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特表2022-535170ユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらす高水準消毒剤としての組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】ユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらす高水準消毒剤としての組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20220729BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220729BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20220729BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20220729BHJP
   C07C 409/26 20060101ALN20220729BHJP
   C07C 407/00 20060101ALN20220729BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01P3/00
A01N25/02
A01N25/34 B
C07C409/26
C07C407/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2019537241
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(85)【翻訳文提出日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 CN2019090080
(87)【国際公開番号】W WO2020243915
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】201910475642.X
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516052788
【氏名又は名称】南通思▲鋭▼生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲銭▼ 建国
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 文磊
【テーマコード(参考)】
4H006
4H011
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB03
4H006AB29
4H006BB14
4H006BB31
4H006BC16
4H011AA01
4H011AA03
4H011BA01
4H011BA05
4H011BB06
4H011BC03
4H011BC04
4H011BC17
4H011BC18
4H011DA10
4H011DA13
4H011DC05
4H011DC10
4H011DD07
4H011DE17
(57)【要約】
【課題】本発明は、ユースポイントでの非平衡法による消毒剤としての過酢酸の速やかな生成のための組成物および方法に関する。
【解決手段】本発明の組成物および方法は、温度を上昇させることなく、高pHおよび継続的な攪拌または振とうを使用することなく、10℃超の温度で水溶液中の固体アセチル化合物の可溶化速度および一時的に高い溶解度を増加させることによってユースポイントにおいて過酢酸を速やかに生成できる。ユースポイントで過酢酸を生成する組成物は、過酸素ドナー、固体アセチル化合物、pH調整剤および水、必要に応じてアルコール、界面活性剤および過酸化物安定化剤などを含む。組成物中の成分は、使用直前に混合される2つの部および3つの部に分けられる。本発明は、便利な持ち運びおよび使用、速やかな過酢酸の形成、低い腐食性および毒性という利点を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸素ドナー、固体アセチル化合物、pH調整剤、並びに、水、必要に応じてアルコール、界面活性剤、および/または過酸化物安定化剤を含み、
1製品中、2部または3部に分割されており、
製品中の全ての部は使用直前に混合され、
混合後における各成分の理論上の初期濃度は以下の通りであり、
温度上昇、高pH、継続的な攪拌または振とうすることなく、水溶液中の固体アセチル化合物の可溶化速度および一時的溶解度を高めることによって消毒剤としてユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらすことを特徴とする組成物および方法:
過酸素ドナー: 2~6%;
アセチル化合物: 0.2~1%;
アルコール: 0~15%;
界面活性剤: 0~0.4%;
過酸化物安定化剤: 0~0.02%;
pH調整剤の量: 混合溶液の初期pHを8.2~9.5にする;
水: 残部。
【請求項2】
固体アセチル化合物を繊維状材料上に被覆してその表面積を有意に増大させることにより、その可溶化速度を増大させて結果として過酢酸を速やかに生成させるものであり、
前記組成物の前記成分が液体であるA部と固体であるB部に分割されており、
前記A部は、過酸素ドナーおよび水、必要に応じてアルコールおよび界面活性剤を含み、
前記B部は、前記繊維状材料を被覆している固体アセチル化合物、前記繊維状材料を被覆しているpH調整剤、または前記繊維状材料を被覆しているpH調整剤と過酸化物安定化剤との混合物を含む、請求項1に記載のユースポイントにおける過酢酸の急速な生成をもたらす組成物および方法。
【請求項3】
ユースポイントにおける過酢酸の急速な生成をもたらす前記組成物および方法が、固体アセチル化合物をアルコールと水の混合物に溶解してアセチル化合物親溶液を形成し、
前記アセチル化合物親溶液を水溶液と混合することにより一時的に高い可溶化度が得られて過酢酸の速やかな生成がもたらされ、
前記組成物の前記成分が、A部、B部およびC部の3部に分割されており、
前記A部は、過酸素ドナーおよび水、必要に応じてアルコールおよび界面活性剤を含み、
前記B部は、固体アセチル化合物、アルコール、および水を含み、
前記C部は、pH調整剤および水、必要に応じて過酸化物安定化剤を含む、請求項1に記載のユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらす組成物および方法。
【請求項4】
10℃以上の常温で全ての部を混合してから10分以内における過酢酸分子濃度が0.045%以上であり、且つその最大濃度が0.4%以下である、請求項1に記載のユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらす組成物および方法。
【請求項5】
10℃以上の常温で全ての部を混合してから10分以内における過酢酸分子濃度が0.045%以上であり、且つその最大濃度が0.2%以下である、請求項1に記載のユースポイントにおける過酢酸の速やかな生成をもたらす組成物および方法。
【請求項6】
前記過酸素ドナーが、過酸化水素、または水溶液中で過酸化水素を生成させることができる他の化合物であり、その濃度が2~6%である、請求項1、2および3に記載の組成物および方法。
【請求項7】
前記固体アセチル化合物が前記繊維状材料を被覆しており、前記固体アセチル化合物がスクロースオクタアセテートまたはグルコースペンタアセテートであり、前記繊維状材料が白色原料木質ティッシュであり、被覆密度が1~4mg/cm2である、請求項2に記載の組成物および方法。
【請求項8】
前記固体アセチル化合物が前記繊維状材料を被覆しており、前記固体アセチル化合物がスクロースオクタアセテートまたはグルコースペンタアセテートであり、前記繊維状材料が白色原料木質ティッシュであり、被覆密度が1.4~2.5mg/cm2である、請求項7に記載の組成物および方法。
【請求項9】
前記アセチル化合物親溶液において、前記アセチル化合物がスクロースオクタアセテートであるか、または前記アセチル化合物がアルコールと水の混合物に溶解されるスクロースオクタアセテートと同様の化学的特性および物理的特性を示すものであり、スクロースオクタアセテート濃度が4~12%である、請求項3に記載の組成物および方法。
【請求項10】
前記アルコールと水の混合物がエタノールと水との混合物であり、エタノール濃度が70~95v/v%である、請求項9に記載の組成物および方法。
【請求項11】
前記アルコールと水の混合物がイソプロパノールと水との混合物であり、イソプロパノール濃度が60~90v/v%である、請求項9に記載の組成物および方法。
【請求項12】
前記pH調整剤が、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合物であり、その量が全ての部を混合した後の初期pHを8.2~9.5にするための量である、請求項1、2および3に記載の組成物および方法。
