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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-02
(54)【発明の名称】標的ゲノム領域の捕捉と分析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20220726BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220726BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220726BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220726BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506557
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 US2020032615
(87)【国際公開番号】W WO2020232081
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/846,988
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521521219
【氏名又は名称】ラピッド ゲノミクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネヴェス,レアンドロ ゴミデ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
本開示は、最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含む特定の認識部位でエンドヌクレアーゼを使用して、標的ゲノム領域を開裂し、標的ゲノム領域を、架橋オリゴにハイブリダイズさせることによって、標的ゲノム領域を捕捉することを含む、標的ゲノム領域を捕捉する材料及び方法に関する。本開示はまた、捕捉した標的ゲノム領域を分析することにも関する。開裂に用いられるエンドヌクレアーゼは、認識部位に特異的に結合して、開裂に向ける1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼとすることができる。捕捉された標的ゲノム領域は、好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応又はローリングサークル増幅を介して増幅され、検出又は配列決定することができる。さらに、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットに関し、1つ以上の標的ゲノム領域を開裂するように設計された1つ以上のエンドヌクレアーゼと、1つ以上の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された架橋オリゴヌクレオチドを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝物質から標的ゲノム領域を捕捉する方法であって、
a)最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含み、前記標的ゲノム領域に隣接する第1の認識部位及び第2の認識部位を有する1つ以上のエンドヌクレアーゼを使用して、前記遺伝物質から前記標的ゲノム領域を開裂する工程と、
b)前記開裂した遺伝物質を一本鎖形態に変性する工程と、
c)前記標的ゲノム領域を、前記一本鎖形態の標的ゲノム領域の3'及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'及び5'の配列を含む架橋オリゴにハイブリダイズさせることによって、前記一本鎖形態の標的ゲノム領域を捕捉する工程と
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記第1の認識部位及び第2の認識部位はそれぞれ、最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含み、前記第1の認識部位及び第2の認識部位は、前記標的ゲノム領域に隣接する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
特異的な制限部位で前記遺伝材料を開裂する前記1つ以上のエンドヌクレアーゼは、制限エンドヌクレアーゼ又はプログラマブルエンドヌクレアーゼである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の制限エンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)関連タンパク質9エンドヌクレアーゼ(Cas9エンドヌクレアーゼ)、Cpf1、C2c1、C2c2、C2c、RNA又はDNA誘導アルゴノートタンパク質及び構造誘導エンドヌクレアーゼから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記プログラマブルエンドヌクレアーゼは、第1の認識部位に相補的な配列を有する第1のガイド分子に基づいて第1の認識部位でDNAを切断する第1のヌクレアーゼ、及び第2の認識部位に相補的な配列を有する第2のガイド分子に基づいて第2の認識部位でDNAを切断する第2のプログラマブルエンドヌクレアーゼを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋オリゴは、前記一本鎖標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列にハイブリダイズする3'及び5'末端の配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記架橋オリゴは、前記一本鎖標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列にハイブリダイズする3'及び5'末端オーバーハングを有する二本鎖オリゴヌクレオチドである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記架橋オリゴは、レアカッター制限エンドヌクレアーゼに特異的な制限部位、プログラマブルエンドヌクレアーゼ及び/又はプライマー結合配列をさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋オリゴは、固体基質上に固定化される、又はビオチン化される、請求項7~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の認識部位は、前記遺伝物質の同じ鎖上に存在する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第1及び第2の認識部位は、前記遺伝物質の異なる鎖上に存在する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記開裂遺伝物質を、前記一本鎖形態に変性する工程は、前記開裂遺伝物質を、75℃から115℃の間、80℃から110℃の間、85℃から105℃の間、90℃から100℃の間、又は約95℃の温度に晒すことを含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
d)前記架橋オリゴにハイブリダイズした前記一本鎖標的ゲノム領域の前記自由端部をライゲーションして、前記架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖環状標的ゲノム領域を生成し、
e)任意で、非環状化遺伝物質を分解し、
f)任意で、核酸増幅によって前記標的ゲノム領域を増幅して、前記標的ゲノム領域の複数のコピーを生成し、
g)前記増幅された標的ゲノム領域を分析すること
を含む、前記標的ゲノム領域をさらに分析することを含む、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
露出した3'又は5'末端から核酸を分解するエキソヌクレアーゼの組み合わせによって、非環状化遺伝物質を分解して、前記架橋オリゴにハイブリダイズした環状化標的ゲノム領域のみを残す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、前記標的ゲノム領域を増幅して、前記標的ゲノム領域の複数のコピーを生成することを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
PCRプライマーは、標的領域に特異的であるか、又は、前記架橋オリゴによって導入される共通領域に結合するように設計することによって、全ての標的に共通とすることができる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ローリングサークル増幅(RCA)反応により、前記標的ゲノム領域を増幅して、前記標的ゲノム領域の複数の連結コピーを生成することを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項19】
前記架橋オリゴを、前記RCA反応のためのプライマーとして用いて、一本鎖形態で標的ゲノム領域の複数の連結コピーを生成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記架橋オリゴ及び/又は1つ以上の追加のプライマーを、前記RCA反応のために用いて、二本鎖形態で前記標的ゲノム領域の複数の連結コピーを生成する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記分析は、前記標的ゲノム領域を検出することを含む、請求項14~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記標的ゲノム領域を検出することは、前記標的ゲノム領域を、前記標的ゲノム領域に特異的に結合するラベル付きプローブ又は前記増幅標的分子に結合する基質と接触させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記分析は、前記標的ゲノム領域を配列決定することを含む、請求項14~20のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記配列決定は、ナノポア配列決定、可逆的色素ターミネーター配列決定、又は単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
遺伝物質から複数の標的ゲノム領域を捕捉する方法であって、
a)複数対のエンドヌクレアーゼを用いて、前記遺伝物質から複数の標的ゲノム領域を開裂し、各対のエンドヌクレアーゼは、第1の認識部位及び第2の認識部位を有し、各認識部位は、最低約17~約24のヌクレオチドの配列を含み、各対の認識部位は、前記複数の標的ゲノム領域からの標的ゲノム領域に隣接し、
b)前記開裂遺伝物質を一本鎖形態に変性させ、
