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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】眼疾患治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20220729BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220729BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20220729BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220729BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220729BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P27/02
A61K9/00
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570749
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 KR2020007047
(87)【国際公開番号】W WO2020242264
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0064486
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513217229
【氏名又は名称】サムジン ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517423811
【氏名又は名称】アプタバイオ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APTABIO THERAPEUTICS INC.
【住所又は居所原語表記】Tower-A0504,13,Heungdeok 1-ro,Giheung-gu,Yongin-si,Gyeonggi-do 16954,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キ,ミンヒョ
(72)【発明者】
【氏名】ナム,キョンワン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンチョル
(72)【発明者】
【氏名】アン,キョンジン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ソンファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スジン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA51
4C076AA94
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE24
4C076EE30
4C076EE43
4C076EE48
4C076FF32
4C076GG11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086GA07
4C086GA08
4C086HA24
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA58
4C086MA67
4C086NA12
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、眼疾患治療用組成物に関するものであって、前記組成物は、薬理活性物質であるピラゾール系化合物および生分解性ポリマーを含み、薬物が後眼部に効果的に到達し、同時に眼球内に投与した薬物の作用時間が延長される効果がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩、および生分解性ポリマーを含む、眼疾患治療用医薬組成物。
[化学式I]
(前記化学式Iにおいて、Rは、炭素数1~10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基である)
【請求項2】
前記ピラゾール系化合物は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩である、請求項2に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーは、コラーゲン、キトサン、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(poly(lactic-co-glycolic acid);PLGA)、ポリ乳酸(polylactic acid;PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid;PGA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone;PCL)、ラクチド/カプロラクトン共重合体(lactide/caprolactone copolymer;PLC)、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記生分解性ポリマーは、ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(PLGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、またはその混合物である、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記生分解性ポリマーは、組成物の総重量に対して10~90重量%で含まれるものである、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物は、放出試験の開始後4週間、組成物に含まれる化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩を50重量%以下で放出するものである、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項8】
