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特表2022-535421配列類似ペプチドを使用した対抗選択による選別
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】配列類似ペプチドを使用した対抗選択による選別
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220801BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220801BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220801BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20220801BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220801BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220801BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20220801BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220801BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20220801BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
C12N15/12
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/70
C40B40/10
C12N15/13
C12N5/10
C12N5/078
G01N33/53 D
G01N33/536 D
G01N33/536 E
G01N33/53 Y
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571964
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020065567
(87)【国際公開番号】W WO2020245326
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/858,167
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】102019129341.3
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506258073
【氏名又は名称】イマティクス バイオテクノロジーズ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】520184664
【氏名又は名称】イマティクス ユーエス,アイエヌシー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シュイマック,ギーゼラ
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,ヘイコ
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー,クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ユスフ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】アルパート,アミール
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B063QR79
4B063QR80
4B063QS32
4B063QS33
4B063QS38
4B063QX01
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、類似タンパク質抗原(SPA)を使用した対抗選択を適用しながら、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的に結合する抗原結合タンパク質をその表面に発現する細胞またはウイルスを選択する方法に関する。さらに、本発明は、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸の配列を決定するための方法、および抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を発現する細胞を産生するための方法を提供する。本発明はまた、選択された細胞集団を用いて対象を治療するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞集団またはウイルス集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の前記細胞集団または前記ウイルス集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の前記細胞集団または前記ウイルス集団と、類似タンパク質抗原(SPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)前記第1のACに特異的および/または選択的に結合する、少なくとも1つの細胞またはウイルスを選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)特異的および/または選択的に結合する抗原結合タンパク質をその表面に発現する、細胞またはウイルスを選択するための方法であって、
前記SPAのアミノ酸配列が、前記PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、前記第2のACが検出可能標識Bを含んでなり;または前記SPAと検出可能標識B、または前記SPAと検出可能標識Bを含み;
前記検出可能標識Aと前記検出可能標識Bが、互いに検出可能に異なる、方法。
【請求項2】
前記選択された(i)細胞が免疫細胞、好ましくはT細胞、好ましくはCD4またはCD8T細胞;またはB細胞;または異種抗原結合タンパク質を発現する哺乳類または酵母細胞であり;または(ii)前記選択されたウイルスがバクテリオファージである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原結合タンパク質が、T細胞受容体(TCR)またはそれらの抗原結合断片、B細胞受容体(BCR)またはそれらの抗原結合断片、およびキメラ抗原受容体(CAR)またはそれらの抗原結合断片を含んでなる群から選択される、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
(a)前記細胞集団が、
(i)好ましくは腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である免疫細胞、T細胞受容体ライブラリ、健常対象の末梢血、罹患対象の末梢血、またはそれらの免疫細胞富化画分;または
(ii)異種の抗原結合タンパク質のライブラリを発現する、好ましくは哺乳類細胞または酵母細胞である真核細胞
を含んでなり、または
(b)前記ウイルス集団が、異種抗原結合タンパク質のライブラリを発現するウイルスを含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫細胞富化画分が、幹細胞;T細胞、好ましくはCD8T細胞またはCD4T細胞;B細胞;プラズマ細胞胞に富む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記目的のタンパク質抗原(PAI)が、腫瘍関連抗原(TAA)、ウイルスタンパク質または細菌タンパク質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記罹患対象が、免疫疾患、腫瘍性疾患、ウイルスによって引き起こされる疾患、または細菌によって引き起こされる疾患からなる群から選択される疾患に罹患している、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫細胞富化画分が、1つまたは複数の免疫細胞特異的表面マーカーを検出可能に標識することによって選択される、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
好ましくはサイトカインからなる群から選択される、増殖および/または分化因子の存在下で、前記細胞集団をインキュベートするさらなるステップを含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ACが、抗原提示細胞であり、または粒子、前記PAI、および前記検出可能標識A;または前記SPAおよび前記検出可能標識Bを含んでなる複合体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(a)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記PAIおよび(前記細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと、検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Aと検出可能に異なり、検出可能標識Dが存在する場合は、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Aおよび検出可能標識Dと検出可能に異なる)検出可能標識Cを含んでなる第3の抗原複合体(第3のAC)とを接触させるステップ;および/または
(b)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記PAIおよび(前記細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと、検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Aと検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Aおよび前記検出可能標識Cと検出可能に異なる)検出可能標識Dを含んでなる第4の抗原複合体(第4のAC)とを接触させるステップ;および/または
(c)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記SPAおよび(前記細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと、検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Bと検出可能に異なり、検出可能標識Fが存在する場合は、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Bおよび検出可能標識Fと検出可能に異なる)検出可能標識Eを含んでなる第5の抗原複合体(第5のAC)とを接触させるステップ;および/または
(d)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記SPAおよび(前記細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと、検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Bと検出可能に異なり、好ましくは少なくとも前記検出可能標識Bおよび前記検出可能標識Eと検出可能に異なる)検出可能標識Fを含んでなる第6の抗原複合体(第6のAC)とを接触させるステップ;および/または
(e)ステップ(i)の前記細胞集団と、(それぞれが、前記第2のACの前記SPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なるSPAを含んでなり、それぞれのさらなるACは、1つまたは複数の標識を含んでなり、前記1つまたは複数の標識は、前記第2のACの1つまたは複数の標識と同じであるか、または検出可能に異なる)1つまたは複数のさらなる抗原複合体(AC)とを接触させるステップと
のさらなるステップの1つまたは複数を含んでなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(i)前記第1のACが、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、前記第2のACが、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、それらは同一であるかまたは異なり;および/または
(ii)前記1つまたは複数のさらなるACが、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり;前記少なくとも1つのさらなる標識が、前記第1のACを前記第2のACおよび前記1つまたは複数のさらなるACから区別することを可能にするように選択される、
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記検出可能標識が、好ましくは、キサンテン、アクリジン、オキサジン、シアニン、スチリル染料、クマリン、ポルフィン、金属リガンド錯体、蛍光タンパク質、ナノ結晶、ペリレン、およびフタロシアニンからなる群から選択される蛍光標識から独立して選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のACが、MHC-IまたはMHC-IIとPAIとの複合体であり、前記PAIが、標的ペプチド(TP)、好ましくは腫瘍特異的標的ペプチドであり、および/または前記第2のACが、MHC-IまたはMHC-IIと前記SPAの複合体であり、前記SPAが、標的類似ペプチド(TSP)であり、前記TSPが、前記TPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのTSPのアミノ酸配列が、
(a)健常組織上の前記TSPの提示;
(b)HLAタイプの起源に由来;および
(c)前記それぞれのHLAへの結合
の基準の1つまたは複数によって選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記TSPのアミノ酸配列が8~16アミノ酸長を有する、請求項14または15に記載の方法であって、
(1)前記TPが8アミノ酸長を有する場合、前記TSPのアミノ酸配列が、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、およびX(式中、位置X~X、およびX、およびXは、前記TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置XおよびX(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で、
前記TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X
と異なり;または
(2)前記TPが8~9アミノ酸アミノ酸長を有する場合、前記TSPのアミノ酸配列が、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;または
(iv)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で、
前記TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X
と異なり;または
(3)前記TPが8~10アミノ酸アミノ酸長を有する場合、前記TSPのアミノ酸配列が、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X10は、前記TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X10は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X10は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iv)位置X、X、およびX10(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で、
前記TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X10
と異なり;または
(4)前記TPが8~11アミノ酸アミノ酸長を有する場合、前記TSPのアミノ酸配列が、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X11は、前記TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X11は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X11は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iv)位置X、X、X10、およびX11(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;または
(v)位置X、X10、およびX11(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で、
前記TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X1011
と異なり;または
(5)前記TPが8~12アミノ酸アミノ酸長を有する場合、前記TSPのアミノ酸配列が、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X12は、前記TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X12は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X12は、前記TPと同一または類似している)で;または
(iv)位置X、X、X10、X11、およびX12(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で;または
(v)位置X、X10、X11、およびX12(式中、位置X~Xは、前記TPと同一または類似している)で、
前記TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X101112
と異なる、方法。
【請求項17】
前記TSPのアミノ酸配列が、前記TPとは異なる長さを有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記SPAまたは前記TSPのアミノ酸配列が、前記PAIまたはTPと、95%未満のアミノ酸同一性、90%未満のアミノ酸同一性、または85%未満のアミノ酸同一性を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(i)の前記細胞集団が、それぞれが異なる類似タンパク質抗原(SPA)を含んでなる、10個以下の抗原複合体(AC)と接触され、9つ以下の異なるSPA、8つ以下の異なるSPA、7つ以下の異なるSPA、6つ以下の異なるSPA、5つ以下の異なるSPA、4つ以下の異なるSPA、3つ以下の異なるSPA、3つ以下の異なるSPA、または1つ以下のSPAが使用される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記SPAがTSPである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記異なるTSPの数が1~10の間;2~8の間;3~5または1~3の間であり、好ましくは3つのTSPが使用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1のステップ(ii)および(iii)および/または請求項10のステップ(a)、(b)、(c)、および/または(d)が、引き続いて、任意の順序でまたは組み合わせでまたは同時進行で実行される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(iv)が、
a)前記第1のAC、第1および第3のAC、または第1、第3、および第4のACに結合した細胞を正に選択する(選択)ステップ、および/または
b)前記第2のAC、前記第2および第5、または前記第2、第5、および第6のACに結合した細胞を負に選択する(除外)ステップ
を含んでなる、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記標識が、フローサイトメトリー分析、好ましくはMACS分析、FACS分析または分取選別分析によって検出される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ステップi)の前記集団に含まれる前記細胞が、T細胞および/またはB細胞であり、表現型同定されている、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
T細胞の前記表現型決定が、1つ以上のT細胞マーカーの判定からなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
B細胞の前記表現型決定が、1つまたは複数のB細胞マーカーの判定を含んでなる、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(i)の前記細胞集団と、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなる無関係の抗原複合体(IAC)とを接触させるステップ
をさらに含んでなり、前記PAIのアミノ酸配列と整列されたときに、前記IPAのアミノ酸配列が2つ以下のアミノ酸位置で前記PAIと同一であり、前記IACが、前記検出可能標識Aと検出可能に異なる、検出可能標識Gを含んでなる、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのIPAのアミノ酸配列が、
(a)健常組織上のIPAの提示;
(b)HLAタイプの起源に由来;
(c)前記それぞれのHLAへの結合
の基準の1つまたは複数によって選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記IPAのアミノ酸配列、または前記IPAに含まれる少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列が、前記PAIに対して30%未満のアミノ酸同一性、20%未満のアミノ酸同一性、または10%未満のアミノ酸同一性を有する、請求項28~29に記載の方法。
【請求項31】
前記IACが、MHC-IまたはMHC-IIと無関係のペプチド(IP)の複合体であり、前記IPのアミノ酸配列が、前記TPのアミノ酸配列と整列されたときに、1つまたは皆無のアミノ酸位置で前記TPと同一である、請求項28~30に記載の方法。
【請求項32】
(i)請求項1~26に従って選択された前記細胞から、前記抗原結合タンパク質または前記その抗原結合部分をコード化する前記核酸を単離するステップと;
(ii)前記核酸の配列を決定するステップと
を含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸の配列を決定するための方法。
【請求項33】
(i)本発明の第1の態様の方法で選択された前記細胞から、前記抗原結合タンパク質または前記その抗原結合部分をコード化する前記核酸配列を提供するステップと;
(ii)任意選択的に発現制御要素の制御下で、ステップ(i)で提供される核酸配列を含んでなる前記核酸ベクターを生成するステップと;
(iii)ステップ(ii)の前記核酸ベクターを宿主細胞に導入するステップと
を含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を発現する細胞を生成するための方法。
【請求項34】
前記抗原結合タンパク質が、TCRまたはその断片;BCRまたはその断片、または抗体またはその断片である、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
前記TCR、前記BCR、または前記抗体のアミノ酸配列が、6つのCDR配列を含んでなる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
(i)前記対象の細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の前記細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなる前記PAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の前記細胞集団と、SPAを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)前記第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと;
(v)培養によって、前記少なくとも1つの選択された細胞の数を増加させるステップと;
(vi)前記培養された細胞を前記対象に再導入するステップと
を含んでなる、それを必要とする対象を治療するための方法であって、
前記SPAのアミノ酸配列が、前記PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、前記第2のACが検出可能標識Bを含んでなり、または前記SPAと検出可能標識Bを含み;
前記検出可能標識Aと前記検出可能標識Bが、互いに検出可能に異なる、方法。
【請求項37】
前記それを必要とする対象が、免疫疾患または腫瘍性疾患、ウイルスによって引き起こされる疾患、または細菌によって引き起こされる疾患からなる群から選択される疾患に罹患しているか、または罹患するリスクがある、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
(i)免疫細胞を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなる前記PAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の前記細胞集団と、SPAを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)前記第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと
を含んでなる、免疫疾患または腫瘍性疾患、ウイルスによって引き起こされる疾患、細菌によって引き起こされる疾患の治療に使用するための、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的および/または選択的に結合する抗原結合タンパク質をその表面上に発現する選択された免疫細胞であって、
前記SPAのアミノ酸配列が、前記PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、前記第2のACが検出可能標識Bを含んでなり;または前記SPAと検出可能標識Bを含み;
前記検出可能標識Aと前記検出可能標識Bが、互いに検出可能に異なり;前記腫瘍性疾患が、好ましくはがんである、免疫細胞。
【請求項39】
(i)免疫細胞を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の前記細胞集団と、前記PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなる前記PAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の前記細胞集団と、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)前記第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的に結合する抗原結合タンパク質をその表面に発現する免疫細胞を選択するための方法であって、
前記PAIのアミノ酸配列と整列されたときに、前記IPAのアミノ酸配列が2つ以下のアミノ酸位置で前記PAIと同一であり、前記IACが検出可能標識Gを含んでなり;または前記IPAと検出可能標識Gを含み;
前記検出可能標識Aと前記検出可能標識Gが、互いに検出可能に異なる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、類似タンパク質抗原(SPA)を使用した対抗選択を適用しながら、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的に結合する抗原結合タンパク質をその表面に発現する細胞またはウイルスを選択する方法に関する。さらに、本発明は、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸の配列を決定するための方法、および抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を発現する細胞を産生するための方法を提供する。本発明はまた、選択された細胞集団を用いて対象を治療するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
