(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-08
(54)【発明の名称】高分子電解質膜、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1018 20160101AFI20220801BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/1058 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20220801BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220801BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20220801BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20220801BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20220801BHJP
C08K 5/134 20060101ALI20220801BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20220801BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220801BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H01M8/1018
H01M8/10 101
H01M8/1058
H01M8/1039
H01M8/1072
H01B1/06 A
H01B1/12 Z
C08L101/02
C08K5/053
C08K5/134
C08K5/092
C08K5/17
C08L101/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572658
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 KR2020007829
(87)【国際公開番号】W WO2021006496
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】10-2019-0081777
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュンファ
(72)【発明者】
【氏名】イ トンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム ナヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンス
(72)【発明者】
【氏名】ヨム スンジム
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002EC046
4J002EF066
4J002EF106
4J002EJ036
4J002EN036
4J002EN076
4J002GQ02
5G301CD01
5G301CE01
5H126AA05
5H126BB06
5H126FF03
5H126FF04
5H126GG18
5H126GG19
5H126HH03
5H126HH10
5H126JJ02
5H126JJ05
(57)【要約】
長期間使用によるイオン伝導体の化学的劣化が発生してもイオン伝導体の遺失を防止することができ、化学的耐久性が大きく向上した高分子電解質膜、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置が開示される。本発明の高分子電解質膜は、高分子電解質物質を含み、前記高分子電解質物質は、イオン伝導体、及び前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤を含み、前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することによって前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質物質を含む高分子電解質膜であって、
前記高分子電解質物質は、
イオン伝導体と、
前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤と、
を含み、
前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することにより前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基(crosslinking functional group)を有する、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記架橋剤は下記の式1で表示される、請求項1に記載の高分子電解質膜。
[化1]
R
1-X-R
2
ここで、前記架橋性作用基のR
1及びR
2は互いに独立的にヒドロキシル基(hydroxyl group)(-OH)、カルボキシル基(carboxyl group)(-COOH)、又はアミン基(amine group)(-NH
2)であり、
Xは(i)置換又は非置換のC
6-C
60のアリーレン基(substituted or unsubstituted C
6-C
60 arylene group)、(ii)置換又は非置換のC
2-C
20の線状、環状、又は分岐状のアルケン基(substituted or unsubstituted C
2-C
20 linear、cyclic、or branched alkene group)、又は(iii)下記の式2で表示される2価作用基(divalent functional group)である。
[化2]
*-Ar-R
3-*
ここで、Arは置換又は非置換のC
6-C
60のアリーレン基、R
3は置換又は非置換のC
2-C
10の線状、環状、又は分岐状のアルケン基である。
【請求項3】
前記Xは置換又は非置換のフェニレン基(phenylene group)、*-(C
2H
