(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(54)【発明の名称】血中ヘモグロビンA1C(HbA1c)の検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/72 20060101AFI20220728BHJP
G01N 33/542 20060101ALI20220728BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220728BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220728BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220728BHJP
【FI】
G01N33/72 A
G01N33/542 A
G01N21/64 F
G01N33/53 V
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572088
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 US2020032823
(87)【国際公開番号】W WO2020247159
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521201757
【氏名又は名称】プロサイセデクス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】マーク レンショー
(72)【発明者】
【氏名】ケビン チョン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ヘイル
(72)【発明者】
【氏名】ラリー ミムズ
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043EA01
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA48
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
試料中の糖化ヘモグロビンの存在又は量を、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)を使用して検出及び測定するためのアッセイ方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を測定するための方法であって、以下を含む方法:
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA
0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出する工程。
【請求項2】
前記試料中の総ヘモグロビンが測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が赤血球を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記赤血球が全血に由来する、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記赤血球が溶解される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が赤血球を含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記FRET放出シグナルが時間分解されたFRET放出シグナルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の蛍光発色団がFRETエネルギードナーである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記FRETエネルギードナーがテルビウムクリプテートである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の蛍光発色団がFRETアクセプターである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アクセプターが、フルオレセイン様(緑色ゾーン)、Cy5、DY-647、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、アロフィコシアニン(APC)、フィコエルイトリン(PE)、及びAlexa Fluor 647からなる群から選択されるメンバーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アクセプター化合物がAlexa Fluor 647である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記励起波長が約300nm~約400nmの間である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記発光波長が約450nm~700nmの間である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が5.7%未満である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が5.7~6.4%の間である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が少なくとも6.4%である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量をインビトロで測定するための方法であって、以下を含む方法:
被験体から試料を入手する工程;
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA
0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出することにより、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を決定する工程。
【請求項19】
前記FRETエネルギードナーがテルビウムクリプテートである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の蛍光発色団がFRETアクセプターである、請求項18~19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2020年6月6日に出願された米国仮特許出願第62/858,243号に対する優先権を主張し、その開示は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、細胞内で非酵素的に生成されるヘモグロビン-グルコースの組み合わせである。時間の経過とともに、グルコースはヘモグロビン分子に共有結合するようになる。このグリカンヘモグロビンは、赤血球の120日間の寿命を通じて血中グルコース濃度の時間平均量を与える。従って、糖化ヘモグロビンレベルは、経時的な血糖コントロールの客観的な測定値を提供する。
【0003】
HbA1cを測定するために、いくつかの分析技術が使用されている。例えば、臨床検査室では、高速液体クロマトグラフィー、免疫アッセイ、酵素アッセイ、キャピラリー電気泳動、親和性クロマトグラフィーを使用している。血中グルコースの平均量が増加すると、グリコシル化ヘモグロビンの割合が予測可能に増加する。従って、血中のHbA1cのパーセントは、過去3か月間の平均血中グルコースレベルのマーカーとして機能し、従って糖尿病の診断に使用することができる。
【0004】
前糖尿病性の人の血糖をチェックするために、糖化ヘモグロビン検査が推奨される。実際、米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)は、糖尿病の診断のもう1つの基準として、6.5%を超える糖化ヘモグロビン(HbA1c)の血中濃度を追加した。より広い集団へのHbA1c値上昇のスクリーニングは、糖尿病の早期診断のための有効な方法である。HbA1cの量が多いことは、血糖値の制御が不十分であることを示すだけでなく、心血管疾患、腎症、網膜症にも関連している。これが、HbA1cの高精度で正確な追跡の重要性を強調している。さらに、1型糖尿病患者のHbA1cを追跡すると、治療が改善される可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記を考慮すると、糖化ヘモグロビンHbA1cを測定するための新しいより高精度で正確な方法が当技術分野で必要とされている。本開示は、この及び他の必要性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(簡単な要約)
本開示は、例えばヒト全血中の糖化ヒトヘモグロビンを検出するための、高精度で正確であり、糖尿病患者における追跡を可能にする方法に関する。糖尿病は、いくつかの合併症を引き起こす可能性がある一生続く代謝性疾患であり、現代社会で最も重要な健康上の懸念の1つである。糖尿病の早期診断と血糖値の定期的な追跡は、この病気に起因する健康上の合併症を防ぐために不可欠な要素である。
【0007】
特定の態様において、本開示は、血液試料中の糖化ヘモグロビンのパーセントを決定するための方法を提供する。場合によっては、試料中の総ヘモグロビンの量を個別に測定する。
【0008】
従って、1つの実施態様において、本開示は、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を測定するための方法を提供し、この方法は以下を含む:
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出する工程。
【0009】
特定の態様において、糖化ヘモグロビン(HbA1c)量は、総ヘモグロビンのパーセントである。総ヘモグロビンの量はさまざまな方法を使用して計算することができる。
【0010】
別の実施態様において、本開示は、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量をインビトロで測定するための方法を提供し、この方法は以下を含む:
被験体から試料を入手する工程;
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出することにより、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を決定する工程。
【0011】
特定の態様において、第1の蛍光発色団はFRETドナーである。
【0012】
特定の態様において、第2の蛍光発色団はFRETアクセプターである。
【0013】
これら及び他の態様、目的、及び実施態様は、以下の詳細な説明を読むこととそれに続く図から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A-B】HbA1cアッセイのアッセイ形式を示す本開示の1つの実施態様を示す。
図1Aに示されるように、ドナー蛍光発色団で標識されたHbA
0抗体は、HbA
0とHbA1cの両方に結合することができる。アクセプター蛍光発色団で標識されたHbA1c特異抗体が、HbA
