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特表2022-535574トルサード・ド・ポワントのリスクを検出するための方法
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  • 特表-トルサード・ド・ポワントのリスクを検出するための方法 図1
  • 特表-トルサード・ド・ポワントのリスクを検出するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-09
(54)【発明の名称】トルサード・ド・ポワントのリスクを検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/346 20210101AFI20220802BHJP
   G06N 3/02 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
A61B5/346
G06N3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572374
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2020065562
(87)【国際公開番号】W WO2020245322
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】19305730.4
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504006434
【氏名又は名称】アシスタンス パブリック-ホピトー デ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】504006489
【氏名又は名称】インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】521440792
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ド・パリ
(71)【出願人】
【識別番号】521529411
【氏名又は名称】インスティチュート ド ルシェルシュ プール ル デヴロップマン
(71)【出願人】
【識別番号】518079208
【氏名又は名称】ソルボンヌ、ユニベルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】セラム ジョー-エリー
(72)【発明者】
【氏名】プリフティ エディ
(72)【発明者】
【氏名】プリーニ アルフレード アラム
(72)【発明者】
【氏名】ザッカー ジャン-ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ファンク-ブレンターノ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】レーナルト アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ダンジョワ イザベル
(72)【発明者】
【氏名】エクストラミアナ ファブリス
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127GG05
(57)【要約】
本発明は、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因を、特に、ニューラルネットワークの使用を介して検出および予測するための方法および装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを推定するための方法であって、
a.処理装置によって対象患者のECG波形の時間セグメントを表す信号データを受信する工程、
b.構成された人工機械学習分類器を介して、処理装置によって該信号データを分析し、人工ニューラルネットワークの出力として尤度を生じる工程
を含み、
尤度が、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクに関連する、
方法。
【請求項2】
ある特定の患者がトルサード・ド・ポワントエピソードを示すリスクを検出するための方法であって、
a.該患者からECGデータを入手する工程、
b.該患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器にECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、該患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクの尤度が得られる工程
を含む、方法。
【請求項3】
ECGデータがリモートの機械学習分類器に送信され、出力が患者および/または医師に送信される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
患者が48時間以内にトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを有する、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
患者が24時間以内にトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを有する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその根底にあるメカニズムを推定することができる機械学習分類器を作成するための方法であって、
a.患者からのECGである第1のパラメータと、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクに関する第2のパラメータと、その原因に関する第3のパラメータとを含む患者データを、電子データベースに格納する工程、
b.機械学習システムを準備する工程、ならびに
c.機械学習システムが、患者からのECGに曝露された時に、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因に関して予測を出すように訓練されるように、患者データを用いて機械学習システムを訓練する工程
を含む、方法。
【請求項7】
患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因を推定することができる人工ニューラルネットワークシステムを作成するための方法であって、
a.患者からのECGである第1のパラメータと、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクに関する第2のパラメータと、その原因に関する第3のパラメータとを含む患者データを、電子データベースに格納する工程、
b.人工ニューラルネットワークを形成するように相互接続したノードのネットワークを準備する工程であって、ノードが複数の人工ニューロンを含み、各人工ニューロンが、関連付けられた重みがある少なくとも1つの入力を有する、工程、ならびに
c.複数の人工ニューロンのうちの各人工ニューロンの少なくとも1つの入力の関連付けられた重みが、患者データに由来する複数の異なるデータセットのそれぞれの第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに応答して調節されるように、人工ニューラルネットワークが、患者からのECGに曝露された時に、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因に関して予測を生じるように訓練されるように、患者データを用いて人工ニューラルネットワークを訓練する工程
を含む、方法。
【請求項8】
患者データが、QT延長薬物が投与された患者からのECGと、QT延長薬物が投与されたことがない患者からのECGとを含む、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
患者に投与された後に物質がトルサード誘発作用を誘発するリスクを判定するためのエクスビボ方法であって、
a.該組成物が投与された後に患者からECGデータを入手する工程、
b.トルサード・ド・ポワントイベントのリスク増加を示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器にECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが提示される、工程
を含み、
物質が投与された後に、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが提示される場合、物質がトルサード誘発作用の誘発リスクを示す、
方法。
【請求項10】
10以上の多数の患者を含む患者コホートに対して繰り返される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
患者における先天性QT延長症候群の性質を判定するための方法であって、
a.患者からECGデータを入手する工程、
b.トルサード・ド・ポワントイベントのリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器にECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、QT延長の性質の尤度と、先天性QT延長症候群がLQT2症候群またはLQT1もしくはLQT3症候群であるかどうかが提示される、工程
を含む、方法。
【請求項12】
機械学習分類器が、ニューラルネットワーク、好ましくは、畳み込みニューラルネットワークである、請求項1~6および8~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
a.同じ患者からの異なるECG信号を用いて方法を繰り返す工程、および
b.出力の大多数が最も高い確率を示すクラスに患者を割り当てる工程
によって、患者がクラスに割り当てられる、請求項1~5および8~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
a.請求項3または4記載の方法に従って入手された異なる機械学習分類器を用いて、患者からのECG信号を用いて方法を繰り返す工程、および
b.出力の大多数が最も高い確率を示すクラスに患者を割り当てる工程
によって、患者がクラスに割り当てられる、請求項1~5および8~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
