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特表2022-534786多発性硬化症療法のためのオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(54)【発明の名称】多発性硬化症療法のためのオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20220727BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220727BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220727BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P25/00
A61K39/00 H
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571838
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 US2020035829
(87)【国際公開番号】W WO2020247432
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/857,182
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/953,257
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516241599
【氏名又は名称】トーマス・ジェファーソン・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ロスタミ アブドルモハマド
(72)【発明者】
【氏名】カセッラ ジャコモ
(72)【発明者】
【氏名】チリッチ ボゴリュブ
(72)【発明者】
【氏名】チャン グアン―シャン
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C085AA02
4C085BB11
4C085BB12
4C085BB13
4C085CC03
4C085CC05
4C085DD24
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087BB64
4C087CA13
4C087MA52
4C087MA59
4C087MA63
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB09
(57)【要約】
様々な局面および態様では、本発明は、その必要がある対象において多発性硬化症を処置する方法を提供し、該方法は、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞を該対象に投与する工程を含む。一局面では、その必要がある対象において多発性硬化症(MS)を処置および/または予防する方法が提供され、該方法は、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)を対象に投与する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要がある対象において多発性硬化症(MS)を処置および/または予防する方法であって、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)を該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
Ol-EVがミエリン抗原(Ag)を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ミエリンAgがミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および/またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Ag特異的である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
投与する工程が免疫抑制性単球を誘発する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
免疫抑制性単球がPD-L1を発現する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
投与する工程が、対象の免疫系に対して有害な作用または望ましくない作用を引き起こさない、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞が、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物中で製剤化されている、請求項1記載の方法。
【請求項9】
薬学的組成物が静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
対象が哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象がヒトである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
MSが慢性MSまたは再発寛解型MSである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)と少なくとも1種類の薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
Ol-EVがミエリン抗原(Ag)を含む、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
ミエリンAgがミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および/またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を含む、請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記組成物が、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与用に製剤化されている、請求項13~15いずれか一項記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究または開発の記載
本発明は米国立衛生研究所(NIH)によって付与された助成金番号5-RO1-AI106026-13に基づいて政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多発性硬化症(MS)は中枢神経系(CNS)の自己免疫疾患であり、オリゴデンドロサイトによって産生されたCNSミエリンの成分を免疫系が攻撃する。ミエリンは複数種の成分を含有し、そのうちのどれがMS患者における自己免疫応答の標的となるかは分かっていない。免疫系の標的となるミエリン成分に関する知識が欠落していること、患者間でばらつきがあること、疾患経過中に自己免疫応答の特異性が変化する可能性が高いことからMSに対する抗原特異的療法の開発は困難である。これまでに多くの抗原特異的療法が提案されてきた。しかしながら、どれも病院で有望な結果を示したことがなかった。従って、多発性硬化症において免疫系の標的となる特定のミエリン成分の決定を必要としないMSを処置する戦略が当技術分野において必要とされている。本開示は、この必要性に対処する。
【発明の概要】
【0003】
一局面では、その必要がある対象において多発性硬化症(MS)を処置および/または予防する方法であって、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)を対象に投与する工程を含む、方法が提供される。一部の態様では、Ol-EVはミエリン抗原(Ag)を含む。一部の態様では、ミエリンAgは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および/またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を含む。一部の態様では、前記方法はAg特異的である。一部の態様では、投与する工程は免疫抑制性単球を誘発する。他のいくつかの態様では、免疫抑制性単球はPD-L1を発現する。一部の態様では、投与する工程は対象の免疫系に対して有害な作用または望ましくない作用を引き起こさない。さらに他の態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物中で製剤化される。一部の態様では、薬学的組成物は静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与される。一部の態様では、対象は哺乳動物である。一部の態様では、対象はヒトである。一部の態様では、MSは慢性MSまたは再発寛解型MSである。
【0004】
別の局面では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)と少なくとも1種類の薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物が提供される。一部の態様では、Ol-EVはミエリン抗原(Ag)を含む。一部の態様では、ミエリンAgは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および/またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を含む。他のいくつかの態様では、前記組成物は静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与用に製剤化されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明の選択された態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と組み合わせて読めばさらに深く理解される。本発明を例示するために、選択され態様を図面に示した。しかしながら、本発明は、図面に示した態様の正確な配置および手段に限定されないと理解されるはずである。
【0006】
図1A図1A~1Gは、成熟オリゴデンドロサイト(Ol)は、ミエリンタンパク質を含有する細胞外小胞(EV)を放出することを図示する。(図1A)MBP(緑色)、MOG(赤色)、および核(青色)を染色した成熟Olの代表的な免疫蛍光(IF)。スケールバー20μm、倍率60X。(図1B)精製Ol-EVのクライオ電子顕微鏡;スケールバー200nm。(図1C)定量的質量分析からの、MISEV2018ガイドラインに従う、有意に濃縮されたEV関連タンパク質のヒートマップ。発現は、Zスコア(Z-scored)ラベルフリー定量(LFQ)に基づいており、Log2で表した。各条件について3つのレプリケートの平均を示した。(図1D)質量分析法によって求めたOl-EVの関連ミエリンタンパク質含有量。各条件について3つのレプリケートの平均を示した。値をOPC由来EVに対して基準化し、Log2で示した。(図1E)Ol-EVペレット、n=10/群におけるELISAによるMBP、MOG、およびPLP定量(平均±SEM)。(図1F)Ol-EVまたはHEK-EVでi.v.処置したナイーブC57BL/6マウスの生存曲線、n=15/群。(図1G)Ol-EVを注射(赤色の点)したナイーブC57BL/6マウスの血清中にある抗MOG Ig濃度をELISAによって求めた(平均±SEM)。注射していないナイーブマウス(シャム、白抜きの丸)またはrMOG1-125で免疫化したEAEマウス(Ctrl+、黒色の点)から対照血清を収集した、n≧5/群。全実験を少なくとも2回行った。(EおよびG)1元配置ANOVAとボンフェローニと事後検定によって****p<0.00001。
図1B図1Aの説明を参照されたい。
図1C図1Aの説明を参照されたい。
図1D図1Aの説明を参照されたい。
図1E図1Aの説明を参照されたい。
図1F図1Aの説明を参照されたい。
図1G図1Aの説明を参照されたい。
図2-1】図2A~2Gは、Ol-EV/i.v.は活動性EAEを予防的および治療的に抑制することを図示する。(図2A~2F)C57BL/6、B10.PL、またはSJL/Jマウスに約1010個のシンジェニックOl-EVまたはHEK-EVをi.v.注射し(赤色の矢印)、EAE誘発のために、それぞれ、MOG35-55、MBPAc1-11、またはPLP139-151で免疫化した。Ol-EV処置は、予防的処置(図2A~2C;C57BL/6およびB10.PL EAEマウスでは1、4、および7d.p.i.;もしくはSJL/J EAEマウスでは-7および-2d.p.i.)または治療的処置(図2D~2F;C57BL/6およびB10.PL EAEマウスでは11、14、および17d.p.i.;もしくはSJL/J EAEマウスでは24、27、および30d.p.i)であった。比較のために、並行してペプチドMOG35-55(200μg/マウス)、MBPAc1-11(400μg/マウス)、およびPLP139-151(100μg/マウス)をi.v.注射した。各ペプチド/i.v.の用量は、EAE誘発のための免疫化に使用した用量と同じであった。これらの実験は少なくとも2回行われ、アウトカムは似ていた(各実験についてn=10匹のマウス/群)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。データを2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較によって分析した;*p<0.01;**p<0.001;***p<0.0005****p<0.00001。(図2G)(D~F)で説明したように処置したEAEマウスの生存率(%)、n=15~30匹のマウス/群。データをゲハム・ブレスロー・ウィルコクソン(Gehan-Breslow-Wilcoxon)検定によって分析した***p<0.0001。
図2-2】図2-1の説明を参照されたい。
図3-1】図3A~3Kは、Ol-EVに由来するミエリンAgはインビボでT細胞に提示され、Ol-EVによるEAE抑制はミエリンAg依存的であることを図示する。(図3A)MOG特異的TCRトランスジェニックマウス(2D2)をOl-EV、または対照HEK-EV、またはMOG35-55ペプチド(100μg)でi.v.処置して6時間後、24時間後、および48時間後の、循環血液CD4+T細胞の時間経過(平均±SEM)(各実験についてn=5/群)。(図3Bおよび図3C)Ol-EVを注射した2D2マウスに由来する循環血液CD4+T細胞におけるカスパーゼ3発現(平均±SEM)。(図3D~3I)5x106個のCFSE標識2D2またはOT-IIナイーブCD4+T細胞をCD45.1+レシピエントマウスに注射した。48時間後に、MOG35-55+CFAもしくはOVA323-339+CFAを含有するエマルジョンでマウスをs.c.免疫化したか、または1010個のHEK-EVまたはOl-EVをi.v.注射した。72時間後に脾臓を収集し、CD45.2+CD4+T細胞(2D2およびOT-II)をフローサイトメトリーで分析した。(図3D、3F)2D2およびOT-II細胞によるサイトカイン産生(IFN-γ、IL-17A)、PD-1発現(図3E、3I)、ならびに増殖(CFSE希釈、図3Gおよび図3H)(平均±SEM)。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5匹のマウス/群)。(図3A、3F、3H、および3I)のデータを2元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって分析した;*p<0.05;**p<0.001;***p<0.0005;****p<0.00001。独立t検定(OT-II CD4+T細胞群の場合);;***p<0.0001;p<0.00001。(図3J)MOG35-55免疫化C57BL/6マウスに、MOG欠損Olに由来する約1010個のOl-EV、対照Ol、HEK-EV、またはPBS(シャム)をi.v.注射した。図中の赤い矢印で示したd.p.i.で注射を与えた。(図3K)WT(MBP+/+)またはMBP-/-(シバラーマウス)B10に由来するOl-EV。MBPAc(1-11)で免疫化したB10.PLEAEマウスにPL Olをi.v.注射した。対照マウスにはHEK-EVまたはPBS(シャム)を注射した。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5~7匹のマウス/群)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。データを2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した; ****p<0.00001。