【請求項13】
前記アルコールがエタノールまたはイソプロパノールであり、全ての部を混合した後における濃度が0~15%である、請求項1に記載の組成物および方法。
【請求項14】
前記アルコールが、好ましくはエタノールであり、全ての部を混合した後における濃度が5~9.9%である、請求項13に記載の組成物および方法。
【請求項15】
前記界面活性剤が、塩化セチルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシルスルホン酸ナトリウムであり、全ての部を混合した後における初期濃度が0~0.4%である、請求項1、2および3に記載の組成物および方法。
【請求項16】
前記界面活性剤が、過酢酸形成を促進するために好ましくは0.05~0.09%の濃度の塩化セチルトリメチルアンモニウムである、請求項15に記載の組成物および方法。
【請求項17】
前記過酸化物安定化剤が、0~0.02%の濃度のヒドロキシエチリデンジホスホネートである、請求項1、2および3に記載の組成物および方法。
【請求項18】
前記pH調整剤、または前記繊維状材料上に被覆されたpH調整剤と過酸化物安定化剤との混合物が、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合物であり、前記過酸化物安定化剤がヒドロキシエチリデンジホスホネートであり、前記繊維状材料がポリエステルフェルトである、請求項2に記載の組成物および方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公共、家庭、食品、ヘルスケア、医療機器および創傷治療などの分野における用途のための高水準消毒剤として使用される、ユースポイントにおける過酢酸の速やかな形成に関する。
【背景技術】
【0002】
過酢酸(PAA)が高水準消毒剤として使用できること、そして一般的に、(1)平衡法、および(2)非平衡法という2つの方法のうちの1つによって生成できることは周知である。市販のほとんどのPAA製品は平衡法によって生成される。この方法では、過酸化水素(HP)が酢酸(AA)と反応してPAAを生成し、この反応は平衡に達するのに数時間から数日かかる。平衡法によるPAAがユースポイントにおいてPAAを生成することができないことは明らかである。一般的に、これらの市販品は高濃度のPAA、HPおよびAAを含む。6%を超えるPAAを含む溶液は危険であるとみなされ、輸送のために危険有害性クラス5.2,8(酸化剤,腐食性)のDOTマーキング「有機過酸化物」のラベルを付する必要がある。非平衡法は、アルカリ性条件下でのアセチル化合物と過酸素ドナーとの間の反応に依存してPAAを形成する。一般的に使用される過酸素ドナーは、HP、過ホウ酸ナトリウムまたは過炭酸ナトリウムである。アセチル化合物は漂白活性剤としても知られているか、またはPAA活性化剤と呼ばれる。最も一般的に使用されている漂白活性剤は、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)、ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(SNOBS)、トリアセチン、ジアセチン、およびプロピレングリコールジアセテートなどである。しかしながら、SNOBSはPAAを生成することができない。非平衡法では、PAAの生成は、溶解度、アセチル官能基反応性、過酸素ドナーのアルカリ度、溶液のpHなど、主にアセチル化合物と過酸素ドナーの化学的特性と物理的特性に依存する。他の添加剤は、PAA生成にプラスまたはマイナスの影響を与える可能性がある。
【0003】
アセチル化合物は2つのグループに分けられる。室温において1つは液体であり、他は固体である。ほとんどのアセチル化合物は、液体であろうと固体であろうと、疎水性のために室温における水溶液中での溶解度が低く、そして可溶化速度が遅いので、PAAの形成が著しく制限される。
【0004】
1.液体グループ
トリアセチン: Harveyらは、ユースポイントにおける用事での過酢酸の生成を開示した(参考文献1:Michael S.HarveyおよびJonathan N.Howarth,WO2012/128734A1)。この開示において、トリアセチンはアルカリ性HP溶液中の漂白活性剤として使用され、そして初期pHは11.2~13.37であった。その欠点は、以下の通りである:
1)トリアセチンは25℃で水溶液中に低い溶解度を示すので、継続的に振とう及び撹拌しなければ、pH<9.5でPAAの生成速度が低くなる。
2)PAA生成には非常に高いpH(>11)が必要とされるので、PAAとPAAの消毒能力の著しい損失がもたらされることになる(下記の「消毒能力に対するPAA溶液のpHの影響」のセクションを参照)。
従って、これはユースポイントにおいて実際に使用できる消毒剤ではない。更なる詳細は、発明の詳細な説明の節の液体アセチル化合物において論じられる。
【0005】
ジアセチンおよびプロピレングリコールジアセテートは、消毒および滅菌用途のための漂白活性剤として使用されている(参考文献2:Mark D.Tucker,US7,271,137B2)。漂白活性剤の濃度は1~10wt%である。ジアセチンは水溶性であるが、プロピレングリコールジアセテートは水溶性ではない。本発明は、初期pH<8の二液型キットシステムを開示する。二液型システムでは、一部はpH調整剤として使用されるHPおよび酢酸ナトリウムからなり、炭酸塩はHPの分解を引き起こすことからpH調整剤として使用することはできない。また、2つの部を混合した後に2つの部からなる系が胞子を殺すのに十分なPAAを生成できる程度の長さは示されていなかった。二液型を除いて、他のPAA生成系はpH調整剤として炭酸塩または他の無機塩基を使用し、初期pHは約9.5であった。我々の試験結果によれば、ジアセチンとプロピレングリコールジアセテートは、迅速なPAA形成にとってpH≦9.5では良好な漂白活性剤ではない。これについては、発明の詳細な説明の節で論じる。
【0006】
Preto,Andrea(参考文献3:EP2388246A1)は、二液成分系、およびペルオキシ酸(PAA)を得るためにそのような系を使用する方法を開示した。その利点は、漂白活性剤およびpH調整剤(弱い又はゼロの求核性を有するN,N-ジイソプロピルエチルアミンのような有機アミン)を長い貯蔵寿命のために一緒に混合することであった。それにより、二液型のPAA形成系が有効になる。しかしながら、そのようなシステムの不利な点は次の通りである:
(1)ほとんどの有機アミンは揮発性の有毒で引火性の液体であり、蒸発を避けるために混合溶液を密閉容器に貯蔵する必要がある;
(2)有機アミンが非常に少量であるため、それらは固体漂白活性剤と十分に混合することができないので、定量的移動を困難にする;
(3)アミン/アセチル化合物は、アセチル化合物の分解を避けるために水を含まないものでなければならない;
(4)N-アセチルカプロラクタムは非常に高価であり、また、グルコースペンタアセテート(GPA)が390の分子量あたり5つのアセチル基を有するのに対して155の分子量あたりアセチル基を1つしか有さないので、スクロースオクタアセテート(SOA)およびGPAなど他のアセチル化合物よりも重量基準でのPAA生成性が低い;
(5)最も重要なことには、N-アセチルカプロラクタムを水溶液に注いだ場合、激しく振とうしないと溶解性の低い油ビーズ状沈殿物が生成するが、大量の溶液を手動で混合するにはあまり便利ではない。
【0007】
Copenhaferらは、希釈安定化過酢酸の製造および処理方法を開示している(参考文献4:US2009/0043123A1,出願日:2008年8月6日)。この開示において、PAAは、5~12のpH範囲でのHPと無水酢酸との間の反応によって生成された。無水酢酸は容易に加水分解されそして高い反応性を示すので、貯蔵および輸送の問題を生じる。また、その蒸気は非常に有毒である。この開示は、「安定化された希過酢酸反応生成物を提供するために、必要に応じて、過酢酸反応生成物を含有する水性媒体のpHを約8未満に調整すること」を開示した。しかしながら、この追加のpH調整は使用者にとってあまり便利ではない。
【0008】
2.固体グループ
固体グループでは、TAEDが洗剤組成物の漂白活性剤として最も一般的に使用されている。TAEDに加えて、組成物は、HP、過炭酸塩または過ホウ酸塩などの過酸化物、pH調整剤および水、並びに他の添加剤を含む。これらの組成物の欠点は、以下の通りである:
1)水中でのTEAD溶解度が非常に低い(水中で約0.1%);
2)TEADを妥当な濃度に溶解するためには高温(>40℃)が必要;
Renato Tabassoらは、消毒用過酢酸系の現場での製造方法を開示している(参考文献5:US6,514,509B2,2003年2月4日;参考文献6:US2003/0211169A1,2003年11月13日)。この開示では、テトラアセチルグリコール酸(TAGU)およびTAEDが漂白活性剤として使用された。TAGUおよびTAEDの水中での十分な溶解性を得るために、水温を70~80℃に上昇させ、そして20℃に冷却した後、他の成分が混合された。混合後、溶液を約15分間連続的に攪拌し、更に10分間使用するのを待たなければならない。この方法ではPAAを速やかに製造することができないので、実際のユースポイントにおける製品ではないことは非常に明らかである。
