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▶ ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】遺伝子改変T細胞の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20220728BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570325
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2020064755
(87)【国際公開番号】W WO2020239866
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】19176957.9
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520493902
【氏名又は名称】ミルテニイ ビオテック ベー.ファー. ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】シャゼル,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カイザー,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】アッセンマッハ,マリオ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変T細胞を生成するための方法であって、a)T細胞を含む試料を準備するステップ、b)前記試料を遠心分離により調製するステップ、c)T細胞を濃縮するステップ、d)調節剤を使用して、T細胞を活性化するステップ、e)レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入により、T細胞を遺伝子改変するステップ、f)調節剤を除去するステップを含み、それにより遺伝子改変T細胞の試料が生成され、ここで、前記方法は144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間未満、48時間未満、または24時間未満で実施される、方法を提供する。本発明の一実施形態では、前記T細胞の濃縮は、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子を使用して磁気細胞分離により実施され、前記磁気粒子は、分離後に細胞から除去され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変T細胞を生成するための方法であって、
a)T細胞を含む試料を準備するステップ、
b)前記試料を遠心分離により調製するステップ、
c)ステップbのT細胞を濃縮するステップ、
d)調節剤(modulatory agents)を使用して、濃縮されたT細胞を活性化するステップ、
e)レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入により、活性化されたT細胞を遺伝子改変するステップ、
f)前記調節剤を除去するステップ
を含み、
それにより、遺伝子改変T細胞の試料が生成され、
前記方法が144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間未満、48時間未満、または24時間未満で実施される、方法。
【請求項2】
ステップa)の前記試料はヒト血清を含み、前記血清はステップb)で除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)において、前記T細胞が、CD4および/またはCD8を陽性選択マーカーとして使用することにより、CD4および/またはCD8陽性T細胞が濃縮され、および/または腫瘍関連抗原(TAA)を陰性選択マーカーとして使用することにより、がん細胞が枯渇される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮が、
i)前記T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させるステップであって、前記磁気粒子およびそれにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片が除去され得る、ステップ、
ii)前記CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)分離後に前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮が、
i)前記T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させるステップであって、前記磁気粒子と、それにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片とは、化学的におよび/または酵素的に分断され得る、ステップ;
ii)前記CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)前記磁気粒子と、それにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片との化学的および/または酵素的分断により、前記分離ステップ後に前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記調節剤は、リンカーを介して直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片は、除去され得る、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記調節剤は、リンカーを介して直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片は、化学的および/または酵素的に分断され得、前記調節剤は、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片の化学的および/または酵素的分断により除去される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記調節剤は、生分解性リンカーを介して直接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記生分解性リンカーは、前記生分解性リンカーのグリコシド連結を特異的に消化する酵素を添加することにより分解される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生分解性リンカーは、ポリサッカライドであるかまたはポリサッカライドを含み、前記グリコシド連結を特異的に消化する酵素は、加水分解酵素である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入によるT細胞の遺伝子改変後、残留レンチウイルスベクター粒子が除去される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記残留レンチウイルスベクター粒子の除去は、洗浄により実施され、前記洗浄は、前記遺伝子改変T細胞を含む試料中の残留ベクター粒子の10分の1以下、好ましくは100分の1の低減をもたらす、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記残留レンチウイルスベクター粒子の除去は、レンチウイルスベクター粒子を不活性化するおよび/またはそれらの安定性を低減する物質と共にインキュベーションすることにより実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項3の除去されたヒト血清、またはレンチウイルスベクター粒子のT細胞への生産的形質導入を阻害するそれから単離された物質を、遺伝子改変T細胞に添加し、それにより残留レンチウイルスベクター粒子を除去および/または中和する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
閉鎖系で実施される自動化された方法である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記生成された試料中のT細胞の数が、前記準備した試料中のT細胞の数と比較して10倍未満である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子操作T細胞の生成に関する分野、特に、短期間内に、ならびに標的集団における汚染物質および/または望ましくない細胞の濃度が低くなるように遺伝子操作T細胞を生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子改変T細胞の臨床製造は複雑なプロセスである。患者の末梢血単核細胞(PBMC)は、T細胞が豊富であることが多く、それらをウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによる遺伝子改変前に活性化させる。次いで、改変T細胞を、治療に必要な細胞数に到達させるために拡大増殖させ(expand)、その後細胞を最終的に、再輸注前に製剤化および/または凍結保存する。細胞製品は、少なからぬ品質管理アッセイにかけられ、すべての出荷基準および「医薬品の製造および品質管理に関する基準」(GMP)の指針を満たさなければならない。したがってこれまで、遺伝子改変T細胞が使用される養子細胞移入(ACT)は、間に合わせのデバイスおよび基本的施設を使用することによる小規模臨床治験のための独自製造プロセスを開発した研究者により実施されることが多かった。一方、閉鎖系での自動化されたプロセスも利用可能である(例えば、国際公開第2015162211号A1パンフレット、国際公開第2019046766号A1パンフレット)。国際公開第2019032929号A1パンフレットには、T細胞を遺伝子操作するための方法が開示されており、その方法では、T細胞を含む試料が刺激条件下でインキュベートされ、インキュベーションの少なくとも一部の期間中に、刺激されたT細胞に核酸が導入される。
【0003】
当技術分野では、例えば、生成されたT細胞の毒性を低減するためにおよび/またはプロセス時間を短縮するために、例えばそれを必要とする患者への投与の向上を可能にするために、遺伝子改変T細胞を生成するための改良方法、優先的には自動化されたプロセスが必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
薬物製品を汚染する残留調節剤(modulatory agent)は、in vivoでT細胞の望ましくない活性化に結び付く可能性があるため、輸注すると有害である可能性がある。これは、炎症性サイトカインの急速な放出に結び付き、重度のサイトカイン放出症候群、発熱、低血圧、臓器不全、およびさらには死を引き起こす可能性がある。加えて、可溶性形態および/または細胞結合形態の薬物製品を汚染する残留レンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクターおよび/またはin vivoでの非標的細胞の形質導入により送達される抗原に対する養子免疫応答を含む、補体活性化、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害などの望ましくない免疫応答を誘発する場合があるため、輸注すると有害である可能性がある。非標的細胞の形質導入および導入遺伝子のその後の発現は、望ましくない免疫応答の誘導、発がん性、生存率の変化、増殖の変化、生理学的状態の変化、および天然機能の変化など、望ましくない副作用を誘導する可能性がある。
【0005】
驚くべきことに、本明細書で開示する改変T細胞を生成するためのプロセスは、プロセスの開始から144時間未満に、120時間未満に、96時間未満に、72時間未満に、48時間未満に、または24時間未満にさえ短縮することができ、その期間に、患者にとって潜在的に有害な分子、試薬が、クリーンアップおよび追加の安全層としてプロセス中におよび/またはプロセスの終了時に除去され、つまりT細胞を含む試料が、その後それを必要とする患者にそのまま(再)輸注することができる遺伝子改変T細胞を含む試料へと準備されることを見出した。遺伝子改変T細胞は、キメラ抗原受容体を発現するT細胞であってもよく、適用は、患者のがんを治療するためであってもよい。
【0006】
こうした遺伝子改変T細胞の治療有効量へのさらなる拡大増殖はin vivoで生じることになるため、遺伝子操作T細胞を、患者の効果的な治療に必要であることが知られている細胞数へとin vitroで拡大増殖させる必要がないことは驚くべきことだった。本明細書で開示の通りに生成された試料中の遺伝子改変T細胞の数(量)の拡大増殖は、プロセスの開始時に準備された試料のT細胞の数(量)と比較して10倍未満、優先的には5倍未満であってもよい。これは、本明細書に開示の方法により生成される遺伝子改変T細胞の組成物/試料が高品質であるため、つまり試薬、レンチウイルスベクター、および未遺伝子操作T細胞成分による汚染が少ないため可能になったものである。
【0007】
本発明は、明示的な拡大増殖ステップの非存在下で本明細書に開示の方法を使用して数日以内に、例えば3日間(72時間)でまたはそれ未満でin vitroにて生成されたCAR T細胞が、驚くべきことに、in vitroおよびin vivoでロバストな抗腫瘍活性を促進することを実証することに成功し、機能的CAR T細胞の生成には、in vivoでの拡大増殖は必須であるが、in vitroでの拡大増殖は必須ではないことを証明する(実施例10を参照)。
【0008】
3日間で実施された方法のデータが示されているが、72時間(3日間)未満で、例えば48時間または24時間で本方法により生成される試料でもin vivo効果が観察されることになり、生成された細胞によるがん性細胞の死滅というin vivo効果を引き起こすまでの期間が遅延されることになるに過ぎないことは自明である。図9には、遺伝子移入効率が低減するのみで、製造時間をさらにまた短縮することができることを示すデータが提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】短期間での遺伝子改変T細胞の生成についての概略図。ヒトの全血、白血球アフェレーシス、バフィーコート、PBMC、増殖または単離T細胞などの、T細胞を含む試料を準備する。任意選択で、試料は、レンチウイルスベクターによる遺伝子改変を阻害する物質を含む血清を含む。効率的な形質導入を可能にするため、血清を洗浄により除去する。加えて、T細胞を、CD3およびCD28に結合する調節剤でポリクローナルに活性化し、その後レンチウイルスベクターを使用して遺伝子改変する。クリーンアップとして、調節剤を除去して、精製された遺伝子操作T細胞を得る。
図2】調節性活性化作用剤の除去についての概略図。T細胞を、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を含む調節試薬(modulatory reagent)でポリクローナルに活性化する。抗体またはそれらの断片は両方とも、生分解性リンカーに直接的または間接的にカップリングされている。調節活性化試薬(modulatory activating reagent)は、洗浄することにより、またはリンカーを特異的に分解する酵素を添加することにより除去することができ、それによりCD3およびCD28に特異的な抗体または断片が遊離される。加えて、活性化試薬は、CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片の化学的分断により除去することができる。調節剤またはその断片の細胞からの除去は、1つまたは幾つかの洗浄ステップにより実施することができる。
図3】磁気濃縮試薬の除去についての概略図。磁気粒子を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片とカップリングしたT細胞と直接的にまたは間接的に接触させる、MACSなどの磁気細胞分離により、CD4+および/またはCD8+ T細胞を分離する。抗体またはその抗原結合性断片は、生分解性リンカーを介して磁気粒子にカップリングされている。カップリングした磁気粒子は、洗浄することにより、またはリンカーを特異的に分解する酵素を添加することにより除去することができ、それによりCD4および/またはCD28に特異的な抗体または断片が磁気粒子から遊離される。加えて、磁気粒子は、化学的分断により除去することができる。磁気粒子またはその断片の除去は、1つまたは幾つかの洗浄ステップにより実施することができる。
図4】T細胞の間接的磁気標識用試薬の除去についての概略図。T細胞は、磁気粒子を、ビオチン化されている生分解性リンカーを介してCD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片とカップリングしたT細胞と接触させることにより間接的に標識することができ、磁気粒子は、ビオチンに特異的な抗体またはその抗原結合性断片にカップリングされている。磁気粒子は、生分解性リンカーを特異的に消化する酵素を添加することにより、および/またはビオチンを(競合物として)添加することにより、T細胞から遊離させることができる。加えて、間接的にカップリングした磁気粒子は、洗浄および/または化学的分断により除去することができる。分断された作用剤または磁気粒子の除去は、1つまたは幾つかの洗浄ステップにより実施することができる。
図5】洗浄による活性化試薬の除去。濃縮T細胞を、生分解性リンカーと直接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を含む調節試薬であるT Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。調節活性化試薬を含む刺激20時間後のT細胞を洗浄し、結合した生分解性リンカーの存在を、刺激後の幾つかの時点にてフローサイトメトリーにより測定した。生分解性リンカーレベルの経時的な低減により検出されるように、刺激試薬は洗浄により効率的に除去される。
図6】洗浄および酵素活性による調節剤の除去。濃縮T細胞を、生分解性リンカーに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を含む調節試薬であるT Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。調節活性化試薬に結合した刺激20時間後のT細胞を洗浄し、24時間後に生分解性リンカーの存在をフローサイトメトリーにより測定した。刺激26時間後に、生分解性リンカーに特異的な酵素を添加し、生分解性リンカーの存在を、刺激後の幾つかの時点にて経時的に測定した。刺激試薬は、洗浄することおよび生分解性リンカーに特異的な酵素を添加することにより、効率的に除去される。
