(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】幹細胞由来心筋細胞への抗不整脈剤の適用およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220801BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20220801BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220801BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220801BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220801BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/136 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20220801BHJP
A61K 31/18 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C12N5/077
A61P9/06
A61P9/10
A61K45/00
A61K35/34
A61P43/00 121
A61K31/167
A61K31/136
A61K31/138
A61K31/343
A61K31/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572028
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020065703
(87)【国際公開番号】W WO2020245409
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘンニング・ケンプフ
(72)【発明者】
【氏名】サルカ・エルブル・ラスムセン
(72)【発明者】
【氏名】ディエーナ・マティルデ・レップケ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
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4C206ZA36
4C206ZA38
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤、抗不整脈心筋細胞集団、幹細胞由来心筋細胞の抗不整脈剤へのインビトロ曝露による抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法、ならびに/または不整脈の予防および心不全の治療における抗不整脈心筋細胞集団の医学的使用に関する。詳細には、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団の移植、または移植された幹細胞由来心筋細胞とインビボでの抗不整脈剤の共投与に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クラスIの抗不整脈剤が、リドカインもしくはメキシレチンであり、前記クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールもしくはプロプラノロールであり、および/または前記クラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンもしくはソタロール、またはその組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗不整脈剤が、クラスIおよび/またはクラスIIの抗不整脈剤と組み合わせて前記クラスIIIのリストから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記抗不整脈剤が、リドカインおよびアミオダロン、メキシレチンおよびソタロール、メトプロロールおよびソタロール、アミオダロンおよびプロプラノロール、リドカインおよびソタロール、アミオダロンおよびメトプロロール、アミオダロンおよびメキシレチン、ならびに/またはソタロールおよびプロプラノロールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
医薬として使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項7】
心不全の治療に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項8】
幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性が少なくとも50%低減している、請求項6または7に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項9】
GJA5、CACNA1G、NPPA、およびNPPBのリストから選択される遺伝子の発現の制御を有する、請求項6~8のいずれか一項に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項10】
GJA5および/またはCACNA1Gの発現の上方制御、ならびにNPPAおよび/またはNPPBの下方制御を有する、請求項9に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項11】
前記細胞集団が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、請求項10に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
【請求項12】
抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含む、キット。
【請求項13】
前記クラスIの抗不整脈剤が、リドカインもしくはメキシレチンであり、前記クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールもしくはプロプラノロールであり、および/または前記クラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンもしくはソタロール、またはその組み合わせである、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療または予防方法において使用するための、抗不整脈剤。
【請求項15】
心不全の治療に使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、幹細胞の分野、より詳細には、心不全の治療における、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減における、抗不整脈心筋細胞集団(antiarrhythmic cardiomyocyte cell population)、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法、その医学的使用に関する。本発明はまた、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は体内で最も少ない再生器官の1つであり、その結果、心臓損傷が起こると、心筋細胞は死に、収縮できない瘢痕領域を残す。これは、ポンプ力の低減、心不全、ならびに増加した罹患率および死亡率につながる。心臓疾患は、世界中の主要な死因である。
【0003】
ヒト多能性幹細胞は、心筋細胞に分化することができ、心筋細胞が失われたり機能不全になったりする場合に、損傷した心臓の修復について調査されている。
【0004】
心筋細胞が心内膜側から非ヒト霊長類の心臓に注入された少数の症例では、生着後最初の4~6週間の間にいくつかの種類の不整脈が検出された。これらの不整脈は、持続性心室性頻脈、非持続性心室性頻脈、および加速性特発性心室リズムである。
【0005】
これらの不整脈が生じる理由は、現在は不明であるが、すべての心筋細胞が収縮し、拍動する能力を有するため、一過性に起こることは驚くべきことではない。移植された細胞が宿主の心筋と統合する前に、それらが自身で拍動することが期待できる。さらに、心筋の瘢痕領域は、特に境界域から、患者に不整脈を引き起こすことが知られている。瘢痕への物質の注入は、それ自体が不整脈原性である可能性がある。
【0006】
サルにおいて、細胞注入後に生じる不整脈は、急性心筋梗塞および心不全(再侵入メカニズム)後に生じる従来の不整脈とは異なる種類および起源(異所性病巣由来)であることが記載されている。これは、細胞移植誘発性不整脈を治療する必要があること、および細胞が注入されていない場合、不整脈は発生しなかったであろうことを明確に定義していることを意味する。したがって、この種類の不整脈は、細胞移植によって引き起こされる新しい種類の状態であると考えられ得、この種類の不整脈の特定の治療は、まだ存在しない。
【0007】
心臓が損傷を受けた後にインビボで心臓筋組織を再生するために、様々な種類の多能性幹細胞由来心臓系細胞、例えば、初期心血管前駆細胞、未成熟拍動心筋細胞、ならびにより成熟した、例えば、ヘテロタイプ組織操作された心臓構築物を含む、様々な戦略が検討される。概して、インビトロでかかる細胞を生成するためのすべてのアプローチは、その遺伝子発現プロファイル、細胞形態、肉腫組織、電気生理学的特性、および結果として生じる収縮力に関して、妊娠の第1~第2期の胎児様細胞に類似する比較的未成熟な表現型の心筋細胞を生じさせる。特に、様々な戦略のうちの複数が、移植後の生着および成熟が可能な細胞を主に産生することを示した。しかしながら、全体的な効率は限定的であった。これは特に、移植後の生着および成熟を媒介する根本的なメカニズムの理解が限定的であったためであり、これは、特に移植された心筋細胞のさらなる治療を特定し、その発達および統合を促進するためのさらなる研究の必要性を喚起するものである。
【0008】
本発明の目的は、心不全の治療のための方法における幹細胞由来心筋細胞の生着によって引き起こされる不整脈の問題に対処することである。特に、本発明の目的は、例えば、不整脈を回避、予防、および/または軽減するために、移植された幹細胞の宿主心筋への統合を促進することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、本発明の態様によって達成される。さらに、本発明はまた、例示的な実施形態の開示から明らかになるであろうさらなる問題を解決することができる。
【0010】
最も広範な態様では、本発明は、患者における幹細胞由来心筋細胞の移植および心不全の治療に起因する不整脈の予防もしくは軽減または治療のためのインビトロおよびインビボアプローチに関する。
【0011】
一態様では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0012】
一態様では、本発明は、医薬として使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0013】
一態様では、本発明は、心不全の治療に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0014】
一態様では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0015】
一態様では、本発明は、1つ以上の抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含むキットに関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、心不全の治療のための方法において使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む組成物に関する。
【0018】
いかなる理論にも束じられるものではないが、本発明者らは、幹細胞由来心筋細胞を移植した宿主で観察された不整脈は、幹細胞が依然として心筋に完全に統合されていないことによって引き起こされる症状であると考えている。現在、本発明者らは、不整脈を予防もしくは軽減する、および/または心不全を治療するアプローチを示した。アプローチのうちの1つは、幹細胞由来心筋細胞を、心筋細胞が同期して接続および収縮できることに関連する重要な遺伝子の遺伝子発現の制御を変化させるインビトロで抗不整脈剤と接触させることにより、抗不整脈心筋細胞集団を取得することである。これは、移植後の抗不整脈心筋細胞集団の宿主心筋への統合を促進し、それによって前述の抗不整脈効果を予防または軽減し、幹細胞由来心筋細胞の独立して収縮し、拍動する能力の抑制による心不全の治療を提供すると考えられる。別のアプローチは、幹細胞由来心筋細胞の患者への移植中または移植後に、1つ以上の抗不整脈剤をインビボで共投与することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のCACNA1Gの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図2】
図2は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のGJA5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図3】
図3は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNPPAの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図4】
図4は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNPPBの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図5】
図5は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNKX2-5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図6】
図6は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のTNNT2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図7】
図7は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のACTA2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図8】
図8は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のSCN5Aの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図9】
図9は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNPPAの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図10】
図10は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNPPBの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図11】
図11は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNKX2-5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図12】
図12は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のTNNT2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図13】
図13は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μM、1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のSCN5Aの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図14】
図14は、10μMのアミオダロンに5日間曝露した後、薬剤の非存在下で2日間の回復期間を経た後の、21日齢の幹細胞由来心筋細胞のCACNA1G、GJA5、NPPA、およびNPPBの遺伝子発現を示す。それぞれの未治療の心筋細胞が対照として示される。心筋細胞は、実験をとおして、約150μm~300μmの直径サイズの三次元懸濁液クラスターとして維持された。
【
図15】
図15は、基線で示された濃度での抗不整脈剤に曝露した後(左)および不整脈誘発因子である200nMのモキシフロキサシンで刺激した後(右パネル)の幹細胞由来心筋細胞の拍動ごとの変動係数(CV)を示す。棒グラフは、平均値+平均値の標準誤差を表す。N=12およびN=18はそれぞれ、化合物で治療された条件および対照についてである。アスタリスクは、すべての化合物を対照治療と比較するクラスカルワリス検定に基づく統計的有意性(p<0.05)を示す。
【
図16】
図16は、1μMソタロール、0.1μMアミオダロン、0.1μMメトプロロール1μMメキシレチン、1μMプロプラノロール、および単剤との比較の濃度で適用された抗不整脈剤の組み合わせへの曝露後の幹細胞由来心筋細胞の拍動ごとの変動係数(CV)を示す。すべての条件は、200nMのモキシフロキサシンによる刺激後に測定された。棒グラフは、平均値+平均値の標準誤差を表す。N=70およびN=12はそれぞれ、単一化合物で治療された条件および化合物の組み合わせについてである。アスタリスクは、化合物治療の各群を単一化合物対照と比較するクラスカルワリス検定に基づく統計的有意性(p<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
別段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の示唆がない限り、当業者に公知の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の従来の方法を用いる。
【0021】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0022】
本明細書で提示する任意およびすべての例または例示的な語句(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより明瞭にするという意図しかなく、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいずれの語句も、特許請求されないいかなる要素も本発明の実施に必須であることを示すと解釈すべきではない。
【0023】
本出願全体を通して、「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用される。
【0024】
本出願全体を通して、「培養する」、「接触する」、および「曝露する」という用語は、互換的に使用される。
【0025】
本出願全体を通して、「ヒト対象者」、「患者」、「宿主」という用語は、互換的に使用される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書に別段の示唆がない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。
【0027】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0028】
本発明の細胞、化合物、または薬剤の量、用量、温度などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された量の5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%の変動を包含するよう意図される。
【0029】
本明細書で使用される場合、プロトコルに関する「日」という用語は、ある特定のステップを実施するための特定の時間を指す。概して、別段の記載がない限り、「0日目」は、プロトコルの開始を指し、幹細胞をプレーティングすること、または幹細胞をインキュベーターに移すこと、または幹細胞の移植前に、現在の細胞培養培地中の幹細胞を化合物と接触させることによる。典型的には、プロトコルの開始は、未分化幹細胞を異なる細胞培養培地および/または容器に移すことにより、プレーティングもしくはインキュベートすること、および/または未分化幹細胞を、分化プロセスが開始されるような方法で未分化幹細胞に影響を及ぼす化合物と最初に接触させることによる。
【0030】
1日目、2日目などの「x日目」に言及する場合、これは、0日目のプロトコル開始に関連するものである。当業者は、別段の指定がない限り、ステップを実施するための正確な日時が変動し得ることを認識するであろう。したがって、「x日目」は、+/-10時間、+/-8時間、+/-6時間、+/-4時間、+/-2時間、または+/-1時間などの時間範囲を包含するよう意図される。代替的に、本発明による方法のステップを実施するための期間または時間は、「時間(hour)」で記載される。
【0031】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「不整脈」という用語は、心臓が不規則または異常なリズムで拍動する状態を意味する。マカクにおいて、特定の細胞誘発性不整脈は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および持続性加速性特発性心室リズムであることが示される。
【0033】
したがって、一実施形態では、不整脈の治療は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および/または持続性加速性特発性心室リズムである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「抗不整脈剤(antiarrhythmic agent)」もしくは「複数の抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)」または「抗不整脈化合物」または「抗不整脈薬」という用語は、作用機序に応じて、異なる薬物クラス(ヴォーンウィリアムズクラス)に分類される1つ以上の医薬品を意味する。クラスIの薬物は主にナトリウムチャネルを遮断し、クラスIIの薬物はベータ受容体を遮断し、クラスIIIの薬物はカリウムチャネルを遮断し、クラスIVの薬物はカルシウムチャネルに影響を及ぼす。1つの薬物クラスは、複数のイオンチャネルタイプにも影響し得るが、その主な機能によって分類されることに留意することが重要である。
【0035】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤のリストから選択される。さらなる実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤のリストから選択される。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「抗不整脈心筋細胞集団」という用語は、不整脈および/または他の不整脈様事象に対する拍動ごとの変動性の低減および/またはそれらの感受性の低減をもたらす、修飾された特性を有する本発明の方法によって取得される心筋細胞として理解されるべきである。
【0037】
