(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(54)【発明の名称】クロストリジウム・ディフィシルA毒素およびB毒素に対するヒト化四重特異的8価抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220729BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220729BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220729BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220729BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220729BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220729BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220729BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220729BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220729BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571799
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 US2020035925
(87)【国際公開番号】W WO2020247500
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521526487
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド、バルティモア
(71)【出願人】
【識別番号】521525310
【氏名又は名称】フザタ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェン,ハンピン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ヨンロン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジーヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユー,フア
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,イーファン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
ラクダ科V
HHおよびヒト免疫グロブリンから誘導される、抗体に基づく新規の結合剤が記載される。これらの結合剤は、クロストリジウム・ディフィシルA毒素および/またはB毒素を認識し、かつ特異性を有してこれに結合し、一部の場合には毒素中和活性を示す。これらの結合剤は、一次および再発CDIを治療または予防するために用いることができる。結合剤は、ヒト化V
HHペプチド単量体、ヒト化V
HHペプチド単量体の連結された群、抗体Fcドメインに結合されたヒト化V
HHペプチド単量体、およびIgG抗体に結合されたヒト化V
HHペプチド単量体を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgG抗体、2組の連結された第1および第2のヒト化V
HHペプチド単量体、ならびに2組の連結された第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤であって、
該IgG抗体が2本のアームを含み、各アームは可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、かつ各鎖がアミノ末端を有し、
該抗体の各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化V
HHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、1組の連結された第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、該ヒト化V
HHペプチド単量体はクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、
上記結合剤。
【請求項2】
前記第1、第2、第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体のそれぞれが、異なるエピトープに対する結合特異性を有する、請求項1に記載の結合剤。
【請求項3】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2個がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2個がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項1または2に記載の結合剤。
【請求項4】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項5】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)、ならびにそれらに対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの配列バリアントから選択され、かつ、該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項1~4のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項6】
前記結合剤の軽鎖が配列番号8に示されるアミノ酸配列(AA6/E3κ)またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列バリアントを含み、かつ該結合剤の重鎖が配列番号9に示されるアミノ酸配列(AH3/5D heavy)またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列バリアントを含み、かつ該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項1に記載の結合剤。
【請求項7】
前記配列バリアントのバリアントアミノ酸が、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置する、請求項5または6に記載の結合剤。
【請求項8】
前記IgG抗体が、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項1~7のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の結合剤のエピトープ結合性断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の結合剤の軽鎖アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の結合剤の重鎖アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項12】
前記結合剤の軽鎖アームが、配列番号10に示される核酸配列によりコードされる、請求項10に記載の単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項13】
前記結合剤の重鎖アームが、配列番号11に示される核酸配列によりコードされる、請求項11に記載の単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項14】
請求項10または12に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項15】
請求項11または13に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項16】
配列番号12に示される核酸配列を含む、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項17】
配列番号13に示される核酸配列を含む、請求項15に記載の発現ベクター。
【請求項18】
請求項10~13のいずれか1項に記載の単離されたポリヌクレオチド配列または請求項14~17のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項19】
前記発現ベクターによりコードされる前記結合剤の発現を促進する条件下で請求項18に記載の単離された細胞を培養するステップ、および該細胞培養物から該結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法。
【請求項20】
IgG抗体、ならびに第1、第2、第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体を含む二重特異的または四重特異的四量体結合剤であって、
該IgG抗体が2本のアームを含み、各アームが可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、かつ各鎖がアミノ末端を有し、
該抗体の第1アームに関して、第1のヒト化V
HHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、かつ第2のヒト化V
HHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、
該抗体の第2アームに関して、第3のヒト化V
HHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、かつ第4のヒト化V
HHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、かつ
該ヒト化V
HHペプチド単量体のそれぞれがクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、
上記結合剤。
【請求項21】
前記結合剤が二重特異的であり、前記第1および第2の単量体が異なるエピトープに対する結合特異性を有し、前記第1および第3の単量体が同一のアミノ酸配列を有し、かつ前記第2および第4の単量体が同一のアミノ酸配列を有する、請求項20に記載の結合剤。
【請求項22】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの1つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの1つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項20または21に記載の結合剤。
【請求項23】
前記結合剤が四重特異的であり、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のそれぞれが、異なるエピトープに対する結合特異性を有する、請求項20に記載の結合剤。
【請求項24】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項23に記載の結合剤。
【請求項25】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のそれぞれがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項20~25のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項26】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のそれぞれがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項20~25のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項27】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する、請求項20~26のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項28】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)、ならびにそれらに対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの配列バリアントから選択され、かつ、該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項20~27のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項29】
前記配列バリアントのバリアントアミノ酸が、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置する、請求項28に記載の結合剤。
【請求項30】
前記IgG抗体が、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項20~29のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項31】
請求項20~30のいずれか1項に記載の結合剤のエピトープ結合性断片。
【請求項32】
請求項20~31のいずれか1項に記載の結合剤の軽鎖アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項33】
請求項20~31のいずれか1項に記載の結合剤の重鎖アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項34】
請求項32または33に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項35】
請求項32または33に記載の単離されたポリヌクレオチド配列または請求項34に記載の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項36】
前記発現ベクターによりコードされる前記結合剤の発現を促進する条件下で請求項35に記載の単離された細胞を培養するステップ、および該細胞培養物から該結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法。
【請求項37】
抗体Fcドメイン、ならびに2組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤であって、
該抗体Fcドメインが第1および第2アームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、C
H2およびC
H3領域を含み、かつ各アームがアミノ末端を有し、
該Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体が該アームのアミノ末端に結合され、かつ
該ヒト化V
HHペプチド単量体がクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、
上記結合剤。
【請求項38】
前記第1、第2、第3および第4のヒト化V
HHペプチド単量体がそれぞれ、異なるエピトープに対する結合特異性を有する、請求項37に記載の結合剤。
【請求項39】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項37または38に記載の結合剤。
【請求項40】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する、請求項37~39のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項41】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)、ならびにそれらに対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの配列バリアントから選択され、かつ、該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項37~40のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項42】
前記配列バリアントのバリアントアミノ酸が、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置する、請求項41に記載の結合剤。
【請求項43】
請求項37~42のいずれか1項に記載の結合剤のエピトープ結合性断片。
【請求項44】
請求項37~43のいずれか1項に記載の結合剤の第1または第2アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項45】
請求項44に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項46】
請求項44に記載の単離されたポリヌクレオチド配列または請求項45に記載の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項47】
前記発現ベクターによりコードされる前記結合剤の発現を促進する条件下で請求項46に記載の単離された細胞を培養するステップ、および該細胞培養物から該結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法。
【請求項48】
抗体Fcドメインならびに2組の連結された第1および第2のヒト化V
HHペプチド単量体を含む二重特異的四量体結合剤であって、
該抗体Fcドメインが第1および第2アームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、C
H2およびC
H3領域を含み、かつ各アームがアミノ末端を有し、
該Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化V
HHペプチド単量体が該アームのアミノ末端に結合され、かつ
該ヒト化V
HHペプチド単量体がクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、
上記結合剤。
【請求項49】
前記第1および第2のヒト化V
HHペプチド単量体が、同じかまたは異なるエピトープに対する結合特異性を有する、請求項48に記載の結合剤。
【請求項50】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する、請求項48または49に記載の結合剤。
【請求項51】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)ならびにそれらに対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの配列バリアントから選択され、かつ、該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項48~50のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項52】
前記配列バリアントのバリアントアミノ酸が、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置する、請求項51に記載の結合剤。
【請求項53】
請求項48~52のいずれか1項に記載の結合剤のエピトープ結合性断片。
【請求項54】
請求項48~53のいずれか1項に記載の結合剤の第1もしくは第2アームをコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド配列。
【請求項55】
請求項55に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項56】
請求項54に記載の単離されたポリヌクレオチド配列または請求項55に記載の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項57】
前記発現ベクターによりコードされる前記結合剤の発現を促進する条件下で請求項56に記載の単離された細胞を培養するステップ、および該細胞培養物から該結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法。
【請求項58】
少なくとも1個のヒト化V
HHペプチド単量体を含むヒト化V
HHペプチド結合剤であって、各ヒト化V
HHペプチド単量体がクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)の固有エピトープに対する結合特異性を有する、上記結合剤。
【請求項59】
2個の連結されたヒト化V
HHペプチド単量体を含み、該単量体は同じかまたは異なることができる、請求項58に記載の結合剤。
【請求項60】
3個の連結されたヒト化V
HHペプチド単量体を含み、該単量体は同じかまたは異なることができる、請求項58に記載の結合剤。
【請求項61】
4個の連結されたヒト化V
HHペプチド単量体を含み、該単量体は同じかまたは異なることができる、請求項58に記載の結合剤。
【請求項62】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のうちの2つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ該エピトープは同じかまたは異なることができる、請求項61に記載の結合剤。
【請求項63】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)ならびにそれらに対して少なくとも90%の配列同一性を有するそれらの配列バリアントから選択され、かつ、該配列バリアントがTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または該配列バリアントが毒素中和活性を保持するか、またはその両方である、請求項58~62のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項64】
前記配列バリアントのバリアントアミノ酸が、前記ヒト化V
HHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置する、請求項63に記載の結合剤。
【請求項65】
前記ヒト化V
HHペプチド単量体が、リンカー1(配列番号5)、リンカー2(配列番号6)、およびリンカー3(配列番号7)から独立して選択されるリンカーを用いて連結される、請求項58~64のいずれか1項に記載の結合剤。
【請求項66】
請求項58~65のいずれか1項に記載の結合剤のエピトープ結合性断片。
【請求項67】
請求項58~66のいずれか1項に記載の結合剤をコードするヌクレオチド配列、またはその相補鎖を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項68】
請求項67に記載の単離されたポリヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
【請求項69】
請求項67に記載の単離されたポリヌクレオチド配列または請求項68に記載の発現ベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項70】
前記発現ベクターによりコードされる前記結合剤の発現を促進する条件下で請求項69に記載の単離された細胞を培養するステップ、および該細胞培養物から該結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法。
【請求項71】
請求項1~9、20~31、37~43、48~53および58~66のいずれか1項に記載の結合剤ならびに製薬上許容される担体または希釈剤を含む、医薬製剤。
【請求項72】
治療上有効量の請求項1~9、20~31、37~43、48~53および58~66のいずれか1項に記載の1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症またはC.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に投与するステップを含む、被験体でのC.ディフィシルにより誘導される疾患症状を治療または予防する方法。
【請求項73】
治療上有効量の請求項1~9、20~31、37~43、48~53および58~66のいずれか1項に記載の1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症を有する被験体に投与するステップを含む、C.ディフィシルに感染した被験体でのC.ディフィシル毒素TcdAおよび/またはTcdBを中和する方法。
【請求項74】
治療上有効量の請求項1~9、20~31、37~43、48~53および58~66のいずれか1項に記載の1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症またはC.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に投与するステップを含む、被験体でのC.ディフィシル感染症を治療または予防する方法。
【請求項75】
前記C.ディフィシルが、菌株R20291、CD196、630、M120、BI-9、Liv024、Liv022、TL178、TL176、TL174、CD305、CF5、およびM68、ならびに菌株NR-49277~NR-49327からなる群より選択されるC.ディフィシル株である、請求項72~74のいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
前記中和が部分的中和である、請求項73に記載の方法。
【請求項77】
前記中和が完全中和である、請求項73に記載の方法。
【請求項78】
前記C.ディフィシル毒素TcdAまたはTcdBの中和が、C.ディフィシル毒素TcdAまたはTcdBのエピトープに結合しない結合剤の中和活性と比較して、少なくとも50%の該毒素の中和である、請求項73に記載の方法。
【請求項79】
前記被験体に治療上有効量の抗生物質を投与するステップをさらに含む、請求項74に記載の方法。
【請求項80】
前記結合剤が、該結合剤および製薬上許容される担体または希釈剤を含む医薬製剤中にある、請求項72~79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
前記結合剤の治療上有効量が、10μg/kg~100mg/kgの前記被験体の体重当たりの該結合剤である、請求項72~80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記結合剤が、前記被験体に経口投与、非経口投与または直腸投与される、請求項72~81のいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
前記被験体が、ヒトなどの哺乳動物である、請求項72~82のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ラクダ科VHHおよびヒト免疫グロブリンから誘導される、抗体に基づく新規の結合剤が記載される。
【0002】
連邦支援研究開発の説明
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された助成金第AI132207号に基づく政府助成を用いて行なわれた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表
電子形式(ASCIIテキストファイル)の配列表が本出願と共に提出され、参照により本明細書中に組み入れられる。ASCIIテキストファイルの名称は「2020_1484A_ST25」であり、このファイルは2020年6月12日に作成され、ファイルサイズは61KBである。
【背景技術】
【0004】
ラクダ科の重鎖単独抗体の単一ドメイン可変断片(VHH)は、その単一ドメインの性質、小さなサイズ(15kD)、ならびに製造の容易さおよび多重特異性をはじめとする様々な抗体形式への操作の容易さから生じる特有の利点を有する新たな治療用分子のグループとして、発展して来ている。これらの利点は、従来のモノクローナル抗体に対して、それらの治療上の潜在能力を著しく拡大する(Konning et al. 2017)。ヒト化ラクダ科抗体カプラシズマブ(Caplacizumab)(CabliviTM、Ablynx社)は、2018年に血栓性血小板減少性紫斑病および血栓症の治療に関して欧州連合で承認された。Sanofi社による39億ユーロでのAblynx社(VHH治療薬を開発する会社)の近年の注目された買収もまた、VHH治療薬の価値の予兆である。2016年までに、142種類の治療用ナノボディが開発中であり、そのうち12種類は臨床試験中であった。
【0005】
VHH治療薬に関して、特に反復投与または長期投与が必要とされるVHHの免疫原性を低下させるために、ラクダ科VHHをヒト化することが望ましい。ヒト化は、通常は、突然変異に基づく方法(例えば、突然変異スキャン;リサーフェシング(Desmet et al. 2010);T細胞エピトープ除去(Roque-Navarro et al. 2003);相補性決定領域(CDR)移植(Williams et al. 2010))を介して行なわれる。CDR移植は、抗体をヒト化するために最も一般的に用いられる方法であり;のちにGenentech社によりトラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin(登録商標)))へと開発されたマウス抗体4D5をヒト化するために用いられた方法であった(Carter et al. 1992)。この方法では、抗原結合性領域がヒトフレームワークへと移植される。この方法は直接的である:T細胞エピトープを維持し得るリサーフェシング/B細胞エピトープ除去法(Roque-Navarro et al. 2003)とは異なり、CDR移植は、フレームワーク領域に由来する免疫原性の完全な除去およびCDRに由来する免疫原性の大幅な減少を可能にする(Harding et al. 2010)。ラクダ科VHH CDRは十分に定義されていないので、VHHに関しては、CDR移植法は十分に確立されていない。臨床的使用のために好適なヒト化VHHに対するニーズがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Konning, D., et al. (2017). Camelid and shark single domain antibodies: structural features and therapeutic potential. Current Opinion in Structural Biology 45: 10-16.