ECG信号が、たった1つの誘導(好ましくは、DII、V4またはV3誘導)からのECG信号である、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
ECG信号が、複数の誘導、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも6つ、または少なくとも8つの誘導からのECG信号である、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
心臓モニタリング装置であって、
a.患者から心電図(ECG)信号を入手するための少なくとも1つの電極と、
b.少なくとも1つの電極に機能的に連結された少なくとも1つのプロセッサを含む、処理ユニットと、
c.少なくとも1つのプロセッサによって実行された時に、心臓モニタリング装置に、
i.少なくとも1つの電極からECG信号を入手し、
ii.任意で、ECG信号を標準化/正規化して、標準化/正規化されたECG信号を入手し、
iii.任意で、抽出された標準化されたECG信号を得るために、予め決められた期間に対応する標準化されたECG信号からデータを抽出し、
iv.任意で、標準化/正規化および抽出されたECG信号を、機械学習分類器に提供し、
それによって、機械学習分類器からの出力を入手すること
を行わせる、プログラム命令
を含む、少なくとも1つの非一時的なコンピュータ可読媒体であって、該出力がTdPイベントを有する尤度およびその原因である、少なくとも1つの非一時的なコンピュータ可読媒体と
を含む、心臓モニタリング装置。
【請求項18】
患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを評価するためのシステムであって、
a.患者から心電図(ECG)データをモニタリングするように構成された外部除細動器と、
b.以下:
i.任意で、ある特定の時間ドメインのECGデータの数学的標準化を行うこと、
ii.機械学習分類器によって計算を行うこと、および
iii.患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有する尤度およびその原因を判定すること
を含むオペレーションを行うように構成された、1つまたは複数のプロセッサと
を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスク、およびこのようなリスクの根底にあるメカニズムを、特に、ニューラルネットワークを用いて検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
トルサード・ド・ポワント(TdP)は心室細動および突然死に悪化することがある不整脈である。トルサード・ド・ポワント(TdP)は、本質的に先天性QT延長症候群において、またはQTを延長する心臓薬および非心臓薬のまれな副作用として生じる。
【0003】
現行の検出戦略は、QT測定(すなわち、QRS複合の始まりとT波の終点との間隔であり、従来、一般的に心電図(ECG)の誘導IIを使用する)に基づいている。TdPリスクは製薬産業にとって大きな問題であり、市場から薬物を回収する理由になり得る。
【0004】
別の方法がUS20190059764において説明されており、心拍補正したQT間隔、T波の第1のピークの最大振幅、およびT波の最大の第1のピークとT波の終点との間隔を使用するアルゴリズムを開示する。このアルゴリズムは効率的であるが、QT延長薬物の摂取前後にECG比較を必要とするので必ずしも簡単に実行できるとは限らない。
【0005】
薬物摂取によってTdPを発症するリスクを定量する新規の手法を見つけることは重要である。実際に、ソタロールのようにQTを延長する薬物の摂取を検出するにはQTを調べるだけでは不十分である。ソタロールはカリウム電流阻害薬であり、主に、心房細動、狭心症、および高血圧を防ぐために用いられる。ソタロールは心室再分極の延長を引き起こすことがあり、まれに(1.8~4.8%)、TdPを引き起こすことがある。
【0006】
機械学習(ML)、もっと具体的にはディープラーニング(DL)の分野における最近の進歩は、心電図を含む生体信号を用いて処理する能力を証明してきた。詳細に述べると、ECG信号を使用する、いくつかの用途にディープラーニングが用いられてきた。特に、様々なタイプの不整脈(Acharya, Oh, et al. 2017)、心筋梗塞((Acharya, Fujita, Lih, Hagiwara, et al. 2017);(Acharya, Fujita, Oh, et al. 2017); Liu et al. 2018)、冠状動脈疾患、およびショック可能な心室性不整脈(shockable ventricular arrhythmia)を検出するために畳み込みニューラルネットワーク(CNN)アーキテクチャが適用された。これらの研究のほとんどが1誘導アプローチを使用し、臨床データはモデルに含まれなかった。
【0007】
別の最近の研究は、12までの異なる不整脈を検出するために1誘導ECG終点間(end-to-end)に関するモデルを訓練した。このデータベースは、認定カルジオグラフィーテクニシャン(certified cardiographic technician)によってアノテートされた29000人を超える対象からの記録を含んだ。328人の患者からの336の記録を用いてテストされたモデルは6人の専門委員会認可(board-certified)心臓病専門医からなるグループの平均スコアより優れていた(Rajpurkar et al. 2017)。同じチームが、53.000人を超える対象のデータセットを用いて分析を繰り返した。独立したデータセットに対してテストされたモデルによって97%の曲線下面積が得られた。これに対して平均的な心臓病専門医は78%であった(Hannun et al. 2019)。発作性心房細動を研究したPourbabaee, Roshtkhari, and Khorasani 2017でも終点間モデルは用いられた。
【0008】
他の研究は、多誘導ECG入力を用いたモデルに焦点を合わせた。全身性前側心筋梗塞(generalized anterior myocardial infarction)を検出するために、Liuら、2018は、5分割クロスバリデーションによって>90%の正解率(accuracy)につながる4誘導アプローチを使用した。そうではなく、Tisonら、2018は、肺動脈高血圧、肥大性心筋症、心臓アミロイド、および僧帽弁逸脱を検出するために入力として12誘導を利用する隠れマルコフモデル-CNNモデルを作り出した。ROC曲線下面積は4つのクラスについて77%~94%の範囲内にあった。Attiaら、2019も12誘導を使用し、左心室機能不全を検出するために>97.000人の患者のデータベースに対してCNNモデルを適用した。彼らは、>52.000人の患者のホールドアウト(holdout)データセットと86%の全正解率を使用した。さらに、心室機能不全として間違って分類された患者の一部が、この先何年かで低駆出率を発症した。このことから、このモデルは、目に見えるようになる前に、この状態を検出できたことが示唆される。
【0009】
Attiaら、2018は、CNNを用いて、ドフェチリド(抗不整脈薬)またはプラセボが与えられた42人の患者の10-s記録を分析することによって血漿中薬物濃度を推定しようと試みた。これらの記録を薬物摂取の前後の特定の時点で記録した。この実験では、上記の文献の著者らは、Physionetリポジトリにおいて利用可能な2つの別個の前向き無作為化対照試験からのデータを使用した。これらの回帰分析では、CNNを用いて0.85の相関が得られた。しかしながら、このデータベースは比較的小さく(42人の対象)、訓練においてクロスバリデーションは用いられず、そのため過学習が起こった可能性がある。さらに、この文書では、報告されたデータが、TdPの一要因であるが、実際の本当の発生リスクを結論づけるには十分でないQT増加にしか焦点を合わせていないので、患者にトルサード・ド・ポワントエピソードがすぐに現れることを、このようなシステムは実際に検出できると開示されていない。さらに、この文献は12誘導からのECGデータを使用したが、それに対して、本明細書において開示される方法は、もっと少ない誘導(最低1つ)を用いて作成したECGによって機能できることを示す。さらに、上記の文献の著者らは、先天性QT延長の種類を区別できることを証明しなかった。最後に、上記の文献の著者らは、この研究の限界について、特に、不整脈リスクの発生について結論を導き出すことができないことについて言及している。
【0010】
Yildirimら、2018は、終点間モデルを用いて91%の正解率(テストセット)で17のタイプの不整脈を検出することができた。しかしながら、この分析は45人の個体から記録した1000の10秒1誘導ECGに基づいた。このことは、訓練およびテストの両方で同じ対象にデータがあり、これが、独立していないデータセットと過学習モデルにつながったことを意味している。他の著者らは、5つの心臓状態を検出する目的でデータセットを増やすためにデータ拡張(data augmentation)を適用し、正解率は10分割クロスバリデーション手順でテストした時に90%を上回った(Acharya, Oh, et al.2017)。これらの著者らはまた、ノイズ除去されたデータベースと未加工のデータベースとの間でパフォーマンスを比較し、高いスコアとノイズ除去が関連しないことを示した。しかしながら、データ拡張後にクロスバリデーションランダム分割(cross-validation random split)が行われた。訓練セットとテストセットとの間で信号が完全に独立していなかったという事実は過学習パフォーマンスにつながる可能性があった。これらの著者らは、本開示に示したように、先天性QT延長の性質を識別するできることも、TdPの発生リスクを近い将来に、例えば、48時間以内に、または次の24時間で予測できることも報告しなかった。
【0011】
薬物摂取によってTdPを発症するリスクを定量する新規の手法を見つけることは重要である。実際に、実施例に示したようにソタロールなどのQT延長薬物の摂取を検出するにはQTを調べるだけでは不十分である。
【0012】
TdPイベントは珍しく、このイベントは本質的にQT延長薬物摂取後に発生するという事実のために、本発明者らが開発した戦略は、(トルサード・ド・ポワントを有するリスクのマーカーである)ソタロール摂取を検出できるモデルを開発することであった。このように開発されたモデルを用いて、本発明者らは、先天性QT延長症候群(多形性心室性頻拍、すなわち、TdPによる失神および突然死の素因になる遺伝性の心臓再分極障害)を識別でき、特に、(目下の生物学的メカニズムが異なる)LQT1またはLQT3患者と比べてLQT2患者を特定できることを示すことができた。