前記放出試験は、米国薬局方の溶出装置3(往復シリンダー)方法を用いるものである、請求項7に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物は、眼球部位(ocular area)に投与されるものである、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記眼球部位は、強膜(sclera;強膜内 、intrascleral))、上強膜(episclera;経強膜 、transscleral))、硝子体腔(vitreous cavity)、脈絡膜(choroid)、角膜(cornea)、基質(stroma)、前眼房内(intracameral)、水様液(aqueous humor)、水晶体(lens)、円蓋(fornix)、または視神経(optic nerves)である、請求項9に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記眼球部位は、硝子体腔である、請求項9に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物は、インプラント製剤である、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項13】
前記インプラント製剤は、ロッド状のインプラントであり、前記ロッド状のインプラントの長さは、0.5~10mmである、請求項12に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項14】
前記インプラント製剤は、ロッド状のインプラントであり、前記ロッド状のインプラントの直径は、0.1~2.0mmである、請求項12に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項15】
前記眼疾患は、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy、DR)、糖尿病性黄斑浮腫(diabetic macular edema)、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、未熟児網膜症(Retinopathy of prematurity、ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、増殖性硝子体網膜症(Proliferative Vitreoretinopathy、PVR)、網膜動脈閉塞症(retinal arterial occlusion)、網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion)、翼状片(Pterygium)、網膜炎(retinitis)、角膜炎(corneitis)、結膜炎(conjunctivitis)、ブドウ膜炎(uveitis)、リーバー遺伝性視神経症(Leber’s hereditary optic neuropathy)、網膜剥離(retinal detachment)、網膜色素上皮剥離(retinal pigment epithelial detachment)、血管新生緑内障(neovascular glaucoma)、角膜血管新生(corneal neovascularization)、網膜血管新生(retinal neovascularization)、および脈絡膜血管新生(Choroidal neovascularization、CNV)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の眼疾患治療用医薬組成物。
【請求項16】
下記化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩、および生分解性ポリマーを含む眼疾患治療用医薬組成物をヒトまたはヒトを除く哺乳動物に投与するステップを含む、眼疾患の治療方法。
[化学式I]
(前記化学式Iにおいて、Rは、炭素数1~10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理活性物質および生分解性ポリマーを含む眼疾患治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼疾患は、眼または眼の一部もしくは一領域に影響を及ぼしたり関与したりする疾病または疾患である。眼は、眼球および眼球を構成する組織や体液、眼輪筋、および眼球内の視神経または眼球に隣接する視神経部分を含む。前眼部疾患は、水晶体嚢(lens capsule)の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼輪筋、眼瞼、または眼球組織や体液などの前眼領域および部位に影響を及ぼしたり関与したりする疾病または疾患である。