0抗体とHbA1cに同時に結合すると、FRETシグナルが発生する。個々の試薬を
図1Bに示す。
【0015】
【
図2A-B】本開示の方法を使用して作成された標準曲線を示す。x軸はERM標準%A1cであり、y軸は本開示の方法を使用して計算されたHbA1c%である。
【0016】
【0017】
【
図4】本開示の1つの実施態様におけるドナー及びアクセプター波長を示す。Tb-H22TRENIAM-5LIO-NHS発光プロフィールが示されている(490nm、545nm、580nm、及び620nm)。アクセプター放出ピークは、(AF488、左から2番目の矢印)、(AF546、左から4番目の矢印)、及び(AF647、左から7番目の矢印、つまり右の最初の矢印)に示されている。
【0018】
【
図5】本開示のアクセプターの1つの実施態様を示す。
【0019】
【
図6】ドナー蛍光発色団の蛍光を使用して決定されたHct(%)試料の標準曲線の1つの実施態様を示す。
【0020】
【
図7】ヘマトクリット値の標準曲線の1つの実施態様を示す。
【0021】
【
図8】本方法とアフィニオン(Afinion)ポイントオブケア装置との相関関係を示す。
【0022】
【
図9】本発明の方法と、Afinionのポイントオブケア装置で測定された患者試料;BioRadD-100患者試料;Point Scientific標準物質とLyphocheck標準物質との、相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(詳細な説明)
I. 定義
【0024】
本明細書で使用される「a」、「an」、又は「the」という用語は、1つのメンバーを有する態様を含むだけでなく、複数のメンバーを含む態様も含む。
【0025】
数値を修正するために本明細書で使用される「約」という用語は、その値の周りの定義された範囲を示す。「X」が値である場合、「約X」は0.9Xから~1.1Xの値を示し、より好ましくは0.95X~1.05Xの値を示す。「約X」への言及は、具体的には少なくとも値X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1.01X、1.02X、1.03X、1.04X、及び1.05Xを示す。従って、「約X」は、例えば「0.98X」のクレーム制限について書面による説明の支持を教示し提供することを目的としている。
【0026】
修飾語「約」が数値範囲の始まりを説明するために適用される場合、それは範囲の両端に適用される。従って「約500nm~850nm」は、「約500nm~約850nm」と同等である。値のセットの最初の値を説明するために「約」が適用される場合、それはそのセット内のすべての値に適用される。従って、「約580、700、又は850nm」は、「約580nm、約700nm、又は約850nm」と同等である。
【0027】
本明細書で使用される「活性化アシル」は、-C(O)-LG基を含む。「脱離基」又は「LG」は、求核性アシル置換(すなわち、-C(O)-LGのカルボニルへの求核性付加とそれに続く脱離基の除去)による置換を受けやすい基である。代表的な脱離基には、ハロ、シアノ、アジド、カルボン酸誘導体(例えばt-ブチルカルボキシ)、及びカーボネート誘導体(例えばi-BuOC(O)O-)が含まれる。活性化アシル基はまた、本明細書で定義される活性化エステル、又はカルボジイミドによって活性化されて無水物(優先的に環状)又は混合無水物-OC(O)Ra又は-OC(NRa)NHRb(好ましくは環状)を形成するカルボン酸でもよく、ここで、Ra及びRbは、C1~C6アルキル、C1~C6パーフルオロアルキル、C1~C6アルコキシ、シクロヘキシル、3-ジメチルアミノプロピル、又はN-モルホリノエチルからなる群から独立して選択されるメンバーである。好ましい活性化アシル基には、活性化エステルが含まれる。
【0028】
本明細書で使用される「活性化エステル」は、エチルエステル基よりも求核付加及び脱離による置換に対してより感受性の高いカルボキシル基の誘導体(例えば、NHSエステル、スルホ-NHSエステル、PAMエステル、又はハロフェニルエステル)を含む。活性エステルの代表的なカルボニル置換基には、スクシンイミジルオキシ(-OC4H4NO2)、スルホスクシンイミジルオキシ(-OC4H3NO2SO3H)、-1-オキシベンゾトリアゾリル(-OC6H4N3);4-スルホ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル;又は、ニトロ、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメチル、又はそれらの組み合わせなどの電子求引性置換基によって任意選択的に1回以上置換されたアリールオキシ基(例えば、ペンタフルオロフェニルオキシ、又は2,3,5,6-テトラフルオロフェニルオキシ)が含まれる。好ましい活性化エステルには、スクシンイミジルオキシ、スルホスクシンイミジルオキシ、及び2,3,5,6-テトラフルオロフェニルオキシエステルが含まれる。
【0029】
「FRETパートナー」は、クリプテートなどのドナー蛍光化合物とAlexa 647などのアクセプター化合物から成る一対の蛍光発色団をさし、これらは互いに近接していて、かつこれらがドナー蛍光化合物の励起波長で励起される場合、これらの化合物はFRETシグナルを放出する。2つの蛍光化合物がFRETパートナーとなるためには、ドナー蛍光化合物の発光スペクトルがアクセプター化合物の励起スペクトルと部分的に重なる必要があることが知られている。好適なFRET-パートナー対は、値R0(フェルスター距離、エネルギー移送の効率が50%である距離)が30Å以上であるものである。
【0030】
「蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)」又は「フェルスター共鳴エネルギー移送(FRET)」は、クリプテートなどのドナー化合物とAlexa 647などのアクセプター化合物が互いに近接していて、かつこれらがドナー蛍光化合物の励起波長で励起される場合の、これらの化合物間のエネルギー移送を説明するメカニズムを指す。ドナー化合物は、最初は電子励起状態にあり、非放射双極子-双極子結合を介してアクセプター蛍光発色団にエネルギーを移送する場合がある。このエネルギー移送の効率は、ドナーとアクセプターの間の距離の6乗に反比例し、FRETは距離の小さな変化に非常に敏感になる。
【0031】
「FRETシグナル」は、ドナー蛍光化合物とアクセプター化合物の間のFRETを表す任意の測定可能なシグナルを指す。従って、FRETシグナルは、アクセプター化合物が蛍光性である場合の、ドナー蛍光化合物又はアクセプター化合物の発光の強度又は寿命の変動であり得る。
【0032】
「ヘモグロビン」は、α鎖及びβ鎖の2つのタイプのサブユニットのそれぞれの2つからなるヘムタンパク質を指し、分子量は64,000である。ヘモグロビンのα鎖のN末端にある3つのアミノ酸の配列はバリン-ロイシン-セリンであり、β鎖のN末端にある3つのアミノ酸の配列はバリン-ヒスチジン-ロイシンである。ヘモグロビンは、赤血球中にある鉄を含む酸素輸送金属タンパク質である。ヘモグロビンの構造は、2対のタンパク質分子の四量体(2つのαグロビン鎖と2つの非αグロビン鎖)から成る。αグロビン遺伝子はHbA1とHbA2である。正常な成人ヘモグロビン分子(HbA)は、2つのα鎖と2つのβ鎖(α2β2)から成り、ほとんどの正常なヒト成人ヘモグロビンの約97%を占めている。他のマイナーなヘモグロビン成分は、HbAの翻訳後修飾によって生成される可能性がある。これらには、ヘモグロビンA1a、A1b、及びA1cが含まれる。これらのうち、A1cは最も豊富なマイナーヘモグロビン成分である。A1cは、赤血球に高濃度で存在するヘモグロビンとグルコースの化学的縮合によって生成される。このプロセスは、赤血球の寿命(平均120日)にわたってゆっくりと継続的に発生する。さらに、A1c生成の速度は、その寿命の間の赤血球内のグルコースの平均濃度に正比例する。従って、慢性高血糖のレベルが上がると、A1cの生成も増える。
【0033】
本明細書で使用される用語「糖化ヘモグロビン」又は「グリコシル化ヘモグロビン」は、酵素の作用なしで、グルコース分子がヘモグロビンのβ鎖のアミノ末端に結合している任意の形態のヒトヘモグロビンを指す。HbA1cは、グルコースがヘモグロビンAの一方又は両方の鎖のバリンアミノ末端に付着する非酵素反応によって生成される。HbA1cは、β鎖のN末端バリン残基が特に糖化されるヘモグロビンとして定義される。ただし、ヘモグロビンは、分子内に複数の糖化部位(α鎖のN末端を含む)を有することが知られている(The Journal of Biological Chemistry (1980), 256, 3120-3127を参照)。
【0034】
II. 実施態様
赤血球の通常の120日の寿命において、グルコース分子はヘモグロビンと反応し、これが、糖化ヘモグロビン(HbA1c)として知られる付加物を蓄積させる。血糖の平均量が増加すると、グリコシル化又は糖化ヘモグロビンの割合が予測可能な方法で増加する。従って、血中のHbA1c%の割合は、過去3か月間の平均血糖値のマーカーとして機能するため、糖尿病や異常な高血糖又は低血糖の診断に使用することができる。
【0035】
1つの実施態様において、本開示は、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を測定するための方法を提供し、この方法は、以下を含む:
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出する工程。
【0036】
別の実施態様において、本開示は、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量をインビトロで測定するための方法を提供し、この方法は、以下を含む:
被験体から試料を入手する工程;
試料に、糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA0)抗体を接触させる工程;
試料に、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体を接触させる工程;
試料を、二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を得るのに十分な時間インキュベートする工程;及び
二重標識糖化ヘモグロビン(HbA1c)を有する試料を光源を使用して励起して、蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)に関連する蛍光発光シグナルを検出することにより、試料中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)の量を決定する工程。
【0037】
1つの態様において、第2の蛍光発色団で標識された抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体は、ヘモグロビン(HbA0)と交差反応せず、すなわち、これは糖化ヘモグロビン(HbA1c)に特異的である。
【0038】
特定の態様において、FRETアッセイは、時間分解FRETアッセイである。 蛍光発光シグナルまたは測定されたFRETシグナルは、研究される生物学的現象と直接相関している。実際には、ドナー蛍光化合物とアクセプター蛍光化合物の間のエネルギー移送のレベルは、これらの化合物間の距離の6乗の逆数に比例する。当業者によって一般的に使用されるドナー/アクセプター対の場合、距離Ro(50%の移動効率に対応する)は、1、5、10、20、又は30ナノメートルのオーダーである。
