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特表2022-535052ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/48 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
C07D307/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571644
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2020065511
(87)【国際公開番号】W WO2020245288
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】19178669.8
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ダマソ ロドリケス ブリンクエテ プロエンサ,マリア ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ストリエン,コルネリス ヨハネス ゴファーダス
【テーマコード(参考)】
4C037
【Fターム(参考)】
4C037HA21
(57)【要約】
本発明は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を調製する方法であって、a)炭水化物をHMFに転化する工程、ここで、該転化する工程は、炭水化物、触媒、水、テトラヒドロフラン(THF)及び塩を含む反応媒体を用意して、水性相とTHF相とを有する二相性溶媒系を形成することを含む、並びに、b)前記THF相と前記該水性相とを分離して、別個のTHF相と、別個の水性相とを用意する工程を含み、有機第四級アンモニウム塩が存在することを特徴とする、上記方法に関する。本発明に従う方法は、炭水化物の高い転化率、及びTHF相へのHMFの効率的な抽出とともに、副生成物の低い形成を伴う高い選択性でのHMFの形成をもたらす。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を調製する方法であって、
a)炭水化物をHMFに転化する工程、ここで、該転化する工程は、炭水化物、触媒、水、テトラヒドロフラン(THF)及び塩を含む反応媒体を用意して、水性相とTHF相とを有する二相性溶媒系を形成することを含む、並びに、
b)前記THF相と前記水性相とを分離して、別個のTHF相と、別個の水性相とを用意する工程
を含み、有機第四級アンモニウム塩が存在することを特徴とする
上記方法。
【請求項2】
前記炭水化物が、リグニン、糖、デンプン、セルロース、及びガムの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭水化物が、C5糖、例えばアラビノース、キシロース及びリボース;C6糖、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラムノース及びマンノース;並びに、C12糖、例えばスクロース、マルトース及びイソマルトース、から選択される糖である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機第四級アンモニウム塩が、有機第四級アンモニウムクロリドであり、特に、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、及び1-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(塩化コリン)、特に塩化コリン、である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒が、クロムのハロゲン化物及びアルミニウムのハロゲン化物、特に塩化クロム及び塩化アルミニウム、並びにモレキュラーシーブ、特にゼオライト、からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機第四級アンモニウム塩が、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、少なくとも10重量%の量、特に少なくとも20重量%の量、より特に少なくとも30重量%の量、で存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
炭水化物及び塩を含有する水性溶液に対するTHFの重量比が、0.05:1~10:1の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が、80~180℃の範囲、特に90~160℃の範囲、より特には100~150℃の範囲、の温度で、1分~4時間、好ましくは5分~2時間、の期間行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記THF相と前記該水性相とを分離して、別個のTHF相と、別個の水性相とを用意する工程が、前記反応温度で又は該反応温度未満で行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
