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特表2022-535591ドライアイおよびアレルギー性眼の治療のためのオピオイド分子の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ドライアイおよびアレルギー性眼の治療のためのオピオイド分子の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4741 20060101AFI20220802BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220802BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220802BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K31/4741
A61P27/02
A61P27/04
A61K47/32
A61K47/36
A61P27/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572550
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2020065610
(87)【国際公開番号】W WO2020245345
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】1906077
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521532592
【氏名又は名称】エイチフォー オーファン ファーマ
【氏名又は名称原語表記】H4 ORPHAN PHARMA
(71)【出願人】
【識別番号】521532606
【氏名又は名称】ガエタン テラス
【氏名又は名称原語表記】Gaetan Terrasse
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ガエタン テラス
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン ビュール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE09X
4C076EE37
4C076FF57
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA20
4C086FA02
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA06
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、ドライアイおよびアレルギー性眼を治療するための、CFTRを調節しかつ好塩基球および肥満細胞の脱顆粒を阻害することができるオピオイド分子である(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンの左旋性および右旋性エナンチオマーの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結膜上皮細胞、涙腺およびマイボーム腺の分泌物の減少に関連する疾患の治療で使用するための、(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項2】
眼アレルギーに関連する疾患の治療で使用するための、(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項3】
ドライアイ疾患の治療で使用するための、請求項1および2に記載の(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項4】
春季カタルに関連するアレルギー性眼疾患の治療で使用するための、請求項2に記載の(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項5】
リウマチ性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス、およびグジュロー・シェーグレン病などの自己免疫疾患に関連するドライアイ疾患の治療で使用するための、請求項3に記載の(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項6】
涙液層分泌の減少を伴うアレルギー性結膜炎の治療におけるドライアイ疾患の治療で使用するための、請求項2に記載の(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項7】
0.1~5mg/日の用量で投与されることを特徴とする、ドライアイ疾患の治療で使用するための請求項2~6のいずれか一項に記載の(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項8】
カルボマーベースの湿潤剤またはヒアルロン酸ベースの潤滑剤と組み合わされることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項9】
メチル基の少なくとも1つにおいて重水素化メチルで置換されていることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【請求項10】
点眼薬または眼軟膏の形態でパッケージングされることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイおよびアレルギー性眼を治療するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンの左旋性(levorotatory)および右旋性(dextrorotatory)エナンチオマー:の使用に関する。