本明細書で使用される場合、「生体材料」という用語は、細胞産物と相互作用することを目的とした合成または天然材料の任意の化学物質を指す。かかる生体材料は、以下に限定されないが、アルジネート、キトサン、セルロース、アガロース、ゼラチン、ヒアルロン酸、絹フィブロイン、フィブリンおよび/またはコラーゲン、ポリ-ウレタン、ポリ-ビニルアルコール、ポリ-ヒドロキシエステル、ポリ-プロピレンフマレート、ならびに他の合成、生分解性および/または刺激感受性ハイドロゲル、生理活性ガラスを含む、天然および/または合成高分子材料の群を含む。
【0038】
「心筋細胞(cardiac muscle cell)」、「心筋細胞(cardiomyocyte)」、「心筋細胞(myocardiocyte)」、および「心筋細胞(cardiac myocyte)」という用語は、互換的に使用され得、心筋(心臓筋肉)を構成する筋細胞を指す。各心筋細胞は筋原線維を含有し、筋細胞の基本的な収縮単位であるサルコメアの長鎖からなる特殊小器官である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「心不全」という用語は、心臓がその要求に追いつくことができないこと、詳細には、心臓が正常な効率で血液を送り出すことができないことを意味する。これが発生すると、心臓は脳、肝臓、腎臓などの他の臓器に十分な血流を提供できない。心不全は、右心室、左心室、または両心室の不全が原因であり得る。詳細には、心不全は、心臓の一部への血流が減少し、または停止し、心筋に損傷を引き起こすときに起こる、一般に心臓発作として知られる心筋梗塞であり得る。心臓への血流障害が長く続くと、虚血性カスケードが誘発され、閉塞した冠動脈の領域にある心臓細胞は主に壊死により死滅し(梗塞)、戻ることはない。
【0040】
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己再生能力)を有するが、分化能を維持する未分化細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞などの亜集団を含む。多能性幹細胞とは、インビトロで培養することができ、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)および/または胚外組織(多能性)に属する任意の細胞系統に分化する効力を有する幹細胞を指す。多能性幹細胞とは、すべての種類ではないが、複数の種類の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。多能性幹細胞は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞などから誘導され得る。多能性幹細胞の例としては、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞(胚性生殖細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが含まれる。間葉系幹細胞(MSC)から得られるミューズ細胞(多系統分化ストレス耐性細胞)、および生殖細胞(例えば、精巣)から産生されるGS細胞も、多能性幹細胞に包含される。誘導多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSCとしても既知)は、成体細胞から直接生成され得る多能性幹細胞の一種である。多能性関連遺伝子の特定のセットの産物の導入によって、成体細胞は、多能性幹細胞に変換され得る。胚性幹細胞は、胚を破壊することなく得られた内部細胞塊を培養することによって産生され得る。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、市販されている。
【0041】
本明細書で使用される場合、「幹細胞由来心筋細胞」という用語は、ヒト心臓の筋細胞に類似する非天然幹細胞産物を取得するためにインビトロプロトコルを通じて誘導された、様々な発達段階での心筋細胞として理解されるべきである。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、ヒト胚性幹細胞などのヒト多能性幹細胞に由来する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、誘導された多能性幹細胞に由来する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、体細胞の心筋細胞への分化転換などの他の供給源に由来する(Masaki Ieda et al,Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors,Volume 142,Issue 3,P375-386,August 06,2010)。当業者は、幹細胞由来心筋細胞を提供することができるであろう。本発明で使用される1つの利用可能な方法が記載されている(「Kempf H et al Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nat Commun.2016;7:13602」)。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、その前駆体または前駆細胞を含む。
【0042】
幹細胞由来の心筋細胞集団は、典型的には、NKX2.5、TNNT2、ACTN2、MYH6および/またはMYH7、MYL2および/またはMYL7、TNNI1および/またはTNNI3から選択されるマーカーのうちの少なくとも3つの発現によって特徴付けられる。幹細胞由来心筋細胞の成熟状態に応じて、幹細胞由来心筋細胞またはその前駆細胞もしくは前駆体は、ISL1、GATA4、MEF2C、SSEA-1、PDGFRA、MESP1、および/またはそれらの組み合わせを発現する細胞を含み得る。
【0043】
本明細書で言及する場合、「移植」および「生着」という用語は、互換的に使用され、本発明の方法に従って取得された生存可能な幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団を、ヒト対象または患者の心臓内またはその近傍に移植するプロセスを指す。
【0044】
本明細書で言及する場合、「移植片」および「移植組織」という用語は、前述の手順を介してヒト対象または患者に移植される本発明の方法に従って取得された幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団を指す。
【0045】
本発明の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0046】
この態様による一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、患者に移植される。
【0047】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、インビボでの幹細胞由来心筋細胞の移植との共投与するためのものである。
【0048】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、幹細胞由来心筋細胞の移植中に共投与される。
【0049】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、幹細胞由来心筋細胞の移植後に共投与される。
【0050】
幹細胞由来心筋細胞の移植と抗不整脈剤のこの共投与は、細胞および薬剤をヒドロゲルなどの生体材料と組み合わせて、その標的部位(2016年10月18日にオンラインで公開されたJianyu Li and David J.Mooney,Designing hydrogels for controlled drug delivery,Nat Rev Mater.2016 Dec;1(12):16071.)での薬剤の長期かつ局所的に制限された放出を可能にすることによって、例えば、生分解性ヒドロゲル粒子への不整脈剤の取り込みによって、さらに改善することができる(2019年2月8日にオンラインで公開されたRadhika Narayanaswamy,Vladimir P Torchilin,Hydrogels and Their Applications in Targeted Drug Delivery,Molecules.2019 Feb;24(3):603.)。
【0051】
一態様では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0052】
一実施形態では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞をインビトロで培養するステップを含む、方法に関する。
【0053】
一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、抗不整脈剤を含む培地中で、24時間未満、少なくとも24時間、24~48時間、少なくとも48時間、48~72時間、少なくとも72時間、72~96時間、少なくとも96時間培養される。
【0054】
一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、1nM~100nM、約1nM、約10nM、約20nM、約40nM、約60nM、約80nM、約100nM、または0.1~100μM、0.5μM、1μM、5μM、10μM、100μMのクラスI、クラスII、および/またはクラスIIIの抗不整脈剤と培養される。
【0055】
この態様による一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、患者に移植される。
【0056】
本発明の別の態様は、医薬として使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。この態様による一実施形態では、本発明は、心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。この態様による一実施形態では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。一実施形態では、本発明は、不整脈誘発の予防または軽減に関する。
【0057】
患者における抗不整脈心筋細胞集団の移植の有利な利点は、それが抗不整脈剤の典型的なリスク(例えば、徐脈、A-Vブロック、QT間隔の延長)(D P Zipes,Proarrhythmic Effects of Antiarrhythmic Drugs,1987 Apr 30;59(11):26E-31E)、および間質性肺線維症、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症、肝毒性、低血圧、振戦、めまい、軽度の発熱、光線過敏症、神経障害、筋力低下を含むが、これらに限定されない他の副作用(Thomas W.Nygaard et al,Adverse Reactions to Antiarrhythmic Drugs During Therapy for Ventricular Arrhythmias,JAMA.1986;256(1):55-57);Janice B.Schwartz et al,Adverse Effects of Antiarrhythmic Drugs,Drugs volume 21,pages 23-45(1981)による不整脈誘発を低減することである。
【0058】
抗不整脈性心筋細胞集団の利点は、幹細胞由来心筋細胞と比較して、宿主心筋への優れた生着を示す可能性が高いことであり、これは、低減した不整脈誘発能が、同期拍動行動を可能にし、細胞の迅速および/または正しい統合を促進し、より迅速な成熟プロセスを可能にするためである。
【0059】
本発明の追加の利点は、幹細胞由来心筋細胞の抗不整脈剤へのインビトロ曝露が、インビボでの典型的な血漿濃度より少なくとも10、100、1000、または10000倍を上回るより高い濃度レベル、すなわち、リドカインの場合は2~6μg/ml、メキシレチンの場合は0.6~1,7μg/ml、プロプラノロールの場合は2,1~300ng/ml(Plasma concentrations of propranolol and 4-hydroxypropranolol during chronic oral propranolol therapy,Br J Clin Pharmacol.1979 Aug;8(2):163-167)、メトプロロールの場合は100~140ng/ml(Plasma levels and effects of metoprolol on blood pressure and heart rate in hypertensive patients after an acute dose and between two doses during long-term treatment,Clinical pharmacology and therapeutics,first published:April 1975)、アミオダロンの場合は0.5~2.5μg/ml、ソタロールの場合は1~3μg/mlでの曝露を可能にすることであり、それにより、インビボ治療と比較して、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための成功の可能性が高まる。
【0060】
全体的に、抗不整脈心筋細胞集団は、典型的な幹細胞由来心筋細胞と比較して、宿主心筋への統合が成功する可能性が高く、それによってレシピエント心臓の全体的なポンプ機能を増加させることによって細胞移植の転帰を改善する。
【0061】
さらなる実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも50%の低減を有する。
【0062】
アミオダロンなどの抗不整脈剤は、溶液、錠剤、ヒドロゲルカプセル化などとして、および静脈内、経口、心内膜など、様々な投与経路によって投与することができる。これは、患者において示されてきた(Garcia JR et al.,Minimally invasive delivery of hydrogel-encapsulated amiodarone to the epicardium reduces atrial fibrillation)。一実施形態では、クラスIIIの抗不整脈剤は、ソタロールである。本明細書で使用される場合、「ソタロール」は、式C12H20N2O3Sを伴うCAS番号3930-20-9を指す。一実施形態では、ソタロールの濃度は、100nMである。
【0063】
本発明の一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養することによってインビトロで取得される。
【0064】
本発明の一実施形態は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0065】
一実施形態では、クラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロンである。本明細書で使用される場合、「アミオダロン」は、式C25H29I2NO3を伴うCAS番号1951-25-3を指す。アミオダロンは特に、心筋細胞が同期して接続および収縮することを可能にする細胞膜構築物であるギャップ接合部(GJA5)の発現を増加させることが見出される。これは、心筋細胞がどのように協働し、心臓の適切な収縮を確実にする電気機械的なインパルスの正常な伝搬を確保するかの重要な部分である。この所見は、アミオダロンが幹細胞由来心筋細胞の宿主組織への生着および統合を増加させ、心筋細胞の同期した収縮を確実にするのに役立つことを支持する。
【0066】
さらに、アミオダロンは、CACNA1G発現を増加させることが見出される。カルシウム処理は、細胞の収縮性および活動電位の生成の非常に重要な部分である。したがって、この所見は、細胞のリズムおよび収縮に対する薬剤の安定化効果を支持する。
【0067】
アミオダロンはまた、ANPおよびBNP発現を抑制することも見出される。これは、肥大反応の抑制の可能性を示すか、または単に、より良い機能する心筋細胞の指標であるに過ぎない。ANPおよびBNPは、心不全が悪化すると上昇することが知られているため、ANPおよびBNPが低い場合、これは、より良好に機能する心筋細胞および心臓の徴候である。この所見は、アミオダロンが幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団の機能性を改善することを支持する。一実施形態では、アミオダロンの濃度は、10nMである。
【0068】
別の実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIの抗不整脈剤である。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインである。本明細書で使用される場合、「リドカイン」は、化学式C14H22N2Oを伴うCAS番号137-58-6を指す。一実施形態では、リドカインの濃度は、100nMである。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、メキシレチンである。本明細書で使用される場合、「メキシレチン」は、式C11H17NOを伴うCAS番号31828-71-4を指す。一実施形態では、メキシレチンの濃度は、100nMである。
【0069】
代替的な実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIの抗不整脈剤である。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールである。本明細書で使用される場合、「メトプロロール」は、化学式C158H25NO3を伴うCAS番号51384-51-1を指す。一実施形態では、メトプロロールの濃度は、10nMである。
【0070】
一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、プロプラノロールである。本明細書で使用される場合、「プロプラノロール」は、式C16H21NO2を伴うCAS番号525-66-6を指す。一実施形態では、プロプラノロールの濃度は、100nMである。
【0071】
一実施形態では、抗不整脈剤は、単一の化合物としてのみ解釈される。一実施形態では、抗不整脈剤は、製剤である。一実施形態では、抗不整脈剤は、同じまたは異なるクラスから選択される1つ以上の抗不整脈剤の組み合わせである。
【0072】
本明細書に記載されるように、幹細胞由来心筋細胞の移植を受けている患者の治療は、任意の好適な手段による1つ以上の抗不整脈剤の投与によるものであり得る。抗不整脈剤は、注入装置を用いた静脈内注射による、または錠剤としての摂取によるがこれに限定されない、投与のための任意の好適な方法で製剤化され得る。注入装置は、それぞれの製剤中の細胞産物のレシピエントへの送達を意図する医療用システムを指す。注入装置は、心膜、心外膜、および/または心内膜送達に優先的に好適である。注入装置は、これらに限定されないが、針先式シリンジ、針なしシリンジ、心筋梗塞領域の近傍での送達に好適な注入カテーテルシステムを含み得る。注入装置は、これらに限定されないが、冠動脈内、心内膜および/または心外膜注入を意図した装置を含む。
【0073】
抗不整脈剤が、1つを超える抗不整脈薬化合物を含む場合、それは、共製剤化されても、またはされなくてもよく、一緒にもしくは別々におよび/または異なる投与レジメンおよび/または異なる時間間隔で投与されてもよい。
【0074】
好ましい実施形態では、抗不整脈剤は、少なくとも2つのクラスの抗不整脈剤の組み合わせである。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤およびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインである。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、メキシレチンである。
【0075】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0076】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびメキシレチンを含む。
【0077】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびリドカインを含む。
【0078】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびメキシレチンを含む。
【0079】
一実施形態では、抗不整脈剤は、1μMのソタロールおよび1μMのメキシレチンを含む。
【0080】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤およびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールである。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、プロプラノロールである。
【0081】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびメトプロロールを含む。
【0082】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびプロプラノロールを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのアミオダロンおよび1μMのプロプラノロールを含む。
【0083】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびメトプロロールを含む。
【0084】
一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのメトプロロールおよび1μMのソタロールを含む。
【0085】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびプロプラノロールを含む。
【0086】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIの抗不整脈剤およびクラスIIの抗不整脈剤を含む。
【0087】
一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびメトプロロールを含む。
【0088】
一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびプロプラノロールを含む。
【0089】
一実施形態では、抗不整脈剤は、メキシレチンおよびメトプロロールを含む。
【0090】
一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのメトプロロールおよび1μMのメキシレチンを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、メキシレチンおよびプロプラノロールを含む。
【0091】
一実施形態では、抗不整脈剤は、2つの同じクラスの抗不整脈剤の組み合わせを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびメキシレチンを含む。
【0092】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、メトプロロールおよびプロプラノロールを含む。
【0093】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびソタロールを含む。
【0094】
一実施形態では、抗不整脈剤は、3つのクラスの抗不整脈剤の組み合わせを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤の組み合わせを含む。
【0095】
薬物の効果は、2つ以上の薬物が組み合わされた場合に増強され、これは、薬物が拍動/頻度に対して関連する効果を有し、薬物の組み合わせが単一薬物治療よりも効果的であるという所見を支持するに過ぎない。
【0096】
