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特表2022-534750ヒトの疾患及び正常腎臓上皮細胞培養物及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】ヒトの疾患及び正常腎臓上皮細胞培養物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220727BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220727BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220727BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220727BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
C12Q1/68
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570906
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(85)【翻訳文提出日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 US2020034992
(87)【国際公開番号】W WO2020243360
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】62/854,756
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515226984
【氏名又は名称】ディスカバリーバイオメッド, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シュウィーバート, エリック
(72)【発明者】
【氏名】マイ, デボラ
(72)【発明者】
【氏名】レッドマン, マシュー ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ04
4B063QQ12
4B063QQ13
4B063QR51
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA06
4B065BC03
4B065BC42
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD14
4B065BD15
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA33
4B065CA46
(57)【要約】
本明細書において、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞を産生するための組成物及び方法を提供する。また、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の産生方法であって、
(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;
(b)前記単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で前記1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
(c)前記複数の単一嚢胞由来細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
(d)前記複数の単一嚢胞由来細胞が、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成するかどうかを判定し;
(e)嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上を不死化する
ことを含む、前記産生方法。
【請求項2】
前記1つ以上の単離された細胞の遺伝子型決定または全エクソーム配列決定をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移した複数の単一嚢胞由来細胞が、移す前に5回未満継代されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記移した複数の細胞が、3回未満継代されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記単離した1つ以上の細胞を、透過性フィルター上で培養する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記不死化を、テロメラーゼを使用して実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不死化を、ウイルスがん遺伝子を使用して実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルスがん遺伝子がSV40である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養。
【請求項10】
前記細胞を、
(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;
(b)前記単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
(c)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットを、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
(d)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットが、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成することを決定し;
(e)前記複数の単一嚢胞由来細胞の第2のサブセットを単離して、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物を作出する
ことによって産生する、請求項9に記載の初代培養物。
【請求項11】
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって誘導される、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
【請求項13】
(a)請求項11または12の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団及び
(b)三次元ゲル
を含む、多嚢胞性腎臓由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養物。
【請求項14】
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)前記接触させた細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして
(c)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを決定することを含み、嚢胞様形成のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記多嚢胞性腎臓由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の嚢胞形成レベルである、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養系を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の前記三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを測定することを含み、嚢胞形成能のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項19】
前記多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の前記嚢胞形成レベルである、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行関連出願
本出願は、2019年5月30日に出願された米国仮出願第62/854,756号の利益を主張し、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多発性嚢胞腎疾患(PKD)は、著しく肥大した腎臓において多数の嚢胞が分布することを特徴とする。これらの嚢胞は腎機能の障害を引き起こし、最終的に腎不全を引き起こし得る。ヒトでは、PKDは、常染色体優性(ADPKD)または常染色体劣性(ARPKD)の形で遺伝し得る。ADPKDは、ヒトにおける最も一般的な優性遺伝性腎疾患であり、最終的な透析または移植の主要な遺伝的病因である。ADPKDでは、両方の腎臓において液体で満たされた嚢胞が発生して拡大し、最終的に腎不全を引き起こす。ADPKDは腎不全の第4の主要な病因であり、ADPKD患者の50%以上が50歳までに腎不全を発症する。腎不全になると、透析または腎移植が生存のための唯一の選択肢となる。現在、この分野には、PKDを治療または予防することができる薬剤を同定するための実用的な解決策が存在しない。
【発明の概要】
【0003】
本明細書において、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞を産生する方法を提供する。方法は、(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;(b)単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して、複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;(c)複数の単一嚢胞由来細胞を嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;(d)任意選択で、複数の単一嚢胞由来細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;(e)複数の単一嚢胞由来細胞が三次元培養において嚢胞様構造を形成するかどうかを判定し;そして(f)嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上を不死化するステップを含む。
【0004】
さらに、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団を提供する。また、(a)不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団及び(b)三次元ゲルを含む、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養物も提供する。
【0005】
