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特表2022-535192多能性細胞凝集体およびそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】多能性細胞凝集体およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20220729BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20220729BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220729BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N11/04
C12N15/113 Z
C12M1/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565907
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 IL2020050528
(87)【国際公開番号】W WO2020230138
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/847,345
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】521193290
【氏名又は名称】アレフ ファームス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラボン,ネタ
(72)【発明者】
【氏名】トビア,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ボカノフスキー,アンナ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA08
4B029GB04
4B033NA16
4B033NB43
4B033NB46
4B033NB49
4B033NB50
4B033NB54
4B033NB66
4B033NC06
4B033ND20
4B033NF06
4B033NG05
4B033NH04
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB34
4B065BC41
4B065BC46
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、特に様々な用途に適した凝集体の形態での、非ヒト動物に由来する多能性幹細胞の大量生産のための組成物および方法、特に細胞増殖肉培養物および細胞ベースの肉製品の生産で使用するためのウシ由来の多能性幹細胞の凝集体の大量生産に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来の多能性幹細胞(PSC)の凝集体を産生する方法であって、
a.増殖培地中に少なくとも1つのPSCを播種して、播種懸濁培養物を形成するステップであって、前記増殖培地が、増殖因子bFGFと、(i)少なくとも1つのさらなる増殖因子ならびに(ii)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)、PD 0325901(C16H14F3IN2O4)、およびA 83-01(C25H19N5S)からなる群から選択される少なくとも1つの小分子のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む無血清液体培地である、形成するステップと、
b.凝集体形成および凝集体増殖を可能にする条件下で前記懸濁培養物を増殖させ、それによって前記PSCの均質な凝集体を形成するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記播種および増殖が、本質的に細胞接着能力を有しない材料の壁を有する容器内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのPSCが、新鮮な細胞または凍結ストックから得られた細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁培養物を増殖させるステップ(b)が、前記形成された均質な凝集体をより小さな凝集体および/または単一細胞に脱凝集させ、前記より小さな凝集体および/または単一細胞を再凝集させて、均質な凝集体を再形成するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記均質な凝集体を脱凝集させることが、前記凝集体を解離試薬および/または解離力に曝露することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
再凝集させることが、前記増殖培地中に前記より小さな凝集体および/または単一細胞を播種することを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記形成された均質な凝集体をより小さな凝集体および/または単一細胞に脱凝集させ、前記より小さな凝集体および/または単一細胞を再凝集させる前記ステップが、少なくとも1回反復される、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記形成された均質な凝集体をより小さな凝集体および/または単一細胞に脱凝集させ、前記より小さな凝集体および/または単一細胞を再凝集させる前記ステップが、約10細胞/ml~10細胞/mlの細胞濃度に達するまで反復される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
播種および再凝集させる前記ステップが、前記増殖培地にRho関連プロテインキナーゼ(Rock)の阻害剤を添加することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が閉鎖系で実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の前記阻害剤が、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン(porcupine)阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の前記阻害剤がIWR1である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記増殖培地が、bFGFおよび少なくとも1つの小分子を含む組み合わせを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記増殖培地が、前記増殖因子bFGFおよび前記小分子IWR1からなる組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記増殖培地が、前記増殖因子bFGFならびに前記小分子IWR1およびCHIR 99021からなる組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのさらなる増殖因子が、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)スーパーファミリーのタンパク質である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記TGF-βが、TGF-β-1、TGFβ-3、アクチビン-Aおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記増殖培地が、bFGF、ならびにTGF-β-1、TGFβ-3、およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記増殖培地が、前記増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGFβ-3、およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびに前記小分子IWR1からなる組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記PSCを播種するステップ(a)が、粒子内に前記少なくとも1つのPSCを封入し、前記増殖培地内に複数の前記粒子を播種することをさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記粒子が、少なくとも1つの外側シェル層によって囲まれた前記少なくとも1つのPSCを含む内側コアを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの外側シェル層が、流体透過性食品グレードの溶解性材料である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記食品グレードの溶解性材料が、ポリマー、ポリマー前駆体、コポリマー、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記内側コアが、少なくとも1つの遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの増殖を支持する少なくとも1つの化合物をさらに含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
増殖を支持する前記少なくとも1つの化合物が、徐放性および/または持続放出製剤中で製剤化される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記封入されたPSCが前記内部コア内で増殖して、前記粒子内にPSC凝集体を形成する、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記懸濁培養物が、動的回転下、静的条件下、またはそれらの組み合わせでインキュベートされる、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記懸濁培養物が、前記細胞が由来する非ヒト動物種の体温である温度で増殖される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記懸濁培養物の体積が、容器当たり約50ml~約15,000リットルである、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
形成された前記PSC凝集体が、約50μm~約500μmの平均直径を有する、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記非ヒト動物が、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記有蹄動物が、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記非ヒト動物のPSCが、人工PSC(iPSC)、胚性幹細胞(ESC)および非胚性幹細胞(ESC)からなる群から選択される、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記非ヒト動物がウシであり、前記ウシのPSCが、
i.少なくとも1つのウシの初期胚を得るステップと、
ii.前記少なくとも1つの初期胚を培養して、胚盤胞または増強された胚盤胞期に到達させるステップと、
iii.前記胚盤胞から少なくとも1つの細胞を得るステップと、
iv.前記増殖因子bFGFと、(i)少なくとも1つのさらなる増殖因子(ii)前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)、PD 0325901(C16H14F3IN2O4)、およびA 83-01(C25H19N5S)からなる群から選択される少なくとも1つの小分子のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む培養培地中で前記少なくとも1つの細胞を培養して、複数のウシ由来の胚性幹細胞を得るステップと、を含む方法によって産生された胚性幹細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つのウシの初期胚が、胚フラッシング手順によって得られる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記iPSCが、
a.再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAと、
b.少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAと、
の組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記方法が、前記少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記二本鎖マイクロRNAが、miR-302a、miR-302b、miR-302c、miR-302d、miR-367、miR-218、miR-449bおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記iPSCが、
a.再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAと、
b.前記非ヒト動物由来細胞に対して内因性である少なくとも1つのマイクロRNAの少なくとも1つの阻害剤と、
の組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生される、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記方法が、前記少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つの阻害剤が、miR-145に向けられている、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの阻害剤が、RNA阻害(RNAi)分子である、請求項39~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの再プログラミングmRNAが、前記細胞のゲノムに組み込まれていない、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および/または前記少なくとも1つの免疫回避mRNAおよび/または前記少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAおよび/または前記少なくとも1つのmiRNA阻害剤を導入することが、無血清液体増殖培地中で実施され、前記少なくとも1つのmRNAが前記細胞の前記ゲノムに組み込まれていない、請求項36~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記非ヒト動物由来細胞または複数の前記非ヒト動物由来細胞に導入される前記再プログラミングmRNAが、OCT4、SOX2、KLF4、cMYC、NANOG、LIN28、KLF5およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項36~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記非ヒト動物由来細胞または複数の前記非ヒト動物由来細胞に導入される前記免疫回避mRNAが、ワクシニアウイルス由来のE3、K3、B18R[EKB]およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項37または40に記載の方法。
【請求項47】
前記非ヒト動物がウシであり、前記ウシ由来の細胞が、ウシ臍帯、ウシ鼻咽頭粘膜、ウシ血液およびウシ乳から得られる、請求項36~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記均質な凝集体が、少なくとも1つの多能性マーカーを発現する少なくとも70%の細胞を含む、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの多能性マーカーが、ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA4)、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、Sall4転写因子、Nanogホメオボックス転写因子、Lin28A翻訳因子、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
請求項1~49のいずれか一項に記載の方法によって産生された、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの複数の均質な凝集体。
【請求項51】
無血清液体培地および複数の均質な凝集体を含む懸濁液であって、前記凝集体が、少なくとも70%の生存可能な、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCを含む、懸濁液。
【請求項52】
前記遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCが、約16~32時間ごとに分裂している、請求項51に記載の懸濁液。
【請求項53】
前記遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCが、少なくとも1つの多能性マーカーを発現する、請求項51または52に記載の懸濁液。
【請求項54】
前記多能性マーカーが、ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA4)、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、Sall4転写因子、Nanogホメオボックス転写因子、Lin28A翻訳因子、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項53に記載の懸濁液。
【請求項55】
前記PSCが、細胞間接着に寄与する少なくとも1つの表面タンパク質を発現する、請求項51~54のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項56】
前記凝集体が、約200μm~約500μmの平均サイズを有する、請求項51~55のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項57】
前記懸濁液が、約10~約10の、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCを含む、請求項51~56のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項58】