c)複数の標的ゲノム領域を、複数の架橋オリゴにハイブリダイズさせることによって、一本鎖形態の前記複数の標的ゲノム領域を捕捉し、各架橋オリゴは、一本鎖形態の複数の標的ゲノム領域から、標的ゲノム領域の3'末端及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'末端及び5'末端の配列を含む、方法。
【請求項26】
d)前記複数の架橋オリゴにハイブリダイズした前記一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、対応する架橋オリゴにハイブリダイズした、複数の標的ゲノム領域からの標的ゲノム領域を各々含有する複数の一本鎖環状遺伝物質を生成し、
e)任意で、非環状遺伝物質を除去し、
f)任意で、核酸増幅によって、前記複数の標的ゲノム領域を増幅して、各標的ゲノム領域の複数のコピーを生成し、
g)前記増幅された標的ゲノム領域を分析することを含む、前記複数の標的ゲノム領域を分析することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記複数の架橋オリゴは、固体基質上に固定化される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記複数の標的ゲノム領域を、核酸増幅により増幅して、各標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、前記標的ゲノム領域を増幅して、前記標的ゲノム領域の複数のコピーを生成することを含む、請求項25~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
PCRプライマーは、標的領域に特異的であるか、又は、好ましくは、前記架橋オリゴによって導入される共通領域に結合するように設計することによって、全ての標的に共通とすることができる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ローリングサークル増幅(RCA)反応により、前記複数の標的ゲノム領域のそれぞれを増幅して、前記複数の標的ゲノム領域のそれぞれの複数の連結コピーを生成することを含む、請求項25~28のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記架橋オリゴを、前記RCA反応のためのプライマーとして用いて、一本鎖形態で標的ゲノム領域のそれぞれの複数の連結コピーを生成する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記架橋オリゴ及び/又は1つ以上の追加のプライマーを、前記RCA反応のために用いて、二本鎖形態で前記標的ゲノム領域のそれぞれの複数の連結コピーを生成する、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記分析は、前記標的ゲノム領域を検出することを含む、請求項28~31のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記標的ゲノム領域を、前記複数の標的ゲノム領域から検出することは、前記標的ゲノム領域を、前記標的ゲノム領域に特異的に結合するラベル付きプローブ又は前記増幅された標的分子に結合する物質と接触させることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記分析は、前記標的ゲノム領域の配列決定することを含む、請求項28~33のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記配列決定は、ナノポア配列決定、可逆的色素ターミネーター配列決定、又は単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
a)エンドヌクレアーゼを標的に向ける1つ以上のガイド分子と、
b)1つ以上の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された1つ以上の架橋オリゴと、任意で、
c)1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼと
を含む、キット。
【請求項39】
PCR又はRCA反応において環状化標的ゲノム領域を増幅するように設計されたプライマー、リガーゼ、ポリメラーゼ、及び1つ以上のレアカッター制限エンドヌクレアーゼのうち1つ以上をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
前記キットは、1つ以上の特異的な標的ゲノム領域のためにカスタマイズされている、請求項38又は39に記載のキット。
【請求項41】
複数の架橋オリゴを含み、各前記架橋オリゴは、複数の標的ゲノム領域から、標的ゲノム領域の3'末端及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'末端及び5'末端の配列を含む、キット。
【請求項42】
前記複数の架橋オリゴは、固体基質上に固定化される、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
エンドヌクレアーゼを前記標的に向ける1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼと1つ以上のガイド分子とをさらに含む、請求項41又は42に記載のキット。
【請求項44】
PCR又はRCA反応において環状化標的ゲノム領域を増幅するように設計されたプライマー、リガーゼ、ポリメラーゼ、及び1つ以上のレアカッター制限エンドヌクレアーゼのうち1つ以上をさらに含む、請求項41~43のいずれかに記載のキット。
【請求項45】
前記キットは、複数の特異的な標的ゲノム領域のためにカスタマイズされている、請求項41~43のいずれかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2019年5月13日出願の米国仮出願第62/846,988号の優先権を主張するものであり、全ての図表及びアミノ酸又は核酸配列を含む内容を参照することにより組み込まれる。
【0002】
本出願の配列表は、2020年5月11日に作成され、3KBである「Seq-List.txt」とラベル付けされたものである。配列表の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
標的ゲノム領域の配列決定等の捕捉と分析は、農学、分類学から医学に至るまでの多様なバイオテクノロジー分野において極めて重要である。例えば、ゲノム中の標的領域の配列決定は、ゲノムの特異的な領域における遺伝的多様性を理解することが、被験者の健康に関する表現型情報と結びつき、その結果、治療選択肢を指示することができる、精密かつ個別化された医学において重要である。また、ゲノムの標的領域を配列決定することは、種子や食品製造等の植物における望ましい形質を改善するための農学用途において重要である。
【0004】
標的ゲノムDNA又はRNA配列を分析するためのいくつかの方法が存在する。例えば、配列決定前の標的増幅は一般的であり、ゲノムの標的領域を単離及び/又は増幅するために複数の方法が利用可能である。共通のテーマとして、当技術分野で公知の方法は、標的ゲノム領域を単離及び増幅するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ライゲーション連鎖反応、又はプローブハイブリダイゼーション等を利用する。遺伝物質の等温検出のための現在の方法は、例えば、ループ媒介等温増幅(LAMP)や鎖置換増幅を使用して行われる。しかしながら、これらの技術は、異なる標的に対して最適化するのが困難であり、長い標的を分析するのに適していない。また、これらの等温技術は、多数の標的について多重化することが困難又は不可能であり、増幅生成物を容易に配列決定するのに適していない。例えば、例えば、少なくとも約1~50キロベース(kb)といったDNA配列の長めの伸縮を特定する、特に、検出及び配列決定することは、特に着目されている。しかし、このような検出及び配列決定は、従来の方法では容易に達成されない。従って、標的ゲノム領域の特定、例えば、検出及び配列決定、特に、標的ゲノム領域の長い伸縮の検出及び配列決定のための改善された方法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dahl, F., Stenberg, J., Fredriksson, S., Welch, K., Zhang, M., Nilsson, M., et al. (2007). Multigene amplification and massively parallel sequencing for cancer mutation discovery. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104, 9387-92. doi:10.1073/pnas.0702165104.
【非特許文献2】Fredriksson, S., Baner, J., Dahl, F., Chu, A., Ji, H., Welch, K., et al. (2007). Multiplex amplification of all coding sequences within 10 cancer genes by Gene-Collector. Nucleic Acids Res. 35, e47. doi:10.1093/nar/gkm078.
【非特許文献1】Hegge, J. W., Swarts, D. C., and van der Oost, J. (2017). Prokaryotic Argonaute proteins: novel genome-editing tools? Nat. Rev. Microbiol. 16, 5-11. doi:10.1038/nrmicro.2017.73.
【非特許文献3】Hu, J. H., Miller, S. M., Geurts, M. H., Tang, W., Chen, L., Sun, N., et al. (2018). Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity. Nature 556, 57-63. doi:10.1038/nature26155.
【非特許文献4】Jinek, M., Chylinski, K., Fonfara, I., Hauer, M., Doudna, J. A., and Charpentier, E. (2012). A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337, 816-21. doi:10.1126/science.1225829.
