(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】てんかん患者の脳内の外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20220728BHJP
A61B 34/10 20160101ALI20220728BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20220728BHJP
A61B 5/372 20210101ALN20220728BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B34/10
G16H50/20
A61B5/372
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570320
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020064759
(87)【国際公開番号】W WO2020239869
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519018886
【氏名又は名称】ユニバーシティ ド エクス‐マルセイユ(エーエムユー)
(71)【出願人】
【識別番号】521442659
【氏名又は名称】インスティテュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アン,ソラ
(72)【発明者】
【氏名】ジルサ,ヴィクター
【テーマコード(参考)】
4C096
4C127
5L099
【Fターム(参考)】
4C096AA03
4C096AA17
4C096AA18
4C096AC01
4C096AD14
4C096DC19
4C096DC35
4C127AA03
4C127BB05
4C127GG05
5L099AA04
(57)【要約】
本発明は、てんかん患者の脳内の潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法に関する。本発明によれば、方法は、霊長類脳の様々なゾーン及び前記ゾーン間の結合をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを提供するステップと、てんかん帯から伝搬帯へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供するステップと、患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームを取得するステップと、モジュラリティ分析に基づいて潜在的なターゲットゾーンを導出するステップと、パーソナライズされた患者のコンピュータ化されたプラットフォームでてんかん発作の伝搬をシミュレートすることによりターゲットゾーンの有効性を評価するステップと、定義された状態条件で時空間的脳活動パターンをシミュレートし、ターゲットゾーンの除去前に得られたシミュレートされた時空間的脳活動パターンをターゲットゾーンの除去後に得られた時空間的脳活動パターンと比較することにより、ターゲットゾーンの安全性を評価するステップと、有効性と安全性の両方の評価基準を満たすターゲットゾーンを潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンとして特定するステップを含む。
【選択図】
図1G
【特許請求の範囲】
【請求項1】
てんかん患者の脳内の潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法であって、
霊長類脳の様々なゾーン及び前記ゾーン間の結合をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを提供するステップと、
てんかん誘発帯のモデル、及びてんかん性放電の出現、時間経過、及び消失を記述する数学的モデルである、てんかん帯から伝搬帯へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供し、てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを得るべく前記モデルをコンピュータ化されたプラットフォームにロードするステップと、
患者の脳内の推定されるてんかん誘発帯を特定するステップと、
患者の脳の構造的結合性に従っててんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームをパーソナライズし、患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームを得るべく前記コンピュータ化されたプラットフォームでてんかん誘発帯として推定されるてんかん誘発帯をパラメータ化するステップと、
潜在的なてんかん誘発帯の外部にあり、外科手術又は除去された場合にてんかん発作の伝搬を最小にすることになるゾーンである、モジュール間の相互作用のハブとして作用する潜在的なターゲットゾーンを導出するべく、患者の脳の構造的結合性を使用してモジュラリティ分析を行い、パーソナライズされた患者のコンピュータ化されたプラットフォームでの前記てんかん発作の伝搬特徴をシミュレートするネットワークシミュレーションによっててんかん発作の伝搬を最小にするための潜在的なターゲットゾーンの有効性を評価し、てんかん誘発帯の外部にあり、外科手術された場合に発作の伝搬を最小にすることになるゾーンである、1つ以上の有効なターゲットゾーンを特定するステップと、
ネットワークシミュレーションによって正常な脳機能を維持するべく潜在的なターゲットゾーンの安全性を評価するステップと、
定義された状態条件でシミュレートされた時空間的脳活動パターンは、前記ゾーンの除去前及び除去後にパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームから得られ、ゾーンの除去前に得られたこれらのシミュレートされた時空間的脳活動パターンが、ゾーンの除去後に得られたシミュレートされた時空間的脳活動パターンと比較され、ゾーンの除去前に得られた時空間的脳活動パターンがゾーンの除去後に得られた時空間的脳活動パターンと実質的に同じである場合、前記潜在的なターゲットゾーンを安全なターゲットゾーンとして特定し、
有効性と安全性の両方の評価基準を満たす潜在的なターゲットゾーンを潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンとして特定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記患者の脳内の推定されるてんかん誘発帯が臨床的に推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲットゾーンは、てんかん発作の伝搬に関与するノード又はエッジであり、前記ノード及びエッジは、それぞれ脳領域及び脳領域間の線維路に対応する、請求項1又は請求項2のうちの一項に記載の方法。
【請求項4】
前記構造的結合性は、磁気共鳴画像法又は拡散強調核磁気共鳴画像法を使用して取得された患者の脳の画像データから再構築される、請求項1、請求項2、又は請求項3のうちの一項に記載の方法。
【請求項5】
前記てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームが、患者固有の脳の結合性と、患者の機能データに従ってパーソナライズされる、前記請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項6】
前記機能データは、脳波検査法(EEG)又は定位的EEG(SEEG)技術を通じて取得される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記モジュラリティ分析を実施するために、手術不能ノードがターゲットゾーンとして導出されるのを防ぐべく制約が課される、前記請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項8】
