(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤を含む施肥組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C05G 1/00 20060101AFI20220727BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C05G1/00
C05D9/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021551535
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 ES2019070206
(87)【国際公開番号】W WO2020193817
(87)【国際公開日】2020-10-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521090999
【氏名又は名称】フェルティナグロ バイオテック,エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】アタレス レアル,セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ ロペス,ホアキン
(72)【発明者】
【氏名】サラエット マドラーン,イグナシ
(72)【発明者】
【氏名】フェレール ヒネス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】キャバレロ モラーダ,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ヤンス チャベス,ツラ デル カルメン
(72)【発明者】
【氏名】フェルテス ドナーテ,カルロス
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB03
4H061BB05
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4H061LL25
(57)【要約】
本発明は、植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤を含む施肥組成物であって、吸収可能なリン増強剤が、グリセリン酸、肥料組成物と他の肥料及び/または生物刺激剤との組み合わせである施肥組成物、ならびに施肥または葉面散布により直接施用するために、水に溶解する前での、水溶性粉末形態、顆粒形態または液体形態でのその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤を含む施肥組成物であって、前記植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤が、グリセリン酸であることを特徴とする、施肥組成物。
【請求項2】
100重量%の水溶性粉末形態または水溶解形態のグリセリン酸からなることを特徴とする、請求項1に記載の施肥組成物。
【請求項3】
前記施肥組成物が、30~80重量%のグリセリン酸、及び糖、アミノ酸、グリセリン酸以外の有機酸、ポリアミン、グリセロール、ミオイノシトール、アデニン、ウラシル、シトシン、グアニン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される5~30重量%の他の成分を含み、水溶性粉末形態であることを特徴とする、請求項1に記載の施肥組成物。
【請求項4】
前記糖が、好ましくは、スクロース、フルクトース、トレハロース、グルコース、アラビノース、マルトース、ならびにそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の施肥組成物。
【請求項5】
前記アミノ酸が、スレオニン、リジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、メチオニン、GABA、オルニチン、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、セリン、アスパラギン、チロシン、トリプトファン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、システイン、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の施肥組成物。
【請求項6】
グリセリン酸以外の前記有機酸が、乳酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、トレオン酸、フマル酸及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の施肥組成物。
【請求項7】
前記ポリアミンが、プトレシン、スペルミジン、スペルミン、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の施肥組成物。
【請求項8】
請求項3~7のいずれかに記載の肥料組成物と、窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料、カルシウム肥料と改良剤、微量栄養素、ホウ酸及びレオナルダイト、ならびにそれらの組み合わせから選択される別の追加の肥料との組み合わせ。
【請求項9】
請求項3~7のいずれかに一項に記載の施肥組成物が、0.5~10重量%の割合で組み合わせて存在することを特徴とする、請求項8に記載の組み合わせ。
【請求項10】
追加の窒素肥料が、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、尿素、ニトロ硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カルシウムから選択されることを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項11】