【0039】
特定の態様において、試料は生物学的試料である。適切な生物学的試料には、特に限定されるものではないが、全血、血漿、血清、血球、細胞試料、尿、脊髄液、汗、涙液、唾液、皮膚、粘膜、及び毛が含まれる。試料としては、全血、血漿、血清、血球等が好ましく、全血、血球等が特に好ましい。全血には、血漿と混合された全血由来の血球画分の試料が含まれる。これらの試料については、溶血、分離、希釈、濃縮、及び精製などの前処理を施した試料を使用することができる。1つの態様において、生物学的試料は全血又は血清試料である。
【0040】
特定の態様において、FRETエネルギードナー化合物は、ランタニドクリプテートなどのクリプテートである。
【0041】
特定の態様において、クリプテートは、約300nm~約400nm、例えば約325nm~約375nmの吸収波長を有する。特定の態様において、
図4に示されるように、クリプテート色素は、約490nm、約548nm、約587nm、及び620nmに4つの蛍光発光ピークを有する。従って、ドナーとしてクリプテートは、フルオレセイン様(緑色ゾーン)分子、Cy5、DY-647様(赤色ゾーン)アクセプター、アロフィコシアニン(APC)、又はフィコエルイトリン(PE)と互換性があり、TR-FRET実験を実行する。他のアクセプターには、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、及びAlexa Fluor 647が含まれる。
【0042】
実施態様の特定の態様において、アッセイは、クリプテート内に結合したテルビウムからなるドナー蛍光発色団を使用する。テルビウムクリプテートは、365nmのUV LEDを用いて励起することができる。テルビウムクリプテートは、可視領域内で4つの波長で発光する。1つの態様において、アッセイは、アッセイ内のドナーシグナルとして、620nmの最も低いドナー発光エネルギーピークを使用する。特定の態様において、アクセプター蛍光発色団は、非常に近接している場合、490nmの最も高いエネルギーのクリプテート発光ピークによって励起され、520nmで発光を引き起こす。620nmと520nmの両方の発光波長は、装置又は機器で個別に測定され、結果はRFU比620/520として報告することができる。
【0043】
特定の態様において、フラッシュ励起とアクセプター発光波長での蛍光の測定との間に時間遅延を導入することにより、長寿命の蛍光を短寿命の蛍光から区別し、シグナル対ノイズ比を高めることができる。
【0044】
特定の態様において、本明細書の方法は、糖尿病又は前糖尿病を検出及び/又は診断するために使用することができる。境界型糖尿病とも呼ばれる前糖尿病は、通常、糖尿病の前兆である。これは、血糖値が通常よりも高いが、患者が糖尿病であると見なされるほど高くはない場合に発生する。
【0045】
1つの態様において、生物学的試料は全血である。血液試料は未処理の試料でもよい。あるいは、血液試料は、濃縮又は濾過によって希釈又は処理され得る。血液試料は、従来の放血法を使用して採取された全血試料でもよい。
【0046】
1つの態様において、試料は赤血球を含む。特定の態様において、赤血球は全血由来である。特定の態様において、赤血球は溶解される。他の態様において、試料は赤血球を含まない。
【0047】
1つの態様において、血液試料は、赤血球を溶解するように処理される。これは、血液試料を脱イオン蒸留水などの溶解剤で1/1の濃度(つまり、1部の血液と1部の溶解剤又は蒸留脱イオン水)に希釈することによって行うことができる。あるいは、試料を凍結して細胞を溶解することもできる。
【0048】
1つの態様において、血液試料は溶解後に希釈される。血液試料は、1/10(すなわち、10部の希釈剤中に1部の試料)、1/500、1/1000、1/200、1/2500、1/8000、又はそれ以上に希釈することができる。1つの態様において、試料は1/2000、すなわち2000部の希釈剤中に1部の血液試料に希釈される。1つの態様において、希釈剤は、水、蒸留脱イオン水中の0.1%トリフルオロ酢酸、又は蒸留脱イオン水中であり得る。1つの態様において、血液試料は、溶解と希釈の間で処理されない。
【0049】
特定の例において、HbA1c値は約1%~約12%であり得る。通常、正常な個体の場合、HbA1c値は約5.6%未満、例えば約1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、又は約5.6%である。
【0050】
1つの態様において、例えば5.7%、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4などの6.5%をわずかに下回るHbA1c値は、中等度の高血糖の存在を示し得る。
【0051】
特定の態様において、HbA1c値は、糖尿病を診断するために使用することができる。このような診断は、HbA1c値が6.5%以上、例えば6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、 8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10、10.1、10.2、10.3、10.4、10.5、10.6、10.7、10.8、10.9、11、11.1、11.2、11.3、11.4、11.5、11.6、11.7、11.8、11.9、及び/又は12%の場合に行うことができる(糖尿病の診断におけるA1Cアッセイの役割に関する国際専門家委員会の報告。Diabetes Care. 2009;32:1327-1334)。特定の例では、臨床症状及び血漿グルコースレベル>11.1mmol/l(200mg/dl)が存在しない場合(この場合、それ以上の検査は必要ない)、反復HbA1c検査により診断を確認することができる。6.5%をわずかに下回るHbA1c値(例:5.7~6.4%)は、中等度の高血糖の存在を示す可能性がある。HbA1c値が6.0~6.5%の個体は特にリスクが高く、糖尿病予防介入の対象となる可能性がある。一般的な血漿グルコース検査とは対照的に、糖化ヘモグロビンのレベルは、血糖濃度の毎日の変動の影響を受けず、過去6~8週間の平均グルコースレベルを反映する。
【0052】
%HbA1c値は、総ヘモグロビンのパーセントである。総ヘモグロビンは、さまざまな方法を使用して計算することができる。例えば、総ヘモグロビンはFRET技術を使用して計算することができる。ドナーで標識された第1の汎抗ヘモグロビン抗体及びアクセプターで標識された第2の汎抗ヘモグロビン抗体は、サンドイッチアッセイで存在するヘモグロビンの総量を可能にする。他の例では、総ヘモグロビンは、吸収法、CO酸素飽和度測定、又はヘマトクリット値からの推定値を使用して測定することができる。
【0053】
1つの態様において、総ヘモグロビンは、吸収法を使用して測定される。国際血液標準化委員会(International Committee for Standardization in Hematology:ICSH)によるヘモグロビン測定の参照方法(Recommendations for haemoglobinometry in human blood. Br J Haematol. 1967; 13 (suppl:71-6))は、シアン化ヘミグロビン(HiCN)検査であり、これは、いまだにICSHの推奨される方法である。HiCN検査は、これに対してすべての新しいctHb法が判断及び標準化される検査である。この方法では、血液試料はフェリシアン化カリウムとシアン化カリウムを含む溶液で希釈される。フェリシアン化カリウムは、ヘム中の鉄を第二鉄状態に酸化してメトヘモグロビンを形成し、これはシアン化カリウムによってシアン化ヘミグロビン(HiCN)に変換される。HiCNは安定した着色生成物であり、溶液中では540nmで最大吸光度を示し、ランベルトベールの法則に従う。540nmでの希釈試料の吸光度は、同等のヘモグロビン濃度がわかっている標準HiCN溶液の同じ波長での吸光度と比較される。
【0054】
別の態様において、総ヘモグロビンは、CO酸素飽和度測定法を使用して測定される。CO酸素飽和度測定法によるctHbの測定は、ヘモグロビンとそのすべての誘導体が特定の波長の光を吸収する着色タンパク質であり、従って特徴的な吸光度スペクトルを有するという事実に基づいている。ランベルトベールの法則は、単一の化合物の吸光度がその化合物の濃度に比例することを示す。溶液中の各吸収物質のスペクトル特性がわかっている場合は、複数の波長での溶液の吸光度の読み取り値を使用して、各吸収物質の濃度を計算することができる。溶血した血液試料のCOオキシメータ吸光度測定では、ヘモグロビン種が光を吸収する範囲(520~620nm)にわたって複数の波長で光を照射し、ソフトウェアを使用して各ヘモグロビン誘導体(HHb、O2Hb、MetHb、及びCOHb)の濃度が計算される。総ヘモグロビン(ctHb)は、これらの誘導体の計算された合計である。
【0055】
さらに別の態様において、ヘマトクリットの量(Hct)を測定することによって総Hb濃度を計算することが可能である。ヘマトクリットは、総血液量に対する充填赤血球の量の比率である。これはまた、充填赤血球量又はPCVとしても知られている。通常の状態では、ヘマトクリットとヘモグロビン濃度(ctHb)の間には線形関係がある。この関係は次のように表すことができる:
Hct(%)=(0.0485×ctHb(mmol/L)+0.0083)×100
(Kokholm G. Simultaneous measurements of blood pH, pCO2, pO2 and concentrations of hemoglobin and its derivatives - a multicenter study. Radiometer publication AS107. Copenhagen: Radiometer Medical A/S, 1991)。
【0056】
別の実施態様において、本開示は、試料中の糖化ヘモグロビンHbA1cの量を検出及び測定するための競合アッセイ法を提供し、この方法は、
試料に、第1の蛍光発色団で標識された抗ヘモグロビン(HbA0)抗体と、第2の蛍光発色団及び単離された抗糖化ヘモグロビンHbA1c抗体と、及び単離された糖化ヘモグロビン(HbA1c)とを含む複合体を接触させる工程であって、抗ヘモグロビン(HbA0)抗体は糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合し、及び第1又は第2の蛍光発色団はFRETドナーである工程と;
試料を複合体と、試料中の糖化ヘモグロビンHbA1cが抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体への結合をめぐって競合するのに十分な時間、インキュベートする工程と;及び
複合体を有する試料を光源を使用して励起して、FRETに関連する蛍光発光シグナルを検出する工程とを含み、
ここで、最初に複合体によって放出された蛍光発光シグナルと比較して、前記蛍光発光シグナルが存在しないか又は前記蛍光発光シグナルが減少していることは、試料中の糖化ヘモグロビンHbA1cの量を示す。
【0057】
特定の態様において、第1の蛍光発色団はFRETドナーである。
【0058】
