(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク、部品、及びブランクを部品にホットスタンプする方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220801BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20220801BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220801BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20220801BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20220801BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/00 A
C22C18/04
C22C18/00
C21D1/18 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021570370
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2020064803
(87)【国際公開番号】W WO2020239891
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ラダカンタ、ラナ
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DB01
4K042DB02
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD01
4K042DD05
4K042DE05
(57)【要約】
本発明は、重量%で、以下の組成:C:0.20未満、Mn:0.65~3.0、W:0.10~0.60、場合により、Si:0.10未満、Mo:0.10以下、Al:0.10以下、Cr:0.10以下、Cu:0.10以下、N:0.010以下、P:0.030以下、S:0.025以下、O:0.01以下、Ti:0.02以下、V:0.15以下、Nb:0.01以下、B:0.0005以下から選択される1種又は2種以上の元素、鉄及び不可避的不純物:残部を有する、ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、以下の組成:
C:0.20未満
Mn:0.65~3.0
W:0.10~0.60
場合により、
Si:0.10未満
Mo:0.10以下
Al:0.10以下
Cr:0.10以下
Cu:0.10以下
N:0.010以下
P:0.030以下
S:0.025以下
O:0.01以下
Ti:0.02以下
V:0.15以下
Nb:0.01以下
B:0.0005以下
から選択される1種又は2種以上の元素
鉄及び不可避的不純物:残部
を有する、ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項2】
重量%で、
Cが0.05~0.18、好ましくは0.07~0.16、及び/又は
Mnが1.00~2.50、好ましくは1.20~2.20、及び/又は
Wが0.10~0.50、好ましくは0.13~0.30、及び/又は
Siが0.009以下、好ましくは0.005以下、及び/又は
Alが0.05以下、好ましくは0.04以下、
Nが0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005
である、請求項1に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項3】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項1又は2に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項4】
前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0重量%のAlと、0.2~5.0重量%のMgと、場合により0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素とを含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、請求項3に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼ストリップ、シート又はブランクから製造されたホットスタンプされた部品であって、前記部品の引張強度が、745MPa以上、好ましくは1070MPa以上、より好ましくは1300MPa以上、より一層好ましくは1400MPa以上である、前記部品。
【請求項6】
前記部品の全伸び(TE)が、5%以上、好ましくは5.5%以上、より好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上であり、且つ/或いは、前記部品の厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)が、78°以上、好ましくは100°以上、より好ましくは115°以上、より一層好ましくは130°以上、最も好ましくは140°以上である、請求項5に記載の部品。
【請求項7】
前記部品がミクロ組織を有し、
前記ミクロ組織が、50%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトであり、
前記ミクロ組織が、好ましくは40%以下のベイナイトを含み、より好ましくは30%以下のベイナイトを含む、請求項5又は6に記載の部品。
【請求項8】
車両のホワイトボディの構造部品としての、請求項5~7のいずれか一項に記載の部品の使用。
【請求項9】
鋼ブランク又は予備成形された部品を部品にホットスタンプする方法であって、
(e)請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼ブランク又は前記鋼ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T
1に加熱し、加熱された前記鋼ブランクを時間t
1の間、温度T
1に保持する工程であって、温度T
1が前記鋼のA
c3温度よりも高く、且つ、時間t
1が10分以下である工程、
(f)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を、ホットスタンプ器具に搬送時間t