養子細胞移植(ACT)の分野は、がん、ウイルス感染症、その他の免疫調節疾患を治療するための最も有望かつ革新的なアプローチの1つになっている。T細胞受容体(TCR)修飾T細胞のより広範な臨床応用を支持するためには、好ましくは前臨床レベルで、リスクが適切に特定され軽減され得ることが重要である。TCR修飾T細胞の投与により現在までに観察された毒性は、標準的なACTの際に観察されたものと同様であり、リンパ枯渇製剤レジメンによる毒性、サイトカイン関連毒性、および免疫関連毒性の3つの主要なグループに大きく分けられ得る。免疫関連毒性は、いわゆる「腫瘍外/オンターゲット」効果と、「腫瘍外/オフターゲット」効果の2つのサブカテゴリーに分類され得る。最適な遺伝子操作されたT細胞療法の標的抗原は、腫瘍細胞上にのみ存在し、健康な細胞には存在しないものである;しかし、ほとんどの場合、選択された腫瘍標的抗原は、正常細胞中に様々な程度程度で存在してもよい、過剰発現または異常発現タンパク質である(Johnson LA et al.,Gene therapy with human and mouse T-cell receptors mediate cancer regression and targets normal tissues expressing cognate antigen,Blood 2009;114:535-46)。
【0003】
「腫瘍外/オンターゲット」毒性
したがって、遺伝子操作されたT細胞療法は、標的抗原を低レベルで発現する細胞に対してさえ、正常細胞に対する強力な細胞性免疫応答を引き起こしてもよい。このタイプの毒性は「腫瘍外/オンターゲット」として知られており、例えば、操作されたT細胞が正常細胞と標的抗原を発現するがん細胞とを区別できないことに起因するす。メランA(MLA;「T細胞1によって認識される黒色腫抗原」(MART-1)とも称される)の標的化は、顕著な「腫瘍外/オンターゲット」の副作用に関連付けられている(Johnson LA et al.,Gene therapy with and mouse T-cell receptors mediates cancer regression and targets normal tissue expressing cognate antigens,Blood 2009,114:535-46;van den Berg JH et al.,Case report of a Fatal Serious Adverse event upon Administration of T-cells transduced with a MART-1 specific T-cell Receptor,Mol.Ther.2015;23:1541-50)。具体的には、MART-1特異的TCRによる形質導入T細胞の転移性黒色腫患者への投与の3日後における、致命的な重篤な有害事象を記述する症例報告が発表されている。注入されたT細胞は、血液、気管支肺胞洗浄液、腹水、腫瘍部位、および心臓組織から回収され、修飾T細胞の3D拍動心筋細胞培養に対する交差反応性は観察されなかったが、著者らは、同種異系のMHC-ペプチド複合体との交差反応性の可能性を除外できなかった。さらに、多臓器不全は、オンターゲットサイトカイン放出が原因であることが認められた。腫瘍に対して治療的に有効な用量の適用時に許容可能な毒性をもたらすのに十分に低い腫瘍外発現を示す、標的抗原を選択することによって、腫瘍外/オンターゲットの毒性が回避され得る。
【0004】
「腫瘍外/オフターゲット」毒性
ほとんどの腫瘍抗原は自己タンパク質に由来するため(腫瘍関連抗原)、高親和性の腫瘍特異的T細胞の分離は、胸腺選択によって効果的に除外される。それにもかかわらず、TCR親和性は、相補性決定領域(CDR)内の特定の領域の変異を通じて、大幅に増強され得る。このアプローチは、TCRの縮重のために、修飾T細胞の有効性を促進するのに有用であるが、TCRが交差反応性を通じて、正常組織上に存在するその他の関連ペプチド抗原を認識するかもしれないというリスクがある。これまでに発表された結果では、前臨床試験で交差反応が予測されていなかったにもかかわらず、筋肉タンパク質であるタイチンのペプチドと交差反応する、黒色腫関連抗原A3(MAGE-A3)を標的化するTCRを発現するように操作されたT細胞を注入された2人の患者において、致死的な毒性が示されている(Linette,GP et al.,Cardiovascular toxicity and titin cross-reactivity of affinity enhanced T-cells in myeloma and melanoma,Blood 2013;122:863-71;Cameron,BJ et al.,Identification of a Titin-derived HLA-A1-presented peptide as a cross-reactive target for engineered MAGE-A3 directed T-cells,Sci.Transl.Med.2013;5:197-103)。これらの患者は、TCRで操作されたT細胞が、重篤かつ容易に予測できないオフターゲットおよび臓器特異的な毒性を有し得ることを実証し、操作されたTCRの特異性を定義するための改善された方法に対する必要性が強調された。したがって、ペプチドスキャンニングおよびより複雑な細胞構造の使用などのストラテジーが、将来の臨床研究査におけるオフターゲット毒性のリスクを軽減するために、前臨床試験で推奨される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、腫瘍外/オフターゲットの低毒性を有するTCRを開発するという、なおも満たされていない医学的ニーズがある。本発明は、特にそれらの標的抗原に特異的かつ選択的に結合するTCRである、抗原結合分子を迅速に同定するための方法を提供し、ひいては強化された安全性プロファイルを提供し、特に、健常組織上の類似配列ペプチドである標的抗原類似配列への交差反応性を低減する。本発明の迅速な、好ましくは1ステップの選択方法は、所望の抗腫瘍活性を有するTCRを発現する患者由来のT細胞の同定において特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
(i)細胞またはウイルス集団を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団またはウイルス集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団またはウイルス集団と、類似タンパク質抗原(SPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的および/または選択的に結合する、少なくとも1つの細胞またはウイルスを選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的および/または選択的に結合する抗原結合タンパク質をその表面上に発現する、細胞またはウイルスを選択するための方法に関し、
SPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは検出可能標識Bを含んでなり;またはSPAと検出可能標識Bを含み;
検出可能標識Aと検出可能標識Bは、互いに検出可能に異なる。
【0007】
本発明の第2の態様は、
(i)本発明の第1の態様の方法で選択された細胞から、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を単離するステップと;
(ii)核酸の配列を決定するステップと
を含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸の配列を決定するための方法にさらに関する。
【0008】
本発明の第3の態様は、
(i)本発明の第1の態様の方法で選択された細胞から、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸配列を提供するステップと;
(ii)任意選択的に発現制御要素の制御下で、ステップ(i)で提供される核酸配列を含んでなる核酸ベクターを生成するステップと;
(iii)ステップ(ii)の核酸ベクターを宿主細胞に導入するステップと
を含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を発現する細胞を生成するための方法に関する。
【0009】
本発明の第4の態様は、
(i)免疫細胞を含んでなる対象の細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団と、SPAを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと;
(v)(iv)で選択された少なくとも1つの選択された細胞の数を増加させるステップと;
(vi)培養された細胞を対象に再導入するステップと
を含んでなる、それを必要とする対象を治療するための方法に関し、
SPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは検出可能標識Bを含んでなり;
検出可能標識Aと検出可能標識Bは、互いに検出可能に異なる。
【0010】
本発明の第5の態様は、
(i)免疫細胞を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団と、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的に結合する抗原結合タンパク質をその表面上に発現する免疫細胞を選択するための方法に関し、
PAIのアミノ酸配列と整列させた場合のIPAのアミノ酸配列は、2つ以下のアミノ酸位置でPAIと同一であり、IACは検出可能標識Gを含み;またはIPAおよび検出可能標識Gを含み、
検出可能標識Aと検出可能標識Gは、互いに検出可能に異なる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下では、本明細書に含まれる図の内容を説明する。これに関連して、上記および/または下記の発明の詳細な説明も参照されたい。
図1】本発明の2つの例示的な用途の概略図を示す。図の上の経路は、個々のT細胞培養ステップを受けたプライミングされたT細胞に適用された場合のゲーティングストラテジーの使用を表し、図の下の部分は、直接選別アプローチでのゲーティングストラテジーの使用を示し、ここで、天然レパートリーから得られた不均一なT細胞集団は、ゲーティングストラテジーを使用して、標的特異的T細胞が富化されている。双方の例において、正に選別された細胞画分は、それらの表面上に、目的のタンパク質抗原に特異的および/または選択的に結合する抗原結合タンパク質を発現する、免疫細胞を発現する。図で使用されている略語:SPA:類似タンパク質抗原、PAI:目的のタンパク質抗原、APC:抗原提示細胞。
図2】増幅されていない標的特異的T細胞の例示的なゲーティングストラテジーを示す。試験サンプル中の低頻度標的特異的T細胞の頻度を高めるために、細胞は蛍光色素四量体特異的磁気ビーズ分離によって富化されている。引き続いて、細胞は表面マーカーについて染色され、フローサイトメトリーによって評価される。個々の2D着色四量体の組み合わせを使用して、標的特異的T細胞および類似ペプチド特異的T細胞が染色された。この例では、1.65%のCD8T細胞が標的ペプチド四量体に結合し、それらの標的特異的CD8T細胞の29.4%が、3つの異なる類似ペプチドHLAで構成される類似ペプチド四量体(標的/SIM)にも結合する。選別手順に類似ペプチド四量体を含めることによって、交差反応性T細胞(標的/SIM)の高い割合が除外され得る。
図3-1】プライミングされたT細胞集団の例示的なゲーティングストラテジーを示す。個々のT細胞培養物は、標的ペプチドHLAで被覆された人工提示細胞で繰り返し刺激され、低頻度の標的特異的CD8T細胞が増強された。4週間の培養後、これらのプライミングされたT細胞培養物は、表面マーカーについて染色され、個々の2D着色四量体組み合わせは、標的HLAと3つの類似ペプチド-HLAについて染色された。上側パネルは、標的ペプチドと類似ペプチドの双方の四量体(標的/SIM)に結合する、モノクローナルに富むT細胞集団を示す。下側パネルは、標的にのみ結合し、類似ペプチド四量体には結合しない、モノクローナル富化T細胞集団を示す。染色手順に類似ペプチド四量体を含めることにより、交差反応性T細胞(標的/SIM)が選別から除外され得る。
図3-2】同上
図4-1】標的ペプチド四量体のみを使用して選別されたT細胞からのTCRが、標的類似ペプチドと交差反応し得ることを示す。標的ペプチド四量体を使用して同定されたTCRは、健常ドナーT細胞へのmRNA電気穿孔後に、10個の標的類似ペプチドに対する交差反応性について評価された。反応性の尺度として、ペプチド負荷T2細胞との共培養時のIFNγ分泌が評価された。この例の全てのTCRは、標的ペプチド(陽性対照)に対して反応するが、関係ない/無関係のペプチドが負荷されたT2細胞、未負荷T2細胞、またはエフェクター単独の細胞である、対照に対しては反応しない。しかし、図4Aおよび図4BのTCRはまた、類似ペプチド、すなわち、図4AのTCRの類似ペプチド1および10、そして図4BのTCRの類似ペプチド9および10に対する反応性を示す。図4CのTCRのみが交差反応性を示さず、したがってさらなる特性評価のために選択されている。
図4-2】同上
図5-1】標的ペプチド四量体のみに結合するT細胞から単離されたTCR(TCR PAI+/SPA-)、ならびに対照ペプチドに特異的な対照TCR(「対照ペプチド」)、およびTCRなし対照(「ペプチドなし」)の機能評価を示す。この目的のために、TCR-mRNAが、NFAT-ルシフェラーゼJurkatレポーター細胞中に電気穿孔され、ペプチド/標的類似ペプチド(「SIM1、SIM2、およびSIM3」)が負荷されたT2抗原提示細胞との共培養後に、それらの活性化が評価された。PAI+/SPA-で選別されたT細胞に由来するTCRは、標的ペプチド負荷T2細胞と共培養された場合にのみ、活性化を誘発する。対照TCRは、対照ペプチドの存在下で反応性を示し、TCR mRNA電気穿孔なしのJurkat細胞は、ペプチド負荷T2細胞に応答しない。この例は、標的ペプチド四量体に結合するTCRまたも、機能レベルでそれらのペプチドに対して反応性を示すことを示す。
図5-2】同上
図6】XPRESIDENT質量分析データに基づく、標的類似ペプチド1(TSP1)(図6)、TSP2(図7)、および実施例4の無関係のペプチド(IP;図8)のペプチド提示プロファイルを示す。上部:技術的反復測定からの相対MSシグナル強度の中央値が、その上でペプチドが検出された単一HLA-A02正常サンプルの色付きの点としてプロットされている。正常サンプルは、起源の臓器に従ってグループ化されている。箱ひげ図は、複数のサンプルにわたる正規化されたシグナル強度を表し、対数空間で定義されている。箱は、中央値、25パーセンタイル値、および75パーセンタイル値を示す。ひげは、下位四分位数の1.5四分位間範囲(IQR)内にある最低データポイントまで伸び、上位四分位数の1.5 IQR内にある最高データポイントまで伸びる。下部:全ての臓器におけるペプチド検出頻度が、棒グラフで示される。パネルの下の数字は、各臓器について分析されたサンプルの総数のうち、ペプチドが検出されたサンプルの数を示す(全ての臓器にわたる正常なサンプルの場合、N≧628)。ペプチドがサンプル上で検出されたが、技術的理由で定量化され得なかった場合、サンプルは、この検出頻度表示に含まれるが、図の上部に点は示されない。adipose:脂肪組織;adrenalgl:副腎;bladder:膀胱;bloodvess:血管;esoph:食道;gallbl:胆嚢;intest.la:大腸;intest.sm:小腸;nervecent:中枢神経;nerveperiph:末梢神経;parathyr:副甲状腺;perit:腹膜;pituit:下垂体;skel.mus:骨格筋。
図7】同上
図8】同上
【0012】
選択された配列の一覧
配列番号1:X-X-X-X-X-X-X-X、式中、X~Xは、8アミノ酸長の標的ペプチド中のアミノ酸位置であり、Xはいずれの場合も任意のアミノ酸であり;
配列番号2:X-X-X-X-X-X-X-X-X、式中、X~Xは、9アミノ酸長の標的ペプチド中のアミノ酸位置であり、Xはいずれの場合も任意のアミノ酸であり;
配列番号3:X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10、式中、X~X10は、10アミノ酸長の標的ペプチド中のアミノ酸位置であり、Xはいずれの場合も任意のアミノ酸であり;
配列番号4:X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10-X11、式中、X~X11は、11アミノ酸長の標的ペプチド中のアミノ酸位置であり、Xはいずれの場合も任意のアミノ酸であり;
配列番号5:X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10-X11-X12、式中、X~X12は、12アミノ酸長の標的ペプチド中のアミノ酸位置であり、Xはいずれの場合も任意のアミノ酸である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する前に、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬が変動してもよいことから、本発明はこれらに限定されるものではないことが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される、本発明の範囲を限定することを意図するものではないこともまた理解されるべきである。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0014】
本明細書全体を通じて、いくつかの文献が引用されている。本明細書で引用される各文書(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様、説明書などをはじめとする)は、上記または下記を問わず、その内容全体が本明細書に参照により援用される。本明細書のいかなる部分も本発明が、先行発明のおかげでそのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。本明細書で引用される文書のいくつかは、「参照により援用される」として特徴付けられている。このような組み込まれた参考文献の定義または教示と、本明細書に記載されている定義または教示との間に矛盾がある場合、本明細書のテキストが優先される。
【0015】
以下、本発明の要素について説明する。これらの要素は、特定の実施形態と共に列挙されているが、それらは、追加的な実施形態を作成するために、任意の方法および任意の数で組み合わせられてもよいものと理解されるべきである。様々に説明された実施例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に説明される実施形態のみに限定するものと解釈されるべきではない。この説明は、明示的に説明される実施形態を任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願で説明されている全ての要素の並べ替えおよび組み合わせは、文脈上明らかに別の意味が示唆されない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0016】
定義
本発明を実施するために、別段の指示がない限り、化学、生化学、および組換えDNA技術の従来法が使用され、これらは、この分野の文献で説明されている(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989を参照されたい)。
【0017】
以下に、本発明を特徴付けるために本明細書で頻繁に使用される用語のいくつかの定義が提供される。これらの用語は、本明細書の残りの部分で、その使用の各例において、それぞれ定義された意味と好ましい意味を有する。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲の用法では、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容上例外が明記されていない限り、複数の指示対象を含む。
【0019】
「アミノ酸」という用語は、本発明の文脈において、置換または非置換アミノ基、置換または非置換カルボキシ基、および1つまたは複数の側鎖または基、またはこれらの基のいずれかの類似体を含んでなる、任意のモノマー単位を指す。例示的な側鎖としては、例えば、チオール、セレン含有、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ホウ酸塩、ボロン酸塩、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、またはこれらの基の任意の組み合わせが挙げられる。その他の代表的なアミノ酸としては、光活性化可能な架橋剤を含んでなるアミノ酸、金属結合アミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属含有アミノ酸、新規官能基を有するアミノ酸、その他の分子と共有結合または非共有結合で相互作用するアミノ酸、光ケージおよび/または光異性化可能なアミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチンまたはビオチン類似体を含んでなるアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、その他の炭水化物修飾アミノ酸、ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含んでなるアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学切断可能なおよび/または光切断可能なアミノ酸、炭素連結糖含有アミノ酸、酸化還元活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、および1つまたは複数の有毒部分を含んでなるアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書の用法では「アミノ酸」という用語には、以下の20個の天然または遺伝的にコード化されたαミノ酸が含まれる:アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リジン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)。「X」残基が定義されていない場合、これらは「任意のアミノ酸」として解釈されるべきである。これらの20の天然アミノ酸の構造は、例えば、Stryer et al.,Biochemistry,5th ed.,Freeman and Company(2002)に示されている。セレノシステインおよびピロリシンなどの追加的なアミノ酸もまた、遺伝的にコード化され得る(Stadtman(1996)”Selenocysteine,”Annu Rev Biochem.65:83-100、およびIbba et al.(2002)”Genetic code:introducing pyrrolysine,”Curr Biol.12(13):R464-R466)。「アミノ酸」という用語はまた、非天然アミノ酸、修飾アミノ酸(例えば、修飾された側鎖および/または骨格を有する)、およびアミノ酸類似体もまた含む。例えば、Zhang et al.(2004)”Selective incorporation of 5-hydroxytryptophan into proteins in mammalian cells,”Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101(24):8882-8887;Anderson et al.(2004)”An expanded genetic code with a functional quadruplet codon”Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101(20):7566-7571;Ikeda et al.(2003)”Synthesis of a novel histidine analogue and its efficient incorporation into a protein in vivo,”Protein Eng.Des.Sel.16(9):699-706;Chin et al.(2003)”An Expanded Eukaryotic Genetic Code,”Science 301(5635):964-967;James et al.(2001)”Kinetic characterization of ribonuclease S mutants containing photoisomerizable phenylazophenylalanine residues,”Protein Eng.Des.Sel.14(12):983-991;Kohrer et al.(2001)”Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells:A general approach to site-specific insertion of amino acid analogues into proteins,”Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98(25):14310-14315;Bacher et al.(2001)”Selection and Characterization of Escherichia coli Variants Capable of Growth on an Otherwise Toxic Tryptophan Analogue,”J.Bacteriol.183(18):5414-5425;Hamano-Takaku et al.(2000)”A Mutant Escherichia coli Tyrosyl-tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than Tyrosine,”J.Biol.Chem.275(51):40324-40328;およびBudisa et al.(2001)”Proteins with {beta}-(thienopyrrolyl)alanines as alternative chromophores and pharmaceutically active amino acids,”Protein Sci.10(7):1281-1292を参照されたい。アミノ酸はまた、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に一体化させ得る。本明細書の用法では、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の短いポリマーを指す。これは、タンパク質と同じ化学(ペプチド)結合を有するが、一般的に長さがより短い。最短のペプチドは、単一のペプチド結合によって連結された2つのアミノ酸からなるジペプチドである。トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチドなどもあり得る。典型的には、ペプチドは、最大8、10、12、15、18または20アミノ酸長を有する。ペプチドは、環状ペプチドでない限り、アミノ末端とカルボキシル末端を有する。
【0020】
「ウイルス」という用語は、本発明の文脈において、小さな偏性細胞内内寄生体を指し、これは、定義上、保護タンパク質コート、すなわちカプシドに囲まれたRNAまたはDNAゲノムのどちらかを含有する。ウイルスのゲノムは、一本鎖(ss)または二本鎖(ds)、直鎖または環状であってもよいDNAまたはRNAからなってもよい。全ゲノムは、1つの核酸分子(単分節ゲノム)またはいくつかの核酸セグメント(多分節ゲノム)のどちらかを占有してもよい。ウイルスは、二本鎖DNAウイルス、好ましくはミオウイルス科(Myoviridae)、シホウイルス科(Siphoviridae)、ポドウイルス科(Podoviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、バキュロウイルス科(Baculoviridae)、パピローマウイルス科(Papillomaviridae)、ポリドナウイルス科(Polydnaviridae)、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)、ポックスウイルス科(Poxviridae);一本鎖DNAウイルス、好ましくはアネロウイルス科(Anelloviridae)、イノウイルス科(Inoviridae)、パルボウイルス科(parvoviridae);二本鎖RNAウイルス、好ましくはレオウイルス科(Reoviridae);一本鎖RNAウイルス、好ましくはコロナウイルス科(Coronaviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、ヘペウイルス科(Hepeviridae);マイナスセンス一本鎖RNAウイルス、好ましくはアレナウイルス科(Arenaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ボルナウイルス科(Bornaviridae);一本鎖RNA逆転写ウイルス、好ましくはレトロウイルス科(Retroviridae);二本鎖RNA逆転写ウイルス、好ましくはカリモウイルス科(Caulimoviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)であり得る。
