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特表2022-535648ゲンチオオリゴ糖の製造における耐熱性β-グルコシダーゼの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ゲンチオオリゴ糖の製造における耐熱性β-グルコシダーゼの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20220803BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20220803BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12P19/00
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N9/24
A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558012
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 CN2020109763
(87)【国際公開番号】W WO2021217960
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】202010342196.8
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】呉敬
(72)【発明者】
【氏名】夏偉
(72)【発明者】
【氏名】盛玲玲
(72)【発明者】
【氏名】黄燕
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD31
4B018ME11
4B018MF12
4B050CC03
4B050DD02
4B050EE03
4B050EE04
4B050FF01
4B050FF03E
4B050FF15E
4B050LL02
4B050LL05
4B050LL10
4B064AF04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB07
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC15
4B064CC24
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE12
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA01Y
4B065AA15X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065BA25
4B065BB37
4B065BC08
4B065BC11
4B065BC26
4B065BD01
4B065BD14
4B065BD15
4B065CA21
4B065CA31
4B065CA41
4B065CA50
(57)【要約】
ゲンチオオリゴ糖の製造における耐熱性β-グルコシダーゼTSBGlの使用。該耐熱性β-グルコシダーゼTSBGlはThermotoga sp.KOL6に由来し、Bacillus subtilis WSHI Iを発現宿主とすることにより、枯草菌におけるtsbgl遺伝子の高効率発現を実現する。前記β-グルコシダーゼTSBGlは、最適温度が90℃、最適pHが6.0であり、90℃では高い熱安定性を有する。1200g/Lグルコースを基質とする反応系に前記β-グルコシダーゼを添加して、pH6.0、90℃で酵素反応を行うと、ゲンチオオリゴ糖の収率は178.2g/Lに達する。この酵素は、食品などの産業への利用に適しており、ゲンチオオリゴ糖の工業的生産に適用できる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え菌が発現するβ-グルコシダーゼを利用してグルコースによるゲンチオオリゴ糖の生成を触媒し、前記組換え菌は枯草菌を発現宿主として、アミノ酸配列が配列番号2で示されるβ-グルコシダーゼを発現することを特徴とする、ゲンチオオリゴ糖の収率向上方法。
【請求項2】
前記β-グルコシダーゼの添加量が300~800U/gグルコースであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルコースの濃度は800~1500g/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
60~100℃、pH5.0~7.0で20~30時間反応させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
β-グルコシダーゼをコードする遺伝子であって、
前記遺伝子のヌクレオチド配列が配列番号1で示されることを特徴とする遺伝子。
