式図を示す。
【0034】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【実施例
【0035】
[フィルター要素の製造]
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)(Mw:700KDa)の10%w/vの濃度の水性懸濁液を、エアブラシを用いて酢酸セルロース繊維の束に噴霧した。
【0036】
後続の試験に使用するフィルター要素の試験片を製造するために、PHBV懸濁液で包埋された酢酸セルロース繊維の湿潤した束を、長さ20cmおよび直径0.8cmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製チューブに挿入した。チューブ壁は、その後の加熱中の水の蒸発を促進するために、直径0.26mmの通過穴を有した。
【0037】
酢酸セルロース繊維の湿潤した束を含むチューブを、オーブン内で170℃、15分間加熱した。これは、酢酸セルロースを分解することなくPHBVを溶融するのに十分な時間である。
【0038】
その後、チューブをオーブンから取り出し、室温で冷却することにより、PHBVを再結晶化させて、酢酸セルロース繊維を互いに結合させた。
【0039】
次いで、フィルターロッドを異なる長さ(2.3cmおよび0.5cm)に切断した。最終フィルターで測定されたPHBVの量は、フィルターの総重量に対して10重量%であった。
【0040】
長さ2.3cm、直径0.8cmを特徴とするフィルターは、平均重量0.160gを示し、一方、長さ0.5cm、直径0.8cmを特徴とするフィルターは、平均重量0.045gを示した。
【0041】
[ROSの決定]
(a)サンプリングシステム
連邦取引委員会(FTC)プロトコルに従った標準的な喫煙条件下で(紙巻きタバコは毎分2秒、35mLのパフで8~9分間燃焼)、コンピュータ制御の単一紙巻きタバコ喫煙機(SCSM、CH Technologies)を使用して、主流煙を発生させた。3つのインピンジャーに20mLの2´,7´-ジクロロフルオレセイン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(DCFH-HRP)溶液を充填し、主流煙の気相ROSを収集するために使用した。実験システムを図1に模式的に示す。マールボロ(Marlboro)(赤)紙巻きタバコ(フィルターなし)を使用して、主流の煙からROSを収集した。
【0042】
図1において、SCSM(1)は、フィルターホルダー(4)によって最初のインピンジャーに接続された紙巻きタバコ(3)によって生成された煙を受け取るDCFH-HRP溶液を含有する3つのインピンジャー(2)に接続されている。排気煙は、パイプ(5)を通ってSCSMから排出される。SCSMは、データの記録および精緻化のためにラップトップ(6)に接続されている。
【0043】
(b)サンプルの調製および分析
- 紙巻きタバコの煙中のROS用の蛍光プローブおよびスタンダードの調製
【0044】
本研究でROSを決定するために用いられた蛍光プローブはDCFHであった。2´、7´-ジクロロフルオレセインジアセテート(DCFH-DA; Calbiochem、米国)をエチルアルコール(ACSグレード、Pharmo、米国)に溶解することにより、1mMストック溶液を調製した。10mLの溶液を40mLの0.01M水酸化ナトリウム(NaOH)と混合し、暗室で30分間放置して加水分解させた。次いで、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO、Sigma Aldrich、ミズーリ州、米国)をリン酸二水素ナトリウム無水物(NaHPO、Fluka、ドイツ)と混合してpH7.2とすることによって得られた200mLのリン酸緩衝液を、上記溶液に加えた。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、Sigma Aldrich、米国)を0.5単位/mLの濃度で触媒として用いた。本作業溶液の最終DCFH濃度は、5μMであった。
【0045】
同等のH濃度を用いて、標準のH検量線を利用して蛍光強度を変換することにより、ROS濃度を表した。0.1mLの過酸化水素(ACSグレード、Sigma Aldrich、米国)を3mLのDCFH-HRP作業溶液と混合することにより、1.0、2.0、3.0、および4.0×10-7nmolの4種の濃度のHスタンダードを調製した。スタンダードブランクを、0.1mLの脱イオンMilli-Q水(抵抗率>18.2MΩ)をプローブと混合することによって得た。スタンダードをキュベットに入れ、37℃の水浴でインキュベートした。島津分光光度計(型式:RF-5301 PC、日本)を用いて蛍光(励起波長:504nm、発光波長:524nm)を測定することにより、2,7-ジクロロフルオレセインの形成をモニタリングした。
【0046】
(c)活性酸素物質(ROS)の分析
サンプリングに続いて、3mLの試薬溶液を各インピンジャーから取り出し(それぞれ20mLを含む)、キュベットに入れ、37℃の水浴で15分間インキュベートした。概ね、インピンジャーの溶液の蛍光強度は、スタンダードの範囲内であった。溶液の体積を用いて各インピンジャーのROSの量を取得した後、3つのインピンジャーすべての内容物を合わせて1つにした。溶液のアリコートを採取し、蛍光強度を測定した。紙巻きタバコを燃焼させずに喫煙システムを操作することによって、サンプリングブランクを獲得し、同じ方法で分析した。サンプリングブランク値を、サンプル結果から差し引いた。
【0047】
ROSの量については、表1に報告されているように、市販の紙巻きタバコから発生する煙についても測定した。
【0048】
ROS分析のさらなる詳細については、以下を参照されたい:
Jiayuan Zhao&Philip K. Hopke、「Concentration of Reactive Oxygen Species (ROS) in Mainstream and Sidestream Cigarette Smoke」、Aerosol Science and Technology、46:191-197、2012年;
Mohammad Arifur Rahman&Philip K. Hopke、「Assessment of Methods for the Measurement of Wood Fuel Compositions」、Energy Fuels 2017、31、5、5215-5221。
【0049】
圧力降下および硬度の決定
本発明に係るフィルター要素(バイオオンフィルター)のサンプルを試験して、フィルターによって引き起こされる圧力降下およびフィルターの硬度を測定した。市販の紙巻きたばこについても同じ測定を行った。圧力降下は、層流要素(Laminar Flow Element)(Dwyer Instrument Inc.、米国)を用いて測定した。硬度は、デュロメータ、ASTM D2240タイプA、ISO868を用いて測定した。
【0050】
結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
いかなる理論に縛られることなく、フィルター要素内のPHAの存在によるROS抑制へのポジティブな効果は、主にモノマー単位-O-CHR-(CH-CO-の構造に起因すると考えられる。三位の炭素原子に結合した水素-CHR-は特に反応性があり、ラジカル反応を介してROSを不活性化することによりROSを抑制する水素ラジカルを形成する。
図1
【国際調査報告】