本発明者らは、全体的に、濃度が増加すると、すべての薬物が鼓動に影響を与えること、すなわち、低濃度では細胞が拍動し、拍動の頻度が遅くなり、中濃度では細胞は拍動を停止し、高濃度では薬物が毒性があることが知られているため、濃度が高くなりすぎると細胞が死ぬことが予想されることを見出した。これは、薬物が、拍動頻度に対する用量依存性の効果を有する関連する抗不整脈効果を有することを確証する。したがって、この結果は、拍動およびリズムが薬物によって改善され、不整脈が生じる可能性が低いことを確証する。
【0097】
本発明の別の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植によって引き起こされる不整脈の治療または予防のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。特定の実施形態では、不整脈は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法によって引き起こされる。
【0098】
一実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の移植転帰の成功する高い可能性を得るためのものである。
【0099】
別の実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の宿主心筋へのより安全な生着を促進するためのものである。
【0100】
そのさらなる実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の拍動および/またはリズムを改善するためのものである。そのさらなる実施形態では、方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の拍動および/またはリズムの変化を低減するためのものである。
【0101】
本発明の別の態様では、抗不整脈剤は、インビトロでの抗不整脈剤への曝露後の生着細胞における改変された遺伝子発現による抗不整脈心筋細胞集団の移植後の移植片拒絶反応の予防のための方法で使用される。したがって、本発明者らは、抗不整脈剤が幹細胞由来心筋細胞に直接影響を与えることを示した。
【0102】
本発明の別の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む組成物に関する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、単一細胞、細胞クラスター、または細胞パッチである。組成物の一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤はアミオダロンであり、クラスIIIの抗不整脈剤はリドカインである。
【0103】
本発明の別の態様は、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含むキットに関する。一実施形態では、キットは、好ましくは幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するためのものである。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される。好ましい実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される。さらなる実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインであり、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロン、またはその組み合わせである。好ましい実施形態では、キットは、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0104】
本発明の別の態様は、GJA5、CACNA1G、NPPA、および/またはNPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御するステップを含む、移植転帰の成功する高い可能性を伴う抗不整脈心筋細胞集団を取得する方法に関する。
【0105】
好ましい実施形態では、遺伝子の発現を制御するステップは、幹細胞由来心筋細胞をインビトロで抗不整脈剤と接触させることによって実施される。
【0106】
一実施形態では、遺伝子CACNA1Gは、約1.5倍を超えて、例えば、約2倍を超えて上方制御される。一実施形態では、遺伝子GJA5は、約2倍を超えて上方制御される。一実施形態では、遺伝子NPPAは、約2倍を超えて下方制御される。一実施形態では、遺伝子PPBは、約2倍を超えて、例えば、約3倍を超えて、好ましくは約4倍を超えて下方制御される。一実施形態では、遺伝子発現の制御は、インビトロである。この文脈で使用される場合、「インビトロ」は、例えば、好適な容器に含有されるなど、ヒト身体の外の細胞集団を意味する。
【0107】
したがって、前述の態様の方法に従って、固有の細胞集団、すなわち抗不整脈心筋細胞集団が取得される。したがって、本発明の別の態様は、抗不整脈心筋細胞集団に関し、心筋細胞の少なくとも40%、50%、60%、70%、80、90%、95%、または99%が制御された遺伝子発現を有し、CACNA1Gは、少なくとも約1.5倍上方制御され、かつ/またはGJA5は、少なくとも約2倍上方制御され、かつ/またはNPPAは、少なくとも約2倍下方制御され、かつ/またはNPPBは、少なくとも約2倍下方制御される。一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、インビトロで取得されている。
【0108】
別の実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、薬物スクリーニング、毒性試験、および/または疾患モデリングを含むがこれらに限定されないインビトロアッセイで使用される。
【0109】
本発明の別の態様は、心不全の治療のための方法に関し、a)インビトロ幹細胞由来心筋細胞を取得するステップ、b)幹細胞由来心筋細胞を患者に移植するステップ、およびc)移植中または移植後に抗不整脈剤をインビボで患者に共投与するステップを含む。好ましい実施形態では、ステップc)の抗不整脈剤は、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0110】
一実施形態では、方法は、インビトロで幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させて、患者に移植される抗不整脈心筋細胞集団を取得するステップを含む。好ましい実施形態では、方法は、幹細胞由来細胞をアミオダロンおよびリドカインとインビトロで接触させるステップを含む。
【0111】
特定の実施形態
本発明の態様がここで、以下の非限定的な実施形態によってさらに記載される:
1.抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法。
2.幹細胞由来心筋細胞が、培地中で24時間未満培養される、実施形態1に記載の方法。
3.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも24時間培養される、実施形態1に記載の方法。
4.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と24~48時間培養される、実施形態1に記載の方法。
5.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも48時間培養される、実施形態1に記載の方法。
6.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と48~72時間培養される、実施形態1に記載の方法。
7.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも72時間培養される、実施形態1に記載の方法。
8.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と72~96時間培養される、実施形態1に記載の方法。
9.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも96時間培養される、実施形態1に記載の方法。
10.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
11.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインもしくはメキシレチンであり、クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールもしくはプロプラノロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンもしくはソタロール、またはその組み合わせである、実施形態10に記載の方法。
12.抗不整脈剤が、クラスIおよび/またはクラスIIの抗不整脈剤と組み合わせてクラスIIIのリストから選択される、実施形態10に記載の方法。
13.抗不整脈剤が、リドカインおよびアミオダロンである、実施形態11に記載の方法。
14.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
15.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
16.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
17.抗不整脈剤が、リドカインおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
18.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメトプロロールである、実施形態11に記載の方法。
19.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメキシレチンである、実施形態11に記載の方法。
20.抗不整脈剤が、ソタロールおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
21.抗不整脈剤が、クラスIの抗不整脈剤と組み合わせてクラスIIのリストから選択される、実施形態10に記載の方法。
22.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびメキシレチンである、実施形態11に記載の方法。
23.抗不整脈剤が、リドカインおよびメトプロロールである、実施形態11に記載の方法。
24.抗不整脈剤が、リドカインおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
25.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
26.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
27.抗不整脈剤の濃度が、少なくとも少なくとも1nMである、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
28.抗不整脈剤の濃度が、1nM~100nMの範囲内である、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
29.抗不整脈剤の濃度が、約1nMである、実施形態28に記載の方法。
30.抗不整脈剤の濃度が、約10nMである、実施形態28に記載の方法。
31.抗不整脈剤の濃度が、約100nMである、実施形態28に記載の方法。
32.抗不整脈剤の濃度が、0.1μM~100μMの範囲内である、先行請求項1~26のいずれかに記載の方法。
33.抗不整脈剤の濃度が、約0.5μMである、実施形態32に記載の方法。
34.抗不整脈剤の濃度が、約1μMである、実施形態32に記載の方法。
35.抗不整脈剤の濃度が、約5μMである、実施形態32に記載の方法。
36.抗不整脈剤の濃度が、約10μMである、実施形態32に記載の方法。
37.抗不整脈剤の濃度が、約100μMである、実施形態32に記載の方法。
38.医薬として使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
39.心不全の治療に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
40.不整脈の予防または軽減に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
41.不整脈誘発の予防または軽減に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
42.移植された幹細胞由来心筋細胞の移植転帰を改善するための、実施形態38~41に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
43.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において低減を有する、実施形態38~41のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
44.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも50%の低減を有する、実施形態43に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
45.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも70%の低減を有する、実施形態43に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
46.GJA5、CACNA1G、NPPA、およびNPPBのリストから選択される遺伝子の発現の制御を有する、実施形態38~45のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
47.GJA5および/またはCACNA1Gの上方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
48.NPPAおよび/またはNPPBの下方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
49.GJA5および/またはCACNA1Gの上方制御、ならびにNPPAおよび/またはNPPBの下方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
50.細胞集団が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態46~49のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
51.少なくとも10%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
52.少なくとも20%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
53.少なくとも40%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
54.抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含む、キット。
55.好ましくは幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、実施形態54に記載のキット。
56.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される、実施形態54~55のいずれか1つに記載のキット。
57.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態56に記載のキット。
58.クラスIの抗不整脈剤は、リドカインまたはメキシレチンであり、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールまたはプロプラノロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロンまたはソタロール、またはそれらの組み合わせである、実施形態56に記載のキット。
59.アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態58に記載のキット。
60.メキシレチンおよびソタロールを含む、実施形態58に記載のキット。
61.メトプロロールおよびソタロールを含む、実施形態58に記載のキット。
62.メトプロロールおよびメキシレチンを含む、実施形態58に記載のキット。
63.アミオダロンおよびプロプラノロールを含む、実施形態58に記載のキット。
64.心不全の治療に使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む、組成物。
65.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
66.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤のリストから選択される、実施形態65に記載の抗不整脈剤。
67.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤のリストから選択される、実施形態65に記載の抗不整脈剤。
68.抗不整脈剤が、クラスIIIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
69.クラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンである、実施形態68に記載の抗不整脈剤。
70.クラスIIIの抗不整脈剤が、ソタロールである、実施形態68に記載の抗不整脈剤。
71.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、アミオダロン。
72.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、ソタロール。
73.抗不整脈剤が、クラスIIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
74.クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールである、実施形態73に記載の抗不整脈剤。
75.クラスIIの抗不整脈剤が、プロプラノロールである、実施形態73に記載の抗不整脈剤。
76.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、メトプロロール。
77.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、プロプラノロール。
78.抗不整脈剤が、クラスIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
79.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインである、実施形態78に記載の抗不整脈剤。
80.クラスIの抗不整脈剤が、メキシレチンである、実施形態78に記載の抗不整脈剤。
81.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、リドカイン。
82.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、メキシレチン。
83.抗不整脈剤が、クラスIIIおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
84.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
85.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
86.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメキシレチンを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
87.抗不整脈剤が、ソタロールおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
88.抗不整脈剤が、ソタロールおよびメキシレチンを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
89.抗不整脈剤が、ソタロールおよびリドカインを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
90.移植された幹細胞由来心筋細胞の移植転帰の成功する高い可能性を得るための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の不整脈治療剤。
91.移植された幹細胞由来心筋細胞の宿主心筋内への統合を促進するための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
92.移植された幹細胞由来心筋細胞の拍動および/またはリズムを改善するための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
93.抗不整脈剤が、GJA5、CACNA1G、NPPA、NPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御する、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
94.幹細胞由来心筋細胞の移植によって引き起こされる不整脈の治療または予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
95.不整脈は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および持続性加速性特発性心室リズムである、実施形態94に記載の抗不整脈剤。
96.幹細胞由来心筋細胞の移植後の移植片拒絶反応の予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
97.不整脈が、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法によって引き起こされる、実施形態94に記載の抗不整脈剤。
98.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、クラスIの抗不整脈剤およびクラスIIIの抗不整脈剤を含む、組成物。
99.クラスIの抗不整脈剤が、アミオダロンであり、クラスIIIの抗不整脈剤が、リドカインである、実施形態98に記載の組成物。
100.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法における抗不整脈剤の使用。
101.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞。
102.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療における不整脈の予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞。
103.幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させることを含む、移植転帰の成功の高い可能性を得るための、幹細胞由来心筋細胞における遺伝子発現を制御する方法。
