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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】アスパラギナーゼに基づく癌療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/46 20060101AFI20220801BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220801BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220801BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61K38/46
A61P35/02
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571534
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2020064957
(87)【国際公開番号】W WO2020245041
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】19178062.6
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521523408
【氏名又は名称】キュオン バイオテック アー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】テピック スロボダン
(72)【発明者】
【氏名】ツベトコヴィッチ ヨーラン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB36
4C076CC27
4C076DD54
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA56
4C084DC02
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
(57)【要約】
本発明は、医薬、例えばヒトおよび獣医薬での使用のためのアスパラギナーゼの改善された製剤および送達に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬における使用のためのアスパラギナーゼ製剤であって、
製剤が、解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼを含み、それを必要とする対象へ投与される、
製剤。
【請求項2】
請求項1の製剤であって、
カオトロピック剤中のアスパラギナーゼの水性製剤が投与される、
製剤。
【請求項3】
請求項1または2の製剤であって、
前記カオトロピック剤は、特に、約3mol/l~約8mol/lの濃度、より特に、約4mol/l~約6mol/l、例えば約5mol/lの濃度の尿素である、
製剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項の製剤であって、
前記アスパラギナーゼは、Escherichia coliまたはDickeya dadantiiのような細菌の細胞内で生産されるアスパラギナーゼであり、組み換えアスパラギナーゼを含む、
製剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項の製剤であって、
前記アスパラギナーゼは、静脈内インフュージョンによって投与される、
製剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項の製剤であって、
前記アスパラギナーゼは、間質液内へのタンパク質輸送を促進する条件下で対象へ投与される、
製剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項の製剤であって、
前記アスパラギナーゼは、対象にインスリン-グルコース・クランプを与えた条件下で対象へ投与される、
製剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項の製剤であって、
癌の治療での使用のための、
製剤。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項の製剤であって、
ヒト医薬での使用のための、
製剤。
【請求項10】
請求項9の製剤であって、