【非特許文献2】Desmet, J., et al. (2010). Humanization by Resurfacing. Antibody Engineering. R. Kontermann and S. Dubel, Springer Berlin Heidelberg: 341-353.
【非特許文献3】Roque-Navarro, L., et al. (2003). Humanization of Predicted T-Cell Epitopes Reduces the Immunogenicity of Chimeric Antibodies: New Evidence Supporting a Simple Method. Hybridoma and Hybridomics 22(4): 245-257.
【非特許文献4】Williams, D., et al. (2010). Humanising Antibodies by CDR Grafting. Antibody Engineering. R. Kontermann and S. Dubel, Springer Berlin Heidelberg: 319-339.
【非特許文献5】Carter, P., et al. (1992). Humanization of an anti-p185HER2 antibody for human cancer therapy. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 89(10): 4285-4289.
【非特許文献6】Harding, F. A., et al. (2010). The immunogenicity of humanized and fully human antibodies. mAbs 2(3): 256-265.
【発明の概要】
【0007】
本発明は、とりわけ、ヒト化VHH抗原結合性ブロックに基づく、四重特異的8価IgG1分子を提供する。ラクダ科の重鎖単独抗体の単一ドメイン可変断片(VHH)をヒト化するためにCDR(相補性決定領域)移植法を用いて、臨床応用で使用するためのVHHに基づく治療薬を改良した。下記で論じる通り、VHH CDRは、VHHヒト化に対する一般的なガイドとして機能するVHH中の抗原接触残基の統計的分布に基づいて定義される。本発明は、中和活性および広範な反応性をはじめとする生物活性が強化された、4種類の重複しないエピトープに反応する特定の抗体(FZ003と命名される)を含む。
【0008】
CDRを正確に定義することは、成功裏にVHHをヒト化するために極めて重要である(Roguska et al. 1994;Roque-Navarro et al. 2003;Williams et al. 2010;Sela-Culang et al. 2013)。従来の抗体に反して、ラクダ科VHH CDRは十分に定義されて来なかった。以前の研究および近年の知見により、従来の抗体に基づくCDR定義がVHHには単純に当てはめられないことが実証されている。しかしながら、抗体-抗原複合体の結晶構造の大型データベースが利用できるようになると、あるグループが近年、これまでにないほど正確に従来の非ウサギCDRを定義し(Kunik et al. 2012)、別のグループにより実証されたように、フレームワーク領域中には166個の抗原接触残基のうちわずか2個しかなかった(Olimpieri et al. 2013)。同様の方法を用いて、ウサギ抗体の抗原接触残基が特定され、ウサギ抗体のヒト化のためのCDR移植アプローチが開発され、このアプローチは高い成功率を達成している(ZhangおよびHo 2017)。このアプローチを、ラクダ科動物種(ラクダ、アルパカおよびラマなど)由来のVHHに関するCDRの定義に拡張および応用し、クロストリジウム・ディフィシルに対する治療可能性を有するVHHをヒト化するために用いた。
【0009】
ラクダ科CDR
第一の実施形態では、本発明は、表1に示されるラクダ科(例えば、アルパカ)CDRに関する。つまり、本発明は、配列番号14に示されるペプチド、配列番号15に示されるペプチド、配列番号16に示されるペプチド、配列番号17に示されるペプチド、配列番号18に示されるペプチド、配列番号19に示されるペプチド、配列番号20に示されるペプチド、配列番号21に示されるペプチド、配列番号22に示されるペプチド、配列番号23に示されるペプチド、配列番号24に示されるペプチド、および配列番号25に示されるペプチドを含む。
【0010】
これらのCDRは、C.ディフィシルA毒素またはB毒素に対する結合特異性を有する4種類の異なるラクダ科VHHペプチドを構成する。これらのCDRを、DP47フレームワーク、ヒト生殖系列配列、またはIGHV3-23*01フレームワークなどのヒト抗体フレームワークへと組み込むことができる。結果として生じるヒト化VHHペプチドもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0011】
【0012】
本発明はまた、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ野生型ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持する、これらのラクダ科CDRの配列バリアントも含む。つまり、本発明は、配列番号14~25に示されるペプチドに対して少なくとも80%の配列同一性を有するバリアントを含み、このとき、該バリアントは、それが基づく野生型ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持する。
【0013】
ラクダ科V
H
H
本発明はさらに、5D、E3、AH3およびAA6と命名された4種類のラクダ科(アルパカ)V
HHペプチドに関する。ラクダ科V
HHペプチドは、C.ディフィシルA毒素またはB毒素に対する結合特異性を有する。これらのペプチドをコードするアミノ酸配列が、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6)に提供され、かつ
図1に示される。つまり、本発明は、配列番号26に示されるペプチド、配列番号27に示されるペプチド、配列番号28に示されるペプチド、および配列番号29に示されるペプチドを含む。
【0014】
本発明はまた、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ野生型ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持する、これらのラクダ科VHHペプチドの配列バリアントも含む。つまり、本発明は、配列番号26~29に示されるペプチドに対して少なくとも80%の配列同一性を有するバリアントを含み、このとき、該バリアントは、それが基づく野生型ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持する。
【0015】
結合剤
C.ディフィシル関連疾患は、細菌により産生される、2種類の大型の外毒素、すなわち、A毒素(TcdA)およびB毒素(TcdB)により主に引き起こされる。これらの毒素は、宿主細胞に対して類似の作用機序を示す、構造的に似通った300kDaの単鎖タンパク質である。両方の毒素が宿主Rho GTPアーゼを標的とし、それにより酵素不活性化、およびそれに続く細胞骨格分解およびアポトーシスが引き起こされる。腸上皮細胞では、TcdAはRho GTPアーゼのグルコシル化を触媒し、これがアクチン細胞骨格の再編成(reorganization)と、それに伴う形態学的変化(細胞の完全な円形化など)および腸バリア機能の破壊を引き起こす。毒素は動物でのCDIを個々に生じさせることができ、細菌のTcdA-TcdB-株は非病原性である。
【0016】
毒素に対する全身性および粘膜抗体は、CDIに対する防御を賦与する。TcdAおよびTcdBはC.ディフィシルにとって必須の病原性因子であるので、両方の毒素に対して産生された抗体は、動物モデルでの毒素産生性C.ディフィシル感染症を治療し、かつそれに対して保護することができる。
【0017】
本発明は、部分的には、CDI、およびCDIの症状の治療および予防についての抗TcdAおよび抗TcdB抗体に関する既存の知識に基づく。本明細書中には、ヒトおよびラクダ科免疫グロブリンから誘導される、新規の、抗体に基づく結合剤が提供される。これらの結合剤は、C.ディフィシルTcdAおよび/またはTcdBを認識し、かつ特異性を有してそれらに結合する。これらの結合剤の一部は、毒素中和活性を示す。これらの結合剤は、一次(primary)および再発CDI、ならびに一次および再発CDIの症状を治療または予防するために用いることができる。
【0018】
ラクダ科動物は、軽鎖を欠き、つまり、重鎖単独抗体(HCAb)である、機能的免疫グロブリンのクラスを産生する。VHHと称されるHCAbのVHドメインは、従来のヒトVHドメインに類似するが、固有の配列および構造的特徴を有する。このドメインをコードするDNAは、容易にクローニングすることができ、かつ微生物中で発現させて、親HCAbの抗原結合特性を保持する可溶性タンパク質単量体を得ることができる。これらのVHHペプチド単量体は、小型で(約15kDa)、産生させるのが容易であり、かつ従来の抗体断片と比べて一般的に安定である。これらはまた、他のVHHペプチド単量体に連結させるか、またはヒト抗体(IgGなど)との融合タンパク質として、およびヒト抗体の断片(Fcドメインなど)との融合タンパク質として、産生させることができる。VHHペプチド単量体はラクダ科動物に由来するので、ヒト被験体への単量体および単量体を含む結合剤の投与は、タンパク質に対する免疫応答を誘導する場合がある。したがって、融合タンパク質の産生前にVHHペプチド単量体をヒト化することにより、非ヒト化バージョンよりも免疫原性が低減された結合剤の生成が可能になる。VHHペプチド単量体のヒト化は、ヒト体内に天然に存在する抗体バリアントに対するペプチドの類似性を増加させるための、単量体のアミノ酸配列の改変を含む。代替的に、かつ上記で論じられ、本明細書中で用いられる通り、単量体のヒト化バージョンは、ヒト抗体フレームワークへのCDR移植により生成される。
【0019】
したがって、本発明の結合剤は、ヒト化VHHペプチド単量体およびヒト化VHHペプチド単量体の連結された群(2個、3個、4個、またはそれ以上の単量体を含む)、ならびに抗体Fcドメインに結合したヒト化VHHペプチド単量体、および部分的または完全抗体に結合したヒト化VHHペプチド単量体を含む、より複雑な結合剤を含み、このとき、抗体は好ましくはIgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4など)であるが、IgM、IgA、IgDおよびIgE抗体も挙げられる。Fcドメインおよび抗体は同様に、完全ヒト抗体またはヒト化抗体であり得る。結合剤は、以下の段落で定義される。
【0020】
ヒト化V
H
Hペプチド単量体結合剤
第2の実施形態では、本発明は、ヒト化V
HHペプチド単量体、および2個(ホモ二量体およびヘテロ二量体)、3個(ホモ三量体およびヘテロ三量体)、4個(ホモ四量体およびヘテロ四量体)、またはそれ以上の単量体であって、それらのそれぞれが、好ましくは特異性を有して、独立してTcdAおよび/またはTcdBに結合する単量体を含む、ヒト化V
HHペプチド単量体の連結された群を含む結合剤に関する。つまり、本発明は、少なくとも1個のヒト化V
HHペプチド単量体を含むV
HHペプチド結合剤を包含し、このとき、各ヒト化V
HHペプチド単量体は、C.ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)の固有エピトープに対する結合特異性を有する。特定の態様では、これらの結合剤は、2個、3個、4個、またはそれ以上の連結されたヒト化V
HHペプチド単量体を含む。ヒト化V
HHペプチド単量体としては、限定するものではないが、
図1に示される、ヒト化V
HHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)が挙げられる。
【0021】
本発明はまた、VHHバリアントペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ野生型ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持する、ヒト化VHHペプチド単量体の配列バリアントも含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または両方の領域に位置することができる。対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6))と比較した場合、バリアントのペプチド配列は、少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を含む。
【0022】
2個以上の単量体が連結される本実施形態の態様では、単量体同士は、一般的には10~20個のアミノ酸を含む、柔軟なペプチドリンカーにより連結されることができる。好適なリンカーとしては、限定するものではないが、リンカー1(配列番号5)およびリンカー2(配列番号6)が挙げられる。
【0023】
本実施形態の特定の態様では、結合剤は、特異性を有してTcdAおよび/またはTcdBに結合する。本実施形態の特定の態様では、結合剤は、TcdAおよび/またはTcdB中和活性を示す。
【0024】
本実施形態の具体的な態様では、結合剤は、4個の連結されたヒト化VHHペプチド単量体を含み、このとき、単量体のうちの2個はTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、単量体のうちの2個はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。TcdAのエピトープは、同じかまたは異なることができる。TcdBのエピトープは、同じかまたは異なることができる。
【0025】
本発明のヒト化VHHペプチド単量体およびヒト化VHHペプチド単量体の連結された群を含む結合剤をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列ならびにそれらの相補鎖もまた、本発明の範囲に含まれる。本発明はさらに、単離されたポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを包含する。本発明はまた、本発明の発現ベクターのうちの1種以上を含む、単離された宿主細胞を包含する。本発明はさらに、発現ベクターによりコードされる結合剤の発現を促進する条件下で、単離された宿主細胞を培養するステップ、および細胞培養物から結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法を包含する。
【0026】
V
H
H-IgG結合剤
第3の実施形態では、本発明は、IgG抗体の実質的な部分に結合したヒト化VHHペプチド単量体を含む結合剤に関し、このとき、該結合剤はTcdAおよび/またはTcdBに結合する。これらのIgGに基づく結合剤では、IgG抗体の軽鎖および重鎖の可変領域が、1個、2個、3個、4個、またはそれ以上のヒト化VHHペプチド単量体により置き換えられる。用いられるIgG抗体は、完全ヒト抗体またはヒト化抗体であり得る。
【0027】
本発明は、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/または中和活性を保持する、ヒト化VHH-IgG結合剤の配列バリアントを含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または該薬剤のIgG部分に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域と該薬剤のIgG部分との組み合わせに限定され得る。変化がVHHペプチド単量体中に存在する場合、単量体バリアントのペプチド配列は、対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、または配列番号29(AA6))と比較して、少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を含む。
【0028】
本実施形態の特定の態様では、VHH-IgG結合剤は、生来型可変領域の代わりに、IgG軽鎖および重鎖のアミノ末端に結合した、2個、3個、4個またはそれ以上の連結されたヒト化VHHペプチド単量体を含む。ヒト化VHHペプチド単量体としては、限定するものではないが、ヒト化VHHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)、およびhAH3(配列番号4)が挙げられる。
【0029】
2個以上の単量体が連結される本実施形態の態様では、単量体同士は、一般的には10~20個のアミノ酸を含む、柔軟なペプチドリンカーにより連結されることができる。好適なリンカーとしては、限定するものではないが、リンカー1(配列番号5)およびリンカー2(配列番号6)が挙げられる。
【0030】
