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特表2022-534895ケイ素、マグネシウム、銅及び亜鉛を有するアルミニウム合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】ケイ素、マグネシウム、銅及び亜鉛を有するアルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20220728BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220728BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20220728BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20220728BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20220728BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22C21/10
C22C21/12
C22F1/04 A
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 611
C22F1/00 612
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 640A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569878
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 US2020033806
(87)【国際公開番号】W WO2020247178
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/858,209
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520119242
【氏名又は名称】アーコニック テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ARCONIC TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホッシュ,ティモシー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブライアント,ジェイムズ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ムーイ,ダーク シー.
(57)【要約】
新規アルミニウム合金を開示している。新規アルミニウム合金は、0.70~1.4重量%のSiと、0.70~1.3重量%の Mgと、ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.40以下であり、0.70~3.0重量%のZnと、0.55~1.3重量%のCuと、ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、0.01~0.30重量%のFeと、最大0.70重量%のMnと、最大0.15重量%のCrと、最大0.20重量%のZrと、最大0.20重量%のVと、最大0.25重量%のTiとを含み得、残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物である。当該新規アルミニウム合金は、強度、成形性、及び/又は耐食性の組み合わせの改善などの、性質の組み合わせの改善を実現し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金シート製品であって、
0.70~1.4重量%のSiと、
0.70~1.3重量%のMgと、
ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.4:1以下であり、
0.70~3.0重量%のZnと、
0.55~1.3重量%のCuと、
ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、
0.01~0.30重量%のFeと、
最大0.70重量%のMnと、
最大0.15重量%のCrと、
最大0.20重量%のZrと、
最大0.20重量%のVと、
最大0.25重量%のTiと、を含み、
残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物であり、
前記アルミニウム合金シート製品が、1.0~4.0mmの厚さを有し、
当該アルミニウムシート製品が、以下の性質:
(i)7日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下(「TYS-7NA」)、
(ii)90日間の自然時効処理でTYS-LTが175MPa以下(「TYS-90NA」)、
(iii)(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと20MPa以下、
(iv)30日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも235MPa、
(v)90日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも230MPa、
(vi)30日間自然時効処理し、次いで180℃で8時間人工時効処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも350MPa、のうちの少なくとも一つを実現する、アルミニウム合金シート製品。
【請求項2】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のSi、又は少なくとも0.80重量%のSi、又は少なくとも0.85重量%のSiを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項3】
アルミニウム合金が、1.35重量%以下のSi、又は1.30重量%以下のSi、又は1.25重量%以下のSi、又は1.20重量%以下のSi、又は1.15重量%以下のSi、又は1.10重量%以下のSi、又は1.05重量%以下のSiを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項4】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のMg、又は少なくとも0.80重量%のMgを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項5】
アルミニウム合金が、1.25重量%以下のMg、又は1.20重量%以下のMg、又は1.15重量%以下のMg、又は1.10重量%以下のMg、又は1.05重量%以下のMgを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項6】
(Mgの重量%)/(Siの重量%)が1.3:1以下、又は1.2:1以下である、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項7】
(Mgの重量%)/(Siの重量%)が少なくとも0.7:1、又は少なくとも0.8:1、又は少なくとも0.9:1である、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項8】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のZn、又は少なくとも0.85重量%のZn、又は少なくとも0.95重量%のZn、又は少なくとも1.0重量%のZn、又は少なくとも1.05重量%のZnを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項9】
アルミニウム合金が、2.8重量%以下のZn、又は2.6重量%以下のZn、又は2.4重量%以下のZn、又は2.2重量%以下のZn、又は2.0重量%以下のZn、又は1.8重量%以下のZnを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項10】
アルミニウム合金が、少なくとも0.60重量%のCu、又は少なくとも0.65重量%のCu、又は少なくとも0.70重量%のCuを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項11】
アルミニウム合金が、1.25重量%以下のCu、又は1.20重量%以下のCu、又は1.15重量%以下のCu、又は1.10重量%以下のCu、又は1.05重量%以下のCuを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項12】
アルミニウム合金が、少なくとも0.05重量%のFe、又は少なくとも0.10重量%のFe、又は少なくとも0.12重量%のFeを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項13】
アルミニウム合金が、0.25重量%以下のFe、又は0.22重量%以下のFe、又は0.19重量%以下のFe、又は0.16重量%以下のFeを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項14】
アルミニウム合金が、少なくとも0.05重量%のMn、又は少なくとも0.10重量%のMn、又は少なくとも0.15重量%のMnを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項15】
アルミニウム合金が、0.60重量%以下のMn、又は0.50重量%以下のMn、又は0.45重量%以下のMn、又は0.40重量%以下のMnを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項16】
アルミニウム合金が、0.12重量%以下のCr、又は0.10重量%以下のCr、又は0.08重量%以下のCr、又は0.06重量%以下のCr、又は0.04重量%以下のCr、又は0.03重量%以下のCr、又は0.02重量%以下のCr、又は0.01重量%以下のCrを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項17】
アルミニウム合金が、0.15重量%以下のZr、又は0.10重量%以下のZr、又は0.08重量%以下のZr、又は0.05重量%以下のZr、又は0.03重量%以下のZrを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項18】
アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のZrを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項19】
アルミニウム合金が、0.15重量%以下のV、又は0.10重量%以下のV、又は0.08重量%以下のV、又は0.05重量%以下のV、又は0.03重量%以下のVを含む、請求項1のいずれかのアルミニウム合金シート製品。
【請求項20】
アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のVを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項21】
アルミニウム合金が、0.12重量%以下のTi、又は0.10重量%以下のTiを含む、請求項1のいずれかのアルミニウム合金シート製品。
