(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害を治療するための選択的ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
C07D 401/12 20060101AFI20220728BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220728BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220728BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
C07D401/12
A61K31/454
A61P25/00
A61P25/28
A61K45/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/24
A61P25/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570821
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 IB2020055104
(87)【国際公開番号】W WO2020240489
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】310008859
【氏名又は名称】リヒター ゲデオン ニュイルヴァーノシャン ミューコェデー レースヴェーニュタールシャシャーグ
【氏名又は名称原語表記】Richter Gedeon Nyrt.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ロマーン、ヴィクトル
(72)【発明者】
【氏名】リーバイ、ジョルジュ イシュトバーン
【テーマコード(参考)】
4C063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB08
4C063CC10
4C063DD03
4C063EE01
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA052
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4C084ZA152
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4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC50
4C086GA07
4C086MA01
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4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA05
4C086ZA06
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA22
(57)【要約】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状の治療における使用のための、選択的ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト/インバースアゴニストである1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン、その医薬的に許容される塩、誘導体、医薬組成物、活性代謝産物、および組み合わせ物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自閉症スペクトラム障害(ASD)の治療における使用のための、式1の化合物:
【化1】
、およびその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
ASDの症状の治療における、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
ASDの中核症状の治療における、請求項2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
ASDの中核症状としての社会的コミュニケーション機能不全の治療における、請求項3に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
ASDの中核症状としての制限的および反復的行動の治療における、請求項3に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
ASDと関連する易刺激性の治療における、請求項2に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
前記医薬的に許容される塩が、二臭化水素酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、一クエン酸塩および二クエン酸塩からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記化合物の治療有効量が、0.01~40mg/日の範囲内である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
ASDの治療のための医薬の製造における、式1の化合物およびその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項10】
ASDの症状の治療のための、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
ASDの中核症状の治療のための、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
ASDの中核症状としての社会的コミュニケーション機能不全の治療のための、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
ASDの中核症状としての制限的および反復的行動の治療のための、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
ASDと関連する易刺激性の治療のための、請求項10に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬的に許容される塩が、二臭化水素酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、一クエン酸塩および二クエン酸塩からなる群から選択される、請求項9~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記化合物の治療有効量が、0.01~40mg/日の範囲内である、請求項9~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
