(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】がんを治療するためのPRG4の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220727BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220727BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220727BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220727BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20220727BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220727BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
C07K14/78 ZNA
C07K16/28
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570319
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 US2020035841
(87)【国際公開番号】W WO2020247440
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511282830
【氏名又は名称】ルブリス,エルエルシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボンニ,シリン
(72)【発明者】
【氏名】サルカール,アヌシ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,タンニン,エー.
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ベンジャミン,ディー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA34
4C084CA18
4C084CA53
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
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4C084ZC411
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で開示されるのは、ルブリシンとしても知られているPRG4糖タンパク質を使用して、がんを治療又は予防する方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRG4を患者に投与して、がんを治療するか又はがんの増殖若しくは進行を遅らせることを含む、患者の前記がんを治療するか又は前記がんの増殖若しくは進行を遅らせる方法。
【請求項2】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記がんが乳がんである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記がんが肝細胞がん腫である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記がんが、頭頸部がん、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
PRG4が、別の抗がん剤と関連して投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗がん剤が、PRG4なしで単独で投与される場合にがんを治療するために必要とされる前記抗がん剤の治療有効量よりも低い用量で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗がん剤が、化学療法又は放射線である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記化学療法が、アクチノマイシン、アブラキサン、アルトレタミン、アラノース、アザシチジン、アザチオプリン、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カバジタキセ、カペシタビン、カルボプラチン、カルモフール、カルムスチン、クロラムブシル、クロルメチン、クロロゾトシン、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラムスチン(ertramustine)、エチルニトロソウレア、エルロチニブ、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フォテムスチン、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、イマチニブ、イクサベピロン、ラパチニブ、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ネダプラチン、ネララビン、ニムスチン、ニロチニブ、N-ニトロソ-N-メチル尿素、プロカルバジン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、ラニムスチン、ラルチトレキセド、レゴラフェニブ、ロミデプシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾトシン、タフルポシド、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テモゾロマイド、テムシロリムス、テニポシド、チオグアニン、トファシチニブ、トポテカン(opotecan)、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビン、ボリノスタット、又はビスモデギブから選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学療法が、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、ジヌツキシマブ、イブリツモマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、トラスツズマブ、リツキシマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、ベバシズマブ、セミプリマブ(camiplimab)、又はスパルタリズマブから選択される抗体治療である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記化学療法又は抗がん剤がソラフェニブ及び/又はレゴラフェニブである、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ソラフェニブの用量が1日2回400mg未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
レゴラフェニブの用量が1日1回160mg未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記放射線が、外照射療法、近接照射療法、又は体幹部定位放射線療法(SBRT)である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記PRG4が全身投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記投与が、皮下、筋肉内、又は静脈内である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記PRG4が、前記がんの位置に局所的に投与される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記投与が、注射によるものである、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記PRG4が、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記PRG4が、前記抗がん剤に対する前記がんの化学感受性を増強する、請求項9~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記PRG4と前記抗がん剤との組み合わせが、前記がんを治療する、請求項9~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
治療有効量のPRG4をそれを必要とする患者に投与して、以前に治療されたがんの再発又は増殖を予防することを含む、以前に治療されたがんの再発を予防又は抑制する方法。
【請求項26】
前記PRG4が、前記以前に治療されたがんの部位に局所的に投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記PRG4が、局所的に又は部位への注射によって投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記PRG4が前記患者に全身投与される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記以前に治療されたがんが、外科的切除によって患者から除去され、前記腫瘍の外科的切除後に、PRG4が前記患者に投与される、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記PRG4が、前記腫瘍の外科的切除の部位に局所的に投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記PRG4が、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与される、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である、請求項25~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、請求項25~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を有する、請求項25~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記がんが、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択される、請求項25~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記がんが乳がんである、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記がんがトリプルネガティブ乳がんである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記がんが、頭頸部扁上皮がん腫、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病である、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記がんが肝細胞がん腫である、請求項25~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記患者が、以前に治療されたがんから完全寛解している、請求項25~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記患者が、以前に治療されたがんから部分寛解している、請求項25~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記以前に治療されたがんの再発が、前記PRG4の投与によって、1年間、2年間、3年間、4年間又は5年間予防される、請求項25~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
PRG4を免疫療法剤と組み合わせてそれを必要とする患者に投与することを含み、前記PRG4と前記免疫療法の組み合わせががんを治療する、がんを治療する方法。
【請求項44】
前記免疫療法が、抗PD1又は抗PD-L1抗体である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記免疫療法が、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、イピリムマブから選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
PRG4と免疫療法剤による前記患者の治療が、前記免疫療法単独での治療と比較して、前記がんの治療を改善する、請求項43~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記がんが、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択される請求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記がんが乳がんである、請求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記がんがトリプルネガティブ乳がんである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記がんが、頭頸部扁上皮がん腫、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病である、請求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記がんが肝細胞がん腫である、請求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記PRG4が、前記患者に全身投与される、請求項43~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記PRG4が、がんの部位で局所的に前記患者に投与される、請求項43~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記PRG4が、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与される、請求項43~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である、請求項43~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、請求項43~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記PRG4が、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を有する、請求項43~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含むか又は配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか又は配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、組換えヒトPRG4である、がんの治療に使用するためのPRG4。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] 本出願は、それぞれそれらの全体が参照により本明細書に援用される、2019年6月3日に出願された米国仮特許出願第62/856,514号及び2020年4月21日に出願された米国仮特許出願第63/013,427号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
配列表
[0002] 本出願は、その内容全体が参照により本明細書に援用される、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含む。前記ASCIIコピーは、2020年6月2日に作成され、LUB_032WO_SL.txtという名称で、サイズは19,246バイトである。
【0003】
技術分野
[0003] 本発明は、ルブリシンとしても知られている、ヒト糖タンパク質PRG4の新規用途に関する。より具体的には、それは、PRG4を使用して、がん及びがんに関連する又はがんに付随する病状を治療することに関する。
【背景技術】
【0004】
背景
[0004] プロテオグリカン4遺伝子(PRG4)は、巨核球刺激因子(MSF)、並びに高度にグリコシル化された異なるスプライシングを受けた変異型、及びルブリシンとしても知られている「表在ゾーンタンパク質」のグリコフォームをコード化する。表在ゾーンタンパク質は、最初に表在ゾーンからの外植片軟骨の表面に局在し、馴化培地で同定された。ルブリシンは最初に滑液から単離され、軟骨-ガラス界面及びラテックス-ガラス界面で滑液と同様の生体外での潤滑能力を実証した。その後、それは滑膜線維芽細胞の産物として同定され、その潤滑能力性は、エクソン6でコード化される940アミノ酸の大きなムチン様ドメイン内のO-結合型β(1-3)Gal-GalNAcオリゴ糖に依存することが発見された。ルブリシン分子は差示的にグリコシル化されており、いくつかの天然に存在するスプライス変異型が報告されてきた。それらは、本明細書で集合的にPRG4と称される。PRG4は、体内の滑膜、腱、半月板などの関節軟骨の表面、眼の保護膜などに存在することが示されてきており、関節の潤滑と滑膜の恒常性に重要な役割を果たす。
【0005】
[0005] 完全長の組換えヒトPRG4(rhPRG4)タンパク質は、成功裏に大規模発現されており、基本的な翻訳ベースの調査に利用できる。rhPRG4は、適切なより高次の構造及びグリコシル化を保持することが示されており、したがって効率的な生体外潤滑及び抗付着機能を示す(Abubacker et al., Ann Biomed Eng. 2016; 44(4):1128-37; Samsom et al., Exp Eye Res. 2014;127:14-9)。重要なことに、rhPRG4は、前臨床生体内変形性関節症モデルにおいて、関節内注射を介して、関節の健康を維持する上で効果的な生体内治療的価値を提供する(Elsaid et al., Osteoarthritis and Cartilage. 2015;23(1):114-21; Walker et al., Am. J. Sports Med., 2017;45(7):1512-21)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出願人らは今や、ルブリシンががん細胞に影響を及ぼし、がんとがんに付随する病状を治療するために使用され得ることを発見した。特に、出願人らは、PRG4が新生物細胞の表現型並びに新生物細胞のストレス応答を変化させ、例えば、腫瘍細胞の浸潤性及び遊走性を低下させると判断した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
[0006] 本発明は、一態様では、PRG4が患者に投与され、がんが治療されるか又はがんの増殖若しくは進行が遅延される、患者におけるがんを治療するか又はがんの増殖若しくは進行を遅延させる方法を含む。
【0008】
[0007] 一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である。一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%の配列同一性を有する。別の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
【0009】
[0008] 一実施形態では、がんは、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん(HCC)、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択される。例えば、がんは乳がんであってもよい。例えば、がんは、頭頸部がん、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病であってもよい。例えば、がんは肝細胞がん腫であってもよい。
【0010】
[0009] 一実施形態では、PRG4は、別の抗がん剤と関連して投与される。例えば、抗がん剤は、化学療法又は放射線治療であってもよい。放射線治療は、例えば、外照射療法、近接照射療法、又は体幹部定位放射線療法(SBRT)であってもよい。
【0011】
[0010] 一実施形態では、PRG4は別の抗がん剤と関連して投与され、抗がん剤は、PRG4なしで単独で投与されるがんを治療するための抗がん剤の治療有効用量よりも少ない用量で投与される。例えば、一実施形態では、抗がん剤は、1日当たり800mg未満又は1日2回400mg未満の用量で投与されるソラフェニブである。別の実施形態では、抗がん剤は、1日160mg未満の用量で投与されるレゴラフェニブである。別の実施形態では、がんは肝細胞がん腫である。
【0012】
[0011] 一実施形態では、化学療法は、アクチノマイシン、アブラキサン、アルトレタミン、アラノース、アザシチジン、アザチオプリン、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カバジタキセ、カペシタビン、カルボプラチン、カルモフール、カルムスチン、クロラムブシル、クロルメチン、クロロゾトシン、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラムスチン(ertramustine)、エチルニトロソウレア、エルロチニブ、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フォテムスチン、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、イマチニブ、イクサベピロン、ラパチニブ、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ネダプラチン、ネララビン、ニムスチン、ニロチニブ、N-ニトロソ-N-メチル尿素、プロカルバジン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、ラニムスチン、ラルチトレキセド、レゴラフェニブ、ロミデプシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾトシン、タフルポシド、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テモゾロマイド、テムシロリムス、テニポシド、チオグアニン、トファシチニブ、トポテカン(opotecan)、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビン、ボリノスタット、又はビスモデギブから選択されてもよい。一実施形態では、化学療法は、ソラフェニブ及び/又はレゴラフェニブである。さらなる実施形態では、がんは肝細胞がん腫であり、化学療法はソラフェニブ及び/又はレゴラフェニブである。
【0013】
[0012] 別の実施形態では、化学療法は、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、ジヌツキシマブ、イブリツモマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、トラスツズマブ、リツキシマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、ベバシズマブ、セミプリマブ(camiplimab)、又はスパルタリズマブから選択される抗体治療であってもよい。
【0014】
[0013] 一実施形態によれば、PRG4は患者に全身投与される一方で、その他の実施形態では、PRG4は皮下、筋肉内、又は静脈内投与によって投与される。PRG4はまた、がんの位置に局所的に投与されてもよい。投与は、注射によるものであってもよい。PRG4は、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与されてもよい。
【0015】
[0014] いくつかの実施形態では、PRG4は、抗がん剤に対するがんの化学感受性を増強する。いくつかの実施形態では、PRG4と抗がん剤の組み合わせは、がんを治療する。
【0016】
[0015] 別の態様では、本発明は、以前に治療されたがんの再発を予防又は抑制するための方法を提供する。この方法は、それを必要とする患者に治療的有効量のPRG4を投与して、患者における以前に治療されたがん再発又は増殖を防止することを含む。一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である。一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%の配列同一性を有する。別の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
【0017】
[0016] いくつかの実施形態では、以前治療されたがんは、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択されるがんである。例えば、一実施形態では、がんは乳がんである。さらなる実施形態では、がんはトリプルネガティブ乳がんである。なおも別の実施形態では、がんは、頭頸部扁上皮がん腫、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病である。一実施形態では、がんは肝細胞がん腫である。
【0018】
[0017] いくつかの実施形態では、PRG4は、以前に治療されたがんの部位に局所的に投与される。例えば、局所投与は、局所投与又は部位への注射によって起こり得る。その他の実施形態では、PRG4は患者に全身投与される。PRG4は、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与されてもよい。
【0019】