【0009】
ある方法は、水酸化ナトリウムのような強塩基を添加した後にTAEDが水に非常に可溶性であり得ることを示した(ペルオキシ化合物を用いる漂白方法,参考文献7:US8,858,650,2006年7月14日)。pH10でのアルカリ性条件下ではTAEDの加水分解は速く、半減期は約18分である(参考文献8:表4.1.1.5,pp15,TAEDのHERA標的リスク評価,2002年10月14日)。TAEDの主な加水分解物はN’N’-ジアセチルエチレンジアミン(DAED)であり、その溶解度は1000g/L以上であるが、逆にTAEDの水への溶解度は約1~2g/Lである(表3.1.2,pp8,TAEDのHERA標的リスク評価,2002年10月14日)。TAEDが1つまたは複数のアセチル基を失うと、その水への溶解度は有意に増加するが、1つまたは複数のアセチル基を失う結果、PAAを形成する能力を失う。
【0010】
米国では、洗濯用漂白剤製品は、典型的には、過ホウ酸ナトリウムと組み合わせた漂白活性剤としてのSNOBSに基づいている。Ronald Hageらは、基質を漂白するための組成物および方法につき特許を受けている(参考文献9:米国特許第6,653,271号,2003年11月25日)。この発明において、消費者が低用量、短い洗浄時間、低温、および低い洗浄液対基質比を必要とする洗濯習慣を有する国々では、前駆体システムは非常に効率的に漂白しないなど、TAEDおよびSNOBSの欠点が論じられている。また、SNOBSはPAAを生成できない。
【0011】
Wayne E.らは、抗菌性氷の製造方法および組成物を開示している(参考文献10:US2009/0175956A1)。この開示では、液体および固体のアセチル化合物が含まれ、溶液のpHは約10より高かった。かかる高pHでは、ペルオキシカルボン酸は室温で極めて不安定であり、その殺菌能力を失うであろう。これらの問題は、酸を添加して組成物のpHを低下させることによって解決できるが、実際のユースポイントにおける用途にとって極めて不都合である。また、水溶液中のアセチル化合物の低い溶解度および可溶化速度は、この発明では解決されていない。
【0012】
上記の開示および発明に基づけば、PAA生成方法は洗濯および大量工業用途にのみ使用することができ、少量および実際のユースポイントにおける用途には適さない。通常、ユースポイントでの消毒剤では、PAA分子濃度は低温から室温で10分以内の反応時間で0.045%以上に達成されるべきであり、達成される最大PAA濃度は、アセチル化合物の濃度が非常に低い(通常は約2~8mg/mLである)ことを必要とするPAAの揮発による刺激臭を減少させるために、0.2%以下が望ましい。25mLのユースポイント消毒剤製品に必要なアセチル化合物は、100mg未満である(GPAおよびSOAはPAA活性化剤として使用される)。このような少量は、液体アセチル化合物が使用される場合、製造上および適用上の問題を引き起こす。これらの問題は以下の通りである:
1)100mgの液体アセチル化合物製品に対する許容度が低い;
2)たとえ製品を製造することができたとしても、特別な道具なしに製品内の液体アセチル化合物を製品から溶液に短時間で確実に移動させることができることを保証することは困難である。
固体アセチル化合物の場合、粉末であれ粒状であれ、低溶解度および遅い可溶化速度は、PAAの速やかな形成にとって常に克服できない障害である。我々の実験によれば、ボトルを継続的に振とうすることなく、pHが約9の50mLの3%HP溶液に0.12gのTAEDを完全に溶解するのには数時間かかることが示されている。従って、継続的に攪拌しないと、TAEDがユースポイントでのPAA形成には適していないことは非常に明らかである。GPAやSOA等の他の固体アセチル化合物も、同様の溶解度の問題を有するようにみえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の問題を克服し、すぐ使用できるパッケージにより高レベル消毒剤としてユースポイントでPAAを速やかに生成することを可能にし、それは使用者にとって非常に便利である。
上記の特許および特許開示は、高pH、高温および継続的な攪拌および振とうを使用しないで、高レベル消毒剤としてのPAAの速やかな生成をもたらすために不溶性アセチル化合物の溶解度および可溶化速度を高める方法を教示していなかった。言い換えれば、これらの方法は、公衆、家庭、食品、およびヘルスケア等の用途のための常温での高レベル消毒剤として実際のユースポイントにおけるPAAの速やかな生成を導くことができないことは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、従来技術の欠点を克服し、水溶液中で不溶性の固体アセチル化合物の可溶化速度および一時的溶解度を有意に増大させながら非平衡法による高レベル消毒剤としてのユースポイントでのPAAの速やかな生成のための組成物および方法を提供するものである。水溶液中での可溶化速度および一時的な溶解度を増加させる組成物および方法は、高pH、温度上昇および継続的な攪拌または振とうを必要とせずに、10℃以上の温度でのユースポイントにおけるPAAの速やかな形成をもたらし得る。高レベルの消毒剤は、芽胞、特に黒色のBacillus atrophaeus Nakamura変異体(ACCT9372)を殺すことができなければならない。本発明は、PAAの速やかな生成を容易にするために2つの方法を使用する:
1)水溶液中の不溶性固体アセチル化合物の一時的溶解度を有意に増加させるために、最初に固体アセチル化合物をアルコールと水の混合物に溶解することによって親溶液を形成し、次いで親溶液を水溶液と混合して、その実際の溶解度よりはるかに大きい一時的溶解度を得る;
2)水溶液中の不溶性固体アセチル化合物の可溶化速度を増加させるために、繊維状材料上にアセチル化合物を被覆してその有効表面積を増加させる。
【0015】
本発明の鍵は、10分未満の反応時間でPAA分子濃度を0.045%以上にし、且つPAA揮発による強い刺激臭を低減するために達成可能な最大PAA濃度を好ましくは0.2%未満にすることである。本発明では、2つの方法、および液-液および固-液という2種類の組成物が、異なる用途目的のために開発された。
【0016】
ユースポイントにおいてPAAを速やかに生成するための組成物は、過酸素ドナー、固体アセチル化合物、pH調整剤および水を含み、更にアルコール、界面活性剤および/または過酸化物安定化剤などの添加剤を含むことができる。当該組成物の成分は、2部および3部にパッケージされている。部を混合した後の混合物中の各成分の理論上の初期濃度は、以下の通りである:
過酸素ドナー:2~6%;
アセチル化合物:0.2~1%;
アルコール:0~15%;
界面活性剤:0~0.4%;
過酸化物安定化剤:0~0.02%;
pH調整剤:全ての部を混合した後の初期pHを8.2~9.5にする量;
水:残部。
【0017】
2部製品
可溶化速度を増加させるために、固体アセチル化合物を繊維状材料上にコーティングしてその有効表面積を増加させ、それによって可溶化速度を増加させてPAAの速やかな生成をもたらす。可溶化速度を高めるための組成物の成分は、2つの部、即ち一方は液体のA部と他方の固体であるB部に分けられる。A部は、過酸素ドナーと水、必要に応じてアルコールと界面活性剤を含む。B部は、繊維状材料上に被覆されたアセチル化合物およびpH調整剤、必要に応じて繊維状材料上に被覆された過酸化物安定化剤を含む。
【0018】
3部製品
一時的溶解度を高めるために、固体アセチル化合物を最初に有機溶媒または有機溶媒と水との混合物に溶解してアセチル化合物親溶液を形成する。親溶液が水溶液と混合されるとき、一時的溶解度は少なくとも1時間沈殿することなくその実際の溶解度よりはるかに大きい。アセチル化合物と過酸化物アニオンとの間の反応は、可溶化されている限り非常に速いので、高い一時的な溶解度は、PAA形成を促進し得る。組成物成分は3つの液体部に分けられる。A部は、過酸素ドナーおよび水、必要に応じてアルコールおよび界面活性剤を含む。B部は、アセチル化合物、有機溶媒および水を含むアセチル化合物親溶液である。C部は、pH調整剤および水、必要に応じて過酸化物安定化剤を含む。
【0019】
上記2つの組成物および方法の共通の特徴は、25~10℃において、相対的部分が混合された後4~10分待つだけで高水準消毒剤として使用できることである。また、形成されるPAA分子の濃度は0.045%以上でなければならず、そしてPAA揮発による強い刺激臭を低減するために、達成可能な最高濃度は0.4%以下、好ましくは0.2%未満でなければならない。
【0020】
過酸素ドナーは、好ましくはHP、または水溶液中でHPを生成することができる化合物であり、その濃度は全ての部を混合した後で2~6%、好ましくは3~4%である。
【0021】
