(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】等温増幅を使用したデジタル生体分子検出および/または定量化
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20220729BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220729BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220729BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571415
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2020064771
(87)【国際公開番号】W WO2020239874
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】504301959
【氏名又は名称】インスティテュート ナティオナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】517124642
【氏名又は名称】エコール シュペリュール ドゥ フィジーク エ ドゥ シミ アンドゥストゥリエール ドゥ ラ ヴィーユ ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】521520968
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レトゥル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ロンデレーズ ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】ギネス ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】リマ デ カストロ メネゼス ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】タリー ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
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4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR10
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4B063QS24
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4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、試料中の少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのデジタル方法であって、前記生体分子は、等温増幅に基づき、DNA、RNA、およびタンパク質から選択される、デジタル方法に関する。本発明は、デジタル方法の様々な応用およびキットにさらに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのデジタル方法であって、
a)前記試料を、緩衝液、酵素、増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチドを含む混合物と混合するステップ、
b)ステップa)で得られた混合物を幾つかの区画に分配し、前記区画の一部が前記標的生体分子を含まないステップ、
c)前記標的生体分子をシグナルへと変換し、前記シグナルは好ましくはDNA一本鎖であるステップ、
d)前記シグナルを増幅するステップ、および
e)各区画における前記シグナルを検出および/または測定するステップ
を含むデジタル方法。
【請求項2】
前記標的生体分子は、核酸またはタンパク質であり、前記タンパク質は好ましくは酵素である、請求項1に記載のデジタル方法。
【請求項3】
前記標的生体分子は、核酸であり、好ましくは、DNA、cDNA、RNA、mRNA、およびマイクロRNAを含む群から選択され、より好ましくは、前記核酸はマイクロRNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)で使用される酵素は、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のオリゴヌクレオチドは、ニッキング酵素認識部位を含む部分的反復構造を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドは、前記第1のオリゴヌクレオチドに沿って、重合の産物に結合し、それらを伸長し、不活性化し、ゆっくりと放出することができ、それにより閾値効果を誘導する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リポートプローブである第4のオリゴヌクレオチドを添加することをさらに含み、好ましくは、前記リポートプローブは蛍光プローブである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2種またはそれよりも多くの生体分子を検出および/または定量化するための交差阻害性オリゴヌクレオチドである第5のオリゴヌクレオチドを添加することをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)で得られる混合物は、ステップb)において液滴へと、好ましくは油中水型エマルジョン液滴へと分配される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記液滴のサイズは、0.001~100pL、好ましくは0.01~10pL、より好ましくは0.1~5pL、または0.1~8pLの間に含まれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シグナルは、標識されており、好ましくは蛍光により標識されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記シグナルを検出および/または測定するステップd)は、蛍光を発する前記区画を検出および/または計数することを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
試験された生物学的試料中の前記標的生体分子の絶対濃度を測定するために、蛍光シグナルを受け取っている区画および非蛍光の区画が計数され、それらの比が算出される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的生体分子は、バイオマーカーとして使用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を診断するためのin vitro方法であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を使用することを含む、in vitro方法。
【請求項15】
生物的ストレス、好ましくは感染性および/もしくは寄生虫性原因により引き起こされる疾患、または
非生物的ストレス、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患の農学的診断のためのin vitro方法であって、
請求項1~13のいずれか1項に記載のデジタル方法を使用することを含む、in vitro方法。
【請求項16】
少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)好ましくは、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される、酵素の混合物、
b)増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチド、および任意に、リポートプローブである第4のオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの混合物、ならびに
c)分配剤、好ましくは油中水型エマルジョン
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的分子設計を有する等温増幅に基づき、試料中のDNA、RNA、およびタンパク質などの生体分子を検出および/または定量化するためのデジタル方法に関する。本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を診断するための方法、ならびに農学的診断のための方法にさらに関する。また、本発明は、食品農業食品分野のおよび環境中のバイオマーカー(生体分子)を検出するための方法にも関する。こうした診断および検出方法はすべて、本発明のデジタル方法を使用することを含む。また、本発明は、少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、酵素、オリゴヌクレオチド、および分配剤を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNA、またはタンパク質などの幾つかの生体分子は、魅力的な診断、予後、または予測バイオマーカーとして使用される。こうした分子および特に核酸は、種々の疾患(がん、神経または心血管疾患、糖尿病など)に密接に関連するという臨床的証拠が蓄積されている。さらに、こうした分子および特に核酸は、体液中に存在するため、低侵襲性液体生検(血清、血漿、尿)を介してアクセス可能である。循環バイオマーカーは繰り返して評価することができるため、治療および再発の定期的な経過観察、大規模集団スクリーニング、または早期診断が可能になる。
臨床目的で使用するためには、得られる結果が正確でなければならないため、こうした生体分子の検出は難しい作業であることが多い。そのため、そのようなバイオマーカーを正確に測定することが重大なボトルネックになっており、高感度で特異的な定量的検出技術の開発が促されている。
【0003】
タンパク質の高感度検出に最もよく使用される技法は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であり、核酸の場合は、DNAを検出するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびRNAを検出するための逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)である。こうした技法はすべて、特異的で高感度な検出を可能にするが、幾つかの制限があり、改良の必要がある。
例えば、現在、PCRおよび関連方法によるDNAの検出は、標的核酸の増幅を必要とする。これは、検出方法の特異性および感度を減少させる非特異的または不良なシグナル増幅を起こし易い可能性がある。
RNA検出に関しては、RT-qPCRは感度が高いにも関わらず、この技法には幾つかの欠点がある。RTステップは、定量化に著しいバイアスを導入することが知られており(Bustin et al., 2015)、各標的ごとにプライマーおよびプローブを設計しなければならず、標的の長さが短いため、洗練された設計に依存する必要があり、サーモサイクルプロトコールを各アッセイごとに最適化すべきであり、標的自体が増幅されるため、持ち越し夾雑の有害原因であり(Aslanzadeh et al., 2004)、PCR反応は生物学的試料中で阻害されることが知られている(Opel et al. 2010)。加えて、この手順は、増幅のリアルタイム追跡に依存しており、標準較正が必要であるため、生体分子の量の定性的推定値しか得られない。
【0004】
上述の欠点は、小さな区画内に単一核酸分子を単離して分析することに基づくデジタル手順を使用することにより部分的に克服することができる。
デジタル技法には、特に、幾つかの利点がある:
i)エンドポイントアッセイと適合性であり、反応の継続的なモニタリングを必要としないこと、
ii)較正標準物質を用いずに絶対的定量化を提供すること、
iii)究極的な感度を提供すること、
iv)特に、複雑なバックグラウンド内の稀少標的の場合、アッセイの感度および特異性も向上すること。
【0005】
しかしながら、アッセイをデジタル方式に移行できるのは、そのバルク感度が、1区画当たりの単一標的に対応する濃度よりも既に高い場合のみである。例えば、デジタル手順に使用される区画の内部容積が約1ナノリットルである場合、そのような区画内の単一分子の濃度はフェムトモル程度であり、デジタルアッセイには、検出限界がフェムトモルよりも低い増幅技術が必要とされることになる。検出限界がフェムトモルよりも高い増幅法は、この状況では使用することができないことになる。PCRは、一般に高感度という要件を満たし、生体分子、特に核酸を精密におよび絶対的に定量化するための強力な方法を提供するが、デジタル方式で評価するには、RT-qPCRの弱点がそのまま残されている(Campomenosi et al., 2016)。
【0006】
より単純な1段階プロトコールに依存し、サーモサイクルを必要とせず、逆転写反応から解放されている等温代替法(Zhao et al., 2015)が提案されている(EXPAR、LAMP、RCA、HCRなど)。感度はふさわしいにも関わらず、こうした技法は、非特異的な増幅反応に悩まされており、そのためデジタル読出しには適していない。例えば、Zhangら(Zhang et al., 2015)は、高速な非特異的増幅を起こし易いことが周知の方法であるEXPAR(指数関数的増幅反応)に関して、こうした制限があることを明確に示した。著者らは、デジタル方式に適応させると、標的含有液滴のわずか数分後に空液滴が増幅されることを示した。したがって等温核酸増幅法は、バルクで良好な感度を示すものの、ロバストなデジタル方式に移行させることができないことを示した。
このように、酵素および核酸、特にマイクロRNAをデジタル測定するためのロバストな方法は、現在のところ利用可能ではない。
【0007】
本発明の目的は、生体高分子、特に核酸および酵素など、バイオマーカーとして使用される生体分子を検出する際に、絶対的定量化およびより高い感度を可能にする方法であって、特異的等温増幅法のデジタル化に基づくが、上記で挙げられている欠点を有さない方法を提供することである。さらに、本発明は、1つの系で容易に実施することができるそのような方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0008】
本発明の発明者らは、核酸を検出するためのバックグラウンド増幅を排除するための方法を以前に開発した(国際公開第2017140815号パンフレット)。本発明の発明者らは、驚くべきことに、バイオマーカーとして使用される生体分子の検出感度を増加させること、増幅反応の継続的モニタリングまたは検量線の使用を必要とせずに、バルク測定においてそれらの1種を正確に定量化することを可能にするデジタル方法を得るために、このアナログ法をデジタル化することに成功し得ることを見出した。
したがって、第1の態様によると、本発明は、試料中の少なくとも1種の生体分子を検出および/または定量化するためのデジタル方法であって、
a)前記試料を、緩衝液、酵素、増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチド(leak absorption oligonucleotide)である第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチドを含む混合物と混合するステップ、
b)ステップa)で得られた混合物を幾つかの区画に分配し、区画の一部は標的生体分子を含まないステップ、
c)標的生体分子をシグナルへと変換し、前記シグナルは好ましくはDNA一本鎖であるステップ、
d)シグナルを増幅するステップ、および
e)各区画における増幅された前記シグナルを検出および/または測定するステップ
を含むデジタル方法に関する。
【0009】
この方法の主な利点は、DNA、RNA、およびタンパク質などの生体分子を迅速で選択的に検出すること、ならびにこうした生体分子の絶対的定量化も可能になることである。
特に、RNAを検出および/または定量化する場合、RT-PCRアナログ法と比較した本発明の方法の利点は、1)アッセイの定量性を妨げる可能性がある逆転写ステップを必要としないこと、2)PCRステップに必要な高温および温度サイクルが必要ではないこと、3)等温増幅は、粗試料に見出される可能性があり、PCR反応を阻害することが示されている多数の化学物質に対してロバストであり(Huggett et al. 2008)、標的生体分子が増幅されないため、交差夾雑問題が回避されることである。
【0010】
また、本発明者らは、本発明の方法を使用して、生体分子を含む任意のタイプの試料、例えば、血液試料および他の生物学的流体から、生体分子を直接的に検出することができることを実証した。