図3-2】図3-1の説明を参照されたい。
図3-3】図3-1の説明を参照されたい。
図3-4】図3-1の説明を参照されたい。
図4-1】図4A~4Fは、Ol-EVは単球、好中球、およびcDCによって取り込まれるが、Ol-EVによるEAE抑制には最後の2つが必要でないことを図示する。(図4A図4B)CNSおよび脾臓に由来するTd-tomato+CD11b+好中球(Ly6g+Ly6c+)と単球(Ly6g-Ly6c+)を特定するゲーティング戦略。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5匹のマウス/群)。(図4C、4D)MOG35-55で免疫化したトランスジェニックC57BL/6Rosa26.stop.Td-tomatoマウスに疾患発症時に約1010個のCreリコンビナーゼ含有Ol-EVまたはこれもCreを含有するHEK-EVをi.v.注射した。2日後にフローサイトメトリーによって脾臓およびCNS細胞を分析した。脾臓(図4C)およびCNS(図4D)における、Td-tomatoを発現するCD4+T細胞、B細胞(CD19+)、ミクログリア(CD45lowLy6c-CD11b+)、好中球(Ly6g+)、および単球(Ly6c+)の代表的なヒストグラム。Cre+HEK-EVおよびCre+Ol-EV(示された)を注射したマウスに由来するTd-tomato+細胞の分布は類似した。(図4E)疾患発症時に(13および16d.p.i.)、抗Ly6g Ab(クローン1A8、200μg/マウス/注射)をi.p.注射することによってC57BL/6EAEマウスから好中球を枯渇させた。対照マウスにはアイソタイプ対照Abを注射した。Ol-EVまたはHEK-EVを14、17、および20d.p.i.(赤色の矢印)でi.v.注射した。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。(図4F)CD45.1+マウスを放射線照射し、Zbtb46 iDTRまたはCD45.1+骨髄を移植し、MOG35-55で免疫化した。EAE発症後、3日ごとにDTX(20ng/グラム)をi.p.注射することによってcDC枯渇(Zbtb46+MHCII+CD11c+)を成し遂げた。13、15、および18d.p.i.(赤色の矢印)でOl-EVまたはHEK-EVをi.v.注射した。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。全てのEAE実験を少なくとも2回行い、同様のアウトカムを得た(n=5~7匹のマウス/群)。EAE実験を2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した;****p<0.00001。
図4-2】図4-1の説明を参照されたい。
図4-3】図4-1の説明を参照されたい。
図5-1】図5A~5Jは、Ol-EVは免疫抑制性moDCを誘発することを図示する。(図5A)Cre+HEK-EVまたはCre+Ol-EVを注射して2日後にRosa26.stop.Td-tomato EAEマウスから脾臓およびCNSの単球(CD45+CD11b+Ly6chighCCR2+Ly6g-Td-tomato+)を選別した。qPCRによって遺伝子発現分析を行った。値はCre+HEK-EV処置マウスの単球と比べて基準化されており、Log2で示した。独立t検定を用いてデータを分析した;有意でない(NS);*p<0.05;**p<0.001;***p<0.0005;****p<0.00001。(図5B、5C)HEK-またはOl-EVを与えたEAEマウス(各実験についてn=5匹のマウス/群)に由来する脾臓およびCNSのIL-10+およびPD-L1+単球のパーセント(平均±SEM)。独立t検定を用いてデータを分析した;****p<0.00001。(図5D~5G)疾患発症時から開始してHEK-またはOl-EVを3回注射したEAEマウスの脾臓およびCNSのCD4+T細胞におけるカスパーゼ-3およびPD-1のフローサイトメトリー分析(平均±SEM)。独立t検定を用いてデータを分析した;**p<0.001;***p<0.0005。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5匹のマウス/群)。(図5H)脾臓およびCNSの単球(PD-L1+CCR2+Ly6c+)とカスパーゼ-3+およびPD-1+CD4 T細胞とのスピアマンのr相関分析(Spearman’s r correlation analysis)(n=10)。(図5I)C57BL/6 EAEマウスに疾患ピーク時に、Ol-EV(赤色)またはHEK-EV(黒色)で処置したEAEマウスのCNSに由来する2x106個の選別済みTd-tomato+moDCを移植した(赤色の矢印)。(図5J)12および15d.p.iに、C57BL/6 EAEマウスにブロッキング抗PD-L1 Ab(200μg/マウス/注射;クローン10F.9G2)またはアイソタイプ対照Abをi.p.注射した。13、16、および19d.p.i.にHEK-またはOl-EVをi.v.注射した(赤色の矢印)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。全てのEAE実験を少なくとも2回行い、同様のアウトカムを得た(n=7匹のマウス/群)。EAE実験を(I)ではマンホイットニー検定によって分析した;*p<0.01。(J)では2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較によって分析した;*p<0.01および****p<0.00001。
図5-2】図5-1の説明を参照されたい。
図5-3】図5-1の説明を参照されたい。
図5-4】図5-1の説明を参照されたい。
図6-1】図6A~6Gは、Ol-EVはPD-L1をIL-10依存的に誘発することを図示する。(図6A)約1010個のOl-EVまたはHEK-EVを3回注射(赤色の矢印)したWTおよびIL-10Rb-/-EAEマウスの臨床経過。EAE実験を少なくとも2回行い、同様のアウトカムを得た(n=7匹のマウス/群)。データを2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した;****p<0.00001。(図6B)疾患重篤度の累積スコア(平均±SEM)。(C)25日目p.i.にマウスを屠殺し、CNSから得られたCD45+白血球の数をフローサイトメトリーと血球計によって求めた。データを、各実験についてn=7匹/群の平均値±S.E.Mで表した。(図6D~6F)APCおよび全CD4+T細胞を、10d.p.iにMOG35-55免疫化WTおよびIL-10-/-マウスの脾臓およびリンパ節から単離した。ミスマッチ細胞共培養物(mismatched cell co-culture)(WT APC+WT CD4+;WT APC+IL-10-/-CD4;IL-10-/-APC+WT CD4+;IL-10-/-APC+IL-10-/-CD4+)をOl-EV、HEK-EV、またはPBSで3日間処理した。単球/樹状細胞(CD11b+MHCII+CD19-Ly6g-)におけるPD-L1発現のフローサイトメトリー分析図(図6D、6F)およびCD4+T細胞におけるPD-1のフローサイトメトリー分析図(図6E、6G)。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た。データを、各実験についてn=5匹/群からの平均値±S.E.Mで表した。(図6B、6C、6F、および6G)2元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって*p<0.05;**p<0.01;***p<0.0005;****p<0.00001。
図6-2】図6-1の説明を参照されたい。
図6-3】図6-1の説明を参照されたい。
図7図7A~7Dは、hOLは、複数種のミエリンタンパク質を含有するEVを放出することを図示する。(図7A)精製されたhOl-EVのクライオ電子顕微鏡;スケールバー200nm。(図7B)OPC-EVおよびOl-EVの関連性を示す質量分析法データの主成分分析(PCA)。(図7C)OPCおよびOl-EVに存在するタンパク質の発現量を示すヒートマップ。(図7D)ELISAで測定した、HEK-、hOPC-、およびhOl-EVペレット中にあるミエリンタンパク質(MBP、MOG、PLP)の濃度(平均±SEM)。1元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって**p<0.001;****p<0.00001。
図8-1】図8A~8Hは、OlおよびOl-EVの特徴付けを図示する。(図8A)5日齢マウスの子のCNSから単離したOPCおよび成熟Ol中にあるCNPaseのフローサイトメトリー分析。(図8B)qPCRによる、OPCおよびOl中にあるpdgfrα、ng2、sox10、olig2、olig4、mobp、mag、plp、mog、cnp、mbp、およびgalc mRNAの遺伝子発現分析。値はOPCの値と比べて基準化されており、Log2で示した。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=3/群)。独立t検定を用いてデータを分析した;NS(有意でない);*p<0.05;**p<0.001;***p<0.0005;****p<0.00001。(図8C)CNPase(緑色)および核(dapi)を染色した成熟Olの代表的な免疫蛍光(IF)。スケールバー20μm、倍率60X。(図8D~8E)培養状態で分化させて3週間後の、フローサイトメトリーによって求めたMBP+、MOG+、およびPLP+CNPase+Olのパーセント(平均±SEM)。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5/群)。独立t検定を用いてデータを分析した;****p<0.00001。(図8F)OPC、Ol、およびHEK細胞培養上清からのEV精製に使用したプロトコール。(図8G)NTAによって求めたOl-EVのサイズプロファイル。(図8H)Ol-EVペレット中にあるALIX、FLOT-1、TSG101、ANAX1、およびGAPDHに対するウエスタンブロット。
図8-2】図8-1の説明を参照されたい。
図9図9A~9Bは、Ol-EV/i.v.は養子EAEマウスにおいてEAE進行を止めることを図示する。WT C57BL/6マウスにMOG35-55免疫化ドナーマウスに由来する1x107個のTh17細胞を移植し、細胞移植後0日目および2日目にPTXを注射した。約1010個のOl-EV(C57BL/6 Olから調製した)またはHEK-EVを疾患発症時に3日に1回、3回i.v注射した(図9A)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。EAE実験を少なくとも2回行い、同様のアウトカムを得た(n=7匹のマウス/群)。EAE実験を2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した;*p<0.05。(図9B)(A)に示した養子EAEの累積スコア(平均±SEM)。データを、各実験についてn=7匹/群からの毎日平均値±S.E.Mで表した。**p<0.05;1元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定による。
図10-1】図10A~10Hは、Ol-EVはEAEにおいてCNS組織損傷からマウスを保護することを図示する。(図10A図10B)EAE誘発のためにMOG35-55で免疫化したマウスに、約1010個のOl-EV(C57BL/6 Olから調整した)またはHEK-EVをs.c.注射した(赤色の矢印)。Ol-EV処置を1、4、および7d.p.i.に予防的に与えた(図10A)、または13、16、および19d.p.iに治療的に与えた(図10B)。これらの実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5匹のマウス/群)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。データを2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した。脱髄および軸索消失の分析には脊髄切片の(図10C)クルバー・バレラ(Kluber Barrera)および(図10D)銀染色を使用した。脱髄面積および軸索消失を、8つの異なる高さ(level)で採取した5つの脊髄横断面/マウスにおいて平均して定量し、損傷面積に対するパーセントで表した(平均±SEM)。分析には独立両側t検定を使用した(n=5/群);****p<0.00001。(図10E、10F)MOG35-55で免疫化し、HEK-EV、またはOl-EV、またはMOG35-55をi.v.注射した(3回の注射)EAEマウス(n=5/群)に由来する、フローサイトメトリーで測定した時の全CNS CD45+およびCD4+細胞の数。(図10G、10H)HEK-EV、またはOl-EV、またはペプチド(自己Ag)をi.v.注射し、自己Ag(20μg/mL)で再チャレンジしたEAEマウス(各実験についてn=5/群)から単離した脾細胞の増殖アッセイ。(図10E~10H)データを平均値±S.E.Mで表した。1元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって*p<0.01;**p<0.001;***p<0.0005;****p<0.00001。
図10-2】図10-1の説明を参照されたい。
図10-3】図10-1の説明を参照されたい。
図11図11A~11Cは、Ol-EV処置は脾臓2D2 CD4+T細胞においてカスパーゼ3発現を誘発することを図示する。(図11A)MOG特異的TCRトランスジェニックマウス(2D2)をOl-EV、HEK-EV、またはMOG35-55ペプチド(100μg)でi.v.処置して6時間、24時間、および48時間後の(各実験についてn=5/群、2回実施した)、脾臓CD4+T細胞含有率の時間経過。(図11Bおよび11C)Ol-EV、HEK-EV、またはMOG35-55ペプチド(100μg)を注射した(各実験についてn=5/群、合計2回)、処置して6時間、24時間、および48時間後の2D2マウスの脾臓CD4+T細胞におけるカスパーゼ3発現(平均±S.E.M)。
図12-1】図12A~12Eは、OlにおけるMOGノックアウトを図示する。(図12A)Rosa26-LSL-Cas9 OlにおけるMOGノックアウトのためのCRISPR/Cas9プラスミド。(図12B、12C)Creとスクランブルド(scrambled)(対照)gRNA(図12B)、またはCreとMOG特異的gRNA(図12C)を発現するレンチウイルスで形質導入し、ピューロマイシン(2μg/mL)で選択したCas9+GFP+OPCの代表的な画像。スケールバー200μm。(図12D)CreとMOG特異的gRNAを発現するレンチウイルスで形質導入したCas9+Olに由来するT7エンドヌクレアーゼ消化PCR産物。(PCR産物中での)MOG遺伝子のノックアウトを正の対照(同じレンチウイルスで形質導入したCas9細胞株)と比較した。(図12E)スクランブル(scramble)gRNAとMOG gRNAで形質導入したOl、ならびにこれらに由来するEVにおけるELISAによるMOG定量。データを、3回の独立した実験からの平均値±S.E.Mで表した。1元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって****p<0.00001。
図12-2】図12-1の説明を参照されたい。
