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特表2022-534723味が良い(Palatable)高度に加水分解されたホエイタンパク質加水分解物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】味が良い(Palatable)高度に加水分解されたホエイタンパク質加水分解物
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/34 20060101AFI20220727BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20220727BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20220727BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20220727BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20220727BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220727BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20220727BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220727BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A23J3/34
C12P1/00 A
C12P21/06
C07K1/12
A23L33/18
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/54
A23L2/00 T
C12N9/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021570291
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020065022
(87)【国際公開番号】W WO2020239998
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19177371.2
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20156159.4
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514140089
【氏名又は名称】アーラ フーズ エエムビエ
【氏名又は名称原語表記】Arla Foods amba
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】スレンセン,ハンス ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ベルテルセン,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】スレンセン,アネッタ キンド
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4B064
4B117
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE03
4B018MD22
4B018ME02
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF12
4B050CC08
4B050DD02
4B050DD03
4B050KK18
4B050LL02
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB02
4B064CD20
4B064DA10
4B117LC04
4B117LK12
4B117LK14
4B117LK15
4B117LL01
4B117LL02
4B117LP06
4B117LP18
4H045AA30
4H045CA43
4H045EA01
(57)【要約】
本発明は、高い加水分解度を有し、味が良く、限外濾過に供しなくても低い濁度を有する新規なホエイタンパク質加水分解物に関する。さらに本発明は、新規なホエイタンパク質加水分解物を調製する方法、新規なホエイタンパク質加水分解物の使用、及びそれらの新規なホエイタンパク質加水分解物を含む食品に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって、
a)ホエイタンパク質を全固形分に対して少なくとも50重量%の量で含むホエイタンパク質溶液を用意すること、
b)前記ホエイタンパク質溶液を、以下の酵素の組み合わせ:
i)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼを含む組み合わせ、
ii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
iii)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともブロメライン、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
のうちのいずれか1つを使って行われる酵素加水分解に供すること、
c)加水分解度(DH)が15%以上のときに前記酵素を失活させることによって前記酵素加水分解を停止させてホエイタンパク質加水分解物を得ること
を含む方法。
【請求項2】
ステップc)で得られた前記ホエイタンパク質加水分解物を濃縮する、かつ/又は乾燥させるステップd)をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)の前記ホエイタンパク質溶液が、脂質を全固形分に対して最大10重量%の量で含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)の前記酵素加水分解が、40℃~75℃の範囲の温度で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)の酵素の失活が、少なくとも80℃、好ましくは80℃~130℃の温度に加熱することによる請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップc)で得られた前記ホエイタンパク質加水分解物を限外濾過するステップを全く含まない請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ホエイタンパク質溶液が、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質分離物、及び/又はホエイタンパク質分離物を含む請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ホエイタンパク質溶液が、タンパク質を前記ホエイタンパク質溶液の2重量%以上の量で含む請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記加水分解度(DH)が15~35であるとき、ステップc)の前記酵素加水分解が、前記酵素を失活させることによって停止される請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップb)の前記酵素加水分解が、以下の酵素の組み合わせ:
i.少なくともバチルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくとも微生物由来のトリプシン様プロテアーゼを含む組み合わせ、
ii.少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
iii.少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアナナス・コモサス由来のブロメライン、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ
のうちのいずれか1つを使って行われる請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の方法により得られるホエイタンパク質加水分解物。
【請求項12】
ホエイタンパク質加水分解物であって、
-遊離アミノ酸及びペプチドを含み、
-少なくとも15%の加水分解度を有し、
-2500Da以上の分子量を有するペプチドをペプチドの総量の25重量%以下の量で有し、
-遊離アミノ酸を、前記加水分解物の総アミノ酸含有量の15重量%以下の量で有し、かつ
4%(重量/重量)タンパク質溶液において、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの溶液に相当する苦みスコアを有するホエイタンパク質加水分解物。
【請求項13】
前記加水分解度が15%~35%である請求項12に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項14】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、4%(重量/重量)タンパク質溶液において、100以下の比濁法濁度(NTU)を有する請求項12又は13に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項15】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、遊離アミノ酸を、前記加水分解物の総タンパク質含有量の2~15重量%の量で含む請求項12~14のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項16】
前記ホエイタンパク質加水分解物が抗酸化活性を有する請求項12~15のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項17】
前記ホエイタンパク質加水分解物の前記抗酸化活性が、1.5重量%タンパク質溶液において54~60の消去率を有することとして測定される請求項12~16に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項18】
請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物を含む食品。
【請求項19】
前記ホエイタンパク質加水分解物を、2~25重量%の加水分解タンパク質に相当する量で含む請求項18に記載の食品。
【請求項20】
乳製品、飲料、シェイク、ゲル、ショット及びフードバーからなる群より選択される請求項18又は19に記載の食品。
【請求項21】
食品成分としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項22】
6.5~8.0のpHを有するUHT安定飲料の調製における食品成分としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項23】
スポーツ栄養として使用するための飲料の調製における食品成分としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項24】
臨床用飲料の調製における食品成分としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項25】
炭酸飲料の調製における成分としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項26】
酸化防止剤としての請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項27】
請求項11~17のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い加水分解度を有し、味が良く、限外濾過に供しなくても低濁度を有する新規なホエイタンパク質加水分解物に関する。さらに本発明は、新規なホエイタンパク質加水分解物を調製する方法、新規なホエイタンパク質加水分解物の使用、及びそれらの新規なホエイタンパク質加水分解物を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエイタンパク質加水分解物をさまざまな食品の成分として使用することはよく知られている。通常、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質分離物又はホエイタンパク質濃縮物などのホエイタンパク質物質を、食品グレードのタンパク質分解調製物及び/又はペプチド分解調製物を用いて所望の加水分解度まで加水分解することによって調製される。状況によっては、低い抗原性をもつホエイタンパク質加水分解物又は腸から良好に吸収される加水分解物を調製するために、高い加水分解度、例えば15%以上、例えば20~30%の加水分解度をもつホエイタンパク質加水分解物を調製することが望まれる。しかし、既存のホエイタンパク質加水分解物には、加水分解が進みすぎて、高い加水分解度が得られたときには、ホエイタンパク質加水分解物は苦い不快な味を有し、したがって食品又は飲料に多量に使用するのには適していないという問題がある。
【0003】
国際公開第02/19837A1号には、風味が改善され、機能性を有し、かつACE-I阻害特性を有するホエイタンパク質分離物(WPI)基質からホエイタンパク質加水分解物を調製する方法が開示されている。国際公開第02/19837A1号は、ホエイタンパク質加水分解物における苦い風味(bitter flavours)の問題を論じており、加水分解度が3~10%など最大で10%になったときに加水分解が終わるように酵素加水分解を制御することによって苦い風味の問題を解決している。
【0004】
したがって、加水分解度が高いこと(15%を超える加水分解度)によって、抗原性が低く、吸収特性が向上し、その一方で不快な苦い味をもたないホエイタンパク質加水分解物は有利であることになる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、ホエイタンパク質の酵素加水分解に酵素の特定の組み合わせを使用すると、高い加水分解度でホエイタンパク質加水分解物が得られ、その一方で、ホエイタンパク質加水分解物は、許容できる味を有し、苦い風味がない、又は少なくとも許容できるレベルの苦い化合物を有することを見出した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、少なくとも15%の加水分解度を有するホエイタンパク質加水分解物を調製する方法に関し、4%(重量/重量)のタンパク質溶液が、ホエイタンパク質加水分解物を苦み低減処理に供することなく、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの溶液に相当する苦みスコアを有する。
【0007】
好ましくは、本発明の方法は、いずれの限外濾過のステップもなしに、濁度が低く、したがって見た目が透明なホエイタンパク質加水分解物を調製する方法に関する。
【0008】
特に、本発明の目的は、加水分解度が高い場合に不快な苦味を伴う先行技術の上記の問題を解決するホエイタンパク質加水分解物を提供することである。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって、
a)ホエイタンパク質を全固形分に対して少なくとも50重量%の量で含むホエイタンパク質溶液を用意すること、
b)前記ホエイタンパク質溶液を、以下の酵素の組み合わせ:
i.少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼを含む組み合わせ、
ii.少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
iii.少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともブロメライン、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
のうちのいずれか1つを使って行われる酵素加水分解に供すること、
c)加水分解度(DH)が15%以上になったときに酵素を失活させることによって酵素加水分解を停止させてホエイタンパク質加水分解物を得ること
を含む方法に関する。
【0010】
本発明の別の態様は、ホエイタンパク質加水分解物であって、
-遊離アミノ酸及びペプチドを含み、
-少なくとも15%の加水分解度を有し、
-2500Da以上の分子量を有するペプチドを、ペプチドの総量の25重量%以下の量で含み、
-遊離アミノ酸を、加水分解物の総アミノ酸含有量の15重量%以下の量を含むホエイタンパク質加水分解物に関し、
そのホエイタンパク質加水分解物は4%(重量/重量)タンパク質溶液において、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの溶液に相当する苦みスコアを有する。
【0011】
本発明のさらなる態様は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を含む食品を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を含む飲料を提供することであり、そのホエイタンパク質加水分解物は、2~25重量%の加水分解ホエイタンパク質に相当する量で飲料に存在する。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物の食品成分としての使用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、試料16(WPIの酵素加水分解によって作られた本発明によるホエイタンパク質加水分解物)、試料14(ホエイタンパク質濃縮物(WPC)の酵素加水分解によって作られた本発明によるホエイタンパク質加水分解物)、及び試料13(本発明の酵素の組み合わせを使用することによって調製されていない参照ホエイタンパク質加水分解物、このホエイタンパク質加水分解物は限外濾過に供されている)のさまざまなタンパク質濃度における比濁法濁度(NTU)を示す。
図1B図1Bは、試料16(WPIの酵素加水分解によって作られた本発明によるホエイタンパク質加水分解物)のさまざまなタンパク質濃度における比濁法濁度(NTU)を示す。標準偏差が示されている。
図1C図1Cは、試料14(WPCの酵素加水分解によって作られた本発明によるホエイタンパク質加水分解物)のさまざまなタンパク質濃度における比濁法濁度(NTU)を示す。標準偏差が示されている。
図2図2は、試料13、14及び16のさまざまなタンパク質濃度の試料を示す。タンパク質の濃度(重量/重量)は、左から右に、8%、6.4%、4.8%、3.2%及び1.8%である。A)が試料16を示し、B)が試料14を示し、C)が試料13を示す。
図3図3は、さまざまな濃度のカフェインの苦みスコア並びに試料13、14及び16の苦みスコアを示す。
