(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】肺に用いられるプロステーシス及びその用途
(51)【国際特許分類】
A61F 2/02 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
A61F2/02 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571453
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2019089356
(87)【国際公開番号】W WO2020237586
(87)【国際公開日】2020-12-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520493304
【氏名又は名称】ナショナル インスティテュート オブ バイオロジカル サイエンシズ,ベイジン
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL INSTITUTE OF BIOLOGICAL SCIENCES,BEIJING
【住所又は居所原語表記】7 Science Park Rd.,ZGC Life Science Park,Changping District,Beijing 102206 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ナン・タン
(72)【発明者】
【氏名】ホイチュアン・ウー
(72)【発明者】
【氏名】チアオ・リー
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA30
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC06
4C097DD04
4C097DD10
4C097DD12
4C097EE01
4C097EE08
4C097EE09
4C097EE11
4C097EE13
(57)【要約】
肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するためのプロステーシス、及び肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するための方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計される、肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するためのプロステーシス。
【請求項2】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、好ましくは、肺葉底部とマッチするように設計される、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項3】
通常の吸気終了時に肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/8を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項4】
通常の吸気終了時に肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/4を占める、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項5】
通常の吸気終了時に肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも半分を占める、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項6】
通常の吸気終了時に肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも3/4を占める、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項7】
通常の吸気終了時に肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた全空間を占める、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項8】
胸膜液で包囲される、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項9】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/8を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項10】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/4を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項11】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも半分を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項12】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも3/4を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項13】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部の全面積を占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項14】
上側、下側及び前記上側と下側の間に延在する側面を有する本体を含む、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項15】
上側が肺葉底部とマッチする、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項16】
下側が横膈膜とマッチする、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項17】
外側面が肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項18】
内側面が下肺葉外壁とマッチする、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項19】
肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状を有する、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項20】
不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する、請求項14に記載のプロステーシス。
【請求項21】
上側、下側、前記上側と下側の間に延在する側面及び心臓に近接する内側縁を含み、前記側面は前記内側縁と相対する、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項22】
上側が肺葉底部とマッチする、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項23】
下側が横膈膜とマッチする、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項24】
外側面が肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項25】
下肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状を有する、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項26】
上側が内側縁に向かって徐々に縮小し、下側が内側縁に向かって徐々に縮小する、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項27】
不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する、請求項21に記載のプロステーシス。
【請求項28】
前記側面は0.5cm~8cmの高さを有する、請求項14又は21に記載のプロステーシス。
【請求項29】
前記側面は0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm又は8cmの高さを有する、請求項28に記載のプロステーシス。
【請求項30】
壁の厚さは0.1~4cmの間である、請求項14又は21に記載のプロステーシス。
【請求項31】
前記厚さは0.1cm、0.2cm、0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、1.1cm、1.2cm、1.3cm、1~4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2cm、3cm又は4cmである、請求項30に記載のプロステーシス。
【請求項32】
弧状を有し、前記弧状が下肺葉下縁とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項33】
前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/8とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項34】