第1の下位実施形態では、本発明は、IgG抗体の実質的な部分、2組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体、ならびに2組の連結された第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤に関し、このとき、IgG抗体は2本のアームを含み、各アームが可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、かつ各鎖がアミノ末端を有し、このとき、該抗体の各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合し、かつ1組の連結された第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合し、かつこのとき、該ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。この結合剤は、4種類の異なる毒素エピトープを認識するので、「四重特異的」と称される。この結合剤は、8個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、2コピーの第2単量体、2コピーの第3単量体、および2コピーの第4単量体)を担持するので、「八量体」と称される。
【0031】
本下位実施形態では、第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体は、それぞれ、異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0032】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0033】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAまたはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0034】
この結合剤はIgGに基づく結合剤であるので、記載されたアミノ酸配列を有する2個の重鎖ポリペプチドおよび2個の軽鎖ポリペプチドがジスルフィド結合を介して集合し、完全な結合剤がもたらされるであろうことが、当業者には明らかであろう。この結合剤の一例は、κ軽鎖を有するIgGに基づくFZ003結合剤である。FZ003結合剤の軽鎖は、配列番号8に提供され、これはヒト化VHHペプチド単量体hAA6(配列番号3)およびhE3(配列番号2)から構成され、このとき、ペプチド単量体は、リンカー1(配列番号5)により連結される。配列のうちの残余の部分は、IgG軽鎖配列である。FZ003結合剤の重鎖は、配列番号9に提供され、これはヒト化VHHペプチド単量体hAH3(配列番号4)およびh5D(配列番号1)から構成され、このとき、ペプチド単量体は、リンカー1(配列番号5)により連結される。配列のうちの残余の部分は、IgG重鎖配列である。これらの結合剤の配列バリアントはTcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性を保持するか、または配列バリアントは毒素中和活性を保持するか、またはその両方である。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または該薬剤のIgG部分に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域と該薬剤のIgG部分との組み合わせに限定され得る。
【0035】
第2の下位実施形態では、本発明は、IgG抗体の実質的な部分ならびに第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む、二重特異的または四重特異的四量体結合剤に関し、このとき、IgG抗体は2本のアームを含み、各アームが可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、かつ各鎖がアミノ末端を有し、このとき、該抗体の第1アームに関して、第1のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合し、かつ第2のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合し、かつこのとき、該抗体の第2アームに関して、第3のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合し、かつ第4のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合し、かつこのとき、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。結合剤が「四重特異的」である場合、これは4種類の異なる毒素エピトープを認識し;「二重特異的」である場合、これは2種類の異なる毒素エピトープを認識する。4個のヒト化VHHペプチド単量体を担持するので、結合剤は「四量体」である(二重特異的である場合、第1および第3の単量体が同じ配列を有して同じエピトープに結合し、かつ第2および第4の単量体が同じ配列を有して同じエピトープに結合し;四重特異的である場合、単量体のそれぞれが異なる配列を有して異なるエピトープに結合する)。
【0036】
結合剤が二重特異的である場合、第1および第2の単量体は異なるエピトープに対する結合特異性を有し、第1および第3の単量体は同一のアミノ酸配列を有し、かつ第2および第4の単量体が同一のアミノ酸配列を有する。ヒト化VHHペプチド単量体のうちの1種類がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの1種類がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。
【0037】
結合剤が四重特異的である場合、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれが、異なるエピトープに対する結合特異性を有する。ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。
【0038】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれが、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0039】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれが、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0040】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAまたはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0041】
本実施形態および下位実施形態の特定の態様では、結合剤は、特異性を有してTcdAおよび/またはTcdBに結合する。本実施形態の特定の態様では、結合剤は、TcdAおよび/またはTcdB中和活性を示す。
【0042】
本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の軽鎖アームをコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列およびその相補鎖もまた、本発明の範囲に含められる。1つの具体例では、本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の軽鎖アームは、配列番号10に示される核酸配列によりコードされる。
【0043】
本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の重鎖アームをコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列およびその相補鎖もまた、本発明の範囲に含められる。1つの具体例では、本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の重鎖アームは、配列番号11に示される核酸配列によりコードされる。
【0044】
本発明はさらに、単離されたポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを包含する。1つの具体例では、本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の軽鎖アームをコードする発現ベクターは、配列番号12に示される核酸配列を含む。別の具体例では、本発明のヒト化VHH-IgG結合剤の重鎖アームをコードする発現ベクターは、配列番号13に示される核酸配列を含む。本発明はまた、1種以上の本発明の発現ベクターを含む単離された宿主細胞も包含する。本発明はさらに、該発現ベクターによりコードされる結合剤の発現を促進する条件下で該単離された宿主細胞を培養するステップ、および細胞培養物から結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法を包含する。
【0045】
V
H
H-Fc結合剤
第4の実施形態では、本発明は、抗体Fcドメインに結合したヒト化VHHペプチド単量体を含む結合剤に関し、このとき、結合剤はTcdAおよび/またはTcdBに結合する。これらのFcドメインに基づく結合剤では、1個、2個、3個、4個またはそれ以上のヒト化VHHペプチド単量体が、抗体重鎖のFcドメインの各アームのヒンジ、CH2およびCH3領域に結合する。つまり、ペプチド単量体が、抗体のFab領域を置き換える。用いられるFcドメインは、完全ヒトまたはヒト化Fcドメインであり得る。
【0046】
本発明は、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/または中和活性を保持する、VHH-Fc結合剤の配列バリアントを含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または該薬剤のFc部分に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域と該薬剤のFc部分との組み合わせに限定され得る。変化がVHHペプチド単量体中に存在する場合、単量体バリアントのペプチド配列は、対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、または配列番号29(AA6))と比較して少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を含む。
【0047】
本実施形態の特定の態様では、これらの結合剤は、Fcドメインのアームのアミノ末端に結合した2個、3個、4個、またはそれ以上の連結されたヒト化VHHペプチド単量体を含む。ヒト化VHHペプチド単量体としては、限定するものではないが、ヒト化VHHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)が挙げられる。
【0048】
2個以上の単量体が連結される本実施形態の態様では、単量体同士は、一般的には10~20個のアミノ酸を含む柔軟なペプチドリンカーにより連結されることができる。好適なリンカーとしては、限定するものではないが、リンカー1(配列番号5)およびリンカー2(配列番号6)が挙げられる。
【0049】
第1の下位実施形態では、本発明は、抗体Fcドメイン、ならびに2組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤に関し、このとき、抗体Fcドメインは2本のアームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域を含み、かつ各アームがアミノ末端を有し、このとき、該Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体がアームのアミノ末端に結合し、かつこのとき、該ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。この結合剤は、4種類の異なる毒素エピトープを認識するので、「四重特異的」と称される。この結合剤は、8個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、2コピーの第2単量体、2コピーの第3単量体、および2コピーの第4単量体)を担持するので、「八量体」と称される。
【0050】
本下位実施形態の特定の態様では、第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体は、それぞれ、異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0051】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0052】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAまたはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0053】
配列バリアントのバリアントアミノ酸は、ヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域中に位置し得る。
【0054】
第2の下位実施形態では、本発明は、抗体Fcドメインならびに2組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体を含む、二重特異的四量体結合剤に関し、このとき、抗体Fcドメインは2本のアームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域を含み、かつ各アームがアミノ末端を有し、このとき、該Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体がアームのアミノ末端に結合し、かつこのとき、該ヒト化VHHペプチド単量体は、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。2種類の異なる毒素エピトープを認識するので、この結合剤は「二重特異的」と称される。この結合剤は、4個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、および2コピーの第2単量体)を担持するので、「四量体」と称される。
【0055】
本下位実施形態の特定の態様では、第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体が、同じかまたは異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0056】
本下位実施形態の特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAまたはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0057】
本実施形態または下位実施形態の特定の態様では、結合剤は、特異性を有してTcdAおよび/またはTcdBに結合する。本実施形態の特定の態様では、結合剤は、TcdAおよび/またはTcdB中和活性を示す。
【0058】
本発明は、本明細書中で定義される種々の実施形態および態様の中で提供される各結合剤のエピトープ結合性断片を含む。
【0059】
本発明は、本明細書中で定義される結合剤のうちの1種以上および製薬上許容される担体または希釈剤を含有する医薬製剤を含む。
【0060】
本発明のヒト化VHH-Fc結合剤の軽鎖アームをコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列およびその相補鎖もまた、本発明の範囲に含められる。
【0061】
本発明のヒト化VHH-Fc結合剤の重鎖アームをコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド配列およびその相補鎖もまた、本発明の範囲に含められる。
【0062】
本発明はさらに、単離されたポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを包含する。本発明はまた、1種以上の本発明の発現ベクターを含む単離された宿主細胞も包含する。本発明はさらに、該発現ベクターによりコードされる結合剤の発現を促進する条件下で該単離された宿主細胞を培養するステップ、および細胞培養物から結合剤を回収するステップを含む、結合剤の製造方法を包含する。
【0063】
治療方法
第5の実施形態では、本発明は、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症を有するかまたはC.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に投与するステップを含む、被験体でのC.ディフィシルにより誘導される疾患症状を治療または予防する方法に関する。本実施形態の一部の態様では、C.ディフィシル感染症は、一次感染である。他の態様では、C.ディフィシル感染症は、再発感染である。特定の実施形態では、結合剤はFZ003結合剤である。