患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームで体系的シミュレーションが行われ、ターゲットゾーンが評価基準を満たさない場合、シミュレーション結果を分析に再度フィードバックすることによって新しいターゲットゾーンが導出される、前記請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項9】
前記定義された状態条件は、安静状態条件、又は脳が記憶モードにある状態条件、又は物事を知覚するモードにある状態、又は脳が注意モードにある状態である、前記請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項10】
複数の定義された状態条件がシミュレーションのために用いられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記モジュラリティ分析は、モジュール間のエッジを最小にし、且つモジュール内のエッジを最大にする、重複しないモジュール構造を提供する、請求項1~請求項10のうちの一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかん患者の脳内の外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんは、反復的な予期しない発作の発生によって定義される慢性の神経障害である。神経活動の異常な同期として特徴付けられるてんかん発作は、特定の脳領域で発生し、個々の脳コネクトームを構成する領域間構造相互作用を通じて他の領域に伝搬し、漸増された脳領域に応じて様々な発作時症状を生じる。
【0003】
てんかんの治療にあたり、抗てんかん薬の投薬が優先的に適用され、患者の30%以上を占める薬剤耐性のある患者には1つの選択肢としてしばしば外科的介入が提供される。2つの主要なタイプの外科的戦略、すなわち、切除と離断が存在する。発作を生じる脳領域を除去する、切除は、てんかん誘発帯(EZ)の位置特定精度と各患者の病状に応じて、手術後の患者の30~70%で発作のない結果をもたらす。発作の伝搬において重要な役割を果たす神経経路を切断する、離断は、治療目的を有し得る大脳半球切除術であるか、又は発作の伝搬を制限し得る脳梁離断術である。外科的介入は、薬剤耐性のある患者の発作を制御するのに効果的な方法として一般に受け入れられているが、EZは、複数の脳領域にしばしば同時に存在し、その損傷が言語、記憶、及び運動の問題などの神経学的合併症を引き起こす脳領域として定義されるeloquent areaを含むため、患者の約10%のみが手術の候補と考えられる。eloquentな皮質の垂直線維を温存しながら水平皮質内線維を切断することによって、正常な機能を変えることなくEZのニューロン同期を防ぐことができる、複数の脊髄下切離を含むいくつかの代替的な方法が、従来の手術に適さない患者のために試みられているが、結果は様々である。したがって、これらの患者にとってより最適な外科的選択肢を提供する必要があることは明らかである。代替的な方法は、1)発作の軽減に効果的であり、2)手術不能なEZ又は手術で技術的にアクセスできない領域に応じた融通性のある選択肢を提供することができ、3)正常な脳機能への影響が最小限であるべきである。
【0004】
てんかんの研究は、主に、個々の患者の脳のネットワークのダイナミクスの調査に焦点をあてている。頭蓋内皮質脳波(ECoG)信号及び定位的脳波(SEEG)信号などの機能データを分析することによって、発作間欠期、発作前、発作時、及び発作後を含む各脳状態でのネットワーク特性を調べた多くの研究がある。特に、グラフ理論に基づくネットワーク分析は、切除手術の対象となる発作出現ゾーンの特徴を特定するだけでなく、発作の出現と時間経過にわたるネットワークトポロジーの変化も観察することができている。いくつかの調査は、いくつかの小さいサブネットワークからなる発作間欠期のネットワークに比べて、発作出現時に1つの大きい規則的なネットワークが形成されることを示している。これらの結果は、適切に選択されたサブネットワークの離断を通じて、大きい規則的なネットワークの形成を妨げることによって発作を防ぐことができることを示唆している。さらに、いくつかの他の研究は、てんかんの脳のネットワークが健康な脳のネットワークよりも分離した特徴を有することを実証している。一方、磁気共鳴画像法(MRI)に基づいて構造データを分析することにより、局所的変化だけでなく、白質路、すなわち、領域間結合の異常も含む、正常な脳とは異なるてんかんの脳の構造的異常が多くの研究で報告されている。脳領域が発作の発生と伝搬に関与しているかどうかに応じて状況はより複雑であるにもかかわらず、ネットワークの観点から、いくつかの研究では、てんかんの脳における局所的ネットワーク結合の増加と大域的ネットワーク結合の減少が示されている。さらに、健康な脳のネットワークはハブ領域の広範な分布を呈し、一方、てんかんの脳のネットワークは、特定の領域、例えば側頭葉てんかんでは傍辺縁/辺縁及び側頭連合野に集中したハブ領域を有することが報告されている。これらの研究の結果は、てんかんの脳が別個のモジュール構造を備えることと、発作の伝搬は、モジュール間の相互作用をブロックすることによって、すなわち結合を切断することによって制御できることを示唆している。
【0005】
計算モデリング手法の翻訳には、患者の結合性と病変に合わせた脳のネットワークモデルのパーソナライズが必要とされる。各患者からの脳コネクトームと臨床情報に基づく、パーソナライズされた脳のネットワークモデルは、個々の発作の伝搬パターンをシミュレートすることができている。
【0006】
現在、この分野での取り組みは、EZの位置特定の改善と、特定されたゾーンを効果的に除去する戦略の開発に焦点をあてている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、特にEZが手術不能な場合に適用可能な最小侵襲の外科的介入を特定可能にする方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、本発明は、てんかん患者の脳内の潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法であって、
霊長類脳の様々なゾーン及び前記ゾーン間の結合をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを提供するステップと、
てんかん誘発帯のモデル、及びてんかん性放電の出現、時間経過、及び消失を記述する数学的モデルである、てんかん帯から伝搬帯へのてんかん性放電の伝搬のモデルを提供し、てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを得るべく前記モデルをコンピュータ化されたプラットフォームにロードするステップと、
患者の脳内の推定されるてんかん誘発帯を特定するステップと、
患者の脳の構造的結合性に従っててんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームをパーソナライズし、患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームを得るべく前記コンピュータ化されたプラットフォームでてんかん誘発帯として推定されるてんかん誘発帯をパラメータ化するステップと、
潜在的なてんかん誘発帯の外部にあり、外科手術又は除去された場合にてんかん発作の伝搬を最小にすることになるゾーンである、モジュール間の相互作用のハブとして作用する潜在的なターゲットゾーンを導出するべく、患者の脳の構造的結合性を用いてモジュラリティ分析を行い、パーソナライズされた患者のコンピュータ化されたプラットフォームでの前記てんかん発作の伝搬特徴をシミュレートするネットワークシミュレーションによっててんかん発作の伝搬を最小にするための潜在的なターゲットゾーンの有効性を評価し、てんかん誘発帯の外部にあり、外科手術された場合に発作の伝搬を最小にすることになるゾーンである、1つ以上の有効なターゲットゾーンを特定するステップと、