図4図4は、試料13、15及び16の味と口当たりのプロファイルをレーダーチャートで表したものを示す。最高スコアをもつ属性と最低のスコアをもつ属性の間の差の有意水準は***で示され、99.9%でP<0.001である(ANOVA分析)。
図5図5は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)又はLC-MS/MS(MS)を用いて分析したときの、アミノ酸が7~19個のペプチドの7~10個の範囲のアミノ酸と11~19個の範囲のアミノ酸の割合を示す。
図6図6は、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン及びβ-カゼインのすべてのペプチドに対する割合として示したフェニルアラニンを含むペプチドを示す。分析したペプチドの最も短いものは5個のアミノ酸であった。
図7図7は、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン及びβ-カゼインに由来する5~19個のアミノ酸のペプチドの個数割合を示す。
図8図8は、左から右へ、加熱処理なしで調製した飲料、143℃で6秒間の直接UHT処理をして調製した飲料、6秒間の間接UHT処理をして調製した飲料、90℃で6.5分間の低温殺菌をして調製した飲料の試料を示す。
図9図9は、ホエイタンパク質加水分解物のさまざまな試料中の非分解BSAの量を測定するのに使用されたSDSページゲルの写真を示す。
図10図10は、飲料の炭酸化とpHの相関関係を示す。
図11図11は、組成物の1体積あたり2.5体積の二酸化炭素で炭酸化したホエイタンパク質加水分解物を含むさまざまな試料のpHを示す。
図12図12は、溶液1体積あたり2.5体積のCO2で炭酸化した試料16の8%タンパク質の溶液を含む試料の加熱中のpHと濁度を示す。
【0015】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本発明をさらに詳しく説明する前に、まず以下の用語や慣例を定義する。
【0017】
本発明の1つの特徴又は限定への言及はすべて、別段の指定がない限り、又は言及がなされる文脈によって反対のことが明らかに示唆されない限り、対応する複数の特徴又は限定を含むものとし、その逆もまた同様である。
【0018】
本明細書で言及されているパーセンテージはすべて、別段の記載がない限り、重量パーセントである。また、「乾燥物質の重量で」及び「乾燥物質ベースで」という用語は、同じ概念を指し、交換可能に使用される。
【0019】
例えば1%(重量/重量)にあるような「重量/重量」という用語は、1重量%の化合物を含む組成物を指す。
【0020】
「味が良い」とは、食べたり飲んだりするのに十分な味を持っていること、すなわち、人間の消費者にとって許容できる又は満足できる味を有することを指す。
【0021】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されている技術的及び科学的用語はすべて、当業者が一般的に理解しているのと同じ意味を有する。
【0022】
ホエイタンパク質溶液
本発明の文脈では、「ホエイタンパク質溶液」にあるように「溶液」という用語は、液体と固体の化合物又は例えばタンパク質粒子などの半固体粒子の組み合わせを含有する組成物を包含する。したがって、「溶液」は、懸濁液でもよく、又はスラリーであってもよい。しかしながら、「ホエイタンパク質溶液」は、好ましくはポンプ可能であり、ホエイタンパク質溶液中の液体の量は、好ましくは70~98%、より好ましくは80~96%である。ホエイタンパク質溶液に使用される液体は、典型的には水である。
【0023】
ホエイタンパク質溶液は、典型的には、ホエイタンパク質溶液の2重量%以上の量のタンパク質を含むことになる。本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質溶液の2~20重量%の範囲のタンパク質を含む。好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質溶液の5~15重量%の範囲の量のタンパク質を含む。
【0024】
加水分解に使用されるホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を含む組成物を水などの液体に分散させることによって得られる。好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質分離物及び/又はホエイタンパク質分離物のいずれかを水と混合することによって作られる。したがって、本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質分離物及び/又はホエイタンパク質分離物を含む。
【0025】
本発明のホエイタンパク質溶液は、全固形分に対して少なくとも50%の量でホエイタンパク質を含む。ホエイタンパク質の含有量が全固形分の50%未満である場合、全体の分子組成(タンパク質や、炭水化物、脂質、ミネラルの間の比率)が異なり、酵素が異なる挙動をする可能性があり、したがって得られる生成物が異なることになる。
【0026】
ホエイタンパク質のほかに、ホエイタンパク質溶液は、他のタンパク質、例えばカゼインを少量含んでいてもよい。
【0027】
ホエイタンパク質溶液は、典型的には、タンパク質にくわえて他の成分を含む。ホエイタンパク質溶液は、例えばミネラル、炭水化物、及び/又は脂質などの、乳清又は乳の血清中に通常見出される他の成分を含んでいてもよい。代替として、又は追加として、ホエイタンパク質溶液は、ホエイ又は乳清に本来含まれていない成分を含んでいてもよい。しかし、そのような本来含まれていない乳成分は、食品の製造に使用するのに好適で、かつ安全であるべきである。
【0028】
ホエイタンパク質溶液は、全固形分に対してタンパク質の含有量が少ないほど、ホエイタンパク質以外の脂質、炭水化物(主にラクトース)、及び他のタンパク質の量が多くなる。
【0029】
ホエイタンパク質溶液は、例えば、ラクトース、オリゴ糖並びに/又はラクトースの加水分解生成物(すなわちグルコース及びガラクトース)などの炭水化物を含んでいてもよい。ホエイタンパク質溶液は、例えば、炭水化物を全固形分に対して0~10重量%の範囲で含んでいてもよい。
【0030】
ホエイタンパク質分離物(WPI)及び乳清タンパク質分離物(SPI)は、非常に少ない量のラクトースなどの炭水化物を含む。したがって、WPI又はSPIがホエイタンパク質溶液の調製に使用されるとき、ホエイタンパク質溶液中の炭水化物の含有量は、全固形分に対して0~1重量%の範囲にある。ホエイタンパク質濃縮物(WPC)又は乳清タンパク質濃縮物(SPC)がホエイタンパク質溶液を調製するのに使用される場合、ホエイタンパク質溶液中の炭水化物の量は、好ましくは全固形分に対して2~8重量%の範囲にある。
【0031】
ホエイタンパク質溶液はまた、脂質を、例えばトリグリセリド及び/又はリン脂質などの他のタイプの脂質の形態で含んでいてもよい。
【0032】
本発明の文脈では、「脂肪」及び「脂質」という用語は同じ意味を有し、交換可能に用いることができる。
【0033】
本発明によるホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を、全固形分に対して少なくとも50%の量で含むべきである。ホエイタンパク質溶液のタンパク質含有量が全固形分の50%未満である場合、加水分解後に得られるホエイタンパク質加水分解物は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を画定する特徴、すなわち、4%タンパク質溶液において不快な苦味がなく、加水分解度が15%を超え、遊離アミノ酸が15重量%以下の量であり、2500Da以上の分子量を有するペプチドがペプチドの総量の25重量%以下の量であるという特徴を有しない可能性がある。
【0034】
ホエイタンパク質含有量が全固形分に対して50%未満のホエイタンパク質溶液は、多量のミネラル、脂肪及び炭水化物を含むことになる。ホエイタンパク質含有量が固形分の50%未満であり、ミネラル、脂肪及び炭水化物を多量に含むホエイタンパク質加水分解物を作ることは望ましくない。いかなる理論にも縛られることなく、本発明の発明者らは、ミネラルがいくつかの酵素の活性に影響を及ぼしうると考えている。このことは、脂質や炭水化物にも当てはまる可能性がある。さらに、多量の脂質、ミネラル及び炭水化物は、得られるホエイタンパク質加水分解物の味や濁度にも影響を及ぼしうる。
【0035】
好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を、全固形分に対して少なくとも70重量%など、全固形分に対して少なくとも60重量%、さらにより好ましくは全固形分に対して少なくとも80重量%の量で含む。本発明のより好ましい実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を全固形分に対して少なくとも85重量%で含み、最も好ましいのは、ホエイタンパク質溶液がホエイタンパク質を全固形分に対して少なくとも90重量%の量で含むことである。
【0036】
ホエイタンパク質溶液に存在するタンパク質は、主にホエイタンパク質であるべきである。しかし、例えばカゼインなどの他のタンパク質が微量存在してもよい。本発明の一実施形態では、したがって、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を、タンパク質の総量に対して90重量%以上の量で含む。好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質を、タンパク質の総量に対して95重量%以上の量で含む。したがって、本発明のさらなる実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、タンパク質の総量に対して最大で10重量%のカゼイン又は他の非ホエイタンパク質、タンパク質の総量に対して好ましくは最大で5重量%、より好ましくは最大で3重量%のカゼイン又は他の非ホエイタンパク質を含む。
【0037】
ホエイタンパク質溶液の脂肪含有量が多い場合、得られるタンパク質加水分解物の透明度や味に影響を及ぼすことになる。したがって、本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、全固形分に対して最大で8重量%など、全固形分に対して最大で10重量%の量の脂質を含み、さらにより好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、脂質を全固形分に対して最大6重量%の量で含む。
【0038】
ホエイタンパク質濃縮物がホエイタンパク質溶液を調製するのに使用される場合、脂質/脂肪含有量は全固形分の約6~8重量%である。それに対して、ホエイタンパク質分離物がホエイタンパク質溶液の調製に使用される場合、ホエイタンパク質溶液は本質的に脂肪を含まない。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、ホエイタンパク質溶液は本質的に脂肪を含まない。「本質的に脂肪を含まない」という用語は、ホエイタンパク質溶液の脂質含有量が、全固形分に対して1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、さらに好ましくは全固形分に対して0.1重量%未満であることを意味する。
【0040】
全固形分に対して最大で0.5%など、ホエイタンパク質溶液の脂肪含有量が少ない場合、本発明の方法に従って調製されたホエイタンパク質加水分解物は、見た目が透明になる。好ましくは、ホエイタンパク質溶液中の脂質含有量は、全固形分の0.3重量%未満、より好ましくは全固形分に対して重量で0.2%未満の脂質である。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質分離物及び/又は乳清タンパク質分離物のホエイタンパク質溶液を使用することによって得られる。ホエイタンパク質分離物及び/又は乳清タンパク質分離物が加水分解に使用されたとき、脂肪含有量が少ないことになる(0.5%未満)。これにより、高い加水分解度(DH>15%)と良好な味を有することにくわえて、見た目が透明なホエイタンパク質加水分解物を、限外濾過のステップを全く経ずに調製することができる。好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、ホエイタンパク質分離物又は乳清タンパク質分離物を水に混合したものである。
【0042】
ホエイタンパク質
本発明の一態様では、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質を含む溶液を加水分解することによって得られる。
【0043】
本発明の文脈では、「ホエイタンパク質」という用語は、ホエイ又は乳清に見られるタンパク質に関する。ホエイタンパク質溶液のホエイタンパク質は、ホエイ若しくは乳清中に見られるタンパク質種のサブセットであってもよく、又はホエイ及び/若しくは乳清中に見られるタンパク質種の完全なセットであってもよい。ホエイタンパク質は、チーズ製造の副産物として生成される液体材料であるホエイから分離される球状タンパク質の混合物である。ホエイタンパク質は、乳又は凝固した乳のいずれかの漿液相に存在するタンパク質である。乳の血清相のタンパク質は、ホエイタンパク質のほかに、乳清タンパク質と呼ばれることもある。
【0044】
「乳清」という用語は、例えば精密濾過又は大孔径限外濾過によってカゼイン及び乳脂肪球が乳から取り除かれたときに残る液体に関する。また、乳清は「理想的なホエイ」と呼ばれることもある。
【0045】
「乳清タンパク質」又は「漿液タンパク質」という用語は、乳清中に存在するタンパク質に関する。
【0046】
「ホエイ」という用語は、乳のカゼインを沈殿させて取り除いた後に残る液体上清に関する。カゼインの沈殿は、例えば、乳の酸性化及び/又はレンネット酵素の使用によって達成することができる。
【0047】
スイートホエイ、酸ホエイ、カゼインホエイなど、いくつかの種類のホエイが存在する。
【0048】
本発明のホエイタンパク質溶液に存在するホエイタンパク質は、ホエイ、例えばカゼインホエイ、酸ホエイ又はスイートホエイの相異なる供給源に由来することができる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、ホエイタンパク質溶液中のホエイタンパク質は、スイートホエイからのものである。スイートホエイは、主にタンパク質β-ラクトグロブリン(BLG)、α-ラクトアルブミン(ALA)及びカゼイノマクロペプチド(CMP)を含む。しかし、スイートホエイは、免疫グロブリン、オステオポンチン、ラクトフェリン及び脂肪球膜タンパク質など、他のタンパク質を含みうる。CMPは、スイートホエイ又は酸ホエイには存在しない。本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液中のホエイタンパク質は、CMPが完全に又は部分的に取り除かれたスイートホエイからのものである。これは、変性スイートホエイと呼ばれることがある。スイートホエイからCMPを取り除くことは、人乳のものにより近いスレオニン及びトリプトファンの含有量をもつタンパク質材料をもたらす。
【0050】
本発明の文脈では、「β-ラクトグロブリン」という用語は、「BLG」と呼ばれることもある。この用語は交換可能に使用でき、哺乳類種由来のBLGに関係する。さらに、「α-ラクトアルブミン」という用語は、本発明の文脈では「ALA」と呼ばれることがあり、哺乳類種由来のα-ラクトアルブミンに関する。
【0051】
本明細書で使用される「スイートホエイ」という用語は、レンネットタイプのチーズを作る間に、乳を凝固させ、濾した後に残る液体を指す。「スイートホエイ」は、チェダーチーズやスイスチーズといったレンネットタイプのハードチーズの製造中得られる。スイートホエイは、レンネット酵素を乳組成物に加えることによって得られ、レンネット酵素は、κ-カゼインをパラ-κ-カゼインと、ペプチドであるカゼイノマクロペプチド(CMP)に切断し、それによってカゼインのミセルを不安定にし、カゼインを沈殿させる。レンネットで沈殿したカゼインのまわり液体がスイートホエイと呼ばれる。スイートホエイのpH値は5.2~6.7の範囲である。
【0052】
スイートホエイはチーズの製造からの生成物であり、約10~15重量%のタンパク質及び約75~80%のラクトースを含む。スイートホエイ中のタンパク質は主にホエイタンパク質であるが、少量のカゼインが存在することもある。ホエイタンパク質には、β-ラクトグロブリン(約55~65%)、α-ラクトアルブミン(約18~25%)、ウシ血清アルブミン、免疫グロブリン、カゼイノマクロペプチド(CMP)、オステオポンチン、ラクトフェリン及び乳脂肪球膜タンパク質が含まれる。
【0053】
「スイートホエイ」という用語(サワー乳清又は酸ホエイと呼ばれることもある)は、カゼイン/カゼイネートの製造から得られるホエイに関する。本発明の文脈では、スイートホエイは、酸ホエイと同じではない。スイートホエイは、カゼイン/カゼイネートを精密濾過によって分離した後に得られるホエイ画分である。スイートホエイはCMPを含んでいない。
【0054】
酸ホエイという用語は、カッテージチーズやクワルクなどの酸タイプのチーズの製造の間に得られるホエイに使用される。酸タイプのチーズの製造では、酸沈殿によって、すなわち、カゼインの等電点である4.6より低いpHに乳のpH値を下げ、カゼインミセルを崩壊及び沈殿させることによって乳からカゼインを取り除く。多くの場合、pHは3.8~4.6の範囲に下げられる。酸沈殿したカゼインのまわりの液体が多く場合酸ホエイと呼ばれ、CMPを含有しない。
【0055】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液に使用されるホエイタンパク質は、酸ホエイでも、カゼインホエイでもない。
【0056】
本発明でホエイタンパク質溶液に使用されるホエイタンパク質は、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、乳清タンパク質濃縮物(SPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)又は乳清タンパク質分離物(SPI)であることができる。ホエイタンパク質濃縮物とホエイタンパク質分離物との違いは、生成物の組成、特にタンパク質含有量である。ホエイタンパク質分離物は濃縮物よりも純度が高く、ホエイタンパク質を「分離」するように他の非タンパク質成分が部分的に取り除かれている。したがって、ホエイタンパク質分離物は、より高い割合のタンパク質を有しており、十分に純粋であるので、事実上ラクトースフリー、炭水化物フリー、脂肪フリー、かつコレステロールフリーであることができる。
【0057】
本文脈では、「ホエイタンパク質濃縮物(WPC)」及び「血清タンパク質濃縮物(SPC)」という用語は、ホエイタンパク質の乾燥組成物と液体組成物の両方を包含する。本発明で使用されるWPC及びSPCのタンパク質含有量は、全固形分に対して50重量%以上である。しかし、ホエイタンパク質濃縮物は、より多量のホエイタンパク質、例えば、乾燥物質含量に対して80重量%のホエイタンパク質を含んでいてもよい。液体ホエイの乾燥部分は、乾燥生成物が50重量%以上のホエイタンパク質を含むように、ホエイから十分な非タンパク質成分を取り除くことによって得られる。
【0058】