白血病またはリンパ腫を患っているヒト患者の治療、特に、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病または非ホジキンリンパ腫を患っているヒト患者の治療での使用のための、
製剤。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項の製剤であって、
獣医薬、特にネコまたはイヌの治療での使用のための、
製剤。
【請求項12】
請求項11の製剤であって、
癌、特に白血病またはリンパ腫を患っている動物患者の治療での使用のための、
製剤。
【請求項13】
解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼを含むアスパラギナーゼ製剤であって、
前記製剤は、約3mol/l~約8mol/lの濃度、特に約4mol/l~約6mol/l、例えば約5mol/lの濃度の尿素を含む水性製剤である、
製剤。
【請求項14】
解離した形態、特に単量体の形態の治療的に有効量のアスパラギナーゼを、それを必要とする対象へ投与するステップを含む、
癌の治療のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、例えばヒトおよび獣医薬での使用のためのアスパラギナーゼの改善された製剤および送達に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヒトおよび獣医腫瘍学の両方において、臨床用途でのL-アスパラギナーゼ(以降、アスパラギナーゼ)の3つの市販製剤:(1)約140kDaの分子量を有するEscherichia coli由来の四量体;(2)同じくらいの分子量のDickeya dadantii(Erwinia chrysanthemi)由来の四量体;(3)ポリ-エチレン-グリコール(PEG)として四量体に付加された約400kDaを有する(1)のペグ化バージョンが存在する。また、遺伝学的に操作されたE.coliにおいて生産される組み換えアスパラギナーゼも存在する。
【0003】
これらの分子の分子量は全て、腎臓における糸球体濾過によって推算することのできる分子に関する上限(約70kDa)を超えている。血管循環からのアスパラギナーゼのクリアランスの主なメカニズムは、療法の最初の週における非特異的な免疫応答を介し(Van der Meer,L.T.,et al.,In Vivo Imaging of Antileukemic Drug Asparaginase Reveals a Rapid Macrophage-Mediated Clearance from the Bone Marrow,The Journal of Nuclear Medicine,Vol.58,No.2,February 2017)、その後に、特異的な免疫応答(抗体介在性)が療法の開始の約4週後に始まる。文献において報告される非ペグ化アスパラギナーゼのインビボ半減期は、送達様式(i.v.またはi.m.)に応じて、およびおそらく患者の免疫状態に応じて、約8~約40時間である。ペグ化形態の半減期は、非常により長く、2.5~12日の範囲である。
【0004】
i.v.インフュージョンまたはi.m.注入のためのアスパラギナーゼの従来の製剤は、凍結乾燥された酵素の水中溶解によって、そして、ほとんどの場合は生理食塩水中にさらに希釈することによって行なわれる。
【0005】
アスパラギナーゼ分子は、四量体としてのそれらの大きな分子量のせいで、静脈内(i.v.)インフュージョンによって送達される場合に血管循環に制限される。筋肉内(i.m.)注入によって送達される場合、アスパラギナーゼは、速度はより遅いがリンパ流を介して血管系にも輸送され、したがって、除去時間が明らかにより長くなる。どの送達様式においても薬剤は間質液空間に微量しか入らず、そのことは、その抗癌有効性を非常に制限する。ペグ化による修飾は、薬物の半減期を延長させるが、血管系から排出されるのをさらにより不可能になる。
【0006】
癌細胞(例えば白血病またはリンパ腫細胞)は、単に一時的に、全集団の非常に小さな画分として、血管系内に存在する。したがって、血管循環に制限されるアスパラギナーゼが間質液内のアスパラギンを枯渇させる効率は、タンパク質ターンオーバーによる間質空間内へのアスパラギンの一定流入および体内の実際上全細胞によるアスパラギン合成に起因して制限される。血管系内へのアスパラギンの拡散は制限され、リンパと血管の循環間の対流による分子輸送は非常に少ない。その結果として、癌細胞を取り囲む媒体内および/または血管系の外側に存在する癌細胞内のアスパラギンの重度の枯渇は、四量体形態でのアスパラギナーゼの現在の投与様式では成し遂げられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アスパラギナーゼの単量体は約35kDaの分子量を有し、酵素的に活性でない。