(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】電動機効率を高めるためのコイル巻線パターン
(51)【国際特許分類】
A61M 60/441 20210101AFI20220729BHJP
A61M 60/13 20210101ALI20220729BHJP
A61M 60/139 20210101ALI20220729BHJP
A61M 60/165 20210101ALI20220729BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20220729BHJP
A61M 60/416 20210101ALI20220729BHJP
H02K 21/14 20060101ALI20220729BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20220729BHJP
H02K 3/47 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
A61M60/441
A61M60/13
A61M60/139
A61M60/165
A61M60/237
A61M60/416
H02K21/14 M
H02K3/04 E
H02K3/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570294
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 US2020033990
(87)【国際公開番号】W WO2020242881
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンポ
【テーマコード(参考)】
4C077
5H603
5H604
5H621
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077BB10
4C077DD10
4C077FF04
4C077KK23
5H603AA01
5H603BB01
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CC01
5H603CC07
5H603CE01
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC04
5H604CC11
5H621BB06
5H621BB10
(57)【要約】
患者の体内に挿入するための血管内血液ポンプが提供される。システムは、p個の磁極対およびn個の相(pはゼロより大きい整数であり、nは3以上の整数である)を有するスロットレス電動機を含む。当該電動機は、2np個のコイルを有する固定子巻線を含み、該2np個のコイルは、各相からのコイルが円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されるように、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれており、該配置は、各コイルが固定子巻線の断面の周りの360°/(2np)に及ぶように固定子巻線に沿って繰り返されている。電動機はまた、回転のために支持されており、かつ固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子を含む。磁極対ごと相ごとの2つのコイルは直列に接続されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内に挿入するための血管内血液ポンプであって、該ポンプが、
カテーテルに接続された近位端と、該ポンプに接続された遠位端とを有し、長手方向軸を有する、細長いハウジング;および
該ハウジング内に収容されている、p個の磁極対およびn個の相を有するスロットレス永久磁石電動機
を含み、
pがゼロより大きい整数であり、かつnが3以上の整数であり、
該電動機が、
磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれている2np個のコイルを有する固定子巻線であって、各相からのコイルが、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されており、該配置が、該2np個のコイルの各コイルが該固定子巻線の断面の周りの360/(2np)機械角度に及ぶように該固定子巻線に沿って繰り返されている、固定子巻線;および
回転のために支持されており、かつ該固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子
を含み、
該固定子巻線の磁極対ごと相ごとの該2つのコイルが、該2つのコイルのうちの第1のコイルを通る電流の流れの方向が該2つのコイルのうちの第2のコイルにおける電流の流れの方向と反対になるように直列に接続され、該第1のコイルにおける該電流の流れと該第2のコイルにおける該電流の流れとが該回転子の該磁束の互いに反対の極性と相互作用して同じ方向にトルクを発生させ、それによって該ポンプを通る血流のための該回転子の回転を助ける、
血管内血液ポンプ。
【請求項2】
前記コイルの各々が、N/2回の巻数または(N±1)/2回の巻数のどちらかを含み、Nが、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する従来の固定子巻線のコイルの巻数であり、Nが1以上の整数である、請求項1記載の血管内血液ポンプ。
【請求項3】
相ごとの前記2つのコイルが、それらの始端または終端が相互に接続されるように直列に接続されている、請求項1または2記載の血管内血液ポンプ。
【請求項4】
相ごとの前記2つのコイルが、星形構成またはデルタ構成のどちらかで他の相の前記コイルに接続されている、請求項1または2記載の血管内血液ポンプ。
【請求項5】
前記2np個のコイルが、螺旋状巻線、菱形巻線、従来の巻線、およびハイブリッド巻線のいずれか1つを含む、請求項1記載の血管内血液ポンプ。
【請求項6】
前記固定子巻線が、前記回転子の磁場と相互作用して前記電動機で発生する前記トルクに寄与する、前記固定子巻線の長手方向の長さに対する前記コイルの垂直成分を定めるコイル使用率関数を有し、該垂直成分が該固定子巻線の長手方向の長さの3分の2であるときに該コイル使用率関数が最大になる、請求項1または5記載の血管内血液ポンプ。
【請求項7】
前記コイル使用率関数が、すべての相で同じ形を有し、各相で360/n電気角度ずれている、請求項6記載の血管内血液ポンプ。
【請求項8】
前記コイル使用率関数が、前記電動機で発生するトルクに寄与する、前記固定子巻線の前記長手方向の長さに対するコイルの垂直成分を定める、請求項7記載の血管内血液ポンプ。
【請求項9】
前記電動機が三相二極機を含む、請求項1または5記載の血管内血液ポンプ。
【請求項10】
前記電動機が6コイル型の二極機を含み、各コイルが前記固定子巻線の前記断面の周りの60機械角度に及ぶ、請求項1または5記載の血管内血液ポンプ。
【請求項11】
前記電動機が、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する固定子巻線を有する電動機が発生させるトルクよりも約15.5%大きいトルク定数を発生させる、請求項9記載の血管内血液ポンプ。
【請求項12】
前記回転子が、約1.0 lpm~約6.0 lpmの流量で血液を圧送する、請求項1または5記載の血管内血液ポンプ。
【請求項13】
p個の磁極対およびn個の相を有する、スロットレス永久磁石電動機であって、pがゼロより大きい整数であり、かつnが3以上の整数であり、
該電動機が、長手方向軸を有し、かつ
磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれている2np個のコイルを有する固定子巻線であって、各相からのコイルが、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されており、該配置が、該2np個のコイルの各コイルが該固定子巻線の断面の周りの360/(2np)機械角度に及ぶように該固定子巻線に沿って繰り返されている、固定子巻線;および
回転のために支持されており、かつ該固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子
を含み、
該固定子巻線の磁極対ごと相ごとの該2つのコイルが、該2つのコイルのうちの第1のコイルを通る電流の流れの方向が該2つのコイルのうちの第2のコイルにおける電流の流れの方向と反対になるように直列に接続され、該第1のコイルにおける該電流の流れと該第2のコイルにおける該電流の流れとが該回転子の該磁束の互いに反対の極性と相互作用して同じ方向にトルクを発生させ、それによって該回転子の回転を助ける、
スロットレス永久磁石電動機。
【請求項14】
前記コイルの各々が、偶数値のNに対してN/2回の巻数、または奇数値のNに対して(N±1)/2回の巻数のどちらかを含み、Nが、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する従来の固定子巻線のコイルの巻数であり、Nが1以上の整数である、請求項13記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項15】
相ごとの直列に接続されている前記2つのコイルの抵抗が、固定子巻線の1つのコイルの抵抗と同等である、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項16】
相ごとの前記2つのコイルが、それらの始端または終端が相互に接続されるように直列に接続されている、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項17】