HMFを含む前記分離されたTHF相が分離工程に付され、ここで、THFが、例えば蒸発によって、任意的にHMF含有THF相に水を添加した後に、分離される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
HMF含有THF相からHMFを分離して得られたTHFが、反応工程に再循環される、
有機第四級アンモニウム塩を含む水相及び、触媒が均一である場合に、触媒が、任意的に中間精製及び/又は濃縮後に、反応工程に再循環される。
の工程のうちの1以上が行われる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
例えば発酵性の生物酸化を介してHMFをFDCAに転化するさらなる工程を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記FDCAを重縮合反応においてエチレングリコールと反応させて、ポリ(エチレンフランジカルボキシレート)を形成するさらなる工程を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物から5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、炭水化物のような再生可能な資源から容易に入手可能であり、且つ非石油由来のポリマー材料の調製の為に使用される様々なフランモノマーの形成の為に好適な、出発供給源である。HMFは、下記の式を有する。
【0003】
【化1】
【0004】
HMFを製造する方法は、当技術分野において説明されている。
【0005】
米国特許第7572925号明細書は、炭水化物からHMFを製造する方法を記載しており、該方法は、任意的に酸触媒の存在下で、水性反応溶液と実質的に不混和性の有機抽出溶液とを含む二相性反応媒体を有する反応容器内で、炭水化物原料溶液を脱水すること、そして、HMFが該有機抽出溶液中に存在する二相系の形成を結果として生じることを含む。次に、HMFを含む該有機抽出溶液は、触媒と多くの副生成物とを含む水性層から分離され、該HMFは、該有機抽出剤溶液から回収される。この参考文献において使用される抽出剤は、アルコール(1-ブタノールが好ましい)、ケトン(メチル-イソブチルケトンが好ましい)、及び塩素化アルカン(ジクロロメタンが好ましい)を包含する。
【0006】
Y. Roman-Leshkov and J.A. Dumesic (Top Catal (2009) 52:297-303)は、二相系における抽出剤溶媒としてのTHFの使用を記載しており、THFと水とは混和性である故に、NaClが二相系の形成を確実にする為に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、炭水化物供給源からHMFへの高い転化率及びHMFの高い抽出効率と、HMFについての高い選択性及び他の化合物の少ない形成とを組み合わせた方法が、当技術分野において必要であることが見出された。本発明は、そのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を調製する方法であって、
a)炭水化物をHMFに転化する工程、ここで、該転化する工程は、炭水化物、触媒、水、テトラヒドロフラン(THF)、及び塩を含む反応媒体を用意して、水性相とTHF相とを有する二相性溶媒系を形成することを含む、並びに、
b)該THF相と該水性相とを分離して、別個のTHF相と、別個の水性相とを用意する工程
を含み、有機第四級アンモニウム塩が存在することを特徴とする、上記方法に関する。
【0009】
溶媒としてのTHFと、有機第四級アンモニウム塩の存在との特定の組み合わせは、驚くべき且つ魅力的な特性を有する方法を結果として生じることが見出された。本発明に従う方法は、炭水化物の高い転化率、及びTHF相へのHMFの効率的な抽出とともに、副生成物の低い形成を伴う高い選択性でのHMFの形成を結果として生じることが見出された。本発明及び特定の実施態様の更なる利点が、更なる本明細書から明らかになるであろう。
【0010】
Q. Cao et al., Appl. Cat. A General (pp 98-103), 2011は、フルクトースからHMFへの転化において、テトラエチルアンモニウムクロリド(TEAC)及び他のアンモニウム塩をそのままで、又はテトラヒドロフラン(THF)の存在下で、使用することを記載していることが留意される。フルクトース及び塩は、一緒にされて溶融物を形成する。
【0011】
この参考文献は、水/抽出剤系を使用する二相性抽出には向けられていない。
【0012】
国際公開第2016/059205号パンフレットは、糖類からHMFを調製し、そして単離する方法に関する。中国特許第101906088号明細書は、特にアンモニウム塩及び糖の共融混合物を使用して、糖をHMFに効率的に転化する為の、HMFを調製する方法に関する。国際公開第2014/180979号パンフレットは、6個の炭素原子を有する単糖(ヘキソース)、それから誘導された、二糖、オリゴ糖及び多糖類を脱水して、HMFを生じる方法に関する。HMFは、高収率且つ高純度で得られると云われている。これらの参考文献がまた、水/抽出剤系を使用する二相性抽出に向けられていない。