4)
n-*、又は
である、請求項2に記載の高分子電解質膜。
ここで、nは1~10の整数である。
【請求項4】
前記高分子電解質物質は、その総重量に対して0.05~20重量%の前記架橋剤を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記高分子電解質物質で充填されている多数の空隙を有する多孔性支持体をさらに含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記多孔性支持体は膨張フィルム(expanded film)又は不織布ウェブ(nonwoven fibrous web)である、請求項5に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積(apparent volume)の比は5~90%である、請求項5に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積の比は30~60%である、請求項5に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
前記イオン伝導体は、フッ素系イオン伝導体、炭化水素系イオン伝導体、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
イオン伝導体及び架橋剤を含む混合液を準備する段階と、
前記混合液を用いて高分子電解質膜を形成する段階と、
を含み、
前記高分子電解質膜形成段階は前記架橋剤と前記イオン伝導体と結合しない工程条件の下で遂行し、
前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することによって前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する、高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記架橋剤は下記の式1で表示される、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[化1]
R
1-X-R
2
ここで、前記架橋性作用基のR
1及びR
2は互いに独立的にヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、又はアミン基(-NH
2)であり、Xは(i)置換又は非置換のC
6-C
60のアリーレン基、(ii)置換又は非置換のC
2-C
20の線状、環状、又は分岐状のアルケン基、又は(iii)下記の式2で表示される2価作用基である。
[化2]
*-Ar-R
3-*
ここで、Arは置換又は非置換のC
6-C
60のアリーレン基、R
3は置換又は非置換のC
2-C
10の線状、環状、又は分岐状のアルケン基である。
【請求項12】
前記Xは置換又は非置換のフェニレン基、*-(C
2H
4)
n-*、又は
である、請求項11に記載の高分子電解質膜の製造方法。
ここで、nは1~10の整数である。
【請求項13】
前記イオン伝導体と前記架橋剤の重量との和に対する前記架橋剤の重量の比は0.05~20重量%である、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
前記混合液は、(i)前記イオン伝導体の分散液に前記架橋剤を溶解させるか、(ii)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を分散させるか、(iii)前記イオン伝導体の溶液に前記架橋剤を溶解させるか、又は(iv)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を溶解させることによって準備する、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項15】
前記高分子電解質膜形成段階は、
多孔性支持体を準備する段階と、
前記多孔性支持体を前記混合液で含浸させる段階と、
前記混合液で含浸された前記多孔性支持体を乾燥させる段階と、
を含み、
前記乾燥段階は前記架橋剤と前記イオン伝導体とが結合しない温度で遂行する、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項16】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間の高分子電解質膜と、
を含み、
前記高分子電解質膜は高分子電解質物質を含み、
前記高分子電解質物質は、
イオン伝導体と、
前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤と、
を含み、
前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することによって前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する、電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子電解質膜、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関し、より詳しくは、長期間使用によるイオン伝導体の化学的劣化が発生してもイオン伝導体の遺失を防止することができ、化学的耐久性が大きく向上した高分子電解質膜、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で、‘電気化学装置’と言う用語は発電装置(power generating device)[例えば、燃料電池(Fuel Cell)]及びエネルギー貯蔵装置(energy saving device)[例えば、レドックスフロー電池(Redox Flow Battery:RFB)]の全てを通称する概念である。
【0003】
水素と酸素を結合させて電気を生産する燃料電池は、水素と酸素が供給される限り、ずっと電気を生産することができ、熱損失がなくて内燃機関より効率が2倍程度に高いという利点がある。
【0004】
また、水素と酸素の結合によって発生する化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換するので、公害物質の排出が少ない。よって、燃料電池は環境に優しいだけでなく、エネルギー消費増加による資源枯渇に対するおそれを減らすことができるという利点がある。