ネットワークシミュレーションによって正常な脳機能を維持するべく潜在的なターゲットゾーンの安全性を評価するステップと、
定義された状態条件でシミュレートされた時空間的脳活動パターンは、前記ゾーンの除去前及び除去後にパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームから得られ、ゾーンの除去前に得られたこれらのシミュレートされた時空間的脳活動パターンが、ゾーンの除去後に得られたシミュレートされた時空間的脳活動パターンと比較され、ゾーンの除去前に得られた時空間的脳活動パターンがゾーンの除去後に得られた時空間的脳活動パターンと実質的に同じである場合、前記潜在的なターゲットゾーンを安全なターゲットゾーンとして特定し、
有効性と安全性の両方の評価基準を満たす潜在的なターゲットゾーンを潜在的に外科手術可能なターゲットゾーンとして特定又は提案するステップと、
を含む方法に関係する。
【0009】
優先的に、患者の脳内のてんかん誘発帯が臨床的に推定され、ターゲットゾーンは、てんかん発作の伝搬に関与するノード又はエッジであり、前記ノード及びエッジは、それぞれ脳領域及び脳領域間の線維路に対応し、脳の構造的結合性は、磁気共鳴画像法、拡散強調核磁気共鳴画像法、核磁気共鳴画像法、及び/又は磁気共鳴断層撮影法を使用して取得された患者の脳の画像データから再構築され、てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームが、患者固有の脳の結合性と患者の機能データに従ってパーソナライズされ、機能データは、脳波検査法(EEG)又は定位的EEG(SEEG)技術を通じて取得され、潜在的なターゲットゾーンを導出するべくモジュラリティ分析が行われ、モジュラリティ分析を実施するために、手術不能ノードがターゲットゾーンとして導出されるのを防ぐべく制約が課され、患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームで体系的シミュレーションが行われ、特定されたターゲットゾーンが評価基準を満たさない場合、シミュレーション結果を分析に再度フィードバックすることによって新しいターゲットゾーンが導出され、定義された状態条件は安静状態条件であり、複数の安静状態条件がシミュレーションのために用いられ、モジュラリティ分析は、モジュール間のエッジを最小にし、且つモジュール内のエッジを最大にする、重複しないモジュール構造を提供する。
【0010】
したがって、てんかんの脳のネットワークが明確な分離特徴を有することに焦点をあてて、本発明は、それぞれ切除及び離断手術のために除去されるべきターゲットゾーン(TZ)として脳領域及び線維路を導出するために、各患者からの脳の構造的結合性を用いたモジュラリティ分析を採用する。EZが手術不能ゾーンであるというワーストケースシナリオが想定されるため、提案されたin silico外科的アプローチは、EZでの発作の発生を防ぐことはできないにもかかわらず、他の脳領域への発作の伝搬を抑制することで発作の軽減に導く。伝搬ネットワークの関与を減らすことは、発作の影響、特に意識消失を減らすための主要な因子である。得られたTZは、発作の伝搬を制御するための有効性と、正常な脳機能を維持するための安全性の観点で、パーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションによって評価され、結果に応じて最適化される。
【0011】
本発明の他の特徴及び態様は、以下の説明および添付図から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】仮想脳を使用して本発明の方法に従って行われる脳のシミュレーションを例示している。
図1A~
図1Dは、有効性の評価のためのネットワークシミュレーションを示す。脳のネットワークモデルは、発作の伝搬特徴を特定することによって有効性を評価する。これらの図は、ノード3、22、及び27がてんかん誘発帯として作用するときの、それぞれノード23又はノード21の除去前(
図1B)及び除去後(
図1C及び
図1D)の各脳ノードでのシミュレートされた信号を示す。
図1E~
図1Gは、安全性の評価のためのネットワークシミュレーションを示す。脳のネットワークモデルは、特定のノードでの電気刺激後の一時的な時空間軌道の完全性を調べることで安全性を評価する。ノード3に刺激が適用されるとき、刺激は各ノードで異なる応答信号を誘発する(
図1F及び
図1Gの実線)。ノード23からのすべての結合を除去するとき、各ノードでの応答信号(
図1Fの点線)は除去前に比べて変化している。他方では、ノード21を除去するとき、応答信号(
図1Gの点線)は除去前と顕著には異ならない。カラーバーは、除去前及び除去後の各ノードでの応答信号間の類似度係数を表す。
【
図2】本発明の方法に係る特定の患者のモジュラリティ分析から導出されるターゲットゾーンを例示している。
図2Aは、てんかん誘発帯を分解能パラメータ1.25で手術不能ゾーンに設定したときのモジュール構造を示す。脳のネットワークは、7つのモジュールに分割され、EZサブモジュール(図面では上側のモジュール)は、各EZ(ノード61及び64、大きい丸)とその隣接するノードが同じサブモジュールに属するように、4つのサブモジュールに細分割される。このモジュール構造に基づいて、3つのノード(黒三角)と8つのエッジ(灰色の点線)が、それぞれターゲットノード及びターゲットエッジとして導出される。視覚化のために、結合の重みが0.08を超えるエッジのみが描かれている。
図2Bは、得られたターゲットゾーンの解剖学的位置及びリストを示す。中灰色のノードは、てんかん誘発帯を表し、薄灰色のノードと灰色のエッジは、ターゲットノードとターゲットエッジを示す。
図2Cは、分解能パラメータ1.25でモジュラリティ分析においてクリティカルノード(灰色の三角)を手術不能ゾーンに追加したときのモジュール構造を示す。脳のネットワークは8つのモジュールに分割され、てんかん誘発帯サブモジュール(上側のモジュール)は、各手術不能ゾーンとその隣接するノードが同じサブモジュールに属するように2つのサブモジュールに細分割される。このモジュール構造に基づいて、3つのノード(黒三角)と5つのエッジ(灰色の点線)がそれぞれ新しいターゲットノード及びターゲットエッジとして導出される。
図2Dは、新たに得られたターゲットゾーンの解剖学的位置及びリストを示す。中灰色のノードは、てんかん誘発帯を表し、薄灰色のノードと緑色のエッジは、ターゲットノードとターゲットエッジを示す。
【
図3】本発明の方法に係るターゲットゾーンの安全性の評価を例示している。
図3Aは、安全性の評価のためのネットワークシミュレーション結果を示す。各安静状態のネットワークを再現できる脳ノードに刺激が適用されるときの、ターゲットゾーンの除去前と除去後での応答信号の差異が、類似度係数として提示されている。類似度係数は、すべての脳ノードで独立して計算され、図の灰色の陰影は、類似度係数の値を示す。
図3Bは、クリティカルノードの特定を例示している。最初に得られたターゲットノードに属する各ノードが除去されるときの、記憶ネットワークMに対応する応答ネットワークの変動度が、類似度係数として表されている。
【
図4】本発明の方法に係る有効性の検証のためのネットワークシミュレーション結果、及びすべての脳ノードでの局所電場電位を例示している。それらはさらに、EZ(ノード61及び64)から生じた発作の伝搬特徴を例示している。
図4Aに示した結果は、ターゲットゾーンの除去前に得られたものであり、
図4Bに示した結果は、3つのターゲットノードの除去後に得られたものであり、
図4Cに示した結果は、5つのターゲットエッジの除去後に得られたものであり、
図4Dに示した結果は、3つのランダムノードの除去後に得られたものである。
【