【請求項6】
請求項5に記載の遺伝子を運ぶベクター。
【請求項7】
pBSMμL3であることを特徴とする、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
枯草菌を発現宿主として、アミノ酸配列が配列番号2で示されるβ-グルコシダーゼを発現することを特徴とする、組換え菌。
【請求項9】
枯草菌を発現宿主とし、請求項5又は7に記載のベクターを含有することを特徴とする、組換え菌。
【請求項10】
請求項8に記載の組換え菌の発酵によりβ-グルコシダーゼを生産することを特徴とする、β-グルコシダーゼを生産する方法。
【請求項11】
食品及び化粧品の分野におけるゲンチオオリゴ糖含有製品の調製における請求項1~4又は請求項10のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項12】
食品及び化粧品の分野におけるゲンチオオリゴ糖含有製品の調製における請求項5に記載の遺伝子、又は請求項6又は7に記載のベクター、又は請求項8又は9に記載の組換え菌の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲンチオオリゴ糖の製造における耐熱性β-グルコシダーゼの使用に関し、遺伝子工学及び酵素工学の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
β-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)は非還元末端のβ-D-グルコシド結合を特異的に加水分解してグルコースと対応する配位基を放出し得るグルコシド加水分解酵素(Glycoside hydrolysase、GH)である。β-グルコシダーゼは生体内に広く存在し、重要な作用を発揮し、そのアミノ酸配列の特徴の違いにより、主にGH1、GH3、GH5、GH9、GH30及びGH116の6つのファミリーに分布し、その中のほとんどのβ-グルコシダーゼはGH1、GH3ファミリーに属する。GH1とGH3ファミリーのβ-グルコシダーゼは、タンパク質フォールディング、理化学的性質、触媒特性や基質特異性などに差異がある。β-グルコシダーゼは様々な業界に適用でき、例えば、バイオエタノール業界でセロビオースを分解して、生成物の阻害作用を除去したり、加水分解果汁中の風味前駆体である配糖体の呈味増強剤として機能したり、一部のβ-グルコシダーゼは配糖体転化能を有するため一定の合成活性を有しており、従来の化学的方法の代わりとして希少オリゴ糖やアルキルグリコシドなどを合成して食品や化粧品工業に適用でき、その中でも、β-グルコシダーゼにより産生されるゲンチオオリゴ糖は人体の腸内プロバイオティクスの成長を誘導することができ、人体に有益である。
【0003】
ゲンチオオリゴ糖は、2つ以上のβ-1.6-グルコシド結合により連結されるグルコースからなり、ゲンチオビオースと少量のゲンチオトリオースとゲンチオテトラオースを主成分とする新規機能性オリゴ糖である。ゲンチオオリゴ糖はカロリーが低く、食品に使用するとう虫歯のリスクが低く、また、腫瘍を抑制したり、栄養吸収や代謝などを促進したりする機能もある。
【0004】
ゲンチオオリゴ糖の製造方法は多く、初期の研究では、リンドウ属植物の根、茎から抽出するが、還元ビターアーモンドベンゼン法と酸法を利用してデンプンを加水分解した後、その副産物から精製して獲得することもでき、しかし、原料、市場価格などの制限により、その工業化生産が困難になっている。酵素法による製造は、現在、ゲンチオオリゴ糖の工業的生産の主要な手段であり、その常用の反応条件は、低水分活性、高基質濃度下で、β-グルコシダーゼの配糖体転化活性を利用してゲンチオオリゴ糖を合成することであり、得られたゲンチオオリゴ糖の収率はいずれも低く、ほぼ50g/Lであり、転化率は8%程度である。ゲンチオオリゴ糖の収率に影響する2つの重要な要素は反応温度と酵素の配糖体転化活性である。ゲンチオオリゴ糖の収率は温度が高くなるにつれて増加し、その主な理由は、基質であるブドウ糖が高い温度で溶解度が増加し、且つ、受容体である水分子もそれに応じて減少し、それにより、配糖体転化反応の発生を促進し、ゲンチオオリゴ糖の蓄積量を増加させ、同時に高温でも雑菌汚染を防止できることであり、工業的生産の観点から、長時間運転の連続生産系では、酵素の不活性化現象がより顕著になり、生産に深刻な影響を与える。したがって、高温に自然に耐えるβ-グルコシダーゼは工業的生産に非常に重要である。また、現在、ほとんどの研究では、ゲンチオオリゴ糖の製造には主にGH3ファミリーのβ-グルコシダーゼが使用されているが、GH1ファミリーのβ-グルコシダーゼに対する研究は非常に少なく、ゲンチオオリゴ糖の製造におけるGH1ファミリーのβ-グルコシダーゼの使用はまだ開発されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ヌクレオチド配列が配列番号1で示されるβ-グルコシダーゼTSBGlをコードする遺伝子を提供する。
