(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】上皮成長因子受容体を標的とするリガンド、及び腫瘍を治療するための組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220801BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220801BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20220801BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220801BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220801BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20220801BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220801BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220801BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220801BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20220801BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220801BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220801BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220801BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220801BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220801BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220801BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220801BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220801BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61P35/00
A61K47/69
A61K9/127
A61K9/14
A61K45/00
A61K31/704
A61K31/475
A61K39/395 T
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/88 Z
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12P21/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571953
(86)(22)【出願日】2020-05-31
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 US2020035486
(87)【国際公開番号】W WO2020247290
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ハンチョン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イーピン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,イージュ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,メンジェ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA19
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4C084AA17
4C084MA24
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4C084NA13
4C084ZB261
4C085AA14
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4C086AA01
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4C086EA10
4C086MA02
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4C086ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするリガンド及び腫瘍を治療するための組成物に関する。具体的には、EGFRを標的とするリガンドが開示される。このリガンドは、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む。このリガンドは、一本鎖可変断片、融合タンパク質、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片からなる群より選ばれ得る。このリガンドは、少なくとも1種の化学療法剤が封入されたリポソーム又はナノ粒子に結合されてリガンド標的化リポソーム薬物又はナノ粒子薬物を形成することができる。また、頭頸部の扁平上皮がんのような腫瘍を治療するための複合体及び製剤が開示される。リガンド標的化リポソーム薬物の製造方法がさらに開示される。この薬はドキソルビシン及びビノレルビンからなる群より選ばれる化学療法剤であり得る。
【選択図】
図6B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするリガンドであって、