【請求項22】
アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のTi、又は少なくとも0.02重量%のTi、又は少なくとも0.05重量%のTiを含む、請求項1のいずれかのアルミニウム合金シート製品。
【請求項23】
請求項1記載の前記アルミニウム合金シート製品から作製された、自動車用シート製品。
【請求項24】
自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも二つを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項25】
前記自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも三つを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項26】
前記自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも四つを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項27】
前記自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも五つを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項28】
前記自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちのすべてを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項29】
当該シート製品が、性質(i)を実現し、またそこで性質(i)が155MPa以下、又は150MPa以下、又は145MPa以下である、請求項23のいずれかの自動車用シート製品。
【請求項30】
当該シート製品が、性質(ii)を実現し、またそこで性質(ii)が175MPa以下、又は170MPa以下、又は165MPa以下、又は160MPa以下、又は155MPa以下である、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項31】
当該シート製品が、性質(iii)を実現し、またそこで性質(iii)が20MPa以下、又は18MPa以下、又は15MPa以下、又は12MPa以下、又は10MPa以下、又は8MPa以下である、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項32】
当該シート製品が、性質(iv)を実現し、またそこで性質(iv)が、少なくとも235MPa、又は少なくとも240MPa、又は少なくとも250MPa、又は少なくとも255MPa、又は少なくとも260MPa、又は少なくとも265MPa、又は少なくとも270MPaである、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項33】
当該シート製品が、性質(v)を実現し、またそこで性質(v)が、少なくとも230MPa、又は少なくとも235MPa、又は少なくとも240MPa、又は少なくとも245MPa、又は少なくとも250MPaである、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項34】
当該シート製品が、性質(vi)を実現し、またそこで性質(vi)が、少なくとも350MPa、又は少なくとも355MPa、又は少なくとも360MPa、又は少なくとも365MPa、又は少なくとも370MPaである、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項35】
当該シート製品が、質別T43で、少なくとも15%の伸び、又は少なくとも18%の伸び、又は少なくとも20%の伸び、又は少なくとも22%の伸び、又は少なくとも24%の伸び、又は少なくとも26%の伸び、又は少なくとも28%の伸びを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項36】
当該シート製品が、180℃で20分間の塗装焼付処理後に、少なくとも10%の伸び、又は少なくとも12%の伸び、又は少なくとも14%の伸び、又は少なくとも16%の伸び、又は少なくとも18%の伸び、又は少なくとも20%の伸びを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項37】
当該シート製品が、180℃で8時間の人工時効処理後に、少なくとも10%の伸び、又は少なくとも11%の伸び、又は少なくとも12%の伸び、又は少なくとも13%の伸び、又は少なくとも14%の伸び、又は少なくとも15%の伸びを実現する、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項38】
当該シート製品が、粒間腐食に耐性を示す、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項39】
当該シート製品が、糸状腐食に耐性を示す、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項40】
シート製品はクラックが無い、請求項23記載の自動車用シート製品。
【請求項41】
アルミニウム合金シート製品であって、
0.85~1.05重量%のSiと、
0.80~1.10重量%のMgと、
0.70~1.8重量%のZnと、
0.70~1.05重量%のCuと、
ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、
0.01~0.30重量%のFeと、
最大0.50重量%のMnと、
最大0.15重量%のCrと、
最大0.20重量%のZrと、
最大0.20重量%のVと、
最大0.25重量%のTiと、を含み、
残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物であり、
前記アルミニウム合金シート製品が、1.0~4.0mmの厚さを有する、アルミニウム合金シート製品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
6xxx系アルミニウム合金は、ケイ化マグネシウム(MgSi)析出を生成する、ケイ素及びマグネシウムを有するアルミニウム合金である。6061合金は、数十年の間、様々な用途に使用されてきた。しかし、他の性質を劣化させることなくアルミニウム合金の一つまたは複数の性質を改善することについては、はっきりされていない。自動車用途では、熱処理前には優れた成形性を有するが熱処理後には高い強度を備えるものであるシートが有用となる。
【発明の概要】
【0002】
総じて、本特許出願は、新規のアルミニウム合金及びその製造方法に関する。当該新規アルミニウム合金は概して、0.70~1.4重量%のSiと、0.70~1.3重量%のMgと、ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.40以下であり、0.70~3.0重量%のZnと、0.55~1.3重量%のCuと、ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、0.01~0.30重量%のFeと、最大0.70重量%のMnと、最大0.15重量%のCrと、最大0.20重量%のZrと、最大0.20重量%のVと、最大0.25重量%のTiとを含み、残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物である。新規アルミニウム合金は、例えば自然時効処理後の強度、塗装焼付強度、T6強度、成形性、延性、及び耐食性のうち、二つ以上の組み合わせの改善などである、性質の組み合わせの改善を実現し得る。新規アルミニウム合金は、例えば、自動車用途(例えば、シート製品として)などの様々な用途に使用され得る。
【0003】
<i.組成>
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、概して、0.70~1.4重量%のSiと、0.70~1.3重量%のMgと、ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.40以下であり、0.70~3.0重量%のZnと、0.55~1.3重量%のCuと、ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、0.01~0.30重量%のFeと、最大0.70重量%のMnと、最大0.15重量%のCrと、最大0.20重量%のZrと、最大0.20重量%のVと、最大0.25重量%のTiとを含み(また一部の例においては、実質的にこれらからなり、又はこれらからなり)、残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物である。これら特定の量の元素を使用することで、例えば熱処理前には優れた成形性が必要とされ、熱処理後には高い強度も必要とされるような自動車用途での使用に関して、固有で有用な製品が得られるものであり得る。
【0004】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は概して、0.70~1.4重量%のSiを含む。ケイ素は強度を促進することができる。以下の実施例で示すように、この範囲を超えたケイ素の使用は有害であり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.75重量%のSiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.80重量%のSiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.85重量%のSiを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.35重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.30重量%以下のSiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.25重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.20重量%以下のSiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.15重量%以下のSiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.10重量%以下のSiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.05重量%以下のSiを含む。
【0005】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は概して、0.70~1.3重量%のMgを含む。マグネシウムは強度を促進することができる。以下の実施例で示すように、この範囲を超えたマグネシウムの使用は有害であり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.75重量%のMgを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.80重量%のMgを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.25重量%以下のMgを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.20重量%以下のMgを含む。さらに別の実施形態において、新規アルミニウム合金は、1.15重量%以下のMgを含む。別の実施形態において、新規アルミニウム合金は、1.10重量%以下のMgを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.05重量%以下のMgを含む。
