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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】除染/消毒のためのデバイスと方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20220727BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220727BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220727BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20220727BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20220727BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220727BHJP
   A61L 2/238 20060101ALI20220727BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220727BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A61K9/70
A61K47/38
A61K47/61
A61P31/02
A61K45/00
A61L2/238
A01P3/00
A01N25/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571512
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2020065095
(87)【国際公開番号】W WO2020240027
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】1907796.5
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521522135
【氏名又は名称】アクイラ バイオサイエンス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AQUILA BIOSCIENCE LIMITED
【住所又は居所原語表記】Ballinahalla, Moycullen, Co. Galway, Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョシー, ロケーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウトラトナ, マルタ
【テーマコード(参考)】
4C058
4C076
4C084
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA03
4C058AA12
4C058BB07
4C058JJ02
4C058JJ04
4C058JJ23
4C076AA71
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE31
4C076EE59
4C076GG22
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB35
4H011AA02
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB19
4H011DA07
4H011DC10
4H011DD05
4H011DD06
4H011DH10
(57)【要約】
ウイルス、微生物および病原体の制御および除去のためのデバイスを提供する。炭水化物ベースのポリマーを含む担体物質、および結合剤を含むデバイスを提供する。結合剤は、担体物質に1つあるいはそれ以上の共有結合によって結合され、結合剤は標的に結合することができ、標的は、バイオトキシン、ウイルス、微生物、および微生物成分の1つあるいはそれ以上である。また、バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を除去するためのこのようなデバイスを使用する方法、およびデバイスを作製するための方法を提供し、この方法では、炭水化物ベースのポリマーを含む担体物質を提供し、担体を酸化剤で処理して酸および/またはアルデヒド基を生成し、結合剤が炭水化物ベースのポリマーに1つあるいはそれ以上の共有結合により結合するように、レクチン、糖タンパク質、および複合糖質の1つあるいはそれ以上を含む結合剤と処理された担体とを接触させること、を含む。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物ベースのポリマーを含む担体物質と、結合剤とを含むデバイスであって、
前記結合剤は、前記担体物質に1つあるいはそれ以上の共有結合によって結合され、
前記結合剤は、標的に結合することができ、
前記標的が、バイオトキシン、ウイルス、微生物、および微生物成分の1つあるいはそれ以上であるデバイス。
【請求項2】
前記担体物質が、セルロースを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記担体物質が、1つあるいはそれ以上の綿および紙を含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記担体物質が溶解、懸濁、分散、乳化、または他の方法で担持される流体を含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記結合剤が1つあるいはそれ以上の共有結合によりセルロースに結合されている、請求項2~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記結合剤が、抗血栓剤、抗炎症剤、抗体、抗原、アドヘシン、免疫グロブリン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、タンパク質、球状タンパク質、細胞付着タンパク質、ペプチド、細胞付着ペプチド、プロテオグリカン、毒素、多糖類、炭水化物、脂肪酸、薬物、ビタミン、DNAセグメント、RNAセグメント、核酸、色素およびリガンドの1つあるいはそれ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記結合剤が、レクチン、糖タンパク質、オリゴ糖、および複合糖質の1つあるいはそれ以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記結合剤が、レクチンを含む、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記レクチンが、AIA/Jacalin、RPbAI、AAL、ABL、ACA、AMA、BPA、CAA、カルセパ、CCA、ConA、CPA、DBA、DSA、ECA、EEA、GHA、GNA、GSL-I-B4、GSL-II、HHA、HPA、Lch-A、Lch-B、LEL、LTA、MAA、MOA、MPA、NPA、PA-I、PCA、PHA-E、PHA-L、PNA、PSA、RCA-I/120、SBA、SJA、SNA-I、SNA-II、STA、UEA-I、VRA、VVA-B4、WFA、およびWGAの1つあるいはそれ以上である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記レクチンが、VRA、Lch-B、EEA、PA-I、PNA、CAA、GSL-I-B4、AMA、RCA-I/120、およびGNAの1つあるいはそれ以上である、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記結合剤が、糖タンパク質を含む、請求項7に記載のデバイス。
【請求項12】
前記糖タンパク質が、ウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、インベルターゼ、フィブリノーゲン、α-1-アンチトリプシン、α-クリスタリン、セルロプラスミン、α-1-酸性糖タンパク質、RNAse B、トランスフェリン、β-ラクトグロブリン、C.-ラクトアルブミン、アルブミン、B-カゼイン、C-カゼイン、K-カゼイン、ラクトフェリン、卵白アルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、および誘導体グリコマクロペプチドの1つあるいはそれ以上である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記糖タンパク質が、フェチュイン、アシアロフェチュインおよびα-クリスタリンの1つあるいはそれ以上である、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記結合剤が、複合糖質またはネオ複合糖質である、請求項7に記載のデバイス。
【請求項15】
前記複合糖質またはネオ複合糖質が、Blood Group A-BSA、Blood Group B-HSA、Fuc-α-4AP-BSA、Fuc-β-4AP-BSA、2´フコシルラクトース-BSA、ジフコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオース-APD-HSA(Lea/Lex)、トリフコシル-Ley-ヘプタサッカライド-APE-HSA、モノフコシル、モノシアリルラクト-N-ネオヘキサオース-APD-HSA、Gal-β-4AP-BSA、Galα1,3Gal-BSA、Gal-α-1,3Galb1、Gal‐β‐1,4Gal‐BSA、Gal‐α‐1,2Gal‐BSA、4GlcNAc‐HSA、Gal‐α‐PITC‐BSA、Gal‐β‐ITC‐BSA、Glc‐β‐4AP‐BSA、Glc‐β‐ITC‐BSA、GlcNAc‐BSA、グロボトリオース‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオース‐APD‐HSA、GM1‐ペンタサッカライド‐APD‐HSA、Asialo‐GM1‐テトラサッカライド‐APD‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオースAPD‐HSA、H型‐II-APE-BSA、H型2-APE-HSA、Man-α-1,3(Man-α-1,6)、Man-BSA、Man-α-ITC-BSA、Man-b-4AP-BSA、LacNAc-BSA、LacNAc-α-4AP-BSA、LacNAc-β-4AP-BSA、Lac-β-4AP-BSA、ラクト-N-テトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース I-BSA、ラクト-N-ネオテトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース II-BSA、ラクト-N-フコペンタオース III-BSA、ラクト-N-ジフコヘキサオース I-BSA、Lewis a-BSA、Lewis x-BSA、Lewis y-テトラサッカライド-APE-HSA、LNDI-BSA/Lewis b-BSA、Di-Lex-APE-BSA、Di-Lewisx-APE-HSA、Tri-Lex-APE-HSA、L-ラムノース-Sp14-BSA、3´シアリルラクトース-APD-HSA、3´シアリル-3-フコシルラクトース-BSA、6´-シアリルラクトース-APD-HSA、Xyl-α-4AP-BSA、Xyl-β-4AP-BSA、3´シアリル Lewis x-BSA、3´シアリル Lewis a-BSA、6-スルホ Lewis x-BSA、6-スルホ Lewis a-BSA、3-スルホ Lewis a-BSA、3-スルホ Lewis x-BSA、シアリル-LNF V-APD-HSA、およびシアリル-LNnT-ペンタ-APD-HSAの1つあるいはそれ以上である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記結合剤が、複合糖質、ネオ複合糖質または糖タンパク質であり、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸(シアル酸)、ガラクトース、グルコース、およびフコース部分の1つあるいはそれ以上を含む末端残基を有する、請求項7に記載のデバイス。
【請求項17】
前記デバイスが、抗菌物質をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記抗菌性物質が、消毒剤、抗生物質および洗剤の1つあるいはそれ以上である、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記抗菌物質が、銀、銅、またはEDTAである、請求項17に記載のデバイス。
【請求項20】
前記担体物質が、布、ワイプ、創傷包帯、綿棒、フィルター、パッド、ブランケット、マット、マスクまたは塗膜の形態である、請求項1~19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を表面から除去する方法であって、
請求項1~20のいずれか一項に記載のデバイスを提供すること、および、
前記表面を前記デバイスと接触させること、
を含む方法。
【請求項22】
ガスまたは液体からバイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を除去する方法であって、
請求項1~20のいずれか一項に記載のデバイスを提供すること、および、
前記ガスまたは液体を前記デバイスに通すこと、
を含む方法。
【請求項23】
前記結合剤が、除去される前記バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分に結合する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分が胞子である、請求項21から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
デバイスを製造するためのプロセスであって、その方法は、
炭水化物ベースのポリマーを含む担体物質を提供すること、
前記担体を酸化剤で処理して酸および/またはアルデヒド基を生成すること、および、
処理された前記担体を、結合剤が炭水化物ベースのポリマーに1つあるいはそれ以上の共有結合により結合するように、レクチン、糖タンパク質、および複合糖質の1つあるいはそれ以上を含む結合剤と接触させること、を含む方法。
【請求項26】