この方法の特異性、単純性、および迅速性は、医学的診断方法、特に、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患などの疾患の診断に、この方法を使用することを可能にする。
また、第2の態様によると、本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を診断のためのin vitro方法であって、本デジタル方法を使用することを含む診断方法に関する。
【0011】
本発明のデジタル方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、特に、感染性および寄生虫性疾患などの生物的ストレスにより引き起こされる疾患、または栄養欠乏もしくは不利な環境などの非生物的ストレスにより引き起こされる疾患を診断するための農学的診断法に、本発明のデジタル方法を使用することを可能にする。
また、第3の態様によると、本発明は、
生物的ストレスにより、好ましくは感染性および/もしくは寄生虫性原因(origin)により引き起こされる疾患、または
非生物的ストレスにより、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患の農学的診断のためのin vitro方法であって、
本発明のデジタル方法を使用することを含むin vitro方法に関する。本発明の方法を実施するためのキットも提供される。
【0012】
したがって、第4の態様によると、本発明は、少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)好ましくは、ポリメラーゼ、ニッキング酵素または制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される酵素の混合物、
b)増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチド、および任意に、リポートプローブ(reporting probe)である第4のオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの混合物、ならびに
c)分配剤、好ましくは油中水型エマルジョン
を含むキットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記に示されているように、本発明は、最近のバックグラウンドフリー増幅化学(background-free amplification chemistry)をデジタル読出しに適応させ、したがって生体分子標的の絶対的定量化を提供することに関する。
特に、生体分子標的、特に核酸標的の等温増幅におけるバックグラウンド増幅を排除することを含む適応型バックグラウンドフリー増幅化学は、本発明の発明者の一部により実施され、国際公開第2017140815号パンフレットに開示されているものである。
したがって、第1の態様によると、本発明は、試料中の少なくとも1種の生体分子を検出および/または定量化するためのデジタル方法であって、
a)前記試料を、緩衝液、酵素、増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチドを含む混合物と混合するステップ、
b)ステップa)で得られた混合物を幾つかの区画に分配し、区画の一部は標的生体分子を含まないステップ、
c)標的生体分子をシグナルへと変換し、前記シグナルは好ましくはDNA一本鎖であるステップ、
d)シグナルを増幅するステップ、および
e)各区画における増幅された前記シグナルを検出および/または測定するステップ
を含むデジタル方法に関する。
【0014】
本発明によるデジタル方法は、1種または複数種の生体分子を同時に検出および/または定量化することを可能にし、前記生体分子は、同じまたは異なる構造および機能を有する。
本発明の状況では、「生体分子」という用語は、タンパク質、炭水化物、脂質、および核酸などの大型巨大分子または生体高分子、ならびに一次代謝産物、二次代謝産物、および天然産物などの小型分子に関する。本発明における生体分子は、通常は内因性であるが、外因性(例えば、生物医薬薬物)であってもよい。
本発明の1つの好ましい実施形態によると、生体分子は、タンパク質、好ましくは酵素を含む群から、または核酸から選択される。
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、酵素活性を、デジタルバイオアッセイにおいてDNAシグナルの閾値指数関数的増幅が実施される汎用分子回路とカップリングすることにより、当技術分野の他のデジタル酵素試験と比較して非常に高い感度で酵素の検出および/または定量化が可能になる(数種類の酵素の検出が可能になる)ことを見出した。この回路は、標的活性を短鎖DNAトリガーの生成に結び付けるモジュール、および検出可能な読出し、特に蛍光読出しを産生するDNA増幅系を含む。酵素触媒速度がシグナル生成から切り離されるため、この多用途フレームワークは、デジタル検出、特に、標準的なマイクロ区画、特にピコリットル範囲の内部容積を有するマイクロ流体液滴を使用した、幅広いDNAプロセシング酵素の液滴デジタル検出を可能にする。したがって、本発明の方法は、単一酵素に関連付けられる弱い触媒活性を、検出可能なシグナルへと、特に、マイクロ区画、特にマイクロ液滴内での容易な検出に十分な強度の蛍光シグナルへと変換することを可能にする。
【0016】
本発明の状況では、「酵素」という用語は、触媒機能を有し、分子基質の変換を触媒することができるタンパク質を指す。本発明のデジタル方法により検出および/または定量化することができる酵素の群は、ヌクレアーゼ、DNA N-グリコシラーゼ、ポリメラーゼ、リガーゼ、およびキナーゼなどの幅広い範囲の活性を有するDNA関連酵素、または非DNA関連酵素から選択される。特に、酵素は、ニッキング酵素、制限酵素、エンドヌクレアーゼ、DNA N-グリコシラーゼ、AP-エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼRNA/DNAポリメラーゼ、リガーゼ、キナーゼ、およびメチラーゼを含む群から選択される。より具体的には、本発明の方法は、ニッキング酵素および制限エンドヌクレアーゼを識別および/または定量化するために実施することができる。本発明の方法により検出および/または定量化することができる酵素の特定の例としては、これらに限定されないが、Nt.BstNBI、RNAseH2. APE-エンドヌクレアーゼ1(APE-1)、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)、アルキルアデニングリコシラーゼ(AAG)、BsmAI制限酵素、ポリ(A)ポリメラーゼ(PAP)、T4 DNAリガーゼ、およびT4ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 PNK)が挙げられる。
【0017】
本発明の状況では、「モジュール」という用語は、シグナル変換、増幅、リポートなどの特定の作用を実施するオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの群に関する。核酸が検出される場合、モジュールは、オリゴヌクレオチド(鋳型)に相当する。酵素が検出される場合、モジュールは、オリゴヌクレオチドの群に相当する。
別の実施形態では、本発明の生体分子標的は、DNA、cDNA、RNA、mRNA、マイクロRNAなどの核酸である。さらにより好ましくは、本発明の生体分子標的は、リボ核酸(RNA)である。
本発明の状況では、「核酸」という用語は、ヌクレオチドで構成される生体高分子または小型生体分子に関し、ヌクレオチドは、3つの成分:5炭素糖、リン酸基、および含窒素塩基でできているモノマーである。糖が化合物リボースである場合、ポリマーはRNA(リボ核酸)であり、糖が、リボースに由来するデオキシリボースである場合、ポリマーはDNA(デオキシリボ核酸)である。
【0018】
上述のように、本発明のデジタル方法は、分子をコードするDNA分子または相補的DNA(cDNA)を検出および/または定量化するために使用することができる。
さらにより好ましくは、本発明の方法は、メッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)から選択されるリボ核酸(RNA)分子を検出および/または定量化するために使用される。
最も好ましい実施形態によると、本発明の方法は、マイクロRNA分子を検出および/または定量化するために使用することができる。
【0019】
本発明の状況では、「マイクロRNA」という用語は、遺伝子発現の転写後調節に関与する約22ヌクレオチドの長さを有する、内因性の短鎖非コードRNA鎖を指す。
本発明の方法を実施するために、第1のステップ(ステップa))では、バックグラウンド増幅の回避を可能にする分子プログラムを、標的生体分子を含む生物学的試料と混合することが必要である。
本明細書で使用される場合、「標的生体分子」または「生体分子標的」という用語は、本発明の方法により検出および/または定量化される、上記で定義された通りの生体分子に関する。
【0020】
こうした標的生体分子は試料内に存在する。前記試料は、任意のタイプのものであってもよい。例えば、前記試料は、試験する対象から得ることができ、前記対象は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。このような試料は、生物学的試料とも呼ばれる。
本発明の状況では、「生物学的試料」という用語は、生命体から得られる固体または流体の生物学的物質に関する。固体生物学的試料は、細胞、組織の一部(生検)、組織全体、または臓器などであってもよい。
好ましくは、本発明の方法で使用される試料は、流体試料である。
本発明の状況では、「生物学的流体の試料」または「流体試料」という用語は、生命体により産生される生物有機的流体から得られる任意の試料に関する。生物学的流体は、細胞外液、血管内液、間質液、リンパ液、および細胞透過液を含む群から選択される。
【0021】
特に、生物学的流体の試料は、血液および血液成分、尿、唾液などを含む群から選択される。
より好ましい実施形態では、生物学的流体の試料は、血液の試料または血液成分の試料である。「血液の試料」または「血液成分の試料」とは、特に、赤血球画分、白血球画分、血小板、血漿、または血清から選択される血液全体またはその成分の1種を意味する。
本発明の別の実施形態では、試料は、非生命体から得ることができる。例えば、試料は、空気、水、土壌、消化産物などから得ることができる。試料のタイプは、本発明のデジタル方法の応用に依存する。本発明によると、前記試料は、生体分子を含むかまたは含み易い。
上記に示されているように、標的生体分子を含む試料は、本発明のデジタル方法のステップa)にて、分子プログラムと混合される。
【0022】
本発明の方法で使用される分子プログラムは、国際公開第2017140815号に詳細に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明の状況では、「分子プログラム」という用語は、in vitroで情報処理タスクを実施するための生体分子回路を設計することに関する。分子プログラムは、分子回路の合理的設計を可能にする固有のプログラム可能性をDNAに付与する予測可能なワトソンおよびクリック塩基対合に基づく。
本発明の方法で使用される分子プログラムは、PEN-DNA toolbox((ポリメラーゼエキソヌクレアーゼニッカーゼダイナミックネットワークアセンブリ(Polymerase Exonuclease Nickase-Dynamic Network Assembly))、Montagne et al., 2011)と称される多用途分子プログラミング言語によるものであり、本発明者らの一部が開発したものに基づく。ネットワークのトポロジーは、1セットの短鎖オリゴヌクレオチド(鋳型)により規定される。ネットワークは、酵素(ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、およびニッカーゼ、または制限酵素)の混合物により解釈され、酵素は、DNA鎖を産生および分解することにより情報流束を処理し、それによりひいてはネットワークの他のノードを活性化または阻害する。
【0023】
本発明のデジタル方法の一実施形態によると、ステップa)の混合物中の酵素は、ポリメラーゼ、ニッキング酵素、制限酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される。ポリメラーゼ、ニッキング酵素、および制限酵素は、等温増幅を駆動し、エキソヌクレアーゼは、系の飽和を回避することができる。
特に、本発明のデジタル方法で使用されるポリメラーゼは、Bst2.0 DNAポリメラーゼ、Bst大型断片DNAポリメラーゼ、クレノウ断片(3’->5’exo-)(クレノウDNAポリメラーゼ(Klenow(exo-)またはクレノウポリメラーゼ)とも呼ばれる)、Phi29 DNAポリメラーゼ、Vent(exo-)DNAポリメラーゼを含む群から選択され、より具体的には、ポリメラーゼは、Vent(exo-)DNAポリメラーゼである(New England Biolabs(NEB)から購入)。本発明の方法の一実施形態によると、1種またはそれよりも多くのポリメラーゼを同時に使用することができる。好ましい実施形態によると、ポリメラーゼVent(exo-)DNAポリメラーゼおよびクレノウ断片(3’->5’exo-)が一緒に使用される。クレノウポリメラーゼとVent(exo-)DNAポリメラーゼとの同時使用は、特に検出される生体分子がRNAである場合、増幅反応の速度増加を可能にする。速度の増加は、本質的にクレノウポリメラーゼによるものであるが、非特異的な増幅産物の出現を回避するために、Vent(exo-)DNAポリメラーゼの使用が依然として必要である。
【0024】
増幅反応の速度増加を得るために、クレノウポリメラーゼの濃度は、1~50u/mL、特に8~25u/mLの間に含まれ、さらにより具体的には、この濃度は16u/mLに制限される。
ニッキング酵素は、Nb.BbvCI、Nb.BstI、Nb.BssSI、Nb.BsrDIを含む群から選択され、特に、ニッキング酵素は、Nb.BsmIおよび/またはNt.BstNBIである(New England Biolabs(NEB)から購入)。1種よりも多くのニッカーゼを同時に使用することができる。
本発明の方法の一実施形態によると、ニッキング酵素を制限酵素に置き換えてもよい。一本鎖を切断するニッキング酵素とは対照的に、制限酵素は二本鎖を切断する。したがって、ニッキング酵素の代わりに制限酵素を使用する場合、本発明の方法で使用される鋳型を保護する必要がある。この保護は、例えば、鋳型を化学修飾することにより得ることができる。そのような修飾は、ホスホロチオエート連結などの骨格修飾を含む。
【0025】
本発明のデジタル方法で使用されるエキソヌクレアーゼは、例えば、RecJf、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼVIIから選択され、特に、エキソヌクレアーゼは、Yamagata(Yamagata et al., 2001)により記載のプロトコールに従って得られるttRecJエキソヌクレアーゼである。1種よりも多くのエキソヌクレアーゼを同時に使用することができる。
酵素およびオリゴヌクレオチドの混合物に使用される緩衝液は、選択されたオリゴヌクレオチド鋳型に適応するように構成されている。当業者であれば、従来の緩衝液を、特定の分子設計に適応するように構成することができるだろう。また、本出願の実験部分には、そのような緩衝液の例が示されている。例えば、好ましい実施形態では、反応緩衝液は、20mM Tris HCl pH7.9、10mM(NH4)2SO4、40mM KCl、10mM MgSO4、各50μMのdNTP、0.1%(質量/溶液)Synperonic F104、2μMネトロプシン、200μg/mL BSAを含む。
【0026】
一実施形態によると、特に、酵素が検出および/または定量化される場合、ステップa)の混合物は、少なくとも1種のモジュールを使用することを含む。
本発明のデジタル方法のステップa)の混合物の各オリゴヌクレオチドまたはモジュールは、最終的には、標的生体分子の変換、およびバックグラウンド増幅、つまり標的生体分子の非存在下で起こるシグナルの増幅反応を同時に誘導することなく、得られたシグナルの増幅を可能にする特異的な機能を有する。
したがって、この混合物は、増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチドまたは第1のモジュール、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチドまたは第2のモジュール、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチドまたは第3のモジュールを含む。特に、混合物は、酵素を検出および/または定量化するための第3のモジュールを含む。