さらに、多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。方法は、(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングする薬剤と接触させ;(b)接触させた細胞を嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして(c)対照レベルと比較した、薬剤での処理後の接触させた細胞の三次元培養系内での嚢胞様形成レベルを測定するステップを含む。嚢胞様形成レベルの低下は、薬剤により、多発性嚢胞腎疾患が予防または治療されることを示す。
【0006】
本出願は、以下の図を含む。これらの図は、組成物及び方法の特定の実施形態及び/または特徴を説明し、組成物及び方法の任意の説明(複数可)を補足することを意図している。書面による説明がそうであると明示的に示さない限り、図は、組成物及び方法の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】残存するヒトADPKD疾患の腎臓組織が、初代培養において、どのように単一の嚢胞培養物へと処理されるかの概略図を示す。
図2】多発性嚢胞腎の単一嚢胞から単離された細胞をプレーティングした後、細胞を洗浄する前の、初代ヒトADPKD(huADPKD)単一嚢胞培養物を示す。
図3】洗浄後の初代huADPKD単一嚢胞培養物を示す。
図4】9日間のインキュベーション後にコンフルエントになった初代huADPKD単一嚢胞培養ウェルを示す。
図5】嚢胞予防アッセイの3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成される小さな嚢胞に対する様々な濃度及び時点でのトルバプタンの効果を示す。
図6】嚢胞予防アッセイの3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成される小さな嚢胞に対する様々な濃度及び時点でのラパマイシンの効果を示す。
図7】嚢胞予防アッセイの3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成される小さな嚢胞に対する様々な濃度及び時点でのボスチニブの効果を示す。
図8A】嚢胞予防アッセイの3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成される小さな嚢胞に対するDMSO当量ビヒクル対照を示す。1~300μMのDMSO濃度当量物の結果を示す。
図8B】嚢胞予防アッセイの3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成される小さな嚢胞に対するDMSO当量ビヒクル対照を示す。嚢胞予防アッセイにおける1~30nMのDMSO濃度当量物の結果を示す。
図9】3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成されるより大きな嚢胞の嚢胞攻撃アッセイにおける重要な濃度での嚢胞画像追跡におけるトルバプタンの効果を示す。
図10】3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成されるより大きな嚢胞の嚢胞攻撃アッセイにおける重要な濃度での嚢胞画像追跡におけるラパマイシンの効果を示す。
図11】3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成されるより大きな嚢胞の嚢胞攻撃アッセイにおける重要な濃度での嚢胞画像追跡におけるボスチニブの効果を示す。
図12】3次元培養系において、初代huADPKD細胞によって形成されるより大きな嚢胞に対するDMSO当量ビヒクル対照を示す。
図13】ハイコンテントイメージングベースの嚢胞形成バイオアッセイのために、初代huADPKD細胞を3次元培養系に播種した384ウェルマイクロタイタープレートの設計を示す。
図14】384ウェルマイクロタイタープレートのウェル全体のハイコンテントイメージングの例を示す。6つの画像を撮影してウェル全体をキャプチャし、3Dバイオゲルを介してレイヤーでZスタッキングを実施する。後で画像をつなぎ合わせて、表示されている画像を生成する。嚢胞は時間とともに拡大し、嚢胞形成を誘発するために刺激する必要はない。嚢胞形成は、DBM RenalCyte培地で生じる。
図15】アルギニンバソプレッシン(AVP)で刺激された嚢胞形成(下段)及び未刺激の対照(上段)の例を示す。嚢胞は、この生理学的サイクリックAMP刺激の存在下では、平均的により大きい。
図16A】ハイコンテンツイメージングの例を示す(各ウェルで使用するリコリノスタット濃度でラベル付けしている)。
図16B】細胞生存率の分析結果を示す。
図16C】嚢胞カウント数を示す。
図16D】自動化されたハイコンテンツイメージングによる384ウェル嚢胞形成プラットフォームにおける業界標準の対照薬であるリコリノスタットを使用した嚢胞サイズ分析結果を示す。
図17A】ナノモル濃度での化合物1とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイの要約データを示す。
図17B】ナノモル濃度での化合物1とトルバプタンを比較した嚢胞攻撃アッセイの要約データを示す。
図18】ナノモル濃度での化合物1とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイにおける384ウェルプレートのウェルの一般的な嚢胞画像を示す。
図19】ナノモル濃度での化合物2とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイ(図19A)及び嚢胞攻撃アッセイ(図19B)の要約データを示す。
図20】ナノモル濃度の化合物2とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイにおける384ウェルプレートのウェルの一般的な嚢胞画像を示す。
図21A】ナノモル濃度での低効果の化合物3とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイの要約データを示す。
図21B】ナノモル濃度での低効果の化合物3とトルバプタンを比較した嚢胞攻撃アッセイの要約データを示す。
図22】ナノモル濃度での低効果の化合物3とトルバプタンを比較した嚢胞予防アッセイにおける384ウェルプレートのウェルの一般的な嚢胞画像を示す。
図23】嚢胞予防アッセイにおける384ウェルプレートでのナノモル濃度のトルバプタンによる一般的な嚢胞画像を示す。
図24】ナノモル濃度での化合物1、2、4、及び3ならびにトルバプタン(左から右へ)の効力を示す384ウェルプレートでの嚢胞予防アッセイのデータ概要を示す。
図25】三次元培養系において初代huADPKD細胞によって形成されるより大きな嚢胞に対する、CFTR補正剤及びENaC阻害剤である化合物1、2、及び5(それぞれ1μM)ならびにVertex CFTR補正剤(それぞれ10μM)及びトルバプタン(10μM)の効力を示す384ウェルプレートでの嚢胞攻撃アッセイのデータ概要を示す。培地のみ、DMSO対照、VX-809、VX-661、化合物1、化合物2、化合物6、及びトルバプタンについて、左から右にデータを示す。
図26】三次元培養系において初代huADPKD細胞によって形成されるより小さな嚢胞に対する、CFTR補正剤及びENaC阻害剤である化合物1、2、及び5、ならびにVertex CFTR補正剤及びトルバプタンの効力を示す384ウェルプレートでの嚢胞減少アッセイのデータ概要を示す。
図27】三次元培養系に播種した初代huADPKD細胞から嚢胞が形成される前の3Dバイオゲルに対する、CFTR補正剤及びENaC阻害剤である化合物1、2、及び5、ならびにVertex CFTR補正剤及びトルバプタンの効力を示す384ウェルプレートでの嚢胞予防アッセイのデータ概要を示す。
図28】新規ヒトADPKD嚢胞腎及びインフラマソーム阻害剤の合理的かつ病理生理学的に関連するハイスループットスクリーニングのための384ウェルプレートでの3Dバイオゲルによる嚢胞形成アッセイの使用の概略図を示す。
図29】選択した化合物の濃度応答曲線への曝露後、3D嚢胞予防アッセイ形式で13日間増殖させたADPKD細胞のエンドポイントCellTiterGloアッセイ(細胞生存率)の結果を示す。
図30】選択した化合物の濃度応答曲線への曝露後、3D嚢胞予防アッセイ形式で13日間増殖させたADPKD細胞の嚢胞数を示す。
図31】選択した化合物の濃度応答曲線への曝露後、3D嚢胞予防アッセイ形式で13日間増殖させたADPKD細胞の嚢胞サイズ測定値を示す。
図32】選択した化合物の濃度応答曲線への曝露後、3D嚢胞予防アッセイ形式で14日間増殖させたADPKD細胞の代表的な画像を示す。画像は、候補治療薬のいずれについても細胞毒性が観察されなかった0.1μMの濃度から示している。
図33】ADPKD細胞の細胞生存率及びLDH分泌を測定するマルチプレックスアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
PKDは、尿細管が構造的に異常になり、腎臓内に複数の嚢胞が発生し、成長する遺伝性疾患である。これらの嚢胞は、子宮内、乳児期、小児期、または成人期に発症し始める場合がある。嚢胞は、液体で満たされた機能していない尿細管であり、サイズは微視的なものから十分に大きなものまであり、隣接する正常な尿細管を押しつぶし、最終的には正常な尿細管も機能しなくなる。PKDは、尿細管の発達に影響を及ぼす異常なタンパク質をコードする異常な遺伝子(PKD1、PKD2またはPKD3)によって引き起こされる。全体を通して用いられているように、PKDとは、常染色体優性多発性嚢胞腎疾患(ADPKD)または常染色体劣性多発性嚢胞腎疾患(ARPKD)を指す。
【0009】
嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の作製方法
本明細書において、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞を産生するための組成物及び方法を提供する。いくつかの方法は、(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;(b)単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;(c)複数の単一嚢胞由来細胞を嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;(d)複数の単一嚢胞由来細胞が三次元培養において嚢胞様構造を形成するかどうかを判定し;そして(e)嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上を不死化するステップを含む。図1は、アッセイ系で有用な3次元培養物を生成するための単一嚢胞の一次処理の概略図を示す。
【0010】
本明細書に提供する方法では、1つ以上の細胞を、多発性嚢胞腎の単一嚢胞から単離する。いくつかの方法では、多発性嚢胞腎は、ヒト対象由来である。いくつかの方法では、1つ以上の複数の単一嚢胞由来細胞を、同じ単一嚢胞から単離した1つ以上の細胞から産生することができる。他の方法では、1つ以上の複数の単一嚢胞由来細胞を、多発性嚢胞腎の異なる単一嚢胞由来の1つ以上の細胞から産生することができる。多発性嚢胞腎から単一嚢胞を単離または解剖する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Carone et al.,Cyst-derived cells do not exhibit accelerated growth or features of transformed cells in vitro,”Kidney International 35:1351-1357(1989)を参照されたい。単一嚢胞の単離方法もまた、実施例に記載されている。