【0006】
上記に示すとおり、Mg:Siの重量比は、概して1.4:1以下である。適切なMg:Si比が、適用可能な強度レベルにおいて耐食性を促進することができる。以下の実施例で示すように、この範囲を超えたMg:Si比の使用は有害であり得る。一実施形態では、Mg:Siの重量比は1.3:1以下である。別の実施形態では、Mg:Siの重量比は1.2:1以下である。一実施形態では、Mg:Siの重量比は少なくとも0.7:1である。別の実施形態では、Mg:Siの重量比は少なくとも0.8:1である。さらに別の実施形態では、Mg:Siの重量比は少なくとも0.9:1である。
【0007】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は概して0.70~3.0重量%のZnを含む。亜鉛は、強度及び適切な自然時効応答を促進することができる。以下の実施例で示すように、この範囲を超えた亜鉛の使用は有害であり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.75重量%のZnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.85重量%のZnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.95重量%のZnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも1.0重量%のZnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも1.05重量%のZnを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、2.8重量%以下のZnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、2.6重量%以下のZnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、2.4重量%以下のZnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、2.2重量%以下のZnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、2.0重量%以下のZnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.8重量%以下のZnを含む。
【0008】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は概して、0.55~1.3重量%のCuを含む。銅は、強度、耐食性、及び自然時効応答を促進することができる。以下の実施例で示すように、この範囲を超えた銅の使用は有害であり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.60重量%のCuを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.65重量%のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.70重量%のCuを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.25重量%以下のCuを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.20重量%以下のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.15重量%以下のCuを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.10重量%以下のCuを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.05重量%以下のCuを含む。
【0009】
上記に示すとおり、合金中の溶質は制限され、Si+Mg+Zn+Cuの総量は、4.25重量%以下である。以下の実施例で示すように、過剰な溶質の使用は有害であり得る。したがって、記載の限度値である。
【0010】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は概して、0.01~0.30重量%のFeを含む。鉄は、適切な結晶粒構造を促進することができ、0.10重量%より多いFe、鉄を用いることで、対費用効果が高いものとなり得る。この範囲を超える鉄の使用は、対費用効果が高くなく、かつ/又は有害であり得る。アルミニウム合金製品の製造中の大きい一次粒子が回避/制限/限定されるように、合金中の鉄の量を制限することが必要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のFeを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.10重量%のFeを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.12重量%のFeを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.25重量%以下のFeを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.22重量%以下のFeを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.19重量%以下のFeを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.16重量%以下のFeを含む。
【0011】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、最大0.70重量%のMnを含み得る。マンガンは、適切な結晶粒構造を促進することができる。この範囲を超えるマンガンの使用は有害であり得る。アルミニウム合金製品の製造中の大きい一次粒子が回避/制限/限定されるように、合金中のマンガンの量を制限することが必要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のMnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.10重量%のMnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.15重量%のMnを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.60重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.50重量%以下のMnを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.45重量%以下のMnを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.40重量%以下のMnを含む。
【0012】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、0.15重量%以下のCrを含む。0.15重量%より多いクロムの使用は、結晶粒構造に害を及ぼし得、また合金のリサイクル性に問題が生じ得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.12重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.10重量%以下のCrを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.08重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.06重量%以下のCrを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.04重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.03重量%以下のCrを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.02重量%以下のCrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.01重量%以下のCrを含む。
【0013】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、0.20重量%以下のZrを含む。ジルコニウムは、結晶粒構造の制御に関してはマンガンよりも望ましくないが、依然として有用であり得る。アルミニウム合金製品の製造中の大きい一次粒子が回避/制限/限定されるように、合金中のジルコニウムの量を制限することが必要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.15重量%以下のZrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.10重量%以下のZrを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.08重量%以下のZrを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.03重量%以下のZrを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.01重量%以下のZrを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のZrを含む(例えば、Zrが結晶粒構造の制御のために合金に添加/使用される場合)。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のZrを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.07~0.15重量%のZrを含む。
【0014】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、0.20重量%以下のVを含む。バナジウムは、結晶粒構造の制御に関してはマンガンよりも望ましくないが、依然として有用であり得る。アルミニウム合金製品の製造中の大きい一次粒子が回避/制限/限定されるように、合金中のバナジウムの量を制限することが必要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.15重量%以下のVを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.10重量%以下のVを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.08重量%以下のVを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.03重量%以下のVを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.01重量%以下のVを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のVを含む(例えば、Vが結晶粒構造の制御のために合金に添加/使用される場合)。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のVを含む。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.07~0.15重量%のVを含む。
