(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】収縮不全の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20220729BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220729BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220729BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220729BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220729BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220729BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220729BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20220729BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20220729BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/12
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/216
A61K31/41
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568909
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(85)【翻訳文提出日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 US2020033438
(87)【国際公開番号】W WO2020236736
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515352869
【氏名又は名称】マイオカーディア,インク
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】タンビー,ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チュン
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・カールソン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA36
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4C206ZA59
4C206ZC75
(57)【要約】
本明細書において、駆出率が低下した心不全などの収縮不全を処置するための方法、使用および組成物が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Iを25~350mgの総一日量で患者に経口投与することを特徴とする処置を必要とする患者における収縮不全を処置する方法であって、該化合物Iは、構造式(I)
【化1】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、方法。
【請求項2】
患者が、心不全、心筋症、心原性ショック、心臓手術後の強心剤のサポートにより利益を得る症状、心筋炎、アテローム動脈硬化症、続発性アルドステロン症、心筋梗塞、弁膜疾患、全身性高血圧、肺高血圧または肺動脈高血圧、有害な血管リモデリング、肺浮腫および呼吸不全からなる群から選択される症候群または障害を罹患しており;適宜、
該心不全が、駆出率が低下した心不全(HFrEF)、駆出率が維持された心不全(HFpEF)、うっ血性心不全および拡張期心不全(収縮予備量の低下)から選択され、
該心筋症が、虚血性心筋症、拡張型心筋症、梗塞後心筋症、ウイルス性心筋症、中毒性心筋症(適宜、アントラサイクリン系抗がん治療後)、代謝性心筋症(適宜、酵素補充療法に関連する心筋症)、浸潤性心筋症(適宜、アミロイドーシス)および糖尿病性心筋症から選択され、
該心臓手術後の強心剤のサポートにより利益を得る症状が、血管バイパス手術に起因した心室の機能障害であり、
該心筋炎が、ウイルス性心筋炎であり、ならびに/または
該弁膜疾患が、僧帽弁逆流もしくは大動脈弁狭窄である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
症候群または障害が、慢性および/または安定性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者が、心不全およびNYHAクラスII~IVのいずれか1つの診断を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
患者が症候性心不全を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
患者が急性心不全を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
化合物Iを10~350mgの総一日量で患者に経口投与することを特徴とする、処置を必要とする患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置する方法であって、該化合物Iは、構造式(I)
【化2】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、方法。
【請求項8】
HFrEFが虚血性HFrEFである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
HFrEFが拡張型心筋症(DCM)である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
患者が、DCMの遺伝的素因または遺伝性DCMを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
遺伝性DCMが、MYH7変異によって引き起こされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
患者が僧帽弁逆流症を示す、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
患者が、50%未満の左心室駆出率(LVEF)を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
患者が、40%未満、35%未満、30%未満、15~35%、15~40%、15~50%、20~45%、40~49%または41~49%のLVEFを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
患者が、以下:
a)現在狭心症であること;
b)最近(<90日)の急性冠動脈症候群の診断;
c)過去3ヶ月以内の冠動脈血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス移植[CABG]);および
d)未矯正の重度の弁膜疾患
のうちのいずれの1つまたは組合せも有さない、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
処置の結果、以下:
a)心血管系死亡のリスクの低下;
b)心血管関連入院(心不全の悪化を含むが、これに限定されない)のリスクの低下;
c)運動能力の向上;
d)患者のNYHA分類の改善;
e)臨床的悪化の遅延;および
f)心血管関連徴候の重症度の軽減
のうちのいずれか1つまたは組合せがもたらされる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
処置の結果、NYHA分類の改善およびpVO
2によって測定される運動能力の向上がもたらされる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
運動能力の向上が、ピークVO
2(pVO
2)の>3mL/kg/分の改善である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
運動能力の向上が、ピークVO
2(pVO
2)の>1.5mL/kg/分の改善である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
患者が、高いNT-proBNPレベルを有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
NT-proBNPレベルが400pg/mL以上である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
患者が、10~175mgBID、25~325mgQDまたは25~350mgQDで化合物Iを投与される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
化合物Iが、食事と共に、または食事の約2時間以内、約1時間以内もしくは約30分以内に患者に服用される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
化合物Iが、直径15μm以上または直径15μm~25μmの平均粒径の固体形態で提供される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
患者が、200mg以上のQD投与で投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
化合物Iが、直径10μm以下の平均粒径の固体形態で提供される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
化合物Iの平均粒径が、直径1μm~10μmまたは直径1μm~5μmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
患者が、
a)50~250mgの負荷用量の化合物Iを投与され;
b)その後、約10~12時間、BIDまたはQD維持用量レジメンを継続し、適宜、該維持用量レジメンが、10~75mgBID(適宜、10、25、50または75mgBID)または75~125mgQDである、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
患者が、10~75mgBID、適宜10、25、50または75mgBIDで化合物Iを投与される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
投与により、患者における1000~8000ng/mLの化合物Iの血漿濃度となる、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
投与により、<2000ng/mL、1000~4000ng/mL、2000~3500ng/mL、2000~4000ng/mLまたは>3500ng/mLの化合物I血漿濃度となる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
患者が右心室心不全を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
患者が肺高血圧(すなわち、肺動脈高血圧)を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
患者が左心室心不全を有する、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
投与工程の結果、患者において左心室機能が改善する、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
左心室機能の改善が、駆出率の増加;左室内径短縮率の上昇;1回拍出量の増加;心拍出量の増加;長軸方向ストレインもしくは円周方向ストレインの改善;ならびに/または左心室の収縮末期および/もしくは拡張末期径の減少によって示される心収縮力の改善である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
投与工程により、ピークVO
2、呼吸困難の低減、NYHAクラスの改善、6分間歩行試験の改善または加速度測定によって決定される活動の改善によって測定される患者の機能もしくは運動能力の向上がもたらされる、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
患者に、患者の心血管状態を改善するための追加の薬剤を投与することをさらに含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
追加の薬剤が、ベータ遮断薬、利尿剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、鉱質コルチコイド受容体アンタゴニスト、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、sGC活性剤もしくはモジュレーターまたは抗不整脈薬である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
追加の薬剤が、サクビトリル/バルサルタンなどのARNIまたはSGLT2阻害薬である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
患者が頭痛を経験する場合、患者に鎮痛薬を投与することをさらに含む、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
NT-proBNPレベル、洞性頻脈、心室頻拍または動悸について患者をモニタリングすることをさらに含む、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
化合物Iを経口投与用の錠剤またはカプセル剤の形態で含んでおり、各錠剤またはカプセル剤が、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含んでいる、処置を必要とする患者において収縮不全を処置するためのキットであって、該キットは、所望により負荷用量の錠剤またはカプセル剤を含んでもよく、
該化合物Iは、構造式(I)
【化3】
を有する化合物(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、キット。
【請求項44】
経口投与用の錠剤またはカプセル剤の形態で化合物Iを含み、各錠剤またはカプセル剤が、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含んでいる、処置を必要とする患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置するためのキットであって、該キットは、所望により負荷用量の錠剤またはカプセル剤を含んでもよく、
該化合物Iは、構造式(I)
【化4】
を有する化合物(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、キット。
【請求項45】
化合物Iが、構造式(I)
【化5】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、25~350mgの総一日量で経口投与される、処置を必要とする患者における収縮不全の処置に使用するための、化合物I。
【請求項46】
化合物Iが、構造式(I)
【化6】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、25~350mgの総一日量で経口投与される、処置を必要とする患者における駆出率が低下した心不全(HFrEF)の処置に使用するための、化合物I。
【請求項47】
処置を必要とする患者における収縮不全を処置するための医薬品製造における化合物Iの使用であって、該化合物Iが、構造式(I)
【化7】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、該医薬品は、25~350mgの総一日量で化合物Iを経口投与するためのものである、化合物Iの使用。
【請求項48】
処置を必要とする患者における駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置するための医薬品製造における化合物Iの使用であって、該化合物Iが、構造式(I)
【化8】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、該医薬品は、25~350mgの総一日量での化合物Iの経口投与のためのものである、化合物Iの使用。
【請求項49】
処置を必要とする患者において収縮不全を処置するための化合物Iを含む医薬組成物であって、該化合物Iは、構造式(I)
【化9】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、該組成物が、25~350mgの総一日量での化合物Iの経口投与のためのものである、医薬組成物。
【請求項50】
処置を必要とする患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置するための化合物Iを含む医薬組成物であって、該化合物Iは、構造式(I)
【化10】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩であり、該組成物が、25~350mgの総一日量での化合物Iの経口投与のためのものである、医薬組成物。
【請求項51】
経口投与のための錠剤またはカプセル剤の形態で化合物Iを含み、各錠剤またはカプセル剤は、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含んでいる、処置を必要とする患者において収縮不全を処置するための薬剤であって、該薬剤は、所望により負荷用量の錠剤またはカプセル剤を含んでもよく、
該化合物Iが、構造式(I)
【化11】
を有する化合物(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、薬剤。
【請求項52】
経口投与のための錠剤またはカプセル剤の形態の化合物Iを含み、各錠剤またはカプセル剤は、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含んでいる、処置を必要とする患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置するための薬剤であって、該薬剤は、所望により負荷用量の錠剤またはカプセル剤を含んでもよく、
該化合物Iは、構造式
【化12】
を有する化合物(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、薬剤。
【請求項53】
請求項1~42のいずれか一項に記載の処置方法、請求項43もしくは44に記載のキット、請求項45もしくは46に記載の使用のための化合物I、請求項47もしくは48に記載の使用、請求項49もしくは50に記載の医薬組成物、または請求項51もしくは52に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2019年5月19日に出願された米国仮特許出願第62/849,936号および2019年5月24日に出願された米国仮特許出願第62/852,739号からの優先権を主張する。これらの優先権出願の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
心不全(HF)は、世界中で約2600万人が罹患する世界的に蔓延している疾患である。心不全は、重大な罹患率、致死率および健康管理システムへの費用負担を伴う、世界的に最も急増している心血管症状である(Ponikowski et al., ESC Heart Fail. (2014) 1(1):4-25;Savarese and Lund, Card Fail Rev. (2017) 3(1):7-11)。HFは、65歳よりも年長の患者における入院の最も一般的な原因である(Ponikowski、上記;Savarese and Lund、上記;およびShah et al., J Am Coll Cardiol. (2017) 70(20):2476-86)。HF入院後の5年死亡率は、約42%であり、多くのがんと同等である(Benjamin et al., Circulation (2019) 139:e56-e528)。
【0003】
心不全は、患者の心臓が、身体の代謝要求を満たすために十分な身体への血流供給を提供できない臨床的症候群である。心不全に罹患している一部の患者では、心臓は、身体の他の器官を支持するのに十分な血液をポンプ輸送することが困難である。その他の患者は、心筋自体の硬化および硬直を有しており、このために心臓への血流がブロックされるか、または減少する可能性がある。これらの2つの状態の結果、身体への血液循環が不十分となり、肺がうっ血する。心不全は、心臓の右もしくは左側で起こるか、または両側で同時に起こり得る。心不全は、急性(短期間)または慢性(長期継続)の状態のいずれかであり得る。心不全は、身体の様々な部分で血液が滞留する場合、うっ血性心不全と呼ばれることがある。心不全の症状としては、過度の疲労、急な体重増加、食欲不振、持続性の咳、不整脈、胸部不快感、狭心症、心臓の動悸、浮腫(例えば、肺、腕、脚、くるぶし、顔、手または腹部の膨張)、息切れ(呼吸困難)、頸部静脈の隆起および運動耐容能または運動能力の低下が挙げられるが、これらに限定されない。
【0004】
心臓によってポンプ輸送される血液の容量は、一般に、(a)心筋の収縮(すなわち、どれくらいよく心臓が圧縮するか、またはその収縮機能)、および(b)心腔の充填(すなわち、どれくらいよく心臓が弛緩し、血液で満たされるか、またはその拡張機能)によって決定される。駆出率は、心臓のポンプ機能を評価するために使用され;これは、1回の拍動当たり左心室(ポンプ輸送の主心腔)からポンプ輸送される血液の百分率を表す。正常な駆出率または維持された駆出率は、50パーセント以上である。心臓の収縮機能が損なわれ、心臓が駆出率の実質的な低下(すなわち、<50%の駆出率)を示す場合、この状態は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)として公知である。駆出率≦40%のHFrEFは古典的なHFrEFであり、一方、41~49%の駆出率のHFrEFは、2013年米国心臓病学会財団/米国心臓協会ガイドライン(Yancy et al., Circulation (2013) 128:e240-327)およびthe 2019 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Risk Assessment, Management, and Clinical Trajectory of Patients Hospitalized With Heart Failure (Hollenberg et al., J Am Coll Cardiol (2019) 74:1966-2011)において中間範囲の駆出率の心不全(HFmrEF)と分類される。弱い心筋(低駆出率)には、虚血/梗塞、高血圧、心臓弁膜の欠陥、遺伝子変異、感染および毒素/薬物曝露を含む多くの原因がある。
【0005】
拡張機能障害は、HFrEF患者における罹患率に関与し得る。心臓が正常にポンプ輸送しているが、適切に充填されるためには硬すぎる場合、この状態は、駆出率が維持された心不全(HFpEF)として公知である。歴史的に、HFpEFは、拡張期心不全と呼ばれていたが;しかしながら、近年の調査は、より複雑で異質性の病態生理を示唆している。HFpEF患者は、収縮性能の僅かな異常または軽度の異常を示すが、これは運動中により極端に表れる。心室の拡張および収縮予備能異常、変時性応答不全、心室組織の硬直、心房機能障害、肺高血圧、血管拡張障害、ならびに内皮機能障害は、全て関連がある。これらの異常は、循環器系にストレスがかかった場合にのみ認められることが多い。
【0006】
米国だけで、HFrEF患者は、米国HF人口の約40%に相当する約2.6百万人存在する(Bloom et al., Nat Rev Dis Primers. (2017) 3:17058)。HFrEFは、虚血性素因(主に冠動脈疾患を原因とする)または非虚血性素因(冠動脈以外による心筋の疾患を原因とする)により発症し得る。冠動脈疾患(冠動脈心疾患)とは、冠動脈経路狭窄がある疾患であり;重度の場合、狭窄により心筋への血液供給が不十分になり、心筋細胞死(梗塞)に至る可能性がある。非虚血性HFrEFは、拡張型心筋症(DCM)と呼ばれる場合がある。用語に関わらず、拡張型(拡大した)心筋症は、非虚血性および虚血性HFrEF患者の両方において存在し得る。以後の本明細書において、DCMとは、非虚血性HFrEFを指す。DCMは、遺伝性DCMであるか、または特定可能な原因を見出せない場合に「特発性」DCMとして臨床的診断が為され得る。サルコメア遺伝子を含む30を超える遺伝子の変異により、様々な心筋タンパク質が不安定となり、DCM表現型をもたらす。DCMへの遺伝的関連性の一部は、Hershberger, et al., Nature Reviews (2013) 10(9):531-47およびRosenbaum et al., Nat Rev Cardiol. (2020) 17(5):286-97において議論されている。