【0002】
本発明は、ドライアイおよびアレルギー性眼の治療のための、膜貫通コンダクタンス制御因子(CFTR)のモジュレーターでの活性およびCD63の発現の調節における活性を有するオピオイド分子の使用、ならびに医薬組成物および治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
眼球乾燥症またはドライアイ症候群は、2007年のドライアイワークショップ(2007 Dry Eye Workshop)により、不快感、視覚障害および涙液層の不安定性の症状をもたらす、眼表面の潜在的な病変を伴う涙および眼表面の多因子性疾患として定義される。この疾患は、涙液層の浸透圧の増大および眼表面の炎症を伴う。病因は多様であり、通常、涙流の減少による乾燥症候群(例えば、グジュロー・シェーグレン症候群(またはGougerot-Sjogren症候群))と、涙の過剰蒸発による乾燥症候群に区別される。
【0004】
マイボーム腺機能不全(MGD)は、ドライアイ疾患(DED)の最も頻度の高い原因である。2011年のワークショップはマイボーム腺機能不全についても定義した。眼瞼の炎症、微生物の繁殖、関連する皮膚障害、ならびに潜在的に深刻な角膜の合併症により、MGDは複雑な多因子性障害になっている。MGDは、以下の5つの異なる病態生理学的メカニズムの組み合わせ:眼瞼の炎症、結膜の炎症、角膜の病変、微生物学的変化、および涙液層の不安定性に起因するDED:から生じる不均一な疾患であると考えられる。MGDおよびDEDの両方の病因は、「悪循環」として説明することができる:DEDおよびMGDの基礎となる病態生理学的メカニズムが相互に影響し合い、二重の悪循環をもたらす。この二重の悪循環が、ドライアイ、およびその治療の困難さの原因である。
【0005】
眼球乾燥症(ドライアイ疾患またはDED)は、眼表面の多因子性で複雑な疾患であり、これは、涙液層のホメオスタシス(恒常性)の喪失をもたらし、様々な眼の症状を引き起こす。視覚機能、生活の質、および経済的負担に対するDEDの負の影響はよく認識されている(非特許文献1)。多くの患者において、疾患は慢性的であり、長期の治療を必要とする。
【0006】
DDEの有病率は高く、世界的な推定値は成人人口の5%~50%の範囲であり、疾患の経済的負担は高齢化とともに増加することが予測される。世界中で、眼用潤滑剤がDEDの初期管理にしばしば使用されるが、この疾患の根本的な原因には対処しない。DDEの様々な別個の病態生理学的経路を標的とする潜在的により有効な眼科薬理学的薬剤が過去20年間にわたり研究されてきたが、これらの努力の結果、承認された新薬は非常に僅かであった。主な認可された治療薬として、北アメリカにおける0.05%シクロスポリンA点眼エマルジョン(レスタシス(Restasis)(登録商標);Allergan,Irvine、CA、米国)およびリフィテグラスト(lifitegrast)5.0%点眼液(シードラ(Xiidra)(登録商標);Shire、レキシントン、米国)、欧州におけるカチオン性エマルジョン;(Ikervis(登録商標);参天製薬、大阪、日本)、アジアにおける3%ジクアホソル点眼液(ジクアス(Diquas)(登録商標);参天製薬、大阪、日本)、および2%レバミピド点眼懸濁液(ムコスタ(Mucosta)(登録商標); 大塚製薬、東京、日本)の単位用量が挙げられる。米国(2018年8月)では、シクロスポリンA 0.09%のナノミセル製剤(セクア(Cequa)(商標);Sun Pharmaceuticals、ムンバイ、インド)が、DEDの患者の涙の分泌量を増やす目的で承認されている。全体として、これらの薬剤は眼表面の炎症を低減しまたは涙液層を安定化させるが、涙液減少型DED(ADDE)または蒸発亢進型DEDの患者にどの薬剤が最も適しているか分かっていない。グジュロー・シェーグレン症候群(またはGougerot-Sjogren症候群)(SGS)は、重度の角膜炎の原因となり得る涙腺の進行性破壊による眼球乾燥症を伴う。SGSは、外分泌腺の炎症性で進行性の変性変化を特徴とする自己免疫起源の慢性疾患であり、関節、皮膚、肺、腎臓、または末梢神経に異なる様式で影響を及ぼす全身性の病変に関連し得る。この疾患の病態生理は、CD4+Tリンパ球およびBリンパ球による唾液腺および涙腺への浸潤を特徴とする。これらのリンパ球の局所的な活性化および増殖は、慢性炎症状態を維持する炎症誘発性サイトカインの放出、ならびに自己抗体の分泌を誘発し、最終的に上皮細胞のアポトーシスによる死につながる。
【0007】
季節性および通年性のアレルギー性結膜炎(眼アレルギー)は、目のかゆみ、充血、腫れ、および涙目を特徴とする。アレルギー性結膜炎の急性症状は、目のかゆみ、充血、および腫れなどの臨床徴候または症状を特徴とする。後期のアレルギー性結膜炎やアレルギーの炎症反応として、充血(赤み)、まぶたの腫れ、および涙が挙げられる。また、アレルギー性結膜炎および鼻結膜炎は、汚染物質または他の原因によって引き起こされる眼球乾燥や刺激などの他の外因性の眼の影響および疾患と共存し得る。これは、アレルゲンから眼球表面を保護する役割を果たす涙液膜の機能障害につながる。眼アレルギーは、ドライアイの主な原因である。アレルギー性結膜炎を治療するための多くの治療法が存在するが、アレルギー性病態により引き起こされるドライアイを治療するための治療法はない。
【0008】
ドライアイ症候群の通常の初期管理は、病因にかかわらず、以下に基づく:
- 可能な限り要因(薬剤、環境因子、防腐剤(特に第四級アンモニウム)を含む点眼薬など)の是正;および