【0021】
「バクテリオファージ」(または「ファージ」)という用語は、本発明の文脈において、細菌および古細菌に感染して自己複製するウイルスを指す。バクテリオファージは、典型的には細菌である宿主生物に依存して自己複製し、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)をカプセル化するタンパク質で構成されるゲノムを宿主生物の細胞質内に注入する。生物工学で使用されるバクテリオファージの顕著な例は、バクテリオファージT4ラムダ(T4λ)ファージ、T7ファージ、fd繊維状ファージ、特に繊維状M13ファージであり、これらは全て特定の利点と欠点を有する。
【0022】
「ウイルス集団」という用語は、本発明の文脈において、それらの表面上で発現される抗原結合タンパク質をコード化する遺伝情報が異なる、多数のウイルスを指す。したがって、ウイルス集団は、異種抗原結合タンパク質のライブラリを発現し得る。
【0023】
「ファージディスプレイ」または「ファージライブラリ」という用語は、本発明の文脈において、タンパク質相互作用の高スループットスクリーニングに使用されるシステムを指す。簡潔に述べると、目的のタンパク質をコード化する遺伝子をバクテリオファージコートタンパク質遺伝子に挿入し、バクテリオファージに、そのDNAまたはRNA中の目的のタンパク質をコード化る遺伝子を維持しながら、その表面上にタンパク質を「ディスプレイ」、すなわち表示させる。その結果、遺伝子型と表現型が結びつくことになる。バクテリオファージの表面上に提示されるタンパク質は、引き続いて、その他のタンパク質、ペプチド、またはDNA配列に対してスクリーニングされ、提示される分子とスクリーニングされる分子との間の相互作用が研究され得る。このような分子は、抗体またはその断片、TCRまたはその断片、BCRまたはその断片、またはCARまたはその断片であり得る。TCRの断片は、α可変ドメインおよびβ可変ドメインを含んでなってもよい。本発明の文脈における断片は、以下でもまた詳細に定義される。
【0024】
「細胞」という用語は、本発明の文脈において、核および細胞小器官を含み、原生動物、真菌、植物および動物に見いだされ得る真核細胞を指す。動物は、哺乳類細胞を含んでなり得る。哺乳類細胞は、とりわけ、ヒト細胞、マウスまたはラット細胞などの齧歯類細胞、サル細胞、ブタ細胞、またはイヌ細胞を含んでる。真菌細胞は、とりわけ酵母細胞を含んでなる。例えば、酵母表面ディスプレイなどの生物工学で使用される典型的な酵母細胞は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞である。
【0025】
「酵母表面ディスプレイ」または「酵母ディスプレイ」または「酵母ライブラリ」という用語は、本発明の文脈において、目的の組換えタンパク質を発現し、これらのタンパク質をそれらの細胞壁に組み込む酵母細胞を使用する、タンパク質工学技術を指す。これにより、タンパク質、特に抗体またはその断片、TCRまたはその断片、BCRまたはその断片、またはCARまたはその断片の単離および操作が可能になる。詳細には、酵母表面ディスプレイでは、選択の単位は、目的のタンパク質の数万のコピーで修飾され、そのタンパク質をコード化するプラスミドを保有する酵母細胞である。プラスミドは、ディスプレイと選別のためのサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と、DNA調製および分子生物学のための大腸菌(E.coli)の間でシャトルされ得る。Wittrupグループ(Chao et al.,2006)によって先駆的に開発された酵母ディスプレイの形態では、各10Fn3変異型は、細胞壁に見られる天然酵母タンパク質であるAga2pとの遺伝子融合体として発現される。Aga2pは、凝集素接合因子である天然酵母のドメインであり;典型的には、それは10Fn3変異型をコード化する配列の上流にクローン化される。さらに、c-mycおよびV5などのエピトープタグは、10Fn3変異型をコード化する配列のすぐ下流で操作される。誘導されると、交配因子分泌シグナルペプチドは、融合タンパク質を細胞から移出するように指示し;それは、その結合パートナーであるAga1pによって酵母細胞壁の表面上に捕捉され、2つのジスルフィド結合を形成する。その結果、各酵母細胞が、10,000~100,000コピーの単一10Fn3変異型をディスプレイする培養物が得られる。平均して、変異型の熱安定性が高いほど、酵母表面上のその分子の数が多くなる(Hackel et al.,2010)。
【0026】
「免疫細胞」という用語は、本発明の文脈において、免疫系の細胞を指す。免疫系は、最終的にBリンパ球、Tリンパ球、およびナチュラルキラー(NK)細胞に分化するリンパ系幹細胞を含んでなる前駆細胞、および最終的に顆粒球と単球、ならびに完全に分化した白血球に分化する骨髄芽細胞などの異なる細胞タイプを含んでなる。分化した白血球は、胸腺、脾臓、骨髄、またはリンパ節由来の細胞であり、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球および単球、マクロファージ、肥満細胞、および樹状細胞の主要なグループに分類され得る。顆粒球はさらに、好中球、好酸球、好塩基球に分類され、血液循環中の細菌、ウイルス、または真菌を貪食する。Bリンパ球は、プラズマ細胞とBメモリー細胞の前駆体である。T細胞のグループは、調節性T細胞、メモリーT細胞、Tヘルパー細胞、および細胞傷害性T細胞を含んでなる。Tヘルパー細胞はプラズマ細胞とナチュラルキラー細胞を活性化する一方で、調節性T細胞はB細胞およびその他のT細胞の機能を阻害するため、免疫応答を遅延させる。Tメモリー細胞は長寿命で特異的抗原に対する記憶を保有し、細胞傷害性T細胞は、腫瘍抗原または攻撃された細胞の抗原と相互作用することによって、腫瘍細胞またはウイルスによって攻撃された細胞を認識し殺滅する。T細胞の例と、それぞれのT細胞の特異的表面マーカーによって記述されるそれらの表面表現型を以下の表1に示す(Dong and Martinez,Nature Reviews Immunology,2010による):
【0027】
【表1】
【0028】
「腫瘍浸潤リンパ球」(TIL)という用語は、本発明の文脈において、腫瘍に向かって移動し、腫瘍間質または腫瘍自体にしばしば見いだされ得る、T細胞およびB細胞を指す。TILは典型的には、ACTまたは自系細胞治療で使用されてもよい、白血球の細胞集団を含んでなる。このような治療法は、例えば、様々な臨床試験で、転移性黒色腫の患者において、既に有望な結果を示している(Guo et al.;”Recent updates on cancer immunotherapy”;Precision Clinical Medicine,1(2),2018-65-74)。ACTの文脈にでは、TILは、外科的に切除された腫瘍から、または腫瘍断片から分離された単一細胞懸濁液から、生体外で増殖される。TILは、例えば、IL-2などの高用量のサイトカイによって増殖される。次に、最良の腫瘍反応性を示した選択されたTIL株が、「急速増殖プロトコル」(REP)でさらに増殖され、これは、典型的に2週間にわたり、抗CD3活性化を使用する。最終的なREP後のTILが、患者に注入され戻される。このプロセスには、養子移入TILに、腫瘍部位を取り囲むのに十分なアクセスを提供するために、内因性リンパ球を枯渇させるための、予備的な化学療法レジメンもまた伴い得る。
【0029】
「免疫細胞富化画分」という用語は、本発明の文脈において、例えば、血液などの天然に存在する細胞集団に由来する細胞集団を指し、その中では、免疫細胞の相対存在量は、天然に存在する細胞混合物におけるそれらの存在量と比較して増加している。健常人対象の1mlの血液は、例えば、470~610万個(男性)、420~540万個(女性)の赤血球、4000~11,000個の白血球、および20万~50万個の血小板を含んでなる。したがって、血液中の免疫細胞は、血球の総数の0.06%~0.25%のみを構成する。したがって、血液の免疫細胞富化画分は、0.25%を超え、より好ましくは10%を超え、さらにより好ましくは50%を超え、さらにより好ましくは80%を超え、最も好ましくは90%を超える免疫細胞を含んでなってもよい。免疫細胞富化画分は、免疫細胞の1つまたは複数のサブタイプについて富化されてもよい。例えば、免疫細胞富化画分は、リンパ系幹細胞、T細胞、B細胞、プラズマ細胞、またはそれらの組み合わせについて富化されてもよい。通常、免疫細胞富化画分中の免疫細胞は、目的の免疫細胞の表面マーカーに特異的に結合する1つまたは複数の蛍光標識抗体を使用して選択される。T細胞のグループ内のT細胞または細画分を選択するための適切な表面マーカーは、上記の表1に示される。細胞傷害性T細胞は、例えば、CD8に特異的に結合する抗体を使用することによって、またはCD8およびCD3に特異的に結合する抗体を使用することによって、選択され得る。
【0030】
「細胞集団」という用語は、本発明の文脈において、均質または不均質であってもよい複数の細胞、すなわち、異なる特徴の細胞の混合物を指す。血液は、異なる細胞の混合物である細胞集団の一例である。均質な細胞集団は、特定のサブタイプの選択によって、またはクローン増殖によって得られ得る。
【0031】
「抗原結合タンパク質」という用語は、本発明の文脈において、抗原に特異的に結合するパラトープ(あるいは「抗原結合部位」と称される)を含んでなる、1つのポリペプチドまたは2つ以上のポリペプチドの複合体を指す。抗原結合タンパク質の例は、一本鎖抗体、一本鎖TCR、キメラ抗原受容体(CAR)であり、抗原結合複合体の例は、抗体、B細胞受容体(BCR)、またはTCRである。
【0032】
本発明の文脈における「キメラ抗原受容体」(CAR;キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体としても知られている)は、免疫エフェクター細胞、好ましくはT細胞に任意の特異性を付与した、操作された受容体を指す。細胞は、複合膜受容体分子であるCARを遺伝的に備えており、標的特異性とT細胞活性化の双方を提供する。CARの最も一般的な形態は、モノクローナル抗体由来の一本鎖可変断片(scFv)と、CD3の膜貫通ドメインおよびエンドドメインとを融合させたものである。CARは、細胞外部分の抗体由来の結合ドメインを通じて、T細胞を所望の細胞標的に標的化し、T細胞活性化は、標的に遭遇したときに細胞内部分シグナル伝達ドメインを介して行われる。これらの受容体のコード配列の適切な細胞、特にT細胞への移入は、一般にレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターによって促進される。受容体は、異なる起源からのパーツで構成されているため、キメラと称される。
【0033】
「エピトープ」という用語は、本発明の文脈において、抗原の機能的エピトープを指す。機能的エピトープは、抗原結合タンパク質のパラトープと抗原の間の非共有相互作用に寄与する残基、典型的にはアミノ酸または多糖を含んでなる。非共有相互作用は、静電力、ファンデルワールス力、水素結合、および疎水性相互作用を含んでなる。機能的エピトープは、抗原結合タンパク質の構造エピトープを構成する残基のサブグループである。構造エピトープは、抗原結合タンパク質によって覆われる全ての残基、すなわち、抗原結合タンパク質のフットプリントを含んでなる。典型的には、抗体が結合する抗原の機能的エピトープは、4~10個のアミノ酸を含んでなる。同様に、提示されるMHCであるペプチドの機能的エピトープは、典型的には、4~8個のアミノ酸を含んでなる。
【0034】
「発現」という用語は、本発明の文脈において、タンパク質またはペプチド、特にヒト組織におけるPAIまたはSPAの存在を指す。タンパク質またはペプチドの発現という用語は、細胞のリボソーム機構におけるタンパク質生合成の過程で、その核酸配列からそのアミノ酸配列に翻訳されることを意味する。発現されたタンパク質は、細胞内または細胞外に、例えば、細胞の表面上に位置し得る。その中でタンパク質が発現されるヒト組織は、健常組織または罹患組織であってもよい。
【0035】
「目的のタンパク質抗原」(PAI)という用語は、本発明の文脈において、抗原結合タンパク質のパラトープに特異的に結合するエピトープを含んでなる、タンパク質またはタンパク質の部分またはタンパク質複合体を指す。PAIは典型的には、天然に存在するタンパク質であり、任意の長さであり得る。PAIが、少なくとも25個のアミノ酸を含んでなることが好ましい。したがって、PAIがTCRに特異的に結合する場合、PAIの長さは8~12アミノ酸であることが好ましい。PAIは、腫瘍関連標的抗原(TAA)、ウイルスタンパク質、または細菌タンパク質であってもよい。PAIは、典型的には、例えば、腫瘍治療において特異的に標的化される腫瘍関連抗原(TAA)である。
【0036】
「ヒト化マウス」という用語は、本発明の文脈において、それらの生物学的機能を発揮する、例えば、それらの生物学的機能に関して無傷である、ヒト遺伝子、細胞、組織および/または臓器を保有する遺伝子改変マウスを指す。典型的には、免疫不全マウスは、宿主免疫を欠くために、異種細胞または組織を比較的容易に受け入れ得るので、ヒト細胞または組織のレシピエントとして使用される。ヒト化マウスの例は、ヌードマウス、重症複合型免疫不全症(SCID)マウス、NCGマウス、NOG(NOD/Shi-scid/IL-2Rγnull)マウス、またはNSG(NOD scid γ)マウスである。ヒトバージョンの遺伝子をそれぞれのマウス遺伝子座に受け入れるマウスは、「ノックイン」マウスと称される。B細胞およびT細胞は、ヒト化マウスから単離され、本発明の方法で使用され得る。
【0037】
「T細胞受容体ライブラリ」という用語は、本発明の文脈において、多数の異なるT細胞受容体(TCR)タンパク質またはその断片を含む、各TCRタンパク質またはその断片が異なるライブラリを指す。
【0038】
本発明の文脈における「ウイルス抗原ペプチド」は、典型的には罹患細胞である抗原提示細胞の表面上で、主要組織適合性複合体(MHC)分子によって提示されるウイルスタンパク質のより短い断片である。ウイルス抗原ペプチドはウイルス起源であり、すなわち、細胞は典型的には、前記ウイルスに感染している。本発明の文脈におけるウイルス抗原ペプチドは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原ペプチド、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)抗原ペプチド、サイトメガロウイルス(CMV)抗原ペプチド、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原ペプチド、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原ペプチド;C型肝炎ウイルス(HCV)抗原ペプチド;エプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原ペプチド、インフルエンザ抗原ペプチド;好ましくはHIV、HBV、インフルエンザ、およびHCMV抗原ペプチドからなる群から選択される抗原ペプチドであってもよい。ウイルス抗原ペプチドは、本明細書に記載される方法および実施形態で使用され得て、例えば、下の表2に記載されるようなウイルス抗原ペプチドが挙げられる。一態様では、本明細書に記載の方法および実施形態で使用されるウイルス抗原ペプチドは、配列番号6~配列番号8のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含んでなるか、またはそれからなる、少なくとも1つのウイルス抗原ペプチドを含んでなる。
【0039】
【表2】
【0040】
本発明の文脈における「細菌抗原ペプチド」は、典型的には罹患細胞である抗原提示細胞の表面上で、MHC分子によって提示される細菌タンパク質のより短い断片である。細菌抗原ペプチドは細菌起源であり、すなわち、細胞は典型的には、細菌に感染している。このような細菌性抗原ペプチドは、例えば、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)からの感染の状況で発見されている。したがって、本発明の文脈における細菌抗原ペプチドは、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)抗原ペプチドであってもよい。
【0041】
「腫瘍関連抗原」(TAA)という用語は、本発明の文脈において、腫瘍細胞によって優先的または排他的に発現される、酵素、受容体、転写因子などの全てのタンパク質クラスに由来する自己細胞抗原を指す。TAAは、異常に発現された自己抗原、変異した自己抗原、および腫瘍特異的抗原に大まかに分類され得る。腫瘍細胞によって優先的に発現されるTAAは、正常組織にもまた見られる。しかし、それらの発現は、腫瘍におけるそれらの発現の程度、それらの正常な対応物と比較したそれらのタンパク質構造の変化、またはそれらの腫瘍細胞内のそれらの異常な細胞内局在によって、正常組織の発現とは異なる。本明細書に記載の方法および実施形態で使用され得るTAAペプチドとしては、例えば、米国特許出願公開第20160187351号明細書、米国特許出願公開第20170165335号明細書、米国特許出願公開第20170035807号明細書、米国特許出願公開第20160280759号明細書、米国特許出願公開第20160287687号明細書、米国特許出願公開第20160346371号明細書、米国特許出願公開第20160368965号明細書、米国特許出願公開第20170022251号明細書、米国特許出願公開第20170002055号明細書、米国特許出願公開第20170029486号明細書、米国特許出願公開第20170037089号明細書、米国特許出願公開第20170136108号明細書、米国特許出願公開第20170101473号明細書、米国特許出願公開第20170096461号明細書、米国特許出願公開第20170165337号明細書、米国特許出願公開第20170189505号明細書、米国特許出願公開第20170173132号明細書、米国特許出願公開第20170296640号明細書、米国特許出願公開第20170253633号明細書、米国特許出願公開第20170260249号明細書、米国特許出願公開第20180051080、および米国特許出願公開第20180164315号明細書が挙げられ、これらの各出版物の内容およびその中に記載されている配列リストは、それらの全体が参照により本明細書に援用される。さらに、本発明の文脈におけるTAAは、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子、好ましくはMHCクラスI分子の特異的リガンドである。
【0042】
一態様では、本発明の方法によって選択される抗原結合タンパク質は、上に列挙される特許および刊行物の1つまたは複数に記載されているTAAペプチドを提示する細胞を選択的に認識する。別の態様では、本明細書に記載の方法および実施形態で使用されてもよいTAAペプチドは、配列番号9~164のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列からなる、少なくとも1つのTAAを含む。一態様では、本発明の方法によって選択される抗原結合タンパク質は、TAAペプチド/MHC複合体を提示する細胞に選択的に結合し、ここで、TAAペプチドは、配列番号1~164のアミノ酸配列を含んでなり、またはそれからなる。さらなるTAAの例は、表3に列挙される。
【0043】
【表3-1】

【表3-2】

【表3-3】
【0044】
さらに、本発明の文脈におけるTAA抗原ペプチドは、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子、好ましくはMHCクラスI分子の特異的リガンドである。
【0045】
「腫瘍特異的抗原」という用語は、本発明の文脈において、腫瘍細胞上で排他的に発現される抗原を指す。それらとしては、例えば、点突然変異またはフレームシフト変異などの腫瘍細胞における変異によって生じる新抗原が挙げられる。腫瘍特異的抗原の例は、p53またはBCR-ABLである。
【0046】
「MHC」という用語は、本発明の文脈において、「主要組織適合遺伝子複合体」という語句句の略語を指す。MHCは細胞表面受容体の組であり、脊椎動物の変性天然または外来タンパク質に対する獲得免疫を確立する上で必須の役割を有し、それは次に組織内の組織適合性を決定する。MHC分子の主な機能は、変性タンパク質または病原体に由来する抗原に結合し、それらを細胞表面上にディスプレイして適切なT細胞に認識させることである。ヒトMHCは、HLA(ヒト白血球抗原)複合体またはHLAとも称される。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、クラスIIIの3つのサブグループに分けられる。ペプチドとMHCクラスIの複合体が、適切なTCRを有するCD8陽性T細胞によって認識される一方で、ペプチドとMHCクラスII分子の複合体は、適切なTCRを有するCD4陽性ヘルパーT細胞によって認識される。CD8依存性およびCD4依存性の双方のタイプの応答が、抗腫瘍効果と共同して相乗的に寄与するので、腫瘍関連抗原および対応するTCRの同定および特性評価は、ワクチンおよび細胞療法などのがん免疫療法の開発において重要である。
【0047】
「MHC-I」という用語は、本発明の文脈において、MHCクラスI分子またはMHC-Iを指す。MHC I分子は、MHC I重鎖とも称されるα鎖と、β2ミクログロブリン分子を構成するβ鎖とからなる。α鎖は、3つのαドメイン、すなわち、α1ドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含んでなる。α1およびα2ドメインは、主にペプチドポケットの形成に寄与して、ペプチドリガンドMHC(pMHC)複合体を生成する。MHC-I典型的には、細胞質ゾル抗原性タンパク質に由来するペプチドに結合するが、それは、ユビキチン化後にプロテアソームによって分解され、引き続いて抗原処理(TAP)に関連する特定のトランスポーターを通じて細胞質ゾルルから小胞体(ER)に輸送される。MCHIは、典型的には、8~12アミノ酸長のペプチドに結合する。
【0048】
「MHC-II」という用語は、本発明の文脈において、MHCクラスII分子またはMHC-IIを指す。MHC-II分子は、α鎖とβ鎖からなり、α鎖は、2つのαドメイン、α1ドメイン、α2ドメインを含んでなり、β鎖は、2つのβドメイン、βドメイン1およびβドメイン2を含んでなるMHC IIは典型的にはER中折りたたまれて不変鎖と称されるタンパク質と複合体形成し、次に、後期エンドソームコンパートメントに輸送され、そこで、不変鎖はカテプシンプロテアーゼによって切断され、短い断片は、クラスII関連不変鎖ペプチド(CLIP)と称されるMHC IIのペプチド結合溝に結合したままである。次に、このプレースホルダーペプチドは通常は、エンドサイトーシスコンパートメント内で利用可能なタンパク質分解タンパク質に由来する親和性の高いペプチドと交換される。MHC-IIは、典型的には、10~30アミノ酸長のペプチド、または13~25アミノ酸長のペプチドに結合する。
【0049】
「HLA」という用語は、本発明の文脈において、異なるヒト間でアミノ酸配列が異なる分子を指す。しかし、HLAは、HLAの国際的に合意された命名法であるIMGT命名法によって同定され得る。HLA-A遺伝子は第6染色体の短腕上に位置し、HLA-Aのより大きなα鎖の構成物をコード化する。HLA-Aα鎖の多様性は、HLA機能の鍵である。この多様性は、集団の遺伝的多様性を促進する。各HLAは特定の構造のペプチドに対して異なる親和性を有することから、HLAの種類が多いほど、細胞表面に「提示」される抗原の種類も多くなる。各個人は、それぞれの親から1種類ずつ、最大2種類のHLA-Aを発現し得る。一部の個人は、両親から同一のHLA-Aを継承し、個々のHLAの多様性を減少させる。しかし、大多数の個人は、HLA-Aの2つの異なるコピーを受け継ぐ。全てのHLA群が、同じパターンに従う。換言すれば、全ての人間は、現在1740の活性タンパク質をコードする2432の既知のHLA-A対立遺伝子のうち、1つまたは2つだけを発現する。HLA-A02は特定のHLA対立遺伝子を表し、ここで文字Aは対立遺伝子が属するHLA遺伝子を表わし、接頭辞「02接頭辞」はA2血清型を示す。MHCクラスI依存性免疫反応では、ペプチドは、腫瘍細胞によって発現される特定のMHCクラスI分子に結合できる必要があるだけでなく、特定のTCRを有するT細胞によって認識される必要もある。
【0050】
「標的ペプチド」(TP)という用語は、本発明の文脈において、目的のタンパク質抗原(PAI)のより短いペプチド、部分または断片を指す。標的ペプチドのアミノ酸配列は、典型的には、8~12アミノ酸長、8~11アミノ酸長、または8~10アミノ酸長を含んでなる。好ましくは、標的ペプチドのアミノ酸配列は、典型的には8~11アミノ酸長を含んでなる。標的ペプチドは、MHC-I分子またはMHC-II分子に結合してもよい。標的ペプチドがMHC-IまたはMHC-II分子に結合するかどうかは、標的ペプチドの天然起源、すなわち、細胞質で合成されてプロテアソームでプロセスされるか、エンドサイトーシスによって吸収され引き続いてプロセスされるかに依存する。さらに、それがMHC-IまたはMHC-II分子の結合溝に結合するかどうかは、標的ペプチドの長さに依存する。一例では、8~12、8~11、または8~10アミノ酸長の標的ペプチドは、典型的には、MHC-Iに結合している。別の例では、標的ペプチドのアミノ酸配列は、13~23アミノ酸長、好ましくは13~18アミノ酸長を含んでなってもよい。13~25または13~18アミノ酸長の標的ペプチドは、典型的には、MHC-IIに結合している。
【0051】
「抗原複合体」(AC)と言う用語は、本発明の文脈において担体の表面に、例えば、MHCまたはそのペプチド結合部を通じて直接的または間接的に結合した抗原、または可溶性多量体化MHCまたはそのペプチド結合部分を含んでなる、複合体を指す。このような担体は、細胞または合成材料であり得る。抗原が細胞に付着する場合、細胞は抗原提示細胞(APC)、好ましくはヒトAPCであってもよい。担体の合成材料は、ビーズまたは粒子、好ましくはマイクロビーズ、微粒子またはナノ粒子であり得る。このようなビーズは、磁性または常磁性ビーズであり得る。ビーズまたは微粒子は通常ポリマーでできており、共役残基対の第1の構成員で、共有結合的にまたは非共有結合的に被覆され得る。共役残基対の第2の構成員は、MHCまたはそのペプチド結合部分に、共有結合的にまたは非共有結合的に共役している。第1および第2の共役残基の好ましい対は、ストレプトアビジンおよびビオチン構成員を含んでなる。当業者は、共役残基のその他の対を承知している。したがって、好ましい実施形態では、担体は、ビオチン部分を含んでなるMHC分子またはそのペプチド結合部分の固定化を可能にする、ストレプトアビジンで被覆されてもよい。逆に、ビオチンで被覆された担体は、ストレプトアビジン部分を含んでなるMHC分子またはそのペプチド結合部分の固定化を可能する。可溶性多量体化MHCまたはそのペプチド結合部分は、2つ以上のMHCを含んでなってもよく、ここで、それぞれは、共有結合的にまたは非共有結合的に、好ましくは共有結合的に、共役残基対の第3の構成員および共役残基対第4の構成員に共役し、ここで、第4の構成員は、第3の構成員に対して、少なくとも2つの結合部位、好ましくは3、4、5、6、7、または8つの結合部位、特に好ましくは4つの結合部位を有する。ビオチンは、共役残基対の好ましい第3の構成員であり、ストレプトアビジンは、共役残基対の好ましい第4の構成員である。ストレプトアビジンは、ビオチンに対して4つの結合部位を有する。したがって、ビオチンを含んでなるMHCペプチド複合体がストレプトアビジンと接触すると、その中で4つのペプチド負荷MHC(またはそのペプチド結合断片)がストレプトアビジンに非共有結合している、可溶性四量体が形成される。したがって、好ましい実施形態では、可溶性多量体化MHCまたはそのペプチド結合断片は、4つのMHCペプチド複合体を含んでなる複合体であり、ここで、MHCペプチド複合体のそれぞれは、1つのビオチンに共有結合的に付着し、これは次にストレプトアビジンに非共有結合的に結合する。
【0052】