前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/4とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項35】
前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/2とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項36】
前記弧状が下肺葉下縁の全長とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項37】
1cm~4cmの高さを有する、請求項36に記載のプロステーシス。
【請求項38】
側面は1cm、2cm、3cm又は4cmの高さを有する、請求項36に記載のプロステーシス。
【請求項39】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するように胸膜腔内に配置されるように設計され、特に、胸膜腔の下側に配置される、請求項1~38のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項40】
胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下側に配置される、請求項1~38のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項41】
手術用縫合糸を用いて胸膜腔壁に、特に胸膜腔壁の下部に縫合される、請求項40に記載のプロステーシス。
【請求項42】
側面の針穴により胸膜腔壁に縫合される、請求項40に記載のプロステーシス。
【請求項43】
ソフトスポンジラテックス、フォームラテックス、380μm中空繊維、ゼラチンフォーム材料、ポリビニルアルコールスポンジ(イバロン)、グラスファイバーを充填したポリエチレン袋、ゴム、シリコンゴム、シリコンゲル、炭素材料により作製され、前記炭素材料はカーボンナノチューブ、グラフェン、超軽量多孔質カーボン、中空多孔質カーボン、炭素繊維又はカーボンチタン合金を含む、請求項1~42のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項44】
固体である、または液体又はゼリー状物が充填された袋又はパックである、請求項1~43のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項45】
請求項1~44のいずれかに記載のプロステーシスの肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)の治療における使用。
【請求項46】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するステップを含む、肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するための方法。
【請求項47】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下するように、請求項1~44のいずれかに記載のプロステーシスを胸膜腔内に、特に胸膜腔の下部に配置することを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下部に配置される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記プロステーシスは胸膜腔壁に、特に胸壁の下部に縫合される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計される、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、好ましくは肺葉基部とマッチするように設計される、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
線維症は損傷による結合組織の肥厚や瘢痕により形成され、細胞外マトリックス成分の蓄積と線維芽細胞の過剰な増殖を特徴とする。このような異常は肺、肝臓、腎臓などの臓器によく見られ、組織構造の破壊を引き起こし、臓器機能の深刻な障害をもたらす1、2。実際に、線維症は、ほぼ、どの臓器でも発生する可能性があり、且つ、様々な慢性疾患における末期臓器不全や死亡をもたらす主な原因となっている3。肺線維症の共通特徴は肺の気嚢(肺胞)周囲の線維芽細胞が過剰に増殖することである4。広範な生物医学研究により、線維芽細胞数の増加と、これらがECMにおいて過剰に沈着することが合わさって、最終的に肺胞構造の破壊、肺コンプライアンスの低下、ガス交換機能不全をもたらすことが分かっている5-7。
【0002】
最もよく見られる肺線維症のタイプは特発性肺線維症(IPF)である。この疾患は最終的には肺葉全体に影響を及ぼすが、始まりは末梢に発生する微小な線維化病変であり、徐々に内側に向かって進行し、このような線維化が最終的に呼吸不全をもたらす8、9。科学的に言えば、IPFの病態進行のメカニズム及び本質はまだ完全には解明されておらず、複数の研究により、肺胞上皮細胞の特定のサブセットである肺胞II型(AT2)細胞の寄与が示唆されている11-13。
【0003】
肺の肺胞上皮は肺胞I型(AT1)及びII型(AT2)細胞からなる。AT2細胞は肺胞幹細胞であり、肺胞の定常状態や損傷後の修復期にAT1細胞に分化することができる14、15。AT1細胞は最終的に成人の肺の肺胞表面のほぼ95%を占める、大きな扁平細胞であり、薄い血液空気関門の上皮成分として機能する16。IPF組織で異常に増生したAT2細胞は普通、線維芽細胞巣の近傍に存在し17、臨床においては、IPF組織でAT2細胞の機能に影響を及ぼす遺伝子の突然変異がよく観察される11-13、18、19。従来、肺切除術(PNX)後の残存肺の気管移動及び過膨張を補正するために、バルーンプロステーシスにより胸膜腔を占める。また、このようなバルーンは好ましくは占める予定の胸膜腔の通常の呼気終了時の大きさよりも10%程度大きく造られる。
【0004】
機械的張力は肺の形成、機能及び代謝の重要な調節因子であるが、機械的張力のインビトロ及びインビボにおける細胞に対する機能を研究するための適切なツールがないため、し細胞及び分子レベルでの研究は制限されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するための方法及び肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するためのプロステーシスに関する。本発明は機械的張力が肺線維化を進展させる重要な調節作用に基づく。移植したプロステーシスは肺胞上皮の機械的張力レベルを低下させ、拡大した肺胞の表現型を救済することができる。特に、肺胞上皮の機械的張力レベルを低下させることにより進行性の肺線維症を予防することができる。
【0006】
まず、本発明は肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するためのプロステーシスを提供する。
【0007】
本発明のプロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計されることができる。
【0008】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、且つ、好ましくは、肺葉底部とマッチするように設計される。
【0009】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/8を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも半分を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも3/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシス将肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた全空間を占める。
【0010】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/8を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/4を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも半分を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも3/4を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部の全面積を占める。
【0011】
本発明のプロステーシスは上側、下側及び前記上側と下側の間に延在する側面を有する本体を含む。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉底部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシス内側面が好ましくは下肺葉外壁とマッチする。前記プロステーシスは肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有することができる。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0012】