ASDを治療する方法であって、当該治療を必要とする患者に、治療有効量の式1の化合物およびその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
ASDの症状を治療する方法であって、当該治療を必要とする患者に、治療有効量の式1の化合物およびその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記症状が、ASDの中核症状である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記中核症状が、社会的コミュニケーション機能不全である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記中核症状が、制限的および反復的行動である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記症状が、易刺激性である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記医薬的に許容される塩が、二臭化水素酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、一クエン酸塩および二クエン酸塩からなる群から選択される、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物の治療有効量が、0.01~40mg/日の範囲内である、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
式1の化合物またはその医薬的に許容される塩と、担体、希釈剤および賦形剤のような1つ以上の医薬的に許容される成分とを含む医薬組成物。
【請求項26】
前記医薬的に許容される塩が、二臭化水素酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、一クエン酸塩および二クエン酸塩からなる群から選択される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記組成物が、少なくとも1つの他の活性成分をさらに含む、請求項25~26のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記化合物の治療有効量が、0.01~40mg/日の範囲内である、請求項25~27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
ASDの治療における使用のための、請求項25~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ASDの症状の治療における使用のための、請求項25~28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
精神刺激薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、降圧薬、抗てんかん薬、麻薬薬、および鎮痙薬または抗けいれん薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の活性成分と組み合わせられる、式1の化合物およびその医薬的に許容される塩。
【請求項32】
ASDの治療における使用のための、請求項31に記載の組み合わせ物。
【請求項33】
ASDの症状の治療における使用のための、請求項31に記載の組み合わせ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状の治療における使用のための、選択的ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト/インバースアゴニストである1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン、それらの医薬的に許容される塩、誘導体、医薬組成物、活性代謝産物、および組み合わせ物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許出願WO2014/136075A1は、ヒスタミンH3受容体の調節を必要とする病状治療のための、フェノキシピペラジン誘導体、それらの調製方法、およびそれらの治療用途を開示している。WO2014/136075A1によれば、式1
【化1】
に相当する1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オンは、高親和性および高選択性のヒスタミンH3受容体リガンドである。この化合物は、WO2014/136075の実施例11において調製されて得られた生成物のジクロロメタン溶液の蒸発によって、または当業者において明らかに公知である塩酸塩の単離後の塩基遊離によって、得ることができる。
【0003】
インビトロで、この化合物は、受容体アンタゴニスト/インバースアゴニストとして機能的に振る舞い、またラットにおいて、インビボで、ヒスタミンH3受容体アンタゴニズムも示す。
【0004】
ASDは、小児および成人の双方のおよそ1%に影響を与える、複雑で、非常に困難で、高頻度に見られる神経発達状態である(Brughaら,Arch.Gen.Psychiatry.2011,68:459-465;Murphyら,Neuropsychiatr.Dis.Treat.2016,12:1669-1686)。この障害は、下記2つの中核症状:
1)社会的コミュニケーション機能不全(複数の状況にわたる社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用における持続性の欠陥)、ならびに
2)制限的(反復的、常同的)な行動および思考(制限的、反復的なパターンの行動、興味または活動)
によって特徴付けられる(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,第15版,50-59頁)。
【0005】
社会的障害には、異常な社会的アプローチ、通常の往復コミュニケーションの失敗、意思疎通の開始およびやりとりの失敗が含まれる。コミュニケーションの欠陥には、不十分に統合された言語的および非言語的コミュニケーション、異常なアイコンタクトおよびボディーランゲージ、ジェスチャーの理解の欠陥、顔の表情の欠如が含まれ得る。一般に、関係を発達させ、維持し、および理解すること、社会状況に適応すること、創作遊びを共有することにおける欠陥、そして仲間に興味がないことが存在し得る。他の中核症状の領域に関し、常同的または反復的な機能的な動き、単調およびルーチンへのこだわり、その激しさまたは焦点が異常である非常に強い関心、および異常な感覚反応性が確認され得る。
【0006】
中核症状に加え、ASDには、多くの場合、知的障害、注意欠陥、多動性、気分障害、発作、睡眠障害などを含む関連症状または併存症状も付随する(Laiら,Lancet 2013,383(9920):896-910)。さらなる高頻度の関連症状の領域は、怒りの爆発、他者への攻撃性、自傷行為、および気分変動を含む易刺激性である。また、ASDは、適応行動におけるかなりの障害と関連する。ASDの症状は、幼少期から存在し、日常的、社会的、職業的、および他の重要な機能領域を著しく損なう。
