(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】胎盤由来の細胞外小胞の抗炎症及び抗ウイルス効果組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220728BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20220728BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220728BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220728BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220728BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20220728BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220728BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220728BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220728BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220728BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220728BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/50 ZNA
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/18
A61P29/00
A61K31/7105
C12N15/113 100Z
C12N5/0775
A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561799
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 KR2020008277
(87)【国際公開番号】W WO2021225214
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0053200
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0074860
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521453301
【氏名又は名称】ティーエス セル バイオ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムン、チ ソク
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018MD69
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4C086AA01
4C086AA02
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4C087AA01
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4C087BB58
4C087CA11
4C087CA20
4C087NA14
4C087ZB11
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、胎盤に由来する各種物質の種類及び効果に関し、より詳細には、胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicle、EV)、及び胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の間葉幹細胞(placental mesenchymal stem cell、pMSC)及びこれらに由来する細胞外小胞(EV)と、前記EVに含まれたmiRNA及びcargoを始めとする各種生体分子の種類及び効果に関するもので、前記EVに含まれたmiRNAが、コロナウイルスのRNAゲノムを効率的に分解して直接的な抗ウイルス効果を示すだけでなく、EV自体が保有した各種生体分子の抗炎症効果による間接的な様々なウイルス感染症の予防及び治療効果を確認することによってなされたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの担体、賦形剤又は希釈剤と共に、胎盤、へその緒又は臍帯血から抽出した生体分子を含む、無細胞組成物(cell-free composition)。
【請求項2】
前記生体分子は、胎盤及び胎盤由来の間葉幹細胞(placental mesenchymal stem cell、pMSC)に由来する細胞外小胞(Extracellular Vesicle、EV)である、請求項1に記載の無細胞組成物。
【請求項3】
前記生体分子は、胎盤由来の間葉幹細胞(pMSC)の細胞外小胞(EV)に含まれたmiRNAである、請求項1に記載の無細胞組成物。
【請求項4】
前記miRNAは、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-92b-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-223-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-1307-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-424-3p及びhsa-miR-23b-3pで構成された群から1つ以上選択されたものである、請求項3に記載の無細胞組成物。
【請求項5】
前記無細胞組成物に含まれる生体分子は、前記細胞外小胞及び前記miRNAから1つ以上選択されたものである、請求項3に記載の無細胞組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の無細胞組成物を含む、抗ウイルス組成物。
【請求項7】
前記ウイルスは、コロナウイルス、HIV、インフルエンザ、エンテロウイルス、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(Porcine reproductive and respiratory syndrome virus)、C型肝炎ウイルス及びウシウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus)からなる群から1つ以上選択されたものである、請求項6に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
前記コロナウイルスは、コロナ19ウイルス(NMC-nCoV02)またはSARSコロナウイルス(SARS-CoV-2)である、請求項7に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の抗ウイルス組成物を含む、ウイルス感染症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項10】
前記ウイルス感染症はコロナウイルス感染によるものである、請求項9に記載のウイルス感染症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項11】
請求項6に記載の抗ウイルス組成物を含む、ウイルス感染症の予防又は改善用食品組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載の無細胞組成物を含む、抗炎症用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤に由来する各種物質の種類及び効果に関し、より詳細には、胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicle、EV)、及び胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の間葉幹細胞(placental mesenchymal stem cell、pMSC)及びこれらに由来する細胞外小胞(EV)と、前記EVに含まれたmiRNA及びcargoを始めとする各種生体分子の種類及び効果に関するもので、前記EVに含まれたmiRNAが、コロナウイルスのRNAゲノムを効率的に分解して直接的な抗ウイルス効果を示すだけでなく、EV自体が保有した各種生体分子の抗炎症効果による間接的な様々なウイルス感染症の予防及び治療効果を確認することによってなされたものである。