図7】生分解性リンカーに特異的な酵素は無毒性である。濃縮T細胞を、生分解性リンカーに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を含む調節試薬であるT Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。刺激26時間後に酵素をT細胞に添加し、24時間後にPI染色によるフローサイトメトリーで生存率を測定した。生分解性リンカーに特異的な酵素の有無に関わらず同等の生存率が検出可能だったため、生分解性リンカーに特異的な酵素は、濃縮および活性化されたT細胞に有害ではない。
図8】累積的洗浄による非細胞成分の効率的な除去。非細胞成分の累積的洗浄および除去の効率を、個々の洗浄ステップ毎に2.6倍希釈のまたは個々の洗浄ステップ毎に5倍希釈のいずれかの2つの異なる洗浄レジメンに基づいて算出した。算出した累積希釈効率を、未希釈(つまり100%)に対して正規化した。2.6倍段階希釈の場合、非細胞成分の比は、11回の連続洗浄ステップ後に0.001%を下回る。5倍段階希釈の場合、非細胞成分の比は、7回の連続洗浄ステップ後に0.001%を下回る。
図9】3日間でT細胞を遺伝子操作するためのプロセスの設定。0日目に形質導入し、1日目に生分解性リンカーに特異的な酵素であるデキストラナーゼと共にインキュベートしたT細胞は、最も低い形質導入効率レベルを示した。これは、T細胞刺激が不十分だったことを示す。これは、2日目または3日目に後から添加してより長期間刺激したT細胞を分析したところ、0日目に酵素と共にインキュベートしたT細胞と比較して、より高い形質導入効率レベルが検出可能だったことにより確認された。従来のプロトコールに近かったより良好な形質導入効率は、1日目に形質導入し、2日目または3日目にデキストラナーゼと共にインキュベートした刺激T細胞で観察された。
図10】3日以内に生成された遺伝子操作T細胞のCliniMACS(登録商標)Prodigy系における調節剤の効率的な除去。最大で1e9個のCD4/CD8細胞を有する、健康ドナーの白血球アフェレーシス試料を、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で自動的に処理して、CAR T細胞を3日以内に生成した。4e8個のT細胞を、調節剤であるMACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激し、VSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクターで遺伝子改変した。2日目に、デキストラナーゼを含む10mlの溶液を自動的に添加し、生分解性リンカーを特異的に分解して、CD3およびCD28に特異的な抗体または断片を遊離させ、調節剤の活性を無効化した。対照として、CliniMACS(登録商標)Prodigy系での製造ランを、同じ条件下および同じドナー物質だが、生分解性リンカーに特異的な酵素を添加せずに実施した。図10A:CliniMACS(登録商標)Prodigy系における両T細胞遺伝子操作ランについて、生分解性リンカーの存在を、生分解性リンカーに特異的な抗体で染色した製剤化細胞に対するフローサイトメトリーにより評価した。図10B:酵素を添加しないCliniMACS(登録商標)Prodigyランと比較したところ、わずかな割合のリンカー陽性細胞しか検出可能でなかったため、生分解性リンカーは、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で効率的に除去された。加えて、すべての生存細胞の生分解性リンカーの平均強度レベル(MFI)は、酵素を添加した場合は、バックグラウンドレベルだった。
図11】2日目に活性化試薬を酵素的に除去する際のCliniMACS(登録商標)Prodigy系におけるT細胞刺激レベル。調節剤の除去が刺激レベルに及ぼす影響を、両方とも信頼性の高いT細胞活性化マーカーであると報告されているCD25およびCD69を染色してフローサイトメトリーにより評価した(CD25:REA570;CD69:REA824;MiltenyiBiotec)。小規模培養に由来する同じドナーから得られた非刺激T細胞は対照としての役目を果たし、CliniMACS(登録商標)Prodigy系から回収したT細胞を酵素で処理してまたは処理せずに分析した。未刺激対照細胞と比較して、活性化マーカーは両方とも非常に高い平均強度レベルが、デキストラナーゼで処理したまたは処理しなかったT細胞試料で検出された。これにより、両活性化マーカーの上方制御には2日目までの刺激ですでに十分であることが確認された。これは、すでに2日目にはまたはそれ以前でさえ、刺激に影響を及ぼすことなく、調節剤を除去することができることも示す。
図12】T細胞を3日以内に遺伝子操作するための、CliniMACS(登録商標)Prodigy系における刺激T細胞の増殖。3回の独立製造ランにおいてT細胞拡大増殖は3日目では検出可能ではなかった。これは、T細胞は十分に活性化されたが、T細胞の増殖はまだ始まっていないことを示唆する(図12も参照)。結果的に、T細胞を3日以内に遺伝子改変するための製造プロトコールは、in vitroでのT細胞増殖を支援するには短かすぎる。
図13】小規模でのCAR発現動態の評価。図13A:5日後に、形質導入効率は18~22%のプラトーレベルに達し、安定した導入遺伝子送達および導入遺伝子発現が確認された。図13B:形質導入2日後では、T細胞の16%はすでにCAR陽性だったが、明確なCAR陽性集団はまだ検出可能ではなかった。後の時点では、明確なCAR発現集団がフローサイトメトリーで検出された。
図14】CliniMACS(登録商標)Prodigy系での大規模製造のCAR発現動態の評価。小規模での実験とは対照的に(図13を参照)、CliniMACS(登録商標)Prodigy系でのCAR発現は、初期時点ではプラトーレベルに到達しなかった。形質導入2日後では、T細胞の19%がCAR陽性だった。形質導入効率は、後期時点では75%に増加した。これは、形質導入2日後ではCARがまだ十分に発現されていなかったことを示す。
図15】CliniMACS(登録商標)Prodigy系でのCAR T細胞製造パラメーターの最適化。単離した刺激T細胞を、2.5mlのVSV-GシュードタイプCD20/CD19タンデムCARコードレンチウイルスベクターを1e8個のT細胞に対して用いて(図15:条件Iを参照)、並行して同じレンチウイルスベクター容積を4e8個のT細胞に対して用いて(図15:条件IIを参照)、遺伝子改変した。また、条件IIでは、容積を増加させることにより、および初期振盪ステップを実施することにより、より高い細胞密度での培養を支援する。2日目に、同じ容積のデキストラナーゼを両T細胞製造条件に適用した。3日目に、製造されたT細胞を複数回洗浄し、回収し、総T細胞数を細胞計数により決定した。両CAR T細胞製造条件の洗浄および回収した細胞試料を、インキュベーター内の24ウェルでさらに8日間培養して、定常状態レベルのCAR発現が典型的に観察される際の形質導入効率の高信頼性評価を可能にした。図15A:条件IIの形質導入効率は32%だったが、条件Iの形質導入効率はわずか20%だった。重要なことには、条件Iでは、1細胞当たりより高いLV用量(MOI)が適用された。図15B:条件IIでは、より高い形質導入効率が決定されただけでなく、4倍多くの(つまり4e8個の)T細胞が形質導入された。これにより、条件IIのCAR形質導入T細胞の収率が、条件Iと比較してほぼ7倍に増加した。
図16】3日以内に生成されたCAR T細胞のサイトカイン発現レベル。刺激され、CD20-CARが形質導入され、デキストラナーゼで処理された、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で3日以内に製造されたT細胞を、様々なエフェクター対標的比(E:T)で、CD20、GFP発現Raji細胞と共に共培養し、24時間後に、インターフェロンガンマ(IFN-g)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびIL-2などの炎症性サイトカインの存在を、MACSPlexサイトカインキットアッセイ(Miltenyi Biotec)を使用して評価した。3日以内に生成されたCD20 CAR形質導入T細胞では、IFN-g、GM-CSF、およびIL-2レベルは、定量化レベルさえも超える高レベルにてE:T依存的様式で検出可能だった。対照的に、未刺激T細胞および未形質導入のままだった刺激T細胞では、サイトカインは検出可能ではなかった。これにより、3日以内に製造されたCAR形質導入T細胞の腫瘍抗原特異的応答が確認される。
図17】3日以内に生成されたCAR T細胞の細胞傷害活性。3日以内に製造されたCAR T細胞およびRaji-GFP細胞を、さらに2日間共培養し、細胞の50%をフローサイトメトリーで分析して、残留腫瘍細胞の数、および結果的にはCAR T細胞の細胞溶解能力を定量化した(ラウンド1;左)。別の20,000個のRaji-GFP腫瘍細胞を共培養の残り50%に添加して、第2の連続ラウンドの共培養でCAR T細胞の効力を評価した。第2の連続ラウンドの共培養では、追加の腫瘍細胞を添加し、CAR T細胞にとって困難であることが意図される条件下で細胞傷害活性を評価した(ラウンド2:右)。72時間後、フローサイトメトリーを実施して、第2のラウンドの共培養の残留腫瘍細胞数を定量化した。E:T比が高い場合(つまり、1.25:1)、Raji細胞のほぼ100%が、第1のラウンドでおよび第2のラウンドでも溶解された。対照的に、未形質導入対照では、わずか50%および40%の残留標的細胞が検出可能だった。E:T比が0.425:1の場合、機能性は、1.25:1の場合と同等だったが、全体的なレベルは低かった。CAR形質導入T細胞の存在下では、第1および第2のラウンドの共培養において腫瘍細胞の60%が溶解された。対照的に、未形質導入CAR T細胞の存在下では、第1のラウンドでは腫瘍細胞の40%しか溶解せず、第2のラウンドでは死滅は検出可能ではなかった。未形質導入T細胞をCAR形質導入T細胞と比較すると、E:T比が0.15:1の場合、第1のラウンドでは特異的死滅は検出可能ではなかった。要するに、2回の連続ラウンドの共培養後に存在していた腫瘍細胞が、未形質導入対照と比較してより少ないことが検出可能だったため、3日以内に製造されたCAR形質導入T細胞の機能性が、in vitroで確認された。
図18】3日以内に生成されたCAR T細胞のin vivo機能。3日以内に生成されたCAR形質導入T細胞のin vivo機能性を、6~8週齢のNOD scidガンマ(NSG)(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ)マウスで確認した。実験はすべて、「科学的目的で使用される動物の保護に関する2010年9月22日の欧州議会および理事会の指令2010/63/EU(Directive 2010/63/EU of the European Parliament and of the Council of 22 September 2010 on the protection of animals used for scientific purposes)」に準拠し、ドイツ動物保護法の規制に準拠して実施した。手短に言えば、健康ドナーの白血球アフェレーシス試料を、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で自動的に処理し、CAR T細胞を3日以内に生成した(図18上段を参照)。0日目に、白血球アフェレーシス試料を含むバッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)チューブセット520に溶接により滅菌接続した。細胞を自動的に洗浄し、CD4およびCD8 CliniMACS試薬で標識して、T細胞を濃縮した。2e8個のT細胞を、培養チャンバーのIL-7/IL-15含有培地に移し、200mlの培養容積中でMACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)を用いてポリクローナルに刺激した。1日目に、単離した刺激T細胞をVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクターで遺伝子改変して、CD22/CD19タンデム-CARの発現を誘導した。10mlのレンチウイルスベクターを含むバッグをチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーへと自動的に移送した。2日目に、デキストラナーゼを含む10mlの溶液をチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーに自動的に添加してリンカーを特異的に分解した。これにより、CD3およびCD28に特異的な抗体またはそれらの断片が遊離され、調節剤の活性が阻害される。複数回洗浄した後、細胞産物をフローサイトメトリーで分析して、各ステップにおける形質導入効率、生存率、および細胞組成を決定した(図19を参照)。マウス1匹当たりの総数が3e6個または6e6個のCAR形質導入群のT細胞を、回収した日に注射した(図18下段を参照)。4日目前に、5e5個のホタルルシフェラーゼ発現Raji細胞を静脈内接種することにより腫瘍を確立した(図17を参照)。1群当たり7匹のマウスを処置した。2つの追加のグループを陰性対照として確立した。1群は、腫瘍細胞を受け取ったがT細胞は受け取らなかった(n=7;腫瘍のみ)。1群は、腫瘍細胞、および小規模で並行して培養した同じドナーに由来する3e6個の未形質導入T細胞を受け取った(n=7)。腫瘍増殖ならびに抗腫瘍応答を、In vivo Imaging System(IVIS Lumina III)を使用して頻繁にモニターした。この目的のために、100μlのXenoLight Rediject D-Luciferin Ultraをi.p.注射し、その後イソフルランXGI-8麻酔系を使用してマウスに麻酔をかけた。基質注射の6分後に測定を実施した。実験の終了時に、脾臓、骨髄、および血液を調製し、フローサイトメトリーで分析して、腫瘍細胞およびT細胞サブセットの頻度を決定した。
図19】細胞組成。濃縮前、濃縮後、および回収後に採取した試料のCD45h、CD3、CD4、CD8、CD16/CD56、7-AAD、CD19、CD14を染色することによりフローサイトメトリーで細胞組成を決定して、細胞産物の品質を決定した。製剤化後の細胞組成は、67%CD4 T細胞、18%CD8 T細胞、および7%NKT細胞だった。NK細胞、好酸球、好中球、B細胞、または単球の頻度はバックグラウンドレベルであった。これにより、濃縮後のT細胞純度が確認された。
図20】選択した群の代表的なin vivo画像化データ。腫瘍量ならびにCAR T細胞の抗腫瘍活性を、in vivo画像化により頻繁にモニターした。3e6個の生存T細胞を受け取ったマウスを含むコホートの場合、形質導入されたものおよび形質導入されていないものすべてのマウスが示されている。腫瘍のみの群の場合は、7匹中3匹の代表的なマウスが示されている。未形質導入T細胞または腫瘍細胞のみを受け取ったコホートのマウスでは、腫瘍量が急速に増加した。両対照群のマウスは、腫瘍量が臨界レベルに達したため、T細胞注射の14日後に犠牲死させなければならなかった。対照的に、CAR形質導入T細胞を受け取ったマウスは、T細胞注射の3日後および7日後の初期時点では、対照群と比較して用量依存的様式で増加の減速を示した。CAR形質導入T細胞群の腫瘍量のレベルは、T細胞注射後7日目にピークに達し、続いて腫瘍量は、実験の開始時に測定されたレベルまで着実に低減された。
図21】すべての群のin vivo画像化データ。p/sとして経時的に測定された平均腫瘍量+/-SEMが、すべての群のすべてのマウスについて示されている。6E6個のCAR形質導入T細胞群(n=7)のデータが含まれている。6E6個のT細胞で処置したマウスは、3E6群よりも素早い抗腫瘍応答を示した。T細胞注射後14日目では、腫瘍量は、両T細胞用量とも同等の低レベルに実質的に減少した。対照群(つまり、腫瘍のみおよび未形質導入T細胞)は、腫瘍増殖を制御することができず、強力な抗腫瘍活性を媒介することができなかった。
図22】骨髄におけるT細胞の存在量。3匹のランダムに選択したマウスの骨髄におけるヒトT細胞の存在量を、CD45h、CD4、CD8、CD20、CD22、7-AAD、CD19 CAR検出の染色により(すべてMiltenyi Biotec)フローサイトメトリーで定量化した。各マウスの数が示されている。対照群の場合、14日目に試料採取した骨髄に対して分析を実施した。3e6個CAR形質導入T細胞群の場合、3匹のランダムに選択したマウスを18日目に分析した。予想通り、腫瘍のみの群ではT細胞は見出されなかった。未形質導入コホートでは、最大で20%のT細胞が検出可能だった。対照的に、ヒトT細胞の頻度は、CAR形質導入T細胞を輸注したマウスを含むコホートで最大75%と最も高く、CAR T細胞がこの微小環境へと回帰し、in vivoで増殖したことが示された。
図23】骨髄における腫瘍およびT細胞の存在量。ヒト細胞内区画をより詳細に調査して、ヒトRaji腫瘍細胞およびヒトT細胞の頻度を決定した。したがって、すべてのヒト細胞の頻度を100%に設定した。各マウスの数が示されている。予想通り、腫瘍のみのコホートでは、ヒトT細胞は見出されず、Raji細胞のみが見出された。骨髄は、Raji腫瘍細胞の好ましい微小環境である。対照的に、CAR形質導入T細胞群の場合、この臓器ではわずかな割合のRaji細胞しか検出可能ではなかった。これは、こうした代表的なマウスの臓器には約50%のヒトCD4 T細胞および約50%のヒトCD8 T細胞が存在することと一致する。ヒト細胞の20~60%は、未形質導入T細胞群のRaji細胞であり、CD4 T細胞対CD8 T細胞の比は2:1~3:1だった。
図24】脾臓におけるT細胞サブセットの存在量。3匹のランダムに選択したマウスの脾臓におけるT細胞の存在量を、CD45h、CD4、CD8、CD20、CD22、7-AAD、CD19 CAR検出の染色により(すべてMiltenyi Biotec)フローサイトメトリーで定量化した。各マウスの数が示されている。対照群の場合、14日目に試料採取した脾臓に対して分析を実施した。3e6個CAR形質導入T細胞群の場合、3匹のランダムに選択したマウスを18日目に分析した。予想通り、腫瘍のみの群ではT細胞は見出されなかった。未形質導入コホートでは、最大で10%のT細胞が検出可能だった。対照的に、ヒトT細胞の頻度は、CAR形質導入T細胞を輸注したマウスを含むコホートで最大40%と最も高かった。