図5】最初のターゲットゾーンと、本発明の方法に係るフィードバックによって得られた新しいターゲットゾーンの安全性の評価結果を例示している。ヒストグラムは、それぞれ、ターゲットノード及びターゲットエッジの除去前及び除去後の、すべての脳領域での刺激に起因する応答活性化パターン間の類似度係数の平均値を示す。最初のTZの除去は、記憶ネットワーク(M)を再現するべくノード10に刺激が適用されたときに閾値(0.75)よりも低い値を有するが、新しいTZの除去は、すべての刺激部位での閾値よりも高い値を有する。
【
図6】ターゲットゾーンがてんかん誘発帯の位置に依存することを例示している。
図6Aは、てんかん誘発帯の位置とそれらの累積結果に従うターゲットノードを示す。各列の灰色の水平バーは、てんかん誘発帯がそれぞれ異なるノードに存在するときのターゲットノードを示す。
図6Bは、てんかん誘発帯の位置とそれらの累積結果に応じたターゲットエッジを示す。てんかん誘発帯がそれぞれ異なるノードに存在するとき、各スライスのノード間の接続ラインはターゲットエッジを示す。累積結果により、ターゲットゾーンとして頻繁に用いられたいくつかのノード及びエッジが特定される。ここで、モジュラリティ分析の分解能パラメータは1.0に設定される。
図6Cは、ターゲットゾーンとして頻繁に取得されたノード及びエッジの解剖学的位置を示す。ノードに用いられる灰色の陰影とエッジの厚みは、ターゲットゾーンとして用いられる頻度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、霊長類てんかん患者のてんかんの脳の外科手術可能なターゲットゾーンを特定する方法に関する。患者は、特に、ヒトの患者であり、薬剤耐性のあるてんかん患者である。本発明に係る方法は、患者固有の脳コネクトームを用いるグラフ理論分析、具体的にはモジュラリティ分析と、パーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションに基づくin-silico外科的アプローチを構成し、脳のシグナル伝達能力への影響を最小にすることによって有効且つ安全な介入オプションを提案する。
【0014】
本発明に係る方法は、霊長類脳の様々なゾーン及び前記ゾーン間の結合をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォーム、すなわち、脳のネットワークを提供するステップを含む。このようなコンピュータ化されたプラットフォームが仮想脳を構成する。仮想脳の例は、引用により本明細書に組み込まれる公開文書“The Virtual Brain: a simulator of primate brain network dynamics”,Paula Sanz Leon et al.,11 June 2013で開示されている。この文書では、仮想脳は、生物学的に現実的な結合性を用いた完全な脳のネットワークシミュレーションのためのニューロインフォマティクスプラットフォームとして開示されている。このシミュレーション環境は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、EEG、及び脳磁図法(MEG)を含む巨視的なニューロイメージング信号の生成の基礎をなす様々な脳規模にわたる神経生理学的メカニズムのモデルベースの推論を可能にする。これは、個々の被検者データを用いることによって脳のパーソナライズされた構成の再現及び評価を可能にする。
【0015】
本発明のさらなるステップによれば、てんかん誘発帯(EZ)のモデルと、てんかん帯から伝搬帯(PZ)へのてんかん性放電の伝搬のモデルが提供される。次いで、これらのモデルは、てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームを得るためにコンピュータ化されたプラットフォームにロードされる。
【0016】
EZのモデルは、てんかん性放電の出現、時間経過、及び消失を記述する数学的モデルである。このようなモデルは、例えば、引用により本明細書に組み込まれる公開文書“On the nature of seizure dynamics”,Jirsa et al.,Brain 2014,137,2210-2230で開示されている。このモデルはEpileptorと呼ばれる。
【0017】
PZのモデルは、EZのうちの1つと同じであるが、興奮性パラメータが臨界値x0c=-2.05を下回っている。他のすべての脳領域は、閾値から遠く離れた興奮性値を有するEpileptors、又は引用により本明細書に組み込まれるPaula Sanz Leon et al., 11 June 2013で開示されるような同等に標準的な神経細胞集団モデルによってモデル化され得る。脳領域間の結合は、引用により本明細書に組み込まれる公開文書“Permittivity Coupling across Brain Regions Determines Seizure Recruitment in Partial Epilepsy”,Timothee Proix et al.,The Journal of Neuroscience,November 5,2014,34(45):15009-15021で開示されるような数学的モデルに従う。
【0018】
本発明のさらなるステップによれば、てんかん患者の脳の構造データと機能データが取得される。構造データから脳コネクトームが再構築され、機能データからてんかん誘発帯が推定される。
【0019】
構造データは、例えば、磁気共鳴画像法(MRI)、拡散強調核磁気共鳴画像法(DW-MRI)、核磁気共鳴画像法(NMRI)、又は磁気共鳴断層撮影法(MRT)を使用して取得された患者の脳の画像データである。機能データは、例えばEEG又はSEEG信号である。てんかん誘発帯の推定は、臨床的であり得る、又はW02018/015779で公開された国際出願で開示された方法のような非臨床的方法を用いて提供され得る。
【0020】
本発明のさらなるステップによれば、てんかんの霊長類脳をモデリングするコンピュータ化されたプラットフォームが、患者の脳の構造的結合性に従ってパーソナライズされる。患者のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォーム、すなわち、パーソナライズされた脳のネットワークを得るべく、前記コンピュータ化されたプラットフォームでてんかん誘発帯として推定されるてんかん誘発帯がさらにパラメータ化される。
【0021】
本発明のさらなるステップによれば、モジュラリティ分析に基づいて潜在的なターゲットゾーンが導出され、ネットワークシミュレーションによってターゲットゾーンの有効性が評価される。パーソナライズされた患者のコンピュータ化されたプラットフォームでてんかん発作の伝搬特徴がシミュレートされ、1つ以上の有効なターゲットゾーンが特定される。有効なターゲットゾーンはてんかん誘発帯の外部にある。さらに、それらは、外科手術又は除去された場合に発作の伝搬を最小にすることになるゾーンである。
【0022】
本発明のさらなるステップによれば、ネットワークシミュレーションによって潜在的なターゲットゾーンの安全性が評価される。前記ゾーンの除去前及び除去後のパーソナライズされたコンピュータ化されたプラットフォームから、定義された状態条件でシミュレートされた時空間的脳活動パターンが得られる。この定義された状態条件は、例えば、安静状態条件である。しかしながら、これは、他の状態条件、例えば、脳が記憶モードにある状態条件、脳が物事を知覚するモードにある状態、又は脳が注意モードにある状態であり得る。本発明のさらなるステップによれば、ターゲットゾーンの除去前に得られたシミュレートされた時空間的脳活動パターンが、ゾーンの除去後に得られた時空間的脳活動パターンと比較される。ゾーンの除去前に得られた時空間的脳活動パターンがゾーンの除去後に得られた時空間的脳活動パターンと実質的に同じである場合、前記潜在的なターゲットゾーンは、安全なターゲットゾーンとして特定される。
【0023】