相ごとの前記2つのコイルが、星形構成またはデルタ構成のどちらかで他の相の前記コイルに接続されている、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項18】
前記2np個のコイルが、螺旋状巻線、菱形巻線、従来の巻線、およびハイブリッド巻線のいずれか1つを含む、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項19】
前記固定子巻線が、前記回転子の磁場と相互作用して前記電動機で発生する前記トルクに寄与する、該固定子巻線の長手方向の長さに対する前記コイルの垂直成分を定めるコイル使用率関数を有し、該垂直成分が該固定子巻線の該長手方向の長さの3分の2であるときに該コイル使用率関数が最大になる、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項20】
前記コイル使用率関数がすべての相で同じ形を有するが、各相で360/n電気角度ずれている、請求項19記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項21】
コイル使用率関数が、前記電動機で発生するトルクに寄与する、前記固定子巻線の前記長手方向の長さに対するコイルの垂直成分を定める、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項22】
三相二極機を含む、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項23】
前記電動機が6コイル型の二極機を含み、各コイルが前記固定子巻線の前記断面の周りの60機械角度に及ぶ、請求項13または14記載のスロットレス永久磁石電動機。
【請求項24】
前記電動機が、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する従来の固定子巻線を有する電動機が発生させるトルクよりも約15.5%大きいトルク定数を発生させる、請求項22記載のスロットレス永久磁石電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2019年5月29日に出願された米国仮特許出願第62/853,999号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
米国マサチューセッツ州ダンバーズのAbiomed,Inc.によるImpella(登録商標)ポンプなどの血管内血液ポンプは、急速に現在の心室補助装置の標準になりつつある。Impella(登録商標)ポンプ群は、現在、Impella 2.5(登録商標)ポンプ、Impella 5.0(登録商標)ポンプ、Impella CP(登録商標)ポンプ、およびImpella LD(登録商標)ポンプを含む。これらのポンプは、ポンプヘッドを、小径(6~7Fr)のカテーテルを経由して患者の体内の所望の部位に配置できるように、単一のアクセス点(例えば、橈骨アクセス、大腿アクセス、腋窩アクセス)を通して経皮的に患者に挿入される。そのような所望の部位には、患者の心臓の左心室または右心室が含まれるが、これらに限定されない。ポンプヘッドは、回転子を通る、したがって患者の心臓を通る体積血流量をもたらすポンプヘッドの回転のために回転子と磁気的に相互作用するように構成されている固定子巻線を含む電動機を含む。良好な流量を生み出す効率的な電動機が求められている。
【発明の概要】
【0003】
概要
現在、Impella(登録商標)ポンプは、約2.5~約5.0 リットル/分(lpm)の流量で血液を送ることができる。しかしながら、Impella(登録商標)を使用する外科的処置数が増加するに従い、生み出される血流量を、これらのレベルを超えて増加させる必要性がますます求められている。これは、電動機からのより高い回転子速度が必要であることを意味する。しかしながら、必要とされる形状が小さいため、回転子速度を上げると、そのような小型ポンプの動作に関わる可能性のあるいくつかの影響が生じる。例えば、回転子速度を上げることは、電動機内の熱の発生(ジュール加熱)の増加を伴い得る。装置が患者の体内に経皮的に挿入される際に、そのような発熱の増加が周囲組織に壊滅的な影響を与える可能性がある。もう1つの考慮事項は装置にかかる抵抗負荷であり、より高い流量を達成するために電動機に変更を加えると、抵抗損失に起因する電動機効率の低下につながる可能性がある。
【0004】
上記のような最先端技術の欠点を考えると、電動機の効率を維持または向上させながら、電動機によって生み出される流量を増加させることが大いに必要である。
【0005】
本明細書に開示されるのは、上記のように、最先端技術の様々な問題および欠点に対処するための装置である。より具体的には、本明細書に開示されるのは、患者の体内に挿入するための血管内血液ポンプである。通常、装置は、これらに限定されないが、患者の心臓や大動脈などの患者の脈管構造に配置される。いくつかの局面では、装置の一部分(例えば、装置のポンプ部分の電動機や回転子)は患者の心臓の外側(すなわち、大動脈内)に位置し、装置の別の部分(例えば、カニューレ)は患者の心臓内に(例えば、左心室)に延在する。本発明の特定の局面は、ポンプが心臓に配置された状態で説明されているが、当業者は、ポンプが患者の脈管構造の他の部位に配置されてもよいことを理解するであろう。患者の心臓に配置されているポンプの説明は、限定としてではなく、患者の脈管構造における装置の1つの可能な配置の例示として与えられている。血液ポンプは、カテーテルに接続された近位端とポンプに接続された遠位端とを有する細長いハウジングを含み、ハウジングは長手方向軸を有する。血液ポンプはまた、ハウジング内に収容されているスロットレス永久磁石電動機を含み、電動機はp個の磁極対およびn個の相を有し、pはゼロより大きい整数であり、nは3以上の整数である。電動機は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれた2np個のコイルを有する固定子巻線を含み、各相からのコイルは、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されており、この配置は、2np個のコイルの各コイルが固定子巻線の断面の周りの360/(2np)機械角度に及ぶように固定子巻線に沿って繰り返されている。電動機はまた、回転のために支持されており、かつ固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子を含む。血液ポンプは、固定子巻線の磁極対ごと相ごとの2つのコイルが、2つのコイルのうちの第1のコイルを通る電流の流れの方向が2つのコイルのうちの第2のコイルにおける電流の流れの方向と反対になるように直列に接続され、第1のコイルにおける電流の流れと第2のコイルにおける電流の流れとが回転子の磁束の互いに反対の極性(opposite polarities)と相互作用して同じ方向にトルクを発生させ、それによってポンプを流れる血流のための回転子の回転を助けるように構成されている。
【0006】
別の態様では、p個の磁極対およびn個の相を有するスロットレス永久磁石電動機が提供され、pはゼロより大きい整数であり、nは3以上の整数であり、電動機は長手方向軸を有する。電動機は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれた2np個のコイルを有する固定子巻線を含み、各相からのコイルは、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されており、この配置は、2np個のコイルの各コイルが固定子巻線の断面の周りの360/(2np)機械角度に及ぶように固定子巻線に沿って繰り返されている。電動機はまた、回転のために支持されており、かつ固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子を含む。電動機は、固定子巻線の磁極対ごと相ごとの2つのコイルが、2つのコイルのうちの第1のコイルを通る電流の流れの方向が2つのコイルのうちの第2のコイルにおける電流の流れの方向と反対になるように直列に接続され、第1のコイルにおける電流の流れと第2のコイルにおける電流の流れとが回転子の磁束の互いに反対の極性と相互作用して同じ方向にトルクを発生させ、それによって回転子の回転を助けるように構成されている。
【0007】
いくつかの実装形態では、コイルの各々が、偶数値のNに対してN/2回、または奇数値のNに対して(N±1)/2回のどちらかを含み、Nは、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する従来の固定子巻線のコイルの巻数であり、Nは1以上の整数である。特定の実装形態では、相ごとの直列に接続されている2つのコイルの抵抗は、従来の固定子巻線の1つのコイルの抵抗と同等である。他の実装形態では、相ごとの2つのコイルは、それらの始端またはそれらの終端が相互に接続されるように直列に接続されている。
【0008】
特定の実装形態では、相ごとの2つのコイルが、星形構成またはデルタ構成のどちらかでその他の相のコイルに接続されている。いくつかの実装形態では、2np個のコイルは、螺旋状巻線、菱形巻線、従来の巻線、およびハイブリッド巻線のいずれか1つを含む。他の実装形態では、固定子巻線は、回転子の磁場と相互作用して電動機で発生するトルクに寄与する、固定子巻線の長手方向の長さに対するコイルの垂直成分を定めるコイル使用率関数を有する。特定の実装形態では、螺旋状コイル巻線の場合、垂直成分が固定子巻線の長手方向の長さの3分の2であるときに、コイル使用率関数が最大になる。いくつかの実装形態では、コイル使用率関数はすべての相で同じ形を有するが、各相で360/n電気角度ずれている。
【0009】