【背景技術】
【0002】
胎盤、へその緒、及び臍帯血は、出産時に得ることができる胎児由来の組織及び幹細胞であり、特に、胎盤は、母体の子宮から脱落して生じる副産物であって、胎児と母体をつなぐ役割を行う。
【0003】
胎盤、へその緒及び臍帯血は、最近まで、出産後に廃棄される一時的な器官として認識されてきた。しかし、最近になって胎盤の部位別に間葉細胞、脱落膜(decidua)細胞、羊膜(amnion)、上皮細胞(endothelial cells)などの様々な細胞が存在することが明らかになっている。
【0004】
胎盤、へその緒、及び臍帯血には、必須アミノ酸、メラトニン、RNA及びDNAなどの核酸成分、抗酸化酵素であるSOD(super oxide dismutase)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、抗酸化剤、サイトカイン、インスリン様成長因子(insulin-like-growth factor)、表皮成長促進因子(EGF、epidermal growth factor)及び老化細胞活性因子(SCAF、senescent cell activating factor)が存在すると知られている。
【0005】
胎盤、へその緒、及び臍帯血は、胎児に伝える栄養分が豊富であり、母体の兔疫体系が胎児を攻撃することを防ぐ免疫抑制機能を有していることが知られている。
【0006】
一般に、胎盤、へその緒及び臍帯血は、母体あるいは胎児に対する診断に用いられた後に廃棄されるが、前記の胎盤の特性を医療分野で用いるために様々な方面で研究が進められている。
【0007】
韓医学では、昔から胎盤を‘紫河車(しかしゃ)’という名称で呼んでおり、身体が衰弱したときに胎盤を蒸して食べさせる処方があり、胎盤の豊富な栄養を用いるために、動物の胎盤から栄養を抽出して作った胎盤化粧品や、同様に動物の胎盤から栄養分を抽出して作った胎盤栄養剤などが現在商用化されている。
【0008】
医療分野では、ヒト胎盤を加水分解して作った薬剤が注射アンプルの形態で販売されているなど、胎盤の栄養分に焦点を合わせて様々な製品が開発されているが、胎盤に由来する細胞外小胞(EV)、及びその中に存在する様々な生体分子、特にmiRNAの観点では研究が不十分である。
【0009】
一方、現在まで行われた臨床試験において、従来のウイルス治療剤は、副作用が強いため軽症患者に処方し難いか、またはその効果が現れる程度まで高用量の抗ウイルス薬物を治療し難いという限界点が存在した。
【0010】
これによって、既存の抗ウイルス剤の副作用を克服し、さらに多くのウイルス特異的薬物を開発する必要性が台頭している実情である。
【0011】
この論文は、科学技術情報通信部の財源で韓国研究財団のバイオ及び医療技術開発事業の支援を受けて行われた研究である(No.2019M3A9H1103765)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1555981号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決するために、胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicle、以下、EV)、及び胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の間葉幹細胞(pMSC)及びこれらに由来する細胞外小胞(EV)と、前記EVに含まれたmiRNAを始めとする各種生体分子(cargoes)を特定及び分析することによって、抗炎症及び抗ウイルス効果を示す組成物を提供することに目的がある。
【0014】
本発明の他の目的は、コロナウイルスの遺伝体において突然変異が少ない3’UTR部分に結合することによって、頻繁な変異を引き起こすコロナウイルスの予防又は治療のための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、少なくとも1つの担体、賦形剤又は希釈剤と共に、胎盤、へその緒又は臍帯血から抽出した生体分子を含む、無細胞組成物(cell-free composition)を提供する。
【0016】
本発明において、前記生体分子は、タンパク質、ペプチド、抗原、抗体、タンパク質断片、DNA、RNA、細胞、微小小胞体及びその他の生体粒子から選択されるいずれか1つ以上を意味するもので、細胞外小胞及びmiRNAを含むことが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明において、前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。
【0018】
本発明の組成物は、細胞がないことを特徴とするところ、幹細胞を静脈内投与すると、塞栓症、血液の凝集及び免疫反応を誘発し得るので、このような観点で利点を有する。
【0019】
具体的には、前記生体分子は、胎盤、へその緒、臍帯血から直接的に得られたEV、及び胎盤、へその緒、臍帯血由来の間葉幹細胞(placental mesenchymal stem cell、pMSC)に由来する細胞外小胞(Extracellular Vesicle、EV)であってもよく、又は、前記生体分子は、組織由来のEV、組織抽出物由来のEV、及びpMSC-EVに含まれた77個のmiRNAとして、miR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p及びmiR-181a-5pなどで構成された群から1つ以上選択されたものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0020】
具体的には、前記77個のmiRNAは、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-197-3p、hsa-miR-92b-3p、hsa-miR-199a-3p、hsa-miR-181b-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-1307-3p、hsa-miR-139-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-let-7a-5p、hsa-miR-100-5p、hsa-miR-26a-5p、hsa-let-7i-5p、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-15a-5p、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-342-3p、hsa-miR-345-5p、hsa-miR-7-5p、hsa-miR-484、hsa-miR-328-3p、hsa-miR-22-3p、hsa-miR-324-3p、hsa-miR-744-5p、hsa-miR-451a、hsa-miR-423-5p、hsa-miR-423-3p、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-3615、hsa-miR-320c、hsa-miR-122-5p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-27a-3p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-150-5p、hsa-miR-99b-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-149-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-99a-5p、hsa-let-7c-5p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-1249-3p、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-425-5p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-191-5p、hsa-let-7g-5p、hsa-miR-15b-5p、hsa-miR-574-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-378a-3p、hsa-miR-146a-5p、hsa-miR-196b-5p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-29a-3p、hsa-miR-320a-3p、hsa-miR-30d-5p、hsa-miR-204-5p、hsa-let-7f-5p、hsa-let-7d-5p、hsa-let-7d-3p、hsa-miR-23b-3p、hsa-miR-27b-3p、hsa-miR-199b-3p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-221-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-223-3p、hsa-miR-652-3p及びhsa-miR-424-3pである。