「共役残基対」という用語は、高親和性で互いに特異的かつ非共有結合的に結合する、2つの実体を指す。好ましくは、Kは、10-10mol/L未満、より好ましくは10-11mol/L未満、より好ましくは10~12mol/L未満、なおもより好ましくは10-13mol/L未満である。好ましくは、結合対の構成員の少なくとも1つは、500g/mol未満の分子量を有する。このような分子は、TCRと相互作用するMHCの能力を妨げることなく、MHCまたはそのペプチド結合断片の1つの鎖に共有結合的に付着し得る。好ましい共役残基対は、ビオチン-ストレプトアビジン、およびビオチン-アビジンである。代案としては、共役残基対の1つの構成員は、MHCの1つの鎖に融合されたタンパク質であり得る。例としては、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、Strepタグのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ポリ(His)タグ、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、Spotタグ、T7タグおよびNEタグが挙げられる。対のもう一方の構成員は、それぞれのタンパク質タグ、すなわち、キチン、マルトース、ビオチン、グルタチオン、例えば、Niマトリックスなどの金属マトリックス)、またはV5-、Myc-、HA-、Spot-、T7-、またはNE-タグに特異的に結合する抗体によって決定される。
【0053】
「類似タンパク質抗原」(SPA)という用語は、本発明の文脈において、抗原結合タンパク質のパラトープが結合するエピトープを含んでなる、タンパク質またはタンパク質の部分またはタンパク質複合体を指す。SPAのアミノ酸配列は、PAIによって決定される。SPAのアミノ酸配列は、所与のPAI、すなわち目的のPAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なる。それは、PAIと同時にSPAに結合する、すなわち、PAIに対して所望の特異性および/または選択性を示さない、抗原結合タンパク質を同定する目的を果たす。このような抗原結合タンパク質は、腫瘍外/オフターゲット毒性を誘発することがある。所与のPAIと抗原結合タンパク質の組み合わせについて、SPAは次の3つのカテゴリーのいずれかに分類される:
(1)類似アミノ酸配列、同一エピトープ:
PAIと異なるSPAのアミノ酸が、所与のPAI特異的抗原結合タンパク質が結合するエピトープに寄与しない場合、抗原結合タンパク質は、PAIとSPAの双方に同一の親和性で結合する。この特性を有する抗原結合タンパク質は、本発明の方法によって対抗選択されるであろう。
(2)類似アミノ酸配列、類似エピトープ:
PAIと異なるSPAのアミノ酸の少なくとも1つが、PAI特異的抗原結合タンパク質が結合するエピトープに寄与する場合、次に抗原結合タンパク質は、PAIとSPAに異なる親和性で結合する。PAIよりもSPAに対して有意に低い結合を示す抗原結合タンパク質が、本発明の方法によって選択されてもよい。この点において有意により低い結合は、PAIおよびSPAへの結合の違いが、同一濃度のPAIおよびSPAで、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも70倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍であることを意味する。
(3)類似アミノ酸配列、異なるエピトープ:
分岐したアミノ酸が、所与のPAI特異的抗原結合タンパク質が結合するエピトープに寄与する位置にある場合、その抗原結合タンパク質はSPAに全く結合しなくてもよい。この特性を有する抗原結合タンパク質は、本発明の方法によって選択されるであろう。
【0054】
SPAのアミノ酸配列は、一般に、天然に存在するタンパク質のアミノ酸配列に基づいており、これは、このようなタンパク質が、腫瘍患者の健常組織上で発現されてもよいためである。好ましくは、SPAは、天然に存在するタンパク質またはその断片である。特に、SPAはPAIと同一種に存在する。したがって、本発明の方法に含まれるSPAは、カテゴリー(1)および(2)の抗原結合タンパク質の同定および逆選択を可能にするアミノ酸配列を有することが望ましい。SPAは、そのアミノ酸配列がPAIのアミノ酸配列と密接に関連している場合にのみ、不適切な抗原結合タンパク質の逆選択を可能にする可能性が高い。したがって、本発明の方法で使用されるSPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の類似性を有することが好ましい。したがって、好ましい実施形態では、SPAは、PAIのアミノ酸配列と1~20個、より好ましくは2~10個のアミノ酸が異なる。SPA、特に本発明の方法で使用される標的類似ペプチド(TSP)は、好ましくは細胞あたり10を超えるコピー数、好ましくは細胞あたり20を超えるコピー数、好ましくは細胞あたり50を超えるコピー数、および好ましくは細胞あたり100を超えるコピー数で、健常組織上で発現されることが好ましい。発現の相対強度は、蛍光標識された抗原結合タンパク質を用いた健常細胞および罹患細胞のFACS分析、または質量分析をはじめとする、様々な当該技術分野で知られている方法によって判定され得る。遺伝子発現解析はまた、RNA配列決定アプローチを使用して実施され得る。本発明の方法で使用されるSPAを選択するための別の基準は、初代正常組織上でのその提示頻度である。頻度は、所与の健常組織、例えば、細胞のSPAの数を定義するコピー数とは対照的に、SPAがどの程度の頻度で正常組織、すなわち健常組織上で提示されるかを記述する。コピー数と共に、頻度は、所与のPAIのSPAを選択するための重要な基準である。PAIとの類似性が高いほど、そして正常組織上の提示頻度と細胞あたりのコピー数(CpC)が高いほど、SPAの類似性が高くなる。
【0055】
「標的類似ペプチド」(TSP)という用語は、本発明の文脈において、SPAのより短いペプチド、部分または断片を指す。TSPのアミノ酸配列は、典型的には、8~16アミノ酸長を含んでなる。TSPは、典型的にはMHC提示型である。SPAと同様に、TSPは、TPのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の類似性を有する。TSPは、典型的には、8~12、好ましくは8~11アミノ酸長などの8~16アミノ酸長を有する。特に、TSPはMHC-Iに結合するときに、8~11または8~12アミノ酸長を有する。別の例では、TSPはMHC-IIに結合するときに、典型的には、13~25アミノ酸長を有する。TSPは、上記の類似性スコアを満たす限り、TPと1つまたは複数のアミノ酸が異なっていてもよく、それは以下に説明するように判定されてもよい。したがって、8アミノ酸長のTSPのアミノ酸配列を所与のTPと整列させたとき、それは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~8個のアミノ酸を含んでなってもよい。その他のアミノ酸は、TPと同一または異なってもよい。したがって、9アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~9個のアミノ酸を含んでなってもよく;10アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~10個のアミノ酸を含んでなってもよく;11アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~11個のアミノ酸を含んでなってもよく;12アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~12個のアミノ酸を含んでなってもよい。TSPがMHC IIに結合している場合、それは典型的には13~25アミノ酸長を有し、13アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~13個のアミノ酸を含んでなってもよく;14アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~14個のアミノ酸を含んでなってもよく;15アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~15個のアミノ酸を含んでなってもよく;16アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~16個のアミノ酸を含んでなってもよく;17アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~17個のアミノ酸を含んでなってもよく;18アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~18個のアミノ酸を含んでなってもよく;19アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~19個のアミノ酸を含んでなってもよく;20アミノ酸長のTSPは、TPの対応するアミノ酸に類似した1~20個のアミノ酸を含んでなってもよい。本発明の方法で使用されるTSPを選択するための別の基準は、初代正常組織上でのその提示頻度である。提示頻度は、所与の健常組織の異なるサンプル上のTSPの数を定義するコピー数とは対照的に、TSPがどの程度の頻度で正常組織、すなわち健常組織上で提示されるかを記述し、例えば、脂肪組織の12サンプルのうち6サンプルで特定のTSPが検出された場合、その頻度は50%である。所与のTSPの提示頻度は、実施例4で使用されるようなMS分析をはじめとする当該技術分野で知られている方法によって判定され得る(3つの異なるTSPの提示頻度を示す、図6~8を参照されたい)。したがって、少なくとも1つの健常組織で少なくとも10%、好ましくは少なくとも1つの健常組織で少なくとも20%。少なくとも1つの健常組織で少なくとも30%の提示頻度を有するTSPが、本発明の方法で使用されることが好ましい。好ましくは、選択されたTSPは、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの健常組織に提示される。これらの組織は、図6および図7で、TSP1およびTSP2の発現について分析されたものから選択されるのが好ましい。
【0056】
コピー数と共に、頻度は、所与のTPのTSPを選択するための重要な基準である。TPとの類似性が高ほど、そして正常組織上の提示頻度とCpCが高いほど、TSPの関連性が高くなる。
【0057】
「無関係の抗原複合体」(IAC)という用語は、本発明の文脈において、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなるACを指す。このようなACは、例えば、APC、または可溶性である多量体化MHC-ペプチド複合体、または担体上に固定化されたMHC-ペプチド複合体であり得る。無関係のタンパク質抗原は、以下で定義される。
【0058】
「無関係のタンパク質抗原」(IPA)という用語は、本発明の文脈において、選択されたTCRが結合しないタンパク質抗原を指す。TCRは、それぞれの標的ペプチドの結合についてスクリーニングされる。TCRがその標的ペプチドに結合すると、所望の免疫反応またはT細胞媒介免疫応答が引き起こされる。無関係のペプチドにはスクリーニング中にTCRが結合しないので、このような所望の免疫応答は、無関係のペプチドによって引き起こされないであろう。IPAは、ハウスキーピング遺伝子によってコード化されるタンパク質であってもよい。典型的には、IPAは、TPのアミノ酸配列と、少なくとも50%未満、少なくとも40%未満、少なくとも30%未満、少なくとも20%未満、少なくとも10%未満の類似性を有する。
【0059】
「無関係のペプチド」(IP)という用語は、本発明の文脈において、IPAのより短いペプチド、部分または断片を指す。IPのアミノ酸配列は、典型的には8~16アミノ酸長を含んでなる。このようなIPは、典型的にはMHC-Iに結合している。いくつかの例では、IPがMHC-IIに結合している場合、IPは13~25アミノ酸長を含んでなってもよい。MHC-IIに結合している場合、IPはまた、13~18アミノ酸長を含んでなってもよい。IPは、ハウスキーピング遺伝子によってコードされてもよい。
【0060】
「ハウスキーピング遺伝子」は、本発明の文脈において、典型的には、基本的な細胞機能の維持に必要とされる構成的遺伝子であり、正常および病態生理学的条件下で生物の全ての細胞で発現される。一部のハウスキーピング遺伝子は、ほとんどの非病理学的状況で比較的一定の速度で発現するが、その他のハウスキーピング遺伝子の発現は、実験条件によって変動してもよい。ハウスキーピング遺伝子はゲノム内の活性遺伝子の大部分を占めており、それらの発現は明らかに生存に不可欠である。ハウスキーピング遺伝子の発現レベルは、様々な組織の代謝要件を満たすように微調整されている。ハウスキーピング遺伝子の例としては、以下が挙げられる(網羅的ではない)。転写因子、翻訳因子、リプレッサー分子、RNAスプライシング分子、RNA結合タンパク質、リボソームタンパク質、ミトコンドリアリボソームタンパク質、RNAポリメラーゼ、タンパク質プロセシング遺伝子、熱ショックタンパク質、ヒストン、細胞周期、アポトーシス、発がん遺伝子、DNA修復、DNA複製;例えば、炭水化物代謝、クエン酸サイクル、脂質代謝、アミノ酸代謝に関与する遺伝子などの代謝に関与する遺伝子;NADHデヒドロゲナーゼ、チトクロームCオキシダーゼ、ATPアーゼ、リソソーム、プロテアソーム、リボヌクレアーゼ、チオレダクターゼ、受容体、チャネル、トランスポーター、HLA/免疫グロブリン/細胞認識、キナーゼ、細胞骨格、増殖因子、腫瘍壊死因子α。IPAと同様に、IPは、TPのアミノ酸配列と、少なくとも50%未満、少なくとも40%未満、少なくとも30%未満、少なくとも20%未満、少なくとも10%未満、好ましくは少なくとも30%未満、少なくとも20%未満、少なくとも10%未満の類似性を有する。
【0061】
「アミノ酸配列同一性」という用語は、本発明の文脈において、配列同一性の百分率を指し、比較ウィンドウ全体にわたって2つの最適に整列させた配列を比較することによって判定され、ここで、比較ウィンドウ内の配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでなり得る。百分率は、双方の配列中で同一核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置数を判定し、整合位置数を得て、整合位置数を比較ウインドウ中の位置総数で除算し、結果に100を乗じて配列同一性の百分率を得ることで、計算される。
【0062】
「同一」という用語は、2つ以上のポリペプチドまたは核酸配列の文脈において、同一の、すなわち、アミノ酸または核酸の同一配列を含む2つ以上の配列または部分配列を指す。以下の配列比較アルゴリズムのいずれかを用いて、または手動のアライメントと目視検査による測定で、比較ウィンドウ、または指定された領域全体にわたる最大の一致のために比較され、アライメントされた場合に、配列が同一アミノ酸残基の指定された百分率(例えば、指定された領域にわたり、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性)を有する場合、それらは互いに「実質的に同一」である。また、これらの定義はまた、試験配列の相補性も指す。したがって、「少なくとも80%の配列同一性」という用語は、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列の比較に関して、本明細書全体を通して使用される。この表現は、好ましくは、それぞれの参照ポリペプチドまたはそれぞれの参照ポリヌクレオチドに対する、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を指す。
【0063】
「配列比較」という用語は、本発明の文脈において、1つの配列が参照配列の役割を果た用し、それに対して試験配列が比較されるプロセスを指す。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験および参照配列がコンピュータに入力されて、必要ならば部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトプログラムパラメータが一般に使用され、または代案のパラメータが指定され得る。次に配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて、標準配列と比較して、試験配列のパーセント配列同一性または類似性を計算する。2つの配列が比較され、配列同一性百分率が計算される比較において参照配列が指定されていない場合、配列同一性は、特に明記されていない限り、比較される2つの配列のうちより長い方を参照して計算される。参照配列が示されている場合、配列同一性は、特に明記されていない限り、配列番号によって示される参照配列の全長に基づいて判定される。
【0064】
配列アラインメントにおいて、「比較ウィンドウ」という用語は、同数の位置を有する配列の連続した位置の参照ストレッチと比較された、配列の連続した位置のストレッチである。好ましくはTPであるPAIの全長が、それぞれSPAおよびTSPとのアライメントにおいて、比較ウィンドウとして使用されることが好ましい。TPが例えば、10アミノ酸長のMHC I提示ペプチドである場合、類似性は10アミノ酸の比較ウィンドウ内で判定される。この場合、1つのアミノ酸の不一致がある9アミノ酸長のSPAは、所与のTPに対して80%の同一性を有する。
【0065】
比較のための配列アラインメント法は、当該技術分野で周知である。比較のための最適配列アラインメントは、例えば、Smith and Waterman(Adv.Appl.Math.2:482,1970)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch(J.Mol.Biol.48:443,1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444,1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理実装(例えば、Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wいs.中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって、または手動のアライメントと目視検査によって(例えば、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1995 supplement)を参照されたい)実施され得る。パーセント配列同一性および配列類似性を判定するのに適したアルゴリズムは、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al.(Nuc.Acids Res.25:3389-402,1977)、およびAltschul et al.(J.Mol.Biol.215:403-10,1990)に記載されている。BLAST分析実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。このアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させたときに、ある正の値の閾値スコアTに一致するか、またはそれを満たす、クエリ配列中の長さWのショートワードを同定することによって、高スコアの配列ペア(HSP)を同定することを伴う。Tは、隣接ワードスコア閾値と称される(Altschul et al.,前出)。これらの最初の近隣ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけるための検索を開始するためのシードとして機能する。累積アラインメントスコアが増加する限り、ワードヒットは各配列に沿って双方向に延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(一致する残基のペアの報酬スコア;常に>0)およびN(不一致の残基のペナルティスコア;常に<0)を使用して計算される。アミノ酸配列では、重み行列を用いて累積スコアが計算される。各方向へのワードヒットの延長は、累積アラインメントスコアが、最大達成値から数量Xだけ低下し;1つまたは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積により、累積スコアがゼロ以下になり;または、いずれか配列の末端に到達した場合に停止される。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、およびXは、アラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、初期設定として、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4、および双方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列では、BLASTPプログラムは初期設定として、ワード長3、期待値(E)10、およびBLOSUM62重み行列50(Henikoff and Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915,1989を参照されたい)アラインメント(B)、期待値(E)10、M=5、N=4、双方の鎖の比較を使用する。
【0066】
2つのアミノ酸配列の「類似性」という用語は、所与の位置にある2つのアミノ酸の関連性を考慮に入れる(例えば、以下の表4を参照されたい)。例えば、TPとTSPなどの2つのアミノ酸配列の類似性は、2つの配列間の類似性の統計解析を遂行するBLASTアルゴリズムを用いて判定され得る(例えば、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-87,1993を参照されたい)。このようなアライメントのための好ましい設定は:ワード長3および期待値(E)10、およびBLOSUM62またはPMBEC重み行列(Kim et al.2009 BMC Bioinformatics)の使用であり、好ましくは類似性の判定には、PMBEC重み行列が用いられる。これらの行列は、例えば、アミノ酸間の進化的または機能的類似性に基づいて、アミノ酸類似性を定量化するが、これは、物理化学的パラメーターによる類似性と良好に相関する。所与のTP配列のアミノ酸の置換毎に、これらの行列を用いてスコア(10進値)が計算され得るが、これは、TP配列のアミノ酸とTSP配列の置換アミノ酸との類似性を示す。TP配列内の個々の置換の効果(スコア)を合計することによって、複数の置換が検討され得る。定義上、TSPで達成され得る最大スコアが、非置換TP配列によって提供される一方で、TSPをもたらす置換は、重み行列でペナルティが課せられ、最終的にTSPのスコアが低くなる。ただしこの最大スコアはTPの長さとアミノ酸配列に依存する(すなわち、異なるTP配列は異なる最大スコアを有する)。一般的に、アミノ酸配列が長いほど、スコアは高くなる。ただしTPのスコアは、それを構成するアミノ酸に割り当てられたスコアに依存する。異なるTP配列の最大スコアの違いを考慮せず、TPを基準としたTSPの類似性を計算および比較できるようにするために、Pを基準としたTSPの類似性TSPのを計算した結果であるそれぞれの10進値が百分率スコアに変換され、したがって、TP配列の最大スコアは常に100%になる。
【0067】
BLASTアルゴリズムによって提供される、類似性の別の尺度は、最少確率和(P(N))であり、これは、アミノ酸配列間の一致が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、試験アミノ酸と参照アミノ酸との比較における最少確率和が、約0.2未満、典型的には約0.01未満、より典型的には約0.001未満である場合、アミノ酸は参照配列に類似していると見なされる。アミノ酸が化学的に関連するアミノ酸で置換されている、半保存的、特に保存的アミノ酸置換が好ましい。典型的な置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を有するアミノ酸間、または芳香族残基を有するアミノ酸間である。典型的な半保存的および保存的置換が、以下の表4に示される。
【0068】
【表4】
【0069】
新規システインが遊離チオールとして残留する場合、A、F、H、I、L、M、P、V、W、またはYからCへの変化は、半保存的である。さらに、当業者であれば、立体的に要求の厳しい位置にあるグリシンを置換すべきではなく、αらせん状のまたはβシート構造を有するタンパク質の部分に、Pが導入されるべきではないことを理解するであろう。
【0070】
「検出可能標識」と言う用語は、本発明の文脈において、標識が発揮する性質または具体的特性により、この異なる分子を選択できるようにすることで、異なる分子または細胞を標識する分子を指す。標識に適格な分子は、タンパク質、DNAまたはRNA、またはビーズなどの合成材料、またはその他の適切な材料である。タンパク質については、ビオチン、レポーター酵素、フルオロフォア、磁気標識、放射性同位体などの異なる分子と、標的タンパク質またはペプチドまたはヌクレオチド配列とを共有結合させる、標識ストラテジーがある。単一細胞は、短いDNAまたはRNAバーコード「タグ」を使用して標識され、配列決定実験で同一細胞に由来する読み取りが同定され得る。標識は、例えば、キサンテン、アクリジン、オキサジン、シアニン、スチリル染料、クマリン、ポルフィン、金属リガンド錯体、蛍光タンパク質、ナノ結晶、ペリレンおよびフタロシアニン、フィコエリトリン(SA-PE)、ストレプトアビジン-アロフィコシアニン(SA-APC)、またはストレプトアビジン-ブリリアント-バイオレット421(SA-BV421)などの蛍光標識;RNAバーコードまたはDNAバーコード、または放射性標識であってもよい。放射性標識は、典型的には、1つまたは複数の原子が放射性対応物、すなわち放射性同位体によって置き換えられている分子である。タンパク質、ペプチド、DNAまたはRNAは、放射性に標識されてもよい。磁気標識は、例えば、特定の表面抗原に対する抗体で被覆され得る、磁性ビーズまたは磁性ナノ粒子を含んでなってもよい。磁気標識は、磁気活性化細胞選別(MACS)で使用されてもよい。
【0071】
「検出可能に異なる」という用語は、本発明の文脈において、2つの標識が存在するが、それらが発するシグナルのみが異なってもよいシナリオを指す。例えば、2つの細胞は蛍光標識で標識されてもよく、したがって標識自体の特性、すなわち蛍光によって区別することはできない。しかし、一方の細胞に付着した蛍光標識は赤色シグナルを送ってもよく、他方の細胞に付着した蛍光標識は緑色シグナルを送ってもよい。したがって、例示された細胞の2つの標識は、検出可能に異なる。
【0072】
「フローサイトメトリー分析」という用語は、本発明の文脈において、サンプル中の特定の細胞集団または細胞亜集団の化学的および物理的特性の測定を含んでなる選別技術を指す。サンプルは通常、懸濁液であり、典型的にはフルオロフォアを励起するレーザービームと光検出器である、検出装置を通じて、一度に1つの細胞が流れるように調節される。例えば、細胞の流れによって散乱された光などの検出されたシグナルは、細胞、すなわちその構成要素に特徴的である。この技術によって、複数の細胞が短時間で分析され得る。フローサイトメトリーの日常的な用途は、細胞カウント、細胞選別、細胞の特性と機能の判定、例えば、がんなどの疾患の診断、バイオマーカーの検出、または微生物の検出である。一般的なフローサイトメトリー技術は、蛍光活性化細胞選別(FACS)である。FACS技術は、特定の細胞集団の個々の標識プロファイルに基づいた細胞選別を可能にする、蛍光染料タグまたは標識で標的細胞を標識する能力を利用する。
【0073】
「磁気活性化細胞選別」(MACS)という用語は、特定の細胞表面抗原に対応する抗体にコンジュゲートされた機能的なミクロ粒子またはナノ粒子を利用する選別技術を指す。磁場勾配の適用下で、磁気的に標的化された細胞は、使用される抗原に関して正の様式または負の様式のどちらかで分離され得る。当業者は、異なる種類の選別分析を良く承知している。
【0074】
「特異的に結合する」という用語は、本発明の文脈において、標的が特異的結合部位と非特異的結合部位を含んでなる場合に、例えば、抗体またはその断片、TCRまたはその断片などの抗原結合タンパク質またはその断片が、その標的の特異的結合部位に結合することを指す。しかし、密接に関連するタンパク質へのタンパク質結合が避けられない場合、標的への実際の結合は特異的であっても、タンパク質は、意図された標的結合に関して非特異的であると見なされることがある。本発明の抗原結合タンパク質またはその断片は、RTで表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されたときに、10-5M以下のKで抗原に結合する場合、所与の抗原に特異的に結合すると考えられる。結合部分が特異的に結合する標的の解離定数(K)は、例えば、類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくは標的類似ペプチド(TSP)などの、抗原結合タンパク質の結合部分またはその断片が特異的に結合しない標的の解離定数(K)の少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、少なくとも7分の1、10分の1、好ましくは少なくとも20分の1、より好ましくは少なくとも50分の1、なおもより好ましくは少なくとも100分の1、200分の1、500分の1または1000分の1である
【0075】