前記非ヒト動物が、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される、請求項51~57のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項59】
前記有蹄動物が、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、およびサイからなる群から選択される、請求項58に記載の懸濁液。
【請求項60】
前記有蹄動物がウシである、請求項59に記載の懸濁液。
【請求項61】
請求項50~60のいずれか一項に記載の、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの前記複数の均質な凝集体、またはそれらを含む懸濁液を含む、細胞増殖肉。
【請求項62】
請求項50~60のいずれか一項に記載の遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの前記複数の均質な凝集体の子孫を含む、細胞増殖肉製品。
【請求項63】
前記子孫が、前記PSCから分化して、筋細胞、間質細胞、内皮細胞および脂肪細胞のうちの少なくとも1つを形成する細胞を含む、請求項62に記載の細胞増殖肉製品。
【請求項64】
PSC、それらの子孫、体細胞およびそれらの組み合わせからなる群から選択される非ヒト動物細胞を脂肪細胞の細胞に分化させるための方法であって、前記方法が、(i)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤、および(ii)少なくとも1つの種類の脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む無血清液体培地中で前記細胞をインキュベートし、それによって前記細胞を脂肪細胞の細胞に分化させることを含む、方法。
【請求項65】
前記培地が、前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤および少なくとも1つの種類の脂肪酸の組み合わせを含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記培地が、増殖因子bFGFをさらに含む、請求項64または65に記載の方法。
【請求項67】
前記培地が、Rock阻害剤をさらに含む、請求項64~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の前記阻害剤が、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される、請求項64~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の前記阻害剤がIWR-1である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記脂肪酸が、遊離脂肪酸、低分子量脂肪酸、それらのエステル、それらの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項64~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記PSCが、脂肪組織から単離された間質幹細胞である、請求項64~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記細胞が、胚筋肉組織に由来する細胞の集団を含む、請求項64~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
胚筋肉組織に由来する前記細胞が、胚線維芽細胞(EF)を含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記非ヒト動物が、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される、請求項64~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記有蹄動物が、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、およびサイからなる群から選択される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記有蹄動物がウシである、請求項75に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に様々な用途に適した凝集体の形態での、非ヒト動物に由来する多能性幹細胞の大量生産のための組成物および方法、特に細胞増殖肉培養物および細胞ベースの肉製品の生産で使用するためのウシ由来の多能性幹細胞の凝集体の大量生産に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜、特に肉生産のためのウシの成長を支援するために、水、穀物、土地、およびエネルギーを含む多くの消費可能な資源が利用されている。世界の急速に増加する人口は、前述の貴重な資産の使用のさらなる増加につながるであろう。したがって、全人口を養うために必要なウシの数を縮小する方法で肉および肉製品を生産することが最も望ましい。主な肉源としてのウシを置き換えることは、ウシ対象を苦しませる混雑した居住環境および時には不適切な状態を防ぐので、倫理的にも有益である。この理由から、細胞増殖肉製品は、人道上の理由で肉を控える人々によって消費される可能性もあり得る。細胞ベースの肉(培養肉(cultured meat)、培養肉(cultivated meat)、細胞増殖肉、クリーンミート、操作された肉、インビトロ肉などとも呼ばれる)も消費される食品含有量を制御する方法であり、今日では、ウシの多くは成長ホルモンを投与されており、それは最終的に消費者の食卓に行き着く。また、培養で肉を生産することは、タンパク質含有量、脂肪の量および組成、鉄、ビタミンB12、亜鉛レベルなどの制御を通じて、肉の栄養価を改善し、より健康にすることができる。さらに、厳格な規制および清浄な条件下でバイオリアクター(または他の培養系)で生産された肉を消費することは、微生物汚染を伝染させる可能性が低く、したがって消費にはより安全である。
【0003】
多能性幹細胞(PSC)は、体内のあらゆる細胞型に分化する能力を維持しながら、分裂することによって自己複製する能力を有する細胞である。胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)の両方は、多能性幹細胞である。ESCは典型的に、着床前の未分化胚芽細胞の内部細胞塊の細胞集団に由来する。人工多能性幹細胞(iPSC)は、PSCの一種であり、それらの多能性の特徴を回復するように再プログラムされた体細胞分化細胞から生成される。Bogliotti et al.(PNAS.2018 11(9):2090-2095)は、線維芽細胞増殖因子2(塩基性線維芽細胞増殖因子、bFGFとしても知られている)および標準的なWntシグナル伝達経路の阻害剤を含有する培養系を利用することによって、安定な形態、トランスクリプトーム、核型、集団倍加時間、多能性マーカー遺伝子発現、およびエピジェネティックな特徴を備えた多能性のウシESC(bESC)が導き出されたことを記載した。
【0004】
細胞のiPSCへの再プログラミングは、2006年にTakahashiおよびYamanakaによって最初に記載された(Takahashi and Yamanaka,Cell 2006,126:663-76)。それ以来、多数の刊行物が、複数の種の様々な細胞型からの、幹細胞のiPSCへの再プログラミングについて記載している(Yu et al.,Science 2007,318:1917-20、Takahashiet et al.,Cell 2007,131:861-72、Ogorerc et al.J Anim Sci Biotechnol 2016,7:10、Ezashi et al.,Annu Rev Anim Biosci.2016,4:223-53)。ウシでは、線維芽細胞が、レトロウイルス/レンチウイルス形質導入、ポリプロモータープラスミドおよびpiggyBacトランスポゾン系を含む、いくつかの方法による再プログラミング因子の組み合わせを使用してiPSCに再プログラムされている(Ogorevc 2016同文献、Han et al,Cell Res.2011,21:1509-12、Huang et al.,Plos One 2011,6:e24501、Cao et al.,Int J Biol Sci.2012,8:498-511、Talluri et al.,Cell Reprogram.2015,17:131-40、Ezashi et al.2016,同文献)。家畜種の細胞を再プログラムするために使用される、より最新の方法(例えば、組み込まれていないウイルスもしくは組み込まれていないエピソームベクターまたはmRNAベースの方法)の報告はない(Ogorevc 2016,同文献)。ウシ細胞では、再プログラミング因子としてのmRNA、小分子、およびタンパク質の使用は示されていない。
【0005】
国際特許出願公開第1999/031223号は、インビトロで動物細胞を工業規模で培養して、ヒトおよび/または動物の消費に適した三次元動物筋肉組織を提供すること、続いて任意選択で、脱骨、臓物および/または腱および/またはすじおよび/または脂肪の除去を必要とせずに、食品を含む肉のための公知のプロセスと類似した細胞培養物を完成品の食品にさらに処理するステップを含む、肉製品を生産するためのプロセスを開示している。好ましくは、肉製品は固化した細胞組織を含み、この細胞は、筋細胞、体節細胞、および幹細胞から選択される。固化した細胞組織を含む肉製品も提供される。
【0006】
国際特許出願公開第2006/041429号および米国特許第6,835,390号は、非ヒト組織工学によって作製された肉製品およびそのような肉製品を生産するための方法を開示している。その肉製品は、エキソビボで増殖し、食品消費に使用される筋細胞を含む。
【0007】
国際特許出願公開第2010/017562号は、iPSC、それを含有する組成物、iPSCを得るための方法、およびiPSCを使用するための方法を提供している。さらに、インビボで組織(例えば、心臓血管組織)を修復するためにiPSCを使用するための方法および材料、ならびに適切な動物モデルにおけるそれらの治療可能性を評価するためにそのような細胞を使用するための方法および材料が提供される。
【0008】
国際特許出願公開第2013/188679号は、mRNAおよびmiRNAの組み合わせが細胞に導入される、iPSCを調製する方法を開示している。
【0009】
国際特許出願公開第2015/066377号は、動物種の自己複製細胞株を筋原性転写因子で修飾して、筋原性転写因子修飾細胞株を産生することを含む、培養された筋肉組織を産生するための方法を開示している。
【0010】
国際特許出願公開第2018/011805号は、細胞を増殖させるためのバイオリアクターチャンバを含む、細胞を増殖させるためのシステムを開示している。この出願はさらに、線維芽細胞を脂肪細胞に変換するのに適した条件下、および/または線維芽細胞を筋細胞に変換するのに適した条件下で、自然に不死化した線維芽細胞を無血清培地中で培養し、それによって食肉を生産することを含む、食肉を生成するインビトロ法を開示している。
【0011】
国際出願公開第2019/016795号は、三次元多孔質足場および複数の細胞型をインキュベートし、筋芽細胞の筋管への分化を誘導することを含む、食用組成物を生産するための方法を開示している。複数の細胞型には、筋芽細胞またはその前駆細胞、細胞外(ECM)分泌細胞および内皮細胞またはそれらの前駆細胞のうちの少なくとも1つの型が含まれる。
【0012】
本出願の優先日後に公開された国際出願公開第2019/140260号は、ゲノム検査および選択ならびに家畜の有蹄動物の遺伝子操作に有用であり、ヒト疾患を研究するための実験ツールとしての、着床前の未分化胚芽細胞または胚由来の多能性細胞の内部細胞塊に由来する有蹄動物の胚性幹細胞(ESC)を得るための方法を開示している。
【0013】
米国特許第9,944,894号は、幹細胞および/または分化細胞を含む細胞凝集体を増殖させ、継代させるための揺動するプラットフォームバイオリアクターでの閉鎖系を開示している。関連する多能性マーカーおよび分化能を伴う、多能性幹細胞および/またはその子孫の閉鎖系連続継代増殖を可能にする方法も開示されている。
【0014】
米国特許第9,834,749号は、基質接着を欠く培養条件下で懸濁培養物中でESCを培養することによって、未分化状態のヒト胚性幹細胞(ESC)を増殖させ、維持する方法を開示している。ESCから系統特異的な細胞を生成するのに有用である。この特許はまた、懸濁培養物中でESC系統を誘導する方法も開示している。
【0015】
非ヒト動物、特にウシに由来する細胞から、遺伝子修飾されていない(GM)細胞増殖肉の大規模生産を可能にするための組成物および方法に対する満たされていない必要性が依然として存在している。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、特に均質な三次元(3D)の遺伝子修飾されていない(GM)凝集体の形態で、非ヒト動物由来の多能性幹細胞(PSC)を大量生産するための組成物および方法を提供する。本発明は、大規模な液体培養条件においてPSCの多能性を維持する、これまで利用できなかった非ヒト動物由来のPSCの連続的なリザーバーを提供する。PSCは、細胞増殖肉製品の成長産業、ならびに細胞の増殖および分化の研究、および新しい非ヒト動物関連薬物の開発のための実験ツールで使用することができる。
【0017】
本発明は、フラッシング手順によって得られた、ウシ由来の多能性細胞、および/またはウシ胚に由来する胚性幹細胞(ESC)が、増殖し、多能性を維持することができ、さらに、増殖因子および小分子の特定の組み合わせが培養培地に添加される場合、大規模な液体培養条件下で3Dの均質な凝集体を形成することができるという予期せぬ発見に部分的に基づく。凝集体内の細胞は、それらの多能性および分裂速度を維持し、それによって凝集体の直径が増加し、非ヒト動物由来細胞についてこれまで報告されていなかった、液体培養物1リットル当たり10~1012細胞の最終濃度に達する多能性幹細胞の大量生産がもたらされる。
【0018】
あらゆる特定の理論または作用機序に拘束されることを望まないが、多能性幹細胞の大量生産および凝集体形成は、非ヒト動物細胞、特にウシ細胞の供給源、増殖因子および小分子の組み合わせを含む特有の無血清培地、ならびにさらに細胞の凝集および脱凝集のステップが行われる閉鎖系の使用、および非ヒト動物の体温と適合するインキュベーション温度を含む、増殖設定のシステムに起因し得る。
【0019】
特定の態様では、本発明の3D非ヒト動物由来のPSC凝集体は、細胞増殖肉製品のための供給源である。特定の例示的な実施形態によれば、PSCはウシ由来の細胞である。
【0020】
一態様によれば、本発明は、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来の多能性幹細胞(PSC)の凝集体を大量生産する方法であって、(a)増殖培地中に少なくとも1つのPSCを播種して、懸濁培養物を形成するステップであって、増殖培地が、増殖因子bFGF、少なくとも1つのさらなる増殖因子ならびに/またはWnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)、PD 0325901(C16H14F3IN2O4)、およびA 83-01(C25H19N5S)からなる群から選択される少なくとも1つの小分子の組み合わせを含む無血清液体培地である、形成するステップと、(b)凝集体形成および凝集体増殖を可能にする条件下で懸濁培養物を増殖させ、それによってこのPSCの均質な凝集体を形成するステップと、を含む、方法を提供する。
【0021】
特定の実施形態によれば、播種および増殖は、PSCおよび/またはそれらを含む凝集体が接着しない材料の壁を有する容器内である。PSC凝集体は、不活性化フィーダー細胞、有機細胞外マトリックス、フィーダー細胞馴化培地および/またはマイクロキャリアを添加することなく、容器内で形成されることが明確に理解されるべきである。したがって、PSCおよび/またはそれらを含む凝集体は、懸濁培養物内で遊離しており、表面に接着していない。特定の実施形態によれば、容器はバイオリアクターである。
【0022】
特定の実施形態によれば、均質な凝集体は、少なくとも1つの多能性マーカーを発現する少なくとも70%の細胞を含む。
【0023】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの多能性マーカーは、ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA4)、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、Sall4転写因子、Nanogホメオボックス転写因子、翻訳因子Lin28A、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。特定の例示的な実施形態によれば、多能性マーカーはSSEA4である。
【0024】
特定の実施形態によれば、懸濁培養物を増殖させるステップ(b)は、形成された均質な凝集体をより小さな凝集体および/または単一細胞に脱凝集させ、より小さな凝集体および/または単一細胞を再凝集させて、均質な凝集体を再形成するステップを含む。
【0025】
特定の例示的な実施形態によれば、均質な凝集体を脱凝集させることは、この凝集体を解離試薬および/または解離力に曝露することを含む。いくつかの実施形態によれば、解離試薬は、少なくとも1つのタンパク質分解酵素、ならびに任意選択で少なくとも1つのDNA分解酵素および/またはキレート剤を含む。特定の実施形態によれば、キレート剤は、EDTAおよびEGTAから選択される。いくつかの例示的な実施形態によれば、タンパク質分解酵素はトリプシンである。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、解離力は剪断力である。特定の実施形態によれば、剪断力率は、容器内に埋め込まれたインペラによって設定される。
【0027】
特定の実施形態によれば、脱凝集させるステップは、この凝集体を、解離試薬および/または解離力に曝露する前に、水性洗浄媒体で均質な凝集体を洗浄することをさらに含む。
【0028】
特定の実施形態によれば、再凝集させるステップは、増殖培地中により小さな凝集体および/または単一細胞を播種することを含む。
【0029】
特定の実施形態によれば、播種および再凝集させるステップは、Rho関連プロテインキナーゼ(Rock)の阻害剤を培地に添加することをさらに含む。
【0030】