【0007】
HFrEFのための現代の医学療法は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のモジュレーター、β-アドレナリン遮断薬、利尿剤および血管作動性ペプチドBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のモジュレーターにより神経ホルモン活性化の作用に対抗することを中心とする。これらの薬物は、適切でない結果を部分的に軽減して、臨床転帰を改善するが、いずれも、心筋機能障害の根底にある原因経路を解決するものではない。
【0008】
いくつかの強心剤は、心筋の酸素要求量を増加させるメカニズムである細胞内カルシウムまたは環状アデノシン一リン酸を増加させることにより、心筋収縮力を増大させるために医療現場で使用される。これら薬剤の長期にわたる試験により、不整脈および虚血を理由とする致死率の増加が実証されているため、それらの使用は、難治性または末期の心不全罹患患者における症状緩和を目的とした短期間または終期治療に限定される。しかしながら、これらの薬剤は、血行動態および症状を改善し、不整脈または虚血の障害が無く収縮力を増加させる薬剤の臨床的利点を示唆する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、収縮装置を直接標的とすることによって心不全を治療する認可された療法はない。収縮期心不全のための新しい安全で効果的な処置への強い必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書は、処置を必要とする患者において収縮不全を処置する方法であって、化合物Iを10~350mgの総一日量で患者に経口投与することを特徴とし、化合物Iは、構造式(I)
【化1】
を有する(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩である、方法を提供する。
【0011】
一部の実施形態では、患者は、心不全(これらに限定されないが、駆出率が低下した心不全(HFrEF)、駆出率が維持された心不全(HFpEF)、うっ血性心不全および拡張期心不全(収縮予備量の減少を伴う)を含む);心筋症(これらに限定されないが、虚血性心筋症、拡張型心筋症、梗塞後心筋症、ウイルス性心筋症、中毒性心筋症(これらに限定されないが、アントラサイクリン系抗がん治療後を含む)、代謝性心筋症(これらに限定されないが、酵素補充療法と関連するものを含む)、浸潤性心筋症(これらに限定されないが、アミロイドーシスを含む)、および糖尿病性心筋症を含む);心原性ショック;心臓手術後の強心剤のサポートにより利益を受ける状態(例えば、心臓血管バイパス手術に起因した心室の機能障害);心筋炎(これらに限定されないが、ウイルス性のものを含む);アテローム性動脈硬化症;続発性アルドステロン症;心筋梗塞;弁膜疾患(これらに限定されないが、僧帽弁逆流および大動脈弁狭窄を含む);全身性高血圧;肺高血圧(すなわち、肺動脈性高血圧);有害な血管リモデリング;肺浮腫;ならびに呼吸不全からなる群から選択される症候群または障害に罹患している。ある特定の実施形態では、症候群または障害は、慢性および/または安定であり得る。
【0012】
一部の実施形態では、患者は、心不全およびNYHAのクラスII~IVのいずれか1つの診断をされている。ある特定の実施形態では、患者は症候性心不全を有する。一部の実施形態では、患者は急性心不全を有する。
【0013】
本明細書はまた、それを必要とする患者において駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療する方法であって、化合物Iを10~350mgの総一日量で患者に経口投与することを特徴とする方法を提供する。HFrEFを有する患者は、<50%の駆出率を示す。駆出率≦40%のHFrEFは、古典的なHFrEFであり、一方で41~49%の駆出率のHFrEFは、中間範囲の駆出率の心不全(HFmrEF)と分類される。一部の実施形態では、HFrEFを有する患者はまた、僧帽弁逆流を示す。一部の実施形態では、HFrEFは虚血性HFrEFである。一部の実施形態では、HFrEFは拡張型心筋症(DCM)であり;適宜、患者は、DCMの遺伝的素因または遺伝性DCM(これらに限定されないがMYH7またはタイチンの突然変異を含む心臓機能に関連する遺伝子の病原性または病原性様の変異体によって引き起こされ得る)を有する。
【0014】
一部の実施形態では、患者は、50%未満の左心室駆出率(LVEF)を有する。ある特定の実施形態では、患者は、40%未満、35%未満、30%未満、15~35%、15~40%(例えば、15~39%)、15~49%、20~45%、40~49%、または41~49%のLVEFを有する。
【0015】
一部の実施形態では、患者は、高NT-proBNPレベルを有する。ある特定の実施形態では、患者は、400pg/mL以上のNT-proBNPレベルを有する。
【0016】
一部の実施形態では、患者は、以下:
a)現在、狭心症であること;
b)最近(<90日)の急性冠動脈症候群の診断;
c)過去3ヶ月以内の冠動脈血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス移植[CABG]);および
d)未矯正の重度の弁膜疾患
のうちのいずれの1つも、または組合せも有さない。
【0017】
一部の実施形態では、処置の結果、以下:
a)心血管系死亡のリスク低下;
b)心血管関連の入院(これらに限定しないが、心不全の悪化を含む)リスクの低下;
c)運動能力の向上;
d)患者のNYHA分類の改善;
e)臨床的悪化の遅延;および
f)心血管関連徴候の重症度の低下、
のうちのいずれか1つまたは組合せを示す。一部の実施形態では、運動能力の向上とは、ピークVO2(pVO2)における>3mL/kg/分の改善である。一部の実施形態では、処置結果は、NYHA分類の改善(例えば、クラスIVからクラスIIIへの改善、クラスIIIからクラスIIへの改善、クラスIIからクラスIへの改善、またはクラスIから心不全無し)、およびpVO2によって測定される運動能力(例えば、pVO2の改善が、>1.5mL/kg/分の改善である)または加速度測定によって測定される活動の改善を含む。心血管関連徴候としては、例えば、過度の疲労、急な体重増加、食欲不振、持続性の咳、不整脈、胸部不快感、狭心症、心臓の動悸、浮腫(例えば、肺、腕、脚、くるぶし、顔、手または腹部の膨張)、息切れ(呼吸困難)、頸部静脈の隆起、運動耐容能または運動能力の低下およびその任意の組合せを挙げることができる。
【0018】
一部の実施形態では、処置方法の結果、慢性心不全(NYHAのクラスII~IV)および低下した駆出率を有する患者における心血管系死亡および心不全のための入院のリスクが低下する。
【0019】
一部の実施形態では、当該処置方法により、安定な症候性慢性HFrEFを有する患者における心不全悪化のための入院のリスクが低下する。
【0020】
一部の実施形態では、当該処置により、収縮期心不全罹患患者において、生存率が改善され、心不全による入院までの時間が延長され、患者が報告する機能状態が改善される。
【0021】
一部の実施形態では、当該処置方法は、運動能力の向上ならびに心不全の関連入院および救急治療の減少によって証明される通り、左心室駆出率を上昇させ、心不全の徴候を改善する。
【0022】
上記の処置結果の任意の組合せもまた意図されるものである。
【0023】
一部の実施形態では、患者は、化合物Iを、10~175mgBID(例えば、10~75mgまたは25~75mgBID、例えば10、25、50または75mgBID)、25~325mgQD(例えば、75~125mgQD)または25~350mgQDで投与される。一部の実施形態では、化合物Iは、食事と共に、または食事の約2時間以内、1時間以内もしくは30分以内に患者に服用される。一部の実施形態では、化合物Iは、直径15μm以上または15~25μmの平均粒径の固体形態で提供される。一部の実施形態では、QD用量は、200mg以上である。
【0024】
一部の実施形態では、患者は、直径10μm未満の平均粒径の固体形態の化合物Iを投与される。ある特定の実施形態では、平均粒径は、直径1~10μmまたは直径1~5μmである。
【0025】
一部の実施形態では、患者は、
a)50~250mgの負荷用量を投与され;
b)投与約10~12時間後、BIDまたはQD維持用量レジメンを継続する。ある特定の実施形態では、BID維持用量レジメンは、10~75mgBID(例えば、10、25、50または75mgBID)であり、QD維持用量レジメンは75~125mgQDである。
【0026】
一部の実施形態では、患者に投与される化合物Iの用量により、1000~8000ng/mL、例えば、<2000ng/mL、1000~4000ng/mL、>2000ng/mL、2000~3500ng/mL、2000~4000ng/mL、または>3500ng/mLの化合物Iの血漿濃度となる。
【0027】
一部の実施形態では、患者は右心室心不全を有する。ある特定の実施形態では、患者は、肺高血圧(すなわち、肺動脈高血圧)を有する。一部の実施形態では、患者は左心室心不全を有する。
【0028】
一部の実施形態では、患者への化合物Iの投与の結果、患者において左心室機能が改善する。左心室機能の改善のパラメーターは、例えば、駆出率の上昇、左室内径短縮率の上昇、1回拍出量の増加、心拍出量の増加、長軸方向ストレインもしくは円周方向ストレインの改善、ならびに/または左心室の収縮期末径および/もしくは拡張末期径の減少により示される心収縮力の改善から選択され得る。
【0029】
一部の実施形態では、化合物Iを患者に投与した結果、ピークVO2(例えば、>1.5または3mL/kg/分の改善)によって測定される患者の機能性もしくは運動能力の向上、呼吸困難の低減、NYHA分類の改善および/または6分間の歩行試験もしくは活動(加速度測定によって決定される)が改善する。ある特定の実施形態では、化合物Iを患者に投与した結果、NYHA分類の改善および運動能力の向上(例えば、>1.5mL/kg/分)がもたらされる。
【0030】
一部の実施形態では、患者は、患者の心血管状態を改善するために追加の薬剤をさらに投与される。追加の薬剤は、例えば、ベータ遮断薬、利尿剤(例えば、ループ利尿剤)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アルドステロンアンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、鉱質コルチコイド受容体アンタゴニスト(例えば、スピロノラクトン)、ARNI、RAAS阻害薬、sGC活性化剤もしくはモジュレーター(例えば、ベルイシグアト)または抗不整脈薬であり得る。特定の実施形態では、追加の薬剤は、サクビトリル/バルサルタンなどのARNIまたはSGLT2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン)である。
【0031】
一部の実施形態では、患者が頭痛を経験する場合、患者は、鎮痛薬をさらに投与される。
【0032】
一部の実施形態では、患者は、NT-proBNPレベル、洞性頻脈、心室頻拍または動悸についてモニタリングされる。
【0033】
本明細書はまた、処置を必要とする患者において収縮不全(例えば、HFrEF)を処置するための、経口投与用の錠剤またはカプセル剤の形態の化合物Iを含んでいる、キットを提供するものであって、各錠剤またはカプセル剤は、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含有していてもよく、前記キットは、負荷用量の錠剤またはカプセル剤を含んでもよい。一部の実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法に従って患者を処置するためのものである。
【0034】
本明細書はまた、処置を必要とする患者における収縮不全(例えば、HFrEF)の処置に使用するための化合物Iを提供するものであって、化合物Iは、25~350mgの総一日量で経口投与される。一部の実施形態では、処置は、本明細書に記載の方法に従う。
【0035】
本明細書はまた、処置を必要とする患者において収縮不全(例えば、HFrEF)を処置するための医薬品の製造における化合物Iの使用を提供するものであって、医薬品とは、25~350mgの総一日量での化合物Iを経口投与するためのものである。一部の実施形態では、前記医薬品は、本明細書に記載の方法に従って患者を処置するためのものである。
【0036】
本明細書はまた、処置を必要とする患者において収縮不全(例えば、HFrEF)を処置するための化合物Iを含む組成物であって、25~350mgの総一日量での化合物Iの経口投与のための組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は、本明細書に記載の方法に従って患者を処置するためのものである。
【0037】
本明細書はまた、処置を必要とする患者において収縮不全(例えば、HFrEF)を処置するための、経口投与用の錠剤またはカプセル剤の形態の化合物Iを含む医薬品であって、各錠剤またはカプセル剤は、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含んでいる。一部の実施形態では、医薬品は、本明細書に記載の方法に従って患者を処置するためのものである。
【0038】
本発明の他の特徴、目的および利点は、後記の詳細な説明において明らかである。しかしながら、一方で本発明の実施形態および態様を示す詳細な説明は、例示としてのみ示され、限定ではないことを理解されたい。本発明の範囲内の様々な変更および修正は、詳細な説明から当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、所定時間および処置群による健康なボランティアにおける化合物Iの平均血漿濃度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、用量に対するC
maxの用量比例性評価を示すグラフである。
【
図3】
図3は、用量に対するAUC
infの用量比例性評価を示すグラフである。
【
図4】
図4は、食事と共にまたは食事無しでの200mgの化合物Iの経口投与後の所定時間による化合物Iの平均血漿濃度を示すグラフである。絶食状態についてN=10。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)である。
【
図5】
図5Aおよび5Bは、化合物IによりHFrEFを処置するための臨床試験設計を示す模式図である。BID、1日2回;MAD、反復投与漸増用量;SAD、単回投与漸増用量;SRC、安全性審査委員会。
【
図6】
図6は、単回投与漸増用量の化合物Iの経口投与後の所定時間および処置群による安定なHFrEFを有する患者における化合物Iの平均血漿濃度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、MADコホートA(1~6日目に1日2回75mg、および7日目に単回用量;絶食;パネルA)およびコホートC(1~6日目に1日2回75mg、および7日目に単回用量;摂食;パネルB)の患者に、複数回用量の化合物Iを経口投与した後の個体および平均血漿濃度-時間プロファイルを示す一対のグラフである。コホートAの対象106-102は、4日目および5日目に投薬を受けておらず、平均濃度の計算からは除外した。
【
図8】
図8は、MADコホートB(1~6日目に1日2回50mg、および7日目に単回用量;摂食;パネルA)およびコホートD(1~6日目に1日2回100mg、および7日目に単回用量;摂食;パネルB)の患者に、複数回用量の化合物Iを経口投与した後の個体および平均血漿濃度-時間プロファイルを示す一対のグラフである。コホートBの対象401~101は、1~6日目に投薬を受けておらず、平均濃度の計算からは除外した。
【
図9】
図9A~9Cは、化合物Iの血漿濃度によるベースラインからのECSG変化(9A)、化合物Iの血漿濃度によるベースラインからのSET変化(9B)、およびベースラインからのSET変化によるベースラインからのLVSV変化(9C)を示すグラフである。
図9Aおよび9Bに示された直線は、非パラメトリックLOESS(局所推定された散乱図平坦化)方法から得たものである。95%上側および下側信頼限界に限られた
図9Cに示された直線は、同じ患者から得た複数回の測定値に起因する患者内変動を説明する混合モデル回帰から作成した。勾配の推定は、(0.1479、0.2465)の95%CIで0.1972(p値<0.0001)である。
【
図10】
図10は、3mg(左上)、100mg(右上)および525mg(左下)の経口(PO)投与についての予測血漿濃度-時間プロファイルおよび実測血漿濃度-時間プロファイル、ならびに胃腸管(GI)の異なる領域における3、100および525mgの用量の化合物Iの予測インビボ吸収(右下)を示す一対のグラフである。HV=健康なボランティア。
【
図11】
図11は、異なる粒径にて化合物Iの100mgを投与した健康なボランティアにおいてシミュレーションしたインビボでの溶解(右上)、吸収(左下)および血漿濃度-時間(右下)プロファイルを示す一対のグラフである。GI管の異なる領域における異なる粒径の化合物Iの予測インビボ吸収(左上)もまた示される。
【
図12】
図12は、インビボ吸収に対する化合物Iの粒径の効果、ならびに50、100、200および500mgの用量で投与された化合物Iの全身曝露を示す一対のグラフである。
【
図13】
図13は、イヌに化合物Iを投与した後の予測および実測の全身曝露パラメーターのデータを要約した表である。
【
図14】
図14は、健康なボランティアに化合物Iを投与した後の予測および観察の全身曝露パラメーターのデータを要約した表である。
【
図15】
図15は、化合物Iを用いて、MYH7変異が確認された原発性DCMを処置するための臨床試験設計を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書は、低分子化合物である化合物Iによる収縮不全(心臓の収縮機能の障害;例えば、収縮期心不全)の処置に関する方法、使用および組成物を提供する。処置レジメンは、安全かつ効果的であり、処置患者の心機能の大幅な改善をもたらしたことが見出された。
【0041】
医薬組成物
本願の処置レジメンに使用される医薬組成物は、有効医薬成分(API)として化合物Iを含有する。化合物Iとは、以下の化学構造式(I):
【化2】
を有する化合物(R)-4-(1-((3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)スルホニル)-1-フルオロエチル)-N-(イソキサゾール-3-イル)ピペリジン-1-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩を指す。化合物Iは、心臓のアクチンおよびミオシン間の架橋形成(ホスフェートの放出として測定される)を増やすミオシンモジュレーターである。架橋の形成および分離は、心臓収縮の各サイクルにおける重要な工程である。化合物Iは、ミオシンに可逆的に結合し、ケモメカニカルサイクルの強い結合状態に関与することができるミオシン/アクチン架橋の数を増加させ、それによって収縮を増加させる。しかし、化合物Iは、架橋分離(ADP放出として測定される)を阻害しないため、収縮サイクルの他の状態に何ら影響を及ぼさず、カルシウムホメオスタシスにも影響を及ぼさない。
【0042】
本明細書で使用される医薬組成物は、経口剤形(例えば、液剤、懸濁液、エマルジョン、カプセル剤または錠剤)で提供され得る。一部の実施形態では、化合物Iの粒子は、各々5、25、50、75、100、125、150、175または200mgの化合物Iを含有する錠剤に圧縮される。一部の実施形態では、化合物Iの粒子は、経口投与用の水、懸濁ビヒクルおよび/または風味付きのシロップなどの好適な液体に懸濁され得る。
【0043】
錠剤または経口懸濁液中の化合物IのAPI固形物は、例えば、直径1~100、1~50または15~50μm(例えば、直径1~5、5~10、1~10、10~20または15~25μm)の平均粒径を有し得る。一部の実施形態では、化合物Iは、直径30以下、25、20、15、10または5μmの平均粒径を有する。一部の実施形態では、化合物IのAPI固形物は、D50の粒径分布(PSD)として直径15~25μmの平均粒径を有する(すなわち、粒子の50%が直径15~25μmの粒径を有する)。ある特定の実施形態では、化合物Iは、直径10μm以下の平均粒径、例えば、10μm以下(NMT)のD50を有する。ある特定の実施形態では、化合物Iは、直径5μm以下の平均粒径、例えば、5μm以下のD50を有する。粒径の分析は、典型的には、一次粒子の粒径を決定するのに適切であるPSD方法を使用して実施される。凝集を低減するために超音波を使用してもよい。粒径を測定するために使用されるPSD技術自体により、一次粒径が変更されるべきではない。本明細書の一部の実施例では、超音波を使用するか、または超音波を使用せずにMalvern Mastersizer 2000を用いてPSD技術を実施した。
【0044】
化合物I APIの他に、本願の医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤も含有し得る。例えば、本願で使用される錠剤は、充填剤、希釈剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤および崩壊剤を含有し得る。一部の実施形態では、化合物Iの錠剤は、微結晶セルロース、ラクトース一水和物、ヒプロメロース、クロスカルメロースナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムのうちの1種または複数を含有する。錠剤は、服用しやすくするためにコーティングしてもよい。
【0045】
処置レジメン
本発明の安全かつ効果的な処置レジメンを、収縮不全を有する患者における化合物Iの臨床試験の結果に基づいて開発した。化合物Iの処置レジメンは、それを必要とする患者において心筋収縮力を増加させる一方で、患者の心室拡張機能に重度の副作用を有さない(すなわち、弛緩を維持する)。患者は、少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも1年もしくはそれよりも長く、または患者がもはや処置を必要としなくなる時まで、本発明の処置レジメンを受けてもよい。
【0046】
本発明の処置レジメンの一部の実施形態では、化合物Iは、10~700mg(例えば、25~700または50~150mg)の総一日量を経口投与される。例えば、化合物Iは、10、25、50、75、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、525、550、600または700mgの総一日量を経口投与され得る。別の例として、化合物Iは、50、100または150mgの総一日量を経口投与されてもよい。一実施形態では、化合物Iは、10~175mg(例えば、25~175mg)BID(1日2回)(例えば、10、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170または175mg)で経口投与される。例えば、化合物Iは、10~75または25~75mg(例えば、10mg、25mg、50mgまたは75mg)BID(1日2回)で経口投与され得る。別の実施形態では、化合物Iは、25~350mg QD(1日1回)(例えば、25~325、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345または350mg)で経口投与される。BID投与間の間隔は、可能な場合、例えば、約10~12時間空ける(例えば、午前および午後)。本明細書で使用される場合、化合物Iまたは化合物Iを含有する医薬組成物(「化合物Iの医薬品」)の投与は、患者自身による自己投与(例えば、患者による経口摂取)を含む。化合物Iの医薬品は、食事と共にまたは食事無しで、所定の投与量で患者により服用され得る。医薬品は、適宜、水または牛乳(例えば、全乳)などの飲料と共に服用されてもよい。
【0047】
一部の実施形態では、患者は、食事と共にまたは食事無しで負荷用量の化合物Iを、その後の約10~12時間後に、食事と共にまたは食事無しで維持用量(例えば、上記の用量)を経口投与され、次いで男性患者/女性患者に推奨される1日維持用量レジメンを食事と共にまたは食事無しで継続する(例えば、BID投薬レジメンの場合、午前および午後)。一実施形態では、2000ng/mL~4000ng/mL(例えば、2000ng/mL~3500ng/mL)の目標定常状態平均濃度のために、患者は、食事と共にまたは食事無しで、(a)BID投薬レジメンとして維持用量の2倍またはQD投薬レジメンとして維持用量の1.5倍の負荷用量を投与され、(b)約10~12時間後に、推奨される1日BIDまたはQD投薬レジメンのいずれか適用可能なレジメンンを開始する。別のさらなる実施形態では、50~250mgの負荷用量の化合物Iが、食事と共にまたは食事無しで朝に投与され、その後10~75mg(例えば、25~75mg)BIDのBID維持用量の投薬レジメンまたは75~125mg QDのQD維持用量の投薬レジメンを夕方に開始する。食事と共にまたは食事無しの10~175mg(例えば、25~175mg)の1日2回の維持用量を含むレジメンは、例えば、(i)食事と共にまたは食事無しで、維持用量の2倍の負荷用量を患者に投与する工程、および(ii)約10~12時間後に、食事と共にまたは食事無しで1日2回の維持用量で投薬レジメンを開始する工程を含み得る。食事と共にまたは食事無しの25~350mgの1日1回維持用量を含むレジメンは、例えば、(i)食事と共にまたは食事無しで、維持用量の1.5倍の負荷用量を患者に投与する工程;および(ii)約10~12時間後に、食事と共にまたは食事無しで1日1回維持用量の投薬レジメンを開始する工程を含み得る。