典型的には、所与のTPに特異的に結合する本発明の抗原結合タンパク質がTCRまたはその断片である場合、それは、3×10-5~1×10-7、2×10-5~5×10-7、1×10-5~1×10-6or5×10-6~1×10-6の範囲のKを有する。この状況では、抗原結合タンパク質が、同時にTPに対して、例えば、TSPなどの、それに対して抗原結合タンパク質の結合部分が特異的に結合しない標的に対するKの少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、少なくとも7分の1、10分の1、好ましくは少なくとも20分の1、より好ましくは少なくとも50分の1、なおもより好ましくは少なくとも100分の1、200分の1、500分の1または1000分の1であるKを有することが好ましく、したがって、例えば、選択されたTCRは、1×10-6のKでTPに、1×10-5のKでTSPに、結合してもよい。
【0076】
典型的には、所与のTPに特異的に結合する本発明の抗原結合タンパク質が、親和性成熟TCRまたはその断片であるか、またはTCER(登録商標)分子またはその断片などの二重特異性形態の可溶性分子またはその断片である場合、Kは、9×10-9~1×10-12、8×10-9~5×10-12、7×10-9~1×10-11、6×10-9~2×10-11、5×10-9~5×10-11、4×10-9~8×10-11、3×10-9~1×10-10の範囲である。この状況では、抗原結合タンパク質が、同時にTPに対して、例えば、TSPなどの、それに対して抗原結合タンパク質の結合部分が特異的に結合しない標的に対するKの少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、少なくとも7分の1、10分の1、好ましくは少なくとも20分の1、より好ましくは少なくとも50分の1、なおもより好ましくは少なくとも100分の1、200分の1、500分の1または1000分の1であるKを有することが好ましく、本明細書で「TCER(登録商標)」分子または「TCER(登録商標)」と称される二重特異性形態の分子は、典型的には、T細胞上の表面分子に特異的に結合する第1のポリペプチドと、MHC-ペプチド複合体に特異的に結合する第2のポリペプチドとを含んでなる。
【0077】
典型的には、本発明の抗原結合タンパク質が、抗体またはその断片、または所与のPAIに特異的に結合するB細胞である場合、Kは、9×10-9~1×10-12、8×10-9~5×10-12、7×10-9~1×10-11、6×10-9~2×10-11、5×10-9~5×10-11、4×10-9~8×10-11、3×10-9~1×10-10の範囲である。この状況では、抗原結合タンパク質が、同時にPAIに対して、例えばSPAなどの、それに対して抗原結合タンパク質の結合部分が特異的に結合しない標的に対するKの少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、少なくとも7分の1、10分の1、好ましくは少なくとも20分の1、より好ましくは少なくとも50分の1、なおもより好ましくは少なくとも100分の1、200分の1、500分の1または1000分の1であるKを有することが好ましい。
【0078】
場合によっては、特にTCRの文脈において、本発明の抗原結合タンパク質が所与のTPに特異的に結合するかどうかは、例えば、IFNγ-放出アッセイなどのTCR活性化アッセイにおいて、機能アッセイを用いて決定されるかもしれない。したがって、特異的結合は、TPに対して検出されるシグナルなどの応答が、このようなアッセイでTSPに対して得られる応答、すなわちシグナルの30%を超え、40%を超え、50%を超え、60%を超え、70%を超え、80%を超え、90%を超え、100%を超えることで特徴付けられてもよい。
【0079】
「選択的結合」という用語は、本発明の文脈において、好ましくは1つの特異的エピトープのみを選択的に認識または結合し、好ましくは別のエピトープ、ペプチドまたはタンパク質との結合がないか、実質的にない(交差反応性がない)、TCRまたは抗体などの抗原結合タンパク質の特性を指す。フローサイトメトリーによるエピトープ結合の閾値の評価は、非四量体染色対照を使用して評価され得る。ゲートは、0.01%未満の細胞がこのゲートに現れるように、非四量体染色対照に応じて設定され得る。このゲートは、目的の四量体で染色された同一ドナーからのサンプルに適用され得る。このゲートに現れる細胞は、目的のエピトープに選択的に結合すると考えられている。
【0080】
「T細胞受容体」(TCR)という用語は、本発明の文脈において、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変タンパク質に関連する、免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質を指す。TCRはαβおよびγδ形態で存在し、それらは構造的に類似しているが、かなり異なる解剖学的位置とおそらくは機能を有する。天然のヘテロ二量体αβTCRおよびγδTCRの細胞外部分は、それぞれ2つのポリペプチドを含有し、そのそれぞれは膜近位定常ドメインおよび膜遠位可変ドメインを有する。定常ドメインおよび可変ドメインのそれぞれは、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似した、高度に多型性のループを含有する。TCR遺伝子治療の使用は、いくつかの現在のハードルを克服する。それは、対象(患者)自身のT細胞に所望の特異性を与えて、十分な数のT細胞を短期間で生成できるようにし、それらの枯渇を回避する。TCRは強力なT細胞(例えば、中央メモリーT細胞または幹細胞特性を有するT細胞)に形質導入され、それは移入時に良好な持続性、保存、および機能を確実にしてもよい。TCR操作T細胞は、化学療法または照射によってリンパ球減少症になったがん患者に注入され、効率的な生着ができるようにするが、免疫抑制は阻害する。天然α-βヘテロ二量体TCRは、α鎖およびβ鎖を有する。各α鎖は可変領域、連結領域、および定常領域を含んでなり、β鎖は通常、可変領域と連結領域の間の短い多様性領域もまた含有するが、この多様性領域はしばしば連結領域の一部と見なされる。TCRα鎖およびβ鎖の定常領域またはC領域は、それぞれTRACおよびTRBCと称される(Lefranc,(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1:Appendix 10)。本明細書でα可変ドメインおよびβ可変ドメイン称される各可変領域は、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの「相補性決定領域」(CDR)を含んでなり、1つはCDR3と命名された超可変領域である。α可変ドメインCDRは、CDRa1、CDRa2、CDRa3と称され、β可変ドメインCDRは、CDRb1、CDRb2、CDRb3と称される。それらのフレームワークによって、CDR1およびCDR2配列によって、ならびに部分的に定義されたCDR3配列によって区別される、数種類のα鎖可変(Vα)領域および数種類のβ鎖可変(Vβ)領域がある。Vαタイプは、IMGT命名法で一意のTRAV番号によって参照され、Vβタイプは、IMGT命名法で一意のTRBV番号によって参照される(Folch and Lefranc,(2000),Exp Clin Immunogenet 17(1):42-54;Scaviner and Lefranc,(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2):83-96;LeFranc and LeFranc,(2001),”T-cell Receptor Factsbook”,Academic Press)。免疫グロブリン抗体とTCR遺伝子の詳細については、international ImMunoGeneTics information system(登録商標),Lefranc M-P et al(Nucleic Acids Res.2015 Jan;43(Database issue):D413-22;およびhttp://www.imgt.org/)を参照されたい。従来のTCR抗原結合部位には、通常、αおよびβ鎖可変領域のそれぞれからのCDRセットを含んでなる、6つのCDRが含まれ、ここで、CDR1およびCDR3配列は、MHCタンパク質に結合するペプチド抗原の認識および結合に関連し、CDR2配列は、MHCタンパク質の認識および結合に関連する。抗体と類似して、TCRは、CDRの間に、すなわち、異なるTCR間で比較的保存されているTCRα鎖およびβ鎖可変領域の部分に、挿入されたアミノ酸配列であるフレームワーク領域を含んでなる。TCRのα鎖およびβ鎖は、それぞれ4つのFRを有しており、本明細書で、それぞれFR1-a、FR2-a、FR3-a、FR4-a、およびFR1-b、FR2-b、FR3-b、FR4-bと称される。したがって、α鎖可変ドメインは、このように(FR1-a)-(CDRa1)-(FR2-1)-(CDRa2)-(FR3-a)-(CDRa3)-(FR4-a)と称されてもよく、β鎖可変ドメインは、このように(FR1-b)-(CDRb1)-(FR2-b)-(CDRb2)-(FR3-b)-(CDRb3)-(FR4-b)と称されてもよい。
【0081】
「ウイルスまたは細菌によって引き起こされる疾患」はまた、ウイルスまたは細菌感染症と称されてもよい。本発明の文脈において、疾患を引き起こすウイルスは、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒトパピローマウイルス感染(HPV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザウイルス、好ましくはヒト免疫不全ウイルス(HIV)から構成される群から選択されてもよい。本発明の文脈において、疾患を引き起こす細菌は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)であってもよい。したがって、この細菌によって引き起こされる疾患は結核である。当業者であれば、抗原結合タンパク質が、例えば、HIVペプチドなどのウイルス抗原ペプチドを標的化する場合、抗原結合タンパク質がHIVの治療に使用されてもよいことを理解するであろう。したがって、ウイルスまたは細菌の抗原性ペプチドTA-Cを標的化する抗原結合タンパク質は、前記抗原性ウイルスまたは細菌の抗原性ペプチドがそれに由来する、ウイルスまたは細菌の治療に使用するのに適する。
【0082】
「免疫疾患」という用語は、本発明の文脈において、免疫系によって引き起こされる疾患を指す。「疾患」と言う用語は、組織、臓器、または個体がその機能を効率的に果たせなくなった異常な状態、特に疾患または傷害などの医学的な異常状態を指す。対照的に、異常な状態が存在せず、組織、臓器、または個体に病理学的所見がない場合に、本明細書で健康な組織、臓器、または個体と言及される。健常組織では、細胞のランダムな遊走は見られず、細胞は組織を特徴付ける構造で互いに接着し、その機能を支援する。健常組織には、転移がない。典型的には、必ずしもそうとは限らないが、疾患は、そのような疾患の存在を示す特定の症状または徴候に関連している。したがって、このような症状または徴候の存在は、組織、臓器、または個人が、疾患に罹患していることを示唆してもよい。これらの症状または徴候の変化は、このような疾患の進行を示唆してもよい。疾患の進行は、このような症状または徴候の増加または減少によって特徴付けられ、これは典型的には、疾患の「悪化」または「改善」を示唆してもよい。疾患の「悪化」は、組織、臓器、または生物が、その機能を効率的に果たす能力の低下によって特徴付けられる一方、疾患の「改善」は、典型的には、組織、臓器、または個人が、その機能を効率的に果たす能力の増加によって特徴付けられる。疾患の「発症リスク」のある組織、臓器、個人は、健康な状態にあるが、疾患を発症する可能性がある状態を示す。典型的には、疾患を発症するリスクは、そのような疾患の初期のまたは弱い徴候または症状に関連する。このような場合でも、治療によって疾患の発症がなおも予防されてもよい。疾患の例としては、これらに限定されるものではないが、感染症、外傷性疾患、炎症性疾患、皮膚疾患、内分泌疾患、腸疾患、神経障害、関節疾患、遺伝性疾患、自己免疫疾患、および様々なタイプのがんが挙げられる。本明細書で定義される健常組織は、通常、健常細胞を含むか、またはそれからなる。
【0083】
「腫瘍性疾患」という用語は、本発明の文脈において、腫瘍としても知られている、細胞の異常な増殖によって特徴付けられる疾患を指す。腫瘍性疾患は、腫瘍の増殖を引き起こす病状である。悪性腫瘍はがん性であり、緩慢にまたは急速に増殖し、転移または複数の組織および臓器への拡散のリスクを伴い得る。「腫瘍」とは、急速な無制御の細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始した刺激がなくなった後も成長を続ける、異常な細胞または組織のグループを意味する。腫瘍は、正常組織との構造的組織化および機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は明瞭な組織の塊を形成しており、良性または悪性のどちらかである。腫瘍性疾患は、がんを引き起こしてもよく、例示的ながんタイプの疾患としては、これらに限定されるものではないが、基底細胞がん腫、膀胱がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、バーキットリンパ腫、子宮頸がん、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、食道がん、網膜芽細胞腫、胃がん、消化管間質腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、中咽頭がん、卵巣がん、膵臓がん、胸膜肺芽腫、前立腺がん、咽喉がん、甲状腺がん、および尿道がんが挙げられる。
【0084】
「治療する」または「治療」という用語は、本発明の文脈において、例えば、それを必要とする対象、すなわち、疾患または障害に罹患している対象のための治療的使用を指し、このような疾患、障害または病状の1つまたは複数の症状の進行を逆転、緩和、阻害することを意味する。したがって、治療は、疾患の完全な治癒をもたらす治療だけでなく、疾患の進行を遅らせ、および/または対象の生存を延長する治療も指す。
【0085】
「免疫細胞特異的表面マーカー」という用語は、本発明の文脈において、免疫細胞の同定および分類を助けるためのモノグラムとして機能する、細胞表面抗原を指す。異なるT細胞サブタイプを特徴付けるこのようなマーカーの例は、上記の表1に示される。免疫細胞特異的表面マーカーのほとんどは、細胞の原形質膜内の分子または抗原である。これらの分子はマーカーとして機能するだけでなく、重要な機能的役割も有する。
【0086】
「増殖因子」または「分化因子」という用語は、本発明の文脈において同義的に使用され、細胞成長、細胞増殖、および細胞分化を刺激し、複数の細胞プロセスを調節できる分子を指す。増殖因子は通常、タンパク質またはステロイドホルモンである。優勢な分子の例を以下に列挙する(網羅的ではない列挙)。コロニー刺激因子(CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの増殖因子;上皮成長因子(EGF);エリスロポエチン(EPO);線維芽細胞増殖因子(FGF);ウシ胎仔ソマトトロピン(FBS);肝細胞増殖因子(HGF);インスリン;インスリン様増殖因子(IGF);インターロイキン;ニューレグリン;ニューロトロフィン;T細胞増殖因子(TCGF);形質転換成長因子(TGF);腫瘍壊死因子α(TNFα);血管内皮増殖因子(VEGF)。
【0087】
「核酸」という用語は、本発明の文脈において、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド塩基、またはその双方の一本鎖または二本鎖オリゴまたはポリマーを指す。ヌクレオチドモノマーは、核酸塩基、五炭糖(リボースまたは2’-デオキシリボースなどであるがこれらに限定されるものではない)、および1~3つのリン酸基からなる。典型的には、核酸は、個々のヌクレオチドモノマー間のリン酸ジエステル結合を通じて形成されるが、本発明の文脈において、核酸という用語は、リボ核酸(RNA)およびデオキシリボ核酸(DNA)分子を含むがこれらに限定されず、その他の連結体からなる核酸の合成形態も含む(例えば、peptide nucleic acids as described in Nielsen et al.(Science 254:1497-1500,1991)。典型的には、核酸は一本鎖または二本鎖分子であり、天然に存在するヌクレオチドからなる。核酸の一本鎖の描写はまた、(少なくとも部分的に)相補鎖の配列を画定する。核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、または二本鎖および一本鎖配列の双方の部分を含有してもよい。例示された二本鎖核酸分子は、3’または5’のオーバーハングを有し得て、したがって、それらの全長にわたって完全に二本鎖である必要はなく、または想定もされない。本発明の核酸は、生物学的、生化学的、化学的合成法によって、または増幅法、およびRNAの逆転写法をはじめとするがこれらに限定されるものではない、当技術分野で知られている方法のいずれかによって得られてもよい。核酸という用語は、染色体または染色体のセグメント、ベクター(例えば、発現ベクター)、発現カセット、裸のDNAまたはRNAポリマー、プライマー、プローブ、cDNA、ゲノムDNA、組換えDNA、cRNA、mRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)または低分子干渉RNA(siRNA)を含んでなる。核酸は、例えば、一本鎖、二本鎖、または三本鎖であり得て、その長さは特に限定されない。別段の指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された任意の配列に加えて、相補的な配列を含んでなりまたはそれをコード化する。
【0088】
本発明の文脈において、「ベクター」という用語は、関心のあるタンパク質をコード化するポリヌクレオチド、またはポリペプチドと関心のあるタンパク質をコード化するポリヌクレオチドとを含んでなる混合物を指し、この混合物は、細胞内に導入されることができ、またはそれが含んでなるタンパク質および/または核酸を細胞内に導入できる。ベクターの例としては、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、または人工染色体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ベクターを使用して、例えば、外来性または異種DNAなどの関心のある遺伝子産物が宿主細胞に導入される。ベクターは、宿主細胞におけるベクターの自律複製を容易にする「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含有してもよい。外来性DNAは異種DNAとして定義され、これはベクター分子を複製し、選択可能またはスクリーニング可能なマーカーをコード化し、または導入遺伝子をコード化する、宿主細胞内で天然に見られないDNAである。宿主細胞に入ると、ベクターは宿主染色体DNAとは独立してまたは同時に自己複製し得て、ベクターおよびその挿入DNAの複数のコピーが生成され得る。さらに、ベクターは、挿入されたDNAのmRNA分子への転写を可能にするのに、さもなければ挿入されたDNAをRNAの複数のコピーに複製させるのに、必要な要素もまた含み得る。ベクターは、関心のある遺伝子の発現を調節する「発現制御配列」をさらに包含してもよい。典型的には、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、またはリプレッサーなどのポリペプチドまたはポリヌクレオチドである。関心のある1つまたは複数の遺伝子産物をコード化する2つ以上のポリヌクレオチドを含んでなるベクターにおいて、発現は、1つまたは複数の発現制御配列によって一緒にまたは別々に制御されてもよい。より具体的には、ベクターに含まれる各ポリヌクレオチドは、別個の発現制御配列によって制御されてもよく、またはベクターに含まれる全てのポリヌクレオチドは、単一の発現制御配列によって制御されてもよい。単一の発現制御配列によって制御される単一のベクターに含まれるポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレームを形成してもよい。一部の発現ベクターは、挿入されたDNAに隣接する配列要素をさらに含有し、それは発現されたmRNAの半減期を延長し、および/またはmRNAのタンパク質分子への翻訳ができるようにする。したがって、挿入されたDNAによってコード化されるmRNAおよびポリペプチドの多数の分子が、迅速に合成され得る。このようなベクターは、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの調節エレメントを含んでなり、対象への投与時に前記ポリペプチドの発現を引き起こし、または指示してもよい。動物細胞のための発現ベクターで使用されるプロモーターおよびエンハンサーの例としては、SV40の初期プロモーターおよびエンハンサー(Mizukami T.et al.1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターおよびエンハンサー(Kuwana Y et al.1987)、免疫グロブリンH鎖のプロモーター(Mason JO et al.1985)およびエンハンサー(Gillies SD et al.1983)などが挙げられる。ヒト抗体C領域をコード化する遺伝子を挿入して発現させることができる限り、動物細胞のための任意の発現ベクターが使用され得る。適切なベクターの例としては、pAGE107(Miyaji H et al.1990)、pAGE103(Mizukami T et al.1987)、pHSG274(Brady G et al.1984)、pKCR(O’Hare K et al.1981)、pSG1 β d2-4-(Miyaji H et al.1990)などが挙げられる。プラスミドのその他の例としては、複製起点を含んでなる自己複製プラスミド、または例えば、pUC、pcDNA、pBRなどの統合プラスミドが挙げられる。
【0089】
本発明の文脈における「抗原結合部分」または「または抗原結合断片」という用語は、長さが親タンパク質より短いが、親タンパク質の結合特異性および/または選択性に関与する必須アミノ酸配列を依然として含むので、その結合特異性および/または選択性を保持する分子、特にアミノ酸鎖を指す。「抗原結合部分」または「または抗原結合断片」は、以下に概説するように測定された親タンパク質の標的に対するKが、親タンパク質のKよりも、少なくとも10倍以下高く、5倍以下高く、3倍以下高く、2倍以下高く、またはそれと同一である場合は、結合特異性を保持していると見なされる。TCRの抗原結合断片は、例えば、α鎖およびβ鎖の可変ドメインであり、抗体の抗原結合部分は、可変の軽鎖および重鎖である。TCR、BCR、または抗体の抗原結合部分は、α鎖およびβ鎖または軽鎖および重鎖のそれぞれの可変領域内に配置されているCDRである。したがって、例えば、抗体、TCR、BCR、またはそれらの免疫学的に機能的な部分または断片などの抗原結合タンパク質の結合性および/または特異性の評価は、例えば、TCRとその標的ペプチドとの、または抗体とその抗原との結合親和性測定によって実行され得る。本明細書で使用される「断片」という用語は、天然に存在する断片(例えば、スプライス変異型またはペプチド断片)、ならびに人工的に構築された断片、特に遺伝子技術的手段によって得られる断片を指す。
【0090】
「K」という用語(「mol/L」で測定される、「M」と略記されることもある)は、本発明の文脈において、結合部分(例えば、抗体またはその断片)と標的分子(例えば、抗原またはそのエピトープ)との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指す。親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)ベースのアッセイ(BIAcoreアッセイなど);バイオレイヤー干渉法(BLI)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA);および競合アッセイ(例えば、放射免疫測定(RIA))をはじめとするが、これらに限定されるものではない、当該技術分野で公知の一般的な方法によって測定され得る。低親和性抗体は一般に抗原に緩慢に結合し、容易に解離する傾向がある一方で、高親和性抗体は一般に抗原により迅速に結合し、より長く結合したままになる傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当該技術分野で公知であり、それらのいずれも本発明の目的のために使用され得る。本開示を通して様々な抗原結合タンパク質について示されるKは、SPRによって室温、すなわち20℃で測定されている。
【0091】
「B細胞受容体」(BCR)という用語は、B細胞の表面上に存在する抗原様構造を有する受容体を指す。B細胞は、その受容体に結合する抗原(その「同族抗原」)との最初の遭遇によって活性化され、細胞は増殖および分化して、抗体分泌プラズマB細胞およびメモリーB細胞を生じる。BCRは、生化学的シグナル伝達、および抗原提示細胞との免疫シナプスからの抗原の物理的獲得によって、B細胞の活性化を制御し、抗原との相互作用時に2つの重要な機能を有する。1つの機能は、受容体のオリゴマー化の変化を伴うシグナル伝達である。2つ目の機能は、抗原の引き続くプロセシングと、ヘルパーT細胞へのペプチドの提示のための内部移行を媒介することである。抗原を認識するBCRの部分は、V、D、およびJと称される3つの完全に異なる遺伝子領域で構成され、免疫系に固有の組み合わせプロセスにおいて遺伝子レベルでスプライシングおよび再結合される。1型膜貫通受容体タンパク質を形成する免疫グロブリン分子は、通常、Bリンパ球の外表面上に位置する。構造的に、BCRは、1つのイソタイプ(IgD、IgM、IgA、IgG、またはIgE)の膜結合免疫グロブリン分子と、シグナル伝達部分であるAIg-α/Ig-β(CD79)ヘテロダイマーとを含んでなり、ジスルフィド架橋によって連結される。二量体の各構成員は原形質膜に広がり、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を保有する細胞質尾部を有する。
【0092】
本発明の文脈における「抗体」という用語は、膜貫通領域を欠き、したがって血流および体腔に放出され得る、分泌された免疫グロブリンを指す。ヒト抗体は、それらが保有する重鎖に基づいて異なるイソタイプにグループ化される。ギリシャ文字で表記されるヒトIg重鎖には、α、γ、δ、ε、およびμの5つのタイプがある。存在する重鎖のタイプは、抗体のクラスを定義し、すなわち、これらの鎖は、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM抗体に見られ、それぞれが異なる役割を果たし、異なるタイプの抗原に対して適切な免疫応答を指示する。異なる重鎖は、サイズと組成が異なり;およそ450個のアミノ酸を含んでなってもよい(Janeway et al.(2001)Immunobiology,Garland Science)。IgAは、腸、気道、および泌尿生殖路などの粘膜領域、ならびに唾液、涙、母乳に見られ、病原体によるコロニー形成を防ぐ(Underdown & Schiff(1986)Annu.Rev.Immunol.4:389-417)。IgDは主に、抗原に曝露されていないB細胞の抗原受容体として機能し、好塩基球と肥満細胞を活性化して、抗菌因子を産生することに関与する(Geisberger et al.(2006)Immunology 118:429-437;Chen et al.(2009)Nat.Immunol.10:889-898)。IgEは、アレルゲンへの結合を介してアレルギー反応に関与し、肥満細胞および好塩基球からのヒスタミンの放出を誘発する。IgEは寄生虫からの保護にも関与する(Pier et al.(2004)Immunology,Infection,and Immunity,ASM Press)。IgGは、侵入する病原体に対する抗体ベースの免疫の大部分を提供し、胎盤を通過して胎児に受動免疫を与えることができる唯一の抗体イソタイプである(Pier et al.(2004)Immunology,Infection,and Immunity,ASM Press)。ヒトでは、4つの異なるIgGサブクラス(IgG1、2、3、および4)があり、血清中の存在量の順に命名され、IgG1が最も豊富であり(約66%)、IgG2(約23%)、IgG3(約7%)、およびIgG(約4%)がそれに続く。異なるIgGクラスの生物学的プロファイルは、それぞれのヒンジ領域の構造によって決定される。IgMは、B細胞の表面に単量体型と、非常に高い結合力を有する分泌型の5量体型で発現される。IgMは、十分なIgGが産生される前に、B細胞媒介(体液性)免疫の初期段階で病原体を除外することに関与する(Geisberger et al.(2006)Immunology 118:429-437)。抗体は単量体として見られるだけでなく、2つのIg単位の二量体(例えば、IgA)、4つのIg単位の四量体(例えば、硬骨魚のIgM)、または5つのIg単位の五量体(例えば、哺乳類IgM)を形成することも知られている。抗体は、典型的には、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖を含んでなる4つのポリペプチド鎖から構成され、これらはジスルフィド結合を介して連結され、「Y」字型の高分子に類似している。各鎖はいくつかの免疫グロブリンドメインを含んでなり、そのうちのいくつかは定常ドメインであり、その他は可変ドメインである。免疫グロブリンドメインは、2枚のシートに配置された7~9本の逆平行ストランドの2層サンドイッチからなる。典型的には、抗体の重鎖は4つのIgドメインを含んでなり、そのうちの3つは定常(CHドメイン:CHI、CH2、CH3)ドメインであり、その1つは可変ドメイン(VH)である。軽鎖は、典型的には、1つの定常Igドメイン(CL)および1つの可変Igドメイン(VL)を含んでなる。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性領域にさらに細分化され得て、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域がその中に散在する。各VHおよびVLは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された、3つのCDRおよび4つのFRから構成される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫グロブリンと、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)をはじめとする、宿主組織または要素との結合を媒介してもよい。抗体という用語はまた、本明細書の用法では、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体も包含する。