【0021】
また、本発明の無細胞組成物は、前記生体分子として、細胞外小胞及び/又は前記77個種のmiRNAのうちの1種以上を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0022】
マイクロRNA(miRNA)は、塩基配列の長さ18~25個のヌクレオシド(Nucleotide)からなる小さなサイズの非コードRNAであって、miRNAがSARS-CoV-2のRNAゲノムを効率的に分解することによってウイルスを抑制できることを確認した。
【0023】
本発明者は、SARS-CoV-2の3’UTRと直接的に相互作用し、組織-EV(tissue-EV)、組織抽出物のEV(tissue extract EV)、MSC-EVに存在する77個のmiRNAを確認し、その中でSARS-CoV-2の3’UTRに結合する18個のmiRNAを選定し、その中でも発現レベルが高く、さらに強い結合を示す上位5個のmiRNAを選定した。
【0024】
具体的には、前記18個のmiRNAは、hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-92b-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-223-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-26b-5p、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-1307-3p、hsa-miR-155-5p、hsa-miR-185-5p、hsa-miR-424-3p及びhsa-miR-23b-3pであり、その中から選定された前記5個のmiRNAは、miR-92a-3p、miR-103a-3p、miR-181a-5p、miR-26a-5p及びmiR-23a-3pである。
【0025】
本発明の実施例では、これらの5個のmiRNAがいずれも、組織-EV(tissue-EV)、組織抽出物のEV(tissue extract EV)から発現されてSARS-CoV-2を成功裏に抑制することを確認した。
【0026】
また、組織-EV(tissue-EV)、組織抽出物のEV(tissue extract EV)、及びMSC-EVに存在する中胚葉由来の細胞外小胞(pMSC-EV)は、致命的なサイトカインストームを予防し、優れた再生効果を有すると知られている多くの抗炎症因子を含んでおり、実験の結果、EVが、ACE2受容体を発現すると知られている幾つかの宿主細胞で炎症性環境を調節して炎症反応を抑制することを確認した。
【0027】
本発明の他の態様は、前記無細胞組成物を含む、抗ウイルス組成物を提供する。
【0028】
具体的には、前記ウイルスは、コロナウイルス、HIV、インフルエンザ、エンテロウイルス、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(Porcine reproductive and respiratory syndrome virus)、C型肝炎ウイルス及びウシウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus)からなる群から1つ以上選択されたものであってもよく、より具体的には、コロナ19ウイルス(NMC-nCoV02)またはSARSコロナウイルス(SARS-CoV-2)であってもよいが、これに制限されない。
【0029】
本発明の更に他の態様は、前記抗ウイルス組成物を含む、ウイルス感染症の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0030】
具体的に、前記ウイルスはコロナウイルスであってもよいが、これに制限されない。
【0031】
前記薬学的組成物は、通常の薬学的組成物の調製に用いられる担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。
【0032】
前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、または鉱物油が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
また、前記組成物は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、又は、注射液、鼻噴霧(nasal spray)、吸入液体、クリーム(cream)、ゲル、軟膏(ointment)、坐薬、またはローション(lotion)の形態の非経口型剤形に製剤化して使用することができる。
【0034】
前記経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記miRNA組成物及びその分画物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、またはゼラチンなどを混合して調製することができる。前記賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤が使用されてもよい。
【0035】
前記経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが使用されてもよく、単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。
【0036】
前記非経口投与のための製剤としては、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が使用されてもよい。前記非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルが使用されてもよい。前記坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンが使用されてもよい。
【0037】
前記抗ウイルス組成物を含む薬学的組成物は、薬剤学的に有効な量が対象体に投与され得る。前記“薬剤学的に有効な量”は、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比で、疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路、排出割合、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素、及びその他の医学分野でよく知られている要素によって決定され得る。
【0038】
前記薬学的組成物は、個別治療剤として投与されてもよく、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤と順次又は同時に投与されてもよく、単一又は多重投与されてもよい。前記要素を全て考慮して、副作用なしに最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが好ましく、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0039】
本発明の治療用組成物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物の形態、投与の経路及び期間によって異なるが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって適宜選択され得る。好ましくは、本発明の治療用組成物は、EVの量を基準とする場合、1日投与を基準としてEVの数が102~1016個、より好ましくはEVの数が105~1012個となるように投与することができるが、これに制限されない。
【0040】
また、miRNAの量を基準とする場合、1日0.0001~1000mg/kgで、より効果的であるためには0.01~100mg/kgで投与することが好ましい。投与は、一日に1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。前記投与量及び投与回数は、いずれの面においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