追加のリン酸肥料が、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、リン鉱岩、重過リン酸石灰、単一過リン酸石灰、濃縮過リン酸石灰、リン酸から選択されることを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項12】
追加のカリウム肥料が、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、塩化カリウム、硫酸カリウム、重硫酸カリウム/マグネシウム、水酸化カリウムから選択されることを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項13】
追加のカルシウム肥料が、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、塩化カルシウム、シアンアミドカルシウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、石灰石、酸化カルシウム、水酸化カルシウムから選択されることを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項14】
追加の微量栄養素肥料が、1~30重量%の割合で組み合わせて存在し、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、モリブデン酸アンモニウム、塩化コバルトから選択されることを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項15】
前記追加の肥料としてのホウ酸が、1~30重量%の割合で組み合わせて存在することを特徴とする、請求項8または9に記載の組み合わせ。
【請求項16】
追加の肥料としてのレオナルダイトが、5~90重量%の割合で組み合わせて存在することを特徴とする、請求項8~9のいずれかに一項に記載の組み合わせ。
【請求項17】
請求項3~7のいずれか一項に記載の施肥組成物と、アミノ酸加水分解物、腐植物質抽出物、藻類抽出物、生きている微生物または微生物の抽出物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の生物刺激剤と、の組み合わせ。
【請求項18】
前記生物刺激剤が5~90重量%の割合で組み合わせて存在することを特徴とする、請求項17に記載の組み合わせ。
【請求項19】
施肥または葉面散布により施用するために、水に溶解させる前の水溶性粉末形態、顆粒形態または液体形態での請求項1~7のいずれか一項に記載の施肥組成物の使用。
【請求項20】
水に溶解する前に、施肥または葉面散布により、水溶性粉末としてそれぞれ0.5~20kg/ha及び0.06~1kg/haの量で施用されることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
施肥または葉面散布による施用のための水への溶解前の水溶性粉末形態、顆粒または液体形態である、請求項8~18に記載の組み合わせの使用。
【請求項22】
顆粒形態で75~1,500kg/haの量で直接施用されることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記施肥または葉面散布によって、それぞれ0.5~20kg/ha及び0.06~1kg/haの量で施用されることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤を含む施肥組成物、ならびに施肥組成物の使用に関する。
【0002】
より具体的には、第1の態様では、本発明は、植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤としてグリセリン酸を含む施肥組成物を提供し、本組成物において、グリセリン酸は、植物中の総リンレベルを改善し、その施用は、従来のリン酸肥料の代替物を含む。
【0003】
第2の態様では、本発明は、記載の施肥組成物と、別の追加の肥料及び/または生物刺激剤との組み合わせに関する。
【背景技術】
【0004】
リンは、植物の成長に不可欠な主要栄養素であり、作物の生産性における決定要因である。リンは、その可溶形態、主にHPO4
2-及びH2PO4-で植物に吸収される。しかし、リン酸塩鉱物肥料の高い施用にもかかわらず、リンの欠乏は、これらの土壌における有機リン及び無機リンを合計したものの溶解度が低い(<1%)ため、農業土壌での一般的な問題である(Bunemann et al.,「Assessment of gross and net mineralization rates of soil organic phosphorus-A review」Soil Biology and Biochemistry.89:92-98,2015)。これは、肥料中に施用されるリンの多くが、収着プロセスによって、酸性土壌中でのFe3+及びAl3+イオン、ならびに石灰質土壌中でのCa2+イオンによる沈殿によって、またはその有機形態への変換によって、固定化されるためである(Liao et al.,「Phosphorus and aluminum interactions in soybean in relation to aluminum tolerance.Exudation of specific organic acids from different regions of the intact system」Plant Physiol.141,674-684,2006)。したがって、リンに関連する植物栄養素の主要な問題は、土壌中の総リン濃度ではなく、植物への生物学的利用能である。
【0005】