特定の実施形態によれば、凝集体の産生全体は、閉鎖系で実施される。閉鎖系の使用は、無菌環境および自動化プロセスを維持することを可能にする大規模でのPSC凝集体の大量生産において大きな利点がある。特定の実施形態によれば、ステップまたは脱凝集および再凝集は、閉鎖系を維持する形態でバイオリアクターに接続された別個の容器内で実施される。特定の実施形態によれば、容器は細胞保持デバイスである。
【0031】
特定の実施形態によれば、脱凝集および再凝集させるステップは、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回およびそれ以上反復される。反復の数は限定されなくてもよく、意図する使用に必要とされるPSCの数に依存することは明確に理解されるべきである。特定の例示的な実施形態によれば、PSC凝集体が細胞増殖肉の生産のためである場合、凝集体形成および脱凝集は、約10細胞/ml~約10細胞/mlの最終細胞濃度に達するまで反復される。特定の実施形態によれば、凝集体の形成および脱凝集は、約5×10~約5×10細胞/mlの最終細胞濃度に達するまで反復される。
【0032】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのさらなる増殖因子は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β、TGFB)スーパーファミリーのタンパク質である。特定の実施形態によれば、TGF-βは、TGF-β-1、TGF-β-3、アクチビン-Aおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよびTGF-βを含む組み合わせを含む。
【0034】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つのさらなる増殖因子からなる組み合わせを含む。特定の例示的な実施形態によれば、さらなる増殖因子は、TGF-βスーパーファミリーのタンパク質である。特定の実施形態によれば、TGF-βは、TGF-β-1、TGF-β-3、アクチビン-Aおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つの小分子からなる組み合わせを含む。
【0036】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン(porcupine)阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0037】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はIWR1である。
【0038】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFおよびTGF-βスーパーファミリーのタンパク質、ならびにIWR1、CHIR 99021、PD 0325901、A 83-01、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される小分子の組み合わせを含む。
【0039】
特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1の組み合わせを含む。いくつかの実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0040】
さらに特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFおよび小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0041】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFならびに小分子IWR1およびCHIR 99021を含む組み合わせを含む。特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFならびに小分子IWR1およびCHIR 99021からなる組み合わせを含む。
【0042】
さらなる例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、ならびにIWR1、CHIR 99021、PD 0325901およびA 83-01からなる小分子の組み合わせを含む。
【0043】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、動物由来の成分をさらに含まない。
【0044】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水性動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0045】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0046】
特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。いくつかの例示的な実施形態によれば、ウシは、Bos Taurus種のものである。
【0047】
特定の実施形態によれば、PSCはウシ由来胚性幹細胞(ESC)である。
【0048】
特定の例示的な実施形態によれば、ウシ由来の胚性幹細胞は、
(1)少なくとも1つのウシの初期胚を得るステップと、
(2)少なくとも1つの初期胚を培養して、胚盤胞または増強された胚盤胞期に到達させるステップと、
(3)胚盤胞から少なくとも1つの細胞を得るステップと、
(4)増殖因子bFGFと、(i)少なくとも1つのさらなる増殖因子(ii)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)、PD 0325901(C16H14F3IN2O4)、およびA 83-01(C25H19N5S)からなる群から選択される少なくとも1つの小分子のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む培養培地中で少なくとも1つの細胞を培養して、複数のウシ由来の胚性幹細胞を得るステップと、を含む方法によって産生される。
【0049】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのウシの初期胚は、胚フラッシング手順によって得られる。
【0050】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのウシの初期胚は凍結胚である。これらの実施形態によれば、凍結胚は培養前に解凍される。
【0051】
当技術分野で公知であり、本明細書上記に記載されるような任意の方法によって産生された増殖培地中に播種された少なくとも1つのPSCは、新鮮なPSCであり得るか、または凍結ストックから取得され得ることは明確に理解されるべきである。
【0052】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0053】
特定の例示的な実施形態によれば、培地は、bFGFおよびIWR1を含む。
【0054】
特定の実施形態によれば、PSCは、非ヒト動物細胞から再プログラムされた人工PSC(iPSC)である。特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物は哺乳動物である。さらに特定の例示的な実施形態によれば、哺乳動物はウシである。
【0055】
他の実施形態によれば、PSCは非胚性幹細胞(ESC)である。
【0056】
特定の例示的な実施形態によれば、遺伝子修飾されていないPSCは、(a)再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAの組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生された再プログラムされた非ヒト動物由来細胞である。
【0057】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0058】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNAは、合成的に修飾されたmRNAである。
【0059】
特定のさらなる例示的な実施形態によれば、PSCは、(a)再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)非ヒト動物由来細胞に対して内因性である少なくとも1つのマイクロRNAの少なくとも1つの阻害剤の組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生された再プログラムされた非ヒト動物由来細胞である。
【0060】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0061】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNAは、合成的に修飾されたmRNAである。
【0062】
本発明の教示によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNAは細胞のゲノムに組み込まれず、それによって産生されたiPSCは遺伝子修飾されていない。
【0063】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および/または少なくとも1つの免疫回避mRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAおよび/または少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤を導入することは、無血清液体増殖培地中で実施される。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、この方法は、無血清液体増殖培地中で産生された少なくとも1つのiPSCを培養して、複数のiPSCを形成することをさらに含む。無血清液体増殖培地は、本明細書上記のとおりである。いくつかの実施形態によれば、使用される無血清液体増殖培地には、Rock阻害剤が補充される。
【0065】
いくつかの実施形態によれば、非ヒト動物由来細胞または複数の非ヒト動物由来細胞に導入される再プログラミングmRNAは、OCT4、SOX2、KLF4、cMYC、NANOG、LIN28、KLF5およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される再プログラミング因子をコードする。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0066】
さらに別の実施形態によれば、二本鎖マイクロRNAは、miR-302a、miR-302b、miR-302c、miR-302d、miR-367、miR-218、miR-449b、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0067】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤は、RNA阻害(RNAi)分子である。特定の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤は、miR-145を標的とする。
【0068】
特定の実施形態によれば、使用される場合、非ヒト動物由来細胞または複数の非ヒト動物由来細胞に導入される免疫回避mRNAは、ワクシニアウイルス由来のE3、K3、B18R[EKB]およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0069】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの非ヒト動物由来細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、37.5~39.5℃の温度でインキュベートされる。
【0070】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される種のものである。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0071】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。
【0072】
特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物はウシである。これらの実施形態によれば、少なくとも1つのウシ由来の細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、ウシの平均体温である約38.6℃でインキュベートされる。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、ウシ臍帯、ウシ鼻咽頭粘膜、ならびにウシ乳および血液から得られる。特定の例示的な実施形態によれば、体細胞のウシ細胞は、非侵襲的技術によって採取される。
【0074】
特定の例示的な実施形態によれば、人工および/または再プログラムされたPSCを産生するために使用されるウシ由来の細胞は、ウシ臍帯から得られ、その細胞は、内皮細胞、臍帯内膜(cord lining)細胞、Wharton’s Jelly細胞、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに追加の実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、肉牛品種のBelgium Blueから得られる。この品種は、ミオスタチン遺伝子の自然変異による二重筋肉表現型を特徴としている。
【0075】
特定の実施形態によれば、PSCは粒子内に封入される。特定の例示的な実施形態によれば、粒子は、本明細書に記載されるように、細胞増殖および増加のための必須の作用物質をさらに含む。本発明の教示による増殖因子および/または小分子を含む粒子内へのPSCの封入は、培地全体の体積で同じ濃度に達するのに必要とされる量と比較して、粒子内の特定の濃度に達するのに必要とされ得る少量のこれらの作用物質に起因する、生産コストの大幅な削減を提供することができる。
【0076】
したがって、特定の実施形態によれば、少なくとも1つのPSCを播種するステップ(a)は、粒子内にこのPSCの少なくとも1つを封入し、増殖培地内に複数の粒子を播種することをさらに含む。
【0077】
特定の実施形態によれば、粒子は、少なくとも1つの外側シェル層によって囲まれた少なくとも1つのPSCを含む内側コアを含む。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、流体透過性の食品グレードの材料のものである。特定の実施形態によれば、流体透過性の食品グレードの材料は溶解可能である。これらの実施形態によれば、封入は可逆的であり、外側シェル層の溶解時に粒子内に形成されたPSC凝集体の放出をもたらす。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、少なくとも1つの食品グレードのプレポリマーおよび/またはポリマーおよび/またはコポリマーを含む。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、少なくとも1つのヒドロゲルから構成される。特定の実施形態によれば、ヒドロゲルは、細胞増殖の温度で外側シェル層を形成する熱可逆性ヒドロゲルである。特定の実施形態によれば、食品グレードのポリマーは、アルギネート、ゲランガム、寒天、アガロース、キトサン、ヒアルロン酸、カードラン、カラギーナン、ペクチン、加工デンプン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0078】
特定の実施形態によれば、内側コアは、少なくとも1つのPSCの増殖を支持する微小環境を提供する。特定の実施形態によれば、内側コアの微小環境は、少なくとも1つのPSCの増殖を支持する少なくとも1つの化合物を含む。いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの作用物質は、当技術分野で知られているように、徐放性および/または持続放出製剤で製剤化される。
【0079】
特定の例示的な実施形態によれば、内側コアは、増殖因子bFGFと、(i)少なくとも1つのさらなる増殖因子、ならびに(ii)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C22H18Cl2N8)、PD 0325901(C16H14F3IN2O4)、およびA 83-01(C25H19N5S)からなる群から選択される少なくとも1つの小分子のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む。増殖因子および/または小分子の組み合わせは、本明細書上記のとおりである。
【0080】
特定の実施形態によれば、封入されたPSCは、内側コア内で増殖して粒子内でPSC凝集体を形成する。
【0081】
特定の実施形態によれば、懸濁培養物は、動的回転下、静的条件下、またはそれらの組み合わせでインキュベートされる。
【0082】
特定の例示的な実施形態によれば、懸濁培養物は、動的回転条件下でインキュベートされる。
【0083】
本発明はここで、プロセス全体を通して細胞が由来する種の体温である温度で増殖培地を維持することが、細胞増殖および多数の細胞を含む凝集体を得るために重要であることを示す。
【0084】
特定の実施形態によれば、インキュベーションは、37.5~39.5℃の温度で実施される。
【0085】
非ヒト動物がウシである、特定の例示的な実施形態によれば、インキュベーション温度は、ウシの平均体温である約38.6℃である。
【0086】
特定の実施形態によれば、バイオリアクターの体積は、約50ml~約15,000リットルの体積で懸濁培養物を含有するのに適合している。
【0087】
いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、約100ml~約15,000リットルである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、約1リットル~約15,000リットルである。
【0088】
本発明の方法の利点は、すべてのステップが商業規模の体積で実施できることである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、バイオリアクター当たり約1,000リットル~約15,000リットルである。
【0089】