図13-1】図13A~13Mは、EAEにおけるOl-EVの治療効果はミエリンAgに依存することを図示する。(図13A)HEK細胞におけるMOG発現のためのレンチウイルスプラスミド。(図13B)レンチウイルスで形質導入し、ピューロマイシンで選択したMOG+HEK細胞(赤色)の代表的な画像。細胞を一次αMOG MAbと二次ヤギαマウス-alexafluor546 Abで染色した。スケールバー10μm、倍率20X。(図13C)HEK、MOG+HEK、およびOl由来EVにおけるELISAによるMOG定量(平均±S.E.M)(n=5/群)。(図13D)約1010個のOl-EV(C57BL/6 Olから調製した)、HEK-EV、またはMOG+HEK-EVを、EAEがあるMOG35-55免疫化マウスにおいて疾患発症時に3回、i.v.注射した(n=7匹のマウス/群)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。(図13E)(D)に示したEAEの累積疾患スコア。記号は平均±S.E.Mを図示する。EAE実験を2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した;***p<0.0005。(図13F)マウスをp.i.25日目に屠殺し、CD45+白血球の数をフローサイトメトリーによって求めた。(図13G)(D)に示したEAEマウスのCNSに由来するリンパ球系細胞(1)および浸潤性骨髄球系(2)細胞を示すフローサイトメトリープロット。(図13H、13I)フローサイトメトリーで測定した時の、Ol-EV、HEK-EV、またはMOG+HEK-EVを注射したEAEマウスに由来するCNS CD4+T細胞におけるPD-1およびアネキシンV染色の強度(平均±S.E.M)。(図13J、13K)(D)に示したEAEマウスのCNSに由来するCD25+Foxp3+Treg細胞のパーセントおよび絶対数(平均±S.E.M)。(図13L、13M)(D)に示したEAEマウスのCNSに由来する単球におけるIL-10およびPD-L1染色の強度(平均±S.E.M)。図13E、13F、13I、および13Mのデータ(n=5~7/群)は平均値±S.E.Mで表した。1元配置ANOVAとボンフェローニ事後検定によって**p<0.001;****p<0.00001。
図13-2】図13-1の説明を参照されたい。
図13-3】図13-1の説明を参照されたい。
図14】培養中のOlはMHCクラスIIをほとんど発現しないことを図示する。OPCからインビトロで発達させたOlおよび骨髄由来DCによるMHCII発現を比較したフローサイトメトリープロット。
図15-1】図15A~15Dは、ナイーブR26.stop.Td-tomatoレポーターマウスに注射したOl-EV/i.v.の細胞分布を図示する。(図15A)約1010個のCre+またはCre-Ol-EVをナイーブROSA26-stop-Td-tomatoレポーターマウスにi.v.注射した。(図15B)Ol-EVを注射して6時間、24時間、および48時間後の血液、CNS、リンパ節、および脾臓にあるTd-tomato+細胞のフローサイトメトリー分析。(図15C、15D)Ol-EVを注射して24時間後の脾臓および血液にあるTd-tomato+細胞のパーセント(n=3/群)。実験を2回行った。
図15-2】図15-1の説明を参照されたい。
図16図16A~16Fは、Ly6g+およびZbtb46+細胞枯渇を図示する。(図16A図16B)EAE誘発のためにMOG35-55で免疫化して18日後のマウスの血液中での抗Ly6g MAbまたはアイソタイプAbを用いた好中球枯渇のフローサイトメトリー分析。(図16C、16D)BMキメラマウス(CD45.1+レシピエントマウス)の血液中にあるBMドナー細胞(CD45.2+CD4+およびCD11b+)のパーセント。(図16E、16F)EAE があるBMキメラZbtb46-DTR→CD45.1+マウスにおけるDTX(20ng/g)による脾臓CD11c+Zbtb46+古典的DCの枯渇。
図17図17A~17Bは、Ol-EV処置は単球においてIL-10およびPD-L1発現を誘発することを図示する。疾患発症時にHEK-EVまたはOl-EVを3回注射したEAEマウスの脾臓(図17A)およびCNS(図17B)に由来する単球(CD11b+Ly6g-CD11c+MHCII+)のフローサイトメトリー分析。この実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(各実験についてn=5匹のマウス/群)。
図18図18A~18Dは、PD-L2は、Ol-EVによるEAE抑制には必要とされないことを図示する。(図18A図18B)CD11b(赤色)およびアルギナーゼ1(緑色)を染色した、HEK-EVまたはOl-EVで処置したEAEマウスに由来する脊髄切片の代表的な共焦点顕微鏡観察画像。スケールバー100μm;倍率20Xおよび40X。(図18C)11および14d.p.iに、EAEがあるC57BL/6マウスにブロッキング抗PD-L2Ab(200μg/注射;クローンTY25)またはアイソタイプ対照Abをi.p.注射した。13、16、および19d.p.iにHEK-EVまたはOl-EVをi.v.注射した。(図18D)WTおよびPD1-/-マウスに由来する5x106個の全CD4+T細胞を用いてRAG1-/-マウスを再構成した。再構成の72時間後にEAE誘発のためにレシピエントマウスを免疫化し、EAE発症から開始してOl-EVまたはHEK-EVをi.v.で3回与えた。全てのEAE実験を2回行い、同様のアウトカムを得た(n=5~7匹のマウス/群)。記号は毎日平均±S.E.Mを図示する。EAE実験を2元配置ANOVAとボンフェローニ多重比較で分析した;***p<0.0005;****p<0.00001。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患は、ある特定の自己抗原(Ag)に対する末梢免疫寛容がうまくいかないために発症する。自己免疫性神経炎症をAg特異的に抑制するための非常に多くの手法がMS動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において立証されてきた。このような手法の1つが、EAE誘発に使用したミエリンAg注射による静脈内(i.v.)寛容誘発である。しかしながら、この実験的戦略および類似した実験的戦略からMS療法への橋渡し(translation)はMS患者における関連ミエリンAgの不確実性によって阻まれてきた。この問題に対処するために、天然で複数種のミエリンAgを含有するオリゴデンドロサイト(Ol)由来細胞外小胞(Ol-EV)に頼る新規の治療方針が開発された。i.v.注射されたOl-EVは、いくつかのEAEモデルにおいて疾患をミエリンAg依存的に予防的および治療的に抑制した。この処置は安全であり、免疫抑制性単球と自己反応性脳炎惹起性CD4+T細胞アポトーシスを誘発することで免疫寛容を回復した。最後に、本明細書に記載の結果は、ヒトOlが、最も関連するミエリンAgを含有するEVを放出することも示しており、このことがMS療法においてEVを使用する基盤となる。これらの知見は、中枢神経系自己免疫をミエリンAg特異的に抑制するための新規の手法を導入する。
【0008】
定義
特に定義のない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な任意の方法および材料を本発明の試験の実施において使用することができるが、選択された方法および材料を本明細書において説明する。本発明を説明および主張する際に、以下の専門用語が用いられる。
【0009】
本明細書において用いられる専門用語は特定の態様を説明することだけを目的とし、限定することを目的としていないことも理解されるべきである。
【0010】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において用いられる。例として、「1つの要素」とは1つの要素または複数の要素を意味する。
【0011】
本明細書で使用する「約」とは、測定可能な値、例えば、量、期間などを指している時には、指定値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%のばらつきが、開示された方法を実施するのに適している時に、このようなばらつきを包含することを意味する。
【0012】
疾患もしくは障害の症状の重篤度、このような症状を患者が経験する頻度、またはその両方が低下すれば、疾患または障害は「軽減」されている。
【0013】
本明細書で使用する「組成物」または「薬学的組成物」という用語は、薬学的に許容される担体との、本発明において有用な少なくとも1種類の化合物の混合物を指す。薬学的組成物は患者または対象への化合物の投与を容易にする。静脈内投与、皮下投与、経口投与、エアロゾル投与、非経口投与、眼投与、肺投与、および局部投与を含むが、これに限定されない、化合物を投与する複数の技法が当技術分野において存在する。
【0014】
化合物の「有効量」または「治療的有効量」は、化合物が投与される対象に対して有益な効果をもたらすのに十分な化合物量である。送達ビヒクルの「有効量」は、化合物を効果的に結合または送達するのに十分な量である。
【0015】
本明細書で使用する「細胞外小胞」とは、ほぼ全ての細胞によって分泌され、かつタンパク質、脂質、DNA、および様々なRNAを含有する、タンパク質-脂質膜によって封入された粒子を意味する。細胞外小胞という用語はエキソソーム(30nm~100nm)とマイクロベシクル(100nm~1μm)を両方とも包含する。
【0016】
本明細書で使用する「オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞」とは、オリゴデンドロサイトによって作製されたか、またはオリゴデンドロサイトから単離された細胞外小胞を指す。
【0017】
「患者」、「対象」、「個体」などという用語は本明細書中で同義で用いられ、本明細書に記載の方法の対象となる、任意の動物、またはインビトロでもインサイチューでもその細胞を指す。ある特定の非限定的な態様では、対象は非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物には、例えば、家畜およびペット、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、およびラットが含まれる。ある特定の非限定的な態様では、患者、対象、または個体はヒトである。
【0018】
本明細書で使用する「薬学的に許容される」という用語は、化合物の生物学的活性または生物学的特性を無くさない、かつ比較的無毒の材料、例えば、担体または希釈剤を指す。すなわち、この材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、またはこの材料が含まれる組成物のどの成分とも有害に相互作用することなく個体に投与することができる。
【0019】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明において有用な化合物が、意図された機能を果たすことができるように、本発明において有用な化合物を患者の中に、または患者に運搬もしくは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物、または担体、例えば、液体または固体の増量剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒、またはカプセル化材料を意味する。典型的には、このような構築物は、ある臓器または身体の一部から別の臓器または身体の一部に運搬または輸送される。それぞれの担体は、本発明において有用な化合物を含む、製剤の他の成分と適合し、患者に害を及ぼさないという意味で「許容」されなければならない。薬学的に許容される担体として役立ち得る材料のいくつかの例には、糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカントゴム;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、カカオ脂および坐剤ろう;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;界面活性剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張性食塩水;リンガー液、エチルアルコール;リン酸緩衝液;ならびに薬学的製剤において用いられる他の無毒の適合性物質が含まれる。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」はまた、本発明において有用な化合物の活性と適合し、患者に生理学的に許容される、任意のおよび全てのコーティング、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに吸収遅延剤なども含む。補助的な活性化合物も前記組成物に組み込まれる場合がある。「薬学的に許容される担体」は、本発明において有用な化合物の薬学的に許容される塩をさらに含んでもよい。本発明の実施において用いられる薬学的組成物に含まれ得る他のさらなる成分は当技術分野において公知であり、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences (Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記載されている。
【0020】
本明細書で使用する、「疾患または障害を処置する」とは、患者が経験する疾患または障害の症状が現れる頻度を下げることを意味する。疾患および障害は本明細書中で同義で用いられる。
【0021】
本明細書で使用する「処置」または「処置する工程」という用語は予防および/または療法を包含する。従って、本発明の組成物および方法は治療用途に限定されず、予防用途で使用することができる。従って、状況、障害、もしくは状態を「処置する工程」または状況、障害、もしくは状態の「処置」は、(i)状況、障害、もしくは状態にかかるか、または状況、障害、もしくは状態の素因がある可能性があるが、状況、障害、もしくは状態の臨床症状もしくは準臨床症状をまだ経験もせず、呈してもいない対象において発症する状態、障害、もしくは状態の臨床症状の出現を阻止もしくは遅延すること、(ii)状況、障害、もしくは状態を阻害すること、すなわち、疾患または少なくとも1つのその臨床症状もしくは準臨床症状の発症を止めるか、もしくは軽減すること、または(iii)疾患を緩和すること、すなわち、状況、障害、もしくは状態、またはその臨床症状もしくは準臨床症状の少なくとも1つを後退させることを含む。
【0022】
範囲:
本願全体を通じて、本発明の様々な局面を範囲の形で提示することができる。範囲の形での説明は単なる便宜および簡略のためのものであり、本発明の範囲に対する融通の利かない限定として解釈してはならないことが理解されるはずである。従って、範囲の説明は、可能性のある全ての部分範囲(subrange)ならびにその範囲内にある個々の数値を具体的に開示したとみなされるはずである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内にある個々の数値、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示したとみなされるはずである。これは範囲の幅に関係なく適用される。
【0023】
説明
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系(CNS)の最も一般的な自己免疫性脱髄疾患である(1、2)。現行の全てのMS療法はAg非特異的に免疫系を標的とするので、MS研究における長年のゴールは、抗原(Ag)特異的な末梢免疫寛容の回復に基づいたMS療法であった(3)。Ag特異的療法に必要な条件は、自己免疫応答の標的となる関連性のある自己Agの知識である。MSの発病は、オリゴデンドロサイト(Ol)が産生するミエリンAgに対する自己免疫によって引き起こされると広く信じられている。しかしながら、MSにおける関連性のあるAgは依然として推測の域を出ず、これらのAgが患者間で、同じ患者でも時間とともに相違するという可能性がある(4)。MS実験モデルでの知見に基づいて、Ag特異的な寛容を誘発するための、いくつかのアプローチが提案されており、そのうちのいくつかは臨床試験されている(3、4)。様々な経路[静脈内(i.v.)、経口、鼻腔など]を介して遊離脳炎惹起性ペプチド、またはナノ粒子もしくはアポトーシス細胞と結合したペプチドを投与(5~10)するとAg特異的免疫寛容が誘発され、疾患が寛解することが以前に報告された。寛容誘発機構には、免疫寛容誘発性樹状細胞(DC)および免疫抑制性マクロファージの誘発、病原性Th1およびTh17細胞応答の低下(11)、ならびにT調節性(Treg)および1型調節性T(Tr1)細胞の誘発(12)が含まれる。i.v.寛容誘発は実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において著しい治療効果を示したが、i.v.注射されたミエリンAgが疾患を寛解するのではなく悪化させる可能性があるために、このアプローチの安全性は依然として、懸念すべき問題である(3、4、13)。