特定の態様において、第2の蛍光発色団はFRETアクセプターである。
【0059】
特定の態様において、本明細書の方法を使用して、糖尿病を診断し、糖尿病患者の血糖コントロールを追跡することができる。関連する検出方法は、簡便、高感度、特異的、迅速で、費用対効果が高い。この方法を使用して処理された場合のヒトの血液試料は、正確で迅速な結果をもたらす。
【0060】
1.FRETドナーとしてのクリプテート
特定の態様において、Cisbio bioassaysによって販売されているLumiphoreからのテルビウムクリプテート分子「Lumi4-Tb」は、クリプテートドナーとして使用される。以下の式を有するテルビウムクリプテート「Lumi4-Tb」は、反応性基、この場合、例えばNHSエステルによって抗体に結合され得る:
【化1】
活性エステル(NHSエステル)は、抗体の一級アミンと反応して、安定したアミド結合を形成する。クリプテート上のマレイミドと抗体上のチオールは一緒に反応して、チオエーテルを形成することができる。ハロゲン化アルキルはアミン及びチオールと反応して、それぞれアルキルアミン及びチオエーテルを形成する。抗体に結合され得る反応性部分を提供する任意の誘導体を本明細書で利用することができる。
【0061】
特定の態様において、使用される抗体は蛍光発色団に連結される。2つの異なる蛍光発色団を本発明の方法で使用することができ、これらは、i)糖化ヘモグロビン(HbA1c)にも結合する抗ヘモグロビン(HbA0)抗体と、(ii)抗糖化ヘモグロビン(HbA1c)抗体とに結合する、2つの抗体に連結することができる。1つの蛍光発色団は、使用される他の蛍光発色団(アクセプター)よりも長い蛍光時間(ドナー)を有する。ドナーはLumi4-Tb(Tb2+クリプテート)又はユーロピウムクリプテート(Eu3+クリプテート)でもよい。ドナーとアクセプターの近接は、蛍光発光を測定してエネルギー移送のレベルを検出することによって評価される。
【0062】
特定の他の態様において、WO2015157057に開示された「大環状化合物」と題されたクリプテートは、本開示における使用に適している。この公報には、生体分子の標識に有用なクリプテート分子が含まれている。そこに開示されているように、特定のクリプテートは以下のような構造を有する:
【化2】
【0063】
特定の他の態様において、本開示において有用なテルビウムクリプテートを以下に示す:
【化3】
【0064】
特定の態様において、本発明で有用なクリプテートは、2018年7月19日に公開されたWO 2018/130988に開示されている。そこに開示されているように、式Iの化合物は、本開示においてFRETドナーとして有用である。
【化4】
ここで、点線が存在する場合、RとR
1は、それぞれ、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、1つ以上のハロゲン原子で任意選択的に置換されたアルキル、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アミド、スルホナト、アルコキシカルボニルアルキル、又はアルキルカルボニルアルコキシからなる群から独立して選択されるか、あるいはRとR
1が結合して、点線の結合が存在しない、任意選択的に置換されたシクロプロピル基を形成する;
R
2とR
3は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、SO
3H、-SO
2-Xからなる基から選択されるメンバーであって、Xはハロゲン、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルケニル、任意選択的に置換されたアルキニル、任意選択的に置換されたシクロアルキル、又は生体分子に連結することができる活性化基であり、ここで、前記活性化基は、ハロゲン、活性化エステル、活性化アシル、任意選択的に置換されたアルキルスルホン酸エステル、任意選択的に置換されたアリールスルホン酸エステル、アミノ、ホルミル、グリシジル、ハロ、ハロアセトアミジル、ハロアルキル、ヒドラジニル、イミドエステル、イソシアナト、イソチオシアナト、マレイミジル、メルカプト、アルキニル、ヒドロキシル、アルコキシ、アミノ、シアノ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アミド、スルホナト、アルコキシカルボニルアルキル、環状無水物、アルコキシアルキル、水溶性基、又はLからなる基から選択されるメンバーである;
R
4は、それぞれ独立して水素、C
1~C
6アルキルであるか、あるいはR
4基の3つは存在せず、得られる酸化物はランタニドカチオンにキレート化している;及び
Q1~Q4は、それぞれ独立して、炭素又は窒素の群から選択されるメンバーである。
【0065】
2.FRETアクセプター
FRETシグナルを検出するためには、FRETアクセプターが必要である。FRETアクセプターは、FRETドナーの発光波長と重なる励起波長を有する。アクセプターのFRETシグナルは、既知量のキャリブレーター、すなわち検量線から補間される、患者の血液試料などの試料中に存在する糖化ヘモグロビンの濃度レベルに比例する(
図2)。クリプテートドナーを使用して、第1抗体AB-1を標識することができる(
図3)。Lumi4は、約490nm、約545nm、約580nm、及び約620nmに4つのスペクトル的に異なるピークを有し、これらはエネルギー移送に使用することができる(
図4)。アクセプターを使用して、第2抗体AB-2を標識することができる。
【0066】
使用することができるアクセプター分子には、特に限定されるものではないが、フルオレセイン様(緑色ゾーン)、Cy5、DY-647、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、アロフィコシアニン(APC)、フィコエリトリン(PE)、及びAlexa Fluor 647が含まれる(
図5)。NHSエステルなどの反応性部分を有するドナー及びアクセプター蛍光発色団は、抗体上の一級アミンを使用して結合することができる。
【0067】
他のアクセプターには、特に限定されるものではないが、シアニン誘導体、D2、CY5、フルオレセイン、クマリン、ローダミン、カルボピロニン、オキサジン及びその類似体、Alexa Fluor蛍光発色団、クリスタルバイオレット、ペリレンビスイミド蛍光発色団、スクアライン蛍光発色団、ホウ素ジピロメテン誘導体、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)及びその誘導体、DABCYL(4-((4-(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸)が含まれる。さらなる受容体には、XL665、又はフルオレセイン、又はd2が含まれる。
【0068】
1つの態様において、蛍光は、波長、強度、寿命、偏光、又はそれらの組み合わせによって特性決定することができる。
【0069】
3.抗体
特定の態様において、ドナー又はアクセプターの活性化エステル(NHSエステル)は、抗体上の一級アミンと反応して、安定なアミド結合を形成することができる。例えば、クリプテート又はアクセプター(例えば、Alexa 647)上のマレイミドと抗体上のチオールは、一緒に反応してチオエーテルを形成することができる。ハロゲン化アルキルはアミン及びチオールと反応して、それぞれアルキルアミン及びチオエーテルを形成する。本明細書において、抗体に結合できる反応性部分を提供する任意の誘導体を利用して、分析物に特異的なドナー蛍光発色団で標識された第1抗体、ならびに分析物に特異的なアクセプター蛍光発色団で標識された第2抗体を形成することができる。
【0070】
本明細書の方法は、組織試料、血液、生検試料、血清、血漿、唾液、尿、又は糞便試料を含む様々な試料を使用することができる。
【0071】
4.抗体の生産
まだ市販されていない抗体の作成及び選択は、いくつかの方法で達成することができる。例えば、1つの方法は、当技術分野で知られているタンパク質発現及び精製方法を使用して目的のポリペプチド(すなわち抗原)を発現及び/又は精製することであり、別の方法は、当技術分野で知られている固相ペプチド合成を使用して、目的のポリペプチドを合成することである。例えば、Guide to Protein Purification, Murray P. Deutcher, ed., Meth. Enzymol., Vol. 182 (1990); Solid Phase Peptide Synthesis, Greg B. Fields, ed., Meth. Enzymol., Vol. 289 (1997); Kiso et al., Chem. Pharm. Bull., 38:1192-99 (1990); Mostafavi et al., Biomed. Pept. Proteins Nucleic Acids, 1:255-60, (1995); 及び Fujiwara et al., Chem. Pharm. Bull., 44:1326-31 (1996)を参照されたい。次に、精製又は合成されたポリペプチドを例えばマウス又はウサギに注射して、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を作成することができる。当業者は、例えば抗体の製造のために、Antibodies, A Laboratory Manual, Harlow and Lane, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1988)に記載されている多くの方法が利用可能であることを認識しているであろう。当業者は、抗体を模倣する結合断片又はFab断片がまた、様々な方法によって遺伝情報から調製され得ることを理解しているであろう(例えば、Antibody Engineering: A Practical Approach, Borrebaeck, Ed., Oxford University Press, Oxford (1995); 及び Huse et al., J. Immunol., 149:3914-3920 (1992)を参照)。
【0072】
さらに、多くの刊行物が、選択された標的抗原に結合するためのポリペプチドのライブラリーを生成及びスクリーニングするためのファージディスプレイ技術の使用を報告している(例えば、Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378-6382 (1990); Devlin et al., Science, 249:404-406 (1990); Scott et al., Science, 249:386-388 (1990); 及び Ladner et al., U.S. Patent No. 5,571,698を参照)。ファージディスプレイ法の基本的な概念は、ファージDNAによりコードされるポリペプチドと標的抗原との物理的会合の確立である。この物理的会合はファージ粒子によって提供され、これは、ポリペプチドをコードするファージゲノムを取り囲むキャプシドの一部としてポリペプチドを表示する。ポリペプチドとそれらの遺伝物質との間の物理的会合の確立は、異なるポリペプチドを有する非常に多数のファージの同時マススクリーニングを可能にする。標的抗原に親和性のあるポリペプチドを表示するファージは標的抗原に結合し、これらのファージは、標的抗原への親和性スクリーニングによって濃縮される。これらのファージから表示されるポリペプチドの本体は、それぞれのゲノムから決定することができる。次に、これらの方法を使用して、所望の標的抗原に対して結合親和性を有すると同定されたポリペプチドを、従来法によってバルクで合成することができる(例えば、米国特許第6,057,098号を参照されたい)。