図25】血液中のT細胞サブセットの存在量。3匹のランダムに選択したマウスの血液中を循環するT細胞の存在量を、CD45h、CD4、CD8、CD20、CD22、7-AAD、CD19 CAR検出の染色により(すべてMiltenyi Biotec)フローサイトメトリーで定量化した。各マウスの数が示されている。対照群の場合、14日目に試料採取した脾臓に対して分析を実施した。3e6個CAR形質導入T細胞群の場合、3匹のランダムに選択したマウスを18日目に分析した。腫瘍のみの群ではT細胞は見出されなかった。未形質導入T細胞を有するマウスを含むコホートではわずかな割合のT細胞しか見出されなかった。対照的に、血液中を循環するヒトT細胞の頻度は、CAR形質導入T細胞を輸注したマウスを含むコホートで最大25%と最も高かった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、遺伝子改変T細胞を生成するための方法であって、
a)T細胞を含む試料を準備するステップ、
b)試料を遠心分離により調製するステップ、
c)ステップbのT細胞を濃縮する(調製した試料からT細胞を濃縮する)ステップ、
d)調節剤(modulatory agents)を使用して、濃縮されたT細胞を活性化するステップ、
e)レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入により、活性化されたT細胞を遺伝子改変するステップ、
f)調節剤を除去するステップ
を含み、
それにより、遺伝子改変T細胞の試料が生成され、
前記方法が144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間未満、48時間未満、または24時間未満で実施される、方法を提供する。
【0011】
現在まで、CAR T細胞輸注後の最も一般的な副作用は、サイトカイン放出症候群(CRS)として知られている免疫活性化の開始である。これは、輸注したCAR T細胞が、CAR抗原を発現する潜在的に高負荷の腫瘍細胞を認識して輸注直後に放出するサイトカインにより引き起こされる全身性炎症応答である。すべてのCAR T細胞がこの初期時点でCARを発現するわけではなく、CAR発現レベルはその後着実にだがゆっくりと増加するため、短期間内でCAR T細胞を製造することにより、この毒性を少なくとも部分的に低減することができる(実施例10を参照)。
【0012】
例えば、本明細書で開示のT細胞濃縮に使用される調節剤および/または磁気粒子を除去すること、および144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間(3日間)未満、48時間未満、または24時間未満で本明細書に開示の方法を実施することを組み合わせることにより、例えば、がんを罹患している患者のin vivo治療への適用を成功させることが可能になり、ここで、前記方法の前記生成された試料中のT細胞の数は、前記準備した試料中のT細胞の数と比較して10倍未満または5倍未満である。
【0013】
T細胞を含む準備した試料(または試料の準備)は、ヒトなどの対象から準備してもよい(試料は、対象により提供されるT細胞を含む)。前記準備した試料は、ヒトの全血、対象の白血球アフェレーシス、バフィーコート、PBMC、増殖または単離T細胞であってもよい。
【0014】
前記試料の調製は、容積低減、再緩衝化、血清除去、赤血球低減、血小板除去、および/または洗浄をもたらし得る。
【0015】
あるいは、前記方法は、T細胞を含む試料を準備するステップaから開始してもよい。
【0016】
あるいは、前記方法は、T細胞を含む試料を遠心分離により調製するステップbから開始してもよい。この代替ステップbの後には、ステップc~fが続いてもよい。
【0017】
前記方法において、ステップa)の前記試料はヒト血清を含み、前記血清はステップb)により除去される。
【0018】
前記ヒト血清は、細胞へのレンチウイルスベクター粒子の形質導入効率を低減させる成分を含んでいてもよい。形質導入効率を低下させる可能性のあるヒト血清の前記成分は、対象の補体系の成分であってもよく、または中和抗体であってもよい(例えば、DePoloら、2000年、Molecular Therapy、2巻:218~222頁を参照)。
【0019】
ヒト血清の除去は、前記遠心分離により達成される洗浄(洗浄ステップ)により実施され得る。洗浄ステップは、一連の培地/緩衝液交換(少なくとも2回の交換)により実施され得、それによりヒト血清および/またはその成分がT細胞から除去される。
【0020】
前記方法において、前記T細胞は、2時間未満、優先的には1時間未満で調製および濃縮される。
【0021】
前記方法において、前記T細胞は、前記調節剤を使用して、72時間未満、優先的には48時間未満、より優先的には24時間未満で活性化(刺激)される、つまり、前記調節剤の添加および前記調節剤の除去は、前記時間内に生じる。
【0022】
前記方法において、前記活性化T細胞の形質導入は、調節剤を使用した前記T細胞刺激の2日後に、優先的には前記刺激の1日後に、より優先的には前記刺激と同時に開始される。
【0023】
前記方法において、前記調節性活性化作用剤は、前記調節剤をT細胞に添加した(ステップd)後2時間未満に、優先的には1時間未満に、より優先的には30分未満に除去され得る(ステップf)。
【0024】
前記方法において、レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入による前記T細胞の前記遺伝子改変(ステップe)は、2日未満で、優先的には1日未満で、より優先的には12時間未満で実施され得る。
【0025】
前記方法において、準備した試料のT細胞は、T細胞の前記遺伝子改変を行う前に、CD4および/またはCD8を陽性選択マーカーとして使用することにより、CD4陽性および/またはCD8陽性T細胞が濃縮され得、および/または準備した試料のT細胞は、腫瘍関連抗原(TAA)を陰性選択マーカーとして使用することにより、T細胞を含む試料を汚染するがん細胞が枯渇され得る。TAAは、例えば、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD70、IgK、IL-1Rap、Lewis-Y、NKG2Dリガンド、ROR1、CAIX、CD133、CEA、c-MET、EGFR、EGFRvIII、EpCam、EphA2、ErbB2/Her2、FAP、FR-a、GD2、GPC3、IL-13Ra2、L1-CAM、メソセリン、MUC1、PD-L1、PSCA、PSMA、VEGFR-2、BCMA、CD123、およびCD16Vの1つまたは複数のマーカーから選択することができる。
【0026】
前記CD4+および/またはCD8+ T細胞の濃縮および/または準備した試料からのがん細胞の枯渇は、分離ステップにより実施することができる。前記分離は、FACSortingなどのフローサイトメトリー法(蛍光活性化細胞選別)、MACSなどの磁気細胞分離、またはMACSQuant(登録商標)Tyto(登録商標)などのマイクロチップベースの細胞選別により実施することができる。磁気細胞分離ステップの使用が好ましい。
【0027】
前記方法において、前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮は、
i)T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させるステップであって、前記磁気粒子およびそれにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片が除去され得る、ステップ、
ii)CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)分離後に前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される。
【0028】
前記方法において、前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮は、
i)T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させるステップであって、前記磁気粒子およびそれにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片が、洗浄により除去され得る、ステップ;
ii)CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)分離後に洗浄により前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される。
【0029】
前記方法において、前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮は、
i)T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させるステップであって、前記磁気粒子と、それにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片とが、化学的におよび/または酵素的に分断され得る、ステップ;
ii)CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)前記磁気粒子と、それにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片との化学的および/または酵素的分断により、分離ステップ後に前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される。
【0030】
化学的および/または酵素的分断による分離ステップ後の濃縮されたT細胞からの前記磁気粒子の前記除去は、磁場内で実施され得、または磁場の除去後に実施され得る。
【0031】
前記細胞に直接的にまたは間接的に結合した磁気粒子を細胞から除去するための方法および系は、当技術分野で周知である。
【0032】
細胞からの磁気粒子の分断をもたらす、細胞を磁気粒子で可逆的に標識するための例示的な一部の方法および系は、本明細書に挙げられている。
【0033】
1つの戦略では、非共有結合相互作用の特異的競合が活用される。米国特許出願公開第20080255004号明細書には、固体支持体に結合されている、デスチオビオチンのような修飾ビオチンおよび修飾ストレプトアビジンまたはアビジンにコンジュゲートされている、標的部分を認識する抗体を使用して、固体支持体、例えば磁気粒子に可逆的に結合させる方法が開示されている。修飾結合パートナーの結合相互作用は、ビオチンとストレプトアビジンとの間の強力で特異的な結合と比較して弱いため、こうした競合物質の存在下では解離が促進される。欧州特許第2725359号B1明細書には、標的部分を認識するリガンド-PEO-ビオチン-コンジュゲートと、競合分子であるビオチン、ストレプトアビジン、または補助試薬を添加することにより遊離させることができる、磁気粒子を含む抗ビオチン-抗体との間の非共有相互作用に基づく可逆的磁気細胞分離系が記載されている。
【0034】
前記方法において、前記CD4および/またはCD8陽性T細胞の濃縮は、
i)T細胞を、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片にリンカーを介して間接的にカップリングされている磁性粒子と接触させるステップであって、前記磁性粒子およびそれにカップリングされている前記抗体またはその抗原結合性断片は、前記リンカーと前記抗体またはその抗原結合性断片との間の結合と競合する競合剤を添加することにより除去することができる、ステップ;
ii)CD4および/またはCD8T細胞を磁場中で分離するステップ、
iii)競合剤を添加することにより、分離ステップ後に前記磁気粒子を、濃縮されたT細胞から除去するステップ
を含む磁気細胞分離ステップにより実施される。
【0035】
前記方法において、前記競合剤は、ビオチン、ストレプトアビジン、または補助試薬である。
【0036】
こうした競合遊離機序の他に、標識の除去としては、機械的撹拌、化学的に切断可能なまたは酵素的に分解可能なリンカーが言及される。国際公開第96/31776号パンフレットには、分離後に、粒子コーティングの部分、またはコーティングと抗原認識部分との間の連結基に存在する部分を酵素的に切断することにより、磁気粒子を標的細胞から遊離させる方法が記載されている。一例は、デキストランでコーティングされている、および/またはデキストランを介して抗原認識部分に連結されている磁気粒子の応用である。その後の単離標的細胞の磁気粒子からの切断は、デキストラン分解酵素であるデキストラナーゼの添加により開始される。欧州特許第3037821号明細書の関連方法には、酵素分解性スペーサーを有するコンジュゲートを用いた、例えば蛍光シグナルによる標的部分の検出および分離が開示されている。
【0037】
最近、標的部分に対する結合が低親和性定数により特徴付けられる抗原認識部分を使用する技法への関心が高まっている。そうした低親和性抗原認識部分による特異的で安定した標識を確保にするため、標識コンジュゲートの構造は、高い結合力を提供する、抗原認識部分の多量体化を含んでいなければならない。低親和性抗原認識部分は、多量体化が分断されると標的部分から解離することができるため、検出部分および抗原認識部分を最良の状態で標的部分から遊離させる機会が提供される。
【0038】
この可逆的多量体染色は、米国特許第7776562号明細書において最初に記載され、また米国特許第8298782号明細書にもそれぞれ記載されており、多量体化は、非共有結合相互作用により構築されている。StreptagIIを有する例示的な低親和性ペプチド/MHCモノマーは、ストレプタクチンと多量体化されており、多量体化は、競合分子であるビオチンを添加すると解除可能である。
【0039】
この方法は、可逆的標識を可能にするための抗原認識部分に対応する受容体結合試薬の特徴に関して米国特許第9023604号明細書で概説されている。結合パートナーCとの解離速度定数が約0.5×10-4sec-1またはそれよりも大きいことにより特徴付けられる受容体結合試薬は、結合パートナーCと可逆的に非共有結合で相互作用する少なくとも2つの結合部位Zを有する多量体化試薬により多量体化され、標的抗原に対して高い結合力を有する複合体を提供する。検出可能な標識は、多価結合複合体に結合されている。多量体化の可逆性は、結合パートナーCと多量体化試薬の結合部位Zとの間の結合が分断されると開始される。例えば、Fab-StreptagII/ストレプタクチンの多量体では、多量体化は、競合物質であるビオチンにより解除することができる。
【0040】
欧州特許第0819250号B1明細書には、親和性試薬、例えば、抗体またはその抗原結合性断片を介して細胞表面に結合している磁気粒子を遊離させるための方法が提供されている。磁気粒子は、(a)粒子のコーティングおよび(b)コーティングと親和性試薬との間の連結基の少なくとも1つに存在するグリコシド連結に特異的なグリコシダーゼの作用により遊離される。
【0041】
欧州特許第3336546号A1明細書には、
a)基本式(I):
-P-B-C-X (I)
を有する少なくとも1つのコンジュゲートであって、
式中、A:抗原認識部分
P:酵素分解性スペーサー
B:第1の結合部分
C 第2の結合部分
X:検出部分
n、m、q、o 1~100の整数であり、
式中、BおよびCは互いに非共有結合で結合しており、AおよびBはPと共有結合で結合している、コンジュゲートを準備するステップ;
b)抗原認識部分Aにより認識される標的部分を少なくとも1つのコンジュゲートで標識するステップ;
c)標識された標的部分を検出部分Xにより検出するステップ;
d)BとCの間の非共有結合を分断することにより、標識された標的部分からC-Xを、切断するステップ;
e)スペーサーPを酵素的に分解することにより、標識された標的部分から結合部分Bを切断するステップ
により、生物学的検体の試料中の標的部分を検出するための方法が開示されている。
【0042】
欧州特許第3336546号A1明細書の方法は、標的部分、つまり、そのような標的部分を発現する標的細胞を検出するためだけでなく、生物学的検体の試料から標的細胞を単離するためにも使用することができる。単離手順では、標的部分の検出が駆使される。例えば、蛍光による標的部分の検出を使用して、FACSまたはTYTO分離系で実施されるような適切な分離プロセスを開始することができる。欧州特許第3336546号A1明細書の方法では、周知の磁気細胞分離プロセスを、検出および分離プロセスとして使用することもでき、磁気粒子は磁場により検出される。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片に直接的にカップリングされている前記磁気粒子は、生分解性リンカーを介してカップリングされており、前記生分解性リンカーは、生分解性リンカーを(特異的に)消化する酵素を添加することにより分解される。前記生分解性リンカーは、ポリサッカライドであってもよくまたはポリサッカライドを含んでいてもよく、前記グリコシド連結を特異的に消化する酵素は、加水分解酵素である。
【0044】
前記生分解性リンカーは、デキストランであってもよくまたはデキストランを含んでいてもよく、前記デキストランを(特異的に)消化する酵素は、デキストラナーゼであってもよい。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態では、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片に間接的にカップリングされている前記磁気粒子は、2つの成分:
i)PEO-ビオチンなどのタグにカップリングされている、デキストランなどのリンカー、またはPEO-ビオチンなどのタグにカップリングされている、CD4および/もしくはCD8に特異的な前記Fab、