本発明のさらなるステップによれば、有効性と安全性の両方の評価基準を満たす潜在的なターゲットゾーンが、外科手術可能なターゲットゾーンとして提案される。特定されたTZの有効性と安全性を評価するために、脳のネットワークシミュレーションが採用される。各患者の脳の構造的結合性とEZの推定によって構築された患者固有のネットワークモデルに基づいて、TZの除去前及び除去後の発作の伝搬特徴をシミュレートすることによってTZの有効性が評価される。伝搬ネットワークの関与を減らすことは、発作の影響、特に意識消失を減らすための主要な因子である。意識消失は、主要な兆候の1つであり、伝搬ネットワーク、特に側頭葉てんかん発作中の前頭-頭頂葉ネットワークの同期と明確に関連している。てんかん手術後の良好な結果は、自覚症状(前兆)が残っているが、客観的兆候(自動症、意識消失)がない患者を含み得ると認識されている。
【0024】
本発明の方法によれば、モジュラリティ分析は、一般に、脳領域間の同期特徴を調べるために用いられる。各患者の脳のネットワークは、別個のモジュール構造を有する。患者固有の様態で発作の伝搬を抑制するべく、患者固有のモジュール構造から、EZサブモジュールを他のサブモジュール又はモジュールと結合するノード及びエッジが外科的選択肢TZとして抽出される。既存のモジュラリティ分析に制約を追加することにより、手術不能ゾーンを除く融通性のあるTZが導出され、これは、EZの切除は重度の神経系合併症を引き起こす可能性があるため、従来の手術に適さないと考えられる患者に発作の軽減をもたらすことができる代替的な外科的方法を提供し得る。さらに、モジュラリティ分析のパラメータスイープにより、様々なモジュール構造が得られ、最終的に複数のTZ選択肢が得られる。この多様性は、臨床医が介入の数と発作の抑制度を考慮して、複数の選択肢の中で手術ターゲットを選択することができるという点で非常に重要である。臨床医はまた、臨床経験に基づいて手術から除外されるべき特定の領域だけでなく、技術的に困難な領域も考慮することができる。
【0025】
患者の脳の構造的結合性とEZの推定、特に臨床的推定から得られた患者固有のモジュール構造に基づいて、モジュール間の相互作用のハブとして作用する、すなわち、異なるモジュールを結合する脳領域及び線維路が、外科的介入のためのTZとして特定される。得られたTZは、それらの有効性と安全性に関して、パーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションを通じて評価される。
【0026】
実際には、結果は、EZの位置と個々の脳コネクトームを考慮して各患者の状況に適したいくつかのTZ変形を含む。最終的なTZ変形は、正常な脳機能を維持しながら発作の伝搬を防ぐ有効な手術ターゲットである。
【0027】
体系的シミュレーションは、EZの位置に応じて異なるTZを特定することを可能にする。結果は、発作の伝搬に関与する主要なノード及びエッジを特定するだけでなく、EZ位置に関するいくつかの臨床的仮説が存在する場合に、合理的な手術ターゲットを導き出すための参照としても用いることができる。
【0028】
発作軽減効果は、ネットワークにおける各ノードの位置又は寄与に大きく依存するので、ターゲットノードを特定するために本発明に係る体系的手法が実行される。さらに、ネットワークへの影響が全脳規模で調査される。特に、導出されたTZは、臨床的推定と各患者の脳の結合性分析に基づいており、個々の脳コネクトームに基づくパーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションを通じて、発作の伝搬ネットワークにおけるTZ除去の有効性が調べられる。
【0029】
EZの外部の外科的介入に重要なのは、本発明に係る手技の安全性の調査である。安全性は、脳機能に直接関連していると仮定して、脳のネットワークのシグナル伝達特性を維持する概念によって操作可能となる。脳機能能力は、有利には、安静状態(RS)の機能的結合性によって少なくとも暗黙的に定量化される。これは、安静時のアトラクタ状態の特性を構造によって定量化しようとするものである。TZは、術前状態及び術後状態における安静状態でのネットワーク特徴の変化を明確に定量化することによって評価される。アトラクタ状態への摂動は、アトラクタの安定性、フローの収束及び発散などの脳のネットワークのさらなる特性をサンプリングすること、したがって、その動的特性のキャラクタライゼーションを顕著に強化することを可能にする。刺激は、各状態への摂動を誘発し、刺激位置及び脳の結合性に応じた時空間応答パターンを生成する、信頼できる方法である。刺激は、各RSネットワークを再現するため、及び、TZの除去前及び除去後のネットワーク特性の変化を明確に定量化するために採用される。個々の脳領域に加えられた刺激に起因する一時的な時空間軌道を最もよく推定するために、TZの除去前及び除去後の空間的及び時間的特性が比較される。そこで、一時的な軌道は、ネットワークの構造的特性によって高度に制約を受け、最初の局所刺激アーチファクト後に驚くほど低次元の挙動を示すことがわかる。これらの一時的な軌道特性は、刺激に起因する応答ネットワークの差異を定量化するために利用され、TZ除去後の応答パターンの変化は、脳の機能性の観点から悪影響を示すと想定される、すなわち、TZの除去前と除去後で応答パターンの差異が大きい場合に、TZの除去は安全でないと解釈される。
【0030】
図1は、ターゲットゾーン評価の例を示す。
図1A~
図1Dに示すように、発作の伝搬を制御する有効性が、発作の伝搬抑制度によって評価される。
図1Bは、ノード3(ctx-lh-尾側中前頭回)、22(ctx-lh-後帯状皮質)、及び27(ctx-lh-上前頭回)がEZであるときの、
図1Aで特定されたいくつかの脳ノードでのシミュレートされた信号を例示している。EZから発作が生じた後で、ノード間の結合性に応じていくらかの遅延が生じた後に、ノードは発作により漸増されるようである。他方では、発作の伝搬経路内の特定のノード、すなわち、ノード23(ctx-lh-中心前回)又はノード21(ctx-lh-中心後回)の除去後、シミュレートされた脳信号は、EZから発作が依然として発生する場合であっても、各ノードを越えた伝搬は防がれることを示す。これは
図1C及び
図1Dに示されている。このようにして、TZの有効性の評価のためにターゲットノード又はターゲットエッジの除去後の発作の伝搬特徴を観察する。
【0031】
介入の安全性の評価は、脳のネットワークのシグナル伝達特性の最大化に基づいている。後者は、関連する脳領域を刺激し、その後の脳のネットワーク活性化の一時的な軌道を定量化することによって評価される。より詳細には、TZの除去前及び除去後での、電気刺激後の時空間的脳活動パターンの類似性を評価することによって安全性が評価される。安静状態(RS)ネットワークの変動を調査するために、刺激が適用される脳領域は、8つのよく知られたRSネットワークのそれぞれと同様の応答ネットワークを再現することができる。
【0032】
図1E~
図1Gは、特定のノード、すなわち、ノード3に刺激が適用されるときの応答ネットワークの例を示す。刺激は、刺激されたノードを最初に局所的に活性化し、その後、コネクトームを通じて伝搬し、連続的な漸増をもたらし、これにより、刺激部位に特異的な独自の時空間応答パターンを生じる。実線及び点線は、特定のノード、すなわち
図1Fのノード23及び
図1Gのノード21の除去前及び除去後の、いくつかの脳ノードから得られたシミュレートされた信号を示す。除去前の応答パターンと比較して、ノード23の除去後に応答信号は変化しており、一方、ノード21の除去後に応答信号は影響を受けていない。バーは、これらの差異を定量的に、すなわち、類似度係数として表している。これらの結果は、ネットワークの変動に対する時空間発作組織の感受性を示している。このようにして、TZの安全性は、各RSネットワークを再現する特定のノードを体系的に刺激し、ターゲットノード又はターゲットエッジの除去前と除去後の応答パターンを比較することによって評価される。ネットワークシミュレーション結果に基づいてTZが不適切と判断される場合、結果をモジュラリティ分析に再び適用することによって別のTZが導出される。このフィードバック手法を通じて、正常な脳機能への影響を最小限に抑えながら発作の伝搬を効果的に防ぐ最適化されたTZを得ることができる。