【0013】
上述したリスクは絶対的なリスクではなく、相対的なリスクであることに留意しなければならない。本発明の文脈において「リスクがある(at risk)」と検出された患者は、全体として集団よりも高いリスクを示す。言い換えると、この患者は、TdPエピソードを記録した他の患者と共有する特徴を示す。このことは、患者にTdPがあるという事実を検出する感度とリスクが関連付けられることを意味する。しかしながら、テストの特異度が100%でないので、患者の中には、上記の特徴があるが、TdPエピソードが無い人もいる(偽陽性)。テストの感度が100%でないので、患者の中には、特徴が無いが、TdPイベントを発症する人もいることがある(偽陰性)。テストの質は受信者動作特性曲線下面積(Area Under Received Operating Curve)(AUROC)によって表される。
【発明の概要】
【0014】
本明細書において開示される方法およびシステムは、患者をクラス(リスク増加/リスク増加なし)に、リスク増加クラスの患者についてはリスクのタイプ(またはリスクが存在するメカニズム)に関するサブクラス(薬物誘発性リスク、後天性リスク、先天性QT延長症候群、およびそのタイプ)に分類することができる。
【0015】
本発明は、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスク、好ましくは、その原因(または根底にあるメカニズム)を予測または推定することができる機械学習アルゴリズム(または機械学習システム)を作成する方法であって、
a.患者からのECGである第1のパラメータと、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクに関する第2のパラメータと、その原因に関する第3のパラメータとを含む患者データを、電子データベースに格納する工程;
b.機械学習システムを準備する工程;ならびに
c.機械学習システムが、患者からのECGに曝露された時に、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因に関して予測を出すように訓練されるように、患者データを用いて機械学習システムを訓練する工程
を含む、方法に関する。
【0016】
実施例において証明されるように、本発明者らは、患者からの心電図を用いると、患者をトルサード・ド・ポワントのリスクがある人(ソタロール摂取と相関する人)として分類でき、リスクの根底にあるメカニズム(薬物の摂取、先天性QT延長症候群、先天性QT延長症候群のタイプ)を分類できることを示した。上記で開示されたようにデータセットを用いて、このようなリスク(およびリスクの根底にあるメカニズム)を検出することを可能にするシステムを入手できるという事実は本発明者らにとって驚くべきことであった。実際に、本発明者らは、ECG信号が、機械学習システムから抽出できる情報を含んでおり、TdPリスクがあるかどうか患者を非常に詳細に分類できることを示す。
【0017】
特に、本発明者らは、このようなシステムを使用すると、短時間の遅延で(48時間内または24時間内に)患者がトルサード・ド・ポワントエピソードを有するかどうか検出できることを示した。本発明者らはまた、このシステムが、1誘導から得られたECGを用いて作動できることも示した。
【0018】
従って、訓練されたシステムの出力は、患者がある特定の状態を有する確実性ではなく、予測、確率、または尤度(likelihood)(ここでは、TdPイベントのリスクおよび生物学的メカニズムがどういったものか)を出す分類法に依拠し得る。例えば、このようなリスクの尤度を求めるために、以下の技法:線形判別分析、ニューラルネットワーク、クラスタリング法、サポートベクターマシン、ロジスティック回帰、単純ベイズ(naive Bayes)、ランダムフォレスト、決定木などの1つまたは複数を使用する分類器が用いられる場合がある。
【0019】
しかしながら、機械学習分類器は人工ニューラルネットワーク、好ましくは、畳み込みニューラルネットワークであることが好ましい。
【0020】
従って、もっと具体的には、本発明は、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクと、好ましくは、その原因(または根底にあるメカニズム)を予測または推定することができる人工ニューラルネットワークシステムを作成する方法であって、
a.患者からのECGである第1のパラメータと、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクに関する第2のパラメータと、その原因に関する第3のパラメータとを含む患者データを、電子データベースに格納する工程;
b.人工ニューラルネットワークを形成するように相互接続したノードのネットワークを準備する工程であって、ノードが複数の人工ニューロンを含み、それぞれの人工ニューロンが、関連付けられた重みがある少なくとも1つの入力を有する、工程;ならびに
c.複数の人工ニューロンのうちの各人工ニューロンの少なくとも1つの入力の関連付けられた重みが、患者データに由来する複数の異なるデータセットのそれぞれの第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに応答して調節されるように、かつ人工ニューラルネットワークが、患者からのECGに曝露された時に、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその原因に関して予測を生じるように訓練されるように、患者データを用いて人工ニューラルネットワークを訓練する工程
を含む、方法に関する。
【0021】
このような入力データを使用し、機械学習システム、好ましくは、ニューラルネットワークを訓練すると、患者のECGが、TdPイベントを有するリスクがある患者のECGと同じ特徴を示すどうか決定できるモデルを入手することが可能になる。従って、このようなモデルは、以下に開示されるように様々な方法を実行するのに使用することができる。
【0022】
従って、本発明は、コンピュータ実装心電図(ECG)分析方法であって、
a.対象から取得したECG信号からデータセグメントを分離し、このようなデータセグメントを抽出する工程、
b.任意で、データセグメントを正規化または標準化する工程、
c.データセグメントを、トルサード・ド・ポワントイベントのリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習モデルに適用する工程、
d.機械学習モデルから出力を入手する工程であって、出力によって、トルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびこのようなリスクの根底にあるメカニズムが推定される、工程
を含む、方法に関する。
【0023】
この方法ならびに本明細書において開示される他の方法はエクスビボで実施される。
【0024】
本発明はまた、コンピュータ実装心電図(ECG)分析方法であって、
a.対象から取得したECG信号からデータセグメントを分離し、このようなデータセグメントを抽出する工程であって、データセグメントが特定の時間窓(time window)のECG信号である、工程、
b.任意で、データセグメントを正規化または標準化する工程、
c.データセグメントを入力データとして、トルサード・ド・ポワントのリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器に適用する工程、
d.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、トルサード・ド・ポワントイベントを有するリスク、ならびにこのようなリスクが薬物の摂取、先天性QT延長症候群、および先天性QT延長症候群のタイプに関連するかどうか推定される、工程
を含む、方法に関する。
【0025】
特に、機械学習モデル(またはシステム)は、ニューラルネットワーク、例えば、順伝播型ニューラルネットワーク(feedforward neural network)、畳み込みニューラルネットワーク、または回帰型ニューラルネットワーク(recurrent neural network)であり、このリストは限定をするものではない。好ましくは、機械学習モデル(またはシステム)は畳み込みニューラルネットワークである。
【0026】
工程a.は、上記で開示されたように以前に訓練されたことがある機械学習システムでの処理に使用することができるデータセグメントを入手するために、ECG信号からのセグメント(部分)(好ましくは、10秒の窓の間)の抽出に対応する。これはオンラインで行われてもよく、オフラインで行われてもよい。
【0027】
工程b.では、データセグメントを正規化および/もしくは標準化することができるか、または全く処理しない。例えば、ECG信号が複数の誘導によって取得された時、標準化は、患者の各誘導について、または各誘導ごとに取得された信号の平均を用いて実施することができる。正規化は、参照データベースに存在する患者全員のECG信号または各ECGのECG信号を用いて実施され得る。
【0028】
工程c.では、データセグメントは、出力を得るために、上記で開示されたように開発された機械学習アルゴリズムに適用される。データセグメントと一緒に他のデータ(例えば、患者の性別、年齢、カリウム血症など)も適用することができる。データが複数の誘導によって得られた場合、全誘導からのデータをECG信号(複合ECG信号)として一度に、または誘導の一部もしくは全ての誘導として別々に入力することができる。
【0029】
本発明はまた、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクおよびその根底にあるメカニズムを推定する方法であって、
a.処理装置によって対象患者のECG波形の時間セグメントを表す信号データを受信する工程、
b.構成された人工機械学習アルゴリズム(特に、ニューラルネットワーク)を介して処理装置によって前記信号データを分析して、人工ニューラルネットワークの出力を生じる工程であって、出力が、患者がトルサード・ド・ポワント(tosade de pointes)イベントを有するリスクの尤度およびその原因(根底にあるメカニズム)である、工程
を含む、方法にも関する。
【0030】
上記で(および本開示全体を通して)開示された方法について、出力によって、訓練中に定義されたクラスに患者が属する尤度が得られる。