特定の実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約30μm~約500μmの平均直径を有する。特定の実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約30μm~約550μmの平均直径を有する。特定の例示的な実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約100μm~約350μmの平均直径を有する。
【0090】
特定の実施形態によれば、凝集体は、少なくとも1つの多能性マーカーを発現するPSCを含む。特定の実施形態によれば、少なくとも1つの多能性マーカーは、ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA4)、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、Sall4転写因子、Nanogホメオボックス転写因子、翻訳因子Lin28A、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。特定の例示的な実施形態によれば、多能性マーカーはSSEA4である。
【0091】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明の方法に従って産生された遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体を提供する。
【0092】
特定の実施形態によれば、均質な凝集体の平均直径は、約30μm~約500μmである。特定の実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約30μm~約550μmの平均直径を有する。特定の例示的な実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約100μm~約350μmの平均直径を有する。
【0093】
別の態様によれば、本発明は、無血清液体培地および非ヒト動物由来の細胞凝集体を含む懸濁液を提供し、その凝集体は、少なくとも70%の生存可能な遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCを含む。
【0094】
特定の実施形態によれば、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCは、約16~32時間ごとに分裂している。
【0095】
特定の実施形態によれば、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCは、少なくとも1つの多能性マーカーを発現する。
【0096】
特定の実施形態によれば、多能性マーカーは、ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA4)、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、Sall4転写因子、Nanogホメオボックス転写因子、翻訳因子Lin28A、DNAメチルトランスフェラーゼDnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0097】
特定の例示的な実施形態によれば、懸濁液内の凝集体は、約200μm~約500μmの平均サイズを有する。
【0098】
特定の例示的な実施形態によれば、懸濁液内の凝集体は、約200μm~約350μmの平均サイズを有する。
【0099】
特定の実施形態によれば、懸濁液は、約10~約10/mlの遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCを含む。
【0100】
特定の実施形態によれば、凝集体のPSCは、細胞間接着に寄与する少なくとも1つの表面タンパク質を発現する。
【0101】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水性動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0102】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、およびサイからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0103】
特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。いくつかの例示的な実施形態によれば、ウシは、Bos Taurus種のものである。
【0104】
本発明のPSC凝集体は、それ自体、例えば、実験および研究ツールとして、またはさらなる使用のための出発材料として使用することができる。
【0105】
特定の実施形態によれば、本発明のPSC凝集体は、細胞増殖肉の産業における凝視材料として使用することができる。これらの実施形態によれば、PSCは、脂肪細胞の細胞、筋細胞、間質細胞、および内皮細胞系統のうちの少なくとも1つにさらに分化される。
【0106】
さらに別の態様によれば、本発明は、本発明の教示による、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体、またはそれらを含む懸濁液を含む、細胞増殖肉培養物を提供する。
【0107】
さらに追加の態様によれば、本発明は、本発明の遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体の子孫を含む、細胞増殖肉製品を提供する。特定の実施形態によれば、子孫は、PSCから分化して、筋細胞、間質細胞、内皮細胞、および脂肪細胞のうちの少なくとも1つを形成する細胞を含む。
【0108】
さらに別の態様によれば、本発明は、PSC、それらの子孫、体細胞およびそれらの組み合わせからなる群から選択される非ヒト動物細胞を脂肪細胞の細胞に分化させるための方法であって、その方法が、(i)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤、および(ii)少なくとも1つの種類の脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む無血清液体培地中で細胞をインキュベートし、それによってこの細胞を脂肪細胞の細胞に分化させることを含む、方法を提供する。
【0109】
特定の実施形態によれば、培地は、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤および少なくとも1つの種類の脂肪酸の組み合わせを含む。
【0110】
特定の実施形態によれば、培地は、増殖因子bFGFをさらに含む。特定の実施形態によれば、培地は、Rock阻害剤をさらに含む。
【0111】
特定の実施形態によれば、細胞のインキュベーションは少なくとも4日間である。
【0112】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。
【0113】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤はIWR-1である。
【0114】
特定の実施形態によれば、脂肪酸は、遊離脂肪酸、低分子量脂肪酸、それらのエステル、それらの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0115】
特定の実施形態によれば、PSCは、人工PSC(iPSC)および胚性幹細胞からなる群から選択される。
【0116】
特定の実施形態によれば、PSC誘導体は、脂肪組織から単離された間質幹細胞である。
【0117】
特定の実施形態によれば、細胞は、胚性筋肉組織に由来する細胞の集団を含む。特定の実施形態によれば、胚性筋肉組織に由来する細胞の集団は、胚線維芽細胞(EF)を含む。
【0118】
特定の実施形態によれば、分化される細胞は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される非ヒト動物に由来する。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0119】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0120】
特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。
【0121】
本明細書に開示される態様および実施形態のそれぞれの任意の組み合わせは、本発明の開示内に明示的に包含されることを理解されたい。
【0122】
本発明の他の目的、特性および利点は、以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0123】
図1】フラシングしたウシ胚(bESC)に由来する胚性幹細胞を示す。図1Aは、透明帯から単離され、播種の1日後にフィーダー層に付着した初期胚の代表的な形態を示す。図1Bは、播種の5日後にESC様の形態で細胞の遊走が見られることを示す。
図2】フィーダー層としての不活性化マウス胚線維芽細胞(iMEF)での、2.5μMのIWR1を補充した無血清培地mTeSR1(登録商標)中でのbESCの増殖を示す。
図3】増殖したbESCの多能性を示す。図3Aは、フローサイトメトリーによるSSEA4抗体でのAlp 0501(17回の実験)およびAlp 0505(5回の実験)の陽性染色のパーセンテージを示す。図3Bは、リアルタイムPCRによって測定したBEFでの発現と比較した多能性マーカーの発現を示す。
図4】フローサイトメトリーによって測定した、フィーダーを含まない培養物中で増殖させたbESCによる多能性マーカーSSEA4の発現率を示す。図4A:PSC系統Alp 0501。図4B:PSC系統Alp 0505。
図5】多能性マーカー(Oct4)の発現対中胚葉マーカー(Brachyury)の発現によって決定した、bESC系統Alp 0501およびAlp 0505の分化能を示した。
図6】6ウェルプレートでのbESC凝集体の形成および増殖を示す。図6A;懸濁液中の播種の1日後。図6B:懸濁液中の播種の2日後。図6C:懸濁液中の播種の7日後。代表的な画像、スケールバー=200μm。
図7】撹拌槽型(STR)バイオリアクターにおけるbESCの凝集発生率(生/生細胞%)を示す。
図8A-8C】増殖の1、3および4日後の撹拌槽型(STR)バイオリアクターにおけるbESC凝集体の増殖を示す(それぞれ、図8A~C)。代表的な画像、スケールバー=650μm。
図8D-8E】細胞濃度および生存率(図8D)ならびに平均凝集体直径(図8E)を示す。多能性(SSEA4%発現として表される)の経時変化を図8Eに示す。
図9】脱凝集および再凝集のプロセスを示す。図9Aは、脱凝集の原料として機能する3日齢の凝集体を示す。図9Bは、解離試薬を含む培地中に再播種された図9Aの凝集体から得られた小さな凝集体/単一細胞から形成された凝集体を示す。代表的な画像、スケールバー=650μm。
図10】臍帯細胞の単離における様々な段階の代表的な写真を示す。図10A;臍帯(UC);図10B:Wharton’s Jelly;図10C:組織切片;図10D:単離されたUC細胞。
図11】BEFの培養物内の細胞から分化した脂肪細胞の代表的な写真を示す。Oil red Oによる染色により、分化した細胞は暗く見える。Oil red Oはトリグリセリドおよび脂質を染色する。
図12】12ウェルプレート中のiMEFでのbiPSCクローンの増殖を示す。図12A:トランスフェクションの2週間後の胚性幹細胞(ES)様コロニー。図12B:ビトロネクチンでコーティングされた表面への適応後のウシES様コロニー形態を示す明視野画像。図12C:エピソームCoMiPプラスミドは、ウシ宿主ゲノムに組み込まなかった。
図13】mCherryおよびウシのOCT4の発現によって示される、修飾されたmRNAで効率的にトランスフェクトしたBEF細胞を示す。ウシのOSKM、mCherryおよびB18Rをコードする修飾されたmRNAでトランスフェクトしたBEF細胞の蛍光(図13A)および明視野(図13B)画像。蛍光画像は、最初のmRNAトランスフェクションの24時間後のトランスフェクション効率を示す。図13C:未処理のBEF細胞、iBEF細胞(再プログラミングを誘導するためのウシのOSKMをコードする修飾されたmRNAでトランスフェクトしたBEF細胞)およびヒトiPSC細胞におけるウシのOCT4転写産物のqPCR分析。値は、未処理のBEF細胞(RQ=1)と比較され、ウシのベータアクチンに対して正規化される。
【発明を実施するための形態】
【0124】
本発明は、培地に添加された増殖因子および小分子の特定の組み合わせを含み、細胞接着表面を欠く、液体無血清培地中に懸濁した非ヒト動物由来のPSCから商業規模で均質な3D凝集体を形成するための方法を提供する。
【0125】
本発明は、大規模な条件下で、非ヒト動物、特にウシに由来するPSCから食品消費のための非GM細胞増殖肉を生産するという長年にわたる要求を満たす。
【0126】
定義
「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する」という用語およびそれらの変化形は、「含むが、それらに限定されない」ことを意味する。
【0127】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他の意味を示さない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「化合物」または「少なくとも1つの化合物」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含み得る。
【0128】
本出願を通して、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で提示され得る。範囲形式での説明は、単に便宜および簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、すべての可能な部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、ならびに例えば、1、2、3、4、5、および6などのその範囲内の個々の数字を有するとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0129】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、数字表示の+10%または-10%の数字表示の変動を指す。
【0130】
由来する細胞に関する「動物」および「非ヒト動物」という用語は、本明細書では互換的に使用され、非ヒト動物の細胞のみを指す。
【0131】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、無制限に増殖することができ、体内にすべての他の細胞型を生じさせることができる細胞を指す。
【0132】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞(iPSC)」という用語は、体細胞から直接生成され得るタイプの多能性幹細胞を指す。
【0133】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞(ESC)」という用語は、非ヒト動物、特にウシの胚盤胞に由来するタイプの多能性幹細胞を指す。
【0134】
「三次元(3D)」という用語は、液体懸濁液中で増殖した細胞の細胞培養物を指し、固体および/または半固体の表面には接着しない。3D細胞培養物は、人工的に作製された環境であり、そこで生体細胞が増殖またはそれらの周囲の細胞と相互作用することができる。3D細胞培養物により、インビボでの細胞の増殖の仕方と同様に、あらゆる方向での細胞のインビトロでの増殖が可能になる。
【0135】
「遺伝子修飾されていない(非GM)」という用語は、外来核酸でのトランスフェクションによるゲノム変化がない/ゲノムへの外来核酸の組み込みがない無傷の細胞を指す。
【0136】
本明細書で使用される場合、「凝集体」という用語は、インビトロで混合された解離細胞が、「浮遊凝集体」とも呼ばれる他の細胞とそれら自体で集合する傾向がある現象を指す。
【0137】
本明細書で使用される場合、本発明の凝集体に関する「均質」という用語は、少なくとも70%の非ヒト動物由来のPSCを含み、約30μm~約500μmの平均直径を有する複数の凝集体を指す。特定の実施形態によれば、凝集体の平均直径は、約30μm~約450μm、約30μm~約400μm、または約30μm~約350μmである。いくつかの実施形態によれば、凝集体の平均直径は300μmを超える。特定の例示的な実施形態によれば、凝集体の平均直径は、約30μm~約350μmである。特定の実施形態によれば、最終的な懸濁生成物は、約250μm~約350μmの平均直径を有する凝集体を含む。
【0138】
本明細書で使用される場合、培地に関する「無血清」という用語は、動物の血清を含まない培地を指す。
【0139】
本明細書で使用される場合、培地に関する「動物由来の成分を含まない」という用語は、動物起源の成分を全く含有しない培地、特に哺乳動物由来の成分を含有しない培地を指す。
【0140】
「細胞成長肉」という用語は、本明細書では、屠殺された動物の肉と区別される、インビトロで動物細胞培養物から増殖させた肉を説明するために使用される。インビトロで動物細胞培養物から増殖させた肉を説明するために当技術分野で使用できる追加の用語には、培養肉(cultured meat)、培養肉(cultivated meat)、クリーンミート、実験室で増殖させた肉、試験管肉、インビトロ肉、管ステーキ、合成肉、細胞培養肉、細胞増殖肉、組織操作された肉、操作された肉、人工肉、および人造肉が含まれる。
【0141】
本明細書で使用される場合、細胞培養系に関する「閉鎖系」という用語は、本発明の教示によるPSC凝集体の増殖サイクルを完了するために必要なすべての要素を含む系を指す。
【0142】
「再プログラミング」という用語は、ある特定の細胞型から別の細胞型への変換を指す。本発明の特定の実施形態によれば、再プログラミングは、体細胞型の、人工多能性幹細胞、またはiPSCとして知られる多能性細胞型への変換である。
【0143】
本明細書で使用される場合、「再プログラミングmRNA」という用語は、以下の転写因子のいずれか1つをコードするmRNAを指す:OCT4、SOX2、KLF4、cMYC、NANOG、LIN28およびKLF5。
【0144】
「容器」または「組織培養容器」という用語は、本明細書では互換的に使用され、PSCがレセプタクル材料に接着することなく懸濁液中で増殖することができる任意のレセプタクルを指す。レセプタクルは、数ミリリットルの範囲(例えば、非接着プレートまたはErlenmeyerフラスコ)から数千リットルの範囲(例えば、バイオリアクター)までの様々なサイズのもであってもよい。
【0145】