【0048】
一部の実施形態では、患者による化合物Iの吸収は、食事によって促進され得る。一部の実施形態では、食事は、脂肪含量が高い;つまり、食事のカロリーの50%以上が脂肪由来である)。一部の実施形態では、化合物Iが食事(例えば、高脂肪食)と共に服用される場合、化合物I APIの平均粒径は、直径15μm以上であり、QD用量は約200mg以上である。一部の実施形態では、患者が必要とする化合物Iの総1日用量は、医薬品が食後状態(例えば、食事の約2時間以内、食事の約1.5時間以内、または食事の約1時間以内)で服用される場合、医薬品が食後では無い状態で服用される場合に患者が必要とする総1日用量よりも少ない用量であり得る。「食事の約X時間以内」とは、食事の摂取開始前または終了後の約X時間を意味する。
【0049】
ある特定の実施形態では、化合物Iの錠剤またはカプセル剤は、1日に2回、食事と共にまたは食事の約2時間以内(例えば、食事の約1.5時間以内、または食事の約1時間以内)に、患者によって経口投与される;さらに関連する実施形態では、化合物Iの医薬品は、直径D50 15~25μmの平均粒径を有する化合物Iの粒子を含有する。一部の実施形態では、患者は、医薬品を、1日に1回、食事(例えば、400~1000カロリー、25~50%脂肪)と共に服用する。一部の実施形態では、患者は、医薬品を、1日に2回、食事(例えば、1回の食事当たり400~1000カロリー、25~50%脂肪)と共に服用する。例えば、患者は、医薬品を朝食および夕食時に服用してもよい。
【0050】
一部の実施形態では、医薬品中の化合物IのAPIは、微粒子化され、直径10μm以下(10μm以下(NMT)のD50)または直径5μm以下(5μm以下のD50)の平均粒径を有する。ある特定の実施形態では、医薬品中の化合物Iの粒子は、5または10μm以下のD50を有し、医薬品は、1日に2回(例えば、10~12時間毎、または午前および午後)、食事と共にまたは食事無しで患者に経口投与され得る。
【0051】
特定の患者に使用される投与量は、患者の状態および/または患者固有のPKプロファイルに基づいて調節され得る。現行の試験により、試験した薬剤投与量および曝露量は、安全であり、かつ十分忍容されることが示された。一部の実施形態では、化合物Iは、1000~8000ng/mL(例えば、1000~2000ng/mL、1500~3000ng/mL、2000~3000ng/mL、3000~4000ng/mL、3000~4500ng/mL、3500~5000ng/mL、4000~5000ng/mL、5000~6000ng/mL、6000~7000ng/mL、または7000~8000ng/mL)の血漿濃度をもたらす用量で患者に投与され得る。一部の実施形態では、化合物Iは、<2000、2000~3500、または>3500ng/mL(例えば、2000~3500ng/mL)の血漿濃度をもたらす用量で患者に投与され得る。一部の実施形態では、化合物Iは、1500、2000、2250、2500、2750、3000、3500、4000、5000、6000または7000ng/mL以上の化合物Iの血漿濃度をもたらす量で患者に投与され得る。一部の実施形態では、化合物Iの目標血漿濃度は、1000~4000ng/mLである。ある特定の実施形態では、化合物Iの目標血漿濃度は、1500~3000ng/mLである。特定の実施形態では、化合物Iの目標血漿濃度は、2000~3500ng/mLである。化合物Iの血漿濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析(高速LC-MSなどのLC-MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)またはその任意の組合せなどの当技術分野で公知の任意の方法によって決定できる。
【0052】
周知の薬物動態(PK)パラメーターを使用して、患者における化合物Iの投薬を決定または調節できる。以下は、PKパラメーターの例である。
【表1】
【0053】
一部の実施形態では、本明細書に記載の処置レジメンは、頭痛、無気力、胸部不快感、徐脈、心ブロック、洞性頻脈、心室頻拍、動悸、NT-proBNPレベルの増加、トロポニンレベルの増加および心虚血などの有害事象について患者をモニタリングすることを含む。重度の有害事象が生じた場合、患者は、有害事象について処置されてもよく、および/または化合物Iによる処置を中止してもよい。
【0054】
併用療法
本明細書は、化合物I単独療法および併用療法の両方を提供する。併用療法では、本明細書の化合物Iのレジメンは、患者の心臓の状態のための追加の治療レジメン、例えば、標準ケア(SOC)治療とも呼ばれるガイドラインに基づく医学療法(GDMT)、または関連疾患もしくは障害を処置するのに有用な別の治療と組み合わせて使用される。追加の治療剤は、前記薬剤に一般に使用される経路および量またはそれより少ない量で投与されてもよく、化合物Iと同時、逐次または共に投与されてもよい。
【0055】
ある特定の実施形態では、化合物Iは、収縮期心不全などの収縮不全状態のためにSOCの1番に投与される。一部の実施形態では、患者は、化合物Iの医薬品に加えて、別の治療剤、例えば、ベータ-遮断薬(例えば、ビソプロロール、カルベジロール、カルベジロールCRまたはコハク酸メトプロロール徐放剤(メトプロロールCR/XL))、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、カプトプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリルおよびトランドラプリル)、アンジオテンシン受容体アンタゴニスト(例えば、アンジオテンシンII受容体遮断薬)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)(例えば、サクビトリル/バルサルタン)、鉱質コルチコイド受容体アンタゴニスト(例えば、アルドステロン阻害薬、例えば、カリウム保持性利尿剤、例えば、エプレレノン、スピロノラクトンまたはカンレノン)、コレステロール低下薬(例えば、スタチン)、Ifチャネル阻害薬(例えば、イバブラジン)、中性エンドペプチダーゼ阻害薬(NEPi)、陽性強心剤(例えば、ジゴキシン、ピモベンダン、ベータアドレナリン受容体アゴニスト、例えば、ドブタミン、ホスホジエステラーゼ(PDE)-3阻害薬、例えば、ミルリノンまたはカルシウム感受性増強剤、例えば、レボシメンダン)、カリウムまたはマグネシウム、プロタンパク質転換酵素スブチリシンケキシン9型(PCSK9)阻害薬、血管拡張薬(例えば、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、エンドセリン受容体アンタゴニスト、レニン阻害薬、平滑筋ミオシンモジュレーター、二硝酸イソソルビドおよび/またはヒドララジン)、利尿剤(例えば、ループ利尿剤、例えば、フロセミド)、RAAS阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性剤またはモジュレーター(例えば、ベルイシグアト)、SGLT2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン)、抗不整脈薬(例えば、アミオダロン、ドフェチリドおよびソタロール)、抗凝血剤(例えば、ワルファリン、アピキサバン、リバーロキサバンおよびダビガトラン)、抗血栓剤、抗血小板剤またはその任意の組合せを与えられる。
【0056】
好適なARBとしては、例えば、A-81988、A-81282、BIBR-363、BIBS39、BIBS-222、BMS-180560、BMS-184698、カンデサルタン、カンデサルタンシレキセチル、CGP-38560A、CGP-48369、CGP-49870、CGP-63170、CI-996、CV-11194、DA-2079、DE-3489、DMP-811、DuP-167、DuP-532、E-4177、エリサルタン、EMD-66397、EMD-73495、エプロサルタン、EXP-063、EXP-929、EXP-3174、EXP-6155、EXP-6803、EXP-7711、EXP-9270、FK-739、GA-0056、HN-65021、HR-720、ICI-D6888、ICI-D7155、ICI-D8731、イルベサルタン、イソテオリン、KRI-1177、KT3-671、KW-3433、ロサルタン、LR-B/057、L-158809、L-158978、L-159282、L-159874、L-161177、L-162154、L-163017、L-159689、L-162234、L-162441、L-163007、LR-B/081、LR-B087、LY-285434、LY-302289、LY-315995、LY-235656、LY-301875、ME-3221、オルメサルタン、PD-150304、PD-123177、PD-123319、RG-13647、RWJ-38970、RWJ-46458、酢酸サララシン、S-8307、S-8308、SC-52458、サプリサルタン、サララシン、サルメシン(sarmesin)、SL-91.0102、タソサルタン、テルミサルタン、UP-269-6、U-96849、U-97018、UP-275-22、WAY-126227、WK-1492.2K、YM-31472、WK-1360、X-6803、バルサルタン、XH-148、XR-510、YM-358、ZD-6888、ZD-7155、ZD-8731およびゾラサルタン(zolasartan)を挙げることができる。
【0057】
特定の実施形態では、追加の治療剤は、ARNI、例えば、サクビトリル/バルサルタン(Entresto(登録商標))またはナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)、例えば、エンパグリフロジン(例えば、Jardiance(登録商標))、ダパグリフロジン(例えば、Farxiga(登録商標))、カナグリフロジン(例えば、Invokana(登録商標))またはソタグリフロジンであり得る。
【0058】
一部の実施形態では、化合物Iを用いて心不全を処置されている患者はまた、ARNI、ベータ遮断薬および/またはMRAでも処置されている。
【0059】
一部の実施形態では、化合物Iを用いて心不全を処置されている患者はまた、ベータ遮断薬および適宜アルドステロンアンタゴニストと合わせて、ACE阻害薬および/またはARBおよび/またはARNIでも処置されている。ある特定の実施形態では、ACE阻害薬、ARB、ARNI、ベータ遮断薬および/またはアルドステロンアンタゴニストは、任意の組合せで本明細書に記載のものから選択される。
【0060】
何らかの副作用が生じた場合、患者は、副作用について処置されてもよい。例えば、化合物Iの処置に起因する頭痛を経験する患者は、イブプロフェンおよびアセトアミノフェンなどの鎮痛薬で処置され得る。化合物Iの処置に起因する不整脈を経験する患者は、アミオダロン、ドフェチリド、ソタロール、フレカイニド、イブチリド、リドカイン、プロカインアミド、プロパフェノン、キニジンおよびトカイニドなどの抗不整脈薬で処置され得る。
【0061】
患者集団
本発明の処置レジメンは、収縮期心不全などの収縮不全を示す患者を処置するために使用できる。収縮期心不全は、駆出率の低下(例えば、15~35%、15~40%(例えば、15~39%)、20~45%、40~49%および41~49%のLVEFを含む約50%、45%、40%または35%未満)および/または心室の拡張末期圧および容量の増加を特徴とすることができる。一部の実施形態では、収縮期心不全は、HFrEF(<50%、例えば、≦40%または<40%の駆出率)である。
【0062】
本明細書における処置レジメンは、本明細書に記載の通りの種類の収縮期心不全を有する患者を選択する工程を含み得る。一部の実施形態では、患者は、18歳以上の年齢である。一部の実施形態では、患者は、HFについて処置されたことがない。一部の実施形態では、患者は、例えば、HFの標準ケアにより、収縮期心不全などのHFについて以前に処置されたことがあるか、または処置されているが、十分な改善を示していない。一部の実施形態では、患者は、Entresto(登録商標)および/またはオメカムチブで処置されたことがあるか、または処置されているが、収縮期心不全の徴候を継続して示している。一部の実施形態では、患者は、ベータ遮断薬および適宜アルドステロンアンタゴニスト(これらの薬剤は、例えば、本明細書に記載のものから選択され得る)と合わせて、ACE阻害薬またはARBまたはARNIで処置されたことがあるか、または処置されているが、収縮期心不全の徴候を継続して示している。患者は、慢性HFを有し得る、すなわち、HFの標準ケアを受けながら、4週間以上の収縮期心不全を有する;または患者は、最近のHFを有し得る、すなわちHFの標準ケアを受けながら、4週間未満の収縮期心不全を有する。患者が、入院に至る突然現れる徴候(例えば、息切れなどのうっ血徴候)または心不全の既存の徴候の急速な悪化を経験する場合、これは多くの場合、急性HFと呼ばれる。
【0063】
患者は、左心室、右心室または両心室の収縮期心不全を経験し得る。一部の実施形態では、患者は、右心室の心不全を有する。さらに関連する実施形態では、患者は、肺高血圧(すなわち、肺動脈高血圧)を有する。
【0064】
一部の実施形態では、患者は、HFrEF(すなわち、<50%の駆出率)を有する。≦40%の駆出率のHFrEFは古典的なHFrEFであり、一方、41~49%の駆出率のHFrEFは、中間範囲の駆出率の心不全(HFmrEF)と分類される。患者は、50%未満、例えば、45%、40%、35%、30%、25%、20%または15%未満の低下した左心室駆出率(LVEF)を有し得る。ある特定の実施形態では、患者は、≦45%(例えば、20~45%)、≦40%(例えば、15~40%、25~40%、15~39%または25~39%)、または≦35%(例えば、15~35%)のLVEFを有する。HFrEFは、虚血性または非虚血性起源のものであり得、慢性または急性であり得る。
【0065】
特定の実施形態では、患者は、高リスクHFrEF(または本明細書で使用される通りの「高リスクHFrEF」)を示す。高リスクHFrEF患者とは、35%以下のLVEFを有する患者である。一部の実施形態では、患者は、NYHAのクラスIIIまたはIVとさらに診断される。一部の実施形態では、患者は、30%以下のLVEFを有する。一部の実施形態では、HFrEF患者は、患者の男性/女性が、以下の基準:
(i)悪化する心不全(WHF)のための頻繁な入院;
(ii)高用量の利尿剤の服用にも関わらずWHFのための入院;
(iii)<30%または<35%のLVEF;
(iv)高いN末端プロb型ナトリウム利尿ペプチドであるNT-proBNP(例えば、≧400、600、800、1000または1200pg/mL);
(v)重度の徴候負担(NYHAのクラスIII~IV、下記);
(vi)低い機能的能力または運動能力(例えば、ピークVO2、6分間歩行試験および/または活動(例えば、加速度測定によって決定される)によって決定される);
(vii)IV強心剤依存;および
(viii)最適用量が推奨される(ガイドラインに基づく)HF医薬品(例えば、RAAS阻害薬、例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、ARNI(例えば、Entresto(登録商標))、ベータ遮断薬、鉱質コルチコイド受容体アンタゴニスト(MRA)など)を用いて処置不能
のうちの1つまたは複数を満たす場合に、「高リスク」とさらにみなされる。
【0066】
さらなる実施形態では、HFrEF患者は、患者の男性/女性が、以下の基準:
(a)NYHA分類のクラスIII~IV;
(b)LVEF≦35%;および
(c)≧400、600、800、1000または1200pg/mLの高いNT-proBNP
を満たす場合に、「高リスク」とみなされる。
【0067】
一部の実施形態では、患者は、安定なHF、例えば、安定なHFrEFを有する。本明細書で使用される場合、疾患に関して「安定」である患者とは、その疾患を有しており、入院または緊急来院となり得る徴候の悪化を経験していない患者を指す。例えば、安定なHFを有する患者は、収縮機能障害を有し得るが、機能障害の徴候は、利用可能な治療を用いて、コントロールし得るか、または安定化することができる。
【0068】
一部の実施形態では、患者は、以下の一方または両方によって定義される安定なHFrEF(例えば、重症度が中等の安定な慢性HFrEF)を有する:(i)50%未満のLVEF;ならびに(ii)ベータ遮断薬、ACE阻害薬、ARBおよびARNIの少なくとも1つを含み得る、現在のガイドラインに従う心不全の処置のための長期にわたる投薬。ある特定の実施形態では、患者は:
(a)現在、狭心症であること;
(b)最近(<90日)の急性冠動脈症候群;
(c)過去3ヶ月以内の冠動脈血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス移植(CABG));および
(d)未矯正の重度の弁膜疾患
のうちのいずれか1つまたは組合せも示さない。一部の実施形態では、患者は、40%もしくは35%未満、15%~40%または15%~35%のLVEFをさらに有する。一部実施形態では、患者は、400pg/mL以上のNT-proBNPレベルをさらに有する。
【0069】
一部の実施形態では、拡張型心筋症(DCM)(例えば、特発性DCMまたは遺伝性DCM)を示す患者を処置するために本発明の処置レジメンが使用され得る。ある特定の実施形態では、患者は、拡張した左または右心室、50%未満(例えば、≦40%)の駆出率を有し、既知の冠疾患を有さない。DCMは、遺伝性DCMであってもよく、患者は、ミオシン重鎖、タイチンまたはトロポニンTなどのDCMを引き起こすことが公知の筋節収縮または構造タンパク質の少なくとも1つの遺伝子変異を有する(例えば、Hershberger et al., Nat Rev Cardiol. (2013) 10(9):531-47およびRosenbaum、上記を参照されたい)。一部の実施形態では、遺伝子変異は、ABCC9、ACTC1、ACTN2、ANKRD1、BAG3、CRYAB、CSRP3、DES、DMD、DSG2、EYA4、GATAD1、LAMA4、LDB3、LMNA、MYBPC3、MYH6、MYH7、MYPN、PLN、PSEN1、PSEN2、RBM20、SCN5A、SGCD、TAZ、TCAP、TMPO、TNNC1、TNNI3、TNNT2、TPM1、TTN、VCLまたはその任意の組合せから選択される遺伝子に存在する。例えば、遺伝子変異は、ACTC1、DES、MYH6、MYH7、TNNC1、TNNI3、TNNT2、TTNまたはその任意の組合せから選択される遺伝子に存在する。特定の実施形態では、遺伝子変異は、MYH7遺伝子におけるものである。ある特定の実施形態では、DCM(例えば、MYH7遺伝子における変異が原因となり得る遺伝性DCM)を有する患者は、HFrEFも有しており、かつ以下の1つまたは複数(例えば、全て)を示し得る:
-15~40%のLVEFを有する;
-少なくとも軽度の左心室肥大(男性の場合LVEDD≧3.1cm/m2、女性の場合≧3.2cm/m2)を有する;および
-心不全の処置のために、長期にわたり投薬されている、例えば、β-遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)またはその任意の組合せを投与されている。
ある特定の実施形態では、患者は、以下の1つまたは複数(例えば、全て)を示さない:
-QTcF間隔>480ミリ秒;
-遺伝子変異がMYH7遺伝子における場合、DCMに関わる別の遺伝子の公知の病原性変異;
-虚血性心疾患、慢性弁膜症または別の症状によって主に引き起こされると考えられるHFrEF;
-最近(<90日)の急性冠動脈症候群または狭心症;
-直近90日以内の冠動脈血行再建(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス移植[CABG]);
-最近(<90日)の心不全、IV利尿剤もしくは慢性IV強心薬の使用、またはその他の心血管事象(例えば、脳血管発作)のための入院;および
-重症度が中等以上の既知の大動脈弁狭窄。
【0070】
一部の実施形態では、本明細書に記載の処置レジメンで処置された患者は、以下の表2に定義される通りのニューヨーク心臓協会(NYHA)分類のクラスI、II、IIIまたはIV心不全を有する。
【表2】
【0071】
本発明の処置レジメンによって処置できる追加のまたは付随する状態としては、HFpEF、慢性うっ血性心不全、心原性ショックおよび心臓手術後の強心剤のサポート、肥大型心筋症、虚血性心筋症または梗塞後心筋症、ウイルス性心筋症または心筋炎、中毒性心筋症(例えば、アントラサイクリン系抗がん治療後)、代謝性心筋症(酵素補充療法と関連して)、糖尿病性心筋症、拡張期心不全(収縮予備量の減少を伴う)、アテローム動脈硬化症、続発性アルドステロン症、ならびに心臓血管バイパス手術に起因した心室の機能障害が挙げられるが、これらに限定するものではない。本発明の処置レジメンはまた、虚血または容量もしくは圧力過負荷、例えば、心筋梗塞、慢性僧帽弁逆流、慢性大動脈弁狭窄もしくは慢性の全身性高血圧に起因した左心室機能障害の有益な心室逆リモデリングを促進および/または有害な血管リモデリングを処置し得る。左心室の充填圧力を減少させることによって、処置レジメンは、呼吸困難の徴候を改善し、肺浮腫および呼吸不全のリスクを低下させることができる。処置レジメンは、DCMに関連する慢性虚血状態の重症度を減少させ、それによって、植込み型除細動器(頻繁および/または繰り返しICD放電)を有する患者における心臓突然死(SCD)もしくはそれに相当するもののリスクおよび/または潜在的な毒性抗不整脈薬の必要性を低下させ得る。処置レジメンは、それに付随する潜在的な毒性、薬物間相互作用および/または副作用を伴う併用医薬品の必要性を減少または排除するのに有用であり得る。処置レジメンは、間質性心筋線維症を低減させ得る、および/または左心室の硬直および機能障害の進行を遅延、停止または逆行させ得る。
【0072】
一部の実施形態では、本発明の処置レジメンを使用して、僧帽弁逆流を示す心不全(例えば、HFrEF)を有する患者が処置され得る。一部の実施形態では、僧帽弁逆流は慢性である。一部の実施形態では、僧帽弁逆流は急性である。
【0073】
一部の実施形態では、収縮不全を有する患者は、増加した血中バイオマーカーレベルを示し得る。循環ナトリウム利尿ペプチド(NP)レベルは、NT-proBNPレベルが1000pg/m以上に上昇し、致死および再発心不全入院のリスクが着実に上昇するため、通院および入院の両方の心不全患者について標準的な臨床リスクの層別化アルゴリズムに増分予後値を加える。例えば、Desai et al., Circulation (2013) 127:509-516を参照されたい。例えば、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)またはN末端-プロ-脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)は、収縮不全を有する個体の血中に高レベルで存在する。BNPの正常レベルは100pg/mL未満である。数値が高いほど、心不全が存在する確率がより高く、心不全はより重症である可能性が高い。クリーブランド医療施設の参照範囲に基づくNT-proBNPの正常レベルは、(1)年齢0~74歳の患者については125pg/mL未満、および(2)年齢75~99歳の患者については450pg/mL未満である。
【0074】
したがって、一部の実施形態では、本発明の処置レジメンで処置される患者は、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)またはN末端-プロ-脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の高血清血中レベルを示し得る。一部の実施形態では、BNPの患者の血清血中レベルは、濃度が少なくとも35、45、55、65、75、85、95、100、105または115pg/mL(例えば、少なくとも35または85pg/mL)である場合に、高いとみなされる。一部の実施形態では、NT-proBNPの患者の血清血中レベルは、濃度が少なくとも95、105、115、125、135、145、155、165または175pg/mL(例えば、少なくとも125または155pg/mL)である場合に、高いとみなされる。
【0075】
一部の実施形態では、患者は、患者の男性/女性が以下の条件:
(i)急性冠症候群(ACS);
(ii)卒中;
(iii)大きな心臓手術/インターベンション;
(iv)冠動脈インターベンション;
(v)3ヶ月以内の心臓弁修復術/植込み;
(vi)未矯正の弁膜のまたは臨床的に重大な先天性心疾患;
(vii)≦7日の機械によるサポート;
(viii)60日以内に予定されているLVADまたは移植;および
(ix)IV強心剤依存
の1つまたは複数を有する場合、化合物Iの処置を受けない(一時的または永久に)場合があるか、または中止する場合がある。
【0076】
処置結果