【0027】
本発明の状況では、「増幅オリゴヌクレオチド」または「自己触媒鋳型」または「aT」という用語は、トリガー配列を指数関数的に増幅することができるオリゴヌクレオチドを指す。増幅オリゴヌクレオチドとして機能することができるオリゴヌクレオチドの例は、下記の表1に示されている。
本発明の状況では、「リーク吸収オリゴヌクレオチド」または「疑似鋳型」または「pT」という用語は、自己触媒鋳型よりも強力に、増幅された配列と結合するが、その3’末端に少数のヌクレオチドを付加するに過ぎず、したがって増幅された配列を、自己触媒鋳型に対するさらなるプライミングに関して不活性化する(その3’末端が自己触媒鋳型に対してもはやミスマッチであるため)オリゴヌクレオチドに関する。リーク吸収オリゴヌクレオチドは、本明細書では、バックグラウンド増幅(つまり、増幅されたシグナル配列の非存在下で生じる増幅)とも呼ばれる非特異的増幅の回避を可能にする。リーク吸収オリゴヌクレオチドは、リーキー反応(leaky reaction)から合成されるトリガーの不活性化を駆動する。疑似鋳型は、自己触媒鋳型とまったく同様に、分解から保護する必要がある。これは、5’末端における少数のホスホロチオエート修飾(またはビオチン-ストレプトアビジン修飾、反転または修飾ヌクレオチドなどの他のエキソヌクレアーゼ遮断能力)を使用して行われる。リーク吸収オリゴヌクレオチドの例は、下記の表1に示されている。
【0028】
本発明の状況では、「標的特異的変換オリゴヌクレオチド」または「変換鋳型」または「cT」という用語は、標的生体分子をユニバーサルトリガー配列(または本明細書では「シグナル」または「シグナル配列」とも呼ばれる)へと変換するオリゴヌクレオチドに関する。変換鋳型は、自己触媒鋳型と同様に、分解から保護されていてもよくまたは保護されていなくともよい。「変換モジュール」という用語は、本明細書で定義されている通りの変換オリゴヌクレオチドの群に関する。
本発明のデジタル方法の一実施形態によると、第1のオリゴヌクレオチドは、ニッキング酵素認識部位を含む部分的反復構造を含み、第2のオリゴヌクレオチドは、第1のオリゴヌクレオチドに沿って、重合の産物に結合し、それらを伸長し、不活性化し、ゆっくりと放出し、それにより閾値を誘導することができる。
【0029】
本発明のデジタル方法の別の実施形態によると、特に、標的がDNAまたはRNA配列である場合、第3のオリゴヌクレオチドの3’側は、標的配列に結合することができ、第3のオリゴヌクレオチドは、重合およびニッキング時に、第2のオリゴヌクレオチドの濃度を制御することにより調整される閾値を上回る第1のオリゴヌクレオチドを活性化することができる配列を出力する。
本発明のデジタル方法の一実施形態によると、第1のオリゴヌクレオチドの3’末端は、増幅された配列に対する親和性の低減を示す。
さらに別の実施形態では、第2のオリゴヌクレオチドの3’末端は、第1のオリゴヌクレオチドにより増幅される配列と相補的であり、第2のオリゴヌクレオチドの5’末端は、増幅された配列に不活性化テールを付加するための鋳型としての役目を果たす。
【0030】
本デジタル方法を実施するための一実施形態では、第1および第2のオリゴヌクレオチドの濃度は、第1のオリゴヌクレオチドの反応が、高濃度の増幅された配列での第2のオリゴヌクレオチドの反応よりも速いが、第2のオリゴヌクレオチドに対する反応が、低濃度の増幅された配列での第1のオリゴヌクレオチドの反応よりも速く、それにより刺激閾値を超えない限り増幅が効果的に排除されるように選択される。
別の実施形態では、第3のオリゴヌクレオチド(変換鋳型またはモジュール)は、検出および/または定量化される生体分子の性質に応じて異なる様式に設計することができる。特に、酵素を検出する場合、変換鋳型(モジュール)は、検出しようとする酵素の性質に応じて異なる様式に設計することができる。例えば、RNASe HおよびAP-エンドヌクレアーゼ(APE-1)は、感知鋳型のステム構造に、それぞれリボヌクレオチドおよび脱塩基部位(AP)を導入することにより検出することができる。ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)は、例えば、AP部位をデオキシリボウリジン部分で置換することにより検出することができる。制限酵素の検出は、感知鋳型の5’部分に認識部位を追加することにより達成することができる。変換鋳型は、標的酵素の基質としての役目を果たすように設計することができ、特定の配列、またはリン酸修飾、修飾核酸塩基、糖または骨格部分、ゆらぎ、ミスマッチ、平滑なまたは突出した端部、flap配列などの構造的特徴などの1種または複数種の化学修飾を含む。
【0031】
さらに別の実施形態では、特に、酵素を検出および/または識別するために、1種よりも多くの変換オリゴヌクレオチドを使用することができる。こうした鋳型は、上記に記載のように設計することができる。2種またはそれよりも多くのオリゴヌクレオチドで構成されるモジュールの使用は、例えば、標的酵素が二本鎖DNA基質に特異的である場合、または標的酵素が基質として複数の核酸鎖を使用する場合に可能である。こうした酵素としては、一部のDNA N-グリコシラーゼ(例えば、アルキルアデニングリコシラーゼ)またはDNAもしくはRNAリガーゼもしくはキナーゼ、トランスポサーゼ、DNAもしくはRNAヌクレアーゼが挙げられる。加えて、標的酵素が、最終的にトリガーの産生、増幅の開始に結び付く修飾のカスケードを誘発するように、変換モジュールを設計することが可能である。例として、酵素であるポリ(A)ポリメラーゼ(PAP)は、2種のオリゴヌクレオチドを使用して検出および定量化することができる。第1のオリゴヌクレオチドはポリアデニル化の基質としての役目を果たし、第2のオリゴヌクレオチドは、新たに重合されるポリ(A)テールを入力として使用してトリガー出力を産生するための鋳型としての役目を果たす。
【0032】
本発明のデジタル方法の一実施形態によると、リポートプローブである第4のオリゴヌクレオチドが添加される。
本発明の状況では、「リポートプローブ」または「リポート鋳型」または「rT」という用語は、トリガー配列の存在を検出可能なシグナルへと変換するオリゴヌクレオチドに関する。そのような検出可能なシグナルは、例えば、粒子凝集、培地ゼリー化、電気化学的シグナル、または化学発光シグナル、好ましくは蛍光シグナルを指す。したがって、リポートプローブは、好ましくは蛍光プローブである。
一実施形態では、リポートプローブは、増幅オリゴヌクレオチドにより増幅されたシグナル鎖を検出する。
【0033】
さらに別の実施形態では、リポートプローブは、フルオロフォアおよび/またはクエンチャーにより両端部が修飾された自己相補的DNA鎖である。本明細書で使用される場合、「自己相補的」という用語は、同じ分子の2つの異なる部分が、塩基相補的(A-TおよびG-C)であるために互いにハイブリダイズすることができることを意味する。本発明の場合、一本鎖プローブの2つの端部(3’および5’部分の少数のヌクレオチド)は、互いにハイブリダイズし、クエンチャーによるフルオロフォアのクエンチングを誘導することができる。増幅された配列は、リポート鋳型の部分に結合することができ、ステム-ループ構造の開環に結び付き、したがって蛍光シグナルが増強される。
また、リポートプローブは、ニッキング認識部位を含むループを含んでいてもよい。
【0034】
各標的ごとに設計(配列)および最適化(長さ)しなければならない従来技術で使用されるPCRプローブ(検出のために使用される)と比較して、本発明の方法で使用されるリポートプローブはモジュール式であり、これは、本発明の方法で使用されるリポートプローブが、適正な双安定モジュール(自己触媒鋳型+疑似鋳型)によるシグナル変換によりあらゆる標的に使用することができることを意味する。
本発明のデジタル方法のステップa)で使用される様々なオリゴヌクレオチド(鋳型)の例は、下記の表1に示されており、本出願の実施例セクションにも示されている場合がある。
【0035】
【0036】
上記の表1において、ビオチンおよびbiotegは、それぞれ、アミノエトキシ-エトキシエタノールリンカーおよびより長いトリエチレングリコールリンカーを使用したビオチン化シントンを指す。「*」は、ホスホロチオエート骨格修飾を示し、「p」は、3’リン酸修飾を示す。配列番号16~23および30では、鋳型上のトリガーの重合化産物のニッキングを回避するために、チミジン(T)がデオキシウリジン(U)に置き換えられている。Atto633、FAM、Cy5、Hex、Cy3.5、BMN3は、フルオロフォアであり、BHQ1、BHQ2、BMNQ530は、クエンチャーである。
【0037】
上記に列挙されている配列および本明細書に記載の例に基づき、鋳型の種々の組合せを使用して、本発明のデジタル方法を実施することができる。当業者であれば、本明細書およびヌクレオチド設計に関する一般知識から開始して、任意の目的の標的に対して本発明の方法を実施するために、他の鋳型および他の組合せを決定することができるだろう。
【0038】
特に、鋳型の配列の選択は、作用温度、使用される酵素、特にニッカーゼの速度および特異性のような実験パラメーターに依存する。好ましくは、Nb.BsmIニッカーゼ部位を含む増幅鋳型、およびNt.BstNBIで作用する鋳型を使用することができる。
本発明の方法の一実施形態によると、鋳型、好ましくは4種の鋳型(自己触媒鋳型、変換鋳型、疑似鋳型、およびリポート鋳型)は、増幅された配列である「ユニバーサルトリガー」の配列により連結される。
図3は、本発明のデジタル方法で好ましく使用される分子プログラムにおける回路の接続性の一実施形態を示す。ユニバーサルシグナル増幅部分は、双安定ノード、つまり、2つの状態:トリガーの非存在下における非生産的状態およびトリガーの濃度が所与の閾値を超えると増幅が開始される生産的状態を可能にする増幅系を生成する。この双安定ノードは、2種の鋳型:好ましくは12量体オリゴヌクレオチドの指数関数的複製を触媒する二重リピート配列で構成されている自動触媒鋳型(aT);自己触媒鋳型での非特異的反応に起因するリーク産物を吸収し、それによりバックグラウンド増幅を回避する疑似鋳型(pT)で構成されている。変換鋳型(cT)は、aTの上流に接続されており、標的がcTの入力部分に結合すると、変換鋳型は、複数の出力鎖の産生を触媒し、出力鎖は、ひいてはaTでの自己触媒反応を誘発する。aTの下流において、リポート鋳型(rT)は、増幅されたシグナル鎖を捕捉して、蛍光シグナルを生成する。本発明の方法の好ましい実施形態による詳細な反応ネットワークは、
図2に示されている。
【0039】
別の実施形態によると、増幅されたシグナルの読出しは、リポート鋳型を使用することによってではなく、例えば、DNA二本鎖インサート(EvagreenまたはSYBRグリーン)により、ナノ粒子を凝集させることにより、または特定のDNA構造、DNAザイムを形成することなどにより実施することができる。
本発明のデジタル方法のステップb)は、ステップa)で得られた混合物を、区画の一部が標的生体分子を含まないように幾つかの区画に分配することにより実施される。
試料の分配は、デジタル定量化法の基本である。デジタル定量化は、ごく少数の標的生体分子、好ましくは0~10個、より好ましくは0~5個、さらにより好ましくは0~2個、さらになおより好ましくは1個の分子が、区画のほとんどに存在するように、標的生体分子がランダムに分布されるような、増幅混合物を含む試料の分配に依存する。ランダム分配プロセスは、ポアソンの法則に従う、1区画当たりの標的生体分子の数の分布を生成する。デジタル定量法は、少なくとも一部の区画が標的生体分子を一切含まない場合に適用することができる。この空区画の割合は、1%より高く、好ましくは10%よりも高いべきである。したがって、本発明によると、区画のほとんどは、少なくとも1つの標的生体分子を含むが、こうした区画のすべてが含むわけではない。
【0040】
言い換えれば、ステップa)で得られる混合物の幾つかの区画への分配は、標的生体分子の分布が、少なくとも1つの生体分子を受け取った区画の数を区画の総数の100%未満にするように実施される。
本明細書で使用される場合、「デジタル方法」または「デジタル増幅法」という用語は、標的生体分子を含む試験試料が、幾つかのマイクロ区画に分配され、標的がポアソン分布に従って区画内にランダムに単離されている検出方法を指す。その後、各々個々の区画で反応が実施され、個別の事象の直接計数および絶対標的定量化が可能になる。
試料の分配は、微細加工チャンバー(例えば、Thermofisher ScientificのSlipChipまたはQuantStudio 3Dなど)または微小液滴(例えば、BioradのQX200システムまたはStilla TechnologiesのNaicaシステムなど)などの幾つかの手段により実施することができる。
本発明のデジタル方法の好ましい実施形態によると、試験試料は、2つの非混和性液体:試料水性相;およびウンデカン-1-オール、シリコン油、鉱物油、より好ましくは、水との非混和性が高く、生体適合性であり、低粘度であり、透明であり、マイクロ流体デバイスと一般に適合性であるため全フッ素置換油などの連続疎水性相を組み合わせることにより製作される数百万個の油中水型液滴内に分配される。
【0041】
液滴の平均サイズは、アッセイの実施可能性、アッセイの実施に必要な時間(単一標的を含む液滴を増幅するのに必要な時間に相当する)、およびアッセイのダイナミックレンジ(アッセイの感度の下限と、液滴の相当部分がオンにならない最も高い濃度との間で構成される濃度の範囲である)を決定するため、非常に重要である。実際、デジタル方式では、1つの液滴に封入された標的の単一コピーに対応する濃度が、バルクでの検出限界を上回る値に達するように、液滴のサイズを調整する必要がある。液滴が大き過ぎると、標的が単に希釈され過ぎてバックグラウンドと区別可能なシグナルを誘発しないため、アッセイの典型的な感度では検出されないだろう。また、液滴のサイズを十分に小さくして(したがって、液滴内の単一分子の濃度を十分に大きくして)、標的陽性液滴に対して妥当な時間(典型的には、数時間)で増幅が確実に誘発されるようにする必要がある。液滴が小さいほど、アッセイは高速になるだろう。最後に、上記の2つの条件に適切な液滴のサイズが決まると、デジタルアッセイのダイナミックレンジは、オンになる液滴の割合が陰性対照よりも著しく高い、より低いバルク標的濃度と、著しい割合の液滴がオンにならない濃度との間で構成される。より小さな液滴は、ダイナミックレンジをより高い濃度へとシフトさせ、より大きな液滴は、アッセイと適合性である場合、そのダイナミックレンジをより低い濃度へとシフトさせる。
【0042】
加えて、一部の技術的制約が、区画または液滴のサイズに適用される。より小さな単分散液滴は、生成がより困難であり得るが、典型的には、高温インキュベーションまたはサイクル中、より安定的である。
当技術分野のPCRベースデジタルアッセイのほとんどでは、直径が20~100マイクロメートル(つまり、4~500pL)の液滴が用いられている。これは、PCR増幅法の感度が高いためであり、それにより、この方法は、非常に低い初期標的濃度に適合性である。等温技法は感度がより低いため、より小さなサイズの液滴により良好に適している。目的の標的に応じて、本明細書に記載のアッセイは、一般には1pMよりも良好であり、酵素検出などの一部の場合では、1fMを達成することができる感度を、液滴分配を行わずに達成する。したがって、核酸検出、特にマイクロRNA検出のためには比較的小さく、酵素検出のためにはより大きくてもよい液滴を使用することが好ましい。アッセイのダイナミックレンジをシフトさせるために、液滴のサイズを変更することもさらに可能である。
一実施形態では、液滴のサイズは、1つの区画の容積に封入された標的の単一コピーが、ピコモル程度の値に到達するように調整される。また、これにより、標的陽性液滴の場合は妥当な時間(典型的には、数時間)で増幅が誘発されることも保証される。区画が大き過ぎる場合、標的が単に希釈され過ぎているため、アッセイの典型的な感度では増幅が可能にならないだろう。
【0043】
反応区画を小型化すると(チューブ内のマイクロリットル規模から液滴内のピコリットル規模へと)、増幅反応に確率論的効果(液滴内の鋳型および酵素分布、表面効果、生体分子と界面活性剤との相互作用、温度の不均一性に起因する)が加わる。こうした現象は、液滴の増幅開始時間の分散を意味する(つまり、単一標的を含む液滴がすべて、正確に同時に増幅するわけではないだろう)。サーモサイクルプロセスは、すべての区画間で複製サイクルを同期させるため、この分散は、PCRベースの反応ではあまり見られない。等温反応はオン時間分散がより大きいため、すべての標的含有液滴がオンになるまで、空液滴がオフのままであることが重要である。古典的な等温法(EXPAR、RCA、HCRなど)は、バルクでは良好な感度を呈するが、この制約に対処することはできない。等温デジタル手法では、このサイズの1つの区画に存在する標的生体分子の単一コピーが、言及されている目標濃度に到達するように、精密に選択されたサイズの区画と共に、標的濃度に十分な時間窓を提供する方法を使用する必要がある。