本発明の他の態様は、前記抗ウイルス組成物を含む、ウイルス感染症の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0042】
本発明の抗ウイルス組成物は細胞外小胞(EV)を含むので、口腔で摂取しても体内にEV及びmiRNAが伝達され得るので、優れたウイルス感染症の予防及び治療効果を示すことができることを特徴とする。
【0043】
本発明において、食品とは、栄養素を1種又はそれ以上含有している天然物又は加工品を意味し、好ましくは、ある程度の加工工程を経て人又は動物が直接食べることができる状態になったものを意味し、通常の意味として、飲料、食品添加剤及び飲料添加剤を全て含むことを意図する。
【0044】
本発明の食品は、例えば、各種食品類、飲料、ガム、茶などがある。前記食品、飲料、食品添加剤及び飲料添加剤は、通常の製造方法により製造されてもよい。
【0045】
本発明において、飲料とは、渇きを解消したり、味を楽しんだりするために飲むものの総称であり、健康機能飲料を含むことを意図する。前記飲料は、指示された割合で必須成分として本発明の組成物を有効成分として含むこと以外に、他の成分には特に制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。
【0046】
前記の天然炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など、ジサッカライド、例えば、マルトース、スクロースなど、及びポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウディオサイドA、グリシルリジンなど))及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の組成物100ml当たり、一般に約1~20g、好ましくは5~12gであってもよい。その他に、本発明の組成物は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料、野菜飲料の製造のための果肉をさらに含有することができる。
【0047】
前記以外に、本発明の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。このような成分を独立して又は組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、胎盤、へその緒、臍帯血由来のEV、及び胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来の間葉幹細胞(pMSC)及びこれらに由来する細胞外小胞(EV)と、前記EVに内在されたmiRNA及びこれを含む組成物を提供し、これを使用してコロナウイルスの予防又は治療剤を開発する場合、1)本発明のmiRNAがコロナウイルスゲノムの3’UTRと高い特異度で結合するので、正常な組織及び臓器に及ぼす副作用がほとんどないと予想され、2)ウイルス遺伝体の3’UTRは、突然変異がほとんどなく、高い割合で保存される部位であるので、突然変異が頻繁なRNAウイルスでも突然変異に影響をあまり受けないので、RNAウイルスに普遍的に使用可能であり、3)EVに存在する様々な生体分子が、損傷した組織の再生及び免疫調節などの追加的な効果を示すので、これを用いた治療剤の効果が非常に優れると期待される。
【0049】
また、本発明の組成物は、前記の直接的な抗ウイルス効果以外にも、EVの内部に、炎症と関連する遺伝子との相互作用を通じて炎症を抑制する各種生体物質及びmiRNAを含むことができるので、ウイルス感染による症状を緩和させることができる間接的な効果を示すことができる。
【0050】
すなわち、本発明の組成物は、直接的なウイルス抑制効果と、ウイルス感染による炎症及びサイトカインストームを抑制できる間接的な治療効果との両方を示すことができることを特徴とし、ウイルス感染予防剤として使用可能である。
【0051】
本発明の効果は、上記の効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明又は特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能なすべての効果を含むものと理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】SARS-CoV-2ウイルスに対する組織-EV(tissue-EV)、組織抽出物のEV(tissue extract EV)、MSC-EV及びこれに含まれたmiRNAの抗ウイルス効果の作用メカニズムに関し、直接的な抗ウイルス効果は、SARS-CoV-2の3’UTR、5’UTRまたはコーディング配列のような領域にmiRNAが直接結合することによって、SARS-CoV-2のRNAの下向き調節をもたらす。間接的な抗ウイルス効果としては、EVに内在されたmiRNA及びタンパク質を介して炎症性mRNAの発現を調節し、これを通じて、損傷した組織を再生し、それらのmiRNA及びタンパク質を介して前炎症性環境を調節してサイトカインストームを抑制できることを確認した。
【
図2】pMSC-EVの特性を観察した結果を示した図である(A:pMSC-EVは、蛍光顕微鏡により測定されたCD63陽性。B:pMSC-EVの平均サイズは、1mlの抽出物において直径が121.8nmである。C:代表的なTEMイメージ。D:CD81、CD9、アネキシン(annexin)A2及びHSP70に対するpMSC-EVのウエスタンブロットの結果)
【
図3】本発明のmiRNAがSARS-CoV-2の3’UTRに結合できる潜在的な結合サイトを示した図である。
【
図4】本発明のmiRNAがEVに存在するか否かを確認するためにqPCR分析を行った結果を示した図である。
【
図5】本発明のEVの直接的な抗ウイルス効果を確認するためにルシフェラーゼ分析を行った結果を示した図である(A:PCR断片をルシフェラーゼORFと合成ポリ(A)配列との間のルシフェラーゼレポータープラスミドにクローニングして製造した組換えプラスミド。B:組換えプラスミドで形質感染されたSK-N-BE(2)C細胞での相対ルシフェラーゼ活性。)。
【
図6】様々なコロナウイルスに本発明のmiRNAが効果を示すかを確認した結果を示した図である(A:5個のコロナウイルスの3’UTR及びmiRNAの結合部位。B:本発明のmiRNAと他のウイルスとの相互作用。)。
【
図7】EV及びmiRNAの間接的な抗ウイルス効果を確認するための実験方法を簡略に示した図である。
【
図8】BEAS-2B(胃腸管の上皮細胞)にEV及びmiRNAを処理した後の効果を確認した結果を示した図である(A:EV、B:miRNA)。
【
図9】LL-24にEV及びmiRNAを処理する場合の保護及び回復効果を確認した結果を示した図である(A:EV、B:miRNA)。
【
図10】MEF(線維芽細胞)及びBV2(ミクログリア細胞株)の保護及び回復効果を確認した結果を
図10のA及びBにそれぞれ示した図である。
【
図11】ニューロン細胞であるM2にEVを処理した後の炎症関連因子の発現レベルを確認した結果を示した図である。
【
図12】PKH26で標識したEVを前記各細胞株に処理する前後の様子を撮影した図である。
【
図13】本発明のEV及びmiRNAが直接及び間接的な経路をいずれも用いてウイルス及びウイルス感染症状を治療又は改善する過程を概念図で示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0054】
実験方法及び材料
胎盤抽出物及びEVの収得
内科、産科または外科合併症の症状を示さないヒト胎盤を収得した。それぞれの胎盤を慎重に切開し、PBSで数回洗浄した後、機械的に粉砕し、37℃で30分間、0.5%コラゲナーゼIV(Sigma,St.Louis MO,USA)で分解(digest)して胎盤抽出物を獲得し、EVを収得した。
【0055】
細胞株及びウイルス
アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞の細胞株であるベロ細胞(Vero cell)が用いられた。細胞は、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium,Gibco,USA)で培養された。
【0056】
2020年2月初めにコロナ19の韓国内感染患者の呼吸器検体から分離したコロナ19ウイルス(NMC-nCoV02)及びSARS-CoV-2ウイルスをベロE6細胞に感染させ、ウイルス力価(titer)は、細胞変性効果(Cytopathic effect、CPE)に基づいて50%組織培養感染用量(TCID50)によって確認した。また、ウイルスに関する全ての実験は、生物安全レベル-3(BLS-3)実験室で行われた。