【0013】
本発明は、以下において更に論じられるであろう。
【0014】
本発明に従う方法における出発材料は、炭水化物である。炭水化物は、光合成植物によって生成され、炭素原子、水素原子及び酸素原子だけを有する。炭水化物の例は、リグニン、糖、デンプン、セルロース及びガムを包含する。本発明における使用の為に特に好適な化合物は、特にC5糖、例えばアラビノース、キシロース及びリボース;C6糖、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラムノース及びマンノース;並びに、C12糖、例えばスクロース、マルトース及びイソマルトース、を包含する。グルコース、フルクトース及びスクロースが、特に好適であることが見出された。グルコース及びスクロースは、それらの高い入手可能性の観点から好まれうる。スクロースは一般的に固体形態で入手可能である故に、スクロースの使用は、特に魅力的でありうる。
【0015】
有機第四級アンモニウム塩が、本発明において使用される。
【0016】
語 有機第四級アンモニウム塩は、有機第四級アンモニウムカチオン及びアニオンからなる塩を云うことが意図されている。
【0017】
該有機第四級アンモニウムカチオンは、式Rであり、ここで、R、R、R、及びRのうちの少なくとも1つは、C1~C20炭化水素基である。R、R、R、及びRのうちの他は独立して、C1~C20炭化水素基及び水素原子から選択されうる。従って、本明細書の文脈において、語 有機第四級アンモニウムはまた、R、R、R、及びRのうちの1つ、2つ又は3つが水素原子である化合物を網羅する。
【0018】
、R、R、及びRのうちの少なくとも2つ、特に少なくとも3つ、より特に少なくとも4つ、がC1~C20炭化水素基であることが好まれうる。該C1~C20炭化水素基は、同じであってもよく、又は異なっていてもよい。
【0019】
語、C1~C20炭化水素基は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基及びアルキルアリール基を包含する。該C1~C20炭化水素基は、直鎖又は分岐状であり得、OH、NH、SH、COOH、SO、及びPOから選択される1以上の置換基で置換されていてもよく、又は非置換であってもよい。
【0020】
先に論じられている炭化水素基は、C1~C10炭化水素基、特にC1~C5アルキル基、又はC6~C8アルキルアリール若しくはアリールアルキル基、であることが好まれうる。幾つかの好ましい炭化水素基の例は、メチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル、ベンジル、及びフェニルである。
【0021】
該有機第四級アンモニウム塩のアニオンは、該塩が水への高い溶解度を有する限り、それほど重要ではない。好適なアニオンの例は、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物を包含するハロゲン化物であり、入手可能性の理由で、塩化物が好ましい。他の好適な無機アニオンは、硝酸、硫酸及びリン酸を包含する。
【0022】
有機アニオン、例えばカルボン酸アニオン、がまた使用されうる。
【0023】
好ましい有機第四級アンモニウム塩の例は、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリエチルアンモニウムクロリド、1-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(塩化コリン)、テトラメチルアンモニウムブロミド、臭化テトラエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、及びフェニルトリエチルアンモニウムブロミドを包含する。クロリド化合物の使用が好ましいと考えられる。テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、及び1-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(塩化コリン)の使用は、より好ましいと考えられ、1-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(塩化コリン)が特に好ましい。
【0024】
該有機第四級アンモニウム塩が水への高い溶解度を有することが、該有機第四級アンモニウム塩の重要な特徴である。このことは、二相系の形成を確実にする為に必要とされる。一般的に、該有機第四級アンモニウム塩は、所望の操作温度において、少なくとも10重量%、特に少なくとも40重量%、の水への溶解度を有する。
【0025】
本発明において使用される触媒は、炭水化物からHMFへの転化の為の、当技術分野において知られている任意の触媒でありうる。
【0026】
好適な触媒の例は、金属塩、例えば金属ハロゲン化物、特に金属塩化物、である。好適な金属の例は、Cr、Mo、W、Fe、Ni、Co、Cu、Sn、及びAlである。無機酸、例えばHCl、HSO、HPO、HBOがまた使用されうる。固体酸触媒、例えばモレキュラーシーブ、シリカ-アルミナ、及びイオン交換樹脂、がまた使用されうる。