[0018] いくつかの実施形態では以前に治療されたがんは、外科的切除によって患者から除去され、PRG4は、腫瘍の外科的切除後に患者に投与される。このような場合、PRG4は腫瘍の外科的切除部位に局所的に投与されてもよい。PRG4は、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与されてもよい。
【0020】
[0019] この方法のいくつかの実施形態によれば、患者は以前に治療されたがんから完全に寛解している一方で、その他の実施形態では、患者は以前に治療されたがんから部分的に寛解している。いくつかの実施形態では、以前に治療されたがんの再発は、PRG4の投与によって、1年間、2年間、3年間、4年間又は5年間予防される。
【0021】
[0020] 別の態様では、本発明は、それを必要とする患者に免疫療法剤と組み合わせてPRG4を投与することを含むがんを治療する方法を含み、PRG4と免疫療法の組み合わせががんを治療する。一実施形態では、免疫療法は、抗PD1又は抗PD-L1抗体である。別の実施形態では、免疫療法は、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、イピリムマブから選択される。さらなる実施形態では、PRG4と免疫療法剤による患者の治療は、免疫療法単独による治療と比較して、がんの治療を改善する。
【0022】
[0021] 本発明のこの方法によれば、がんは、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん(HCC)、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍から選択されてもよい。がんは、一実施形態では乳がんであってもよく、別の実施形態ではトリプルネガティブ乳がんであってもよく、又はがんは頭頸部がん、乳がん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、又は白血病であってもよい。一実施形態では、がんは肝細胞がん腫である。
【0023】
[0022] 一実施形態によれば、PRG4は、全身的に患者に投与される一方で、別の実施形態では、PRG4は、がんの部位で局所的に患者に投与される。一実施形態では、PRG4は、0.1μg/kg~4,000μg/kgの量で投与される。なおも別の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である。一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%の配列同一性を有する。別の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
【0024】
[0023] 一実施形態では、本発明は、がんの治療に使用するためのPRG4を含む。例えば、一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列を含む組換えヒトPRG4である。一実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99%の配列同一性を有する。別の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404と少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面の簡単な説明
【
図1A】[0024]450nmでのTMB-ELISAによって検出された、リコンビナントヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)、高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)、及び中間分子量ヒアルロン酸(MMW HA)の組換えヒトCD44受容体への結合を示すデータを示す棒グラフである。データは、群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。rhPRG4、HMW HA、MMW HA、及びビトロネクチンと、CD44-IgG1 Fc及びIgG Fcとを使用した場合の結合を示す。星印(
*)は、CD44-IgG1 Fcウェルの450nm吸光度が、rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAのIgG1 Fcウェルよりも統計的に有意に高かったことを示す(p<0.001)。
【
図1B】[0024]450nmでのTMB-ELISAによって検出された、リコンビナントヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)、高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)、及び中間分子量ヒアルロン酸(MMW HA)の組換えヒトCD44受容体への結合を示すデータを示す棒グラフである。データは、群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。rhPRG4、HMW HA及びMMW HAの濃度依存性CD44結合を示す。rhPRG4へのCD44結合は、HMW HA又はMMW HAよりも有意に高かった(p<0.001)。二重星(
**)は、rhPRG4へのCD44の結合が、MMW HAよりも有意に高かったことを示す(p<0.001)。
【
図1C】[0024]450nmでのTMB-ELISAによって検出された、リコンビナントヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)、高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)、及び中間分子量ヒアルロン酸(MMW HA)の組換えヒトCD44受容体への結合を示すデータを示す棒グラフである。データは、群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。96ウェルELISAプレートに被覆されたCD44への結合における、rhPRG4(5μg/mL)と、HMW HA又はMMW HAのどちから(0.01μg/mL~50μg/mL)の間の競合を示す。星印(
*)は、HMW HA+rhPRG4ウェルのCD44結合百分率が、rhPRG4ウェルよりも有意に低かったことを示し(p<0.05);(
**)は、MMW HA+rhPRG4ウェルのCD44結合百分率が、rhPRG4ウェルよりも有意に低かったことを示す(p<0.05)。
【
図2A】[0025]表面プラズモン共鳴を用いて、組換えヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)の組換えCD44への結合、及びD44結合におけるrhPRG4と高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)との間の競合を示す。固定化CD44-IgG
1FcへのrhPRG4(300μg/mL~50μg/mL)の濃度依存性の会合及び解離を描写するセンソグラムである。破線の曲線はrhPRG4のCD44キメラタンパク質への結合曲線を表し、黒線は適合させた1:1結合モデルを表す。
【
図2B】[0025]表面プラズモン共鳴を用いて、組換えヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)の組換えCD44への結合、及びD44結合におけるrhPRG4と高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)との間の競合を示す。相対応答-HMW HA結合と対比した、相対応答-rhPRG4結合を示すプロットである。固定化CD44-IgG
1Fcへの結合におけるrhPRG4とHMW HAの間の競合。rhPRG4は、300(1)、250(2)、200(3)、150(4)、100(5)、50(6)、及び0(7)μg/mLで注射された。rhPRG4の解離に続いて、HMW HAは50で注入されたμg/mL。rhPRG4の濃度が増加すると、引き続くCD44へのHMW HAの結合は減少した。
【
図3A】[0026]組換えヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)のシアリダーゼ-A及びO-グリコシダーゼ消化が、rhPRG4のCD44への結合に及ぼす影響を示す。データは、群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。rhPRG4、シアリダーゼA消化rhPRG4、O-グリコシダーゼ消化rhPRG4、シアリダーゼA+O-グリコシダーゼ消化rhPRG4のCD44への結合を描写する棒グラフである。異なる群全体の450nmの吸光度値は、未消化rhPRG4群の吸光度値に正規化された。(
*)は、シアリダーゼA消化及びO-グリコシダーゼ消化rhPRG4におけるCD44結合が、未消化rhPRG4と比較して有意に高かったことを示す(p<0.01)。(
**)は、シアリダーゼA+O-グリコシダーゼ消化rhPRG4におけるCD44結合が、シアリダーゼA消化rhPRG4、O-グリコシダーゼ消化rhPRG4、未消化rhPRG4と比較して有意に高かったことを示す(p<0.01)。
【
図3B】[0026]組換えヒトプロテオグリカン4(rhPRG4)のシアリダーゼ-A及びO-グリコシダーゼ消化が、rhPRG4のCD44への結合に及ぼす影響を示す。データは、群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。rhPRG4、シアリダーゼA消化rhPRG4、O-グリコシダーゼ消化rhPRG4、及びシアリダーゼAと、O-グリコシダーゼ消化rhPRG4との組み合わせのSDS-PAGEの写真である。ゲルは、クーマシー{Commassie}ブルーで一晩染色された。シアリダーゼA及びO-グリコシダーゼによる消化は、rhPRG4の見かけの分子量の減少をもたらした。
【
図4A】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。未処理のままの、又は完全増殖培地中の増加する濃度(0.1、10、及び100μg/mL)のrhPRG4あり又はなしで、100pMのTGFβと共にインキュベートされた、8日齢の3次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。
図4A、4C、及び4Eでは、緑色矢印及び赤色矢印は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。緑色矢印は、
図4Aの上段の全てのボックスと、右側の2つのボックスの下段に現れる。左側の下段の2つのボックスには、赤色矢印がある。
【
図4B】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。棒グラフは、Aに示されるものを含めた4つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図4C】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。完全増殖培地の異なる組み合わせ中で、100pMのTGFβ及び100μg/mLのrhPRG4あり又はなしで、10μg/mlのマウスIgG又は抗PRG4 mAb 4D6と共にインキュベートされた、8日齢の3次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。
図4A、4C、及び4Eでは、緑色矢印及び赤色矢印は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。
図4Cでは、上段の左から右方向に、1番目、3番目、及び4番目のボックスに緑色矢印がある一方で、左から2番目のボックスには赤色矢印がある。
図4Cでは、下段の左側の1番目のボックスに緑色矢印がある一方で、下段の残りのボックスには赤色矢印がある。
【
図4D】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。棒グラフは、Cに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図4E】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。100μg/mLのrhPRG4と混合されたマトリゲルを使用した、未処理のままの、又はビヒクル又は100pMのTGFβで処理された、8日齢の3次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。
図4A、4C、及び4Eでは、緑色矢印及び赤色矢印は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。
図4Eでは、赤色矢印がある下段の左側のボックスを除いて、全てのボックスに緑色矢印がある。
【
図4F】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。棒グラフは、Eに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図4G】[0027]rhPRG4は、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性浸潤性増殖を抑制する。未処理のままの、又は完全増殖培地中でrhPRG4あり又はなしでTGFβと共にインキュベートされた、ホルムアルデヒド固定された8日齢のMDA-MB-231細胞由来オルガノイドの核(ヘキスト33342、青色)、アクチン(TRITC-ファロイジン、黄色)、及びラミニン(ラット抗ラミニン/抗ラットアレクサ647、赤色)染色の代表的な蛍光顕微鏡画像である。この実験は2回独立して繰り返され、同様の結果が得られた。有意差、ANOVA:
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001。棒目盛は、50μmを示す。
図4Gでは、緑色の矢印は皮質アクチンを示し(TGFβ+とTGFβ-の双方に対する下段中央ボックス)、黄色矢印はストレスファイバー様アクチンを示し(TGFβ+とTGFβ-の双方に対する上段中央ボックス)、青色矢印は無傷のラミニンリングを示し(TGFβ-に対する上段及び下段の右端の画像、並びにTGFβ+に対する下段の右端の画像)、赤色矢印はラミニンリングの破壊を示し(TGFβ+に対する上段右端の画像)、白色矢印(TGFβ+に対する上段右端の画像)は、ラミニン喪失の代表的な部位を示す。
【
図5A】[0028]rhPRG4は、乳がん細胞の浸潤性及び遊走性を抑制する。トランスウェルインサートのマトリゲル被覆された膜の下側に現れたクリスタルバイオレット染色された12時間血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞の代表的なDIC光学顕微鏡画像であり、下部ウェルは、100pMのTGFβなし(-)又はあり、単独、又は10μMのTβRI阻害剤SB435142(KI)又は100μg/mLのrhPRG4ありの、完全増殖培地を含有する。棒目盛は、150μmに相当する。
【
図5B】[0028]rhPRG4は、乳がん細胞の浸潤性及び遊走性を抑制する。棒グラフは、Aに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件について、8つのランダムに選択された重複しないフィールドからカウントされた、浸潤性細胞の平均±SEM比率を示す。
【
図5C】[0028]rhPRG4は、乳がん細胞の浸潤性及び遊走性を抑制する。100pMのTGFβなし(-)又はあり、単独、又は10μMのKI又は100μg/mLのrhPRG4ありの、0.2%FBS含有培地でインキュベートされた、スクラッチの導入の0及び36時間後における、12ウェルプレートのウェルに播種された、血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞の代表的なDIC光学顕微鏡像である。棒目盛は、500μmに相当する。
【
図5D】[0028]rhPRG4は、乳がん細胞の浸潤性及び遊走性を抑制する。棒グラフは、Cに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件の5つの重複しない画像の0時間目に対する、36時間目のスクラッチクロージャの平均±SEM比率(%)を示す。有意差、ANOVA:
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001。
【
図6A】[0029]rhPRG4は、TGFβ-Smadシグナル伝達に影響を与えない。未処理のままの(対照)、又は完全増殖培地中で12時間、10μMのKI又は100μg/mLのrhPRG4なし又はありで、100pMのTGFβと共にインキュベートされた、MDA-MB-231細胞溶解産物のホスホ-Smad2(pSmad2)、全Smad2/3(tSmad2/3)、及びアクチン免疫ブロットである。
【
図6B】[0029]rhPRG4は、TGFβ-Smadシグナル伝達に影響を与えない。棒グラフは、Smad2/3の総タンパク質存在量に対するpSmad2の比率の平均±SEMを表し、Aに示されるものを含めた4つの独立した実験からの対照に対する倍数変化として表す。
【
図6C】[0029]rhPRG4は、TGFβ-Smadシグナル伝達に影響を与えない。3つの連続したTPA(12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセテート)応答要素(TRE)と、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を駆動するプラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)プロモーター領域の一部とを有する、3TP-Luxレポーターコンストラクトの概略図である。TGFβ処理は、リン酸化、核転移、及び3TPプロモーターへのSmadの結合を誘発し、ルシフェラーゼ酵素の存在量を増加させる。
【
図6D】[0029]rhPRG4は、TGFβ-Smadシグナル伝達に影響を与えない。MDA-MB-231細胞は、CMVプロモーターによって駆動されるウミシイタケルシフェラーゼ発現コンストラクトと共に、TP-Luxレポーターコンストラクトで形質移入された。細胞は、未処理のまま(対照)、又は0.2%FBS含有培地中の100μg/mLのrhPRG4あり又はなしで、100pMのTGFβと共にインキュベートされた。棒グラフは、ウミシイタケルシフェラーゼ発現(相対光単位)に対して正規化された3TPプロモーター駆動ルシフェラーゼ値を表し、正規化されたデータは、未処理細胞の溶解産物中の正規化されたルシフェラーゼデータと比較して表される。有意差、ANOVA:
***P≦0.001。
【
図7A】[0030]rhPRG4は、乳がん細胞の低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)誘発性浸潤を抑制する。MDA-MB-231細胞の溶解産物は、CD44抗体(CD44 IP)又は非特異的ラットIgG抗体(IgG IP)を使用した免疫沈降に供され、免疫沈降物のCD44免疫ブロット法がそれに続いた。溶解産物中のCD44タンパク質の存在量は、CD44免疫ブロット法(入力)によっても確認された。
【
図7B】[0030]rhPRG4は、乳がん細胞の低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)誘発性浸潤を抑制する。増加する濃度のLMWHA(10、100又は400μg/mL)なし又はありの増殖培地中で、単独で、又は100μg/mLのrhPRG4と共にインキュベートされた、8日齢の3次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。棒目盛は、50μmを示す。緑色矢印(上段、2つの左側の画像と下段の全ての画像)及び赤色矢印(上段、2つの右側の画像)は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。
【
図7C】[0030]rhPRG4は、乳がん細胞の低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)誘発性浸潤を抑制する。棒グラフは、Bに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図7D】[0030]rhPRG4は、乳がん細胞の低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)誘発性浸潤を抑制する。トランスウェルインサートのマトリゲル被覆された膜の下側に現れたクリスタルバイオレット染色された12時間血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞の代表的なDIC光学顕微鏡画像であり、下部ウェルは、400μg/mLのLMWHAなし(-)又はあり、単独、又は5μg/mLのCD44中和抗体又は100μg/mLのrhPRG4ありの、完全増殖培地を含有する。棒目盛は、150μmに相当する。
【
図7E】[0030]rhPRG4は、乳がん細胞の低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)誘発性浸潤を抑制する。棒グラフは、対照と比較した、Dに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件について、8つのランダムに選択された重複しないフィールドからカウントされた浸潤性細胞の平均±SEM比率を示す。ANOVA:有意差、ANOVA:
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001。
【
図8A】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。pU6 RNAiベクター(ベクター対照)、又はCD44 mRNAの2つの異なる配列を標的化するshRNAを発現するプラスミドCD44i-1、CD44i-2の単独又は併用(CD44i-1+2)で形質移入された、MDA-MB-231細胞の溶解産物のCD44免疫ブロットである。アクチンが、ローディング対照として使用された。
【
図8B】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。Aと同様に形質移入され、抗CD44間接免疫蛍光法(ラット抗CD44/抗ラットアレクサ647、赤色;色は下段の画像に現れる)に供され、ヘキスト33342蛍光ヌクレオチド染色(青色;上段の画像に現れる)で対比染色されて、核が視覚化されたMDA-MB-231細胞の代表的なCD44、GFP、及び核蛍光顕微鏡画像である。GFP(緑色;画像の中央段に現れる)シグナルは、ベクター対照又はCD44 RNAi-1/2形質移入細胞を示す。矢印は、2つのCD44 RNAiプラスミドによる内因性CD44のノックダウンを強調するために、ベクター(左)、CD44i-1(2列目)、CD44i-2(3列目)、及びCD44i-12(右)形質移入細胞の例を示す。この実験は3回繰り返され、同様の結果が得られた。
【
図8C】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。ベクター対照、又はCD44i-1及びCD44i-2を個別に又は組み合わせて形質移入されたMDA-MB-231細胞に由来する、完全増殖培地中の未処理(-)、100pMのTGFβ又は400μg/mLのLMWHAで処理された、8日齢三次元オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。中央及び下段の右端の画像を除いて、
図8Cの全ての画像に緑色矢印が現れ;上段の左端の画像が緑色であるのを除いて、
図8F-rhPRG4の全ての画像に赤色矢印が現れ;rhPRG4パネルの全ての画像に緑色矢印が現れる。
【
図8D】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。棒グラフは、Cに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図8E】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。空ベクター又はCD44/FLAG発現プラスミドで形質移入されたMDA-MB-231細胞の溶解産物のCD44/FLAG免疫ブロットである。アクチンが、ローディング対照として使用された。
【
図8F】[0031]CD44はTGFβ誘導性MDA-MB-231細胞の浸潤性に重要である。100pMのTGFβ又は400のμg/mLLMWHAなし(-)又はあり、単独、又は100μg/mLのrhPRG4を含む、完全増殖培地中のベクター対照又はCD44/FLAGを発現する、8日齢MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。中央及び下段の右端の画像を除いて、
図8Cの全ての画像に緑色矢印が現れ;上段の左端の画像が緑色であるのを除いて、
図8F-rhPRG4の全ての画像に赤色矢印が現れ;rhPRG4パネルの全ての画像に緑色矢印が現れる。
【
図8G】[0031]棒グラフは、Fに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。有意差、ANOVA:
*P≦0.05、
**P≦0.01、
***P≦0.001。棒目盛は、50μmを示す。緑色矢印及び赤色矢印は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。
【
図9A】[0032]TGFβは、HA-CD44依存様式で乳がん細胞の浸潤性を誘導する。未処理のままの(-)、又は完全増殖培地中の100pMのTGFβなし又はありで、KI(10μM)、CD44中和抗体(2.5μg/mL)、又はrhPRG4(100μg/mL)あり又はなしで、異なる濃度のLMWHA(100又は400μg/mL)と共にインキュベートされた、8日齢三次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。
図9Aの上側パネルでは、上段の左から1番目、3番目、及び4番目の画像と、2番目の段の左から3番目の画像を除いて、全ての矢印は赤色である。
図9Aの下側パネルでは、全ての矢印は緑色である。
【
図9B】[0032]TGFβは、HA-CD44依存様式で乳がん細胞の浸潤性を誘導する。棒グラフは、Aに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総オルガノイドの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。