さらなる実装形態では、コイル使用率関数は、電動機で発生するトルクに寄与する、固定子巻線の長手方向の長さに対するコイルの垂直成分を定める。いくつかの実装形態では、電動機は三相二極機を構成する。他の実装形態では、電動機は6コイル型の二極機を構成し、各コイルは固定子巻線の断面の周りの60機械角度に及ぶ。特定の実装形態では、電動機は、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを形成するように巻かれたnp個のコイルを有する従来の固定子巻線を有する電動機のトルク定数よりも約15.5%大きいトルク定数を発生させる。
【0010】
他の実装形態では、回転子は、約1.0 lpm~約6.0 lpmの流量で血液を圧送する。いくつかの実装形態では、ポンプは、患者の心臓の右心室に挿入され得る。さらなる実装形態では、ポンプは、患者の心臓の左心室に挿入され得る。
【0011】
本開示の態様による固定子巻線は、上述のように接続された、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを用いる。これにより、そのような固定子巻線を使用する電動機のトルク定数は、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを有する固定子巻線を有する従来の電動機と比較して15.5%増加する。そのような固定子構成は、固定子の抵抗負荷を増加させないため、電動機内のジュール加熱を低減させる。要するに、本開示の電動機は、電動機効率が向上した固定子コイル巻線パターンを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
上記その他の目的および利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて考察すれば明らかになるであろう。図面において、同様の参照符号は全体を通して同様の部分を指す。
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の一態様による、血管内血液ポンプの例示的な長手方向断面を示す図である。
【
図2】
図2A~
図2Dは、
図1の血液ポンプで用いられ得る当技術分野で公知の例示的なコイル巻線パターンを示す図である。
【
図3】
図3Aは、
図1の血液ポンプで用いられ得る当技術分野で公知の従来の固定子巻線の上端における例示的な断面を示す図である。
図3Bは、
図1の血液ポンプで用いられ得る本開示の一態様による固定子巻線の上端における例示的な断面を示す図である。
【
図4】
図4Aは、星形構成に配置された場合の
図3Aの固定子巻線を構成するコイルの電気的接続を示す例示的な回路図である。
図4Bは、本開示の一態様による、星形構成に配置された場合の
図3Bの固定子巻線を構成するコイルの電気的接続を示す例示的な回路図である。
【
図5】
図5は、本開示の一態様による、
図1の血液ポンプの動作中の
図3Bの固定子巻線の例示的な断面を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の一態様による、
図1の血液ポンプで使用するための、3つの相および2つの極対を有する電動機の固定子巻線の例示的な断面を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の一態様による、
図1の血液ポンプで使用するための、5つの相および1つの極対を有する電動機の固定子巻線の例示的な断面を示す図である。
【
図9】
図9A~
図9Dは、本開示の一態様による、
図3Bの螺旋状巻線のコイルのコイル巻線パターンを示す図である。
【
図10】
図10Aは、動作中のある瞬間における、
図3Aの従来の固定子巻線の1相のコイルにおける電流の方向を示す図である。
図10Bは、
図1の血液ポンプで使用されたときの
図3Aの従来の固定子巻線の1相におけるコイル使用率のパーセンテージを示す図である。
【
図11】
図11Aは、本開示の一態様による、動作中のある瞬間における、
図3Bの固定子巻線の1相のコイルにおける電流の方向を示す図である。
図11Bは、本開示の一態様による、
図1の血液ポンプで使用されたときの
図3Bの固定子巻線の1相におけるコイル使用率のパーセンテージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本明細書に記載される装置の全体的な理解を提供するために、特定の例示的な態様について説明する。本明細書に記載される態様および特徴は特に血管内血液ポンプに関連して使用するために説明されているが、以下で概説されるすべての構成要素および他の特徴は、任意の適切な方法で互いに組み合わされ得、高い回転子速度を有する効率的な電動機を必要とする他のタイプの処置に適合および適用され得ることが理解されよう。
【0015】
本明細書に記載される装置および方法は、患者の体内(すなわち、心臓、大動脈などの患者の脈管構造)に挿入するための血管内血液ポンプに関する。血液ポンプは、カテーテルに接続された近位端とポンプに接続された遠位端とを有する細長いハウジングを含み、ハウジングは長手方向軸を有する。血液ポンプはまた、ハウジング内に収容されているスロットレス永久磁石電動機を含み、電動機はp個の磁極対およびn個の相を有し、pはゼロより大きい整数であり、nは3以上の整数である。電動機は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを形成するように巻かれた2np個のコイルを有する固定子巻線を含み、各相からのコイルは、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されており、この配置は、2np個のコイルの各コイルが固定子巻線の断面の周りの360/(2np)機械角度に及ぶように固定子巻線に沿って繰り返されている。電動機はまた、回転のために支持されており、かつ固定子巻線と相互作用するための磁束を発生させるように構成されている、永久磁石回転子を含む。血液ポンプは、固定子巻線の磁極対ごと相ごとの2つのコイルが、2つのコイルのうちの第1のコイルを通る電流の流れの方向が2つのコイルのうちの第2のコイルにおける電流の流れの方向と反対になるように直列に接続され、第1のコイルにおける電流の流れと第2のコイルにおける電流の流れとが回転子の磁束の互いに反対の極性と相互作用して同じ方向にトルクを発生させ、それによってポンプを流れる血流のための回転子の回転を助けるように構成されている。
【0016】
本開示の血管内血液ポンプは、二重螺旋状固定子巻線を組み込むことにより、電動機効率の向上を可能にする。そのような固定子巻線は、上記の構成で接続された磁極対ごと相ごとに2つのコイルを含む。これにより、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを用いた従来の血液ポンプに優ってトルク定数が15.5%増加する。そのような固定子構成は、固定子の抵抗負荷を増加させないため、電動機内のジュール加熱を低減させる。要するに、本開示の電動機は、電動機効率が向上した固定子コイル巻線パターンを提供する。
【0017】
図1に、本開示の一態様による、患者の体内に挿入するための例示的な血管内血液ポンプ100を示す。血液ポンプ100は、長手方向軸105に沿って配置された電動機ユニット110とポンプユニット120とを含む。電動機ユニット110は、ハウジング112内に収容された固定子巻線140と回転子150とを含む電動機を含む。固定子巻線140は、電動機ユニット110の長さに沿って近位端142から遠位端143まで延在し、特定のパターンで巻かれたワイヤー144を含み、その詳細を以下に示す。固定子巻線140は、回転子150が配置される中央管腔145を画定する。固定子巻線140は、ワイヤー144が従来の積層固定子鉄心にではなく、それ自体に巻かれるような、スロットレス型である。給電線146、147は、電動機ユニット110の動作のために、ポンプ100から固定子巻線140に外部から必要な電気的接続を提供する。ワイヤー144の各々は、絶縁被覆(図示されていない)を有していてもよく、任意で、巻かれた固定子ワイヤー144は、合成エポキシド樹脂(やはり図示されていない)によってカプセル化またはオーバーモールドされていてもよい。
【0018】
図1では、固定子巻線140とハウジング112とは別個の構成要素として示されているが、固定子巻線140は、単一の構成要素を形成するようにハウジング112内にカプセル化され得ることが理解されよう。ハウジング112は、近位端114と遠位端116とを含む。ハウジング112の近位端114は、可撓管を含み得るカテーテル130の遠位端134に結合されている。カテーテル130は、血液ポンプ100の制御および操作のために医師の方に延在する管腔132を含む。
【0019】
回転子150は、固定子140の管腔145内でシャフト153の周りを回転可能に支持されている永久磁石152を含む。磁石152は、電動機ユニット110内でシャフト153を取り囲む円筒形の永久磁石を含み得る。シャフト153は、電動機ユニット110からポンプユニット120内へと延在し、血液を圧送するためのインペラ160の回転を助ける。特定の実装形態では、回転子150は、シャフト153の周りに半径方向に配置されたいくつかの永久磁石、またはそれ自体の回転子巻線を有する電磁磁石を含み得る。例えば、1つの極対を有する電動機の場合、磁石152は、1つのN極Nおよび1つのS極Sを含み得る。さらなる例として、2つの極対を有する電動機の場合、磁石152は、シャフト153の周りに交互に配置された、2つのN極N1およびN2と、2つのS極S1およびS2とを含み得る。
【0020】
さらに、
図1は、固定子140内で回転可能な回転子150を示しているが、電動機110は、固定子140がシャフト153の周りで静止状態にて保持され、回転子150が固定子140の周りを回転する円筒として構成されるように構成されてもよい。シャフト153は、電動機ユニット110の長さに沿って延在し、ポンプユニット120の円筒形ハウジング122内へと延在する。いくつかの実装形態では、シャフト153は中空であり、例えば、ガイドワイヤーの通過のための管腔154を含み得る。
