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特表2022-535673熱を用いたプロテーゼのコーティング法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-10
(54)【発明の名称】熱を用いたプロテーゼのコーティング法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
A61L27/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564233
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(85)【翻訳文提出日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 KR2020005998
(87)【国際公開番号】W WO2020231073
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0055173
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】519245507
【氏名又は名称】ビーエス リサーチ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BS Research CO.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カン、ソン ア
(72)【発明者】
【氏名】チェ、テ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジ ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、スル ア
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン ア
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミ オク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、シアン
(72)【発明者】
【氏名】メイダンガン、オボイ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジ ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ビョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ウン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ヤン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB36
4C081AB38
4C081BA12
4C081BB09
4C081BC01
4C081CA021
4C081CA081
4C081CA082
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA231
4C081CA251
4C081CA271
4C081CC05
4C081CE11
4C081CF031
4C081DA01
4C081DC03
4C081EA06
4C081EA12
(57)【要約】
本発明は、熱を用いたプロテーゼのコーティング法に関し、具体的には、プロテーゼの物理的特性は維持したまま、表面のみ熱を用いて生体適合性高分子でコーティングする方法に関する。
本発明の熱を用いてプロテーゼをコーティングする方法は、3次元的な材料の表面に効果的に生体適合性高分子を導入することができ、光を用いる場合の空間的な限界を克服することができ、大量にコーティングすることができるので、生体適合性高分子コーティングプロテーゼの製造に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱開始剤をプロテーゼに吸着させるステップと、
熱開始剤を吸着させたプロテーゼに、アクリレート基を有する両性イオン単量体及び架橋剤を含む溶液を加え、その後加熱するステップとを含む、プロテーゼのコーティング法。
【請求項2】
前記熱開始剤は、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide; BPO)、過酸化ラウロイル(lauroyl peroxide)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tert-butyl hydroperoxide)、クメンヒドロペルオキシド(cumene hydroperoxide; CHP)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(di-tert-butyl peroxide; DTBP)、過酸化ジクミル(dicumyl peroxide; DCP)、アゾビスイソブチロニトリル(azobisisobutyronitrile; AIBN)、ペルオキソ二硫酸カリウム(potassium persulfate; KPS)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(ammonium persulfate; APS)、VA-044、V-50、VA-057、VA-061、VA-086、V-501、V-70、V-65、V-601、V-59、V-40及びVAm-110からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項3】
前記熱開始剤は、アクリレート基を有する両性イオン単量体に対して10~50mol%の量で用いる、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項4】
前記プロテーゼは、ポリジメチルシロキサン系(polydimethylsiloxane; PDMS)、ヒドロキシアパタイト(hydroxylapatite; HA)、ポリ乳酸系(polylactic acid; PLA)、ポリグリコール酸系(polyglycolic acid; PGA)、ポリテトラフルオロエチレン系(polytetrafluoroethylene; PTFE)、ポリエチレンテレフタレート系(polyethylene terephthalate; PET)、ポリプロピレン系(polypropylene)、ポリアミド系(polyamide)、ポリアセタール系(polyacetal)、ポリエステル系(polyester)及びポリメチルメタクリレート系(polymethyl metacrylate)からなる群から選択されるいずれかの表面材質を有するものである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項5】