ii)前記タグ、例えばビオチンに特異的な抗体またはその抗原結合性断片にカップリングされている磁気粒子を介してカップリングされており、成分iおよびiiを一緒にした後、およびT細胞を、前記間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させた後、前記タグ、例えばビオチン(競合物質としての)と競合する競合剤を添加することにより、磁気粒子を分断(除去)することができる。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態では、CD4および/またはCD8に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片に間接的にカップリングされている前記磁気粒子は、2つの成分:
i)PEO-ビオチンなどのタグにカップリングされている、デキストランなどの生分解性リンカー、
ii)前記タグ、例えばビオチンに特異的な抗体またはその抗原結合性断片にカップリングされている磁気粒子を介してカップリングされており、成分iおよびiiを一緒にした後、およびT細胞を、前記間接的にカップリングされている磁気粒子と接触させた後、デキストラナーゼなどの、生分解性リンカーを特異的に消化する酵素を添加することにより、および/または前記タグ、例えばビオチン(競合物質としての)と競合する競合剤を添加することにより、磁気粒子は前記T細胞から分断され得る。
【0047】
前記方法において、前記競合剤は、ビオチン、ストレプトアビジン、または補助試薬である。
【0048】
本発明のこの実施形態の原理は、遊離/分断原理に関して図4に例示されている。
【0049】
前記方法において、前記調節剤は、リンカーを介して直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片は除去され得る。
【0050】
前記方法において、前記細胞からの調節剤の除去は、1つまたは複数の洗浄ステップによりさらに実施され得る。
【0051】
前記方法において、ている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片は、化学的および/または酵素的に分断され得、前記調節剤は、前記CD3およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片の化学的および/または酵素的分断により除去される。分断された調節剤の細胞からの除去は、1つまたは複数の洗浄ステップによりさらに実施され得る。
【0052】
また、前記細胞と直接的にまたは間接的にカップリングされている磁気粒子を細胞から除去するための前記に記載の方法および系は、リンカーを介して直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を含む前記調節剤の除去に好適であり得、移行させてもよく、および/または適用してもよい。
【0053】
前記方法において、前記CD3および/またはCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片の前記調節剤の前記除去は、
a)タグ、例えばビオチン(競合物質としての)と競合する競合剤を添加するステップを含む競合反応であって、ただし前記調節剤は、2つの成分を介して間接的にカップリングされている、CD3および/またはCD28に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片を含み、前記2つの成分は、
i)PEO-ビオチンなどの前記タグにカップリングされている、CD3および/もしくはCD28に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片、またはPEO-ビオチンなどの前記タグにカップリングされているデキストランなどのリンカーを介してカップリングされている、CD3および/もしくはCD28に特異的な抗体もしくはFabなどのその抗原結合性断片、ならびに
ii)タグ、例えばビオチンに特異的な抗体またはFabなどのそれらの抗原結合性断であってもよく、前記成分i)およびii)は、細胞と一緒にされており、接触している、競合反応;ならびに/あるいは
b)前記リンカーを生分解する酵素を添加するステップを含む酵素的分断であって、ただしリンカーは生分解性リンカー(つまり、リンカーを介した2つの抗体またはその抗原結合性断片の間接的または直接的な連結)である、酵素的分断
により実施される。
【0054】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記調節剤は、2つの成分:
i)PEO-ビオチンなどのタグにカップリングされている、CD3および/もしくはCD28に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片、またはPEO-ビオチンなどのタグにカップリングされているデキストランなどのリンカーを介してカップリングされている、CD3および/もしくはCD28に特異的な抗体もしくはFabなどのその抗原結合性断片、
ii)タグ、例えばビオチンに特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片
を介して間接的にカップリングされている、CD3および/またはCD28に特異的な抗体またはFabなどのその抗原結合性断片を含み、
成分Iおよびiiを一緒にした後、および前記一緒にした成分をT細胞と接触させた後、前記一緒にした成分は、前記タグ、例えばビオチン(競合物質としての)と競合する競合剤を添加することにより分断(除去)され得る。
【0055】
前記生分解性リンカーは、ポリサッカライドであってもよくまたはポリサッカライドを含んでいてもよく、前記グリコシド連結を特異的に消化する酵素は、加水分解酵素であってもよい。
【0056】
生分解性リンカーは、デキストランであってもよくまたはデキストランを含んでいてもよく、デキストランを特異的に消化する酵素は、デキストラナーゼであってもよい。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、調節剤は、生分解性リンカーを介して直接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片および/またはCD28に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片を含み、前記生分解性リンカーは、生分解性リンカーを特異的に消化する酵素を添加することにより分解される。前記生分解性リンカーは、ポリサッカライドであってもよくまたはポリサッカライドを含んでいてもよく、前記グリコシド連結を特異的に消化する酵素は、加水分解酵素である。
【0058】
前記生分解性リンカーは、デキストランであってもよくまたはデキストランを含んでいてもよく、前記デキストランを特異的に消化する酵素は、デキストラナーゼであってもよい。
【0059】
レンチウイルスベクター粒子を用いた形質導入によるT細胞の遺伝子改変後、残留レンチウイルスベクター粒子が除去される、前記方法。
【0060】
前記残留レンチウイルスベクター粒子の除去は、前記調節剤の除去および/または前記磁気粒子の前記除去の前に、除去に続いて、または除去の後に実施してもよい。
【0061】
前記残留レンチウイルスベクター粒子の除去は、洗浄により実施され得、洗浄は、遺伝子改変T細胞を含む試料中の残留ベクター粒子の10分の1以下、好ましくは100分の1の低減をもたらす。
【0062】
洗浄ステップは、一連の培地/緩衝液交換(少なくとも2回の交換)により実施してもよく、それにより、前記遺伝子改変T細胞を含む前記試料から前記残留レンチウイルスベクター粒子が除去される。交換は、遠心分離、沈降、付着、または濾過による細胞および培地/緩衝液の分離、およびその後の培地/緩衝液の交換により実施され得る。
【0063】
洗浄による、遺伝子改変T細胞を含む試料中の残留ベクター粒子の10分の1以下、好ましくは100分の1の低減は、例えば、
i)細胞および培地/緩衝液を分離すること
ii)培地/緩衝液の容積の90%、好ましくは99%を除去すること
iii)新しい培地/緩衝液を添加して元の容積にすること
iv)細胞を培地/緩衝液に再懸濁すること
により達成することができる。
【0064】
洗浄ステップは、レンチウイルスベクターの累積的低減をもたらすことができる連続的様式で実施され得る(つまり、1ステップ当たり10分の1の低減を伴う2つの洗浄ステップは、100分の1の累積的低減をもたらす)。
【0065】
前記残留レンチウイルスベクター粒子の除去は、レンチウイルスベクター粒子を不活性化するおよび/またはそれらの安定性を低減する物質と共にインキュベーションすることにより実施され得る。レンチウイルスベクター粒子を不活性化し、および/またはそれらの安定性を低減する物質は、前記インキュベーション後に洗い流すことができ、前記インキュベーションは、3時間よりも長期にわたっては、優先的には1時間よりも長期にわたっては行われない。
【0066】
レンチウイルスベクター粒子を不活性化し、および/またはそれらの安定性を低減するそのような物質は、例えば、ヘパリン、抗レトロウイルス剤、ヒト血液の補体因子、ヒト血液に含まれる中和抗体、または弱塩基性緩衝液であってもよい。
【0067】
前記抗レトロウイルス剤は、例えば、ジドブジン(zidothymidin、AZT)またはラルテグラビルなどの、ウイルス酵素の阻害剤であってもよい。
【0068】
血液、例えばヒトの血液に含まれる補体因子および/または中和抗体は、当技術分野で周知の方法により単離することができる。
【0069】
弱塩基性緩衝液は、試料のT細胞に害を及ぼさないように十分に穏やかな約7~9のpH値を有してもよい。そのような緩衝液は、例えば、Holicら(Hum Gene Ther Clin Dev.2014年9月;25巻(3号):178~85頁)に記載されている。
【0070】
前記方法において、本明細書で開示の除去されたヒト血清、またはレンチウイルスベクター粒子のT細胞への生産的形質導入を阻害する補体因子および/もしくは中和抗体などのそれから単離された物質を、遺伝子改変T細胞に添加し、それにより残留レンチウイルスベクター粒子を除去および/または中和することができる。
【0071】
本明細書に開示の方法は、優先的には閉鎖系で実施される自動化された方法である。
【0072】
本明細書に開示の方法は、優先的にはGMP条件下の閉鎖系において自動化プロセスとして完全に実施することができる。
【0073】
そのような閉鎖系は、GMPまたはGMP様条件下(「滅菌」)での操作を可能にし、臨床的に適用可能な細胞組成物をもたらす。本明細書では、例示的に、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ)が閉鎖系として使用されている。この系は、国際公開第2009/072003号パンフレットに開示されている。しかしながら、本発明の方法の使用をCliniMACS(登録商標)Prodigyに限定することは意図されていない。
【0074】
CliniMACS Prodigy(登録商標)系は、完全な細胞製品製造プロセスを自動化および標準化するように設計されている。この系では、CliniMACS(登録商標)分離技術(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ)が、幅広い範囲のセンサー制御細胞処理機能と組み合わされている。このデバイスの顕著な特徴は、以下の通りである。
・ 標準化された細胞処理および培養を可能にする使い捨てCentriCultTMチャンバー
・ 単独でのまたはCliniMACS(登録商標)試薬(Miltenyi Biotec GmbH)と組み合わせた細胞濃縮および枯渇機能
・ 温度および制御されたCO2ガス交換による細胞培養および細胞拡大増殖機能
・ 事前に規定されている培地および容積での最終製品製剤化
・ 細胞処理をカスタマイズするためのFlexible Programming Suite(FPS)およびGAMP5互換プログラミング言語を使用したデバイスのプログラミング実現性
・ 様々な用途向けの特注チューブセット
【0075】
遠心分離チャンバーおよび培養チャンバーは同一であってもよい。遠心分離チャンバーおよび培養チャンバーは、種々の条件で使用することができる。例えば、分離または形質導入の場合、高速回転速度(つまり、大きなgの力)を適用することができるが、例えば、培養ステップは、回転を遅くしてまたはさらにはアイドリング状態で実施してもよい。本発明の別の変異形式では、チャンバーは、チャンバーが振盪し、細胞が懸濁状態で維持されることをもたらす振動様式で回転方向を変化させる。したがって、本発明のプロセスでは、T細胞刺激ステップ、遺伝子改変ステップ、および/または培養ステップは、遠心分離または培養チャンバーの定常または振盪条件下で実施され得る。
【0076】
前記方法において、生成された試料中のT細胞の数は、前記準備した試料中のT細胞の数と比較して10倍未満、優先的には5倍未満であってもよい。
【0077】
前記方法において、生成されたT細胞は、4回未満の、優先的には3回未満の細胞分裂を起こす。
【0078】
こうした遺伝子改変T細胞の治療有効量へのさらなる拡大増殖はin vivoで生じることになるため、患者の効果的治療に必要であることが知られている細胞数へと、遺伝子操作T細胞をin vitroで拡大増殖させる必要はない(例えば、Ghassemiら、2018年、Cancer Immunol Res 6巻:1100~1109頁を参照)。これは、本明細書に開示の方法により生成される遺伝子改変T細胞の組成物/試料が高品質であるため、つまり、未遺伝子操作T細胞成分および毒性物質による汚染が少ないため可能になったものである。
【0079】
遺伝子改変T細胞のより大きな細胞数へのin vitro拡大増殖/増殖の省略は、改変T細胞を含む臨床的に適用可能な組成物を調製するために必要な時間の短縮を可能にする。
【0080】
前記遺伝子改変T細胞は、それらの細胞表面上にキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、または任意のアクセサリー分子を発現するように遺伝子改変されていてもよい。
【0081】
最終製剤化のために、遺伝子改変T細胞を、遠心分離により洗浄し、培養培地を、生成された細胞組成物を患者に輸注するなど、その後の用途に適切な緩衝液と置き換えてもよい。
【0082】
必要に応じて、遺伝子改変T細胞を、例えば磁気分離技術を再び使用して未改変T細胞から分離してもよい。
【0083】
一態様では、本発明は、本明細書に開示の方法により得られる細胞組成物を提供する。
【0084】
本発明の一実施形態では、前記細胞組成物は、任意選択で医薬担体を含む医薬細胞組成物である。
【0085】
本発明の方法は、本発明の任意の実施形態ならびに/または本明細書に記載のステップを、本明細書に開示の遺伝子改変T細胞を生成するための機能的方法がもたらされる任意の順序および/もしくは組合せで含んでいてもよい。
【0086】
本発明の上記適用および実施形態に加えて、本発明のさらなる実施形態が下記に記載されているが、そうした実施形態への限定は意図されていない。
【0087】
実施形態
本発明の好ましい実施形態では、T細胞は、例えば、CliniMACS(登録商標)Prodigy(Miltenyi Biotec GmbH)を使用することにより、閉鎖系における自動化されたプロセスでキメラ抗原受容体を発現するように遺伝子改変される。
【0088】
例えば、がんを罹患しているヒトに由来するT細胞を含む試料を準備することができる。T細胞を含む準備した試料のヒト血清は、遠心分離ステップにより洗い流すことができる。
【0089】
CD4+および/またはCD8+ T細胞は、デキストランを介して磁気粒子にカップリングされている抗CD4および/または抗CD8抗体またはその抗原結合性断片を使用して磁気分離ステップで濃縮することができる。CD4+および/またはCD8+ T細胞を、T細胞を含む試料から磁場中で分離した後、デキストラン鎖を切断することにより抗体またはそれらの断片と磁気粒子との結合を分断するデキストラナーゼを添加することにより、磁気粒子を濃縮細胞から除去する。
【0090】
濃縮されたCD4+および/またはCD8+ T細胞は、デキストランを含むリンカーを介してカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体またはその抗原結合性断片を調節剤として使用して24時間にわたって活性化することができる。
【0091】
CARをコードする核酸を含むレンチウイルスベクター粒子を、活性化されたCD4+および/またはCD8+ T細胞を含む試料に添加することができる。刺激中または刺激後に、24時間にわたって形質導入を実施することができる。
【0092】
レンチウイルス粒子をCD4+および/またはCD8+ T細胞に形質導入した後、デキストラン鎖を切断することにより抗体またはそれらの断片の互いに対する結合を分断するデキストラナーゼを添加することにより、調節剤を洗い流すかまたは除去する。遺伝子改変T細胞を含む試料中の残留レンチウイルスベクター粒子を、繰返し洗浄することにより、10分の1以下に、優先的には100分の1以下に低減させる。その結果、遺伝子改変T細胞を含む純粋な試料は、144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間未満、48時間未満、または24時間未満で達成され、生成された試料中の遺伝子改変T細胞の拡大増殖は、T細胞を含む元の準備した試料のT細胞の量と比較して10倍未満、優先的には5倍未満である。遺伝子改変T細胞を含む試料または組成物は、前記ヒトに適用することができ、前記遺伝子改変T細胞は、前記ヒトにおいてTAAを認識するCARを発現することができる。
【0093】
定義
別様に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0094】
本明細書で使用される場合、「含むこと(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、方法または組成物に必須であるが、必須であるか否かに関わらず不特定の要素を含むことができる組成物、方法、およびそれらのそれぞれの成分に関して使用される。
【0095】
「調節剤」、「活性化剤」、および「刺激剤」という用語は、本明細書で使用される場合、同義的に使用することができる。
【0096】