【0093】
抗体、TCR、またはBCR、またはCARの「抗原結合断片」(または「結合部分」または「断片」)という用語は、本明細書の用法では、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体TCR、BCR、またはCARのつまたは複数の断片を指す。抗体、TCR、BCR、またはCARの抗原結合機能は、完全長抗体、TCR、BCR、またはCARの断片によって実行され得ることが示されている。「抗体、BCRまたはCARの抗原結合部分」という用語にに包含される抗体の結合断片の例としては、以下が挙げられる:(i)Fab断片:VL、VH、CLおよびCHドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)断片:ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結する2つのFab断片を含んでなる二価の断片;(iii)Fd断片:VHおよびCHドメインからなる;(iv)Fv断片:抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなる;(v)dAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546):VHドメインからなる;(vi)単離相補性決定領域(CDR)、および(vii)任意選択的に合成リンカーによって連結されていてもよい、2つ以上の単離CDRの組み合わせ。さらに、Fv断片であるVLとVHの2つのドメインは別個の遺伝子によってコードされるが、それらは組換え法を使用して、その中でVLおよびVH領域が対合し、その中で一本鎖Fv(scFv)として知られている一価の分子を形成する単一タンパク質鎖になるようにする、合成リンカーによって連結され得る(例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;およびHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような一本鎖抗体もまた、抗体、BCRまたはCARの「抗原結合断片」という用語に包含されることが意図される。「TCRの抗原結合部分」という用語は、TCRのα鎖およびβ鎖の少なくともCDR1およびCDR3、好ましくはαおよびβ鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3を含んでなる。これらのCDRは、それらの天然のフレームワーク領域に含まれるのが好ましい一方で、それらはまた、それらがαおよび/またはβ鎖に配置されるのと同様の様式で、それらを互いに配置する別のタンパク質(いわゆるタンパク質スキャフォールド)に含まれてもよい。TCRの抗原結合部分は、好ましくはα鎖およびβ鎖の可変ドメインを含んでなる。抗体、TCR、BCR、またはCARの抗原結合断片は、単量体、二量体、三量体、四量体、または多量体タンパク質複合体に含まれ、このような複合体に1つまたは複数の異なる抗原結合特異性を提供し得る。さらに、Fv断片であるVLとVHの2つのドメインは別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、その中でVLおよびVH領域が対合し、その中で一本鎖Fv(scFv)として知られている一価の分子を形成する単一タンパク質鎖になるようにする、合成リンカーによって連結され得る(例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;and Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような一本鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合断片」という用語に包含されることが意図される。抗体の抗原結合を使用して一価、二価、または多価の結合分子を作成するさらなる形態は、当該技術分野で公知であり、二重特異性抗体、四重特異性抗体、およびナノボディと称される。同様に、scFVの一本鎖TCRは、リンカーによって連結された1つのタンパク質鎖上のα鎖およびβ鎖の可変ドメインを含んでなる。
【0094】
本明細書の用法では、「対象」という用語は、明細書で同義的に使用され、本発明から利益を得てもよい任意の哺乳類を指す、「個体」、「対象」、または「患者」に関する。特に、「個体」はヒトである。対象は、健常対象であり得る。
【0095】
「それを必要とする対象」という用語は、本発明の文脈において、例えば、増殖性疾患または障害、ウイルスによって引き起こされる疾患、または細菌によって引き起こされる疾患などの疾患に罹患している、または罹患するリスクがある対象を指す。例ば、がんなどのこのような増殖性疾患または障害は、細胞の無制御のおよび/または不適切な増殖を伴う。増殖性障害または疾患は、例えば、前記腫瘍疾患のがんまたは腫瘍細胞における、TAAの発現、より具体的にはTAAによって特徴付けられる、腫瘍疾患であってもよい。
【0096】
したがって、特に好ましいがんは、TA陽性がん、特にTAA陽性がんである。
【0097】
【表5】
【0098】
実施形態
以下では、本発明の異なる態様がより詳細に定義される。そのように定義された各態様は、相反することが明示されない限り、任意のその他の態様と組み合わされてもよい。特に、好ましいまたは有利であるとして示される任意の特徴は、好ましいまたは有利であるとして示される任意のその他の特徴または複数の特徴と組み合わされてもよい。
【0099】
免疫療法は、興味深い急速に進歩する分野であり、遺伝子改変T細胞受容体(TCR)を使用して、所望の特異性のTリンパ球集団を生成し得ることを実証し、抗原特異的T細胞療法の新しい機会を提供する。全体として、TCR修飾T細胞は、T細胞の正常な生物学的性質を通じて、多種多様な自己および非自己標的を標的化する能力を有する。しかし、「腫瘍外/オンターゲット」または「腫瘍外/オフターゲット」効果は、免疫関連毒性の極めて望ましくない効果をもたらし得る。TCRの同定の段階で既に類似タンパク質抗原(類似ペプチド)を含めることによって、本発明者らは、特性評価プロセスの前に交差反応性T細胞の割合を除外でき、それによってTCR発見プロセス全体の効率を向上できる。その目的のために、1D標識または2D標識された類似ペプチド多量体が染色パネルに含まれている。社内データベースは、本発明者らが、正常なヒト組織上に見られる関連性の高い標的配列類似ペプチドを同定することを可能にした。このような標的配列類似ペプチドは、臨床使用に向けて開発されることが想定されているTCRによって認識された場合、安全上のリスクをもたらす。したがって、本発明者らは、標的類似ペプチドの公共および社内のゲノムデータベース検索と、社内データベースからの健常組織上の実際のMS検出ペプチドの結果とを組み合わせる、社内検索アルゴリズムを開発した。本発明者らは、TCR同定の初期に標的類似ペプチドのセットを使用して、交差反応性TCRの早期の選択解除を可能にする。この目的のために、蛍光色素(ストレプトアビジン)で標識された、ペプチド主要組織適合性複合体(pMHC)四量体が、標的ペプチドについて、ならびに少なくとも1つの異なる蛍光色素で区別可能な標的類似ペプチドについて生成される。標的ペプチドならびに類似ペプチドの双方に陽性の細胞は、下流のTCR同定のためのT細胞選別から除外される。
【0100】
この驚くべき発見は、とりわけ、技術に対する優位性を提供する:(i)健常組織上の類似ペプチドとの選択されたTCRの交差反応性の低下;(ii)選択されたTCRの安全性プロファイルの向上;(iii)標的特異的TCRの初期段階の選択による、TCRの効率的かつ迅速な同定と特性評価;(v)選別中の類似ペプチド結合の除外による特異的TCR選択;(vi)オフターゲットおよび腫瘍外細胞傷害性の低下を発揮するTCR;および(vii)改善された特異的で選択的かつ安全なTCRの提供。
【0101】
本発明の第1の態様は、
(i)細胞集団またはウイルス集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団またはウイルス集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団またはウイルス集団と、類似タンパク質抗原(SPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的および/または選択的に結合する、少なくとも細胞またはウイルスを選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的および/または選択的に結合する抗原結合タンパク質をその表面上に発現する、細胞またはウイルスを選択するための方法に関し、
SPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは検出可能標識Bを含んでなり;またはSPAと検出可能標識Bを含み;
検出可能標識Aと検出可能標識Bは、互いに検出可能に異なる。
【0102】
本発明の第1の態様の一実施形態では、細胞は、好ましくは罹患組織上で発現される腫瘍抗原(TP)のMHC提示の短鎖ペプチドは、検出可能標識で標識され、健常組織上で発現される類似配列(TSP)のペプチドは、検出可能標識で標識されるという逆選択の原理に基づいて選択される。このアプローチで使用される標識は、検出可能に異なる。好ましくはT細胞である細胞と、TPおよびTSPとを接触させると、細胞は、TPまたはTSPのどちらかに、またはTPとTSPの双方に結合し、または全く結合せず、正の選択基準または負の選択基準のどちらかに基づいて選択される。従来の選別アプローチでは、それぞれの検出可能な細胞シグナルを有する、次の細胞が同定され得る:TPの標識のシグナル、すなわち細胞がMHC提示ペプチドに結合している場合の目的のペプチドを検出することによって、1つの細胞が検出され得る。別の細胞は、TPの標識、すなわち免疫細胞がMHC提示ペプチドに結合している場合の目的のペプチドの検出、およびTSPの標識の検出によってシグナル伝達し得る。第3の細胞は、TSPの標識の検出によってのみシグナル伝達し得る。細胞がT細胞である場合、これはMHC提示ペプチドに結合できる目的のTCRを有する細胞であるため、TPの標識によって検出可能な細胞のみが正に選択される。逆選択(または負の選択)は、次のように説明され得る:2つの標識、すなわちTPとTSPの標識によって検出された細胞は、TPへの結合以外にTSPに結合するため、負に選択される。TSPの標識によってのみ検出される細胞もまた、健常組織上で発現されるTSPにのみ結合するために負に選択され、一般的に、オフターゲットの影響を低下させるためにTSPへの結合は、避けなければならない。多くの場合、所与の細胞と、所与のPAIとの、好ましくはTPおよび1つまたは複数のSPAとの、好ましくはTSPとの結合は、全か無かではない。したがって、選択はまた、PAI、好ましくはTP、およびSPA、好ましくはTSPの結合の相対的差異に基づいてもよい。細胞は、同一濃度のPAIおよびSPAで、それらの結合が、同一濃度のPAIおよびSPAで、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、atleast10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも70倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍強力であれば、PAI、好ましくはTPに特異的に結合すると見なされる。好ましくは、結合は、本発明の方法で使用される1つまたは複数のSPA、好ましくはTSPのいずれかよりも、PAI、好ましくはTPに対して少なくとも10倍強力である。さらにより好ましくは、結合は少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍強力である。所与の細胞、例えば、T細胞またはそのTCR、またはB細胞の結合または親和性の強度は、様々なアッセイによって判定され得て、一般にはTCRの解離定数(K)として示される。ただし、本発明の方法の目的のためには、所与のPAIに、好ましくはTPおよび1つまたは複数のSPAに、好ましくはTSPに対する、細胞のKの正確な判定は必要でない。相対的結合強度を判定することで十分であり、これは、例えば、その中で、所与のTPの蛍光シグナルが1つまたは複数のTSPの蛍光シグナルと比較される、細胞のFACS分析によって判定され得る。このような判定では、PAI、好ましくはTP、および1つまたは複数のSPA、好ましくはTSPの相対的なモル量が考慮されなければならない。TPおよびTSPが同一モル量で細胞に添加され、使用されるそれぞれの標識の蛍光強度の違いが考慮される場合、SPA、好ましくはTSPの等モルベースの場合、細胞は、PAI、好ましくはTPに特異的に結合し、SPAよりも、好ましくはTSPよりも、PAIに、好ましくはTPに帰せられる少なくとも10倍強力な蛍光を示す。当業者は、ゲーティングを適宜適合させることによって、細胞を選択する際に、ステップ(ii)および(iii)の細胞集団と接触するPAI、好ましくはTP、およびSPA、好ましくはTSPのモル比の変化が考慮され得ることを理解している。
【0103】
本発明の第1の態様の一実施形態では、選択された細胞は、異種抗原結合タンパク質を発現する哺乳類細胞、または異種抗原結合タンパク質を発現する酵母細胞である。哺乳類細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、好ましくは、ヒト化マウス細胞、ラット細胞、ブタ細胞、サル細胞、またはイヌ細胞などの任意の哺乳類細胞であり得る。典型的には、哺乳類細胞は、任意の抗原提示細胞(APC)であり得る。好ましくは、哺乳類細胞はヒト細胞である。特に、哺乳類細胞は、TCRまたはその断片、またはBCRまたはその断片、またはCARまたはその断片、または抗体またはその断片などの異種抗原結合タンパク質を発現するように操作される。選択された細胞が異種抗原結合タンパク質を発現する酵母細胞である場合、このような酵母細胞はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母細胞であることが好ましい。特に、酵母細胞は、TCRまたはその断片、またはBCRまたはその断片、またはCARまたはその断片、または抗体またはその断片などの異種抗原結合タンパク質を発現するように操作される。
【0104】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、この方法はウイルスを選択する。選択されウイルスが、二本鎖DNAウイルス、好ましくはミオウイルス科(Myoviridae)、シホウイルス科(Siphoviridae)、ポドウイルス科(Podoviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、バキュロウイルス科(Baculoviridae)、パピローマウイルス科(Papillomaviridae)、ポリドナウイルス科(Polydnaviridae)、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)、ポックスウイルス科(Poxviridae);一本鎖DNAウイルス、好ましくはアネロウイルス科(Anelloviridae)、イノウイルス科(Inoviridae)、パルボウイルス科(parvoviridae);二本鎖RNAウイルス、好ましくはレオウイルス科(Reoviridae);一本鎖RNAウイルス、好ましくはコロナウイルス科(Coronaviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、アルテリウイルス科(Arteriviridae)、ヘペウイルス科(Hepeviridae);マイナスセンス一本鎖RNAウイルス、好ましくはアレナウイルス科(Arenaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ボルナウイルス科(Bornaviridae);一本鎖RNA逆転写ウイルス、好ましくはレトロウイルス科(Retroviridae);二本鎖RNA逆転写ウイルス、好ましくはカリモウイルス科(Caulimoviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)からなる群から選択される、任意のウイルスであり得る。より好ましくは、選択されたウイルスはバクテリオファージである。バクテリオファージは、好ましくは、バクテリオファージT4ラムダ(T4λ)ファージ、T7ファージ、fd繊維状ファージ、好ましくは繊維状ファージM13からなる群から選択される。例えば、ファージなどの選択されたウイルスは、例えば、連続磁気選別に適した磁気ビーズなどのビーズに結合させ得る。この実施形態では、標識Aおよび標識Bなどの標識は、バーコード標識、好ましくは本明細書中で上に記載されたRNAバーコードまたはDNAバーコードであることが好ましい。
【0105】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、細胞を選択するための方法は、ステップ(i)において細胞集団を提供することを含んでなる。好ましくは、細胞集団は真核細胞を含んでなる。より好ましくは、真核細胞は、異種抗原結合タンパク質のライブラリを発現する哺乳類細胞、または異種抗原結合タンパク質のライブラリを発現する酵母細胞である。したがって、本発明の第1の態様の方法は、例えば、酵母ディスプレイのために使用され得る。
【0106】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、ウイルスを選択するための方法は、ステップ(i)においてウイルス集団を提供することを含んでなる。好ましくは、ウイルス集団は、異種抗原結合タンパク質のライブラリを発現するウイルスを含んでなる。好ましい実施形態では、ウイルス集団はバクテリオファージを含んでなり、したがって、本発明の第1の態様の方法は、例えば、ファージディスプレイで使用され得る。
【0107】
本発明の第1の態様の別の実施形態は、
(i)免疫細胞を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団と、類似タンパク質抗原(SPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的および/または選択的に結合する、少なくとも1つの免疫細胞を選択するステップと
を含んでなる、その表面上に抗原結合タンパク質を特異的発現し、および/または目的のタンパク質抗原(PAI)に選択的に結合する、免疫細胞を選択するための方法に関し、
SPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは検出可能標識Bを含んでなり;またはSPAと検出可能標識Bを含み;
検出可能標識Aと検出可能標識Bは、互いに検出可能に異なる。
【0108】
本発明の第1の態様の一実施形態では、免疫細胞は、好ましくは罹患組織上で発現される腫瘍抗原(TP)のMHC提示の短鎖ペプチドは、検出可能標識で標識され、健常組織上で発現される類似配列(TSP)のペプチドは、検出可能標識で標識されるという逆選択の原理に基づいて選択される。このアプローチで使用される標識は、検出可能に異なる。好ましくはT細胞である免疫細胞と、TPおよびTSPとを接触させると、免疫細胞は、TPまたはTSのどちらかに、またはTPとTSPの双方に結合し、または全く結合せず、正の選択基準または負の選択基準のどちらかに基づいて選択される。従来の選別アプローチでは、それぞれの検出可能な細胞シグナルを有する、次の細胞が同定され得る:TPの標識のシグナル、すなわち免疫細胞がMHC提示ペプチドに結合している場合の目的のペプチドを検出することによって、1つの細胞が検出され得る。別の細胞は、TPの標識、すなわち免疫細胞がMHC提示ペプチドに結合している場合の目的のペプチドの検出、およびTSPの標識の検出によってシグナル伝達し得る。第3の細胞は、TSPの標識の検出によってのみシグナル伝達し得る。免疫細胞がT細胞である場合、これはMHC提示ペプチドに結合できる目的のTCRを有する細胞であるため、TPの標識によって検出可能な細胞のみが正に選択される。逆選択(または負の選択)は、次のように説明され得る:2つの標識、すなわちTPとTSPの標識によって検出された細胞は、TPへの結合以外にTSPに結合するため、負に選択される。TSPの標識によってのみ検出される細胞もまた、健常組織上で発現されるTSPにのみ結合するために負に選択され、一般的に、オフターゲットの影響を低下させるためにTSPへの結合は避けなければならない。多くの場合、所与の免疫細胞と、所与のPAIとの、好ましくはTPおよび1つまたは複数のSPAとの、好ましくはTSPとの結合は、全か無かではない。したがって、選択はまた、PAI、好ましくはTP、およびSPA、好ましくはTSPの結合の相対的差異に基づいてもよい。免疫細胞は、同一濃度のPAIおよびSPAで、それらの結合が、同一濃度のPAIおよびSPAで、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、atleast10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも70倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍強力であれば、PAI、好ましくはTPに特異的に結合すると見なされる。好ましくは、結合は、本発明の方法で使用される1つまたは複数のSPA、好ましくはTSPのいずれかよりも、PAI、好ましくはTPに対して少なくとも10倍強力である。さらにより好ましくは、結合は少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍強力である。例えば、T細胞およびそのTCRなどの所与の免疫細胞の結合または親和性の強度は、様々なアッセイによって判定され得て、一般にはTCRの解離定数(K)として示される。ただし、本発明の方法の目的のためには、所与のPAIに、好ましくはTPおよび1つまたは複数のSPAに、好ましくはTSPに対する、免疫細胞のKの正確な判定は必要でない。相対的結合強度を判定することで十分であり、これは、例えば、その中で、所与のTPの蛍光シグナルが1つまたは複数のTSPの蛍光シグナルと比較される、免疫細胞のFACS分析によって判定され得る。このような判定では、PAI、好ましくはTP、および1つまたは複数のSPA、好ましくはTSPの相対的なモル量が考慮されなければならない。TPおよびTSPが同一モル量で免疫細胞に添加され、使用されるそれぞれの標識の蛍光強度の違いが考慮される場合、SPA、好ましくはTSPの等モルベースの場合、免疫細胞は、PAI、好ましくはTPに特異的に結合し、SPAよりも、好ましくはTSPよりも、PAIに、好ましくはTPに帰せられる少なくとも10倍強力な蛍光を示す。当業者は、ゲーティングを適宜適合させることによって、細胞を選択する際に、ステップ(ii)および(iii)の細胞集団と接触するPAI、好ましくはTP、およびSPA、好ましくはTSPのモル比の変化が考慮され得ることを理解している。
【0109】
一実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第3の抗原複合体(第3のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第4の抗原複合体(第4のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第5の抗原複合体(第5のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第6の抗原複合体(第6のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第7の抗原複合体(第7のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第8の抗原複合体(第8のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第9の抗原複合体(第9のAC)、SPA、好ましくはTSPを含んでなる、少なくとも第5の抗原複合体(第10のAC)と接触される。したがって、10個以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、9つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、8つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、7つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、6つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、5つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、4つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、3つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、2つ以下のSPA、好ましくはTSPが使用され、または1つ以下のSPA、好ましくは1つのTSPが使用されることが好ましい。したがって、本発明の方法では、1~10個の異なるTSP、好ましくは2~8つの異なるTSP、より好ましくは3~5つの異なるTSPが使用されることが好ましい。なおもより好ましい実施形態では、3つのTSPが使用される。
【0110】
一実施形態では、本発明の第1の態様の方法は、免疫細胞を選択する。好ましくはこの免疫細胞は、T細胞またはB細胞である。より好ましくは、T細胞はCD4T細胞である。なおもより好ましい実施形態では、T細胞はCD8T細胞である。シグナル伝達ドメインは、好ましくはCD3を含んでなる。本発明の第1の態様の別の実施形態では、免疫細胞は、その表面上に抗原結合タンパク質を発現する。選択された免疫細胞がTCRである場合、抗原結合タンパク質は、T細胞またはその抗原結合断片であることが好ましい。選択された免疫細胞がBCRである場合、抗原結合タンパク質は、B細胞またはその抗原結合断片であることが好ましい。このような抗原認識または抗原結合部位は、好ましくは一本鎖可変断片(scFv)であり、好ましくはTAAであるPAIを標的化する。共刺激ドメインは、好ましくはCD28または4-1 BBを含んでなる。シグナル伝達ドメインは、好ましくはCD3を含んでなる。選択された免疫細胞がCARである場合、抗原結合タンパク質は、T細胞またはその抗原結合断片であることもまた好ましい。
【0111】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、免疫細胞を選択するための方法は、ステップ(i)において、免疫細胞を含む細胞集団を提供することを含んでなる。免疫細胞を含んでなる細胞集団は、健常対象の末梢血に由来する。別の実施形態では、細胞集団は、罹患対象の末梢血に由来する免疫細胞を含んでなる。好ましくは、免疫細胞を含んでなる細胞集団は、健常対象または罹患対象の末梢血の免疫細胞富化画分に由来する。好ましくは、免疫細胞富化画分は、幹細胞、T細胞、B細胞、またはプラズマ細胞に富む。免疫細胞富化画分が、CD4T細胞および/またはCD8T細胞に富んでいることがなおもより好ましい。別の実施形態では、免疫細胞を含んでなる細胞集団は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)またはTCRライブラリに由来し得る。好ましくは、TCRライブラリは、多数の異なるT細胞受容体(TCR)タンパク質またはその断片を含み、ここで、各TCRタンパク質またはその断片は異なる。