【0021】
シャフト153の遠位端は、ポンプハウジング112内に位置するインペラ160に結合されている。電動機ユニット110の固定子140と回転子150との間の相互作用により、回転子150にシャフト153を回転させるトルクが発生し、このトルクはさらに、円筒形ポンプハウジング122内でインペラ160を回転させる。これが起こると、血液が、軸方向に運ぶための軸方向吸入口124を介してポンプに吸い込まれ、血液は開口部126から横方向に流出し、ハウジング112に沿って軸方向に流れる。このようにして、ポンプ100は、患者の心臓内に血流を発生させる。
【0022】
図2A~
図2Dに、本開示の一態様による例示的な固定子巻線パターン210~213を示す。
図2A~
図2Dには、
図1のワイヤー142などの固定子内の単線のコイル巻線パターンが示されているが、
図1の固定子巻線140などの完全な固定子巻線は、
図1の長手方向軸105などの、電動機ユニット110の長手方向軸の周りの複数の同様に巻かれたワイヤーの軸方向配置によって得られることが理解されよう。
【0023】
図2A~
図2Dは、1つの機械角度が1つの電気角度に等しい2極電気機械で用いられる例示的なコイル巻線パターンを示している。
図2A~
図2Dのコイル巻線パターンは、
図1の電動機ユニット110の固定子巻線140を形成するために使用され得る。
図2Aは、固定子内の各ワイヤー214が、固定子220の長さに沿って近位端221から遠位端225まで延在する従来の固定子巻線パターン210を示している。遠位端225において、ワイヤー214は、180機械角度にわたって固定子の外周をたどり、近位端221に戻る。ワイヤー214の終点は両方とも近位端221で終わるので、従来のコイル巻線パターン210は、固定子巻線210の近位端221における複数の線端の各々が固定子給電線に電気的に接続されなければならない、座巻スタックアップ問題に直面する可能性があり、この問題はさらに、密集および接続の問題を引き起こす可能性がある。
図2Bは、各ワイヤー215が曲げ構成で配置された菱形固定子巻線パターン211を示している。
図2Aの従来の巻線210とは異なり、菱形巻線は、数回巻かれた1本の連続したワイヤーを含み、完全な巻きごとに固定子コイルを形成するように軸方向にシフトする。菱形巻線の曲げ構成は、後組み立てを必要とし得る。
【0024】
図2Cは、各ワイヤー216が固定子の周りに楕円構成で配置された螺旋状固定子巻線パターン212を示している。螺旋状固定子巻線パターン212は、
図2Bの菱形巻線パターン211に類似しているが、曲げがないため、コイル巻線プロセスが単純化されている。螺旋状巻線212は、後組み立てのステップを必要とせずに容易に形成することができる1段巻線である。
図2Dは、
図2Aに示される従来の巻線と
図2Bに示される菱形巻線との混合物である巻線を含む、ハイブリッド固定子巻線パターン213を示している。そのようなハイブリッド固定子巻線は、コイルの垂直方向の長さxおよび/または水平方向の角度範囲yを調整することにより、トルクと抵抗の最適な比率を可能にする。
【0025】
以下の開示では、それぞれの固定子巻線において
図2Bの螺旋状巻線パターン212を利用する。しかしながら、本開示における固定子巻線は、
図2A~
図2Dに関連して説明されたような巻線パターンのいずれかを用い得ることが理解されよう。さらに、本開示のいくつかの実装形態では、他の任意の固定子巻線パターンが用いられ得る。
【0026】
本開示の態様を、永久磁石極対ごとに相ごとに1つのコイルを有する従来の固定子巻線を参照して説明する。
図3Aおよび
図3Bに、
図1の電動機ユニット110の固定子巻線140などの、電動機で使用するための例示的な固定子巻線の断面を示す。
図3Aは、1つの極対(すなわち、1つのN極Nおよび1つのS極S)を有する三相電動機で使用するための、永久磁石極対ごとに相ごとに1つのコイルを含む従来の固定子巻線300を示している。本開示では、電動機の3相を、相A、相B、および相Cと呼ぶ。従来の固定子巻線300では、各相が1つのコイル、すなわち、相Aの(「A」と表示された)コイル310、相Bの(「B」と表示された)コイル311、および相Cの(「C」と表示された)コイル312を含む。コイル310~312の各々は、複数N回の巻数を有する巻線を含み、Nは整数であり、N>1であり、各コイルの巻数は同じである。巻線は、
図2A~
図2Dに関連して説明されたような特定の方法で巻かれたワイヤーから形成されており、よって、
図3Aで線端320~325によって示されるように、各コイルが始点および終点を有する。本開示の態様は、螺旋状コイルを有する固定子巻線に関して説明されるが、任意の巻線タイプが用いられ得ることが理解されよう。
【0027】
図3Aに示されているように、コイル310~312の横方向分布は、各コイルが、固定子巻線300の断面の外周の(2極電気機械における120機械角度に等しい)120電気角度に及ぶ、コイル310~312が固定子巻線300の周りに均等に分布するようなものである。固定子巻線300は、磁極対ごとに1つのコイルを有する三相電動機で用いられるが、n個の相およびp個の磁極対を有する一般的な電動機の場合、磁極対ごと相ごとに1つのコイルを有する従来の固定子巻線300の各コイルは、固定子巻線の断面の外周の360/(np)機械角度に及ぶことになる。従来の固定子巻線300の長手方向軸周りのコイルの軸方向分布に関して、コイル310~312の巻線は、それらが各々、固定子巻線300の近位端(
図1の固定子巻線140の近位端142など)から巻かれ、遠位端(
図1の固定子巻線140の遠位端143など)の方へ長手方向に延び、近位端に戻るように構成されている。このようにして、固定子巻線300のコイル310~312の各々は、
図3Aの断面に示されているように、実質的に内層および外層を含み、外層が内層の上に重なっている。この構成では、コイル310~312の各々のリード線は、
図1に示されるリード線146、147などの電動機への給電線と接続するために固定子巻線300の近位端に位置する。
【0028】
図3Bは、本開示の一態様による、1つの極対を有する三相電動機で使用するための、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを含む固定子巻線350を示している。この配置では、固定子巻線350は二重コイル巻線であり、
図2Cに示されるような螺旋状コイルで実装される場合、固定子巻線350は二重螺旋状コイル巻線である。固定子巻線350において、三相電動機の各相A、BおよびCは、2つのコイルを含む。よって、相Aは(「A1」と表示された)コイル360および(「A2」と表示された)コイル361を含み、相Bは(「B1」と表示された)コイル362および(「B2」と表示された)コイル363を含み、相Cは(「C1」と表示された)コイル364および(「C2」と表示された)コイル365を含む。
図3Aの従来の固定子巻線300を参照すると、各コイル310~312がN回の巻数を有する巻線を含む(Nは整数であり、1以上である)場合、固定子巻線350のコイル360~365の各々は、偶数値のNに対してN/2回の巻数、または奇数値のNに対して(N±1)/2回の巻数のどちらかを有する巻線を含み、各コイルの巻数は同じである。よって、固定子巻線350の各コイルは、
図3Aの従来の固定子巻線300のコイルの約半分の巻数を含む。例えば、従来の固定子巻線300のコイル310~312が各々100回の巻数を含む場合、固定子巻線350のコイル360~365は、各々約50回の巻数を含むことになる。各コイル360~365の巻線の巻数は、例えば、螺旋状巻線などの前述の巻線タイプのいずれかを含み得る。
【0029】
コイル360~365の横方向分布は、それらが固定子巻線350の周りに均等に分布するようなものであり、各コイルは、固定子巻線350の断面の外周の60機械角度に及ぶ。固定子巻線350は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを有する三相電動機で用いられるが、n個の相およびp個の磁極対を有する一般的な電動機の場合、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを有する本開示の固定子巻線350の各コイルは、固定子巻線の断面の外周の360/(2np)機械角度に及ぶことになる。固定子コイル350内のコイルの軸方向分布は、従来の固定子コイル300の軸方向分布と同様である。固定子巻線350の長手方向軸の周りのコイルの軸方向分布は、コイル360~365の巻線が、固定子巻線350の近位端(
図1の固定子巻線140の近位端142など)から各々巻かれ、遠位端(
図1の固定子巻線140の遠位端143など)の方へ長手方向に延び、近位端に戻るようなものである。このようにして、固定子巻線350のコイル360~365の各々は、
図3Bの断面に示されているように、実質的に内層および外層を含み、外層が内層の上に重なっている。この構成では、コイル360~365の各々のリード線は、
図1に示されるリード線146、147などの電動機への給電線と接続するために固定子巻線300の近位端に位置する。
【0030】
従来の固定子巻線300のコイル310~312および本開示の固定子巻線350のコイル360~365は、例えば、星形接続やデルタ接続などの電動機のための任意の構成で電気的に接続され得る。
図4Aに、例示的な星形構成400で接続された
図3Aの固定子巻線300のコイル310~312を示す。コイル310~312は、それぞれ、抵抗負荷RA、RB、RCとして表されている。星形構成400では、コイル310の終点「Ae」と、コイル311の終点「Be」と、コイル330の終点「Ce」とが相互に接続されている。コイル310の始点「As」と、コイル311の始点「Bs」と、コイル312の始点「Cs」とは、