アセチル化合物は、SOAまたはGPA、またはSOAおよびGPAと類似の化学的特性および物理的特性を有するアセチル化合物である。その濃度は全ての部を混合した後で0.2~1%、好ましくは0.25~0.5%である。
【0022】
pH調整剤は、炭酸ナトリウムのような無機塩基、または炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物、好ましくは炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物であり、その量は全ての部を混合した後の初期pHを8.2~9.5、好ましくは9.0~9.1にする量である。
【0023】
アルコールはエタノールまたはイソプロパノールであり、その濃度は全ての部を混合した後で0~15%、好ましくは5~9.9%の間の濃度を有するエタノールである。
【0024】
界面活性剤は、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシルスルホン酸ナトリウムである。その濃度は0~0.4%、好ましくは食品およびヘルスケア用途では0%、好ましくはPAAの速やかな形成のためには0.05~0.09%、消毒洗浄用途については0.1~0.2%のCTACまたは0.2~0.4%ドデシル硫酸ナトリウムである。
【0025】
過酸化物安定化剤はヒドロキシエチリデンジホスホネート(HEDP)であり、その濃度は0~0.02%、好ましくは食品およびヘルスケア用途では0%、他の用途では0.005~0.009%である。
【0026】
繊維状材料上に被覆されたアセチル化合物は、SOAまたはGPAが白色原料木質ティッシュ上に被覆され、被覆密度が1~4mg/cm2、好ましくは被覆密度が1.4~2.5mg/cm2のGPAである。
【0027】
アセチル化合物親溶液は、SOA親溶液、またはSOAと同様の化学的特性および物理的特性を有するアセチル化合物であり、そしてSOA濃度は4~12%、好ましくは6~7%である。
【0028】
アセチル化合物を有機溶媒、または有機溶媒と水との混合物に溶解してアセチル化合物親溶液を形成する。溶媒はアルコールと水との混合物、特にエタノールと水とのエタノール濃度70~95v/v%、好ましくは90v/v%の混合物である。或いは、イソプロパノール濃度が60~90v/v%、好ましくは80v/v%のイソプロパノールと水との混合物である。
【0029】
pH調整剤、またはpH調整剤と過酸化物安定化剤との混合物が繊維状材料上に被覆され、繊維状材料は好ましくはポリエステルフェルトである。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、従来技術と比較して以下の利点を有する。本発明は、水溶液中でのアセチル化合物の可溶化速度および一時的溶解度の増加を伴う、非平衡法によるユースポイントでのPAAの速やかな生成のための組成物および方法を提供するものであり、高pH、温度上昇および継続的な攪拌または振とうを必要とせずに、全ての部を混合した後、25~10℃で約4~10分間待つことにより高水準の消毒剤として使用できる組成物および方法を提供するものである。消毒剤は、公衆、家庭、食品およびヘルスケアなどの分野における消毒に使用することができる。組成物中の全成分は、2部もしくは3部、または2部製品または3部製品に分けられ、使用前に全ての部を混合する使用者にとって非常に便利である。特に2部製品、即ち固-液製品は、輸送、個人の持ち運び、便利な使用および安全性において明らかな利点を有する。可燃性でも有毒でもないので、輸送や保管に特別な制限はない。また、使用者のための操作は非常に便利であり、道具を使用する必要も、加熱する必要も、そして長時間にわたる継続的な攪拌の必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、総PAA濃度とpHとの間のPAA分子濃度の関係を示す。
図2図2aは、黄色ブドウ球菌に対する殺菌効果とpHとの関係を示し、図2bは、黄色ブドウ球菌に対する殺菌効果とPAA分子濃度との関係を示す。KE=5は、2分間の接触時間と20℃での殺傷効果がCFUの5-log減少より大きかったことを意味する。細菌濃度は1.33×107CFU/mL以上であった。pH調整は、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの溶液によるものであり、溶液は0.5gのNaCO3、0.5gのNaOHおよび10mLのDWを含む。PAA溶液は、15%PAA、30%HPの希釈物であり3%HPを含む。T=は総PAA濃度を意味し、分子濃度はPAA解離定数とpHに基づいて計算される。
図3図3は、異なるアセチル化合物からのPAAの生成を示す。試験溶液は、3.2%のHP、および約36mMのアセチル基を含んでいた。初期pHは約9.04であり、試験温度は20℃であった。全ての試験溶液は異なるアセチル化合物による同数のアセチル基を含み、この試験は同じ反応条件下で異なるアセチル化合物中のアセチル基の反応性を比較するために用いることができる。
図4図4は、ジアセチンからのPAA生成と初期pHの間の関係を示す。溶液は3.2%HP、17.9mMのジアセチンを含み、pH調整は炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物によるものであり、反応時間は6分であった。60~600ppmのHEDPをPAA安定化剤として用いた。
図5図5は、異なる処理下での異なる固体アセチル化合物からのPAA生成を示す。異なるアセチル化合物のアセチル基のモル濃度は同じで、約36mMであった。初期pHは約9.04であり、反応温度は20℃であった。
図6図6は、液-液製品による25℃でのPAA生成と反応時間の関係を示す。混合溶液は最初に3%HP、4.2mg/mL SOA、9.5%エタノールを含み、初期pHはNaOHとNa2CO3の混合物によって調整された約9.04であった。「No」は、混合溶液にCTACとHEDPが添加されていないことを意味する。50ppmおよび100ppmは、混合溶液中のHEDP濃度を表す。0.09%は、混合溶液中のCTAC濃度を表す。
図7図7は、PAA生成に及ぼすSOA濃度の影響を示す。試験溶液は、3%HPと様々な濃度のSOAを含む。初期pHは、NaOHとNa2CO3の混合物によって調整された約8.9であった。温度は25℃であった。
図8図8は、液-液製品によるPAA生成に及ぼす温度の影響を示す。3部混合後の初期濃度は、3%HP、9.8%EOH、0.42%SOA、および0.06%CTAC(図8bのみ)であった。初期pHは約9.03であった。
図9図9は、固-液製品の例である。
図10図10は、PAA生成と可使時間に及ぼす温度の影響を示す。組成は表7に示されている。PAAはPAA活性化剤として使用した。
図11図11は、20℃でのPAA生成率および可使時間に対するCTACの影響を示す。CTAC濃度は0%または0.09%であった。組成は表8に示されている。GPAはPAA活性化剤として使用した。
図12図12は、PAA生成に対するHP濃度の影響を示す。AとBを混合した後、試験溶液は最初に2.2mg/mLのSOA(ティッシュ上に被覆されたSOA)、0.16%のCTAC、および様々なHP濃度を含んでいた。初期pHは約8.6であり、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物により調整された。試験温度は20~21℃であった。
図13図13は、SOAをPAA活性化剤として使用した場合におけるPAA生成に対するCTACの効果を示す。試験溶液は、3%HP、2.2mg/mL SOA(ティッシユ上を被覆)を含み、初期pHは炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物によって調整された約9.02であった。CTACは様々な濃度を有する。試験温度は25℃であった。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の具体例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、これらの具体例は単なる例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
本発明は、高レベル消毒剤として使用することができる、低温でもユースポイントでの非平衡法によるPAAの速やかな生成のための組成物と方法を提供するものである。高レベル消毒剤は、芽胞、特にBacillus atrophaeus nakamura(ACCT9372)を殺すことができなければならない。ユースポイントにおけるPAAの迅速な生成の鍵は、昇温を必要とせずに継続的に攪拌または振とうすることなく、PAA分子濃度を10分未満の反応時間内に0.045%以上にするために、水溶液中の固体アセチル化合物の一時的溶解度および可溶化速度を高めることにある。本発明では、異なる用途目的のため、2つの方法と、液-液および固-液という2つの組成物を開発している。液-液製品は、主に固体アセチル化合物の一時的溶解度を増加させることによりPAAの迅速な形成を促進し、固-液製品は、主に固体アセチル化合物の有効表面積を増加させることにより可溶化速度を増加させ、PAAの迅速な形成をもたらす。