【0007】
ヒスタミンH3受容体アンタゴニストは、アルツハイマー病、肥満、統合失調症、心筋虚血、片頭痛、鼻閉など様々な疾患の治療のための薬物を開発する目的で広く研究されている(Leursら,Nat.Rev.Drug Disc.2005,4:107-120;Berlinら,J.Med.Chem.2011,54:26-53)。多数の化合物が、見込みのある前臨床結果を示し、パーキンソン病と関連する日中の過剰な眠気(EDS)、閉塞性睡眠時無呼吸に対する二次的なEDS、てんかん、統合失調症、認知症、および注意欠陥多動性障害などの病状において、臨床フェーズに入った(Kuhneら,Exp.Opin.Invest.Drugs 2011,20:1629-1648)。ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト/インバースアゴニストは、睡眠障害の治療のための潜在的な薬物療法剤として考えられている(BarbierおよびBradbury,CNS Neurol.Disord.Drug Targets 2007,6:31-43)。しかしながら、これまでに、ヒスタミンH3受容体アンタゴニストのファースト・イン・クラスであるピトリザント(ブランド名:Wakix)1つだけが、成人において、脱力発作を伴う又は伴わないナルコレプシーを治療するために、欧州医薬品庁から販売承認を受けている(Kollb-Sieleckaら,Sleep Med.2017,33:125-129)。特に、ASDの症状を治療するための、臨床開発中または市販されている、選択的ヒスタミンH3受容体アンタゴニストの作用機序を有する薬物はない。
【0008】
Baronioおよび共同研究者は、腹腔内に3mg/kgで投与されたヒスタミンH3受容体アンタゴニストのシプロキシファンが、マウスにおけるASDの出生前バルプロエートモデルにおいて、社会的欠陥および過剰な反復行動を改善したことを報告した(Baronioら,PLOS One 2015,10:1)。同じモデルにおいて、シプロキシファンは、出生前VPA曝露マウスにおいて損なわれた社会的新規嗜好、認知機能に対する効果を有さなかった。シプロキシファンは、ヒスタミンH3受容体の非選択的アンタゴニストである。シプロキシファンは、ヒスタミンH3受容体でのそのアンタゴニズムの他に、モノアミンオキシダーゼBに対するわずかな優先度を伴って、マイクロモル濃度の範囲でヒトおよびラットのモノアミンオキシダーゼAおよびBも阻害する(Hagenowら,Sci.Rep.2017 7:40541)。腹腔内に3mg/kgで与えられたシプロキシファンは、マイクロモルの範囲で血漿曝露を生じる(Ligneauら,J.Pharm.Exp.Ther.1998,287:658-666)。したがって、Baronioら(2015)によって報告された行動の効果は、モノアミンオキシダーゼ阻害、またはモノアミンオキシダーゼおよびヒスタミンH3受容体アンタゴニズムの組み合わせのいずれかに起因する。
【0009】
げっ歯類における出生前のバルプロエート(バルプロ酸、VPA)曝露は、自閉症スペクトラム障害の広く許容されている前臨床モデルである。出生前のバルプロエート曝露は、ヒトにおけるASDの危険性を増加させることが知られており(Christensenら,JAMA 2013,309)、げっ歯類における子宮内生活の間のVPAの存在は、出生児において自閉症様表現型をもたらすことも知られている(Roulletら,Neurotox.Teratol.2013,36,45-56)。げっ歯類において、VPAは、典型的には、神経管の閉鎖、ならびに脳神経核および小脳の確立が起こる胚発生の12日目頃に投与される。VPAのヒストンデアセチラーゼ阻害効果は、上記した発生段階を妨げ、それによって出生児における自閉症様表現型を引き起こす(Kataokaら,Int.J.Neuropsychopharm.2011 16:91-103)。自閉症様表現型は、仔ラットにおける損なわれたコミュニケーション、青年期ラットにおける損なわれた社会的遊び行動、成体ラットの3チャンバーアッセイにおける社会性の欠損を含むが、これらに限定されない。出生前VPAモデルの生理学的起源および症状は、ヒトの病状との良好な一致を示すため、出生前VPAモデルは、トランスレーショナルバリューが高く、広く許容されるASDのげっ歯類モデルである。
【0010】
ASDにおける満たされていない医療ニーズは膨大である。なぜなら、ASDにおける中核症状の治療のために現在利用可能な薬理学的治療がないためである。中核症状(社会的コミュニケーション機能不全、ならびに制限的および反復的行動)の治療のための承認薬はないが、同じクラスの多くの利用可能な薬物のうちたった2つの抗精神病薬-リスペリドンおよびアリピプラゾール-が、5~16歳(リスペリドン)または6~17歳(アリピプラゾール)の年齢の小児におけるASD関連易刺激性の治療のために、米国食品医薬品局によって承認されている。アリピプラゾールはまた、日本においてこの目的のために承認されている。多くの努力が臨床研究に注ぎ込まれているが、ASDの中核症状の領域を軽減するための有効な薬理学的治療はこれまで特定されていない。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、自閉症スペクトラム障害の症状の治療における使用のための、式1の化合物、その医薬的に許容される塩、誘導体、医薬組成物、代謝産物、および組み合わせ物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩(CMPD)の反復(1日1回、8日間)経口投与は、出生30日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的遊びの欠陥を回復させた。
【
図2】1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の反復(1日1回、8日間)経口投与は、出生59日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的嗜好の欠陥を回復させた。
【
図3】1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の反復(1日1回、9日間)経口投与は、出生60日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的認識の欠陥を回復させた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
式1の化合物の潜在能力を評価するために、ASDの出生前バルプロエートモデルにおいて当該化合物を試験した。驚くべきことに、式1の化合物が、ASDの症状を繰り返す前記動物モデルにおいて大きな利点を示したことを見出した。下記実施例に説明するように、この化合物は、それらの子宮内生活の間にバルプロエート曝露されたラットにおける行動的欠陥を回復させることができた。これらの結果は、式1の化合物およびその誘導体が、ヒト患者におけるASDの症状に対し治療的に有用であることを示す。