2の間に搬送する工程であって、加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t
2の間に、温度T
1から温度T
2に低下し、且つ、搬送時間t
2が20秒以下である工程、
(g)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を部品にホットスタンプする工程、及び
(h)前記ホットスタンプ器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度で、前記鋼のM
f温度より低い温度に冷却する工程
を含む、前記方法。
【請求項10】
工程(a)における温度T
1が、A
c3温度よりも40~100℃高く、且つ/或いは、温度T
2が、A
r3温度より高い、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)における時間t
1が、1分以上7分以下であり、且つ/或いは、工程(b)における時間t
2が、12秒以下、好ましくは2~10秒である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)において、前記部品が、30~150℃/sの冷却速度、好ましくは30~100℃/sの冷却速度で冷却される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項5~7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの部品、及び/又は請求項9~12のいずれか一項に記載の方法に従って製造された部品を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク;ホットスタンプされた部品;及びホットスタンプされた部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費を削減するために自動車部品の軽量化を可能にし、同時に、乗客の安全性を向上させる鋼合金の需要が増加している。
【0003】
機械的特性の改善、例えば、引張強度、衝突エネルギー吸収性(crash energy absorption)、加工性、延性及び靭性の改善という観点から自動車産業の要求を満たすために、これらの要求を満たす鋼部材を製造するためのコールドスタンプ及びホットスタンププロセスが開発されてきた。
【0004】
コールドスタンププロセスにおいて、鋼は、室温付近で製品に成形される。このようにして製造された鋼製品は、例えば、フェライト-マルテンサイトミクロ組織を有する二相(DP)鋼である。これらのDP鋼は、高い最大引張強度(ultimate tensile strength)を示すが、それらの曲げ性及び降伏強度は低く、これは、使用中の圧壊特性(crash performance)が低下するために望ましくない。
【0005】
ホットスタンププロセスにおいて、鋼は、再結晶化温度を超えて加熱され、通常はマルテンサイト変態により、所望の材料特性を得るために急冷される。ホットスタンプ技術及びそのための使用に適した鋼組成の基礎は、英国特許第1490535号に以前から記載されていた。
【0006】
通常、ホットスタンプに使用される鋼は、22MnB5鋼である。このボロン鋼は、通常870~940℃でオーステナイト化するために炉で再加熱され、炉からホットスタンピングプレスに搬送され、所望の部品形状にスタンプされ得、同時に部品が冷却される。このようにして製造されたボロン鋼部品の利点は、プレス-急冷によってもたらされるそれらの完全なマルテンサイトミクロ組織により、耐侵入性の耐衝撃性(anti-intrusive crashworthiness)に関連する高い最大引張強度を示すことである。しかし、同時に、それらは低い曲げ性及び延性を示し、それにより、靭性及び曲げ破壊耐性(bending fracture resistance)が制限され、その結果、衝撃エネルギー吸収性の耐衝撃性(impact energy absorptive crashworthiness)が低くなる。
【0007】
破壊靭性の測定は、鋼の衝突エネルギー吸収性を示す便利な手段である。破壊靭性パラメータが高い場合、一般に、良好な圧壊挙動(crash behavior)が得られる。
【0008】
上記のことを考慮すると、優れた最大引張強度と同時に、優れた延性、降伏強度及び曲げ性、ひいては、優れた衝突エネルギー吸収性を示す鋼部品が必要であることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、部品にホットスタンプ可能な鋼ストリップ、シート又はブランクであって、従来のコールドスタンプ及びホットスタンプされた鋼と比較した場合に、該部品が、優れた最大引張強度、降伏強度、曲げ性及び延性の組み合わせを有し、それにより、優れた衝突エネルギー吸収性を実現する、鋼ストリップ、シート又はブランクを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、該鋼ストリップ、シート又はブランクから製造されるホットスタンプされた部品と、車両の構造部品としての該ホットスタンプされた部品の使用とを提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、鋼ブランクを部品にホットスタンプする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
マンガンに加えて比較的大量のタングステンを含む低合金鋼を使用すると、これらの目的が達成可能であることが今回見出された。したがって、本発明は、重量%で、以下の組成:
C:0.20未満
Mn:0.65~3.0
W:0.10~0.60
場合により、
Si:0.10未満
Mo:0.10以下
Al:0.10以下
Cr:0.10以下
Cu:0.10以下
N:0.010以下
P:0.030以下
S:0.025以下
O:0.01以下
Ti:0.02以下
V:0.15以下
Nb:0.01以下
B:0.0005以下
から選択される1種又は2種以上の元素
鉄及び不可避的不純物:残部
を有する、ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクに関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明による方法の実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、軸圧壊試験のためのドロップタワーの断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による鋼ストリップ、シート又はブランクから製造されたホットスタンプされた部品は、従来のホットスタンプされたボロン鋼と比較した場合に、引張強度、延性及び曲げ性の組み合わせ、ひいては衝撃エネルギー吸収性の耐衝撃性の改善を示した。