【0034】
1.液-液製品(500mL超の量に対してより有効)
当該製品では、組成物の成分は3つの部分、A、BおよびCに分けられる。
A部:HPおよび水、必要に応じてアルコールおよび界面活性剤を含む液体;
B部:エタノールと水の混合物、またはイソプロパノールと水の混合物、または他のアルコールと水の混合物に溶解した固体アセチル化合物、好ましくはSOAを含む液体;
C部:pH調整剤および水、必要に応じて界面活性剤および過酸化物安定化剤を含む液体。
【0035】
本発明は、たとえこれらの溶液が10%までのエタノールを含んでいても、水溶液中の固体アセチル化合物の溶解度の問題を解決することを主に意図している。
【0036】
グルコースペンタアセテート(GPA)、スクロースオクタアセテート(SOA)、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)などの固体アセチル化合物を、B部成分として試験した。TAEDは、HPを含む水溶液や、アルコール、酢酸エチル、アセトンおよびアセトニトリルなどの最も一般的な有機溶媒に対する溶解性が低い。TAEDは、継続的に攪拌し、また40℃超に温度を高めることなしには、速やかなPAA形成には使用できない。GPAはまた、HPを含む約1mg/mLの水溶液や、約7mg/mLのエタノールへの溶解度が低い。しかし、アセトニトリルや酢酸アセチルのようないくつかの有機溶媒に非常に溶け易い。しかしながら、GPA/有機溶液を水溶液と混合すると、GPAは急速に沈殿する。従って、液-液組成物によるPAAの速やかな形成にはGPAは適していない。
【0037】
SOAも、水(20℃で0.7mg/mL以下)および10%エタノール(20℃で1.5mg/mL以下)への溶解度が非常に低く、純粋なエタノールおよびイソプロパノールにはあまり溶解しないが、メタノール、酢酸エチルおよびアセトニトリルに高い溶解度を有する。しかしながら、メタノールとアセトニトリルは非常に有毒であり、酢酸エチルには強い臭いがあり、そしてSOA/酢酸エチル溶液を水溶液と混合すると沈殿物を生成する。よって、これらの溶媒は、公衆、家庭、食品およびヘルスケア用途には良いことはなく、また速やかなPAA形成にはつながらない。
【0038】
本発明者らのテスト結果は、SOAが90%エタノール/水、または80%イソプロパノール/水、そしておそらく他のアルコール/水の特定比率の溶液に非常に溶け易いことを示している。90%エタノール/水中のSOA溶解度は、25℃で12w/w%以上、10℃で6w/w%以上である。
【0039】
SOAを最初に90%エタノールに溶解してSOA親溶液を形成し、次に水またはHP溶液と混合した場合、一時的溶解度は約20℃で少なくとも3mg/mLであり、約1時間後にSOAは再び沈殿する。実際、この温度でのSOAの水に対する実際の溶解度は0.7mg/mL未満である。6%のSOA親溶液を約3%のエタノールを含むHP溶液と混合すると、一時的な溶解度は約20℃で8mg/mLを超え、約1時間後にSOAの沈殿が観察される。SOAの親溶液を初期pHが約9のHP溶液と混合した場合、一時的な溶解度は最大8mg/mLである。3~8mg/mLのSOA濃度範囲は、全ての部を10℃以上の温度で混合してから3~10分の反応時間をかければ、高レベルの消毒剤としてユースポイントでのPAAの速やかな生成に適している。公衆、家庭、食品およびヘルスケアなどの分野で使用される消毒剤として、PAAの分子濃度は0.035%~0.2%である。しかし、高レベルの消毒剤として、PAA分子濃度は0.045%以上であるべきであり、最大PAA濃度は、約4mg/mLのSOA濃度を要求するPAA揮発からの強い刺激臭を低減するために0.2%以下であるべきである。19mLの90%エタノール/水に1.0gのSOAを溶解させたSOA親溶液をpH約9の3.2%HP溶液と混合して初期SOA濃度を約4.2mg/mLにした場合、5分の反応時間内にPAA濃度は少なくとも0.06%になり得、最大PAA濃度は20℃で0.17%に達し得る。この濃度範囲は、コロニー形成単位(CFU)を少なくとも5log減少させながら、10分未満の接触時間でバチルス・アトロフェウス・ナカムラ(ACCT9372)の胞子を死滅させるのに十分である。
【0040】
エタノール/水またはイソプロパノール/水を使用してSOA親溶液を作ることの利点は、以下の通りである:
1)SOA親溶液をHP溶液と混合してPAAを速やかに生成させる場合、少なくとも1時間は過飽和SOAは沈殿しない。酢酸エチルなどの他の溶媒は、SOAが急速に沈殿するので良くない。
2)エタノールとイソプロパノールは、殺胞子能力を有意に改善することができる(参考文献11,参考文献12)。
3)SOAは、SOA親溶液では加水分解されない。このことは、有効期間が少なくとも2年と長いために非常に重要である。
【0041】
本発明の鍵は、水溶液中での実際の溶解度よりもはるかに高い濃度でSOAを一時的に溶解させることであり、よれによりPAAの速やかな生成を著しく加速することができる。
【0042】
2.固-液製品(10~500mLの量に適する)
当該製品では、組成物の成分はAとBの2つの部に分けられる。
A部(液体):HPおよび水、必要に応じてアルコールと界面活性剤などを含む。
B部(固体):固体アセチル化合物とpH調整剤、必要に応じて過酸素安定化剤を含む。
固体アセチル化合物は、固体アセチル化合物と液体組成物との間の有効接触面積が著しく増大し、固体アセチル化合物を液相中に迅速に拡散させることができるように、非常に薄い層を形成するために繊維状材料上のコーティングとして塗布される。アセチル化合物が溶液中に拡散する限り、速やかにHPアニオンと反応してPAAを形成する。少量のpH調整剤および過酸化物安定化剤もまた、コーティングとして繊維またはフェルト上に塗布され、それにより固体pH調整剤および安定剤を液体部分に迅速に溶解させることが可能になる。固体アセチル化合物は、メタノール、およびアセトニトリル、エタノール、または適度に高い溶解度を有するそれらの混合物などの低沸点有機溶媒に容易に溶解されなければならない。これにより、可能な限り少ない量のアセチル化合物溶液で繊維を濡らし、そして迅速に乾燥させて繊維上に薄いアセチル化合物層を形成することを可能にする。アセチル化合物にはSOA、GPAが含まれるが、これらの溶媒には溶解しないためTAEDは含まれない。SOAおよびGPAは無毒性であり、上記の有機溶媒に比較的高い溶解度を有し、そして経済的である。SOAは食品添加物としても承認されている。しかし、GPAのアセチル官能基は、SOAのアセチル官能基よりも反応性が高い。固体部に含まれるpH調整剤(塩基)のために、液体アセチル化合物を使用して繊維を被覆することはできない。そうでなければ、液体アセチル化合物はpH調整剤と反応して酢酸塩を形成する可能性があり、それによりアセチル化合物およびpH調整剤の貯蔵寿命が短くなるであろう。
【0043】
繊維およびフェルト材料は、消毒剤中のPAAおよび他の成分と有意に反応してはならないので、混合消毒剤は比較的長い可使時間を有する。
【0044】
2部製品の利点は次の通りである:
1)2部の混合操作はユーザーにとって非常に便利であり、工具を使用する必要がない;
2)GPAをPAA活性化剤として攪拌や振とうを続けずに使用した場合、高レベル消毒に十分なPAA濃度(PAA分子濃度が0.045%以上)および最大PAAに達するまでに20℃で約5~6分かかる。高濃度のPAAによる強い刺激臭を最小限に抑えるために、最大濃度は0.2%未満である;
3)持ち運びおよび運搬が容易であり、その低い毒性と低い刺激性のためヘルスケアおよび食品の分野における用途にも非常に適している;
4)各部の貯蔵寿命は2年以上である;
5)可使時間は20℃で最大2週間、4℃保管で数ヶ月である。
【0045】
本発明の鍵は、固体アセチル化合物の可溶化速度を有意に増加させることであり、それによりPAAの速やかな形成がもたらされる。
【0046】
本発明に関する実験結果
実験結果により、本発明の新規性および予想外の理解が深められる。
【0047】
殺菌能力に対するPAA溶液のpHの影響
1)一般的に、非平衡法から生成されるPAAはアルカリ性条件下にあることと;
2)PAAは弱酸であり、その解離定数pKaは8.2であることから(下記反応式参照);
【化1】
第一に、PAA殺菌能力とpHとの間の関係を理解することが非常に重要である。
この式は、pHが上昇するにつれてPAA分子濃度が低下することを定める。pHが7を超えると、pHが大幅に上昇するにつれてPAA分子濃度が低下する(図1)。本発明者らの試験結果は、pHが上昇するにつれて殺菌能力が低下し(図2a)、そしてPAA分子濃度が殺傷効果に影響を与えることを示している(図2b)。総PAA濃度(分子+イオン)が0.5%であっても、pHが9.51のときにはその殺傷効果は著しく低下する。なぜなら、このpHではPAA分子濃度が約0.023%であるからである。試験結果は、総PAA濃度よりもむしろPAA分子濃度が殺傷効力を支配することを明らかに示している(図2b)。試験結果に基づくと、0.03%を超えるPAA分子濃度は、20℃で2分間の接触時間でCFUの5対数超の減少で黄色ブドウ球菌を死滅させるのに十分である(図2b)。