図1の血液ポンプ100の給電線143、144などの給電線に接続されている。このようにして、星形構成400の各分岐は、固定子巻線300の各相のコイルに対応する単一の負荷を含む。
【0031】
図4Bに、本開示の一態様による、固定子巻線350内のコイルの例示的な電気的接続を示す。ここでは、コイル360~361はそれぞれ相Aの抵抗負荷RA1およびRA2として表されており、コイル362~363はそれぞれ相Bの抵抗負荷RB1およびRB2として表されており、コイル364~365はそれぞれ相Cの抵抗負荷RC1およびRC2として表されている。前述のように、固定子巻線350のコイル360~365は、固定子巻線300のコイル310~312の半分の巻数を各々含む。よって、二重固定子巻線350の相あたりの抵抗負荷は、従来の固定子巻線300の相あたりの抵抗負荷と同じであり、すなわち、RA=RA1+RA2、RB=RB1+RB2、およびRC=RC1+RC2である。したがって、固定子巻線350の二重コイル構成は、従来の固定子巻線300によって提示される負荷と比較した場合、電動機に追加の抵抗負荷をかけない。
【0032】
図4Bの接続図に示されているように、星形構成450の各分岐は、それらの同様の端子が接続された2つのコイルを含み、すなわち、2つのコイルは背中合わせに接続されている。例えば、相Aの場合、抵抗負荷RA1と抵抗負荷RA2とでそれぞれ表されたコイル360~361は、終点「A1e」と終点「A2e」とが相互に接続されるように接続されている。同様に、抵抗負荷RB1と抵抗負荷RB2とでそれぞれ表された相Bのコイル362~363の終点「B1e」と終点「B2e」とが相互に接続されており、抵抗負荷RC1と抵抗負荷RC2とでそれぞれ表された相Cのコイル364~365の終点「C1e」と終点「C2e」とが相互に接続されている。相Aのコイル360の抵抗負荷RA1の始点「A1s」と、相Bのコイル362の抵抗負荷RB1の始点「B1s」と、相Cのコイル364の抵抗負荷RC1の始点「C1s」とは、
図1の血液ポンプ100の給電線143、144などの給電線に接続されている。加えて、相Aのコイル361の抵抗負荷RA2の始点「A2s」と、相Bのコイル363の抵抗負荷RB2の始点「B2s」と、抵抗負荷RC2の始点「C2s」相Cのコイル365とは相互に接続されている。
【0033】
本開示の二重固定子巻線350のコイル360~365が接続される方法は、コイル360~365が電動機の動作中に回転子によって発生する磁束とどのように相互作用するかを決定するので重要である。
図4Bに示されるような星形構成450では、固定子巻線350のコイルA1を流れる電流の方向は、コイルA2を流れる電流の方向と反対である。同様に、固定子巻線350のコイルB1を流れる電流の方向は、コイルB2を流れる電流の方向と反対であり、固定子巻線350のコイルC1を流れる電流の方向は、コイルC2を流れる電流の方向と反対である。これは、コイルA1を流れる電流の第1の方向を有するコイルA1が、回転子の第1の極と相互作用し、コイルA1内の電流の第1の方向と反対の、コイルA2を流れる電流の第2の方向を有するコイルA2が、第1の極と反対の回転子の第2の極と相互作用することを意味する。加えて、コイルB1を流れる電流の第1の方向を有するコイルB1は、回転子の第1の極と相互作用し、コイルB1内の電流の第1の方向と反対の、コイルB2を流れる電流の第2の方向を有するコイルB2は、第1の極と反対の回転子の第2の極と相互作用する。さらに、コイルC1を流れる電流の第1の方向を有するコイルC1は、回転子の第1の極と相互作用し、コイルC1内の電流の第1の方向と反対の、コイルC2を流れる電流の第2の方向を有するコイルC2は、第1の極と反対の回転子の第2の極と相互作用する。動作中の固定子巻線350のコイルと回転子の磁束との相互作用を、
図5に関連して説明する。
【0034】
図5に、動作中に線X-X'に沿って取られた、三相二極電動機において固定子巻線350を用いた
図1の血液ポンプ100の例示的な断面500を示す。前述のように、固定子巻線350は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを有する三相電動機の動作に適しているが、使用されるコイルの総数を2np個にする、任意の数の相nおよび磁極対pを有する電動機用の固定子巻線を、本開示の範囲内で使用することができる。
図5において、「x」で印されたコイルは、ページの平面に直交してページ内に流入する電流を示し、「・」で印されたコイルは、ページの平面に直交してページから流出する電流を示す。図示のように、相Aのコイル360~361は、コイル360を流れる電流の方向がコイル361を流れる電流の方向と反対になるように、
図4Bに関連して説明されたように接続されている。前述のようなコイル360~361の物理的配置および電気的接続により、コイル360が相互作用する永久磁石固定子150から発生する磁場の極性は、コイル361と相互作用する極性と反対である。
【0035】
同様に、電動機の相Bのコイル362~363は、コイル362を流れる電流の方向がコイル363を流れる電流の方向と反対になるように接続されている。前述のようなコイル362~363の物理的配置および電気的接続により、コイル362が相互作用する永久磁石固定子150から発生する磁場の極性は、コイル363と相互作用する極性と反対である。さらに、電動機の相Cのコイル364~365は、コイル362を流れる電流の方向がコイル363を流れる電流の方向と反対になるように接続されている。この配置では、コイル364~365には各々、固定子の磁極対とは異なる極性が見える。前述のようなコイル364~365の物理的配置および電気的接続により、コイル364が相互作用する永久磁石固定子150から発生する磁場の極性は、コイル365と相互作用する極性と反対である。動作中の固定子巻線350のコイルと回転子の磁束との相互作用により、回転子に作用して回転子を回転させるトルクが発生する。
【0036】
図6に、本開示の一態様による、3つの相A、B、およびCと、2つの永久磁石極対N1-S1およびN2-S2とを有する電動機で使用するための二重コイル固定子巻線600の断面の別の例を示す。前述の一般的な定義によれば、固定子巻線600を使用する電動機は、n=3およびp=2を有する。
図4Aの固定子巻線350に関連して論じられたように、固定子巻線600もまた、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを含み、合計で12個のコイル610~621が得られる。固定子巻線600では、電動機に2つの磁極対が存在するため、三相電動機の各相A、B、およびCが2つのコイルを含む。よって、相Aは(それぞれ「A1」、「A2」、「A3」および「A4」と表示された)コイル610~613を含み、相Bは(それぞれ「B1」、「B2」、「B3」および「B4」と表示された)コイル614~617を含み、相Cは(それぞれ「C1」、「C2」、「C3」および「C4」と表示された)コイル618~621を含む。
図6に示されているように、各相からのコイルは、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置され、その配置は、各コイルが固定子巻線600の断面の周りの360°/(2np)=360°/(2×3×2)=30°に及ぶように固定子巻線に沿って繰り返される。
【0037】
固定子巻線350のコイルと同様に、コイル610~621は、星形構成またはデルタ構成のどちらかで電気的に接続され得、(i)相Aのコイル610~613は、星形接続またはデルタ接続の相Aの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(ii)相Bのコイル614~617は、星形接続またはデルタ接続の相Bの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(iii)相Cのコイル618~621は、星形接続またはデルタ接続の相Cの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続される。そのような電気的接続では、(i)コイルA1およびコイルA3を流れる電流の方向は、コイルA2およびコイルA4を流れる電流の方向と反対であり、(ii)コイルB1およびコイルB3を流れる電流の方向は、コイルB2およびコイルB4を流れる電流の方向と反対であり、(iii)コイルC1およびコイルC3を流れる電流の方向は、コイルC2およびC4を流れる電流の方向と反対である。
【0038】
このようにして、コイルA1を流れる電流の第1の方向を有するコイルA1は、回転子の第1の極N1と相互作用し、コイルA1内の電流の第1の方向と反対の、コイルA2を流れる電流の第2の方向を有するコイルA2は、第1の極N1と反対の回転子の第2の極S1と相互作用し、コイルA3を流れる電流の第1の方向を有するコイルA3は、回転子の第3の極N2と相互作用し、コイルA3内の電流の第1の方向と反対の、コイルA4を流れる電流の第2の方向を有するコイルA4は、第3の極N2と反対の回転子の第4の極S2と相互作用する。同様に、コイルB1を流れる電流の第1の方向を有するコイルB1は、回転子の第1の極N1と相互作用し、コイルB1内の電流の第1の方向と反対の、コイルB2を流れる電流の第2の方向を有するコイルB2は、第1の極N1と反対の回転子の第2の極S1と相互作用し、コイルB3を流れる電流の第1の方向を有するコイルB3は、回転子の第3の極N2と相互作用し、コイルB3内の電流の第1の方向と反対の、コイルB4を流れる電流の第2の方向を有するコイルB4は、第3の極N2と反対の回転子の第4の極S2と相互作用する。最後に、コイルC1を流れる電流の第1の方向を有するコイルC1は、回転子の第1の極N1と相互作用し、コイルC1内の電流の第1の方向と反対の、コイルC2を流れる電流の第2の方向を有するコイルC2は、第1の極N1と反対の回転子の第2の極S1と相互作用し、コイルC3を流れる電流の第1の方向を有するコイルC3は、回転子の第3の極N2と相互作用し、コイルC3内の電流の第1の方向と反対の、コイルC4を流れる電流の第2の方向を有するコイルC4は、第3の極N2と反対の回転子の第4の極S2と相互作用する。動作中の固定子巻線600のコイルと回転子の磁束との相互作用により、回転子に作用し回転子を回転させるトルクが発生する。