(a)それぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3のアミノ酸配列を含むV
H CDR1、V
H CDR2及びV
H CDR3を含む重鎖可変領域(V
H)と、
(b)それぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6のアミノ酸配列を含むV
L CDR1、V
L CDR2及びV
L CDR3を含む軽鎖可変領域(V
L)と、
を含む、リガンド。
【請求項2】
前記V
Hは、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記V
Lは、配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のリガンド。
【請求項3】
配列番号9のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のリガンド。
【請求項4】
V
HとV
Lを連結するペプチドをさらに含む、請求項1に記載のリガンド。
【請求項5】
前記リガンドは、一本鎖可変断片(scFv)、融合タンパク質、及びモノクローナル抗体又はその抗原結合断片からなる群より選ばれる、請求項1に記載のリガンド。
【請求項6】
(a)請求項1から5のいずれか1項に記載のリガンドと、
(b)前記リガンドに結合したリポソーム又はナノ粒子と、
を含む、複合体。
【請求項7】
前記リポソーム又はナノ粒子は、ポリエチレングリコール(PEG)に結合してPEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子を形成する、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記リポソーム又はナノ粒子内に封入された少なくとも1種の化学療法剤をさらに含む、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
少なくとも1種の前記化学療法剤は、ドキソルビシン及びビノレルビンからなる群より選ばれる、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
治療を必要とする被験体においてEGFR発現腫瘍を治療するための医薬品の製造における請求項8又は9に記載の複合体の使用。
【請求項11】
治療を必要とする被験体において扁平上皮がんを治療するための医薬品の製造における請求項8又は9に記載の複合体の使用。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか1項に記載のリガンドを含む及び/又は発現する発現ベクター、ファージ又は細胞。
【請求項13】
前記リガンドは、前記V
Hが前記V
LのN末端に位置しかつリンカーペプチドを介して前記V
Lに連結されるscFvである、請求項1から5のいずれか1項に記載のリガンド。
【請求項14】
(a)請求項8に記載の複合体と、
(b)薬学的に許容される担体と、
を含む、医薬組成物。
【請求項15】
リガンド標的化リポソーム薬物又はリガンド標的化ナノ粒子薬物の製造方法であって、
PEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子を提供するステップ(a)と、
少なくとも1種の化学療法剤を前記PEG化リポソーム又は前記PEG化ナノ粒子内に封入してPEG化リポソーム薬物又はPEG化ナノ粒子薬物を得るステップ(b)と、
請求項1から5のいずれか1項に記載のリガンドを還元して還元リガンドを得るステップ(c)と、
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)リン脂質及びマレイミドを有するPEG化試薬を前記PEG化リポソーム薬物又は前記PEG化ナノ粒子薬物に挿入してマレイミド-PEG-DSPEが挿入されたリポソーム薬物又はマレイミド-PEG-DSPEが挿入されたナノ粒子薬物を得るステップ(d)と、
前記還元リガンドと前記マレイミド-PEG-DSPEが挿入されたリポソーム薬物又は前記マレイミド-PEG-DSPEが挿入されたナノ粒子薬物とを結合させて前記リガンド標的化リポソーム薬物又は前記リガンド標的化ナノ粒子薬物を得るステップ(e)と、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療に関し、具体的には、頭頸部の扁平上皮がんの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)は、口腔、中咽頭、下咽頭、又は喉頭の粘膜の内層から発生する。この悪性腫瘍は、世界で5番目に多い癌である。SCCHNの患者の多くは、進行期(III期からIVB期)と診断されている。頭頸部の複雑な解剖学的構造と隣接する重要構造の豊富さのために、明確な三次元腫瘍境界を示すことは困難である。局所リンパ節転移もSCCHNの一般的な特徴であり、症例の3分の2となっている。CCHNの5年全生存率(OS)は50~60%である。集学的治療の進歩にもかかわらず、局所領域再発のリスクは60%であり、遠隔転移のリスクは30%である。さらに、SCCHN生存者は、気道消化管に沿って二次原発腫瘍を発症するリスクがある。
【0003】
従来の細胞毒性化学療法は、SCCHNの治療レジメンには不可欠な方法である。断端陽性及び転移性リンパ節の被膜外へ広がる場合には、補助化学療法が必要とされる。SCCHNの主要な一次化学療法レジメンは、フルオロウシル又はタキサンを用いたプラチナベースのダブレット療法である。これらの治療法は30%の奏効率を示し、パフォーマンススコアが良好な患者にのみ適する。ビノレルビンは、半合成微小管を標的とするビンカアルカロイドであり、患者のパフォーマンススコアが境界線にある場合に転移性SCCHNの治療に適用できる。
【0004】
そのため、副次的毒性を最小化すると同時に治療効果を最大化することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本発明は、
(a)それぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、