- 涙の代替品(点眼液での人工涙液、ゲル、および他の2つの方法で失敗した後に使用される粘弾性溶液の医療デバイス)による代替治療。
【0009】
一旦眼の乾燥が始まると、代替療法にもかかわらず進行し、角膜を含む眼表面のすべての組織が徐々に侵される炎症の悪循環の概念に従って持続する。重症の場合、眼球乾燥症は、角膜の大きな損傷(または角膜炎)の原因となり、それは眼の表面の異物感やヒリヒリ感から、視力低下を伴う永続的な痛みまで、一連の症状を引き起こす。眼球乾燥症の重症度は、角膜炎の程度、炎症成分、眼の症状に関係する。
【0010】
ドライアイの原因となる悪循環の原因を治療するために、いくつかの薬理学的標的を治療する必要がある。したがって、涙腺から分泌される涙の産生量を回復させるだけでなく、角膜上皮からの電解質の分泌を回復させる必要がある。
【0011】
2001年に発表された論文では、CFTRが不死化ウサギ角膜上皮細胞株において電解質分泌に関与していることが示されている(非特許文献2)。それだけでなく、涙腺の分泌にも影響を与える(非特許文献3)。この論文で著者らは、CFTRモジュレーターが、正常なCFTRを有するマウスにおいて涙の分泌を増加させることができることを示す。
【0012】
CFTRは、分泌性上皮細胞を含めて様々なタイプの細胞で発現されるcAMP/ATP媒介アニオンチャネルであり、膜を横切るアニオンの流れを制御するとともに、他のイオンチャネルおよびタンパク質の活性を制御する。上皮細胞において、CFTRの正常な機能は、呼吸器や消化器、さらには眼組織を含む、全身の電解質輸送を維持するために不可欠である。CFTRは、約1480個のアミノ酸で構成されており、それぞれが6つの膜貫通ヘリックスとヌクレオチド結合ドメインを含む膜貫通ドメインの繰り返しで構成されるタンパク質を形成している。2つの膜貫通ドメインは、チャネルの活性と細胞の輸送を制御するいくつかのリン酸化部位を含む大きな制御極性ドメイン[R]によって連結されている。
【0013】
塩化物輸送は、細胞の頂端膜(apical membrane)に存在するENaCおよびCFTR、ならびに細胞の側底面(basolateral surface)に発現されるNa+およびK+ATPaseならびにCl-チャネルの協調した活性によって生じる。内腔側での二次性能動塩化物輸送により、細胞内塩化物の蓄積が生じ、その塩化物はCl-チャネルを介して受動的に細胞外に出ることができ、それにより、側底極から頂端極への輸送が生じる。したがって、おそらく能動的に輸送されない水は、ナトリウムおよび塩化物の流れによって生じる経上皮浸透圧勾配に従って上皮を通って輸送される。
【0014】
CFTRの機能不足による影響と思われるドライアイの原因を治療するために、正常なCFTRの機能を調節および活性化する新規な治療法を見いだす必要がある。
【0015】
アレルギー性結膜炎は、世界中で最も一般的なアレルギー性疾患の1つである。その発症率は、気候変動、汚染、花粉量の増加、およびこれらの環境変化に対する対象の免疫学的感受性の増強により上昇している。病態生理学的には、主に、免疫グロブリンEに結合した肥満細胞(またはマスト細胞)の活性化、ヒスタミンや他の免疫細胞を含む反応の拡大に寄与する他のメディエーターの放出、および続く炎症が含まれる
【0016】
アレルギー性結膜炎(AC)は世界中で罹患率が増加している。目のかゆみはACの特徴的症状であり、ACを非アレルギー性刺激に起因する他の眼の疾患と区別することを可能にする。
【0017】
季節性アレルギー性結膜炎(SAC)および通年性アレルギー性結膜炎(APC)は眼アレルギーの亜群の最も一般的な形態であり、その罹患率はアメリカの人口の15~25%であると推定される(非特許文献4)。ヨーロッパでは、アレルギー性結膜炎は、おそらくはブタクサの伝来のせいで増大しており、人口の50%までもが影響を受けている(非特許文献5)。ACの患者は、通常、かゆみ、涙、灼熱感、血管拡張、および左右対称に結膜浮腫を有する。春季カタル(Spring keratoconjunctivitis)(SKC)は、慢性的で病的な角結膜炎であり、視力を脅かす可能性がある。これら異なる慢性アレルギー性病態は、しばしばドライアイ症候群を伴う(非特許文献6)。
【0018】
多くの治療法が使用され、それには、抗ヒスタミン剤の点眼薬、コルチゾン系の点眼薬、およびシクロスポリンなどの免疫抑制剤系の点眼薬などが含まれる。
【0019】
眼アレルギーおよびその結果(ドライアイなど)に特異的に対処した治療法はない。
【0020】
アレルギー性眼の炎症ならびにその結果の両方を治療するための解決手段を見出すことが急務である。
【0021】
CFTR機能を調節および活性化するだけでなく、肥満細胞の脱顆粒も防いで疾患の本質的な原因を治療するための新規な治療法を見出す必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Efficacy of topical ophthalmic drugs in the treatment of dry eye disease: A systematic literature review. Holland EJ, et al. Ocul Surf. 2019
【非特許文献2】Invest Ophthalmol Vis Sci. 2001 Sep Activation of a CFTR-mediated chloride current in a rabbit corneal epithelial cell line. Al-Nakkash L
【非特許文献3】Invest Ophthalmol Vis Sci. 2018 Jan Novel Insight Into the Role of CFTR in Lacrimal Gland Duct Function in Mice. Berczeli O.