【0057】
細胞毒性分析
ベロ細胞に対するEVの細胞毒性効果は、MTT-assayによって評価された。
【0058】
具体的には、96ウェルプレートにて、ベロ細胞の単層はリン酸塩緩衝食塩水(PBS)で洗浄され、連続的な量のEVが処理された。ベロ細胞の1×104は、5%のCO2と、37℃で96ウェルプレートにて24時間培養し、吸光度は、プレートリーダーを用いて500nmから600nmまでの波長で測定された。
【0059】
細胞変性効果(CPE)の抑制効果の分析
ベロ細胞1×104を96ウェルにそれぞれ注入し、EVを含む培養溶液50μL、SARS-CoV-2ウイルスを含む50μLを37℃で72時間処理した。ウイルスで接種された細胞は対照群として用いられた。感染した細胞は、顕微鏡下で100%CPEで観察された。細胞は、1%クリスタルバイオレットで染色された。EV処理された細胞でCPEの百分率を計算し(陽性ウェル/総ウェル)、その結果を撮影した。
【0060】
ナノ粒子トラッキング分析
EVは、牛胎児血清(PBS)で最終1mLで希釈され、ZetaViewナノ粒子トラッキングビデオ顕微鏡(Particel Metrix,Inning、ドイツ)で検査された。EV又はナノ粒子に対するソフトウェア製造メーカーの基本設定を選択し、各測定に対して、3回スキャンした。
【0061】
EVの蛍光イメージング方法
EVは、EZ-Link Sulfo-NHS-LC LC-Biotin(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いてビオチン化(biotinylated)された。
【0062】
ビオチン化されたEVは、Zeba spin desalting columns 7 K MWCO(Thermo Scientific)にロードされて残りの自由ビオチンを除去した。
【0063】
染色のために、20μLのビオチン化されたEVが、ストレプトアビジン(streptavidin)でコーティングされたガラススライド(Arrayit Corporation)に描かれた円に加えられ、30分後、EVは、BD Fix Perm(BDバイオサイエンス)で固定処理し、0.2%のBSA-PBSでブロックした。
【0064】
EVの免疫蛍光染色を、抗ヒトCD63(1:100;米国テキサス州ダラス所在のサンタクルーズバイオテクノロジー(SC-5275))を用いて室温で2時間行い、次いで、室温で1時間、Alexa Fluor 488-接合された二次抗体と共にインキュベーションした。
【0065】
透過電子顕微鏡(TEM)イメージング方法
0.5μgのタンパク質を含有する希釈されたサンプルの5mlの分取量を、親水性グリッド上に滴下した。数分後、グリッドを蒸留水で洗浄し、2%酢酸ウラニルと20秒間対照した。80kVで作動するJEM-1010顕微鏡(JEOL)からイメージを取得した。
【0066】
ウエスタンブロッティング
EVを、プロテアーゼカクテル錠剤(Roche)及びホスファターゼ抑制剤II及びIII(Sigma)を含有する10×RIPA緩衝液に溶解させた。BCA分析法(Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク質の濃度を測定した。各サンプルの30μgの分取量に10%SDS-PAGEを行った後、ウエスタンブロッティングを行った。
【0067】
TBS-T中の10%脱脂乳で1時間ブロッティングをブロックした。次のような供給メーカーから、次のタンパク質に対する抗体を収得した:CD81(1:1,000,Santa Cruz Biotechnology)、Alix(1:1,000,Santa Cruz Biotechnology)、CD9(1:500,Santa Cruz)、及びGAPDH(1:10,000,sc-32233,Santa Cruz Biotechnology)。
【0068】
1次抗体をTBS-Tに希釈し、4℃で一晩中、ブロットと共にインキュベートした後、2次抗体と共に1時間インキュベーションした。強化化学発光HRP基質(enhanced chemiluminescent HRP substrate、Millipore)を用いて免疫反応性を検出した。
【0069】
細胞の培養
ヒト肝癌細胞株HepG2及びマウスミクログリア細胞株BV2は、American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,CA,USA)から購入した。両細胞株ともに、10%胎児牛血清(FBS、Gibco)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)が補充された成長培地(DMEM;Gibco,Carlsbad,CA,USA)で、5%CO2中で37℃で培養された。両細胞株ともに2~4日毎に継代された。
【0070】
正常肺細胞株LL24もATCCから収得した。LL24細胞は、10%FBS及び1%P/Sが補充されたRPMI-1640培地(Gibco/Life Technologies,USA,NY,USA)で、5%CO2の加湿雰囲気で37℃で成長させた。継代は3日毎に行われた。
【0071】
MEF細胞を13.5日目のマウス胚から単離した。MEF細胞を10%FBS、1%抗生剤抗真菌剤(250ng/mLアムホテリシン、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)、8μg/mlチロシン(Sigma)及び15μg/mLゲンタマイシン(Gibco)が補充されたDMEM培地で、5%CO2、37℃で培養した。MEF細胞は3日毎に継代され、継代2~5で用いられた。
【0072】
形質転換されたヒト気管支上皮細胞株BEAS-2Bを、5μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)と無血清1X定義されたケラチノサイトSFM(Gibco)で、5%CO2、37℃で培養した。培地は、2~3日毎に交換し、細胞は4~5日毎に継代した。
【0073】
ニューロンは、妊娠週数10週、12週、及び14週で母親の同意の下にヒト胎児組織から隔離された。ニューロンは、B27補充剤(Gibco)50μg/mL、ゲンタマイシン(Gibco)、ヒトbFGF、ヒトEGF20ng/mL(Peprotech)、トコフェロール及び酢酸トコフェロール1μg/mL(Sigma aldrich)が補充されたDMEM/F12(Gibco)培地で、37℃、5%CO2及び3%O2で培養した。
【0074】
EVにPKH26標識処理
EVは、一般的な細胞膜のためのPKH26赤色蛍光細胞リンカーキット(PKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit for General Cell Membranes,Sigma-Aldrich)で標識された。
【0075】
具体的には、EVペレットを希釈剤Cに200μg/mLで再懸濁させた後、染料溶液(2μLのPKH26エタノール染料及び500μLの希釈剤C)と1:1で5分間混合した。次に、同じ体積の1%牛血清アルブミン(BSA)を添加して過量の染料を結合させ、生成された溶液に7K MWCO Zebaスピン脱塩カラム(7K MWCO Zeba Spin Desalting Columns,Thermo Fisher Scientific)を用いて過量の染料を除去した。以降、サンプルを-80℃で貯蔵した。
【0076】
LPS及びEVの処理
実験のために、細胞は96ウェル又は6ウェルプレート(Nunc,Roskilde,Denmark)のウェルに同等の密度でシードされた。回復効果を決定するために、細胞は、LPS(MEFs及びBV2:0.5~2μg/mL、HepG2及びLL24:2又は4μg/mL)で刺激させた後、EVで24時間処理した。
【0077】
保護効果を決定するために、細胞は、EVで24時間前処理された後、LPSで24時間刺激した。24時間インキュベーションした後、細胞をMTT分析又はRNAの抽出に適用した。
【0078】
miRNA形質感染(transfection)
miRNAを形質感染させるために、6×104~2×105の細胞を24ウェルプレートにシードし、20nMのmiRNA(hsa-miR-92a-3p、hsa-miR-26a-5p、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-103-3p、及びhsa-miR-181-5p)(バイオニア)で感染させ、Pre-miR miRNA陰性対照群は、リポフェクタミン3000を代わりに使用した。