【0015】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、0.25重量%以下のTiを含む。チタンは、結晶粒の微細化のために鋳造中に使用され得る。より高濃度のチタンはまた、耐食性を促進し得る。合金製品の製造中の大きい一次粒子が回避/制限/限定されるように、合金中のチタンの量を制限することが必要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.005重量%のTiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のTiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.02重量%のTiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、少なくとも0.05重量%のTiを含む。一実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.20重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.15重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.12重量%以下のTiを含む。さらに別の実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.10重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.08重量%以下のTiを含む。さらに別の実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.05重量%以下のTiを含む。別の実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.03重量%以下のTiを含む。一実施形態では、新しい新規アルミニウム合金は、0.005~0.10重量%のTiを含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.01~0.05重量%のTiを含む。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、0.01~0.03重量%のTiを含む。チタンは、元素形態であっても又は化合物形態(例えば、TiB又はTiC)であってもよい。
【0016】
上記に示すとおり、アルミニウム合金の残部は、概して、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物である。本明細書で使用される場合、「不可避元素」とは、上に列挙された元素以外の、随意に合金に添加して合金の製造を補助することができる元素又は材料を意味する。不可避元素の例としては、結晶粒微細化剤及び脱酸剤などの鋳造助剤が挙げられる。随意の不可避元素は、最大1.0重量%の累積量で合金中に含まれ得る。一つの非限定的な例として、一つまたは複数の不可避元素を、例えば酸化物のフォールド(oxide fold)、ピット(pit)、及び酸化物のパッチ(oxide patches)に起因するインゴットのクラック発生を低減又は制限する(及び一部の例においては排除する)ために、鋳造中に合金に添加することができる。これらのタイプの不可避元素は、概して、本明細書では脱酸剤と称する。一部の脱酸剤の例としては、Ca、Sr、及びBeが挙げられる。カルシウム(Ca)が合金中に含まれる場合、概して、最大約0.05重量%、又は最大約0.03重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、Caは、0.001~0.03重量%又は約0.05重量%の量、例えば約0.001~0.008重量%(又は10~80ppm)等、で合金中に含まれる。ストロンチウム(Sr)を、Caの代用として(全体的又は部分的に)合金中に含めることができ、すなわちCaと同量又は同様の量で合金中に含めることができる。従来、ベリリウム(Be)の添加は、インゴットのクラック発生の傾向を低減するのに役立ったが、環境、健康、及び安全上の理由から、合金のいくつかの実施形態は、実質的にBeを含まない。Beが合金中に含まれる場合、概して、最大約20ppmの量で存在する。不可避元素は、わずかな量で存在し得るか、又は有意な量で存在し得、また合金が本明細書に記載の望ましい特性を保持する限り、本明細書に記載の合金から逸脱することなく、不可避元素自体で望ましい又は他の特性を加え得る。しかしながら、本明細書における所望の獲得される性質の組み合わせに別段に影響を及ぼさないであろう量の元素が単に添加されることでは、本開示の範囲は回避されるべきではない/回避され得ないことが理解されるべきである。
【0017】
新規アルミニウム合金は、少量の不純物を含有し得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、合計で0.15重量%以下の不純物を含み、またそこで当該新規アルミニウム合金は、各不純物を0.05重量%以下で含む。別の実施形態では、新規アルミニウム合金は、合計で0.10重量%以下の不純物を含み、またそこで当該新規アルミニウム合金は、各不純物を0.03重量%以下で含む。
【0018】
<ii.加工処理(processing)>
新規アルミニウム合金は、例えば、インゴット又はインゴット片、展伸製品形態(板状、鍛造物、及び押出成形物)、成形鋳造物、付加的製造製品、ならびに粉末冶金製品を含む、様々な製品形態で有用であり得る。例えば、新規アルミニウム合金は、例えば圧延形態(シート、板状)、押出成形物、又は鍛造物等の様々な展伸形態(wrought forms)へと、様々な質別(temper)で、加工処理され得る。これに関して、新規アルミニウム合金は、鋳造(例えば、直接チル鋳造又は連続鋳造)され、その後、適切な製品形態(シート、板状、押出成形物、又は鍛造物)へと加工(熱間加工及び/又は冷間加工)され得る。加工後、その新規アルミニウム合金を、ANSI H35.1(2009)に従って、質別T、質別W、又は質別Fのうちの一つに加工処理してもよい。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、「質別T」に加工処理される(熱処理される)。これに関して、その新規アルミニウム合金を、ANSI H35.1(2009)に従って、質別T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7、T8、T9又はT10のいずれかに加工処理することができる。一実施形態では、製品は、質別T43に加工処理される(例えば、以下の実施例に従って)。別の実施形態では、製品は、質別T6に加工処理される(例えば、以下の実施例に従って)。他の実施形態では、新規アルミニウム合金は、「質別W」に加工処理される(溶体化熱処理される)。別の実施形態では、アルミニウム合金を適切な製品形態に加工した後には溶体化熱処理は適用されず、それゆえ、その新規アルミニウム合金を、「質別F」に処理してもよい(二次加工されるものとして)。
【0019】
一実施形態では、新規アルミニウム合金は、シート製品である。一実施形態では、当該シート製品の厚さは1.0~4.0mmである。一実施形態では、シート製品は、質別T4に加工処理される。一実施形態では、シート製品は、質別T43に加工処理される。一実施形態では、シート製品は、質別T43に加工処理され、その後、塗装焼付け(例えば、180℃で20分間加熱することによって)される。一実施形態では、シート製品は、質別T43に加工処理され、その後、塗装焼付けされ、次いで質別T6に人工時効処理(例えば、180℃で8時間加熱することによって)される。こうしたシート製品は、以下でさらに詳細に説明するように、自動車用途に有用であり得る。
【0020】
<iii.性質>
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金は、性質の組み合わせの改善を実現し得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金は、1.0~4.0mmの厚さを有するシート製品であり、このアルミニウム合金のシート製品は、以下の性質のうちの少なくとも一つを実現する:
(i)七日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下(「TYS-7NA」)、
(ii)九十日間の自然時効処理でTYS-LTが175MPa以下(「TYS-90NA」)、
(iii)(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと20MPa以下、
(iv)30日間の自然時効処理後、180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも235MPa、
(v)90日間の自然時効処理後、180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも230MPa、
(vi)30日間の自然時効処理後、180℃で8時間人工時効処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも350MPa。
一実施形態では、アルミニウム合金シート製品は、上記性質(i)~(vi)のうちの少なくとも二つを実現する。別の実施形態では、アルミニウム合金シート製品は、上記性質(i)~(vi)のうちの少なくとも三つを実現する。さらに別の実施形態では、アルミニウム合金シート製品は、上記性質(i)~(vi)のうちの少なくとも四つを実現する。別の実施形態では、アルミニウム合金シート製品は、上記性質(i)~(vi)のうちの少なくとも五つを実現する。さらに別の実施形態では、アルミニウム合金シート製品は、上記性質(i)~(vi)のうちの全てを実現する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「TYS-LT」は、ASTM E8及びB557に従って測定される、製品の長手横断方向の引張降伏強度(0.2%オフセット)を意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「TYS-7NA」は、七日間の自然時効処理での製品の長手横断方向の引張降伏強度を意味する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「TYS-90NA」は、九十日間の自然時効処理での製品の長手横断方向の引張降伏強度を意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「塗装焼付(paint baking)」は、塗料又はその上の他のポリマーを硬化させるために当該製品に熱を加えることである。典型的な自動車の塗装焼付は、180℃に加熱して、次いで180℃で20分間保持し(例えば、炉内で)、その後周囲温度まで空冷することである。