104.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される、実施形態103に記載の方法。
105.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態104に記載の方法。
106.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインであり、クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロン、またはその組み合わせである、実施形態105に記載の方法。
107.GJA5、CACNA1G、NPPA、およびNPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御するステップを含む、移植転帰の成功する高い可能性を伴う幹細胞由来心筋細胞を取得するための方法。
108.遺伝子GJA5が、少なくとも1.5倍上方制御され、かつ/または遺伝子CACNA1Gが、少なくとも2倍上方制御され、かつ/または遺伝子NPPAが、少なくとも2倍下方制御され、かつ/または遺伝子NPPBが、少なくとも4倍下方制御される、実施形態107に記載の方法。
109.遺伝子の発現を制御するステップが、幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させることによって実施される、実施形態107~108のいずれか1つに記載の方法。
110.遺伝子発現の制御が、インビトロである、実施形態107~108のいずれか1つに記載の方法。
111.幹細胞由来心筋細胞が、ヒト胚性幹細胞などのヒト多能性幹細胞に由来する、先行実施形態のいずれか1つに記載の抗不整脈剤、組成物、使用、キット、または方法。
112.心不全の治療のための方法であって、
a)インビトロで幹細胞由来心筋細胞を取得するステップと、
b)幹細胞由来心筋細胞を患者に移植するステップと、
c)患者に抗不整脈剤を共投与するステップと、を含む、方法。
113.ステップa)で取得された幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤とインビトロで接触させて抗不整脈心筋細胞集団を取得し、該抗不整脈心筋細胞集団を患者に移植するステップをさらに含む、実施形態112に記載の方法。
114.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
115.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびソタロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
116.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびソタロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
117.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびメキシレチンを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
118.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびプロプラノロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
119.実施形態112~118のいずれか1つに記載の方法において使用するための、抗不整脈剤。
【実施例】
【0112】
実施例1
イオンチャネル活性の調節による電気生理学的応答の十分に確立された即時の変化を超えて、幹細胞由来心筋細胞に対する抗不整脈剤の効果を決定するために、抗不整脈剤への心筋細胞の長期曝露(>24時間)から生じる遺伝子発現の変化を分析した。この目的のために、アミオダロン、リコダインなどの一般的に使用される抗不整脈剤が、電気シグナル伝達、心肥大の調節、カルシウム処理、および心筋細胞の成熟に関連する遺伝子に及ぼす影響を評価した。
【0113】
実験手順
ヒト胚性幹細胞(hESC)を、iPSBrew(Miltenyi)中のLN521(BioLamina)でのフィーダーフリー条件下で維持した。細胞を、アキュターゼ(Innovative Cell Technology)を使用して3~4日毎に継代し、1.6~2.4×104細胞/cm2で10μM Y-27632(Sigma)を補充したiPSBrew中に播種した。細胞株は、本研究全体を通してマイコプラズマ汚染および核型異常について陰性であるとして試験した。
【0114】
細胞を、適合された3D懸濁液プロトコルで心筋細胞に向けて分化した(Kempf H et al Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nat Commun.2016;7:13602)。簡潔に述べると、細胞を6ウェル浮遊プレート(Greiner)に播種し、10μM Y-27632を補充したiPSBrew中で0.16×106細胞/mLで凝集体形成させた。2日後、インスリンを含まない2% B27(Life Technologies)を補充したRPMI1640培地(Life Technologies)、または0.5mg/mLのヒト組換えアルブミン(ScienceCell)および0.2mg/mLのL-アスコルビン酸2-ホスフェート(Sigma)を補充したRPMI1640培地中で4~8μM CHIR99021(Tocris)を24時間、続いて2μM Wnt-C59(Tocris)を48時間使用して分化を誘導した。細胞を、5日目から2% B27を補充したRPMI1640中に維持した。
【0115】
取得した心筋細胞は、STEMdiff心筋細胞解離キット(Stem Cell Technologies)を使用して、さらなる特性評価、機能分析、および移植実験に関する製造元の指示に従って、分化の10~15日後に単一細胞に解離した。
【0116】
抗不整脈剤の評価
解離した心筋細胞を、ラミニン-521またはgeltrex(Life Technologies)被覆プレート上、2% B27および0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を補充したRPMI1640培地に、1×10
5/cm
2の細胞密度で播種した。4日後、心筋細胞を、1μM、10μM、および100μMのアミオダロン、0.1μM、1μM、および10μMのメトプロロール、ならびに0.1μM、1μM、および10μMリドカイン(すべてSigma)の濃度、ならびに各濃度でのそれらの組み合わせで少なくとも72時間、抗不整脈剤に曝露した。ブランク培地、溶媒の添加、ならびに9日間培養した心筋細胞、および42日目を対照として使用した。細胞の拍動を48時間後、72時間後、および96時間後に評価した。細胞を、RLTplus緩衝液(Qiagen)中で10分間培養した後に回収した。遺伝子発現の変化は、表1に列挙した7つのハウスキーピング遺伝子を含む以下の標的配列についての製造元の指示に従って、カスタムナノストリング遺伝子パネル(NanoString Technologies)を使用して決定した。
【表1】
【0117】
結果
hESC由来心筋細胞の特性に対する抗不整脈剤の直接的な影響を研究するために、活動電位形成(HCN1、HCN4、KCNA5、KCNE4、KCNH7、KCNJ3、KCNJ5、SCN1B、SCN5A)、電気シグナル伝達(GJA1、GJA5、GJD3)、カルシウム処理(CACNA1C、CACNA1D、CACNA1G、RYR2、PLN)、心臓成熟(HOPX、MYH7、MYL2、TNNI3)、および心臓肥大(NPPA、NPPB)、ならびに汎心筋細胞マーカー(NKX2-5、TNNT2、ACTA2)に関連する選択した遺伝子の発現レベルの変化を分析した。
【0118】
驚いたことに、hES由来心筋細胞を0.1μMおよび1μMのアミオダロンで5日間治療した場合、23日目の未治療対照および9日目の初期(未成熟)心筋細胞と比較して、T型電位依存性カルシウムチャネルαサブユニット1G CACNA1Gの発現の2倍の増加を誘導した(
図1)。T型Ca
2+チャネルは、発達中の胎児心室筋細胞で発現し(Cribbs LL et al,Identification of the t-type calcium channel(Ca(v)3.1d)in developing mouse heart.Circ Res.2001;88(4):403-7)、内部貯蔵からのCa
2+流入の制御によって第2のメッセンジャーCa
2+の細胞内分布を調節する上で重要な役割を果たしている。それにより、チャネルは、心筋細胞の拍動を含む様々な細胞プロセスを調節する。より詳細には、CACNA1Gは心臓の電気的活動およびペーシング活動を制御する。重要なことに、チャネルの機能不全は、特に心不全における、心房および心室の両方の不整脈と関連している(Perez-Reyes E.Molecular physiology of low-voltage-activated t-type calcium channels.Physiol Rev.2003;83(1):117-61)(Vassort G,Talavera K,Alvarez JL.Role of T-type Ca2+channels in the heart.Cell Calcium.2006;40(2):205-20)。したがって、アミオダロンによるCACNA1Gの明らかな上方制御は、治療したhESC由来心筋細胞の、その固有の電気生理学的静電容量における不整脈応答を制御および予防する能力の増加を示唆する。
【0119】
同様に、0.1μMおよび1μMのアミオダロンは、高コンダクタンスギャップ結合タンパク質GJA5をコードする遺伝子の3倍を超える上方制御をもたらした(
図2)。GJA5は、心室伝導系だけでなく、初期の心室でも発現し(Delorme B et al,Developmental regulation of connexin 40 gene expression in mouse heart correlates with the differentiation of the conduction system.Dev Dyn.1995;204(4):358-71)、心室にわたる電流の伝導における重要なプレーヤーを表す(Shekhar A et al,Transcription factor ETV1 is essential for rapid conduction in the heart.J Clin Invest.2016;126(12):4444-59)。GJA5におけるいくつかの体細胞変異は、心室性不整脈を含む心筋の不整脈特性と関連している (Delmar M,Makita N.Cardiac connexins,mutations and arrhythmias.Curr Opin Cardiol.2012;27(3):236-41)。結果として、アミオダロンによるES由来心筋細胞におけるGJA5の上方制御は、細胞間接触にわたる電気シグナル伝達を加速し、それによって、特にマクロまたはミクロの再入力を介した不整脈行動を抑制し、それによって異所性学童病巣の発生リスクを低減させる可能性が高い。
【0120】
CACNA1GおよびGJA5の増加したレベルとは対照的に、アミオダロンを用いた治療は、それぞれ約3倍および5倍のNPPAおよびNPPB発現の低減をもたらした(
図3および
図4)。NPPAおよびNPPBは、分泌ホルモンANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)およびBNP(脳ナトリウム利尿ペプチド)をコードし、主に心房から分泌され、機械的伸張に対する応答において成人心臓の心室はあまり顕著ではない。ナトリウム利尿ペプチドレベルの定量化は、心不全の診断のためのツールとして日常的に使用される(McMurray JJ et al Guidelines ESCCfP.ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure 2012:The Task Force for the Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure 2012 of the European Society of Cardiology.Developed in collaboration with the Heart Failure Association (HFA)of the ESC.Eur Heart J.2012;33(14):1787-847)。興味深いことに、ANPおよびBNPの両方が心臓電気生理学の調節に関与している(Perrin MJ,Gollob MH.The role of atrial natriuretic peptide in modulating cardiac electrophysiology.Heart Rhythm.2012;9(4):610-5)。特に、BNPレベルの上昇は、左室機能障害を有する患者における不整脈事象の増加と関連している(Galante O et al,Brain natriuretic peptide(BNP)level predicts long term ventricular arrhythmias in patients with moderate to severe left ventricular dysfunction.Harefuah.2012;151(1):20-3,63,2)。しかしながら、ナトリウム利尿ペプチドがヒトにおける電気生理学的作用をどのように制御するかに関する正確な機序は未だ不明である。ペプチドは活動電位の短縮を誘発し、それによって再入の可能性を高めると考えられている。さらに、ANPレベルおよび/またはBNPレベルの減少による活動電位持続時間の延長は、頻拍性不整脈の可能性を減少させる。したがって、hESC由来心筋細胞においてアミオダロンを使用してNPPAおよびNPPAを低下させることは、心臓移植後のhESC由来心筋細胞由来の移植片誘発性不整脈ならびに頻脈および異所性拍動病巣の発生のリスクを低減させる。
【0121】
注目すべきことに、hESC由来心筋細胞の拍動頻度が、それぞれ1μMおよび10μMで明らかに低減または抑制され、頻拍性不整脈が起こる可能性が低減された。同時に、アミオダロンは、NKX2-5、TNNT2、ACTA2などの汎心筋細胞遺伝子の発現に変化をもたらさず(
図5~7)、全体的な心筋細胞の同一性が影響を受けないことを示唆する。また、ヒト心臓の活動電位の上昇速度を制御するその標的(Honjo H et al,Block of cardiac sodium channels by amiodarone studied by using Vmax of action potential in single ventricular myocytes.Br J Pharmacol.1991;102(3):651-6)のうちの1つであるSCN5A(
図8)を含む他のイオンチャネルの発現にも影響を及ぼさなかった。
【0122】
全体的に、hESC由来心筋細胞をアミオダロンに曝露すると、NPPAおよびNPPBの減少を伴う上昇したレベルCACNA1GおよびGJA5を含む固有の発現プロファイルが誘導される。これは、アミオダロン治療心筋細胞に、細胞内カルシウムレベルを制御する増加した能力の、心臓組織にわたるより速いシグナル伝導、ならびに不整脈事象および頻脈に対する低減した感受性を含む、別個の電気生理学的特徴を付与する。結果として、これらの(改変された)抗不整脈心筋細胞集団は、移植片誘発性不整脈および/または頻脈を省略することによって心臓を再生するための優れた細胞源を提供する。
【0123】
同様に、他のクラスの抗不整脈剤が、NPPAおよびNPPBを調節することを見出した。最も関連性の高いクラス1b抗不整脈剤であるリドカインは、汎心筋細胞マーカー(NKX2-5およびTNNT2;
図11、12)の発現に影響を与えることなく、濃度依存的な様式で1μM、10μM、100μMの両方のナトリウム利尿ペプチドを減少させた(
図9、10)。心筋細胞の電気生理学的挙動の制御に関するNPPAおよびNPPBの全体的な関連性を考慮すると、リドカインを使用したhESC由来心筋細胞の治療は、心臓移植における移植片誘発性副作用を回避するためのさらなる有望な戦略を表す。
【0124】
まとめると、我々の結果は、幹細胞由来心筋細胞の遺伝子発現に対する抗不整脈剤の予想外の影響を示しており、心筋肥大、カルシウム処理、および電気シグナル伝達、心筋細胞の電気生理学的挙動の制御に関連するすべての関連クラスの遺伝子に関連する遺伝子の発現パターンが改変した抗不整脈心筋細胞集団が生じる。
【0125】
実施例2
異なる培養系にわたって持続的な効果および強固性を検証するために、3D懸濁凝集体を使用して幹細胞由来心筋細胞の遺伝子発現プロファイルに対する抗不整脈剤の効果を試験し、抗不整脈剤を除去した後の48時間にわたって遺伝子発現を測定した。
【0126】
実験手順
実験を、以下の改変を伴って実施例1に記載されるように実施した。幹細胞由来心筋細胞を二次元単層に解離および播種する代わりに、細胞は、心臓分化の誘導の14日後に直接取得された三次元懸濁液凝集体として維持した。その後、凝集体を、3mL培地中、約1.5×106細胞/mLの細胞密度で、軌道振とう装置(75rpm)上の6ウェル懸濁液プレートで維持した。凝集体中の細胞を、約120時間、10μMのアミオダロンに曝露した。その後、2% B27+0.1% P/Sを補充したRPMI培地中で、さらに48時間の間細胞を維持した。完全培地交換を48~72時間ごとに行った。その後、細胞を回収し、RNA発現分析に供した。
【0127】
結果
10μMのアミオダロンで治療してから48時間後に測定した凝集体の遺伝子発現プロファイルはそれぞれ、CACNA1Gの約1.75倍の増加、GJA5の約2.7倍の増加、ならびにNPPAおよびNPPBの約2倍および15倍を超える減少を示す(
図14)。
【0128】
したがって、結果は、実施例3および4に示されるように不整脈電位の低減をもたらす幹細胞由来心筋細胞の改変された電気生理学的特性に関連する遺伝子発現レベルに対する抗不整脈剤、例えばアミオダロンの持続的かつ明確な効果を確認する。さらに、結果は、効果が培養様式に依存せず、例えば、インビボ組織により近い三次元懸濁液培養物だけでなく、二次元単層培養物でも誘導されることを示す。したがって、抗不整脈剤の効果は、インビボ用途で反映されることが予期される。
【0129】
実施例3
抗不整脈剤への曝露後の幹細胞由来心筋細胞の電気生理学的特性に対する持続的な影響を決定するために、Ca2+-記録を用いて機能的心筋細胞試験を行い、抗不整脈剤への曝露後の幹細胞由来心筋細胞集団の不整脈誘発能を決定した。拍動ごとの変動性を、幹細胞由来心筋細胞のインビボ(プロ)不整脈電位についてのインビトロ代替読み出として使用した(Rosanne Varkevisser et al,Beat-to-beat variability of repolarization as a new biomarker for proarrhythmia in vivo,Heart Rhythm Volume 9,Issue 10,October 2012,Pages 1718-1726);(Kazuto Yamazaki et al,Beat-to-Beat Variability in Field Potential Duration in Human Embryonic Stem Cell-Derived Cardiomyocyte Clusters for Assessment of Arrhythmogenic Risk,and a Case Study of Its Application,Pharmacology&Pharmacy,Vol.5 No.1,2014,pp.117-128)。
【0130】
注目すべきことに、すべてのCa2+-記録は、イオンチャネル変調を介した薬剤の既知の直接的な影響を排除するために、曝露の少なくとも24時間後に行った。
【0131】
実験手順
Ca2+-記録を、米国、Fujifilm Cellular Dynamics(FCDI;iCell2心筋細胞、ドナー番号01434、ロット番号105170)からのヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(幹細胞由来心筋細胞)に対して実施した。
【0132】
細胞は、凍結バイアルとして送達され、液体窒素中で使用まで保存した。解凍および培養に必要なすべての培養培地は、細胞供給業者によって供給された。解凍、プレーティング、および培養の手順は、製造業者によって提供されたプロトコルに従って行った。細胞を、フィブロネクチンで被覆された384ウェルGreiner μClearプレートに直接プレーティングした。プレーティング密度は、50μlの最終体積で17.500細胞/ウェルであった。培地は、プレーティングの1日後、その後2日おき、およびパイロット研究の実験の3時間前に交換した(90%)。化合物実験については、化合物をインビトロ(DIV)2で添加し、続いてDIV4で化合物含有培地交換(90%)を行った。治療は、DIV6での培地を標準培養培地に交換することによって終了した。記録はDIV7で行われた。実験は、各化合物濃度について最小n=10で実施した。
【0133】
Ca2+画像化実験については、培地をHEPES緩衝記録溶液によって記録物と交換した。蛍光Ca2+指標(Cal-520-AM)を、2μMの濃度で適用し、30分間細胞に蓄積させた後、緩衝液を無色素緩衝液に再度交換した。細胞を、Hamamatsu FDSS記録システムで、37℃で10分間回復させた。すべての実験を37℃で実施した。カメラのフレームレートを、録画用に最小35Hzに設定し、ビニングを4×4とした。質が実験に十分であるかを評価するために、拍動の規則性、Ca2+シグナルの形状および振幅、ならびに異なるウェル間のこれらのパラメータの変動性を含む、いくつかのパラメータを検証した(目による検査)。細胞は自発的に活性であったため、電気刺激は適用しなかった。
【0134】
化合物を適用する前に、細胞を5分間記録した。200μMのモキシフロキサシンを、単一濃度/ウェル様式でベースライン期の後に適用し、5分間の洗浄期を続けた。次いで、蛍光活性をさらに5分間記録した。化合物の前培養を伴わないモキシフロキサシンを対照(n=18)として含め、複数のプレートに分散させた。
【0135】
FDSSv3.4オフラインを使用して、それぞれの記録周期内の連続的な一過性Ca2+の過渡間の時間間隔の変動係数(CV)として測定した拍動ごとの変動を分析し、続いてIgor Pro 8.0.4.2(Wavemetrics、USA)を使用してプロットをさらに分析および編集した。
【0136】
【0137】
式中、σは標準偏差を示し、μは平均を表す。
【0138】
SEMは、標準偏差および実験数の平方根の間の比として計算し、
【数2】
式中、σは標準偏差を示し、nは実験数である。
【0139】
結果
示した濃度での抗不整脈性心筋細胞集団の拍動ごとの変動性を示す変動係数(CV)を、対照治療と比較した。結果は、3つの異なるクラスの抗不整脈剤、すなわちクラスI(例えば、リドカインまたはメキシレチン)、クラスII(例えば、プロプラノロール、メトプロロール)、およびクラスIII(例えば、アミオダロン、ソタロール)を含む、すべての試験した化合物について、ベースライン条件下およびモキシフロキサシンを使用した不整脈誘発状態の誘発後の変動係数(CV)によって反映される、拍動ごとの変動性の明らかな低減を示す(
図15)。CVは、100nMのリドカインへの曝露後に、抗不整脈剤に曝露されなかったそれぞれの対照条件と比較して、ベースライン条件下では80,8%、不整脈誘発条件下では84,7%低減させた。同様に、それぞれベースライン条件下および不整脈誘発条件下で、10nMアミオダロンはCVを76.5%および83.3%、10nMメトプロロールは79.2%および83.2%、100nMメキシレチンは76,79%および77.5%、100nMソタロールは79.4%および84.9%、ならびに100nMプロプラノロールは73.7%および88.5%低減させた。注目すべきことに、拍動ごとの変動性のこの明らかな低減は、化合物の中止の24時間後に観察され、したがって、薬物の継続的な存在に依存しない。