【0044】
一実施形態によると、本発明のデジタル方法で使用される液滴は、0.001pL~100pL、好ましくは0.1pL~10pL、より好ましくは0.5~5pL、または0.5~8pLの間に含まれるサイズを有する。好ましくは、本発明の方法が酵素を決定および/または定量化するために使用される場合、液滴のサイズは、5~8pLの間に含まれ、好ましくはこの場合の液滴のサイズは、7.2pLである。
別の実施形態によると、本発明の方法が酵素の検出および/または定量化に使用される場合、液滴のサイズは、0.5~100pL、特に5~50pL、より具体的には6~10pLの間に含まれていてもよい。
上記に示されているように、本発明の方法の主な利点は、標的生体分子が、直接的には検出されないが、シグナル配列へと変換されることである。これにより、標的生体分子の直接検出により引き起こされる感度および特異性の問題を回避することが可能になり、持ち越し夾雑のリスクも制限される。
【0045】
したがって、本発明の方法では、ステップb)にて混合物を分配した後、標的生体分子の配列は、ステップc)にて、好ましくは変換鋳型によりシグナルへと変換される。
本明細書で使用される場合、「シグナル」または「シグナル配列」という用語は、標的生体分子、好ましくは核酸分子、より好ましくはマイクロRNAの配列を、増幅され得る配列へと変換することにより得られる核酸配列、好ましくは一本鎖DNAに関する。
次いで、変換されたシグナル配列は、本発明の方法のステップd)にて増幅される。
一実施形態によると、ステップd)でのシグナル配列の増幅は、35~60℃、より好ましくは37~55℃、さらにより好ましくは45~50℃の範囲の一定の作用温度で実施される。
【0046】
本発明によると、ステップc)およびd)の化学反応は、同時に生じる。ステップc)およびd)は、インキュベーションステップとして設計することもできる。
増幅されたシグナル配列を検出および/または測定するためには、前記分子を標識する必要がある。好ましくは、標識は、量子ドット、粒子凝集などの有機色素または無機色素で標識された蛍光プローブを使用することにより実施される。当業者であれば、従来の標識手段を本発明のデジタル方法に適合させることができるであろう。
本発明のデジタル方法の好ましい実施形態によると、使用される標識は蛍光シグナルである。ステップd)にてシグナル配列を増幅するためにインキュベーションを行っている間に、標的生体分子は、その封入液滴にてシグナル増幅を誘発する。したがって、インキュベーション後、液滴は、陽性蛍光シグナルを呈する。
したがって、本発明のデジタル方法の一実施形態によると、増幅された前記シグナルを検出および/または測定するステップe)は、強い蛍光を発する区画を検出および/または計数することを含む。
【0047】
一実施形態では、本発明のデジタル方法を使用して、試験生体試料中の標的生体分子の絶対濃度を測定する場合、標的生体分子を受け取った区画である強い蛍光を示す区画、および非蛍光区画を計数し、それらの比を算出する。
好ましくは、蛍光顕微鏡による画像化は、陽性/陰性液滴の計数を可能にし、したがって、初期試料中の正確な標的生体分子濃度の算出が可能になる。
別の実施形態によると、別の従来法、例えばフローサイトメトリーを使用して、陽性/陰性液滴を計数してもよい。
好ましい実施形態によると、本発明のデジタル方法は、以下のように実施される:分子プログラム(緩衝液、上述の酵素、ポリメラーゼ、ニッキング酵素、およびエキソヌクレアーゼ、ならびに上述の4種のオリゴヌクレオチド鋳型)および標的生体分子含有試料を含む混合物を、標準的なマイクロ流体技法を使用して、ピコリットルサイズ(約0.1~5pL)の油中水型液滴内に分配する。標的は、ポアソンの法則に従って、液滴にランダムに分布される。次いで、標的生体分子のシグナルへの変換を可能にし、シグナルを増幅するために、エマルジョンを一定の作用温度(42~55℃の範囲)でインキュベートする。シグナルが増幅され、分配ステップ中に少なくとも1つの標的生体分子を受け取った液滴で蛍光がオンになる。同時に、空液滴は低い蛍光レベルのままである。液滴は、最終的には蛍光顕微鏡を使用して画像化される(蛍光活性化液滴選別(FADS)またはフローサイトメトリーなどの他の読出しを使用してもよい)。したがって、試験管実験に必要なリアルタイムモニタリングとは対照的に、読出しはエンドポイント測定に依存する。陽性/陰性液滴の比(または「オン/オフ」比とも呼ばれる)は、較正標準物質を参照せずに、初期試料中の正確な標的濃度の算出を可能にする。
【0048】
上述の生体分子は、すべてのタイプの試料に存在し得る。例えば、上述の生体分子は、非生命体から得られる試料(例えば、土壌試料、水試料、空気試料、食品試料など)または生命体から得られる試料、例えば、細胞、体液、または組織に存在してもよい。
本発明の方法の一実施形態によると、本発明のデジタル方法により検出および/または測定される標的生体分子は、バイオマーカーとして使用される。
本発明の状況では、「バイオマーカー」という用語は、天然に存在する分子、好ましくはそれにより特定の病理学的もしくは生理学的プロセス、疾患などを識別することができる生体分子、遺伝子、または特質に関する。
【0049】
こうしたバイオマーカーは、植物、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトなどの生命体の疾患を検出するために使用することができる。
さらに、こうしたバイオマーカーは、1種もしくは複数種の異常の検出に、ならびに食品および農業食品産業のために、または環境において使用することができる。
バイオマーカーは、例えば、すべての体液に存在し得、したがって、低侵襲液体生検(血清、血漿、尿、涙、唾液、汗など)を介してアクセス可能である。
好ましくは、それらは、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を検出するためのバイオマーカーとして使用される。
【0050】
本発明の状況では、「検出」という用語は、上記で定義されている通りの試料中の標的生体分子の検出を一般的な様式で定義するために使用される。
また、本明細書で使用される場合、「検出」という用語は、上記で挙げられている疾患の1つもしくは幾つかまたはそれらの症状の診断または予後に関する。また、検出は、上記疾患の1つもしくは幾つかを予測すること、または対象がこうした疾患の1つもしくは幾つかを発症するリスクを予測することを含む。
さらに、「検出」という用語は、農学的診断、つまり、植物病理、特に本発明で定義される通りの生物的または非生物的起源を有する植物病理の診断にさらに関する。
本発明の状況では、「がん」という用語は、調節解除されたかまたは制御されていない細胞増殖により特徴付けられる悪性新生物を指す。特に、「がん細胞」は、調節解除されたかまたは制御されていない細胞増殖を示す細胞を指す。
【0051】
「がん」という用語は、原発性悪性腫瘍(例えば、細胞が、元の腫瘍の部位以外の対象の体内の部位に移動していないもの)および二次性悪性腫瘍(例えば、転移、元の腫瘍の部位とは異なる二次部位へと腫瘍細胞が移動することから生じるもの)を含む。そのようながんは、特に、固形がんの群および/または造血器がんの群から選択してもよい。
【0052】
本発明の一実施形態では、がんは、以下のものから選択される:骨溶解症、骨の肉腫(骨肉腫、ユーイング肉腫、骨巨細胞腫瘍)、骨転移、神経膠芽細胞腫および脳がん、肺がん、聴神経腫、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(単球性、骨髄芽球性、腺癌、血管肉腫、星状細胞腫、骨髄性単球性、および前骨髄球性)、急性T細胞白血病、基底細胞癌、胆管癌、膀胱がん、乳がん、気管支原性癌、頸部がん、軟骨肉腫、脊索腫、絨毛癌、慢性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭癌、嚢胞腺癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、増殖異常性変化(異形成および化生)、胚性癌、子宮内膜がん、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、上衣腫、上皮癌、赤白血病、食道がん、エストロゲン受容体陽性乳がん、本態性血小板血症、線維肉腫、濾胞性リンパ腫、胚細胞精巣がん、神経膠腫、重鎖病、血管芽細胞腫、肝細胞腫、肝細胞がん、ホルモン非感受性前立腺がん、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、肺がん、リンパ管内皮肉腫(lymphagioendotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ芽球性白血病、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキン)、膀胱、乳房、結腸、肺、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、および子宮の悪性腫瘍および過剰増殖性障害、T細胞またはB細胞起源のリンパ性悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、髄質癌、髄芽細胞腫、メラノーマ、髄膜腫、中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄性白血病、骨髄腫、粘液肉腫、神経芽細胞腫、非小細胞肺がん、乏突起膠腫、口腔がん、骨形成性肉腫、卵巣がん、膵臓がん、乳頭状腺癌、乳頭癌、松果体腫、真性多血症、前立腺がん、直腸がん、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、脂腺癌、セミノーマ、皮膚がん、小細胞肺癌、固形腫瘍(癌腫および肉腫)、小細胞肺がん、胃がん、扁平上皮癌、滑膜腫、汗腺癌、甲状腺がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、精巣腫瘍、子宮がん、ならびにウィルムス腫瘍。
【0053】
本発明の状況では、「神経疾患」という用語は、脳、脊髄、脳神経、末梢神経、神経根、自律神経系、神経筋接合部、および筋肉を含む中枢神経系および末梢神経系の疾患を指す。神経疾患は、神経発達疾患、神経変性疾患、または精神疾患から選択される。神経疾患には、てんかん、アルツハイマー病および他の認知症、脳卒中、片頭痛、および他の頭痛障害を含む脳血管疾患、多発性硬化症、パーキンソン病、神経感染症、脳腫瘍、頭部外傷による神経系の外傷性障害などが挙げられる。
本明細書で使用される場合、「心血管疾患」は、冠状動脈性心疾患:心筋に供給する血管の疾患;脳血管疾患:脳に供給する血管の疾患;末梢動脈疾患:腕および脚に供給する血管の疾患;リウマチ性心疾患:連鎖球菌により引き起こされるリウマチ熱による心筋および心臓弁の損傷;先天性心疾患:出生時に存在する心臓構造の奇形、および深部静脈血栓症、および肺塞栓症:剥離して心臓および肺に移動し得る脚静脈の血栓を含む心不全または血管不全に関する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「炎症性疾患」は、好ましくは、急性膵炎;ALS;アルツハイマー病;悪液質/食欲不振;喘息;アテローム性動脈硬化症;慢性疲労症候群、発熱;糖尿病(例えば、インスリン糖尿病);糸球体腎炎;移植片対宿主拒絶反応;出血性ショック;痛覚過敏、炎症性腸疾患;変形性関節炎、乾癬性関節炎、および関節リウマチを含む関節の炎症状態;脳虚血を含む虚血性傷害(例えば、外傷、てんかん、出血、または脳卒中の結果としての脳傷害、これらの各々は神経変性に結び付き得る);肺疾患(例えば、ARDS);多発性骨髄腫;多発性硬化症;骨髄性(例えば、AMLおよびCML)および他の白血病;ミオパチー(例えば、特に敗血症における筋タンパク質代謝);骨粗鬆症;パーキンソン病;疼痛;早期陣痛;乾癬;再灌流傷害;敗血症性ショック;放射線療法、側頭下顎関節疾患、腫瘍転移の副作用;または挫傷、捻挫、軟骨損傷、外傷、整形外科手術、感染症、もしくは他の疾患プロセスに起因する炎症状態を指す。
【0055】
本発明の状況では、「自己免疫疾患」は、対象の身体が、対象自身の組織および細胞に対する抗体を産生する状態であると定義される。自己免疫疾患の例は、I型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡などである。
【0056】
ウイルス感染または細菌感染による疾患は、病原性ウイルスまたは細菌菌株により引き起こされる。そのような疾患の例は、AIDS、回虫症;水虫;細菌性赤痢、水痘;コレラ、風邪、デング熱、下痢、ジフテリア、フィラリア症、淋病、ヘルペス、鉤虫症、インフルエンザ風邪、ハンセン病、はしか、おたふく風邪、東洋瘤腫、蟯虫疾患、ペスト、肺炎、灰白髄炎、狂犬病、白癬、敗血性咽頭痛、睡眠病、天然痘、梅毒、破傷風、腸チフス、膣炎、ウイルス性脳炎、百日ぜきなどである。
「皮膚疾患」は、例えば、以下のものなど、皮膚に影響を及ぼす状態である:にきび、円形脱毛症、基底細胞癌、ボーエン病、先天性赤血球生成性ポルフィリン症、接触性皮膚炎、ダリエー病、播種性表在性光線性汗孔角化症、ジストロフィー型表皮水疱症、湿疹(アトピー性湿疹)、乳房外パジェット病、単純性表皮水疱症、骨髄性プロトポルフィリン症、爪の真菌感染症、ヘイリーヘイリー病、単純ヘルペス、化膿性汗腺炎、多毛症、多汗症、魚鱗癬、膿痂疹、ケロイド、毛孔性角化症、扁平苔癬、硬化性苔癬、メラノーマ、黒皮症、粘膜類天疱瘡、類天疱瘡、尋常性天疱瘡、苔癬状粃糠疹、毛孔性紅色粃糠疹、足底疣贅(疣贅)、多形日光疹、乾癬性壊疽性膿皮症、酒さ、疥癬、帯状疱疹、扁平上皮癌、スイート症候群、蕁麻疹、および血管浮腫、白斑。
【0057】
本明細書で使用される場合、「骨格筋疾患」は、骨、筋肉(ミオパチー)、および骨格筋接合部の疾患に関する。例えば、そのような疾患は、背痛、滑液嚢炎、線維筋痛症、線維性骨異形成症、成長軟骨板傷害、遺伝性結合組織障害、マルファン症候群、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、骨パジェット病、脊柱側弯症、脊柱管狭窄症、腱炎などから選択される。
本明細書で使用される場合、「歯科疾患」は、歯および口の問題に関する。そのような疾患の例は、歯腔、歯周(歯ぐき)疾患、口腔がん、口腔感染性疾患、傷害による外傷、および遺伝性病変などである。
本明細書で使用される場合、「出生前疾患」は、以下のものなどの妊娠または胎児発育に影響を及ぼし得る疾患に関する:AIDS、羊水、妊娠中の出血、子宮頸部障害、妊娠糖尿病、播種性血管内凝固症候群(DIC)、子宮外妊娠、胎児赤芽球症、胎児発育問題、妊娠中の高血圧、HELLP症候群、胞状奇胎、妊娠悪阻、子宮内胎児発育遅延、胎児発育過剰(LGA)、流産、胎盤早期剥離、前置胎盤、胎盤機能不全、羊水過多症、出生前検査、妊娠損失、早期陣痛および出産、風疹、胎児発育遅延(SGA)、全身性紅斑性狼瘡、トキソプラズマ症、双胎間輸血症候群、双子、三つ子、多子出産、妊娠中の膣出血。
【0058】
したがって、本発明のデジタル方法は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を診断するためのin vitro診断法に使用することができる。
したがって、第2の態様では、本発明は、がん、神経疾患、心血管疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染または細菌感染による疾患、皮膚疾患、骨格筋疾患、歯科疾患、および出生前疾患を含む群から選択される疾患を診断するためのin vitro方法であって、本発明によるデジタル方法を使用することを含むin vitro方法に関する。
【0059】
一実施形態によると、上記診断法は、
対象から得られる試料を準備するステップ、および
本発明のデジタル方法を使用することにより、上記疾患の1つまたは複数の存在または非存在を検出するステップ
を含む。
本発明のデジタル方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、農学的診断方法、特に感染性および寄生虫性疾患などの生物的ストレスにより引き起こされる疾患、または栄養欠乏もしくは不利な環境などの非生物的ストレスにより引き起こされる疾患の診断に、本発明のデジタル方法を使用することを可能にする。
【0060】
また、第3の態様によると、本発明は、
生物的ストレス、好ましくは感染性および/もしくは寄生虫性原因により引き起こされる疾患、または
非生物的ストレス、好ましくは栄養欠乏および/もしくは不利な環境により引き起こされる疾患
を含む群から選択される疾患の農学的診断のためのin vitro方法であって、
本発明のデジタル方法を使用することを含む、in vitro方法に関する。
一実施形態によると、農学的診断方法は、
植物の部分のいずれか1つから得られる試料を準備するステップ、および
本発明のデジタル方法を使用することにより、上記疾患の1つまたは複数の存在または非存在を検出するステップ