【0011】
単離後、単一嚢胞または単一嚢胞由来組織をさらに処理することができる。例えば、機械的破壊または酵素消化技術を使用して、単一嚢胞または単一嚢胞由来組織をさらに処理することができる。(例えば、Carone et al.を参照されたい)。実施例に記載の酵素消化プロトコルを使用して、単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離することもできる。次いで、単離した1つ以上の細胞を培養皿またはウェルに入れ、増殖させて、複数の単一嚢胞由来細胞、すなわち初代細胞培養物を作出する。培養皿は、35mm組織培養プレート、60mm組織培養プレート、100mm組織培養プレート、150mm組織培養プレート組織培養プレート、またはより大きな組織培養プレートであり得る。細胞は、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、192ウェル、384ウェル、または768ウェルの組織培養プレートに配置することもできる。細胞はまた、フラスコ、例えば、T-25、T-75またはT-175フラスコで増殖させることができる。本明細書に提供する方法のいずれにおいても、ディッシュ、ウェル、プレート、フラスコなどが少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%コンフルエントになるまで細胞を増殖させることができる。
【0012】
任意選択で、単離した1つ以上の細胞を透過性フィルター支持体ベースの培養物に配置し、増殖させて、初代細胞培養物を作出する。
【0013】
全体を通して用いられるように、初代細胞に関しての初代という語句は、形質転換されていないか、または不死化されていない細胞を指す。そのような初代細胞は、限られた回数、培養、継代培養、または継代する(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回培養する)ことができる。いくつかの場合では、初代細胞を、in vitro培養条件に適応させる。いくつかの場合では、初代細胞を刺激または活性化する。
【0014】
いくつかの方法では、多発性嚢胞腎の単一嚢胞から単離した1つ以上の細胞は、1つ以上の線維芽細胞を含み得る。したがって、増殖中、複数の単一嚢胞由来細胞は、線維芽細胞を含み得る。いくつかの例では、複数の単一嚢胞由来細胞は、約10%未満、約5%未満、または約1%未満の線維芽細胞を含む。任意選択で、1つ以上の細胞を、単一嚢胞由来細胞の上皮表現型が維持される培地中で培養する。任意選択で、1つ以上の細胞を、単一嚢胞由来細胞の上皮表現型が維持され、細胞の増殖速度を増加させる培地中で培養する。いくつかの例では、増殖率は、培地に接触させていない複数の嚢胞由来細胞に比べて、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%または400%だけ増加する。
【0015】
1つ以上の単一嚢胞由来細胞を増殖させて複数の単一嚢胞由来細胞を作出した後、その複数の細胞を、嚢胞形成用に構成された3次元(3D)培養系に移す。任意選択で、3D培養系は、単一嚢胞由来細胞の上皮表現型が維持され、及び/または1つ以上の細胞の増殖速度を増加させる培地を含む。3D細胞培養系は、組織内に細胞が存在する微小環境をより正確に表すことから、3D培養された単一嚢胞由来細胞の挙動は、in vivoでの細胞応答、例えば、腎臓実質組織内の腎臓細胞による嚢胞形成をより反映している。
【0016】
従来の2次元培養では、通常、細胞をガラス上で単層に成長させるが、より一般的には、組織培養ポリスチレンプラスチックフラスコ内で、3D細胞培養は、足場/マトリックスを使用して、または足場を使わない方法で細胞を3D凝集体/スフェロイドに成長させる。足場/マトリックスベースの3D培養は、無細胞3Dマトリックスに細胞を播種するか、または液体マトリックスに細胞を分散させた後、凝固または重合させることによって生成することができる。一般的に使用される足場/マトリックス材料には、生物由来の足場系及び合成ベースの材料が含まれる。BD Matrigel(商標)基底膜マトリックス(BD Sciences,Franklin Lakes,NJ)、Cultrex(登録商標)基底膜抽出物(Trevigen,Gathersburg,MD)、及びヒアルロン酸などの市販の製品は、一般的に使用される生物由来マトリックスである。ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリラクチド-co-グリコリド(PLG)、及びポリカプロラクトン(PLA)は、合成足場を形成するために使用される一般的な材料である。足場のない3D細胞スフェロイドは、強制浮遊法、ハンギングドロップ法、または撹拌ベースのアプローチによって懸濁液中に生成することができる。例えば、Breslin et al.,“Three-dimensional cell culture:the missing link in drug discovery,”DrugDiscov. Today 18:240-249(2013);Gurski et al.,“Three-dimensional matrices for anti-cancer drug testing and development,”Oncol Issues 25:20-25(2010);及びEdmonson et al.,“Three-dimensional cell culture systems and their applications in drug discovery and Cell-Based Biosensors,”Assay Drug Dev.Technol.12(4):207-218(2014)を参照されたい。3D細胞培養法を使用すると、細胞は3D環境で自然に増殖し、細胞は、細胞外マトリックス(ECM)、及びそれらの微小環境と互いに相互作用できるようになる。次いで、そのような3D空間配置におけるこれらの相互作用は、細胞増殖、分化、形態、遺伝子発現及びタンパク質発現、ならびに外部刺激に対する細胞応答を含む、様々な細胞機能に影響を及ぼす。
【0017】
任意選択で、移した複数の単一嚢胞由来細胞は、移す前に5回未満、継代されている。任意選択で、移した複数の単一嚢胞由来細胞は、移す前に3回未満、継代されている。任意選択で、細胞を3D組織培養系に播種する前に透過性フィルター支持体上で初代単一嚢胞由来腎臓細胞を増殖させることにより、本明細書に記載の初代培養物のいずれかの寿命を、1、2、3、4回またはそれ以上の継代によって延長させることができる。いくつかの場合では、組織培養プレート内で細胞を増殖させることができ、組織プレートの各ウェルには透明なポリエステルフィルター支持体が含まれており、これにより増殖中の細胞を可視化することができる。他の場合では、細胞を、ディッシュ透過性フィルター支持体、例えば、ポリカーボネート製の支持体上で増殖させることができる。任意選択で、嚢胞を形成するのに苦労する初代培養物を、サイクリックAMP(cAMP)を動員するフォルスコリン及び/またはアルギニンバソプレッシン(AVP)で、または上皮成長因子(EGF)のような成長因子で刺激して、培地のみでは嚢胞を形成しない初代培養物中で嚢胞形成を誘発する。いくつかの方法では、3D組織培養系は、嚢胞形成を増強するフォルスコリン、AVP、及び/またはEGFを含む。
【0018】
いくつかの方法では、複数の単一嚢胞由来細胞を、嚢胞形成を可能にするのに十分な時間、3D培養系に移すか、または埋め込む。例えば、細胞は、嚢胞の出現前及び出現中の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日以上の間、3D培養系中に存在し得る。刺激の存在下または非存在下で、3D培養系中で嚢胞形成が生じる場合、3D培養前の初代培養試料に由来する複数の細胞は、不死化し得る嚢胞形成性の複数の細胞である。これらの不死化細胞株は、腎嚢胞形成を治療または予防する薬剤を同定するためのアッセイに使用することができる。
【0019】
本明細書に提供する方法において、嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上の細胞を、当技術分野で公知の方法を使用して不死化することができる。例えば、限定するものではないが、細胞に、ウイルスがん遺伝子、例えば、SV40及び/またはヒトテロメラーゼ(hTERT)を形質移入することができる。例えば、Sarrab et al.,“Establishment of conditionally immortalized human glomerular mesangial cells in culture,with unique migratory properties,”Am.J.Physiol.Renal Physiol.301(5):F1131-F1138(2011);Lechner et al.,“Human epithelial cells immortalized by SV40 retain differentiation capabilities in an in vitro raft system and maintain viral DNA extrachromosomally,”Virology 185(2):563-71(1992);及びLee et al.,“Use of exogenous hTERT to immortalize primary human cells,” Cytotechnology 45(1-2):33-38(2004))を参照されたい。他の方法は、CDK4またはCDNK2遺伝子構築物を、単独で、または不死化hTERT法と組み合わせて含む。
【0020】
いくつかの方法では、単一嚢胞から単離された1つ以上の細胞を遺伝子型決定し、及び/または全エクソームを配列決定する。遺伝子型判定により、単一嚢胞由来のすべての細胞に存在する一次生殖細胞系列PKD1変異(複数可)、及び単一嚢胞の1つ以上の細胞に存在する任意の体細胞PKD1変異を同定することができる。腎臓細胞の遺伝子型判定の方法は当技術分野で公知であり、ゲノムDNAの制限断片長多型同定(RFLPI)、ゲノムDNAのランダム増幅多型検出(RAPD)、増幅断片長多型検出(AFLPD)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、DNAシーケンシング(例えば、全ゲノムまたは全エクソームシーケンシング)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ、及びDNAマイクロアレイまたはビーズへのハイブリダイゼーションが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
PKD1の生殖細胞変異の例として、P2736R変異、L2763V変異、M2764T変異、E685でのフレームシフト/トランケーション、P872X ns/トランケーション、R2767フレームシフト/トランケーション、及びG3690Eミスセンス変異が挙げられるが、これらに限定されない。体細胞PKD1変異の例として、P3448フレームシフト変異、A62フレームシフト変異、L237フレームシフト変異、L715フレームシフト変異、Q160フレームシフト変異、K718フレームシフト変異、Q542フレームシフト変異、Y684フレームシフト変異、N116フレームシフト変異及びG617フレームシフト変異が挙げられるが、これらに限定されない。単一嚢胞から単離した細胞を遺伝子型判定することにより、遺伝子型判定した細胞を使用して、細胞のPKD1遺伝子及び/またはPKD2内の特定の変異(複数可)に関連する嚢胞形成を治療または予防する薬剤を同定することができる。