前記アクリレートを有する両性イオン単量体は、ホスホリルコリン(phosphorylcholine; PC)、スルホベタイン(sulfobetine; SB)及びカルボキシベタイン(carboxybetaine; CB)からなる群から選択される少なくとも1つを含むアクリレート系単量体である、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項6】
前記アクリレート基を有する両性イオン単量体は、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(methacryloyloxyethyl phosphorylcohline; MPC)、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(acryloyloxyethyl phosphorylcholine; APC)、スルホベタインメタクリレート(sulfobetaine methacrylate)、スルホベタインアクリレート(sulfobetaine acrylate)、カルボキシベタインメタクリレート(carboxybetaine methacrylate)及びカルボキシベタインアクリレート(carboxybetaine acrylate)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項7】
前記架橋剤は、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、イソシアナトエチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ノルマルブチルメタクリレート及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項8】
前記加熱は、60~100℃で行うものである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【請求項9】
前記加熱は、1~18時間行うものである、請求項1に記載のプロテーゼのコーティング法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱を用いたプロテーゼのコーティング法に関し、具体的には、プロテーゼの物理的特性は維持したまま、表面のみ熱を用いて生体適合性高分子でコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の高度化及び老齢化に伴い、生体内に移植可能な人工組織及び臓器を提供するための様々な生体材料の開発の必要性が高まっている。よって、様々な生体材料の開発のための多角的な努力がなされているにもかかわらず、活用可能な生体適合性(biocompatibility)材料は依然として不足している現状であり、現在市販されている材料も多くの場合は副作用を伴うものである。豊胸/乳房再建術に用いられる形成外科用プロテーゼが体内に挿入されたときに発生するカプセル拘縮が代表的な副作用の例である。広く用いられている乳房形成用プロテーゼの表面はポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane; PDMS)という材料からなるが、実際の乳房組織とは異なる化学的性質のために、豊胸/乳房再建術を受けた患者の約17.5%は、プロテーゼの周辺を正常でない線維組織が覆うカプセル拘縮(又は被膜拘縮;capsular contracture)という副作用を経験する。このような副作用が発生すると外科的手術により除去する以外に特に治療法がない現状であり、外科的手術により除去したとしても、組織細胞がプロテーゼの表面に大量に吸着した場合は完全な除去も容易でなく、深刻な後遺症を伴うことがある。このような副作用は、患者に痛みを与えるだけでなく、精神的/経済的に患者の生活の質を低下させ、治療及び管理コストの増加により莫大な医療費の支出が強いられるという社会経済的損失をもたらし得る。
【0003】
前述したように、いかなるプロテーゼであっても生体内に挿入されると、生体外の異物(foreign body)を組織から分離しようとする防御機序により被膜(capsule)を形成し、過度な被膜拘縮は身体反応によるコラーゲン繊維被膜(collagen-fiber capsule)の肥厚により痛みを誘発し、プロテーゼの変形を招く。外部から挿入された多くの人工プロテーゼは、生体内で異物と認識されて体液内の各種タンパク質が吸着し、後続の各種生化学的過程により血栓形成、免疫反応、組織変形、壊死及び/又は退行をもたらす。よって、プロテーゼの表面を生体適合性物質でコーティングして異物と認識されないように予防することが、被膜拘縮の減少を含む生体適合性プロテーゼの完成に最も重要な要素であるといえる。現在、プロテーゼの生体内における過度な異物反応により発生する被膜拘縮を減らすために、挿入位置を変えたり、抗生剤で洗浄したり、ステロイドを用いたり、プロテーゼの表面に質感(textured)加工を施すなどの様々な試みが行われているが、いまだプロテーゼを異物と認識する機序を根本的に防止する方法は見出されていない現状である。
【0004】
体内挿入用プロテーゼの代表的な表面材質として用いられているポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane; PDMS)ベース物質は、高い酸素透過度、優れた機械的物性、光学的透明度、セルフシーリング(self-sealing)、便利な加工性及び化学的安定性により、眼科生体材料、微細流体装置、人工肺及び人工指関節などの様々な医療機器に適用されている。しかし、PDMSの内在性疎水性及び生体付着性、例えば物質に対する非特異的タンパク質吸着は、血栓形成、異物反応、バクテリア感染及びその他好ましくない反応を引き起こすので、PDMSを生体材料として活用する上で大きな制約となっている現状であり、PDMSの表面特性を改質する方法が求められている。
【0005】
生体模倣型合成リン脂質重合体(biomimetic synthetic phospholipid polymer)、特にMPC(2-methaacryloyloxyethyl phosphorylcholine)の重合体であるPMPC(poly(methacryloyloxyethyl phosphorylcholine))は、人体の生体膜を構成するリン脂質の一つであるホスファチジルコリン(phosphatidyl choline)の頭部(head)に類似した構造であり、生体適合性(biocompatibility)、血栓形成防止などの血液適合性(hemocompatibility)、タンパク質又は細胞吸着防止などの効果を示すので、薬物伝達、組織工学及びその他様々な生体物質の表面物質として研究されている。