【0015】
これらの鋼から製造されることを念頭においた自動車部品は、フロント及びバックの長手方向のバー、並びにBピラーである。フロントの長手方向のバーには、現在、コールドスタンプされた二相鋼(例えば、DP800)が使用され、Bピラーには、ホットスタンプされた22MnB5鋼が使用されている。DP800鋼は、より低いエネルギー吸収性を示し、高強度鋼(最大引張強度が800MPaより高い)を使用することで、ダウンゲージ(downgauging)による重量の削減と、より高い衝突エネルギー吸収性による乗客の安全性の向上とが可能になるであろう。一方、Bピラーに関して現在使用されているソリューションの1つは、2種類の鋼、すなわち、上部に超高強度(約1500MPa)鋼22MnB5及び下部に低強度(約500MPa)鋼を使用することである。2つの鋼ブランクは、ホットスタンプの前にレーザー溶接によって接合され、複合ブランクは、Bピラーへとスタンプされる。このソリューションを使用することにより、衝突時に上部が侵入に抵抗し、下部がより高い曲げ性及び延性の組合せによりエネルギーを吸収する。本発明は、より優れた性能及び軽量化の可能性を提供する。すなわち、本発明の高強度鋼は、より高いエネルギー吸収性能によって、下部の低強度鋼に置き換わることができる。
【0016】
好ましくは、上記のようにホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクは、重量%で、以下の組成:
C:0.05~0.18、好ましくは0.07~0.16、及び/又は
Mn:1.00~2.50、好ましくは1.20~2.20、及び/又は
W:0.10~0.50、好ましくは0.13~0.30、及び/又は
Si:0.009以下、好ましくは0.005以下、及び/又は
Al:0.05以下、好ましくは0.04以下、
N:0.001~0.008、好ましくは0.002~0.00
を有する。
【0017】
炭素は、良好な機械的特性を確保するために鋼に添加される。Cは、0.20重量%未満の量で添加され、それにより、高強度を達成し、鋼の焼入れ性を高める。過度の炭素が添加されると、鋼シートの靭性及び溶接性が、低下する場合がある。そのため、本発明に従って使用されるC量は、0.20重量%未満、好ましくは0.05~0.18重量%、より好ましくは0.07~0.16重量%である。いくつかの用途に関して、Cの量が0.07~0.16重量%であることが有利である。これは、より高い延性パラメータ、例えば、曲げ性及び/又は伸びに関して有利であり得る。
【0018】
マンガンは、焼入れ性を高め、固溶強化を施すために使用される。Mn含有量は、0.65重量%以上であり、それにより、適切な置換型固溶強化及び適切な焼入れ硬化性(quench hardenability)を実現し、さらに、鋳造中のMnの偏析(segregation)を最小限に抑え、その上、自動車用の抵抗スポット溶接技術にとって十分に低い炭素当量を維持する。さらに、Mnは、Ac3温度を低下させるのに有用な元素である。より高いMn含有量は、ホットスタンプに必要な温度を低下させるのに有利である。Mn含有量が3.0重量%を超えると、鋼シートの溶接性並びに熱間及び冷間圧延特性が低下し、これが鋼の加工性に影響を及ぼす場合がある。本発明に従って使用されるMn量は、0.65~3.0重量%、好ましくは1.00~2.50重量%、より好ましくは1.20~2.20重量%である。鋼の適切な焼入れ性を確保するために、より低いMn含有量をより高いW及びCの組み合わせで使用する必要があり、その逆も同様である。
【0019】
タングステンは、鋼の高温での拡散律速の変態を遅らせるのに非常に効果的である。フェライト及びパーライトの変態のインキュベーション時間を長くすることにより、フェライト及びパーライトの形成を先延ばしにする。言い換えると、Wは鋼の焼入れ性を高める。焼入れ性向上のこの効果のために、Wが鉄の固溶体中に存在することが重要である。これは、AC3温度を十分に超えて適切な時間で鋼をオーステナイト化することによって保証される。この点で、ミクロ組織中のフェライト及び/又はパーライトの存在は、本発明による目的のミクロ組織の機械的特性に有害であることが見出されている。本発明で使用されるWの量は、0.10重量%超0.60重量%以下であり、好ましくは0.10~0.50重量%であり、より好ましくは0.13~0.50重量%であり、より一層好ましくは0.13~0.30重量%である。Wの量は、得られる利点と比較して合金化コストが過度に増加するために、過度に多くてはならず、上で説明したような冶金学的効果を付与するのに効果がなくなるために、過度に少なくてはならない。
【0020】
Si、Mo、Al、Cr、Cu、N、P、S、O、Ti、Nb、B及びVの量は、存在する場合はすべて少なくする必要がある。
【0021】
ケイ素は添加されず、本発明において所望の冶金学的効果を発揮するために必要とされない。本発明で使用されるSi量は、0.10重量%未満、好ましくは0.009重量%未満、好ましくは0.005重量%以下である。
【0022】
クロムは、鋼の焼入れ性を改善し、プレス焼入れ中のフェライト及び/又はパーライトの形成を回避するのを容易にし得る。本発明で使用されるCrの量は、0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.009重量%以下である。後者は、Crの量が多いと、Cr含有炭化物の形成を引き起こし、機械的特性を劣化させる場合があるためである。
【0023】
モリブデンは、鋼の焼入れ性を改善し、ベイナイトの形成を促進するために添加される。本発明に従って使用されるMoの量は、0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.009重量%以下である。より多い量のMoは合金化コストを著しく増加させるため、より少ない量が好ましい。
【0024】
アルミニウムは、鋼を脱酸素するために添加される。Al量は、0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.04重量%以下である。さらにアルミニウムを添加すると、プレス焼入れ中にフェライトが形成され、機械的特性が低下する場合がある。
【0025】