【0073】
次に、これらの方法によって作成された抗体は、最初に目的の精製ポリペプチド抗原との親和性及び特異性についてスクリーニングされ、必要であれば、その結果を、結合から除外することが望ましい他のポリペプチド抗原との抗体の親和性及び特異性と比較することによって、選択することができる。スクリーニング手順は、マイクロタイタープレートの別々のウェルへの精製ポリペプチド抗原の固定化を含み得る。次に、潜在的な抗体又は抗体群を含む溶液をそれぞれのマイクロタイターウェルに入れ、約30分から2時間インキュベートする。次に、マイクロタイターウェルを洗浄し、標識された2次抗体(例えば、産生された抗体がマウス抗体である場合、アルカリホスファターゼに結合した抗マウス抗体)をウェルに加え、約30分間インキュベートしてから洗浄する。基質をウェルに加えると、固定化されたポリペプチド抗原に対する抗体が存在する場所で呈色反応が現れる。
【0074】
次に、そのように同定された抗体は、親和性及び特異性についてさらに分析することができる。標的タンパク質(糖化ヘモグロビン)の免疫アッセイの開発において、精製された標的タンパク質は、選択された抗体を使用して免疫アッセイの感度と特異性を判断するための基準として機能する。様々な抗体の結合親和性が異なる可能性があり、例えば特定の抗体の組み合わせが互いに立体的に干渉する可能性があるため、抗体のアッセイ性能は、その抗体の絶対親和性及び特異性よりも重要な尺度である可能性がある。
【0075】
当業者は、抗体又は結合断片を生成し、目的の様々なポリペプチドに対する親和性及び特異性についてスクリーニング及び選択する際に、多くのアプローチを採用することができるが、これらのアプローチは本発明の範囲を変えないことを認識するであろう。
【0076】
A.ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、目的のポリペプチド及びアジュバントの複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射によって動物で産生される。目的のポリペプチドを、免疫される種において免疫原性であるタンパク質担体、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、又は大豆トリプシン阻害剤に、2官能性又は誘導体化剤を使用して結合させることが有用であり得る。2官能性又は誘導体化剤の非限定的な例には、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介した結合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介した結合)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、及びR1N=C=NRが含まれ、ここでR及びR1は異なるアルキル基である。
【0077】
動物は、例えば100μg(ウサギの場合)又は5μg(マウスの場合)の抗原又は結合体を3容量のフロイント完全アジュバントと組み合わせ、その溶液を複数の部位に皮内注射することにより、目的のポリペプチド又はその免疫原性結合体若しくは誘導体に対して免疫される。1か月後、フロイント不完全アジュバント中のポリペプチド又は結合体の元の量の約1/5~1/10を複数の部位に皮下注射することにより、動物は追加免疫される。7~14日後、動物から採血し、血清の抗体価を測定する。動物は通常、力価がプラトーになるまで追加免疫される。好ましくは、動物は同じポリペプチドの結合体で追加免疫されるが、異なる免疫原性タンパク質への結合及び/又は異なる架橋試薬を介した結合を使用することができる。結合体はまた、組換え細胞培養で融合タンパク質として作成することもできる。特定の例では、ミョウバンなどの凝集剤を使用して免疫応答を増強することができる。
【0078】
B.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、一般に実質的に均一な抗体の集団から得られ、すなわち集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る天然の突然変異を除いて同一である。従って、修飾語「モノクローナル」は、別々の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。例えばモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975) によって記載されたハイブリドーマ法を使用して、又は当技術分野で知られている任意の組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)により作製することができる。
【0079】
ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切な宿主動物(例えばハムスター)を上記のように免疫して、免疫に使用される目的のポリペプチドに特異的に結合する抗体を産生するか又は産生することができるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球がインビトロで免疫される。免疫されたリンパ球は、次にポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を使用して骨髄腫細胞と融合され、ハイブリドーマ細胞を生成する(例えば、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, pp. 59-103 (1986)を参照)。このように調製されたハイブリドーマ細胞は、好ましくは、融合されていない親骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する1種以上の物質を含む適切な培地に接種され増殖される。例えば、親骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)を欠いている場合、ハイブリドーマ細胞の培養培地には通常、HGPRT欠損細胞の増殖を妨げるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンが含まれる(HAT培地)。
【0080】
好適な骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの産生を支持し、及び/又はHAT培地などの培地に感受性であるものである。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのこのような好適な骨髄腫細胞株の例には、特に限定されるものではないが、MOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍(Salk Institute Cell Distribution Center; San Diego, CAから入手可能)、SP-2、又はX63-Ag8-653細胞(アメリカンタイプカルチャーコレクション;Rockville, MDから入手可能)、及びヒト骨髄腫又はマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株(例えば、Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984); 及び Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York, pp. 51-63 (1987)を参照)から得られるものが含まれる。
【0081】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地は、目的のポリペプチドに対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイすることができる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、又はインビトロ結合アッセイ、例えば放射免疫アッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定される。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107:220 (1980)のScatchard分析を使用して測定することができる。
【0082】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンは、限界希釈法によってサブクローン化され、標準的な方法によって増殖され得る(例えば、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, pp. 59-103 (1986)を参照)。この目的に適した培地には、例えばD-MEM又はRPMI-1640培地が含まれる。さらにハイブリドーマ細胞は、インビボで動物の腹水腫瘍として増殖させることができる。サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、従来の抗体精製方法、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性クロマトグラフィーによって、培養培地、腹水液、又は血清から分離することができる。
【0083】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来法を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離及び配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好適な供給源として機能する。いったん単離されると、DNAは発現ベクターに入れられ、次にこれは、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は本来は抗体を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成が誘導される。例えば、Skerra et al., Curr. Opin. Immunol., 5:256-262 (1993); 及び Pluckthun, Immunol Rev., 130:151-188 (1992)を参照されたい。DNAはまた、例えば、相同的マウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列を代用することにより(例えば、米国特許第4,816,567号;及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851 (1984)を参照)、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全て又は一部を共有結合することによって、修飾することもできる
【0084】