【0014】
したがって、本発明は、ASDの症状の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩に関する。
【0015】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDの症状の治療における使用のための、式1の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象とする。
【0016】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDの中核症状としての社会的コミュニケーション機能不全の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を対象とする。
【0017】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDの中核症状としての制限的および反復的行動の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を対象とする。
【0018】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDと関連する易刺激性の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を対象とする。
【0019】
本発明はまた、ASDの症状の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩、ならびに医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0020】
本発明はまた、ASDの中核症状の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩、ならびに医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0021】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬組成物であって、ASDの中核症状が、社会的コミュニケーション機能不全である、医薬組成物に関する。
【0022】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬組成物であって、ASDの中核症状が、制限的および反復的行動である、医薬組成物に関する。
【0023】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬組成物であって、治療される病状が、ASDと関連する易刺激性である、医薬組成物に関する。
【0024】
本発明はまた、ASDを治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む方法に関する。
【0025】
本発明はまた、ASDの症状を治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む方法に関する。
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDの中核症状としての社会的コミュニケーション機能不全を治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む方法に関する。
【0026】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDの中核症状としての制限的および反復的行動を治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む方法に関する。
【0027】
別の好ましい実施形態において、本発明は、ASDと関連する易刺激性を治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を投与する工程を含む方法に関する。
【0028】
本発明はまた、ASDの症状を治療する方法であって、当該治療を必要とする被験体に、治療有効量の、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩を含む医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。
【0029】
本発明による組成物は、経口、経皮、非経口、鼻腔内および直腸経路によって投与することができる。この組成物は、特に、適切な製剤で経口経路によって投与することができる。本発明の組成物中の式1の化合物、またはその医薬的に許容される塩、誘導体もしくは代謝産物の投与量は、所望の治療応答をもたらす活性物質の量を得るために調節することができる。したがって、投与量のレベルは、所望の治療応答、投与の経路、治療の予想期間、および患者の年齢、性別または体重などの要素に依存する。投与量は、1日に0.01~40mgであり、効果のために用量設定することができる。投与量は、好ましくは、1日に0.01~20mg、より好ましくは、1日に0.01~10mgである。
【0030】
式1の化合物はまた、ASDの併存症状の治療のための少なくとも1つの他の活性成分(例えば、精神刺激薬、抗精神病薬、オキシトシン/バソプレシン受容体系において作用する化合物、抗うつ薬、抗不安薬、降圧薬、抗てんかん薬、麻薬、鎮痙薬、または他の薬剤)と組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明は、上記に定義される式1の化合物と、1つ以上の他の活性成分との組み合わせを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、少なくとも1つの本発明の化合物を、1つ以上の他の活性成分と共に、単一投与形態で、または別々に、含んでいてもよい。組み合わせ組成物は、同時に、別々に、または連続的に投与され得る。
【0032】
本発明はまた、限定されるものではないが、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、懸濁剤、懸濁剤の調製のための散剤、分散性もしくは発泡性錠剤、チュアブル錠剤、口内分散性錠剤、錠剤もしくはコーティング錠剤、経口発泡性散剤もしくは顆粒剤、またはカプセル剤などの小児用途における使用のための医薬組成物に関する。
【0033】
精神刺激薬としては、限定されるものではないが、中枢作用性の交感神経模倣薬(アンフェタミン、メチルフェニデート、モダフィニル、アトモキセチン)、向知性薬(ビンポセチン、ドネペジル、メマンチン)、または他の精神刺激薬が挙げられる。
【0034】