本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置すること」および「処置」という用語は、徴候の消失;軽減;減少;病理、傷害、状態もしくは徴候を患者にとってより忍容できるものにすること;病理、傷害、状態もしくは徴候の頻度もしくは持続時間を減少させること;または一部の状況では、病理、傷害、状態もしくは徴候の発症を防止することなどの任意の客観的または主観的パラメーターを含む収縮不全に関する病理、傷害、状態または徴候に関する処置の成功または改善の成功の指標を指す。処置または改善は、例えば身体検査の結果を含む任意の客観的または主観的パラメーターに基づき得る。例えば、収縮期心不全の処置には、これらに限定されないが、患者の心機能の改善および収縮期心不全の徴候の緩和(特に、歩行または階段昇降を含む運動中)が包含される。収縮期心不全の徴候としては、過度の疲労、急な体重増加、食欲不振、持続性の咳、不整脈、胸部不快感、狭心症、心臓の動悸、浮腫(例えば、肺、四肢、顔または腹部の膨張)、呼吸困難、頸部静脈の浮き上がりおよび運動耐容および/または運動能力の低下が挙げられる。
【0077】
患者の心機能の測定に使用され得る薬力学(PD)パラメーターは、以下の表3に示される。これらのPDパラメーターは、臨床医により日常的に使用されており、以下の実施例で例示される通り、標準的な経胸壁心エコー図によって測定できる。
【表3】
【0078】
本発明の処置レジメンは、1回拍出量の増加、心拍出量の増加、駆出率の上昇、左室内径短縮率の上昇、長軸方向ストレインの改善、円周方向ストレインの改善および/または左心室の収縮末期もしくは拡張末期径の減少、および軽度から中等度(例えば、中程度の)収縮期駆出時間(SET)延長によって示される通りの心収縮力の改善から選択される左心室機能の改善の1つまたは複数をもたらし得る。レジメンにより、NYHAクラスの改善および/または呼吸困難の減少により判断される徴候の改善という結果が得られた。レジメンの結果、ピークVO2、6分間歩行試験および/または活動(加速度測定によって決定される)により判断される通り、患者の機能および/または運動能力が改善され得る。特定の実施形態では、本発明の処置レジメンは、収縮期心不全を有する患者において以下の結果:
(i)LVEF、LVFS、LVSV、CO、GLS、GCS、E/AおよびE/e’の1つまたは複数の改善(例えば、ECHOにより測定される);
(ii)NYHA分類のグレード低下;
(iii)NT-proBNPレベルの減少;
(iv)ピークVO2、6分間歩行試験および/または活動(加速度測定によって決定される)によって判断される運動能力の向上;ならびに
(v)患者が報告する結果の改善
のうちの1つまたは複数をもたらし得る。
【0079】
一部の実施形態では、本発明の処置レジメンの結果、以下:
(i)LVEFおよび/またはLVSVの増加;
(ii)LVGLS、LVESVおよび/またはLVEDVの減少;ならびに
(iii)拡張機能および弛緩に対する影響が最小限であること(E、e’、E/e’、E/A、IVRTなどの直接測定によって判定される)
の1つまたは複数がもたらされる。
【0080】
本発明の処置レジメンは、収縮期心不全を有する患者、HFrEF(例えば、安定なまたは高リスクHFrEF)を有する患者、慢性心不全(NYHA分類I~IV(例えば、クラスII~IV)および駆出率の低下を有する患者、または上記の任意の他の患者集団における心血管死および/またはHFのための入院/救急来院のリスクを低下させる。ある事象の「リスクが低下する」とは、事象までの時間が、少なくとも10%(例えば、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%)増加することを意味する。
【0081】
一部の実施形態では、本発明の処置レジメンは、心不全の1つまたは複数の徴候を改善または防止し、これには、例えば、呼吸困難(例えば、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難)、咳、心臓喘息、喘鳴、低血圧、めまい、錯乱、安静時の四肢の冷え、肺うっ血、慢性静脈性うっ血、足首の腫脹、末梢性浮腫もしくは全身浮腫、夜間頻尿、腹水、肝腫大、黄疸、凝固障害、疲労、運動不耐性、頸静脈怒張、肺ラ音、末梢性浮腫、肺血管再分布、間質性浮腫、胸水、体液貯留またはその任意の組合せが含まれる。本発明の処置レジメンによって改善され得るHFの他の症状および徴候としては、例えば、交感神経緊張の増加、末梢血管収縮、様々な神経ホルモン経路の活性化、ナトリウム貯留、動脈および静脈収縮、神経内分泌活性化ならびに拍数の増加を特徴とする代償機序が挙げられる。
【0082】
一部の実施形態では、本発明の処置レジメンの結果、心血管死のリスク低下(例えば、10、15、20、25、30、35、40、45または50%)ならびに/または心血管系の入院の頻度および/もしくは継続時間が減少する。
【0083】
一部の実施形態では、本発明の処置レジメンは、心不全のための救急外来患者のインターベンションを減少させる。
【0084】
本発明の処置レジメンの利点としては、処置が、
(i)弛緩(例えば、収縮期駆出時間の中程度以下の増加および拡張機能に対する識別可能な作用なし)、カルシウムホメオスタシスまたはトロポニンレベル(例えば、トロポニンの上昇が軽度以下)への最小限の影響を有する;
(ii)ADP放出を損なわない;
(iii)心臓位相分布を変化させない;
(iv)SETに対して中程度以下の作用を有する;
(v)薬剤関連心虚血(例えば、臨床徴候、ECG、トロポニン、クレアチンキナーゼ-筋肉/脳(CK-MB)、心臓画像および冠血管造影図などの心臓バイオマーカーによって決定される)を引き起こさない;
(vi)薬剤関連心房または心室性不整脈を引き起こさない;
(vii)アラニンアミノトランスフェラーゼまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ビリルビンによって測定される通り、薬剤誘発性の肝傷害を引き起こさない;ならびに
(viii)また、患者の尿、血清、血液、収縮期血圧、拡張期血圧、パルス、体温、血中酸素飽和度または心電図(ECG)測定値の異常をもたらさない
という特徴が挙げられる。
【0085】
拡張機能障害はまた、収縮期心不全に関連があり、罹病率に寄与し得る。弛緩を維持することによって、本発明の処置レジメンは、弛緩を維持しない心筋ミオシン活性剤による処置に優る強化された臨床利益をもたらし得る。
【0086】
製品およびキット
本発明はまた、製品、例えば、化合物Iの医薬品の1つまたは複数の投与量および患者のための説明書(例えば、本明細書に記載の方法に従う処置のための)を含むキットも提供する。製品はまた、併用療法の場合の追加の治療剤も含有し得る。化合物のIの錠剤またはカプセル剤は、樹脂を熱成型した後、台紙により包装してもよく、例えば、ブリスターカード当たり5~20個の錠剤にて製造されてもよく;各錠剤またはカプセル剤は、5、25、50、75または100mgの化合物Iを含有することができ、そのようなブリスターカードは、負荷用量の錠剤またはカプセル剤を更に含んでも、または含んでいなくてもよい。本明細書はまた、前記製品を製造するための方法も含む。
【0087】
本明細書で他に定義されない限り、本明細書に関連して使用される科学および技術用語は、当業者に一般に理解される意味を有する。例示的な方法および材料が以下に記載されるが、本明細書に記載のものと類似または等価な方法および材料もまた、本発明の実施または試験に使用できる。矛盾が生じる場合、定義を含む本明細書が優先する。一般に、本明細書に記載の心臓病学、医学、医薬品および製薬化学、ならびに細胞生物学と関連して使用される専門用語およびそれらの技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されるものである。酵素反応および精製技術は、当技術分野で通常実施される通り、または本明細書に記載の通りに、製造業者の仕様書に従って実施される。さらに、文脈によってそうでないことが必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含むことになり、複数形の用語は単数形を含むことになる。本明細書および実施形態全体を通して、「有する(have)」および「含む(comprise)」という語、または「有する(has)」、「有すること(having)」、「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変化形は、記載の整数または整数の群を含むことを示すが、任意の整数または整数の群の除外は示さないことが理解される。「または」という用語は、一般に、文脈が明らかにそうでないことを記述していない限り、「および/または」を含むその意味で用いられることにも留意されたい。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の使用の文脈内で述べられた数値からプラスまたはマイナス10%、5%または1%の数値範囲を指す。さらに、本明細書で提示される見出しは、便宜的意味に留まり、特許請求される実施形態の範囲または意味を説明しない。
【0088】
本明細書で言及されるすべての刊行物および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。いくつかの文献を本明細書で引用しているが、この引用文献は、これらの文献のいずれも、当技術分野の一般的技術常識の一部を形成することを認めるものではない。
【0089】
本発明がより良く理解され得るように、以下の例を示す。これらの例は、単に例示のみを目的とし、どのようにも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0090】
実施例1:健康な成人ボランティアにおける化合物Iの単回漸増経口用量の安全性、忍容性、予備薬物動態および薬力学の無作為化プラセボ対照試験
この実施例は、化合物Iのヒト初回投与試験を記載する。その作用機序に基づいて、化合物Iは、遺伝性または非遺伝性機序によって引き起こされたDCMを有する患者のための標的治療を提供し得る。試験は、年齢18~55歳の健康な対象における無作為化二重盲検プラセボ対照逐次群単回漸増(経口)用量試験であった。各々8名の健康な対象を含む8つの投薬コホートを登録した。各コホート内で、対象を、化合物I:プラセボに6:2で無作為化した。
【0091】
材料および方法
試験設計
対象は、-1日目(投薬前日)から4日目まで最大4泊5日、臨床現場に滞在し、1日目に化合物Iまたはプラセボの単回用量を服用した。ECG遠隔測定法を、投与前1時間に開始し、投与後48時間(3日目)まで継続した。投与前安静時1分当たりの心拍数HR≧80の対象は、不適格とみなし、処置しなかった。半減期化合物Iが、予測した12時間よりも大幅に長かった場合、SRCは、平均終末半減期の約5倍に相当する期間、但し投薬後5日以内の期間、対象をPK試料採取またはPD測定施設に収容するよう、試験のスケジュールを変更できる。対象は、投薬7日(±1日)後、安全性フォローアップのために再来院した。
【0092】
本試験がヒトの初回投与試験であるため、各用量レベルでセンチネル投与計画を用いた。各コホートの最初の2名の対象は、センチネルとして投与された。センチネル対象のうちの1名を、化合物Iを投与するよう無作為化し、もう1名はプラセボを投与するよう無作為化した。24時間にわたりセンチネル対象の安全性データを検討した後、1日当たり1または2名の対象を登録された可能性がある。各試験日に、一人目の対象についての予測ピーク血漿濃度(予測tmax)時間の経過後に、治験責任医師または治験分担医師が、化合物Iの予測されるピーク血漿濃度を包含する区間を通じて、一人目の対象から得られた安全性データ、バイタルサインおよびECGを検討するまで、二人目の対象には投与しなかった。各日の投与前に、治験責任医師または治験分担医師は、バイタルサイン、安全性試験値、hs-トロポニンI濃度およびECGを含む以前の対象の安全性データを検討した。
【0093】
薬力学効果を評価するために、連続心エコー図を実施した。試験に用いた超音波検査の技師は、エコープロトコルトレーニングを完了し、評価のための試験症例を、評価のために評価試験室(コアラボ)に提出した。TTEコアラボは、超音波検査技師が、必要なプロトコルデータを得るのに満足なレベルでTTEを実施できることを認証した。
【0094】
用量増加の停止基準には、任意の時点でコホート内の最大SETの平均が、>50ミリ秒増加した場合、または任意の2回の連続するTTE評価でSETが、≧75ミリ秒延長した場合の対象が含まれる。これらの基準は、対象が心筋虚血に至る可能性のあるSETの延長が生じることを防ぐように選択されるものである。用量増加の停止基準にはまた、化合物Iを投与している対象におけるLV収縮性:LVOT-VTI、LVFS、LVEFまたはLVSVのうち、少なくとも2つの測定値の、任意の2回の連続するTTE評価にて、>20%のベースライン補正した群平均相対増加の所見も含まれた。プラセボ対照評価を考察してもよい。この比較のために、プラセボが投与された対象は、コホート間でプールされ得る。
【0095】
各用量投与後に、SRCはデータの盲検検討を行ったが、安全性の懸念があるか、またはPD変化の可能性が観察されたと考えられる場合には、データは盲検化されない場合がある。2名の対象への投薬情報は、以下に記載の通り盲検化されていない。
【0096】
投与処置
すべての無作為化された試験対象に、少なくとも6時間の絶食期間後、化合物Iまたは対応するプラセボのいずれかを単回経口投与として投与した。化合物Iの原薬は、分子量435.4g/molの結晶性遊離塩基合成分子である。化合物Iは、非吸湿性であり、水性媒体には実質的に不溶性である。
【0097】
化合物Iは、経口懸濁液用粉末として提供される。プラセボは、炭酸カルシウム粉末として提供される。両方の処置を、懸濁液として経口投薬した。懸濁液は、Ora-Plus(登録商標)懸濁ビヒクル(Perrigo)およびサクランボシロップ風味付きビヒクル(Humco)を用いて50%対50%で混合して作製した。懸濁液には、その後約100mLの水を加えた。懸濁液は、投薬される時点から14日以内に調製し、また懸濁液の安定性データに一致させて投薬される。懸濁液は、化合物Iを服用する対象に投与される容量と同じ20mLの容量となるように調製した。
【0098】
用量漸増
開始用量は、60kg体重のヒトについてのFDAガイドラインを使用し、3mgに設定した。第1回の投薬後、用量漸増は、Cmaxが300ng/mLを示すと予測された用量、または初期PD活性が観察された用量に達するまでは約3倍であった。その後の用量漸増は2倍であった。PKデータが予測したPKプロファイルと一致しなかった場合、用量漸増工程を2倍以下とした。用量漸増は、取得時に予測により定義した停止基準を用いて終了し、2点の所見に基づいて終了された。1つ目は、曝露量が、用量依存的に増加していないことであった。350mgを超える用量での曝露は、350mg投与後の曝露量とほぼ変わらないことが明らかになった。また、350mgおよび525mg(いずれも、ほぼ同じ曝露量)の投与後に、初期PD活性が見られた時点で、用量漸増の停止を決定したため、プラセボ群と区別出来るPDパラメーターに基づいて用量応答効果の初期評価が可能となった。
【0099】
各対象には、自身が登録されたコホートの用量が投与された。コホートは、逐次登録し、各コホートには、化合物Iの漸増用量を投与した。投与された用量は、それぞれ3mg、10mg、25mg、50mg、100mg、175mg、350mgおよび525mgであった。
【0100】
PK、PDおよび安全性評価
PKおよびPDデータは、本明細書に記載の通りに収集した(350mgおよび525mgの単回用量の投与後の曝露量(CmaxおよびAUCの両方)は酷似していたので、一部のPD分析については2つの群からのデータを合わせた)。試験全体を通して安全性を評価した。安全性評価には、病歴、身体検査、TTEによるSET、12誘導ECGおよびECG遠隔測定法、バイタルサイン、血清hs-トロポニンI濃度、AEならびに安全性試験結果が含まれた。光電式容量脈波記録法によって決定したSETは、探索的安全性パラメーターであった。血液学、化学およびバイタルサインを含む安全性試験データを、記述統計を使用して安全性解析集団について経時的に評価した。ベースライン後の各時点におけるベースラインからの変化を評価した。
【0101】
病歴および身体検査
全病歴を、スクリーニング来院時に記録し、記録には以下についての評価(過去または現在)が含まれた:全般、頭頸部、眼、耳、鼻、喉、胸部/呼吸器、心臓/心血管、胃腸/肝臓、婦人科/泌尿生殖器、筋骨格/四肢、皮膚、神経/精神、内分泌/代謝、血液/リンパ、アレルギー/薬物の感受性、過去の手術、薬物乱用または任意の他の疾患もしくは障害、ならびに臨床試験(治験薬および/もしくはデバイスまたは他の治療)への参加。病歴は、必要であれば、-1日目に更新した。
【0102】
スクリーニングおよび-1日目に、神経学的検査(総運動能および深部腱反射)ならびに以下:一般的外見、皮膚、頭頚部、口、リンパ節、甲状腺、腹部、筋骨格、心血管、神経および呼吸器系についての評価を含めた全身の身体試験を行った。すべての他の時点では、簡略化した身体検査(肺、心臓、腹部および徴候に関連する他の系)を行った。
【0103】
収縮期駆出時間
TTEによって決定されるSETを、要約統計量を使用して評価した。所見およびベースラインからの変化を、各時点における処置によって要約し、ベースラインからの最大変化を各対象について決定した。さらに、カテゴリー分析を、1または任意の2回の連続するTTE評価においてベースラインから>50ミリ秒の変化を有する対象者数、およびベースラインから>75ミリ秒の変化を有する対象者数に対して実施した。化合物Iの血漿濃度とSETとの関係を調べた。ベースラインからの、SETのプラセボにより補正した変化についての分析もまた実施した。
【0104】
各TTEの実施の間に数分間、FitBitに類似した実験用非侵襲性光学バイオセンサを対象の手首に固定して、光電式容量脈波記録によって動脈波の形態のデータを収集した。
【0105】
心電図
対象を少なくとも10分間、仰臥位で安静にさせた後、12誘導心電図(ECG)を得た。対象がトロポニンI異常または心虚血の可能性を示唆する任意の症状もしくは徴候を示した場合、追加のECGを得た。デジタルの12誘導ECG評価を、スクリーニング時、1日目の投与前(投薬の2時間以内)および様々な所定の時点で、10分間の安静後に実施した。ECGが完了するたびに、10秒のECGリズムストリップも取り、対象の原資料に保持した。
【0106】
治験責任医師は、全ECG解釈を、(a)正常、(b)臨床的に重大でない異常、または(c)臨床的に重大な異常と判断した。臨床的に重大である場合、異常を記録した。さらに、各処置期間前に、治験責任医師または治験分担医師は、前の処置期間からの利用可能なECGを検討し、虚血の症状を探した。虚血の症状がある場合、可能性のある虚血性変化が完全に理解されるまで継続投薬を見合わせた。
【0107】
ECGをECGのコアラボに送り、盲検方式で記録を読み取った。循環器専門医による手動通読と共に自動化方法論を利用した。以下の間隔を測定した:RR、PR、QRSおよびQT。心拍数(HR)を60/(RR×1000)(RRは単位ミリ秒で表される)として計算し、四捨五入し、最も近い整数とした。
心拍数の補正
【0108】
補正したQT間隔(QTc)を、中核ECG試験室の標準手順に基づく手動による通読QT値を使用して計算した。各個々のECG QT値を、HRについて補正した。測定QTデータを、以下の式/方法(QT、RRおよびQTcは単位ミリ秒で表される):
【数1】
(Fridericia、X=F、n=3;Bazzett、X=B、n=2)
に基づくFridericia補正QTcFおよびBazzett法(QTcB)を使用して、HRについて補正した。
【0109】
ECG数値変数
HR、PR、QRSおよびQTcFを、記述統計を使用して要約した。各時点におけるこれらのECGパラメーターのベースラインからの変化を、各対象について列挙した。各時点の測定について、ベースラインからの変化を、記述統計を使用して要約した。HR/ECG間隔と時間との関係をプロットした。
【0110】
カテゴリー分析
>450ミリ秒、>480ミリ秒および>500ミリ秒の投与後QTcF値を有する対象の発生数およびパーセンテージを、すべての対象について表にした。>500ミリ秒のQTc値を有する対象を、対応するベースライン値、ΔQTcFならびにベースラインおよび処置HRと共に列挙した。>30ミリ秒および>60ミリ秒のΔQTcF増加を示す対象の発生数およびパーセンテージを表にした。
【0111】
形態学的所見
対象のベースラインにおいてECGを示さない各対象についての新しいECG形態学を、すべての観察時点を合わせて要約した。T波形態学的変化および/またはベースラインからの形態学的異常の発生もしくは悪化を表す異常U波の発生を有する対象の数およびパーセンテージを報告する。
【0112】
濃度-QTc分析
治験薬投与後のECG記録から収集したデータおよび各一致する時点における各対象について薬物血漿濃度値に基づく濃度-QTc回帰分析を実施した。
【0113】
有害事象
治験責任医師によって臨床的に重要であると判断された異常所見は、有害事象(AE)として記録した。AEは、国際医薬用語集(MedDRA)を使用して器官別大分類(SOC)および基本語(PT)にマッピングした。AEを、試験中モニタリングして、全体的な出現頻度、重症度および治験薬との潜在的な関係に関してデータを分析した。SRCにより、その後のコホートの用量、または試験を終了すべきかを決定することを助けるために、盲検AEを、各コホート後の検討のためにSRCに提示した。検討委員会は、不整脈TEAEを示した1名の対象、ならびに投薬6時間後に軽度に上昇したhs-トロポニンIレベル(16ng/mL、正常範囲0~15ng/mL)および投薬後>48時間の遠隔測定法モニタリングでの間欠性の心室性期外収縮(PVC)を有する第2の対象についてのデータを非盲検とした。ECG変化または徴候は認められなかった。
【0114】
最終分析のために、プラセボを服用したすべての対象を集めて1群とし、処置群ごとにAEを群分けした。治験薬の初回投与時もしくはその後に発症したAE、または治験薬の初回投与前に発症し、治験薬の初回投与時もしくは後に重症度が増加したAE、処置開始後のAE(試験の継続時間によるインフォームドコンセントから開始するAEとして定義される)を、MedDRA SOCおよびPTによって、ならびに重症度および処置への関連性によって安全性解析母集団についてまとめた。存在する場合、重度かつ生命を脅かすAE、SAEおよび試験離脱につながるAEを、データ一覧に提示した。
【0115】
血清hs-トロポニンI濃度
血清試料を、hs-トロポニンIについて採取した。分析は、Abbott Architect STAT高感度トロポニンIアッセイを使用して実施した。対象が、心虚血の可能性を示唆する症状または徴候を示した場合、追加の連続hs-トロポニンI試料を適宜得て、虚血の可能性を評価した。
【0116】
薬物濃度測定
ヒト血漿および尿における化合物Iの濃度を、高速液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析検出(LC MS/MS)(生体試料分析試験報告 Alturas AD17-726)によって定量化した。血漿試料を、アセトニトリル含有内部標準MYK-5654によるタンパク質沈殿によって抽出した。較正曲線は、0.500~1000ng/mLの濃度範囲で線形であり、定量下限(LLOQ)は0.500ng/mLであった。
【0117】
PK集団は、化合物Iを服用した全ての対象を含んでいる。血液試料を、PK評価のために収集した。試料の実際のタイミングは、変更されてもよく、および/または以前のコホートからのデータ検討後に最大で追加の2つの試料がSRCにより要求されることもあった。PK試料採取は、予定された時刻の可能な限り近く(±10%)で行われることが重要であった。血液および尿試料の両方を、PK評価のために使用した。
【0118】
さらに、プラセボを与えた対象について、化合物Iの予測tmax付近の単一血漿試料を評価して、循環している化合物Iが存在しないことを確認した。化合物Iについての血漿濃度データを、平均、標準偏差(SD)、中央値、最小値および最大値、ならびにパーセント変動係数を含む記述統計を使用して要約した。その他のPKパラメーターとしては、Cmax、tmax、AUC、t1/2およびMRTを含むが、これらに限定するものではない。さらに、見かけの終末期の終末半減期を計算した。AUCおよびCmaxの用量比例性を探った。
【0119】
試験結果
化合物Iの血漿濃度
経時的な化合物Iの血漿濃度を、表4および
図1に要約する。
【表4】
【0120】
結果から、8つのコホート(48名の対象)が、525mgまでの単回用量を安全に投与されたことが実証された。化合物Iは、すべての対象において投与後48時間の時点で、ならびに選択用量および対象において投与後72時間および7日の時点で検出可能であった。7日目に、化合物Iは、24名の対象において検出可能であった。プラセボ対象についての血漿試料を、全ての時点で分析し;16名のプラセボ対象の血漿試料のうち、検出可能な化合物Iのレベルを有したものはなかった。
【0121】
525mg群は、24時間時点まで350mg群に比べてわずかに低い平均血漿濃度を示した;しかし、525mg群は、48時間および72時間の時点では最高血漿濃度を有した。7日目に、3mg化合物I群からの血漿中に検出可能な化合物Iは存在しなかったが、一方で全てのその他の群で、薬剤は依然として検出可能であった。7日目に、化合物Iの平均(SD)血漿濃度(ng/mL)は、Cmaxと比較して極度に低く、約15時間の終末t1/2に基づいて予測された濃度と一致した。
【0122】
化合物Iの血漿薬物動態パラメーター
化合物Iの血漿PKパラメーターを表5に要約する。単回投与漸増用量の化合物I懸濁液の経口投与後、ピーク血漿濃度は、8つの投薬群にわたって約4.5~5時間の時点で生じた。C
max、AUC
0-tおよびAUC