(b)それぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)と、
を含む上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするリガンドに関する。
【0006】
一実施形態において、VHは配列番号7のアミノ酸配列を含み、VLは配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0007】
他の実施形態において、上記リガンドは、配列番号9のアミノ酸配列を含む。
【0008】
上記リガンドは、VHとVLを連結するペプチドをさらに含んでもよい。
【0009】
一実施形態において、上記リガンドは、一本鎖可変断片(scFv)、融合タンパク質、及びモノクローナル抗体又はその抗原結合断片からなる群より選ばれる。
【0010】
一実施形態において、上記リガンドは、EGFRを標的とする抗原結合断片である。
一実施形態において、上記EGFRを標的とする抗原結合断片は、配列番号9のアミノ酸配列を含む。
【0011】
他の態様では、本発明は、
(a)本発明のリガンドと、
(b)上記リガンドに結合したリポソーム又はナノ粒子と、
を含む複合体に関する。
【0012】
一実施形態において、上記リポソーム又はナノ粒子は、ポリエチレングリコール(PEG)に結合してPEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子を形成する。
【0013】
他の実施形態において、上記複合体は、上記リポソーム又はナノ粒子内に封入された少なくとも1種の化学療法剤をさらに含んでもよい。上記少なくとも1種の化学療法剤は、ドキソルビシン及びビノレルビンからなる群より選ばれ得る。
【0014】
他の態様では、本発明は、治療を必要とする被験体においてEGFR発現腫瘍を治療するための医薬品の製造における上記複合体の使用に関する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、治療を必要とする被験体において扁平上皮がんを治療するための医薬品の製造における上記複合体の使用に関する。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のリガンドを含む及び/又は発現する発現ベクター、ファージ又は細胞に関する。
【0017】
一実施形態において、上記リガンドは、上記VHがN末端又はC末端に位置するscFvである。
【0018】
一実施形態において、上記リガンドは、上記VHが上記VLのN末端に位置しかつリンカーペプチドを介して上記VLに連結されるscFvである。
【0019】
他の実施形態において、上記リガンドは、上記VLが上記VHのN末端に位置しかつリンカーペプチドを介してVHに連結されるscFvである。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、
(a)上記複合体と、
(b)薬学的に許容される担体と、
を含む医薬組成物に関する。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、
(a)上皮成長因子受容体(EGFR)標的化複合体と、
(b)薬学的に許容される担体と、
を含み、
上記EGFR標的化複合体は、PEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子に結合した一本鎖可変断片(scFv)を含み、これらのscFvは、重鎖可変領域(VH)と、軽鎖可変領域(VL)とを含み、
(i)上記VHは配列番号7のアミノ酸配列を含み、上記VLは配列番号8のアミノ酸配列を含み、
(ii)上記PEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子には少なくとも1種の化学療法剤が封入される、医薬組成物に関する。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、
PEG化リポソーム又はPEG化ナノ粒子を提供するステップ(a)と、
少なくとも1種の化学療法剤を上記PEG化リポソーム又は上記PEG化ナノ粒子内に封入してPEG化リポソーム薬物又はPEG化ナノ粒子薬物を得るステップ(b)と、
上記リガンドを還元して還元リガンドを得るステップ(c)と、
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルエタノールアミン(DSPE)リン脂質及びマレイミドを有するPEG化試薬を上記PEG化リポソーム薬物又は上記PEG化ナノ粒子薬物に挿入してマレイミド-PEG-DSPEが挿入されたリポソーム薬物又はマレイミド-PEG-DSPEが挿入されたナノ粒子薬物を得るステップ(d)と、
上記還元リガンドと上記マレイミド-PEG-DSPEが挿入されたリポソーム薬物又は上記マレイミド-PEG-DSPEが挿入されたナノ粒子薬物とを結合させて上記リガンド標的化リポソーム薬物又は上記リガンド標的化ナノ粒子薬物を得るステップ(e)と、
を含むリガンド標的化リポソーム薬物又はリガンド標的化ナノ粒子薬物の製造方法に関する。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、治療を必要とする被験体において扁平上皮がんを治療するための医薬品の製造における本発明の複合体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】EGFRタンパク質に結合したヒトscFvファージクローンの選択及び同定を示す。
図1Aは、バイオパニングラウンドにより継続的に上昇及び濃縮されるEGFR結合ファージの力価を示す棒グラフである。
図1Bは、ELISA分析により得られた、正常ヒトIgG(NHIgG、下の図)ではなく、EGFR-Ex-Fcタンパク質に用量依存的に結合する免疫陽性scFvファージクローンのすべてを示す棒グラフ(上の図)である。
図1Cは、ELISAにより評価された様々な癌細胞株における内因性細胞EGFRとのファージクローンの結合親和性を比較する棒グラフである。
【