抗精神病薬としては、限定されるものではないが、ハロペリドール、ピモジド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、セルチンドール、ジプラシドン、ルラシドン、リスペリドン、アリピプラゾール、カリプラジン、ブレクスピプラゾール、イロペリドン、パリペリドン、リチウムなどの定型および非定型抗精神病薬が挙げられる。
【0035】
オキシトシン/バソプレシン受容体系において作用する化合物としては、限定されるものではないが、オキシトシン、カルベトシン、アルギニン-バソプレシン、バロバプタン、レルコバプタン、コニバプタン、セレプレシン、ネリバプタン、トルバプタン、アトシバンが挙げられる。
【0036】
抗うつ薬としては、限定されるものではないが、非選択的モノアミン再取り込み阻害剤(デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン)、セロトニンモジュレーターおよび刺激剤(ビラゾドン、ボルチオキセチン)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラム)、非ヒドラジドモノアミンオキシダーゼ阻害剤(モクロベミド)、または他の薬剤(ミアンセリン、トラゾドン、ネファゾドン、ミルタザピン、チアネプチン、ベンラファキシン、ミルナシプラン、レボキセチン、デュロキセチン、アゴメラチン、ブプロピオン、ゲピロン)が挙げられる。
【0037】
抗不安薬としては、限定されるものではないが、ベンゾジアゼピン(ジアゼパム、クロルジアゼポキシド(chlorodiazepoxide)、オキサゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラム)、アザスピロデ-ジオン(ブスピロン)が挙げられる。
【0038】
降圧薬としては、限定されるものではないが、イミダゾリン受容体アゴニスト(クロニジン、グアンファシン)、およびこれらの物質と利尿薬との組み合わせが挙げられる。
【0039】
抗てんかん薬としては、限定されるものではないが、バルビツレートおよびそれらの誘導体(フェノバルビタール)、ヒダントイン誘導体(フェニトイン)、スクシンイミド誘導体(エトスクシミド)、ベンゾジアゼピン誘導体のクロナゼパム、カルボキサミド誘導体(カルバマゼピン、オクスカルバゼピン)、脂肪酸誘導体(バルプロ酸、バルプロミド、ビガバトリン、チアガビン)、ならびに他の抗てんかん薬(ラモトリジン、トピラマート、ガバペンチン、レベチラセタム、ゾニサミド、プレガバリン)が挙げられる。
【0040】
麻薬としては、限定されるものではないが、バルビツレート(ペントバルビタール)、ベンゾジアゼピン(ミダゾラム)、シクロピロロン、ベンゾジアゼピン誘導体(ゾピクロン、ゾルピデム)、メラトニン受容体アゴニスト(メラトニン、ラメルテオン)が挙げられる。
【0041】
鎮痙薬または抗けいれん薬としては、限定されるものではないが、中枢作用性の薬剤(バクロフェン、アルバクロフェン、トルペリゾン)、およびパパベリンが挙げられる。
【0042】
他の薬剤としては、限定されるものではないが、医薬品(プロバイオティクス、消化補助薬/消化薬、ハーブ抽出物)、ビタミン類(水溶性および脂溶性の両方、例えば、限定されるものではないが、ビタミンA、D3、E、K、B1、B5、B6、B12、C、またはそれらの誘導体)、および栄養サプリメント(コエンザイム、例えば、Q10、フラボノイド、例えば、レスベラトロール、レシチン、ω3およびω6脂肪酸を含む不飽和脂肪酸)が挙げられる。
【0043】
したがって、本発明はまた、
1)式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩、
ならびに
2)少なくとも1つの他の活性成分であって、精神刺激薬/向知性薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、降圧薬、抗てんかん薬、麻薬および鎮痙薬からなる群から選択される、他の活性成分、
ならびに
3)1つ以上の医薬的に許容される担体、希釈剤および賦形剤
を含む、ASDの治療における使用のための医薬組成物に関する。
【0044】
本発明はまた、ASDの症状の治療における使用のための、式1の化合物、および/またはその誘導体、および/またはその代謝産物、および/またはその医薬的に許容される塩と、少なくとも1つの他の活性成分とを含む医薬組成物に関する。
【0045】
好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、少なくとも1つの他の活性成分が、精神刺激薬/向知性薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、降圧薬、抗てんかん薬、麻薬および鎮痙薬からなる群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0046】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、精神刺激剤/向知性剤が、アンフェタミン、メチルフェニデート、モダフィニル、アトモキセチン、ビンポセチン、ドネペジルおよびメマンチンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0047】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、抗精神病剤が、ハロペリドール、ピモジド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、セルチンドール、ジプラシドン、ルラシドン、リスペリドン、アリピプラゾール、カリプラジン、ブレクスピプラゾール、イロペリドン、パリペリドンおよびリチウムを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0048】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、オキシトシン/バソプレシン受容体系において作用する化合物が、オキシトシン、カルベトシン、アルギニン-バソプレシン、バロバプタン、レルコバプタン、コニバプタン、セレプレシン、ネリバプタン、トルバプタンおよびアトシバンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0049】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、抗うつ剤が、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラム・モクロベミド、ミアンセリン、トラゾドン、ネファゾドン、ミルタザピン、チアネプチン、ベンラファキシン、ミルナシプラン、レボキセチン、デュロキセチン、アゴメラチン、ブプロピオンおよびゲピロンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0050】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、抗不安剤が、ジアゼパム、