【0112】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、免疫細胞富化画分中の免疫細胞は、1つまたは複数の免疫細胞特異的表面マーカーを検出可能に標識することによって選択される。免疫細胞表面マーカーは、CD3、CD8、CD4、およびCD19からなる群から選択されることが好ましい。
【0113】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、さらなるステップにおいて、増殖因子および/またはサイトカインインの存在下でインキュベートされ得る。好ましくは、サイトカインはインターロイキンである。より好ましくは、インターロイキンは、IL-1、IL-2、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-21、およびIL-23からなる群から選択される。最も好ましくは、ステップ(i)の細胞集団は、IL-2、IL-7、IL-15および/またはIL-21と共にインキュベートされる。
【0114】
別の実施形態では、目的のタンパク質抗原(PAI)は、腫瘍関連抗原(TAA)、ウイルスタンパク質、または細菌タンパク質である。PAIが標的ペプチド、すなわちPAIのより短い断片である場合、標的ペプチドはウイルス抗原ペプチドまたは細菌抗原ペプチドであることが好ましい。本発明の第1の態様の別の実施形態では、罹患対象は、免疫疾患、腫瘍性疾患、ウイルスによって引き起こされる疾患、または細菌によって引き起こされる疾患からなる群から選択される疾患に罹患している。好ましくは腫瘍性疾患はがんである。好ましくは、ウイルスによって引き起こされる疾患はウイルス感染症であり;細菌によって引き起こされる疾患は細菌感染症である。好ましくは、ウイルス感染は、HIV、HCMV、CMV、HPV、HBV、HCV、HPV、EBV、インフルエンザウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる。より好ましくはウイルス感染は、HIVによって引き起こされる。好ましくは、細菌感染は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる。このような疾患は、結核である。
【0115】
第1の態様の別の好ましい実施形態では、方法は、(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、またはPAIおよび検出可能標識Aとを接触させるステップを含んでなる。PAIおよび標識Aを含んでなる第1のACは、好ましくは抗原提示細胞である。別の好ましい実施形態では、第1のACは、粒子、PAI、および検出可能標識Aを含んでなる複合体である。より好ましくは、粒子はナノビーズまたはマイクロビーズである。MHC分子が、ナノビーズまたはマイクロビーズに連結されていることもまた好ましい。別の好ましい実施形態では、第1のACは、PAIおよび検出可能標識Aからなる。別の実施形態では、第1のACは、粒子、SPA、および検出可能標識Bを含んでなる複合体である。より好ましくは、粒子はナノビーズまたはマイクロビーズである。MHC分子が、ナノビーズまたはマイクロビーズに連結されていることもまた好ましい。別の好ましい実施形態では、第1のACは、SPAおよび検出可能標識Bからなる。
【0116】
代案としては、PAIは検出可能標識を含んでなってもよい。PAIがアミノ酸鎖であり、標識がこのアミノ酸鎖に共有結合している場合、これは好ましい実施形態である。例は、GFPまたはEGFPとしての蛍光標識または蛍光タンパク質である。後者の場合、蛍光タンパク質がペプチド結合によってPAIに連結されていることが好ましい。
【0117】
別の好ましい実施形態では、本発明の第1の態様の方法は、細胞集団と、さらなるPAIおよびさらなる検出可能標識を含んでなるさらなるACとを接触させるステップ、およびさらなるSPAおよびさらなる検出可能標識を含んでなるさらなるACとを接触させるステップの1つまたは複数をさらに含んでなる。さらなるPAIと検出可能標識Cを含んでなる第3のACと、さらなるSPAと検出可能標識Dを含んでなる第4のACとを使用することで、いわゆる2D多量体多重化(2DMM)アプローチを反映し、細胞を非常に節約しながら高感度(0.0001%)で特定の希少細胞を検出できるようになる。特異性毎に異なる蛍光色素で標識された2つの多量体(ペプチドMHC)により、9種の異なる蛍光色素を使用して、1つのサンプル中で最大36の異なる特異性の同定が可能になる。好ましい一実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAIと検出可能標識C(これは、細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと検出可能に異なる)とを含んでなる、第3の抗原複合体(第3のAC)と接触される。少なくとも検出可能標識Aと検出可能に異なり、検出可能標識Dが存在する場合は好ましくは少なくとも検出可能標識Aおよび検出可能標識Dと検出可能に異なる。ステップ(i)の細胞集団が、PAIと検出可能標識D(これは、細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと検出可能に異なる)とを含んでなる、第4の抗原複合体(第4のAC)と接触される場合、検出可能標識Dが存在する。検出可能標識Dは、好ましくは少なくとも検出可能標識Aとは検出可能に異なる。検出可能標識Dが、少なくとも検出可能標識Aおよび検出可能標識Cとは検出可能に異なることもまた好ましい。一実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、SPAと検出可能標識E(これは、細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと検出可能に異なる)とを含んでなる、第5の抗原複合体(第5のAC)と接触される。標識Eは、少なくとも検出可能標識Bとは検出可能に異なることが好ましい。検出可能標識Fが存在する場合、検出可能標識Eは、少なくとも検出可能標識Bおよび検出可能標識Fとは検出可能に異なることが好ましい(6)。ステップ(i)の細胞集団が、SPAと検出可能標識F(これは、細胞集団と接触されるその他のACのその他の検出可能標識の1つまたは複数または全てと検出可能に異なる)とを含んでなる、第6の抗原複合体(第6のAC)とさらに接触される場合、検出可能標識Fが存在する。標識Fは、少なくとも検出可能標識Bとは検出可能に異なることが好ましい。検出可能標識Fが、少なくとも検出可能標識Bおよび検出可能標識Eとは検出可能に異なることもまた好ましい。
【0118】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなる);および1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9または10、好ましくは2~4、最も好ましくは2つのさらなる抗原複合体(AC)(それぞれは、第2のACのSPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なる、異なるSPA、好ましくは異なるTSPを含んでなり、それぞれのさらなるACは、1つまたは複数の標識を含んでなり、1つまたは複数の標識は、第2のACの1つまたは複数の標識と検出可能に異なる)と接触される。第1のACは、第2のACの1つまたは複数の標識およびさらなるACの1つまたは複数の標識と検出可能に異なる、さらなる第2の標識を含んでなることが好ましい。細胞集団がT細胞集団であることもまた好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0119】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、検出可能標識Bを含んでなる);および1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9または10、好ましくは2~4、最も好ましくは2つのさらなる抗原複合体(AC)(それぞれは、第2のACのSPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なる、異なるSPA、好ましくは異なるTSPを含んでなり、それぞれのさらなるACは、1つまたは複数の標識を含んでなり、1つまたは複数の標識は、第2のACの1つまたは複数の標識と同一である)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることもまた好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0120】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなり、第1のACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、第2のACは、同一の少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含む)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることが好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0121】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);SPA、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)、(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなり、第1のACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、第2のACは、異なる少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含む)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることが好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0122】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなり、第1のACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、第2のACは、同一の少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含む)と接触され、ステップ(i)の細胞集団は、1つまたは複数のさらなる抗原複合体(AC)(それぞれは、第2のACのSPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なるSPAを含んでなり、1つまたは複数のさらなるACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり;少なくとも1つのさらなる標識が、第1のACを第2のACおよび1つまたは複数のさらなるACから区別することを可能にするように選択される)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることが好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0123】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなり、第1のACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、第2のACは、異なる少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含む)と接触され、ステップ(i)の細胞集団は、1つまたは複数のさらなる抗原複合体(AC)(それぞれは、第2のACのSPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なるSPAを含んでなり、1つまたは複数のさらなるACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり;少なくとも1つのさらなる標識が、第1のACを第2のACおよび1つまたは複数のさらなるACから区別することを可能にするように選択される)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることが好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0124】
別の実施形態では、ステップ(i)の細胞集団は、PAI、好ましくはTP、および検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC);および類似タンパク質抗原(SPA)、好ましくはTSPを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)(SPA、好ましくはTSPのアミノ酸配列は、PAI、好ましくはTPのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、第2のACは、標識Aと検出可能に異なる検出可能標識Bを含んでなり、第1のACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり、第2のACは、同一の少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含む)と接触され、ステップ(i)の細胞集団は、1~10、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9または10、好ましくは2~4、より好ましくは2つのさらなる抗原複合体(AC)(それぞれは、第2のACのSPAのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸配列が異なる、異なるSPA、好ましくは異なるを含んでなり、1つまたは複数のさらなるACは、少なくとも1つのさらなる検出可能標識を含んでなり;少なくとも1つのさらなる標識が、第1のACを第2のACおよび1つまたは複数のさらなるACから区別することを可能にするように選択される)と接触される。細胞集団がT細胞集団であることが好ましい。第1のACに特異的および/または選択的に結合する選択された免疫細胞が、T細胞であることがさらに好ましい。PAIに特異的および/または選択的に結合する、選択されたT細胞の表面上の抗原結合タンパク質がTCRであることもまた好ましい。
【0125】
上記の実施形態のそれぞれにおいて、SPAのそれぞれ、特にTSPのそれぞれは、PAIのアミノ酸配列、特にTPのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の類似性を有することが好ましい。
【0126】
別の実施形態では、検出可能標識が提供される。当業者は、目的のタンパク質抗原、標的ペプチド、類似タンパク質抗原または目的の標的類似ペプチドをどのように標識するかを良く承知している。上記のA~Fで指定された検出可能標識は、磁気標識、蛍光標識、RNA-バーコード;DNAバーコード;または放射性標識からなる群から独立して選択される。好ましくは磁気標識は、例えば、特定の表面抗原に対する抗体で被覆され得る、磁性ビーズまたは磁性ナノ粒子を含んでなってもよい。磁気標識は、磁気活性化細胞選別(MACS)で使用されてもよい。好ましくは、検出可能標識は、キサンテン、アクリジン、オキサジン、シアニン、スチリル染料、クマリン、ポルフィン、金属リガンド錯体、蛍光タンパク質、ナノ結晶、ペリレン、およびフタロシアニンからなる群から選択される、蛍光標識である。検出可能標識A~Fの蛍光標識として、フィコエリスリン(SA-PE)、ストレプトアビジン-アロフィコシアニン(SA-APC)、ストレプトアビジン-ブリリアント-バイオレット421(SA-BV421)の使用もまた好ましい。別の好ましい実施形態では、第1のACは、MHC-IまたはMHC-IIとPAIとの複合体であり、PAIは、標的ペプチド(TP)である。TPがTAAであることが好ましい。それに加えてまたは代案として、第2のACはMHC-IまたはMHC-IIとSPAとの複合体であり、SPAは標的類似ペプチド(TSP)である。さらなる好ましい実施形態では、第1のACおよび第2のACは、可溶性の多量体化MHC-ペプチド複合体である。
【0127】
PAIとSPAの機能的な相違点と類似点:
上述したように、好ましくは健常人組織で発現されるSPAとは対照的に、PAIは好ましくは罹患組織上で発現され、したがって健常組織上の発現に基づいて選択される。本発明者らは、健常組織上で提示されることが以前に認められたペプチドを含んでなる、大規模な免疫ペプチドームデータベースを含む、社内の高スループット技術プラットフォーム(XPRESIDENT)を開発した。SPAは、好ましくはMHC、好ましくはHLA起源からのものであり、すなわち、SPAはそれぞれのMHC、好ましくはHLA分子に結合できる。これは、免疫細胞がT細胞であり、T細胞がHLA提示SPAを認識できるように、HLA分子に結合したT細胞にSPAが提示される場合に必要である。したがって、PAIと同じHLAアロタイプ上で提示されることが知られているSPAを選択することが好ましい。好ましくは、細胞あたり10コピーを超え、好ましくは細胞あたり20コピーを超え、好ましくは細胞あたり50コピーを超え、さらにより好ましくは細胞あたり100コピーを超えて、健常組織の細胞上で発現されるSPAが、本発明の方法で使用される。このような比較的豊富なSPAに結合することができ、同時にPAIに結合することができるT細胞の逆選択は、オフターゲット/腫瘍外毒性を回避するために望ましい。
【0128】
TSPの数:
T細胞のTCRは、所与のTP内のアミノ酸のサブグループ、すなわちTCRのエピトープを認識する。したがって、あまりにも多くの異なるTSPを使用した場合、主にまたは排他的にTPに結合するが、TSPには結合しないTCRが、存在しない可能性が高い。したがって、10個以下のTSPが使用され、9つ以下のTSPが使用され、つ以下のTSPが使用され、7つ以下のTSPが使用され、6つ以下のTSPが使用され、5つ以下のTSPが使用され、4つ以下のTSPが使用され、3つ以下のTSPが使用され、2つ以下のTSPが使用され、1つ以下のTSPが使用されることが好ましい。したがって、本発明の方法では、1~10個の異なるTSP、2~8つの異なるTSP、3~5つの異なるTSP、または1~3つの異なるTSPが使用されることが好ましい。好ましい実施形態では、3つのTSPが使用される。TSPはSPAの断片であり、上記のSPAで概説したのと同じ基準に基づいて選択される。同様に、健常組織織で強く発現されるTSPが選択される。したがって、本発明の方法に含まれるべきTSPは、上記で定義されたように高い配列類似性を有するものであり、すなわち、SPAのそれぞれ、特にTSPのそれぞれが、PAIのアミノ酸配列、特にTPのアミノ酸配列に対して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の類似性を有することが好ましく、それは健常組織上で最も高い発現を示す。
【0129】
TPおよびTSPの長さ:
一実施形態では、TPは8~11アミノ酸長を含んでなる。TPは、12個のアミノ酸を含んでなってもよい。一実施形態では、TPは13~25アミノ酸長を含んでなる。別の実施形態では、TPは13~18アミノ酸長を含んでなる。典型的には、TSPは、所与のTPと同じ長さになるように選択される。しかし、代案としては、TSPの長さは、TPよりも1~3アミノ酸だけ長くてもまたは短くてもよい。その中でTPがMHC提示される実施形態では、1つまたは複数のTSPの長さは、それらがMHC提示されることもできるように選択される。例えば、TPが8アミノ酸長を含んでなる場合、TSPは、7アミノ酸長以下または8アミノ酸長以上のどちらかを有することが好ましい。より好ましくは、異なるアミノ酸長の配列を含んでなるTSPの混合物が使用される。TPがMHC-Iに結合している実施形態では、TPは8~12アミノ酸長を含んでなる。TPがMHC-Iに結合している別の実施形態では、TPは8~11アミノ酸長を含んでなる。TPがMHC-Iに結合している実施形態では、TPは8~10アミノ酸長を含んでなる。TPがMHC-IIに結合している実施形態では、TPは13~23アミノ酸長を含んでなる。TPがMHC-IIに結合している好ましい実施形態では、TPは13~18アミノ酸長を含んでなる。
【0130】
TPとTSPの構造の違い/類似性:
別の実施形態では、TSPは、TPとの高い配列類似性(類似性BLAST検索)に基づいて、健常組織提示HLA結合ペプチドのXPRESIDENTデータベースから選択される。XPRESIDENTデータベースは、健常組織または罹患組織上で異なるHLAアロタイプによって提示されるペプチドを含んでなる。TSPとTPが、同一HLAアロタイプによって提示されることが好ましい。TSPおよびTPを提示するHLAアロタイプは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-H、HLA-J、HLA-K、HLA-Lからなる群から選択され得る。好ましくはHLA-Aタンパク質は、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A3、およびHLA-A11からなる群から選択される。好ましいHLA-A対立遺伝子は、HLA-A02:01;HLA-A01:01、HLA-A03:01またはHLA-A24:02である。好ましいHLA-B対立遺伝子は、HLA-B07:02;HLA-B08:01、HLA-B15:01、HLA-B35:01またはHLA-B44:05である。
【0131】
一般に、上に列挙されるHLAアロタイプのほとんどでは、所与のMHC提示ペプチドの2番目のアミノ酸(N末端から数える場合)およびC末端アミノ酸は、そのペプチドに特異的に結合するTCRによって認識される、そのペプチドのエピトープに含まれない。
【0132】
別の実施形態では、TSPのアミノ酸配列は8~16アミノ酸長を有し、TPは8アミノ酸長を有し、TSPのアミノ酸配列は、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(ii)位置X、X、およびX(式中、位置X~X、およびX、およびXは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iii)位置XおよびX(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で、
TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X(配列番号1)
と異なる。
【0133】
好ましい実施形態では、位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、TPと比較して同一である)は、TSPにおいて変異する。別の好ましい実施形態では、位置X、X、およびXは、TSPにおいて変異し、位置X~X、およびX、およびXは、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、TSP中の位置XおよびXは変異し、位置X~XはTPと同一である。別の好ましい実施形態では、TSP中の位置XおよびXは変異し、位置X~XはTPと同一である。
【0134】
別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iii)のTSP混合物、すなわち、異なる変異パターンを有するTSPが、本発明の第1の態様の方法で使用される。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iii)のTSP混合物、すなわち、変異パターンが異なり、アミノ酸配列の長さが異なるTSPが使用される。このようなTSPの混合物の使用は、TPに結合する免疫細胞の迅速かつ効率的な正の選択と、1つまたは複数のTSPに結合する免疫細胞の負の選択とを可能にする。
【0135】
別の好ましい実施形態では、TSPのアミノ酸配列は8~16アミノ酸長を有し、TPは9アミノ酸長を有し、TSPのアミノ酸配列は、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;
(ii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~Xは、TPと同一である)で;または
(iv)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で、
TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X(配列番号2)
と異なる。
【0136】
好ましい実施形態では、位置X、X、およびX(式中、位置X~Xは、TPと比較して同一である)は、TSPにおいて変異する。別の好ましい実施形態では、位置X、X、およびX、およびXはTSPにおいて変異し、位置X~X、および位置X、およびXは、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~XはTSPにおいて変異し、位置X~XはTPと同一である。別の好ましい実施形態では、TSP中の位置X~Xは変異され、位置X~XはTPと同一である。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、異なる変異パターンを有するTSPが、本発明の第1の態様の方法で使用される。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、変異パターンが異なり、アミノ酸配列の長さが異なるTSPが使用される。
【0137】
別の好ましい実施形態では、TSPのアミノ酸配列は8~16アミノ酸長を有し、TPは10アミノ酸長を有し、TSPのアミノ酸配列は、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X10は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X10は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X10は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iv)位置X、X、およびX10(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で、
TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X10(配列番号3)
と異なる。
【0138】
好ましい実施形態では、位置X、X、およびX(式中、位置X~X10は、TPと比較して同一である)は、TSPにおいて変異する。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~X、および位置X、およびX10は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~Xおよび位置X~X10は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~X10は、TSPにおいて変異し、位置X~Xは、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、異なる変異パターンを有するTSPが、本発明の第1の態様の方法で使用される。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、変異パターンが異なり、アミノ酸配列の長さが異なるTSPが使用される。
【0139】
別の好ましい実施形態では、TSPのアミノ酸配列は8~16アミノ酸長を有し、TPは11アミノ酸長を有し、TSPのアミノ酸配列は、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X11は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X11は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X11は、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(iv)位置X、X、X10、およびX11(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で;または
(v)位置X、X10、およびX11(式中、X~Xは、TPと同一または類似、好ましくは同一である)で、
TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X1011(配列番号4)
と異なる。
【0140】
好ましい実施形態では、位置X、X、およびX(式中、位置X~X11は、TPと比較して同一である)は、TSPにおいて変異する。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~Xおよび位置X~X11は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~Xおよび位置X~X11は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~X11はTSPにおいて変異し、位置X~Xは、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~X11はTSPにおいて変異し、位置X~Xは、TPと同一である。