銅は、焼入れ性を改善し、鋼の強度を高めるために添加される。存在する場合、Cuは、本発明に従って、0.10重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.04重量%以下、より一層好ましくは0.009重量%以下の量で使用される。後者は、Cuが存在すると、高温処理中に高温脆性を引き起こす場合があるためである。
【0026】
リンは、鋼の変態区間温度範囲(intercritical temperature range)を広げることが知られている。Pはまた、所望の残留オーステナイトを維持するために有用な元素である。しかしながら、Pは、鋼の加工性を低下させる場合がある。本発明によれば、Pは、0.030重量%以下、好ましくは0.015重量%以下の量で存在する必要がある。
【0027】
硫黄は、有害な非金属介在物を減らすために、最小限である必要がある。Sは、硫化物系の介在物、例えば、MnSを形成し、これが、亀裂を生じさせ、加工性を低下させる。したがって、S量を可能な限り少なくすることが望ましい。本発明によれば、Sの量は、0.025重量%以下、好ましくは0.010重量%以下の量である。
【0028】
チタンは、存在する場合、溶鋼を冷却する間にTiN析出物を形成して、高温でNを除去する。TiNの形成によって、低温におけるB3N4の形成は阻害され、その結果、Bは、存在する場合、より効果的になる。化学量論的には、Bが添加される場合に、TiのNに対する添加の比率(Ti/N)は、3.42より大きい必要がある。本発明によれば、チタンの量は、0.02重量%以下である。
【0029】
ニオブは、強化析出物を形成し、ミクロ組織を微細化する効果を有し得る。Nbは、結晶粒微細化及び析出硬化により強度を高める。結晶粒微細化により、特に、高度に局在化したひずみが導入されている場合、より均質なミクロ組織を生じ、ホットスタンプ挙動を改善する。微細且つ均質なミクロ組織により、曲げ挙動も改善される。本発明において使用されるNbの量は、0.01重量%以下である。
【0030】
バナジウムは、V(C、N)析出物を形成させて、鋼製品を強化するために、添加される場合がある。バナジウムの量は、存在する場合、0.15重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.009重量%以下である。コスト上の理由及びVが微量の合金化元素と一緒になって複合炭化物の形成を引き起こし得るという理由で、より少ない量が好ましい。複合炭化物の形成は、製品の延性特性がを低下させる場合がある。
【0031】
ホウ素は、鋼シートの焼入れ性を高め、焼入れ後の強度を安定的に確保する効果をさらに高めるための元素である。本発明によれば、Bは0.0005重量%以下で存在する。
【0032】
窒素は、Cと同様の効果を有する。Nはチタンと適切に結合してTiN析出物を形成する。本発明によるNの量は、0.010重量%以下である。好ましくは、Nの量は、0.001~0.008重量%である。好適には、Nは、0.002~0.005重量%の量で存在する。
【0033】
酸素:酸素は、様々な特性、例えば、引張強度、延性、靭性及び/又は溶接性を低下させるため、鋼製品は、脱酸素される必要がある。したがって、酸素の存在は回避される必要がある。本発明によれば、Oの量は、0.01重量%以下、好ましくは0.005重量%以下である。
【0034】
カルシウムは、0.05重量%以下、好ましくは0.01重量%以下の量で存在してもよい。Caは、硫黄含有介在物を球状化し、細長い介在物(elongated inclusions)の量を最小限に抑えるために、添加される。しかしながら、CaS介在物の存在は、依然としてマトリックスの不均一性につながる。したがって、Sの量を少なくすることが最善である。
【0035】
好ましくは、鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング、アルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている。このようなコーティングは、ホットスタンププロセス中の酸化及び/又は脱炭を低減し、使用中の腐食保護を提供する。
【0036】
亜鉛系コーティングは、0.2~5.0重量%のAlと、0.2~5.0重量%のMgと、場合により0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素とを含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングであることが好ましい。追加の元素は、Pb又はSb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr又はBiを含む群から選択可能である。Pb、Sn、Bi及びSbは、通常、スパングルを形成するために添加される。
【0037】
好ましくは、亜鉛合金中の追加の元素の総量は、0.3重量%以下である。これらの少量の追加の元素は、通常の用途のために、コーティングの特性も浴の特性も有意な程度には変化させない。
【0038】
亜鉛合金コーティング中に1種又は2種以上の追加の元素が存在する場合、それぞれが0.03重量%以下の量、好ましくは0.01重量%以下の量で存在することが好ましい。追加の元素は、通常、溶融亜鉛めっきのための、溶融亜鉛合金を含む浴中でドロスが形成されるのを防止するため、或いは、コーティング層中にスパングルを形成させるためにのみ添加される。
【0039】
本発明に従って鋼ストリップ、シート又はブランクから製造されたホットスタンプされた部品は、ミクロ組織を有し、そのミクロ組織は、50%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。好ましくは、ミクロ組織は、40容量%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。より好ましくは、ミクロ組織は、30容量%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。ベイナイトの存在は、プレス焼入れ中にさらされる遅い冷却速度にのみ適用される。プレス焼入れ中、ブランクの一般的な冷却速度は、約30℃/sを超える。60℃/sの冷却速度を超えると、完全なマルテンサイトミクロ組織が形成される。このような状況において、マルテンサイトは、高強度を提供するが、より柔軟なベイナイトは、延性を改善する。マルテンサイト及びベイナイトのわずかな強度の違いは、弱い相界面を欠くことにより、高い曲げ性を維持するのに役立つ。
【0040】
本発明によるホットスタンプされた部品は、優れた機械的特性を示す。部品の引張強度(TS)は、745MPa以上、好ましくは1070MPa以上、より好ましくは1300MPa以上、且つ、1400MPa以下である。
【0041】