【0005】
燃料電池において電気を実質的に発生させるスタックは膜電極組立体(MEA)とセパレーター(separator)[又はバイポーラプレート(bipolar plate)ともいう]からなる単位セルが数個から数十個積層された構造を有する。前記膜電極組立体は、一般的にアノード(anode)、カソード(cathode)、及びこれらの間の電解質膜を含む。
【0006】
燃料電池は、電解質の状態及び種類によって、アルカリ電解質燃料電池、高分子電解質燃料電池(PEMFC)などに区分することができる。この中で高分子電解質燃料電池は100℃未満の低い作動温度、早い始動、応答特性及び優れた耐久性などの利点によって携帯用、車両用又は家庭用電源装置として脚光を浴びている。
【0007】
高分子電解質燃料電池の代表的な例としては、水素ガスを燃料として使用するプロトン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell、PEMFC)、液状のメタノールを燃料として使用する直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell、DMFC)などを挙げることができる。
【0008】
高分子電解質燃料電池で起こる反応をまとめると次のようである。
【0009】
まず、水素ガスのような燃料がアノードに供給されれば、水素の酸化反応によって水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を通してカソードに伝達され、生成された電子は外部回路を介してカソードに伝達される。カソードに供給される酸素が前記水素イオン及び前記電子と結合して還元することにより水が生成される。
【0010】
高分子電解質燃料電池の商業化を実現するためにはいまだに解決しなければならない多くの技術的障壁が存在している。必ず成就しなければならない事項としては、高性能、長寿命、安価化などがある。これに一番大きな影響を及ぼす構成要素が膜電極組立体であり、その中でも高分子電解質膜は膜電極組立体の性能及び値段に最大の影響を及ぼす核心要素の一つである。
【0011】
燃料電池用高分子電解質膜は、一般的に高イオン伝導度、高化学的耐久性、高機械的強度、高耐熱性、低水素ガス透過性、優れた寸法安全性などを有することが要求される。
【0012】
一方、レドックスフロー電池(RFB)は、電解質の電気化学的可逆反応によって充電及び放電を繰り返すことにより長期間使うことができる2次電池の一種である。
【0013】
前記レドックスフロー電池(RFB)は、一般的に高分子電解質膜(‘イオン交換膜’ともいう)によって互いに遮断されている2種の液状電解質を含む。アノード側の第1液状電解質反応とカソード側の第2液状電解質反応が互いに異なって圧力差が発生する。このような圧力差を克服し、充電と放電を繰り返しても優れた電池性能を示すためには、前記高分子電解質膜が高イオン伝導度とともに優れた物理的及び化学的耐久性を有することが要求される。
【0014】
前述した電気化学装置用高分子電解質膜の機械的強度及び寸法安全性を向上させるために、多孔性支持体をイオン伝導体に含浸させた強化複合膜型の高分子電解質膜が開発された。
【0015】
前記イオン伝導体の場合、応用分野によって違いが存在するはするが、概して長期間使用の際、耐化学性が低下する問題がある。それによるイオン伝導体の化学的劣化が発生すれば、分解されたイオン伝導体が高分子電解質膜から流出して高分子電解質膜の物性(特に、イオン伝導度)が低下する。何よりも、イオン伝導体の劣化によってラジカル末端基(radical end group)及び/又はイオン型末端基(ionic end group)が一旦発生すれば、これらが連鎖化学反応を引き起こして高分子電解質膜の劣化が急速に進む。
【0016】
イオン伝導体の劣化及びそれによるイオン伝導体の流出を防止するために、架橋イオン伝導体(crosslinked ion conductor)を用いることが提案されたが、(i)イオン伝導体が架橋構造を有するようにするためには、別途の複雑な架橋工程が要求されるから、高分子電解質膜の生産性を落とし、製造コストを上昇させる問題があるだけではなく、(ii)架橋イオン伝導体は流動性が低いから、多孔性支持体の空隙をイオン伝導体で充填させなければならない強化複合膜型の高分子電解質膜には適用しにくいという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明はこのような関連技術の制限及び欠点に起因する問題点を防止することができる高分子電解質膜、その製造方法、及びそれを含む電気化学装置に関するものである。
【0018】
本発明の一観点は、長期間使用によるイオン伝導体の化学的劣化が発生してもイオン伝導体の遺失を防止することができ、化学的耐久性が大きく向上した高分子電解質膜を提供することである。
【0019】
本発明の他の観点は、長期間使用によるイオン伝導体の化学的劣化が発生してもイオン伝導体の遺失を防止することができ、化学的耐久性が大きく向上した高分子電解質膜を製造する方法を提供することである。
【0020】
本発明の他の観点は、優れた化学的耐久性を有することによって性能を長期間維持することができる電気化学装置を提供することである。
【0021】
前述した本発明の観点の他にも、本発明の他の特徴及び利点は以下で説明されるか、その説明から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に明らかに理解可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような本発明の一観点によって、高分子電解質物質を含む高分子電解質膜であって、前記高分子電解質物質は、イオン伝導体と、前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤と、を含み、前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することにより前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基(crosslinking functional group)を有する、高分子電解質膜が提供される。