しかしながら我々は、適切な条件下での、例えば、適切な速度のグルコースのインフュージョンを伴うインスリンの同時的なインフュージョン(いわゆる、インスリン-グルコース・クランプ)による、アスパラギナーゼ単量体の投与が、血管系から間質液内への、およびおそらく、取り囲んでいるまたはその容積内に存在する大部分の細胞内への、単量体の輸送を仲介することができることを見いだした。間質液内に入った後、単量体は、酵素的に活性の四量体へと会合および形成し得る。インスリンによって促進および/または刺激される輸送メカニズムは現時点で完全には解明されていないが、インスリン分子自体が応答性細胞内へ輸送されるエンドサイトーシスが関与していると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インスリン-グルコース・クランプによって増大される、インフュージョン前の四量体の一過的で可逆的な脱会合による、アスパラギナーゼのその標的への効果的な送達の難問を解決し、それにより、アスパラギナーゼ単量体の血管外遊出が促進され、腎臓を通したそれらの除去が防止される。間質液内での四量体への再会合は、標的癌細胞のごく近傍へ薬物を運び、その有効性を非常に増大させる。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、医薬における使用のためのアスパラギナーゼ製剤に関し、ここで製剤は、解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼを含み、それを必要とする対象へ投与される。
【0010】
本発明のさらなる一態様は、解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼを含むアスパラギナーゼ製剤に関し、ここで前記製剤は、特に、約3mol/l~約8mol/lの濃度、より特に、約4mol/l~約6mol/l、例えば約5mol/lの濃度の尿素を含む水性製剤である。
【0011】
本発明のさらなる一態様は、解離した形態、特に単量体の形態の治療的に有効量のアスパラギナーゼを、それを必要とする対象へ投与するステップを含む、癌の治療のための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アスパラギナーゼが、血管循環内に、解離した形態で、特に単量体として送達され得るという観察に基づく。アスパラギナーゼ単量体は、尿素のようなカオトロピック剤におけるアスパラギナーゼ四量体の可逆的な解離によって産生され得る(Shifrin S and Parrot C.L.,In vitro Assembly of L-Asparaginase Subunits,The journal of Biological Chemistry,Vol.249,No.13,pp.4175-4180,1974)。例えば約8mol/lの尿素中に溶解されると、単量体は分離して変性する。尿素が約2.5mol/l未満に希釈された時点で、単量体は再度折り畳まれ始め、活性を失うことなく四量体へ再会合する。
【0013】
このことは、本明細書中に開示される本発明の科学的根拠である。例えばインフュージョンによる、投与時の尿素の即時希釈は(血漿中の濃度は、ほんの2.5~7mmol/lである)、再折り畳みのプロセスを開始し(約30秒以内に完了する)、それから、数分で(characteristic time of minutes)再会合する。この時間のあいだに、一部の単量体は腎臓を介して失われるが、大部分はインスリンの作用によって血管系から除去される。間質液における再会合のプロセスは、活性形態の酵素を、癌細胞のごく周辺へ、および癌細胞内へ送達する。
【0014】
製剤および送達のこの様式は、この非常に重要な薬物の抗腫瘍有効性を大いに増大させることができる(Metayer,L.E.,et al.,Mechanisms of cell death induced by arginase and asparaginase in precursor B-cell lymphoblasts,Apoptosis,2019,24:145-156)。現在用いられるものでさえ、70年代の広範な臨床用途におけるその導入以来、とりわけ小児急性リンパ性白血病を有する者において、何千もの患者の命を救っていると信じられている(Camargos Rocha,J.M.,et al.,Current Strategies for the Detection of Minimal Residual Disease in Childhood Acute Lymphoblastic Leukemia,a Review in Mediterranean Journal of Hematology and Infectious Diseases,2016:8;e2016024)。アスパラギナーゼはまた、ヒトにおける急性骨髄性白血病および非ホジキンリンパ腫ならびにイヌにおける多くのリンパ腫タイプを治療するためにも用いられる。