図2】FaDu異種移植片における抗EGFRscFvファージクローンの腫瘍ホーミング能力の同定を示す。
図2Aは、対照ファージ及びEGFR-PC10ファージをそれぞれ腹腔内注射した後のヒト口腔咽頭がんFaDu異種移植片を有するマウスの重要臓器と腫瘍組織における対照ファージ(左の図)及びEGFR-PC10ファージ(右の図)の分布を示す棒グラフである。灌流後に結合したファージを回収し、重要臓器と腫瘍組織におけるファージの力価を比較した。
図2Bは、免疫組織化学的染色によるEGFR-PC10ファージのインサイチュ検出の結果を示す顕微鏡写真である。スケールバーは100μmである。
【
図3】共焦点顕微鏡により評価された可溶性EGFR-s10scFv及びEGFR-s10結合リポSRBの内在化を示す。
図3A-
図3Dは、4℃又は37℃でのFaDu細胞(A)及びCa9-22細胞(B)におけるEGFR-s10scFvの結合及び内在化、並びに37℃でのFaDu細胞(C)及びCa9-22細胞(D)におけるEGFR-s10結合リポSRBの内在化を示す顕微鏡写真である。スケールバーは25μmである。
【
図4】EGFR-s10標的化リポソームがヒトSCCHN細胞株におけるドキソルビシン及びビノレルビンの細胞毒性効果を増強させたことを示す。
図4A-
図4Dは、非結合リポソームドキソルビシン(LD,A及びB)に比べたFaDu細胞(A)及びCa9-22細胞(B)におけるEGFR-s10scFv結合リポソームドキソルビシン(EGFR-s10-LD,A及びB)の用量反応曲線(A-D,左の図)及びIC50棒グラフ(A-D,右の図)、或いは非結合リポソームビノレルビン(LV)に比べたFaDu細胞(A)及びCa9-22細胞(B)におけるEGFR-s10scFv結合リポソームビノレルビン(EGFR-s10-LV)のの用量反応曲線(A-D,左の図)及びIC50棒グラフ(A-D,右の図)である。破線は平均50%の生存率を示す。各点は、3回の独立した実験の平均を表す。
【
図5】皮下ヒトSCCHN異種移植片におけるEGFR-s10結合LTLの治療効果を示す。
図5Aは、4群の腫瘍体積(n=8)を示し、点は平均腫瘍体積を示す。
図5Bは、LTL群とNTL群の間の腫瘍体積応答プロファイルの比較を示し、点は平均腫瘍体積を示す。
図5Cは、各群の体重を示す。
図5Dは、4群のカプランマイヤー生存曲線(上の図)及び生存期間中央値(下の図)を示す。エラーバー、SE。
【
図6】同所性ヒトSCCHN異種移植片におけるEGFR-s10結合LTLの治療効果を示す。
図6Aは、FaDu-Luc細胞を有すSCIDマウスのインビボ画像である。
図6Bは、4群のカプランマイヤー生存曲線(左の図)及び生存期間中央値(右の図)を示す。エラーバー、SE。
【
図7】重鎖可変領域(V
H,配列番号7)、V
H CDR1(配列番号1)、V
H CDR2(配列番号2)及びV
H CDR3(配列番号3)のアミノ酸配列を示す。
【
図8】軽鎖可変領域(V
L,配列番号8)、V
L CDR1(配列番号4)、V
L CDR2(配列番号5)及びV
L CDR3(配列番号6)のアミノ酸配列を示す。
【
図9】完全scFvのアミノ酸配列(配列番号9)及びDNA配列(配列番号10)、並びに重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを連結するリンカー(下線付き、配列番号11)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
「治療する」又は「治療」という用語は、それを必要とする被験体に有効量の治療薬を投与することを指す。このような被験体は、任意の適切な診断方法からの結果に基づいて、医療専門家によって判断することができる。
【0026】
「有効量」とは、治療対象に治療効果を与えるために必要とされる活性化合物の量を指す。当業者に知られているように、有効用量は、投与経路、賦形剤の使用、及び他の治療方法との併用の可能性によって変化する。
【0027】
「リガンド標的化」及び「リガンドで標的化された」という用語は交換可能である。
【0028】
「EGFR-s10」という用語は、EGFR-PC10と命名されたファージクローンから生成された可溶性scFvを指す。
「ナノ粒子薬物」という用語は、一般に「薬物が封入されたナノ粒子」を意味する。
【0029】
「化学療法化合物」、「化学療法剤」及び「化学療法薬」という用語は、交換可能である。
【0030】
米国保健福祉省食品医薬品局によって発表された「成人の健康なボランティアの治療薬の臨床試験における安全な開始用量を推定する業界及びレビューア向けのガイダンス」には、「ヒト等価線量」は、次の式から算出できることが開示されている。
HED=動物用量mg/kg×(動物体重kg/人間体重kg)0.33
本明細書において、数又は範囲が記載されている場合、この数又は範囲は、本発明に関連する特定の分野について適切で合理的な範囲を包含することを意図していることが当業者に理解され得る。
【0031】
略語
scFv:一本鎖可変断片
DAB:ジアミノベンジジン塩酸塩
DAMP:危険関連分子パターン
DDS:薬物送達システム
EGFR上皮成長因子受容体
EGFR-Ex:EGFRの細胞外ドメイン
IPTG:イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド
LD:リポソームドキソルビシン
LTL:リガンド標的化リポソーム
LV:リガンドビノレルビン
NTL:非標的化リポソーム
OPD:o-フェニレンジアミン
OS:全生存期間
PBST0.1:PBS含有0.1%TWEEN(登録商標)20
PEG:ポリエチレングリコール
RT:室温
SCCHN:頭頸部の扁平上皮がん
scFv:一本鎖可変断片
TB:Terrific Broth
TP:治療ペイロード(therapeutic payloads)
RT:室温
【0032】
本発明は、ドキソルビシン及びビノレルビンなどの化学療法剤のペイロードを有する新規抗EGFRヒトscFv結合LTLに関する。両方のLTLは、インビトロでSCCHN細胞株における非標的化リポソーム対応物よりも増強した細胞毒性を示した。FaDu細胞の皮下又は同所性異種移植を有するNOD/SCIDマウスにおいてLTL治療を行った後に、インビボで顕著な副作用なしに腫瘍体積の急激な減少と生存期間の延長が観察された。