前記担体物質が、セルロースを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記酸化剤が、過ヨウ素酸塩、好ましくは、過ヨウ素酸ナトリウムである、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記酸化剤が、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO)、リン酸中の硝酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウム、有機溶媒および塩基の存在下での活性化剤トシルクロリド、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項25または26に記載の方法。
【請求項29】
セルロースを含む担体物質、およびウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、インベルターゼ、フィブリノーゲン、α-1-アンチトリプシン、α-クリスタリン、セルロプラスミン、α-1-酸性糖タンパク質、RNAse B、トランスフェリン、β-ラクトグロブリン、C.-ラクトアルブミン、アルブミン、B-カゼイン、C-カゼイン、K-カゼイン、ラクトフェリン、卵白アルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、および誘導体グリコマクロペプチドから選択される1つあるいはそれ以上の糖タンパク質を含む結合剤、を含むデバイスであって、
前記結合剤は、セルロースに1つあるいはそれ以上の共有結合によって結合され、
前記結合剤は、標的に結合することができ、
前記標的は、バイオトキシン、ウイルス、微生物、および微生物成分の1つあるいはそれ以上である、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス、微生物および病原体の制御および除去の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の世界では、ウイルス、細菌その他の微生物、およびそれらの成分の拡散をいかに防止するかが重大な問題である。特に、そのような物質がヒトまたは他の生物の健康に有害である場合には、重大な問題である。これらの物質の伝播は、表面上や表面間で生存すること、あるいは空気や液体を通して運搬されることによって起こることが多いため、これらの表面からウイルス、微生物および微生物成分を除去することが望ましい。
【0003】
病原体はもちろん特に除去する必要があるが、無菌環境を維持したり、科学的または工業的プロセスの汚染を避けたりなど、様々な目的のために、無害な微生物を採取または除去することが望ましいこともある。
【0004】
表面から微生物またはウイルスの付着を除去するために設計された手法の多くは、標的を変性させるか、そうでなければ破壊しようとするものである。例えば、アルコールや他の消毒薬、強力な化学消毒薬(還元剤を使用できるものの、一般的には漂白剤などの酸化剤)、抗生物質、極端な熱、短波紫外線や非熱的(低温)プラズマなどの放射線などが、ウイルスや微生物を破壊または変性させるために用いられることが多い。
【0005】
このような手法にはいくつかの大きな欠点があり、主として、効力が変化する可能性がある、ということが挙げられる。微生物は、除菌のほとんどすべての方法に対して、耐性を有したり、耐性を獲得したりすることがあるためである。微生物の種によっては、熱や、化学的、医薬的、紫外線の攻撃に対して極めて耐性のある胞子をつくることができるので、破壊するのが非常に難しい。多くのウイルスは、その性質上、標準的な手段による破壊に耐性を有し、抗生物質のような抗細菌薬に対して免疫を有し、破壊するための細胞プロセスを欠いている。微生物やウイルスの生体毒素や成分は、生きている生物を殺すように設計された機構にも耐性である可能性が高く、そのために除去することも難しいことがある。
【0006】
さらに、消毒に使われる手段自体が使用者に有害となる可能性がある。これは特に強力な化学消毒剤に言えることであるが、抗生物質のような他の手段はアレルギー反応を誘発する可能性があり、紫外線の使用は皮膚に損傷を与え、発癌の可能性がある。また、多くの場合、そのような手段を適用することは現実的ではないことがある。例えば、滅菌のために表面を高温に加熱することは、必ずしも実行可能ではない。
【0007】
たとえ標的となる微生物やウイルスが破壊されても、たとえばリポ多糖類(エンドトキシン)などのタンパク質を主体とする細菌毒素やコレラ菌が産生するタンパク質非主体エンテロトキシンのように、有害物質が残ることがある。植物や動物によって産生されるような他のバイオトキシンにも、同様の懸念がある。
【0008】
おそらく最も重要なことは、化学的・抗生物質耐性は微生物によって進化し、その子孫によって保持され、遺伝子導入によって水平伝播さえされうることである。したがって、強力な化学消毒剤や衛生製品の使用は、さらなる危険因子であり、突然変異を促進し、根絶手順を効率的にしない。最も強力な抗生物質や化学物質を含む多くの重要な抗菌薬は、もはや効果がなくなり、ヒト(および動物)の致死率の上昇、世界的な流行の脅威および医療費の増加をもたらす。これは、生物兵器の脅威となる病原体の場合にも、同様に心配される。適切な制御手段がない場合には、人や動物の生命に広範囲にわたる恐怖や損害を引き起こす可能性がある。
【0009】
したがって、標準的な除去や破壊の方法に耐性を示す可能性のあるものを含め、バイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分を除去し、後の分析および/又は廃棄のためにこれらの汚染物質を効果的に保持するのに有効な方法およびデバイスを製造する必要がある。
【0010】
対象となるバイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分を物質又は担体内に保持することにより除去することを目的とする既存のデバイスは、バイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分と物質又は担体との相互作用が概して十分に強くないため、これらの対象を効果的に保持することができない。例えば、除去された標的は、単に物質または担体に、例えば、水素結合または類似の相互作用によって吸着される場合がある。これらの手法では、標的の非効率的な取り込みや、物質または担体が別の表面に遭遇したときに、一時的に結合した標的が放出されることになる。
【0011】
本発明は、汚染された表面からバイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分を除去し、それらを担体物質内で安定して保持するためのデバイスおよび方法を提供する。
【発明の概要】
【0012】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1つの炭水化物ベースのポリマー、および結合剤を含む担体材料を含むデバイス(例えば、表面からのおよび/またはガスまたは液体からの、バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分除去に適している)を提供する。結合剤は、担体物質に1つあるいはそれ以上の共有結合によって結合され、標的に結合することができ、標的が、バイオトキシン、ウイルス、微生物、および微生物成分の1つあるいはそれ以上である。
【0013】
担体物質は、炭水化物ベースのポリマーとしてセルロースを含み得、1つあるいはそれ以上の綿および紙を含み得る。担体物質がセルロースを含む場合、結合剤は、1つあるいはそれ以上の共有結合によりセルロースに結合してもよい。
【0014】
デバイスは、担体材料が溶解、懸濁、分散、乳化、または他の方法で担持される流体を含み得る。
【0015】
結合剤は、抗血栓剤、抗炎症剤、抗体、抗原、アドヘシン、免疫グロブリン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、タンパク質、球状タンパク質、細胞付着タンパク質、ペプチド、細胞付着ペプチド、プロテオグリカン、毒素、多糖類、炭水化物、脂肪酸、薬物、ビタミン、DNAセグメント、RNAセグメント、核酸、色素およびリガンドの1つあるいはそれ以上を含み得る。いくつかの実施形態において、結合剤は、レクチン、糖タンパク質、オリゴ糖、および複合糖質の1つあるいはそれ以上を含む。
【0016】
結合剤は、レクチンを含み得、レクチンは、AIA/Jacalin、RPbAI、AAL、ABL、ACA、AMA、BPA、CAA、カルセパ、CCA、ConA、CPA、DBA、DSA、ECA、EEA、GHA、GNA、GSL-I-B4、GSL-II、HHA、HPA、Lch-A、Lch-B、LEL、LTA、MAA、MOA、MPA、NPA、PA-I、PCA、PHA-E、PHA-L、PNA、PSA、RCA-I/120、SBA、SJA、SNA-I、SNA-II、STA、UEA-I、VRA、VVA-B4、WFA、およびWGAの1つあるいはそれ以上となり得る。好ましくは、レクチンは、VRA、Lch-B、EEA、PA-I、PNA、CAA、GSL-I-B4、AMA、RCA-I/120、GNAの1つあるいはそれ以上である。
【0017】
いくつかの実施形態において、結合剤は、糖タンパク質を含み得、糖タンパク質は、ウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、インベルターゼ、フィブリノーゲン、α-1-アンチトリプシン、α-クリスタリン、セルロプラスミン、α-1-酸性糖タンパク質、RNAse B、トランスフェリン、β-ラクトグロブリン、C.-ラクトアルブミン、アルブミン、B-カゼイン、C-カゼイン、K-カゼイン、ラクトフェリン、卵白アルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、および誘導体グリコマクロペプチドの1つあるいはそれ以上であり得る。
典型的には、糖タンパク質は、フェチュイン、アシアロフェチュインおよびα-クリスタリンの1つあるいはそれ以上であってもよい。
【0018】
いくつかの実施形態において、結合剤は複合糖質またはネオ複合糖質である。複合糖質またはネオ複合糖質は、Blood Group A-BSA、Blood Group B-HSA、Fuc-α-4AP-BSA、Fuc-β-4AP-BSA、2´フコシルラクトース-BSA、ジフコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオース-APD-HSA(Lea/Lex)、トリフコシル-Ley-ヘプタサッカライド-APE-HSA、モノフコシル、モノシアリルラクト-N-ネオヘキサオース-APD-HSA、Gal-β-4AP-BSA、Galα1,3Gal-BSA、Gal-α-1,3Galb1、Gal‐β‐1,4Gal‐BSA、Gal‐α‐1,2Gal‐BSA、4GlcNAc‐HSA、Gal‐α‐PITC‐BSA、Gal‐β‐ITC‐BSA、Glc‐β‐4AP‐BSA、Glc‐β‐ITC‐BSA、GlcNAc‐BSA、グロボトリオース‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオース‐APD‐HSA、GM1‐ペンタサッカライド‐APD‐HSA、Asialo‐GM1‐テトラサッカライド‐APD‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオースAPD‐HSA、H型‐II-APE-BSA、H型2-APE-HSA、Man-α-1,3(Man-α-1,6)、Man-BSA、Man-α-ITC-BSA、Man-b-4AP-BSA、LacNAc-BSA、LacNAc-α-4AP-BSA、LacNAc-β-4AP-BSA、Lac-β-4AP-BSA、ラクト-N-テトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース I-BSA、ラクト-N-ネオテトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース II-BSA、ラクト-N-フコペンタオース III-BSA、ラクト-N-ジフコヘキサオース I-BSA、Lewis a-BSA、Lewis x-BSA、Lewis y-テトラサッカライド-APE-HSA、LNDI-BSA/Lewis b-BSA、Di-Lex-APE-BSA、Di-Lewisx-APE-HSA、Tri-Lex-APE-HSA、L-ラムノース-Sp14-BSA, 3´シアリルラクトース-APD-HSA、3´シアリル-3-フコシルラクトース-BSA、6´-シアリルラクトース-APD-HSA、Xyl-α-4AP-BSA、Xyl-β-4AP-BSA、3´シアリル Lewis x-BSA、3´シアリル Lewis a-BSA, 6-スルホ Lewis x-BSA, 6-スルホ Lewis a-BSA, 3-スルホ Lewis a-BSA, 3-スルホ Lewis x-BSA、シアリル-LNF V-APD-HSA、およびシアリル-LNnT-ペンタ-APD-HSAの1つあるいはそれ以上であり得る。
【0019】
結合剤が複合糖質、ネオ複合糖質または糖タンパク質である場合には、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸(シアル酸)、ガラクトース、グルコース、およびフコース部分の1つあるいはそれ以上を含む末端糖残基を有していてもよい。
【0020】
担体物質はさらに、抗菌物質を含み得、これは、消毒剤、抗生物質および洗剤の1つあるいはそれ以上であり得る。抗菌物質は銀、銅、またはEDTAであり得る。
【0021】
いずれの実施形態においても、デバイスの担体物質は、布、ワイプ、創傷包帯、スワブ、フィルター、パッド、ブランケット、マット、マスクまたは塗膜の形態となり得る。
【0022】
第2の態様において、本発明は、表面からバイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を除去する方法を提供し、この方法では、本明細書に記載される任意の実施形態に従ってデバイスを提供すること、および表面をデバイスと接触させることを含む。
【0023】
第3の態様において、本発明は、バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分をガスまたは液体から除去する方法を提供し、この方法では、本明細書に記載されるいずれかの実施形態に従ってデバイスを提供し、ガスまたは液体をデバイスに通すことを含む。
【0024】