【0024】
本明細書に記載の試験では、最も関連性のあるミエリンAgを天然で含有するOl由来細胞外小胞(Ol-EV)を用いることによって、CNS自己免疫において免疫寛容を回復するための新規の治療アプローチが開発された(14)。EVは、細胞間コミュニケーションにおいて重大な役割を果たす、ほぼ全ての細胞によって分泌される、タンパク質-脂質膜によって封入された粒子である(15、16)。多数の研究において、実験的自己免疫疾患の療法のためにEVが用いられ、その安全性と臨床使用への見込みが報告されている(17~20)。Ol-EVのi.v.注射によって、慢性および再発寛解型EAEモデルの臨床疾患が予防的および治療的に抑制されることが示された。EAE誘発に用いられたミエリンAgを欠くOl-EVがEAEを抑制しなかったことを考えると、Ol-EVの効果はミエリンAg依存的である。単球がIL-10依存的にPD-L1発現をアップレギュレートして、脳炎惹起性CD4+T細胞アポトーシスが引き起こされたので、EAEにおけるOl-EVの有益な効果は単球に依存した。
【0025】
全体的に見て、本明細書における研究は、CNSの自己免疫性脱髄疾患をAg特異的に処置する新規の治療アプローチについて述べている。本明細書に記載の研究は、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞の静脈内注射には多発性硬化症の動物モデルにおいて抗原特異的な治療効果があることを示しており、このことから、ヒト疾患療法のための、この新規のアプローチの潜在能力が証明された。
【0026】
理論に拘束されるつもりはないが、本発明は、部分的に、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞の投与が1種類または複数種のミエリン抗原に対する寛容を誘発することで多発性硬化症を処置できるという発見に基づいている。オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は複数種のミエリンタンパク質を含有しており、従って、対象への投与は、MS関連自己免疫性攻撃の標的となり得る、あらゆる抗原に対する寛容を同時に誘発する。従って、一局面では、本発明は、その必要がある対象において多発性硬化症を処置または予防する方法であって、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。別の局面では、本発明は、対象においてミエリン抗原に対する寛容を誘発する方法であって、有効量のオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0027】
ある特定の態様では、Ol-EVはミエリン抗原(Ag)を含む。ある特定の態様では、ミエリンAgは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、およびミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択される。
【0028】
ある特定の態様では、Ol-EVはエキソソームを含む。ある特定の態様では、Ol-EVはマイクロベシクルを含む。ある特定の態様では、Ol-EVはエキソソームおよびマイクロベシクルを含む。
【0029】
ある特定の態様では、Ol-EVを投与する工程はAg特異的にMSを処置する。
【0030】
ある特定の態様では、投与する工程は免疫抑制性単球を誘発する。ある特定の態様では、投与する工程はIL-10依存的に免疫抑制性単球を誘発する。
【0031】
ある特定の態様では、単球はPD-L1発現単球である。
【0032】
ある特定の態様では、投与する工程は対象の免疫系に対して有害な作用または望ましくない作用を引き起こさない。
【0033】
様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物中で製剤化されている。様々な態様では、薬学的組成物は静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与される。様々な態様では、対象は哺乳動物である。様々な態様では、対象はヒトである。様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞はヒトオリゴデンドロサイトに由来する。
【0034】
様々な態様では、多発性硬化症は慢性多発性硬化症である。様々な態様では、多発性硬化症は再発寛解型(relapse-remitting)多発性硬化症である。
【0035】
様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞はオリゴデンドロサイトのインビトロ培養物に由来する。様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞はヒトオリゴデンドロサイトのインビトロ培養物に由来する。理論に拘束されるつもりはないが、オリゴデンドロサイトのインビトロ培養に由来するオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は、インビボでオリゴデンドロサイトによって放出される小胞とは異なる特徴を有する場合があると考えられている。一部の態様では、療法に用いられるEVは比較的高いレベルの数種類のミエリンタンパク質を発現するが、主要組織適合性複合体タンパク質を発現しない。一部の態様では、EVの供給源細胞はEVの品質を最適化するように遺伝的に変えられている。
【0036】
様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は、オリゴデンドロサイト細胞培養上清に対する第1の遠心分離工程、結果として生じた上清の濾過、濾液を超遠心する工程、ペレット状の細胞外小胞を収集する工程を行うことによって得られる場合がある(Casella G et al, 2018. PMD: 30017878; Colombo F et al., 2018. PMD: 29467770)。
【0037】
様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は主要組織適合性複合体タンパク質を発現しない。様々な態様では、細胞外小胞に由来するオリゴデンドロサイトはMHCクラスII分子を発現しない。様々な態様では、MHCクラスI分子発現は、当技術分野において公知の任意の手段を用いて阻止され得る。様々な態様では、
【0038】
別の局面では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞と少なくとも1種類の薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物が提供される。別の局面では、単離されたオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞が提供される。様々な態様では、単離されたオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞は多発性硬化症(MS)の処置において使用するためのものである。さらに別の局面では、多発性硬化症(MS)の処置において使用するための薬学的組成物であって、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞と薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物が提供される。別の局面では、多発性硬化症(MS)の処置におけるオリゴデンドロサイト由来細胞外小胞の使用が提供される。様々な態様では、多発性硬化症は慢性多発性硬化症である。様々な態様では、多発性硬化症は再発寛解型多発性硬化症である。
【0039】
ある特定の態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞(Ol-EV)はミエリン抗原(Ag)を含む。ある特定の態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞はヒトオリゴデンドロサイトに由来する。様々な態様では、ミエリンAgは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、および/またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を含む。様々な態様では、オリゴデンドロサイト由来細胞外小胞を含む前記組成物はエキソソームを含む。ある特定の態様では、前記組成物はマイクロベシクルを含む。ある特定の態様では、前記組成物はエキソソームおよびマイクロベシクルを含む。様々な態様では、前記組成物は静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与用に製剤化されている。様々な態様では、前記組成物は静脈内投与用に製剤化されている。
【0040】
Ol-EVの効果がOl-EVの中に存在するミエリンAgに依存し、Ol-EVによって特異的に産生される他の成分には依存しないことも本明細書において証明された。従って、別の局面では、細胞に由来する細胞外小胞であって、ミエリン抗原(Ag)を含む細胞外小胞が提供される。前記細胞はオリゴデンドロサイト以外の細胞でもよい。ある特定の態様では、前記細胞はミエリン抗原を発現する。ある特定の態様では、前記細胞はミエリン抗原を発現するように操作されている。様々な態様では、ミエリン抗原は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)である。様々な態様では、前記細胞は1つまたは複数のタイプのミエリン抗原を発現するように操作されている。様々な態様では、前記細胞は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、およびミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)より選択される少なくとも1つのミエリン抗原を発現するように操作されている。ある特定の態様では、前記細胞は哺乳動物細胞である。ある特定の態様では、前記細胞はヒト細胞である。
【0041】
別の局面は、その必要がある対象において多発性硬化症を処置または予防する方法であって、ミエリン抗原を含む有効量の細胞外小胞(EV)を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。本発明の別の局面は、対象においてミエリン抗原に対する寛容を誘発する方法であって、ミエリン抗原を含む有効量の細胞外小胞(EV)を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0042】
様々な態様では、EVは、ミエリン抗原を発現する細胞に由来する。ある特定の態様では、前記細胞はミエリン抗原を発現するように操作されている。ある特定の態様では、前記細胞はミエリン抗原を高レベルで発現するように操作されている。ある特定の態様では、前記細胞は主要組織適合性タンパク質(例えば、MHCクラスI、MHCクラスII分子)を発現しないか、またはその発現が低下している。ある特定の態様では、前記細胞は、主要組織適合性タンパク質(例えば、MHCクラスI、MHCクラスII分子)の発現を低下または消失させるように遺伝子組換えされている。
【0043】
ある特定の態様では、EVはミエリン抗原(Ag)を含む。ある特定の態様では、ミエリンAgは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、およびミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択される
【0044】
ある特定の態様では、EVはエキソソームを含む。ある特定の態様では、Ol-EVはマイクロベシクルを含む。ある特定の態様では、EVはエキソソームおよびマイクロベシクルを含む。
【0045】
ある特定の態様では、投与する工程は対象の免疫系に対して有害な作用または望ましくない作用を引き起こさない。
【0046】
様々な態様では、前記細胞外小胞は、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物中で製剤化されている。様々な態様では、薬学的組成物は静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与、経口投与、または鼻腔投与される。様々な態様では、対象は哺乳動物である。様々な態様では、対象はヒトである。様々な態様では、細胞外小胞はヒト細胞に由来する。
【0047】
様々な態様では、多発性硬化症は慢性多発性硬化症である。様々な態様では、多発性硬化症は再発寛解型多発性硬化症である。
【0048】
別の局面では、ミエリン抗原を含む細胞外小胞と、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物が提供される。別の局面では、ミエリン抗原を含む単離された細胞外小胞が提供される。様々な態様では、単離された細胞外小胞は多発性硬化症(MS)の処置において使用するためのものである。さらに別の局面では、多発性硬化症(MS)の処置において使用するための薬学的組成物であって、ミエリン抗原を含む細胞外小胞と、薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物が提供される。別の局面では、多発性硬化症(MS)の処置における細胞外小胞の使用であって、細胞外小胞がミエリン抗原を含む、使用が提供される。様々な態様では、ミエリン抗原は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)である。様々な態様では、細胞外小胞は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、またはミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)より選択される1つまたは複数のミエリン抗原を含む。様々な態様では、多発性硬化症は慢性多発性硬化症である。様々な態様では、多発性硬化症は再発寛解型多発性硬化症である。
【0049】
投与/投薬
臨床の場では、本明細書に記載の組成物のための送達系は、多数の方法のうちのどの方法でも対象に導入することができ、それぞれの方法は当技術分野においてよく知られている。例えば、前記組成物の薬学的製剤は吸入によって投与されてもよく、例えば、静脈内注射によって全身投与されてもよい。
【0050】
投与計画は、有効量を構成するものに提供を及ぼす可能性がある。例えば、治療用製剤は、前記の疾患または状態に関連する症状の発現の前または後に対象に投与されてもよい。さらに、いくつかの分割投与量ならびに時間をずらした(staggered)投与量が毎日または連続して投与されてもよい。または、用量は連続注入されてもよく、ボーラス注射されてもよい。さらに、治療状況または予防状況の切迫した要件により示されるように、治療用製剤の投与量は比例して増加または減少されてもよい。
【0051】
本発明の組成物は、公知の手順を用いて、対象にある疾患または障害を処置するのに有効な投与量および期間で、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに投与することができる。治療効果を実現するのに必要な前記組成物の有効量は、投与時間、投与期間、前記組成物と併用される他の薬物、化合物、または材料、疾患または障害の状況、処置されている対象の年齢、性別、体重、状態、身体全体の健康、および前病歴などの要因;ならびに医学分野において周知の同様の要因に従って変化することがある。最適な治療応答を提供するように投与計画が調整されてもよい。例えば、いくつかの分割量が毎日投与されてもよい。または、治療状況の切迫した要件により示されるように用量が比例して減らされてもよい。当業者であれば、関連する要因を研究し、過度の実験なく前記組成物の有効量に関する決定を下すことができるだろう。製剤は、従来の賦形剤、すなわち、当技術分野において公知の経口投与、非経口投与、鼻腔投与、静脈内投与、皮下投与、経腸投与、または他の任意の適切な投与方法に適した、薬学的に許容される有機担体物質または無機担体物質と混合して用いられてもよい。製剤は滅菌されてもよく、所望であれば、補助剤、例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝液、着色物質、着香物質、および/または芳香物質などと混合されてもよい。これらは、所望の場合、他の活性薬剤、例えば、他の鎮痛剤と組み合わされてもよい。