【0064】
第6の実施形態では、本発明は、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症を有する被験体に投与するステップを含む、C.ディフィシルに感染した被験体でのC.ディフィシル毒素TcdAおよび/またはTcdBを中和する方法に関する。本実施形態の一部の態様では、C.ディフィシル感染症は、一次感染である。他の態様では、C.ディフィシル感染症は、再発感染である。特定の実施形態では、結合剤はFZ003結合剤である。
【0065】
第7の実施形態では、本発明は、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を、C.ディフィシル感染症を有するかまたはC.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に投与するステップを含む、被験体でのC.ディフィシル感染症を治療または予防する方法に関する。本実施形態の一部の態様では、C.ディフィシル感染症は、一次感染である。他の態様では、C.ディフィシル感染症は、再発感染である。特定の実施形態では、結合剤はFZ003結合剤である。
【0066】
第6の実施形態の特定の態様では、方法は、被験体に、治療上有効量の抗生物質(および/またはC.ディフィシル感染症を治療もしくは予防するための他の治療薬)を投与するステップをさらに含む。
【0067】
本明細書中に記載される方法のそれぞれの特定の態様では、結合剤は、該結合剤および製薬上許容される担体または希釈剤を含有する医薬製剤中にある。
【0068】
本明細書中に記載される方法のそれぞれの特定の態様では、結合剤の治療上有効量は、被験体の体重当たり10μg/kg~100mg/kgの該薬剤である。
【0069】
本明細書中に記載される方法のそれぞれの特定の態様では、薬剤は、被験体に経口投与、非経口投与または直腸投与される。
【0070】
上記では、以下に続く本発明の詳細な説明がより良く理解され得るために、本発明の特徴および技術的利点を広く概説してきた。本発明の追加の特徴および利点が本明細書中で説明され、これが本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。本明細書中に開示されるいかなる構想および具体的実施形態も、改変または本発明の同じ目的を実行するための他の構造を設計するための基礎として容易に用い得ることが、当業者により理解されるはずである。そのような等価の構成が、添付の特許請求の範囲に説明される本発明の精神および範囲から逸脱しないこともまた、当業者により理解されるはずである。本発明の特徴であると考えられる新規の特徴が、その体系化および操作方法の両方に関して、さらなる対象物および利点と共に、添付図面と関連付けて考慮される場合に、以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、いかなる説明、図面、実施例等も例示および説明のみの目的で提供されており、かつ本発明の限定を規定することを決して意図しないことが、明確に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】
図1は、5D(配列番号26)、E3(配列番号27)、AH3(配列番号28)およびAA6(配列番号29)と命名された4種類のラクダ科(アルパカ)V
HHペプチドについてのアミノ酸配列を提供する図である。これらのV
HHペプチドの4種類のヒト化バージョン、すなわち、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)のアミノ酸配列が、同様に提供される。ヒトIGHV3-23*01(配列番号30)およびヒトIGHJ4*01(配列番号31)のアミノ酸配列が、同様に提供される。
【
図2】
図2は、本発明のヒト化V
HH結合剤の模式図を提供する図である。
【
図3】
図3は、(A)四重特異的IgG1および(B)二重特異的IgG1構築物、ならびに(C)二重特異的IgG1(AAおよびBB)および四重特異的IgG1(ABAB)のSDS-PAGEを提供する図である。
【
図4】
図4は、C.ディフィシルTcdAおよびTcdBに対する四重特異的八量体V
HH結合剤の特性決定を提供する図である。ABAB-IgGはアルパカV
HHを含有し、FZ001は突然変異スキャンにより作製されたヒト化V
HHを含有し、FZ003はCDR移植されたヒト化V
HHを含有する。(A)構築物、精製タンパク質のSDS-PAGEおよび哺乳動物細胞株でのこれらの構築物の発現レベルが示される。付番された部分がV
HHであり、1および4がTcdAを標的とし、2および3がTcdBを標的とする。精製された四重特異的IgG1のTcdAに対する(B)親和性および(C)中和活性。精製された四重特異的IgG1のTcdBに対する(D)親和性および(E)中和活性。
【
図5】
図5は、マウスでのCDIに対する治療有効性を有するFZ003をMerck社の抗TcdB抗体と比較して示すデータである。
【
図6A】
図6Aは、FZ003をMerck社の抗TcdB抗体と比較するマウスCDI研究についてのスキームを示す図である。
【
図6B】
図6Bは、FZ003を用いて処置されたマウスの体重をMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図6C】
図6Cは、FZ003を用いて処置されたマウスについての下痢スコアをMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図6D】
図6Dは、FZ003を用いて処置されたマウスについての生存率(%)をMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図7A】
図7Aは、FZ003をMerck社の抗TcdB抗体と比較した、マウスでのバンコマイシン誘導型再発CDIの研究についてのスキームを示す図である。
【
図7B】
図7Bは、FZ003を用いて処置されたマウスの体重をMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図7C】
図7Cは、FZ003を用いて処置されたマウスについての下痢スコアをMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図7D】
図7Dは、FZ003を用いて処置されたマウスについての生存率(%)をMerck社の抗TcdB抗体と比較して示す図である。
【
図8A】
図8Aは、加齢マウスモデルでの一次CDIに対するFZ003(10mg/kg)の予防的効果の研究についてのスキームを示す図である。
【
図8B】
図8Bは、FZ003(10mg/kg)を用いて処置されたマウスについての下痢スコアをPBSと比較して示す図である。
【
図8C】
図8Cは、FZ003(10mg/kg)を用いて処置されたマウスの体重をPBSと比較して示す図である。
【
図8D】
図8Dは、FZ003(1mg/kg)を用いて処置されたマウスの体重をPBSと比較して示す図である。
【
図8E】
図8Eは、FZ003(10mg/kg)を用いて処置されたマウスの臨床スコアをPBSと比較して示す図である。
【
図8F】
図8Fは、FZ003(1mg/kg)を用いて処置されたマウスの臨床スコアをPBSと比較して示す図である。
【
図8G】
図8Gは、FZ003(10mg/kg)を用いて処置されたマウスの生存率(%)をPBSと比較して示す図である。
【
図8H】
図8Hは、FZ003(1mg/kg)を用いて処置されたマウスの生存率(%)をPBSと比較して示す図である。
【
図9A】
図9Aは、加齢マウスモデルでの一次CDIに対するFZ003(1mg/kg)の予防的効果の研究についてのスキームを示す図である。
【
図9B】
図9Bは、FZ003を用いて処置されたマウスの体重をPBSと比較して示す図である。
【
図9C】
図9Cは、FZ003を用いて処置されたマウスについての下痢スコアをPBSと比較して示す図である。
【
図9D】
図9Dは、FZ003を用いて処置されたマウスの生存率(%)をPBSと比較して示す図である。
【
図10A】
図10Aは、FZ003を生理食塩液と比較するハムスターCDI研究についてのスキームを示す図である。
【
図10B】
図10Bは、FZ003または生理食塩液を用いて処置されたハムスターの生存率(%)を示す図である。
【
図10C】
図10Cは、FZ003または生理食塩液を用いて処置されたハムスターについての疾患スコアを示す図である。
【
図10D】
図10Dは、FZ003または生理食塩液を用いて処置されたハムスターの体重を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
I.定義
別途記載しない限り、技術的用語は、慣用的な使用法に従って用いられる。分子生物学で一般的な用語の定義は、例えば、Benjamin Lewin, Genes VII, published by Oxford University Press, 2000(ISBN 019879276X);Kendrew et al. (eds.);The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Publishers, 1994(ISBN 0632021829);およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by Wiley, John & Sons, Inc., 1995(ISBN 0471186341);ならびに他の同様の技術的参考文献中に見出すことができる。
【0073】
本明細書中で用いる場合、「a」または「an」は1以上を意味することができる。本明細書中で用いる場合、単語「含む」(comprising)と組み合わせて用いる際には、単語「a」または「an」は1つまたは2以上を意味することができる。本明細書中で用いる場合、「別の」(another)は少なくとも2番目またはそれ以降を意味することができる。さらに、文脈により特に要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。
【0074】
本明細書中で用いる場合、「約」(about)とは、明示的に示されているか否かにかかわらず、例えば、整数、分数、および百分率をはじめとする数値を指す。用語「約」とは、一般的には、記載された値と同等である(例えば、同じ機能または結果を有する)と当業者が考えるであろう数値の範囲(例えば、記載された値の±5~10%)を指す。一部の例では、用語「約」は、最も近い有効数字へと四捨五入されている数値を含み得る。
【0075】
II.本発明
動物でのCDIの主要な作用因子は、C.ディフィシル外毒素TcdAおよびTcdB(A毒素およびB毒素)である。これらの毒素は、宿主細胞で類似の作用機序を示す、構造的に似通った300kDaの単鎖タンパク質である。両方の毒素が、宿主Rho GTPアーゼを標的として、酵素不活性化と、それに続く細胞骨格分解およびアポトーシスを引き起こす。腸上皮細胞では、TcdAはRho GTPアーゼのグルコシル化を触媒し、これがアクチン細胞骨格の再編成と、それに伴う形態学的変化(細胞の完全な円形化など)および腸バリア機能の破壊を引き起こす。毒素は動物でのCDIを個々に生じさせることができ、細菌のTcdA-TcdB-株は非病原性である。
【0076】
毒素に対する全身性および粘膜抗体がCDIに対する防御を賦与することが、多数の独立した研究により実証されてきた。TcdAおよびTcdBはC.ディフィシルにとって必須の病原性因子であるので、両方の毒素に対して産生された抗体は、動物モデルにおいて毒素産生性C.ディフィシル感染症から保護することができる。ヒトでは、高い血清レベルの抗毒素抗体が、疾患重症度の低下および再発の発生率の減少に関連付けられる。したがって、全身的および経口的に投与される抗毒素抗体に関する予防的な論理的根拠が存在する。しかしながら、単一エピトープを標的とするモノクローナル抗体は典型的には低親和性であり、そのような抗体の使用は毒素のエピトープ内での突然変異を誘導し、それにより追加の菌株をつくり出すリスクがある。したがって、複数の重要な保存された毒素エピトープを標的とする中和抗毒素抗体が非常に望ましい。
【0077】
ラクダ科動物は、軽鎖を欠損し、したがって重鎖単独抗体(HCAb)である機能的免疫グロブリンのクラスを産生する。ラクダ科HCAbは、従来のヒトIgGにより達成されるのと同等の結合特性を有して標的抗原に結合する。VHHと称されるHCAbのVH領域は、従来型のVHドメインと類似するが、固有の配列および構造的特徴を有する。このドメインをコードするDNAは容易にクローニングでき、微生物中で発現させて、親HCAbの抗原結合特性を保持する可溶性タンパク質単量体を得ることができる。これらのVHHペプチド単量体結合剤は小型であり(約15kDa)、生成するのが容易で、かつ従来の抗体断片よりも一般的に安定である。
【0078】
本発明は、CDIの治療および予防で用いることができるヒト化VHHペプチド単量体およびそれに基づく結合剤の作製に、HCAbの有利な特徴を利用する。VHHペプチド単量体が、TcdAおよびTcdBエピトープ認識および結合についてスクリーニングされ、本発明の結合剤が、TcdAおよび/もしくはTcdB結合特異性、またはTcdAおよび/もしくはTcdB中和活性、またはそのような結合特異性および中和活性の両方を示したもののバージョンに基づいて、本明細書中に規定される方法を用いてヒト化される。
【0079】
VHHペプチド単量体の繰り返しかつ/または長期のin vivo使用に対する2つの主な障害は、それらのおそらく短い半減期と、潜在的な免疫原性である。第1の障害に関して、VHH単量体を、それらの価数および循環半減期を増大させる働きをする、本明細書中で論じられる通りの、ヒトIgGおよびFcドメインに融合させることができる。
【0080】
第2の障害に関して、VHHペプチド単量体はラクダ科動物に由来するものであるので、単量体および単量体を含む結合剤のヒト被験体への投与は、タンパク質に対する免疫応答を誘導する可能性がある。それらの小さなサイズおよびファミリーIIIのヒトVHフレームワークへのそれらのフレームワーク領域の同一性の高さに起因して、VHHペプチド単量体は、ヒトに投与した場合に低い免疫原性を示すと予測される。実際に、小型の一価VHH単量体の全身性投与は、あるとしても小さな中和抗体応答しか誘導しないようである。しかしながら、タンパク質免疫原性は一般的にサイズおよび複雑さに伴って増大する。IgGおよびFcに基づく結合剤での考えられる免疫原性に対処するために、VHH単量体は、それらの発現レベル、親和性、可溶性、および安定性を損なうことなく、CDR移植技術を用いてヒト化される。最終的な生成物は、ループドナーVHHペプチドの抗原特異性および親和性を保持しながら、ヒトIgG1と同様の良好な発現、安定性、および可溶性を有する。
【0081】
ヒトVH遺伝子に対する最も高い同一性を獲得し、かつ最も高い結合活性/中和活性を有するヒト化VHH単量体が選択され、その後、本発明の完全ヒト化結合剤を作製するために、VHH-FcおよびVHH-IgG構築物へとそれらを変換した。これらの結合剤のタンパク質配列は、その標的抗原に結合する結合剤の能力を担うCDRセグメントの一部の非ヒト起源を除いて、ヒト抗体バリアントのものと本質的に同一であり得る。したがって、この戦略は、考えられるin vivo免疫原性の可能性を減少させ、つまり、それらの安全性およびin vivo半減期を増加させる。
【0082】
エピトープ結合活性および毒素中和活性を示すそれらのヒト化V
HH単量体を、本発明の結合剤の一部を作製するために連結した。結合剤は、単純なヒト化V
HHペプチド単量体およびヒト化V
HHペプチド単量体の連結された群(2個、3個、4個、またはそれ以上の単量体を含む)、ならびに抗体のFcドメインに結合したヒト化V
HHペプチド単量体を含むさらに複雑な結合剤、およびIgG抗体の一部分に結合したヒト化V
HHペプチド単量体を含む(
図2)。
【0083】
V
H
H単量体およびV
H
H二量体
本発明者らは、両方のC.ディフィシル毒素の特定のドメインに対するVHH単量体をスクリーニングするための効率的なプラットフォームを確立した。免疫化のための高度に免疫原性の無毒なホロ毒素、およびスクリーニングのための生物活性キメラ毒素(正常なドメイン機能を有する)を用いて、TcdAまたはTcdBの異なるドメインに対して結合するVHH単量体のパネルを作製した。これらのVHH単量体の大多数は、強力な中和活性を有し、特定のドメインへのそれらの結合性が測定された。
【0084】
VHH単量体のうちの数種類は、高度に保存されたTcdA/TcdBエピトープに結合する。例えば、E3 VHH単量体(配列番号27)はRho GTPアーゼ結合部位に結合し、かつグルコシル化をブロックし;AH3 VHH単量体(配列番号28)は毒素のGTドメインに結合し;7F VHH単量体はシステインプロテアーゼ切断部位に結合し、かつGTドメイン切断および放出をブロックする。一部のVHH単量体は、強力な毒素中和活性を有し、nM濃度で毒素の細胞傷害活性をブロックすることが可能である。
【0085】
これらのV
HH単量体を、続いて、これもまた本明細書中で定義されるCDR移植技術を用いて、本明細書中で定義されるヒト化V