【非特許文献4】Ono et al., 2005, Allergic conjunctivitis: update on pathophysiology and prospects for future treatment. J Allergy Clin Immunol
【非特許文献5】Burbach G., et al. 2009, Ragweed sensitisation in Europe LEN study suggests increasing prevalence. Allergy
【非特許文献6】Villani et al., Ocular allergy dry eye, Curr Opin All CLin Immunol, 2018
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、オピオイド化合物およびその薬学的に許容される塩を含む新規化合物に関する。
【0024】
本発明者らは、(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンまたはノスカピン([図1]参照)のCFTRの調節に対する驚くべき特性を発見した。
【0025】
本発明はまた、本明細書に記載の化合物の少なくとも1つおよび/またはそれらの薬学的に許容される塩の少なくとも1つを含む医薬組成物に関し、これらの組成物は、少なくとも1つの他の活性医薬成分および/または少なくとも1つの賦形剤をさらに含むことができる。
【0026】
本発明はまた、ドライアイ、アレルギー性結膜炎、またはグジュロー・シェーグレン症候群(またはGougerot-Sjogren症候群)の治療方法であって、本明細書に記載の化合物の少なくとも1つおよび/またはそれらの薬学的に許容される塩の少なくとも1つを、場合により少なくとも1つの追加成分を含む医薬組成物の一部として、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0027】
ノスカピンは、古くから知られている化学物質であり、鎮咳薬として使用されいる。ノスカピンは、ケシ(Papaver somniferum)から得られる非麻薬性のイソキノリンフタリドアルカロイドであり、軽度の鎮痛作用、鎮咳作用、および抗新生物作用を有する。ノスカピンは、シグマオピオイド受容体を活性化することにより、その鎮咳効果を発揮する。この薬剤は、チューブリンに結合することにより抗有刺分裂効果を発揮すると考えられ、微小管集合体のダイナミクスを乱し、続いて有糸分裂を阻害し、腫瘍細胞死をもたらす。
【0028】
治療上有効な用量は、主にコデインの望ましくない効果に対処し、時折生じる吐き気を除けば、その望ましくない効果は無視できる。1日あたり90mgまでの用量であれば、ヒトの呼吸に影響を及ぼさない。
【0029】
ノスカピンは、1位が4,5-ジメトキシ-3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-1-イル基、6位と7位がメチレンジオキシ基、および8位がメトキシ基で置換されたベンジルイソオレインアルカロイドである。ケシ科の植物から得られたものであるが、著しい鎮痛作用を有さず、主にその鎮咳効果のために使用される。分子式C22H23NO7のノスカピンは、分子量が413である。この化合物は、炭素14または重水素化合物のいずれかを含む化合物で修飾または置換することができる。
【0030】
同位体で標識された化合物および塩は、様々な方法で使用することができる。それらは、薬物および/または様々なタイプの試験(基質上の組織分布試験(tissue-on-substrate distribution test)など)に適することができる。例えば、トリチウムおよび/または炭素14で標識された化合物は、比較的簡単に調製でき、また検出性にも優れているため、基質上の組織分布試験などの様々なタイプの試験に特に有用である。例えば、重水素標識製品は治療上有用であり、重水素標識されていない化合物と比較して潜在的な治療上の利点を有する。一般に、重水素で標識された化合物および塩は、速度論的同位体効果(isotopic kinetic effect)のために同位体で標識されていないものよりも高い代謝安定性を有し得る。より高い代謝安定性は、in vivoでの半減期の延長やより少ない用量に直結し、それらが望まれる場合がある。同位体で標識された化合物および塩は、一般に、既知の合成スキームに記載されている手順に従って調製することができる。例えば欧州特許第3352757号などの世界的な文献に関連する記載がある。したがって、非重水素化メチルを重水素化メチルに置き換えることは容易である。ノスカピンは、白色の結晶性粉末の形態である。水に不溶性であり、ベンゼンやアセトンに可溶性である。酸を用いて形成される塩は右旋性である。