【0031】
例示として、
- ニューラルネットワークの訓練が2つのクラス(ソタロールを摂取したか摂取していないか)を用いて実施される場合、出力によって、一方または他方のクラスにいる尤度が得られる。
- ニューラルネットワークの訓練が2つを超えるクラス(例えば、5つのクラス:ソタロール+、対照、QT延長タイプ1、QT延長タイプ2、QT延長タイプ3)を用いて実施される場合、出力によって、患者が5つのクラスのそれぞれにいる尤度が得られる。出力は、あるクラスを支持する可能性が高く、このことが、患者がまず間違いなく、このクラスに属することを示すことは明らかである。
【0032】
トルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクは、リスクが高いクラスに患者が属することと関連付けられる。言い換えると、リスクは、対照として分類された患者と比較した相対的リスクである。リスクが増加した患者クラスに属する患者(QTを延長する薬物を服用した患者またはQT延長症候群がある患者)のECGのように、患者のECGが分類された時に、TdPイベントを有するリスクは(対照患者と比較して)大きいとみなされる。機械学習アルゴリズムはまたクラスを識別することもでき、従って、TdPリスクを高める根底にあるメカニズム:ソタロールを服用した患者またはLQT-2患者についてはIKrチャンネル阻害、LQT-1患者についてはIKsチャンネルに関与するKvLQT1遺伝子(KCNQ1とも知られる)の変異、LQT-3患者についてはナトリウムチャンネルINa/IINa lateをコードする遺伝子であるSCN5Aに関する情報を提供することもできる。
【0033】
従って、医師は適切に行動する(薬物療法を止める、ECGが再び正常になったことをチェックする、QT延長症候群患者に遺伝子確認を求める、適切な薬物療法を処方する)ことが可能になる。
【0034】
本発明はまた、心臓モニタリング装置であって、
a.患者から心電図(ECG)信号を入手するための少なくとも1つの電極と、
b.少なくとも1つの電極に機能的に連結された少なくとも1つのプロセッサを含む、処理ユニットと、
c.少なくとも1つのプロセッサによって実行された時に、心臓モニタリング装置に、
i.少なくとも1つの電極からECG信号を入手し、
ii.任意で、ECG信号を標準化/正規化して、標準化/正規化されたECG信号を入手し、
iii.任意で、抽出された標準化されたECG信号を得るために、予め決められた期間に対応する標準化されたECG信号からデータを抽出し、
iv.任意で標準化/正規化および抽出されたECG信号を機械学習分類器に提供し、
それによって、機械学習分類器からの出力を入手すること
を行わせる、プログラム命令
を含む、少なくとも1つの非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記出力がTdPイベントを有する尤度およびその原因である、少なくとも1つの非一時的なコンピュータ可読媒体
を含む、心臓モニタリング装置に関する。
【0035】
ii.におけるECG信号の標準化/正規化は任意であり、上記で開示されたように実施することができる。工程iii.は、機械学習分類器において特定の期間(一般的に、10秒)にわたって信号だけを使用することを目的とする。この工程は任意であり、必ずしも必要であるとは限らない。
【0036】
上記で示したように、機械学習は、好ましくは、ニューラルネットワーク、特に、畳み込みニューラルネットワークである。
【0037】
本発明はまた、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを評価するためのシステムであって、
a.患者から心電図(ECG)データをモニタリングするように構成された外部除細動器と、
b.以下:
i.任意で、ある特定の時間ドメインのECGデータの数学的標準化を行うこと、
ii.機械学習分類器によって計算を行うこと、および
iii.患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有する尤度およびその原因を判定すること
を含むオペレーションを行うように構成された、1つまたは複数のプロセッサと
を含む、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを評価するためのシステムに関する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
複数の誘導が用いられた時に、ECGデータは、異なる誘導に由来する、これらの全ての複数のECG信号によって形成されたベクトルであることに注意のこと。実施例に8つの誘導のこのようなベクトルを例示する。
【0039】
上記の態様では、少なくとも1つの電極とコンピュータ/プロセッサまたは処理ユニットを含む除細動器またはモニターは異なる場所にあってもよい。この態様では、機械学習分類器がECG信号を処理するために、ECG信号は処理ユニットまたはプロセッサに送られる。出力を除細動器もしくはモニターに、または別の装置(例えば、スマートフォン)に送ることも可能である。この場合、トルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクまたは(機械学習分類器によって計算された尤度の進化に応じて)その進化を自宅でモニタリングすることができる。少なくとも電極および処理システムを有する除細動器または装置が遠隔式である時、これらのシステム間の通信は暗号化されることが好ましい。
【0040】
本発明はまた、関心対象の薬物、製品、または組成物のトルサード誘発能(torsadogenic potential)を評価することも可能にする。
【0041】
この薬物の起こり得る使用上の注意を書くために、販売承認を得る前に、臨床試験中に化合物のトルサード誘発能を評価できることは確かに重要である。物質のトルサード誘発能は、患者に投与された後に、この物質がトルサード・ド・ポワントを誘発する能力である。
【0042】
FDA(米食品医薬品局)およびEMA(欧州医薬品庁)は、タイトルE14 非抗不整脈薬物のQT/QTc間隔延長および不整脈誘発能力の臨床評価(title E14 Clinical Evaluation of QT/QTc Interval Prolongation and Proarrhythmic Potential for Non-Antiarrhythmic Drugs)の下で、これらの試験を行うやり方について医薬品規制調和国際会議(International Conference for Harmonization)(ICH)に起因するガイドラインを公開している。これらのガイドラインは、この機関のウェブサイトにおいてアクセス可能であり、質問と回答が添付されている。
【0043】
ガイドラインのurlアドレスは以下の通りである。
http://www.fda.gov/downloads/drugs/guidancecomplianceregulatoryinformation/guidances/ucm073153.pdf
【0044】
上記で議論したように、QT間隔は不整脈誘発作用リスクの不完全なバイオマーカーである。特に、本実施例は、ソタロールを服用した患者を検出するためにQTを使用した時に得られるAUCが0.76であることを示し、これにより、改善が可能なことが判明した。
【0045】
従って、心臓再分極を遅延するリスクについて新薬の作用を厳密に特徴付けることが必要とされる。上記で定義された機械学習分類器を用いると、関心対象の化合物が投与された患者のECGを分析することによって、このようなリスクが存在するかどうか検出することが可能になる。
【0046】
従って、本発明は、物質が患者に投与された後にトルサード誘発作用を誘発するリスクを判定するためのエクスビボ方法であって、以下の工程:
a.前記組成物が投与された後に患者からECGデータを入手する工程、
b.トルサード・ド・ポワントイベントのリスク増加を示すECGデータにおける変動を検出するように構成された(上記で開示されたような)機械学習分類器にECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクの尤度が提示され、物質が患者に投与された後に患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが得られる場合、物質がトルサード誘発作用の誘発リスクを示す、工程
を含む、方法に関する。
【0047】
関心対象の薬物の投与後の様々な時点で取得された複数のECG信号が機械学習分類器に適用されることが好ましい。
【0048】
関心対象の薬物の投与前に取得された患者のECG信号を機械学習分類器に適用することも可能である。
【0049】
一般的に、かつ患者のばらつきを制限するために、2より多い、または2に等しい多数の患者を含む患者コホートに対して、上記で開示された方法は繰り返される。従って、これらの研究を十分な数の患者に対して行うと、患者間の変動を排除して、検査することが望ましい分子(関心対象の薬物)の統計的な状況(reality)を示す結果を得ることが可能になる。
【0050】
プラセボ(負の対照)、正の対照(例えば、80mgのソタロール)、および関心対象の物質を比較することができる。
【0051】
正の対照として80mgのソタロールが確かに好ましく用いられる。この分子は、この濃度では、以下の多くの利点がある。
- 最大濃度は周知であり(経口投与の約3時間後)、そのため、上記で測定された測定を行う時間を簡単に計画することができる。
- この分子はIKrチャンネルを阻害することが知られている。
- この分子は、この濃度ではトルサード・ド・ポワントエピソードを誘発せず、従って、患者にとって安全である。しかしながら、この分子は(320mgまで用いられる)臨床使用用量ではトルサード・ド・ポワントを誘発し得ることが分かっている。
- 本明細書において開示される機械学習分類器は、特に、0.99のAUC(CI[0.98;1])で患者におけるソタロール(80mg)摂取を検出するように合わせられた。
【0052】
女性に対して前記物質を検査する場合、月経周期の異なる時間で様々な測定を行うことが望ましい。というのは、女性ではホルモンレベルが再分極障害(QT延長)のリスクに影響を及ぼすことが知られているからである。
【0053】
一般的に、上記で示したように、患者コホートの患者一人一人に対して上記の工程が行われ、従って、患者一人一人に対して、物質一つ一つに対してリスクが得られる。
【0054】