【0025】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金シート製品は、七日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-7NA≦155MPa)。自然時効処理後に低強度であることは、材料のその後の形成(例えば、自動車用シート構成要素への)を可能にするために重要である。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、7日間の自然時効処理でTYS-LTが150MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-7NA≦150MPa)。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、七日間の自然時効処理でTYS-LTが145MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-7NA≦145MPa)。
【0026】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金シート製品は、九十日間の自然時効処理でTYS-LTが175MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-90NA≦175MPa)。自然時効処理後に低強度であることは、材料のその後の形成(例えば、自動車用シート構成要素への)を可能にするために重要である。さらに、自動車用シート製品は、数か月間にわたって在庫となる場合があるため、自然時効応答/強度は、長期間にわたって低いものである/低いままである必要がある。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、九十日間の自然時効処理でTYS-LTが170MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-90NA≦170MPa)。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、九十日間の自然時効処理でTYS-LTが165MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-90NA≦165MPa)。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、九十日間の自然時効処理でTYS-LTが160MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-90NA≦160MPa)。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、九十日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下であることを実現し得る(すなわち、TYS-90NA≦155MPa)。
【0027】
上記に示すとおり、自然時効応答(natural aging response)は低い必要がある。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと20MPa以下であることを実現し得る。すなわち、シート製品の強度は、7日間の自然時効処理から90日間の自然時効処理までで20MPa以下だけ増加する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと18MPa以下であることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと15MPa以下であることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと12MPa以下であることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと10MPa以下であることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと8MPa以下であることを実現し得る。
【0028】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合にTYS-LTが少なくとも235MPaであることを実現し得る。(本明細書では、「30日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合」という句を「30日間NA+塗装焼付」と省略する。)塗装焼付処理は概して、自然時効処理の後及び製品が形成された後に生じるため、塗装焼付処理後の強度が高いことが重要となり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも240MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも245MPaであることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも250MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも255MPaであることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも260MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも265MPaであることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも270MPaであることを実現し得る。
【0029】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金シート製品は、90日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも230MPaであることを実現し得る。(本明細書では、「90日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合」という句を「90日間NA+塗装焼付」と省略する。)それは塗装焼付後に低くなる強度低下に重要であり得る(例えば、製品が高強度を保持することを確実にするため)。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、90日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも235MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、90日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも240MPaであることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、90日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも245MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、90日間NA+塗装焼付で、TYS-LTが少なくとも250MPaであることを実現し得る。
【0030】
上記に示すとおり、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間自然時効処理し、次いで180℃で8時間人工時効処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも350MPaであることを実現し得る。(本明細書では、「30日間自然時効処理し、180℃で8時間人工時効処理をした場合」という句を「30日間NA+AA」と省略する。)一部の実施形態では、ある製品(例えば、自然時効処理をした製品及び/又は塗装焼付処理をした製品)に人工時効処理をし、その強度を増加させることが有用であり得、高強度を達成することが重要であり得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+AAで、TYS-LTが少なくとも355MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+AAで、TYS-LTが少なくとも360MPaであることを実現し得る。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+AAで、TYS-LTが少なくとも365MPaであることを実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、30日間NA+AAで、TYS-LTが少なくとも370MPaであることを実現し得る。
【0031】
人工時効処理によるT6質別処理は、任意の適切な期間の間及び任意の適切な温度で加熱することであり得る。一実施形態では、T6質別は、上に示すように、180℃で8時間又は実質的に類似した時効処理条件で加熱することである。当業者によって理解されるように、時効処理の温度及び/又は時間は、周知の時効処理の原理及び/又は式に基づいて調節され得る。したがって、当業者は、時効処理温度を上昇させる一方で時効処理時間は減少させることができ、又はその逆であり、又はこれらのパラメータのうちの一方のみをわずかに変更し、そしてそれでもなお「温度180℃で8時間の時効処理」と同じ結果を達成する。「温度180℃で8時間の時効処理」と同じ結果を達成するであろう人工時効処理の手法は多数あるため、こうしたすべての代替的な時効処理の手法は本明細書で列挙していない。「又は実質的に同等の人工時効処理の温度及び期間」の句又は「又は実質的に同等の手法」の句の使用は、こうした代替的な時効処理の手法をすべて取り込むために使用される。理解され得るように、これらの代替的な人工時効処理の工程は、一つまたは複数の工程で、かつ一つまたは複数の温度で、生じ得る。
【0032】
新規アルミニウム合金シートはまた、延性及び耐食性など、他の重要な性質も実現し得る。一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、ASTM E8及びB557に従って試験された場合、質別T43で少なくとも15%の伸び(4D)を実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも18%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも20%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも22%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも24%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも26%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T43で少なくとも28%の伸びを実現する。
【0033】