【0023】
前記架橋剤は下記の式1で表示されることができる。
【0024】
[化1]
R1-X-R2
【0025】
ここで、前記架橋性作用基のR1及びR2は互いに独立的にヒドロキシル基(hydroxyl group)(-OH)、カルボキシル基(carboxyl group)(-COOH)、又はアミン基(amine group)(-NH2)であることができ、
【0026】
Xは(i)置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基(substituted or unsubstituted C6-C60 arylene group)、(ii)置換又は非置換のC2-C20の線状、環状、又は分岐状のアルケン基(substituted or unsubstituted C2-C20 linear、cyclic、or branched alkene group)、又は(iii)下記の式2で表示される2価作用基(divalent functional group)であることができる。
【0027】
[化2]
*-Ar-R3-*
【0028】
ここで、Arは置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基、R3は置換又は非置換のC2-C10の線状、環状、又は分岐状のアルケン基であることができる。
【0029】
前記Xは置換又は非置換のフェニレン基(phenylene group)、*-(C
2H
4)
n-*、又は
であることができ、ここで、nは1~10の整数であることができる。
【0030】
前記高分子電解質物質は、その総重量に対して0.05~20重量%の前記架橋剤を含むことができる。
【0031】
前記高分子電解質物質で充填されている多数の空隙を有する多孔性支持体をさらに含むことができる。
【0032】
前記多孔性支持体は膨張フィルム(expanded film)又は不織布ウェブ(nonwoven fibrous web)であることができる。
【0033】
前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積(apparent volume)の比は5~90%であることができる。
【0034】
前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積の比は30~60%であることができる。
【0035】
前記イオン伝導体はフッ素系イオン伝導体、炭化水素系イオン伝導体、又はこれらの混合物であることができる。
【0036】
本発明の他の観点によって、イオン伝導体及び架橋剤を含む混合液を準備する段階と、前記混合液を用いて高分子電解質膜を形成する段階と、を含み、前記高分子電解質膜形成段階は前記架橋剤と前記イオン伝導体と結合しない工程条件の下で遂行し、前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することによって前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する、高分子電解質膜の製造方法が提供される。
【0037】
前記架橋剤は下記の式1で表示されることができる。
【0038】
[化1]
R1-X-R2
【0039】
ここで、前記架橋性作用基のR1及びR2は互いに独立的にヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、又はアミン基(-NH2)であることができ、
【0040】
Xは(i)置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基、(ii)置換又は非置換のC2-C20の線状、環状、又は分岐状のアルケン基、又は(iii)下記の式2で表示される2価作用基であることができる。
【0041】
[化2]
*-Ar-R3-*
【0042】
ここで、Arは置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基、R3は置換又は非置換のC2-C10の線状、環状、又は分岐状のアルケン基であることができる。
【0043】
前記Xは置換又は非置換のフェニレン基、*-(C
2H
4)
n-*、又は
であることができ、ここで、nは1~10の整数であることができる。
【0044】
前記イオン伝導体と前記架橋剤の重量との和に対する前記架橋剤の重量の比は0.05~20重量%であることができる。
【0045】
前記混合液は、(i)前記イオン伝導体の分散液に前記架橋剤を溶解させるか、(ii)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を分散させるか、(iii)前記イオン伝導体の溶液に前記架橋剤を溶解させるか、又は(iv)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を溶解させることによって準備することができる。
【0046】
前記高分子電解質膜形成段階は、多孔性支持体を準備する段階と、前記多孔性支持体を前記混合液で含浸させる段階と、前記混合液で含浸された前記多孔性支持体を乾燥させる段階と、を含むことができ、前記乾燥段階は前記架橋剤と前記イオン伝導体とが結合しない温度で遂行することができる。
【0047】
本発明のさらに他の観点によって、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間の高分子電解質膜と、を含み、前記高分子電解質膜は高分子電解質物質を含み、前記高分子電解質物質は、イオン伝導体と、前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤と、を含み、前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化する場合、前記劣化したイオン伝導体と結合することによって前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する、電気化学装置が提供される。
【0048】