【0079】
MTT分析
EVの細胞毒性は、MTT分析によって評価された。簡略に、細胞を96ウェルプレートにシードし、指示された濃度のEVで処理し、LPSで24時間刺激した。培養上清液を除去した後、生成された暗青色の結晶をDMSOで溶解させた。570nmで吸光度を測定した。
【0080】
RNAの抽出及び定量的PCR(qPCR)
qPCRのための全(total)RNAをBV2、MEF、HepG2、LL24、BEAS-2B及びニューロン細胞から抽出し、miRNAをEVから抽出した。TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて全RNAの抽出を行った。
【0081】
cDNAキット(iNtRON)を用いて1μgの全RNAからcDNAを合成した。トータルエクソソームRNA及びタンパク質分離キット(Thermo Fisher Scientific)を用いてmiRNAを抽出した後、miScript II RT(Qigen)を用いて逆転写させた。
【0082】
PCR及びqPCRのために、炎症と関連する遺伝子のプライマーを設計した。反応混合物(総体積20μL)は、10μMのプライマー混合物、低いROXを有するSYBR-グリーン(Enzynomics)、ヌクレアーゼがない水(アンビオン)及び2μLのcDNAを含有した。条件は、次の通りであった。95℃で10分の変性/活性化段階に続いて、95℃で15秒、56℃で30秒、72℃で20秒のサイクルを40回繰り返した。StepOne Real-Time PCR機器(Applied Biosystems)で反応を行った。遺伝子発現の定量化は、それぞれのサンプルに対するCT値に基づいた。
【0083】
形質感染及びレポーター分析
SARS-CoV-2ゲノムの3’UTRの208bp断片は、バイオニクスによって合成された。3’UTR断片をXba Iで分解し、pGL3-対照群(Promega)においてホタルルシフェラーゼ遺伝子の下流に挿入してpGL3covi-3UTR_Lucを収得した。
【0084】
全ての構築物はシーケンシングによって確認された。ヒト神経芽細胞腫SK-N-BE(2)C細胞を、10%FBSが補充されたDMEMで維持させた。全ての培養培地は、100U/mLのペニシリン及び100mg/mLのストレプトマイシンを含有した。形質感染のために、細胞を形質感染1日前に抗生剤非含有のDMEMで24ウェルプレートに1.2×105細胞/ウェルでプレーティングした。リポフェクタミン2000(Invitrogen)で形質感染を行った。DNAの総量は、ウェル当たり0.5μgであり、内部対照群として0.2μgのpGL3covi-3UTR_Luc及び0.3μgのpRSV βgalで構成された。それぞれの形質感染はまた、標識されたmiRNAを含有した。形質感染後、24時間後、各ウェルからの細胞を、100μLの溶解緩衝剤(25mMの三リン酸[pH7.8]、2mMのDTT、2mMのCDTA[1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸]、10%グリセロール及び1%トリトンX-100)で溶解させた。同じ体積のホタルルシフェラーゼ基質を添加し、ルシフェラーゼの活性をルミノメータープレートリーダーで測定し、βガラクトシダーゼ活性に対して正規化した。
【0085】
RNAシーケンシング及びデータ処理
small RNA配列分析は、8種の異なる条件のhpMSC培地及び2つの胎盤組織抽出物から収得された細胞外小胞(EV)を用いて行った。シーケンシングは、北京遺伝体研究所(BGI,Shenzhen,China)のBGISeq-500で行われた。サブリードアライナ(subread aligner)を用いてリードをヒト参照ゲノム(GRCh38)に整列させ、miRNAリードカウントを得るために、featureCountsツールを用いた。miRNAリード回数を標準化し、低発現miRNAをedgeR Rパッケージを用いて濾過した。それぞれのmiRNAの発現をCPM(counts per million)で変形させた。qrqc Rパッケージを用いてリードの品質管理を行い、sRNAtoolboxを用いてsmall RNA頻度の分布を収得した。
【0086】
miRNA標的予測及び機能の分析
3’UTRでmiRNAのバインディングサイトに対する調査のために、PITAツール(Kertesz外。2007)を用いた。
【0087】
SARS-CoV-2完全ゲノム配列(NC_045512.2)は、NCBI基準配列のデータベース(O’LearyO’Leary et al,2016)から収得し、3’UTR配列は、SARS-CoV-2完全ゲノムから抽出された。
【0088】
我々は、miRNAのバインディングサイトを予測するために、基本設定値のPITAツールを用いた。
【0089】
新しいmiRNA結合サイトは、miRDBユーザ指定予測ツール(Chen and Xiaowei,2020)によって予測された。
【0090】
miRNAsの生物学的機能を決定するために、miRTarBase(Huang et al.2020)からmiRNAsの実験的に検証された標的を得、1%未満の小さな割合を構成するmiRNAは分析から除外した。
【0091】
miRNAの生物学的機能を調べるために、DAVID Bioinformatics Resource 6.8(Huang et al.,2009)を用いてGO term及びKEGG pathway分析を行った。
【0092】
機能の分析結果は、Cytoscape 3.8及びPathview Rパッケージを用いて視覚化した。
【0093】
ACE2発現の分析
ヒト組織及び細胞株の発現データは、ヒトタンパク質アトラスデータベース(Human Protein Atlas database)から収得された(Uhlen et al.,2015)。発現データを用いて、各細胞又は組織類型のACE2発現を調べた。
【0094】
保存されたmiRNA結合部位の分析
SARS-CoV-2においてmiRNA結合部位の保存された領域を調べるために、NCBI参照配列データベースから3’UTR配列を収得し、SARS-CoV-2と関連するウイルスの3’UTR配列を用いた。
【0095】
具体的には、SARSコロナウイルス(NC_004718.3)、SARS-CoV-2(NC_045512.2)、SARSコロナウイルスBJ01(AY278488.2)、コウモリSARSコロナウイルスHKU3-1(DQ022305.2)、コウモリSARS類似コロナウイルスSL-CoVZC45(MG772933.1)及びコウモリSARS類似コロナウイルスSL-CoVZXC21(MG772934.1)が用いられた。
【0096】
コロナウイルスの3’UTRシーケンスは、MUSCLEツール(Edgar et al.,2004)を用いて整列され、MUSCLEの分析に基本値が用いられた。
【0097】
統計分析
統計分析は、ANOVAに続いて、RでTukeyのHSD事後テストを用いて行われた。ヒートマップは、hpMSC-EVでmiRNAのlog2-CPMを発現し、gplots Rパッケージを用いて生成された(Warnes et al.,2015)。GO用語分析及びKEGG経路分析のP値は、Benjamini-Hochberg方法を用いた多重比較のために修正された。データは、平均の平均±標準誤差として提示され、p値又は調整されたp値<0.05は有意のものと見なされた。
【0098】
以下では、前記の実験方法によって確認した本発明の効果について図面と共に詳細に説明する。ただし、このような説明は、本発明の理解を助けるためのもので、本発明が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0099】
実施例1.SARS-CoV-2ウイルスに対する胎盤-EVのmiRNAのウイルス抑制のメカニズム
図1は、SARS-CoV-2ウイルスに対する胎盤-EVのmiRNAの抗ウイルス効果の作用メカニズムを示したものである。SARS-CoV-2に対する直接的な抗ウイルスメカニズムは、miRNAがウイルスの3’UTR、5’UTRまたはコーディング区域に直接結合することによって、SARS-CoV-2のRNAの下向き調節を誘導してなされる。また、間接的な治療効果として、サイトカインストームを抑制するために、炎症性mRNAsの発現の調節を含む。
【0100】
すなわち、本発明では、間葉幹細胞(MSC)由来のEV及びこれに含まれたmiRNAとタンパク質分子が、損傷した組織を再生し、miRNAs及び抗炎症性環境を調節することを確認した。
【0101】
pMSCから分離されたEVは、一般的なEVマーカーであるCD63に対して陽性であった(
図2のA)。EVのサイズは、ナノ粒子トラッキング分析(NTA)及び透過電子顕微鏡検査法(TEM)によって分析された。