【非特許文献5】Nilsson, M., Malmgren, H., Samiotaki, M., Kwiatkowski, M., Chowdhary, B. P., and Landegren, U. (1994). Padlock probes: circularizing oligonucleotides for localized DNA detection. Science 265, 2085-8. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7522346 [Accessed May 1, 2018].
【非特許文献6】Swarts, D. C., Hegge, J. W., Hinojo, I., Shiimori, M., Ellis, M. A., Dumrongkulraksa, J., et al. (2015). Argonaute of the archaeon Pyrococcus furiosus is a DNA-guided nuclease that targets cognate DNA. Nucleic Acids Res. 43, 5120-5129. doi:10.1093/nar/gkv415.
【非特許文献7】Varshney, G. K., and Burgess, S. M. (2016). DNA-guided genome editing using structure-guided endonucleases. Genome Biol. 17, 187. doi:10.1186/s13059-016-1055-4.
【非特許文献8】Xu, S., Cao, S., Zou, B., Yue, Y., Gu, C., Chen, X., et al. (2016). An alternative novel tool for DNA editing without target sequence limitation: the structure-guided nuclease. Genome Biol. 17, 186. doi:10.1186/s13059-016-1038-5.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特定の実施形態は、標的ゲノム領域を捕捉し、任意で、例えば、検出及び/又は配列決定によって、さらに分析するための材料及び方法を提供する。本明細書中に開示される材料及び方法は、少なくとも約1kb、好ましくは、少なくとも約10kb、さらにより好ましくは、少なくとも約30kb、又は最も好ましくは、少なくとも約50kbを含む標的ゲノム領域を分析するのに特に適切である。
【0007】
本明細書に開示される方法によれば、標的ゲノム領域は、2つの特異的認識部位での開裂に基づいて単離され、各認識部位は、最低約10~約30のヌクレオチドを含む。2つの認識部位は、標的ゲノム領域に隣接する。次いで、開裂した標的ゲノム領域は、本明細書中で「架橋オリゴ」と呼ばれるオリゴヌクレオチドを使用して捕捉される。架橋オリゴは、開裂した標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列にハイブリダイズする3'及び5'末端の配列を有する。次いで、捕捉された標的ゲノム領域は、例えば、増幅及び配列決定を介して、検出及び/又は配列決定される。
【0008】
従って、本発明の特定の実施形態は、遺伝物質から標的ゲノム領域を捕捉する方法であって、
a.最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含み、標的ゲノム領域に隣接する第1の認識部位及び第2の認識部位を有する1つ以上のエンドヌクレアーゼを使用して、遺伝物質から標的ゲノム領域を開裂し、
b.開裂した遺伝物質を一本鎖形態に変性し、
c.標的ゲノム領域を、一本鎖形態の標的ゲノム領域の3'及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'及び5'の配列を含む架橋オリゴに、ハイブリダイズさせることによって一本鎖形態の標的ゲノム領域を捕捉する
ことを含む。
【0009】
捕捉された標的ゲノム領域は、さらに分析、例えば、検出又は配列決定される。このような分析は、
d.架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖環状標的ゲノム領域を生成する工程と、
e.任意で、非環状化遺伝物質を分解する工程と、
f.任意で、核酸増幅によって標的ゲノム領域を増幅して、標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する工程と、
g.増幅された標的ゲノム領域を分析する工程と
を含む。
【0010】
好ましい実施形態において、認識部位における標的ゲノム領域の開裂は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)関連タンパク質9エンドヌクレアーゼ(Cas9エンドヌクレアーゼ)といった第1及び第2のプログラム可能なエンドヌクレアーゼ、例えば、第1の認識部位に相補的な配列を有する第1のガイドRNA(gRNA)を含む第1のCas9エンドヌクレアーゼ、及び第2の認識部位に相補的な配列を有する第2のgRNAを含む第2のCas9エンドヌクレアーゼを用いて行われる。
【0011】
さらなる実施形態において、架橋オリゴにハイブリダイズした標的ゲノム領域は、増幅反応、例えば、等温増幅反応を介して、好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応又はローリングサークル増幅(RCA)反応を介して増幅される。架橋オリゴのみが増幅のためのプライマーとして使用される場合、一本鎖増幅生成物は、一本鎖形態の標的ゲノム領域の連結コピーを含むRCAを介して生成される。架橋オリゴに加えて、1つ以上のプライマーもまた、二本鎖形態の標的ゲノム領域の連結コピーを含む二本鎖増幅生成物を生成するために、RCA反応において使用される。従来のPCR反応を用いて、標的領域又は架橋オリゴによって導入された共通領域に結合する適切なプライマーを用いて標的分子を増幅することもできる。
【0012】
増幅された標的ゲノム領域は、当該分野で公知の技術を使用して、例えば、標的ゲノム領域内の配列に相補的なラベル付きプローブを使用して検出される。増幅された標的ゲノム領域はまた、当該分野で公知の技術、例えば、ナノポア配列決定(Oxford Nanopore Technologies(商標))、可逆的色素ターミネーター配列決定(Illumina(商標))及び単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定(PacBio(商標))を使用して配列決定される。
【0013】
本明細書中に開示される材料及び方法は、例えば、多重反応において、複数の標的ゲノム領域を捕捉し、任意で、分析するように変形することができる。このような実施形態において、複数対の標的認識部位は、複数の標的認識部位を開裂するように設計され、これらの複数の標的ゲノム領域は、標的ゲノム領域を捕捉するようにそれぞれ特異的に設計される複数の架橋オリゴを介して捕捉される。特定の実施形態において、複数の架橋オリゴは、チップ等の固体基質に固定することができる。そのように捕捉された複数の標的ゲノム領域は、当技術分野で公知の技術を用いて検出又は配列決定することができる。
【0014】
本発明のさらなる実施形態はまた、本発明の方法を実施するためのキットを提供する。本発明のキットは、1つ以上の標的ゲノム領域を開裂するように設計された1つ以上のエンドヌクレアーゼ、及び1つ以上の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された特異的な架橋オリゴを含む。
【0015】
特定の実施形態において、本発明のキットは、1つ以上の標的ゲノム領域を開裂するように設計されたDNA又はRNAの形態の1つ以上のガイド分子、及び1つ以上の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された特異的架橋オリゴを含む。このようなキットはまた、1つ以上のCas9エンドヌクレアーゼを含むこともできる。
【0016】
キットは、捕捉された1つ以上の標的ゲノム領域を増幅するためのポリメラーゼ、リガーゼ、プライマー及び他の試薬をさらに含むことができる。さらに、キットは、本発明の方法を実施するための説明書を提供することができる。
【0017】
この特許又は出願書類は,色彩を付して作成された少なくとも1つの図面を含んでいる。本特許又は特許出願公開の写しであって、色彩図面を付したものは、要求し、かつ、必要な手数料を納付したときに特許商標庁が提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】標的ゲノム領域を捕捉する方法及び標的ゲノム領域を分析、すなわち、検出又は配列決定する2つの例の概要図である。
図2】単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定(PacBio(商標))を用いて捕捉された標的ゲノム領域を配列決定する例。
図3】多数の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された架橋オリゴの配列を用いた、多数の標的ゲノム領域の検出の例。
図4】PCRによる環状化標的分子の増幅の例。可逆的色素ターミネーター配列決定(Illumina(商標))を用いた配列決定に必要なアダプターを含むプライマーを例示する。A)プロセスの概要。B)配列を捕捉し、プライマーのための着地部位を提供するのに必要な架橋オリゴの構造。C)分子の同時増幅、固有のサンプル識別子の組み込み、及び色素ターミネーター配列決定に必要な構造の組み込みを可能にするプライマーの構造。
図5】二本鎖ゲノムの同じ鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する例。
図6】二本鎖ゲノムの逆の鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する例。
図7】二本鎖ゲノムの逆の鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する他の例。
図8】二本鎖ゲノムの同じ鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する他の例。
図9】標的分子の末端をライゲーションして環状一本鎖構造を形成するための種々のアプローチの例。
図10】相補的でない5'末端部分を有する架橋オリゴから生じるRCA反応の例。
図11】単一のプログラマブルエンドヌクレアーゼ及び標的から伸長するプライマーを利用して、環状一本鎖分子及び架橋オリゴを形成する例。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される単数形「1つ」及び「その」は、文脈が別段の明確な指示をしない限り、複数形も含むことを意図する。さらに、「含む」、「有する」、「備える」又はその変形が詳細な明細書及び/又は請求範囲のいずれかに使用される限り、そのような用語は、「含む(comprising)」という用語に類似した方法で包含することが意図されている。「含む」、「からなる」、「本質的にからなる」を含む移行用語/句(及びその任意の文法的変形)は、区別なく使用される。