【0006】
本発明の一実施形態においては、前記β-グルコシダーゼTSBGlのアミノ酸配列は配列番号2で示される。
【0007】
本発明は、β-グルコシダーゼTSBGlをコードする遺伝子を運ぶベクターを提供する。
【0008】
本発明の一実施形態においては、前記ベクターの出発ベクターは発現ベクターpBSMμL3であり、ベクター配列は公開番号CN107058205Aの特許に記載されている。
【0009】
本発明は、枯草菌を発現宿主として、アミノ酸配列が配列番号2で示されるβ-グルコシダーゼTSBGlを発現する組換え菌を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態においては、前記枯草菌は公開番号CN108102997Aの特許に記載のBacillus subtilis WSH11である。
【0011】
本発明はβ-グルコシダーゼの生産方法を提供し、前記方法の具体的なステップは以下のとおりである。
(1)前記組換え菌を35~40℃で2~5時間培養して、菌液を得る。
(2)菌液を2500~3500rpmで3~6分遠心分離して、60~90体積%の上清を除去し、残りの10~40体積%の上清をLBプレートに塗布し、35~40℃のインキュベータで10~16時間培養する。
(3)LBプレートから単一コロニーをLB液体培地に採取して7~11時間培養した後、2~6mLの培養液を100mL TB培地に播種し、35~40℃で1.5~3時間培養し、さらに30~34℃で45~50時間培養する。
(4)培養終了後、培養して得た菌液を7000~9000rpmで15~25分遠心分離し、菌体を収集する。
(5)菌体に45~55mLのクエン酸-リン酸二ナトリウム緩衝液を加えて、菌体を再懸濁する。
(6)高圧ホモジナイザーを用いて細胞壁を破壊し、9000~12000rpmで15~25分遠心分離した後、細胞壁破壊上清液である粗酵素液を収集する。
【0012】
本発明の一実施形態においては、ステップ(2)及び(3)培地中、5~15μg/mLのテトラサイクリンが含有される。
【0013】
本発明の一実施形態においては、ステップ(5)では、クエン酸-リン酸二ナトリウム緩衝液の濃度は40~60mM、pHは5.0~7.0である。
【0014】
本発明はゲンチオオリゴ糖の収率向上方法を提供し、前記方法は、前記組換え菌を発酵して得たβ-グルコシダーゼを、グルコースを基質とした系にて反応させて反応液を得、反応液を精製してゲンチオオリゴ糖を得ることである。
【0015】
本発明の一実施形態においては、前記β-グルコシダーゼの添加量は300~700U/gである。
【0016】
本発明の一実施形態においては、前記β-グルコシダーゼの添加量は400~600U/gである。
【0017】
本発明の一実施形態においては、前記グルコースの濃度は800~1500g/Lである。
【0018】
本発明の一実施形態においては、前記グルコースの濃度は1000~1300g/Lである。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記方法は、60~100℃で20~30時間反応させることである。
【0020】
本発明の一実施形態においては、前記方法は、80~100℃で22~25時間反応させることである。
【0021】
本発明は、また、食品及び化粧品の分野でのゲンチオオリゴ糖の製造における前記遺伝子の使用を保護する。
【0022】
本発明は、また、食品及び化粧品の分野でのゲンチオオリゴ糖含有製品の製造における前記ベクターpBSMμL3-tsbglの使用を保護する。
【0023】
本発明は、また、食品及び化粧品の分野でのゲンチオオリゴ糖含有製品の製造における前記β-グルコシダーゼの生産方法の使用を保護する。
【0024】
本発明は、また、食品及び化粧品の分野でのゲンチオオリゴ糖含有製品の製造における前記ゲンチオオリゴ糖の収率向上方法の使用を保護する。
【0025】
本発明は、また、食品及び化粧品の分野でのゲンチオオリゴ糖の製造における前記組換え菌の使用を保護する。
【0026】
本発明の有益な效果は以下のとおりである。本発明は、β-グルコシダーゼの高効率発現方法を提供する。化学法によりThermotoga sp. KOL6に由来するβ-グルコシダーゼTSBGlをコードするヌクレオチド配列を合成し、シャトルプラスミドpBSMμL3を発現ベクター、Bacillus subtilis WSH11を発現宿主とすることによって、枯草菌におけるtsbgl遺伝子の高効率発現を可能とし、β-グルコシダーゼTSBGlは、最適温度が90~100℃、最適pHが6.0であり、90℃では高い熱安定性を有する。β-グルコシダーゼTSBGlは、グルコースを利用して転化しゲンチオオリゴ糖を生成することができ、特に1200g/Lグルコースという高濃度条件下でグルコースを利用して生産することができ、この場合、ゲンチオオリゴ糖の収率は178.2g/Lに達し、β-グルコシダーゼ法によりゲンチオオリゴ糖を合成する場合の最高収率である。したがって、この酵素は食品、医薬などの産業への利用に適しており、ゲンチオオリゴ糖の工業的生産に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】tsbgl遺伝子発現ベクターの構築過程である。