つまり、前眼部疾患は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房、水晶体または水晶体嚢、および前眼領域または部位を通過する血管および神経に一次的に影響を及ぼしたり関与したりする。後眼部疾患は、脈絡膜または強膜、硝子体、硝子体房(vitreous chamber)、網膜、視神経、および後眼領域または部位を通過する血管および神経などの後眼領域および部位に一次的に影響を及ぼしたり関与したりする疾病または疾患である。したがって後眼部疾患は、例えば、黄斑変性(非滲出性高齢黄斑変性および滲出性老人黄斑変性、Age-related macular degeneration、AMD)、脈絡膜血管新生(Choroidal neovascularization)、急性黄斑神経網膜症(Acute macular neuroretinopathy)、黄斑浮腫(Macular edema、嚢胞性黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫)、ベーチェット病(Behcet’s disease)、網膜障害(Retinal disorders)、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy、増殖性糖尿病性網膜症を含む)、網膜動脈閉塞症(Retinal arterial occlusive disease)、網膜静脈閉塞症(Retinal vein occlusion)、ブドウ膜炎、網膜剥離、後眼部または位置に影響を与える眼の外傷、レーザー治療によって引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患、光線力学的療法、光凝固術、放射線網膜症、網膜前膜、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性症、および緑内障によって引き起こされるか、または影響を受ける後眼部疾患などの疾病または疾患を含むことができる。治療の目的が、視覚消失を防止する、または損傷による視力消失もしくは網膜細胞や視神経細胞の消失を減少させること(すなわち、神経保護)であるため、緑内障は後眼部疾患とみなすことができる。
【0003】
血管新生(Angiogenesis)とは、既存の微細血管から新しい血管が発芽し、この発芽した血管が増殖して新しい毛細血管が生成される過程をいう。血管新生は、成長因子、サイトカイン、およびその他の生理学的分子などの様々な血管新生促進刺激、および低酸素症や低pHなどのその他の因子に反応して発生する高度の調節過程である。血管新生は、人体において、胚の発生、胎児の成長、胎盤の増殖、黄体形成、組織再生、創傷治癒の際に非常に重要で正常な過程である。しかし、血管新生が異常に増加したり正常に調節されなかったりすると、血管新生そのものが病因となって疾患を起こすこともある。
【0004】
血管新生に関連する代表的な疾患としては、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy)、未熟児網膜症(Retinopathy of prematurity;ROP)、加齢黄斑変性(Age-related macular degeneration)、角膜血管新生、血管新生緑内障、斑点の変性、翼状片(Pterygium)、網膜色素変性症(Retinitis pigmentosa)、顆粒性結膜炎などの眼疾患がある。眼球では、血管新生メカニズムが抑制されなければならないが、これが間違ったシグナルで活性化されれば、深刻な眼疾患を起こし、後天性失明の主な原因になることもある。特に網膜は、他の筋肉よりも酸素消費量が多く、活性酸素に対する反応が速い器官であり、高濃度のブドウ糖は、活性酸素の活性化によりVEGFの発現を促進することで眼球損傷を進行及び加速化させることが報告されている。血管新生に関連する眼疾患の治療法としては、レーザー治療、光凝固術、冷凍凝固術、そして光線力学的療法がある。これらの治療法は、すべて手術による治療法であり、薬品による治療法は、未だ開発段階にとどまっている。手術による治療は、すべての患者に適用できないという大きな制約があるだけでなく、成功率も低くかなりの費用がかかるため、社会的、経済的に負担が大きい。
【0005】
眼球は、前眼部と後眼部で構成されており、こういった複雑な構造から、それぞれの組織が薬物送達を妨げる原因となり、眼球への薬物送達にはかなりの困難が伴う。眼球に薬物を送達するために一般的に用いられる方法には、経口投与後の全身循環、点眼薬の滴下、眼球内注射などがあるが、3つの方法とも制限が伴うという欠点がある。まず、全身循環を目的として薬物を投与する場合、血液房水関門や血液網膜関門などの影響で血液循環が非常に制限されている密閉された眼球内部の解剖学的特性上、薬物が眼球内部に移行することは非常に難しいことが知られている。点眼液を使用して薬物を滴下する方法は、現在最も多く用いられている方法であるが、投与後の瞬目反射(Reflux blinking)などにより、約20%以下の薬物のみが角膜内に移行し、眼球組織内には約5%のみが送達されるため、生体利用率が非常に低いことが知られている(Schoenwald RD,Clin.Pharmacokinet.1990 Apr;18(4):255-69.,Gaudana R,et al.,Pharm.Res.2009 May;26(5):1197-216.)。また、点眼薬を用いる方法には、眼球内部の複雑な構造に因り、後眼部への薬物送達が難しいという問題がある。
【0006】