典型的には、発明で使用されるWPC又はSPCは以下を含む。
全固形分に対して50~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して8~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
【0059】
代替的に、しかしまた好ましいのは、以下を含むWPC又はSPCである。
全固形分に対して50~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
【0060】
好ましくは、WPC又はSPCは以下を含む。
全固形分に対して50~89重量%タンパク質
総タンパク質含有量に対して15~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
【0061】
より好ましくは、WPC又はSPCは以下を含む。
全固形分に対して70~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して30~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~35重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~25重量%のCMP
【0062】
「ホエイタンパク質分離物」及び「漿液タンパク質分離物」という用語は、乾燥組成物又は液体組成物に関し、一般に、ラクトース及びコレステロールをほとんど含まず、ホエイタンパク質含有量が全固形分に対して少なくとも90重量%であると考えられている。ホエイタンパク質分離物は、例えば、全固形分に対して92重量%以上のホエイタンパク質を含みうる。好ましくは、WPI及びSPIは、全固形分に対して92~99重量%のタンパク質など、全固形分に対して90~100重量%のタンパク質を含む。
【0063】
WPI又はSPIは、好ましくは以下を含みうる。
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して8~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
【0064】
代替的に、しかしまた好ましくは、WPI又はSPIは以下を含むことができる。
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して30~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~35重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~25重量%のCMP
【0065】
好ましくは、WPIは好ましくは以下を含むことができる。
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して60~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して10~20重量%のALA
総タンパク質含有量に対して10~20重量%のCMP
【0066】
本発明の一実施形態では、本発明によるホエイタンパク質加水分解物の調製に使用されるホエイタンパク質溶液は、乾燥物質の70~97重量%などの50~98重量%の範囲、好ましくは72~95重量%、さらに好ましくは乾燥物質の75~95重量%の範囲のホエイタンパク質の総量を含む。
【0067】
いずれの好適なホエイタンパク質源も、本発明によるホエイタンパク質溶液を調製するのに使用することができる。本発明によるホエイタンパク質溶液に使用されるホエイタンパク質は、好ましくは、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、水牛、ラクダ、ラマ、牝馬、ウマ及び/又はシカの乳など、哺乳類の乳からのホエイタンパク質である。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、ホエイタンパク質は、ウシ(乳牛)の乳に由来する。
【0068】
ホエイタンパク質溶液は、脱ミネラルされたホエイタンパク質溶液であることが好ましい。栄養及び健康の観点から、タンパク質加水分解物中のナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム及びリン酸などのミネラルは低濃度で含まれていることが好ましいので、ホエイタンパク質溶液中のミネラルの含有量が低いことが好ましい。さらに、例えばナトリウム及びカルシウムを含むミネラルは、ホエイタンパク質と相互作用し、ホエイタンパク質加水分解物の生成物の濁度、凝集挙動、及び耐熱性に影響を及ぼす可能性がある。高濃度では、特にナトリウム、カルシウム及び亜鉛を含むいくつかのミネラルは、いくつかのプロテアーゼのタンパク質分解活性を阻害又は促進する可能性があり、したがって、高濃度のこれらのイオンの存在により、プロテアーゼの協奏的な(concerted)切断パターンが変わりうる。したがって、本発明の実施形態では、ホエイタンパク質溶液のミネラルの含有量は、全固形分に対して10%以下、より好ましくは8%以下である。本発明の文脈では、「ミネラル」という用語は灰分を指す。「ミネラル」及び「灰分」という用語は交換可能に使用され、同じものを指しうる。したがって、ホエイタンパク質溶液のミネラル含有量に言及することは、ホエイタンパク質溶液の灰分として理解されるべきである。
【0069】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量の40重量%以上のBLGなど、30重量%以上のBLGを含む。最も好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量に対して50重量%以上のBLGを含み、さらにより好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、BLGを総タンパク質含有量に対して55重量%以上の量で含む。本発明の別の実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量に対して40~90重量%のBLGなど、総タンパク質含有量に対して30~95重量%のBLG、さらに好ましくは総タンパク質含有量に対して45~80重量%の範囲の量のBLGを含む。
【0070】
本発明の文脈では、「ホエイ」という用語は、乳からカゼインが取り除かれたときに残る液体組成物に関する。カゼインは、例えば、ミセラーカゼインを含まない、又はそれを本質的に含まないが、本来含まれているホエイタンパク質を含有する液体透過液をもたらす精密濾過によって取り除くことができる。この液体透過液は、理想的なホエイ、漿液又は乳清と呼ばれることがある。
【0071】
ホエイタンパク質溶液のタンパク質は、好ましくは、可能な限りその本来含まれている状態に近く、好ましくは、もしあったとしても穏やかな加熱処理のみに供されている。
【0072】
酵素加水分解
本発明による方法のステップb)は、ホエイタンパク質溶液を酵素加水分解に供することに関し、その酵素加水分解は、以下の酵素の組み合わせのいずれか1つを使用して行われる。
i.少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼを含む酵素の組み合わせ
ii.少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
iii.少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼ及び少なくともブロメラインを含む酵素の組み合わせ
【0073】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、上記3つの酵素の組み合わせのうちのいずれかを加えることによるホエイタンパク質溶液の酵素加水分解が、15%を超える加水分解度を有し、15%以下の遊離アミノ酸の含有量を有するホエイタンパク質加水分解物をもたらすことになり、そのホエイタンパク質加水分解物は許容される味を有し、苦みペプチドの含有量が少ないことを見出した。本発明者らは、上記の酵素の組み合わせi.~iii.を用いた加水分解によって調製されたホエイタンパク質加水分解物が、4%(重量/重量)タンパク質溶液において苦みがないことを見出した。
【0074】
本発明のステップc)では、酵素加水分解は、加水分解度(DH)が15%以上のときに酵素を失活させることによって停止させて、ホエイタンパク質加水分解物を得る。加水分解度(DH)とは、加水分解によって切断された元のタンパク質のペプチド結合の割合として定義される。
【0075】
本発明の一実施形態では、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、アスペルギルス・オリゼー及び/又はアスペルギルス・フラバス由来のセリンエンドペプチダーゼである。アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチリシン様セリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21)である。
【0076】
本発明の一実施形態では、酵素の組み合わせi)は、バシロリシン・バシロライシンなどのバチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼをさらに含む。したがって、一実施形態では、酵素の組み合わせi)は以下を含む。
-少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともバチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼ
【0077】
本発明のさらなる実施形態では、酵素の組み合わせii)は、バシロライシンなどのバチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼをさらに含むことができる。したがって、一実施形態では、酵素の組み合わせii)は以下を含む。
-少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともバチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼ
【0078】
本発明の一実施形態では、アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼはアスペルギルス・オリゼー由来である。
【0079】
一実施形態では、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼはサブチリシンである。サブチリシンは、好ましくはバチルス・リケニフォルミス由来である。
【0080】
本発明の別の実施形態では、メタロエンドペプチダーゼはバシロライシンである。バシロライシンは、好ましくはバチルス属由来であり、より好ましくはバチルス・アミロリクエファシエンス由来である。本発明の好ましい実施形態では、バシロライシンはバチルス・サブチルス由来ではない。
【0081】
本発明の文脈では、「トリプシン様プロテアーゼ」という用語は微生物由来のプロテアーゼである。好ましくは、微生物由来のトリプシン様プロテアーゼは、フザリウム属の種、特にフザリウム・オキシスポルム由来である。したがって、「トリプシン様プロテアーゼ」という用語には、例えば、微生物由来ではないパンクレアチンは含まれない。それに対して、パンクレアチンは、例えばトリプシン、キモトリプシン、アミラーゼ及びリパーゼを含む膵臓由来の酵素の混合物である。さらに、「トリプシン様プロテアーゼ」という用語は、「トリプシン」と混同してはならない。
【0082】
さらに別の実施形態では、ブロメラインはアナナス・コモサス由来である。ブロメラインはシステインエンドペプチダーゼである。
【0083】
本発明の一実施形態では、ステップb)の酵素加水分解は、以下の酵素の組み合わせのいずれか1つを使用して行われる。
i)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼを含む酵素の組み合わせ
ii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
iii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼとメタロエンドペプチダーゼの組み合わせ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドプロテアーゼ、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
iv)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともブロメライン、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、ステップb)の酵素加水分解は、以下の酵素の組み合わせのいずれか1つを使用して行われる。
i)少なくともバチルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくとも微生物由来のトリプシン様プロテアーゼを含む酵素の組み合わせ
ii)少なくともバチルス属の種由来のサブチリシン、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
iii)少なくともバチルス属の種由来のバシロライシンとサブチリシンの組み合わせ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドプロテアーゼ、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
iv)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアナナス・コモサス由来のブロメライン、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む酵素の組み合わせ
【0085】
本発明の好ましい実施形態では、酵素の組み合わせは以下のものである。
i)少なくともEC3.4.21.62群からの酵素、少なくともEC3.4.21群のさらなる酵素、及び少なくともEC3.4.21.4群のさらなる酵素を含む酵素の組み合わせ
ii)少なくともEC3.4.21.62群からの酵素、少なくともEC3.4.21群のさらなる酵素、及び少なくともEC3.4.11群のさらなる酵素を含む酵素の組み合わせ
iii)少なくともEC3.4.21.62群からの酵素、さらなるEC3.4.24.28群からの酵素、少なくともEC3.4.21群のさらなる酵素及び少なくともEC3.4.11群のさらなる酵素を含む酵素の組み合わせ
iv)少なくともEC3.4.24.28群からの酵素、少なくともさらなるEC3.4.22.32群からの酵素及び少なくともEC3.4.11群のさらなる酵素を含む酵素の組み合わせ
【0086】
本発明の別の好ましい実施形態では、酵素の組み合わせは以下である。
i)少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくともフザリウム・オキシスポルム由来のトリプシン様プロテアーゼ、任意選択でさらにバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシンを含む組み合わせ
ii)少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ
iii)少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のセリンエンドペプチダーゼ、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ
iv)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアナナス・コモサス由来のブロメライン及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ
バチルス・リケニフォルミス由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチリシンである。
【0087】
本発明の別の好ましい実施形態では、酵素の組み合わせは以下である。
i)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21.62)、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21)、及び少なくともトリプシン様プロテアーゼ(EC3.4.21.4)を含む組み合わせ
ii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21.62)、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21)及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼ(EC3.4.11)を含む組み合わせ
iii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21.62)、バシロライシン(EC3.4.24.28)、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21.63,)及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼ(EC3.4.11)を含む組み合わせ
iv)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン(EC3.4.24.28)、少なくともブロメライン(EC3.4.22.32)、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼ(EC3.4.11)を含む組み合わせ
【0088】
ホエイタンパク質加水分解物を調製する本発明の方法で使用される酵素の組み合わせi)~iv)は、上記の主要な酵素以外の他の酵素を含みうる。「主要な酵素」という用語は、調製物中に最も豊富に存在する酵素を意味する。以下のリストでは、Uniprotアクセッション番号を括弧内に示して特定の命名に注釈されたプロテアーゼを識別する。例えば、酵素の組み合わせは、ペプチドヒドロラーゼ(A0A364MDR7)、サブチラーゼ(subtilase)ファミリータンパク質(I8A6W5)、ファンガリシン(fungalysin)メタロペプチダーゼM36(A0A2P2H013)、中性プロテアーゼ2(A0A364MH70)、アスペルギロペプシン-1(B8NLY9)、ロイシルアミノペプチダーゼA(Q2U1F3)、ロイシルアミノペプチダーゼ2(Q2ULM2)、ジペプチジルペプチダーゼ4(Q2UH35)、ジペプチジルペプチダーゼ5(Q9Y8E3)、中性プロテアーゼ1(Q2U1G7)、中性プロテアーゼ2(P46076)、アルカリプロテアーゼ1(P12547)、及びプロリルオリゴペプチダーゼファミリータンパク質(B8NBM3)からなる群より選択される酵素に高い同一性(95~100%)をもつ1つ又は複数の酵素を含むことができる。