【0039】
図7に、本開示の一態様による、5つの相A、B、C、D、およびEと、1つの永久磁石極対N-Sとを有する電動機で使用するための二重コイル固定子巻線700の断面のさらなる例を示す。前述の一般的な定義によれば、固定子巻線700を使用する電動機は、n=5およびp=1を有する。固定子巻線350および固定子巻線600に関連して論じられたように、固定子巻線700もまた、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを含み、合計で10個のコイル710~719が得られる。相Aは(それぞれ「A1」および「A2」と表示された)コイル710~711を含み、相Bは(それぞれ「B1」および「B2」と表示された)コイル712~713を含み、相Cは(それぞれ「C1」および「C2」と表示された)コイル714~715を含み、相Dは(それぞれ「D1」および「D2」と表示された)コイル716~717を含み、相Eは(それぞれ「E1」および「E2」と表示された)コイル718~719を含む。
図7に示されているように、各相からのコイルは、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置され、その配置は、各コイルが固定子巻線700の断面の周りの360°/(2np)=360°/(2×5×1)=36°に及ぶように固定子巻線700に沿って繰り返される。
【0040】
固定子巻線350および固定子巻線600のコイルと同様に、コイル710~719は、星形構成またはデルタ構成のどちらかで電気的に接続され得、(i)相Aのコイル710~711は、星形接続またはデルタ接続の相Aの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(ii)相Bのコイル712~713は、星形接続またはデルタ接続の相Bの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(iii)相Cのコイル714~715は、星形接続またはデルタ接続の相Cの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(iv)相Dのコイル716~717は、星形接続またはデルタ接続の相Dの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続され、(v)相Eのコイル718~719は、星形接続またはデルタ接続の相Eの分岐に沿って同様の端子同士で背中合わせに接続される。そのような電気的接続では、(i)コイルA1を流れる電流の方向はコイルA2を流れる電流の方向と反対であり、(ii)コイルB1を流れる電流の方向はコイルB2を流れる電流の方向と反対であり、(iii)コイルC1を流れる電流の方向はコイルC2を流れる電流の方向と反対であり、(iv)コイルD1を流れる電流の方向はコイルD2を流れる電流の方向と反対であり、(v)コイルE1を流れる電流の方向はコイルE2を流れる電流の方向と反対である。
【0041】
このようにして、コイルA1を流れる電流の第1の方向を有するコイルA1は、回転子の第1の極Nと相互作用し、コイルA1内の電流の第1の方向と反対の、コイルA2を流れる電流の第2の方向を有するコイルA2は、第1の極Nと反対の回転子の第2の極Sと相互作用する。同様に、コイルB1を流れる電流の第1の方向を有するコイルB1は、回転子の第1の極Nと相互作用し、コイルB1内の電流の第1の方向と反対の、コイルB2を流れる電流の第2の方向を有するコイルB2は、第1の極Nと反対の回転子の第2の極Sと相互作用する。さらに、コイルC1を流れる電流の第1の方向を有するコイルC1は、回転子の第1の極Nと相互作用し、コイルC1内の電流の第1の方向と反対の、コイルC2を流れる電流の第2の方向を有するコイルC2は、第1の極Nと反対の回転子の第2の極Sと相互作用する。コイルD1を流れる電流の第1の方向を有するコイルD1は、回転子の第1の極Nと相互作用し、コイルD1内の電流の第1の方向と反対の、コイルD2を流れる電流の第2の方向を有するコイルD2は、第1の極Nと反対の回転子の第2の極Sと相互作用する。最後に、コイルE1を流れる電流の第1の方向を有するコイルE1は、回転子の第1の極Nと相互作用し、コイルE1内の電流の第1の方向と反対の、コイルE2を流れる電流の第2の方向を有するコイルE2は、第1の極Nと反対の回転子の第2の極Sと相互作用する。動作中の固定子巻線700のコイルと回転子の磁束との相互作用により、回転子に作用し回転子を回転させるトルクが発生する。
【0042】
動作中の固定子巻線350のコイルに流れる電流と2極回転子の磁束密度との相互作用を、
図5に戻って説明する。
図1に関連して説明されたように、回転子150は、使用中、一定の回転状態にある。
図5は、回転子が図示のように半径方向に配置された瞬間の回転子150の位置を示しており、固定子巻線350のコイルを通って流れる電流の方向が示されている。図示の位置では、永久磁石回転子150は、磁力線510を含む磁場パターンによって表される磁束密度Bを発生させる。磁力線510は、回転子150のN極Nで始まり、S極Sで終わる。レンツの法則によれば、磁束密度Bと磁束密度Bに垂直な方向の固定子巻線Lの長さとの間の相互作用は、回転子150内に、次式によって決定されるその回転のためのトルクTを生成し、
式中、
は、回転子150の長手方向軸105に平行な方向であり、
は、回転子150の長手方向軸105に垂直な磁束密度の半径方向成分であり、
は、電動機回転子の長手方向のアクセスに平行なコイル巻線の垂直成分であり、×は、ベクトル外積を表す。よって、固定子巻線350内の電流の流れは、長手方向軸105の周りの回転子150の回転を引き起こし、回転子150の回転は、回転子シャフト153の遠位端に結合されたインペラ160の対応する回転を引き起こす。
【0043】
図8Aに、1つの電気角度が1つの機械角度に等しい三相二極電動機における使用中の従来の固定子巻線300を示す。プロットの横軸は、固定子巻線300の外周に沿った角度位置を表し、縦軸は、固定子巻線300の遠位端から近位端まで移動する固定子巻線300の長手方向の長さを表す。前述のように、コイル310~312の各々は、例えば、
図2Cの螺旋状巻線など、特定の方法で巻かれた複数のワイヤーを含む。
図8Aでは、ワイヤーは螺旋状に巻かれ、コイル310~312の各々は、固定子巻線300の近位端(プロットの上端)と遠位端(プロットの下端)との間に配置されたバンドとして示されている。螺旋状コイル310~312が巻かれる方法により、
図8Aの各バンドは重なり合って固定子巻線300を形成する。視覚化を改善するために、
図8B~8Dに、別々に見た場合の固定子巻線300の相A、相B、および相Cのコイル310~312の各巻線パターンを示す。すなわち、
図8B~
図8Dに示されるコイルが重ね合わされると、
図8Aに示されるような固定子巻線300が得られる。加えて、コイル310~312を表す各バンドは複数のワイヤーを含むが、
図8A~
図8Dにはコイルごとに9本の代表的なワイヤーのみが示されていることに留意されたい。コイル310~312の各々の線端またはリード線320~325もまた、固定子巻線300の近位端に示されている。各リード線320~325上に示されている方向は、それぞれのコイル310~312を形成するワイヤーを巻く方向を表している。例えば、リード線320上に示されている方向は、巻線310を形成するワイヤーの始点を表し、リード線321上に示されている方向は、巻線310を形成するワイヤーの終点を表している。コイル310~312は、各相からのコイルが、円周方向にて相順に異なる相からのコイルの隣に配置されて、
図8Aに示されているような固定子巻線パターンが得られるように、固定子巻線300内に角度対称に配置されている。固定子巻線300のコイル310~312の各々のコイルスパンは、360°/(np)=360°/(3×1)=120°である。
【0044】
電動機の動作中、電動機コントローラからの電流は、コイル310~312の各々を流れる電流の大きさが同じになるように、線端320~325に接続された給電線(例えば、
図1の給電線146~147)を介して固定子巻線300に通される。コイル310~312は、固定子巻線300内のそれらの配置において重なり合うので、コイルの各々における電流の効果は、隣接するコイルまたは重なり合うコイルにおける電流によって影響され得る。よって、固定子巻線内のコイル310~312の物理的配置により、固定子巻線300のすべてのコイル310~312を流れる電流の正味の効果は相殺される。この効果について、
図10Aに関連してさらに考察する。
【0045】
図10Aに、使用中の固定子巻線300のコイル310(コイルA)のみを示す。コイルAは相Aに対応する。コイル310は、5本の代表的な巻線ワイヤー910~914のみを含むように示されているが、コイル310は、(
図8Aに示されているように)バンドを形成する複数のワイヤーを含むことが理解されよう。図示のように、巻線ワイヤー910~914の各々において電流がたどる経路は、ワイヤーが固定子巻線300の近位端と遠位端(
図1に示される近位端142と遠位端143など)との間に巻かれる際に重なり合う領域を有する。例えば、コイル310内のワイヤー910~914の巻線方向により、ワイヤー910~914内の電流は、三角形領域920に流れ込み、次いで、向きを変えて三角形領域920を離れる。ワイヤー910~914が向きを変えて三角形領域920を離れるとき、ワイヤー内の電流の長手方向成分が変化する。これは