調節剤は、アゴニスト抗体またはその抗原結合性断片、サイトカイン、組換え共刺激分子、および小型薬物阻害剤からなる群から選択することができる。調節剤は、ビーズまたはナノ構造にカップリングされている抗CD3抗体および抗CD28抗体またはそれらの断片である。前記調節剤は、ナノマトリックスであってもよく、ナノマトリックスは、a)可動性ポリマー鎖のマトリックス、ならびにb)可動性ポリマー鎖の前記マトリックスに付着している抗CD3抗体および抗CD28抗体またはそれらの断片を含み、ナノマトリックスは、サイズが1~500nmである。抗CD3抗体および抗CD28抗体またはそれらの断片は、可動性ポリマー鎖の同じまたは別々のマトリックスに付着していてもよい。抗CD3抗体および抗CD28抗体またはそれらの断片が、可動ポリマー鎖の別々のマトリックスに付着している場合、T細胞を刺激するためのナノマトリックスの微調整が可能である。ナノマトリックスは生分解性であってもよい。ナノマトリックスは、コラーゲン、精製タンパク質、精製ペプチド、ポリサッカライド、グリコサミノグリカン、または細胞外マトリックス組成物であってもよい。ポリサッカライドは、例えば、セルロースエーテル、デンプン、アラビアゴム、アガロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、キサンタン、グアーガム、またはアルギン酸塩を含んでいてもよい。分解酵素剤の選択は、グリコシド連結に応じて決定されることになる。高分子コーティングがポリサッカライドである場合、ポリサッカライドは、哺乳動物細胞では通常は見出されないグリコシド連結を有するように選択されることになる。例えば、デキストランおよびα(1->6)連結を切断するデキストラナーゼ;セルロースおよびβ(1->4)連結を切断するセルラーゼ;アミロースおよびアミラーゼ;ペクチンおよびペクチナーゼ;キチンおよびキチナーゼなど、特定のグリコシド構造を認識する加水分解酵素を酵素として使用することができる。
【0097】
加えて、例えば、国際公開第2014/048920号A1パンフレットに開示の前記小型ナノマトリックスは滅菌濾過が可能であり、これは、厳格なGMP基準に準拠する条件下、つまり閉鎖系においてT細胞を活性化するための重要な特徴である。
【0098】
「枯渇」という用語は、本明細書で使用される場合、所望の細胞を、粒子、フルオロフォア、またはハプテンなどの固相にカップリングされている抗体またはその抗原結合性断片により標識されている望ましくない細胞、本明細書では通常はがん細胞から分離するネガティブ選択のプロセスを指す。
【0099】
「粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、コロイド粒子、マイクロスフェア、ナノ粒子、またはビーズなどの固相を指す。そのような粒子を生成するための方法は、当技術分野で周知である。粒子は、磁気粒子であってもよい。粒子は、溶液中または懸濁中に存在してもよく、または本発明で使用する前は凍結乾燥状態であってもよい。次いで、凍結乾燥粒子を、本発明に従って処理しようとする試料と接触させる前に、便利な緩衝液に再構成する。
【0100】
「磁気粒子」における「磁気」という用語は、本明細書で使用される場合、当業者に周知の方法で調製することができる磁気粒子のすべてのサブタイプ、特に強磁性粒子、超常磁性粒子、および常磁性粒子を指す。「強磁性」材料は、磁場の影響を強く受け、磁場が除去されても磁気特性を保持することが可能性である。「常磁性」材料は、弱い磁化率しか有しておらず、磁場が除去されると、すぐに弱い磁性を喪失する。「超常磁性」材料は、磁気に対して非常に感受性であり、つまり磁場に置かれると強く磁性を帯びるが、常磁性材料と同様に急速に磁性を喪失する。
【0101】
抗体(またはその抗原結合性断片)と粒子との連結は、共有結合であってもよくまたは非共有結合であってもよい。共有結合による連結は、例えば、ポリスチレンビーズのカルボキシル基との連結、または修飾ビーズのNH基またはSH基との連結であってもよい。非共有結合による連結は、例えば、ビオチン-アビジン、または抗フルオロフォア抗体に連結されているフルオロフォアカップリング粒子によるものである。抗体を、粒子、フルオロフォア、ビオチンのようなハプテン、または培養皿などのより大きな表面にカップリングするための方法は、当業者に周知である。
【0102】
濃縮、単離、または選択には、原理的に任意の選別技術を使用することができる。これには、例えば、親和性クロマトグラフィーまたは当技術分野で公知の任意の他の抗体依存性分離技法が含まれる。当技術分野で公知の任意のリガンド依存性分離技法を、細胞の物理的特性に依存するポジティブ分離技法およびネガティブ分離技法の両方と併せて使用することができる。特に強力な選別技術は、磁気細胞選別である。細胞を磁気的に分離する方法は、例えば、Invitrogen,Stem cell Technologies、Cellpro、シアトル、またはAdvanced Magnetics、ボストンから市販されている。例えば、モノクローナル抗体を、Dynal M450または類似の磁気粒子のような磁気ポリスチレン粒子に直接的にカップリングすることができ、例えば細胞分離に使用することができる。Dynabead技術はカラムベースではなく、その代わり、細胞が付着したこうした磁気ビーズは、試料チューブ内での液相動態を享受し、チューブを磁気ラックに置くことにより細胞が単離される。しかしながら、本発明によるT細胞を含む試料からCD4+および/またはCD8+ T細胞を濃縮するための好ましい実施形態では、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、例えばポリサッカライドによる有機コーティングを有するコロイド状超常磁性マイクロ粒子と併せて使用される(磁気活性化細胞選別(MACS)技術(Miltenyi Biotec、ベルギッシュグラートバッハ、ドイツ))。こうした粒子(ナノビーズまたはマイクロビーズ)は、モノクローナル抗体と直接コンジュゲートされていてもよく、または抗免疫グロブリン、アビジン、もしくは抗ハプテン特異的マイクロビーズと組み合わせて使用してもよい。
【0103】
MACS技術では、特定の表面抗原に対する抗体でコーティングされた磁気ナノ粒子と共に細胞をインキュベートすることにより、細胞の分離が可能になる。これにより、その抗原を発現する細胞が磁気ナノ粒子に付着する。その後、細胞溶液を、強磁場に置かれたカラムに移す。このステップにて、細胞は、ナノ粒子(抗原を発現している)に付着しカラムに留まるが、他の細胞(抗原を発現していない)は通過する。この方法では、細胞を、特定の抗原/マーカーに関してポジティブまたはネガティブに分離することができる。
【0104】
ポジティブ選択の場合、カラムを磁場から取り出した後、磁気カラムに付着した目的の抗原を発現する細胞を別の容器へと洗い出す。
【0105】
ネガティブ選択の場合、使用される抗体は、目的の細胞ではない細胞に存在することが知られている表面抗原に対するものである。細胞/磁気ナノ粒子溶液をカラムに流した後、こうした抗原を発現する細胞はカラムに結合し、目的の細胞は通過画分に含まれる。しがたって通過画分を収集する。こうした細胞は、ナノ粒子にカップリングされている抗体により標識されないため、「未接触」である。
【0106】
この手順は、直接磁気標識または間接磁気標識を使用して実施することができる。直接標識の場合、特異的抗体が磁気粒子に直接的にカップリングされている。間接標識は、直接磁気標識が可能でないかまたは望ましくない場合の便利な代替手段である。この標識戦略では、任意の細胞表面マーカーに対する一次抗体、特異的モノクローナルまたはポリクローナル抗体、一次抗体の組合せを使用することできる。一次抗体は、未コンジュゲート、ビオチン化、またはフルオロフォアコンジュゲートのいずれであってもよい。次いで、抗免疫グロブリンマイクロビーズ、抗ビオチンマイクロビーズ、または抗フルオロフォアマイクロビーズを用いて磁気標識を達成する。
【0107】
「分断(disruption)」という用語は、活性化のための磁気粒子または調節剤を分断するという状況において本明細書で使用される場合、
洗浄することのみによる、および/または
競合剤を添加し、その後洗浄することによる、および/または
化学的分断による、つまり、共有結合を破断する物質(非タンパク質性化学化合物)を添加することによる、および/または
酵素的に分断し、その後の洗浄することによる、および/または
共有結合を破断するエネルギーを入力すること(物理的分断)による
除去を指す。
【0108】
分断という状況における「競合反応」という用語は、本明細書で使用される場合、共有結合で連結されていない2つの成分を含む、活性化のための磁気粒子または調節剤を指し、一方の成分は、CD3、CD28、CD4、および/またはCD28に特異的な抗体または抗原結合性断片を介して前記細胞に結合し、タグおよび前記タグに結合する第2の成分を含み、そのような前記タグとの前記結合は、競合物質の添加により解消させることができる。
【0109】
競合物質は、例えば、対応する成分との親和性がより高いため、または競合分子の濃度が、CD3、CD28、CD4、および/もしくはCD8に特異的な抗体もしくはその抗原結合性断片と間接的にカップリングされている磁気粒子もしくは調節剤の濃度と比較してより高いため、一方の成分である前記磁気粒子、前記調節剤、または前記抗体もしくはその抗原結合性断片と競合および/または置換することができる。
【0110】
「酵素的分断」という用語は、磁気粒子または調節剤を分断するという状況において本明細書で使用される場合、生分解性リンカーを介して直接的にまたは間接的に連結されている、CD3、CD28、CD4、またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片において、前記生分解性リンカーが、前記酵素の活性により特異的に生分解、消化、または切断することができ、それにより磁気粒子または調節剤を少なくとも2つの別々の分子に分割することができることを指す。したがって、CD3またはCD28に特異的な遊離された単一の抗体またはFabなどのその抗原結合性断片は、それが結合しているT細胞の活性化にさらなる影響を及ぼさない。加えて、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片が、低い親和性および/または高いk(オフ)速度を有する場合、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片は、結合している細胞から除去されることになる。
【0111】
「化学的分断」という用語は、磁気粒子または調節剤を分断するという状況において本明細書で使用される場合、化学分解性リンカーを介して直接的にまたは間接的に連結されている、CD3、CD28、CD4、またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片において、化学分解性リンカーが、生理学的条件下で共有結合を破断し、それにより前記磁気粒子または調節剤を少なくとも2つの別々の分子に分割する非タンパク質性化学物質を添加することにより、特異的に分解または切断することができることを指す。生理学的条件下での化学的分断に好適な反応の例は、還元剤によるジスルフィド結合の還元もしくは亜ジチオン酸塩によるジアゾ結合の還元などの還元、または過ヨウ素酸塩によるグリコール残基の切断などの酸化であってもよい。
【0112】
したがって、CD3またはCD28に特異的な遊離された単一の抗体またはFabなどのその抗原結合性断片は、それが結合しているT細胞の活性化にさらなる影響を及ぼさない。加えて、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片が、低い親和性および/または高いk(オフ)速度を有する場合、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片は、結合している細胞から除去されることになる。
【0113】
「物理的分断」という用語は、磁気粒子または調節剤を分断するという状況において本明細書で使用される場合、前記物理的に分断可能なリンカーを介して直接的にまたは間接的に連結されている、CD3、CD28、CD4またはCD8に特異的な抗体またはその抗原結合性断片において、物理的に分断可能なリンカーが、生理学的条件下で共有結合を破断し、それにより前記磁気粒子または調節剤を少なくとも2つの別々の分子に分割するエネルギー入力により特異的に分解または切断することができることを指す。生理学的条件下での物理的分断に好適な反応の例は、近UV光(300~365nm)によるオルト-ニトロベンジル誘導体の切断により例示されるような、UV光または可視光による光感受性リンカーの光切断などの光反応であってもよい。したがって、CD3またはCD28に特異的な遊離された単一の抗体またはFabなどのその抗原結合性断片は、それが結合しているT細胞の活性化にさらなる影響を及ぼさない。加えて、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片が、低い親和性および/または高いk(オフ)速度を有する場合、前記抗体または前記Fabなどのその抗原結合性断片は、結合している細胞から除去されることになる。
【0114】
「マーカー」という用語は、本明細書で使用される場合、ある特定の細胞タイプにより特異的に発現される細胞抗原を指す。優先的には、マーカーは、細胞表面マーカーであり、生細胞の濃縮、単離、および/または検出を実施することができる。マーカーは、CD4、CD8、および/またはCD62Lなどのポジティブ選択マーカーであってもよく、またはネガティブ選択マーカー(例えば、CD14、CD16、CD19、CD25、CD56を発現する細胞の枯渇)であってもよい。
【0115】
「発現」という用語は、本明細書で使用される場合、そのプロモーターにより細胞内で駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳であると定義される。
【0116】
「抗原結合性分子」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の所望の標的分子、つまり抗原に好ましくは結合するかまたは特異的である任意の分子を指す。「抗原結合性分子」という用語は、例えば、抗体またはその抗原結合性断片を含む。「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、当業者に周知の方法により生成することができるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を指す。抗体は、任意の種、例えばマウス、ラット、ヒツジ、ヒトのものであってもよい。治療目的のために非ヒト抗原結合性断片を使用しようとする場合、それらは、当技術分野で公知の任意の方法によりヒト化することができる。また、抗体は、修飾抗体(例えば、オリゴマー、還元、酸化、および標識抗体)であってもよい。
【0117】
「抗体」という用語は、インタクト分子、およびFab、Fab’、F(ab’)2、Fv、および単鎖抗体などの抗原結合性断片を両方とも含む。加えて、「抗原結合性断片」という用語は、細胞の所望の標的分子に優先的に結合する、抗体または抗体断片以外の任意の分子を含む。好適な分子としては、これらに限定されないが、所望の標的分子、炭水化物、レクチン、または任意の他の抗原結合性タンパク質(例えば、受容体-リガンド相互作用)に結合する、アプタマーとして知られているオリゴヌクレオチドが挙げられる。抗体と粒子またはナノ構造との連結(カップリング)は、共有結合であってもよくまたは非共有結合であってもよい。共有結合による連結は、例えば、ポリスチレンビーズのカルボキシル基との連結、または修飾ビーズのNH2基またはSH2基との連結であってもよい。非共有結合による連結は、例えば、ビオチン-アビジン、または抗フルオロフォア抗体に連結されているフルオロフォアカップリング粒子によるものである。
【0118】
抗原結合性分子、例えば抗体またはその断片に関する「特異的に結合する」または「特異的である」という用語は、試料中の特定の抗原、例えばCD4を認識しそれに結合するが、前記試料中の他の抗原を実質的に認識せず、結合もしない抗原結合性分子(抗原結合性ドメインに対する抗体またはその断片の場合)を指す。1つの種に由来する抗原と特異的に結合する抗体またはその断片の抗原結合性ドメインは、別の種のその抗原にも結合する場合がある。この種間反応性は、本明細書で使用される「特異的である」の定義に反するものではない。抗原、例えばCD4抗原と特異的に結合する抗体またはその断片の抗原結合性ドメインは、前記抗原の様々な変異体(対立遺伝子変異体、スプライス変異体、アイソフォームなど)と実質的に結合する場合がある。この交差反応性は、その抗原結合性ドメインが、抗原、例えばCD4に特異的であるという定義に反するものではない。
【0119】
「遺伝子改変T細胞」または「遺伝子操作T細胞」という用語は、同義的に使用することができ、引いては細胞またはその子孫の遺伝子型または表現型を改変する外来遺伝子または核酸配列を含むおよび/または発現することを意味する。特に、こうした用語は、細胞を当技術分野で周知の組換え法により操作して、ペプチドまたはタンパク質、例えば自然状態ではそうした細胞内で発現されないCARを安定的または一過性に発現させることができるという事実を指す。細胞の遺伝子改変としては、これらに限定されないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、非組込み型レトロまたはレンチウイルスベクター、トランスポゾン、ジンクフィンガーヌクレアーゼを含むデザイナーヌクレアーゼ、TALEN、またはCRISPR/Casを使用した形質導入が挙げられる。
【0120】
本明細書に開示の方法により得られる遺伝子改変T細胞は、当業者に公知の研究、診断、薬理学的または臨床的応用など、その後のステップに使用することができる。
【0121】
遺伝子改変T細胞は、療法、例えば細胞療法、または疾患の予防における医薬組成物としても使用することができる。医薬組成物は、動物またはヒト、優先的にはヒト患者に移植することができる。医薬組成物は、哺乳動物、特にヒトの疾患を治療および/または予防するために使用することができ、治療および/または予防は、おそらくは、薬学的有効量の医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む。本開示の医薬組成物は、治療しようとする(または予防しようとする)疾患に適切な様式で投与することができる。投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患のタイプおよび重症度などの要因により決定されることになるが、適切な投薬量は、臨床治験により決定することができる。
【0122】
「治療有効量」という用語は、患者に治療上の利益を提供する量を意味する。
【0123】