クロルジアゼポキシド(chlorodiazepoxide)、オキサゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラムおよびブスピロンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0051】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、降圧剤が、クロニジンおよびグアンファシンから選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0052】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、抗てんかん剤が、フェノバルビタール、フェニトイン、エトスクシミド、クロナゼパム、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、バルプロ酸、バルプロミド、ビガバトリン、チアガビン、ラモトリジン、トピラマート、ガバペンチン、レベチラセタム、ゾニサミドおよびプレガバリンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0053】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、麻薬剤が、ペントバルビタール、ミダゾラム、ゾピクロン、ゾルピデム、メラトニンおよびラメルテオンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0054】
別の好ましい実施形態において、本発明は、上記に定義される使用のための医薬的組み合わせ組成物であって、鎮痙薬が、バクロフェン、アルバクロフェン、トルペリゾンおよびパパベリンを含む群から選択される、医薬的組み合わせ組成物に関する。
【0055】
医薬組成物の調製
以下の製剤例は、本発明の代表的な医薬組成物を示す。しかしながら、本発明は、以下の医薬組成物に限定されるものではない。
【0056】
A)固体経口剤形
錠剤
活性物質 0.005~90%
フィラー 1~99.9%
バインダー 0~20%
崩壊剤 0~20%
潤滑剤 0~10%
他の特定の賦形剤 0~50%
【0057】
B)非経口剤形
静脈内注射剤
活性物質 0.001~50%
溶媒 10~99.9%
共溶媒 0~99.9%
浸透圧剤 0~50%
緩衝剤 適量
【0058】
c)他の剤形
坐剤
活性物質 0.0003~50%
坐剤基剤 1~99.9%
界面活性剤 0~20%
潤滑剤 0~20%
保存剤 適量
【0059】
定義
「活性成分」という用語は、式1の化合物、その医薬的に許容される塩、活性代謝産物および誘導体を意味する。
【0060】
「活性代謝産物」という用語は、生物活性が親化合物のものと類似する生体内変化の異なる経路によって生成するそのような代謝産物を意味する。
【0061】
「親和性」という用語は、生物学的標的に対する薬物の引力を意味し、これは、薬物-標的の相互作用の強さを定量化するために使用される化学用語である。
【0062】
「アンタゴニスト」という用語は、受容体と会合し、応答を生じないか、または同じ受容体のアゴニストによって生じる応答を阻む化合物を意味する。
【0063】
「誘導体」という用語は、本発明の化合物の化学的修飾によって生成され、プロドラッグ、重水素化化合物など(これらに限定されない)となる化合物を意味する。
【0064】
「賦形剤」という用語は、ある化合物の細胞または組織への取り込みを容易にする化学物質をいう。調製物において利用可能な賦形剤は、以下のカテゴリー、例えば、限定されるものではないが、錠剤およびカプセル剤のフィラー、錠剤およびカプセル剤のバインダー、薬物放出改良剤、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、甘味剤、矯味剤、香味剤、コーティング物質、界面活性剤、安定剤、保存剤または抗酸化剤、緩衝剤、錯化剤、湿潤剤または乳化剤、浸透圧を調整するための塩、凍結乾燥賦形剤、マイクロカプセル化剤、軟膏材料、浸透増強剤、可溶化剤、溶剤、坐剤材料、懸濁化剤から選択されてもよい。好適な医薬的賦形剤は、例えば、デンプン、微結晶性セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、ゼラチン、シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、セルロース誘導体、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどであり得る。
【0065】
「インバースアゴニスト」という用語は、構成的に活性な受容体と結合し、その活性を減少させ、その結果、アゴニストと反対の薬理学的応答を誘導する物質を意味する。
【0066】
「患者」という用語は、ASDの診断を受けたヒトを指す。
【0067】
「医薬的に許容される」という用語は、医薬組成物の調製において有用であり、かつ一般に、安全で、非毒性で、生物学的にも非生物学的にも望ましくないものではない成分をいい、ヒトへの医薬的使用に許容されるものを含む。
【0068】
「医薬組成物」という用語は、本発明の化合物と、医薬的に許容される賦形剤、例えば、希釈剤または担体などの他の化学成分との混合物を指す。医薬組成物は、化合物の被験体への投与を容易にする。
【0069】
「医薬的に許容される塩」という用語は、式(I)の化合物の生物学的有効性および性質を保ち、好適な非毒性の有機酸または無機酸と形成され得る、従来の酸付加塩を指す。酸付加塩の例としては、限定されるものではないが、(一または二)塩酸、(一または二)臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸および過塩素酸などの無機酸に由来する塩、ならびに限定されるものではないが、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリコール酸、フェニル酢酸、サリチル酸、マロン酸、マレイン酸、オレイン酸、パモ酸、パルミチン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、(一または二)クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルタミン酸、フマル酸などのようなさまざまな有機酸に由来する塩が挙げられる。これらの塩は、多くの場合、それらの調製のために使用される化合物よりも好ましい溶解性を示し、したがって、さまざまな医薬製剤の調製における使用のためにより好適である。
【0070】
「選択的」という用語は、異なる薬理学的活性を最終的に生じ得る他の標的よりも、ある分子標的と、十分に、より優先的に結合するリガンドを意味する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、特定の病態の軽減、病状の1つ以上の症状の排除または低減、疾患状態の進行を遅らせることまたはその排除、および疾患に既に罹患しているかまたは診断されている患者または被験体の病態の再発の予防または遅延を指す。