【0015】
本発明によれば、アスパラギナーゼは、誘導段階および場合によっては維持段階において、化学療法と併用され得る。しかしながら、単独療法として施すこともできる。
【0016】
近年、アスパラギナーゼは、酵素が標的へ送達されるならば、一部の固形腫瘍においてさえ抗腫瘍活性を有し得ることを示唆するいくつかの刊行物が存在する(Kim,K.,et al.,L-Asparaginase delivered by Salmonella typhimurium suppresses solid tumors,Molecular Therapy-Oncolytics,2015,2,15007;doi:10.1038/mto.2015.7)。本明細書中に開示される送達様式は、アスパラギナーゼに関するこれらの新たな適応症において適切に使用され得る。
【0017】
アスパラギナーゼは、健康システムにおいて必要とされる最も効果的かつ安全な医薬品である必須医薬品の世界保健機関のリストに存在する。
【0018】
本発明によれば、解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼの製剤が提供される。この製剤は、典型的に溶液であり、特に水溶液である。特定の実施態様では、製剤は、解離したアスパラギナーゼ(例えば単量体として)、およびアスパラギナーゼを解離した状態で維持するためのカオトロピック剤を含む。カオトロピック剤は、アスパラギナーゼの解離した形態を維持するのに十分な濃度で存在する。好ましいカオトロピック剤は、約3mol/l~約8mol/lの濃度、特に約4mol/l~約6mol/l、例えば約5mol/lの濃度で存在し得る尿素である。カオトロピック剤に加えて、さらなる薬学的に許容できる賦形剤、例えばバッファー、界面活性剤などが存在してよい。
【0019】
本発明のアスパラギナーゼ製剤は、任意の利用可能アスパラギナーゼ、例えば、Escherichia coliまたはDickeya dadantiiのような細菌の細胞内で産生されるアスパラギナーゼ(組み換えアスパラギナーゼを含む)から、解離した形態、特に単量体の形態のアスパラギナーゼを提供する条件下で、カオトロピック剤中に前記アスパラギナーゼを溶解させることによって調製され得る。製剤におけるアスパラギナーゼの濃度は、特定の適用に従って調節され得る。例えば、アスパラギナーゼの濃度は、約1,000IU/ml~約100,000IU/ml、例えば約2,000IU/ml~約10,000IU/mlであってよい。それを必要とするヒト対象に投与される用量は、対象および治療されるべき障害に応じて、典型的に1日あたり約500~約5,000IUアスパラギナーゼ/kg体重の範囲内である。典型的に、ヒト患者へ投与される用量は約2,500IU/kg/日である。イヌについては、用量はおよそ2倍であり、すなわち、1日あたり約1,000~約10,000IUアスパラギナーゼ/kg体重であり、典型的に約5,000IU/kg/日である。
【0020】
製剤は、対象および治療されるべき障害に応じて、例えば約4~約144時間の期間、静脈内インフュージョンによって投与され得る。他の投与様式を用いてもよい。
【0021】
特定の実施態様では、アスパラギナーゼは、血管系から間質液への、タンパク質、特にアスパラギナーゼ単量体の輸送が促進される条件下で投与される。これは、例えば、アスパラギナーゼ製剤が投与される対象に、インスリンおよびインスリン活性を促進するのに十分なレベルのグルコースが提供される場合に達成され得る。インスリンは、任意のタイプのインスリン、例えばヒトインスリン、動物インスリン、または、半減期が短いインスリン類似体および半減期が長いインスリン類似体を含むインスリン類似体であってよい。グルコースは、正常レベルの血漿グルコース濃度を維持するために、例えばインフュージョンによって対象へ与えられ得る。特定の実施態様では、アスパラギナーゼ製剤は、インスリン-グルコース・クランプ、すなわちインスリンおよびグルコースの同時投与によって共投与される。グルコースの投与は、高用量のグルコースが投与される場合、細胞に入るカリウムイオンを補うためのKClのようなカリウム塩の投与を伴ってよい。
【0022】
治療は、必須アミノ酸、電解質、流体および/または抗生物質の付随する投与によってサポートされてよい。