患者コホート(関心対象の薬物が検査される患者の数)が少なくとも10人の患者、好ましくは少なくとも20人、またはさらに50人もしくは100人の患者であることが好ましい。当業者は、統計的に有意な結果を得るために患者コホートにいる対象の最低人数を決定することができる。
【0055】
同様に、これらの研究を行う前に、ECG取得および機械学習分類を行う最も良い時間を決定するために、当業者は関心対象の薬物に対して薬物動態学的研究および用量反応研究を行っていることが好ましい。
【0056】
本発明はまた、患者における先天性QT延長症候群の性質を分類(決定)する方法であって、以下の工程:
a.患者からECGデータを入手する工程、
b.トルサード・ド・ポワントイベントのリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器にECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、QT延長の性質およびその分類の尤度が得られる、工程
を含む、方法に関する。
【0057】
特に、この方法は、先天性QT延長症候群を有すると検出されたが、遺伝子解析がまだ実施されていない患者に対して実施することができる。
【0058】
従って、この方法を用いると、遺伝子確認が得られる前の非常に早い段階で(遺伝子確認は数ヶ月かかる場合がある)、処置を適合させることが可能になる。
【0059】
臨床的に確実なLQTS(QT延長症候群)診断を有する患者の約75%には3つのメジャーなLQTS感受性遺伝子(KCNQ1、KCNH2、またはSCN5A)のうちの1つに変異があり、KCNQ1変異は約35%のLQTSの原因であり(タイプ1、LQT1)、KCNH2変異は約30%のLQTSの原因であり(LQT2)、SCN5A変異は約10%のLQTS(LQT3)の原因であることに注意のこと。
【0060】
他の遺伝子(AKAP9、CACNA1C、CALM1、CALM2、CAV3、KCNE1、KCNE2、KCNJ5、SCN4B、SNTA1)はマイナーなLQTS遺伝子である。
【0061】
遺伝子検査が行われ、これらの遺伝子の一部に変異が見つかった患者に対して、機械学習分類器システムは、このような患者のECGを分析することによって、このような患者が実際にLQTSとして分類されるかどうか検出することができる。従って、本明細書において開示されるシステムを用いると、意義不明の変種として分類された、ある特定の変異が病原性または良性である可能性が高いかどうか特定することができる。
【0062】
従って、本発明は、遺伝子にある関心対象の変異が先天性LQTSと関連付けられやすいかどうか判定するための方法であって、
a.関心対象の変異を示す患者からのECGデータを、本明細書において開示されるように機械学習分類器に適用する工程、
b.機械学習分類器から出力スコアを入手する工程、
c.出力スコアから、患者にQT延長があるかどうか判定する工程であって、出力スコアによって患者がQT延長患者のクラスに入れられた時に、関心対象の変異が先天性LQTSと関連付けられやすい、工程
を含む、方法に関する。従って、先天性LQTSとの関連性は臨床症状の存在(QT延長を特徴とするECG特徴の存在)によって確かめられる。
【0063】
機械学習分類器の出力は、(機械学習分類器が、QT延長薬物が与えられた患者からのECGと、QT延長薬物が与えられたことがない患者からのECGで訓練されている時に)患者がQT延長を有する尤度であり、従って、これらの2つのクラスの1つに患者を分類することができ、QT延長薬物が与えられた患者のクラスに患者が分類される場合QT延長があるとみなされることに注意のこと。患者にQT延長があれば、変異は、この状態と関連付けられやすいか、この状態と関連付けられるか、またはこの状態の原因となる。患者にQT延長がなければ、変異はLQTSの原因とならないか、またはLQTSと関連付けられない可能性がある。上記で開示されたように、ニューラルネットワークの訓練が先天性QT延長およびそのタイプ1、2、3、またはその他に特異的なクラスを用いて行われれば、結果はさらに特異的になる。しかしながら、実施例に示したように、QT延長薬物を与えた患者からのデータだけで訓練しても先天性QT延長を特定することができた。
【0064】
特に、関心対象の変異は、上記で言及された遺伝子(3つのメジャーな遺伝子のうちの1つまたはマイナーな遺伝子のいずれか)にある。
【0065】
このような試験は無条件に決定論的なものではなく確率論的なものだと理解しなければならず、変異の役割と、変異とLQTSの関連性を確定するには今後の研究(例えば、同じ変異を有する他の患者のQT分析)が必要であることも注意のこと。しかしながら、有害な変種と中立の変種を区別できることは、良性アレルのキャリアにおける不要な介入を回避し、本当に関連する変異がある患者に焦点を合わせるのに役立つだろう。
【0066】
本開示はまた、本明細書において開示される方法がLQTSの性質を特定できることも示すので、LQTSの性質が機械学習分類器によって特定された時には、患者を適切に処置することもできる。例えば、LQTS(特に、LQT1およびLQT2の場合)には、アテノロール、ナドロール、プロプラノロールなどのβ遮断薬(クラスIまたはクラスIIa)を使用することができる。これに対して、LQT3にはメキシレチン、ラノラジン、またはフレカイニド(非選択性電位依存性ナトリウムチャンネル遮断薬)を使用することができる。
【0067】
本発明はまた、ある特定の患者がトルサード・ド・ポワントエピソードを示すリスクを検出(推定)する方法であって、以下の工程:
a.該患者からECGデータを入手する工程、
b.該患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクを示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器に、ECGデータを適用する工程、
c.機械学習分類器(特に、ニューラルネットワークシステム)から出力を入手する工程であって、出力によって、患者がトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクの尤度が得られる、工程
を含む、方法に関する。
【0068】
特定の態様では、ECGデータは、電子/ネットワーク手段(例えば、ケーブル接続ネットワークまたはワイヤレスネットワーク、GSM、3G、もしくはwifi)によってリモートの機械学習分類器に送信され、出力は、電子/ネットワーク手段によって(例えば、電子メール、もしくは電話装置のショートメッセージ(Short Message)(SMS)によって)患者および/または医師の装置(電話、コンピュータ)に送信される。特に、医師が患者のTdPリスクを決定し、それに応じて行動できるように出力は医師に送信される。特に、このような方法は毎日行われる。ECGを測定する機械と、機械学習分類器を搭載しているリモートサーバーとの間の通信が暗号化され、リモートサーバーと患者または医師の装置の通信が暗号化されることが好ましい。
【0069】
以下に開示されるように投票(voting)システムを用いることで患者をクラス(QT延長症候群の性質、TdPイベントのリスク増加)に分類するか、または割り当てることも可能である。実施例に示したように、このようなシステムは前記方法の正解率を高める。
【0070】
好ましい態様において、患者の尤度(確率または推定)は、患者の複数のECG信号が機械学習分類器に適用された時に得られたリスクスコアを平均することによって計算される(投票システム)。複数のECG試料に対する機械学習分類器の繰り返しは、1人の医師が結論に達するために異なるECG試料を調べることと等しい。実際に、この方法を用いると、機械学習分類器によって計算された異なる尤度を考慮して、最もありそうなクラスである所定のクラスに患者を分類することが可能になる。前記モデルによって同じ患者からの複数のECGを処理し、出力の大多数が、患者が、あるクラスにいる高い確率を示す時に、そのクラスに患者を割り当てる(affect)ことができる。
【0071】
同じ目的で独立して訓練された異なる機械分類器を用いることによって患者を所定のクラスに分類することも可能である。この種類の投票システムを使用することは、複数の医師が決定にいたる前に同じデータを調べることと等しい。
【0072】
これらの2つの投票アプローチを組み合わせることも可能である。
【0073】
機械学習システムによって、訓練プロセス中に使用されたクラスに患者がいる確率を得ることができることに注意のこと。操作段階の間に、クラスを患者に(または患者をクラスに)割り当てることができることは重要である。
【0074】
上記の方法は、
a.同じ患者からの異なるECG信号を用いて上記で開示された方法を繰り返す工程、および
b.出力の大多数が最も高い確率を示すクラスに患者を割り当てる工程
によって患者がクラスに割り当てられる方法によって完了することができる。
【0075】
a.上記で開示された方法に従って訓練および入手された異なる機械学習分類器を用いて、患者からのECG信号を用いて前記方法を繰り返す工程、ならびに
b.出力の大多数が最も高い確率を示すクラスに患者を割り当てる工程
によって患者がクラスに割り当てられる方法を使用することも可能である。
【0076】
ECG信号は1つの誘導(好ましくは、V3またはDII誘導)で取得することができる。しかしながら、ECG信号は、複数の誘導、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは、少なくとも6つ、または少なくとも8つの誘導から取得されることが好ましい。どの誘導も個々に使用することができる。DI、V4、またはV6誘導は特に関心が高い。
【0077】
本発明者らは、特に、QT延長薬物が投与された患者に由来するECGと、QT延長薬物が投与されたことがない患者を用いて構成された(教育された)機械学習分類器を使用すると、トルサード・ド・ポワントエピソードが48時間以内もしくは24時間以内に発生するかどうか実際に検出できること、またはトルサード・ド・ポワントエピソードが48時間以内もしくは24時間以内に発生しないかどうか検出できることを確かめた。
【0078】
トルサード・ド・ポワントエピソードを有するリスクはQT延長(または強化、または増加)と厳密な相関関係がないと理解することは重要である。このようなQT延長は、(QTが正常な患者の集団と比べて、QTが増加した患者の集団では相対的リスクが高いという意味で)リスクを高めるが、このような増加は、それ自体では、トルサード・ド・ポワントが実際に発生するという事実を十分に予測するものではない。
【0079】
集団リスク(集団におけるリスク増加)はそれ自体では集団における所定の患者に情報を提供しない。