【
図9C】[0032]TGFβは、HA-CD44依存様式で乳がん細胞の浸潤性を誘導する。完全増殖培地中の0.5mMの4-MUなし又はありで、100pMのTGFβなし又はありで、400μg/mLのLMWHA、及び100μg/mLのrhPRG4を含むLMWHAあり又はなしで処理された、8日齢三次元MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なDIC光学顕微鏡画像である。
図9Cの上側パネルでは、赤色である右上の画像の矢印を除いて、全ての矢印は緑色である。
図9Cの中部パネルでは、全ての矢印は赤色である。
図9Cの下側パネルでは、全ての矢印は緑色である。
【
図9D】[0032]TGFβは、HA-CD44依存様式で乳がん細胞の浸潤性を誘導する。棒グラフは、Cに示されるものを含めた3つの独立した実験からの各実験条件についてカウントされた、総コロニーの百分率として表された、球状オルガノイドの平均±SEM比率を示す。有意差、ANOVA:
**P≦0.01、
***P≦0.001。棒目盛は、50μmを示す。緑色矢印及び赤色矢印は、それぞれ球状オルガノイド及び浸潤性オルガノイドを示す。
【
図10A】[0033]rhPRG4及びTGFβは、CD44及びHAS2のタンパク質量に反対の影響を及ぼす。100pMのTGFβなし(対照)又はありで、単独で、又は10μMのKI又は100μg/mLのrhPRG4と共に、完全増殖培地中でインキュベートされた、MDA-MB-231細胞の溶解産物のCD44及びホスホ-Smad2(pSmad2)免疫ブロットである。アクチンが、ローディング対照として使用された。
【
図10B】[0033]rhPRG4及びTGFβは、CD44及びHAS2のタンパク質量に反対の影響を及ぼす。棒グラフは、Aに示されたものを含めた4つの独立した実験から得られた、各処理条件におけるCD44免疫反応バンドの平均±SEM比率を示す。
【
図10C】[0033]rhPRG4及びTGFβは、CD44及びHAS2のタンパク質量に反対の影響を及ぼす。100pMのTGFβなし又はありの完全増殖培地中で、単独で、又は100μg/mLのrhPRG4と共にインキュベートされた、固定された8日齢MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの代表的なCD44(ラット抗CD44/抗ラットアレクサ647、赤色、「CD44」とラベルされた列に現れる)、及び核(ヘキスト、青色、「核」とラベルされた列に現れる)蛍光顕微鏡画像である。この実験は2回繰り返され、同様の結果が得られた。棒目盛は、50μmを示す。
【
図10D】[0033]rhPRG4及びTGFβは、CD44及びHAS2のタンパク質量に反対の影響を及ぼす。100pMのTGFβなし(対照)又はありで、単独で、又は10μMのKI又は100μg/mLのrhPRG4と共に、完全増殖培地中でインキュベートされた、MDA-MB-231細胞の溶解産物のHAS2及びホスホ-Smad2(pSmad2)免疫ブロットである。アクチンが、ローディング対照として使用された。
【
図10E】[0033]rhPRG4及びTGFβは、CD44及びHAS2のタンパク質量に反対の影響を及ぼす。棒グラフは、Dに示されたものを含めた3つの独立した実験から得られた、各処理条件におけるHAS2免疫反応バンドの平均±SEM比率を示す。有意差、ANOVA:
***P≦0.001;
**P≦0.01;
*P≦0.05、不対t検定:
#P=0.0164。
【
図11】[0034]完全長(非短縮)のヒトPRG4のアミノ酸配列(配列番号1:1404残基)である。残基1~24(太字で示される)はシグナル配列を表し、残基25~1404はヒトPRG4の成熟配列を表す。糖タンパク質は、その活性形態中にリード配列を必要としない。
【
図12】[0035]完全長の1404AAヒトPRG4タンパク質をコード化する、PRG4遺伝子(配列番号2)の核酸配列である。
【
図13】[0036]目的のマーカー(ルブリシン、CSPG4、VCAN、及びHSPG2)の内因性組織mRNA発現のレベルに基づく肝細胞がん腫(HCC)患者のカプラン・マイヤー生存曲線を示す。Y軸は累積生存率であり、X軸は月単位の生存期間である。患者は、目的のマーカーのmRNA発現値の中央値を超えるか又はそれ未満の値に従って、高又は低に階層化される。データは、ルブリシン発現が、HCC患者の生存と正の相関があることを示す。
【
図14A】[0037]HCCにおけるルブリシンタンパク質の発現及び組織局在化を示す。14人のHCC患者の腫瘍及び腫瘍周囲の対組織における、ルブリシンタンパク質レベルのウエスタンブロット分析及び定量化を示す。
【
図14B】[0037]HCCにおけるルブリシンタンパク質の発現及び組織局在化を示す。ルブリシン(緑)及びαSMA(赤)の局在化を提示する、HCC腫瘍組織の免疫蛍光法を示す。核は青色によって表わされる。下段の右端パネルには、青色及び赤色のみが見られる。上段の1番目と2番目のパネルでは、緑色及び赤色が最も多く一緒に見られる。上段の最後のパネルと下段の最初の2つのパネルでは、緑色及び赤色がより少なく一緒に見られる。
【
図15】[0038]TGFβが、CAF(上段)及び生体外培養されたHCC組織(下段)において、ルブリシン発現を誘導することを示す一連の棒グラフである。グラフの上段には、対照、LY、TGF、及びTGF+LYのmRNAレベルが、各グラフの左から右に示される。グラフの下段には、対照と対比して、LY、TGF、及びTGF+LYのそれぞれのmRNAレベルが、各グラフの左から右に示される。αSMA、CSPG4、HSPG2、ルブリシン、及びVCNのレベルが示される。48時間処理されたHCC腫瘍由来CAF(n=5)中、及び48時間処理された生体外HCC組織(n=6)中のルブリシンのmRNA発現。T検定:
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。
【
図16】[0039]78のHCC症例の累積生存率を示す、カプラン・マイヤー曲線を示す。患者は、相対的な中央値を超えるか又はそれ未満の値に従って層別化された。ルブリシンの腫瘍発現は、低CD44レベルを伴うHCCのより良い予後と相関する。↑でマークされた生存曲線は凡例に↑として示されている分子に対応し、マークされていない生存曲線は凡例に↓として示されている分子に対応する。上段では、左から右へ、1番目の曲線の凡例は、p=0.000でルブリシン↑及びルブリシン↓を示し;2番目の曲線の凡例は、p=0.084でTGFβ1↑及びTGF↓を示す。下段の1番目の曲線の凡例は、p=0.637でαSMA↑及びαSMA↓を示し;2番目の曲線の凡例は、p=0.302で、CD44↑及びCD44↓を示す。「ルブリシン↑」とラベルされた曲線では、凡例は、p=0.478でTGFβ1↑及びTGFβ1↓を示す一方で、「ルブリシン↓」とラベルされた曲線では、凡例は、p=0.024でTGFβ1↓及びTGFβ1↓を示す。「CD44↑」とラベルされた曲線では、凡例はp=0.187のルブリシン↑及びルブリシン↓を示す一方で、「CD44↓」というラベルされた曲線では、凡例はp=0.000でルブリシン↑及びルブリシン↓を示す。
【
図17A】[0040]HCC細胞におけるCD44サイレンシングが、rhPRG4への細胞付着を損なうが、遊走は損なわないことを示す。棒グラフは、HLE及びHLF細胞における細胞付着をFNの%として示す。Y軸はFNの%としての細胞付着である。暗色バーは対照shRNAである一方で、淡色バーはCD44-shRNAである。未被覆、ルブリシン、及びFNの結果が左から右に示される。ウェルプレート画像では、上段は対照-shRNAで下段はCD44-shRNAであり、左から右へ未被覆、ルブリシン、及びFNウェルである。細胞を未被覆の、又はrhPRG4-又はフィブロネクチン(Fn)で被覆されたウェル表面に播種し、30分間付着させて延展させた。
【
図17B】[0040]HCC細胞におけるCD44サイレンシングが、rhPRG4への細胞付着を損なうが、遊走は損なわないことを示す。細胞は、トランスウェル膜の上部に播種され(事前に下部がFnで被覆された)、下部チャンバー内の可溶性rhPRG4の存在下又は非存在下で、16時間移動された。T検定:
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。ビヒクルの画像は上段にあり、ルブリシンの画像は下段にある。付随する棒グラフは、左から右へ、対照-shRNA(HLE)、CD44-shRNA(HLE)、対照-shRNA(HLF)、及びCD44-shRNA(HLF)について、ルブリシンと対比して、ビヒクルの細胞数/顕微鏡視野を示す。
【
図18】[0041]rhPRG4が、優先的に、高CD44発現HCC細胞において、細胞増殖を阻害するソラフェニブ及びレゴラフェニブの有効性を増強することを示す。細胞は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ(2.5μM)あり又はなしで、rhPRG4濃度(0~100μg/ml)を上げながら、増殖速度について2時間試験された。薬剤有効性は、増殖阻害のからrhPRG4阻害の寄与を差し引いた%として計算される。T検定:
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。細胞数が上段のグラフに示される一方で、2番目の段はrhPRG4の濃度と対比した細胞増殖のプロットを示し、3番目の段はrhPRG4の濃度と対比した薬物誘発性細胞増殖阻害の%のプロットを示す。対照は暗色線で示され、ソラフェニブの結果は「X」でマークされ、レゴラフェニブの結果は「T」でマークされる。
【
図19A】[0042]HCC細胞におけるCD44サイレンシングが、ルブリシンによる薬物有効性の増強を相殺することを示す。細胞はレンチウイルス感染を介して形質導入され、安定したCD44サイレンシングのためにさらに選択された。72時間の増殖試験が実施され、ソラフェニブ又はレゴラフェニブ阻害作用の増強におけるルブリシンの正味の効果が、対照細胞とCD44-shRNA細胞の双方についてプロットされた。1番目の段は、rhPRG4の濃度と対比した、細胞増殖のプロットを示す。対照は暗色線で示され、ソラフェニブの結果は「X」でマークされ、レゴラフェニブの結果は「T」でマークされる。2番目の段は、rhPRG4の濃度と対比した、対照-shRNA(実線)及びCD44-shRNA(点線)の薬物阻害効果の増強のプロットを%として示す。
【
図19B】[0042]HCC細胞におけるCD44サイレンシングが、ルブリシンによる薬物有効性の増強を相殺することを示す。HCC CAFはTGFβ1で48時間刺激され、さらに無血清条件で48時間(TGFβ1なし)インキュベートされ、馴化培地(CM)の濃縮を可能にした。次に、CMはルブリシン濃縮され、枯渇され又は枯渇されなかった。
図19Bの左側は、TGFβ1処理CAFのCMからのルブリシンの枯渇を示すウエスタンブロットである。ID=イソタイプ又は抗ルブリシン抗体を使用した免疫枯渇TGFβ1処理CAF-CM;IP=イソタイプ又は抗-ルブリシン抗体を使用したTGFβ1処理CAFs-CMからの免疫沈降ルブリシン。
図19Bの右側では、HLF細胞増殖に対するソラフェニブとレゴラフェニブ阻害作用に対する、TGFβ1処理CAF-CMルブリシン枯渇あり/枯渇なしの効果が示され;20μg/mlのCMタンパク質が、1%FBSの存在下での72時間の増殖試験に使用された。T検定:
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。
【
図20】[0043]対照の非標的化(V)又は特異的CD44標的化shRNA配列を保有するレンチウイルス粒子で形質導入された、HLE及びHLF細胞株におけるCD44サイレンシング効率を示す。
【
図21A】[0044]新鮮に採集された外科的に切除されたHCC標本から単離された、初代HCC細胞株PLC/DC19の表面で検出された、様々な幹細胞性マーカー(OV6、CD133、CD44、及びCD90)、上皮マーカー(AFP、E-Cadh、EpCAM)、間葉系マーカー(Vim、N-Cadh、αSMA)、及びその他のがん関連表面タンパク質(CD13、CD151)のレベルを示す。
【
図21B】[0044]新鮮に採集された外科的に切除されたHCC標本から単離された、初代HCC細胞株PLC/DC19の表面で検出された、様々な幹細胞性マーカー(OV6、CD133、CD44、及びCD90)、上皮マーカー(AFP、E-Cadh、EpCAM)、間葉系マーカー(Vim、N-Cadh、αSMA)、及びその他のがん関連表面タンパク質(CD13、CD151)のレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
[0045] 転移は、がんに関連する罹患率と死亡率の主原因である。がん細胞が浸潤性及び遊走性になる能力は、転移性増殖に大きく寄与し、このため、新規の抗遊走性及び抗浸潤性治療アプローチの同定が必要になる。周囲の細胞外マトリックス(ECM)構成要素への付着は、がん細胞がECMに浸潤し、最終的に転移性になるために重要である。出願人は、PRG4が、がん細胞の浸潤性増殖を誘導する分泌タンパク質形質転換成長因子βの能力を抑制すること、及びrhPRG4が下流ヒアルロン酸(HA)-細胞表面の分化抗原群44(CD44)シグナル伝達軸を阻害することによって、がん細胞のTGFβ誘導浸潤性を抑制することを発見した。さらに、出願人は、rhPRG4が、CD44タンパク質存在量、及びHA生合成に関与する酵素HAS2のタンパク質存在量のTGFβ依存性の増加を抑制することを発見した。TGFβはがんにおいて、腫瘍抑制と腫瘍促進の双方の役割を果たしていることが広く認められている。rhPRG4がHAS2及びTGFβによるCD44誘導に対抗するという申請者の発見は、腫瘍を促進する役割を下方制御する一方で、TGFβ作用の腫瘍抑制的な側面を維持するという意味を有する。これらの知見は、がんの治療的処置としてのPRG4の臨床的有用性を支持する。
【0027】
PRG4タンパク質
[0046] ルブリシンとも称されるPRG4は、ヒトではPRG4としても知られている巨核球刺激因子(MSF)遺伝子から発現される潤滑ポリペプチドである(NCBI受入れ番号AK131434-U70136を参照されたい)。ルブリシンは、体の関節面を覆う、遍在性の内因性糖タンパク質である。ルブリシンは、高度に表面活性の分子であり(例えば、水を保持する)、それは主に強力な細胞保護、抗付着剤、境界潤滑剤として作用する。分子は、分子が組織表面に付着して保護することを可能にする、末端タンパク質ドメインの間に位置する長い中央ムチン様ドメインを有する。その天然形態は、調査された全ての哺乳類において、KEPAPTT(配列番号3)と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列の複数の反復を含む。天然ルブリシンは典型的には、この反復の複数の冗長な形態を含み、これは典型的には、プロリン及びスレオニン残基を含んで、大多数の反復中では少なくとも1つのスレオニンがグリコシル化されている。スレオニンに固定されたO-結合型糖側鎖は、ルブリシンの境界潤滑機能にとって重要である。側鎖部分は、典型的にはβ(1-3)Gal-GalNAc部分であり、β(1-3)Gal-GalNAcは、典型的にはシアル酸又はN-アセチルノイラミン酸でキャッピングされている。ポリペプチドはまた、N結合オリゴ糖も含有する。天然に存在する全長ルブリシンをコード化する遺伝子は、12個のエクソンを含有し、天然に存在するMSF遺伝子産物は、ヘモペキシン様及びソマトメジン様領域を含めたビトロネクチンと複数のポリペプチド配列相同性がある1,404個のアミノ酸(分泌配列を含む)を含有する。中央に位置するエクソン6は、940個の残基を含有する。エクソン6は、O-グリコシル化ムチン様ドメインに富む反復をコード化する。この広範なO-結合型グリコシル化ムチン様ドメインは、関節軟骨、腱、心膜、眼球表面など、生体内の様々なバイオ界面におけるPRG4の境界潤滑性及び非粘着性に必要である(Jay et al., Matrix Biol., 2014; 39:17-24)。
【0028】
[0047] ルブリシンのタンパク質骨格のアミノ酸配列は、ヒトMSF遺伝子のエクソンの選択的スプライシング次第で異なってもよい。不均一性に対するこの堅牢性は、研究者らが中央ムチンドメインから474個アミノ酸を欠く組換え形態のルブリシンを作成したが、それでもなお、控えめながらも適度な潤滑性が達成されたときに例示された(Flannery et al., Arthritis Rheum 2009; 60(3):840-7)。PRG4は、単量体としてだけでなく、N末端とC末端の双方で保存されたシステインリッチドメインを介して結合した、二量体及び多量体のジスルフィド結合としても存在することが示されている。ルブリス社は、ヒトルブリシンの完全長組換え形態を開発した。分子は、セレキシスチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO-M)を使用して発現され、最終的な見かけの分子量は450~600kDaであり、多分散の多量体は1,000kDa以上になることが多く、全て、SDSトリス-アセテート3~8%のポリアクリルアミドゲルの分子量標準との比較によって推定される。全グリコシル化のうち、約半分は2つの糖単位(GalNAc-Gal)を含み、残りの半分は3つの糖単位(GalNAc-Gal-シアル酸)を含む。この組換えヒトPRG4の製造方法は、国際特許出願第PCT/US014/061827号で開示される。
【0029】
[0048] 様々な天然及び組換えPRG4タンパク質及びイソ型のいずれか1つ又は複数が、本明細書に記載される様々な実施形態で用いられてもよい。例えば、そのそれぞれが参照により本明細書に援用される、米国特許第6,433,142号;米国特許第6,743,774号;米国特許第6,960,562号;米国特許第7,030,223号;及び米国特許第7,361,738合は、様々な形態のヒトPRG4発現産物を作製する方法を開示している。本発明の実施における使用に好ましいのは、CHO細胞から発現される、全長、グリコシル化、組換えPRG4、又はルブリシンである。このタンパク質は、1,404個のアミノ酸(
図11;配列番号1を参照されたい)を含み、O-結合型β(1-3)Gal-GalNAcオリゴ糖で様々にグリコシル化された配列KEPAPTT(配列番号3)の反復を含む中央エクソンを含んで、ビトロネクチンとの相同性があるN及びC末端配列を含む。分子は、個々の分子のグリコシル化パターンが異なる多分散体であり、単量体、二量体、多量体の各種からなる。
【0030】
[0049] 本明細書の用法では、「PRG4」という用語は、「ルブリシン」という用語と同義的に使用される。広義に、これらの用語は、機能的な単離又は精製された天然又は組換えPRG4タンパク質、ホモログ、機能性断片、イソ型、及び/又はそれらの変異体を指す。全ての有用な分子は、エクソン6によってコード化された配列、又はそのホモログを含み、又は例えば、好ましくはO-結合型グリコシル化と一緒に、この中央ムチン様KEPAPTT反復ドメイン内の反復がより少ないバージョンなどのその短縮型バージョンを含む。全ての有用な分子はまた、少なくともエクソン1~5及び7~12によってコード化された配列の生物学的活性部分、すなわち、分子にECM及び内皮表面に対する親和性を与えることに関与する配列も含む。特定の実施形態では、好ましいPRG4タンパク質は、50kDa~500kD、好ましくは224~467kDaの平均モル質量を有し、PRG4タンパク質の1つ又は複数の生物学的活性部分、又は潤滑断片又はその同族体などの機能性断片を含む。より好ましい実施形態では、PRG4タンパク質は、平均モル質量が220kDa~約280kDaの間の単量体を含む。特定の実施形態では、PRG4は、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、又は少なくとも99.7%のアミノ酸配列同一性を有する。一実施形態では、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列との配列同一性は、少なくとも98%である。一実施形態では、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列とのPRG4の配列同一性は、少なくとも99%である。一実施形態では、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列とのPRG4の配列同一性は、99.5%である。一実施形態では、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列とのPRG4の配列同一性は、99.6%である。一実施形態では、配列番号1の残基25~1404のアミノ酸配列とのPRG4の配列同一性は、99.7%である。
【0031】
[0050] PRG4タンパク質などのタンパク質を単離、精製、及び組換え発現するための方法は、当該技術分野で周知である。特定の実施形態では、この方法は、PCR又はRT-PCRなどの標準的分子生物学技術を使用して、PRG4タンパク質又はイソ型をコード化するmRNA及びcDNAをクローニング及び単離することから始まる。次に、PRG4タンパク質又はイソ型をコード化する単離cDNAは、発現ベクターにクローン化され、組換えPRG4タンパク質を産生するために宿主細胞で発現され、細胞培養上清から単離される。組換えヒトPRG4を製造するための方法は、国際特許出願第PCT/US014/061827号に記載されている。
【0032】
[0051] これまでのPRG4の機能は、関節の摩擦低減及び摩耗防止、眼の表面とまぶたの間などのインターフェース組織の潤滑に関わるものがほとんどであった。関節の維持におけるPRG4の機能的重要性は、ヒトの屈指症-関節症-内反股-心膜炎(CACP)疾患症候群を引き起こす変異によって示されてきた。CACPは、屈指症;非炎症性関節症;及び内反股変形、心膜炎、及び胸水を伴う肥大性滑膜炎によって顕在化する。また、PRG4ヌルマウスでは、軟骨の劣化と引き続く関節障害が観察された。したがって、PRG4の発現は健康な滑膜関節の必要な構成要素である。しかしながら、出願人は、PRG4を使用して、がんを治療又は抑制できることを今や断定した。
【0033】
がんの治療に使用するためのPRG4
[0052] 出願人らは、PRG4がCD44に結合でき、したがってCD44媒介受容体シグナル伝達を下方制御できると判断した。CD44は、糖タンパク質であり、炎症に主要な役割を果たす選択的スプライシングとグリコシル化によって生成される様々なアイソ型がある、主要な細胞表面受容体であり(Cutly et al., J Cell Biol 1992; 116(4):1055-62)、様々な細胞間相互作用、腫瘍転移、及びリンパ球活性化に関与する。CD44は多数の哺乳類細胞型で発現され、その発現レベルは、細胞型とそれらの活性化状態によって異なる。がん性細胞又は腫瘍性細胞もまた、CD44を発現してもよく、このような細胞上のCD44の存在は、がんの制御及び転移への関与を示す。ヒトでは、CD44は1番染色体上のCD44遺伝子によってコード化されている。CD44を介したシグナル伝達は、T細胞増殖とIL-2産生、NK細胞傷害活性性の用量反応依存性増強、サイトカインとケモカインのマクロファージ産生、並びにその他の機能を誘導する。
【0034】
[0053] CD44の十分確立されたリガンドは、高分子量(HMW HA)を含むヒアルロン酸であり、HMW HAはCD44の細胞外モチーフに結合し、その他のHA結合タンパク質との相同性があり、引き続くHMW HAの細胞内取り込みをもたらす。(Knudson et al., Matrix Biol 2002; 21(1):15-23; Harada et al., J Biol Chem 2007; 282(8):5597-607; Tibesku et al., Ann Rheum Dis 2006; 65(1):105-8)。低分子量及び中分子量のヒアルロン酸(LMWHA及びMMWHA)もまた、CD44のリガンドである。HA/CD44相互作用は、様々な疾病状態でよく見られる。例えば、結腸上皮から生じるがん腫は、HAに富むな微小環境で発生する傾向があり、その中では上皮腫瘍細胞上のCD44受容体は、チロシンキナーゼ媒介細胞生存経路を活性化し、抑制されない細胞分裂及び増殖をもたらす(Misra S et al. Connect Tissue Res. 2008;49(3):219-24)。しかしながら、CD44はがん幹細胞(CSC)のマーカーとしても認識されており、HAはがん細胞によって発現される(Chen et al., J. Hematol. Oncol., 2018; 1:64)。例えば、CD44の発現は、頭頸部扁平上皮がん、乳がんがん、膵臓がん、胃腸がん、結腸直腸腺がん、前立腺がん、結腸がん、膀胱がん、及び白血病で認められている。(Chen et al., J. Hematol. Oncol., 2018; 1:64)。CD44へのHA結合は、細胞増殖を誘導し、細胞生存を延長し、細胞骨格変化を調節し、細胞の運動性を促進する、細胞シグナル伝達経路の活性化をもたらす。(Chen et al., J. Hematol. Oncol., 2018; 1:64)。
【0035】
[0054] その他のCD44のリガンドとしては、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、及びラミニン(Naor et al., Adv Cancer Res 1997; 71:241-319; Knudson et al., Cell Mol. Life Sci. 2002; 59:36-44)、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9、HA血清由来ヒアルロン酸関連タンパク質複合体(HA-SHAP)、ヘモペキシン、EMMPRIN、ソマトメジンB、オステオポンチン、OKT3、又は補体関連タンパク質(C3a、CD3、CD46など)などの細胞外マトリックス構成要素が挙げられる。
【0036】