【0089】
本発明の一態様では、酵素の組み合わせi)の主要な酵素は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びトリプシン様プロテアーゼである。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチリシンであり、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチラーゼファミリータンパク質である。本発明の一実施形態では、酵素の組み合わせi)は、アミノペプチダーゼ(ペプチドヒドロラーゼやロイシルアミノペプチダーゼなど)、メタロエンドペプチダーゼ(バシロライシンやファンガリシンメタロペプチダーゼ、中性プロテアーゼなど)、プロリルオリゴペプチダーゼファミリータンパク質、及びアスペルギロペプシン-1(アスパラギン酸エンドペプチダーゼ)のうちの1つ又は複数をさらに含むことができる。酵素の組み合わせi)に存在する酵素の少なくとも80%は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、トリプシン様プロテアーゼであることが予想される。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼを含む調製物の例は、プロタメックス(Protamex)(ノボザイムズ社(Novozymes A/S))である。プロタメックスはまた、バシロライシンも含む。アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼを含む調製物の例は、Promod 782(Biocatalysts社(Ltd))及びプロテアーゼ A アマノ 2 SD(天野エンザイム社(Amano Enzyme Ltd))であり、主要な酵素はアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼである。また、Promod 782及びプロテアーゼ A アマノ 2 SDは、ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼ、ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、プロリルオリゴペプチダーゼファミリータンパク質、中性プロテアーゼ2及びアスペルギロペプシン-1の酵素を含み、主要な酵素はセリンエンドペプチダーゼである。トリプシン様プロテアーゼは、例えば、Formea TL 1200 BG(ノボザイムズ社)から供給されうる。
【0090】
本発明の一態様では、酵素の組み合わせii)は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを主要な酵素として含む。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチリシンであり、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチラーゼファミリータンパク質及びアルカリプロテアーゼである。アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼは、例えば、ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼA及びロイシルアミノペプチダーゼ2のうちの1つ又は複数であることができる。本発明の一実施形態では、酵素の組み合わせii)は、メタロエンドペプチダーゼ;ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、中性プロテアーゼ1及び中性プロテアーゼ2のうちの1つ又は複数をさらに含むことができる。酵素の組み合わせii)はまた、アスペルギロペプシン-1(アスパラギン酸エンドペプチダーゼ)、ジペプチジルペプチダーゼ4、及びジペプチジルペプチダーゼ5を含むことができる。酵素の組み合わせii)に存在する酵素の少なくとも80%は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼであることが予想される。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼを含む調製物の例は、サブチリシンを含むアルカラーゼ(ノボザイムズ社)である。アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼを含む調製物の例は、プロテアーゼ A アマノ 2 SD及びPromod 782であり、そこにおいて主要な酵素はアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼである。Promod 782及びプロテアーゼ A アマノ 2 SDはまた、酵素ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼ、ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、プロリルオリゴペプチダーゼファミリータンパク質、中性プロテアーゼ2、アスペルギロペプシン-1も含み、主要な酵素はセリンエンドペプチダーゼである。アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む調製物の例は、フレーバーザイム Conc BG(ノボザイムズ社)であり、主要な酵素はロイシルアミノペプチダーゼである。フレーバーザイム Conc BGはまた、ロイシルアミノペプチダーゼA、ロイシルアミノペプチダーゼ2、ジペプチジルペプチダーゼ4、ジペプチジルペプチダーゼ5、中性プロテアーゼ1、中性プロテアーゼ2、アルカリプロテアーゼ1を含み、主要な酵素はロイシルアミノペプチダーゼである。
【0091】
本発明の一態様では、酵素の組み合わせiii)は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、バチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを主要な酵素として含む。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチリシンであり、バチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼは、好ましくはバシロライシンであり、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼは、好ましくはサブチラーゼファミリータンパク質及びアルカリプロテアーゼである。アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼは、例えば、ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼA及びロイシルアミノペプチダーゼ2のうちの1つ又は複数であることができる。本発明の一実施形態では、酵素の組み合わせiii)は、メタロエンドペプチダーゼ;ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、中性プロテアーゼ1及び中性プロテアーゼ2のうちの1つ又は複数をさらに含むことができる。酵素の組み合わせiii)はまた、アスペルギロペプシン-1(アスパラギン酸エンドペプチダーゼ)、ジペプチジルペプチダーゼ4及びジペプチジルペプチダーゼ5を含むことができる。酵素の組み合わせiii)に存在する酵素の少なくとも80%は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、バシロライシン、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼである。バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(サブチリシン)とバシロライシンをともに含む調製物の例は、Promod 950L(Biocatalysts社)及びプロタメックスである。アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼを含む調製物の例は、プロテアーゼ A アマノ 2 SD及びPromod 782である。Promod 782及びプロテアーゼ A アマノ 2 SDはまた、酵素ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼ、ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、プロリルオリゴペプチダーゼファミリータンパク質、中性プロテアーゼ2及びアスペルギロペプシン-1を含み、主要な酵素はセリンエンドペプチダーゼである。アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む調製物の例は、フレーバーザイム conc BGであり、主要な酵素はロイシルアミノペプチダーゼである。フレーバーザイム conc BGはまた、酵素ロイシルアミノペプチダーゼA、ロイシルアミノペプチダーゼ2、ジペプチジルペプチダーゼ4、ジペプチジルペプチダーゼ5、中性プロテアーゼ1、中性プロテアーゼ2及びアルカリプロテアーゼ1を含み、主要な酵素はロイシルアミノペプチダーゼである。
【0092】
本発明の一態様では、酵素の組み合わせiv)は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、ブロメライン及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを主要な酵素として含む。アスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼは、例えば、ペプチドヒドロラーゼ、ロイシルアミノペプチダーゼA及びロイシルアミノペプチダーゼ2のうちの1つ又は複数であることができる。本発明の一実施形態では、酵素の組み合わせiv)は、メタロエンドペプチダーゼ;ファンガリシンメタロペプチダーゼM36、中性プロテアーゼ1及び中性プロテアーゼ2のうちの1つ又は複数をさらに含むことができる。酵素の組み合わせii)はまた、ジペプチジルペプチダーゼ4、ジペプチジルペプチダーゼ5及びアルカリプロテアーゼ(アスペルギルス属由来のセリンプロテアーゼ)を含むことができる。酵素の組み合わせiv)に存在する酵素の少なくとも80%は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、ブロメライン及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼであることが予想される。バチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシンを含む調製物の例は、ニュートラーゼである。ブロメラインの例はPromod 523 MDPであり、一方ではアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼの例はフレーバーザイム conc BGである。
【0093】
酵素の量は酵素の種類及び酵素の活性に依存するので、本発明のホエイタンパク質加水分解物を調製する方法は、加水分解ステップの下で加えられる酵素の量に限定されるべきではない。しかし、指針として、酵素加水分解は酵素の組み合わせを用いて行われ、酵素の合計量は、100gのタンパク質あたり0.1~7.5gの酵素など、100gのタンパク質あたり0.05~10gの範囲である。好ましくは、酵素の量は、100gのタンパク質あたり0.2~5.0gの量である。
【0094】
組み合わせi.~iii.における3つの異なる酵素の間の比率は、例えば、1~8:1~8:1~8の範囲など1-10:1-10:1-10の範囲でありうる。しかし、酵素の添加量は使用される酵素の活性に依存するので、本発明はその酵素の添加量に限定されるべきではない。
【0095】
本発明のステップb)で行われる酵素加水分解は、好ましくは、40℃~70℃など40℃~75℃の範囲の温度で行われる。酵素加水分解は、酵素が最適活性を有する温度で行われるべきである。好ましい実施形態では、酵素加水分解は45℃~65℃の範囲の温度で行われる。
【0096】
加水分解がステップc)で停止されるまでの酵素加水分解の時間は、使用される酵素の量と活性に依存する。加水分解は加水分解度が15%又はそれを超えるまで続けられる。ステップb)の酵素加水分解は、好ましくは、3.5時間~15時間など3時間~20時間、好ましくは4時間~10時間、さらに好ましくは4時間~7時間の範囲の時間で行われる。
【0097】
ホエイタンパク質溶液は、好ましくは、酵素加水分解の間、6~9の範囲のpHを有するべきである。好ましい実施形態では、ステップb)の酵素加水分解の間のpHは6.5~8.0である。
【0098】
このpH範囲では、酵素は最大の活性を有し、したがって最も効率的にタンパク質をペプチドと遊離アミノ酸に切断する。くわえて、このpH範囲では、加水分解プロセスの間だけでなく、酵素を失活させるための加熱処理の間でも凝集が回避される。
【0099】
本発明によるホエイタンパク質加水分解物を調製する方法のステップc)では、酵素加水分解は、酵素を失活させることによって停止される。本発明の文脈では、「失活」という用語は酵素の不可逆的な不活性化を指す。酵素の失活は、他の条件で酵素が活性にならないように不可逆的でなければならない。
【0100】
加水分解は、加水分解度が少なくとも18%など少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%であるときに停止される。本発明の一実施形態では、ステップc)において、加水分解は、加水分解度が15%~35%、好ましくは17%~30%、さらにより好ましくは18%~28%の範囲にあるときに停止される。
【0101】
ステップc)の酵素の失活、ひいては加水分解の停止は、当該技術分野で公知のいずれかの方法で行うことができる。例えば、酵素が失活する温度に温度を変えることによる酵素の失活。また、酵素の失活及び変性は、溶液のpHを酵素が失活するpHに変えることによっても可能である。
【0102】
したがって、本発明の一実施形態では、ステップc)の酵素の失活は、酵素が加えられたホエイタンパク質溶液を、少なくとも80℃の温度に加熱することによる。酵素の失活は、好ましくは85℃~125℃などの80℃~130℃、さらにより好ましくは90℃~120℃の温度に加熱することによる。加熱によるステップc)の酵素の失活は、例えば110℃~130℃の温度に10~30秒間加熱するなど、高温に短時間加熱することによることができる。代替的に、ステップc)の酵素の失活は、比較的低い温度で、より長い時間加熱することによってもよい。これは、80℃~90℃に5~10分間加熱することを含みうる。
【0103】
本発明の別の実施形態では、ステップc)の酵素の不可逆的な失活は、酵素が加えられたホエイタンパク質溶液、すなわちホエイタンパク質加水分解物のpHを、酵素が失活するpHに増加又は減少させることを含む。本発明の一実施形態では、pHは10以上のpHに上げられる。別の実施形態では、pHは4以下のpHに下げられる。
【0104】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法は、ステップc)で得られたホエイタンパク質加水分解物を限外濾過するいかなるステップも含まない。本発明の発明者らにとって驚くべきことには、低量の脂質をもつホエイタンパク質溶液、すなわちWPI又はSPIを、特定の酵素の組み合わせを用いて酵素加水分解すると、味が良く、また限外濾過のステップを全く伴わずに見た目が透明なホエイタンパク質加水分解物が結果として得られた。
【0105】
当該技術分野で公知のホエイタンパク質加水分解物は、限外濾過加水分解物と非限外濾過加水分解物に分けることができる。既知の非限外濾過タンパク質加水分解物は、見た目が透明でない又は濁っていることになり、限外濾過タンパク質加水分解物は一般的に見た目が透明である。
【0106】
本発明の文脈では、「限外濾過」という用語は、1500Da~50000Da、好ましくは2000Da~20000Daの範囲のカットオフを有する膜を用いた膜濾過を意味する。
【0107】
タンパク質加水分解物の限外濾過の間、脂肪、完全な(intact)タンパク質、及び一部の大きいペプチドが限外濾過膜によって留められ、残余分に保持されるが、遊離アミノ酸、小さいペプチド及びミネラルは限外濾過の透過液中に含まれる。
【0108】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質溶液は、脂質含有量の少ないWPIとSPIの溶液として調製される。本発明の発明者らにとって驚くべきことに、本発明の酵素の組み合わせを用いてホエイタンパク質加水分解物を調製すると、高い加水分解度、苦みの少ない良好な味を有し、見た目が透明であるホエイタンパク質加水分解物が結果として得られた。
【0109】
しかし、脂質含有量が低いことだけが、発明の発明者らが透明なタンパク質加水分解物を調製することが可能であった理由ではない。本発明の発明者らは、驚くべきことに、脂質含有量の低いホエイタンパク質溶液が、上記の酵素の組み合わせのいずれか1つを用いて酵素加水分解に供されたとき、加水分解度が15%を超え、4%タンパク質溶液において苦味がなく、見た目が透明なホエイタンパク質加水分解物を調製することが可能であったことを見出した。見た目が透明であるためには、脂質含有量が少ないホエイタンパク質溶液を使用する必要があった。しかし、脂質含有量が少ないことは、透明な加水分解物が得られた唯一の理由ではなかった。本発明の発明者によって驚くべきことに、特定の酵素の組み合わせを用いて加水分解すると、透明な加水分解物が得られることが見出された。比較試験において、脂質含有量は低いが、本発明の方法で使用される酵素とは別の酵素を用いて加水分解が行われた他のホエイタンパク質加水分解物では、見た目が透明で苦みの少ないホエイタンパク質加水分解物が得られないことが観察された。
【0110】
本発明の方法によって得られたホエイタンパク質加水分解物は、好ましくは濃縮する、かつ/又は乾燥させることができる。したがって、本発明の一実施形態では、本発明の方法は、ステップc)で得られたホエイタンパク質加水分解物を濃縮する、かつ/又は乾燥させるステップd)を含む。濃縮は、例えば、単位操作のナノ濾過、逆浸透濾過、及び蒸発のうちの1つ又は複数によることができる。
【0111】
本発明の別の実施形態では、乾燥ステップは、単位操作の噴霧乾燥、凍結乾燥及びスピンフラッシュ乾燥のうちの1つ又は複数を含み、回転乾燥及び/又は流動床乾燥も用いることができる。
【0112】
ホエイタンパク質加水分解物
一態様では、本発明は、
-遊離アミノ酸及びペプチドを含み、
-少なくとも15%の加水分解度を有し、
-2500Da以上の分子量を有するペプチドを、ペプチドの総量の25重量%以下の量で含み、
-遊離アミノ酸を、加水分解物の総アミノ酸含有量の15重量%以下の量で含むホエイタンパク質加水分解物に関し、
そのホエイタンパク質加水分解物は4%タンパク質溶液において、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの溶液に相当する苦みスコアを有する。
【0113】