一態様によれば、本発明は、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの凝集体を産生する方法であって、(a)増殖培地中に少なくとも1つのPSCを播種して、懸濁培養物を形成するステップであって、増殖培地が、増殖因子bFGF、少なくとも1つのさらなる増殖因子ならびに/またはWnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021(C2218Cl)、PD 0325901(C1614IN)、A 83-01(C2519S)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの小分子を含む無血清液体培地である、形成するステップと、(b)凝集体形成および凝集体増殖を可能にする条件下で懸濁培養物を増殖させ、それによってこのPSCの均質な凝集体を形成するステップと、を含む、方法を提供する。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0146】
特定の実施形態によれば、播種および増殖は、PSCおよび/またはそれらを含む凝集体が接着しない材料の壁を有する容器内である。
【0147】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、動物由来の成分をさらに含まない。
【0148】
bFGF(FGF2としても知られている、塩基性線維芽細胞増殖因子)は、広範な細胞分裂および細胞生存活性を有し、胚発生、細胞増殖、形態形成、組織修復、腫瘍成長および浸潤を含む、様々な生物学的プロセスに関与する。bFGFは、JAK/STAT、PI3K、ERK1/2、および他の受容体チロシンキナーゼ(RTK)シグナル伝達経路を活性化する。それは、未分化のヒト胚性幹細胞の維持を支持する。
【0149】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つのさらなる増殖因子からなる組み合わせを含む。特定の例示的な実施形態によれば、さらなる増殖因子は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFBとしても示される、TGF-β)のファミリーのタンパク質である。
【0150】
TGF-βは、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーに属する多機能サイトカインであり、3つの異なる哺乳動物アイソフォーム(TGF-β1~3、またはTGFB1、TGFB2、TGFB3)およびアクチビン-Aを含む多くの他のシグナル伝達タンパク質を含む。活性化されたTGF-βは他の因子と複合体化して、TGF-β受容体に結合するセリン/スレオニンキナーゼ複合体を形成する。TGF-β受容体は、1型および2型の両方の受容体サブユニットから構成される。TGF-βの結合後、2型受容体キナーゼはリン酸化し、シグナル伝達カスケードを活性化する1型受容体キナーゼを活性化する。これにより、分化、走化性、増殖において機能する異なる標的遺伝子の転写、および多くの免疫細胞の活性化を含む、異なる下流の基質および調節タンパク質の活性化が誘導される。
【0151】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つの小分子からなる組み合わせを含む。
【0152】
WNT-β-カテニンシグナル伝達は、細胞増殖、分化、遊走、遺伝的安定性、およびアポトーシスを調節することによって多数の発生過程および成体組織の恒常性の維持に関与しており、公知の阻害剤およびこの経路から開発される将来の阻害剤が、本発明の教示に従って使用され得る。公知の阻害剤は、例えば、Kahn M.2014.Nat Rev Drug Discov.13(7):513-32.doi:10.1038/nrd4233に列挙されている。
【0153】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0154】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はIWR1である。IWR1は、細胞ベースのWNT/β-カテニン経路を遮断することによってWNTシグナル伝達を強力に阻害する。それは、CHIR 99021と組み合わせて使用すると、自己複製を促進し、ヒト胚性幹細胞およびマウスエピ幹細胞の多能性を維持することが示されている(Kim et al.,Nat Commun.2013,4:2403)。IWR1およびbFGFの組み合わせを含む培養培地は、ウシ未分化胚芽細胞由来の多能性胚性幹細胞の増殖および維持を支持することも示されている(Bogliotii Y S et al.,同文献)。特定の実施形態によれば、培地中のIWR1濃度は、約1μM~約10μMである。いくつかの実施形態によれば、培地中のIWR1濃度は、約2μM~約10μMである。
【0155】
CHIR 99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル)は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)の選択的かつ強力な阻害剤であるアミノピリミジン誘導体である。
【0156】
PD0325901(N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミドは、強力かつ選択的なMEK1およびMEK2阻害剤である。
【0157】
PD 0325901は、CHIR 99021とともに使用されて、体細胞をiPSCに再プログラムし、細胞の自己複製を促進することができる。
【0158】
A83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド)は、TGF-βI型受容体ALK5キナーゼ、I型アクチビン/ノダル(nodal)受容体ALK4およびI型ノダル受容体ALK7(IC50値はそれぞれ12、45および7.5nMである)の強力な阻害剤である。A83-01は、Smad2のリン酸化を遮断し、TGF-βによって誘導される上皮間葉転換を阻害する。A83-01は、iPSCの分化を阻害し、インビトロでの細胞の自己複製を維持するために使用される。
【0159】
他の実施形態によれば、増殖培地は、2つの増殖因子bFGFおよびTGF-β、ならびにIWR1、CHIR 99021(C2218Cl)、PD 0325901(C1614IN)、およびA 83-01(C2519S)からなる群から選択される少なくとも2つの小分子を含む。
【0160】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、ならびにIWR1、CHIR 99021、PD 0325901、A 83-01、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの小分子の組み合わせを含む。いくつかの実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、および小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0161】
特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、ならびにTGF-β-1、TGF-β-3、およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1の組み合わせを含む。いくつかの実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3、およびアクチビンAのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0162】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFならびに小分子IWR1およびCHIR 99021を含む組み合わせを含む。特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFならびに小分子IWR1およびCHIR 99021からなる組み合わせを含む。
【0163】
特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFおよび小分子A 83-01からなる組み合わせを含む。さらなる例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3、およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つの組み合わせ、ならびにCHIR 99021、PD 0325901およびA 83-01からなる小分子の組み合わせを含む。
【0164】
当技術分野で知られているような任意の非ヒト動物由来の多能性幹細胞は、本発明の教示に従って使用することができる。特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される種のものである。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0165】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。いくつかの実施形態によれば、有蹄動物はウシである。特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物は乳牛である。
【0166】
例えば、胚盤胞由来のPSCを含む、ウシ由来のPSCの市販の調製物も利用可能である。
【0167】
いくつかの実施形態によれば、PSCは胚性幹細胞(ESC)である。
【0168】
いくつかの実施形態によれば、PSCは非胚性幹細胞(ESC)である。
【0169】
特定の実施形態によれば、PSCは、体細胞から再プログラムされた人工PSC(iPSC)である。
【0170】
特定の実施形態によれば、PSCは、ESCを含まない体細胞から再プログラムされた人工PSC(iPSC)である。
【0171】
iPSCを産生するための細胞の再プログラミングは、例えば、Peleganove et al.(Poleganov et al.,Hum.Gene Ther.2015;26:751-766)に記載されている方法を含む、当技術分野で知られている任意の方法によって実施することができる。
【0172】
特定の例示的な実施形態によれば、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの凝集体を産生する方法は、
(a)増殖培地中に少なくとも1つのPSCを播種して、播種懸濁培養物を形成するステップと、
(b)播種懸濁培養物をインキュベートして、PSC凝集体を形成するステップと、
(c)凝集体をより小さな凝集体および/または単一細胞に脱凝集させるステップと、
(d)ステップ(a)~(c)を少なくとも1回反復して、所望のPSC濃度を得ることと、
(e)ステップ(a)~(b)を反復することによってPSCを増殖させて、所望の凝集体濃度を得るステップと、を含む。
【0173】
特定の例示的な実施形態によれば、凝集体を脱凝集させることは、この凝集体を解離試薬および/または解離力に曝露することを含む。いくつかの実施形態によれば、解離試薬は、少なくとも1つのタンパク質分解酵素、ならびに任意選択で少なくとも1つのDNA分解酵素および/またはキレート剤を含む。いくつかの実施形態によれば、解離試薬は、少なくとも1つのタンパク質分解酵素、少なくとも1つのDNA分解酵素、およびキレート剤を含む。特定の実施形態によれば、キレート剤は、EDTAおよびEGTAから選択される。いくつかの例示的な実施形態によれば、タンパク質分解酵素はトリプシンである。
【0174】
いくつかの実施形態によれば、解離力は剪断力である。特定の実施形態によれば、剪断力率は、容器内に埋め込まれたインペラによって設定される。
【0175】
特定の実施形態によれば、脱凝集させるステップは、この凝集体を、解離試薬および/または解離力に曝露する前に、水性洗浄媒体で均質な凝集体を洗浄することをさらに含む。
【0176】
特定の実施形態によれば、ステップ(a)~(c)は、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回およびそれ以上反復される。反復の数は限定されなくてもよく、意図する使用に必要とされるPSCの量に依存することは明確に理解されるべきである。特定の実施形態によれば、凝集および脱凝集させるステップは、少なくとも10細胞/mlの細胞濃度に達するまで反復される。いくつかの実施形態によれば、凝集および脱凝集させるステップは、少なくとも5×10細胞/ml、少なくとも10細胞/ml、少なくとも5×10細胞/ml、少なくとも10細胞/ml、少なくとも5×10細胞/ml、または少なくとも10細胞/mlまたはそれ以上の細胞濃度に達するまで反復される。
【0177】
特定の実施形態によれば、ステップ(a)~(c)は同じ培地中で反復される。いくつかの実施形態によれば、培地は解離試薬を含む。
【0178】
特定の実施形態によれば、播種は、非接着性の組織培養容器内である。
【0179】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのPSCを播種するステップ(a)は、Rho関連プロテインキナーゼ(Rock)の阻害剤を添加することをさらに含む。
【0180】
当技術分野で現在知られている、または将来開発される任意のROCK阻害剤を、本発明の教示に従って使用することができる。特定の実施形態によれば、Rock阻害剤は、Thiazovivin、Fasudil、Ripasudil、Netarsudil、RKI-1447、Y-27632、GSK429286A、Y30141からなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。特定の例示的な実施形態によれば、Rock阻害剤は、Y-27632二塩酸塩(1R,4r)-4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド)である。
【0181】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのPSCを播種するステップ(a)は、粒子内に少なくとも1つの遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCを封入し、増殖培地内に複数の粒子を播種することをさらに含む。
【0182】
特定の実施形態によれば、粒子は、少なくとも1つの外側シェルに囲まれた内側コアを含み、その内側コアは、少なくとも1つの遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの増殖を支持する少なくとも1つの化合物をさらに含む。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、食品グレードの流体透過性材料のものである。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、粒子を特定の条件に曝露すると、カプセル内に形成されたPSC凝集体が放出されるように、可逆的封入のために設計されている。特定の実施形態によれば、外側シェル層の流体透過性の食品グレードの材料は溶解可能である。粒子の内側コアの微小環境は、最初の細胞間相互作用およびその後の細胞増殖を可能にする自由空間を提供するが、細胞凝集および流体力学的応力はないことが明確に理解されるべきである。したがって、PSCを封入する粒子は、培養効率および凝集体形成を大幅に改善することができる。
【0183】
特定の実施形態によれば、外側シェル層は、少なくとも1つの食品グレードのポリマーまたはコポリマーを含む。特定の実施形態によれば、外側シェル層は、ヒドロゲルを形成する1つ以上のポリマーを含む。特定の実施形態によれば、ヒドロゲルは、感熱性および/または熱可逆性ヒドロゲルである。適切なポリマーおよびヒドロゲル材料は当技術分野で知られている。例えば、アルギネートは、封入に使用されることが周知のポリマーである。ゲランガムは、一価または二価の陽イオンと混合すると、低温でヒドロゲル(体温でゲル)を形成する。キトサンは、リン酸イオンと強固なイオノトロピックヒドロゲルを形成する。カードランは、主に異なる加熱温度に基づいて、ローセットゲル(熱可逆性)およびハイセットゲル(熱不可逆性)を形成することができる。アガロース、ヒアルロン酸、カラギーナン、加工デンプン、およびペクチンはすべて、本発明の教示に従った外側シェル層を形成するのに適していることが知られている。
【0184】
特定の実施形態によれば、内側コアの微小環境内に存在する増殖を支持する少なくとも1つの化合物は、当技術分野で知られているように、徐放性および/または持続放出製剤で製剤化される。
【0185】
特定の実施形態によれば、組織培養容器は、PSCが接着しない材料から作製される。したがって、PSCおよび/またはそれを含む凝集体は、懸濁液内で遊離しており、いかなる表面にも接着していない。
【0186】
特定の実施形態によれば、懸濁培養物は、約100,000細胞/ml~約50,000,000細胞/mlの所望の多能性細胞濃度に達するように増殖される。特定の実施形態によれば、懸濁培養物は、約300,000細胞/ml~約10,000,000細胞/mlまたは約1,000,000細胞/mlの濃度でPSCに達するように増殖される。
【0187】
特定の実施形態によれば、懸濁培養物は、動的回転下、静的条件下、またはそれらの組み合わせでインキュベートされる。
【0188】
特定の例示的な実施形態によれば、懸濁培養物は、動的回転条件下でインキュベートされる。
【0189】
特定の実施形態によれば、インキュベーションは、細胞が由来する動物の体温で実施される。
【0190】
特定の実施形態によれば、インキュベーションは、37.5~39.5℃の温度で実施される。
【0191】
特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物がウシである場合、インキュベーション温度は、ウシの平均体温である約38.6℃である。
【0192】
特定の実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約100ml~約15,000リットルである。
【0193】
いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約500ml~約15,000リットルである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約1リットル~約15,000リットルである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約1リットル~約1,500リットルである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約1リットル~約150リットルである。
【0194】
本発明の方法の利点は、すべてのステップが商業規模の体積、および閉鎖系で実施され得ることである。いくつかの実施形態によれば、懸濁培養物の体積は、容器当たり約1,000リットル~約15,000リットルである。