[0055] 以下の実施例1に提示されるデータによって実証されるように、ルブリシン-CD44相互作用は、この糖タンパク質が、その境界の潤滑及び機械的特性を超えた機能を有することを示す。実際に、実施例1A~Dは、ルブリシンがリガンドとして作用し、CD44に結合することを示す。したがって、ルブリシンはCD44と結合するので、ルブリシンは、ヒアルロン酸などのリガンドのCD44への結合を防ぐためのCD44拮抗薬として使用され、ひいては、細胞増殖を誘導し、細胞生存を増加させ、細胞骨格変化を調節し、がんに関与するとされる細胞運動活性を促進する、CD44活性化による細胞シグナル伝達経路の活性化を妨げてもよい。さらに、実施例2~7のデータは、rhPRG4ががん細胞の浸潤性及び遊走性能力を抑制することを示し、具体的には、PRG4の投与は、腫瘍進行に必要ながん細胞のネガティブな挙動を抑制する直接的な効果を有し得る。本明細書に提示されるデータによって実証されるように、これは、少なくともCD44を介した低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)シグナル伝達を抑制してがん細胞増殖の誘導を妨げる、rhPRG4の能力によって達成される。
【0037】
[0056] 証拠は、CD44シグナル伝達ががんの進行に関与しており、また特定の化学療法薬の有効性に鑑賞してもよいことを示唆する。例えば、化学療法剤であるデキサメタゾンによる治療に対する多発性骨髄腫の抵抗性は、CD44とHAとの係わり合いによって引き起こされ得ることが示されてきた。(Ohwada et al., Eur J Heamatol 2008; 80:245)。したがって、PRG4を使用して、がん細胞表面上のCD44に結合させ、がん細胞増殖、生存可能性、進行又は転移活性に関与するCD44シグナル伝達を阻害し得る。別の実施形態では、PRG4は、がんを有する患者又はがんを発症するリスクのある患者に投与され、がんを治療するか又はがん又は腫瘍の増殖若しくは進行を遅延させる。別の実施形態によれば、PRG4は、がんの化学療法又は放射線治療と同時に投与されてもよい。したがって、一実施形態では、PRG4は、がんを有する患者に投与され、その中では、PRG4は、がんを治療するために投与され、又はその中では、ルブリシンは、がんを治療するために、その他のがん治療薬又は治療法と関連して投与される。一実施形態では、がんはヒト対象にある。
【0038】
[0057] 一実施形態によれば、PRG4は、がんの化学療法又は放射線治療と組み合わせて患者に投与される。例えば、一実施形態では、化学療法剤は、アクチノマイシン、アブラキサン、アルトレタミン、アラノース、アザシチジン、アザチオプリン、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カバジタキセ、カペシタビン、カルボプラチン、カルモフール、カルムスチン、クロラムブシル、クロルメチン、クロロゾトシン、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラムスチン(ertramustine)、エチルニトロソウレア、エルロチニブ、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フォテムスチン、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、イマチニブ、イクサベピロン、ラパチニブ、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ネダプラチン、ネララビン、ニムスチン、ニロチニブ、N-ニトロソ-N-メチル尿素、プロカルバジン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、ラニムスチン、ラルチトレキセド、レゴラフェニブ、ロミデプシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾトシン、タフルポシド、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テモゾロマイド、テムシロリムス、テニポシド、チオグアニン、トファシチニブ、トポテカン(opotecan)、バルルビシン、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビン、ボリノスタット、又はビスモデギブから選択される。一実施形態では、化学療法剤は、レゴラフェニブ及び/又はソラフェニブである。一実施形態では、化学療法剤は、レゴラフェニブ及び/又はソラフェニブであり、がんは肝細胞がん腫である。
【0039】
[0058] 例えば、一実施形態では、化学療法剤は、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、ジヌツキシマブ、イブリツモマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、トラスツズマブ、リツキシマブ、イノツズマブ、ゲムツズマブ、ベバシズマブ、セミプリマブ(camiplimab)、又はスパルタリズマブから選択される抗体である。
【0040】
[0059] 一実施形態によれば、PRG4は、がんの放射線治療と組み合わせて患者に投与される。例えば、一実施形態では、放射線治療は、外照射療法、近接照射療法、又は体幹部定位放射線療法(SBRT)である。
【0041】
[0060] 一実施形態では、がんの化学療法又は放射線治療と組み合わせたPRG4の投与は、化学療法又は放射線治療に対するがんの感受性又は応答性を増強する。したがって、一実施形態では、化学療法又は放射線治療と組み合わせたPRG4の投与は、化学療法又は放射線治療単独での治療と比較して、がんの治療を改善する。例えば、化学療法又は放射線療法単独による治療と比較して、組み合わせは、患者が治療によりがんの部分寛解又は完全寛解を経験する速度を増加させ、又は組み合わせは、患者が治療によりがんの部分寛解又は完全寛解を経験する可能性を増加させる。換言すれば、併用療法は、化学療法又は放射線治療単独での治療よりも、がんを治療するのにより効果的である。
【0042】
[0061] PRG4と抗がん剤との同時投与は、患者への毒性効果がより少ない低用量でそれらを投与することを可能にすることによって、このような薬剤の毒性を低減し得る。したがって、別の実施形態では、PRG4をがんの化学療法又は放射線治療と組み合わせて投与することにより、化学療法又は放射線治療を単独で投与した場合のがんを治療するための治療用量よりも低い用量で、化学療法又は放射線治療を投与できる。「治療有効量」は、ヒト患者の特定のがんを治療するのに有効であることが実証されている量を指す。「単独投与の治療有効量」とは、特定のがんを治療するために患者に投与される抗がん剤が唯一の抗がん剤である場合に、ヒト患者の特定のがんの治療に有効であることが実証されている抗がん剤の用量を指す。用量は、治療経過を規定する期間にわたって投与される1日量であってもよい。用量は、治療経過を規定する投薬スケジュールの一部として、一度に投与される単回用量であってもよい。治療有効量は、政府機関によって承認された用量であってもよい。例えば、治療有効量は、所与のがんを治療するために欧州医薬品庁によって承認された用量であってもよい。治療有効量は、がんを治療するために米国食品医薬品局によって承認された用量であってもよい。一実施形態では、PRG4はレゴラフェニブと共に投与され、レゴラフェニブは160mg/日未満の用量で投与される。一実施形態では、PRG4はレゴラフェニブと共に投与され、レゴラフェニブは160mg/日未満の用量で投与され、がんは肝細胞がん腫である。別の実施形態では、PRG4はソラフェニブと共に投与され、ソラフェニブは800mg/日未満又は400mg/1日2回の用量で投与される。別の実施形態では、PRG4はソラフェニブと共に投与され、ソラフェニブは800mg/日未満又は400mg/1日2回の用量で投与され、がんは肝細胞がん腫である。本明細書で実証されるように、例えば、実施例13において、PRG4がこのような抗がん治療法と同時投与される場合、PRG4は、例えば、化学療法剤などの抗がん治療法の治療効果を増強する。その結果、このような抗がん治療法は、治療有効性に必要とされるよりも低用量で投与されてもよい。
【0043】
[0062] 別の実施形態では,PRG4は、がんを治療するために免疫療法と組み合わせて投与され、ここで組み合わせは、がんを治療する。例えば、免疫療法は、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、イピリムマブ、又はPD-L1若しくはPD-1を標的とする別の薬剤であってもよい。したがって、一実施形態では、免疫療法と組み合わせたPRG4の投与は、免疫療法単独での治療と比較して、がんの治療を改善する。例えば、免疫療法単独による治療と比較して、組み合わせは、患者が治療によりがんの部分寛解又は完全寛解を経験する速度を増加させ、又は組み合わせは、患者が治療によりがんの部分寛解又は完全寛解を経験する可能性を増加させる。換言すれば、併用療法は、免疫療法単独での治療よりも、がんを治療するのにより効果的である。
【0044】
[0063] 別の実施形態では、本発明は、患者において以前に治療されたがんの再発を予防又は抑制する方法を提供する。この方法は、PRG4の治療有効量を患者に投与して、患者におけるがんの再発を阻害又は予防することを伴い、ここで患者は、以前にがん治療を受けて治療されたがんの寛解を経験したか又はがんを切除するための手術を受けている。一実施形態では、患者は以前にがんの完全寛解を経験しており、別の実施形態では、患者は以前にがんの部分寛解を経験している。一実施形態では、再発の予防又は抑制は、少なくとも1年間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、少なくとも6年間、少なくとも7年間、少なくとも8年間、少なくとも9年間、少なくとも10年間又はそれ以上の期間である。別の実施形態では、PRG4は、患者ががんの寛解又は切除を経験した後、毎年、年2回、四半期、又は隔年に、以前に治療されたがんの部位に投与され、患者における以前に治療されたがんの再発を予防又は抑制する。別の実施形態では、PRG4は、患者ががんの寛解又は切除を経験した後、毎年、年2回、四半期、又は隔年に、以前に治療されたがんを有する患者に全身投与され、患者における以前に治療したがんの再発を予防又は抑制する。
【0045】
[0064] 一実施形態では、がんの「治療(treating)」、「治療(treat)」、又は「治療(treatment)」は、腫瘍の数及び/又はサイズの減少、転移の数及び/又はサイズの減少、腫瘍の成長又は増殖速度の減少、又は腫瘍の症状の減少をもたらす治療的介入を指す。場合によっては、本発明の方法に従ってがんを治療することにより、患者はがんの完全寛解又は部分寛解を経験することになる。いくつかの実施形態では、がんの「予防(preventing)」、「予防(prevent)」、又は「予防(prevention)」は、がんの部分的又は全面的な発生を抑制することを指す。例えば、いくつかの実施形態では、がんを「予防」することは、非がん性増殖又は腫瘍ががん性腫瘍に変化することを抑制することを意味する一方で、いくつかの実施形態では、がんの予防は、例えば、がんが以前に寛解していた場合、がんが再発することを抑制することを意味する。
【0046】
[0065] 本発明の方法に従ってPRG4で治療されてもよいがんとしては、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳/CNSがん、基底細胞皮膚がん、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、隆起性皮膚線維肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー、眼がん、胆嚢がん、胃腸カルチノイド腫瘍消化管間質腫瘍(GIST)、胃がん、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、神経膠芽腫、頭頸部がん、肝細胞がん(HCC)、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭及び下咽頭がん、白血病、肺がん、肝臓がん、リンパ腫、悪性中皮腫、メルケル細胞がん、黒色腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経内分泌がん、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、口腔及び中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、腎臓がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、扁平上皮細胞皮膚がん、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はウィルムス腫瘍が挙げられる。一実施形態では、がんは乳がんである。さらなる実施形態では、がんはトリプルネガティブ乳がんである。別の実施形態では、がんは肝細胞がん腫である。
【0047】
[0066] 本発明の方法によれば、がんが治療されている患者は、好ましくはヒトである;しかしながら、患者は、例えば、馬、牛、ブタ、ラット、マウス、イヌ、又はネコなどの任意の哺乳類であってもよい。
【0048】
[0067] PRG4は、前述の抗がん剤のいずれかと同時投与されてもよい。一実施形態では、同時投与は、PRG4と抗がん剤を、例えば、同じ日に次々に連続して投与することを意味する。その他の実施形態では、同時投与は、PRG4が抗がん剤とは異なる日に投与される場合に起こり得る。別の実施形態では、共投与は、1つの製剤においてPRG4及び抗がん剤を一緒に投与することを含む。別の実施形態では、PRG4と抗がん剤とが別々の製剤として同時に共投与される。別の実施形態では、同時投与は、たとえそれらが同時に投与されなくても、PRG4と抗がん剤が同じ治療過程中の異なる時点で提供されることを指す。一実施形態では、PRG4は、抗がん剤の投与の前に投与される。別の実施形態では,PRG4は、抗がん剤の投与の後に投与される。
【0049】
PRG4の投与
[0068] 本発明は、PRG4が、本明細書で開示される本発明の方法に従って、全身的又は局所的に患者に投与されてもよいことを考察する。がんが特定の組織又は臓器に限局しており、組織又は臓器へのアクセスが、例えば、注射又は局所投与によって可能である場合、局所投与が正当化されてもよい。したがって、ルブリシンは、本明細書で開示される本発明の方法に従って、局所的に投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、腫瘍部位又は腫瘍が切除された部位、或いは腫瘍部位の周囲又は近傍の位置に局所投与又は局所注射によって投与されてもよい。一実施形態では、ルブリシンは、腫瘍の外科的切除時に、腫瘍が除去された後の切除部位に投与される。別の実施形態では、ルブリシンは、切除不能腫瘍への、及び/又は切除不能腫瘍の部位又はその周辺への注射によって、投与される。
【0050】
[0069] しかしながら、ルブリシンは、本明細書で開示される本発明の方法に従って、全身的に投与されてもよい。全身投与は、例えば、がんが血液、リンパ液中にある場合、又はそうでなければ局所投与によって治療され得ない場合、本発明のいくつかの実施形態によって想定される。全身投与はまた、がんが患者の1つの領域に限局されておらず、患者全体又は患者の複数の場所に見られる場合、例えば、がんが転移している場合にも正当化されてもよい。許容可能な全身投与様式の例としては、経口、直腸、舌下、陰唇下、又は口腔内送達などの経腸送達;又は吸入による経鼻、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内又は経粘膜送達などの非経口送達が挙げられる。全身投与の別の許容可能な方法は、例えば、静脈内投与、皮下注射、又は筋肉内注射などの注射によるものである。
【0051】
[0070] この方法の一実施形態では、ルブリシンは、境界潤滑を提供するのに不十分な量で提供される。出願人らは、がんに対するルブリシンの効果は、境界潤滑を達成するために必要な濃度よりもはるかに低い濃度で達成され得ると判断した。したがって、一実施形態では、ルブリシンは、0.1μg/kg~4,000μg/kgの範囲の量で投与される。例えば、ルブリシンは、0.1μg/kg~2000μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、50μg/kg~500μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、500μg/kg~1000μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、100μg/kg~1000μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、2000μg/kg~3000μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。例えば、ルブリシンは、2000μg/kg~4000μg/kgの範囲の量で投与されてもよい。別の実施形態では、ルブリシンは、0.1μg/ml~100mg/mL、又は25~75mg/mL、又は30~60mg/mLの範囲の量で投与される。一実施形態では、ルブリシンは30mg/mLで投与され、1容量当たり1~100μLの小容積で投与される。別の実施形態では、ルブリシンは、1用量当たり100μL~4Lの容積で投与される。さらなる実施形態では、ルブリシンは全身投与され、10μg/mL~100μg/mLの範囲の血中濃度が達成される。なおも別の実施形態では、ルブリシンは、腫瘍又は切除された腫瘍の部位に100μL~5mLの量で小容積で投与され、ルブリシンの濃度は、0.1μg/mL~100μg/mLの範囲、又は10μg/mL~1mg/mLの範囲で提供される。
【0052】
[0071] 投与されるルブリシンの量は、がんのサイズ、タイプ、及び位置、あらゆる転移の程度、医薬製剤、及び投与経路などの変数に左右され得る。所望の血中レベル又は組織レベルを迅速に達成するために、初期用量は上限レベルを超えて増加され得る。初期投与量は最適量よりも少なくあり得て、治療の過程で投与量が徐々に増加されてもよい。患者には、特定の血中レベルを達成するための誘導用量と、それに続く1つ又は複数の治療又は維持用量が提供されてもよい。最適用量は、日常的な実験によって決定され得る。
【0053】
[0072] PRG4は、本明細書で開示される本発明の方法に従って、様々な異なる投薬スケジュール投与され得る。例えば、一実施形態では、PRG4は、がんの外科的切除時に局所的に1回投与される。別の実施形態では、PRG4は、毎日、隔日、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、7日毎、14日毎、又は28日毎に、がんを治療又は予防するために患者に投与される。例えば、患者は、患者が完全寛解又は部分寛解を経験するまで、PRG4による治療を受けてもよい。別の実施形態では、PRG4は、腫瘍ががん化するのを防ぐために、まだがん性でない腫瘍を有する患者に、年単位、隔年単位、四半期単位、又は月単位で投与される。別の実施形態では、PRG4は、患者が化学療法又は放射線療法などのその他の抗がん治療を受けるのと同じ日に患者に投与され、患者がその他の抗がん剤治療を受けるたびに投与される。別の実施形態では、PRG4は、患者が化学療法又は放射線療法などのその他の抗がん治療を受ける前日に患者に投与され、患者がその他の抗がん剤治療を受けるたびに前日に投与される。別の実施形態では、PRG4は、患者が化学療法又は放射線療法などのその他の抗がん治療を受けた翌日に患者に投与され、患者がその他の抗がん剤治療を受けるたびに翌日に投与される。
【0054】
PRG4の製剤
[0073] 投与のために、ルブリシンは、好ましくは、薬学的に許容可能な担体と組み合わされる。本明細書の用法では、「薬学的に許容可能な担体」とは、過剰な毒性、刺激、アレルギー性応答、又はその他の問題や合併症なしに、ヒト及び動物の組織と接触して使用するのに適した緩衝剤、担体、及び賦形剤で、妥当な利益/リスク比に見合ったものを意味する。担体は、製剤のその他の成分と適合性があり、受容者に有害ではないという意味で、「許容可能」でなければならない。担体薬学的に許容可能な担体としては、医薬投与と適合性のある緩衝剤、溶剤、分散媒、コーティング、等張剤及び吸収遅延剤などが挙げられる。担体はまた、マトリックス、ハイドロゲル、ポリマー、組織スキャフォールドなどの生体材料、及びコラーゲンスポンジを含めた吸収性担体材料も含んでもよい。エキソソームなどもまた、担体として使用されてもよい。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は、当該技術分野で公知である。有用な製剤は、製薬分野で周知の方法によって調製され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th ed. (Mack Publishing Company, 1990)を参照されたい。非経口投与に適した製剤成分としては、注射用水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又はその他の合成溶剤などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗細菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などの緩衝液;及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの張性を調節するための薬剤が挙げられる。投与用のルブリシンは、投与単位形態で提示され得て、任意の適切な方法で調製され得て、意図される投与経路と適合性があるように製剤化されなくてはならない。
【実施例】
【0055】
実施例
実施例1:CD44PRG4がCD44に拮抗するという実験的証拠
[0074] ヒトPRG4とCD44受容体の間の相互作用、及びこの相互作用の結果を評価するために、以下の実験を実施した。
【0056】
[0075] rhPRG4のCD44への結合と、高分子ヒアルロン酸(HMW HA)との競合は、直接酵素結合免疫吸着法(ELISA)と表面プラズモン共鳴を用いて評価した。rhPRG4のシアリダーゼ-A及びO-グリコシダーゼ消化を実施して、ELISAを用いてCD44結合を評価した。リウマチ様関節炎線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS)を、20、40、及び80μg/mLのrhPRG4又はHMW HA存在下又は非存在下で、インターロイキン-1β(IL-1β)又は腫瘍壊死因子α(TNF-α)で48時間刺激し、細胞増殖を測定した。CD44の寄与は、抗CD44抗体(IM7)との同時インキュベーションによって評価した。IM7の存在下又は非存在下でPrg4-/-滑膜細胞をIL-1β又はTNF-αで処理した後、rhPRG4の抗増殖効果を調べた。
【0057】
[0076] 変数は、最初に正規性と等分散性について試験した。双方の仮定を満たす変数については、2群間比較ではスチューデントのT検定を使用し、2群以上の比較ではチューキーの事後検定を用いた分散分析(ANOVA)を使用して、それぞれ統計的有意性を検定した。正規性の仮定を満たさなかった変数は、ランクのマン・ホイットニーU検定又はANOVAを使用して検定した。統計的有意性のレベルは、α=0.05に設定した。データは、平均±標準偏差としてグラフで表される。
【0058】
1A.直接ELISA法を用いた、rhPRG4、高分子量HA、中分子量HA、及びビトロネクチンのCD44への結合
[0077] 高結合型マイクロタイタープレート(米国コーニングのシグマアルドリッチ)をPBS緩衝液(ウェル当たり100μL)中の400μg/mLで、4℃で一晩、rhPRG4(Mr≒240KDa)、高分子量HA(HMW HA;Mr≒1,500KDa)(米国のR&Dシステムズ)、培地分子量HA(MMW HA;Mr≒300KDa)(R&Dシステムズ)、及びビトロネクチン(Mr≒75KDa)(シグマアルドリッチ)で被覆した。rhPRG4は、CHO-M細胞によって産生される全長産物である(米国マサチューセッツ州フラミンガムのルブリス)。PBS+0.1%ツイーン20での洗浄後、ウェルを2%ウシ血清アルブミン(BSA;ウェル当たり300μL)で室温で少なくとも2時間ブロックした。CD44-IgG1Fc(R&Dシステムズ)又はIgG1Fc(R&システムズ)をそれぞれ1μg/mL(ウェル当たり100μl)でプレートに加え、室温で60分間インキュベートした。PBS+0.1%ツイーン20での洗浄後、抗IgG1Fc-HRP(シグマアルドリッチ)を1:10,000希釈(1ウェルあたり100μL)で添加し、室温で60分インキュベートした。PBS+0.1%ツイーン20での洗浄後、1ステップTurbo TMB ELISA試薬(米国のテルモサイエンティフィック)を使用してアッセイを開発し、450nmで吸光度を測定した。データは、各グループにつき三連のウェルを用いた、4回の独立したアッセイの平均を表す。
【0059】
[0078] rhPRG4、HMW HA、MMW HA、及びビトロネクチンと、CD44-IgG
1Fc融合タンパク質及びIgG
1Fcとの結合は、
図1Aに提示される。CD44-IgG
1Fc群の450nmの吸光度は、rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAをコートされたウェルのIgG
1Fc群の吸光度より有意に高かった(p<0.001)。対照的に、ビトロネクチンがコートされたウェルでは、CD44-IgG
1FcとIgG
1Fcとの間に有意差はなかった。
【0060】
[0079] これらのデータは、rhPRG4がCD44と結合し、HMW HA CD44の結合に干渉することを示す。rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAは、極めて低い非特異的結合でキメラCD44に特異的に結合する。対照的に、ルブリシンとの有意な配列相同性を共有するビトロネクチンは、CD44結合に対する特異性を示さない。rhPRG4はCD44に結合することから、CD44の拮抗薬として機能してもよく、それによってCD44の炎症誘発性シグナル伝達に干渉する。
【0061】
1B.直接ELISA法を用いた、rhPRG4、HMW HA、MMW HAのCD44への濃度依存性結合、及びCD44への結合におけるrhPRG4とHA間の競合
[0080] rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAのCD44への濃度依存的結合は、400、200、100、20、4、2及び0.1μg/mLの高分子でマイクロタイタープレートを被覆することによって実施した。アッセイを上述したように実施した。IgG