これらの問題の解決策として、眼球内へ薬物を送達するために硝子体内に直接薬物を注射する方法(intravitreal injection)が用いられているが、この治療法は、一回の投与量に制限があり、繰り返される注射によって、患者の順応度が低く、網膜剥離、眼内炎、白内障などの副作用を引き起こす可能性が高まる(Evaluation of the retinal toxicity and pharmacokinetics of dexamethasone after intravitreal injection,Arch.Ophthalmol.110:259-66)。
【0007】
したがって、後眼部に効果的に作用しつつも、同時に眼球内注射の回数を減らすために、眼球内に投与する薬物の作用時間を延長する薬物送達システムを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国登録特許10-1821593号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Pharm.Res.2009 May;26(5):1197-216
【非特許文献2】Arch.Ophthalmol.110:259-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ピラゾール系化合物および生分解性ポリマーを含み、薬物が後眼部に効果的に到達し、同時に眼球内に投与した薬物の作用時間が延長された眼疾患治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これを具体的に説明すると以下の通りである。なお、本発明で開示された各説明および実施形態は、それぞれ他の説明および実施形態にも適用することができる。すなわち、本発明で開示された様々な要素の全ての組み合わせが本発明の範囲に属する。また、下記具体的な説明によって本発明の範疇が限定されるものではない。
【0012】
本発明は、下記化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩、および生分解性ポリマーを含む眼疾患治療用医薬組成物を提供する。
[化学式I]
(前記化学式Iにおいて、Rは、炭素数1~10の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基である)
【0013】
本発明の一実施形態において、前記ピラゾール系化合物は、3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オールまたはその薬学的に許容される塩であってもよく、前記塩は、塩酸塩であってもよい。
【0014】
本発明において「生分解性ポリマー」とは、生体での加水分解、酵素反応、または生体内で起こる様々なメカニズムによって分解された生成物が生物相溶性を有するか、または非毒性を示す重合体を意味する。生分解性ポリマーは、薬物を放出した後、非毒性物質に分解され、新陳代謝の過程で自然に除去されることができ、ポリマーは、小さな断片に徐々に分解されて薬物を放出する役割をするため、薬物送達において非常に役に立つ。
【0015】
本発明において、使用可能な生分解性ポリマーとしては、分解された結果物が生理学的に許容される分解産物である場合、有機エステルまたはエーテルなどのモノマーからなるポリマーが含まれるが、これらに限定されない。ポリマーは、一般に縮合ポリマーであり、交差結合または非交差結合したものであっても良い。交差結合の場合、通常弱い程度にのみ交差結合し、5%未満が結合し、通常1%未満が交差結合する。ほとんどの場合、炭素と水素に加えて、ポリマーは酸素と窒素、特に酸素を含む。酸素は、オキシ、例えば、ヒドロキシまたはエーテル、カルボニル、例えば、カルボン酸エステルなどのノン-オキソ-カルボニルなどで存在することができる。窒素は、アミド、シアノ、およびアミノとして存在することができる。ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、ホモポリマーまたはコポリマー、および多糖類が特に重要であり得る。重要なポリエステルの中には、D-乳酸、L-乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、およびこれらの混合物のホモポリマーまたはコポリマーがある。グリコール酸と乳酸のコポリマーまたは乳酸が特に重要であり、グリコール酸と乳酸との割合によって生分解速度を調節することができる。ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(PLGA)コポリマー中の各モノマーであるグリコール酸と乳酸との割合は、0:100~約50:50であってもよく、具体的には、0:100、約15:85、約25:75、約35:65、または約50:50であってもよい。ここで、ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(PLGA)コポリマー中の各モノマーであるグリコール酸と乳酸との割合が0:100である場合は、ポリ乳酸(polylactic acid;PLA)に該当する。
【0016】
前記生分解性ポリマーの具体例としては、コラーゲン、キトサン、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(poly(lactic-co-glycolic acid);PLGA)、ポリ乳酸(polylactic acid;PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid;PGA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone;PCL)、ラクチド/カプロラクトン共重合体(lactide/caprolactone copolymer;PLC)、ポリ(L-ラクチド)(poly(L- lactide;PLLA)、およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよいが、これらに限定されず、前記生分解性ポリマーの定義に適合し、ピラゾール系化合物の遅延放出を可能にする物質であれば、全て許容される。一例として、前記生分解性ポリマーは、ポリ(ラクト-コ-グリコール)酸(PLGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、またはこれらの混合物であってもよい。