【0020】
「から本質的になる」という句は、記載された実施形態が、特定の材料又は工程を含む実施形態、及び記載された実施形態の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない実施形態を包含することを示す。
【0021】
「約」という用語は、当業者によって求められる特定の値についての許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は求められるか、すなわち、測定方式の限界に部分的に依存している。「約」という用語が使用されるポリヌクレオチドの長さに関して、ポリヌクレオチドは、値(X±10%)付近で0~10%の変動を有する記載された数の塩基又は塩基対を含む。
【0022】
本開示において、範囲は、長さを設定し、その範囲内の各値及びすべての値を記述することを回避するために、簡潔に記載されている。範囲内の任意の適切な値は、適切な場合、範囲の上限値、下限値、又は末端として選択される。例えば、0.1~1.0の範囲は、0.1及び1.0の末端値、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9の中間値、そして0.2~0.5、0.2~0.8、0.7~1.0等の0.1~1.0内に包含されるすべての中間範囲を表す。範囲内に少なくとも2つの有効数字を有する値が想定され、例えば、5~10の範囲は、5.0~10.0の間、そして末端値を含む5.00~10.00の間のすべての値を示す。ポリヌクレオチドのサイズ等の範囲が本明細書で使用される場合、範囲の組み合わせ及び下位組み合わせ(例えば、開示された範囲内の下位範囲)、その中の特定の実施形態は、明示的に含まれる。
【0023】
本明細書で使用される「生物」という用語は、ウイルス、細菌、真菌、植物及び動物を含む。生物のさらなる例は当業者に公知であり、このような実施形態は、本発明の範囲内である。本明細書中に記載されるアッセイは、任意の生物から得られる任意の遺伝物質を分析する際に有用である。
【0024】
「ゲノム」又は「遺伝物質」及び本明細書で使用されるその他の文法的変化は、任意の生物由来の遺伝物質を指す。遺伝物質は、ウイルスゲノムDNA又はRNA、ゲノムDNAのような核遺伝物質又はミトコンドリアDNA又は葉緑体DNAのような細胞小器官に存在する遺伝物質である。それはまた、天然又は人工の混合物又はいくつかの生物に由来する遺伝物質も表す。
【0025】
本明細書で使用される「長い標的ゲノム領域」という語句は、少なくとも約1kb、好ましくは、少なくとも約10kb、さらにより好ましくは、少なくとも約30kb、又は最も好ましくは、少なくとも約50kbを有する標的ゲノム領域を指す。
【0026】
標的ゲノム領域、特に、長い標的ゲノム領域を特定するための本明細書に開示される材料及び方法は、標的ゲノム領域、特に、長い標的ゲノム領域の捕捉及び検出のための従来の方法に関連する課題を解決する。
【0027】
特定の実施形態において、本発明は、遺伝物質から標的ゲノム領域を捕捉する方法を提供する。本方法は、
a.最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含み、標的ゲノム領域に隣接する、第1の認識部位及び第2の認識部位を有する1つ以上のエンドヌクレアーゼを使用して、遺伝物質から標的ゲノム領域を開裂する工程と、
b.開裂した遺伝物質を一本鎖形態に変性する工程と、
c.標的ゲノム領域を、一本鎖形態の標的ゲノム領域の3'及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'及び5'末端の配列を含む架橋オリゴにハイブリダイズさせることによって一本鎖形態の標的ゲノム領域を捕捉する工程と
を含む。
【0028】
捕捉された標的ゲノム領域は、さらに分析、例えば、検出又は配列決定される。このような分析は、
d.架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖環状標的ゲノム領域を生成する工程と、
e.任意で、非環状化遺伝物質を分解する工程と、
f.任意で、核酸増幅によって標的ゲノム領域を増幅して、標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する工程と、
g.増幅された標的ゲノム領域を分析する工程と
を含む。
【0029】
本明細書中で使用される「標的ゲノム領域」は、生物のゲノムにおける当該領域である。このような領域は、第1の認識部位及び第2の認識部位に隣接する。第1及び第2の認識部位の各々は、最低約10~約30のヌクレオチドの配列を含む。
【0030】
第1及び第2の認識部位は、標的ゲノム領域に基づいて選択される。典型的には、標的ゲノム領域に隣接する独特の配列が第1及び第2の認識部位として選択される。これらの配列の独特さは、これらの配列がゲノムの他の場所で生じにくいことを保証するものであるため、非特異的開裂を最小化し、標的ゲノム領域以外の領域の捕捉を回避する。また、第1及び第2の認識部位の最小長は、好ましくは、約10~約30のヌクレオチドであり、これは、これらの配列がゲノム中でまれにしか生じないことを保証するものであるため、標的ゲノム領域以外の領域の非特異的開裂及び捕捉も最小限にする。第1及び第2の認識部位の配列は、互いに同一であってもよく、又は互いに異なっていてもよい。当業者であれば、標的ゲノム領域の配列及び特定の生物についての利用可能なゲノム配列に基づいて、例えば、ゲノム配列データベースから、第1及び第2の認識部位についての適切な配列を求めることができる。
【0031】
認識部位での遺伝物質の開裂は、特異的な認識部位で遺伝物質中のホスホジエステル結合(切断)を開裂する1つ以上のエンドヌクレアーゼを用いて行われる。エンドヌクレアーゼは、制限エンドヌクレアーゼである。最低約10~約30のヌクレオチド、例えば、約80までのヌクレオチドを含む認識部位を切断する特定の制限エンドヌクレアーゼには、LAGLIDADG系列、GIY‐YIG系列、HNH系列、His‐Cysボックス系列及びPD‐(D/E)XK系列由来のホーミングエンドヌクレアーゼ等のメガヌクレアーゼが含まれる。最低約10~約30のヌクレオチド、例えば、約80までのヌクレオチドを含む認識部位を切断する制限エンドヌクレアーゼのさらなる例は、当技術分野で公知であり、このような実施形態は、本発明の範囲内である。
【0032】
好ましい実施形態において、認識部位での開裂は、1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼを使用して行われる。プログラマブルエンドヌクレアーゼという用語は、DNA又はRNA分子の特異的な領域を開裂するために標的化される酵素の異なる部類を記載するために使用される。このように、プログラム可能なエンドヌクレアーゼは、当該ヌクレオチド配列を開裂するように設計又はプログラムされるエンドヌクレアーゼである。例えば、プログラマブルエンドヌクレアーゼは、標的認識部分及びエンドヌクレアーゼ部分を含み、ここで、共通のエンドヌクレアーゼ部分は、任意の標的認識部分と組み合わされて、当該ヌクレオチド配列を開裂する。
【0033】
一実施形態において、プログラマブルエンドヌクレアーゼは、ガイドRNA(gRNA)、ガイドDNA(gDNA)によって、又はガイド分子と標的との間に形成される構造によって標的化される(非特許文献7)。例えば、Cas9は、認識部位の特定の位置で二本鎖切断を行うことによって二本鎖遺伝物質を開裂するので、プログラム可能なエンドヌクレアーゼである(非特許文献4)。認識部位の配列に相補的な特異的配列をもつgRNAは、Cas9エンドヌクレアーゼを認識部位に向ける。gDNA又はgRNA分子を用いて、いくつかの型のアルゴネートタンパク質を標的とすることもまた示されている(非特許文献2、非特許文献6)。プログラム可能なエンドヌクレアーゼのさらなる例としては、特に、Cpf1、C2c1、C2c2、C2c、RNA又はDNA誘導(RNA- or DNA-guided)アルゴノートタンパク質、構造誘導(structure-guided)エンドヌクレアーゼが挙げられる。
【0034】
新規なタンパク質はまた、gDNAと標的配列との間に形成される特定のDNA構造、例えば、3'末端ミスマッチを認識することに基づいて、DNAを開裂するように設計することもできる(非特許文献8)。典型的には、本発明の方法において、2つのCas9エンドヌクレアーゼを用いて、遺伝物質から標的ゲノム領域を開裂する。遺伝物質は、すなわち、第1の認識部位に相補的な配列を有する第1のgRNAに基づいて第1の認識部位でDNAを切断する第1のCas9エンドヌクレアーゼ、及び第2の認識部位に相補的な配列を有する第2のgRNAに基づいて第2の認識部位でDNAを切断する第2のCas9エンドヌクレアーゼである。gRNA及びCas9エンドヌクレアーゼの成分を含む複合体は、リボ核タンパク質(RNP)複合体と呼ばれる。いくつかの例において、二本鎖DNAの一方の鎖を開裂するために1つのみのRNPが必要とされ、二本鎖DNAの他方の鎖上の選択点はプライマー伸長反応(図11)の結果である。
【0035】
プログラム可能なエンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9を使用すると、標的領域から環状分子を生成、捕捉又は操作するための当該分野で公知の他の方法に対して大幅な改善が提供される(非特許文献1、非特許文献2)。第1に、一般的な制限酵素の使用では、標的領域内で切断することなく標的領域の近くで切断する制限酵素の組み合わせが存在しないので、分析できる標的ゲノム領域が制限される。これは、部位の数が増加するにつれて特に問題となる。さらに、制限酵素のこのような組み合わせが存在する場合でさえ、それらは、新たな標的が想定されるたびに変化する可能性があり、このプロセスをスケーリングすることを非常に困難にしている。逆に、プログラマブルエンドヌクレアーゼを使用することは、独特のガイドオリゴの設計及びそれらの合成が当該分野で周知であるため、スケーラブルな処理において実質的に任意の領域の標的化が可能となる。第2に、非特許文献2で行われているように、環状化されるべき部位を抽出するためにエンドヌクレアーゼの代わりにPCRを使用することは、PCRが1Kb未満のフラグメントに最もよく作用する傾向があるので、標的分子のサイズが制限される。さらに、PCRは厄介な最適化を必要とし、並行して多数の標的領域について実施することは、非常に困難であり、コストがかかりすぎ、不可能である。
【0036】
第1及び第2の認識部位の配列は、本開示において、5'から3'方向に発現される。従って、gRNAの5'末端に向かう配列は、認識部位の配列と相補的である。認識部位に相補的な配列に加えて、Cas9-gRNA RNP複合体は、標的DNAの非相補鎖上で、認識部位に相補的なgRNAの配列の3'末端に隣接して位置する、約2~5、典型的には3つのヌクレオチドの短い保存配列モチーフも認識する。これは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる。PAMは、標的遺伝物質のCas9による切断と同様に認識部位へのgRNA結合において重要であるが、このPAM部位の必要のないCas9酵素の設計が想定されている。