【0022】
細胞培養及び細胞集団
多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物もまた、提供する。任意選択で、嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養を、本明細書に記載の方法のいずれかを使用して行うことができる。任意選択で、(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;(b)単離した1つ以上の細胞を培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して、複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;(c)複数の単一嚢胞由来細胞の第1のサブセットを、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;(d)複数の単一嚢胞由来細胞の第1のサブセットが三次元培養物中で嚢胞様構造を形成することを決定し;そして(e)複数の単一嚢胞由来細胞の第2のサブセットを単離して、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物を作製することによって、嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物を生成する。任意選択で、本明細書に記載の、または本明細書に記載の方法によって作製した、任意の初代培養物を不死化することができる。
【0023】
本明細書に記載の初代培養物から継代した細胞の集団をさらに提供する。任意選択で、細胞の集団は、1、2、3、4、5回またはそれ以上継代された集団である。任意選択で、細胞の集団は、5、4、3、または2回未満、継代された集団である。
【0024】
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団もまた、提供する。任意選択で、集団は、本明細書に記載するような不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の産生方法のいずれかを使用して誘導される集団である。また、(a)不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団、及び(b)3Dゲルを含む、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の3D培養物もまた、提供する。いくつかの例では、3D培養物中の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団は、本明細書に提供する方法のいずれかによって産生した不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団である。
【0025】
多発性嚢胞腎由来の特定の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞は、開回路条件下での経上皮電気抵抗及び電圧アッセイ、流体輸送アッセイ、及びウッシングチャンバー駆動電気生理学などの経上皮電気アッセイに有用である。細胞を、これらのバイオアッセイ用の透過性フィルター支持体上で増殖させる。
【0026】
スクリーニング方法
本明細書に記載の初代または不死化細胞培養物のいずれかを使用して、嚢胞様形成を減少または低下させる1つ以上の薬剤を同定することができる。嚢胞様形成の減少は、嚢胞の数の減少、既存の嚢胞の成長の減少、既存の嚢胞の成長速度の減少、または1つ以上の嚢胞の出現の遅延であり得る。本明細書において、(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ;(b)接触させた細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして(c)対照レベルと比較した、接触させた細胞の薬剤処理後の三次元培養系内での嚢胞様形成レベルを測定することを含む、多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法を提供する。嚢胞様形成のレベルの低下は、薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す。
【0027】
さらに、(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の3D培養系をスクリーニングしようとする薬剤と接触させ、そして(b)対照レベルと比較した、接触させた細胞の薬剤処理後の三次元培養系内での嚢胞様形成レベルを決定することを含む、多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法を提供する。嚢胞形成能のレベルが低下することは、薬剤が多発性嚢胞腎疾患を克服または治療することを示している。
【0028】
任意選択で、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の3D培養系を、3D培養系内で2つ以上の嚢胞が形成された後、例えば、3D培養系内での1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日以上の細胞増殖の後に、薬剤に接触させる。相当に大きい嚢胞が形成された後、3D系を薬剤と接触させ、3D培養系内での嚢胞様形成のレベルを測定する。嚢胞形成能のレベルの低下、例えば、対照に比べて、嚢胞がより少ない及び/または嚢胞がより小さいことは、薬剤が多発性嚢胞腎疾患を治療することを示している。
【0029】
嚢胞形成能のレベルは、3D培養系に薬剤を接触させてから、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28日後またはそれ以降に測定することができる。嚢胞形成能の低下は、細胞形成能の低下から1つ以上の既存の嚢胞の完全な切除にまで及び得るため、完全である必要はない。したがって、低下は、天然または対照のレベルに比べて、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、または10%~100%の間の任意の割合の低下であり得る。
【0030】
任意の疾患または障害の治療または処置とは、対象に存在する疾患または障害を改善することを指す。改善という用語は、病状の治療における治療的に有益な結果、例えば、多発性嚢胞腎疾患の治療、その重症度もしくは進行の軽減、寛解もしくは寛解期間の促進、または治癒を指す。したがって、治療または処置には、少なくとも1つの物理的パラメータまたは症状を改善すること、例えば、対象の腎臓内の1つ以上の嚢胞のサイズを縮小させることが含まれる。治療または処置には、疾患または障害の調節が含まれる。治療または処置には、多発性嚢胞腎疾患の進行を遅らせるかまたは予防することが含まれる。治療とは、必ずしも疾患、病態、または疾患または病態の症状の治癒または完全な切除を指すとは限らないことを理解されたい。
【0031】
任意選択で、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の3D培養系を、3D培養系内で嚢胞が形成される前または形成された直後、例えば、3D培養系内での1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日間の細胞増殖の前に、薬剤と接触させる。任意選択で、2つ以上の嚢胞が最初に形成された場合に、培養系を薬剤と接触させる。任意選択で、複数のウェルまたはディッシュでアッセイを実行する場合、培養系ごとに平均3つの嚢胞が最初に形成される場合に、培養系を薬剤と接触させる。嚢胞形成能のレベルは、三次元培養系を薬剤に接触させた後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28日後またはそれ以降に測定することができる。嚢胞形成能のレベルの低下、例えば、対照に比べて嚢胞がより少ないか、または嚢胞がより小さいことは、薬剤が多発性嚢胞腎疾患の発症を予防することを示す。いくつかの例では、対照は、同じ嚢胞に由来する未処理細胞の嚢胞形成レベルである。
【0032】
任意選択で、本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれかは、正常ヒト腎臓細胞を薬剤と接触させて薬剤の毒性を測定することをさらに含み得る。例えば、3D培養系に移すかまたは埋め込まれると、正常ヒト腎臓細胞は、尿細管または管様ネットワークを生成する。正常ヒト腎臓細胞は、小さな嚢胞及びスフェロイドを形成する場合がある。ハイコンテントイメージングを実施して、嚢胞、スフェロイド、尿細管、及び他の構造を毎日及び経時的に視覚化する。毒性のスクリーニングを含む方法では、嚢胞形成活性について薬剤をスクリーニングする前に、正常ヒト腎臓細胞を含む3D培養系に1つ以上の薬剤を接触させ、尿細管形成のレベルを評価することができる。任意選択で、薬剤が毒性である場合、嚢胞形成活性について薬剤をスクリーニングしない。このアッセイでは、尿細管形成が50%減少して尿細管構造が消失すると、細胞毒性があると見なされる。したがって、これらのアッセイは、腎細胞及び組織に毒性のある細胞傷害剤及び化学物質または小分子を同定する。
【0033】
任意選択で、本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれかは、薬剤と接触させた後に細胞によって分泌される炎症性因子のレベルを測定することをさらに含み得る。1つ以上の炎症性因子の産生または分泌の減少は、薬剤が多発性嚢胞腎疾患に関連する炎症を阻害することを示している。単球走化性タンパク質1(MCP-1)、インターロイキン8及び6(IL-8及びIL-6)、ならびに腫瘍壊死因子α(TNFα)は、一般的に、多嚢胞性腎臓由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞によって過剰分泌される。
【0034】
本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれにおいても、薬剤は、いくつか例を挙げると、化学物質、小分子もしくは高分子(有機または無機)、薬物、タンパク質、ペプチド、cDNA、抗体、モルフォリノ、三重らせん分子、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、またはリボザイムであり得るが、これらに限定されない。任意選択で、本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれかにおいて、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養は、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養を含む。任意選択で、培養物は、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞を含む。任意選択で、本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれかにおいて、方法は、多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含み得る。任意選択で、本明細書に提供するスクリーニング方法のいずれかにおいて、対照レベルは、同じ嚢胞に由来する未処理細胞の嚢胞形成レベルである。