図2】β-グルコシダーゼ精製前後の電気泳動図であり、Mはmarkerであり、レーン1は精製前のβ-グルコシダーゼTSBGl粗酵素液であり、レーン2は精製後のβ-グルコシダーゼTSBGl純酵素である。
図3】様々な温度でのβ-グルコシダーゼの相対酵素活性である。
図4】様々なpHでのβ-グルコシダーゼの相対酵素活性である。
図5】様々な温度でのβ-グルコシダーゼの酵素活性安定性である。
図6】様々な添加量でのβ-グルコシダーゼのゲンチオオリゴ糖の転化率である。
図7】様々な基質濃度でのβ-グルコシダーゼによるゲンチオオリゴ糖製造の転化率である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
β-グルコシダーゼの酵素活性の分析:
(1)酵素活性単位の定義:1mlの酵素液がpNPGを1分加水分解して1μmolのp-ニトロフェノールを生成する酵素活性を1酵素活性単位とする。
相対酵素活性の計算方法:酵素活性=(A405+0.002)*反応系*希釈倍数/(0.0074*反応時間*酵素添加量)。
(2)酵素活性の測定ステップ
反応系を1mLとして、pH5.0の酢酸緩衝液960μLに、適切に希釈した(好ましくは、反応停止時の反応液の405nm吸光度が0.2~1.2の範囲である)粗酵素液20μLを加え、次に100mmol/L pNPGを20μL加え、60℃の恒温ウォーターバスにて10分反応させ、10分後、直ぐ1mol/L NaCO溶液200μLを加えて反応を停止し、氷浴で5分処理し、405nmで光吸収値を測定する。加熱により不活化した酵素液を同様な方法で処理してブランクコントロールとする。
LB培地:酵母粉5g/L、トリプトン10g/L、NaCl 10g/L。
TB培地:酵母粉24g/L、グリセリン5g/L、トリプトン12g/L、KHPO・3HO 16.43g/L、KHPO 2.31g/L。
RM培地:酵母エキス5.0g/L、トリプトン10.0g/L、NaCl 10.0g/L、ソルビトール90.0g/L、マンニトール70.0g/L。
【0029】
β-グルコシダーゼTSBGlの精製:
(1)組換え菌の細胞壁破壊上清液500mLに35%の固体硫酸アンモニウム50mLを加えて一晩(12時間)塩析する。
(2)塩析後の粗酵素液を4℃、10000rpmで20分遠心分離し、20mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、20mMイミダゾールを含有するpH7.4の緩衝液Aで沈殿を溶解し、緩衝液Aにて一晩(12時間)透析した後、0.22μm膜でろ過し、注入(充填)サンプルとする。
(3)Niアフィニティーカラムを緩衝液Aで平衡化した後、注入サンプルをNiカラムに吸い込み、完全に吸着した後、緩衝液Aを100mL、20~480mMイミダゾールを含有する緩衝液Aを100mL、480mMイミダゾールを含有する緩衝液Aを100mLのそれぞれを用いて、流速1mL/分で溶出することで、480mMイミダゾールを含有する緩衝液Aで目的蛋白であるβ-グルコシダーゼを溶出し、この画分の溶出液を収集する。
(4)上述480mMイミダゾールを含有する蛋白溶出液をpH6.0、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液にて一晩透析して、精製したβ-グルコシダーゼの酵素製品を得る。
(5)精製後の組換えβ-グルコシダーゼを電気泳動する。精製後の電気泳動図を図2に示す。
【0030】
実施例1:tsbgl遺伝子含有発現ベクターの構築
Genbankデータベースにおけるサーモトガ(Thermotoga sp KOL6)β-グルコシダーゼTsbglのアミノ酸配列(WP_101510358)に従って、ヌクレオチド配列が配列番号1で示される遺伝子を化学的に合成した。
合成した遺伝子断片とpET-24aを酵素消化後(酵素消化部位:Nde IとEcoR I)、連結して連結産物を得て、連結産物を熱ショック形質転換法により大腸菌E.coli.JM109に形質転換した。形質転換産物を得て、形質転換産物をLB固体培地(0.05mg/mLカナマイシン含有)に塗布し、37℃の恒温インキュベータで8~12時間倒置培養し、形質転換体を得た。
熱ショック形質転換法:
(1)E.coli.JM109コンピテント細胞を氷に5分放置しておき、コンピテント細胞が完全に溶けた後、完全なプラスミド又はPCR産物を10μL加え、優しくピペッティングして均一にした後、氷に45分放置した。