さらなる実施態様において、モノクローナル抗体又は抗体断片は、例えば、McCafferty et al., Nature, 348:552-554 (1990); Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991); 及び Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載された技術を使用して生成された抗体ファージライブラリーから単離され得る。鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)ヒトモノクローナル抗体の産生は、Marks et al., BioTechnology, 10:779-783 (1992)に記載されている。非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてのコンビナトリアル感染及びインビボ組換えの使用は、Waterhouse et al., Nuc. Acids Res., 21:2265-2266 (1993)に記載されている。従って、これらの技術は、モノクローナル抗体を作成するための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ法の実行可能な代替手段である。
【0085】
ヒト抗体
ヒト化の代替法として、ヒト抗体を生成することができる。いくつかの実施態様において、免疫時に、内因性免疫グロブリン産生の非存在下で、ヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を産生することができる。例えば、キメラ及び生殖系列変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖系列変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、抗原刺激時にヒト抗体の産生をもたらすであろう。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermann et al., Year in Immun., 7:33 (1993); 及び米国特許第5,591,669号、第5,589,369号、及び第5,545,807号を参照されたい。
【0086】
あるいは、ファージディスプレイ技術(例えば、McCafferty et al., Nature, 348:552-553 (1990)を参照)を使用して、免疫されていないドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーを使用して、ヒト抗体及び抗体断片をインビトロで産生することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、M13やfdなどの繊維状バクテリオファージのメジャーコートタンパク質遺伝子又はマイナーコートタンパク質遺伝子のいずれかにインフレームでクローン化され、ファージ粒子の表面に機能的な抗体断片として表示される。繊維状粒子はファージゲノムの1本鎖DNAコピーを含むため、抗体の機能特性に基づく選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択にもつながる。従って、ファージはB細胞の特性のいくつかを模倣する。ファージディスプレイは、例えば、Johnson et al., Curr. Opin. Struct. Biol., 3:564-571 (1993)に記載されているように種々の形式で実施することができる。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源をファージディスプレイに使用することができる。例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)を参照されたい。免疫されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、多様なアレイの抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を、本質的にMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991); Griffith et al., EMBO J., 12:725-734 (1993); 並びに米国特許第5,565,332号及び第5,573,905号に記載の技術に従って単離することができる。
【0087】
特定の例において、ヒト抗体は、米国特許第5,567,610号及び5,229,275号に記載のように、インビトロで活性化B細胞によって作成することができる。
【0088】
C.抗体断片
抗体断片の産生のために様々な技術が開発されてきた。これらの断片は、伝統的にインタクトな抗体のタンパク質分解消化を介して誘導された(例えば、Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Meth., 24:107-117 (1992); 及びBrennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照)。しかし、現在これらの断片は、組換え宿主細胞を使用して直接生成することができる。例えば抗体断片は、上記の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab'-SH断片を大腸菌細胞から直接回収し、化学的に結合してF(ab')2断片を形成することができる(例えば、Carter et al., BioTechnology, 10:163-167 (1992)を参照)。別のアプローチによれば、F(ab')2断片は組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片を産生するための他の技術は、当業者には明らかであろう。他の実施態様において、選択される抗体は、単鎖Fv断片(scFv)である。例えば、PCT公報WO93/16185;及び米国特許第5,571,894号及び第5,587,458号を参照されたい。抗体断片はまた、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているような線状抗体であり得る。そのような線状抗体断片は、単一特異性又は二重特異性であり得る。
【0089】
D.二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的二重特異性抗体は、目的の同じペプチドの2つの異なるエピトープに結合することができる。他の二重特異性抗体は、目的のポリペプチドの結合部位を、1つ以上の他の追加の抗原の結合部位と組合せることができる。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0090】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野で知られている。完全長二重特異性抗体の従来の産生法は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づいており、ここで2つの鎖は異なる特異性を有する(例えば、Millstein et al., Nature, 305:537-539 (1983)を参照)。免疫グロブリン重鎖と軽鎖のランダムな組み合わせのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10の異なる抗体分子の潜在的な混合物を生成し、そのうちの1つだけが正しい二重特異性構造を有する。正しい分子の精製は通常、親和性クロマトグラフィーにより行われる。同様の方法は、PCT公報WO93/08829及びTraunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0091】
異なるアプローチによれば、所望の結合特異性(抗体-抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインは、免疫グロブリン定常ドメインの配列に融合される。融合は、好ましくはヒンジ領域、CH2領域、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。融合物の少なくとも1つに存在する軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物及び所望であれば免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適切な宿主生物に同時トランスフェクトされる。これは、構築に使用される3つのポリペプチド鎖の不均等な比率が最適な収率を提供する実施態様において、3つのポリペプチド断片の相互比率を調整する際に大きな柔軟性を提供する。しかしながら、等しい比率の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率をもたらす場合、又は比率が特に重要でない場合は、2つ又は3つすべてのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0092】
このアプローチの好適な実施態様において、二重特異性抗体は、一方のアームにある第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、もう一方のアームにあるハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)から構成される。この非対称構造は、二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することで、容易な分離方法が提供されるため、望ましくない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にする。例えば、PCT公報WO94/04690及びSuresh et al., Meth. Enzymol., 121:210 (1986)を参照されたい。
【0093】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチによれば、対の抗体分子の間の界面は、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ2量体の割合を最大化するように操作することができる。好適な界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、1次抗体分子の界面からの1つ以上の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)で置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸(例えばアラニン又はスレオニン)で置き換えることにより、大きな側鎖と同一又は同様のサイズの代償性「空洞」が2次抗体分子の界面に作成される。これは、ホモ2量体などの他の不要な最終生成物よりもヘテロ2量体の収率を上げるためのメカニズムを提供する。
【0094】
二重特異性抗体には、架橋又は「ヘテロ結合体」抗体が含まれる。例えば、ヘテロ結合体中の抗体の1つはアビジンに結合でき、もう1つはビオチンに結合できる。ヘテロ結合体抗体は、任意の便利な架橋方法を使用して作成することができる。適切な架橋剤及び技術は当技術分野で公知であり、例えば米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0095】