【0027】
クロムのハロゲン化物及びアルミニウムのハロゲン化物、特に塩化クロム及び塩化アルミニウム、の使用が好ましいと考えられる。モレキュラーシーブ、特にゼオライト、の使用がまた好ましいと考えられる。
【0028】
本発明に従う方法において、炭水化物、触媒、水、テトラヒドロフラン(THF)、及び有機第四級アンモニウム塩を含む反応媒体が用意される。これらの中でも、主に、炭水化物及び第四級アンモニウム塩が、水性相中に存在することになる。それ故に、これらの成分の量は、これらの化合物を含む水性媒体に対して計算されたものとして表される。該化合物は、該系に任意の順序で添加されることができ、従って必ずしも該水性媒体を介する必要がないことが留意される。
【0029】
該炭水化物は一般的に、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、1~40重量%の量で存在する。1重量%未満の値は、該方法を経済的に魅力的でないものにする。40重量%超の値は、処理を困難にしうる。炭水化物の量は、5~30重量%、特に5~20重量%、の範囲であることが好まれうる。
【0030】
該有機第四級アンモニウム塩は、二相系の形成を確実にする為に十分な量で存在する。該有機第四級アンモニウム塩は一般的に、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、少なくとも10重量%の量、特に少なくとも20重量%の量、より特に少なくとも30重量%の量、で存在する。該有機第四級アンモニウム塩の量の上限は、反応混合物への該塩の溶解度によって決定される。不溶性塩の存在は、避けられるべきである。一般的に、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、最大値80重量%が言及されうる。
【0031】
水は、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、少なくとも5重量%の量、好ましくは少なくとも10重量%の量、より好ましくは少なくとも15重量%の量、で存在しうる。一部の実施態様において、水は、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、最大95重量%の量、好ましくは最大90重量%の量、より好ましくは最大85重量%の量、で存在する。水の量は、炭水化物、水及び塩の合計に基づいて計算して、20~80重量%の範囲であることが好まれうる。
【0032】
該有機第四級アンモニウム塩に加えて、反応中に可溶性無機塩が存在することが可能である。一般的に、該可溶性無機塩は、存在する場合には、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の無機可溶性塩から、例えばNa、K、Mg、及びCaの可溶性塩、例えば、塩化物塩、(可溶性)硫酸塩、及び硝酸塩から、選択される。例は、NaCl、MgCl、CaCl、KCl、NaSO、KSO、及びNaNOである。
【0033】
存在する場合、該無機塩は一般的に、該有機第四級アンモニウム塩の最大30重量%、特に最大20重量%、より特に最大10重量%、の量で使用される。
【0034】
該触媒は、均一触媒である場合には、一般的に、該炭水化物の量に対して計算して、0.3~10重量%の量で使用される。該触媒は、不均一触媒である場合、すなわち固体触媒、例えばモレキュラーシーブ又はイオン交換樹脂、である場合には、触媒の量について一般的な範囲を与えることは可能でない。不均一触媒の好適な量の選択は、当業者の知識の範囲内である。
【0035】
該反応混合物に存在するTHFの量は、該方法がどのようにして行われるかにまた応じて、広い範囲内で変わりうる。一般的に、多量のTHFを使用するほど、抽出されるHMFの量が増大する。他方では、該反応混合物が、生成されるHMFを抽出するのに必要とされる量よりも実質的に多い、非常に多量のTHFを含有する場合、装置のコスト及び光熱費は、追加の利益が得られることなく増大する。
【0036】
該方法がバッチモードで行われるところの一つの実施態様において、炭水化物及び塩を含有する水性溶液に対するTHFの重量比は、0.05:1~10:1の範囲、好ましくは0.2:1~5:1、特に1:1~2:1の範囲、であることが好まれうる。
【0037】
該方法が連続モードで行われるところの一つの実施態様において、炭水化物及び塩を含有する水性溶液に対するTHFの重量比は、0.05:1~10:1の範囲、好ましくは0.2:1~3:1、特に0.5:1~2:1の範囲、であることが好まれうる。後者の比がより容易な抽出方法を可能にする故に、該後者の比が好まれうる。
【0038】
反応温度は一般的に、80~180℃の範囲、特に90~160℃の範囲、より特には100~150℃の範囲、である。
【0039】
反応時間は、反応温度に依存し、ここで、より低い反応温度は一般的に、より長い反応時間をもたらす。一般的に、該反応時間は、1分~4時間、好ましくは5分~2時間、の範囲でありうる。
【0040】