【0141】
別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、異なる変異パターンを有するTSPが、本発明の第1の態様の方法で使用される。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、変異パターンが異なり、アミノ酸配列の長さが異なるTSPが使用される。
【0142】
別の好ましい実施形態では、TSPのアミノ酸配列は8~16アミノ酸長を有し、TPは12アミノ酸長を有し、TSPのアミノ酸配列は、
(i)位置X、X、およびX(式中、位置X~X12は、TPと同一または類似している)で;
(ii)位置X、X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X12は、TPと同一または類似している)で;または
(iii)位置X、X、およびX(式中、位置X~Xおよび位置X~X12は、TPと同一または類似している)で;または
(iv)位置X、X、X10、X11、およびX12(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似している)で;または
(v)位置X、X10、X11、およびX12(式中、位置X~Xは、TPと同一または類似している)で、
TPのアミノ酸配列
-X-X-X-X-X-X-X-X-X101112(配列番号5)
と異なる。
【0143】
好ましい実施形態では、位置X、X、およびXは、TSPにおいて変異し、ここで位置X~X12は、TPと比較して同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~Xおよび位置X~X12は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~Xは、TSPにおいて変異し、位置X~Xおよび位置X~X12は、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~X12はTSPにおいて変異し、位置X~Xは、TPと同一である。別の好ましい実施形態では、位置X~X12はTSPにおいて変異し、位置X~Xは、TPと同一である。
【0144】
別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、異なる変異パターンを有するTSPが、本発明の第1の態様の方法で使用される。別の好ましい実施形態では、上記の(i)~(iv)のTSP混合物、すなわち、変異パターンが異なり、アミノ酸配列の長さが異なるTSPが使用される。
【0145】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、SPAのアミノ酸配列、またはSPAに含まれる少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%の類似性を有する。別の実施形態では、SPAのアミノ酸配列、またはSPAに含まれる少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列は、PAIと、90%以下、89%以下、88%以下、87%以下、または86%以下のアミノ酸同一性を有する。別の実施形態では、SPAのアミノ酸配列、またはSPAに含まれる少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列は、PAIと、85%以下、84%以下、83%以下、82%以下、81%以下、または80%以下のアミノ酸同一性を有する。
【0146】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、TSPのアミノ酸配列は、TPに対して96%以下、95%以下、94%以下、93%以下、92%以下、または91%以下のアミノ酸同一性を有する。別の実施形態では、TSPのアミノ酸配列は、TPに対して90%未満、または89%以下、88%以下、87%以下、または86%以下のアミノ酸同一性を有する。別の実施形態ではTSPのアミノ酸配列は、TPと、85%以下、84%以下、83%以下、82%以下、81%以下、または80%以下のアミノ酸同一性を有する。
【0147】
別の実施形態では、健常組織上のTSPの絶対的な発現は、本発明の方法に含まれるTSPの最も低い配列同一性と相関している。TSPが健常組織上で高度に発現される場合、TSPに低い親和性でのみ結合するTCRは、それでもなお結合力効果のために、健常組織で発現されるTSPに結合してもよい。したがって、所与のTSPが健常組織上で低コピー数を有する場合、それがTPのと高い類似性を示す場合にのみ、それは本発明の方法に含まれる。相応して、所与のTSPが健常組織上で高コピー数を有する場合、それは本発明の方法に含まれるが、TPとの低類似性を有してもよい。例えば、TSPが健常細胞あたり10以下のコピー数を有する場合、TPと少なくとも90%の配列類似性を有すれば、TSPは含まれる。TSPのコピー数が1~25の場合、TPと少なくとも85%の配列類似性を有すれば、このようなTSPも含まれる。TSPのコピー数が細胞あたり25~100の場合、TPと少なくとも80%の配列類似性を有すれば、このようなTSPも含まれる。TSPのコピー数が細胞あたり100~250の場合、TPと少なくとも75%の配列類似性を有すれば、このようなTSPも含まれる。TSPのコピー数が細胞あたり250を超える場合、TPと少なくとも50%の配列類似性を有すれば、このようなTSPも含まれる。
【0148】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、方法のステップ(ii)および(iii)は、連続してまたは同時進行で実行される。本発明の第1の態様の別の実施形態では、上で概要を述べるたステップ(a)、(b)、(c)および(d)は、連続してまたは同時進行で実行される。ステップ(a)、(b)、(c)、および(d)を組み合わせるかどうかは、検出可能標識で標識されたACの使用数に依存する。
【0149】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、ステップ(iv)は、第1のAC、第1および第3または第1のAC、第3および第4のACに結合している細胞を正に選択する(選択)ことを含んでなる。別の実施形態では、ステップ(iv)は、第2のAC、第2および第5のAC、または第2、第5、および第6のACに結合している細胞を負に選択する(除外)ことを含んでなる。別の好ましい実施形態では、ステップ(iv)は、第1のAC、第1および第3のAC、または第1、第3、および第4のACに結合している細胞を選択し、第2のAC、第2および第5のAC、または第2、第5、および第6のACに結合している細胞を除外することを含んでなる。
【0150】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、検出可能標識は、フローサイトメトリー分析によって検出される。好ましい実施形態では、検出可能標識は、FACS分析によって検出される。別の好ましい実施形態では、検出可能標識は、分取選別分析によって検出される。
【0151】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、本発明の第1の態様の方法のステップi)の集団に含まれる細胞はT細胞であり、表現型同定されている。別の実施形態では、ステップi)の集団に含まれる細胞はB細胞であり、表現型同定されている。
【0152】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、T細胞の表現型決定は、1つまたは複数のT細胞マーカーの判定を含んでなる。T細胞マーカーは、好ましくは、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD19、CD25、CD27、CD28、CD44、CD45RA、CD45RO、CD57、CD62L、CD69、CD122、CD127、CD137CD197(CCR7)、IFNγ、IL-2、TNFα、IL7R、およびテロマー長からなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、T細胞マーカーは、CD45RA、CD45RO、CD197、CD25、CD27、CD57、CD95、CD127、およびCD62Lである。CD69およびCD137をT細胞の表現型決定に使用することが、特に好ましい。別の好ましい実施形態では、B細胞の表現型決定は、1つまたは複数のB細胞マーカーの判定を含んでなる。B細胞マーカーは、好ましくはCD19、CD27、CD45R、CD21、CD40、CD20、CD38、およびCD83からなる群から選択される。
【0153】
本発明の第1の態様の方法の別の実施形態では、方法は、ステップ(i)の細胞集団と、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなる無関係の抗原複合体(IAC)とを接触させるステップをさらに含んでなり、PAIのアミノ酸配列と整列されたときに、IPAのアミノ酸配列が2つ以下のアミノ酸位置でPAIと同一であり、IACが、検出可能標識Aと検出可能に異なる、検出可能標識Gを含んでなる。好ましくは、無関係のタンパク質抗原は、ハウスキーピング遺伝子の遺伝子産物である。ハウスキーピング遺伝子産物は、通常の状態および病態生理学的状態の下で、生物のあらゆる細胞で発現され、これは、通常、異なるまたは様々な細胞条件下で上方または下方制御されないことから、参照遺伝子として機能するのに適している。一般に、自然免疫細胞集団は、ハウスキーピング遺伝子またはそれに由来するペプチドに結合するいかなる免疫細胞も含んではならない。したがって、本発明の方法にIPCを含めることで、これもまた望ましくないACに非特異的に結合するT細胞を同定できるようになる。
【0154】
別の実施形態では、少なくとも1つのIPのアミノ酸配列は、以下の基準の1つまたは複数によって選択される:健常組織上のIPの提示;IPはHLAタイプの起源に由来する;またはそれぞれのHLAへの結合。IPのアミノ酸配列、またはIPAに含まれる少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列は、PAIとの50%未満、40%未満、30%未満、29%未満、28%未満、27%未満、26%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、10%未満、5%未満のアミノ酸同一性を有することが好ましい。別の実施形態では、IACは、MHC-IまたはMHC-IIとIPとの複合体である。IPのアミノ酸配列が、TPのアミノ酸配列と整列されたときに、1つまたは皆無のアミノ酸位置でTPと同一であることが好ましい。好ましくは、IPはハウスキーピング遺伝子によってコード化される。
【0155】
本発明の第2の態様は、
(i)本発明の第1の態様の方法で選択された細胞から、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を単離するステップと;
(ii)核酸の配列を決定するステップとを含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸の配列を決定するための方法にさらに関する。
【0156】
好ましい実施形態では、核酸は、選択された免疫細胞から、例えば、イミノ二酢酸基を含有するスチレン-ジビニルベンゼンコポリマーを含んでなる樹脂を使用する、例えば、有機抽出、固相抽出などの当該技術分野で周知の方法によって単離される。別の実施形態では、単離核酸はDNAまたはRNAのどちらかである。別の実施形態では、単離後に核酸を増幅することが好ましい。好ましくは、増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって実施され得る。より好ましくは核酸は、PCR(RACE PCR)を用いたcDNA末端の迅速な増幅において増幅される。別の実施形態では、逆転写を介したRNA鋳型からのDNAの合成は、相補的DNA(cDNA)を生成する。逆転写酵素(RT)は、RNA鋳型とRNAの3’末端に相補的な短いプライマーとを使用して、PCRの鋳型として直接使用され得る第1鎖cDNAの合成を導く。別の実施形態では、単離核酸の配列は、例えば、各塩基が固有の蛍光シグナルを発することから、DNA塩基を同時に同定し、それらを核酸鎖に付加する、Illumina(Solexa)配列決定;ヌクレオチドがポリメラーゼによって新しいDNA鎖に組み込まれた後に、これもまた蛍光を使用する、ピロリン酸放出を検出する技術であるピロシーケンスに基づくRoche454配列決定;またはDNAポリメラーゼによる個々の塩基の取り込みからのプロトンの直接放出を測定する、イオントレント:陽子/PGM配列決定のような、次世代の配列決定などの当該技術分野で公知の方法によって決定され得る。
【0157】
本発明の第3の態様は、
(i)本発明の第1の態様の方法で選択された細胞から、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸配列を提供するステップと;
(ii)任意選択的に発現制御要素の制御下で、ステップ(i)で提供される核酸配列を含んでなる核酸ベクターを生成するステップと;
(iii)ステップ(ii)の核酸ベクターを宿主細胞に導入するステップと
を含んでなる、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸を発現する細胞を生成するための方法に関する。
【0158】
一実施形態では、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分は、ベクターにクローン化される。
【0159】
一実施形態では、抗原結合タンパク質は、TCRまたはその抗原結合断片;BCRまたはその抗原結合断片または抗体またはその抗原結合断片である。別の実施形態では、抗原結合タンパク質は、TCRであるか、またはその一部は、少なくともα鎖およびβ鎖の可変ドメインを含んでなる。好ましくは、TCRまたはその抗原結合部分の配列は、適切なベクターに挿入される。別の実施形態では、TCR、BCRまたは抗体のアミノ酸配列は、6つのCDRを含んでなる。別の実施形態では、同定されたTCRの可変αドメインおよび/またはβドメインの2つまたは3つのCDRが、フレームワークまたは別のTCRまたは抗体に挿入される。好ましくは、TCRの可変αドメインの1つ、2つ、または3つのCDRの遺伝子配列は、フレームワーク領域を含んでなる適切なベクターにクローン化される。発現ベクターは、軽鎖または重鎖またはα鎖およびβ鎖(またはその可変ドメイン)の双方をコード化する核酸(いわゆる「タンデム型」)を含んでなってもよく、またはそれらは別個のベクターに含まれる核酸によってコード化されてもよい。タンデム型のヒト化抗体発現ベクターを使用することが好ましい(Shitara K et al.J Immunol Methods.1994 Jan.3;167(1-2):271-8)。タンデム型ヒト化抗体発現ベクターの例としては、例えば、pKANTEX93(国際公開第97/10354号パンフレット)、およびpEE18が挙げられる。
【0160】
別の実施形態では、ステップ(ii)のベクターが宿主細胞に導入される。一実施形態では、このような組換え宿主細胞は、本発明の少なくとも1つの抗原結合タンパク質またはその一部の生産に使用され得る。好ましくは、宿主細胞は、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分をコード化する核酸および/またはベクターによって、形質転換、形質導入または形質移入される。抗原結合タンパク質または抗原結合タンパク質部分をコード化する核酸による、宿主細胞の形質導入または形質移入は、例えば、米国特許第20190216852号明細書に記載される方法などの当該技術分野で周知の方法を使用して実施される。別の実施形態では、抗原結合タンパク質またはその抗原結合部分を含んでなる宿主細胞は、例えば、植物、動物、真菌、または藻類などの真核細胞であり得るか、または例えば、細菌または原生動物などの原核細胞であり得る。宿主細胞は、培養細胞または初代細胞、すなわち、例えばヒトなどの生物から直接単離された細胞であり得る。宿主細胞は、接着T細胞または懸濁細胞、すなわち、懸濁状態で増殖する細胞であり得る。組換えTCRまたはその断片などの抗原結合タンパク質または抗原結合タンパク質の一部を生成する目的のために、宿主細胞は、好ましくは哺乳類細胞である。最も好ましくは、宿主細胞はヒト細胞である。宿主細胞は任意の細胞型であり得て、任意の組織型に由来し得て、任意の発達段階であり得るもの、宿主細胞は、好ましくは末梢血白血球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)またはB細胞である。より好ましくは、宿主細胞はT細胞である。T細胞は、例えば、初代T細胞などの培養T細胞などの任意のT細胞;または例えば、ジャーカット、SupT1などの培養T細胞株由来のT細胞;または哺乳類から得られたT細胞、好ましくはヒト患者由来のT細胞またはT細胞前駆体であり得る。哺乳類から得られた場合、T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、またはその他の組織または体液をはじめとするが、これに限定されるものではない、多数の起源から得られ得る。好ましくは、T細胞はヒトT細胞である。より好ましくは、T細胞はヒトから単離されたT細胞である。T細胞は、CD4陽性および/またはCD8陽性、CD4陽性のヘルパーT細胞、例えば、Th1およびTh2細胞、CD8陽性T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤性細胞(TIL)、メモリーT細胞、未感作T細胞をはじめとするが、これに限定されるものではない、任意のT細胞型であり得て、任意の発達段階のものであり得る。好ましくは、T細胞は、CD8陽性T細胞またはCD4陽性T細胞である。別の実施形態では、宿主細胞は、組換え発現のための任意の細胞であってもよい。好ましくは、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0161】
本発明の第4の態様は、
(i)免疫細胞を含んでなる対象の細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団と、SPAを含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと;
(v)培養によって、少なくとも1つの選択された細胞の数を増加させるステップと;
(vi)培養された細胞を対象に再導入するステップと
を含んでなる、それを必要とする対象を治療するための方法に関し、
ここで、SPAのアミノ酸配列は、PAIのアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なり、ここで、第2のACは検出可能標識Bを含んでなり、
検出可能標識Aと検出可能標識Bは、互いに検出可能に異なる。
【0162】
このアプローチは、ACTアプローチである。好ましくは、選択された細胞は、遺伝子操作され、機能的に改善された後、対象に移入される。好ましくは、細胞は遺伝子操作された後に移入される対象に由来するものであり、すなわち、細胞のドナーと操作された細胞のレセプターは同一である。対象は、本明細書で上記に定義されるように、それを必要とする対象である。好ましくは、それを必要とする対象は、免疫疾患または腫瘍性疾患、ウイルスによって引き起こされる疾患、または細菌によって引き起こされる疾患からなる群から選択される疾患に罹患しているか、または罹患するリスクがある。腫瘍性疾患は、がんであることが好ましい。ウイルスによって引き起こされる疾患が、HIVであることが好ましい。細菌によって引き起こされる疾患は、結核であることが好ましい。
【0163】
本発明の第5の態様は、
(i)免疫細胞を含んでなる細胞集団を提供するステップと;
(ii)ステップ(i)の細胞集団と、PAIおよび検出可能標識Aを含んでなる第1の抗原複合体(第1のAC)とを、または検出可能標識Aを含んでなるPAIとを接触させるステップと;
(iii)ステップ(i)の細胞集団と、無関係のタンパク質抗原(IPA)を含んでなる少なくとも第2の抗原複合体(第2のAC)とを接触させるステップと;
(iv)第1のACに特異的に結合する、少なくとも1つの細胞を選択するステップと
を含んでなる、目的のタンパク質抗原(PAI)に特異的に結合する抗原結合タンパク質をその表面上に発現する免疫細胞を選択するための方法に関し、
ここで、PAIのアミノ酸配列と整列されたときに、IPAのアミノ酸配列は2つ以下のアミノ酸位置でPAIと同一であり、ここで、IACは検出可能標識Gを含んでなり;またはIPAと検出可能標識Gを含み;
検出可能標識Aと検出可能標識Gが、互いに検出可能に異なる。
【0164】
本発明の第5の態様による選択プロセスは、本発明の第1の態様について上で概説したように実行される。
【実施例
【0165】
実施例1:事前の標的特異的増殖存在下および非存在下における標的ペプチド特異的T細胞の直接選別。
図2および3は、標的ペプチドおよび類似ペプチドを認識する交差反応性T細胞を温存しながら、標的特異的T細胞の選別をもたらす2つの異なるアプローチの比較を示す。方法1(図2)は、標的特異的T細胞の事前の増幅を必要としない。PBMCを磁気ビーズ分離によって単離し、T細胞集団を富化する。T細胞集団を、蛍光色素コンジュゲート標的ペプチドおよび類似ペプチド四量体によって染色する。引き続いて、これらの細胞を、標的四量体の蛍光色素コンジュゲートの1つを標的化する磁気ビーズ分離を使用することによって、標的特異的T細胞についてさらに富化し得る。次に、標的ペプチド特異的T細胞集団を、CD4およびCD8などの表面マーカーについて、ならびに死細胞を除外するための生存率マーカーについて染色する。フローサイトメトリー選別アプローチを使用することで、図2に示すように、標的+類似ペプチド特異的T細胞を温存しながら、標的特異的T細胞を所望の表面マーカー発現について選別し得る。方法2(図3)は、標的ペプチドHLAで被覆された人工抗原提示細胞による刺激を利用して、低頻度の標的特異的T細胞を増幅する。ここでは、富化されたCD8T細胞を個々の容器内で培養し、モノクローナルまたはオリゴクローナルの標的ペプチド特異的T細胞集団の増殖を可能にする。人工抗原提示細胞による反復刺激後、個々のモノまたはオリゴクローナル集団を表面マーカーならびに標的ペプチドおよび類似ペプチド四量体(標的ペプチドおよび類似ペプチド四量体は、2D染色アプローチでそれぞれ異なる2つの蛍光色素で標識されている)で染色することで、図3に示すように、標的特異的なモノまたはオリゴクローナルT細胞集団と、交差反応性のモノまたはオリゴクローナルT細胞集団との区別が可能になる。
【0166】
実施例2:標的ペプチド多量体のみで選別されたT細胞に由来するT細胞受容体の機能評価。
標的多量体で選別することによって同定されたTCRの機能性および特異性を評価するために、T細胞受容体mRNAを生体外転写によって生成し、引き続いて電気穿孔によって健常ドナーのCD8陽性T細胞に形質移入するために使用する。次に、電気穿孔の18時間後に、20,000個の形質移入されたT細胞を、標的ペプチド、異なる標的配列類似ペプチド、無関係のペプチド、または未負荷のT2細胞のいずれかと、1:1の比率で同時インキュベートする。共培養開始から24時間後に上清を採取し、分泌されたIFN-γをELISA法によって分析する。図4に示すように、サイトカイン分泌は、それぞれのT細胞の抗原認識および活性を実証する。図4A、B、Cの全てのTCRが、標的(陽性対照)を認識する一方で、図4Aおよび図4BのTCRは、正常組織上で発現される標的配列類似ペプチドに対しても交差反応性を示すことから、さらなる分析からは除外し、「クリーンな」TCR(図4C)のみがさらなる特性評価のために選択される価値がある。(「標的」=標的ペプチド;TP;「SIM1~10」=標的類似ペプチド;TSP1~10)。
【0167】
この実施例で使用されるペプチド:
TPおよびSIM1~SIM10は全て9量体である。
●アミノ酸2、5、8、および9位が異なるTPおよびSIM1;SIM1は、2位にイソロイシン残基、5位にスレオニン残基、8位にロイシン残基、9位にバリン残基を有する。
●3、4、および7位が異なるTPおよびSIM2;SIM2は、3位にイソロイシン残基、4位にグルタミン酸残基、7位にグルタミン残基を有する。
●2、7、8、および9位が異なるTPおよびSIM3;SIM3は、3位にイソロイシン残基、7位および8位にグルタミン酸残基、9位にイソロイシン残基を有する。
●4、5、および8位が異なるTPおよびSIM4;SIM4は4位にリジン残基、5位にアスパラギン残基、8位にチロシン残基を有する。
●4、7、および8位が異なるTPおよびSIM5;SIM5は、4位にアスパラギン残基、7位にプロリン残基、8位にチロシン残基を有する。
●6、7、および8位が異なるTPおよびSIM6;SIM6は、6位にバリン残基、7位および8位にロイシン残基を有する。
●5、6、および8位が異なるTPおよびSIM7;SIM7は、5位にリジン残基、6位にグルタミン残基、8位にメチオニン残基を有する。
●3、5、7、および9位が異なるTPおよびSIM8;SIM8は3位にセリン残基、5位にグルタミン酸残基、7位および9位にバリン残基を有する。
●2、4、5、および9位が異なるTPおよびSIM9;SIM9は、2位にバリン残基、4位にグリシン残基、5位にアラニン残基、9位にバリン残基を有する。
●1、4、および6位が異なるTPおよびSIM10;SIM10は、1位にバリン残基、4位にヒスチジン残基、9位にグルタミン残基を有する。
●4~9位が異なるTPおよび対照ペプチド;
【0168】
実施例3:標的ペプチドならびに標的および類似ペプチド特異的T細胞に由来するT細胞受容体の機能評価。
この目的を達成するために、T細胞受容体mRNAを生体外転写を使用して生成し、引き続いて電気穿孔によってNFAT-ルシフェラーゼJurkat細胞を形質移入するために使用する。形質移入されたJurkat細胞は、新しく導入されたTCRをその表面に一過性に発現し始める。次に、電気穿孔の18時間後に、50,000個のJurkat細胞とT2細胞を1:1の比率で同時インキュベートし、選別のために使用される標的ペプチドまたは類似ペプチド、ならびに対照ペプチドまたはペプチドなしのいずれかを負荷する。TCRがその同族ペプチド-HLAに特異的に結合すると、シグナル伝達はNFATの活性化をもたらし、それは次にルシフェラーゼの発現をもたらす。一晩のインキュベーション後、ルシフェラーゼ基質を添加し、T細胞が活性化されたときにルミネセンスシグナルが検出され得る。図5は、標的四量体結合T細胞に由来するTCRが標的-ペプチド負荷T2細胞で刺激されると、機能的活性化をもたらすことを示す。(「標的」=標的ペプチド;TP;「SIM1~3」=標的類似ペプチド;TSP1~3)。
【0169】
この実施例で使用されるペプチド:
TPおよびSIM1~SIM3は全て9量体である。
●アミノ酸4、6、および7位が異なるTPおよびSIM1;SIM1は、4位にグルタミン酸残基、6位にロイシン残基、7位にイソロイシン残基を有する。
●2、7、および8位が異なるTPおよびSIM2;SIM2は、2位にメチオニン残基、7位にグルタミン酸残基、8位にリジン残基を有する。
●1、5、および6位が異なるTPおよびSIM3;SIM3は、1位にフェニルアラニン残基、5位にグリシン残基、6位にセリン残基を有する。
●1位および4~9位が異なるTPおよび対照ペプチド。
【0170】
全体として、SIM1はTPと77%の類似性を有し、SIM2はTPと77%の類似性を有し、SIM3はTPと75%の類似性を有し、BLASTP、BLOSUM62重み行列、ワード長3、期待値(E)10を使用する。
【0171】
実施例4:所与の標的ペプチドに関連性のある標的類似ペプチドおよび無関係の標的類似ペプチド。
所与のTPに対するTSPとしてのペプチドの関連性は、主にそのTPとの類似性によって判定されるが、さらに、初代正常組織上のその発現頻度ならびに定量的発現レベル(細胞毎コピー数(CpC))によっても導かれ得る。TPとの類似性が高ほど、そして正常組織上の提示頻度とCpCが高いほど、TSPの関連性が高くなる。表6は、TP、2つの対応するTSP、ならびにIPの配列例を示す。ペプチド毎に、TPと同一のアミノ酸(aa)の数、TP配列と比較したpmbec位置重み行列に基づく類似性、および正常組織のCpC範囲が示される。図6、7、および8は、2つのTSPならびにIPのペプチド提示プロファイルをさらに示す。TSP(TSP1)は、TPと同じ4つのアミノ酸を有するが、標的ペプチドと比較して5つの同一のアミノ酸を有するTSP2と比較して、標的トとの全体的な類似性はより高い。どちらのTSPも、TPとの類似性および正常組織上の提示に基づいて、関連性があると見なされる(図6および7)。示されたIPは、正常組織ではさらに高い発現頻度を示し(図8)、一般には細胞あたりのコピー数もより高い。しかし、配列類似性ならびに同一アミノ酸の数はむしろ低い(17%の類似性および0個の同一アミノ酸)。
【0172】
【表6】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】