【0031】
本発明者らは、ノスカピンがCFTRに対して非常に重要な作用を示すだけでなく、肥満細胞の対となる細胞(cell counterpart)である好塩基球の脱顆粒を抑制することを明らかにした。この2つの複合的な作用は、アレルギー性眼およびドライアイを治療するのに不可欠である。
【0032】
ノスカピンについて多くの特許が出願されているが、ドライアイまたはアレルギー性眼に対するその活性について記載したものはない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ノスカピンの化学構造を表す。
図2】最大効果に対するパーセンテージとして表される、頂端極におけるノスカピンの活性。
図3】最大効果に対するパーセンテージとして表される、側底極におけるノスカピンの活性。
図4】頂端極におけるμA/Cmで表される、涙腺の上皮細胞に対するノスカピンの効果(A=フォルスコリン;B=ノスカピン;C=Inh172)。
図5】側底極におけるmA/Cmで表される、涙腺の上皮細胞に対するノスカピンの効果(A=フォルスコリン;B=ノスカピン;C=Inh172)。
図6】DARTT 2002に基づく涙腺機能単位。
図7】陽性対照、抗IgE受容体である抗FcεRI抗体による好塩基球の脱顆粒を示すフローサイトメトリー分析(CD63+およびCCR3+)。
図8】フローサイトメトリーにおける陰性対照
図9】ノスカピン(10μM)による好塩基球の脱顆粒の阻害。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明者らは、変異のないCFTR調節のヒト細胞モデルにおけるノスカピンの驚くべき意外な特性を明らかにした。
【0035】
したがって、本発明は、結膜組織、涙腺およびマイボーム腺の上皮細胞の分泌物の減少に関連する疾患の治療で使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関する。
【0036】
本発明はまた、眼アレルギーに関連する疾患の治療に使用するための、(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマーに関する。
【0037】
したがって、本発明は、ドライアイ疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関する。
【0038】
したがって、本発明は、グジュロー・シェーグレン病(またはGougerot-Sjogren病)、およびリウマチ性多発性関節炎または全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に付随して生じる二次性グジュロー・シェーグレン症候群に関連するドライアイ疾患の治療において使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関する。
【0039】
したがって、本発明は、涙液層分泌の減少を伴うアレルギー性結合症の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関する。
【0040】
したがって、本発明は、春季カタル(vernal keratoconjunctivitis)の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関する。
【0041】
したがって、本発明は、ドライアイ疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関し、点眼薬または眼軟膏の形態で投与されることを特徴とする。
【0042】
したがって、本発明は、ドライアイ疾患および/またはアレルギー性眼疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関し、0.1ミリグラム~5ミリグラムの用量で点眼薬として投与されることを特徴とする。
【0043】
好ましい実施形態によれば、本発明は、ドライアイ疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマーの使用に関し、ヒアルロン酸またはカルボマーベースの湿潤剤および滑剤と組み合わせて点眼薬の形態で投与されることを特徴とする。これらの化合物は、ノスカピンの効果の持続性を増加させる能力を有する。好ましい実施形態によれば、本発明は、ドライアイ疾患および/またはアレルギー性眼疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:の使用に関し、上記化学物質は、メチルの少なくとも1つにおいて重水素化メチルで置換されていることを特徴とする。本発明はまた、角膜上皮細胞、眼瞼上皮細胞、涙線上皮細胞および/またはマイボーム腺上皮細胞の頂端極ならびに側底極でのイオン輸送の改善に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:に関する。