好適には、部品の全伸び(TE)は、5%以上、好ましくは5.5%以上、より好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上であり、且つ/或いは、部品の厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)は、78°以上、好ましくは100°以上、より好ましくは115°以上、より一層好ましくは130°以上、最も好ましくは140°以上である。
【0042】
本発明による鋼製品が、優れた衝突エネルギー吸収性を示すことは明らかである。
【0043】
本発明はまた、車両のホワイトボディの構造部品としての、上記のようにホットスタンプされた部品の使用に関する。このような部品は、本発明の鋼ストリップ、シート又はブランクで製造される。これらの部品は、高強度、高延性及び高曲げ性の組合せを有している。特に車両の構造部品としての部品に関して、本発明の鋼は、非常に魅力的であり、これは、従来のホットスタンプされたボロン鋼及びコールドスタンプされた多相鋼の使用と比較して、優れた衝突エネルギー吸収性、ひいては耐衝撃性に基づくダウンゲージ及び軽量化の機会を示すためである。
【0044】
本発明はまた、本発明による部品を製造するための方法に関する。
【0045】
したがって、本発明はまた、鋼ブランク又は予備成形された部品を、部品にホットスタンプする方法であって、
(a)請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼ブランク又は前記鋼ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T1に加熱し、加熱された前記鋼ブランクを時間t1の間、温度T1に保持する工程であって、温度T1が前記鋼のAc3温度よりも高く、且つ、時間t1が10分以下である工程、
(b)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を、ホットスタンプ器具に搬送時間t2の間に搬送する工程であって、加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t2の間に、温度T1から温度T2に低下し、且つ、搬送時間t2が20秒以下である工程、
(c)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を部品にホットスタンプする工程、及び
(d)前記ホットスタンプ器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度で、前記鋼のMf温度より低い温度に冷却する工程
を含む、前記方法に関する。
【0046】
本方法によれば、加熱された鋼ブランクを上記のように部品にスタンプすることにより、機械的特性が向上した複雑な形状の部品を得ることができることが見出された。特に、部品は、従来のホットスタンプされたボロン鋼及びコールドスタンプされた多相鋼の使用と比較して、優れた衝突エネルギー吸収性を示すため、耐衝撃性に基づいたダウンゲージ及び軽量化の機会を与える。
【0047】
部品をMf温度より低い温度に冷却した後、部品を、例えば、空気中で室温までさらに冷却するか、或いは、強制的に室温まで冷却することができる。
【0048】
本発明による方法では、工程(a)において加熱される鋼ブランクが、後続の工程のための中間体として提供される。鋼ブランクを製造する材料となる鋼ストリップ又はシートは、標準的な鋳造プロセスによって取得可能である。好ましい実施形態において、鋼ストリップ又はシートは、冷間圧延される。鋼ストリップ又はシートは、鋼ブランクに適切に切断可能である。予備成形された鋼部品もまた使用され得る。予備成形された部品は、部分的又は全体的に所望の形状に、好ましくは周囲温度で成形され得る。
【0049】
鋼ブランクは、工程(a)において時間t1の間、温度T1に加熱される。好ましくは、工程(a)において、温度T1は、鋼のAc3温度よりも40~100℃高く、且つ/或いは、温度T2は、Ar3温度よりも高い。温度T1がAc3温度より40~100℃高い場合、鋼は、時間t1内に完全又はほぼ完全にオーステナイト化され、工程(b)の間の冷却は、容易に可能である。ミクロ組織が、均質なオーステナイトミクロ組織である場合、成形性が向上する。
【0050】
好ましくは、時間t1は、1分以上7分以下である。時間t1が長すぎると、オーステナイト粒が粗くなり、最終的な機械的特性が低下する場合がある。
【0051】
工程(a)において使用される加熱装置は、例えば、電気又はガス駆動の炉、電気抵抗加熱装置、赤外線誘導加熱装置であってもよい。
【0052】
工程(b)において、加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品は、搬送時間t2の間にホットスタンプ器具に搬送される。加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品の温度は、搬送時間t2の間に温度T1から温度T2に低下し、搬送時間t2は20秒以下である。時間t2は、加熱された鋼ブランクが加熱装置からホットスタンプ器具(例えば、プレス)に搬送され、ホットスタンプ装置が閉じられるまでに必要な時間である。搬送の間、鋼ブランク又は予備成形された部品は、自然空冷及び/又はその他の任意の利用可能な冷却方法の作用により、温度T1から温度T2に冷却され得る。加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品は、自動ロボットシステム又はその他の任意の搬送方法により、加熱装置からホットスタンプ器具に搬送され得る。ホットスタンプ及び焼入れの開始時に鋼のミクロ組織の変化を制御するために、時間t2もまた、温度T1、時間t1及び温度T2と組み合わせて選択することができる。好適には、時間t2は、12秒以下、好ましくは10秒以下、より好ましくは8秒以下、最も好ましくは6秒以下である。工程(b)において、鋼ブランク又は予備成形された部品を、温度T1から温度まで10℃/s以上の冷却速度V2で冷却することができる。速度V2は、好ましくは10~15℃/sの範囲である。鋼ブランク又は予備成形された部品を予冷する(precool)必要がある場合、冷却速度をより速く、例えば、20℃/s以上50℃/s以下、又はそれ以上にする必要がある。
【0053】
工程(c)において、加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品は、所望の形状を有する部品に成形される。成形された部品は、好ましくは車両の構造部品である。
【0054】