0-∞は、化合物Iの用量が350mgまで用量が増加するにつれ増加した。平均(SD)C
maxは、350mg用量群について2820(478)ng/mLであった。525mg用量の経口投与後の曝露量は、350mgの後の曝露量と同様であった。
【表5-1】
【表5-2】
【0123】
用量比例性を、パワーモデルを使用して評価した。用量に対するC
maxおよびAUC
infのプロットを、それぞれ
図2および3に示す。概ね直接的な関係があるようであったが、350mg用量群までの用量ではわずかに用量比例性に満たず(勾配=0.8888、95% CI間隔=0.8358~0.9417)、525mg用量では用量比例応答に満たなかった。このため、追加の感度分析を実施して、525mg群を除外したAUCデータとの用量比例性を評価し;この分析により、用量応答は、350mg化合物Iまでほぼ用量に比例しており、勾配は1.0未満であったことが判った(勾配=0.9347;95%CI間隔=0.8813~0.9882)。
【0124】
化合物Iの消失は、単一指数的であるようであった(
図1)。終末t
1/2は、用量群にわたって、約11~16時間であった(表5)。見かけの経口クリアランス(CL/F)および分布体積(Vz/F)は、3mg~525mgの範囲の用量について、各々約3.1~8.1L/時および58~166Lであると推定された。より高い用量でのCL/FおよびVz/Fは、いずれも用量が増加するにつれて増加し、最高用量で吸収率が減少したことが示唆される;これは、例えば、限られた溶解度、遅い速度の溶解および/または未溶解化合物I分子の糞便中への排泄の結果であり得る。ここで、化合物Iは、生物薬剤学分類システム(BCS)分類IIの化合物であることが決定された。525mgコホートにおける曝露量の減少は、化合物Iの不十分な溶解度および胃腸管における未溶解薬剤分子の不完全な吸収に起因した低速での溶解の結果であると考えられる。平均見かけクリアランスおよび分布体積は、175mgまでの用量について、各々約4.2L/時および78Lであった。
【0125】
投与後48時間の収集期間(Ae0-48h)にわたる未変化の化合物Iの累積尿中排泄は、用量が3から525mgへと増加するにつれて増加した。約12%(3.9%~23.9%の範囲)の化合物Iの用量が、3~175mg用量の経口投与後に未変化の化合物Iとして0~48時間の採尿で回収された。350および525mgの用量では、0~48時間の採尿で回収された用量のパーセンテージは、各々約6.0%および8.6%であった。高用量における0~48時間の尿中の化合物Iの尿排泄の減少は、(1)限られた溶解度に起因した高用量におけるより低い吸収率;および(2)投与後48時間以内の不完全な尿排泄によって引き起こされたと考えられる。
【0126】
腎クリアランスは、約0.570L/時(または9.5mL/分)(個々に0.177~1.400L/時の範囲)の平均値にて、用量に依存するようであった。腎クリアランス(CLr)の対象間のばらつきは、8つのコホートで32%~80%の範囲の変動係数パーセント(%CV)で中程度であった。腎クリアランスは、350mg用量群で最低の0.333(0.135)L/時の平均(SD)値、および525mg用量群で最高の0.800(0.319)L/時の平均(SD)値であった。CLrのばらつきは、総血漿クリアランス(CL/F)よりも相対的に大きかった。腎クリアランスは、生理学的パラメーター、例えば、腎血流、尿流、腎機能、尿量および尿pHを含む複数の因子に影響され得る。化合物Iの腎排泄および腎クリアランスは、これらのパラメーターが個体で様々であることの影響を受けると考えられる。
【0127】
腎クリアランスは、糸球体濾過率、尿細管活分泌および尿細管再吸収に依存して変わる。薬剤が濾過される程度は、分子サイズ、タンパク質結合、イオン化、極性および腎機能に依存する。CLrが濾過のみに依存する場合、CLr=GFR*fu(式中、fuは薬剤の非結合率であり、GFRは糸球体濾過率である)。この試験で観察される腎クリアランスは、GFR*fu(例えば、正常な腎機能を有する対象についてはGFR=100mL/分、および血漿中の化合物Iの遊離画分についてはfu=14~18%)に近く、糸球体濾過が、化合物Iの腎消失の主要機序であることを示唆していた。
【0128】
PK結論
上記のデータは、化合物Iの曝露(CmaxおよびAUC0-∞)が、ほぼ線形に増加し、350mg用量までは用量比例様式に近いことを示す。525mg用量では、350mg用量に対する曝露量のさらなる増加は観察されず;これは、吸収率の減少(より低い経口バイオアベイラビリティ)が原因であると考えられた。350および525mgコホートの曝露は同様であったため、2群からのデータを合わせ、2585ng/mLの平均Cmaxおよび74359ng×時/mLのAUC0-∞、5時間の平均tmax、ならびにおよそ15時間の平均終末t1/2を得た。合わせた350および525mg群の範囲は、tmaxについて3~6時間およびt1/2について11~22時間であった。データはまた、Tmaxおよびt1/2が、用量非依存性であったことを示す。175mgまでの用量では、見かけ総経口クリアランス(CL/F)は平均4.2L/時であり、化合物Iが低クリアランス薬物であることを示唆しており、見かけ分布体積(Vz/F)は78Lであり、広範な組織分布を示している。いずれの値も525mg用量群においてより高く、>350mgの用量での経口バイオアベイラビリティ減少の仮説を裏付けた。データは、<350mgの用量で未変化化合物Iとして、投与用量の約12%が尿中に排泄されたことも示す。この値は、2つの最高用量群でより低いことから、48時間の採尿において排泄された全ての薬剤の不完全な回収および最高用量での経口バイオアベイラビリティの減少の可能性が原因であると考えられる。腎クリアランスは、主に用量非依存性であった(平均0.57L/時)。化合物Iの腎クリアランスは、糸球体濾過率と血漿中の化合物Iの非結合率の積に近く、糸球体濾過が腎排泄の主要機序であると考えられることを示した。
【0129】
薬力学の分析
化合物Iの予測される薬理効果の結果、収縮性が増加したことから、これはLVFS、LVEF、LVSV、LVOT-VTIの増加ならびに左心室収縮期末径(LVESD)および左心室収縮末期体積(LVESV)の減少の可能性があると言える。心エコーパラメーターにより、プラセボ群で得られた連続測定に反映される通り、予測される対象内および対象間のばらつきが実証された;したがって、TTE測定の変化は、化合物Iの薬理学と一致するのではなく反対方向であり、主にTTE測定の対象内および対象間のばらつきを反映するものであると考えられた。いくらかのばらつきは、プラセボを服用する対象の記録にも反映された。
【0130】
収縮期駆出時間
健康なボランティアにミオシンモジュレーターであるオメカムチブを高用量で投与すると、SETの有意な増加と相関があると考えられる虚血となったため、SETを安全性パラメーターとして決定した。化合物Iを用いて、より高用量レベル(175mg~525mg)で投与した後、約1.5~2時間でSETの増加がピークに達した。これは、化合物Iの最大血漿濃度が観察される前であった。SETの観察された最大平均(SD)増加は、投与後1.5~2時間で350mg化合物I群について19.2(20.5)ミリ秒で記録された。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのSETの観察された平均(SD)増加は、投与後1.5~2時間で18.0(19.5)ミリ秒であった。3mgおよび10mgを除く全ての群において、ベースラインからの平均SET変化は、投与後、約1.5~2時間でピークに達した。SETは、最後の測定(投与後24時間)で上昇傾向であり、血漿濃度は、Cmaxにて大幅に低かった。SETの一時的な減少が、主にプラセボおよびより低い用量で観察され、この減少は、おそらく測定値の日周変動が反映されたものであろう。
【0131】
左心室の流出路-速度時間積分
安静時LVOT-VTIは、投与後、およそ6および12時間の時点でベースラインからのピーク平均絶対変化を示す。観察された最大LVOT-VTIは、350mg群において投与後6時間で2.54(1.78)cmであった。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのLVOT-VTIの観察された平均(SD)増加は、投与後6時間の時点で2.28(1.43)cmであった。値の大部分は、投与後24時間後でベースライン以下であった。
【0132】
左心室駆出率
平均安静時LVEFを測定した。安静時LVEFには時間依存性の変化があり、tmaxとほぼ一致して投薬約6時間後に早期にピーク増加が生じた。値は、24時間TTEまでに、ベースライン近くに戻った。最大平均(SD)増加は、525mg化合物I群において投与後6時間の観察で4.65(1.45)%、100mg化合物I群において投与後12時間の観察で4.83(2.65)%であった。
【0133】
左心室の1回拍出量
平均安静時LVSVを測定した。投与後6および12時間の時点で、すべての用量群は、ベースラインにおける測定と比較して1回拍出量の増加を実証した。最大平均(SD)増加は、350mg化合物I群において投与後12時間の観察で10.848(9.893)mLであった。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのLVSVの平均(SD)増加は、投与後12時間の時点で7.623(7.842)mLであった。群の大部分は、投与後24時間の時点でベースラインまたはベースライン未満であった。350mg群の平均は、投与後24時間の時点でベースラインに向かう傾向があった。
【0134】
左室内径短縮率
LVFSの増加が、より高い用量のコホートで観察され、最大増加は6時間TTEで生じ、この増加は、ほぼ最大血漿濃度の時間であった。より低い用量では、経時的なLVFSの変化は殆ど無く、ベースラインからの変化は測定値のばらつきの範囲内であった。
【0135】
左心室収縮期末径
安静時LVESDは、3mg化合物I群を除いて、概ね用量と時間依存的に減少した。観察された最大平均(SD)の減少は、525mg群における投与後12時間の-0.455(0.357)cmであった。用量群の大部分について、その変化は投与後24時間までベースライン以下を維持したが、変化は、ベースライン値に向かう傾向があった。
【0136】
左心室収縮末期体積
安静時LVESVは、一般に用量依存様式で全体的に減少した。観察された最大平均(SD)の減少は、525mg群における投与後6時間の-9.21(3.18)mLであったため、最小LVESV(投与後、およそ6時間の時点)は用量依存性であることが判った。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのLVESVの観察された平均(SD)の減少は、投与後6時間の時点で-6.82(5.99)mLであった。値の大部分は、投与後24時間の時点でベースライン以下を維持した。
【0137】
左心室拡張末期径
安静時左心室拡張末期径(LVEDD)は、用量または時間依存的傾向を示さなかったが、100mg~525mgの用量では、投与後1.5~2から12時間までLVEDDのわずかな減少があった。観察された最大平均(SD)の減少は、525mg化合物I群における投与後12時間の-0.213(0.221)cmであった。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのLVEDDの平均(SD)減少は、投与後12時間の時点で-0.171(0.177)cmであった。投与後24時間の時点において観察されたベースラインからの最大変化は、50mg群における0.103(0.217)cmであった。
【0138】
左心室拡張末期体積
安静時左心室拡張末期体積(LVEDV)は、一般に用量依存傾向で全体的に減少した。観察された最大平均(SD)減少は525mg群における投与後6時間の-12.5(6.96)mLであったため、減少(投与後、およそ6時間の時点)は用量依存性であると考えられた。350mgおよび525mgの化合物Iを合わせた用量群についてのLVEDVの平均(SD)減少は、投与後6時間の時点で-9.98(7.83)mLであった。値の大部分は、投与後24時間後にベースライン以下を維持した。
【0139】
左心室前駆出期
安静時前駆出期(PEP)は、投与後、およそ1.5~2および8~9時間の時点でベースラインからのピーク平均の絶対変化を示し、最小値は投与後の約6時間の時点であった。観察された最大LV前駆出期は、殆どの用量群において投与後24時間の時点で、正(ベースラインを超える)の傾向があった。
【0140】
等容収縮時間
安静時等容収縮時間(IVCT)は、投与後の約6および12時間の時点でベースラインからの平均絶対変化の減少を示した。観察された最大IVCTは、殆どの用量群において投与後24時間の時点で正の(ベースラインに向かう)傾向があった。
【0141】
等容性弛緩時間
安静時等容性弛緩時間(IVRT)は、投与後、およそ1.5~2時間および8~9時間の時点でベースラインからの平均絶対変化の増加を示した。平均IVRTは、投与後24時間の時点で正の傾向があった。
【0142】
薬剤用量、薬剤濃度および応答との関係
殆どの対象においてCmaxが4~6時間に生じたため、投与後6時間の時点で得られたTTEを、濃度と薬理効果との関係を探るための最良の時点と考えた。投薬後1.5および3時間の時点で得られたTTEは、Cmax前であり、9時間の時点ではピークCmax後であった。前臨床データに基づいて、Cmaxとピーク薬理効果との間に長時間の遅れがある可能性は低いと考えた。350mgおよび525mg用量の投与後の曝露は、酷似していたため、これらの群からの結果を別々に提示するだけでなく、これらの群からのデータを合わせることを決定した。2群からのデータを合わせることによって、投与された対象者数が6から12に増加したため、目的のTTEパラメーターにおけるベースラインからの統計的に有意な変化を観察する力が増加した。
【0143】
525mg用量群では、投与後6時間の時点で、2215(543)ng/mLの平均(SD)血漿レベルにおいてSET、LVESD、LVFS(未補正p<0.001)およびIVCT(未補正p<0.05)の統計的有意差があった。350mg用量群では、投与後6時間の時点で、2660(515)ng/mLの平均(SD)血漿レベルにおいてSET、LVESD、LVFS、IVRTおよびHRの統計的有意差(未補正p<0.05)があった。350mgおよび525mgを合わせた用量群では、投与後6時間の時点で、2438(556)ng/mLの平均(SD)血漿レベルにおいてSET、LVESD、LVFS(未補正p<0.001)およびLVEF、IVRT(未補正p<0.05)の統計的有意差が見られた。統計的有意差が、より低い化合物Iの血漿濃度における幾つかのパラメーターで見られた。
【0144】
化合物Iの血漿濃度のビンによる投与後6時間の時点のベースラインからのプラセボ補正変化の分析を、以下の表6に提示する。
【表6-1】
【表6-2】
【0145】
表6に示される通り、SET、LVESD、LVFSおよびLVESVに対して、1001~2000ng/mLの範囲で化合物Iの有意な(未補正p<0.05)効果があった。>2000ng/mL(中央値2425ng/mL)の化合物Iの血漿濃度では、SET(25.6±7.71ミリ秒)、1回拍出量(8.20±3.99mL)、LVESD(-0.306±0.077cm)、LVFS(6.29±1.55%)、LVESV(-6.03±1.87mL)、LVEDV(-9.68±2.95mL)、LVEF(3.22±1.48%)、左心室の長軸方向ストレイン(LVGLS)(-1.78±0.76ミリ秒)、左心室の円周方向ストレイン(LVGCS)(-2.85±0.99ミリ秒)およびIVRT(僧帽弁流入ドップラーによって評価)(12.0±3.92ミリ秒)に対する有意な効果(LS平均差±SE)があった。E/A比およびE/e’の変化がないことに基づいて、拡張機能/弛緩に対する有意な効果はなかった;しかし、IVRTは、有意に増加した。
【0146】
化合物Iの血漿濃度とPDパラメーター応答との関係について更なる分析を、Loess回帰(Cleveland and Devlin, Journal of the American Statistical Association 84(403):596-610 (1988))を使用して行った。化合物Iの血漿濃度の増加と関連があるSET、LVSV、LVOT-VTIおよびLVFSの全体的な増加があった。
【0147】
PD結論
上記のPDデータは、LV容量の減少に付随する前方駆出血流および収縮性の心エコー測定における見かけの用量および濃度依存性の可逆的増加があったことを示している。PD効果は、主に≧1000ng/mLの濃度で識別可能であり;ピーク効果は、tmax(6時間)の最も近くで得られたTTE時点で観察され、収縮性に対してある程度の効果が維持された最高用量群を除き、24時間ではほぼベースラインに戻った。これらの変化は、E/AおよびE/e’の一定の変化がないことによって証明される通り、SETの中程度の増加および拡張機能に対する限られた副作用しか伴わなかった。濃度が2000ng/mL(中央値濃度2592ng/mL)を超える対象について、以下のパラメーターのベースラインからの統計的に有意な変化があった:LVFSの6.3%の平均絶対増加、LVEFの3.2%の平均絶対増加、LVSVの8.2%の平均増加、SETの25.7ミリ秒の平均増加、LVESDの0.31cmの平均減少、LVEDDの0.12cmの平均減少、LVESVの6.03mLの平均減少、LVEDVの9.68mLの平均減少、LVGLSの1.78%の平均絶対減少およびLVGCSの2.85%の平均絶対減少。
【0148】
安全性評価
全体で34名の対象において50例のAEが報告された。化合物Iを投与した対象において心不整脈がより頻繁に生じたことを除き、化合物Iの投薬によるAE頻度が増加する傾向は無く、プールしたプラセボとの明らかな差はなかった。全ての観察された心不整脈は、健康なボランティアにおいて自然発症的に生じることが公知であるため、この差は恐らく偶然によるものであろう。全てのAEは、重症度が軽度または中等度であった。1名の対象が短時間の完全AVブロックの重大なAEを有した(100mg化合物I用量群)。投薬後16~22時間で、この対象は徐脈(1分当たりの心拍数<50[bpm])および3回の短い完全心ブロックエピソード(各4~8秒)を有した。薬剤に関連があると考えられるその他の起こり得るAEには、化合物Iが投与され、短時間の不整脈エピソードを示した3名の対象(遠隔測定法で観察された頻拍性心室調律を有する1名の対象、心室性期外収縮を有する1名の対象者および孤立性の非持続性心室頻拍(NSVT、3拍動)を有する1名の対象)が含まれた。そのようなAEは、健康な対象で生じ得ることに留意すべきである。AEを理由として中止した対象はいなかった。治験責任医師により治療に関連するとみなされたAEは、350mgおよび50mgの化合物Iの用量群で3名の対象(50.0%)ならびに残りの用量群(関連するTEAEが報告されなかった25mg化合物Iを除く)の各々について1名の対象が報告された。
【0149】
結論として、試験は、全体として化合物Iが最大525mgの用量で十分忍容され、試験の間、留意すべき安全性シグナルは確認されなかったことを示す。殆どのAEは、重症度が軽度または中等度であり、殆どが治験薬との関連は無かった。化合物I用量の増加に伴ってAEの頻度または重症度が増加する傾向はなかった。最も一般的な(≧3名の対象で生じた)AEは、頭痛、疲労、カテーテル部位に関連する反応、背部痛、めまい、上気道感染症および胸部不快感であった。胸部不快感または非心臓性胸痛が、4名の対象で生じた:プラセボで1名(投与後2時間)および有効成分で3名(各々10、25および350mgの投薬後4~5日で生じた)。2名以上の対象で生じた薬剤関連とみなされる唯一のAEは、頭痛および胸部不快感であった。頭痛エピソードは、重症度が軽度から中等度と評価された。胸部不快感の全てのエピソードは、軽度と評価された。胸部不快感の2つのエピソードの内の1つは、350mgの投薬後に生じた。胸部不快感のもう一方のエピソードおよび頭痛エピソードは、50mg以下のより低い用量の化合物I投薬後に生じた。
【0150】
化合物I(100mg)を投与した31歳男性の1名の対象(001-136)が、投薬16~22時間後、睡眠の間に遠隔測定法で3回の短い(各4~8秒)無症候性の第3度AV心ブロックのエピソードを経験した。患者は失神または心疾患の病歴を有さなかったが、この対象は、スクリーニングおよび投与前ECGで第1度AVブロックおよび徐脈を有したことに留意すべきである。この事象は、治験責任医師により、軽度の重症度であり、おそらく治験薬に関連すると評価されたが、治験依頼者は、この事象を治験薬に関連しない(睡眠中の迷走神経の緊張の増加の可能性)と評価した。
【0151】
化合物Iを投与した3名の他の対象は、化合物Iの投薬8.5~48時間後に不整脈を経験した。それぞれの不整脈は、健康なボランティアにおいて観察され得る種類のものであり、持続時間が短く(数秒)、無症候性であった。
【0152】
1名の対象は、hs-トロポニンIの軽度の増加(16ng/L、正常の上限範囲は15ng/Lである)を経験した。その他の対象ではトロポニンの増加は観察されなかった。
【0153】
ECGまたはPR間隔を含むECG間隔の大幅な変化はなかった。QTcF>450ミリ秒の一例が、低用量(10mg)を投与した対象で記録された。高いQTcFが関与する用量依存性の傾向は、観察されなかった。
【0154】
バイタルサインまたは安全性試験パラメーターの臨床的な重大な変化はなかった。
【0155】
トロポニンI
トロポニンは、高感度ヒトトロポニンアッセイ(Abbott Architect STAT高感度トロポニンI)を使用して測定し、正常範囲の上限は15ng/mLであった。hs-トロポニンI濃度のごくわずかな増加が、1名の対象(525mg化合物I処置群)で見られ、その値は投与後6時間の時点で16ng/mLであり、2時間後には正常範囲内であった。対象は、約48時間の時点でPVCを経験したが、胸部痛はなかった。
【0156】
実施例2:健康な成人ボランティアにおける200mgの用量での化合物Iの25mg錠剤に対する食事の影響を評価するためのオープンラベルパイロット無作為化2期クロスオーバー試験
この例は、健康なボランティアにおいて、絶食状態における薬剤の投与と比較した化合物IのPKプロファイルに対する高脂肪、高カロリー食の効果を実証するための臨床試験を記載する。試験は、健康なボランティアにおける摂食および絶食状態での化合物Iの単回経口用量後の安全性および忍容性を決定することもまた目的とした。PK、PDおよび他の臨床パラメーターの測定は、上記の実施例1に記載の通りに行った。
【0157】
材料および方法
試験設計
この試験は、年齢18~55歳の健康なボランティアにおけるオープンラベル無作為化2期クロスオーバー試験であった。対象者は、第1の治療期間の最大28日前にスクリーニングされた。対象者は、期間1の-1日目(投薬前日)に臨床現場に入院した。第1の処置期間の1日目に、対象のおよそ半分は、高脂肪高カロリーの朝食の摂取後に単回用量の化合物Iを無作為に投与され、残りの対象者は絶食状態で投与された。投与前安静時1分当たりの心拍数HR≧95(bpm)の対象は、不適格とみなし、処置しなかった。薬物/食事吸収に影響を及ぼす可能性のある急性胃腸障害(例えば、嘔吐、下痢)を有する対象者は、スケジュールを組みなおした。対象は、4日目まで医療施設に収容し、投与後72時間、PKおよび試験用試料およびバイタルサインが得られた後に退院させた。7~10日間の投薬の間の休薬期間後(または、対象が7~10日の期間内に通院できない場合、治験責任医師の診察後、初回投薬の最大21日後)、対象は期間2に進んだ。摂食/絶食対絶食/摂食期間の順序は無作為であった。対象者は、7日目(±1日)の安全性フォローアップのために、第2の処置期間後に再来院した。
【0158】
両方の処置期間において、化合物Iを、240mLの水と共に投与した。絶食状態において、対象は、化合物Iの投与前に10時間および投与後4時間絶食させた。水は投薬1時間前までおよび1時間後から摂取できた。摂食状態において、対象は、食事の摂取前10時間および摂取後4時間、絶食させたが、水は投薬1時間前までおよび1時間後から摂取できた。摂食状態において、対象は、化合物Iの投与前30分以内に高脂肪高カロリー食を摂取してから30分以内に食事を終了した。食事は、約800~1000カロリーを含んでおり、そのカロリーの約50%が脂肪由来であった。食事は、タンパク質由来のカロリーが約150カロリー、炭水化物由来のカロリーが250カロリーおよび脂肪由来のカロリーが500~600カロリーであった。食事の例は、バターで炒めた卵2個、ベーコン2枚、バタートースト2枚、ハッシュブラウンポテト4オンスおよび全乳8オンスからなる朝食であった。
【0159】
処置用投与物
各対象は、無作為化クロスオーバー様式で、25mgの錠剤として製剤化された200mgの化合物I(8個の錠剤)の2回の経口用量を、1回は絶食状態で、もう1回は高脂肪高カロリー朝食の摂取後に与えた。2回の用量を投与する間に7~21日間の休薬期間があった。化合物I原薬は、分子量435.4の結晶性遊離塩基合成分子であった。化合物Iは、非吸湿性であり、水性媒体に実質的に不溶性である。
【0160】
薬物動態評価
血漿薬物濃度は、上記の実施例1に記載の通りに測定した。化合物Iの血漿濃度を測定するための血液試料を、両方の処置期間の1日目の投与前(投薬1時間前)、ならびに投与後1(±5分)、2(±5分)、3(±5分)、4(±10分)、5(±10分)、6(±10分)、9(±20分)、12(±20分)、18(±30分)、24(±30分)、36(±30分)、48(±30分)および72(±30分)時間の時点を含む様々な時点で収集した。