または、本発明のプロステーシスは上側、下側、前記上側と下側の間に延在する側面及び心臓に近接する内側縁を含み、前記側面は前記内側縁と相対する。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉底部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシスは下肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有する。好ましくは、前記プロステーシスの上側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスの下側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0013】
好ましくは、前記側面は0.5cm~8cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm又は8cmの高さを有する。
【0014】
好ましくは、前記プロステーシスの壁の厚さは0.1~4cmの間である。好ましくは、前記厚さは0.1cm、0.2cm、0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、1.1cm、1.2cm、1.3cm、1~4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2cm、3cm又は4cmである。
【0015】
好ましくは、本発明のプロステーシスは弧状を有し、前記弧状が下肺葉下縁とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/8とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/4とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/2とマッチする。好ましくは、前記弧状が下肺葉下縁の全長とマッチする。
【0016】
好ましくは、前記プロステーシスは1cm~4cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は1cm、2cm、3cm又は4cmの高さを有する。
【0017】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するように胸膜腔内に配置されるように設計され、特に、胸膜腔の下側に配置される。前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下側に配置されることができる。例えば、前記プロステーシスは手術用縫合糸を用いて胸膜腔壁に、特に胸膜腔壁の下部に縫合されることができる。好ましくは、前記プロステーシスは前記側面の針穴により胸膜腔壁に縫合される。
【0018】
前記プロステーシスはソフトスポンジラテックス、フォームラテックス、380μm中空繊維、ゼラチンフォーム材料、ポリビニルアルコールスポンジ(イバロン)、グラスファイバーを充填したポリエチレン袋、ゴム、シリコンゴム、シリコンゲル、炭素材料等により作製されることができ、前記炭素材料はカーボンナノチューブ、グラフェン、超軽量多孔質カーボン、中空多孔質カーボン、炭素繊維、カーボンチタン合金等を含む。
【0019】
前記プロステーシスは固体とすることができる、または、前記プロステーシスは液体又はゼリー状物が充填された袋又はパックとすることができる。
【0020】
次に、本発明はプロステーシスの肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)の治療における使用を提供する。
【0021】
本発明のプロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計されることができる。
【0022】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、且つ、好ましくは、肺葉底部とマッチするように設計される。
【0023】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/8を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも半分を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも3/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた全空間を占める。
【0024】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/8を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/4を占める 。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも半分を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも3/4を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部の全面積を占める。
【0025】
本発明のプロステーシスは上側、下側及び前記上側と下側の間に延在する側面を有する本体を含む。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉基部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシスの内側面が好ましくは下肺葉外壁とマッチする。前記プロステーシスは肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有することができる。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0026】
任意選択的に、本発明のプロステーシスは上側、下側、前記上側と下側の間に延在する側面及び心臓に近接する内側縁を含み、前記側面は前記内側縁と相対する。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉底部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシスは下肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有する。好ましくは、前記プロステーシスの上側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスの下側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0027】
好ましくは、前記側面は0.5cm~8cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm又は8cmの高さを有する。
【0028】
好ましくは、前記プロステーシスの壁の厚さは0.1~4cmの間である。好ましくは、前記厚さは0.1cm、0.2cm、0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、1.1cm、1.2cm、1.3cm、1~4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2cm、3cm又は4cmである。
【0029】
好ましくは、本発明のプロステーシスは弧状を有し、前記弧状が下肺葉下縁とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/8とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/4とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/2とマッチする。好ましくは、前記弧状が下肺葉下縁の全長とマッチする。
【0030】
好ましくは、前記プロステーシスは1cm~4cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は1cm、2cm、3cm又は4cmの高さを有する。
【0031】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するように胸膜腔内に配置されるように設計され、特に、胸膜腔の下側に配置される。前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下側に配置されることができる。例えば、前記プロステーシスは胸膜腔壁に、特に胸膜腔壁の下部に縫合されることができる。好ましくは、前記プロステーシスは前記側面の針穴により胸膜腔壁に縫合される。
【0032】
前記プロステーシスはソフトスポンジラテックス、フォームラテックス、380μm中空繊維、ゼラチンフォーム材料、ポリビニルアルコールスポンジ(イバロン)、グラスファイバーを充填したポリエチレン袋、ゴム、シリコンゴム、シリコンゲル、炭素材料等により作製されることができ、前記炭素材料はカーボンナノチューブ、グラフェン、超軽量多孔質カーボン、中空多孔質カーボン、炭素繊維、カーボンチタン合金等を含む。
【0033】
前記プロステーシスは固体とすることができる、または、前記プロステーシスは液体又はゼリー状物が充填された袋又はパックとすることができる。
【0034】
第三に、本発明は通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するステップを含む、肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するための方法を提供する。好ましくは、本発明は通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下するように、プロステーシスを胸膜腔内に、特に胸膜腔の下部に配置することを含む、肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するための方法を提供する。前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下部に配置されることができる。例えば、前記プロステーシスは胸膜腔壁に、特に胸壁の下部に縫合されることができる。