抗体断片から二重特異性抗体を生成するための適切な技術も当技術分野で知られている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を使用して調製することができる。特定の例において、二重特異性抗体は、インタクトな抗体がタンパク質分解的に切断されてF(ab')2断片を生成する方法によって生成され得る(例えば、Brennan et al., Science, 229:81 (1985)を参照)。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元され、隣接するジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を防ぐ。次に、生成されたFab'断片は、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。次にFab'-TNB誘導体の1つは、メルカプトエチルアミンで還元することによりFab'-チオールに再変換され、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合されて二重特異性抗体を形成する。
【0096】
いくつかの実施態様において、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収され、化学的に結合されて、二重特異性抗体を形成し得る。例えば、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子は、Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)に記載された方法により産生することができる。各Fab'断片は大腸菌から別々に分泌され、インビトロで指定された直接化学結合に供されて二重特異性抗体が形成された。
【0097】
二重特異性抗体断片を組換え細胞培養物から直接作成及び単離するための様々な技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して産生されている。例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148:1547-1553 (1992)を参照されたい。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドは、遺伝子融合によって、2つの異なる抗体のFab'部分に連結された。抗体ホモ2量体はヒンジ領域で還元されて単量体を形成し、次に再酸化されて抗体ヘテロ2量体を形成した。この方法は、抗体ホモ2量体の産生にも利用できる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)によって記載された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作製するための代替メカニズムを提供している。これらの断片は、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、1つの断片のVH及びVLドメインは、別の断片の相補的VL及びVHドメインと対合することを余儀なくされ、こうして、2つの抗原結合部位が形成される。単鎖Fv(sFv)2量体を使用することによって二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略は、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)に記載されている。
【0098】
3以上の結合価を有する抗体もまた企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。例えば、Tutt et al., J. Immunol., 147:60 (1991)を参照されたい。
【0099】
E.抗体の精製
組換え技術を使用する場合、抗体は、単離された宿主細胞内で、宿主細胞の細胞膜周辺腔で産生され得るか、又は宿主細胞から培地に直接分泌され得る。抗体が細胞内で産生される場合、まず粒子状の破片が例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carter et al., BioTech., 10:163-167 (1992) は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための方法を記載している。簡単に説明すると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間解凍する。細胞の破片は遠心分離によって取り除くことができる。抗体が培地に分泌される場合、そのような発現系からの上清は、一般に、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、Amicon又はMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮される。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を前述の工程のいずれかに含めてタンパク質分解を阻害し、そして抗生物質を含めて偶発的な汚染物質の増殖を防止することができる。
【0100】
細胞から調製された抗体組成物は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができる。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する免疫グロブリンFcドメインの種とアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用することができる(例えば、Lindmark et al., J. Immunol. Meth., 62:1-13 (1983)を参照)。すべてのマウスアイソタイプ及びヒトγ3には、プロテインGが推奨される(例えば、Guss et al., EMBO J., 5:1567-1575 (1986)を参照)。親和性リガンドが結合しているマトリックスはほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用できる。制御された細孔ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定したマトリックスは、アガロースで達成できるよりも速い流速と短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J. T. Baker; Phillipsburg, N.J)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)のクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(例えばポリアスパラギン酸カラム)のクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などのタンパク質精製の他の手法も、回収する抗体に応じて利用可能である。
【0101】
任意の予備精製工程に続いて、目的の抗体及び汚染物質を含む混合物を、好ましくは低塩濃度(例えば約0~0.25Mの塩)で行われる約2.5~4.5のpHのの溶出緩衝液を使用する低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供することができる。
【0102】
III. 特異抗体
1つの態様において、糖化形態のHbA1cに特異的な抗体が使用される。この抗体はHbA0と交差反応しない。1つの態様において、この抗体は、Mybiosource.comからカタログ番号MBS31270で市販されており、交差反応性なしでヘモグロビンA1c(HbA1c)と反応するモノクローナルIgG1である。別の態様において、GeneTexからカタログ番号GTX42177で市販されている抗体は、交差反応性のないヘモグロビンA1c(HbA1c)抗体である。1つの態様において、アクセプター蛍光発色団をこれらの抗体に結合させることができる。
【0103】
1つの態様において、Lifespan Biosciencesのマウスモノクローナル抗体である、ヒト反応性を有するヘモグロビン抗体(クローンHB11-201.11)IHC-plus(登録商標)LS-B4914又は(クローンM1709Hg2)IHC-plus(登録商標)LS-B11162又はLS-C194323が使用される。
【0104】
IV. 装置
様々な機器及び装置が、本開示での使用に適している。多くの分光光度計は蛍光を測定する機能を有する。蛍光は、ある波長での光エネルギーの分子吸収と、別のより長い波長でのほぼ瞬間的な再放出である。自然に蛍光を発する分子もあれば、蛍光を発するように修飾する必要のある分子もある。
【0105】
蛍光分光光度計又は蛍光光度計、蛍光分光計(fluorospectrometer)、又は蛍光分光計(fluorescence spectrometer)は、キセノンフラッシュランプなどの光源で照射した後、異なる波長で試料から放出される蛍光を測定する。蛍光光度計は、緑と青、又は紫外線と青のチャネルなど、さまざまな色の蛍光シグナル(波長が異なる)を測定するためのさまざまなチャネルを有することができる。1つの態様において、適切な装置は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)実験を実行する能力を含む。
【0106】
適切な蛍光光度計は、キュベット、毛細管、シャーレ、及びマイクロプレートを含む、異なる方法で試料を保持することができる。本明細書に記載のアッセイは、これらのいずれのタイプの機器でも実行することができる。特定の態様において、装置は、任意選択的なマイクロプレートリーダーを有し、最大384ウェルプレートでの発光スキャンを可能にする。使用に適した他のモデルは、表面張力を使用して試料を所定の位置に保持する。
【0107】
時間分解蛍光(TRF)測定は、蛍光強度測定と同様である。しかし、1つの違いは、励起/測定プロセスのタイミングである。蛍光強度を測定する場合、励起プロセスと発光プロセスは同時に行われる:試料から放出される光は、励起が行われている間に測定される。発光システムは、励起光を検出器に到達する前に除去するのに非常に効率的であるが、発光と比較した励起光の量は、蛍光強度測定がバックグラウンドシグナルの上昇を示すようなものである。本開示は、この問題に対する解決策を提供する。時間分解FRETは、ほとんどの標準的な蛍光色素(例えばフルオレセイン)が励起から数ナノ秒以内に発光する場合、励起後長時間(ミリ秒単位で測定)にわたって発光する特性を有する特定の蛍光分子の使用に依存している。その結果、パルス光源(例えばキセノンフラッシュランプ又はパルスレーザー)を使用してクリプテートランタニドを励起し、励起パルスの後に測定することができる。
【0108】
抗体1及び2に結合したドナー及びアクセプター蛍光化合物が互いに接近するにつれて、ドナー化合物からアクセプター化合物へのエネルギー移送が引き起こされ、その結果、ドナー化合物によって放出される蛍光シグナルが減少し、アクセプター化合物によって放出されるシグナルが増加し、その逆も真である。従って、異なるパートナー間の相互作用を含む生物学的現象の大部分は、問題の生物学的現象に応じて、より長い又はより短い距離にある化合物に結合した2つの蛍光化合物間のFRETの変化を測定することによって、研究することができる。