【0161】
心電図(12誘導ECG)
ECGは、実施例1に記載の通りに実施した。以下の間隔を測定した:RR、PR、QRSおよびQT。心拍数(HR)を60/(RR×1000)(RRは単位ミリ秒で表される)として計算し、四捨五入し、最も近い整数とした。各個々のECG QT値を、HRについて補正した。測定QTデータを、以下の式/方法(QT、RRおよびQTcは単位ミリ秒で表される)に基づくFridericia法(QTcF):
【数2】
を使用して、HRについて補正した。
【0162】
心電図遠隔測定法
リアルタイム遠隔測定法ECGを、様々な所定の時点で示した。リアルタイム遠隔測定法ECGは、投与前の少なくとも1時間に開始して、投与後48時間まで継続して示した。治験責任医師または治験実施者は、連続ECG遠隔測定法データをモニタリングし、所見を任意の他の臨床所見、試験参加者の病歴、試験参加者の臨床状態および試験データと相関付けて、所見に関する臨床的な重要性を決定した。
【0163】
血清トロポニンI濃度
血清トロポニンI濃度は、実施例1に記載の通りに決定した。異常なトロポニン値および/または高いトロポニン値(治験責任医師の判断に基づき、潜在的なベースラインのトロポニン増加を考慮する)の場合、対象は、心筋虚血の可能性について臨床的に評価された。対象が、心虚血の可能性を示唆する症状または徴候を有した場合、追加の連続トロポニン(およびクレアチンキナーゼMBアイソザイム[CK-MB]などの他の安全性指標)レベルを得て、可能性のある虚血事象が完全に理解されるまで、投薬の継続を見合わせた。全ての臨床的内容を評価し(例えば、症状、徴候、新しいECG変化、新しいトロポニンおよびCK-MB異常)、任意の他の関連する臨床所見、対象の病歴および試験室データと相関付けて、所見に関する臨床的な重要性を決定した。
【0164】
試験結果
化合物Iの血漿濃度
摂食/絶食状態による経時的な化合物Iの血漿濃度を、表7および
図4に要約する。全ての無作為化の対象(11名の対象)に、一晩の絶食または高脂肪食後に200mgの化合物Iの経口投与によって単回用量を与えた。これらの11名の無作為化対象には、両方の期間の処置を受けた9名の対象、摂食状態で治験薬が投与された1名の対象および絶食状態で治験薬が投与された1名の対象が含まれた。
【表7-1】
【表7-2】
【0165】
化合物Iの血漿濃度は、摂食および絶食状態の両方ですべての対象において投与後1~72時間検出可能であった。平均血漿濃度は、投与後2~72時間の時点において、絶食状態よりも摂食状態で高く、絶食状態でのCmaxは2310(405.8)ng/mLであり、tmaxは投与後5時間であり、摂食状態でのCmaxは3204(638.0)ng/mLであり、tmaxは投与後6時間であった。
【0166】
化合物Iの血漿薬物動態パラメーター
化合物Iの血漿PKパラメーターを、以下の表8に処置群毎に要約する。
【表8】
【0167】
表8に示される通り、単回200mgの化合物I用量の経口投与後、曝露量は、絶食状態に対して摂食状態で約50%高く(AUClast、AUCinf)、また60%(Cmax)高かった。平均(SD)最大血漿濃度(Cmax)は、絶食状態で2347(366.9)ng/mLであり、摂食状態で3677(500.7)ng/mLであった。中央値(範囲)Tmaxは、絶食状態では5(3.0~6.0)時間であり、摂食状態では5.5(2.0~12.0)時間の時点で生じた。
【0168】
化合物IのPKに対する食事の効果を評価するために、2群片側t検定法を使用して、血漿AUC
inf、AUC
lastおよびC
maxの幾何平均比(摂食/絶食)周りの90%CIを構築した。固定効果として順序、期間および処置条件、ならびにランダム効果として対象を含む混合効果モデルを使用した。生物学的同等性データを、200mgの化合物Iの単回用量を投与したすべての対象について以下の表9に示す。
【表9】
【0169】
上に示される通り、幾何平均比(摂食/絶食)は、それぞれ154.28%、154.02%および158.11%であり、摂食状態において、AUCinfおよびAUClast(すなわち、AUC0-t)については約50%の増加を示し、Cmaxについては60%の増加を示した。対数変換データに基づく幾何平均の比の90%CIは、AUCinf、AUClastおよびCmaxについての80~125%の等価限界内には含まれず、食事効果が実証された。
【0170】
生物学的同等性データを、化合物Iの絶食および摂食期間の両方を完了したすべての対象について、以下の表10に示す。
【表10】
【0171】
上に示される通り、幾何平均比(摂食/絶食)は、153.63%、153.20%および156.43%であり、摂食状態ではAUCinf、AUC0-tおよびCmax各々について約50%の増加を示した。対数変換データに基づく幾何平均の比の90%CIは、AUCinf、AUClastおよびCmaxについての80~125%の等価限界内に含まれず、食事効果が実証された。
【0172】
PKについての結論
単回200mg用量後、血漿化合物Iは、摂食および絶食状態の両方で投与後1~72時間の間、検出可能であった。濃度は、絶食状態では5時間、および摂食状態では5.5時間の時点でピークに達した(表8)。曝露量は、絶食状態に対して摂食状態では50%(AUClast、AUCinfに基づいて)~60%(Cmaxに基づいて)高かった(表9、表10)。全ての対象において、対数変換データに基づく幾何平均比の90%CIは、AUCinf、AUClastおよびCmaxについての80~125%の等価限界内には含まれず、化合物IのPKに対する食事効果が実証された。絶食および摂食期間の両方を完了した対象を分析した場合に、同じ結果が得られた。
【0173】
安全性評価
この試験は、全体として化合物Iが200mgの単回用量で十分忍容され、試験の間、注意すべき安全性シグナルが確認されなかったことを示す。すべてのAEは、重症度が軽度または中等度であり、全体として、殆どのAEは治験薬との関連は無かった。摂食状態に対して絶食状態でのAEの頻度または重症度が増加する傾向はなかった。最も一般的な(≧2名の対象で生じた)AEは頭痛であり、これは絶食状態の4名の対象および摂食状態の1名の対象で生じた。心機能障害は、絶食状態の2名の対象(洞性頻脈1例および心室頻拍1例)および摂食状態の1名の対象(動悸)で生じた;いずれのAEも回復し、試験の処置に対する対応は取られなかった。2名以上の対象で生じた唯一の薬剤に関連したAEは、頭痛(絶食状態の3名の対象および摂食状態の1名の対象)であった。
【0174】
トロポニンIの増加は、絶食または摂食状態のいずれの対象においても観察されなかった。この試験において、安全性試験のパラメーターもしくはバイタルサイン、またはECG間隔の臨床的に重大な変化も存在しなかった。絶食状態では3回(30.0%)および摂食状態では2回(20.0%)の異常なECG結果が記録された。
【0175】
実施例3:安定なHFrEFを有する患者における化合物Iの単回および複数回漸増経口用量の安全性、忍容性、予備的薬物動態および薬力学に関する無作為化二重盲検プラセボ対照2段階アダプティブデザイン試験
この実施例では、安定な駆出率が低下した心不全(HFrEF)を有する通院患者における化合物Iの単回および複数回漸増経口用量の予備的に安全性および忍容性を確立するための試験を記載する。重要な適格基準には、ガイドラインに基づく医学的な療法で処置された虚血性または非虚血性起源の安定なHFrEF(スクリーニング中のEF初期要件は20~45%であり、後に補正によって15~35%に変更された)が含まれた。活動性虚血または重度もしくは弁膜性の心疾患を有する対象は除外した。試験は、(1)HFrEFを有する患者における化合物Iの単回および複数回漸増経口用量後の化合物Iの予備的ヒトPKを確立すること;(2)経胸壁心エコー(TTE)によって測定した、ベースラインおよびプラセボと比較した単回および複数回用量漸増後の化合物Iによる、左心室の流出路-速度時間積分(LVOT-VTI)から得られた左心室の1回拍出量(LVSV)の変化、左心室駆出率(LVEF)および左室内径短縮率(LVFS)の変化を決定すること;(3)TTEによって測定した、ベースラインおよびプラセボと比較した単回および複数回用量漸増後の化合物Iによる収縮期駆出時間(SET)の変化を決定すること;ならびに(4)TTEによって測定した、単回および複数回用量漸増後のベースラインおよびプラセボと比較した化合物Iによる薬力学(PD)用量/濃度効果の変化[LVSV(LVOT-VTIから得た)、LVEF、LVFSの変化]を決定することも目的とした。
【0176】
試験により、(1)LVストレイン、LV寸法、LV拡張機能に対する化合物Iの効果、(2)化合物Iの投与による潜在的な心電図(ECG)QT/心拍数-補正QT間隔(QTc)効果、(3)遺伝薬理学プロファイルと化合物IのPK-PD特性との関係、(4)PDまたは安全性関連パラメーターのいずれかに対する拡張型心筋症(DCM)の遺伝的病因の潜在的な影響、(5)右心室(RV)収縮性に対する化合物Iの効果、(6)光電式容量脈波記録法を使用した試験の第1部(単回投与漸増用量[SAD])の間の化合物IによるSETの変化、ならびに(7)化合物Iの代謝物の血漿および/または尿濃度、ならびに薬物動態もまた検討される。
【0177】
材料および方法
試験設計
2段階試験の第1部では、化合物Iの単回投与漸増用量(SAD)を評価し、第2部では、化合物Iの反復投与漸増用量(MAD)を評価した(
図5Aおよび5B)。
【0178】
第1部(SADコホート)
第1部は、心不全を有する通院患者における無作為化クロスオーバーDBプラセボ対照2コホート逐次漸増(経口)単回用量試験であった。全ての患者は、プラセボおよび化合物Iの2または3回の有効用量が投与された。各患者は、5日以上および14日以内で別々に逐次単回用量処置を受けた。コホート1の患者は、SRCが入手可能なデータを検討し、用量を推奨した後、第4の投薬期間(オープンラベル)のために再来院してもよい。補正1の実行前に登録された患者は、オープンラベル期間のために再来院する機会が提供され得る。コホート2の患者は、SRCの決定に基づいて2~4回の投薬期間に参加した。患者は、
図5Aに略述される異なる投薬順序のうちの1つに無作為化された。複数の患者が、管理の都合、すなわち収容能力およびスケジュールに応じて同時にまたは同じ週に投薬され得る。
【0179】
各投薬期間について、患者は、-1日目に臨床現場に入院した。患者は、除外基準(例えば、患者が臨床学的に不安定であることを示す新たな試験の異常および/または状態)が無いことについて評価した。患者は、1日目の朝に化合物Iまたはプラセボが投与され、その後、連続PKおよびPD評価、ならびに連続安全性評価が行われた。患者は、3日目(すなわち、1日目の投薬後約48時間)に退院した。追加の外来で血漿PK試料を、4日目、投与後72時間の時点で採取した。
【0180】
用量を投与する前に、バイタルサイン、現場でアッセイしたトロポニン濃度、TTE、ECGおよびECG遠隔測定法を含む安全性試験値を含むすべての利用可能な安全性データを検討した。DB処置を用いた投薬は、各投薬日に同時に行った。適用可能な場合、利尿剤を含むバックグラウンドの併用薬品も各投薬日に同時に投与した。投薬前に、投与前安静時HR≧95bpm(3回の測定値の平均)を有する患者を、不適格とみなし、処置しなかった。全てのPKプロファイルならびに複数のTTEおよびECGを、ベースラインおよび各用量投薬後に得た。患者は、最終用量の投薬後7日(±1日)に、最後の安全性フォローアップのために再来院した。試験の間、患者は、うっ血性心不全およびその他の医学的状態を処置するための自身の治療薬を、通常と同じ用量およびほぼ同じ時刻で服用することを続けた。
【0181】
第2部(MADコホート)
これは、心不全を有する安定な患者における無作為化並行群間DBプラセボ対照アダプティブデザイン逐次漸増(経口)複数回用量試験であった。4つのMADコホート(A、B、C、D)を登録した(
図5B)。SRCは、各コホートからの結果を検討し、用量を決定し、次のコホートのための最初の試料サイズを確認した。さらに、各コホートの最初の3名の患者は、LVEF≧25%を有し;SRCは、これらの患者からの予備的安全性データを検討し、LVEF<25%の患者へのコホート登録を認めるかどうかを決定した。
【0182】
スクリーニングおよび適格性を確認した後、患者は、1日目(チェックイン)から11日目まで臨床試験用の施設に収容した。各患者は、単盲検方式にて、最初にプラセボBIDを2日間(1日目および2日目)投与された(臨床試験施設に収容されることに慣れる間の「ならし」)後、3日目に無作為化DB治験薬による処置を受けた。その後、すべての患者は、プラセボまたは有効化合物Iのいずれかを7日間(3日目から9日目まで)投与し、フォローアップ期間の後、患者を11日目に施設から退院させた。最後のフォローアップのための医療施設の来院は、16日目に行った。コホート中で2名以上の患者が、管理の都合、すなわち収容能力およびスケジュールに応じて同時にまたは同じ週に投薬できた。
【0183】
患者は、1日に2回(12時間毎)投与された。投薬は、少なくとも10時間かつ14時間以下の時間が離れている限り、予定した投薬時刻から±2時間で行うことがあった。9日目は1日2回投薬の例外であった(無作為化DB治験薬処置の最後の用量)。9日目に、朝に単回用量を投与した。
【0184】
各投薬事象の前に、前日のすべての利用可能な安全性データを検討した(非収容患者について、在宅保健師を利用した場合には、保健師と現場が毎日連絡を取って安全性を確保した)。DB処置に関する投薬は、各日のほぼ同時刻に行った。
【0185】
試験期間中に、複数の評価を実施し、これらには:連続TTE評価(1、2、3、4、7、9、10および11日目に患者当たり11~14回のTTE);PK試料採取(無作為化後毎の心エコー図に付随して収集したPK試料);ECG(2、3、4、7、9、10、11および16日目);トロポニン(無作為化後毎のECGに付随して収集);ならびに安全性試験評価が含まれる。収容患者は、連続遠隔測定法を受けた。ホルター心電図を、ベースライン(1~2日目)および二重盲検処置の終了時(7~9日目)にすべての患者で実施した。バイタルサインを毎日収集した。
【0186】
選択基準
この試験は、任意の病因を原因としたHFrEFを有する患者で実施した。各患者は、この試験に組み入れるための少なくとも以下の基準を満たした:
1.スクリーニングの来院時の時点で年齢が18~80歳の男性または女性
2.スクリーニングの来院時に、肥満度指数(BMI)18~40kg/m2(端値を含む)であり、全ての必要な評価を確実に実施できる事
3.平均安静時1分当たりの心拍数HR50~95(bpm)(端値を含む)の洞調律または安定した心房ペーシング(1日目に投与前のHR測定が≧95bpmである場合、患者は投薬不適格となる。心拍数は1分間空けて取った3回の測定の平均である。一回の測定値では患者を不適格とはしない。
4.以下の全てによって定義される通りの中等度の重症度の安定な慢性HFrEFを有する:
(i)新たな(より高い)1日用量で試験した各MADコホート内の最初の3名の患者に対して:スクリーニング時にLVEF 25%~35%(ECHOセントラルラボによって確認)を記録した
(ii)MADコホート内のその他の患者(およびSADコホート内の全ての患者)に対して:スクリーニング時にLVEF 15%~35%(ECHOセントラルラボによって確認)を記録した
iii)LVEFは、初回スクリーニングECHOから少なくとも7日後に実施される二回目のスクリーニングECHOで確認されなくてはならない。両方の結果は、組入れ基準を満たさねばならないため、投薬前にセントラルラボから結果を受け取るべきである。SRCの審査によりスクリーニングウィンドウが延長された場合、二回目のECHOが無作為化予定時間付近で行われるように努力すべきである。
(iv)心不全の処置のための慢性薬物療法は、現行のガイドラインに合致しており、2週間以上安定した用量で投与され、試験中に変更する予定すべきではない。この処置には、忍容性がないか、または禁忌でない限り、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)/アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のうちの少なくとも1つを用いる処置が含まれる。
【0187】
除外基準
以下の基準のいずれかに該当する患者は試験から除外した:
1.不十分な心エコーの超音波ウィンドウ
2.以下のECG異常のうちのいずれかを有すること:(a)QTcF>480ミリ秒(Fridericia補正、ペーシングまたは延長QRS持続時間に起因しない、3連スクリーニングECGの平均)または(b)ペースメーカーを持たない患者における第2度房室ブロックII型またはそれ以上
3.化合物Iまたは化合物Iの製剤の内のいずれかの成分に対する過敏症
4.治験責任医師によって決定された臨床的に示される活動性感染症
5.スクリーニング前の5年以内に任意のタイプの悪性腫瘍の病歴、ただし、スクリーニングの2年以上前に発症し、外科手術により切除された以下のがんは除く:非浸潤性子宮頸がん、非黒色腫性皮膚がん、非浸潤性乳管がんおよび非転移性前立腺がん
6.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)またはB型肝炎ウイルス(HBV)への感染がスクリーニング時の血清学的検査で陽性
7.肝機能障害(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)>3倍ULN、および/または総ビリルビン(TBL)>2倍ULNとして定義される)
8.重度の腎不全(腎疾患食事療法簡易計算式[sMDRD]による現在の推定糸球体濾過率[eGFR]<30mL/分/1.73m2として定義される)
9.血清カリウム<3.5または血清カリウム>5.5mEq/L
10.治験責任医師および治験監視員によって臨床的に重大であると判断された任意の範囲外の安全性試験室パラメーター(化学、血液学、尿分析)が継続すること
11.患者の安全を脅かすか、または試験の評価、手順もしくは完了を妨げると考えられるか、または試験からの早期離脱につながると考えられるその他の臨床的に重大なあらゆる障害、状態または疾患の病歴または証拠(薬物乱用を含む)
12.スクリーニング前の30日以内に患者が任意の治験薬を投与される(または治験用医療機器を現在使用している)臨床試験に参加したか、または各々の消失半減期の少なくとも5倍(いずれか長い方)であること
13.スクリーニング時に、症候性低血圧または収縮期BPが>170mmHgもしくは<90mmHg、または拡張期BPが>95mHgもしくはHRが<50bpmであること;HRおよびBPは、少なくとも1分間以上間隔をあけて3回測定した値の平均値である
14.現在、狭心症であること
15.最近(<90日)の急性冠動脈症候群
16.過去3ヶ月以内に冠動脈血行再建手術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス移植[CABG])を行ったこと
17.最近(<90日)の心不全による入院、慢性IV強心薬の使用、または他の心血管事象(例えば、脳血管発作)
18.未矯正の重度の弁膜疾患
19.コアラボの評価に基づいた、スクリーニング時の高いトロポニンI(>0.15ng/mL);注:中心試験室のトロポニンIアッセイULNは0.03ng/mLである
20.心電図または心エコー検査による試験の評価を妨げるような不適格な心拍数の存在:試験の評価には(a)現在の心房細動があること、(b)最近(<2週間)持続性心房細動または(c)頻繁な心室性期外収縮、が挙げられる;心臓再同期療法(CRT)またはペースメーカー(PM)を使用している患者は、少なくとも2ヶ月前に開始され、試験中にCRTまたはPMの設定を変更する予定がない場合に適格とする
21.余命が<6ヶ月である
【0188】
試験処置
第1部(SAD)において、試験対象患者に、別々の漸増用量の化合物I(2~3用量)および単回用量の対応するプラセボを投与した。第2部(MAD)においては、試験対象患者は、1および2日目に単盲検プラセボをBID投与され、その後7日間(3日目~9日目まで)DB処置(プラセボまたは化合物Iのいずれか)を受けた。コホートA、B、CおよびDにおいては、9日目に、患者が、連続PK/PD評価のために朝に単回用量のプラセボまたは化合物Iを投与されるが、3日目から8日目までは、これらのコホートの患者に、プラセボまたは化合物IをBIDにて投与した。
【0189】
化合物Iの原薬は、上記の実施例1に記載した通りであり、5、25または100mg錠剤として提供された。プラセボ錠剤は、対応する錠剤として提供された。錠剤は、ブリスター加工された後、カード状にされた。各ブリスターカードは、5mgのみ、25mgのみ、100mgのみまたはプラセボのみを含む。ブリスターカードは、「キットボックス」中に梱包された。
【0190】
治験薬、投与およびスケジュール
治験薬は、化合物Iの5mg錠剤、25mg錠剤、100mg錠剤または対応するプラセボ錠剤から構成される。第1部(SAD)では、化合物Iまたはプラセボを、一晩の絶食(少なくとも6時間)後に投与し、第2部(MAD)では、化合物Iを、2時間の絶食後(コホートA)または食事と共に(コホートB、CおよびD)投与した。投与用量は、最低240mLの水と共に服用されたが、必要に応じて更に多くの水を摂取した。全用量は、最大15分間の間に投与された。今後の評価を決定するために使用した服用時刻は、最後の錠剤を服用した時刻とした。第2部(MAD)のコホートでは、BIDレジメンを使用した。
【0191】
第1部(SAD)では、患者は、一晩(約6時間)から投与後4時間まで絶食した。投薬と共に摂取した水を除いて、水は、投薬の約1時間前および投薬後の1時間まで摂取できた。投与用量を分割する場合、対象は、最初の半分用量の投与6時間前に絶食した。最初の半分用量の投与2時間後に、低脂肪の軽食を摂取してもよく、二回目の半分用量2時間後までは絶食を継続した。
【0192】
第2部(MAD)では、コホートAの患者は、投薬2時間前および投薬2時間後は絶食した。例えば、朝の投薬を午前8時に行った場合、患者は、午前6時に軽食および午前10に完全な朝食を取ることができる。午後の投薬を午後8時に行った場合、患者は、午後6時に夕食を取り、午後10時に軽食を取ることができる。これらの時刻は、現地のスケジュール設定に基づいて変更しても良いが、投薬は、少なくとも10.5時間の間隔を空けて行った。コホートB、CおよびDの患者は、各投薬時に食事をとった。
【0193】
過量時の薬理作用および過量投与の管理
非臨床的薬理特性に基づいて、化合物Iの過量時の効果は、心筋虚血を引き起こす可能性がある。効果の持続時間は、健康なボランティアにおける4~6時間のTmaxおよび約15時間の半減期を有する化合物IのPKプロファイルに従うが、コホート1の一部として化合物Iを投与された患者においては半減期がわずかに長かった(20~25時間)。胸部痛、眩暈、発汗およびECGの変化などを含み得る臨床学的症状および徴候は、短時間で弱くなり始めるであろう。心虚血を示唆する可能性のある症状および/または徴候を有する患者は、心虚血の可能性について医師によって直ちに評価され、必要に応じて評価の一部として追加のECGおよび連続トロポニンを得た。
【0194】
心虚血の証拠が存在する場合、患者は、酸素および硝酸塩の補充を含めた虚血についての標準治療を必要に応じて受けた。化合物IはSETを延長する可能性があり、この結果、拡張期持続時間が減少し、拡張期心室充填が減少するため、HRを増加させる薬剤の投与には注意が必要であった。さらに、過量時薬理効果は、心筋の酸素要求量を増加させ得るため、心筋の酸素要求量をさらに増加させる可能性のある薬剤の投与は、慎重に行う必要がある。
【0195】
計画よりも高用量を投与された患者は、過量時薬理効果がある場合には、上記のような適切なサポートを行った。
【0196】
併用療法
試験全体を通して、試験を通じて負荷前および負荷後の状態を可能な限り同じ条件に維持し、化合物Iの効果の評価するための交絡因子を最小とするために、試験中、患者は、うっ血性心不全およびその他の病状を処置するための薬剤を、通常と同じ用量および同じ時刻付近で服用し続けた。特に、患者が利尿剤で処置されていた場合、DB処置に対する利尿剤の投与時間は、試験を通じて同様に保たれた。利尿剤の投与時刻は、該当する場合にはデータ収集される。患者が収容されていない場合、患者は、利尿剤を含む毎日の薬剤投与のタイミングを一定に維持し、投与の時間を記録するように指示された。
【0197】
すべての処方薬および市販薬は、治験責任医師によって検討された。登録または投薬に関わる問題は、メディカルモニターに相談すること。市販薬は、試験期間中、安定した用量(治験責任医師の裁量で)かつラベルに記載された指定量を超えない量で服用してもよいこととした。すべての併用処置(処方または市販)が記録された。その他の試験的療法は、スクリーニングの少なくとも30日前または5半減期(いずれか長い方)前に中止された。
【0198】
患者に、処置(アセトアミノフェンまたはイブプロフェンの服用を含む)を必要とするAEが存在する場合、投薬内容が記録された:例えば、投与時間(開始/停止)、日付、用量および適応症を含む。
【0199】
PD評価
PD評価は、上記の実施例1に記載の通り、経胸壁心エコーによって行われた。LVSV(LVOT-VTIから導出)、LVEF、LVFS、SETおよび他のパラメーターのTTE評価は、所定時点でのPD評価である。患者は、TTEを取得する前に10分間ベッドで安静にした。第2部(MAD)においては、通常、朝の投与前および/または投与後7時間(すなわち、健康なボランティア試験からのPKプロファイルに基づいて予測される効果のピーク付近)に、TTEを取得した。