さらに、リン酸鉱物肥料の乱用または不適切な使用及び作物によるリン酸鉱物肥料の使用効率が低いこと(約45%)は、土壌肥沃度の低下、主に河川、湖、及び帯水層での重大な環境汚染、ならびに農業者の生産コストの増大となる(Tilman et al.,「Agricultural sustainability and intensive production practices」Nature.418:671-7,2002)。さらに、リン酸肥料の生産において工業的に使用される主要原料であるリン酸岩は、再生不可能なリン供給源であるため、その貯蔵量は制限されており、徐々に減少している(Saeid et al.,「Phosphorus Solubilization by Bacillus Species」Nature.418:677-7,2002)。Molecules.23,2897,2018)。
【0006】
この意味において、上記の問題を解決するために設計された主な解決策としては、アミノ酸と複合体を形成した金属イオンを使用して、土壌中に存在する微生物によるリンの可溶化を改善すること(欧州特許第3181538号(A1))、またはリン可溶化微生物の接種を適用することが挙げられる(Hu et al.,「Development of a biologically based fertilizer,incorporating Bacillus megaterium A6,for improved phosphorus nutrition of oilseed rape」Can J Microbiol.59:231-6,2013;米国特許第5256544A号;国際公開第2014082167(A1)号)。
【0007】
上記の理由から、現在、植物栄養セクターでは、従来のリン酸施肥の代替物を探して、両方のリン酸肥料の利用及び土壌中に蓄積された総リン貯蔵量を増大させること(Zhu et al.,「Phosphorus activators contribute to legacy phosphorus availability in agricultural soils:A review」Science of the Total Environment 612(2018)522-537,2018)、ならび持続可能な方法で作物の生産性を高めることを必要とする。確かに、一部の著者は、農業土壌中の蓄積されたリンは、そのリンが利用可能な形態であった場合には、100年間世界の作物収量を維持するのに十分であり得ることを示唆している(Khan et al.,「Role of phosphate-solubilizing microorganisms in sustainable agriculture-a review」Agron.Sustain.Dev.27,29-43,2007)。
【0008】
さらに、植物は、根圏の化学組成物を調節して、特定の生態系において植物に利益をもたらすことができる微生物の成長を促進するために、光合成で生成される有機化合物のかなりの部分(11~40%)を根から発散させる(Badri and Vivanco,「Regulation and function of root exudates」,Plant,Cell and Environment32,666-681,2009;Zhalnina et al,「Phosphorus activators contribute to legacy phosphorus availability in agricultural soils:A review」Science of the Total Environment 612(2018)522-537,2018)。根滲出物中に存在する化合物としては、糖、アミノ酸、有機酸、脂肪酸、及び二次代謝産物が挙げられる(Bais et al.,「The role of root exudates in rhizosphere interactions with plants and other organisms」Annu Rev Plant Biol.57:233-66,2006)。
【0009】
栽培種及びその生物季節学的段階に加えて、これらの滲出物の組成及び量は、主に環境シグナル、例えば土壌中の栄養素の利用可能性によって影響を受ける。実際に、植物は、リンの可溶化及び獲得を増加させ、かつ/または土壌微生物群集の組成を調節し、無機リンを可溶化するか、または有機リンを鉱化する能力を有する微生物を支持する代謝物の根レベルでの滲出など、吸収可能なリンが少ない土壌に適応するメカニズムを有する。これらの滲出物は、カルボン酸、糖、フェノール化合物、アミノ酸、さらには特定の酵素を含む(Carvalhais et al.,「Root exudation of sugars,amino acids,and organic acids by maize as affected by nitrogen,phosphorus,potassium,and iron deficiency」,J.Plant Nutr.Plant Nutr.Soil Sci.174,3-11,2011;Vengavasi and Pandey,「Root exudation index as a physiological marker for efficient phosphorus acquisition in soybean:an effective tool for plant breeding」Crop Pasture Sci.67,1096-1109,2016)。根の滲出が多い場合には、植物の炭素需要に追加の負荷が加担し、これにより光合成機構によって生じた資源の多くがこの目的に転用される(Vengavasi and Pandey、前出)。リン欠乏の特定の場合には、植物は、リン欠乏中に根の滲出物として、光合成によって固定された炭素の約30%を放出する(Khorassani et al.,「Citramalic acid and salicylic acid in sugar beet root exudates solubilize soil phosphorus」BMC Plant Biol.11,121,2011)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Bunemann et al.,「Assessment of gross and net mineralization rates of soil organic phosphorus-A review」Soil Biology and Biochemistry.89:92-98,2015