前記のような本発明についての一般的敍述は本発明を例示するか説明するためのものであるだけで、本発明の権利範囲を制限しない。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、イオン伝導体が劣化して生成されるラジカル末端基及び/又はイオン型末端基と結合することによって前記劣化したイオン伝導体を架橋させることができる架橋剤を多孔性支持体に導入することにより、劣化したイオン伝導体が高分子電解質膜から流出することを防止することができる。よって、燃料電池の長期間使用によるイオン伝導体の化学的劣化が発生してもイオン伝導体の流出を抑制することができ、高分子電解質膜及びそれを含む電気化学装置の化学的耐久性を大きく向上させることができる。
【0050】
また、本発明によれば、前記イオン伝導体が劣化して前記ラジカル末端基及び/又はイオン型末端基が生成されれば、前記ラジカル末端基及び/又はイオン型末端基が本発明の架橋性作用基と即刻反応するので、架橋のための別途の昇温工程なしも前記劣化したイオン伝導体の架橋を強制に進めることができる。よって、本発明によれば、別途の架橋工程による生産性低下及び製造コスト上昇を引き起こさないながらも高分子電解質膜及びそれを含む電気化学装置の化学的耐久性を大きく向上させることができる。
【0051】
また、本発明において高分子電解質膜の製造に用いられる非架橋イオン伝導体(non-crosslinked ion conductor)は架橋イオン伝導体(crosslinked ion conductor)に比べて優れた流動性を有するので、多孔性支持体を含む強化複合膜型高分子電解質膜の製造に相応しい。よって、本発明によれば、前記架橋剤が提供する優れた化学的耐久性の利点とともに前記多孔性支持体が提供する優れた機械的耐久性及び寸法安全性の利点までも有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下では、本発明の実施例を詳細に説明する。ただ、以下で説明する実施例は本発明の明確な理解を助けるための例示的目的で提示するものであるだけで、本発明の範囲を制限しない。
【0053】
本発明の高分子電解質膜は高分子電解質物質を含む。
【0054】
前記高分子電解質物質は、イオン伝導体及び前記イオン伝導体と結合されていない架橋剤を含む。
【0055】
前記イオン伝導体は、スルホン酸基、カルボキシル基、ボロン酸基、リン酸基、イミド基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、スルホニルフルオリド基及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン(proton)交換基を有する陽イオン伝導体であることができる。具体的には、本発明の一実施例によるイオン伝導体はスルホン酸基及び/又はカルボキシル基を陽イオン交換基として有する陽イオン伝導体であることができる。
【0056】
また、前記イオン伝導体は、フッ素系イオン伝導体、炭化水素系イオン伝導体、又はこれらの混合物であることができる。
【0057】
前記フッ素系イオン伝導体は、測鎖に前記陽イオン交換基を有し、主鎖にフッ素を含み、フッ素系高分子[例えば、ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、ポリ(ペルフルオロカルボン酸)など]であることができる。
【0058】
前記炭化水素系イオン伝導体は、測鎖に前記陽イオン交換基を有する炭化水素系高分子[例えば、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:SPEEK)、スルホン化ポリベンズイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:SPBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)、スルホン化ポリキノキサリン(sulfonated polyquinoxaline)、スルホン化ポリケトン(sulfonated polyketone)、スルホン化ポリフェニレンオキシド(sulfonated polyphenylene oxide)、スルホン化ポリエーテルスルホン(sulfonated polyether sulfone)、スルホン化ポリエーテルケトン(sulfonated polyether ketone)、スルホン化ポリフェニレンスルホン(sulfonated polyphenylene sulfone)、スルホン化ポリフェニレンスルフィド(sulfonated polyphenylene sulfide)、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone)、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンニトリル(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone nitrile)、スルホン化ポリアリーレンエーテル(sulfonated polyarylene ether)、スルホン化ポリアリーレンエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether nitrile)、スルホン化ポリアリーレンエーテルエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether ether nitrile)、ポリアリーレンエーテルスルホンケトン(sulfonated polyarylene ether sulfone ketone)など]であることができる。
【0059】
本発明の前記架橋剤は、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、及びアミン基(-NH2)からなる群から選択される少なくとも1種の架橋性作用基を有する。
【0060】
本発明の一実施例による架橋剤は1000以下の分子量(架橋剤がオリゴマーの場合には重量平均分子量を意味する)を有することができる。架橋剤が1000を超える重量平均分子量を有するポリマーの場合には立体構造を引き起こして架橋反応が正常に進みにくいことがある。
【0061】