本発明の一態様では、本発明のホエイタンパク質加水分解物の加水分解度は、少なくとも15%である。本発明の目的は、加水分解度が高く、限外濾過のステップがなくても不快な苦味を有しないホエイタンパク質加水分解物を作ることであった。多くの加水分解物においてペプチドが苦味の原因であることはよく知られている。一般的に、加水分解度の高い加水分解物をもたらす広範な加水分解は、結果として苦味をもつ加水分解物になることが予想される。高度に加水分解されたタンパク質加水分解物の苦味を軽減するために、加水分解物を活性炭で処理できるが、その処理は苦味のあるペプチドとともにやはり加水分解物も除去する可能性がある。高度に加水分解されたタンパク質が望まれるのは、ペプチドが完全なタンパク質よりも他の機能性を有するからである。例えば、ペプチドは完全なホエイタンパク質よりも良好に熱処理に耐えうる可能性がある。
【0114】
しかし、本発明の発明者らは、驚くべきことに、ホエイタンパク質加水分解物を苦味のあるペプチドを除去するための追加の処理に供しなくとも、不快な苦味を有しない加水分解度が高いホエイタンパク質加水分解物を調製する方法を見出した。
【0115】
本発明の好ましい実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物の加水分解度は少なくとも18%であり、さらにより好ましくは、ホエイタンパク質加水分解物の加水分解度は少なくとも20%である。
【0116】
本発明の別の実施形態では、本発明によるホエイタンパク質加水分解物は、加水分解度が、18~30%など15~35%、好ましくは18~28%、さらにより好ましくは20~25%である。
【0117】
ホエイタンパク質加水分解物は遊離アミノ酸を含むことがあり、もし遊離アミノ酸が存在するなら、加水分解物の総アミノ酸含有量15重量%以下の量で存在する。好ましくは、遊離アミノ酸含有量は、総アミノ酸含有量の12重量%以下である。「総アミノ酸含有量」という用語は、本発明の文脈では、遊離アミノ酸並びにペプチド及びタンパク質に結合したアミノ酸を含む、存在するアミノ酸の合計量である。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物の遊離アミノ酸含有量は、総アミノ酸含有量の13重量%以下など総アミノ酸含有量の15重量%以下、好ましくは総アミノ酸含有量10重量%以下であり、さらにより好ましくは、遊離アミノ酸の含有量は総アミノ酸含有量の8%重量以下である。
【0119】
本発明の他の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、遊離アミノ酸を加水分解物の総アミノ酸含有量の2~15重量%の量で、好ましくは、遊離アミノ酸を加水分解物の総アミノ酸含有量の4~13重量%の量で含む。
【0120】
本発明の発明者らは、本発明のホエイタンパク質加水分解物のペプチドが、2500Da以上の分子量を有するペプチドをペプチドの総量の25重量%以下の量で含むことを見出した。好ましくは、ホエイタンパク質加水分解物は、2500Da以上の分子量を有するペプチドを、8~25重量%、さらにより好ましくは10~20重量%の範囲の量で含む。
【0121】
本発明の一実施形態では、本発明のホエイタンパク質加水分解物は、375Da以下の分子量を有するペプチドを少なくとも10重量%の量で含む。375Da以下の分子量を有するペプチドは、例えば、10~25重量%の範囲の量でホエイタンパク質加水分解物に存在しうる。
【0122】
本発明の発明者らは、本発明のホエイタンパク質加水分解物が、限外濾過膜による膜濾過に供された場合及び/又は活性炭による処理に供された場合も、加水分解度の高い公知のホエイタンパク質加水分解物と比較して、苦味が低減されていることを見出した。
【0123】
ホエイタンパク質加水分解物の苦みをカフェインの苦みと比較した。4%(重量/重量)タンパク質溶液におけるホエイタンパク質加水分解物は、0.08%(重量/体積)カフェインの溶液の味よりも苦みが少ない味を有する。したがって、4%(重量/重量)タンパク質溶液中のホエイタンパク質加水分解物の苦みスコアは、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの苦みスコアに相当する。好ましくは、本発明の4%(重量/重量)タンパク質溶液中のホエイタンパク質加水分解物の苦みスコアは、0.07%(重量/体積)以下のカフェインの苦みスコアに相当し、さらに好ましくは0.065%以下のカフェインの苦みスコアに相当する。最も好ましくは、本発明の4%(重量/重量)タンパク質溶液中のホエイタンパク質加水分解物の苦みスコアは、0.060%(重量/体積)の苦みスコアに相当する。
【0124】
本発明のさらなる実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、4%(重量/重量)タンパク質溶液において100以下の比濁法濁度(NTU)を有する。さらなる実施形態では、高い加水分解度と許容される味を有することにくわえて、見た目が透明でもあるホエイタンパク質加水分解物を得る。透明で良好な味のホエイタンパク質加水分解物は、例えば飲料、ゲル、及びシェイクに使用でき、消費者へのアピールを向上できるので、望ましい。
【0125】
4%(重量/重量)タンパク質溶液において、実測比濁法濁度が100NTU未満の場合、試料は透き通っていると認識される。4%(重量/重量)タンパク質溶液において、実測比濁法濁度が100NTUを超える場合、測定されたホエイタンパク質加水分解物は透き通っていないと認識される。比濁法濁度が40NTU未満の場合、溶液は透明であると認識される。しかし、40NTU~100NTUの濁度を有するホエイタンパク質加水分解物は、透き通っている(しかし不透明又は濁っている)可能性がある。本発明の文脈では、「透き通っている(transparent)」という用語は、ある程度の光を通過させ、その結果溶液の背後にある物体を見ることができる溶液を指し、すなわちその溶液を通して見ることが可能である。「透明(clear)」という用語は、無色である溶液を指し、したがってその溶液を通して見ることが、それを制限するものが何もない状態で可能である。したがって、溶液は透き通っていても透明ではない場合がある。
【0126】
本発明のさらなる実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、4%(重量/重量)タンパク質溶液において60以下の比濁法濁度(NTU)など、4%(重量/重量)タンパク質溶液において80以下の比濁法濁度(NTU)、好ましくは4%(重量/重量)タンパク質溶液おいて50以下の比濁法濁度(NTU)、さらにより好ましくは4%(重量/重量)タンパク質溶液において40以下の比濁法濁度(NTU)を有する。
【0127】
本発明の一実施形態ではまた、ホエイタンパク質加水分解物は抗酸化活性を有する。好ましくは、ホエイタンパク質加水分解物の抗酸化活性は、1.5重量%タンパク質溶液において54から60の消去率を有することとして測定される。
【0128】
ホエイタンパク質加水分解物は、タンパク質以外の他の成分、例えば炭水化物、脂質、及びミネラルを含んでいてもよい。
【0129】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、脂質を、全固形分に対して6重量%以下など全固形分に対して8重量%以下の量で含む。別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、全固形分の0.5重量%以下の脂質含有量など、脂質を全固形分に対して1重量%以下の量で含む。
【0130】
ホエイタンパク質加水分解物はまた、カリウム、ナトリウム及びカルシウムなどのミネラルを含んでいてもよい。
【0131】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、カリウムを3.0重量%以下の量で含む。
【0132】
本発明の別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、ナトリウムを2重量%以下の量で含む。
【0133】
本発明のさらに別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、クエン酸を、ホエイタンパク質加水分解物の固形分1kgあたり4~10gの範囲の量で含む。
【0134】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、完全な又は分解されていないウシ血清アルブミン(BSA)を、総タンパク質含有量に対して0.5~2重量%の量で含む。
【0135】
本発明の好ましい実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、粉末又は顆粒など乾燥組成物の形態である。
【0136】
別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物液体組成物である。
【0137】
食品
一態様では、本発明は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を含む食品を提供することに関する。
【0138】
例えば、食品は、飲料、シェイク、ゲル、フードバー、濃縮物又は液体ショット(shot)を含む乳製品の群から選択されるいずれか1つであってよい。
【0139】
好ましい実施形態では、食品は、プロテイン飲料、プロテインショット、プロテインシェイク、プロテインゲル又はプロテインバーの群から選択される。食品はまた、乳児用粉ミルク又は他の乳児用栄養製品であってもよい。
【0140】
食品が、飲料、シェイク、ゲル又はショットなどの液体形態である場合、食品は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を含むことができる。ホエイタンパク質加水分解物は、好ましくは、2~25重量%の加水分解ホエイタンパク質、好ましくは3~15重量%の加水分解ホエイタンパク質など3~20重量%の加水分解ホエイタンパク質、さらにより好ましくは3~10重量%の加水分解ホエイタンパク質に相当する量で飲料に存在する。
【0141】
食品がプロテインバーなどのバーである場合、食品は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を、2~30重量%の加水分解ホエイタンパク質に相当する量で含む。好ましくは、本発明によるホエイタンパク質加水分解物の量は、4~15重量%など3~20重量%の加水分解ホエイタンパク質に相当する量で、バー中に存在する。本発明によるホエイタンパク質加水分解物を、例えばプロテインバーなどのフードバーに使用する場合、ホエイタンパク質加水分解物を軟化剤として使用することができる。プロテインバー中のタンパク質加水分解物の濃度を高くすることは、軟化作用があり、長期保存中にバーが堅くなるのを防ぐことはよく知られている。
【0142】
さらなる態様では、本発明は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を、2~20重量%の加水分解ホエイタンパク質に相当する量で含む飲料を提供することに関する。飲料は、タンパク質以外に、炭水化物、ビタミン及びミネラルを含むプロテイン飲料であることができる。
【0143】
本発明の好ましい実施形態では、飲料は中性のpH、すなわち22℃で4%タンパク質溶液において6.5~8.0の範囲のpHを有する。
【0144】
本発明の一実施形態では、本発明によるホエイタンパク質加水分解物は、炭酸飲料の調製において成分として使用することができる。したがって、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を含む本発明の食品は、炭酸飲料である。
【0145】
本発明のさらなる実施形態は、本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料に関する。
【0146】
一実施形態では、炭酸飲料は、ホエイタンパク質加水分解物を2~10重量%に相当する量で含む。炭酸飲料はまた、炭水化物を含んでいてもよく、炭水化物が存在する場合、それは5重量%以下の量である。炭酸飲料は、好ましくは脂肪を含まない。
【0147】
一実施形態では、本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料の炭酸化の量は、(飲料中に存在する液体の1体積あたり)0.1体積の炭酸化~4体積の炭酸化の範囲である。より典型的には、炭酸化の量は約1.6体積~約3.5体積の範囲であり、最も典型的な濃度は約1.7体積~約3.0体積であり、炭酸化の量は最も好ましくは2.0~3.0体積の範囲である。炭酸化とは、本発明の文脈では、飲料に存在する炭酸量が液体混合物1体積あたり0.1体積~4体積の範囲である炭酸化タンパク質飲料を得るのに十分な量で、二酸化炭素を飲料用成分の混合物に添加することを意味する。
【0148】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、二酸化炭素は、無菌炭酸水の形態で添加される。他の実施形態では、滅菌した二酸化炭素が、所望の量の二酸化炭素が存在するまで、液体混合物を通してバブリングされる。
【0149】
炭酸化は、飲料の酸性度を増加させる。飲料に加えられる二酸化炭素が多いほど、飲料のpH値は下がることになる。しかし、本発明の発明者らは、二酸化炭素の添加は、5℃の温度で飲料のpHを下限のpH5.5~6.0に下げることを見出した。飲料1体積あたり約2.5~3.0体積の二酸化炭素を加えることにより、5℃の温度で飲料のpHは約pH6.0まで低下するようになり、一方で飲料1体積あたり約4体積の二酸化炭素を加えることにより、5℃の温度で飲料のpHは約pH5.5まで低下するようになる。
【0150】
したがって、本発明の一実施形態では、本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料は、5℃の温度で、少なくとも5.5のpHを有する。そのpHは、典型的には、5.5~7.0の範囲などの5.5~8.25の範囲、好ましくは5.8~6.5の範囲のpHであることになる。5.5を超えるpHを有する炭酸飲料が好ましい。
【0151】
本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料は、例えば、例えば低温殺菌やオートクレーブなど熱処理することができる。本発明の発明者らは、本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料の濁度は、120℃までの温度で、例えば20分間などの長い時間加熱処理した後に、変化しないことを見出した。
【0152】
本発明のさらなる実施形態では、炭酸飲料は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物を、加水分解されていないホエイタンパク質分離物と組み合わせて含むことができる。
【0153】
本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、プロテインショット、プロテインシェイク又はプロテインゲルの調製にも使用することができる。プロテインショット、シェイク又はタンパク質ゲルは、加水分解ホエイタンパク質のほかに、炭水化物、ビタミン及びミネラルを2~20重量%の量で含む。プロテインショット、プロテインシェイク又はプロテインゲルのpHは、好ましくは中性、すなわち6.5~8.0の範囲のpHである。
【0154】
さらなる態様では、本発明は、本発明によるホエイタンパク質加水分解物の食品成分としての使用に関する。ホエイタンパク質加水分解物は、食品成分としていずれのタイプの食品にも加えることができる。好ましくは、本発明のホエイタンパク質加水分解物は、冷たい飲料又は温かい飲料の調製において食品成分として使用される。
【0155】
本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、6.5~8.5の範囲のpHを有するUHT安定飲料の調製において食品成分として使用される。
【0156】
本発明の別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、スポーツ栄養に使用される飲料の調製において食品成分として使用される。本発明の文脈では、「スポーツ栄養」という用語は、運動又はトレーニングに関連して、すなわち筋肉量を増やすのに適した栄養を指す。
【0157】
本発明のさらに別の実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、臨床用飲料の調製において食品成分として使用される。本発明の文脈では、「臨床用飲料」という用語は、臨床的又は医学的な効能効果を有する飲料を指す。例えば、臨床用飲料は、健康に関連する効果を有する可能性がある。臨床用飲料は、典型的には、栄養に関して問題がある入院患者若しくは高齢者、又は病的状態から回復するために予め消化されたタンパク質を必要とする個人によって使用される。例えば、臨床用飲料は、栄養失調又は吸収不良に苦しむ個人に使用される飲料でありうる。また、臨床用飲料はまた、胃腸疾患を患っている個人のためでありうる。本文脈の文脈では、「臨床用飲料」及び「医療用飲料」という用語は、同じ意味を有する。
【0158】
臨床用飲料は、例えば、本発明のホエイタンパク質加水分解物を、2~20重量%の加水分解ホエイタンパク質を含む飲料に相当する量で含みうる。臨床用飲料は、炭水化物を飲料の5~50重量%の量で含むことができる。炭水化物の量は、例えば、15~35重量%など10~40重量%の範囲でありうる。臨床用飲料はまた、脂肪を含むことができる。例えば、臨床用飲料の脂肪含有量は、3~20重量%などの2~30重量%、より好ましくは3~18重量%の範囲でありうる。
【0159】
一例では、臨床用飲料は、4~10重量%の量に対応する本発明による加水分解ホエイタンパク質、3~15重量%の脂肪及び10~35重量%の炭水化物を含む。
【0160】
臨床用飲料は、好ましくは中性のpH値、すなわち6.5~8.0の範囲のpHを有する。
【0161】
臨床用飲料は、透明な飲料、ミルク様の(milky)飲料、チューブフィードの形態であってもよく、液体中に再溶解される粉末の形態であってもよい。
【0162】
一実施形態では、本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、ジュースタイプ(juice-style)飲料の調製にも使用することができる。ジュースタイプ飲料は、好ましくは、4~10重量%のタンパク質に相当する量の本発明による加水分解ホエイタンパク質、0~1重量%の脂肪及び15~35重量%の炭水化物を含む。
【0163】
臨床用飲料がチューブフィードの形態である場合、それは、4~15重量%の本発明による加水分解ホエイタンパク質、約5~35重量%の炭水化物及び約3~15重量%の脂肪を含むことができる。
【0164】
本発明によるホエイタンパク質加水分解物はまた、乳児用粉ミルクなどの乳児栄養にも使用することができる。本発明の文脈では、「乳児用粉ミルク」という用語は、フォローオン(follow-on)粉ミルク、グローイングアップ(growing-up)粉ミルク及び早産児用(preterm)粉ミルクを含む、いずれのタイプの乳児用粉ミルクも指す。
【0165】