【0200】
安全性および有効性評価
安全性および有効性評価は、患者のバイタルサインおよび試験パラメーターを測定すること:例えば、収縮期駆出時間を測定するためにTTEを実施すること;心電図(例えば、12誘導ECG)、リアルタイムECG遠隔測定法(例えば、少なくとも3誘導)およびホルターECGを実施すること;トロポニン(例えば、トロポニンIおよび/またはトロポニンT)および4β-ヒドロキシコレステロールのレベルを測定することによって行った。
【0201】
以下の安全性試験パラメーターを測定した:(1)血液学パラメーター(微分計数を含むCBCおよび血小板数);(2)血清化学パラメーター(例えば、ナトリウム、カリウム、塩素、重炭酸塩、カルシウム、マグネシウム、尿素、クレアチン、ALP、ALT、AST、総ビリルビン、グルコースおよびCPK);ならびに(3)尿検査パラメーター(例えば、pH、タンパク質、グルコース、白血球エステラーゼおよび血液)。
【0202】
トロポニン値の異常および/または上昇(治験責任医師の判断に基づいて、心不全において頻繁に観察されるベースライントロポニン増加の可能性を考慮したもの)の場合は、患者を心筋虚血の可能性について臨床的に評価した。また、患者に心虚血の可能性を示唆する何らかの症状または徴候がある場合には、追加の連続トロポニン(およびクレアチンキナーゼ-MB[CK-MB]試料を含むその他の安全性試験項目)を取得して、虚血事象の可能性が完全に理解されるまで、投薬の継続を控えた。全ての臨床的項目(例えば、症状、徴候、新たなECG変化、新たなトロポニンおよびCK-MB異常)を評価し、その他の関連するあらゆる臨床所見、患者の病歴および試験データと相関させて、所見の臨床的意義を決定した。第1部(SAD)の2日目および第2部(MAD)の10日目に現地試験室で行われたトロポニンの結果を、翌日、患者が退院する前に検討した。
【0203】
試験のエンドポイント
本試験の主要評価項目(プライマリーエンドポイント)(安全性指標)には、処置に起因するAEおよびSAE;ECGの記録、解釈および間隔;バイタルサイン;血清トロポニンI濃度;試験値の異常;ならびに身体検査値の異常が含まれる。
【0204】
副次的エンドポイントは以下の通りである:
1.化合物IのヒトPKプロファイル。分析には、最低でも以下のPKパラメーターを包含する:各用量レベルのCmax、各用量におけるTmax、各用量におけるAUC、見かけの一次消失半減期(t1/2)、各用量レベルの平均滞留時間(MRT)ならびにCmaxおよびAUC0-t(第2部のみ)についての決定した蓄積比(適切な信頼区間で)。
2.TTEを用いて決定したSET。主要パラメーターは、処置レベルによる各時点におけるベースラインからの変化量およびベースラインからの最大変化量であった。
3.TTEにより評価した以下の項目:LVSV(LVOT-VTIから導出)のベースラインからの変化、LVEFのベースラインからの変化、LVFSのベースラインからの変化およびSETのベースラインからの変化。
【0205】
探索的エンドポイントは以下の通りであった:
1.単回用量(第1部)および複数回用量(第2部)の両方の投与後のAUCおよびCmaxの薬物動態的用量比例性
2.Fridericiaの式を使用して補正したQT間隔(QTcF)、ベースラインからの変化(絶対値または相対変化%)、および効果がある場合には、QTcFのベースラインからの変化の濃度効果関係に対する化合物Iの潜在的な効果を探ること
3.化合物Iの血漿濃度/PKパラメーターとPDパラメーター(LVEF、SET、LVFS、LVSV)との関係
4.TTEによって評価した以下の項目:LVストレインのベースラインからの変化、LV寸法のベースラインからの変化、LV拡張機能のベースラインからの変化、RV収縮期ベースラインからの変化およびPEPのベースラインからの変化(第1部)
5.光電式容量脈波記録によって評価したSET(第1部のみ)。
【0206】
追加の可能なエンドポイントは以下であった:
1.遺伝的バイオマーカーおよび化合物IのPKまたはPDプロファイルに対する効果を探ること
2.血漿試料中の化合物I代謝物の決定
3.各採尿間隔で尿中に排泄された化合物Iの量、ならびに総量および尿中に排泄された投与用量の量
【0207】
試験結果
第1部(SAD)のPK/PDおよび安全性データ-コホート1および2
コホート1
安定した心不全を有する8名の患者を登録し、4つの期間(A~D)のクロスオーバー研究設計において175、350、525、450(分割投与)または550mg(分割投与)の用量で化合物Iまたはプラセボを受けるように無作為化した。患者は全員、非虚血性の心不全であり、43%の平均ベースライン駆出率を示した。期間A~Cの間、8名の対象全員は、プラセボ、175mgおよび350mg(順不同)を服用した。6名の対象が、4回目のオープンラベル期間Dに進むよう選択され、以下の用量が投与された:350mg(n=1)、525mg(n=2)、450mg(2分割;n=1)および550mg(2分割、n=2)。単回投与は、絶食条件下で患者に投与された。分割投与は、4時間おきに行うが、但し患者には、最初の半分の用量投与前の6時間および第2の半分の用量投与後の2時間絶食させて、最初の半分の用量投与2時間後に軽食をとらせた。その後、患者は、長時間の観察を受けた後、休薬期間を設けた。このプロセスを、各患者が、少なくとも3回の用量(化合物Iまたはプラセボ)が投与されるまで繰り返した。
【0208】
コホート2
安定した心不全を有する4名の対象が、登録されて、3期間(A~C)で400mg(分割用量)または500mg(分割用量)用量の化合物Iまたはプラセボを投与するために無作為化した。分割投与は4時間間隔で投与したが、但し患者には、最初の半分用量の投与6時間前および第2の半分用量の投与2時間後に絶食させて、最初の半分の用量投与2時間後に軽食をとらせた。A~C期間中、4名の対象全員に、プラセボ、400mgおよび500mg(順不同)を投与した。
【0209】
PK評価の結果を、以下の表11に要約した。
【表11】
【0210】
SADコホート1についての化合物Iの平均血漿濃度-時間プロファイルが、
図6に図示される。このコホートにおいて、化合物Iは、化合物Iが投与されたすべての対象において投与後72時間の時点で検出可能であった。化合物Iは、期間BまたはCでプラセボを投与された4名の対象の血漿中で観察され、化合物Iが休薬期間内に完全に排泄されないことが示された。血漿中濃度のピークは、化合物Iの175、350または525mgの単回用量の経口投与後、2.0~9.1時間の範囲で、約5~6時間で生じた。血漿中曝露量(C
max、AUC
0-24およびAUC
0-∞)は、175mg~350mgの単回投与では、ほぼ用量依存的に化合物I用量の増加に伴い増加したが、525mg用量ではC
maxでプラトーに達し、AUCでは用量依存的増加よりも低い増加となった。平均(SD)C
maxは、175mgの単回投与では1510(350)ng/mL、350mgの単回投与については2760(856)ng/mL、および525mgの単回投与については2720(127)ng/mLであった。平均(SD)AUC
0-∞は、175mgの単回投与については53800(13800)ng*h/mL、350mgの単回投与については103000(27200)ng*h/mL、および525mgの単回投与については127000(20100)ng*h/mLであった。
【0211】
これらの結果は、実施例1で既に記載した通りの健康な対象において観察された結果と同等であった。525mg用量の投与による曝露量の減少は、不十分な溶解度、低速での溶解および胃腸管における未溶解薬物分子の不完全な吸収を原因とするバイオアベイラビリティの低下が理由であると考えられた。高用量での飽和吸収を克服するために、期間A、期間Bまたは期間Cに、プラセボ、175mgまたは350mg単回用量が投与され、処置が完了した患者に、分割用量が4時間の間隔を空けて投与された。期間Dにおいて1名の患者に、450mg用量が投与され、2名の患者に550mg用量(2分割して、4時間の間隔を空けて投薬)が投与された。表11に示される通り、分割投与にて450および550mgの経口投与後の化合物Iの曝露量は、175mgおよび350mg用量の単回投与と比較して、用量依存的増加以上に増加した。曝露量の用量依存的増加を超える増加は、おそらく2回の投与間の食事の摂取に起因するものである。
【0212】
コホート1および2の両方について、心臓の構造および機能の心エコーのマーカーに対する化合物Iの薬力学的効果を、化合物Iの血漿濃度群別に分析した:<2000ng/mL(低濃度群)および≧2000ng/mL(高濃度群)(表12)。
【0213】
高血漿濃度群(≧2000ng/mL)では、化合物Iは、平均(SE)1回拍出量(9.0[3.0]ml;p<0.001)および平均(SE)LV駆出率(4.4%[1.9];p<0.05)におけるベースラインからの統計的に有意な増加、ならびに平均(SE)LV長軸方向ストレイン(-2.1%[0.7];p<0.001)における有意な低下との相関を示した。
【0214】
化合物Iの投与の結果、1回拍出量(SV)、LVEFおよび左室内径短縮率(FS)を含む複数の心エコー測定にわたり、心収縮力のベースラインから約10%の相対的増加がもたらされた。化合物Iは、心臓の収縮力を増加させたが、収縮の持続時間または心臓の弛緩により、酸素を含む血液を充填する能力に大きな変化はないようであった。SETの僅かな増加が見られ(<50ミリ秒)、また左心室充填に対する化合物Iの影響は、拡張期弛緩の複数回の測定値にわたり僅かであった。表12に要約された通り、これらのデータは、健康なボランティアにおける実施例1で提供された結果と一致した。
【表12】
【0215】
175~550mgの範囲でHFrEF患者に投与された化合物Iの単回投与漸増用量(SADコホート1および2の両方にわたる)は、安全かつ広く良好な忍容性であった。重大なAE、重度のTEAEまたは試験中止に至るTEAEはなかった。報告されたTEAEの所見一覧を表13に示す。2名以上の対象で生じたTEAEはなく、全てのTEAE所見は、軽度であるか、または治験薬に関連しないと考えられた(但し、550mgの最高用量にて1名の対象で観察されたTEAEを例外として、以下に詳述する)。
【表13-1】
【表13-2】
【0216】
1名の患者は、第3期中に、PDプロトコルに関する個別用量増加の停止基準に達した。その時点での停止基準は、2回の連続した心エコー図で、SETが少なくとも50ミリ秒増加(後に2回の連続した心エコー図で、75ミリ秒または任意の一回の心エコー図で110ミリ秒に変更された)したことである。350mgの化合物Iが投与された後、1名の患者のSETは、投与後1.5および3時間の時点で約63ミリ秒延長され、次いで投与後6および9時間の時点で<35ミリ秒延長された。臨床所見またはECG所見はなく、トロポニンレベルも上昇しなかった。この患者への追加投与はなかった。350mgでの投与後3~9時間の間の全ての患者の平均SET延長は、16.2ミリ秒であった。
【0217】
虚血性心疾患の長期の病歴(20年)を有するHFrEFの67歳の男性対象1名が、4期の処置期間を受けた:最初の3期間は、175mg、350mgおよびプラセボをこの順序で、14日間の期間を空けて投与した。175mgおよびプラセボを投与している期間に、軽度の呼吸困難および疲労が認められた。第3期の28日後に、対象は、第4期を開始し、550mgが投与された。投薬の約12~24時間後に、対象は中等度の呼吸困難および心臓の違和感を訴えた。虚血を示唆する新たなECG変化はなかった。エピソード中の対象の化合物I血漿濃度は、3400~4900ng/mLの範囲であった。対象は、投与24時間後の時点で、投与前の正常値から0.12ng/mL(アッセイの4×ULN)のトロポニンIの最大レベルまでトロポニン増加に関するAEも経験した。トロポニンIレベルは、投薬36時間後までに下降し始め、最終投与から7日後のフォローアップ受診時には正常であった。これらのTEAEは、インターベンションなしに解消したため、治験薬と関連する可能性があると判断された。SRCはこの事象を検討し、心筋障害の可能性があるとした。
【0218】
HFrEF患者における2つのSADコホートにおいて、合計12名の対象が、12回のプラセボ投与の期間および30回の有効薬処置の期間におかれた。一過性のトロポニン増加は、プラセボ期間中において0名(0/8)、175~550mgの範囲の用量においては合計3回の有効薬処置期間(合計30回の有効処置期間のうち)(3/30=10%)において3名の対象(3/12=25%)で観察された。上記の場合を除いた、全ての他のトロポニン増加は無症状であった。虚血を示唆するECG変化と関連したトロポニン増加は観察されなかった。トロポニン増加の全ての症例は、一過性であり、後遺症なく回復した。
【0219】
全ての患者についてのECG試験の分析では、QTcF上昇のシグナルは認められなかった。全ての患者についてのホルターモニタリングの評価により、プラセボと比較して、化合物Iによる全心房転位、心房細動、心室転位またはNSVTランの増加のシグナルは明らかにならなかった。
【0220】
本試験において化合物Iで処置した患者からのPKおよびPDデータは、HFrEF患者における化合物Iの期待される正の強心作用の予備的な証拠を示しており、SETの緩やかな増加および弛緩に対する明白な影響と関連があった。このPDパラメーターの変化は、長期的な治療期間中の臨床的効果として理解可能な範囲にある。
【0221】
第2部(MAD)からのPK/PDおよび安全性データ
4つのコホートにわたる合計40名の対象が、50mg(食事と共に)、75mg(1コホートは食事と共に、1コホートは4時間の絶食)または100mg(食事と共に)の用量で、BIDにてプラセボまたは化合物Iを用いた7日間の処置を受けた(
図5Bおよび表14を参照されたい)。
【表14】
【0222】
PK、PD、臨床安全性および忍容性データの分析を以下に示す。
【0223】
HFrEF対象が、対象のバックグラウンドHFrEF状態と関連する(すなわち、虚血または梗塞に関連が無い)トロポニン値の上昇を示す場合があること、およびトロポニン値が正常値の上限(ULN)付近で変動する場合があるということを考慮し、試験における「トロポニン増加」とは、以下の通りに規定された:
-トロポニンが投与前の正常範囲内(トロポニンIについて≦0.03ng/mL、およびhs-トロポニンTについて<0.014ng/mL)であった場合、対象が処置の間または処置終了後に、>2×ULN(トロポニンIについて>0.06またはhs-トロポニンTについて≧0.028)の値の少なくとも1つの値を経験すれば、対象は、「トロポニン増加」を示すと特定された
-トロポニンが投与前のULNを上回る場合、対象が処置の間または処置後に、ベースラインと比較して、0.03ng/mL以上増加した値の少なくとも1つの値を経験すれば、対象は、「トロポニン増加」を示すと特定された(トロポニンIまたはhs-トロポニンTの場合に)。
【0224】
コホートA
安定した心不全を有する患者8名を登録し、化合物I(6名の患者)またはプラセボ(2名の患者)を、投与2時間前および投与2時間後に絶食させて、6日間にわたり1日2回、75mg用量を経口投与し、7日目に単回投与するように無作為に分けた。薬物動態パラメーターの結果を、以下の表15に要約する。
図7のパネルAに示される通り、初回投与から約3日後または72時間後に血漿濃度が定常状態に達した。
【0225】
コホートB
安定した心不全を有する患者12名を登録し、化合物I(9名の患者)またはプラセボ(3名の患者)を、6日間にわたり1日2回、50mg用量を食事と共に経口投与し、7日目に単回投与するように無作為に分けた。薬物動態パラメーターの結果を、以下の表15に要約する。
図8のパネルAに示される通り、初回用量の約4日後または96時間後に、これらの患者の血漿濃度が定常状態に達した。
【0226】
コホートC
安定した心不全を有する患者12名を登録し、化合物I(9名の患者)またはプラセボ(3名)を、6日間にわたり1日2回、75mgの用量を食事と共に経口投与し、7日目に単回投与するように無作為に分けた。薬物動態パラメーターの結果を、以下の表15に要約する。経時的な血漿濃度を、
図7のパネルBに示す。
【0227】
コホートD
安定した心不全を有する患者8名を登録し、投与2時間前および投与2時間前に絶食させ、化合物I(6名の患者)またはプラセボ(2名の患者)を、6日間にわたり1日2回、100mgの用量を経口投与し、7日目に単回投与するように無作為に分けた。薬物動態パラメーターの結果を、以下の表15に要約する。経時的な血漿濃度を、
図8のパネルBに示す。
【0228】
表15は、MADコホートA~Dから得られたデータから計算したPKパラメーターを要約したものである。全体として、t
1/2は、SADコホートで得られたデータと一致した。C
max、T
maxおよびAUC
tauは、モデル化されたパラメーターと一致した。
【表15】
【0229】
心臓の構造および機能の心エコーマーカーに対する化合物Iの薬力学効果を、化合物I血漿濃度群により分析した:<2000ng/mL(低濃度群)、2000~3500ng/mL(中濃度群)および≧3500ng/mL(高濃度群)(表16)ならびにPK-PD散布図(
図9A~9C)。中濃度群は、50mgBIDで達成された定常状態血漿濃度に相当する(表17)。合計526回の心エコーを実施して、PK-PD分析が導出された。
【表16-1】
【表16-2】
【表17】
【0230】
化合物Iによる処置により、1回拍出量が濃度依存的増加(中濃度群および高濃度群で各々7.8[p<0.01]および5.7mL[p<0.05]のプラセボ補正後の平均増加)した。化合物Iは、LV縦方向および円周方向ストレインも改善し(中濃度群および高濃度群で各々-2.1および-3.3%のプラセボ補正後の平均減少)ならびにLV寸法も減少させた(中濃度群および高濃度群で各々-1.3[p<0.01]および-1.8mm[p<0.01]のLVESDの平均プラセボ補正後の減少)。LVEFの有意でない増加が認められた。SETの用量依存的増加が観察され、36(p<0.01)および48ミリ秒(p<0.01)のプラセボ補正後の平均増加が、各々中濃度群および高濃度群で観察された(
図9B)。LVSVのベースラインからの変化とSETのベースラインからの変化との間で相関が見られた(
図9C)。弛緩(e’、ピークE波)の有意な変化は、中濃度群では観察されなかった。E/Aは、Aピーク波速度の増加に起因して減少した。高濃度群では、e’、ピークE波(-10cm/秒、p<0.01)およびE/Aの減少が観察された。充填圧の変化(E/e’)は、中濃度群または高濃度群では認められなかった。低濃度群および中濃度群において、バイタルサインに有意な変化は認められなかった。高濃度群では、収縮期血圧の低下がみられたが、拡張期血圧または心拍数の変化はなかった。QTcの増加は観察されなかった。ホルターモニタリングにより、化合物Iでは、プラセボと比較して心室性不整脈の増加がないことが明らかになった。
【0231】
処置開始後の有害事象(TEAE)は、17名(57%)の化合物I患者および4名(40%)のプラセボ患者で報告され、臓器特異性はなく、用量との明らかな関係はなかった(表18)。化合物Iで観察された全てのTEAE(1つを除く)は、軽度であって、および/または試験処置とは無関係であると考えられ、全てのTEAEは、後遺症なしに回復した。1名の患者が、2回非持続性心室頻拍(NSVT)エピソードが発生し、これは中程度の強度で化合物Iに関連があると考えられた。患者は、ベースライン時のホルターでNSVTを示した。TEAEも、永続的な処置の中止または死亡に至ったTEAEはいずれもなかった。本試験では、化合物Iを投与された患者において、1つの重篤なAEとして高カリウム血症が報告された。この事象は回復し、試験処置との関連は無いと考えられた。化合物Iが投与された患者における最も一般的なTEAE(各々患者2名で報告された)は以下のものであった:ALT増加(両者とも、事象は軽度であり、試験処置とは関係が無く、自己回復した)、接触性皮膚炎(両者とも、事象は軽度であり、試験処置とは関係が無かった)、疲労、トロポニン増加および非持続性心室頻拍(NSVTエピソードが患者2名で観察され、この患者は、ベースライン時のホルターでもNSVTが観察された)。トロポニンIまたはhs-トロポニンTのいずれかの一時的かつ無症候性の増加が、化合物Iで処置された患者7名(23%)において認めたれた(2/9名の患者は50mg、2/15名の患者は75mg、3/6名の患者は100mgであり;7名すべての患者がトロポニンI増加を経験し、そのうち1名の100mgで処置した患者は、hs-トロポニンT増加も有した)のに対し、プラセボでは全く認められなかった(表19)。MADコホートで観察されたトロポニン増加は、いずれも虚血を示唆する症状またはECG変化とは関連しなかった。
【表18】
【表19】
【0232】
SADおよびMADコホート:薬物動態-薬力学関係
SADコホートおよびMADコホートからの主な心エコーPDパラメーターの濃度群別の変化を、各々表12および表16に示す。前方駆出血流(SVの約8~9mLの増加)およびLV収縮性(LVストレイン)の曝露に関連した増加が観察された。心筋の性能(またはTei指数、収縮期および拡張期の複合機能の指標(Bruch et al., Eur Heart J. (2000) 21:1888-95)は、濃度≧2000ng/mLで約10%改善した。SETは、中程度に増加した(<50ミリ秒)。
【0233】
単回および反復投与漸増用量コホートからの安全性/忍容性の結論
HFrEF対象における化合物Iの単回投与(最大550mg)および反復投与(50~100mgを7日間BID投与)は、安全であり、一般に十分忍容された。ECGによる虚血性変化は認められず、臨床的に有意な不整脈の悪化も認められなかった。軽度の一過性のトロポニン増加が、化合物Iにて時折観察された。高用量(550mg)を投与されたSADコホート1の対象1名では、トロポニン増加が、心筋障害(関連する症状の存在、ECG変化なし)と関連している可能性があると考えられた。MADコホートにおいては、軽度のトロポニン増加が認められたが、症状またはECG変化と関連は認められなかった。軽度のトロポニン増加は、現在、HFrEFにおける大規模なフェーズ3の心血管系アウトカム試験で検討されている、このクラスの心筋ミオシン活性剤の別の薬剤であるオメカムチブメカルビルでも観察された(Teerlink et al., Lancet (2016) 388(10062):2895-903);Teerlink et al., JACC Heart Fail. (2020) doi: 10.1016/j.jchf.2019.12.001)。
【0234】
実施例4:生理学に基づく薬物動態モデリングによる化合物Iの非線形薬物動態の検討
化合物Iの薬物動態は、複数のイヌ試験で評価されている。
図13に示される通り、ビーグル犬への化合物Iの単回用量を経口投与した後の、化合物Iの全身曝露は、3mg/kgよりも高い用量では、用量依存的な増加未満にて用量の増加に従って増加した。<3mg/kgの単回用量では、観察された経口バイオアベイラビリティは、約100%であった。化合物Iのこの非線形薬物動態はまた、ヒトにおいても観察された。実施例1に記載の通り、健康なボランティアへの3~525mgの単回投与漸増用量を経口投与した後、全身曝露(C
maxおよびAUC)は、350mgまでの用量で、用量依存的な増加よりもわずかに少なく増加したが、525mg用量の経口投与後の曝露プロファイルは、350mg用量と同様であった。非線形の薬物動態を引き起こす根本的なメカニズムを明らかにするため、ビーグル犬および健康なボランティアでの化合物Iの生理学に基づく吸収モデルを開発し、化合物Iのインビボ溶解、吸収、バイオアベイラビリティおよび全身曝露に対する粒径の効果を評価するために使用した。
【0235】
材料および方法
データ収集
化合物Iの生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルの開発および検証のために使用したデータは、イヌにおけるインビボ非臨床試験(
図13)、健康なボランティアにおける臨床試験(実施例1)およびインビトロ実験(表20)から得た。
【0236】
PBPKモデルの開発
PBPKメカニズムによる吸収モデルには、(1)インビトロの実験測定値またはGastroPlus(バージョン9.6)のADMET Predictor(バージョン7.2)を用いた化学構造に基づくインシリコ推定値から得た物理化学的特性および生物薬理学的特性;(2)原薬粒径分布、製剤タイプ、および放出または溶解速度などの薬剤の製剤特性;(3)全身クリアランス、分布体積および区画間速度定数などのコンパートメントモデル動態パラメーター;ならびに(4)消化管(GI)通過時間、pH、吸収表面積、区画寸法および水分含有量などの消化管生理学パラメーターが含まれる。絶食条件下での米国の健康なボランティアおよびビーグル犬についてのGastroPlus(バージョン9.6)の既存の生理学パラメーターを、修正することなく使用した。
【0237】
試験したバッチの粒径分布データを、
図13に示す。モデルに入力したパラメーターを、表20に要約する。
【0238】
インビボ溶解速度を、予測するためにジョンソン溶解モデルを選択して、溶解中の粒子半径の変化および円筒形粒子の溶解を説明するための時間依存的拡散層厚さおよび形状係数を含む以下の式1によって記載される。
【数3】
(式中、M
Dは溶解量であり、M
uは未溶解量(時間0またはtの時点)であり、C
sは溶解度であり、Cは媒体または腸管内腔中の溶解薬物の濃度であり、D
effは拡散係数であり、ρは薬物密度であり、r