【0080】
しかしながら、個々の患者に近い将来、トルサード・ド・ポワントエピソードを有するリスクがあるかないか医師が評価できることは重要である。個々の患者に近い将来、トルサード・ド・ポワントエピソードが全く無いかどうか判定することが重要だと言うこともできる。患者は、一般的に、QTを増加することが分かっている、従って、トルサード・ド・ポワントイベントのリスクを高めることが分かっている薬物が与えられた患者である。医師の義務は、個人のリスクを小さくするように患者をモニタリングすることである。モニタリングは、費用がかかり、病院のベッドを占有する絶え間ない病院の監視によるものでもよい。従って、患者に近い将来(48時間以内または24時間以内に)実際にトルサード・ド・ポワントエピソードがあるという事実を除外し、最もリスクがある患者だけ密接にモニタリングできることが医師にとって好ましいだろう。
【0081】
本発明者らは、実施例に開示されるようにデータベースを用いて機械学習システムを訓練すると、新たなECGが提供された時に訓練の範囲を越えた出力を入手でき、高い特異度でトルサード・ド・ポワントのリスクを決定できることを示した。
【0082】
以下に注意のこと。
(1)感度とは、状態がある個体において診断が陽性になる確率である(真の陽性の検出)。すなわち、患者に状態があれば検査は陽性である。
(2)特異度とは、状態が無い個体において診断が陰性になる確率である(真の陰性の非検出)。すなわち、患者に状態がなければ検査は陰性である。
(3)陽性適中率(Positive predictive value)(PPV)とは、診断検査が陽性である場合に疾患がある(すなわち、患者が偽陽性でない)確率。すなわち、検査が陽性であれば、患者に状態がある。
(4)陰性的中率(Negative predictive value)(NPV)とは、診断検査が陰性である場合に疾患がない(すなわち、患者が偽陰性でない)確率。すなわち、検査が陰性であれば、患者に状態がない。
【0083】
本件では、状態(実際のトルサード・ド・ポワントイベント)の有病率は低い。しかしながら、高感度ではNPVは高い。従って、近い将来(48時間以内または24時間以内に)、前記システムによって検出されなければ、トルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが全く無い(またはリスクが非常に低い)と言うことができる。言い換えると、本発明者らは、前記システムが、高感度のためにトルサード・ド・ポワントが無い患者を検出するのに非常に優れていることを示したが、一部の患者は、感度ほど高くない特異度のために偽陽性として検出される場合がある。従って、モニタリングする患者数を減らし、TdPイベントの有病率が高い(リスクが高い)サブグループに焦点を合わせることができる。
【0084】
さらに、本発明者らは、試験が半定量的であることを示した(すなわち、スコアが高いほどリスクが高くなる)。ある特定の閾値を上回った患者の場合、個人のリスクは増加し、これにより、モニタリングが増やされる、リスクがある薬物の投与が止められる(もしくは投与量が減らされる)、および/またはマグネシウムもしくはカリウムの血中濃度を均衡させ、監視のために患者を病院で面倒をみるか、もしくは入院させることによって任意の可能性がある水電解(hydroelectrolytic)問題が正される場合がある。
【0085】
以下に開示されるように、機械学習分類器(好ましくは、ニューラルネットワーク)によって出力としてスコアが得られる。本発明者らは、スコアが大きいほど、48時間以内または24時間以内のトルサード・ド・ポワントイベントのリスクが高くなり、これは極めて特異的であることを示した。スコアの値はQTの増加と完全に相関しないことに留意しなければならない。従って、分類器は、単にQTの長さ以外の要素を用いて患者を分類することができる。従って、(スコアとして)モデルによって得られた情報は、QTの長さの測定によって配信される情報とは異なる。
【0086】
2つのカットオフを用いて3つのクラスを定義することができる。あるカットオフを下回ると患者個人のリスクは非常に低くなり、従って、モニタリングを少なくすることができる。別の閾値を上回っている患者の場合、モニタリングは強化される。2つの閾値間の患者の場合、通常、モニタリングは維持される。
【0087】
本発明はまた、対象が48時間以内にトルサード・ド・ポワントエピソードを有するリスクがある(またはリスク増加がある)かどうか判定するための方法であって、
a.対象から取得されたECG信号からデータセグメントを分離し、このようなデータセグメントを抽出する工程、
b.任意で、データセグメントを正規化または標準化する工程、
c.データセグメントを、QT延長薬物の摂取を示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器に適用する工程、
d.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、48時間以内にトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが推定される工程
を含む、方法に関する。
【0088】
本発明はまた、対象が24時間以内にトルサード・ド・ポワントエピソードを有するリスクがある(またはリスク増加がある)かどうか判定するための方法であって、
a.対象から取得されたECG信号からデータセグメントを分離し、このようなデータセグメントを抽出する工程、
b.任意で、データセグメントを正規化または標準化する工程、
c.QT延長薬物の摂取を示すECGデータにおける変動を検出するように構成された機械学習分類器にデータセグメントを適用する工程、
d.機械学習分類器から出力を入手する工程であって、出力によって、24時間以内にトルサード・ド・ポワントイベントを有するリスクが推定される、工程
を含む、方法に関する。示されたように、出力が大きな時にリスクは高くなる。さらに、前記方法は、決められた閾値と出力を比較する工程、および出力が閾値より大きくなればTdPを有するリスクを評価する工程を含む場合がある。
【0089】
本発明者らは、スコアが大きな時にトルサード・ド・ポワントのリスクが高くなるように上記のモデルを訓練したことに留意しなければならない。これは、訓練時に機械学習分類器に提供された時のデータのアノテーションと完全に関連付けられる。異なるアノテーションを使用すれば、スコアが小さい時にリスクが高くなる別のモデルを得ることができるかもしれない。要点は、閾値との比較が行われ、これによって、患者を「リスクがある」または「リスクがない」と分類することが可能になり、閾値と分類はシステムの特異度、感度、および訓練のタイプに対してなされる選択に左右されるということである。
【0090】
要約すると、本開示は、
- 複数の誘導または1つの誘導からECGデータを用いて機械学習分類器を訓練することができる、
- このような訓練されたモデルが、このような薬物が与えられたことがない患者から、QT延長薬物が与えられた患者を識別/分類することができる、
- ECG入力データが1つの誘導から得られても複数の誘導から得られても、上記のモデルが同じ誘導もしくは別の誘導によって訓練されていても、複数の誘導によって訓練されていても、このような分類が得られる、
- 上記のモデルが先天性QT延長状態の有無およびその性質を特定することもできる、
- 上記のモデルが、24時間以内もしくは48時間以内にTdPイベントの発生リスクを予測することもできる、および/または24時間以内もしくは48時間以内にTdPイベントが発生しないことを予測することもできる
ことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】A.Sot+対象と、(左から右に)対照、LQT-1、LQT-3、およびLQT-2対象が分離していることを示すROC曲線。B.LQT-2対象と、(左から右に)対照、LQT-1、LQT-3、およびSot+対象が分離していることを示すROC曲線。
図2】TdPイベント中のECGと対照対象が分離していることを示すROC曲線。
【実施例
【0092】
実験デザイン
訓練用データベースは、792人の健常患者からの、ソタロール摂取(80mg/os、Sot+)の前(n=4014;Sot-)および後(n=5000)の9014のECG信号を含んだ。ECGを様々な時点(ソタロール摂取の1時間後、2時間後、3時間後、および5時間後)で調べた。
【0093】
訓練されたモデルをテストするために、ソタロール摂取の前(n=999)および後(n=1238)のECGがある198人の健常患者で構成されるデータセットの一部を隔離した。
【0094】
さらに、先天性QT延長患者で構成される、詳細に述べると、LQT-1(n=266 患者およびn=560 ECG)、LQT-2(n=188 患者およびn=456 ECG)、ならびにLQT-3(n=33 患者およびn=67 ECG)で構成される第3のデータセットを使用して、訓練されたモデルをテストした。
【0095】
コホートの説明
2つの患者コホートを使用した。
【0096】
第1のコホートは、80mgのソタロールを摂取する前と、異なる時間で摂取した後(すなわち、ソタロール摂取の2時間後、3時間後、4時間後、および5時間後)の990人の健常対象からの心電図を含んだ。各患者には異なる数の記録があった。なぜなら、これらの記録はそれぞれの時間間隔で繰り返されたか、または繰り返されなかったからである。各対象には基底およびT3で少なくとも1つの記録があった。摂取して2時間後、3時間後、および5時間後に血清中のソタロール濃度を測定したが、これは対象全員について当てはまらなかった。ソタロール摂取前に全信号を0濃度のソタロールと関連付けた。この第1のコホートを用いて、Sot+/Sot-群の個体を分類し、血液中のソタロール濃度を予測するCNN(畳み込みニューラルネットワーク)とResNetモデルを訓練した。
【0097】
訓練されたモデルをテストするために第2の研究から、先天性QT延長(long-QT congenital)患者で構成される、詳細に述べると、LQT-1(n=266 患者およびn=560 ECG)、LQT-2(n=188 患者およびn=456 ECG)、ならびにLQT-3(n=33 患者およびn=67 ECG)で構成される第2のコホートも使用した。
【0098】
畳み込みニューラルネットワークアーキテクチャ
入力に応じて2タイプのモデルを開発した。ECG(M1)だけ、またはECGと性別、年齢、およびカリウム血症と関連付けられたデータ(M2)を使用した。モデルのアーキテクチャは同じである。