【0017】
具体的には、本発明において生分解性ポリマーは、親水性および疎水性末端PLAまたはPLGAを含むポリマーを用いることができ、これはポリマー分解速度を調節するのに有用である。疎水性末端(キャップされた、またはエンドキャップされたという)PLAおよびPLGAは、ポリマーの末端に疎水性を有するエステル結合を有する。典型的な疎水性末端基としては、アルキルエステルおよび芳香族エステルがあるが、これらに限定されない。親水性末端(キャップされていない)PLAおよびPLGAは、ポリマーの末端に親水性を有する末端基を有する。ポリマーの末端に親水性末端基を有するPLAおよびPLGAは、より素早く水を吸収して加水分解されるため、疎水性末端PLAおよびPLGAよりも速く分解される。加水分解を向上させるために併合することのできる適切な親水性末端基の例としては、カルボキシル、ヒドロキシル、およびポリエチレングリコールがあるが、これらに限定されない。特定の末端基は、典型的に重合プロセスで使用される開始剤によって変わる。
【0018】
本発明において、前記生分解性ポリマーは、内部に分散されたピラゾール系化合物を含むことができ、ピラゾール系化合物は、前記生分解性ポリマー内に均一に分散されることができる。生分解性ポリマーは、目的に応じて、所望の放出態様、治療対象疾患の特性などによって多様に選択することができる。考慮するポリマーの特性としては、移植される眼球部位での生体適合性および生分解性に加えて、活性薬物との適合性、製造工程の温度などが含まれてもよい。
【0019】
本発明において、前記生分解性ポリマーは、組成物の総重量に対して10~90重量%で含まれていてもよい。本発明の医薬組成物は、生分解性ポリマーが前記重量範囲に含まれることにより、生分解性ポリマーと結合した薬物が遊離型薬物として放出される時間を遅延させることができる。
【0020】
本発明において、前記化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩は、組成物の総重量に対して10~90重量%で含まれていてもよい。
【0021】
具体的には、前記組成物は、放出試験の開始後4週間、組成物に含まれる化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩を約50重量%以下で放出することにより、薬物作用時間が延長される効果を有する。前記放出試験は、米国薬局方の溶出装置3(往復シリンダー)方法を用いて行う。このような薬物放出遅延効果は、眼疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素、およびその他の医学分野で周知の要素を考慮して調整することができる。
【0022】
本発明において、前記組成物は、非経口投与してもよく、具体的には、眼球部位(ocular area)に投与してもよい。
【0023】
本発明において「眼球」とは、頭蓋骨の眼窩に位置する球状体として視覚を担う器官であり、「眼球部位」とは、個体の眼球の内側、外側、または隣接する部位を意味する。具体的には、前記眼球部位は、強膜(強膜内)、上強膜(経強膜)、硝子体腔、脈絡膜、角膜、基質(stroma)、前眼房内、水様液(aqueous humor)、水晶体(lens)、円蓋、または視神経であってもよく、より具体的には硝子体腔であってもよい。
【0024】
前記投与に関しては、ヒトを含む哺乳動物を対象に非経口投与してもよく、具体的には眼球部位、より具体的には眼球の硝子体腔内に投与してもよい。具体的には、強膜を切開した後、鉗子、トロカール(trocar)、またはその他のアプリケーターを使用して入れることを含む様々な方法で前記組成物を投与することができる。いくつかの例では、切開せずにトロカールまたはアプリケーターを使用することができる。投与方法は、眼球部位の標的領域をニードルでアクセスすることを含み、一旦標的領域、すなわち硝子体腔(vitreous cavity)内に入ることを意味するが、これに限定されない。
【0025】
本発明の組成物は、インプラント製剤として製造することができる。
【0026】
本発明において「インプラント」とは、数日間、数週間、または数ヶ月間までを含む遅延期間にわたって制御された量の活性成分を放出するとともに、眼球の任意の位置に挿入できる眼球インプラントまたは薬物送達装置を含むことを意味する。このインプラントは、生体適合性を有し、生分解性ポリマーなどの生分解性材料から形成される。
【0027】
前記インプラントは、高度に均一な特性を有し、よって精密で正確な投与量の活性成分を継続して送達することができ、特定の時間にわたって眼球内で高度に制御された速度で活性成分の放出を提供する。本発明のインプラントから放出される活性成分は、眼球の特定の領域を選択的に標的とすることができる。例えば、患者の後眼部に位置するインプラントから活性成分が放出され、眼の網膜または網膜の一部に治療学的利点を提供することができる。
【0028】