【0023】
本発明の製剤は、癌治療において、例えばヒト医学または獣医学において、例えば、ネコおよびイヌの治療において適切である。製剤は、例えば、白血病またはリンパ腫、例えば急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病または非ホジキンリンパ腫を患っているヒト患者に、または、白血病またはリンパ腫を患っている動物患者に投与されてよい。しかしながら製剤は、結腸がん、乳がん、および膵がんのような固形腫瘍の治療のために用いてもよい(Kim,K.,et al.,L-Asparaginase delivered by Salmonella typhimurium suppresses solid tumors,Molecular Therapy-Oncolytics,2015,2,15007;doi:10.1038/mto.2015.7)。
【0024】
さらに、本発明は、以下の実施例によって、より詳細に説明される。
【実施例
【0025】
[実施例1-症例報告]
リンパ節生検によって確認されたハイグレードのステージ3リンパ腫と診断された、12kgの3才のフレンチブルドッグを、本発明によって調製および送達されるE.coliアスパラギナーゼで治療した。
【0026】
90,000IUのアスパラギナーゼを、8mol/lの尿素6ml中に溶解して、さらに4mol/lに希釈することによって、10,000IUのバッチで調製し、48時間にわたる連続的なインフュージョンによって、短い半減期のインスリン(6IU/kg/日)および必要に応じてグルコースとともに送達して、正常レベルの血漿グルコース濃度を維持した(50%グルコース、12~33ml/h)。
【0027】
抗生物質を、1日に1回、s.c.注入によって送達した。制吐薬もインフュージョンのライン内に添加することによって1日1回与えた。この2日間、食事は与えなかった。リンゲル液をインフュージョンによって投与して流体バランスを維持した。塩化カリウムおよび/またはリン酸カリウムの置換インフュージョンを、それぞれの塩をリンゲル液に添加することによって、必要に応じて与えた。
【0028】
全てのインフュージョンは、2つのシリンジポンプ(インスリン用およびアスパラギナーゼ用)および2つのぜん動ポンプ(グルコース用およびリンゲル液用)を用いて、中心静脈カテーテルを介して送達した。カテーテル内に入る前に尿素が希釈されるのを防ぐために、アスパラギナーゼは、独立したインフュージョン・ラインを介して送達した。血液および尿のサンプルは、毎日2回採取した。
【0029】
バイタルサイン、血液学および生化学は、治療中に異常を示さず、過敏性の証拠はなかった。2日目に、拡大したリンパ節が明らかに減少した。治療の2日後、リンパ節を切除し、組織病理学は陰性であった。アスパラギナーゼの前後に他の薬物は投与されなかった。治療の4週間後、イヌはリンパ腫の臨床徴候を有さなかった。
【0030】
アスパラギナーゼの活性を血清サンプルにおいて測定した。尿素中に溶解させないが6倍低い用量のアスパラギナーゼ/kg体重で治療した別のイヌと比較して、血清における活性は2倍低かった。このことは、尿素中に溶解して送達されるアスパラギナーゼが、意図されるように血管循環から除去されたことを強く示すものである。一部の活性は、アスパラギナーゼの従来の使用による知見に反するが、予期されるように、尿中でも測定された(腎臓によって濾過されるアスパラギナーゼ単量体は、尿中で再会合することができた)。アスパラギンの血漿濃度は、従来のアミノ酸分析による検出未満に下がった。
【0031】
イヌにおけるリンパ腫の事例の約70%は、アスパラギナーゼに反応することが知られている。アルギナーゼをアスパラギナーゼと比較する我々の独自のインビトロ研究(Wells,J.,et al.,Arginase Treatment Prevents the Recovery of Canine Lymphoma and Osteosarcoma Cells Resistant to the Toxic Effects of Prolonged Arginine Deprivation,PLOS One,January 2013,Vol.8,Issue 1,e54464)は、この臨床経験と幅広く一致している。
【0032】
したがって、特にアスパラギナーゼのこの改変によって成功的な単独療法を導くことができ、したがって、小児白血病の従来の化学療法治療に起因することが現在知られている長期の副作用の発生率を減少させることができるならば、ヒトおよび獣医学的患者を治療することは非常に緊急性がある(Science,special report,March 15,2019)。