該方法は、水性相とTHF相とを有する二相系を形成する。
【0041】
該反応混合物における化合物の中でも、該第四級アンモニウム塩は主に、該水性相に存在する。言い換えれば、第四級アンモニウム塩の全量の、少なくとも90%、より特に少なくとも95%、更により特に少なくとも98%、が該水性相中に存在する。
【0042】
該触媒は、均一触媒である場合には、やはり主に水性相中に存在する。言い換えれば、均一触媒の全量の、少なくとも90%、より特に少なくとも95%、更により特に少なくとも98%、が該水性相中に存在する。当業者に明らかであろう通り、不均一触媒は、該液体相中に存在しない。
【0043】
該THF相及び該水性相中に存在するHMFの量は、存在するTHFの量に応じて変わる。バッチ方法においては、該反応混合物中のHMFの少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、特に少なくとも60%、より特に少なくとも80%、更により特に少なくとも90%、が該THF相中に存在する場合が、好まれうる。連続方法においては、該反応混合物中のHMFの少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、特に少なくとも40%、より特に少なくとも50%、が該THF相中に存在する場合が、好まれうる。
【0044】
未転化炭水化物は主に、該水性相中に存在する。言い換えれば、未転化炭水化物の全量の、少なくとも80%、より特に少なくとも90%、更により特に少なくとも95%、が該水性相中に存在する。
【0045】
水性相とTHF相とを有する二相系は、相分離工程に付され、別個のTHF相及び別個の水性相の形成を結果して生じる。該水性相を該THF相から分離することは、液体-液体の二相系を分離する為の、当技術分野において知られている方法によって行われることができる。液体-液体の分離の為の好適な装置及び方法の例は、デカンテーション、沈降、遠心分離、プレート分離機(plate separators)の使用、コアレッサー(coalescersc)の使用、及びハイドロサイクロンの使用を包含する。異なる方法及び装置の組み合わせがまた使用されうる。
【0046】
一つの実施態様において、該分離工程は、より低い温度が分布係数を改善しうるので、該反応工程の温度又は該反応工程の温度未満の温度で行われる。該分離工程中の温度は、例えば、20~180℃、特に20~130℃、より特に20~100℃、の範囲でありうる。
【0047】
HMFを含有する分離されたTHF相は、所望に応じて処理されうる。一つの実施態様において、THFは、THFとHMFとの混合物から蒸発によって除去される。それが望ましい場合には、水とHMFとの共沸混合物が生じるのを回避する為に、HMFを含有する該THF相に水が添加されうる。THF及び水は完全に混和性であるので、これは、HMF、THF、及び水の単相混合物を形成し、それから、蒸発によりTHFが除去されることができ、その結果、HMFの水溶液が形成される。
【0048】
望ましい場合には、THFは、任意的に精製後に、該反応工程で再循環されることができる。例えば、副生成物、例えばギ酸及び他の成分、が、部分的な凝縮によって除去されることができる。
【0049】
該水性相は、有機第四級アンモニウム塩、及び、該触媒が均一である場合には触媒、を含む。該水性相はまた、未転化炭水化物を含みうる。望ましい場合には、該水性相は、該反応工程で再循環されることができる。
【0050】
該水性相は、しばしばフミンとして示される、該反応中に形成された固体夾雑物を含有しうる。該固体夾雑物は、当技術分野において知られている方式、例えば、濾過、遠心分離、沈降、及びそれらの組み合わせ、で固液分離によって除去されることができる。加えて、該水性相は、該反応中に形成された水、及びある場合には炭水化物がシロップの形態で添加される場合に添加される水を相殺する為に、例えば蒸発により水を除去することによって、濃縮されうる。
【0051】
該HMFは、所望に応じて処理されうる。
【0052】
一つの実施態様において、HMFは、フラン-ジカルボン酸(FDCA)に転化される。次に、FDCAは、重縮合反応においてエチレングリコールと反応させて、ポリ(エチレンフランジカルボキシレート)(PEF)を形成しうる。
【0053】
HMFからFDCAへの転化は、当技術分野において知られている。該転化は、例えば国際公開第2011/026913号パンフレットに記載されている通り、例えば発酵性の生物酸化により行うことができる。
【0054】
重縮合を介するFDCA及びポリエチレングリコールからのPEFの形成がまた、当技術分野において周知である。該形成は、例えば、欧州特許第3116932号明細書、欧州特許第3116933号明細書、及び欧州特許第3116934号明細書に記載されている。
【0055】
いずれの方法も、本明細書において、解明を必要としない。
【0056】
本発明はまた、発酵性の生物酸化を介するFDCAの製造において本発明に従う方法によって得られたHMFを使用すること、及びHDCAとエチレングリコールの重縮合を介するPEFの製造においてこうして得られたFDCAを使用することに関する。
【0057】