前記インプラント製剤の放出動力学に影響を及ぼす因子として、活性薬物の粒子の大きさ、活性薬物の溶解度、ポリマーに対する活性薬物の割合、製造方法、インプラントの表面積及びポリマーの侵食速度などの特性を含むことができる。生分解性インプラントは、一般に固体であり、粒子、シートパッチ、フィルム、ディスク、ロッド(円筒形の棒)などに成形することができるが、インプラントが目標とする放出動力学を有し、意図する眼疾患に有効な量の活性薬物を送達できるのであれば、選択された移植部位に適した如何なる大きさや形状も可能である。移植部位におけるインプラントに対する許容性(tolerance)は、挿入時の大きさの制限、取り扱いの容易さ、および患者の順応度などの因子によって決定される。硝子体房(vitreous chamber)は、一般に、直径約0.05~3.0mm、長さ0.5~10.0mmの比較的大きなロッド状のインプラントを収容することができる。「ロッド状」は、一例として、断面が実質的に円形である円筒形の棒状であり得る。ロッド状のインプラントは、移植が容易であり、移植後の不快感を伴わないという利点がある。好ましくは、前記ロッドは、直径が約0.1~2.0mmであってもよいが、これに限定されない。また、形状は変えてもよいが、体積はほぼ同様のインプラントを使用することが望ましいと思われる。
【0029】
具体的には、本発明において、前記インプラントの長さは、0.5mm~10mmであってもよい。一般的に人間の眼球の大きさが24mmであることを考えると、長さが10mm以下であれば眼球投与に適しており、10mmを超えるとアプリケーターやカテーテルを用いて挿入する際に折れ易いという問題がある。また、インプラントの長さが0.5mm未満の場合は、アプリケーターやカテーテルへの充填が難しく、取り扱い難いという欠点がある。
【0030】
本発明に係る医薬組成物によって予防または治療可能な眼疾患は、前眼部疾患、後眼部疾患、または前眼部疾患および後眼部疾患の両方の特徴を示す眼疾患を含む。具体的には、糖尿病性網膜症(Diabetic retinopathy、DR)、糖尿病性黄斑浮腫、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、未熟児網膜症(Retinopathy of prematurity、ROP)、ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)虚血性増殖性網膜症(ischemic proliferative retinopathy)、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)、増殖性硝子体網膜症(Proliferative Vitreoretinopathy、PVR)、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、翼状片(Pterygium)、網膜炎、角膜炎、結膜炎、ブドウ膜炎、リーバー遺伝性視神経症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、血管新生緑内障、角膜血管新生、網膜血管新生、脈絡膜血管新生(Choroidal neovascularization、CNV)、およびウイルス感染による眼疾患などが含まれる。好ましくは、糖尿病性網膜症(DR)、加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration)、網膜炎、角膜炎、結膜炎、ブドウ膜炎、角膜血管新生、網膜血管新生、および脈絡膜血管新生(CNV)からなる群から選択される眼疾患などが含まれる。
【0031】
本発明の組成物の製造において、様々な目的のために他の賦形剤をさらに使用してもよく、例えば、緩衝剤、酸化防止剤、および保存剤などを使用することができる。使用可能な緩衝剤(Buffering agnets)の例としては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。使用可能な酸化防止剤(anti-oxidants)の例としては、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、シスチン、チオクト酸、およびチオグリセロールなどが挙げられるが、これらに限定されない。使用可能な保存剤(preservatives)の例には、重硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、三硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、メチルパラベン、プロピルパラベン、およびフェニルエチルアルコールが含まれるが、これに限定されない。また、活性薬物の放出を促進または遅延させる、親水性または疎水性化合物をさらに含んでいてもよい。
【0032】
前記医薬組成物の製造方法としては、押出成形法を用いることができる。これにより大規模な製造が可能となり、ポリマー中に薬物が均一に分散されたインプラントを得ることができる。押出成形法を用いる場合は、約25℃~150℃、好ましくは、60℃~130℃の温度で行う。
【0033】
前記組成物の投与量は、300ng~100mgで投与することができ、患者の状態や体重、疾患の程度、薬物の形態、投与時間などに応じて当業者が適宜選択することができる。
【0034】
本発明に係る医薬組成物は、薬学的に有効な量で投与される。本発明において「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、および排出率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素、およびその他の医学分野で周知の要素に応じて決定することができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、個々の治療剤として投与しても、他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤とは逐次または同時に投与してもよく、単一または複数投与してもよい。これらの要素をすべて考慮し、副作用なく最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定されることができる。