【0006】
近年、UVを用いて生体模倣型高分子を重合することによりプロテーゼをコーティングする方法(非特許文献1)に関する研究が行われているが、UVを照射して高分子を重合する方法は、素材が透明性を有するか、光が直接当たる部分に限定されるので、3次元的に複雑な構造の材料においては光照射が困難であるという問題がある。
【0007】
こうした背景の下、本発明者らは、材料の外形に関係なく、表面に効果的に強固な高分子を導入すべく鋭意研究を重ねた結果、3次元的に均一に適用することのできる熱を用いると、効果的に生体適合性高分子を導入することができ、光を用いる場合の空間的な限界を克服することができ、大量にコーティングすることができるので、コーティングしたプロテーゼの製造に有用であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Goda, T. et al., Biomaterials; 2006; Vol.27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱開始剤をプロテーゼに吸着させるステップと、熱開始剤を吸着させたプロテーゼに、アクリレート基を有する両性イオン単量体及び架橋剤を含む溶液を加え、その後加熱するステップとを含む、プロテーゼのコーティング法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、熱開始剤をプロテーゼに吸着させるステップと、熱開始剤を吸着させたプロテーゼに、アクリレート基を有する両性イオン単量体及び架橋剤を含む溶液を加え、その後加熱するステップとを含む、プロテーゼのコーティング法を提供する。
【0011】
従来、光開始剤に紫外線を照射する方法でプロテーゼをコーティングする場合、材料の3次元的な形状に大きく影響されるという問題があった。それに対して、熱を用いてコーティングする本発明の場合、光を用いてコーティングする場合と比較して、同程度の被膜拘縮抑制効果を有しながらも、様々な3次元的形態を有する材料の表面に効果的に生体適合性高分子を導入することができ、光照射における空間的な限界を克服できるという特徴がある。
【0012】
本発明の具体的な一実施例によれば、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクにおいて、光を直接受けたディスクの上面のみ親水性が導入されて水接触角が大幅に減少するのに対して、光を直接受けていない下面の水接触角は上面ほど減少しないことが確認された。それに対して、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクは、上面と下面の水接触角が均一に減少することが確認された(図2)。よって、熱処理を行うと、光照射における空間的限界を克服することができ、3次元的な形状に制限がなく、効果的にコーティングを導入できることが分かった。
【0013】
本発明の具体的な一実施例によれば、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面は、35~40nmにおいてのみ窒素とリンが検出されたのに対して、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面は、75~85nmにおいても窒素とリンが検出され、それ以上の深さにおいても検出される可能性が確認された(図4)。よって、光を用いて架橋したPMPCでコーティングする場合に比べて、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングする場合の方が厚いコーティング層を導入できることが分かった。
【0014】
本発明のプロテーゼコーティング法は、熱開始剤をプロテーゼに吸着させるステップを含む。このように、熱開始剤をプロテーゼの表面に物理的に吸着させると、単に重合溶液に開始剤を含ませて加熱するより、プロテーゼの表面における重合が促進される。
【0015】
本発明における「熱開始剤(thermal initiator)」とは、加熱されるとラジカルを形成する物質を意味する。よって、前記熱開始剤を加熱してラジカルを形成することにより、ラジカル重合(radical polymerization)反応を誘発することができる。前記ラジカル重合反応は、フリーラジカルの連続的な添加により高分子を形成する重合方法であり、前記ラジカルは、一般に別途の開始剤分子により様々な機序で形成される。
【0016】
一旦反応が始まると、形成されたラジカルは二重結合を含む高分子単量体から1つのπ結合電子を用いて安定した単結合を形成し、前記二重結合は単結合に変換されてラジカルと結合を形成しない他の炭素に余分な電子を含む新たなラジカルを形成する。前述したように形成された新たなラジカルにより前述した過程を繰り返すと高分子鎖を成長させることができる。
【0017】
本発明における前記熱開始剤は、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide; BPO)、過酸化ラウロイル(lauroyl peroxide)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tert-butyl hydroperoxide)、クメンヒドロペルオキシド(cumene hydroperoxide; CHP)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(di-tert-butyl peroxide; DTBP)、過酸化ジクミル(dicumyl peroxide; DCP)、アゾビスイソブチロニトリル(azobisisobutyronitrile; AIBN)、ペルオキソ二硫酸カリウム(potassium persulfate; KPS)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(ammonium persulfate; APS)、VA-044、V-50、VA-057、VA-061、VA-086、V-501、V-70、V-65、V-601、V-59、V-40及びVAm-110からなる群から選択されるいずれかであり、具体的には過酸化ベンゾイルであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明における前記熱開始剤は、アクリレート基を有する両性イオン単量体に対して10~50mol%の量で用いることができ、具体的には15~50mol%、20~50mol%、30~45mol%、35~45mol%、38~42mol%の量で用いることができ、より具体的には40mol%の量で用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