【0035】
開示する実施形態のために使用することができるか、組み合わせて使用することができるか、または調製において使用することができる材料、組成物、及び成分を開示する。これら及び他の材料を本明細書に開示し、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどを開示する場合、それぞれが具体的に企図され、本明細書に記載されているこれらの組成物のそれぞれの様々な個々及び集合的な組み合わせならびに順列の特定の参照は明示的に開示されない場合があることを理解されたい。例えば、方法が開示され、議論され、方法に含まれるいくつかの分子に対して為し得るいくつかの変更が議論される場合、方法のすべての組み合わせ及び順列、ならびに可能な修正が、具体的に反対の指示がない限り、具体的に企図される。同様に、これらのサブセットまたは組み合わせもまた、具体的に企図され、開示される。この概念は、開示する組成物を使用する方法のステップを含むがこれらに限定されない、本開示のすべての態様に適用される。したがって、実施し得る様々な追加のステップがある場合、これらの追加のステップのそれぞれは、開示する方法の任意の特定の方法のステップまたは方法のステップの組み合わせで実施することができ、そのような各組み合わせまたは組み合わせのサブセットが具体的に企図され、開示されていると見なされるべきであることを理解されたい。
【0036】
本明細書中で引用される刊行物及びそれらが引用する材料は、参照によりその全体が具体的に本明細書に援用される。以下の説明は、開示する組成物及び方法のさらなる非限定的な例を提供する。
【実施例
【0037】
培地
500mlボトルのCa2+/Mg2+’遊離リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(またはハンクス平衡塩類溶液(HBSS))、5×抗生物質((25mlの100×ペニシリン/ストレプトマイシンストック溶液(Coming Fisher Scientific(Hampton,NH)、10mlのファンギゾン(アンフォテリシンB)ストック溶液(Coming Fisher Scientific)、及び1mlのゲンタマイシンストック溶液(Coming Fisher Scientific)を調製した。
【0038】
5×抗生物質(上記)と、添加した5mlのL-グルタミン100×ストック溶液を含む、少なくとも2リットルのCa2+/Mg2+フリーDMEM/F-12ハム培地(14.8グラムの粉末培地を1リットルの蒸留水と混合し、1リットルのフィルターボトル系でフィルター滅菌した)(Sigma-Aldrich(St.Louis,MO))を調製した。
【0039】
5%FBS、5×抗生物質(上記)、及び添加した5mlのL-グルタミン100×ストック溶液を含む、Advanced MEM(Gibco-BRL(Hampton,NH),lnvitrogen)の500mlボトル(Carlsbad,CA))を調製した。この培地は、各消化後に組織を洗浄するために使用した。
【0040】
5×抗生物質(上記)、L-グルタミン(上記)及び0.5mg/mlコラゲナーゼP(Roche,Basel,Switzerland)を含む少なくとも1リットルのCa2+/Mg2+フリーDMEM/F-12ハム培地を調製して、4℃及び37℃で消化するための消化培地を作成した。
【0041】
5×抗生物質を添加した数リットルのDBM RenalCyte培地を調製した。
【0042】
腎臓検体全体の処理
氷上で三重袋に入れられた容器からヒト腎臓組織標本を取り出した。剰余の液体を吸引した。Ca2+/Mg2+フリーのPBSを組織に注ぎ、組織を洗浄/加湿した。組織から余分な脂肪組織を切除した。この切除は、最小限~かなり実質的に及び、ドナーに依存した。
【0043】
ADPKD(またはARPKD)腎臓の解剖
末期ヒトADPKD腎臓組織断片または腎臓全体は非常に大きく、液体で満たされた嚢胞で完全に損なわれていた。個別に解剖できる大きな嚢胞はすぐに明らかとなった。最初の解剖では、できるだけ多くの単一嚢胞を隔離することに重点を置き、解剖の直後に、各嚢胞をそれぞれの別個の培養容器に入れた。その時点から、初代培養では、各嚢胞を別々に保持した。以下の手順では、単離した単一嚢胞の解剖について記載する。
【0044】
大きな嚢胞を組織から個別に解剖した。多くの場合、最大の嚢胞を取り巻く丈夫な結合組織を切断するために、はさみが必要であった。嚢胞は、多くの場合、透明な液体、血液または濁った液体を保持していた。透明な液体で満たされた嚢胞の収集を優先したが、血液の色の液体で満たされた嚢胞も収集した。濁った液体で満たされた嚢胞は一般的に避けた。
【0045】
それぞれの単一嚢胞をそれ専用のペトリ皿に入れ、5×抗生物質を含むCa2+/Mg2+フリーのPBSで再度洗浄した。次いで、外部組織を各嚢胞の表面から切除し、嚢胞内の液体をすべて排出した。体液を取り除くと、嚢胞は崩壊した。嚢胞は、5×抗生物質を含むCa2+/Mg2+フリーの培地で再度洗浄し、部分的に細かく刻んだ。次いで、嚢胞壁組織断片を、通常は50mlのコニカルチューブ内の冷消化培地に入れ、各嚢胞由来の細かく刻んだ組織を20mlの消化培地に入れた。嚢胞組織を、50mlコニカルチューブ内の消化培地中、4℃で一晩インキュベートした。この手順を、Ca2+/Mg2+フリーのPBSを解剖中に何度も組織に注ぐことにより、できるだけ多くの個々の単一嚢胞に対して繰り返した。すべての所望の単一嚢胞を個別に解剖し、別々のペトリ皿及びコニカルチューブに入れた後、多嚢胞性の微小嚢胞性組織切片をドナー腎臓組織から切除した。
【0046】
多嚢胞性/微小嚢胞性腎臓組織の切片を切除した。通常、これらは組織内の非常に小さな嚢胞のクラスターであった。そのような組織の切片をペトリ皿に入れた。切片をCa2+/Mg2+フリーのPBSで洗浄し、余分な脂肪組織または結合組織を切除した。組織をCa2+/Mg2+フリーの培地で再度洗浄し、はさみで細かく刻んだ。次いで、細かく刻んだ組織を、20mlの消化培地で満たされた50mlのコニカルチューブに入れ、4℃で一晩インキュベートした。
【0047】
正常及び糖尿病のヒト腎臓の解剖
正常及び糖尿病のヒト腎臓標本は、サイズが正常に近かったが、糖尿病のヒト腎臓は肥大を示し、大きくなり得る。洗浄後、上記のように、腎臓を縦方向に切断し、腎臓の長軸下方向に向かって半分にし、腎臓の内側領域が露出した2つの腎臓の半体を得た。集合管が合体する点の近位にある白質である内髄質を、残りの腎臓組織から切り離し、内髄質初代培養物として処理した。外髄質(髄質のピラミッド状の腎杯が存在するピンクまたは赤の部分)を別々に解剖し、処理して専用の初代培養物とした。腎臓組織の大部分(髄質領域を解剖した後に残ったもの)は腎臓の皮質であった。皮質を切片またはスライスに解剖し、処理して初代培養物とした。いくつかの手順では、処理するための、内髄質組織の約2~4枚のペトリ皿、外髄質組織の3~6枚のペトリ皿、及び皮質の16枚ものペトリ皿が存在した。組織の各切片をペトリ皿に入れ、Ca2+/Mg2+フリーのPBSで洗浄した。余分な脂肪組織または結合組織を切除した後、Ca2+/Mg2+フリーの培地で組織を再度洗浄した。はさみを使用して組織を細かく刻んだ。細かく刻んだ組織を、20mlの消化培地で満たされた50mlのコニカルチューブに入れ、4℃で一晩インキュベートした。
【0048】
組織消化由来の初代細胞コレクション
疾患または正常ヒト腎臓から消化させたすべてのタイプの組織について、以下の段階的なプロセスを使用して、消化物から細胞ペレットを経時的に回収した。
【0049】
冷蔵庫からチューブを取り出し、5mlの未希釈のウシ胎仔血清(FBS)を各チューブに加え、コラゲナーゼP活性を停止させた。穏やかな撹拌を使用してFBSを混合した。次いで、消化組織を含む各50mlコニカルチューブを20~25回反転させて撹拌した後、組織をチューブの底に定着させた。上澄みをピペットで取り除き、20mlのAdvanced MEM(+5%FBS+5×抗生物質)を、組織片の入った各コニカルチューブに加えた。各チューブを再び約20~25回反転させて撹拌し、上澄みを再び取り除き、最初の上澄みとともに回収した。上清を2400RPMで5分間遠心分離した。赤血球の存在により赤色に着色した大きな細胞ペレットがチューブの底に現れた。上澄みの大部分を除去し、少量の液体を残して、ボルテックスで細胞ペレットを分解した。T175フラスコに播種する前に、5×抗生物質を含む1mlのDBM RenalCyte培地を添加して、細胞を少量の新鮮な培地で再懸濁し、細胞を休止させた。細胞ペレット全体をT175フラスコに播種した。生成される各初代細胞培養の各細胞ペレットに対して、これを行った。
【0050】
2回目の消化を、細胞培養インキュベーター内で37℃にて1時間実施した。最初の消化のステップを繰り返した。3回目の消化を、細胞培養インキュベーター内で37℃にてさらに1時間実施した。0.5mg/mlのコラゲナーゼPを含み、室温に保持した20mlのCa2+/Mg2+フリーのDMEM/F12(消化培地)を、消化しようとする組織をまだ含んでいるチューブに加えた。次いで、最後の1時間、チューブを細胞培養インキュベーターに入れ、最初の消化のステップを繰り返した。この時点で、確立された初代培養ごとに3つのT175フラスコが存在した。いくつかの場合では、消化された組織を上下にピペッティングして分解し、第4のT175フラスコにピペッティングして入れることができる小さな断片を播種して、Cyst1外植片培養を確立した。
【0051】
継代0(p0)初代細胞培養
T175フラスコをインキュベーターに入れ、4日間静置して、すべての生細胞を基質に十分に接着させた。小さな組織片もまた付着させ、細胞を増殖させた。4日間の細胞接着段階の後、フラスコを、5×抗生物質を含むCa2+/Mg2+含有HBSSで洗浄し、接着していないすべての破片を初代培養物から取り除く。初代培養物を洗浄するために、3回の洗浄が必要であった。この時点で、接着した生細胞を目視することができた。画像を撮影し、コンフルエンス率を評価した。
【0052】
洗浄後、新鮮なDBM RenalCyte培地を添加して(20~24ml)、培養物に再度栄養を補給した。細胞は、播種後8~9日でコンフルエンスに達したが、いくつかの場合では2~3週間を要した。T175フラスコがコンフルエントに到達した後、フラスコを5×抗生物質を含むCa2+/Mg2+フリーのPBSで1回洗浄し、次いで、37℃のインキュベーター内で18mlのフラスコ中で少なくとも1時間インキュベートした。Ca2+/Mg2+フリーのPBSによるインキュベーションステップの後、フラスコを複数回叩いて、接着した細胞を緩めた。緩んだ細胞を50mlのコニカルチューブに回収し、10mlのDBM RenalCyte培地を加えて細胞に栄養を補給し続けた。次いで、12mlのトリプシン-EDTA溶液を加えた。次いで、すべての細胞が接着するまでフラスコをインキュベートした。トリプシン-EDTAインキュベーションステップの後、フラスコを複数回叩き、緩めた細胞を、PBSで緩めた細胞及び培地を入れた同じ50mlコニカルチューブに回収した。
【0053】