【0052】
本発明の任意の組成物の投与経路には、経口投与、鼻腔投与、直腸投与、膣内投与、非経口投与、頬投与、舌下投与、または局部投与が含まれる。本発明において使用するための化合物または薬剤(例えば、細胞外小胞(EV))は、経口投与または非経口投与、例えば、経皮投与、経粘膜投与(例えば、舌下投与、舌投与、(経頬)頬投与、(経尿道)尿道投与、腟投与(例えば、経腟投与および膣周囲投与)、(鼻腔内)鼻腔投与、ならびに(経直腸)直腸)、膀胱内投与、肺内投与、十二指腸内投与、胃内投与、くも膜下腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、動脈内投与、静脈内投与、気管支内投与、吸入投与、ならびに局部投与などの任意の適切な経路による投与用に製剤化されてもよい。
【0053】
適切な組成物および剤形には、例えば、錠剤、カプセル、カプレット、丸剤、ゲルキャップ(gel cap)、トローチ、分散液、懸濁液、溶液、シロップ、顆粒、ビーズ、経皮パッチ、ゲル、散剤、ペレット、マグマ剤、ロゼンジ、クリーム、パスタ剤、硬膏剤、ローション剤、ディスク(disc)、坐剤、鼻腔投与用または経口投与用の液体スプレー、吸入用の乾燥粉末またはエアロゾル化製剤、膀胱内投与用の組成物および製剤などが含まれる。本発明において有用な製剤および組成物は、本明細書に記載の特定の製剤および組成物に限定されないことが理解されるはずである。
【0054】
経口投与
経口適用の場合、錠剤、糖衣錠、液体、ドロップ、坐剤、またはカプセル、カプレットおよびゲルキャップが特に適している。経口使用を目的とした組成物は、当技術分野において公知の任意の方法に従って調製することができ、このような組成物は、錠剤の製造に適した不活性な無毒の薬学的賦形剤からなる群より選択される1種類または複数種の薬剤を含有してもよい。このような賦形剤には、例えば、不活性希釈剤、例えば、ラクトース;造粒剤および崩壊剤、例えば、トウモロコシデンプン;結合剤、例えば、デンプン;ならびに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。錠剤はコーティングされなくてもよく、活性成分の放出の正確さまたは遅延のために公知の方法を用いてコーティングされてもよい。経口使用のための製剤はまた、活性成分が不活性希釈剤と混合されている硬ゼラチンカプセルとして提示されてもよい。
【0055】
経口投与の場合、本発明の化合物は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);増量剤(例えば、トウモロコシデンプン、ラクトース、結晶セルロース、もしくはリン酸カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を用いて従来の手段によって調製された錠剤またはカプセルの形をとってもよい。所望であれば、錠剤は、適切な方法およびコーティング材料、例えば、Colorcon, West Point,Paから入手可能なOPADRY(商標)フィルムコーティングシステム(例えば、OPADRY(商標) OY Type、OYC Type、Organic Enteric OY-P Type、Aqueous Enteric OY-A Type、OY-PM Type、およびOPADRY(商標) White, 32K18400)を用いてコーティングされてもよい。経口投与用の液体調製物は溶液、シロップ、または懸濁液の形をとってもよい。液体調製物は、薬学的に許容される添加物、例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、または水素添加された食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム);非水性ビヒクル(例えば、扁桃油、油性エステル、またはエチルアルコール);および防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピルまたはソルビン酸)を用いて従来の手段によって調製されてもよい。
【0056】
非経口投与
非経口投与の場合、本発明の化合物または薬剤(例えば、細胞外小胞(EV))は、注射または注入、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下の注射または注入用に製剤化されてもよく、ボーラス用量および/または連続注入における投与用に製剤化されてもよい。任意で、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤などの他の処方(formulatory)薬剤を含有する、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルに溶解した懸濁液、溶液、またはエマルジョンが使用されてもよい。
【0057】
徐放製剤および薬物送達系
ある特定の態様では、本発明の製剤は、短期製剤、急速作用消失(rapid-offset)製剤、ならびに徐放製剤、例えば、持続放出(sustained release)製剤、遅延放出製剤、および拍動放出(pulsatile release)製剤でもよいが、これに限定されない。
【0058】
持続放出という用語はその従来の意味で用いられ、長期間にわたって薬物を徐々に放出し、かつ、必ずしもそうであるとは限らないが、長期間にわたって実質的に一定の薬物血中濃度をもたらし得る、薬物製剤を指す。期間は1ヶ月以上と長くてもよく、ボーラスの形で投与される等量の薬剤より長い放出になるはずである。
【0059】
持続放出の場合、化合物は、化合物に持続放出特性を付与する適切なポリマー材料または疎水性材料を用いて製剤化されてもよい。従って、本発明の方法を使用するための化合物は、微粒子の形で、例えば、注射によって投与されてもよく、カシェ剤またはディスクの形で移植によって投与されてもよい。
【0060】
ある特定の態様では、本発明の化合物は持続放出製剤を用いて単独で、または別の薬学的薬剤と組み合わせて患者に投与される。
【0061】
遅延放出という用語はその従来の意味で用いられ、本明細書では、薬物の投与に続いていくらかの遅延の後に薬物を初めて放出し、かつ、必ずしもそうであるとは限らないが、約10分から約12時間までの遅延を含み得る、薬物製剤を指す。
【0062】
拍動放出という用語はその従来の意味で用いられ、本明細書では、薬物の投与に続いて、拍動による(pulsed)薬物血漿プロファイルを生じるようなやり方で薬物を放出する薬物製剤を指す。
【0063】
即時放出という用語はその従来の意味で用いられ、薬物が投与された直後に薬物を放出する薬物製剤を指す。
【0064】
本明細書で使用する短期とは、薬物が投与された後の、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分、ならびにその任意の、または全ての全増加分または部分的な増加分までの、ならびにこれらを含む任意の期間を指す。
【0065】
本明細書で使用する急速作用消失とは、薬物が投与された後の、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分、または約10分、ならびにその任意の、および全ての全増加分または部分的な増加分までの、ならびにこれらを含む任意の期間を指す。
【0066】
投薬
本発明の化合物または薬剤(例えば、細胞外小胞(EV))の治療的有効量または用量は、患者の年齢、性別、体重、患者の現在の医学的状態、ならびに処置されている患者における本明細書において意図される疾患または障害の進行に左右される。当業者は、これらの要因および他の要因に応じて適切な投与量を決定することができる。
【0067】
本発明の化合物の適切な用量は、約0.001mg~約5,000mg/日、例えば、約0.01mg~約1,000mg、例えば、約1mg~約500mg、例えば、約5mg~約250mg/日の範囲にあってもよい。この用量は単回投与量で投与されてもよく、複数回投与量で、例えば、1日に1~4回またはそれ以上投与されてもよい。複数回投与量が用いられる場合、各投与量の量は同じでも異なってもよい。例えば、1日に1mgの用量が、2回の0.5mg用量として、用量間に約12時間間隔で投与されてもよい。
【0068】
1日に投薬される化合物の量は、非限定的な実施例では、毎日、1日おきに、2日ごとに、3日ごとに、4日ごとに、または5日ごとに投与されてもよいと理解される。例えば、1日おきに投与する場合、月曜日に1日あたり5mgの用量が開始され、水曜日に、その後の1日に5mgの第1の用量が投与され、金曜日に、その後の1日に5mgの第2の用量が投与されてもよい。
【0069】
本発明の薬学的製剤中の細胞の実際の投与量レベルは、対象への毒性が無く、特定の対象、組成物、および投与方法について望ましい治療応答を実現するのに有効な前記組成物の量を得るように変えられてもよい。
【0070】
このような治療レジメンの毒性および治療効力は、任意で、LD50(集団の50%に死をもたらす用量)およびED50(集団の50%に治療的に有効な用量)の決定を含むが、これに限定されない細胞培養または実験動物において決定される。毒性効果と治療効果との用量比が治療指数であり、LD50とED50との比として表される。ヒトでの使用のための、ある範囲の投与量を製剤化する際に、細胞培養アッセイおよび動物試験から入手したデータが任意で用いられる。このような化合物の投与量は、好ましくは、最小毒性を伴うED50を含む、ある範囲の循環濃度内に収まっている。任意で、投与量は、使用される剤形と利用される投与経路に応じて、この範囲内で変化する。
【0071】
本明細書において引用された、それぞれのおよび全ての特許、特許出願、および刊行物の開示はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0072】
本発明は特定の態様に関して開示されたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の態様およびバリエーションが当業者によって考案され得ることが明らかである。添付の特許請求の範囲は、このような全ての態様および等価なバリエーションを含むと解釈されることが意図される。
【実施例
【0073】
実験例
本発明は以下の実験例を参照することによってさらに詳述される。これらの実施例は例示のためだけに提供され、他で特定しない限り限定することが意図されない。従って、本発明は以下の実施例に限定されると解釈してはならず、むしろ、本明細書において提供される開示の結果として明らかになる任意のおよび全てのバリエーションを包含すると解釈すべきである。
【0074】
これ以上説明することなく、当業者であれば前述の説明および以下の例示的な実施例を用いて、本発明の化合物を製造および利用し、請求された方法を実施することができると考えられる。従って、以下の実際に役立つ例は本発明の選択された態様を具体的に指摘し、本開示の残りの部分において限定するものであると解釈してはならない。
【0075】
これらの実験において使用した材料および方法を今から説明する。
【0076】
マウス
年齢と性別が同一のB10.PL、SJL、C56BL/6 WT、B6.Ly5.1(CD45.1+)、RAG1-/-、2D2、OT-II、Zbtb46 iDTR、ROSA26-stop-Tdtomato、IL-10Rβ-/-、IL-10-/-、およびRosa26-LSL-Cas9マウスをThe Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME, USA)から購入した。マウスを、実験手順全体を通して12/12hの明/暗周期および自由摂食で、1ケージにつき最高5匹のマウスで特定病原体除去条件に保った。マウスの苦痛を最小限にするためにあらゆる取り組みがなされた。マウスを用いた実験プロトコールはトーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)により認可された。
【0077】
HEK細胞
10%EV枯渇胎仔ウシ血清(FBS)、ペニシリン、ストレプトマイシン(100U/ml)、および2mM L-グルタミンを加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,Gibco)の中でHEK細胞を培養した。EV単離用に全ての細胞培養上清を収集するために、4℃、110,000gで一晩超遠心することによってEVを枯渇させたFBSを培地に加えた。全細胞を5%CO2、37℃で維持した。
【0078】
PDGFRα+細胞単離
マウス全脳を5日齢のC56BL/6およびRosa26-LSL-Cas9の子から採取し、手作業で解離し、神経解離キット(neural dissociation kit)(Miltenyi)を用いて酵素的に消化した。懸濁液を、10%EV枯渇FBSを加えたDMEM(Gibco)でクエンチし、1200rpmで5分間遠心分離した。次いで、18ゲージ針に通すことで組織をホモジナイズし、次いで、70μmセルストレーナー(Fisher)で濾過して、残っている破片を除去した。この細胞懸濁液から、磁気ビーズ分離キット(magnetic beads separation kit)(Miltenyi)による正の選択を用いてPDGFRα+細胞を単離した。
【0079】
OPCおよび成熟Olの培養
PDGFRα+細胞を、DMEM/F2、N-2、B-27、Glutamax(2mM)、SHH(200ng/mL)、β-FGF、PDGF-AA(20ng/mL)、およびノルマイシン(Normycin)からなるOPC分化培地にプレートし、37℃、5%CO2でインキュベートした。3~5日後に、培地を、DMEM/F2、N-2、およびB-27からなり、Glutamax(2mM)、T3(40ng/mL)、SHH(200ng/mL)、Noggin(100ng/mL)、cAMP(50μM)、TGF(100ng/mL)、およびNT3(10ng/mL)を添加した新鮮なOl成熟培地と交換した。細胞を3週間までOl成熟培地中で保ち、5日ごとに培地を交換した。
【0080】
NIHにより認可されたH9ヒトESC(Millipore)に由来するヒトOPCを3週間培養し、Milliporeプロトコールに従って成熟Olに分化させた。
【0081】
細胞形質導入
OPCおよびHEK細胞を、Creリコンビナーゼをコードするレンチウイルス(Lv-Cre; Addgene #12106)またはマウスMOGをコードするレンチウイルス(Lv-MOG, Origene)で形質導入した。簡単に言うと、約2x106個の細胞を、HEK細胞の場合は10%EV枯渇血清を加えた完全培地中でLv-CreまたはLv-MOGで形質導入した。これに対して、OPCの場合は、本発明者らは以前のセクションに記載の同じ培地を使用した。2~3日後にHEK細胞の細胞培養上清から、2~3週間後に成熟Olの上清からEVを精製した。
【0082】
MOG-/-Olの作製
Rosa26-LSL-Cas9の子の脳からPDGFRα+細胞を単離した。OPCを、CreとMOG sgRNAまたはスクランブルドsgRNAを発現するレンチウイルスで形質導入した。成熟MOG-/-Olをピューロマイシン(puromycine)選択によって入手した。OlおよびOl-EVの両方でMOGノックアウトをPCRおよびDuoset ELISA(LSBio)によって確認した。
【0083】
MOG+HEK細胞の作製
HEK細胞を、MOGをコードするレンチウイルスで形質導入した。MOG+HEK細胞を、10%EV枯渇血清を加えた完全培地中でのピューロマイシン選択によって入手した。HEK細胞およびHEK-EVの両方でMOG発現を免疫蛍光およびDuoset ELISA(LSBio)によって確認した。
【0084】
CRISPR/CAS9
lentiCRISPR v2をAddgene(プラスミド番号52961)から購入した。Cre遺伝子を、