HH単量体の作製で使用した。V
HH単量体5D(配列番号26)、E3(配列番号27)、AH3(配列番号28)およびAA6(配列番号29)のそれぞれのヒト化バージョンが作製され、結果としてヒト化V
HH単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)が得られた。
図1を参照されたい。
【0086】
したがって、本発明は、ヒト化VHHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)のそれぞれを含む。本発明はまた、VHHバリアントペプチド配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型ヒト化ペプチドの毒素結合活性および/または中和活性を保持するヒト化VHHペプチド単量体の配列バリアントも含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域およびCDRの両方に位置することができる。対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6))と比較した場合、ヒト化VHHペプチド単量体のバリアントは、少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を有する。つまり、バリアントは、元の非ヒト化ラクダ科VHHペプチド単量体を包含しない。
【0087】
本発明はまた、それぞれのヒト化VHHペプチド単量体およびその配列バリアントをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにその相補鎖も含む。
【0088】
ペプチド単量体の結合活性を強化するために、2個のヒト化VHHペプチド単量体が連結されているヒト化VHHペプチドホモ二量体およびヘテロ二量体結合剤を作製した。ホモ二量体結合剤は、2個の異なる毒素上の同一エピトープに結合する2個の同一の単量体(例えば、h5D-h5D)を含む。ヘテロ二量体結合剤は、同じ毒素の2箇所の異なるエピトープまたは2個の異なる毒素上の異なるエピトープに結合する2個の異なる単量体(例えば、h5D-hE3)を含む。
【0089】
ホモ二量体およびヘテロ二量体中のヒト化VHH単量体は、10~20個のアミノ酸の短い柔軟なリンカーを用いて連結される。好適なリンカーとしては、表2に提供されるものが挙げられる。
【0090】
【0091】
ペプチドの特性から逸脱せずに、柔軟なリンカーの配列へ軽微な変更を加え得ることが、当業者には理解されるであろう。つまり、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつそれらが基づくリンカーの特性を保持する柔軟なリンカーの配列バリアントを、用いることができる。
【0092】
本発明は、上記で定義される通りの柔軟なリンカーにより連結された、単量体h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかのペアを含むヒト化VHHペプチドホモ二量体結合剤を含み、このとき、単量体の少なくとも一方がヒト化単量体である。本発明はまた、上記で定義される通りの柔軟なリンカーにより連結された、単量体h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちの2個のいずれかの組み合わせを含むヒト化VHHペプチドヘテロ二量体結合剤を含み、このとき、単量体の少なくとも一方がヒト化単量体である。
【0093】
本発明はまた、タンパク質配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/もしくは中和活性を保持するヒト化VHHペプチドホモ二量体およびヘテロ二量体の配列バリアントも含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、ヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域およびCDRの両方に位置することができる。対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6))と比較した場合、ヒト化VHHペプチド二量体のバリアントは、少なくとも1つの単量体配列中に少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を有する。
【0094】
本発明はさらに、各ヒト化VHHペプチドホモ二量体またはヘテロ二量体およびそれらの配列バリアントをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにそれらの相補鎖を含む。
【0095】
本発明はさらに、ヒト化VHHペプチドホモ三量体およびヘテロ三量体結合剤を含み、このとき、3個の単量体が表2中に上記で定義される柔軟なリンカーを用いて連結され、単量体のうちの少なくとも1個がヒト化単量体である。単量体h5D、hE3、hAA6およびhAH3のいずれかの組み合わせを用いることができ、同じ単量体の3コピーを含む三量体、1種類の単量体の2コピーおよび別の単量体の1コピーを含む三量体、ならびに3個の異なる単量体を含む三量体が挙げられる。タンパク質配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/もしくは中和活性を保持するヒト化VHHペプチドホモ三量体およびヘテロ三量体の配列バリアントが、本発明に含められる。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、ヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域およびCDRの両方に位置することができる。対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6))と比較して、ヒト化VHHペプチド三量体のバリアントは、少なくとも1つの単量体配列中に少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を有する。
【0096】
本発明はさらに、各ヒト化VHHペプチドホモ三量体またはヘテロ三量体およびそれらの配列バリアントをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにそれらの相補鎖を含む。
【0097】
hABAB
本発明は、C.ディフィシルTcdAおよびTcdBの両方を同時に中和できる4個の連結されたヒト化VHHペプチド単量体を含む結合剤を包含する。各毒素の2種類のエピトープを認識してこれに結合する四重特異的結合剤を作製することにより、タンパク質の結合活性および中和活性が強化され得るであろう。したがって、4ドメイン(四重特異的)ヒト化VHH結合剤を生成することができる。
【0098】
四重特異的四量体結合剤は、単量体h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのいずれかの組み合わせから作製することができ、このとき、単量体同士が表2の柔軟なリンカーを用いて連結され、単量体のうちの少なくとも1個がヒト化単量体である。特定の態様では、単量体のうちの2個、3個または4個全部がヒト化単量体である。これらの結合剤は、同じ単量体の4コピーを有するものから、同じ単量体の3コピーを有するものまで、同じ単量体の2コピーを有するものまで、4種類の固有の単量体を有するものまで、およびそれらのバリエーションの範囲であろう。タンパク質配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/または中和活性を保持する四量体の配列バリアントが、本発明に含められる。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、ヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、またはヒト化VHHペプチド単量体のフレームワーク領域およびCDRの両方に位置することができる。対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、および配列番号29(AA6))と比較して、ヒト化VHHペプチド四量体のバリアントは、少なくとも1つの単量体配列中に少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を有する。
【0099】
本発明はさらに、各四量体およびそれらの配列バリアントをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにそれらの相補鎖を含む。
【0100】
本発明の例示的結合剤は、それらのそれぞれがTcdAまたはTcdBの異なるエピトープに対する結合親和性を有する、4個の連結されたヒト化VHH単量体を含む。hABABと称されるそのような結合剤は、2個がTcdAを標的とし、2個がTcdBを標的とする、4個の異なる中和性ヒト化VHH単量体からなる四重特異的四量体結合剤である。この構造的特徴は、hABABが、各毒素上の2種類の異なる中和性エピトープに同時に結合することを可能にする。
【0101】
hABAB結合剤は、柔軟なリンカー(表2)を用いてヒト化VHH単量体hAH3、h5D、hE3、およびhAA6を連結することにより作製できる。一実施形態では、ヒト化VHHペプチド単量体hAH3およびhAA6が、それらの間にh5Dを配置することにより隔てられる。なぜなら、hAH3とhAA6は、互いに空間的に離れたGTおよびTDにそれぞれ結合するからである。この設計により、hAH3およびhAA6が同時にTcdAに結合することが可能になる。
【0102】
明確性のために、本明細書中で用いる場合、「単一特異的」、「二重特異的」、「三重特異的」、「四重特異的」等は、特定の結合剤が、それぞれ1種類、2種類、3種類、4種類などの異なるエピトープに結合することを意味することを明記することができる。本明細書中で用いる場合、「単量体」、「二量体」、「三量体」、「四量体」等は、特定の結合剤が、それぞれエピトープに結合する1個、2個、3個、4個などの分離したヒト化VHHペプチド単量体を有することを意味する。つまり、単一特異的二量体結合剤は、同じエピトープに結合する2個のヒト化VHHペプチド単量体(例えば、ホモ二量体)を表し、二重特異的二量体結合剤は、2種類の異なるエピトープに結合する2個のヒト化VHHペプチド単量体を有するであろう(例えば、ヘテロ二量体)。四重特異的八量体結合剤は、4種類の異なるエピトープを認識する8個のヒト化VHHペプチド単量体を有する。
【0103】
V
H
H-Fc
キメラFc融合タンパク質は、in vivoでのタンパク質の半減期を増大させる可能性を有することが周知である。この戦略は、エタネルセプトなどの数種類のFDA認可薬で適用されてきた。原理証明試験により、ヒトコブラクダVHHおよびヒトIgGのFcドメインをコードするミニIg構築物を保有するトランスジェニックマウスのB細胞により、単鎖抗体が正確にアセンブリおよび発現され得ることが示されている。また、キメラ抗EGFR/EGFRvIII VHH、EG2-Fcは、in vivoで優れた腫瘍蓄積を示し、かつ膠芽腫標的化を改善し得る薬物動態特性を有する。
【0104】
本発明は、抗体Fcドメインに結合したヒト化VHHペプチド単量体を含む結合剤(VHH-Fc)を含み、このとき、結合剤はTcdAおよび/またはTcdBに結合する。これらのFcドメインに基づく結合剤中では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの1個、2個、3個、4個またはそれ以上が、抗体重鎖のFcドメインのヒンジ、CH2およびCH3領域に結合している。つまり、ペプチド単量体が、抗体のFab領域を置き換える。
【0105】
ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。2個以上の単量体が連結される場合、単量体同士は、一般的には10~20個のアミノ酸を含む柔軟なペプチドリンカーにより連結されることができる。好適なリンカーとしては、表2に提供されるリンカーが挙げられる。
【0106】
VHH-Fcは典型的には、産生後に細胞内で自己アセンブリする2個の同一の鎖から構成されるであろうが、本発明はまた、2種類の異なるFc鎖を含むVHH-Fc結合剤も含む。そのような状況では、ヒト化VHH単量体のみの配列が2本のFc鎖の間で異なることができ、またはFc鎖それ自体の配列が異なるか、もしくはVHH単量体およびFc鎖の両方の配列が異なることができる。
【0107】
VHH-Fc結合剤のある種類は、抗体Fcドメインならびに第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む八量体(8価とも称される)結合剤であり、このとき、該単量体のうちの少なくとも1個がヒト化単量体であり、ヒト化VHHペプチド単量体は、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有し、第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が一緒に連結されて両方の抗体Fcドメインのアミノ末端に結合され、かつ抗体Fcドメインは抗体重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域を含む。この結合剤は4種類のヒト化VHHペプチド単量体を有するので、単一特異的(単量体のすべてが同じエピトープに結合する)、二重特異的(単量体が2種類の異なるエピトープに結合する)、三重特異的(単量体が3種類の異なるエピトープに結合する)、または四重特異的(単量体が4種類の異なるエピトープに結合する)であり得る。特定の態様では、単量体のうちの2種類、3種類または4種類全部がヒト化単量体である。ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。
【0108】
四重特異的VHH-Fc結合剤の具体例は、hABAB-Fc結合剤、すなわち、抗体Fcドメインならびに2組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤であり、このとき、抗体Fcドメインは2本のアームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域を含み、各アームがアミノ末端を有し、このとき、Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が該アームのアミノ末端に結合され、かつこのとき、ヒト化VHHペプチド単量体が、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。この結合剤は、4種類の異なる毒素エピトープを認識するので、「四重特異的」と称される。この結合剤は、8個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、2コピーの第2単量体、2コピーの第3単量体、および2コピーの第4単量体)を担持するので、「八量体」と称される。ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。
【0109】
hABAB-Fc結合剤は、ヒトIgG1 Fcドメインに結合したヒト化VHHペプチド単量体hAH3/h5D/hAA6/hE3(記載された順序で連結されている)をコードする発現ベクターを作製することにより生成できる。ヒト化VHHペプチド単量体は、表2の柔軟なリンカーにより隔てられることができる。発現後、鎖のペアが自己アセンブリすると、四重特異的八量体結合剤が生じる。本発明は、hABAB-Fc結合剤、ならびにタンパク質配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/または中和活性を保持する配列バリアントを含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または該薬剤のFc部分に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域と該薬剤のFc部分との組み合わせに限定され得る。変化がVHHペプチド単量体中に存在する場合、単量体バリアントのペプチド配列は、対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、または配列番号29(AA6))と比較して少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を含む。
【0110】
本発明はさらに、これらの配列バリアントをコードするポリヌクレオチド配列およびそれらの相補鎖を含む。
【0111】
1つの単量体を用いる具体的なペアリングとしては、以下のものが挙げられる:h5D-Fc+h5D-Fc;hE3-Fc+hE3-Fc;hAA6-Fc+hAA6-Fc;hAH3-Fc+hAH3-Fc;h5D-Fc+hE3-Fc;h5D-Fc+hAA6-Fc;h5D-Fc+hAH3-Fc;hE3-Fc+hAA6-Fc;hE3-Fc+hAH3-Fc;およびhAA6-Fc+hAH3-Fc。2つの単量体を用いる具体的なペアリングとしては、以下のものが挙げられる:hAH3-h5D-Fc+hAH3-h5D-Fc;hAA6-hE3-Fc+hAA6-hE3-Fc;およびhAH3-h5D-Fc+hAA6-hE3-Fc。