【非特許文献2】Liao et al.,「Phosphorus and aluminum interactions in soybean in relation to aluminum tolerance.Exudation of specific organic acids from different regions of the intact system」Plant Physiol.141,674-684,2006
【非特許文献3】Tilman et al.,「Agricultural sustainability and intensive production practices」Nature.418:671-7,2002
【非特許文献4】Saeid et al.,「Phosphorus Solubilization by Bacillus Species」Nature.418:677-7,2002)。Molecules.23,2897,2018
【非特許文献5】Zhu et al.,「Phosphorus activators contribute to legacy phosphorus availability in agricultural soils:A review」Science of the Total Environment 612(2018)522-537,2018
【非特許文献6】Khan et al.,「Role of phosphate-solubilizing microorganisms in sustainable agriculture-a review」Agron.Sustain.Dev.27,29-43,2007
【非特許文献7】Badri and Vivanco,「Regulation and function of root exudates」,Plant,Cell and Environment32,666-681,2009;Zhalnina et al,「Phosphorus activators contribute to legacy phosphorus availability in agricultural soils:A review」Science of the Total Environment 612(2018)522-537,2018
【非特許文献8】Bais et al.,「The role of root exudates in rhizosphere interactions with plants and other organisms」Annu Rev Plant Biol.57:233-66,2006
【非特許文献9】Carvalhais et al.,「Root exudation of sugars,amino acids,and organic acids by maize as affected by nitrogen,phosphorus,potassium,and iron deficiency」,J.Plant Nutr.Plant Nutr.Soil Sci.174,3-11,2011;Vengavasi and Pandey,「Root exudation index as a physiological marker for efficient phosphorus acquisition in soybean:an effective tool for plant breeding」Crop Pasture Sci.67,1096-1109,2016
【非特許文献10】Khorassani et al.,「Citramalic acid and salicylic acid in sugar beet root exudates solubilize soil phosphorus」BMC Plant Biol.11,121,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記を考慮して、本発明は、一方では、土壌中のリン変換プロセスを調節することによって、農業土壌では、根の滲出物が植物に対するこの栄養素の利用可能性及びその使用の効率を高めることができるように、他方では、それは従来のリン酸肥料の使用に代替物を含むように、上記のアプローチに基づいて構築される。
【0013】
したがって、根の滲出物を模倣し、これにより、鉱物肥料の施用を省くかまたは減少させることができる類似の効果を有する肥料を有することが望ましく、環境汚染を軽減すると同時に、従来のリン肥料の代替物を提供して、その使用から汚染を減少させ、リンの使用効率及び作物の生産性を持続可能な方法で向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、植物吸収可能なリン増強剤としてグリセリン酸を含む施肥組成物を提供することによって、上記の両方の目的を達成し、これによりグリセリン酸により植物中の総リンレベルが改善される。
【0015】