【0033】
材料と方法
細胞株
ウエスタンブロッティングによりEGFR発現をスクリーニングした後、HPV陰性口腔咽頭扁平上皮がん細胞株(FaDu)及び他の歯肉扁平上皮がん細胞株(Ca9-22)を実験プラットフォームとして選択した。両方の細胞株はいずれも推奨培地で培養され、連続培養から6か月以内に使用された。BCRC上でショートタンデムリピート(STR)プロファイリングにより細胞株の真実性を確定し、ネステッドPCRによりマイコプラズマ汚染を定期的にモニタリングした。
【0034】
ファージディスプレイによる抗EGFRヒトscFvファージクローンの取得
上記のようにファージディスプレイされたヒトナイーブscFvライブラリーを作製した。以下、ヒトEGFR-Fc融合タンパク質(EGFR-Ex-Fc)の細胞外ドメインに対するバイオパニングの手順を述べる。scFvライブラリー(ファージディスプレイされたscFvライブラリーの初期力価は2×1011cfuである)をプロテインG DYNABEADS(登録商標)と共にインキュベートして非特異的結合を除去し、そして組換えEGFR-Ex-Fc(R&D system)と反応させた。0.1%のTWEEN(登録商標)20(PBST0.1)を含むPBSで洗浄した後、大腸菌のTG1株に感染させることにより結合したファージを回収した。感染したTG1株を段階希釈してファージクローンの力価を確定し、残りのファージクローンをM13KO7ヘルパーファージにより救出した。その後、救出されたファージクローンに対して複数ラウンドのバイオパニングを行った。
【0035】
ELISAによる抗EGFRヒトscFvファージクローンの選択
ELISA法によりEGFRへの濃縮したファージクローンの結合能力をスクリーニングした。0.1M重炭酸ナトリウムにおけるEGFR-Ex-Fc融合タンパク質(1μg/ml)を96ウェルプレートに塗布し、4℃で一晩静置した。4又は5ラウンド目のラウンドのバイオパニングから溶出したファージクローン(合計476クローン)をランダムに選択して上記プレートに加え、室温(RT)で1時間作用させた。上記プレートに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合マウス抗M13ファージ抗体を補充して1時間作用させた。洗浄した後、o-フェニレンジアミン(OPD)で比色反応を開始させ、マイクロプレートリーダーにより反応生成物の490nmの吸光度を測定した。OD値が1.0を超えるクローンを選択してシーケンシングした。
【0036】
抗EGFRヒトscFvファージクローンのインビボホーミングアッセイ
8~10週齢の雌Nod/SCIDマウスに対して脇腹に2×106個のFaDu細胞を皮下(s.c.)接種した。21日後、サイズが一致した腫瘍(300-500mm3)を有するマウスに2×109cfuの抗体EGFRscFvファージ又は対照ファージを尾静脈注射した。8~10分間循環させた後、マウスをCO2で安楽死させ、50mlの冷PBSで灌流して結合していないファージを除去した。脳、内臓(心臓、肝臓、腎臓、脾臓、肺)及び腫瘍を収集し、重量を測定し、冷PBSで3回洗浄した。サンプルを等分した。結合したファージ粒子をER2738大腸菌で救出するために各臓器又は腫瘍サンプルの半分を均質化した。寒天プレート上で回収したファージの力価を評価した。残りの半分をOCT化合物に埋め込んだ。免疫組織化学染色のために厚さ4μmで凍結切片を切り取った。凍結切片をPBS中に4℃で10分間浸漬した。パラホルムアルデヒド(1%)で組織を30分間固定した。PBSで3回徹底的にリンスした後、内因性ペルオキシダーゼ活性を3%H2O2(メタノール中)で30分間クエンチした。1%BSAで非特異的結合を30分間ブロックした。切片を抗M13モノクローナル抗体(1:1000)と共にRTで1時間インキュベートした。PBST0.1で洗浄した後、ポリマーに基づくSuper SENSITIVETMIHC検出システムで切片を処理した。切片をEnhancer試薬と共にRTで20分間インキュベートし、PBST0.1で3回(5分間/回)徹底的にリンスした。そして、RTで切片をPoly-HRP試薬で30分間処理した。0.03%H2O2を含むジアミノベンジジン塩酸塩(0.02%)を色原体として用いてペルオキシダーゼの活性を観察した。製品をヘマトキシリンで軽く対比染色し、PERMOUNTTMで封入して光学顕微鏡で検査した。
【0037】
可溶性抗EGFRヒトscFvの発現及び精製
EGFR-s10scFv配列をpFHCベクター(フラグ、6×His及びシステインタグを含む)に結合し、HB2151大腸菌に形質転換した。形質転換したコロニーを選択した後、シングルコロニーをTerrific Broth(TB)培地中で30℃で一晩インキュベートした。一晩培養物をTB培地で希釈し、大腸菌が対数増殖期中期(OD600=0.6)に達するまで30℃で3時間増殖させた。30℃でイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)(0.4mM)及びスクロース(0.4M)により16時間誘導してタンパク質を産生した。遠心分離後、細菌ペレットを200mlのPPE緩衝液(50mMのTris、1mMのEDTA及び20%のスクロース;pHを8.0に調整)に再懸濁した。遠心分離後、浸透圧ショック液を収集し、ペレットを氷冷した5mMのMgSO4で再懸濁してペリプラズムタンパク質抽出物を得た後、遠心分離し、上清を収集した。混合物を超音波処理して総タンパク質を得た後、0.45μm膜で濾過し、Ni+-NTA SEPHAROSE(登録商標)カラム及びANTI-FLAG(登録商標)M2カラム(SIGMA(登録商標))にて精製した。還元SDS-PAGE、COOMASSIE(登録商標)ブルー染色及びANTI-FLAG(登録商標)mAbを用いるウエスタンブロット分析によりこれらの精製したscFvタンパク質を分析した。
【0038】
可溶性EGFR-s10scFvのエンドサイトーシスアッセイ