【0140】
全体的に、結果は、クラスI、II、またはIIの抗不整脈剤による治療後の拍動ごとの変動性の低減を明確に示し、試験した濃度でのCVの全体的減少は70~80%であった。注目すべきことに、この低減は、ベースライン(非不整脈)および前不整脈の両方の条件下で観察された。まとめると、抗不整脈剤による治療が抗不整脈細胞集団を誘導し、不整脈に対する細胞の感受性を低減させることを示唆する。この抗不整脈細胞集団は、取得した細胞集団を心臓細胞療法にとって非常に魅力的にし、細胞移植後の事前に報告された不整脈のリスクを軽減する。
【0141】
さらに、データは、細胞の電気生理学的特性に関連する心筋細胞機能の変化が、CACNA1G、GJA5、NPPA、および/またはNPPBを含む遺伝子発現の持続的な変化と関連していることを示唆する。重要なことに、幹細胞由来心筋細胞の改変された特性は、抗不整脈剤への曝露によって、遺伝子発現インレベルで(直接的または間接的に)誘導されるが、必ずしもイオンチャネルの活性の調節による直接的な効果に関連する作用の共通作用機序によるものではない。
【0142】
実施例4
抗不整脈剤の組み合わせが幹細胞由来心筋細胞の不整脈の可能性をさらに低減させることができるかを試験するために、幹細胞由来心筋細胞を、実施例3に記載したものと同じCa2+-記録のアッセイに供し、クラスI、II、および/またはIIIの抗不整脈剤の様々な組み合わせを適用し、拍動ごとの変動性を単一化合物処理と比較した。
【0143】
実験手順
人工多能性幹細胞由来心筋細胞を、抗不整脈剤の組み合わせで72時間治療した後、24時間の回復期を経て測定した。薬剤を、1μMのソタロール、0.1μMのアミオダロン、0.1μMのメトプロロール、および1μMのメキシレチンの濃度で適用した。すべての測定は、モキシフロカシン治療後の不整脈誘発条件下で行った。結果は、クラスIII薬剤とクラスIおよび/またはクラスIIのいずれかの組み合わせが、それぞれ46,4%または31,4%および46,4%の低減で、単独の薬剤よりも不整脈促進能の低減においてより効率的であることを示す(
図16)。同様に、クラスIおよびクラスIIの組み合わせは、単一化合物治療と比較して48,3%の低減を示した。
【0144】
これらの結果は、抗不整脈剤を組み合わせると、拍動ごとの変動性がさらに低減することを示す。結果として、取得した心筋細胞集団は、単剤単独と比較して、さらに不整脈誘発能が低減するため、インビボで不整脈を誘発するリスクがさらに軽減される。
【0145】
全体的に、上記実施例の結果は、幹細胞由来心筋細胞の抗不整脈剤への曝露が、不整脈誘発能の大幅かつ持続的な低減を誘発し、それによって抗不整脈特性を有する細胞集団が取得されることを示す。
【0146】
抗不整脈心筋細胞集団は、移植片誘発性不整脈および/または頻脈のリスクを低減することによって、移植のための優れた細胞源を表す。
【0147】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例示および記載されているが、ここで、多くの修正、置換、変更、および同等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるそのようなすべての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、幹細胞の分野、より詳細には、心不全の治療における、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減における、抗不整脈心筋細胞集団(antiarrhythmic cardiomyocyte cell population)、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法、その医学的使用に関する。本発明はまた、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は体内で最も少ない再生器官の1つであり、その結果、心臓損傷が起こると、心筋細胞は死に、収縮できない瘢痕領域を残す。これは、ポンプ力の低減、心不全、ならびに増加した罹患率および死亡率につながる。心臓疾患は、世界中の主要な死因である。
【0003】
ヒト多能性幹細胞は、心筋細胞に分化することができ、心筋細胞が失われたり機能不全になったりする場合に、損傷した心臓の修復について調査されている。
【0004】
心筋細胞が心内膜側から非ヒト霊長類の心臓に注入された少数の症例では、生着後最初の4~6週間の間にいくつかの種類の不整脈が検出された。これらの不整脈は、持続性心室性頻脈、非持続性心室性頻脈、および加速性特発性心室リズムである。
【0005】
これらの不整脈が生じる理由は、現在は不明であるが、すべての心筋細胞が収縮し、拍動する能力を有するため、一過性に起こることは驚くべきことではない。移植された細胞が宿主の心筋と統合する前に、それらが自身で拍動することが期待できる。さらに、心筋の瘢痕領域は、特に境界域から、患者に不整脈を引き起こすことが知られている。瘢痕への物質の注入は、それ自体が不整脈原性である可能性がある。
【0006】
サルにおいて、細胞注入後に生じる不整脈は、急性心筋梗塞および心不全(再侵入メカニズム)後に生じる従来の不整脈とは異なる種類および起源(異所性病巣由来)であることが記載されている。これは、細胞移植誘発性不整脈を治療する必要があること、および細胞が注入されていない場合、不整脈は発生しなかったであろうことを明確に定義していることを意味する。したがって、この種類の不整脈は、細胞移植によって引き起こされる新しい種類の状態であると考えられ得、この種類の不整脈の特定の治療は、まだ存在しない。
【0007】
心臓が損傷を受けた後にインビボで心臓筋組織を再生するために、様々な種類の多能性幹細胞由来心臓系細胞、例えば、初期心血管前駆細胞、未成熟拍動心筋細胞、ならびにより成熟した、例えば、ヘテロタイプ組織操作された心臓構築物を含む、様々な戦略が検討される。概して、インビトロでかかる細胞を生成するためのすべてのアプローチは、その遺伝子発現プロファイル、細胞形態、肉腫組織、電気生理学的特性、および結果として生じる収縮力に関して、妊娠の第1~第2期の胎児様細胞に類似する比較的未成熟な表現型の心筋細胞を生じさせる。特に、様々な戦略のうちの複数が、移植後の生着および成熟が可能な細胞を主に産生することを示した。しかしながら、全体的な効率は限定的であった。これは特に、移植後の生着および成熟を媒介する根本的なメカニズムの理解が限定的であったためであり、これは、特に移植された心筋細胞のさらなる治療を特定し、その発達および統合を促進するためのさらなる研究の必要性を喚起するものである。
【0008】
本発明の目的は、心不全の治療のための方法における幹細胞由来心筋細胞の生着によって引き起こされる不整脈の問題に対処することである。特に、本発明の目的は、例えば、不整脈を回避、予防、および/または軽減するために、移植された幹細胞の宿主心筋への統合を促進することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、本発明の態様によって達成される。さらに、本発明はまた、例示的な実施形態の開示から明らかになるであろうさらなる問題を解決することができる。
【0010】
最も広範な態様では、本発明は、患者における幹細胞由来心筋細胞の移植および心不全の治療に起因する不整脈の予防もしくは軽減または治療のためのインビトロおよびインビボアプローチに関する。
【0011】
一態様では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0012】
一態様では、本発明は、医薬として使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0013】
一態様では、本発明は、心不全の治療に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0014】
一態様では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。
【0015】
一態様では、本発明は、1つ以上の抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含むキットに関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、心不全の治療のための方法において使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む組成物に関する。
【0018】
いかなる理論にも束じられるものではないが、本発明者らは、幹細胞由来心筋細胞を移植した宿主で観察された不整脈は、幹細胞が依然として心筋に完全に統合されていないことによって引き起こされる症状であると考えている。現在、本発明者らは、不整脈を予防もしくは軽減する、および/または心不全を治療するアプローチを示した。アプローチのうちの1つは、幹細胞由来心筋細胞を、心筋細胞が同期して接続および収縮できることに関連する重要な遺伝子の遺伝子発現の制御を変化させるインビトロで抗不整脈剤と接触させることにより、抗不整脈心筋細胞集団を取得することである。これは、移植後の抗不整脈心筋細胞集団の宿主心筋への統合を促進し、それによって前述の抗不整脈効果を予防または軽減し、幹細胞由来心筋細胞の独立して収縮し、拍動する能力の抑制による心不全の治療を提供すると考えられる。別のアプローチは、幹細胞由来心筋細胞の患者への移植中または移植後に、1つ以上の抗不整脈剤をインビボで共投与することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のCACNA1Gの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図2】
図2は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のGJA5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図3】
図3は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNPPAの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図4】
図4は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNPPBの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照および陽性対照はそれぞれ、未成熟(9日目)および成熟(42日目)の心筋細胞を指す。
【
図5】
図5は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のNKX2-5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図6】
図6は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のTNNT2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図7】
図7は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のACTA2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図8】
図8は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μMおよび1μMのアミオダロンへの5日間の曝露後のSCN5Aの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図9】
図9は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNPPAの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図10】
図10は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNPPBの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図11】
図11は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のNKX2-5の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図12】
図12は、幹細胞由来心筋細胞での1μM、10μM、および100μMのリドカインへの5日間の曝露後のTNNT2の遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図13】
図13は、幹細胞由来心筋細胞での0.1μM、1μMの
リドカインへの5日間の曝露後のSCN5Aの遺伝子発現パターンを示す(分化誘導後23日目)。陰性対照は、未成熟(9日目)心筋細胞を指す。
【
図14】
図14は、10μMのアミオダロンに5日間曝露した後、薬剤の非存在下で2日間の回復期間を経た後の、21日齢の幹細胞由来心筋細胞のCACNA1G、GJA5、NPPA、およびNPPBの遺伝子発現を示す。それぞれの未治療の心筋細胞が対照として示される。心筋細胞は、実験をとおして、約150μm~300μmの直径サイズの三次元懸濁液クラスターとして維持された。
【
図15】
図15は、基線で示された濃度での抗不整脈剤に曝露した後(左)および不整脈誘発因子である200nMのモキシフロキサシンで刺激した後(右パネル)の幹細胞由来心筋細胞の拍動ごとの変動係数(CV)を示す。棒グラフは、平均値+平均値の標準誤差を表す。N=12およびN=18はそれぞれ、化合物で治療された条件および対照についてである。アスタリスクは、すべての化合物を対照治療と比較するクラスカルワリス検定に基づく統計的有意性(p<0.05)を示す。
【
図16】
図16は、1μMソタロール、0.1μMアミオダロン、0.1μMメトプロロール1μMメキシレチン、1μMプロプラノロール、および単剤との比較の濃度で適用された抗不整脈剤の組み合わせへの曝露後の幹細胞由来心筋細胞の拍動ごとの変動係数(CV)を示す。すべての条件は、200nMのモキシフロキサシンによる刺激後に測定された。棒グラフは、平均値+平均値の標準誤差を表す。N=70およびN=12はそれぞれ、単一化合物で治療された条件および化合物の組み合わせについてである。アスタリスクは、化合物治療の各群を単一化合物対照と比較するクラスカルワリス検定に基づく統計的有意性(p<0.05)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
別段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の示唆がない限り、当業者に公知の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の従来の方法を用いる。
【0021】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0022】
本明細書で提示する任意およびすべての例または例示的な語句(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより明瞭にするという意図しかなく、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいずれの語句も、特許請求されないいかなる要素も本発明の実施に必須であることを示すと解釈すべきではない。
【0023】
本出願全体を通して、「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用される。
【0024】
本出願全体を通して、「培養する」、「接触する」、および「曝露する」という用語は、互換的に使用される。
【0025】
本出願全体を通して、「ヒト対象者」、「患者」、「宿主」という用語は、互換的に使用される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つまたは複数を意味し得る。本明細書に別段の示唆がない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。
【0027】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0028】
本発明の細胞、化合物、または薬剤の量、用量、温度などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された量の5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%の変動を包含するよう意図される。
【0029】
本明細書で使用される場合、プロトコルに関する「日」という用語は、ある特定のステップを実施するための特定の時間を指す。概して、別段の記載がない限り、「0日目」は、プロトコルの開始を指し、幹細胞をプレーティングすること、または幹細胞をインキュベーターに移すこと、または幹細胞の移植前に、現在の細胞培養培地中の幹細胞を化合物と接触させることによる。典型的には、プロトコルの開始は、未分化幹細胞を異なる細胞培養培地および/または容器に移すことにより、プレーティングもしくはインキュベートすること、および/または未分化幹細胞を、分化プロセスが開始されるような方法で未分化幹細胞に影響を及ぼす化合物と最初に接触させることによる。
【0030】
1日目、2日目などの「x日目」に言及する場合、これは、0日目のプロトコル開始に関連するものである。当業者は、別段の指定がない限り、ステップを実施するための正確な日時が変動し得ることを認識するであろう。したがって、「x日目」は、+/-10時間、+/-8時間、+/-6時間、+/-4時間、+/-2時間、または+/-1時間などの時間範囲を包含するよう意図される。代替的に、本発明による方法のステップを実施するための期間または時間は、「時間(hour)」で記載される。
【0031】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「不整脈」という用語は、心臓が不規則または異常なリズムで拍動する状態を意味する。マカクにおいて、特定の細胞誘発性不整脈は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および持続性加速性特発性心室リズムであることが示される。
【0033】
したがって、一実施形態では、不整脈の治療は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および/または持続性加速性特発性心室リズムである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「抗不整脈剤(antiarrhythmic agent)」もしくは「複数の抗不整脈剤(antiarrhythmic drugs)」または「抗不整脈化合物」または「抗不整脈薬」という用語は、作用機序に応じて、異なる薬物クラス(ヴォーンウィリアムズクラス)に分類される1つ以上の医薬品を意味する。クラスIの薬物は主にナトリウムチャネルを遮断し、クラスIIの薬物はベータ受容体を遮断し、クラスIIIの薬物はカリウムチャネルを遮断し、クラスIVの薬物はカルシウムチャネルに影響を及ぼす。1つの薬物クラスは、複数のイオンチャネルタイプにも影響し得るが、その主な機能によって分類されることに留意することが重要である。
【0035】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤のリストから選択される。さらなる実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤のリストから選択される。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤である。
【0036】
本明細書で使用される場合、「抗不整脈心筋細胞集団」という用語は、不整脈および/または他の不整脈様事象に対する拍動ごとの変動性の低減および/またはそれらの感受性の低減をもたらす、修飾された特性を有する本発明の方法によって取得される心筋細胞として理解されるべきである。
【0037】
本明細書で使用される場合、「生体材料」という用語は、細胞産物と相互作用することを目的とした合成または天然材料の任意の化学物質を指す。かかる生体材料は、以下に限定されないが、アルジネート、キトサン、セルロース、アガロース、ゼラチン、ヒアルロン酸、絹フィブロイン、フィブリンおよび/またはコラーゲン、ポリ-ウレタン、ポリ-ビニルアルコール、ポリ-ヒドロキシエステル、ポリ-プロピレンフマレート、ならびに他の合成、生分解性および/または刺激感受性ハイドロゲル、生理活性ガラスを含む、天然および/または合成高分子材料の群を含む。
【0038】
「心筋細胞(cardiac muscle cell)」、「心筋細胞(cardiomyocyte)」、「心筋細胞(myocardiocyte)」、および「心筋細胞(cardiac myocyte)」という用語は、互換的に使用され得、心筋(心臓筋肉)を構成する筋細胞を指す。各心筋細胞は筋原線維を含有し、筋細胞の基本的な収縮単位であるサルコメアの長鎖からなる特殊小器官である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「心不全」という用語は、心臓がその要求に追いつくことができないこと、詳細には、心臓が正常な効率で血液を送り出すことができないことを意味する。これが発生すると、心臓は脳、肝臓、腎臓などの他の臓器に十分な血流を提供できない。心不全は、右心室、左心室、または両心室の不全が原因であり得る。詳細には、心不全は、心臓の一部への血流が減少し、または停止し、心筋に損傷を引き起こすときに起こる、一般に心臓発作として知られる心筋梗塞であり得る。心臓への血流障害が長く続くと、虚血性カスケードが誘発され、閉塞した冠動脈の領域にある心臓細胞は主に壊死により死滅し(梗塞)、戻ることはない。
【0040】
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己再生能力)を有するが、分化能を維持する未分化細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞などの亜集団を含む。多能性幹細胞とは、インビトロで培養することができ、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)および/または胚外組織(多能性)に属する任意の細胞系統に分化する効力を有する幹細胞を指す。多能性幹細胞とは、すべての種類ではないが、複数の種類の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織または細胞に分化する能力を有する幹細胞を意味する。多能性幹細胞は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞などから誘導され得る。多能性幹細胞の例としては、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞(胚性生殖細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが含まれる。間葉系幹細胞(MSC)から得られるミューズ細胞(多系統分化ストレス耐性細胞)、および生殖細胞(例えば、精巣)から産生されるGS細胞も、多能性幹細胞に包含される。誘導多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSCとしても既知)は、成体細胞から直接生成され得る多能性幹細胞の一種である。多能性関連遺伝子の特定のセットの産物の導入によって、成体細胞は、多能性幹細胞に変換され得る。胚性幹細胞は、胚を破壊することなく得られた内部細胞塊を培養することによって産生され得る。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、市販されている。