【0033】
[実施例2-臨床試験プロトコル]
実施例1に示した有望な結果に基づき、臨床試験プロトコルを開発した。
【0034】
この臨床試験の目的は、変性したアスパラギナーゼおよび癌性のイヌ(すなわちイヌのリンパ腫患者)へのその送達が、確立された標準的な療法よりも長い生存をもたらすことができるかどうか試験することである。アスパラギナーゼの本来の分子は、140kDaの分子量を有する四量体である。このサイズの分子は、循環を離れて癌細胞に接近して攻撃することができない。インスリン-グルコース・クランプによって同時に治療される、患者における可逆的に解離したアスパラギナーゼ単量体の投与は、アスパラギナーゼ分子の血管外遊出を生じさせ、その結果、細胞外空間において少なくとも部分的に再会合し、癌細胞を直接攻撃する。
【0035】
[試験デザイン]
I)予備試験
イヌを、試験(身体検査、血液CBCおよび生化学)、穿刺吸引(FNA)および/または生検する。
【0036】
II)適格性基準
以下の基準を満たすイヌのみが治療に適格である:
1.任意の現在の治療(外科的処置、化学療法、放射線療法、(ネオ)アジュバント化学療法または他の療法)が、腫瘍制御、機能性結果および整容性(cosmetic outcome)を達成する可能性が低いリンパ腫であるという診断。
2.以前に、正常な臓器および骨髄機能が損なわれ得る任意の形態の従来または実験的薬物で治療されていない。
3.年齢が≧1才、<10才である。
4.試験開始時に平均余命6ヶ月よりも長い(健康であったならば)。
5.正常な実験および身体パラメーターは以下に定義されるとおりである:
-血小板:≧150,000/μl
-グルコース:≦6mmol/l
-クレアチニン:≦100μmol/l
-肝臓酵素AST(SGOT)/ALT(SGPT):≦5×制度上の正常上限。
-温度:38.3~39.2℃
-脈拍数:小型種90~160;中型種80~130
-呼気 睡眠時10~30/分
【0037】
III)除外基準
1.試験に入る前4週以内の化学療法または放射線療法(ニトロソ-尿素またはマイトマイシンCについては6週)、または、4週以前に投与された薬剤に起因する有害事象から回復していない。
2.サンプリングの2週以内の任意の他の治験薬剤またはステロイド療法による以前の治療。
3.酵素アレルギーを含む、この試験で用いられる薬剤に対する、同様の化学物質の化合物または生物学的組成物に起因するアレルギー反応歴。
4.糖尿病歴。
5.制限されないが、進行中もしくは活性の感染、症候性の鬱血性心不全、心不整脈または不安を含む、無制御な介入性の病気。
6.妊娠および授乳。
7.食道障害(例えば食道狭窄、食道炎、および巨大食道)、または、食道異物除去または食道外科的処置後。
8.イレウス、重大なGI出血、血行動態不安定、制御不能な嘔吐および意識レベル低下の存在。
【0038】
IV)治療プロトコル
1.腫瘍の感受性およびアスパラギナーゼに対するイヌの潜在的過敏性を試験するための、標準的な用量のアスパラギナーゼ(10,000IU)の投与。
2.全身麻酔での中心静脈カテーテル(CVC)の配置。
3.麻酔からの回復の監視。
4.翌日、以前に準備されたインフュージョンポンプを介して、薬物インフュージョンの開始(アスパラギナーゼ、インスリンおよびグルコース)。
5.最大96時間までの、24/7監視。
6.インフュージョンの停止。
7.飼い主(単数または複数)との通常の生活への復帰。
イヌは、全身麻酔前および治療中、絶食させる。非経口食物(グルコース、アミノ酸)および流体を与える。
CVCの挿入中はイヌを全身麻酔し、必要に応じて疼痛薬物(NSAID)で処置する。
それぞれのイヌを96時間処置下に置く:準備のために12時間、療法自体に72時間、徐々に減らす(tapering off)プロトコルおよびフォローアップに12時間。
イヌの合計は10匹である。
イヌを絶えず監視する。疼痛、不快感および症候の任意の徴候を監視、記録、処置する。
【0039】
[イヌの準備]
I)リンパ腫診断
シグナルメント、病歴および身体検査を含む診断評価を、Withrow&MacEwen,(Canine Lymphoma and Lymphoid Leukemias,Third Edition)に従って行なう。さらに、示差的細胞数、血小板数および血清生化学プロファイルによる全血球算定(CBC)を取得する。リンパ節全体、例えば前肩甲骨(prescapular)または膝窩リンパ節を取り出し、独立の(independent)病理医によって病理組織学的に評価する。さらに、胸部および腹部の放射線写真ならびに超音波、ガイド付き穿刺吸引細胞診および/または針生検を含む超音波検査を行なう。
【0040】
II)リンパ腫のステージ分け