一方、前記架橋剤はスルホニル基(sulfonyl group)、スルホンアミド基(sulfonamide group)などのように相当な電子密度差を引き起こす作用基を含まないことが好ましい。これは、前記電子密度差によってS原子に隣接した炭素原子の結合が切れる劣化を引き起こす危険が高いからである。
【0062】
架橋剤と呼ばれる他の種類の物質[例えば、金属酸化物の形態として導入されることができるAl3+、Mn2+、Mg2+、Zn2+などの多価陽イオン(multivalent cations)]とは違い、本発明の前記架橋剤は、前記イオン伝導体と結合されていない状態で高分子電解質膜内に存在するが、燃料電池の長期間使用によって前記イオン伝導体が一旦劣化すれば、架橋のための別途の昇温工程なしも前記架橋性作用基を介して前記劣化したイオン伝導体と即刻結合することにより前記イオン伝導体の架橋を引き起こすことができる。
【0063】
例えば、一般的な炭化水素系イオン伝導体の劣化メカニズムは次の通りであり、フッ素系イオン伝導体も電子密度の差が存在すればこれと類似したメカニズムで劣化する。
【0064】
【0065】
<炭化水素系イオン伝導体の劣化メカニズムの例>
【0066】
イオン伝導体の化学的劣化によって主鎖が分解して生成されるラジカル末端基(例えば、-COO・、-CO・など)及び/又はイオン型末端基(-COO-、-O-、-CO2-など)と本発明の架橋剤の架橋性作用基とが化学的に反応してアミド基(amide group)又はエステル基(ester group)を形成しながら前記劣化したイオン伝導体を架橋させる。
【0067】
一般に、100℃未満では燃料電池用高分子電解質膜に使われるフッ素系又は炭化水素系イオン伝導体の架橋反応が進みにくいが、前記イオン伝導体が劣化して前記ラジカル末端基及び/又はイオン型末端基が生成されれば、前記ラジカル末端基及び/又はイオン型末端基が本発明の架橋剤の前記架橋性作用基と即刻反応するので、架橋のための別途の昇温工程なしも前記劣化したイオン伝導体の架橋を強制に進めることができる。
【0068】
本発明の一実施例による架橋剤は下記の式1で表示される。
【0069】
[化1]
R1-X-R2
【0070】
ここで、前記架橋性作用基のR1及びR2のそれぞれは互いに独立的にヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、又はアミン基(-NH2)であることができ、Xは(i)置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基、(ii)置換又は非置換のC2-C20の線状、環状、又は分岐状のアルケン基、又は(iii)下記の式2で表示される2価作用基であることができる。
【0071】
[化2]
*-Ar-R3-*
【0072】
ここで、Arは置換又は非置換のC6-C60のアリーレン基であることができ、R3は置換又は非置換のC2-C10の線状、環状、又は分岐状のアルケン基であることができる。
【0073】
より具体的には、前記Xは置換又は非置換のフェニレン基、*-(C
2H
4)
n-*、又は
であることができる。前記nは1から10の整数であることができる。
【0074】
本発明の一実施例によれば、前記高分子電解質物質はその総重量に対して0.05~20重量%の前記架橋剤を含むことができる。
【0075】
前記架橋剤の含量が0.05重量%未満であれば、劣化したイオン伝導体の架橋反応が効果的に起こりにくい。一方、前記架橋剤の含量が20重量%を超えれば、前記架橋剤が高分子電解質膜内でのイオン伝達を妨げる問題が発生する。このような点で、前記架橋剤の含量は1~10重量%であることがより好ましい。
【0076】
本発明の高分子電解質膜は、(i)前記高分子電解質物質から形成された単一膜、又は(ii)多孔性支持体の空隙が前記高分子電解質物質で満たされている強化複合膜であることができる。
【0077】
すなわち、本発明の一実施例による強化複合膜型の高分子電解質膜は、前記高分子電解質物質で充填された多数の空隙を有する多孔性支持体をさらに含む。
【0078】
本発明の高分子電解質膜の製造に使われるイオン伝導体は架橋イオン伝導体(crosslinked ion conductor)に比べて優れた流動性を有する非架橋イオン伝導体(non-crosslinked ion conductor)であるので、前記多孔性支持体の空隙を前記イオン伝導体で容易に充填することができる。よって、水素イオンが移動することができるウォーターチャネル(water channel)が前記多孔性支持体の厚さ方向(through plane)によく形成されて強化複合電解質膜が相対的に優れたイオン伝導度を有する反面、水素ガスが移動することができる流路は複雑になり、前記強化複合電解質膜が相対的に低い水素ガス透過度を有することができるようになる。
【0079】
本発明一実施例によれば、前記多孔性支持体は、好ましくは膨張フィルム(expanded film)又は不織布ウェブ(nonwoven fibrous web)であることができる。
【0080】
前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積(apparent volume)の比は5~90%であることができる。
【0081】
前記比が5%未満であれば、多孔性支持体の採択による寸法安全性及び機械的耐久性向上の効果が少ない。一方、前記比が90%を超えれば、前記多孔性支持体の上部又は下部の表面上に位置するイオン伝導体層の厚さがあまりに薄くて面抵抗が増加する。このような点で、前記高分子電解質膜の全容積に対する前記多孔性支持体の見掛け容積の比は30~60%であることがより好ましい。
【0082】
これと同様な理由で、前記高分子電解質膜の総厚さに対する前記多孔性支持体の厚さの比は5~90%であることができ、より好ましくは30~60%であることができる。
【0083】
本発明の一実施例による多孔性支持体は1~50μmの厚さを有することができる。
【0084】
前記多孔性支持体の厚さが1μm未満の場合、高分子電解質膜の機械的強度が低下することができる。一方、前記多孔性支持体の厚さが50μmを超える場合、抵抗損失が増加し、軽量化及び集積化が低下することができる。このような点で、前記多孔性支持体は、好ましくは2~40μm、より好ましくは3~30μm、さらに好ましくは3~20μmの厚さを有することができる。