その後、細胞を2400RPM、5分間の遠心分離によりペレット化した。上清を注出させたが、少量の液体を残して、ボルテックスで細胞ペレットを分解した。DBM RenalCyte培地1mlを添加した。細胞懸濁液の5μlのアリコートを5μlのトリパンブルーと混合し、Invitrogen CountessIIマシンでカウントした。この時点で、細胞のアリコートを継代数1のために新しいフラスコに播種するか、または細胞をアッセイに使用した。細胞の10μlアリコートを別の小さなチューブにピペットで移し、300μlの冷DBM 3Dバイオゲル溶液と混合して3Dバイオゲルを形成させた。次いで、細胞を嚢胞形成性または尿細管形成性の表現型について試験した。図2は、プレーティング後及び洗浄前の初代huADPKD単一嚢胞の培養を示す。図3は、洗浄後の初代huADPKD単一嚢胞培養を示す。図4は、9日後にコンフルエントになった初代huADPKD単一嚢胞培養ウェルを示す。
【0054】
初代細胞培養の凍結保存
細胞数を数えると、多くの場合、非常にコンフルエントなT175フラスコに由来する少なくとも1,000万個の細胞が存在していたが、この数は様々であった。1mlのDBM RenalCyte培地に細胞ペレットをすでに再懸濁している状態で、冷DBM凍結保存培地を、すべての凍結バイアルに1.5mlを用いて、添加した。一般的に、クライオバイアルあたり100万個超の細胞が存在していたが、この数は様々に異なり得る。DBM Cryopreservation Media、Lifeline Cell TechnologyのFrostaLife(Oceanside,CA)、またはSigma-AldrichのCryoSOfree培地を使用することができる。
【0055】
初代培養物の寿命の延長
標準的な組織培養プラスチック製品で培養した初代培養物の寿命は約4継代である。しかしながら、透過性フィルター支持体上で初代huADPKD嚢胞性腎臓細胞を増殖させることにより、同じ初代培養の寿命が少なくとも8継代まで延長される。透過性フィルター支持体上で初代huADPKD嚢胞細胞と初代正常ヒト腎臓細胞を増殖及び維持する方法はまた、3D組織培養系(3Dバイオゲルなど)内で細胞がそれぞれ嚢胞または尿細管を形成する能力を維持することも支援する。いくつかの場合では、各ウェルに24mmの大きな透明なポリエステルフィルター支持体を含むComing Costar 3450-6プレートで細胞を増殖させることにより、増殖中に細胞を目視することができる。任意選択で、ポリカーボネート製のComing 2419 10cmディッシュ透過性フィルター支持体上で細胞を増殖させた。
【0056】
処理結果及び凍結保存法
ドナー由来の2つの10ポンドの疾患ヒトADPKD(huADPKD)腎臓を受け取り、処理して、50個の単一嚢胞由来の初代培養物及び8つの多嚢胞性微小嚢胞組織由来の初代培養物とした。合計で、クライオバイアルあたり100万個の細胞の、およそ1,500個のクライオバイアルを増殖させ、継代数0及び継代数1の細胞として凍結保存した。透過性フィルター支持体上での標準的な再誘導により、これらの初代培養物は、初期継代細胞として十分に維持することができる。
【0057】
第2の消化と第2の洗浄を行ったhuADPKD細胞ペレットからは、大きなT175フラスコに播種する際に、より良好な初代細胞の収率が得られた。第1の消化と第1の洗浄でも細胞は得られたが;培養物はコンフルエンスに到達するのが遅く、線維芽細胞の含有率が高かった。
【0058】
嚢胞形成表現型を評価するために、凍結保存し、3Dバイオゲルに播種するという点において、速い方から遅い方までの4群すなわち4波の細胞が存在していた。一般的に、初代培養の最初の2つの「波」は嚢胞形成性であり、細胞型の適切な混合を示していた。より遅い2つの「波」は、線維芽細胞の含有率が高く、線維芽細胞の数を減らすために示差的なトリプシン処理を行う必要がある場合があり;しかし、これらの培養物の多くはそれでもなお嚢胞を生成した。線維芽細胞が多すぎる培養物を使用して、悪性過剰増殖性線維芽細胞抗増殖アッセイの主要な治療資産を評価することができる。全体として、嚢胞形成性を評価した後、嚢胞形成性であった多くの初代培養物(大部分)が存在していた。合格とみなされた、望ましい線維芽細胞含有率よりも高いものに対しては、示差的なトリプシン分解を行い、嚢胞形成アッセイを改善させた。線維芽細胞の割合が許容できないほど高いものは、抗増殖アッセイに使用することができる。培養物の一部を使用して、分泌されたケモカイン阻害について、及び被験化合物の投与後の悪性過剰増殖性線維芽細胞に対する抗増殖効果について、アッセイした。
【0059】
初代細胞培養物の不死化
Applied Biological Materials(ABM)(Richmond,BC,Canada)及びLenti-CDNK2(Sigma-Aldrich)のLenti-SV40T、Lenti-hTERT-Neo及びLenti-CDK4の高力価アリコート(10pfu)を、細胞チャレンジのために形質移入培地10pfu中に希釈した。いくつかの場合では、より新しい不死化法として、Lenti-hTERTとLenti-CDK4またはLenti-CDNK2を組み合わせた。huADPKD初代培養物を、強制的な遺伝子型、許容可能な細胞増殖率、及び3Dマトリゲル培養物中での嚢胞形成能力に基づいて、不死化のために選択した。両方の方法によって初代培養物から混合不死化培養物を確立し、そこでは、細胞の寿命が5継代(初代)から10継代(混合不死)に倍増した。SV40T法は、経上皮抵抗(TEER)測定及びおそらくウッシングチャンバーベースのイオン輸送の電気生理学的記録のために、電気的にタイトな分極細胞単層を形成する不死細胞培養物を生成することに成功した。これらの不死のヒトADPKD細胞単層は、体液輸送アッセイにも役立ち得る。新しい不死化ヒトADPKD細胞株の経上皮/経内皮電気抵抗(TEER)データを、以下の表1に示す。アミロライド処理による抵抗性の増加は、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が細胞単層で発現していることを示している。
【表1】
すべての値はオーム単位の経上皮抵抗であり、アミロライド前後の培養物について、平均値±標準偏差で示している。
【0060】
遺伝子型判定
Mayo Clinic PKD Center及びUniversity of ArizonaのHuman Genetics Coresを使用して、初代ヒトADPKD細胞培養物(主に単一嚢胞由来培養物)のフラッシュ凍結細胞ペレットをCoresに送り、CoresがゲノムDNAを単離し、PKD1、PKD2、PKHD1遺伝子のDNAシーケンシングのサンガー法もしくは次世代シーケンシング、またはまれな場合では、腎臓が真正な多発性嚢胞腎であるかどうかが不明な場合に、全ゲノムシーケンシング(WGS)を使用した。表2は、遺伝子型判定試験の結果を示す。
【表2】
【0061】
表2に示すように、12人のドナーを処理した。表2では、SC=単一嚢胞由来の初代培養物;MCT=微小嚢胞性多嚢胞性組織由来の初代培養物;及びNHK=ADPKD組織標本内で同定された非嚢胞性組織由来の初代培養物である。
【0062】
単一嚢胞由来の培養物を、生殖細胞変異及び二次体細胞変異について遺伝子型判定した。7人のドナーの結果は以下のことを示す:3人のドナーで体細胞変異は認められず、2人のドナーで1~2例の体細胞変異が認められ、PKD2変異体を有する1人のドナーは、個々の嚢胞培養ごとに異なる二次的な体細胞ヒットの頻繁な例を有していた。変異はドナーに依存する。いくつかの例では、ADPKD患者は、体細胞変異を防ぐのに十分な効率的な遺伝子編集を有している場合があり、一方で、他の患者は有していない場合がある。
【0063】
嚢胞予防細胞発生バイオアッセイ
3D嚢胞形成が可能な初代細胞を、液化3Dバイオゲルに播種した後、ゲルを固めた。ゲルを、加湿した5%COインキュベーター内で18時間静置した。次いで、等量のDBM RenalCyte培地を48ウェルプレートの各ウェルに重層した。ウェルがいっぱいになるまで「添加」フィードを実行し、次いで培地の半分の量を取り除き、その後、同量の新しい培地を添加した。嚢胞が現れるまでに7~10日を要した(光学顕微鏡による目視検査に基づく)。嚢胞予防アッセイでは、嚢胞が現れ始めたら(寸法が小さく、ウェルあたりの数が少ない)すぐに被験化合物でチャレンジした。被験化合物を添加するタイミング、被験化合物を添加する頻度、及び被験化合物の濃度を変化させた。嚢胞への影響を、光ベースの顕微鏡画像によって経時的に追跡した。試験全体で行う光ベースの顕微鏡イメージングによる目視検査に加えて、試験の最後にウェルごとに嚢胞の数を数え、光ベースのエンドポイント、例えば、Promega(Madison,Madison,WI)の3D CellTiter-GLO(登録商標)(生細胞を定量化するため)、LDH分泌(細胞膜の完全性を定量化するため)、及び/またはCaspase-GLO(登録商標)(Promega)(アポトーシスの誘導を測定するため)を多重に試験した。嚢胞形成を完全に防止するために毎日バイオゲルに播種した後のこのアッセイ画像の修正版と、14~21日間にわたる対応する対照との比較。複数の複製を実施し、複数のドナー由来の細胞を試験した。
【0064】
図5に示すように、嚢胞予防アッセイの中間点及び終了時に、業界標準の薬剤であるトルバプタンは、嚢胞の出現と拡大にほとんど影響を及ぼさなかった。このバソプレシン受容体拮抗薬は、10及び30マイクロモルで嚢胞の拡大を遅らせた可能性があるが、この薬剤の溶解限度は30マイクロモル近くであった。トルバプタンによる明白な細胞傷害性はなかった。図6に示すように、嚢胞予防アッセイの中間点及び終了時に、業界標準の薬剤であるラパマイシンは、嚢胞の出現と拡大にほとんど影響を与えなかった。このmTOR阻害剤は10マイクロモルで嚢胞の拡大を遅らせたが;この薬物の溶解限度は30マイクロモル近くである。30マイクロモルのラパマイシンによる明白な細胞傷害性があった。図7に示すように、嚢胞予防アッセイの中間点及び終了時に、業界標準の薬剤であるボスチニブは、嚢胞の出現と拡大に影響を及ぼさなかった。このMAPキナーゼ阻害剤は、期待外れの業界標準の対照であった。ボスチニブによる明白な細胞傷害性はなかった。
【0065】
1~30μMの濃度でのDMSOビヒクル対照を実施した。結果を図8に示す。DSMOの最高濃度(30μM)では、72~144時間の間に嚢胞拡張の適度な減弱が生じた。しかしながら、試験したすべての低濃度(1、3、及び10μM)で、DMSOビヒクル対照は72時間と144時間のペア画像において効果を示さなかった。
【0066】
別の例示的な嚢胞予防アッセイでは、3D CellTiter-GLO(登録商標)を使用して、化合物スクリーニングアッセイで選択した化合物の濃度応答曲線に13日間曝露した後、バイオゲル内の生存可能なADPKD細胞を定量化した。結果を図29に示す。細胞生存率に加えて、3D予防アッセイ形式で増殖したADPKD細胞由来の嚢胞の数も測定した(図30)。図31に示すように、嚢胞のサイズも測定した。選択した化合物の濃度応答曲線に曝露した後、3D嚢胞予防アッセイで14日間増殖させたADPKD細胞の代表的な画像を図32に示す。画像は、候補化合物のいずれについても細胞傷害性が観察されない濃度0.1μMから示している。図33は、細胞生存率(3D CellTiter-GLO(登録商標)(バイオゲルあたりの生存細胞数)による)と、明白な細胞傷害性の尺度としてのLDH分泌または漏出の多重検出を示している。LDHは、細胞膜の完全性が失われると細胞から放出され、このことは、CellTiterGLOを単独で使用するだけでは直接確認することができない明白な細胞傷害性を示している。図29~33は、広角レンズを備えたCytation5ハイコンテントイメージャーを使用してウェル全体を一度に画像化して得られたデータを示している。本明細書に記載のように、多重化検出アッセイにおいて追加のアッセイを使用することができる。例えば、分泌された炎症性メディエーターまたはオートクリン/パラクリン因子(例えば、MCP-1、IL-6、細胞外ATPなど)の検出を、細胞生存率アッセイと組み合わせて実施することができる。PKDのげっ歯類モデルではうまく再現されないヒトPKD疾患の特徴であるPKD「インフラマソーム」を測定するために、AlphaLISAイムノアッセイ(Perkin Elmer(Waltham,MA))を使用して、MCP-1、IL-6、TNFαなどの選択した炎症性メディエーターの分泌を検出することができる。