同様に、塩基性土壌(pH8以上)及び高含有量の石灰岩を含む土壌では、カルシウムの存在によりリンが沈殿し、これにより、リン酸カルシウムが生成される。このような土壌では、不溶性リンの可溶化により、植物吸収可能なリンのみでなく、植物吸収可能なカルシウムも放出されるであろう(Rietra RPJJ,et al.,「Interaction between Calcium and Phosphate Adsorption on Goethite」,Environ.Sci.Technol.,2001,35(16),pp.3369-3374;Lei Y.et al.,2018,「Interaction of calcium,phosphorus and natural organic matter in electrochemical recovery of phosphate」,Water Research Volume 142,pp.10-17;Tunesi S.,et al.,1999,「Phosphate adsorption and precipitation in calcareous soils:the role of calcium ions in solution and carbonate minerals」,Volume 53,(3),pp.219-227)。
【0016】
グリセリン酸、または2,3-ジヒドロキシプロパン酸は、アブラナ属の植物などの植物において自然に発生するグリセロールの酸化に由来するトリオン酸(trionic acid)である(Kim et al.,「Metabolic Differentiation of Diamondback Moth(Plutella xylostella(L.))Resistance in Cabbage(Brassica oleracea L.ssp.capitata)」,J.Agric.Food Chem.,2013,61(46),pp.11222-11230,2013)。
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のとおり、第1の態様では、本発明は、植物吸収可能なリン及びカルシウム増強剤としてグリセリン酸を含む施肥組成物を提供する。
【0019】
一実施形態では、本発明の施肥組成物は、水溶性粉末形態の100重量%のグリセリン酸からなる。
【0020】
別の実施形態では、本発明の施肥組成物は、30~80重量%のグリセリン酸、及び糖、アミノ酸、グリセリン酸以外の有機酸、ポリアミン、グリセロール、ミオイノシトール、アデニン、ウラシル、シトシン、グアニン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される5~30重量%の他の成分を含み、施肥組成物は、水溶性粉末形態である。
【0021】
本施肥組成物中に存在する場合、糖は、好ましくは、スクロース、フルクトース、トレハロース、グルコース、アラビノース、マルトース、ならびにそれらの混合物などの単糖及び二糖から選択される。
【0022】
本施肥組成物中に存在する場合、アミノ酸は、好ましくは、スレオニン、リジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、メチオニン、GABA、オルニチン、グリシン、グルタミン、アスパラギン酸、セリン、アスパラギン、チロシン、トリプトファン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、システイン、及びそれらの混合物である。
【0023】
本施肥組成物中に存在する場合、グリセリン酸以外の有機酸は、好ましくは、乳酸、コハク酸、シュウ酸、グルコン酸、トレオン酸、フマル酸及びそれらの混合物から選択される。
【0024】
ポリアミンは、本組成物中に存在する場合、好ましくは、プトレシン、スペルミジン、スペルミン、及びそれらの混合物から選択される。
【0025】
本発明の組成物中におけるグリセリン酸以外のこれらの成分の存在は、そのような成分が、以下に記載されるリンの非存在下で試験された作物中の根滲出物の一部を形成するか、または植物の発達のための通常の条件下での浸出液の成分として文献に記載されているという事実に基づき(Zhalnina et al,「Dynamic root exudate chemistry and microbial substrate preferences drive patterns in rhizosphere microbial community assembly」,Nat Microbiol,3(4):470-480,2018)、したがって、これらは、鉱物肥料の施用を省くか、または減少させることができるようにする同様の効果を有する根滲出物を模倣する施肥組成物を有するという前述の目的のために望ましい。
【0026】
本発明の施肥組成物は、上記のとおり水溶性粉末として配合されるが、水に溶解することにより液体組成物として、または当業者において公知である造粒剤を添加することにより、顆粒の形態で配合することも可能である。
【0027】
第2の態様によれば、本発明は、窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料、カルシウム肥料及び改良剤、微量栄養素、ホウ酸及びレオナルダイト、ならびにそれらの組み合わせから選択される別の追加の肥料と組み合わせた、及び/またはアミノ酸加水分解物、腐植物質抽出物、藻類抽出物、生きている微生物、微生物抽出物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の生物刺激剤と組み合わせた上記の肥料組成物に関する。