を含む。
【0061】
本発明の状態では、「農学的診断」という用語は、植物病理の診断に関し、前記診断は、真菌、ウイルス、細菌、線虫、および生物的ストレスを引き起こす任意の他の生命体を識別するために、ならびに/またはそれらの存在が非生物的ストレスによる生体分子を識別するために、植物試料の分析を実施することを含む。
本発明の状況では、「植物病理」または「植物疾患」という用語は、生物的または非生物的ストレスによる植物の形態学的特徴、生理学的特徴、または挙動の変化により顕在化する植物異常に関する。
本明細書で使用される場合、「生物的ストレス」という用語は、生命体により引き起こされるストレスまたは疾患にも関する。生物的ストレスは、いかなる生命体により引き起こされるものであってもよいが、好ましくは、感染性および/または寄生虫性原因を有し、真菌、ウイルス、細菌、および線虫から選択される生物により引き起こされるものであってもよい。
【0062】
一実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、真菌により引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、炭疽病、黒節病、胴枯れ病、栗胴枯れ病(葉枯れ病など)、がん腫病、根こぶ病、立ち枯れ病、ニレ立ち枯れ病、麦角病、フサリウム萎凋病、パナマ病、葉水疱(leaf blister)、白カビ(べと病およびウドンコ病など)、カシ萎凋病、腐敗病(基部腐敗、灰色カビ腐れ、心腐れなど)、さび病(発疹さび病、シダーアップルさび病、およびコーヒーさび病)、瘡痂病(リンゴ瘡痂病など)、黒穂病、ムギ黒穂病、トウモロコシ黒穂病、雪腐れ病、すす病、およびバーティシリウム萎凋病から選択される。
別の実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、ウイルスにより引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、萎縮病、モザイク病、ソローシス、および黄化壊疽病から選択される。
【0063】
さらに別の実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、細菌により引き起こされる疾患の診断に使用することができ、前記疾患は、アスター萎黄病、青枯れ病、胴枯れ病(火傷病および米斑点細菌病など)、がん腫病、クラウンゴール、腐敗病、基部腐敗、および瘡痂病から選択される。
また、本発明の農学的診断方法は、ネコブ線虫(メロイドギン種(Meloidogyne spp.)など)、シスト線虫(ヘテロデラ種(Heterodera spp.)およびグロボデラ種(Globodera spp.)など)、根病変線虫(プラチレンクス種(Pratylenchus spp.)など)、穿孔線虫(ラドホルス・シミリス(Radopholus similis)など)、ジチレンクス・ジプサシ(Ditylenchus dipsaci)、マツ材線虫(ブルサフェレンクス・キシロフィルス(Bursaphelenchus xylophilus)など)、レニフォーム線虫(ロチレンクルス・レニホルミス(Rotylenchulus reniformis)など)、ブドウオオハリセンチュウ(Xiphinema index)、ニセネコブセンチュウ(Nacobbus aberrans)、イネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi)から選択される線虫により引き起こされる疾患の診断に使用することができる。
【0064】
一実施形態によると、本発明の農学的診断方法は、「非生物的ストレス」により引き起こされる疾患を診断するために使用され、「非生物的ストレス」という用語は、生命体により引き起こされるものではない疾患を規定する。こうした疾患は、好ましくは、栄養欠乏および/または不利な環境により引き起こされる。例えば、非生物的ストレスは、不適切なpH、水利用可能性(干ばつストレス)、温度(熱ストレスおよび寒冷ストレス)、酸素および/または気体利用可能性、ミネラル欠乏(塩分ストレス)、および毒性化合物(汚染物質など)により引き起こされ得る。
また、本発明のデジタル方法の特異性、感度、単純性、および迅速性は、食品、農業食品産業の分野のおよび環境中の生体分子を検出するための方法に、本発明のデジタル方法を使用することを可能にする。特に、本発明のデジタル方法は、食品、農業食品、および環境の異常を検出するために使用される。この検出は、上記異常に関するバイオマーカーであるとみなすことができる生体分子を検出するための本発明のデジタル方法を使用することにより実施される。
【0065】
そのような生体分子は、例えば、生命体の一部であってもよく、または生命体の活性により産生されてもよく、または人工生体分子であってもよい。こうした生体分子(またはバイオマーカー)は、生体高分子、特に、DNA、RNA、タンパク質、および酵素を含む群から選択される。
前記生体分子は、農業食品および食品における元のおよび/または変換された産物中に存在する。
また、生体分子は、環境中に、例えば、空気中、水中、および/または土壌中に存在してもよい。
したがって、一態様によると、本発明は、農業食品、食品産業、および/または環境中の生体分子(バイオマーカー)を検出するためのin vitro方法であって、本発明のデジタル方法を使用することを含むin vitro方法にも関する。
【0066】
本発明の状況では、「食品」という用語は、工業プロセスを使用せずに、またはそのようなプロセスを使用することにより生産される、基本的なまたは変換されたすべての食品に関する。
本発明の状況では、「農業食品」という用語は、農業食品産業、つまり農業経営による食品の商業的生産に関する。
「環境」または「環境の」という用語は、自然環境、つまり、すべての植物、微生物、土壌、岩石、大気、ならびにそれらの境界および性質内で生じる自然現象を含む、大規模な文明化された人間の介入がない自然系として機能する生態学的単位に関する。こうした用語は、人間が作り出すことができる非自然または人工環境にも関する。一態様によると、本発明は、本発明のデジタル方法を使用して、食品および農業食品産業および/または環境中の異常を検出するためのin vitro方法にも関する。
【0067】
好ましくは、上記方法は、
食品から、農業食品から、または環境から得られる試料を準備すること、
本発明のデジタル方法により、前記試料中の試験生体分子(バイオマーカー)を検出すること
を含む。
【0068】
また、本発明者らは、本発明の方法を使用して、異なる試料に由来する異なる標的生体分子を同時にまたは並行して検出および/または定量化することができることを実証した。そのために、一実施形態では、試料を、例えば、蛍光染料でバーコード化してもよく、その結果、各液滴のバーコード蛍光強度を初期試料の各々に割り当てることが可能になる。バーコードプロトコールは、例えば、Brouzes et al. (2009)およびGenot et al. (2016)に開示されている。このバーコード手順のおかげで、複数の試料を同時に乳化、収集、インキュベート、および分析することができるため、検出時間およびコストの削減が可能になる。
したがって、第4の態様によると、本発明のデジタル方法は、1つよりも多くの試料、または試料中の1種よりも多くの標的生体分子を並行してアッセイするために使用することもできる。
【0069】
好ましい実施形態によると、提供されるシグナルが弱い場合でも、1つまたは1つよりも多くの異なる試料中の1種よりも多くの生体分子を直接的に検出および/または定量化するために、本発明者らは、驚くべきことに、クロストーク阻害性オリゴヌクレオチド(本明細書では「キラーオリゴヌクレオチド」または「キラー鋳型」と呼ばれる)である第5のオリゴヌクレオチドを使用すると、本方法の特異性を著しく向上させることが可能になることを見出した。この実施形態は、分子クロストークが、マルチプレックス化検出チャネル間の望ましくない通信を発生させるという事実のため、非特異的シグナル増幅を抑制するDNAコード化阻害剤と相互接続された標的特異的DNA回路(aT、cT、pT、および/またはrTを含む)に依存する。
したがって、本発明の状況では、「キラーオリゴヌクレオチド」または「キラー鋳型」または「kT」は、逆スイッチの疑似鋳型(pT)を産生することができ、それにより増幅の交差阻害剤として作用し、非特異的クロストークを軽減するオリゴヌクレオチドに関する。キラー鋳型の配列の例は、下記の表1Aに示されている。
【0070】
【0071】
阻害反応の強度を制御するために、1pMおよび100nM、好ましくは10pM~20nM、さらにより好ましくは100pM~10nM。したがって、この実施形態によると、本発明の生体分子を検出および/または識別するためのデジタル方法は、2種またはそれよりも多くの生体分子を検出および/または定量化するために、交差阻害性オリゴヌクレオチドである第5のオリゴヌクレオチドを添加することをさらに含む。
また、本発明は、本発明の方法に従って標的生体分子を検出および/または定量化するために使用することができるキットに関する。
【0072】
一態様によると、本発明は、少なくとも1種の標的生体分子を検出および/または定量化するためのキットであって、
a)好ましくは、ポリメラーゼ、ニッキング酵素、およびエキソヌクレアーゼを含む群から選択される酵素の混合物、
b)増幅オリゴヌクレオチドである第1のオリゴヌクレオチド、リーク吸収オリゴヌクレオチドである第2のオリゴヌクレオチド、および標的特異的変換オリゴヌクレオチドである第3のオリゴヌクレオチド、および任意に、リポートプローブである第4のオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドの混合物、ならびに
c)分配剤、好ましくは油中水型エマルジョン
を含むキットに関する。
【0073】
キットの部品、つまり、酵素、オリゴヌクレオチド、および分配剤は、上記で定義されているものと同様である。
また、本発明のキットは、使用説明書を含んでいてもよい。
本発明の特定の実施形態は、下記の実施例および図から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】マイクロ流体チップ設計(縮尺バーは100μmを表す)。
【
図2】液滴分析。a)油中水型液滴を2枚の疎水性スライドガラスの間に挟み、落射蛍光顕微鏡で画像化した。b)Atto633蛍光チャネル。c)明視野チャネル、d)10μmオフセットで焦点をぼかした明視野チャネル。この設定により、液滴輪郭が強調され、液滴区分化が容易になる。e)明視野画像(d)を2値化し、f)形態学的成分コマンド(morphological component command)を使用してすべての液滴を区分化する。g)液滴を、それらのサイズおよび真円度に従ってフィルタリングする。h)各液滴の蛍光を、半径r(3<r<6ピクセル)および中心xy(xyは、選択した成分の重心に対応する)の円板から抽出する。i)陽性液滴は、設定閾値(ここでは、閾値=7)を超える蛍光を有する液滴に対応する。液滴容積が既知であれば、濃度は、ポアソンの法則から算出される。
【
図3】マイクロRNAの検出に特化した分子プログラム。a)4鋳型DNA回路は、分子プログラムの接続性をコードし、その反応は、1セットの酵素(ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ)により触媒される:変換鋳型(cT)は、標的マイクロRNAをユニバーサルトリガー配列へと変換する;自己触媒鋳型(aT)は、トリガー配列を指数関数的に増幅する;非特異的増幅を回避するために(マイクロRNAの非存在下での)、疑似鋳型(pT)は、リーキー反応から合成されたトリガーの不活性化を駆動する;リポート鋳型(rT)は、トリガー配列を使用して蛍光シグナルを発生させる。b)漸増濃度のLet-7aの存在下における増幅反応のリアルタイムモニタリング。c)増幅時間(Cq)とLet-7a濃度との相関性。誤差バーは、3回の独立重複実験から算出した。
【
図4】
図3に示されているマイクロRNAを検出するための分子プログラムの詳細な化学反応ネットワーク。
【
図5】Let-7aのバルク検出。a)完全な分子プログラム、b)コンバーター鋳型(converter template)を有しない分子プログラム、またはc)疑似鋳型(pT)を有しない分子プログラム。増幅反応をリアルタイムでモニターし、増幅時間(Cq)をLet-7a濃度の関数としてプロットする。
【
図6】マイクロRNAの液滴デジタル検出。a)試料を、分子プログラムと混合し、数百万個の単分散液滴へと分配し、それにより区画全体にわたるマイクロRNA標的のランダム分布がもたらされる。インキュベーション後、液滴を蛍光顕微鏡により画像化する。少なくとも1つの標的を受け取った液滴は陽性蛍光シグナルを呈し(1)、他の液滴は陰性のままである(0)。b)増幅後に漸増濃度のLet-7aでスパイクした乳化試料の蛍光スナップショット。c)30000個の液滴の分析。d)予想される標的濃度(理論濃度)と実験的に測定された標的濃度(測定濃度)との間の線形関係性のプロット。e)コンバーター鋳型を適応させることによる他のマイクロRNAアッセイ。f)Let7c(1つのミスマッチ)およびLet7b(2つのミスマッチ)に対するLet7aの交差反応性から評価した本発明の方法の特異性。
【
図7】Let7aの検出に対する疑似鋳型濃度およびNb.BsmI濃度の効果。規定濃度のpT(0~15nM)およびNb.BsmI(0.1~0.4u/μL)を含む試料を、0または1pMのLet-7aでスパイクし、増幅反応をリアルタイムでモニターした。a)Cqを、pT濃度およびNb.BsmI濃度の関数としてプロットする。MDSを、b)疑似鋳型濃度およびc)Nb.BsmI濃度の関数としてプロットする。
【
図8】Nt.BstNBI濃度の最適化。0または1pMのLet7aでスパイクした試料を、様々な濃度のNt.BstNBIの存在下でインキュベートする。Cqを、Nt.BstNBI濃度の関数としてプロットする。
【
図9】偽陽性液滴率を低減するための分子プログラム。様々な濃度の疑似鋳型(pT)を有する無標的試料を液滴へと分配する。エマルジョンの蛍光をリアルタイムでモニターする。
【
図10】非特異的増幅反応の排除。0または15nMのpTを有する分子プログラムを、分配前に、0または1pMの合成Let-7aでスパイクした。液滴を50℃でインキュベートし、バルク蛍光(エマルジョン平均)を継続的にモニターする(実線)。異なる時点でインキュベーションを中止し、液滴を蛍光顕微鏡で画像化して、陽性区画(ひし形)のパーセンテージを抽出する。
【
図11】生物学的試料からのマイクロRNA検出。a)H1975細胞株からのLet7a検出。b)ヒト結腸全RNAからのLet7aおよびmir-39ce検出。
【
図12】Let7aマイクロRNAの検出に対するクレノウ(exo
-)の効果。a)0または10pMのLet7aおよび様々な濃度のクレノウ(exo
-)の存在下でのリアルタイム増幅反応。b)クレノウ(exo
-)濃度の関数としての増幅時間(Cq)。c)実験条件。
【
図13】クレノウ(exo
-)およびVent(exo
-)の混合物を使用したLet7aのデジタル検出。a)スパイクイン予想濃度の関数としての測定濃度。b)実験条件。ミックスA(酵素を含む)およびミックスB(鋳型を含む)を、3インレットフローフォーカシングデバイス(3-inlet flow focusing device)を使用してチップ上で混合する。液滴を50℃で200分間インキュベートする。
【
図14】血漿試料中のcel-miR39の検出。健康ドナーからヒト血液試料を収集し、遠心分離により血漿を得た。0または1pMのcel-miR39を、5%血漿(容積/容積)およびRNAse阻害剤で補完された増幅混合物にスパイクする。プロットに報告されている測定濃度は、5%血漿中の外因性マイクロRNAが完全に回収されたことを示す。
【
図15】変換モジュール設計および酵素活性のバルク検出(標準偏差は少なくとも3つの独立データポイントから算出)。a)Nt.BstNBI、b)RNAseH2。c)APE-エンドヌクレアーゼ1(APE-1)。d)ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)。e)アルキルアデニングリコシラーゼ(AAG)。f)BsmAI制限酵素。g)ポリ(A)ポリメラーゼ(PAP)。h)T4 DNAリガーゼ。i)T4ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 PNK)。
【
図16】酵素のデジタル検出。a)6つの異なる濃度のNt.BstNBI酵素の2D液滴アレイの顕微鏡スナップショット。b)様々な酵素のスパイクイン濃度(u/mL)の関数としての測定濃度(fM)。線形関係性は、デジタル読出しにより絶対的定量性が提供されることを示す。誤差バーは、測定の95%信頼区間に対応する。
【
図17】小型(0.95pL)液滴および大型(7.2pL)液滴でのNt.BstNBIのデジタルアッセイ定量化の比較。両実験で算出された濃度は一致していた。誤差バーは、測定の95%信頼区間に対応する。