上述の方法のいずれかの実施形態において、結合剤は、除去されるバイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分に結合し得る。除去されるウイルス、微生物および/または微生物成分は、胞子であってもよい。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、デバイスを作製するための方法を提供し、この方法は、少なくとも1つの炭水化物ベースのポリマーを含む担体材料を提供することと、担体を酸化剤で処理して酸および/またはアルデヒド基を生成することと、処理された担体を、結合剤が1つ以上の共有結合によって炭水化物ベースのポリマーに連結されるように、レクチン、糖タンパク質、および複合糖質の1つ以上を含む結合剤と接触させることを含む。酸化剤は過ヨウ素酸塩であり、好ましくは、過ヨウ素酸ナトリウムが挙げられる。酸化剤は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO)、硝酸ナトリウムまたはリン酸中の硝酸ナトリウム;有機溶媒および塩基の存在下での活性化剤トシルクロリド;およびそれらの組み合わせを含む群から選択することができる。
【0026】
本発明によるデバイスの実施形態と併せて議論されるさらなる潜在的特徴は、上記プロセスによって製造されるデバイスに等しく適用されると考えられる。
【0027】
特定の態様において、デバイスを提供し、デバイスは、セルロースを含む担体材料と、糖タンパク質を含む結合剤とを含み、糖タンパク質は、ウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、インベルターゼ、フィブリノーゲン、α-1-アンチトリプシン、α-クリスタリン、セルロプラスミン、α-1-酸性糖タンパク質、RNAse B、トランスフェリン、β-ラクトグロブリン、C.-ラクトアルブミン、アルブミン、B-カゼイン、C-カゼイン、K-カゼイン、ラクトフェリン、卵白アルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、および誘導体グリコマクロペプチドの1つ以上から選択される。結合剤は、セルロースに1つあるいはそれ以上の共有結合によって結合され、結合剤は標的に結合することができ、標的は、バイオトキシン、ウイルス、微生物、および微生物成分の1つあるいはそれ以上である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、添付の図面を参照することによりさらに例示される:
図1A図1Aは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面から野兎病菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図1B図1Bは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面から野兎病菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図1C図1Cは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面から野兎病菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図2A図2Aは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からボツリヌス菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図2B図2Bは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からボツリヌス菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図2C図2Cは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からボツリヌス菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図2D図2Dは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からボツリヌス菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図3A図3Aは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面から細胞(3A)形態または胞子(3B)形態の炭疽菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図3B図3Bは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面から細胞(3A)形態または胞子(3B)形態の炭疽菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図4A図4Aは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からインフルエンザウイルスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図4B図4Bは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からインフルエンザウイルスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図4C図4Cは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からインフルエンザウイルスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図5A図5Aは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からEHEC大腸菌(E.coli)O157:H7およびエンテロバクター・クロアカを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図5B図5Bは、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、様々な表面からEHEC大腸菌(E.coli)O157:H7およびエンテロバクター・クロアカを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図6図6は、本発明の様々な実施形態によるデバイスを、プラスチック表面からプロピオニバクテリウム・アクネスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図7図7は、本発明の実施形態によるデバイスを、種々のpHレベルのプラスチック表面からカンジダ・アルビカンスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図8図8は、様々な微生物を接種された皮膚のモデルに対する本発明の実施形態による試験デバイスの方法を示す。
図9A図9Aは、本発明の実施形態によるデバイスを、ブタ皮膚切片から大腸菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図9B図9Bは、本発明の実施形態によるデバイスを、ブタ皮膚切片から大腸菌を除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図10図10は、本発明の実施形態によるデバイスを、ブタ皮膚切片からカンジダ・アルビカンスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
図11図11は、本発明の実施形態によるデバイスを、ブタ皮膚切片からアスペルギルス・フミガーツスを除去することに用いた場合の有効性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により援用される。別途定義されない限り、本明細書に用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の技術者により一般に理解されるのと同じ意味をもつ。
【0030】
本発明をさらに説明する前に、本発明の理解に有益な定義を提供する。
【0031】
本明細書中で使用される、「標的」という用語は、表面から除去することが望まれるもの、または、本発明のデバイス内/上に取り込むか、または固定化するものを意味する。典型的には、標的は、バイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分であり、病原体であり得る。場合によっては、標的は、アレルゲン、または非微生物生命によって産生される微生物成分、例えば、植物花粉、真菌胞子、チリダニの糞便および他の成分、ナッツおよび貝類のような食品、動物または植物の毒素または毒物、ならびにフケのような動物製品からの潜在的アレルゲンであり得る。
【0032】
本明細書中で使用される、「微生物」という用語は、微生物、特に細菌、真菌、いわゆる「原生動物」または顕微鏡レベルの任意の他の原核生物もしくは真核生物を意味する。
【0033】
本明細書中で使用される、「微生物成分」、「微生物生成物」または「微生物物質」という用語は、表面から除去することが望まれる微生物の産物、または、本発明のデバイス中/上に取り込むか、または固定化するものを意味する。微生物成分は、毒素、すなわち、身体に有害な物質、例えばリポ多糖類(エンドトキシン)のようなタンパク質ベースまたは非タンパク質ベースの細菌毒素、または例えばコレラ菌によって産生されるエンテロトキシンであり得る。
【0034】
本明細書中で使用される、「毒素」または「バイオトキシン」という用語は、身体に有害な生物起源の物質を意味する。バイオトキシンは、上記のように微生物によって産生され得るか、または植物または動物のような他の供給源を有し得る。
【0035】
本明細書中で使用される、「病原体」という用語は、疾患を引き起こし得るウイルスまたは微生物を意味する。
【0036】
本明細書中で使用される、「炭水化物ベースのポリマー」という用語は、単糖単位(単糖分子)をその繰り返しポリマー単位の主成分または唯一の成分として含むポリマーを指す。炭水化物ベースのポリマーには、以下にさらに記載されるような多糖類、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、真菌β-グルカン、キチン、キトサン、セルロースおよびセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテート、セルロイド、およびニトロセルロース)、ラミナリン、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダンおよびガラクトマンナンが含まれるが、これらに限定されない。このようなポリマーの多くは単糖単位とその誘導体のみからなるが、単糖と他の単位を含む共重合体、例えば糖-ペプチドハイブリッド共重合体が存在する。さらに、特定の炭水化物ベースのポリマーは、特にそれらが非繊維性である場合、溶解する、懸濁する、分散させる、乳化する、または他の方法で、液体またはガスのような流体担体中にスプレー、ゾルアエロゾル、エマルジョン、または他として、担持させることができる。
【0037】
本明細書中で使用される、「多糖類」という用語は、単糖単位(単純な糖分子)の鎖で構成される炭水化物ベースのポリマーを意味し、ここで、鎖は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。多糖類は、デンプン、グリコーゲン、ラミナリンなどの多糖類のように、後に利用するために糖を貯蔵するのによく使われる。他の多糖類は、セルロース、真菌β-グルカン、キチン、ペクチン、キシラン、アラビノキシラン等を含み、構造目的に使用することができる。細菌はしばしば多糖類を産生、分泌する。たとえば、表面への接着を助けたり、宿主の免疫系から逃れるのを助けたりする。
【0038】
本明細書中で用いる「セルロース」という用語は、β(1→4)結合によるD-グルコース単位の鎖から作られるバイオ炭水化物ポリマーを意味する。セルロースは、細胞壁に利用するために緑色植物や、いくつかの藻類、およびいくつかの細菌を含む他の種によっても生産される。微粉末セルロースまたはナノセルロースは、非繊維性であり得るので、溶解させ、懸濁させ、分散させ、乳化させ、または他の方法で、液体またはガスのような流体担体中にスプレー、ゾル、アエロゾル、エマルジョン、またはその他として、担持させることができる。
【0039】
本明細書中で使用される、「結合剤」という用語は、バイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分に結合することができる生物学的分子を意味する。このような分子は、抗血栓剤、抗炎症剤、抗体、抗原、アドヘシン、免疫グロブリン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、タンパク質、球状タンパク質、細胞付着タンパク質、ペプチド、細胞付着ペプチド、プロテオグリカン、毒素、多糖類、炭水化物、脂肪酸、薬物、ビタミン、DNAセグメント、RNAセグメント、核酸、色素およびリガンドの1つあるいはそれ以上を含み得る。典型的には、本明細書中で議論される結合剤は、糖タンパク質、オリゴ糖、レクチン、複合糖質およびそれらの誘導体の1つあるいはそれ以上である。
【0040】
本明細書中で使用される、「糖タンパク質」という用語は、それに結合した1つ以上のオリゴ糖基またはグリカンを有するタンパク質を意味する。多くの分泌タンパク質はこのようにして「グリコシル化」されており、細胞外ドメインをもつ膜貫通タンパク質はしばしばこれらのドメインに糖基が結合している。
【0041】
本明細書中で使用される、「複合糖質」という用語は、それらに結合した1つあるいはそれ以上のグリカンのオリゴ糖基を有するタンパク質および脂質を意味する。例としては、天然または合成起源の糖タンパク質、糖脂質、スフィンゴ糖脂質、プロテオグリカンおよびグリコサミノグリカンが挙げられる。「ネオグリココンジュゲート」またはNGCは、人工または合成複合糖質、特に糖タンパク質および糖脂質を指し、ここで、タンパク質または脂質骨格は、1つあるいはそれ以上の糖残基に化学的に結合される。多くの場合、ウシ血清アルブミン(BSA)およびヒト血清アルブミン(HSA)のようなタンパク質がネオ複合糖質の調製に使用される。
【0042】