生きている微生物または微生物の抽出物は、好ましくはピキア種、ギリエルモンデ(guilliermondii)、アゾトバクター(Azotobacter)、クロコッカム(chroococcum)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・アリヤブハッタイ(Bacillus aryabhattai)、オーシャンバチルス ピクチャーエ(Oceanobacillus picturae)、または、リン可溶化能力が認められている属に属する細菌:シュードモナス、バチルス、リゾビウム、バークホルデリア、アクロモバクター、アグロバクテリウム、マイクロコッカス、アエロバクター、フラボバクテリウム、メソリゾビウム、アゾトバクター、アゾスピリルム、エルウィニア、パエニバシラス及びオーシャンバチルスであるものとする(Rodriguez and Fraga,「Phosphate solubilizing bacteria and their role in plant growth promotion」Biotechnology Advances 17(1999)319-339,1999;El-Tarabily and Youssef,「Enhancement of morphological,anatomical and physiological characteristics of seedlings of the mangrove Avicennia marina inoculated with a native phosphate-solubilizing isolate of Oceanobacillus picturae under greenhouse conditions」Plant Soil(2010)332:147-162,2010;Zhu et al.,2018、前出)。
【0028】
この場合、本発明の組成物は、0.5~10重量%の割合で組み合わせて存在する。
【0029】
一実施形態では、追加の窒素肥料は、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、尿素、ニトロ硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カルシウムから選択される。
【0030】
別の実施形態では、追加のリン酸肥料は、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、リン鉱岩、重過リン酸石灰、単一過リン酸石灰、濃縮過リン酸石灰、リン酸から選択される。
【0031】
さらに別の実施形態では、追加のカリウム肥料は、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、塩化カリウム、硫酸カリウム、重硫酸カリウム/マグネシウム、水酸化カリウムから選択される。
【0032】
別の実施形態では、追加のカルシウム肥料は、5~90重量%の割合で組み合わせて存在し、塩化カルシウム、シアンアミドカルシウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、石灰石、酸化カルシウム、水酸化カルシウムから選択される。
【0033】
さらに別の実施形態では、追加の微量栄養素肥料は、1~30重量%の割合で組み合わせて存在し、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸銅、モリブデン酸アンモニウム、塩化コバルトから選択される。
【0034】
さらなる実施形態では、追加の肥料としてのホウ酸は、1~30重量%の割合で組み合わせて存在する。
【0035】
別の実施形態では、追加の肥料としてのレオナルダイトは、5~90重量%の割合で組み合わせて存在する。
【0036】
本発明の施肥組成物と上記の生物刺激剤との組み合わせの場合、好ましくは、生物刺激剤は、5~90重量%の割合で組み合わせて存在する。
【0037】
本発明の目的はまた、水に溶解させる前の水溶性粉末形態、顆粒形態、または液体形態の本明細書に記載の施肥組成物を、施肥または葉面散布によるその施用のために使用することである。
【0038】
本発明の組成物を、水に溶解させる前に、施肥または葉面散布によって、水溶性粉末形態で使用する場合、好ましくは、それぞれ0.5~20kg/ha及び0.06~1kg/haの量で施用される。
【0039】
本発明の組成物が、顆粒の形態の別の追加の肥料と組み合わせて使用される場合、好ましくは、組み合わせは、75~1,500kg/haの量で直接施用される。
【0040】
本発明の組成物が、施肥または葉面散布によるその施用のために液体の形態の生物刺激剤と組み合わせて使用する場合、好ましくは、それぞれ0.5~20kg/ha及び0.06~1kg/haの量で施用される。
【実施例】
【0041】
1.リンの非存在下で根の滲出物を得て特定するための試験
リン欠乏に対する作物の応答の特徴を詳細に明らかにし、土壌中のリンの動態に最大の影響を有する根から滲出する代謝物を特定するために、リンの非存在下で、農業目的の2つの作物種、トウモロコシ及びトマトの異なる滲出物プロファイルを分析した。以下は、リンの非存在下で放出された根の滲出物を決定するための試験の簡単な説明である。
【0042】
他の著者(Naveed et al.,2017,「Plant exudates may stabilize or weaken soil depending on species,origin and time」European Journal of Soil Science)が使用した方法と同様の方法は、トウモロコシの種子(品種LG34.90)及びトマトの種子(品種Agora Hybrid F1)の両方で同じであった。種子を、96%エタノールで5分間洗浄し、その後5%漂白剤で10分間洗浄することにより表面滅菌した。次に、種子を徹底的に洗浄し、滅菌MilliQ水で4時間水和させた。発芽のために、種子を滅菌MilliQ水で湿らせたろ紙ベッドに置いた。種子を暗所で4日間発芽させ、その後、苗木を水耕栽培トレイに入れ、根を標準的なホーグランド養液に浸漬させた。12の植物を各トレイに入れ、3つのトレイ(それぞれが生物学的複製に対応)を対照処理用に、3つのトレイをリン非含有処理用とした。植物は、温度及び光周期が、25℃及び16時間の明所/22℃及び8時間の暗所であり、表面上で光強度4,000ルクスで成長させた。
【0043】