【0041】
本明細書で使用される場合、「幹細胞由来心筋細胞」という用語は、ヒト心臓の筋細胞に類似する非天然幹細胞産物を取得するためにインビトロプロトコルを通じて誘導された、様々な発達段階での心筋細胞として理解されるべきである。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、ヒト胚性幹細胞などのヒト多能性幹細胞に由来する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、誘導された多能性幹細胞に由来する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、体細胞の心筋細胞への分化転換などの他の供給源に由来する(Masaki Ieda et al,Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors,Volume 142,Issue 3,P375-386,August 06,2010)。当業者は、幹細胞由来心筋細胞を提供することができるであろう。本発明で使用される1つの利用可能な方法が記載されている(「Kempf H et al Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nat Commun.2016;7:13602」)。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、その前駆体または前駆細胞を含む。
【0042】
幹細胞由来の心筋細胞集団は、典型的には、NKX2.5、TNNT2、ACTN2、MYH6および/またはMYH7、MYL2および/またはMYL7、TNNI1および/またはTNNI3から選択されるマーカーのうちの少なくとも3つの発現によって特徴付けられる。幹細胞由来心筋細胞の成熟状態に応じて、幹細胞由来心筋細胞またはその前駆細胞もしくは前駆体は、ISL1、GATA4、MEF2C、SSEA-1、PDGFRA、MESP1、および/またはそれらの組み合わせを発現する細胞を含み得る。
【0043】
本明細書で言及する場合、「移植」および「生着」という用語は、互換的に使用され、本発明の方法に従って取得された生存可能な幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団を、ヒト対象または患者の心臓内またはその近傍に移植するプロセスを指す。
【0044】
本明細書で言及する場合、「移植片」および「移植組織」という用語は、前述の手順を介してヒト対象または患者に移植される本発明の方法に従って取得された幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団を指す。
【0045】
本発明の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0046】
この態様による一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、患者に移植される。
【0047】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、インビボでの幹細胞由来心筋細胞の移植との共投与するためのものである。
【0048】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、幹細胞由来心筋細胞の移植中に共投与される。
【0049】
この態様による一実施形態では、1つ以上の抗不整脈剤は、幹細胞由来心筋細胞の移植後に共投与される。
【0050】
幹細胞由来心筋細胞の移植と抗不整脈剤のこの共投与は、細胞および薬剤をヒドロゲルなどの生体材料と組み合わせて、その標的部位(2016年10月18日にオンラインで公開されたJianyu Li and David J.Mooney,Designing hydrogels for controlled drug delivery,Nat Rev Mater.2016 Dec;1(12):16071.)での薬剤の長期かつ局所的に制限された放出を可能にすることによって、例えば、生分解性ヒドロゲル粒子への不整脈剤の取り込みによって、さらに改善することができる(2019年2月8日にオンラインで公開されたRadhika Narayanaswamy,Vladimir P Torchilin,Hydrogels and Their Applications in Targeted Drug Delivery,Molecules.2019 Feb;24(3):603.)。
【0051】
一態様では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0052】
一実施形態では、本発明は、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞またはその前駆体もしくは前駆細胞をインビトロで培養するステップを含む、方法に関する。
【0053】
一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、抗不整脈剤を含む培地中で、24時間未満、少なくとも24時間、24~48時間、少なくとも48時間、48~72時間、少なくとも72時間、72~96時間、少なくとも96時間培養される。
【0054】
一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、1nM~100nM、約1nM、約10nM、約20nM、約40nM、約60nM、約80nM、約100nM、または0.1~100μM、0.5μM、1μM、5μM、10μM、100μMのクラスI、クラスII、および/またはクラスIIIの抗不整脈剤と培養される。
【0055】
この態様による一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、患者に移植される。
【0056】
本発明の別の態様は、医薬として使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。この態様による一実施形態では、本発明は、心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。この態様による一実施形態では、本発明は、幹細胞由来心筋細胞の移植に起因する不整脈の予防または軽減に使用するための抗不整脈心筋細胞集団に関する。一実施形態では、本発明は、不整脈誘発の予防または軽減に関する。
【0057】
患者における抗不整脈心筋細胞集団の移植の有利な利点は、それが抗不整脈剤の典型的なリスク(例えば、徐脈、A-Vブロック、QT間隔の延長)(D P Zipes,Proarrhythmic Effects of Antiarrhythmic Drugs,1987 Apr 30;59(11):26E-31E)、および間質性肺線維症、甲状腺機能低下症および甲状腺機能亢進症、肝毒性、低血圧、振戦、めまい、軽度の発熱、光線過敏症、神経障害、筋力低下を含むが、これらに限定されない他の副作用(Thomas W.Nygaard et al,Adverse Reactions to Antiarrhythmic Drugs During Therapy for Ventricular Arrhythmias,JAMA.1986;256(1):55-57);Janice B.Schwartz et al,Adverse Effects of Antiarrhythmic Drugs,Drugs volume 21,pages 23-45(1981)による不整脈誘発を低減することである。
【0058】
抗不整脈性心筋細胞集団の利点は、幹細胞由来心筋細胞と比較して、宿主心筋への優れた生着を示す可能性が高いことであり、これは、低減した不整脈誘発能が、同期拍動行動を可能にし、細胞の迅速および/または正しい統合を促進し、より迅速な成熟プロセスを可能にするためである。
【0059】
本発明の追加の利点は、幹細胞由来心筋細胞の抗不整脈剤へのインビトロ曝露が、インビボでの典型的な血漿濃度より少なくとも10、100、1000、または10000倍を上回るより高い濃度レベル、すなわち、リドカインの場合は2~6μg/ml、メキシレチンの場合は0.6~1,7μg/ml、プロプラノロールの場合は2,1~300ng/ml(Plasma concentrations of propranolol and 4-hydroxypropranolol during chronic oral propranolol therapy,Br J Clin Pharmacol.1979 Aug;8(2):163-167)、メトプロロールの場合は100~140ng/ml(Plasma levels and effects of metoprolol on blood pressure and heart rate in hypertensive patients after an acute dose and between two doses during long-term treatment,Clinical pharmacology and therapeutics,first published:April 1975)、アミオダロンの場合は0.5~2.5μg/ml、ソタロールの場合は1~3μg/mlでの曝露を可能にすることであり、それにより、インビボ治療と比較して、抗不整脈心筋細胞集団を取得するための成功の可能性が高まる。
【0060】
全体的に、抗不整脈心筋細胞集団は、典型的な幹細胞由来心筋細胞と比較して、宿主心筋への統合が成功する可能性が高く、それによってレシピエント心臓の全体的なポンプ機能を増加させることによって細胞移植の転帰を改善する。
【0061】
さらなる実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも50%の低減を有する。
【0062】
アミオダロンなどの抗不整脈剤は、溶液、錠剤、ヒドロゲルカプセル化などとして、および静脈内、経口、心内膜など、様々な投与経路によって投与することができる。これは、患者において示されてきた(Garcia JR et al.,Minimally invasive delivery of hydrogel-encapsulated amiodarone to the epicardium reduces atrial fibrillation)。一実施形態では、クラスIIIの抗不整脈剤は、ソタロールである。本明細書で使用される場合、「ソタロール」は、式C12H20N2O3Sを伴うCAS番号3930-20-9を指す。一実施形態では、ソタロールの濃度は、100nMである。
【0063】
本発明の一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養することによってインビトロで取得される。
【0064】
本発明の一実施形態は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。
【0065】
一実施形態では、クラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロンである。本明細書で使用される場合、「アミオダロン」は、式C25H29I2NO3を伴うCAS番号1951-25-3を指す。アミオダロンは特に、心筋細胞が同期して接続および収縮することを可能にする細胞膜構築物であるギャップ接合部(GJA5)の発現を増加させることが見出される。これは、心筋細胞がどのように協働し、心臓の適切な収縮を確実にする電気機械的なインパルスの正常な伝搬を確保するかの重要な部分である。この所見は、アミオダロンが幹細胞由来心筋細胞の宿主組織への生着および統合を増加させ、心筋細胞の同期した収縮を確実にするのに役立つことを支持する。
【0066】
さらに、アミオダロンは、CACNA1G発現を増加させることが見出される。カルシウム処理は、細胞の収縮性および活動電位の生成の非常に重要な部分である。したがって、この所見は、細胞のリズムおよび収縮に対する薬剤の安定化効果を支持する。
【0067】
アミオダロンはまた、ANPおよびBNP発現を抑制することも見出される。これは、肥大反応の抑制の可能性を示すか、または単に、より良い機能する心筋細胞の指標であるに過ぎない。ANPおよびBNPは、心不全が悪化すると上昇することが知られているため、ANPおよびBNPが低い場合、これは、より良好に機能する心筋細胞および心臓の徴候である。この所見は、アミオダロンが幹細胞由来心筋細胞または抗不整脈心筋細胞集団の機能性を改善することを支持する。一実施形態では、アミオダロンの濃度は、10nMである。
【0068】
別の実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIの抗不整脈剤である。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインである。本明細書で使用される場合、「リドカイン」は、化学式C14H22N2Oを伴うCAS番号137-58-6を指す。一実施形態では、リドカインの濃度は、100nMである。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、メキシレチンである。本明細書で使用される場合、「メキシレチン」は、式C11H17NOを伴うCAS番号31828-71-4を指す。一実施形態では、メキシレチンの濃度は、100nMである。
【0069】
代替的な実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIの抗不整脈剤である。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールである。本明細書で使用される場合、「メトプロロール」は、化学式C158H25NO3を伴うCAS番号51384-51-1を指す。一実施形態では、メトプロロールの濃度は、10nMである。
【0070】
一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、プロプラノロールである。本明細書で使用される場合、「プロプラノロール」は、式C16H21NO2を伴うCAS番号525-66-6を指す。一実施形態では、プロプラノロールの濃度は、100nMである。
【0071】
一実施形態では、抗不整脈剤は、単一の化合物としてのみ解釈される。一実施形態では、抗不整脈剤は、製剤である。一実施形態では、抗不整脈剤は、同じまたは異なるクラスから選択される1つ以上の抗不整脈剤の組み合わせである。
【0072】
本明細書に記載されるように、幹細胞由来心筋細胞の移植を受けている患者の治療は、任意の好適な手段による1つ以上の抗不整脈剤の投与によるものであり得る。抗不整脈剤は、注入装置を用いた静脈内注射による、または錠剤としての摂取によるがこれに限定されない、投与のための任意の好適な方法で製剤化され得る。注入装置は、それぞれの製剤中の細胞産物のレシピエントへの送達を意図する医療用システムを指す。注入装置は、心膜、心外膜、および/または心内膜送達に優先的に好適である。注入装置は、これらに限定されないが、針先式シリンジ、針なしシリンジ、心筋梗塞領域の近傍での送達に好適な注入カテーテルシステムを含み得る。注入装置は、これらに限定されないが、冠動脈内、心内膜および/または心外膜注入を意図した装置を含む。
【0073】
抗不整脈剤が、1つを超える抗不整脈薬化合物を含む場合、それは、共製剤化されても、またはされなくてもよく、一緒にもしくは別々におよび/または異なる投与レジメンおよび/または異なる時間間隔で投与されてもよい。
【0074】
好ましい実施形態では、抗不整脈剤は、少なくとも2つのクラスの抗不整脈剤の組み合わせである。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤およびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびクラスIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインである。一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、メキシレチンである。
【0075】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0076】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびメキシレチンを含む。
【0077】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびリドカインを含む。
【0078】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびメキシレチンを含む。
【0079】
一実施形態では、抗不整脈剤は、1μMのソタロールおよび1μMのメキシレチンを含む。
【0080】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIの抗不整脈剤およびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびクラスIIの抗不整脈剤を含む。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールである。一実施形態では、クラスIIの抗不整脈剤は、プロプラノロールである。
【0081】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびメトプロロールを含む。
【0082】
一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびプロプラノロールを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのアミオダロンおよび1μMのプロプラノロールを含む。
【0083】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびメトプロロールを含む。
【0084】
一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのメトプロロールおよび1μMのソタロールを含む。
【0085】
一実施形態では、抗不整脈剤は、ソタロールおよびプロプラノロールを含む。
【0086】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIの抗不整脈剤およびクラスIIの抗不整脈剤を含む。
【0087】
一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびメトプロロールを含む。
【0088】
一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびプロプラノロールを含む。
【0089】
一実施形態では、抗不整脈剤は、メキシレチンおよびメトプロロールを含む。
【0090】
一実施形態では、抗不整脈剤は、0.1μMのメトプロロールおよび1μMのメキシレチンを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、メキシレチンおよびプロプラノロールを含む。
【0091】
一実施形態では、抗不整脈剤は、2つの同じクラスの抗不整脈剤の組み合わせを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、リドカインおよびメキシレチンを含む。
【0092】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、メトプロロールおよびプロプラノロールを含む。
【0093】
一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスIIIからの2つの薬剤を含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、アミオダロンおよびソタロールを含む。
【0094】
一実施形態では、抗不整脈剤は、3つのクラスの抗不整脈剤の組み合わせを含む。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤の組み合わせを含む。
【0095】
薬物の効果は、2つ以上の薬物が組み合わされた場合に増強され、これは、薬物が拍動/頻度に対して関連する効果を有し、薬物の組み合わせが単一薬物治療よりも効果的であるという所見を支持するに過ぎない。
【0096】
本発明者らは、全体的に、濃度が増加すると、すべての薬物が鼓動に影響を与えること、すなわち、低濃度では細胞が拍動し、拍動の頻度が遅くなり、中濃度では細胞は拍動を停止し、高濃度では薬物が毒性があることが知られているため、濃度が高くなりすぎると細胞が死ぬことが予想されることを見出した。これは、薬物が、拍動頻度に対する用量依存性の効果を有する関連する抗不整脈効果を有することを確証する。したがって、この結果は、拍動およびリズムが薬物によって改善され、不整脈が生じる可能性が低いことを確証する。
【0097】
本発明の別の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植によって引き起こされる不整脈の治療または予防のための方法において使用するための抗不整脈剤に関する。特定の実施形態では、不整脈は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法によって引き起こされる。
【0098】
一実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の移植転帰の成功する高い可能性を得るためのものである。
【0099】
別の実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の宿主心筋へのより安全な生着を促進するためのものである。
【0100】
そのさらなる実施形態では、治療方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の拍動および/またはリズムを改善するためのものである。そのさらなる実施形態では、方法は、移植された幹細胞由来心筋細胞または移植された抗不整脈心筋細胞集団の拍動および/またはリズムの変化を低減するためのものである。
【0101】
本発明の別の態様では、抗不整脈剤は、インビトロでの抗不整脈剤への曝露後の生着細胞における改変された遺伝子発現による抗不整脈心筋細胞集団の移植後の移植片拒絶反応の予防のための方法で使用される。したがって、本発明者らは、抗不整脈剤が幹細胞由来心筋細胞に直接影響を与えることを示した。
【0102】
本発明の別の態様は、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む組成物に関する。一実施形態では、幹細胞由来心筋細胞は、単一細胞、細胞クラスター、または細胞パッチである。組成物の一実施形態では、クラスIの抗不整脈剤はアミオダロンであり、クラスIIIの抗不整脈剤はリドカインである。
【0103】
本発明の別の態様は、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含むキットに関する。一実施形態では、キットは、好ましくは幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するためのものである。一実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される。好ましい実施形態では、抗不整脈剤は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される。さらなる実施形態では、クラスIの抗不整脈剤は、リドカインであり、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロン、またはその組み合わせである。好ましい実施形態では、キットは、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0104】