本発明によるホエイタンパク質加水分解物が乳児用粉ミルクに使用される場合、乳児用粉ミルクのタンパク質含有量は1.6~5.0g/100kcalの範囲である。乳児用粉ミルクは、ホエイタンパク質加水分解物の他に、ラクトースなどの炭水化物、オリゴ糖、脂質、ビタミン及びミネラルを含みうる。
【0166】
本発明によるホエイタンパク質加水分解物はまた、乳児用粉ミルク以外の他の乳児用栄養物、例えば、スムージー、ポリッジなどの調製に使用することもできる。
【0167】
本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、エマルションの調製にも使用することができる。エマルションは、典型的には、ホエイタンパク質加水分解物の粉末を、液体、例えば水又は乳、及び脂肪に再溶解させることによって調製されることになる。ホエイタンパク質加水分解物は、水及び脂肪に対して乳化作用を有することになる。粉末は、典型的には、ホエイタンパク質加水分解物を5~15重量%のタンパク質に相当する量で含む。再溶解後、エマルションはタンパク質を2~4重量%の量で含む。
【0168】
タンパク質の加水分解は、荷電基の数の増加、平均分子量の減少、反応性基の露出などのタンパク質の変化を引き起こす。このことは、タンパク質加水分解物のエマルション形成能及びエマルション安定化能に影響を与える因子である。本発明のホエイタンパク質加水分解物は、他の成分と組み合わせることによって乳化剤、安定剤などとして使用することができる。
【0169】
本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、ベーカリー製品、例えばビスケット、クッキー及びクラッカーにも使用することができる。
【0170】
さらなる態様では、本発明は、抗酸化剤としての本発明によるホエイタンパク質加水分解物の使用に関する。本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明のホエイタンパク質加水分解物が抗酸化効果を有することを見出した。したがって、ホエイタンパク質加水分解物は、抗酸化ペプチドの供給源として栄養関連組成物に使用することができる。
【0171】
したがって、本発明は、抗酸化効果を有する本発明のホエイタンパク質加水分解物に関する。より詳細には、本発明は、1.5重量%のタンパク質を含む溶液中の消去率が54から60であることによって画定される抗酸化効果を有するホエイタンパク質加水分解物に関する。消去率は、DPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリル-ヒドラジル水和物)アッセイによって測定される。消去率は、100x(A-A)/Aとして計算され、式中、Aは試料非存在下での吸光度であり、Aは試料存在下での吸光度である。
【0172】
本発明の1つの態様の文脈で説明された実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意すべきである。
【0173】
本出願で引用されている特許及び非特許文献はすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0174】
本発明を、以下の非限定的な例でさらに詳細に説明する。
【実施例
【0175】
実施例1:分析の方法
実施例1.1:加水分解度(DH)の求め方
加水分解度(DH)は、加水分解によって切断されたペプチド結合の割合として定義され、下記の式(1)を参照されたい。DH値は、利用可能なペプチド結合の数に関連して形成されるペプチドの数についての情報を与える。
【0176】
ホエイタンパク質加水分解物のDHは、Adler-Nissen, J. Determination of the degree of hydrolysis of food protein hydrolysates by trinitrobenzenesulfonic acid. J. Agric. Food Chem. 27, 1256-1262 (1979)及びNielsen, P. M., Petersen, D. & Dambmann, C. Improved method for determining food protein degree of hydrolysis. J. Food Sci. 66, 642-646 (2001)に記載のように測定した。式(1)において、hは切断されたペプチド結合の数を表し、htotalは利用可能なペプチド結合の総数を表す。したがって、DHは、切断されたペプチド結合の割合を与える。
式(1):DH=(遊離freeアミノ末端の数)/(利用可能なペプチド結合の総数)・100%=h/htotal・100%
【0177】
加水分解後に形成された遊離α-アミノ基は、o-フタルアルデヒド(OPA)と反応し、黄色の錯体を形成し、その錯体は340nmの光を吸収するので分光光度的に測定することができる。この色形成に基づいて、DHを計算することができる。
【0178】
加水分解物を適当な濃度(0.03~0.08%のタンパク質)で水に再懸濁し、2体積を15体積のOPA試薬(100mM Na、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、6mM DL-ジチオレイトール,6mM o-フタルアルデヒド、及び2%エチルアルコール)と25℃で2分間反応させた。同様の反応を行ってL-セリンの濃度系列を作成した。次に、340nmでの吸光度(A340)を測定し、OPAと水の反応からのA340シグナルを差し引いた。真のDHを求めるために、上清中で測定されたセリン当量を、上述のOPA法と同じ応答を与えるトリニトロベンゼンスルホン酸法についてAdler-Nissen(Adler-Nissen J; Agricultural and Food Chemistry, 1979 27 (6) 1256)によって提案されたように補正した。ホエイタンパク質加水分解物に用いた因数は、a=1、b=0.4、htotal=8.8であった。
【0179】
実施例1.2:濁度の測定
ホエイタンパク質加水分解物の比濁法濁度は、透明度と透き通りの度合いに関する測定値として用いられる。測定された比濁法濁度が、4%(重量/重量)タンパク質溶液において100NTU未満の場合、試料は透き通っていると認識される。さらに、測定された比濁法濁度が、4%(重量/重量)タンパク質溶液において40NTU未満の場合、試料は透明であると認識される。
【0180】
比濁法濁度を測定する場合、試料を5つの異なる濃度のタンパク質、1.8%、3.2%、4.8%、6.4%及び8%に希釈し、比濁法濁度をメルクのTurbiquant 3000 IRを用いて測定する。
【0181】
実施例1.3:総タンパク質の求め方
試料の総タンパク質含量(タンパク質換算)は以下によって求める。
1)ISO 8968-1/2IIDF 020-1/2-Milk - Determination of nitrogen content - Part 172: Determination of nitrogen content using the Kjeldahl methodに従って試料の全窒素を測定すること。
2)タンパク質の総量をNx6.38として算出すること。
【0182】
実施例1.4:アミノ酸含有量の測定
アミノ酸組成の分析は、アミノ酸補給の源としてのタンパク質加水分解物についての詳細な情報を与える。
【0183】
全アミノ酸含有量は、ISO13903:2005、EU152/2009の方法で測定した。試料を塩酸水溶液中で加水分解して試料中のペプチド結合を切断した。加水分解後、試料をpH調整し、容量まで増量し、濾過した。アミノ酸をアミノ酸分析装置で分離し、ニンヒドリン試薬を使用したポストカラム誘導体化を用いて検出を行い、440nm及び570nmで測定した。定量化では、1点検量線を用いた。品質保証のため、自家(in-house)標準物質をすべての分析実行で分析した。
【0184】
システイン及びメチオニンは、アミノ酸分析装置で分析する前に酸化しなければならない。試料は、過酸化水素とギ酸を用いて低温で酸化し、続いて塩酸水溶液を用いて酸加水分解した。酸化のプロセスはメチオニン及びシステインを酸化し、加水分解中の損失を防ぐ。加水分解後、試料を上記のように分析した。
【0185】
総トリプトファンの定量:トリプトファンはタンパク質の酸加水分解時に破壊されるので、他のアミノ酸と同じやり方で定量できないので、別の方法を使用して分析した。代わりに、試料をアルカリ処理によって加水分解し、HPLC分析で定量した。
【0186】
それぞれのアミノ酸の結果は、検出されたアミノ酸の総量に対して正規化する[g/100gアミノ酸]。
【0187】
実施例1.5:遊離アミノ酸含有量の測定
ホエイタンパク質加水分解物中の遊離アミノ酸は、R. Schuster, "Determination of Amino Acids in Biological, Pharmaceutical, Plant and Food Samples by Automated Precolumn Derivatization and HPLC", Journal of Chromatography, 431:271-284 (1988) and Henderson, J.W., Ricker, R.D. Bidlingmeyer, B.A., Woodward, C., "Rapid, Accurate, Sensitive及びReproducible HPLC Analysis of Amino Acids, Amino Acid Analysis Us-ing Zorbax Eclipse-AAA columns and the Agilent 1100 HPLC," Agilent Publication, 2000の方法で測定する。
【0188】
遊離アミノ酸は、アミノ酸を水溶液又は酸性溶液に抽出することによって測定する。試料は、分子量濾過によってタンパク質を除去してもよい。試料は、注入前に誘導体化した後にHPLCによって分析される。注入前に、一級アミノ酸をo-フタルアルデヒドで誘導体化し、二級アミノ酸をフルオレニルメチルクロロフォメートで誘導体化する。結果は次のように示す:
[mg遊離アミノ酸/100gホエイタンパク質加水分解物粉末]
【0189】
実施例1.6:ホエイタンパク質加水分解物中のペプチド分布の測定方法
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、ホエイタンパク質加水分解物中のペプチドの分子量分布を分析した。SECは、ポリマータイプの分子をサイズによって分離するのに使用される。異なるサイズの成分、ここではペプチドの混合物をSECによって分離することができる。溶出時間が分子の大きさに依存する。分子が小さければ小さいほど、溶出時間は長くなる。
【0190】
試料を移動相に溶かし、0.5%(重量/体積)の濃度にした。注入前に、試料を0.45μmのフィルターでろ過した。直列に結合した3本のTSK G2000 SWXL(125Å、5μm、7.5mm×300mm)カラムでクロマトグラフィー分離を行った。0.0375Mリン酸緩衝液、0.375M塩化アンモニウム、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)、及び25%アセトニトリル(CHCN)のバッファーを移動相として使用し、毎分0.7mLの流量とした。214nmで測定するUV検出器を使用して、ペプチドの検出を行った。
【0191】
保持時間に基づいて、ペプチドの分布をサイズに応じて分け、分子量に応じて相対量を得た。
【0192】
実施例2:酵素の組み合わせのスクリーニング
ホエイタンパク質の酵素加水分解に使用するために、合計で55組のことなる酵素の組み合わせを試験した。得られたホエイタンパク質加水分解物を、透明度、苦み、加水分解度、及びペプチド組成に関して分析した。加水分解の試験は0.5リットルのスケールで行った。
【0193】
さまざまな酵素の組み合わせを試験するのに使用した酵素は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21.62)、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ(EC3.4.21)、微生物由来のトリプシン様プロテアーゼ(EC3.4.21.4)、アスペルギルス属由来のアミノペプチダーゼ(EC3.4.11)、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のメタロエンドペプチダーゼ(EC3.4.24.28)、アナナス・コモサス(ブロメライン)由来のエンドプロテアーゼ(EC3.4.22.32)、アスペルギルス・ニガー由来のプロリン特異的エンドペプチダーゼ(EC: 3.4.21.26)、アスペルギルス・オリゼー由来のアミノペプチダーゼ調製物(EC3.4.11)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のメタロエンドペプチダーゼ調製物(EC3.4.24)及びバチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンドペプチダーゼ調製物(EC3.4)であった。
【0194】
実験に使用した酵素調製物は以下のものであった。
バチルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼ(サブチリシン)及びバシロライシンを含むプロタメックス(ノボザイムズ社)
プロテアーゼ A アマノ 2 SD(天野エンザイム社)、アスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼを含む
Promod 782 MDP(Biocatalysts社)、アスペルギルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼを含む
Formea TL 1200 BG(ノボザイムズ社)、微生物由来のトリプシン様プロテアーゼを含む
Promod 950L(Biocatalysts社)、バチルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼ(サブチリシン)及びバシロライシンを含む
フレーバーザイム conc BG(ノボザイムズ社)、アスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む
アルカラーゼ AF 2.4L(ノボザイムズ社)、バチルス・リケニフォルミス由来のセリンエンドペプチダーゼ(サブチリシン)を含む
ニュートラーゼ conc BG(ノボザイムズ社)、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のメタロエンドペプチダーゼ(バシロライシン)を含む
Promod 523 MDP(ブロメライン)(Biocatalysts社)、アナナス・コモサス由来のシステインエンドペプチダーゼを含む
Maxipro PSP(DSM)、アスペルギルス・ニガー由来のプロリン特異的エンドペプチダーゼ
Flavorpro 766(Biocatalyst社)、アスペルギルス・オリゼー由来のアミノペプチダーゼを含む
サモアーゼ PC10F(天野エンザイム社)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス由来のメタロエンドペプチダーゼを含む
プロチン NY100(天野エンザイム社)、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のエンドペプチダーゼを含む
【0195】
55組の酵素の組み合わせをホエイタンパク質の加水分解に用いた。加水分解の基質として、ホエイタンパク質分離物(WPI)(アーラ・フーズ・イングレディエンツ(Arla Food Ingredients)製のLacprodan DI-9224)の溶液を使用した。すべての実験でWPIの溶液は、8重量%のタンパク質濃度を有した。加水分解反応は、50℃で、pHスタットをpH=7とし、最初の酵素を加えてからの反応時間を6時間で行った。6時間の加水分解した後、99℃に加熱して90秒の保持時間で酵素を失活させることによって 加水分解を停止させた。使用した酵素の量は、タンパク質100g当たりの酵素のグラム単位の量として表1に記載されている。各加水分解試験の生成物を凍結乾燥し、(濁度測定の形での)透明度、加水分解度、並びに味の評価及び採点することを含むさらなる分析に使用した。その結果を下の表1に示す。
NEU:ニュートラーゼを指す。
FZ:フレーバーザイム conc BGを指す。
Alca:アルカラーゼ AF 2.4Lを指す。
PA:プロテアーゼ A アマノ 2 SDを指す。
FTL:Formea TL 1200 BGを指す。
PM782:Promod 782 MDPを指す。
FP766:Flavourpro 766を指す。
MP PSP:Maxipro PSPを指す。
THER:サモアーゼ PC10Fを指す。
PRO:プロチン NY100を指す。
PM950:Promod 950Lを指す。
PTM:プロタメックスを指す。
【0196】
表1に提示の試験に使用した酵素は、96ウェルスケールでの試験に基づいて、より多くの酵素の中から選択した。これらの試験には、さまざまな酵素の組み合わせによる加水分解と、見かけの透明度の目視による採点と熱安定性と加水分解(SDS-PAGE)が含まれていた。pHスタットの加水分解と分析のための大量の材料を可能にするために、表1に示した組み合わせは、上記のように500mlスケールで行った。そのため、表1に示した酵素はランダムに選択されたものではない。表1の酵素の組み合わせのいくつか(例えば組み合わせ1~3)は、異なる量で繰り返した。
【0197】
表1中の「Visual a inact.」という用語は、「失活後の見た目」を指す。
【0198】
表1
【表1】



【0199】
各ホエイタンパク質加水分解物についてデータを評価した。肯定的な評価には、以下の条件が満たされるべきである。
-酵素の失活後の見た目が透明
-15%を超える、好ましくは20%を超える高い加水分解度を有すること
-4%(重量/重量)タンパク質溶液において苦みを有しないこと
-25重量%以下のペプチドが2500Daを超える分子量を有するべきである。
【0200】
試料は99℃で90秒後に透明であるべきである。これはUHT安定性(4%溶液の143℃での6秒間の処理の後に安定で透明)を示すからである。
【0201】
したがって、上記の表から、55組の酵素の組み合わせのうち4つの試料、すなわち試料4、10、11及び30と呼ばれる試料が条件を満たしていることがわかる。
【0202】
試料4は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びトリプシン様プロテアーゼの酵素の組み合わせを用いた加水分解によって得られた。
【0203】
試料10は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、バチルス属由来のメタロエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼの酵素の組み合わせを用いた加水分解によって得られた。
【0204】
試料11は、バチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、アスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを用いた加水分解によって得られた。