1Fcウェルの吸光度値をCD44 IgG
1Fcウェルの吸光度値から差し引き、補正されたCD44IgG
1Fc吸光度値を400μg/mLのrhPRG4群のものに対して正規化し、データをCD44への結合百分率で表した。組換えCD44に対する、rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAの濃度依存性結合は、
図1Bに示される。400、100、20、4、及び2μg/mL濃度のHMW HA又はMMW HAで被覆されたウェルと比較して、rhPRG4で被覆されたウェルでは、組換えCD44の結合百分率が有意に高かった(p<0.001)。さらに、組換えCD44の結合百分率は、200μg/mL濃度のMMW HAで被覆されたウェルと比較して、rhPRG4で被覆されたウェルで有意に高かった(p<0.001)。0.1μg/mL濃度では、rhPRG4、HMW HA、及びMMW HAで被覆されたウェル間のCD44の結合百分率に有意差はなかった。データは、各グループにつき三連のウェルを用いた、4回の独立したアッセイの平均を表す。
【0062】
[0081] CD44への結合におけるrhPRG4とHMW HA又はMMW HAのどちらかとの間の競合を評価するために、4℃で一晩、1μg/mLのCD44 IgG1Fc又はIgG1Fc(ウェル当たり100μL)のどちらかで、マイクロタイタープレートを被覆した。引き続いて、PBS+0.1%ツイーン20でウェルを洗浄し、2%BSA(ウェル当たり300μL)を使用してウェルを室温で少なくとも2時間ブロックした。5μg/mLのrhPRG4を、又はrhPRG4(5μg/mL)と0.01、0.05、0.25、1、5又は50μg/mLのHMW HA又はMMW HAとを組み合わせたものをウェル(ウェルあたり100μL)に添加し、60分間室温でインキュベートした。PBS+0.1%ツイーン20での洗浄後、ルブリシン特異的モノクローナル抗体(Mab 9G3)を1:1,000で添加し(100μL/ウェル)、室温で60分インキュベートした。PBS+0.1%ツイーン20での洗浄後、1:1,000希釈のヤギ抗マウスIgG-HRP(テルモサイエンティフィック)を添加し(ウェル当たり100μL)、室温で60分間インキュベートした。アッセイを上述したように開発した。IgG1Fcウェルの吸光度値をCD44-IgG1Fcウェルの吸光度値から差し引き、rhPRG4+HA群の補正された吸光度値をrhPRG4群の吸光度値に対して正規化し、データをCD44への結合百分率で表した。データは、各グループにつき三連のウェルを用いた、4回の独立したアッセイの平均を表す。
【0063】
[0082] 組換えCD44への結合におけるrhPRG4と、HMW HA又はMMW HAとの間の競合は
図1Cに示される。0.05、0.25、1、5m、及び25μg/mLのHMW HA又はMMW HAでは、rhPRG4のCD44への結合が著しく減少した(p<0.05)。
【0064】
[0083] これらのデータは、rhPRG4がHMW HAと同等の親和性で、濃度依存性様式でCD44に結合することを実証する。さらに、rhPRG4はCD44への結合においてHMW HAと競合する。過剰なHMW又はMMW HAの存在は、CD44へのrhPRG4結合を約50%のみ減少させた。これらのデータは、rhPRG4がCD44の拮抗薬であることを示唆し;したがって、それはCD44シグナル伝達を妨害する可能性がある。
【0065】
1C.表面プラズモン共鳴を用いた、rhPRG4とCD44の濃度依存性結合、及びrhPRG4とHMW HA間の競合
[0084] rhPRG4のCD44-IgG1Fcへの結合は、表面プラズモン共鳴を用いて調べた(ビアコアT100、米国ニュージャージー州のGEヘルスケアライフサイエンス)。
図1Cを参照されたい。シリーズSチップは、ヒト抗体捕捉キットt(GEライフサイエンス)を使用して機能化させ、それぞれフローセル1(Fc
1)及びフローセル2(Fc
2)の機能化されたチップの表面に、CD44-IgG
1Fc又はIgG
1FCのどちらかに結合させた。rhPRG4を300、250、200、150、100、50μg/mLの濃度で、30μL/分で8分間注入し、それに続いて、0.1MのHEPES、1.5MのNaCl、30mMのEDTA、及び0.5%のP20(GEライフサイエンス)を使用して10分間解離させた。各サイクルの最後に3MのMgCl
2の1分間のパルスでチップの表面を再生した。各分析物濃度は、二連で注入した。得られた曲線は二重参照した(すなわち、Fc
2-Fc
1、その後、0μg/mL曲線を減算した)。結合動態及び結合親和性は、それぞれ1:1結合/立体構造変化モデルを使用して、ビアエバリュエーションソフトウェアによって、又は定常状態平衡によって判定した。CD44への結合におけるrhPRG4とHMW HA間の競合を研究するため、rhPRG4を上記のように0~300μg/mLの範囲の濃度で注入した。解離期の終了後、HMW HAを50μg/mL(30μL/分)で1分間注入した。次に、rhPRG4(様々な濃度)のCD44への二重参照結合シグナルを、rhPRG4注入後のCD44へのHMW HA結合によって生成された、結合シグナルに対してプロットした。
【0066】
[0085] rhPRG4の組換えCD44への結合は、表面プラズモン共鳴を用いて確認した。rhPRG4は、rhPRG4の分子量240KDaに基づいて、およそ38nMの見かけのK
dで、固定化されたCD44-IgG
1Fcとの濃度依存性の会合及び解離を示した(
図2A)。HMW HA結合シグナル強度(x軸)とrhPRG4結合シグナル強度(y軸)との間の逆の関係によって示されるように、rhPRG4は、組換えCD44へのHMW HAの結合を妨害した(
図2B)。
【0067】
[0086] これらのデータは、rhPRG4がHMW HAと同等の親和性で、濃度依存性様式でCD44に結合することを実証する。さらに、実施例1B及び1Cに示されるように、CD44に結合したrhPRG4の存在は、HMW HAが濃度依存性様式でCD44に結合するのを妨げ、rhPRG4及びHMW HAが受容体上の共通の結合部位を共有することを示してもよい。HA SFの濃度がルブリシンのおよそ10倍である関節環境では、本明細書で示される競合的結合データに基づいて、ルブリシンは滑膜細胞及び軟骨細胞の表面のCD44に結合し、HAの存在下でCD44を介した生物学的機能を発揮し、それによって、そうでなければ炎症を促進するメディエーターに干渉することによって、関節の恒常性を維持する役割を果たすことが期待される。
【0068】
1D.rhPRG4のCD44への結合に対するムチンドメイングリコシル化の除去の影響
[0087] ルブリシンの境界潤滑能力は、O-結合型(β1-3)Gal-GalNAcオリゴ糖によって媒介される(Jay et al., Glucoconj J 2001; 18(10):807-15)。ノイラミニダーゼとβ-1,3,6ガラクトシダーゼ消化の組み合わせは、ルブリシンの境界潤滑能力を50%低減した(Jay et al., Glucoconj J 2001; 18(10):807-15)。RA SFサンプルから分離されたルブリシンは、増加したコア1グリコシル化構造を含有し、L-セレクチンリガンドの一部であると提案されている硫酸化エピトープを提示する(Estrella et al., Biochem J 2010; 429(2):359-67)。さらに、RA SFからのルブリシンは、グリコシル化依存様式でL-セレクチンに結合し、RA患者の炎症を起こした滑液及びSFに動員された多形核顆粒球を覆う(Jin et al. J Biol Chem 2012; 287(43):35922-33)。
【0069】
[0088] rhPRG4をシアリダーゼA(米国のプロザイム)、O-グリコシダーゼ(米国のニューイングランドバイオラブズ)又はシアリダーゼAとO-グリコシダーゼの組み合わせを使って、37℃で16時間消化した。シアリダーゼA消化では、180μLの総反応容積、及び00μg/mLのrhPRG4最終濃度で、12μLの酵素(1U/200μL)をrhPRG4に添加した。O-グリコシダーゼ消化では、非変性条件下で、180μLの総反応容積、300μg/mLのrhPRG4最終濃度で、4.8μLの酵素(400万単位/mL)をrhPRG4に添加した。シアリダーゼA及びO-グリコシダーゼ消化では、上記と同じ容量で酵素を使用し、上述のような総反応容積及び最終rhPRG4濃度でrhPRG4と共にインキュベートした。rhPRG4の見かけの分子量に対するシアリダーゼA及びO-グリコシダーゼ消化の影響は、4~12%のビス-トリスゲル(ヌーページ、米国のライフテクノロジーズ)を使用したSDS-PAGEにより判定した。合計20μLのrhPRG4又は酵素消化されたrhPRG4を還元条件下(200mVで60分間)で実行した後、ゲルコードブルーステイン(米国のテルモサイエンティフィック)を使用して染色した。上記の直接ELISA法アプローチを用いて、30μg/mLのrhPRG4被覆濃度を用いて、酵素的に消化されたrhPRG4のCD44への結合を未消化rhPRG4と比較した。データは、それぞれ群当たり三連のウェルを使用した4回の独立した実験の平均を表す。
【0070】
[0089] シアリダーゼA消化は、
図3Aに示されるように、未処理対照と比較して、CD44へのrhPRG4の結合百分率の有意な増加(p<0.001)をもたらした。同様に、O-グリコシダーゼ消化は、未処理のコントロールと比較して、CD44へのrhPRG4の結合百分率の有意な増加(p=0.008)をもたらした。シアリダーゼA消化rhPRG4と、O-グリコシダーゼ共消化rhPRG4のCD44結合百分率に、有意差はなかった(p=0.105)。シアリダーゼA及びO-グリコシダーゼ消化rhPRG4のCD44への結合率は、シアリダーゼA消化rhPRG4(p=0.007)、O-グリコシダーゼ消化rhPRG4(p<0.001)、及び未処理コントロール(p<0.001)よりも有意に高かった。シアリダーゼA及びO-グリコシダーゼによるrhPRG4の消化は、rhPRG4の見かけの分子量を約200KDaに減少させた(
図3B)。
【0071】
[0090] シアル酸の除去とO-グリコシル化により、rhPRG4によるCD44結合が有意に増加した(p<0.001)。シアリダーゼAとO-グリコシダーゼの処理は個別に、rhPRG4のCD44受容体への結合の増強をもたらした。累積的なシアリダーゼA及びO-グリコシダーゼ消化は、個々の酵素消化と比較して、rhPRG4によるCD44へのなおもより有意な結合をもたらした。シアリダーゼAはが糖タンパク質から分岐及び非分岐末端シアル酸残基を切断する一方で、O-グリコシダーゼは糖タンパク質からのコア1及び2の除去を触媒する。CD44結合の増強は、コア1のグリコシル化もシアル酸末端残基も、CD44へのrhPRG4結合に必要でないことを示す。したがって、rhPRG4タンパク質コアに対するシアル酸付加及びコア1グリコシル化のレベルは、PRG4がCD44に結合する能力に必須ではない。対照的に、これらの残基の除去は、CD44との相互作用の強化をもたらす、rhPRG4セミリジッド桿体形状構造の立体構造変化をもたらしてもよい。
【0072】
実施例2.実施例3~9の材料と方法
(1)プラスミド
[0091] それぞれCD44配列5’GAGCAGCACTTCAGGAGGTTA3’及び5’CTCCATCTGTGCAGCAAACAA3’を含有する、CD44i-1及びCD44i-2と略記される、pU6/CD44RNA干渉-1/CMV-強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)及びpU6/CD44RNA干渉-2/CMV-EGFP発現ベクターは、Sarker et al. (J. Biol. Chem. 2005;280(13):13037-46)に記載されるように作成した。各プラスミドCD44i-1及びCD44i-2では、マウスU6 small RNAプロモーターとCMVプロモーターにより、それぞれヒトCD44 mRNA標的化short hairpin(sh)RNA(shRNA)とEGFPの発現が誘導される。pU6/CMV/EGFP対照RNAiベクターについては、記載されてきた。(Sarker et al., J. Biol. Chem. 2005;280(13):13037-46)。蛍光顕微鏡によるEGFPタンパク質の発現は、ベクター対照又はCD44i-1/2形質移入細胞を示した。pCMV5B/CD44/FLAG発現ベクターは、C末端にFLAGタグを付けたヒトオープンリーディングCD44 cDNA(CD44/FLAG)をpCMV5BベクターのT4DNAリガーゼ(米国のニューイングランドバイオラブズ)ベースのライゲーションによって作成した(Kavsak et al., Molecular Cell. 2000;6(6):1365-75)。CD44/FLAG DNAは、polyA-enriched cDNAをテンプレートとして、5’CCCACGCGTACCATGGACAAGTTTTGGTGGC3’、及び5’CCCTCTAGATTACTTGTCATCGTCGTCCTTGTAGTCCAGTCGACCCACCCCAATCTTCATGTCC3’をそれぞれ順方向及び逆方向プライマーとしてPwoポリメラーゼ(米国のロシェダイアグノスティックス)を使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成した。MDA-MB-231細胞のTRIzol-(加国のアンビオンライフテクノロジーズ)抽出mRNAをスーパースクリプトIIトランスクリプターゼ(加国のインビトロジェン)とプライマーオリゴ-(dT)12-18(英国のアマーシャムバイオサイエンシズ)を使用して逆転写(RT)-PCR反応に供し、ポリAcDNAを作製した。CD44i-1/2、及びCD44/FLAGプラスミドは、DNA配列分析(カルガリー大学コアシーケンシング施設)によって検証された。
【0073】
(2)細胞株及び形質移入
[0092] MDA-MB-231細胞は、米国微生物系統保存機関(米国のATCC)から購入され、10%ウシ胎仔血清(FBS;加国のテルモフィッシャー)を添加した、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;加国のインビトロジェン)中で培養した。細胞は、5%CO2加湿細胞インキュベーター内で37℃に保ち、3~4日毎に定期的に継代した。MDA-MB-231細胞は、リポフェクタミン3000試薬(加国のインビトロジェン)を使用して形質移入した。
【0074】
(3)試薬
[0093] 以下の試薬を使用して、本試験の異なるアッセイで細胞を処理した:組換えヒトプロテオグリカン4(rhPRG4;米国のルブリスバイオファームからの寄贈;リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1~2.5mg/mLの原液)(Abubacker et al., Ann Biomed Eng. 2016; 44(4):1128-37; Samsom et al., Exp Eye Res. 2014;127:14-9)、組換えヒト成熟形質転換成長因子β(TGFβ)(米国のR&Dシステムズ;10μMの原液)、低分子量ヒアルロン酸(LMWHA;ヒアルロン酸ナトリウム;HA5K;米国のライフコアバイオメディカル;PBS中の10mg/mLの原液)、キナーゼ阻害剤(KI;SB431542;加国のミリポア・シグマ;10mMの原液)(Halder et al., Neoplasia. 2005;7(5):509-21)、CD44中和抗体(加国のテルモフィッシャーサイエンティフィック)(Kariya et al. BBA Clinical. 2015;3:126-34)、抗PRG4 mAb 4D6(カリフォルニア大学バークレー校のフィリップ・メッサースミス博士からの寄贈)(Abubacker et al., Connective Tissue Research. 2016;57(2):113-23; Chawla et al., Acta biomaterialia. 2010;6(9):3388-94)、マウス免疫グロブリンG(マウスIgG;米国のサンタクルーズ)、4-メチルウンベリフェロン(4-MU;加国のミリポア・シグマ;DMSO中の10mMの原液)。
【0075】
(4)三次元培養
[0094] 三次元培養アッセイのために、氷冷された、10%FBSを含有するDMEM、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びアンホテリシンB(加国のインビトロジェン)からなる完全増殖培地中の50μlの33%成長因子低減マトリゲル(米国のコーニングインコーポレーテッド)を96ウェル平底超低付着性プレート(加国のBDバイオサイエンシズ)のウェル毎に添加し、それに続いて、5%CO2加湿インキュベーター内で37℃で、プレートを1時間保管し、ウェル内に1mm厚のマトリゲル床を形成させた。次に、氷冷された、完全増殖培地中の50μlの50%マトリゲルに懸濁させた約400個の単離MDA-MB-231細胞を96ウェルプレートのウェル毎にマトリゲル床の上に重ね、37℃の5%CO2加湿インキュベーター内でインキュベートした。マトリゲル-細胞懸濁液の添加と37℃インキュベーションの1時間後、50μlの完全増殖培地を固化したマトリゲル-細胞混合物を覆うように添加した。翌日から3日おきに、図の説明にあるように、特定の試薬をなし又はありの新鮮な完全増殖培地50μlを三次元培養物に投与した。培養の8日目に、30倍の対物レンズ(オリンパスIX70、加国)で光学顕微鏡を使用して、各ウェルから8つの代表的なオルガノイドの微分干渉コントラスト(DIC)画像を撮影した。三次元培養の異なる日に光学顕微鏡でマトリゲル包埋培養物を観察すると、単離細胞は、連続的な分裂を経た後、それぞれが多細胞構造(本明細書ではオルガノイドと称される)を生じたことが示された。対照設定では、MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの大部分は、滑面の球状表現型を示し、これは、3D培養のインキュベーション条件に応じて変化し得る。「球状」と称される突起のない滑面のオルガノイドの数を各ウェルの8つの代表的な画像から数え、次に各条件での球状オルガノイドの百分率を棒グラフにプロットした。各実験は、統計解析のために少なくとも3回独立して実施した。
【0076】
(5)免疫細胞化学及び蛍光細胞ベースの分析
[0095] 3Dオルガノイドの免疫蛍光分析では、超低付着性8ウェルチャンバースライド(米国のミリポア・シグマ)の各ウェル内の80μLの33%マトリゲルコート上の80μLの50%マトリゲル内で、600個のMDA-MB-231細胞を増殖させた。8日目のDICイメージング後、生存多細胞構造を4%ホルムアルデヒドで固定し、0.5%氷冷トリトンX-100溶液での透過処理、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の10%ウシ血清アルブミン(BSA)によるブロッキングがそれに続いた。単層細胞培養物の免疫蛍光分析では、細胞をファルコン8ウェルチャンバー培養スライド(米国のコーニングインコーポレーテッド)のウェル上に播種し、3D培養について記載されたような固定と透過処理、及び5%BSAと5%PBS中仔ウシ血清によるブロッキングがそれに続いた。細胞内のラミニンとCD44は、一次抗体としてそれぞれラット抗ラミニン抗体(加国のアブカム)とラット抗CD44抗体(加国のテルモフィッシャー)、二次抗体としてアレクサ647標識抗ラットIgG(加国のテルモフィッシャー)を使用して、三次元又は単層培養物を間接免疫蛍光抗体法の供することによって視覚化した。細胞内のアクチンは、固定培養物をテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)コンジュゲートファロイジン(加国のミリポア・シグマ)とインキュベートすることによって視覚化した。DNA結合色素ビスベンズイミド(ヘキスト33342;加国のインビトロジェン)を使用して核を検出した。CD44ノックダウン分析では、ベクター又はCD44 shRNA形質移入細胞をGFPシグナルで同定した。免疫蛍光画像は、40倍の対物レンズを備えた落射蛍光顕微鏡(加国のオリンパスBx WI共焦点顕微鏡)を使用して撮影した。ラミニン、アクチン、核、及びGFP特異的シグナルの曝露時間は、各実験で一定に保った。各条件について、実験毎に3つのコロニー/フィールドを撮影し、実験毎に各スライド内の染色された細胞の代表として選択した。各実験は、独立して2回繰り返した。
【0077】
(6)生体外トランスウェル浸潤アッセイ
[0096] 一晩培養された0.2%FBS含有DMEM、すなわち血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞をポリカーボネートフィルター(24ウェルインサート、孔径8μm;加国のBDバイオサイエンシズ)を使用したトランスウェル浸潤に使用した。細胞を添加する前に、各インサートを24ウェル組織培養プレートのウェル内に配置し、0.5mLの無血清DMEMで平衡化し、37℃で2時間上部チャンバーと下部チャンバーの双方に添加した。次に、平衡媒体を穏やかに除去し、インサートの上部チャンバー表面を50μLの3%マトリゲルで被覆し、37℃で1時間固化可能にさせた。1×105個の血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞を0.5mLの無血清DMEMに再懸濁し、上部のマトリゲル被覆チャンバーに添加した。それぞれの図の説明に記載されるように、500μLの完全増殖培地単独又は特定試薬を含有するものを下部チャンバーに添加した。細胞を37℃で12時間マトリックスに浸潤可能にさせた後、上部チャンバー上の細胞層をPBSで3回洗浄することによって、非付着細胞を除去した。2回目の洗浄では、コットンチップアプリケーターを使用して、膜の上面の付着細胞を穏やかに掻き取った。トランスウェルインサートを100%メタノールに-20℃で10分間浸漬し、それに続いて0.5%のクリスタルバイオレット色素(加国のEMDミリポア)で室温で1時間染色することによって、浸潤した細胞を固定した。染色された各膜のランダムに選択された8つのフィールドをデジタルカメラに接続されたDIC顕微鏡(オリンパスIX70)の10倍の対物レンズで画像化した。ハンドヘルドカウンターを使用して、各フィールドのクリスタルバイオレット染色された細胞の数を数えることによって、細胞数を得た。処理条件毎の全ての画像の平均細胞数を計算し、さらなる統計解析に使用した。各実験は、少なくとも3回独立して実施した。
【0078】
(7)生体外スクラッチアッセイ
[0097] 5×105個のMDA-MB-231細胞を12ウェル組織培養プレートの各ウェル内に播種し、完全増殖培地中でほぼコンフルエンシーまで一晩増殖させ、次に37℃のインキュベーターで5%CO2加湿インキュベーター内で、0.2%FBSを含有DMEM培地中でインキュベートすることによって、一晩血清飢餓状態にした。200μLのピペット先端を使用して、一晩血清飢餓状態の細胞単層の正中線に沿ってスクラッチを導入し、それに続いてPBSで洗浄して浮遊細胞を除去し、TGFβなし又はありの0.2%FBS含有培地中で、細胞を単独で、又はKI又はrhPRG4と共に、37℃のインキュベーターで5%CO2加湿インキュベーター内で36時間インキュベートした。各ウェル内のスクラッチクロージャに続いて、スクラッチを開始してから0時間後と36時間後に、デジタルカメラに接続されたDIC顕微鏡(オリンパスIX70)の3倍対物レンズで各ウェルのスクラッチと周囲の細胞を撮影した。各実験条件毎に、スクラッチの垂直軸に沿って5つの画像を撮影した。イメージJ((米国国立衛生研究所)を使用して、画像毎に3つの異なる位置で各スクラッチの幅を測定し、合計15回測定して、実験条件毎に平均化した。36時間目の幅の平均を0時間目の幅の平均から差し引いて、各実験条件の0時間目の幅と比較してスクラッチクロージャを取得し、スクラッチクロージャの百分率として表した。
【0079】
(8)細胞抽出物調製物、免疫沈降、及び免疫ブロット法
[0098] 細胞をPBSで洗浄し、全ての増殖培地を除去した。プロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤を含有する、TNTE溶解バッファー(50mMのトリス、150mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5% [v/v]のトリトン-X-100)の適量を細胞単層に添加し、4℃で激しく振盪しながら20分インキュベーションした。次に溶解産物を微量遠心管に採集し、13,000gで10分間4℃で遠心分離した。ブラッドフォードベースのタンパク質アッセイ(加国のバイオラッドラボラトリーズ)を使用して、5μLの溶解産物をタンパク質濃度測定に供した。溶解産物は、ジチオスレイトール(DTT)含有ラエンムリサンプル緩衝液中で、95℃で3分間煮沸した。免疫沈降分析では、溶解産物を適切な抗体と共に4℃で穏やかに揺すりながら3時間インキュベートした後、免疫複合体をプロテインG結合アガロースビーズ(米国のUBPバイオ)と共に、4℃で穏やかに揺すりながら3時間インキュベーした。最後に、ビーズをTNTE洗浄緩衝液(0.1% [v/v]トリトン-X-100)で洗浄し、ジチオスレイトール(DTT)含有ラエンムリサンプル緩衝液中で95℃で5分間煮沸した。次に、免疫沈降物とインプット溶解産物をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)で分離し、ニトロセルロース膜(加国のバイオラッドラボラトリーズ) に転写した。5%脱脂乳を使用してブロットをブロックし、一次抗体としてのマウス抗-アクチン(米国のサンタクルーズ)、ウサギ抗pSmad2(加国のアブカム)、マウス抗Smad2/3(加国のミリポア・シグマ)、ラット抗CD44(加国のテルモフィッシャー)、マウス抗HAS2(米国のサンタクルーズ)又はマウス抗FRAG(加国のミリポア・シグマ)との4℃で一晩のインキュベーションがそれに続いた。次にHRP-コンジュゲートヤギ抗マウス又は抗ウサギIgG(米国のジャクソンラボラトリーズ)又は抗ラットIgG(加国のミリポア・シグマ、)をブロットに室温で1時間添加し、ベルサドック5000画像装置(バイオラッドラボラトリーズ)を使用した、増強化学発光(加国のミリポア・シグマ)及びシグナル検出がそれに続いた。濃度測定分析は、クオンティティワンソフトウエア(加国のバイオラッドラボラトリーズ)を使用して実施した。
【0080】
(9)レポーターアッセイ