一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、ASTM E8及びB557に従って試験された場合、塗装焼付条件(例えば、T43+塗装焼付)において少なくとも10%の伸び(4D)を実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、塗装焼付条件において少なくとも12%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、塗装焼付条件において少なくとも14%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、塗装焼付条件において少なくとも16%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、塗装焼付条件において少なくとも18%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、塗装焼付条件において少なくとも20%の伸びを実現する。
【0034】
一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、ASTM E8及びB557に従って試験された場合、質別T6で少なくとも10%の伸び(4D)を実現し得る。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T6で少なくとも11%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T6で少なくとも12%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T6で少なくとも13%の伸びを実現する。さらに別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T6で少なくとも14%の伸びを実現する。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、質別T6で少なくとも15%の伸びを実現する。
【0035】
一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、耐食性である。一実施形態では、耐食性は、少なくとも耐粒間腐食性(intergranular corrosion resistance)である。別の実施形態では、耐食性は、少なくとも耐糸状腐食性(filiform corrosion resistance)である。別の実施形態では、耐食性は、耐粒間腐食性及び耐糸状腐食性の両方である。耐粒間腐食性は、ASTM G110に従って測定するものとする(5つの試験片)。耐糸状腐食性は、ASTM G85-2に従って測定されるものであり、サンプルを3週間曝露した後、三つの別個の切り込み(scribe)のそれぞれに対して垂直である最も長い糸状腐食の耐性を決定するものである。
【0036】
耐粒間腐食性との関係では、一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、最大腐食深さが225マイクロメートル以下、及び平均腐食深さが150マイクロメートル以下であることを実現する。
【0037】
耐糸状腐食性との関係では、一実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、最大の腐食痕長さ(track length)が0.35インチ以下であることを実現するが、少なくとも8腐食痕で試験するものである。別の実施形態では、新規アルミニウム合金シート製品は、最大腐食痕長さが0.30インチ以下であることを実現するが、少なくとも8腐食痕で試験するものである。
【0038】
本明細書に開示される固有の組成と、適切な加工処理とにより、新規アルミニウム合金製品は、形成後にクラック無し(crack-free)とすることができる(例えば、自動車用パネルなどの自動車構成要素へとプレス/形成されたとき)。一実施形態では、新規アルミニウム合金製品は、形成後にクラックが無く(例えば、自動車用のパネル/構成要素へとプレス/形成されたとき)、強力であり(塗装焼付処理及び/又はT6質別処理後、及び上記に規定されるとおり)、そして耐食性であるものである。
【0039】
<iv.製品用途>
本明細書に記載される新規アルミニウム合金は、自動車、鉄道、航空宇宙、又は消費家電用途などの様々な用途に使用され得る。例えば、新規アルミニウム合金は、自動車部品へと形成することができる。自動車部品の非限定的な例としては、車体及び自動車用パネルが挙げられる。自動車用パネルの非限定的な例としては、とりわけ、自動車ドア、自動車フード、又は自動車トランク(デッキリッド)で使用するための、外側パネル、内側パネルを挙げることができる。自動車の車体製品の一例には、構造的な構成要素があり得、これは、車体(例えば、ホワイトボディ(body-in-white))のシート金属構成要素を一緒に溶接する際に使用されてもよい。新規アルミニウム合金は、軽トラック又は大型トラックなどの他の輸送用途にも使用され得る。消費家電製品用途には、他の型押し製品及び成形製品のうち、ノートパソコンのケース、バッテリーケースが含まれる。
【0040】
<v.代表的な、非限定的な項>
以下は、一つまたは複数の発明を規定するいくつかの非限定的な代表的な項である。これら項は、非限定的な例であり、当該記載した事項に本明細書に開示する発明を限定することを意図するものではなく、それに限定するものではない。実際に、本明細書に記載される主題のいずれかを使用して、一つまたは複数の発明を規定することができる。
【0041】
項1.アルミニウム合金シート製品であって、
0.70~1.4重量%のSiと、
0.70~1.3重量%のMgと、
ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.4:1以下であり、
0.70~3.0重量%のZnと、
0.55~1.3重量%のCuと、
ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、
0.01~0.30重量%のFeと、
最大0.70重量%のMnと、
最大0.15重量%のCrと、
最大0.20重量%のZrと、
最大0.20重量%のVと、
最大0.25重量%のTiと、を含み、
残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物であり、
アルミニウム合金シート製品が、1.0~4.0mmの厚さを有し、
当該アルミニウムシート製品が、以下の性質:
(i)7日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下(「TYS-7NA」)、
(ii)90日間の自然時効処理でTYS-LTが175MPa以下(「TYS-90NA」)、
(iii)(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと20MPa以下、
(iv)30日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも235MPa、
(v)90日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも230MPa、
(vi)30日間自然時効処理し、次いで180℃で8時間人工時効処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも350MPa、のうちの少なくとも一つを実現する、アルミニウム合金シート製品。
【0042】
項2.アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のSi、又は少なくとも0.80重量%のSi、又は少なくとも0.85重量%のSiを含む、項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【0043】
項3.アルミニウム合金が、1.35重量%以下のSi、又は1.30重量%以下のSi、又は1.25重量%以下のSi、又は1.20重量%以下のSi、又は1.15重量%以下のSi、又は1.10重量%以下のSi、又は1.05重量%以下のSiを含む、項1から2に記載のアルミニウム合金シート製品。
【0044】
項4.アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のMg、又は少なくとも0.80重量%のMgを含む、項1から3のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0045】
項5.アルミニウム合金が、1.25重量%以下のMg、又は1.20重量%以下のMg、又は1.15重量%以下のMg、又は1.10重量%以下のMg、又は1.05重量%以下のMgを含む、項1から4のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0046】
項6.(Mgの重量%)/(Siの重量%)が1.3:1以下、又は1.2:1以下である、項1から5のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0047】
項7.(Mgの重量%)/(Siの重量%)が少なくとも0.7:1、又は少なくとも0.8:1、又は少なくとも0.9:1である、項1から6のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0048】
項8.アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のZn、又は少なくとも0.85重量%のZn、又は少なくとも0.95重量%のZn、又は少なくとも1.0重量%のZn、又は少なくとも1.05重量%のZnを含む、項1から7のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0049】
項9.アルミニウム合金が、2.8重量%以下のZn、又は2.6重量%以下のZn、又は2.4重量%以下のZn、又は2.2重量%以下のZn、又は2.0重量%以下のZn、又は1.8重量%以下のZnを含む、項1から8のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0050】
項10.アルミニウム合金が、少なくとも0.60重量%のCu、又は少なくとも0.65重量%のCu、又は少なくとも0.70重量%のCuを含む、項1から9のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0051】
項11.アルミニウム合金が、1.25重量%以下のCu、又は1.20重量%以下のCu、又は1.15重量%以下のCu、又は1.10重量%以下のCu、又は1.05重量%以下のCuを含む、項1から10のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0052】
項12.アルミニウム合金が、少なくとも0.05重量%のFe、又は少なくとも0.10重量%のFe、又は少なくとも0.12重量%のFeを含む、項1から11のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0053】
項13.アルミニウム合金が、0.25重量%以下のFe、又は0.22重量%以下のFe、又は0.19重量%以下のFe、又は0.16重量%以下のFeを含む、項1から12のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0054】
項14.アルミニウム合金が、少なくとも0.05重量%のMn、又は少なくとも0.10重量%のMn、又は少なくとも0.15重量%のMnを含む、項1から13のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0055】