【0085】
前記多孔性支持体の多孔度は45~90%、具体的に60~90%であることができる。前記多孔性支持体の多孔度が45%未満であれば、多孔性支持体内でのイオン伝導体の量があまりに少なくなって高分子電解質膜の抵抗が高くなり、イオン伝導度が低下する。一方、前記多孔性支持体の多孔度が90%を超える場合、形態安全性が低下することにより、後工程が円滑に進むことができないことがある。
【0086】
前記多孔度は多孔性支持体の全容積に対する多孔性支持体内の空気容積の比を意味する。前記多孔性支持体の全容積は直方体状のサンプルの横、縦及び厚さを測定し、これらを掛けることによって得ることができ、前記多孔性支持体内の空気容積はサンプルの質量を前記多孔性支持体物質の密度で割ることによって得た前記物質の容積を前記多孔性支持体の全容積から差し引くことによって得ることができる。
【0087】
以下では、本発明に実施例による高分子電解質膜の製造方法について具体的に説明する。
【0088】
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、イオン伝導体及び架橋剤を含む混合液を準備する段階、及び前記混合液を用いて高分子電解質膜を形成する段階を含む。
【0089】
本発明によれば、前記高分子電解質膜形成段階は前記架橋剤と前記イオン伝導体とが結合しない工程条件の下で遂行する。
【0090】
本発明で使用可能なイオン伝導体は、フッ素系イオン伝導体、炭化水素系イオン伝導体、又はこれらの混合物であることができる。前記フッ素系イオン伝導体及び炭化水素系イオン伝導体のそれぞれの具体的な例は前述したので、ここではその説明を省略する。
【0091】
前記架橋剤は、前記イオン伝導体が劣化した後、前記劣化したイオン伝導体と結合することにより、前記劣化したイオン伝導体を架橋させることができる少なくとも一つの架橋性作用基を有する。本発明の前記架橋剤の具体的な例も前述したので、ここではその説明を省略する。
【0092】
前述したように、前記イオン伝導体と前記架橋剤の重量との和に対する前記架橋剤の重量の比は0.05~20重量%、より好ましくは1~10重量%であることができる。
【0093】
前記混合液は、(i)前記イオン伝導体の分散液に前記架橋剤を溶解させるか、(ii)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を分散させるか、(iii)前記イオン伝導体の溶液に前記架橋剤を溶解させるか、又は(iv)前記架橋剤の溶液に前記イオン伝導体を溶解させることにより準備することができる。
【0094】
前記溶液の溶媒及び分散液の分散媒のそれぞれは水、親水性溶媒、有機溶媒及びこれらの中で2種以上の混合物からなる群から選択されることができる。
【0095】
前記親水性溶媒は、炭素数1~12の線状又は分岐状の飽和又は不飽和炭化水素を主鎖として含み、アルコール、イソプロピルアルコール、ケトン、アルデヒド、カーボネート、カルボキシレート、カルボン酸、エーテル及びアミドからなる群から選択される1種以上の官能基を有するものであることができ、これらは指環式又は芳香族環状化合物を主鎖の少なくとも一部として含むことができる。
【0096】
前記有機溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)又はこれらの中で2種以上の混合物であることができるが、これらに制限されない。
【0097】
オプションで(optionally)、前記混合液は、ラジカルスカベンジャーを添加剤としてさらに含むこともできる。前記ラジカルスカベンジャーは、燃料電池の運転中に生成されて高分子電解質膜又はアノード/カソードの触媒層に含まれたイオン伝導体を劣化させる主要原因になる過酸化物(特に、過酸化水素)及び/又はラジカル(特に、水酸化ラジカル)を早く分解させることができる添加剤である。例えば、前記ラジカルスカベンジャーは、(i)セリウム(Ce)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ランタン(La)及びネオジム(Nd)からなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属;(ii)銀(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属;(iii)前記遷移金属又は貴金属のイオン;(iv)前記遷移金属又は貴金属の塩;及び/又は(iv)前記遷移金属又は貴金属の酸化物であることができる。
【0098】
ただ、本発明によれば、前記イオン伝導体の劣化部位と結合することによって劣化の進行を抑制することができる架橋剤を用いて高分子電解質膜の耐久性を向上させることができるので、このようなラジカルスカベンジャーの添加が必ずしも要求されるものではない。
【0099】
前述したように、本発明の高分子電解質膜は、(i)前記高分子電解質物質から形成された単一膜、又は(ii)多孔性支持体の空隙が前記高分子電解質物質で満たされた強化複合膜であることができる。
【0100】
強化複合膜型の高分子電解質膜を製造するために、前記混合液を用いた高分子電解質膜形成段階は、多孔性支持体を準備する段階、前記多孔性支持体を前記混合液で含浸させる段階、及び前記混合液で含浸された前記多孔性支持体を乾燥させる段階を含むことができる。
【0101】
前記乾燥段階は、前記架橋剤と前記イオン伝導体と結合しない温度で遂行することができる。
【0102】
本発明一実施例によれば、前記多孔性支持体は、好ましくは膨張フィルム(expanded film)又は不織布ウェブ(nonwoven fibrous web)であることができる。
【0103】
前記膨張フィルムは、例えばフッ素系高分子[例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)]を含む支持体形成液(support-forming liquid)をフィルム状に成形してから膨張させて前記フィルムに多数の空隙を形成することによって製造することができる。
【0104】