【0035】
本発明のプロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計されることができる。
【0036】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、且つ、好ましくは肺葉基部とマッチするように設計される。
【0037】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/8を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも半分を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも3/4を占める。好ましくは、通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた全空間を占める。
【0038】
したがって、前記プロステーシスは胸膜液で包囲される。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/8を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/4を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも半分を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも3/4を占める。好ましくは、下肺葉底部に投影される前記プロステーシスの面積は前記下肺葉底部の全面積を占める。
【0039】
本発明のプロステーシスは上側、下側及び前記上側と下側の間に延在する側面を有する本体を含む。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉底部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシスの内側面が好ましくは下肺葉外壁とマッチする。前記プロステーシスは肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有することができる。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0040】
または、本発明のプロステーシスは上側、下側、前記上側と下側の間に延在する側面及び心臓に近接する内側縁を含み、前記側面は前記内側縁と相対する。前記プロステーシスの上側が好ましくは肺葉基部とマッチする。前記プロステーシスの下側が好ましくは横膈膜とマッチする。前記プロステーシスの外側面が好ましくは肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチする。前記プロステーシスは肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状等を有する。好ましくは、前記プロステーシスの上側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスの下側が内側縁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスは不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する。
【0041】
好ましくは、前記側面は0.5cm~8cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.8cm、0.9cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm又は8cmの高さを有する。
【0042】
好ましくは、前記プロステーシスの壁の厚さは0.1~4cmの間である。好ましくは、前記厚さは0.1cm、0.2cm、0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、1.1cm、1.2cm、1.3cm、1~4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2cm、3cm又は4cmである。
【0043】
好ましくは、本発明のプロステーシスは弧状を有し、前記弧状が下肺葉下縁とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/8とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/4とマッチする。好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/2とマッチする。好ましくは、前記弧状が下肺葉下縁の全長とマッチする。
【0044】
好ましくは、前記プロステーシスは1cm~4cmの高さを有する。好ましくは、前記側面は1cm、2cm、3cm又は4cmの高さを有する。
【0045】
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するように胸膜腔内に配置されるように設計され、特に、胸膜腔の下側に配置される。前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下側に配置されることができる。例えば、前記プロステーシスは胸膜腔壁に、特に胸膜腔壁の下部に縫合されることができる。好ましくは、前記プロステーシスは前記側面の針穴により胸膜腔壁に縫合される。
【0046】
前記プロステーシスはソフトスポンジラテックス、フォームラテックス、380μm中空繊維、ゼラチンフォーム材料、ポリビニルアルコールスポンジ(イバロン)、グラスファイバーを充填したポリエチレン袋、ゴム、シリコンゴム、シリコンゲル、炭素材料等により作製されることができ、前記炭素材料はカーボンナノチューブ、グラフェン、超軽量多孔質カーボン、中空多孔質カーボン、炭素繊維、カーボンチタン合金等を含む。
【0047】
前記プロステーシスは固体とすることができる、または、前記プロステーシス液体又はゼリー状物が充填された袋又はパックとすることができる。
【0048】
本発明は本発明に記載の特定の実施形態のすべての組み合わせを含む。
【0049】
本発明は本発明に記載の特定の実施形態のすべての組み合わせを含む。特発性肺線維症(IPF)は致命的進行性肺疾患であり、選択可能な治療方案はほとんどない。我々の発明により、肺胞再生損傷が機械的張力の上昇をもたらし、そして肺線維化を発生及び進展させることが証明された。胸膜腔内にプロステーシスを移植するという簡単な治療方法により肺線維化の進行を大幅に緩和できることが確認された。プロステーシス移植はIPF治療の未来の発展のための大きな突破口となることが期待される。したがって、本発明はIPFという世界的な難病の治療を実現した画期的な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1A-1Fは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの6つの視点を示す。
【
図2】
図2A-2Dは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの4つの視点を示す。
【
図3】
図3A-3Dは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの4つの視点を示す。
【
図4】
図4A-4Fは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの6つの視点を示す。
【
図5】
図5A-5Eは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの5つの視点を示す。
【
図6】
図6A-6Fは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの6つの視点を示す。
【
図7】
図7A-7Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図8】
図8A-8Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図9】
図9A-9Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図10】
図10A-10Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図11】
図11A-11Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図12】
図12A-12Cは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの3つの視点を示す。
【
図13】
図13A-13Dは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの4つの視点を示す。
【
図14】
図14A~14Dは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの4つの視点を示す。
【
図15】
図15A-15Dは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの4つの視点を示す。
【
図16】
図16A-16Eは本発明に基づいて作製されるプロステーシスの5つの視点を示す。
【
図17】
図17はヒトの胸部に位置する本発明のプロステーシスを示す。
【
図18】
図18はAT2細胞中のCdc42遺伝子を特異的に削除したマウス品種系統の構築を示す。