【0037】
PAMの一例としては、配列NGGが挙げられるが、異なるCas9酵素は、異なるPAM部位を必要とすることが知られており、酵素は可変PAM部位を許容するように修飾されている(非特許文献3)。従って、本明細書中に開示される材料及び方法において有用なgRNAの特定の実施形態において、認識部位は、遺伝物質上の認識部位の配列が配列5'‐NGG‐3'によって非相補鎖の3'側に直ぐ続くように設計される。
【0038】
gRNAが認識部位に結合すると、Cas9エンドヌクレアーゼは、二本鎖遺伝物質において、非相補鎖上のNGG配列の5'側に向かって3つのヌクレオチドで二本鎖切断を行う。すなわち、5'末端から始まり、認識部位の3'末端に向かって、Cas9エンドヌクレアーゼは、3番目と4番目のヌクレオチドの間で二本鎖切断を行う。
【0039】
適切なエンドヌクレアーゼを用いて遺伝物質が開裂されると、得られた標的ゲノム領域の混合物及び遺伝物質の開裂フラグメントは、例えば、変性条件にすることによって、変性されて、一本鎖形態に変性される。典型的には、開裂遺伝物質を変性条件にすることには、塩、ジメチルスルホキシド、水酸化ナトリウム等の適切な化合物の存在下、適切なpHで適切な温度に晒すことが含まれる。DNAはまた、NaOH又は高塩濃度での化学処理を使用して変性される。好ましい実施形態において、開裂遺伝物質は、75℃から115℃の間、好ましくは、80℃から110℃の間、より好ましくは、85℃から105℃の間、さらに好ましくは、90℃から100℃の間、最も好ましくは、約95℃の温度に晒すことによって変性される。当業者であれば、適切な変性条件を決定することができ、かかる実施形態は本発明の範囲内である。
【0040】
遺伝物質から分離された標的ゲノム領域を捕捉するために、特異的に設計された架橋オリゴを、開裂され変性された遺伝物質と接触させる。典型的に、架橋オリゴは、一本鎖オリゴヌクレオチドである。架橋オリゴは、一本鎖標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列にハイブリダイズする3'及び5'末端の配列を含む。架橋オリゴはまた、標的DNA分子の両方の鎖を捕捉するために使用される、一本鎖標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列にハイブリダイズする3'及び5'末端オーバーハングを有する二本鎖オリゴヌクレオチドであってもよい。架橋オリゴは、当技術分野で公知の異なる方法によってヌクレアーゼ分解から保護して、3'及び/又は5'末端に1つ以上のホスホロチオエート結合を付加し、逆(inverted)dT及びその3'及び5'末端の逆(inverted)ddTを付加する等、所定のヌクレアーゼでの処理後に反応中に存在したままとすることができる。
【0041】
架橋オリゴは、いくつかの目的に役立つ。架橋オリゴは、エンドヌクレアーゼによるオンターゲットカットによって生成された正しい標的ゲノム領域を環状化する。エンドヌクレアーゼとの反応においてオフターゲットカットが予想されるので、架橋オリゴは、正しい分子を環状化させることのみを可能にすることによって、さらなる特異性を提供する。また、架橋オリゴ自体は、その後の増幅のためのプライマーとして作用する。
【0042】
さらに、架橋オリゴは、配列決定のために得られる分子を調製する等、さらなる機能を提供するように設計することができる。例えば、架橋オリゴは、チップ上での検出のために固体表面上に固定化したり、又はストレプトアビジン結合ビーズで回収するためにビオチン化させることができる。架橋オリゴの5'及び3'末端はまた、標的領域に非相補的であるさらなる「尾部」配列を有し、PCRのためのプライマーの結合のための部位を提供すること、ビオチン分子を付加すること、又は当該分野で公知の他の変形例(図10)のような、さらなる機能性を分子に連結するために使用される一般的な配列を生成することができる。
【0043】
標的ゲノム領域とハイブリダイズする2つの末端の配列の間に、架橋オリゴは、レアカッター制限エンドヌクレアーゼに特異的な制限部位、プライマー結合配列、又はプログラマブルエンドヌクレアーゼの標的等の配列をさらに含むことができる。レアカッター制限部位又はプログラマブルエンドヌクレアーゼの標的を用いて、核酸増幅後に生成された標的ゲノム領域の連結コピーから個々の標的ゲノム領域を開裂することができる。レアカッター制限エンドヌクレアーゼとしては、その全体、特に、表1が参照により本明細書に援用されるPCT公開WO2009/079488に記載されたものが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0044】
本明細書中で使用される場合、「レアカッター制限エンドヌクレアーゼ」は、その制限部位が遺伝物質中でまれにしか生じないエンドヌクレアーゼである。例えば、ヒトゲノムでは、レアカッター制限エンドヌクレアーゼは、制限部位が平均50~100kbごと、好ましくは、100~200kbごと、より好ましくは、200~400kbごと、さらにより好ましくは、400~600kbごとに生じるエンドヌクレアーゼである。ヒトゲノムのレアカッター制限エンドヌクレアーゼ及びその制限部位の例を以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
さらなるレアカッターエンドヌクレアーゼは例えば、Pingoud(Editor)による制限エンドヌクレアーゼ(Nucleic Acids and Molecular Biology)、Springer;1ed(2004)に記載されている。例えば、New England BioLabs(Beverly、MA)からローミングクラスのエンドヌクレアーゼのような多くのレアカッターエンドヌクレアーゼも市販されている。レアカッターエンドヌクレアーゼのさらに別の例は当技術分野で公知であり、そのような実施形態は、本発明の範囲内である。
【0047】
架橋オリゴ中のプライマー結合配列は、標的ゲノム領域を増幅し、元の分子の超分岐を介して二本鎖形成の標的ゲノム領域の連結コピーを生成するために、RCA反応において追加のプライマーを使用することを容易にする。
【0048】
第1及び第2の認識部位は、遺伝物質の同じ鎖上に、又は遺伝物質の反対の鎖上に存在することができる。
【0049】
図5に、二本鎖ゲノムの同じ鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する例を示す。図5に示されるように、二本鎖ゲノムDNAの下鎖は、認識部位を設計するために選択される。第1のgRNAは、第1の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第1の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。第2のgRNAは、第2の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第2の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。このように、標的ゲノム領域は、ゲノムDNAから二本鎖形態で開裂される。この標的ゲノム領域は、第1の認識部位に向かう末端に、第1の認識部位からの最初の3つのヌクレオチドを除く全てを有し、第2の認識部位に向かう末端に、第2の認識部位からの最初の3つのヌクレオチドを有する。この二本鎖標的ゲノム領域は、一本鎖形態に変換され、1つ以上の架橋オリゴは、鎖のいずれか又は両方を捕捉するように設計される。
【0050】
図5から下鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、第2の認識部位の最初の3つのヌクレオチドに相補的な配列と、第2の認識部位の5'末端を越えて、かつそれに隣接して下鎖上に存在する配列に相補的である追加のヌクレオチドとを有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第1の認識部位に相補的な配列、及び、任意で、第1の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して下鎖上に存在する配列に相補的である追加のヌクレオチドを有する。
【0051】
図5から上鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第1の認識部位の配列、及び、任意で、第1の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して下鎖上に存在する配列を有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、第2の認識部位の最初の3つのヌクレオチドの配列、及び第2の認識部位の5'末端を越えて、かつそれに隣接する下鎖上に存在する追加のヌクレオチドを有する。
【0052】
図6は、二本鎖ゲノムの逆の鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する例を示す。図6に示すように、二本鎖ゲノムDNAの下鎖は、第1の認識部位を設計するために選択され、二本鎖ゲノムDNAの上鎖は、第2の認識部位を設計するために選択される。第1のgRNAは、下鎖の第1の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第1の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。同様に、2番目のgRNAは、上鎖の第2の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第2の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。このように、標的ゲノム領域は、ゲノムDNAから二本鎖形態で開裂される。この標的ゲノム領域は、第1の認識部位に向かう末端に、最初の3つのヌクレオチドを除く第1の認識部位の配列を有し、第2の認識部位に向かう末端に、最初の3つのヌクレオチドを除く第2の認識部位の配列を有する。この二本鎖標的ゲノム領域は、一本鎖形態に変換され、1つ以上の架橋オリゴは、鎖のいずれか又は両方を捕捉するように設計される。
【0053】
図6からの下鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第2の認識部位の配列、及び、任意で、第2の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して上鎖上に存在する配列を有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第1の認識部位に相補的な配列、及び、任意で、第1の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して、下鎖上に存在する配列に相補的な配列を有する。
【0054】