本明細書中で使用される、「レクチン」という用語は、炭水化物結合タンパク質を意味する(炭水化物結合タンパク質またはCBPという用語は、互換的に使用される)。レクチンは、糖タンパク質、糖脂質、またはオリゴ糖に存在するような、炭水化物部位に特異的である。レクチンの中には、結合する粒子を凝集させる能力をもつものがあることから、「凝集素」とも呼ばれるものもある。しかし、「凝集素」という用語は、抗体のような、そのような凝集を可能にする任意の物質に適用することができる。
【0043】
本明細書中で使用される、「アドヘシン」という用語は、細胞を他の細胞または表面に接着することに関与する細胞表面成分を意味する。これらは、宿主表面に接着するために用いられ、病原性、寄生性または共生微生物において一般的である。
【0044】
本明細書中で使用される、「消毒剤」という用語は、抗菌作用を有する、特に殺菌、変性または破壊する、またはそれらの増殖もしくは生殖を防止する、化学物質を意味する。一般に、消毒薬は口腔などの部位を含む皮膚や生体組織に使用しても安全であるが、有効性や安全性の懸念から体内では一般的に使用されていない。すべてではないが、ある種の消毒薬はウイルスを変性させたり破壊したりするのに有効である。フェノールのようなアルコール類、漂白剤や過酸化物のような弱濃度の消毒薬、ヨウ素、グルコン酸クロルヘキシジンや第四級アンモニウム化合物のようないくつかの特定の化学物質など、多くのクラスの消毒薬が存在する。
【0045】
本明細書中で使用される、「抗生物質」という用語は、体内で使用されるかまたは使用され得る抗微生物効果を有する化学物質を意味する。これらの物質はしばしば細菌プロセスを妨害し、微生物細胞の死滅や溶解を引き起こすが、一般にウイルスや細菌産物には効果がない。ペニシリン系、セファロスポリン系、テトラサイクリン系、アンサマイシン系など、多くの種類の抗生物質がよく知られている。
【0046】
本発明は、バイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物由来成分(タンパク質、ペプチドおよび炭水化物)収集、除染/消毒、周辺の診断および法医学的応用のための保存、および送達のための技術に関するデバイスおよび方法を記載する。この手法は、ウイルス、微生物および/またはその成分、またはバイオトキシンの天然結合部位を標的とし、物理的表面ならびにヒトおよび動物の皮膚および粘膜上皮の表面に使用される生物学的除染のための非毒性、環境に優しい代替物を提供する。この手法は、広く特異的であること、すなわち、複数のフォーマットにおいて複数の目的のために複数の種類の病原体を標的とすることを意図している。
【0047】
細胞間の接着には、細胞表面タンパク質と炭水化物の相互作用が必須である。これは、ある種のバイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物起源のタンパク質が、宿主生物の細胞のような他の表面に接着することにも適用される。
【0048】
微生物およびウイルスの、細胞への結合機構は、特に共生微生物(commensal)、共生微生物(symbiotic)または寄生微生物が宿主細胞に結合する場合に、進化上の特に重要な領域である。例えば、宿主―細菌の相互作用は、宿主細胞表面への細菌アドヘシンと、その同族のグリカン受容体エピトープによって媒介される。グラム陰性菌およびグラム陽性菌の両方のアドヘシンの大部分は、宿主生物の上皮細胞表面上のグリカンマーカーを介して適切な宿主を同定する(Klineら、Cell Host and Microbe, 2009)。それぞれのアドヘシン、標的リガンドおよび組織を有する細菌種の例を表1に示す。特に病原体の場合、病原体表面マーカーと宿主のそれとの相互作用は、宿主への強力な接着、免疫系の回避、および(細胞内病原体や毒素の場合)細胞内部へのアクセスにきわめて重要である。実際、特定の細菌が宿主細胞に特異的に接着する能力(しばしば特定の表面タンパク質または他の分子の保有による)は、病原性因子を表すことができ、病原性株と非病原性株とを異にする。自然界では、病原体が増殖したり細胞内に侵入したりして感染を引き起こす前に、これらの物質は常に結合し、保持され、ヒトや動物の細胞表面から除去されている。
【0049】
【表1】
【0050】
炭水化物-タンパク質結合技術の同様の原理により、本デバイスは、一連の形式で担体に化学的に結合されている天然および改変されたタンパク質および炭水化物エピトープを利用することにより、ユニークな手法を可能にする。デバイスは、宿主の付着表面と競合する、バイオトキシン、ウイルス、微生物および/またはそれらの成分に結合可能な、そしてかなり効果的にこれらの標的を除去または捕獲することが可能な、種々の「フック」を提供する。
【0051】
したがって、微生物および微生物起源のタンパク質(これらの物質からの細菌、ウイルス、ファージ粒子、真菌およびタンパク質)を除去するために、物理的物質に固定化された炭水化物、タンパク質およびタンパク質断片を用いて、バイオトキシン、ウイルス、微生物および/又はそれらの成分の試料を収集し、表面への微生物負荷を低減し、表面を除染/消毒し、診断および法医学目的のためにデバイス上で収集された試料を保存することができる。
【0052】
担体物質
担体物質は、結合剤が付着される表面、およびウイルス、微生物、微生物由来成分および/またはバイオトキシンが固定化され得る基質を提供する。適切には、担体材料は、強力で適切に不可逆的な連結がなされ得るように、結合剤と共有結合を形成することができる。
【0053】
典型的には、担体は、デンプン、グリコーゲン、キチン、セルロース、キチン、ペクチン、真菌β-グルカン、キシランまたはアラビノキシランなどの、好ましくは多糖類等の炭水化物ベースのポリマーを含み得る。担体は、好ましくは、セルロースを含み得る。例えば、担体は、セルロース、ヘミセルロースまたはリグノセルロースを含み得る。担体には、本質的にセルロースを含有するものを含み得、例えば、紙、綿、ビスコース、リネンまたは麻などの植物由来物質のものを含むことができ、あるいは、材料を、別由来のセルロースとブレンドするか、コーティングすることができる。担体はまた、合成材料とセルロース含有材料のブレンド、例えば、ポリエステル材料と綿の50%ブレンドなどのブレンド材料を含むことができる。セルロースは細菌のような微生物によっても生産できる。特に、アセトバクター、サルシナヴェントリクリ、アグロバクテリウム属の細菌は、細菌セルロースの生産に用いられている。
【0054】
非繊維性セルロース系材料および炭水化物系ポリマーは、担体として供することができる。特に、微粉化セルロースおよびナノセルロースは、このようにして非繊維状セルロースとして供することができる。このような非繊維性セルロースまたは炭水化物ベースのポリマーは、溶解、懸濁、分散、乳化、または他の方法で液体またはガスのような流体の担体中に担持させることができる。したがって、本明細書に記載されている結合剤と結合される場合、そのような調製法は、例えば、スプレーまたはペンキのような非固体の形式で、受容体材料に適用することができる。
【0055】
結合剤に連結された炭水化物ベースのポリマーのこのような非固体フォーマットは、他の方法では不可能な一連の用途を可能にする。例えば、懸濁剤または可溶性形式のこのような製品/デバイスは、適用された製品の特性に応じて前記材料に保護性を付与するために、繊維などの受容体材料にスプレーするか、別の方法で適用することができる。適用後、受容体材料は、以前に適用された生成物を除去するために、例えば洗浄剤または低pH条件下で洗浄または処理することができる。次いで、受容体材料を新鮮な製品で再処理して、その次の使用または曝露の前に保護性を再生することができる。このような手法は、例えば、個人用マスク又は他の個人用保護具の処理において、特定の目的に応じて、標的バイオトキシン、ウイルス、微生物、および/又は微生物成分の1つあるいはそれ以上に対する防護性付与のために使用することができる。
【0056】
結合剤に連結された炭水化物ベースのポリマーの非固体フォーマットの更なる可能な用途には、洗浄組成物としての使用が含まれ、これは、洗浄される受容体材料にスプレーされるかまたは別の方法で適用され、その後、結合された任意の標的バイオトキシン、ウイルス、微生物、および/または微生物成分と共に除去されることができる。このような手法の特定応用としては、大型の輸送コンテナ、輸送ハブおよび病院の洗浄、病院または宇宙空間でのような無菌適用のための器具の滅菌などがある。
【0057】
より一般的には、また、考えられる全てのフォーマットについて、本発明のデバイスに取り込まれたバイオトキシン、ウイルス、微生物および/又は微生物成分を永久的に殺す、変性させる、さもなければ破壊することが望まれる場合、担体又はデバイスは、これを実施するのに適した剤をさらに含むことができる。例えば、担体は、抗生物質、防腐剤、次亜塩素酸塩、過酸化物および過炭酸塩を含み得る漂白剤、ならびに抗菌特性を有する銀または銅などの他の材料、他の適切な金属イオン、および抗菌効果を有することが示されているEDTAなどの金属キレート剤などの本質的に抗菌性または抗ウイルス性の化学物質に含浸させるか、混合することができる(Finnegan and Percival,Wound Healing Society, 2014)。その他の可能性としては、安息香酸、塩化ベンザルコニウムおよびその他の第四級アンモニウムカチオンが挙げられる。提案されたデバイスの使用に応じて、異なる追加の物質を選択することができる。例えば、デバイスが皮膚に使用されることを意図している場合、そのような使用に安全な消毒薬を選択することができる。安定剤および/または保存剤も使用することができ、その例は当該技術分野で公知である。
【0058】
場合によっては、後の研究、診断または法医学の目的のための分析のために、標的のバイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を保持することが望まれることがある。このような場合、担体には抗菌物質が実質的に存在しないようにでき、固定化された標的を支持するために、緩衝液もしくは他の溶液、または特定のpHレベルを含むことなどにより、後の分析のために標的のバイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分がそのまま生存する可能性を高めるために、さらに処理もされ得る。ほとんどの相互作用は水性環境、特定のpHレベルなどに依存するので、結合剤の所望の標的への結合を助けるために緩衝剤または他の溶液も含まれ得る。
【0059】
担体を多くの異なる形態で調製することが想定される。例えば、ワイプ、布、創傷包帯、フィルター、パッド、コーティング、毛布、マット、マスクおよび他の物品が、担体物質で構築され得る。特に、ティッシュ、タオルまたはナプキンと同様のワイプ形態を使用することが考えられるが、これは、除染される表面上を拭き取り、その後に廃棄するための便利な形態を提供するからである。また、本発明のデバイスは、例えば空気中から浮遊またはエアロゾル化されたウイルス粒子を除去するときのように、ガスまたは液体から標的バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分を除去するために使用することができると考えられる。この場合、担体は、標的を除去することができるように、ガスまたは液体を通すことができるように設計されている。上述したように、ある種の担体材料が結合剤と結合し、流体中に溶解、懸濁、分散、乳化、または別の方法で担持され得ることもまた考えられ、したがって、そのような担体材料を含む流体は、本発明のデバイスの例である。
【0060】
また、本発明のデバイスが、皮膚などの生体表面、または非生体表面の一般的な清掃に適していることが望ましい場合もある。結果として、担体は、意図された使用に適切なさらなる成分、例えば、クレンザー、保湿剤、消臭剤または化粧落としのための化学薬品(例えば、皮膚の洗浄のために使用される場合)、および/または非生体表面からのほこり、グリム、金属の変色剤などの除去のための洗剤、香り、または洗浄剤を含むことができると考えられる。このようにして、本明細書に記載されるデバイスは、身体表面および皮膚から病原菌を除去または死滅させる(例えば、ざ瘡、おむつかぶれ、および他の皮膚状態を治療するため)などの治療目的に使用することができる。化粧品用途のような非治療的用途では、デバイスは、皮膚の洗浄または保湿、ベビーケア、手洗い、メーキャップ除去、または消臭剤の適用のために使用することができる。
【0061】
本発明のデバイスを組み込んだまたは含む失禁パッドもまた意図され、尿路疾患を促進する感染性病原体に対する保護を与えるような構成を選択することができる。
【0062】
授乳および/または乳首ケアのために設計されたパッドおよび/またはワイプもまた、意図されており、乳房炎を引き起こす感染性病原体に対する防御を提供するのに有効であるように設計することができる。
【0063】
結合剤
標的バイオトキシン、ウイルス、微生物および/又は微生物成分に結合することができる結合剤が、担体物質に付着されている。バイオトキシン、ウイルス、微生物、または微生物成分に結合することができる生物学的に誘導されたいかなる分子も、本発明のデバイス中で使用することができる。このような分子は、抗血栓剤、抗炎症剤、抗体、抗原、アドヘシン、免疫グロブリン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、タンパク質、球状タンパク質、細胞付着タンパク質、ペプチド、細胞付着ペプチド、プロテオグリカン、毒素、多糖類、炭水化物、脂肪酸、薬物、ビタミン、DNAセグメント、RNAセグメント、核酸、色素およびリガンドの1つあるいはそれ以上を含み得る。好ましくは、1つあるいはそれ以上の結合剤は、糖タンパク質、オリゴ糖、レクチンおよび複合糖質を含む。
【0064】
本発明での使用に適した結合剤は、多くの起源を有し、多くは、ミルク、尿、粘液、唾液、卵、真菌、藻類および植物抽出物などの天然に産生された溶体に由来することができる。結合剤はまた、合成的に(例えば、インビトロ翻訳により)生産され、または遺伝子操作され(例えば、組換え工学により)、または、天然に生産された結合剤を、特定のペプチド、糖ペプチド、断片、グリカン、または類似のものを作るために、例えば、特定のより大きな分子の結合部分のみを表すように、処理または改変することができる。
【0065】
ここで論じる多くの結合剤のもう一つの利点は、それらが一般的に使用される抗微生物試薬または抗ウイルス試薬と比較して非毒性かつ環境に優しいことである。例えば、殺生物剤としてしばしば使用されるポリグアニジン化合物は、ヒトへの毒性、および環境損傷の原因となることによってFDAに制限されている化合物のカテゴリーに入っている。別のグアニジンの例はグルコン酸クロルヘキシジンであり、今後この化合物を処方せんのみの使用に制限する計画が存在する。同様に、ポリイオネンのような第四級アンモニウム化合物は、ワイプや手指消毒によく使われるが、FDAはその使用を制限する過程にある。