【0072】
出生前バルプロエートモデル
背景技術の欄に記載されるように、出生前バルプロエート(VPA)モデルは、優れたコンストラクトバリディティーおよびフェースバリディティーを有し、したがって、ASDの広く許容される疾患モデルである。ASDの中核症状の治療のための販売承認された薬は存在しないため、このモデルの予測的妥当性は、ヒトにおいて有効性のシグナルを示した化合物に基づいてのみ評価することができる。ASD被験体における有効性のシグナルを生じる化合物は、例えば、オキシトシンを含む(Andariら,PNAS 2010,107:4389-4394)。オキシトシンは、出生前VPAモデルにおける行動障害を改善することが見出されており(Haraら,Horm.Behav.2017,96:130-137)、したがって、このモデルが、患者におけるASD中核症状の治療における有用性を予測することが可能であり得ることを評価することができる。
【0073】
この方法において、時期が一致した雌Wistarラットに、妊娠12.5日目に、単回用量のVPA(600mg/kg、i.p.)を投与する。出生児は、行動試験の時まで、標準的な実験条件に従って飼育される。動物は、従来のケージ内で4頭の群で飼育され、餌および水は自由に摂取可能で、標準的な12時間の明暗サイクルで22~24℃に維持される。治験薬による治療後、出生児は、自閉症の行動の評価に適した試験において行動面を調べられる。これらの試験は、社会的遊び、社会的嗜好、および社会的認識記憶を含む。これらの試験は、実験動物におけるASD中核症状を表す行動要素を評価するために好適である。治験化合物の有効性(すなわち、出生前VPA曝露によって誘導された行動の欠陥の改善)は、ASD中核症状の薬物療法における有用性を示し得る。治験薬の用量は、補正因子2.07を用いて二クエン酸塩について補正し、遊離塩基として表す。本明細書において、二クエン酸塩を含む塩を詳細に開示する「選択的ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト酸付加塩およびその調製のための方法」という名称の本出願人によって出願された同時に係属する特許出願を参照する。
【0074】
仔ラットにおける母性剥奪によって誘導された超音波発声は、出生前のVPAへの曝露後に出生児において損なわれた社会的コミュニケーション機能の読み取りである(Gandalら,Biol.Psychiatry 2010,68,1100-1106)。超音波コールを誘導するために、出生前にVPA治療された仔ラットを、コールがバットマイクで記録されているケージに個々に入れる。コールは、オーディオフィルターでデジタル化され、超音波発声は、SonoTrackソフトウェア(Metris bv.オランダ)を用いて記録および定量化される。ベースライン発声を、生後11~12日目に10分間測定する。動物を、ベースライン発声に基づいて、同質の群に分ける。生後13日目に、動物を、測定の60分前に適切な用量の薬物またはビヒクルでp.o.にて治療し、次いで、記録するまで元の場所に戻す。超音波コールカウントを、10分間記録する。統計分析を、ノンパラメトリックなクルスカルワリス検定および事後ダネット検定を用いて、超音波コールカウントに対して行う。
【0075】
社会的遊びは、げっ歯類およびヒトを含む青年期の哺乳動物の非常に典型的な一種の社会的相互作用である(VanderschurenおよびTrezza,Curr.Topics Behav.Neurosci.2014,16:189-212)。社会的遊び行動は、成人期の健康な社会的機能を示し、出生児の出生前VPA治療後、欠損する(SchneiderおよびPrzewlocki Neuropsychopharmacology 2005,30:80-89)。生後30日目に、試験化合物による治療の8日後、出生前VPA治療されたラットを、若齢の遊び行動について評価する。試験は、15分の検査にわたって、同じ治療群からの動物のペアを用いてラットには未知の試験の活動領域において行われる。動物は、社会的遊び行動の時間についてスコア化される。統計分析は、一元配置分散分析およびスチューデントのt検定を使用することによって行う。
【0076】
3チャンバー装置における社会的嗜好および認識記憶アッセイは、ラットにおけるインタクトな社会的行動のさらなる指標である。無生物よりも同種を嗜好し、そして親密な同種と新規の同種とを区別する能力は、正常な社会的機能のために必要であり、ラットにおける出生前VPAモデルにおいて欠損する(Bambini-Juniorら,Brain Res.2011,1408:8-16)。社会的嗜好および社会的認識記憶は、3チャンバー装置において研究される。生後59日目に、出生前VPA治療されたラットを、試験化合物による経口治療の8日後、それらの社会的嗜好について評価する。生後60日目に、同じラットを、試験化合物による経口治療の9日後に、それらの社会的認識記憶について評価する。統計分析は、二元配置分散分析およびスチューデントのt検定を使用することによって行う。
【0077】
図面の詳細な説明
図1. 1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩(CMPD)の反復(1日1回、8日間)経口投与は、出生30日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的遊びの欠陥を回復させた(
*P<0.05 出生前VPA+媒体治療(VPA+VEH)に対するスチューデントのt検定)。1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の効果は、0.1および1mg/kgの用量で統計学的に有意であった(+ p<0.05、「VPA+VEH」に対するボンフェローニ事後検定)。VEH+VEHは、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前媒体治療を意味する。VPA+VEH動物は、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前VPAを受けた。VPA+CMPD/0.01、CMPD/0.1およびCMPD/1の群は、出生前VPAに続いて、0.01、0.1および1mg/kgの1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩をそれぞれ受けた。
【0078】
図2. 1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の反復(1日1回、8日間)経口投与は、出生59日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的嗜好の欠陥を回復させた(