本発明の方法により得られる遺伝子改変T細胞の組成物は、単独で、あるいは希釈剤とおよび/またはサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた医薬組成物としてのいずれでも投与することができる。手短に言えば、本発明の医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的または生理学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせて、本開示の遺伝子改変T細胞を含んでいてもよい。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTAまたはグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);ならびに保存剤を含んでいてもよい。
【0124】
「活性化」という用語は、本明細書で使用される場合、標的細胞の機能、増殖、および/または分化を増加させる細胞を用いて生理学的変化を誘導することを指す。
【0125】
「形質導入」という用語は、レンチウイルスベクター粒子などのウイルス剤に由来する遺伝物質を、T細胞などの真核細胞へと移動させること意味する。
【0126】
腫瘍関連抗原(TAA)は、本明細書で使用される場合、腫瘍細胞で産生される抗原性物質を指す。腫瘍関連抗原は、診断試験で腫瘍/がん細胞を識別するのに有用な腫瘍またはがんマーカーであり、がん療法に使用するための潜在的候補である。優先的には、TAAは、腫瘍/がん細胞の細胞表面に発現されていてもよい。
【0127】
「調節剤の除去」という用語は、本明細書で使用される場合、調節剤をT細胞から物理的に除去すること、および/またはT細胞の活性に対してもはや影響を及ぼさないという効果が得られるまで調節剤を不活性化することを指す。
【0128】
レンチウイルス属(Lentivirus)は、ヒトおよび他の哺乳動物種において長い潜伏期間により特徴付けられる慢性および致死性疾患を引き起こすレトロウイルス科(Retroviridae)の属である。最もよく知られているレンチウイルスは、非分裂細胞に対して効率的に感染することができるヒト免疫不全ウイルスHIVであるため、レンチウイルス由来レトロウイルスベクターは、遺伝子送達の最も効率的な方法の1つである。
【0129】
レンチウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターを生成するため、ベクター粒子のアセンブリに必要なgag/polおよびenvタンパク質は、パッケージング細胞株、例えば、HEK293Tによりトランスで提供される。これは、通常、gag/polおよびenv遺伝子を含む1つまたは複数のプラスミドでパッケージング細胞株をトランスフェクトすることにより達成される。
【0130】
「残留レンチウイルスベクター粒子の除去」という用語は、本明細書で使用される場合、残留レンチウイルスベクター粒子をT細胞から物理的に除去すること、および/またはそれらがもはやT細胞を遺伝子改変しないという効果が得られるまで残留レンチウイルスベクター粒子を不活性化することを指す。
【0131】
「残留レンチウイルスベクター粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、T細胞を含む試料中のT細胞に形質導入されていないレンチウイルスベクター粒子の部分を指す。
【0132】
「方法は、144時間もしくはそれ未満、120時間未満、96時間未満、72時間未満、48時間未満、または24時間未満で実施される」という用語は、プロセスの開始からの、つまりT細胞を含む試料を、その後それを必要とする患者にそのまま(再)輸注することができる遺伝子改変T細胞を含む試料へと提供してからの、本明細書に開示のプロセスの継続期間が、それぞれの時間枠よりも長くはかからないことを意味する。
【0133】
血液中、血清は、血液細胞(血清には、白血球細胞-白血球、または赤血球細胞-赤血球が含まれていない)でも凝固因子でもない成分であり、フィブリノーゲンを含まない血漿である。血清は、血液凝固に使用されないすべてのタンパク質、ならびにすべての電解質、抗体、抗原、ホルモン、およびあらゆる外因性物質を含む。ヒト血清は、ヒトに由来する血清である。
【0134】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、動物を指す。優先的には、対象は、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、イヌ、サル、またはヒトなどの哺乳動物である。より優先的には、個体はヒトである。対象は、がんなどの疾患を罹患している対象(患者)であってもよいが、対象は、健康な対象であってもよい。
【0135】
「閉鎖系」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、形質導入による新しい物質の導入などの培養プロセスを実施する間、ならびに増殖、分化、活性化などの細胞培養ステップおよび/または細胞の分離を実施する間の細胞培養汚染のリスクを低減する任意の閉鎖系を指す。そのような系は、GMPまたはGMP様条件下(「滅菌」)での操作を可能にし、臨床的に適用可能な細胞組成物をもたらす。本明細書では、例示的に、CliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH、ドイツ)が閉鎖系として使用されている。この系は、国際公開第2009/072003号パンフレットに開示されている。しかしながら、本発明の方法の使用をCliniMACS Prodigy(登録商標)に限定することは意図されていない。
【0136】
本発明のプロセスは、シリンダー、ポンプ、バルブ、磁気細胞分離カラム、およびチューブセットにより接続されており、ベースプレートおよびカバープレートを含む遠心分離チャンバーを含む閉鎖系(閉鎖細胞試料処理系)で実施することができる。血液試料またはT細胞を含む他の供給源は、滅菌ドッキングまたは滅菌溶接によりチューブセットを往来させて移送することができる。好適な系は、国際公開第2009/072003号パンフレットに開示されている。
【0137】
閉鎖系は、細胞が滅菌ドッキングまたは滅菌溶接によりTS間で移送される複数のチューブセット(TS)を含んでいてもよい。
【0138】
プロセスの様々なモジュールを、様々な機能的閉鎖TSで実施し、1つのチューブセットで生成された1つのモジュールの産物(細胞)を滅菌手段により別のチューブセットへと移送することができる。例えば、Miltenyi Biotec GmbHによる第1チューブセット(TS)TS100でT細胞を磁気的に濃縮することができ、濃縮T細胞を含む陽性画分を溶接してTS100から外し、Miltenyi Biotec GmbHによる第2チューブセットTS730に溶接して、さらに活性化、改変、培養、および洗浄を行う。
【0139】
「自動化された方法」または「自動化されたプロセス」という用語は、本明細書で使用される場合、デバイスならびに/またはコンピュータおよびコンピュータソフトウェアの使用により自動化されている任意のプロセスを指す。自動化されている方法(プロセス)は、より少ない人的介入およびより少ない人的時間しか必要としない。一部の場合では、本発明の方法は、本方法の少なくとも1つのステップが人的支援または介入を一切行わずに実施される場合、自動化されている。優先的には、本発明の方法は、本明細書に開示の方法のすべてのステップが、新鮮な試薬を系に接続する以外の人的支援または介入を行わずに実施される場合、自動化されている。優先的には、自動化されたプロセスは、本明細書に開示のCliniMACS Prodigy(登録商標)などの閉鎖系で実施される。
【0140】
閉鎖系は、a)少なくとも1つの試料チャンバーを有する回転容器(または遠心分離チャンバー)にカップリングされている入力ポートおよび出力ポートを含む試料処理ユニットであって、第1の処理ステップを試料に提供するか、または試料に遠心力を加えて試料がチャンバー内に堆積するように容器を回転させて、堆積した試料の少なくとも第1の成分および第2の成分を分離するように構成されている試料処理ユニット;ならびにb)試料処理ユニットの出力ポートにカップリングされている試料分離ユニットであって、試料分離ユニットは、分離カラムホルダー、ポンプ、ならびに流体回路およびホルダー内に配置されている分離カラムを通る流体流動を少なくとも部分的に制御するように構成されている複数のバルブを含み、分離カラムは、カラムを通って流れる試料の標識成分および未標識成分を分離するように構成されている、試料分離ユニットを含んでいてもよい。
【0141】
前記回転容器は、温度制御された細胞インキュベーションおよび培養チャンバーとしても使用することができる(CentriCultユニット=CCU)。このチャンバーは、取り付けられているガス混合ユニットにより提供される規定のガス混合物で満たされていてもよい(例えば、加圧空気/N2/CO2またはN2/CO2/O2の使用)。
【0142】
プロセス開始前に、すべての作用剤を閉鎖系に接続してもよい。これには、閉鎖系内での洗浄、移送、懸濁、培養、細胞回収、または免疫磁気細胞選別に使用されるすべての緩衝液、溶液、培養培地、および栄養補助剤、MicroBeadが含まれる。あるいは、そのような作用剤は、プロセス中の任意の時点で、滅菌手段により溶接または接続してもよい。
【0143】
T細胞を含む細胞試料は、無菌手段により閉鎖系に接続することができる移送バッグまたは他の好適な容器に準備することができる。
【0144】
「T細胞を含む(細胞)試料を準備する」という用語は、細胞試料、優先的には起源が血液であるヒト細胞試料の準備を意味する。通常、細胞試料は、ドナーまたは患者に由来する血液細胞で構成されていてもよい。そのような血液産物は、全血、バフィーコート、白血球アフェレーシス、PBMC、または血液産物の任意の臨床試料採取の形態であってもよい。そのような血液産物は、起源が新鮮であってもよくまたは凍結であってもよい。
【0145】
「洗浄」という用語は、例えば、細胞が維持されている培地または緩衝液の置換を意味する。上清の置換は部分的であってもよい(例えば、培地の50%を除去し、50%の新鮮な培地を追加する)。これは希釈目的または栄養供給目的で行われることが多い。または上清の置換は全部であってもよい。細胞が維持されている元の培地のより根本的な置換を得るために、幾つかの洗浄ステップを組み合わせてもよい。洗浄ステップは、遠心分離力により細胞をペレット化すること、および上清を除去することを含むことが多い。本発明の方法では、例えば、300×gでチャンバーを回転させることにより細胞をペレット化することができ、チャンバーの回転中に上清を除去することができる。培地は、回転中に追加してもよくまたは定常状態中に追加してもよい。
【0146】
一般に、洗浄または洗浄ステップは、1回実施してもよく、または一連の培地/緩衝液交換(少なくとも2回の交換、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回の交換)により実施してもよく、それにより、ヒト血清および/もしくはその成分、磁気粒子、または残留レンチウイルスベクター粒子などの、T細胞から除去することが意図されている物質が除去される。交換は、遠心分離、沈降、付着、または濾過、およびその後の培地/緩衝液の交換による細胞および培地/緩衝液の分離により実施することができる。
【0147】
一般に、CARは、抗原結合性ドメインを含む細胞外ドメイン(細胞外部分)、膜貫通ドメイン、および細胞質シグナル伝達ドメイン(細胞内シグナル伝達ドメイン)を含んでいてもよい。細胞外ドメインは、リンカーまたはスペーサーにより膜貫通ドメインに連結されていてもよい。また、細胞外ドメインは、シグナルペプチドを含んでいてもよい。本発明の一部の実施形態では、CARの抗原結合性ドメインは、ポリペプチドにカップリングされているタグまたはハプテン(「ハプテニル化(haptenylated)」または「タグ化」ポリペプチド)に結合し、ポリペプチドは、がん細胞の表面に発現される場合がある腫瘍関連抗原(TAA)などの疾患関連抗原に結合することができる。
【0148】
そのようなCARは、例えば、米国特許第9233125号B2明細書に開示の通り、「アンチタグ」CARまたは「アダプターCAR」または「ユニバーサルCAR」とも称される場合がある。
【0149】
ハプテンまたはタグは、ポリペプチドに直接的にまたは間接的にカップリングされていてもよく(タグ化ポリペプチド)、ポリペプチドは、標的の(細胞)表面に発現される前記疾患関連抗原に結合することができる。
【0150】
「シグナルペプチド」は、細胞内のタンパク質の輸送および局在化を、例えば、ある特定の細胞小器官(小胞体など)および/または細胞表面へと向かわせるペプチド配列を指す。
【0151】
一般に、「抗原結合性ドメイン」は、抗原、例えば腫瘍関連抗原(TAA)または腫瘍特異性抗原(TSA)と特異的に結合する、CARの領域を指す。本発明のCARは、1つまたは複数の抗原結合性ドメイン(例えば、タンデムCAR)を含んでいてもよい。一般に、CARの標的指向性領域は、細胞外にある。抗原結合性ドメインは、抗体またはその抗原結合性断片を含んでいてもよい。抗原結合性ドメインは、例えば、全長重鎖、Fab断片、単鎖Fv(scFv)断片、二価単鎖抗体、またはダイアボディを含んでいてもよい。アフィボディまたは天然に存在する受容体に由来するリガンド結合性ドメインなどの、所与の抗原と特異的に結合する任意の分子を、抗原結合性ドメインとして使用することができる。多くの場合、抗原結合性ドメインは、scFvである。通常、scFvでは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域が、可撓性リンカーにより融合されてscFvが形成されている。そのようなリンカーは、例えば、「(G/S)-リンカー」であってもよい。
【0152】
一部の場合では、CARが使用されることになるものと同じ種に由来する抗原結合性ドメインが有益である。例えば、ヒトの治療に使用することが予定されている場合、CARの抗原結合性ドメインは、ヒト抗体またはヒト化抗体またはその抗原結合性断片を含むことが有益であり得る。ヒト抗体またはヒト化抗体またはその抗原結合性断片は、当技術分野で周知の様々な方法により製作することができる。
【0153】
「スペーサー」または「ヒンジ」は、本明細書で使用される場合、抗原結合性ドメインと膜貫通ドメインとの間にある親水性領域を指す。本発明のCARは、細胞外スペーサードメインを含んでいてもよいが、そのようなスペーサーを省くことも可能である。スペーサーとしては、例えば、抗体もしくはそれらの断片のFc断片、抗体もしくはそれらの断片のヒンジ領域、抗体のCH2領域もしくはCH3領域、アクセサリータンパク質、人工スペーサー配列、またはそれらの組合せを挙げることができる。スペーサーの有名な例は、CD8アルファヒンジである。
【0154】
CARの膜貫通ドメインは、そのようなドメインの任意の所望の天然または合成供給源に由来してもよい。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来してもよい。膜貫通ドメインは、例えば、CD8アルファまたはCD28に由来してもよい。重要なシグナル伝達および抗原認識モジュール(ドメイン)が、2つの(またはそれよりもさらに多くの)ポリペプチドに存在する場合、CARは、2つの(またはそれよりも多くの)膜貫通ドメインを有してもよい。重要なシグナル伝達および抗原認識モジュールの分割は、CARの各ポリペプチドの小分子依存性ヘテロ二量体化ドメインによる、CAR細胞発現に対する小分子依存性で滴定可能な可逆的制御を可能にする(例えば、国際公開第2014127261号A1パンフレット)。
【0155】
CARの細胞質シグナル伝達ドメイン(または細胞内シグナル伝達ドメイン)は、CARが発現される免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。「エフェクター機能」は、細胞の特殊機能を意味し、例えばT細胞では、エフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む、細胞溶解活性またはヘルパー活性であってもよい。細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクター機能シグナルを伝達し、CARを発現する細胞に特殊機能を実施するように指図するタンパク質の部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫細胞エフェクター機能を開始または遮断するシグナルを伝達するのに十分な、所与のタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインの任意の完全な、突然変異した、または短縮された部分を含んでいてもよい。
【0156】
CARに使用するための細胞内シグナル伝達ドメインの有名な例としては、T細胞受容体(TCR)の細胞質シグナル伝達配列、および抗原受容体係合後にシグナル伝達を開始する共受容体が挙げられる。
【0157】
一般に、T細胞活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列により媒介される場合がある。第1には、TCRを介して抗原依存性一次活性化を開始するものであり(一次細胞質シグナル伝達配列、一次細胞質シグナル伝達ドメイン)、第2には、二次または共刺激シグナルを抗原非依存的様式で提供するものである(二次細胞質シグナル伝達配列、共刺激シグナル伝達ドメイン)。したがって、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、1つもしくは複数の一次細胞質シグナル伝達ドメインおよび/または1つもしくは複数の二次細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0158】
刺激性の様式で作用する一次細胞質シグナル伝達ドメインは、ITAM(免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ)を含んでいてもよい。
【0159】
CARによく使用されるITAM含有一次細胞質シグナル伝達ドメインの例は、TCRζ(CD3ζ)、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するものである。最も有名なものは、CD3ζに由来する配列である。
【0160】
CARの細胞質ドメインは、それ自体がCD3ζシグナル伝達ドメインを含むように設計されていてもよく、または任意の他の所望の細胞質ドメインと組み合わされていてもよい。CARの細胞質ドメインは、CD3ζ鎖部分および共刺激シグナル伝達領域(ドメイン)を含んでいてもよい。共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子の細胞内ドメインを含むCARの部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の効率的な応答に必要な、抗原受容体またはそれらのリガンド以外の細胞表面分子である。共刺激分子の例は、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3である。