【0036】
また、本発明は、ヒトまたはヒトを除く哺乳動物の眼球部位に本発明の医薬組成物を投与する方法を含む。一般に、このような本発明の医薬組成物を、ヒトまたはヒトを除く哺乳動物の眼球部位、例えば、後眼部に、例えば、硝子体腔に投与、例えば、注射または配置することを含む。このような投与ステップは、後眼部の組織に所望の治療学的効果を提供するのに有効である。投与ステップは、好ましくは、硝子体腔内注射または配置、結膜下注射または配置、テノン嚢下(sub-tenon)注射または配置、球後(retrobulbar)注射または配置、脈絡膜上(suprachoroidal)注射または配置などから少なくとも1つを含む。
【0037】
本発明の医薬組成物は、18~22ゲージの針によって後眼部に配置され、前記眼の内側、例えば、前記眼の硝子体腔内に投与することができる。
【0038】
また、本発明は、本発明の医薬組成物をヒトまたはヒトを除く哺乳動物の眼球部位、例えば、後眼部に投与するステップを含む眼疾患の治療方法を提供する。
【0039】
具体的には、本発明による化合物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって異なり、毎日もしくは隔日投与するか、または1ヶ月に1回、3ヶ月に1回、6ヶ月~12ヶ月に1回投与することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、米国薬局方の溶出装置3(往復シリンダー)方法を用いた放出試験において、前記組成物の投与後4週間、組成物に含まれた化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩を約50%重量以下で放出することができる。また、本発明の医薬組成物は、米国薬局方の溶出装置3(往復シリンダー)方法を用いた放出試験において、8週間にわたって組成物に含まれた化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩を約70重量%以下で放出することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物は、前記化学式Iで表されるピラゾール系化合物またはその薬学的に許容される塩を約7μg/週~約180μg/週の速度で放出することができる。
【0042】
本発明の一試験例では、生分解性ポリマーを含む組成物のin vitro薬物放出を測定した結果、米国薬局方の溶出装置3(往復シリンダー)方法を用いた放出試験において、4週目に約50重量%以下、8週目には約70重量%以下であり、薬物放出が遅延されることを確認した(試験例2参照)。
【0043】
また、本発明の別の試験例では、生分解性ポリマーを含む組成物のin vivo薬物動態を評価した結果、薬物が遅延放出されることで生体利用率が高くなることを確認し、本発明の組成物が硝子体内での薬物の持続放出に優れていることが確認できた(試験例3参照)。
【0044】
つまり、本発明の医薬組成物は、眼疾患の治療に有効なピラゾール系化合物が生分解性ポリマーに捕集されており、眼球内に投与した薬物の作用時間が延長される効果があるため、分解生成物の残留による危険性がなく、眼球内への薬物送達が容易であることはもちろん、繰り返される注射投与による網膜剥離、眼内炎などの副作用も防止することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の組成物は、眼疾患の治療に有効なピラゾール系化合物と生分解性ポリマーとを含み、薬物が後眼部に効果的に到達し、同時に眼球内に投与した薬物の作用時間が延長される効果を有し、眼球の内部への薬物の移行に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1は、in vitroでの薬物累積放出率の結果を示すグラフである。
図2は、in vivoでの薬物遅延放出の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨から、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0048】
実施例1~3.ピラゾール系化合物を含むインプラントの製造
ピラゾール系化合物であるAPX-115(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩)およびPLA 203H(Resomer(R) R 203H,Evonik,Germany)を下記表1に示したとおり正確に秤量し、ステンレス鋼の混合容器に入れた。容器を密封し、管状ミキサー(Tubular)に入れ、96rpmで20分間混合した。得られた混合粉を高温溶融押出機(Hot-melt extruder,Process-11,Thermo,USA)に供給し、所定の温度85℃及びスクリュー速度12rpmに設定した。フィラメントをガイドメカニズムで押出成形し、直径0.5~0.6mmの円筒形棒状、活性薬物の量が720μgとなるようにインプラントを切断した。
【表1】
【0049】
実施例4~6.ピラゾール系化合物を含むインプラントの製造