項15.アルミニウム合金が、0.60重量%以下のMn、又は0.50重量%以下のMn、又は0.45重量%以下のMn、又は0.40重量%以下のMnを含む、項1から14のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0056】
項16.アルミニウム合金が、0.12重量%以下のCr、又は0.10重量%以下のCr、又は0.08重量%以下のCr、又は0.06重量%以下のCr、又は0.04重量%以下のCr、又は0.03重量%以下のCr、又は0.02重量%以下のCr、又は0.01重量%以下のCrを含む、項1から15のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0057】
項17.アルミニウム合金が、0.15重量%以下のZr、又は0.10重量%以下のZr、又は0.08重量%以下のZr、又は0.05重量%以下のZr、又は0.03重量%以下のZrを含む、項1から16のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0058】
項18.アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のZrを含む、項1から17のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0059】
項19.アルミニウム合金が、0.15重量%以下のV、又は0.10重量%以下のV、又は0.08重量%以下のV、又は0.05重量%以下のV、又は0.03重量%以下のVを含む、項1から18のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0060】
項20.アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のVを含む、項1から19のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0061】
項21.アルミニウム合金が、0.12重量%以下のTi、又は0.10重量%以下のTiを含む、項1から20のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0062】
項22.アルミニウム合金が、少なくとも0.01重量%のTi、又は少なくとも0.02重量%のTi、又は少なくとも0.05重量%のTiを含む、項1から21のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品。
【0063】
項23.項1から22のいずれかに記載のアルミニウム合金シート製品から作製された、自動車用シート製品。
【0064】
項24.自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも二つを実現する、項23に記載の自動車用シート製品。
【0065】
項25.自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも三つを実現する、項23に記載の自動車用シート製品。
【0066】
項26.自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも四つを実現する、項23に記載の自動車用シート製品。
【0067】
項27.自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちの少なくとも五つを実現する、項23に記載の自動車用シート製品。
【0068】
項28.自動車用シート製品が、性質(i)から(vi)のうちのすべてを実現する、項23に記載の自動車用シート製品。
【0069】
項29.シート製品が、性質(i)を実現し、またそこで性質(i)が155MPa以下、又は150MPa以下、又は145MPa以下である、項23から28のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0070】
項30.シート製品が、性質(ii)を実現し、またそこで性質(ii)が175MPa以下、又は170MPa以下、又は165MPa以下、又は160MPa以下、又は155MPa以下である、項23から29のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0071】
項31.シート製品が、性質(iii)を実現し、またそこで性質(iii)が20MPa以下、又は18MPa以下、又は15MPa以下、又は12MPa以下、又は10MPa以下、又は8MPa以下である、項23から30のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0072】
項32.シート製品が、性質(iv)を実現し、またそこで性質(iv)が、少なくとも235MPa、又は少なくとも240MPa、又は少なくとも250MPa、又は少なくとも255MPa、又は少なくとも260MPa、又は少なくとも265MPa、又は少なくとも270MPaである、項23から31のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0073】
項33.シート製品が、性質(v)を実現し、またそこで性質(v)が、少なくとも230MPa、又は少なくとも235MPa、又は少なくとも240MPa、又は少なくとも245MPa、又は少なくとも250MPaである、項23から32のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0074】
項34.シート製品が、性質(vi)を実現し、またそこで性質(vi)が、少なくとも350MPa、又は少なくとも355MPa、又は少なくとも360MPa、又は少なくとも365MPa、又は少なくとも370MPaである、項23から33のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0075】
項35.シート製品が、質別T43で、少なくとも15%の伸び、又は少なくとも18%の伸び、又は少なくとも20%の伸び、又は少なくとも22%の伸び、又は少なくとも24%の伸び、又は少なくとも26%の伸び、又は少なくとも28%の伸びを実現する、項23から34のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0076】
項36.シート製品が、180℃で20分間の塗装焼付処理後に、少なくとも10%の伸び、又は少なくとも12%の伸び、又は少なくとも14%の伸び、又は少なくとも16%の伸び、又は少なくとも18%の伸び、又は少なくとも20%の伸びを実現する、項23から35のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0077】
項37.シート製品が、180℃で8時間の人工時効処理後に、少なくとも10%の伸び、又は少なくとも11%の伸び、又は少なくとも12%の伸び、又は少なくとも13%の伸び、又は少なくとも14%の伸び、又は少なくとも15%の伸びを実現する、項23から36のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0078】
項38.シート製品が、粒間腐食に耐性を示す、項23から37のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0079】
項39.シート製品が、糸状腐食に耐性を示す、項23から38のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0080】
項40.シート製品はクラックが無い、項23から37のいずれかに記載の自動車用シート製品。
【0081】
<vi.種々の事項>
この新規技術のこれら態様及び他の態様、利点、ならびに新規の特徴は、以下に続く、以下の説明及び図面の考察により当業者に明らかになることとなる説明において一部記載されており、又は本開示によって提供される技術の一つまたは複数の実施形態を実施することによって学習され得る。
【0082】
開示されているそれら利点及び改善点の中でも、本発明の他の目的及び利点は、添付の図面と共に以下の説明から明らかになることとなる。本発明の詳細な実施形態は、本明細書に開示されているが、しかしながら、開示された実施形態は、様々な形態で具現化され得る本発明を単に例示するものであることを理解されたい。さらに、本発明の様々な実施形態に関連して掲げる各実施例は、例示として、また限定的ではないことを意図する。
【0083】
明細書及び特許請求の範囲全体を通して、以下の語は、文脈において別段の明らかな指示がない限り、本明細書に明確に関連する意味を取る。本明細書で使用される「一実施形態では」及び「いくつかの実施形態では」という句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らないが、そうである場合もある。さらに、本明細書で使用する「別の実施形態では」及び「いくつかの他の実施形態では」という句は、必ずしも異なる実施形態を指すとは限らないが、そうである場合もある。したがって、本発明の様々な実施形態は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、容易に組み合わせてもよい。
【0084】
加えて、本明細書で使用される場合、「又は」の語は包括的な「or(又は)」の機能語であり、文脈において別段の明らかな指示がない限り、「及び/又は」の語と同等である。「に基づく」という語は排他的ではなく、文脈において別段の明らかな指示がない限り、記述されていない追加的な要素に基づくことができる。さらに、本明細書全体を通して、「a」、「an」、及び「the」は、文脈において別段の明らかな指示がない限り、複数形の意味を含む。「in」は、文脈において別段の明らかな指示がない限り、「in」及び「on」の意味を含む。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明してきたが、これらの実施形態は例示的なものにすぎず、限定的なものではなく、また多くの変形が当業者に明らかになり得ることを理解されたい。さらに、文脈において明らかに別のやり方を必要とする場合を除き、様々な工程が任意の望ましい順序で実行され得、また任意の適用可能な工程が追加及び/又は除去されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0086】
三十個の合金を6インチ×18インチのインゴットとして鋳造した。これらインゴットの組成を、以下の表1に提供する。
【表1】
*各合金の残部は、0.02~0.03重量%のTi、アルミニウム、不可避元素及び不純物であって、各合金はいずれの一つの不純物も0.03重量%以下で含有し、またそこで各合金はすべての不純物を合計で0.10重量%以下含有した。
**合金29は、米国特許第6,537,392号に従ったAA6055型の合金である。AA6055合金についての米国アルミニウム協会(The Aluminum Association)による組成の限度値は、以下の通りである:0.6~1.2重量%のSi、0.30(最大)重量%のFe、0.50~1.0重量%のCu、0.10(最大)重量%のMn、0.7~1.1重量%のMg、0.20~0.30重量%のCr、0.55~0.9重量%のZn、0.10(最大)重量%のTi、0.05(最大)重量%の不純物、合計0.15(最大)重量%の他の不純物、残部のアルミニウム。(“International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys,” January 2015、第10頁、The Aluminum Association, 1525 Wilson Boulevard, Arlington, VA 22209。)
合金18、21~22及び27は、発明の合金である。合金1~17、19~20、及び23~26、及び28~30は、非発明の合金であり、灰色で強調している。