【0067】
嚢胞攻撃細胞形成バイオアッセイ
3D嚢胞形成が可能な初代細胞を、嚢胞予防細胞形成バイオアッセイのために上記のように播種した。嚢胞攻撃アッセイでは、嚢胞の数を12~24に増加させることができ、かなりのサイズに拡大することができた。特定の嚢胞または嚢胞クラスターを各ウェルにマークした。次いで、被験化合物を加えて、すでに形成された嚢胞を攻撃し、嚢胞への影響を測定した。光ベースの顕微鏡画像によって経時的に嚢胞を追跡した。化合物の添加のタイミング、化合物の添加の頻度、及び化合物の濃度を変化させた。試験全体及び試験終了時に行う光ベースの顕微鏡イメージングによる目視検査、及び試験終了時にウェルごとにカウントした嚢胞の数に加えて、3D CellTiterGLO(生細胞を定量化するため)、LDH分泌(細胞膜の完全性を定量化するため)、及びCaspaseGLO(アポトーシスの誘導を測定するため)などの光ベースのエンドポイントを多重に調べた。複数の複製を実施し、複数のドナー由来の細胞を試験した。
【0068】
顕著な嚢胞を、治療前と治療開始後6日間、毎日画像化した。この大きな嚢胞は、業界標準の薬剤であるバソプレシン受容体拮抗薬であるトルバプタンの存在下で2.5~3.0倍に増加した。図9に示すように、3μMトルバプタンの存在下で、小さな嚢胞と大きな嚢胞を、治療開始前と治療開始後6日間、毎日一緒に画像化した。小さい嚢胞はすぐにサイズが小さくなった(矢印を参照のこと)。大きな嚢胞はサイズが2倍になったが、1週間の治療の終わりにサイズがわずかに小さくなり、球形の一部が失われた。図10に示すように、ラパマイシン(3μM)による治療を開始する前、次いで治療開始後6日間、毎日小さな嚢胞を画像化した。この嚢胞は適度にサイズが大きくなり、残りの日は静止したままであった。ラパマイシンはまた、他の画像で他の嚢胞及びスフェロイドを排除したが、この濃度では明白な毒性はなかった。図11に示すように、3μMボスチニブによる治療を開始する前、及び治療開始後6日間、毎日小さな嚢胞を画像化した。この嚢胞は、1~2日でサイズが2倍に増加したが、3~6日間、サイズが減弱または「ロック」され、それ以上の拡大は観察されなかった。
【0069】
図12に示すように、DMSO 3μM当量を使用して、ビヒクル対照の開始前及び治療開始後6日間、単一の大きな嚢胞を画像化した。その大きな嚢胞はサイズが2倍になり、さらに小さなサテライト嚢胞が視野内により顕著になるか、または現れた。
【0070】
ハイスループット嚢胞形成アッセイ
BioTek Cytation 5(Biotek Instruments,Winooski,VT)ハイコンテントイメージング及び光ベースのハイスループットスクリーニングイメージングシステムを使用して、96ウェル及び384ウェルマイクロタイタープレートの3Dバイオゲルで増殖するhuADPKD細胞を画像化した。Cytation5はBioTekBioSpa8(加湿COインキュベーター)に結合されており、それにより、リーダーで分析するためにトレイを一度に1つずつ抽出し、BioSpaに戻すことができる。96ウェルフルエリアウェルプレート、96ウェルハーフエリアウェルプレート、及び384ウェルプレートの主要な初代及び不死化huADPKD細胞培養物から、細胞形成を観察した。図13は、384ウェルプレートの嚢胞形成アッセイの概略設計を示す。
【0071】
特に、特殊なDBM RenalCyte培地は、添加物(フォルスコリンまたは他のcAMP刺激)なしで嚢胞形成を誘発するのに十分であった。ドライバーは必要ないが、必要に応じて使用することができる。エッジ効果を軽減するために、エッジウェルを生理食塩水で満たす。
【0072】
BioTek Cytation5システムを使用して、384ウェルプレートに播種したADPKD初代細胞のウェル全体の自動化されたハイコンテントイメージングを実施した。処理ごとに複数のウェルをキャプチャした。均一な画像を、分析のために深層学習アルゴリズムに供給した。図14に示すように、DBM RenalCyte培地は嚢胞形成を促進するのに十分であったため、cAMPアゴニストや成長因子のような刺激は必要なかった。
【0073】
ADPKD細胞を、アルギニンバソプレッシン(AVP)の非存在下または存在下で14日間培養した。図15に示すように、この生理学的サイクリックAMP刺激の存在下での培養では、嚢胞は平均してより大きくなる。
【0074】
ハイコンテントイメージング、細胞生存率分析、嚢胞カウント、及び嚢胞サイズ分析を、業界標準の対照薬であるリコリノスタット(0.3~100μM)の存在下で培養物に対して実施した。結果を図16A~Dに示し、これは、ウェル全体の嚢胞の一般的なハイコンテンツ画像、3Dバイオゲル細胞生存率及び嚢胞数、ならびに人工知能アルゴリズム及び「ビニング」法を使用した嚢胞サイズ分析のヒストグラムを示している。
【0075】
予防における化合物スクリーニング。攻撃及び減少アッセイ
化合物1を、予防アッセイ及び攻撃アッセイの両方で試験した。結果を図17A及び図17Bに示し、化合物1の結果(n=9)とトルバプタンの結果(n=9)を比較する。それぞれについて30~1000nMの濃度を試験し、データをDMSO対照に対する生存率(n=12)として表した。化合物1はナノモルの効力を示したが、トルバプタンは同じ範囲では無効であった。統計分析はANOVAを使用して実施した。図18に示すように、嚢胞予防アッセイにおける嚢胞の減弱は、30nMを超える化合物1の濃度で観察された。化合物2は、図19及び20に示すように、予防及び攻撃アッセイで同様の結果をもたらす。しかしながら、図21及び22に示すように、化合物1の類似体である化合物3は、同じ濃度での予防及び攻撃アッセイの両方で効果がなかった。図23に示すように、トルバプタンは中程度のマイクロモル濃度でのみ嚢胞予防アッセイで効果があると判断された。図24は、ナノモル濃度の化合物1、2、4、及び3ならびにトルバプタンの結果を示す。
【0076】
化合物1、2、4、及び3のIC50は100nM以下であるが、トルバプタンのIC50は10μM超である。トルバプタンは、cAMP刺激アッセイにおいてわずかにより効果的である。化合物1、2、及び5はまた、細胞生存率の3D CellTiterGLOアッセイで、3Dバイオゲルごとに複数の嚢胞が拡大した初代ヒトADPKD培養物において、Vertex CFTR補正薬(10μM)及びトルバプタン(10μM)とも比較した。培養物を2週間インキュベートした後、薬物またはDMSO対照及び培地のみの対照で1週間処理した。化合物1及び2では、60~65%の阻害が観察されたが、化合物6(化合物1の類似体)、Vertex CFTR補正薬、及びトルバプタンは、10倍高い濃度で約20%の阻害しか示さなかった。
【0077】
化合物1、2、及び6を、CRC設計を使用した細胞生存率の3D CellTiterGLOアッセイで、Vertex CFTR補正薬と比較した。この設計では、ADPKD細胞培養物中に3Dバイオゲルごとにいくつかの小さな嚢胞が形成され始めた(すなわち、薬物または培地またはDMSOのみによる1週間の治療の10日前にインキュベートした)。嚢胞減少アッセイの結果を図26に示す。化合物1と2は同様のCRC関係を有し、IC50は200nMで、75%の阻害は細胞増殖抑制または増殖停止を反映している。化合物6は、IC50が3μMの場合ははるかに効力が弱かったが、同様の最大阻害を示した。対照的に、VX-661は30μMのIC50、及びシグナルなしの完全な阻害を示し、明白な細胞傷害性を示した。VX-809は、トルバプタンと同様に、部分的な効果のみを示し、最高濃度でのみ効果を示した。
【0078】
同様に、図27は、ADPKD細胞を培養するCRC設計を使用した細胞生存率の3D CellTiterGLOアッセイにおいて、化合物1、2、及び6を使用した嚢胞予防アッセイとVertex CFTRコレクター薬物の結果を示している。このアッセイでは、ADPKD細胞培養物を、薬物、培地のみ、またはDMSOのみで処置する1週間の4日前にインキュベートした。化合物1は100nM未満のIC50を示し、化合物2は200nM未満のIC50を示した。細胞増殖抑制剤または増殖停止を反映して、75%の阻害が再び観察された。化合物6ははるかに効力が低く、IC50は4μMであったが、同様の最大阻害を示した。対照的に、VX-661は10μMのIC50、及びシグナルなしの完全な阻害を示し、明白な細胞傷害性を示した。VX-809は部分的な効果のみを示し、最高濃度でのみ効果を示した。
【0079】
正常ヒト腎臓(NHK)細胞の化合物スクリーニング
3Dバイオゲルで増殖させた正常ヒト腎臓(NHK)細胞での小分子コレクションの初期スクリーニングを実施して、これらの分子がNHK細胞に対して毒性がなく、3Dバイオゲルの尿細管形成を妨害しないことを裏付ける。有害ではない小分子を、上記の主要なヒトADPKD嚢胞形成アッセイで評価し、嚢胞形成が減弱するかどうかを経時的に判断する。選択した炎症性メディエーター(いわゆるADPKDインフラマソームの潜在的阻害剤)の産生/分泌が減弱しているかどうかを判断するために、試験終了時に上清を回収する。ADPKD嚢胞形成及びインフラマソームの検証された阻害剤を、少なくとも2人の追加のADPKDドナーに由来する細胞で試験する。
【0080】
図28は、本明細書に記載のアッセイを使用してADPKD嚢胞形成阻害剤を同定するためのプロセスの概略図である。簡潔に述べると、最初に初代正常ヒト腎臓細胞プラットフォームにおいて治療候補をスクリーニングして細胞傷害性の欠如を裏付け、それにより、ヒトADPKD嚢胞腎阻害剤及び/またはインフラマソーム阻害剤としてスクリーニングされる「安全な」化合物を同定する。ハイコンテントイメージングが嚢胞形成の減弱または嚢胞の収縮を記録する場合、マルチプレックスアッセイを使用し、一方、3Dバイオゲルを覆う培地上清を採取して、ヒトADPKD「インフラマソーム」のケモカイン、サイトカイン、及び他のバイオマーカーをAlphaLISAテクノロジーによって定量化する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
【手続補正書】
【提出日】2022-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の生体外での産生方法であって、
(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から単離された1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で前記1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
)前記複数の単一嚢胞由来細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
)前記複数の単一嚢胞由来細胞が、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成するかどうかを判定し;
)嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上を不死化する