熱開始剤の使用量が前記範囲の下限より少ないと、すなわち10mol%未満であると、表面で生成される高分子の量、例えば高分子鎖の数及び/又は各高分子鎖の長さ(分子量)が大幅に減少することにより、プロテーゼの表面を十分にカバーすることができない。一方、熱開始剤の使用量が前記範囲の上限より多いと、すなわち50mol%を超えると、不要な試料の浪費を招く。
【0020】
本発明における「プロテーゼ」とは、「体内挿入用プロテーゼ」ともいい、損傷又は欠損した生体組織の再建もしくは代替、美容整形又は治療のために身体内に挿入する構造物を意味し、具体的には、豊胸又は乳房再建用プロテーゼであるが、これらに限定されるものではない。また、前記プロテーゼは、固体の構造物、流動性を有する密閉された袋状の構造物などの形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明のコーティングは、アクリレート基を有する両性イオン単量体のアクリレート基とプロテーゼの外部表面の共有結合によるものであるので、本発明のコーティング法によりコーティングできるプロテーゼは、重合溶液の一成分であるアクリレート基を有する両性イオン単量体がアクリレート基のC=C結合を含む末端を介してプロテーゼの外部表面に共有結合できるように、熱開始剤により前記アクリレートのC=C結合を含む末端と結合を形成できるラジカルを供給する官能基を含む物質であってもよい。金属や親水性のエチレン系材料を除く、当該技術分野で公知のプロテーゼに用いられる材料であれば、いかなるものを用いてもよい。
【0022】
本発明における前記プロテーゼは、ポリジメチルシロキサン系(polydimethylsiloxane; PDMS)、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite; HA)、ポリ乳酸系(polylactic acid; PLA)、ポリグリコール酸系(polyglycolic acid; PGA)、ポリテトラフルオロエチレン系(polytetrafluoroethylene; PTFE)、ポリエチレンテレフタレート系(polyethylene terephthalate; PET)、ポリプロピレン系(polypropylene)、ポリアミド系(polyamides)、ポリアセタール系(polyacetal)、ポリエステル系(polyester)及びポリメチルメタクリレート系(polymethyl metacrylate)からなる群から選択されるいずれかの表面材質を有するものであり、具体的にはポリジメチルシロキサン系(polydimethylsiloxane; PDMS)表面材質を有するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のコーティング法は、熱開始剤を吸着させたプロテーゼに、アクリレート基を有する両性イオン単量体及び架橋剤を含む溶液を加え、その後加熱するステップを含む。このように加熱して重合すると、光を照射して重合するより3次元的な材料の表面に効果的に生体適合性高分子を導入することができ、光を用いる場合の空間的限界を克服することができ、大量にコーティングすることができる。
【0024】
前記アクリレート基を有する両性イオン単量体及び架橋剤を含む溶液を重合溶液ともいう。
【0025】
本発明における「アクリレート基を有する両性イオン単量体」とは、1つの分子内に陽イオンと陰イオンが共存することにより両性イオン特性を示すアクリレート系単量体を意味する。両性イオン特性を示す物質は、陽イオン、陰イオンの電荷により水分子と強い水素結合を形成するので、周囲に水和層を形成することができ、非特異的なタンパク質や細胞の粘着を効果的に防止することができる。このような両性物質による非特異的吸着抑制は、プロテーゼの体内挿入時に起こる一連の血栓形成、免疫反応、組織変形、線維性カプセル形成などの減少につながる。
【0026】
本発明における前記アクリレート基を有する両性イオン単量体は、具体的な化学式に限定されるものではなく、ある形態で連結されたリンと窒素を含むホスホリルコリン(phosphorylcholine; PC)、硫黄と窒素を含むスルホベタイン(sulfobetaine; SB)、及び炭素と窒素を含むカルボキシベタイン(carboxybetaine; CB)からなる群から選択される少なくとも1つを含むアクリレート系単量体であればいかなるものでもよい。具体的には、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(methacryloyloxyethyl phosphorylcholine; MPC)又はアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(acryloyloxyethyl phosphorylcholine; APC)、スルホベタインメタクリレート(sulfobetaine methacrylate)、スルホベタインアクリレート(sulfobetaine acrylate)、カルボキシベタインメタクリレート(carboxybetaine methacrylate)及びカルボキシベタインアクリレート(carboxybetaine acrylate)からなる群から選択される少なくとも1つであり、より具体的には、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明における前記架橋剤は、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、イソシアナトエチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ノルマルブチルメタクリレート及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであり、具体的には、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート又はジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明における前記架橋剤は、アクリレート基を有するホスホリルコリン単量体に対して0.01~2.0mol%の量で用いることができ、具体的には0.01~2.0mol%、0.1~1.8mol%、0.5~1.5mol%、0.8~1.2mol%、0.9~1.1mol%の量で用いることができ、より具体的には1.0mol%の量で用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