(2)コンピテント細胞を42℃の水浴鍋に入れて90秒熱ショックし、熱ショック終了後、氷に5分放置した。
(3)氷浴終了後、コンピテント細胞にLB液体培地0.8mLを加え、均一に混合した後、37℃のシェーカーに入れて約60分振とう培養した。
(4)培養が終了したコンピテント細胞を3000rpmで5分遠心分離し、一部の上清液を捨てて、200μL程度の発酵液を残して菌体を再びピペッティングして再懸濁させ、10μg/mLアンピシリン抗生物質含有のLB固体プレートに塗布し、37℃インキュベータで約10時間静置培養し、プレートに単一コロニーを成長させた。
モノクローナルコロニーを10μg/mLアンピシリン含有の耐性LB液体培地に播種し、37℃、120~180rpmの条件下、振とうフラスコ培養を8~12時間行った後、プラスミドを抽出して酵素消化による検証及び配列決定による検証を行い、検証が正確であると組換えプラスミドpET24a-tsbglが得られた。
プラスミドpET24a-tsbglとpBSMμL3をテンプレートとして、上下流に15bpホモロジーアームを含む目的遺伝子プライマーとベクタープライマーをそれぞれ設計し、ホモロジーアームを備える目的遺伝子断片tsbgl(プライマー1と2)及びテンプレート断片pBSMμL3(プライマー3と4)をPCRにより増幅した。
プライマー1:TAAGGAGTGTCAAGAATGAGCATGAAAAAGTTTCCGGAAG(配列番号3);
プライマー2:TTTATTACCAAGCTTTTAATCTTCCAGGCCGTTATTTTTAATAAC(配列番号4);
プライマー3:AAGCTTGGTAATAAAAAAACACCTC(配列番号5);
プライマー4:CATTCTTGACACTCCTTATTTG(配列番号6)。
PCR系:2×Super PfxMasterMix25μL、2本のプライマー各1.25μL、ddHO 22μL、テンプレート0.5μL。
反応条件:(1)94℃、4分、(2)94℃、1分、(3)55℃、1分、(4)72℃、2分、(2)~(4)を35サイクル増幅後、(5)72℃、5分、(6)4℃で温度を保持し;それぞれ増幅して目的遺伝子断片tsbgl及びテンプレート断片pBSMμL3を得た。
増幅した断片をゲル回収キット(天根生化科技有限公司)で回収し、配列決定による検証を行い、配列決定による検証の結果が正確である2本の回収断片を、In-Fusion HD Cloning Plus kitキットで連結し、連結系として遺伝子断片400 ng、ベクター断片200ng、5×In-Fusion HD Enzyme Premix2μLを用いて、水で10μLとなるまで補充し、連結系を50℃で25分反応し、連結産物を得て、連結産物をクローン宿主JM109(具体的な実施形態は以上の熱ショック形質転換法を参照)に形質転換して、LB固体培地(10μg/mLアンピシリン含有)に塗布し、37℃で8~10時間培養後、単一コロニーをピックアップして100mg/Lアンピシリン含有のLB液体培地に播種し、37℃で10時間培養後、菌体を収集してプラスミドを抽出し(プラスミド抽出キットは天根生化科技有限公司から購入)、pBSMμL3-tsbglプラスミド(図1)を得、酵素消化により検証をして専門会社に配列決定による検証をしてもらった。
【0031】
実施例2:枯草菌発現宿主の形質転換培養及び粗酵素液の抽出
酵素消化による検証及び配列決定の結果が正確である組換えプラスミドpBSMμL3-tsbglを線形化した後、Bacillus subtilis WSH11(Bacillus subtilis WSH11は公開番号CN108102997Aの特許に記載)にエレクトロプロレーションした。組換えプラスミドpBSMμL3-tsbglをBacillus subtilis WSH11コンピテント細胞に電気ショックで形質転換した:
(1)Bacillus subtilis WSH11コンピテント細胞を氷上に5分放置しておき、コンピテント細胞が完全に溶けた後、組換えプラスミド10μLを加え、優しくピペッティングして均一にした後、氷上に15分放置した。
(2)エレクトロポレーターを予め起動して30分予熱し、電気ショック電圧を2400Vに設定して、氷浴が終了したコンピテント細胞を、事前に予冷した直径2mmのエレクトロポレーションキュベットに加え、エレクトロポレーションキュベットの外壁に付いた水を拭いた後、エレクトロポレーションキュベットをエレクトロポレーターに入れて電気ショック(エレクトロポレーション)をした。
(3)電気ショック終了後、事前に予冷したRM培地1mLを素早く加え、均一にピペッティングした後、菌液を殺菌したEP管1.5mLに移し、37℃のシェーカーに入れて、200rpmで3時間振とう培養した。