診断後、疾患の程度を判定し、疾患の臨床ステージと相関させる。ほとんどのイヌは、WHOのClinical Staging System for Lymphosarcoma in Domestic Animalsに従って進行性ステージ(III~IV)を示す。
【0041】
III)カテーテル
中心静脈カテーテル(CVC)および標準的な橈側皮静脈カテーテル(例えばSurfl oi/v.カテーテル、20G、1 ’’、Terumo)を挿入する。
【0042】
IV)Clistir
処置を開始する24時間前に経口腸管洗浄剤(WBI)を行なう。WBIの1日前に、消化管滅菌のために抗生物質(バンコマイシンとゲンタマイシンの組み合わせ)をイヌに与える。
【0043】
[薬品]
I)L-アスパラギナーゼ
L-アスパラギナーゼ(Kyowa Kirin)を、4,000IU/kg/日(または5mol/lの尿素5ml中に溶解した10,000IUを2ml/kg/日)の用量で、CVCおよびInjectomat Agilia(登録商標)シリンジポンプを介して投与する。
【0044】
II)インスリン
2ml(200IU)インスリン(Novo Nordisk))を48ml食塩水(200IU/50ml=4IU/ml)で希釈して、6~12IU/kg/日の用量で、Injectomat Agilia(登録商標)を介して投与する。
【0045】
III)グルコース
インスリンは、糖源が提供されない限り、血中グルコースレベルを直ちに低減させる。KClが富化された50%グルコース製剤を、最初に14g/kg/日の用量で(25kgのイヌについて30ml/h)、それから、糖血症に従って、Agilia(登録商標)Large Volume Pumpを介して投与する。
【0046】
IV)必須アミノ酸
非経口栄養のためのアミノ酸溶液、例えばAminoven(Fresenius Kabi)を、1g/kg/日の用量(i/v)で、Agilia(登録商標)Large Volume Pumpを介して投与する。
【0047】
V)抗生物質
バンコマイシン(Vancocin(登録商標)、Eli Lilly)5mg/kg/日およびゲンタマイシン2mg/kg/日を、消化管滅菌のために、腸灌注後に栄養管を通して与える。cefotaxim(Claforan(登録商標)、Aventis)のようなセファロスポリンを25~50mg/kg、12時間ごとに、または、セファゾリンナトリウム(Kefzol(登録商標)、Eli Lilly)を1g等量、4回の投薬量に分けて、予防的抗生物質として全処理にわたって(6日間)、i/v.投与する。
【0048】
VI)乳酸リンゲル
乳酸リンゲルのような電解質源を用いて、流体と電解質の必要性のバランスをとる。1.5~3ml/kg/hの用量で、インフュージョンポンプを介してi/v投与する。投薬量および乳酸リンゲルの全容量は、患者の水と電解質の合計の必要性に従って計算される(60ml/kg/d)。
【0049】
VII)塩化カリウム
KClを、20mmol/Lの用量で50%グルコース溶液に添加する。
【0050】
VIII)利尿剤
furosemide(Lasix(登録商標))のような利尿剤を、必要に応じて、2~6mg/kgの用量で、1日4回、i/v投与して、利尿を維持する。
【0051】
IX)プロポフォール
プロポフォール(Fresenius Kabi)を全身麻酔の誘導のために用い、はじめに1~2mg/kgの用量で投与し(i.v.)、麻酔の維持のために0.4mg/kg/hで投与する。
【0052】
[処置奏効の評価]
処置奏効を、癌の診断、グレード分け、およびステージ分けに用いるのと同一の手順で客観的に評価する。
【0053】
ヒト腫瘍学では、リンパ腫治療評価に関する基準は、Chesonらによって提案される奏効評価に関するInternational Workshop Criteria(IWC)として標準化され(非ホジキンリンパ腫に関する奏効基準を標準化するための国際的ワークショップの報告)、5つの指定を含む:
【0054】
1.完全奏効(CR)は、疾患の全ての検出可能なCT上の証拠および全ての疾患関連の症候の完全消失、ならびに、生化学的異常の正常化、および正常な骨髄生検(BMB)である。CT上の最大軸径が1.5cmを超える以前に関与した節は、1.5cm未満に退行しなければならず、以前に測定された1.1~1.5cmの節は、1cm未満に低減しなければならない。
【0055】
2.CRu(不確定)は、CR基準に相当するが、最大軸径が1.5cmを超える残留塊があり、75%よりも多く退行している。
【0056】