【0112】
二重特異的四量体VHH-Fc結合剤は、抗体Fcドメインならびに2組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体を含んで生成することができ、このとき、抗体Fcドメインは2本のアームを含み、各アームが抗体重鎖のヒンジ、CH2およびCH3領域を含み、各アームがアミノ末端を有し、このとき、Fcドメインの各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体がアームのアミノ末端に結合し、かつこのとき、ヒト化VHHペプチド単量体がクロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。この結合剤は、2種類の異なる毒素エピトープを認識するので、「二重特異的」と称される。この結合剤は、4個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、および2コピーの第2単量体)を担持するので、「四量体」と称される。第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体は、同じかまたは異なるエピトープに対する結合特異性を有することができる。ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有することができる。ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。
【0113】
VHH-Fc結合剤は、特異性を有してTcdAおよび/またはTcdBに結合する。本発明の特定の態様では、結合剤は、TcdAおよび/またはTcdB中和活性を示す。
【0114】
V
H
H-IgG
本発明はまた、Fcドメイン単独よりも多くの抗体に結合したヒト化VHHペプチド単量体を含む結合剤も含む。例えば、VHH-IgG結合剤は、抗体の可変領域を欠損したIgG抗体の軽鎖(κまたはλ)および重鎖に結合された1個、2個、3個、4個またはそれ以上のヒト化VHHペプチド単量体を含む。つまり、ペプチド単量体が抗体の可変領域を置き換える。IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられる)に加えて、IgM、IgA、IgDおよびIgEなどの他の抗体を、結合剤のための基礎として用いることができる。
【0115】
ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)ヒト化VHHペプチド単量体または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。2個以上の単量体が連結される場合、単量体同士が、一般的には10~20個のアミノ酸を含む柔軟なペプチドリンカーにより連結されることができる。好適なリンカーとしては、表2に提供されるリンカーが挙げられる。
【0116】
VHH-IgG結合剤としては、IgG抗体ならびに第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む八量体結合剤が挙げられ、このとき、ヒト化VHHペプチド単量体は、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有し、第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体が一緒に連結されて抗体の両方の軽鎖のアミノ末端に結合され、軽鎖が抗体可変領域を欠損し、かつこのとき、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が一緒に連結されて抗体の両方の重鎖のアミノ末端に結合され、重鎖が抗体可変領域を欠損している。この結合剤は4個のヒト化VHHペプチド単量体を有するので、単一特異的(単量体のすべてが同じエピトープに結合する)、二重特異的(単量体が2種類の異なるエピトープに結合する)、三重特異的(単量体が3種類の異なるエピトープに結合する)、または四重特異的(単量体が4種類の異なるエピトープに結合する)であり得る。1つの具体例では、本発明のVHH-IgG結合剤は、VHHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)を含む。
【0117】
四重特異的VHH-IgG結合剤の具体例は、ABAB-IgG結合剤、すなわち、IgG抗体、2組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体、ならびに2組の連結された第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含む四重特異的八量体結合剤であり、このとき、IgG抗体は2本のアームを含み、各アームが可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、各鎖がアミノ末端を有し、抗体の各アームに関して、1組の連結された第1および第2のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、かつ1組の連結された第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、かつこのとき、ヒト化VHHペプチド単量体が、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。この結合剤は、4種類の異なる毒素エピトープを認識するので、「四重特異的」と称される。この結合剤は、8個のヒト化VHHペプチド単量体(2コピーの第1単量体、2コピーの第2単量体、2コピーの第3単量体、および2コピーの第4単量体)を担持するので、「八量体」と称される。特定の態様では、第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体が、異なるエピトープに対する結合特異性をそれぞれ有することができる。特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdAのエピトープに対する結合特異性を有することができ、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2種類がTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAもしくはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。ヒト化VHHペプチド単量体は、h5D、hE3、hAA6およびhAH3または本明細書中に定義される通りのそれらのバリアントのうちのいずれかであり得る。1つの具体例では、本発明のABAB-IgG結合剤は、VHHペプチド単量体h5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)を含む。
【0118】
本発明は、VHH-IgG結合剤およびタンパク質配列の全長にわたって少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質の毒素結合活性および/または中和活性を保持する配列バリアントを含む。配列バリアントのバリアントアミノ酸は、VHHペプチド単量体のフレームワーク領域に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のCDRに限定されるか、または該薬剤のIgG部分に限定されるか、またはVHHペプチド単量体のフレームワーク領域と該薬剤のIgG部分との組み合わせに限定され得る。変化がVHHペプチド単量体中に存在する場合、単量体変バリアントのペプチド配列は、対応する非ヒト化ラクダ科VHHペプチド配列(すなわち、配列番号26(5D)、配列番号27(E3)、配列番号28(AH3)、または配列番号29(AA6))と比較して少なくとも1箇所のアミノ酸の差異を含む。
【0119】
本発明のABAB-IgG結合剤の具体例は、κ軽鎖を有するIgG抗体に基づくFZ003結合剤である。FZ003結合剤の軽鎖は配列番号8に提供され、これは、ヒト化VHHペプチド単量体hAA6(配列番号3)およびhE3(配列番号2)から構成され、このとき、ペプチド単量体は、リンカー1(配列番号5)により連結されている。配列の残余の部分は、IgG軽鎖配列である。FZ003結合剤の重鎖は配列番号9に提供され、これは、ヒト化VHHペプチド単量体hAH3(配列番号4)およびh5D(配列番号1)から構成され、このとき、ペプチド単量体は、リンカー1(配列番号5)により連結されている。配列の残余の部分は、IgG重鎖配列である。
【0120】
二重特異的または四重特異的四量体IgG結合剤が、本発明に含められる。そのような結合剤は、IgG抗体ならびに第1、第2、第3および第4のヒト化VHHペプチド単量体を含み、このとき、IgG抗体は2本のアームを含み、各アームが可変領域を欠損した重鎖および可変領域を欠損した軽鎖を含み、かつ各鎖がアミノ末端を有し、抗体の第1アームに関して、第1のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、第2のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、抗体の第2アームに関して、第3のヒト化VHHペプチド単量体が軽鎖のアミノ末端に結合され、第4のヒト化VHHペプチド単量体が重鎖のアミノ末端に結合され、かつこのとき、ヒト化VHHペプチド単量体は、クロストリジウム・ディフィシルA毒素(TcdA)またはB毒素(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する。結合剤が「四重特異的」である場合、これは4種類の異なる毒素エピトープを認識し;「二重特異的」である場合、これは2種類の異なる毒素エピトープを認識する。4個のヒト化VHHペプチド単量体を担持するので、結合剤は「四量体」である(二重特異的である場合、第1および第2の単量体が同じ配列を有して同じエピトープに結合し、かつ第3および第4の単量体が同じ配列を有して同じエピトープに結合し;四重特異的である場合、単量体のそれぞれが異なる配列を有して異なるエピトープに結合する)。
【0121】
結合剤が二重特異的である場合、第1および第3の単量体が異なるエピトープに対する結合特異性を有し、第1および第2の単量体は同一のアミノ酸配列を有し、かつ第3および第4の単量体は同一のアミノ酸配列を有する。特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの1つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつヒト化VHHペプチド単量体のうちの1つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0122】
結合剤が四重特異的である場合、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれが異なるエピトープに対する結合特異性を有する。特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のうちの2つがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつヒト化VHHペプチド単量体のうちの2つがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0123】
特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれがTcdAのエピトープに対する結合特異性を有する。他の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体のそれぞれがTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0124】
特定の態様では、ヒト化VHHペプチド単量体は、独立して、TcdAまたはTcdBのグルコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、転座ドメインまたは受容体結合性ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0125】
抗体断片
本発明の結合剤は、本明細書中で定義されるヒト化VHH-FcおよびVHH-IgG結合剤のそれぞれのエピトープ結合性断片を含む。ヒト化VHH-FcおよびVHH-IgG結合剤は、可変領域がヒト化VHH単量体により置き換えられているヒトIgG抗体に対して構造が同等であるので、ヒト抗体断片に関する用語は、そのような結合剤に対しても適用可能である。断片としては、限定するものではないが、Fab断片、F(ab')2断片、単鎖Fv(scFv)抗体、およびFab発現ライブラリにより生成される断片、ならびに二重特異的抗体および三重特異的抗体が挙げられる。
【0126】
本発明のヒト化VHH-FcおよびVHH-IgG結合剤は、完全ヒト結合剤を含む。結合剤は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。さらに、結合剤は、組み換え結合剤であり得る。
【0127】
結合剤は、好ましくは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌまたはネコなどの哺乳動物由来であるが、任意の動物種で産生されることができる。例えば、結合剤は、ヒトまたはヒト化であるか、またはヒトへの投与に好適な任意の結合剤調製物であり得る。
【0128】
ポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞および製造方法
本発明は、本明細書中に提供される各結合剤をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、ならびにその相補鎖を含む。具体例は、上記で定義されたFZ003結合剤をコードするポリヌクレオチド配列である。軽鎖は配列番号10に示されるヌクレオチド配列を含む。重鎖は配列番号11に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0129】
本発明はまた、ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および発現ベクターを含む宿主細胞を含む。好適な発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3.1およびpSec-Hisが挙げられる。好適な宿主細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)およびヒト胎児腎臓細胞293(HEK293細胞)が挙げられる。
【0130】
FZ003結合剤に関して、軽鎖および重鎖配列が、別個にpHy発現ベクターに挿入された。得られた軽鎖コード発現ベクターの完全配列が、配列番号12に提供される。得られた重鎖コード発現ベクターの完全配列が、配列番号13に提供される。
【0131】
本発明はさらに、発現ベクターによりコードされる結合剤の発現を促進する条件下で宿主細胞を培養するステップ、および細胞培養物から結合剤を回収するステップを含む、本明細書中に定義される結合剤の製造方法も含む。
【0132】
治療および予防方法
本発明の結合剤は、被験体でのC.ディフィシルにより引き起こされる疾患症状を治療または予防する方法で用いることができる。これらの方法は、一般的に、C.ディフィシル感染症を有するかまたはC.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を投与するステップを含む。
【0133】
本発明の結合剤はまた、C.ディフィシルに感染した被験体でのC.ディフィシル毒素TcdAおよび/またはTcdBの中和でも用いることができる。これらの方法は、一般的に、C.ディフィシル感染症を有する被験体に、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を投与するステップを含む。
【0134】
本発明の結合剤はさらに、被験体でのC.ディフィシル感染症の治療方法で用いることができる。これらの方法は、一般的に、C.ディフィシル感染症を有する被験体に、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を投与するステップを含む。これらの同じ方法が、本明細書中で定義される通りのCDIを治療するために用いることができる。
【0135】
結合剤はまた、即時的なCDIの脅威を予防する目的のために免疫学的予防でも用いることができる。加えて、受動免疫予防が、即時的および長期的なCDIの脅威の両方を予防するために用いることができる。それぞれのアプローチが、それ自体の特定の利点を有し、かつ特に高リスクの集団を標的化するのに好適である。これらの方法は、一般的に、C.ディフィシル感染症を発症するリスクを有する被験体に、治療上有効量の本明細書中で定義される通りの1種以上の結合剤を投与するステップを含む。
【0136】