架橋剤の使用量が前記範囲の下限より少ないと、すなわち0.01mol%未満であると、架橋結合が十分に行われなくて所望の物性を示すことができなかったり、所望のコーティング強度が得られないため、洗浄過程で剥離することがある。一方、架橋剤の使用量が前記範囲の上限より多いと、すなわち2.0mol%を超えると、過剰な交差結合によりプロテーゼが所望の弾性を有することができず、過度に硬化することがあり、不要な試料の浪費を招く。
【0030】
本発明における加熱は、当該技術分野で公知のいかなる方法を用いて行ってもよく、具体的には予熱したオイルバス(oil bath)を用いて行ってもよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明における加熱する温度は、プロテーゼの種類、熱に対する感度などにより異なり、当業者であれば適宜選択することができる。また、加熱する時間は、プロテーゼを加熱する温度により異なり、当業者であれば適宜選択することができる。
【0032】
具体的には、前記加熱は、60~100℃で行うことができ、より具体的には、60~95℃、65~90℃、65~85℃、65~75℃、68~73℃、69~71℃、65~99℃、70~98℃、75~97℃、80~96℃、85~95℃、90~94℃、91~93℃、65~95℃、70~92℃で行うことができ、さらに具体的には、70℃又は92℃で行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
具体的には、前記加熱は、1~18時間行うことができ、より具体的には、1~17時間、1~16時間、1~15時間、1~12時間、1~10時間、1~8時間、1~5時間、1~3時間、3~17時間、5~17時間、8~17時間、10~17時間、12~17時間、15~17時間行うことができ、さらに具体的には、1.5時間又は16時間行うことができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の熱開始剤をプロテーゼに吸着させるステップは、より具体的には、熱開始剤と架橋剤を含む開始剤溶液にプロテーゼを浸漬するステップと、乾燥させるステップとから構成されてもよい。
【0035】
本発明の熱開始剤を吸着させたプロテーゼに、アクリレート基を有するホスホリルコリン(phosphorylcholine; PC)単量体及び架橋剤を含む溶液を加え、その後加熱するステップは、アクリレート基を有するホスホリルコリン(phosphorylcholine; PC)単量体及び架橋剤を含む溶液に熱開始剤を吸着させたプロテーゼを浸漬するステップと、加熱するステップとから構成されてもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明の熱を用いてプロテーゼをコーティングする方法は、3次元的な材料の表面に効果的に生体適合性高分子を導入することができ、光を用いる場合の空間的な限界を克服することができ、大量にコーティングすることができるので、生体適合性高分子コーティングプロテーゼの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク(Noncoated)、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)の表面の水接触角を示す図である。
図2】光を用いてPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いてPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)の上面と下面の表面の水接触角を示す図である。
図3】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面の表面元素分析結果を示す図である。
図4】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの各深さにおける表面元素分析結果を示す図である。
図5】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの抗圧力変化を示す図である。
図6】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面におけるBSA吸着を示す図である。
図7】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面におけるBPF吸着を示す図である。
図8】架橋したPMPCでコーティングしていないディスク、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面における線維芽細胞粘着を示す図である。
図9】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入2カ月後の表面における被膜の厚さを示す図である。
図10】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入2カ月後の細胞充実度(cellularity)及び血管分布(vascularity)を示す図である。
図11】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入2カ月後の炎症関連因子発現の程度を示す図である。
図12】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入6カ月後の表面における被膜の厚さを示す図である。
図13】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入6カ月後の細胞充実度(cellularity)及び血管分布(vascularity)を示す図である。
図14】架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの豚への挿入6カ月後の炎症関連因子発現の程度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
コーティングしたプロテーゼの製造
実施例1-1.光を用いてコーティングしたプロテーゼの製造(比較例)