[0099] 形質移入の1日前に、 MDA-MB-231細胞を約6×104個の細胞/ウェルで、24ウェルプレート内に播種した。細胞は、PAI1プロモーター駆動ホタルルシフェラーゼレポーター(3TP-Lux)及びCMV-レニラルシフェラーゼコントロールレポーターコンストラクトで同時形質移した。形質移入の18時間後、細胞を4時間血清飢餓状態(0.2%FBS含有DMEM)にし、次に100pMのTGFβ、100μg/mLのrhPRG4単独又は併用の非存在下又は存在下で、新鮮な低血清(0.2%FBS含有DMEM)含有培地でインキュベートし一晩静置した。溶解産物を調製し、市販の二重シフェラーゼアッセイキット(加国のプロメガ)を使用して、ルシフェラーゼ活性を分析した。形質移入効率の変動を考慮して、任意のルシフェラーゼ活性(相対光単位)の値をウミシイタケルシフェラーゼ活性に対して正規化した。各形質移入について、PAI1プロモーター駆動型ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現の百分率増加も判定し、それぞれの基礎状態溶解産物のルシフェラーゼ活性と比較して表した。各実験条件は三連で実行した。
【0081】
(10)統計解析
[00100] 生化学的及びオルガノイド関連データは、スチューデントのT検定又は一元配置分散分析(ANOVA)による統計分析に続いて、インスタット(米国のグラフパッド)を使用した、チューキー・クレーマー 又はスチューデント・ニューマン・クールズ事後検定に供した。P<0.05の値が、統計的に有意であると見なされた。データは、少なくとも3回独立して繰り返された実験からの平均±SEMとしてグラフで提示した。
【0082】
実施例2:rhPRG4は3D乳がん細胞由来のオルガノイドの抗浸潤性増殖を促進する
[00101] 乳がん細胞の浸潤性に対するrhPRG4の効果を評価するために、本発明者らは、細胞を増殖可能にさせて、生体内で見られるECMに類似したマトリゲルなどのECM構成要素と相互作用させる、三次元(3D)細胞培養システム(27)を採用した。増殖因子、ホルモン、又は薬剤などの刺激に対する細胞応答は、単層培養モデルよりも三次元培養モデルの方が、生体内で観察される応答をより良く予測できると報告されており、したがって、増殖をモデル化し、正常細胞及び腫瘍細胞による外部刺激への応答を評価するのにより適切である(Antoni et al., Int. J. Mol Sci. 2015;16(3):5517-27)。
【0083】
[00102] TNBC由来細胞に対するrhPRG4の潜在的な抗浸潤効果を研究するために、本発明者らは、特定の刺激に応答したこれらの腫瘍細胞の遊走性及び浸潤性挙動を簡単に検出及び定量化し得る三次元モデルを採用した。ヒトTNBC MDA-MB-231乳がん細胞株は、3三次元培養モデルを含めた生体外及び生体内がん研究に広く使用されている、TNBC細胞モデルに相当し(Dadakhujaev et al., Oncoscience. 2014;1(3):229-40; Chanda et al., PloS One. 2017;12(5):e0177639)、したがって本発明者らは、調査においてこれらの乳がん細胞を使用した。予測通り、本発明者らは、細胞外サポートシステムとしてマトリゲルの文脈で培養された、単離された単一のMDA-MB-231細胞が分裂し、主に滑面球状表現型を提示する多細胞凝集体を形成することを見いだした(
図4A、4B)。分泌ポリペプチド形質転換成長因子β(TGFβ)は、がんにおいて複雑な役割を果たす(Massague, Nat. Rev. Mol Cell. Biol. 2012;13(10):616-30)。特に、TGFβは移動と浸潤を促進し得て、したがってがん転移に寄与してもよい(Massague, Nat. Rev. Mol Cell. Biol. 2012;13(10):616-30)。TGFβが、腫瘍微小環境の細胞外マトリックス(ECM)構成要素を再構築する能力は、腫瘍細胞の移動と浸潤を増加させる役割に寄与している(Massague, Nat. Rev. Mol Cell. Biol. 2012;13(10):616-30)。予測通り、本発明者らは、TGFβが、3D-マトリゲル-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの滑らかな表面と球状性を破壊し、これらのオルガノイドの浸潤性増殖を促進することを見いだした(Dadakhujaev et al., Oncoscience. 2014;1(3):229-40; Chanda et al., PloS One. 2017;12(5):e0177639)。注目すべきことに、rhPRG4は用量依存様式で作用し、3D乳がん細胞由来オルガノイドのTGFβ誘導浸潤性を劇的に抑制した。抗PRG4モノクローナル抗体(mAb)4D6は、PRG4を特異的に認識する(Abubacker et al., Connective Tissue Res. 2016;57(2):113-23; Chawla et al. Acta biomaterialia. 2010;6(9):3388-94)。興味深いことに、本発明者らは、rhPRG4を対照のマウスIgGとではなく、抗PRG4 mAb 4D6とインキュベートすると、乳がん細胞由来オルガノイドのTGF誘発浸潤性増殖を抑制する能力が低下することを見いだした(
図4C、
図4D)。総合すると、これらのデータは、rhPRG4が用量依存的な特異的様式で作用し、MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性挙動を抑制することを示唆した。
【0084】
[00103] TGFβ存在下であってさえも、PRG4が特異的に作用してTNBC由来オルガノイドの非浸潤性表現型を維持するという知見は、単離細胞の添加前に、マトリゲルにPRG4を添加することで、乳がん細胞由来のオルガノイドのTGFβ誘導性の浸潤性増殖を抑制するのに十分かどうかという重要な問いを提起した。注目すべきことに、三次元培養の設定前でも、rhPRG4をマトリゲルに塗布することで、3D-TNBC由来オルガノイドのTGFβ誘導浸潤性増殖を抑制するのに十分であった(
図4E、4F)。
【0085】
[00104] 基底膜の破壊と皮質からストレスファイバー様アクチンへの再編成は、細胞が浸潤性になるための2つの必要条件である(Akhavan et al., Cancer Res. 2012;72(10):2578-88, Tojkander et al., J. Cell Sci.,. 2012;125(Pt 8):1855-64)。ECMタンパク質ラミニンはオルガノイドの基底膜でそれらの構造的完全性と極性を維持しながら濃縮され、この濃縮は腫瘍性傾向の増加とともに徐々に失われることに留意することが重要である(Debnath et al., Nat. Rev. Cancer, 2005;5(9):675-88, O’Brien et al. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol.. 2002;3(7):531-7)。このように次に、間接免疫蛍光分析(ラミニン)、蛍光標識ファロイジン(アクチン)、及びヘキスト(核)染色を使用して、TGFβが3D-MDA-MB-231由来オルガノイドの基底膜の状態とアクチン組織化を変化させる能力に対するrhPRG4の効果を試験した。未処理のMDA-MB-231細胞由来オルガノイドでは、オルガノイドの外面を取り囲む固体環としてのラミニンの出現によって示唆されるように、基底膜は無傷であった一方で、アクチンは部分的に皮質性に配向していた(
図4G)。TGFβは、オルガノイドを取り巻くラミニン環の喪失によって示されるように、オルガノイドの周りの基底膜組織化を破壊し、アクチンストレス繊維様外観を促進した。これらのTGFβ効果は、3D-MDA-MB-231オルガノイドの細胞構成要素の可動性と浸潤を増加させるその能力に一致する(Dadakjujaev et al., Oncoscience. 2014;1(3):229-40, Chanda et al., Plos One, 2017:12(5):e0177639)。興味深いことに、rhPRG4は、TGFβの非存在下又は存在下で、これらの多細胞構造における皮質アクチン組織化と固体ラミニンリング形成を促進した。総合すると、これらのデータは、rhPRG4が、ECMサポートの文脈で増殖したD乳がん細胞由来オルガノイドの抗浸潤性増殖挙動を誘導することを示唆した。
【0086】
実施例3:PRG4は乳がん細胞の浸潤と遊走を抑制する
[00105] 生体外トランスウェルアッセイを使用して、細胞浸潤に対するrhPRG4の効果を試験した(Dadakjujaev et al., Oncoscience. 2014;1(3):229-40)。具体的には、血清飢餓状態のMDA-MB-231細胞をマトリゲル被覆された膜の上面にある上部チャンバーに播種し、下部チャンバーは、TGFβ不在下又は存在下で、単独で、又は化学誘引物質としてのTGFβIタイプser/thrキナーゼレセプター(TβRI)小分子キナーゼ阻害剤SB431542(KI)若しくはrhPRG4と一緒に、10%FBS含有増殖培地を有した(Halder et al., Neoplasia, 2005;7(5):509-21)。TGFβはTβRIシグナル伝達依存様式で作用し、未処理対照と比較してMDA-MB-231細胞の浸潤を促進した(
図5A、5B)。興味深いことに、rhPRG4は、TGFβの非存在下又は存在下で、MDA-MB-231細胞が浸潤する能力をブロックした。浸潤に加えて、遊走は、転移のために原発性腫瘍部位の外側の部位に移動するがん細胞の能力において重要な役割を果たす(Bendas et al., Int. J. Cell Biol. 2012:676731)。したがって、生体外スクラッチアッセイを実施して、がん細胞の遊走性挙動に対するPRG4の効果を試験した。各ウェル内の一晩血清飢餓状態のコンフルエントな細胞単層の正中線に沿ってスクラッチを作成し、それに続いて、TGFβなし又はありの低血清培地で、単独で、又はKI又はrhPRG4と共に、36時間インキュベートした。TGFβシグナル伝達は、対照ウェルと比較してスクラッチクロージャープロセスを向上させた一方で、rhPRG4は、TGFβの非存在下又は存在下でスクラッチクロージャープロセスを大幅に遅延させた(
図5C、5D)。総合すると、これらの結果は、rhPRG4が生体外で乳がん細胞の浸潤性及び遊走性を強力に阻害することを示す。
【0087】
実施例4:rhPRG4はTGFβ-Smadシグナル伝達を調節しない
[00106] 実験を実施して、rhPRG4がどのように抗浸潤性及び抗遊走性抗細胞応答を促進するかを判定した。rhPRG4が生体外でMDA-MB-231細胞のTGFβ誘導性浸潤と遊走を抑制したことから、rhPRG4がTGFβシグナル伝達経路に拮抗してもよいという見解を検証した。細胞表面の同族受容体へのTGFβリガンドの結合は、下流のTGFβシグナル伝達に重要な受容体調節タンパク質Smad2及び3のリン酸化をもたらす(Massague, Nat. Rev. Mol. Biol. 2012;13(10):616-30)。したがって、rhPRG4がこれらの細胞において、TGFβがSmad2の最後のC末端セリン残基のリン酸化を誘導する能力に影響を与えるかどうかを試験した。TGFβなし又はありの増殖培地中で、単独で、又はKI又はrhPRG4と共にインキュベートされた、MDA-MB-231細胞の溶解産物の免疫ブロット分析は、興味深いことに、rhPRG4が、C末端のセリン残基465と467の上のSmad2のTGFβ誘導リン酸化を測定できる程に変化させないことを明らかにした(
図6A、6B)。
【0088】
[00107] rhPRG4がTGFβ-Smad依存性シグナル伝達に影響を与えるかどうかを確認するために、さらなる分析を行った。特に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現が、TPA応答要素(3T)とTGFβ応答遺伝子のプロモーター要素、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)の3つのタンデム反復の制御下にある、広く使用されている3TP-Luxレポーターアッセイを使用した、TGFβ-Smad誘導転写活性に対するrhPRG4の効果(Hsu et al., J. Biol. Chem., 2006;281(44):33008-18) を判定した。内部形質移入効率対照としてのCMV-ウミシイタケルシフェラーゼプラスミドと共に、3TP-luxプラスミドを同時形質移入されたMDA-MB-231細胞は、TGFβなし又はありの低血清含有増殖培地中で、単独で、又はrhPRG4と共に、一晩インキュベートし、溶解し、次にルシフェラーゼアッセイに供した。予測通り、TGFβは、3TP-Luxレポーター活性の有意な誘導をもたらした(
図6C、6D)。しかしながら、rhPRG4は、MDA-MB-231細胞中で、TGFβ誘導3TP-Luxレポーター活性を変化させなかった。これらのデータは、TGFβ誘導Smad2リン酸化に対する、rhPRG4の効果の欠如と一致する。総合すると、これらのデータは、rhPRG4がTGFβ-Smad誘導転写の下流で作用し、遊走及び浸潤の生物学的プロセスに影響を与えてもよいことを示唆する。
【0089】
実施例5:rhPRG4は乳がん細胞のヒアルロン酸誘導浸潤を抑制する
[00108] 乳がんのTGFβ誘導性浸潤と転移に寄与する重要な下流シグナル伝達軸は、ヒアルロン酸(HA)-分化抗原群44(CD44)経路であることを示唆する証拠が増えつつある(Meran et al., J. Biol. Chem., 2011;286(20):17618-30; Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22; Midgley et al., J. Biol. Chem., 2013;288(21):14824-38)。いくつかの報告は、TGFβが、ヒアルロン酸(HA)、特に間質における低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)の産生と分泌を触媒する酵素である、ヒアルロン酸シンターゼ2(HAS2)酵素の存在量を増加し得ることを示唆する(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201; Porsch et al., Oncogene, 2013;32(37):4355-65)。さらに、TGFβは腫瘍細胞上のHA受容体CD44の発現を増加させることが示唆されている(Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22)。次に、証拠は、LMWHAがCD44と結合し、腫瘍細胞の浸潤及び転移能を増強する、特定のシグナル伝達経路の活性化を引き起こすことを示唆している(Meran et al., J. Biol. Chem., 2011;286(20):17618-30; Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22; Midgley et al., J. Biol. Chem., 2013;288(21):14824-38)。最近の生体外データは、rhPRG4が、境界潤滑剤であって抗付着特性を有することに加えて、CD44結合についてHAと競合してもよく、それは下流のシグナル伝達を抑制し、変形性関節症及びリウマチ様関節炎由来の滑膜細胞の増殖に寄与してもよいという見解を支持する(Alquraini et al., Arthritis Research&Therapy. 2017;19(1):89; Al-Sharif et al., Arthritis Rheumatol. 2015;67(6):1503-13.)。これらの証拠を踏まえて、本発明者らは、3D乳がん細胞由来オルガノイドのTGFβ媒介浸潤性増殖のrhPRG4抑制、並びにトランスウェル浸潤及びスクラッチ治癒アッセイによって検出された細胞の浸潤性及び遊走(
図4A、5A、5C)が、TGFβが制御するHA-CD44シグナル伝達軸の破壊を伴うかどうかを問うた。この質問に対処するために、MDA-MB-231細胞におけるCD44の定常状態タンパク質レベルを特性決定した。免疫沈降とそれに続く細胞溶解産物の免疫ブロット分析は、CD44がMDA-MB-231細胞で発現されることを示し(
図7A)、活性CD44依存性シグナル伝達軸の可能性を高めているこの質問に対処するために、3D-MDA-MB-231細胞の浸潤性挙動に対するHAの効果を、転移性疾患の乳房腫瘍間質及び血清中で上昇することが報告されてきた、LMWHA(<10kDa)を使用して評価した(Wu et al., FASEB J., 2015;29(4):1290-8; Peng et al., Intl. J. Cancer, 2016;138(10):2499-509)。3D-MDA-MB-231細胞は、未処理のままにするか、LMWHAの濃度を上げながら、単独で、又はrhPRG4と組み合わせてインキュベートした。LMWHAは量依存様式で作用して浸潤性オルガノイドの比率を増加させ、球状オルガノイドの比率の減少に反映されている(
図7B、7C)。しかしながら、rhPRG4は、LMWHAが乳がん細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を促進する能力を抑制した。3D培養の結果と一致して、本発明者らは、トランスウェル浸潤アッセイでは、LMWHAが浸潤細胞の比率を増加させることを見いだした(
図7D、7E)。他方、HA-CD44相互作用を妨げるCD44中和抗体(Kariya et al., BBA Clinical. 2015;3:126-34)、もまた、LMWHAの存在下で細胞の浸潤をブロックした。同様に、rhPRG4は、外因性LMWHAの存在下で、乳がん細胞の浸潤を阻害できた。総合すると、これらの結果は、LMWHAが、MDA-MB-231細胞で、rhPRG4によってブロックされ得る3D培養とトランスウェル浸潤アッセイの双方において、浸潤性挙動を誘発することを示す。
【0090】
実施例6:CD44はMDA-MB-231細胞におけるTGFβ誘導浸潤性に極めて重要である
[00109] MDA-MB-231細胞のTGFβ及びLMWHA媒介浸潤性が、CD44依存性であるかどうかをさらに調べるために、これらの細胞のCD44をノックダウンする遺伝子サイレンシングのRNA干渉(RNAi)アプローチを使用した。CD44のエクソン16とエクソン4の特定の配列をそれぞれ標的化して、2種類のスモールヘアピンRNA(shRNA)を設計した。対照pU6RNAiベクターで、又はshRNA1、shRNA2を単独又は一緒に発現するRNAiプラスミドで、形質移入されたMDA-MB-231細胞の溶解産物のCD44免疫ブロット法により、これらのshRNAが個別に又は一緒に効率的に内因性CD44をノックダウンすることを確認した(
図8A)。RNAi対照ベクターで、又はCD44i-1/2を発現するプラスミドで形質移入された固定MDA-MB-231細胞のCD44免疫蛍光分析は、内因性CD44の劇的なCD44i-1/2誘導ノックダウンを示した(
図8B)。
【0091】
[00110] 次に、TGFβ又はLMWHAの存在下又は非存在下における、3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドに対する、CD44shRNA1/2による内因性CD44ノックダウンの効果を試験した。興味深いことに、CD4のノ4ックダウンは、球状オルガノイドの百分率を増加させ、球状オルガノイドの保存によって実証されるように、TGFβ又はLMWHAが浸潤性挙動を誘導する能力を抑制した。興味深いことに、CD44i-1とCD44i-2の共発現は、一貫して、TGFβ又はHAの非存在下又は存在下で、オルガノイドのサイズを大幅に減少させた。これらのデータは、CD44が、TGFβ及びLMWHAによる、MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖の誘導を媒介してもよいことを示唆する(
図8C、
図8D)。
【0092】
[00111] MDA-MB-231由来オルガノイドにおけるTGFβ及びLMWHA誘導浸潤性に対する、受容体CD44の重要性を確立した後、TGFβ及びHAの非存在下又は存在下でのこれらのオルガノイドに対する、CD44の過剰発現の効果を分析した。最初に、RT-PCRを使用して、MDA-MB-231細胞からのCD44 cDNAのオープンリーディングフレームを増幅し、次にCMVベースのプラスミドにサブクローン化して、MDA-MB-231細胞中でCD44/FLAGを発現させ、これはCD44及びFLAG免疫ブロット法によって確認した(
図8E)。ベクター対照又はCD44/FLAG発現プラスミドで一過性に形質移入されたMDA-MB-231細胞から3D-オルガノイドを生成し、TGFβ、LMWHAなし又はありの増殖培地中で、単独で、又はrhPRG4と一緒にインキュベートした。ベクター対照で形質移入された細胞に由来する未処理の3Dオルガノイドは、ほとんどが球状であり、TGFβ又はLMWHAとのインキュベーションに際して浸潤性になった一方で、これらの効果はrhPRG4によって大幅に逆転した(
図8F、8G)。しかしながら、過剰発現したCD44/FLAGは、TGFβ又はLMWHA不在下であってさえも、3Dオルガノイドの浸潤性増殖を促進した。興味深いことに、rhPRG4は、TGFβ又はLMWHAの非存在下又は存在下で、過剰発現したCD44がMDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を促進する能力を抑制した。これらの結果は、rhPRG4がCD44依存様式で乳がん細胞の浸潤性増殖を抑制するという概念をさらに支持する。全体として、CD44ノックダウン及び過剰発現試験からの知見は、rhPRG4が、CD44の媒介するTGFβ又はLMWHAによるMDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性表現型の促進を抑制することを示唆する。
【0093】
実施例7:HA-CD44軸は乳がん細胞由来オルガノイドのTGFβ誘導浸潤性増殖を媒介する
[00112] MDA-MB-231細胞由来オルガノイドのTGFβ誘導浸潤性増殖におけるCD44の役割をさらに調べるために、3D培養物を増殖培地で又は増加する濃度のLMWHAと共に、単独で、又はTGFβ、KI、CD44中和抗体又はrhPRG4の異なる組み合わせと共にインキュベートした(
図9A、9B)。以前の知見と一致して、LMWHAの濃度を増加させた3D-MDA-MB-231細胞由来培養物のインキュベーションは、乳がん細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖殖を促進した。TGFβは、LMWHAがこれらのオルガノイドの浸潤性増殖を誘導する能力をさらに高めた。興味深いことに、TGFβ誘導浸潤性増殖を抑制したKIは、LMWHA効果を逆転させ得ず、LMWHA媒介浸潤は、TGFβシグナル伝達経路の下流で作用することが示唆された。逆に、CD44中和抗体は、LMWHA刺激とTGFβ刺激の双方が浸潤性増殖を誘導する能力を抑制し、実際、この介入は、KI治療法と比較して球状オルガノイドの数を大幅に増加させた。さらに、CD44中和抗体によるこれらのオルガノイドのTGFβ誘導浸潤性増殖の遮断は、TGFβがこれらの細胞のCD44依存性経路に浸潤性を誘導することを示唆する。PRG4は、CD44抗体と同様に、MDA-MB-231細胞由来オルガノイドのTGFβ及びLMWHA誘導浸潤性増殖を抑制した。これらのデータは、rhPRG4がLMWHAとTGFβを介した経路の双方の下流で機能していることを示唆する。総合すると、これらの結果は、HA-CD44軸がMDA-MB-231細胞のTGFβ誘導浸潤性増殖に顕著に寄与し、このシグナル伝達軸が、rhPRG4標的であるように見えることを示す。
【0094】
[00113] これらの細胞のTGFβ誘導浸潤性に対するHA-CD44経路の影響、より具体的にはヒアルロン酸シンターゼ(HAS)酵素によるHA合成の役割をさらに判定するために(Auvinen et al., Breast ccancer research and treatment, 2014;143(2):277-86)、3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドに対する4-メチルウンベリフェロン(4-MU、HAS阻害剤)の効果(Urakawa et al., Intl. J. Cancer,. 2012;130(2):454-66) を調べた。具体的には、3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドを、4-MUなし又はありで、単独で、又はTGFβと一緒に、LMWHAとrhPRG4の異なる組み合わせで、インキュベートした(
図9C、9D)。4-MUは、TGFβ誘導3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を抑制したが、これは外因性LMWHAの添加によって逆転した。逆に、rhPRG4は、4-MU処理3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドのLMWHA誘導浸潤性増殖を抑制した。総合すると、これらのデータは、HA-依存様式の、3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドのTGFβ誘導浸潤性増殖を示す。さらに、3D-MDA-MB-231細胞由来球状体のTGFβ及びLMWHA誘導浸潤性増殖の双方のrhPRG4抑制は、rhPRG4がHA産生及びそのシグナル伝達経路の下流で作用することを示唆する。
【0095】
[00114] 全体として、これらの結果は、3D-MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性挙動を促進する上でのTGFβシグナル伝達とHA-CD44軸の間の相互作用を示唆する。重要なことに、このデータは、rhPRG4がTGFβの下流で作用して、MDA-MB-231由来のオルガノイドの浸潤性増殖を促進するHA-CD44軸の能力を抑制してもよいことを示唆する。
【0096】
実施例8:HA-CD44シグナル伝達軸はTGFβとPRG4によって制御される
[00115] TGFβが、それによってCD44シグナルを制御してもよい、分子機序についてさらに理解を深めるために、MDA-MB-231細胞中のCD44のタンパク質存在量に対する、TGFβの効果を免疫ブロット法分析で試験した。 興味深いことに、これらの実験により、TGFβ-シグナル伝達の活性化が、MDA-MB-231細胞中のCD44のタンパク質存在量を促進することが示された(