【0033】
最後に、本発明に係る方法は、各てんかん患者に対して有効且つ安全な外科的選択肢を提案することができる、パーソナライズされたin-silico外科的アプローチを提案する。これは、特に、神経系合併症に関連した問題のためにEZが手術不能である場合の有効な代替的方法の導出に焦点をあてている。各患者からの脳の構造的結合性を用いるモジュラリティ分析に優先的に基づいて、手術部位として考えられるTZが得られる。得られたTZは、パーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションによって有効性と安全性の観点で評価される。モジュラリティ分析と脳のネットワークシミュレーションを組み合わせたフィードバック手法を通じて、正常な脳機能に影響を及ぼさずに発作の伝搬を最小にする最適化されたTZ選択肢が得られる。これは、計算論的神経科学分野が、各患者に適した革新的な外科的選択肢を導き出し、手術結果を予測することによって、パーソナライズされた医療のパラダイムを構築できる可能性を示している。
【0034】
例1:材料及び方法
本発明に係る方法は、有利には、グラフ理論分析及び脳のネットワークシミュレーションに基づいている。優先的に、手術不能ゾーンを考慮したモジュラリティ分析から、モジュール間の相互作用のハブとして作用する脳領域及び線維路がTZとして導出される。次いで、得られたTZが、脳のネットワークのダイナミクスをシミュレートするプラットフォームである仮想脳(The Virtual Brain)(TVB)を使用したパーソナライズされた脳のネットワークシミュレーションによって有効性と安全性の観点で評価される。TZが評価基準を満たさない場合、シミュレーション結果をモジュラリティ分析に再度フィードバックすることによって新しいTZが導出される。フィードバック手法を通じて、正常な脳機能に影響を及ぼさずに発作の伝搬を最小にする最適化されたTZ選択肢が得られる。
【0035】
構造的脳ネットワークの再構築
7人の薬剤耐性のあるてんかん患者からニューロイメージングデータを取得した。患者は、異なる位置にEZを有し、包括的な術前評価を受けた。各患者の構造的脳ネットワークは、SCRIPTS(商標)パイプラインを使用して拡散MRIスキャンとT1強調画像(Siemens Magnetom Verio(商標)3T MRscanner)から再構築される。各患者の脳は、Desikan-Killiany atlasに基づく68個の皮質領域と16個の皮質下領域を含む84個の領域に分割される。脳領域間の結合強度は、線維路である流線の数に基づいて定義され、領域間のシグナル伝達遅延が決まる路長も導出される。
【0036】
患者固有のモジュール構造に基づくターゲットゾーンの導出
脳のネットワークのモジュール構造を分析するために、Matlabツールボックスを使用する。Newman’sスペクトルアルゴリズムに基づくモジュラリティ分析は、モジュール間のエッジを最小にし、且つモジュール内のエッジを最大にする、重複しないモジュール構造を提供する。しかしながら、Newman’sスペクトルアルゴリズム又は他のアルゴリズムに基づき得る他のツールボックスをモジュラリティ分析に用いてもよい。例えば、Matlabツールボックスであるこのような別のツールボックスが、“Complex network measures of brain connectivity, uses and interpretations”,Mikail Rubinov et al.,NeuroImage,Vol.52,Issue3,Sept.2010,p.1059-1069で開示されている。Newman’sアルゴリズムに基づいてMatlabツールボックスで行われたモジュラリティ分析により、次式のモジュラリティ行列Bの誘導固有ベクトルを計算し、固有ベクトルの要素の符号に従ってネットワークノードを2つのモジュールに分割することができる。
【数1】
【0037】
この式では、Aijは、ノードi及びノードj間の重み値を表し、ki及びkjは、各ノードの次数を示し、mは、ネットワークにおけるエッジの総数を表す。αは分析の分解能パラメータであり、その典型的な値は1である。分割は、ノード移動法によって最大のモジュラリティ係数Qを得るべく微調整される。モジュラリティ係数の値は、0~1の範囲であり、0.3以上の値は一般に良好な分割を示す。si及びsjは、各ノードが属するグループに応じて+1又は-1の値を有するグループメンバーシップ変数を表す。固有ベクトルアルゴリズムに基づいて分割された各モジュールは、正のモジュラリティ係数をもたらす有効な分割がなくなるまでさらに2つのモジュールに分割される。手術不能ノードがTZとして導出されるのを防ぐために既存のツールボックスに制約が課される。最初に、固有ベクトルアルゴリズムによって分類されるノードのグループメンバーシップ変数値が特定される。次いで、手術不能ノードとその隣接するノード、すなわち、重み行列に基づく隣接ノードが同じ値を有していない場合、それらの値はそれらのほとんどが有する値に設定される。言い換えれば、制約は、手術不能ノードがモジュールを結合するハブとして作用しないように、手術不能ノードとその隣接ノードを同じモジュールに属するように制限する。一方、分解能パラメータαは、複数のモジュール構造を得るべく0.25間隔で0.5から1.5までスイープされる。分解能パラメータは、ネットワークノードをモジュールに分割する際の、各モジュールのサイズ、すなわち、モジュールの数を決定する。高いパラメータ値から、小さいモジュール、すなわち、多数のモジュールからなるモジュール構造が導出され、低いパラメータ値から、大きいモジュール、すなわち少数のモジュールからなる構造が得られる。
【0038】
モジュラリティ分析からターゲットゾーンを導出するために、EZと手術不能ゾーンが最初に優先的に設定される。EZは、各患者の臨床評価に応じて固定され、手術不能ゾーンは、すべてのEZに任意に設定される、すなわち、すべてのEZを外科的に除去することができないワーストケースシナリオが想定される。実際には、切除手術のためにすべてのEZを除外し、離断手術のためにEZに結合されたすべての線維路を除外するTZを得ることが望まれる。発作の伝搬を抑制する戦略は、各患者の脳のネットワークを複数のモジュールに分割し、次いで、EZモジュールを含むモジュールから他のモジュールへの結合、すなわち、ノード又はエッジを除去することである。しかしながら、モジュラリティ分析では、低分解能パラメータが用いられるとき、比較的多数のノードがEZと同じモジュールに属する可能性があり、場合によっては、TZが除去されたとしても依然としてかなりの数のノードが発作により漸増され得る。この問題を制御するために、すなわち、かなりの数のノードが発作により漸増されるノードとなることを防ぐために、EZモジュールをサブモジュールに再度分割し、EZサブモジュールを含むサブモジュールを他のサブモジュール又はモジュールに接続するノード/エッジとしてTZを定義することが選択される。切除及び離断手術のために得られるノード及びエッジを、それぞれ、ターゲットノード及びターゲットエッジと呼ぶ。分解能パラメータは、両方の分割プロセスでのモジュラリティ分析で制御されるため、同じ患者に対して複数のモジュール構造が得られ、これにより、ターゲットノード及びターゲットエッジに関する複数の介入オプションを提供することができる。前述の手順のすべては、開発されたMatlabモデルによって自動的に行われる。このモデルは、EZ及び手術不能ゾーンの位置に応じて複数のTZオプションをもたらすことができる。
【0039】
仮想脳を使用した脳のネットワークシミュレーション