細胞をEGFR-s10と共に4℃又は37℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%TRITON(登録商標)X-100で透過処理した。3%BSAを加えてブロッキングした。マウスANTI-FLAG(登録商標)抗体を上記細胞に加え、FITC抗マウスIgGで標識した。細胞核をDAPIで染色し、共焦点顕微鏡(TCS-SP5,Leica)により細胞を観察した。
【0039】
EGFR-s10結合LTL及びリポSRBの調製
薄膜法によりPEG化リポソームを作製した。ジステアロイルホスファチジルコリン、コレステロール、及びmPEG2000-DSPEを溶解し、治療ペイロード(TP)に応じて最適な比率でクロロホルムに混合した。脂質フィルムを60℃硫酸アンモニウム又は5-スルホサリチル酸溶液のアンモニウム塩(TPに応じて)中で水和し、55℃で高圧押出装置(LIPEX(登録商標)Biomembranes)を用いて孔径0.1μmのポリカーボネートメンブレンフィルターにより押出した。リモートローディング法により1mgドキソルビシン及び3.5mgビノレルビン/10μmolリン脂質の濃度で薬物を封入し、それぞれリポソームドキソルビシン(LD)及びリポソームビノレルビン(LV)を得た。リン酸塩分析(Bartlett法)によりリポソームの最終濃度を推算した。scFv結合リポソーム薬物を得るために、N2雰囲気、RTでEGFRscFvを2mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で2時間処理して分子間ジスルフィド結合を還元した。還元したEGFRscFvNAPTM-10を脱塩カラムで脱塩してTCEPを除去し、HEPES緩衝液(5mMのHEPES、145mMのNaCl、3.4mMのEDTA,pH7.0)で溶出した。マレイミド-カルボキシルポリエチレングリコール(Mr2000)に由来のジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(マレイミド-PEG-DSPE)をPEG化リポソーム薬物に組み込んだ。簡単に言えば、マレイミド-PEG-DSPEをHEPES緩衝液に溶解し、0.5molのリポソームリン脂質となるようにLD又はLVに加えた。混合物を60℃で軽く撹拌しながら1時間インキュベートした。その後、還元したEGFRscFvをマレイミド-PEG-DSPEが挿入されたリポソームと共に4℃で一晩インキュベートして結合させた結果、各リポソームが平均60個のscFv分子を産生した。2-メルカプトエタノール(最終濃度:2mM)で結合反応を停止させて未反応のマレイミド基を全て不活性化した。SEPHAROSE(登録商標)4Bゲル濾過クロマトグラフィーにより放出された遊離の薬物を除去し、未結合のscFv及び未結合の複合体を除去した。分光蛍光光度計(SPECTRAMAX(登録商標)M5)によりλEx/Em=485/590nmでの蛍光強度を測定することにより溶出液の分画におけるドキソルビシンの濃度を確定した。HPLCによりビノレルビンの濃度を確定した。還元SDS-PAGEによりEGFRscFvが挿入されたリポソーム薬物を分離した後、硝酸銀染色により結合効率を評価した。リポSRBを生産するために、モル比が97:2:0.8:0.2のSPC:コレステロール:mPEG-DSPE:Rh-DPPEを用いてRh-DPPE含有リポソームを作製した。次にPEG化し、そしてEGFR-s10を上記リポSRBに結合することによりEGFR-s10-リポSRBを作製した。
【0040】
EGFR-s10結合LTLの特性評価
Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments)を用いて的光散乱(DLS)法により25℃、633nmレーザー及び90°の検出角度でリポソームの平均粒子径を測定した。Malvern Zetasizer Nano ZSを用いてレーザードップラー電気泳動法によりリポソームのゼータ電位を測定した。
【0041】
EGFR-s10結合LTLの内在化アッセイ
FaDu及びCa9-22細胞を抗EGFR完全ヒトscFv結合LTL及びリポSRBと共に4℃及び37℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞をパラホルムアルデヒド(4%)で固定し、TRITON(登録商標)X-100(0.1%)で透過処理し、3%BSAでブロッキングした。マウス抗M13抗体を上記細胞に加え、FITC抗マウスIgGで標識した。細胞核をDAPIで染色し、共焦点顕微鏡(TCS-SP5,Leica)を用いて観察した。
【0042】
EGFR-s10結合LTLのインビトロ細胞毒性アッセイ
FaDu及びCa9-22細胞を異なる濃度の非標的化リポソーム薬物又はEGFR-s10結合LTLと共に4、8、16及び24時間インキュベートした。培地を完全培地に交換し、48時間後、4-[3-(4-ヨードフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-2H-5-テトラゾリオ]-1,3-ベンゼンジスルホネート(WST-1)を0.5mg/mlの濃度で加えた。細胞を37℃で3時間インキュベートした後、反応生成物の440nmでの吸光度を測定し、半数阻害濃度(IC50)を計算した。
【0043】
インビボマウス皮下異種移植治療アッセイ
FaDu及びCa9-22細胞を8~10週齢のNod/SCIDマウスの側面に(1×106個の細胞/マウス)皮下接種した。得られた腫瘍の直径を週に2回測定し、腫瘍の体積を次のように計算した。大径×(小径)2×0.52。腫瘍の平均体積が350mm3に達した後、類似サイズの腫瘍を有するマウスをランダムに複数の治療群に分けた(n=8匹/群)。治療計画は、非標的化リポソーム薬物、又はEGFR-s10結合LTLを1mg/kgで4週間(週に2回)静脈内(i.v.)注射し、各群の累積投与量を8mg/kgとすることであった。腫瘍体積を週に2回モニタリングした。早期死亡のエンドポイントには、体重減少が5gを超えること、食事ができないこと、又は腫瘍体積が2000mm3を超えることが含まれる。
【0044】
インビボマウス同所性異種移植治療アッセイ