【0102】
ナノ粒子トラッキング分析(NTA)によって測定されたエクソソームの流体力学的直径は121.8nm(
図2のB)であり、代表的なTEMイメージは
図2のCに示した。EVマーカーのウエスタンブロッティングによって分離されたEVの追加の特性は、CD81、CD9、annexin A2及びHSP70のような典型的なEVマーカーを示した(
図2のD)。
【0103】
実施例2.SARS-CoV-2ウイルスと結合するmiRNAの選別
ウイルスのゲノムがヒトmiRNAによって標的とすることができるという事実に基づいて、本発明者は、EVにあるmiRNAがSARS-CoV-2の3’UTRと相互作用できるか否かを確認した。
【0104】
SARS-CoV2の3’UTRには、miR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p及びmiR-181a-5pに対するバインディングサイトが含まれている。
【0105】
具体的には、SARS-Cov-2の3’UTRシーケンスを整列し、MicroInspectorソフトウェアを用いて配列を分析した。その結果、PITAソフトウェアによって総18個のmiRNAがSARS-Cov-2の3’UTRをターゲットとし(表1)、27個のmiRNAがSARS-CoV-2ウイルスの全ゲノム部位に結合されると予測された(表2)。
【0106】
【0107】
前記表1は、SARS-Cov-2の3’UTRをターゲットとする18個のmiRNAの目録を示した。
【0108】
【0109】
表2は、SARS-CoV-2ウイルスの全ゲノム部位に結合されると予測される27個のmiRNAの目録を示したものである。前記表2において、発現度(expression%)は、当該miRNA CPM/総miRNA CPMで計算し、点数(score)が高いほど結合可能性が高くなり、参考文献によれば、80点以上の点数を示すと、実際に結合することができる。
【0110】
下記の表3では、SARS-CoV-2のゲノム内の結合部位に関する情報及び結合予測の結果を示した。5個のmiRNA(miR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p、miR-181a-5p)は、熱力学エネルギーの点数とPITA及びmiRDBの2つの予測ツールの高い点数に基づいて選択された。
【0111】
【0112】
PITAを用いて、最終的に選定された5個のmiRNAであるmiR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p及びmiR-181a-5pがSARS-CoV-2の3’UTRに結合できる潜在的な結合サイトを予測した(
図3のA及びB)。PITAを用いて、このようなmiRNAsのそれぞれの総自由エネルギーを得た。例えば、3‘UTRに対するmiR-181a-5pの結合エネルギーは、microRNA標的混成化エネルギーで-18.7kcal/molであり、これは、miRNAと3’UTRの結合が自発的に進行することを示唆する。低い結合熱力学エネルギー(kcal/mol)は、さらに強い結合を示す。
【0113】
次に、前記5個のmiRNAがEVに存在するかを確認するために、qPCR分析を行った(
図4)。その結果、EVでのmiRNAがmiR-92a-3p、miR-181a-5p、miR-26a-5p、miR-23a-3p及びmiR-103a-3pの順に高く発現されたことを確認した。すなわち、miR-92a-3p及びmiR-181a-5pの発現は、予測値と同じ順序で有意にさらに高かった。このような結果は、EVが5個のmiRNAを含んでいるので、それ自体でもSARS-CoV-2に対する治療剤として使用できることを示唆するものである。
【0114】
実施例3.EV及びmiRNAの直接的な抗ウイルス効果の確認
前記実施例2で選定したそれぞれの個別の特定のmiRNA又は5個のmiRNAsが、SARS-CoV-2のゲノムと直接的に相互作用できるか否かを確認するために、ルシフェラーゼ分析を行った。
【0115】
ルシフェラーゼ-レポーター分析を行って、個別の特異的miRNA又は5個のmiRNAのそれぞれがSARS-CoV-2のゲノムと直接的に相互作用できるかを確認した。
【0116】
PCR断片をルシフェラーゼORFと合成ポリ(A)配列との間のルシフェラーゼレポータープラスミドにクローニングした。組換えプラスミドは、pGL3 SARS-CoV-3’-UTR_Lucと命名された(
図5のA)。次いで、組換えプラスミドをヒト神経芽細胞腫SK-N-BE(2)C細胞に形質感染させ、形質感染48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0117】
図5Bに示されたように、組換えプラスミドで形質感染されたSK-N-BE(2)C細胞での相対的なルシフェラーゼ活性は、空のpsi-controlベクターで形質感染された細胞のものに比べて非常に減少した(ps<0.0001)。
【0118】
具体的には、相対的なルシフェラーゼ活性は、コロナウイルスの3’UTRが5個のmiRNA又は5個のmiRNAのそれぞれの発現ベクターでDF-1細胞に同時形質感染されたとき、下向き調節された。このような結果から、psi-59UTRのルシフェラーゼ活性の著しい減少を確認した。
【0119】
前記実験の結果は、miR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p及びmiR-181a-5pが、SARS-CoV-2の3’UTRに結合して有意なサイレンシングを誘発することを意味する。
【0120】
このような結果に基づいて、5個のmiRNAは、いずれも、SARS-CoV-2の3’UTRに直接結合することを確認し、miR-92a-3p、miR-26a-5p、miR-23a-3p、miR-103a-3p及びmiR-181a-5pで構成された群から1つ以上選択されたmiRNAは、SARS-CoV-2ウイルスゲノムを分解できるので、SARS-CoV-2の感染を抑制することを確認した。
【0121】
実施例4.様々なコロナウイルス及び他のウイルスに対する直接的な抗ウイルス能の確認
コロナウイルスのファミリーにわたって3’UTR配列が保存され、miRNA標的部位が全てのコロナウイルスにわたって保存されるという仮説を確認するために、5個のコロナウイルスを無作為に選択し、3’UTR領域のシーケンスをMUSCLEツールを用いて比較した。
【0122】
図6のAに示されたように、5個のコロナウイルスの3’UTRは、ほとんど保存されて変異の程度が大きくなく、特に、5個のmiRNAsと結合すると予想される結合部位(赤いボックスで表示)も非常に良好に保存されたことを確認した。
【0123】
すなわち、様々なコロナウイルスの3’UTRを確認した結果、3’UTRには突然変異がほとんど発生せず、miRNAの結合率が高いという点を勘案すると、5個の選択されたmiRNAは、突然変異によって新たに生成されたウイルスにも適用され得る普遍的なウイルス抑制能力を有するようになると思われる。
【0124】
また、EVの様々なmiRNAは、既に他のウイルスと相互作用することが知られている(
図6のB)。
【0125】
具体的には、miR-150-5p、miR-223-3p及びmiR-29-3pは、HIVと相互作用することによって、ウイルス翻訳及び最後のレイテンシーT細胞を抑制することが立証された。
【0126】
miR-23b-3pは、エンテロウイルス71の翻訳をブロックし、Let-7c-5pは、インフルエンザウイルスに重要なマトリックスタンパク質を減少させることが知られている。
【0127】
miR-181a-5p、miR-181b-5p、miR-23a-3p、miR-23b-3p及びmiR-378a-3pは、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルスを分解する。
【0128】
miR-122-5p及びlet-7c-5pは、それぞれ、C型肝炎ウイルス及びウシウイルス性下痢ウイルスを抑制する。
【0129】
すなわち、EV及びEVに含まれた様々なmiRNAは、様々なウイルス及び突然変異の頻度が低い3’UTRに結合することによって抑制効果を示すところ、このような結果は、EVが様々なウイルス感染に対する一般的な治療及び予防治療剤として使用され得ることを示唆するものである。
【0130】
実施例5.EV及びmiRNAの間接的な抗ウイルス効果の確認
コロナウイルスを始めとする呼吸器システムを感染させるウイルスは、ACE2受容体を発現する細胞に浸透して細胞損傷を引き起こし得る。
【0131】