【0048】
加えて、予備試験の結果は、pHが上昇するにつれて、バチルス・アトロフェウス・ナカムラ(ACCT9372)に対するPAA殺傷効果が低下することを示している。0.045%超のPAA分子濃度が、20℃で10分以内の接触時間で、CFUの殺傷効率5-log以上の減少でバチルス・アトロフェウス・ナカムラ(ACCT9372)を殺すのに必要とされる。
【0049】
結論
pHが上昇するにつれて、特にpH>7.2で、PAAの殺菌能力は低下する。高レベルの消毒剤として、PAA分子の濃度は0.045%以上でなければならない。よって、非平衡PAAを効果的な消毒剤として開発するには、PAAの総濃度だけでなく、溶液のpHも考慮する必要がある。
【0050】
アセチル化合物の選択
非平衡法によるユースポイントでのPAAの速やかな生成に関する主な問題は、異なるpH条件下でのアセチル官能基の反応性と共に、水溶液中のアセチル化合物の低い溶解度および可溶化速度である。
【0051】
1.液体アセチル化合物
上述したように、液体アセチル化合物は、以下の理由から、適切な選択ではない:
1)少量の包装および移送の問題;
2)トリアセチンおよびプロピレングリコールジアセテートに対する水溶性の問題。トリアセチンまたはプロピレングリコールジアセテートを水と混合した場合、油様ビーズが観察され、それは低いPAA生成をもたらした。10分の反応時間において、トリアセチンが20℃、初期pH約9でPAA活性化剤として使用された場合、PAA濃度はわずか約0.031%であり(図3)、この濃度は高レベル消毒剤として使用するのに十分ではなかった;
3)ジアセチンの可溶化時でさえも、初期pH約9でPAA生成は低かった(10分の反応時間で約0.022%,図3)。PAAの生成量を増やすには、初期pHを上げる必要がある(図4)。反応後25分までに初期pHが9.9である場合、総PAA濃度は0.166%でpHは約9.13であり、その結果、PAA分子濃度が約0.017%となった(表1)。この分子濃度は、2分の接触時間で黄色ブドウ球菌を5log減少させて黄色ブドウ球菌を死滅させるのに十分ではない(図2)。このことは、初期pH9.9の溶液は、実際のユースポイントでの高レベル消毒剤としては使用できないことを意味する。
【0052】
結論
ジアセチン、トリアセチンおよびプロピレングリコールジアセテートのような液体アセチル化合物は、低い溶解度または低い反応性のために、高レベル消毒剤としてのユースポイントでのPAAの生成のための活性化剤として使用するのに適しておらず、PAAの低い生成につながる。表1は、ジアセチンをPAA活性化剤として使用した場合の反応時間と総PAA濃度、およびPAA分子濃度とpHの関係を示す。初期溶液には、3.2%HP、17.9mMジアセチン(約36mMのアセチル基)、および炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムによるpH調整が含まれていた。60~600ppmのHEDPをPAA安定剤として使用し、温度は20℃であった。
【0053】
【表1】
【0054】
2.固体アセチル化合物
TAED、SNOBS、GPA、SOAなどのほとんどの固体アセチル化合物には、水溶性の問題もある。固体アセチル化合物がPAA活性化剤として使用される場合にPAA生成を増加させるために、本発明は、pHや温度を上昇させたり、継続的な攪拌または振等を必要とするよりもむしろ、水溶液中の固体アセチル化合物の溶解度および可溶化速度を増加させる。
【0055】
1)固体アセチル化合物の一時的溶解度を増加させるために:
高濃度の有機溶媒を使用することおよび/または温度を上昇させることのような2つの簡単な方法を用いて、溶解度を増加させることができる。これらの方法は、公衆、家庭、食品およびヘルスケアなどの分野で使用される消毒剤として実際のユースポイントでのPAAの生成には適していない。本発明者らの実験結果は、TEADがメタノール、アセトニトリル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールなど最も一般的な有機溶媒に不溶であることを示している。SOAとGPAは、室温で、メタノール、アセトニトリルと酢酸エチルに溶けるが、純粋なエタノールとイソプロパノールにはあまり溶けず、特に水、10%エタノールのHP溶液にほとんど溶けない。
【0056】
溶解度試験の結果は、純エタノールに対するSOAの溶解度は25℃で3w/v%以下、10℃で1w/v%以下、水および3%HP溶液中で0.7mg/mL以下、10%エタノールを含む3%HP溶液中、20℃で1.5mg/mL以下である。より重要なことに、SOA粉末の可溶化速度は非常に遅く、継続的な振とうが要求される。低い溶解度および可溶化速度は、PAAの速やかな形成を導くことができない。
【0057】
本発明者らのテスト結果は、SOAが90v/v%のエタノールまたは80v/v%のイソプロパノールに非常に溶け易いことを示している。90v/v%エタノールへの溶解度は、25℃で少なくとも12w/w%、10℃で少なくとも6w/w%である。最初に1.0gのSOAを19mLの90%エタノールに溶解してSOA親溶液を形成し、次いでSOA親溶液を水溶液と混合した場合、20℃でのSOA溶解度は少なくとも1時間で沈殿することなく少なくとも3mg/mLであり得る。1時間後、SOAは再び沈殿する。この結果は、SOAの溶解度は20℃の水中で3mg/mL以上に一時的に増加させ得ることを示しており、これは実際の水中溶解度の0.7mg/mL以下よりはるかに大きい。SOA親溶液を、3%エタノールを含むHP溶液と混合すると、一時的なSOA溶解度は最大8mg/mLに達し得、20℃での混合期間中に濁りおよび沈殿は観察されない。しかし、1時間後、SOAの沈殿が見られる。幸い、溶解したSOAと過酸化水素アニオンの反応は非常に速いので、一時的に高い溶解度のSOAをPAAの速やかな形成に利用できる。より重要なことに、SOAの親溶液の有効期間は2年を超えている。この結果は、水溶液中のSOAの加水分解速度が非常に遅いことを示しており、水溶液中で比較的容易に加水分解される他のほとんどのアセチル化合物とは異なる。商品として、貯蔵寿命は非常に重要な考慮事項である。
【0058】
GPAは、エタノール、イソプロパノール、エタノール/水およびメタノールにあまり溶けないが、アセトニトリルによく溶ける。19mLのアセトニトリルに1.0gのGPAを含むGPA親溶液を水溶液と混合して4mg/mL超のGPA濃度にすると、GPAは急速に沈殿した。このように、GPAはSOAのような溶解性を示さなかった。また、TAEDは上記の溶媒にあまり溶けないので、上記の方法では水溶液中で一時的に高い溶解度を得ることができない。
【0059】
実験結果は、SOA中のアセチル基がトリアセチンおよびジアセチン中のアセチル基よりも反応性が高いことを示した(図3)。6分の反応時間および20℃で、PAA濃度は、SOA、トリアセチンおよびジアセチンからそれぞれ約0.062%、0.024%および0.018%であった。SOAとジアセチンは、どちらも完全に可溶化されているため、同等であった。トリアセチンは、おそらく不完全な可溶化とより低い反応性のために、低いPAA生成を示すように思われた。
【0060】
2)固体アセチル化合物の可溶化速度を増加させるために:
水溶液中の大部分の固体アセチル化合物の可溶化速度は、溶液中のそれらの拡散速度によって制御されるので非常に遅い。水溶液中の固体アセチル化合物の可溶化速度を増加させるために、4つの有用な方法を用いることができる:
1)溶液を継続的に攪拌または振とうする;
2)温度を上げる;
3)高濃度有機溶媒を使用する;
4)固体アセチル化合物の有効表面積を増大させる。
方法1,2はユースポイントにとってあまり便利ではなく、方法3は公共、家庭、食品およびヘルスケアなどの分野における用途には適していない。粒状の非常に微細な粉末は、可溶化速度を増加させるために表面積を増加させることができるが、表面に接触する溶液は依然として遅い拡散問題を有するので、粒状は有効表面積をあまり大きくすることができない。非常に微細な粉末は容易に凝集し、それによって特に吸湿性アセチル化合物の有効表面積が減少する。本発明では、アセチル化合物はその有効表面積を増加させるためコーティングとして繊維状材料上に付着されることにより、可溶化速度の有意な増加がもたらされる。SOAおよびGAPは、メタノール、アセトニトリル、酢酸エチル、およびアルコールとアセトニトリルの混合物など最も揮発性の有機溶媒に非常に溶け易い。SOAまたはGAPが有機溶媒に溶解され、次いで繊維に塗布され、そして乾燥されると、非常に薄い層が繊維上に形成され、それにより可溶化速度が著しく増加してユースポイントでのPAAの速やかな形成が加速される。実験結果を図5に示す。
【0061】
結論:
1.SOAのような固体アセチル化合物は、一時的に高い溶解度を得ることができ、PAA生成速度を著しく増加させる。