図6からの上鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第1の認識部位の配列、及び、任意で、第1の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して下鎖上に存在する配列を有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除いて第2の認識部位に相補的な配列、及び、任意で、第2の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して上鎖上に存在する配列に相補的な配列を有する。
【0055】
図7は、二本鎖ゲノムの逆の鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する例を示す。図7に示すように、二本鎖ゲノムDNAの上鎖は第1の認識部位を設計するために選択され、二本鎖ゲノムDNAの下鎖は第2の認識部位を設計するために選択される。第1のgRNAは、上鎖の第1の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第1の認識部位の5'末端の下流で、ゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。同様に、第2のgRNAは、下鎖の第2の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第2の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。このように、標的ゲノム領域は、ゲノムDNAから二本鎖形態で切断される。この標的ゲノム領域は、第1の認識部位に向かう末端に、第1の認識部位の最初の3つのヌクレオチドを有し、第2の認識部位に向かう末端に、第2の認識部位の最初の3つのヌクレオチドを有する。この二本鎖標的ゲノム領域は、一本鎖形態に変換され、1つ以上の架橋オリゴは鎖のいずれか又は両方を捕捉するように設計することができる。
【0056】
図7から下鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、第2の認識部位の最初の3つのヌクレオチドに相補的な配列と、第2の認識部位の5'末端を越えて、かつそれに隣接して下鎖上に存在する配列に相補的である追加のヌクレオチドとを有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、第1の認識部位の最初の3つのヌクレオチドの配列、及び第1の認識部位の5'末端を越え、かつそれに隣接する上鎖上に存在するさらなるヌクレオチドを有する。
【0057】
図7から上鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、第1の認識部位の最初の3つのヌクレオチドに相補的な配列、及び第1の認識部位の5'末端を越え、それに隣接して上鎖上に存在する配列に相補的である追加のヌクレオチドを有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、第2の認識部位の最初の3つのヌクレオチドの配列、及び第2の認識部位の5'末端を越えて、かつそれに隣接する下鎖上に存在する追加のヌクレオチドを有する。
【0058】
図8に、二本鎖ゲノムの同じ鎖に結合する2つのgRNAに基づいて認識部位及び架橋オリゴを設計する他の例を示す。図8に示すように、二本鎖ゲノムDNAの上鎖は、第1の認識部位及び第2の認識部位を設計するために選択される。第1のgRNAは、上鎖の第1の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第1の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。同様に、第2のgRNAは、上鎖の第2の認識部位に結合し、Cas9エンドヌクレアーゼは、第2の認識部位の5'末端の下流でゲノムDNAの3つのヌクレオチドを切断する。このように、標的ゲノム領域は、ゲノムDNAから二本鎖形態で開裂される。この標的ゲノム領域は、第1の認識部位に向かう末端に、第1の認識部位の5'末端に最初の3つのヌクレオチドを有し、第2の認識部位に向かう末端に、第2の認識部位の5'末端に最初の3つのヌクレオチドを除く全てを有する。この二本鎖標的ゲノム領域は、一本鎖形態に変換され、1つ以上の架橋オリゴは、鎖のいずれか又は両方を捕捉するように設計される。
【0059】
図8からの下鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除く第2の認識部位の配列、及び、任意で、第2の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して上鎖上に存在する配列を有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、第1の認識部位の最初の3つのヌクレオチドの配列、及び第1の認識部位の5'末端を越え、かつそれに隣接する上鎖上に存在するさらなるヌクレオチドを有する。
【0060】
図8から上鎖を捕捉するために、架橋オリゴは、3'末端に向かって、第1の認識部位の最初の3つのヌクレオチドに相補的な配列、及び第1の認識部位の5'末端を越え、かつ隣接して上鎖上に存在する配列に相補的である追加のヌクレオチドを有するように設計される。この架橋オリゴは、5'末端に向かって、最初の3つのヌクレオチドを除いて第2の認識部位に相補的な配列、及び、任意で、第2の認識部位の3'末端を越えて、かつそれに隣接して上鎖上に存在する配列に相補的な配列を有する。
【0061】
図5~8で表され、前の段落に記載された架橋オリゴの配列は、架橋オリゴが標的ゲノム領域上の対応する配列とハイブリダイズすることができる限り、対応する配列と完全に相補的又は同一である必要はない。従って、ある程度のミスマッチを許容することができ、そのような変更は本発明の範囲内である。
【0062】
「ハイブリダイズする」という用語は、2つの配列が互いに十分に相補的であり、2つの配列間のハイブリダイゼーションを可能にすることを示す。互いにハイブリダイズする配列は、完全に相補的であるが、ある程度までミスマッチを有する。従って、架橋オリゴの5'及び3'末端の配列は、架橋オリゴが標的ゲノム領域とハイブリダイズし、標的ゲノム領域を捕捉する限り、標的ゲノム領域の5'及び3'末端の対応する配列とわずかなミスマッチを有していてもよい。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに依存して、2つの相補的配列間の約5%~約20%のミスマッチは、2つの配列間のハイブリダイゼーションを可能にする。典型的に、高ストリンジェンシー条件は、より高い温度及びより低い塩濃度を有し、低ストリンジェンシー条件は、より低い温度及びより高い塩濃度を有する。ハイブリダイゼーションのための高ストリンジェンシー条件が好ましく、従って、架橋オリゴの3'及び5'末端の配列は、標的ゲノム領域のそれぞれ3'及び5'末端の配列に完全に相補的であることが好ましい。
【0063】
捕捉された標的ゲノム領域は、さらに分析、例えば、検出又は配列決定される。このような分析は、
d.架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖環状標的ゲノム領域を生成する工程と、
e.任意で、非環状化遺伝物質を分解する工程と、
f.任意で、核酸増幅によって標的ゲノム領域を増幅して、標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する工程と、
g.増幅された標的ゲノム領域を分析する工程と
を含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖環状標的ゲノム領域を生成することはリガーゼを使用することによって行われる(図9A)。標的ゲノム領域の末端に相補的な配列を越えて架橋オリゴ中にさらなる配列が存在する場合、一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションすることはまた、適切なDNAポリメラーゼ酵素を使用して標的ゲノム領域の2つの末端間の間隙を充填するための核酸合成を含む(図9B)。標的の末端間の間隙はまた、一本鎖オリゴを間隙中の架橋オリゴにハイブリダイズさせ、得られた分子を一緒にライゲーションすることによっても充填することができる(図9C)。一本鎖標的ゲノムの自由端部をライゲーションするのに適したリガーゼ酵素は、当技術分野で公知であり、T4DNAリガーゼ、アンプリガーゼ、T7 DNAリガーゼ及びTaq DNAリガーゼを含む。
【0065】
特定の実施形態において、適切に環状化された標的配列は、二本鎖ベクターに変換される。これは、鎖置換能力のないDNAポリメラーゼ及びDNAリガーゼで反応を補うことによって行うことができ、環状化標的に相補的な第2鎖を合成する(図4)。
【0066】
特定の実施形態において、標的ゲノム領域が適切に環状化されると、残りの遺伝物質、例えば、開裂されていないゲノムDNA及びオフターゲットゲノムフラグメントが除去、例えば、分解される。これは、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAにかかわらず、露出した3'又は5'末端から核酸を分解するエキソヌクレアーゼの組み合わせによって行うことができる。このように、適切なエキソヌクレアーゼでの処理は、環状化標的分子のみを残し、その後の工程の困難性を大幅に減少させる。
【0067】
特定の実施形態において、エキソヌクレアーゼでの処理を介して遺伝物質の残部から分離され、架橋オリゴにハイブリダイズされた、適切に環状化された標的配列は、核酸増幅を介して増幅される。特定の好ましい実施形態において、環状分子を増幅し、それらを直鎖状分子に戻すことができるプライマーを設計するために、架橋オリゴ中の配列を使用して、PCRを介して増幅を行うことができる。これは、PCRが最も効率的であるDNAの短い伸縮(<10Kb)に特に適している。複数標的のための架橋オリゴは、全てのフラグメントについて一対の共通プライマーを用いてPCR反応を駆動するために使用される、標的に対して非相補的な共通部位を含むことができる(図4)。他の好ましい実施形態において、このような増幅は、等温増幅、例えば、ローリングサークル増幅(RCA)である。等温増幅は、DNAの長いストレッチの増幅を容易にし、例えば、標的ゲノム領域の複数のコピーであって、各コピーは少なくとも約10~50kbを含むものを生成することができる。
【0068】
従来のRCA反応では、パドロック合成プローブを使用して、標的核酸配列をハイブリダイズさせ、サークルを生成する(非特許文献5)。次いで、このサークルをRCA反応で増幅する。本発明において、架橋オリゴを用いて捕捉された環状化標的配列は、RCA反応を介して増幅される。このようなRCA反応において、架橋オリゴは、RCA反応のためのプライマーとして作用し、これは、標的配列を直線的に増幅し、標的配列の長い一本鎖のタンデム反復を生成する。次いで、増幅された一本鎖標的配列は、その後の分析のために使用される。増幅された標的配列はまた、例えば、両方の標的鎖を捕捉し、それらのRCA生成物を再アニーリングさせることによって、二本鎖形態に変換することもできる。