本発明に従う方法の様々な実施態様の組み合わせは、それらが互いに排他的でない限り、組み合わされうる。
【0058】
本発明は、以下の実施例に又は実施例により限定されることなく、以下の実施例によって解明される。
【0059】
実施例1:グルコースからHMFへ
本発明に従う実験において、10重量%のグルコース、触媒としての5モル%のCrCl3(グルコースに対して計算される)及び63重量%の塩化コリンの水性溶液が、重量/重量比1:1でTHFと一緒にされて二相性混合物を形成し、130℃の反応温度にされた。
【0060】
該結果が、下記の表1に提示されている。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から分かる通り、本発明に従う方法は、良好な転化及び良好な選択性を伴って、グルコースからHMFを生成することを可能にする。
【0063】
実施例2:水性媒体における塩化コリン又はNaClの比較
本発明に従う実験において、10重量%のグルコース、触媒としての5モル%のCrCl3(グルコースに対して計算される)及び45重量%の塩化コリンの水性溶液が、重量/重量比1:1でTHFと一緒にされ、130℃の反応温度にされた。
【0064】
比較実験において、45重量%の塩化コリンではなく、18.8重量%のNaClが使用された(等モル量)。
【0065】
該結果が、下記の表2及び3に提示されている。表2は、糖の転化に関するデータを提供する。表3は、HMFに対する選択性に関するデータを提供する。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
これらの表から、塩化コリンが使用される場合、グルコースの転化がより高いことが分かる。加えて、更により注目すべきことには、HMFについての選択性が、塩化コリンを含有する本発明に従う系の方がはるかに高い(69%対12%)。増加された選択性は、本発明に従う方法が、グルコース1グラム当たり、より多いHMFをもたらし、且つより少ない副生成物を生じることを意味する。
【0069】
実施例3:スクロースを用いる連続モードでの実験
本発明に従う実験において、18重量%のスクロース、触媒としての10モル%のCrCl3(スクロースに対して計算される)及び63重量%の塩化コリンの水性溶液が、撹拌槽反応器に連続的に供給された。同時に、THFの連続流がまた、該撹拌槽反応器に供給された。有機流に対する水性流の比は、1:1重量/重量であった。
【0070】
該複数の流れは、20分の滞留時間を達成するように設定された。該反応温度は、ジャケット付き撹拌槽反応器中で加熱することによって達成され、且つ油浴を介してT=120℃に制御された。
【0071】
該試料は、混合された流出物を室温に冷やし、そして相分離した後に採取される。
【0072】
該結果が、下記の表4及び表5に提示されている。表4は、糖の転化に関するデータを提供する。表5は、水性相及び有機相の両方におけるHMFに対する選択性及びHMFの濃度に関するデータを提供する。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
これらの表から、本発明に従う方法が、連続的な方法により、高い転化率及び高い選択性でスクロースをHMFに転化できることが分かる。
【0076】
実施例4:異なるO/A比においてグルコースを用いる連続モードでの実験
本発明に従う実験において、10重量%のグルコース、触媒としての5モル%のCrCl3(グルコースに対して計算される)及び63重量%の塩化コリンの水性溶液が、様々な重量/重量比でTHFと一緒にされ、並流栓流反応器(co-current plug-flow reactor)中、130℃の反応温度にされた。試験された有機/水性比の範囲は、0.2:1~1:1重量/重量で構成される。該栓流反応器内の滞留時間は、20分であった。
【0077】
該結果は、下記の表6及び表7に提示されている。表6は、糖の転化に関するデータを提供する。表7は、HMFに対する選択性に関するデータを提供する。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
これらの表から、全ての範囲が良好な転化率及び選択性をもたらすことが分かる。より高い有機対水性比は、より高い選択性を生じる。より低い有機対水性比は、より高い転化率を生じる。
【0081】
実施例5:出発糖としてフルクトースを用いる連続モードでの実験
本発明に従う実験において、10重量%のフルクトース、触媒としての5モル%のCrCl3(フルクトースに対して計算される)及び63重量%の塩化コリンの水性溶液が、0.5重量/重量比でTHFと一緒にされ、並流栓流反応器中、100℃、110℃又は120℃の反応温度にされた。該栓流反応器内の滞留時間は、20分であった。
【0082】
該結果は、下記の表8及び表9に提示されている。表8は、糖の転化に関するデータを提供する。表9は、HMFに対する選択性に関するデータを提供する。
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
これらの表から、より高い温度が、より高い転化率、及び選択性の観点において利益をもたらすことが分かる。
【国際調査報告】