*P<0.05 出生前VPA+媒体治療(VPA+VEH)に対するスチューデントのt検定)。1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の効果は、0.1および1mg/kgの用量で統計学的に有意であった(+ p<0.05、「VPA+VEH」に対するボンフェローニ事後検定)。VEH+VEHは、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前媒体治療を意味する。VPA+VEH動物は、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前VPAを受けた。VPA+CMPD/0.01、CMPD/0.1およびCMPD/1の群は、出生前VPAに続いて、0.01、0.1および1mg/kgの1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩をそれぞれ受けた。
【0079】
図3. 1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の反復(1日1回、9日間)経口投与は、出生60日目における出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的認識の欠陥を回復させた(
*p<0.05、スチューデントのt検定、「新規」対「親密」)。「親密」は、試験動物に既に知られている同種の調査に費やされた時間を表し、「新規」は、試験動物に未だに知られていない同種の調査に費やされた時間を表す。1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の効果は、1mg/kgの用量で統計学的に有意であった(+ p<0.05、「出生前VPA+媒体治療」(VPA+VEH)親密に対するボンフェローニ事後検定)。VEH+VEHは、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前媒体治療を意味する。VPA+VEH動物は、行動試験前の媒体治療と組み合わせた出生前VPAを受けた。VPA+CMPD/0.01、CMPD/0.1およびCMPD/1の群は、出生前VPAに続いて、0.01、0.1および1mg/kgの1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩をそれぞれ受けた。
【0080】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することなく、本発明を説明する。
【実施例】
【0081】
実施例1
1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩を、出生前バルプロエート治療されたラットにおける社会的遊びアッセイにおいて試験した(
図1)。ラットの社会的遊び行動に対する1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の亜急性(1日1回、8日間)投与の効果を
図1に示す。表されたデータは、各群について青年期(生後30日目)雄ラットの4つのペアの平均±SEMである。経口で与えられた1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩は、バルプロエート治療された出生児における社会的遊びの欠陥を、部分的に回復させ、0.1mg/kgの用量で有意に達した。したがって、本発明の化合物は、出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的欠陥を低下させることが可能であった。
【0082】
実施例2
1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩を、出生前バルプロエート治療されたラットの3チャンバー装置における社会的嗜好において試験した(
図2)。社会的嗜好に対する1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の亜急性(1日1回、8日間)経口投与の効果を
図2に示す。表されたデータは、各群について8頭の雄ラットの平均±SEMである(生後59日目)。経口で与えられた1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩は、1mg/kgの用量で、バルプロエート治療された出生児における社会的嗜好の欠陥を、完全に回復させた。したがって、本発明の化合物は、出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的欠陥を低下させることが可能であった。
【0083】
実施例3
1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩を、出生前バルプロエート治療されたラットの3チャンバー装置における社会的認識記憶において試験した(
図3)。社会的認識記憶に対する1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の亜急性(1日1回、9日間)経口投与の効果を
図3に示す。表されたデータは、各群について8頭の雄ラットの平均±SEMである(生後60日目)。経口で与えられた1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチルピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩は、1mg/kgの用量で、バルプロエート治療された出生児における社会的認識記憶の欠陥を、完全に回復させた。したがって、本発明の化合物は、出生前バルプロエート治療によって誘導される社会的欠陥を低下させることが可能であった。
【0084】
実施例4
1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチル-ピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩およびリスペリドンの共投与の行動的な効果を、それらの母親からの分離によって誘導された超音波放出について、出生前にバルプロエート曝露された(300mg/kg)仔ラットにおいて研究した。リスペリドンは、ASDと関連する易刺激性の治療のためのその承認(FDA、米国)、およびASDにおける毎日の医療行為におけるその頻繁な使用のために(McClellanら,Curr.Treat:Options Psych.2016 3:161-181)、選択した。また、本研究において適用されるリスペリドンの用量は、出生前バルプロエート曝露モデルにおいて有効性のシグナルを生じることが報告された(KuoおよびLiu、FASEB J 2017,31(10):4458-4471)。0.01~1mg/kgの用量範囲の1-[4-(4-{3-[(2R)-2-メチル-ピロリジン-1-イル]-プロポキシ}-フェノキシ)-ピペリジン-1-イル]-エタン-1-オン・二クエン酸塩の経口用量と、経口で与えられるリスペリドン(0.003mg/kg)との共投与は、仔ラットにおける出生前バルプロエート曝露によって誘導される社会的コミュニケーションの欠陥を用量に比例して回復させた。
【国際調査報告】