ルシフェラーゼ発現FaDu-Luc細胞(各マウスあたり、2×105個の細胞とマトリゲルとを50μlのPBS中に混合した)をNod/SCIDマウス(8~10週齢)の口腔底に同所性注射した。150mg/kgのルシフェリンを腹腔内投与した後、IVISインビボイメージングシステム(Caliper Life Sciences,Hopkinton,MA,USA)を用いて細胞増殖を週に2回モニタリングし、LIVING IMAGE(登録商標)4.1ソフトウェア(Caliper Life Sciences)により画像を分析した。腫瘍の平均体積が75mm3に達した後、類似サイズの腫瘍を有するマウスをランダムに複数の治療群に分けた(n=6匹/群)。各群に対してPBS、FD(1mg/kg)+FV(2mg/kg)、LD(1mg/kg)+LV(2mg/kg)、又はEGFR-s10-LD(1mg/kg)+EGFR-s10-LV(2mg/kg)で処理した(週に2回、合計8回)。マウスに対して上述した分析を実施した。
【0045】
統計分析
治療群と非治療群のすべての比較は、スチューデントのt検定によって実行された。0.05未満のp値は、すべてのテストで統計的に有意であると見なされた。
【0046】
結果
抗EGFRヒトscFvファージクローンの取得及び特性評価
LTL標的化部分として使用するための抗EGFRヒトscFvクローンを生成するために、2×10
11クローンのファージディスプレイされたヒトscFvライブラリーにより組換えヒトEGFR-Ex-Fcに対して5ラウンドのバイオパニングを行った。このプロセス中で、EGFR結合ファージの力価は継続的に上昇し、5ラウンド目の終わりに初期力価の1,714倍にエンリッチされた(
図1A)。476個のファージクローンをランダムに選択し、ELISAによりEGFR-Ex-Fcとの結合親和性を調べた。79個のクローンは、陰性対照(BSA)ではなく、ヒトEGFRに対して高い結合力を示した。DNAシークエンシングした後、この79個の免疫陽性ファージクローンから16個の異なる配列を同定した。このうちの6つの配列は、EGFR-Ex-Fcに対して高い用量依存的結合を示し(
図1B)、陰性対照である正常ヒトIgG(NHIgG)に対する反応性が検出できなかった。この結果は、候補ファージ内にFc結合クローンが存在する可能性を排除した。次に、ウエスタンブロッティングによりEGFR発現状態を検証した後、ELISAアッセイによりファージクローンが様々なヒトがん腫細胞株における内因性EGFRに結合できるか否かを調べた。ファージクローンEGFR-PC10は、ヘルパーファージに比べて6つのヒトがん細胞株のいずれに対しても顕著に高い結合シグナルを示した(
図1C)。したがって、このクローンは、LTLのさらなる開発のための候補標的化部分として選択された。
【0047】
EGFR-PC10ファージクローンが優先的にインビボ腫瘍に蓄積される。
インビボでのファージクローンEGFR-PC10の腫瘍ホーミング能力を調べた。FaDu皮下異種移植片を持っているマウスに尾静脈を介してヘルパーファージ又はEGFR-PC10ファージを静脈内注射した。EGFR-PC10ファージは、重要な臓器に比べて腫瘍異種移植片内に優先的に蓄積された(脳に対して250倍、肺に対して33倍;
図2Aの右の図)。ヘルパーファージは、腫瘍と内臓器官の間で異なる分布を示さなかった(
図2Aの左の図)。ファージM13に対する免疫組織化学的染色によりファージ沈着のインサイチュ検出を実施した。EGFR-PC10ファージ群の正常臓器ではなく腫瘍組織にはEFGR-PC10ファージの濃縮が観察された。対照ファージ群の腫瘍組織又は正常臓器には、明らかなファージ陽性シグナルがなかった(
図2B)。
【0048】
EGFR-s10内在化検査及びEGFR-s10結合LTLの特性評価
EGFR-PC10から可溶性scFvを作製し、EGFR-s10と命名した。標的結合及び内在化は、LTL標的化部分の必須要件である。SCCHNがん細胞株におけるEGFR-s10のこれらの特徴を調査した。FaDu細胞及びCa9-22細胞を別々にEGFR-s10と共に4℃又は37℃で30分間インキュベートし、アイソタイプIgG対照と比較した。EGFR-s10は、4℃でFaDu及びCa9-22細胞の細胞膜に結合された。EGFR-s10(scFvs)の内在化は細胞質凝集体として両方の細胞株には37℃で観察された(
図3A-3B)。
【0049】
EGFR-s10がリポソームにライゲーションした後に内在化及び標的化が維持されたか否かを評価するために、SCCHN細胞株FaDu及びCa9-22細胞においてEGFR-s10結合リポソームSRBを37℃で30分間試験した(
図3C-3D)。上記可溶性EGFR-s10に比べて、いずれかの細胞株にも内在化能力の低下が発見されなかった。非標的リポSRB群に比べて、EGFR-s10-リポSRB群に細胞取り込みの増強が確認された。
【0050】
EGFR-s10は、ヒト及びマウスEGFR-Ex-Fcの両方を識別した。この機能により、マウスプラットフォームでの毒性を評価するための代替分子に対する要求が解消される。標的細胞におけるEGFR-s10の内在化を検証した後、薄膜法及びEGFR-s10のPEG化によりドキソルビシンをロードしたLTLドキソルビシン又はビノレルビン(それぞれEGFR-s10-LD及びEGFR-s10-LV)を作製した。LTLの物理的パラメータを表1に示す。全てのLTLの直径は150μm未満であるため、単核食細胞系によりクリアランスされにくかった。ゼータ電位は、いずれも凝集体の形成を防ぐために必要な電位よりも高かった。本発明のLTLは、EGFRノックダウン細胞を処理するときに増強された取り込みを示さなかった。要約すると、EGFR-s10のEGFR特異的結合は化学処理によって保持され、得られたLTLは抗腫瘍性リポソーム薬物の要求を満たし、さらなる開発への適合性を示している。
【0051】
【0052】
EGFR-s10結合LTLは、非標的化リポソームと比較して細胞毒性を増強した。
EGFR-s10結合LTLの細胞毒性をヒトSCCHN細胞株における非標的化対応物の細胞毒性と比較した。WST-1アッセイにより細胞生存能力を分析し、生細胞の百分率として計算した。ドキソルビシン及びビノレルビンが封入されたEGFRを標的とするLTLは、4時間及び8時間目のFaDu細胞におけるリポソームドキソルビシン(