栄養溶液は3日ごとに新しい溶液と交換し、バブラープローブによって常に通気を継続した。成長の10日後、植物にリン枯渇処理を行った。このために、3つのトレイをリンを含まない改変ホーグランド溶液と共に3日間インキュベートし、残りの3つのトレイを完全溶液と共にインキュベートした。インキュベーション後、根の滲出物を得た。
【0044】
植物を培養トレイから注意深く取り出し、大量の水で洗浄し、その後、最後に蒸留水で洗浄した。各トレイに対応する植物を、200mlのMilliQ水を含む広口フラスコに入れ、根を水に浸漬させた。植物をフラスコ内で6時間インキュベートした。その後、植物を除去し、0.20μmフィルターでろ過することにより不溶性物質を溶液から除去した。ろ過した材料を液体窒素で瞬間冷凍し、凍結乾燥させた。得られた乾燥物質を秤量し、メトキシアミン及びN-メチル-(トリメチルシリルトリフルオロアセトアミド)で誘導体化した後、ガス-マスクロマトグラフィーによって分析した。
【0045】
表1は、植物が滲出する代謝物と、リン非含有条件下と対照条件下でのそれらの比率とを示している。
【0046】
【0047】
これらの結果に基づいて、両方の培養物の滲出物中の11の一致する代謝物を選択した。これらの代謝物は、グルコン酸、グリセリン酸、乳酸、グルコース、トレオン酸、フルクトース、アスパラギン酸、セリン、グリセロール、アラビノース、及びグルタミンであった。土壌3kgが入ったポットに各代謝物を1kg/haの用量で別々に施用し、トウモロコシ植物を植え(処理ごとに4ポット、ポットごとに1つの植物)、6週間後に乾燥重量への影響を観察した。代謝物の効果を、陰性対照(無処理)及び従来のリン酸肥料(1ヘクタールあたり100リン肥料単位-P2O5-の用量での重過リン酸石灰)による陽性対照と比較した。土壌は、砂壌土のテクスチャーと0.5ppmの吸収可能なリン含有量を含む農業土壌に由来し、この土壌は、農業慣行(Guia practica de la fertilizacion racional de los cultivos en Espana [Handbook of rational fertilisation of crops in Spain],MAPAMA 2009)ではこの元素のレベルが非常に低いと考えられている。この吸収可能なリンのレベルは、1ヘクタールあたり4.5kgのP2O5に相当する(30センチメートルの耕作可能な土壌及び1,300kg/m3の平均密度を考慮すると、1ヘクタールあたりの質量は、約3,900トンであろう)。植物に利用できないものを含め、この土壌中の総リンレベルは252ppm(2,251kg P2O5/ha)であった。
【0048】
以下の表2に示すとおり、選択した代謝物はトウモロコシの成長を様々な程度まで高める。
【0049】
【0050】
上記の結果は、グリセリン酸がトウモロコシ中で最も成長を促進する代謝物であり、重過リン酸石灰による従来のリン酸処理と同じ結果を達成していることを示している。
2.施肥組成物及び本発明の組み合わせの施用
【0051】
水溶性粉末形態の3つの施肥組成物は、本発明に従って、以下の組成物で調製した:
A:グリセリン酸100重量%;
B:グリセリン酸30~80重量%、グルコン酸5~30%、乳酸5~30%、及びグルタミン5~30%の組み合わせ;
C:グリセリン酸30~80重量%、グルコース5~30%、フルクトース5~30%、及びグリセロール5~30%の組み合わせ。
【0052】
これらの生成物(A、B、C)は、トウモロコシ及びトマト植物の野外試験でテストを行い、陰性対照(処理なし)及び重過リン酸石灰からなる従来のリン酸施肥の陰性対照(D)と比較した。施用の比率及びモードは次のとおりである:
トウモロコシ:
A:施肥により10.0kg/ha、
B:施肥により10.0kg/ha、
C:施肥により10.0kg/ha、
D:重過リン酸石灰:1ヘクタールあたり100リン(P2O5)肥料単位
トマト:
A:施肥により8.0kg/ha、
B:施肥により8.0kg/ha、
C:施肥により8.0kg/ha、
D:重過リン酸石灰:1ヘクタールあたり80リン肥料ユニット(P2O5)
【0053】
この処理により、トウモロコシ(表3及び4)とトマト(表5及び6)の収量及びリン含有量が大幅に改善された。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
研究された処理におけるリン含有量の増加が、植物の吸収可能なリンの利用可能性の増加によるものであるか否かを判断するために、トウモロコシ及びトマト植物を用いた試験でリンバランスを実施した。
【0059】
試験2では、試験1と同じ農業用土壌を使用し、吸収可能なリン含有量は0.5ppm(1.95kg/haリン及び4.5kg/haP2O5肥料単位に相当)、総リン含有量は252ppm(983kg/haのリン及び2,251kg/haのP2O5肥料単位に相当)である。
【0060】
処理A、B、及びCでは、これらの処理において使用される分子は、いずれにも、この要素を含まないため、リン肥料単位は追加しなかった。
【0061】
トウモロコシ及びトマト植物のバイオマスの乾燥重量(表7及び8を参照)及び植物内の総リンの割合(表4及び6)を考慮すると、1ヘクタールあたりに得られるバイオマス中に存在するリンのkgを計算できる。確認できるとおり、乾燥バイオマス中のリンの量は、すべての場合において、土壌中で利用可能なリンの量よりもはるかに多い。したがって、植物のリン含有量の増加は、必然的に、吸収可能なリン増強剤を含む施肥組成物による植物吸収可能なリンの利用可能性の増大によるものである。
【0062】
【0063】
【0064】
実施したすべてのテストで、使用された土壌のpHは8.4であり、活性石灰岩の割合は14%であった。これらの条件は、カルシウムと共にリンが沈殿してリン酸カルシウムを生成する石灰質土壌に典型的なものである。したがって、このタイプの土壌では、不溶性リンの可溶化により、植物吸収可能なリンのみでなく、吸収可能なカルシウムも放出される。
【国際調査報告】