【0099】
これらのモデルは、畳み込み(convolution)の11のブロックで構成される畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に基づき、各ブロックは、同数のフィルタがある2つのConv1D層があった。各ブロックのフィルタ数は、それぞれ、8、8、8、16、32、64、128、256、512、1024、および2048であった(全体として11のブロック)。入力の長さと同じ出力を得るために両Conv1Dにはゼロパディング(zero padding)を使用した(オプション「same」)。Adamオプティマイザ(optimizer)、バイナリクロスエントロピーロス(binary cross-entropy loss)、およびアーリーストッピング(early stopping)(patience=50)を使用した。訓練前に出力クラスのバランスを保つためにクラスウェイト(class weight)を計算した。残りのモデルパラメータにはデフォルト値があった。M2モデルでは、臨床データを、完全接続ニューラルネットワークの前にフラトゥン化(flattened)層の出力と連結した。
【0100】
同じCNNアーキテクチャに基づく異なるディープラーニングモデルを開発した。最初のモデル(M1)はソタロール摂取前後のECGデータ(それぞれ、以下では対照およびSot+として表される)しか含まず、他方のモデル(M2)は、基本的な臨床情報、すなわち、年齢、性別、および研究ベースラインで定量されたカリウム血症も含んだ。
【0101】
様々なモデルM1を開発した。これらは全て、同じ全体パフォーマンスを示したが、テスト段階中に一部の個体を評価する際に、いくつかの違いがあった。
【0102】
ECGデータの準備
Cardioplug device(Cardionics Inc)を用いて取得した未加工ECGを使用した。ECGは8つの誘導(I、II、V1、V2、V3、V4、V5、V6)と関連付けられた。それぞれの記録は10s続き、サンプルサイズは500Hzであった。.SCPファイル形式のデータを、Biosigライブラリ(http://biosig.sourceforge.net/index.html)を用いてパーズした。
【0103】
同様に、1992~2018のCalECGツールを用いて取得したQT延長患者からの未加工ECGデータを使用した。未加工.xmlファイルをpython xmltodictライブラリを用いてパーズした。全体として、875のファイルを500Hzで取得し、208を250Hzで取得し、合計1083の記録になった。250Hz信号を、キュービック補間(cubic interpolation)(scipy pythonライブラリからのinterp1d関数)を用いて500 Hzにアップサンプル(up-sample)した。
【0104】
全ECGレベルで実施した標準化を除いて(すなわち、それぞれの誘導信号は、ある特定のECGの他の全ての誘導信号を平均することで標準化された)、これらの研究で考慮されたデータに対してフィルタリングも他の変換も適用したなかった。モデルの訓練に使用したpythonディクショナリにデータを格納した。
【0105】
使用したECGデータは、より大きなECG取得のうちの連続10秒のセグメントに対応する。
【0106】
訓練のために、データを3Dテンソル(tensor)(8つの誘導、各誘導について5000の時点、Sot+またはSot-)として入力した。前記モデルをテストするためにデータを2Dテンソル(8つの誘導、各誘導について5000の時点)として入力した。
【0107】
モデルの訓練および評価
探求したモデルは全てPythonでKerasライブラリを用いて作り出した。分類および回帰実験の両方とも、第1のデータベースを訓練(80%)セットおよびホールドアウト(20%)セットに分割した。アルゴリズムの汎化信頼(generalization confidence)を推定するために訓練用データベースにおいて10x10分割(10-times 10-fold)クロスバリデーションを実施した。各分割で、訓練サブセットと試験サブセットには別個の例(example)があった。両セット(すなわち、訓練およびテスト)とも、過学習を避けるためにCV訓練セットの平均および標準偏差を用いて正規化した。最終モデル(M1、M2、およびResNet18)を訓練セット全体において訓練し、ホールドアウトおよび外部先天性qt延長コホートにおいてテストした。推定されたCV実験(empirical)および汎化パフォーマンスも準備する。
【0108】
分類タスクのために、訓練用データセットは、792人の健常患者からのソタロール(80mg)摂取前(n=4014)と摂取後(n=5000)の9014のECG信号を含んだ。ソタロール摂取前(n=999)と接種後(n=1238)のECGを用いて198人の健常患者で構成されたデータセットの一部を切り分けて、訓練されたモデルをテストした。分類は二項分類:薬物なし(Sot-)対薬物(Sot+)として行った。包含(inclusion)、基底、およびT0と関連付けられた記録をSot-として使用し、薬物摂取後(T1、T2、T3、T4)の記録をSot+として使用した。最後に、詳細に述べると、LQT-1(n=266 患者およびn=560 ECG)、LQT-2(n=188 患者およびn=456 ECG)、ならびにLQT-3(n=33 患者およびn=67 ECG)で構成される先天性qt延長データセットを用いて、訓練されたモデルをテストした。
【0109】
投票戦略
ある特定の患者と状態について単一信号分析を用いて、および複数の記録からのリスクスコアを平均することによってパフォーマンスを計算した。前記モデルによって得られた出力は、Sot+の(ソタロールを摂取した)確率(尤度)である。
【0110】
患者をSot+クラスまたはSot-クラスの1つに割り当てるために、同じ患者に由来する複数のECGを前記モデルによって処理した。出力の大多数が、0.5(50%)を上回るSot+(resp.Sot-)の確率を示す場合、患者をSot+(resp Sot-)に割り当てた。
【0111】
または、患者からの1つのECGを(類似する、または異なるアーキテクチャを用いて別々に訓練された)複数のモデルを用いて処理し、モデルの大多数が0.5(50%)を上回るSot+(resp.Sot-)の確率を示す場合、患者をSot+(respSot-)クラスに割り当てることによって投票戦略を使用することができる。他のカットオフも使用することができる。
【0112】
ソタロール摂取は未加工のECG信号から正確に検出される
10x10分割クロスバリデーション(CV)のそれぞれについて、単一のECGレベルで、または患者で平均して前記モデルのパフォーマンスを評価した。CVにおけるテスト正解率の平均はホールドアウト正解率に匹敵し、全体の実験正答率(empirical accuracy)および訓練プロセス(CV)における実験正答率も同じことが観察された。このことから、前記モデルのパフォーマンスが良好に推定されたことが分かる。
【0113】
モデルM1の汎化正解率(generalization accuracy)の平均は各ECGについて計算した時に0.885(sd=0.003)であり、各患者について計算した時に0.945(sd=0.004)である(上記で開示されたように投票戦略を使用した)。同様に、モデルM2については、汎化正解率の平均は各ECGについて計算した時に0.89(sd=0.003)であり、各患者について計算した時に0.947(sd=0.003)である。
【0114】
M1とM2の間には統計的差異はなく、従って、ECGだけでも、ソタロール摂取の検出に関する全情報を含んでいることが分かる。
【0115】
しかしながら、ECGおよび患者レベルで汎化正解率間に非常に有意な差があった(投票、p<1.03e-25)。このことから、複数の信号取得の重要性が示される。
【0116】
最後に、これらのモデルの適合率(precision)はM1については0.963(sd=0.004)、M2については0.961(sd=0.003)とかなり高く(投票)、同様に、同じモデルの再現率(recall)も0.934(sd=0.005)および0.937(sd=0.004)とかなり高くなった。
【0117】
まとめると、これらの結果から、健常対象が(80mg)ソタロールを服用したかどうか予測するのに、未加工の心電図だけで訓練されたCNNモデルは感度と正解率が非常に高いことが分かる。
【0118】
ソタロール摂取分類モデルは先天性QT延長プロファイルを識別する。
次に、ソタロール摂取患者を識別するように訓練された最も簡単な(M1)モデルを使用して、LQT先天性コホートから先天性QT延長患者を分類した。このモデルからリスク確率[0,1]が得られ、閾値>=0.5に基づいてSot-/Sot+クラスに変換された。
【0119】
第1に、Sot+ECGのほとんど(95%)がSot+として分類され、対照のほとんど(87%)がSot-として分類されたことに注目した。投票結果は、以前に上記で議論されたようにSot+(99%)および対照(93%)群の優れたパフォーマンスを示す。これらの観察に基づいて、患者レベルでECG信号をまとめた結果(投票)だけを後で議論する。
【0120】
第2に、LQT患者全員が大多数においてSot+と分類されたことに注目した。LQT-2はSot+の最大の割合(85%)を示し、LQT-3(67%)およびLQT-1(63%)がこれに続いた。さらに、群を一緒に識別するためにモデルM1のROC分析を行った。Sot+と、対照、LQT-1、LQT-2、およびLQT-3群を比較した結果は、それぞれ、0.99(信頼区間(Confidence Intervalle)、CI[0.98;1])、0.79(CI[0.75;0.83])、0.59(CI[0.53;0.64])、および0.75(CI[0.66;0.84])のAUC(曲線下面積)を示した(図1.A)。LQT-2と、LQT-1、LQT-3、Sot+、および対照群を比較した結果は、それぞれ、0.71(CI[0.66;0.75])、0.68(CI[0.58;0.77])、0.59(CI[0.53;0.64])、および0.92(CI[0.89;0.95])のAUCを示した(図1.B)。
【0121】
比較目的で、QTだけを評価した時のSot+と対照との間のAUCは0.7674[0.7381;0.7968]である。
【0122】
Sot+対LQT-2のAUCが小さいことから、このモデルは、これらの2つの群を良好に識別できず、これらの相互類似性(inter-similarity)(IKrチャンネル阻害)が示される。しかしながら、AUCが0.5を上回ったという事実から、これらの2つの状態の間に、いくつかの違いがあり、(Sot+対象については1つのクラス、LQT-2対象については別のクラスを用いた)さらなる訓練によって、Sot+とLQT2患者が識別できるようになることが分かる。