図10A、
図10B)。対照的に、本発明者らは、PRG4がTGFβの不在下又は存在下で、CD44のタンパク質存在量を減少させることを見いだした。rhPRG4はTGFβ誘導Smad2リン酸化を減少させず、rhPRG4媒介CD44抑制は、経路のこの段階に関与していなくてもよいことが示唆された。未処理の、TGFβ及び/又はPRG4処理された、MDA-MB-231細胞由来のオルガノイドのCD44間接免疫蛍光法を用いたその他の分析では、TGFβがCD44免疫染色シグナルを増強した一方で、rhPRG4はTGFβの非存在下又は存在下でこのシグナルを低下させ、したがって免疫ブロット法データがさらに確認された(
図10C)。
【0097】
[00116] HAS2阻害剤である4-MUが、3D乳ガン細胞由来オルガノイドのTGF-誘導浸潤性を抑制したことから、TGFβがMDA-MB-231細胞におけるHAの産生を制御していてもよいことが示唆された。したがって、本発明者らは、HASタンパク質レベルに対するTGFβの効果を調べた。HAS1/2/3イソ型の中で、HAS2はこれらのMDA-MB-231細胞中で最も多く見られる酵素である(Schwertfeger et al., Front Immunol. 2015;6:236)。免疫ブロット法分析は、TGFβがMDA-MB-231細胞におけるHAS2のタンパク質存在量を増加させることを示した(
図10D、10E)。興味深いことに、rhPRG4は、TGFβの非存在下又は存在下で、HAS2のタンパク質存在量を抑制した。
【0098】
[00117] 重要なことに、これらの分析は、TGFβとは対照的に、rhPRG4がCD44とHAS2のタンパク質存在量の減少を、外因性TGFβの非存在下又は存在下でもたらすことを明らかにし、これは、rhPRG4が乳がん細胞のTGFβ誘導浸潤を抑制する機序を提供し得る。
【0099】
実施例9:実施例3~8で提供されたデータからの知見の要約
[00118] 実施例3~8で提供されるデータは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を有する患者に由来するがん細胞におけるムチン様糖タンパク質rhPRG4の新規の抗遊走性及び抗侵襲性の役割を実証する。特に、サイトカインTGFβが三次元ヒトMDA-MB-231 TNBC細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を促進する能力を抑制することによって、rhPRG4はこれらの多細胞構造の非浸潤性球状形態を維持する。エピスタティック研究により、rhPRG4がTGFβ-Smadシグナル伝達の下流で作用し、その抗遊走性及び抗浸潤性効果を達成することが明らかになった。さらに、データは、rhPRG4がTGβ誘導HA-CD44シグナル伝達活性化を妨害することを示唆し、これは、このサイトカインによるMDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖に重要な役割を果たす。データは、生化学的分析において、外因性TGFβの非存在下又は存在下で、MDA-MB-231細胞におけるHA産生酵素HAS2とHA受容体CD44のタンパク質存在量をTGFβシグナル伝達が増加させる一方で、rhPRG4は減少させることを示し、したがってrhPRG4が、これらの細胞において浸潤と遊走を阻害する機序が示唆される。全体として、これらの知見は、rhPRG4の生物学的機能と潜在的な治療上の意味に重要な洞察を追加する。
【0100】
[00119] rhPRG4が乳がん細胞で抗遊走及び抗浸潤効果を発揮することは、固形腫瘍の大部分を占める上皮組織由来がんにおけるこの糖タンパク質の役割を実証する。これらの知見は、rhPRG4が細胞応答を制御し得て、したがって純粋な軟骨境界潤滑剤としての元来の特定された役割を超えて作用するという、高まりつつある見解を支持する重要な証拠に寄与し、組換え糖タンパク質の新たな生物療法活性への新しい次元を示唆する。
【0101】
[00120] 免疫ブロット法及び免疫組織化学分析に基づく(Abubacker et al., Connective Tissue Res., 2016;57(2):113-23; Chawla et al., Acta biomaterialia. 2010;6(9):3388-94)、PRG4を特異的に認識する抗PRG4 mAb 4D6が、rhPRG4による乳がん細胞由来オルガノイドの浸潤増殖抑制作用を妨げるという発見は、mAb 4D6がPRG4中和抗体の役割を果たすことを示唆する。この以前に報告されていない抗PRG4活性は、PRG4の抗浸潤活性に関連するその他の分子との相互作用をmAb 4D6が妨害していることを反映しているかもしれない。この抗体によって標的化されるPRG4のエピトープの将来の同定は、その抗浸潤性に関してrhPRG4の機能ドメインへの洞察を追加してもよい。
【0102】
[00121] TGFβは、がんの発生と進行において二重の役割を果たす(31、46)。証拠は、腫瘍性疾患の初期段階では、TGFβが腫瘍抑制因子の役割を果たす一方で、がんの後期では、それが、乳がんを含めた異なるがん腫の浸潤性と転移を促進し得ることを示唆する(Massague, Nat. Rev. Mol. Cell. Biol., 2012;13(10):616-30; Lebrun et al.,. ISRN Mol. Biol. 2012:381428)。したがって、腫瘍抑制特性に影響を及ぼすことなく、TGFβの腫瘍促進の役割を下方制御する方法を同定することで、腫瘍増殖をさらに制御してもよい。rhPRG4が、受容体制御スマッドSmad(例えば、Smad2などのR-Smad)のリン酸化及び転写活性に影響を及ぼすことなく、TGFβ誘導浸潤性増殖を抑制するという発見は、TGFβが腫瘍増殖を抑制する能力がそのまま残っているかもしれない可能性を高め、これは将来の調査の対象となり得る。MDA-MB-231由来オルガノイドに対するrhPRG4の抗浸潤作用は、LMWHA-CD44シグナル伝達軸の遮断によって媒介され、シグナル伝達軸は生体内での関連性を有してもよい。一般に、乳房を含む腫瘍細胞における細胞表面糖タンパク質CD44の濃縮は、がんの浸潤性、転移性、ひいては予後不良と関連づけられている(Zoller, Nat. Rev. Cancer, 2011;11(4):254-67)。乳がん間質を含めた異なるながん腫で上昇するHA(Auvinen et al., Am. J. Pathology, 2000;156(2):529-36) 、及び血清(Wu et al., FASEB J., 2015;29(4):1290-8; Peng et al., Intl. J. Cancer, 2016;138(10):2499-509) は、CD44に対するリガンドの役割を果たす。二糖の繰り返しの数に応じて、HAは一般に、高分子量ヒアルロン酸(HMW HA)と低分子量ヒアルロン酸(LMWHA)に分類される(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201)。重要なことに、LMWHA-CD44結合は、最終的にがん細胞の浸潤、移動、増殖を促進する別個のシグナル伝達経路の活性化を引き起こし得る(Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22; Wobus et al., Appl Immunohistochem. Mol Morphol., 2002;10(1):34-9; Nam et al., Cellular Signaling. 2015;27(9):1882-94; Liu et al., Cancer Res., 2017;77(14):3791-801)。さらに、LMWHA-CD44クラスターは、腫瘍塊の浸潤前部で間質ECMの組織修復リを誘導するように作用し得る(Yu et al., Genes&Development, 1999:13(1):35-48)。外因性LMWHAがMDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を促進するというここでの新たな発見は、腫瘍間質におけるLMWHAの上昇ががん浸潤性を促進し得るという見解と一致する(Auvinen et al., Breast ccancer research and treatment, 2014;143(2):277-86)。rhPRG4が、がん細胞のHA-CD44誘導浸潤性に悪影響を与えるという見解は、PRG4が、リウマチ様関節炎及び変形性関節症の滑膜細胞増殖と、ヒト及びマウスマクロファージにおけるいくつかの炎症性サイトカイン産生とを誘導する、HA-CD44媒介炎症性シグナル伝達に拮抗することを示唆する、その他の研究と一致する(Alquraini et al., Arthritis Research&Therapy. 2017;19(1):89; Al-Sharif et al., Arthritis Rheumatol. 2015;67(6):1503-13; Qadri et al., Arthritis Res&Ther., 2018;20(1):192)。全体として、これらの知見は、rhPRG4とLMWHAがCD44結合に対して競合し(Al-Sharif et al., Arthritis Rheumatol. 2015;67(6):1503-13)、それらを乳がん細胞とTGFβ経路に拡張するという見解と一致する。将来の研究では、その他の各種がん、特にHAに富む間質環境における高CD44発現がん細胞における、rhPRG4の抗浸潤効果を調べ得る(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201; Zoller, Nat. Rev. Cancer, 2011; 11(4):254-67)。
【0103】
[00122] 本明細書のデータは、rhPRG4が、乳がん浸潤を促進する際にTGFβをHA-CD44経路の活性化に結び付けることを示す。TGFβはHAS酵素、特にHAS2の発現を促進し、その結果、乳がんのECMに高レベルのHAが蓄積することが示されている(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201; Porsch et al., Oncogene, 2013;32(37):4355-65)。最後に、TGFβはSmad依存様式で、CD44の発現を促進することも示されている(Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22; Tripathy et al., Mol. Cell., 2016;64(3):549-64)。この研究では、本発明者らは、TGFβが、MDA-MB-231細胞のHAS2とCD44の双方のタンパク質存在料を増加させることを報告する。総合すると、これらの結果は、HAS2の阻害及びCD44の機能喪失分析の効果と共に、HA-CD44経路がこれらの細胞の浸潤と遊走を誘導するTGFβの能力を媒介する上で、重要な役割を果たすことを示す。
【0104】
[00123] MDA-MB-231細胞由来オルガノイドの浸潤性増殖を誘導する、過剰発現したCD44の能力をrhPRG4が抑制することは、免疫ブロット法及び免疫蛍光法分析で示されたように、HA-CD44結合の減少、及び/又はCD44とHAS2タンパク質レベルの減少を伴ってもよい。本発明者らの結果は、rhPRG4が、Smad2のリン酸化に影響を及ぼすことなく、MDA-MB-231細胞におけるCD44とHAS2タンパク質存在量のTGFβ誘導上方制御を低減し得る事を実証し、それがTGFβ-Smadシグナル伝達経路の下流で機能していることが示唆される。以前の文献(Li et al., Int. J. Mol. Med., 2015;36(1):113-22)で示唆されているように、rhPRG4がこれらの細胞におけるMAPK活性化を抑制することによって、TGFβ誘導性HA-CD44シグナル伝達軸を抑制するかどうかは、未だに解明されていない。さらに、異なる細胞型を用いた以前の研究(Al-Sharif et al., Arthritis Rheumatol. 2015;67(6):1503-13)で示されているように、rhPRG4が乳がん細胞におけるCD44結合についてHAと競合するかどうかは、さらなる研究を必要とする。TNBC乳がん細胞のTGFβ-HA-CD44誘導浸潤を阻害する基本的な機序が何であれ、rhPRG4が、MDA-MB-231細胞のrhPRG4が、TGFβ及びLMWH誘導浸潤性の双方を有意に抑制できることは明らかである。
【0105】
[00124] これらのデータは、rhPRG4が、少なくとも部分的にはTGFβ刺激を媒介するHA-CD44シグナル伝達軸の能力を抑制することにより、生体外でMDA-MB-231TNBC細胞のTGFβ誘導浸潤及び遊走を抑制し得ることを示す。我々の知見はまた、rhPRG4がCD44及びHAS2のタンパク質存在量のTGFβ誘導増加に拮抗し得ることも示し、これはこれらの細胞のTGFβ誘導浸潤性を説明してもよい。最後に、rhPRG4はまた、これらの細胞のLMWHA誘導浸潤性も阻害し得る。TNBCの侵襲性と死亡率がCD44の高発現と相関していること(Wang et al., Oncology Letters, 2017:14(5):5890-8))、及びTGFβシグナル及びCD44シグナル伝達軸を標的化する以前の治療ストラテジーは、有望視されているものの有害な副作用があること(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201; Neuzillet et al., Pharmacology&Ther., 2015;147:22-31)を考慮すると、rhPRG4の臨床評価に向けた迅速な技術移転アップデートの可能性と並んで、rhPRG4は潜在的な生物学的抗がん療法としての理想的な候補に相当する。結論として、これらの知見は、これまで調査されていなかった乳がんの領域におけるPRG4の生物学的活性の理解に貢献し、乳がんだけでなく、生存、増殖、転移能についてTGFβ及びHA-CD44シグナル伝達に依存している可能性のあるその他のがんを対象とする将来の調査の枠組みを提供する(Misra et al., Front. Immunol., 2015;6:201; Zoller, Nat. Rev. Cancer, 11(4):254-67)。
【0106】
実施例10:トリプルネガティブ乳がんを有するヒトの治療。
[00125] 非転移性トリプルネガティブ乳がんと診断されたヒト女性に、腫瘍の領域に局所注射によって組換えヒトPRG4(rhPRG4)を投与する。投与は局所麻酔下で行う。生理食塩水中の100μg/mLの濃度のrhPRG4の総量2mLを14ゲージ針で投与する。腫瘍の内部及びその表面に数回注射することで、腫瘍全体に用量を分散させる。用量は週に1回4週間投与する。4週間後、CTスキャンにより腫瘍のサイズが縮小したことを明らかにする。
【0107】
実施例11:前立腺がんを有するヒトの治療。
[00126] 結腸がんと診断された80kgのヒト男性に、中心静脈カテーテルを介した全身投与によって、組換えヒトPRG4(rhPRG4)を投与する。2.0mg/mLのルブリシンの濃度で250mLの生理食塩水中の500mgのrhPRG4の総量を投与し、約100μg/mLの血中濃度を生じさせる。用量は週に1回4週間投与する。4週間後、CTスキャンにより結腸の腫瘍のサイズが縮小したことを明らかにする。
【0108】
実施例12:トリプルネガティブ乳がんを有するヒトの治療。
[00127] 非転移性トリプルネガティブ乳がんと診断されたヒト女性に、腫瘍の領域に局所注射によって組換えヒトPRG4(rhPRG4)を投与する。投与は局所麻酔下で行う。生理食塩水中の10μg/mLの濃度のrhPRG4の総量2mLを14ゲージ針で投与する。腫瘍の内部及びその表面に数回注射することで、腫瘍全体に用量を分散させる。用量は週に1回4週間投与する。rhPRG4の投与スケジュール中に、標準プロトコルに従ってタキサンとドキソルビシンのカクテルもまた患者に投与する。4週間後、CTスキャンにより、腫瘍のサイズが縮小し、タキサンとドキソルビシンのみで治療されている患者よりも速い速度で縮小したことを明らかにする。
【0109】
実施例13:ルブリシンによる肝細胞がん腫の治療
[00128] 肝細胞がん腫は、最も頻度が高く、致死的な新生物の1つであり、現在用いられている治療法にしばしば抵抗性を示す。ラフェニブとレゴラフェニブの投与は、このがんを治療するための優先的な薬物ベースのアプローチの1つであるが、全体として、満足のいく効果は得られない。しかしながら、これらの薬剤を様々なその他の化合物と組み合わせてその有効性を高めることは、ますます追求されている有望なストラテジーである。78人のHCC患者の腫瘍及び腫瘍周囲組織のマイクロアレイ分析に基づいて、この実施例は、ルブリシン(PRG4)がHCCで発現され、さらに重要なことに、それがHCC患者の生存率の増加と強く相関している(p<0.001)ことを示す。HCC患者から単離されたヒトがん関連線維芽細胞(CAF)はルブリシンタンパク質を産生し、培養培地中で形質転換成長因子β(TGFβ)で処理されたヒトHCC標本は、ルブリシンを放出した。さらに重要なことに、この実施例は、全長組換えヒトPRG4(rhPRG4)による治療が、細胞増殖に大きな影響を与えないものの、HCC細胞増殖を阻害するソラフェニブとレゴラフェニブの能力を劇的に高めることを示す。これらのデータは、TGFβの潜在的な新規腫瘍抑制の役割、及びルブリシンが腫瘍抑制機能を発揮してもよいことを示唆する。したがって、この実施例は、非合成の生理学的に生成された化合物rhPRG4が、単独で、又はソラフェニブとレゴラフェニブとの組み合わせで、抗腫瘍剤として作用し、HCCの治療において価値があってもよいことを示す。
【0110】
[00129] 肝細胞がん腫(HCC)は、世界中でがん関連死の最も頻繁な原因の1つである。HCCを有する患者の大多数は、外科的アプローチ又は高周波アブレーションに基づく治癒的治療に適格でないことから、全身的な薬物ベースの治療が必要である。しかしながら、ソラフェニブとレゴラフェニブなどの化合物の投与における複数年の経験は、全生存の観点から期待外れの結果をもたらした。(Kudo et al., Lancet 2018. doi:10.1016/S0140-6736(18)30207-1; Bruix et al. Lancet 2017. doi:10.1016/S0140-6736(16)32453-9; Abou-Alfa et al. N Engl J Med 2018. doi:10.1056/NEJMoa1717002; Kok et al. Cancers (Basel) 2019. doi:10.3390/cancers11070985)。HCCの腫瘍進行の根底にある分子機序に関する知識が乏しいこと、並びに付随する既存の肝疾患のためにこの疾患によって示される、腫瘍間及び腫瘍内の高い不均一性は、精密医療アプローチの開発を妨げている。(Nault et al., Clin Cancer Res 2015. doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-2602; Torrecilla et al., J Hepatol 2017. doi:10.1016/j.jhep.2017.08.013; Hung et al., 2019 doi:10.1007/978-3-030-21540-8_14)。上皮がん細胞と周囲の微小環境、特にがん関連線維芽細胞(CAF)との間のクロストークは、HCC進行に重要な役割を果たし、その結果、臨床転帰に重大な影響を与えると考えられている。(Kudo 2018 supra, Bruix 2017 supra)。
【0111】
[00130] CAFの起源については、まだ議論の余地がある。慢性肝疾患の炎症性及び進行性線維化過程、及びHCCの発生過程で、多様な肝内細胞が表現型変化を起こし、最終的にCAFに分化することが示唆されている。これに関連して、CAFは隣接する悪性細胞によって表現型的にプログラムされ、続いて、おそらくは細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含めた異なる分子の沈着又は分泌を通じて、HCC細胞の増殖と拡散を促進してもよい(Mazzocca A et al., Hepatology 2011. doi:10.1002/hep.24485; Mazzocca et al., Hepatology 2010. doi:10.1002/hep.23285)。実際、CAFは、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、エラスチン、及びプロテオグリカンなどのI型及びIII型非コラーゲン性糖タンパク質のような小繊維コラーゲンを含めたECM沈着の主要な寄与体である。(Bataller R et al., J Clin Invest 2005. doi:10.1172/JCI200524282)。プロテオグリカン(PG)は、高度にグリコシル化された高分子量タンパク質のクラスであり、全ての線維性組織、特に軟骨組織で広く発現され、関節の滑りを可能にする潤滑機能を有する。バーシカン(VCAN)などのいくつかのPRGは、形質転換成長因子(TGF)-βによって発現が上方制御され、驚くべきことに、がん浸潤に寄与している。(Nikitovic et al., IUBMB Life 2006. doi:10.1080/15216540500531713; Cross et al. Prostate 2005. doi:10.1002/pros.20182)。最近、プロテオグリカンルブリシンのヒト組換え形態が、CD44軸に作用することによって、TGFβ媒介乳がん細胞浸潤を阻害することが示された。(Sarkar et al. PLoS One 2019. doi:10.1371/journal.pone.0219697)。
【0112】
[00131] TGFβは、HCCにおいてより浸潤性で悪性の表現型を促進することが広く報告されてきた。(Mazzocca 2010 supra; Fransvea et al., Hepatology 2008. doi:10.1002/hep.22201; Fransvea et al., Hepatology 2009. doi:10.1002/hep.22731; Mazzocca et al., Hepatology 2009. doi:10.1002/hep.23118; Fransvea et al., Cancer Chemother Pharmacol 2011. doi:10.1007/s00280-010-1459-x)。TGFβ経路阻害剤であるガルニセルチブは、進行したHCCを有する患者を対象とした多施設臨床試験で有効であることが報告された。(Abou-Alfa et al. N Engl J Med 2018. doi:10.1056/NEJMoa1717002。さらに、前臨床実験モデルでは、TGFβシグナル伝達を阻害することで、HCCの侵襲性が低下し、CD44の発現が低下した。(Rani et al., .Cell Death Dis 2018. doi:10.1038/s41419-018-0384-5)。ルブリシンの潜在的な抗腫瘍機能に照らして、この実施例では、患者の設定におけるその役割、並びにHCC細胞の増殖を制限して、ソラフェニブとレゴラフェニブの生体外細胞増殖阻害の可能性を高めるその機能を調べる。
【0113】
材料と方法
[00132] 細胞及び試薬:HLE及びHLF細胞株は、JCRB細胞バンク(日本)から購入した。Hep3B及びPLC/PRF/5細胞株はATCC(米国)から購入した。これらの細胞株は全て、ピルビン酸ナトリウム、抗生物質-抗真菌剤、Hepes、及び10%ウシ胎仔胎児血清(FBS)(テルモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)中で培養した。全長組換えヒトPRG4(rhPRG4)は、ルブリスバイオファーマ(米国マサチューセッツ州ウェストン)から提供された。
【0114】
[00133] 安定したCD44サイレンシング:対照の非標的化(V)、又はの特異的CD44-標的化shRNA配列(A~D)を保有するレンチウイルス粒子で、HLE及びHLF細胞株を形質導入し、ピューロマイシン二塩酸塩(テルモフィッシャーサイエンティフィック)で選択して、製造業者の指示(米国メリーランド州ロックビル20850のオリジーンテクノロジーズ社)に従って、安定したCD44サイレンシングを取得した。対照-shRNA配列(V)及びCD44-shRNA配列Bを、CD44下方制御を伴う全ての実験で使用した。CD44サイレンシング効率は、
図20に示される。
【0115】
[00134] 増殖アッセイ:100μlの完全培地に、3,000個の細胞を96ウェルプレートのウェル内に播種し、一晩放置して完全に付着させた。翌日(時間t=0時間)、培地を除去し、ソラフェニブ(2.5μM)、レゴラフェニブ(2.5μM)、rhPRG4(12.5~100μg/ml)の存在/不在下で100μlの新鮮な培地と交換した。ジメチルスルホキシド(DMSO)及びPBS+0.01%ツイーン20を、それぞれソラフェニブ/レゴラフェニブ及びrhPRG4のビヒクルとして使用した。各細胞株について三連のウェル内の細胞を、4%パラホルムアルデヒド(PFA、pH7.6、10分間のインキュベーション)でt=0時間に固定し、次にクリスタルバイオレット(CV)で染色して、完全に洗浄して過剰な染色を除去した。72時間後、100μlの4%PFAを培地に直接添加して細胞を固定し(2%の最終PFA濃度、20分間のインキュベーション)、既述のようにCV染色のために処理した。次に、100又は200μlの1%ドデシル硫酸ナトリウムをウェルに添加し、染色された細胞から完全にCVが放出されるまでプレートを振盪し続けた。光学密度は、プレートリーダーを用いて波長595nmで測定した。
【0116】
[00135] 免疫蛍光法:クリオスタットミクロトームを使用して、HCC腫瘍サンプルの5μm厚の切片を切断した。切片をブロック緩衝液(RPMI中の10%FBS)と共に30分間インキュベートして非特異的抗体結合を最小限に抑え、次に同一緩衝液中で希釈された一次抗体と共に2時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し(各洗浄は振盪しながら5分間)、最後に二次AF488共役又はAF594共役抗体とインキュベートした。このステップの最後に、切片を既述のように4回洗浄し、DAPIを添加したベクタシールド退色防止封入剤で封入した。