ACE2受容体は、主に肝、腎臓、男性生殖組織、筋肉組織、そして、胃腸管に存在するため、このような対象臓器がウイルスによって損傷し得る。最近、臨床研究において、多数の患者が肝損傷や器官損傷が多く発生していることから見て、このような主張を裏付ける。
【0132】
中国の武漢の子供病院の重患者室で治療中のCOVID-19患者8名のうち6名は、C反応性タンパク質、プロカルシトニン及び脱水素酵素が増加した。そして、8名のうち4名が異常な肝機能を示した。これらの患者のうち3名からは、サイトカインストームが発見され、重症患者でさらに深刻なものと示された。
【0133】
他の研究は、651名の患者のうち74名(11.4%、平均年齢46.14才)が、吐き気、嘔吐または下痢のような少なくとも1つの胃腸管(GI)症状を示し、10.8%は、肝疾患を患っていることが確認された。
【0134】
また、74名のCOVID-19患者のうち29名(39.19%)が高熱(38.5℃)、23名(31.08%)が疲労、8名(10.81%)が呼吸困難、16名(21.62%)が頭痛を訴えた。
【0135】
このような結果から推察できるように、ACE2受容体は、LL24(肺線維芽細胞)、BEAS-2B細胞(GI上皮細胞)及び肝細胞から発現された。また、Brain Atlasデータベースによって明らかになったように、脳でのACE2の発現レベルについては十分に研究されておらず、実際にその発現レベルが低くても、前記臨床結果に基づいて考慮すると、脳がSARS-CoV-2の標的器官である可能性が高いと予想した。これと類似に、脳腫瘍細胞ではACE2が高く発現されるので、このような点は、脳細胞がウイルスのターゲットとなり得ることを示唆する。
【0136】
したがって、様々なEV由来のmiRNAの間接的な抗ウイルス効果を確認するために、肝細胞、GI細胞及び脳細胞のようなSARS-COV2による過免疫反応を経ると予想される細胞を対象として実験を行った。
【0137】
具体的な実験方法及び細胞培養方法などは、前述した通りであり、簡略に説明すると、細胞株にEV及びmiRNAを処理した後、24時間後にLPSを処理して、EV及びmiRNAの保護効果を確認し、逆に、LPSを先に処理した後、24時間後にEV及びmiRNAを処理することによって回復効果を確認した(
図7)。
【0138】
実施例6.EV及びmiRNAの抗炎症及びサイトカインストーム抑制効果
BEAS-2B(胃腸管の上皮細胞)、LL24(肺細胞株)、HepG2(肝癌細胞株)、MEF(線維芽細胞)、BV2(ミクログリア細胞株)及びM2(ニューロン細胞)を対象として、LPS及びEVの処理の有無を異ならせて、EV及びmiRNAの抗炎症及びサイトカインストーム抑制効果を実験し、その結果を
図8乃至
図12に示した。
【0139】
BEAS-2B(胃腸管の上皮細胞)にEVを処理した後、LPSを処理して保護効果を確認した結果を
図8のAに示した。その結果、炎症性因子であるIL-1、IL-6、IL-8及びTNF-aはいずれも、EVを処理していない場合と比較して、相対的発現が著しく減少することを確認した。
【0140】
また、
図8のBに示されたように、5個のmiRNAをそれぞれ処理した後にLPSを処理して保護効果を確認した。その結果、miRNA 181aを処理した場合、IL-1、IL-6及びIL-8の発現が著しく減少することを確認した。
【0141】
LL-24にEVを処理する場合の保護及び回復効果を確認した結果を
図9のAに示した。その結果、EVを処理する場合、炎症性因子であるIL-1、IL-6及びIL-8はいずれも、その発現が著しく減少して、保護及び回復効果がいずれも優れることを確認した。特に回復効果が非常に優れることを確認した。
【0142】
また、
図9のBに示されたように、5個のmiRNAをそれぞれLL-24に処理した後、LPSを処理して保護効果を確認した。その結果、miRNA-181aを処理した場合、IL-6の発現が対照群と同じレベルに著しく減少することを確認した。
【0143】
MEF(線維芽細胞)及びBV2(ミクログリア細胞株)の保護及び回復効果を確認した結果を、
図10のA及びBにそれぞれ示した。MEF及びBV2の両方とも、EV処理によって、炎症因子であるIL-1、IL-6及びTNF-aが著しく減少することを確認した。
【0144】
ニューロン細胞であるM2にEVを処理した後の炎症関連因子の発現レベルを確認した結果を
図11に示した。その結果、IL-1のみが著しい効果を示すことを確認した。
【0145】
図12は、PKH26で標識したEVを前記各細胞株に処理する前後の様子を撮影したもので、EVが各細胞と成功裏に結合(fusion)された様子を確認した。
【0146】
すなわち、前記の結果を総合してみると、本発明のEV及びEVに含まれたmiRNAは、それぞれ又はすべてが共に炎症性因子の発現を抑制する効果を示すので、抗炎効果を示すだけでなく、過剰免疫反応であるサイトカインストームを抑制できる効果を有することを確認した。
【0147】
実施例7.EV及びmiRNAのウイルス感染症の治療効果
本発明のEV及びmiRNAは、直接及び間接的な経路をいずれも用いてウイルス及びウイルス感染症状を治療又は改善することができる(
図13)。
【0148】
本発明者らは、前記の各種実験を通じて、胎盤、へその緒、臍帯血、胎盤由来のEV、及びこれらの組織から得られた幹細胞(pMSC)及びこれらに由来するEVが、肺の病理学的損傷だけでなく、他の類型の肺炎及びウイルス感染症を大きく改善できることを確認した。
【0149】
特に、EVは、幹細胞の再生効果因子を含有しているので、肺炎の治療において間葉幹細胞と類似の治療メカニズムを発揮するが、遥かに安全であると見なされる。
【0150】
具体的には、間葉幹細胞を静脈内投与すると、塞栓症、血液の凝集を誘発し得るが、EVは、200nm~108nmのサイズにより、幹細胞よりも非常に安全であり、EV自体が幹細胞よりもさらに安定的であり、貯蔵しやすく、悪性又は有害細胞に転換されず、免疫反応を引き起こす可能性が少ないという利点がある。
【0151】
また、本発明の実験結果を通じて、組織-EV(tissue-EV)、組織抽出物のEV(tissue extract EV)及びpMSC-EVに含まれたmiRNAがウイルスゲノムに直接結合してRNAウイルスの転写を抑制することによって、増殖を抑制できるということを確認した。
【0152】
EVのmiRNAの他の重要な機能として、様々なEVに存在する77個のmiRNAは、免疫反応を刺激するmRNAを標的とするため、ウイルスによって転写されるRNA(Viral RNAs)を除去する効果を示すことができ、直接的な抗ウイルス効果のみならず、間接的な効果も非常に強力である。
【0153】
また、本発明のmiRNAは、Viral RNAと結合するだけでなく、前炎症性遺伝子と相互作用することによって、炎症性因子の発現を著しく抑制することによってサイトカインストームを解決することができる。
【0154】
また、本発明のmiRNAは、IFN-α/βのレベルを上向き調節できる効果を示すので、IFN-α/β信号経路を抑制してホスト免疫反応を回避するウイルスの感染を抑制することができる。
【0155】
そして、様々なEVのmiRNA18個は、SARS-CoV-2の3’UTRと直接的に相互作用し、EVに由来する15個の主要なmiRNAがSARS-CoV-2を成功裏に抑制するということを立証した。
【0156】
コロナウイルスに感染した何人かの患者は、呼吸器関連の主要な現象以外に、肝損傷及び胃腸損傷が現れた。武漢にあるJinyintan病院にいる99名の患者のうち43名は肝機能が損傷し、その中で1名は、肝が非常にひどく損傷した。軽症患者の肝機能の損傷は明らかでないが、重症患者では、主要な肝数値であるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)の数値が悪化した。
【0157】
したがって、直接的なウイルスの抑制能だけでなく、胎盤、へその緒、臍帯血由来のEVが保有している抗炎症などの効果がシナジー効果を発揮することができるため、胎盤由来のEVをコロナウイルスの治療剤として使用すれば、著しく優れた治療効果を示すものと期待される。
【0158】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるであろう。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されてもよく、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されてもよい。
【0159】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるすべての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈しなければならない。
【国際調査報告】