【0205】
試料30は、バチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、ブロメライン及びアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを用いた加水分解によって得られた。
【0206】
実施例3:本発明によるホエイタンパク質加水分解物のさらなる分析
透明度、味、加水分解度及びペプチド分布の条件を満たした実施例2の4つのホエイタンパク質加水分解物をさらに分析し、下表に試料1~4(S1~S4)として挙げた。
【0207】
試料5~12(S5-S12)は、他の酵素の組み合わせを用いた加水分解からのホエイタンパク質加水分解物である。
【0208】
試料13(S13)は、バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン(アルカラーゼ)とバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン(ニュートラーゼ)の組み合わせによるスイートホエイの加水分解、それに続く限外濾過、活性炭での処理、及び活性炭を除去するための精密濾過(国際公開第1993/024020A1号に記載)によって得られた噴霧乾燥WPI加水分解物である。加水分解度は約25%である。
【0209】
試料14(S14)は、試料4と同じ酵素の組み合わせ(本発明の酵素の組み合わせ)を使用することによって調製され、WPCが加水分解のための基質として使用されている。
【0210】
試料15及び16(S15~S16)は試料4の複製である。試料15及び16は、試料4と同じ条件を用いてUF濾過なしで調製したWPIをベースとする加水分解物である。
【0211】
さまざまな酵素の組み合わせを用いた酵素加水分解によって作られたホエイタンパク質加水分解物を、透明かどうかについて、加水分解度及び2500Daを超える分子量を有するペプチドの含有量及び375Da未満の分子量を有するペプチドの含有量について再度分析した。
【0212】
試料の透明度(濁度)は実施例1.2による測定によって決定し、試料が透明であると認識されるには比濁法濁度が40NTU未満であるべきであり、試料が透き通っていると認識されるには100NTU未満であるべきである。
【0213】
4%のタンパク質以下で苦味が感じられた場合、試料を苦いと評価した。
【0214】
加水分解度を実施例1.1に記載の方法で測定し、一方で苦みはさまざまな濃度の試料(タンパク質濃度2%、4%、8%)を試食することによって測定した。ペプチドの分布は実施例1.5に記載のように測定した。その結果を表2に示す。
【0215】
表2:
【表2】
【0216】
したがって、表2から、本発明による特定の酵素の組み合わせを使用すると、ホエイタンパク質加水分解物は、1)20%を超える加水分解度を有し、2)25%未満のペプチドが2500Da以上の分子量を有し、3)4%タンパク質以下の濃度で苦味を有しないことが示されている。
【0217】
さらに、表2は、WPIがタンパク質加水分解のために使用される場合、本発明の特定の酵素の組み合わせを使用すると、見た目が透明なホエイタンパク質加水分解物が得られることを示す。表2はまた、WPCが基質として使用されるホエイタンパク質加水分解物の調製における特定の酵素の組み合わせの使用は、20%を超える加水分解度を有するホエイタンパク質加水分解物をもたらし、25%未満のペプチドが2500Da以上の分子量を有し、タンパク質が4%以下の濃度で苦味を有しないことを示す。しかし、WPCを基質として使用することによって調製したホエイタンパク質加水分解物は見た目が透明ではない(WPCに存在する脂質のため)。
【0218】
本発明の好ましい実施形態では、透明な加水分解物を得るのにWPIがタンパク質加水分解の基質として使用される。
【0219】
実施例4:濁度分析
さらに、実施例3の試料1~16のさまざまなタンパク質濃度における比濁法濁度を分析した。100NTU未満の濁度をもつ試料を透き通っているとし、40未満の濁度をもつ試料を透明と認識される。下の表3は、さまざまなタンパク質濃度で測定した、実施例3で試料1~12として挙げた加水分解物の濁度を示す。タンパク質濃度は、1.8%のタンパク質、3.2%のタンパク質、4.8%のタンパク質、6.4%のタンパク質、及び8%のタンパク質である。タンパク質濃度は重量%である。
【0220】
濁度を測定する前に、ホエイタンパク質加水分解物の粉末を、示された濃度で少なくとも30分間水和させた(n=3)。
【0221】
表3:1.8、3.2、4.8、6.4及び8%のタンパク質における試験試料の濁度(NTU)
【表3】
【0222】
したがって、表3より、本発明による特定の酵素の組み合わせは、タンパク質8%の濃度で100NTU未満の濁度を有することが示されている。
【0223】
図1A~Cには、試料13、14及び16の実測濁度が示されている。図1Aは、試料13、14及び16のホエイタンパク質加水分解物の濁度を示しており、濁度の違いを示している。図1Aは、限外濾過に供したホエイタンパク質加水分解物(本発明ではない、試料13)は、非常に低い濁度(1NTU未満)を有し、その加水分解物が最も透明であることが示す。特定の酵素の組み合わせの1つを用いて本発明による方法に従って調製した加水分解物(試料16)は、8%のタンパク質濃度で100NTU未満の濁度を有し、したがって透き通っている。さらに、本発明の加水分解物は、4%のタンパク質濃度で40NTU未満の濁度を有し、したがって、4%のタンパク質濃度で透明と認識される。それに対して、WPCを基質として使用することによって本発明に従って調製したホエイタンパク質加水分解物(試料14)は、1000NTUを超える濁度を有し、したがって不透明であると認識される認識される。
【0224】
図1Bは、試料16の濁度が、タンパク質濃度5%以下で40NTU未満であることをより明確に示している。
【0225】
図1Cは試料14の濁度を示す。非常に低い濃度(約2%)でも、濁度が2000NTUを超えることが示されている。試料14は非常に不透明で透き通っていないと認識される。
【0226】
図2A~Cは、透明な試料対不透明な試料を視覚的に示すように試料13、14及び16の写真を含んでいる。試料は、左から右へ、8%、6.4%、4.8%、3.2%、及び1.8%のタンパク質で調製した。
【0227】
図2Aは、試料16が8%、6.4%、4.8%、3.2%及び1.8%のタンパク質で見た目が透明で透き通っていることを示している。
【0228】
図2Bは試料14を示し、試料14が1.8%の最も低いタンパク質でも見た目が不透明で透き通っていないことを示している。
【0229】
図2Cは試料13を示し、試料13は全ての濃度で見た目が透明で透き通っていることを示している。
【0230】
実施例5:カフェインに関連付けた苦みの評価
実施例5では、本発明によるホエイタンパク質加水分解物の苦みを、WPIを本発明以外の酵素を用いて酵素加水分解(バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン(アルカラーゼ)及びバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン(ニュートラーゼ)による加水分解)によって作られたUF濾過及び活性炭処理ホエイタンパク質加水分解物と比較して分析している。
【0231】
実施例3の試料13、15及び16の味を比較するために官能評価を行った。
【0232】
官能パネルは、カフェイン溶液を参考として用いて苦みを検出及び定量化する訓練を受けた。この訓練でパネリストは、最初に、カフェインの濃度を増加させた溶液から構成される参照試料を提供された。パネリストは、15cmのスケールで未知の溶液に苦みスコアを付ける訓練を受けた。参照試料は、0.025%、0.05%、0.1%のカフェインをそれぞれ含有する3つのカフェイン溶液からなっていた。参照試料の評価後、パネリストは加水分解物試料を4重量%のタンパク質溶液で、順不同で3回試飲し、参照溶液の苦みに基づいて試験溶液の苦みの強さをランク付けした。0.025%のカフェインを含む参照液は苦くないと感じられ、0.1%のカフェインを含む基準液は苦いと感じられた(苦さの15cmスケールで13のスコア)。官能パネルには、評価に参加する7名のパネラーが含まれていた。
【0233】
さらに、パネルを使って、国際規格であるQuantitative Descriptive Profile ISO 13299:2016 2nd ed. 5.5, Annex F1-F6&H3に従って官能プロファイリングを実施した。訓練を受けた7人の評価者が評価に参加した。評価は3回の繰り返しで行った。使用した回答スケールは、連続ラインスケール(15cm)であった。約2mlの試料を常温で提供した。評価の間、赤色光を使用した。
【0234】
カフェインの苦みに関連付けた官能パネルによる苦みスコアを図3に示す。試験試料の苦みスコアをカフェインの濃度に対してプロットしている。3つの異なる濃度のカフェインの苦みと、実施例3の試料13、15及び16の苦みスコアを図3に示す。
【0235】
図3は、試料13(WPIの加水分解物だが、本発明の酵素の組み合わせによるものではなく、加水分解物を限外濾過し、活性炭で処理したもの)が、0.095%の最も高い相対的苦みを有することを示す。試料15(本発明の酵素の組み合わせを用いたが、限外濾過及び活性炭処理を用いなかったWPIの加水分解物)は、3つの生成物試料のうち、0.054%の最も低い相対的苦みを有した。カフェインに対する0.061%の相対的苦みを有する試料16(試料15と同様)の加水分解物にかなり近かった。
【0236】
したがって、本発明に従って調製された味が良いホエイタンパク質加水分解物(試料15及び試料16)の味は、0.08%のカフェインよりも苦くなく、試料13よりも苦くないと感じられた。
【0237】
実施例6:味のプロファイリング
試料13、15及び16のホエイタンパク質加水分解物の味のプロファイルを評価する実施例を行った。味のプロファイリングは訓練を受けたパネルによって行われ、5つの属性を用いて、におい、口当たり、味に注目して試料間の違いを識別した。
【0238】
データを解析して、各属性について試料間の有意差を明らかにした。データの統計的評価を表4に示す。さらに、試料間の差を明らかにするために多重比較検定が用いられている。表4において、同じ文字が付いている試料は有意差がない。
【0239】
表4:官能スコア
【表4】
【0240】
***p<0.001 ダンカン検定。属性について異なる文字をもつ試料は、95%水準で有意に異なる(p<0.05)
【0241】
したがって、試料15及び16の苦みスコアは、試料13の苦みスコアよりも小さい。
【0242】
表4に記載のデータは、レーダーチャートに表したものとして示すことができる。図4を参照されたい。レーダーチャートでは、におい(O)、口当たり(MF)、味(T)の属性が示されている。それぞれの官能属性の「高い」強度('high' intensity)がプロットの外側に示され、「わずかな」強度('little' intensity )がプロットの中央に示される。それぞれの生成物には、図の下に示されている異なるラベルが付いている。例として、「Bitter_T」のデータを参照されたい。***は、試料13並びに試料15及び16のデータが有意に異なることを示している(p<0.001)。
【0243】
味のプロファイルをレーダーチャートで表したものから、試料13は試料15及び16とは味のプロファイルが大きく異なり、最も重要なことに、試料15及び16は苦みが少ないことが示されている。
【0244】
実施例7:LC-MS/MSによる分析とペプチドの切断パターン
液体試料中のペプチドは、質量分析によるペプチド分析とデータベース検索によって同定することができる。試料1、2、3、13、15及び16をLC-MS/MSで分析して、ペプチド配列とそれが由来するタンパク質を同定した。それぞれの試料に存在するペプチドを水に溶かし、Dionex nano-LCシステムに注入し、Bruker Maxis Impact QTOF質量分析計でのMS/MS分析を行った。得られたMS/MSスペクトルを用いた検索を、ウシ由来のタンパク質配列が入っているカスタムメイドのデータベースに対して行った。分析の全体的な結果は表5に示されている。
【0245】
表5:LC-MS/MSで同定されたタンパク質
【表5】
【0246】
*グリコシル化依存性細胞接着分子1
**ウシ血清アルブミン
【0247】
表5のデータにより、この分析が、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、β-カゼインを含む試料中の最も多く含まれているタンパク質に関して高い配列カバレッジをもたらすことが示された。さらに,各試料から同定されたペプチドの数も示されている。データセットはLC-MS/MS分析に期待される品質であったので、より詳細な分析に有効であった(実施例9)。
【0248】
実施例8:苦みペプチドのLS-MS/MS分析
最初に、ペプチドの分布を比較することによって、実施例7のLC-MS/MSデータが、SEC分析(サイズ排除クロマトグラフィー)で得られたデータに対応することを確認した。ここでは、SECデータをパーセンテージ数(所与の分子量のペプチドの数)に変換し、各加水分解物について、LC-MS/MSに基づいて算出した同じデータとともにプロットした(図5を参照)。LC-MS/MSのデータにはβ-ラクトグロブリンのペプチドのみが含まれていた、一方でSEC分析では試料中のすべてのタンパク質が含まれていた。
【0249】
図5から、7~19個のアミノ酸β-ラクトグロブリン由来のペプチドの数の7~10個のアミノ酸の範囲にあるβ-ラクトグロブリン由来のペプチドと11~19個のアミノ酸の範囲にあるβ-ラクトグロブリン由来のペプチドの割合は、LC-MS/MSとSECを用いたときに同様であることが示されている。
【0250】
したがって、データがSECデータと同等であり、SEC法は定量的であることから、図5に示すデータは、LC-MS/MSデータセットの相異なるアミノ酸長の範囲のペプチドの数が、ペプチドの相対的な分布に関する定量的な情報を抽出するために使用できることを示している。さらに、図5により、試料13(本発明外)は、本発明による加水分解物に比べて、ペプチドサイズが小さいペプチドがより多いことが示されている。
【0251】
試料1、2、3、13、15及び16において、ペプチドの総数に対する割合としての、フェニルアラニンを含む検出可能なペプチドの量をMS-LC/MSで明らかにして解析した。その結果を図6に示す。
【0252】
いかなる理論にも縛られることなく、本発明の発明者らは、ペプチド中のフェニルアラニンの存在が苦みと相関し、フェニルアラニンの苦みは、そのアミノ末端又はカルボキシ末端が別のアミノ酸残基とのペプチド結合によってブロックされているとき増強されると考えている。例えば、苦みのあるホエイタンパク質加水分解物中で同定された苦みペプチドYPFPGPIPNのフェニルアラニン残基は、主要な苦み決定因子であることが示唆されている(Liu. X.. Jiang. D.. and Peterson. D.G. Identification of Bitter Peptides in whey protein hydrolysate. J. Agric. Food Chem. 2014. 62: 5719-5725)。
【0253】
図6は、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン及びβ-カゼインに由来するペプチドの総数の割合としてペプチド中のフェニルアラニン含有量を示す。フェニルアラニンを含むペプチドの割合は、ペプチドサイズが9個未満のアミノ酸残基では、苦みの少ない加水分解物の方が低かった。したがって、試料1及び3の本発明によるホエイタンパク質加水分解物については、フェニルアラニンは、ペプチドサイズがより大きいペプチドに存在する。また、試料2、15及び16に代表される本発明によるホエイタンパク質加水分解物は、フェニルアラニンを含むペプチドの割合が低いが、さらに、試料2、15及び16は、ペプチドに結合しているフェニルアラニンの割合も全体的に低いことを示した。このことは、試料1、3及び13よりも試料2、15及び16のほうが、遊離アミノ酸として存在するフェニルアラニンがより多く存在する可能性を示す。したがって、本発明による苦みの無いホエイタンパク質加水分解物の指標は、フェニルアラニンの大部分が、より大きいペプチドに存在しているか、又は遊離アミノ酸として存在しているということである。
【0254】
図7では、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン及びβ-カゼインからの5~19個のアミノ酸のペプチドの割合が示されている。
【0255】
図7から、試料13(本発明外)は、他の5つのホエイタンパク質加水分解物に比べて、小さいペプチド(5~9個のアミノ酸)をより多く含むことが示されている。いかなる理論にも縛られることなく、本発明の発明者らは、試料13の加水分解物において、より小さいペプチドサイズのペプチドを含むフェニルアラニンの含有量がより多いことが、本発明による加水分解物である試料1、2、3、15及び16に比べて、試料13の苦みが高い理由でありうると考えている。
【0256】
実施例9:SECサイズ分布データ
試料1、2、3、13、15及び16中のペプチドのサイズをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分析した。その結果を下の表6に示す。
【0257】
表6:試料1、2、3、13、15及び16のホエイタンパク質加水分解物に関するSECサイズ分布データ、DH及び遊離アミノ酸(FAA)含有量
【表6】
【0258】
サイズ排除クロマトグラフィーデータは、主にペプチド結合が吸収されると予想される214nmでの測定によって取得しているので、このデータは遊離アミノ酸を正確に考慮に入れていない。
【0259】
したがって、遊離アミノ酸の含有量を異なる別の方法で測定した(実施例10を参照)。試料13の参照ホエイタンパク質加水分解物と比較して、本発明によるホエイタンパク質加水分解物は、遊離アミノ酸の含有量がより高い。しかし、小さいペプチドの含有量は、本発明のホエイタンパク質加水分解物よりも参照ホエイタンパク質加水分解物(試料13)のほうが高い。例えば、750Da以下のペプチドの含有量は、試料13では50%を超える。それに対して、750Da以下のサイズを有する本発明のホエイタンパク質加水分解物のペプチドの含有量は40%未満である。さらに、試料13には、本発明のホエイタンパク質加水分解物と比べて、2500Da以上のペプチドがより少なく含まれる。
【0260】
これらのデータを実施例8のデータと比較すると、試料2、15及び16のベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、ベータ-カゼインに由来するペプチドのフェニルアラニン含有量が全体的に低いのは、これらのフェニルアラニン残基がペプチドから遊離アミノ酸画分に放出されている結果であることが明らかになる。したがって、加水分解物の苦みを低減する方法は、全加水分解物の遊離アミノ酸画分にフェニルアラニンを特異的に濃縮する酵素の組み合わせを特定することでありうる。