【0044】
本発明の好ましい形態によれば、前記化学物質は、薬物動態を改善するために、そのメチル基において重水素化メチルで置換されている。
【0045】
好ましい実施形態によれば、本発明は、0.1ミリグラム~5ミリグラム/日の用量でドライアイ疾患の治療に使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:に関する。
【0046】
好ましい実施形態によれば、本発明は、ドライアイの治療で使用するための、化学物質:(3S)-6,7-ジメトキシ-3-[(5R)-4-メトキシ-6-メチル-7,8-ジヒドロ-5H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]イソキノリン-5-イル]-3H-2-ベンゾフラン-1-オンおよびその薬学的に許容される塩の左旋性および右旋性エナンチオマー:に関し、点眼薬または眼軟膏の形態でパッケージングされていることを特徴とする。
【実施例
【0047】
CFTRの調節に対するこの作用を調べるために、本発明者らは、1950年代末にデンマーク人のHans H. Ussingが発明したUssingチャンバー法を用いた。この技術は、温度および培地を制御した条件下で対象組織を数時間生存したまま維持できるため、上皮を介したイオン交換を調べることを可能にする。組織を2つのハーフチャンバーの間に配置することで、頂端側コンパートメント(臓器の内腔に相当する)と側底側コンパートメント(血液コンパートメントに相当する)を画定し、組織を介したこれら2つのコンパートメント間の交換を調べることができる。
【0048】
この技術は一般的に使用されており、イオン輸送の薬理学的アプローチや、上皮細胞からのイオン分泌に関連した治療上興味深い分子を探索するのに特に適している。これは、経皮電流(短絡電流と呼ばれ、Iseで示される)を測定することを含む。Iseは、上皮の単位表面積に対するアンペア(μA/cm2でのIse)で表される。in vivoに近い条件を模倣するために、液-液界面、次いで気-液界面で、10~15日間、多孔質フィルター上で細胞を培養する。培養中、経上皮抵抗を定期的に測定する。この抵抗値(数百Ω)が高いほど、上皮組織は連続し、分極化され、したがって密である。気(頂端側)-液(側底側)界面では、上皮細胞は分極してタイト(密)なマットを形成しており、これをUssingチャンバー法で調べることができる。我々は、6つの実験を並行して行うことを可能にするPhysiologie Instrument(登録商標)社の6つの槽を備えたシステムを使用した。
【0049】
我々の研究では、以下の材料および分子を使用した:
アミロライド:最終濃度100μM;100mMのストック溶液、水溶媒(供給元:Sigma(登録商標))。
フォルスコリン:最終濃度0.05μM;1mMのストック溶液、DMSO溶媒(供給元:Sigma(登録商標))。
ゲニステイン:最終濃度30μM;30mMのストック溶液、DMSO溶媒(供給元:Sigma(登録商標))。
CFTR inhl72:最終濃度10μM;10mMのストック溶液、DMSO溶媒(供給源:Fisher(登録商標))。
UTP:最終濃度100μM;100mMのストック液、DMSO溶媒(供給源:Sigma(登録商標))。
【0050】
我々は、Ussingチャンバーに適した支持体を含む様々な媒体および試薬を使用した:Snapwell(Fisher(登録商標))、培養培地(Gibco(登録商標))、SVF(Gibco(登録商標))、ピューロマイシン(Gibco(登録商標))、T75培養フラスコ(Fisher(登録商標))。
【0051】
本発明者らは、USSINGチャンバーを使用して、腺上皮細胞のCFTRに対するノスカピンの活性を分析した。
【0052】
非変異CFTRを発現しているヒト上皮細胞に使用される標準的なプロトコル:
- アミロライド(ENaCチャネルの阻害剤、100μM)の存在下、10μMのノスカピン分子の添加、次いでCFTR inhl72(10μM、CFTR阻害剤)の添加、次いでUTP(100μM、感受性カルシウムC1輸送を活性化することにより実験を検証する)の添加での短絡電流の測定。