【0123】
まとめると、対照に対するLQT-2のAUCは大きく(0.92)、これらの結果から、ソタロールデータで訓練されたM1モデルが、先天性QT延長患者の場合、LQT-2患者と対照を識別するための代用品(surrogate)として関連または関係することが分かる。
【0124】
ソタロール摂取分類モデルは、イベント時にトルサード・ド・ポワントがある患者を特定する
トルサード・ド・ポワントエピソードの直後に2人の患者を入院させた。
【0125】
これらの患者に対してECGを行い、上記で開示されたようにECG信号をニューラルネットワーク分類器に適用した。
【0126】
患者1については、トルサード・ド・ポワンのリスクがある尤度(モデルの出力)は0.991629、0.989505、および0.072291(3つの(thre)ECG)であった。
【0127】
患者2については、尤度は、
来診1:0.991812、0.999446、および0.984214
来診2:0.998443、0.999096、および0.999811
であった。
【0128】
これらの結果は、TdPエピソードがあり、このエピソードの直後にSot+として分類された患者の一例を例示する。患者は先天性QT延長が無く、QT延長を誘発する薬物を全く服用しなかった。患者たちのQT延長は後天的なものであった。
【0129】
従って、上記のモデルは、心臓イベントの直後に患者を「トルサード・ド・ポワントのリスクがある」と分類することができ、それにより、後向き診断(retrospective diagnosis)を下すことが可能になる。
【0130】
考察
上記の研究から、ECG信号は重要な情報を載せており、IKrチャンネルを阻害するソタロール摂取の影響を受けることが分かる。
【0131】
実際に、血中で以前のソタロール(または別の薬物)摂取を推定できればTdPリスクをさらに深く理解できるようになる可能性がある。
【0132】
QT延長はTdPに関連することが示されており、従って、多くの研究がQT延長をTdPの代用品だと考えた。しかしながら、最近の研究から、QT延長単独では偽陽性率と偽陰性率が高くなるため、信頼性の高い予測因子にならないことが証明された(Hondeghem、2018; QTだけを使用してSot+と対照(contrils)を区別するためのAUCも参照されたい)。
【0133】
本明細書において開発されたモデルは、薬物摂取後の時間に関係なく(4時間以内で)、>94%の全汎化正解率(overall generalization accuracy)で患者がソタロールを服用したか、服用しなかったか正確に分類することができた。投票アプローチと共に採用された複数の取得が分類を改善することが示された。これは、それ自体では、QTだけよりリッチな(rich)、心電図に含まれるリッチな情報が存在することを証明する。
【0134】
次に、この代用モデルも、変異LQT-1、LQT-2、およびLQT-3のタイプに基づいて異なる程度で先天性qt延長患者を識別できることが示された。このことは、これらの変異が珍しく、寄り掛かる(lean)ことが難しいので非常に重要である。
【0135】
このような分類方法は、コンプライアンス管理の場合に、および薬物モニタリングの状況では用量を調節するのに非常に有用である。さらに、医療に関連するコストを削減する重要性を考えると、このシステムは標準的な血液分析よりも安価で、実用的で、かつ迅速だろう。このシステムを用いると、不連続の結果ではなく連続した薬物推定を行うことが可能になるだろう。
【0136】
他の開発
様々なモデルも開発した。
【0137】
1つしか誘導を使用しない時に、8つの誘導からのECGを使用した上記で詳述したモデルと同じタイプの結果(正解率)を入手できることが示された。
【0138】
訓練セットとして、対照、ソタロールを摂取した患者、LQT-1、LQT-2、およびLQT-3患者からのECGを用いて別のモデルを開発した。このモデルから、出力として、患者が5つのクラスのそれぞれにいる確率が得られる。投票システムを使用して(好ましくは、複数の患者ECGを提供することによって、または複数のCNNモデルを使用することによって)、医師に情報を提供することが可能であり、適切な治療が可能になる。
【0139】
患者が服用した薬物を識別できるようにするために、TdPを誘発する可能性がある複数の薬物を用いてモデルを開発および強化することもできる。
【0140】
トルサード・ド・ポワントイベントの検出
本発明者らは、前記モデルを、経過観察記録(平均=26、sd=16、1065分析可能)と心臓病専門医によってアノテートされた少なくとも1つのTdPイベントがある41人の患者のコホートに由来するECG(n=1080)に適用した。24時間以内のTdPイベントのリスクスコアは、イベントから24時間超ずれている同じ個体に由来するECGと比べて大きかった。
【0141】
このリスクスコア差は有意差があった(AUROC:0.61+/-0.029、図2、p<0.0001)。この受信者動作特性曲線は、TdPのリスクがある薬物(QT延長薬物、主に、IKr遮断薬)が与えられた患者からのデータを用いて引かれたことに留意しなければならない。0.61のAUROWCは、これらの患者の中で、24時間以内にTdPイベントがある患者を識別できることを示しているが、これらの患者全員が薬物療法によりQTが延長している。
【0142】
開発したモデルでは、出力は0~100のスコアである。スコアが大きいほどリスクが高くなる。
【0143】
表1は、様々な閾値についての特異度および感度の値の一部を示す。
【0144】
(表1)ECG時にTdPが無い患者のECGに対する閾値に応じて、24時間以内にトルサード・ド・ポワントエピソードを検出するための感度および特異度
【0145】
医師が特異度を高くしたいか感度を高くしたいかに応じて閾値が選択される。上記で示したように、第1のカットオフより下では患者のNPVが良くなり、第2のカットオフより上では患者のモニタリングを増やすように、2つのカットオフまたは閾値を使用することができる。
【0146】
機械をさらに訓練すると、感度が低下することなく特異度が改善する。
【0147】
このデータから、QT延長薬物が投与された患者からのデータを用いて機械学習分類器(ここでは、畳み込みニューラルネットワーク)を適切に訓練すると、24時間以内にTdPイベントがある人またはTdPイベントが無いと予測される人を検出できることが分かる。このことは、不整脈リスク(TdP)の発生について結論を下すことができないと言ったAttiaらの結論とは対照的である。
【0148】
1つの誘導を用いた機械学習分類器
上記で開示された畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を、たった1つの誘導からのECGデータを用いて訓練した。
【0149】
このような訓練は、以下の誘導DI、DII、V1、V2、V3、V4、V5、およびV6のそれぞれを用いて個々に行った。従って、これにより、9つのモデル(それぞれの個々の誘導について1つのモデル、複合ECGを用いて8つの誘導からの信号を平均することによって1つのモデル)が得られた。
【0150】
次いで、全ての訓練されたシステムを、上記で開示されたようにテストセットから、訓練に使用した誘導のECGデータを入力することによってテストした。患者の分類は、全誘導(複合モデル)からのECGデータを用いて訓練されたCNNと同じくらい正確であり、AUROCは0.88~0.98であった。
【0151】
1つだけの誘導から得られたデータが、別の誘導(または全ての誘導)からのECGデータに基づいて訓練されたモデルに適用された時に、前記モデルは機能したことにも注目しなければならない。特に、DII誘導から得られたデータが、DII誘導からのECGデータを用いて訓練されたモデルに適用された時にAUROC(QT延長薬物が投与された患者と、このような種類の薬物が投与されたことがない患者を識別する能力を表す)は0.98である。このようなDII ECGデータが、(8つの誘導からのデータで訓練された)複合訓練モデルに適用された時にAUROCは0.94である。このようなDII ECGデータが、(V4誘導からのデータで訓練された)V4 ECG訓練モデルに適用された時に、AUROCは0.90である。V4 ECGデータが、V5誘導からのデータで訓練されたモデルに適用された時にAUROCは0.90である。
【0152】
このデータから、1つの誘導でも複合誘導でも単一誘導からのECGまたは複数の誘導から得られた複合ECGのいずれかで訓練されたモデルは任意のECGデータと共に使用できることが分かる。AUROCの平均(入力として、または訓練されたモデルにおいて、複合ECGまたは個々の誘導dI; dII、V1、V2、V3、V4、V5、もしくはV6からのECGからのデータの全ての組み合わせを考慮する)は0.877であり、標準偏差は0.067である。
【0153】
これらの結果から、機械学習分類器は、1つだけの誘導からのECGデータだけを用いて適切に訓練された時に良好な分析出力を提供できることが分かる。このことは、患者が自分で1つしか電極を配置せずにECGを測定することができ、これにより、患者がTdPを有するリスクを検出するためにECGが集中型サーバーに送信され、機械分類器によって分類され、このようなリスクが検出されたら医師の行動が可能になる用途への道を開く。
【0154】
先天性QT延長(LQT)の識別
LQT1、LQT2、およびLQT3患者を識別する能力を判定するために、たった1つの誘導からのECGデータを用いて訓練されたモデルもテストした。
【0155】
1つだけの誘導からのECGデータを用いて、このような患者を識別することが可能であり、V6およびDI誘導が最も良く、これらの誘導のAUROCは0.63~0.70であることが示された。このことから、QT延長薬物を用いて訓練されたシステムは異なるタイプの先天性LQTを区別できることが分かる。
【0156】
要約すると、上記のデータから、複合または単一の誘導からのECGデータを用いて機械分類器を訓練することができ、訓練された機械分類器は、
- 次の24時間でTdPイベントを有する高いリスクがある患者を特定することができる、
- 訓練用に用いられたECGデータとは異なるECGデータと共に使用することができる、
- 先天性LQTの性質(タイプ)を特定するのに使用することができる
ことが分かる。
【0157】
参考文献
図1
図2
【国際調査報告】