【0069】
いくつかの実施形態において、標的環状化分子の指数関数的増幅は、標的配列の二本鎖タンデム反復を生成するために、1つ以上のさらなるプライマー(架橋オリゴ自体を超える)を使用して、超分岐RCAを通して得られる。架橋オリゴを超えるプライマーは、架橋オリゴの配列に基づいて、標的ゲノム領域に存在する配列に基づいて設計されるか、又はサークルの複数の位置を増幅するためのランダム塩基の組み合わせから構成される。
【0070】
一本鎖捕捉標的ゲノム領域を、二本鎖形態に変換するためのさらなるアプローチは、当該分野で公知であり、そしてこのような実施形態は、本発明の範囲内である。
【0071】
異なるサイズの標的ゲノム領域は、RCAによって生成及び増幅することができるため、PCRによって核酸を増幅することに依存し、長い標的ゲノム領域を増幅するのには有効ではなかった従来の方法の制限が回避される。本明細書中に開示された方法によって提供される重要な利点は、長い標的ゲノム領域、例えば、少なくとも約1kb、好ましくは、少なくとも約15kb、さらにより好ましくは、少なくとも約30kb、又は最も好ましくは、少なくとも約50kbを含むゲノム領域の検出及び分析である。
【0072】
特定の実施形態において、RCA反応の生成物は、標的ゲノム領域を検出又は配列決定するために分析される。例えば、増幅生成物は、反応の濁度、蛍光検出又はラベル付き分子ビーコンに基づいて検出することができる。
【0073】
「ラベル」という用語は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、又は他の物理的手段によって検出可能な分子をいう。例えば、有用なラベルには、蛍光色素(フルオロフォア)、蛍光消光剤、発光剤、高電子密度試薬、ビオチン、ジゴキシゲニン、32P及び他の同位体、又は、例えば、オリゴヌクレオチドに組み込むことによって検出可能となる他の分子が含まれる。この用語には、ラベル化剤の組み合わせ、例えば、各々が、例えば、特定の波長又は波長の組み合わせで、固有の検出可能な署名を提供する蛍光体の組み合わせが含まれる。
【0074】
蛍光体の例としては、Alexa色素(例えば、Alexa350、Alexa430、Alexa488等)、AMCA、BODIPY630/650、BODIPY650/665、BODIPY-FL、BODIPY―R6G、BODIPY-TMR、BODIPY―TRX、カスケードブルー、Cy2、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5、Dylight色素(Dylight405、Dylight488、Dylight549、Dylight550、Dylight649、Dylight680、Dylight750、Dylight800)、6‐FAM、フルオレセイン、FITC、HEX、6‐JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ROX、R‐フィコエリトリン(R‐PE)、スターブライトブルー染料(例えば、スターブライトブルー520、スターブライトブルー700)、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、及びTRITCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本発明の特定の実施形態は、5以上の異なる標的を並行して検出する。例えば、異なる架橋オリゴを、各架橋オリゴの座標、すなわち、各標的ゲノム領域の座標が既知である基質、例えば、チップ上に固定化することができる。このような基質を用いて、数十、数百、又は数千もの標的配列を、多重反応において検出及び分析することができる。
【0076】
さらなる実施形態において、PCR又はRCA反応の生成物を配列決定する。PCRとRCAの生成物の配列決定には、携帯型Nanopore Minion(商標)又はベンチトップ機械、Nanopore Promethion(商標)、PacBio Sequel(商標)又はIllumina HiSeq(商標)を使用する等、様々な配列決定方法を使用することができる。配列決定工程はまた、いくつかの標的の多重検出及び/又は多型検出に使用することもできる。
【0077】
特定の実施形態において、短い適切に環状化された標的配列は、PCR増幅(図4)後の配列決定のために作製される。PCRプライマーは、標的領域に特異的であるか、又は、好ましくは、架橋オリゴによって導入される共通領域を増幅するようにそれらを設計することによって、全ての標的に共通な(universal)ものである(図4B~4C)。ひとたび増幅されると、アダプター分子は、特定の製造業者の推奨に従って、それらを使用するシーケンサーと適合させるために、分子に添加される。あるいは、架橋オリゴに相補的でない「尾部」を有するプライマーを使用して、PCR中に必要なアダプターを組み込むことができ、これによって、方法がより効率的になる(図4A及び4C)。これらのプライマーはまた、配列決定データをそれぞれの試料にリンクするためにPCR中に添加される短い独特の配列(4~16ヌクレオチド)を含み、これは、一般にインデックス又はバーコードとして知られている(図4C)。
【0078】
特定の実施形態において、連結コピーを開裂して、例えば、レアカッター制限酵素を用いて、架橋オリゴを介して導入された制限部位で連結コピーを切断することにより、標的ゲノム領域の個々のコピーを生成することができる。このような開裂は、各々が粘着性末端を有する標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する。
【0079】
粘着性末端を用いて、標的ゲノム領域をアダプター配列に結合させることができる。例えば、レアカッター制限酵素に特異的な制限部位に相補的なオーバーハングを含むアダプターを、標的ゲノム領域のコピーと混合して、アダプターに隣接する標的ゲノム領域を含む二本鎖DNAを生成することができる。
【0080】
本明細書で使用される「アダプター」という用語は、使用される配列決定技術に応じて、4~100のヌクレオチド、好ましくは、10~20のヌクレオチド、さらにより好ましくは、約15ヌクレオチドの既知のヌクレオチド配列を指す。標的ゲノム領域の増幅されたコピーの末端に一旦組み込まれたアダプター配列は、例えば、プライマーのための結合部位を提供することによって、標的ゲノム領域の配列決定を容易にする。一実施形態において、アダプターに隣接する標的ゲノム領域は、対末端配列決定を使用して配列決定される。
【0081】
本明細書で使用される「対末端配列決定」という用語は、フラグメントの両端部が二本鎖ポリヌクレオチドの各末端に存在する特異的プライマー結合部位を使用して配列決定される配列決定技術を指す。対末端配列決定は、2つのプライマー結合部位に隣接するポリヌクレオチドの配列を生成するために、コンピューターソフトウェアプログラムを使用して整列される高品質の配列決定データを生成する。分子の一方の末端のみからの配列決定だと、長い配列決定の読み取りが行われる際、配列決定の質が低下するため、二本鎖分子の両端部からの配列決定だと、二本鎖分子の両端部からの高品質データを可能になる。
【0082】
対末端配列決定において、アダプター取り込みの末端で生成された二本鎖ポリヌクレオチドは、アダプターに隣接する二本鎖標的ゲノム領域の2つの末端に結合する特異的プライマーを使用して配列決定される。対末端配列決定の概要及び原理は、Illumina Sequencing Technology、Illumina、Publication No.770-2007-002に記載されており、その内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0083】
対末端配列決定技術としては、Illumina MiSeq(商標)、Illumina MiSeqDx(商標)、及びIllumina MiSeqFGx(商標)が挙げられるがこれらに限られるものではない。本発明のアッセイにおいて使用される対末端配列決定技術のさらなる例については、当該分野において公知であり、このような実施形態は、本発明の範囲内である。
【0084】
特定の実施形態において、標的ゲノム領域の開裂コピーの粘着性末端を使用して、標的ゲノム領域をヘアピンアダプターと結合させることができる。例えば、レアカッター制限酵素に特異的な制限部位に相補的なオーバーハングを含むヘアピンアダプターを、標的ゲノム領域のコピーと混合して、ヘアピンアダプターに隣接する標的ゲノム領域を含む二本鎖DNAを生成することができる。
【0085】
本明細書中で使用される「ヘアピンアダプター」という用語は、二本鎖ステムと一本鎖ヘアピンループを含むポリヌクレオチドをいう。ヘアピンアダプターの一本鎖ヘアピンループ領域は、配列決定のためのプライマー結合部位を提供する。このように、ヘアピンアダプターは、標的ゲノム配列の両粘着性末端とハイブリダイズすると、両末端がヘアピンループでキャップされた二本鎖領域に標的ゲノム領域を含む二本鎖DNA鋳型が生成される。このような鋳型は、単一分子リアルタイム(SMRT)配列決定(PacBio(商標))を介して標的ゲノム領域を配列決定するために使用される。
【0086】
SMRT配列決定の説明及び原理はPacific Biosciences(2018)、Publication No.: BR108‐100318に記載されており、その内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0087】
さらなる実施形態において、ナノポア技術を用いて、標的ゲノム領域を配列決定する。特定のこのような実施形態において、例えば、Nanopore Technology Brochure、Oxford Nanopore Technologies(2019)、及びNanopore Product Brochure、Oxford Nanopore Technologies(2018)に記載されるように、標的ゲノム領域のコピーを処理して、標的ゲノム領域を配列決定する。これら両方のパンフレットの内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0088】
特定の実施形態において、複数の標的ゲノム領域が捕捉され、任意で、検出又は配列決定等、さらに分析される。このような実施形態において、一対のgRNAが、各標的ゲノム領域について設計される。複数の標的ゲノム領域について複数のgRNAを設計するために、gRNAの配列は、1つの標的ゲノム領域についてのCas9エンドヌクレアーゼが他の標的ゲノム領域を破壊しないように選択される。当該生物の既知のゲノム配列に基づいて、当業者であれば、複数の標的ゲノム領域を特異的に開裂及び単離するための認識部位の適切な組み合わせを決定することができる。gRNAはまた、複数の又は不確定要素位置へのハイブリダイゼーションを可能にするために、縮重又はウォブル塩基を用いて設計及び合成することもできる。例えば、これは、gRNA標的部位における既知の多型を補償するため、ゲノムの複数の位置にランダムにハイブリダイズするために複数の縮重塩基を加えるため、同じく、遺伝コードの縮重に基づいて既知のアミノ酸配列をコードする未知の遺伝子にハイブリダイズするgRNAを設計するために行うことができる。このような場合、必要であれば、架橋オリゴは縮重塩基を含有するように適合させることもできる。