- アミロライド(100μM)およびフォルスコリン(0.05μM、細胞内cAMPの活性化剤)の存在下、10μMのノスカピン分子の添加、次いでCFTR inhl72(10μM)の添加、次いでUTP(100μM)の添加での短絡電流の測定。
- CFTR Inhl72(10μM)の存在下、ノスカピンおよびフォルスコリン(0.05μM)の添加、次いでUTPの添加での短絡電流の測定。
【0053】
本発明者らは、DMSO中の100μMのストック溶液を調製した。化合物を100μLずつ分注し、-20℃で保管した。
【0054】
ノスカピンを、非変異細胞に対して10μMの用量でUSSING細胞に添加した[図5]。
【0055】
頂端側での非変異上皮細胞に対するノスカピンの効果は、差分が16から20超(μA/cm2で表される)に増加することから、有意である。
【0056】
フォルスコリンの添加は、20から27(μA/cm2で表される)に電位を変化させる。
【0057】
Inh172の添加は細胞電位を完全に遮断する。
【0058】
ノスカピンは、非変異CFTRを発現している涙腺上皮細胞における細胞電位を活性化する。この効果は、フォルスコリンの効果と加算される。
【0059】
差分が6.5から7.5超(μA/cm2で表される)に増加することから、頂端側の非変異涙腺上皮細胞に対するノスカピンの効果は有意である。
【0060】
フォルスコリンの添加は、電位を変更させ、それは3.5から6.5(μA/cm2で表される)に切り替える。
【0061】
Inh172の添加は細胞電位を完全に遮断する。
【0062】
結論として、ノスカピンは、涙腺の上皮細胞におけるイオン輸送を活性化する。
【0063】
この効果は、CFTRのイオン輸送を特異的に阻害するinh172によって阻止される。
【0064】
ノスカピンは、非変異CFTRを介してイオン輸送を刺激することができる分子であると考えられる。
【0065】
次に、本発明者らは、頂端極および側底極の両方におけるノスカピンの有効用量を決定した。
【0066】
その結果、頂端極についてEC50活性は3.42±0.19μMであり、側底極についてのEC50は4.87±0.27μMであった([図2]、[図3])。
【0067】
したがって、ノスカピンは、グジュロー・シェーグレン病(またはGougerot-Sjogren病)だけでなく、リウマチ性多発性関節炎や全身性エリテマトーデスなどの特定の自己免疫疾患に関連するいわゆる「二次性」のグジュロー・シェーグレン症候群も含め、ドライアイの病態が確認された患者の涙液分泌機能を改善することができる。
【0068】
アレルギー性眼に対するノスカピンの効果を実証するために、本発明者らは、アレルギーの細胞モデルである好塩基球について検討した。結膜粘膜には、肥満細胞だけでなく、好塩基球も見られる。ヒトの脂肪細胞および多核好塩基球は、形態学的外観が比較的類似しており、同じCD34+造血幹細胞に由来する。
【0069】
肥満細胞は組織に常在する要素であるのに対し、好塩基球は、循環細胞であるが、大きなアレルギーが発生した場合には上皮組織に見られる(Kepley et al., J Respir Crit Care Med. 2001. Immunohistochemical detection of human basophils in post mortem cases of fatal asthma)。
【0070】
これら2つの細胞は、IgE依存性アレルギー反応に関与する;それらは、高親和性IgE受容体を発現する。それにもかかわらず、この活性化の間にこれらの細胞によって放出されるメディエーターは、いくつかの点で異なっている。さらに、好塩基球および特に肥満細胞は、自然免疫に関与している。したがって、好塩基球および肥満細胞は、多くの共通の特徴を有しており、より詳細には、IL4およびIL13の分泌であり、それらはコラーゲン合成の刺激、および線維症の原因となる線維芽細胞の増殖を誘導することが知られている。線維症はドライアイおよびアレルギー性眼でマイボーム腺に影響を与える可能性がある。好塩基球は、ほとんどの特性を有する肥満細胞とは異なり、循環血液中に存在する。好塩基球に対するノスカピンの作用を調べるために、我々はBULHMANN Laboratories AG(スイス)から市販されているキット、Flow CAST(登録商標)キットを使用した。このキットは、好塩基球の脱顆粒のin vitroでの検出のみならず、即時型アレルギー反応および過敏症の研究のためにも使用することができる好塩基球活性化試験(TAB)である。
【0071】
それは、活性化された好塩基球の表面マーカーとしてのCD63マーカーの発現をin vitroで診断するために設計されている。検査は全血で行われる;フローサイトメトリーにより、活性化された好塩基球の表面におけるCD63の発現を定量することができる(www.buhlmannlabs.ch)。