【0195】
特定の実施形態によれば、形成されたPSC凝集体は、約30μm~約500μmの平均直径を有する。いくつかの実施形態によれば、凝集体は、約100μm~約500μmの平均直径を有する。いくつかの実施形態によれば、凝集体は、約150μm~約500μmの平均直径を有する。特定の例示的な実施形態によれば、凝集体は、約300μm~550μmの平均直径を有する。特定の例示的な実施形態によれば、凝集体の平均直径は、約30μm~約350μmである。特定の例示的な実施形態によれば、凝集体の平均直径は、約250μm~約350μmである。
【0196】
特定の例示的な実施形態によれば、PSCは、(a)再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAの組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生された再プログラムされた非ヒト動物由来の細胞である。
【0197】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0198】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNAは、合成的に修飾されたmRNAである。
【0199】
特定のさらなる例示的な実施形態によれば、PSCは、(a)少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)非ヒト動物由来の細胞に対して内因性である少なくとも1つのマイクロRNAの少なくとも1つの阻害剤の組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む方法によって産生れた再プログラムされた非ヒト動物由来の細胞である。
【0200】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0201】
特定の実施形態によれば、再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAは、ヒトまたは非ヒト動物起源のものである。
【0202】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。これらの実施形態によれば、再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAは、ヒトまたはウシ起源のものである。
【0203】
本発明のオリゴまたはポリヌクレオチドをPSCに導入することは、当技術分野で知られている任意の方法によって実施することができる。
【0204】
本発明の教示によれば、少なくとも1つのmRNAは細胞のゲノムに組み込まれず、それによって産生されたiPSCは遺伝子修飾されていない。
【0205】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および/または少なくとも1つの免疫回避mRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAおよび/または少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤の導入は、無血清で、動物由来の成分を含まない液体増殖培地中で実施される。いくつかの実施形態によれば、培地はさらに動物由来の成分を含まない。
【0206】
いくつかの実施形態によれば、この方法は、無血清液体増殖培地中で産生された少なくとも1つのiPSCを培養して、複数のiPSCを形成することをさらに含む。無血清液体増殖培地は、本明細書上記のとおりである。いくつかの実施形態によれば、使用される無血清液体増殖培地には、Rock阻害剤が補充される。
【0207】
いくつかの実施形態によれば、非ヒト動物由来の細胞または複数の非ヒト動物由来の細胞に導入される再プログラミングmRNAは、OCT4、SOX2、KLF4、cMYC、NANOG、LIN28、KLF5およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0208】
さらなる実施形態によれば、非ヒト動物由来の細胞または複数の非ヒト動物由来の細胞に導入される免疫回避mRNAは、ワクシニアウイルス由来のE3、K3、B18R[EKB]およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0209】
さらに別の実施形態によれば、二本鎖マイクロRNAは、miR-302a、miR-302b、miR-302c、miR-302d、miR-367、miR-218、miR-449b、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0210】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤は、RNA阻害(RNAi)分子である。特定の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤は、miR-145を標的とする。
【0211】
特定の実施形態によれば、使用される場合、非ヒト動物由来の細胞または複数の非ヒト動物由来の細胞に導入される免疫回避mRNAは、ワクシニアウイルス由来のE3、K3、B18R[EKB]およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0212】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、37.5~39.5℃の温度でインキュベートされる。
【0213】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される種のものである。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0214】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。
【0215】
特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物はウシである。これらの実施形態によれば、少なくとも1つのウシ由来の細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、ウシの平均体温である38.6℃でインキュベートされる。
【0216】
いくつかの実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、ウシ臍帯、ウシ鼻咽頭粘膜、およびウシ血液から得られる。特定の例示的な実施形態によれば、体細胞のウシ細胞は、非侵襲的技術によって採取される。
【0217】
特定の例示的な実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、ウシ臍帯から得られ、その細胞は、内皮細胞、臍帯内膜細胞、Wharton’s Jelly細胞、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに追加の実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、肉牛品種のBelgium Blueから得られる。この品種は、ミオスタチン遺伝子の自然変異による二重筋肉表現型を特徴としている。
【0218】
さらなる態様によれば、本発明は、本発明の方法に従って産生された遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体を提供する。特定の実施形態によれば、凝集体は、少なくとも1つの多能性マーカーを発現する少なくとも70%の生存可能な細胞を含む。特定の実施形態によれば、多能性マーカーは、SSEA4、Oct4、Nanog、Lin28A、Sall4、Dnmt3b、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の例示的な実施形態によれば、多能性マーカーはSSEA4である。
【0219】
別の態様によれば、本発明は、無血清液体培地および少なくとも1つの多能性マーカーを発現する少なくとも70%の生存可能なPSCを含む非ヒト動物由来の細胞凝集体を含む懸濁液を提供する。特定の実施形態によれば、PSCは、約16~32時間ごとに分裂している。特定の実施形態によれば、PSCは、約16~24時間ごとに分裂している。
【0220】
特定の実施形態によれば、凝集体のPSCは、細胞間接着に寄与する少なくとも1つの表面タンパク質を発現する。
【0221】
さらに別の態様によれば、本発明は、本発明による、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体、またはそれらを含む懸濁液を含む、細胞増殖肉培養物を提供する。
【0222】
さらに追加の態様によれば、本発明は、本発明の遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSCの均質な凝集体の子孫を含む、細胞増殖肉製品を提供する。
【0223】
非ヒト動物は、本明細書上記のとおりである。特定の例示的な実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。
【0224】
特定の実施形態によれば、子孫は、PSCから分化して、筋細胞、間質細胞、内皮細胞、および脂肪細胞のうちの少なくとも1つを形成する細胞を含む。
【0225】
本発明は、予期せぬことに、本発明の特定の実施形態による増殖培地内の脂肪酸の存在が、ウシ由来のPSCまたはBEFの培養物の脂肪細胞への分化をもたらすことをここで示す。
【0226】
さらに別の態様によれば、本発明は、PSC、それらの子孫、体細胞およびそれらの組み合わせからなる群から選択される非ヒト動物細胞を脂肪細胞の細胞に分化させるための方法であって、その方法が、(i)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤、および(ii)少なくとも1つの種類の脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む無血清液体培地中で細胞をインキュベートし、それによってこの細胞を脂肪細胞の細胞に分化させることを含む、方法を提供する。
【0227】
特定の実施形態によれば、培地は、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤および少なくとも1つの種類の脂肪酸の組み合わせを含む。
【0228】
特定の実施形態によれば、培地は、増殖因子bFGFをさらに含む。
【0229】
特定の実施形態によれば、培地は、Rock阻害剤をさらに含む。
【0230】
特定の実施形態によれば、細胞のインキュベーションは少なくとも4日間である。他の実施形態によれば、細胞のインキュベーションは、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、または少なくとも10日間およびそれ以上である。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0231】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。
【0232】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤はIWR-1である。
【0233】
特定の実施形態によれば、脂肪酸は、遊離脂肪酸、低分子量脂肪酸、それらのエステル、それらの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0234】
特定の実施形態によれば、PSCは、脂肪組織から単離された間質幹細胞を含む。
【0235】
特定の実施形態によれば、細胞は、胚性筋肉組織に由来する細胞の集団を含む。いくつかの実施形態によれば、胚性筋肉組織に由来する細胞は、胚性線維芽細胞(EF)を含む。
【0236】
非ヒト動物は、本明細書上記のとおりである。
【0237】
本発明の細胞増殖肉を含む食品もまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0238】
別の態様によれば、本発明は、増殖因子bFGFと、(i)少なくとも1つのさらなる増殖因子ならびに(ii)Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021、PD 0325901およびA 83-01またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの小分子のうちの少なくとも1つとの組み合わせを含む非ヒト動物由来のPSCを増殖させるための増殖培地であって、その増殖培地が無血清であり、不活性化フィーダー細胞を欠く、増殖培地を提供する。特定の実施形態によれば、増殖培地はさらに有機マトリックスを欠く。特定の実施形態によれば、増殖培地はさらに動物由来の成分を含まない。
【0239】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、基質接着を欠く懸濁培養物中で培養された場合、非ヒト哺乳動物の多能性幹細胞を多能性状態に維持することができる。
【0240】
特定の実施形態によれば、増殖培地はプロテイナーゼ阻害剤を欠く。
【0241】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つのさらなる増殖因子からなる組み合わせを含む。特定の例示的な実施形態によれば、さらなる増殖因子は、TGF-βスーパーファミリーのタンパク質である。特定の例示的な実施形態によれば、TGF-βは、TGF-β-1、TGF-β-3、アクチビン-Aおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0242】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、bFGFおよび少なくとも1つの小分子からなる組み合わせを含む。
【0243】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。
【0244】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はIWR1である。
【0245】
特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびにIWR1、CHIR 99021、PD 0325901、A 83-01、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される小分子の組み合わせを含む。
【0246】
特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-3、およびアクチビン-Aのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1の組み合わせを含む。いくつかの実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、TGF-β-1、TGF-β-1およびアクチビンAのうちの少なくとも1つ、ならびに小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0247】
特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGF、ならびに小分子IWR1およびCHIR 99021を含む組み合わせを含む。特定の実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFならびに小分子IWR1およびCHIR 99021からなる組み合わせを含む。
【0248】
さらに特定の例示的な実施形態によれば、増殖培地は、増殖因子bFGFおよび小分子IWR1からなる組み合わせを含む。
【0249】
別の態様によれば、本発明は、不活性化フィーダー層細胞を欠く無血清増殖培地、増殖因子bFGF、さらなる増殖因子の少なくとも1つ、ならびにWnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤、CHIR 99021、PD 0325901およびA 83-01からなる群から選択される少なくとも1つの小分子を含む、非ヒト動物由来のPSC凝集体を増殖させるためのキットを提供する。特定の実施形態によれば、キットは、非ヒト動物由来のPSC凝集体を増殖させるための増殖条件についての説明書をさらに含む。
【0250】
特定の実施形態によれば、無血清培地はさらに有機マトリックスを欠く。特定の実施形態によれば、増殖培地はさらに動物由来の成分を含まない。
【0251】
特定の実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤は、IWR1、JW67、NSC668036、KY02111、ニクロサミド、DKK1またはsi-ベータ-カテニン、ポルクピン阻害剤、およびIWP-2からなる群から選択される。
【0252】
特定の例示的な実施形態によれば、Wnt-β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤はIWR1である。
【0253】
特定の例示的な実施形態によれば、少なくとも1つのさらなる増殖因子は、TGF-βスーパーファミリーのタンパク質である。特定の例示的な実施形態によれば、TGF-βは、TGF-β-1、TGF-β-3、アクチビン-Aおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0254】
さらなる態様によれば、本発明は、不活性化フィーダー層細胞を欠く無血清増殖培地、増殖因子bFGF、増殖因子TGF-β-3、アクチビンA、小分子IWR1、および非ヒト動物由来のPSC凝集体を増殖させるための増殖条件についての説明書を含む、非ヒト動物由来のPSC凝集体を増殖させるためのキットを提供する。
【0255】
さらに追加の態様によれば、本発明は、非ヒト動物由来の細胞をiPSCに再プログラムする方法であって、その方法は、(a)再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAの組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む、方法を提供する。
【0256】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0257】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNAは、合成的に修飾されたmRNAである。
【0258】