【0161】
CARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、リンカーの有無に関わらず、ランダムにまたは指定の順序で互いに連結されていてもよい。好ましくは長さが2~10アミノ酸である短いオリゴまたはポリペプチドリンカーが、連結を形成してもよい。有名なリンカーは、グリシン-セリンダブレットである。
【0162】
一例として、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインおよびCD28のシグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。別の例では、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインおよびCD137のシグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。さらなる例では、細胞質ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメイン、CD28のシグナル伝達ドメイン、およびCD137のシグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0163】
また、上述の通り、CARの細胞外部分または膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインはいずれも、CARの重要なシグナル伝達および抗原認識モジュールを分割するために、ヘテロ二量体化ドメインを含んでいてもよい。
【0164】
CARは、CARをコードする核酸のレベルにおいて、自殺スイッチによりCAR発現免疫細胞を排除するための1つまたは複数の作動可能なエレメントを含むようにさらに修飾されていてもよい。自殺スイッチとしては、例えば、アポトーシス誘導シグナル伝達カスケードまたは細胞死を誘導する薬物を挙げることができる。一実施形態では、CARを発現およびコードする核酸は、チミジンキナーゼ(TK)またはシトシンデアミナーゼ(CD)などの酵素を発現するようにさらに修飾されていてもよい。
【0165】
一部の実施形態では、内部ドメインは、一次細胞質シグナル伝達ドメインまたは共刺激領域を含んでいてもよいが、両方は含まない。こうした実施形態では、本開示のCARを含む免疫エフェクター細胞は、欠失ドメインを含む別のCARもその対応する抗原に結合する場合にのみ活性化される。
【0166】
本発明の一部の実施形態では、CARは、「SUPRA」(分割、ユニバーサル、およびプログラム可能な)CARであってもよく、「zipCAR」ドメインは、細胞内共刺激ドメインおよび細胞外ロイシンジッパーを連結することができる(国際公開第2017/091546号パンフレット)。このジッパーは、例えば、scFv領域に融合された相補的ジッパーにより標的とされ、SUPRA CAR T細胞を腫瘍特異的にすることができる。この手法は、種々の腫瘍に対するユニバーサルCAR T細胞を生成するために特に有用となるだろう。アダプター分子を腫瘍特異的に設計することができ、養子移入後に特異性を変更するための選択肢が提供されることになる。これは選択圧および抗原回避の状況で重要である。
【0167】
本明細書に開示の方法により得られる遺伝子改変T細胞で発現させることができるCARは、機能的CAR、つまり本明細書に開示のCARを発現する免疫エフェクター細胞の免疫エフェクター応答を媒介するCARをもたらす任意の順序および/または組合せで、本明細書に記載の上記で言及したドメインの任意の部分または一部を含むように設計することができる。
【実施例1】
【0168】
遺伝子操作T細胞の短期間手作業生成
T細胞を含む試料をバフィーコートから準備し、PBMCを単離した。血液産物をCliniMACS(登録商標)緩衝液で1:2または1:3の比に希釈し、30mLをPancoll humanの15mLクッション上に層化した。チューブを室温で30分間450×gにて遠心分離し、中程度のブレーキをかけた。遠心分離後、界面にある細胞を注意深く吸引し、血小板および残留Pancollを除去するために50mLのCliniMACS(登録商標)緩衝液で3回洗浄した。CD4およびCD8特異的マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を製造業者の説明書に従って使用して、T細胞を単離した。T細胞を、ヒトAB血清(10%(容積/容積)GemCell)、IL-7(10ng/mL)、およびIL-15(5ng/mL)を含むTexMACS培地中1×10細胞/mLの濃度で、1ウェル当たり2mLのT細胞懸濁液を有する24ウェルプレートに播種した。T細胞を活性化するため、T Cell TransActTMを、最終希釈が1:100になるように添加する。37℃、5~10%COのインキュベーターで24時間培養した後、治療用CARをコードするレンチウイルスベクターを、2のMOIで添加する。形質導入の24時間後、T Cell TransActTMおよびマイクロビーズに存在する生分解性リンカーを特異的に分解する酵素デキストラナーゼを37℃で1時間1:100にて添加し、両試薬をT細胞から遊離させた。残留レンチウイルスベクター、T cell TransActTMおよびマイクロビーズの分解成分などの非細胞成分を、450×gで10分間遠心分離することより形質導入T細胞から分離する。上清を除去し、新鮮な培地を添加して同じ容積にする。不純物を減少させるため、洗浄手順を3回繰り返す。形質導入T細胞をフローサイトメトリーで分析して、形質導入効率を決定し、CAR抗原を発現する腫瘍標的細胞と共に共培養する死滅アッセイなどの機能アッセイを実施する。
【実施例2】
【0169】
遺伝子改変T細胞の短期間内自動生成
ドナーの白血球アフェレーシスに由来するT細胞の試料をバッグに準備する。バッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスに設置されているチューブセットに滅菌溶接で接続する。CliniMACS緩衝液、CliniMACS CD4およびCD8試薬(Miltenyi Biotec GmbH)、ならびに活性化試薬も同じチューブセットに接続する。完全に自動化されたプロセスの一部分として、合計で30分~2時間かかる濃縮ステップを開始する。詳細には、チューブセットを、緩衝液で自動的にプライミングし、次いで白血球アフェレーシス産物を、チューブセットのチャンバーへと移送し、そこで血清および血小板を除去するためにCliniMACS緩衝液で3回洗浄する。細胞を、CliniMACS CD4およびCD8試薬で磁気的に標識し、磁場に置かれているカラムに捕捉する。カラムに捕捉された標識細胞を数回すすぎ、標的細胞画分バッグへと溶出させる。濃縮細胞の一部を、滅菌溶接接続を介してCentriCultTMチャンバーへと移送し、IL-7/IL-15で補完されたMACS GMP TexMACS培地(すべてMiltenyi Biotec GmbH)で製剤化する。自動化されたプロセスの一部として、活性化ステップを開始させ、活性化試薬MACS GMP TransActを培養に自動的に添加する。濃縮後24時間以内に、レンチウイルスベクターを含むバッグをチューブセットに滅菌溶接し、レンチウイルスベクター懸濁物を、活性化T細胞を含むCentriCultTMチャンバーへと移送する。24時間~48時間後に、活性化試薬および磁気粒子に存在する生分解性リンカーに特異的なデキストラナーゼを添加することにより、活性化試薬および磁気粒子を分解する。1時間後、残留レンチウイルスベクター、分解酵素、ならびに活性化試薬およびCliniMACS CD4およびCD8試薬の分解成分などの非細胞成分を洗浄により除去する。遺伝子改変T細胞は、ヒト輸注に好適な溶液で自動的に製剤化される。
【実施例3】
【0170】
追加のクリーンアップステップを施したCAR T細胞の投与
CAR T細胞療法は、例えば、再発性または難治性CD19陽性B細胞悪性腫瘍を有する小児および成人患者を治療するために提供される。遺伝子操作T細胞を調製するための臨床方法は、実施例2に基づいており、実施例2では、患者細胞(BM、血液、または白血球アフェレーシスに由来する)がCliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスに接続され、迅速に(つまり、好ましくは24時間未満で)処理され、患者に再輸注される。プロセスの継続期間は、必要とされる患者調製レジメン(例えば、リンパ球枯渇に対する化学療法治療)のタイミングと一致し、医療必要性および臨床適用性(例えば、臨床プロトコール、患者の健康状態、医師の反応性(reactivity of the doctors)、入院)を満たすように調整することができる。本記載の発明の利点は、迅速な治療および患者ケアが可能になること、ならびに薬物製品の「ベッドサイド」調製が可能になることである。本発明では、ウイルスベクターおよび活性化試薬などの潜在的に有害な物質が輸注前に除去される迅速細胞調製の解決策が記載される。例えば、薬物製品を汚染する残留活性化試薬は、in vivoでのT細胞活性化に結び付く場合があるため、輸注すると有害である可能性がある。これは、炎症性サイトカインの急速な放出に結び付き、重度のサイトカイン放出症候群、発熱、低血圧、臓器不全、およびさらには死を引き起こす可能性がある。
【0171】
加えて、可溶性形態および/または細胞結合形態の薬物製品を汚染する残留レンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクターおよび/またはin vivoでの非標的細胞の形質導入により送達される抗原に対する養子免疫応答を含む、補体活性化、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害などの望ましくない免疫応答を誘発するため、輸注すると有害である可能性がある。非標的細胞の形質導入および導入遺伝子のその後の発現は、望ましくない免疫応答の誘導、発がん性、生存率の変化、増殖の変化、生理学的状態の変化、および天然機能の変化など、望ましくない副作用を誘導する可能性がある。
【実施例4】
【0172】
3日間でT細胞を遺伝子操作するためのプロセスの設定
2人の健康ドナーに由来するT細胞は、ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)で未接触だったものを濃縮し、0日目に、生分解性リンカーに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体または抗原結合性断片を含む調節試薬であるT Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。同じ日または1日目に、IL-7/IL-15含有TexMACS培地中1e6細胞/mlの刺激T細胞を24ウェルにてMOIが2のVSV-GシュードタイプGFPコードLVで形質導入した。1、2、または3日目に、生分解性リンカーを特異的に消化するデキストラナーゼを添加し、10日目にフローサイトメトリーで形質導入効率を評価した。0日目に刺激し1日目に形質導入したがデキストラナーゼを添加しなかったT細胞は、T細胞を遺伝子操作するための従来のプロトコールための対照としての役目を果たした。図9に図示されているように、0日目に形質導入し、生分解性リンカーに特異的な酵素と共にインキュベートしたT細胞は、最も低い形質導入効率レベルを示し、T細胞刺激が不十分であったことを示す。これは、後から2日目または3日目に添加してより長期間刺激したT細胞を分析したところ、0日目に酵素と共にインキュベートしたT細胞と比較してより高い形質導入効率レベルが検出可能だったことにより確認された。従来のプロトコールに近かったより高い形質導入効率は、1日目に形質導入し、2日目または3日目にデキストラナーゼと共にインキュベートした刺激T細胞で観察された。
【実施例5】
【0173】
3日以内に遺伝的T細胞操作するためのCliniMACS(登録商標)Prodigy系における調節剤の除去およびT細胞活性化レベルの分析
最大で1e9個のCD4/CD8細胞を有する健康ドナーの白血球アフェレーシス試料を、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で自動的に処理して、CAR T細胞を3日以内に生成した。0日目に、白血球アフェレーシス試料を含むバッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)チューブセット520に溶接で滅菌接続した。細胞を自動的に洗浄し、CD4およびCD8 CliniMACS試薬で標識して、T細胞を濃縮した。4e8個のT細胞を、遠心分離および培養チャンバーのIL-7/IL-15含有培地へと移送し、200mlの培養容積中にて調節剤MACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。1日目に、単離した活性化T細胞を、MOIが3のVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクターで遺伝子改変して、CD20/CD19特異的タンデムCARの発現を誘導した。10mlのレンチウイルスベクターを含むバッグをチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーへと自動的に移送した。2日目に、生分解性リンカーに特異的な酵素を含む10mlの溶液をチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーに自動的に添加してリンカーを特異的に分解した。これにより、CD3およびCD28に特異的な抗体またはそれらの断片が遊離され、調節剤の活性が阻害された。対照として、CliniMACS(登録商標)Prodigy系ランを、同じ条件下および同じドナー物質だが、生分解性リンカーに特異的な酵素を添加せずに実施した。複数回洗浄した後、治療応用に好適である細胞産物を得た。CliniMACS(登録商標)Prodigy系における両T細胞遺伝子操作ランについて、生分解性リンカーの存在を、生分解性リンカーに特異的な抗体で染色することによる製剤化細胞に対するフローサイトメトリーで評価した。図10Aおよび図10Bに図示されるように、酵素を添加しないCliniMACS(登録商標)Prodigyランと比較するとところ、わずかな割合のリンカー陽性細胞しか検出可能でなかったため、生分解性リンカーは、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で効率的に除去された。加えて、すべての生存細胞の生分解性リンカーの平均強度レベル(MFI)は、酵素を添加した場合は、バックグラウンドレベルだった(図10Bを参照)。対照的に、酵素を添加しないCliniMACS(登録商標)Prodigyランでは、高い平均強度レベル(MFI)が存在した。
【0174】
調節剤の除去が刺激に対して及ぼす影響を、CD25およびCD69を染色してフローサイトメトリーで評価した。CD25およびCD69は両方とも信頼性の高いT細胞活性化マーカーであることが記載されている(CD25:クローンREA570、およびCD69:REA824(両方ともMiltenyi Biotec):CD69は、CD25よりも初期の活性化マーカーである)。小規模培養に由来する、同じドナーから得られた未刺激T細胞は対照としての役割を果たした。酵素による処理の有無に関わらず、CliniMACS(登録商標)Prodigy系から回収したT細胞を分析した。両活性化マーカーとも、未刺激対照細胞と比較して非常に高い平均強度レベルが、両T細胞遺伝子操作条件で検出された(図11を参照)。これにより、両活性化マーカーの上方制御を誘導するには、2日目までの刺激ですでに十分であったことが確認された。これは、刺激に影響を及ぼすことなく、すでに2日目に調節剤を除去することができることも示す。
【実施例6】
【0175】
T細胞を3日以内に遺伝子操作するためのCliniMACS(登録商標)Prodigy系での刺激T細胞の拡大増殖能力の評価
刺激T細胞を用いた複数回の製造ランを、2日目に添加したデキストラナーゼの存在下で、しかしなから1e8~4e8の範囲の様々な開始T細胞数で、実施例5に記載の通りに実施した。0日目の入力T細胞数を、3日目に得られた出力T細胞数と比較した。T細胞拡大増殖は3日目では検出可能ではなかった。これは、T細胞は十分に刺激されたが、増殖がまだ始まっていなかったことを示唆する(図12も参照)。結果的に、T細胞を3日以内に遺伝子改変するための製造プロトコールは、in vitroでのT細胞増殖をサポートするには短すぎる。また、データは、回収可能なCAR T細胞の収率が、開始細胞数を増やすことにより効率的に増加することを示唆する。
【実施例7】
【0176】
小規模およびCliniMACS(登録商標)Prodigy系でのCAR発現動態の評価
CAR発現動態は、短期間製造プロセスを適用する場合、CAR T細胞療法の成功にとって特に重要である。治療用CAR分子を発現する輸注したCAR T細胞は、腫瘍抗原が認識され得ないため、十分には非機能性のままではない。この間に、患者内で腫瘍進行が継続する可能性があり、CAR T細胞がより高い腫瘍量に対応することがより困難になる。現在まで、CAR T細胞の輸注後に最も多く見られる副作用は、サイトカイン放出症候群(CRS)として知られている免疫活性化の開始である。これは、輸注したCAR T細胞が、CAR抗原を発現する潜在的に高負荷の腫瘍細胞を認識して輸注直後に放出するサイトカインにより引き起こされる全身性炎症応答である。すべてのCAR T細胞が、この初期時点でおよび高いCAR発現レベルでCARを発現するわけではないため、短期間内でCAR T細胞を製造することにより、この毒性を少なくとも部分的に低減することができる。
【0177】
小規模研究では、2人の健康ドナーに由来するCD4/CD8濃縮T細胞を、T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。1日目に、1e6細胞/mlの刺激T細胞を、24ウェルにてMOIが9のCARコードLVで形質導入し、CAR発現の動態を、PEに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CAR抗原ペプチドを含むCAR検出試薬(例えば、CD19 CAR抗体、抗ヒト、130-115-965、MiltenyiBiotec)を用いて、形質導入細胞の比(つまり、形質導入効率)として13日目までにフローサイトメトリーで決定した。図13に図示されているように、形質導入2日後では、T細胞の16%はCAR陽性だったが、CARを発現する明確な集団はまだ検出可能ではなかった。5日目には、形質導入効率レベルは18~22%のプラトーレベルに達し、CAR発現集団は明確だった。