【0066】
使用可能性のあるいくつかの結合剤は、1つの標的(特に、抗体)のみに非常に特異的に結合することが期待できるが、多くは、より広い範囲の潜在的結合標的を有し、1つ以上の標的バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分の除去に使用することができる。しかしながら、潜在的な標的の数を増加させ、それによってデバイスの使用を改善するために、1つのデバイスにおいて複数のタイプの結合剤を使用することができ、それは、同じクラスの分子(例えば、複数の種の糖タンパク質)または異なるクラス(例えば、糖タンパク質およびレクチン)からであり得る。その結果、所望の用途に応じて、本発明によるデバイスは、例えば、研究または法医学の設定において、非常に特異的な結合標的を有するように、または屋内または屋外の状況において適するより一般的な使用法を有するように操作することができる。
【0067】
バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分と宿主細胞、またはそれらが接着する表面との間の多くの相互作用は、炭水化物、糖タンパク質およびレクチン(炭水化物結合タンパク質またはCBP、グリカン結合タンパク質またはGBP)およびそれらの断片(ペプチドなど)によって引き起こされる。たとえば、ある種のE.coli株のような、一定の細菌がもっている1型線毛FimHアドヘシンは、CD48、TLR4などの宿主細胞表面マーカーに結合でき、またはより一般的には、そのレクチン(炭水化物結合)ドメインを介してマンノース残基に結合できる。
【0068】
したがって、天然または合成起源の糖タンパク質、糖脂質、スフィンゴ糖脂質、プロテオグリカンおよびグリコサミノグリカンを含む複合糖質は、標的バイオトキシン、ウイルス、微生物および/または微生物成分をデバイスに接着するための結合部位を提供する際に使用されると考えられる。本発明によるデバイスに使用するための複合糖質は、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、および、N-グリコリルノイラミン酸(シアル酸)、ガラクトース、グルコース、およびフコース部分の1つあるいはそれ以上を含む末端残基を有する。
【0069】
本発明のデバイスで使用する適切な複合糖質およびネオ複合糖質には、Blood Group A-BSA、Blood Group B-HSA、Fuc-α-4AP-BSA、Fuc-β-4AP-BSA、2´フコシルラクトース-BSA、ジフコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオース-APD-HSA(Lea/Lex)、トリフコシル-Ley-ヘプタサッカライド-APE-HSA、モノフコシル、モノシアリルラクト-N-ネオヘキサオース-APD-HSA、Gal-b-4AP-BSA、Galα1,3Gal-BSA、Gala1,3Galb1、Galb1,4Gal‐BSA、Galα1,2Gal‐BSA、4GlcNAc‐HSA、Gal‐α‐PITC‐BSA、Gal‐β‐ITC‐BSA、Glc‐b‐4AP‐BSA、Glc‐β‐ITC‐BSA、GlcNAc‐BSA、グロボトリオース‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオース‐APD‐HSA、GM1‐ペンタサッカライド‐APD‐HSA、Asialo‐GM1‐テトラサッカライド‐APD‐HSA、グロボ‐N‐テトラオース‐APD‐HSA、グロボトリオースAPD‐HSA、H型‐II-APE-BSA、H型2-APE-HSA、Manα1,3(Manα1,6)、Man-BSA、Man-α-ITC-BSA、Man-b-4AP-BSA、LacNAc-BSA、LacNAc-α-4AP-BSA、LacNAc-β-4AP-BSA、Lac-β-4AP-BSA、ラクト-N-テトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース I-BSA、ラクト-N-ネオテトラオース-APD-HSA、ラクト-N-フコペンタオース II-BSA、ラクト-N-フコペンタオース III-BSA、ラクト-N-ジフコヘキサオース I-BSA、Lewis a-BSA、Lewis x-BSA、Lewis y-テトラサッカライド-APE-HSA、LNDI-BSA/Lewis b-BSA、Di-Lex-APE-BSA、Di-Lewisx-APE-HSA、Tri-Lex-APE-HSA、L-ラムノース-Sp14-BSA、3´シアリルラクトース-APD-HSA、3´シアリル-3-フコシルラクトース-BSA、6´-シアリルラクトース-APD-HSA、Xyl-α-4AP-BSA、Xyl-β-4AP-BSA、3´シアリル Lewis x-BSA、3´シアリル Lewis a-BSA、6-スルホ Lewis x-BSA、6-スルホ Lewis a-BSA、3-スルホ Lewis a-BSA、3-スルホ Lewis x-BSA、シアリル-LNF V-APD-HSA、およびシアリル-LNnT-ペンタ-APD-HSAが含まれる。
【0070】
本発明によるデバイスに使用するのに適した糖タンパク質は、1つ以上のマンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸(シアル酸)、ガラクトース、グルコース、およびフコース部分を含む末端残基を有していてもよい。このような糖タンパク質およびオリゴ糖は、ミルク、尿、粘液、唾液、卵、真菌、藻類および植物抽出物のような天然産生溶体に由来してもよい。本発明によるデバイスに使用するのに適した特定の糖タンパク質は、ウロモジュリン(Tamm-Horsfallタンパク質)、フェチュイン、アシアロフェチュイン、インベルターゼ、フィブリノーゲン、α-1-アンチトリプシン、a-クリスタリン、セルロプラスミン、α-1-酸性糖タンパク質、RNAse B、トランスフェリン、B-ラクトグロブリン、C.-ラクトアルブミン、アルブミン、B-カゼイン、C-カゼイン、K-カゼイン、ラクトフェリン、卵白アルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、および誘導体グリコマクロペプチドを含む。ムチンは、高分子量のタンパク質であり、重度にグリコシル化されており、粘液中に見出される他の糖タンパク質も使用され得る。粘液のこれらの成分は、微生物の接着を妨害し、バイオフィルムの形成を妨げることにより、感染リスクを低下させると考えられている(Caldaraら、Current Biology、2012)。
【0071】
レクチン、すなわち炭水化物結合タンパク質は、細菌やウイルスの意図する標的への結合、ならびに細胞間相互作用、ならびに自然免疫応答および適応免疫応答に一般的に関与している。レクチンはすべての生物に存在し、細胞接着、免疫認識、微生物認識(病原体や共生生物のためなど)、宿主認識、毒素活性、植物保護においてさまざまな役割を果たしている。研究においては、多くのレクチンを植物や菌類の種から効果的に単離することができ、その特異性を変化させるように操作することができる。レクチンは、複合糖質を精製し、特性化するために使用され、レクチン‐組織化学では、異なる条件下での生体試料上のグリコシル化の違いを理解するために、細胞、組織および器官を染色する。
【0072】
本発明での使用が意図されるレクチン、およびそれらの供給源は、以下を含むが、これらに限定されない:
AIA、ジャカリン、(Artocarpus integrifolia)ジャック果実レクチン;
RPbAI、(Robinia pseudoacacia)、ニセアカシアレクチン;
AAL、(Aleuria aurantia)、オレンジ果皮菌レクチン;
ABL(Agaricus bisporus)、食用きのこレクチン;
ACA、(Amaranthus caudatus)、アマランチンレクチン;
AMA、(Arum maculatum)、ローズアンドレディースレクチン;
BPA、(Bauhinia purpurea)、キャメルズフットツリーレクチン;
CAA (Caragana arborescens)、オオムレスズメレクチン;
Calsepa、(Calystegia sepium)、ヒルガオレクチン;
CCA、(Cancer antennarius)、カリフォルニアカニ;
ConA、(Canavalia ensiformis)、ジャックビーンレクチン;
CPA、(Cicer arietinum)、ヒヨコマメレクチン;
DBA、(Dolichos biflorus)、ホースグラムレクチン;
DSA、(Datura stramonium)、ジムソンウイードレクチン;
ECA、(Erythrina cristagalli)、コックコンブ/サンゴ樹レクチン;
EEA、(Euonymous europaeus)、スピンドルツリーレクチン;
GHA、(Glechoma hederacea)カキドウシレクチン;
GNA (Galanthus nivalis)、スノードロップレクチン;
GSL-I-B4、(Griffonia simplicifolia)、グリフォニア/バンディラマメレクチン-I;
GSL-II、(Griffonia simplicifolia)、グリフォニア/バンディラマメレクチン-II;
HHA、(Hippeastrum hybrid)、アマリリスアグルチニン;
HPA、(Helix pomatia)、ヒメリンゴマイマイレクチン;
Lch-A、(Lens culinaris)、レンズ豆レクチンA;
Lch-B、(Lens culinaris)、レンズ豆レクチンB;
LEL、(Lycopersicum eculentum)、トマトレクチン;
LTA、(Lotus tetragonolobus)、ミヤコグサレクチン;
MAA、(Maackia amurensis)、イヌエンジュ凝集素;
MOA、(Marasmius oreades)、フェアリーリングキノコレクチン;
MPA、(Maclura pomifera)、アメリカハリグワレクチン;
NPA、(Narcissus pseudonarcissus)、ダホジルレクチン;
PA-I、(Pseudomonas aeruginosa)、緑膿菌レクチン;
PCA(Phaseolus coccineus)、スカーレットランナービーンレクチン;
PHA-E(Phaseolus vulgaris) インゲンマメ赤血球凝集素;
PHA-L(Phaseolus vulgaris) インゲンマメ白血球凝集素;
PNA、(Arachis hypogaea)、ピーナッツレクチン;
PSA、(Pisum sativum)、Peaレクチン;
RCA-I/120、(Ricinus communis)、ヒマ種子レクチンI;
SBA、(Glycine max)、大豆レクチン;
SJA(Sophora japonica)、パゴダツリーレクチン;
SNA-I、(Sambucus nigra)、エルダベリーレクチン-I;
SNA-II、(Sambucus nigra)、エルダベリーレクチン-II;
STA、(Solanum tuberosum)ジャガイモレクチン;
UEA-I、(Ulex europaeus)、ハリエニシダレクチン-I;
VRA(Vigna radiate)、リョクトウ凝集素;
VVA-B4、(Vicia villosa)、ヘアリーベッチレクチン;
WFA、(Wisteria floribunda)、ニホンウイステリアレクチン;および
WGA、(Triticum vulgaris)、小麦胚芽凝集素
【0073】
調整
理論的には、結合剤が担体材料に比較的単純に含浸されることは可能であるが、例えば、結合剤を含む水溶液中に担体材料を浸漬して、担体に吸収または吸着されるようにすることによって、結合剤の担体材料への連結は、2者の間に、科学的結合、特に共有結合が作り出されるように適切に行われる。このような比較的強力で永久的な結合は、結合剤が時間の経過とともに失われることがなく、また標的とするバイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分がデバイス/担体物質上により強く保持され、次の表面に移行しにくいという点で有利である。理論により限定されることを望まないが、担体物質に結合剤が強く付着するほど、担体から結合剤そのものが除去されるよりは、標的が取り込まれて担体に付着する可能性が高くなるとも考えられる。したがって、結合剤と担体物質との間に共有結合が形成されることにより、デバイスの安全性、有効性、安定性および寿命が向上する。
【0074】
担体物質に付着させる結合剤は、任意の適切な方法で提供または処方することができる。例えば、結合剤は、緩衝溶液において、希釈剤、および/または賦形剤もしくは安定化剤と配合することができる。結合剤は、溶液、リンス、シャンプー、スプレー、ローション、ゲル、フォーム、潤滑剤、クリーム、軟膏、石鹸、非石鹸バー、および粉末の1つあるいはそれ以上を含み得る薬学的に許容される媒体を含む形式で、代替的にまたは追加的に提供され得る。
【0075】
結合剤と担体材料との間に共有結合を形成するために、担体材料を化学的に処理して、結合剤のための結合部位を提供することが便利であり得る。例えば、担体物質がセルロースを含む場合、セルロースを処理して酸および/またはアルデヒド官能基を生じさせることができ、これによってタンパク質のアミノ基と反応することができ、結合が作り出される。これらの担体処理反応では、セルロース内の炭水化物環が酸化剤によって開裂する。特に、使用される酸化剤は、過ヨウ素酸塩または過塩素酸塩のような過ハロゲン酸塩、過炭酸塩、過マンガン酸塩、次亜塩素酸塩、過ホウ酸塩、または過酸化物であり得ると考えられる。他の酸化方法としては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル)を用いてセルロースの酸化;リン酸中の硝酸ナトリウムおよび/または亜硝酸ナトリウムによる酸化;および/または有機溶媒(アセトン/ジオキサンなど)および塩基(ピリジンまたはトリエチルアミンなど)の存在下での活性化剤トシルクロリド(トルエンスルホニルクロリド)による処理が挙げられる。方法例については、例えば以下で議論されている;US 5,516,673;Cumpstey I.「多糖の化学修飾」ISRN Org Chem. 2013 Sep 10;2013:417672; Saito T, Isogai A. 「天然セルロースのTEMPO媒介酸化」 水不溶性画分の化学構造および結晶構造に対する酸化条件の影響。 2004;5(5):1983‐1989; and Kim UJら、「結晶セルロースの過ヨウ素酸酸化」 Biomacromolecules. 2000;1(3):488‐492.