【
図18】2つの交差阻害性双安定スイッチで構築された四安定系(tetrastable system)。(a)四安定DNA回路の概略図。2つのマイクロRNA感知回路(cT、aT、pT、rT)は、望ましくない交差活性化を抑制するキラー鋳型αkβおよびβkαにより相互接続されている。(b)5種類の鋳型の詳細な機構(pol.=Vent(exo
-)、ニック1=Nt.BstNBI、ニック2=Nb.BsmI、RE=BsmI、exo=ttRecJ)。変換鋳型(cT)は、相補的マイクロRNA標的をシグナル鎖(αまたはβ)に変換する。自己触媒性鋳型(aT)は、シグナル鎖を指数関数的に増幅する。疑似鋳型は、シグナル鎖の一部を不活性化することにより、生化学的ノイズに起因するバックグラウンド増幅を抑制する。リポート鋳型(rT)は、分子シグナル(αまたはβ)を検出可能な蛍光シグナルへと転換する(緑色=Oregon greenフルオロフォア、赤色=Atto633フルオロフォア)。キラー鋳型(kT)は、α鎖またはβ鎖から、逆スイッチのpTを産生し、非特異的クロストークを軽減する。産生された鎖はすべて、エキソヌクレアーゼにより継続的に分解され、系のダイナミクスが維持される。ここには、四安定回路の半分のみが示されており、残りの半分は、αをβに置き換えることにより、およびその逆で得られる。
【
図19】キラー鋳型効率。(a)mir39の場合は10pMで誘発されるαスイッチは、キラー鋳型αkβに接続され、様々な長さのpTβ(0~5つの範囲のアデニル酸部分の不活性化テールを有する)を産生する。(b)kTの濃度の関数としてのβスイッチの蛍光(t=1000分)。
【
図20】
図19の拡張データ。(a)様々な長さのpTβを産生する様々な濃度のαkβの増幅曲線。(b)αkβ濃度の関数としてプロットされたCq
【
図21】αスイッチとβスイッチとの間の交差活性化を抑制するためのkT濃度の決定。(a)Aおよびβ回路は、漸増濃度のαkβおよびβkαの存在下で、それぞれ0または10pMのmir92aおよびlet7aで誘発される。(b)αスイッチおよびβスイッチの増幅時間(Cq)。(c)kT濃度の関数として色分けされたCqの表示。破線青色枠は、系が四安定性に到達するkTの濃度を表す。(d)mir39/mir7デュプレックスアッセイの増幅曲線(各標的0または10pM)。(e)7つの異なるデュプレックスアッセイで測定されたCq。左の挿入図は、7つのアッセイの平均Cqおよび標準偏差を表す。
【
図22】デジタルデュプレックスアッセイの原理。(a)4つの試料(0pM mir39/0pM let7a、3pM mir39/0pM let7a、0pM mir39/3pM let7a、3pM mir39/3pM let7a)からマイクロ流体チップを用いて液滴を生成し、エマルジョンを顕微鏡で分析した。(b)プローブの蛍光の2Dヒストグラム(αスイッチ=緑色蛍光-mir39、βスイッチ=赤色蛍光-let7a)。垂直および水平の破線は、それぞれαスイッチおよびβスイッチの陽性閾値を示す。(c)測定標的濃度対予想標的濃度のヒストグラム。(d)組成が異なる種々の試料のデジタルデュプレックスアッセイ(マイクロRNA標的および濃度)。
【
図23】溶液中でのシングルプレックス対デュプレックスアッセイ。(a)増幅ミックスならびに0または3pMのlet7aおよびmir39標的と共に別々にインキュベートしたα(上段)およびβ(下段)双安定回路の増幅曲線(シングルプレックスアッセイ)。(b)完全な四安定回路に埋め込まれたαスイッチおよびβスイッチの増幅曲線(デュプレックスアッセイ)。(c)重複実験で測定された増幅時間。こうしたデータから、キラー鋳型は、こうした条件では増幅時間にほとんど影響を与えないと結論付けた。
【
図24】ブランクシングルプレックス対デュプレックスアッセイの限界。4つの試料を以下のようにアセンブリする:試料A=α回路のみ、0pM標的、試料B=β回路のみ、0pM標的、試料C=αおよびβ回路、0pM標的、試料D=αおよびβ回路、1pM標的mir39およびlet7e。(a)溶液中での4つの試料の増幅曲線。(b)マイクロ流体チャンバーの部分の合成画像(明視野、緑色蛍光、および赤色蛍光)。(c)液滴蛍光の2Dヒストグラム(αスイッチ=緑色蛍光、βスイッチ=赤色蛍光)。(d)陽性液滴のパーセンテージ。偽陽性液滴のパーセンテージは、アッセイがシングルプレックスで実施されるかまたはデュプレックスで実施されるかに関わらず質的に類似している(シングルプレックスでは偽陽性α=1.1%、デュプレックスでは1.1%、シングルプレックスでは偽陽性α=0.25%、デュプレックスでは0.28%)。
【実施例】
【0075】
下記の実施例の目的は、本発明が、等温核酸増幅のアナログ法をデジタル化することにより高感度分子検出を可能にすることを実証することである。
【0076】
(実施例1)
本発明のデジタル方法によるマイクロRNAの検出
方法および物質
化学物質:オリゴヌクレオチド(鋳型および合成マイクロRNA)はBiomers(ドイツ)から購入した。配列をHPLCで精製し、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析で確認した。鋳型は、Montagneらにより記載の規則に従って設計した(Montagne et al, 2011およびMontagne et al., 2016)。自己触媒鋳型(aT)、疑似鋳型(pT)、およびリポート鋳型(rT)は、5’ホスホロチオエート骨格修飾により、エキソヌクレアーゼによる分解から保護されている。非特異的重合を回避するため、3’ブロッキング部分(aT、pT、cTはリン酸基およびrTはクエンチャー)を使用する。下記の表2は、本発明の全体を通して使用されるすべて配列が要約されている。
【0077】
【0078】
Nb.BsmIおよびNt.BstNBIニッキング酵素、Vent(exo-)DNAポリメラーゼ、およびBSAは、New England Biolabs(NEB)から購入した。0.1%Triton X-100で補完された希釈液A(NEB)にストック酵素を溶解することにより、Nt.BstNBIの10倍希釈物を調製した。エキソヌクレアーゼttRecJは、Yamagataにより発表されたプロトコール(Yamagata et al., 2001)に従って施設内培養で発現させ、クロマトグラフィーで精製した。酵素は、希釈液A+0.1%TritonX-100中1.53μMで保管した。タンパク質はすべて-20℃で保管した。
細胞培養。ヒト非小細胞肺がん細胞株H1975細胞および結腸直腸がん細胞株HCT116細胞を、miRNA抽出に使用した。HCT116細胞を、10%FCS、100単位/mLペニシリンG、および100μg/mLストレプトマイシンで補完されたDMEM/F12培地で培養した。H1975細胞を、10%(容積/容積)FBS、100単位/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンで補完されたRPMI1640培地で培養した。細胞は37℃の5%CO2インキュベーター内で増殖させた。
【0079】
マイクロRNA抽出:ヒト結腸全RNA(Thermofisher Scientific)を13μg/mLにアリコートし、使用するまで-20℃で保管した。細胞抽出では、TaqMan(登録商標)miRNA ABC精製Kit(Applied Biosystems)を使用し、キットの説明書に従って、約1×106細胞からマイクロRNAを抽出した。手短に言えば、細胞を、50μLの1×PBSに再懸濁し、150μLの溶解緩衝液と混合した。細胞溶解ステップの後、2μLの1nM外部対照cel-miR-39-3pオリゴヌクレオチド(Biomers)を、調製した試料にスパイクし、ボルテックスして、抽出効率を評価する。磁気Human Panelビーズを使用して標的マイクロRNAを捕捉し、100μLの溶出緩衝液で溶出する。
反応混合物アセンブリ:すべての反応混合物を、200μLのPCRチューブに4℃でアセンブリした。鋳型を反応緩衝液(20mM Tris HCl pH7.9、10mM(NH4)2SO4、40mM KCl、10mM MgSO4、各50μMのdNTP、0.1%(質量/容積)Synperonic F104、2μMネトロプシン、すべてSigma Aldrichから購入)およびBSA(200μg/mL)と混合した。ホモジナイズした後、酵素を添加する(300u/mL Nb.BsmI、10u/mL Nt.BstNBI、80u/mL Vent(exo-)、23nM ttRecJ)。各試料をマイクロRNA標的でスパイクし、低結合DNAチップ(Eppendorf)を使用して1×Tris-EDTA緩衝液(Sigma Aldrich)で系列希釈した。試料(バルクまたはエマルジョン)を、50℃のqPCRサーモサイクラー(CFX96 Touch、Biorad)でインキュベートし、蛍光をリアルタイムで記録した。バルク実験では、時間トレースを正規化し、Cq(増幅開始時間)を最大蛍光シグナルの10%として決定した。
【0080】
液滴生成:SU-8フォトレジスト(MicroChem Corp.、マサチューセッツ州、米国)を使用して標準的なソフトリソグラフィー技法により4インチシリコンウェーハにパターン化した2インレット(1つはオイル用、もう1つは水性試料用)フローフォーカシングマイクロ流体金型(flow focusing microfluidic mold)を準備した。Sylgard184 PDMS樹脂(40g)/架橋剤(4g)(Dow Corning、ミシガン州、米国)の10:1混合物を金型に注ぎ、真空下で脱気し、70℃で2時間焼成する。硬化後、PDMSをウェーハから剥がし、直径1.5mmの入口穴および出口穴を生検パンチ(Integra Miltex、ペンシルベニア州、米国)で打ち抜いた。酸素プラズマ処理の直後に、PDMS層を1mm厚のスライドガラス(Paul Marienfeld GmbH&Co.K.G.、ドイツ)に固定した。最後に、チップに対して200℃で5時間にわたる2回目の焼成を行って、チャネルを疎水性にした(Kaneda et al., 2012)。マイクロ流体チップの詳細は
図1に示されている。水性試料相、および1%(質量/質量)フッ素系界面活性剤(RAN Biotechnologies、マサチューセッツ州、米国)を含むフッ素化油(Novec-7500、3M)で構成される連続相を、圧力ポンプコントローラーMFCS-EZ(Fluigent、フランス)、および直径200μmのPTFEチューブ(C.I.L.、フランス)を使用してチップ上で混合して、流体力学的フローフォーカシングにより0.5pL液滴を生成した。
【0081】
液滴画像化:インキュベーション後、液滴を蛍光顕微鏡により画像化した。底部スライド(76×52×1mmスライドガラス)を、200μLのCytop CTL-809M(Asahi Glass)でスピンコーティングし、180℃で2時間乾燥させた。エマルジョンを、Aquapelで処理された厚さ0.17mmのカバーガラスで挟んだ。10μmのポリスチレン粒子(Polysciences, Inc.、ペンシルベニア州、米国)をスペーサーとして使用して上部スライドを支え、エマルジョンの圧縮を回避した。最終的に画像化チャンバーをエポキシ接着剤(Sader)で密封し、電動XYステージ(Nikon)、カメラNikon DS-Qi2、アポクロマート10×(N.A.0.45)(Nikon)、およびCoolLed pE-4000照明光源を備えた落射蛍光顕微鏡Nikon Eclipse Tiを使用して画像を取得した。合成画像は、オープンソースのImageJソフトウェアを使用して生成した。定量的データは、
図2に詳述されている手順に従って、Mathematicaソフトウェア(Wolfram)を使用して顕微鏡画像から抽出した。
【0082】
結果
国際公開第2017140815号パンフレットによるアナログ増幅法
本発明の発明者らは、以前に、PEN-DNAツールボックス(ポリメラーゼエキソヌクレアーゼニッカーゼ動的ネットワークアセンブリ)と称する多用途分子プログラミング言語を開発した(Montagne et al., 2011およびBaccouche et l., 2014)。ネットワークのトポロジーは、1セットの短鎖オリゴヌクレオチド(鋳型)により規定される。ネットワークは、酵素(ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、およびニッカーゼ)の混合物により解釈され、DNA鎖が産生および分解されることで情報流束が処理され、それによりひいてはネットワークの他のノードが活性化または阻害される。
【0083】
この1セットの反応モジュールを使用して、本発明者らは、以前に、マイクロRNAの検出に特化した汎用分子プログラムを設計した。
図3は、回路の接続性を示す。ユニバーサルシグナル増幅部分は、2種の鋳型で構成される双安定ノードに相当する。自己触媒鋳型(aT)は、12量体オリゴヌクレオチドの指数関数的複製を触媒する二重リピート配列で構成されており、疑似鋳型(pT)は、自己触媒鋳型での非特異的反応に起因するリーク産物を吸収し、したがってバックグラウンド増幅が回避される。変換鋳型(cT)は、aTの上流に接続されており、標的がcTの入力部分に結合すると、後者は、出力鎖の産生を触媒し、出力鎖は、ひいてはaTでの自己触媒反応を誘発する。aTの下流において、リポート鋳型(rT)は、増幅されたシグナル鎖を捕捉して、蛍光シグナルを生成する。詳細な反応ネットワークは
図4に示されている。
【0084】
図5b~5cは、Let-7aのバルク検出に対するこのアプローチの感度の評価を示す。4種の鋳型を酵素プロセッサと一緒に混合し、0~1nM範囲の濃度の合成標的Let-7aでスパイクする。rTの蛍光を、50℃の一定温度に設定されたPCRサーモサイクラーにてリアルタイムでモニターする。陰性対照(標的なし)は、20時間よりも長期間にわたって陽性シグナルを生成しない。アッセイの感度は約1fMであり、バルクでのダイナミックレンジは、1fM~100pMの範囲、つまり6桁である。pTの非存在下では(
図5b)、感度は否定的な影響を受け、検出限界は1pMである(陰性対照の平均増幅時間から3標準偏差であることから推定)。こうした結果は、増幅閾値を制御し、したがってバックグラウンド増幅を排除するためのこの能動的なリーク吸収機序の重要性を示している。cTの非存在下では(
図5c)、増幅反応は観察されず、標的マイクロRNAに対して分子プログラムが特異的であることが示されている。
【0085】
アナログ増幅法のデジタル化
アナログシグナルをデジタル読出しへと変換するために、本発明者らは、液滴に区画化された単一分子を検出する可能性の評価に移る。既知濃度のLet-7aでスパイクした分子プログラムを、フローフォーカシングマイクロ流体接合部を使用して、ピコリットルサイズの油中水型液滴に分配した。単分散エマルジョンを50℃でインキュベートし、標的含有液滴を増幅した後、反応を停止させた。最後に、液滴を蛍光顕微鏡で画像化し、ポアソンの法則から濃度を再算出した。
図6は、200分間のインキュベーション後のエマルジョンの顕微鏡スナップショットを示す。スパイクしたmiRNA濃度とポアソンの法則に従って測定された濃度との間に線形相関性が観察される。算出された検出限界は2.1fMである。
【0086】
本系はモジュール式手法によるため、ユニバーサルシグナル増幅機序に依存する定量化に影響を及ぼすことなく、コンバーター鋳型(
図6d)のみを任意の目的の標的にハイブリダイズするように再設計することにより、分子プログラムを再利用することができる。
マイクロRNAの定量化に関する主な懸念事項は、マイクロRNA標的間の配列相同性が高いことである。したがって、本発明者らは、Let-7ファミリーに対する本検出法の特異性を評価した。
図4eは、Let-7a配列と、単一(Let-7c)または二重(Let-7b)ミスマッチ塩基を含むアナログとが非常に良好に区別されることを示す。
疑似鋳型(pT)およびヌクレアーゼ濃度の効果
また、本発明者は、疑似鋳型(pT)およびヌクレアーゼ濃度(Nb.Bsml)の効果をアッセイした。
そのために、規定濃度のpT(0~15nM)およびNb.BsmI(0.1~0.4u/μL)を含む試料を、0または1pMのLet-7aでスパイクし、増幅反応をリアルタイムでモニターした。Cqを、pTおよびNb.BsmI濃度の関数としてプロットする(
図7a)。マイクロRNA検出スコア(MDS)を、以下の式に従って各セットの濃度ごとに算出する。
【0087】
【数1】
MDSは、NCの増幅時間と1pMの増幅時間との間の時間窓および標的誘発反応の速度の両方を反映することが意図されている。MDSを、疑似鋳型濃度(
図7b)およびNb.BsmI濃度(
図7c)の関数としてプロットする。