【0261】
実施例10:実測遊離アミノ酸含有量
本発明のホエイタンパク質加水分解物中の遊離アミノ酸含量を測定し、参照ホエイタンパク質加水分解物(本発明外)と比較した。その結果を下の表7に示す。
【0262】
表7:遊離アミノ酸含有量(mg/100gタンパク質(N×6.38))
【表7】
【0263】
表7から、本発明のホエイタンパク質加水分解物中の遊離アミノ酸含有量は、総タンパク質含有量の4重量%~14重量%であることが示されている。それに対して、参照加水分解物(試料13)の遊離アミノ酸含有量は、総タンパク質含有量の約0.4重量%である。
【0264】
さらに、表7は、本発明のホエイタンパク質加水分解物中の遊離ロイシンの含有量が、試料13中の遊離ロイシンよりもはるかに高いことを示している。本発明のホエイタンパク質加水分解物中の遊離ロイシンの含有量は、総タンパク質含有量の1~4重量%である。それに対して、試料13の遊離ロイシンの含有量は、総タンパク質含有量の約0.15重量%である。
【0265】
さらに重要なことには、実施例8及び9で示唆された遊離フェニルアラニンの濃度は、試料1、3及び13よりも試料2、15及び16で高い。表8には、総アミノ酸含量に対する遊離アミノ酸の割合が示されている。
【0266】
表8:総アミノ酸のうちの遊離アミノ酸(%)
【表8】
【0267】
本発明のホエイタンパク質加水分解物の全ロイシン含有量のうちの遊離ロイシンの割合が、参照加水分解物(試料13)よりもはるかに高いことは特に注目すべきである。
【0268】
重要なことには、表8は、試料2、15及び16の本発明によるホエイタンパク質加水分解物に関して、フェニルアラニンの6~12%が遊離フェニルアラニンの形態であったことを示している。試料1及び3の本発明によるホエイタンパク質加水分解物では、フェニルアラニンは遊離の形態では見られなかった。
【0269】
実施例11:本発明のホエイタンパク質加水分解物中のミネラルの含有量
試料15及び16中のミネラルの量を測定した。その結果を下の表9に示す。
【0270】
表9:ミネラルの含有量
【表9】
【0271】
表9は、ホエイタンパク質加水分解物のミネラル含有量の一例として、試料15及び16のミネラル含有量と濁度を示す。表9の生成物はすべて、22℃で4%タンパク質溶液のpHが7.8である。
【0272】
実施例12:加水分解物中の非分解BSA
非分解のウシ血清アルブミン(BSA)の量を、本発明のホエイタンパク質加水分解物(試料1、2、3、4、15及び16)で測定した。
【0273】
BSAの含有量は、SDS-PAGE及びシグマアルドリッチ製の製品コードA2153のBSA標準を使用して推定した(図9A)。20%のウェルに載せたBSAの量は、10μgの純粋なBSAに相当した。図9Bに示したSDS-PAGEゲルの各ウェルに加えたタンパク質の総量は、50μgのタンパク質に相当した。タンパク質試料を、10mg/mlのLaemmliサンプルバッファー及び2-メルカプトエタノールと混ぜ、タンパク質の最終濃度を3%にした後、95℃で5分間インキュベートしてからゲルに載せた。
【0274】
図9AのSDS-PAGEゲルは、図9BのBSAがホエイタンパク質の総量の20%、10%、5%、2.5%、1.25%又は0.63%に当たる場合に予想される強度を示す滴定系列である。さまざまな濃度の標準のSDS-PAGEゲルを、ホエイタンパク質加水分解物のさまざまな試料を用いた図9Bに示したSDS-PAGEゲルと比較した。左から右に、分子量標準、試料2、試料1、試料3、試料4、試料15及び試料16である。
【0275】
図9Bのバンドの強度が、図9Aの0.63%及び1.25%の試料の強度に相当しているので、図9A及び図9Bから、本発明のホエイタンパク質加水分解物(図9B)中の非分解BSAは0.5~2重量%の範囲にあると結論づけることができる。BSAは、本発明に従って使用される酵素によるタンパク質分解に対して耐性があった。
【0276】
実施例13:スポーツ栄養のためのUHT処理飲料
実施例13は、スポーツ栄養に使用するのに適した飲料の調製における本発明によるホエイタンパク質加水分解物の使用の例を示す。その飲料は、アスリートによって、又はその他のスポーツ又は運動関連の用途で使用されることを意図している。
【0277】
試料16の粉末を水に再溶解させ、糖と風味料を加えて飲料を調製した。成分の量を下の表10に示す。
【0278】
表10は、さらなる濁りを発生させることなく、直接及び間接的なUHT処理による加熱処理も、低温殺菌も可能であった、不快な苦味のない偏らない味(neutral tasting)の飲料を示す。
【0279】
表10:スポーツ飲料
【表10】
【0280】
表10に示したスポーツ飲料を、1)直接UHT、2)間接UHT、及び3)低温殺菌に供した。直接UHT処理は143℃で6秒間噴射して行った。間接UHT処理は管状熱交換器で143℃にて6秒間行った。低温殺菌は90℃で6.5分であった。飲料は5℃のフラスコに流し入れた。溶液はすべて、pHが22℃で約7.7であった。4.9g/100gの含有量の本発明のホエイタンパク質加水分解物は、4.0重量%のタンパク質に相当する。
【0281】
図8には、左から右に向かって、非処理飲料、直接UHT処理飲料、間接UHT処理飲料及び低温殺菌飲料の写真が示されている。飲料は室温である。図8は、すべての試料が透明で透き通り、ボトルの後ろの背景が見えることを示している。
【0282】
4つの飲料の比濁法濁度を測定し、その結果を表11に示す。
【0283】
表11:NTUで測定した飲料の濁度
【表11】
【0284】
したがって、表11から、加熱処理した試料の濁度はすべて100NTU未満であったことが示されている。したがって、加熱処理は飲料の濁度に影響を与えず、見た目は透明又は透き通っていた。
【0285】
これらの飲料は、苦いとは感じられなかった。
【0286】
実施例14:臨床/医療使用のための飲料
実施例14は、医療又は臨床栄養に使用するのに適した飲料の調製における本発明によるホエイタンパク質加水分解物の使用の例である。この臨床用飲料は、本発明のホエイタンパク質加水分解物からのほかに、多量の炭水化物を含む。
【0287】
試料16の粉末を水に再溶解し、炭水化物と風味料を加えて飲料を調製した。成分の量を下の表12に示す。
【0288】
表12は、不快な苦味のない偏らない味の医療用飲料を示す。
【0289】
表12:医療用飲料
【表12】
【0290】
実施例15:炭酸飲料
実施例15は、炭酸飲料の調製における本発明によるホエイタンパク質加水分解物の使用の例を示す。
【0291】
試料16の粉末を水に再溶解させ、糖と風味料を加えて飲料を調製した。成分の量を下の表13に示す。飲料1体積あたり2.5体積の二酸化炭素を含むようになるまで飲料に二酸化炭素を加えることによって、飲料を炭酸化した。
【0292】
表13:炭酸飲料
【表13】
【0293】
実施例16:炭酸化 - 炭酸化の量はどのようにpHに影響するか
試料16を水に懸濁させて、8%タンパク質溶液を作った。溶液を5℃で強制的に炭酸化した。
【0294】
質量増加と溶液のpH値を、COをより多く導入しつつ経時的に測定した。容器内の平衡状態での圧力が約1バールに達すると、それ以上COを吸収することができなかった(強制炭酸下で使用した圧力は5℃で3バールであった)。
【0295】
図10では、pHの測定値が、炭酸溶液に加えたCOの量は依存するのを示している。図10は、試料16のホエイタンパク質加水分解物を含む溶液を、溶液1体積あたり0~4体積のCO含有量になるように炭酸化したとき、5.5~8.25のpHになることを示している。炭酸化していない溶液のpHは、p値が8.25であり、炭酸化の量が増えるにつれてpH値は下がった。
【0296】
図10は、溶液1体積あたり約2.5体積(4.9g/L)にCOを加えると、5℃でpHが8.25から約6.0に下がったことを示している。
【0297】
また、図10は、pHは約5.5~6.0の最小値に達することを示している。したがって、溶液1体積あたり2.5体積を超える量のCOを加えても、pHが約5.5~6.0より下に減少することはないと結論づけることができる。
【0298】
さらに、溶液や飲料のpH値に対する炭酸化の影響を、溶液/飲料1体積あたり2.5体積のCOの量に炭酸化した以下の溶液/飲料のpHを測定することによって分析した。- 試料16を水に再懸濁して調製した4%タンパク質溶液
- 試料16を水に再懸濁して調製した8%タンパク質溶液
- 試料16を8%含む飲料
その結果を図11に示す。
【0299】
試料16を8%含む飲料は以下の成分を含む。
【0300】
【表14】
【0301】
図11は、試料16の4%及び8%の溶液並びに試料16から調製した飲料はいずれも、溶液1体積あたり2.5体積のCOのCO含有量まで炭酸化したときに、約6.0のpHを有することを示している。
【0302】
実施例17:炭酸溶液の加熱処理の分析
試料16の8%タンパク質の溶液を、実施例16に開示のように、溶液1体積あたり2.5体積のCO2で炭酸化した。
【0303】
その溶液を、データログ付きの密閉容器で95℃の温度に熱した。加熱中のさまざまな時間に、温度、pH及び濁度を測定し、その結果を図12に示す。
【0304】
図12に示すように、炭酸化された生成物は、加熱中ずっと、及び95℃で5分後、実測濁度及び目視検査で示されるように透明なままであった。pHは加熱中ずっと6.2のままであった。これらのデータにより、炭酸製品は、低温殺菌や、本質的に最高120℃の温度で長時間、例えば20分間の処理であるオートクレーブなどの処理に適しうることが示された。
【0305】
実施例18:プロテインバー
実施例18は、プロテインバーの調製における本発明によるホエイタンパク質加水分解物の使用の例を示す。
【0306】
表14は、本発明のホエイタンパク質加水分解物(粉末)の含有量が5g/100gのプロテインバーの例である。
【0307】
表14:プロテインバー
【表15】
【0308】
表15には、プロテインバーの別の例が示されており、その例では、ホエイタンパク質加水分解物(粉末)の含有量が13g/100gの量である。
【0309】
表15:プロテインバー
【表16】
【0310】
実施例19:DPPHアッセイを用いた抗酸化活性の分析
本発明のホエイタンパク質加水分解物の抗酸化効果は、ラジカル消去能アッセイであるDPPHアッセイを使用することによって分析した。DPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル-水和物)の色は、抗酸化ペプチドと反応すると紫色から黄色に変化するので、DPPHを使用することによってこのアッセイは抗酸化効果を測定する。
【0311】
DPPHをメタノールに溶かして0.2mMの濃度にした。本発明のホエイタンパク質加水分解物(試料16)をミリQ水に分散さて、さまざまな濃度のタンパク質(0、0.8、1.5、2.5、3.0、4.0、5.0及び6.0%タンパク質)にし、等量(比率1:1)でDPPHと混ぜた。この混合物を22℃で2時間インキュベートして、抗酸化活性の結果として黄色に発色させた。525nmでの吸光度を測定し、100×(A-A)/Aとして消去率を計算した。式中、Aは試料が非存在下での吸光度であり、Aは試料存在下での吸光度である。
【0312】
表16は、本発明のホエイタンパク質加水分解物(試料16)のさまざま濃度に対する消去率を示す。
【0313】
表16
【表17】
【0314】
表16から、試料16のホエイタンパク質加水分解物は、タンパク質0.8~6%の濃度でDPPHアッセイに含まれたとき、抗酸化活性を有することが示されている。表16に示されるように、タンパク質の濃度が上がるにつれて、抗酸化活性は増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2021-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって、
a)ホエイタンパク質を全固形分に対して少なくとも50重量%の量で含むホエイタンパク質溶液を用意すること、
b)前記ホエイタンパク質溶液を、以下の酵素の組み合わせ:
i)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともトリプシン様プロテアーゼを含む組み合わせ、
ii)少なくともバチルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス属由来のセリンエンドペプチダーゼ及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
iii)少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともブロメライン、及び少なくともアスペルギルス属由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
のうちのいずれか1つを使って行われる酵素加水分解に供すること、
c)加水分解度(DH)が20%以上のときに前記酵素を失活させることによって前記酵素加水分解を停止させてホエイタンパク質加水分解物を得ること
を含み、
ステップc)で得られた前記ホエイタンパク質加水分解物を限外濾過するステップを全く含まない方法。
【請求項2】
ステップc)で得られた前記ホエイタンパク質加水分解物を濃縮する、かつ/又は乾燥させるステップd)をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)の前記ホエイタンパク質溶液が、脂質を全固形分に対して最大10重量%の量で含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)の前記酵素加水分解が、40℃~75℃の範囲の温度で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)の酵素の失活が、少なくとも80℃、好ましくは80℃~130℃の温度に加熱することによる請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ホエイタンパク質溶液が、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質分離物、及び/又はホエイタンパク質分離物を含む請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ホエイタンパク質溶液が、タンパク質を前記ホエイタンパク質溶液の2重量%以上の量で含む請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記加水分解度(DH)が20%~35%の範囲にあるとき、ステップc)の前記酵素加水分解が、前記酵素を失活させることによって停止される請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップb)の前記酵素加水分解が、以下の酵素の組み合わせ:
i.少なくともバチルス属の種由来のセリンエンドペプチダーゼ、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくとも微生物由来のトリプシン様プロテアーゼを含む組み合わせ、
ii.少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のセリンエンドペプチダーゼ、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ、
iii.少なくともバチルス・アミロリクエファシエンス由来のバシロライシン、少なくともアナナス・コモサス由来のブロメライン、及び少なくともアスペルギルス・オリゼー由来のロイシルアミノペプチダーゼを含む組み合わせ
のうちのいずれか1つを使って行われる請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ホエイタンパク質加水分解物であって、
-遊離アミノ酸及びペプチドを含み、
-少なくとも20%の加水分解度を有し、
-2500Da以上の分子量を有するペプチドをペプチドの総量の8~25重量%の量で有し、
-遊離アミノ酸を、前記加水分解物の総アミノ酸含有量の15重量%以下の量で有し、かつ
4%(重量/重量)タンパク質溶液において、0.08%(重量/体積)以下のカフェインの溶液に相当する苦みスコアを有するホエイタンパク質加水分解物。
【請求項11】
前記加水分解度が20%~35%である請求項10に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項12】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、4%(重量/重量)タンパク質溶液において、100以下の比濁法濁度(NTU)を有する請求項10又は11のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項13】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、遊離アミノ酸を、前記加水分解物の総タンパク質含有量の2~15重量%の量で含む請求項1012のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項14】
前記ホエイタンパク質加水分解物が抗酸化活性を有する請求項1013のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項15】
前記ホエイタンパク質加水分解物の前記抗酸化活性が、1.5重量%タンパク質溶液において54~60の消去率を有することとして測定される請求項10~14に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項16】
食品における請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用
【請求項17】
前記ホエイタンパク質加水分解物前記食品において、2~25重量%の加水分解タンパク質に相当する量で使用される請求項16に記載の使用
【請求項18】
前記食品が、乳製品、飲料、シェイク、ゲル、ショット及びフードバーからなる群より選択される請求項16又は17のいずれかに記載の使用
【請求項19】
食品成分としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項20】
6.5~8.0のpHを有するUHT安定飲料の調製における食品成分としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項21】
スポーツ栄養として使用するための飲料の調製における食品成分としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項22】
臨床用飲料の調製における食品成分としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項23】
炭酸飲料の調製における成分としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項24】
酸化防止剤としての請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項25】
請求項1015のいずれかに記載の前記ホエイタンパク質加水分解物を含む炭酸飲料。
【国際調査報告】