【0076】
このような処理の目的は、反応性基をセルロース分子に導入することであり、これは、例えば、アルデヒド、ケトン、N-ヒドロキシスクシンイミド、エポキシド、イミドエステル、無水物、または炭酸基の1つあるいはそれ以上であり得る。反応1と2は、反応の例であり、過ヨウ素酸ナトリウムがセルロースβ(1-4)結合のD-グルコース単位開環によって活性アルデヒド基をつくる反応(反応1)、続いてレクチン、糖タンパク質、ネオ複合糖質などのタンパク質が結合する反応(反応2)である。この反応はpH5~9の範囲の緩衝液で行うことができる(図7)。
【化1】
【0077】
以下に示す例では、セルロース単位と結合したタンパク質との間に´Schiff塩基´(-CH=NH-)がつくられる。任意に、リンケージの永続性を改善するために、この二重結合を単一結合に還元することができる。これは水素化シアノホウ素ナトリウムのような還元剤の使用によって達成できる。このような反応は曝露されたCH=O部分をCHOHに還元させることにもなる。
【0078】
このような反応によって、不可逆的で非常に安定な結合が形成され、所望の炭水化物およびタンパク質がセルロース系材料に埋め込まれるようになる。同様の反応を用いて、糖重合体、多量体タンパク質および他の生体高分子を付着させることができ、ここでは、アミドまたはカルボン酸結合が接合に用いられる。これらの反応が糖単量体を標的とすることを考慮すると、同様の手法を用いて、デンプン、グリコーゲン、ラミナリン、真菌βグルカン、キチン、ペクチン、キシラン、アラビノキシラン、デキストランまたはアミロースを含む多糖類などの他の糖類含有担体に結合剤を付着させることができることが認識できる。例えば、デキストランは酸化され、続いて大豆ペプチドと結合されている(Wang and Xiong, J Food Sci Technol,2016)。ペプチドグリカンのような糖を含む他のポリマー(細菌の細胞壁に見られるものなど)も、結合剤を結合できる基質となりうる。
【0079】
結合剤が後に結合されるセルロースの酸化を伴う、記載されたもののような方法は、結合される試薬自体の修飾を伴う方法よりも好ましいことも認識することができ、それは、そのような処理は、それらの試薬の結合可能性を損ねるか破壊し得るからである。対して、本明細書に記載される方法は、結合剤の炭水化物(または他の)化学を保存し、その一方でそれらが担体物質に確実に結合されるようにする。同様に、共有結合の長寿命は、化学物質を担体物質に結合させるのに静電引力または他の力に依存する方法よりも有利である。そのような結合は時間の経過とともに劣化しうるからである。
【0080】
本発明のデバイスの長期安定性および無菌性を促進するために、担体物質、担体溶液、生産された材料および/またはパッケージ材料は、ろ過、熱、化学物質、照射および高圧の組み合わせにより、上記の調製工程の前、中または後に処理することができ、例えば、低温殺菌、オートクレーブ処理、ガンマ線照射、紫外線照射、電子線(eBeam照射)、ガス蒸気滅菌(オゾン、二酸化塩素、エチレンオキシド、窒素の酸化物)または類似の手法が挙げられる。
【0081】
同様に、デバイスの長期安定性および無菌性を促進するために、ホウ酸塩、トリス、クエン酸緩衝剤のような緩衝液を使用してもよく、これらは、眼科用として安全であるという点でさらに有利である。
【0082】
標的バイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分
本発明のデバイスは、バイオ脅威ハザードに関連するバイオトキシン、ウイルス、微生物および/又は微生物成分を標的とすることができ、すなわち、バイオテロの場合のような、生物兵器、合成生物生成物および/又兵器化された微生物成分からの潜在的な危険性、または、インフルエンザ変異体、SARS、MERS、ハンタウイルス、ニパウイルス、エボラウイルス、ジカウイルスなどのような潜在的パンデミック病原体を標的とすることができる。このような標的に対するデバイスには、これらの危険に対し防御する、または除去するために使用できるワイプとフィルターが含まれる。しかしながら、本発明のデバイスはまた、一般的な研究、またはワクチンもしくは抗毒素の製造のような、そのような物質に対する防御の研究においても使用され得る。したがって、記載されているデバイスは、バイオサーベイランスの文脈において使用することができ、例えば、意図された放出の後に、もしくは自然なアウトブレイク期間に、持続性のバイオ脅威病原体を捕獲またはスクリーニングしたり、または、パンデミック病原体や食物経由病原体に対する予防のために使用できる。法医学、バイオサーベイランスまたは他の目的のためにこれらの物質を積極的に同定することがしばしば重要であるため、本発明のデバイスが主として標的を破壊することを目的としているのではなく、むしろそれらを除去することを目的としているということは有利である。このようなバイオ脅威のハザードや、それらを引き起こすと考えられている種の例には、フランシセラ属菌(野兎病)、炭疽菌(炭疽菌)、ボツリヌス菌(ボツリヌス中毒)、マレー菌(鼻疽)、類鼻疽菌(類鼻疽菌)などの細菌、インフルエンザウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、痘瘡主要ウイルス(天然痘)、口蹄疫ウイルス(アフタウイルス)、SARS関連コロナウイルス、Chapare/Lujoウイルス(アレナウイルス科コクシエラ属によるQ熱)などのウイルス;およびボツリヌス神経毒、リシン、アブリンおよび志賀様毒素などの毒素が含まれる。特に、2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)としても知られる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、パンデミックコロナウイルス疾患を引き起こすコロナウイルス株、COVID-19は、本発明の実施形態の標的となり得るバイオ脅威ハザードと考えられる。代用株は、1つ以上の様でバイオ脅威病原体に似ている種であり、バイオ脅威と闘うための様々な戦略を研究するための模倣物として使用することができる。代理として用いることができ、本明細書に記載されるようにデバイスによって標的化することもできる種の例には、バチルス属(枯草菌、アトロファエウス、ミコイデス);クロストリジウム・スポロゲネス、および野兎病菌、野兎病菌北米亜種LVSが含まれる。
【0083】
標的細菌はまた、医療関連感染(HAI)、医療ケア関連感染(HCAI)、院内感染を引き起こす病原体、および/または一般的な抗生物質による破壊に抵抗する抗生物質耐性菌である可能性もある。このようなバクテリアの例は、クロストリジウム‐ディフィシル、メチシリン-レジスタン、黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性、黄色ブドウ球菌(VRSA)、大腸菌(STEC,VTEC,EHEC)、Clostridium difficile.クロストリジウム・ディフィシレ菌、肺炎桿菌、アシネトバクター属菌、緑膿菌、エンテロコッカス・フェカリス、非結核性抗酸菌、マイコバクテリウム・フォーチュイタム、ミラビリス変形菌などを含む。このような細菌に対する本発明の利点は、抗生物質を破壊または回避するためにこれらの細菌が使用する機構によって接着が、影響を受けないことである。
【0084】
本発明のさらなる利点は、細菌胞子の除去に有効であり得ることである。すでに述べたように、ある種の微生物がつくる胞子は、熱、あるいは化学的、医薬的、紫外線の攻撃に対して極めて強い抵抗力を有するため、破壊するのは非常に難しいことがわかる。しかし、胞子の直接破壊は必ずしも試みられていないので、本発明によって使用される接着方法は、このような標的の除去に有効であることが証明されている。
【0085】
標的は、食中毒に関連するバイオトキシン、ウイルス、微生物および微生物成分を含み得る。そのような標的の多くは、カンピロバクター属、クロストリジウム属、大腸菌属、リステリア属、サルモネラ属、赤痢菌属、ブドウ球菌属、ビブリオ属、ヘリコバクター・ピロリなどの細菌である。ノロウイルス(Norwalk Virus)、ロタウイルス、口蹄疫ウイルスなどのウイルスも標的となりうる。このような場合、本発明のデバイスは、食品調理表面および器具の除染に使用することができ、またはマット、ナプキンなどとして使用することができる。
【0086】
また、細菌毒素のような微生物成分が本発明のデバイスの標的となり得ることも考えられる。そのような毒素には、例えば、コレラ毒素、ボツリヌス菌、百日咳毒素、エンテロトキシン、破傷風毒素、ブドウ球菌エンテロトキシンが含まれる。同様に、テトロドトキシン、リシンおよびアブリンのような植物または動物由来のバイオトキシンが、本発明のデバイスの標的として考えられる。一例として、毒性の強いリシンタンパク質はヘテロ二量体であり、N-グリコシド加水分解酵素として作用し、その毒性の基礎となるA鎖と、標的細胞表面のガラクトース残基に結合できるレクチンであるB鎖をもつことで、細胞侵入を可能にしている。本発明に係るデバイスの使用であって、B鎖レクチンと相互作用することができる特定の結合剤を有するものは、これらのタンパク質を除去したり、さもなければ捕捉したりするのに有効である。アブリンのようないくつかの他の毒性タンパク質は類似のレクチン成分をもつため、これも標的にできる。この文脈において、本発明は、既存の抗菌手法と比較して有利であり、これは、毒素は微生物のように殺すことができず、そしてしばしば化学的または他の手段による変性に耐性であり得るからである。本発明の接着手法は、これらの問題なしに毒素の除去を可能にする。
【0087】
表2および表3は、種々の細菌毒素、およびそれらの上位10個のレクチンとの既知の特異的相互作用(表2)、および結合分析に基づいて決定された糖タンパク質/ネオ複合糖質を示す(表3)。これらの分析は、種々のレクチンおよび糖タンパク質/ネオ複合糖質に対する選択した毒素を評価する、グリカンマイクロアレイにより行った。これらの技術は、インビトロでタンパク質―炭水化物の相互作用を評価するためのツールであり、これにより、限られたサンプル量で可能な実験数を増大させることができ、その後の焦点を合わせた調査の前のプロファイリングまたはスクリーニングを容易にする(Kilcoyne, Gerlach, Kane and Joshi, Analytical Methods, 2012)。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
本発明のデバイスは、例えば予防的に、治療的に、および局所的に、様々な用途での使用が意図されている。可能性のある使用には、除染、洗浄、試料採取、試料保持、試料濃縮、試料法医学的分析、創傷ケアおよび治癒、疾病の伝播および拡大の防止、二次汚染の防止、バイオフィルム形成の防止、個人衛生、および/または伝染性病原体に関連するリスクに関連するストレスおよび恐怖の低下が含まれる。
【0091】