工程(d)において、ホットスタンプ器具において成形された部品は、鋼のMf温度より低い温度に、30℃/s以上の冷却速度V3で冷却される。好ましくは、工程(d)における冷却速度V3は、30~150℃/s、より好ましくは30~100℃/sである。
【0055】
本発明は、ホットスタンプ操作中に所望のベイナイト相を鋼のミクロ組織に導入する改良された方法を提供する。本方法は、高強度、高延性及び高曲げ性の優れた組み合わせを示すホットスタンプ鋼部品の製造を可能にする。
【0056】
本発明による方法の1又は2以上の工程は、鋼の酸化及び/又は脱炭を防止するために、水素、窒素、アルゴン又はその他の不活性ガスの制御された不活性雰囲気中で実施可能である。
【0057】
図1は、本発明による方法の実施形態の概略図である。
【0058】
図1において、横軸は時間tを表し、縦軸は温度Tを表す。時間t及び温度Tは、
図1に概略的に示されている。
図1から値を導き出すことはできない。
【0059】
図1において、鋼ブランク又は予備成形された部品を、特定の(再)加熱速度でA
c1を超えるオーステナイト化温度まで(再)加熱する。A
c1温度を超えると、鋼ブランク又は予備成形された部品がA
c3温度よりも高い温度に達するまで、(再)加熱速度を低くする。次いで、鋼ストリップ、シート又はブランクを、この特定の温度に一定時間保持する。次いで、加熱された鋼ブランクを、炉からホットスタンプ器具に搬送し、その間に、空気による鋼ブランクの冷却が、ある程度起きる。次いで、鋼ブランク又は予備成形された部品を、部品に熱間成形し、30℃/s以上の冷却速度で冷却(又は急冷)する。鋼のM
f温度より低い温度に達した後、ホットスタンプ器具を開き、成形された物品を室温まで冷却する。
【0060】
本特許出願全体で使用される様々な温度について、以下に説明する。
Ac1:加熱中にオーステナイトが形成され始める温度。 Ac3:加熱中にフェライトのオーステナイトへの変態が終了する温度。 Ar3:冷却中にオーステナイトからフェライトへの変態が開始する温度。 Ms:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度。 Mf:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度。
【実施例】
【0061】
本発明は、以下の非限定的な実施例により説明される。
【0062】
(本発明による)組成Aを有する鋼
表1に示す組成を有する冷間圧延鋼シートから、寸法220mm×110mm×1.5mmの鋼ブランクを作製した。これらの鋼ブランクを、溶融アニーリングシミュレータ(HDAS)及びSchuler SMG GmbH&Co.KGにより供給されたホットスタンププレス(以下、SMGプレスと呼ぶ)において、ホットスタンプ熱サイクル(hot-stamping thermal cycles)に供した。HDASをより遅い冷却速度(30~80℃/s)で使用し、SMGプレスを最も速い冷却速度(200℃/s)で使用した。鋼ブランクを、それぞれ900℃(Ac3温度より50℃高い)及び940℃(Ac3温度より90℃高い)の温度T1に再加熱し、表面の劣化を最小限に抑えるために窒素雰囲気下で5分間浸漬した。次いで、鋼ブランクを、10秒で120℃の温度降下で、したがって約12℃/sの冷却速度V2で、搬送冷却(transfer cooling)に供し、次いで、以下の冷却速度V3:30、40、50、60、80、200℃/sで、160℃まで冷却に供した。熱処理した試料から、ゲージ長50mm、幅12.5mm(欧州規格A50試験片形状)の長手方向引張試験片を作製し、準静的なひずみ速度で試験した。ミクロ組織をRD-ND平面から特徴付けた。圧延方向に対して平行及び横断方向からの曲げ試験片(40mm×30mm×1.5mm)を、各条件から作製し、VDA238-100規格に記載されている3点曲げ試験により破壊まで試験した。曲げ軸が圧延方向に平行な試料を、長手方向(L)曲げ試験片として特定し、曲げ軸が圧延方向に垂直な試料を、垂直方向(T)曲げ試験片として表した。厚み1.5mmで測定された曲げ角度も、厚み1.0mmの角度に変換した(=元の曲げ角度×元の厚みの平方根)。各タイプの試験について、3回の測定を行い、3回の試験からの平均値を、各条件について示す。
【0063】
選択された条件(940℃で再加熱したSMGプレスの試料)について、J積分による破壊靭性試験及びドロップタワーの軸圧壊試験を実施した。NFMT76J規格に準拠したコンパクトな引張試験片を、破壊靭性試験用に長手方向及び横断方向の両方から作製した。横断試験片の場合、亀裂は、圧延方向に沿って走り、荷重(loading)は、圧延方向に対して横断方向であるが、長手試験片の場合は逆になる。試験片を、ASTM E1820-09規格に従って室温で試験した。予亀裂(pre-crack)を、疲労荷重(fatigue loading)によって導入した。最終試験を、シート材料に対する面内応力を維持するために、座屈防止プレート(anti-buckle plate)を使用した引張荷重によって実施した。各条件について3回の試験が行われ、BS7910規格のガイドラインに従って、様々な破壊靭性パラメータに関する3つの等価な最小値(minimum values of three equivalents)(MOTE値)を示す。
【0064】
破壊靭性パラメータの簡単な説明を以下に記載する。CTODは、亀裂先端開口変位(crack tip opening displacement)であり、破損(failure)(脆性破損の場合)又は最大荷重のいずれかで亀裂が開く程度の尺度である。Jは、J積分であり、エネルギーを考慮した靭性の尺度であるため、曲線の下の領域(area under the curve)から破損又は最大荷重まで計算される。KJは、J積分から決定される応力拡大係数であり、その決定には、KJ=[J(E/(1-v2))]0.5として与えられる確立された式を使用する。Eはヤング率(=207GPa)及びvはポアソン比(=0.03)である。Kqは、荷重Pqで測定された応力拡大係数の値である。Pqは、荷重線(loading line)のうち、弾性状態にある傾き(elastic slope)を選び、次いで、傾きが5%小さい直線を引き、この直線が荷重線と交差する荷重としてPqを定義することによって決定される。
【0065】
ドロップタワーの軸圧壊試験を、SMGプレスされた条件において実施し、重さ200kg、荷重速度50km/時間の荷重を、大きなシートから作製された、閉じたシルクハット形状を有する高さ500mm(圧延方向に対して横断方向)のクラッシュボックス(crash box)(
図2)に衝突させた。ドロップタワーの断面の寸法を、