さらに別の態様によれば、本発明は、非ヒト動物由来の細胞をiPSCに再プログラムする方法であって、その方法は、(a)少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および(b)非ヒト動物由来の細胞に対して内因性である少なくとも1つのマイクロRNAの少なくとも1つの阻害剤の組み合わせを少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に導入し、それによって少なくとも1つのiPSCを産生することを含む、方法を提供する。
【0259】
特定の実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞に少なくとも1つの免疫回避mRNAを導入することをさらに含む。
【0260】
特定の実施形態によれば、再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAは、ヒトまたは非ヒト動物起源のものである。
【0261】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物はウシである。これらの実施形態によれば、再プログラミング因子をコードする少なくとも1つの再プログラミングmRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAは、ヒトまたはウシ起源のものである。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0262】
本発明のオリゴまたはポリヌクレオチドをPSCに導入することは、当技術分野で知られている任意の方法によって実施することができる。
【0263】
本発明の教示によれば、少なくとも1つのmRNAは細胞のゲノムに組み込まれず、それによって産生されたiPSCは遺伝子修飾されていない。
【0264】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの再プログラミングmRNA、および/または少なくとも1つの免疫回避mRNAおよび/または少なくとも1つの二本鎖マイクロRNAおよび/または少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤の導入は、無血清で、動物由来の成分を含まない液体増殖培地中で実施される。いくつかの実施形態によれば、培地はさらに動物由来の成分を含まない。
【0265】
いくつかの実施形態によれば、この方法は、無血清液体増殖培地中で産生された少なくとも1つのiPSCを培養して、複数のiPSCを形成することをさらに含む。無血清液体増殖培地は、本明細書上記のとおりである。いくつかの実施形態によれば、使用される無血清液体増殖培地には、Rock阻害剤が補充される。
【0266】
再プログラミングmRNA、免疫回避mRNA、二本鎖マイクロRNA、および少なくとも1つのマイクロRNA阻害剤は、本明細書上記のとおりである。
【0267】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つの非ヒト動物由来の細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、37.5~39.5℃の温度でインキュベートされる。
【0268】
特定の実施形態によれば、非ヒト動物は、有蹄動物、家禽、水生動物、無脊椎動物および爬虫類からなる群から選択される種のものである。それぞれの可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。
【0269】
特定の実施形態によれば、有蹄動物は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、キリン、ラクダ、シカ、カバ、またはサイからなる群から選択される。
【0270】
特定の例示的な実施形態によれば、有蹄動物はウシである。これらの実施形態によれば、少なくとも1つのウシ由来の細胞および/または形成された少なくとも1つのiPSCは、ウシの平均体温である38.6℃でインキュベートされる。
【0271】
いくつかの実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、ウシ臍帯、ウシ鼻咽頭粘膜、およびウシ血液から得られる。特定の例示的な実施形態によれば、体細胞のウシ細胞は、非侵襲的技術によって採取される。
【0272】
特定の例示的な実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、ウシ臍帯から得られ、その細胞は、内皮細胞、臍帯内膜細胞、Wharton’s Jelly細胞、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらに追加の実施形態によれば、ウシ由来の細胞は、肉牛品種のBelgium Blueから得られる。この品種は、ミオスタチン遺伝子の自然変異による二重筋肉表現型を特徴としている。
【0273】
本発明はまた、PSC凝集体形成の技術から知られている原理を使用する。しかしながら、本発明は、いくつかの重要な領域において公知の技術とは異なる。第一に、本発明は、非ヒト動物由来のPSC、特にウシ由来のPSCの凝集体を形成するための方法を提供する。第二に、本発明は、凝集体の大規模生産の方法を提供する。第三に、本発明は、遺伝子修飾されていない、非ヒト動物由来のPSC、特にウシ由来のPSCの凝集体を形成するための方法を提供する。
【0274】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態をさらに詳しく示すために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変形および修正を容易に考案することができる。
【実施例
【0275】
実施例1:フラッシングした胚からの多能性ウシ胚性幹細胞(bESC)の誘導
細胞の誘導
授精後に着床前の胚をフラッシングする非外科的手順は、従来のウシの繁殖で実施される日常的な手順である(Castro Neto A.S.et al,Theriogenology 63,2005,1249-1255)。このような着床前の胚を使用して、胚性幹細胞(bESC)を誘導した。胚のフラッシングは、イスラエルの会社の人工授精および繁殖の会社であるSionによって調整され、行われた。フラッシングした胚は、その場で光学顕微鏡下で検査され、カウントされ、次いで出願人の研究室に迅速に輸送された。bESCを誘導するためには、着床前の胚が未分化胚芽細胞段階でなければならない。しかしながら、フラッシングした胚は、様々な胚の発生段階(初期の桑実胚から成長した未分化胚芽細胞まで)および異なるグレード(不良から優れたものまで)である。未分化胚芽細胞または増強した未分化胚芽細胞段階に到達させるために、フラッシングした胚を、マイクロピペットを使用して生物学的フード内の顕微鏡下で胚成熟培地に移し、2~3時間インキュベートした。胚の段階およびグレードを評価し(Stringfellow D.A.,Givens M.D.,Manual of the International Embryo Transfer Society,4thedition,Champaign(IL):International Embryo Transfer Society;2010)、胚盤胞期の胚を選択した。次いで、顕微手術を使用して、胚の内部細胞塊(ICM)を単離した(図1A)。次いで、単離したICMを38.6℃、5%COでインキュベートし、bESCコロニーの確立についてモニターし、記録した(図1B)。
【0276】
bESCの特性評価
本明細書でAlp 0501およびAlp 0505と指定した、本明細書上記のように誘導したbESCの2つの例示的な系統を、多能性特性について調べた。
【0277】
これらのbESC系統は、本質的にBogliotti et al.(Bogliotti Y S et al.,2018.PNAS 115(9):2090-2095)に記載されているように無血清培地中で増殖させた。簡潔に説明すると、細胞を、フィーダー層としての不活性化したマウス胚線維芽細胞(iMEF)で、2.5μMのIWR1を補充した無血清培地mTeSR1(登録商標)(STEMCELL Technologies Inc.Canada)中で増殖させた。Rho関連キナーゼ阻害剤(Rock阻害剤)を添加して、細胞を3~4日ごとに継代した。bESCの形態は幹細胞の形態と一致し、細胞を規定したコロニー中で増殖させた。
【0278】
bESC集団倍加時間(PDT)を、12ウェルプレートに細胞を播種し(3回)、播種後2、3、および4日目にそれらの数をカウントすることによって測定した(図2)。細胞増殖は1継代(4日)で12~14倍に達した。集団倍加時間(PDT)は、Alp 0501では26時間、およびAlp 0505では24時間であると計算し、これは幹細胞分裂速度と一致する。
【0279】
bESC系統を、多能性マーカーOCT4、SSEA4、Nanog、Sall4およびDnmt3bの発現についてさらに調べた。
【0280】
Oct4免疫染色は以下のように実施した。
1.細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)と室温で20分間インキュベートすることによって固定した。
2.0.3%のTriton-Xと室温で10分間インキュベートすることによって細胞を透過処理した。
3.細胞をPBSで洗浄した。
4.5%のBSAおよび0.1%のTriton-Xと室温で30分間インキュベートすることによって細胞を遮断した。
5.細胞を、1%のBSAおよび0.1%のTriton-X中で1:100に希釈した(Abcamの)抗Oct4抗体で4℃で一晩染色した。
6.細胞をPBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡によって分析した。
【0281】
SSEA4のフローサイトメトリー分析は以下のように実施した。
1.細胞をPBSで2回洗浄した。
2.細胞を、(R&D Systemsの)染色バッファー中の1:50の(R&D Systemsの)抗SSEA4抗体と4℃で1時間、光から保護してインキュベートした。
3.細胞をPBSで2回洗浄し、フローサイトメーターを使用して分析した。
【0282】
定量的PCR(qPCR)分析は以下のように実施した。
1.GeneJET RNA精製キット(Thermo Fisher Scientific)を使用して細胞から全RNAを抽出した。
2.RevertAid First Strand cDNA合成キット(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写を実行した。
3.定量的PCR(qPCR)を実施して、プローブベースの検出方法で使用するために設計した特定のプライマーを使用して特定の遺伝子の発現を分析した。
4.すべての発現データをベータアクチンに対して正規化した。倍率変化の相対的定量化を、比較Ct(ΔΔCt)法を使用して計算した。
【0283】
細胞のOct4免疫染色により、bESコロニー内の細胞が陽性に染色されていることが示された(データは示さず)。フローサイトメトリーを使用して、培養物中の細胞の80%が特徴的な多能性マーカーSSEA4に対して陽性であることが示された(未染色細胞の大部分は、通常、コンフルエントな培養物中の細胞の15%を構成するiMEFである)(図3A)。多能性マーカーNanog、Sall4、Dnmt3bおよびOct4の高発現が、それぞれについて2継代の2つの細胞株での定量PCR(qPCR)分析によって示された(図3B)。
【0284】
全体として、細胞形態、増殖速度、および多能性マーカー発現に基づいて、bESC系統Alp 0501およびAlp 0505は多能性であることが示されている。
【0285】
実施例2:bESC増殖および凝集のためのフィーダーを含まない条件の開発
フィーダーを含まない増殖条件
iMEFフィーダー層は、培養培地に必要な因子を分泌し、細胞に増殖マトリックスを供給することにより、bESCの増殖および多能性を支持する。しかしながら、細胞が培養食品に使用される場合、単純化、安全性の懸念、および消費者の受容のために、追加の細胞を用いずにウシ細胞を増殖させることは非常に重要である。細胞培養容器をコーティングマトリックスビトロネクチンでコーティングし、培養培地にアクチビンAを添加すると、iMEFフィーダー層の使用が首尾よく置き換えられた。フラッシングした胚に由来し、本明細書上記のように増殖させたが、iMEFフィーダー層の代わりにビトロネクチンおよびアクチビンAを用いたbESCは、免疫染色を使用したOCT4(データは示さず)およびフローサイトメトリーを使用したSSEA4に対して陽性であることがわかった(図4)。
【0286】
実施例3:中胚葉へのbESC分化
本発明の教示に従って産生されたPSC凝集体の使用目的は、培養肉製品の業界にある。培養肉は、好ましくは、筋芽細胞、脂肪細胞、間質および内皮細胞を含む、筋肉組織を含む様々な細胞を含み、これらはすべて中胚葉系統の派生物である。したがって、中胚葉に分化するPSCの能力を調べた。
【0287】
bESCの中胚葉への初期分化:
1.以下の実施例4に詳述されるように、細胞を収集し、6ウェルプレートに凝集体形成のために播種した。
2.初期条件は以下のとおりであった。
a.増殖培地mTeSR1(StemCell technologies)中のbESC
b.増殖培地Essential 8(Thermo Fisher Scientific)中のbESC
3.播種から4日後、培地を交換して以下の条件を形成した。
a.mTeSR1で形成したbESC凝集体の培地をそのまま残した。
b.Essential 8培地で形成したbESC凝集体の培地を、Essential 6培地(Thermo Fisher Scientific)に交換した。
または
c.Essential 8培地で形成したbESC凝集体の培地を、8μMのCHIR 99021を補充したEssential 6に交換した。
4.細胞凝集体を3日間増殖させた後、それらを収集して、組換えトリプシンを使用して脱凝集させた。
5.細胞ペレットを使用してRNAを抽出し、Oct4およびBrachyury遺伝子発現について、実施例1に詳述されているようにqPCRを実施した。
【0288】
図5に示すように、PSCのmTeSR1増殖培地をE6必須培地に交換すると、調べた両方のbESC系統(Alp 0501およびAlp 0505)で、多能性マーカーOct4の発現が減少した。8μMのCHIR 99021を添加すると、Oct4の発現がさらに減少し、初期中胚葉マーカーであるBrachyuryが増加し、これは、細胞が中胚葉に分化する能力を有することを示す。
【0289】
実施例4:遺伝子修飾されていないウシ由来の多能性幹細胞(PSC)の凝集体の産生
1.増殖培地中にウシ由来のPSCを播種して、播種懸濁培養物およびPSC凝集体を形成する
上記の実施例1に記載されるように得たbESCを、増殖因子の組み合わせを含む無血清液体培地である、増殖培地中で本発明の3D bESC凝集体懸濁培養物を調製するために使用する。
【0290】
1.1 細胞の採取および播種:
iPSCクローンを、50ng/mlのbFGFおよび2.5μMのIWR1を補充した無血清増殖培地中のiMEFフィーダー層で増殖させた。培養の3~4日後、コロニーのコンフルエンスが70~80%に達したときに、組換えトリプシンを使用して細胞を剥離し、以下のステップに従って単一細胞を形成した。
a.生物学的フード内で初期単層培養物から培地を吸引する。
b.PBS(-Ca/-Mg)で細胞をすすぐ。
c.予熱した組換えトリプシン溶液を添加する。
d.38.6℃のインキュベーターで3~5分間インキュベートする。
e.容器を生物学的フード内に移し、ダイズ抗トリプシンを1:50(v/v)の比で添加する。手のひらで容器の側面を軽くたたいて、取り外しを容易にする。基礎培地(洗浄用-補充なし)を添加し、3~4回穏やかにピペッティングして、細胞を単一に解離する。
f.容器から細胞を収集し、それらを適切なチューブに移す。細胞の遠心分離、細胞ペレットからの上清の除去、および新鮮な培地への再懸濁。
g.細胞をカウントし、適切な培養容器中で0.2~0.5×10細胞/mlの濃度で3D懸濁液に播種する(以下のセクション1.2および1.3を参照のこと)。10μMのRho関連プロテインキナーゼの阻害剤(Rock Inhibitor、Y27632)および1X Poloxamer 188溶液(Pluronic F-68)を添加する。
h.2D条件に再播種するために、iMEFに20~50K細胞/cmの密度で播種する。
【0291】
1.2 6ウェルプレートでの凝集体形成:
50ng/mlのbFGF、2.5μMのIWR1、10μMのRho関連プロテインキナーゼの阻害剤を補充して、超低接着6ウェルプレートで、ウェル当たり3mlの増殖培地中にbESCを0.3×10細胞/mlで播種した。細胞を、90~95rpmの振とう速度で、38.6℃、5%COおよび80%湿度で2~7日間インキュベートした。使用した培地の80%を注意深く吸引し、新鮮な増殖培地と置き換えることによって、培地を播種の2日目から毎日交換し、新鮮な培地には、10μMのRho関連プロテインキナーゼの阻害剤が含まれていない。播種後1、2、および7日目に凝集体をモニターした(図6)。播種の1日後の凝集体の直径サイズは38±22μmであった(図6A)。培養の2日後、凝集体のサイズは58±36μmまで増加した(図6B)。技術的な問題のために7日目は測定しなかったが、凝集体は約200μmまで増殖し続けた(図6C)。
【0292】
実施例5:撹拌槽型バイオリアクターシステムでのbESC凝集体の形成
bESCの凝集の実現可能性を調べた後、撹拌槽型バイオリアクターシステムでの増殖を調べた。撹拌槽型バイオリアクターシステムでは、長期および自動化プロセスにとって重要である、さらなる要因(pH、溶存酸素(DO)および様々なポンプと供給/採取培地との接続など)をモニターし、制御することができる。bESCを、50ng/mlのbFGF、2.5μMのiWR1、10μMのRho関連プロテインキナーゼの阻害剤を補充した、ウェル当たり70~100mlの増殖培地中で20万~50万細胞/mlの初期濃度で接種した。pHを7.0に設定し、DOを40~70%に設定した。インペラの回転速度を90~190rpmに設定した。試行はクローンAlp0505で実施した。図7に示されているように、12回の別々の試行で平均104%が観察された。凝集発生率を、播種時の生細胞濃度に対する接種から24時間後の生細胞濃度のパーセンテージとして計算する(生/生%)。複数回の試行で100%を超える発生率があることは、bESCのほとんどが凝集しただけでなく、それらが最初の24時間以内に凝集体で増殖し、拡大し始めたことを意味する。
【0293】
実施例6:撹拌槽型バイオリアクターシステムでの凝集体内のbESCの増殖