また、本発明のデバイスを用いて、特定の条件および疾患を治療または予防するための方法も提供される。これらには、細菌、真菌、ウイルスまたは毒素、またはマラリア寄生体のような真核微生物、リーシュマニアおよび睡眠系寄生体のようなトリパノソーマなどによって媒介され得る、ヒト、動物および植物の病気が含まれる。例えば、標的微生物または微生物成分が皮膚疾患および障害を引き起こす可能性がある。
【0092】
真菌性病原体によって引き起こされる皮膚疾患および障害の例、およびその根底にあると考えられる種には、カンジダ症(Candida albicans)、ピチリア症または多色白癬(Malassezia furまたはPityrosporum orbiculare)、脂漏性皮膚炎(Malassezia spp.)、水虫(足白癬、これは、トリコフィトン属、エピデルモフィトン属、ミクロスポルム属菌を含む真菌種によって引き起こされることがある)などがある。その他の感染症や、それに起因する、あるいは関与すると考えられている病原体には、尋常性ざ瘡(Propionibacterium acnes、Propionibacterium granulosum およびPseudomonas aeruginosa)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、膿痂疹、膿瘡、毛包炎、せつ、カルブンケル膿皮症(Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes、Pseudomonas aeruginosa)、一般的な体臭(Propionibacterium avidum)が挙げられる。黄色ブドウ球菌、アガラクチア菌、ウシレンサ球菌、大腸菌、緑膿菌、ストレプトコッカスウベリスおよびブドウ球菌(Staphylococcus chromogenem)に媒介されるような乳腺組織の炎症(乳腺炎)の治療も考えられる。治療を助けるために皮膚から、または伝播を減少させるために表面からこれらの病原体を除去することを目的とするデバイスを製造することができる。これらの状態は、標的のバイオトキシン、ウイルス、微生物またはそれらの成分を除去するために、感染された、またはリスクのある皮膚に本発明のデバイスを適用することによって治療または予防され得る。創傷感染に対する防御の方法も考えられる;創傷皮膚またはその周囲の皮膚、または将来の創傷部位(手術などで)から標的ウイルス、微生物または微生物病原体を除去することにより、日和見感染病原体による創傷のコロニー形成を防ぐことができる。
【0093】
また、記載されているようなデバイスの標的は、体腔内に存在するものもあり得ると考えられる。例えば、標的のバイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分が、歯肉炎、歯周炎、虫歯、または口臭症(口臭)などの、口腔の発育不全、疾患または障害を引き起こす可能性がある。標的となるバイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分が腟感染症を引き起こす可能性がある。本発明のデバイスは、感染を治療または予防するために、そのような腔の中および周囲に適用することができる。
【0094】
本発明のデバイスの標的となり得る性感染症を引き起こすことに関与する病原体は、淋菌、クラミジアトラコマチス菌、梅毒トレポネーマ、ウレアプラズマウレアリティカム、軟性下疳菌を含む。
【0095】
本発明によるデバイスによって標的となり得る眼感染症を引き起こすことに関与する病原体は、ブドウ球菌属、淋菌、クラミジアトラコマチス菌を含む。
【0096】
本発明のデバイスの標的となり得る上気道感染を引き起こすことに関与する病原体は、アスペルギルス属、肺炎球菌その他のレンサ球菌属、緑膿菌、百日咳菌、モラクセラ‐カタラーリス、肺炎マイコプラズマ、結核菌、Q熱コクシエラ、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、在郷軍人病菌および大腸菌属、プロテウス、セラチアなどのプロテオバクテリア、インフルエンザ菌、インフルエンザウイルス、ライノウイルスおよびSARS、MERSおよびパンデミックSARS-CoV-2等のコロナウイルスを含む。
【0097】
また、本発明のデバイスは、標的表面からのバイオフィルム、すなわち、互いに、そして表面に接着する微生物の集塊の除去に使用することが意図されている。このようなバイオフィルムは、生物の数および微生物を攻撃から保護し得る細胞外因子の存在のために、従来の手段によって除去することが困難であり得る。
【0098】
また、記載されたデバイスは、皮膚を含む表面間の治療目的および美容目的のために、有用な、共生、プロバイオティック、非有害および共生細菌および/または微生物成分、および/または制御された用量のバイオトキシンを、送達するために使用されることが意図されている。このような場合、プロバイオティック標的と結合できる結合剤を担体物質に結合させ、プロバイオティック微生物または微生物成分の多層を結合させて選択された表面上に放出させるために用いる。このようにして、デバイスは、有益な微生物(共生生物およびプロバイオティック生物のような)を収集および/または濃縮し、これらを他の部位または表面に移動、移植および/または送達するために使用することができ、これには、例えば、胃腸管への内部送達が含まれる。移入された微生物自体が結合剤によって本発明のデバイスに結合され得るが、複製が依然として起こり得て、後に生成された微生物は結合されず、標的表面に自由に移送され得る。同様の手法は、後の使用のために有益な細菌の収集および/または保存を可能にし得る。この目的または他の目的(法医学的分析または実験室使用など)のために、結合したバイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分を、例えばpH、またはイオン強度を変化させることによって、または弱酸を用いることによって、緩衝液を使用しデバイスから分離することさえ可能であり得る。糖-タンパク質相互作用を破壊し、それによって結合したバイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分を放出するために単糖または二糖類溶液を使用することもできる。
【0099】
さらに、本発明のデバイスは、ここで考慮するように結合剤によって結合することができれば、厳密にはバイオトキシン、ウイルス、微生物または微生物成分ではない標的の捕捉または除去にも使用することができる。例えば、非微生物生命によって産生されるアレルゲンおよび他の微小成分は、記載されているような結合剤によって結合され得るレクチンまたは複合糖質のような表面成分を有し得る。例えば、植物花粉、菌類胞子、チリダニの糞便および他の成分、ナッツ類および貝類のような食物からの潜在的アレルゲン、動物または植物の毒液または毒物、ならびにフケのような動物性製品が挙げられる。このような標的は、アレルギー反応を引き起こすか、または他の方法で、ヒトまたは動物に有害であり得る。アレルギー反応は、しばしば細胞-表面相互作用によって媒介され、いくつかのアレルゲンは、複合糖質を含むか、またはそれから成るので、本発明のデバイスは、このような標的を結合するのに有効であり得る。好都合なことに、これは、表面、液体またはガス、または被験体の顔面または皮膚からそのような標的を除去することを可能にし得る。例えば、植物花粉の結合部位を提供するために調製されたデバイスを用いて、表面またはヒトもしくは動物の眼もしくは皮膚から花粉を除去することができる。
【0100】
流行またはパンデミックの状況において、本発明は、以下に限定されるものではないが、様々な使用が可能である。:個人防護具(PPE)の取り外し時の転移のリスクを低減するための曝露された皮膚の除染;サンプリングおよびPPE自体のクリーンアップ;および将来の意思決定(ロックダウンの強制、公共アクセスおよび輸送ユニットの排除など)を助けるための公共からのサンプルの収集(輸送ハブ/車両でのスクリーニングの際など)
【0101】
阻害性化合物/抗付着分子(抗細菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗毒素など)を送達するためのデバイスの提供もまた意図されている。
【0102】
実験室の文脈において、または他の場所において、本発明の実施形態は、バイオ医薬および医薬プロセスの間の画分の精製においてグリカン-およびレクチン-含有成分を捕捉するためにも使用可能である。例えば、LPS/エンドトキシンや、製造工程中に生産された微生物残留物および汚染物質あるいは非生成物画分の除去が挙げられる。これは、宿主成分を除去し、所望の産物を濃縮するための組換えタンパク質/ワクチン生産にも適用できる。
【0103】
本発明のデバイスおよび方法は、手術用手袋または他の外科用または内科用機器と併せて使用することもでき、例えば、手術用手袋の表面に本発明に従ったデバイスを加えることもできる。これは、手術やその他のケア中に感染を広げる可能性を減らし、他のケア中は、手術で移植されたデバイスの生体汚染の主な源である。一例として、カテーテル植込み時の手術用手袋の使用が挙げられる。
実施例
【0104】
以下の非限定的な例は、本発明のいくつかの実施形態を示す。
【0105】
実施例1―デバイス製造
【0106】
セルロース鎖上に後に結合剤を結合するための活性アルデヒド基を産生するために、過ヨウ素酸酸化反応を行った。33gmsの100%綿材料のセルロース骨格を、5.0mg/mlの濃度の0.1M酢酸緩衝液(1:50比、w/v)中過ヨウ素酸ナトリウム溶液に浸漬して、過ヨウ素酸ナトリウム(Sigma‐Aldrich311448)で化学的に処理した。混合物を、効率的な反応のために、室温で、50rpmで6時間穏やかに振盪しながら、光のない状態に保った。この反応はグルコピラノシド環のC2―C3結合で起こり、C2とC3の位置に、2つのアルデヒド基ができると考えられている。得られた化合物は2,3ジアルデヒドセルロース(DAC)である。
【0107】
その後、材料を氷冷蒸留水(3回洗浄、毎回吸収体積の10倍)で徹底的に洗浄して、処理材料から過ヨウ素酸オキシダントを除去した。化学処理後の結合剤(レクチン、糖タンパク質、複合糖質、ネオ複合糖質)の添加については、セルロース骨格のDAC残留物に活性成分が化学的に付着すると考えられている。pH7.4でPBSに溶解して結合剤溶液(1mg/ml)を調製した。上記処理綿材料をタンパク質溶液に1:25(w/v)の比率で浸漬した。材料を4℃で16時間インキュベートした後、pH7.4のPBS中で吸収容量の10倍で3回洗浄した。
【0108】
実施例2-バイオ脅威病原体
【0109】
バイオ脅威病原体(野兎病菌、ボツリヌス菌、炭疽菌(細胞および胞子))を回収して定常期に増殖させ、標的の染色を行った。既述のようにグリカンマイクロアレイにより作成し、モデル生物との比較に基づいた、結合データを注意深く分析した後、糖タンパク質/複合糖質およびレクチンを抗細菌セルロースベースのデバイスの調製に選択した。活性セルロース系ワイプ(実施例1に従って製造された)の有効性試験を、上記のバイオ脅威病原体で汚染されたプラスチック/金属/ガラス表面上で、ドライワイプおよび関連緩衝液(dHO、PBS)で処理されたワイプと比較して行った。