2.SOAやGPAなどの固体アセチル化合物は、ジアセチンやトリアセチンなどの液体アセチル化合物よりも高い反応性を示す。
3.繊維上に被覆された固体アセチル化合物は、粒状物および粉末よりも大きい可溶化速度を生じ、PAAの速やかな形成をもたらす。
【実施例
【0062】
実施例1: 液-液製剤
液-液製剤は、オクタアセチルスクロース(SOA)が、90v/v%エタノール水または80v/v%イソプロパノール水に非常に溶け易くSOA親溶液を構成するという事実に基づいて開発されている。次に親溶液を水溶液と混合して一時的に高い溶解度を得た。約3.3%の過酸化水素(HP)および4%のエタノール、または約9の初期pHを有する3.3%のHPを含む水溶液にSOA親溶液を添加すると、振とうしなければ少量のSOA沈殿物(少量の濁り)が見られることがある。沈殿はSOA親溶液中のSOA濃度と温度に依存する。SOA濃度が低いほど、沈殿は少なくなる(表2)。表2中、「*」は、溶液が濁り完全には溶解しなかったが、塩基を加えて初期pHを約9にしたところ、SOAは完全に溶解したことを示す。
【0063】
【表2】
【0064】
90v/v%エタノールへのSOAの溶解度は非常に温度に敏感であり、6%のSOAを含む親溶液のみが10℃で沈殿しない。従って、母液中のSOA濃度は、約10℃の温度で使用する場合には6w/w%を超えることはできない。
6%SOA親溶液を3.3%HP溶液と約9.04の初期pHで混合してSOA濃度を約4.2mg/mLにすると、溶液は10℃でわずかに白濁した後、透明になった。一旦振とうすると、溶液は常に透明であった。この結果は、SOAが一時的に完全に溶解し、濃度がこの溶液中の10℃での実際のSOA溶解度(0.3mg/mL未満と推定される)よりはるかに大きいことを示している。しかし、温度が15℃以上であれば、振とうの有無によらず濁りは見られない。
6%SOA親溶液を、初期pH約9.04およびSOA濃度約4.2mg/mLで3.3%HPおよび4%エタノールを含む5リットル溶液と混合した場合、約18℃で濁りと沈殿は観察されなかった。この混合では振とうは不要であり、2つの混和性溶液を混合するのと全く同じであった。
液-液法の一般的な組成の一例を表3に示す。一般的な組成に基づいて、過酢酸(PAA)生成のための反応時間、SOA濃度、添加剤、温度、およびpHの影響を試験した。
【0065】
【表3】
HP:過酸化水素, CTAC:塩化セチルトリメチルアンモニウム,
HEDP:ヒドロキシエチリデンジホスホネート,
SOA:スクロースオクタアセテート,
塩基:炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物, DW:脱イオン水
【0066】
(1)PAA濃度および可使時間に対する反応時間の影響
図6は、PAA濃度が6分の初期反応期間に非常に速く増加することを示す。5分の反応時間では、PAA濃度は、CTACまたは/およびHEDPの添加剤が存在しない場合は約0.068%であり、添加剤が存在する場合は4分の反応時間で0.06%よりも大きい。これらの結果は、すべての部を25℃で混ぜ合わせた後、約5分間で高レベルの消毒剤が得られることを示す(図6a)。0.14%および0.16%の最大PAA濃度は、25℃で添加剤の有無にかかわらず1~8時間の反応時間で得られる。CTACは可使時間に悪影響を及ぼし、HEDPは可使時間を延ばす(10日超,図6b)。 可使時間閾値PAA分子濃度は0.045%以上である。
【0067】
(2)PAA生成に対するSOA濃度の影響
以下の反応式1および2は、非平衡法によってPAAがどのように生成されるかを示す。
【化2】
【0068】
式1および2は、pHとアセチル化合物およびHPの濃度がPAA生成に影響を与えることを明確に示している。我々の実験結果は、PAA生成がSOAの濃度の増加と共に増加することを確認している(図7)。PAAの生成速度と最大濃度を増加させることが望ましい場合、アセチル化合物の濃度を増加させることは方法の1つである。しかし、最大濃度が高過ぎると、許容できない刺激臭が発生し、公衆、家庭およびヘルスケアなどの分野での使用には適さない。
【0069】
(3)PAA生成に及ぼす添加剤の影響
実験結果によれば、CTACはPAA生成速度を増加させるが、おそらくその還元特性のためPAA可使時間に悪影響を及ぼす(図6および図8)。結果はまた、HEDPがPAAを安定化させ、PAA生成速度をわずかに増加させることができることを示している。HEDP濃度が50~100ppmの場合、混合溶液の可使時間は25℃で10日以上であり、HEDPが含まれていると最大で約0.16%のPAA濃度が得られる(図6b)。混合溶液に添加剤が含まれていない場合、可使時間は25℃で約8日間である(図6b)。可使時間閾値PAA分子濃度は、0.045%以上である。ヘルスケアおよび食品産業における用途のためには、添加物を含まない方がよい。
【0070】
(4)PAA生成に対する温度の影響
温度が溶解度だけでなく化学反応速度にも影響することはよく知られている。消毒剤は異なる温度、特に低温条件下で使用され得る。TAEDおよび他の固体アセチル化合物は、それらの溶解性が低くそして室温および低温下での可溶化速度が遅いために、公衆、家庭およびヘルスケアにおいて日常的な消毒剤としてのユースポイントにおいてPAAを生成するアセチルドナーとしては良くない。他方、SOAは、比較的低い温度下でその一時的溶解度を増大させることによってPAA活性化剤として使用することができる。実験結果は、25~10℃の温度範囲で液-液製剤が高水準消毒剤として達成されるのに約4~10分かかることを示し、CTACは待ち時間を短縮することができる(図8)。
【0071】
(5)pH効果
PAA生成式1および2に基づけば、pHを上げると[HOO-]の濃度が上がると予想され、それによりPAA生成の増加をもたらすはずである。しかし、pHが高いとPAAの生成量を高くできるものの、殺菌効果は主に総濃度ではなくPAA分子の濃度に左右されるため、PAAの殺菌力に悪影響を及ぼす可能性がある(図2)。分子濃度はpHの影響を受けるので(図1)、pHはPAAの殺菌能力に影響を与えるという結論になる。表4は、pHが反応時間と共にどのように変化するかを示す。全ての部が混合された後、溶液中の塩基が反応時間中に消費されるので、混合溶液のpHは反応時間が増加するにつれて連続的に減少する。すべての部が混合されたとき、混合された溶液が25℃で高水準消毒剤として使用されるのに約4または5分かかった(表4と図6a)。所与の反応時間において、HEDPを用いなかった場合よりもHEDPを用いた場合にはpHが高かったため、HEDPを用いた場合のPAA分子濃度は、HEDPを用いなかった場合よりも低かった。このことは、HEDPのpH緩衝能によると考えられる。事実、HEDPを用いた場合の総PAA生成は、HEDPを用いない場合よりも大きかった(表4および図6a)。
【0072】
【表4】
【0073】
試験温度は25℃であった。試験溶液は3%HP、0.42%SOA、6%エタノールを含み、初期pHは9.03であり、pHは炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物により調整した。
表1、図2および表4の実験結果は、初期pHを上昇させることによってPAA生成を増加させることは有用な方法ではないかもしれないことを示している。その要因は、高レベル消毒剤としてのユースポイントでのPAAの生成を考慮する必要があることによる。PAAが漂白剤として使用される場合、高pHはPAA酸化能力を増加させ得るが、PAAが殺菌剤として使用される場合、両者は異なる作用メカニズムを有するので、pHが増加するにつれて殺菌能力は減少する。
【0074】
実施例2: 固-液製剤
固体アセチル化合物の低い溶解度と遅い可溶化速度は、PAAの速やかな形成に対する主な障害である。PAA形成を促進するための別の方法は、許容可能な濃度を急速に達成するために固体アセチル化合物の可溶化速度を上げることである。液-液法はSOA溶解度を一時的に増加させることができるが、その欠点は以下の通りである:
1)3部からなるパッケージは使用者にとってあまり便利ではない;
2)特に25mLや50mLという少量のパッケージでは、少量のSOA濃縮物が使用されているため、日常的な使用のため少量ずつの3部を定量的に混合することは容易ではない;
3)高濃度のアルコールを含むSOAの親溶液は可燃性である;
4)これまで、一時的に高い溶解度を持つものとして見出されているのはSOAのみ。
これらの不都合に対処するために、固-液製剤が開発された。この方法は、主に固体アセチル化合物の可溶化速度を高めることに焦点を合わせている。可溶化速度を上げるためには、有機溶媒の使用、温度の上昇、連続的な攪拌または振とう、および固体アセチル化合物の表面積の増大など、多くの方法がある。公衆、家庭、食品およびヘルスケアなどの分野における用途のための消毒剤としての実際のユースポイントでのPAAの生成には、有機溶媒の使用、連続的な攪拌/振とう、および温度上昇は適切な選択ではない。それ故、最良の選択は、固体アセチル化合物の表面積を増加させることである。TAEDおよびSNOBS洗濯用製剤に使用される粒状物および粉末は、それらの有効表面積が限られているために可溶化速度を著しく高めることはできない。