光開始剤としての0.055Mのベンゾフェノン(benzophenone)、及び架橋剤としての2.5mMのジペンタエリスリトールペンタ(又はヘキサ)アクリレート(dipentaerythritol penta(or hexa)acrylate)をアセトン(acetone)又はエタノール(ethanol)溶媒に溶解して開始剤溶液を作製した。その後、シリコン乳房プロテーゼ(Mentor, 125cc)を前記開始剤溶液に十分に浸かるように1分間浸漬し、次いで乾燥させた。架橋剤としての5.0mMのエチレングリコールジメタクリレート(ethylene glycol dimethacrylate; EGDMA)、及び単量体としての0.25Mのメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(methacryloyloxyethyl phosphorylcholine; MPC)を蒸留水に溶解して重合溶液を作製した。前記重合溶液に開始剤を吸着させたプロテーゼを浸漬し、その後ラジカル重合反応によりプロテーゼがコーティングされるように、18.4cmの距離で紫外線(UV)を10分間照射した。前述したようにコーティングしたプロテーゼは、以後の分析に用いる前に、超音波で10分間、1回の処理を施して洗浄することにより、余分の反応物を除去した。前記超音波を用いる洗浄方法は一般に用いられる洗浄方法に比べて多少強力な方法であるが、生体内移植後の動きなどによるコーティングの剥離などを模倣するために、このように多少強力な洗浄方法を用いた。
【0040】
実施例1-2.熱を用いてコーティングしたプロテーゼの製造
熱開始剤としての0.1Mの過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)、及び架橋剤としてのMPCに対して0.5mol%のジペンタエリスリトールペンタ(又はヘキサ)アクリレート(dipentaerythritol penta(or hexa)acrylate)を1:1の比率のMC及びアセトン混合溶媒に溶解して開始剤溶液を作製した。その後、シリコン乳房プロテーゼ(Mentor, 125cc)を前記開始剤溶液に十分に浸かるように1分間浸漬し、次いで乾燥させた。架橋剤としてのMPCに対して1mol%のエチレングリコールジメタクリレート(ethylene glycol dimethacrylate; EGDMA)、及び単量体としての0.25Mのメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(methacryloyloxyethyl phosphorylcholine; MPC)を蒸留水に溶解して重合溶液を作製した。前記重合溶液に開始剤を吸着させたプロテーゼを十分に浸かるように浸漬し、その後ラジカル重合反応によりプロテーゼがコーティングされるように、予熱したオイルバス(oil bath)を用いて92℃で90分間又は70℃で16時間加熱した。前述したようにコーティングしたプロテーゼは、以後の分析に用いる前に、超音波で10分間、1回の処理を施して洗浄することにより、余分の反応物を除去した。前記超音波を用いる洗浄方法は、一般に用いられる洗浄方法に比べて多少強力な方法であるが、生体内移植後の動きなどによるコーティングの剥離などを模倣するために、このように多少強力な洗浄方法を用いた。
【実施例2】
【0041】
コーティングした表面性質の分析
プロテーゼのコーティングした表面性質を分析するために、プロテーゼの表面と同じ化学的構造であるポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane; PDMS)で構成されたSylgard(登録商標) 184シリコンディスク(Dow Corning)を硬化させて作製し、その後直径15mmの円形ディスクにして準備し、実施例1と同様にコーティングした。
【0042】
実施例2-1.コーティングした表面の水接触角変化の分析
架橋したPMPCでコーティングしていないディスク(Noncoated)、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)の表面の親水性変化を水接触角の測定により確認した。
【0043】
具体的には、動的水接触角測定方法(dynamic water contact angle measurement)のうちcaptive drop methodを用いて、前進角(advancing contact angle)及び後退角(receding contact angle)を測定した。前進角は、針を用いて表面上に脱イオン水の量を0μlから6μlに増加させたときに表面と水滴のなす角を測定して得た。後退角は、表面上の脱イオン水の量を6μlから3μlに減少させたときに表面と水滴のなす角を測定して得た。前進角は表面の疎水性を比較的よく示す数値であり、後退角は表面の親水性を比較的よく示す数値である。本発明においては、前進角と後退角の変化から表面の親水性についての情報を取得した。取得した情報により決定された水接触角を図1に示す。
【0044】
図1に示すように、陰性対照群として用いたコーティングしていないディスクは、高い疎水性を有するので、前進角と後退角の両方において大きな水接触角であったが、光又は熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクは、コーティングしていないディスクと比較して水接触角が大幅に減少することが確認された。すなわち、架橋したPMPCのコーティングにより表面が親水性を有するようになり、熱を用いてコーティングしたディスクも光を用いてコーティングしたディスクと同程度に表面が改質されることが分かった。
【0045】
実施例2-2.コーティングした表面の上/下面の水接触角の分析
光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)の3次元的な形状によるコーティング効果の違いを水接触角により確認した。
【0046】
図2に示すように、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクは、コーティングする物質の空間的な形状に制約を受けるので、光を直接受けたディスクの上面のみ親水性が導入されて水接触角が大幅に減少したのに対して、光を直接受けていない下面の水接触角は上面ほど減少しなかった。それに対して、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクは、上面と下面の水接触角が均一に減少した。これは、熱処理を行うと、光照射における空間的限界を克服することができ、3次元的な形状に制限がなく、効果的にコーティングを導入できることを示すものである。
【0047】
実施例2-3.コーティングした表面の元素分析