本発明の方法のそれぞれが、結合剤および製薬上許容される担体または希釈剤を含有する医薬製剤中の1種以上の結合剤の投与を含むことができる。
【0137】
これらの方法のそれぞれの態様では、結合剤はFZ003結合剤である。
【0138】
本明細書中で用いる場合、用語「中和する」および「中和すること」は、それらの通常の慣習法による意味を有し、以下のうちの1つ以上を含む:C.ディフィシルTcdAおよび/もしくはTcdBの活性をブロックし、改善し、もしくは重症度を低下させること;および/または被験体体内でのC.ディフィシルTcdAおよび/もしくはTcdBの活性を部分的もしくは完全に阻害すること。そのような中和は、本発明の方法が実行されていない被験体と比較して、約1%~約100%によるものである。好ましくは、ブロック、改善、低下、または阻害は、本発明の方法が実行されていない被験体と比較して、約100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%または1%である。
【0139】
本明細書中で用いる場合、用語「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、それらの通常の慣習法による意味を有し、以下のうちの1つ以上を含む:被験体でのC.ディフィシル感染症もしくはC.ディフィシル関連疾患の症状をブロックし、改善し、または重症度および/もしくは頻度を低下させること;および/またはC.ディフィシルに感染した被験体でのC.ディフィシルTcdAおよび/もしくはTcdBの生物学的活性を部分的もしくは完全に阻害し、かつ/またはその免疫学的クリアランスを促進すること;および/またはC.ディフィシル細胞もしくは被験体でのC.ディフィシル感染の成長、分裂、拡大、もしくは増殖を阻害すること。治療とは、本発明の方法が実行されていない被験体と比較して、約1%~約100%によるブロック、改善、低下、または阻害を意味する。好ましくは、ブロック、改善、低下、または阻害は、本発明の方法が実行されていない被験体と比較して、約100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%または1%である。
【0140】
本明細書中で用いる場合、用語「予防する」、「予防すること」および「予防」は、それらの通常の慣用法での意味を有し、以下のうちの1つ以上を含む:被験体でのC.ディフィシルの定着、発症もしくは進行を停止させ、避け、回避し、軽減し、もしくはブロックすること;および/またはC.ディフィシルに感染した被験体体内でのTcdAおよび/もしくはTcdBの生物学的活性および/または毒性作用を部分的もしくは完全に阻害すること;および/または被験体体内での細菌細胞もしくは細菌感染の成長、分裂、拡大、または増殖を停止させ、避け、回避し、軽減し、もしくはブロックすること。予防とは、予防が投与されていない被験体と比較して、少なくとも約95%により停止することを意味する。好ましくは、停止は、約100%、約99%、約98%、約97%、約96%または約95%である。予防の成果は、数日間(1、2、3、4、5、6または7日間など)、数週間(1、2、3または4週間など)または数ヵ月(1、2、3、4、5、6ヵ月またはそれ以上など)の期間にわたって持続し得る。
【0141】
本明細書中で提供される治療および予防方法は、被験体に治療上有効量の抗生物質を投与することによっても補うことができる。好ましくは、抗生物質は、C.ディフィシルに対する抗細菌活性を有するであろう。
【0142】
医薬製剤
結合剤は被験体に直接的に投与することができるが、本発明の方法は、好ましくは、1種以上の結合剤および製薬上許容される担体または希釈剤を含有する医薬製剤の投与に基づく。つまり、本発明は、本明細書中で定義される結合剤のうちの1種以上および製薬上許容される担体または希釈剤を含有する医薬製剤を含む。
【0143】
製薬上許容される担体および希釈剤は、一般的に公知であり、投与される特定の結合剤および投与様式によって異なるであろう。一般的に用いられる担体および希釈剤の例としては、限定するものではないが、以下のものが挙げられる:生理食塩液、緩衝生理食塩液、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせ、安定化剤、可溶化剤および界面活性剤、緩衝剤および保存料、等張化剤、増量剤、および滑沢剤。結合剤を含有する製剤は、典型的には、動物血清(例えば、ウシ血清アルブミン)などのいかなる非ヒト成分も非存在下で調製および培養されたものであろう。
【0144】
1種以上の結合剤を含有する医薬製剤は、当業者に公知の様式および技術を用いて、被験体に投与することができる。CDI疾患の特徴によって、CDI疾患は、治療薬の結腸送達、すなわち、下部GI管(例えば、大腸または結腸)への結合剤の標的化送達を用いる治療および予防に、より適したものとなり得る。例えば、本明細書中に記載される結合剤は、米国特許出願公開第2018/0319872号(参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる)に記載される通りの酵母経口/消化器送達システムを用いて、それを必要とする被験体の消化管へと送達することができる。他の送達様式としては、限定するものではないが、経口投与、肛門投与、静脈注入を介した投与またはエアロゾル投与が挙げられる。他の様式としては、限定するものではないが、皮内投与、皮下投与(s.c.、s.q.、sub-Q、Hypo)、筋内投与(i.m.)、腹腔内投与(i.p.)、動脈内投与、髄内投与(intramedulary)、心内投与、関節内(関節)投与、滑液嚢内投与(関節液領域)、頭蓋内投与、髄腔内投与、およびくも膜下投与(髄液)が挙げられる。
【0145】
投与手段に応じて、投与量を、1回に全部(カプセル剤または液剤中の経口用製剤を用いるなど)、または一定時間にわたってゆっくりと(筋内投与または静脈内投与を用いるなど)、投与することができる。
【0146】
被験体に投与される、単独または医薬製剤中の結合剤の量は、感染症を治療または予防するために有効な量である。つまり、本発明の方法が実行される際には、治療上有効量が被験体に投与される。一般的に、被験体の体重当たり約1μg/kg~約1000mg/kgの結合剤が投与される。好適な範囲としてはまた、約50μg/kg~約500mg/kg、および約10μg/kg~約100mg/kgも挙げられる。しかしながら、被験体に投与される結合剤の量は、感染場所、感染源、感染の程度および重症度、治療対象の被験体の年齢および状態などに応じて、広い限定の中で変わるであろう。最終的には医師が、用いられる適切な投与量を決定するであろう。
【0147】
結合剤および結合剤を含有する医薬製剤の投与頻度は、細菌感染の場所、治療または予防対象の感染症の詳細、および投与様式をはじめとする要因に応じて変わるであろう。各製剤は、独立して、1日4回、3回、2回または1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、週1回、8日に1回、9日に1回、10日に1回、2週間に1回、月1回および2ヵ月に1回、投与することができる。
【0148】
治療または予防の継続期間は、治療対象の感染症の場所および重症度または感染症に罹患する相対的リスクに基づくであろうし、主治医により最良な決定がなされるであろう。しかしながら、治療の継続は、数日間、数週間、または数ヵ月間、続くことが企図される。
【0149】
本発明の各実施形態および態様では、被験体は、ヒト、非ヒト霊長類、鳥類、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ペット動物(イヌ、ネコまたはげっ歯類など)、またはその他の哺乳動物である。本発明の方法が適用できる被験体としては、C.ディフィシル感染症に罹患し易くなる基礎疾患または状態を有する被験体が挙げられる。
【0150】
本発明はまた、1種以上の結合剤または結合剤を含有する医薬製剤を充填した1個以上の容器を含むキットも提供する。キットは、使用説明書も含むことができる。キットには、医薬品もしくは生物学的製品の製造、使用または販売を規制する行政機関により規定される形式の注意事項が、さらに伴う場合があり、この注意事項は、ヒトもしくは動物への投与に関して製造、使用または販売の行政機関による承認を反映する。
【0151】
結合剤の発現、精製および評価
様々な選択基準を、本明細書中に定義される結合剤を選択するために用いることができる。第1に、本明細書中に定義される構築物のそれぞれを、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる小規模組み換えタンパク質の製造のために、293T細胞の一過性トランスフェクションで用いることができる。各構築物の生成量は、定量的ELISAにより決定することができる。第2に、組み換えタンパク質の結合活性を、毒素に対するそれらの元来の結合活性を保存する構築物を選択するために、ELISAおよび表面プラズモン共鳴(SPR)を用いてスクリーニングすることができる。第3に、タンパク質を、in vitroアッセイでの中和活性について評価することができる。in vitroアッセイから、候補結合剤を、そのin vivo毒性、血清半減期、および免疫原性に関して評価することができる。
【0152】
知見を蓄積することにより、in vivo組み換え結合剤の多重反応性および/または自己反応性が、それらのin vivo安全性および半減期に関連する、潜在的な課題であることが示される。一次急性CDIを予防するための全身性の結合剤としての結合剤の適用には、キメラおよびヒト化タンパク質が、多重反応性および/または自己反応性について制限される必要があるようである。タンパク質プロテオミクスの進展により、in vitroでの組み換え抗体の多重反応性および自己反応性についてスクリーニングすることが可能となっており、これは代理の治療抗体のための強力なツールである。したがって、良好な収率、高い結合親和性、および強力な中和活性を有する選択されたヒト化結合剤を、自己抗原マイクロアレイテストおよびProtoArrayタンパク質マイクロアレイ(Invitrogen社)を用いて、潜在的な多重反応性および自己反応性についてさらに試験することができる。
【実施例】
【0153】
III.実施例
ラクダ科V
H
Hペプチドの作製
C.ディフィシル毒素TcdAおよびTcdBに対するVHHペプチドのパネルを、ファージディスプレイを用いて作製した(Yang et al. 2014; Li et al. 2015; Yang et al. 2016)。
【0154】
ラクダ科V
H
Hペプチドの分析
作製されたVHHペプチドの分析によって、数種類が以前の刊行物に記載される通りの強力な中和活性および治療潜在能力を有することが明らかになった(Yang et al. 2014;Li et al. 2015;Yang et al. 2016)。最も高い中和活性を有する候補VHHを選択した(TcdBに対する5DおよびE3、ならびにTcdAに対するAA6およびAH3)。
【0155】
突然変異スキャンヒト化戦略
潜在的な免疫原性を低下させ、かつ治療潜在能力を高めるために、選択ヒト化VHHペプチドを作製した。突然変異スキャンヒト化戦略を、まず、4種類の最も中和活性が高いVHH(2種類はTcdAに対し、2種類はTcdBに対する)に適用した。この方法を用いて、VHHフレームワーク内のアミノ酸であって、相同なヒト生殖系列VHとは異なるアミノ酸を特定した。点突然変異を含む個別のVHHを作製および試験し;野生型結合親和性および中和活性を保持するものを、許容される突然変異であるとみなした。VHH結合活性および中和活性を低下させた点突然変異を、許容されない突然変異とみなした。最終的なヒト化VHHは、ヒトVHフレームワーク由来のすべての許容されるアミノ酸配列を含み、かつ野生型対応物に類似する結合親和性および中和活性を維持した。
【0156】
E3(抗TcdB VHH)により例示される通り、平均して、10~15箇所の突然変異を各VHHに関して試験した。驚くべきことに、突然変異スキャンは、従来の抗体でのIMGTまたはKabat定義CDRの外側に、数個の重要なアミノ酸残基を特定した(例えば、VHH E3の51Q)。E3-TcdB結合性ドメイン複合体の結晶構造解析により、これらのアミノ酸残基が実際に、抗原接触に関与することが確認された。最終的に、突然変異スキャンによって、許容される突然変異の特定が可能になった。これらすべての許容される突然変異を含むヒト化E3は、野生型E3と同等のTcdB結合活性および中和活性を有することが見出された。この戦略を用いて、MS(突然変異スキャン)ヒト化5D(抗TcdB;配列番号32)、E3(抗TcdB;配列番号33)、AA6(抗TcdA;配列番号34)およびAH3(抗TcdA;配列番号35)を作製した。
【0157】
突然変異スキャンを用いて作製されたヒト化V
H
Hペプチドの分析
ヒト化抗毒素V
HHを、それぞれ
図3B、
図3Aに図示される通りの二重特異的および四重特異的IgG1結合剤を作製するために適用できるか否かを調べた。
【0158】
突然変異スキャンによりヒト化されたヒト化二重特異的AA-IgG1(2種類の異なるTcdAエピトープを認識する)、BB-IgG1(2種類の異なるTcdBエピトープを認識する)、および四重特異的ABAB-IgG1(「FZ001」と命名される;2種類の異なるTcdAエピトープおよび2種類の異なるTcdBエピトープを認識する)は標準的技術を用いてCHO細胞で効率的に発現させることができること、およびこれらの抗体分子がSDSゲル中で典型的な軽鎖および重鎖を表示することが見出された(
図3C)。FZ001軽鎖(MShAA6-MShE3)のアミノ酸配列は、配列番号36に提供される。FZ001重鎖(MShAH3-MSh5D)のアミノ酸配列は、配列番号37に提供される。FZ001軽鎖(MShAA6-MShE3)の核酸配列は、配列番号38に提供される。FZ001重鎖(MShAH3-MSh5D)の核酸配列は、配列番号39に提供される。
【0159】
CDR移植ヒト化戦略
上記の突然変異スキャン法を用いて、4種類の上記VHHペプチドが成功裏にヒト化されたが、このアプローチは、点突然変異を有する多数の構築物を作製することが必要であり、遅くかつ多大な労力を要するプロセスであった。しかしながら、CDR移植は、より簡潔かつより直接的な方法であるが;しかし、この方法はCDRが正確に規定できることを必要とする。したがって、VHHをヒト化するための以下のCDR移植に基づく方法を開発した。
【0160】
第1に、各VHHペプチド配列に関するすべての入手可能な固有のVHH-抗原複合体構造を含む非重複構造データベースを作製した。VHHペプチド-抗原複合体の各構造についての接触地図を作製するために、データベースのVHHペプチド中の抗原接触残基を特定した。これにより、抗原接触残基を特定することが可能になり、すべての抗原接触残基を含む領域としてCDRを定義した。
【0161】
これらの技術を用いて、4種類のヒト化VHHペプチドh5D(配列番号1)、hE3(配列番号2)、hAA6(配列番号3)およびhAH3(配列番号4)を、4種類のラクダ科(アルパカ)VHHペプチド5D(配列番号26)、E3(配列番号27)、AH3(配列番号28)およびAA6(配列番号29)から作製した。これらのヒト化ペプチド(配列番号1~4)は、上述した突然変異スキャン戦略から生じたヒト化ペプチドとは異なる配列を有した。
【0162】
FZ003の作製および分析
E3、5D、AA6、およびAH3について上記で定義されたアルパカVHH CDRをまた、IGHV3-23*01抗体フレームワークに移植し、FZ003と命名された四重特異的八量体VHH-IgG1結合剤を作製した。
【0163】
詳細には、FZ003を、5DおよびAH3に融合された軽鎖定常領域、ならびにE3およびAA6に融合された重鎖定常領域を含む2個のプラスミドにより構築した。続いて、プラスミド(pHyベクター)を、哺乳動物細胞株(CHO細胞またはHEK細胞)をトランスフェクションするために用いて、標準的なアプローチを使用してFZ003を作製した。
【0164】
FZ003結合剤の軽鎖は配列番号8に提供されるが、これはヒト化VHHペプチド単量体hAA6(配列番号3)およびhE3(配列番号2)から構成され、このとき、ペプチド単量体同士はリンカー1(配列番号5)により連結されている。配列の残余の部分はIgG軽鎖配列である。軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10に提供される。
【0165】
FZ003結合剤の重鎖は配列番号9に提供されるが、これはヒト化VHHペプチド単量体hAH3(配列番号4)およびh5D(配列番号1)から構成され、このとき、ペプチド単量体同士はリンカー1(配列番号5)により連結されている。配列の残余の部分はIgG重鎖配列である。軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号11に提供される。
【0166】
軽鎖および重鎖配列を、別々にpHy発現ベクターに挿入した。得られた軽鎖コード発現ベクターの完全配列は、配列番号12に提供される。得られた重鎖コード発現ベクターの完全配列は、配列番号13に提供される。
【0167】
ExpiCHO-S
TM細胞およびExpi293F