本発明の別の態様は、GJA5、CACNA1G、NPPA、および/またはNPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御するステップを含む、移植転帰の成功する高い可能性を伴う抗不整脈心筋細胞集団を取得する方法に関する。
【0105】
好ましい実施形態では、遺伝子の発現を制御するステップは、幹細胞由来心筋細胞をインビトロで抗不整脈剤と接触させることによって実施される。
【0106】
一実施形態では、遺伝子CACNA1Gは、約1.5倍を超えて、例えば、約2倍を超えて上方制御される。一実施形態では、遺伝子GJA5は、約2倍を超えて上方制御される。一実施形態では、遺伝子NPPAは、約2倍を超えて下方制御される。一実施形態では、遺伝子PPBは、約2倍を超えて、例えば、約3倍を超えて、好ましくは約4倍を超えて下方制御される。一実施形態では、遺伝子発現の制御は、インビトロである。この文脈で使用される場合、「インビトロ」は、例えば、好適な容器に含有されるなど、ヒト身体の外の細胞集団を意味する。
【0107】
したがって、前述の態様の方法に従って、固有の細胞集団、すなわち抗不整脈心筋細胞集団が取得される。したがって、本発明の別の態様は、抗不整脈心筋細胞集団に関し、心筋細胞の少なくとも40%、50%、60%、70%、80、90%、95%、または99%が制御された遺伝子発現を有し、CACNA1Gは、少なくとも約1.5倍上方制御され、かつ/またはGJA5は、少なくとも約2倍上方制御され、かつ/またはNPPAは、少なくとも約2倍下方制御され、かつ/またはNPPBは、少なくとも約2倍下方制御される。一実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、インビトロで取得されている。
【0108】
別の実施形態では、抗不整脈心筋細胞集団は、薬物スクリーニング、毒性試験、および/または疾患モデリングを含むがこれらに限定されないインビトロアッセイで使用される。
【0109】
本発明の別の態様は、心不全の治療のための方法に関し、a)インビトロ幹細胞由来心筋細胞を取得するステップ、b)幹細胞由来心筋細胞を患者に移植するステップ、およびc)移植中または移植後に抗不整脈剤をインビボで患者に共投与するステップを含む。好ましい実施形態では、ステップc)の抗不整脈剤は、アミオダロンおよびリドカインを含む。
【0110】
一実施形態では、方法は、インビトロで幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させて、患者に移植される抗不整脈心筋細胞集団を取得するステップを含む。好ましい実施形態では、方法は、幹細胞由来心筋細胞をアミオダロンおよびリドカインとインビトロで接触させるステップを含む。
【0111】
特定の実施形態
本発明の態様がここで、以下の非限定的な実施形態によってさらに記載される:
1.抗不整脈心筋細胞集団を取得するための方法であって、1つ以上の抗不整脈剤を含む培地中で幹細胞由来心筋細胞を培養するステップを含む、方法。
2.幹細胞由来心筋細胞が、培地中で24時間未満培養される、実施形態1に記載の方法。
3.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも24時間培養される、実施形態1に記載の方法。
4.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と24~48時間培養される、実施形態1に記載の方法。
5.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも48時間培養される、実施形態1に記載の方法。
6.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と48~72時間培養される、実施形態1に記載の方法。
7.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも72時間培養される、実施形態1に記載の方法。
8.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と72~96時間培養される、実施形態1に記載の方法。
9.幹細胞由来心筋細胞が、1つ以上の抗不整脈剤と少なくとも96時間培養される、実施形態1に記載の方法。
10.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
11.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインもしくはメキシレチンであり、クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールもしくはプロプラノロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンもしくはソタロール、またはその組み合わせである、実施形態10に記載の方法。
12.抗不整脈剤が、クラスIおよび/またはクラスIIの抗不整脈剤と組み合わせてクラスIIIのリストから選択される、実施形態10に記載の方法。
13.抗不整脈剤が、リドカインおよびアミオダロンである、実施形態11に記載の方法。
14.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
15.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
16.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
17.抗不整脈剤が、リドカインおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
18.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメトプロロールである、実施形態11に記載の方法。
19.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメキシレチンである、実施形態11に記載の方法。
20.抗不整脈剤が、ソタロールおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
21.抗不整脈剤が、クラスIの抗不整脈剤と組み合わせてクラスIIのリストから選択される、実施形態10に記載の方法。
22.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびメキシレチンである、実施形態11に記載の方法。
23.抗不整脈剤が、リドカインおよびメトプロロールである、実施形態11に記載の方法。
24.抗不整脈剤が、リドカインおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
25.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびソタロールである、実施形態11に記載の方法。
26.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびプロプラノロールである、実施形態11に記載の方法。
27.抗不整脈剤の濃度が、少なくとも少なくとも1nMである、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
28.抗不整脈剤の濃度が、1nM~100nMの範囲内である、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
29.抗不整脈剤の濃度が、約1nMである、実施形態28に記載の方法。
30.抗不整脈剤の濃度が、約10nMである、実施形態28に記載の方法。
31.抗不整脈剤の濃度が、約100nMである、実施形態28に記載の方法。
32.抗不整脈剤の濃度が、0.1μM~100μMの範囲内である、実施形態1~26のいずれかに記載の方法。
33.抗不整脈剤の濃度が、約0.5μMである、実施形態32に記載の方法。
34.抗不整脈剤の濃度が、約1μMである、実施形態32に記載の方法。
35.抗不整脈剤の濃度が、約5μMである、実施形態32に記載の方法。
36.抗不整脈剤の濃度が、約10μMである、実施形態32に記載の方法。
37.抗不整脈剤の濃度が、約100μMである、実施形態32に記載の方法。
38.医薬として使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
39.心不全の治療に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
40.不整脈の予防または軽減に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
41.不整脈誘発の予防または軽減に使用するための、抗不整脈心筋細胞集団。
42.移植された幹細胞由来心筋細胞の移植転帰を改善するための、実施形態38~41に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
43.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において低減を有する、実施形態38~41のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
44.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも50%の低減を有する、実施形態43に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
45.幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、変動係数(CV)または拍動ごとの変動性において少なくとも70%の低減を有する、実施形態43に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
46.GJA5、CACNA1G、NPPA、およびNPPBのリストから選択される遺伝子の発現の制御を有する、実施形態38~45のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
47.GJA5および/またはCACNA1Gの上方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
48.NPPAおよび/またはNPPBの下方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
49.GJA5および/またはCACNA1Gの上方制御、ならびにNPPAおよび/またはNPPBの下方制御を有する、実施形態46に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
50.細胞集団が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態46~49のいずれか1つに記載の抗不整脈心筋細胞集団。
51.少なくとも10%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
52.少なくとも20%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
53.少なくとも40%の心筋細胞が、幹細胞由来心筋細胞と比較した場合、GJA5の少なくとも1.5倍の上方制御、CACNA1Gの少なくとも2倍の上方制御、NPPAの少なくとも2倍の下方制御、および/またはNPPBの少なくとも4倍の下方制御を有する、実施形態50に記載の抗不整脈心筋細胞集団。
54.抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞を含む、キット。
55.好ましくは幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、実施形態54に記載のキット。
56.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される、実施形態54~55のいずれか1つに記載のキット。
57.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態56に記載のキット。
58.クラスIの抗不整脈剤は、リドカインまたはメキシレチンであり、クラスIIの抗不整脈剤は、メトプロロールまたはプロプラノロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤は、アミオダロンまたはソタロール、またはそれらの組み合わせである、実施形態56に記載のキット。
59.アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態58に記載のキット。
60.メキシレチンおよびソタロールを含む、実施形態58に記載のキット。
61.メトプロロールおよびソタロールを含む、実施形態58に記載のキット。
62.メトプロロールおよびメキシレチンを含む、実施形態58に記載のキット。
63.アミオダロンおよびプロプラノロールを含む、実施形態58に記載のキット。
64.心不全の治療に使用するための、幹細胞由来心筋細胞、1つ以上の抗不整脈剤、および任意選択で生体材料を含む、組成物。
65.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
66.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤のリストから選択される、実施形態65に記載の抗不整脈剤。
67.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤のリストから選択される、実施形態65に記載の抗不整脈剤。
68.抗不整脈剤が、クラスIIIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
69.クラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロンである、実施形態68に記載の抗不整脈剤。
70.クラスIIIの抗不整脈剤が、ソタロールである、実施形態68に記載の抗不整脈剤。
71.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、アミオダロン。
72.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、ソタロール。
73.抗不整脈剤が、クラスIIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
74.クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールである、実施形態73に記載の抗不整脈剤。
75.クラスIIの抗不整脈剤が、プロプラノロールである、実施形態73に記載の抗不整脈剤。
76.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、メトプロロール。
77.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、プロプラノロール。
78.抗不整脈剤が、クラスIの抗不整脈剤である、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
79.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインである、実施形態78に記載の抗不整脈剤。
80.クラスIの抗不整脈剤が、メキシレチンである、実施形態78に記載の抗不整脈剤。
81.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、リドカイン。
82.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、メキシレチン。
83.抗不整脈剤が、クラスIIIおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態65~67のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
84.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
85.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
86.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびメキシレチンを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
87.抗不整脈剤が、ソタロールおよびクラスIの抗不整脈剤を含む組み合わせである、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
88.抗不整脈剤が、ソタロールおよびメキシレチンを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
89.抗不整脈剤が、ソタロールおよびリドカインを含む、実施形態83に記載の抗不整脈剤。
90.移植された幹細胞由来心筋細胞の移植転帰の成功する高い可能性を得るための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の不整脈治療剤。
91.移植された幹細胞由来心筋細胞の宿主心筋内への統合を促進するための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
92.移植された幹細胞由来心筋細胞の拍動および/またはリズムを改善するための、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
93.抗不整脈剤が、GJA5、CACNA1G、NPPA、NPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御する、実施形態65~89のいずれか1つに記載の抗不整脈剤。
94.幹細胞由来心筋細胞の移植によって引き起こされる不整脈の治療または予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
95.不整脈は、非持続性心室性頻脈、持続性心室性頻脈、および持続性加速性特発性心室リズムである、実施形態94に記載の抗不整脈剤。
96.幹細胞由来心筋細胞の移植後の移植片拒絶反応の予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤。
97.不整脈が、幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法によって引き起こされる、実施形態94に記載の抗不整脈剤。
98.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、クラスIの抗不整脈剤およびクラスIIIの抗不整脈剤を含む、組成物。
99.クラスIの抗不整脈剤が、アミオダロンであり、クラスIIIの抗不整脈剤が、リドカインである、実施形態98に記載の組成物。
100.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法における抗不整脈剤の使用。
101.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療のための方法において使用するための、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞。
102.幹細胞由来心筋細胞の移植による心不全の治療における不整脈の予防のための方法において使用するための、抗不整脈剤および幹細胞由来心筋細胞。
103.幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させることを含む、移植転帰の成功の高い可能性を得るための、幹細胞由来心筋細胞における遺伝子発現を制御する方法。
104.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、クラスIII、クラスIV、およびクラスVの抗不整脈剤、またはそれらの組み合わせのリストから選択される、実施形態103に記載の方法。
105.抗不整脈剤が、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの抗不整脈剤、またはその組み合わせのリストから選択される、実施形態104に記載の方法。
106.クラスIの抗不整脈剤が、リドカインであり、クラスIIの抗不整脈剤が、メトプロロールであり、かつ/またはクラスIIIの抗不整脈剤が、アミオダロン、またはその組み合わせである、実施形態105に記載の方法。
107.GJA5、CACNA1G、NPPA、およびNPPBのリストから選択される遺伝子の発現を制御するステップを含む、移植転帰の成功する高い可能性を伴う幹細胞由来心筋細胞を取得するための方法。
108.遺伝子GJA5が、少なくとも1.5倍上方制御され、かつ/または遺伝子CACNA1Gが、少なくとも2倍上方制御され、かつ/または遺伝子NPPAが、少なくとも2倍下方制御され、かつ/または遺伝子NPPBが、少なくとも4倍下方制御される、実施形態107に記載の方法。
109.遺伝子の発現を制御するステップが、幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤と接触させることによって実施される、実施形態107~108のいずれか1つに記載の方法。
110.遺伝子発現の制御が、インビトロである、実施形態107~108のいずれか1つに記載の方法。
111.幹細胞由来心筋細胞が、ヒト胚性幹細胞などのヒト多能性幹細胞に由来する、先行実施形態のいずれか1つに記載の抗不整脈剤、組成物、使用、キット、または方法。
112.心不全の治療のための方法であって、
a)インビトロで幹細胞由来心筋細胞を取得するステップと、
b)幹細胞由来心筋細胞を患者に移植するステップと、
c)患者に抗不整脈剤を共投与するステップと、を含む、方法。
113.ステップa)で取得された幹細胞由来心筋細胞を抗不整脈剤とインビトロで接触させて抗不整脈心筋細胞集団を取得し、該抗不整脈心筋細胞集団を患者に移植するステップをさらに含む、実施形態112に記載の方法。
114.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびリドカインを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
115.抗不整脈剤が、メキシレチンおよびソタロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
116.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびソタロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
117.抗不整脈剤が、メトプロロールおよびメキシレチンを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
118.抗不整脈剤が、アミオダロンおよびプロプラノロールを含む、実施形態112および113のいずれか1つに記載の方法。
119.実施形態112~118のいずれか1つに記載の方法において使用するための、抗不整脈剤。