【0072】
本発明者らは、CAST Kit-Flow(www.buhlmannlabs.ch/products-solutions/cellular-allergy/flow-cast/)を使用して、好塩基球の脱顆粒の阻害に対するノスカピンの作用を試験した。好塩基球の活性化(または脱顆粒)は、アレルゲン、「抗IgE」(抗IgE受容体である抗FcεRI)、またはfMLPと呼ばれる細菌リポ多糖抗原のいずれかにより、3つの異なる方法で行われる。定常状態では、CD63抗原は細胞質内の顆粒に結合しているため、好塩基球はCD63抗原をほとんど発現していない。
【0073】
好塩基球の活性化(例えば、IgE(免疫学的活性化)またはfMLP(非免疫学的活性化)による)は、顆粒を細胞膜と融合させ、したがって、細胞の表面でのCD63の発現をもたらす。
【0074】
脱顆粒を評価するために、Flow CAST(登録商標)キットを部分的に使用した。この試験は、IgE受容体の抗IgEを含む。
【0075】
CCR3は、C-C型ケモカインの受容体である遺伝子によってコードされるタンパク質である。それはGタンパク質と結合する受容体ファミリー1に属する。好酸球、好塩基球で高発現され、TH1およびTH2細胞、ならびに上皮細胞でも検出される。
【0076】
フローサイトメトリーを用いて、様々な血液細胞を特徴付ける。レーザビームによって、様々な細胞パラメータの評価および測定が可能になる。レーザビームの回折光の正面測定により、細胞の大きさを評価することができる:これは、前方散乱(FSC)である。垂直方向に回折された光の測定により、細胞の粒度(granularity)を評価することができる:これは側方散乱(SSC)である。
【0077】
この粒度は、細胞の内部もしくは表面の不規則性、またはそれを構成するオルガネラの密度によるものであり得る(ass.ens-lyon.fr)。次いで、蛍光マーカーは、様々な細胞亜集団(これらのマーカーは分化抗原群(CD)と併称される)をより良好に特徴付けることを可能にする。本発明者らは脱顆粒プロトコルを選択した。したがって、医学生物学研究室において従来の血液サンプル(NF)の採取を受けた患者の中から4人の患者が無作為に選択された。注釈として、好塩基球が活性化されると、細胞質内顆粒に結合したCD63マーカーが細胞膜と融合する。次いで、それらは細胞の表面で発現される:したがって、活性化された好塩基球はCD63+になる。CD63に加えて、好塩基球に特異的な別のマーカーは、それらをより良好に標的化することを可能にする:これはCCR3(ケモカイン受容体3)である。後者は常にこのタイプの細胞によって発現される。活性化および脱顆粒化された好塩基球は、CD63+およびCCR3+である;非脱顆粒性好塩基球はCD63-およびCCR3+である。まず、中性緩衝液のみを含むサンプルである「陰性対照」サンプルを定義した。後者は、刺激がなく、したがって脱顆粒がない場合に予想される結果を観察するために分析された。[図8]において、CD63-CCR3+領域(青色)のみが、脱顆粒されていない好塩基球に対応する点群を含むことが分かる。
【0078】
したがって、刺激がない場合、細胞は活性化されず、脱顆粒しない。陽性対照サンプルはFcsRI抗体を用いて実施される。
【0079】
ウィンドウ(抗FceRI抗体を用いた陽性対照サンプル)は、CD63+CCR3+領域(赤色)に点群を観察することを可能にする。使用した製品(抗FceRI抗体)は、実際に好塩基球の脱顆粒を誘導する([図7]参照)。
【0080】
図9は、ノスカピンが、抗FceRI抗体によって引き起こされる好塩基球の脱顆粒の活性化を阻止することを示す。
【0081】
ノスカピンは、IgE受容体の刺激を介した脱顆粒を阻害するという驚くべき作用を有すると言える。
【0082】
したがって、ドライアイでは、ノスカピンは2つの作用を有するであろう。1つは、脱顆粒を防止することによる、好塩基球、およびしたがって肥満細胞に対する作用であり、もう1つはCFTRに対する作用である。脱顆粒に対する作用は炎症反応を防ぎ、正常なCFTRに対する作用は、涙腺の分泌だけでなく結膜上皮細胞の分泌も再開させることができる。したがって、ドライアイにおいて非常に不安定で強く乱された涙液層が再構成されるであろう。
【0083】
したがって、ドライアイに対するノスカピンの局所的作用は、CFTRに対する作用と好塩基球および肥満細胞の脱顆粒の阻害という、その2つの薬理作用により、顕著かつ驚くべきものであると思われる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】