図2にミリメートルで示す(t=1.5mm、R
0=3mm)。クラッシュボックスを作製するために、幅100mmのバックプレート(back plate)を外面(profile)にスポット溶接した。
【0066】
いくつかの選択された条件では、試料に焼付塗装の熱サイクル(paint bake thermal cycle)(180℃、20分)も実施され、結果から直接反映されるように試験を実施した。
【0067】
(本発明によらない)組成B及びCを有する鋼
比較の理由から、市販の冷間成形されたCR590Y980T-DP(組成Bを有する鋼、一般にDP1000鋼として知られている)も試験した。これは、組成Bを有する鋼が、本発明による鋼ブランクの範囲にある強度レベルを有するためである。さらに、比較の理由から、規格のホットスタンプされた22MnB5鋼製品(組成Cを有する鋼)も試験した。
【0068】
表1に、組成A~Cを有する鋼の重量%における化学組成が明記されている。
【0069】
表2に、組成Aを有する鋼の変態温度を示す。
【0070】
様々な試験の結果を表3~8に示す。
【0071】
表3に、様々な冷却速度V3での組成Aを有する鋼に関する、降伏強度(YS)、最大引張強度(UTS)、均一伸び(UE)及び全伸び(TE)を示す。さらに、表3は、マルテンサイト(M)及びベイナイト(B)からなるミクロ組織を示す。表3から、様々な冷却速度V3で740MPaを超える最大引張強度が達成されたことが明らかである。
【0072】
表4に、様々な冷却速度V3後に得られた組成Aを有する鋼に関する厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)を示す。表4から、長手方向(L)及び横断方向(T)の両方で、少なくとも130°を超える優れた曲げ角度が達成されたことが明らかである。
【0073】
表5に、組成Aを有する鋼をホットスタンプと、自動車製造中に使用される焼付塗装処理をシミュレートした焼付け処理とに供した後の組成Aを有する鋼に関する、様々な機械的特性を示した。組成Aを有する鋼を900℃に加熱し、5分間浸漬し、次いで、搬送冷却に続いて200℃/sのV3で冷却する。焼付け処理を180℃で20分間実施した。表5から、降伏強度(YS)、最大引張強度(UTS)、最大伸び(UE)、全伸び(TE)及び曲げ角度(BA)のほぼ同一の最小レベルが、組成Aを有する鋼を焼付け処理に供した後も達成されることが明らかである。これは、焼付塗装後の自動車製造において、要求される特性が、使用条件で保証されることを意味する。
【0074】
表6に、組成Bを有する鋼(DP1000)及び組成Cを有する鋼(22MnB5)に関する様々な機械的特性を示す。これらの組成B及びCを有する鋼を、組成Aを有する鋼と同一の試験条件下で試験した。表4及び6の内容を比較すると、本発明(組成Aを有する鋼)による鋼部品が、従来の冷間成形された鋼製品DP1000(組成Bを有する鋼)及び従来のホットスタンプされた鋼製品22MnB5(組成Cを有する鋼)と比較した場合の曲げ性に関して大幅な改善をもたらすことが直ちに明白になる。
【0075】
表7から、本発明(組成Aを有する鋼)による鋼部品の破壊靭性パラメータもまた、DP1000(組成Bを有する鋼)から製造されたブランクの破壊靭性パラメータよりも高いことが明らかである。
【0076】
表8に、組成A及びBを有する鋼の圧壊挙動を示す。表8から、組成Aを有する鋼の圧壊挙動が、ホットプレス条件と、ホットプレス及び焼付け条件との両方で、DP1000(組成Bを有する鋼)の圧壊挙動よりも優れていることが明らかである。焼付け条件は、上記の説明と同一である。組成Aを有する鋼のクラッシュボックスは、試験後に亀裂の兆候を示さなかったが、DP1000(組成Bを有する鋼)のクラッシュボックスは、折り曲げ箇所(fold)に重大な亀裂を示した。さらに、組成Aを有する鋼は、より高いエネルギー吸収能力を示す。
【0077】
同様の強度を有する従来の鋼製品と比較した場合の、本発明による組成Aを有するホットスタンプされた鋼の優れた圧壊挙動の改善は、より優れた曲げ角度特性及びより優れた破壊靭性特性によるものである。この点で、衝突中、鋼部品は、折り曲げられる必要があり、これは曲げ性によって決定される。一方で、破損前のエネルギー吸収性能は、破壊靭性パラメータによって決定される。
【0078】
上記を考慮すると、本発明による鋼製品は、従来知られているコールドスタンプ及びホットスタンプされた鋼製品に対して大幅な改善をもたらすことが当業者には明らかであろう。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【手続補正書】
【提出日】2022-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、以下の組成:
C:0.20未満
Mn:0.65~3.0
W:0.10~
0.30
場合により、
Si:0.10未満
Mo:0.10以下
Al:0.10以下
Cr:0.10以下
Cu:0.10以下
N:0.010以下
P:0.030以下
S:0.025以下
O:0.01以下
Ti:0.02以下
V:0.15以下
Nb:0.01以下
B:0.0005以下
から選択される1種又は2種以上の元素
鉄及び不可避的不純物:残部
を有する、ホットスタンプされた部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項2】
重量%で、
Cが0.05~0.18、好ましくは0.07~0.16、及び/又は
Mnが1.00~2.50、好ましくは1.20~2.20、及び/又は
W
が0.13~0.30、及び/又は
Siが0.009以下、好ましくは0.005以下、及び/又は
Alが0.05以下、好ましくは0.04以下、
Nが0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005
である、請求項1に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項3】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項1又は2に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項4】
前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0重量%のAlと、0.2~5.0重量%のMgと、場合により0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素とを含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、請求項3に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項5】