実施例2-1により確認された水接触角の変化、すなわち親水性の程度の変化がホスホリルコリン基の導入によるものであることを確認するために、XPSを用いた表面元素分析を行った。その結果を図3に示す。
【0048】
図3に示すように、光又は熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面は、コーティングしていないディスクの表面に比べて、酸素含有量は同一レベルを維持するのに対して、炭素及び/又はケイ素の割合は大幅に減少した。具体的には、炭素ピークにおいて、メチレン及び/又はメチルのピークは大幅に減少するのに対して、-C-O-及び-C=O結合のピークは形成され始めた。さらに、コーティングしていないPDMSにおいては検出されなかった窒素及びリンの含有量は大幅に増加した。これを実施例3-1により確認された水接触角の変化分析結果と比較すると、前記水接触角の減少、すなわち親水性の増加は、表面において相対的に電気陰性度が高い酸素、窒素及び/又はリンの含有量の増加を示すことに一致する。また、これはこれらの元素を含むホスホリルコリン基の含有量の増加を示すものである。
【0049】
さらに、これらの結果は、本発明の方法による架橋したPMPCのコーティングは強い刺激を受けても損傷しないことを示すものである。
【0050】
また、図4に示すように、各表面において各深さによる元素分析を行ったところ、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面は、35~40nmにおいてのみ窒素とリンが検出されたのに対して、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面は、75~85nmにおいても窒素とリンが検出され、それ以上の深さにおいても検出される可能性を示した。これは、光を用いて架橋したPMPCでコーティングする場合に比べて、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングする場合の方が厚いコーティング層を導入できることを示すものである。
【実施例3】
【0051】
コーティングしたプロテーゼの抗圧力変化の分析
架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ(Noncoated)、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼ(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼ(Heat coated)の機械的強度の変化を万能材料試験機により確認した。5kNのロードセル(load cell)を用いて、5mm/minの速度でプロテーゼを上から押したときに発生する荷重を測定した。
【0052】
図5に示すように、光又は熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの測定された荷重値は、架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼの荷重値と同程度であった。これは、架橋したPMPCでコーティングしても、プロテーゼの物理的、機械的特性が維持されることを示すものである。
【実施例4】
【0053】
タンパク質吸着防止特性の分析
架橋したPMPCでコーティングしていないディスク(Noncoated)、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)の表面のタンパク質吸着防止特性をBCAアッセイにより確認した。前記タンパク質としては、BSA(bovine serum albumin)とBPF(bovine plasma fibrinogen)を用いた。コーティングしていないディスク、光を用いてコーティングしたディスク、及び熱を用いてコーティングしたディスクをそれぞれ4.5mg/mlの濃度のBSA又は0.3mg/mlの濃度のBPFと37℃で1時間インキュベートし、その後各条件でPDMSを清浄なDPBS緩衝液により37℃、200rpmで1分間ずつ2回処理して軽く洗浄した。次に、表面に吸着したタンパク質の量を定量するために、BCAアッセイを行った。具体的には、Thermo Scientific社のBCAキットを用いて、キットに含まれる試料A、試料B及び試料Cをそれぞれ25:24:1の体積比で混合してアッセイ溶液を作製した。前述したように洗浄した各PDMSを新鮮なDPBS緩衝液に浸漬し、緩衝液と同量のアッセイ溶液を添加して60℃で1時間インキュベートし、その後570nmで吸光度を測定することにより、表面に吸着したタンパク質の量を測定した。その結果を図6及び図7に示す。
【0054】
図6及び図7に示すように、ディスク表面に対するBSAの吸着は、コーティングしていない表面と比較して、光又は熱を用いてPMPCでコーティングした表面において減少を示し、ディスク表面に対するBPFの吸着は、コーティングしていない表面と比較して、光又は熱を用いてPMPCでコーティングした表面において減少を示した。すなわち、BSA及びBPFの両方で、コーティングしていないディスク表面と比較して、架橋したPMPCでコーティングしたディスクの表面において著しくタンパク質吸着が減少することが確認された。
【実施例5】
【0055】
細胞吸着防止特性の分析
被膜拘縮(capsular contracture)が線維芽細胞の過剰増殖及びそれによるコラーゲン形成などと密接に関係していることに着目し、架橋したPMPCでコーティングしていないディスク(Noncoated)、光を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(UV coated)、及び熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたディスク(Heat coated)に線維芽細胞NIH3T3細胞を培養して細胞吸着の程度を確認した。前記NIH3T3細胞は、5%の二酸化炭素を含有し、37℃で10%のFBSを含むDMEM培地に培養した。それぞれに直径1.5cmのPDMS当たり30,000個の細胞を分注し、5%の二酸化炭素を含有させて37℃で40時間培養し、その後新鮮なDMEM培地(10%のFBSを含有)で軽く洗浄してCCKアッセイを行った。CCK溶液は同仁堂社の製品を用いた。洗浄した各PDMSを新鮮なDMEM培地(10%のFBSを含有)に浸漬して培地体積の10%に相当する量のCCK溶液を添加し、その後5%の二酸化炭素を含有させて37℃で4時間インキュベートし、450nmで吸光度を測定することにより、表面に吸着した細胞の相対的な量を測定した。その結果を図8に示す。
【0056】
図8に示すように、コーティングしていないディスクの表面に比べて、光又は熱を用いてPMPCでコーティングしたディスクの表面において、線維芽細胞の表面吸着が大幅に減少することが確認された。