tは現在の粒子半径であり、hは拡散層の厚みであり、sは長さ/直径として定義される形状係数である(球形粒子の場合s=1))。
【0239】
粒径効果の評価
ヒトについてのPBPKモデルを使用して、経口投与後のインビボ溶解、吸収および血漿中濃度時間プロファイルを予測した。シミュレーションは、GastroPlusのIR:懸濁剤形オプションを使用して、インビトロで測定した粒径分布データを用いて実施した。パラメーター感度分析により、粒径分布および投与量が、化合物Iのインビボ溶解、吸収、バイオアベイラビリティおよび全身曝露に及ぼす影響を評価した。
【0240】
結果
図13に示される通り、ビーグル犬における化合物Iのバイオアベイラビリティは、原薬の粒径分布に関わらず、25mg(3mg/kg)以下の化合物Iの単回投与で経口投与後、約100%であった。バイオアベイラビリティは、Dv50=46μmの化合物I100mgを経口投与した後は、約40%であり、および微粉化した化合物I(Dv50=3.2μm)10mg/kgを経口投与した後は、100%以上であった。予測された血漿中濃度時間プロファイル、バイオアベイラビリティおよび全身曝露パラメーター(F、C
max、AUC
lastおよびAUC
inf)は、絶食条件下で、溶液または懸濁製剤中の化合物Iの単回用量の静脈内または経口投与後の種々のイヌの試験(
図13)で観察されたものと同等であった。ヒトにおいて、予測された血漿中濃度時間プロファイル(
図10)および全身曝露パラメーター(C
max、AUC
lastおよびAUC
inf)は、実施例1に記載の臨床試験(
図14)において観察されたものと同等であった。全ての変数についての予測誤差は、-26.3%~16.1%以内であり、これをイヌおよびヒトPBPKモデルの両方で検証した。
【表20】
【0241】
このモデルから、イヌおよびヒトにおけるバイオアベイラビリティ(F)および吸収割合(Fa)が用量の増加に伴って低下することが予測され、これはイヌにおいて観察された結果と一致しており、Dv50=46μmの化合物Iのバッチ懸濁液を経口投与した後の用量を正規化した全身性の曝露量の低下は、Faの低下によって引き起こされたことが示唆された。より高用量でのバイオアベイラビリティの低下は、難溶解性であり、溶解が遅く、その結果、溶解していない薬剤分子が糞便中に排泄されることを理由とする不完全な吸収に起因するものであった。
【0242】
インビトロで測定した粒径分布情報をGastroPlusモデルに組み込むことによって、Dv50=46、26および3.2μmである化合物Iについてのインビボ溶解、吸収および血漿濃度時間プロファイルを、シミュレーションした。シミュレーションしたインビボでの吸収、インビボでの溶解および血漿濃度時間プロファイルを
図11に図示する。
図11に示される通り、Dv50=3.2μmの化合物Iのインビボの溶解速度が最も速く、その結果、吸収が最も速く、血漿濃度のピークが最も高いことが示された。局所吸収プロファイルも異なっていた。GI管の異なるセグメントで吸収された用量のパーセンテージも、同様に3つのバッチ間で相違していた。吸収された用量のパーセントは、Dv50=3.2μmの化合物Iでは、小腸で97.4%であり、結腸で2.4%であったが、一方でDv50=46μmの化合物Iでは、小腸で用量の68%しか吸収されず、結腸で用量の23.8%が吸収された。
【0243】
パラメーター感度分析(PSA、
図12)により、粒径分布および用量が、インビボでの溶解、吸収および全身曝露に対して大きな影響を及ぼすことが明らかになった。500mg用量では、微粒子化された原薬であっても、吸収の割合および全身への曝露量が有意に低下した。
【0244】
PSAの結果から、平均粒子直径が10μm以下である場合に、治療用量は、1日2回50~100mgで最適な吸収となり得ることが示唆された。
【0245】
結論
イヌおよび健康なボランティアの化合物Iの生理学的メカニズムに基づく吸収モデルを開発して、様々なインビボ試験で観察された血漿濃度時間プロファイルを再現して実証した。
【0246】
PBPKモデリングおよびシミュレーションにより、イヌおよびヒトの両方における化合物Iの吸収は、原薬の用量および粒径に依存することが実証された。化合物Iの原薬の微粒子化により、3mg/kgより高い用量において、インビボ溶解速度が増加し、その結果として吸収、バイオアベイラビリティおよび全身曝露量を増加させることができる。
【0247】
代替投与
9つの異なる投薬レジメン(食事摂取有り)による血漿濃度プロファイルを、2000ng/mL~4000ng/mL(特別な集団として25mgBID群を除く、約1000ng/mL)の目標とする定常状態平均濃度についてシミュレーションした。定常状態は、BID投与レジメンでは維持用量の2倍にて、またQD投与では1.5倍の負荷用量にて達成できた。以下の表21も参照されたい。
【表21】
【0248】
実施例5:MYH7変異に起因する原発性拡張型心筋症を有する安定な通院患者における化合物Iの経口投与のオープンラベル探索的試験
この実施例は、アクトミオシン結合に有害な変化をもたらすMYH7変異に起因する拡張型心筋症を有する患者(MYH7-DCM対象)における化合物Iによる処置に関して事前に安全性および忍容性を確立することを目的とした試験を記載する。試験は、(1)MYH7-DCM対象における経胸壁心エコー(TTE)によって決定される心臓薬力学(PD)に対する化合物Iによる処置の効果を、ベースラインと比較した効果を事前に確認すること;および(2)MYH7-DCM対象における日周活動レベルに対する化合物Iの効果を事前に確認することも目的とする。
【0249】
材料および方法
試験設計
これは、MYH7変異と関連する原発性DCMを有する安定な通院対象における化合物Iの安全性および有効性を調査する単一コホートのベースライン対照で連続した2期間のオープンラベル試験(
図15)である。最大で合計約12名の対象の登録が計画されているが;追加のコホートを登録してもよい。予測される試験時間は、スクリーニングのための約1~8週間、IMP投薬のための9~15日間およびフォローアップ来院のための約1週間(7±1日)を含めた約4週間~11週間である。
【0250】
スクリーニング
現地の規制により認められている場合、対象は、事前に適格性を評価するために、予め遺伝子検査結果を確認することにより遠隔地で同意することができる。そうでない場合、最初のスクリーニング来院時に、対象は、自身のインフォームドコンセントを提出した後に、匿名化された遺伝情報を伝えられる。
【0251】
対象は、必要に応じて1または数回の試験来院時に最大8週間のスクリーニングおよび適格性評価を受ける(-8週目~-1週目)。スクリーニングは、1回(V1A)~3回(V0、V1A、V1B)の診察にて完了し、スクリーニングには、これらに限定されないが、例えば病歴、身体検査、安全性試験、12誘導ECG(3回)および1~2回のTTEが挙げられる。
【0252】
V1で実施した試験室の評価による異常所見(例えば、試料の溶血、異常カリウムレベル)は、矯正処置後のスクリーニング中に1回繰り返されてもよい。
【0253】
後ろ向き試験が対象の適格性評価に使用される場合、心拍のモニタリングパッチを、初回のTTE中に貼付する。2回目のTTEが必要な場合、パッチは、2回目のTTE/スクリーニング来院の最後に貼付される。心拍のモニタリングパッチの期間は、5~14日間であってよい。パッチが、5日以内に剥がれた場合は、別のパッチを貼付すべきである。
【0254】
オープンラベル処置期間
全ての適格患者は、次に有効薬剤による2回のオープンラベル処置期間を受ける。処置期間1および2はいずれも、各々5~8日間(すなわち、期間1は、D1からD5~D8まで、期間2は、D5~8からD9~15まで)続けるが、同じ期間である必要はない。
【0255】
処置期間1(5~8日間):
来院2(処置期間1の1日目)は、午前中に行うべきである。TTEを含むベースライン評価(評価のスケジュール、付録1を参照されたい)は、対象が帰宅する前に、対象が服用すべきIMPの初回用量の投与前に完了させる。
これは、行われる。心拍モニタリングパッチは、来院2の終了時に貼付される。対象は、25mgを1日2回、最大8日間投与を受けるためのIMPが提供される。
【0256】
来院終了時に、次の来院までのオープンラベルIMP処置の服薬方法(すなわち、毎日、1日2回、各投与時に食事と共に)に関する明確な指示が対象に与えられる。
【0257】
患者との連絡1:処置期間1(V3)の終了1~3日前に、対象に連絡して、試験処置への遵守を確認し、対象に次回来院(来院3)の予定時刻を確認させ、来院3の朝に、来院予定時刻の約7時間前に服薬(食事と共に)させる。
【0258】
来院3-処置期間1の終了(5日目~8日目、午後に予定される):対象は、安全性、忍容性、PKおよびPD応答の評価のために再度来院する。
【0259】
来院3のスケジュールウィンドウは、週末および祝日に調整する。25mgIMPの最最終用量は、医療施設に来院時の約7時間前の午前中に服用する。TTEならびにその他の試験評価(例えば、試験用試料およびPK血液試料、12誘導ECG(3回)を含むが、これに限定しない)を完了する。例えば、これに限定されないがQTcFの過剰な延長(>500ミリ秒)が存在しないことを含めた永久的に中止する基準が存在しないが評価される。その後、各々の現地施設の心臓超音波検査技師が、慎重にSETを測定する。ベースライン値からのSETの変化(すなわち、V2で決定したSETからの変化)により、その日の夜から開始する50mgBIDまたは翌朝から開始する10mgBIDのいずれかの処置期間2の用量が決定される。
【0260】
心拍モニタリングパッチを点検する。接着剤が無傷のようであれば、既存のパッチをそのままにしておくべきである。粘着力が低下しているか、またはパッチが剥がれている場合には、その時点で新しいパッチが貼付される。
【0261】
処置期間2(5~8日間):
来院3から来院4まで:化合物IのBIDを、来院3で実施したTTEでのSETの結果に応じて、処置期間1の最終日の夜または翌朝から食事と共に投与する。
【0262】
患者との連絡2:処置期間2(V4)の終了1~3日前に、対象に連絡して、試験処置への遵守を確認し、対象に次回来院(来院4)の予定時刻を確認させ、来院4の朝に、来院予定時刻の約7時間前に服薬(食事と共に)させる。
【0263】
来院4(V3の5~9日後、すなわち9日目(15日目まで)に予定される):対象は、安全性、忍容性、PKおよびPD応答の評価のために、午後に医療施設に再来院する。処置期間2のIMPの最終用量は、この医療施設来院の約7時間前の午前中に服用しておく。これらに限定しないが、臨床検査およびPK血液試料および12誘導ECG(3回)を含めた追加の試験評価を完了する。
【0264】
フォローアップ
患者との連絡3:安全性を評価するために、IMPの最終投与から1~3日後に、対象に連絡する。
【0265】
来院5-対象の安全性を評価するための最終的な医療施設への来院は、IMPの最終投与から7日(±1日)後に行う。
【0266】
選択基準
本試験は、以下の基準を満たす患者に対して実施する:
1.スクリーニングの来院時の年齢が、18~80歳の男性または女性
2.臨床学的に安定であって、以下のすべてによって定義されるMYH7変異と関連する原発性拡張型心筋症(DCM)と診断される:
a.MYH7変異以外の特定された病因を有さない、駆出率低下型の心不全と診断された原発性DCM対象(例えば、冠動脈疾患または重度の弁膜症;冠動脈疾患、機能性僧帽弁逆流、または軽度から中等度の弁膜疾患の存在が心不全の主要因子ではないと考えられる場合は認められる);
b.MYH7遺伝子における病原性またはおそらく病原性となる変異;
c.DCMが、長期にわたるMYH7に関連した肥大型心筋症(HCM)またはLV非圧縮性心筋症に続発するものではないこと;
d.LVEFが15~40%であること(スクリーニング期間中の少なくとも1回を含む2回発生):
-対象の直近のTTE(過去12ヶ月以内)の結果が、LVEF≦40%であった場合、LVEF≦40%である事を確認するスクリーニング検査を1回のみ受けることが必要である;
-過去12ヶ月以内に、TTEによるLVEF≦40%であるという以前の結果記録がない場合、少なくとも1週間(7日間)間隔を空けた2回のスクリーニングTTEが必要である;
-さらに、対象が適格となるには2つのLVEF値間の絶対差が<12%でなくてはならない;
e.ASE基準による少なくとも軽度の左心室拡大(男性についてLVEDD≧3.1cm/m2、女性については≧3.2cm/m2);
f.現在のガイドラインを反映させた心不全治療のために慢性的な投薬を受けており、これには以下の少なくとも1つを忍容性がない、または禁忌でない限り含む:β-遮断薬、ACE阻害薬、ARBまたはARNI。そのような処置は、計画の変更なしに安定な用量で2週間以上投与され、試験中に変更する予定がないものとする。
3.TTEによるPD評価ができるように十分に速度が制御される洞調律または安定した心房もしくは心室ペーシング、または持続性心房細動。
【0267】
除外基準
以下の基準のいずれかに該当する患者は試験から除外される:
1.不十分な心エコーの超音波ウィンドウ。
2.患者が、QTcF間隔>480ミリ秒(Fridericia補正、心室ペーシングまたは延長QRS期間≧120ミリ秒に関与しない、3回のECG平均)を有する。
3.MYH7変異に加えてDCMに関連する別の遺伝子の既知の病原性変異を有する対象。
4.主に虚血性心疾患、慢性弁膜症または別の症状が原因であると考えられるHFrEF。
5.最近(<90日)の急性冠動脈症候群または狭心症。
6.直近90日以内に冠動脈血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス移植[CABG])を受けた者。
7.最近(<90日)の心不全による入院、IV利尿剤もしくは慢性IV強心薬の使用、またはその他の心血管事象(例えば、脳血管障害)。
8.中等度以上の重症度の既知の大動脈弁狭窄。
9.治験責任医師によって決定される心エコー評価を不可能にする以下の不適格心リズムの存在:(a)急速で、心拍数が十分コントロール出来ない心房細動、または(b)LV機能の信頼性の高い心エコー測定に支障をきたし得る頻繁な心室性期外収縮。
10.化合物Iまたは化合物Iの製剤の何らかの成分への過敏症。
11.臨床的に示される活動性感染症。
12.スクリーニング前5年以内に何らかの悪性腫瘍の病歴。ただし、スクリーニング2年以上前に発症し、外科手術により切除された以下の癌は除く:非浸潤性子宮頸がん、非黒色腫性皮膚がん、非浸潤性乳管がんおよび非転移性前立腺がん。
13.重度の腎不全(腎疾患の食事療法簡易計算式[sMDRD]による現在の推定糸球体濾過率[eGFR]<30mL/分/1.73m2として定義される)。
14.血清カリウム<3.5または>5.5mEq/L。
15.臨床的に重大であると考えられる、持続性(2回以上)の範囲外の安全性試験パラメーター(化学的、血液学的)。
16.対象の安全性を脅かすか、または試験の評価、手順、完了を妨害するか、または試験からの早期離脱に至るその他の臨床的に重大な障害、状態または疾患の病歴または証拠(薬物乱用を含む)。
17.<6ヶ月の余命。
18.スクリーニング前30日以内に治験薬が投与された臨床試験への参加者(または治験用医療機器を現在使用している者)、または各消失半減期が少なくとも5倍(いずれか長い方)。
【0268】
試験処置
通院する安定なMYH7-DCMの対象者は、各5~8日間の2回の連続したオープンラベル処置期間に参加する。
【0269】
化合物Iは、5mg錠剤(10mgおよび25mgの投薬のため)および25mg錠剤(50mgの投薬のため)で投与される。錠剤は、ブリスター加工された後、カード状にされた;各ブリスターカードは、5mgのみまたは25mgのみを含有する。
【0270】
処置期間1
対象は、25mgの化合物Iを1日2回(12時間毎)服用する。投与は、少なくとも5日~最大8日間、投与が少なくとも10時間から14時間以上離れている限り、予定した投薬時間から±2時間で行われてもよい。初回用量は、1日目の午前中(朝)に服用し、最終用量は早くて5日目および遅くて8日目の朝に服用する(期間1について合計で9~15回の投与に対応する)。処置期間1の最後の投薬当日の午後に、午前投薬後の約7時間後に、心エコー図を実施する。各現地施設で超音波検査技師によってTTEで測定されたベースラインからの収縮期駆出時間(SET)の変化により、処置期間2に投与する用量を決定する。
【0271】
処置期間2
期間1の終了時、ベースライン(D1、投与前)からのSET変化が>60ミリ秒である場合、対象は、1回の用量を服用せず、10mgBIDに用量減量するように指示される。
【0272】
期間1の終了時、ベースライン(D1、投与前)からのSET変化が≦60ミリ秒である場合、対象は、50mgBIDに増量する。
【0273】
処置期間2の初回投与は、対象が用量を増量された場合は、処置期間1の最終日の夕方に開始し、対象が用量を減量された場合は、翌日の朝に開始される。期間2の投与は、5~8日間継続させ、期間2の最終用量は、早くて9日目、遅くとも15日目の午前中に服用する(期間2について合計で7~14回の投与に相当する)。
【0274】
両方の処置期間について:
・対象は、1日に2回(12時間毎)投与される。投与は、投与が少なくとも10時間以上かつ14時間以下の時間離れている限り、予定した投与時間から±2時間で行ってもよい。
・各投与は食事と共に服用する。
2つの処置期間は、同じ期間である必要はない。
【0275】
過量時の薬理効果の管理
非臨床的薬理特性に基づいて、過量時の化合物Iの効果は、心筋虚血を引き起こす可能性がある。効果の持続時間は、健康なボランティアにおける4~6時間のTmaxおよび約15時間の半減期の化合物IのPKプロファイルに従うが、化合物Iを服用したHFrEF対象においては半減期がわずかに長かった(20~25時間)。胸部痛、眩暈、発汗およびECG変化などを含み得る臨床学的症状および徴候は、短時間で弱くなり始めるであろう。心虚血を示唆する症状および/または徴候を有する患者は、心虚血の可能性について医師によって直ちに評価されるべきである。試験に登録された患者は、その心不全の症状に関連して、ベースラインでECGの異常があり、おそらくトロポニンレベルの上昇または変動を示す可能性があるために、この決定を行う際には、臨床学的徴候、ECGおよび連続的に心臓のバイオマーカー(例えば、トロポニン、CK-MB)ならびに心臓画像(該当する場合、冠動脈造影を含む)を含む全ての項目を考慮すべきである。心虚血の証拠が存在する場合、対象は、適宜、酸素および硝酸塩の補充を含めた虚血についての標準治療を必要に応じて受けた。化合物IはSETを延長させる可能性があり、この結果、拡張持続時間が減少し、拡張期心室充填が減少することがあるため、HRを増加させる薬剤の投与には注意が必要である。さらに、過量時の薬理効果は、心筋の酸素要求量を増加させ得るため、心筋酸素要求量をさらに増加させる可能性のある薬剤は、慎重に投与する必要がある。
【0276】
併用療法
試験全体をとおして、負荷前および負荷後の状態を可能な限り同様に維持し、化合物Iの効果を評価するための交絡因子を最小とするために、試験中、対象は、うっ血性心不全およびその他の医学的状態を処置するための薬剤を、通常と同じ用量で、出来る限り同じ時刻に服用し続けるべきである。
【0277】
すべての処方薬および市販薬は、精査されるべきである。市販薬は、試験全体を通して安定な用量で、かつラベルに指示される量を超えない量で服用してもよい。登録または投薬に関わる問題は、メディカルモニターに相談すること。化合物Iとフルコナゾール(強力なCYP2C19阻害薬、ならびにCYP2C9およびCYP3A4の中程度の阻害薬)およびリファンピン(CYP3A4、CYP2C19およびCYP2C9の強力な誘導剤)との共投与は回避する必要がある。その他の治験薬は、スクリーニングの少なくとも30日前または5倍の半減期(いずれか長い方)に中止しなくてはならない。
【0278】
対象が処置(アセトアミノフェンまたはイブプロフェンの服用を含む)を必要とするAEを有する場合、投与時間(開始/停止)、日付、用量および適応症を含めた投薬内容を記録すべきである。
【0279】
試験の評価および手順
I.薬力学評価
この試験全体を通して、標準化されたイメージングプロトコルに従う連続的TTE検査により、化合物IのPD効果を評価し、ベースラインと比較する。主要なTTE測定には、以下を含むが、これらに限定されるものではない:
-左心室の収縮期駆出時間(SET)の変化
-左心室の収縮機能パラメーターの変化
-1回拍出量(LVSV)
-駆出率(LVEF)
-長軸方向ストレイン(LVGLS)および円周方向ストレイン(LVGCS)
-体表面積を指標としたLV収縮末期寸法(LVEDVi、LVESVi)
-左心室の拡張パラメーターの変化
-組織ドップラーイメージング(TDI):僧帽弁輪運動(e’)
-E/A比
-E/e’比。
【0280】
日周活動の変化は、ウェアラブルデバイスによる追跡によって調査される。
【0281】
II.薬物動態評価
化合物I(および潜在的代謝物)の血漿濃度を測定するためのピーク時の血液試料が、採血される。
【0282】
III.遺伝子/遺伝子型/遺伝薬理学的/バイオマーカー評価
すべての対象に、これらの分析を禁止する現地規制がない限り、DNA遺伝子型決定法、直接配列決定法または他の遺伝子検査法により、臨床的に有意なエンドポイントを使用して今後の研究により決定される有効性、安全性、PDまたはPKパラメーターに関連する遺伝マーカーの将来的な可能性を分析するために採血することに同意を求めるものとする。遺伝学的または遺伝薬理学研究を行う場合、遺伝子情報は対象に返却されない。
【0283】
IV.薬力学分析
測定された全てのパラメーターについてのTTEデータは、記述統計学を用いて分析される。ベースラインからの変化は、各時点において要約する。各時点による実測値および各時点におけるベースラインからの変化(絶対変化率または相対変化率のいずれか)は、処置期間ごとに要約される)。ベースラインからの変化は、投与後の時間および投与量レベルとの関係に留意して分析される。
【0284】
TTEエンドポイントと化合物Iの血漿濃度間との関係は、線形または非線形相関を使用して評価する。
【0285】
V.薬物動態分析
異なる用量における化合物Iについての血漿濃度データを、適宜、平均値または幾何平均値、標準偏差(SD)、中央値、最小値および最大値、ならびに変動係数パーセント(CV%)などの記述統計を使用して要約する。
【0286】
VI.薬物動態/薬力学的分析
TTEパラメーターと化合物Iの血漿濃度との相関を評価する。各対象は、処置期間1および2の両方の最後の投薬日から、2つの薬物曝露量においてのPKおよびPDデータを提供することが想定される。
【0287】
VII.トロポニン分析
トロポニン値の異常および/または増加(ベースラインにおける潜在的なトロポニン増加を考慮に入れる)を有する対象者の数を決定する。トロポニン値の異常および/または増加(心不全において頻繁に観察されるベースラインのトロポニン増加の可能性を考慮に入れる)の場合、対象を心筋虚血の可能性について臨床的に評価することとする。また、対象が心筋虚血の可能性を示唆する任意の症状または徴候を有する場合、更に連続トロポニン(およびCK-MB試料を含むその他の安全性試験項目)を得て、虚血事象の可能性が完全に理解されるまでその後の投与を控えるべきである。全臨床学的項目(例えば、徴候、症状、新たなトロポニンおよびCK-MB異常)を評価し、その他の関連する臨床所見、対象の病歴および試験データと相関させて、所見の臨床的有意性を判断することが望ましい。
【0288】
VIII.安全性分析
AE、ECG、バイタルサインおよび検査値は、記述統計を使用して分析する。
【0289】
IX.探索的分析
日周活動レベルの変化は、ウェアラブルデバイスによって測定し、記述統計を使用して要約され得る。
【0290】
X.試験中の対象の制限
スクリーニング時に開始し、かつ試験期間中、対象は、安定した生活習慣を維持するよう指導されるべきである。これには、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:
-併用薬:併用薬の用量を安定に維持し、かかる薬品を1日のうちで一定時間に服用するようにあらゆる努力を払うべきである;心血管系薬については、これにより、心負荷条件の変動を最小限に抑えることができる。
-活動レベル;初回投与の72時間前から最終フォローアップの来院まで、対象は、不慣れな激しい運動を行うべきではない。
-食事:可能な限り、1日のうちで一定の時刻に摂取すること(1日に2回、食事と共に化合物Iを服用する)。
-グレープフルーツまたはグレープフルーツジュース、セビリアオレンジおよびキニーネ(例えば、トニックウォーター)は控える。
-水分摂取:過剰な水分摂取や過度のアルコール摂取を避ける。
【0291】
さらに、対象は、スクリーニング時から、最終試験の来院3ヶ月後まで、血液または血漿の献血を控えることが求められる。
【0292】
試験のエンドポイント
主要評価項目は、
-処置開始後のAEおよびSAE、ならびに
-バイタルサイン、身体検査、ECG記録および安全性試験室から得られる臨床学的に重大な異常値
により評価される臨床安全性および忍容性である。
【0293】
副次的エンドポイントには、TTEによって評価される以下のPDパラメーターが含まれる:
-収縮期駆出時間
-LVSV、LVEF、LVESVおよびLVストレインなどを含むが、これらに限定されない左心室の収縮機能のパラメーターが評価され、
-TDI(e’)、E/AおよびE/e’などを含む左心室の拡張機能のパラメーターが評価される。
【0294】
探索的エンドポイントは、以下の通りである:
-加速度計によって測定された日周活動レベル、および
-PKを含む追加の探索的エンドポイントを含めることができる。
【国際調査報告】