重量%で、以下の組成:
C:0.20未満
Mn:0.65~3.0
W:0.10~0.60
場合により、
Si:0.10未満
Mo:0.10以下
Al:0.10以下
Cr:0.10以下
Cu:0.10以下
N:0.010以下
P:0.030以下
S:0.025以下
O:0.01以下
Ti:0.02以下
V:0.15以下
Nb:0.01以下
B:0.0005以下
から選択される1種又は2種以上の元素
鉄及び不可避的不純物:残部
を有する鋼ストリップ、シート又はブランクから製造されたホットスタンプされた部品であって、
前記部品の引張強度が、745MPa以上、好ましくは1070MPa以上、より好ましくは1300MPa以上、より一層好ましくは1400MPa以上である、前記部品。
【請求項6】
重量%で、
Cが0.05~0.18、好ましくは0.07~0.16、及び/又は
Mnが1.00~2.50、好ましくは1.20~2.20、及び/又は
Wが0.10~0.50、好ましくは0.13~0.30、及び/又は
Siが0.009以下、好ましくは0.005以下、及び/又は
Alが0.05以下、好ましくは0.04以下、
Nが0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005
である、請求項5に記載の部品。
【請求項7】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項5又は6に記載の部品。
【請求項8】
前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0重量%のAlと、0.2~5.0重量%のMgと、場合により0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素とを含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、請求項7に記載の部品。
【請求項9】
前記部品の全伸び(TE)が、5%以上、好ましくは5.5%以上、より好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上であり、且つ/或いは、前記部品の厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)が、78°以上、好ましくは100°以上、より好ましくは115°以上、より一層好ましくは130°以上、最も好ましくは140°以上である、請求項5
~8のいずれか一項に記載の部品。
【請求項10】
前記部品がミクロ組織を有し、
前記ミクロ組織が、50%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトであり、
前記ミクロ組織が、好ましくは40%以下のベイナイトを含み、より好ましくは30%以下のベイナイトを含む、請求項5
~9のいずれか一項に記載の部品。
【請求項11】
車両のホワイトボディの構造部品としての、請求項5~
10のいずれか一項に記載の部品の使用。
【請求項12】
鋼ブランク又は予備成形された部品を部品にホットスタンプする方法であって、
(a)重量%で、以下の組成:
C:0.20未満
Mn:0.65~3.0
W:0.10~0.60
場合により、
Si:0.10未満
Mo:0.10以下
Al:0.10以下
Cr:0.10以下
Cu:0.10以下
N:0.010以下
P:0.030以下
S:0.025以下
O:0.01以下
Ti:0.02以下
V:0.15以下
Nb:0.01以下
B:0.0005以下
から選択される1種又は2種以上の元素
鉄及び不可避的不純物:残部
を有する鋼ブランク又は前記鋼ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T
1
に加熱し、加熱された前記鋼ブランクを時間t
1
の間、温度T
1
に保持する工程であって、温度T
1
が前記鋼のA
c3
温度よりも高く、且つ、時間t
1
が10分以下である工程、
(b)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を、ホットスタンプ器具に搬送時間t
2
の間に搬送する工程であって、加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t
2
の間に、温度T
1
から温度T
2
に低下し、且つ、搬送時間t
2
が20秒以下である工程、
(c)加熱された前記鋼ブランク又は前記予備成形された部品を部品にホットスタンプする工程、及び
(d)前記ホットスタンプ器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度で、前記鋼のM
f
温度より低い温度に冷却する工程
を含む、前記方法。
【請求項13】
重量%で、
Cが0.05~0.18、好ましくは0.07~0.16、及び/又は
Mnが1.00~2.50、好ましくは1.20~2.20、及び/又は
Wが0.10~0.50、好ましくは0.13~0.30、及び/又は
Siが0.009以下、好ましくは0.005以下、及び/又は
Alが0.05以下、好ましくは0.04以下、
Nが0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005
である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
工程(a)における温度T
1が、A
c3温度よりも40~100℃高く、且つ/或いは、温度T
2が、A
r3温度より高い、請求項
12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程(a)における時間t
1が、1分以上7分以下であり、且つ/或いは、工程(b)における時間t
2が、12秒以下、好ましくは2~10秒である、請求項
12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(d)において、前記部品が、30~150℃/sの冷却速度、好ましくは30~100℃/sの冷却速度で冷却される、請求項
12~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項5~
10のいずれか一項に記載の少なくとも1つの部品、及び/又は請求項
12~
17のいずれか一項に記載の方法に従って製造された部品を備える車両。
【国際調査報告】