3.部分奏効(PR)は、他の節のサイズが増大しておらず疾患の新たな部位がない6個の最大節(six largest nodes)の最大径の生成物の合計(sum of the product of the greatest diameters)(SPD)の少なくとも50%減少である。脾臓および肝臓の節は、SPDが少なくとも50%退行しなければならない。BMBは、PRの決定に関して無関係である。
【0057】
4.安定疾患(SD)は、PRよりも少ないが、進行性疾患でない。
【0058】
5.進行性疾患(PD)は、任意の以前に異常であった節の最大径の生成物の合計の50%を超える増大、または、療法中または療法の最後における任意の新たな病変の出現である。
【0059】
6.再発疾患(RD)は、任意の新たな病変の出現、または、CRまたはCRuを達成した患者の以前に関与した部位もしくは節の50%を超えるサイズの増大である。
【0060】
[測定方法]
CTおよびMRIは、奏効評価に関して選択された標的病変を測定するために日常的に用いられる。細胞診および組織学を用いてPRとCRの間を区別することができる。関連する臓器の全てに代表的な、臓器あたり最大5個までの全ての測定可能な病変および合計10個の病変を、標的病変として特定および記録して、ベースラインにおいて測定する。標的病変を、それらのサイズ(最長径を有する病変)および正確な繰り返し測定(イメージング技術または臨床による)に関するそれらの適合性に基づいて選択する。全ての標的病変に関する最長径(LD)の合計を計算して、ベースラインの合計LDとして報告する。ベースラインの合計LDは、腫瘍を客観的に特徴付けるための参照として用いられる。
【0061】
[奏効基準]
I)標的病変の評価
完全奏功(CR):全ての標的病変の消失
部分奏功(PR):ベースラインの合計LDを参照として用いて、標的病変のLDの合計の少なくとも30%低減
進行性疾患(PD):処置開始以降に記録された最小合計LDを参照として用いて、標的病変のLDの合計の少なくとも20%増大、または、1つまたは複数の新たな病変の出現
安定疾患(SD):処置開始以降の最小合計LDを参照として用いて、PRと認定するのに十分な縮小がなく、PDと認定するのに十分な増大もない
【0062】
II)非標的病変の評価
完全奏功(CR):全ての非標的病変の消失および腫瘍マーカーレベルの正常化
不完全奏功/安定疾患(SD):1つまたは複数の非標的病変(単数または複数)の持続性および/または正常の限界よりも高い腫瘍マーカーレベルの維持
進行性疾患(PD):1つまたは複数の新たな病変の出現および/または既存の非標的病変の明白な進行
【0063】
[確認]
PRまたはCRの状態を割り当てるために、腫瘍の測定における変化は、繰り返し評価(奏効に関する基準が最初に満たされた4週以上後に行なわれれるべきである)によって確認される。試験プロトコルによって決定される、より長い間隔も適切であり得る。SDの場合は、フォローアップ測定が、試験プロトコルにおいて定義される最小間隔(一般に6~8週以上)で、試験に入った後に少なくとも1回、SD基準を満たしていなければならない。
【0064】
[奏効全体の持続時間]
奏効全体の持続時間は、処置開始以降に記録される最小測定値をPDに関する参照として用いて、測定基準がCRまたはPR(どちらの状態が最初に記録されようとも)に関して満たされる時間から再発またはPDが客観的に記録される最初の日まで測定される。
【0065】
[安定疾患の持続時間]
SDは、処置開始以降に記録される最小測定値を参照として用いて、処置の開始から疾患進行に関する基準が満たされるまで測定される。
【0066】
[奏効レビュー]
試験完了時に独立の熟練者が全ての奏効をレビューする。
【0067】
[結果の報告]
試験に含められた全ての患者は、主なプロトコル処置の逸脱があったとしても、またはそれらが不適切であったとしても、処置に対する奏効に関して評価されなければならない。それぞれの患者は、以下のカテゴリーのうちの1つに割り当てられる:
1)完全奏功
2)部分奏功
3)安定疾患
4)進行性疾患
5)悪性疾患による早期死亡
6)毒性による早期死亡
7)他の原因による早期死亡、または
8)未知(評価不能の、不十分なデータ)。
【0068】
適格性基準を満たす患者は全て、奏効率の主要分析に含めなければならない。奏効カテゴリー4~8の患者は、処置に反応しなかったと考えるべきである(疾患進行)。したがって、不適切な処置スケジュールまたは薬物投与は、奏効率の分析からの除外にはならない。
【0069】
全ての考察は、全ての適格患者に基づく。それから、サブ分析が、主なプロトコル逸脱が同定された者(例えば、他の理由による早期死亡、処置の早期中断、主なプロトコル違反など)を除き、患者のサブセットに基づいて行われてよい。95%信頼区間が提供される。
【国際調査報告】