【実施例6】
【0057】
生体内反応の分析(2カ月間の大動物実験)
架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ(Noncoated)と、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼ(Heat coated)をグループ毎にそれぞれ4個ずつ準備し、エタノール消毒後に豚の皮筋層(panniculus carnosus muscle)の下方に挿入した。8週間(2カ月)後に、挿入したプロテーゼの周囲に形成された被膜を採取し、組織病理学的観察を行った。
【0058】
実施例6-1.生体内の被膜拘縮抑制活性の分析
生体内の被膜拘縮抑制活性を確認するために、挿入したプロテーゼの上下の被膜を採取し、次いでH&E(hematoxylin and eosin stain)染色を施して顕微鏡で被膜の厚さを観察した。被膜の厚さは、各被膜を3部分に分けて1部分当たり3回ずつ測定した。その結果を図9に示す。
【0059】
図9に示すように、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの表面に形成された被膜の平均厚さは、コーティングしていないプロテーゼの表面に形成された被膜の平均厚さと比較して減少することが確認された。
【0060】
実施例6-2.細胞充実度(cellularity)及び血管分布(vascularity)測定の分析
細胞充実度(cellularity)は、プロテーゼの周辺組織を採取し、その後H&E染色を施して、リンパ球(lymphocytes)、形質細胞(plasma cells)、マクロファージ(macrophages)、巨細胞(giant cells)などの各炎症関連細胞のスコア(score)の合計で測定し、血管分布(vascularity)は、血管新生指標であるCD34にIHC(immunohistochemistry)染色を施して血管の数を測定した。その結果を図10に示す。
【0061】
図10に示すように、観察された細胞充実度(cellularity)は同程度であり、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼにおいて観察された血管分布(vascularity)は、コーティングしていないプロテーゼより低いことが確認された。
【0062】
実施例6-3.炎症関連因子抑制活性の分析
免疫組織化学(immunohistochemistry; IHC)染色を施して、炎症関連サイトカインであるTGF-β(transforming growth factor beta)、骨髄球系細胞の顆粒に存在する酵素であるMPO(myeloperoxidase)、及び筋線維芽細胞の標識であるα-SMA(alpha smooth muscle actin)の発現の程度を測定した。その結果を図11に示す。
【0063】
図11に示すように、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼにおいて、コーティングしていないプロテーゼより、観察されるMPO、TGF-β、α-SMAの発現が低いか同程度であることが確認された。
【実施例7】
【0064】
生体内反応の分析(6カ月間の大動物実験)
実施例6と同様に、架橋したPMPCでコーティングしていないプロテーゼ(Noncoated)と、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼ(Heat coated)をグループ毎にそれぞれ4個ずつ準備し、エタノール消毒後に豚の皮筋層(panniculus carnosus muscle)の下方に挿入した。24週間(6カ月)後に、挿入したプロテーゼの周囲に形成された被膜を採取し、組織病理学的観察を行った。
【0065】
実施例7-1.生体内の被膜拘縮抑制活性の分析
生体内の被膜拘縮抑制活性を確認するために、挿入したプロテーゼの上下の被膜を採取し、次いでH&E(hematoxylin and eosin stain)染色を施して顕微鏡で被膜の厚さを観察した。被膜の厚さは、各被膜を3部分に分けて1部分当たり3回ずつ測定した。その結果を図12に示す。
【0066】
図12に示すように、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼの表面に形成された被膜の平均厚さは、コーティングしていないプロテーゼの表面に形成された被膜の平均厚さと比較して減少することが確認された。
【0067】
実施例7-2.細胞充実度(cellularity)及び血管分布(vascularity)測定の分析
細胞充実度(cellularity)は、プロテーゼの周辺組織を採取し、その後H&E染色を施して、リンパ球(lymphocytes)、形質細胞(plasma cells)、マクロファージ(macrophages)、巨細胞(giant cells)などの各炎症関連細胞のスコア(score)の合計で測定し、血管分布(vascularity)は、血管新生指標であるCD34にIHC染色を施して血管の数を測定した。その結果を図13に示す。
【0068】
図13に示すように、細胞充実度(cellularity)は、8週間(2カ月)後に測定した値と比較して両グループとも減少し、血管分布(vascularity)は、8週間(2カ月)後に測定した値と比較して両グループとも増加することが確認された。
【0069】
実施例7-3.炎症関連因子抑制活性の分析
IHC染色を施して、炎症関連サイトカインであるTGF-β(transforming growth factor beta)、骨髄球系細胞の顆粒に存在する酵素であるMPO(myeloperoxidase)、及び筋線維芽細胞の標識であるα-SMA(alpha smooth muscle actin)の発現の程度を測定した。その結果を図14に示す。
【0070】
図14に示すように、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼにおいて、コーティングしていないプロテーゼに比べて、炎症数値の指標であるMPO、炎症反応及び線維組織形成の尺度であるTGF-β及びα-SMAの発現は全て著しく低い値であった。これは、熱を用いて架橋したPMPCでコーティングしたプロテーゼにおいて、コーティングしていないプロテーゼと比較して、炎症反応が減少するにつれて線維組織が形成するサイトカインの発現が減少し、被膜厚さが薄くなる結果に一致する。
【0071】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】