【0109】
FRETシグナルは、様々な方法で測定することができる:ドナーのみ、アクセプターのみ、又はドナーとアクセプターによって放出される蛍光の測定、又はFRETの結果としてアクセプターによって媒体中に放出される光の偏光の変化の測定。ドナーの寿命の変化を観察することによるFRETの測定も含めることもでき、これは、希土類錯体などの蛍光寿命の長いドナーを使用することで容易になる(特にプレートリーダーなどの単純な機器で)。さらに、FRETシグナルは正確な瞬間又は一定の間隔で測定できるため、経時的な変化を調べることができ、こうして、調べた生物学的プロセスの動態を研究することができる。
【0110】
特定の態様において、2019年2月14日に出願されたPCT/IB2019/051213に開示された装置が使用され、これは参照により本明細書に組み込まれる。その適用におけるその開示は、一般にポイントオブケア(POC)設定で使用して、ユーザーの取り扱い又は相互作用を最小限に抑えるか又はまったく行わずに、試料の吸光度及び蛍光を測定することができる分析器に関する。開示された分析器は、これらの2つのアプローチのそれぞれで検出することができる特性を有する試料を、より迅速で信頼性高く分析できるという有利な特徴を提供する。例えば、診断アッセイに供される血液試料の蛍光と吸光度の両方を定量化することは有益である可能性がある。一部の分析ワークフローでは、血液試料のヘマトクリット値を吸光度アッセイで定量化できるが、FRETアッセイで測定されたシグナル強度は、血液試料の他の成分に関する情報を提供することができる。
【0111】
PCT/IB2019/051213に開示される1つの装置は、試料からの放出光、及び試料による透過照明光の吸光度を検出するのに有用であり、これは励起波長を有する励起光を放出するように構成された第1の光源を含む。この装置はさらに、透過照明光で試料を透過照明するように構成された第2の光源を備える。この装置はさらに、励起光を検出するように構成された第1の光検出器と、放出光及び透過照明光を検出するように構成された第2の光検出器とを備える。この装置はさらに、(1)励起光の少なくとも一部を反射することによって試料を落射照明し、(2)励起光の少なくとも一部を第1の光検出器に送信し、(3)放出光の少なくとも一部を第2の光検出器に送信し、及び(4)透過照明光の少なくとも一部を第2の光検出器に送信する、ように構成されたダイクロイックミラーを備える。
【0112】
本開示で使用するための1つの適切なキュベットは、2019年2月14日に出願されたPCT/IB2019/051215に開示されている。提供されるキュベットの1つは、開放チャンバー上部を有する内部チャンバーを封入する中空体を含む。キュベットはさらに、内壁、外壁、開いた蓋の上部、及び開いた蓋の底を有する下部の蓋を含む。下部の蓋の少なくとも一部は、開放チャンバー上部に近接する内部チャンバーの内側に適合するように構成される。下部の蓋は、内壁に接続された1つ以上(例えば2つ以上)の容器を含み、ここで各容器は、開いた容器上部を有する。特定の態様において、下部の蓋は、2つ以上のそのような容器を含む。下部の蓋はさらに、中空体に接続された固定手段をさらに備える。キュベットはさらに上部の蓋を含み、ここで上部の蓋の少なくとも一部は、開いた蓋の上部に近接する下部の蓋の内側に適合するように構成される。
【0113】
V. 実施例
実施例1
この実施例は、血中のHbA1c値を検出するための液相均一時間分解FRETアッセイを示す。
【0114】
糖化ヘモグロビン(HbA1C)値は、糖尿病を診断し、また糖尿病治療の効果を測定する際の補助として使用することができる。蛍光共鳴エネルギー移送(FRET)は、ドナーとアクセプターの2つを近接させたとき(通常は10nm未満)、励起状態のドナー分子が、その励起エネルギーを双極子-双極子結合を介して、アクセプター蛍光発色団に移送するプロセスである。特徴的な波長で励起されると、ドナーによって吸収されたエネルギーがアクセプターに移送され、次にアクセプターがエネルギーを放出する。アクセプター蛍光発色団から放出される光のレベルは、ドナーアクセプター複合体形成の程度に比例する。
【0115】
生物学的試料材料は、自家蛍光を起こしやすいが、これは、時間分解蛍光測定法(TRF)を利用することによって最小化することができる。TRFは、非常に長い蛍光発光半減期を有する、ユーロピウムやテルビウムなどのランタニドと呼ばれる独自の希土類元素を利用している。時間分解FRET(TR-FRET)は、TRFとFRETの特性を統合しており、これが、生体試料を分析する場合に特に有利である。
【0116】
1つの態様において、抗HbA
0抗体はドナー蛍光発色団で標識され、かつ第2の抗HbA1c抗体はアクセプター蛍光発色団で標識され、従って、糖化ヘモグロビンの存在下でのみTR-FRETが生じる(
図1A~B)。アクセプターのFRETシグナルの増加は、既知量のHbA1c糖化から補間された、患者の血液中に存在する糖化ヘモグロビンの割合に比例する(
図2A~B)。HbA
0抗体を標識するために、H22TRENIAM-5LIO-NHSが使用される(
図3)。Lumi4は約490nm、約545nm、約580nm、及び約620nmに4つのスペクトル的に異なるピークを有し、これらをエネルギー移送に使用することができる(
図4)。使用することができるアクセプター分子には、特に限定されるものではないが、lexaFluor 488、AlexaFluor 546、及びAlexaFluor 647が含まれる(
図5)。ドナー及びアクセプター蛍光発色団は、抗体上の一級アミンを使用して結合される。ドナー及びアクセプター蛍光発色団は、抗Hb抗体上の一級アミンを使用して結合される。
【0117】
実施例2
この実施例は、ヘマトクリット値(Hct)からの総ヘモグロビン濃度(ctHb)の計算を示す。
【0118】
総Hb濃度は、ヘマトクリット量(Hct)を測定することによって測定することができる。ヘマトクリットは、総血液量に対する充填赤血球の量の比率である。これは、充填赤血球量又はPCVとしても知られている。ヘマトクリット値とヘモグロビン濃度(ctHb)の間には線形関係がある。この関係は次のように表すことができる:
Hct(%)=(0.0485×ctHb(mmol/L)+0.0083)×100
(Kokholm G. Simultaneous measurements of blood pH, pCO2, pO2 and concentrations of hemoglobin and its derivatives - a multicenter study. Radiometer publication AS107. Copenhagen: Radiometer Medical A/S, 1991)。
【0119】
図6は、ドナーシグナルに対する蛍光の効果を示すHct(%)試料の標準曲線を示す。上記の式を使用して、Hbの総量(ctHb)を計算することができる。
【0120】
図7は、ヘマトクリット値が、既知量のドナー蛍光発色団の吸収を使用して決定され得ることを示す。
【0121】
実施例3
この実施例は、CO酸素飽和度測定を使用する総ヘモグロビン濃度の計算を示す。
【0122】
CO酸素飽和度測定によるctHbの測定は、ヘモグロビン及びそのすべての誘導体が、特定の波長の光を吸収し、従って特徴的な吸光度スペクトルを有する着色タンパク質であるという事実に基づいている。ランベルトベールの法則は、単一の化合物の吸光度がその化合物の濃度に比例することを示す。
【0123】
溶血した血液試料のCOオキシメーター吸光度測定において、光は、ヘモグロビン種が光を吸収する範囲(520~620nm)にわたって複数の波長で照射され、ソフトウェアは、各ヘモグロビン誘導体(HHb、O2Hb、MetHb、及びCOHb)の濃度を計算する。総ヘモグロビン(ctHb)は、これらの誘導体の計算された合計である。
【0124】
実施例4
この実施例は、本発明で開示された方法と、Afinionによるポイントオブケア(POC)装置との直接比較を示す。
【0125】
ポイントオブケア(POC)検査は、医療の提供においてますます価値が高まっており、使用される装置が主要な実験室分析器と同じ品質基準を満たすことが重要である。POC HbA1c測定は、性能基準を満たしていれば、診断の決定と医学的介入を促進することができる。
【0126】
開示された方法(Prosice、本発明)の分析性能を、Afinion POC分析器と比較した。4.9%~9.9%の既知のHbA1c値を有する14の既知の試料が使用された。試料はAfinion分析器で測定され、本発明の方法を使用した測定値と比較された。本発明の方法を使用する測定は、二重測定で実施された。全血は最終濃度0.25%で使用された。抗A1c抗体はクリプテートに結合され、抗Hb抗体はAlexa 647に結合される。
結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0127】
図8は、本方法で得られたHbA1c値とAfinion測定値との比較を示す。
図8はまた、線形回帰直線も示す。一般に、R
2決定係数は、回帰予測が実際のデータポイントにどれだけ近似しているかを示す統計的尺度である。R
2が1の場合、回帰予測がデータに完全に一致していることを示す。ここでは、R
2は0.99に等しく、本発明の方法の優れた相関関係を示す。
【0128】
実施例5
この実施例は、本発明で開示された方法(本発明)とBio-Rad D-100システム(比較器)との直接比較を示す。BioRad D-100は、イオン交換HPLCによるHb画分の分離に基づいている。試料はBio-RadD-100システムで測定され、次に本発明の方法を使用した測定値と比較された。本発明の方法を使用する測定は二重測定で行われた。全血は最終濃度0.25%で使用された。抗A1c抗体はクリプテートに結合され、抗Hb抗体はAlexa 647に結合される。結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0129】
表2は、本方法で得られたHbA1c値とBioRad D-100で測定された値との比較を示す。相対標準偏差(標準偏差[SD]/[平均]×100)としても知られている変動係数(%CV)は、ほとんどの場合1未満であり、分散が小さいことを示している。
【0130】
実施例6
この実施例は、本発明に開示された方法と、(i)Pointe Scientific標準物質、(ii)BioRad/Lyphochek標準物質を含む市販の較正標準物質、及び(iii)Afinion測定試料と(iv)D-100(BioRad)測定試料との比較を含む血液銀行試料の測定試料との、直接比較を示す。
【0131】
図9は、市販の較正標準物質及び測定試料を使用したHbA1c値と比較した場合、HbA1cを測定する開示された方法の良好な一致を示す。
【0132】
前述の開示は、理解を明確にする目的で例示及び例を用いて、ある程度詳細に説明されているが、当業者は、特定の変更及び修正が添付の特許請求の範囲内で実施され得ることを理解するであろう。さらに、本明細書で提供される各参考文献は、各参考文献が参照によって個別に組み込まれた場合と同じ程度に、その全体が参照によって組み込まれる。
【国際調査報告】