図4A)を除いて、検査した全ての時点(8時間の時点;
図4B-4D)で非標的化リポソーム(NTL)に比べてFaDu及びCa9-22細胞のIC
50を減少させた。FaDu細胞におけるEGFR-s10-LD及びEGFR-s10-LVのIC
50値はそれぞれ0.33倍(p=0.2056)及び0.21倍(p=0.0027)であった(
図4A及び
図4C)。Ca9-22細胞におけるIC
50の減少はより顕著であった。Ca9-22細胞におけるEGFR-s10-LD及びEGFR-s10-LVのIC
50はそれぞれ0.0028倍(p=0.0001)及び0.14倍(p=0.0057)であった(
図4B及び4D)。EGFR-s10がこれらのLTLの抗腫瘍能力に寄与するか否かを確認するために、ドキソルビシン又はビノレルビンのペイロードがない空の標的化リポソームの細胞毒性を分析した。異なる濃度の空のEGFR-s10結合リポソームで処理されたFaDu細胞には、顕著な細胞毒性が観察されなかった(データ示せず)。
【0053】
マウス皮下及び同所性異種移植モデルにおいて、EGFR-s10結合LTLはり早い腫瘍縮小を誘導し、全生存期間を延長した。
がん細胞株におけるLTL製剤中の抗腫瘍薬のIC
50の著しい減少を考えると、皮下FaDu異種移植Nod/SCIDマウスを用いてインビボ治療効果を試験した。腫瘍の体積が350mm
3に達した後に治療を開始し、各群に対して1mg/kg、週2回、4週間、累積投与量8mg/kgで薬物を投与した。EGFR-s10-LDとEGFR-s10-LV(LTL)の併用治療群では、治療後に明らかな副作用なしに(
図5C)腫瘍体積の顕著な減少を示した(
図5A-5B)。LTL治療群では、平均腫瘍体積は7日目に非標的化リポソーム(NTL)治療群よりも顕著に小さく、21日目に最小になったのに対し、NTL群では、腫瘍の体積は治療後の28日目に最小になった(
図5A-5B)。非標的化リポソームに比べて、LTL治療は統計的に有意な生存優位性をもたらし(p=0.00153)、LTL群の生存期間の中央値は、NTL群よりも1.5倍長かった(それぞれ94日及び60日;
図5Dの上図及び下図)。皮下Ca9-22異種移植NOD/SCIDマウスを用いて投与量1.5mg/kg、週2回、4週間で遊離薬物、NTL又はLTLの形で一重項ビノレルビン治療も試験した。EGFR-s10-LV治療群の平均腫瘍体積もNTL-ビノレルビンよりも小さく、体重減少が観察されなかった。
【0054】
皮下微小環境が頭頸部がんを代表するものではないことを考えると、FaDu異種移植NOD/SCIDマウスを用いて同所性異種移植モデルにおけるLTLの有効性を検証した。LTL治療群は、腫瘍の近赤外(NIR)蛍光信号強度がNTL治療群よりも弱かった(
図6A)。LTL群の生存期間中央値は、NTL群の1.28倍であった(それぞれ72日及び56日;p=0.0032;
図6Bの左の図及び右の図)。したがって、EGFR-s10結合リポソーム製剤は、皮下及び同所性マウスモデルの両方においてドキソルビシン及びビノレルビンのインビボ治療有効性を向上させ、副次的毒性を増強させることなく優れた生存を与えた。
【0055】
本発明は、重鎖可変領域(V
H、配列番号7;
図7)と軽鎖可変領域(V
L、配列番号8;
図8)とを含むEGFR-s10と命名されたEGFR標的化scFvを開示する。V
Hは、V
H CDR1(配列番号1)、V
H CDR2(配列番号2)及びV
H CDR3(配列番号3)を含む。V
Lは、V
L CDR1(配列番号4)、V
L CDR2(配列番号5)及びV
L CDR3(配列番号6)を含む。完全なEGFR標的化scFvのアミノ酸配列及びV
HとV
Lとを連結するリンカーのアミノ酸配列は、配列番号9及び11に示され、DNA配列は、配列番号10に示される(
図9)。
【0056】
討論
リガンド媒介能動的標的化により、リポソーム薬物は優先的に腫瘍細胞へ送達される。これによって、腫瘍滞留時間が延長され、受容体媒介エンドサイトーシスによる取り込みが増強される。この方法には、標的化部分(例えば、モノクローナル抗体、抗体断片(例えば、scFv)、タンパク質又は炭水化物)をナノ粒子に結合することが含まれる。モノクローナル抗体及びscFvは、それらの高親和性及び特異性により、最も一般的に使用されている標的化リガンドである。scFvは、免疫原性の低下、薬物動態プロファイルの改善、及び腫瘍浸透の改善をもたらすことが知られている。本発明は、scFvをLTLのための標的化部分として開示する。免疫原性を最小限に抑えるために、完全ヒトscFvを表示するファージライブラリーからscFvを産生した。データは、異種移植腫瘍における標的化部分の優先的な滞留(
図2)並びにその遊離形態及びリポソーム結合形態のがん細胞による取り込みの増加(
図3)を明確に示した。同所性異種移植モデル(
図6)において、LTLは、NTL治療群と比較して腫瘍の負担を軽減し、担癌マウスの生存期間を大幅に延長した。これは、これらの新規製剤がより高い治療効果及びより低い毒性を同時に達成したことを示している。
【0057】
以上より、本発明のLTL製剤は、NTL対応物と比較してインビトロFaDu及びCa9-22細胞の両方においても化学療法のIC50を減少させた。さらに、LTLは、皮下異種移植モデル及び同所性モデルにおいて腫瘍増殖を劇的に抑制した。LTL治療群の生存期間中央値はNTL治療群よりも長いため、有効性の改善とペイロードの毒性の減少を示している。Wangらの「Novel anti-EGFR scFv human antibody-conjugated immunoliposomes enhance chemotherapeutic efficacy in squamous cell carcinoma of head and neck.Oral Oncol」(2020 Apr 21;106:104689)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0058】
本明細書で引用及び論じられているすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、各参考文献が参照により個別に組み込まれた場合と同程度である。
【配列表】
【国際調査報告】