前記不織布ウェブは、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなど)、ポリエステル(例えば、PET、PBTなど)、ポリアミド(例えば、ナイロン-6、ナイロン-6,6、アラミドなど)、ポリアミン酸(ウェブから成形された後、イミド化工程によってポリイミドに変換される)、ポリウレタン、ポリブテン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン、流体結晶質重合体、ポリエチレン-コ-ビニルアセテート、ポリアクリロニトリル、環状ポリオレフィン、ポリオキシメチレン、又はポリオレフィン系熱可塑性弾性重合体などのような炭化水素系高分子を含む支持体形成液から形成することができる。
【0105】
前記不織布ウェブは、湿式集積法(wet-laying)、電気紡糸法(electrospinning)、カーディング法(carding)、ガーネッティング法(garneting)、空気集積法(air-laying)、メルトブローイング法(melt blowing)、スパンボンディング法(spunbonding)及びステッチボンディング法(stitch bonding)からなる群から選択されるいずれか一方法で製造することができる。
【0106】
次いで、このように製造された多孔性支持体を前記混合液で含浸させる。前記含浸段階は、(i)前記混合液を基板上にキャスティングした後、前記多孔性支持体を前記混合液で含浸するか、又は(ii)前記混合液で前記多孔性支持体をコーティングすることで遂行することができる。前記コーティングは、例えば、バーコーティング、コンマコーティング、スロットダイコーティング、スクリーンプリンティング、スプレーコーティング、ドクターブレードなどによって遂行することができる。
【0107】
次いで、前記混合液の溶媒/分散媒を除去するために、前記混合液で含浸された多孔性支持体を乾燥させる。前記乾燥段階は前記多孔性支持体の融点未満の温度で遂行しなければならなく、前記架橋剤と前記イオン伝導体とが結合しない温度で遂行しなければならないことに気を付けなければならない。
【0108】
以下では、本発明の膜電極組立体を具体的に説明する。
【0109】
本発明の膜電極組立体は、アノード、カソード、及びこれらの間の高分子電解質膜を含む。
【0110】
水素ガスが供給される前記アノードでは水素の酸化反応が起こって水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を介してカソードに伝達され、生成された電子は外部回路を介してカソードに伝達される。
【0111】
酸素ガスが供給される前記カソードでは酸素が前記水素イオン及び前記電子と結合して還元することによって水が生成される。
【0112】
本発明の膜電極組立体の前記アノード及び前記カソードは特に制限されなく、通常の燃料電池用膜電極組立体のアノード及びカソードを本発明に使うことができる。
【0113】
前記アノードと前記カソードとの間に配置される本発明の高分子電解質膜は前述したので、ここではその具体的な説明を省略する。
【0114】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただ、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであるだけで、これによって本発明の権利範囲が制限されてはいけない。
【0115】
実施例1
【0116】
PFSA樹脂分散液にベンゼンジオール(benzenediol)を溶解して混合液(PFSA:ベンゼンジオール重量比=95:5)を製造した。
【0117】
前記混合液で約12μm厚さのe-PTFE多孔性フィルムを濡らしてから乾燥させることによって高分子電解質膜を製造した。
【0118】
実施例2
【0119】
前記ベンゼンジオールの代わりにベンゼンジカルボン酸(benzenedicarboxylic acid)を使ったことを除き、実施例1と同様な方法で高分子電解質膜を製造した。
【0120】
実施例3
【0121】
前記ベンゼンジオールの代わりにフェニレンジアミン(phenylenediamine)を使ったことを除き、実施例1と同様な方法で高分子電解質膜を製造した。
【0122】
実施例4
【0123】
前記PFSA樹脂分散液の代わりに10重量%のスルホン化ポリアリールエーテルスルホン(S-PAES)溶液(溶媒:DMAC)を使ったことを除き、実施例1と同様な方法で高分子電解質膜を製造した。
【0124】
比較例1
【0125】
前記混合液の代わりにPFSA樹脂分散液でe-PTFE多孔性フィルムを濡らしたことを除き、実施例1と同様な方法で高分子電解質膜を製造した。
【0126】
比較例2
【0127】
前記混合液の代わりに10重量%のスルホン化ポリアリールエーテルスルホン(S-PAES)溶液(溶媒:DMAC)でe-PTFE多孔性フィルムを濡らしたことを除き、実施例1と同様な方法で高分子電解質膜を製造した。
【0128】
前記実施例及び比較例でそれぞれ製造された高分子電解質膜の化学的耐久性を下記のように評価及び測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0129】
[高分子電解質膜の化学的耐久性測定]
【0130】
前記高分子電解質膜の耐久性評価のために、化学的加速劣化評価であるFenton’s testを実施した。
【0131】
すなわち、10ppmのFeSO4及び30重量%のH2O2を含む水溶液に高分子電解質膜サンプル(5cm×5cm)を入れ、80℃で24時間撹拌しながら反応させた。Fenton’s testではFe2+が触媒として反応してH2O2がヒドロキシラジカルを形成し、この物質は高分子電解質の劣化源として作用して劣化を加速させ、高分子電解質の流出及びそれによる膜厚減少及び膜重量損失を引き起こす。
【0132】
テストの前と後に高分子電解質膜の厚さ及び重量をそれぞれ測定し、テストの実行による厚さ減少量及び下記の式によって算出した重量損失比(weight loss ratio)に基づいて劣化程度を把握した。
【0133】
*重量損失比(%)=[(Wo-Wa)/Wo]×100
【0134】
ここで、Woはテスト前の重量、Waはテスト後の重量である。
【0135】
【0136】
前記表1から、本発明の実施例による高分子電解質膜が比較例の高分子電解質膜より数等高い化学的耐久性を有することを確認することができた。
【国際調査報告】