【
図19】
図19はAT2細胞中のCdc42遺伝子の欠失がPNX後の肺胞再生又は肺胞の定常状態中のAT2細胞の分化障害をもたらすことを示す。
【
図20】
図20はAT2細胞中のCdc42遺伝子の欠失がPNX処理マウスに進行性の肺線維症をもたらすことを示す。
【
図21】
図21はAT2細胞中のCdc42遺伝子の欠失がPNX未処理の老齢マウスに進行性の肺線維症をもたらすことを示す。
【
図22】
図22はCdc42ヌルAT2マウスの肺におけるα-SMA+線維芽細胞巣の進展を示す。
【
図23】
図23はCDC42-GTPの発現レベルがPNX後の7日目に有意に向上することを示す。
【
図24】
図24は肺胞の機械的張力の低下は進行性の肺線維症を減弱させることができることを示す。
【
図25】
図25はCdc42遺伝子のエクソン2を削除する前又は削除した後のCdc42 DNA配列の断片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
特定の実施形態及び実施例の記載は説明するためであって限定するために提供されるのではない。当業者は基本的に類似の結果を得るために変更や修正可能な様々な非重要パラメータを容易に認識できる。
【0052】
胸膜腔は各肺の2つの肺胸膜(臓側胸膜及び壁側胸膜と呼ばれる)の間の液体で満たされている薄い空間である。胸膜は自身に向かって折り返され、2層の膜状の胸膜嚢が形成される漿膜である。外側胸膜(壁側胸膜)は胸壁と連通するが、両者は胸内筋膜で隔てられている。内側胸膜(臓側胸膜)は肺と血管、気管支及び神経を含む隣接構造を覆っている。すべて正常な場合において、前記2つの胸膜は(漿液薄膜を通して)互いにくっついているため、胸膜腔は潜在的な空間とみなすことができる。胸膜腔は肋骨に囲まれ、これが肺を囲む。少量の液体が2層の胸膜の間の潜在的な空間内に存在する。
【0053】
胸膜液は正常な胸膜を覆う漿膜より産生される漿液である。大多数の胸膜液は壁側循環(肋間動脈)が大量流動することによって産生され、リンパ系に再吸収される。したがって、胸膜液は連続的に生成され、連続的に再吸収されるものである。
【0054】
肺は肋骨内で心臓両側の胸腔内に存在する。円錐状を呈し、頂部は狭い円形の頂端を有し、広い凹んだ底部は横膈膜の凸面に位置する。肺は肺胸膜に囲まれている。胸膜は2層の漿膜である。外側の壁側胸膜は肋骨の内壁に裏打ちされ、内層の臓側胸膜は直接、肺の表面に裏打ちされている。胸膜の間は胸膜腔の潜在的空間と呼ばれ、そこには薄層で潤滑機能を果たす胸膜液が含まれている。各肺の胸膜内で折れてなる間裂は複数の肺葉に分かれている。前記間裂は胸膜の二重折りであり、これにより肺を分離し、肺の拡張を助ける。右肺は三つの肺葉、即ち上葉、中葉、下葉を有し、左肺は上と下の2つの肺葉のみがある。
【0055】
本発明において、技術用語“機械的張力”とは“物理的な張力”、“伸展”、“膨張”、“応力”又は“ひずみ”を意味し、例えば“ひずみ”には“圧縮ひずみ”、“引張り歪み”が含まれ、角変形は“せん断ひずみ”である。
【0056】
特発性肺線維症(IPF)は肺機能の進行的で不可逆的な低下を特徴とする慢性肺疾患である。症状としては普通、息切れや乾性咳嗽が徐々に現れる。他の変化としては倦怠感やポクラテス爪が考えられる。合併症としては肺高血圧症、心不全、肺炎又は肺塞栓症が考えられる。
【0057】
プロステーシスは人体部位を置き換える人工装置であり、前記人体部位の正常機能の回復を目的としている。プロステーシスは手作りでも、CAD(コンピュータ支援設計)を使って作製することもでき、前記CADは3D形式で製作物を可視化できるように製作者を支援するソフトウエアインターフェースである。作製されるプロステーシスの重量は被検者が使いやすいように軽く、一部の材料としては、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリウレタン)、軽金属(チタン、アルミニウム)、複合材料(炭素繊維)及びシリコンゴムを含む。
【0058】
手術用縫合糸は負傷又は手術の後に人体組織を一緒に繋ぎ合わせるためのものである。手術用縫合糸は複数の材料から作られる。原始的な縫合糸は腸線、シルクなどの生体材料や、吸収性ポリグリコール酸、ポリ乳酸、吸収性縫合糸(Monocryl)、ポリジオキサノンなどの合成材料や、非吸収性のナイロン、ポリエステル、PVDF、ポリプロピレンなどから作られる。ポリマー材料はグリコリド、l-ラクチド、p-ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、ε-カプロラクトンの5種類の環状モノマーのうちの1種類以上をベースとしている。
【0059】
シリコンゴムはシリコンからなる弾性体であり、前記シリコンはシリコンおよび炭素、水素、酸素を含むポリマーである。シリコンゴムは極端な温度に対して優れた耐久性、伸長性、クリープ性、繰り返し屈曲性、引き裂き強度、圧縮永久変形、誘電強度(高電圧における)、熱伝導性、難燃性などの特性を供し、一部の場合において、極端な温度における引張り強度は一般的な有機ゴムよりもはるかに優れる。
【0060】
機械的張力とIPFとの直接的な関連性、つまり、肺胞上皮の機械的張力を低下させることが有効であることが本発明者により最初に確認されたので、当業者は、肺胞上皮の機械的張力を低下させる如何なる薬剤又はプロステーシスも本発明の範囲内に含まれると予想できる。
【実施例】
【0061】
方法
マウス及び生存曲線記録
Rosa26-CAG-mTmG(Rosa26-mTmG)20及びCdc42flox/floxマウス21については既に記載した。すべての実験は北京生命科学研究所実験動物ケア及び使用ガイド(Guide for Care and Use of Laboratory Animals of the National Institute of Biological Sciences)の推奨事項に従って行われた。マウスの生存率をモニターするために、PNX処理後、毎週、対照及びCdc42ヌルAT2マウスの両方の体重を測った。マウスが予め定義されたエンドポイント基準に達したら、これらマウスを屠殺した。我々は予め定義された判断基準によりエンドポイントを定義した22、23。
【0062】
Spc-CreERノックイン対立遺伝子の作製
CreERT2、p2a及びrtTA因子を酵素結合してマウスの内在性Sftpc遺伝子に挿入した。挿入部位は内在性Sftpc遺伝子の終止コドンであり、その後、rtTAの3’末端において新たな終止コドンを生成した。CRISPR/Cas9技術を用いて前記CreERT2-p2a-rtTA断片をゲノムに挿入した。
【0063】
肺切除術(PNX)及びプロステーシス移植
8週齢の雄マウスに1日おきにタモキシフェン(1用量:75mg/kg)を計4回注射した。タモキシフェンの最後の注射から14日目にマウスに麻酔をかけて人工呼吸器(Kent Scientific、 Topo)に繋いだ。第4肋間で胸壁を切開し、左肺葉を摘出した。プロステーシスを移植するために、左肺葉に近いサイズ及び形状のソフトシリコンプロステーシスを空になった左肺腔内に挿入した。
【0064】
肺機能検査
侵襲的肺機能検査システム(DSI Buxco(登録商標) PFTコントローラー)を用いて肺機能パラメータを測定した。まず、マウスに麻酔をかけ、その後、気管内カニューレをこれらの気管に挿入した。動的コンプライアンス結果はレジスタンス及びコンプライアンス測定から得た。
【0065】
ヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色及び免疫染色
肺を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で膨らませ、4℃で4% PFAに24時間連続固定した。その後、肺を30%スクロースで凍結保護し、OCT(Tissue Tek)に包埋した。
【0066】
H&E染色実験は標準的なH&Eプロトコルに従った。簡単に言えば、スライドガラスを水で洗浄してOCTを除去した。細胞核をヘマトキシリン(Abcam、 ab150678)で2分間染色し、細胞質をエオシン(Sigma、 HT110280)で3分間染色した。脱水及び清澄ステップの後、切片を中性樹脂で密封した。
【0067】
免疫蛍光染色実験は既に記載したプロトコルに従った29。簡単に言えば、OCTを除去した後、肺切片を3%BSA/0.1%TritonX-100/PBSで1時間ブロックし、その後、スライドガラスを一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。0.1%TritonX-100/PBSでスライドガラスを3回洗浄した後、切片を二次抗体と室温で2時間インキュベートした。
【0068】
【0069】
【0070】
統計分析。
すべてのデータは平均値 ± s.e.m.で示される(図の例に示されるとおり)。図に示されたデータは異なるマウスを用いて異なる日に行われた複数の個別の実験から収集されたものである。別途説明がない限り、図に示される大部分のデータは少なくとも三つの個別の実験に基づく。サンプル間の差の推論的統計有意性は対応のない両側Student’s t-検定を用いて評価した。
【0071】
マウスAT2細胞の単離。
4用量のタモキシフェンを注射した後、前述したようにSpc-CreER、 Rosa26-mTmGマウスの肺を単離した19、44。簡単に言えば、麻酔をかけたマウスを中性プロテアーゼ(Worthington-Biochem、 LS02111)及びDNase I(Roche、 10104159001)で膨らませた。BD FACS Aria II及びIII装置において単細胞選択モードを用いてGFP蛍光によりAT2細胞を直接選別した。
【0072】
定量RT-PCR(qPCR)。