(4)培養が終了した菌液を3000rpmで5分遠心分離し、一部の上清液を捨てて、200μL程度の上清液を残して菌体を改めてピペッティングして再懸濁させ、テトラサイクリン耐性を有するLB固体プレートに塗布し、37℃のインキュベータで約10時間培養し、プレートに単一コロニーを成長させた。
(5)単一コロニーを取り、配列決定により検証をして、プラスミドpBSMμL3-tsbglを含有する陽性形質転換体を得た。
組換えプラスミドpBSMμL3-tsbglを含有する陽性形質転換体をLB液体培地(10μg/mLテトラサイクリン含有)に播種して8~10時間培養した後、培養液5mLをTB培地100mLに播種し、37℃で2時間培養し、さらに33℃で48時間培養し、発酵終了後、8000rpmで20分遠心分離して菌体を収集した。50mM、pH6.0クエン酸-リン酸二ナトリウム緩衝液50mLを菌体に加え、菌体を十分に再懸濁させた後、高圧ホモジナイザーを用いて細胞壁を破壊し、10000rpmで20分遠心分離後、細胞壁破壊上清液である粗酵素液を収集し、OD600が5である粗酵素液の酵素活性は10.41U/mLであった。
収集した粗酵素液を精製して、電気泳動を行い、精製後の電気泳動図を図2に示す。
【0032】
実施例3:β-グルコシダーゼTSBGlの使用条件の決定
(1)β-グルコシダーゼTSBGlの最適温度
pNPGを基質として、実施例2で得た精製後のβ-グルコシダーゼを酵素活性測定反応系に加え、pHを6.0として様々な温度で反応させ、酵素活性を測定し、その相対酵素活性を算出して、結果を図3に示し、具体的なデータを表1に示し、以上から、β-グルコシダーゼの最適温度は90℃であることが分かり、90~100℃では、相対酵素活性は85%以上に達する。
(2)β-グルコシダーゼTSBGlの最適pH
pNPGを基質として、実施例2で得た精製後のβ-グルコシダーゼを酵素活性測定反応系に加え、様々なpH下、90℃の恒温水浴にて10分反応させた。反応後の酵素活性を測定し、その相対酵素活性を算出し、結果を図4に示し、具体的なデータを表2に示し、以上から、β-グルコシダーゼの最適pHは6.0であることが分かった。
(3)β-グルコシダーゼTSBGlの熱安定性
pNPGを基質として、実施例3で得た精製後のβ-グルコシダーゼを酵素活性測定反応系に加え、pH6.0では、それぞれ70℃、80℃、90℃の温水浴にて60分間反応させ、60分間内に酵素の酵素活性を測定し、その相対酵素活性を算出し、結果を図5に示し、60分間になったときには、β-グルコシダーゼTSBGlは、70℃、80℃、90℃での相対酵素活性がそれぞれ99.18%、99.31%、99.81%であった。β-グルコシダーゼは、90℃では高い熱安定性を有した。
【0033】
実施例4:ゲンチオオリゴ糖の製造におけるβ-グルコシダーゼTSBGlの使用
800g/Lのグルコースを基質として、pH6、90℃で24時間時間反応させ、酵素添加量を300U/g、400U/g、500U/g、600U/g、700U/gとして、高濃度グルコースを基質として逆加水分解活性によりゲンチオオリゴ糖を合成する場合の酵素添加量を研究した。
図6に示す実験結果から、所定の範囲では、基質の転化率は酵素添加量の増加に伴い向上し続けて、酵素添加量が500U/gグルコースに達すると、基質の転化率は10.94%に達し、さらに酵素添加量を増加させると、転化率はほぼ変わらなかった。総合的に考慮すると、500U/gの酵素添加量を選択し、この場合、基質の転化率は10.94%、ゲンチオオリゴ糖の収率は73g/Lに達する。
【0034】
実施例5:β-グルコシダーゼTSBGlの高基質濃度でのゲンチオオリゴ糖の製造における使用
具体的な実施方法は実施例4を参照できるが、酵素添加量を500U/gグルコースとし、且つβ-グルコシダーゼTSBGlの高温反応の特性により高温でより高い基質濃度下の逆加水分解合成反応を可能とする点が異なり、このため、グルコース基質の濃度(それぞれ800g/L、900g/L、1000g/L、1100g/L、1200g/L)によるゲンチオオリゴ糖の逆加水分解合成の場合の収率及び転化率への影響を調べた。
図7に示す実験結果から、グルコース基質の最終濃度が800g/L、900g/L、1000g/L及び1100g/Lである場合、基質の転化率はそれぞれ10.42%、12.72%、14.43%、14.82%であり、グルコース基質の最終濃度が1200g/Lである場合、ゲンチオオリゴ糖の収率は178.2g/Lに達し、基質の転化率は14.85%であり、これは、今まで該方法によりゲンチオオリゴ糖を合成する最高収率であった。
【0035】
好適な実施例をもって本発明を以上のように開示したが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、各種の変化や修正を行うことができ、このため、本発明の特許範囲は特許請求の範囲により定められるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022535648000001.app
【国際調査報告】