ピラゾール系化合物であるAPX-115(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩)およびPLA 203H(Resomer(R) R 203H,Evonik,Germany)を下記表2に示したとおり正確に秤量し、前記実施例1と同様の製造方法により製造した。フィラメントをガイドメカニズムで押出成形し、直径0.5~0.6mmの円筒形棒状、活性薬物の量が180μgとなるようにインプラントを切断した。
【表2】
【0050】
実施例7~21.ピラゾール系化合物を含むインプラントの製造
ピラゾール系化合物であるAPX-115(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩)と下記表3のポリマー(Resomer(R),Evonik,Germany)を用いて、前記実施例1と同様の製造方法により製造した。フィラメントをガイドメカニズムで押出成形し、直径0.5~0.6mmの円筒形棒状、活性薬物の量が720μgとなるようにインプラントを切断した。
【表3】
【0051】
比較例1~3.ピラゾール系化合物を含むインプラントの製造
ピラゾール系化合物であるAPX-115(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩)およびPLA 203H(Resomer(R) R 203H,Evonik,Germany)を表4に示したとおり正確に秤量し、実施例1と同様の製造方法により製造した。フィラメントをガイドメカニズムで押出成形し、直径0.5~0.6mmの円筒形棒状、活性薬物の量が720μgとなるようにインプラントを切断した。
【表4】
【0052】
比較例4~6.ピラゾール系化合物を含むインプラントの製造
ピラゾール系化合物であるAPX-115(3-フェニル-4-プロピル-1-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-5-オール塩酸塩)およびPLA 203H(Resomer(R) R 203H,Evonik,Germany)を下記表5に示したとおり正確に秤量し、前記実施例1と同様の製造方法により製造した。フィラメントをガイドメカニズムで押出成形し、直径0.5~0.6mmの円筒形棒状、活性薬物が180μgとなるようにインプラントを切断した。
【表5】
【0053】
試験例1.物理的性状の確認
フィラメントをガイドメカニズムで押出成形した。ノギスを用いて直径及び長さを測定し、製造した実施例1、2、6及び比較例1~4が眼球投与(ocular administration)に適する大きさであるか比較評価し、その結果を下記表6に記載した。
【表6】
【0054】
前記表6から分かるように、一般的に人間の眼球の大きさが24mmであることを考えると、実施例1、2、6及び比較例1、3は、長さが10mm以下で、眼球投与に適する大きさであることが確認できる。一方、比較例4および6の場合は、長さが10mmを超えて眼球内投与に適しておらず、アプリケーターまたはカテーテルを用いて挿入する際に折れ易いため、眼球投与用インプラントとして適切でない長さであることを確認した。
【0055】
試験例2.In vitro放出試験
米国薬局方の溶出装置3(United States Pharmacopeia(USP) Dissolution Apparatus3)往復シリンダー(Reciprocating Cylinder)方法を用いて、in vitroでの放出プロファイルを測定した。重量を測定したインプラントサンプルを37℃に保持したPBS(Phosphate buffer saline,pH7.4)溶液に投与し、活性薬物(APX-115)の放出率を測定した。ここで溶液の体積は、放出後に活性薬物の濃度が飽和状態の20%以下となる体積である。12週間試験を行い、HPLCを用いて活性薬物の濃度を測定した。
<分析条件>
-カラム:Agilent C18(250×4.6mm、5μm)
-カラム温度:25℃
-移動相:0.1% Formic acid:Acetonitrile=20:80(v/v)
-流速:1.0mL/min
-注入量:10μL
-波長:293nm
-分析時間:20分
【0056】
試験の結果、図1に示すように、APX-115 In vitro薬物放出量確認試験により、インプラント中のポリマーの割合が高い実施例1及び2では、APX-115の累積放出率が放出試験の開始後4週目に50重量%以下、8週目に70重量%以下であり、放出遅延効果があることが確認できた。一方、比較例1および3は、1週間で90%以上が放出され、インプラント中のポリマーの割合が低いと放出遅延インプラントを形成するには割合が不十分であることが確認できた。
【0057】
試験例3.動物試験
2.0~2.7kgのニュージーランドホワイト種ウサギを用意し、試験群(Test群)と対照群(Control群)の2群に分けた。試験群には前記実施例1の製剤を用い、対照群には前記比較例3の製剤を用いた。10時方向と12時方向との間の結膜および強膜をブレードで切開し、ウサギの右眼の後眼部にインプラントを移植した。実施例1の製剤及び比較例3の製剤をインプラントした後、7日、28日、及び72日に眼球を摘出し、硝子体内のAPX-115放出量を確認した。試験群と対照群には、日付別にそれぞれ3匹のウサギを用いて試験を行い、摘出した眼球から硝子体を抽出し、分析前まで-70℃で保存した。硝子体中の主薬成分の濃度をLC-MS/MSを用いて分析し、ウサギの硝子体内薬物動態(pharmacokinetics,PK)を評価した。
【0058】
試験結果、図2に示すように、生分解性ポリマーを含まず活性薬物単独で形成された比較例3(対照群)は、硝子体内でAPX-115の消失が非常に速かったのに対し、実施例1(試験群)ではAPX-115が遅延放出され生体利用率が高くなったことを確認したため、本発明の組成物が硝子体内で薬物の持続放出に優れていることが確認できた。
図1
図2
【国際調査報告】