図7は、両パラメーターが、増幅反応を遅延させることを示す。疑似鋳型は、産生されたトリガーの一部を分解する能動的シンクの役目を果たす。Nb.BsmIは、それ自体の産物(ニックされた未融解の二重鎖)により阻害されることが知られており、それが二重鎖切断後のトリガー放出を妨げることにより反応が遅延すると考えられる。なお、疑似鋳型濃度の増加は、陰性対照(NC)増幅を優先的に遅延させることにより検出スコアに肯定的な影響を及ぼし、標的により誘発される増幅に及ぼす影響の程度はより低い。一方、Nb.BsmIは、標的濃度に関わりなく増幅時間に影響を及ぼすため、検出スコアに否定的な影響を及ぼす。この観察結果は、増幅方法がデジタル化されている場合であっても、バックグラウンド増幅を低減/消失させるために疑似鋳型が提供する能動的分解機序の重要性を示す。
【0088】
また、本発明者らは、ヌクレアーゼNt.BstNBIの最適濃度を調査した。そのために、0または1pMのLet7aでスパイクした試料を、様々な濃度のNt.BstNBIの存在下でインキュベートする。Cqを、Nt.BstNBI濃度の関数としてプロットする。
図8は、エンドヌクレアーゼNt.BstNBIの最適濃度が0.01u/μL付近にあることを示す。
【0089】
(比較例)
ほとんどの等温核酸増幅技法は、デジタル方式に移行させることができない。これは、一般に、Zhangら(Zang et al., 2015)に記載のように、標的の存在に関わりなく最終的にすべての区画で増幅を誘発する非特異的反応に起因する。エンドポイント分析に依存するため、標的含有液滴(陽性シグナルを呈する)と無標的液滴とを区別するのに十分な時間窓を有することが重要になる。
図9は、pTおよび標的の非存在下では、すべての液滴が1時間未満でオンになることを示す。この結果は、2つの集団を分離するために必要な時間枠にかなりの影響を及ぼし、Zhangら(Zhang et al., 2015)により記載の以前に記載されているEXPAR系と一致する。
pT濃度を増加させることにより、したがって増幅閾値を上昇させることにより、15nMのpTで完全に無効にされるまで自発的開始が遅延される。
図10は、0または15nMのpTを用いて1pMのLet-7aを検出するための時間窓の比較である。pTの非存在下では、標的含有試料と陰性対照とを区別することはほぼ不可能である。しかしながら、偽陽性液滴の原因となるリークを吸収することにより、標的含有液滴の増幅を妨げることなく、16時間よりも長期間にわたってオフ状態の安定化が保証される。バックグラウンドが完全に排除されるおかげで、本発明の方法は、インキュベーション時間に関して比類のないロバスト性を示し、理論的に無限の時間窓を示す。
【0090】
さらに、以前に実施された他のデジタル増幅法(Zhang et al., 2015、Cohen et al., 2016、およびTian et al., 2016)と比較して、本発明の方法の選択性は、97%よりも優れていると推定される。
本発明の方法によるヒト細胞からの内因性マイクロRNAの検出
日常的な生物医学的手順としてのマイクロRNAベース診断の成功は、マイクロRNA定量化のロバスト性および再現性に依存する。したがって、本発明者らは、ヒト細胞から内因性マイクロRNAを検出する可能性を評価した。
マイクロRNAを、細胞株H1975(腺癌)から抽出し、Let-7aを、RNA抽出物の濃度を変化させて本発明の方法により定量化した。1%および10%のRNA抽出物を含む試料の測定Let-7a濃度は、それぞれ90fMおよび1pMである(
図11a)。
【0091】
加えて、本発明者らは、ヒト結腸全RNAからLet-7aを定量化した。
図11bは、全RNA濃度(0~4μg/mLの範囲)と測定Let-7a濃度との間の線形関係性を示す。陰性対照実験として、ヒトゲノムに存在しないmir-39ceは、こうした試料では検出されなかった。これは、全体として、高度に複雑なバックグラウンド試料における本発明の方法の正確性およびそのロバスト性を実証する。
【0092】
(実施例2)
マイクロRNA誘発増幅を加速するためのクレノウ(3’->5’exo
-)DNAポリメラーゼの使用
マイクロRNA標的化増幅を加速するために、本発明者らは、クレノウ(exo
-)である別のDNAポリメラーゼを添加することの効果を調査した。0または10pMのLet7aマイクロRNA標的でスパイクした増幅混合物(Vent(exo
-)ポリメラーゼを含む)を、様々な濃度のクレノウ(exo
-)で補完する。
図12は、クレノウ(exo
-)ポリメラーゼの非存在下では、約100分で特異的増幅が生じるのに対して、陰性対照は1000分以内では増幅しないことを示す。興味深いことに、16u/mLのクレノウ(exo
-)を用いると、比増幅は20分間へと短縮されるが、陰性対照は影響を受けない。この濃度を上回った場合、本発明者らは、40分間未満で陰性対照試料の望ましくない自己増幅を観察した。まとめると、こうした結果は、クレノウ(exo
-)がRNAプライマーの伸長を効率的に開始するため、Vent(exo
-)に加えて最適濃度のクレノウ(exo
-)を添加することは、増幅反応の加速に有益であることを示唆する。
【0093】
次いで、本発明者らは、マイクロRNAの液滴デジタル検出のための、DNAポリメラーゼの混合物の使用を調査した。クレノウ(exo
-)は室温で無視できない活性を有するため、オリゴヌクレオチド(鋳型)および酵素を別々にアセンブリし(ミックスAおよびミックスB)、液滴を分配する直前に、3インレットマイクロ流体デバイス(1つの入口は連続相用であり、2つの入口は増幅ミックスAおよびBの両方の一部のためのものである)を使用してチップ上で混合する。これにより、標的封入前に反応が開始することが防止される。測定濃度は、各試料のスパイクイン濃度と一致しており、このポリメラーゼ混合物を用いた標的マイクロRNAの正確なデジタル定量化が実証される(
図13)。
【0094】
(実施例3)
血漿試料からの直接的マイクロRNA検出
また、本発明者らは、本発明のデジタル検出法を使用して、血漿試料中のマイクロRNAの検出を評価した。
健康ドナー(HIV、HBV、およびHCV陰性)からヒト血液試料を10mL採血管(Biopredic Internationalが供給するStreck管)に採取した。4℃にて10分間2000×gで遠心分離した後、4℃にて15分間2000×gで遠心分離することにより、血漿を得た。パスツールピペットを使用して血漿をきれいなポリプロピレンチューブにアリコートし、使用するまで-80℃で保管した。0または1pMのcel-miR39(C.エレガンス(C.Elegans)に由来するマイクロRNA)を、5%血漿(容積/容積)および1u/μLマウスRNAse阻害剤で補完された増幅混合物にスパイクする。プロットに報告されている測定濃度は、5%血漿中の外因性マイクロRNAが完全に回収されたことを示す。この結果は、
図14に示されており、したがって粗血漿試料中のマイクロRNA濃度の定量的測定を実証する。
【0095】
(実施例4)
本発明のデジタル方法を使用することによる酵素の検出
オリゴヌクレオチドは、BiomersまたはEurofinsから得た(表3)。ニッキング酵素nt.BstNBI(R0607)、Nb.BsmI(R0706)、DNAポリメラーゼVent(exo-)(M0257)、クレノウ(exo-)ポリメラーゼ、制限酵素BsmAI(R0529)、AP-エンドヌクレアーゼAPE-1(M0282)、ウラシルDNAグリコシラーゼUDG(M0280)、アルキルアデニングリコシラーゼhAAG(M0313)、ポリ(A)ポリメラーゼ(M0276)、T4 DNAリガーゼ(M0202)、T4ポリヌクレオチドキナーゼPNK(M0201)は、New England Biolabsから購入した。RNAse H2酵素(11-03-02-02)は、Integrated DNA Technologiesから購入した。エキソヌクレアーゼttRecJは、以前に報告された手順(8)に従って自家精製した。すべてのオリゴヌクレオチドおよびタンパク質は、-20℃で保管した。
【0096】
【0097】
反応アセンブリ:すべての反応を、200μLのPCRチューブに4℃でアセンブリした。鋳型および酵素(表4)を、反応緩衝液(20mM Tris HCl pH7.9、10mM(NH4)2SO4、40mM KCl、10mM MgSO4、各50μMのdNTP、0.1%(質量/容積)Synperonic F104、2μMネトロプシン、これらはすべてSigma Aldrichから購入)およびBSA(200μg/mL)と混合した。試料を、BSA(200μg/mL)で補完された1×反応緩衝液を有する200μLのPCRチューブ中で系列希釈した種々の濃度の標的酵素の10%容積/容積でスパイクした。任意選択のプレインキュベーションステップに続いて、試料を、CFX96タッチサーモサイクラー機器で48℃にてインキュベートする。詳細な実験条件は表4に示されている。
【0098】
【0099】
デジタルアッセイ:デジタルアッセイの場合、酵素(ミックスA)および鋳型(ミックスB)を2つの別々のチューブの1×反応緩衝液中で混合して、単一の酵素を油中水型液滴に封入する前に反応が開始するのを防止した。アッセイのスループットを増加させるために、本発明者らは、以前に報告されている連続乳化戦略を使用した(Menezes et al., 2019)。様々な濃度の標的酵素を含むミックスAを、3種の蛍光標識デキストラン(デキストランTexas Red70,000MW、デキストランAlexa Fluor488 3,000MW、およびデキストランCascade Blue 10,000MW リジン係留可能(ThermoFisher Scientific))の様々な組合せでバーコード化する。ミックスA(加圧試料交換器に負荷)およびミックスBを配合し、3インレットフローフォーカシングマイクロ流体PDMSチップを使用してチップ上で連続乳化した。連続相は、1%(質量/質量)のフッ素系界面活性剤(RAN Biotechnologies、マサチューセッツ州、米国)を含むフッ素化油(Novec-7500、3M)で構成されている。SU-8フォトレジスト(MicroChem Corp.マサチューセッツ州、米国)を使用して標準的なソフトリソグラフィー技術で4インチシリコンウェーハ上にパターン化されたマイクロ流体金型を準備し、MJB4マスクアライナー(SUSS Microtec)を使用して手動で位置合わせした。Sylgard 184 PDMS樹脂(40g)/架橋剤(4g)(Dow Corning、ミシガン州、米国)の10:1混合物を金型に注ぎ、真空下で脱気し、70℃で2時間焼成する。硬化後、PDMSをウェーハから剥がし、直径1.5mmの入口穴と出口穴を生検パンチ(Integra Miltex、ペンシルベニア州、米国)で打ち抜いた。酸素プラズマ処理の直後に、PDMS層を1mm厚のスライドガラス(Paul Marienfeld GmbH&Co.K.G.、ドイツ)に固定した。最後に、チップに対して200℃で5時間にわたる2回目の焼成を行って、チャネルを疎水性にした。
【0100】
液滴画像化および分析:液滴は、透過および落射蛍光顕微鏡で分析した。70×50×1mmのスライドガラス(Paul Marienfeld,GmbH&Co.K.G.、Germany)を、3mLのNovec1720(3M)を注ぎ、加熱プレートで1分間100℃にて焼成することにより疎水性にした。硬質球体スペーサーとして使用した10μmポリスチレンビーズ(Polysciences,Inc.、ペンシルベニア州、米国)をガラススライドにスポッティングし、蒸発のために100℃で静置した。エマルジョンをガラススライドに堆積させ、Novec1720で処理した22×22mmのカバースリップ(VWR)で覆った。チャンバーをエポキシ接着剤(Sader)で密封し、電動XYステージ(Nikon)、カメラNikon DS-Qi2、およびCoolLed pE-4000照明光源、およびアポクロマート20×(N.A.0.75、WD1.0)対物レンズを備えた落射蛍光顕微鏡Nikon Eclipse Tiを使用して画像を取得した。オープンソースのImageJソフトウェアで疑似カラー画像を生成した。
Mathematicaソフトウェア(Wolfram)を使用し、蛍光バーコードを使用して画像を分析し、様々な試料集団を分類した。各試料の陰性および陽性液滴の数は、ポアソン統計により決定付けられる標的酵素濃度の算出を可能にする。
【0101】
結果
ニッキング酵素Nt.BstNBIによる原理の証明
ここで使用される等温シグナル増幅系は、3種のコードデオキシリボオリゴヌクレオチドに基づく。第1のものは、自己触媒鋳型(配列Cbo12-2PS3 配列番号73)、DNAポリメラーゼ(Vent(exo-))およびニッキング酵素(Nb.BsmI)を使用してトリガー鎖の指数複製を触媒する二重リピート配列である。第2の疑似鋳型モジュール(配列pTBoT5PS3 配列番号74)は、トリガー鎖の一部を不活性化し、触媒ドレインとして振る舞い、リーク反応により引き起こされる非特異的標的非依存性増幅を回避する。第3のリポートモジュール(配列:rTBo-2BsmICy5 配列番号75)は、前蛍光性ヘアピン型プローブであり、重合時に蛍光シグナルを発生させるトリガーにハイブリダイズする。こうした酵素成分および核酸成分が一緒になって、様々な超高感度バイオセンシング応用で使用することができる双安定分子回路が作出される。
【0102】
原理の証明として、本発明者らは、ニッキング酵素Nt.BstNBIの活性を双安定増幅スイッチに接続するための第1の感知モジュール(配列:nbitoBo-2+2 配列番号76)を設計した(
図15a)。ヘアピン型鋳型は、ニック認識および切断サイトのすぐ上流にある、トリガー鎖に相補的な5’出力部位を含む。3’端部は自己相補的であり、ポリメラーゼにより鋳型に沿って伸長をプライミングする。二重鎖は、その二本鎖形態では、Nt.BstNBIによりニックされ、トリガーを放出することができる。重合/ニッキングの触媒サイクルは、疑似鋳型により設定された濃度閾値を超えた後で増幅を開始するトリガー鎖の線形産生に結び付く。本発明者らは、漸増濃度のNt.BstNBIの存在下で反応をリアルタイムにモニターした。予想通り、濃度が高いほど、トリガーの産生が速くなるため、増幅が早くなる。バルクにおけるこの手法の感度は約5mu/ml(1ミリリットル当たりのミリ単位)であり、これは、前蛍光プローブの伝統的な切断アッセイを使用する場合よりも3桁低い。
【0103】
9種の酵素に対して実証された多用途性
こうした結果に基づき、本発明者らは、他のDNA関連酵素の超高感度検出のための様々な感知戦略を設計した。目的の酵素活性を特異的トリガー鎖の生成に関連させる反応カスケードを設計する。ヌクレアーゼの検出は、Nt.BstNBIの構成的存在下でのトリガー産生の遮断に基づいていた。RNAseH(RNAseH2)およびAP-エンドヌクレアーゼ(APE-1)は、感知鋳型のステム構造に、それぞれリボヌクレオチドおよび脱塩基部位(AP)を導入することにより検出した(
図15aおよび15b、配列:nbitoBo-2+2(rG)配列番号77、およびnbitoBo-2+2AP 配列番号78)。こうした設計では、突出3’ポリチミジル酸(polythimidylate)伸長を有する未処理基質の重合が遮断される。対応する酵素によるこうした基質のプロセシングは、ステムのエンドヌクレアーゼ切断を誘導し、重合/ニッキングサイクルによるトリガーの産生を回復させる。ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)は、AP部位をデオキシリボウリジン部分(配列:nbitoBo-2+2UDG(2) 配列番号79)で置換し、酵素カスケードにもう1つの段階を追加することにより検出した(
図15c)。グリコシラーゼによるウラシル塩基の切除は、APE-1によりさらに切開される脱塩基部位を導入し、最終的にトリガーの産生を再活性化する。
【0104】
本発明者らは、別の単機能性DNA N-グリコシラーゼ、アルキルアデニングリコシラーゼ(AAG、
図15d)を検出するための異なる戦略を試験した。イノシン残基(ヒポキサンチン核酸塩基、Hx)が、短鎖二本鎖オリゴヌクレオチドに組み込まれている(配列:Aagtorna-top/Aagtorna-bot、配列番号80/配列番号81)。AAGによる切除時に、AP部位はAPE-1により切開される。ニックされた鎖の5’部分は解離して、第2のNBI依存性鋳型の入力部分に結合することができ、その出力はトリガー鎖である(配列:dnatoBo-2+2P配列番号82)。
制限酵素の検出は、感知鋳型の5’部分に認識部位を追加することにより達成した(
図15e)。標的酵素の非存在下では、重合/ニッキングの無益サイクルは、3’伸長部(制限部位を含む)を有する非生産的なトリガーを生成する。標的酵素の存在下では、二本鎖制限部位は、切断され、感知鋳型から伸長部が放出され、それによりひいてはトリガーが産生される。
【0105】
RNA鎖の3’端部へのポリアデニンテールの付加を触媒するポリ(A)ポリメラーゼ(PAP)などの特定の活性を有するポリメラーゼも、この手法を使用して検出することができる(
図15f)。RNA鎖(配列:rna 配列番号84)のポリアデニル化後、ポリ(A)テールは、感知鋳型(配列:polyAtoBo-2+2P 配列番号85)のポリ(T)入力部位に結合し、それによりひいてはトリガーが出力される。
また、本発明者らは、この戦略をDNAリガーゼの検出に適応させた(