を用いて増幅し、XbaIおよびBamHI酵素部位を介してlentiCRISPR v2にあるCas9配列を交換するのに使用した(次いで、連結後にXbaI部位を除去した)。次いで、複数のsgRNA発現のためにKpnI部位の後ろに新たなXbaI部位を導入した。最終プラスミドをLenti-sgRNAバックボーン-EFS-Cre-P2A-puroと名付けた。
【0085】
Benchling(https://www.benchling.com/crispr/)を用いてMOG sgRNAを消化し、IDTからオリゴを合成し、室温でアニールしてsgRNAを得た。sgRNA断片を、BsmBIを介して別々にpLenti-sgRNAバックボーン-EFS-Cre-P2A-puroに挿入した。sgRNA活性をN2A-Cas9細胞株において分析し、活性が高いsgRNAをさらなる使用のために選択した。
【0086】
(表1)sgRNAオリゴおよび検出プライマーの配列
【0087】
EV精製
標準化されたプロトコール(17)を用いて細胞培養上清からEVを精製した。上清を収集し、細胞および破片を除去するために300gで10分間遠心分離した。結果として生じた上清を0.45μmシリンジフィルター(Millex, Millipore)でさらに清澄化し、次いで、100,000gで2時間超遠心してEVをペレット化した。ペレットを、EVの使用目的に応じてプロテアーゼインヒビターを含む溶解緩衝液、0.1μm濾過PBS、または固定液に再懸濁した。
【0088】
EVのナノ粒子トラッキング解析(NTA)
EVを0.1μm濾過PBSに再懸濁し、1:100または1:1000に希釈した。試料を、NTA 3.1 Build 3.1.46ソフトウェアとNS 300計器(Malvern Instruments, MA)を用いて分析した。
【0089】
質量分析法およびデータ処理
液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)分析を、Nano-ACQUITY UPLCシステム(Waters)と連結したQ Exactive HF質量分析計(ThermoFisher Scientific)を用いて行った。試料をトリプシンでゲル内(in-gel)消化し、UPLC Symmetryトラップカラム(180μm i.d.x2cm, 5μm C18レジンを充填した; Waters)に注入した。トリプシンペプチドは、溶媒A(水に溶解した0.1%ギ酸)と溶媒B(アセトニトリルに溶解した0.1%ギ酸)によって形成される240min勾配を用いて、BEH C18ナノキャピラリー(nanocapillary)分析用カラム(75μm i.d.x25cm、1.7μm粒径; Waters)での逆相HPLCによって分離した。溶出したペプチドを、ポジティブイオンモードで400~2000のm/zで繰り返しスキャンするように設定した質量分析計によって分析した。フルMSスキャンを60,000分解能で収集し、その後に、10,000の最低閾値を上回る20種類の最も豊富なイオンに対してデータ依存的なMS/MSスキャンを15,000分解能で行った。ペプチドマッチ(peptide match)を優先するもの(preferred)として設定した。同位体オプション(isotope option)を除外する。割り当てられていない、単一の荷電イオンを拒否するために電荷状態スクリーニング(charge-state screening)を可能にした。MaxQuant 1.6.2.3を用いてペプチド配列を特定した(39)。MS/MSスペクトルを、UniProtマウスタンパク質データベース(October 2017)および一般的な汚染物質データベース(contaminants database)と照らし合わせて、完全トリプシン特異性と2個までの切断の見逃し、Cysの静的なカルボキシアミドメチル化(static carboxamidomethylation)、Metの可変的な酸化、およびタンパク質N末端アセチル化を用いて検索した。欠測値を最小限にする目的で、複数の実験を越えて特定したものを転送するのを助けるために「マッチビトウィーンランズ(match between runs)」機能を使用した。コンセンサス特定リスト(consensus identification list)を作成し、タンパク質およびペプチド特定のための偽発見率を1%に設定した。
【0090】
EAE誘発およびスコアリング
以前に述べられたように(11、40、41)、EAEを誘発した。EAE免疫化プロトコールを表2にまとめた。
【0091】
毎日、マウスの体重を測定し、臨床徴候をスコア付けした。EAEの臨床評価を、以下のスコアリング基準:0=健常;1=だらりとした尻尾;2=運動失調および/または後肢の不全麻痺;3=後肢の麻痺および/または前肢の不全麻痺;4=四肢の麻痺(tetraparalysis);ならびに5=705瀕死または死亡(42)に従って行った。
【0092】
(表2)EAEモデル
【0093】
骨髄キメラ
B6.Ly5.1(CD45.1+)コンジェニック宿主に2x2.5Gyの致死量の放射線を照射間に8時間間隔で照射し、WT、またはZbtb46-dtrドナーに由来する5×106個のCD45.2+骨髄細胞を尾静脈注射することによって再構成した。使用前に6週間にわたってマウスを再構成した。
【0094】
DTアブレーション(ablation)
EVのi.v.注射の1日前に、ジフテリア毒素(DTX; Sigma-Aldrich)を200μlのPBSに溶解して1μg/20gマウスでi.p.投与した。マウスにDTXを2回注射した。
【0095】
PD-L1遮断およびLy6g枯渇
EV注射の1日前に、WTおよびR26-stop-Tdtomato EAEマウスに200μg/マウスのαPD-L1 Ab(クローン10F.9G2, BioXCell)または200μg/マウスのαLy6g Ab(クローン1A8, BioXCell)をi.p.注射した。処置ごとにマウスにAbを2回注射した。
【0096】
自己AgおよびEVのi.v.投与
以前に述べられたように(11)、i.v.寛容が誘発された。簡単に言うと、疾患発症後に、各マウスに200μgのMOG35-55、400μgのMBPAc(1-11)、100μgのPLP139-151、または少なくとも1010個のEVをPBSに溶解して3日ごとに合計3回与えた。対照マウスにはPBSだけを与えた。
【0097】
Ag特異的リコール応答(recall response)
EAEマウスを解剖し、その流入領域リンパ節および脾臓を70μmストレーナーで解離して、10%熱失活胎仔ウシ血清、ペニシリン(100U)、ストレプトマイシン(10μg/mL)、L-グルタミン(0.3mg/mL)、および2-メルカプトエタノール(55μM)を加えたIMDM中にシングル細胞懸濁液を調製した。RBC溶解緩衝液(Biolegend, CA, USA)で処置した後に、1,300rpm、4℃で5分間の遠心分離によって細胞を完全IMDMで大規模に洗浄し、細胞密度を2x106/mLに調節した。調節された細胞懸濁液100μLを96ウェルプレートの各ウェルに添加した。MOG35-55を20μg/mLの最終濃度まで添加した。細胞を37℃で72時間インキュベートした。負の対照の場合、細胞をMOG35-55なしで培養した。細胞培養上清を収集し、使用まで-20℃で保管し、細胞の増殖およびサイトカイン産生をフローサイトメトリーによって分析した。
【0098】
WTおよびRAG1-/-マウスの再構成
Rosa26-stop-tdtomato EAEマウスの脾臓およびCNSに由来する2x106個のFACS選別したTdtomato+CD11b+CD11c+Ly6c+細胞をWT EAEマウスにi.v.で与えた。WTおよびPD1-/-マウスの脾臓に由来する、磁気ビーズで単離された3x106個の全CD4+T細胞をi.v.で用いてRAG1-/-マウスを再構成した。養子移入の72時間後にEAE誘発のためにマウスを免疫化した。
【0099】
組織学的評価
少なくとも5匹のマウス/群に、0.5mM EDTAを含有する食塩水を心臓左心室を通して10分間灌流させ、その後に冷4%パラホルムアルデヒド(PFA;Sigma-Aldrich)で固定した。EAEマウスからの脊髄および脳を解剖し、2%PFAで一晩、後固定した。以下の染色:クリューヴァー・バーレラ(Kluver Barrera)(脱髄)、ビルショウスキー(Bielshowsky)(軸索損傷)を使用した。血管周囲炎症性浸潤物の数を計算し、mm2あたりの炎症性浸潤物の数で表した。脱髄面積および軸索消失を損傷面積に対するパーセントで表した。
【0100】
クライオ電子顕微鏡
60秒間グロー放電処理した200メッシュ銅グリッド(grid)(Quantifoil R1.2/1.3)上に3マイクロリットルのEV試料を適用した。4℃でVitrobot Mark IV(FEI Netherlands)を用いて過剰な溶液を濾紙で6秒間吸い取り、グリッドを-165℃の液体エタンに素早く投げ込むことで、すぐに急速冷凍した。両試料のクライオEMデータを200keVで操作したTecnai F 200 KeV TEM顕微鏡によって収集した。Falcon III直接電子検出器(direct electron detector)によって25,000Xの倍率で画像を検出した。4秒の露出の間に40フレーム/sの速度で収集した個々の線量分割フレーム(dose fractionated frame)を平均することによって一枚一枚の顕微鏡写真を作成した。フレームをモーションコレクト(motion correct)し、一枚の顕微鏡写真にした。収集した顕微鏡写真は焦点が合った状態で2.0~4.0μmの範囲であった。
【0101】
蛍光顕微鏡
Olを4%PFAで4℃で15分間固定し、0.1Mグリシンでクエンチし、間接的免疫蛍光のために処理した。画像習得にはNikon NX1(Nikon Microsystems)共焦点顕微鏡を使用した。ImageJソフトウェア(GraphPad)を用いて画像を解析した。抗MBP(ThermoFisher)、抗MOG(Millipore)を一次抗体として使用した。
【0102】
EAEマウスの脊髄切片をPBS 1Xで2回洗浄し、(Agがどういったものかに応じて)Triton 0.1%を含む、または含まないブロッキング溶液PBS、二次Ab種の10%血清中で室温で1時間までインキュベートした。一次抗体をブロッキングミックス(1%血清)で希釈し、+4℃で一晩インキュベートした。画像習得のためにNikon NX1(Nikon Microsystems)共焦点顕微鏡を使用した。ImageJソフトウェア(GraphPad)を用いて画像を解析した。抗CD11b(Abcam)および抗アルギナーゼ1(GeneTex)を一次抗体として使用した。
【0103】
ELISA
EVペレット中のマウスおよびヒトのMBPおよびPLP1をELISA(BiomatikおよびLSBio)で測定した。WT Ol、Ol-EV、MOG-/-Ol、およびMOG-/-Ol-EV ELISA(LSBio)の中のMOGを測定した。
【0104】
EAEマウスの血清中にあるMOG特異的Igの測定
ELISAプレートを、PBSに溶解した10μg/ml MOG35-55ペプチドで4℃で一晩コーティングした。プレートを、PBSに溶解した2%BSAで37℃で2時間ブロックした。血清をブロッキング緩衝液で1:100に希釈し、4℃で一晩インキュベートするためにプレートに添加した。Ol-EVを注射したWT C57BL/6マウスに由来する血清を、事前に希釈することなくプレートに適用した。ペルオキシダーゼ結合ヤギ α-マウス 二次Ab (Thermo Scientific)とテトラメチルベンジジン(BioFX Laboratories)を室温で30分間用いて、血清に由来する結合αMOG Abを検出した。
【0105】
ウエスタンブロット分析
20μgの細胞タンパク質と5~10μgのEVをレムリ(Laemmli)緩衝液で希釈し、8~14%ポリアクリルアミドゲルにロードした。精製されたEVを、プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma-Aldrich)を加えた溶解緩衝液に再懸濁した。タンパク質濃度をBCA(Micro BCA, Pierce)で測定した。マウス抗マウスフロチリン1(BD Bioscience)、ウサギ抗Alix(Millipore)、ヤギ抗Tsg101(Millipore)、マウス抗MOG(Millipore)、ウサギGapdh(細胞シグナル伝達)を一次抗体として使用した。
【0106】
CNS浸潤性白血球の単離
脳および脊髄組織を0.4mg/mL IV型コラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)と37℃で30分間インキュベートし、均一な細胞懸濁液を得るために19ゲージ(gouge)針を用いて解離した。最後に、以前に説明されたように(43)、CNS細胞をパーコール勾配で遠心分離することによって濃縮した。
【0107】
フローサイトメトリーおよびセルソーティング
FACSaria II(Becton Dickinson)を用いてフローサイトメトリーを行い、FlowJoソフトウェア(Tree Star)によって分析した。CD45(クローン30-F11)、CD45.1(A20)、CD11b(M1/70)、CD3(17A2)、CD8α(53-6.7)、CD4(RM4-5)、CD19(1D3/CD19)、CD11c(N418)、PDCA1(927)、Ly6c(AL-21)、F4/80(MB8)、Ly6g(1A8)、MHC-II(M5/114.15.2)、PD-1(29F.1A12)、PD-L1(10F.9G2)、カスパーゼ3(カタログ番号550480)、CCR2(47503)、MBP(P82H9 FITC)、MOG(sc-166172 PE)、およびPLP(ab28486)に特異的な蛍光色素結合MAbをBD Biosciences、R&D、Biolegend、Santa Cruz、またはAbcamから購入した。
【0108】
細胞内染色のために、細胞をGolgiPlug(1:1000, BD Pharmigen)の存在下でホルボール12-ミリステート13-アセテート(50ng/ml, Sigma-Aldrich)およびイオノマイシン(500ng/ml, Sigma-Aldrich)で4時間刺激し、Cytofix/Cytoperm Plusキット(BD Bioscience)を用いて透過処理し、BiolegendおよびBD Pharmingenから入手した以下のフルオクローム(fluochrome)結合MAb:CNPase(836408 alexa fluor 647)、GM-CSF(MP1-22E9)、IL-17A(TC11-18H10.1)、IL-10(JES5-16E3)、IFN-γ(XMG1.2)、Zbtb46(U4-1374)を用いて染色した。L/D BD Pharmingenを用いて死細胞を排除した。
【0109】
qPCR
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてOPC、成熟Ol、moDC、および好中球から全RNAを抽出した。DNアーゼI型(Qiagen)処理によってゲノムDNAを除去した。ThermoscriptTM RT-PCRシステム(Invitrogen)を用いてcDNA合成を行った。Pdgfrα(Mm00440701_m1); ng2(Mm00507257_m1); sox10(Mm01300162_m1); olig2(Mm01210556_m1); mobp(Mm02745649_m1); mag(Mm00487538_m1); plp1(Mm01297210_m1); mog(Mm01279062_m1); cnp(Mm01306641_m1); mbp(Mm01262037_m1); galc(Mm01337517_m1); Arg-1(Mm00475988_m1); pd-l1(Mm03048248_m1); stat3(Mm01219775_m1); irf1(Mm01288580_m1); il-10(Mm00439614_m1); tim-3(Mm00454540_m1); pd-l2(Mm00451734_m1); tgf-β(Mm01178820_m1); tgf-α(Mm00446232_m1); icosL(Mm00497237_m1); il-27(Mm00461162_m1); casp3(Mm01195085_m1); ccl2(Mm00441242_m1); tnf-α(Mm00443258_m1); il-23(Mm00518984_m1); inos(Mm00440502_m1); il-1β(Mm00434228_m1); cd-80(Mm00711660_m1); cd-86(Mm00444540_m1)、およびgapdh(4352339E)。mRNAレベルをリアルタイムRT-PCR(Applied Biosystems, Invitrogen)によって測定した。2-ΔΔCT法を用いて遺伝子発現の相対的変化を計算した(44)。