導出されたTZの有効性を検証するために、仮想脳を用いて患者固有のネットワークモデルが構築される。Epileptorと呼ばれる6次元モデルは、特にネットワークノードを記述するために採用され、ノードを結合するために再構築された構造的結合性が用いられる。Epileptorは、5つの状態変数と6つのパラメータからなる、発作特徴を再現する現象論的神経細胞集団モデルである。各Epileptorは、細胞外効果を再現する遅い時間スケール変数zの誘電率結合により他のEpileptorと結合される。以下の式では、K
ijは、ノードi及びノードj間の結合の重みを表し、τ
ijは、2つのノード間のトラック長によって決まる時間遅延を表す。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
式中、
【数7】
【数8】
【数9】
臨床的に、てんかん原性の度合いは、興奮性パラメータx
0でマッピングされ、自発性発作活動を生じるEZ、EZからの発作の伝搬によって漸増される伝搬帯(PZ)、及び伝搬で漸増されない他のゾーンが区別され得る。この例では、EZから発生した発作活動がほとんどの他の脳ノードに伝搬するワーストケースシナリオをシミュレートするために、興奮性パラメータx
0は、EZについて-1.6に設定され、各患者の構造的結合性に応じてすべての他のノードについてPZに対応する-2.150から-2.095の間の値に設定される。式中の他のパラメータについて、I
1=3.1、I
2=0.45、γ=0.01、τ
0=6667、及びτ
2=10を用いる。また、確率的シミュレーションのために各Epileptorの変数x
2及びy
2に、標準偏差が0.0003のゼロ平均ホワイトガウスノイズが線形に追加される。これらのノイズ環境は、各Epileptorを興奮させ、したがって、ベースラインアクティビティとして発作間欠期スパイクを生じる。
【0040】
患者固有のネットワークモデルを用いて、ターゲットノード又はターゲットエッジの除去前及び除去後の発作の伝搬特徴をシミュレートする。特に、次式のように発作伝搬抑制率が定量化され、各TZの除去効果を比較するのに用いられる。各ノードでの局所電場電位を再現するために各Epileptorのx
1+x
2波形が観察される。
【数10】
N
befは、TZ除去前の発作により漸増されるノードの数であり、N
afは、TZ除去後の発作により漸増されるノードの数である。
【0041】
正常な脳機能を評価するために、刺激パラダイムが適応され、このパラダイムでは、一時的な刺激後にその安静状態に至る軌道の時空間特性を通じてネットワークの情報伝達能力が定量化される。デフォルトモード、視覚、聴覚-音韻、体性運動、記憶、腹側視覚路、背側注意、及びワーキングメモリを含む8つの特定のよく知られたRSネットワークをテストする。特定の脳領域のシミュレーションにより、RSネットワークでの脳活動パターンと類似した応答ネットワークを動的に再現することができる。
【0042】
以下の表1は、各RSネットワークでの脳活動パターンと最も一致する応答パターンを再現することができる刺激部位を示す。括弧内の数字は、ノードインデックスを示す。
【表1】
【0043】
特定の皮質領域に2.5sの電気パルスを印加することと、すべての脳領域での応答信号を観察することが選択される。各RSネットワークをテストするための刺激部位を表1に示す。このシミュレーションでは、刺激に起因する減衰振動を再現するために、Epileptorではなく、以下の式(4)の一般的な2次元振動子のニューラルマスモデルと共に、前に開示された患者固有のネットワークモデルが用いられる。パラメータについて、τ=1、a=-0.5、b=-15.0、c=0.0、d=0.02、e=3.0、f=1.0、及びg=0.0が用いられる。各振動子は、個々の脳の構造的結合性に基づく差分結合により他の振動子と結合される。ここで、各振動子、又は脳ノードは、不安定点である超臨界アンドロノフ-ホッフ分岐の近くにおいて安定フォーカスで動作したが、臨界点に達することはなかった。各ノードは、刺激なしでは活動を示さないが、刺激されると(又はコネクトームを通じて他のノードから入力を受け取ると)、臨界点の近くで動作することによって減衰振動を生じる。臨界点までの動作距離は各ノードの結合性(結合の重み及び時間遅延)によって決まるので、各ノードは、異なる振幅及び減衰時間で異なる減衰振動を生じ、これにより、刺激位置及び脳の結合性に応じて特定のエネルギー散逸パターン(応答活性化パターン)を生じる。
【数11】
【数12】
【0044】
次いで、ターゲットノード又はターゲットエッジの除去前及び除去後の応答時空間活性化パターンが比較される。そうするために、モードレベルの認知減算(mode level cognitive subtraction)(MLCS)分析を採用することによって、刺激後に軌道が変遷する部分空間が定量化される。in-silico手術前のすべての脳ノードの応答信号を用いる主成分分析(PCA)から、参照座標系が導出される、すなわち、応答信号の共分散行列の固有ベクトルφ
nが計算される。次いで、3つの主成分(PC)が選択され、両方のケース(TZの除去前q
b及び除去後q
a)の応答信号がPCに投影され、再構築された応答信号q
r,b、q
r,aが各脳ノードで得られる:
【数13】
【数14】
【0045】
再構築された応答パターンを比較するために、再構築された応答信号のパワー間の重複量が、すべての脳ノードについてTZの除去前及び除去後に計算される。各脳ノードで得られた値が、TZの除去前の信号パワーのみを用いる重複値によって正規化され、次いで、類似度係数として定義される(値が>1の場合、1-1からの偏差として定義され、これにより、類似度係数は0から1の間の値を有する)。ここで、導出されたTZは、すべての脳領域での類似度係数の平均値が0.75を下回る場合に高リスクを有すると考えられる。言い換えれば、これは、TZの除去が、対応するRSネットワークに影響を及ぼす可能性があることを示す。高リスクのTZを手術不能ゾーンと呼ぶ。TZが1つよりも多いノードを含む場合、刺激に起因して応答活性化パターンが大幅に変化したクリティカルノードが特定され、次いで、そのノードが手術不能ゾーンとして指定される。クリティカルノードは、TZに属する各ノードの除去後に同じシミュレーションを繰り返したときに最低の類似度係数をもたらすノードとして定義される。更新された手術不能ゾーン(クリティカルノードが追加された)がモジュラリティ分析に再度適用され、新しいTZが生成される。新たに得られたTZの有効性と安全性がネットワークシミュレーションを通じて再度評価される。これらのフィードバック手順は、安全性基準を満たすTZが得られるまで反復される。
【0046】
例2:ターゲットゾーンの導出
この例では、EZ外のいくつかの外科的介入オプションが特定の患者のために提示される。この患者は、2つのEZ、ctx-rh-舌(ノード61)、及びctx-rh-海馬傍回(ノード64)を有しており、これらの2つのEZは手術不能ゾーンとして指定される。
【0047】
モジュラリティ分析を用いて、
図2Aで特定される手術不能ゾーンを考慮して患者固有のモジュール構造が構築される。脳のネットワークノードは、モジュラリティ係数が0.3912の7つのモジュールに分割され、EZを含む緑のモジュールは、さらに4つのサブモジュールに細分割される。このモジュール構造に基づいて、EZサブモジュールを他のサブモジュール又はモジュールに結合する3つのターゲットノード(黒三角)及び8つのターゲットエッジ(灰色の点線)が特定される。最初のTZの解剖学的位置を
図2Bに示す。
【0048】
TZ除去前のTZの有効性を評価するためのネットワークシミュレーションでは、ほとんどの脳ノードは、EZが発作活動を生じた後に漸増される。しかしながら、3つのターゲットノードが除去されるとき、発作活動は、EZにおいてほぼ分離され、発作伝搬抑制率SRは95.65%となる。8つのターゲットエッジが離断されるとき、EZのいくつかの隣接するノードにおいて発作活動が依然として観察されるにもかかわらず、発作により漸増されるノードはSR91.30%で顕著に減少する。これらの結果は、導出されたTZの除去により発作の伝搬を防ぐことができることを実証している。一方、TZの安全性を評価するためのネットワークシミュレーションでは、