【0110】
汚染物質は、0.5%クリスタルバイオレットで染色した2.0のOD600の一晩培養から調製した。直径5cmの、選定した各試験エリアに各汚染物質100μlを置き、60分間乾燥させた。以下の実験のそれぞれについて、ワイプは汚染エリアの中央に置き、10分間静置した。ワイプを取り出した後、0.5mlのpH7.4PBSで洗浄することにより各表面の「残存汚染物」を回収し、表面に残存する菌の計数(光学濃度の測定、コロニー数PCR)のための一連の定量法を用いて分析を行った。
【0111】
野兎病菌(Francisella tularensis)(図1)については、フェチュイン糖タンパク質(図1A)、アシアロフェチュイン糖タンパク質(図1B)またはレクチンGNA(図1C)を含む活性ワイプを用いて、上記のように有効性試験を実施した。適切なバッファの回収液と600nm(OD600)での吸収/光密度の測定を加えて、残留汚染を監視した。表面調整のない生値を示している。アスタリスクはスチューデントのt検定(p<0.05)に基づき、「ワイプなし」条件と比較して統計的に異なるデータポイントを示す。エラーバーは、三重反復実験からの標準偏差を表す。すべての場合において、糖タンパク質またはレクチンで処理された「活性」ワイプの使用は、有意に少ない残存細菌をもたらすことが分かる。
【0112】
ボツリヌス菌(図2)については、フェチュイン糖タンパク質(図2A)、アシアロフェチュイン糖タンパク質(図2B)またはレクチンGNA(図2C)を含む活性ワイプを用いて有効性試験を実施した。適切なバッファの回収液を加え、600nm(OD600)で吸収/光密度を測定して、残留汚染を監視した。表面調整のない生値を示している。アスタリスクはスチューデントのt検定(p<0.05)に基づき、「ワイプなし」条件と比較して統計的に異なるデータポイントを示す。エラーバーは、三重反復実験からの標準偏差を表す。1例を除いて、すべての場合において、糖タンパク質またはレクチンで処理した「活性」ワイプの使用は、有意に少ない残留細菌をもたらすことが分かる。図2Dは、7.32x10cfu/mlの基準株に対する、コロニー形成単位(cfu)の回収によって測定されたワイプ処理後の表面上に存在する残存細菌を示す。測定では、回収された汚染物質を段階的に希釈し、各100μlをアガープレートに散布して菌を育てた。30~300コロニーを有するプレートが、計算に適切な範囲と考えられた。
【0113】
炭疽菌について(図3と表4)は、炭疽菌細胞(図3A)または胞子(図3B)に対し、フェチュイン糖タンパク質、アシアロフェチュイン糖タンパク質、GNAレクチン、GSL-I-B4レクチン、PA-Iレクチン、AMAレクチン、またはRCA-1レクチンを含む活性ワイプを用いて有効性試験を実施した。ワイプ処理後の残留汚染物質を、1.21x10cfu/ml(栄養細胞)または1.31x10cfu/ml(胞子)の基準株に対するコロニー形成単位(cfu)の回収によって測定した。回収された汚染物質を段階的に希釈し、各100μlをアガープレートに散布して菌を育てた。30~300コロニーを有するプレートが、計算に適切な範囲と考えられた。表面調整のない生値を示す。アスタリスクは、スチューデントのt検定(p<0.05)に基づき、ワイプなしの表面と比較して統計的に異なるデータポイントを示す。エラーバーは、三重反復実験からの標準偏差を表す。これらのデータは、表4(表4-1、表4-2)にも示され、表4は、ドライワイプで処理された表面(FET―fetuin、ASF―asialofetuin)と比較した、検出された残留汚染物質のパーセンテージを示す。
【0114】
【表4-1】
【0115】
【表4-2】
【0116】
本発明のデバイスを、ガラス、プラスチックおよび金属表面上のインフルエンザウイルス汚染に対しても使用した。簡潔に言うと、表面を500μlのウイルス溶液によって汚染した。上清を表面に広げ、3時間乾燥させた。フェチュイン糖タンパク質を付着させたワイプ、またはアシアロフェチュイン糖タンパク質を付着させたワイプを用いた。ワイプの種類ごとに全ての表面を3回汚染した。ワイプ検査では、ワイプは汚染エリアの中央に置いた(静置)。ワイプは10分間相互作用させたまま放置した。インキュベーション後、ワイプを外し、汚染エリアで回収された残留物を評価した。各表面を1mlのPBSで洗浄し、ウイルスRNA単離およびガラス(図4A)、プラスチック(図4B)および金属(図4C)からの残渣の定量のために、回収液を無菌エッペンドルフ管に移した。図は、表面から単離されたウイルス量を、ドライワイプのみの使用で検出された量と比較して示している。エラーバーは、三重反復実験からの標準偏差を表す。結果、フェチュイン結合ワイプでは静的捕獲(表5))後にはウイルス粒子の2~28%しか残らないことが示され、残存ウイルスを減少させるようであったが、アシアロフェチュイン結合ワイプは、PBS処理ワイプと比較して、何ら影響を及ぼさないと考えられた。
【0117】
【表5】
【0118】
実施例3-食品媒介病原体:
【0119】
本発明のデバイス(実施例1に従って製造)を、ガラス、プラスチックおよび金属表面上の食中毒に関連する細菌に対しても使用した。表6に、試験した細菌(大腸菌O157:H7およびエンテロバクター・クロアカ)、および、各ケースで担体物質に結合したレクチンを示す。
【0120】
【表6】
【0121】
図5Aおよび図5Bは、これらの細菌に関する有効性試験の結果を示す。先の実施例と同様に、クリスタルバイオレットで染色した一晩培養から汚染物質を調製した。選定した各試験エリアに汚染物質を100μlずつ置き、60分間乾燥させた。以下の実験のそれぞれについて、ワイプは汚染エリアの中央に置き、10分間静置した。残留汚染物質は、SYTO82(図5A、5B)染色後に蛍光を測定することにより監視した。表面調整のない生値を示している。エラーバーは、三重反復実験からの標準偏差を表す。参考として、ふき取り(ワイプ)されなかった汚染表面を用いた。静的試験10分後の残余蛍光の測定に基づき、WGAレクチン活性ワイプでは大腸菌O157:H7のわずか1%しか残らなかったが、GSI-B4活性ワイプではエンテロバクター・クロアカの4%を残した。対照および活性ワイプの有効性を示す結果も表7に示す。
【0122】
【表7】
【0123】
実施例4-その他の皮膚病原体(細菌/真菌):
【0124】
皮膚にコロニーを形成することが知られているその他の微生物は、本発明のデバイスの潜在的な標的である。これには、プロピオニバクテリウム属、マラセジア属(以前はピチロスポルムとして知られていた)、カンジダ属、アスペルギルス属、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、シュードモナス属、インフルエンザ菌が含まれる。例示のために、例示的デバイス(実施例1に従って製造された)も皮膚の病気や障害を伴うプロピオニバクテリウム・アクネスとカンジダ・アルビカンスに対して使用された。
【0125】
糖タンパク質であるアシアロフェチュイン(ASF)やレクチンWGAと結合したワイプを、前述の例と同様、プロピオニバクテリウム・アクネス(図6)で汚染されたプラスチック表面に対して使用した。10分間、再度、上述の例と同様に、静置ワイプ試験を実施した後、PBSワイプでは33%の残留汚染物質が観察され、ASFワイプでは15.8%、WGAワイプでは9.5%のみであり、WGAワイプは接触のみで90.5%の汚染物質を捕獲できた(静置)ことが示された。
【0126】
レクチンConAと結合したワイプを、C.アルビカンス(図7)で汚染されたプラスチック表面に対して使用し、前述のように汚染とワイプ試験を行った。種々のpHレベルでの捕獲効果を比較するために、pH5、7および9および標準pH7.4の緩衝液を用いて活性成分(ConA)を有する、そして有しないワイプを調製した。活性成分による捕獲の効果は、5~9の広い範囲のpHで同様であることが観察された。このように、ワイプは選択した条件下で同等の有効性を有し、pH変化は活性成分の能力に影響しなかった。
【0127】
実施例5-創傷の汚染除去とケア
【0128】
生体表面からの捕獲のためのデバイスおよびその有効性を評価するために、ブタ皮膚モデルを用いた。過去20年間、ブタ皮膚はヒト皮膚疾患研究に用いられるヒト皮膚モデルとして優勢であった。その背景として、他のどんな実験動物と比較しても、ブタとヒトが解剖学的構造上類似していることが挙げられる。例えば、ブタの真皮コラーゲンは、他の一般的な実験動物よりもヒトに類似している。ブタ皮膚は、ヒト疾患の創傷ケアおよび感染研究での使用において十分に確立され、研究されている。ブタ皮膚の表皮の厚さと構造はヒト皮膚と強い類似性を有する。血管の特徴、毛包の種類は関連性が高い。大腸菌およびC.アルビカンスの株を標的生物として用いた。
【0129】
この方法を図8に示す。簡潔に言うと、ブタ皮膚の自然汚染物質を除去するために、切片試料を60℃の水中に30秒間置いた。OD2.0の100μlの大腸菌(クリスタルバイオレット染色)またはカンジダ・アルビカンス(トリパンブルー真菌染色)培養液を各ブタ試料上にピペットで滴下し、30分間皮膚試料上で放置し乾燥した。実施例1に従って製造されたデバイスを用いて既述のように10分間の静的接触によりワイプ捕獲試験を実施した後、LBまたは酵母培地1mlを各ブタ皮膚サンプルに添加し、汚染物質混合物を回収した。この混合物の増殖を監視し、大腸菌(図9AおよびB)およびC.アルビカンス(図10)残存を定量した。図9Aおよび9Bは、コットンベースのワイプ捕獲検査処理後にブタの皮膚から回収された大腸菌を示し、活性ワイプは、波長595nmにおける吸光度(図9A)又はコロニー形成単位(図9B)による測定で、WGAレクチンを含んでいた。図10は、コットンベースのワイプ捕獲検査処理後にブタの皮膚から回収されたC.アルビカンスDSM6659を示し、活性ワイプは、15時間の増殖期間後の吸光度測定で、ConAレクチンまたはGNAレクチンを含んでいた。
【0130】
レクチンConAと結合したワイプを、アスペルギルス・フミガーツスで汚染されたブタの皮膚切片に対して使用した。汚染プロトコルおよびワイプ試験は前述のとおりである。コットンベースのワイプ捕獲検査処理後にブタの皮膚からA.フミガーツスを回収した。活性ワイプは、ジャガイモ-デキストロス寒天(図11)で残存汚染物質を1:10で段階希釈して平板培養した後、コロニー形成単位で測定し、ConAレクチンを含んでいた。30℃で24時間インキュベートした後、コロニー数解析を行った。図11は、コットンベースのワイプ捕獲検査処理後にブタの皮膚から回収されたA.フミガーツスFresenius819株を示す。活性ワイプは、ConAレクチンを含んでいた。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
【国際調査報告】