【0117】
[00136] アッセイ:100μlの無血清DMEM(+0.5%BSA)で希釈した、50,000個の細胞を96ウェルプレートの未被覆、rhPRG4、又はフィブロネクチン(FN)被覆ウェル上に、次に37℃、5%CO2で30分間インキュベートした。等容積の4%PFA(PBS中pH7.2)を添加し、プレートを即座に数秒間フリックして混合した。30分後、培地を除去し、付着細胞をクリスタルバイオレットで10分間染色した。30分後、培地を除去し、付着した細胞をクリスタルバイオレットで10分間染色した。水道水と蒸留水で十分に洗浄した後、染色した細胞を乾燥させ、次にそれらを100μlの1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で可溶化した。吸光度は595nmで読み取り、付着細胞数に比例していた。
【0118】
[00137] トランスウェル遊走アッセイ:アッセイは以前記載されたように実施した。(Dituri et al., PLoS One 2013. doi:10.1371/journal.pone.0067109)。簡潔に述べると、その膜の下面があらかじめフィブロネクチンで被覆されたトランスウェルの上部チャンバーに15,000個の細胞を負荷し、下部チャンバー内の無血清DMEM培地(+0.5%BSA)中で希釈されたrhPRG4(25μg/ml)の存在/不在下で、16時間移動させた。次に、細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレットで染色した。5つのフィールド/膜を撮影し、細胞/フィールドの数を測定した。
【0119】
[00138] ウエスタンブロット:組織タンパク質は、停止プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテルEDTAフリー(テルモフィッシャーサイエンティフィック)を添加した、T-PER組織タンパク質抽出試薬を使用して抽出した。簡潔に述べると、タンパク質は、組織ホモジナイザーを使用して抽出した。溶解産物を氷上で30分間インキュベートし、10分毎にボルテックス処理した。次に、サンプルを13,000rpm(4℃)で20分間遠心分離して清澄化し、不溶性残骸を沈殿させた。上清(抽出されたタンパク質を含有する)は、ブラッドフォード試薬(バイオラッド)を使用してタンパク質濃度をアッセイした。次に、タンパク質をラエンムリ緩衝液及び10%β-メルカプトエタノール(BME)と混合し、95℃で5分間変性させた。10~20μgの総タンパク質を4~20%PAAゲル上に負荷し、SDS-PAGEで泳動した。
【0120】
[00139] RNA抽出及びcDNA合成:30~60μgの凍結生体外処理HCC組織を、液体窒素の存在下で薄い粉末が得られるまで乳鉢乳棒を使用して粉砕した。粉砕組織を0.5~1mlのRLT緩衝液+1%(BME)で溶解し、製造業者の推奨(RNイージーキット、キアジェン)に従って処理した。CAFからのRNA単離は、RNイージーキットハンドブックで提案されている手順に従って実施した。得られたRNAは、ナノドロップ2000/2000c(テルモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、品質と濃度をアッセイした。相対的データシートに従って、高容量cDNA逆転写キット(テルモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、cDNAを合成した。
【0121】
[00140] リアルタイムPCR:1ng/μlのcDNAを、特定の目的の遺伝子に言及した、それぞれの500nMの順方向及び逆方向プライマーと、2xSYBRグリーンマスターミックス(バイオラッド)の存在下で、合計20μl反応混合物中で使用した。反応は、CFX96タッチリアルタイム検出システム(バイオラッド)で実施した。
【0122】
[00141] CAF単離:外科的切除の直後に、HCC腫瘍及び腫瘍周囲標本を0.5~1cmの小片に刻み、MACS組織保存溶液(ミルテニーバイオテク)中に放置した。次に、組織をさらに小さなサイズの小片(1~2mm)に切断し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で3回洗浄し、IV型コラゲナーゼ(テルモフィッシャーサイエンティフィック)及び3mMのCaClの存在下で、37℃で穏やかに回転させながら4時間HBSS中でインキュベートした。このステップの終了時に、より大きなサイズのオリフィスの50mlピペットで消化された組織を上下にピペット操作することによって、解離を機械的に促進した。浮遊細胞を採取し、HBSSで3回洗浄し、IMDM+20%FBSの通常の培養条件で播種した。デカントされた部分的に消化された組織標本は、(既述のように)2回目の消化に供した。得られた解離細胞をHBSSで洗浄し、IMDM+20%FBS中で培養した。これらの細胞を2~3回継代し、上皮/免疫/非付着細胞を排除した。CAF調製物の純度を評価するために、免疫蛍光法又はフローサイトメトリー分析を実施して、間葉系マーカー(ビメンチン及びaSMA)の発現を評価した。最小限の汚染非線維芽細胞(主にがん性肝細胞、胆管細胞、及びマクロファージ)の存在は、EpCAM、CD45、及びCD11bに対する抗体を使用して評価した。
【0123】
[00142] CAF処理及びCAF馴化培地のルブリシン免疫枯渇:CAFを完全IMDM培地(+20%FBS)中で、最終濃度5ng/mlのTGFβ1(ペプロテック)存在下/不在下で48時間処理し、次に無血清培地で3回洗浄し、セクレトーム濃縮のためにさらに48時間無血清培地でインキュベートした。次に、馴化培地を採取し、セントリコンデバイス(3kDaカットオフ、メルク・ミリポア)を使用して濃縮し}、製造業者の指示(シュアビーズプロテインB、バイオラッド)に従って、抗ルブリシン又はイソタイプ抗体結合PBSで事前に洗浄した磁性マイクロビーズと共にインキュベートした。次に、ルブリシンが枯渇した培地又は枯渇していない培地について、タンパク質濃度をアッセイし、さらなる試験に使用した。
【0124】
[00143] HCC初代細胞株PLC/DC/19の特性評価:HCC初代細胞株PLC/DC/19は、CAFを分離するのと同じ単離手順に従って、新鮮に採取された外科的に切除されたHCC標本から単離した。細胞の免疫表現型の特性評価は、抗体を使用して幹細胞性マーカー(OV6、CD133、CD44、及びCD90)、上皮マーカー(AFP、E-Cadh、EpCAM)、間葉系マーカー(Vim、N-Cadh、αSMA)、及びその他のがん関連表面タンパク質(CD13、CD151)を検出することにより、数回(<10)の培養継代後に行った(
図21)。
【0125】
[00144] マイクロアレイ分析:マイクロアレイ分析は、既述のように実施した(gut2016)。簡潔に述べると、トリゾール(米国カリフォルニア州カールスバッドのインビトロジェン)を使用して、HCCの最初の同定時に前向きに登録された患者のコホートで得られた、非腫瘍(NT)及び腫瘍(T)肝臓組織から全RNAを単離した。RNAは4x44K全ゲノムオリゴヌクレオチドベースの遺伝子発現マイクロアレイを使用して処理した(カリフォルニア州パロアルトのアリジェントテクノロジーズ;ドイツ国ベルギッシュグラッドバッハのミルテニーバイオテク社のゲノミクスサービス部門)。クイックアンプ標識キットとワンカラーマイクロアレイベースの遺伝子発現解析プロトコルを用いて、アジレントによって提供される指示に従って、標識及びハイブリッド形成手順を実施した。RNAをcDNAに変換した後、標識及び増幅のステップで、cDNAをcRNAに変換し、Cy3-CTPで標識した。精製後、cRNAをアジレント全ヒトゲノムオリゴマイクロアレイ4x44Kにハイブリダイズさせた。シグナルを定量化し、リニアローネス法を用いて結果を正規化した後、データベース管理、品質管理、及び解析のためのレゾルバソフトウェア(ワシントン州カークランドのロゼッタバイオソフトウェア)に、データを取り込んだ。遺伝子発現データは、受入れ番号GSE54236の下に、遺伝子発現オムニバスウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov/geo)で入手できる。
【0126】
[00145] 統計解析:生存分析。カプラン・マイヤー法を使用して、全生存の累積確率を推定した。患者は、LT、死亡、又は最後に利用可能なフォローアップの時点で打ち切られた。観察された確率の違いは、ログランク検定を使用して評価した。
【0127】
結果
[00146] HCC患者の腫瘍組織におけるPRG発現レベル:本発明者らは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4)、パーレカン(HSPG2)、バーシカン(VCAN)、及びルブリシン(PRG4)をはじめとする、異なるPRGの発現レベルを、前向きに募集した78人のHCC患者のコホートにおいて、同じ対象からの腫瘍組織と腫瘍周囲組織のペアのマッチドマイクロアレイ遺伝子発現解析を組み合わせて解析した。患者は、中央値より上又は下の各PRGのmRNA発現レベルに従って層別化した。以前に報告されたように、腫瘍中の目的の遺伝子の発現値を腫瘍周囲組織の値から差し引いて、同じ遺伝子のバックグラウンド腫瘍周囲発現に対して正規化された正味の遺伝子発現変化を得た。(Villa et al., Gut 2016. doi:10.1136/gutjnl-2014-308483)。注目すべきことに、カプラン・マイヤー分析によって示されるように、ルブリシンの発現レベルが高い患者は、発現レベルが低い患者と比較してより長く生存した(p=0.000)一方で、CSPG4、HSPG2、及びVCANは、生存との有意な相関係を示さなかった(
図13)。したがって、この実施例は、ルブリシンがHCC組織で発現され、高いレベルがより長い生存と相関していることを示す。
【0128】
[00147] ルブリシンはHCC腫瘍及び腫瘍周囲組織に存在しTGFβ刺激の下で発現する:本発明者らの以前のマイクロアレイデータをさらに確認するために、本発明者らは、ウエスタンブロッティングによって、2つの正常な肝臓及びHCC患者からの14個の腫瘍と周囲の非がん性標本のペアにおける、ルブリシンタンパク質の存在を調べた。次に、本発明者らはまた、異なる検体中のルブリシンの量も比較した。
図14Aに報告されているように、ルブリシンのタンパク質発現レベルは、正常な肝臓、腫瘍と腫瘍周囲組織の間で類似していたが、異なるサンプル間で非常に変動した。これは、ルブリシンタンパク質の発現量が、腫瘍発生に関連する付帯徴候ではなく、むしろ個々の腫瘍又は腫瘍周囲組織の微小環境に特有の特徴であることを示唆する。
【0129】
[00148] HCC進行に対するルビジンの関与を理解するために、本発明者らは、免疫蛍光法によってその発現をHCC組織に局在化させ、そこでそれは主に腫瘍の間質区画に分布しており、主にα平滑筋アクチン陽性(αSMA+)細胞の近傍で検出される(
図14B)。
【0130】
[00149] 間質細胞のルブリシン分泌への関与をサポートするために、本発明者らは、CAF及び生体外HCC標本をTGFβ、TGFβRI阻害剤であるLY2157299(ガルニセルチブ)、又はその双方で48時間チャレンジし、PRG4 mRNA発現を分析した。TGFβがCAF(p<0.01)とHCCサンプル(p<0.05)の双方でルブリシンの発現を著しく増強した一方で、LY2157299はこの効果を相殺した(p<0.01)。興味深いことに、LY2157299は対照と比較して、ルブリシンの発現もまた下方制御した。これはおそらく、少なくとも部分的には、この薬剤によって発揮される内因性TGFβ経路の遮断に依存する。同じ実験条件下で、本発明者らは、αSMA、CSPG4、HSPG2、及びVCANのmRNA発現もまた分析した。一貫して、CAFの筋線維芽細胞表現型は、TGFβによって増加した(強化されたαSMA発現によって示される)。TGFβはまた、HCCの培養組織ではHSPG2とVCANの発現レベルを有意に増加させ(それぞれp<0.05とp<0.01)、CAFではVCANは増加させるがHSPG2は増加させないことから、CSPG4発現がTGFβによって制御されていないこと、及びHSPG2がこのサイトカインの制御下でHCCにおいてCAF以外の細胞によって生成されていてもよいことが示唆される(
図15)。
【0131】
[00150] ルブリシンは、CD44発現が低いHCC患者のより良い予後と相関する:以前記載された関連性の臨床的役割を調査するために、本発明者らは、腫瘍侵襲性と全生存に関連するルブリシン及びその他の関連遺伝子の発現レベルの高低に応じて患者を層別化した。腫瘍におけるルブリシンのトランスクリプトミクス解析は、より低い発現レベルが腫瘍のより高い生物学的侵襲性と関連していることを実証した(侵襲性腫瘍対無刺激の腫瘍:11.1±3.0対13.4±1.6、p<.0001)。ルブリシン発現の増加は、CD44発現が低い患者のより良い予後と有意に(p<0.001)相関していたが、TGFβ、CD44、及びαSMAの発現レベルは、臨床転帰とは関連していなかった。しかしながら、ルブリシンレベルが低い患者では、高いTGFβ発現がより悪い予後と関連していたことは注目に値し、TGFβの腫瘍抑制の役割が、ルブリシン発現を刺激するその能力によって少なくとも部分的に媒介されてもよいことが示唆される一方で、この上方制御機序の欠如は、解き放たれたTGFβ腫瘍促進作用をもたらしてもよい。なおもより興味深いことに、「保護」因子としてのルブリシンの推定効果は、CD44発現が高い患者では失われていた(
図16)。
【0132】
[00151] ルブリシンはHCC細胞の付着と遊走を阻害する:ルブリシンが、HCC患者、特にCD44発現レベルが中央値を下回る患者の全生存をどのように改善するかを理解するために(
図13及び16)、本発明者らは、rhPRG4がHCC細胞の侵襲性に必要ないくつかの重要な機能、すなわち付着と遊走に影響を与えるかどうかを調べ、次に、CD44の発現が関係しているかどうかを調べた。HLE及びHLFは、2つの強力なCD44陽性浸潤性HCC細胞株である(以下に説明される、
図18)。フィブロネクチンへの付着に関して、CD44発現のサイレンシング時にルブリシンへの付着が損なわれる(
図17A)。さらに、可溶性rhPRG4(25μg/ml)がフィブロネクチン上の同じ細胞の遊走を損なう一方で、CD44の下方制御は運動性に影響を与えまない(
図17B)。これは、HCC微小環境で発現するルブリシンが、発現が少ない場合にCD44受容体をより効率的に飽和させるかもしれないこと、及びCD44以外のその他のルブリシン受容体が、細胞の遊走と浸潤の抑制に関与している可能性が高いことを示唆する。
【0133】
[00152] CD44/ルブリシン軸は、HCC細胞に対するソラフェニブとレゴラフェニブの有効性を高める:ルブリシン/CD44軸の生物学的役割をさらに詳しく調べるために、本発明者らは、HLE、HLF、PLC/DC/19HCC CD44陽性細胞、及びHep3B、PLC/PRF5 HCC CD44陰性細胞に、rhPRG4の存在/非存在下でソラフェニブとレゴラフェニブでチャレンジさせた。全てのHCC細胞は、rhPRG4と、IC50(約5μM)より低い濃度(2.5μM)ののソラフェニブ又はレゴラフェニブの存在下/不在下で、同じ実験条件下で72時間培養した。rhPRG4単独では細胞増殖を顕著に損なうことはなかったが、ソラフェニブ又はレゴラフェニブと組み合わせると、12.5~100μg/mlの濃度でHLE、HLF、及びPLC/DC/19細胞に対する有効性が強く相乗的に改善された。rhPRG4と薬剤の相乗効果は、HLE、HLF、及びPLC/DC/19細胞で得られた効果より低くても、Hep3Bの増殖中に存在したが、rhPRG4の最高濃度でのみ見られた。代わりに、PLC/PRF5細胞は全く応答しなかった(
図18)。
【0134】
[00153] CD44/ルブリシン軸の分子機序を分析するために、本発明者らは、機能喪失アプローチを用いて、shRNAレンチウイルス形質導入アプローチを介してHCC細胞におけるCD44発現をサイレンシングした。対照-shRNA及びCD44-shRNAHCC細胞は、rhPRG4(0~100μg/mlの範囲の濃度)の存在/不在下、ソラフェニブ又はレゴラフェニブ(2.5μMの濃度)なし又はありで、72時間の増殖アッセイで試験した。細胞増殖を阻害する双方の薬剤の能力は、対照細胞と比較して、CD44サイレンシング細胞で有意に減少し(rhPRG4濃度に応じてp<0.05~p<0.001)、ルブリシン膜結合を可能にするためにHCC細胞がCD44を発現する必要性と、それに続く生体外でのHCC細胞増殖の増強された薬物誘発性障害を実証する(
図19A)。rhPRG4に曝露されたCD44サイレンシング細胞で起こるこの薬物有効性の抑制は、薬物に曝露された低CD44発現HCC細胞株PLC/PRF/5及びHep3BのrhPRG4に対する感受性の低下と一致している(
図18)。
【0135】
[00154] TGFβによって刺激されたCAF馴化培地はルブリシン分泌を介してソラフェニブとレゴラフェニブの有効性を高める:ルブリシンの役割をさらに確認するために、本発明者らは、より生理学的な状況に類似した生物学的カスケードを生体外で再現し、それによって、TGFβはルブリシンを分泌するCAFを刺激し、HCC細胞に対するソラフェニブとレゴラフェニブの双方の薬効を改善する。(
図19B)。CAFを完全培地中でTGFβと共に48時間インキュベートし、飢餓状態(無血清)でさらに48時間(TGFβなしで)培養し、分泌タンパク質を濃縮させた。次に馴化培地を採取し、イソタイプ又は抗ルブリシン抗体と共にインキュベートし、タンパク質濃度をアッセイし、それを使用して、1.5μMのソラフェニブとレゴラフェニブの存在下、及び/又はTGFβ刺激CAFからの20μg/mlルブリシン枯渇又は非枯渇馴化培地(CM)の存在下で、HCC細胞を増殖させるようにチャンレンジした。TGFβ刺激CAFからの馴化培地は、ルブリシン枯渇馴化培地と比較して、HLF細胞に対するソラフェニブとレゴラフェニブの有効性を有意に増加させた(p<0.01)(
図19B)。これは、CD44/ルブリシン軸が、ソラフェニブとレゴラフェニブの薬剤有効性を高めることを示唆する。
【0136】
考察
[00155] 今に至るまで、免疫学的チェックポイントに向けられた薬のいくつかの例外を除いて、がん細胞は常に唯一の信頼できる治療ターゲットと考えられてきたが、HCCの場合のように、臨床転帰に関する結果はしばしば満足のいくものではない。このがんでは、ECMタンパク質、炎症細胞、及びCAFを豊富に含む慢性肝疾患に由来する周辺組織の中で細胞が増殖し、その中に入り込んでいく。この実施例では、本発明者らは、これまで関節の軟骨部位に存在することが知られているPGファミリーに属する糖タンパク質であるルブリシンが肝臓で発現していることを示した。さらに、本発明者らは、その発現が5年間追跡された78人の患者のコホート(REFVilla、GUT)のより長い生存と正の相関があることも示す。実験モデルでは、本発明者らはまた、ルブリシンがCD44受容体と結合することによってHCC細胞の付着と遊走を阻害することも示す。これは、臨床データの理解に貢献する。それはまた、ルブリシンは、CD44に結合することにより、TGFβが誘導する乳がん細胞株MDA-MB231の遊走及び浸潤の増強を相殺し、その結果、その浸潤促進性の下流シグナル伝達を妨害できるという、Sarkar et al. (PLoS One 2019. doi:10.1371/journal.pone.0219697)による実証とも一致する。さらに、これらの著者は、CD44の発現がルブリシンへの結合に続いて減少することを発見した。
【0137】
[00156] CD44はHCCの幹細胞性マーカーであり、その発現は、TGFβによって誘導され(Fernando et al., Int J Cancer 2015. doi:10.1002/ijc.29097)、一貫して、HCCを有する患者の多施設臨床試験でも有効であることが証明された(Kelley et al., Clin Transl Gastroenterol 2019. doi:10.14309/ctg.0000000000000056)、TGFβ阻害剤によって阻害される(Rani et al.Cell Death Dis 2018. doi:10.1038/s41419-018-0384-5)ことが報告されている。最後に、CD44/ルブリシン軸は、生体外で、HCC細胞に対するソラフェニブとレゴラフェニブの抗増殖作用を増強する。現在まで、ルブリシン機能は主にがんの文脈の外で知られている。Nahon et al.は、ルブリシンの不在が、すでに動脈硬化を発症しやすい2つの高脂血症モデルマウス、すなわちアポリポタンパク質Eノックアウト(ApoE KO)マウス及び低密度リポタンパク質受容体ノックアウト(Ldlr KO)マウスにおいて、アテローム性動脈硬化症の易罹患性が高まることを示した(Nahon et al., Atherosclerosis. 2018. doi:10.1016/j.atherosclerosis.2018.06.883)。TGF-βシグナル伝達の発現低下は、ヒトの加齢性変形性関節症に関連している。ヒト変形性関節症を効果的に再現するTGF-βシグナル伝達に欠陥のあるマウスでは、その関節潤滑機能により、ルブリシンがこの疾患の発症を予防するのに効果的であることが証明されている(Chavez et al., PLoS One 2019. doi:10.1371/journal.pone.0210601)。
【0138】
[00157] 特にルブリシンとCD44の相互作用を実証した最近の報告に照らして、がんにおけるルブリシンの役割への関心が高まっている。ルブリシンは、CD44への結合についてヒアルロン酸と競合し、インターロイキン-1β又は腫瘍壊死因子αで刺激された、リウマチ様関節炎線維芽細胞様滑膜細胞におけるこの受容体の成長をサポートする、シグナル伝達機能を弱め得ることが分かった。(Al-Sharif A et al., Arthritis Rheumatol 2015. doi:10.1002/art.39087)。
【0139】
[00158] 新たに出現したルブリシンの抗腫瘍の役割は、それがTGFβによって上方制御されるという証拠と明らかに矛盾してもよく、これは、このサイトカインががんの初期段階と後期段階で二重の反対の役割を果たすと考えられているためである。実際、これまでに蓄積された知識は、TGFβシグナル伝達が分子スイッチとして挙動し、HCCなどの固形悪性腫瘍の初期段階では細胞分裂阻害/アポトーシス促進性であるが、進行期では転移促進因子に変化することを示唆する(Moreno-Caceres et al. Cell Death Dis 2017. doi:10.1038/cddis.2017.469; Fabregat et al. TFEBS J 2016. doi:10.1111/febs.13665; Arrese et al., Curr Protein Pept Sci 2017. doi:10.2174/1389203718666171117112619)。より具体的には、TGFβシグナル伝達はCD44の発現/活性化に影響を及ぼし得て、CD44機能に依存して、がん性浸潤を促進することが示された。TGFβは、肺線維芽細胞におけるEGR1媒介AP-1(活性化タンパク質-1)の活性化を通じて、CD44がん関連CD44V6イソ型の発現を上方制御することが実証されている(Ghatak et al., J Biol Chem 2017. doi:10.1074/jbc.M116.752451)。それにもかかわらず、その他の研究は、LATS1などの腫瘍抑制因子遺伝子、又はDNA損傷修復タンパク質(ATM、BRCA1、及びFANCF)の発現を誘導することを介して、HCC細胞の腫瘍形成促進能を抑制するTGFβの能力を明らかに示してきた(Zhang et al. Oncotarget 2017. doi:10.18632/oncotarget.14523; Chen et al., Gastroenterology 2018. doi:10.1053/j.gastro.2017.09.007)。
【0140】
[00159] この実施例は、rhPRG4とソラフェニブ又はレゴラフェニブとの組み合わせから生じる相乗的な抗増殖効果が、HCC患者の治療効果を大幅に改善してもよいことを示唆する。ルブリシン発現とHCC患者の全生予後との強い関連性は、この分子が直接的又は間接的であるが、まだ解明されていない腫瘍抑制活性を有していてもよいことを示唆する。CD44発現が高い患者においてルブリシンレベルと平均余命の間に正の相関がないという発見は、この受容体の発現が十分に高い場合、CD44シグナル伝達の前悪性機能を克服するルブリシン抗腫瘍活性の失敗を反映しているかもしれない。或いは、CD44の異なる転写変異型は、薬物有効性と内因性ストレスの相殺に明確に関与していてもよい。これらの変異型のいくつかは、ルブリシンに結合できないかもしれず、その結果、影響を受けないCD44下流シグナル伝達をもたらす。さらに、CD44のこれらのルブリシン非感受性プロ腫瘍活性と、可能性な現在未知の受容体を介して媒介される腫瘍抑制ルブリシン活性との間に、競合があってもよい(
図19A~Bを参照されたい)。
【0141】
[00160] 全体として、この実施例は、CD44阻害が高CD44発現HCCにおけるrhPRG4投与と組み合わされてもよい、新しい介入フレームワークを提案する。さらに、ソラフェニブとレゴラフェニブの効力は、rhPRG4との相乗投与によって大幅に強化されてもよい。CD44へのルブリシン結合の効率は、シアル酸の除去とO-グリコシル化の後に、大幅に増加し得ることが実証されている(Al-Sharif et al., Arthritis Rheumatol 2015. doi:10.1002/art.39087)。したがって、このプロセスされた形態の濃度を低くすることで、ルブリシンの潜在的に有害なオフターゲット効果を最小限に抑え得る。ルブリシンの外因性投与による可能な悪影響については、まだ慎重に評価されていない。
【0142】
[00161] 結論として、本発明者らは、ルブリシンが抗腫瘍剤として作用するだけでなく、ソラフェニブとレゴラフェニブなどの薬剤の有効性を改善する可能性があると示唆する。間質HCC微小環境におけるルブリシン合成の分子機序、並びにおそらく新規のルブリシンカップリング因子、代替受容体、又は相互作用のパートナーを同定することによって得られる、その機能的特徴へのさらなる洞察は、より効果的な薬理学的ツールを設計するために価値があることを証明してもよい。
【配列表】
【国際調査報告】