【0089】
従って、本発明の特定の実施形態は、遺伝物質から複数の標的ゲノム領域を捕捉する方法を提供する。本方法は、
a.複数対のエンドヌクレアーゼを用いて、遺伝物質から複数の標的ゲノム領域を開裂する工程であって、各対のエンドヌクレアーゼは、第1の認識部位及び第2の認識部位を有し、各認識部位は、最低約17~約24のヌクレオチドの配列を含み、各対の認識部位は、複数の標的ゲノム領域からの標的ゲノム領域に隣接する、工程と、
b.開裂遺伝物質を一本鎖形態に変性させる工程と、
c.標的ゲノム領域を複数の架橋オリゴにハイブリダイズさせることによって、一本鎖形態の複数の標的ゲノム領域を捕捉する工程であって、各架橋オリゴは、一本鎖形態の複数の標的ゲノム領域から、標的ゲノム領域の3'末端及び5'末端にそれぞれハイブリダイズする3'末端及び5'末端の配列を含む、工程と
を含む。
【0090】
標的ゲノム領域を捕捉する、例えば、認識部位を設計する、遺伝物質を開裂する際に使用されるエンドヌクレアーゼを設計する、及び開裂標的ゲノム領域を捕捉するための架橋オリゴを設計する、上記の態様は、複数の標的ゲノム領域を捕捉する本方法にも適用可能である。
【0091】
複数の標的ゲノム領域を捕捉する一実施形態において、特定の既知の位置で基質に結合された複数の架橋オリゴを有する基質が提供される。複数対のエンドヌクレアーゼで開裂された遺伝物質を一本鎖形態に変換し、一本鎖形態の複数の標的ゲノム領域を適切な条件下で基質と接触させて、基質に結合した架橋オリゴと複数の標的ゲノム領域とのハイブリダイゼーションを可能にする。ひとたび、標的ゲノム領域が、対応する架橋オリゴにハイブリダイズされ、環状化されると、特定の位置に存在する標的ゲノム領域が、さらに分析される。いくつかの実施形態において、捕捉標的ゲノム領域は、RCAを使用して増幅され、さらに、例えば、レーザー励起及び発光検出方法を使用して検出される。
【0092】
特定の実施形態において、複数の標的ゲノム領域はさらに分析され、例えば、検出又は配列決定される。このような分析は、
d.複数の架橋オリゴにハイブリダイズした一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションして、対応する架橋オリゴにハイブリダイズした、複数の標的ゲノム領域からの標的ゲノム領域を各々含有する複数の一本鎖環状遺伝物質を生成する工程と、
e.任意で、基質から非環状遺伝物質を除去する工程と、
f.任意で、核酸増幅によって、複数の標的ゲノム領域を増幅して、各標的ゲノム領域の複数のコピーを生成する工程と、
g.増幅された複数の標的ゲノム領域を分析する工程と。
を含む。
【0093】
標的ゲノム領域を分析する、例えば、一本鎖標的ゲノム領域の自由端部をライゲーションする、標的ゲノム領域を検出する、又は標的ゲノム領域を配列決定する上記の態様はまた、複数の標的ゲノム領域を分析する本方法に適用可能である。
【0094】
特定の実施形態において、非環状化遺伝物質は、エキソヌクレアーゼで分解することによって、又は基質から洗浄することによって除去することができる。
【0095】
本発明のさらなる実施形態は、本発明のアッセイを実施するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明のアッセイを実施するのに必要な特異的なエンドヌクレアーゼ、1つ以上の標的ゲノム領域を標的とするように設計された特異的なガイド分子、アッセイから得られた配列決定データを処理するように設計されたコンピューターソフトウェアプログラム、及び、任意で、アッセイを実施するための手順書を含む。一実施形態において、本発明のキットは、
a)1対以上のガイド分子と、
b)1つ以上の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された1つ以上の架橋オリゴと
を含む。
【0096】
キットは、1つ以上のプログラマブルエンドヌクレアーゼをさらに含むことができる。
【0097】
さらに、キットは、環状化標的ゲノム領域のPCR又はRCA反応のためのプライマー、DNAリガーゼ、ポリメラーゼ及びPCR又はRCAのための他の試薬、制限エンドヌクレアーゼ、例えば、標的ゲノム領域の連結コピーを開裂するためのレアカッター、及び配列決定試薬を含むことができる。
【0098】
特定の実施形態において、本発明のキットは、1つ以上の特異的な標的ゲノム領域についてカスタマイズすることができる。例えば、ユーザが、1つ以上の標的ゲノム領域の配列を提供すると、1つ以上の標的配列について本発明のアッセイを実施するためにキットが生成される。
【0099】
本明細書で言及又は引用した特許、特許出願、仮出願、及び刊行物は全て、本明細書の明白な教示と矛盾しない限り、図表を含む全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0100】
以下は、本発明を実施するための手順を説明する実施例である。これらの実施例は限定するものではない。特に断りのない限り、全てのパーセンテージは重量基準であり、全ての溶剤混合比は容積基準である。
【0101】
実施例1‐認識部位の設計及び標的遺伝子領域の捕捉
この実施例は、本明細書に開示される材料及び方法に従って、標的ゲノム領域を捕捉及び分析するための典型的な手順を記載する。例えば、以下の配列が、この実施例における分析のために同定される。
5'ACCCACTGTTGAGAGTCAGTGGCAAGAGAAGTCTCGTCTTTTACGTCCCGTATCAAAATGAGTGTACAATACAT[A/G]TCTATGTGCGAGTGAGA|GCACGGGTCTGGGCCTGGAGAGTGGACCACCTACAATTGGCCATTTCGGTTTGCGGAAGCTGTCAAGTCAACGCGAGTCCTAG[G/A]ATCTCATAGTCTTCGCATTAACCCGTATTAAGTGGACTCGCCTACAGTTTGTCTTATGCTAGCAACCCAGGCA[T/C]AGTCTGTACGCGCGATCGTCCACTGG|TAGTGGGGTCCTTCCTGGAGTGT[C/G]GTATGGGCCATCCGGTCTACCTTACTAACTTAGGCTTTAAGCGCATTTCTATGTGCGTGAGGTGTCGCATTCATACTTAGTCTGGTCCTAAGTCTGTCACC 3'(配列番号1)。
【0102】
配列番号1の配列は、非相補鎖の配列を提供する、すなわち、gRNAは、反対側の鎖に結合する。従って、認識部位は、反対鎖上に存在し、認識部位に対応する領域は、配列番号1の76番目から~95番目までの「TCTATGTGCGAGTGAGA|GCA」及び配列番号1の260番目から~279番目までの「GCGCGATCGTCCACTGG|TAG」であり、NGG PAMモチーフは下線を付し、Cas9エンドヌクレアーゼによる開裂部位は縦棒で示す。第1のgRNAは、TCTATGTGCGAGTGAGAGCA(配列番号2)の配列に逆相補的な配列を有する第1の認識部位に結合するように設計され、第2のgRNAは、GCGCGATCGTCCACTGGTAG(配列番号3)の配列に逆相補的な配列を有する第2の認識部位に結合するように設計される。2つの認識部位は、実線の括弧内のヌクレオチドによって示される特定の一塩基多型(SNP)を有するゲノム配列に隣接する。Cas9を介したこの配列の開裂により、184bpの配列が生じる。このフラグメントの配列決定によって、この領域内に存在するSNPについての情報が提供される。
【0103】
配列番号1の配列を含む遺伝物質のCas9媒介開裂は、標的ゲノム領域である以下のフラグメントを生成する。
5'GCACGGGTCTGGGCCTGGAGAGTGGACCACCTACAATTGGCCATTTCGGTTTGCGGAAGCTGTCAAGTCAACGCGAGTCCTAG[G/A]ATCTCATAGTCTTCGCATTAACCCGTATTAAGTGGACTCGCCTACAGTTTGTCTTATGCTAGCAACCCAGGCA[T/C]AGTCTGTACGCGCGATCGTCCACTGG3'(配列番号4)。
【0104】
配列番号4の標的ゲノム領域を捕捉するための架橋オリゴを生成するために、上記で再現された配列で下線を引いた、標的ゲノム領域の末端からの以下の配列を選択する。
5'GCACGGGTCTGGGCCTGGAGAGTGGACCAC(配列番号5)
5'GCATAGTCTGTACGCGCGATCGTCCACTGG(配列番号6)。
【0105】
これらの配列に相補的な配列は、配列番号4の標的ゲノム領域を捕捉するために、架橋オリゴの末端について生成される。
5'GTGGTCCACTCTCCAGGCCCAGACCCGTGC3'(配列番号7)
5'CCAGTGGACGATCGCGCGTACAGACTATGC3'(配列番号8)
【0106】
配列番号7及び8を連結して、以下の配列の架橋オリゴを生成する。
5'GTGGTCCACTCTCCAGGCCCAGACCCGTGCCCAGTGGACGATCGCGCGTACAGACTATGC3'(配列番号9)。
【0107】
本明細書に記載された実施例及び実施形態は、例示のためであり、それらを考慮した様々な変形や変更が、当業者に示唆されるものであり、それらも本出願の趣旨及び範囲ならびに添付の請求項の範囲に含まれるものとする。さらに、本明細書に開示された発明又はその実施形態の要素又は限定は、本明細書に開示された任意の及び/又は全ての他の要素又は限定(別個、又は任意の組み合わせ)又は任意の他の発明又はその実施形態と組み合わせることができ、全てのそのような組み合わせは、それに限定されることなく本発明の範囲内と考えられる
で企図される。
【0108】
本明細書で引用された特許、特許出願及びその他公開された参考材料は全て、全体が本明細書に援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0109】
配列番号の簡単な説明
配列番号1 本発明の方法に従って研究されるべき例示的な領域。
配列番号2 例示的な第1の認識部位。
配列番号3 例示的な第2の認識部位。
配列番号4 例示的な標的ゲノム領域。
配列番号5 配列番号4の標的ゲノム領域の5'末端の配列。
配列番号6 配列番号4の標的ゲノム領域の3'末端の配列
配列番号7 配列番号4の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された架橋オリゴの5'末端の配列。
配列番号8 配列番号4の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された架橋オリゴの3'末端の配列。
配列番号9 配列番号4の標的ゲノム領域を捕捉するように設計された架橋オリゴ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】