【実施例】
【0112】
実施例1
イオンチャネル活性の調節による電気生理学的応答の十分に確立された即時の変化を超えて、幹細胞由来心筋細胞に対する抗不整脈剤の効果を決定するために、抗不整脈剤への心筋細胞の長期曝露(>24時間)から生じる遺伝子発現の変化を分析した。この目的のために、アミオダロン、リドカインなどの一般的に使用される抗不整脈剤が、電気シグナル伝達、心肥大の調節、カルシウム処理、および心筋細胞の成熟に関連する遺伝子に及ぼす影響を評価した。
【0113】
実験手順
ヒト胚性幹細胞(hESC)を、iPSBrew(Miltenyi)中のLN521(BioLamina)でのフィーダーフリー条件下で維持した。細胞を、アキュターゼ(Innovative Cell Technology)を使用して3~4日毎に継代し、1.6~2.4×104細胞/cm2で10μM Y-27632(Sigma)を補充したiPSBrew中に播種した。細胞株は、本研究全体を通してマイコプラズマ汚染および核型異常について陰性であるとして試験した。
【0114】
細胞を、適合された3D懸濁液プロトコルで心筋細胞に向けて分化した(Kempf H et al Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nat Commun.2016;7:13602)。簡潔に述べると、細胞を6ウェル浮遊プレート(Greiner)に播種し、10μM Y-27632を補充したiPSBrew中で0.16×106細胞/mLで凝集体形成させた。2日後、インスリンを含まない2% B27(Life Technologies)を補充したRPMI1640培地(Life Technologies)、または0.5mg/mLのヒト組換えアルブミン(ScienceCell)および0.2mg/mLのL-アスコルビン酸2-ホスフェート(Sigma)を補充したRPMI1640培地中で4~8μM CHIR99021(Tocris)を24時間、続いて2μM Wnt-C59(Tocris)を48時間使用して分化を誘導した。細胞を、5日目から2% B27を補充したRPMI1640中に維持した。
【0115】
取得した心筋細胞は、STEMdiff心筋細胞解離キット(Stem Cell Technologies)を使用して、さらなる特性評価、機能分析、および移植実験に関する製造元の指示に従って、分化の10~15日後に単一細胞に解離した。
【0116】
抗不整脈剤の評価
解離した心筋細胞を、ラミニン-521またはgeltrex(Life Technologies)被覆プレート上、2% B27および0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を補充したRPMI1640培地に、1×10
5/cm
2の細胞密度で播種した。4日後、心筋細胞を、1μM、10μM、および100μMのアミオダロン、0.1μM、1μM、および10μMのメトプロロール、ならびに0.1μM、1μM、および10μMリドカイン(すべてSigma)の濃度、ならびに各濃度でのそれらの組み合わせで少なくとも72時間、抗不整脈剤に曝露した。ブランク培地、溶媒の添加、ならびに9日間培養した心筋細胞、および42日目を対照として使用した。細胞の拍動を48時間後、72時間後、および96時間後に評価した。細胞を、RLTplus緩衝液(Qiagen)中で10分間培養した後に回収した。遺伝子発現の変化は、表1に列挙した7つのハウスキーピング遺伝子を含む以下の標的配列についての製造元の指示に従って、カスタムナノストリング遺伝子パネル(NanoString Technologies)を使用して決定した。
【表1】
【0117】
結果
hESC由来心筋細胞の特性に対する抗不整脈剤の直接的な影響を研究するために、活動電位形成(HCN1、HCN4、KCNA5、KCNE4、KCNH7、KCNJ3、KCNJ5、SCN1B、SCN5A)、電気シグナル伝達(GJA1、GJA5、GJD3)、カルシウム処理(CACNA1C、CACNA1D、CACNA1G、RYR2、PLN)、心臓成熟(HOPX、MYH7、MYL2、TNNI3)、および心臓肥大(NPPA、NPPB)、ならびに汎心筋細胞マーカー(NKX2-5、TNNT2、ACTA2)に関連する選択した遺伝子の発現レベルの変化を分析した。
【0118】
驚いたことに、hES由来心筋細胞を0.1μMおよび1μMのアミオダロンで5日間治療した場合、23日目の未治療対照および9日目の初期(未成熟)心筋細胞と比較して、T型電位依存性カルシウムチャネルαサブユニット1G CACNA1Gの発現の2倍の増加を誘導した(
図1)。T型Ca
2+チャネルは、発達中の胎児心室筋細胞で発現し(Cribbs LL et al,Identification of the t-type calcium channel(Ca(v)3.1d)in developing mouse heart.Circ Res.2001;88(4):403-7)、内部貯蔵からのCa
2+流入の制御によって第2のメッセンジャーCa
2+の細胞内分布を調節する上で重要な役割を果たしている。それにより、チャネルは、心筋細胞の拍動を含む様々な細胞プロセスを調節する。より詳細には、CACNA1Gは心臓の電気的活動およびペーシング活動を制御する。重要なことに、チャネルの機能不全は、特に心不全における、心房および心室の両方の不整脈と関連している(Perez-Reyes E.Molecular physiology of low-voltage-activated t-type calcium channels.Physiol Rev.2003;83(1):117-61)(Vassort G,Talavera K,Alvarez JL.Role of T-type Ca2+channels in the heart.Cell Calcium.2006;40(2):205-20)。したがって、アミオダロンによるCACNA1Gの明らかな上方制御は、治療したhESC由来心筋細胞の、その固有の電気生理学的静電容量における不整脈応答を制御および予防する能力の増加を示唆する。
【0119】
同様に、0.1μMおよび1μMのアミオダロンは、高コンダクタンスギャップ結合タンパク質GJA5をコードする遺伝子の3倍を超える上方制御をもたらした(
図2)。GJA5は、心室伝導系だけでなく、初期の心室でも発現し(Delorme B et al,Developmental regulation of connexin 40 gene expression in mouse heart correlates with the differentiation of the conduction system.Dev Dyn.1995;204(4):358-71)、心室にわたる電流の伝導における重要なプレーヤーを表す(Shekhar A et al,Transcription factor ETV1 is essential for rapid conduction in the heart.J Clin Invest.2016;126(12):4444-59)。GJA5におけるいくつかの体細胞変異は、心室性不整脈を含む心筋の不整脈特性と関連している (Delmar M,Makita N.Cardiac connexins,mutations and arrhythmias.Curr Opin Cardiol.2012;27(3):236-41)。結果として、アミオダロンによるES由来心筋細胞におけるGJA5の上方制御は、細胞間接触にわたる電気シグナル伝達を加速し、それによって、特にマクロまたはミクロの再入力を介した不整脈行動を抑制し、それによって異所性学童病巣の発生リスクを低減させる可能性が高い。
【0120】
CACNA1GおよびGJA5の増加したレベルとは対照的に、アミオダロンを用いた治療は、それぞれ約3倍および5倍のNPPAおよびNPPB発現の低減をもたらした(
図3および
図4)。NPPAおよびNPPBは、分泌ホルモンANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)およびBNP(脳ナトリウム利尿ペプチド)をコードし、主に心房から分泌され、機械的伸張に対する応答において成人心臓の心室はあまり顕著ではない。ナトリウム利尿ペプチドレベルの定量化は、心不全の診断のためのツールとして日常的に使用される(McMurray JJ et al Guidelines ESCCfP.ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure 2012:The Task Force for the Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure 2012 of the European Society of Cardiology.Developed in collaboration with the Heart Failure Association (HFA)of the ESC.Eur Heart J.2012;33(14):1787-847)。興味深いことに、ANPおよびBNPの両方が心臓電気生理学の調節に関与している(Perrin MJ,Gollob MH.The role of atrial natriuretic peptide in modulating cardiac electrophysiology.Heart Rhythm.2012;9(4):610-5)。特に、BNPレベルの上昇は、左室機能障害を有する患者における不整脈事象の増加と関連している(Galante O et al,Brain natriuretic peptide(BNP)level predicts long term ventricular arrhythmias in patients with moderate to severe left ventricular dysfunction.Harefuah.2012;151(1):20-3,63,2)。しかしながら、ナトリウム利尿ペプチドがヒトにおける電気生理学的作用をどのように制御するかに関する正確な機序は未だ不明である。ペプチドは活動電位の短縮を誘発し、それによって再入の可能性を高めると考えられている。さらに、ANPレベルおよび/またはBNPレベルの減少による活動電位持続時間の延長は、頻拍性不整脈の可能性を減少させる。したがって、hESC由来心筋細胞においてアミオダロンを使用してNPPAおよびNPPAを低下させることは、心臓移植後のhESC由来心筋細胞由来の移植片誘発性不整脈ならびに頻脈および異所性拍動病巣の発生のリスクを低減させる。
【0121】
注目すべきことに、hESC由来心筋細胞の拍動頻度が、それぞれ1μMおよび10μMで明らかに低減または抑制され、頻拍性不整脈が起こる可能性が低減された。同時に、アミオダロンは、NKX2-5、TNNT2、ACTA2などの汎心筋細胞遺伝子の発現に変化をもたらさず(
図5~7)、全体的な心筋細胞の同一性が影響を受けないことを示唆する。また、ヒト心臓の活動電位の上昇速度を制御するその標的(Honjo H et al,Block of cardiac sodium channels by amiodarone studied by using Vmax of action potential in single ventricular myocytes.Br J Pharmacol.1991;102(3):651-6)のうちの1つであるSCN5A(
図8)を含む他のイオンチャネルの発現にも影響を及ぼさなかった。
【0122】
全体的に、hESC由来心筋細胞をアミオダロンに曝露すると、NPPAおよびNPPBの減少を伴う上昇したレベルCACNA1GおよびGJA5を含む固有の発現プロファイルが誘導される。これは、アミオダロン治療心筋細胞に、細胞内カルシウムレベルを制御する増加した能力の、心臓組織にわたるより速いシグナル伝導、ならびに不整脈事象および頻脈に対する低減した感受性を含む、別個の電気生理学的特徴を付与する。結果として、これらの(改変された)抗不整脈心筋細胞集団は、移植片誘発性不整脈および/または頻脈を省略することによって心臓を再生するための優れた細胞源を提供する。
【0123】
同様に、他のクラスの抗不整脈剤が、NPPAおよびNPPBを調節することを見出した。最も関連性の高いクラス1b抗不整脈剤であるリドカインは、汎心筋細胞マーカー(NKX2-5およびTNNT2;
図11、12)の発現に影響を与えることなく、濃度依存的な様式で1μM、10μM、100μMの両方のナトリウム利尿ペプチドを減少させた(
図9、10)。心筋細胞の電気生理学的挙動の制御に関するNPPAおよびNPPBの全体的な関連性を考慮すると、リドカインを使用したhESC由来心筋細胞の治療は、心臓移植における移植片誘発性副作用を回避するためのさらなる有望な戦略を表す。
【0124】
まとめると、我々の結果は、幹細胞由来心筋細胞の遺伝子発現に対する抗不整脈剤の予想外の影響を示しており、心筋肥大、カルシウム処理、および電気シグナル伝達、心筋細胞の電気生理学的挙動の制御に関連するすべての関連クラスの遺伝子に関連する遺伝子の発現パターンが改変した抗不整脈心筋細胞集団が生じる。
【0125】
実施例2
異なる培養系にわたって持続的な効果および強固性を検証するために、3D懸濁凝集体を使用して幹細胞由来心筋細胞の遺伝子発現プロファイルに対する抗不整脈剤の効果を試験し、抗不整脈剤を除去した後の48時間にわたって遺伝子発現を測定した。
【0126】
実験手順
実験を、以下の改変を伴って実施例1に記載されるように実施した。幹細胞由来心筋細胞を二次元単層に解離および播種する代わりに、細胞は、心臓分化の誘導の14日後に直接取得された三次元懸濁液凝集体として維持した。その後、凝集体を、3mL培地中、約1.5×106細胞/mLの細胞密度で、軌道振とう装置(75rpm)上の6ウェル懸濁液プレートで維持した。凝集体中の細胞を、約120時間、10μMのアミオダロンに曝露した。その後、2% B27+0.1% P/Sを補充したRPMI培地中で、さらに48時間の間細胞を維持した。完全培地交換を48~72時間ごとに行った。その後、細胞を回収し、RNA発現分析に供した。
【0127】
結果
10μMのアミオダロンで治療してから48時間後に測定した凝集体の遺伝子発現プロファイルはそれぞれ、CACNA1Gの約1.75倍の増加、GJA5の約2.7倍の増加、ならびにNPPAおよびNPPBの約2倍および15倍を超える減少を示す(
図14)。
【0128】
したがって、結果は、実施例3および4に示されるように不整脈電位の低減をもたらす幹細胞由来心筋細胞の改変された電気生理学的特性に関連する遺伝子発現レベルに対する抗不整脈剤、例えばアミオダロンの持続的かつ明確な効果を確認する。さらに、結果は、効果が培養様式に依存せず、例えば、インビボ組織により近い三次元懸濁液培養物だけでなく、二次元単層培養物でも誘導されることを示す。したがって、抗不整脈剤の効果は、インビボ用途で反映されることが予期される。
【0129】
実施例3
抗不整脈剤への曝露後の幹細胞由来心筋細胞の電気生理学的特性に対する持続的な影響を決定するために、Ca2+-記録を用いて機能的心筋細胞試験を行い、抗不整脈剤への曝露後の幹細胞由来心筋細胞集団の不整脈誘発能を決定した。拍動ごとの変動性を、幹細胞由来心筋細胞のインビボ(プロ)不整脈電位についてのインビトロ代替読み出として使用した(Rosanne Varkevisser et al,Beat-to-beat variability of repolarization as a new biomarker for proarrhythmia in vivo,Heart Rhythm Volume 9,Issue 10,October 2012,Pages 1718-1726);(Kazuto Yamazaki et al,Beat-to-Beat Variability in Field Potential Duration in Human Embryonic Stem Cell-Derived Cardiomyocyte Clusters for Assessment of Arrhythmogenic Risk,and a Case Study of Its Application,Pharmacology&Pharmacy,Vol.5 No.1,2014,pp.117-128)。
【0130】
注目すべきことに、すべてのCa2+-記録は、イオンチャネル変調を介した薬剤の既知の直接的な影響を排除するために、曝露の少なくとも24時間後に行った。
【0131】
実験手順
Ca2+-記録を、米国、Fujifilm Cellular Dynamics(FCDI;iCell2心筋細胞、ドナー番号01434、ロット番号105170)からのヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(幹細胞由来心筋細胞)に対して実施した。
【0132】
細胞は、凍結バイアルとして送達され、液体窒素中で使用まで保存した。解凍および培養に必要なすべての培養培地は、細胞供給業者によって供給された。解凍、プレーティング、および培養の手順は、製造業者によって提供されたプロトコルに従って行った。細胞を、フィブロネクチンで被覆された384ウェルGreiner μClearプレートに直接プレーティングした。プレーティング密度は、50μlの最終体積で17.500細胞/ウェルであった。培地は、プレーティングの1日後、その後2日おき、およびパイロット研究の実験の3時間前に交換した(90%)。化合物実験については、化合物をインビトロ(DIV)2で添加し、続いてDIV4で化合物含有培地交換(90%)を行った。治療は、DIV6での培地を標準培養培地に交換することによって終了した。記録はDIV7で行われた。実験は、各化合物濃度について最小n=10で実施した。
【0133】
Ca2+画像化実験については、培地をHEPES緩衝記録溶液によって記録物と交換した。蛍光Ca2+指標(Cal-520-AM)を、2μMの濃度で適用し、30分間細胞に蓄積させた後、緩衝液を無色素緩衝液に再度交換した。細胞を、Hamamatsu FDSS記録システムで、37℃で10分間回復させた。すべての実験を37℃で実施した。カメラのフレームレートを、録画用に最小35Hzに設定し、ビニングを4×4とした。質が実験に十分であるかを評価するために、拍動の規則性、Ca2+シグナルの形状および振幅、ならびに異なるウェル間のこれらのパラメータの変動性を含む、いくつかのパラメータを検証した(目による検査)。細胞は自発的に活性であったため、電気刺激は適用しなかった。
【0134】
化合物を適用する前に、細胞を5分間記録した。200μMのモキシフロキサシンを、単一濃度/ウェル様式でベースライン期の後に適用し、5分間の洗浄期を続けた。次いで、蛍光活性をさらに5分間記録した。化合物の前培養を伴わないモキシフロキサシンを対照(n=18)として含め、複数のプレートに分散させた。
【0135】
FDSSv3.4オフラインを使用して、それぞれの記録周期内の連続的な一過性Ca2+の過渡間の時間間隔の変動係数(CV)として測定した拍動ごとの変動を分析し、続いてIgor Pro 8.0.4.2(Wavemetrics、USA)を使用してプロットをさらに分析および編集した。
【0136】
【0137】
式中、σは標準偏差を示し、μは平均を表す。
【0138】
SEMは、標準偏差および実験数の平方根の間の比として計算し、
【数2】
式中、σは標準偏差を示し、nは実験数である。
【0139】
結果
示した濃度での抗不整脈性心筋細胞集団の拍動ごとの変動性を示す変動係数(CV)を、対照治療と比較した。結果は、3つの異なるクラスの抗不整脈剤、すなわちクラスI(例えば、リドカインまたはメキシレチン)、クラスII(例えば、プロプラノロール、メトプロロール)、およびクラスIII(例えば、アミオダロン、ソタロール)を含む、すべての試験した化合物について、ベースライン条件下およびモキシフロキサシンを使用した不整脈誘発状態の誘発後の変動係数(CV)によって反映される、拍動ごとの変動性の明らかな低減を示す(
図15)。CVは、100nMのリドカインへの曝露後に、抗不整脈剤に曝露されなかったそれぞれの対照条件と比較して、ベースライン条件下では80,8%、不整脈誘発条件下では84,7%低減させた。同様に、それぞれベースライン条件下および不整脈誘発条件下で、10nMアミオダロンはCVを76.5%および83.3%、10nMメトプロロールは79.2%および83.2%、100nMメキシレチンは76,79%および77.5%、100nMソタロールは79.4%および84.9%、ならびに100nMプロプラノロールは73.7%および88.5%低減させた。注目すべきことに、拍動ごとの変動性のこの明らかな低減は、化合物の中止の24時間後に観察され、したがって、薬物の継続的な存在に依存しない。
【0140】
全体的に、結果は、クラスI、II、またはIIIの抗不整脈剤による治療後の拍動ごとの変動性の低減を明確に示し、試験した濃度でのCVの全体的減少は70~80%であった。注目すべきことに、この低減は、ベースライン(非不整脈)および前不整脈の両方の条件下で観察された。まとめると、抗不整脈剤による治療が抗不整脈細胞集団を誘導し、不整脈に対する細胞の感受性を低減させることを示唆する。この抗不整脈細胞集団は、取得した細胞集団を心臓細胞療法にとって非常に魅力的にし、細胞移植後の事前に報告された不整脈のリスクを軽減する。
【0141】
さらに、データは、細胞の電気生理学的特性に関連する心筋細胞機能の変化が、CACNA1G、GJA5、NPPA、および/またはNPPBを含む遺伝子発現の持続的な変化と関連していることを示唆する。重要なことに、幹細胞由来心筋細胞の改変された特性は、抗不整脈剤への曝露によって、遺伝子発現インレベルで(直接的または間接的に)誘導されるが、必ずしもイオンチャネルの活性の調節による直接的な効果に関連する作用の共通作用機序によるものではない。
【0142】
実施例4
抗不整脈剤の組み合わせが幹細胞由来心筋細胞の不整脈の可能性をさらに低減させることができるかを試験するために、幹細胞由来心筋細胞を、実施例3に記載したものと同じCa2+-記録のアッセイに供し、クラスI、II、および/またはIIIの抗不整脈剤の様々な組み合わせを適用し、拍動ごとの変動性を単一化合物処理と比較した。
【0143】
実験手順
人工多能性幹細胞由来心筋細胞を、抗不整脈剤の組み合わせで72時間治療した後、24時間の回復期を経て測定した。薬剤を、1μMのソタロール、0.1μMのアミオダロン、0.1μMのメトプロロール、および1μMのメキシレチンの濃度で適用した。すべての測定は、モキシフロカシン治療後の不整脈誘発条件下で行った。結果は、クラスIII薬剤とクラスIおよび/またはクラスIIのいずれかの組み合わせが、それぞれ46,4%または31,4%および46,4%の低減で、単独の薬剤よりも不整脈促進能の低減においてより効率的であることを示す(
図16)。同様に、クラスIおよびクラスIIの組み合わせは、単一化合物治療と比較して48,3%の低減を示した。
【0144】
これらの結果は、抗不整脈剤を組み合わせると、拍動ごとの変動性がさらに低減することを示す。結果として、取得した心筋細胞集団は、単剤単独と比較して、さらに不整脈誘発能が低減するため、インビボで不整脈を誘発するリスクがさらに軽減される。
【0145】
全体的に、上記実施例の結果は、幹細胞由来心筋細胞の抗不整脈剤への曝露が、不整脈誘発能の大幅かつ持続的な低減を誘発し、それによって抗不整脈特性を有する細胞集団が取得されることを示す。
【0146】
抗不整脈心筋細胞集団は、移植片誘発性不整脈および/または頻脈のリスクを低減することによって、移植のための優れた細胞源を表す。
【0147】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例示および記載されているが、ここで、多くの修正、置換、変更、および同等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるそのようなすべての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
【国際調査報告】