【0110】
統計解析
統計解析をGraphPad Prism 8ソフトウェアによって行った。統計評価を適宜、平均±s.d.または平均±s.e.m.で表した。結果を2元配置または1元配置ANOVAを用いて解析し、ボンフェローニと独立両側スチューデントt検定で事後検定した。統計的有意性を*p<0.05; **p<0.001; ***p<0.0001とランク付けた。
【0111】
本実験の結果を今から説明する。
【0112】
実施例1: 成熟Olは、最も関連するミエリンAgを含有するEVを放出する
Ol-EVを作製するために、マウスCNS PDGFR+細胞を採取し、Ol前駆細胞(OPC)へと分化させ、最終的に成熟Olへと分化させた(21)。培養して3週間後に、OPCの60%超が成熟Ol(CNPase+およびGalChigh)になり、ミエリンタンパク質:ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、およびミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)を発現した(図1Aおよび図8A~8E)。OPCおよび成熟Olは、クライオEMおよびナノ粒子トラッキング解析(NTA)によって確かめられた時に平均直径が240nmの多量のEVを産生した(図1Bおよび図8G)。細胞外小胞研究のための最小限の情報(minimal information for studies of extracellular vesicles)(MISEV)ガイドライン(22)に従ったOl-EVおよび主要なEVマーカーの質量分析を図1Cおよび図8Hに示した。MBP、MOG、およびPLPを含む複数種のミエリンタンパク質も検出され(図1D)、これらのレベルがELISAによって定量された(図1E)。
【0113】
Ol-EVがマウスに対して有害であり得るかどうか確かめるために、Ol-EVをナイーブC57BL/6マウスに3日ごとに合計6回の注射でi.v.投与した。対照としてHEK細胞由来EV(HEK-EV)を注射した。マウスに及ぼすOl-EVおよびHEK-EV注射の影響は認められず(図1F)、Ol-EV投与を開始して1ヶ月後、(注射したOl-EVの中に含まれる)MOGに対する抗体は検出されなかった(図1G)。全体的に見て、これらのデータから、成熟Olは、複数種のミエリンAgを含有するEVを放出し、インビボでのOl-EVの忍容性が良いことが分かる。
【0114】
実施例2: Ol-EVのi.v.注射は、いくつかの活動性EAEモデルにおいて疾患を抑制する
Ol-EVがEAEにおいて免疫寛容を回復できるかどうか確かめるために、慢性(MOG35-55/C57BL/6、MBPAc(1-11) /B10.PL)および再発寛解(PLP139-151/SJL)経過の臨床疾患である3つの活動性EAEモデルにおいてOl-EVの効果を試験した。PBSに溶解したシンジェニックOl-EV(Ol-EV/i.v.)を、臨床疾患が発症する前に、または疾患が発症した後に3日あけて3回i.v.投与した。対照マウスには、PBS(シャム処置)、PBSに溶解した免疫ペプチド、またはPBSに溶解したHEK-EVをi.v.注射した。Ol-EVは3つ全てのEAEモデルにおいて予防レジメンおよび治療レジメンの両方で臨床疾患を有意に寛解したが、HEK-EVは影響を及ぼさなかった(図2A~2F)。マウスを屠殺した、最後の注射をして少なくとも2週間後まで治療効果は続いた。PLP139-151/SJL EAEモデルではOl-EV処置は有意な治療効果があったが、進行中の疾患を抑制するのに他の2つのEAEモデルよりいくらか効率が低かった。i.v.寛容誘発に対するPLP139-151/SJL EAEの相対的抵抗性(relative resistance)が他の研究者によって報告された(23)。養子EAEにおけるOl-EVの治療効力も調べた。この養子EAEでは、ドナーEAEマウスに由来するMOG35-55特異的CD4+T細胞をレシピエントナイーブC57BL/6マウスに移植した。Ol-EV処置によってEAE進行が止まり(図9A~9C)、従って、活動性EAEおよび養子EAEの両方で同様の治療効果が示された。i.v.投与とは対照的に、皮下(s.c.)注射したOl-EVはEAEを寛解しなかった(図10A図10B)。このことから、Ol-EVによって寛容を誘発するのにi.v.経路は極めて重要であり得ることが示唆される。
【0115】
臨床疾患の寛解と一致して、Ol-EV処置は神経病理学的徴候、脱髄、および軸索損傷からEAEマウスを保護した(図10C図10D)。さらに、Ol-EV処置は、CNSにある浸潤性CD45+およびCD4+細胞の数を減らし、脾細胞は免疫ペプチドに対するリコール応答を有意に減らした(図10E~10H)。
【0116】
遊離脳炎惹起性ペプチドのi.v.注射によってEAEにおいて有意な治療利益が得られたが、これらを繰り返し注射すると多数のマウスにおいてアナフィラキシーショックと死亡が誘発される可能性がある(24)。全体的に見て、Ol-EVの効果は、これらの実験に正の対照として含めたペプチドの効果と似ていた。しかしながら、Ol-EV/i.v.はペプチド/i.v.よりも安全なことが判明した(図2G)。
【0117】
これらのデータから、Ol-EVのi.v.注射は複数のEAEモデルにおいて進行中の臨床疾患を抑制することが分かる。
【0118】
実施例3: EAEにおけるOl-EVの抑制効果はミエリンAg依存的である
Ol-EVがEAEを抑制する機構を解明するために、最初に、MOG35-55特異的T細胞受容体トランスジェニック2D2マウスを用いて血液T細胞に対するOl-EVの時間的効果を確かめた。2D2マウスにOl-EV/i.v.注射すると末梢血(図3A)および脾臓(図11A~11C)においてCD4+T細胞数が減少したが、MOG35-55/i.v.注射よりも非常にゆっくりとした反応速度であった。Ol-EV注射の24時間後にCD4+T細胞はカスパーゼ3+になった。これに対して、MOG35-55はたった6時間後に活発なカスパーゼ3発現を誘発した(図3B図3C)。これらのデータから、CD4+T細胞のアポトーシスはHEK-EV処置によって誘発されなかったのでAg特異的だったことが示唆される。遊離ペプチドと比較したOl-EVの効果の遅延は、小胞から完全長MOGタンパク質を処理および提示するのに必要な時間に起因する可能性が高い。これに対して、注射されたMOG35-55ペプチドの提示は異なる経路を通して発生し、Ol-EVより速い。もしかすると、小胞からのMOGタンパク質の処理によって生じたペプチドと比較して、注射された遊離ペプチドの量がかなり多いことも、このペプチドに対する迅速な応答を容易にする。
【0119】
T細胞活性化に対するOl-EVの効果をさらに探索するために、MOG(2D2)またはOVA(OT-II)に特異的なCFSE標識ナイーブCD4+T細胞をCD45.1+ナイーブマウスに養子移入し、2日後に本発明者らはOl-EV/i.v.を注射した。IFN-γおよびIL-17Aの産生(図3D図3F)ならびにCFSE希釈(図3G図3H)によって確かめた時に、Ol-EVの効果はMOG特異的CD4+T細胞の活性化および増殖だけを誘発し、OVA特異的CD4+T細胞の活性化および増殖を誘発しなかったのでAg特異的であった。さらに、Ol-EVは有意なPD-1発現を2D2に対して誘発したが、OT-II CD4+T細胞に対して誘発しなかった(図3E図3I)。MBPAc(1-11) T細胞受容体トランスジェニックマウスのCD4+T細胞を用いて同様の結果が得られた(25)(データは示さない)。このことから、これらの効果はMOG特異的T細胞に限定されないことが証明された。全体的に見て、これらのデータから、インビボで処理され、CD4+T細胞に提示されるミエリンAgをOl-EVが送達することが分かる。
【0120】
最後に、Ol-EV/i.v.がミエリンAg依存的にEAEを抑制するかどうか確かめるために、C57BL/6/MOG35-55-EAEマウスにMOG欠損Ol-EVを注射した。これに対して、B10.PL/MBPAc(1-11) -EAEマウスにMBP欠損Ol-EVを注射した。MOG欠損Ol-EVはCRISPR/Cas9システムを用いて作製した。Ol-EVは、MOG特異的sgRNAとCreを含有するレンチウイルスで形質導入したCas9-トランスジェニックマウスのOlに由来した。これに対して、対照Ol-EVは、スクランブルsgRNAとCreを含有するレンチウイルスで形質導入したCas9-トランスジェニックマウスのOlに由来した(図12A~12C)。Olと、得られたEVにおけるMOGノックアウトはPCRおよびELISAによって確認された(図12D図12E)。MBP欠損Ol-EVは、MBP-/-である「シバラーマウス」のOlから作製した(26)。両EAEモデルとも、ミエリンAg欠損Ol-EVは疾患を抑制しなかった(図3J図3K)。このことから、Ol-EV/i.v.はAg依存的にEAEを抑制することが証明された。
【0121】
EAEに対するOl-EVの抑制効果がミエリンAgだけに依存し、Olによって特異的に産生される、Ol-EVに存在する他の成分に依存しないかどうか試験するために、マウスMOGを発現するようにHEK細胞を操作した。これらの細胞のEVはMOGも含有することが確認された(図13A~13C)。次に、C57BL/6/MOG35-55-EAEマウスにHEK/MOG-EVまたはOl-EVを注射した。両処置ともEAEに対して同様の抑制効果があった(図13D~13F)。このことから、Ol-EVの効果は、Ol-EVに存在するミエリンAgに依存するが、Olによって特異的に産生される他の成分には依存しないことが確認された。
【0122】
実施例4: Ol-EV/i.v.は単球および好中球によって優先的に取り込まれる
培養されたOlは、フローサイトメトリー分析で示された時には非常に低レベルのMHCクラスII分子を発現する(図14)。または、Ol-EVは、質量分析法で確かめられた時には、これらの分子を発現しない(データは示さない)。これは非炎症条件下ではOlによくみられる(27、28)。そのため、Ol-EVがミエリンAgをCD4+T細胞に直接提示するという可能性は無くなる。i.v.注射されたOl-EVが食細胞性APCによって取り込まれ、食細胞性APCが、これらのタンパク質を処理し、MHCクラスII上で脳炎惹起性Th細胞に提示するというと仮説を立てた。
【0123】
どの細胞がOl-EV/i.v.を取り込み、ミエリンAgを提示するのか明確に突き止めるために、Cre発現レンチウイルスでOPCに形質導入することによって、Creリコンビナーゼ含有Ol-EVを作製した(データは示さない)。ナイーブRosa26.stop.Td-tomatoレポーターマウスにCre+Ol-EVをi.v.注射し、注射後の様々な時間(6時間、24時間、および48時間)でマウスを屠殺した(図15A図15B)。Td-tomato+細胞の大多数は脾臓および血液の食細胞、例えば、単球(43%)、好中球(28%)、および異なるDCサブセット(26%)であった。これに対して、B細胞の4%しかTd-tomato+でなく、Td-tomato+であるCD3+T細胞はほとんどなかった(図15C図15D)。Td-tomato+細胞はリンパ節(LN)にもCNSにも見出されなかった。このことから、Ol-EVはLNに到達せず、無傷の血液脳関門(BBB)を通過しないことが証明された。しかしながら、EAEマウスのCNSでは、BBBの完全性が損なわれており(29)、実質的に全ての単球由来DC(moDC;CD11b+CD11c+Ly6chighCCR2+Ly6g-)と好中球(CD11b+CD11c-Ly6c+Ly6g+)を含む多数のTd-tomato+細胞が見出された。これに対して、ミクログリアのごく一部(CD45intCD11b+Ly6c-)がTd-tomato+であった(図4C)。Td-tomato+細胞はリンパ系集団(CD4+、CD8+、およびCD19+)でも、ニューロン、星状細胞、およびOlでも見出されなかった(データは示さない)。ナイーブマウスと同様に(図15A図15B)、脾細胞の中でのTd-tomato+細胞の大多数はmoDCおよび好中球であり、B細胞の少数がTd-tomato+であった(図4D)。これらのデータから、EAEマウスにおいて、Ol-EV/i.v.を取り込む細胞は、主に、末梢血、脾臓、およびCNSに見出される単球/moDC、古典的DC(cDC)、および好中球であることが分かる。
【0124】
どの食細胞性集団、moDC、好中球、および/またはcDCがOl-EVによるEAE抑制を媒介するか確かめるために、EAEマウスのOl-EV処置中に抗Ly6g Abを用いて好中球を枯渇させた(血液中の好中球数が約75%低下した;図16A図16B)。疾患発症後の好中球枯渇がEAEに影響を及ぼさないという知見(30)と一致して、好中球枯渇そのものは疾患経過に対して影響を及ぼさなかった(図4E)。驚くべきことに、好中球枯渇はOl-EVによるEAE抑制に影響を及ぼさなかった(図4E)。このことから、好中球はOl-EVの効果を媒介しないことが示唆される。
【0125】
次に、cDC(CD11c+MHCII+Zbtb46+)の役割を調べた。最初に、cDCに対するジフテリア毒素(DTX)の効果を制限するために、放射線誘発Zbtb46-DTR(CD45.2+)→CD45.1+骨髄キメラマウスを作製し(31)(図16C図16D)、再構成の6週間後に、これらのマウスにおいてEAEを誘発した。疾患発症後から開始し、次いで、EV処置中には隔日でDTXをi.p.注射した。DTX処置によって脾臓cDCが少なくなることが確認された(図16E図16F)。cDC枯渇もOl-EVによるEAE抑制にとって必要でなかった(図4F)。単球を枯渇させたらEAE発症が抑止されるので、単球の役割は直接試験できないだろう(32)。まとめると、これらのデータから、炎症性CNSにある、単球/moDCのほぼ全てがOl-EVを獲得し、MHCクラスIIの状況でミエリンAgを提示する能力を有するので、これらの細胞はOl-EVによるEAE抑制を媒介することが示唆される。
【0126】
実施例5: Ol-EV/i.vは免疫抑制性単球を誘発する
データから、単球/moDCがEAEにおいてOl-EVの効果を媒介することが示されたことを考えて、次いで、これらの表現型を調べた。EAEマウスにOl-EVをi.v.注射し、これらの脾臓およびCNSのTd-tomato+単球をFACS選別し(図4A図4Bに示したものと同じ戦略)、これらのmRNAを分析した。対照と比較してOl-EV処置は、いくつかの調節性遺伝子、特に、Arg1、Pdl1、Il10、Irf1、Havcr2(tim-3)、およびStat3の有意なアップレギュレーションを誘発した(図5A)。興味深いことに、CNSに由来する単球はまた、EAE発病において重要な役割を果たす(33)、一部の炎症促進性メディエーター(Ccl2、Tnf、Inos、Il23a、およびIl1b)の発現を有意に低減したが、脾臓に由来する単球は低減しなかった(図5A)。これらの知見のいくつかを、対応するタンパク質に対する免疫染色によって検証した。Ol-EVで処置したEAEマウスのIL-10+およびPD-L1+単球パーセントは脾臓およびCNSの両方で有意に高く(図5B図5C、および図17A図17B)、Ol-EVを与えたEAEマウスの脊髄のArg1+CD11b+細胞数は多かった(図18A図18B)。
【0127】
Ol-EVをi.v.注射したナイーブ2D2マウスと同様に(図3A~3K)、Ol-EVで処置したEAEマウスは脾臓およびCNSの両方でアポトーシス(カスパーゼ-3+およびPD-1+)脳炎惹起性CD4+T細胞のパーセントが高かった(図5D~5Gおよび図13H図13I)。免疫抑制性単球(PD-L1+CCR2+Ly6c+)の数とアポトーシスT細胞(カスパーゼ-3+PD-1+CD4+)の数との間で相関関係があるどうか試験し、強固な正の相関関係が見出された(図5H)。このことから、単球と脳炎惹起性T細胞が相互作用することでT細胞のアポトーシスが引き起こされ、疾患が寛解するという考えが裏付けられる。Ol-EV/i.v.がFoxp3+CD25+Tregの数または頻度に影響を及ぼすかどうかも調べ、対照と比較して差異は無いことが見出された(図13Jおよび図13K)。このことから、TregはEAEにおいてOl-EVの抑制効果を媒介しないことが示唆される。