図3Aに示すようにいくつかのRSネットワークをテストするべく特定の脳領域を刺激することによって、応答活性化パターン間の類似度係数がTZの除去前及び除去後に計算される。低い類似度係数は、刺激に起因する応答パターンがTZの除去後に大幅に変化していることを示す。この場合、結果は、得られたTZの除去は、より大きいネットワーク混乱につながり、特に記憶機能に関して、認知への悪影響のリスクが高くなる可能性があることを示している。TZの除去によって応答パターンが元のパターンの25%を超えて変形する場合、すなわち、すべての脳領域での類似度係数の平均値が0.75を下回る場合、TZは安全でないと考えられる。
【0049】
得られたTZは記憶ネットワークへの悪影響を有し得ることから、次のステップは、最も大きな変動につながるクリティカルノードを特定することである。
図3Bは、最初に導出されたターゲットノードの各ノードが除去されるときの記憶ネットワークへの影響を示している。左小脳皮質(ノード35)の除去は、除去前(ノード10に刺激が適用されるとき、0.58)に比べて最低の平均類似度値をもたらし、ゆえに、このノードは、クリティカルノードとして定義され、したがって、手術不能ゾーンとして指定される。
【0050】
更新された手術不能ゾーンをモジュラリティ分析にフィードバックすることによって、新しいモジュール構造が得られる。
図2Cは、クリティカルノード(灰色の三角、ノード35)と2つのEZ(ノード61及び64)が手術不能ゾーンに設定されるときのモジュール構造を示す。脳のネットワークノードは、モジュラリティ係数が0.3995の8つのモジュールに分割され、EZを含む緑のモジュールは、各手術不能ゾーンとその隣接するノードが同じサブモジュールに属するように、2つのサブモジュールに細分割される。このモジュール構造に基づいて、新しいターゲットノード(黒三角)及びターゲットエッジ(灰色の点線)が得られる。新しいTZの解剖学的位置を
図2Dに示す。
【0051】
図4は、新たに導出されたTZの有効性を評価するためのネットワークシミュレーション結果を示す。結果は、すべての脳ノードでの時系列データ、すなわち、局所電場電位を示している。TZの除去前に、EZから発生した発作活動は、ある程度の遅延後に他のノードに伝搬する、すなわち、
図4Aに示すようにほとんどのノードが発作により漸増される。新しいTZを除去すると、最初のTZを除去するときよりも発作により漸増される領域がいくらか多いにもかかわらず、除去前のシミュレーションに比べて発作により漸増される領域の顕著な減少が確認される。
図4B及び
図4Cに示すように、3つの新しいターゲットノードの除去後のSRは89.86%であり、5つの新しいターゲットエッジの除去後のSRは85.51%である。
図4Dは、EZを除く、導出されたターゲットノードと同数のランダムノードを除去するときのシミュレーション結果を示す。発作により漸増されるノードの減少度を比較すると、提案した方法から得られたTZの除去は発作の伝搬を効果的に抑制できることが実証されている。この例では、3つのランダムノードの除去後のSRは31.88%である。一方、シミュレーション結果は、TZの除去後に各脳ノードで発作活動が抑制される場合であっても持続的なスパイクが発生することを示している。これらの発作間欠期スパイクは、確率的シミュレーションのために適用されるノイズ環境によって引き起こされる。バックグラウンドの内部アクティビティを考慮に入れるためにすべての脳ノード(Epileptors)にガウスノイズが適用され、ゆえに、各ノードは、ベースラインアクティビティとしてランダムスパイクイベントを生じる。これらのスパイクの発生は、発作前、発作時、及び発作後などの各ノードの状態に応じて調整される。
【0052】
図5は、最初のTZと新しいTZでの安全性の評価結果の差異を示す。ヒストグラムは、TZの除去前及び除去後の、すべての脳領域での刺激に起因する応答パターン間の、類似度係数の平均値を示す。2つのグループの値を比較すると、新しいTZの除去は、すべてのRSネットワークで除去前と同様のレベル(類似度係数の平均値>0.75)に維持することができるのに対し、最初のTZの除去は、記憶ネットワークを乱す可能性があることがわかる。言い換えれば、これは、新たに導出されたTZが、正常な脳機能を維持する脳のネットワーク伝達特性に与える影響が少ないことを意味する。結果はまた、ターゲットエッジに対応する線維路の離断は、ターゲットノードに対応する脳領域の切除よりも正常な脳機能に与える影響が少ないことを示す。この例では、単一のフィードバックから得られた新しいTZは、安全性基準を満たしている。しかしながら、新たに導出されたTZが基準を満たさない場合、基準を満たすTZが導出されるまで反復フィードバック手順(新しいTZのなかでクリティカルノードを見つけ出し、これを手術不能ゾーンに設定し、新しいモジュール構造を得る)を続ける。
【0053】
TZを導出するプロセスを簡単に説明するために、モジュラリティ分析での分解能パラメータが1.25に固定されているときの結果のみが、この例の
図2~
図5に示されている。しかしながら、提案した方法は、0.25間隔で0.5~1.5の分解能パラメータのパラメータスイープを含むので、パラメータ値に従って複数のモジュール構造が得られ(分解能パラメータは、各モジュールのサイズ、すなわち、モジュールの数を決める)、結果として複数のTZ選択肢が得られる。この例の特定の患者について、最初にターゲットノードの5つの変形とターゲットエッジの7つの変形が得られる。フィードバックの適用後に、最終的にターゲットノードの7つの変形とターゲットエッジの9つの変形が導出される。
【0054】
例3:てんかん誘発帯の位置に応じた体系的分析
提案した方法の堅牢性を実証するために、EZの位置に応じてTZがどのように変化するかを示すさらなるシミュレーション結果が提示される。
図6A及び
図6Bは、1つのEZがすべての潜在的な脳ノードに配置され、EZは手術不能ゾーンとして想定される体系的シミュレーションを行うことで得られる、別の特定の患者でのターゲットノード及びターゲットエッジを示す。TZの累積結果により、TZとして頻繁に用いられるノード及びエッジが特定される。頻繁に取得されるノード及びエッジは、局所領域から脳全体への発作活動の伝搬において重要な役割を果たし、これらを除去することで発作の伝搬を効果的に制御することができる。この患者では、最も頻繁に導出されたノードはctx-rh-中心後回(ノード70)であり、最も頻繁に導出されたエッジは、ctx-lh-縁上回(ノード30)とctx-lh-中心後回(ノード21)との接続部である。累積結果の解剖学的位置を
図6Cに提示する。一方、TZを導出する際に、最初に取得されるターゲットノードの頻度は、ノードの強度(他のノードと接続されるリンクの重みの和)と正相関する、すなわち、高強度のノードがTZとして頻繁に導出される(相関係数:0.7842)。しかしながら、フィードバック手順から得られる最終的なターゲットノードは、いくつかのノードに集中する傾向があり、したがって、最終的に取得されるターゲットノードの頻度はノードの強度にあまり関連せず、相関係数は0.3059である。
【0055】
正常な脳機能のための安全性を考慮に入れたフィードバック戦略のために用いられるクリティカルノードはすべての患者で有意に異ならない。特に、上前頭皮質(ノード27及び76)は、しばしばクリティカルノードとして現れ、これは、これらのノードは、発作の伝搬を制御するのに効果的であるが、それらの除去は正常な脳機能に問題を引き起こし得ることを意味する。ネットワークシミュレーション結果は、これらのノードの除去は、視覚、ワーキングメモリ、及び腹側視覚路、並びにデフォルトモードに対応するRSネットワークを大幅に歪ませることを示している。実際には、上前頭皮質が、2つの異なる脳ノードを接続する最短経路として頻繁に用いられるノードとして調査されており、発作の半球間伝搬において重要な役割を果たすことも示されている。
【国際調査報告】