【0178】
CliniMACS(登録商標)Prodigy系での大規模研究では、2e8個のCD4、CD8濃縮T細胞を、0日目に培養チャンバーにて、MACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)を用いて、100mlのIL-7/IL-15含有培地中でポリクローナルに刺激した。1日目に、単離した刺激T細胞を、LV含有バッグをチューブセットに滅菌接続することにより、MOIが62.5のVSV-GシュードタイプCD19 CARコードレンチウイルスベクターで遺伝子改変した。2日目に、調節剤の生分解性リンカーに特異的なデキストラナーゼを含む10mlの溶液を滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーに自動的に添加した。3日目に、細胞懸濁物の試料を、PEに直接的にまたは間接的にカップリングされているCAR抗原ペプチドを含むCAR検出試薬(例えば、CD19 CAR抗体、抗ヒト、130-115-965、Miltenyi Biotec)で染色した後、フローサイトメトリーで分析した。図14に図示されているように、形質導入2日後では、T細胞の19%がCAR陽性だった。CliniMACS(登録商標)Prodigy内での培養プロセスを延長して、後の時点での分析を可能にした。形質導入効率は、10日目には75%に増加した。これは形質導入2日後ではCARがまだ十分に発現されていないことを示す。
【実施例8】
【0179】
CliniMACS(登録商標)Prodigy系でのCAR T細胞製造パラメーターの最適化
CAR T細胞の製造プロセスは、複数のパラメーターに依存する、ドナーのばらつき度合いが大きい複雑なプロセスである。遺伝子移入効率およびT細胞培養を最適化することにより、必要とされるレンチウイルスベクターの量を低減し、より多数の(CAR)T細胞を得る可能性が提供される。2つの別々のT細胞遺伝子操作ランにおいて、1e8または4e8個のCD4、CD8濃縮T細胞を、CliniMACS(登録商標)Prodigy系でMACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)を用いて0日目にIL-2含有培地中でポリクローナルに刺激した。1日目に、単離した刺激T細胞は、1e8個のT細胞に2.5mlのVSV-GシュードタイプCD20/CD19タンデムCARコードレンチウイルスベクターを用いて(図15:条件Iを参照)遺伝子改変し、並行して4e8個のT細胞に同じレンチウイルスベクター容積を用いて遺伝子改変した。4E8個のCAR T細胞の製造ランでは、プロセス活性マトリックスをさらに改変し、容積を増加させ、かつレンチウイルスベクター容積を添加した直後に初期振盪ステップを実施することにより、より高い細胞密度での培養を可能にした(図15:条件IIを参照)。2日目に、両T細胞製造ランとも、同容積のデキストラナーゼを、滅菌接続および培養チャンバーへの自動添加により適用した。3日目に、製造されたT細胞を複数回洗浄し、回収し、総T細胞数を細胞計数により決定した。両CAR T細胞製造ランの洗浄および回収した細胞試料を、インキュベーター内の24ウェルでさらに8日間培養し、PEに直接的にまたは間接的にカップリングされているCAR抗原ペプチドを含むCAR検出試薬による後の時点での形質導入効率の信頼性の高い評価を可能にした(例えば、CD19 CAR抗体、抗ヒト、130-115-965、MiltenyiBiotec)。図15Aに図示されているように、条件IIの形質導入効率は32%だったが、条件Iの形質導入効率は、条件Iでは1細胞当たりより高いLV用量(MOI)を適用したにも関わらず、わずか20%だった。これは、条件IIのパラメーターが、より高頻度のCAR T細胞に有利であることを示しており、CAR T細胞製造プロトコール最適化の可能性が強調される。条件IIでは、より高い形質導入効率が決定されただけでなく、4e8個のT細胞が形質導入された。これにより、条件IIでは、CAR形質導入T細胞の総数が、条件Iと比較してほぼ7倍増加した。
【実施例9】
【0180】
3日以内に生成されたCAR T細胞のin vivo機能
CAR T細胞の機能は、典型的には、CAR抗原を発現する腫瘍細胞と共培養する際にin vitroで評価される。短期間内におよびCAR抗原との接触時に、CAR T細胞は、インターフェロン-ガンマ(IFN-g)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびIL-2などの炎症性サイトカインを放出する。加えて、グランザイムBおよびパーフォリンBが放出され、生存腫瘍細胞の数が低減される。こうした機能アッセイを実施して、3日以内に製造されたCAR T細胞の機能性を特徴付けた。2人の健康ドナーに由来するT細胞は、ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)で未接触だったものを濃縮し、0日目に、生分解性リンカーに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CD3に特異的な抗体またはその抗原結合性断片およびCD28に特異的な抗体または抗原結合性断片を含む調節試薬であるT Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)でポリクローナルに刺激した。1日目に、IL-7/IL-15含有TexMACS培地中1e6細胞/mlの刺激T細胞を、24ウェルにてMOIが10のVSV-GシュードタイプCD20 CARコードLVで形質導入した。2日目にデキストラナーゼを添加し、3日目に形質導入T細胞を洗浄および回収し、様々なエフェクター対標的比(E:T)での共培養を設定した。CAR特異的検出試薬を使用したフローサイトメトリーで測定したところ、形質導入効率は3日目では70%だった。合計で50000、17000、6000、または2000個のT細胞を、96ウェル平底プレートのRPMI/10%FCS/L-グルタミン培地中の40000個のCD20発現Raji細胞に三重重複で添加した。GFPを発現するトランスジェニックRaji細胞(Raji-GFP)を使用して、フローサイトメトリーによる共培養中の腫瘍細胞の識別および定量化を可能にし、製造されたCAR T細胞の細胞傷害活性を決定した。対照として、Raji-GFP細胞との共培養を、未刺激で未形質導入のT細胞と並行して三重重複で確立した。加えて、腫瘍細胞を、刺激されているが形質導入されていないT細胞と共に共培養した。このようにすると、潜在的に非特異的な細胞傷害活性が容易に検出される。共培養を設定した24時間後、各ウェルから100μlの上清を取り出し、MACSPlexサイトカインキットアッセイ(Miltenyi Biotec)を使用したフローサイトメトリーでサイトカイン発現レベルを評価した。3日以内に生成されたCD20 CAR形質導入T細胞では、IFN-g、GM-CSF、およびIL-2レベルは、定量化レベルさえも超える高レベルでE:T依存的様式で検出可能だった(図16を参照)。対照的に、未刺激T細胞および未形質導入のままだった刺激T細胞では、サイトカインは検出可能ではなかった。これにより、3日以内に製造されたCAR形質導入T細胞の特異的抗腫瘍応答が確認される。
【0181】
共培養したT細胞およびRaji-GFP細胞を、さらに2日間共培養し、細胞の50%をフローサイトメトリーで分析して、残留腫瘍細胞の数を、および結果的にはCAR T細胞の効力を定量化した(ラウンド1;左)。別の20,000個のRaji-GFP腫瘍細胞を、共培養の残りの50%に添加して、CAR T細胞にとって困難な状態に類似したより多くの腫瘍細胞が存在する場合のCAR T細胞の効力を評価した。さらに72時間後、フローサイトメトリーを実施して、第2のラウンドの共培養の残留腫瘍細胞数を定量化した(ラウンド2:右)。E:T比が1.25:1と高い場合、第1および第2のラウンドの共培養では、Raji細胞のほぼ100%が死滅した(図17を参照)。対照的に、第1および第2の共培養の未形質導入対照では、標的細胞のわずか50%および40%が検出可能だった。E:T比が0.425:1の場合、1.25:1の場合と同等の機能性パターンが検出可能だったが、全体的なレベルはより低くかった。CAR形質導入T細胞の存在下では、第1および第2のラウンドの共培養にて腫瘍細胞の60%が溶解した。未形質導入対照とは対照的に、第1のラウンドでは腫瘍細胞の40%が溶解し、第2のラウンドでは死滅は測定されなかった。E:T比が0.15:1の場合、T細胞の頻度は低すぎて、Raji-GFP腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を誘導することができなかった。要するに、3日以内に生成されたCAR T細胞の機能性は、サイトカイン放出およびCAR形質導入T細胞の特異的死滅を示すin vitroアッセイにより確認された。
【実施例10】
【0182】
3日以内に生成されたCAR T細胞のin vivo機能
3日以内に生成されたCAR形質導入T細胞のin vivo機能性を、6~8週齢のNOD scidガンマ(NSG)(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ)マウスで確認した。実験はすべて、「科学的目的で使用される動物の保護に関する2010年9月22日の欧州議会および理事会の指令2010/63/EU」に準拠し、ドイツ動物保護法の規制に準拠して実施した。
【0183】
手短に言えば、健康ドナーの白血球アフェレーシス試料を、CliniMACS(登録商標)Prodigy系で自動的に処理し、CAR T細胞を3日以内に生成した(図18上段を参照)。0日目に、白血球アフェレーシス試料を含むバッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)チューブセット520に溶接で滅菌接続した。細胞を自動的に洗浄し、CD4およびCD8 CliniMACS試薬で標識して、T細胞を濃縮した。2e8個のT細胞を、培養チャンバーのIL-7/IL-15含有培地に移送し、200mlの培養容積中でMACS(登録商標)GMP T Cell TransActTM(Miltenyi Biotec)によりポリクローナルに刺激した。1日目に、単離した活性化T細胞をVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクターで遺伝子改変して、CD22/CD19タンデム-CARの発現を誘導した。10mlのレンチウイルスベクターを含むバッグをチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーへと自動的に移送した。2日目に、デキストラナーゼを含む10mlの溶液をチューブセットに滅菌接続し、T細胞を含むチャンバーに自動的に添加してリンカーを特異的に分解した。これにより、CD3およびCD28に特異的な抗体またはそれらの断片が遊離され、調節剤の活性が阻害された。複数回洗浄した後、細胞産物をフローサイトメトリーで分析して、各ステップにおける形質導入効率、生存率、および細胞組成を決定した(図19を参照)。細胞組成は、CD45h、CD3、CD4、CD8、CD16/CD56、7-AAD、CD19、CD14を染色して決定した。製剤化後に、67%CD4 T細胞、18%CD8 T細胞、および7%NKT細胞が検出された。NK細胞、好酸球、好中球、B細胞、または単球の頻度は、検出の最低レベルだった。形質導入効率を、PEに直接的にまたは間接的にカップリングされている、CAR抗原ペプチドを含むCAR検出試薬(例えば、CD19 CAR抗体、抗ヒト、130-115-965、Miltenyi Biotec)を用いて、フローサイトメトリーで分析した。回収した日の形質導入効率は21%だった。安定したCAR発現レベルが達成されたさらに8日間の小規模長期培養後に分析したところ、形質導入効率は73%に増加した。遺伝子操作T細胞を回収する4日前に5e5個のホタルルシフェラーゼ発現Raji細胞を静脈内接種することにより、Raji腫瘍を確立させた(図17を参照)。CAR形質導入群に由来する3e6または6e6個の総T細胞を、回収した日に1群当たり7匹のマウスに注射した(図18の下段を参照)。2つの追加の群を陰性対照として確立した。1群は、5e5個の腫瘍細胞を受け取ったがT細胞は受け取らなかった(n=7;腫瘍のみ)。1群は、5e5個の腫瘍細胞、および並行して小規模で培養した同じドナーに由来する3e6個の未形質導入T細胞を受け取った(n=7)。腫瘍増殖ならびに抗腫瘍応答を、In vivo Imaging System(IVIS Lumina III)を使用して頻繁にモニターした。この目的のために、100μlのXenoLight Rediject D-Luciferin Ultraをi.p.注射し、その後イソフルランXGI-8麻酔系を使用してマウスに麻酔をかけた。基質注射の6分後に測定を実施した。
【0184】
3e6個の未形質導入T細胞および3e6個の形質導入T細胞を受け取った群のすべてのマウスが示されている(図20を参照)。T細胞を受け取らなかった(つまり、腫瘍のみ)群の場合、7匹のマウスのうち3匹の代表的なマウスが示されている。腫瘍量は、未形質導入T細胞を受け取ったかまたはT細胞を受け取らなかったすべてのマウスで急速に増加した。経時的な腫瘍量の増加は、両対照群で同等である。両対照群のマウスは、臨界腫瘍量レベルに達する前に、T細胞注射の14日後に犠牲死させなければならなかった。対照的に、3日以内に製造されたCAR形質導入T細胞を受け取った群のマウスは、対照群と比較して、T細胞注射3日後および7日後に用量依存的様式で初期時点での増加減速を示した。CAR形質導入T細胞群の腫瘍量のレベルは、T細胞注射後7日目にピークに達した。すべてのマウスの腫瘍量が、実験の開始時に初期測定されたレベルへと着実におよび一律に低減することで検出された通り、腫瘍の進行は完全に逆転した。3e6個のCAR形質導入T細胞および同じ用量の未形質導入T細胞を受け取った群のすべてのマウスの代表的なin vivo画像化データが示されている。腫瘍のみの群の場合は、代表的なマウスが示されている。
【0185】
図21には、腫瘍量は、群(n=7)のマウス1匹当たり6E6個のCAR形質導入T細胞という最も高い用量を受けた群も含む、すべての群の平均およびSEMとして図示されている。予想通り、6e6群は抗腫瘍応答が最も速かったが、実験終了時の腫瘍量は、3e6個のCAR T細胞群と同等だった。このデータにより、3日以内に拡大増殖を一切させずに生成したCAR T細胞は、強力な抗腫瘍応答を媒介していることが確認される。この結果は、脾臓、骨髄、および血液中のヒト腫瘍細胞およびヒトT細胞サブセットを定量化するためのフローサイトメトリーデータにより確認された。「腫瘍のみ」および「3E6個の未形質導入T細胞」対照群からランダムに選択した3匹のマウスを14日目に犠牲死させ、これらの臓器におけるヒト細胞、Raji細胞、およびT細胞サブセットの存在量を、CD45h、CD4、CD8、CD20、CD22、7-AAD、CD19 CAR検出の染色により(すべてMiltenyiBiotec)定量化した。CAR形質導入T細胞群のマウスは、7匹中3匹のマウスをランダムに選択し、18日目に犠牲死させて同様に分析した。予想通り、腫瘍のみの群では、T細胞は見出されなかった(図22を参照)。未形質導入コホートでは、最大で20%のT細胞しか検出可能でなかった。対照的に、ヒトT細胞の頻度は、CAR形質導入T細胞を輸注したマウスを含むコホートで最も高く、最大で75%だった。したがって、T細胞は、未形質導入T細胞によるコホートよりも、形質導入T細胞を含むコホートでより多く存在する。これは、CAR T細胞が拡大増殖および存続することが可能であることを示す。これは、図21に示されているデータと一致しており、CAR形質導入T細胞は、腫瘍を制御することが可能であるが、未形質導入T細胞の存在量は比較的低く、腫瘍増殖を制御することができなかったことを示す。
【0186】
図23には、腫瘍細胞が消失しており、またCD8がより多く拡大増殖したことを示す形質導入群とは対照的に、未形質導入の効果では腫瘍が依然として存在することがさらに示されている。
【0187】
ヒト細胞のみの細胞サブセットの頻度を決定することにより、ヒトサブセットの細胞組成をより詳細に調査した(図23を参照)。この場合も、腫瘍のみの群ではヒトT細胞は見出されなかった。未形質導入T細胞群の場合、ヒト細胞の20~60%は残留Raji細胞であり、CD4対CD8比は2:1~3:1だった。CAR形質導入T細胞群では、約50%のヒトCD4 T細胞および50%のヒトCD8 T細胞が見出され、CAR形質導入群の残留のRaji細胞は、バックグラウンドレベルに近い値しか検出可能ではなかった。このデータは、CAR形質導入T細胞を有するマウスを含むコホートでは、CD8 T細胞サブセットが、in vivoで特異的に拡大増殖したことを示唆する。
【0188】
脾臓を分析したところ、腫瘍のみのコホートでは、このリンパ球性臓器にヒトT細胞は見出されなかった(図24を参照)。未形質導入T細胞を含むコホートでは、T細胞頻度は最大で10%であることが決定された。対照的に、in vivo画像化データで測定したところ、CAR形質導入T細胞群では、ヒトT細胞の頻度がはるかにより高く、最大で40%がヒトT細胞だった。これによりT細胞拡大増殖および抗腫瘍活性が確認された。
【0189】
要するに、in vivoデータは、in vitro機能性データを確認し、未形質導入T細胞は、Raji細胞の増殖を制御することができなかったことを示す。対照的に、ヒトT細胞の最も高い割合は、骨髄(Raji生着および拡大増殖の好ましい微小環境である)に見出された。これは、3日間拡大増殖したCAR T細胞も、そのような微小環境へと回帰し、抗腫瘍活性を促進することが可能であることを示す。
【0190】
したがって、3日以内に生成されたCAR T細胞は、驚くべきことに、明示的な拡大増殖ステップが存在しない場合でさえ、in vitroおよびin vivoでロバストな抗腫瘍活性を促進する。これは、機能的なCAR T細胞の生成には、in vivo拡大増殖は必須であるが、in vitro拡大増殖は必須ではないことを証明する。
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【国際調査報告】