図10Aに示されており、三角形領域920に入るワイヤー914を流れる電流Iは、方向成分I
zおよびI
θ(それぞれ、長手方向成分および角度成分)を有する。三角形領域920を離れるとき、電流Iは方向を変え、方向成分、-I
zおよびI
θを有する。よって、三角形領域920を出る電流の長手方向成分-I
zは、三角形領域920に入る電流の長手方向成分I
zと反対である。同様に、ワイヤー910~914内の電流は、三角形領域930に流れ込み、次いで向きを変えて領域930を離れる。ワイヤー910~914が向きを変えて三角形領域930を離れると、ワイヤー内の電流の長手方向成分が変化し、三角形領域930に入るワイヤー内の電流の長手方向成分と完全に反対になる。ワイヤー910~914内の電流の大きさは同じであり、電流の流れの長手方向成分は互いに完全に反対に三角形領域920および三角形領域930に出入りするため、(
図10Aの矢印940~942で表される)ワイヤー910~914内の電流の長手方向成分の回転子に対する効果は、
図10Aに示されているように三角形領域920および三角形領域930において相殺され、すなわちI
z-I
z=0になる。よって、三角形領域920および三角形領域930におけるワイヤー910~914内の電流の長手方向成分は、式(1)に従って、回転子に発生するトルクに寄与しない。
【0046】
式(1)に記載されるように、回転子150内で発生するトルクTは、回転子150の長手方向軸105に平行な方向におけるコイルの電流を運ぶワイヤーの長手方向の長さLに依存する。よって、
図10Aのワイヤー910~914の垂直方向成分のみが、回転子内のトルクTの発生に寄与する。ワイヤー910~914の垂直成分は、
図10Aに垂直線を引き、ワイヤー910~914と垂直線との交点でワイヤー910~914に流れる長手方向成分電流の方向を決定することによって容易に視覚化することができる。
【0047】
発生したトルクTに対するコイルにおけるワイヤーの機械的配置の寄与は、
図10Bに示されているように、コイル使用率関数950によって説明される。回転子におけるトルクTに寄与するワイヤー910~914の垂直成分は、
図10Aにおいて、反対方向の長手方向成分を有する電流を運ぶワイヤー910~914が重なり合わないところに示されている。例えば、固定子巻線300の周りの120°から180°のコイル角度位置θの場合、ワイヤーの重なりはなく、ワイヤー910~914を流れる電流は同じ方向の長手方向成分を有するが、固定子巻線300の周りの60°および240°の角度位置θでは、それぞれ、ワイヤーは重なり合い、重なり合ったワイヤー910~914に流れる電流の長手方向成分は完全に反対方向にある。
【0048】
したがって、コイル使用率関数は、
図10Bに、反対方向の長手方向成分を有する電流を運ぶ重なり合うワイヤーがない、固定子巻線300の周りの120°≦θ≦180°および300°≦θ≦360°について示されているように、ワイヤー910~914に流れる電流の長手方向成分が同じ方向であるときに最大値になる。この最大値は、
図10Bにおいてコイル使用率が約66.7%で最大であることが示されているように、三相二極電動機の固定子巻線300の全長の約2/3である。コイル使用率関数は、ワイヤーが重なり合い、重なり合ったワイヤー内の電流の長手方向成分が等しいが反対方向である固定子巻線300の周りのθ=60°およびθ=240°でゼロである。完全を期すために、0°<θ<60°、60°<θ<120°、180°<θ<240°、および240°<θ<300°では、ワイヤー910~915は、反対方向の長手方向成分を有する電流と部分的に重なり合い、回転子で発生するトルクTにある程度の寄与をもたらす。このことは
図9Bにおいて見ることができ、ここでは、0°<θ<60°、60°<θ<120°、180°<θ<240°、および240°<θ<300°のθでコイル使用率が線形に変動している。
【0049】
図9Aに、動作中のある瞬間における三相二極電動機で使用中の本開示の一態様による固定子巻線350を示す。前述のように、コイル360~365は、
図2Cの螺旋状巻線212などの螺旋状巻線を使用して巻かれているが、任意の巻線タイプが使用され得る。
図9Aでは、コイル360~365は、固定子巻線350の近位端(プロットの上端)と遠位端(プロットの下端)との間に配置されたバンドとして示されている。螺旋状コイル360~365が巻かれる方法により、
図9Aの各バンドは重なり合って固定子巻線350を形成する。
図8B~
図8Dと同様に、視覚化を改善するために、
図9B~
図9Dに、別々に見た場合の固定子巻線350の相A、相B、および相Cのコイル360~365の各巻線パターンを示す。すなわち、
図9B~
図9Dに示されるコイルが重ね合わされると、
図9Aに示されるような固定子巻線350が得られる。加えて、コイル360~365を表す各バンドは複数のワイヤーを含むが、
図9A~
図9Dにはコイルごとに5本の代表的なワイヤーのみが示されていることに留意されたい。コイル360~365の各々の線端またはリード線もまた、固定子巻線350の近位端に示されており、矢印は、それぞれのコイル360~365を形成するワイヤーを巻く方向を示している。
【0050】
コイル360~365は、各相A、B、Cからのコイルが、円周方向にて相順に、異なる相からのコイルの隣に配置されて、
図9Aに示されているような固定子巻線パターンが得られるように、固定子巻線350内に角度対称に配置されている。前述のように、本開示は、磁極対ごと相ごとに2つのコイルを有する固定子巻線に関する。よって、
図9A~
図9Dでは、相Aは、
図9Bのコイル360~361を含むものとして示されており、相Bは、
図9Cのコイル362~363を含むものとして示されており、相Cは、コイル364~365を含むものとして示されている。固定子巻線350のコイル360~365の各々のコイルスパンは、360°/(2np)=360°/(2×3×1)=60°である。
【0051】
電動機の動作中、6段直流コントローラ(図示されていない)からの直流が、コイル360~365の各々を流れる電流の大きさが同じになるように、固定子巻線350の近位端でリード線に接続された給電線(例えば、
図1の給電線146~147)を介して、固定子巻線350に通される。コイル360~365は、固定子巻線350内のそれらの配置において重なり合うので、コイルの各々における電流の流れの効果は、隣接するコイルまたは重なり合うコイルにおける電流の流れに影響され得る。
図8Aに示される従来の固定子巻線300とは異なり、固定子巻線350内のコイルの物理的配置のために、コイル360~365を流れる電流の流れの効果は相殺されない。
【0052】
図11Aに、使用中の、本開示の一態様による固定子巻線350のコイル360~361(コイルA1およびコイルA2)のみを示す。コイルA1およびコイルA2は相Aに対応する。コイル360は5つの代表的な巻線ワイヤー1010~1014を含むものとして示されており、コイル361は5つの代表的な巻線ワイヤー1015~1019を含むものとして示されているが、コイル360~361の各々は、(
図9Aに示されているように)バンドを形成する複数のワイヤーを含むことが理解されよう。図示のように、巻線ワイヤー1010~1019の各々において電流がたどる経路は、ワイヤーが固定子巻線350の近位端と遠位端(例えば、
図1に示される近位端142と遠位端143)との間で巻かれる際に重なり合う領域を有する。例えば、ワイヤー1010~1014内の電流は、三角形領域1020および1021に流れ込み、次いで向きを変えて、三角形領域1020~1021を離れる。同様に、ワイヤー1015~1019内の電流は、三角形領域1022~1023に流れ込み、次いで向きを変えて、三角形領域1022~1023を離れる。
【0053】
図10Aに関連して説明されたように、ワイヤー1010~1014が向きを変えて三角形領域1020~1021を離れるとき、およびワイヤー1015~1019が向きを変えて三角形領域1022~1023を離れるとき、それぞれのワイヤーの電流の長手方向成分が変化する。ワイヤー1010~1014において、(i)三角形領域1020から流出する電流の長手方向成分は、三角形領域1020に流入する電流の長手方向成分と反対であり、(ii)三角形領域1021から流出する電流の長手方向成分は、三角形領域1021に流入する電流の長手方向成分と反対である。ワイヤー1010~1014が向きを変えて三角形領域1020~1021を離れるとき、ワイヤー内の電流の長手方向成分が変化し、三角形領域1020~1021に入るワイヤー内の電流の流れの長手方向成分と完全に反対になる。
【0054】
同様に、ワイヤー1015~1019において、(iii)三角形領域1022から流出する電流の長手方向成分は、三角形領域1022に流入する電流の長手方向成分と反対であり、(iv)三角形領域1023から流出する電流の長手方向成分は、三角形領域1023に流入する電流の長手方向成分と反対である。ワイヤー1015~1019が向きを変えて三角形領域1022~1023を離れるとき、ワイヤー内の電流の長手方向成分が変化し、三角形領域1022~1023に入るワイヤー内の電流の長手方向成分と完全に反対になる。ワイヤー1010~1019内の電流の大きさは同じであり、電流の流れの長手方向成分は、互いに完全に反対に三角形領域1020~1023に出入りするため、(
図11Aの矢印1040~1043で表される)ワイヤー1010~1019内の電流の効果は、
図11Aに示されているように領域1020~1023で相殺され、すなわち、I
z-I
z=0になる。
【0055】
しかしながら、固定子巻線350は、磁極対ごと相ごとに2つのコイル、すなわち二重巻線を有するので、コイル360~361は、追加の菱形の重なり合う領域1030~1031も含む。