Zymo Research RNA Mini Prep Kits(R2050)を用いて全肺又は初代AT2細胞から全RNAを単離した。2ステップcDNA合成キット(Takara、カタログ番号6210A/B)を用いて、メーカーの推奨事項に従って逆転写反応を行った。qPCRはCFX96 Touch(商標) real-time PCR detection systemを用いて行った。標的遺伝子のmRNAレベルをGapdh mRNAレベルに正規化した。
【0073】
qPCRに用いたプライマーを以下に示す。
【表3】
【0074】
3D肺胞再構築。
ビブラトーム切片について言えば、肺を2%の低融点アガロースで穏やかに全容量まで膨らませた。その後、肺を4% PFAで4℃で一晩固定した。ビブラトーム(Leica VT100S)を用いて厚さ200μmのビブラトーム切片を切り出した。免疫染色実験は標準的なホールマウント染色プロトコルで行った。Zスタック画像はLeica LSIマクロ共焦点顕微鏡及び/又はA1-R倒立共焦点顕微鏡により得た。
【0075】
CDC42-GTP測定法。
CDC42活性型測定生物化学キット(cytoskeleton、#BK127)を用いて、メーカーが提供する推奨事項に従ってGTP-CDC42レベルを測定した。簡単に言えば、肺葉全体を液体窒素中で粉砕し、その後、細胞溶解緩衝液(キットに付帯)で溶解した。その後、細胞ライセートを、付帯のマイクロウェルプレートのウェルに添加した。反応後、490 nmにおける吸光値を測定した。
【0076】
実施例1
図1A-1Fに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、肺葉下部縁の約3/4を占める。側面は約1.5cmの高さを有する。前記プロステーシスは約2mmの厚さを有する。前記プロステーシスの底部は1cmの幅を有する。前記プロステーシスは胸膜腔壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0077】
開口は心臓を向く。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0078】
実施例2
図2A-2Dに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、肺葉下部縁の約1/8を占める。側面は約3cmの高さを有する。前記プロステーシスは約7mmの厚さを有する。前記プロステーシスの底部は2cmの幅を有する。前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0079】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0080】
実施例3
図3A-3Dに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、肺葉下部縁の約1/4を占める。側面は約3cmの高さを有する。前記プロステーシスは約6mmの厚さを有する。前記プロステーシスの底部は1.3cmの幅を有する。前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0081】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0082】
実施例4
図4A-4Fに示されるように、前記プロステーシスは皿状を有し、下肺葉基部の全領域とマッチする。側面は約2.5cmの高さを有する。前記プロステーシスは約2mmの厚さを有する。前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0083】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力レベルを低下させる。
【0084】
実施例5
図5A-5Eに示されるように、前記プロステーシスは貝殻のような形状を有し、下肺葉底部の全領域とマッチする。前記プロステーシスは中央部に凹みを有し、胸膜腔側壁に向かって徐々に縮小する。前記プロステーシスは心臓側にも心臓を収容できるよう凹みを有する。前記プロステーシスは約4mmの厚さを有する。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0085】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0086】
実施例6
図6A-6Fに示されるように、前記プロステーシスはU字状を有し、下肺葉縁の3/4以上とマッチする。前記プロステーシスの断面は三角形に近い。下肺葉縁に接触する側は凹んだ弧状である。前記プロステーシスの外側面は1.0cmの高さを有する。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0087】
前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0088】
実施例7
図7A-7Cに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、下肺葉縁の1/4以上とマッチする。前記プロステーシスの断面は三角形に近い。下肺葉縁に接触する側は凹んだ弧状である。前記プロステーシスの外側面は1.6cmの高さを有する。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0089】
前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0090】
実施例8
図8A-8Cに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、下肺葉縁の1/4以上とマッチする。前記プロステーシスは実施例7のプロステーシスよりも小さい弧度を有する。前記プロステーシスの断面は三角形に近い。下肺葉縁に接触する側は凹んだ弧状である。前記プロステーシスの外側面は2.2cmの高さを有する。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0091】
前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0092】
実施例9
図9A-9Cに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、下肺葉縁の1/8以上とマッチする。前記プロステーシスは実施例7のプロステーシスよりも小さい弧度を有する。前記プロステーシスの断面は三角形に近い。下肺葉縁に接触する側は凹んだ弧状である。前記プロステーシスの外側面は3.5cmの高さを有する。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0093】
前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0094】
実施例10
図10A-10Cに示されるように、前記プロステーシスは円弧状を有し、下肺葉縁の3/4以上とマッチする。前記プロステーシスの断面は円形に近い。前記断面の半径は約0.5cmである。
【0095】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0096】
実施例11
図11A-11Cに示されるように、前記プロステーシスは弧状を有し、下肺葉縁の1/4以上とマッチする。前記プロステーシスの断面は円形に近い。前記断面の半径は約0.8cmである。
【0097】
前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0098】
実施例12
図12A-12Cに示されるように、前記プロステーシスは円弧状を有し、下肺葉縁の1/8以上とマッチする。前記プロステーシスの断面は円形に近い。前記断面の半径は約1.0cmである。
【0099】
前記プロステーシスは胸膜腔の心臓から離れた側壁に縫合することができる。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0100】
実施例13
図13A-13Dに示されるように、前記プロステーシスは皿状を有し、下肺葉基部の1/3以上の領域とマッチする。側面は約1.0cmの高さを有する。前記プロステーシスは約0.4cmの厚さを有する。前記プロステーシスは凹状底部を有する。前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0101】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0102】
実施例14
図14A~14Dに示されるように、前記プロステーシスは皿状を有し、下肺葉基部の1/3以上の領域とマッチする。側面は約4cmの高さを有する。前記プロステーシスは約1.0cmの厚さを有する。前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0103】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0104】
実施例15
図15A-15Dに示されるように、前記プロステーシスは半皿状を有し、下肺葉基部の1/3以上の領域とマッチする。側面は約5cmの高さを有する。前記プロステーシスは約0.5cmの厚さを有する。前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0105】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0106】
実施例16
図16A-16Eに示されるように、前記プロステーシスは半皿状を有し、下肺葉基部の1/3以上の領域とマッチする。側面は約3cmの高さを有する。前記プロステーシスは約0.3cmの厚さを有する。前記プロステーシスは胸膜腔の側壁に縫合することができる。前記プロステーシスの面はできるだけ丸くなめらかにする。
【0107】
通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0108】