【0087】
インゴットは、鋳造後に均質化し、次いで最終ゲージのシート製品に圧延した。最終ゲージのシート製品の厚みは2mmであった。次いで、最終ゲージのシート製品を溶体化熱処理し、室温まで焼入れし、次いで予備時効処理温度82℃(179.6°F)に再加熱し、次いで所定の冷却速度(ニュートン冷却に従う)で冷却するようプログラムされた炉内に保持することによって模擬コイル冷却(coil cool)に供し、合金を質別T43にした。次いで、合金の自然時効応答を、7日間及び90日間の自然時効処理(溶体化熱処理後に合金を焼入れした時点から測定して)での各合金の機械的性質を測定することによって評価した。T43質別合金の塗装焼付応答も、180℃で20分間加熱することによって試験した。合金の人工時効応答も、T43質別合金を180℃で8時間時効処理(T6型質別)することによって試験した。実験の結果を、以下の表2に提供しているが、示された値はすべて、TYS-LT(長手横断方向の引張降伏強度)であり、そして単位はMPaであり、NA=自然時効処理、PB=上記に従って塗装焼付処理、及びT6=上記に従って人工時効処理である。
【表2】
*合金2~4の値は、自然時効処理の60日間後のものである。
【0088】
<自然時効特性>:示されるように、非発明の合金1~8、10、16、26、及び28は、7日間の自然時効処理で155MPa以下、及び/又は90日間の自然時効処理で175MPa以下のTYS-LTのパラメータを満たさない。さらに、非発明の合金8、13、17、20、及び30の強度は、7日間の自然時効処理から90日間の自然時効処理までの間で過度に増加していた(20MPa以上)。7日間の自然時効処理で155MPa以下、90日間の自然時効処理で175MPa以下である強度、及び7日間の自然時効処理から90日間の自然時効処理までで強度の増加が20MPa以下であることを達成することは、成形性のために重要である。
・注:発明である合金22の自然時効処理の試験データでは、この合金のB557試験の試験片がその他の非関連の理由により不適切であったため、含まれていない。しかしながら、追加の試験に基づけば、合金22は、7日間の自然時効処理でTYS-LTが155以下、90日間の自然時効処理でTYS-LTが175以下、及び7日間の自然時効処理から90日間の自然時効処理まででTYS-LTの増加が20MPa以下という要件を満たすだろうと考えられる。
【0089】
<塗装焼付性>:示されるように、非発明の合金9、11、13~15、17、20、23及び25は、塗装焼付処理後30日にTYS-LTが235MPa未満であり、及び/又は塗装焼付処理後90日にTYS-LTが230MPa未満であるという、塗装焼付処理後の不十分な強度を実現した。塗装焼付処理後の強度が低いこと、及び塗装焼付処理の後で経時的に強度が喪失することは、大部分の自動車用途で許容されない。
【0090】
<人工時効特性>:示されるように、非発明の合金9~10、13~15、20、23、25、及び30はすべて、人工時効処理後にTYS-LTが350MPa未満であるという、不十分な人工時効処理強度を実現した。人工時効処理強度が低いことは、一部の自動車用途には適用できない合金となる可能性がある。
【0091】
機械的性質とは別に、いくつかの合金の耐食性もまた試験し、その結果を以下の表3~4に提供する。
【表3】
【表4】
【0092】
示されるように、これら合金の耐粒間腐食性は概ね許容できる。しかしながら、合金6~7、10、14及び24の糸状腐食は、最大長さを基準にすると過度に高く、0.30インチを超えている。合金12は、糸状腐食との関係では合金10及び14と同様の挙動であることが予期されるので、合金12は非発明の合金とみなされる。合金19は、糸状腐食との関係では合金24と同様の挙動であることが予期されるので、合金19は非発明の合金とみなされる。
【0093】
これらの結果は、アルミニウム合金シート製品にとって重要であり得る性質の組み合わせを達成するために、合金元素を特定の組み合わせで使用する必要があることを示唆している。具体的には、過剰な溶質を有する合金(例えば、合金1~8、25~26、28)は、許容できない強度及び/又は耐食性を実現する可能性がある。すなわち、Si+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下に制限される。ケイ素及びマグネシウムが特定の量であることもまた重要である。ケイ素が過度に少ないと(例えば、合金15及び23)、結果的に貧弱な性質となる。さらに、高いMg:Si比であることが貧弱な強度の原因の少なくとも一部となっていた合金15及び25によって示されるように、Mg:Si比は、1.4以下とする必要がある。優れた強度と耐食性を良好に達成するには、銅と亜鉛をいずれも多量に使用する必要がある。これは、発明の合金18、21~22、及び27と様々な非発明の合金との対比によって示される。最後に、クロムは、(合金30によると)潜在的な性質に負の影響を与え、また合金のリサイクル性にも影響を与える可能性があるため、避ける必要がある。
【0094】
本開示の様々な実施形態を詳細に記載してきたが、それら実施形態の変形及び改変は当業者に想到することであることは明らかである。しかしながら、そうした変形及び改変が本開示の趣旨及び範囲内であることは明白に理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金シート製品であって、
0.70~1.4重量%のSiと、
0.70~1.3重量%のMgと、
ここで(Mgの重量%)/(Siの重量%)は1.4:1よりも大きくなく
0.70~3.0重量%のZnと、
0.55~1.3重量%のCuと、
ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、
0.01~0.30重量%のFeと、
最大0.70重量%のMnと、
最大0.15重量%のCrと、
最大0.20重量%のZrと、
最大0.20重量%のVと、
最大0.25重量%のTiと、を含み、
残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物であり、
前記アルミニウム合金シート製品が、1.0~4.0mmの厚さを有し、
前記アルミニウム合金シート製品が、以下の性質:
(i)7日間の自然時効処理でTYS-LTが155MPa以下(「TYS-7NA」)、
(ii)90日間の自然時効処理でTYS-LTが175MPa以下(「TYS-90NA」)、
(iii)(TYS-90NA)から(TYS-7NA)を引くと20MPa以下、
(iv)30日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも235MPa、
(v)90日間自然時効処理し、次いで180℃で20分間塗装焼付処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも230MPa、
(vi)30日間自然時効処理し、次いで180℃で8時間人工時効処理をした場合に、TYS-LTが少なくとも350MPa、のうちの少なくとも一つを実現する、アルミニウム合金シート製品。
【請求項2】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のSi、又は少なくとも0.80重量%のSi、又は少なくとも0.85重量%のSiを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項3】
アルミニウム合金が、1.35重量%以下のSi、又は1.30重量%以下のSi、又は1.25重量%以下のSi、又は1.20重量%以下のSi、又は1.15重量%以下のSi、又は1.10重量%以下のSi、又は1.05重量%以下のSiを含む、請求項記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項4】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のMg、又は少なくとも0.80重量%のMgを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項5】
アルミニウム合金が、1.25重量%以下のMg、又は1.20重量%以下のMg、又は1.15重量%以下のMg、又は1.10重量%以下のMg、又は1.05重量%以下のMgを含む、請求項記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項6】
(Mgの重量%)/(Siの重量%)が1.3:1よりも大きくないか、又は1.2:1よりも大きくない、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項7】
(Mgの重量%)/(Siの重量%)が少なくとも0.7:1、又は少なくとも0.8:1、又は少なくとも0.9:1である、請求項記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項8】
アルミニウム合金が、少なくとも0.75重量%のZn、又は少なくとも0.85重量%のZn、又は少なくとも0.95重量%のZn、又は少なくとも1.0重量%のZn、又は少なくとも1.05重量%のZnを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項9】
アルミニウム合金が、2.8重量%以下のZn、又は2.6重量%以下のZn、又は2.4重量%以下のZn、又は2.2重量%以下のZn、又は2.0重量%以下のZn、又は1.8重量%以下のZnを含む、請求項記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項10】
アルミニウム合金が、少なくとも0.60重量%のCu、又は少なくとも0.65重量%のCu、又は少なくとも0.70重量%のCuを含む、請求項1記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項11】
アルミニウム合金が、1.25重量%以下のCu、又は1.20重量%以下のCu、又は1.15重量%以下のCu、又は1.10重量%以下のCu、又は1.05重量%以下のCuを含む、請求項10記載のアルミニウム合金シート製品。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れかに記載のアルミニウム合金シート製品から作製された、自動車用シート製品。
【請求項13】
自動車用シート製品が、性質(1)から(vi)のうちの少なくとも2つ、又は性質(1)から(vi)のうちの少なくとも3つ、又は性質(1)から(vi)のうちの少なくとも4つ、又は性質(1)から(vi)のうちの少なくとも5つ、又は性質(1)から(vi)のすべてを実現する、請求項12に記載の自動車用シート製品。
【請求項14】
アルミニウム合金シート製品であって、
0.85~1.05重量%のSiと、
0.80~1.10重量%のMgと、
0.70~1.8重量%のZnと、
0.70~1.05重量%のCuと、
ここでSi+Mg+Zn+Cuの総量は4.25重量%以下であり、
0.01~0.30重量%のFeと、
最大0.50重量%のMnと、
最大0.15重量%のCrと、
最大0.20重量%のZrと、
最大0.20重量%のVと、
最大0.25重量%のTiと、を含み、
残部は、アルミニウム、随意の不可避元素及び不純物であり、
前記アルミニウム合金シート製品が、1.0~4.0mmの厚さを有する、アルミニウム合金シート製品。
【国際調査報告】