【0128】
最後に、Ol-EV誘発性moDCの免疫抑制表現型を機能的に検証するために、Cre+Ol-EVで処置したEAEマウスに由来するFACS選別CNS由来Td-tomato+moDCを、進行中の疾患があるマウスに移植した(図5I)。Td-tomato+moDCの1回の移入によって疾患からの迅速な回復が誘発された。これに対して、Cre+HEK-EVで処置したEAEマウスに由来する対照Td-tomato+moDCを移入しても疾患経過は変化しなかった(図5I)。
【0129】
これらのデータから、Ol-EV/i.v.でEAEマウスを処置すると、単球/moDCは免疫抑制表現型を獲得し、脳炎惹起性T細胞の死を引き起こすことで疾患を寛解させることが示唆される。
【0130】
実施例6: 単球におけるOl-EV/i.v.誘発性PD-L1はEAE抑制にとって重大な意味を持つ
免疫寛容におけるPD-1とそのリガンドの重要性を考えて(34~36)、Ol-EVがPD-1/PD-L1相互作用を介してEAEを抑制するかどうか調べた。抗PD-L1 Abを、疾患発症後、Ol-EV注射の24時間前にi.v.注射した。抗PD-L1処置時に、EAEマウスは、Ol-EV/i.v.処置に応答しない重度の疾患を発症した(図5J)。反対に、PD-L2をAbで遮断しても、Ol-EVによるEAE抑制は阻止されなかった(図18C)。抗PD-L1 Abを使用しないでOl-EV効果におけるPD-L1の重要性を確認するために、PD-1-/-またはWT CD4+T細胞をRAG1-/-マウスに移植し、EAE誘発のためにMOG35-55で免疫化し、疾患発症後にOl-EVをi.v.注射した。小胞はWT CD4+T細胞を導入したマウスではEAEを抑制したが、PD-1-/-CD4+T細胞を導入したマウスではEAEを抑制しなかった(図18D)。
【0131】
全体的に見て、これらのデータから、PD-1/PD-L1相互作用はEAEにおけるOl-EVの治療効果にとって重大な意味を持つが、PD-L2は持たないことが証明された。
【0132】
実施例7: Ol-EVはIL-10依存的にPD-L1を誘発する
脾臓およびCNSの単球においてOl-EV/i.v.はIL-10発現を誘発した(図5A~5Jおよび図6A~6G)。IL-10には免疫調節機能があるため、IL-10は、Ol-EVによるEAE抑制に、例えば、PD-L1発現を誘発することによって寄与する可能性がある(6)。これを試験するために、最初に、IL-10受容体βサブユニットを欠くマウス(IL-10Rb-/-)においてEAEを誘発し、疾患発症時にOl-EVまたはHEK-EVをi.v.注射した。IL-10Rbの非存在下ではOl-EVはEAEを抑制せず(図6A図B)、Ol-EVで処置したIL-10Rb-/-マウスのCNSから単離した白血球の数はWTマウスと同じように低下しなかった(図6C)。次に、Ol-EV処置時にどの細胞集団がIL-10を産生し、単球上でPD-L1を誘発するかを調べるために、WTまたはIL-10-/-CD4+T細胞と、MOG35-55免疫化マウスに由来するAPCを用いてミスマッチ共培養物(mismatch co-culture)を作製し、Ol-EVまたはHEK-EVを添加した(図6Dおよび図6F)。骨髄系APC(CD11b+CD11c+MHCII+CD19-細胞)におけるIL-10欠損によって、Ol-EVによる骨髄系細胞上でのPD-L1誘発が妨げられた。これに対して、CD4+T細胞におけるIL-10欠損は影響を及ぼさなかった。これらのデータから、Ol-EVは単球/DCにおいてIL-10を誘発し、そして次に、オートクライン様式でPD-L1発現を誘発することが分かる。
【0133】
実施例8: ヒトOlはミエリンAg含有EVを放出する
MS療法としてOl-EV/i.v.を使用する必要な条件は、複数種のミエリンAgを含有するEVをヒトOl(hOl)が放出することである。このことが事実かどうか確かめるために、NIHにより認可されたH9ヒトESC(Millipore)に由来するヒトOPCを成熟hOlに分化させ、培養上清からEVを採取した。hOlは多量のEVを放出し、平均直径はクライオEMによって確かめられた時に300nmであった(図7A)。hOPC由来EVおよびhOl-EVのプロテオームプロファイルを質量分析法によって分析し、これらのタンパク質プロファイルは大きく異なることが見出された(図7B図7C)。マウスOl-EVと同様に、hOl-EVはMBPおよびMOGなどの、かなりの量のミエリンタンパク質を含有したのに対して(図7D)、OPC由来EVは、それよりかなり少ない量のこれらのタンパク質を含有した。
【0134】
これらのデータから、インビトロで分化させたhOlは、かなりの量のミエリンAgを含有するEVを放出することが分かる。このことは、hOl-EVが本質的にマウスOl-EVと似ているという原理証明となり、従って、EAEにおいてマウスOl-EVが有するものと同様の有益な効果をMS患者でも有する可能性がある。
【0135】
実施例9:
現行のMS療法は免疫系をAg非特異的に標的化し、全身の免疫が抑制されるために潜在的に重大な副作用がある(4)。MS研究における長年のゴールは、免疫系の残りをそのままにしながら有害な免疫応答だけを抑制するAg特異的療法を考案することであった。Ag特異的療法に必要な条件は標的Agを特定することである。MSにおける自己免疫応答は、MOG、MBP、およびPLPなどのOl産生ミエリンタンパク質を標的とすると考えられている(41)。関連性のあるミエリンAgはMS患者間で必ずしも同じであるとは限らず、時が経つにつれて自己免疫応答の特異性は最初のミエリンAgエピトープから別のエピトープまたはAgに移る場合があるとも考えられている(41)。この病原性応答のAg特異性が進展するという考えは「エピトープ伝播(epitope spreading)」と呼ばれ、さらなるミエリンAgに対する新たに発生した応答が疾患の再燃および慢性化に寄与することも提唱している(24)。全体的に見て、MSにおける関連性のあるAgの身元(identity)は不明なままであり、患者間で、かつ時が経つにつれ異なる可能性がある。実験動物モデルではうまくいっているのにもかかわらず、Ag特異的MS療法の開発を阻んでいるのは、このAgについての知識の欠如である。動物において試験した療法の一部は抗原の複雑さの問題に対処しているが、疾患を引き起こすAgの知識を必要とする手法では対処していない(4)。EAEでの知見に基づいて、MSにおいてAg特異的な寛容を誘発するための、いくつかのアプローチが提唱されている(4)。これらのアプローチの1つが、遊離脳炎惹起性ペプチドをi.v.注射することによって、またはナノ粒子またはアポトーシス細胞と結合したペプチドによって寛容を誘発することである(5~10)。i.v.寛容は、免疫寛容誘発性APCを誘発し、病原性Th1およびTh17細胞応答を減らし(11、42)、TregおよびTr1細胞を誘発することによってEAEを抑制する(37)。本発明者らは、最近、進行中のEAEにおけるi.v.寛容の誘発がIL-27(11)およびガレクチン1(42)に依存することを示した。
【0136】
改変されたMBPペプチドのs.c.送達の効果を試験した臨床試験から、このアプローチは一部のMS患者では疾患を実際に悪化させる可能性があることが示された(43)。MS患者における試験から、免疫優性MBPペプチド(500mgを24ヶ月にわたって6ヶ月ごと)の、進行性MS患者(n=32)へのi.v.注入は安全なことが分かった(44)。24ヶ月で、この処置には、HLAハプロタイプDR2および/またはDR4がある患者(n=20)にだけ有意な利益があった。これらの反応患者の長期経過観察から、進行までの時間の中央値はプラセボ処置の18ヶ月と比較して78ヶ月であることが分かった。別の試験では、7種類の免疫優性ミエリンペプチドと共有結合した自己由来白血球の単回i.v.注入も安全であった(9)。これらの試験からの知見から、ミエリンAgのi.v.送達はMS患者に対して安全かつ有益な可能性があることが示唆される。実験動物での知見に基づいて、粒子(細胞、ナノ粒子)の形をしたミエリンAgの注入は可溶性遊離Agの注入よりも安全なアプローチであり、このことはOl-Evにも当てはまると考えられている(45)。
【0137】
EV分野は過去十年間に急速に発展してきた(20)。EVは、生理学的条件および病理学的条件両方の細胞間コミュニケーションにおいて重大な役割を果たす、ほぼ全ての細胞によって分泌される(15、16)、タンパク質-脂質膜によって封入された粒子である。いくつかの研究は、脳脊髄液中および血液中に、ミクログリアおよび星状細胞などのCNS常在細胞に由来するEVが存在し、これらの量はMSおよびEAEなどの炎症状態の間に増加することを報告した(46)。OlもEVを放出するが、ホメオスタシス維持の際、または疾患の間のOl-EVの役割についてはほとんど知られていない。
【0138】
EV生物学における大幅な進歩のおかげで、今では、いくつかの疾患の療法としてEVが研究されている(20)。EVは実験的自己免疫疾患療法の多くの研究において用いられており(17~19)、ミクログリア/マクロファージを標的化し、免疫寛容誘発性DCを誘発し、Tregを誘発することによってEAE炎症を調節するのに効力があると報告されている(18~20)。本発明者らは、インビトロ培養されたOlが、最も関連性のあるミエリンタンパク質を含油するEVをエキソソームおよびマイクロベシクルの両方とも放出することを示している。薬物送達ツールとしてEVを述べているほとんどの報告では、ある特定の治療上の利点があるために(17、48)、エキソソームしか用いられていない(18)。異なるクラスのOl-EVへのミエリンタンパク質の異なる選別(sorting)機構のために(49)、PLPはエキソソーム内で豊富にあるのに対して、MBPおよびMOGは主に膜由来マイクロベシクルに存在することが示されている(50)。本発明者らは全Ol-EV、エキソソーム、およびマイクロベシクルを使用し、これらの投与は、いくつかのEAEモデルにおいて神経炎症をAg依存的に予防的および治療的に抑制した。この処置は、観察可能な副作用が無く、遊離ペプチドの注入より安全であった。注入されたOl-EVは、食細胞、単球、好中球、およびcDCによって優先的に取り込まれるが、単球だけがOl-EV誘発性寛容に不可欠だと判明した。Ol-EVを取り込んだ単球は、疾患抑制を媒介するPD-L1およびIL-10などの数種類の抗炎症性分子の発現をアップレギュレートした。最後に、本発明者らは、hOlもミエリンタンパク質含有EVを放出することを示す。
【0139】
Ol-EVは複数種のミエリンAgを運んでおり、いくつかのEAEモデルにおいて複数種のミエリンAg/エピトープに対する脳炎惹起性T細胞応答を減らし、神経炎症を抑制する。合成マルチエピトープAg(いくつかのミエリンエピトープを1つの人工タンパク質にまとめたもの)の使用はEAEを抑制するのに個々のペプチドよりも効率的であると報告されている(23、38)。Ol-EVの効果はAg依存的かつ特異的である。MOG特異的およびMBP特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスを用いることで、Ol-EVは、Ol-EVが運んでいるミエリンAgを介して自己反応性T細胞のアポトーシスおよびアネルギーを誘発することが分かった。さらに、MOGまたはMBPが欠損しているOl-EVはMOG35-55誘発性またはMBPAc(1-11)誘発性のEAEを抑制しないことが本明細書において示された。
【0140】
EVのサイズおよびタンパク質含有量の不均一性は、複数の経路を介して起こり得るレシピエント細胞によるEV取り込みに影響を及ぼす変数である(16)。ナノ粒子はスカベンジャー受容体依存的機構によって飲食されることが知られている(7)。しかしながら、EV取り込みの特異性は完全に解明されていないが(15)、食細胞、例えば、単球/moDC、DC、マクロファージ、およびミクログリアは、受容体を介したエンドサイトーシス、食作用、および微飲作用(micropinocytosis)によってEVを内部に取り入れることができると述べられている(51)。
【0141】
EAEにおけるmoDCの役割は広範囲にわたって述べられてきた(32)。moDCは一般的に健常CNSに存在しないが、炎症中に髄膜および実質に浸潤し、Agの処理と提示のための向上した能力を獲得することでCNS病態に寄与する。EAEにおいて免疫寛容を回復させるために脾臓食細胞による「Ag捕獲(Ag-capture)」の重要性について述べた、いくつかの研究とは対照的に(7)、本明細書中のデータから、CNSに浸潤したmoDCはOl-EVを獲得し、EAE抑制を媒介すると示唆される。実際に、進行中疾患があるマウスに、Ol-EVで処置したEAEマウスからのCNS由来moDCを移入するとEAE炎症が急速に抑制された。
【0142】
EAEマウスをOl-EV/i.v.で処置すると、CD4+T細胞上のPD-1がアップレギュレートされ、moDC上のPD-L1およびPD-L2がアップレギュレートされることが本明細書において示された。免疫寛容におけるPD-1とそのリガンドの重要性を考えて(38)、Ol-EVがPD-1/PD-L1および/またはPD-1/PD-L2相互作用を介してEAEを抑制するかどうか調べた。AbによってPD-L1を遮断するとOl-EVによるEAE抑制が消失したのに対して、PD-L2を遮断しても影響は生じなかった。このことから、T細胞上のPD-1と、moDC上のPD-L1が相互作することで脳炎惹起性T細胞のアネルギーおよびアポトーシスと疾患寛解が生じることが証明された。このことは、EAEにおけるi.v.寛容誘発におけるPD-L1の報告された役割と一致している(6)。
【0143】
IL-10は、重要な免疫調節的役割をもち、EAEを含む炎症応答および自己免疫を抑制する抗炎症性サイトカインである(6)。EAEにおけるペプチド/i.v.寛容誘発にはIL-10が必要なことが示されている。いくつかの研究から、様々なやり方でEAEにおいてIL-10を誘発して免疫寛容を促進する可能性があること(6、7)、および、IL-10遮断によって寛容が消失すること(6)が示されている。IL-10遮断によって寛容が消失する(6)。Ol-EVによるEAE抑制にはAPCによるIL-10産生が必要であるが、CD4+T細胞によるIL-10産生は必要でないことが本明細書において証明された。明らかに、IL-10は、moDC上のPD-L1発現を誘発し、疾患を抑制した。
【0144】
末梢寛容を確立および維持するための重要な機構はTregに頼っている。従って、Ol-EV/i.v.がTregに影響を及ぼすかどうか探索したが、CD4+T細胞の中でのTregの総数または頻度の変化は見出されなかった。このことから、Ol-EV/i.v.はEAEをTreg非依存的な機構によって抑制し、ミエリン特異的CD4+T細胞と免疫寛容誘発性moDCが直接相互作用することでT細胞のアポトーシスおよびアネルギーが生じると示唆される。しかしながら、Tregとは独立してmoDCの免疫寛容誘発表現型が誘発され得るが、その誘発にはTreg自身が拡大することなく寄与するという可能性が依然としてある。本発明者らのものと類似しているが、マイクロビーズに結合したミエリンAgを使用したシステムにおいて、EAEにおけるAg特異的なi.v.寛容誘発へのTregの控えめな寄与が報告されている(7)。これらの報告された知見から、Tregは、Ol-EVによるEAE抑制にいくらか寄与するかもしれないが、EAE抑制には必須でない可能性が高いという考えが裏付けられる。
【0145】
結論として、Ol-EVがほとんどの、またはおそらく全ての関連性のあるミエリンAgを含有すると考えると、Ag特異的な寛容を誘発し、ミエリンAgに対する免疫応答によって引き起こされる疾患を抑制する潜在能力を有する。従って、Ol-EVの使用は、関連性のあるミエリンAgを患者一人一人において特定する必要を回避し、Ol-EV/i.v.が広く適用可能なAg特異的MS療法になり得る可能性を高めるだろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図14
図15-1】
図15-2】
図16
図17
図18
【配列表】
2022534786000001.app
【国際調査報告】