実施例17
図17に示されるように、実施例4のプロステーシスをヒトの胸腔内に配置する。通常の吸気終了時に、前記プロステーシスは肺葉下部を圧迫し、肺胞上皮の機械的張力を低下させる。
【0109】
実施例18
Cdc42ヌルAT2マウスの構築及びキャラクタリゼーション
進行性の肺線維症動物モデルを構築するために、肺胞II型上皮細胞(AT2細胞)中のCdc42遺伝子を特異的にノックアウトしてCdc42ヌルAT2マウスを作製する。
【0110】
AT2細胞中のCdc42遺伝子を特異的に削除するために、Spc-CreERノックイン対立遺伝子を持つマウスをCdc42 floxed(Cdc42
flox/flox)マウスと交配した(
図18A)。Cdc42
flox/floxマウスにおいて、Cdc42遺伝子の翻訳開始エクソンを含むCdc42遺伝子のエクソン2の両側翼は2つのloxpサイトを持つ。Spc-CreER; Cdc42
flox/floxマウスにおいて、AT2細胞中のCdc42遺伝子のエクソン2をタモキシフェン処理した後、Cre/loxpを介した組み換えにより特異的に削除した(
図18B)。Spc-CreER; Cdc42
flox/floxマウスはCdc42ヌルAT2マウスと名付けられた。
【0111】
Spc-CreER、 Cdc42flox/-マウスに対してゲノム精製及びPCR増幅を行った。その後、Cdc42のflox及び欠失バンドを精製し、以下のプライマーを用いてシーケンスした:CTGCCAACCATGACAACCTAA(SEQ ID NO:23);AGACAAAACAACAAGGTCCAG(SEQ ID NO:24)。
【0112】
Cdc42遺伝子のエクソン2を削除する前又は削除した後のCdc42 DNA配列の断片を
図25に示す。
【0113】
図19Aに示されるように、対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスの200μmの肺切片を抗GFP、Pdpn及びProspc抗体で免疫染色した。PNX後の21日目、対照肺において多くの新しく分化されたAT1細胞及び新しく形成された肺胞が観察された(
図19B)。しかし、Cdc42ヌルAT2肺において、PNX後の21日目、AT2細胞からAT1細胞への分化は非常に少なく、且つ、新しい肺胞は形成されていなかった(
図19B)。PNX処理後のCdc42ヌルAT2肺の末梢において肺胞が重度に過剰に伸展しているのが観察された(
図19B)。
【0114】
肺胞の定常状態中、AT2細胞はゆっくりAT1細胞に分化し、新しい肺胞を形成した。PNX未処理の12カ月のCdc42ヌルAT2マウスを検査すると、肺胞が拡大し、且つ、如何なる新しいAT1細胞も形成されていないことが観察された。一方、12カ月の対照マウスの肺には多くの新しい肺胞の形成が現れていた(
図19C及び19D)。
【0115】
PNX処理後のCdc42ヌルAT2マウス及び対照マウスに対して、PNX処理後に、より長期の観察を行った(
図20A)。PNX後の30日目、一部のCdc42ヌルAT2マウスに有意な体重減少及び呼吸率の増加が認められた。実際に、PNX後の60日目、50%ものPNX処理後のCdc42ヌルAT2マウスがエンドポイント安楽死を実施する予め定義された健康状態基準に達し(
図20B)、PNX後の180日目、約80%のPNX処理後のCdc42ヌルAT2マウスがこれらのエンドポイントに達した(
図20B)。
【0116】
PNX処理後の対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスのH&E染色によりCdc42ヌルAT2マウスはこれらのエンドポイント時に、肺に重度の線維化が認められた(
図20C-20D)。PNX後のCdc42ヌルAT2マウスの肺線維化の発生開始時点を確かめるために、PNX後の各々の異なる時点でH&E染色を用いてCdc42ヌルAT2マウスの肺を分析した(
図20D)。PNX後の21日目、一部のCdc42ヌルAT2肺の胸膜下領域に組織肥厚の兆候が見られた(
図20Dと
図20Cにおける対照肺対比)。エンドポイントまでに、緻密な線維化は既に大多数のCdc42ヌルAT2肺の中心まで進行していた。
【0117】
これら緻密な線維化領域においてコラーゲンIの強い免疫蛍光シグナルが検出された(
図20E)以外に、Cdc42ヌルAT2マウスの肺葉毎のコラーゲンIの発現領域の割合がPNX後に徐々に増加することが観察された(
図20F)。qPCR分析でもPNX後の21日目から、コラーゲンI mRNA発現レベルが徐々に向上したことが示された(
図20G)。この他、PNX後の21日目から、PNX処理後の対照マウスに比べ、PNX処理後のCdc42ヌルAT2マウスにおいて肺コンプライアンスが徐々に低下することが観察された(
図20H)。肺が線維化する時に、頻繁に肺コンプライアンスが低下することは既に知られている
20-25ことを考えると、これは一つの興味深い発見である。
【0118】
2カ月齢から、対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスを4用量のタモキシフェンに計14日間曝露した。10、12、16又は24カ月の時にPNX未処理の対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスの肺を採取した(
図21A)。前記PNX未処理の対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスの肺を分析し、Cdc42ヌルAT2マウスは10カ月齢に達する前に有意な線維性変化は見られなかった(
図21B及び21C)。12カ月までに、Cdc42ヌルAT2肺の胸膜下領域に明らかに線維化が進展し始め、肺の中心に進行していた(
図21C)。よって、AT2細胞中のCdc42遺伝子の欠失によりPNX未処理のCdc42ヌルAT2マウスにおいては12カ月齢頃から進行性の肺線維症が発生し始めていた。
【0119】
線維芽細胞巣は進行性の肺線維症に関連する形態学マーカーとして認識されており、進行性の肺線維症において線維化反応が開始する及び/又は持続する部位として認識されている。線維芽細胞巣には増殖したα-SMA
+線維芽細胞を含む。PNX後の21日目、Cdc42ヌルAT2マウスの肺を抗α-SMAの抗体で染色した(
図22A)。Cdc42ヌルAT2肺の相対的に正常な肺胞領域において、一部のα-SMA
+線維芽細胞がAT2細胞クラスター(GFP
+細胞)付近に集まっているのが観察された(領域1、
図22A)。また、肺の緻密な線維化領域はα-SMA
+線維芽細胞でいっぱいであった(領域2、
図22A)。この他、抗α-SMA及び増殖マーカーKi67の抗体を用いて免疫染色を行うことにより、PNX後の21日目、Cdc42ヌルAT2マウスの肺内でα-SMA
+細胞の細胞増殖が急激に増えたことが観察された。これは増殖したα-SMA
+線維芽細胞が肺線維化の進展に寄与していることを示す(
図22B)。
【0120】
実施例19
肺胞再生損傷による機械的張力の上昇は進行性の肺線維症をもたらす
PNX処理はCdc42ヌルAT2マウスの肺線維化を大きく加速させる(
図20)。このことは肺線維化と機械的張力が誘導する肺胞再生との間に密切な関係があることを示している。
【0121】
PNXによる肺胞損失は肺胞上皮に加えられる機械的張力を大きく上昇させる。その後、正常なマウスにおいて発生した有効な肺胞再生は最終的に機械的張力の強度をPNX処理前のレベルまで低下させる。しかし、Cdc42ヌルAT2細胞はAT1細胞に分化することができないため、新しい肺胞を再生できない(
図19B)。Cdc42ヌルAT2マウスの肺胞上皮は上昇した機械的張力を継続し(
図19B)、これにより線維化の進行的な進展がもたらされる(
図20D)。
【0122】
実施例20
進行性の線維症はプロステーシス移植により予防することができる
PNX後の肺のCDC42-GTP(CDC42の結合がGTPを有する状態)における発現レベルを測定し、CDC42-GTPの活性はPNX後の7日目に有意に高くなることが分かった(
図23A-23B)。このようなCDC42-GTP発現の増加は胸腔内にプロステーシスを移植することにより抑制できる(
図23A-23B)。
【0123】
図24A-24Hに示されるように、肺胞の機械的張力の低下は進行性の肺線維症を軽減することができる。PNXの前に対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスを4用量のタモキシフェンに計14日間曝露した。PNX後の14日目にプロステーシスを移植した(
図24A)。PNX後の21日目にプロステーシスを移植した対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスの肺を採取した。画像は抗GFP、Pdpn及びProspcの抗体で染色した肺切片の200μm Z投影の最大強度を示す(
図24B)。プロステーシスを移植した対照マウス及びCdc42ヌルAT2マウスの平均肺胞寸法において、PNX後の21日目に有意な差はなく(平均値±S.E.M.、n=3)、これはCdc42ヌルAT2肺の拡大した肺胞の表現型はプロステーシスを移植することにより最大限の救済を得られることを表している(
図24B-24C)。IPF患者の肺において、アクチン-細胞骨格調節遺伝子の中程度の増加及び界面活性剤関連遺伝子の発現レベルの低下が観察されたことを振り返る。qPCRにより、プロステーシス未移植及びプロステーシス移植済みCdc42ヌルAT2マウスのAT2細胞におけるアクチン-細胞骨格調節遺伝子及びAT2バイオマーカー遺伝子の発現レベル(平均値±S.E.M.、n=3)を比較した。プロステーシス未移植のCdc42ヌルAT2細胞において、アクチン-細胞骨格調節遺伝子の発現レベルは向上し、且つAT2バイオマーカー遺伝子の発現レベルは低下した(