本発明では、繊維状材料上のコーティングとして固体アセチル化合物を適用してそれらの有効表面積を著しく増大させ、それにより可溶化速度を著しく増大させ、その結果、コーティングにより粒状や粉末よりもPAAを迅速に生成できる(図5)。繊維状材料上に固体アセチル化合物を被覆するためには、アセチル化合物をメタノール、アセトニトリルもしくはそれらの混合物、またはエタノールとアセトニトリルの混合物などのような汎用の揮発性有機溶媒に高濃度で溶解しなければならない。我々の実験結果によれば、TAEDはこれらの溶媒にあまり溶けないが、SOAとGPAは非常に溶け易いので非常に薄い層で繊維上にコーティングできることが示唆される。
固-液製剤は2部から成り、1つは原料が木質のティッシュなどの繊維状材料にコーティングされた固体アセチル化合物、およびpH緩衝剤(炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物)および必要に応じてポリエステルフェルトなどの繊維状材料にコートされる過酸化物安定化剤を含む固体部であり、他の部は、HPおよび水、必要に応じてアルコールや界面活性剤などを含む液体部である。固体部は小さなプラスチックボトルに詰められ、液体部は比較的大きなプラスチックボトルに詰められる(図9)。各部の有効期間は25℃で2年以上である。製品を使用するには、小さいボトル中の固体部を比較的大きなボトルを満たすHP溶液である液体部に加え、1分間振とうした後、約4~10分間活性化させる。得られる溶液は、高レベルな殺菌剤である。待ち時間は、温度によって異なる。温度が高いほど、待ち時間が短くなる。勿論、固形アセチル濃度の濃度を上げれば、待ち時間を短くできるが、PAAの最大濃度が高くなる。通常0.2%を超える高PAA濃度は、許容できない刺激を生じ、公衆、家庭およびヘルスケアなどの用途には適さない。より重要なことに、この製剤および製品は、持ち運びや使用者による使用に非常に便利である。
繊維状材料は、製品および混合溶液中の成分と反応してはならない。純粋な綿繊維状材料は、過酢酸と反応するので好ましくない。ポリエステルフェルトは、PAAとの反応速度が綿よりもかなり遅いため、純粋な綿素材よりも優れています。我々の実験結果によれば、それらが溶液中のPAAおよび他の化合物とほとんど反応しないので、白い原料木質ティッシュが最良の材料であることが示されている。
【0075】
固体部の製造
最初に、固体アセチル化合物を適切な有機溶媒または有機溶媒の混合物に溶解し、次いで原料である木質ティッシュに移す。ティッシュ上の溶液は広い範囲に拡散され、そして次に乾燥される。面積は溶媒によって異なる。通常、面積の大きさは、アセトニトリル>アセトニトリル/メタノール>アセトニトリル/エタノール>メタノールである。溶媒を節約するために、アセチル化合物の濃度は可能な限り高くあるべきであるが、拡散領域の大きさを考慮しなければならない。実際の適用のためには、ティッシュ上のアセチル化合物負荷密度は1~4mg/cm2である。また、塩基混合物の溶液、または塩基と過酸化物安定化剤との溶液混合物をフェルトに移してから乾燥させる。乾燥したティッシュとフェルトは一緒に圧縮され、固体部を構成する(図9)。
【0076】
固-液製剤の例
図9は、一般用、食品用、家庭用、ヘルスケア用などの一般消毒に使用できる、25mLおよび200mL製品の固形部の構成と固-液製剤の外観を示している。
固-液製剤の代表的な組成を表5に示す。各成分の濃度を変えることで、様々な用途に使用できる。
【0077】
【表5】
*DW:脱イオン水;**SAC:固形アセチル化合物,***RWT:原料木質ティッシュ。
すべての固体化合物は、B部(固体部)を構成するティッシュまたはフェルトにコーティングされている。
【0078】
(1)固体アセチル化合物の選択
この選択では、SOA、GPA、およびTAEDを試験した。TAEDは一般的な有機溶剤には溶けないため、コーティング試験を行うことはできない。SOAおよびGPAは、類似の被覆特性を示した。これは、両方とも非常に薄い層で繊維上に被覆できることを意味する。PAA製造テストでは、PAA生成率とPAA変換率に関して、GPAはSOAよりも反応性が高いように見えた(表6)。この試験結果によれば、GPAは、固-液製剤のPAA活性化剤としてSOAよりも適している。
【0079】
【表6】
【0080】
アセチル化合物以外の他の条件は同じであった。温度は20℃であり、初期pHは9.04であった。
アセチル基濃度(M)=アセチル化合物濃度(M)×アセチル基数
*変換率=最大PAA濃度(M)/初期アセチル基濃度(M)×100
【0081】
固-液製剤のPAA活性化剤として使用されるSOAとGPAの実際の例を、それぞれ表7と表8に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
(2)PAA生成における温度と反応時間の影響
液-液製剤と同様に、温度はPAA生成速度に影響を与える。SOAをPAA活性化剤として使用したときのPAA生成速度と可使時間に対する温度の影響を図10に示す。一般的に、20~30℃の温度で高レベルの消毒剤を得るにはA部とB部を混合してから6~10分かかる(図10a)。可使時間は、添加剤にもよるが25℃で少なくとも8日である(図10b)。GPAをPAA活性化剤として使用する場合、添加剤にもよるが、高水準消毒剤として使用するのに約5分かかり(図11a)、その可使時間は20℃で10日以上である(図11b)。SOAと同様に、GPAからのPAA生成率は依然として温度に依存し、温度が低いほど待ち時間が長くなる。
【0085】
(3)PAA生成におけるHP濃度の影響
上記のように、非平衡法によるPAA形成は、アセチル化合物およびHPの濃度、並びにpHに依存する。図12は、HP濃度が20℃でPAA生成率にどのように影響するかを示す。HP濃度を上げるとPAA生成率が上がると予想される。しかし、公衆、家庭、皮膚および創傷治療用途に使用される消毒剤として、許容されるHP濃度は6%未満であるべきであり、快適濃度は4%未満であり、約3%が理想的である。漂白剤として使用される場合、HP濃度は6%よりはるかに高くてもよい。
【0086】
(4)PAA生成と可使時間に対するCTACとHEDPの影響
我々の実験結果は、CTACがPAA形成速度を速めることができるが、可使時間に悪影響を及ぼすであろうことを示している(図8,11,13)。試験結果は、GPAがPAA生成率に対してSOAよりもCTACに敏感ではないことを示している(図11aと図13との比較)。PAA可使時間に対するHEDPの効果は、液-液製剤と同様であり、PAAを安定化させそしてPAA形成をわずかに加速させることができる。
【0087】
(5)塩基の選択
塩基がPAAの可使時間に影響を与えないのであれば、初期pHを調整するために任意の塩基を選択できる。我々の試験結果は、炭酸塩がPAAを安定化できることを示している。同じpHでは、PAA安定剤が含まれていなければ、炭酸ナトリウムが水酸化ナトリウムよりもPAA安定化には好ましい。水酸化ナトリウムは炭酸ナトリウムよりも強い塩基であり、低分子量であるため、水酸化ナトリウムは炭酸ナトリウムよりも残渣を生成させないので、残渣を減少させるために、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合物を用いてpHを調整する。
【0088】
(6)殺菌力
試験結果を表9に示す。これらの試験では、PAA活性化剤としてSOAまたはGPAを含む固-液製剤を使った。
【0089】
【表9】
試験データは、公認試験所、寧波入国検査検疫局技術センター、広州CAS試験技術サービス有限公司、中華人民共和国から得た。
*:ACCT9372
**:殺菌効果(Killing Efficacy)。コロニー形成単位(CFU)の対数減少。A部とB部を10分間混合して使用した消毒剤。消毒液の組成を表8または表9に示す。試験温度は20℃。
【0090】
【表10】
試験データは、中国の認可研究所、寧波入国検査および検疫局技術センターから得た。
【0091】
主な発明の概要
(1)本発明者らは、水溶液中の不溶性固体アセチル化合物の一時的溶解度を増大させることによってPAAの生成速度を有意に増大させるための組成物と方法を提供する。この方法は、最初にアルコールと水の混合物に不溶性固体酢酸化合物を溶解し、次にそれを水溶液と混合してその実際の溶解度よりもはるかに大きい一時的溶解度を得るためのものである。
(2)本発明者らは、水溶液中の不溶性固体アセチル化合物の可溶化速度を増加させることによってPAAの生成速度を有意に増加させるための組成物と方法を提示する。この方法は、繊維状材料の表面に不溶性の固体アセチル化合物をコーティングのため塗布してその有効表面積を増大させ、それによって水溶液中でのその可溶化速度を増大させるものである。
【0092】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】