70%を超える凝集発生率を首尾よく達成した後、凝集体における細胞増殖を調べた。細胞増殖を促進するために、前日からすべてのbFGFが使用されたか、または熱不活性化されたことを考慮して、培地に25ng/mlのbFGF(作業体積全体に対して)を新たに補充した。また、細胞代謝を追跡し、測定した濃度が1gr/L未満の場合、グルコースを添加した。これらのステップは、流加培養様式で手動で実施した。しかし、凝集体が45μmの直径を超えた後、灌流フィルターシステムを介して培地を自動的に交換した(典型的には増殖の2~3日後)。細胞濃度の増加によって示されるように、0.2×10の生存細胞/mlを播種してから4日目に1.08×10の生存細胞/ml(100ml中)までの5.4倍の増殖をバイオリアクター内で観察した(図8D)。並行して、凝集体の直径は、1日目に31μmから4日目に56μmまで増加した(図8A~C、8E)。多能性を0、3および5日目に分析し、すべての時点で70%超を維持した(図8D、5日のデータは示さず、%SSEA4=83%)。初期の凝集体サイズ、細胞数および4日後に約2.5×10細胞/ml以上までの100倍の細胞の増殖を観察した増殖倍率に基づく理論計算は、本明細書以下の表1に示されるように予測される。
【表1】
【0294】
実施例7:小さな凝集体および単一細胞の再凝集
本発明のいくつかの実施形態によれば、PSC凝集体のいくつかは、脱凝集および再凝集手順を介した大規模な液体培養条件における細胞増殖サイクルのための連続的なリザーバーとして機能する。さらに、反復した脱凝集および再凝集のステップを含む、凝集体を形成する全体の手順が閉鎖系で実施されることは、大規模でのPSC凝集体の産生、特に、細胞増殖肉製品の生産に使用するためのウシ由来のPSC凝集体の産生にとって非常に重要である。閉鎖系とは、凝集体解離溶液を捨てずに同じ容器内で脱凝集および再凝集のステップを実施すること、または例えば、容器に接続された閉鎖系において細胞保持/分離デバイスを使用し、その解離溶液を除去し、無菌環境および自動化プロセスを維持することを可能にするループを形成することのいずれかを指す。細胞保持/分離デバイスは一般的であり、3~2000Lの範囲の任意の容器システムに追加することができる。
【0295】
最初の再凝集試験では、新鮮な培地中に再播種した4および7日齢の凝集体の脱凝集から得られた小さな凝集体/単一細胞は、ごくわずかな非常に大きな凝集体を形成した。また、そのような再凝集後の細胞の多能性は維持されなかった。さらなる再凝集試験では、3日齢の凝集体の脱凝集から得られた小さな凝集体/単一細胞(図9A)を、解離試薬(タンパク質分解酵素、DNA分解酵素およびキレート剤)を含有する培地中に再播種した。予期せぬことに、解離試薬の存在は再凝集を可能にし、形成した多数の小さな凝集体(図9B)は細胞の増殖および凝集体の拡大を可能にする。
【0296】
実施例8:ウシ臍帯からの間質間葉系細胞の単離。
1.生理食塩水を含ませた布で包んだ採取部位から、ウシの臍帯(bUC)および胎盤を採取し、4℃で実験室に移した。組織の処理は、採取から2~4時間より前に開始した。
2.組織を、バイオセーフティーキャビネット内の氷上に保持した150mmのペトリ皿に入れ、針および注射器を使用して抗生物質(Pen-strep溶液(Pen-100u/ml、Strep-0.1mg/ml)、ゲンタマイシン溶液(5mg/ml)、アムホテリシンB(0.25mg/ml)から構成される)を含む氷冷PBSで複数回すすぎ、血餅を除去した。
3.bUC(図10A)を分離し、縦方向に切断し、上皮を乱すことなく、血管および周囲のWharton’s Jelly(WJ)を完全に露出させた。
4.WJ(図10B)を血管および内側上皮からこすり落とし、ペトリ皿に移した。血管を取り除いた。
5.組織を、機械的剪断および酵素的解離により1~2mm片に切断した(図10C)(WJおよび臍帯内膜(CL))。
6.WJ組織片を抗生物質(上記のとおり)を含むPBSで4回洗浄した。30~40個の組織片を、150cmの組織培養皿にプレーティングし、完全培地(DMEM(グルタミンおよびグルコースを含む)、Pen-strep溶液1%、ゲンタマイシン溶液1%、ウシ胎児血清10%から構成される)、または細胞接着マトリックスを含むもしくは含まない無血清培地を添加して、20mlの全体積にした。次いで、培養物を38.6℃で2~3日間インキュベートして、組織片の接着を可能にした。
7.CL組織片を抗生物質(上記のとおり)を含むPBSで4回洗浄した。組織片をプレート全体に広げた。次いで、培養物を38.6℃で2~3日間インキュベートして、組織片の接着を可能にした。
8.すべての処理について、2~3日のインキュベーション後に完全培地を交換した。
9.外植片からの細胞を、毎日、増殖の出現について調査した。細胞増殖は、ウシ由来のCLのインキュベーションの7~10日後に接着した外植片から明らかであった。この時点以降、培地を3日ごとに、または必要に応じて交換し、細胞を、80%のコンフルエンシーでトリプシンを使用して増殖させた(図10D)。
10.1~3継代後、細胞をプールし、10%DMSOを含む増殖培地中に再懸濁し、低温チューブ(クライオバイアル)当たり0.2~1.5*10細胞の濃度で細胞バンクとして凍結した。
11.細胞を38.6℃で1~2分間解凍し、それらの生存率をカウントした。解凍時の生存率は73%超であった。
【0297】
使用した両方の細胞バンクから得られた臍帯内膜細胞は、線維芽細胞様の形態およびP8/P9までのより低い継代での高い増殖速度を有する間葉系間質細胞の典型的な特徴を有し、それらはP10でより大きな細胞質を伴い老化する。臍帯内膜細胞のPCR分析により、それらの細胞は、それらのうちの間葉系細胞の典型的なマーカーであるNCAD、THY1/CD90およびNCAM/CD146に対して陽性であることが示された。
【0298】
実施例9:ウシ胚性線維芽細胞(BEF)および筋芽細胞(BEM)の単離
1.ウシ胚の後肢を胎児から採取し、冷PBS(-Ca/-Mg)+1%Pen-Strepを含む50mlチューブで実験室に移した。
2.生物学的フード内で、ステンレス鋼のはさみおよびピンセットを使用して、血管、脂肪組織、および結合組織を筋肉組織から取り除いた。
3.選択した筋肉組織片を新鮮なPBSを入れた150mm皿に移し、溶液を2回交換した。
4.すべての流体を取り除き、選択した量の組織をペースト状の粘稠度に切断した。
5.ペーストを、10mlのDPBS(-Ca/-Mg)中に30mgのコラゲナーゼ(1型、Gibco)を含有する50mlのチューブ(=チューブ#1)に移し、0.2μmのフィルターでろ過した。
6.50mlチューブをパラフィルムで密封し、オービタルシェーカー(90RPM)上に38.6℃で1時間水平に置いた。
7.ステップ5の終了前にトリプシンを15分間加熱した。
8.チューブ#1を130RCFで1.5分間遠心分離し、次いで上部のサップ(sup)(細胞+脂肪を含有する)を新しい50mlチューブ(=チューブ#2)に移した。
9.20mlの予熱したトリプシンをチューブ#1(残留組織を含有する)に加え、オービタルシェーカー(90RPM)上に38.6℃で20分間水平に置いた。
10.並行して、チューブ#2を285RCFで5分間遠心分離し(ペレット化細胞+組織残留物)、次いでサップを捨て、ペレットを10mlの標準培地で再懸濁した。
11.トリプシン処理が終了したら(ステップ#8)、チューブ#1を285RFCで5分間遠心分離した。
12.チューブ#1からサップのほとんど(5mlマークまで)を取り除いた。
13.標準培地をチューブ#1に10mlマークまで加えた。
14.組織片を、13mlのピペットでチューブ#1の全体積を約15回ピペッティングすることにより機械的に破壊した。
15.チューブ#1を130RCFで1.5分間遠心分離した。
16.チューブ#1の中間相(約5ml)を採取し、チューブ#2に移した。
17.ステップ#14から17をさらに2回反復した(合計3回)。
18.最後に、細胞プールチューブ#2を285RCFで5分間遠心分離して、採取したすべての細胞をペレット化した。
19.サップを捨て、細胞を20mlの標準培地中に再懸濁した。
20.細胞懸濁液を40μmのストレーナーに通して2×100mmの皿に入れた(各約10ml)。
21.両方の皿を2時間、38.6℃、5%COでインキュベーター内に固定配置した。
22.仕上げの1時間前に、2×100mm皿を室温で0.1%のゼラチンでプレコーティングした。
23.細胞をプレーティングしてから2時間後、皿をフードに戻し、上部のサップを可能な限り注意深く捨てた(死んだ未付着の浮遊細胞を含む)。
24.傾斜角を一定に保つために、皿をわずかに傾けた。次いで、皿を予熱した20%FBS培地でゆっくりとすすぎ、15mlチューブ(筋芽細胞プール)に移した。すすぎを少なくとも2回以上(合計3回)反復した。
25.最後に、すべての細胞を新たにコーティングした100mm皿に播種した。
26.コーティングしていないTCプレートに付着したままの細胞が所望の線維芽細胞である。
【0299】
実施例10:脂肪細胞への細胞分化
ウシ細胞が脂肪細胞に分化する条件には、脂肪酸ならびにbFGF 20ng/μl、IWR1 2.5μMおよびRock阻害剤 10μMの組み合わせを補充した無血清培地(脂肪細胞分化培地)が必要であった。
【0300】
材料および溶液
1.最大継代6でのBEF培養物
2.標準培地(DMEM HG、10%のFBS、4mMのL-グルタミン、1%のPen-Strep)
3.PBS、(-)Ca+2、(-)Mg+2、BI 02-023-1A
4.無血清増殖培地:
ES培地(DMEM/F12培地、15%のKOSR Gibco、1%のNEAA、4mMのL-グルタミン、0.1mMの-2-メルカプトエタノール、1%のPen-Strep)
5.脂肪細胞分化培地:
5.1 無血清増殖培地
5.2 bFGF 20ng/μl
5.3 IWR1 2.5μM
5.4 Rock阻害剤 10μM
【0301】
手順
0日目:
1.15,000細胞/cmの濃度でBEF培養物を標準培地中に播種する。
2.38.6℃、5%COで一晩インキュベートする。
1日目:
培地を捨て、新たに作製した脂肪細胞分化培地を加える。
3~9日目:
これから1日おきに脂肪細胞分化培地を交換する。培地は毎回新たに調製しなければならない。
5~10日目:
毎日培養物を検査し、油の小胞が見えるようになると予測される。
11~30日目:
脂肪細胞の分化産物の増加が予測される。
【0302】
脂肪細胞の固定および着色:
1.Oil Red O作業溶液を作製するために、3部のOil Red Oストック溶液を2部のdHOに加える。
2.十分に混合し、10分間静置させる。
3.0.2μmのシリンジフィルターまたはWhatman No.1濾紙もしくは等価物でろ過する。
4.各ウェルにイソプロパノール(60%)を加え、5分間インキュベートする。
5.イソプロパノールを除去し、Oil Red O作業溶液を加えて、細胞を完全かつ均一に覆う(6ウェルプレートで1ml/ウェル)
6.プレートまたは皿を回転させ、10~20分間インキュベートする。
7.Oil Red O溶液を除去し、過剰な染色がもはや見られなくなるまで、必要に応じてdHOで2~5回洗浄する。
【0303】
上記の脂肪細胞分化培地に曝露した場合、ウシ胚性線維芽細胞(BEF)培養物は脂肪細胞への分化を示した。分化した細胞を、Oil red O染色によって染色した。Oil red O染色はトリグリセリドおよび脂質を染色する(図11)。細胞が脂肪細胞に分化する条件には、脂肪酸ならびにbFGF 20ng/μl、IWR1 2.5μMおよびRock阻害剤 10μMの特定の組み合わせを補充した無血清培地(脂肪細胞分化培地)が必要である。
【0304】
脂肪細胞の出現は、脂肪細胞分化培地で細胞を培養してから5日目に開始した。脂肪細胞の分化は経時的に増加した。
【0305】
他の役割の中でもbFGFは、脂肪生成の重要な転写因子である、PPARgamma2の発現を誘導する。IWR-1はWNTシグナル伝達阻害剤である。WNTシグナル伝達は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARgamma)およびCEBPAの誘導を遮断することによって脂肪生成を抑制する。IWR-1の添加はWNT経路を阻害し、それに応じて脂肪生成が誘導される。ROCK阻害剤である、Y-26732は、細胞の生存および増殖を増強する。
【0306】
脂肪組織から単離されたウシ間質幹細胞はまた、上記の脂肪細胞分化培地を使用して脂肪細胞に効果的に分化することが示された。
【0307】
実施例11:エピソームプラスミドを使用したウシ細胞の再プログラミング:
BEFを、1つのプロモーターによってすべて制御される、dTomato赤色マーカーと一緒に4つの標準的な再プログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf4およびc-Myc)のヒト配列をコードする単一のエピソームプラスミド(CoMiPプラスミド#63727)を使用してウシ人工多能性幹細胞(biPSC)に再プログラムした。プラスミドDNAベースの再プログラミング法を使用すると、トランスフェクトしたDNAの宿主細胞ゲノムへのランダムなゲノムの組み込みの潜在的なリスクが劇的に減少し、プラスミドトランスフェクションによって生成したほとんどのヒトiPSC細胞は組み込まれていないことがわかった(Diecke S 2015,Sci.Rep.,Article number:8081)。
【0308】
継代4(P4)のBEF細胞に、12μgのCoMiPプラスミドをエレクトロポレーションによってトランスフェクトした。細胞の生存率を増加させるために、CoMiPプラスミドを、エンドトキシンフリーのQiagenプラスミドミニプレップキットを使用して精製した。
【0309】
トランスフェクトした細胞を、DMEM10%FBS培地中の0.1%のゼラチンで覆った10cmのプレートに直ちに播種し、トランスフェクション効率を、CoMiPプラスミド内のdTomatoカラーマーカーの赤色蛍光タンパク質発現によって1日後に評価した。細胞をエレクトロポレーションから4日間回復させた。回復後、細胞をトリプシン処理し、照射したマウス胚フィーダー層(iMEF)の上に播種した。翌日、細胞培地を、2.5μMのヒトIWR1および20ng/mlのヒトbFGFを含む無血清増殖培地(「再プログラミング培地」とも呼ばれる)に交換した。播種時に10μMのrock阻害剤を加えた。細胞培地を1日おきにリフレッシュした。胚性幹細胞(ES)様コロニーが、トランスフェクションの2週間後に培養物中に現れた(図12A)。
【0310】
単一のコロニーを手動で摘み取り、セルバンクおよび特性評価のために増殖させた。iPSCは、長期間の継代後もES様の形態を維持した。クローン増殖後、iPSCをフィーダーを含まない増殖条件に適応させ、2.5μMのIWR1および50ng/mlのヒトbFGFを補充した増殖培地中のビトロネクチンで増殖を示した(図12B)。
【0311】
iPSCを、再プログラミングベクター内のOCT4とKLF4との間の接合領域を標的とするプライマーを使用して、PCR分析によってプラスミド組み込み事象の可能性についてスクリーニングし、組み込みがないことを見出した(図12C)。
【0312】
実施例12:修飾されたmRNAを使用したウシ細胞の再プログラミング
BEF細胞を、miR203bおよびmiR302dをコードするウシマイクロRNAクラスター配列のうちの2つと一緒にウシゲノム配列に従って4つの標準的な再プログラミング因子Oct4、Sox2、Klf4およびc-MycのmRNAをコードするRNAを使用して再プログラムするように誘導した。
【0313】
RNAトランスフェクションに対する細胞毒性を低減させるために、B18Rワクシニアウイルス配列をコードするmRNAを細胞にさらにトランスフェクトした。トランスフェクション効率およびmRNA発現の評価のために、mCherry赤色マーカーをコードする修飾されたmRNAを細胞にトランスフェクトした。
【0314】
本発明者らが設計したmRNA分子の強化した翻訳およびより高い安定性を得るために、mRNA修飾(すべての塩基でΨ5mC、CleanCAP AG、120-nt Poly-A)を使用した。
【0315】
RNAトランスフェクションプロトコル:
1.BEFを回収し、DMEM+10%のFBS+1%のPen-Strep培地中に播種し(10K細胞/cm)、38.6℃で一晩インキュベートした。
2.培地をpen-strepを含まないDMEM+10%のFBSに交換し、細胞をインキュベーターに戻した。
3.トランスフェクションミックスを調製した(100K細胞当たり):mRNAおよびマイクロRNAを250μlのOpti-MEM無血清培地中で希釈した。トランスフェクション試薬を加え、反応液を混合し、RTで5分間インキュベートした。
4.トランスフェクションミックスを細胞培地に直接一滴ずつ加えた。
5.細胞を38.6℃で一晩インキュベートした。
6.トランスフェクションを4日間連続で4回実施した(ステップ2~5×4)。
7.最後のトランスフェクション後、培地を交換し、細胞を38.6℃で2~3日間インキュベートして回復させた。
8.細胞を回収し、それらの生存率をカウントした。
9.10細胞を、RNA単離およびOCT4 mRNA発現レベルのqPCR分析のために取っておいた。
10.細胞を、DMEM+10%のFBS+1%のPen-Strep培地中で、不活性化したマウス胚フィーダー層(iMEF)の上に、5K~10K細胞/cmで播種した。細胞ペレットも採取した。
11.細胞を38.6℃で一晩インキュベートした。
12.細胞培地を吸引し、2.5μMのヒトIWR、20ng/mlのヒトbFGFおよび10μMのrock阻害剤を補充した増殖培地と交換した。
13.細胞培地を3週間の間1日おきにリフレッシュし、培養物をES様コロニーの出現についてスクリーニングした。
【0316】
トランスフェクション効率を評価するために、mCherryおよびOCT4発現の両方について細胞を分析した。各トランスフェクションの24時間後、蛍光顕微鏡を使用して、mCherry発現を評価した(図13A蛍光フィルター、13B明視野)。4回目のトランスフェクション後、週末にかけて細胞を回復させ、次いでトリプシンを使用して細胞を回収し、qPCR分析のために細胞ペレットを採取し、これは、mRNAおよびmiRNA(iBEF)の再プログラミングによって誘導されたBEFにおいてOCT4の高い転写レベルを示した(図13C)。
【0317】
前述の特定の実施形態の説明は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにするので、他の人は、現在の知識を適用することによって、過度の実験なしに、および一般的な概念から逸脱することなく、かかる特定の実施形態の様々な用途に容易に修正および/または適合することができ、したがって、かかる適合および変更は、本開示の実施形態の均等物の意味および範囲内で理解されるべきであり、そのように意図されている。本明細書で用いられる表現または用語は、説明を目的としたものであり、限定を目的としたものではないことを理解されたい。様々な本開示の機能を実施するための手段、材料、およびステップは、本発明から逸脱することなく、様々な代替形態をとることができる。

図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
【図
図13C
【国際調査報告】