図15d)。感知モジュールは、3種の鋳型:5’リン酸部分が修飾されたヘアピン型鋳型(配列:lig2P 配列番号87);5’側が活性化因子配列に相補的な線状鋳型(配列:lig1toBo 配列番号86);他の鎖の両方に部分的にハイブリダイズするスプリント鎖(splint strand)(配列:lig3P 配列番号88)で構成されている。得られる三重鎖はニックを含み、ニックは、ATPをエネルギー源とするT4 DNAリガーゼにより封鎖することができる。結果として、スプリント鎖は、DNAポリメラーゼにより鎖置換され、活性化因子鎖の機能的供給源を回復させる。ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 PNK)の検出は、非リン酸化形態のヘアピン型鋳型(seq:lig2noP 配列番号89)を使用することにより可能になった。ライゲーションに必要なそのリン酸化後、T4 DNAリガーゼはニックを封鎖し、活性化因子鎖の産生をレスキューする。
【0106】
本発明者らは、コグネート設計(cognate design)を使用して、バルク溶液中の各酵素の検出を別々に実施した。
図15は、リアルタイムで記録された蛍光時間トレースから抽出された増幅時間(Cq)を示す。各酵素について、本発明者らは、Cqと標的酵素の濃度との間の反比例的関係性を、μU~mU/mLの低濃度範囲まで観察した。これは、多用途DNA増幅機序を使用した酵素活性の特異的および高感度な検出を実証するものである。
【0107】
単一酵素のデジタル計数
この手法の感度をさらに実証するため、本発明者らは、マイクロ流体液滴に単離された単一酵素のデジタル計数を実施した。バルクアッセイに関しては、原理の証明は、Nt.BstNBIの検出回路で実現させた。様々な濃度のNBIでスパイクした2系列の試料を準備し、フローフォーカシングマイクロ流体チップを使用してピコリットルサイズの液滴(約0.95pL)に個々に乳化した。液滴を48℃で3時間インキュベートし、蛍光顕微鏡で分析した(
図16a)。
図16b(上段、左パネル)は、スパイクされたNBI濃度と、ポアソンの法則から算出された測定濃度との間の線形相関性を示す(R
2>0.99)。
図16bは、RNAseH2、APE-1、UDG、BsmAI、PAP、T4 DNAリガーゼ、およびT4 PNKを含む、他の酵素のデジタル液滴アッセイの結果を示す。同様に、スパイクイン濃度と測定濃度との間の関係性が比例関係であることは、この手法が、こうした酵素のデジタル計数に成功したことを証明している。
【0108】
より大きな液滴(7.2pL)を使用して、Nt.BstNBIのデジタル検出を実施した(
図17)。小さな液滴と比較して、非常に類似した濃度が算出された。スパイク濃度と標的の測定濃度との比例関係は、異なる液滴サイズで得られた結果が一貫していることと相まって、活性酵素の直接的な絶対的定量化を明確に実証する。
【0109】
(実施例5)
マイクロRNAのマルチプレックス検出
物質:HPLCで精製したオリゴヌクレオチドは、BiomersまたはEurofinsから購入し、長期保管のために1×Tris-EDTA pH7.5に100μMで再懸濁した。鋳型は、上記の実施例1に記載のプロトコールに従って設計した。鋳型配列aT、pT、rT、およびkTは、3つの5’ホスホロチオエート骨格修飾を付加することにより、ttRecJの5’->3’エキソヌクレアーゼ活性から保護した。鋳型aT、pT、cT、およびkTは、3’リン酸部分を追加することにより、望ましくない重合を遮断した。aTは、リーキー反応により産生されるシグナル鎖のpTによる非活性化を促進するために、対応する入力(αまたはβ)の最後の10塩基にのみハイブリダイズするように設計した。kTは、シグナル鎖の競合的結合を低減するために、同じ短縮入力結合部位を提示する。これにより、標的により誘発される増幅前にkTが非特異的に活性化されることが防止される。表5には、このアッセイ全体で使用したすべての配列が要約されている(配列番号104、106、108、および109は、それぞれ、配列番号54、55、56、および57としても引用されている)。
【0110】
【0111】
ニッキング酵素Nb.BsmIおよびNt.bstNBI、制限酵素BsmI、DNAポリメラーゼVent(exo-)、BSA、ならびにdNTPは、New England Biolabs(NEB)から得た。サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)のRecJエキソヌクレアーゼは、以前に発表されたプロトコールに従って自家産生した(Yamagata et al. Nucleic Acids Res. 2001, 29 (22), 4617-4624)。塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、Trizma塩酸塩、ネトロプシン、synperonic F104は、Merck(Sigma-Aldrich)から購入した。
【0112】
反応混合物アセンブリ:すべての反応混合物を、200μLのPCRチューブに4℃でアセンブリした。鋳型および酵素を、まず反応緩衝液(20mM Tris-HCl、pH8.9、10mM(NH4)2SO4、40mM KCl、10mM MgSO4、各50μMのdNTP、0.1%(質量/容積)synperonic F104、2μMネトロプシン、および200mg/mL BSA)と混合した。最適化された鋳型濃度は以下の通りである:aTα=50nM、aTβ、50nM、pTα=15nM、pTβ=11nM、rTα=40nM、rTβ=40nM、cT(各)=0.5nM、αkβ=1nM、およびβkα=2.5nM。酵素濃度は、Nb.BsmI=300u/mL、Nt.BstNBI=10u/mL、Vent(exo-)=60u/mL、BsmI=60u/mL、ttRecJ=23nMだった。ホモジナイズした後、試料をマイクロRNA溶液でスパイクし、低結合DNAチップ(Eppendorf)を使用して1×Tris-EDTA緩衝液で系列希釈した。試料(バルクまたはエマルジョン)は、qPCR機械CFX96 touch(Bio-Rad)で50℃にてインキュベートした。
【0113】
マイクロ流体液滴の生成:2インレットフローフォーカシングデバイスを、標準的なソフトリソグラフィー技術を使用して準備した。手短に言えば、4インチのシリコンウェーハをSU-8フォトレジスト(Micro-Chem Corp.)でコーティングし、UV露光時に網状にすることによりマイクロ流体金型を得た。イソプロパノールで金型を注意深く洗浄した後、Sylgard184 PDMS樹脂(40g)/硬化剤(4g)(Dow Corning)の10:1混合物を金型に注ぎ、真空下で脱気し、70℃で2時間焼成した。PDMSスラブを金型から外して積み上げ、直径1.5mmの生検パンチャー(Integra Miltex)で入口および出口を打ち抜いた。PDMSスラブを、酸素プラズマ活性化直後に1mm厚のスライドガラス(Paul Marienfeld GmbH&Co)に固定した。チップに対して200℃で5時間にわたる焼成を行って、チャネルを疎水性にした。-圧力ポンプコントローラーMFCS-EZ(Fluigent)および内径200μmのPTFEチューブ(C.I.L.)を使用して、水性試料および連続相(フッ素化油Novec7500、3M+1%(w/w)fluosurf、Emulseo)をチップ上で混合することにより、単分散油中水型液滴を生成した。
【0114】
液滴の画像化および分析:インキュベーション後、エマルジョンを顕微鏡で画像化した。液滴圧縮を回避するために、液滴の単層を、10μmのポリスチレン粒子(Polysciences,Inc.)で離間された2枚のガラススライド(厚さ1mmの底部スライド、Paul Marienfeld GmbH&Co、厚さ0.17mmの上部スライド、VWR)の間に挟んだ。チャンバーをエポキシ接着剤(Sader)で密封した。電動XYステージ(Nikon)、カメラNikon DS-Qi2、アポクロマート10×対物レンズ(N.A.0.45、Nikon)、およびCoolLed pE-4000照明光源を備えた落射蛍光顕微鏡Eclipse Tiで画像を取得した。合成画像は、オープンソースソフトウェアImageJを用いて生成した。液滴は、上記の実施例に記載の手順に従って、Mathematicaソフトウェア(Wolfram)を使用して分析した。マイクロRNAの濃度は、以下の式で算出される。
【0115】
【数2】
式中、F
gおよびF
rは、それぞれ緑色および赤色の陽性液滴の割合であり、NAはアボガドロ数であり、Vは液滴の容積である。
【0116】
結果
キラー鋳型カウンタースイッチ交差活性化(Killer templates counter switch cross activation)
本発明者らは、2つの並列双安定スイッチを四安定生化学回路に変換した。理論的根拠は、4つの代替状態の各々が、各標的の存在/非存在に関連付けられる4つの考え得る化学的「状態」(0:0、0:1、1:0、および1:1)に起因し得るため、各々の場合において適切な分類が可能であるということである。その目標のために、本発明者らは、2つのスイッチを双方向に接続する交差阻害性鋳型(キラー鋳型、kT)を設計した(
図18)。コグネート入力(cognate input)(αまたはβ)により活性化されると、kTは、逆スイッチの疑似鋳型を産生し、それにより増幅の交差阻害剤として作用する。系が4つの状態を可能にするためには、阻害剤は、状態1:0および0:1(2つのスイッチの一方のみがオンである)を安定化するのに十分な程度に強力であるが、状態1:1(両スイッチがオンである)の存在を可能にするほど強力過ぎないことが必要である。したがって、本発明者らは、キラー鋳型の強度に対する不活性化5’テールの長さにより決定される、内因性pTの長さの効果を評価した。
図19は、5nMのcel-mir-39および種々のpTβを産生する漸増濃度のαkβにより誘発されるαスイッチの存在下における単純なβスイッチの増幅反応を示す。系は、αkβの非存在下では、約100分間でβスイッチが自発的にオンになるように設定されている(
図20)。
【0117】
本発明者らは、kTの濃度を増加させると、予想通り、増幅前の遅延が増長されたことを観察した。加えて、より短いpTを産生するαkβがより強力な阻害剤であることは明らかである:αスイッチの増幅を完全に防止するには、100pM未満のkT αkβA1(得られるpTβは、α鎖の3’末端に1つのチミジンヌクレオチドのみを追加することになることを意味する)が必要であるが、αkβA4で同じ効果を観察するには、100倍よりも多くが必要とされる(
図18c)。興味深いことに、αkβA5では、試験した濃度範囲で阻害は観察されなかった。同様に、αkβA0(αから触媒伸長活性のない相補鎖を産生する)は、βスイッチの増幅に効果を示さず、疑似鋳型の触媒機序が確認される。
【0118】
こうした測定に続いて、本発明者らは、濃度を調整することにより阻害強度を容易に調節することができる、4ヌクレオチド伸長部を有するpTを産生するkTを選択した。
次に、本発明者らは、それらのコグネート標的(cognate target)に対する感度を保持しながら、αスイッチとβスイッチとの間の交差反応性を抑制するkTの能力を評価した。2つのマイクロRNA感知回路を、種々の濃度のαkβおよびβkαの両方の存在下の0または10pMのmir92a(αスイッチ)およびlet7a(βスイッチ)でスパイクする(
図21)。
図21bおよび21cは、両スイッチの増幅時間を示す。こうした実験条件では、2.5~10nMのβkαおよび0.63~1.3nMのαkβで四安定性が達成される。この濃度範囲のkTでは、標的の非存在は、増幅の非存在をもたらし(Cq>1000分間、状態0:0);1種のマイクロRNA標的のみが存在する場合、対応するスイッチのみが蛍光シグナルを増幅し(Cq 約200分間、状態1:0および0:1);最後に、両マイクロRNAが注入されると、2つのスイッチがオンになった(状態1:1)。
【0119】
本発明者は、他のマイクロRNAを検出するための本戦略の一般化を試験した。このプログラム可能なDNA回路はモジュール式設計であるため、原理的には、コンバーター鋳型入力ドメインのみを適応させることにより、既知の3’-ヒドロキシル末端を有する任意の核酸鎖(RNAまたはDNA)の検出が可能になる。デュプレックス回路(つまり、aT、pT、rT、およびkTの両方)配列の残りおよび濃度はそのままである。こうした実験では、本発明者らは、5種のマイクロRNAを使用した:has-mir-92a-5p、cel-mir-39、hsa-mir-7-5p、hsa-let-7a-5p、およびhsa-let-7e-5p(それぞれ、mir92a、mir39、mir7、let7a、およびlet7eと略記される)。
図21eには、0または10pMのマイクロRNA標的を検出するための、溶液中での7つの異なるデュプレックス実験の増幅時間(Cq)が示されている。予想通り、系は、各々の場合で四安定生化学回路として振る舞う。重要なことには、各スイッチの増幅時間は、標的配列に依存しない(Cqα=178±44分間、Cqβ=149±19分間)。したがって、これにより、交差阻害回路が望ましくない交差反応性を抑制し、プログラム可能な標的検出を可能にすることが確認される。
【0120】
マイクロRNAのデュプレックスデジタル検出。
本発明者らは、最終的に、このマルチプレックスアッセイを、液滴マイクロ流体を使用するデジタル読出しに移行させた(
図22)。試料混合物を、フローフォーカシングマイクロ流体デバイスを使用して数千個のピコリットルサイズ液滴に分配する。その結果、標的マイクロRNAは、油中水型液滴内にランダムに分布し、ポアソン分布に従って占有する。液滴蛍光が、初期含有量に応じて緑色、赤色、またはオレンジ色のいずれかに変わることを可能にするインキュベーション後、液滴を落射蛍光顕微鏡で画像化する。液滴サイズおよび各色の陽性液滴の割合を知ることにより、元の試料の2つのマイクロRNAの濃度を算出した。本発明者らは、四安定回路が、シングルプレックスアッセイ(
図24)と比較して、ブランクの検出(
図23)および限界に影響を及ぼさないことを実証した。より良好に実証するため、本発明者らは、0または3pMのマイクロRNA mir39(αスイッチ)およびlet7a(βスイッチ)でスパイクした4つの試料を調製した。各試料を、2種の蛍光デキストランバーコードの組合せでバーコード化し、自作の試料交換器を使用して連続乳化する。インキュベーション後、液滴を蛍光顕微鏡により画像化する(
図22b~22d)。少数の偽陽性事象が記録されたが、12%±6%誤差内(これは、部分的に、標的の系列希釈による濃度不確実性によるものであり得る)で2種のマイクロRNAの正確な定量化が達成された。この技法の再現性を評価するため、本発明者らは、異なる組成(種々のマイクロRNAの種々の濃度)の試料について、この実験を繰り返した。15個の試料について、本発明者らは、スパイクインマイクロRNAの予想濃度と測定濃度との間に良好な相関関係があることを観察した(
図22d)。最後に、本発明者らは、二重陽性液滴(緑色および赤色両方の液滴)の割合が、2つの標的のポアソン分布から予想される割合に相当することを確認した(F
o=F
g.F
r、式中F
o、F
g、およびF
rは、オレンジ色、緑色、および赤色の液滴の割合である)。
【0121】
結論
本発明者らは、MPベースの等温増幅戦略が、バックグラウンド増幅を完全に消失する能力を有することを以前に実証した。本発明では、本発明者らは、この特徴を活用して、アナログ読出し(リアルタイム蛍光モニタリング)をデジタル方式(エンドポイント区画分析)へと変換する。したがって、本発明の方法は、標的生体分子、特に酵素および核酸、より具体的にはマイクロRNAの高感度で特異的な定量的測定を可能にする。1段階手順に基づき、本発明の方法は、試料操作を低減し、したがって持ち越し夾雑のリスクを低減する。系が標的配列複製ではなくシグナル増幅機序に依存するという事実により、夾雑の問題はさらにより低減される。
多用途DNAベース回路は、対応する変換鋳型を設計することにより、任意の目的の生体分子に流用することができる。マイクロRNAに関しては、すべての他の回路部分がすべてのマイクロRNAで共通しているため、プライマーおよびプローブの設計が不要になり、アッセイコストが低減されることに留意されたい。
【0122】
さらに、上記の結果は、DNA回路アーキテクチャが、酵素、特に幅広い範囲の活性を有するDNA関連酵素(ヌクレアーゼ、DNA N-グリコシラーゼ、ポリメラーゼ、リガーゼ、およびキナーゼ)の検出に適応され得ることを実証している。本発明の感度は、ピコリットルサイズの区画に単離された個々の酵素の直接デジタル計数を可能にする。また、上記方法は、精製プロセス後の活性酵素の定量化のために、および単一酵素レベルでの酵素活性に対する物理的(温度)または化学的処理の効果を決定するために使用することができる。
また、上記の例は、本発明の方法が、検出をより高感度様式でマルチプレックス化することに適応され得ることを実証している。
【0123】
【配列表】
【国際調査報告】