図11Aに示されているように、これらの菱形の重なり合う領域は、コイル360~361の近位端または遠位端から離れて発生する。事実上、これらの菱形の領域は、実際には、コイルA1およびコイルA2からのバンドが互いに重なり合うときに生じる背中合わせの三角形領域である。これらの菱形の領域では、ワイヤー1010~1019内の電流の長手方向成分は、一方向に領域1030~1031に流入し、次いで、同じ方向に領域1030~1031を離れる。ワイヤー1010~1019内の電流の大きさは同じであり、電流の流れの長手方向成分は領域1030~1031において互いに同じであるため、
図11Aの矢印1040~1043で表されるワイヤー1010~1019内の電流の効果は相殺されず、
図11Aに示されているように、領域1030~1031において合算され、すなわち、I
z+I
z=2I
zになる。ワイヤー1010~1019を流れる電流の長手方向成分の効果が相殺されないこれらの菱形の重なり合う領域1030~1031は、相Aのコイル使用率を増加させる。これらの領域1030~1031は、固定子コイル350の性能を高める実質的に正のゾーンである。
図11Aは、固定子巻線350の相Aのコイル360~361内の電流の流れの効果を説明しているが、同様の効果が、固定子巻線350の相Bおよび相Cのコイル362~365内の電流の流れから確認されよう。
【0056】
本開示の態様による固定子巻線350において、領域1020~1023は、巻線を流れる電流の効果が相殺される実質的に不感帯であることに留意されたい。これらの不感帯は、従来の固定子巻線300の領域920および領域930と比較してはるかに小さい。同時に、固定子巻線350が形成される方法により、固定子巻線350の性能を高める追加の正のゾーンが形成される。
【0057】
式(1)に関連して説明されたように、回転子150内で発生するトルクTは、回転子150の長手方向軸105に平行な方向におけるコイルの電流を運ぶワイヤーの長手方向の長さLに依存する。事実上、
図11Aのワイヤー1010~1019の垂直方向成分のみが、回転子内のトルクTの発生に寄与する。ワイヤー1010~1019の垂直成分は、
図11A上に垂直線を引き、垂直線と交差するワイヤー1010~1019に流れる電流の方向を決定することによって容易に視覚化することができる。
【0058】
発生したトルクTに対するコイル350内のワイヤーの機械的配置の寄与は、
図11Bに示されているように、コイル使用率関数1050によって説明される。回転子150におけるトルクTに寄与するワイヤー1010~1019の垂直成分は、
図11Aにおいて、反対方向の長手方向成分を有する電流を運ぶワイヤー1010~1019が重なり合わないところに示されている。例えば、固定子巻線350の周りの60°≦θ≦180°では、ワイヤー1010~1019に流れる電流は、(ワイヤーが領域1030および領域1031で重なり合っているにもかかわらず)同じ方向の長手方向成分を有するが、固定子巻線350の周りの30°および210°のコイル角度位置θでは、それぞれ、ワイヤーは重なり合い、重なり合ったワイヤー1010~1019に流れる電流の長手方向成分は完全に反対の方向にある。
【0059】
したがって、コイル使用率関数は、
図11Bに、反対方向の長手方向成分を有する電流を運ぶ重なり合うワイヤーがない、固定子巻線350の周りの60°≦θ≦180°および240°≦θ≦360°について示されているように、ワイヤー1010~1019に流れる電流の長手方向成分が同じ方向であるときに最大値になる。固定子巻線300と同様に、この最大値は、
図11Bにおいてコイル使用率が約66.7%で最大であることが示されているように、三相二極電動機の場合、固定子巻線350の全長の約2/3である。固定子巻線350の最大コイル使用率(コイル角度範囲(120°))は、固定子巻線300の最大コイル使用率(コイル角度範囲(60°))の2倍であることに留意されたい。コイル使用率関数は、ワイヤーが重なり合い、重なり合ったワイヤー内の電流の流れの長手方向成分が等しいが完全に反対方向である固定子巻線350の周りのθ=30°およびθ=210°でゼロである。完全を期すために、0°<θ<30°、30°<θ<60°、180°<θ<210°、および210°<θ<240°では、ワイヤー1010~1019は部分的に重なり合い、回転子で発生するトルクTにある程度の寄与をもたらす。このことは
図11Bにおいて見ることができ、ここでは、0°<θ<30°、30°<θ<60°、180°<θ<210°、および210°<θ<240°のθでコイル使用率が線形に変動している。
【0060】
図12Aに、従来の固定子巻線300の3相A、B、およびCすべてのコイル使用率関数1100~1102をそれぞれ示す。
図12Aの各相の使用率関数は、
図10Bに示されている使用率関数と同一である。
図12Bに、本開示の一態様による固定子巻線350の3相A、B、およびCすべてのコイル使用率関数1110~1112をそれぞれ示す。
図12Bの各相の使用率関数は、
図11Bに示されている使用率関数と同一である。
図12A~
図12Bに示される使用率関数は、3相すべてについて形状が類似しており、各相の曲線は、前の相から120°ずれている。
図12Cに、ある瞬間における、1つの磁極対を有する電動機の固定子巻線の角度位置の周りの磁束密度Bの変動を示す。電動機の磁気回転子が時間とともに回転するにつれて、
図12Cの磁束密度曲線は、同じ形状であるが、N極およびS極が回転子150の長手方向軸105の周りを回転する際に水平軸に沿って移動する。
【0061】
図12A~
図12Cから、レンツの法則(式(1))を使用して、従来の固定子巻線300と本開示の固定子巻線350とで発生するトルクTを、以下の関係を使用して決定することができ、
これは本質的に、
図12Cの磁束密度曲線の下の面積に、
図12A~
図12Bのそれぞれのコイル使用率関数を掛けたものである。定義上、トルク定数k
Tは、単位電流IあたりのトルクTであり、よってトルク定数を、以下の関係を使用して決定できる。
【0062】
図12Dに、完全な1トルクサイクルについて、(「一重螺旋状」と表示された)従来の固定子巻線300と、(「二重螺旋状」と表示された)本開示の態様による固定子巻線350とで発生する、結果として得られるトルク定数K
Tを示す。6段直流電動機コントローラを使用すると、完全な1トルクサイクルは60°にわたる。
図12Dに示されているように、電動機の1トルクサイクルについて、二重コイル固定子巻線350のトルク定数は、従来の固定子巻線300のトルク定数よりも約15.5%増加する。「約」とは、この値が約20%変動しやすいこと、すなわち、本開示の二重螺旋状固定子巻線350によってもたらされるトルクの増加は、12.4%~18.6%の範囲であり得ることを意味する。「約」のこの定義は、本開示における他のすべての記述に適用される。本開示のいくつかの実装形態において、トルクの増加は、少なくとも約15.5%であり得る。
【0063】
表1に、一重螺旋状固定子巻線および二重螺旋状固定子巻線を備えた三相二極電動機を有する2つの血液ポンプの代表的なデータを示す。具体的には、一重螺旋状固定子巻線は、
図2Cに示されるような螺旋状巻線タイプ212で実装された、前述のような従来の固定子巻線300と同様である。二重螺旋状固定子巻線は、やはり螺旋状巻線タイプで実装された、前述のような固定子巻線350と同様である。図示のように、二重螺旋状固定子巻線は、従来の一重螺旋状巻線と同じコイル抵抗5.25Ω/相を有し、1.182×10
-3N・m/Aの、すなわち、従来の一重螺旋状巻線のトルク定数から15.5%の増加の、増加したトルク定数を有する電動機をもたらす。注目すべきことに、二重螺旋状固定子巻線のコイルにおける平均電流は約13.3%減少しており、よって、(コイルの抵抗が変化していないので)二重螺旋状固定子巻線のコイルにおける加熱も減少していることを示している。表1の結果は、本開示の態様による二重螺旋状固定子巻線が、電動機の、したがってそのような固定子巻線を用いた血液ポンプの効率を高めることを裏付けている。永久磁石極対ごとに相ごとに2つのコイルを含む上述の固定子巻線を用いた血液ポンプは、約1.0 lpmおよび約6.0 lpmの流量で動作するように構成され、「lpm」はリットル毎分を示す。
【0064】
【0065】
以上は本開示の原理の単なる例示であり、装置および方法は、限定ではなく例示を目的として提示されている記載の実装形態以外によっても実施することができる。本明細書に記載される装置は、血液ポンプ用の電動機の二重螺旋状固定子巻線に関して示されているが、トルクが増加した、電動機効率が高い電動機が求められる他のシステムに適用され得ることを理解されたい。
【0066】
前述の開示において、「約」という用語は、記載された値の±20%を意味すると解釈されるべきであることが理解されよう。さらに、電動機という用語は、当技術分野で周知のように、電気機械という用語と同義であると解釈されるべきである。(単位°を有する)すべての度数の尺度は、特に明記されない限り、機械角度として解釈されたい。
【0067】
本開示を検討した後、当業者には変形および修正が想起されるであろう。開示の特徴は、本明細書に記載されている1つまたは複数の他の特徴と共に、(複数の従属的組み合わせおよび部分的組み合わせを含む)任意の組み合わせおよび部分的組み合わせとして実装され得る。以上で説明または例示された様々な特徴は、それらの任意の構成要素を含めて、他のシステムにおいて結合または統合されてもよい。さらに、特定の特徴が省略され、または実装されなくてもよい。
【0068】
変更、置換、および改変の例は、当業者であれば確かめることができ、本明細書で開示される情報の範囲から逸脱することなくなされ得る。本明細書において引用されたすべての参考文献は、参照によりその全体が組み入れられ、本出願の一部をなす。
【国際調査報告】