ことを含む、前記産生方法。
【請求項2】
前記1つ以上の単離された細胞の遺伝子型決定または全エクソーム配列決定をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移した複数の単一嚢胞由来細胞が、移す前に5回未満継代されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記移した複数の細胞が、3回未満継代されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記単離した1つ以上の細胞を、透過性フィルター上で培養する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記不死化を、テロメラーゼを使用して実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不死化を、ウイルスがん遺伝子を使用して実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルスがん遺伝子がSV40である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養。
【請求項10】
前記細胞を、
(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;
(b)前記単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
(c)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットを、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
(d)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットが、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成することを決定し;
(e)前記複数の単一嚢胞由来細胞の第2のサブセットを単離して、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物を作出する
ことによって産生する、請求項9に記載の初代培養物。
【請求項11】
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって誘導される、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
【請求項13】
(a)請求項11または12の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団及び
(b)三次元ゲル
を含む、多嚢胞性腎臓由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養物。
【請求項14】
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)前記接触させた細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして
(c)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを決定することを含み、嚢胞様形成のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記多嚢胞性腎臓由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の嚢胞形成レベルである、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養系を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の前記三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを測定することを含み、嚢胞形成能のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
【請求項19】
前記多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の前記嚢胞形成レベルである、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
さらに、多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。方法は、(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングする薬剤と接触させ;(b)接触させた細胞を嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして(c)対照レベルと比較した、薬剤での処理後の接触させた細胞の三次元培養系内での嚢胞様形成レベルを測定するステップを含む。嚢胞様形成レベルの低下は、薬剤により、多発性嚢胞腎疾患が予防または治療されることを示す。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の産生方法であって、(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;
(b)前記単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で前記1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
(c)前記複数の単一嚢胞由来細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
(d)前記複数の単一嚢胞由来細胞が、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成するかどうかを判定し;
(e)嚢胞様構造を形成する複数の単一嚢胞由来細胞のうちの1つ以上を不死化する
ことを含む、前記産生方法。
(項目2)
前記1つ以上の単離された細胞の遺伝子型決定または全エクソーム配列決定をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記移した複数の単一嚢胞由来細胞が、移す前に5回未満継代されている、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記移した複数の細胞が、3回未満継代されている、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記単離した1つ以上の細胞を、透過性フィルター上で培養する、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記不死化を、テロメラーゼを使用して実施する、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記不死化を、ウイルスがん遺伝子を使用して実施する、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記ウイルスがん遺伝子がSV40である、項目7に記載の方法。
(項目9)
多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養。
(項目10)
前記細胞を、
(a)多発性嚢胞腎の単一嚢胞から1つ以上の細胞を単離し;
(b)前記単離した1つ以上の細胞を、培養皿またはウェル内で1つ以上の細胞を増殖させるための条件下で培養して複数の単一嚢胞由来細胞を作出し;
(c)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットを、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;
(d)前記複数の単一嚢胞由来細胞の最初のサブセットが、前記三次元培養物中で嚢胞様構造を形成することを決定し;
(e)前記複数の単一嚢胞由来細胞の第2のサブセットを単離して、多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の初代培養物を作出する
ことによって産生する、項目9に記載の初代培養物。
(項目11)
多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
(項目12)
項目1~8のいずれか一項に記載の方法によって誘導される、多発性嚢胞腎由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団。
(項目13)
(a)項目11または12の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の集団及び
(b)三次元ゲル
を含む、多嚢胞性腎臓由来の不死化された嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養物。
(項目14)
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)前記接触させた細胞を、嚢胞形成用に構成された三次元培養系に移し;そして
(c)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを決定することを含み、嚢胞様形成のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
(項目15)
前記多嚢胞性腎臓由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、項目14または15に記載の方法。
(項目17)
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の嚢胞形成レベルである、項目14~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
(a)多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の三次元培養系を、スクリーニングしようとする薬剤と接触させ、
(b)対照レベルと比較した、前記薬剤での処理後の前記接触させた細胞の前記三次元培養系内での嚢胞様形成のレベルを測定することを含み、嚢胞形成能のレベルの低下が、前記薬剤が多発性嚢胞腎疾患を予防または治療することを示す、
多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤のスクリーニング方法。
(項目19)
前記多発性嚢胞腎由来の嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の培養物が、単一嚢胞または不死化細胞から単離した細胞の初代培養物を含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記多発性嚢胞腎疾患を予防または治療する薬剤を、前記嚢胞形成性の単一嚢胞由来細胞の特定の遺伝子特性と相関させることをさらに含む、項目18または19に記載の方法。
(項目21)
前記対照レベルが、同じ嚢胞に由来する未処理の細胞の前記嚢胞形成レベルである、項目18~20のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】