TM細胞でのFZ003の一過性発現のレベルは、それらの野生型対応物(ABAB-IgG;非ヒト化アルパカE3、5D、AA6およびAH3 V
HHペプチドを用いて作製された)よりも2~3倍高く、かつFZ001よりも2倍近く高かった(
図4A)。発現レベルは、ヤギ抗ヒトκ軽鎖抗体でコーディングされたプレートを使用し、ヤギ抗ヒトIgGγ鎖抗体を用いて検出される定量的ELISAを利用して測定し、精製された四重特異的IgG1を標準として用いた。FZ003は、FZ001およびABAB-IgGよりも高い発現レベルを有する。
【0168】
重要なことに、FZ003は、類似の毒素結合活性を示し、かつ細胞培養に基づく中和アッセイで、ABAB-IgGと同等にTcdAおよびTcdBの両方を中和した(
図4B~
図4E)。親和性は、C.ディフィシル毒素でコーティングされたプレートを使用するELISAを用いて測定した。中和活性は、TcdAまたはTcdBと混合された種々の濃度の四重特異的IgG1を、単層のVero細胞にアプライし、毒素誘導型細胞を観察することにより測定した(Li et al. 2015;Yang et al. 2014)。
【0169】
FZ003はまた、クロストリジウム・ディフィシル臨床分離株により産生されたTcdAおよびTcdBに対する中和活性も示した。菌株のパネルは、Trevor Lawley博士により親切に提供され、遺伝学的および地理的に離れた臨床分離株の取り合わせに相当した。FZ003(1μg/mL)を、これらのC.ディフィシル培養物(7日間)由来の上清(20倍希釈)と混合し、その後、96ウェルプレートで24時間、Vero細胞単層にアプライした。対照ウェルには、無関係なIgG1を含む上清を添加した。細胞の円形化をモニタリングした。表3に示される結果は、FZ003の中和活性を実証する。
【0170】
【0171】
類似の実験で、FZ003は、米国疾病管理予防センターでの新興感染症プログラム-クロストリジウム・ディフィシル調査プロジェクト(cdc.gov/hai/eip/clostridium-difficile.htmlで終わるURLを有するウェブサイトを参照されたい)に由来するクロストリジウム・ディフィシル臨床分離株から産生されたTcdAおよびTcdBに対する中和活性を示した。分離株は、2010年~2011年の間に米国中で広まった菌株タイプおよび地理的場所の多様性を表すように選択した。以下のクロストリジウム・ディフィシル分離株を、BEI Resources、NIAID、NIHを通じて取得した。上述の通り、FZ003(1μg/mL)を、C.ディフィシル培養物(7日間)由来の上清(20倍希釈)と混合し、その後、96ウェルプレートで24時間、Vero細胞単層にアプライした。対照ウェルには、無関係なIgG1を含む上清を添加した。細胞の円形化をモニタリングした。表4に示される結果は、FZ003の中和活性を実証する。
【0172】
【0173】
in vivoマウス研究
第1の実験では、FZ003の中和活性を、マウス全身性毒素接種モデルでTcdAおよびTcdBに対して評価した。C.ディフィシル毒素TcdAおよびTcdBを、37℃にて30分間、種々の濃度の抗体と共にプレインキュベートし、その後、正常マウスへと腹腔内注入した(n=5)。すべての群に関して、各毒素の最終投与量は1.2μg/kg(体重)とした。群毎の抗体の最終投与量は、FZ001が10mg/kgであり;FZ003が10mg/kg、5mg/kg、500μg/kg、50μg/kg、5μg/kgおよび0.8μg/kgであった。等量の生理食塩液を対照として注入した。マウスを、6日間にわたって少なくとも1日3回モニタリングした。生存率(%)を
図5に示す。FZ003は、in vivoでTcdAおよびTcdBの両方の中和に関して極めて強力であり、Merck社の抗体よりも1000倍超、強力であった。P値は、Merck社10mg/kgと比較したものである。
****:P≦0.0001;
***:P≦0.001。
【0174】
第2の実験では、FZ003は、一次CDIと再発CDIの両方からマウスを保護することが示された。C.ディフィシル感染症(CDI)は、通常の方法で確立された(
図6Aを参照されたい)。簡潔には、マウスに連続する3日間(-7日目~-4日目)にわたって抗生物質カクテルを摂取させ、その後、通常の水を摂取させた。抗生物質カクテルの停止後3日目(-1日目)に、マウスに10mg/kgのクリンダマイシンの単回用量を腹腔内注入した。次の日(0日目)、それぞれのマウスに10
5個のC.ディフィシルUK1芽胞を経口的に接種した。異なる用量の抗体を、感染から8時間後に腹腔内注入した。同量の生理食塩液を、プラセボとして注入した。一次疾患を6日間(1日目~6日目)モニタリングした。理論的には、治療なしでは、疾患ピークは1日目~3日目に現われるであろう。4日目~6日目の間に、マウスは病気から回復するであろう。完全な回復後、マウスを清潔なケージで飼育し、連続する3日間(6日目~9日目)にわたって次のラウンドの抗生物質カクテルを摂取させて、続いて生じる再発を誘導した。通常は、治療なしでは、11~13日目に再発疾患が生じるであろう。マウスを、実験を通して下痢、体重減少および生存率についてモニタリングした。
【0175】
FZ003(0.1mg/kg、1mg/kg、10mg/kg)およびMerck社の抗TcdB抗体(10mg/kg)を、C.ディフィシル接種の8時間後に腹腔内注入した。マウスを、下痢スコア、体重減少および生存率により示される疾患症状に関してモニタリングした(
図6B、
図6C、
図6D)。FDAにより承認されたMerck社の抗TcdBモノクローナル抗体(10mg/kg)と比較して、FZ003は、0.1mg/kgもの低い用量で同様の保護をもたらした。体重減少、下痢スコアおよび生存率を、実験を通してモニタリングした(n=10)。
図6B:体重減少。感染前0日目の体重を、ベースラインとして用いた。体重減少は14日目までモニタリングした。
図6C:下痢を、以前に公開されたスコアシステムに従ってモニタリングした(Yang et al. 2014;Li et al. 2015;Yang et al. 2016)。
図6D:生存率。P値は生理食塩液との比較である。
****≦0.0001、
***≦0.001、
**≦0.01、
*≦0.05。生理食塩液群に関して、体重減少および下痢スコアに基づいて、一次感染の疾患ピークは2日目および3日目であり、それに続く再発の疾患ピークは11日目および12日目であった。生理食塩液群のうちの40%が、一次感染およびその後の感染から最終的に生き延びた。FZ003の特定の用量を用いた治療群は、10mg/kgのMerck社抗体と同等の保護的効果を示した。10mg/kgのMerck社抗体の治療では、マウスは一次感染を通して有意な体重減少を示さず、生理食塩液群と比較して統計学的に低い下痢スコアを有した。Merck社抗体を注入されたすべてのマウスが、実験の終了時に生存していた。10mg/kgの用量のFZ003は、体重減少および死亡からマウスを完全に保護した。
図6Cに示される通り、10mg/kgのFZ003は、一次感染の間に下痢から宿主を最も良く保護した。FZ003は、用量依存的保護作用を示した。対照的に、0.1mg/kgのFZ003は、より高い用量と比較して、体重減少および下痢からの若干低下した保護を示した。80%のマウスが、1mg/kgおよび0.1mg/kgのFZ003治療で生き延びた。
【0176】
第3の実験では、Merck社の抗TcdB抗体と比較したFZ003の、バンコマイシン誘導型再発CDIでの有効性を試験した。C.ディフィシル感染症(CDI)は、通常の方法で確立された。簡潔には、マウスに連続する3日間(-7日目~-4日目)にわたって抗生物質カクテルを摂取させ、その後、通常の水を摂取させた(
図7Aを参照されたい)。抗生物質カクテルの停止後3日目(-1日目)に、マウスに10mg/kgのクリンダマイシンの単回用量を腹腔内注入した。次の日(0日目)、それぞれのマウスに10
5個のC.ディフィシルUK1芽胞を経口的に接種した。様々な用量のFZ003の単回投与量を、感染から16時間後に腹腔内注入した。同量の生理食塩液を、プラセボとして注入した。一次疾患を阻害するために、抗体注入と同時に、すべての群に、連続する6日間(1日目~7日目)にわたって、単回用量のバンコマイシン処置を1日1回投与した。バンコマイシン誘導型再発のピーク疾患は、多くの場合、9日目から11日目に発生する。
【0177】
実験を通して、体重減少、下痢スコアおよび生存率をモニタリングした(n=10)。
図7B:体重減少。感染前0日目の体重を、ベースラインとして用いた。体重減少は、14日目までモニタリングされた。
図7C:下痢は、以前に公開されたスコアシステムに従ってモニタリングした(Yang et al. 2014;Li et al. 2015;Yang et al. 2016)。
図7D:生存率。P値は生理食塩液との比較である(
****≦0.0001、
***≦0.001、
**≦0.01、
*≦0.05)。
【0178】
バンコマイシン処置を用いると、7日間まで死亡するマウスはいなかったが、軽度の体重減少および下痢が、生理食塩液群で1日目および2日目に観察された。バンコマイシン+Merck社抗体(10mg/kg)またはFZ003(1および0.1mg/kg)を用いた処置は、1日目および2日目に生理食塩液群と比較して症状を減少させた。バンコマイシン+10mg/kg FZ003を投与されたマウスは、1日目から7日目を通して顕著な疾患を有しなかった。再発ステージ(7日目~14日目)では、生理食塩液群は、10日目および11日目に有意な下痢を発症した。したがって、生理食塩液群では11日目に劇的な体重減少が生じた。すべての抗体処置群は、低下した下痢および体重減少を有した。すべての抗体治療群の中で、10mg/kgの用量のFZ003は、軽度の下痢が観察されたものの、体重減少および死亡から宿主を最良に完全に保護した。
【0179】
第4の実験では、加齢マウスモデル(n=5)での一次CDIに対するFZ003(10mg/kgまたは1mg/kg)の保護的作用を試験した。
図8Aは、加齢マウスモデルでの処置スケジュールを示す。C.ディフィシル感染症(CDI)は、通常の方法で確立された。簡潔には、マウスに連続する3日間(-7日目~-4日目)にわたって抗生物質カクテルを摂取させ、その後、通常の水を摂取させた。抗生物質カクテルの停止後3日目(-1日目)に、マウスに10mg/kgのクリンダマイシンの単回用量を腹腔内注入した。次の日(0日目)、それぞれのマウスに10
5CFUのC.ディフィシルVPI10463栄養細胞を接種した。10mg/kgのFZ003の単回投与量を、感染から16時間後に腹腔内注入した。同量のPBSを、プラセボとして注入した。
【0180】
図8B:下痢を、以前に公開されたスコアシステムに従ってモニタリングした(Yang et al. 2014;Yang et al. 2016)。
図8C(10mg/kg FZ003)および
図8D(1mg/kg FZ003):体重減少。感染前の0日目の体重を、ベースラインとして用いた。体重減少は、12日目までモニタリングされた。
図8E(10mg/kg FZ003)および
図8F(1mg/kg FZ003):臨床的スコア付けを、下痢、体重減少および外見などの臨床的症状により行なった。データは、FZ003の群が加齢マウスをCDIから保護したことを示す。
図8G(10mg/kg FZ003)および
図8H(1mg/kg FZ003):生存率。P値は生理食塩液との比較である(
****≦0.0001、
***≦0.001、
**≦0.01、
*≦0.05)。
【0181】
図8Cおよび
図8Dの通り、加齢マウスは、3日目に体重が減少し始め、7日目に体重が増え始めた。FZ003の処置を用いると、マウスは実験を通して有意な体重減少を有しなかった。FZ003処置はまた、臨床症状も改善した。処置群では、下痢を発症したマウスはいなかった。対照的に、PBS対照群のマウスは、軽度から中等度の下痢を発症した。若齢マウスと比較して、加齢マウスは、ヒトでの慢性CDIを構成する、より長い疾患期間を生じた。
【0182】
同じスキームを用いて実験を反復したが(
図9A)、マウスに投与されるFZ003の量は(1mg/kg)まで減少させた。
図9B:体重減少。感染前の0日目の体重を、ベースラインとして用いた。体重減少は、12日目までモニタリングした。
図9C:下痢を、以前に公開されたスコアシステムに従ってモニタリングした(Yang et al. 2014;Li et al. 2015;Yang et al. 2016)。
図9D:生存率。P値は生理食塩液との比較である(*≦0.05)。
【0183】
in vivoハムスター研究
ハムスター疾患モデルでのC.ディフィシル感染症(CDI)に対するFZ003の治療有効性もまた評価した。CDIを誘導するために、ゴールデンシリアンハムスターの群(群当たり5頭)に、クリンダマイシン(30mg/kg;腹腔内)を注入し、1日後にC.ディフィシル芽胞を接種した(UK1、10
4CFU/マウス)。処置のために、FZ003を、
図10Aに示される通り、10mg/kgで腹腔内投与した。生存率は、接種後+18日目までモニタリングした。体重減少および下痢は、接種後+14日目までモニタリングした。ケージ交換を、+7日目および+17日目に行った。
【0184】
図10Bに見て取れる通り、FZ003を用いて処置された動物は、生理食塩液のみを投与された対照動物と比較して、生存率の顕著な改善を示し、同様に、疾患スコアの減少(
図10C)および体重増加(
図10D)を示した。ハムスター生存率は、Prism統計ソフトウェアプログラムを用いて、Logrank有意差検定を含むカプラン・マイヤー生存率解析により解析した。P値が示される(P=0.0018(群1);P=0.0132(群2);P=0.0066(群3))。
【0185】
特定の詳細な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変を加え得ることを、当業者は理解するであろう。添付の特許請求項の範囲は、記載された具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0186】
アミノ酸および核酸配列
配列番号1 - ヒト化VHHペプチド単量体5D(h5D)
配列番号2 - ヒト化VHHペプチド単量体E3(hE3)
配列番号3 - ヒト化VHHペプチド単量体AA6(hAA6)
配列番号4 - ヒト化VHHペプチド単量体AH3(hAH3)
配列番号5 - リンカー1
配列番号6 - リンカー2
配列番号8 - FZ003軽鎖(hAA6-hE3)のアミノ酸配列
配列番号9 - FZ003重鎖(hAH3-h5D)のアミノ酸配列
配列番号10 - FZ003軽鎖(hAA6-hE3)の核酸配列
配列番号11 - FZ003重鎖(hAH3-h5D)の核酸配列
配列番号12 - FZ003軽鎖をコードする発現ベクターの核酸配列
配列番号13 - FZ003重鎖をコードする発現ベクターの核酸配列
配列番号14 - アルパカVHHペプチド5DのCDR1のアミノ酸配列
配列番号15 - アルパカVHHペプチド5DのCDR2のアミノ酸配列
配列番号16 - アルパカVHHペプチド5DのCDR3のアミノ酸配列
配列番号17 - アルパカVHHペプチドE3のCDR1のアミノ酸配列
配列番号18 - アルパカVHHペプチドE3のCDR2のアミノ酸配列
配列番号19 - アルパカVHHペプチドE3のCDR3のアミノ酸配列
配列番号20 - アルパカVHHペプチドAH3のCDR1のアミノ酸配列
配列番号21 - アルパカVHHペプチドAH3のCDR2のアミノ酸配列
配列番号22 - アルパカVHHペプチドAH3のCDR3のアミノ酸配列
配列番号23 - アルパカVHHペプチドAA6のCDR1のアミノ酸配列
配列番号24 - アルパカVHHペプチドAA6のCDR2のアミノ酸配列
配列番号25 - アルパカVHHペプチドAA6のCDR3のアミノ酸配列
配列番号26 - アルパカVHHペプチド5Dのアミノ酸配列
配列番号27 - アルパカVHHペプチドE3のアミノ酸配列
配列番号28 - アルパカVHHペプチドAH3のアミノ酸配列
配列番号29 - アルパカVHHペプチドAA6のアミノ酸配列
配列番号30 - ヒトIGHV3-23*01のアミノ酸配列
配列番号31 - ヒトIGHJ4*01のアミノ酸配列
配列番号32 - MSヒト化VHHペプチド単量体5D(MSh5D)
配列番号33 - MSヒト化VHHペプチド単量体E3(MShE3)
配列番号34 - MSヒト化VHHペプチド単量体AA6(MShAA6)
配列番号35 - MSヒト化VHHペプチド単量体AH3(MShAH3)
配列番号36 - FZ001軽鎖(MShAA6-MShE3)のアミノ酸配列
配列番号37 - FZ001重鎖(MShAH3-MSh5D)のアミノ酸配列
配列番号38 - FZ001軽鎖(MShAA6-MShE3)の核酸配列
配列番号39 - FZ001重鎖(MShAH3-MSh5D)の核酸配列
【0187】
参考文献
本明細書で言及されるすべての特許及び出版物は、本発明が関連する分野の当業者の技術水準を示す。引用された特許及び出版物はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。下記文献はすべて、本願で引用されたものである。
【配列表】
【国際調査報告】