図24D-24E)。プロステーシス移植はアクチン-細胞骨格調節遺伝子発現の増加を抑制できる(
図24D)だけでなく、AT2バイオマーカー遺伝子発現の低下を大幅に救済した(
図24E)。この結果は、Cdc42ヌルAT2肺の過剰伸展した肺胞における機械的張力の増加がアクチン-細胞骨格調節遺伝子を正方向に調節し、AT2バイオマーカー遺伝子の発現を負方向に調節するという結果を支持するものである。PNX後の180日目にプロステーシス未移植及びプロステーシス移植済みCdc42ヌルAT2マウスの生存者のパーセンテージを計算した。驚くべきことに、PNX後の180日目、プロステーシス移植済みCdc42ヌルAT2マウス(n=10)は死んでいなかったが、プロステーシス未移植のCdc42ヌルAT2マウス(n=19)はこの時点でも約70%が死んでいた(
図24F)。
図24Gはプロステーシス未移植のCdc42ヌルAT2マウスはこれらのエンドポイントに達した時のプロステーシス未移植及びプロステーシス移植済みCdc42ヌルAT2マウスの肺におけるヒドロキシプロリンレベル(平均値±S.E.M.、n=5)を示す。H&E染色により、PNX後の180日目、プロステーシス移植済みCdc42ヌルAT2マウスにおいて、明らかな肺線維化はほとんど見られなかったが、PNX後にプロステーシス未移植の生存Cdc42ヌルAT2マウスのすべてにおいて、軽度から重度の肺線維化が観察された(
図24H)。これら結果は共に、機械的張力がCdc42ヌルAT2マウスの肺線維化を進展させる重要な調節作用を果たしていることを証明している。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001;NS、非有意;Student’s t検定。スケールバー:20 μm(B);2mm(H)。
【0124】
図20-
図22に示されるように、AT2細胞中のCdc42の遺伝子の欠損は肺損傷後の進行性の肺線維症をもたらす。ここで観察された肺線維化が徐々に進展する様子は、最初、線維化は肺の末梢から始まり、その後、ゆっくりと内側に進行し、最終的に肺葉全体に影響するというIPF患者で発生する病理プロセスに明らかに似ている。PNXによる肺胞損失は肺胞上皮に加えられる機械的張力を大きく上昇させる。その後、正常なマウスにおいて発生する有効な肺胞再生は最終的に機械的張力の強度をPNX処理前のレベルまで低下させる。しかし、Cdc42ヌルAT2細胞はAT1細胞に分化することができないため、新しい肺胞を再生できない。したがって、新しい肺胞を再生させることができず、Cdc42ヌルAT2マウスの肺胞上皮は上昇した機械的張力を継続するということが示された。
【0125】
この他、本発明は全く新規で革新的なIPFというこれまで進行を元に戻すことも、緩和することさえできなかった疾患を治療する方法を提供する。本発明の方法は、ヒトの胸膜腔に移植される肺プロステーシスを用いるものであり、如何なる薬剤も使用せずにIPFを治療する有効的な方法である。
【0126】
参考文献
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【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-12-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計される、肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)を治療するためのプロステーシス。
【請求項2】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、好ましくは、肺葉底部とマッチするように設計される、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項3】
通常の吸気終了時に肺葉底部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/8を占め
、
好ましくは、通常の吸気終了時に肺葉基部、横膈膜及び胸膜腔壁で囲まれた空間の少なくとも1/4、少なくとも半分、少なくとも3/4、全てを占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項4】
胸膜液で包囲される、請求項3に記載のプロステーシス。
【請求項5】
下肺葉底部に投影される面積は前記下肺葉底部面積の少なくとも1/8
、少なくとも1/4、少なくとも半分、少なくとも3/4、全てを占める、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項6】
上側、下側及び前記上側と下側の間に延在する側面を有する本体を含む、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項7】
上側が肺葉底部とマッチ
し、
下側が横膈膜とマッチし、
外側面が肺葉底部と心臓から離れた横膈膜との間に位置する胸膜腔壁とマッチし、および/または
内側面が下肺葉外壁とマッチする、請求項
6に記載のプロステーシス。
【請求項8】
肺葉下方空間を占めるよう、皿状、楕円状、不規則なU字状、弧状、円錐状、肩甲骨状又は不規則な形状を有
し、および/または
不快感を軽減し、胸膜への損傷を避けられるよう、角のない滑らかな曲線輪郭を有する、請求項
6に記載のプロステーシス。
【請求項9】
上側、下側、前記上側と下側の間に延在する側面及び心臓に近接する内側縁を
有する本体を含み、前記側面は前記内側縁と相対
し、
好ましくは、上側が内側縁に向かって徐々に縮小し、下側が内側縁に向かって徐々に縮小する、請求項
6に記載のプロステーシス。
【請求項10】
前記側面は0.5cm~8cmの高さを有
し、
好ましくは、前記側面は0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm又は8cmの高さを有する、請求項
6に記載のプロステーシス。
【請求項11】
壁の厚さは0.1~4cmの間であ
り、
好ましくは、前記厚さは0.1cm、0.2cm、0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、1cm、1.1cm、1.2cm、1.3cm、1.4cm、1.5cm、1.6cm、1.7cm、1.8cm、1.9cm、2cm、3cm又は4cmである、請求項
6に記載のプロステーシス。
【請求項12】
弧状を有し、前記弧状が下肺葉下縁とマッチ
し、
好ましくは、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の少なくとも1/8、少なくとも1/4、少なくとも1/2とマッチし、または、前記弧状が心臓から離れた下肺葉下縁の全長とマッチする、請求項1に記載のプロステーシス。
【請求項13】
1cm~4cmの高さを有する、請求項
12に記載のプロステーシス。
【請求項14】
側面は1cm、2cm、3cm又は4cmの高さを有する、請求項
12に記載のプロステーシス。
【請求項15】
通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力が低下するように胸膜腔内に配置されるように設計され、特に、胸膜腔の下側に配置される、請求項1~
14のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項16】
胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下側に配置され
、
好ましくは、手術用縫合糸を用いて胸膜腔壁に、特に胸膜腔壁の下部に縫合され、
好ましくは、側面の針穴により胸膜腔壁に縫合される、請求項1~
14のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項17】
ソフトスポンジラテックス、フォームラテックス、380μm中空繊維、ゼラチンフォーム材料、ポリビニルアルコールスポンジ(イバロン)、グラスファイバーを充填したポリエチレン袋、ゴム、シリコンゴム、シリコンゲル、炭素材料により作製され、前記炭素材料はカーボンナノチューブ、グラフェン、超軽量多孔質カーボン、中空多孔質カーボン、炭素繊維又はカーボンチタン合金を含む、請求項1~
16のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項18】
固体である、または液体又はゼリー状物が充填された袋又はパックである、請求項1~
17のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項19】
肺線維症、特に特発性肺線維症(IPF)の治療における使用
のための、請求項1~18のいずれかに記載のプロステーシス。
【請求項20】
治療は、好ましくは、通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下するように、プロステーシスを胸膜腔内に、特に胸膜腔の下部に配置することにより、通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力
を低下
させるステップを含む、
請求項19に記載の使用のためのプロステーシス。
【請求項21】
前記プロステーシスは胸膜腔内に固定され、特に、胸膜腔の下部に配置され
、
好ましくは、前記プロステーシスは胸膜腔壁に、特に胸壁の下部に縫合される、請求項
20に記載の
使用のためのプロステーシス。
【請求項22】
前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方に配置されるように設計され
、
好ましくは、前記プロステーシスは通常の吸気終了時に肺胞上皮の機械的張力レベルが低下する前提において、肺葉下方及び横膈膜上方に固定されるように設計され、好ましくは肺葉基部とマッチするように設計される、請求項
20に記載の
使用のためのプロステーシス。
【国際調査報告】